VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/08/04(土) 00:22:46.75 ID:V7bt0aHd0<>
※attention※
・キャラ崩壊アリ。ギャグメイン予定。
・一部キャラTSアリ(いわゆる性転換モノ)
・時系列はいろいろあって平和になった4月頃(原作開始から8か月後くらい)
・R-18内容あるかも(ただしエロというより下ネタ)
・地の分は少なめです。書き方は会話多かったり一人称視点だったりそうじゃなかったり。
そんな感じです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1344007366
<>【禁書SS】垣根さんとセイヴェルン君
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/08/04(土) 00:23:49.73 ID:V7bt0aHd0<>
春。
目覚めの季節。
新しい生命が
冬を越した花々が
小さな動物達が
生まれ、芽吹き、活動を始める季節。
多くの人にとっては新しい生活の始まる季節だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/08/04(土) 00:25:11.96 ID:V7bt0aHd0<>
あるものは進級し
「にしてもカミやんが進級できたのは奇跡だにゃー」ケタケタ
「うるせぇ!! 俺だってそう思うけど言うんじゃねぇ!!」ムキー
「まあ、春休みどころか始業式ギリギリまで頑張っとったからねぇ」ケラケラ
「私も協力したんだから留年なんてされたら困るわよ。もっとも月詠先生の頼みじゃなきゃ断ってたけどね」
「一緒に進級できて。よかった」
あるものは仕事をはじめ
「無理無理。この凶悪面で警備員とかむしろ犯罪率上げるだけだってば。この人にそんな仕事が勤まるならミサカだって学校いけるっての」ゲラゲラ
「そのケンカ……買ってやるよォ」
「別に正式な辞令とかじゃないじゃん。遊んでるなら手伝えってだけじゃんよ」
「キミまで働いてしまうのね。なら私はこの家を守らないといけないわね」
「まさかのヨミカワに弟子入りなの? ってミサカはミサカは驚愕を露わにしてみる」ワクワク
またあるものは新しい居場所を探す。
「あーどうしたもんかなー」ダラー
「何がよ」
「いや、滝壺と絹旗は復学。麦野も大学だろ? 俺はどうしたもんかなーって思ってよ。ってか今日は入学式じゃなかったのか?」
「…………暇だから抜けてきた」
「それでいいのか大学生」
そしてここにもまた。
春を迎えた人間が、一人。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:26:52.58 ID:V7bt0aHd0<>
第七学区
とある病院
特別隔離病棟第弐号室
光量の抑えられたオレンジの光。
純白の部屋。
窓はない。
あるのは銀色の大扉だけだ。
彼が横たわるのは大きなベッド。
体からはいくつものコードが伸びていて、その先は様々な器具に繋がれている。
中でも一際目立つモニタは淡い光を発していて、表示された数値が小さな電子音と共に絶えず動いている。
部屋にある物の中でも特に異質なのは冷蔵庫よりも大きな機械。
項垂れるように投げ出された何本かのチューブは何にも繋がれていない。
既に役目を終え、ただ置いてあるだけのようだ。
必要な物しか存在しない部屋の中で唯一不必要な物。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:27:52.81 ID:V7bt0aHd0<>
(ここは……どこだ……?)
大きなベッドと独特の雰囲気と消毒液の臭い。
小さい頃、幾度となく嗅いだ記憶のあるその臭いでここが病室だと分かる。
問題はここが病院の一室なのか、それとも研究所の病棟なのかだ。
キィと金属の扉が軋む小さな音が聞こえる。
一瞬だけ強い光が部屋に差し込んだが、扉のしまる音と共に再び薄暗い空間へと戻ってしまう。
「おや? 計器の数値からそろそろだとは思っていたけど……目が覚めたみたいだね」
コツコツと靴を鳴らす人影はそのままベッドの脇までくると機器の数値を確認しはじめた。
「誰だ?」と問おうとして初めて気付く。
(声が……、 出ない……ッ!?)
声帯が断たれたように声が出ない。
しかし、その表現は正しくない。
掠れた、呻き声のような風の音はする。
ただそれが『言葉』をなしていない。
「無理はしない方がいいね。半年近く寝ていたんだから」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:28:40.19 ID:V7bt0aHd0<>
(半年……近く寝ていた?)
何の事だと問いただそうとしても口からは言葉にならない音が漏れるのみ。
それどころか掴みかかろうとして今更に気付く異変。
言葉だけではない。
体が――――動かない。
(体が――重、い―――ッ!!)
水深何百メートルの水中に潜ったような。
数百キロ全力疾走した後のような。
体中に数トンの錘をつけているような。
体を起こす事はおろか顔を動かすだけで精一杯だ。
そもそも動かそうとする意思が手足に伝わらない。
自らに繋がっている四肢がまるで他人の物のであるかのような違和感。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:29:26.50 ID:V7bt0aHd0<>
「数値は安定してるね。じゃあ、まず明かりをつけようか」
ピッという小さな電子音と共に部屋が明るくなり、反射的に瞼を閉じる。
暗い部屋で電気をつけたから、だけではない。そもそも部屋の光はそこまで強くはなかった。
「少し瞼を閉じていれば慣れるはずだね。この光はそういう明かりだから」
半年間使っていなかった眼球が、光に耐えられなかったのだ。
「ゆっくりと一つずつ説明をするね」
閉じられた目蓋の向こうに光を感じながら、その言葉に耳を傾ける。
ゆったりとした声が脳に浸透するように響いてくる。
「まず場所の説明だね? ここは第七学区にある僕の病院の特別隔離病棟。仰々しい名前だけど単に表に出せない患者を匿っているようなものだと考えてくれれば構わないから」
自分の場所。
「君は去年の十月九日、学園都市の独立記念日に意識を失って発見されたらしい。散々な状態だったらしいよ?」
自分の記憶。
「その反応を見ると覚えているみたいだね。まあ、直接僕のところへ来たわけではないからその時の状態を僕は詳しく知らないんだけどね」
少しずつ少しずつ思い出す。
「君を拾ったのは統括理事会だ。ああ、もう旧統括理事会と言うべきだね。当時の統括理事長が辞任して学園都市は大きく変わってしまっているから」
自分の置かれた状況。
「詳しい事は省くけど……君はボロボロの状態で発見され、修復されたのち、いろいろな経緯があって最終的に僕のところに来たんだ」
一つ一つをゆっくりと取り戻していく。
「意識が戻ったから言うけれど実は君が意思を取り戻す確率は……大目に見ても〇.〇〇一パーセントもなかったんだね。君が目を覚まさなければ僕はまた負けるところだったよ」
自分に戻るために。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:30:56.06 ID:V7bt0aHd0<>
「そろそろ眼も慣れたようだし……体も起こしてみよう。きっと動くはずだ」
目蓋を開き、体を起こす。
まだ体はわずかに動く程度だ。が、確実に動く。
一人の医師がいた。
カエルのような顔をした男性だ。
ネームプレートにはカエルのシールが貼ってあり名前は確認できない。
「次はこれを飲むといい。ゆっくり飲むんだよ? そうすれば喉が慣れて、君は声を出せるはずだ」
差し出されたコップを震える手で受け取ると中身も確認せずにゴクリと一息で飲み干した。
透明な液体が喉、体にゆったりと染み渡っていく。
「声が出せるか試してみよう。そうだね……君、自分の名前は覚えているかい?」
体を起こすのが精一杯だった四肢に力が入る。
「――、――」
上手く音にならない。
たださっきまでとは全然違う。
先の液体が力を与えてくれたのだろうか。
深呼吸をする。
深く。
深く。
息を吸い、吐く。
そしてもう一度、深く、吸い。
彼は自らの名を口にする。
「垣根、帝督だ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:32:50.38 ID:V7bt0aHd0<>
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
俺はカエル顔との『会話のリハビリ』で様々な情報を手に入れた。
今の学園都市の事。
今の統括理事会の事。
一言でいえば俺が知っている学園都市よりもだいぶ ゆるく なったらしい。
そして何より俺の体の事。
損傷の激しかった俺の体は脳以外のほとんどを取り替える形となった。
数値を確認した限りでは後遺症などは残る事もなく、予想では数週間程度のリハビリで体を動かせられるようになるとの事。
半年も動いていないのに? そもそも脳以外を取り換えるほどの処置を行って?
そう疑問に思ったが嘘ではないらしい。その証拠か会話をしていたわずかな時間で既にベッドに座れうようにはなっていた。
取り替えられた体はサイボーグなどではなくクローン技術を利用した生身の体らしいのだが、いくら学園都市だとはいえトンデモ技術もいい所だ。
ただ話によると「後遺症は残らないけれど特殊な処置だから運が悪ければそのまま目覚めなかったかもしれないね」との事。
人体実験じゃねえのか……それ?
もっとも脳を三つに分けられていたのが事実ならこうして五体満足で生きてるだけで感謝してもしきれねえんだけども。
原因であるアレイスターのクソ野郎は粉々にしても気が済まねえ……がどうやら既にくたばっているらしくどうしようもない。
分かったのはそれくらいだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:34:28.83 ID:V7bt0aHd0<>
「さて、それで君はどうするのかな?」
「まずはリハビリ……それから考える」
神妙な面持ちで確認された言葉に考えも即答をする。
「それが懸命だね。さしあたっての説明は済んだけど……他には何かあるかな?」
目を閉じて考える。
今の自分が欲しいもの。
今の自分に必要なもの。
「鏡ってあるか?」
「鏡?」
「変な言い方だけどな、実感が欲しい」
今の状況。
体の状態。
全てが外から聞いた情報だ。
体と頭と心が虚ろで繋がっていない感覚。
「生きてるって実感が」
「なるほど」
納得したのかカエル顔の医師はベッド脇の操作盤のボタンを押す。
電子音と共に壁が開き、大きな姿見が出現する。
「ここを押してくれれば戻るから」
医者が指差した先にはいくつかのボタンがあった。
「…………病室に必要なのか? この機能は」
「医者にだって遊び心はあるんだね?」
楽しそうににやりと笑った。
無駄に多機能すぎるだろ。
他にもテレビやら3Dディスプレイ端末やらいろいろな機能がついているらしい。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:36:28.84 ID:V7bt0aHd0<>
「ま、いいか」
ゆっくりと立ち上がって姿見の前に立つ。
ゆったりとした病院着を着た人影、というか俺の体が映る。
まだまだ反応は鈍いがしっかりと自分の意思で動いている。
手を動かそうとすれば手が、足を上げようとすれば足が鏡合わせに動く。
この体はやはり俺の体らしい。
一通り動作確認をして、もう一度鏡を見る。
髪。半年も切ってないせいか肩を通り越して脇腹近くまで伸びている。頭が重い。
長く染めていないせいで毛先の数十pだけ色が変わっているのも情けない。プリンどころかポッキーみたいだ。
体。全体的に細くなっている。筋肉や脂肪が落ちたんだろう、半年も寝てたんだ仕方ない。
心なしか身長も縮んでいて体全体が小さくなった気がする。気のせいだろう。
「ん?」
「どうかしたのかな?」
「何で胸に脂肪がついてるんだ?」
何というか、胸の辺りが膨らんでいる。
触って確認しなければ分からないほどの脂肪の層。
試しに病院着の腰を絞ってみると少しだが明らかに膨らんでいる。
「ああ、君は元々男の子だったね」
「元々?」
「今日から君は女の子だ」
まるで「診察の結果、キミは風邪だ。栄養を取って安静に」とでも言うように簡単に告げられた言葉。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:37:09.04 ID:V7bt0aHd0<>
「は?」
女の子?
誰が?
鏡に映っている人間が。
鏡に映っている人間が?
つまり。
俺が。
俺、垣根帝督が。
女の子。
「はあああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!???????????」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:40:58.10 ID:V7bt0aHd0<>
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
カエル顔の医者は取り乱した俺をよそに「時間が経てばきっと落ち着くね?」と言って薄情にも部屋から出て行った。
夢だ。
そう思い、不貞寝をしようとしても寝つけるわけもなく。
なけなしの勇気を振り絞り、もう一度鏡の前に立つ。
180pを超えていた長身は170前半程度まで縮んでいてわずかに視界の位置が低い。
意識して鍛えていたほどではないが筋肉に包まれた強い男の四肢は脂肪を纏った柔らかな女のソレへと変わっている。
サイズはそれほどでもない(というか大別すれば貧乳もしくは無乳に近いレベルだ)が明らかに胸筋とは言えない女性特有の脂肪の塊が胸についていて。
17年間慣れ親しんだ器官の感覚が両足の間に存在しない。
鏡に映った『女の体』。
手を動かそうとすれば手が、足を上げようとすれば足が『女の体』で鏡合わせに動く。
つまり鏡に映っている女は正真正銘俺―――垣根帝督なのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:42:52.52 ID:V7bt0aHd0<>
「夢……じゃなかったか」
呟いて今更気付く。
「声……微妙に高いな」
内耳と外耳の関係で自分で聞く自分の声と他人が聞く自分の声では差が出る。
その差を考慮しても明らかに自分の声は高く、細く、まるで女性のような――いや。
「女、なんだな」
鏡をそのままにベッドへ倒れこむ。
ぼふりと埃立つ布団。
体に響くスプリングの振動。
少しだけ跳ねる体。
その全ての要素が現実を突き付けてくる。
この体が今の俺の体だという現実を。
別に自らの体を鍛えていたわけでも特別な愛着があったわけでもない。
ただ自分に与えられた当然のものとして享受してきただけだ。
それがなくなった。
いや、別のものへと変わってしまった。
常識が通用しないとかそんなレベルじゃねえだろこれ。
……。
…………。
……………………………………。
とりあえず、もう一度寝よう。
寝て起きたら体が戻っている、なんてそこまで希望的観測をするほど愚かじゃない。
だが、一度寝て起きればこの動揺も少しくらいは落ち着くかもしれない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:44:11.96 ID:V7bt0aHd0<>
慣れない体をモゾモゾと動かして布団をかぶる――その時だった。
「おっはよー!! お、起きてる起きてる」
背を向けた部屋に入り口から扉の開く音と主に記憶にない男の声が聞こえる。
「あれ? 寝てる?」
聞き覚えのない能天気な軽い声。
「あれー? 起きたって聞いたんだけどー?」
「寝てるよ」
「結局、起きてるじゃん」
放っておけと言う無言の圧力が伝わらなかったらしい。
仕方ないと体を起こしてベッドに座る。
白衣を着た男がいた。
男と言っても年齢は俺と同じか下くらい。
金髪碧眼。
色白で細見、身長は160pちょいの少し小さめって所か。
その手の人に喜ばれそうな中性的な美少年なわけだが……どう記憶を辿っても一致する名前はない。
「誰だよ」
「アンタの担当看護師って訳さ」
看護師……? 医師じゃなくて?
「白衣なのに看護師なのか」
「看護師の服より好きだから」
好みの問題かよ。
「チェンジ」
「却下」
こちらの要求は即座に却下され、金髪がベッド脇の操作盤のボタンを押すとテーブルが出現する。
こんな機能まであったのか。
無駄すぎる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:45:18.34 ID:V7bt0aHd0<>
「結局、食事のお時間でーす」
金髪の体に隠れて見えていなかったが、台車の上には食事が乗っていた。
「俺はそんなに大食いじゃねえぞ?」
一人分にしては明らかに多い量の食事がテーブルに並べられる。
「当たり前じゃん。こっち半分はわた……ボクの分って訳さ」
なぜか患者(俺)と同じ場所で食べるらしい。
監視でもされてんのか?
たしかにこんな妙ちきりんな体になった第二位(よく考えたらその地位は剥奪されてるかもしれない)なんて格好の実験材料だ。
良く考えればそのままにしておくはずもない。
「いただきまーす」
「………」
「無言って……ま、いいけど」
目の前の金髪碧眼の白衣の看護師は俺の調子などどうでもよさそうに食事を始めた。
ベッドに座ったままの俺を一瞥する事もなく食事を楽しんでいる。
それでいいのか看護師。
というかコイツ。
どこでも見た記憶がないのにどっかで見た事がある気がする。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:46:01.41 ID:V7bt0aHd0<>
「…………なあ」
「何ー?」
気のない反応が返ってくる。
「どっかで会った事あるか?」
曖昧な質問。
「ない」
即答。
「あるだろ?」
ノータイムで畳み掛ける。
「…………ない」
少しだけ言葉に詰まる。
「名前は?」
「看護師C」
「AとBは?」
「病欠と忌引き」
「いつになったら会えるんだ?」
「アンタのリハビリが終わったくらいには」
中身のないふざけた質問が返ってくる。
会話の間も食べる手は止まっていない。
ただ、なぜだろうか。俺はこの中身のない問答から根拠のない心当たりを得てしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:47:36.93 ID:V7bt0aHd0<>
「…………フレンダか?」
初めてその手が止まった。
その答えに至る何かがあったわけではない。
それどころかその名前を口にするまでアイツの事なんて記憶になかった。
そもそもが時間にして数時間程度しか過ごしていない相手。
過ごしていたという言葉にすら語弊がある。
「何で気づくかな」
ただその根拠のない心当たりは正解だった。
「何でこんなところにいるんだよ」
「結局、ボクは……私はアンタと同じってだけよ」
口調を戻して呟くと再びその手を動かし始める。
「同じ?」
「結局、アンタが一度死んで女として生き返ったみたいに、私は一度死んで男として生き返ったって訳よ」
「………なるほど」
「アンタは今日、私は一月ほど前に目覚めって訳ね。結局、それだけの話」
言われて思い出す。
あの日、コイツを解放した後。
フレンダ=セイヴェルンは自らの所属する組織、『アイテム』のリーダーである麦野沈利に制裁を受けて死亡した。
その姿を直接見たわけではないが最後に確認した情報ではそう記録されていた。
そのフレンダ=セイヴェルンがここにいる。
どういう事か。
垣根帝督同様、生命活動の維持が難しいほどの肉体の損傷を負い、垣根帝督同様、奇跡的な確率で生き返ったんだろう。
推理というには余りにも陳腐で簡単に推測できる事実。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:50:25.96 ID:V7bt0aHd0<>
「それでどうして俺の担当看護師なんだ?」
誰が彼女に手を下したかは置いておいて、制裁を受ける原因を作ったのは『スクール』であり、垣根帝督だ。
そんな人間の看護師――つまり世話役だなんて明らかにおかしい。
「指差して笑いたかったから」
「ムカついた。死にてえらしいな」
「能力は使わない方がいいよ? まだ体と脳が馴染んでなくてうまく演算できないだろうし」
「……チッ……」
欠片も信用できないくだらない理由。
そういえばあの日も終始こんな感じで無駄に明るく軽薄な人をおちょくったような態度だった。
「結局、その理由は半分でしかないけどね」
明るいというよりは軽いその態度から少しだけ言葉に重みが宿る。
「残り半分は同じだから」
「同じ? こんな面白れえ体になったモン同士馴れ合おうってか?」
「そうだけど?」
「……狂ってんのか? 俺がテメェに何したか忘れたのか?」
直接手を下したわけではないとはいえ、その死の原因を作った人間。
そんな人間と馴れ合う。
信じられるわけがない。
「覚えてる。と言っても結局、アンタは私にたいした事はしなかったじゃん」
「紳士だったつもりもねえけど?」
「拷問らしい拷問はしなかったじゃない。あの女をけしかけただけだし」
「………細々した拷問は面倒だったんだよ。だらだらやるのは嫌いだし、あの時は心理定規もいたからそっちのが楽だった」
心理定規。
精神系能力に位置し、『他人と少女の心理的な距離を識別し、自在に調節できる』能力。
垣根が心理定規に命令し、フレンダに使った能力だ。
『アイテム』の情報を引き出させるために。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:51:53.21 ID:V7bt0aHd0<>
そう、彼女はあの日、口を割ろうとはしなかったのだ。
『距離』をいじられ、脅され、はじめてそれを口にした。
「そもそも『アイテム』と『スクール』だった以上、ああなったのは仕方なかったと思う訳だけど」
「……意味分かんねえ」
仕方ない。
殺し合いをした相手。
自らに仲間を裏切らせた相手。
その元凶を前にして仕方ない。
理解ができない。
「今の学園都市を知ったら理解してくれるかも」
「今の学園都市?」
「いつからかは知らない。結局、私が起きたらもうそうなってたから。でも私達の死んでる半年の間に学園都市はガラリと変わった訳よ。『暗部』なんて存在しないほどの平和な町に」
「聞いたよ」
「低レベル能力者に対してもいろいろと制度が整備されてスキルアウトだってほとんどが自分達から解散した」
「何が言いたいんだ?」
平和になった。それがどうした。
見かけだけのくだらない平和なら前からあった。
「幸か不幸か『昔』の自分との決別ができたとは思わない?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:52:42.42 ID:V7bt0aHd0<>
思いもしなかった言葉。
それは。
「…………『垣根帝督』を捨てろってか?」
闇に生きてきた自分を。
全てに足掻いてきた自分を。
自分の生きてきた17年間を。
「結局、そう思いたいならそう思えばいいけどね」
そういう意味じゃないんだけど、と不服そうな顔をした。
「……どうせ元には戻れねえんだろ」
「そうよ。折角生き長らえたんだもん。『今』を楽しく生きないと」
手に持ったハシを指揮棒<タクト>のように振りかざす。
その声はとても楽しそうに弾んでいる。
死にかけて。
性別が変わってしまい。
自分が変わってしまい。
それでもなお『生』を選択する。
それでもなお『生』を謳歌する。
「…………たくましいなお前」
「結局、実感ない訳よ。自分の体だっていう」
「あー…………同感だ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:54:31.84 ID:V7bt0aHd0<>
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
リハビリは思っていたよりも早く終わらせる事が出来た。
時間にして一週間とちょっと。
一月近くかかったらしいフレンダが悔しそうにしていた。痛快だった。
リハビリで回復したのは筋力だけでなく『脳』も同様で、俺は未元物質<ダークマター>としての機能も取り戻していた。
「もう体は大丈夫そうだね」
リハビリが済んでこの病室を出るに当たり、いくつかの準備をした。
まず髪を整えた。
脇腹まで伸び切っていたのを肩甲骨に当たるくらいの長さに。
黒い髪を脱色し、見慣れた金にも近い茶色に染め直した。
「で、結局その格好はどうなのよ」
次に服を用意した。
いくら身長があるとはいえこの細い体に男物のジャケットやスーツが似合わないのは分かりきっている。
暖かくなってきた気温に合わせた白いブラウスと紺ベスト、アクセントに赤いカジュアルタイ。
ベストに合わせた細身の黒パンツ。
靴は折角なのでローファーを履いてみた。
「似合うだろ?」
鏡を見る。
十人中十一人が振り返るような美少女が一人。
っつっても俺なんだけど。
なお、振り返る十一人目はいまだ自分の姿に慣れない俺自身だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage saga<>2012/08/04(土) 00:56:12.48 ID:V7bt0aHd0<>
「意味分かんない」
ベッドに座ったフレンダは不機嫌そうだ。
既に白衣は着ていない。
ちなみに英字柄のパーカーに紺のジーンズとスニーカーというシンプルな格好だ(どこにでもあるアイテムなのにやけに似合うのがムカつく)。
「ムカついた。似合ってるだろうが」
「そうじゃなくて……結局、アンタはどっちになりたい訳よ」
言われて気付く。
俺はどっちになりたいんだろうか。
少しだけ考える。
ほんの数秒。
「どっちでもいいな」
どこにいようと。
どんな事をしていようと。
どんな姿だろうと。
「俺は俺だ」
「カッコつけたところ悪いけど結局、アンタが物理的にかつ生物的に『男として生きてきた女』ってアレな事実は変わらない訳よ」
「うるせえ馬鹿フレ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga<>2012/08/04(土) 00:56:38.31 ID:V7bt0aHd0<> 以上。
続きは今月中には。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/04(土) 01:13:16.10 ID:sV8YgQkIO<> 地の文有りなのに、台詞の後の擬音付けるとか…
下手くそやね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/04(土) 01:14:50.68 ID:6N/cBSFro<> 乙
垣根が女化とかワロタ
期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/04(土) 01:36:13.78 ID:hOcU1zCm0<> 乙
TSした理由とかは次回か、それともスルー? しかしニッチなスレだww
>>25
>>3の部分は地の文でがっつり表現するような場面じゃないと思うが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/04(土) 15:51:22.37 ID:NWwzlTdno<> 期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/08/04(土) 17:37:13.49 ID:ZgqTcy0n0<> ほう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/22(水) 12:57:01.42 ID:k3mqJ0ve0<>
第七学区
とある病院
特別隔離病棟第弐号室
歩行リハビリ中
垣根「っつーかよ。何で性別を変える必要があったんだ?」
フレ「それを説明するにはそもそもどういう過程を経てボク達の体が『直った』のか説明する必要がある訳なんだけど」
垣根「分かるなら教えてくれ」
フレ「臓器移植や人工臓器を使うと拒絶反応が出るのは知ってるよね?」
垣根「ああ。臓器移植の方は適合性の問題で、人工臓器は体が異物として対処しちまうんだっけ? 昔よりだいぶマシになったらしいがまだまだらしいな」
フレ「その通り。そもそもボク達みたいに大部分が損傷している体を補填するには向いていなかったって訳だ」
垣根「サイボーグは?」
フレ「サイボーグは部品劣化の関係で無理だった。パソコンを想像すれば分かると思うんだけど、二十四時間フル稼働にしてどれだけもつのかって話。それを全身でやるとなると……予想できるだろ?」
垣根「精密機器だからな。手とか足とかだけならまだしもなー」
フレ「同様の理由で駆動鎧も無理」
垣根「あれは中身があってのものだしな」
フレ「どの方法も他の部分が健常な体である事が前提な訳だ。結局、脳以外のほぼ全部を取りかえるなんて大掛かりな処置が目的じゃないから」
垣根「………じゃあどうやったんだ?」
フレ「脳移植」
垣根「脳移植?」
フレ「本人のDNAデータを参考にして作られたクローン体に本人<オリジナル>の脳を移植したんだってさ」
垣根「………何だそのトンデモ技術」
フレ「ちなみにクローンの最大の欠点の活動期間に関しては解決済み。予測演算では元の体<オリジナル>よりプラスマイナス五年程度だって」
垣根「……誤差レベルだな」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/22(水) 13:00:19.29 ID:k3mqJ0ve0<>
フレ「そそ。脳がクローンとして生まれたものじゃないから従来のクローンと違って寿命が短くなる事はほとんどない訳だ」
垣根「なるほど……なのか?」
フレ「クローンのデータ予測は破棄された計画のクローン体から参考にしてるらしいよ。結局、実際に稼働してみないとどうなるかは不明だけど」
垣根「へー………ってそれだけなら性別が変わった理由にならないだろ?」
フレ「この方法にもいくつかの問題点があって」
垣根「だろうな」
フレ「一つは成功確率が低い事。植物状態になったりそもそも蘇生しなかったり……動物実験では〇.〇〇一パーセントにも達しなかったんだって」
垣根「………。まあ、どうせ死んでた身だから文句は言えないけど」
フレ「もう一つは拒絶反応が大きい事」
垣根「拒絶反応?」
フレ「結局、拒絶反応って言うよりは過剰反応って言った方が正解なのかな。人間の体は怪我をすると治癒された時に強化されるのは知ってるよね?」
垣根「強化……骨折で骨が太くなったり、怪我で皮膚が余ったりするやつか?」
フレ「そう。結局、新しい体にしてもその反応が出るらしい。しかも個体差や部位によっての症状が違う上に内蔵だったりの主要器官にも出るんだ」
垣根「でも今の体は大丈夫なんだろ?」
フレ「その過剰反応を抑えるために性別を変えた訳だ」
垣根「………どういう意味だよ」
フレ「どれだけ精密なクローン体を使ってもエラーが出たからいっそ性別を変えてみたら成功した、らしい」
垣根「………らしいって……」
フレ「結局、性別変化への対応をするために脳が過剰反応する暇ないんじゃないかって話」
垣根「何だよその理由。一の問題を隠すために百の問題を用意しましたみたいな……」
フレ「結局、私達以外に人間の前例はないらしいから真相は闇の中って訳」
垣根「どうにかして男に戻れねーかなー……」
フレ「パーツ替え……言っちゃえば性転換手術は拒否反応の可能性があるからやらない方が賢明だって。あくまで本来の体じゃないから無茶はしない方が賢明って訳だ」
垣根「ん? よく考えたらもう一度同じ事すれば男に戻れるんじゃね?」
フレ「同じ事をすれば戻れるかもだけど……〇.〇〇一パーセントの可能性にかけてみる?」
垣根「………諦めろって事か」
フレ「結局、それが一番って訳だね」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/22(水) 13:02:05.81 ID:k3mqJ0ve0<> 前回補足?
性転換させたのは物語上の都合(こうしたら面白いんじゃね?)だけなので理由は特にありません。
今回書いたのも 性別を変えてみた→理屈をつけるにはどうすればいいだろう ってだけです。
ちゃんとした更新は週末にでも。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:38:27.46 ID:OK3LqiTW0<>
新品のソファは好きじゃない。
使い込まれていないから座っていても違和感が拭えない。
こう、なんというか―――フィット感に欠ける。
それは安物だろうがブランド物だろうが高級品だろうがそれは須らく同じだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:40:58.92 ID:OK3LqiTW0<>
かといって中古品<ユーズド>や骨董品<アンティーク>は好みじゃないし、そもそもそれらと自分が使用した結果馴染むものとは違うわけで。
まあ、それを考えるとやっぱり我慢せざるを得ない。
フレ「アンタも働け」
服や小物が段ボールと新品の家財に囲まれたリビングで金髪碧眼の少年が荷解きをしている。
ソファでだらけきっている俺に向けられた青の双眸には明確な殺意と怒りが含まれている。
垣根「体力仕事は『男』が担当するべきだろ?」
フレ「ボクより体大きいくせに」
垣根「やっぱ『女』にしては身長高いよなー服のサイズすっげえ困る。これ以上の成長は勘弁だぞマジで」
フレ「結局、それはどうでもいいから手伝え」
垣根「ってかリハビリで動くようにはなったけど、そこまで筋肉ついてねえんだよ。つまり疲れたから休憩中」
速筋はある程度の回復をしたが遅筋が回復していない状態、つまり持久力がないのだ。
様々な科学が発展した学園都市において持久力が必要な場面は少ないんだけども。
フレ「というか垣根」
垣根「何?」
フレ「言葉使い」
言われてふと気付く。
体が女になり、服も女物に変えた(といってもユニセックスなデザインのものが多いが)。
だが言葉使いはそのままだった。
リハビリにかかりっきりで気にしてなかったんだよな、実際。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:43:50.39 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「………別に男言葉でもよくないか?」
フレ「不自然」
まあ、たしかにこの顔で男言葉は不自然かもしれない。
自分で言うのも何だがこの顔を街で見かけたら十人中十一人は振り向くだろう美人だ。
なお、十一人目は俺自身。寝起きの鏡はいまだに慣れない。
でもなあ。
垣根「気にしなくてよくね?」
フレ「気にしろよ」
自慢じゃないが女性にしては大きい上背、元男だった事もありその動作は女らしくない。
というか男らしいハズだ。
身体が女になったからと言って頭の中<思考>はそのまま男なのだから当然と言えば当然なんだけども。
垣根「んー……しなくていいだろ、俺もお前も。男言葉の女はいるし、それに」
手を止めて呆れ顔のフレンダを観察する。
俺が日本人なせいもあるのかもしれないがフレンダの姿は酷く中性的に見える。
華奢だがどこかしっかりした体。
細くしなやかな金糸の髪。
別段手入れしていないはずなのに手入れの行き届いた綺麗な白磁色の肌。
男のパーツであると同時に女の子のパーツにも見える中性的な体つき。
声にいたっては高い部類で、むしろ女の子の方が近いだろう。
…………………。
アレ? というか全体的に女に近くないかコイツ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:45:48.58 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「幸い? お前は顔も声も中性的で女言葉でも違和感ないじゃん」
フレ「だからってボクが『男』なのは変わらない訳。それに『条件』にもあっただろ。ちゃんと今の性別で生きてくって」
垣根「あー…………あれなー」
リハビリを終え、日常生活が可能になった俺に学園都市、というか統括理事会が出した条件は三つ。
二週に一回の定期検診を受ける事(心身の状態により回数は増減)。
女になった男としてではなく、しっかりと女として生きる事(なおフレンダは当然男として)。
フレンダと暮らす事(期間は未定)。
以上の三つを守る限り、今回の手術費、第二位としての権利と奨学金、今後の生活の保障をする。
との事。
つまり俺は―――
垣根「っつーか何で俺がお前と暮らさなきゃいけないんだよ」
―――この男(元女)と暮らさなければならなかった。
フレ「結局、お目付け役じゃない?」
ふふん、と鼻を鳴らすように笑う青い目は悪ガキでも見ているかのようだ。
垣根「俺という紳士を捕まえてお目付け役も何もないだろ?」
フレ「紳士かどうかはおいといて少なくとも今は淑女だけど」
垣根「あーそうだったそうだった」
言われて気付く。
いや、気付くと言うと正確ではない。再確認させられる。
俺は女なんだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:48:17.79 ID:OK3LqiTW0<>
フレ「というか垣根。油断してるけど……結局、アンタはまだ半月くらいしか『女』じゃないのよ?」
難しい顔をして「自覚ある?」とわざとらしく細い指を向けられる。
たしかに意識はまだまだ甘い。
『女』だという事を(泣く泣く)自覚したわけだがどうしてもまだ『男』でいた感覚が抜けない。
重いものを持とうとして持てなかったりするのは基本。スカートなんかはいまだに無理だ。
というか服だって明らかな女性物はまだ着れないし、持ってない。
このままだと外でトイレを間違えるのは確定だろう。
……そう考えると何一つ慣れていないな。
垣根「それがどうかしたのか?」
フレ「結局、女の子にはいろいろあるって訳よ?」
わざとらしい女言葉と、フフンと軽く鼻で笑う仕草が鬱陶しい。
サマになっているのが特になお。
垣根「いろいろ……ねえ」
『女』と言われて思い出すイメージは余りない。
垣根「トイレが長い。出かける準備が長い。いじめが陰湿。終わった後にやたらくっついてくる。面倒」
フレ「………偏見も甚だしい。ってか最後のは何さ」
垣根「偏見……だったのかねえ」
フレンダの言葉を無視して立ち上がり、小物の梱包を剥がしていく。
どの道、自分のものは自分でやるつもりだった。そもそも本当に休憩していただけだったんだから。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:52:12.13 ID:OK3LqiTW0<>
手を動かしながら考える。
結局俺、垣根帝督は『女』って生き物がどういう存在か正しく認識していない。
あるのは『男』としての外的な経験のみ。
基本となる知識は生物の性差であり、『夏が暑い』とか『氷が冷たい』とかそういう知識と同レベルだ。
『男』として女と時間を共有した事はあっても暮らした経験はなかったし、そもそも『女』が日々どうやって過ごしているかなんて気にしていない。
故にこれから経験していくしかないし、その偏見が間違っているかどうかを証明していくのは俺自身なのだ。
フレ「というか一つ聞いていい?」
垣根「何だー?」
フレ「結局、部屋広くない?」
現在地はリビングダイニング。
手を止めて部屋をぐるりと見回す。
垣根「そうか?」
フレ「いやいやいや、広いというかむしろ広過ぎってレベルだと思う訳よ」
垣根「4LDK 総面積は100uくらいだったか? 二人なら普通じゃね?」
フレ「家族で住めるレベルよ? 『アイテム』の待機部屋<セーフハウス>はこれくらいだったし……ってか家賃、絶対高いよね」
垣根「そうでもなかった。たしか俺の月額奨学金の五分の一くらいだ」
フレ「…………どれだけもらってんのよ。結局、麦野達と一緒にいた時も思ったけど超能力者大能力者<高レベル>の金銭感覚は絶対狂ってる!!」
垣根「そうか?」
フレ「そう。絶対そう。断固そう」
金は天下の回りモノ、なんていう気はないがあるなら使うべきだ、があったとしても節約するべきところはするべきだと思う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:53:31.47 ID:OK3LqiTW0<>
部屋を見回して考える。
リビングダイニング兼用の14畳。
キッチンは5畳。
個室は全て洋室で6畳が2部屋、6.5畳が1部屋、7畳が1部屋の合計4部屋。
バスルームはたしか洗面室とトイレを入れて8畳だったか?
はたして広いのだろうか。
垣根「ま、広い分には困らないだろ」
フレ「キッチンだってすごい立派だけど……誰が使うのよ」
目線の先には収納も多いシステムキッチン。
口火こそ二つだが備え付けのオーブンは大きくてかなり使い勝手がよさそうだ。
垣根「え? 料理しないのか?」
フレ「結局、女だったら料理できると思ったら大間違いな訳よ」
ふんぞり返るフレンダはとても偉そうだ。
少なくとも威張る事ではない。
垣根「マジかー……料理関係は面倒だから全部任せようかと思ってたのに」
フレ「ボクだって面倒な訳よ。ってか調理器具も多い……もったいないなぁ」
カウンター(キッチンとリビングダイニングルームの間にある)の上には大量の調理器具。
手鍋やフライパン、圧力鍋に包丁も何本か。
前の家から持ってきたものもあるが引っ越しを機に買ったものもあり一通り揃っている。
垣根「へ? 何で?」
フレ「結局、誰も使わなきゃもったいないじゃない」
垣根「俺が使うけど?」
フレ「…………は?」
フレンダは積まれた道具と俺を交互に見て目を白黒させていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:55:05.13 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「いや、俺料理するし」
フレ「さっき面倒だから任せようかと思ってたって言ったじゃん。料理できるの?」
垣根「『できるけど』面倒だから自炊はあんまりしない」
思い返せば俺は『しない』のか? と聞いたのに対してフレンダは『できる』かどうかを話していた。
認識のズレがあったのか、納得。
フレ「参考までに聞きたいんだけど今までどうしてた訳?」
垣根「自炊は嫌いだけどファストフードは日常的に食べたくねえし、ファミレスは騒がしいから好きじゃねえ。だいたい家で作ってたよ。『スクール』の待機部屋にいる時はデリバリー」
別に舌が肥えてるわけじゃない。
美味い不味いが分からない馬鹿舌ではないが基本的になんでも食べる悪食だ。
ただし、日々の食事となると別だ。
ファストフードは嫌いじゃないし、たまに無性に食べたくはなるが、あの脂っこい雑多な味を毎食食べたいとは思わない。
ファミレスの冷凍レトルトフリーズドライのオンパレードは食事だろうとああいうものだと理解していれば満足できる。
しかし、騒がしい中で食事をしたいと思わないし、一人で食事をするのには適さない(一人が寂しいというよりは一人で食べているとだいたい声をかけられた。男女問わず)。
結果、自炊を選んだ。
不本意ながら。
フレ「………何この敗北感」
垣根「結局、男が料理できないと思ったら大間違いな訳よ」
フレ「何この敗北感!!!!」
垣根「知ったこっちゃねえ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:57:48.56 ID:OK3LqiTW0<>
フレンダの地団駄を無視して荷解きを再開する。
別に急ぐわけではないが時間はあるに越した事はない。
フレ「得意料理とかあるの?」
垣根「んー何でも作ったけど……強いて言うならパスタ系か?」
フレ「なるほどなるほど」
背中からはまるで何かに納得したような満足気な声が聞こえる。
何となく気になって振り向くと、声のままに何かを理解したようなしたり顔の金髪碧眼の少女……もとい少年が一人。
何これうぜえ。
フレ「結局、ソースは缶とかレトルトだった訳ね。そんなのは料理じゃない訳よ!! インスタントラーメンと何ら変わらないじゃない」
……、
…………、
……………………………、
少しだけ時間をかけて言葉の意味を理解する。
垣根「ムカついた。お前が俺が料理できるって事実を否定したいのはよく分かった。後から実践してやるから首洗ってまっとけ」
フレ「お腹すかせて待ってるわ」
乗せられている気もするが、ここで「はいはい、そうですか。そうなんだろうな、お前ん中ではな」と流せるほど俺は大人じゃねえ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 16:59:17.08 ID:OK3LqiTW0<>
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
フレ「何これ」
目の前に並べられたのは出来立てで湯気を出す料理。
フルコースとは言わないがパスタにメイン一品、サラダとスープがあれば夕食としては充分だ。
垣根「ペンネアラビアータ、ローストビーフ、海藻サラダ、コンソメスープ」
フレ「結局、どこで買ってきたの? それともデリバリー?」
垣根「だから俺が作ったんだって」
フレ「ええええええええ!!!!!!」
垣根「うるせえ」
フレ「だってだってだって」
垣根「だから料理できるっつったろ?」
フレ「だってだってだってだってだって」
指をさしたまま子供みたいに「だって」を繰り返す。
事実を目の前にしてまだ納得がいかないらしい。
垣根「………そこまで言うなら本意じゃねえけど解説してやろう。冷めるから喰いながらいくぞ?」
「いただきます」と言うと戸惑いながらも「いただきます」という声が返ってくる。
何がそんなに信じられないんだか。
別に猿が満漢全席を作ったわけでもなかろうに。
大きなため息をつくと料理の説明を始める事にした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:02:10.00 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「まずパスタ。お前はパスタって聞いて日本で一般的なスパゲッティを想像したんだろうが俺が言ってるのは本来の意味でのパスタ。つまりイタリアでの粉物全般の事だ」
垣根「そもそもパスタってのはロングパスタとショートパスタに大別できる。まあ、その他もあるけど割愛するぞ。んで、お前の想像したであろうスパゲッティはロングパスタだ」
垣根「ちなみに日本で一般的なスパゲッティの太さだとスパゲッティーニと言って本場でのスパゲッティを指すパスタはもう少し太いんだがそこら辺はどうでもいい」
垣根「ショートパスタで分かりやすいのはマッケローネ……マカロニ辺りか? フジッリとかも見れば知ってる気がするけど……あとは今日使ったペンネだな」
垣根「俺がよく使うのはショートパスタ。で、さっきも言ったけど今回使ったのがこのペンネ。ちなみにこれは表面に溝が入ってるから正式にはペンネ・リガーテって種類だ」
垣根「ショートパスタを使う理由は茹で時間が短くて済むから。ま、あくまで比較的にだし、10分とか大きく変わるわけじゃないけどな。あと小さいから保存しやすいってのもよく使う理由か」
垣根「んで、ソースはペンネと相性のいいトマトソースベースで今回はアラビアータ、唐辛子の入ったヤツだ。アラビアータは俺の好み」
垣根「トマトソースを選んだのはペンネとの相性もだがいろいろと使い回しが効くからな。今回みたいなアラビアータの他に魚介、肉といろいろ合うしそのままパンに塗ってもいい。トマトは米とだって悪くない」
垣根「なお今回の野菜はナスとピーマン。サイズを合わせて切ってあるから食べやすいはずだ。もっともナスは水が出やくて味が薄まったりバラつくから調理には注意な」
垣根「野菜がいいものならトマトの甘さと唐辛子の辛さが合わさって味のバランスはかなりよくなる。今回は唐辛子は少な目にしてあるから辛いのが苦手でも食べれるだろう」
垣根「次にローストビーフ。これはそこまでこらなきゃ結構簡単なんだよ。ちゃんとしたオーブンがあれば下準備していれとくだけだから。それに霜降りの高い肉より普通の赤身の多い肉の方が美味いから安く済む」
垣根「肉の味が分かりやすいし、食べごたえもある。個人的には和風の青シソのソースとかおろしベースとかがさっぱりして合うがそこは好みだな。まあ、肉としては鳥のが好きだが味が……鳥は淡白だからもうひと手間欲しくなるんだよな」
垣根「海藻サラダも個人的な趣味だな。まあ、海藻系は使いやすいし、食感のアクセントになるからあると常備してると便利だ。乾燥ものなら保管も楽だ」
垣根「最後にスープ。まあ、旬の春キャベツ、春玉ねぎを使いたかっただけだけ。今回は他に人参くらいしか入れてないがコンソメベースなら大体の野菜が合う」
垣根「ソーセージやベーコンを入れてもいいけど春キャベツ春玉ねぎでやるならない方が個人的に好きだ。野菜の甘さが際立つからな」
食べながら簡単に料理の説明をする。
別に知って欲しいわけじゃなくただの一般常識レベルの知識だ。
垣根「以上、何か質問あるか?」
フレ「ない、です」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:05:20.65 ID:OK3LqiTW0<>
まだ信じられないのかそれとも俺の言葉に圧倒されたのかフレンダは呆気にとられていた。
っつーかそもそも目の前で実際に調理をしていたのを見てたんだから揺るぎようもない証拠があるじゃねーかと説明の途中で気付いた。
垣根「ならよろしい。っつーかぐだぐだ講釈たれんの好きじゃねえんだよ。言わせんな」
フレ「そうなんだ……何か意外。いろいろ語りたそうなイメージ」
垣根「メシ食う前なら冷めるし、美味い料理は楽しい食事のためのもんだろ。自慢みてえな説明聞いて楽しいか? 料理の勉強会じゃねえんだぜ?」
別に説明が嫌いなわけじゃない。
食材へや料理人への感謝なんて口うるさく言うつもりはないが軽んじるつもりもない。
ただ少なくとも冷めるのは嫌いだし、食事の会話として一方的に何か話すのは好きじゃないだけだ。
フレ「………たしかに」
垣根「ま、この程度で料理できるってレベルかは知んねえけどな」
フレ「いやいやいやいや、充分だと思う訳よ」
垣根「いや、まだまだだな。ペンネは茹で過ぎて柔らかいし、ローストビーフは少し硬い。スープはもう一味欲しい……腕がなまってるな」
フレ「………全然分からないんだけど。充分美味しいし」
垣根「器具が慣れてない……それは言い訳か。久々だからってのが大きいな。ってかうん。やっぱり料理は面倒だなー」
フレ「結局、凝りすぎてるだけじゃない?」
垣根「そうか? これくらいは普通だろ。むしろ手抜きレベル」
時間をかけなかったのもあるがトマトソースは缶から使ってるからやはり味が落ちる(まあトマトソースは家庭で作ると保存が難しいから滅多に作らないが)。
凝るならパスタも自分で作って生パスタにしている(作りたてのトマトソースと生パスタの相性は神。個人的にはタリアテッレにミートソースが至高)。
ローストビーフは下味をつけて馴染ませた方が美味しいし、肉も厳選していない(そもそも個人的にはローストビーフ自体手抜き料理の部類)。
スープやサラダは素材の味を生かしているって言えば聞こえはいいがやっぱり手抜きだ(基本的に切って煮ただけだし)。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:08:16.08 ID:OK3LqiTW0<>
何か月も料理をしていなかったからいろいろと鈍っているらしい。
そもそも『この身体』になったんだから今後はその辺りも考慮する必要があるのかもしれない。
重かった。手鍋とか。
料理の反省をしつつ明日以降のメニューを少し考える。
とりあえず残ったトマトソースを処理しなくてはいけない。
ああ、これだから料理は面倒だ。
ふと向かいに座るフレンダを見るとブツブツと何か言いながらしかめっ面をしていた。
まだ何か腑に落ちないのだろうか。
垣根「で」
フレ「へ?」
垣根「感想は?」
フレ「………美味しかった。予想以上に」
垣根「ならいい。おそまつさま」
食材や料理人への感謝なんて口うるさく言うつもりはないが軽んじるつもりもない。
とりあえず感想くらいは気にしてもバチは当たるまい。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:11:02.75 ID:OK3LqiTW0<>
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
フレ「ごちそうさまでした」
垣根「お粗末様」
フレ「あ、洗物ならボクが……って今食べたお皿くらいしかないのは何で?」
垣根「は? 鍋とかか? んなもん調理と並行して片付けるのが基本だろうが」
フレ「………結局、女子力(料理)で惨敗って訳ね」
垣根「? いいんじゃね? 今は男なんだし」
フレ「そうだけどさぁ」
つつがなく食事も終わり、打ちひしがれるフレンダを放置して紅茶を入れる。
ついでにフレンダの分を用意する。
普通にインスタントを使っただけなのに「あれ? これってインスタントだよね? 何でこんなに美味しいの??」と言われたが特筆すべき事じゃないだろう。
食後の一休みというよりは明日からどうするかの作戦会議。
垣根「で、明日からどうするんだ?」
フレ「何でわた……ボクに聞くのさ」
垣根「俺は特に用事ねえし」
フレ「ボクは……結局、どうしようかな」
呟いたフレンダはカップを両手で持ち、ただ中空を見つめている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:12:43.81 ID:OK3LqiTW0<>
その視線の先にあるもの。
迷いながら求めるものが何か分かっている。
垣根「好きにしろよ。お前は俺と違って『仲間』がいるんだから」
『アイテム』
フレンダ=セイヴェルンが所属していた組織だ。
学園都市の裏側に存在する組織。それはコイツの居場所だったんだろう。
フレ「『仲間』……ね。でもさー結局、『男』として生きなきゃいけない訳で。それがなくたってどんな顔で会えばいいんだって話だし」
今や男となったフレンダに『アイテム』が居場所となるかと聞かれれば難しい。
そもそも一度裏切った場所なのだから。
故にその迷いも分かる。
一度死んだ人間が今更出て行って何をすると言うのだ。
まあ、その原因を作ったのは俺なんだけど。
フレ「やっぱ、会えない訳よ」
その呟きはどう解釈しても本心に背いている諦めの言葉。
辛気臭い。
面倒臭い。
女々しい。
やっぱりこいつは面倒な『女』のままだ。
でもまあ、今日のところは原因の一端である俺が導いてやればいい。
大サービスだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:14:46.76 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「別に『フレンダ=セイヴェルン』を捨てろとは言われてねえだろ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:16:44.36 ID:OK3LqiTW0<>
名乗るなとは言われていない。
たしかに『フレンダ=セイヴェルン』は女だった訳だけれど。
たしかに死んで『男』にはなってしまったけれど。
生き返って『男』になったコイツが『フレンダ=セイヴェルン』であることには間違いないのだ。
フレ「……屁理屈じゃん」
垣根「『垣根帝督』で欲しいものなんてもうねえよ。取り戻したいものも特にない。むしろ面倒な柵から解放されたくらいだ」
後悔がないといえば嘘になる。
欲しいものは山ほどあった。
抱いた野望なんてものも存在した。
ただ現状、あれほど恋い焦がれた欲望がガラクタのようにしか感じられないのも事実なのだ。
『一番』でない事が苦痛だった。
『二番』である事が耐えられなかった。
自らを認めさせたかった。
垣根帝督が唯一無二の存在だと知らしめたかった。
他にもあったがかつての『垣根帝督』が欲していたものが―――今の『垣根帝督』には何の興味ももてなかった。
価値観が変わった。
それ以上にズレたんだろう。
世間が、自身が。
そういう意味では『垣根帝督』は既に死んでいる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:18:31.53 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「でもお前は違うんだろ?」
金髪碧眼の整った顔に書いてある。
会いたい、と。
フレ「………うん」
垣根「じゃあそうしろよ」
フレ「手伝ってくれるの?」
垣根「ヘンテコな体になっちまったよしみだ。リハビリの時の借りもあるし……」
フレ「あるし?」
わざとらしく続きを溜める。
互いにその言葉が分かっていようとここはそうする事が様式美だ。
垣根「手伝ってやるよ」
フレ「ありがと」
垣根「礼は終わってからでいい。っつーか礼はいらねえ」
フレ「そっか……じゃあ、よろしく」
その顔には先ほどまでの暗い雰囲気など一切なかった。
何つーか俺もお人よしになったもんだな。
垣根「おう。んで、どうすんだ? アイツらに会いに行くんだよな?」
フレ「それもだけど……妹にも会わないと」
垣根「……妹いたのか」
フレ「うん。フレメアって名前なんだけどね」
控えめに紡がれる言葉は先ほどとはまた違った戸惑いを孕んでいる。
仲間ではなく妹。
垣根「あれだよな。死んだと思ってた姉が生きてると分かったけど、兄に変わるという世界初だろうレアな体験をするハメになるよな」
フレ「言わないで……それはボクも心配してるんだから」
あからさまに頭を抱えるフレンダの気持ちは分からなくはない。
俺もこの状況を話さなくてはいけない家族がいたなら同じように頭を抱えるだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga sage<>2012/08/26(日) 17:20:24.10 ID:OK3LqiTW0<>
垣根「まあ、でも純粋に嬉しいと思うけどな。家族が生きてたら」
フレ「そうだといいけどなぁ。でも……結局、変わった人間として認識してもらわなきゃいけない訳よ」
垣根「変わった人間って言うと変人みたいで嫌だな」
フレ「性別が変わって戻らない人間」
垣根「分かってるっつの。どこにいるかとかは分かってんのか?」
どう切り出すかを先送りにする訳ではないがそれが問題だ。
仮に学園都市の外にいるのならばすぐにはどうしようもないわけで。
フレ「………浜面と滝壺と一緒に住んでる」
垣根「は?」
思わず間抜けな声が出る。
フレ「詳しい理由は知らないけど……そういう事。麦野と絹旗にもよく会ってるみたい」
控えめに話すフレンダは複雑な表情をしている。
『スクール』が仕向けたとはいえフレンダ=セイヴェルンの直接的な仇は麦野沈利なわけで。
『アイテム』なんて組織に所属していた事自体もその一端を担っているわけで。
だが何がどうしてどうなったらその妹と解散した『アイテム』が一緒いるなんて事になるのだろうか。
フレンダ自身そう思っているから印象派の絵画みたいに複雑怪奇な表情をしているんだろう。
たしかに謎の因果関係は気になるところだ。
でも、外野の俺からすれば。
垣根「手間が省けていいじゃねえか」
よほど衝撃的だったらしい。
口がポカンと小さく開いている。
フレ「………いいわね。単純で」
呆れた、と一声。
垣根「だって二回より一回のがよくねえか?」
フレ「垣根ってすごいよね」
垣根「はあ? 何を今更」
フレ「結局、ほめてない訳よ」
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>saga<>2012/08/26(日) 17:21:39.01 ID:OK3LqiTW0<> ギャグメイン……?
どうしてこうなった。
次回は9月中旬……9月中には。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮崎県)<>sage<>2012/08/26(日) 19:39:08.14 ID:p2swypV40<> 乙!
ちょー面白い! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2012/08/27(月) 20:05:50.08 ID:jDXqmgoHo<> 乙
楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/08/29(水) 07:27:33.09 ID:uB+02+uAO<> 面白い!!!
これからどうなるのか楽しみ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 03:42:51.83 ID:OvVr9iTAO<> 待ってるよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/10/14(日) 20:24:43.29 ID:co+D3syAO<> まだ待ってるよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 09:10:41.82 ID:eegu7QO2o<> んん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/02(日) 00:38:27.07 ID:Rfh0BMFh0<> 3か月 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2013/01/02(水) 16:21:26.89 ID:mMSj5kua0<> 生存報告を… <>