以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:11:00.19 ID:/czdE60q0<>赤沢「は?」

恒一「だからさ。1999年7月にはみんな死ぬよねって」

勅使河原「ノストラダムスの大予言か?」

恒一「うん。それにマヤ文明の予言でも似たようなこと言ってるし、僕らに1999年のハルマゲドンから逃れる術は無いんだよ。だから今対策なんかしたって無意味なんだ」

鳴「……」

赤沢「……馬鹿馬鹿しい。何百年も前の、それもたった一人の予言なんて非科学的なもの信じられる訳ないでしょ?」

恒一「現象だって充分非科学的だよ?だけど実際に起こっている」

赤沢「う」

恒一「とにかく、僕の前で対策とかの話をしないでくれるかな。せっかく忘れかけてた1999年に死ぬって事実を思い出させるし、他にも色々思い出させて不快なんだよ!」ダンッ!

赤沢「……」

勅使河原「……」

鳴「……」カリカリ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1340611838(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>恒一「対策とか言うけどさ、どうせ来年の7月にはみんな死ぬよね」 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:11:48.18 ID:/czdE60q0<> 恒一「もういいかな?僕は帰らせてもらうよ……!」ガタッ スタスタスタ

恒一「あっ」ガッ ドタッ!

赤沢「大丈夫?」

恒一「大丈夫だよ……寝たきりのブランクが大きすぎたんだ」ムクリ スタスタスタ ガララ

ガララ

桜木「どうかしましたか?さっき榊原くんが死んだ魚みたいな目をして帰っていったんですが」

風見「ってかアレは完全に怪しい新興宗教の信者だったな。アンゴルモアとかハルマゲドンとかゴグマゴグ言ってたし」

赤沢「……1999年7月にはみんな死ぬのを思い出すから、対策の話はするな。って」

風見「……まさか本当にいたとは。ノストラダムスの予言を信じて悲観する奴が」

風見「しかも勅使河原ならともかく榊原くんが……」ハァ

勅使河原「どう言う意味だそれ!」ダンッ! <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:12:16.76 ID:/czdE60q0<> 赤沢「でもエリートほど悪い宗教にはまりやすいって言うからね……」

赤沢「……最初に会った時にも病室に大量の学研ムー置いてあったし」

桜木「最初に会った時って言えば、榊原くんって最初に会った時からすんなり現象の話を信じてましたね」

勅使河原「そうそう」チラッ「いないものの事も最初から相手してなかったからな」

鳴「……」カリカリ

赤沢「と言うか殆ど最低限しか他人と接触してないわよね。榊原くんって」

赤沢「まるで自ら人との接触を絶ってる感じ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:13:31.96 ID:/czdE60q0<> ―三神邸仏間―

恒一「(そう。対策なんて無意味なんだ)」

恒一「(地震や台風と同じだ。現象だってアンゴルモアだってどんなに対策を立てても完全に被害を防げはしない)」

恒一「(むしろ実態のないものへの対策を立てれば立てるだけ恐怖は増大して人間は恐怖に押し潰されて凶行にはしる)」

恒一「それなら最初から全てを諦めて最期の日を待つしかないよね」

レーちゃん「マツシカナイ、マツシカナイ」

恒一「レーちゃんもそう思うかい?」

レーちゃん「アキラメル、アキラメル」

恒一「だってさ、怜子さん」

写真の中の怜子「」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:15:37.70 ID:/czdE60q0<> ―数日後・墓地―

〜三神家の墓

恒一「怜子さん、久しぶり」ジャバー

恒一「僕、3年3組になっちゃったよ」ジャバー

恒一「…………うん。もちろん誰にも迷惑はかけないつもりだけよ。きちんと『いないもの』は無視してる。だけどそれ以外は、何もしていない」フキフキ

恒一「あんまりみんなに僕のことを悟られたくないのもあるからね……」フキフキ

恒一「…………じゃあ、何かあったらまた来るよ」カコン

恒一「さて……」スッ

赤沢「あら……榊原くん?」バッタリ

恒一「……赤沢さん」

赤沢「あなたも、お墓参り?」

恒一「叔母さんのね。もう終わったけど」カコン

赤沢「私は従兄のよ。同じくもう終わったけど」カコン

赤沢「帰るの?」

恒一「いや、友達の墓参りがまだあるんだ」

赤沢「友達?」

恒一「うん。4月に死んだ、かわいそうな僕の親友に」カコン <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:17:25.10 ID:/czdE60q0<> 〜藤岡家の墓

恒一「どうして付いてきたの?」ムゥ

赤沢「なんとなく……気になってね」

恒一「……まぁいいよ」カコン

赤沢「藤岡……未咲さん?」

恒一「前に何ヶ月かだけ夜見山にいたってことは言ったよね。その時えらく親しくなった子なんだ」ジャバー

恒一「今年の4月に偶然病院で親戚の人に亡くなったって聞いて、お墓の場所も教えてもらった」ジャバー

恒一「……今日はあんまり面白い話は持ってこれなかったけど、なぜか僕のクラスメイトが来てくれたよ」ナムナム

赤沢「赤沢泉美です……どうかよろしく」

恒一「じゃあ、またその内来るよ……」


鳴「……」バッタリ

恒一「やあ」

赤沢「……!榊原くん!」

鳴「……榊原さん、いつもご苦労様です」ペコリ

恒一「いえいえ。こちらこそお墓の場所も教えてくれてどうもありがとうございます」ペコリ

赤沢「……」

鳴「初めまして」

赤沢「はじめ……まして……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:19:08.41 ID:/czdE60q0<> スタスタスタ

赤沢「なんでいないものの相手をしたのよ!」

恒一「……彼女と赤沢さんは初対面でしょう?」

赤沢「何それ……」

恒一「見崎鳴は僕の親友だった藤岡未咲の親戚であって、それ以外の理由で僕達の人生とかかわる存在ではないって意味だよ」

恒一「それにここは墓場だ。学校じゃあない」

赤沢「そんなの詭弁じゃない」

恒一「この現象だって詭弁からはじまったし、その対策も詭弁ばっかりだ。それに文句ならこの接触法を最初に考えた僕の叔母に言って」スタスタ

赤沢「叔母さん……って?」

恒一「三神怜子、一昨年の『現象』とやらで殺された僕の大切な人だよ」スタスタ

赤沢「そう……あなたもだったのね」

スタスタスタ

恒一「あ……」フラリ

赤沢「危ないわよ、榊原くん」ポンッ

恒一「ありがとう……まだ抜けないんだな、ブランクは」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:26:10.75 ID:/czdE60q0<> ―数日後・夜見のたそがれ―

恒一「こんな所にこんな店があったのか……ドールの博物館なんて、首都圏にもまず無いから驚きだな」

天根「中学生は250円だよ」

恒一「250円でも安いぐらいですよ」チャリン

恒一「…………」ジー

天根「地下にも色々飾ってるよ」

恒一「地下……」ゾワッ

恒一「地下は遠慮しときます」

鳴「今でも苦手なの?」スィ

恒一「うわっ!」ビク

鳴「怖がらないで、榊原さん」

恒一「なんだ、見崎さんか……もしかしてここは?」

鳴「私の家」

恒一「そうか……さっきの、未咲から聞いたのかい?」

鳴「ええ。あなたの秘密とやらと一緒にね」コクリ

  恒一「あいつ、他人には黙っておけってあれだけ言ったのに……」チッ

  鳴「未咲の『承知』ほどあてにならないものはないって知ってるでしょ」ヒラヒラ

鳴「だけどおかげですぐにわかったわ、あなたが未咲の例の親友だって。エレベーターが地下に降りていった時、すごい動揺してたもの」

恒一「そうかい……あの時は吐きそうになったよ。流石に」

鳴「でも貴方は地下に入らなくて正解。地下はとっても虚ろだから」

恒一「そうなの……まぁ一階だけでも満足だからいいよ」ジー

天根「閉店だよ」

恒一「だそうだね。またいつか」ヒラヒラ

鳴「ええ。また未咲のところででも」ヒラヒラ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:28:12.82 ID:/czdE60q0<> ―5月下旬・学校―

恒一「…………」ペラペラ

恒一「…………」ペラペラ

望月「何読んでるの?ブックカバーをかけてるみたいだけど」

恒一「ろくでもない本であることは確かだね」ペラリ

  サアアアアアアア

恒一「雨……か」

望月「憂鬱そうだね。雨が嫌いなの?」

恒一「雨は嫌いじゃないよ」

恒一「ただ、雨だと絶対に目に入っちゃうから、さ」

望月「目に……?」

ガララ

桜木「おはようございます」キラン

赤沢「おはよ」

恒一「……っ!」バッ!

望月「どうしたの?急に伏せって」

恒一「なんでも、ないよ」ハァー ハァー

望月「本当に?」

赤沢「雨ってやだよねー。髪の毛が寝ちゃって」

桜木「わかるわかるー」キラン

恒一「(落ち着け、恒一!あれはただの雨傘だ!ただの傘だ!)」ハァー ハァー

望月「息荒いよ!恒一君本当に大丈夫!?」

恒一「大丈夫……大丈夫だよ」ヒューヒュー

『……は加工した先の鋭利な雨傘で……を何度も……』

恒一「(やめてくれ!)」ヒューヒュー

赤沢「ちょっと!榊原くん凄く顔青いわよ!」

桜木「保健室まで連れていきましょうか!?」キラン

恒一「やめてくれ!!」ヒューヒュー

赤沢・桜木「……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:28:51.16 ID:/czdE60q0<> 恒一「うぶっ……!」グボッ

望月「……!」

恒一「ぐっ、がは……っ!」ベシャァ!

赤沢「……」

桜木「いや……どうして」

恒一「はぁ……はぁ……」ヒューヒュー

恒一「……桜木さん」ギロッ

桜木「っはいっ!?」

恒一「頼むから、できるだけその傘を僕の目から遠ざけて」ヒューヒュー

恒一「……昔色々あって、先の尖った傘は駄目なんだ」ヒューヒュー

桜木「……っ!……わかりました!今傘立てに置いてきますっ!」タッタッ

恒一「やば……吐いちゃったなぁ。掃除、どうしよ……」フラフラ

望月「恒一くん!フラフラだよ!」

恒一「大丈夫……だから……」ドタッ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:29:37.51 ID:/czdE60q0<> ―同日・夜見山市立病院―

沙苗「落ち着いた?ホラー少年」

恒一「はい……情けないなぁ。傘一本で、気胸がまた再発するなんて」プシコー

沙苗「しばらくは入院、退院しても酸素ボンベ引きずっての登校だっけ?」

恒一「ですね」プシコー

沙苗「先の尖った傘が怖いんだよね。昔傘で刺された時とかのトラウマ?」

恒一「ちょっと色々ありましてね。傘のことは……実は色々あった後で傘が使われたって知ったんですけど、やっぱり傘を見たりすると……」プシコー

沙苗「あ、そうそう。ホラー少年のクラスメイトも外科病棟に入院だって」

恒一「クラスメイト?」

沙苗「メガネかけた女の子。お母さんの事故を聞いて焦って階段から落っこちて、左手と右足複雑骨折だって」

恒一「(もしかして、桜木さん?)」プシコー

沙苗「今は親子仲良く下の病室で入院してるみたいだから、行ってみれば?」

恒一「動けるようになったらそのうちに」プシコー <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:31:25.74 ID:/czdE60q0<> ―数日後―

恒一「やっぱり件の複雑骨折少女は桜木さんだったらしい」ペラリ

恒一「僕は出歩けなかったけど、あの日の夕方にお見舞いにやってきた勅使河原と風見と赤沢さんが教えてくれた。存外元気そうだということも。」ペラリ

恒一「ちなみに今読んでる本は昨日カバンに入れてた別の本だ」ペラリ

ガララ

沙苗「よー、ホラー少年」ズイッ

恒一「仕事してください不良看護婦」

沙苗「失礼な。今休み時間なのだよ」フンス

恒一「ああそうですか」ペラリ

沙苗「何読んでるの?ブックカバーかかっててわからんけど」

恒一「ノストラダムスの予言関係の本ですよ」ペラリ

沙苗「少年好きだねぇ、ダムス」

恒一「妙な略し方やめて下さい」

沙苗「あたしは信じてないけどね。ダムスの予言は」

沙苗「だって結局600年も前のおっさんの詩文でしかないからね」

沙苗「いままで当たってきたって予言も、抽象的な詞を適当にムー民みたいなのがこじつけてるだけなんじゃないかとも思うし」

恒一「……水野さんはもし世界が滅ぶと仮定して、アンゴルモアの正体はなんだと思います?」

沙苗「んー?やっぱりメジャーな隕石辺りかなぁ」

沙苗「あとはこう、ターミネーターの審判の日みたく、核ミサイルがドバーッと」

恒一「ですよね」ハハッ

沙苗「ホラー少年はなんだと思う?」

恒一「スカイネットかなってたかくくってますよ」ハハッ

沙苗「まったまたぁ」ハハッ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:32:20.46 ID:/czdE60q0<> ドガグワシャァーーーッ!!!

沙苗「何!?」


患者「エレベーターが落っこちたぞー!!」

患者「怪我人とかいないのか!?」


恒一「なんか大変なことになってるみたいですね……」

沙苗「みたいだね。ちょっと現場行ってくるわ」シュタッ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:37:09.01 ID:/czdE60q0<> ―6月某日・病室―

ガララ

恒一「やあ、赤沢さん」プシコー

赤沢「こんにちは。元気はいいみたいね」

赤沢「ほらこれ、クラス全員のお見舞いと、休んでた間のノート」スッ

恒一「ありがとうね。後でハゲタカ看護婦が来る前に食べとくよ」プシコー

恒一「桜木さんには会った?」プシコー

赤沢「当然。いつもの調子すぎて拍子抜けしたわよ」

恒一「じゃあ僕はいつもの通りおまけのお見舞いってわけか……」プシコー

赤沢「そう言う訳じゃないわ。あなたの所に後から行った方がいいと思っただけ」

赤沢「……高翌林くんが死んだわ。心臓発作で」ハァ

恒一「………成る程」

恒一「桜木さんに知らせた時の反応を考えて、僕を後にしたんだね」プシコー

赤沢「あなたはどうせ諦めて苦笑するだけだと思ったからね」

恒一「それでも心苦しいよ」プシコー

赤沢「あなたが赤の他人として見崎さんと関わったのがいけないのかわからないけど、いないものも効果がなかったと言うわけね」

赤沢「他に目立った対策もないわけだし、無能と言いたいなら言うといいわ」

恒一「……現象が自然災害と同じかはわからないけど、自然災害はいつも変則的さ。前の対策がいつまでも通じるとは限らない」

恒一「災害対策が通じなかった時に無能と謗るのは、相手が本物の無能か、謗るのが後知恵ばかりを論じる馬鹿だけの時」

恒一「もちろん赤沢さんは後者だ」

赤沢「……優しいのね。全部諦めてるんじゃなかったんだっけ?」

恒一「事実を述べただけさ。それに僕は全て諦めてるから赤沢さんを避難しないだけだ」プシコー

赤沢「いつから学校に出れる?」

恒一「来週には」ヒラヒラ

赤沢「そう。楽しみに待ってるわ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:38:17.21 ID:/czdE60q0<> ―翌週・学校―

綾野「よう、こういっちゃん!」

恒一「やあ」カラカラカラ プシコー

勅使河原「なんか買い物に行くばあちゃんみたいだな」

恒一「中に入ってるのは酸素ボンベだけどね」プシコー

鳴「おはよう、榊原くん」

恒一「やあ。ついにいないもの解除かい?」

鳴「まあね」ファサ

恒一「っと、もうホームルームだね」ガタン


千曳「皆さん、よく聞いてください。知っている方もいると思いますが、久保寺先生が事故で亡くなりました」


水野「オービスに100km出してる久保寺のカリーナが映ってて、見つかったときは車は半分ぐらいに縮んでたって……」

前島「おっかねえなぁ……」

赤沢「先生が第二の被害者なんて……」

鳴「あれは相当思い詰めてた顔だったからね。いっぱいいっぱいになったんでしょう」

恒一「事実だけど、今言わない方がいい事実だね」

鳴「ごめんなさい」

赤沢「私……何も出来なかった……」グッ

恒一「思いつめないほうがいいよ。前にも言ったけど、自然災害に人間が立ち向かうなんて事自体馬鹿げてるんだ」

赤沢「……ッ! 知ったようなこといわないでよっ!」パシーン!!

赤沢「あなたはいっつもそうやって、人事見たいな言い方ばっかりして!」ダダダダダッ

鳴「あなたも言わないほうが良かったわね」

恒一「うん。どうやら失言だったみたいだよ」ヒリヒリ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:40:17.62 ID:/czdE60q0<> ―数日後・病院―

恒一「途中経過を見てもらうとはいえ、こんなに学校を休んだり早退していいものなのか心配になってくるね」カラカラカラ プシコー

恒一「……診察までまだ時間があるな。仕方ないからまた本でも読むか……」ゴソゴソ

恒一「…………」ペラペラ

桜木「ふむふむ……第一次世界大戦の戦略の本ですか?」

恒一「っ!?」バッ

桜木「どうも、お久しぶりです」ヒラヒラ

恒一「……知らない間に後ろに立たないでくれる。凄いびっくりするから」

桜木「何度か声はぁけましたよ。熱中していたみたいだから気づかなかったみたいですけど」

恒一「……骨折はある程度回復したみたいだね。松葉杖付きとはいえ、歩き回れるってことは」

桜木「はい。少し前までは車椅子だったんですが、あれ、意外に乗りづらいんですよね」

恒一「車椅子は乗りこなすにはコツがいるからね……」

桜木「乗ったこと有るんですか?」

恒一「…………」ピクッ

恒一「むかし、少し足をくじいてね」

桜木「そうなんですか。ところで、今時間ありますか?」

恒一「診察に呼ばれるまでは」

桜木「そうですか……ちょっと泉美のことでお話したいんです」

恒一「赤沢さんのこと?」

桜木「はい」

桜木「泉美って、昔から責任感は強いのに、色々一人で抱え込み過ぎちゃうことがあるんですよ」

桜木「それで、抱え込みすぎてわけがわからなくなっちゃって、最後には折れちゃう。そういう子なんです」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 17:40:44.92 ID:HIWGHxnIO<> フェア林死んだのか <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:42:09.81 ID:/czdE60q0<> 桜木「小学校の時に、文化祭でお化け屋敷をして、ちょっとしたミスが原因で、三日掛けて作ったお化け屋敷が半壊しちゃったことがあったんです」

桜木「その時も、リーダーだった泉美は色々直してみようとしたんですけど、最終的にどうにもできなくて……」

桜木「抱え込みすぎた泉美は結局何日も自分のせいだって塞ぎこんで……」

桜木「今年の対策係に泉美が立候補した時も、私は反対したんです。泉美が壊れるのが見たくなくって」

恒一「そんなもんだよ……普通の人間なんて。いくら抱え込んでも平気な顔をしてるのはブッダかキリストぐらいなもんだ」

桜木「……高翌林くんと久保寺先生がなくなって、あの子はかなりいろんな感情を抱え込んでると思うんです。また誰か死者が出れば、その時は泉美はおかしくなっちゃう気がして」

桜木「最悪、自殺なんてことになるかもって……」

恒一「…………」ピクッ

桜木「だから、誰かが泉美を支えてあげないとって思って……でも私や多佳子じゃどうしようもできない」

恒一「……それと僕がどういう関係を?」

桜木「泉美、榊原くんのことが好きみたいなんですよ……それに榊原くんなら泉美のことを支えてあげられると思って」

桜木「だからお願いです。あの子を、赤沢泉美を支えてあげてください……!」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:43:54.84 ID:/czdE60q0<> 恒一「…………参ったな。この前赤沢さんにビンタもらったばっかりなんだよ、僕」

恒一「それに、僕は現象のことも全部諦めて……」

桜木「本当は、諦めてないんじゃないんですか?」

恒一「……!?」

桜木「いつも本を読んでいる時の榊原くんの横顔、対策を講じる時の泉美の横顔とそっくりに見えるんです」

桜木「ノストラダムスの予言なのか、別の何かなのかわからないですけど、榊原くんも何かと戦ってるんじゃないんですか?」

恒一「…………」

恒一「…………参ったなぁ。桜木さん、カウンセラーか先生になれるよ」

恒一「わかったよ。どれだけのことができるかわからないけど、僕も赤沢さんを支えてみる」

桜木「……ありがとうございます」ニコ

『榊原恒一さん、榊原恒一さん、四番診察室までおいでください』

恒一「じゃあ、また。その腕と足が治った時に学校で……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:46:08.96 ID:/czdE60q0<> ―翌日・第二図書室―

赤沢「…………ッ! 『いないもの』に変わる対策なんて、どうすればいいのよ!」

赤沢「『いないもの』対策以前の対策もどれもこれも意味がなかったか、効力がわからないものばかり……」

赤沢「せめてこの83年度に『現象』が止まった時の謎さえ解明できれば……っ!」

ガララ

恒一「おじゃまするよ」

赤沢「……何の用? また諦めろって言いにきたの?」

赤沢「言っておくけど、私は諦めないわ。もう誰も死人を出させはしないから……!」

恒一「そうじゃない。手伝いに来たんだ」ヒラヒラ

赤沢「……?」

恒一「桜木さんに頼まれてね」

恒一「彼女鋭すぎるよ。僕の本性が君と似てるってことを見抜いてた」

赤沢「……ゆかり、余計なことして……!」

恒一「実行したのは僕の意志だ。僕も赤沢さんが壊れて死なれるのは嫌だからね」

赤沢「……ゆかりは一体どこまで喋ったの?」

恒一「君が小学校の文化祭で塞ぎこんだことまでだよ」

赤沢「…………心配性の親友っていうのも考えものね」ハァ

赤沢「まぁいいわ。手伝ってくれる人が増えてくれるのは効率も上がるし。それが榊原くんっていうのも嬉しいし」

恒一「そりゃどうも」

恒一「で、今は何をしてたんだい?」

赤沢「83年度の名簿を見てにらめっこ。この年だけ途中で『現象』が終わって、死者が分からないの」

恒一「83年度……怜子さんのいた年か」

赤沢「そういえば榊原くんの叔母さんって、私の従兄と同じ年に亡くなってたみたいね」

恒一「そうだったんだ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:49:41.25 ID:/czdE60q0<> 赤沢「……実はね、私、榊原くんと昔会ったことあるんじゃないんかって思ってるのよ」

恒一「なにそれ?前世?」

恒一「生憎だけど、僕はムーは読むけど読者ページで前世の仲間と響きあったことは一度としてないからね」

赤沢「そうじゃない。病院で手を握った時、榊原くんの手の感触が何だか懐かしくって」クスッ

赤沢「前世とかじゃなく、もっと近い過去に私たちは会ってるんじゃないかって」

恒一「ふぅん……残念だけど、僕はそう言う記憶はないんだよね」

赤沢「ただの戯言って聞き流していいわよ。私もかすかな記憶しかないし、なんとなく、そんな感じがするだけだから」

恒一「……この年、何が起こったか千曳先生はなんて?」

赤沢「夜見山の麓の施設に合宿して、神社にお参りしたらしいわ」

赤沢「そしてその当日に二人死んで、それから『現象』が突然止んだって。そして死者も誰だかわからなかった」

恒一「お参りによって死者が昇天……はありえないね……」

赤沢「私も最初に疑ったわ」

赤沢「でも後年に同じように合宿に行った3組は『現象』は続いたままだった」

恒一「じゃハズレだ。神様じゃ『現象』には勝てないってことか」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:51:36.61 ID:/czdE60q0<> 恒一「ふむ……」パラリ

恒一「……これ、今年の死者表?」

赤沢「ええ」

恒一「……ちょっと待てよ……ひょっとしたら」カリカリカリ

恒一「今年の『現象』は4月から始まってる……」カリカリカリ

赤沢「はい?何言ってるの?」

恒一「大昔に、僕の秘密を未咲にばらした時に、その代わりって言って僕はあいつの秘密を聞いたんだ」

恒一「あいつには実は姉妹がいるって……でも片割れは家の事情で親戚の家に預けられて離れ離れになったって」

恒一「そして今年、見崎に会ってあいつの姉妹ってのが見崎ってのはすぐに理解できた。性格はともかく、外見はほとんどあいつそっくりだったからね」

恒一「あいつの白血病体質は生来のだって思ってたから死者から除外してた。だけど高翌林くんだって生来の持病からの心臓発作だ」

赤沢「……成る程……でも、それって私に喋ってよかったの?」

恒一「かまうもんか。あいつも勝手に僕の秘密を見崎にバラしてたからね」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:56:15.67 ID:/czdE60q0<> ―土曜日・三神邸―

恒一「結局あの後何かできないかって何度もいろんな事例を探した」

恒一「僕は死ぬ前までの怜子さんの日記まで引っ張りだしたけど、結局何も見つからなかった」

恒一「ちなみに怜子さんの日記はもう一回読んでみたいって言った赤沢さんに貸してる」

恒一「僕の方は……まあ、個人的な調べ物のお陰で世間一般で生きるには要らない知識ばかりは順調についていってる」

PRRRRRRRRRRR

恒一「はい榊原です」ピッ

赤沢『私、赤沢』

恒一「どうしたの?」

赤沢『勅使河原が『現象』関連ですごい発見をしたって言ってきたのよ。それで来てほしくって』

赤沢『イノヤって喫茶店わかる?』

恒一「いや。住所と最寄りのバス停教えて?」

赤沢『バスの本数少ない自転車できたほうがいいわよ』

恒一「足がまだ本調子じゃないんだ。住所とバス停と系統お願い。今ペン持ったから」スチャッ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:57:25.38 ID:/czdE60q0<> ―喫茶店『イノヤ』前―

赤沢「榊原くん。こっちよ!」ヒラヒラ

恒一「ごめんね、遅くなって……」

赤沢「いいわ、こっちよ」スタスタ

恒一「……地下のお店なんだ」ゴクリ

赤沢「ええ。今みんな待たせてるから早く行きましょ?」グッ ズイッ

赤沢「それにここのコーヒーは本当に絶品なんだから。一度飲んでみるといいわ」

恒一「……ッ」ダラダラ

恒一「……っ」ヒュー

赤沢「ハワイコナって知ってる?榊原くんは」

恒一「……ッ……っ!!」ヒューヒュー ヒューヒュー

赤沢「……一体、どうしたの!?榊原くん!?」

恒一「…………うぶっ」グボッ!

赤沢「榊原くん! 榊原くん!!」

恒一「がはっ……がはっ……!」ベシャァッ! <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 17:58:00.43 ID:/czdE60q0<> 勅使河原「ほんとうに大丈夫かよ、サカキ」

恒一「ごめん……。望月、僕が責任とって掃除するから……」ハァーハァー

望月「いいよ。姉さん、バーのお客の後処理でこういうの慣れてるって言ってるから」

赤沢「でもごめんね。榊原くん、地下がダメなんて知らなかったから……」

恒一「言わなかった僕が悪いんだ。地下と、トンネルがダメだって」ハァーハァー

恒一「傘の時の、二の舞だよ……」

赤沢「でも重要な証言は手に入ったわ。83年度の3組にいた松永って人の話」

赤沢「0号館の昔の3年3組の教室に、『現象』を解決できる何かがあるらしいっていうの」

恒一「何か……か」ハァー

勅使河原「とにかく今日は解散しようぜ、サカキの気胸がまた再発するかもしれねえし」

恒一「ごめんね……」

望月「気にしないでよ……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:00:32.69 ID:/czdE60q0<> 恒一「悪いね。送ってもらうなんて……普通はこういうの、僕の役目なのに」

赤沢「病人が生意気なこと言わないの」

恒一「酷いな……怜子さんみたいだ……」ハハッ

赤沢「ねぇ、榊原くん……」

赤沢「榊原くんが何を抱えてるのかはわからないけど、少しは私を頼ってもいいからね」

恒一「赤沢さん、それは僕の役目だよ」

赤沢「いいじゃない。建物の柱だって一本で一本を支えるよりも、二本で支えあったほうが強いわ」

恒一「……確かにね」

恒一「いいよ。僕もたまには赤沢さんのこと頼ってみるよ」

赤沢「じゃあさ、二人で支えあう記念に榊原くんのこと、今日から恒一くんって呼んでいいかな?」

恒一「……それって僕も赤沢さんのこと、泉美って呼ばなきゃダメ?」

泉美「当然」フフッ

泉美「ねえ、恒一くん。今度あの店のと同じコーヒー、絶対に淹れてあげるからね」

恒一「僕、実はコーヒー苦手なんだよね……砂糖とミルクたっぷりの缶コーヒーは好きだけど」

泉美「あんなコーヒー牛乳や泥水インスタントなんかお話にならないくらいに美味しいのよ」フフッ

恒一「それならいつかごちそうになりたいな……」ハハッ


泉美「そんなうちにもう家についちゃったわね」

恒一「ありがとう、また月曜日に」ヒラヒラ

泉美「ええ。また月曜日に」ヒラヒラ スタスタスタ


恒一「(支えあう……か)」

恒一「(泉美には、僕の秘密をいつかはバラす事になるのかな……?)」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:02:13.34 ID:/czdE60q0<> ―7月中旬 路地―

恒一「(8月8日から10日までの合宿、か)」

恒一「(後年の組が失敗しているとはいえ、一度は『現象』を止める引き金になった儀式だ)」

恒一「(なんとかして引き金を今年も引ければ、きっと……)」

中尾「よ、榊原」

恒一「中尾。奇遇だね、どうしたの?」

中尾「今朝階段から落ちてさ。おふくろに病院行けって言われて今病院行くとこ。お前は?」

恒一「学校に忘れ物しちゃってさ。取りに行くところ」ハハッ

中尾「そっか。じゃ、お互い死なずに合宿で会おうぜ」ヒラヒラ

恒一「オーケー」ヒラヒラ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:04:54.39 ID:/czdE60q0<> ―0号館 階段前―

恒一「まあ、忘れ物なんてのは大嘘であって……」

勅使河原「よし、今なら誰も見てない! 行くぞっ!」

望月「はいはい!」

風見「あんまり大声出すなっ!気づかれる!」ヒソヒソ

桜木「懐中電灯要ります?」ヒョイ

泉美「手際いいわね、ゆかり」

鳴「あ、私も欲しいな。懐中電灯」ヒラヒラ

恒一「…………って、手がかり探すにしてもこの人数ってちょっと多過ぎない?」

勅使河原「物探すには人が多いほうがいいだろ。声かけれそうで対策関わってる奴片っ端から声かけたんだぜ」ヘヘッ

鳴「私は美術室で絵描いてて、面白そうだったから付いてきたんだけどね」

望月「いいの?あそこ勝手に使って?」

鳴「美術の先生も警備員さんも滅多に見て回らないからね。意外な穴場」グッ

望月「そうなのかぁ、じゃあ今度使わせてもらおっと……」

ゾロゾロゾロ

恒一「……手がかりとやらを見つけるより先に建物の床抜けないか心配だよ」ハァ

泉美「そんなにヤワな建物じゃないわよ、ここも」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:09:16.20 ID:/czdE60q0<> ―旧3年3組―

勅使河原「おい、この用具箱の天井に何かあるぞ!」ベリベリ

望月「……カセットテープ?」

風見「だな」ガパッ

泉美「えらく安物っぽいテープねぇ……」

鳴「あ、これリードテープ切れてる」

恒一「それじゃ、聞けないかもね……」

恒一「僕が直そうか?」

桜木「直せるんですか?」

恒一「昔お気に入りの曲入れてた120分テープを切ったことがあってね。その時に怜子さんから教わったんだ」

望月「本当に万能だね、その叔母さん……」

恒一「手先の器用な人だったからね。じゃあこれは僕が持って帰るよ……」ヒョイ
<> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:11:15.49 ID:/czdE60q0<> ―後日 駅前の某喫茶店―

勅使河原「ダメだったぁ!?」

恒一「うん。一度聞いてみたんだけど、テープ自体に凄いノイズがかかってた」カチカチ

恒一「多分『現象』の改竄作用か何かだと思うんだ……それじゃなきゃテープ自体の劣化か。安いテープだったみたいだったし」ズズー

望月「……と言うことは全て振り出しだね」ズズー

風見「『現象』も僕らをそう簡単には逃さないっていうのか?」ズズー

泉美「…………」ズズー

恒一「だからもう合宿に賭けるしかないね……本当に申し訳ないけど、これ飲んだら解散しようか」カチカチ

泉美「…………」ズズー


恒一「じゃあみんな、また合宿で会おうね」

望月「うん」

風見「気をつけてくれよ」

勅使河原「生きて会おうぜ」

恒一「泉美も、また合宿で会おう」

泉美「ねえ、恒一くん。時間有る?」

恒一「ああ、うん。時間は」

泉美「じゃあうちに来て。いつか約束したコーヒー淹れてあげるから」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:12:51.42 ID:/czdE60q0<> ―赤沢邸 泉美の部屋―

恒一「あ。これは確かに美味しい!」ズズー

泉美「でしょ?私の一押しなんだから。ハワイコナ・エクストラファンシーは」

泉美「まだイノヤの味にはかなわないけどね」

恒一「このティラミスも美味しいし、本当にごちそうさまだよ」ムグムグ

泉美「……ねぇ、恒一くん?」

恒一「何?」ゴクゴク

泉美「本当はテープ、聞けたんでしょ?」

恒一「……何言ってるの?さっきも言ったみたいに、テープのノイズが酷くて……」カチカチ

泉美「カップがかすかに震えてる」

恒一「!?」

泉美「本当に嘘つくの下手よね、恒一くんって……しばらく一緒にいたら癖がすぐわかっちゃう」ハァ

泉美「いったいあのテープに何が吹き込んであったの?」

恒一「…………言わなきゃダメ?」

泉美「言わなきゃ部屋から出さないわ」

恒一「それは……困ったなぁ」ハハッ

恒一「でも、泉美なら……言ってもいいかな」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:14:42.27 ID:/czdE60q0<> 泉美「『死者を死に返せ』……そんな方法があったなんてね」

恒一「もうテープは僕が処分したよ。水に一度沈めればカセットテープは聞けなくなる」

泉美「でも、どうしてそんなことを?」

恒一「……泉美はさ、地獄って見たことある?」

泉美「地獄?」

恒一「……見たことないよね。当たり前か。『現象』さえなきゃこの街は平和だもんね」

恒一「僕の家は三ノ輪ってところにあってね、学校は広尾ってところにある。この二箇所は結構離れてて、通学にはどうしても地下鉄を使うんだよ」

恒一「使ってたのは地下鉄日比谷線。三ノ輪から広尾までは一番早いのがそれだったからね」

恒一「3年前、卒業式の予行演習があった日、3月20日も僕は地下鉄に乗ってたんだ……ところが僕の乗った電車は小伝馬町駅で突然運転をとりやめられた」

泉美「それって……まさか」

恒一「お察しの通りだよ」

恒一「僕は小伝馬町駅のホームで地獄を見たんだ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:19:07.16 ID:/czdE60q0<> 恒一「僕自体は実際には大したことはなかったけど、それ以来何か関連するものを感じたりすると小伝馬町の駅で見たものがフラッシュバックするようになったんだ」

恒一「先の尖った傘とか、地下とか、トンネルとか。そういうのが引き金になって、ホームの景色が頭の中に浮かんで、そのおかげであれ以来地下鉄はもう乗れなくなった」

恒一「その後、その時のストレスが原因で気胸を起こして東京にいるのは良くないって言われて何ヶ月か夜見山の病院に入院することになったんだ。藤岡未咲と会ったのもその頃だね」

恒一「入院中にテレビで、もうハルマゲドンとかそういうばっかり聞かされて、あの時はもうすごい腹がたったよ……自分勝手な終末論のためだけにあの地獄を創りだしたなんてね」

恒一「それ以来、僕はもう二度とあんなことを起こさないようにしなきゃって、いろんな知識をつけはじめた。もうあの地獄を再現しないように……」

恒一「もちろん読みながら何度も吐きそうになったけど、なんとか今は文字媒体だけなら平気になってきたよ」

泉美「ノストラダムスの予言にあれだけこだわってたのも、そのせい?」

恒一「うん。あの事件だって元をたどればノストラダムスの予言が源流だ。1999年に何かする奴がいないはずがないと思っててね」

恒一「まあ、今の僕の力じゃ何もできないのはわかってるけどね」ハハッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 18:19:42.93 ID:BI1dw6Dmo<> 見てるぞ。頑張れ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:29:19.76 ID:/czdE60q0<> 泉美「だけど、誰も巻き込またくないから、カモフラージュとしてノストラダムスの予言を信じて諦めてるふりを?」

恒一「今考えれば、我ながらバカな考えだったとは思うけどね。でも、よくわかったね」

泉美「そういう人が、身内にいたのよ」

恒一「……でも、実は『現象』については半分諦めてた」

恒一「怜子さんのこともあったからね」

泉美「一昨年死んだ、3組の担任の?」

恒一「あの人も『現象』関連でかなり頑張ったみたいでさ。なんとかしようと必死だったみたいなんだ」

恒一「僕の母さんが怜子さんの年の『現象』で死んだからって負い目を感じてたんだろうね。3等身なら死なないからって僕にも何度もそのことを話した」

恒一「ただ、それでも死んだ。増水した川に飲み込まれて水死って、なんとも哀れな最後だった」

恒一「あの時の豪雨はひどかったからね、堤防が破れて、いろんな場所で何人も死んでて、葬式の会場で入ってくるのもそのニュースばっかりだった」

恒一「そこで思い知ったんだよ。『現象』なんていうのは形を変えた自然災害なんだって」

恒一「対策なんて所詮堤防やダムと同じ。何かあれば簡単に突き破られるんだって……だから諦めた」

泉美「…………それで、なんでテープを捨てたの?」

恒一「あれはノストラダムスの予言と同じなんだよ。あれが存在すれば勘違いした誰かが音頭を取って、殺人が始まる」

恒一「あの事件と全く同じように、ね」

恒一「勅使河原や風見には悪いけど、あれはこの世から消すべきだったんだ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:32:09.45 ID:/czdE60q0<> 泉美「……あのさ、さっき身内にそういう人がいたっていうよね」

泉美「あれって、私の従兄なの。一昨年の、対策係だった従兄」

泉美「私は従兄……お兄にすごい懐いてたから。お兄を何もできないまま殺した『現象』が許せなくて、対策係になったの」

恒一「泉美は強いね。僕は……諦めるしかなかったんだ」

泉美「私だって強くない。大事な人をもうこれ以上失いたくなかった。誰か一人でも失えば、私なんて簡単に折れちゃう」

ギュッ

恒一「なっ……」

泉美「テープ、捨ててくれてありがとう」

泉美「多分テープがあったら、私も誰かを殺してたかもしれない。『死者』って疑って」

泉美「私は二度と『現象』で大事な人を失いたくないからって……!」

恒一「……そんなのみんな同じだよ。僕はただ、あの事件を知ってるから冷静にいられただけ」

恒一「あれだってみんなを守りたいと思う気持ちが、サリンを撒いたんだ」

泉美「ねえ」

恒一「何?」

泉美「キス、していい?」

恒一「なんで?」

泉美「せめて、繋ぎ止めておきたいから。大事な人が死ぬ前に」

恒一「縁起でもないな。それに、思い出は多ければ多いほど死んだ時に苦悩するよ」

恒一「怜子さんの時も、我が親友の時も、後からくる苦悩が酷かった」

泉美「それでも後からあれしとけばよかったとか、これしとけばよかったとか、後悔するよりはマシ」

恒一「それなら……いいよ」

泉美「じゃあ行くね……んっ」

チュッ

泉美「キスって……やっぱり甘い味がするんだね」プハァ

恒一「それはケーキの味じゃないの?」

泉美「夢、壊さないでよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 18:39:32.61 ID:eUDP6fODO<> VIPで立てて完結したろ
なんでまた立ててんの? <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:40:38.87 ID:/czdE60q0<> ―8月8日 咲谷記念館―

千曳「さあみんな、たんと食べてくれ」ドバンッ

勅使河原「すげぇ、これ全部あの人が作ったのかよ……」

望月「なんか意外な才能見たね……」

千曳「……と、赤沢さんは?」キョロキョロ

桜木「食欲が無いって、部屋で横になってます」

千曳「そうか……あとで薬か何か持って行こうかね?」

桜木「いえ、薬はいらないって言ってました」チラッ

恒一「(あれ?今一瞬僕の方見た?)」

勅使河原「そういや結構顔色悪そうだったもんな」ムグムグ

望月「ここ来るバスの中で何度も口元抑えてたしね。乗り物弱いなんて聞いたことなかったのに」ムグムグ

恒一「……心配だなぁ」ムグムグ

恒一「後で行ってみようっと……」ムグムグ

鳴「榊原くん、あとでちょっと良いかな?」

恒一「え?」

鳴「ちょっと色々話したいことがあって」

恒一「いいけど……」


桜木「(ったく……榊原くんも察してくださいよ!)」ムグムグ

桜木「(吐き気とか!食欲ないとか!そういうことやった後なら普通どういう状態なのかわかるでしょう!)」ムグムグ

風見「桜木さん、それ僕の皿……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:42:41.78 ID:/czdE60q0<> >>37 SS速報で誤字脱字と辻褄直したVer書いてくれとの要望があったので

―泉美・桜木の部屋―

恒一「泉美、大丈夫?」

泉美「恒一くん……」グッタリ

泉美「大丈夫。食欲ないだけだから……」グッタリ

泉美「ごはん、美味しかった?」

恒一「うん。千曳先生の料理の腕凄すぎだよ」

恒一「料理できる身としてはああはなってみたいけど、男としてはなりたくないな」ハハッ

泉美「そういや、恒一くん料理するんだよね……」

泉美「恒一くんの料理。食べてみたいな」

恒一「いつかご馳走するよ」スッ

泉美「行っちゃうの?」

恒一「見崎に呼ばれてて。先に心配だから見に来たんだけど、大丈夫そうだったから良かったよ」

泉美「……ありがと」

恒一「じゃ、また」スタスタ フラッ

恒一「うわっ」ドタンッ

泉美「気をつけてよね。恒一くん」

恒一「カッコ悪いとこ見せちゃったなぁ……」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:45:19.82 ID:/czdE60q0<> ―鳴の部屋―

恒一「話って何?」

鳴「未咲と私のこと、誰かに漏らさなかった?」

恒一「……う」

鳴「山道で妙に赤沢さんが未咲のこと聞いてきたから、気になってね」

鳴「まあ、従姉妹にしては似過ぎてたと思うからいつかはバレるかと思ってたんだけどね」

鳴「だからあなたの秘密、サリン事件の被害者ってことも綾野さんにばらしたよって言いたくて」ニヤッ

恒一「……ごめん。対策立てる上で少しでも情報がいると思って…………」

鳴「っていうのは嘘。先に秘密をばらしたのは未咲ってわかってるしね」

鳴「本当は『死者』の正体がわかったって話」

恒一「死者の……正体?」

鳴「そ。未咲から私の眼には力があるって聞いたこと有るよね」シュルリ

恒一「うん。なんか、幽霊が見えるとか言ってたかな、あいつは」

鳴「正確にはちょっと違う。この人形の眼が見えるものは『死の色』」

鳴「『死者』や『死んだもの』を見れるの」

恒一「……なんで今までそれで死者を見抜かなかったの?」

鳴「死者を見ぬいたところで、どうしようもなかったから」

鳴「多分あなたは対処法を知ってるんでしょうけど」

恒一「…………どうしてそれを?」

鳴「簡単よ。前にテープの話をした時の榊原くん、手が震えてた」

鳴「嘘つくと手が震える親友の話も聞いたからね……」

恒一「困ったなぁ……なんでもお見通しか」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:47:32.68 ID:/czdE60q0<> 鳴「で、ここからが本題。ついさっき、神社で私は試しに眼帯を外してみたの」

鳴「そしたら、見えたわ。死者が」

恒一「死者は、この中にいるってわけかい?」

鳴「そう」

恒一「……誰なんだ?死者は」

鳴「聞くの?」

恒一「僕のやり方には反するけど、そうすればこの『災厄』は止むかもしれないんだ」

恒一「僕のやり方には、反するけどね……」

鳴「……じゃあ、教えるわ」

スッ

鳴「死者は、そこにいる」


恒一「…………なるほど、そういうことか」

恒一「僕が、『死者』ってわけか」ハハッ

鳴「ちょっと待って」

恒一「なるほどね……」

鳴「話を聞いて」

恒一「悪かった。邪魔するよ。それじゃあ僕は今から災厄を終わらせてくる」

ガチャ バタム!

鳴「……テープがどんな内容だったのか知らないけど、榊原くんもたいがい冷静になりきれてないし、抱え込みすぎよね」

鳴「でもあれは私じゃ止められそうにないし、赤沢さんに頼るしか無いか」トタトタ

―廊下―

綾野「あれ?こういっちゃん。奇遇だねえ」ホカホカ

恒一「あ、綾野さんに小椋さん」

小椋「お風呂いいお湯だったよ。男子の入浴時間これからだからすぐ入ってきなよ?」ホカホカ

恒一「そうするよ……と」

恒一「小椋さん、カミソリ借りていいかな?実は家に忘れて来ちゃって」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:49:51.09 ID:/czdE60q0<> ―恒一の部屋―

恒一「今年の死者は、僕」

恒一「僕は恐らく94年度の3年3組の生徒としての死者。小伝馬町でサリンを吸って、夜見山で死んだ」

恒一「怜子さんや未咲の記憶に関しては……全て改竄か。悔しいけど」

恒一「でも、もう終わり。これで災厄は終わる」スッ

恒一「アンゴルモアから逃げる方法がたったひとつあるって知ってるか?」

恒一「アンゴルモアが来る前に死ぬことさ。ざまみろノストラダムス」スッ

ガチャンッ!

泉美「恒一くん!」ポロポロ

恒一「いず……み?」

泉美「見崎さんが教えてくれたっ! 大丈夫だから、あなたは『死者』じゃないって!」ポロポロ

恒一「……泉美、聞いてくれ」

恒一「もう災厄は終わる。僕がこのカミソリを少し捻れば、全て終わるんだ」

恒一「僕のやり方だって、自分にだけは効かない……」

泉美「違う!恒一くんは『死者』じゃない!」ポロポロ

恒一「……そんなに言うなら僕が『死者』じゃない理由を教えてくれよ。僕は大量殺人現場に居合わせた、このクラスで最も疑わしい男だ」

恒一「見崎も、『死者』を見える眼でそう見えたって言っている」

赤沢「違うよッ! 違うっ!」ポロポロ

恒一「……じゃあ証拠を出してくれよ。僕が生きてる証拠を!」

赤沢「あるよっ!」ポロポロ

赤沢「証拠……証人ならここにいるっ!」グイッ!

恒一「泉美の、お腹……?」

赤沢「赤ちゃん!恒一くんと私の赤ちゃんっ!」ポロポロ <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:52:52.36 ID:/czdE60q0<> あああ……また誤字直さずに投稿してしまった…………くっそぉぉぉぉっ!!!

泉美「『死者』は赤ちゃんなんて作れないよっ!こういぢぐんはいぎでるよぉっ!」ポロポロ

恒一「……あの時……できてたのか」

鳴「死者が子供を作れないって言うのも確証にはならないないけどね」スッ

鳴「でも、あなたは死者じゃないのは本当」

恒一「見崎……」

泉美「みざきざん……」エグッ

鳴「赤沢さん。ドア開けっ放しで大声で赤ちゃん発言なんてするものじゃないわ。廊下まで筒抜けよ」

泉美「でも、こうでもしないと、こういちくん、しんじゃってえ」エグエグ

鳴「恒一くんも避妊くらいしなさい」

恒一「……もう二度と『大丈夫な日だから』なんて信じないって誓うよ」

鳴「そうしておくべき。女の子の言う『大丈夫な日』なんて、テレビの星占いよりも信用出来ないんだから」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 18:56:41.25 ID:/czdE60q0<> 鳴「まあ、避妊の話は置いといて。さっき榊原くんが早とちりして聞いていかなかった本題を話させてもらうね」

鳴「私が思わせぶりな説明したのも悪いんだけどね。あなた自身は死者じゃないの」

恒一「……?」

鳴「言ったでしょ?『死者』や『死んだもの』が見えるって」

鳴「あなたから見える死の色は下半身だけに見えるのよ」スッ

恒一「下半……身?」

鳴「正確には両足、ね」

鳴「恒一くん、あなたの吸ったサリンガスはどんな毒物だかわかる?」

恒一「……ナチス政権時代のドイツで作られた神経ガスだ。正式名称はイソプロピルメタンフルオロホスホネート――」

鳴「そう。神経毒って言うのは文字通り人間の神経を蝕む毒物。吸った人間が半身不随を引き起こすのも容易に考えられるわ」

恒一「詳しいんだね」

鳴「なんとなく拷問とかNBC兵器とかに興味があった時期があっただけよ」

鳴「それに榊原くんが夜見山で療養してた3ヶ月間に親しくなった未咲」

鳴「未咲の話を思い出せるだけ思い出してみたけど、ほとんど会いに行ったのは未咲の方からだった」

鳴「理由は榊原くんが寝たきりだったからとしか思い出せなかったけど、気胸って三ヶ月も寝たきりになる病気なの?」

恒一「いや……違うはずだ」

泉美「そう言えば、恒一くんの叔母さんの日記でも、恒一くんはいっつもベッドに横になってたか、座ってたかしか書いてなかった……」

恒一「……あの足のふらつきは気胸の一ヶ月間のブランクでなく、歩けない三年間のブランクだったってわけか」

鳴「そうでなきゃ慣れない別人の足だからか、ね」

恒一「でもどうして足に『死者』が?」

泉美「自然災害はいつも変則的」

恒一「……」

泉美「恒一くんが言った言葉よ。このくらいの変化球で来るとは予想もしなかったけど」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:01:15.52 ID:/czdE60q0<> 鳴「で、どうするの?私は『死者』を見つけても、『現象』を止める方法を知らないのだけど」

恒一「終わらせるよ。方法は簡単だから」

恒一「『死者』を、この足を死に返せばいい」

恒一「泉美、対策係最後の仕事、頼むよ」

泉美「……やれるかどうかわからないけど、頑張ってみるわ」

恒一「と、その前に小椋さんにカミソリ返さなきゃな」


―記念館裏・用具倉庫前―

恒一「縛った?」

鳴「ええ。きつーくね」

鳴「あとこれ噛んで」

恒一「タオル?」

鳴「悲鳴が聞こえないように。足を切り落としてる場面が見つかると色々厄介でしょ?」

泉美「……凄い手際の良さね」

鳴「そうかな?ドラマや映画の真似だけどね」

鳴「それとはい、斧」

泉美「……恒一くん、行くよ」チャキッ

恒一「僕が暴れても、絶対に躊躇しないで。必ず二本全部切り落として」

泉美「わかった」

鳴「今タオル結ぶわ」シュルシュル

恒一「さよなら、僕の足。お前のことは二度と忘れないよ」シュルシュル

鳴「はいOK、いつでもいいわ」

恒一「」コクリッ

泉美「………」ブワッ

泉美「でやああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

ドスッ! <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:03:23.23 ID:/czdE60q0<> 恒一「――――――ッッッ!!!」バタバタバタバタ

泉美「恒一くんっ!」

鳴「躊躇しちゃ駄目!もう一本も!」

泉美「……」

恒一「―――――ッッッ!」コクコク

泉美「恒一くん、ごめんなさいっ!」

ドスッ!

恒一「―――――――ッッッ!!!」 バタバタバタバタバタッ

泉美「はぁ……はぁ……」カラン

鳴「これで全部……終わったみたいね」

泉美「……もうこんなの御免だわ。対策とはいえ好きな人の足を切り落とすなんて、いい気しない」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:07:20.81 ID:/czdE60q0<> 恒一「はぁ、はぁ、はぁ」プハッ

鳴「頑張ったね。今救急車と千曳さん呼んでくるわ」タタタタッ

恒一「ありがと。でもやるまえに包帯欲しいかったかな」

恒一「神経が死んだから痛みは無くなったとは言え、凄い量の血がでてるし」

泉美「しばらく我慢して。恒一くんは不慮の事故で足を失ったってことなんだから」

恒一「確かに包帯持ってたら不慮の事故にしては準備が良すぎるか」

泉美「待ってて、今ブラウスで抑えるわ」ヌギヌギ


泉美「どう?寒くとかない?」

恒一「ちょっと寒くなったかな。これ血がなくなるか救急車が来るかどっちが先かな」ハハッ

恒一「でもなんだか、頭の中の靄かかってた部分がはっきりしてきた。足でビンゴだったかもね」

恒一「思い出してきたよ。泉美が前に言ったこと、本当だった」

泉美「え?」

恒一「僕たち、会ってたんだよ。一昨年に」

恒一「怜子さんの葬式のあと、僕は河川敷を散歩してた」

恒一「散歩って言っても、足が動かないから、車椅子でだけどね」

恒一「怜子さんのことを思い出しながら、車椅子の車輪を回してた」

恒一「そしたら空き缶が飛んできた。僕の方に飛んできたのはわかったんだ。でも僕はかわせなかった」

恒一「車椅子って、反射的に動けないからね」

恒一「そして、泉美と出会ったんだ」

恒一「手ぇ、握ったことあったんだよ」

ギュッ

泉美「……私も、全部思い出したよ」

泉美「私たち、出会ったんだね……っ」ウルッ

恒一「うん。出会ってた……っ」 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:31:27.26 ID:/czdE60q0<>  そして、僕が足を斬ったことによって僕たちの『現象』に彩られた半年は終わりを告げ、平和な日常が帰ってきた。
 僕は相当量の血を流したことや傷口の縫合のこともあってかまたまた一ヶ月の入院を余儀なくされた。おかげで僕の夏休みは全ての日数を病院で過ごす羽目になったのである。水野さんだけは僕にかまえるのが嬉しいのかやたら楽しんでいたけど、こっちはたまったもんじゃなかった。
 入院数日目、合宿から帰ってきた中尾と杉浦さんと桜木さんが病室に入ってきて、中尾と杉浦さんに一発づつ殴られた。
 そして「泉美を大切にしなさいよ(しろよ)!」と僕に言って、帰っていった。
 桜木さん曰く泉美懐妊の報は合宿終了時にはクラス全体と一部の保護者様に広がっていたらしく、僕は色々と取り返しの付かないところに追いやられたという。
 ちなみに桜木さんは僕より早く妊娠のことを知っていたようで、僕らの行く末を不安に感じながらも、精一杯の祝福をくれた。
 その後、僕の病室は度々修羅場となった。泉美の言葉にハメられたとはいえそれを素直に信じた僕も悪く、憤怒する泉美のお父さんに平謝りし、殴られ、そして激怒するオヤジに平謝りし、殴られ……そんな感じの展開が一週間は続き、僕も色々と堪えた。
 それでも、泉美のフォローと笑顔のお陰で僕は精神を病むことなく生きていけたのである。

 そして夏の終わりに僕は退院し、そして泉美やみんなに車椅子を押されながら残りの半年を過ごした。
 
 この年の3組卒業生で夜見山を離れた人間は3人いた。まず僕、金沢の美専に行った見崎、そして東京の通信制高校になんとか入学した泉美だ。
 本人は私立を目指したかったらしいが、僕も悪いとは言え大きなお腹ではどうしようも無く、通信制に落ち着いたのである。
 そして東京へ移って二週目のある日、僕の命を救ってくれた男女の双子が誕生した。
 和馬と怜子。僕ら二人の大切な人の名前を受け継いだ双子は僕らと、初孫にべったりのオヤジによって育てられていった。

 1999年7月、アンゴルモアは人類を滅ぼさなかった。アンゴルモアを起こそうとした奴すらも、ついに現れなかった。2000年問題すらも結局はただの空振りに終わったのである。
 だが、アンゴルモアは『現象』だけは滅ぼしていった。

 お盆、夜見山に帰った日。僕の家を訪れていた泉美が桜木さん経由で教えてくれたのだ。
 7月に就任したパフォーマーなワンマン県知事の合理化パフォーマンスによって、県内の小中学校の幾つかが来年度統廃合されること。
 そして、夜見北はその統廃合の槍玉によって夜見山西中学と合併し、消滅することを。
 かなり強引な合併があったために反発も大きかったらしいが、ワンマン県知事はそれでも合理化や予算削減、そして就任直後の求心力を盾に統廃合を押し通し、結局夜見北を含むかなりの数の学校が統合された。と、僕はニュースで後日知った。
 かくて新しく出来た夜見山第一中学は夜見西の校舎を使用し、夜見北の校舎は地元のバス会社の社屋兼車庫に転用された。
 現在まで、夜見山第一、バス会社ともに『現象』は訪れてないそうだ。ざまみろ、『現象』。 <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:34:04.22 ID:/czdE60q0<>  あれから十数年。今、僕は夜見山でライターと大学准教授の真似事をしながら暮らしている。
 理由は、ネットツールによる授業が組めるようになった事によって東京にいる理由が無くなったことや、泉美も結局東京を好かなかったり、僕も最後まで東京とあの事件を結び付け、拒絶したことだった。
 今は技術の進歩も凄く、自宅にいながらパソコンを使って東京で講義を行えると言うことで、週に一回化学テロや犯罪学に関しての授業を行い、たまに本を出している。
 その間にも僕たちの環境は幾らも変わっていったのだ。
 僕が大学院を卒業した年に二人目の娘が産まれた。
 大学教員一年目に産まれた娘は、我が親友の姉こと見崎鳴の手で、我が親友の名をつけられ、今もすくすくと成長している。

 そして、現在。
 僕は僕の作った料理と、泉美の入れたコーヒー、僕と泉美、三人の子供、古い友人に囲まれて過ごしている。

(完) <> 以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします<>sage<>2012/06/25(月) 19:34:48.16 ID:/czdE60q0<> お約束の改訂版、書き終わりました…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 20:02:18.63 ID:BI1dw6Dmo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 21:58:05.38 ID:hnUK054DO<> よかっよ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/26(火) 00:00:38.13 ID:rDjMtLSIo<> おちゅんこ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/28(木) 15:36:26.80 ID:42Bde8Rpo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/09(月) 08:59:23.75 ID:nKJvQ83DO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/23(月) 23:17:14.84 ID:XRCOcBPDO<> 乙 <>