VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:45:35.98 ID:W0WHHh1Ao<>.           r-、
.          _jllllヽ
          7llll l}
        /。llll j|
          ヽjllll|r'
           |l卅|
          |l卅|
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            |l卅|
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      /`}ノl卅|
.       /  ( |l卅|  {ヽ
      |l   ヽ|l卅|ー' j}
.      V   j|.llll.|   ノ
        ヽ / l.llll.!  {
       ノ |l jl.llll.|   ヽ
     /  Ll[|卅|]、_ノ}
.     {     {l圭l} o 。 |
      \      ̄   /
      ´ ̄ ´~´  ̄ ̄`

このスレは

梓「けいおん!after story?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347356964/

の続きとなります。

CLANNADとけいおんのクロスSSなので苦手な人は注意です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1351435535
<>朋也「けいおん! after story?」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:47:31.76 ID:W0WHHh1Ao<> ______________________________


合宿。

それは、学生にとっては天国にも地獄にもなるイベント。

俺にとっての合宿といえば、後者にあたる。

何故なら中学三年生のバスケ部の合宿のさい、死んだ方がマシとも思える生き地獄を経験した。

…あの時の合宿のせいで、一年生何人やめていったけな。


話を戻す。

つまり、一言で言えば俺にとって合宿というものにいいイメージはない。

そして、おそらくもう一生合宿に行く事もない…。と

思っていたのだが…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:49:10.67 ID:W0WHHh1Ao<> ___________________________

8月20日

晴れ、ミンミンゼミの五月蠅い真夏日、音楽室で一通り練習が終わると


「そうだ、今年も合宿にいかなくちゃ」


と、梓は口にした。


岡崎「合宿?」

梓「うん。毎年やってたから今年も絶対行きたいって思ってたんだけど…」

純「さんせーい!」

憂「私も行きたいっ。…えへへ、楽しみだなぁ」

直「?」

春原「…なに、どこか出かけるの?」

憂「けいおん部は毎年琴吹家……菫ちゃんの家の人の事だね。その人達が持っている別荘まで合宿しにいくんだって」

菫「その話は私もお姉ちゃんから聞いています。今年の合宿先は私が手配しておきますね」

岡崎「……前から思ってたがお前の家の人達は何者なんだ」

菫「企業秘密です」

岡崎「…あっそ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/10/28(日) 23:50:11.58 ID:809YpeFNo<> クラナドスレかー!前スレまさかそうとは思わんで未チェックだ、今から読んでくる

自分もクラナドと咲で一本書いてみようかなぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:51:12.55 ID:W0WHHh1Ao<>
春原「なんでもいいよ。つまり、ただで泊まらせてくれるんでしょ?最高じゃん」

岡崎「身も蓋もない言い方だな」

純「私がこの部に入った理由の一つに琴吹家の別荘に一度でいいからいってみたかったってのはあるわね」

梓「そんな理由で入ってきたのっ!?」

憂「私も楽しみだな。お姉ちゃん、いつも合宿の事を楽しそうに話してたから」

梓「皆、あのね……楽器の練習をしにいくんだからね?」

春原「スイカとか買ってこうよ。夏に海といえばスイカ割りだろ」

岡崎「俺はお前の頭をかち割るよ」

春原「…たまに左巻きなのは岡崎の方じゃないかって思うんですがねぇっ!?」


梓「……聞いてないし」

梓「……はぁ」

梓(…この二人を連れて合宿か……。先生も行くから変な事は起きないと思うけど……)

梓(…それにしても、皆気を抜きすぎ。ここは部長としてビシッと言った方がいいかな)


直「先輩」

梓「あ、直。どうしたの?」

直「合宿…水着とか持って行った方がいいですか?」

梓「……」

梓「…うん、皆で泳ぐから、持ってきてね」

直「はい、わかりました」


梓「はぁ……(こんなに浮かれてて大丈夫かなぁ)」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:53:10.49 ID:W0WHHh1Ao<> ____________________________

そして数日後……。某別荘、浜辺。





                                 /: : :ィ: ト、ヽ: : |: : :|: : : : : :/:ヽ: : :|
.                                イ:/: // l |¨\ヽ:l: : :|: : : l: /: : :|: : :l
                             ー '´// |レl! ハ:! , ≧」: : |: : : l: : : : :|: :/
                               /イ: ::|| |_、   ´|┘∨l: : :/: : : : :|: |
.                               /|: : l{/Vヽ    ー'l/|: :/^∨: : 八|
                                ∨バ.丶′     /^ 〉 |: ::/
.                                 `|` i ´         //
                                   l   冖    厂 レ'′
          __                       \      /  {
       -、/: : : : :``ヽ、_                     ` -‐ く / ̄ `ヾ\
     /: :/l://|/|」!ハ:|:ぃV\                        /      \}、
     ヽ//|:|:|l__、  _」,!:|:|: : /                       /        V
      `vヘ:」 じ'  じ !、ー'                       /|         ’.
        ヽ',     レ          __          / l          |  l
          丶、`´/         ィ ´ー': :: ::`'::丶、    .ィ′ ',        | |
        __rノ  ト 、      /: :: :: :: :: :, ⌒ヽ:: : :\  /|   ',       | |
       /  ||`` '´ 「 `ヽ   イ,... __: : :__: :: :、  ノ:: :: :: :∨  l     '        |  |
        l   ||    |_/ |  ノrヽ、``丶\: :`¨: :: :: :: : /   ’,   l       l  |
        |  l⌒ヽ、/ハ | |八\`丶 `` \: :: :: : : :: {     ヽr==|       |ミj



岡崎「絶景だな」

春原「これは……思ったよりもいい物が見れたね」

憂「……あ、あんまりじろじろ見ないで…恥ずかしいよ」

純「こっちみんな。エロガッパ二匹」


春原「せめて人間扱いしてください」


岡崎「……見るなと言われてもな。目の前に美味そうな御馳走並べられてるのに食うなって言われてるようなもんだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:55:17.65 ID:W0WHHh1Ao<>
…俺達は早速斉藤に連れられ、海へと遊びに……じゃなくて、合宿をしに来ていた。


梓「…最低」


梓は先生と砂浜にたてたパラソルの下で座っている。

そして、タオルで自分の体を覆い隠してジッと汚物でも見るような目でこちらを見ていた。


岡崎「誤解を招く言い方はよせ」

憂「…誤解なの?」

岡崎「……」

梓「そこで黙らないでよ。本当信じられない」

岡崎「はっ。……見られたくないなら水着なんて着なきゃいいんだ。水着を見るのは法律で禁止されてる訳でもないだろ。男が女の水着を見て何が悪い」

梓「呆れた……。開き直られても困るんだけど?」

純「そうよ、岡崎。女の子には可愛い水着を着てはしゃぎたいって気持ちだってあるの。複雑なの」

岡崎「へいへい……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:56:26.57 ID:W0WHHh1Ao<>
………

……




梓「それにしても……こうやって合宿に来ても結局こうなっちゃうんだなぁ。いいのかな…こんな遊んでて」

純「岡崎と春原は泳いでどこか行っちゃったし、後輩達は砂のお城作りか…。楽しそうだねえ」

憂「お姉ちゃん合宿に行くたびに言ってたよ。海で皆で遊んで楽しかったって」

純「いい事じゃない。あ、ビーチバレーやろうよ。これだけ人数いたら結構盛り上がるって。…先生もどうですか?」

さわこ「日焼けしちゃうし遠慮しとくわね。おかまいなく」

梓(毎年思ってたけど先生は何をしに浜辺に来てるんだろ…)

憂「ね、梓ちゃんもいい加減タオルとろうよ。日焼けどめ塗ってあげるから」

梓「塗ってもすぐ真っ黒になっちゃうんだもんなぁ…それに」

純「男どもならもう見えないとこまで泳いでいったしいいんじゃない?」

梓「…そっか、うん。なら私も…」

                              , -‐'''''  ―- 、  ノ: : : : : : :ヽ-ァ
                            -‐': : : : : : : : : \: :`ヽl: : : : : : : :``>
                            |: : : : :l: :ト、: :.\: : :ヽ: :∨: : : : : : : : : ト、
                           ノ:l: : : : :l: :l >、ミ:\: :l: : ∨ヽ: \: : :{rゝ
                          「: : :l: |: ∨:l: 「  `x≧ヽl: : :ぃ‐、:l`ヽ}、ド`
        _ ,..、-x ┐_            l: : : :ぃヽ:∨: 」 ィ/Jヽ  ∨:|リ l:|
       L ィl l ん<^´` く,/ニ―-、_,-x-、∨: : : l',-‐ト-'   `ー'   V _//
.     n/r‐ ' `ァ′-`--- >'二∠ ―--ヽニヽ: : :トゝxュ          l/
.    〈ノ/ ィ  ̄        ―- 、      `ヽ、:∨ 丈) ´   ^)   ハ{      _
.    〈 ノ'                `丶  `丶、 ト.ヽ、    <_    / \  __/  \
    ,斗‐ニニフ冖  ――-   _     丶、 \l ヽ\       /    `/r/     ヽ
   /彡-‐ '´           _`__‐z- 、  丶、{  \` ー―- へ、    l.|′      '
  /´ .ィ´      _ -r_‐ュ_´::::::::::::::::::ヽ| ̄ `丶、 `}     丶、     ィ   , |/        '
_ノ‐ '´ _ -‐ /::::|V:::::::::ll  ヽ\::l::::|::::::::',     `Vト、      `丶、 イ/ / /       _  |
 ‐< ̄ | l /l::::::|ハ:::::::|  '  , ≧l:|::::|::トl     〈  \      ``丶、/      /   |
′  ∨ .| r'::::::l:::::! ヽ',::|   イ/´  l|',::l:::l |      l    \        `ヽ      ∠、__l
    |   | .{:::::::::∨:{ ニ_ヽゝ       l:|:::||     |\   \           /   _ 二コ
  `丶、 K∧:::::::::',:レイラハ  '      l:|:::', l      ',::∧  / 丶.        /   /    l
     く  ∧::::::::::'rゝ`´     __   ∨:::'|      ',:::::∨    /> 、   /    /       !
      \- ゝ:::::::::',       ′   ∧ヽゝ  l   l::::∧ 、   l    ` ´ _ 彡 '       ',
ヽ       \ ぃ::::::::',ト、         .イ ',ノ_  ヽ   l',::::∧ ` 人     /´           ',
 丶       `丶ミ::::::\` -― r  ´    l / i ‐-、   ',::::∧/  \   ィ′           丶
.   \       \丶ミ三‐-z ハ     / | | l | l ト、 丶:::∧     `¨〈               \
     \         ` `'''''''' | ―-    |トl、l | .l | lト. ',、:::丶.     丶
      丶、             |―- 、    |ト| `| |、| | |l ヽ',\:::::\     \
        |`丶、     `ヽ  | | || ||>、 」ト|>'''´ ̄ ̄``ゝ \:::::\     \

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/28(日) 23:56:29.64 ID:w7TxMe6f0<> 乙。
前スレが1000レス行く前に新スレ立てたか。
前スレの頃から楽しみにしているよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:57:12.59 ID:W0WHHh1Ao<> _________________________________


岡崎「で、話ってなんだよ」


春原と泳いで海の丁度足がつく場所までくると、春原は急に


春原「トークをしよう」


と抜かした。



春原「大したことじゃないんだけどね。岡崎的には誰の水着が一番ぐっとキタのかなってね」

春原「まぁ、部長のが見れなかったのは残念だけどさ」

岡崎「日焼け体質なんだってよ、あいつ」


しかし、それならそれで、日焼け止めクリームでもなんでも塗ればいいってのに。

なんで恥ずかしがってタオルなんか羽織っていたんだ。

…べつに見たいってわけじゃない。けど、ああやって中途半端に隠されると逆に気になるっつうか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/28(日) 23:58:51.04 ID:W0WHHh1Ao<>
岡崎「…で、お前は誰が一番グッときたんだ」

春原「やっぱ菫ちゃんでしょ。スタイルいいし、あれ、モデルとか出来そうだよね」

岡崎「…お前、よく堂々と言えるな」

春原「え、何で?岡崎は堂々と言えない理由でもあんの?」

岡崎「……別にないけど」

春原「それじゃ、だれさ」

岡崎「誰が一番かってのは決められん。とりあえず、個別にレビューしていく形にしよう」

春原「あ、それ面白そうだね」



………

……



そんな女性からすれば許されない、けれど男としてはありきたりなくだらない話をし、時間は過ぎて行った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:01:16.54 ID:2S46IG76o<> _______________________________



そして、海を堪能し、誰が用意したのかもわからぬ豪華な昼食を済ませると、俺達は別荘にあるスタジオへと案内された。


春原「はは、ご丁寧にドラムをふたっつ用意してくれるとはね…」

梓「けど、これで全員練習できるかも。皆、さっきまで遊んだぶんはちゃんと練習するからねっ」

岡崎「……おー」


………

……




岡崎「………」


いつも俺と春原が練習で使うのは駅前の小さなスタジオだ。

そこにある機材はお世辞にもいいものだとはいえない。

だが、今日、この別荘のスタジオにおいてある機材はアンプもシールドも最高級のものが用意され、しかも、マルチエフェクターまで備わってあり、俺のやる気の炎は熱く燃え上がった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:04:42.65 ID:2S46IG76o<>
岡崎「………」


そうしてギターを一心不乱に弾いていると、周りの連中が俺に視線を向け始めた。

…少し気になったが、そのままギターを響かせ続ける。

…ちょっとは上達したところをみせつけてやりたいって気持ちがあったから。


梓「嘘……すごく上手くなってる」

純「たった数カ月でよくもまぁ…」

岡崎「……」


丁度一曲弾き終わり、演奏を止めた。


岡崎「…どうだった?」


あんまりにもジロジロ見られるので次の曲には行かず、一時中断をする。


憂「すごい!凄いよ朋也君っ!!」

岡崎「そ、そっか。サンキュ」


憂は全身で喜びを表して俺をあげた。

…我ながら単純な事に、その称賛がすごく嬉しくていい気分になった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:05:19.73 ID:2S46IG76o<>
直「…確かに、驚きました」

岡崎「芳野さんの特訓の効果、自分でも実感出来てびっくりだ」

純「……あんた、どれだけ自分が恵まれてるか神に感謝した方がいいわよ」

岡崎「わかってる。……厳しいけど、最高の師匠だよ」

その厳しさのおかげで皆に認められている。

素直に嬉しかった。



…あの地獄の猛特訓の日々を振り返ればこの合宿の練習なんて天国だ。

なにしろこちらは音を完璧に出しているつもりなのに、細かなとこまで文句を言ってくるので音は勝手に洗練とされていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:06:34.57 ID:2S46IG76o<>
岡崎「それでさ……」

岡崎「俺と春原も文化祭は出るつもりだ。けど、メンバーはどうするんだ?」

梓「前回の創立者祭の五人組、それと三年生五人組でやれば丁度いいんじゃないかな」

春原「なるほどね」

岡崎「それじゃ、文化祭は……」

梓「うん、私、憂、純、菫、直の五人と…」

岡崎「俺、春原、梓、憂、鈴木の五人の2グループで発表って事か」

憂「7人全員でやるとかは駄目なの?」

純「駄目って事はないけどね…。やっぱり見栄えとか腕の問題とかでこの分け方が丁度いいと思う」

さわこ「私もそう思うわ。…それにしても、今までがいつも1グループの発表だったから、二つに分かれてやるのは少し新鮮ね」

梓「私も、何だかドキドキします」

春原「僕は不安な意味でドキドキしてるけどね…」

純「なーに言ってんのよ。あんたも岡崎も元プロの教え受けてんでしょ?大丈夫よ」

春原「……ふん、マリモに励まされるとはね」

純「本番で失敗されるのが嫌なだけよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:09:06.63 ID:2S46IG76o<> _________________________


さわこ「それで、ボーカルはどうするの?両方とも憂ちゃんがやる?」

憂「私はそれでもいいんだけど…」

岡崎「何か問題あるのか?」

憂「……(ちらっ)」


憂は梓の顔を見て、何か言いたげな様子を見せた。


梓「な、なに?」

憂「梓ちゃん、やってみない?」

梓「え……」



梓「え、えええっ!?」

梓「で、でも私音痴だし……」

岡崎「いやいや、憂、無理だろ」

梓「朋也、………どういう意味?」

岡崎「どういう意味か知ってどうするつもりだ?」

梓「…どうするつもりか知ってどうするつもり?」


あれ……何かこのやり取り、デジャブ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:10:51.69 ID:2S46IG76o<>
春原「……お前ら…そういう面倒臭いやり取りするのいい加減やめてくれませんかね」

梓(春原君に面倒臭いって言われた…)ガーン

純「まぁ、岡崎の言うこともわかる。4月に聞いた梓の歌じゃちょっとねぇ……」

梓「あ、あれから練習もしてるもんっ!?ね、先生」

さわこ「そうよ皆。梓ちゃん、あれからたまにボイトレしてるのよ」

純「へぇ…」

岡崎「なんだよ、ボーカルやりたかったんじゃねえか」

梓「……」

春原「はは、確かに。そうでもなきゃボイトレなんかしないもんね」

梓「……うぅ」

純「なら梓と憂でいっか」

梓「……いいの?わたしで」

岡崎「練習したんならいいんじゃないか」

純「岡崎も大概適当ね…」

梓「な、なら、やろうかな。せっかくだし」

直「それなら一年生チームのボーカルをお願いします。私の作った曲、梓先輩をイメージして作ったので」

梓「え、そんな裏話があったの?」

直「はい、先輩は見てて面白かったので」

梓「な、直……」

岡崎(梓って地味に奥田に舐められてるな)

憂「それだと私は…」

春原「僕らのいる方になるね」

岡崎「ま、ぶっちゃけボーカルはどっちでもいいんだけどな」

春原(僕は憂ちゃんで安心したけどね…)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:15:27.76 ID:2S46IG76o<> _______________________


菫「それにしても、なんだか…創立者祭の時とは違う。今度はしっかりと成功するヴィジョンが私にも見えてきました!」

直「…うん、私も大丈夫だと思う」

岡崎「お前ら……あの時、やっぱテンパッてたんだな…」

直「先輩は平気なんですか?文化祭が最初で最後のステージなんて…」

岡崎「…正直、緊張はすると思う。けど、何とかなる。いや、してみせる」


菫「…先輩なら、先輩達なら、私も大丈夫だと思います。一緒に成功させましょうねっ!!」

岡崎「ああっ」

春原「ははっ。でも一番下手糞なのが岡崎ってのがうけるよね」

岡崎「うるせえな…。覚悟しておけよ春原。文化祭までには腕を逆転させて、ケツの穴にネックぶち込んでヒイヒイ言わせてやるからな」

春原「ヒイっ!!」

直「春原先輩、平気です。今のままなら春原先輩も練習していけば、追い抜かれないはずです」

岡崎「冷静に分析されると地味につらいな……」

菫「二人とも頑張ってくださいねっ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:17:12.63 ID:2S46IG76o<> 梓「……」

憂「……梓ちゃん?」

梓「……あ、な、なに?」

憂「今、すごく嬉しそうな顔をしてたから」

梓「……」

梓「ちょっと、感動しちゃって」

梓「今のけいおん部の形が…私の理想とぴったり一致してたから」

梓「なんだか不思議。先輩達といた時って、皆上手だったからか、こういう真面目に練習する空気には中々ならなかったんだけど、今年の四人は…皆下手だけど、一生懸命で…」

憂「皆が一生懸命なのは、きっと、梓ちゃんも一生懸命だったからだよ」

梓「憂ぃ…」

憂「梓ちゃん、ずっと頑張ってたもん。菫ちゃん、直ちゃんの二人につきっきりで練習をして…岡崎君と春原君に発破をかけて…」

憂「だから、今のけいおん部になったんじゃないかな?」

梓「……そうかな」

憂「そうだよ」

梓「そうだったら…嬉しいな」

憂「…うんっ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:18:03.67 ID:2S46IG76o<>
………

……




梓「それでは文化祭でやる曲をそろそろ決めたいと思います」

純「もう3カ月前だし丁度いいわね」

憂「やっぱりオリジナルをやるの?」

梓「うんっ…ちなみに曲はもう完成してるんだ」

春原「へー、いつの間に作ってたの?」

梓「直の持ってるシンセって作曲も出来るのは知ってるでしょ?」

直「入部してからの半年間で3曲程作ったのでそれをやっていただければ」

春原「3曲も?すげーじゃん」

直「……ただ、私、てっきり文化祭は1グループでやるものだと思ってたので……2グループぶんはちょっと…」

梓「気にしないで。直の作った曲は菫と直がいる方で使おっか。…駄目コンビがいる方は……うーん」


駄目言うな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:19:46.82 ID:2S46IG76o<>
憂「なら、5月みたいにカバーをやる?」

梓「それが無難かなぁ……」

純「えぇ〜、でも私こっちでもオリジナルやりたいよ〜」

春原「僕も一曲くらいはやってみたいね」

岡崎「ノーコメントだ」

梓「……それじゃ、3曲やるとして…。一曲だけオリジナルにして、後の二つをカバーにしよっか」

純「それが一番無難ね。なら今日中にカバーの曲は決めちゃおうよ」

梓「待って待って、誰がオリジナルを作るか決めないと。…直、後一曲作れない?」

直「…私は遠慮しておきます。文化祭直前まで完成した3曲を細かくいじっていきたいので」

梓「…そっか」

憂「……」

憂「ね、梓ちゃん。オリジナルって、作詞から始める事が多いって聞いたんだけど、そうなの?」

梓「え?…う、うん。人によるけど詞に後から音楽を乗せて作る人も多いと思う」

憂「…なら、作曲は私がやってもいい?」

岡崎「マジか」

梓「え、いいの?」

憂「うん、前にお姉ちゃんと一緒に作詞した時楽しかったから、もう一度こういうのやってみたかったんだ」

梓「……なら、お願いするね、憂」

憂「うん、まずは作詞からだね」

岡崎「まぁ、どんな曲でも文句言わないから頑張れよ」

梓「他人事だと思って……」

岡崎「そんな事思ってない。俺が弾く事になる曲だろ?」

梓「そうだけどさ……」

純「後2カ月と少し、作詞に割ける時間は夏休みまでってとこかしら、憂、頑張ってね!」

憂「うんっ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:20:15.79 ID:2S46IG76o<> ____________________________


さわこ「で、あなたたち、結局カバーの曲はどうするの?」

岡崎「……俺はなんでもいい」

春原「あんた、さっきからそればっかですね」

岡崎「……それじゃ、簡単な曲で頼む」

梓「適当だなぁ…」

純「文化祭は11月か。練習は結構出来るわね」

梓「秋か冬の曲とかでいってみる?」

憂「それなら…提案があるんだけど……」


………

……




岡崎「…それじゃ、それでいくか」

春原「まぁ、ドラム的にはつまらないけど、簡単そうな曲だし無難だね」

梓「うーん、冬の定番だしいい曲だと思うけど……ライブでやるの、ちょっと怖いな」

純「ゆっくりめな曲だからね。外した時少し…ね。でも、もうひとつの曲をノリのいい曲にすれば問題はない…かなぁ」

岡崎「……にしても、この曲か」

梓「朋也、どうかした?」

岡崎「……」

梓「?」

岡崎「いや、何でもない」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:20:53.29 ID:2S46IG76o<> ___________________________________


そして、合宿は二日目を迎え、朝から正午までは遊び、そこから晩飯までは楽器の練習と、順調に時間は進んだ。


………

……





純「皆、最後は花火やろっ!!」


そして、晩飯も済まし、各自ロビーから部屋に戻ろうとすると、唐突に鈴木がそんな事を言い始めた。


菫「賛成ですっ」

憂「あ、それならバケツとか用意しなくちゃだね」

菫「それじゃ、私と直で花火買ってきます」

直「うん、近くのコンビニまで行こっか」



春原「元気だねぇ…」

岡崎「女子ってこういうイベント事に限っては、不思議なパワーを発揮するからな」


ロビーの隅で俺と春原はそんなやり取りを眺めていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:23:54.82 ID:2S46IG76o<>
春原「……楽しかったね、この合宿」

岡崎「……そうだな」

岡崎「……」

岡崎「不思議なもんだな」

春原「…何が?」

岡崎「……」

岡崎「俺とお前がここにいることが」

春原「……はぁ?」

岡崎「俺ら、4月までなにしてた」

春原「……」

岡崎「それが……今はなんだよ、あいつらにくっついて、こんな海辺まで来ちまった」

春原「はは、うけるよね」

春原「……」

春原「去年までの僕らが、今の僕らを見たらどう思うんだろうね」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:24:20.20 ID:2S46IG76o<>
…羨ましい?


違う


妬ましい?


それも、違う



いや、嘘だ。

きっと、そのどちらの感情も混ざった、複雑なそれを抱くはずだ。



岡崎「よくわからねえ…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:24:52.33 ID:2S46IG76o<>
岡崎「よくわからねえ…」


春原「なぁ、岡崎」

岡崎「ん…?」

春原「たった、四か月だよ」

岡崎「……」

春原「たったの、四か月で僕ら、こんなだよ」

岡崎「こんなってなんだよ。抽象的すぎてわからん」

春原「……ふん」

岡崎「……」


いまだに俺達の心には小さな棘が刺さっている。

楽しい、楽しすぎる、今。

けれど、それを嫌っていた今までの二年間の、過去。

その二つがごちゃ混ぜになって、素直に今を受け入れる事も出来ない。

いや、受け入れていいのかわからないんだ。俺達は。

情けない。

こんなうじうじしてて。

…男だっていうのに。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:26:10.03 ID:2S46IG76o<>
憂「朋也くーんっ!!陽平くーん!!」

岡崎「……憂か」

春原「……」

憂「二人とも!花火買ってきてもらったから、一緒にやろうよ〜っ!!」


岡崎「……」

春原「……」


俺と春原は、互いに顔を見つめあった。

春原は複雑な表情をしていた。が、少しだけ、笑っているようにも見えた。

きっと、俺もだ。


春原「…何にやにやしてんのさ」

岡崎「その言葉、リボンをつけて返してやるよ」



純「あんた達〜、さっさと来なさいよ〜、いつまで経っても始められないでしょうが〜!」



春原「それじゃ、行きますか」

岡崎「ああ」



そして、俺達は俺達の、今の居場所へと向かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:27:13.39 ID:2S46IG76o<> __________________________________


花火も終わると解散となり、各自部屋へと戻る事になった。

春原は疲れ果てたのか部屋に戻るとすぐに着替えて横になった。

…きっと、はしゃぎすぎたのだろう。

俺もすぐに寝ようと思ったのだが、

この二日間の楽しかった思い出達が胸に熱い気持ちを生み出して、目を閉じても眠る事が出来なかった。


岡崎「海辺でも散歩すっかな……」


…ギターも、持っていこうか。


夜の海辺でギターとか、ちょっとやってみたかった。


…自己陶酔野郎とかいうのはやめてくれ。

高校生なんだ、俺。

たまにはそれくらいしたくもなる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:29:12.12 ID:2S46IG76o<>
………

……



岡崎「……海辺だからか、風が強いな」


別荘から出て浜辺へと出ると夜の冷たい潮風が俺の体をおおった。

辺りは静まりかえり、人の気配はまったくなかった。


岡崎「……ふぅ」


夏とはいえ、Tシャツ一枚では少し肌寒かったが、それはそれで丁度よかった。

…少し冷えるくらいが気持ちいいから。


岡崎「……」


見上げれば、そこには丸い満月が浮かんでいる。

町の明かりというしがらみから脱したそれは、ただ、ただ綺麗だった。

夜の海というのは何故こんなにも素晴らしいのだろう。

ザザーン……と波が押し寄せては引いていく。

波打ち際を見ているうちに、夜の海風に冷えた体も何故か暖かくなった。


岡崎「渚まで行くのは…足が濡れそうだしやめとくか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:30:45.40 ID:2S46IG76o<>
そのまましばらくは浜辺をぼんやりと歩いた。

月を映した海も、ただ、ただ美しかった。


岡崎「すげえな……。こんなに、綺麗なんだ。夜の海って」


岡崎「……」


その月と海が合わさった情景に、何か懐かしいものを感じて、長い間、海を見つめていた。

月明かりに照らされた海は、そのまま月に持ち上げられて、ひっぱられていってしまいそうな錯覚を起こした。


岡崎「…なんて、俺もロマンチストだな」




「たった、四か月だよ」



「たったの、四か月で、僕ら、こんな人間になっちゃったね」




岡崎「……」

自分でも驚くほど、ここ数カ月で俺の考え方は変わった。

もしかして、俺は人の影響を受けやすい奴なのかもしれない。

それとも、元々俺はこういう奴で、今までの二年間が何かの間違いだったのだろうか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:32:59.72 ID:2S46IG76o<>
岡崎「……」


変わっていくものがある。

でも……



「朋也君……。最近はどうかな……。生活費、困っていないのかい?」

「…いや、平気ならいいんだ。すまないねぇ…。それじゃぁわたしはいくよ」




…変わらないものも、ある。


岡崎「……」


彼は、変わるのだろうか。

変わって、くれるのだろうか。

そして……

岡崎「…俺は、いい方向に変わったのかな」


海は何も答えてはくれなかった。



岡崎「どうなんだよ……父さん」


満月が輝いていた。

夏の大三角形が輝いていた。

そんな空の下、俺はぼんやりと呟いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:34:42.08 ID:2S46IG76o<> ___________________


梓「……朋也」

岡崎「んなっ!?」


俺は別荘からは1キロ近く離れた浜辺まで歩いていた。

そんな場所だったから、声をかけられることなんて予想もしていなくて、アホな声をあげてしまった。



梓「どうしたの?こんな真夜中に」

岡崎「……なんだ、梓か。驚かすな」

梓「私で悪かったね。……そっちが勝手に驚いたんじゃん」

岡崎「……こんな夜中に女子が一人で歩くな」



辺りは真っ暗だ。


岡崎「危ないだろ」


お前、可愛いんだから、気をつけろ。

って言えたらカッコもつくんだが、それは恥ずかしいので言えなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:38:29.98 ID:2S46IG76o<>
梓「大丈夫、叫べば朋也が来てくれる場所を歩いてたから」

岡崎「お前…ずっとつけてたの?」

梓「うん。夜の海を見てみようかな…って思ったら、朋也が出てくのが見えて、何するのか気になったから。、ギターも背負ってたし」

岡崎「残念ながら、何もしていない訳だが」

梓「…てっきりギター弾きながら歌でも歌うのかと思ってたんだけどね。…でも、何もしてなくても、何かを考えてはいたよね」

岡崎「…まあ、な」

梓「……」

岡崎「でも、大したことじゃないよ」

梓「…そう?」

岡崎「…ああ」


満月の下、俺達はそのまましばらくは黙って海を見つめていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:40:15.59 ID:2S46IG76o<> ____________________


梓「ね、芳野さんのギター、貸してくれない?」


二人でぼんやりと海を見つめている事数分。

手持無沙汰になったのか、梓はそう聞いた。


岡崎「別にいいけど……。砂つけるなよ。ほら」


俺は背負っていたギターケースを砂浜に下ろしてギターを取り出し、梓にゆっくりと渡した。


梓「ん……よっしょ…っと。どう?」


それを受け取ると、梓は砂浜に座り、ギターを構えてこちらを向いた。


岡崎「似合ってるよ」

梓「本当?」

岡崎「ああ」

梓「それじゃ、携帯貸すから写メ取って。自分でもどんな感じか見たいから」

岡崎「いいけど…。暗くて何も映らないぞ?」


月明かりでかろうじて人の姿は見えるが服のデザインやギターの模様などは真っ暗なため殆ど見えない。

携帯のカメラではなにも映らないだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:48:06.07 ID:2S46IG76o<>
梓「あ、そっか。…って、それじゃ、朋也も私の事よく見えてないんじゃないの?」

岡崎「…そこに気づかれると俺の気遣いが台無しになるな」

梓「朋也のばーか」

岡崎「…お前、その言い方実は気にいってるだろ」


………

……




梓「……いつもがんばる♪」

梓「……君の横顔♪」

梓「……ずっと見てても気づかないよね♪」

梓「……夢の中なら二人の距離縮められるのにな♪」




それからしばらくの間、梓は芳野さんのギターをジャン……ジャン……と弾きながら、歌を歌っていた。


岡崎「……」


梓「……あぁ カミサマお願い♪」

梓「……一度だけのMiracle Timeください♪」

梓「……もしすんなり話せればその後は…どうにかなるよね♪」



梓「ふぅ……おしまい」





岡崎「…上手くなったな、歌」

梓「そりゃあ練習してましたから」

岡崎「…つっても、まだまだ憂のが上手いけどな」

梓「……朋也って、本当空気読めない。そういうのは思っても言っちゃいけないのに」

岡崎「そういう細かい人間関係の作法に疲れて二年間友達がいなかったからな」

梓「…馬鹿だね、朋也は」

岡崎「……その馬鹿のせいで存続出来た部があるっていうのが一番馬鹿げてるけどな」

梓「あはは…、まったく……だね」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:49:14.86 ID:2S46IG76o<> _________________________


梓「…ねえ」

岡崎「なんだよ」

梓「話を戻すけど、海岸歩きながら、何考えてたの?」

岡崎「……」

岡崎「これからの事、少しな」

梓「……」

岡崎「夏休みが終わって、2学期がきて、文化祭が始まって、文化祭が終わって……」

岡崎「2学期が終わって、冬休みが始まって、年が変わって、冬休みが終わって、3学期が始まる」

岡崎「……いつまで、このままでいられるんだろうな」

梓「……朋也」

岡崎「それを一回考えたら、駄目だった。よくわからないけど、頭の中が真っ白になって、どうしたらいいのかわからなくなっちまった」

梓「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:50:46.98 ID:2S46IG76o<>
梓「朋也は…去年の私みたい」

岡崎「…どういう意味だよ」

梓「私も去年の丁度今の時期にね、先輩達と、いつまでいられるんだろう、って考えてた」

梓「夏休みに入った時、先輩達は予備校とか、図書館とかに通い始めちゃって…」

梓「…私だけ、ひとりぼっちになる日が増えていったから」

梓「『あ、私だけが、違うところにいるんだ』って、そんな事を考えちゃった。先輩達四人は同じ場所を目指して努力すれば同じ場所に行けるのに、たった年が一つ違うってだけで、私は取り残されちゃったから」

梓「それでね……」

ぽつり、ぽつりと梓はしばらくの間、去年の彼女のバンド物語を俺に聞かせた。

演芸大会に憂の姉さんと出た事、さわこ先生の友人の結婚式に行ったこと、夏フェスに行ったこと、夏祭りに行ったこと。

そして、先輩達との最後の文化祭と、卒業旅行で外国まで行った事。

それらの経験を語る梓の横顔は、今までのどんな顔よりも、輝いていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:52:18.71 ID:2S46IG76o<>
………

……




長い、長い、梓の独白を俺はぼんやりと聞いていた。


梓「…まぁ、そんなところかな」


そう言って、梓はどこかすっきりとした顔を見せた。


岡崎「……」


…随分長い間、梓の話を聞いていた気がする。

月の位置が、俺がはじめに記憶していた場所からは随分と動いている。


岡崎「お前、本当にその先輩達の事が好きだったのな。春から色々と話を聞いたけど、同じ話題が出てこない辺り、その人達と相当遊んでただろ」

梓「うん。…けど、好きだった…は間違い。大好きだもん」

岡崎「…そっかよ」


満面の微笑みで梓はそう答えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:54:02.97 ID:2S46IG76o<>
岡崎「……」


その笑顔に心が強く揺れる。

…ひどく、悔しいと思った。

だって、4月からこの8月まで、随分長いこと一緒にいたのに。

それなのに、俺はまだ梓から、思い出話をしている時の笑顔よりも幸せそうな顔を自分だけの力で引き出せていないから。



…そして、これからも、きっと、出来ないから。



岡崎「海、綺麗だな」

梓「うん」

岡崎「…空も、綺麗だな」

梓「…うん」


満月が輝いていた。

夏の大三角形が輝いていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:55:47.55 ID:2S46IG76o<>
岡崎「流石に風で冷えてくるな」

梓「夜の海風だもん。ちょっと寒いね」

岡崎「戻るか」

梓「うん……」


会話が途切れた。

しばらく、二人でまた海を眺めた。


梓「合宿、明日で終わりだね」

岡崎「…夏休みも、もう終わるな」


夏が、終わる。

もう、終わる。

一夏の終わりと共に、季節はやがて秋を迎える。それはつまり、高校三年生にとっては嫌でも受験や就活を予感させつ季節だ。

…もう、残された時間は少ない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:56:50.34 ID:2S46IG76o<>
梓「……ね、朋也」

岡崎「ん…?」

梓「文化祭、絶対成功させよう?」

岡崎「…どうした、急に」

梓「今だって、十分楽しいけど、やっぱりけいおん部だから。ライブを成功させてこそって思わない?」

岡崎「そのライブ、後一回しかなくて、しかも、俺と春原にとっては最初で最後だけどな」

梓「うん、だから、絶対に成功させる。…朋也は、私達の足を引っ張らないようにきとんと練習すること」

岡崎「…まかせろ。そっちも勉強に時間取られ過ぎて、俺に腕を抜かれないようにしとけよ」

梓「…朋也のくせに。…でも、うん。頑張る。色々と」



満月が輝いていた。

夏の大三角形が輝いていた。

…そんな月に照らされていた、合宿二日目の夜。

俺達は、文化祭までの残された日々を…


一生懸命にやって行く事を誓った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/10/29(月) 00:59:23.78 ID:2S46IG76o<>
では今日の投下はここまで。

次の投下は金曜か土曜ですね。

それでは読んでくれた方、コメントくれた方、ありがとうです。

前スレはとある短編をそのうち投下するのでちょっと残しておきます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/29(月) 01:40:32.59 ID:lIqgfaBw0<> 縺翫▽縺翫▽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/29(月) 07:13:54.53 ID:K1LKZuXAo<> 短編に期待しつつ本編乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/29(月) 07:43:55.55 ID:YSQ+S2iDO<> いいわぁ…いいわぁ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/29(月) 09:32:19.20 ID:r6/894VIO<> 乙。

どうなるのか色々楽しみだ。

とにかく完結させて欲しい。 <> sage<><>2012/10/29(月) 20:01:40.63 ID:nRO3J75u0<> 海と空は綺麗って言えるのに月は綺麗って言えないのがいいね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/10/29(月) 20:07:34.97 ID:qX5N5h+AO<> >>47
それに気付くとは……やはり天才か…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/29(月) 20:23:53.96 ID:XB1wGWHIO<> >>47

マジだった。
細かいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/30(火) 00:54:14.27 ID:yendGjGko<> 朋也と綺麗な月を肩を列べて観賞するのはどっちになるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/10/30(火) 16:27:37.64 ID:zDCJAGGn0<> これは良いクロスだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/30(火) 22:09:43.61 ID:d4T7ZAZ8o<> CLANNAD AFTERとけいおんのクロスかと思った
前スレから全部読んできたが、憂には報われてほしいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/10/31(水) 01:06:20.45 ID:wYifY3MAO<> 乙
あずにゃんルートまっしぐら 最高です

にしても コイツ等は こんなにも薔薇色の青春を謳歌してるのに 俺が同じ時期にやってたことは 中二病こじらせての闇の住人探しとか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/10/31(水) 21:11:25.94 ID:AvdWWeMl0<> 乙
なんて面白いんだ……
そして、なんてやるせないんだ……;;
俺もこの物語がいつまでも終わって欲しくないよぉっ!!

この気持ち、デジャビュだぜ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2012/11/03(土) 03:39:32.65 ID:CaR5ZOROo<> 以前憂√のけいおんとCLANNADのクロスを見た気がするけど思い出せなくてイライラしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)<>sage<>2012/11/03(土) 03:45:38.02 ID:U6+JMOoTo<> 憂「クラナドは人生」
これじゃなかったらわからない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2012/11/03(土) 04:00:38.97 ID:CaR5ZOROo<> >>56
これだよこれありがとう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 07:13:58.53 ID:U2wHyHV6o<> ほかにけいおんとクラナドのクロスのSS教えてください!なんでもしますから! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 08:03:28.68 ID:f4qnlVaho<> ぐぐれよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/11/03(土) 08:55:39.23 ID:hYlT0/5ho<> ん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage <>2012/11/03(土) 10:01:17.02 ID:j/1/RMsao<> ここで他スレの話すんな、智代に10割コン食らって消し飛べ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/11/03(土) 15:46:33.52 ID:AyEZsR+Eo<> 乙や感想ありがとう。
>>1です。


今日も深夜の更新になりますね。しばらくお待ち下さい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/11/03(土) 19:20:15.30 ID:6AWZ0VMp0<> 楽しみだ!
試験まであと一週間だけど知ったこっちゃねぇや <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/11/03(土) 19:22:33.50 ID:wdPnFzaAO<> 来たか…!(ガタッ

楽しみにしてます <> zx<><>2012/11/03(土) 22:16:04.69 ID:JDkTWozn0<> 面白い!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:53:57.44 ID:dCPPULjGo<> ___________

8月31日



合宿も終わり、夏休みも最終日。

俺は春原と共に憂の家にいた。

と、いうのも溜まりに溜まった宿題を片付けるためであり、勿論片付けるというのは真面目に問題を解いていくわけでもなく、彼女のノートを丸写しにする事である。


憂「それじゃあ、自分のためにならないよっ!」


と怒られもしたが、別に受験やテストの予習や復習のためにやるわけではなく、単に卒業するためだけに出すんだ、と適当な言い訳を並べて納得させた(納得しなかったが)。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:54:31.17 ID:dCPPULjGo<>
憂「2人とも、お昼ごはんの食材買いに行ってくるから留守番お願いしてもいい?」

春原「任せといてよっ。不審者来たらぶっ飛ばしてやるからさっ」

憂「ありがとう。それじゃ、おねがいします」

春原「いってらっしゃーい」

岡崎「……」

春原「ん?どしたの岡崎。急に黙って」

岡崎「……(ぼかっ!)」

春原「痛ぇっ!?いきなりなにすんだよ!!」

岡崎「いや、不審者が目の前にいたからさ…」

春原「……僕、たまにお前との友情を疑いたくなるよ」

岡崎「前にも言ったろ。そんなもんないから安心しろ」

春原「……相変わらず酷い奴だね」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:55:13.46 ID:dCPPULjGo<> ____________


春原「……よし、数学終わり。…岡崎、科学のノート取って」

岡崎「…ん」

春原「お、サンキュー」

春原「…それにしても、憂ちゃん遅いね」

岡崎「…確かにそうだな」


憂がスーパーに出かけて40分程経っていた。

普段なら30分もかからずに戻ってくるのに、少し遅い。


岡崎「知り合いにでも会って話してるのかもな」

春原「ならいいんだけどね。…腹減ったなぁ…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:56:22.07 ID:dCPPULjGo<> ガチャッ

平沢家の玄関の扉が開く音が聞こえた。


春原「帰ってきたみたいだね」

岡崎「……」

春原「どしたの岡崎。難しそうな顔して」

岡崎「いや、憂はいつも扉を開けたらただいまーって言うんだ。…今、扉のあく音しか聞こえなかったが」

春原「え?マジ?…もしかしてマジで泥棒!?」

岡崎「俺が知るか」


この時俺はもしかして、憂の両親が帰ってきたのかぐらいの考えしか持っていなかった。

もしそうだとしたら、なんて挨拶するべきかとかそんな事を考えていた。

娘の姿がなく、野郎が2人で居間にえらそうに座っているとか色々と説明しづらいが、それでも憂の親なら説明すればなんとかなるだろう…

ぐらいにしか考えていなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:57:22.78 ID:dCPPULjGo<>
だから……


ガチャッ!!!


唯「やっほーーーっ!!うい〜〜〜〜〜っ!!!ただいまーーーーっ!!!」


岡崎「……あ」

春原「……」


唯「え…っ?」


まさか、姉が飛び出してくるなんて、予想外で。


岡崎「こ、こんちは」

春原「……どもっす」


春原と二人、きょどってしまった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 00:59:33.01 ID:dCPPULjGo<>

唯「……」

唯「あ、あはは……」

唯「ご、ごごごめんなさいっ!!家間違えましたぁっ!!」

ダッ…と駆け出すおそらく平沢姉

それを俺は慌てて追い、玄関口で彼女の腕を捕まえる。


岡崎「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!ここ、あなたの家であってますからっ!」

唯「そ、そんなっ!お、お気になさらずっ…。私ドジだってよく言われまして……ふぉ、フォローありがとう…ですっ!」

唯「…はっ!でもこの玄関はどう考えても私の家のだっ!?あ、あれ〜…」

唯「うい〜〜っ!?どこ〜〜〜っ!?」

岡崎「……」

唯「…ま、まさか…二人はこの家の隠し子!? 実は私には男の兄弟が!?」

岡崎「あの…話を聞いてください」


なんなんだこの人は…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:01:22.15 ID:dCPPULjGo<>
ガチャッ

そして、パニックに陥った平沢姉をどうすればいいのかわからずにパニックに陥った俺を救うかのように、憂が帰ってきた。

憂「ただいまー…ってあれ!?お姉ちゃん!?」

唯「う、うい〜〜っ!!会いたかったよ〜〜〜っ!!でも、でも、その前にどういう事!?私の家、隠し子が2人いたの!?しかも男の子が2人も!?どうしてお父さんは隠していたの!?」

憂「お、落ち着いて、お姉ちゃん」


パニックに陥っている姉を優しく抱きしめるとその背中をゆっくりとなでる憂。

……なんとなく、この2人の関係がわかった気がした。



和「……久しぶりに来てみれば……憂、この男の子がさっき言ってた新しいけいおん部のお友達?」


そして、憂に続いてどこかで見た顔の女性が現れた。

ああ、そうだ。…このメガネがやたらと似合う人は確か……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:02:49.75 ID:dCPPULjGo<>

唯「あ〜〜っ!和ちゃん!? 会いたかったよ〜〜っ!!」

和「わ、ちょ、ちょっと唯…。離れなさい…」

憂「あ、和ちゃん。外で待たせちゃってごめんね」

和「大丈夫よ。……それにしても」

春原「岡崎ー、遅いぞー、なにやって……」


そして、春原が様子をみに玄関までやってきた。


和「…あなた達がけいおん部の新部員だとはね」


元会長は俺と春原をジロリと見つめた。


春原「げっ……お、お前はっ!?」

憂「あれ? 三人とも知り合いなの?」


忘れない。

忘れられるわけがない。


去年、俺と春原がまだアホをやってたころ、何か行動する度に俺達はこの人とその部下に捕まっては反省文を書かされていた。

書かされた反省文で本が1冊は出せるのではないかって程に…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:03:35.67 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「オ、オヒサシブリデス。カイチョウ…」

憂「と、朋也君…?」

和「朋也『君』…か」

岡崎「あ、あはは……会長はお元気そうで……」

和「社交辞令も言えるようになったのね」


…怖えよ、この人。


春原「岡崎、ごめん。僕は帰るっ!」

岡崎「なっ…!?春原っ!?」

春原「そ、それじゃねっ憂ちゃん。真鍋会長っ!後憂ちゃんみたいな人っ!」

唯「み、みたいな人!? 一応主人公なのにっ!!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:04:59.47 ID:dCPPULjGo<>
………

……



そして、春原が去り、俺達はテーブルに座って向かい合っていた。


岡崎「え、ええと…はじめまして、唯…さん?」

唯「あ、私の事は唯先輩がいいなっ。あずにゃんもそう呼んでるし」

岡崎「あ、あずにゃんって…」


憂(朋也君、梓ちゃんの事だよ)

岡崎(わ、わかってるけど…)


岡崎「あ、それと元会長もどうも。ご無沙汰してます」

和「こんにちは。 それにしても驚いたわよ。 幼馴染の家に来てみれば、元高の問題児がいるんだもの」

岡崎「……へ、へへ」


俺はニヤニヤと愛想笑いを浮かべることしかできなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:05:37.02 ID:dCPPULjGo<>

和「あなた、もしかしてまだ喧嘩とかしてるの?」

岡崎「け、喧嘩だなんて…いや〜、何のことだかさっぱりで…」

唯「へ!? なに和ちゃん…。まさかこの男の子、元ヤンとか!?」

憂「違うよお姉ちゃん。 紹介するね。 彼は岡崎朋也君。 私と同じ光坂高校の三年生で、今はけいおん部に所属しているんだ」

岡崎「…ども」

唯「けいおん部…。ってええっ!?本当なの憂っ!!」

憂「う、うん…」

唯「だって……だって……」


唯「お、お…男の子だよ…ね?」

岡崎「は、はい……。一応」


一応ってなんだよ俺。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:09:40.82 ID:dCPPULjGo<>
唯「ほっほう……あずにゃんもやるなぁ……」

岡崎「……」


表情がコロコロ変わる人だな…。

てか、憂とは顔こそ似てるけど、まるで別人だ。


和「なるほど。わかったわ。…あなたと…あと、春原君もよね? 今はけいおん部にいると」

岡崎「そうなりますね」


くそ…。さっきからこの尋問のようなやり取りはなんなんだ…。


和「……それはわかったんだけど」

和「どうしてこの家にいるのかしら?」

和「岡崎君、まさか憂に手を出したんじゃ…」

岡崎「だ、出してませんっ!!マジで指一本触れてませんからっ!!」

憂「…触れられていません」


…そこで残念そうな顔をしないでくれっ!


和「……」

唯「あ、憂〜、そのブレスレット綺麗だね。前はつけてなかったのに」

憂「あ、これは……その、ね?」

岡崎(ちょ…っ!なんつうタイミングでそこに気づくんだ唯姉さんっ!?)



憂「実は……朋也君にプレゼントしてもらったんだ」


憂はモジモジすると、最高に誤解を招きそうな、幸せそうな顔をしてニコッと笑った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:11:00.89 ID:dCPPULjGo<>
唯「…いいな。私も欲しい…」

和「……どういう事かしら?」

岡崎「…祭りに行った時、彼女に欲しいって言われまして…」

唯「おお。憂が男の子を手玉にとって貢がせているとは…」

憂「お、お姉ちゃんっ!変な言い方はやめてよ〜」

和「……で、実際はどういう関係で、どうしてこんな昼間に平沢家の居間にあなたがいたのかしら?」

岡崎「……憂とは学校の席が隣同士で、同じ部の友人ってだけです。今日ここにいたのはただ宿題やるためにノートを見せてもらおうと思いまして……」

唯「あー、わかるよ。私も憂のノートを使って勉強してたもん」


わかるって……。あんた憂の姉さんなのに妹のノートを使ってたのか!?

い、いや、落ち着け。突っ込んだら失礼だ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:12:05.58 ID:dCPPULjGo<>
憂「それよりも…お姉ちゃん、帰ってくるのは明日って聞いてたけど…どうしてこんなに早く帰ってきたの?」

和「あら、そうだったの?」

唯「えへへ〜。実は憂をビックリさせようと思って一日早く帰ってきたら…」

和「居間に見知らぬ男が二人もいて逆にビックリしたと…」

唯「あはは〜、驚いたよもう…」

憂「帰ってくるって知ってたら、ケーキとかお菓子とか色々作って待ってたのに…」

唯「今度から、ちゃんと連絡します!…うい〜、お腹減ったからお昼作って〜」

憂「あ、そうだった。ご飯作らないと……。でも人数分の材料あるかな…」

岡崎「…春原も帰ったし、平気じゃないか?」

憂「あ、そっか。なら、皆待ってて。すぐに作ってくるねっ!」

唯「憂のご飯久しぶりだな〜。えへへ〜」

和「……」

岡崎「……」

唯「……あ、あれ?二人とも?」

岡崎「……」

和「……」

唯「…あ、あはは…」

岡崎「へ、へへ……」


気まずいってレベルじゃないです。


会長はこの姉妹と幼馴染らしい。

そこに部外者の俺、一人。

……俺も春原と帰った方がよかったんじゃ…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:12:47.89 ID:dCPPULjGo<>
和「……」


さっきから、真鍋元会長はじっと俺の顔を見ていた。

…俺、この人苦手だ。

仕方ないので心を無にして俺は憂のノートに目をやって、答えを自分のノートに写し続けた。


………

……




唯「あ、朋也君。そこの問題の答え、違うよ」

岡崎「…あれ?」

和「岡崎君。あなた、憂のノートをまる写しにしてて気づかなかったみたいね。解答、途中からいっこずつずれてるわよ」

岡崎「あ……本当だ」

和「ここでわかってよかったわね。後になってからじゃ、取り返しがつかなかったわよ」

岡崎「あ、ありがとうございます…」

唯「ね、ねっ!朋也君。あずにゃんと憂がどんな感じで部活やってるのか教えてほしいんだけど……。話聞かせて貰ってもいい?」

岡崎「そ、そうですね……」


唯先輩に今のけいおん部のあれこれを話しているうちに、俺は宿題をすすめる手をとめていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:13:45.62 ID:dCPPULjGo<>
………

……




唯「へぇ〜…今年は新入部員が6人かぁ…」

岡崎「…あの…4人って言いましたよね?」

和「鈴木さんと憂も、唯から見れば新入部員なのよ」

岡崎「あ、なるほど」


あはは…。

えへへ…。

なんて感じで俺はなんとか女の先輩二人の会話の相手を務めていた。


憂「皆〜、ご飯出来たよー」


そして、20分ちかく経つとようやく憂の声が聞こえた。


唯「おおっ!!ハンバーグだっ!!憂あいしてる〜〜っ!!」


おかずをテーブルの上の用意する憂の背中にイノシシのように飛び込む唯先輩。

そして、憂はその突進をいとも簡単に受け止め姉の愛情表現を嬉しそうに享受していた。


憂「えへへ…お姉ちゃん、皆が見てるよ〜」

和「…全く、この姉妹は…」


元会長の反応を見るに、これがこの姉妹にとっては普通なのだろうか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:16:08.56 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「……」

和「あら、どうしたの、岡崎君」

岡崎「あ、いえ。仲いいなって思いまして」

和「そうねぇ…。だから唯と憂が離れて大丈夫か心配もしてたんだけど…」


そう、含みのあるような言い方をすると、元会長はこちらをちらりと見た。


岡崎「な、なんです?」

和「憂、学校ではどう?」

岡崎「どうって…普通ですが」

和「普通って?」

岡崎「普通に笑って、普通に怒って、普通に勉強して、普通に楽器を弾いています。時にはギターを、ピアノを、それに、歌も歌ってます」

唯「ええっ!?憂もボーカルやってるの!?…今度私と一緒にライブやろっ!!」

憂「お姉ちゃんと…ライブかぁ……。うんっ!!」

和「あら、もしやるのなら、私にもチケット頂戴ね。見に行くわ」

唯「こうなったら…あずにゃん達の文化祭に、飛び入りゲリラライブやっちゃおうかな」

和「…それは、やめておきなさいっ(パシッ)」

唯「あいたっ!和ちゃんひど〜い」

憂「あはは……」

岡崎「……」


仲、いいんだな。

この三人は。

何だか、自分だけが仲間はずれな気分で少し淋しくなった。


唯「あ、ハンバーグ冷めちゃうよっ!早く食べなきゃっ!」

和「そうね。それじゃ、ありがたく頂くわね、憂」

憂「うんっ。召し上がれ♪」

唯「いただきまーすっ!!」

和「いただきます」

岡崎「……」

唯「朋也君、食べないの?」

岡崎「いえ。…いただきます」

憂「……?」

和「……」


だから、そんなに見ないで下さい。元生徒会長。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:17:22.81 ID:dCPPULjGo<> _____________


岡崎「……ごちそうさま」

唯「やっぱり…憂のご飯がいっちばんだよぉ〜」

憂「も、も〜。お姉ちゃんくっつきすぎだよお〜…」

唯「憂はあったかいなぁ…」

和「ごちそうさま…」

憂「おそまつさまでした…」


そんな仲良し姉妹のやり取りをみながら、俺と元会長は食事を済ませた。


唯「憂。後片付けは私が…」

憂「お姉ちゃんには私が洗うものを拭いてほしいな」

唯「わかった。和ちゃん、朋也君。お皿洗ってくるからちょっと待っててね」

和「あら、悪いわね」

岡崎「……ども」


そして、後には俺と会長…いや、元がつくけど。

その二人が取り残された。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:18:43.89 ID:dCPPULjGo<>
和「憂は、可愛い?」

岡崎「……」

岡崎「いきなりなに言うんですか」

和「気になるのよ。あの子の周りにいる人が、あの子をどう思ってるのか」

岡崎「……」


この人は、昔からそうだった。

俺を捕まえると、無駄な説教はせず、必要な事だけを聞き、教師を納得させるのに必要な反省文をさっさと書かせる。

そして、一年前までのように、今も俺を捕まえては、自分の幼馴染の側にいる人物に、余計な詮索はせずに、直球の質問を投げかけた。


和「どう思ってるの?あの子の事」

岡崎「どうって…クラスメイトで同じ部の仲間ですけど」


だから、俺は無難な答えをこの人に返す。


和「そんな事をきいてるんじゃないって、わかってるでしょ?」

岡崎「……」


やっぱりこの人は…苦手だ。


岡崎「会長はあの二人の事、どう思ってるんですか?」

和「とっても大事な友達よ。唯も、憂も、幼稚園の頃から一緒に育ってきたもの」

岡崎「…そうですか」

和「……」

岡崎「……」


幼稚園の頃から……か。


岡崎「……帰ります」

和「そう?」

岡崎「はい。憂と、唯先輩によろしく言っておいてください」

和「……まだ、答えをきいていないわ」

岡崎「……」

岡崎「少なくとも、俺はあいつの事を、傷つける気はありません」

和「……」

岡崎「失礼します」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:20:10.60 ID:dCPPULjGo<> ____________


岡崎「はぁ…なんだか疲れた…。 にしても……セミ、うるっせえな」


平沢家を出て、まだ真夏の日の下をあてもなく歩く。


あの場所になんとなく、いづらくなってしまった。

俺も、春原と一緒にさっさと出ればよかった。


岡崎「……はぁ」


だからといって春原の部屋に行く気にも、これからギターの練習をする気にもなれず町をぶらつくことにした。


………

……





菫「あ、せんぱーいっ!」

岡崎「斉藤?」


商店街をふらふらしていると、前方から見知った人物が近付いてきた。
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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:20:49.88 ID:dCPPULjGo<>

菫「どうしたんですか?今日は確か憂先輩の家で宿題をやるとか聞きましたが…」

岡崎「やってたら憂の姉さんとその友達が帰ってきてさ、いづらくなって、出てきたんだ」

菫「姉さんって…よく梓先輩が話している、唯先輩の事でしょうか」

岡崎「ああ、変わった人だった」


…そして、あったかい人だった。

そのあたたかさがきっと、憂や元会長をひきつけているんだ。


菫「私も会ってみたかったです」

岡崎「今憂の家に行けば、会えるぞ。ついでに前年の生徒会長にもな」

菫「生徒会長…ですか?」

岡崎「憂と、唯先輩の幼馴染なんだってよ」

菫「はあ…」

岡崎「……」

菫「……」
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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:21:27.25 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「お前、なにしてんの?」

菫「今までは学校で直と先生に練習を見て貰ってたんです。それで、これからはゲームセンターに行こうと思ってまして」

岡崎「奥田は?」

菫「直は弟達の面倒を見なくちゃと行って帰っちゃいました」

岡崎「…あいつ、兄弟いたのか」

菫「みたいですね」

岡崎「……」

菫「……」

岡崎「俺も、ゲーセンついてっていいか?」

菫「別に構いませんが…」

岡崎「なら、行こうぜ。 暇なんだ」

菫「せ、せんぱい…。宿題は……」

岡崎「暇なんだ」

菫「…そうですか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:23:30.88 ID:dCPPULjGo<>
_____________


岡崎「何だか、二人になるのは久しぶりだな」

菫「言われてみればそうですね。 先輩と会ったばかりの時は二人でいる事が多かった気がしますけど」

岡崎「お前、ぼっちだったもんな」

菫「先輩に言われたくないです」


そういえば、春に斉藤と会った時、こいつが一人で食堂にいた事を思い出した。

あの時は、見た目が金ぴかな為、異国人扱いされてクラスに馴染めなかったと言っていたっけ。

あれから、こいつもクラスメイトと仲良くなったのか、廊下で他の生徒達と話しているところを見かけるようになった。

そして部活の時は、殆ど奥田とくっついている。

けいおん部に1年は二人しかいないから、必然的に仲良くなっていったのだろう。

奥田がぼけて、斉藤が慌てながら突っ込んだり、一緒にぼけたり、そんな高校生らしいやりとりは見ていてこちらも安心できるものがあった。


菫「あ、先輩。あそこ、アイスクリーム屋さんがありますね」


斎藤は商店街の一角にある31を指差した。

…31は美味いけど、高いから好きじゃなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:25:43.40 ID:dCPPULjGo<>
菫「アイスって美味しいですよね?」

岡崎「そうだな」

菫「今日、暑くないですか?」

岡崎「…そうだな」

菫「私、甘いものも食べたくなってきました」

岡崎「…断る」

菫「まだ何も頼んでませんよ?」

岡崎「そうか。よし、ならさっさとゲーセンいくぞ」

菫「先輩」

岡崎「なんだよ」

菫「アイス、食べたいです」

岡崎「さっさと買ってこいよ。待っててやるから」

菫「……」

菫「私、岡崎先輩ってすっごいカッコイイと思います」

岡崎「だよな。俺もそう思う」

菫「とっても素敵だって思います」

岡崎「…マジか。そこまで言われると照れるな」

菫「素敵な男性ってきっと、こんな時、アイスを買ってくれると思うんです」

岡崎「……」

菫「ちら」

岡崎「……」

菫「ちら」

岡崎「…ゲーセン、いくか」

菫「先輩、ごめんなさい…」

岡崎「…何がだよ」

菫「先輩。アイス、買ってください」

岡崎「はじめからそう言え」


なんて面倒臭いやり取りをさせるんだ、こいつは…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:28:39.61 ID:dCPPULjGo<> _________


菫「…暑いです」

岡崎「だな…」


31の店に入り、アイスを買ってやると斉藤はニコニコと笑いながらそれを受け取りぺろぺろとなめはじめた。


菫「けど、アイスは美味しいです」

岡崎「ったく…。人の金で食うおやつは美味いかよ」


俺も自分のぶんを買い、店の外に出て用意された椅子にすわり食べ始めた。


菫「とっても…です」


斉藤も向かいの席に座った。


岡崎「言いやがる」

菫「すみません…」

岡崎「……暑いな」

菫「ですね…」


アイスを食べていると多少はマシだがそれでも暑さのせいでうっすらと汗をかいてしまう。


岡崎「…セミ、うるっさいな」

菫「そうですか?」

岡崎「ああ、なんで、あいつらあんなにミンミンミンミン鳴くんだろうな」

菫「求愛のサインだって聞いたことがありますけど」

岡崎「…あんな五月蠅く鳴いてるだけで嫁が見つかるなら、少子高齢化なんざしないですみそうだ」

菫「あはは…なんですか、それ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:29:45.79 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「……」

菫「……夏休みも、終わっちゃいますね」

岡崎「…ああ」

菫「先輩は……」

岡崎「ん?」

菫「岡崎先輩と、春原先輩は……文化祭が終わっても、部室に来てくれますか?」

岡崎「……」

菫「梓先輩も、憂先輩も、純先輩も、きっと、受験勉強が忙しくなってきます」

岡崎「だろうな」

菫「岡崎先輩と、春原先輩は…」

岡崎「…あいつはさ、二学期の終わりには地元にもどるそうだ」

菫「……そうですか」

岡崎「逆に言えば、あいつはそれまでは、といっても一ヶ月くらいだろうが、ずっと音楽室にいるだろうさ。安心しろ」

菫「よかったです。……岡崎先輩は?」

岡崎「……俺は、どうだろうな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:31:27.55 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「…先の事なんて、考えてこなかったから」


考えたく、なかったから。

…この楽しい時間が終わってしまう事を。

音楽室や、スタジオでの自分達の時間が過去になる事を。


岡崎「…ずっと、高校生でいられたら、いいんだけどな」

菫「そうですね。私はまだ一年生だから、よくわからないんですけど…」

菫「先輩達が留年してくれたらな…なんて、考えたりもしました」

岡崎「…そりゃ、とんでもないこと考えやがったな。酷い後輩だ」

菫「はい。でも、先輩達だって酷いです。私達の事を入部させるだけさせておいて、自分達はたった一年でこの高校からいなくなるなんて」

岡崎「……なら、留年するか」

菫「……冗談ですよね?」

岡崎「どうだろうな」

岡崎「…学校中の窓ガラスとか、全部割ったら留年出来ると思うか?」

菫「あはは…、それじゃ退学になっちゃいますよ」

岡崎「…じゃ、意味ないな」

岡崎「…大人になんか、なりたくないんだけどな」

菫「先輩。ピーターパン症候群ですね」

岡崎「何だよ、その愉快な病名は」

菫「大人になりたくない〜って人を指す病名です」

岡崎「…へぇ」

菫「先輩は…どちらかといえば、早く大人になりたがっている人だと思ってました」
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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:35:55.06 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「そういう奴も、いるだろうけどな」


でも、俺は大人になんかなりたくなかった。

例え、あの人から完璧に自立が出来ない今が続くとしても、

でも、それでも嫌だった。

大人になれば、もう高校生には戻れない。

高校生でないと、楽しい今の生活が、送れなくなる。

こいつや、他の部員と過ごす今が。


岡崎「……」


アイスもコーンも食べ終わった。隣を見れば、斉藤もアイスを食べ終わり、後はコーンを食べるだけのようだ。


岡崎「やっぱ、31のアイスは美味いな」

斉藤「サイズもそれなりにあって、goodだと思います」

斉藤「…先輩、お茶でも飲みませんか?」

岡崎「いいな。…でも、ゲーセンはいいのか?」

菫「気分じゃなくなっちゃいました」

岡崎「なんだそりゃ」

菫「それじゃ、駅前のカフェにしませんか?今度は私が会計持ちますからねっ!」

岡崎「…俺、やっぱお前の事好きだよ」

菫「!!」

菫「せ、先輩…。あんまり好きとか言わない方がいいですよ?」

岡崎「んじゃ、嫌いだ」

菫「…まるで山の天気みたいにコロコロ言う事が変わってませんか?」

岡崎「ああ、まるで女ごころのようだろ?」

菫「……」

岡崎「……」


………

……



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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:38:20.75 ID:dCPPULjGo<> ___________


春原「お、へへ…。生きて帰ってきたみたいだねぇっ!!」

岡崎「ったく、昼間は一人でさっさと逃げやがって…」


斉藤と時間を潰した後はいつも通り、春原の部屋へとやってきた。


春原「ははっ、だってあの鬼畜会長がいるとは思わなかったからさ」

岡崎「……俺もさっさと逃げればよかったよ。色々聞かれてきつかった」

春原「悪い人じゃないとは思いますけどねぇ…ぐへへ…」

岡崎「……?」


…いつも気持ち悪い春原が、いつにもまして気持ち悪い気がする。


岡崎「…お前、顔赤くないか?…酔ってんのか?」

春原「ひひ…夏休みの締めの景気づけさっ!」


春原は手に酒瓶を取ってこちらに見せた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:41:28.71 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「…ブラックニッカか…安酒だなおい」


確か、コンビニで300円もしないで買える酒だった気がする。


春原「へっへっへ……岡崎ィっ。 お前も飲めっ! 飲めっ!」

岡崎「…なんだよ、完璧に出来上がってんじゃねえか。…いいのか?あんまり騒ぐと隣のラグビー部、また切れるかもしれないぞ?」

春原「隣のやつ、まだ実家から戻ってきてないみたいだぜ? だから、今日は騒ぎたい放題だっ!!」

岡崎「……」


その時、俺は何となく、本当に理由なんてなかったが、昼間の斉藤との会話を思い出していた。

留年したいだとか、ガキのままでいたいとか。

それを思い出すと、胸の辺りが不思議な痛みに襲われた。

…そして、酔っぱらってみよう…だなんて思った。


岡崎「……ならいいか。 おらっ。俺のグラスを持ってこい」

春原「ああんっ!? ったく…、しょうがないなぁ」


春原はグラスを持ってくると冷凍庫から氷を持ち出し、それをグラスにカランカランと入れるとブラックニッカをとくとくと注いだ。
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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:42:41.79 ID:dCPPULjGo<>
春原「ほらよっ! ウイスキーロックだっ」

岡崎「ん、サンキュ……」


それを受け取り、こたつに入って春原と向き合った。

…しっかし、すげえ匂いだな。この酒。

芳野さんに飲ませてもらった酒とはずいぶんちがう…。




岡崎「ん……ってまずっ!?」


ちろりと味を確かめるように軽くなめてみたのだが、あまりのまずさに顔をしかめた。

これ、飲み物なのかよ……。


春原「っはっはっはっ!!岡崎はガキだなぁ!?」

岡崎「くそ…。こんなまずい酒飲めるかよ」

春原「ほら、これ混ぜるといけるぜ?」

岡崎「コーラ?」

春原「これ混ぜるとコークハイって飲み物になるんだってさ。僕もそれロックじゃ無理だった」

岡崎「…なら俺にも飲ませるんじゃねえよ…」

春原「へへ、悪い悪い。…ぐへへ…」

岡崎「その気持ち悪い笑い方もやめろって…」
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(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:44:39.16 ID:dCPPULjGo<>
………

……





岡崎「はは……」

春原「ぐへへ……」


数時間後、俺と春原はもうべろんべろんに酔い潰れて二人で気持ち悪い笑い方をしていた。

ブラックニッカを飲み終わると春原はどこかから、コンビニなどでは見た事もないような、少し高そうな瓶をこたつの上に置き、俺と春原のグラスにトクトクと注いだ。

俺は無言でそれをちびちびと飲んだ。


岡崎「…このワインうまいなっ! シャトーマ…ンゴー!?ラベル英語でなんて読むのかわからねえけど、1万ぐらいするんじゃないのかっ!?」


本当はもう味なんてよくわからない状態になっていたのだが、テンションもよくわからないものになっていたのでなんでもかんでも美味いと感じていた。


春原「へっへっへ…実は実家に一度帰った時に、貰い物の酒をたくさんこっちに持ってきたんだよね…。極めつけはこいつさっ!」


そう言うと春原はさらに酒瓶の入っていると思われる木箱を持ち出してきた。


岡崎「ま、まさか……これ、ドンぺリか…!?」

春原「しかも20年物のゴールドなんだぜ!! 親父から電話で『俺のドンぺリしらねえか?大事なものなんだが…』なんてかかってくるくらいにはすげえやつだ」

岡崎「マジか…。値段。どれくらいするんだ。これ」

春原「20万」

岡崎「ぶっ!?」


20万…って。

ただの高校生の俺からしたら、飲み物にそれだけのお金をかける意味がもはやわからない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:48:49.65 ID:dCPPULjGo<>
春原「岡崎、僕に感謝しな。こんな酒が飲めるの、人生でこれが最後だとおもうぜ?」

岡崎「お、おう…」

春原「ま、これは後にとっておこうぜっ!まだまだ夜は長いしねっ!!」

岡崎「じゃ、さっさとこのシャトーマルゴー空けるか。…ドンぺリはそこからだっ!」


俺はドンぺリの存在に何故かテンションが上がり、春原と自分のグラスに一気にワインを注ぎこんだ。


春原「ははっ。今日の岡崎いけるじゃん」

岡崎「お前こそ、今日に限っては輝いてると思うぞ……」

春原「へへ…」

岡崎「はは…」

春原「っ……!!」

岡崎「っ……!!」


春原「おかざきともやにいいいいっっ!!かんぱぁぁぁぁぁぁいいっ!!」


そして、春原はワインの入ったグラスを天高くあげると一気に飲み干した。


岡崎「すのはらようへいにいいっ!!かんぱいっ!!!」


俺も何故かノリノリで一気にワインを飲んだ。


ああ、傍からみたらただの馬鹿ふたりだ。

でも、こんな馬鹿をやれるから、俺はこいつとずっと一緒にいたんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:52:46.71 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「おっしゃっ!……シャトーマルゴー打ち取ったぜ春原ぁっ!」

春原「ひゅうっ!!流石だねぇいっ!岡崎ィっ!!」

岡崎「へへ…」

春原「はは……」


あれから1時間をかけて何とかシャトーマルゴーを空けた俺達。

そして、ついに待ちわびたあいつの登場だ。


岡崎「……春原」

春原「わかってるって……」






春原「ドンぺリ入りまああぁぁぁぁぁぁっす!!!!」

岡崎「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁっす!!!!」




春原は有頂天な様子でドンぺリの木箱を持ち上げ叫んだ。




春原「しっかし岡崎っ!。今日はやけにノリがいいじゃん」

岡崎「……だってな」


ふいに、文化祭の後の事を考えた。

受験のため、部活から離れていく3人と、就活のために地元に帰る春原。

そして、音楽室に残るのは、斉藤と奥田の二人だ。

俺は、それらのうちの、どれにも属せずに、一体どうなってしまうのだろう。


…ずっと、7人でいれたら、それはどんなに……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:53:56.34 ID:dCPPULjGo<>

岡崎「俺はいつでもノリいいだろうがっ!!」



だから、そう言って、考える事をやめた。

頭が熱い。

腹も、喉も、全部が熱い。

この酔い具合が気持ちよかった。

…遠くなるから。

未来を考えた時の、あの不安な気持ちが。

そして、こうやって馬鹿をしていれば、いつか来る終わりさえ、遠くへいってくれると思えたから。


春原「嘘つけぇっ! メッチャ陰気な男だろうがっ!!」

岡崎「お前こそ今日はやけに俺に強気だな春原ぁっ!」

春原「へんっ! 腕っ節なら勝てないけど、酒なら話は別だしねっ!」

岡崎「言ったな…お前」

春原「決着は…」

岡崎「おう、ドンぺリでつけるぞっ!」

春原「…それじゃ、ドンぺリ…あけるぞ?」

岡崎「お、おうっ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:56:47.89 ID:dCPPULjGo<>
20年もののドンぺリを春原は興奮気味に開ける。

その様子を俺は緊張しつつ見ていた。

何故緊張していたかといえば、熟成20年物と春原に言われたからだ。

つまり、俺よりも早くこの酒はこの世に生れついていたんだ。

それほどの酒なんだ。

しかも、栓なんて蝋で出来ていて、その高級感をさらに引き出している。


春原「いくぞ?」

岡崎「ん…」

春原「ほ、本当に開けちゃうよ?」

岡崎「は、早くしろよ…」

春原「ふふ…」

岡崎「へへ……」




春原「岡崎朋也にいいいいいいっ!!」


春原は瓶を高くあげ叫んだ。


岡崎「春原陽平にいいいいいっ!!」


俺も、立ち上がり、叫ぶ。



「かんぱぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!!」



叫ぶと同時に春原はコルクを飛ばした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:57:40.17 ID:dCPPULjGo<>


しゅっぽおおおおおおおおおんっ!!!!



と見事な軌道を描いてコルクは部屋を飛び、壁にぶつかった。

それと同時に真っ白な泡が一気に溢れ、俺と春原は慌てた。


岡崎「や、やばいっ!春原っ!早く飲めっ!もったいねえっ!」


そうしている間にも泡は溢れ、春原の部屋のほこりだらけの床に落ちていく。


春原「お、おうっ……ぶほっ!?」

岡崎「ああっ!?馬鹿やろうっ!!なにむせてんだかせっ!……ぶはっ!?」


口に含むと泡がはじけ、想像していたよりも柔らかく、甘い酒の味がほんのりと広がった…と思ったが、それが喉を通り越したとたん、一気に味が爆ぜ、春原と同じく俺もむせた。



春原「ああっ!!20年物のドンぺリがぁっ!?」

岡崎「くそ…今の泡で3分の1くらい減っちまったぞ…」


春原の部屋の床は、びしょぬれだった。

それが7万円分のものだと思うと俺達はどうしようもなく悲しくなった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:58:54.41 ID:dCPPULjGo<>

春原「岡崎……僕はっ! なめるぞっ!」


酔っている事もあったのか、春原は予想外の行動に出た。

床をなめ始めたのだ。


岡崎「ば、馬鹿っ!やめとけって!」


お前の部屋だぞ!?多分、めっちゃ汚いぞっ!?


春原「美味いっ! 床っ美味いぞ岡崎!!」

岡崎「ま、マジか…」

春原「ははっ…7万円の味がするぜっ!」

岡崎「な、なら…俺も…」


伏せて床をチロリとなめてみた。

……美味い。


春原「か、乾く前に味わないとっ!」

岡崎「おうっ!」


冷静に見れば、床を一心不乱になめる高校3年生二人の姿はもはや狂気じみていた。

が、あいにく俺達は酔っていたのでそんなことはもう知らなかった。


春原「ははっ! ドンぺリはうまいねぇっ!」

岡崎「ああ……ははっ」

春原「へへ…」


俺達は、ずっと、馬鹿笑いをしていた。


ただ、楽しかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 01:59:45.50 ID:dCPPULjGo<>
………

……




春原「頭…痛いっす…」

岡崎「おえ……気持ち悪い」


あれから数時間。

もう日も変わり、9月1日になった。



岡崎「どんぺり……美味かったな」

春原「はは…。ずっと、覚えといてよね、あの味。もう2度とあんなの飲めないだろうし」

岡崎「ああ…。覚えとくよ」


もう、ドンぺリの瓶も、シャトーマルゴーの瓶も、ブラックニッカの瓶も空になっていた。

そして、俺と春原は何度もトイレで吐いて、二人の胃の中も結局空になっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:01:10.98 ID:dCPPULjGo<>
春原「へへ…最高の夏休みの最終日だったろ?」

岡崎「おかげさまでな…」

春原「岡崎が素直にそんなことを言うなんてね…」

岡崎「酔っぱらってるからな」

春原「成るほどね」

ははは……。

へへへ……。


しばらく俺達はそんなくだらないやり取りをしていた。


岡崎「なあ」

春原「ん〜?」

岡崎「どうして、酒なんか飲んでたんだよ」


俺達が出会ってから数年。

二人でいつもこの部屋で腐ってはいたが、酒におぼれた事は思えば一度もなかった。

それは単に、金がなかったからかもしれないが、それだけじゃない気はした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:02:17.82 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「それに、あんないい物、よかったのか?」

春原「……」

岡崎「……」



春原は、どこか遠くを見るような顔をして黙った。

…黙ったその態度で、今日のこいつが酒を飲んでいたことの理由が、なんとなくわかった。


春原「僕らはさ、きっと、もうすぐ就職するわけじゃん」

岡崎「…多分な」


来年の4月までには、きっと。


春原「高卒の僕らなんてさ、きっと、大したことない会社とかでさ、社会の歯車になって、残りの40年以上をさ、しんどく生きていくわけじゃん」

岡崎「……」


聞きたくなかった。

そんな事は。


春原「だからさ、夏休みの最後くらい、こうしてさ…」

岡崎「馬鹿をやりたかった……か?」

春原「……」


春原は黙った。

だから、俺も黙った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:03:21.73 ID:dCPPULjGo<>
今日終わる夏休み。

それは、俺達に漠然とした、今の終わりの第一歩を感じさせた。

やがてやってくる文化祭。

それが終われば冬がやってくる。

時間は止まってはくれない。

そんな現実を忘れたくて、酒におぼれる事にしたんだ。



岡崎「文化祭、頑張ろうな」


だから、俺は俺らしくもない言葉をこいつにかけた。

酒のせいだ。

キャラ崩壊なんかじゃ決してない。


春原「へっ。岡崎よりは、うまくやるさ」

岡崎「はは、ちがいないな……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:05:29.04 ID:dCPPULjGo<>
そして、始まる、俺と春原のくだらない会話。

思い返せば1年の夏休み明けに出会ってから、ずっとこんな話ばかりしていた。

二人で赤点取って、共に追試を受けた時もこんな話をしていた。

町で不良の集団にからまれて、二人一緒に顔をぼこぼこに殴られた時も、一対一なら勝てたとか、試合に負けて勝負に勝ったとかくだらない事を言いあってた。

美味いラーメン屋を探して隣町まで歩いた末に、何も見つからず、結局牛丼屋に入った時も、どちらが悪いかを言い合って終わった日もあった。


岡崎「はは…」


何度、こいつとくだらない会話をひろげてきたんだろう。


何回、こいつの部屋に俺は来ていたのだろう。




春原がいなかったら、俺はけいおん部の連中と会う前に学校をやめていただろう。

サンキュな。春原。

と、心の中で感謝する。

こういうのは、口にしてはいけないと思ったから。

だって、俺達は男なんだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:06:32.36 ID:dCPPULjGo<>
春原「岡崎はさ、受験、しないの?」

岡崎「いきなりなんだよ」

春原「部長達をさ、追いかけようとは思わないの?」

岡崎「東京の大学を目指せって言いたいのか?」

春原「……」

岡崎「無理だ。俺の頭の悪さ、知ってるだろ」

春原「でもさ、東京には色んな大学があるんだろ? 受ければ合格できる馬鹿大学なんてどこにだってあるんじゃない?」

岡崎「…無理なんだよ。金がねえ」

春原「あ〜…。なるほどね」


奨学金を借りれば金銭面はどうにかなるかもしれないが、何百万もの借金をしてまで大学にいって勉強をしたいのかと聞かれれば、答えはノーだ。


春原「僕はさ、前から言ってた通り、地元に戻って就活するよ。それが親との約束だったしね」

岡崎「…そっか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:09:32.23 ID:dCPPULjGo<>
春原が少し、うらやましかった。

こいつの実家はここより田舎だときく。

けど、こいつはその田舎と、この町を知っている。

どちらも寂れている、都会だとは決して言えない町だ。

それでも、春原は二つの風景を知っている。

…俺は、どこにも行けない。

梓たちのように、東京にいくことも、ここよりももっとしょぼい、けれど、きっと綺麗な緑あふれる田舎にも、行く事はできない。

何もかも中途半端な、ただ寂れていくだけのこの町に居続けるしかない。

コネも、何もないんだ。

俺には。

きっと、この町のどこかに就職して、一生を過ごしていく。

最近やっと出来た仲間達もいつかは、そんな俺を忘れて見知らぬ町で生きていくのだろう。

…ああ、なんだろうな。

心がかさつく。

こんなことを考えたくなくて酒を飲んだのに、俺らしくもなくこんなに将来のことを考えて…。

ああ、でも、そうじゃないんだ。

もう、その将来が、目前まで迫ってるんだ。

それと同時にくる、皆との別れも。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:11:52.10 ID:dCPPULjGo<>
岡崎「……もう…夏も終わり……だな」


春原「…そうだねぇ…」


岡崎「……楽しかったな…」


春原「……はは…そうだね…」


………

……





そして、俺達は不安な思いを忘れるように、深い、深い眠りについた。



…もちろん次の日の学校はサボった。



〜けいおん! after story〜

第四章 夏休み 夏の終わりのサヨナラ fin

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/04(日) 02:14:19.65 ID:dCPPULjGo<> 今日はここまでですね。

続きは木曜日の予定です。

もしかしたら前スレに番外編を少しだけ投下するかもです。

といっても、それは本編の進行と一緒にチビチビ投下してく形になりますが。

では読んでくれた方、ありがとうございます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/04(日) 02:15:39.09 ID:eu/QBoK8o<> 乙

クラナドは人生けいおんは青春 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/04(日) 02:19:22.72 ID:TUL4pzmX0<> 乙。
今回は憂ルート方面だったな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/04(日) 02:22:03.72 ID:3rz4EZMIO<> 乙

しかし、唯憂回かと思ったら春原回だった。

後、春原とのやり取りが半月っぽかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/04(日) 06:15:24.88 ID:8I89O5SDO<> 乙!

床を舐める高校生wwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/11/04(日) 10:19:17.14 ID:dA05OSbbo<> 床舐めてるとこカメラに収めてけいおん部にばら撒きてぇw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<><>2012/11/04(日) 11:44:10.35 ID:yR6MqvBb0<> 俺の高校生活も後数ヶ月だなってしんみりしちまったよ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/11/06(火) 22:32:06.35 ID:kMLqTUMNo<> そろそろあずにゃんのバースデーか……

……ノーベンバーイレブン、いい響きだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/06(火) 23:44:34.17 ID:AEHgxRNIO<> 因みに岡崎のバースデーは10月30日だったりする。

あずにゃんは契約者を思い出させる誕生日だな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/07(水) 00:47:03.20 ID:7EF5xjql0<> >>120
梓と同じ誕生日のキャラ
衛宮切嗣(Fate/Zero)
ロロノア・ゾロ(ONE PIECE)
綾崎ハヤテ(ハヤテのごとく!)
カミーユ・ビダン(機動戦士Ζガンダム)
ジョルジュ・ド・サンド(機動武闘伝Gガンダム)

ちなみに、憂はGガンのマスター・アジアと同じ誕生日だったりする。

関係ない話してすいません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/07(水) 01:14:07.50 ID:sh9gReb5o<> 謝るならやるなよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/11/09(金) 03:05:15.00 ID:Q7aa3vP0o<> >>1です。

すみません。
リアル事情で今帰宅し、これから投下するとなるとちょっとキツイので、投下は明日か明後日に時間が取れた時にしますね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage <>2012/11/09(金) 12:23:03.66 ID:xAxri3bJo<> いいよいいよ全然オッケー!

待ってるから! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:22:49.13 ID:sJoJtQ6Co<>
9月6日 月曜日


岡崎「…は? 放送部の部長と交渉?」

純「その通り。文化祭の成功には絶対に必要なことなのよ」


夏休みもあけて数日が過ぎた昼休み。

飯を済ますと俺と春原は教室を抜け出して音楽室に行こうとした。

夏休みが明けてから、午後の授業はさぼって音楽室で楽器にふける…というのが俺と春原の習慣になりつつあったのだ。

が、本日のその行為は鈴木によって待ったをかけられた。


憂「文化祭の成功に必要って…どうして?」


鈴木の隣にいた憂が不思議そうな顔で尋ねる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:25:44.09 ID:sJoJtQ6Co<>
純「梓と先輩達の代は楽器が皆上手かった。話題性もあった。全員にファンがいた。なにより澪先輩、かっこよかった。…つまり、ライブが盛り上がるのは必然だったの。けど、私達はそうはいかないじゃん。新人けいおん部なの。小細工が必要なの」


岡崎「小細工…ね」


鈴木の言いたい事は、わかる。

去年までこの高校にいたけいおん部五人組の話はこのクラスの生徒に聞いても、誰もが何かしらのエピソードを語ってくれるだろう。

それほど、有名で、人気があったようだ。

そんなちょっとしたアイドル(梓は除く。あんな人に媚びない真面目の虫みたいなのはアイドルなんかじゃないだろ)だった彼女達が、文化祭でライブをやるとなれば、それはそれは盛り上がったんだろうな。


そして、今年。

メンバーが梓だけになり、そこからたて直されたけいおん部ときたら……。


岡崎「……」


俺は、頭の中で今のけいおん部メンバーを思い浮かべてみた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:26:36.58 ID:sJoJtQ6Co<>
憂は…

見た目もいい。歌も上手い。

創立者祭で憂の歌を聞いてくれた生徒は文化祭も見に来てくれるだろう。


鈴木は…

交友関係が俺の何倍も広いだろうし、女子生徒の呼び込みもするだろう。


斉藤は…

…見た目に関しては多分、トップレベルだし、一年のアホな男共はきっと舞台姿を見に来てくれるだろう。

奥田は…

まぁ…兄弟とか、親御さんを客に連れてきてくれるだろう。


…あれ。

客は結構集まりそうだな。


けど…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:27:51.60 ID:sJoJtQ6Co<>
春原「何?ジロジロ見ないでよ」


今俺の隣にいる馬鹿と、そして、俺。

アホが二名。



岡崎「ふと思ったんだが…」

梓「なに?」

岡崎「……」


俺と春原がいたら、盛り上がるものも盛り上がらないんじゃ…。


と、言おうと思ったが、そんな言葉はぐっと飲み込んだ。


岡崎「今のままじゃ…盛り上がる気はしないな」


なので、そう言った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:29:39.14 ID:sJoJtQ6Co<>
春原「高校生なんてドラムの音鳴らしてギターをオーバードライブでギュインギュインしてればノってくれるんじゃないの?」


ただ騒ぎたいだけの奴らは確かにのってくれるかもだが。

でも、映像で見た去年の先輩方のライブほど盛り上がるきは全くしない。


岡崎「そう単純なものじゃないだろ。上手く演奏するのは当然として、プラスのファクターがいくつかないと、去年の先輩達のライブ程、盛り上がらないんじゃないか」


純「そゆこと。このまま文化祭までを練習だけして待つってのはナンセンス。そういう訳で、まずは放送室いって、二年の部長君にこのCDを渡すわよ」


そう言って、鈴木は先ほどから手にしていた一枚のCDケースを宙に掲げた。


春原「何が入ってるのさ?」

純「ん…」


鈴木が春原にケースを渡す。


春原「……」


春原はつまらなそうにケースを見て言った。


春原「これ、僕らがライブでカバーする曲が入ったCDじゃん」

純「そ。文化祭まで定期的にこれを昼休みに流してもらうのよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:31:18.83 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「……」

岡崎「それが盛り上がる事にどう繋がるんだ?」


梓「あっ。私、わかった」

岡崎「……何がだ」


俺には訳がわからん。


梓「私達がライブでやる曲の知名度を少しでもあげようってことでしょ」

岡崎「……?」

憂「…ライブの時に、『あ、この曲知ってる!』って気持ちをより多くの人に知ってもらおうって事?」

岡崎「あ〜…。なるほど。知ってる曲のほうがノりやすいもんな」


そりゃ、立派な小細工だ。

ヘビーローテーションっていうんだっけか。

でも、効果はありそうだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:32:10.86 ID:sJoJtQ6Co<>
純「という訳で、岡崎。ついてきなさい」


鈴木はCDケースを春原からバシッと奪うと学生鞄にしまい、俺に背を向けるとそう言った。


岡崎「…何でだよ」

純「あんたの不貞面もたまには役立ててもらわないとね」

岡崎「役立てるってどういう意味だっ!…後、不貞面言うな」



………

……





岡崎「お前、二年の放送部の部長だな?」

部長「は、はぁ…」


結局鈴木に連れられて、放送室までやってきた。

中には部長と思われる二年生が一人でいたので早速交渉を開始したという訳だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:33:22.86 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「なぁ、頼みがあるんだ」

部長「な、なんです?」

岡崎「このCDをな。文化祭まで月曜と金曜の昼休みに流してほしいんだよな」


俺は鈴木から受け取ったケースを部長の手に無理やり乗せた。


部長「そ、そんな事急に言われても……」


いきなり上級生に無茶を言われ、困っている。

が、許せ、部長。

俺にはそんなの関係ない。


岡崎「なあ、頼むよ」

部長「あの……なんでですか?理由もなく…」


岡崎「やってくれるよな?」


秘儀、

質問には答えず、

理由も話さず、

態度で押し切る。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:36:00.15 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「なあ、これだけ頼んでも駄目か?」

部長「……」

部長「…わかりました」


ごめんな、部長。

俺にだって、悪気はないんだ。

恨むなら入り口に突っ立っている後ろのぼんぼん頭にしてくれ。



岡崎「悪いな、助かる」


これで、俺の仕事も終わりだ。

俺は後ろを向き放送室の入り口へと歩いた。



岡崎「こんなんでよかったのか?」


純「岡崎ナイス。……部長君、ごめんね♪」


岡崎「…お前、いい性格してるのな」



…こうして、光坂高校の昼休みには、定期的にとある二曲の懐メロが流れる事が決まった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:40:11.85 ID:sJoJtQ6Co<> ________

9月7日 火曜日


………

……





教師「なぁ岡崎。もっと……お前向きの高校。あるんじゃないか?」


…クラスの教師が面倒くさそうな顔をし、太い声で俺に言った。

放課後、生徒相談室に呼び出され、何の話かと思い来てみれば、案の定、高校進学についての話だった。


教師「…バスケが出来ないなら…わざわざ進学校に行く意味なんて…」


黙れよ。

好きでこんな肩になったんじゃない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:42:19.40 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「……俺向き…ですか」

岡崎「……なんですか。それ」

教師「……」


黙ってんじゃねえよ。


岡崎「…はは、喧嘩するような奴らばっかのとこにでも、いけって言うんですか」

教師「それは……」


何、困ったような顔してんだよ。

こっちの方が、よっぽど困ってるんだ。


岡崎「俺向き…か。それ、どこですか。あるなら…教えてほしいですね」

教師「…岡崎、道は色々あるということだ」


…道?こんな右肩の俺に?

もう…二度と上げることのできない、この腕に?

何の可能性が?

どんな道が残ってるんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:43:14.68 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「その色々な道の中から、やっぱり光坂高校がいいって思ったんですが」

教師「…なら。あの場所に相応しい生徒になりなさい。あそこはお前見たいな生徒が…」

岡崎「……」

岡崎「…今、なんつった」

教師「はぁ……。お前はもう、俺の知ってるバスケ部部長の岡崎じゃないな」



教師「私も細かいことは知らないが……。その口のきき方が、もう駄目なんだ、お前は」

教師「お前に、あの高校は…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 13:55:40.67 ID:sJoJtQ6Co<> ___________



岡崎「…はあっ!!……はぁっ!!」


岡崎「……はぁ…。…はっ……」


…なんで、今更あんな夢を。


岡崎「……はぁ……はぁ」


…全身が汗でびしょびしょになっていて気持ち悪い。

9月の前半だからか、まだ蒸し暑さは残っていて、そのせいで、体全体の調子が余計に悪くなっている。


岡崎「……なんて夢だ。…くそ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:00:13.89 ID:sJoJtQ6Co<>
あの時、俺は腐っていた。

何もかもが、ウザかった。

教師も、バスケ部の俺に同情的な視線を送る元仲間たちも、マネージャーも…。

……俺を、息子扱いしなくなった、父さんにも。


岡崎「…ギターでも、弾くか」


時計を確認すると丁度6時だ。


学校に出発する時間にはまだまだ早い。


岡崎「……♪」


ギターを優しく奏でる。

部屋が、音に包まれる。

世界に、光が灯る


岡崎「果てしない闇の向こうに……♪」


岡崎「……♪」


岡崎「手を伸ばそう……♪」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:09:45.12 ID:sJoJtQ6Co<>
家でギターを弾くと、つい歌ってしまう。

でも、それが俺の心をより落ち着かせてくれるんだ。


岡崎「誰かの為に生きてみても……♪」

岡崎「……♪」

岡崎「Tomorrow never knows……♪」


……あの頃の俺とは違う。

俺は、もう腐らない。


………

……




憂「あ、おはよ」

岡崎「…ん」

純「今日は早いじゃん」

梓「……」


教室にいつもより早くやってくると、もう来ていた3人組がこちらを向いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:15:49.96 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「…まあな」

梓「朋也がこんな時間にくるなんて珍しい。雪でも降るのかも」

純「あははっ…言えてる〜。どしたの?珍しいじゃん」

岡崎「……」

岡崎「夏に雪は降らないだろ。…馬鹿じゃないのか?」

梓「……」

純「……」



梓&純「軽音部の女子に朋也(岡崎)よりバカはいません」


岡崎「…ふん」


そんなやり取りをしてるうちに、朝の胸糞悪さは消えていった。


だから、最近の学校が、俺は好きだった。

…こんなやり取りができるから。

嫌なことがあっても、忘れることができるから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:18:06.38 ID:sJoJtQ6Co<> __________



http://www.youtube.com/watch?v=2xDo4JqgHwM&feature=relmfu



岡崎「……♪」

春原「……♪」






午後の音楽室に、優しく緩やかなギターの音色が流れ始め、それに合わせて軽くドラムの音が重なって行く。


『風のアルペジオ』


ギターの難易度は中々だが、一度弾けるようになると、暇になるたびについつい弾き始めてしまう。

そんな曲。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:22:08.93 ID:sJoJtQ6Co<>
8月の後半に、芳野さんにとある曲の練習を命じられ、

俺と春原はひいひい言いながらもの課題曲の練習を最近はこなしていた。

が、その曲が中々に激しいのでたまにこういう曲を弾きたくなるんだ。

春原はゆっくり過ぎてつまらない。

なんて言っていたが、俺がこれを弾くとあいつもなんだかんだで合わせてドラムをたたく。

ギターの音にドラムの音が重なる瞬間が、俺は好きだった。

メロディに重みが、ノリのよさが、さらに出るから。


春原「……♪」

岡崎「へへ……♪」



一緒に楽器をやるってのは、やっぱりいい。

相手が春原ってのはあれだが、それでも、一人でやるよりも、ずっと楽しい。

最悪な目覚めを今朝は迎えたものの、学校にきて、教室に入ればもうそんな気持ちは吹っ飛んでいった。

かすかに残った胸のモヤモヤも、こうして楽器のメロディに身を任せれば、自然と消えていってくれる。


岡崎「……♪」


穏やかな時間を、俺は過ごしていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:25:41.32 ID:sJoJtQ6Co<>
………

……




梓「へぇ…いい曲弾いてるね」


岡崎「ん……やっと来たか」


放課後になりしばらくすると梓たちもやってきた。


…俺と春原は今日、午後の授業をさぼってここに来ていた。

そのせいか、梓は少し不満そうな顔をしている。


梓「もう、練習熱心なのはいいけど、授業をさぼってまでやれだなんて言ってないよっ」

岡崎「細かい事は気にするな」

憂「二学期になってから毎日午後の授業はさぼってるけど…卒業は平気なの?」

春原「よゆーよゆー。一学期真面目に通ったおかげで卒業は決まったようなものだからねっ!」

純「あんた達が赤点取らなければ…だけどね」


鈴木が皮肉たっぷりに言ってきたが、テストは何とかなるだろう。

多分。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:27:15.75 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「……」


チラリと憂の方を見た。


憂「…どうかした?」


岡崎「頼りにしてるからな」


憂「?」


二学期も、平沢にはお世話になりそうだ。


……いつか、家庭教師代でも払おうか。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:31:40.28 ID:sJoJtQ6Co<>
………

……




直「それじゃ…流します」


俺はギターを構え、ピックを持った。



岡崎「いつでもいいぞ」



春原「僕もオーケー」



ドラムスティックを握り、春原も臨戦態勢を取った。




しばらくすると斉藤と奥田がやってきたので、俺は奥田にあらかじめギターとドラム以外の音を打ち込ませておいた、「Rusty Nail」という曲を大音量で音楽室に流すよう指示した。




……夏休みが明ける前のとある日、俺と春原は芳野さんにこの曲の練習をすることを命じられた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:34:10.88 ID:sJoJtQ6Co<>
…以下回想。



芳野「お前ら、X JAPAN は知っているな?」

芳野「Rusty Nailを10月までに完璧に弾いて俺に見せろ。それが出来れば一人前だ」



Rusty Nai……説明は以下ウィキペディアより。

「Rusty Nail」(ラスティ・ネイル)は、
日本のロックバンド、X JAPANが1994年7月10日にリリースした10枚目のシングル。
バンド初のオリコンシングルチャート1位を獲得し、セールスとしては「Tears」に次ぐバンド2番目の売り上げとなった。
同チャートの集計上非常に不利な日曜日(通例では水曜日)発売であるにも拘らず発売週のチャートで1位を獲得していることから、同デイリーチャートの集計から見れば実質1 - 2日で週間1位を獲得したことになる。
さらに翌週のオリコンチャートにおいても1位を獲得し、バンド最多となる2週連続のオリコンチャート1位を記録した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:35:48.29 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「Xジャパンって俺のイメージじゃ、とんでもなく難しくて、初心者が弾ける曲じゃないと思うんですが…」

芳野「俺はハードな曲をやれと言っている訳じゃない。今のお前らが死ぬ気でやればできるようになるレベルの曲を提案しただけだ」

春原「確かに、あの曲のドラムはそんな難しくないと思うけど…」

岡崎「そりゃギターだって単純なリフの部分とかならすぐに出来ます、でも、あの曲のソロって俺が出来るレベルじゃなかったと思うんですが」

芳野「一日5時間も練習すれば一カ月でどんな曲でも出来る」


岡崎「……」

春原「……」


芳野「まぁ、そういう訳だ。期待してるぞ、お前達」


…回想終わり。


そんな経緯で俺と春原は8月の後半からはもっぱらラスティネイルの練習をしていた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 14:36:49.61 ID:J1ZCBKRMo<> こんにゃくのBGM良いよな
風のアルペジオは特に好きだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:37:04.38 ID:sJoJtQ6Co<>
直「それではシンセとノートパソコンをアンプに繋いで……」


奥田は音楽室に自分のシンセとパソコンを持参している。

パソコンの中には色々な音楽のソフトが入っており、それらを使ってあいつは作曲をしているのだ。

そして、あいつのパソコンやシンセを専用のシールドを使い、アンプにつなげると、あいつの打ち込んだ音が音楽室に響き渡る。

それに合わせて俺と春原は楽器を弾き、練習をするのだ。


直「始めますっ!」

春原「よっしこいやぁっ!」



http://www.youtube.com/watch?v=IXvreqrrh3o <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:38:11.22 ID:sJoJtQ6Co<>
ラスティネイルのリズミカルなチェンバロ音のシンセが流れ始めた。

始めはこのシンセの前奏からはじまり……


岡崎&春原「…せーのっ!!」


そこに、春原と共にギターとドラムをシンクロさせて一気に音を乗せる。


岡崎「へへ……」


…この瞬間は何度やってもたまらない。

最高だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:46:51.01 ID:sJoJtQ6Co<> ______________


9月13日 月曜日



憂「な、なら…キスしてあげようか?」


放課後の音楽室。

憂は顔を赤く染めるとちょっと下を向き、そんな提案をした。


岡崎「キス?…ああ。それ、ちょうだい」

憂「…キスだよ?」

岡崎「…くれないのか?」

憂「……」

憂「ママにしてもらった事ないの?」

岡崎「ママは、昔からいないんだ。ほら、はやく」


俺は、右手を憂に差し出した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:48:05.38 ID:sJoJtQ6Co<>
憂「え、えっとね……手に乗せられるものじゃないの。…ちょっと横を向いて」


彼女ははぁ…っと息を深く吐き、落ち着かない様子で俺に言う。


岡崎「……ぅ」


岡崎「……こ、こう?」


言われたとおりに横を向く。

憂はゆっくりと俺に近づいてきた。

すると、彼女の呼吸の音や、女の子特有の匂いが段々と…俺に近づいて……


憂「……ん」

岡崎「……ぅ」


近づいて……


憂「……ん(ぷるぷる)」

岡崎「……ぅ」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:49:10.69 ID:sJoJtQ6Co<>








梓「だ、駄目ぇぇぇえぇぇっ!!!!!」





こなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:52:17.01 ID:sJoJtQ6Co<> _____________



純「カット!!カットカット!!…なにやってるのティンカーベル!!」

春原「そうだそうだ!嫉妬する場面ではあるけど喋ってどうするティンカーベル!!」

梓「だ、だってぇ……っ!! そもそもっ! 劇とはいってもよくないっって、こういうのはっ!」




…先ほどまでの、静寂に包まれた音楽室はどこかにいき、場は俺達のクラスメイトの罵声や、歓声に包まれた。


女生徒1「梓っ!…こういうのって…なに?」


ニヤニヤと同じクラスの女子が梓に話しかけた。

…ちなみに現在の音楽室の総人口、25人。



梓「ふ、不純異性交遊にあたること全般っ……」

純「不純異性交遊ってなんですかー?」

梓「…純、怒るよ?」

純「もう怒ってるじゃない」




菫「今日は賑やかですね〜」

直「…びっくりです」


先ほどから音楽室はワイワイガヤガヤと多くの生徒たちの話声で溢れかえっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:53:18.55 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「…なぁ、やっぱ無理だって、これ。俺がピーターパンとか子供の夢をぶち壊す気かよ」

純「そんな事ないって!…あんた、顔だけは割と整ってるんだから、こういう時に使わないでいつ使うのよ」

男委員長「岡崎、俺達が相手をするのは大半が刺激がほしいだけの高校生だ」

女委員長「こういう場面やってけば『ひゅうーっ』みたいな声も上がるし受けがいいの」


教室から面白半分で劇の練習を見に来た外野共が茶々をいれてくる。


くそぅ…。



岡崎「俺は客寄せパンダなんてごめんだっ!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:54:51.35 ID:sJoJtQ6Co<>
梓「…そもそも、何で私がティンカーベル?」

純「だって、梓小さいから…」

梓「人が気にしていることを……はぁ…」

梓「でも、あんまりだよ…。私あんな悪い子じゃないもん」

岡崎「…手のひらサイズになれない以上、誰がやっても無理はあると思うが……」

さわこ「あらあら、いいじゃない。私は面白い物見れそうで楽しみよ」

梓「先生…他人事だと思ってませんか?」

さわこ「そんな事ないわよ。あなた達の衣装は私が作るんだから」



菫「先輩達の演劇、楽しみにしてますね!」

直「配役はグッジョブと言わざるをえません」


岡崎「……そもそも、どうしてこうなったんだ」


話は数日前にさかのぼる…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:56:25.34 ID:sJoJtQ6Co<>
______

9月10日 金曜日


文化祭まで2カ月近くとなり、クラスでの出し物を決める事になった、とある平日。

ライブに向けて俺と春原は練習に入り浸り、クラスの出し物の事は何一つ気にしてなんかいなかったのだが……

それは文化祭の詳細を決めるRHRの事だ。

授業がつぶれ、文化祭に興味のある生徒は黒板の前に集まり、興味のないものは受験に向けて勉強をしていた

俺と春原はどちらにも所属していないので教室の隅で楽譜を見てうんうんうなっていたのだが……。


憂「2人も話に参加しようよ」


と憂がこちらに介入してきた。


純「そこの馬鹿2人もクラスに貢献してよね〜」


続いて鈴木も話しに入ってくる。

前ほどクラスは俺と春原に冷たくはない

が、それでも自分達からクラスの行事に積極的に参加するような思考は俺達にはなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 14:59:51.00 ID:sJoJtQ6Co<>
そもそも…


岡崎「んな事言われても、演劇なんて興味ないしな」


文化祭といえば演劇は定番だ。

だが、創立者祭を休憩所なんかにする程やる気のないのがこのクラスである。

勿論始めは文化祭も休憩所をやるつもりだったのだが…。


幸村「……却下じゃ」


三年生の出し物だというのに、創立者祭は休憩所にしたことが幸村のじいさんをひどく悲しませたようだ。

そのため、文化祭には力を入れろとの言葉を頂いてしまったわけだ。



憂「でも、ピーターパンっていい題材だと思わない?きっと面白いよ」

岡崎「ピーターパン……ねえ」

憂「…知らないの?」

岡崎「いや、知らないやつなんざいないだろ」


誰もが子供のころに一度はビデオやDVDで見るだろう。

ピーターに連れられて、ネバーランドへとやってきたウェンディとその弟達の冒険物語。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:02:12.56 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「ま、どうでもいいな。参加するつもりもないし」

純「あんたらは暇なんだから何かやった方がいいと思うんだけど……そうだっ!」


鈴木がニヤニヤと微笑みを浮かべて声をあげている

…嫌な予感がした。


純「委員長っ!ピーター役は岡崎にしてっ!!」


…どうして嫌な予感ってのはこうも当たるんだ。


岡崎「鈴木っ!なに勝手なことを……っ」

男委員長「岡崎か。 んー……ま、お前には確かにお似合いだと思うな」

岡崎「…どういう意味だこら」

委員長「では推薦で岡崎君がピーター役になりました。クラスの皆さん。異論ありますか〜?」

岡崎「なっ?おいっ!!」


クラスはシーンと静まっている


(主役なんて誰がやるかよ……)

(大体俺ら、受験で忙しいし……)

(なんか最近大人しいみたいだから岡崎におしつけちゃおうぜ)

(賛成だ)


岡崎「お前ら、聞こえてるからなっ!」


皆、俺に押し付ける気満々のようだ。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:03:12.00 ID:sJoJtQ6Co<>
女委員長「それじゃ、ピーターは岡崎君でいきましょう」

岡崎「ちょっと待ってくれよっ!…大体俺は文化祭にやらなきゃいけない事が……」


助け舟を期待してチラッと梓の方を見る。


岡崎(助けてくれよ梓…俺らは練習しなきゃでそれどころじゃないだろ…?)


我ながら情けない心の声だった

…が


梓「……ふふ」


あ、駄目だ。

嫌な予感、しちまった。


梓「似合うんじゃない?」

岡崎「ぐっ……」


返ってきた言葉は予感通りのものだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:03:53.01 ID:sJoJtQ6Co<>

岡崎「う、憂!お前ならわかってくれるよな…?」

憂「うーん…」

憂「……」

憂い「ごめんね、朋也君のピーターパン、ちょっと見てみたいかな」


ペロッと舌を出して謝られてしまった…。

くそぅっ…

可愛いじゃねえか……っ!。



岡崎「な、なら春原!」


俺たちに演劇なんてやる暇はないよな…?

お前なら否定の意見を…。


春原「はは、ピーターパンとかお似合いじゃん。あいつ、人魚にインディアンにティンクにウェンディと随分たらしこんでたし」




岡崎「どいつもこいつもブルータスっ!?」



岡崎「てか、俺はたらしなんかじゃねえぇっ!!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:04:40.90 ID:sJoJtQ6Co<>
………

……




そして、場所は変わり音楽室。


菫「ぷっ………ぷぷっ!…先輩がピーターパンっ!?」

さわこ「ぷっ……あははっ!!」




岡崎「笑うなよ……」

さわこ「ごめんごめん…でも、あんた本当に丸くなったわね。一年前からしたら信じられないくらい」

岡崎「…ふん」

さわこ「それにしても、梓ちゃんがティンカーベルなんてね…。それに、ウェンディが憂ちゃんって」


そう。

俺がピーターパンに決まった後、教室では続く役決めが行われ、その結果…。


憂→ウェンディ

梓→ティンカーベル

俺→ピーター


のような配役となった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:05:38.34 ID:sJoJtQ6Co<>
梓「主役がこの部に集中してるなんておかしいです。先生」

さわこ「あら、私としては面白いからいいけど。これは、衣装も私が作るしかないわね」

梓「……」

梓「な、なるべく可愛いのでお願いします」


純(地味にノリノリじゃん)





…回想終わり。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:07:28.16 ID:sJoJtQ6Co<>
憂「…ね、ねえ、最初のキスだけど、原作、ここでキスはしてないよ…。…いくらほっぺだからって…ちょっと恥ずかしい」


顔を赤くして台本に文句を言う憂。

…ごめん。俺、実はちょっとドキドキしてた。


岡崎「にしても…誰だよこの脚本書いた奴は」


俺の知っているピーターパンとはところどころ違う部分が見受けられる。

おそらく演劇の45分という制限時間のために、客にとって都合のいい場面を集めて改良したと思われる、俺にとっては都合の悪いようないいような、そんな脚本。

一応、ピーターパンの口調が俺のイメージにともない多少は男らしくなってはいて、少しだけ乱暴なキャラになってるのもいいんだが…。


男委員長「いやー、結構いい空気出てたよ。お前達」

女委員長「ほんと、ほんと。…岡崎君、実はつきあいのいい人だったんだね」

岡崎「…からかうなよ。この暇人どもが…」

春原「でもさ、文句いう割には真面目にやってんじゃん。台詞も、もうほぼ覚えてるみたいだし」

岡崎「引き受けた以上、手を抜けないんだよ。…だから困ってるんだろ」


おかげで最近はギターの練習時間をこちらがわに取られている。

文化祭まではまだまだあるものの、芳野さんの課題などもあって、地味につらい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:09:47.55 ID:sJoJtQ6Co<>
さわこ「ま、何はともあれ楽しみね。ライブと同じくらい、期待してるわよ、あなた達っ!」


男子生徒「あ、そうか。お前らけいおん部だもんな。演劇終わった後にやるなら見に行ってやるよ」

女子生徒「今年は梓達なにやるの〜?去年までは先輩達と色々やってたけど……」

梓「今年はね……」



だが、クラスメイトとの交流は悪くないのかもしれない。

主演がけいおん部に固まった為、放課後の練習は音楽室を使う事になったのだが、そのおかげで文化祭のライブを早い段階から、同じクラスの連中に宣伝出来ている。

……俺と春原がけいおん部だという事に、今更ながら驚いている生徒達もいたが、三年になってからの半年近くで、悪評は大分緩和されてきているようで、以前のような見下げた視線はもう感じなくなっていた。

むしろ、俺達がどんな演奏をするのか逆に気になるやつらも多いようだ。


純「だー、ほら皆、ライブの話はまた後! シーン1の5まで今日はやるよっ! ほら、春原船長もスタンバイしろっ!」

春原「…了解。 スミ―」

純「演技中以外はその名前で呼ばないでよ。……はぁ、なんで私があんたの部下なのよぉ…」


…そして、フック船長と、その部下のスミ―までけいおん部であったりする。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 15:10:53.37 ID:sJoJtQ6Co<>
春原「ま、気落ちしてても意味ないし、演劇、やるだけやってやろうじゃん。…これを機に、僕のファンクラブとか出来るかもだしね」

岡崎「……お前の前向き思考、たまに羨ましいよ」

春原「憂ちゃん、攫う時、色々アドリブかますから期待しててねっ」

憂「えっ?…うん」

岡崎「……(ぼかっ)」

春原「なにすんだピーターパンっ!」

岡崎「余計な事はしなくていいからな、キャプテンフック」


………

……






憂「さあ、これで影が繋がったわ。立ってみて?」

岡崎「…くっついた。くっついてる、ありがとう、ウェンディ…」





純「カットカットぉ!!ピーターやる気出せっ!」

菫「憂先輩は頑張ってるんですよっ!岡崎先輩も頑張ってくださいっ!」

岡崎「だァっ!くそっ!やりゃぁいいんだろやればっ!!」





梓「……(ぶすっ)」



直(…梓先輩。…自然と仕草がティンカーベルになってる……。 面白い)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/11/10(土) 15:13:32.76 ID:sJoJtQ6Co<> ちょっと休憩します。

>>148

こんにゃくは名曲が多いよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/11/10(土) 16:02:03.17 ID:6IDIyIeAO<> こんにゃくはシナリオとシステムに感動した

あと戯画のバルドスカイダイブxに銀髪の六条がでると聞いて ワクワクしてたら……まあ可愛かったからいいけどな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:03:10.59 ID:sJoJtQ6Co<>
______________




岡崎「ようやくクラスメイト共が帰ったか…」


しばらく演劇の練習をすると満足したのか、クラスから音楽室まで見物しにきていた生徒達は皆帰宅した。

場にはいつものメンバーとクラス委員の二人が残っている。


男委員長「にしても、お前らチームワークいいな。正直、出し物が演劇に決まった時、あ、もうこのクラスじゃ出来っこないし終わった…とか思ってたんだけど…いやー、助かった」

女委員長「私達のクラス、団結力ないからね…。でも、憂と岡崎君ならうまくやってくれそうだし、他の面倒な役も全部けいおん部が受け持ってくれたし、これなら劇も上手くいきそうね」

純「あんた達、今面倒な役って言ったわね…」

岡崎「は…そこの委員長ども帰れっ!これから俺らはライブの練習するんだからなっ!」

男委員長「はは、悪い悪い。…しかし、あの岡崎と春原がライブとはね…」

岡崎「…なんだよ。…文句あんのか」

梓(朋也…本当口悪いな…)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:04:19.95 ID:sJoJtQ6Co<>
男委員長「いや、いい意味で驚いてるんだ。俺、去年もお前らと同じクラスだったけど、ほんと別人じゃんか」

春原「けっ。んなことねえよ委員長。そっちこそ勉強しなくていいの?」

男委員長「俺はもう推薦で大学決まってるんだよ。女委員長もな」

女委員長「伊達に真面目キャラやってないから」

梓「へー…二人ともすごい。…いいなあ」

純「私らは推薦取れるほどいい成績ではないしね…。演劇、ライブ、勉強と中々辛いわね」

女委員長「純もがんばって。応援してるね」

男委員長「何か悩みがあったら聞くぞ。委員長だからな」

春原「はっ。僕らは練習するの。早くあっちいけ真面目野郎ども」

男委員長「そうするよ。ライブも楽しみにしてるからな」

女委員長「梓達も頑張ってねー!」


男委員長「…あ、その前に、岡崎、春原、こっちこい」

春原「んあ?なんだよ…ったく」


音楽室の出入り口までいきようやく去ってくれると思っていたんだが……

男委員長はまだ話があるらしい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:05:24.40 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「…用件なら手短に済ませてくれ。いい加減練習したいんだ」

男委員長「ま、すぐ終わる話なんだけどな…」


男委員長に俺と春原は連れられて、音楽室の扉を出て廊下までやってきた。


男委員長「話ってのはだな……」

岡崎「なんだよ…やけにもったいぶるな」

男委員長「単刀直入に聞く。お前ら…、あの三人の誰かと付き合ったりしてるのか?」

岡崎「は…?」

春原「あー…なるほど、そういう事ね」


俺と春原を探るように見つめてくると男委員長は言った。


男委員長「…あの三人。…特に平沢さんと中野さんは……一年の頃から俺達男の憧れだったんだ」



岡崎「…だから、なに?」

男委員長「わかってないっ…何もわかっていないな岡崎っ!!」

岡崎「……」


うぜえ…こいつ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:06:30.00 ID:sJoJtQ6Co<>
男委員長「お前ら2人がけいおん部に入ったって聞いた時には三年の男共、顔には出さないが心の中では嫉妬の炎めらめらだったんだぞっ!?」

岡崎「訳わからん…。嫉妬してるくらいなら、入部すればよかったじゃねえか」

男委員長「だからお前は何もわかっていないんだ岡崎。いいかっ!?去年まで、この高校のけいおん部はある意味アイドルだったんだよ。男の憧れだったんだよ、光坂高校のAKBみたいなもんだったんだよ」

男委員長「ちなみに俺はまゆまゆが好きだ。けいおん部なら唯先輩が大好きだった。だが、それは今ではどうでもいい」


どうでもいいこと喋るなよ…。


男委員長「それがなんだ?あの4人の先輩達が卒業しちまって、中野さんが1人でどう活動してくのか不安に思ってれば、平沢さんと鈴木さんが入ったっていうじゃないか。カチカチ頭の男しかいないこの高校に、彼女達はまたも光を持ち込んでくれるというのかと俺は心弾ませた」

春原「ははっ。マリモがアイドルとかありえないだろ」

男委員長「てめえっ春原。お前も何もわかっていない」

春原「あん?何がだよ」

男委員長「鈴木さんはなぁっ!髪下ろせば普通に可愛いぞっ!…お前にはがっかりだ」

春原「…岡崎、僕、こいつ殴ってもいいですかね」

岡崎「待て、面白いからもう少し喋らせよう」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:07:04.82 ID:sJoJtQ6Co<>
男委員長「まぁ、だから、俺が言いたいのはな。そんな蝶よ花よと扱われていたけいおん部に彗星のごとく現れた野郎2人のイレギュラーが、けいおん部の、特に中野さんからどのように思われているのかを聞きたいんだよっ」

岡崎「…って言われてもな」

春原「僕、ドラム叩ける人」

岡崎「俺、ギターを弾ける男」

春原「そんな扱いしかされてないよ」

春原(…隣のやつはどうか知らないけどね)



男委員長「それだけ…なのか?」

岡崎「まぁ、多分」

春原「ノーコメント」

男委員長「そっか。よかった。お前らの魔の手が彼女達に迫ってなくて」

岡崎「人を悪魔みたいに扱わないでほしいんだけどな」

男委員長「……」

男委員長「この際だから、言っとくけどな」

男委員長「お前ら、彼女達のこと、あんまりなめないほうがいいと思うぞ」

岡崎「…どういう意味だよ」

男委員長「お前達が思ってる以上に、この高校のけいおん部はな……」

男委員長「ま、いいか。…ライブ本番になればわかるだろうし」

岡崎「…よくわからない奴だな」

春原「面倒くさいな。もう戻ろうぜ、岡崎」

岡崎「ああ…」

男委員長「それじゃ、お前ら頑張れよ」

岡崎「……ぼちぼちな」

春原「けっ、お前は帰れ帰れっ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:08:28.54 ID:sJoJtQ6Co<>
………

……




梓「……♪」



ガチャッと音楽室の扉を開けると梓の歌声が辺りに響きわたった。


梓「あ、戻ってきた」


どうやら、俺と春原を除く5人が文化祭でやるオリジナルの曲を合わせているところだったようだ。


岡崎「悪い、練習の邪魔したか?」

梓「ううん。丁度曲終わったとこだから。…委員長君、なんだって?」

岡崎「お前のこと、アイドルって言ってた」

梓「ぇ…ええっ!?」

岡崎「去年まで蝶よ花よと愛でられてたらしいな」

梓「…そ、それは多分…唯先輩とか澪先輩だと思う…」

岡崎「……」

岡崎「……俺も、去年までのお前らのライブ、見とけばよかったな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:09:09.52 ID:sJoJtQ6Co<>
純「ほえー…岡崎の口からそんな言葉が出てくるとは」

岡崎「変か?」

純「変っていうか……」

直「先輩、ここのとこ、やけに素直です。岡崎先輩のイメージじゃないです」

岡崎「奥田…。お前な、俺の事どんなイメージで見てたんだ」

直「女たらしのサークルクラッシャー……」

岡崎「ほぅ……」

直「ごめんなさい、嘘です……あ、いたたっ!サイコクラッシャーはやめてください……」

菫「ま、まあまあ先輩。…でも、直の言うとおり、先輩はひねくれてるイメージが強かったので、最近ちょっと変わったなって思います」

岡崎「あって間もないやつに変わったなんていわれてもな…」

菫「間もない…なんて事ないですよ〜。岡崎先輩とも春原先輩とも、なんだかずっと前からの友達みたいな感じがありますよ?」


友達…。友達みたい…ねぇ…。

それ、先輩としては駄目なんじゃないか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:09:59.68 ID:sJoJtQ6Co<>

憂「私も…なんだか、皆と会ってから半年しか経っていないっていうの、信じられないな」

憂「…こんなに楽しい日が毎日続くなんて、思わなかった」


胸に手をあてて憂はしみじみと言った。


梓「憂…」

憂「だから、けいおん部、入って本当によかったって思えるな」

梓「うい〜〜っ!!」


そんな言葉を聞けて、部長の梓は感極まったのか、憂に抱きついた。


憂「わ、わっ!梓ちゃん…お姉ちゃんみたいな事しないでよ〜」

梓「ご、ごめん…ちょっと感動して…」




梓「…それじゃ、皆。雑談もそろそろ終わりっ!楽器も気合いれて練習するよっ!」



一同「おおっ!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:11:06.58 ID:sJoJtQ6Co<>
_________________


そうして下校時刻のギリギリまで練習をし、6人で帰路につく。

…春原は坂を下りてすぐに寮があるため、もういない。

俺と憂は、皆よりも少し後ろを歩き、二人で話していた。


憂「今日も皆で頑張ったね…。合わせもほとんど完璧になってきたもん」

岡崎「…だな。はじめて数か月でも、毎日さぼらずにやってれば、意外と何とかなるんだな」

憂「朋也君、すごいと思う。お姉ちゃんもギターをはじめてすぐに上手になったけど、負けてないよ」

岡崎「…男だからな。手も大きいし、女の人に負けてられるかよ。…それに、俺は受験もないし、一つのことに集中出来るから」

憂「…後は、私のオリジナルだけだね」


そういえば、夏合宿の時に作るとか言ってたな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:11:57.92 ID:sJoJtQ6Co<>
岡崎「完成度…。どれくらいなんだ?」

憂「曲はもう殆ど完成してるんだ。弾き語りでなら発表出来るレベルなんだけど…」

岡崎「…何か駄目なのか?」

憂「ドラムとか、ベースとか、エレキギターの音をつけていくのが中々難しくて…」

岡崎「…なるほどな」

憂「でも、本番の二週間前には絶対に完成させるから」

岡崎「憂なら、絶対出来ると思うぞ」

憂「えへへ…。ありがとう、朋也君」


そして、数分歩くと皆帰る方向がばらばらのため、徐々に散っていく。

が、俺と憂の家は近い。

その為、皆で一緒に帰る時、梓や鈴木と別れてから、俺と憂は彼女の家に着くまでの10分間を二人でいつも歩いている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:16:47.80 ID:sJoJtQ6Co<>

岡崎「……」


カナカナカナカナ……

と、ひぐらしの鳴く声が町を包んでいる。

もう、9月だっていうのに、その声を必死に見知らぬ誰かに届けている。


岡崎「…何だか、嘘みたいだ」

憂「…何が?」


憂は優しく聞き返してくれた。


岡崎「今までの二年間だ。…こんなに楽しい事を、やれば出来たのに、俺はなんで腐ってたんだろうな」


憂「その二年間が嘘だったんだよ。…朋也君は、悪い夢から少しずつ覚めていっただけ」


岡崎「あの日から…、坂の下でお前と会ってから、俺の周りの世界が変わっちまった」


憂「世界が変わったんじゃないよ。朋也君が変わっただけ」


岡崎「……」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:22:49.34 ID:sJoJtQ6Co<>

岡崎「怖いんだ。楽しくて、嬉しくて、幸せな事だらけで。…こんなに沢山の、前向きな気持ちを享受してもいいのか、今でも、信じられないんだ…」


憂「二年間が酷かったから、その反動がきっと、今になってきてるんだよ」


岡崎「……」



なら、この楽しかった半年近くのつけが、いつか来てしまうんじゃないだろうか。

そう思えて仕方がないのは……何故なんだろう。


憂「朋也君、ご飯、うちで食べていく?」


岡崎「……」


岡崎「そうする」





ひぐらしの声が遠くなる。

少しずつ、ゆっくりと、小さくなっていく。


晩夏も過ぎ去っていき、季節はやがて秋を迎えた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/10(土) 16:29:08.84 ID:sJoJtQ6Co<> 今日はここまでです。

次は…木曜日の深夜あたりになりますね。


それと、予告です。

次の次か…

もしくは次の次の、そのまた次あたりの投下で、この話の中で二度出てくる選択肢のうちの一回目を安価で選んでいただこうと思ってます。

では、読んでくれた方、コメントくれる方、いつもありがとうございます。

来週に会いましょう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/11/10(土) 16:31:41.74 ID:6IDIyIeAO<> 乙

先に言っておくが 俺は梓を選ぶ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 16:32:54.77 ID:bPsQtSIIO<> 乙

なら俺は憂を選ぼう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 16:33:37.92 ID:2/x9Aaf+o<> 安価好きじゃねーけど書き手に任せるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/11/10(土) 16:50:05.27 ID:qYuQVzgno<> 乙
せっかくだから俺は梓を選ぶぜ

ミスチルイイですね。最近はコブクロと一緒によく聞いてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 16:50:20.84 ID:wMt/5Boeo<> 乙
ならば私も憂を選ぼう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 17:01:58.51 ID:IXwvPEdUo<> 安価と言わずに全部書いて良いんだぜ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 17:34:21.91 ID:uRg6ZF/K0<> 乙。
僕も憂を選ぼう。

どうでもいいが、男委員長の台詞が梶裕貴の、女委員長の台詞が茅野愛衣の声で脳内再生できるな。

あと、菫の声に相応しいと思うのは、戸松遥と花澤香菜、どっちかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 17:49:57.81 ID:SHQtKLvIO<> 菫ちゃんの声は花澤さんで再生してます(キリッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 17:52:59.07 ID:KE97dnf7o<> くっさ!声豚やんけ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/11/10(土) 17:56:11.76 ID:qYuQVzgno<> いかんのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/10(土) 18:22:56.18 ID:oWjOFAU0o<> 脳内再生だけしてわざわざ書き込まんでええやん <> zx<><>2012/11/10(土) 22:43:35.54 ID:kVVEbsJk0<> どう考えても梓!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/11/10(土) 22:45:32.72 ID:Tfqn6qe/o<> 憂ちゃんの方が幸せになれるだろjk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<><>2012/11/10(土) 22:54:27.87 ID:kVVEbsJk0<> 俺も梓を選ぶ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2012/11/11(日) 02:52:44.22 ID:gyV15ROAO<> 乙です!
梓に清き一票を捧げまする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 06:18:02.54 ID:Z6fHOLWDo<> う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 06:18:58.80 ID:7tp4Atkzo<> い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/11/11(日) 08:16:28.41 ID:6QtXJm1AO<> どう考えても憂ちゃんの方があらゆるスペックで勝ってるのに梓ちゃん選ぶ理由ってあるんですかねぇ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 08:55:47.39 ID:QE8hErxFo<> けい豚気持ち悪いやつしかいないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2012/11/11(日) 11:39:05.32 ID:gyV15ROAO<> 何か必死な人が多いですね^^) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<><>2012/11/11(日) 18:32:39.91 ID:EczSA0Wq0<> スペックが高い女と好きな女って聞かれたら好きな女!って言うだろう?それと同じさ

気持ち悪いって言ってる人あんたから見ればそうだけど、いちいち書き込まなくていい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/11(日) 18:35:12.81 ID:e7MiiBHSo<> もうみんな書き込むなよ
荒れるだけだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/11(日) 18:45:41.52 ID:TFckFr7Po<> そうだな、争って喜ぶ人はいないな

まあその思いは安価の時までとっとくって事で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/11/12(月) 19:19:45.30 ID:B7DQnx2AO<> 両方ではいかんのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/11/13(火) 23:16:34.79 ID:ypiEpu9Q0<> お前たちが俺の翼だ方式ですね分ります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/11/13(火) 23:21:36.76 ID:4OF+iDtqo<> 確かに中の人同じだけれども <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/11/13(火) 23:41:07.88 ID:cO5Amp0AO<> これは 両方書いてもらうしかないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/14(水) 00:04:55.66 ID:mI6QH10zo<> モップとトンちゃん両方攻略するしかない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/11/14(水) 01:40:16.16 ID:uNOgJAHWo<> じゃあ俺は唯を頂こう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/14(水) 15:15:05.51 ID:bKz5wFVko<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/16(金) 00:47:29.83 ID:LFPcmdzIO<> 携帯から>>1です

NTTの料金の支払い忘れててPCがネットに繋がらなくなったでござる。

明日には復旧すると思うんでしばしお待ちくだせぇ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/11/16(金) 01:02:30.02 ID:vdH+LA9q0<> どっちも好きだから選べ(ヾノ・∀・`)ナイナイ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)<>sage<>2012/11/18(日) 15:40:31.38 ID:9e3zQAQio<> はよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:55:33.95 ID:6R6JACIio<> だいぶ遅れましたね。

すみませんでした。

NTTの9月の支払いすっぽかしによってネット打ち止め→9月の振込用紙なくした→電話対応→リアル事情もろもろ

それでは、投下していきますね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:56:45.44 ID:6R6JACIio<> ____________

9月23日 木曜日 秋分の日


芳野「岡崎、今日はここまででいいぞ」

岡崎「本当ですか…?」


夏の蒸し暑さも過ぎ去り、暑くもなく寒くもない、そんな過ごしやすさが心地よい、とある祝日。

俺は芳野さんと共に朝から労働に勤しんでいた。

のだが、太陽がちょうど俺たちの真上にきた時間になると、芳野さんからはそんな言葉が飛び出した。


芳野「ああ、祝日にシフトを出してもらっていたのに、悪かったな」


夏休みがあけても俺は週に3回はアルバイトに入ることにしていた。

学校に通い、部活に励んでいるとバイトもなかなか辛く、これくらいが俺にとっては限界だ。

だが、今日のような祝日に、俺が出勤のシフトを出していたのにはワケがある。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:57:25.91 ID:6R6JACIio<>
最近、芳野さんの職場ではお得意様からの請負作業の納期が迫っているようで、俺のようなバイトのぺーぺーにも仕事はたくさんあり、芳野さんと組んでそれを一つ一つ片付けていた。

だからこそ、せっかくの祝日も返上して朝早くから勤労に励んでいたのだが…。


岡崎「あの…。俺、平気ですよ? 納期迫ってるみたいですし、まだまだ手伝います」

芳野「岡崎…実はだな」


芳野さんは少し困ったような顔をして俺に言う。


岡崎「なんですか、もったいぶらないでくださいよ」


芳野「俺とお前の分の仕事はもう終わったんだ」

岡崎「……」

岡崎「え、本当ですか!?」

芳野「ああ、思ったよりも、2日は早く片付いた」

岡崎「そうですか…。 あ、それならこれからスタジオ行きませんか? 俺、ラスティネイルはソロ以外もう弾けるようになったんですよ」


二日って相当だ。

なら、芳野さんも暇になるだろうし、せっかくなら練習を見てもらおう…なんて思ったのだが…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:58:22.06 ID:6R6JACIio<>
芳野「いや、俺はこれから仲間の元にいって、手伝ってくる。 アルバイトのお前はもう、ここまでで平気だ」


帰ってきた言葉は俺の期待とは違い、立派な社会人のそれだった。


芳野「明後日のバイトはそういう訳で、無しだ」

岡崎「そうですか」

岡崎「……」

岡崎「あの、俺、役にたってますか?」

芳野「お前、何言ってるんだ?…さっき、俺の仕事は予定よりもずっと早く終わったっていったろ」

岡崎「だ、だって…それは芳野さんの仕事が早いからで……」


仕事中、俺は足をひっぱっていないか、ずっと不安だった。

芳野さんはテキパキとやるべき事をこなしていたのに対し、俺は何度も何度も怒鳴られながら、それを必死にサポートしていただけだ。


芳野「お前のおかげでこれだけ早く終わったんだ。胸をはれ、岡崎」

岡崎「ぁ……」

岡崎「…芳野さん。ありがとうございますっ」

芳野「車に乗れ。 家まで送るぞ」

岡崎「あ、それなら学校に送ってもらってもいいですか? 音楽室に、まだ誰かいると思うんです」

芳野「わかった。 練習、しっかりしておけよ」

岡崎「はいっ!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:59:05.07 ID:6R6JACIio<> _________


岡崎「よう」

春原「あれ、今日はバイトって言ってなかった?」

岡崎「色々あって、今日は早くあがれたんだ。…あの三人は?」


音楽室に来たものの、春原と奥田、斎藤の3人の姿しか見当たらない。

休憩時間にしてるのか、春原は床に寝そべっていて、奥田と斎藤はテーブルに座って紅茶を飲みながら話していた。


直「梓先輩たちは、模試があるようで、午後になったら帰っちゃいました」

菫「受験、やっぱり大変そうです…」

岡崎「そっか…」


4人だけの音楽室はいつもよりも、広く感じる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 00:59:52.13 ID:6R6JACIio<>
ふと、夏休みに斎藤の言ったことを思い出した。


ここから、俺たちはいなくなる。

そしたら、奥田と斎藤は、来年たった二人になってしまう。

新入部員も二人は入れないと、廃部になってしまう。

大丈夫、なんだろうか。

こいつらは。


直「あ、そうだ。岡崎先輩、このCDを受け取ってください」

岡崎「…何が入ってるんだ?」

直「憂先輩のオリジナル、完成したので聞いておいてください。楽譜はまた今度渡しますので」

岡崎「…完成したんだな」

直「とても作曲未経験者とは思えない出来の曲なので、しっかり練習しないと弾けません。頑張ってくださいね」

岡崎「忠告サンキュな。…ま、帰ってから聞いて、できるとこは練習してみるよ」


カバンに奥田から受け取ったCDケースをしまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:00:31.25 ID:6R6JACIio<>

菫「せんぱいせんぱい♪…歌詞もしっかりと聞いてくださいね」

岡崎「歌詞?」

春原「あー、岡崎が聞いたとこで意味ないと思うけどねぇ…」

菫「そうでしょうか…」

岡崎「?」

岡崎「まあ、なんにしろ、帰ったら聞いてみるよ」

岡崎「…この曲完成させれば、後は文化祭でやるだけだしな。気合、いれてやるさ」


そして、未来のことをぼんやりと考えながら、俺はギターケースからギターを取り出して、アンプに繋ぎ、適当に曲を弾いてみた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:01:17.15 ID:6R6JACIio<>
岡崎「……♪」


春原「へぇ、懐かしい曲じゃん」

岡崎「…わかるのか?」

春原「WANDSの『世界が終わるまでは』でしょ? ミリオンたたき出してたし、スラムダンクのエンディングだったし、そりゃわかるよ」

岡崎「こないだラジオで流れてるの聞いて、やってみたくなってな」

春原「ドラムたたくよ。合わせようぜ」


春原は床に置かれたスティックを持って立ち上がるとドラムセットに腰をかけて、俺のギターに合わせてドラムの音を響かせた。


岡崎「……♪」



大都会に僕はもう一人で


………



世界が終わるまでは


離れることもない。




曲を引きながら脳の中で歌詞を再生する。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:01:57.86 ID:6R6JACIio<>
もう15年近くも昔の曲だ。

だが、名曲というものは不思議なことに、いつ聞いても耳にそのフレーズとメロディを心地よく刻み込んでくる。


……ああ、いかん。

ギターを弾いてるうちに、歌いたくなってきた。



岡崎「世界が終わるまでは…♪」


岡崎「離れることもない…♪」



耐え切れず、歌ってしまった。



春原「!?」


そして、俺が歌うと共に、今まで俺のギターの音をロックに演出していたドラムの音が止まった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:02:58.93 ID:6R6JACIio<>
岡崎「おい、止めるなよ」


音楽室が一気に静かになる。

せっかく気持ちよくなっていたのに、こんなのはあんまりだ。


春原「いや、いきなり歌いだされたらびっくりもしますから」

直「いつもはギター弾いているだけで満足してそうなのに、どういう心境の変化です?」

岡崎「いや、だって、演奏してると歌いたくならないか?」

直「…気持ちはわかりますが」

春原「僕ドラマーだし、スティック振り回してなおかつ歌いなんかしたら、体力が持ちません」

菫「春原先輩に同意です。ギターだと、弾いてるうちにやっぱり歌いたくなるんでしょうか」

岡崎「……」

岡崎「だからこそギターボーカルなんてのが世にはたくさんいるのかもな」

菫「……」

岡崎「何か言いたそうだな、斎藤」

菫「あ…いえ、なんていうか岡崎先輩は…」




菫「歌、あんまりうまくないですね」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:03:26.45 ID:6R6JACIio<>
岡崎「……」




ああ。

歌なんかより、やっぱギターだよな。

当たり前だろ。

ギターはいい。

だって、練習さえすれば、誰だって上手くなれるんだから…。

…くそぅ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:04:19.82 ID:6R6JACIio<>
………

……




岡崎「誰もが望みながら♪」

岡崎「永遠を〜しんーじな〜い♪」




直「…菫、先輩を止めて。もう1時間以上歌ってる。しかも、ずっと同じ曲。…いい加減飽きた」

菫「……先輩、ごめんなさい」

岡崎「……」

岡崎「邪魔するな、斎藤。俺は歌って踊れるギタリストになる」

菫「踊る必要がどこにあるんですかっ!?」

岡崎「……冗談だ」

岡崎「……」

岡崎「俺、そんなに歌、下手クソだったか…?」

菫「い、いえ…別に音痴じゃないですけど…。その、歌も上手なのかな…なんて思ってたのでつい…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:04:51.30 ID:6R6JACIio<>
岡崎「……」


ぽろん…

ぽろん…


と、ギターを奏でる。



岡崎「なみーだで〜……あしたがーみーえーなーい〜…」






直「曲がラスティネイルに変わりました」

春原「菫ちゃん。岡崎ってああ見えてナルシストだから、プライドを傷つけるようなこと言わないほうがいいよ」


ナルシストいうな…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:05:51.98 ID:6R6JACIio<>
菫「は、はい…。気をつけます」

直(結構面倒臭い性格なんですね)

春原(結構じゃなくてかなりだけどね…)

岡崎「……」

菫「……」

菫「せ、先輩、歌上手ですっ!もっと歌ってくださいっ!」

岡崎「……」





岡崎「ちっとも嬉しくねえよっ!」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:07:41.80 ID:6R6JACIio<>
__________

10月30日 土曜日


ハロウィンを明日に控えたただの休日。

高校三年生にとっては迫り来る受験や就活に皆浮き足立つ季節。

だが、俺と春原やクラスの推薦などで進路が決まった連中はその限りではなく。



岡崎「タイガーリリイ、今日は無事あなたを助けられてよかった」

女子生徒「ああ、ピーターパン、助かりました。フックにさらわれた時はもうダメかと…」

岡崎「あなたのような綺麗な人は、もっと気をつけなければいけないよ。でも、ご安心を。何かあったら僕がきっと助けにいくさ」

女子生徒「ピーター…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:08:34.64 ID:6R6JACIio<>
劇の中盤。

フックにさらわれた、ネバーランドに住むインディアン酋長の1人娘、タイガーリリイを助けたピーターパン達は…

その行為を褒められて、インディアンの村での祭りに誘われて…


女子生徒「……ちゅ」


そして、ピーターはタイガーリリイに惚れられて、頬にキスを受ける。


岡崎「……ぅ!!」

女子生徒「私といっしょに踊りましょう、ピーターパン」

岡崎「…も、もちろんさ!」


舞い上がって、喜ぶピーターを見てウェンディはショックを受け、それが深い心の傷をつけてしまう、そんなワンシーンなのだが…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:10:00.73 ID:6R6JACIio<>

梓「…朋也のっ!!」


憂「…ピーターのっ!!」



岡崎「…?」



梓&憂「バカぁぁぁぁっ!!!」



バッチーンっ!!!



と音楽室に平手打ちの音が響いた。




岡崎「いってぇぇェっ!!」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:11:27.51 ID:6R6JACIio<>
憂「ピーターのバカァっ!バカバカバカぁっ!!」

梓「なにデレデレしてるのっ!? 信じられないっ!!最低っ!!」

岡崎「ちょっと待てっ! なんでティンクまでこの場に出てきてるんだよっ!おかしいだろうがっ!」

男委員長「カットカット! お前ら、漫才やってるんじゃないんだぞっ!!」

岡崎「俺は悪くねえっ!」


そもそも、台本では平手打ちはウェンディからもらう、一つだけのはずなのに、右頬は憂に、左頬は梓に、同時に引っぱたかれて顔が潰れるかと思った。


女子生徒「ご、ごめんね、岡崎君。 ほっぺとはいえ……きゃっ」

岡崎「きゃっ…じゃねえよ…練習でわざわざしなくたってさぁ…」


梓「ふーーーん!?」


岡崎「…や、やあ、ティンク」


梓「その割にはっ……すっごいニヤニヤしてたけどっ!?」


鬼のような形相でピーターを睨むティンカーベル。
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(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:13:06.93 ID:6R6JACIio<>
岡崎「落ち着けティンク。妖精じゃなくて、悪鬼のような顔になってるぞ」

梓「…ごめんね…っ。悪鬼のような顔でさっ!」

岡崎「怒んなよ。…てか、おいそこの女と男委員長、何笑ってこっち見てる」

女委員長「…ぷぷ、見て男委員長。同時に引っぱたかれたとこ、写メっちゃった」

女子生徒「あ、すごーい。岡崎君の顔、二人のビンタでうまい具合に潰れてるね」

男委員長「…よし、後で俺にメールでその画像よこせ。クラスの連中に一斉送信して受験に疲れた心を癒してやろうじゃないか」



今こいつら何を言った?


岡崎「おい、やめろ。絶対にやめろよ」


慌てて男委員長の携帯を取り上げた。


男委員長「あ、何すんだ岡崎。返せよ」

岡崎「女委員長がさっきの写メ消したら返してやるよ」

女委員長「しょうがないなぁ…」


残念そうな顔をすると女委員長はぴっぴっ…と携帯をいじくり、俺に写メのフォルダを見せると消去ボタンを押して、確かに俺が引っぱたかれた写メは消えた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:13:39.15 ID:6R6JACIio<>
岡崎「ん…」


男委員長に携帯を返す。


男委員長「ちっ。いいネタになると思ったんだけどなぁ…」

岡崎「ったく…。人の不幸をネタにして笑うだなんて、委員長のやることかよ」

岡崎「…ん?」


ぶぶぶ……ぶぶぶ……


〜〜〜〜♪


ピポピポン♪




音楽室に携帯のメール着信と思われる音が一斉になり響いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:14:09.29 ID:6R6JACIio<>
男委員長「ん…誰だ?」

梓「あれ、メール私にも来てる」

憂「私にもだ」

純「こっちも…これは…」

岡崎「ちょっと待て…」

梓「ぷぷっ…あはっ……」

梓「朋也……みる?」


梓が俺に携帯の画面を俺に見せた。

もちろんそこには女性陣二人に引っぱたかれて、頬が潰れ、タコのような顔をした俺がバッチリとうつっている。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:15:05.35 ID:6R6JACIio<>

岡崎「女委員長、てめえ……」


女委員長「ん?フォルダからさっきの写メは確かに消したよ? あ、でも消す前にクラスの皆に一斉送信しちゃった」


岡崎「……」


女委員長「ごめーん岡崎君♪ てへぺろ☆」


…こ、このアマ……


岡崎「…なぁ、俺さ…男女平等って言葉が大好きなんだ」

女委員長「うん、それで?」

岡崎「殴らせろ。ぐーで」



女委員長「……ぇ」

女委員長「ご、ごめんね…。わたし…そんなつもりじゃ……」

岡崎「……」


先ほどから浮かべていた悪戯っ子な笑顔が急に悲しそうな表情に変わり、まるで俺が悪いとでも言わんばかりに俺を見返してきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:16:23.87 ID:6R6JACIio<>
春原「ははっ。どうすんの岡崎。ここで引いたら男が廃るよね」


ニヤニヤ笑ってんじゃねえ春原。

俺だって、ここまでコケにされて引くほどヘタレじゃ……。


女委員長「……」ウルウル

岡崎「そ、そんな顔したって許さん。せ、せめてデコピンフルパワーを決めさせろ」

純(めちゃくちゃマイルドになってるじゃん…)


女委員長「痛いのはやだな……」


女委員長「朋也くん。私もほっぺにチューするから許して欲しいな…」


そんな事を…ウルウルと媚びた目をして、下から俺を見上げて言った。


岡崎「……」


ほっぺにチューって……


岡崎「…マジ?」





梓「なに迷ってるのよーっ!!」



バッチーン……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:17:24.70 ID:6R6JACIio<>
岡崎「痛いぞ…」

春原「ははっ、岡崎の頬紅葉みたいに真っ赤になってるぜ」

憂「今のは朋也くんが悪い」

梓「信じれれないっ。信っじられない。…ピーターパン演じてるうちに本当に女たらしになったんじゃないの?」

岡崎「……」


岡崎「…許してくれ。わかってるだろティンク、僕にとって世界で一番大切なのは君なんだ」


梓「なっ!?」





梓「ティンク言うなーっ!!」



バッチーン……


本日三回目の平手打ちの音が音楽室にこだまする。


梓の奴…ティンクの役をやってるうちに乱暴な女になったんじゃ……


てか…劇の台詞、言うタイミング間違えたかな。


効果あると思ったんだがなぁ…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:18:20.58 ID:6R6JACIio<>
梓「朋也、埋立地と焼却場、行くならどっちがいい?」

岡崎「俺をゴミ扱いするなっ!」


女子生徒「あはは、面白いなー。けいおん部」

純「…大丈夫なのかな。こんな感じで」

春原「いいんじゃない。楽しそうだしさ」

純「後一週間で文化祭…かぁ。ライブ上手くいくかなぁ」

春原「平気でしょ。 菫ちゃんも直ちゃんもあれから上達したしね」

純「私はあんたや岡崎が心配なんだけどね…」

春原「平気じゃん?」

純「どこからその自信が沸くのか不思議なんですけど?」

春原「お前、僕と岡崎の暇っぷり、なめてない?」

純「偉そうに言う理由じゃないわね……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:20:45.84 ID:6R6JACIio<>
………

……





下校時刻の放送が流れると、10月の後半ということもあり、外は真っ暗になっていた。

今の季節の帰り道は嫌いだ。

夏から秋に、秋から冬に、季節が移り、肌寒くなると、意味もなく寂しくなる時があるから。


春原「…そろそろ帰りませんかねぇ。僕、疲れたよ」


文化祭一週間前。

俺たちはステージでやる曲は殆ど完成させて、後は本番に向けてミスを減らしていく練習をひたすら繰り返すだけの段階まで来ていた。

だからだろうか、最近は全員の顔が明るく、練習中の空気も柔らかく、各自アドリブをいれて演奏をする余裕まで出てきていた。

…毎日やってれば、意外と早く上達するんだな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:21:47.22 ID:6R6JACIio<>
憂「皆、今日は私の家でご飯食べない?」


色々と考えていると、憂が音楽室の真ん中に立ってそんな提案をした。


梓「いいの?」

憂「うん。明日は皆休みだよね。ちょっと遅くまで、皆で遊ぼうよ」


憂がこんなこと言うのも珍しいな…。


菫「私達もいいんですか?」

憂「うん、皆に来て欲しいな」

岡崎「俺と春原も邪魔していいのか?」

憂「勿論だよ」

春原「それじゃ、僕は一旦部屋に戻ってからいくよ。憂ちゃん家って64あったよね。コントローラー持ってくから皆でマリオパーティでもやろうぜ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:23:13.22 ID:6R6JACIio<>
………

……



そして、平沢家。

夕飯を済まし、俺たちは各々遊んでいた。



春原「おいっ!やめろっ!ああっ……テレサにスター奪われたぁっ!!」

純「はい、スターもーらいっと…」

春原「ああっ!…僕のスター返せっ!」

純「やーよ。悔しかったらあんたもテレサ呼ぶのね」

春原「ちくしょうっ!。…でも、今のでマリモのコインはすっからかんだ。僕はコインもまだ200はある。余裕だね」

梓「あ、クッパマスに止まっちゃった…。クッパ革命って…なんだっけ?」

春原「ああっ!?」

憂「4人全員のコインが平均化されて、同じ枚数になっちゃうんだよ。コインの少ない人にとってはお得なんだけど…」

梓「あ、皆のコインが40枚になった」


春原「……ちくしょーっ!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:24:07.54 ID:6R6JACIio<>
岡崎「……」


あっちも盛り上がってるな。

春原、梓、憂、鈴木は一階のTVを使って先ほどからマリオパーティ2を楽しんでいる。

いくら64といえども、7人全員で遊ぶことは出来ないので、俺と後輩組はトランプに興じていた。


岡崎「ふふ…ストレートだ」

菫「ツーペアです…」

直「……」

直「フラッシュです」

岡崎「…マジかよ」

菫「…また私がビリです」

岡崎「クソ、奥田、お前イカサマしてないか?」


先ほどから俺や斎藤がストレートを出したりフラッシュを揃えたりしても、奥田はそれよりも一つ上の組み合わせを繰り出してくる。

…ビリが5円。2位が1円で30分ほどやっているのだが、奥田は既に300円近く稼いでいる。

そして、斎藤は200円程負けている。

おかしい、ポーカーって運ゲーじゃないのか?

どうしてこんなに差が出るんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:25:01.45 ID:6R6JACIio<>
直「二人共考えなしでやってるのがバレバレ…。カモり放題です」

岡崎「…くそ、ポーカーはやめだやめ。カケは駄目だな」

菫「やっぱり大富豪とか、7並べにしましょう」

直「…菫、後で200円」

菫「うん……」




春原「だぁっ! クソっ!お前ら3人で僕をはめてるんだろ!?そうなんだろ!?」

純「女3人の中に男が一人で飛び込んだのが間違いなのよ。そりゃ全員春原を狙うに決まってるじゃない」


春原達の方を見ると、ちょうど1ゲームが終わったところだった。

…結果は

鈴木がスター8個

憂がスター6個

梓がスター5個

春原が……スター2個


女子って複数になると異常に強くなるって聞くが、ゲームでもそうなのな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:26:00.69 ID:6R6JACIio<>
憂「皆、ちょっといい?」


そして、ゲームもひと段落したところで憂が口を開く。


憂「実は…重大な発表があります」

岡崎「?」

梓「部活のこと?」

憂「ううん、そうじゃなくてね…」


言葉を濁すと憂は冷蔵庫からでかい箱を持ってきた。


憂「…はい、朋也くん、お誕生日おめでとう」


箱の中にはでかい、ショートケーキ。

しかも、おそらく手作りと思われる。

真ん中にはチョコの板に『誕生日おめでとう、朋也くん』なんてほってある。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:27:05.16 ID:6R6JACIio<>
梓「……」

梓「朋也、今日誕生日だったの?」

岡崎「……今日って何日だ?」

梓「10月30日」

岡崎「…忘れてた」


「……」


突然の展開に場が沈黙に包まれた。

俺はというと、憂に祝ってもらえた嬉しさと、自分で自分の誕生日を忘れていたという馬鹿らしさに挟まれて、どんな表情を浮かべればいいのかわからなかったのだが…


純「ぷっ…」

春原「…くく…誕生日忘れてたって……岡崎馬鹿すぎだろ」



岡崎「おい…」


直「抜けているというか……先輩ってたまに大馬鹿な時ありますよね」

菫「あの…プレゼントは今度でもいいでしょうか?」


くそ…全員で好き勝手言いやがって……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:28:52.00 ID:6R6JACIio<>
憂「まあまあ皆、まずは歌おうよ」

純「それもそうね」

岡崎「…歌う?」

憂「うん。お誕生日祝いに歌うのは当然だよ?」

岡崎「い、いい…恥ずかしいって」

憂「聞こえませーんっ!」

純「知りませーんっ!」

憂「皆で歌おっか……せーのっ!」


ハッピバースデートゥーユー

ハッピバースデートゥーユー

ハッピーバースディディア 朋也くん

ハッピバースデートゥーユー


………
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:29:41.60 ID:6R6JACIio<>










                 「お誕生日っ! おめでとうっ!!」











<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:30:52.82 ID:6R6JACIio<>
岡崎「……」


直「先輩、顔真っ赤です」

菫「もしかして…泣いちゃってますか?」


ほっとけ、慣れてないんだよ。

こういうの。

どう反応すればいいのかわからないんだよ。くそ。



憂「朋也くん、こういう時は、ありがとうって言えばいいんだよ」

岡崎「……」

純「まぁ、ケーキ用意したのも誕生日を知ってたのも憂だけどね…」

春原「ま、いいじゃん。よかったね。岡崎」

岡崎「……その」

岡崎「……ありがとう、な」


………

……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:31:48.90 ID:6R6JACIio<>
_______


梓「…誕生日だったんだね」

岡崎「…自分でも忘れてたけどな」


サプライズで行われたちょっとした誕生日パーティもお開きとなり、俺は梓を家まで送ることになった。

奥田は斎藤が家の車を呼び、鈴木は春原が送っていくことになり、必然的に俺はこの部長様と歩くわけになった。


梓「でも、面白かったな。憂がケーキを出した時の朋也の顔。ああいうのを鳩が豆鉄砲をくらった顔っていうのかな」

岡崎「滅多に見れない顔だ。よく覚えておいてくれ」

梓「うん…。そうする」

岡崎「…そっかよ」


それにしても、

…去年も、一昨年も、誰からも祝ってもらえなかったし、誰かにこうやって祝福される日が来るなんて思いもしなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:33:45.80 ID:6R6JACIio<>
梓「……」

岡崎「…どした?」


しばらく歩いていると、梓は難しそうな顔をして下を向き、なにか納得のいかないような顔を見せた。


梓「朋也の方が、私より年上なのが納得いかなくて」

岡崎「お兄ちゃんって呼んでもいいぞ」

梓「…朋也、ちょっと変態っぽいよ」

岡崎「ほっとけ、冗談だっての…。梓はいつだ?」

梓「…11月11日」


むすっとして言う。


岡崎「俺のが二週間くらい兄貴だな」

梓「プレゼント、楽しみにしてるね、お兄ちゃん」


からかうような笑顔でそう言う。


岡崎「俺、お前に何ももらってないしなぁ」


だから、俺もからかうような言葉を返す。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:35:20.85 ID:6R6JACIio<>
梓「だって知らなかったんだもん…」

岡崎「憂は知ってたぞ?」


なぜ知ってたかはわからんが。


梓「さっき聞いたの。なんで知ってたの?って。…びっくり。春頃に朋也の生徒手帳見たときに覚えたんだって」

岡崎「春って…マジか…」


そういえば、住所も人目見ただけで覚えて朝おこしにくるなんて荒業をされたこともあったな…。

憂、すげぇ…。


梓「でも……知ってたら、私も何かあげたのに」


岡崎「そんなへこむなよ。…別にいいって」

梓「でも、憂はケーキをあげたのに、私はなにもあげてないのは…」

梓「…悔しいんだもん」

岡崎「…なんだよ、それ」

梓「……」

岡崎「……」




岡崎「……チューでいいぞ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:36:03.63 ID:6R6JACIio<>

梓「……え!?」



岡崎「誕生日プレゼント、それでいい」



梓「……」



梓「絶対に…嫌だもん」

岡崎「まぁ…だよな」



わかってたけど、少し残念だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:37:31.89 ID:6R6JACIio<>
岡崎「なら、文化祭終わったら、梓の誕生日にどこか出かけようぜ」

梓「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私の誕生日……平日だよ?」

岡崎「11日は…木曜日か。問題ない、学校サボってどこか行くか」

梓「…あのね朋也、そんな不真面目な理由で遊びに行く提案に、素直に頷くと思う?」

岡崎「思わないけど、一日ぐらいいいだろ」

梓「その一日に学校で勉強した時の問題が受験じゃ出るかもしれないでしょ?」

岡崎「なら、俺の為に前日に2日分勉強しておいてくれ。それに、一回欠席したくらいじゃ平気だって、俺と春原が証明してるだろ」

梓「私を祝う日なのに、私に努力させるの!?」

岡崎「…駄目か?」

梓「駄目じゃないけど…」

岡崎「それじゃ、今日の俺への誕生日プレゼントはこの提案に頷いてくれることでいいぞ」

梓「……」


お、考えてる考えてる。

俺も最近になって、前よりも梓の扱い方がわかってきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:38:54.23 ID:6R6JACIio<>
こういう攻め方をすれば…。


梓「朋也のばか」

梓「そんな事言われたら……断れないよ」


梓はこう言うしかないって、わかってるんだ。


岡崎「んじゃ、文化祭終わったらどっか行くか」

梓「…うん、楽しみにしてるね」

岡崎「泥船に乗ったつもりで待ってろ」

梓「……」

梓「船に空いた穴は朋也の体で埋めればいいんだよね?」

岡崎「…任せとけ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:40:14.80 ID:6R6JACIio<>
………

……



梓「ここまででいいよ」


数分歩き続け、梓の家に続く交差点までつくと、そう言った。


岡崎「でも、お前の家まで、まだ5分くらいあるだろ」

梓「平気。家の近くは明るいから」

岡崎「……」

岡崎「…駄目だ、送る。その五分でお前に何かあったら寝覚めが悪くなりそうだ」


…そんな事を口では言ってるけど、本当はまだ誰かと話していたいだけだ。


梓「…朋也のバカ」

岡崎「バカ言うな」

梓「それじゃ、行こっか。…暗いからって襲わないでね」

岡崎「…アホか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:40:56.10 ID:6R6JACIio<>
……






そのまま、梓の家を目指して俺たちは歩き始めた。


梓「ね、朋也は就活、いつからするの?」

岡崎「しなくちゃいけなくなったらする」

梓「…朋也らしいね」

岡崎「今、駄目な男だって思ったろ」

梓「よくわかったね」

岡崎「俺もそう思ったからな」

梓「あはは…なにそれ…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:41:44.84 ID:6R6JACIio<>
梓「……」

梓「でも、そっか。朋也はこの町で就職かぁ」

岡崎「多分、だけどな。ダサい男になりそうだ」

梓「そんな事言わないで。この町にだっていい仕事は沢山あると思う」

岡崎「そりゃ、あるにはあるだろうさ」

梓「偉い人にだってなれるかも。朋也が頑張れば」

岡崎「偉い人ねぇ…例えば?」

梓「え、ええっと…」

梓「し、市会議員とか?」

岡崎「はは…俺が?笑える」

岡崎「でも…そうだな。なったら、議長までのぼりつめてやるさ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:44:11.29 ID:6R6JACIio<>
梓「偉くなったら私を秘書にしてね。議長さま」

岡崎「汚職で捕まる時は一緒だ」

梓「朋也、私だけ捕まえさせて、自分は逃げるつもりでしょ」

岡崎「ばれたか」

梓「捕まったら全部洗いざらい話しちゃうから」

岡崎「無理だな。お前、お人好しだから。俺のこと、庇うよ」

梓「なら、朋也だって汚職なんてする人じゃないし、前提がメチャメチャになっちゃうよ」


確かにそうだな。

だよね。

あはは…

えへへ…


梓の家の前まで、俺たちはずっと、そんなくだらない話をしていた。


………


もう、季節は秋を過ぎかけている。

肌寒さは人恋しさを湧き上がらせ、俺は梓とずっと話していたい…そんな気持ちを抱いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:47:00.91 ID:6R6JACIio<>
岡崎「なぁ、進路だけど…。…梓はどうするんだ?」


だから、だろうか。

別れ際に、俺はそんなことを尋ねてしまった。


梓「どう…かな。まだ、わかんない」

岡崎「……」

岡崎「大学に……行くんだろ?」

梓「……」

梓「…多分、だけどね」

岡崎「……」


岡崎「…変なこと聞いて悪かった。それじゃな」

梓「あ、ちょっ、ちょっと……」

梓「……」

梓「朋也…?」


………


東京に…行くんだろ…?

この町から、出ていくんだろ?

……俺からも、離れていくんだろ?

そんな、ださい本音は、勿論言えるわけなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:48:12.11 ID:6R6JACIio<> __________


11月5日 金曜日


岡崎「行くぞっ! フック、覚悟しろっ!」

春原「さぁこいピーターパァァアアンっ! 海の藻屑にしてくれるわぁっ!」

岡崎「出来るものならなっ!」


カキンッ

カキンッ

とフックのおもちゃのレイピアと、俺の持つ演劇用のナイフが音を鳴らす。


俺と春原…じゃなくて、ピーターとフックの一騎打ちの殺陣。

一応この演劇の見所らしく、台本にはどう動き、どう見せ場を作るかの細かい指令がみっちりと書いてあり、俺と春原は根気よく練習し、ようやくそれらしい対決を再現できるようになった。

リハーサルはこの第一幕のラストまでやって終了…らしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:48:54.57 ID:6R6JACIio<>
男委員長「はいっ、そこまでっ! いやー、お前らのこと見直したぞ」

女委員長「うん。文化祭まで後一日…けど、もう完璧になったわねっ!」

岡崎「……ま、暇だったからな」


素直にほめられるのがなんだか照れくさくてぶっきらぼうに返した。


春原「ははっ! 当たり前じゃんっ」


…俺もこいつくらい厚かましくなりたい。



さわこ「あら、あなた達、ちゃんと練習してたのね」


そして、リハーサルも終わり、明日の演劇の打合せをしていると、先生がやってきた。


梓「先生、どうかしたんですか?」


舞台のしたで控えていた梓が尋ねた。


さわこ「実は岡崎にお客様が来ていてね」

岡崎「…俺に?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:49:30.57 ID:6R6JACIio<>
誰だ?

この学校に、わざわざ俺に会いに来る人物なんていたか?

…1人だけ心辺りがあるとすれば芳野さんだけど、それなら先生もそう言うはずだし。


春原「なに?ピーター、悪いことでもしたの?」

岡崎「お前と一緒にすんな。後、ピーター言うな」

さわこ「ほら、あんまり待たせるんじゃないわよ。 皆、ちょっとピーター借りるわよ」

岡崎「…だから、ピーター言うな」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:50:19.91 ID:6R6JACIio<>
………

……




岡崎「一体誰なんですか? 芳野さんじゃないですよね」

さわこ「あいつと無関係な人ではないわね」

岡崎「?」


もしかして…芳野さんの職場の人か?

…やばい。この前のバイト中、なにかとんでもないミスでもしたっけか。

でも、こないだは、芳野さんに仕事が正確になってきたって褒められたのに…。


さわこ「失礼します」


そして、先生は生徒相談室の扉を開けた。


「ああ、悪いね。演劇の練習中と聞いていたけど…」

さわこ「いえ、気にしないでください。…ほら、岡崎、挨拶」

岡崎「え…えっと……」


確かこの人は……芳野さんの職場の…。


親方「久しぶりだね、岡崎くん。私だよ。芳野くんの上司の…」


あ、そうだ。親方さんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/19(月) 01:55:44.22 ID:6R6JACIio<>
では、今日の投下はここまでですね。

読んでくれた方には感謝を。

お待たせしてしまった人たちには謝罪を。


選択肢ですが、このペースだと次の次になりますね。

次の投下と選択肢がある回の投下はなるべく早くしたいのですが、ちょっとリアルが忙しくなってきたので不定期になるかもです。

ですが、少なくとも後二回の投下は一週間以内にしていきたいですね。

それでは明日から平日ですが頑張りましょうっ!

お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福島県)<>sage<>2012/11/19(月) 03:20:15.74 ID:LQ0S7By1o<> 乙
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 09:31:35.47 ID:b2xcnY6c0<> 乙です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/11/19(月) 11:35:34.90 ID:RRKuY7MAO<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2012/11/19(月) 13:13:13.11 ID:I/NNtM/G0<> あずにゃんが俺妹の桐乃になってるな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 13:53:40.16 ID:uSH4M/8IO<> 中の人効果ですねわかります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 13:55:15.33 ID:uSH4M/8IO<> てか、岡崎と京介も一緒か

中村悠一ってクラナドの頃は阿部君くらいしか有名な役なかったのに出世したなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage <>2012/11/19(月) 15:24:10.76 ID:gwZOMk7io<> >>1は90年代くらいの音楽好きなのかな?
そのくらいの小ネタが多くてニヤってなる要素多い。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/11/19(月) 20:56:05.04 ID:aNRZcyRr0<> 確かにあずにゃんが俺妹の桐乃に似ていた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/11/20(火) 02:32:18.54 ID:1imDIkXAO<> ようやく追いついた

期待しまくりまくりまクリスティーだ

舞ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(空)<>sage<>2012/11/20(火) 10:18:10.65 ID:bTd5qRfs0<> そういえば芽衣ちゃんは今の春原の状況見てどう思うんだろ
バンド始めてドラムやってて

芳野さんに指導されてて
バンド仲間のギターは芳野さんからのマイギター譲られて使ってて


あと公子さんいるなら風子もいるのかな、とか言ってみる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/11/21(水) 00:43:05.05 ID:e3K+Y7w80<> わくわく
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 00:51:13.35 ID:wn0cr9MC0<> そう言えば、以前のスレはまだ残しておくんですか?
書く事が無けれぱ、依頼を出しておくようにという旨のレスがあったのですが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:02:54.91 ID:081+0V1uo<> >>1です。

>>272
ジュネレーションギャップなんて言葉もあるんで人それぞれに好きな年代って変わると思うんですが、90年代の曲って個人的には一番耳に残るんですよね。
歌いやすい、弾きやすい曲が多くて90年代ミュージック万歳です。

>>275
芽衣ちゃんはそのうち少しだけ出ます。
風子は…本人は出ないけど、名前だけなら…たぶん。

>>277
実は10レスくらいで丁度終わりそうな話をあっちに後一回投下したいんで、管理人さんもしくは、はよスレ落とせって人も、後一週間程待って欲しいのです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:05:56.80 ID:081+0V1uo<> _________


憂「………♪」


憂の声が、そして、私たちの楽器の音たちが、放課後のこの部屋を包む。

私が大好きな時間。

メロディを通して、皆との一体感を感じる幸せなとき。


憂「………♪」


明日の文化祭一日目は菫と直と、私たち三年女子3人の

『わかばガールズ』

と先生によって名付けられた、五人組バンドの晴れ舞台だ。

今憂が歌っている曲は、メンバーの後輩二人を不良二人に入れ替えた、ライブの二日目にやる予定のものだけど。

私たちは今…文化祭に向けて必死に、最後の練習をしている。

ライブの2日目でやる3曲を通して演奏すると、今度は朋也と春原くんを菫と直に変えて、今度はまた初日にやる3曲を通して弾く…そんな事をずっと繰り返していた。


下校時刻になるまでは、今日も皆の楽器の音が重なって、楽しくて、大事な時間が流れるはずだったんだけど……。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:06:58.88 ID:081+0V1uo<>
春原「ちょっと待ったっ! ウエイ!ウエイ!」


その時間は唐突に終わりを告げた。


純「春原っ! まだ曲の途中だったじゃないっ!あんたなんのつもりで…」

春原「…僕の事はどうでもいいっ! そうじゃなくて…おい、岡崎っ!」

岡崎「…なんだよ」


…春原君のせいじゃなく、朋也のせいで。


春原「『なんだよ…』じゃねえよっ! 今日のお前のギター、やる気あんのか!?」

純「ま、まあまあ春原。確かに今日の岡崎、なんか腑抜けた音だけど、不調な時なんて誰にだってあるって…」

春原「だからって……僕らの出番、もう明後日だろ。いいの?甘やかしてさ」

岡崎「……」


いつもなら

『お前だって走りまくってるじゃねえかっ』

『人のこと言う前に自分のミスを見直せ』

みたいな言葉を言い返すのに、今日に限っては朋也は春原君に何も言わない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:08:40.37 ID:081+0V1uo<>
梓「……」


何曲かやっていると、朋也はたまにミスをする。

といっても、夏休み前までのような、目立つミスはもうしなくはなっていた。

けれど、今日はおかしい。

一人だけリズムが外れていったり、ソロを途中で弾くのをやめてしまったり、…簡単に言うと、全然乗れてない。

多分…。

お客様…が誰かはわからないけど、きっとその人と会ったせいだ。


さわこ「うーん…。そうね、皆にも今日の岡崎のこと話しましょうか」


それまで黙って私たちを見ていた先生が私たちの会話に参加した。


岡崎「先生。…別にいいって」

さわこ「いいじゃない。いい事なんだから」

岡崎「……」

菫「……?」

直「今日、岡崎先輩なにかあったんですか?」

憂「私もよくわからなくて…」

さわこ「皆、練習は今日はここまでにしましょう。もうほとんど完璧に弾けてるし、明日も明後日も平気よ。 菫ちゃん、お茶入れてもらっていい?」

菫「は、はいっ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:10:06.51 ID:081+0V1uo<> ___________


憂「そ、それじゃ、朋也君は芳野さんのところで働く…ってこと?」


憂が驚きの声をあげた。

もちろん、私だってびっくりだ。


梓「それってつまり……就職先が決まったってこと?」

さわこ「今日来た人、祐介の上司らしくてね。『卒業したら、よければうちに来ないか?』ってわざわざ学校まで聞きに来てくれたのよ」

春原「はーん…それでぼけっとしてた訳ですか」

さわこ「祐介がその親方さんに言ったんだって。『筋のいいバイトがいるから拾ってやってくれないか?』なんてね」

憂「す、すごいよっ!朋也君っ。芳野さんに認められたってことだよっ!?」

岡崎「……」

憂「…朋也君?」

さわこ「ふふ…。問題児その1の行く先も決まったようなものだし、本当によかったわぁ」

春原「問題児その2ってのはやっぱり僕なんですかね」

純「当たり前でしょ。 それにしても、その問題児の岡崎が、この中で一番早く進路が決まるなんてね」

直「びっくりです」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:11:08.30 ID:081+0V1uo<>
文化祭を明日に控えて、いつもよりも浮足立ってる光坂高校。

そんな非日常に、これまた非日常な出来事が。

芳野さんの職場の上司が朋也をスカウトしにきたみたい。

わざわざ向こうからきてくれるって、珍しいようで、先生もすごく喜んでいる。


直「夏休みに岡崎先輩、一生懸命バイトしてましたけど、それがよかったんでしょうか」

さわこ「それもあるんだろうけど、祐介のやつ、はじめて会った時から見どころがあったとか言ってたみたいなのよ。あいつがそんな事言うなんて珍しいのに…」

梓「……」

梓「あの…朋也のお父さんに、このことは…」


ちょっと怖いけど、聞いてみた。


さわこ「さっき家に連絡したら、それはよかったって言ってたわんっ。文句もないんじゃないかしら?」

梓「そ、そうですかっ。…よかった」

憂「朋也くんのお父さん、明日と明後日が文化祭って知ってましたか?」

さわこ「一応言っておいたわよ。息子さん、一日目に現劇、二日目にライブやるんですよーって。…反応が薄くてちょっと驚いたけど」

憂「…そうですか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:12:16.91 ID:081+0V1uo<>
春原「あーあー…、にしても、これじゃ就活の苦しみを味わうのは僕だけかよ…ちぇっ」

純「あんたも素直に祝ってやんなよ。親友でしょ?」

春原「へんっ!そんなのになった覚えはないしっ!?」

直「この部の人は…皆素直じゃないですね」

純「本当、よね〜。誰とは言わないけど、ね〜、梓」

梓「…知らない」

純「いや、でも本当よかったわねぇ、行き場があってさ」

梓「…私も、ニートになった朋也は見たくなかったかな」

春原「確かにね。それに、励みになるよ。岡崎でも就職できるなら、僕にだってできるだろうし」

純「……頑張ってね」

直「……応援…してます……」


春原「その微妙な反応は何だよっ!?」


あはは…

春原もしっかりしろー…

岡崎おめでとー…


そんな明るい声が、音楽室に飛び交う。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:14:15.23 ID:081+0V1uo<>
菫「あ、あの……。皆、本当に喜んでいますか?」


そんな中で、菫は一人、不安そうに口を開いた。


さわこ「あら、どうして?」

菫「その…」

菫「…岡崎先輩は、ちっとも嬉しそうじゃないから」

憂「……」

梓「あ……」


菫の言った言葉はその場にいた全員を現実に引き戻す、氷水だった。

明日以降の事もあって、皆で浮き足だって、いつもよりも、ちょっと特殊な状況に、特殊な状況が重なっていたせいで、気づけなかったんだ。


さっきから、朋也がうつむいたまま、一言も喋っていない事に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:15:44.43 ID:081+0V1uo<> ______


憂「ごめんね。…あんまり騒がない方がよかったかな」


憂は朋也に気遣いの言葉をかけた。


岡崎「……別に、そういうわけじゃない」

春原「なんだよ、お前が一番喜ぶ事だろ?なにそんなしけた面してんのさ」

岡崎「……」

岡崎「……喜ぶ、ことなのか? なぁ、俺がこの学校からいなくなることが決まるって、そんなに喜ぶことか?」

憂「朋也君?」

純「ちょっと…あんた何言ってんの?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:18:41.40 ID:081+0V1uo<>
岡崎「俺は……嫌だ。 この学校から離れるなんて。 就職することが、もうこの場にはいられなくなることなら…それは、ちっとも喜ぶことじゃないだろ」

純「はぁ?…元々私達は3年生じゃない。何言ってるのよ」

岡崎「別に…わかってる。…そんなこと、わかってるよ。…でも、そうじゃなくて…」


春原「お前、もしかしてずっとこの学校にいたいの? なら、留年でもすればいいじゃん」


春原「でも、するなら一人でしてよね。岡崎、お前、僕や部長達までこの場所に縛り付けるつもりかよ」


岡崎「……っ!」

梓「春原くん、ちょっと……」


春原くんの言葉に朋也は珍しく怯んでしまって、辛そうな表情を浮かべ、うつむいている。

そんな様子が見ていられなくて…。


春原「しかし、馬鹿だとは思ってたけど、僕よりも馬鹿だったなんて、思いもしなかったよ」


岡崎「……春原、てめぇっ!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:23:49.35 ID:081+0V1uo<>
しまった……と思ったときにはもう朋也は春原くんに詰め寄って、制服の首元を掴み上げて彼を睨んでいた。


憂「と、朋也くんっ!?」

菫「ぼ、暴力はダメですっ!」

さわこ「ちょっとっ!ここで喧嘩はやめなさいっ!」


慌てて皆が彼を止め、春原くんから引き離した。


春原「…僕を殴ってもいいけどさ、そんな行動じゃなにも変わらないって、僕らは三年になるまでの二年間で知ったんじゃなかったの?」



岡崎「……」


岡崎「悪かった…頭冷やしてくる」




そう言うと、朋也は音楽室の扉にてをかけ、早歩きをして出ていってしまった。


梓「あ…と、朋也っ!」


慌ててそれを追いかけた。

空気をまったく読まない朋也の態度も、辛そうなその顔も、放っておけなかったから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:25:20.87 ID:081+0V1uo<>
憂「あ、二人ともっ…!」

春原「はっ……何言ってんだろうね、あの馬鹿は。いいよ、憂ちゃん。ほっとこう」

憂「で、でも…っ」

春原「平気だって、部長もついてったし」

菫「……」

憂「……」

直「……」

春原「……」

さわこ「…あ、あらら?ちょっとちょっと皆…空気が……」




純「…あのさ、さわちゃん」

さわこ「な…何よぅ」

純「どうしてくれるのさ。…岡崎、明日主演。私達も、ライブなんだよ?」

さわこ「あ……」


さわこ「あはは〜……わ、私のせい?」



純「当たり前でしょうがっ! 岡崎も喋って欲しくないから話すなって言ってたんじゃなかったの!?」

さわこ「だ、だってぇ……」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:28:47.23 ID:081+0V1uo<> ________


梓「朋也っ…… 待って!」


…俺が校門のあたりまで歩くと、梓が後ろから声をかけてきた。


岡崎「ついてくんな。…今、自分で自分の口から何が飛び出ちまうかわからない」

梓「朋也…」

岡崎「だから、今は一人に…」

梓「嫌」

岡崎「お前…」

梓「一人でいたら駄目。そうしたら、どんどん落ち込んでいって、明日の演劇も、明後日のライブも上手くいきっこないから」

岡崎「……」

梓「朋也はさ、廃部問題の時、私の側にいてくれたよね。一人にしてって、私言ったのに、追いかけてきてさ…」

岡崎「……」

梓「ね、何も話さなくていいから、私も何も話さないから、側にいちゃ駄目?」

岡崎「……」

岡崎「勝手にしろ…」



後にして思えば……

頼んでもいないのに、誰かが自分を追いかけてきてくれる。

それが、どんなに幸福な事なのか、俺はこの時でも、わかっちゃいなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:30:11.35 ID:081+0V1uo<>
………

……



梓「明日、皆に謝りなよ。朋也、空気読めなさすぎ。ありえなかった」

岡崎「…わかってる」

梓「よかったら、今でもいいけど。携帯貸すから」

岡崎「いい」

梓「……」

梓「最近、ちょっと変だよ。朋也」

岡崎「…そうか?」

梓「うん。何だろ、生き急いでるっていうか…」

梓「一生懸命なのは、大歓迎なんだけどね。でも、どこか焦ってるように見えた」

岡崎「……」

岡崎「焦ってる、かぁ…」

岡崎「わっかんね……」

岡崎「…ああ、くそ。もうわかんねーよ。なんにも」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:36:15.93 ID:081+0V1uo<>
梓「子供みたいな事言わないでよ…」

岡崎「俺はまだ20じゃない。子供だ」

梓「18歳は大人と言っても間違いではない年だと思うけど?」

岡崎「そうだな。まぁ、梓よりは大人だ」

梓「たった二週間早いだけじゃん…」

岡崎「今思ったんだが……俺、これからはエロ本も堂々と買えるのな」

梓「女の子の前でそういう事を口にするあたり、朋也はまだまだ子供だね」

岡崎「ああ。俺子供なんだ」

岡崎「……」

岡崎「だから、これから言う事も子供の愚痴ってことで聞いてもらってもいいか?」

梓「…どうぞ」


呆れた顔をすると、梓は俺に話せと暗に示した。


岡崎「今日、親方に『うちで働かないか?』って聞かれたとき、最初は嬉しかったんだ」

梓「…うん」

岡崎「…だって、俺がだぞ? 俺が、大人に認めてもらえたんだ」

岡崎「だから、親方に『必要だ』って言ってもらえたとき、あったかい気持ちで胸がいっぱいになった。でも、すぐに、そんな気持ちも消えた」

梓「どうして?」

岡崎「俺さ…ずっと未来が見えなかった。いや、違う。考えたくなかった。一年経ってしまった時の事も。…この学校から、離れちまうことも」

梓「…そういえば、夏休みにも似たようなこと言ってたね」

岡崎「ああ。…それが、いきなりだ」

岡崎「俺は…5月に、お前と文化祭に出ることを約束してから、明日と明後日のことしか考えてこなかった。途中で、色んなことあったけど、俺の全部を文化祭にぶつけようって、思ってた」


そんな、バンド活動に夢見る高校生のままでいたかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:44:15.31 ID:081+0V1uo<>
岡崎「…なんでだろうな」

梓「…なにが?」

岡崎「就職先が決まった事がだ。…なんで今日なんだ」

梓「……」

岡崎「今日まで、たくさん演劇の練習をしてきて、ギターなんて、もっともっと練習したよ」

岡崎「俺、お前らとなら、バカみたいに楽しい時間を過ごせるって、思った。そう確信してたから…文化祭に夢を見て、突っ走ってきた」


明日と明後日に、走り続けてきたその成果を発揮してやるって思ってた。

だから、夢を見たままでいたかった。

…せめて、夢が終わるまでは、夢から覚めた後にやってくる『未来』を見たくなかった。

なのに、今日、俺にとって、決して『悪くない未来』は唐突にやってきた。

『悪くはない未来』の知らせ…。

それは、真っ暗だった俺の未来を明るく照らしてくれる、希望の光……とも、言えなくはない。

だからといって、夢を見ていた俺の『今』にとって、それは『悪い』知らせでしかなくて…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:45:06.11 ID:081+0V1uo<>
…俺は。

ずっと『今』のままがよかった。

7人で、時にはのんびりと音楽室で時間をつぶして、時には練習をして、

春原とふざけあいながら、鈴木と口げんかしながら…

斉藤をいじめながら、奥田の訳のわからない行動に驚きながら…

梓にへたくそと言われながら、憂の優しさを感じながら…


そんな時間を過ごしてきたから。

それが終わってしまう事を、強く自覚してしまったから……。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:46:17.06 ID:081+0V1uo<>
岡崎「……嬉しいのに、嬉しくない、そんな現実が、よりによって、今日やってきやがった」

岡崎「俺は、もっと、夢を見ていたかった。少なくとも、冬が来るまでは…」

梓「……」

梓「もう11月。…冬だよ」

岡崎「……」


だから、こんなに寒いのか。

辺りを見回してみれば、この帰り道の景色もいつの間にか、夏景色から変遷とし、冬を感じさせる、物寂しい眺めとなっていた。

木々の葉は散り、俺たちの吐く息は白く、暗い夜道に歌うスズムシの声も、もう聞こえなくなっている。

そろそろマフラーとコートが必要な季節だ。


岡崎「寒いな…」

梓「…うん」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:47:22.12 ID:081+0V1uo<>
梓「……」

梓「私達が夢を見ていられるのは、明後日まで。だから…」

梓「だから……」

岡崎「…っ」


俺はその時、梓が何を言おうとしたのかわかった。


岡崎「俺は…。夢が覚めるのは嫌だ」


だから、自分の言葉を相手の言葉に重ねる。

そんな、最低のコミュニケーションをして、梓の言いかけた言葉をかき消した。


梓「…そっか」


梓も俺の気持ちを察したのか、それ以上はなにも言わなかった。



岡崎「…嫌なんだ」

梓「…うん」

岡崎「絶対に、嫌なんだよ」

梓「うん…わかるよ」


そのまま秋の終わりの夜空を二人でぼんやりと眺めた。

こうして空を見ていれば、その間は何も考えずにいられて楽だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:48:46.55 ID:081+0V1uo<>
………


…空を眺めているうちに、自然と俺たちの足は動き始め、気づけば梓の家の前まで俺は来ていた。


岡崎「それじゃ、ここまでだな」

梓「ごめんね。送ってもらっちゃって…」

岡崎「気にすんな」


一人でいるより、ずっとよかった。

誰かが側にいるだけで、ずっと落ち着いていられた。

話を聞いてくれるだけで、心の靄が少しだけ、晴れた。


梓「なんか変だね。私が追いかけてきたのに、こうして朋也に送ってもらったっていうの」

岡崎「男が女を送るのは当然だろ」

梓「そう…なの?」

岡崎「そうなんだよ。それじゃな。明日に備えて早く寝ろよ」


それだけ言って、俺は商店街に向けて歩き始めた。

梓を家の前まで送ると、俺はいつも足早にその場を去りたくなる。

こいつの両親やご近所に、なるべく会いたくないからだ。

だって、気まずいだろ。色々と…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:49:42.21 ID:081+0V1uo<>
梓「そっち、商店街の方だよ。…これからどこに行くの?」

岡崎「家に帰る前に、飯でも食ってこうかと思ってな」

梓「……」

梓「…ほんと?」

岡崎「……」


心配そうな顔で俺を見る梓。


岡崎「…ほんとだ」


返事に少しの時間をかけただけで、俺の嘘はバレた。

梓は…いや、梓に限らず、女性という生き物は、不思議なことに男の嘘をすぐに見抜く。

何故だ。

それとも、男の嘘じゃなく、『俺の嘘』だから、こいつはこうして俺に疑問のまなざしを向けているんだろうか。


梓「そんなこと言って、町をふらふら回って、明日最悪の体調で学校に来たりしない?」

岡崎「……」


最悪の体調になるかどうかはわからないが、俺がこれからどうするかは何となくわかっていたみたいで、それが嬉しくもあって、悲しくもあった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:51:02.38 ID:081+0V1uo<>
梓「あ、黙った。やっぱり嘘だったんだ。そうなんだ」

岡崎「…体動かしてないと、色々考えちまいそうで、怖いんだ」


強気な物言いだけど、梓なりに俺を気遣って接しているって事がわかるから、俺も精一杯正直に、自分の心中を話した。


梓「…なら、私も一緒に町を歩くから。…ちょっと待ってて。お母さんに今日遅くなるっていってくるね」

岡崎「はは…。…俺がここまで送った意味、なくなるな」

梓「本当だよ。朋也のばか」


いつも通りに、フラットに接してくれる、こいつの優しさが嬉しい。


………


嬉しいから、余計に辛いんだ。

この優しさも、俺にだけやたらと悪くなる梓の言葉も、文化祭が終われば、今までみたいに享受することはできなくなってしまう。

だって、そうだろ?

これからあいつは受験勉強に本格的に取り組む事になって、俺は多分、だけど…今よりもバイトに入る回数が増えていく。

俺と梓がこんな風に一緒に帰れるのは、後何日残っているんだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:52:31.98 ID:081+0V1uo<>
梓「朋也…また考え事?」

岡崎「ん…。ちょっとな」


もう、50日もないんじゃないだろうか。


梓「あ、見て。あそこのお店、もうクリスマスの飾りつけしてる。綺麗だね」

岡崎「……」


数字にすると、より現実が迫ってくる気がするな。

細かい日数まで計算するのはやめとくか…。


梓「…無視されると辛いんだけど?」

岡崎「…あ、悪い。聞いてなかった」

梓「…もう、明日本当に大丈夫なの?ピーターパン」

岡崎「善処はする、ティンク」



……いつだったか、斉藤が話してたな。

ピーターパン症候群…だったっけか。

あれって…やっぱり俺みたいな奴のことを言うのだろうか。

だとしたら、笑えるな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:54:07.72 ID:081+0V1uo<> _________



11月7日 土曜日 文化祭 一日目


唯「あ、皆〜っ! こっちこっちっ!」

律「お、いたいた…。澪、ムギ、唯を見つけたぞ〜。あ、さわちゃんもいるぞっ!」

さわこ「皆、久しぶりね〜、会いたかったわっ」


………

……





紬「先生、お久しぶりです」

唯「元気そうですねっ!」

さわこ「唯ちゃんには負けるわよぅ」

澪「今日は確か…けいおん部のライブの前に、梓たちのクラスの演劇があるんですよね」

さわこ「そうなのよ…演劇、あるのよね…」

律「…どしたのさわちゃん。演劇、何か問題でもあんの?」

澪「…演劇か、去年は恥ずかしかったなぁ…」

さわこ「ちょっと、教え子たちにトラブルがあってね…」

律「トラブルか…私たちも道具がなくなったり色々あったっけ」

紬「懐かしいわねぇ…」

唯「大丈夫だよっ。さわちゃんっ」

さわこ「…唯ちゃんに言われると、なんとなくそんな気もするんだけど…でも……はぁ…」



さわこ(岡崎、大丈夫かしら……)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:56:18.42 ID:081+0V1uo<> _________



憂「やっぱり飛べない…。空を飛ぶなんて、夢物語なのかな」

岡崎「…それは君が飛ぶ事を信じていないからだ。…ほら、もっと楽しい事を思い浮かべるんだよ」

憂「楽しい事…楽しい事………文化祭!!」



憂「あっ… 飛べた!飛べたよっ!ピーターパンっ!」





梓「……」


今のところ、観客も憂の熱演に中々うけているみたい。



男委員長「平沢さん、練習の時以上に頑張ってるな」

梓「うん…」

男委員長「……」

男委員長「…あのさ…岡崎、なんかあった?」

純「ご、ごめん…。うちの顧問の空気の読めなさのせいで」

男委員長「え、先生がなんか言っちゃってあんなもぬけの殻みたいになったの?」

純「あー……余計な事を少しね…」

春原「でも、結局のとこ、さわちゃんじゃなくて岡崎のせいだよ。 はんっ。ちゃんとやるとか言ったくせに、全然駄目じゃん、あいつ」

女委員長「い、今のとこ問題なく進んではいるけど…」


…文化祭一日目、朋也は絶不調だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:57:26.54 ID:081+0V1uo<>
………

……




女委員長「よし、次はいよいよフックとピーターの初対決だよっ!」

男委員長「…岡崎、大丈夫か?水、飲むか?」

岡崎「…気にすんな、平気だ」

男委員長「そ、そうか…」


梓「……」


男委員長君が朋也を気遣っている。

当然だ。

だって、今日の朋也は全然熱が入っていない。

昨日のリハーサルまでは、憂や春原君程ではないにしろ、必死に役を演じていた。

なのに、今日のまるで魂の抜けてしまったかのような演技は…まずい。


第一幕ではそんな朋也の演技をフォローするように、憂…つまりウェンディが熱演をみせていた。

…私も負けないように、必死に演技をした。

うん、ティンカーベルだから、台詞はなかったけど、それでも一生懸命やったつもり。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:58:26.02 ID:081+0V1uo<>
岡崎「…それじゃ、行ってくる」


まずはピーターの一人芝居。

朋也が舞台にあがった。




男委員長「……なぁ」

春原「なに? 舞台監督」


その背中を見送ると、男委員長君は春原君の肩をたたいた。


男委員長「春原っ」

春原「……」

男委員長「いいか?頼むぞ?頼んだぞっ!?ここまで来ちまった以上、お前だけが頼りだっ!」

春原「……」


…男委員長君の声には『泣き』が入っている。

無理も、ないよね。

今までは少し照れているから、とか、緊張のせい…。

そんな言葉で誤魔化せるレベルの演技だったけど、ここから先はこの劇の見せどころ。

ピーターパンとフック船長の対決と、山場だから。

フック船長の汚い戦い方にピーターが傷を負い、ウェンディと命からがら脱出するシーンだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 01:59:14.98 ID:081+0V1uo<>
春原「おい、鈴木」

純「あんたね……いい加減マリモとかスミ―とか呼ぶのはやめて……って」

純「…あんた、今…?」

春原「しっかりついてこいよ」

純「へ…? ま、任せて」

春原「…僕がなにやってもね」

純「…春原?」

春原「憂ちゃんも。昨日言ったけど、最後は憂ちゃん頼みだからね」

憂「…うん」

梓「…?」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:01:09.09 ID:081+0V1uo<>
岡崎「皆っ!引けっ!…フックは俺がやる」

春原「いーい度胸だピーターパンっ!!今日こそこの右手の恨みを晴らさせてもらうぞっ!!」

岡崎「出来るものならな…」





女委員長(あーん!もう岡崎君、やる気がどんどんなくなっていってるじゃないっ!!)

男委員長(しかもっ!殺陣の時の立ち位置が違うっ!!あのまま練習通りにやったらステージからあいつ落ちるぞっ!)

梓「……」





春原「……」

春原「もう一度聞くっ!!降伏する気はないのかぁっ!?」

岡崎「……ぁ?」

春原「条件次第では、大人しく貴様を見逃してやってもいいんだぞ〜?仲間も全員手下に加えてやってもいい」

岡崎「お、おい、フック…どういう事だよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:02:30.00 ID:081+0V1uo<>
女委員長(春原君め〜、なに訳のわからないアドリブを〜っ!…岡崎君も素の性格出ちゃってるじゃないばか〜っ!)




春原「条件はそうだな…。貴様らのママを私の妻にさせてもらおうかっ!!」

岡崎「あ……?」

純「…へ?」





岡崎「ど、どういうつもりだっ!?」

憂「ええっ!?」



春原「わしは今…貴様なんぞより、新しくお前らのママになった、そちらの美しい女性にこそ興味がある……げへへ…」


岡崎「な…。お前、さっきから何言って……」




純「そいつはいいっ!ママさえ手に入ればワシ等はもう天下無敵でさぁっ!」




春原(いいぞ、マリモ。ナイス援護)

純(さっさと続けろアホっ!)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:03:34.79 ID:081+0V1uo<>
春原「おうよスミ―っ!ママならば、飯も、洗濯物も、繕い物も、甘えさせてもくれるぞぉっ!」


憂(これは……多分、陽平君と、純ちゃんの……)


憂「そ、それくらいなら……いいかな?」


岡崎「なっ!? ウェンディ!?」








さわこ「な、何よ、脚本めちゃくちゃじゃない……」

律「なんだこのマザコン共は…」

紬「でもりっちゃん。ピーターパンの世界観って、登場人物全員マザコンよ?」

澪「救い難いお話なんだな…」

唯「あはは、でも面白〜い」







岡崎「…何のつもりだ。キャプテンフック。俺を混乱させようったって、そうはいかないぞ」


春原(…へへ、もっと混乱しろ混乱しろ岡崎ぃ〜)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:06:57.66 ID:081+0V1uo<>
春原「どけいっ!ピーターっ!貴様にようはないっ。そこの女性にしかもはや目はいかぬっ!」

春原「ワシの名前はジェームズ、フック。このジョリーロジャース号の船長だっ!そこにいるウェンディっ!この船のママに……いや、ワシの妻にはならんかぁっ!?」

憂「は、はぁ…」

岡崎「待てこらフック船長ぉっ!さっきから何を言ってるんだお前はっ!段取りも、何もかも滅茶苦茶だっ!!」



春原「そんな事言われても知るものかっ!ワシはもうピーターと喧嘩ばかりの毎日なんぞごめんだっ! 貴様のような奴とより、暖かく、柔らかであろうウェンディとこそ、ワシは過ごしたいのだよっ!」

岡崎「な…て、てめぇ…」


純(岡崎の目に火が灯った!)

春原(へへっ…、もうひと押しだねぇ……スミ―っ!)



春原「ママはいいっ!!素晴らしいぞぉっ!?」

純「優しくて、料理が出来て、思いやりもあって!」

春原「柔らかくて、美しくて!いい匂いもするしねぇっ!!」

純「控えめで、おっとりしていて、いつも笑顔でっ!!」



春原「そんなママを一人占めしているのは誰だぁっ!?」

純「ティンカーベルというものがいながら、ママまでも自分のものにせんとする糞ピーターだぁっ!!」


岡崎「……(ぶちぶち)」



さっきからピーターを煽りまくるフックとスミ―。

そんな二人の態度に次第に朋也の顔も真っ赤になっていく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:08:26.81 ID:081+0V1uo<>
春原「いいかピーターぁっ!ママはお前だけのものじゃないんだっ!いつもいつも手料理弁当もらっては僕にドヤ顔で見せつけおってぇっ!!いい加減、僕らにもママを譲るんだなぁっ!?」



純(きゃ、キャプテンっ!口調っ!口調っ!しかも私怨が丸出しになってるってっ!)

春原(だァっ!もう面倒臭いわぁっ!!)



直(あの二人、実は相性いいのでは?)

菫(…岡崎先輩。本気で怒ってませんか…?)




岡崎「……(ぶちっ)」

憂「ぴ、ピーター……?」

岡崎「……キャプテンフック。他に言い残す事はあるか?」






男委員長(…岡崎の演技に魂が入ったっ!)

女委員長(春原君っ! ナイスっ!)




春原「言い残すことぉ〜!? わはは、何かあったかのうっ!?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:10:15.05 ID:081+0V1uo<>
岡崎「遠慮はしなくていいぞ。どうせ貴様はここで海の藻屑となるんだ。なんでも聞いてやる」

春原「ははっ!!いいだろう丁度いいっ。ならば、この場にいる者全員にピーターのリアル女たらし伝説を聞かせてやろうではないかぁっ!!」

岡崎「……(ぶっちぃっ)」

春原「ははっ…。どうしたピーターっ! やめてほしくば三回まわってワンと鳴いてみろぉっ!」


岡崎「……っ!!」



…ピーターは突如フックにその演劇用のナイフで切りかかった。



春原「お、おわっ!?」

純「キャ、キャプテンっ!?平気っ!?」

春原「ふ、ふん…髭に奴のナイフがかすっただけだわい。わっはっはっはっ!決着をつけるぞっ!!ピーターっ!!」

岡崎「ふふ……はは……」

岡崎「…殺す。…殺してやるっ!…フックウっ!!」

春原「はっはぁっ!! いいねっ! 一度マジでやりあいたかったんだよっ!……ピーターっ!!」


…そうして、朋也と春原君の殺陣という名の本気の喧嘩が始まった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 02:12:46.93 ID:PiB5sLrio<> どっかで見たことある展開だと思ったらこんにゃくの凛奈ルートじゃねえかwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:13:23.07 ID:081+0V1uo<>
憂「わ、私はどうすれば…」

春原「どきなウェンディ!」

岡崎「下がってろっ!」

憂「きゃっ…!?」

純「ウェンディっ!こっちこっち!巻き込まれる前に逃げるよっ!」

憂「う、うんっ!」




岡崎「……っ!!」


春原「……うおりゃああああっ!!」

岡崎「っ!!」

春原「へんっ!!!」

岡崎「おらぁっ!!」


殺陣の取り決めも、台本の演出も、何もかも無視した二人のおもちゃのナイフとレイピアでの舞台。

…息があってるのか、ただ単に、どちらも負けたくないからかわからないけれど、ちょっぴり乱暴に、けれど不思議ときちんとした互角の剣舞を観客に二人はみせていた。



律「おおっ。結構思いきった殺陣やるんだなぁ…」

澪「あの二人、すごい迫力だな」


さわこ「……これでいいのかしら」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:14:30.89 ID:081+0V1uo<>
………

……



梓「予定とは違うけど、ちゃんとした殺陣にはなってる…」



キンっ…カキンっ……っと、朋也と春原くんの持ったおもちゃのナイフとレイピアが音をたて、戦いの舞台を演出する。


男委員長「…勝負が客にうけてるのはいい……けど、あの馬鹿二人はいつまで戦ってるんだっ!?」

梓「えっと…決着がつくまで…とか?」

女委員長「いや、ここまだ第一幕だから決着ついても困るって……あれ…?」



舞台に目をやると、春原君のレイピアが朋也のナイフを弾き飛ばしていた。



梓「ちょ…春原くんっ!?」



岡崎「しまったっ!」

春原「ふふ…これでナイフはもう使えまい…。ワシの勝ちだな…ピーター…」

岡崎「て、てめえっ!!」



脚本から離れてしまった白熱の剣舞の末…。

勝利したのは『脚本とは異なり』フック船長になってしまった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:15:13.17 ID:081+0V1uo<>
女委員長「ちょっと待ってっ!フックが勝ってどうするのよっ!?」

男委員長「あの馬鹿ども…、脚本を忘れて戦ってやがるっ!?」




岡崎「……」

岡崎「…っ!!」

春原「な…なにっ!?」



そして、ナイフが飛ばされて丸腰になったピーターが取った行動は…





岡崎「……くらえっ!!」


春原「ぶほぉっ!?」




フック船長に素手のぐーで殴りかかるというピーターにしては斬新な行為であった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:15:50.87 ID:081+0V1uo<>

春原「ぶっ!?」


岡崎「どうだっ!!思いしったかフックぅっ!!」


朋也がフックの右ほおにパンチを入れる。


…痛そう。


春原「ぶばぉっ!?」


さらに逆の手でもう一度、パンチ。

だ、大丈夫かな。春原君。



………


男子生徒A「いいぞ、岡崎っ!そのままぶちのめせっ!」


男子生徒B「ピーターやるじゃねえかっ!!」




彼らの体を張りすぎた…プロレスのようになってしまった殺陣は意外にも、観客にうけているみたいだ。


…朋也。本気でぶってないよね…?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:16:42.06 ID:081+0V1uo<>

春原「……よくもやったな……ピーターパンっ!!」


フラフラと春原くんは立ち上がった。


岡崎「なっ!?」



そして、脚本をメタメタにして反撃をしかけたピーターに対してフック船長が取った行為もこれまた脚本から逸脱し……。



岡崎「ぐぉっ!?」



フック船長は、右手についていた義手……これも演劇用の玩具なのだけど。それを取り外してピーターの股間めがけて投げたのだった。






律「んなっ!?」

澪「ふ、フック船長の右手が飛んだっ!?」

唯「すごいっ!隠し武器だったんだねっ!あれっ!!」

紬「あの義手のギミックも先生がっ?」

さわこ「お、おほほ……。まあね…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:18:45.42 ID:081+0V1uo<>
岡崎「…ぐ、お前!! それ外したら、フックじゃないだろっ!」

春原「勝てばいいのだよっ! ピーターパァンっ!」



憂「ピーター、危険よっ!逃げましょうっ!」

岡崎「う、ウェンディ!?」

憂「ほら、早くっ!」

岡崎「ぐ…フック船長っ!覚えてろっ!!」

春原「がっはっはっはっはっ……逃がすかっ」



………



男委員長「や、やっと…台本にもどってきた…」

女委員長「…次っ! シーンの4っ! 冒頭っ!」

梓「……」

女委員長「梓っ! じゃなくて、ティンカーベルっ! ほらっ出番っ」

梓「あ、そ、そっかっ!」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:19:43.90 ID:081+0V1uo<>
………

……





………

……





第四幕。

フック船長とピーターパンの最後のバトルが始まり、そして、終わった。

体育館にはパチパチパチ……と、拍手が舞台に送られている。



男委員長「春原っ。よくやってくれたっ!……いい、死にっぷりだったぜ?」


それは、ピーターパンとの死闘の末に、舞台から崩れ落ちたフック船長の退場際の名演技に対しての拍手であり、レクイエムでもあって…。


春原「はぁ……ぜェ……ぜェ……お、岡崎のやつ、絶対許さねえ……」

女委員長「だ、大丈夫…?顔パンパンに腫れてるけど…」


…フック船長とピーターパンの最終決戦、その最後はフック船長のパンチをピーターパンが顔面で受け止め、より強烈なパンチをフック船長の顔にめり込ませる、クロスカウンターで倒すという、ネバーランドにしては斬新な締めでした。

本当に、お疲れ様、春原君。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:20:31.02 ID:081+0V1uo<>
春原「あいつっ! 手加減って言葉を知らないのかよっ!?」

純「あはは、泣くな、キャプテン。ほら、顔の傷、消毒したげるからこっちきなさい」

春原「スミ―が来てくれよ。僕もうくたくただ…」

純「はいはい…。しょうがないわね…」

梓「お疲れさま、春原君」

春原「そっちもね、ティンカーベル。…岡崎と憂ちゃん、ちゃんとやってる?」

梓「うん。もう問題ないみたい」

春原「そっか…。へん、ま、そうでないと困るけどね」


純に手当てをされながら、春原君も満足そうな顔で舞台の方を見た。

朋也はもう、しっかりとピーターを演じていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:21:24.43 ID:081+0V1uo<>
梓「演劇ももう終わりだね…」


舞台に、もの静かなBGMが流れた。

もう、クライマックスのシーンも近い。


春原「そうだね」

純「ま、私達にはライブっていう、一番の大仕事がまだあるけどねっ!それも、二回もっ!」

梓「うん…」

春原「……」

純「……」


きっと、この場にいる三人、思う事は一緒なんだって、二人の顔をみてわかった。

だから、純も、春原君も、何も言わない。


男委員長「おいおい、お前ら、なーにしんみりしてんだよ」

春原「はっ。うっせえよ委員長」

男委員長「最後のシーン、始まるぜ?」

春原「……」


舞台には、憂と朋也の二人だけ。

他の皆はもう退場していて。

…後に残るは、ピーターパンとウェンディのお別れの一幕だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:23:35.91 ID:081+0V1uo<> >>312

>>1はここから先を岡崎でやりたかっただけだったりするw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:24:33.24 ID:081+0V1uo<>
憂「一緒に行きましょう、ピーター」

岡崎「…行かない」

憂「あなたのママも…見つかるかもしれないのよ?」

岡崎「…駄目だよ、やっぱり俺はいけない」

憂「ピーター…」

岡崎「俺にも…ママやパパが、窓を開けて待っててくれてるって……そう思ってた時、あったよ」

憂「…そう、なの?」

岡崎「でも…ある時俺が家に帰ったら、窓は固く閉じられてて、ママはいなかったんだ。もう…この世の人ではなくなってしまっていた」

岡崎「…ママがいなくなった家にいたのは、腑抜けて酒に溺れていた、情けない父さんだけだった」

岡崎「そして、父さんは……自分に息子がいたことなんて、忘れていた。顔を見せてももう、俺が息子だって、わからなくなっていた」

憂「ピーター…」

岡崎「だから、俺は大人になんか、なりたくないっ。ネバーランドから離れるわけにはいかない」


…ピーターパンは、ウェンディの必死の説得にも関わらず、共に帰ることを拒否しつづけ、

そして、少年のまま、何年も、何十年も、

ウェンディが結婚し、子供が出来ても、その子がまた結婚し、また子が出来ても……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:26:40.43 ID:081+0V1uo<>
憂「…駄目だよ」

岡崎「え…?」



でも、この舞台に立つウェンディはちょっとやそっとじゃへこたれなかった。



憂「ピーター、あなたにはパパがいる。本当はあなたのことを気にしている、パパがちゃんといるの」


岡崎「う…憂…?」





憂は、観客席の、一番前の列の、左端に目をやった。

朋也も、続いてそちらに視線を移す。




岡崎「ぁ……」



…そこにいたのは…


直幸「……」


息子の晴れ舞台を見に来ていた、ピーターパンの、お父さんだった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:29:03.93 ID:081+0V1uo<>
私も前に一度見た事があったから、間違いない。


あ、そっか。…昨日、さわこ先生が朋也の家に電話した時、今日の事も、伝えてたって言ってたっけ…。



岡崎「…なんで……どうして……」


憂「親が、子を忘れるなんて、あるわけないんだよ。…だから、私と一緒にロンドンに帰りましょう。 私も一緒に、あなたのパパに、会いに行くから」






男委員長「あ、あれ……。なんか、平沢さんまで台本から外れてったぞ…」

女委員長「だ、大丈夫なの…!?平気なのっ!?この舞台っ!?」




春原「平気だよ。…多分ね」

男委員長「…お前の差し金か?」

純「あんた…憂になんて言ったの?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:29:40.11 ID:081+0V1uo<>
春原「……」


春原「岡崎を…」





春原「ネバーランドから、解放してやってくれっ…てさ」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:31:38.49 ID:081+0V1uo<>
………



憂「ネバーランドは夢と現実の間にある場所。毎日が冒険で、ワクワクして、仲間たちと、ずっと、ずっと楽しい時間が送れる夢のような楽園…」

憂「楽しくて、嬉しくて、永遠に続くんだって、信じたくなる場所」

岡崎「そうだ。…これからだって、ずっと続くんだ。楽しい時間、ずっと一緒に続けるんだよっ」

憂「違うよ。ずっと、一緒にはいられない。ずっと楽しい時間だけが続くなんて、ありえない」

岡崎「…っ」

岡崎「ウェンディ……どうして…」

憂「貴方も、私も、カビーも、スライトリーも、ツインズも、二ブスも、トゥートルズも……みんな、みんな、いつかネバーランドを離れていくの」






梓「…憂」





ウェンディの言う、ピーターパンと、仲間の子供たち。


それは…誰のこと?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:33:01.96 ID:081+0V1uo<>
憂「みんな…大人になっていく。現実から目を背けてはいられない。…ネバーランドは…思い出の場所になるの」

憂「だから、あなたも私と一緒に帰りましょう?」

岡崎「…嫌だ」

憂「ピーター…」

岡崎「ウェンディは…考えたこと、ないのか…? ずっと、一緒にいたいってっ! この学校生活が…終わるなんて嫌だって!」





春原「岡崎…」





…ウェンディと、ピーターパンの会話にちょっとしたずれが生まれた。

いつの間にか、朋也の口からネバーランドという呼称が消えている。



岡崎「俺は…嫌なんだ…。大好きなここから離れなきゃいけないなんて…皆と一緒に過ごしたこの場所から出ていかなきゃいけないなんて…」


岡崎「…ずっと…腐った毎日を送っていた俺に、優しく手を差し伸べて……毎日が祭りみたいで、嘘みたいに充実してた……」


…だって、ピーターの言うこの場所は、違うから。

彼が今言っている、大事な場所は、この学校の事だから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:33:58.61 ID:081+0V1uo<>
岡崎「ウェンディは平気なのか?俺と離れても……皆と、会えなくなっても…! ここから出ていけば、今みたいに毎日会う事なんて……もう、一緒に何かをすることなんて…っ!」


そんな、誰よりもピーターパンな、朋也の本音は……


憂「ピーター…私達が、それを考えなかった…なんて、思ってるの?」


岡崎「……っ」


けいおん部の誰もが。

私も、憂も、純も……きっと、今横でまさに泣きそうな表情を浮かべている春原君だって、

そして、多分、だけど……。

去年、唯先輩達だって、考えていたことで。

そんな、学校と、学校で過ごした人たちを、愛してきた人なら、誰もが考える……叶うわけのない、悲しい願い。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:35:12.16 ID:081+0V1uo<>
岡崎「っ……!!」


憂「違うの。…本当は、私が1番、嫌だった!大好きな人と離れるのはっ…!! だから…大好きな人と離れた時、悲しくて…立ち止まった時だってあったの!」


岡崎「ウェンディ…」




きっと、憂だって、私と同じだった。

唯先輩が、遠くにいってしまう事が、今まで当たり前のように近くにいた人が、自分よりも一足先に大人になって、手の届かないところにいってしまうことが、寂しくて。


私も、憂も、ピーターパンだった。

好きな人たちに大人になんてなってほしくなくて、ずっと自分と、一緒にいてほしかった。

あの音楽室にいてほしかった。

この町に、いてほしかった。


憂「沢山、考えたんだよ?どうすれば、その人と離れないでいられるのか。どうしたら、胸の痛みが消えるのか。真っ暗になった世界は、どうしたらまた輝くのか…」




そして、出会いと別れの季節、春。

4月に私たちが出会った時、朋也は誰よりもウェンディだった。

新しい世界に迷い込んで、見るもの全てが新鮮で、どんどん、深みにはまってしまって…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:37:21.62 ID:081+0V1uo<>
憂「…でもね、どんなに考えても、駄目なの。時間はずっと、ずっと、ただ進んでしまう」


私と憂は、一度経験した。

大好きな人達との別れを。

そして、わかってしまった。

それは、どうしようもなく、やってくるものだって。

そして、その経験は、新しい出会いがあっても、別れはいずれやってくるものだって、感じさせてくれた。


憂「私達は…人だから、ずっと子供でいる事なんて出来ない。もし、子供のままでいようとしたら、誰かを傷つけずにはいられない」





純「憂…」





けれど、朋也は違ったんだ。

3年前に、バスケを失った朋也は、それから高校の3年生になるまで、ずっとふてくされてしまっていた。

だから、怖いんだ。

失ってしまえば、それが終わりなんだって、自分の経験がそう警告してきて、不安で、きっと、私たちの何倍も怖かったんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:38:49.50 ID:081+0V1uo<>
憂「帰ろう、ピーターパン。…あなたを誰よりも見てきた人がいる。あなたの本当の居場所に」


憂「そして、ネバーランドは記憶のアルバムにしまって、未来に進もう?…いつか皆で…そのアルバムを開いて、笑い合えるように……」




菫「先輩……」




憂「私たちはこの場所に戻ってくるから。…それは、来年の夏休みかもしれないし、もしかしたら、文化祭の時だけかもしれない。でも、時間がたてば、ずっとあなたの近くにいる事だって出来るかもしれない」




直「……」グスッ




岡崎「皆と……また、会えるかな…」


憂「私たちが大人になっても忘れなければ…、飛べるって信じていれば、それはきっと……叶うよ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:40:03.48 ID:081+0V1uo<>
岡崎「帰ってきて…くれるのかな……」



憂「うん…。この学校に……この町に、私たちは帰ってくるから」



岡崎「そっか……、そうだと……っ……嬉しい……なぁっ……っ」






…台本を離れてしまった、当初の予定とは全く違うエンディング。


観客も、劇を演出してきた私たちのクラスにも…


誰にも予測できなかった、一人の少年と少女の物語は…



…こうして幕を閉じた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:40:51.95 ID:081+0V1uo<>
「以上。3年2組より、『ピーターパン』でした」



ナレーションと共に、朋也と憂は舞台の真ん中に移動すると…。


岡崎「……」

憂「……」



ぺこりと観客席に向かってお辞儀をした。




パチパチパチ……


舞台の下から、小さな拍手があがる



梓「ぁ……」




さわこ「……」



拍手を送ってくれた人は、私よりも…憂よりも、ずっと昔から、彼を見守っていた、彼の味方だった先生だ。



梓「先生……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:46:01.85 ID:081+0V1uo<>
パチパチパチ……



そして、先生のとなりでこの劇を見てくれていた、私の大好きな人たちが、続いて拍手をくれた。


…一つの音の波は四つの拍手を呼んだ。


五つの拍手はさらにたくさんの音の波を呼び込み、やがて、体育館は大きな拍手と声援に、包まれた。





三年男子A「岡崎っ!お前の孤独、しかと見届けたぞぉっ!」


三年女子A「ウェンディ可愛いかったよーっ!」


三年男子B「だよなっ! 大人になんかっ!なりたくないよなあっ!」



岡崎「はは……っ……くそ……っ…」


岡崎「お前らっ!! 見世物じゃ……っ……ないんだぞっ!」





三年女子B「ピーターっ! 泣かないで〜っ!」

三年女子C「岡崎君可愛い〜っ!」



岡崎「…さっさと戻ろう。…恥ずかしさで死にたくなる」

憂「うん、ピータ……もう違うね。朋也くん」

岡崎「ああ…」


岡崎「…もう、ピーターパンとは…ネバーランドとは…おさらばだ」



………

……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:47:00.38 ID:081+0V1uo<>
………

……




舞台が終わり、私と純と春原くんは音楽室に移動していた。


春原「……」

純「……」


いつもは騒がしい二人なのに、まだ劇が終わったことに実感が湧かないのか、ぼんやりと音楽室の椅子に座っている。


春原「あのさ」


そんな心地よい疲労感の漂う中、春原くんは…


春原「…受験、頑張れよな」

純「…へ?」


そんな、彼らしくない、エールの言葉を純に放った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:49:04.80 ID:081+0V1uo<>
純「……」

純「あんたも、就活、うまくやりなよ」

春原「まぁ、ほどほどにね。スミー」

純「船長こそ、無理はしない方がいいかもね…」


祭りの空気がそうさせたのか、二人のやり取りにはいつものような刺がなくて、ちょっと笑っちゃう。

…でも、いつまでもここでぼんやりしてたらいけないよね。



梓「二人共、その前に、私たちにはやることがあるよっ!」




純「梓…」

春原「なんだよ、部長」



梓「今から一時間後に、また体育館でっ!私たちの今日の本来やるべきことが始まるんだよっ!?」

梓「ほら、ギリギリまで練習しよっ! 私たちには、無駄にできる時間なんてもうないじゃんっ!」

純「梓…」

春原「はは…さすが部長じゃん。よし、僕は校内を軽音部のポスター持って回ってライブの宣伝しまくるとしようかねぇっ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:50:01.87 ID:081+0V1uo<>
梓「春原くんお願いっ!純、私たちは菫と直を捕まえにいこっ。探せばすぐに見つかるよっ!」

純「…いいけど」

純「あんた、先輩たちと話にいかなくていいの? さっき、先生と舞台のしたにいたの見えたけど…」

梓「それは……」

梓「それは、明日の文化祭が終わったあとでいいから」

純「憂と岡崎は…?」

梓「…今だけは、二人にしてあげてもいいかなって…」

純「…いいの?」

梓「……」



梓「いいのっ!」




春原「はは……。 本当、面白いね。…この部はさ」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:50:54.42 ID:081+0V1uo<> ______


あの演劇のあと……。

俺は、クラスの連中に泣いた跡の残る顔を見られたくなくて、舞台のカーテンが降りたあと、早足で体育館を去った。

着替える暇はなかったので、演劇衣装のまま廊下を歩くこととなったが、文化祭という特殊な環境は、そんな俺の特殊な姿を『普通』の格好として扱ってくれるのではと期待していた。


憂「終わっちゃった…」

岡崎「……」


そして、当てもなく校内をうろつくピーターパンに、ぴったりとくっついているウェンディ。


憂「楽しかったね、演劇」

岡崎「…どこがだよ」


二人で歩くとさすがに目立つのか、結局周りの客や生徒の視線を俺たちは集めてしまっていた。

でも、憂はそんな他人の目も気にならないのか俺に質問を続ける。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:51:44.83 ID:081+0V1uo<>
憂「…楽しくなかった?」

岡崎「……」


憂は、たまに返答にこまる質問を俺にする。

そして、タチの悪いことに、困った俺の顔をみて、ニコニコしてる。

最近、気づいた。

憂は、けいおん部で一番、意地悪なやつだ。

少なくとも、俺には。


憂「私は…楽しかったな」

岡崎「俺は…恥ずかしくて死ぬかと思った。…ラストのラストで信じられないアドリブいれやがって」

憂「うん…。 今からクラスに戻って皆に謝る? 台本メタメタにしちゃってごめんなさいって」

岡崎「謝るくらいなら……するなよ」

憂「…しないほうがよかった?」

岡崎「……」

岡崎「ノーコメントだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:53:13.88 ID:081+0V1uo<>
憂「……」

憂「この前、純ちゃんと、春原くんと、朋也くんの『ノーコメントだ』を翻訳しようって話をしてたんだけどね…」

岡崎「そんな話してないで勉強しろよ…」

憂「恥ずかしいぜって、翻訳するのが正解ってなったんだ」

岡崎「……」

岡崎「ノーコメントだ」

憂「えへへ…」

岡崎「…なあ、後50分くらいで『わかばガールズ』のライブ、始まるだろ。音楽室、行かなくていいのか?」

憂「行く前に…、どこかのクラスで一緒に焼きそば食べたいな」

岡崎「焼きそばか…」

憂「夏休みのお祭りを思い出すね」

岡崎「……」

憂「朋也くん、私達…デートしてるみたいに見えるかな」

岡崎「……」

憂「朋也くん、何かいってほしいな…」

岡崎「……」

岡崎「さっさと行くぞ、ウェンディ」

憂「…えへへ、うんっ」


こうして、俺たちの演劇は幕を閉じ、文化祭のイベントも、俺にとっては数十分後の部の仲間たちのライブと、明日の自分たちのライブのみとなった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 02:57:58.89 ID:081+0V1uo<>
………

……




岡崎「……」

男子生徒「ピーターパンとウェンディが来店ですっ!」


焼きそば屋のクラスメイト一同「いらっしゃいませっ!!」


岡崎「…なんの真似だ。お前ら」

憂「やっぱり、この格好だと目立っちゃうね…」


憂は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいている。


男店員「よおピーター。見せつけてくれんじゃん」

女店員「憂ってやっぱり岡崎君と付き合ってるの?」


くそ…。こいつら最近やけになれなれしいな…。


憂「や、やだなぁ…。やっぱり、そう見えちゃうのかな…?」

岡崎「憂ものらなくていいからなっ!」

憂「のってるんじゃなくて、本気だよ?」

岡崎「リアクションに困る反応はやめろっ!」

男店員「…くそー、ピーターうぜえ…。 おーい、皆、岡崎の焼きそばはラー油とにんにく、唐辛子マシマシで出せっ!」

岡崎「地味な嫌がらせもやめろっ!」


憂「ぷっ…。あはは……」



憂「…大好き」




岡崎「おいっ!何作ってるんだお前ら!マジでやめろぉっ!」


男店員「死ねっ!ピーターパンっ!!」


………

……




文化祭は、続く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 03:02:27.95 ID:081+0V1uo<> では今日の投下はここまでです。

読んでくれてる方、いつもありがとうございます。


ちなみに今日の演劇の流れはこの青空に約束をというギャルゲーを下敷……パロって……ほぼパクって(ry

けいおんキャラとCLANNADキャラでこの作品の演劇ができたら楽しそうだなぁ…

なんて妄想からこのSSが生まれてたりもするので「この青空に約束を」というゲームを見かけたら手にとっていただけたらなぁ…。

と、ステマっぽい語りはここまで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/22(木) 03:08:31.62 ID:081+0V1uo<> また、次回の投下で安価で選択肢を出します。


今までのように深夜ではなく、人がいそうな時間帯に、人がいる事を願って、下1〜3 or 下1〜5くらいの範囲で安価を取ろうかななんて思ってます。

一週間以内に投下する予定で、目処が立ったら前日あたりにでも書き込みますのでどうかよろしくお願いします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 03:40:01.45 ID:PiB5sLrio<> 乙

こんにゃくは丸戸作品でも特に泣けるよな
この場合、元ネタに照らし合わせて考えると、本当のピーターパンは朋也じゃなくて憂だったってことか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/11/22(木) 03:54:43.92 ID:081+0V1uo<> >>345
丸戸作品いいですよね。
泣ける作品作れる人ってすごい。

後前スレについてですが一応もう一度…

実は10レスくらいで丁度終わりそうな話をあっちに後一回投下したいんで、管理人さんもしくは、はよスレ落とせって人も、後一週間程待って欲しいのです。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 06:52:11.09 ID:tMcOHijmo<> 乙
グッときた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/11/22(木) 07:45:29.56 ID:cwzfFEtAO<> こいつぁグレートォ……

乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 08:15:57.58 ID:rWOkJnsDO<> くそ!>>1のせいでやりたくなっちまったじゃないか! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 09:43:02.50 ID:r7yfbFfA0<> 乙。
これ読んだ後、「この青空に約束を」について、ニコ百で調べてきた。
アニメ版は黒歴史だったそうだが、岡崎の中の人の初主演作だったのね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage <>2012/11/22(木) 12:05:09.91 ID:ApFztfJ4o<> >>1乙、それと便座カバー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/11/22(木) 12:43:45.00 ID:5ZAxKEcAO<> 乙
こんにゃくは ぜひアニメ化してほしい作品だよな……

俺としては 他に つよきす デモンベイン 月姫 けよりなをアニメ化してほしいけどな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 13:26:50.60 ID:Lxt84qWIO<> デモベのアニメなど無かったのだ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/11/22(木) 15:30:18.42 ID:2lAtKBGP0<> 乙いい話だ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 17:54:03.38 ID:5n7nltI8o<> だからこんにゃくはアニメ化されてないって!(白目) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 19:14:30.90 ID:l5rXDKBk0<> こんにゃくはよく評価される話聞くしいつかやってみたい……
そう言ったのは何年前の話だっただろうか……

これという機会がないとなかなかプレイしないんだよね! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/11/23(金) 12:39:33.93 ID:Q0iFBn9e0<> このssに巡り会えて良かった! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/11/27(火) 17:37:11.82 ID:hdQg7MRx0<> こんにゃくの最後皆で号泣しながら歌を歌うシーンは、思わず笑ってしまったな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/11/27(火) 20:26:48.88 ID:v1VmtCPTo<> 朋也「約束の歌…斉唱…っ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/27(火) 21:55:25.96 ID:n0mwc6Bto<> ↑なんかカイジっぽいぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/11/28(水) 00:21:56.83 ID:RUKJV748o<> >>1です。

次は明日の15時辺りから投下する予定です。

それでは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage <>2012/11/28(水) 00:27:18.89 ID:gaQ2DZFco<> きたあああああああ!待ってるぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/11/28(水) 00:35:36.83 ID:RlKlcH31o<> その言葉、投下可能と判断する
当方に全裸待機の用意あり! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:01:26.61 ID:RUKJV748o<> ______


「それでは次の発表は軽音楽部です。三年生からは中野梓さん、平沢憂さん、鈴木純さん。そして、一年生からは奥田直さん、斎藤菫さん、お願いします」

「彼女たち軽音楽部は今年廃部の危機にありましたが、その危機を乗り越えてこの文化祭の舞台にたどり着きました」

「まだまだ未熟なガールズバンドですが、音の大きさと一生懸命さは一人前です…。そんなメッセージも届いています」

「それでは、軽音楽部の皆さん、演奏をお願いします」



ナレーションが流れると舞台のカーテンがゆっくりと上がり、梓達五人の姿が現れた。



斎藤「…1、2、3っ!」


斎藤の掛け声が体育館に響き渡り、楽器の音の波が広がる。


こうして、『わかばガールズ』として最初で最後の文化祭でのライブが始まった。


………

……




………

……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:02:12.62 ID:RUKJV748o<> ______



パチパチパチ…。

と、舞台の上に立つ彼女たちへ賞賛の拍手が送られた。

体育館には先程までの熱気がまだ残り、観客の生徒たちも満足そうな足取りでその場を去っていく。


岡崎「……」

春原「終わったね」

岡崎「ああ。でも、俺たちには機材運びの仕事が残ってる。片付けにいくぞ」

春原「…りょうかい。まったく…明日僕らがまた使うんだから。置きっぱなしにしてほしいんですけどね」

岡崎「この舞台に立つのは俺たちだけじゃないんだ。仕方ないだろ」

春原「へいへい…」


『わかばガールズ』のライブが終わり、俺と春原は機材の後片付けをしていた。

ステージ上のドラムセットを舞台裏の物置に。

アンプやシールド、エフェクター等は一度控え室に運び、その後に音楽室にまた運ばなければいけない。


岡崎「……」

春原「……」


文化祭、初日。

梓達のライブは大成功に終わった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:02:39.50 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」

春原「僕らにも出来るのかね。彼女たちみたいなライブ」

岡崎「俺とお前がミスらなければ平気だろ」

春原「そんなもんですかね」

岡崎「メンバーも3人は今日のままだしな」

春原「いっそ、3人だけでやった方が盛り上がるかもね」

岡崎「……」


そうでないことを祈ろう。


男委員長「よっ。片付けか?」


春原と舞台の上の機材を運んでいると、男委員長が話しかけてきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:03:31.14 ID:RUKJV748o<>
春原「なに?なんか用?」

男委員長「いや、中野さん達のライブよかったなって言いに来ただけだ」

岡崎「お前も見てくれたのか」

男委員長「前も言ったけど、俺はこの学校のけいおん部のファンだぞ。見ない訳ないだろうが」

岡崎「そっかよ」

男委員長「でも、俺はやっぱりお前たちの明日のライブが今までで一番楽しみだよ」

岡崎「…あのな、委員長。俺たちを気遣ってくれてるのかもしれんが、お世辞はいらないぞ」

男委員長「いや、お世辞じゃなくて、本当に楽しみなんだって」

春原「僕らがミスするのが?」

男委員長「…お前らはどうしてそんなにネガティブなんだ」

岡崎「グレてたからな。ずっと」

男委員長「……」

春原「……」

岡崎「おい、なんで二人共黙るんだ」

男委員長「いや悪いな。でも、ちょっと笑っていいのかわからない冗談だったぞ」

岡崎「マジか。…こっちもリアクションに困る事いって悪かったな」

男委員長「……」

岡崎「いや、だからなんで黙るんだ」

男委員長「俺、やっぱお前たちの事誤解してたよ」

春原「どういう意味さ」

男委員長「なんでもねえよ。…話を戻すけどな、明日のライブを楽しみにしてるの。俺だけじゃないと思うぞ」

岡崎「両手の指で数えられる位の人は期待してくれてる。とは俺も思う」

春原「部員5人。さわちゃん。芳野さん。幸村の爺。岡崎の親父さん。男委員長。本当にぴったり10人だね」

男委員長「女委員長だって、俺たちのクラスメイトの皆だって楽しみにしてるって」

岡崎「…そうなのか?」

男委員長「お前ら、この半年で随分変わったから皆気にしてるんだよ。口に出さないだけで」

男委員長「なにより、ガールズバンドだったけいおん部に男が入ったってのはでかい」

岡崎「マイナス要素だとしか思えないんだが…」

男委員長「んなこたない。一部の男子には神聖な部を汚されたと騒いでるやつもいるが…」

男委員長「でもな、岡崎も春原も中々ビジュアルはいけてるだろ。後輩の女子なんかはお前ら目当てで見に行くやつもたくさんいると思うぞ」

岡崎「まさか…」

春原「いや、男委員長の言うとおりかもしれない」

春原「女なんて男が楽器演奏してやればそれだけでコロってくるもんじゃない? いいね、僕もやる気出てきたよ」

岡崎「お前のその自信はどこからくるんだ」

男委員長「後…演劇はいい宣伝になったと思うぞ」

岡崎「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:04:24.66 ID:RUKJV748o<>
男委員長「お前と平沢さんが舞台からいなくなった後、宣伝してやったんだぜ?」

男委員長「『明日、文化祭二日目の16時から、軽音楽部の……この劇の主演メンバー5人のライブがあります。お時間があればよろしくお願いします』…ってな」

岡崎「…おい」

春原「そういえば、そんな事言ってたね」

男委員長「そういうわけで、今までとは客層も変わるかもな。たくさん人来るのは間違いないと思うがな」

男委員長「何より、今日のライブすげえよかったし」

岡崎「……」


それは本当だ。

本当に、結成半年とは思えない演奏をあいつらはしていた。

俺たちも、負けるわけにはいかない。


………


岡崎「よし、これで片付けもひとまず終わりにするか」

春原「まだシールドとかアンプとか残ってるじゃん。音楽室に運ばなくていいの?」

岡崎「…なんとなく、だけどさ」

岡崎「今は、あいつら5人だけにしてやろうぜ。今日の主役はあの5人だろ。少し時間空けて機材は持ち帰る」

春原「へぇ…。岡崎が気をつかうなんて珍しいじゃん」

岡崎「……」


俺と春原には明日がある。

勿論、梓と憂と鈴木にも。

…でも、斎藤と奥田にとっては今日のライブが今年のけいおん部の発表としては、最後になるわけで。

きっと、色々複雑な気持ちを抱いてるはずだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:05:07.93 ID:RUKJV748o<>
男委員長「手伝うことももうなさそうだな。俺もう行くわ」

岡崎「わざわざ悪かったな」

男委員長「明日、いい演奏を聞かしてくれればいいさ。それじゃな」

春原「へんっ! 楽しみにしてろよなっ!」

______


芳野「……」

さわこ「来てたのね。あんたも」

芳野「まあな」

さわこ「てっきり明日の方しか見に来ないかと思ってたわ」

芳野「あの金髪の子も、黒い短髪の子も何度か練習を見てやったからな。俺の教え子だ」

芳野「教え子の晴れ舞台を見にいかない師匠はいないだろう」

さわこ「それもそうね。明日のライブは16時からだけど…見に来る?」

芳野「当たり前だ。明日は公子さんも連れてくる。よかったら話し相手になってくれ。きっと喜ぶ」

さわこ「先生も…。そっか…懐かしいわね」



芳野「……ん?」



唯「……」ジー

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:06:21.22 ID:RUKJV748o<>
芳野「君は…確か岡崎のガールフレンドの…」

さわこ「あ、違うのよ裕介。この子は憂ちゃんの姉で私の去年までの教え子なの」

芳野「…なるほど、驚いた。そっくりだな」


律「おーい、唯、さわちゃーんっ! あ、いたいた…。一日目が終わる前に少しでも校内を回ろうぜ……」

律「…!?」

澪「律、唯と先生はいたのか?……っ」

澪「!?」

紬「あら、皆どうしたの?」

芳野「……この4人、全員がお前の元生徒か?」

さわこ「ええ。可愛いでしょ?自慢の教え子よ」


紬「あの〜…。こちらの男性は先生の恋人ですか?」

さわこ「もう、ムギちゃん。こいつはそんな人じゃないわよ」

紬「そうですか…残念です」

さわこ「……何が残念かは気になるけど。 紹介するわね。こいつは…」

律「よ、芳野……裕介っ!?」

唯「あ〜っ!そ、それだよりっちゃんっ!やっと思い出したっ!」

さわこ「あら、やっぱりあんた有名ね」

芳野「…芳野裕介。キャサリンの同期だ。よろしく頼む」

唯「せ、先生の同期って…OB!?」

澪「ま、まさか…この高校のOBに有名人がいたなんて…」

紬「そんなに有名な人なんですか?」

さわこ「WEB検索すれば名前が出る程度には有名なんじゃないかしら」

芳野「……」


………

……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:07:06.21 ID:RUKJV748o<> _______


春原「芳野さーん、こっちこっち!!」


一日目の文化祭も17時を過ぎてからは店じまいの雰囲気を出し始め、

そんな校内を春原と回っていると見知った顔を俺たちは見つけた。


岡崎「ども。初日にも来てくれたんですね」

芳野「ああ、いいライブだったな。 明日も期待している」


満足そうな顔で芳野さんはそう言った。

…自分の事でもないのにそれがなんだか嬉しかった。


芳野「お前たち、今は二人か?」


俺と春原を見ると芳野さんはそんな事を言った。


岡崎「はい、今日のライブメンバーは今は多分音楽室に……」




唯「あ、フック船長とピーターパンだっ!」

岡崎「…げ、お姉さん」

律「ふーん…。この二人がさわちゃんの言ってた問題児か」

澪「二人共っ!失礼だぞっ!」

紬「男の子のけいおん部員って新鮮ねぇ……」


芳野さんの背中からOGの方々が突然現れ俺と春原は一瞬硬直した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:07:49.71 ID:RUKJV748o<>
春原「……」

岡崎「芳野さんは、これまた随分大人数ですね」


見た目がかっこいいからだろうか。

OGの方々4人…それも、全員驚く程可愛い人たちを一人で引き連れる芳野さんの姿はちょっと羨ましくもある。


春原「…師匠って呼んでいいっすか?」


春原の言うとおり、これだけレベルの高い女の人を連れて歩く芳野さんは周りの生徒達からは中々の大物に見えるだろう。

いや、大物なんだけどな。

それも、とんでもなく。



芳野「勘違いするな。この子たちが勝手について来てるだけだ」


春原「神って呼んでいいっすかっ!?」

岡崎「春原、うるさいぞ」


…音楽に関しては神なんだけどな、本当。



さわこ「丁度会ったから、皆で回ってたのよ」



春原「あ、さわちゃんいたんだ」

さわこ「私をおまけのように呼ばないでよぅ…」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:08:15.79 ID:RUKJV748o<>
………

……



律「へぇー、それじゃ、あんたらも明日ライブやるんだ」

岡崎「はい…。その、一生懸命やるんでよろしくお願いします、律先輩」

律「!!」

澪「…どうしたんだ?」

律「後輩に……先輩って呼ばれるの…いいなぁっ♪」

唯「あずにゃんだって律先輩って呼んでたよ?」

律「あいつはなぁ〜…。 なんか敬意が足りないっつうかさ〜」

澪「尊敬するに値しなかったんだろ…律は」

律「なんですとぉっ!?」

紬「大丈夫よリッちゃんっ!私は尊敬してるからっ!」

律「いや、嬉しいんだけど、ムギは後輩じゃないしっ!」

さわこ「あなた達も相変わらずね」

律「…いやー、大学生になったものの、実際あんま変わらないんだよな」

澪「そうでもないけどな。律も、唯も、ムギも、私も、皆ちゃんと変わって成長してます、先生」

さわこ「あら…」

唯「そ、そうかなっ!?えへへ〜、照れちゃうな〜」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:09:05.93 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」

春原「どしたの、岡崎」

岡崎「いや、先輩たち、仲いいんだなぁ…って」

春原「確かに、なんか羨ましいね」

岡崎「そうだな…」

岡崎「……」

岡崎「…言っとくけど、お前とあんな風になりたいって言ってる訳じゃないからなっ!」

春原「なんでツンデレ風に言うんですかねぇ!?」




唯「いいなぁ…」

紬「どうしたの?唯ちゃん」

唯「なんだか、男の人の友情のやり取りを目の前で見てる気がして…」




岡崎「お前なんか、嫌いなんだからなっ!」

春原「だからそのいい方やめてくださいっ!!」




律「…そうかぁ?」

澪「でも、あの子達となら、梓もうまくやれてるんじゃないか?」

唯「えへへ…そうだと嬉しいなぁ…」





芳野「…個性的な子ばかりだな」

さわこ「あんたがそれを言うか」

芳野「……」

芳野「そういえば、キャサリンも個性的だったな」

さわこ「……っ」

さわこ「キャサリンはやめて……っ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:12:44.10 ID:RUKJV748o<>
………

……




しばらく話すと俺と春原は頃合を見て音楽室に戻った。

…戻り際、紬先輩が俺と春原を見てニコニコしていたがあれは気にしないほうがいいだろう。



………



岡崎「…泣いてるのか?お前ら」


そして、音楽室に戻ると泣き顔の5人が俺たちを迎えた。

音楽室の真ん中のテーブルには奥田と斎藤から俺たち3年へのプレゼントとして用意された立派なケーキが置かれていて、そのサプライズに先輩組の3人は泣いてしまったようだ。


菫「……」グスッ

直「……泣いてなんか、ないですから」




岡崎「お前ら…」



この学校で、このメンバーでライブをする最後の機会だった奥田たち。

そして、それは梓たちにとってもこの学校で奥田たちとやれる機会が最後だってことだ。


…きっと、さっきまで今日のライブの事を5人で楽しく…なのに寂しさを感じながら…。


…嬉しく、けれど、悲しみながら語り合っていたんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:13:35.53 ID:RUKJV748o<>
………

……





その後…。

5人が泣き止みしだい、俺たちは二日目にむけて最後のセッションを行った。

もう、飽きるほどに合わせた3曲を、何度も何度も通した。

途中で、俺と春原を奥田と斎藤に変えて、今日のライブで弾いた曲をまた何度も繰り返し梓たちは演奏をした。


…奥田と斎藤は、もう泣かなかった。


………


下校時刻…18時になっても、俺たちは帰らずに、楽器を弾き続けた。

さわこ先生が宿泊許可を取ってきてくれたから、泊りがけで練習をすることになった。


18時時半前に学校を出て、19時40分には皆がまた学校に集まり、先生がコンビニで買ってきた弁当を皆で食べて、20時にはまたセッションを始めた。


20時半になると、アンプに繋いで楽器を弾くことを見回りに来た頭の固い教師(さわこ先生よりも立場が上らしい)に禁止されて、ギターとベースの音が小さくなった。

また、ドラムの音も最小限まで抑えなければいけなくなった。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:14:12.33 ID:RUKJV748o<>
21時になると、ドラムは完全に使用不可な時間帯と警告され、音楽室にコダマする音はアンプに繋がれていない迫力のないエレキギターとエレキベースとキーボードの小さな音と、控えめに歌う二人の女の子の歌声だけになった。


22時になった。

斎藤と奥田は休憩時間を取ると、歯を磨き、顔を洗うと言って音楽室を出て行った。

そして、戻ってくると同時に先生の用意した寝袋にくるまって眠り始めた。


23時になった。

春原はドラムセットの椅子に座り、しばらくぼんやりしているうちに、いつの間にかドラムセットに顔をのせて眠ってしまっていた。

鈴木は春原のコートをその持ち主に被せ、その後に彼女が家から持ってきたであろう大きなタオルを金髪男の背中にかけてやっていた。

そして、鈴木もしばらくは憂と梓と話していたが、次第にこっくりこっくりと船を漕ぎ始め、それからすぐに寝袋にくるまった。


…24時になった。

先生はいつの間にかどこかにいってしまい、音楽室には俺と憂と梓だけが起きていた。

二人は鈴木が眠ってから、俺とは距離をとり音楽室の端でひそひそと話し続けている。


俺もそろそろ眠ろうかと思った。

けれど、少しでも長く文化祭という非日常を記憶していたくて、今でも目を凝らして意識を保ち続けている。


岡崎「…ちょっと、歩いてくる」


なにもせずに起き続けるのは中々辛いので、ギターケースを背負うと廊下に出て少し歩くことにした。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:15:09.47 ID:RUKJV748o<>
梓「こんな時間に?」

憂「先生に怒られちゃうんじゃ…」

岡崎「平気だろ。 すぐ戻るから、寝てていいぞ」

梓「寝てる間に、変なことしてきそうだから嫌だ」

岡崎「…信用ないのな、俺。…それじゃ、行ってくる」

憂「あんまり遅くなったら駄目だからね〜」



………



夜の校内といえば、不気味な雰囲気をホラー映画などを見てると思い浮かべるが、一日目の文化祭の跡が残り、二日目の準備がなされた今日に至ってはそんなことはなく、歩いているだけでワクワクするような、そんな不思議な気持ちを胸に抱かせた。

…本当はこんな時間に校内をうろつくのは宿泊許可を取っていても禁止されてるのだが、学校側も今日くらいは生徒に対して緩いのか、何人かの生徒をちらほらと見かける。


仁科「…あ」

岡崎「あんたは…合唱部の……」


そして、旧校舎の廊下をぼんやりと歩いていると、春頃に知り合った合唱部の後輩とばったりと会った。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:15:35.30 ID:RUKJV748o<>
岡崎「久しぶりだな。えっと…仁科、だっけか」

仁科「はい。その節はご迷惑をかけてしまって…」

岡崎「やめてくれ。もう終わったことだろ」

仁科「そう言ってくださると助かります」

岡崎「……」


仁科はその両手に何かの楽器のケースと思われるものを持っていた。


仁科「…さっきまで、屋上でバイオリンを弾いていたんです」

岡崎「バイオリンを?」


こんな時間までやっていたのか…。

しかも一人で。

音量抑えてやってたんだろうけど、仁科は結構やんちゃなのかもしれない。


でも…、こいつって確か……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:16:23.23 ID:RUKJV748o<>
仁科「はい。あの…、先輩はギターを弾く人なんですか?」

岡崎「ん? ああ…。明日もこのギターと一緒にライブに出るつもりだ」


俺はちらっと背中に背負ったギターケースを見てこたえた。


仁科「そうですか。楽器、いいですよね」

岡崎「…ああ」

岡崎「お前は、バイオリン…弾けるのか?」

仁科「……?」

岡崎「お前の友達に聞いた。仁科はバイオリンが弾けなくなって、合唱部を始めたって」

仁科「…杉坂さんですね」

岡崎「ああ、そういや、そんな苗字だったっけな」

仁科「…人には話さないでって言ったのになぁ……もう…」

岡崎「…げ」


そういえば、杉坂のやつ、仁科の腕の話は誰にも言うなって言ってたな…。

『誰にも』ってことは、当然その本人にも言っちゃいけないことだったわけか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:17:03.43 ID:RUKJV748o<>
岡崎「悪い。無神経なこと聞いちまった」

仁科「いえ…平気です。…どんな事を聞きましたか?」

岡崎「お前、すっげえバイオリンが上手かったって。それで、海外留学も決まってたのに交通事故にあって…」

仁科「…全部、ですね」

岡崎「…悪い」

仁科「いえ、本当に平気ですから謝らないでください」

仁科「……」

仁科「確かに、私の腕ではもう以前のようにこの子を弾くことはできません。…でも、簡単な曲なら、ゆっくりとなら弾けるんです」

岡崎「…なるほどな」

俺も、右肩は上がらないが、バスケがまったく出来ないわけじゃない。

左のレイアップでならシュートも打てるし、無理な姿勢でなければパスもディフェンスも一応出来る。

けど、それだけだ。

本気でバスケをやる環境には俺はもうついていけない。

きっと、仁科もそんな感じなのだろう。


仁科「情けないって思いますか?本気では取り組むことは出来ないのに、結局大好きなバイオリンを手放せないでいる姿は」


彼女は困ったように笑った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:17:46.03 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」


岡崎「そうは、思わないな」

仁科「…先輩?」



むしろ、立派だよ。

羨ましいよ。

真っ直ぐに、バイオリンを好きだとまだ言える、お前が。


岡崎「なぁ、少し付き合ってくれないか?」

仁科「へっ!?」


岡崎「…顔を赤くするな。変な意味じゃねえ」

仁科「は、はぁ…」


岡崎「屋上でなら、小さな音で演奏できるんだよな。…少し合わせないか?俺のギターと、お前のバイオリンで」

仁科「…私は大丈夫ですけど、いいんでしょうか…」

岡崎「眠れないんだ…」


もっと、非日常を堪能したいから。

眠ってしまって、『今』を感じる時間を、減らしたくないから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:18:38.39 ID:RUKJV748o<>
岡崎「頼むよ」

仁科「あの…いいていうのはそういう意味では……」

仁科「……」

仁科「でも、そうですね。文化祭の夜に男の人と演奏会ってちょっと憧れてしまいそうなシチュエーションです。…喜んでご一緒させてもらいますね」



………

屋上に移動すると、俺たちはケースから楽器を取り出して手にとって構えた。


岡崎「クラシックと合わせるのは初めてだ…、なぁ、『禁じられた遊び』って、バイオリンでいけるか?」

仁科「はい、ベタですけど、いい曲ですね」

岡崎「…安心した。それじゃ……」


………

……




5分ほど、同じ曲をループさせて弾き続けた。


岡崎「……」


仁科「……♪」


岡崎「……仁科、ストップ」

仁科「あれ?どうしましたか?」



岡崎「……その、な」

仁科「はい…?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:21:00.02 ID:RUKJV748o<>

岡崎「お前、うますぎだっ!!」



仁科「へっ!?」


腕を怪我して、バイオリンを弾けなくなった……かぁ。


…どこが?


元々クラシックギターの曲の『禁じられた遊び』

俺が奏でるそのメロディに重なってくるバイオリンの音は……俺に鳥肌を立たせるほどに美しい弦楽器のそれだった。

世界に羽ばたく音楽家の卵だったっていうから、そりゃうまいんだろうけど。


岡崎「はぁ…ライブ前日に自信なくしたぞ…」


才能の違いって…やっぱあるんだよな。

とても同じ高校生とは思えない。


仁科「そんなこと言わないでください。…先輩も、ギターとっても上手でした」

岡崎「お前に言われてもな…」

仁科「いいえ。わかるんです。一度一緒に演奏をすれば、なんとなくその人がどんな人かはわかりますから」

岡崎「……」

仁科「先輩は、努力家な人なんですね」

岡崎「…そうなのか?」

仁科「はい、『禁じられた遊び』は初心者向けの曲です。けれど、だからこそ個性が出る曲なんです」

仁科「先輩の音からは、努力を感じ取れました。この簡単な曲を、何度も何度も往復練習したってわかります。それはつまり、一つ一つの曲を体に染み付かせるまで、練習する人ってことを表していますから」

岡崎「……」

仁科「明日、ライブですよね?」

岡崎「ああ…」

仁科「合唱部はけいおん部の丁度ひとつ前の発表なんです。お互い頑張りましょうね」

岡崎「…仁科」

仁科「…それでは…そろそろ戻りますね。……これ以上岡崎先輩といたら、他の先輩達に虐められちゃいそうで怖いです」

岡崎「…へ?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:26:14.35 ID:RUKJV748o<>

仁科「…ピーターの女たらし伝説、ちょびっとですけど堪能させてもらいました」

岡崎「ぶっ!?」


こいつ…まさか今日の演劇見てたのか…!?


仁科「それでは、失礼しますね、先輩♪」

岡崎「に、仁科…?」


ふふ…っと上品に笑うと仁科はバイオリンをケースにしまい、屋上の扉を開けて去っていった。

去っていく間際、ぺこりと誰かにお辞儀をしながら。


岡崎「……」


そして、開いた扉の影にいた……お辞儀を受けた相手は……。


梓「ピーター、何人女の子を引っ掛けたら気が済むのかなぁ?」


顔を真っ赤に染めた梓だった……。

梓は赤く染まった顔でふふふ…と、優しく俺に微笑んでいる。

…勿論、怒りで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 15:27:51.45 ID:RUKJV748o<>
岡崎「いや、引っ掛けたとかそういうのじゃないんだ。これは…そう。シンパシーを覚えた相手と月明かりのしたで音楽を通してシンフォニアを奏でてだな…」

梓「それ、思いっきり引っ掛けてるよっ!」

岡崎「…そ、そうか?」

梓「…中々帰ってこないから、心配して探しに来たのに……」

岡崎「……」

梓「やっと見つけたと思ったら…、仁科さんと一緒に屋上に行っちゃうし、すぐに話終わると思ってたのに10分以上一緒に演奏してるし」

岡崎「…梓」

梓「…なに?」

岡崎「一緒に、禁じられた遊び、弾くか?」

梓「……」

梓「あのね? 朋也?」


梓はふわり……と微笑むと…



梓「弾くわけないでしょっ!?」



ライブの時の歌声にも負けない大声で、怒りの声を上げた。



こうして、長い、長い、一日目が幕を閉じた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/11/28(水) 15:30:59.82 ID:RUKJV748o<> 来客のため少しお待ちを… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/11/28(水) 15:48:57.08 ID:RlKlcH31o<> ごゆるりと…… <> sage<><>2012/11/28(水) 16:01:32.33 ID:9pWgumNT0<> 後は夕飯後の楽しみに取っておくぜ!
これからの展開に期待。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:01:49.21 ID:RUKJV748o<> _______


11月8日 日曜日 文化祭 二日目





純「うわー…もう次かぁ。二回目とはいえ、流石に緊張するわね」


けいおん部のひとつ前……合唱部の舞台での発表が始まった。

俺たちは体育館の舞台横にある、控えスペースで最後の準備を行っていた。

チューニング、エフェクターの設定、アンプの設定の見直し、憂は水を飲んで喉を潤わせ、春原は準備体操で全身をほぐし、俺と梓と鈴木は指の運動を。



梓「それにしても…昨日よりも体育館の客、増えてる気ような」


梓は舞台横の小さな控えスペースから顔を覗かせて観客席の様子を伝えてくる。


純「合唱部目当ての人たちもいるだろうし、まさか全員がけいおん部目当てとは思わないけど……それでもやっぱり多いわね」


岡崎「昨日のライブが好評だったからだな。多分」


昨日の梓たちのライブの成功は二日目の…つまり、俺たち名無し五人組バンドへの期待も膨らませたわけで…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:02:49.87 ID:RUKJV748o<>
憂「それに…演劇で宣伝してくれた効果もあると思うな」

岡崎「…まぁ、確かにな」

純「立ち見も出始めてるわね…。やっぱ、この高校のけいおん部ってだけでたくさんの生徒から注目されるのかな」

梓「先輩達、目立ってたからなぁ…」

憂「私たちも頑張らないとだねっ」


岡崎「…しかし、この客殆どが梓達を目当てに来てるんだよな」

春原「少なくとも、僕や岡崎を見に来てる人はいないでしょ」

岡崎「…少しはいるかもしれないだろ」

春原「そういえば男委員長が変なこと言ってたっけ?」

岡崎「ああ、嘘かどうかは知らんが……みろ」


俺は観客席のとある方角を指差した。


春原「どれどれ…」

春原「……あいつら」


観客席の最前列には俺たちのクラスの生徒の半分くらいが固まっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:03:26.87 ID:RUKJV748o<>
岡崎「恥、かかないようにしないとな」

春原「…ふん、ミスなく通して驚かせてやろうよ」

岡崎「出来ればそうしたいけどな」


しかし、ミスするときは人間誰でもミスするものな訳で…。

歌番組で音を外して歌ってしまうアーティストや歌詞を忘れてしまうプロ、ライブ本番にギターソロの最中に1弦を切ってしまうギタリストだっているのがこの世の中だ。


春原「…しかし、ここまで注目されてると、やっぱ緊張するもんだね」

岡崎「注目されてるってことは…外したら叩かれるわけだしな。特に、俺とお前はな」

春原「はは…。けいおん部のレベルを下げた新入部員ってことでまた全校生徒を敵にするかもね」

岡崎「新入部員なのに3年生で、しかもこれが最後の発表ってのがうけるな」

春原「…はは、笑えないね」

岡崎「まったくだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:04:07.75 ID:RUKJV748o<>
………

……



合唱部の発表時間も折り返し地点となり、刻一刻と俺たちの出番が近づいてくる。


純「……」

岡崎「…どうした、黙って」


観客席の方を眺めて鈴木はぼんやりとした顔を浮かべている。


純「いやぁ…いつもは舞台の下で憂と一緒に見上げてたのに、昨日といい、今日といい、私が舞台の上で演奏する側になるのってやっぱり不思議だなぁって思ってさ」

岡崎「……」


鈴木らしくない、真面目な物言いになんと言えばいいのかわからずに俺は黙ることにした。


純「それにしても……上からだとよくわかるけど、このライブを見に来てる人って…多分、8割以上は普段はライブなんか興味なさそうな素人っぽい」

梓「場所が場所だから。でも、そんな人たちの支えで私たちのライブは完成するんだから」

憂「期待に応えないといけないね」

岡崎「期待…ねぇ」



そう言われると、俺も柄にもなく緊張してくる。

…ギターソロ、怖いな。おい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:04:43.50 ID:RUKJV748o<>

梓「もしかして……すごく緊張してる?」


小馬鹿にするような目で梓がこちらを見た。


岡崎「…少しだけな。…でも、楽しみって気持ちのが大きいぞ」

春原「ぶっちゃけ僕は心臓バクバクいってます」

梓「あはは…。私も最初はそうだったよ」

憂「でも、梓ちゃんはもう何回もこの学校のステージに立ってるもんね」

純「なら、そのベテランの梓から、私たちにアドバイスをお願いします」

梓「え、私?」

憂「部長だもんね。梓ちゃん、お願い♪」

梓「うーん」

梓「……」


梓「じゃあ、少しだけ」


梓「……」


梓「そもそも、ドラマ二をやりこんでた春原くんはともかく、ギターを始めて半年の素人な朋也がいる時点で、上手くやれる訳なんてないと思う」

岡崎「…おい」

純「梓も言うねぇ」

春原「正論ですけどね」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:05:27.56 ID:RUKJV748o<>
梓「それに、練習は重ねたけど春原くんは音がどんどん走っていくし…」

春原「……」


チラリと悲しそうな顔を俺に向ける春原。


ふん…。ざまみろ。お前だって怒られてるぞ。


梓「朋也はギターソロをやってる最中に弦を切ったり、一度ミスすると焦ってさらにミスを連発してくし。正直、ライブ無理かなぁ…なんて、思ってた時もあった」

憂「うん、確かに……否定できないね」


憂も、困ったように笑った。


純「ほんと、ひどい話よね」


俺、もしかしてボロクソに言われてる?



岡崎「……」

岡崎「お前ら…そんな風に俺達のことを思ってたのか…」


…流石にショックだ。

いや、梓の言うことは確かにそうだ。

けど俺だって一生懸命頑張ってきたつもりなんだが…。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:05:59.52 ID:RUKJV748o<>
憂「…でも、それは夏休みよりも前の話…だよね、梓ちゃん」

岡崎「…へ?」

梓「…うん」

梓「……」

梓「二人共、自分を信じて。練習は、嘘をつかないから」

純「ま、あんた達が誰よりも真面目に部活に励んでたのは、認めたげるわ」

憂「…この部の人は、皆素直じゃないなぁ」

梓「菫も直も、昨日のライブでミスを一回もしなかった。私も、歌ったけど、音外さないで全部歌えた」

春原「見てるこっちが正直びっくりしたよね。絶対どこかでやらかすと思ってんですけどねぇ」

梓「なら、今日のライブだってうまくいくから。絶対に」

純「当然。そのために練習をしてきたんだから。気張っていくわよ」

憂「でも、三曲目は皆で楽しんでやりたいな。私たちのオリジナルの曲だもん。観客も、失敗も、何も気にしないで思いっきり気持ちよくなろうよ」

春原「確かに。 楽しまなきゃ損だよね」

岡崎「そうだな。…そうだよな」



………




パチパチパチ……


岡崎「合唱部の発表が終わったみたいだ」


舞台の上では発表を終えた仁科達がペコリとお辞儀をしていた。

…後10分もしないうちに、俺たちは舞台に立って満員の観客席に向かって音を発信する。

…もう、逃げ場はない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:06:41.44 ID:RUKJV748o<>

純「さて、それじゃスタンバイといきますか」

梓「純、アンプの調整ちゃんと見た?」

純「平気だって。憂、声の調子はどう?」

憂「バッチリだよ。任せてっ!」

春原「そんじゃ、僕らも腹くくりますか」

岡崎「……」

春原「…岡崎?」

憂「どうしたの?」


岡崎「お前らに言っておくことがある」


春原「なにさ」

純「くだらないこと言ったら責任重大よ?」




岡崎「……」




岡崎「俺がソロミスっても、絶対笑うなよ」






二曲目には難易度の高いギターソロ途中から始まり、それが締めまで続く。

俺がこの数ヶ月何度も何十回も何百回も何千回も練習したのにそれでもそのソロは今でもたまにミスをしてしまう。

だから、あらかじめ宣言したのだが…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:07:35.40 ID:RUKJV748o<>
憂「……」

梓「……」


梓と憂は互いに顔を見合わせると…。


憂「笑うに決まってるよ」

梓「指差して笑うから」


言葉だけは悪いくせに、俺に安心と、信頼の気持ちを込めた笑顔を返した。


岡崎「…そんな暇があったらちゃんと演奏しろよ」

梓「わかってるもん。朋也のばか」

岡崎「…口の減らないやつだ」



朋也には負けるから。

俺、無口キャラだからそれはないな。

あ、岡崎、その設定たぶん皆忘れてるから。

ははっ、そもそも岡崎はただ単にコミュ障なだけなんですけどね。

あはは、言えてる。

鈴木、笑うなっ…!

ふふ…。

憂も笑うなっ!



……そんないつもの音楽室でするやり取りを、こんな大事な場面でも俺たちはし続けた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:08:31.13 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」



5人で話していると、さっきまで胸にあった緊張もほぐれていた。

代わりに心にあるものは……

ああ、なんだっけ。

この気持ちを…俺は知ってる。

中学の時…まだ俺がバスケ部だった時の……

チーム全員の心が一つになった、俺にも確かにあった、昔の輝いていた、そんな時の……



菫「先輩方っ!音響の準備オッケーですっ!」

直「スタンバイお願いします。頑張ってくださいね」



マイクスタンドなどの機材の準備をしてくれていた奥田と斎藤が舞台の控にやってきた。


憂「二人共、ありがとう」

菫「い、いえっ!これくらい当たり前ですっ!昨日は春原先輩と岡崎先輩がやってくれたことですしっ……」

菫「それで……あの……っ」

梓「どうしたの?」

菫「ライブ…ですけど……」

菫「私たちにだって出来ました。岡崎先輩も、春原先輩も、勿論梓先輩も、憂先輩も、純先輩も、きっと平気ですっ!」

直「…そうですね」

直「だから、昨日の私たちの時みたいに…違いますね。昨日よりも、もっと、もっと、この学校を盛り上げてほしいです」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:09:29.56 ID:RUKJV748o<>
梓「菫…。直…」

憂「ありがとう。私たちももう一回、頑張るねっ」

純「あ〜…。私、ちょっと泣いちゃいそう」

春原「マリモ、せめてライブ終わってからにしろよな」

純「マリモ言うなっ!」

春原「マリモっ!スミーっ!ボンボンヘッドォっ!」

純「 あ ん た ね えっ!」


菫「ぷ…あはっ……あはは……」

直「…ふふ…」


岡崎「…ったく、鈴木、春原も、笑われてるぞ?」

春原&純「こいつが悪いっ!」

春原「!?」

純「!?」

春原&純「ふんっ!!」


憂「二人共…コントやってる場合じゃないよぅ…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:10:35.92 ID:RUKJV748o<>

梓「あはは…。…でも、皆、そろそろいかなくちゃ」


岡崎「…だな」



でも、その前に…。



岡崎「なぁ。円陣組まないか?」



梓「!?」

純「!?」

菫「せ、先輩っ!?」



俺らしくもない言葉に皆が動揺し、場は一瞬沈黙に支配された。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:11:07.42 ID:RUKJV748o<>
春原「…岡崎、どうした!?」


春原がドン引きした顔で俺を見る。


純「あんたって、たまに熱血になるわね」


鈴木は呆れた顔で俺を見た。


直「あの…これはどういう流れですか?」


奥田は…いつものフラットな表情で俺をみる。


菫「…え、ええっと?」


斎藤は、出会った時のようにオロオロとしている。


憂「ふふ…」


憂は……穏やかな表情をして、ニコリと笑った。


梓「…熱でもあるの?」


こいつは相変わらず、口が悪い。


岡崎「…そうだ。ライブが楽しみすぎて、体全体が熱いんだ。頭もどうにかなる」


だから、俺もそんな軽口を返した。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:11:46.31 ID:RUKJV748o<>
春原「……」

純「……」

梓「ふーん…」

梓「……」

梓「でも、円陣はいいアイディアかも。やろっか。7人でっ!」

憂「うんっ!」

純「こんな熱血なノリ、私たちのキャラじゃないと思うんだけどなぁ…」

春原「ライブを前に、もう誰も正気じゃないんだろうねぇ…」


各々勝手なことを言いながらも、自然と5人は集まって、全員がとなりにいる者と肩を組んだ。


梓「それじゃ……え、ええっと……」





梓「いくよっ!けいおん部っ!ファイトっ!」





「オオーーーーっ!!!」




………

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:13:19.09 ID:RUKJV748o<>
とうとう、俺達は舞台に進む。

きっと、俺が輝ける高校生活で最初で最後の時間が始まる。

でも、やり残したことなんて、もうなにもない。


限られた時間の中で、たくさんの練習を重ねた。

時には徹夜をして、合宿もした。

時には喧嘩もして、けれど、仲直りをして。

皆で一緒に飯を食って、笑いあって…。、

そんな時間が、楽しくて、楽しくて……


………


友情とか、親愛とか、愛情とか、

よくわからない…言葉に上手く表せないけど、

確かな絆を、今ははっきりと感じることができる。

だからこそ、俺達は強い足取りで、今までの半年間のすべてを、たった数十分にぶつけるんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:14:30.21 ID:RUKJV748o<>
………

……




舞台の幕が開く。

同時に結成半年の名無しユニットには不相応な数の拍手が波のように襲いかかってきた。

そして、俺たちは段々と広がっていく幕の隙間から突き刺さる大量の好奇の視線たちと、とうとう相対した。



…実際に、拍手を受ける側って、すっげえ気持ちいいんだな…。なんて、後になって思った。


………

……





男委員長「お、始まったな。あいつらの舞台」

女委員長「…客、昨日のライブよりも集まってない?」

男委員長「昨日うまくいったから、こんだけまた集まってるんだろうけど……しっかし、いいなぁ。岡崎も春原も…」

女委員長「…美女に囲まれてるから?」

男委員長「それもある」

女委員長「あるんかい…」

男委員長「でも、そうじゃなくてさ…」

男委員長「……」

男委員長「すっげー羨ましいんだよ」

男委員長「学年でもトップクラスに可愛い女の子に囲まれて、ギターやドラムをやるあいつらじゃなくて…」

男委員長「舞台に立って、柄にも合わないことを、必死に、一生懸命あたふたしながらやっている、あいつらの姿がさ」

女委員長「男委員長……」

男委員長「……」

男委員長「しっかし、平沢さん。歌うまいなぁ……」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:15:05.98 ID:RUKJV748o<>
………

……




………

……





岡崎「……」



一曲目が終わり、ギターの弦を押さえて音を止める。

すると

パチパチパチ…

と観客席から空気を震わす程の多くの拍手が送られてきた。

…カバー曲で、なおかつ、鈴木の小細工の成果もあったのか、観客も皆ノってくれたので、一曲目としては中々の盛り上がりを見せた。

全身が緊張し、心臓がバクバクとうるさい。

それなのに、脳は興奮状態に陥ってるのか、感情は熱く昂ぶっている。



やばいな。


俺、今……死ぬほど楽しい。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:16:02.10 ID:RUKJV748o<>
観客の声が、身を包む楽器の爆音が、心地よい緊張が、そのどれもがアドレナリンを大量に分泌させているのか、気分は最高だ。

エクスタシーって、こういう時に使う言葉なんだろうか。





梓(やったね…!)

岡崎(ああっ…!)

春原(全員ノーミスとはねぇ…楽勝じゃんっ)

純(まだまだ油断すんなっ!)

憂(ええっと…つぎは…MC?)



拍手が止むと、俺たちは全員の健闘をアイコンタクトでたたえあった。



ライブというものはただ演奏すればいいだけじゃない。

MCで適度に観客とのコミュニケーションも取らなければならない。

もちろん、それは俺と春原には無理なので、殆ど憂や鈴木、梓任せとなる。



岡崎(それじゃ、次の曲まではお前らに任せた)

梓(なんて投げやりな…っ)

岡崎(骨は拾ってやる)

憂(骨になる前に、看取ってほしいなぁ…)


………



そうして、梓と憂、鈴木によるMCが数分程行われ…二曲目が始まった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:16:50.59 ID:RUKJV748o<>
………

……




女子生徒「…ふふ、面白いね。あの5人のライブ」

女委員長「面白いって?」

女子生徒「演奏してる人たちの個性が皆の態度に出てるじゃない」

女委員長「私は細かいことはわからないなぁ…。ただ、観客も、けいおん部の皆もすごい楽しそうって事くらいしか」

女子生徒「そうねぇ……例えば、岡崎君」

女委員長「彼がどしたの?」

女子生徒「可愛いよね。すごく」

女委員長「憂と梓じゃなくて?」

女子生徒「うん。…ほら、どっちの気を引こうか迷いながら演奏してる姿とか、すごく萌えない?」

女委員長「どっちって……何が?」

女子生徒「はぁ……。私たちのクラス…ニブチンばっかなの?」

男委員長「お前ら黙ってろ、ライブ、今いいとこなんだからっ!」

女子生徒「は〜い…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:17:47.80 ID:RUKJV748o<>
………

……





会場の大歓声に包まれて、俺たちは二曲目を弾き終えた。

一曲目よりも、さらにメジャーで、ノれる曲を選んだこともあって、体育館は熱狂に包まれている。


岡崎「はぁ……はぁ………へへ……っ」


…しかし、ここまで俺、奇跡のノーミス。

ソロも、リフも、練習の時よりも、さらにいいものが出せている。


憂「……」


憂がほっとした顔で俺を見ている。

二曲目は中々難しいギターのソロパートがあったのだが、そこを俺が弾く間、憂はずっと俺を見つめていた。

迷うことなく真っ直ぐに。


…俺なんかより、観客にその笑顔を向けたほうがいいのに。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:18:14.14 ID:RUKJV748o<>
梓「よく出来ました」


そして、偉そうな顔で梓が俺にそう言った。


岡崎「当たり前だ」


だから、俺も偉そうな態度でそう返した。


純「ま、岡崎にしては頑張ったんじゃない?」


岡崎「にしてはって何だよっ!!」




あははっ……




岡崎「…っ」


俺たちのやり取りは観客には丸見えなわけで、俺の慌てる様子がうけたのか、そんな笑い声が下からあがった。



春原「笑われてるじゃん。お前」

岡崎「…知らんっ」


春原がこちらをニヤニヤと見ている。

うぜぇ…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:18:58.37 ID:RUKJV748o<>
…それにしても、あいつもリズムを崩すことなくその腕でこのライブをしっかりと支えている。

…信じられない。

あの春原がだぞ?


春原「にしても、岡崎もやって半年のくせに、やるじゃん」

岡崎「……」

岡崎「お前もな」

春原「へっ。僕は当たり前じゃん。ただ…よくミスしなかったね、ソロパート。僕も気がきじゃなかったよ」

純「私も私も」

梓「…本当だよ」

憂「私は信じてたよ?…半分くらい」


岡崎「……お前らなぁ」


…どれだけ俺の腕をバカにしてたんだ。


憂「えへへ…。うそだよ。私は朋也くんのこと、ずっと信じてたよ……多分ね?」


梓「うん。朋也はバカだけど、ギターに対する姿勢だけは尊敬できたし……多分ね」


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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:20:13.59 ID:RUKJV748o<>
岡崎「多分って…」



なんだよ、その嬉しそうな顔は。


なんだよ、そんな清々しい笑顔を見せやがって。


ノーミスだったのがそんなに意外かよ。

そんなにハラハラしながら俺の演奏を見てたのかよ。


…そんな余裕があるなら、自分の演奏にもっと集中するべきじゃないのか。



岡崎「くそぉ……」



…こいつらは、どれだけ俺の事信じてなかったんだろう。



…どれだけ、俺のことを心配してくれてたんだろう。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:21:08.48 ID:RUKJV748o<>
………



舞台では梓と憂がMCをまた始め、鈴木がたまにボケて、それに梓がツッコミ憂が二人をフォローしている。

文化祭のライブといっても、体育館にいるのは殆どがこの高校の生徒だ。

身内のノリとは恐ろしく頼りになるもので、皆そのやり取りを見ては笑ってしまう。そんな空気が体育館を包んでいた。

…これが、ライブってやつなんだな。




春原「…なあ、岡崎」

岡崎「ん…?」


そんなMCの後ろで、春原はドラムセットに座ったまま、どこかぼんやりと上を向き、俺に話した。


春原「最後に、こんな舞台に立てて…まぁ、楽しかったよ」

岡崎「お前…」


春原は……出会ってから一度も見せたことのない穏やかな顔をして笑うと、らしくもないことを言った。



…らしくもない…か。

思えば、この春から、俺と春原は、どれだけの『らしくない』ことを積み重ねてきたんだっけ。

…その、らしくもないことが今のこの舞台を作りあげているのだとしたら、俺たちの今までの『らしかった』ことには、どれだけの意味があったのだろうか。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:21:40.03 ID:RUKJV748o<>
岡崎「…春原、まだ一曲残ってる。最後まで油断すんなよ」



結局、俺は春原に今までの『自分らしい』口調でそう言うことしか出来なかった。

俺は、あいつ程素直に気持ちを出せない。

それでも、ありがとな…春原。

心の中でだけ、俺はそう言った。


春原「それもそうだね。…それじゃ、気張っていきますかぁっ!」

岡崎「あぁっ!」


ここからが、ある意味では本番だ。


………

……


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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:22:14.86 ID:RUKJV748o<>
憂「次が…最後の曲です」



ええええ〜〜〜……っと、客席からは、わざとらしい声が一斉に上がった。


…こんないつもならバカにするようなノリが、今は心地よくて、ライブってつくづく不思議だ。





憂「今から演奏する曲は皆さん知らない曲かもしれません」

憂「…かももなにもないですね。私たちが作った、けいおん部のオリジナルです」

憂「この曲は一ヶ月しか練習をしていなくて、上手くできるかわかりませんが…」

憂「最後の最後まで、楽しんで歌いますっ!」


憂「聞いてください。タイトルは……」







………

……



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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:23:01.59 ID:RUKJV748o<>
………

……




………

……






3曲目が終わっても会場は熱気に包まれている。

憂の作ったオリジナル……

俺たちの演奏は…大成功に終わった。



アンコール! 

アンコール!


舞台の下からは、またお決まりの台詞が大きな波のように俺たちに覆いかぶさってくる。




憂「どうしよう…アンコール、考えてなかったね」

梓「昨日菫たちとやった曲でもやる?」

憂「でもそれだと朋也くんと陽平くんが…」


岡崎「……」


アンコール!

アンコール!


梓たちが悩んでいるあいだもアンコールを求める声は留まることなく鳴り響く。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:23:42.02 ID:RUKJV748o<>
岡崎「なぁ、春原」

春原「ん〜…?」

岡崎「今歌えばさ、多分、どんな音痴な歌声でも皆ノってくれるよな」

春原「そうじゃない?ってか、2曲目のあたりから客ももう、僕らに技術の上手さなんて求めてなくて、ただ爆音に乗りたかっただけだろうね」

岡崎「だよな…」

春原「……」

春原「お前、まさか?」



岡崎「そのまさかだ…。春原、ついてきたきゃついてこい」


春原「僕も、サビは歌わせてもらうからね」

岡崎「言っておくが、マイクスタンドは渡さないぞ。二つしかないからな」

春原「はんっ。僕らの声は、マイクなんかなくても今なら地球の果てまで届くよ」

岡崎「バカじゃないのか?」

春原「岡崎に言われるなんてね」



岡崎「…いくぜ…?」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:24:40.32 ID:RUKJV748o<>
そして、俺はギターを奏でる。

未だに止まぬアンコールを求める観客席に向かって、ある曲の前奏を弾き始めた。


純「ちょっとっ…岡崎何勝手に弾き始めて……って…」


梓「この曲…確かスラムダンクのEDの…」



………



これWANDSじゃん!!

懐かしいっ! 

スラダンだぁっ!



舞台の下から、俺のギターに反応した生徒たちの声が上がった。

当然だ。

有名な曲であればある程客だって乗りやすい。

文化祭でこの曲をやって、盛り上がらないわけがない。

ましてや場の雰囲気は最高潮に達しているんだ。

ここでやらないで、いつやるんだ。


梓「ちょっと朋也っ!?」

岡崎「梓っ、マイクスタンド借りるぞっ!」


梓をどかして梓のコーラス用に用意されたマイクスタンドの前に強引に立つ。


梓「ちょ、ちょっとっ!キャラが違くないっ!?」

岡崎「へへっ!悪いっ!」


悪戯を思いついた子供のようにはしゃいだ声を出すと、俺は息を吸い……

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:26:32.15 ID:RUKJV748o<>



岡崎「……っ!!」



岡崎「世界が終わるまでは…っ!!!」




http://www.youtube.com/watch?v=K38jJdcKmLI <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:27:09.52 ID:RUKJV748o<>

静かな前奏部分が終わると共に、俺は強く叫ぶと、一気に強くギターの音を轟かせた。

それと共に、春原がドラムで俺の音をさらに強く押し上げて、生徒たちからは歓声が上がった。

ギターの音量を一気にマックスにし、前奏のエレキを体育館いっぱいに響かせた。

観客席からはギターとドラムの音に負けんばかりの声援が津波のように襲いかかり、その空気の振動に額に流れていた汗がぽたりと流れ落ちた。





梓「あ〜もう…。二人の大馬鹿っ!」

純「アドリブで弾くしかないわね……梓、いける?」

梓「出来る!…伊達に小さい頃からギターやってきたわけじゃないもんっ!」

純「私もこの曲ならなんとか。…あの二人、勝手な事して〜っ! 後で覚えてなさいっ!!」

憂「わ、私は何をすれば……」

純「憂も歌っちゃえっ!」



憂「か、歌詞わからないよ〜っ!」



………

……


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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:27:41.82 ID:RUKJV748o<>
世界が終わるまでは 


離れる事もない


そう願ってた 幾千の夜と


戻らない時だけが 何故輝いては


やつれ切った 心までも 壊す…


はかなき想い… このTragedy Night


………


一番のサビが終わる。

目前に広がる生徒たちは皆楽しそうな顔をして、ノってくれていた。

サビになった時の盛り上がりは歌っている俺まで押し込まれそうになるものだったが、こちらも負けずに観客席に音を伝え続ける。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:28:12.76 ID:RUKJV748o<>
………


そして人は 形(こたえ)を求めて


かけがえのない 何かを失う


欲望だらけの 街じゃ 夜空の


星屑も 僕らを 灯せない



岡崎「……っ!!」


二番目のサビを一気に歌おうとしたその時…


憂「世界が終わるまでに♪」


岡崎「…!?」


今までは俺が一人で気持ちよくなっていたのだが、憂も歌に加わってきた。



憂「聞かせて欲しいよ…♪」


岡崎「満開の花が…♪」


憂「似合いのカタストロフィ…♪」



負けずにこちらも歌いかえし、そのまま二番目のサビは二人で歌うことになった。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:28:42.44 ID:RUKJV748o<>


………



誰もが望みながら 永遠を信じない




なのに きっと 明日を夢見てる




はかなき日々と このTragedy Night

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:29:24.09 ID:RUKJV748o<> ________



さわこ「……」

芳野「……」

さわこ「あの子達、楽しそう」

芳野「…そうだな」

さわこ「…ありがとね、祐介」

芳野「礼を言われる筋合いはない」

さわこ「岡崎と春原の面倒、随分見てくれたでしょ」

芳野「……」

さわこ「だから…」


芳野「いや、礼を言うのは俺の方だ」


さわこ「へ?」



芳野「…あいつらを見て思い出した。高校生の時のことを。まだ、目をぎらぎらさせていた時の、夢を見て、前だけを見ていた昔を」

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:30:41.21 ID:RUKJV748o<>
さわこ「生徒って不思議なのよ。私も去年までいた教え子達を見てた時、色々と複雑な思いを抱いたわ。それに……今だって」

芳野「……」


芳野「あの時の言葉…。あの時の気持ち、あの時の…目には見えない、掴むことは出来ない、それでも、確かにあった…大切な…何か」

芳野「思い返すだけで、こんなにも胸が痛くなる。不思議だな。…あの時は、早く大人になりたいと思っていたはずなんだがな…」


さわこ「年をとるのは……嫌ね」


芳野「だが、時間は止まってはくれない」

芳野「どんなに願っても……世界は残酷に時を進める」


さわこ「だから、一生懸命なのよね。あの子達も、あの頃の私達と同じように」


芳野「……」


さわこ「…本当に、羨ましい。あんなに目を輝かせて、笑って、最高の時間を、たくさんの人と一緒に共有出来るなんて」


芳野「だからこそ、多くの若者がバンドをやるんだ。一度のライブは大体30分あるかないかだが、その短い時間の為にその何倍もの時間をかけて、練習を重ねるんだ」


さわこ「……」



さわこ「あの子達の目には今……何が見えているのかしらね」



芳野「……」




芳野「きっと、俺やお前には……もう、見えないものさ」





………

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:31:12.76 ID:RUKJV748o<>
………

……




戻らない時だけが 何故輝いては

やつれ切った 心までも 壊す…

はかなき想い… このTragedy Night



このTragedy Night




………

……


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:31:49.38 ID:RUKJV748o<> ______



梓「……♪」

岡崎「……」


大歓声に包まれて舞台のカーテンは下りた。

そして…誰もが放心状態のまま、俺たちはそそくさと撤収した。

…舞台の機材等は今日は斎藤と奥田が片付けを担当してくれている。

…あのライブの後、春原と鈴木は各々どこかに去ってしまい、憂は姉の唯さんに挨拶してくると言って姉を探しにいった。


今、俺たちは夕焼けに照らされた音楽室で二人きりだった。



………



梓「君が 側に いるだーけで♪」


梓「いつも 勇気 もらってた♪」


岡崎「……まだ弾き足りないか」


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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:32:33.24 ID:RUKJV748o<>
音楽室には先程から、アンプに繋いでいないエレキギターの小さなメロディと、人並みに上手くなった梓の歌声が響いている。

俺たちは二人でいつものように音楽室の床に座って、ギターを奏でる方と、その音に身を委ねる方とに別れている。

いつも…といっても、いつもなら俺がギターを弾いて、梓がその音を聞くがわなんだけどな。


梓「いつまででも 一緒にいたい♪」


梓「この気持ちを伝えたいよ♪」



返事の代わりとでも言いたいのか、梓は目を閉じるとより大きな音でギターを奏で、その小さな体からより強く歌声を轟かせた。



梓「晴れの 日にも 雨の日も♪」


梓「君は そばに いてくれた♪」


梓「目を閉じれば 君の笑顔 輝いている♪」


岡崎「……」


この曲は確か、去年までいた先輩達が歌ってた…。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:33:04.33 ID:RUKJV748o<>
岡崎「U&Iだっけ?」


梓「……♪」


俺が曲名に気づくとさらに気分をよくしたのか、梓は機嫌良さそうにギターを奏でてノリノリで歌う。



………



梓「君が そばに いることを 当たり前に思ってた♪」

梓「こんな日々がずっとずっと 続くんだと思ってたよ♪」


岡崎「……」


梓「…ゴメン 今は 気づいたよ♪」

梓「当たり前じゃないことに…♪」


岡崎「……」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:33:47.07 ID:RUKJV748o<>



梓「まずは君に伝えなくちゃ」




梓「ありがとう を」






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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:34:38.53 ID:RUKJV748o<>
………



岡崎「ったく…。歌って、ギター弾いて、満足したか?」


夕暮れに染まる音楽室で行われた、観客が1名だけの小さな梓リサイタル。

歌い終えてから…ライブが終わってから、梓はずっと幸せそうに微笑んでいる。


梓「うん。…気持ちよかった。 一度歌いだすとキリのいいとこまでやめれなくなっちゃうんだよね」

岡崎「気持ちはわかるけどな」

梓「あ、やっぱり? ギターやってると、歌いたくなるよね」

梓「でも…アンコールでいきなり予定にもない曲を歌いだすのはどうかと思ったけどな」

岡崎「あれは……悪かった」


表面上は謝るけど、でも…反省はしてない。

客だって盛り上がったし、なにより俺自身最高に楽しかった。

ギタリストなら歌も歌ってこそだ…なんて、まだ一回しかライブを経験してない俺なのに偉そうに言える。


岡崎「でもしょうがないだろ。俺だって男なんだ。最後くらい、カッコつけたかったんだよ」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:36:32.80 ID:RUKJV748o<>
梓「ふーん…」

岡崎「カッコ…ついてたよな?」

梓「…うん、かっこよかった」

岡崎「そ、そか…。…サンキュな」

梓「て、照れないでよ…。ちょっとだけだからね、ちょっとだけ」

岡崎「はは、そっかぁ…」

梓「……」

梓「朋也、演劇だけじゃなくてライブでも主役、やってたよ。ギターソロとか、最後のボーカルとか」

岡崎「梓…」

梓「初めて見た。あんなにキラキラしてる朋也」

岡崎「キラキラ……か」

岡崎「……」

岡崎「輝いてたのかな、今日の俺は」

梓「うん」

岡崎「…主役、だったのかな、今日の俺」

梓「うん…」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:37:08.30 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」

梓「…」

岡崎「…なあ、ふと思ったんだが」

梓「なに?」

岡崎「お前……先輩達に挨拶しにいかなくていいのか?」

梓「……」

梓「今はまだいいの。…もっと、この余韻に浸っていたいから」

岡崎「余韻、ね…」


余韻という名の心地よい疲労感にさっきから俺たちはおそわれている。


岡崎「……」

梓「……」


ぼんやりと、ぬるま湯のような空気が二人の間を流れ、俺たちの表情もそんな空気をうけてぼーっとしたものになっていく。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:37:44.96 ID:RUKJV748o<>

岡崎「なんだか……不思議だった。生徒も外客も、なんであんな盛り上がったんだろな」

梓「観客だけじゃないよ。私たちだって……」

岡崎「そうだな…。俺も春原も、憂も鈴木も…梓も、今までにないくらい最高にハイになってたな」

梓「うん…」

梓「だから、あんなに盛り上がったんじゃないかな。客席のみんなも」

岡崎「そうなのか?…だとしたら、なんて単純な奴らだ」

梓「……」

梓「観客ってね、きっと本質は理解してないんだ」

岡崎「…本質?」

梓「ステージの上にいる人達が本当に見て欲しいもの。テクニックとか音とか、伝えたいメッセージとか」

岡崎「……」

梓「でね、そういうの全然見えないくせに、ステージの上にいる人達のテンションだけはすっごく敏感に感じ取るんだよね」

岡崎「……」


梓の言うことは、きっと舞台の上に何度も立たないとわからない経験則で。

だからこそ、不思議な説得力を持っていた。

でも…。

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:38:15.10 ID:RUKJV748o<>
岡崎「…俺には、よくわからないな。そういうの」


人と接する機会を極端に避けていた俺にとっては、そういう自分以外の人が感じる気持ちというものは、やっぱりよくわからなくて。


梓「素人だもんね」

岡崎「持ってるギターだけは一人前だ」

梓「朋也にはもったいないね」

岡崎「はは…だよな」

梓「うん。…そうだよ」

岡崎「…そっか」

梓「うん。…あはは」


岡崎「……」

梓「……」


音楽室が無音に包まれた。

けれど、それは居心地の悪い険悪な空気なんかじゃなくて、もっと、もっと、温かいもので。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:38:44.18 ID:RUKJV748o<>
岡崎「はぁ……」


…ライブが終わってから、何かをしていないとすぐにこうしてぼんやりとしてしまう。

それは、祭りの後の寂しさから来ているのか、それとも、無事にライブを成功させた余韻に今はまだ心地よく浸っていたいと脳が指示しているのか…。

それとも、その両方か。


梓「終わっちゃったね」

岡崎「…だな」


…元々、16時半には終わる予定だった。


梓「……」

岡崎「……」


梓「…すっっっっごくっ!!!」



梓「上手く…いったね」



岡崎「そうだな…。俺も実力以上のものが出せたと自負してる」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:39:22.23 ID:RUKJV748o<>
岡崎「でも、最後の曲だけは滅茶苦茶だったけどな」

梓「あれは朋也が悪い」

岡崎「…もっともだ」


梓と鈴木もアドリブじゃ上手く弾けない部分も多く、俺と春原だって真面目に練習をしていた曲じゃない。

憂は歌詞を知らないのかサビしか歌えず、俺も音を外しまくった。


岡崎「でも、一番盛り上がったじゃんか。最後が」



それなのに、観客は俺たちと一緒に最後まで盛り上がってくれた。


梓「ミリオンヒットの超有名曲だから、盛り上がらない方がおかしいよ」

岡崎「なら、選曲自体は間違いじゃなかったな」




だからかな。


…楽しかった。

今なら死んでも後悔はないってほどに。

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:40:01.38 ID:RUKJV748o<>
梓「でも、反省すること」

岡崎「わかった。…反省して次に活かすよ」

梓「うん。次…ね」

梓「ああ。…次、な」

岡崎「……」

梓「……」




梓「…朋也、変な顔してる」

岡崎「…お前だって」



泣きそうな顔…じゃないか。


泣きそうで、辛そうなのに、優しく微笑んでいて…。

そんな、普通に考えれば矛盾した感情と表情の両立が、俺の表情さえも同じものにさせる。


梓「……」

岡崎「……」


二人でなんとなく無言で笑った。

それは、二人の表情が合わせ鏡のようになっている事にお互いに気づいた照れくささからくるのか、楽しかった祭りの余韻にまだ浸っているからなのか。

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:41:44.30 ID:RUKJV748o<>
梓「楽しかったなぁ…っ」

岡崎「……」


そんな悲しい方に傾いた雰囲気を吹き飛ばすように、梓はめいっぱいに無理をして、不自然な程大きな声で…。


梓「すっごく、すっごくっ……!!」

梓「……」

梓「楽しかったなぁ」

岡崎「なら、よかったな。お前が部を続けた意味、ちゃんとあったじゃんか」

梓「…うん」


俺たちが出会った…春。


あの頃は梓を支えてやりたい…。そんな気持ちで一杯だったっけ。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:42:39.29 ID:RUKJV748o<>
梓「合宿でした約束も、守ってくれたね」

岡崎「……」


「……ね、朋也」

「文化祭、絶対成功させよう?」

「今だって、十分楽しいけど、やっぱりけいおん部だから。ライブを成功させてこそって思わない?」

「だから、絶対に成功させる。…朋也は、私達の足を引っ張らないようにきとんと練習すること」




岡崎「そういや、そんな約束もしたな」


俺たちが過ごした…夏。


こいつらと送る毎日が楽しくて…楽しすぎて、泣きそうになる程嬉しくて幸せな時間を過ごした。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:43:07.35 ID:RUKJV748o<>
梓「いつかまた、暇を見つけて5人でライブをやりたいね」

岡崎「奥田と斎藤とはいいのか?」

梓「あの二人とも、また5人で」

岡崎「なるほどな……お前ら3人は二度お得だ」

梓「練習は二倍大変だけどね」

岡崎「……」

梓「……また、みんなで集まれるよね?」

岡崎「俺たちが飛べるって信じてれば、きっとな」

梓「…ウェンディの台詞」

岡崎「ああ。……集まれると、いいな」

梓「…うん」

岡崎「……」

梓「……」

梓「朋也は、この町で働くんだよね」

岡崎「多分な」

梓「卒業したら、本当に、しばらく会えなくなっちゃうんだよね」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:43:33.75 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……」

梓「それでも、夏休みとか、冬休みとか、皆で集まって今日みたいに5人で……」



岡崎「大学、いくんだろ?」



梓の台詞を遮って、言葉を重ねた。


梓「…朋也?」


岡崎「東京に……行くんだろ?」


梓「……」


岡崎「…先輩達のとこ、行くんだろ?」


梓「…うん」


岡崎「……」


ずっと…。

ずっと…わかってはいた。

こいつにとっての一番が何なのか。

こいつが本当にいるべき場所はどこなのか。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:44:19.25 ID:RUKJV748o<> 梓「でも、私は朋也と…皆と、ずっと繋がっていたい」

岡崎「梓…」

梓「朋也は…私たちといて楽しくなかった?」

岡崎「……」

梓「憂がお菓子を作って、純がくだらない話をして、朋也と春原くんが喧嘩して、菫がお茶を入れてくれて、直が曲を作って……」

梓「私はもう…毎日が楽しくて、嬉しくて……去年の先輩達との時間とはまた違うけど……幸せなけいおん部がまた作れて……」

岡崎「っ…」

梓「朋也は…どうだった?」

岡崎「……」

岡崎「…楽しくないわけ無いだろ」

梓「っ…」

岡崎「嬉しくないわけ……ないだろ」

梓「…うん」

岡崎「聞かなきゃわからないのかよ。…そんなことくらい」

梓「…なら、言葉に出してよ。そんな天邪鬼な態度じゃわからないよ」

岡崎「……」

梓「……」

岡崎「…寒いな」

梓「…うん」
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:44:47.38 ID:RUKJV748o<>
……秋。

演劇とライブがあった、文化祭。

それも今日、終わる。

梓たちは受験に打ち込み、春原はあと一ヶ月で地元に戻り、音楽室に残るのは斎藤と奥田の二人になる。

俺も…アルバイトに励むことになりそうだ。

就職する前に、土台をもっと固めないといけない。


秋…。

7人でいた、きっと一生忘れることなんて出来ない、たった一度の高校三年生の秋。

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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:45:57.92 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……冬が…来たんだよな」


……なんだか、眠くなってきた。

考えてみれば、昨日はあんまり眠れなかった。

寝不足に加えて、祭りの疲れがいきなりやってきたのか、激しい睡魔が襲ってくる。


梓「…ねぇ、朋也」

岡崎「ん……?」



そして、冬。

7人でいたけいおん部は…。

3人の受験生と

2人のけいおん部と

1人の就活生と

1人だけ進路の決まった電気工予備軍に…。


梓「あのね……」

岡崎「……ん……んぅ……」


……やっぱり、辛いな…。

……一人は……もう、いやだな…

……でも……前、向かなきゃなんだよな…。


…………。
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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:46:25.84 ID:RUKJV748o<>
梓「朋也…?」

岡崎「……ん……うん………」

梓「…寝ちゃったの?」

岡崎「………」

梓「…もう。…ばか」

梓「…朋也……」

………

……



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(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:47:18.25 ID:RUKJV748o<> ______


と……も………



岡崎「……んぅ……」


とも……や……


岡崎「………」


…朋也……くん……


岡崎「……ぅ……ん……」

憂「…起きたかな?」

憂「……」

憂「起きて、朋也君。おきて…」

岡崎「……?」


…先程から、優しい声が耳にかかる。

…優しい響きだからか、少しくらい甘えてもいいんじゃないかと考えてしまい、中々体が起きようとはしてくれない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:48:03.41 ID:RUKJV748o<>

憂「まだ寝ぼけてるのかな…」

岡崎「ん……うん……」

憂「…ほっぺにチューしたら起きるかな?」

岡崎「……」


チュー…って……


憂「……」


……ちょっと、まて。


岡崎「うわあっ!?」


憂「わっ…!?」

岡崎「……!?」


視界に広がるはオレンジに染まった場所ではなくなり、暗くなった音楽室だった。


憂「…もう少しだったんだけどな」

岡崎「……」


憂の台詞は…聞かなかったことにしよう。

うん。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:48:34.35 ID:RUKJV748o<>
岡崎「……あれ」

岡崎「……俺…確か…」

憂「おはよ、朋也くん」

岡崎「あ、あぁ…」


そっか…寝てたのか、俺は。


岡崎「……」


確か、さっきまで梓と話してて…。

それで……。


岡崎「……」


でも、今この場には憂しかいない。


岡崎「…梓は?」

憂「私が音楽室に来たら丁度梓ちゃんが出てきて、お姉ちゃん達に挨拶しにいくって言って行っちゃった」


音楽室の時計を見れば、最後に記憶していた時刻から20分ほど経っていることがわかった。

どうやら長い時間寝てた訳ではないようだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:49:16.78 ID:RUKJV748o<>
岡崎「そっか…。…憂はいかなくていいのか?」

憂「私はもう挨拶してきたから」

岡崎「そうなのか?」

憂「うん。和ちゃんともお姉ちゃんとも、勿論、先輩達にもね?」

岡崎「会長まで来てたのかよ…」

憂「あ、それでね。ビックリなお客さまもいたんだ」

岡崎「ビックリ?」

憂「うん。陽平くんの妹の芽衣ちゃんって子」

岡崎「あいつの!?」


そういえば、妹がいるって随分前に聞いたような…

あいつの妹か…


岡崎「憂、大丈夫か?」

憂「へ?」

岡崎「あいつの妹だろ?…やばい女の子じゃなかったか?毒とかもらってないよな?」

憂「…朋也くん」

岡崎「なんだ!?やっぱり腹とか痛むのか!?」

憂「陽平くんの妹だからって、そんな事いっちゃメッ!!」

岡崎「……」


メッて…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:49:45.97 ID:RUKJV748o<>

憂「すっごく可愛いこだったよ? 朋也君も会ったらビックリするよ、きっと」

岡崎「そりゃな。エイリアンをこの目で確認すればビックリもするだろ」

憂「朋也君っ!?」

岡崎「悪いすまんもう言わない許せ」

憂「……」

岡崎「拝むからっ!」

憂「……もう」

憂「拝まれても困るよぉ…」

岡崎「……許してくれたか?」

憂「…はぁ、なんだか久しぶりに朋也君の悪ふざけの相手をしちゃったなぁ」

岡崎「…うぐ」

憂「でも…。うん、安心して。始めから怒ってなんかないよ?」

岡崎「……」


本当、こいつには敵わない。

多分、一生。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:50:16.58 ID:RUKJV748o<>
憂「それでね…朋也君に用事があって呼びにきたんだ」

岡崎「…用事?」

憂「うん」

岡崎「なんのだ?」

憂「……」

岡崎「……」




憂「…あのね」



憂「お父さんに、会いに行こう?」



岡崎「憂…」


彼女の口から出た言葉は、なんとなく予想はしていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:51:12.09 ID:RUKJV748o<>
憂「朋也君のお父さん、今日のライブにも来てたみたい」

岡崎「……」

憂「朋也君は…気づいてたよね?」

岡崎「……」

憂「私ね、お姉ちゃん達と話終わったあと…ついさっきまで、朋也君のお父さんと話してたんだ」

岡崎「…お前っ!!」

憂「お父さんねっ」

憂「…お父さん、朋也君と…話したいって」

岡崎「…っ!」

岡崎「…うそだ」

憂「…嘘じゃないよ。…だから、会ってあげて?」

岡崎「……」

憂「学校の玄関を出たところで待っててもらってるから、だから…」

岡崎「……っ」

憂「朋也君っ」

岡崎「……」


本当に、敵わない。

出会った時から、ずっと、いつだって、人の問題に介入しては余計なお節介を焼いてくる、この女の子には。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:52:55.91 ID:RUKJV748o<>

憂「私も一緒にいくから…」

岡崎「…一緒に…か」


敵わないから、こいつの前でだけは、俺も少しだけ素直になってしまう。


憂「…うん」

岡崎「……俺が…あの人にどんな態度とっても……見捨てないでくれるか?」

憂「朋也君…」

岡崎「…なんだよ…」

憂「4月から…ずっと一緒にいたんだよ?……ずっと、あなたを見てきたんだよ?」

憂「今更、私が朋也君を見捨てるわけ…ないよ」

岡崎「でも、俺、あの人の前だと……」


頭の中が熱くなって、どうしても冷静でいられない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:53:47.67 ID:RUKJV748o<>
憂「いいところも、悪いところも、全部見せて欲しいから」

岡崎「お前…」

憂「朋也君が抱えてる悩みも、全部、知りたいから」

岡崎「知ったら幻滅する。…絶対」

憂「ううん、きっと、もっと好きになっちゃうんじゃないかなぁ。…私、駄目な人が好きみたいなんだ」

岡崎「駄目な男なんて、世の中に腐る程いるだろ…」


そんなこと言われても嬉しくなんか……。


憂「勿論、朋也君限定なんだけどね?」

岡崎「…っ!」


ぺろっと舌を出して微笑む憂の顔は眩しくて、あんまりにも、可愛くて……。


岡崎「っ…だから、リアクションに困ることは言うなっ!」


こんな時、どうすればいいのか俺にはわからかった。

どうしてこいつはこんなにも、ひたむきな好意を隠そうともしないんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:54:47.65 ID:RUKJV748o<>
憂「……」

憂「会ってくれたら…もう言わないから」

岡崎「…憂?」


そして、さっきまで笑顔を見せていたのに俺のぎこちない態度を見ると、どこか寂しそうな顔をしてそんな交換条件を持ち出した。


憂「あなたがお父さんと会ってくれたら、もう、言わないから」

岡崎「…言わないって…何を?」

憂「朋也君を困らせること、もう言わないから……だから、お父さんと…話そう?」

岡崎「お、おい…?」


どんどんと彼女の声は小さくなる。


憂「朋也君、私はね……」

岡崎「……ぇ…?」





ピンポンパンポーン……。




「只今をもって、光坂高校の文化祭を終了とします。皆さん、お疲れ様でした」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:55:15.51 ID:RUKJV748o<>
憂「…あ」

岡崎「……」

岡崎「私は…なんだって?」

憂「…ううん、やっぱり…いい」

岡崎「……」

岡崎「そっか」

憂「……」

憂「うん」

岡崎「……」

岡崎「終わっちゃったな…。文化祭」

憂「さみしいね…」

岡崎「……」

岡崎「夢が覚めたら……本当のパパに会いにいくって、ウェンディと約束したよな」

憂「朋也君…っ!」

岡崎「…玄関、だよな。…行く。会いにいくよ。あの人に」

憂「…うんっ!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 16:55:54.62 ID:RUKJV748o<> _________


………

……



………

……





岡崎「……これで、よかったのかな」

憂「……」

岡崎「……」


あの後……。

俺は憂と一緒に玄関前で俺を待っていた父さんに会いに行った。


…交わした言葉は少なかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:00:00.92 ID:RUKJV748o<>
………


直幸「いい、演奏だったね」

岡崎「……」


本当に、来ていた。

俺を見るためだけに、この学校に。


直幸「私も知っている曲が多くて……見ていただけなのに、楽しくなってしまったよ」

岡崎「…そっかよ」

直幸「ああ……」


そして、俺と父さんは……3年ぶりに、親子のような会話をした。


岡崎「なぁ、親父」

直幸「……なんだい?朋也君」

岡崎「…頼みがあるんだ。どうしても、聞いてほしい頼みが」

直幸「…頼み?」


だから、俺も息子として…この人の、たったひとりの息子として、3年ぶりに頼みごとをした。


岡崎「……俺の事、朋也君って……言わないでくれ…」

直幸「……」


果たして言葉は届くのか。

もし、届かなかった時、俺は……どうなるのか。


岡崎「…朋也ってっ!」

岡崎「昔みたいに…呼んでほしいんだ…」

直幸「……」


でも、そんな事はもう考える事も、やめていた。

大丈夫だって思えたから。

届いても、届かなくても、側に、俺を支えてくれる人がいるから。


岡崎「親父、頼むよ…」

直幸「…ああ…そうか……」



直幸「朋也……」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:00:46.86 ID:RUKJV748o<>
………

そんな会話を交わして数分後、俺と憂はまた、音楽室に戻ってきていた。

未だに誰一人音楽室には戻ってきていなくて、さみしいけど、それでも、今は憂と二人でいれて嬉しい…だなんて思ったりもした。


憂「……よかったね」

岡崎「……」

憂「…よかったね、朋也君」

岡崎「…うん」

憂「あはは、朋也君が素直だ」

岡崎「からかうな…」

憂「えへへ…ごめんなさい」

岡崎「……」

憂「朋也君、全然平気だったね」

岡崎「……不思議だった。いつもなら、絶対にあんな平和には終わらなかった」


文化祭の後っていう特別な時間は、情けない父親と、情けない息子のそのどちらにも、普段とは違う、分かり合うための何かを与えてくれたのかもしれない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:01:13.76 ID:RUKJV748o<>
……。

違う。

文化祭のおかげではあるけど。

それでも、それだけじゃないんだ。


俺たちがこうしてわかり合っていく為の第一歩を踏む場を作ったのは……誰だ?

…決まってるじゃないか。

目の前にいる、いつだって俺の事を支えてくれた、どこまでも優しい、俺にとっては女神のような女の子だ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:05:13.02 ID:RUKJV748o<>

岡崎「…憂」

憂「…なに?」

岡崎「俺、さ……今回のこと、本当に感謝してる」

憂「…そんな、いいよ。私が勝手にしてるだけだよ?」


困ったように憂は笑う。

…その笑顔に、何度助けられてきたんだろう。


岡崎「でも…。俺、お前になにもしてやれていない」


出会った時に、声をかけて、励ましたことはあった。

けど、それ以外に俺は憂に何を与えることができたのだろう。


岡崎「…こんなに助けてもらってばかりで……俺、どうすればいいか…もうわからないんだ」

憂「……」

岡崎「…だから何か、俺に出来ること、ないか?」

憂「…へ?」

岡崎「ひとつだけ、なんでも言うこと聞いてやる」

岡崎「俺に出来ることなら、なんでもするから、だから、それで今回のことはチャラにしてほしいんだ」

岡崎「借りだけ作るのって俺、耐えられない」

憂「…なんでも…いいの?」

岡崎「ああ、俺にできることなら…だけどな」


憂は優しいから、俺が本当に困ることは頼んでこないだろう。


…そんな、彼女の優しさが前提な下心のある俺の提案だけど、俺にはこれくらいしか思いつかない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:08:22.91 ID:RUKJV748o<>
憂「…本当に?」


岡崎「ああっ」


今ならなんだって出来る気がする。

俺は、春から変わったんだ。

きっと、空だって飛べる。

…いや、飛べないけどな。


憂「嘘じゃない?」

岡崎「勿論だ。…嘘は、つかない」



憂「…それなら、ひとつだけ…いいかな?」


岡崎「…ああ、なんでも……」


憂は、少しだけ悩んだそぶりを見せると……






憂「キス…して欲しいな」







岡崎「……え?」




…そして、俺は忘れていた。

憂は…天使のような優しさも持っているけど、けいおん部の中で、俺を一番困らせる、小悪魔のような面だって持っていたことを。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:09:58.44 ID:RUKJV748o<>
岡崎「………」

岡崎「…うい?」



憂「……駄目かな?」


岡崎「…お前、それって……」


憂「私とキスすることは……朋也君にとって…『出来ない事』…だったりするのかな…」


岡崎「…いや、だって…お前…」


そんな…これから先の、俺たちの関係を大きく変えてしまうようなお願いが飛び出るなんて思ってもいなかった。


憂「…もし、朋也君にとって、それが『出来る事』なら……私のお願いは、それでいいの」


岡崎「出来ない事な…訳……ない……」


憂は可愛い。

女性らしさもあって、優しく全てを包み込んでくれる、俺が会ってきた中で、間違いなく最高の女の子だ。

その体を抱きしめたいと思った事も、…性的な目で見てしまうことだって今までに何度もあった。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:12:42.50 ID:RUKJV748o<>
でも…


…いいのか?


そんな、7人でいた俺たちの部は今日終わるけど、それでも、その中の誰かと誰かが特別な関係になるって、そんな事、許されるのか?


岡崎「俺……は……」


憂「……朋也君」

岡崎「…っ!?」


俺が顔を上げると、彼女はその整った顔を鼻と鼻がぶつかる距離まで近づけてきていた。


岡崎「…っ」


その好意を隠すことない積極的な態度に心臓が破裂しそうになる。


憂「…避けても、いいんだよ?」


そりゃあさ、わかってた。

憂が俺の事、好きだなんてことは。



岡崎「…憂。…俺は…」


でも……。


俺は……。


俺は……。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:16:33.67 ID:RUKJV748o<>



U 憂のお願いを、叶える。

A …顔を、背ける





※下1〜5で安価です。

18時までに下5までいかなければ下3まで。

18時半までに下3にいかなければ下1ですね。


それでは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/11/28(水) 17:17:18.85 ID:G7JLmsgAO<> A <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/11/28(水) 17:17:55.10 ID:bW04+epJo<> 後で両方書いて欲しいなぁ……A <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:18:08.39 ID:7xrx6/cIO<> Uかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:18:40.23 ID:n2tisuUPo<> U <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/11/28(水) 17:19:20.43 ID:SaZGOYpRo<> U <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:19:32.83 ID:pH0aL1dno<> U

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:21:30.93 ID:yN1wAi4IO<> Uって書いたけど、あずにゃんが幸せになれないと考えたら胸がキリキリしてきたでござる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:23:19.88 ID:7m0jrmFU0<> 乙。
スマホからのアクセスがうまくいかず、間に合わなかったが、僕もU。
どうでもいいが、岡崎と律がもし絡んだら、
「京介と地味子」か、
「折木と『私、気になります』」か
どっちを思い出す人が多いかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 17:39:43.72 ID:yN1wAi4IO<> ほうたろーと岡崎は被るけど、えるたそーと腹黒子とリッちゃんはまるで被らないなw

てか、前スレェ…どういう事なの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>saga<>2012/11/28(水) 17:43:35.45 ID:RUKJV748o<> 一瞬で安価埋まってびっくりした…。

今回の投下はいちおうここまでです。

それではUという事で次回は始めていきます。

両方やる余裕があればやりたいのですが…今後の>>1の生活に大きく左右してくるのでまずはUということで。

Uルートではありますけど、あずにゃんの出番ももしかしたら憂ちゃんよりもある意味多いので安心?を、それでは…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/11/28(水) 17:49:06.87 ID:G7JLmsgAO<> いつになってもいいから 両方やってほしいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2012/11/28(水) 18:15:43.17 ID:wawSwn4AO<> 乙
両方見たいのは確かだな
就職か進学かなんだろうから四月以降になるんだろうけどお願いしたいぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 18:55:02.16 ID:JH/2RgaIo<> 乙
あずにゃんルート狙っていたけどいつの間にか安価が終わっていた・・・
しかし憂ちゃんやっぱり届かない恋歌っちゃたかあ
まあ三角関係かつ中の人的にピッタリだよね
落ち着いたらでいいので是非Aルートも書いて欲しいです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 20:17:58.13 ID:xxrbHCJ6o<> ふと、ショコラの翠シナリオ思い出した <> zx<><>2012/11/29(木) 00:06:58.49 ID:adG9A0CT0<> Aだ!!!梓だ!!たとえみんながUを選んだとしても俺はAだ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/11/29(木) 00:08:36.26 ID:eOBIlRas0<> あずにゃん唯たちいなくなって一人になってさ
多分初めて好きになった男も・・・て(´;ω;`)

いずれIfルート欲しいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/11/29(木) 00:48:54.06 ID:sbRIVzPAO<> >>481
同志よ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/29(木) 03:31:54.90 ID:nP9dJpEXo<> うぜえな
下らねえこと書き込んで書き手の邪魔すんなよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/11/29(木) 06:35:23.65 ID:LkgqGItco<> 乙

ピーターはティンカーベルでなくウェンディを選んだか
なんとなくルートの結果も暗示してそうだなこれは

>>484
まあこれくらいでそんなに目くじら立てんなよ けいおん全盛期ならもっととんでもない状態だったろうよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/29(木) 08:08:12.96 ID:tYQ7TBtCo<> 乙

いやあ…色々とクルなぁ…
やっぱり面白い!
憂たんマジ天使!!

そしてあずにゃんェ……
いつでも平沢姉妹には勝てない運命やね。
ぺろぺろ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/11/29(木) 09:19:56.88 ID:S9Hf4DqAO<> 乙
ネバーランドには残らなかったかピーターパン

まあ先輩たちと音楽にうちこんでプロ目指すんじゃないかなあずにゃんは
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/11/29(木) 12:44:50.33 ID:VXeqqKP00<> おぉ!更新されてたか!
次が楽しみだな

それと便座カバー <> な<><>2012/11/29(木) 13:06:12.66 ID:gHcE4hTDO<> はい

http://utato.me/?guid=ON&inv=d2JeBAB1VzAwMDc%3D <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 00:50:53.83 ID:+zJ/ia5Jo<> 憂「クラナドは人生」が見つからんのだが誰かどっかまとめのURL持ってないか
スレチすまぬ……すまぬ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 01:35:00.35 ID:6h7c54awo<> >>490
おもしろいクロスオーバーSSを教えあわないか? その2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322810203/

こっちで聞け <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 11:15:03.85 ID:dgkPC4eLo<> スレタイわかるなら探す方法なんかいくらでもあるだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 13:20:00.56 ID:An1ag1Rko<> >>490
http://www1.axfc.net/uploader/so/2696399
テキストファイルだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 17:32:35.18 ID:23EoIuHto<> http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3693349.jpg <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/04(火) 20:18:45.23 ID:WGgYv5hIO<> http://web2.megaview.jp/topic.php?v <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/04(火) 20:20:02.41 ID:WGgYv5hIO<> http://web2.megaview.jp/topic.php?v <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 12:29:47.15 ID:+r8JxMbI0<> 乙

>>484
ifルート希望が書き手の邪魔?むしろ嬉しいと思うんだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 13:33:31.57 ID:0rvz6Od+o<> 何いってだこいつ
お前が書き手じゃないくせに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 13:36:09.97 ID:Bvsqf2Hzo<> わざわざ安価とったのに、両方書くならあんま意味がないような。
それに忙しいみたいだし。
ifルートは作者がそのうち書いてくれればラッキー程度と思っとくのがいいんじゃね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:24:39.36 ID:TD/UUS7no<> _______


岡崎「……っ」


何を…迷うことがあるんだ。

俺はこの半年間、誰に一番支えてもらったんだ?

誰のおかげで……変われたんだよ。


岡崎「…俺は……っ」




「でも、私は朋也と…皆と、ずっと繋がっていたい」





岡崎「……っ」


脳裏に一瞬だけ、この音楽室で一緒に未来を語った誰かの姿が浮かんだ。

けれど……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:26:27.98 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「俺は…」


憂は…いつも、いつだって、俺の事を見守ってくれた。

ギターを弾くときも、試験に向けて勉強をするときも……そして、家族の問題さえも。


岡崎「……っ」


春…。

人と接する事が苦手になっていた俺に話しかけてくれて、俺が自分の苛立ちを憂にぶつけてしまった時でさえ、優しく笑って俺の話を聞いてくれた。


岡崎「…俺は…っ」


そんな、助けてもらってばかりでいるのは嫌だから…

これからは、今まで助けてもらったぶんだけ、俺だって憂の力になりたいって……。

そう、強く思った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:27:20.85 ID:TD/UUS7no<>
だから……




憂「…ぁ………ん………」


岡崎「……んっ…」



だから……俺は自らの意思で彼女の唇に、自分をゆっくりと重ね合わせた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:28:23.83 ID:TD/UUS7no<>
憂「…ん……ぁ……朋也………君…」

岡崎「……っ…」


憂は……抵抗する訳、なかった。


岡崎「……っ」

憂「……ぁ…」


重ねた唇を一度離し、お互いに顔を見合わせた。


岡崎「………」

憂「………」


心臓が破裂しそうだ。

そのせいで、中々声が出てこない。


岡崎「……しちゃったな」

憂「……しちゃった…ね」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:29:19.12 ID:TD/UUS7no<>
生まれて初めて交わしたキスは、互いの唇がちょこんと触れ合うだけの軽いものだった。

俺も憂も、頬が真っ赤に染まっているのが冬の闇に染まっていく音楽室の中でもよくわかった。


岡崎「憂……っ」


たった一瞬唇を重ねただけなのに、次第に興奮して全身が熱くなり自分の息が荒くなっていくのがわかった。




憂「ぁ……」


憂も軽く興奮しているのか、その大きな瞳で熱い視線を俺に送ってくる。


岡崎「……っ」


その目に引き込まれるように、もう一度キスをした。


憂「…んぅっ…!?」


もっとキスをしたい…抱きしめたい…そして、ぬくもりを感じたい。

そんな衝動が一気に湧き出し、俺は本能の赴くままに、彼女の唇に自分のそれを強く押しつけた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:30:12.49 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「……っ」

憂「ん、…んぅ…っ」


憂の唇が…俺の唇に本当に張りついている。


女の子の唇は、俺のそれとはまるで違った。

柔らかくて、生暖かくて、滑らかで……。

言葉では生み出せない感触が唇を通して全身に流れ込み、ごっそりと心臓をどこかに持っていかれそうになる。


岡崎「…はぁ……ぁ……っ…」


初めて交わしたキスという行為はまだ恋愛経験のない自分にとってはあまりにも刺激が強くて、

その強烈な感触に頭のてっぺんから足の指先まで、全てが熱くなり、キスを通して体中に電撃のような快楽が走った。


憂「は、あ……ん…、んちゅ……んちゅ…ぁ…ん……」

岡崎「…ぁ……っ」


自分の口から思わず吐息が溢れ出た。

だから、憂の吐息も俺の顔にかかる。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:30:51.10 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「…はぁっ……はぁっ……」

憂「…はぁ……はぁっ……はぁ…」

岡崎「…っ」


憂「…ぁ…と、朋也君……」


そのまま俺は両手を憂の背中に回して力強く抱きしめた。

…彼女の体は暖かくて、柔らかくて、人肌の気持ちよさを知らない俺には、その抱き心地のよさは麻薬のようだった。




岡崎「…好きだ」


抱きしめたまま、彼女の柔らかな香りを感じながら俺は言う。


岡崎「…憂が、好きだ」




岡崎「俺と…付き合ってくれ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:31:40.24 ID:TD/UUS7no<>

そんな…キスと告白の順序が逆な俺たちの恋愛。

…こんな改まって言わなくても、互いに抱きしめ合ってる時点で心はもう通じ合ってると思うけれど。

だけどそれでも、言葉にしなくちゃいけない事もあるって、俺はこの半年間で知ったから。



憂「私も…朋也君が大好き」


抱きしめられたまま、憂は俺の背中に両手を回してそう言った。



憂「だから……私と…ずっと一緒にいてください」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:32:58.20 ID:TD/UUS7no<>
その言葉を聞いて俺は安心し、目を閉じて口元をふっとゆるめた。

…やっぱり言ってよかった。

気持ちを言葉にして伝える事は恥ずかしい時もある。

けれど、自分以外の誰かに好意を伝えられることが、こんなにも人を喜ばせるのなら…

人は誰かを好きだと言うために言葉を作ったんじゃないかって思った。


岡崎「…なら、俺たちは今から恋人同士か?」

憂「うん。岡崎朋也君の彼女の…平沢憂です。…よろしくお願いします」


…抱きしめたままだから、憂の顔はよく見えないけど、きっと憂は笑っている。


岡崎「そか、よかった」

憂「…ずっと、一緒にいてね?」


憂は俺の胸の中に頭を埋めると小さな声でそう言った。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:34:10.50 ID:TD/UUS7no<>
憂は俺の胸の中に頭を埋めると小さな声でそう言った。


岡崎「そんな事言っていいのか? …俺、重いからな。覚悟しておけ」


憂「平気だよ。私も…重いよ?」


憂は顔を上げるとそう言って、穏やかに笑みを零した。


岡崎「なら…丁度いいな、俺たち」





憂「うん。……大好き」



………

……




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:35:02.40 ID:TD/UUS7no<>
…文化祭、二日目。

冬の始まりの11月のとある日曜日。

俺たちけいおん部の7人が最も近くて楽しくて、最も嬉しかった日。



そして…。

俺たちけいおん部の7人が、

本当に7人でいることが出来た



最後の日。






〜けいおん! after story〜

第五章 学園祭 夢の最後まで fin


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:38:39.71 ID:TD/UUS7no<> ______



岡崎「………」


駅前のコンビニの前で俺は梓を待っていた。

今日は、11月11日木曜日。

俺にとっては光坂高校けいおん部の『元』部長の誕生日。

文化祭前、俺の誕生日に一緒に学校をサボって出かけよう…。

そんな約束をした為、今日は梓と二人でこの町より発展している隣町まで遠出することになっていた。


梓「…朋也っ!」


言葉の聞こえた方に視線をやると私服姿の梓が見つかった。

待ち合わせは午前10時。

そして、腕時計を見れば現時刻は午前9時59分30秒。


岡崎「…来たか」

梓「ご、ごめんっ…待たせちゃった?」


梓は俺の姿を見つけて急いで走ってくると、息をきらしていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:39:45.59 ID:TD/UUS7no<>

岡崎「謝らなくていいぞ。…丁度、10時になったとこだ」

梓「…朋也は何分くらい前にきた?」

岡崎「ついさっき来たばかりだ」

梓「そ、そう…? よかった…」


ほっとして顔を綻ばせる梓。

…本当はもっと早く来ていたが、男のマナーとしてそれは口にしない。


岡崎「それじゃ、行くか。さっさと切符買おうぜ」

梓「うん」


梓はニコニコ笑って切符売り場へと歩き出した。


岡崎「……」



その後ろ姿を見てズキリ、と胸に痛みが走る。

梓と今日の約束をした、俺の誕生日。

あの時はまだ、憂と付き合っていなかった。

だから気楽に、文化祭が終わったら二人で遊びに行こう…だなんて思った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:40:32.54 ID:TD/UUS7no<>
梓「朋也、どうかした?」


切符を買うと梓がこちらを見た。


岡崎「いや、今朝から首がなんか痛んでな」

梓「なんだ…呆れた。……寝違えたんじゃない?」

梓「…それじゃ、行こっ。ほら、早くしないと電車行っちゃうよっ」

岡崎「あ、ああ…」


梓は笑顔で俺とは手が触れるか触れないかの距離を空けて歩き始めた。

そんな距離を心地よく感じては、俺は得体の知れない罪悪感に襲われる。


11月11日、木曜日…。


……俺はまだ、けいおん部の皆に憂と付き合い始めた事を言い出せていなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:41:31.65 ID:TD/UUS7no<>
_______



岡崎「…あのさ、憂」

憂「なに?」

岡崎「その……な。付き合うにあたって、ひとつ言っておかなくちゃいけない事がある」

憂「言っておかなくちゃいけないこと?」

岡崎「ああ…」

岡崎「俺、今度の木曜日…梓と二人で学校をサボって出かける」

岡崎「あいつに、あいつの誕生日に二人で出かけようって俺から言ったんだ。だから、この約束だけは反故に出来ない」

岡崎「…それでもいいか?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:42:32.08 ID:TD/UUS7no<> ________



憂には、今日の事は言ってある。

梓と出かけるって。

…二人で。


憂は少しだけ辛そうな顔をしたけど、それでも優しく俺を送り出してくれた。

だから、今日俺は自分の口で梓に伝えなくちゃいけない。

憂と…付き合うことにしたって。



………



梓「朋也、ぼーっとしてない?」

岡崎「いや……別にそんなことはないぞ」


改札を抜け、駅のホームに続く階段を二人で降りる。


梓「本当?」


電車を待つホームで、梓は怪訝な顔をすると、俺をじっと見た。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:43:35.83 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「……梓」

梓「なに? 朋也、さっきから変だよ」


早く言おう。

その方が気楽に出かけられるじゃないか。


岡崎「………」





岡崎「その、誕生日…おめでとな」







梓「……」


顔を赤くしてチラチラとこちらの様子を見ると…。


梓「ばか…」


と、子供っぽく拗ねて俺にとっては言われ慣れた言葉を投げかけた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:45:30.25 ID:TD/UUS7no<>
梓「…遅いよ。言うの。会ってすぐに言うべき言葉だと思うんだけど」


ムスっとしたまま梓はしゃべっている。


岡崎「悪い。お詫びとしてはなんだが、今日の電車賃及び食費は俺の全負担ということでどうだろう。誕生日プレゼントはこのデートそのものってことにしよう」

梓「…いいの?」

岡崎「俺、バイト代かなり余らせてるんだよな。もうスタジオに入ることもなくなるし、それくらい平気なんだ」

梓「…なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

岡崎「任せとけ」


…梓よりもちょっとだけ下の立場で俺が話す。

それに対して梓が少しだけ上な立場で話を返す。

そんないつも通りのやり取りを『楽しい』だとか、『嬉しい』だなんて思いながら、俺は梓と電車に乗った。

結局、俺は言うべきである話題を出すことは出来なかった。



せめて、もう少し今日を楽しんでから話せばいい……なんて思うのは俺のワガママなんだろうか。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:46:45.81 ID:TD/UUS7no<>
………



隣町についた後、まず俺と梓は最近出来たばかりという大型ショッピングセンター(またの名をジャスコ)に入り、その中に展開されている楽器屋を見て回った。

途中、気に入ったデザインのピックがあったようなので、それを買って、買い物袋ごと梓の手に握らせた。

…手と手が触れた時、梓の体がびくんと揺れたのはきっと気のせいだ。


梓「ありがと…。無くさないように気をつけるから」


そう言って…梓は顔をほんのりと染めるとぎこちなく俺の前を歩き始めた。


…見て回りたい店が多いのか、手にしたマップと睨めっこをしてはアルファベットで書かれた名前のブティックに入り、商品を眺めたり、服を試着しては俺に感想を聞いてきたり、そんな恋人同士のようなやり取りを二人でしていた。


………


あれから……

10件を超える店をまわるとショッピングセンター内にある少し高めなカフェに入り、二人で昼食を済ませた。

それからさらに10件もの店を物色したが、梓はまだ飽きないのか広いジャスコを歩き続けた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:47:40.78 ID:TD/UUS7no<>

梓「朋也、次はこっちっ!」

岡崎「ちょっと待て…。まだ買うのか、お前は…」


俺の両手には総額1万越えの商品の入った袋がさげられている。

右には冬用のニットカーディガン、カットソーが詰まったアルファベットのロゴの入った紙袋。

左には梓が大学受験の際、滑り止めで受ける大学の赤本の入った書店の袋。


男に赤本を買わせる女子生徒ってこいつくらいな気がする。

普通、こういうのって親に買ってもらうものなんじゃないのか…。



…まぁ、3万までなら俺の財布は持つけどさ。

1万5千以上も一日で使うハメになるとは思ってなかったが。



…次にこいつと出かける時は気を付けないと。


岡崎「…っ」


……次って、俺はバカか。


…これが、梓と二人で出かける最後の機会だろうが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:48:20.13 ID:TD/UUS7no<>
梓「朋也、次はあっちのお店に行こっ!」

岡崎「…あっちって…そこ、メンズショップだぞ」

梓「最近寒いって言ってたよね」

岡崎「…? ああ。そろそろマフラーとか必要だって思ってた」

梓「うん。だからあそこで買ってあげるね」

岡崎「…へ?」

岡崎「…ちょっと待て。なんでそうなる。理由もなく受け取れないぞ」

梓「…その……ね?」

梓「二週遅れだけど、朋也に誕生日プレゼント……買おっかなって」

岡崎「なっ…?」

梓「…ほら、早くっ」

岡崎「…別にいいってっ!」

梓「遠慮しないっ!…ほら、選んで選んで♪」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:49:05.85 ID:TD/UUS7no<>
………


そのまま梓に背中を押されて俺は慣れないメンズファッションショップに入った。

安い2000円くらいのマフラーでいいと言ったのだが…。


「私は一万円以上買ってもらったから、朋也にだって、ちゃんとしたものを買う」


そう言って梓は聞かなかった。


それなら一万も買わせないで、お互いに財布に優しい買い物をすればよかっただろうに…。


梓「どれがいいかな…」


梓は店内に並べられた色とりどりのマフラーを眺め、俺の顔をチラリと見てはまた商品に目を戻す行為を繰り返した。


岡崎「…マフラーなんて、なんだっていいって」


物色すること10分。

未だにどれにするか悩んで梓はうんうん声を出している。


梓「朋也は気に入ったのあった?」

岡崎「だから、さっきの安いやつで…」

梓「…却下、あんなカッコ悪いの巻いた人と歩けないよ」

岡崎「……」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:50:36.55 ID:TD/UUS7no<>
梓「…どうしよう…朋也は落ち着いた色が似合うと思うんだよね……今着てるコートに似合うのは……」


むむむ……と一生懸命悩んでマフラーを選んでいる梓の横顔は可愛くて、その頬を指でつついてみたい…だなんて思った。


岡崎「……」

梓「うーん……」



こいつは今、俺の事を想ってマフラーを選んでくれているのか。

そのマフラーを買うことで梓に得になることなんて何もないのに、そのプレゼントを選ぶ時間を、そのプレゼントを買うために必要なお金も、ただ俺のために使ってくれるのか。


……俺は。



………



梓「はい、誕生日おめでと、朋也」


メンズショップを出ると、梓は俺に少し高めなお洒落な白と黒の模様のマフラーの入った紙袋をニコニコと俺に渡した。


岡崎「あ、ああ…」


その笑顔のせいで、いつもの俺なら言うであろう、ぶっきらぼうな台詞は出てこなかった。


梓「ね、ここで着けてみて」


二人でショッピングセンター内にある噴水広場前まで移動すると、ベンチに腰をかけて梓はそう言った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:51:38.65 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「…いい。帰ってからの楽しみにしとく」

梓「それだと私がすぐ見れないじゃん」

岡崎「…見せる必要あるのか?」

梓「似合ってなかったら責任重大だから」

岡崎「なんだよ、それ…」

梓「ほら、はやく」

岡崎「……」


梓の言葉に根負けし、紙袋から買ったばかりのマフラーを取り出して、ついていた商標等を指で外した。


岡崎「……」

梓「……あ、待って。朋也」


無言でマフラーを巻いているとストップがかかった。


岡崎「なんだよ」

梓「もっとおしゃれな巻き方教えてあげるね」

岡崎「…巻き方にオシャレもなにもあるのか?」

梓「ほら、マフラー貸して。…全然見栄え変わるんだから」

岡崎「……む」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:53:35.41 ID:TD/UUS7no<>
まるで俺の巻き方はダサいとでも言いたげな梓の言葉に少し腹が立つ。

が、ファッションに関しては今時の女子高生の梓の方が俺よりも熟知しているだろうから、俺は無言のまま梓に身を任せた。


梓「……」

岡崎「……」


マフラーを巻くために梓と俺の距離はとても近くなる。

…顔が、近い。


梓「……」

岡崎「……」


互いの息がかすかに感じる距離。

それに、俺も梓も少しだけ、ドギマギしてしまった。


梓「…うん、出来た」

岡崎「…サンキュ」


すぐ近くにある服屋の窓ガラスで自分の姿を確認する。

マフラーはファッション雑誌で見る若者がつけているそれと、同じような形で巻かれていた。

そして…新しいマフラーは今までの俺が持っていた安物よりも軽いくせに、やけにあたたかくてその材質のよさを俺に感じさせた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:54:01.79 ID:TD/UUS7no<>

梓「よかった…。似合ってる」


梓は満足そうに俺の全身を眺めた。


岡崎「イケてるか?」

梓「朋也はともかく、マフラーはいけてる」

岡崎「…おい」

梓「でも、…マフラーに引っ張られて、朋也もかっこよくなってる……少しだけ」


そう言って梓は少しだけ、笑った。


岡崎「…そっか」


だから俺も少しだけ、笑う。


梓「あ、照れてる」

岡崎「照れてないっ!」

梓「ふふ…。そういうことにしておくね」

岡崎「……ったく」


何だか本当に照れくさくなってきたので梓から視線をそらした。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:55:05.30 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「……」


そして、視線の先にはまだ梓と見ていないレディースショップが目に入った。


岡崎「向こうの店に女物の手袋とかマフラー、売ってるな」

梓「…朋也?」


岡崎「今度は俺がお前に好きなもの買ってやる。…行くぞ」

梓「ほ、本当っ!?」

岡崎「そんな喜ぶな。お礼だ、お礼」

梓「……あのお店Vivienne Westwoodだけど、平気?」

岡崎「あ?バーバリアン?」

梓「ヴィヴィアン・ウエストウッドっ!」

岡崎「有名なのかよくわからんがジャスコにある店だろ。…大したこと……」



………



岡崎「……」

梓「やっぱり、他のお店でいいよ」




マフラーはもう持っていると言われたので俺たちは手袋を見て回ることにした。

そして、店内に入りずらりと並んでいるお洒落な手袋達を眺めてみたものの……。


岡崎「……くそぅ…」


そのどれもが1万越えするってどういうことだ……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:56:43.52 ID:TD/UUS7no<>
服よりも安いだろうから手袋やマフラーをプレゼントしよう(情けない考えとか言うな)と思ったのに、これではまるで意味がない。


梓「ね、もっと安いお店でいいよ。暖かければそれで…」

岡崎「いや、でも俺から言い出したのにここで撤退するのは嫌だ」


男が廃るだろ。


それに……。


梓「……」

岡崎「……」


店内に入って少しした辺りから、梓はある手袋をチラチラと眺めていた。

…多分気に入ったデザインのものがあったんだ。


岡崎「どうかしたか?」

梓「う、ううん。なんでもない。ほら、もういこ?」


本当は視線の先にあるチェック柄の手袋を手に取りたいだろうに、俺に気を使ってそれをしない。

…なんだよ、こんなの本末転倒だ。

俺だって、これくらい買ってやれる男なんだぞ。


岡崎「……」

梓「あ……」


梓の興味を引いていたそれを手に取った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:57:36.21 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「さっきから見てたのこれだろ。…欲しいのか?」

梓「…ちょっと可愛いなって思っただけだから。…朋也、いいって。他のお店に……」

岡崎「1万500円ね…」


本日の出費、2万越え、確定だな。

まぁ、いっか。

今日は楽しかったから。


梓「と、朋也?」

岡崎「すみません、これください」



今日が最初で最後だから。

梓とデート出来るのは。

なら、今日くらい、懐の広い買い物をしたっていい。

何よりも今日はこいつの誕生日なんだから。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:58:07.71 ID:TD/UUS7no<>
………



梓「……本当に、いいの?」


店を出て、俺がプレゼント包装された手袋を渡すと困ったように梓は尋ねた。


岡崎「それが俺からの本当のプレゼントだ」


…我ながら、少しキザだとは想う。

けど、嬉しい事をされたら、嬉しい事を返すべきだ。


梓「……ありがと」


ぼそり…と、梓は何かを言った。

言葉は小さすぎて、俺にはよく聞こえなかった。


岡崎「…なんだって?」


梓「……」

梓「嬉しい…」

梓「朋也、すごく嬉しい」

岡崎「…っ」


恋する乙女の顔ってのは、今の梓みたいな顔の事を言うのかもしれない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:58:47.72 ID:TD/UUS7no<>
…聞き返さなければよかった。


岡崎「……くそ」


…何、やってんだ。



何ドキドキしてんだよ。俺。


梓「ね、そろそろここ出ない? 行きたいところがあって…」



………

……





岡崎「梓、行きたいとこって……」

梓「うん。…次はここのライブハウス。前に先輩達と演奏したこともあってね……」


ショッピングセンターを出て俺たちが次に向かった場所は駅の近くにあるライブハウスだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 16:59:59.78 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「ここはやめよう、梓」

梓「…今日は先輩達の知り合いのバンドがここで……って、朋也?」

岡崎「俺腹減ったんだよな。ほら、もう16時過ぎだろ?夕飯前になんかおやつとかさ…。…あっ!あっちにクレープ屋あるぞ。奢ってやるからあそこ行こう」

梓「…朋也、ここのライブハウス、入りたくないの?」

岡崎「……」


春休みまで……ライブハウスは好きだった。

爆音に包まれれば孤独さえ紛れる気がしたから。

でも……。



岡崎「……俺にも色々あってな」

梓「もしかして、グレてた時に、ここで何かしたんじゃ……。って、あれ?」

梓「ライブハウス…?」


岡崎「げ……」


梓は何かに気づいたようだ。


梓「そういえば…春頃に…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:01:25.39 ID:TD/UUS7no<>
………



梓「あはは、岡崎君、音楽のことなんてわかるの?」

岡崎「いや、そういうわけじゃないんだけどな。…ただ、前にライブハウスでバイトしててな。だから、演奏する人によって同じギターでも全然違う音が出るって事は知ってるんだ」



………



梓「もしかして、朋也が働いてたライブハウスってここ…?」

岡崎「…覚えてたのか」


バイト中に知ってる顔のやつらと会いたくない…。

そんな理由で隣町でアルバイトを探し、給料のいい目の前の場所で働くことにしたのが去年の丁度秋ごろ。


梓「いつごろまでやってたの?私たちと会った時にはもう働いてなかったよね」

岡崎「今年の春休みまでだな」

梓「……」


春休みという言葉に思う事があるのか梓は何故か言葉を詰まらせた


岡崎「梓…?」

梓「ここで……春休み?」

岡崎「ん? ああ、そうだ。梓達と会う丁度少し前だな」

梓「そ、そっか……」

岡崎「…?」


梓は何か難しい顔をして考えごとをしている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:02:39.04 ID:TD/UUS7no<>
梓「なら、久しぶりに挨拶も兼ねて入ってみようよ。…ね、朋也。元アルバイトって事で安くなったりしないの?」

岡崎「俺と入ったところで安くはならないし、それに俺はここには絶対に入らないぞ」

梓「どうして?」

岡崎「俺、ここはクビになって辞めたんだよ。…気まず過ぎるだろ」

梓「……」

岡崎「……」

梓「……呆れた」

岡崎「…うっせ」


だから話したくなかったんだ。

梓は目を細めてこちらを見ている。


梓「一応聞いてあげる。…クビになった理由は?」


岡崎「……」




岡崎「春休み……客とトラブル、殴り合い」





梓「なんで俳句風なのっ!?。…それに、殴り合いっ?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:04:04.68 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「ライブハウスの中で中学生くらいの…しかも、一人でいた女の子の客にやたらと声かけてるクソ野郎がいてな」

梓「…ふーん」

岡崎「気に入らないから一発殴ってやったんだ。そんで言い争いになって…そのうち取っ組み合いになって……」

梓「……」

岡崎「客と揉めたせいでクビ切られた。それだけだ」


今思えばなんて酷い。

せめて言葉で注意して、それでも駄目だったなら実力行使すればよかったんだ。

いや、実力行使したらどっちにしろクビか。


岡崎「まぁ、あれはいきなり殴った俺が悪かったな。八つ当たりもいいとこだった」

梓「朋也、こわ……」

岡崎「あの時はグレてたからな…」


でも、自分でもあの時の事はもう過去として考えられるのが嬉しかった。

あ、俺変わったんだって自覚ができている。

それが嬉しい。



梓「懐かしそうに言わないでよ…」

岡崎「懐かしいんだよ。あの出来事もお前らと会う前の事だと思うとな」

岡崎「…ま、今思えば殴ることなかったな。うん。反省はしてるぞ」


梓「……」


なんだか梓が難しそうな顔をしている。

俺が暴力を振るうやつだと再認識して戸惑っているのか…。

それともまさか、中学生の女の子を助けた事に嫉妬してたりとか。

…いや、ないだろうけど。


梓「うーん……」

梓「でも、助けてもらった女の子はきっと嬉しかったと思う」

岡崎「そうかぁ…?」


…どうやら助けられた女の子の気持ちを考えていたようだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:05:14.78 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「まぁ、そうだといいけどな…」

梓「きっとそうだよ。うん、私が保証する」

岡崎「保証つったってなぁ…」

梓「ライブハウスで男の人に声かけられたら、やっぱり一人じゃ怖いもん」

岡崎「…お前も、ナンパされた事あるのか?」

梓「…うん。はぁ……どうしてライブハウスって軽い男の人ばっか集まるんだろ」

岡崎「…軽い女ばっか集まるからだろ」

梓「私は軽くないもんっ!」



………



二人でその後は近くの公園に寄った。

冬の寒さが二人の体を穏やかに鎮め、爽やかな気持ちで自然に囲まれた風景を堪能して歩いた。


梓「風が気持ちいいね」

岡崎「…だな」


梓は先程からニコニコ笑いながら歩いている。


岡崎「……」

梓「……」


いい雰囲気ってのは、もしかしたら今の俺たちの状態を表しているのかもしれない。

無言なのに、二人で歩いているだけで楽しくて、今ならどんな話でも穏やかに進められるのではないか……なんて、思った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:05:43.08 ID:TD/UUS7no<>
…いい加減、言わなきゃだ。



岡崎「…あのさ」

梓「…あのね」


声が、重なった。


岡崎「……」

梓「……」


そのせいか、梓も俺も照れて顔を背けた。


岡崎「…先、いいぞ」

梓「…朋也からでいい」


岡崎「…なら、俺からな」

梓「う、うん……」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:06:21.52 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「……」


梓「と、朋也?」


岡崎「……」


さっさと言おう。

こんなとこでへたれてる場合じゃない。


岡崎「……っ」





……もしかして、俺は未練を感じてるのか?



二人の女の子にドギマギしていたこの半年間に。



岡崎「………」



……馬鹿か。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:06:54.05 ID:TD/UUS7no<>

岡崎「俺、憂に告白したんだ」



梓「………」


梓「…ぇ……?」




もう…




岡崎「文化祭が終わった後…」




梓「………」





岡崎「あいつに好きだって言った」





戻れる訳、ないだろ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:07:34.16 ID:TD/UUS7no<> ___________


梓「………」


岡崎「………」


とうとう、言った。

もの凄く言いづらくて、もの凄く気まずい思いを抱えてて、

訳がわからないくらい瞬間的に喉の奥がカラカラに乾いた。

その言葉を絞り出すのに、結局何時間もかかってしまった。


岡崎「憂も、俺が好きだって……言ってくれた」


梓「…そう…なんだ……?」


梓は驚いているようにも、悲しんでいるようにも取れる声でそう返した。




それでも……それでも……。



俺は、決めたんだ。

誰に対しても、誠実であるって。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:09:18.69 ID:TD/UUS7no<>
梓「今日の本題は……それ?」

岡崎「違う。本題は、あくまでお前の誕生日祝いだ」

梓「……なら、なんでっ」

岡崎「でも、あの日から…お前、ずっと忙しそうだったから、言う機会が今日までなかった」


文化祭が終わったあと……

梓は学校が終わると地元に戻ってきていたOGの先輩方と遊びに行ったり泊まりにいったり、模試を受けに行ったりで忙しそうだった。

俺も、親方や芳野さんのところに挨拶しにいって、これまでよりもたくさんの仕事を覚えることになった。

その為に急遽バイトに入ることになり、文化祭が終わってからの月、火、水曜は中々二人になる機会がなかった。


梓「…言う機会がないって…いくらでもあったよっ。朝とか昼休みに教室で、5人で話してる時にでも言ってくれれば…」

岡崎「このことは…っ」

岡崎「一番に、お前に言うべきだって思ったんだ」

梓「ぇ……?」

梓「…私には関係ないじゃん」

岡崎「関係なくない」

梓「…なに、それ」

梓「馬鹿みたい。朋也、自意識過剰なんじゃない?」

岡崎「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:10:51.92 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「俺、楽しかったんだ。梓といて、憂といて、鈴木と、斎藤と、奥田と…春原と…」

岡崎「7人でいて、すごく……すっげえ、楽しかった。友達って…仲間って、こういうのなんだって思った」

梓「……」

岡崎「だから、皆との間に秘密なんて持ちたくないって思った。それに、お前は部長だ」

梓「…もう、違う」

岡崎「いいや、俺にとってけいおん部の部長はずっとお前だ。…なら、一番に報告するのは、部員の義務だろ」


そうだ。

部員と部員の間で何かがあったら、それを部長に話すのは当たり前だ。



梓「……っ」

岡崎「不快だって、許せないって……思うか?」

梓「…どうして?」

岡崎「俺が…部員の中で、一人だけひいきしたみたいで」

梓「…そんなの、仕方ないよ。憂は…可愛くて、優しくて……家庭的で………」

梓「私が男だったら、私だって憂に惚れてたもん。だから、朋也がひいきしたくなっても……しょうがない、から」

岡崎「……」

岡崎「それで、俺と憂は付き合うけど……出来れば皆と……梓とも、今まで通りでいたいんだ」

梓「………」

岡崎「身勝手だってわかってるっ。都合のいいことばっかり言ってるって知ってる」

岡崎「でも、俺は…卒業までは、皆と一緒にいたいって思った」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:12:59.81 ID:TD/UUS7no<>
梓「……」

岡崎「そりゃ、受験でお前らがいそがしくなるのはわかってる、春原だって地元に行っちまう。今までみたいにはいかないけど…でも、そういう物理的な距離とかそういう話じゃなくて…」

梓「朋也、もういいよ」

岡崎「梓…?」

梓「平気、だから。…離れてくわけ、ないよ」

梓「私も皆が好きだから。だから、憂と朋也が付き合っても、別に、今までと変わらない」

岡崎「…梓」

梓「もう、そんな安心した顔しないで欲しいんだけど。…本当に、自意識過剰すぎっ」

岡崎「……悪い」

梓「あ、あはは…。…謝らないで。調子狂っちゃう」

岡崎「……」

梓「…でも…」

梓「朋也、酷いんだね。付き合ってる人がいるのに…こんな二人で出かけるなんて……」


岡崎「……っ」


梓「私が憂だったら…こんな風に、他の女の人と出かけられたら困るもん。きっと胸が張り裂けそうになる」


岡崎「……」


酷い…か。

自意識過剰な俺だから、梓の言う酷いって言葉はまるで、『彼女がいるのに、梓に期待させてしまう行為をしている俺』を批難してる風に聞こえてしまった。


岡崎「今日の事、ちゃんと言ってある。あいつはちゃんと送り出してくれた。平気だ」

梓「そう……なんだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:15:31.69 ID:TD/UUS7no<>
………


梓「そろそろ、帰ろっか。親がね、今日は皆で外食しようって言ってたから行かなくちゃ」


二人でぼんやりと公園の景色を眺めていると、梓はそう言った。


岡崎「……送ってく」

梓「一人で帰るからいい。…もう、憂の朋也を借りてるわけにはいかないし」

岡崎「…憂のって」

梓「それじゃ、また明日ね、朋也。憂を泣かしたら許さないから」

岡崎「………っ」

岡崎「泣かす訳ないだろっ!」

岡崎「……っ」

岡崎「マフラーサンキュなっ!!大事に使うっ!」

梓「………っ」


そうして、梓は俺をおいて一人で帰っていった。

俺は、10分遅れでその場から動いて家に帰ることにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:16:00.88 ID:TD/UUS7no<>
………



岡崎「……」


電車に乗り、その窓から流れゆく景色をぼんやりと眺めた。

俺たちが今日過ごした場所はあっという間に見えなくなり、代わりに目に映るものは、見慣れた俺たちの町だった。



岡崎「………」


冬の季節。

太陽が沈むスピードはあの遠い夏の季節よりも早くなっている。

電車の窓の外は暗くなり始め、いつもの町に帰ってきたときには辺りは真っ暗だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:16:39.95 ID:TD/UUS7no<>
………


電車を降り、行きは梓と歩いたホームを一人で歩き、改札をでた。

駅前には仕事帰りのサラリーマンや、学校帰りの高校生の姿が行き交っている。

それでも隣町と比べれば人の数は少ない。


……ふと、夜空を見上げた。

夏の大三角はもう見えず、そこに広がっている景色は俺に季節が過ぎ去っていくことをはっきりと伝えてくる。


後悔なんて、するわけ…ない。

することなんて許されない。

それは憂に対しても…

自意識過剰だけど、きっと、梓にとっても不誠実な行為だ。



…なのに、夜空に浮かぶ冬の大三角形を見ると、俺はふと他にあったかもしれない選択を夢想してしまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:17:12.77 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「………」




…なぁ、梓。

俺、お前の事が……4月からずっと大好きだったよ。

皆との間に秘密は持ちたくないって言ったばかりで、いきなり秘密話なんだけどさ。

でも、この気持ちはこの場に捨てて、二度とそういう目でお前を見ないから、いいよな。




…いいんだよな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:18:13.60 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「はぁ…」



…頭をぶんぶんとふって、俺の一番大切な人のことを考えた。

今、何をしてるんだろう。

学校は終わる時間だ。

あいつ、今日は音楽室に寄って帰るのだろうか。

それとも、まっすぐ家に帰るのだろうか。


岡崎「………」


夜空を見ているうちに…憂に会いたいと…。


会って強く抱きしめたいと……そう思った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:19:17.21 ID:TD/UUS7no<>
_________




憂「…お帰り」

岡崎「………」


絶句する。

時刻は18時。

自分の家の前に、憂が…俺の彼女が待っていた。


岡崎「………」


こいつはなんで会いたいと思ったときに必ず現れるのか、たまに不思議になる。


憂「ごめんね。でも、会いたくなって、気がついたらここに来ちゃってて…」

岡崎「…お前」


この町に帰ってきてすぐに会いたいって思った。

だから、今日は家に一度帰ってから、自分で会いに行こうと思った。


憂「朋也君…思ったより、早く帰ってきてくれた。…よかった」

岡崎「…ただいま」


だってのに、先回りまでされるなんて、本当にかなわない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:20:24.64 ID:TD/UUS7no<>
………

……




家に、父さんはまだ帰ってきていなかった。


岡崎「憂、上がってけ。…体、冷えたろ」

憂「…うん、それじゃお邪魔します」


憂が学校を出たのが16時として考えれば、11月の外で2時間待たせたことになる。

それに罪悪感を感じ、自宅にあげることにした。

せめて体を温めてもらいたかった。



憂「わぁ…。家の中あったかい」

岡崎「…親父のやつ、また一階の電気も暖房もつけっぱなしで仕事いったのか…」

憂「あっ…」

岡崎「どうかしたか?」


俺が父親についてグチをこぼすと憂は嬉しそうな顔をした。


憂「今の言葉、すごく親子っぽい」

岡崎「……ぽいじゃなくて、親子だ。…一応な」

憂「うん、ちゃんと…親子だね。…安心した」

岡崎「……おかげさまでな」


訂正。

さっき、体を温めてもらいたくて家にあげたといったが、あれは嘘だ。

……自宅にあげたのは、俺がただ側にいてほしかっただけだ。

あわよくば、付き合い始めたあの日のようにキスをして、抱きしめられれば…なんて、下心があるだけだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:21:20.25 ID:TD/UUS7no<>
憂「朋也君の部屋にくるの久しぶりだな」


憂は部屋に上がると首に巻いていたマフラーをとくと自然な動きで俺のベッドの上に座った。

俺はそんな光景に少しドキドキしながらも、なんとか呼吸を落ち着かせ、部屋の暖房をつけるとその隣に腰をかけた。


岡崎「上げておいてなんだけど、いつもなにもない部屋で悪いな」

憂「何もなくないよ。…朋也君がいるよ」

岡崎「…そりゃ、俺の部屋だしな」

憂「……うん」

岡崎「………」

憂「………」

岡崎「……その、な…」

憂「……うん」

岡崎「梓に、言ってきた。付き合うことになったって」

憂「…うん」

岡崎「別に、これからも今まで通りだって…言われた」

憂「…っ…うん」

岡崎「後…憂を泣かしたら許さないって」

憂「…うん…っ」

岡崎「…あのな、言ったそばから泣くなっ」


俺の報告を聞くうちに、次第にその顔は涙に濡れていった。

泣いている理由はなんとなくわかるけど、なんとなく、わからない方が俺の為なんだって思った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:22:26.46 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「なぁ、憂」

憂「うん……?」


だから、俺は目の前にいる子を口説く事にする。


岡崎「今日のお前の時間、後は俺が全部もらっていいか?」

憂「…朋也君?」

岡崎「勉強とかもあるだろうから、もし駄目ならいい。…でも、俺はもっと一緒にいたいんだ………ダメか?」

憂「勉強なんて……一日くらい平気だよ」


涙をふいて憂はそう言った。


岡崎「……」

憂「えと…どうかした?」

岡崎「いや…憂からそんな言葉が出るなんて意外だ」

憂「……」

憂「意外だなんて言わないでほしいなぁ」

岡崎「? だってな、憂って基本的に真面目なイメージが……」


憂「今…私は恋してるんだよ?」


岡崎「…あるんだけどな……」


憂はそっと俺の手を握ると悪戯っぽい目をして笑い、俺を下から見上げた。


憂「今日学校で一緒にいられなかったぶんだけ甘えさせてほしいな…」

岡崎「……っ」


ベッドの上で互いに向き合うと、憂は俺の胸に顔を埋め、匂いを嗅いでいるのか、それとも刷り込ませてるのか、しばらくこすりつけてきた。


憂「本当は…少し、不安だったんだ。…梓ちゃんと出かけるって聞いたときから」

岡崎「……悪い」


彼女の頭を優しく撫でる。

髪から漂う優しい香りが、俺の鼻腔にふんわりと広がりそれが男の欲求をかきたてていく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:23:46.30 ID:TD/UUS7no<>
憂「……」


憂「朋也君、好き」


顔を埋めたまま憂はそう言った。


岡崎「俺も好きだ」

憂「えへへ……」

岡崎「…お前、結構甘えん坊なとこあるのな」

憂「…いま気づいたの?」


顔をあげるとぷくりと頬を膨らませて抗議してきた。

…くそ、こいつ、絶対可愛いとわかっててこういう仕草してるだろ…。


岡崎「…今までは、俺が甘えてばっかりだったしな」


喧嘩した時も演劇の時も、思い返せば憂の好意に甘えて俺はどれだけワガママを振るってきたことか…。


憂「言われてみれば…そうだったね。でも恋人になったんだから、これからはもっと甘えるし、甘えて欲しいな。そうしたら二人で甘えあって、甘甘で幸せになれるよ」


憂は俺の胸の中でゴロゴロと猫が甘えるように顔を動かしている。


岡崎「甘甘って…。……今日は甘えられる側でいいよ、俺は」

憂「…えへへ、大好き」

岡崎「…勿論俺もだ」


目を一度合わせたのを合図に二人で強く、抱きしめ合った。

憂の背中に両手を回すと全身に憂の暖かさとその女の子特有の不思議な香りが強く広がり幸せな感触に包まれた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:24:49.78 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「…なあ、何かして欲しい事とかあるか?」


そのぬくもりを感じながら文化祭の後と同じことを俺は尋ねる。


憂「して欲しい事?」

岡崎「ああ。結構寒い中、二時間も待たせちまった。だからそのお詫びだ」

憂「うーん……それじゃあ……」

岡崎「なんでもいいぞ。前みたいにキスとか」


ははは……と、

冗談のように俺は言ったが、実は自分がしたいだけだったりする。



憂「………」


憂「私を朋也君のお嫁さんにしてください…」




岡崎「ぶっ!?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:25:52.79 ID:TD/UUS7no<>
憂「…駄目?」

岡崎「え、あ、いや……駄目じゃ…ない……じゃなくてっ………マジか!?」

憂「ふふ、うそだよ…?」

岡崎「………!」

岡崎「嘘なのかよっ!?」

憂「えへへ…」

岡崎「…ったく、とんでもない事をいきなり……」


憂「んむっ…♪」


岡崎「……っ…!?」


俺が憂の冗談に抗議の態度を見せると不意打ちでキスをされた。


憂「……ちゅぷ………ちゅぷ………」


憂の唇が、俺の唇の上で様々に形を変えて動く。


憂「…ん、ん…ん……は……ちゅぷ……ちゅぷ…」


強くすぼめて押しつけてきたり、軽く開いて覆い被せてみたり、閉じたり開いたりして俺の唇を挟んでみたり。


岡崎「……っ」



あまりの気持ちよさに抵抗するのが馬鹿らしくなりその柔らかな唇を俺も堪能することにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:26:49.59 ID:TD/UUS7no<>
………


憂「…はぁ……はぁ…」


息が続かなくなったのか、憂は自分から唇を離すと呼吸を苦しそうに整えた。


岡崎「……おい…」

憂「…お詫び、ご馳走様でした」

岡崎「お粗末さまでした…。…じゃねえっ!いきなりとんでもない事するなっ!」

憂「……慌ててる朋也君、可愛い」

岡崎「っ 言っておくが、可愛い言われても男は嬉しくないからなっ!」


おかしい、

俺の予定では、俺が憂を口説いていい雰囲気にして、その後でキスをしよう……と考えていたのにこれでは立場が逆だ。



岡崎「……」


てか、女ってずるくないか?

女の子に対して男は必死に自分をカッコつけたり、似合わない口説き文句を考えていい雰囲気を作ろうとか考えてるのに…。

男は惚れてる女にキスされただけで雰囲気とか関係なしに、すっかりその気になってしまうんだ。


憂「……」

岡崎「……」


視線が絡み合って離すことが出来ない。

離す事ができないから、俺たちは近づくしかない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:28:37.36 ID:TD/UUS7no<>
何度も何度も軽くキスをして、互いの手は相手の体を求めて絡み合う。

…そんな行為をくり返しいるうちに…

理性という名のダムは憂の甘えるというただそれだけの行為によって決壊寸前に陥った。


岡崎「憂、これ以上はまずい」

憂「何が……まずいの?」

岡崎「俺、キスで止まれなくなる」

憂「……」


憂「エッチ……したいの?」


岡崎「俺、男だからな…」


当たり前だ。

今でこそ脳から止まれ止まれと必死に本能にストップをかけている。

が、男である以上性的欲求からは逃げられない。

我慢はつらいんだ。

このままキスを続けたら、押し込めた煩悩が破裂して死んでしまいそうだ。


憂「…朋也君」


岡崎「…だから、少し時間をおいて……一回落ち着いて…〜?」


憂「……ん………ん……ちゅ……」


俺の言葉なんて耳に入っていないのか、憂はまたも唇を重ねてきた。



岡崎「………っ」


ここまでされて心臓はなぜ破裂しないのかだなんてアホな事を考えつつ、必死に自分の顔を後ろに引き憂の唇から自分の唇を離した。


憂「…ぁ………朋也君……?」

岡崎「…あんま変な声出さないでくれ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:31:02.31 ID:TD/UUS7no<>
かつてない速さで心臓はバクンバクンと鳴っている。

蕩けるような甘い雰囲気と、全身が脳から痺れてしまったような感覚に思考が追いつかない。

憂は俺の体にその柔らかな肢体をぴたりとはりつけるとごそごそと体を動かし俺の全身とその身をこすり合わせてキスをねだってくる。


岡崎「う、うい……」


服越しとはいえ人肌と人肌がこすり合わされることで初めて感じる快楽が全身を巡り、下半身はとっくに暴走を始めていた。


憂「ん……んちゅ……んちゅ……」

岡崎「……っ……っ…」


互いの舌が絡まって室内にチュプチュプと淫らな音を響かせた。

耳にその音が響くとまるで自分の体が浮いてしまっているような錯覚にとらわれて、訳のわからない感触にただ興奮していく。


憂「ふぅ……んむ、んむ…あ、ぁ……はぁ……ちゅぷ……はぁ……」

岡崎「……っ」



はっきり言う。

もう、身も心も憂の体と唇を使ったアプローチに陥落寸前だった。



岡崎「〜〜っ」


右手を憂の頭の後ろにまわし、彼女の髪留めを解いた。


憂「と、ともやくん…?」


急に髪をほどかれたからか、憂は顔を離してキスを中断した。

ふわり…と、彼女を象徴するポニーテールが崩れる。

髪を下ろした憂はいつもよりもどこか大人っぽくみえた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:31:36.24 ID:TD/UUS7no<>

岡崎「…憂って、すっげえ可愛いのな」

憂「…ほ、ほんとう?…きゃっ!?」


憂の両手首を両手で掴むと全身を使って彼女をベッドに押し倒し、今度はこちらから唇に吸い付いた。



岡崎「…はぁ…っ……んっ……」


憂の体に全身を覆い被せてそのぬくもりに埋もれながら、彼女の唇をねぶるようにしゃぶり、舌をその奥に流し込み、彼女の歯茎を舐め回した。


憂「……ん、んぅ…っ……あむっ!?」



もう我慢も限界だ。

理性のダムはついに決壊し、溢れ出した本能は目の前にいる女の子に全力で食らいつけと命令してくる。


岡崎「……はぁ……っ……はっ…」


胸が苦しい。

目の前にいる子が愛しくて愛しくて、もっと強く感じたくて息が出来なくて、このまま昇天してしまいそうだった。



憂「と、朋也君……」

岡崎「…憂…俺、もう……我慢出来ない」

憂「…エッチなこと?」


押し倒されたまま、憂は無抵抗に尋ねた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:32:04.88 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「ああ…。…お前、可愛すぎだ。知ってて俺を挑発してるだろ…」

憂「…うん。こうなるといいなって……ちょっぴり期待しちゃってたんだ」


微かにはにかんで、憂は白状した。


岡崎「…もう、どうなっても知らないからな」


憂「うん。…朋也君」


穏やかに笑って憂は言った。


憂「…いいよ」






岡崎「っっ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:32:36.65 ID:TD/UUS7no<>
ふと、脳裏に二つの声が響いた。




いい子ぶってんじゃねぇよ俺っ!

やっちまえよ、な、やっちまえ!




駄目だぞ俺っ!

まだ付き合って一週間も経っていないんだぞっ!?

清く正しいお付き合いをするべきだろうがっ!




…脳内で悪魔と天使が言い争いを始めた。




お前もあのいい匂いがする柔らかい女体にもうたまらなくなってんだろ?

おらおら、男の甲斐性みせてやろうじゃねえかっ!

さっきから憂に攻められっぱなしで恥ずかしくないのか!?





なんて破廉恥なんだっ!

憂はまだキスをしてきただけじゃないかっ!

その先を望んでいるなんて誰にわかるっ!?

本当は怖いのに、俺を思ってあんな事を言っているんだとなぜわからない!?

こういう事は順序を追ってからロマンチックな高級ホテルでだなっ!!




…俺の悪魔も激しすぎるが、天使はちょっと真面目過ぎないか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:33:04.94 ID:TD/UUS7no<>

先を望んでるに決まってるだろうがっ!

ペッティングのように体をすり合わせてきたのは憂だろうがっ!?



違うっ!

憂はペッティングの意味も知らないような女の子のはずだっ!

ただ純粋に人肌が気持ちよくて体を重ねてきただけに決まってる!



天使さん、悪魔さん。

俺はどうすればいい。




おら、もうとっとと陵辱ゲーのようにパコパコアンアンやっちまえって!

憂だってそれを望んでるじゃないのかっ!?





確かに男の部屋で二人きりの時にあんなにキスしてきたのは憂だ。

…もしかして、悪魔の言うとおりなのだろうか。




いけないっ!

騙されるな俺っ!

純愛ゲーのようにパコパコアンアンしなきゃダメだからなっ!





やる事は一緒じゃねーかっ!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:33:41.69 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「はっ…!?」


現実に戻ってきた。

さっきよりかはいくらか落ち着きを取り戻せたが、以前体に走る激情はやまず、俺の体のしたには憂がいる。




憂「…ぁ……」


岡崎「…憂……さわるからな」



もう、みっともない言い訳はやめて腹をくくろう。



憂「う、うん…」


Yシャツと越しに憂の胸に右手を添えて、俺は脳から溢れ留まることのない欲望の激流に身を任せてゆっくりと………。






ぎぃ〜……バタンっ!!





岡崎「うわっ!?」

憂「〜っ!?」


一階の玄関の扉が開け閉めされた音によって、二人して飛び上がった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:34:11.97 ID:TD/UUS7no<>
岡崎「……」

憂「……」


後一歩で止まれなくなるところだった俺と憂を現実に引き戻したのは……。


……笑えることに父の帰還だった。


岡崎「……親父が帰ってきたみたいだ」


情けない事に、この時の俺の声は死ぬほどがっかりしていただろう。


憂「そうみたい……」


憂もどこか残念そうな顔をしている……のは、気のせいって事にしておく。



岡崎「憂…」

憂「…な、なに?」


憂も流石に恥ずかしいのか、さっきまでの積極的な態度はなりを潜めていつも通りの明るく真面目な女の子に戻っていた。


だからこそ言いたい事がひとつあった。


岡崎「俺……」



岡崎「やっぱ親父の事大嫌いだ」




憂「あ、あはは……」



いや、だって……。

空気読んでくれよ……父さん。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:36:07.75 ID:TD/UUS7no<>

その後、俺と憂は理性が吹き飛ばない程度にイチャついてその日を過ごした。


そして、俺は憂を家に送ったあとに帰り道の途中のコンビニでゴムを買った。


…家に帰ったあと、俺は父さんにお礼を言うことにした。



岡崎「親父が帰ってきてなかったら……俺、孫を見せるハメになったかもしれない。ありがとな」

直幸「…朋也、どういうことだい?」

岡崎「…言葉のままの意味だ」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:36:45.92 ID:TD/UUS7no<>
………

……




でも、何か胸の辺りにつっかえている思いがある。

はっきりしないというか、モヤモヤするというか……。


憂は付き合う前から……好き好きオーラ全開の態度で俺に接してくる積極的な女の子だった。

…だからといって、今日みたいな悪戯な瞳をして迫ってくるような女の子だっただろうか。

付き合い始めたから遠慮がなくなった…。

そう考えるのが一番自然だけど、何故か、釈然としなかった。


岡崎「………」


憂の体あったかかった。

すげえいい匂いもしたし、女の子って不思議だ。

…あ、駄目だ。

なんかまた悶々としてきた。


………


結局、俺は幸せな感触を忘れぬままベッドにもぐって眠ることにした。

そして、ベッドにはあいつの香りが残ったままで、その匂いが先程までここにいた女の子とのやり取りを鮮明に思い出させて結局3時まで眠れなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/05(水) 17:42:03.87 ID:TD/UUS7no<>
ではここまで。

>>494

感動しました。
こういうのってなんか嬉しいですね。

それと、ifルート希望の声は嬉しいです。

嬉しいのでいつになるかはわかりませんが、時間の合間合間になんとか作っていこうとは思ってますがどうなるかわかりません。

ですのでもしかしたら書くかも…?ぐらいに考えててほしいです。


それでは読んでくれてる方いつもありがとう。

それでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 17:51:04.18 ID:1L0z0IQZo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 17:58:33.31 ID:nI7n+aGz0<> 乙。
やったッ!!さすが岡崎さん!
おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!
そこにシビれる!あこがれるゥ!

その反面、読んでいて梓が中の人繋がりもあってか、SAOの桐ヶ谷直葉とイメージが被ってしまった。
直葉も振られ役だったしなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 17:59:03.40 ID:YQ4V0GoIO<> 乙。

今回きづいたけど章ごとのタイトルってけいおんとCLANNADのアニメのサブタイトル足して作ってたんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 18:02:07.03 ID:sV8SxCt8o<> 乙!
エロすぎるよ憂ちゃん……

>>494見れないんですがそれは…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 18:16:52.48 ID:OKVuCaJAO<> 乙
憂ちゃん負い目感じてるねぇ 追い詰められる風にならないと 良いんだけど
そしてあずにゃん……こりゃ工藤静香の「慟哭」状態ですわ


イフルート期待して期待しないで待ってますわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 18:26:43.21 ID:2zrQqA9jo<> 乙?
俺もあずにゃんルート気長に待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 18:29:18.27 ID:YQ4V0GoIO<> >>571

なんて懐かしい曲を…

久しぶりに聞いてみたら今回のあずにゃん過ぎて泣いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 01:07:09.86 ID:Di658co+o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 01:50:09.86 ID:sLkRFTdAO<> >>572
同志よ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 03:05:59.20 ID:nN4SLe4O0<> ハーレム物のつらいとこって女の子が振られて気丈に振舞うけど陰では泣くとこなんだよね……
贔屓にしてるキャラだと尚更
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 10:00:43.40 ID:HDbjQBNAO<> まあ大ちゃんみたいに「どっちかなんて選べないダス!」なんて訳にはいかんからねしかたないね

外国ならムスリムになるって手もあるが <> zx<><>2012/12/06(木) 13:35:16.00 ID:VmbX78nc0<> 乙!さぁ次はあずにゃんルートにGO!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 13:52:59.13 ID:hYQrBqdIO<> あずにゃん派には悪いけど、まずは憂ちゃんを幸せにしてもらおうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 14:48:08.59 ID:HDbjQBNAO<> >>579
全くだな

このままだと朋也憂共に後ろめたい気持ちな状態なんで状況の変化が欲しい所
梓と憂の対談が必要かもね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 15:47:44.73 ID:T+8c5mmVo<> 親友の好きな人が好きで人と付き合うことになるって、場面だけみたらショコラの翠ルートみたいだな
細部は全く違うが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 23:23:57.11 ID:O7NBqxwDO<> ifルート期待せずにはいられないッ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/07(金) 00:05:40.73 ID:eYwMMBIv0<> ef - the first tale.みやこルートとそっくりだ。
先手をうって体をあげる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 00:16:46.49 ID:Hmds3Z2No<> まだ本編も終わってないのにifルート希望とか言ってるのって頭おかしいのか?
書いてる奴に失礼とか思わないのかよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 03:27:57.70 ID:bPqq6CfIO<> vipに立った時から見てるけど正直ここまでちゃんと続くとは思わなかったぜ。

面白いからマジで完結させてくだせぇ。 <> zx<><>2012/12/07(金) 13:50:03.07 ID:Hr6B/xhe0<> 頭はおかしくないけど・・・確かに失礼だな・・
スマン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/07(金) 16:38:22.47 ID:0btDXnT40<> コテでsageない時点でお察しだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 18:17:49.26 ID:0Z4wbXcDO<> >>1おつ

ふとスレタイが目に留まって、前スレから一気に追い付いたわww
続き期待してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 22:57:34.82 ID:LfiIEnmZ0<> 続き期待乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 22:58:54.45 ID:L96VYA5Ho<> 追いついた
どうして今までこんな面白いスレに気付けなかったんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/16(日) 03:36:07.88 ID:tpGsqhhNo<> >>1です。

今日は中間報告を。

年末年始と忙しくて年内には後二回程の投下になりそうです。

岡崎の卒業まで、もうしばらくお待ちください。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/19(水) 11:44:08.03 ID:Q6bwsf/A0<> 乙、ゆっくり気長に待つことにします。卒業とは高校かそれともDTのことでせうか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/21(金) 02:51:51.10 ID:PswQ8KFDO<> 乙、待ってるよ

ロックしてる岡崎なら
♪この支配からの卒業
だろjk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/21(金) 22:45:33.09 ID:miSmvpsx0<> まだかー!!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/23(日) 10:16:03.07 ID:AymCq4HL0<> たのしみ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/23(日) 20:24:11.20 ID:BzWJodX40<> 年内に後二回ってもう残り一週間…。
そろそろですかね?楽しみにしてます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:23:06.80 ID:EiJpBveMo<>
11月12日 金曜日 

〜音楽室〜



春原「はぁっ!?お前っそれマジかよっ!?」

岡崎「うるせえな…。リアクションが大げさなんだよお前は」

春原「で、でもさぁっ……それ昨日言ったの?」

岡崎「ああ」

春原「………」


春原は絶句し口をパクパクとコイのように動かしている。



ガラッ



純「すみれ〜、なお〜、音楽室で勉強してもいい?」

菫「あ、純先輩っ! 来てくれたんですねっ!?」


音楽室の扉を開けると鈴木はテーブルに座り、カバンから勉強道具を取り出した。

鈴木が音楽室に来たのがよっぽど嬉しかったのか、斎藤は鼻歌を口ずさんでお茶の準備を始めた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:24:27.79 ID:EiJpBveMo<>
純「私、図書室とか学校側が開放してる自習室とかって静か過ぎて逆に集中出来ないんだよね」

岡崎「ああ、わかるぞ。静かな場所って無性に叫びたくなるよな」

純「え…。…ごめん。それはちょっとわからない」

岡崎「……そうか」

直「…それよりも春原先輩、さっきの話なんですけど…」

春原「うん?」

直「さっき、岡崎先輩と話して驚いていましたが、何に驚いてたんですか?」

春原「……直ちゃんは知ってた?」

直「はぁ…、何をですか?」

春原「まあ、知らないよねぇ…」

直「?」


奥田は春原の言葉をよく理解出来ないのか軽く首をかしげて頭の上にはてなマークを浮かべている。


菫「皆さん、お茶を入れたので飲みませんか?」


斎藤が人数分のお茶を運んで俺たちの机の上にお茶を並べていく。


岡崎「お、悪いな斉藤」

純「ありがとね〜♪ このお茶を栄養に勉強頑張るさ〜」

菫「いえいえ…♪ それで、春原先輩はいったい何に驚いていたんです?」


お茶を並べ終えると斎藤も座って先ほどの話の続きを促した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:25:14.51 ID:EiJpBveMo<>
岡崎「それは俺から話すぞ」

菫「はぁ…」







岡崎「お前ら。俺、憂と付き合うことになった。よろしくな」






菫「……」

直「……」

純「……」




…しばらくの間、音楽室の時は止まった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:25:59.21 ID:EiJpBveMo<>
純「え、ごめん。聞こえなかった。岡崎、もう一回言って?」

岡崎「憂と付き合うことになった。よろしくな」

純「」

岡崎「おい、何か言えよ」


鈴木は無言になると思考を停止させたまま紅茶を飲み始めた。


菫「あ、あの…それっていつからですか?」

岡崎「文化祭の二日目が終わったあとだな」

菫「…へ?もう一週間近く前じゃないですか」


信じられない…といった顔で斎藤は驚いている。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:27:16.35 ID:EiJpBveMo<>
直「あの、梓先輩はこのことは?」

岡崎「…昨日言った」

純「ぶーっっ!!」

岡崎「鈴木、お茶吹いてんじゃねえよ。汚いぞ」

純「こ、これが吹かずにいられますかっ!あんたっ!梓の誕生日にわざわざそんな事を言ったのっ!?」

菫「そ、それで……梓先輩はなんて?」

岡崎「別に、いままで通りだって言われたが…」

菫「…そ、そうですか」

春原(部長も気の毒にねぇ……今朝から元気なかったけどそりゃそうか)

春原「まぁいいや。…それで、憂ちゃんと部長は今日は来ないの?」

純「二人共少し話があるから先に行っててって私に………ぁ……」

春原「……」

岡崎「……」

菫「あの、それってもしかして……」

直「……修羅場?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:28:14.09 ID:EiJpBveMo<>
_______


時刻は16時30分。

放課後の学校に用事のない生徒は皆帰宅して、この時間の光坂高校の坂の下は人通りが少ない。


憂「……」

梓「……」


そんな坂の下で私たちは立ち尽くしていた。


憂「……」

梓「……憂?」


自分を呼び出した憂に話しかける。

呼び出されたから出向いたというのに、呼び出した張本人が中々話出さなかったから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:30:15.38 ID:EiJpBveMo<>

憂「……」

梓「…寒いよ」

憂「…うん。もうすぐ12月だもんね」


二人の身を11月の冷たい風が包む。

私も憂も、コートとマフラーを着用してはいるけれど、歩き回らずにずっと立っているだけだと次第に体も凍えてくる。


梓「そういう事が言いたいんじゃなくて…」

憂「……」


憂は両目を閉じて下を向いた。

そのまぶたの裏には今、何が浮かんでいるのだろう。


憂「ここね…私と朋也君が初めて会った場所なんだ」

梓「早く本題を聞かせてって言おうと思ったんだけど……そうなんだ…」

憂「始業式の日に…この坂の下で朋也君と会ったんだ」


憂は幸せな出会いの記憶を思い返しているのか、目を閉じたまま両手を胸をあてて、優しい声でぽつり、ぽつり、と語り始めた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:31:25.88 ID:EiJpBveMo<>
梓「…うん」

憂「……」

憂「あの日、3年生になって初めて登校することになった」

憂「けれど、私はここまで歩いた時、もうお姉ちゃんと一緒に歩けないんだって、この道を一年間一人で歩かなくちゃなんだって……すごく落ち込んでいて…」

梓「…うん」

憂「そしたら……そんな私に朋也君が話しかけてきた」


遠い春の記憶。

まだ私たちが、三人と、二人と、一人と一人だった時の季節。


梓「そっか。…憂が始業式の日のホームルームに遅れてきたのは…」


あの始業式の日、憂は彼女にしては珍しくホームルームに遅刻してきた。



「唯先輩がいなくなっちゃって、寂しくてこれないんじゃないの?」



そんな事を純が言っていたけど、それは間違いじゃなかったんだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:33:32.34 ID:EiJpBveMo<>
憂「うん。朋也君が登校しきて、励ましてもらうまで、ずっとここでぼんやりしてたからなんだ」

梓「…そうだったんだ」

憂「……」

憂「……それが、私にとって、全部の始まりだったんだ」

梓「全部…?」


憂は……昔から……。

昔、といっても私はまだ憂とは二年と半年の付き合いだけれど。

たまに、私にはよくわからないことを言う。


憂「あの日から、なんだ。私が朋也君に惹かれていったのは」

梓「…そっか」

憂「……」

憂「梓ちゃん。ごめんなさい」

梓「…やだな。なんで憂まで謝るの?」


憂が泣き出してしまいそうな顔をこちらに向けると頭を下げて謝ってきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:35:04.23 ID:EiJpBveMo<>
憂「だってっ……梓ちゃんだって、好き…だったよね?」


憂「朋也君のことが……大好き……なんだよね?」


梓「う、うい? えっと、色々と誤解があるみたいだけど……」

憂「梓ちゃんの気持ちに気づいてたのに…。朋也君にお節介を焼いて、梓ちゃんと朋也君が仲良くしてると二人に嫉妬もして……」

梓「はぁ…。朋也も憂も、思い込みの強さだけはそっくり。…うん、お似合いだよ、二人共」

憂「梓ちゃんっ…!!」

梓「……っ」

憂「本音で……話そうよ。…ちゃんと、話して欲しいよ…」

梓「……」

梓「憂。朋也の……どこが好きなの?」

憂「…えっ?」

梓「馬鹿で、鈍感で、不良で、人の気持ちなんて全然察してくれなくて…」

梓「本当は寂しがり屋なくせに、…それなのに…親子仲が悪くて、コミュニケーション能力もなくて…」

梓「そんな朋也のどこが好きなの?……私にはわかんない」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:36:14.06 ID:EiJpBveMo<>
憂「…梓ちゃんなら、わかると思うんだけどな」

梓「…どうして?」

憂「…私と梓ちゃんは、好きな男の子に関しては、同じ価値観を共有してるって思うから」

梓「……っ」



憂「……いいの?」

梓「…なにが?」

憂「私は……抜けがけしたんだよ?」

梓「……」

憂「……」

梓「こないだ、朋也と一緒に出かけた時に聞いたんだけど……」

梓「朋也、憂の事が好きだって言ってた。……仮に、もしも……本当にもしも私が朋也を好きだったとしても、これでよかったんだと思う」

梓「…好きな人同士が付き合うのが……一番だって……私は思うから」

憂「………っ」

梓「だから、私にできることは二人におめでとうって言う事だけ。……憂の言うとおりだったとしても、それはきっと変わらないって」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:38:46.17 ID:EiJpBveMo<>


梓「…だから、おめでとう。憂。……本当はちょっとだけ、悔しいけど、ね」




憂「……っ……ふぇ……っ」

梓「う、ういっ!?ちょ、ちょっと…泣かないでよ…」

憂「…だって……梓ちゃん………っ。…私………梓ちゃんがあの日にっ…」

梓「……」

梓「もう、いいから」


ギュッと憂の体を抱きしめた。

私が唯先輩にいつもしていたように。


憂「ぁ………ぇ……?」

梓「…唯先輩程あったかくないけど、私も結構ぬくいでしょ?…大丈夫。何も変わらない。変わらないよ。…だって、私は憂の事、大好きなんだから」

梓「朋也なんかより、憂の方が、ずっと……ずっと……大好きだから」

梓「だから、泣いちゃダメだよ。憂が泣いていいのはもう、私の前でも…唯先輩の前でもなくて、朋也の胸の中なんだよ?」

憂「……ごめん……ね……」

梓「うん……」

憂「……ごめん……ね…っ。……ごめん…ねぇ……っ」

梓「…うん。わかってる。わかってるから……平気」

憂「梓ちゃん……ありがとう……」

梓「……お幸せに、ね」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:39:36.85 ID:EiJpBveMo<>
________


12月4日 土曜日


季節は流れていく。

11月…あの華やかで最高の時間を与えてくれた文化祭も今は遠く、12月…本格的な冬の季節がやってきた。

街路樹は葉を落とし、代わりに駅前や裕福層の家の前にはある特定の日の為の大きな木がその葉にイルミネーションを飾っている。

学園生活も残すところは4ヶ月となり高校三年生にとってはそれは灰色の季節でもある。

大学受験。

もしくは就職活動。

そんな張り詰めた空気の中、幸運にも進路が決まった俺は、勉学や面接の対策、自己PRカードとの睨めっこと等ともおさらばし、自由な時間を過ごす予定だった。

…のだが。


梓「朋也、寝ないの」


こたつに顔を乗せて目を閉じていると、隣に座っていた梓にポカっと頭を殴られた。


岡崎「いてぇ…」


その衝撃に眠りかけていた体がビクリと反応すると眠気も飛んでいってしまった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:40:28.19 ID:EiJpBveMo<>
岡崎「…はぁ、受験もしないのになんで俺は勉強してるんだ」

梓「卒業出来なくて内定取り消されたいなら私もなにも言わないけど?」

岡崎「くそ。一学期真面目にやってたんだから、もう卒業くらいさせてほしいんだがな…」

春原「はぁ。…就活しに行く前にこんな試練が残ってただなんてねえ…」

純「春原も岡崎もうっさいっ!」



現在時刻は12時30分。

俺達は期末試験の勉強会の為に平沢家にお邪魔していた。


菫「……」

直「……」


後輩二人は黙々と教科書と睨めっこをしてはノートに何かを書き写している。



岡崎「……真面目だな。あいつらは」

梓「関心してないで、朋也も早く筆記用具を手にとってほしいんだけど?」

岡崎「へいへい…」


春原「……」

純「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:41:52.48 ID:EiJpBveMo<>

憂は昼ごはんを作ると言ってキッチンの方へ行った。

今は俺、梓、奥田、斎藤、鈴木、春原の6人で平沢家一階にあるコタツを囲んでいる。


春原「…駄目だ。全然わかんねえ。 岡崎、憂ちゃんのノート僕にも貸してよ」

岡崎「教科はなんだ?」

春原「地理」

岡崎「駄目だ。俺が使用中だ」

春原「あんたついさっきまで寝てましたよねぇっ!?」

岡崎「丁度地理な気分になったんだ」

春原「…くそ。マリモ、地理教えろよ」

純「私は自分の勉強で手一杯。自分でなんとかしなよ」

春原「…勉強会として集まった意味がない気がするんですが…」

梓「朋也、地理なら私が教えてあげる。はい、春原くん。ノート」


梓は俺の目の前にあった憂のノートを手に取ると春原に渡した。


春原「お、悪いね部長」

岡崎「…お前、自分の勉強はいいのか?」

梓「学校の範囲なんて受験勉強をしっかりやってれば全然平気だもん」

純「…優等生だね、梓は」

梓「純だってバカじゃないんだからもっと努力すれば余裕もできるのに」

純「う…。言葉が耳に痛い」


鈴木も梓の正論が結構突き刺さったのか珍しく反論せずに参考書に向き合った。

試験は明後日から始まる。

その現実が鈴木にも真面目にならざるをえない状況を強いているのだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:43:17.32 ID:EiJpBveMo<>
梓「それで? どこがわからないの?」

岡崎「全部だな」

梓「はぁ……」

梓「まずは少しでも頭を動かすところから始めなきゃかぁ…」

岡崎「…無理かもしれん。この平沢家のコタツが悪いんだ。人の頭から思考する力を奪っていきやがる。つーか、何がわからないのかもわからん」

梓「……頭が痛くなってきた」

純(梓も見捨てればいいのに……)

岡崎「…地理ってつまらねえな」

梓「なら、どうして選択したの?」

岡崎「歴史関係と比べて覚えること少なそうだろ。…結局なにも覚えてないから意味なかったけどな」

梓「…信じられない。今年はどうやって補習を免れてたの?」

岡崎「憂のノートと教科書の赤いチェックが入ったとこだけ覚えて試験受けたらどの教科もギリギリ赤点取らずにすんだ」

梓「なら、一学期の中間期末、二学期の中間の時の知識がまだ残ってるはずじゃ……」

岡崎「梓」

梓「…なに?」

岡崎「自慢じゃないがな、ギターの練習してる間に記憶が全部吹き飛んだ」


繰り返し言うが、試験は明後日から始まる。

…やばいな。久しぶりに補修を受けるはめになりそうだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:43:59.35 ID:EiJpBveMo<>
梓「…朋也、今から本気で教えるから付いてきて。もう眠ってる暇なんてないから」

岡崎「…やっぱ、学校やめようかな」

梓「ニートだなんて許さないから。ここまできたのに諦めるなんてバカだよ。……バカだから今苦労してるんだろうけど」


ため息をつきながら人を罵倒しないで欲しい。


岡崎「お前、友達に対してなんて言い草だ」


だから、ため息をついて俺も反論する。


梓「友達だから言いたい事を言えるの。ほら、説明するからよく聞いて」

岡崎「…はぁ。…わかったよ」


………


春原(…なんか、思ったよりも普通だね)

純(…何が?)

春原(あいつら)

純(……)

春原(もっとギスギスするかと思ってたけど……杞憂だったのかねぇ)

純(だといいんだけどね…)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:50:13.45 ID:EiJpBveMo<>
………

……





憂「皆、ごはん出来たから休憩にしようよ〜」



菫「わぁ…お鍋ですか。いいですねっ!」

直「お腹減りました…」



岡崎「…そうだな。随分しごかれたし丁度いい」

梓「憂、今すぐにその料理を持ってキッチンに戻って。このままじゃ月曜の朝までやっても終わらないよ…」

憂「あはは…やられてるね、朋也君」

岡崎「まったくだ。…腹減ったから集中力も途切れちまったんだよ。…ここは休憩するべきだろ」

梓「寝てるだけで集中力を消費するなんて信じられないんだけど。はぁ……憂も苦労するね」

岡崎「おい、どういう意味だ」

梓「憂の彼氏は向上心がない。頭も悪い。記憶力も乏しくて意志力もない真性大馬鹿の駄目人間ってこと」

岡崎「……梓の指導は俺には厳しすぎる。憂よりも解りずらいし、すぐにこうして怒りやがる」

梓「朋也、言っておくけど、私が『もう勝手にすれば?』なんて放り出すと思ったら大間違いだからね。逆に怒ってノルマを増やす可能性が高いから」

純「……あ、梓ならやりかねない」

岡崎「俺、やっぱり憂じゃないと駄目だ。なぁ、憂が俺に勉強教えてくれよ」

憂「え、えっと……あ、あはは……」


憂は困ったように笑っている。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:51:51.84 ID:EiJpBveMo<>
純「まぁまぁ。梓の言うことも最もだけど、ここは皆でごはんにしよ。私もうお腹ぺこぺこ」


そんな様子を見かねたのか鈴木がフォローに入ってくれた。


岡崎「ああ、そうしよう。腹がへっては勉強も出来ないしな」

憂「それじゃ皆、勉強道具片付けて欲しいな。お鍋こたつの真ん中におくから」

梓「もう、憂まで朋也を甘やかしてどうするの…」

岡崎「まぁ、だから好きなんだ」

梓「…のろけてる暇があったら一つでも多く用語を覚えてほしんだけど?」

岡崎「…わかってるよ」




純(…確かに梓、平気そうね)

春原(ま、この調子なら僕も安心して就活しにいけるよ)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:55:44.90 ID:EiJpBveMo<>
………

……






憂「卒業旅行?」

岡崎「このメンバーでか?」

純「そうそう、勿論受験が終わってから…つまり、2月の後半くらいかな?」


結局俺達はろくろく勉強もしないままに昼飯をとることになった。

憂の用意した鍋をコタツに入った皆でつつきながら、俺達は卒業旅行について話していた。


春原「…部長と憂ちゃんはその時期には大学決まってそうだけど、マリモ平気なの?」

純「平気じゃないから私はこれから頑張るの。…春原、言っておくけど、あんたこそ予定の日までに進路決めて戻ってこなかったら置いていくから」

岡崎「春原、悪いな。お前の分まで俺が楽しんできてやるからな」

春原「自分だけもう決まったからって偉そうにしないでくださいっ!」


梓「でもいいね。皆で行きたい」

純「お、梓はノリノリ?」

梓「去年先輩達とロンドンに行って楽しかったから、やっぱり今年もね…」

岡崎「そういえばそんな事言ってたな」


しかし、ロンドンとは高校生の癖にまた贅沢な。

金銭面的な意味で俺たちの卒業旅行はもっと小規模なものになりそうだが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 02:57:07.33 ID:EiJpBveMo<>
菫「あ、あの…私たちも付いていっていいんですか?」

直「『卒業』旅行ですし……その、5人で行くべきでは?」

梓「そんなことないよ。私だって去年一人だけ後輩だったけど、行って楽しかったし、先輩たちも喜んでくれたって信じてる」

梓「だから…私は二人にも来て欲しいな」

菫「あ、梓先輩…」

憂「うん、大人数の方が楽しいよ。皆で行こっ」

直「…なら、私たちもお供させていただきますね」

春原「はは…こりゃ、僕も本腰いれて就活しなきゃみたいだね」

岡崎「安心しろ。土産は適当に買っておいてやるよ」

春原「いや、だから僕が戻ってこれないこと前提で話さないでください」

岡崎「え、お前戻ってくんの?」

春原「内定もらったら戻ってくるって言ってるでしょっ!?」

岡崎「なら俺たちもう二度と会うことないだろうな。じゃあな、春原。お前といた三年間、結構楽し……くなかったぞ」

春原「だから勝手に話を進めないで欲しいんですけどねぇっ!?しかも最後言い直すなよ台無しだよっ!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:01:20.14 ID:EiJpBveMo<>
________


梓「あ……。もう21時だ」

岡崎「マジか……」

梓「朋也、勉強大丈夫そう?」

岡崎「お節介などこかの部長がこの調子で教えてくれるんなら、なんとかなるだろ」

梓「…そんな物好きな人、どこにいるんだろうね」

岡崎「例えば目の前にいる奴とかはどうだろう」

梓「……朋也のばか」

岡崎「バカって言った奴がバカなんだ。バーカ」

梓「……カバ」

岡崎「俺、カバ好きだから」

梓「私も嫌いじゃないかも…」

純「あんた達、まだそんなやり取りしてる余裕があるの……? 私は勉強しすぎで性も根も尽き果てたよ…」


鈴木はぐったりとしている。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:04:23.99 ID:EiJpBveMo<>
春原「まさか、本当に一日中勉強するだけで終わるだなんて思いもしなかったよ……」

純「私はそろそろ帰ろっかな…。憂、ごめんね。遅くまでお邪魔しちゃって……」

憂「えへへ、平気だよ。一人でいるより、皆といた方が嬉しいから」

菫「直、私たちも帰ろっか。憂先輩、いつもありがとうございます」

直「…また明日も来ていいですか?」

憂「うんっ。 皆で明日も勉強しよっ」

岡崎「嬉しそうだな、憂」

憂「えへへ…。…冬に家で一人ぼっちは寂しいから」

純「それじゃ、明日また来るね」

岡崎「なら、俺も帰ろうk」

梓「待った。朋也には私と憂の居残り授業がまだ残っています。…ノルマ、まだ終わってないし」

岡崎「げ……」

春原「それじゃ頑張ってよね、岡崎。僕らはおいとまするよ」

憂「あはは……朋也君、もうちょっと頑張ろう?」

岡崎「…憂が言うなら、いいけどさ」

純「あんたも丸くなったわね」

直「今度から岡崎先輩になにか頼む時は憂先輩を通してお願いしますね」

岡崎「…勘弁してくれ」

梓「はいはい。お喋りはそこまで。…私達はそろそろ勉強再開しなきゃ。まずは地理から。朋也、教科書開いて」

岡崎「…はぁ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:06:48.14 ID:EiJpBveMo<>
春原「…お前、ため息なんかついてんじゃねえよ。…世の男どもからしたら滅茶苦茶羨ましい立ち位置なんだからさ」

岡崎「……そりゃ、わかってるけど」

春原(自覚あったのかよっ!?)

梓「春原君。悪いけど、朋也に話しかけないで。…ほら、さっさと問題を解くっ」

岡崎「…くそっ。わかったよっ!」

憂「温かいお茶入れるから、頑張ってっ!」

岡崎「…はぁ」



春原(付き合い始めたってのに、結局二人をはべらせて……いいんですかねぇ、これで)

純(…まぁ、変にギクシャクするよりはいいと思うけど)

春原(…僕が地元に戻ってる間、何もなければいいんですけど)

純(春原、それ何か起こるフラグだから)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:07:27.15 ID:EiJpBveMo<>
_______


岡崎「………」


あれからさらに1時間30分。

時刻は22時30分。

梓による個別指導を受けて俺の脳は朝からの酷使に耐え切れずパツンパツンになっていた。


岡崎「はぁぁあ…。…終わったな」


が、そのおかげもあってかノルマは達成した。

これなら明日一日を復習の時間にあてれば試験は無事突破できるだろう。


憂「二人共お疲れ様。お茶入れたから飲んで?」


憂は暖かいお茶をこたつの上に並べると俺の隣に座った。


梓「ありがと憂…。…でも、おかげで朋也も私もなんとかなりそう」

憂「朋也君、やれば出来るもんね」


隣でニコッと笑う憂。

その屈託のない笑顔に二人きりでないのにドキドキしてしまう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:08:48.05 ID:EiJpBveMo<>
梓「…はぁ。ニヤニヤしないでよ朋也。デレ〜ってしちゃってさ…まだ私がいるのにいちゃつかないでほしいんだけど?」

憂「あ、ご、ごめんねっ!そんなつもりじゃ……」

梓「あ、憂に非はないから安心して。悪いのは…ぜーんぶ朋也だから」

岡崎「お前な。なんでもかんでも俺のせいにするのはやめてほしいぞ」

梓「事実を言ってるだけ。…大体、今日だって朋也が昼寝してないで早く勉強してくれたら純達と一緒に帰れたのに」

岡崎「……それを言われると、何も言い返せないな」

憂「ま、まぁまぁ梓ちゃん。朋也君も一応頑張ったんだから…」


一応…。

一応…かぁ。

…明日は朝夜まで寝ずにしっかり勉強なきゃだな。


梓「憂の彼氏の駄目なとこはやるまでに時間がかかりすぎるとこ。意志力が低い」

憂「うん。周りの人に言われないと物事を中々始めないところは改善した方がいいと思うな。…ね、朋也君」


梓に同意してこちらをチラリと優しく見てくる憂。

……俺が意志力の低いままなのは、多分そんな優しい目をする女の子が俺の世話をしてくれるからな気もする。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:10:16.62 ID:EiJpBveMo<>

梓「ふぁ……それじゃ、今日はここらへんにしよっか。私も帰って自分の勉強しないと」

岡崎「…お前、これから自分の試験勉強するのか?」

梓「あ、勘違いしないでね。学校の試験の勉強じゃなくて、受験勉強のことだから」

岡崎「…俺、もしかして梓に滅茶苦茶負担かけちまったか?」

梓「朋也は吸収力はあって、教えたことはしっかり理解して覚えてくれるからそこは好き」



今さらっと褒めてくれたが、否定しない辺り相当負担かけてるんだな…。

反省して明日は梓に頼らずにひとりで勉強しないとだ。


梓「そろそろ帰るけど…朋也はどうするの?」

岡崎「…時間も時間だから送ってく」


もうすぐ23時になる。

そんな時間に梓を一人で歩かせるわけにはいかない。


梓「ぇ、えっ!? い、いいよ。別に…」

憂「ダメだよ梓ちゃん。こんな遅い時間にひとりで歩いたら危ないもん…」

梓「うい…」

岡崎「ま、そんな訳で彼女の許しも得たし、送らせてもらうぞ」

梓「…それなら、送ってもらうね。ありがと」

岡崎「ああ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:10:56.38 ID:EiJpBveMo<>
………

……





梓「朋也。私、向こうのコンビニで待ってるから」

岡崎「梓?」



平沢家の門を出ようとしたところで梓は唐突に俺に告げた。


梓「なるべく早くすませてね。あんまり夜更かしはしたくないから」

岡崎「あ……」

憂「二人とも、気をつけて帰ってね……ってあれ?」


憂が見送りに出てくると共に梓は立ち去っていた。



憂「梓ちゃんは…?」

岡崎「向こうのコンビニで待ってるから早く済ませだそうだ…」


梓の余計な気の使い方にあきれながら憂に伝言を伝える。


岡崎「……」


なんだか気恥ずかしくて俺は憂の足元をみた。


憂「あ…そっか…」


憂も察してくれたようだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:12:27.69 ID:EiJpBveMo<>

岡崎「……」


俺は玄関ドアのところまで戻り、玄関口に立ったままの憂と向き合った。


憂「…朋也君……」


憂がゆっくりと目を閉じる。

だから、俺もその行為に応じて目を閉じてゆっくりと自分を憂の唇に近づける。



岡崎「ん……」

憂「ん……っ……んっ……」


憂の唇を自分の唇で優しくなぞり、一度顔を離す。


岡崎「…憂……」




次のキスに備えて小さく深呼吸をして再びキスをする。


憂「……ん………んぅ…、ん、ん、ちゅ………」


唇を合わすだけでなく、今度は舌をこちらからいれて相手のそれを絡め取る。

くちゅ、くちゅ、くちゅ…と淫らな水音が耳に響き、その音が背筋にぞくぞくとした快感をたぎらせていく。


………俺たちが付き合い始めてから、初めてキスを交わした梓の誕生日。

あの日以来、俺達は一日が終わり、別れる時には必ずキスをしていた。

一度互いの前歯と前歯がぶつかったりするなどハプニングもあったが一ヶ月近くが経った今ではキスもだいぶ上手くなったと自負している。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:13:41.34 ID:EiJpBveMo<>

岡崎「……はぁ………っ……うぃ…っ…」

憂「…ん、ぁ……ちゅ……ちゅぷ……ん、ん、んぅ……っ……ぁ……っ……」


けれど、あの日のように互いの体をぴたりとくっつけたり、互いの体を触り合うような一歩進んだスキンシップには俺達はまだ進んでいなかった。

あの日の憂はやっぱりどこか変だったんだろう。


……俺達は、ゆっくりと俺たちの距離を縮め、憂の受験勉強や俺のアルバイトの時間の合間合間の時間に今のように睦み合っている。


………

……





憂「……はぁ……はぁ……」

岡崎「…はぁ……は……」


互いに息が続かなくなり、唇を離した。

今まで重なり合っていた部分が空気に触れて、その感触がまるで俺たちの間を遠ざけていくような気分になり、無性にさみしさを感じる。



憂「…大好き」


そんな寂しさが憂にもあったのか、両手を俺の背中に回してきた。


岡崎「…俺もだ」


だから、俺も憂の背中に両手をまわして強く抱きしめ合う。


岡崎「……」


憂の身長は154センチ、らしい。

そして、俺の身長は173センチだ。

この身長差だと抱きしめた時に憂の頭はすっぽりと俺の胸に収まる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:14:08.44 ID:EiJpBveMo<>

憂「朋也君の胸、あったかい…」

岡崎「…だろ?」


優しく彼女の頭を撫でた。

憂は気持ちよさそうに目を閉じて頭を擦りつけている。

俺が撫でたところからはふわりと優しい香りが流れてくる。

その香りを味わいたくて、俺は憂の頭を撫で続ける。



岡崎「なぁ、今日って憂の家族、誰も帰ってこないんだよな?」

憂「…うん。今日はお父さんも、お母さんもお仕事だから……」

岡崎「…梓送ったら、また来る。泊まってっていいか?」


だから、このまま家に帰りたくなくてそんな言葉を自然と口に出していた。


憂「うん。…待ってるね」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:15:15.65 ID:EiJpBveMo<>
________



梓「…遅いよ」

岡崎「…悪い、待たせた」


梓はコンビニの外で携帯を片手でいじりまわしていた。

寒いんだから、中で待ってればよかったんだが…。


岡崎「それじゃ、いくぞ」


が、待ってもらったあげくに意見するのは失礼なのでそのまま出発を促す。


梓「ねぇ……本当に送ってもらっていいの?」

岡崎「あ?なんでだよ」


寒いから早く歩いて少しでも体を温めようと思ったのだが、俺の考えに反して梓は立ち止まったまま下を向いてそんな事を聞いた。


梓「なんでって……言わせないで欲しいよ」


岡崎「……」

梓「……」



岡崎「行くか」

梓「うん」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:16:03.28 ID:EiJpBveMo<>



…………

……





岡崎「手袋、使ってくれてるのな」

梓「欲しいから買ってもらったのに、使わない理由なんてあると思う?」

岡崎「まぁ、そうだよな…」


梓「……」

岡崎「……」


梓「ご、ごめん。…ちょっと強く言いすぎた」

岡崎「別に、気にしてない」

梓「…そう?」

岡崎「ああ…」



梓「……」

岡崎「……」


冬の夜空の下、俺達は歩く。

梓の家を目指して、歩く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:18:25.58 ID:EiJpBveMo<>

梓「マフラー、使ってくれてるんだね」

岡崎「まぁ…気に入ったしな」

梓「…よかった。気に入ってもらえなかったらどうしようって思ってたから」

岡崎「そっか…」


梓「……」

岡崎「……」



冬の夜空の下、俺達は歩く。

かつてはドキドキしながら歩いた道をどこかぎこちなく、歩く。


梓「……」

岡崎「……」


梓「何か…言ってよ」

岡崎「何か…言えよ」



さっきから上手く会話が続かない。

おかしい。

春に出会ったばかりのころでさえ、もっとスムーズに話せた気がするんだが…。


梓「……」

岡崎「……そ、そのな…話題が何故か中々見つからない。すまん」

梓「へ、平気。別に気にしてないもん」


梓も俺に気を使っているのか、ごにょごにょと言って俺をかばった。

…気にしてないなら何か言えだなんて言わないだろ…。

そんなツッコミが頭に浮かんだが、それを口にしてはいけないことくらいは女心を少しは理解している。


岡崎「…そ、そうか?」

梓「う、うん」


岡崎「……」

梓「……」


気にしてない割に、俺達は俯いたままで、先に続く言葉を中々見つけられなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:19:47.39 ID:EiJpBveMo<>
………

……





梓「はぁ……」



梓は寒そうに体を震わすと、その両手につけた手袋に顔を埋めてはぁっっと。大きく息を吐いた。


岡崎「疲れてるのか?」

梓「別に…平気」

岡崎「………」

岡崎「俺は少し…」

梓「もう…先に言ってよ。…私もちょっとだけ」

岡崎「なに意地はってんだよ、お前」

梓「…別に、張ってないもん」


………


梓「それじゃ、ここまでていいから」


梓の家まで後5分の場所につくと彼女はそういった。





岡崎「…そっか」

梓「もう5分もかからないし、ここから先は道も明るいから……ってこの話、前もしなかったっけ?」

岡崎「多分、俺の誕生日の日にしたな」

梓「……朋也の誕生日、か。なんだかすごい前の事に感じるね」


梓は俺の言葉を聞くとどこか気まずそうに顔を下に向けると、自嘲するような笑みを浮かべてこちらをみた。


岡崎「………」


その微笑みにはいったいどんな意味があるのか。

ここまで送ったことへの感謝の意味なのか、それとも何か悲しい意味なのか…

それとも、もっと深い意味でもあるのか。

俺にはよくわからなかった。


岡崎「…梓、家までちゃんと送るからな」


わからなかったから、だから、もう少し話すことにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:20:37.29 ID:EiJpBveMo<>

梓「へっ?」


ここら一帯は住宅街の為に梓の言うとおり道も明るく、仕事帰りの人も周りにちらほらと見える。

つまり、もう危険はないと言っても過言ではない場所な訳で…。


岡崎「事故は安心して油断した時に起こるんだよ」

梓「…朋也」


そんな事起こるわけないってわかってる。

もう、男として……憂の彼氏の岡崎朋也として梓に対する役割は終えたわけだ。

それでも、俺は口から出る言葉を抑制することをしない。


梓「…う、憂に悪いもん。あんまり一緒にいたら」


岡崎「そういうの、あんまり気にして欲しくないんだよ」

梓「……っ」

岡崎「今まで通りでいいって言ったろ」


ちょっと強気にいう事にしよう。


岡崎「それに今日は……あの日と状況も同じだしな。なら、最後まであの日のまま家まで送ってく。…文句はないよな」

梓「文句なんて……あるわけ…ない……」

岡崎「あずさ…」

梓「ううん、なんでもない。…行こっか」

梓「……」

梓「……暗いからって襲わないでね」

岡崎「…アホか。そういう会話まで再現しなくていいんだよ」

梓「…あ、覚えてたんだ」

岡崎「当たり前だ」

梓「…朋也のバカ」

岡崎「バカ言うな。……って、だから、こんなとこまで再現しなくていいからなっ!」


その後は俺の誕生日の日の夜……あの頃のように、俺達は5分の間に精一杯会話を楽しんだ。


やっぱり、梓と話しているのは楽しい。

勿論、友達として……だけど。

そこに、深い意味なんてない。


持っちゃいけない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:21:14.77 ID:EiJpBveMo<>
………

……





梓「ありがとう。結局ここまで送ってもらって…」


家の前までつくと、帰り道を歩き始めた時のあの気まずい雰囲気はなりを潜め、

俺と梓の間にはいつもの俺たちの空気を取り戻していた。


岡崎「男の義務をまっとうしただけだ。誰と付き合ってようが、女友達をひとりで夜道を歩かせるなんて出来ないだろ」


だから、感謝の言葉に対しても、俺はいつも通りにちょっとだけ意地を張った、『俺らしく』全然素直でない言葉を返した。


梓「…優しいんだね」

岡崎「…あずさ?」


いつも通りの空気が流れているからこそ、梓もいつも通りにちょっと上から目線な罵倒の言葉を俺に返してくると身構えていたのに、なんだかやけにしおらしい態度と言葉遣いにまたもひるんでしまう。


岡崎「…お前にそう言われるのは初めてな気がする」


俺を優しいと評するのはいつも憂だった。

そして、俺を駄目なやつだとか、だらしないとかカッコ悪いというのはいつも梓だった。


梓「うん…。…そうだね」


吐き出した声は小さくて、怒っているのか、笑っているのか、泣いているのか、あるいはそのどれでもないのかはやっぱり俺にはわからなかった。

梓は自分の家の門の前に立つと空を見上げたまま、声を震わせて、ぼんやりとしている。


けれど、空を見上げていた顔をこちらを向くと…


梓「…また明日ね。朋也」



そう言って、かすかに笑った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:22:02.50 ID:EiJpBveMo<>
_____



岡崎「はぁ…」


ため息をついて腕時計を見る。

時計の針は23時30分近くを示し、その時間帯の寒さはコートとマフラーを着込んでいてもなお身に突き刺さる。


岡崎「まだ、起きてるかな」


平沢家の門の前に立ち、ピンポンを鳴らす。

…憂は規則正しい生活を心がけているために、基本的には日付が変わる前後に睡眠をとっている。

なので、この時間ではもう眠ってしまっている可能性も……


憂「…朋也君?」


ガチャりと扉が開き、憂が玄関先に姿を見せた。


岡崎「……ただいま」

憂「外、寒かったよね。お茶入れるから上がって?」

岡崎「……ああ」


憂の言うとおり、外は寒かった。

一人で歩く帰り道は本当に、本当に寒かった。

今夜の寒さときたら、いつ雪が降り出してもおかしくないと思える程で…。


岡崎「憂っ…」

憂「と、朋也君っ?」



だからこそ…そんな寒さに心までもが寒さを感じて、人肌のぬくもりを求めてしまう。

気がつけば、俺は憂を強く抱きしめていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:22:47.69 ID:EiJpBveMo<>

憂「…どうしたの?」

岡崎「体、冷えたからさ…あっためてくれ」

憂「う、うん……」


俺の腕の中で憂は照れくさそうに身じろぎしながら困っている。


憂「…外だと誰かに見られちゃうかもしれないし……とにかく家に上がってほしいな」

岡崎「…ん」


憂の言うことも最もなので、彼女の体を解放して家に上がった。


岡崎「………」

憂「………」


そうして二人で玄関口に立ち、顔を見合わせると同時に…。


岡崎「…憂っ……」

憂「…んっ……」



靴も脱がないままに、俺達は互いの体を強く抱きしめて、抱きしめ合ったまま片手で玄関の扉を閉めた。


ギギィ…と玄関ドアが締まり、俺達はようやく二人の世界に入る事ができた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:24:17.40 ID:EiJpBveMo<>

岡崎「やっと、二人きりだ」

憂「えへへ…。これで朋也君を独り占めにできるね」


憂の少し眠そうだった。

けれど、ニコニコと笑って俺の気持ちをその小さな体で受け止めてくれた。


岡崎「…なんだかんだであんまり二人きりにはならないからな。……あと、元から俺はお前だけのもんだ」

憂「…朋也君」

岡崎「…憂」


そうして、また俺達は唇を重ねた。

優しく

激しく


何度も何度も…。

まるで、何かを忘れるように。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:25:45.98 ID:EiJpBveMo<>
__________


12月10日 金曜日



春原「ぁ〜〜、終わった…」

岡崎「…追試は免れそうだ。お前は?」


そうして月曜から金曜日にかけての激動の試験週間は過ぎ去った。


春原「憂ちゃんのノートの力で全教科平均点……より10点ぐらい下ってとこかねぇ」

岡崎「…さわこ先生、めっちゃ驚くな。それは」


普通の生徒よりも『悪い点数』を全教科で取ったとはいえ、俺にしろ春原にしろ、今までが今までなんだ。

平均点より10点低くて済んだのはむしろ奇跡に近いレベルで出来がいい。


純「ま、よかったじゃない。無事に冬休みを迎えられそうで」

岡崎「まあな」


俺達3人は昼食の為に学食へ来ていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:26:45.03 ID:EiJpBveMo<>
春原「で、部長と憂ちゃんはまだ来ないの?そろそろ13時になるけど」

岡崎「卒業旅行の時に使う学割の申請用紙もらいに行っただけだからそろそろ来るだろ」

純「……」

春原「岡崎、今日はこの後暇?暇なら久しぶりにゲーセン巡りにでも付き合ってよ」

岡崎「…憂の予定次第だ」

春原「お前、友達よりも女を取るのかっ!?」

岡崎「悪いがそもそもお前は友達の域に達していない」

春原「マジかよっ!?」

純「……」


試験が終わったこともあり、俺と春原のテンションはいつもよりも若干高めになっている。

互いに卒業がほぼ確定したこともあり、自然と気分はゆるみ、高まってしまい、こうして今日も不毛な会話を俺達は繰り広げていたのだが…。


岡崎「…さっきから黙ってるが、どうかしたか鈴木」

純「………」


そんなバカ二人の横で、鈴木はどこか難しい顔をして考え事をしている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:28:01.13 ID:EiJpBveMo<>

春原「マリモが考え事なんて珍しいね。悩みでもあんの?」

純「…あのさ、岡崎」

岡崎「ん?」







純「どうして…憂に告白したの?」






岡崎「〜っ!?」


俺は口に含んでいた水を吹き出してしまった。


春原「マリモ、お前……」

純「…その、もうちょっと…待つとか考えられなかったの? 卒業式の後までとか…」

純「そりゃ、憂ならいつ告白してもOKしたと思うよ?…でも…」

岡崎「…鈴木?」


俺と憂が付き合ってから…。


どこまでいったの?

やら、

どんなシチュエーションでどんな台詞で告ったの?

やら

てか、やったの?

などと色々聞かれると覚悟していたが、春原たちはあまり俺たちの付き合いについて言及してこなかった。

…いや、最後のを聞かれたら切れるけどな。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:30:03.83 ID:EiJpBveMo<>
春原「いつしてもOKなら文化祭の後なんて最高のシチュエーションじゃん。何の文句があるんだよ」

岡崎「……」


ただ、鈴木の口から出た質問は俺にとって予想外にも等しくて、一瞬言葉の意味も理解出来なかった。


純「いや……だって……」


岡崎「……」


岡崎「…どうしてって言われてもな……」


俺と憂は……多分、釣り合っていない。

主に俺が。


可愛くて、優しくて、欠点なんてなくて、探せば褒めるところしか見えてこない憂。

それに対して我慢弱くて頭が悪くて我ながら自分勝手で人に迷惑ばかりかけての………もうやめておこう。

とにかく、周りの連中から見れば憂と付き合ってる男が俺と言うのは、俺が責められてもおかしくないカップリングなわけだ。

…そんなことは付き合う前からわかってる。


……でも、鈴木の口調にはそれとは違う、どこかやりきれなさのようなものが見え隠れしていて、心がざわつく。

まるで、誰かが隠してくれているおかげで繋ぎ止められている何かが、鈴木の言葉によって姿を現してしまうような……

そんな錯覚を覚えてしまう。


純「…憂はもっと、時間が欲しかったんじゃないかな。今までだって楽しかったし、何もこの忙しくなるじきに付き合い始めなくても…」

岡崎「鈴木……」

春原「あのさ、二人共…」



そして、その錯覚は錯覚のままで終わった。



春原「部長と憂ちゃん、来たよ」




憂「皆、申請用紙もらって来たよ〜」


俺たちの姿を見つけると憂がとてとてと近づいてきた。


梓「これがあれば後は旅行代理店とかで学割でプランが……って、皆で何話してたの?」


その後ろからは梓がやってきて、俺たちのどこかぎこちない空気を察したのか会話に介入してきた。


春原「まあ、色々だよ」


確かに色々だが、春原の誤魔化し方は少し不自然だった。

…そんな春原の態度に『色々』と察したのか、憂は


憂「もしかして、試験の話?」


と、この場にいる5人が共通して話せる話題を即座に切り出した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:31:17.10 ID:EiJpBveMo<>
純「ふふん、今回は私結構出来たからね。今までの梓にも負けない位の出来だった」

梓「純…。この時期に今までで最高の出来にならない人なんていないから」

純「…うぐ、そりゃそうだけどさ〜」


そして、その話題になると鈴木も先程までの真剣な顔は捨てて、いつも通りの楽しく友達とお喋りをしている鈴木の顔に戻った。


憂「朋也君と陽平君も赤点は免れたよね?」

岡崎「当たり前だ」

春原「当然♪ ま、これで心おきなく地元に帰れるよ」

鈴木「…あんた、明日戻るんだっけ?」

春原「まあね。さっさと始めないと地元でさえ職がみつからなくなっちゃいそうだし」

梓「…春原くんが働いてるとこ、想像出来ないな」

春原「ははっ。実際僕も全然出来ないよ」

岡崎「ニートになっても強く生きるんだぞ…」

春原「ならねえよっ!!……多分」



そのまま俺達は楽しく話続けた。

俺も、表面上は今日の試験の話に花を咲かせる。


けれど…心の中では先ほどの鈴木の言葉に動揺していた。

……確かに文化祭のあの日、俺から憂に告白した。

けれど、そのきっかけを作ったのは憂からでもあって。

そして、そのきっかけのきっかけを作ったのは俺でもあって。



………

……





もっと、時間が欲しかったのは誰だったんだろう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:32:25.11 ID:EiJpBveMo<>
________


放課後になると梓や鈴木は予備校へと向かい、憂は町の図書館へ勉強をしに行った。


菫「やっぱり……四人だとこの音楽室は広く感じますね」

岡崎「…だな」


…音楽室にいるのは、俺と、春原と、後輩二人。

文化祭が終わってから、この部屋に7人が全員集まったのは数える程しかなかった。

今ここにいる4人はほとんど毎日この音楽室に集まっていたが、残りの3人の受験生は目前に迫った大学受験に追われて必死になって勉強をしている。


直「それに……春原先輩ももう、行っちゃうんですよね」

春原「まあね…」

岡崎「……」


そして……期末試験が終わった今、春原は就活の為に地元へと戻る。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:33:16.91 ID:EiJpBveMo<>
岡崎「やっぱ、行くんだな」

春原「まぁ、それが親との約束だったしね」

岡崎「そっか…」

菫「ちゃんと…戻ってきてくれますよね? また7人でお菓子とお茶を楽しみたいです。……嫌ですからね。もう、これっきりなんて…」

春原「…正直な話、2月の後半までには絶対に帰って来れると思うんだよね。なりふり構わず色々受けてみるからさ」

岡崎「そっか」

春原「けど……2月の頭までは絶対に戻ってこれないと思う。…というわけで、岡崎。僕の部屋の鍵はお前に預けとくね」

岡崎「いいのか?」

春原「2ヶ月もあけたら戻ってきた時にほこり溜まってそうで嫌なんだよね。というわけで、任せた」

岡崎「…サンキュ」

春原「…憂ちゃん連れ込んでもいいけど、変なことはしないでよね」

岡崎「お前が戻ってきた時には俺たちの愛の巣にしておくからな。期待しておけ」

春原「いや、マジでやめてください」

岡崎「冗談に決まってんだろ。…お前の生活臭がする部屋でなんかイチャつけるかっての」

春原「だといいんですけどねえ。…ま、そんな訳でもう今日は帰るよ。明日の出発の準備しなきゃだし」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:34:48.62 ID:EiJpBveMo<>
菫「春原先輩、頑張ってくださいねっ」

直「いい職が見つかることを祈っています」

春原「……す、菫ちゃん。直ちゃん……」

春原「……後輩って、いいなぁっ。……それじゃ、いってくるよっ!!」

岡崎「いってこい。吉報、楽しみにしてるぞ」

春原「任せといてよねっ!」

岡崎「卒業旅行、俺ひとりだけ男なんて嫌だからな。さっさと戻ってこいよ」

春原「……」

岡崎「…なんだよ」

春原「いや、わかったよ。 へへっ。卒業旅行、楽しみだねっ!」

岡崎「…あぁっ!」


こうして春原は地元へと戻っていった。

次に会う時、俺達は一体どうなっているんだろう。


2ヶ月先

もう、そこまで来ている。

もう、始まっているんだ。

お別れの季節は。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 03:37:31.04 ID:EiJpBveMo<> 今回の投下はここまでです。

読んでくれ方には感謝とメリークリスマスの言葉を。

そして、だいぶ更新が空いてしまったことの謝罪を。

年内に後一回は投下したい…。

それではっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 04:21:26.66 ID:WZN6whrDO<> >>1乙

X'masとは…十字軍を導いた聖人ニコラス司教を、その愛用の武器Xmace(クロスメイス)を掲げて讃える事から始まった儀式である…のならよかったのにハァチクショウ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 04:41:22.26 ID:BLwTmLJno<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 08:29:20.77 ID:VNf4iQTw0<> 性の六時間に書き込むとは・・・

同志よっ!!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 09:46:06.85 ID:khr+3IOIO<> 今年はけいおんの映画やってたし寂しくなんかなかったぜ。

このスレ読んでた時は憂ちゃん派だったのに、動くあずにゃん見たらあずにゃんルートいけばよかったとか思ってしまったぜ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 12:16:15.20 ID:mG9ZrRVSo<> 乙
WA2やってるせいで完全に憂ちゃんと雪菜が混同してますサーセン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 12:23:34.32 ID:eXtjI4SIO<> 朋也はおれの義弟になってしまったか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 12:26:31.71 ID:E+B2hw2AO<> 乙
これは…朋也六時間コースやね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/31(月) 19:46:58.13 ID:wZ5Gr4Qe0<> 乙
もう今年も残り数時間。
はたして投下は!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 21:45:30.00 ID:yDmEq53to<> ________


12月17日 金曜日 音楽室


菫「…先輩」

岡崎「……」

菫「せんぱいっ!」

岡崎「…んあ?」


ギターを持ったままぼんやりと突っ立っていると金髪の後輩が俺の両肩を強く叩いた。

菫「大丈夫ですか?」

岡崎「なにが?」

菫「ここ最近、せっかく三人で曲を合わせても先輩だけリズム滅茶苦茶ですし、今回なんて演奏の途中でギターを弾くのやめちゃってましたっ!」

岡崎「……悪い」


さっきまで奥田と斎藤と俺の3人で適当な曲を合わせていた。

けれど、選曲が文化祭の時にやった曲になった途端

あの時の楽しくて、最高に嬉しかった時の記憶が脳裏に走り、ついボケっとしてしまった。


菫「文化祭が終わったからって、私と直はこれから先も続けるんですから、先輩にぐらい手伝ってもらわないと困ります」

直「そうですね。アルバイトのない日は岡崎先輩に来てもらいます。…二人でこの音楽室はさみしすぎますし」

岡崎「そうだな。悪い、それじゃ練習再開すっかっ!」

菫&直「はいっ!!」



…春原がいなくなって一週間。

この音楽室に毎日顔を出す人は3人……文化祭までと比べて半分以下にまでなってしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 21:52:46.12 ID:yDmEq53to<>
………


さわこ「あら、皆真面目ね」


三人で適当な曲を合わせているうちに先生がやってきた。

先生も、最近は受験生の相談を受けたり生徒の受験スケジュールのチェック等で忙しく、こうしてたまにしか顔を出さない。


菫「先生っ!来てくれたんですねっ!…お茶いれますっ!」

さわこ「あら、いいの?」

菫「はいっ!」

岡崎「……」

直「……」

岡崎「休憩…するか」

直「はい」



………

……





岡崎「それじゃ…憂も梓もOGの人達と同じ大学を?」

さわこ「そうみたいね。梓ちゃんは元々唯ちゃん達とまた音楽をやりたいって言ってたし」

岡崎「ですよね」

さわこ「憂ちゃんは……まだ迷ってるみたいだったけど」

岡崎「迷う…何にです?」

さわこ「国公立の大学を受けようか悩んでるみたいね」

岡崎「そうなんですか?」


初耳だ。


岡崎「国公立って……一般的に、かまりいい大学ですよね」


確か、受験科目が私大の倍近くあるとか聞いたことがある。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 21:58:08.71 ID:yDmEq53to<>
さわこ「憂ちゃんって勉強出来るじゃない。だからかしらね。第一志望には国公立大学の名前が書いてあったわ」

さわこ「岡崎、あんた何も聞いてないの?」

岡崎「あいつ、俺といる時はあんまり受験の話しないんだよ。…気を使ってくれてるのかもしれないけど」

直「その国公立の大学、憂先輩なら入れそうなんですか?」

さわこ「うーん…流石に受験科目も多いし、頑張らないと憂ちゃんでも厳しいかも」

岡崎「………」

さわこ「あら、本当に何も聞かされてなかったのね」

岡崎「……」

直「先輩、気になるなら聞きに行くべきです」

岡崎「うっせえ。命令すんな」

直「命令じゃなくてアドバイスです」

岡崎「後輩にアドバイスなんてされたくねえ」

菫「でもでも、ちゃんと聞いてみるべきですよ。…だって、彼氏じゃないですかっ!」

岡崎「そうだな…」


部活が終わったら憂が勉強している図書館まで会いに行ってみるか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 21:59:25.15 ID:yDmEq53to<> ________


音楽室で下校時刻になるまで時間を潰し、19時ごろに俺達は解散した。



岡崎「……」



時計の長針はそれからさらに半回転し、19時30分。

俺は図書館の入口まえに一人立っていた。


岡崎「寒…」


コートとマフラーに身を包んでも、12月の体の芯まで冷やす凍える空気に身を震わす。


岡崎「はぁ……」


ふと空を見上げれば、澄み切った夜空。

冬の星空は空気が澄んでいるぶんはっきりと星達の光を地上に下ろしている。


憂「朋也くんっ!」


そんな光の下でぼんやりすること数分。


憂「待っててくれたの…?」


俺の待ち人で、俺の恋人が図書館から外に出てきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:01:27.22 ID:yDmEq53to<>
岡崎「ん…」

憂「迎えにきてくれたんだ…。ありがとうっ!」


憂は俺にいたわりの言葉をかけるとふわりと笑った。

でも、憂の笑顔は迫り来る受験に向けての勉強に疲れているせいもあってか、いつも程の輝きはなかった。


岡崎「会いたかったんだ」


だから、俺もいつもより素直に自分の本音をさらけ出す。


憂「ぁ……」


頬を赤く染めて、憂は俺から目を背けてしまった。

照れてるのかもしれない。

いや、照れていてほしい。


憂「…わ、私も…会いたかったよっ!」


憂は俺の顔をじっと見上げると切なそうな声で、彼女にとっては恥ずかしくて、大胆な本音を…

…俺にとっては恥ずかしくて、嬉しい事実を言った。


岡崎「……」


会いたかった気持ちをお互いに伝え合う。

そんな、恋人としては当たり前の言葉のキャッチボールをしただけで、心も体も温まる。

幸せな気持ちに包まれて、あまりにも満たされて、言葉に詰まってしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:04:16.01 ID:yDmEq53to<>
岡崎「……」

憂「…な、なに?」


憂の顔を覗き込んでみた。

その頬は先ほどまでよりもさらに赤くなって、視線はもうぐるぐる泳いでしまっていて…。


岡崎「はは…」


そんな仕草が可愛くて、会ってまだ1分もたっていないのに、抱きしめたくて抱きしめたくてしようがなくなってしまった。


憂「図書館に入ってきてくれればよかったのに」


しばらく二人で図書館の前で照れまくっていたが、憂がようやく口を開いた。


岡崎「勉強の邪魔はしたくないんだよ」

憂「そしたら私は受験が終わるまで朋也君に会えなくなっちゃうよ」

岡崎「……」


えっと…つまり、それって……。


岡崎「…俺、存在自体が邪魔か?」


だとしたら、流石にへこむ。


憂「ふふ…。そうじゃないよ。…だって」

憂「朋也君と会うと…胸がドキドキして勉強なんて手につかなくなっちゃうから」

岡崎「……お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな」


気恥かしさと嬉しさで、憂の顔を直視できない。


憂「キスした日なんて…その時のことばっかり思い浮かんで、家に帰っても何も手付かずになっちゃうんだよ?」


憂はえへへと笑って、照れながらまたも下を向いてしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:06:03.64 ID:yDmEq53to<>
岡崎「ごめん…」

憂「…え?」


もう、我慢できなかった。


岡崎「…今日も、何も手付かずにさせちまうから。…先に謝っとくな」


憂の顎を左手で優しく持ち上げて、下に向いてしまった小さな顔を俺の顔の方へと向けさせた。


憂「…ぁ…っ…と、朋也……く……っ」


そして、そのまま自分の唇を憂の柔らかなそれに重ねた。




岡崎「……ん……っ」

憂「………ん、ん……ん……」


憂と付き合って一ヶ月が過ぎた。

キスした回数を把握できなくなった日はもう遠く、何度目かもわからなくなってしまったキスを俺達は楽しむ。

互いを求めて、隙間を埋めるように、唇を強く重ねた。

それでも足りなくて、彼女の唇の中に自分のざらついた舌を流し込んで、彼女の舌を絡め取る。


岡崎「…ん…っ……ん……」

憂「ぁ……ぁっ……ん……ちゅ……ちゅ……ちゅぷ……」


憂「…っ」


つながった唇を離した。


岡崎「…はっ……はっ……ぁ……」


不思議だ。

どうして互いの唇を合わせただけで、身も心もこうも熱くなって、息苦しくなるんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:07:09.66 ID:yDmEq53to<>
岡崎「……どうだ?」

憂「こんなちょっとじゃ、まだまだ勉強に集中出来ちゃうよ?」

岡崎「…なら、もっかい」

憂「ん……」

岡崎「…………憂………」

憂「…ん……ちゅ……」



………

……




岡崎「……」

憂「……」


図書館の前でいつまでもいちゃついているわけにもいかず、二人で憂の家を目指して夜道を歩く。

俺たちが正気に戻ったのは、キスをし始めてからたっぷり20分。

時計の針が図書館の閉館時刻の20時に近づいて、図書館を利用していた客が玄関口から流れ出てくる時だった。

つまり、それまでは図書館の玄関口から丸見えの場所で口づけをしていたことになる。


憂「ちょっと…夢中になりすぎちゃったね」

岡崎「…だな」


一度でもキスしたら周りが見えなくなる。

今度からは本当に誰もいないとこでだけ、キスをすることにしよう。





……知り合いに見られてなければいいけど。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:08:11.50 ID:yDmEq53to<>
憂「朋也君、バイトがない日は一緒に図書館で勉強しようよ」


隣を歩く憂が俺の顔を見上げながら、そんな提案をした。


岡崎「勉強はなぁ…学校卒業したらもう二度とする必要もなくなりそうだしなぁ…」

憂「それじゃぁ…本を読んで待ってるのは?」

岡崎「本か…。生まれてこのかた漫画しか読んでこなかったから、好きかどうかもわからん」


ただ、読まなくてもわかる。

活字は俺には無理だ。



憂「うーん…ホラー系の小説とかなら朋也君でも読めるんじゃないかな?」

岡崎「小説にもホラーなんてあるのか」


ホラーといえば怪談話とか映画のイメージしかない。

さ○こ とか

…さわこ じゃないからな。

さだ○ だ。

まぁ、怖いって意味では同義だが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:10:47.50 ID:yDmEq53to<>

岡崎「ホラーなら楽しめそうだ」

憂「やっぱりホラー系が好きなんだ」

岡崎「知ってて言ったんじゃないのか?」

憂「私、まだ朋也君と映画館でデートしたことないもん…」

岡崎「ぁ…」



憂は拗ねながら、俺にちょっとした批難の言葉を浴びせた。

言われてみれば、そもそも俺達は付き合ってからまだデートに出かけたことがない。

いくら憂でもこの時期の休日は勉強漬けだ。

二人で少し遠くへ出かけたりする為のまとまった時間は中々取れない。


岡崎「映画とか…。やっぱ、見に行きたいか?」

憂「朋也君は…思わない?」


俺の質問に、ほっぺを膨らませてまたも拗ねながら質問を返す憂。


岡崎「…悪い、憂の受験終わったら行くか。ホラー映画を見に」


今は憂が忙しくてそんな時間はつくれないが、2月の後半になればお互いに暇ができるだろう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:11:32.36 ID:yDmEq53to<>

岡崎「俺、謎の怪物とか出てくるの見るとワクワクするんだよな」

憂「宇宙船に凶悪宇宙人とか?」

岡崎「そうそう。南極に隕石に乗ってやってきた宇宙生命体とか、宇宙からやってきた寄生生物とかな」

憂「……」

岡崎「……」

憂「…宇宙ばっかりだね」

岡崎「怖いものって主に宇宙からやってくるのかもな」

憂「うーん…人類未踏の場所って考えれば深海とかもそうかもだね」

岡崎「ああ、言われてみればそれはあるな。巨大生命体とか海底都市とかか」

憂「…朋也君、クトゥルーとか読んだことある?」

岡崎「あ?クト……なんだって?」

憂「クトゥルー。巨大怪獣とかが出てくる想像上の神話なんだよ?」

憂「その正体は宇宙生命体だったりして……朋也君?」

岡崎「宇宙生命体……」

憂「うん…」

岡崎「やっぱり宇宙なのな」

憂「そうだね」

岡崎「宇宙って…怖いな」

憂「うん」

岡崎「……」

憂「……」



映画の話から始まった宇宙談義をどう続ければいいのか互いにわからなくなり、ふと会話が途切れた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:12:41.01 ID:yDmEq53to<>

岡崎「……」

憂「……」


言葉なく二人で歩く。


岡崎「………」


チラリと横をみた。


憂「……?」


目があった。

憂も、俺の方を見ていた。


憂「…えへへ」


憂は穏やかに笑っていた。

ニコニコと楽しそうに。

別に、何も楽しい話なんてしていないのに。


岡崎「……」


胸の中が不思議と熱くなった。


憂「ぁ…」



気がつけば憂の手をギュッと握っていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:13:38.31 ID:yDmEq53to<>
憂「朋也君の手、あったかい」

岡崎「お前の手は、冷たいな」


手の平に感じられる小さな手はすっかり凍えてしまっている。


憂「…朋也君の手、気持ちいい」


さわさわと自分の手を俺の手とこすり合わせながら、心地よさそうにつぶやいた。


岡崎「反応が大げさだ。…でも、まぁ、もっと早くつなげばよかったな」


そうすれば、憂の手はこんなに冷えなかった。


岡崎「……」

憂「……」


しばらく言葉は出なかった。

けれど、言葉なんかなくたって、気持ちは通じ合っていた。


岡崎「……」


隣を歩く憂の横顔をまた盗み見た。


憂「…?」


憂はこちらの視線に気づくと不思議そうな顔をして首をかしげた。

そんな仕草が可愛くて、愛しくて、しょうがなかった。

だから、繋いで手に力を込めて先程までよりも、もっと、もっと強く憂の手にひらを握った。


憂「…うん」


憂も、笑いながらギュッと握り返してきた。

ただ、手と手の簡単なやりとりなのに、その単純な触れ合う行為がただ幸せすぎて…。



岡崎「……あのさ」


だから…。


憂「うん、なに?」




岡崎「憂は…大学、どこ受けるんだ?」




幸せだと思ったからこそ、俺たち二人の未来に大きく関わる憂の受験について尋ねた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:16:36.66 ID:yDmEq53to<>
憂「……」



俺の言葉にさっきまでの甘い雰囲気は変わって俺達を包む空気は真面目なものになっていた。

…空気、読めてなかったかもしれない。

あのまま手を繋いで一緒に帰って、また明日と言って、別れ際にキスをして、それでまた別の機会に話せばよかったのかもしれない。

…けど、幸せだって思ったからこそ、早く知りたかった。

俺と憂は今後どうなっていくのかを。

卒業した後の事を。


憂「……」

岡崎「さわこ先生に聞いた。国公立受けるって」

憂「うん…」

岡崎「俺、バカだからよくわからないんだけどさ、国公立を受験すると…確か3月まで試験が続くんだよな」


大学受験ってのは、私大に限れば遅くとも2月の終わりまでには幕を閉じる。

けれど、国公立大学の受験ってのは3月まで…後期の試験まで受けるとなれば、へたをすれば3月の中盤まで続くはずだ。

そんな国公立大学を受験するってことは、俺たちの……けいおん部の皆と一緒に過ごす最後の時間を大幅に削ることになる。

最悪の場合、憂だけ卒業旅行にいけない……そんなことにだってなるかもしれない。

そんなのは……それだけは嫌だった。


岡崎「俺、憂は唯さんとか、梓と同じ東京の私大を受けるんだろうなって思ってた」

憂「…最初は私もそう思ってた」


それは、今は違うってことか?


岡崎「なら、なんで今になって……」


国公立なんて負担のかかる試験を選ぼうとしてるんだ?


憂「えっと……なんて言えばいいのかな」


憂は困ったような顔をして、俺に告げる言葉を一生懸命考えている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:21:38.68 ID:yDmEq53to<>
岡崎「受ける理由、聞いてもいいか?」


憂は自分から何かを話そうとしていたが、俺は持ち前の空気の読めなさを持って、

『今は聞かないで』とも取れる彼女の態度を粉々に砕いて直に尋ねた。


憂「言わなくちゃだめ?」

岡崎「…気になるんだよ。どうしても」


しょうがないだろ。

彼女の進路に興味を持たない彼氏なんて、この世にいるのかよ。

…ガキみたいに我侭な自分の考えにうんざりする。


憂「国公立なら学費も安く済むし、経済的だよね?」

岡崎「そりゃそうだろうけど。でも…」


…他にも理由、あるだろ。


岡崎「……」


そう目線で訴えかける。


憂「……」


憂は無言でもう言ったよ?

…と俺に目線を返す。


岡崎「……」


その視線にドキリとしながらも、俺は目で質問し続ける。


憂「……」


岡崎「……」


憂「…大学を決める基準が不純でも、受ける場所が国公立で、受かる見込みもあれば誰にも文句を言われないって思ったから……」


俺の強固な態度に折れたのか、憂は小さく語った。


岡崎「…不純なのか? 動機」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:23:11.28 ID:yDmEq53to<>
俺の知る憂って女の子は不純という言葉とは程遠い性格をしている。


憂「うん」

岡崎「気になる。教えてくれ」


そんな憂が抱く、不純な気持ちって一体なんだ?


憂「きっと、常識的に考えたら、とっても不誠実で…周りからもそんな理由で大学を選んじゃダメだって言われちゃいそうな……そんな動機なんだよ?」

岡崎「…だから、早くそれを教えろって」


回りくどい憂の台詞にもどかしさを感じて憂を急かす。


憂「…ね、朋也君」

岡崎「…ん?」

憂「もし私がそこの大学に受かったら…毎日朝ごはんを作ってあげるね」

岡崎「…ちょっと待て。なんか話が急に飛んだぞ」


何故大学の志望理由から憂が俺の朝ごはんを作ってくれるという話に続いたのか、理解出来なかった。


憂「…わからないかな?」


憂は少しだけ甘えながら、けれど、拗ねたような仕草で俺に理解しろとまたも目線で訴え掛ける。


岡崎「いや、だからなにが…」


憂「その……ね?」




憂「志望校…この町から電車で一時間もかからない場所なんだ」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:25:00.98 ID:yDmEq53to<>
岡崎「………」




絶句した。

よく考えてみれば…地方にだって国公立はある。

さわこ先生を恨んだ。

てっきり東京の大学かと思いこんでしまったじゃないか。

もっと詳しく教えてくれればよかったのに…。




憂「…卒業しても、毎日会えるね」


憂は歌うように、笑って話す。


岡崎「お前…っ」


俺の来年から始まる新しい生活は、今まで一緒にいたメンバーとも会えず、遊び歩くことも、ギターの練習をすることも出来ず、ただただ仕事に追われる毎日だとばかり思っていた。

そして、一生懸命働いて、あいつらが夏休みや冬休みに戻ってきたときに、今まで貯めたお金を使ってぱあっと遊ぶ。


…そんな未来予想図だったんだ。

憂とだって…数ヶ月に一度しか会えなくなることを覚悟していた。



岡崎「本気なのか?」


俺は下を向きながらそう返した。

憂は……国公立でも受かると思う。

だって、俺は知っている。

憂は本当にすごいやつだって。

憂なら、よっぽどレベルの高い大学でなければ、数ヶ月真面目に勉強すれば、楽に試験を突破してしまう姿が思い浮かぶんだ。


だから俺は『受かるのか?』

なんて聞かない。

だからこそ、さっきの憂の言葉は俺の未来予想図をビリビリに破いて俺に新しい未来を描かせた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:27:56.11 ID:yDmEq53to<>
憂「うん。…だから、後二ヶ月は本気で頑張らなくちゃだね。…映画を一緒に見るのも随分先になりそう」

岡崎「…そっか。…これから先はあんまり会えなくても我慢しなきゃってことか。…でも、卒業しても…会えるんだな」

憂「うん。えへへ……応援してくれる?」

岡崎「当たり前だろっ!」


…卒業しても、憂といられる。

嬉しくて、今すぐ飛び跳ねたい気分だった。


岡崎「俺、会いたくなっても我慢する。お前の受験終わるまでバイトして金を貯めとく。だから、憂も頑張れ」

憂「我慢しなくてもいいんだけどな。…会いたくなったら、会いに来てほしいから」

岡崎「…勉強の邪魔したら悪いからいい。…受験終わるまで会わないって言われても俺は平気だぞ」

憂「その…えっと、ね?…毎日は会えなくても出来れば一週間に一回は絶対に会いたいの。……私が」


恥ずかしい事を言ってる自覚があるのか右手と左手の人差し指をちょんちょんとつつきあわせながらおねだりをする子供のようにそんな願いを言って聞かせる憂。


岡崎「…なら、いっか」

憂「あ、でも…冬休みはもうちょっと会う頻度を増やしたいな」

岡崎「5日に一回とかか?」


年末年始は冬休みとはいえ冬期講習やその復習など憂も忙しいだろうし、それくらいが俺たちの妥協点だろう。


憂「……」



と、思ったんだが……。




憂「3日に1回じゃ…駄目?」


頬を赤く染めながらそんな事を言われたら、俺は頷くしかなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:38:28.00 ID:yDmEq53to<> _______

12月24日 金曜日


あれから一週間。

本日はクリスマスイブ。

23日が天皇誕生日ということもあって学校も今年は一足早く冬休みへと突入していた。


店員A「それではこちらでお間違いないでしょうか?」

岡崎「は、はいっ。平気です」


俺は隣町にあるショッピングセンターの中にあるジュエリーショップに足を運んでいた。


店員A「彼女さん、きっと喜びますよ?」

岡崎「は、はは…。だといいんすけど…」


…今から二日前。

俺は憂へのクリスマスプレゼントを見繕いにこのジュエリーショップに来た。

が、異性と付き合った経験もない俺にはどれくらいの値段の物が高校生の恋人へのプレゼントとして丁度いいのかわからなかった。

が、憂なら何をプレゼントしてもきっと喜んでくれると信じて自分の直感でこれだと思ったシルバーのリングを買った。


店員A「私が彼女さんなら感激して泣いちゃいますよっ。自信持ってください」

岡崎「ど、どうも…」


何故二日前に選んだリングを今買っているかといえば、文字を刻んでもらうのに時間がかかるからだった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:39:51.51 ID:yDmEq53to<>
店員A「それにしても…UIって珍しい名前の彼女さんですね」


そう。

リングに文字を刻むなんてサービスもこのご時世にはあって、店員さんにすすまれるまま憂の名前をアルファベットで刻んでもらったのだ。

文字刻みのオプション込みで指輪にかかった値段は俺のアルバイト一ヶ月分以上の給料を喰らい尽くした。

そんな、付き合いたての彼氏が彼女にプレゼントするには重すぎるかもしれない、少し痛いかもしれない。

けれど、俺にとっては痛い彼氏になったとしても渡したかった

本気の本気なプレゼントだ。


岡崎「喜んで…くれるよな?」


早く、これを渡して頬を赤く染めた憂の顔が見たかった。


店員A「あの、大丈夫ですか?」

岡崎「っ! ご、ごめんなさいっ!」


やばい。一人でニヤけちまってた。

俺、痛い男だな…。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:41:46.73 ID:yDmEq53to<>
………

……




12月24日。

クリスマスイブ。

去年までの俺にとっては道行くカップルや駅前のイルミネーションがウザイだけの日。

だが、今年に限っては心を躍らせる特別な一日だ。

なぜなら……俺には今彼女がいる。

生まれて初めて恋人と特別な一日を過ごせる…そう考えただけで、心は踊りだす。


岡崎「待ち合わせは14時。…後一時間以上時間があるな」


憂とはこのショッピングセンターではなく駅前にある少し大人びたレストランで待ち合わせをしている。

そんじょそこらのファミレスとは違い、店の雰囲気がよくて(雑誌にそう書いてあった)料理もそれなりに美味しい(らしい)、そのぶんコストは高い、高校生の俺からすれば精一杯背伸びしたランチだ。

アルバイトだけは普通の高校生よりもしているし、生活費…その大部分を占めるはずの食費も憂の弁当や彼女の家で食べる夕飯によってだいぶ浮いている。

その為に金だけはそれなりに余ってた。


岡崎「……」


なら、一年に一度、この日くらいは好きな女の子の為に人肌脱ごうと思ったんだ。


岡崎「待ち合わせまでは…適当にウインドウショッピングでもするか」


今日のデートだけは失敗したくない。

そうだ。適当に脳内シミュレートをしておこう。

ランチを済ませばまたこのショッピングセンターにくるし、見て回るルートを考えておくとか。

それと、その後に行く予定の映画館の場所の確認とか。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:45:20.27 ID:yDmEq53to<>

岡崎「……映画館、喜んでくれるといいんだけどな」


一週間前に『受験が終わったら映画を見に行こう』って約束した。

なんで受験が終わったらかとえば理由は単純明白で。

『今の時期に休日丸一日を彼氏とのデートに使うだなんて、周りの目が冷たくなるだろうから』

そんな理由だ。



だからこそ、俺と憂の約束は受験の後でと決めたのだが……。

だけど…このクリスマスイブという特別な日だけは一日中遊んでも許される気がした。

だから、映画を見に行くという約束を、二ヶ月以上のフライングで果たすことにした。


岡崎「…そうだ。チケット先に買っておくか」


クリスマスイブだから、映画館が特別に混むかもしれない。

念には念をいれて先にチケットを買っておいたほうがいいかもしれないな。

それに、早く買えばいい席を指定できるだろうし。



そうと決まればさっさと……




梓「朋也……?」



駅前の映画館まで行って……



岡崎「…梓?」



チケットを買おうって思ったのに……



梓「ともや……なんで一人でいるの?」



なんで、お前がここにいるんだよ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:46:51.17 ID:yDmEq53to<> _______


〜数日前〜


純「あ〜あ……。ついに私たち3人の中から彼氏持ちができちゃったか…」

憂「ご…ごめんね」

梓「憂が謝る必要はないじゃん。……謝罪が必要なのはそんな憂を私たちから攫っていった……」

岡崎「……俺を見るな」

梓「別にまだ何も言ってないけど?」

岡崎「…視線が俺に文句を言ってた」

梓「あ、朋也も空気読めるようになったんだね」

岡崎「……」

憂「あ、あはは…」

純「まあまあ喧嘩すんなあんたたち。それで、今年のクリスマスパーティどうしよっか。憂と岡崎、イブに出かける予定はある?」


憂「………」


憂がチラリとこちらの様子を見てきた。

多分、どうするの?

と、俺に聞いているんだろう。


岡崎「………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:48:42.60 ID:yDmEq53to<>

…俺は、どうするべきなんだろう。

皆と一緒に遊んだほうがいいんだろうか。



岡崎「…俺は」




「俺、楽しかったんだ。梓といて、憂といて、鈴木と、斎藤と、奥田と…春原と…」

「7人でいて、すごく……すっげえ、楽しかった。友達って…仲間って、こういうのなんだって思った」




皆といる時間を卒業まで続けるべきだと思う。



岡崎「俺達は……」





「それで、俺と憂は付き合うけど……出来れば皆と……梓とも、今まで通りでいたいんだ」




続けるべきだって思う……。




「私、まだ朋也君と映画館でデートしたことないもん…」





「朋也君は…一緒にどこか出かけたい…とか思わないの?」




「うん。…だから、後二ヶ月以上頑張らなくちゃだね。…映画を一緒に見るのも随分先になりそう」






岡崎「悪いな。イブとクリスマスは……二人で過ごすよ」



それが正解だって思ったくせに、それでも俺は憂との時間を選ぶ。


…クリスマスイブなら憂が受験生でも、心おきなく一緒に出かけられる。

その日くらいなら、世間も恋人同士の時間を一日中過ごすことを許してくれるって思ったからだ。



梓「うわぁ……」

純「言い切ったね。この色男は…」



二人がかわいそうなやつを見る目で俺を見つめる。

くそ。二人して俺だけ責めやがって…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:50:39.41 ID:yDmEq53to<>
憂「…朋也君、いいの?」

岡崎「イブの日にさ。約束よりだいぶ早いけど、映画見に行こうぜ」

憂「……う、うんっ!」


けど…、憂の幸せそうな胸一杯の笑顔が見られただけで、こんな責め苦にだってお釣りがくる。


純「それじゃ、憂と岡崎が抜けて今年のクリスマスパーティは……」

梓「私と純、菫と直、後さわこ先生は……多分来るよね」

純「場所はどうする?」



5人か。

…それくらいなら。


岡崎「お前ら、この鍵をつかえ」


鈴木に春原の部屋の鍵を渡した。


岡崎「隣の部屋のラグビー部の奴は毎年冬休みには帰省してる。多少なら騒いでも問題ないと思うぞ」

純「本当っ!?…それじゃ、今年のパーティはあの金髪の部屋に決定で」


ガラッ

菫「な、直っ! 今日は先輩達全員来てるっ!」

直「…嬉しいです」


純「あ、丁度いいところにきた。菫、直、クリスマスイブなんだけどね……」




岡崎「………」

梓「……なに?」

岡崎「………いや、別に?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:00:07.27 ID:yDmEq53to<> ______


そんなやり取りがつい先日にあった。

だから、こんな隣町で、俺と梓にとっては少しだけ苦い思い出があるこの場所で、こんな特別な日にばったりと会うだなんて思っていなかった。


岡崎「お前、今日はクリスマスパーティだったんじゃ…」

梓「それは17時から。…純、午前から午後にかけては予備校なんだって」

岡崎「へえ…大変そうだな」

梓「朋也は…なにしてるの?」


憂はいないの?

そう聞かれてる気もした。


岡崎「俺は…デートの仕込みっつーか…」

梓「あ、そ…そっか。そうだよね」

岡崎「あ、ああ…」


駄目だ。

やっぱり、どうにも上手く梓と話せない。


岡崎「…そっちはクリスマス会の買い出しか」

梓「う、うん…」

岡崎「………」

梓「………」


脳みそをフル回転させて話題を懸命に探して話しかけてもその努力も虚しく俺達はすぐに気まずい空気に戻ってしまう。

せめて、場所がここでなくて、日付が今日でなければもう少しマシだったと思うんだが…。


梓「そ、それじゃあ私いくね。…もう大体買ったから」

岡崎「あ、ああ……」


そんな空気を持て余したのか梓は俺に背を向けて店の外へと歩き始めた。


岡崎「………」


俺は黙って突っ立ったまま梓の背中を見送る。


岡崎「…くそ、振り向きもしないのかよ。あいつ」


自分から声はかけない癖に、こちらに未練を残さないあいつの姿には軽い苛立ちを覚えてしまう。

友達なんだ。

なのに、町でばったり会ったのに、こんなあっけなく別れていいのかよ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:05:36.61 ID:yDmEq53to<>

岡崎「……」


…一体、いつから俺はあいつとの間にこんなに壁を感じるようになったんだろう。


岡崎「……っ」



岡崎「待てよっ!送ってくっ!!」

梓「〜っ!?」


ひと目も気にせずに大声で叫んだ。


岡崎「駅まで送るっ。…憂とは一時間後に待ち合わせしてるんだ。だから時間つぶしに送らせてくれ」

梓「……」

岡崎「……」

梓「いいの?」

岡崎「いいんだよ」

梓「…それじゃぁ…お願いしよっかな」

岡崎「ん…」


………

……




二人でショッピングセンターの通路を歩き、外を目指した。


岡崎「あっ…」


途中で以前、梓と一緒に入ったメンズショップの店が目に入った。


梓「………」


梓も気づいたのか、店に目をやると、次は俺の方を……細かく言えば、首に巻いているそれを見つめてきた。


岡崎「なんだよ」

梓「ううん、なんでもない」


あの日買ってもらったマフラーを今でも俺はつけている。



………
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:06:35.86 ID:yDmEq53to<>

………


途中で以前、梓に手袋を買ってやったレディースの店が目に入った。


岡崎「………」


チラリと横を歩く梓の両手を見る。


梓「…なに?」

岡崎「別に…なにも」


あの日買ってやった手袋は、今も梓の両手にあった。


梓「………」

岡崎「………」






俺達は、店の外を目指して歩き続けた。

一心不乱に、言葉もなくただ歩いた。

……この場所は、俺と梓にとっては何故か、辛かった。



………

……





そして、どことなく気まずい、チクチクした空気のまま俺達はショッピングセンターの外に出ると……。




岡崎「ぁ……」

梓「朋也…?」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:07:50.22 ID:yDmEq53to<>





岡崎「雪だ…」







梓「……っ」



そういえば、天気予報では今年一番の寒気がくると言っていた。

だからか、ホワイトクリスマスの可能性に、朝からニュースキャスター達も少し浮かれ気味だった。


岡崎「ホワイト…クリスマスだな」

梓「うん…」


なのに…俺達は戸惑っていた。

空から舞い降りた雪を見て、はしゃぐことも、喜ぶことも出来ず、どのような感情を互いに出せばいいのかわからずにただ立ち尽くす。


岡崎「…本当に、降ってきやがった」

梓「そう…だね」


だって……違うから。

ホワイトクリスマスを喜んで、祝って、記憶のアルバムに幸せを刻みあう関係なんかじゃないんだ。



…俺と梓は。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:10:13.25 ID:yDmEq53to<>

岡崎「……」


なんで、もう少し待ってくれなかったんだ。

憂と会ってから、降って欲しかった。

そうすれば、俺は憂と一緒にこの初雪を心の底から喜び合うことができたんだ。


梓「……」


今年初めての雪。

世間的に一番歓迎される日に舞い降りた、望まれて生まれてきた白い妖精たち。


岡崎「周りの奴ら、皆嬉しそうだな。…こんなの、ただ寒いだけなのにな」

梓「…うん」


空を見上げてはしゃぐ学生たち。

喫茶店の中から外を眺めるカップルたち。

少し迷惑そうな顔をして町を急ぎ足で駆け抜けるコート姿の社会人。

嬉しい人も、楽しい人も、ただ迷惑なだけの人も…。

今日という日の意味を理解して、それぞれの日常に、ちょっと特別な何かを期待したり、楽しんだり、我慢したりしている。


岡崎「…寒いな。さっさと駅まで行こうぜ」


俺はそういって歩のスピードを速めて駅の方に歩き始める。

幸い傘をささなければいけない程の雪ではなかった。

けれど、そのうち雪は勢いを増して町を包み込んでしまうかもしれない。



梓「と、朋也っ!」


なのに、隣を歩く梓は歩を止めてしまった。


岡崎「なんだよ…。どうかしたか?」


梓「……そ、その……えっとね……」






梓「少し……歩かない?…雪、綺麗だし」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:13:28.58 ID:yDmEq53to<>
………

……




………

……





岡崎「はっ……はっ……」



身を震わせる寒空の下、駅まで続く街路を走る。



岡崎「…は…っ」



あの後…

梓と以前の誕生日の日のようにこの隣町を歩いた。

…始めはぎこちなかった。

けれど、そんなぎこちなさも10分もすると不思議なくらいに薄れていって、俺たちはあのライブの日の事を話の種にずっと話し続けて、歩き続けた。


岡崎「…はっ……はっ…ぁっ」


俺と梓の会話は……舞い落ちる雪をバックに、夕凪のように優しい時間だった。

その時間はまるで、ライブの後の音楽室の時のような……。


岡崎「……っ!」


だからこそ、中々言えなかった。


『そろそろ行かなきゃだ』


その一言が。


……憂との待ち合わせの時間が近づいても、本当の本当に、遅刻をしないですむギリギリの時間になるまで、言い出せなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:15:05.18 ID:yDmEq53to<>

憂「あ……」

岡崎「悪いっ……遅れた…」


待ち人の前まで全力疾走し、俺は息を切らせながら謝った。


憂「朋也君、20秒だけ遅刻」


そんな俺の様子を見てはにかみながら、ちょっとだけ怒ってみせる憂。


岡崎「それぐらい…はぁ…………許して……くれよ」

憂「1時間くらいならへっちゃらだもん。平気だよ?」

岡崎「……ったく」


憂は俺を気遣ってそんな言葉をいってくれてるのかもしれない。

それとも、こいつの事だから本心で一時間くらいの遅刻なら笑って許してくれるのかもしれない。

…どっちにしろ、本当によく出来た彼女だ。



憂「それにしても……朋也君、真っ白」

岡崎「まあな」


雪の中傘もささずに歩き回って、挙句に走ったせいで、俺のコートは雪まみれだった。

…これからレストランに入るってのに、なんてざまだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:15:56.49 ID:yDmEq53to<>
憂「わっ…。湯気出てる。…ちょっと屈んで?」

岡崎「あ、ああ」

憂「すごい…。頭にこんなに積もっちゃって…雪、結構降ってるんだね」

岡崎「かなり…。始めはそんな降ってなかったから油断しちまった」

憂「えへへ。今度は後ろむいて。わ、コートも真っ白だよっ!?」


憂の行為はちょっと世話焼きな普通の恋人のそれで、なんだか恥ずかしくなってくる。


岡崎「そろそろ行こうぜ。俺、腹減ったよ」

憂「あ、ごめんね。…待たせちゃったかな?」

岡崎「気にすんな。…お前、今まで勉強してたんだろ? あんまり俺に気をつかうなよ」

憂「う、うん…。ごめんね?」

岡崎「だから、謝るなって」

憂「…えへへ、ごめんね?」

岡崎「はぁ…」


俺達はもしかしたら、傍から見て痛いカップルってなのかもしれない。

でも、いいか。

今日はクリスマスイブなんだ。

そんな痛いカップルをやっていても、誰にも文句なんて言わせない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:18:07.06 ID:yDmEq53to<>
………

……




………

……




ランチを済ませて、二人でショッピングセンターを回った。

そして、映画館に入って約束通りにホラー映画を見た。

そんな、クリスマスイブらしい時間を俺達は過ごした。


憂「楽しかったね〜」

岡崎「ああ。…やっぱ、ホラーっていいな。刺激があるっつーか、なんつーか」


映画館を出ると俺達は町をぶらぶらと歩き、先ほど見た映画の内容を肴に話に花を咲かせた。


岡崎「…そろそろ帰るか」


12月の夕方にふく冷たい風は相変わらず体を芯から冷やし、俺たちに長く外にいることを許さない。


憂「うん…」


俺の言葉に頷きながらもどこか元気のない様子で憂は俯いた。


岡崎「…ん」

憂「あ……」


そんなしゅんとした態度をどうにかしたくて憂の右手を握った。


岡崎「…帰るからな」

憂「うん…」


今度は笑ってくれた。

それでも、憂はどこか寂しそうだった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:19:20.21 ID:yDmEq53to<>
………

……






あれから…

駅まで移動して、電車に乗って、電車から降りて……あっという間に俺たちの町まできてしまった。


岡崎「…20時か」


駅に取り付けられている時計を見ればもうそんな時間だ。

周りを見れば会社から家に向かって急ぎ足で帰るおじさん達の姿が印象的だった。

…クリスマスイブ、だもんな。

皆、家族サービスの為に一生懸命に仕事を早く終わらせて帰っているのだろう。


憂「少し、お腹減っちゃった」

岡崎「俺もだ」


そんな駅前の喧騒の中、俺と憂は手を握り合って、のんびりと歩いている。


もう、今日のノルマは達成した。

俺達は恋人らしく、楽しいクリスマスイブを堪能した。


岡崎「あのさ…」

憂「なに?」


……これから、あいつらと合流しないか?


そんな提案が頭に浮かんだ。


岡崎「……」

憂「朋也君?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:21:59.07 ID:yDmEq53to<>
今頃は、春原の部屋で俺と憂と、そしてその部屋の主以外のメンバーでクリスマスパーティーを楽しんでいるのだろう。

そこに今から混ざって、何か残っていればそこで夕飯も済ませて、春原には悪いがけいおん部の皆でクリスマスを送るのも悪くない。


岡崎「えっとな…」

憂「……?」


だけど、俺の頭の中にはもう一つの考えも浮かんでいて。

それは、今目の前にいる女の子と二人で夜を過ごす…。

そんなクリスマスイブだからこそ選べる、恋人同士の絆を一つ先へと自然と進められる選択肢。


岡崎「んっとな…」

憂「どうしたの?そんなにそわそわして」


岡崎「……」


けれど、そのどちらを取るのが正解なのか俺にはやっぱりよくわからなくて。


憂「…朋也君?」



岡崎「…帰るか。家まで送ってく」


だから、俺はそのどちらも取らずに逃げの選択をする。


憂「え?…まだ、20時だよ?」


憂は不満な態度を隠さずに、俺に遠まわしに


『もっと一緒にいようよ』


と言っている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:25:18.11 ID:yDmEq53to<>
岡崎「もう、20時なんだよ。…お前、勉強しなくちゃいけないだろ?」

憂「今日くらい平気だよ。…だから、もっと一緒にいたいよ」

岡崎「………」


憂の言葉が、優しさが、俺の胸にしみこんでいく。


岡崎「…憂」

憂「………」


ギュッと握られた手にさらに力が加えられた。

憂の手は温かかった。


憂「…朋也君は…一緒は嫌?」

岡崎「…そんな訳ないっ!」


憂「なら、せめて晩御飯くらいは一緒に食べようよっ。うん、決まりだね」

岡崎「……」

憂「昼間沢山贅沢しちゃったし、朋也君の家にお邪魔してもいいかな?…ご飯は私が作るから。あ、スーパーに寄っていかなきゃだね。21時にはしまっちゃうから急がなくちゃ…」

岡崎「いや、でも……」

憂「……駄目?」

岡崎「……その……な」

憂「?」

岡崎「今日……親父、家にいないんだ」


あの人がなんの仕事をしてるのかよくわからないけれど…

金曜日、というよりも、クリスマスイブからクリスマスにかけて、父さんは家に帰ってこない日が多い。

去年も、一昨年も、あの人は家をあけていた。


憂「そ、それって……!?」


憂は今まで見た事がないくらいに顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせて恥ずかしがっている。


岡崎「家にあげたら……俺、理性保つ自信がない」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:27:06.07 ID:yDmEq53to<>
憂「…ぁ、あぅ……」


憂は恥ずかしさのせいか、下を向いてしまった。



岡崎「…悪い、変なこと言って」


自分でも何を言ってるんだと反省する。


岡崎「そろそろ帰るぞ。…家まで送ってく」


とりあえず顔を上げて欲しくて、憂に近づき頭のてっぺんをぽんっと叩き、照れながらもそう言った。


憂「……」

憂「嫌だよ。帰らないもん」

岡崎「…え?」

憂「朋也君……クリスマスイブなんだよ?……それに…私は受験生なんだよ?」

岡崎「そんなのわかってる」

憂「…わかってないもん。ちっともわかってないよ」

岡崎「…あんまり困らせないでくれよ」

憂「…朋也君はいつも私を困らせるくせに」

岡崎「……」


…何も言い返せない。


憂「いつもいつも、色んな人を困らせてばかりなくせに」

岡崎「……お、おいっ」


基本的に俺を悪く言うことのない憂の言葉なだけに、かなり胸にグサリとくる。


憂「知らないっ!!」


憂はそっぽを向いて歩き出してしまった。


岡崎「ちょ、ちょっと待てってっ!」


憂はこちらを振り向きもせずにどんどん離れていく。

今までこんな態度をとられたことがなかったので慌てて追いかけた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:28:08.97 ID:yDmEq53to<>

岡崎「悪かった。だから、機嫌直してくれって……」


……そこで追いかけて、憂に近づいてしまったのがいけなかった。


憂「……」

岡崎「憂?」

憂「っ!」

岡崎「……っ!?」

憂「んっ……ん………」


それはあまりにも不意打ちな、無理やりなキスだった。


憂「……んっ……」


岡崎「………っ」



突然の行為に驚いて、すぐに身を引いて、口を離す。


岡崎「い、いきなりなにすんだっ!?」

憂「足りない……」

岡崎「…へ?」

憂「全然足りないよ…」

岡崎「お、お前っ……」

憂「……むぅ」


憂は俺を見上げると自分の唇をちょんちょんと指でつついてキスをねだってくる。


岡崎「……」


こいつは……どうしてこんなに可愛い仕草を平気で出来るんだ。

わかっててやってるのだろうか。

もしくは、女の子って生き物は自然と男を落とす仕草を身につけるものなのだろうか。


憂「えへへ……朋也君、照れてる」

岡崎「っ……!!」


俺をからかう憂の表情は……魅力的で蠱惑的で扇情的な、いつもの清純な少女が俺にだけ見せる、男をヤバクさせるものだった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:29:50.69 ID:yDmEq53to<>
岡崎「…っ」

憂「……ん………っ」


今度は俺からキスをする。


憂「んぅ……」

岡崎「………はっ…」


唇を一度離して互いに互いの顔を見合わせた。


憂「今日は帰りたくない…」


服の裾をそっと掴んで、切なそうな声で憂は言う。


岡崎「……いいのか?」


少女の口調に騙されて、なにも考えずに距離をつめたのがいけなかった。

だって…憂の瞳は…。


憂「…今日…純ちゃんの家に泊まってくって言ってあるから」



可愛いワガママを秘めたというには危険すぎる、男を深淵へと引きずり込む妖しさに満ちていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 23:34:36.74 ID:yDmEq53to<> 本日はここまで

年末はWA2の発売に忘年会にコミケとかコミケとかコミケとかで忙しくて死ぬかと思いました(粉みかん

1月には終わらせるつもりだったんですが二月までかかりそうです。

読んでくれてる方、いつもありがとうございます。

それでは良いお年を <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 23:36:37.30 ID:++kRhpMso<> 乙です!
良いお年を! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 23:42:24.74 ID:Bd7QYjbIO<> 乙

なんか三角関係が初期と違って笑えなくなってきたでござる

俺もコミケ行ってきたぞ!
企業のけいおんと中2病のセットだけ買って帰ったがなっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 00:24:20.54 ID:BwyzdBaa0<> くそっ!
朋也が羨まし過ぎる

僕も受験生だけどクリスマスだからといってイチャイチャしてるやつは須らく落ちればいいと思うんだ
なんだよクリスマスの日の授業
男も女も顔のいい奴(主に私立文系受験者)は全然来てなかったぞ!
俺なんて新年早々ss読んでんだぞ!!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 13:55:28.02 ID:u+gbtS790<> モチーフ元が分かってても読んでしまう……
続き楽しみにしてる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 06:03:16.10 ID:AcF1f+B1o<> けいおん本編に自分を投影できる男キャラがいないから他作品から引っ張ってきたのか。なるほどねそういうやり方があるのか

けいおん!という作品があれだけヒットしたのも「男」というツールを使わず、女の子自信が持つ純粋な『可愛さ』を表現したからなんだろう
あっぱれけいおん
さすがだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 08:50:11.16 ID:BRZjixvHo<> 気持ち悪い <> CLANNADけいおん! ファン<>CLANNADxK-ONGal-gacreator@hotmail.co.jp<>2013/01/06(日) 19:54:02.19 ID:HZT9vNyE0<> お疲れ様です。>>1さん。
やっと追いつきました…。
面白いSSを読ませて下さり本当にあいがとうございます!
マイペースで頑張ってください。
応援してます!


そういえば、WHITE ALBUM2憂ちゃんの声優さんだけじゃなく、純ちゃんの声優さんも出演してましたね。 <> sage<><>2013/01/10(木) 17:00:39.88 ID:x5fP6Kj40<> 今年はまだですかー、待ってます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/10(木) 22:02:15.05 ID:qA2Hl/gt0<> まだー?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 13:24:27.82 ID:xM4+Vnk/0<> やっと追いついた。続き待ってます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/14(月) 18:45:43.18 ID:G0lMig6Zo<> 報告。

>>1ですが、リアルが忙しく中々書く時間が取れない状態。

二週間以内には投下するつもりなので、お待ちお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/14(月) 19:14:42.45 ID:VB6WAYoao<> 乙 リアル優先は当然だから仕方ないね

期待して待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/14(月) 19:22:09.03 ID:PAYfoT+IO<> 乙。
この時期はここに限らず皆忙しそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/27(日) 15:59:33.55 ID:zxH/CoSjo<> >>1ですが、なんというか、あれですね。

書く暇がない。
完全に、ない。

転職活動に公務員試験の勉強、想像以上にきつい。

一度落として立て直すことも考えましたが続き待ってくれてる人もいるのでしばらくは生存報告だけさせてもらいます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 20:32:23.08 ID:1oXevrgyo<> お待ちしておりまする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/09(土) 00:38:32.50 ID:jeBaIXFv0<> なんとか頑張ってほしい。せめて区切り良いところまで。 <> CLANNADけいおん! ファン<>CLANNADxK-ONGal-gacreator@hotmail.co.jp<>2013/02/17(日) 18:59:10.88 ID:1wEA6f+X0<> あまり色々と溜め込まずに、無理はできるだけしないようにして下さいね。
こちらのSSを、ご覧になっていらっしゃる皆様は、
気長にお待ちになって下さってると存じますので、
このSSのことは、お気になさらず>>1さんが転職活動と勉強に専念して下さると、
SSをご覧になっていらっしゃる皆様は、大変嬉しいと存じます。
そして、私も大変嬉しいです。


>>701で、誤字がありました。
あいがとうございます! ではなく、ありがとうございます! です申し訳ございません。

長々と失礼致しました。
ご健闘をお祈り致します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/08(金) 02:38:35.62 ID:Hxqpc6JDO<> 1ヶ月過ぎてるが、もしかしてエタっちまったのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/03/08(金) 02:48:38.93 ID:OmEX780D0<> 続ききになるけ、頑張ってくれー
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/13(水) 23:20:55.71 ID:hSiSDf5O0<> 完結してれば名作だったのに…もったいないな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/20(水) 00:39:34.01 ID:ZzaNVe15o<> でもこれ最初VIPに投下してたんだよな…
どうするつもりだったんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/24(日) 22:27:11.49 ID:3O0Rdnc70<> 作者さん、そろそろ二ヶ月ですよ。
せめて生存報告だけでもお願いします。 <>