アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/16(金) 21:59:22.74 ID:beNkUNGA0<>注意事項

・このssはFate/stay nightとFate/Zeroのクロスオーバーです。

・第四次聖杯戦争にFate/stay nightの第五次聖杯戦争のサーヴァントが召喚されます。

・このssは救済物ssではありません。Zero以上に不幸になるキャラがいるかもしれません。

・ただしZeroで死亡したキャラが生存することもあるかもしれません。

動画版
http://www.nicovideo.jp/mylist/34267755

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1353070762
<>Fate/reverse alternative プロローグ<>saga<>2012/11/16(金) 22:00:56.18 ID:beNkUNGA0<> ――――十年後の戦いを聞く前に、知っておかなければならない物語がある。

――――ある一人の男の話だ。

――――誰よりも理想に燃え、理想に生き、理想に絶望した正義の味方に成りきれなかった男の話だ。

 彼は誰よりも公平であり平等であった。
 そしてある意味において、彼は多くの人間の命を救った英雄であり。
 同時にある意味において、彼は多くの人間の命を殺した悪魔だった。
 1を切り捨て100を救う。
 善悪の区別もなく。自分と親しいものが1に含まれていようと、彼は一切の後悔も逡巡もすることなく迅速に1を抹殺し、100の命を救った。
 それは恐らく彼自身が1に含まれていたとしても。そして彼の血を分けた肉親が含まれていようと変わることがなかっただろう。
 彼を知った魔術師は『魔術師殺し』と憎み恐れ、魔術協会は一方で彼のことを使い勝手の良い駒として扱った。
 他者から見れば彼はどんな風に映っただろうか?
 感情を欠片も見せず、ただ天秤の針が傾いた側を殺し尽くす彼のことを。
 金の為に人知を超えた魔道を使う裏切り者。人の感情をみせぬ殺戮機械。血を啜ることを生きがいとする怪物。
 可能性は無限にある。 <> プロローグ<>saga<>2012/11/16(金) 22:01:58.08 ID:beNkUNGA0<> ――――もうほんの一握りの者しか知らぬ事実であるが、

 彼は理想を抱いていた。
 1を切り捨て100を救うのではなく、全てを切り捨てることなく全てを救いたかった。
 だがそんな世界は有り得ないということは誰よりも彼自身が分かっていた。
 この世全てが平和で幸福に包まれていた時代など1秒として有りはしなかった。
 恒久的世界平和など奇跡でも起こらない限り有り得ないのだと。
 その事を知った時、彼の少年時代は終わりを告げたのだ。 <> プロローグ<>saga<>2012/11/16(金) 22:02:35.69 ID:beNkUNGA0<> ――――もしも『奇跡』があるのなら?

 正義の味方に成りきれなかった男、彼の名は衛宮切嗣。
 万能の釡たる聖杯を『奇跡』を求め、彼は冬木の街へと降り立った。

――――始めに言おう。

――――これは救いがたい物語だ。

――――そして。

――――人並みの幸福を捨て、理想を望んだ男

――――理想を捨て、人並みの幸福を望んだ男。

――――二人の運命の戦いであり、

――――"ゼロ"に至る物語だ。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:10:50.81 ID:beNkUNGA0<>  イギリス時計塔。魔術協会の総本山であり、魔術を学び『根源』を目指す者たちにとっての最高学府である。
 異端を狩る聖堂教会と勢力を二分する一大組織だ。
 そんな時計塔に所属する有象無象の魔術師の一人、ウェイバー・ベルベットは酷く苛立っていた。
 理由は色々あるが、一番の原因というのは彼の師であり教師でもあるケイネス・エルメロイ・アーチボルトのせいだ。
 魔術師というものは才能が物を言う世界である。
 無限の努力を積み重ねようと、魔術回路というものがなければ魔術師にはなれないし。逆に優れた才能を持つものなら、封印指定という名誉であるがその実とても有り難くないものを頂戴する羽目にもなる。
 そして基本的かつ絶対的に魔術師の『才能』は『血統』により練磨され熟成され錬成されるもの。
 長い歴史をもつ魔術師の名家とは優れた『魔術刻印』――――その家の魔術の成果の結晶であり外付けの魔術回路――――をもつ家であり、生まれながらにして魔術を使うのに適した体をもっているということだ。
 悲しいことであるが。
 ウェイバー・ベルベットには才能がなかった。悲しいまでに『血統』が足りず『血筋』が不足していた。……有体に言えば才能というものがなかった。
 前述したとおり魔術とは才能の世界である。ならば才能のない者が時計塔で『幸せ』にやっていくなら、才能のある魔術師におべっかを使い腰巾着になり、自分の血を存続させることにのみ情熱を費やし、魔術の大成については後々の後継者たちに任せる――――それくらいしかないのだ。
 これが嫌ならば時計塔を出るか、日陰者で終える覚悟をしなければならない。
 だがウェイバー・ベルベットはどちらも良しとはしなかった。
 才能だけではない筈だ。才能などこれからの努力や工夫、積み重ねで幾らでも覆せる。そう信じていた。
 そしてウェイバーは自身の主義、そして頭に刻んだ知識を総動員して作成した意欲的・挑戦的……そして革命的と自負する魔術理論書を、自身の師であるケイネス・エルメロイに見せたのだ。
 ロード・エルメロイ。最年少で講師となった若き天才でありこれからの時計塔を背負って立つ魔術師だ。
 この人物に認められればウェイバーの評価は一変し、時計塔の支配体制に一石を投じられる……はずだった。
 しかし現実はそう上手くはいかない。

「くそっ。馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって!」

 ウェイバーはここにいないケイネスに向けて、お返しとばかりに脳内でメッタメッタにする。
 直ぐにそんなことをしてもケイネスは痛くもかゆくもないことに思い至り止めたが。
 提出した魔術理論書に才能のみを是としてきたケイネスは自らを顧みウェイバーを称えるだろう……そうウェイバーは信じていたのだが、実際にケイネスがとったのは真逆の行動であった。
 ケイネスは自身の講義中にウェイバーの魔術書を馬鹿にし、そして破り捨てたのだ。更には他の生徒からの嘲笑や侮蔑。
  <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:12:14.79 ID:beNkUNGA0<> ―――――今に見てろ。絶対に見返してやる!

 若いウェイバーがそんな心境に至ったのはある意味当然の帰結であった。
 しかし問題はどのようにして見返すか、だ。また新しい魔術理論書を書いても馬鹿にされるであろうことは目に見ている。といって泣き寝入りはプライドが許さない。
 そこで耳にしたのが極東の島国・日本で開かれるという大儀礼、聖杯戦争にケイネス・エルメロイが参加するという噂であった。
 聖杯戦争。七人の魔術師が七人のサーヴァントを召喚して殺しあうバトルロワイヤル。唯一無二の勝者は万能の釡たる『聖杯』を手に入れ、あらゆる願いを叶えられるという。
 
「これしかない」

 これがその時のウェイバーの第一声だった。
 血筋や出身も関係ない。聖杯戦争はバトルロワイヤル、純然たる実力勝負の世界だ。
 ここで優勝すればウェイバー・ベルベットの実力を内外に示すことができる。
 そしてついでに聖杯も手に入ると。正に一石二鳥であった。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:14:48.42 ID:beNkUNGA0<>  だがいざ聖杯戦争に参加する決意を固めてみれば、次なる問題が浮上してくる。
 即ち聖遺物をどうするか、という。
 極東の島国で行われる戦いが何故この時計塔にまで届いてくるか。
 その理由はなにも『聖杯』があるからではない。そも聖杯を巡る争いなど他に幾つもある。聖杯を求めて争う戦いなら、それこそオークションだろうと聖杯戦争という名で呼ばれるのだから。
 冬木の聖杯戦争が特殊なのは召喚されるサーヴァントが唯の使い魔(サーヴァント)ではなく、人の身に余る偉業を成し遂げ座に招かれた英霊であるというところだ。
 英霊というのは文字通り、過去・現在・未来において人のみに余る偉業を成し遂げた英雄の霊のことである。
 東洋の現人神の例を見ても、人間を超える力や功績を為した者というのは『超越者』として信仰の対象となる。
 そういったものが信仰を生み、その信仰によって本来か弱い人間霊である筈の彼らを精霊という領域にまで押し上げた。
 ガイヤの守護者の対極に位置するアラヤ(人間)の守護者。
 英霊を英霊たらしめるものは信仰――人々の理想であり想念なので、その真偽は関係なく、確かな知名度と信仰心さえ集まっていれば物語の中の人物であろうがかまわない。
 例えるならスパイダーマンだって確かな知名度と信仰があれば英霊になれるのだ。
 彼等英霊は『世界』の外にある『英霊の座』にあり、輪廻・因果をこえ不変のものとなっている。
 冬木の聖杯戦争はそんな英霊たちをサーヴァントという殻に収め、使役し殺しあわせるのだ。
 幾らサーヴァントという殻にあろうと、英霊(サーヴァント)は一体一体が彼の死徒27祖にも匹敵しうる猛者たち。
 通常なら五人の魔法使いですら従えることなど不可能な英霊を使役するという出鱈目さ。それはそのまま聖杯の実在の証明にも繋がる。
 聖杯戦争の噂がこの時計塔まで響いてきたのはそんな事情があるのだ。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:18:16.78 ID:beNkUNGA0<>  さて。話を戻そう。
 サーヴァントを召喚するのならば、そのサーヴァントに縁のある聖遺物が必要だ。
 ローランならば聖剣デュランダル、始皇帝なら玉璽といった具合に。
 しかしウェイバーのベルベット家の財力は他の魔術師の名家とは比べ物にならないほど寒いもので、到底聖遺物なんてものを手に入れられそうにはない。
 というより時計塔に入学する為の学費だけで、ベルベット家の財なんて吹っ飛んでしまっている。
 最終手段で聖遺物なしで召喚に臨むという方法もあるのだが、

「それは止めた方が良いよな」

 というのがウェイバーの考えだった。
 聖遺物なしで召喚するということは、どんな英霊が出てくるか分からないということ。これで例えば征服王イスカンダルなどを引き当てられれば良いが、もしも戦闘能力皆無なサーヴァントを引き当ててしまったら目も当てられない。
 
「はぁ。我ながら情けないけど、ここになんらかの聖遺物があれば」

 そんなウェイバーがやって来たのは時計塔の倉庫だった。
 ウェイバー・ベルベットは金もなければコネはない。師であるケイネスはマクレミッツだとかいう家に聖遺物の手配をしたそうだが、同じ真似はウェイバーには出来ない。
 ならば恥を忍んで、使えるものを使うしかない。そこでやってきたのが時計塔の倉庫。
 もしかしたらこの倉庫ならば英霊の聖遺物の一つや二つが隠されている……かもしれない。確証はないが物は試しだ。ただ延々と時間を浪費するよりはマシである。
 しかし、

「ああもうっ! なんでこの倉庫はこんなに埃っぽいんだよ!」

 それもその筈。この倉庫一年近くも放置されていたのだ。これで埃っぽくなかったら、それは一種の奇跡である。
 苛立ったウェイバーは近場にあった棚を叩く。常であればなんら生産性のない八つ当たりという行為。だが今回に限っては幸運をウェイバーに運んできた。

「あいたっ!」

 棚の一番上に置いてあった木箱が落ちてきてウェイバーの脳天に直撃する。
 頭を抑え蹲りながら、なにがどうなったと落ちてきたものを見て。

「――――ッ! これって……」

 木箱には英語でΜέδουσαと書かれていた。即ち『メドゥーサ』。ゴルゴン三姉妹が末妹にしてギリシャ神話でも最も著名な怪物の名前だ。
 世界的にも蛇の頭を持った妖怪として有名であり、その知名度は下手な英雄を上回る。
 英霊というよりは反英雄に属する者であるが。

「この際、贅沢は言ってられない。マスターには令呪っていう三回の絶対命令権があるんだし……うん、大丈夫だ。ぜ、絶対大丈夫だうん!」

 自分に言い聞かせるように木箱を手に持つ。
 ウェイバーが日本に出立したのはそれから数時間後のことだった。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:20:21.09 ID:beNkUNGA0<>  そして月日は更に経過する。
 聖杯戦争、その大儀礼が開かれる冬木市。そんな冬木市の深山町の日本邸宅に銀髪に赤い瞳をもった大凡人間離れした容姿をもった淑女。アイリスフィール・フォン・アインツベルンはいた。
 彼女がこの冬木にきたのはつい先ほど。そして夫の協力者である久宇舞弥の案内でこの家に到着したのは丁度今だ。

「マダム、こちらへ。切嗣がお待ちです」
 
 舞弥は先導して邸宅の庭を歩く。

「ええ。分かったわ」

 舞弥に連れてこられたのは庭の中にポツンと建てられてある土蔵であった。
 なるほど、と思う。
 魔術というのは自然界にある魔力を逃がさないようにするため魔術工房は閉ざされた空間であることが望ましい。
 しかしこの日本邸宅は外界に対して開かれており、家としては兎も角として魔術工房としては不合格であった。
 だがこの土蔵はこの邸宅の中にあって閉ざされた場所であり、魔術を使うのにもそれなりに適している。
 舞弥に促されるままに土蔵の中に入った。すると、

「やあアイリ、早かったね」

 無機質で機械的な――――アインツベルンの城にいた頃とは180度真逆の夫の声を聞いた。
 アイリスフィールの夫でありアインツベルンの雇った切り札、衛宮切嗣は土蔵の地面に血と水銀で魔法陣を描いていた。
 始まりの御三家の一角、アインツベルンのホムンクルスであり聖杯の守り手でもあるアイリスフィールには一目でそれがなんであるか分かった。

「それがサーヴァントを召喚するための魔法陣? でも随分と簡単なのね。輪廻の外側にある座から英霊を招くほどの儀式なのに」

 アイリスフィールの疑問に切嗣は淀みなく答える。

「サーヴァントを招くのはあくまでも聖杯だからね。参加するマスターはそう複雑な儀式はいらないんだよ。ただ召喚されたサーヴァントを現世に繋ぎとめる楔としての役割をすればいい」
<> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:22:23.69 ID:beNkUNGA0<>  そうなのか、と頷くアイリスフィール。ついでとばかりにもう一つの疑問を尋ねてみることにした。

「郊外にあるアインツベルンの拠点はどうして利用しなかったの。あそこなら、ここよりも工房を作るのに適していたでしょうし大御爺様も許可は出されたはずよ」

 他の御三家と違い冬木市に拠点のなかったアインツベルンは聖杯戦争の参加者になるに当たって、郊外に城をそのまま持ってくるという快挙のような暴挙をやってのけた。
 1000年もの歴史を誇るアインツベルンの城というだけあり魔術工房としては正に一級品。外界からの侵入を許さない城塞である。
 そこに切嗣自身の技術も組み合わせれば、さぞ極悪な要塞となったであろう。しかし切嗣はその城を敢えて捨て、この有り触れた日本邸宅を拠点として選んだのだ。

「聖杯戦争が軍団を率いて戦うものなら僕もあの城を拠点としたよ。けどねアイリ、幾ら英霊をサーヴァントとして使役し殺しあうといっても聖杯戦争の本質はミニマムなゲリラ戦。難攻不落の城塞よりも、複数の発見不可能な拠点を構築した方が逆に安全性は高い」アインツベルンの城は頑強だけど、御三家のマスター達には場所が筒抜けだしね。結界やトラップだってマスターはまだしもサーヴァントには通用しない」勿論完全に放置したわけじゃない。念のためアハト翁から借りた戦闘用を何体か配置しておいたしトラップも万全だ。いざとなれば拠点を城に移すことも出来るし、運が良ければ僕達がそこにいると勘違いして侵入してきたマスターを葬れるかもしれない」

 これは楽観視だけどね、と感情をみせず微笑む切嗣を見てアイリスフィールは夫の戦略眼に舌を巻く。
 今まで切嗣がアインツベルンの雇った腕利きの魔術師殺しということは知っていても、実際に切嗣が戦うところは今日が初めてだ。
 アハト翁から外界の血をいれてまで衛宮切嗣という男を雇った理由が分かったような気がした。
 そう。戦いは既に始まっている。
 戦争とは戦端が開いた時に開幕するのではない。下準備の段階で、静かに闘争は始まっているのだ。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:24:15.93 ID:beNkUNGA0<>  カチッとなにかにスイッチが入った。

「舞弥……刻限だ」

 切嗣が合図をする。すると舞弥が黄金に輝く鞘をもってきた。
 清廉にして豪奢、豪奢にして静謐。
 どんな芸術品であろうとこの鞘を前にすれば霞んでしまうであろう究極の一。
 ブリテンに君臨した騎士王アーサー・ペンドラゴンの鞘。これが切嗣が聖杯戦争を勝ち抜くにあたって用意した聖遺物。
 最優のセイバーのクラスに騎士王を招き、それを魔術師の天敵である魔術師殺しが使役する。これこそアインツベルンの必勝の戦略であった。
 
「さあ。始めようか」

 魔法陣が輝き始める。その手に刻まれた令呪もまた、魔法陣に呼応するように光を放ち始める。
 そして、 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:25:36.12 ID:beNkUNGA0<>  同時刻。聖杯戦争の当事者であり参加者でもある御三家のうち一つ、遠坂家の五代目当主・遠坂時臣は苦い顔をしていた。
 周囲には監督役である言峰璃正、弟子の綺礼の姿もある。
 
「よもやことここに至り、かねてより発注していた英雄王を招く触媒が所在知れぬとはな」

 時臣の計画は完璧であった。彼の弟子であり聖堂教会からの協力者である言峰綺礼がアサシンを召喚し、自身が英雄の中の王者、英雄王ギルガメッシュを召喚する。
 アサシンが収集した情報をもとに、残ったサーヴァントを英雄王で駆逐させる。謂わば諜報用サーヴァントと決戦用サーヴァントの二段構え。
 それも決戦用のサーヴァントが全英霊の中でも最強であろう英雄王であれば、聖杯はもはや遠坂時臣の手の内にあるも同然であった。
 しかし土壇場にきて英雄王を呼ぶために触媒が届かなかった。
 日頃から『余裕をもって優雅たれ』という遠坂の家訓を実践している時臣も、この事態は流石に予想外で苦悩を抑えることが出来ないでいた。

「申し訳ありません導師。このようなことを予期していなかった私の不手際です」

 弟子であり協力者の綺礼が時臣に謝意を述べる。
 だが時臣や「いや」と言峰綺礼の責任は否定した。

「これは私自身の不手際だ。君が畏まる必要は微塵もない。それにもし君が召喚したアサシンのことを言っているのであれば――――あのアサシンはアサシンで別の使い道がある。気にしなくていい」

 土壇場でイレギュラーを起こしたのは時臣だけではなく綺礼も同様であった。
 アサシンのクラスはアサシンというクラス名の語源にもなった『山の翁』が呼ばれるのが常なのだが、言峰綺礼の召喚したのはハサン・サーバッハではなかった……というより英霊かどうかも怪しい亡霊であったのだ。
 しかしそのことは今はどうでもいい。
 確かにハサンでなかったのは残念だが、あのアサシンにはハサンにはない力がある。まだ誤差の範囲で納められるイレギュラーだ。
 けれど英雄王を召喚できない、というのは時臣の戦略の根底から揺るがす大事だ。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:26:30.81 ID:beNkUNGA0<> 「どうするのかね時臣くん」

 表向きは中立的立場の監督役。
 裏においては聖堂教会の意向と個人的友誼もあって時臣の協力者である璃正が聞いてくる。
 触媒が見つかるという一縷の望みにかけて、これまで待ってきたが……そろそろ限界も近い。
 このまま英霊召喚を送らせれば聖杯は時臣を見限り別の者にマスターたる資格を移すかもしれない。それだけは避けねばならなかった。

「今から他の英霊の聖遺物を探す時間はない。だが英雄王の触媒を待っている時間もない。私はこれを『試練』だと受け取った。聖杯がそう安々と我が手に委ねられるを良しとしないのであれば、この私自身の力で最高のカードを引き当ててみせよう」

 その言葉はつまり聖遺物なしでのサーヴァント召喚を試みるということ。
 聖遺物無しで英霊を召喚した場合、召喚者の性質や性格などが触媒となり召喚者に近しい英霊が召喚される。
 勿論どんなサーヴァントが召喚されるかは不明瞭であるし、最弱のカードを引き当てる可能性もある。

「宜しいので?」

 綺礼が表面上は恐る恐るといった様子で尋ねる。
 だが時臣は日頃の優雅さを完全に取戻し言い切った。

「元よりこの魔術刻印を先代より受け継いだ日より自らの死を観念してきた。どんなサーヴァントが召喚されるか分からない、その程度のリスクに脅えていては歴代の頭首や大師にも申し訳がたたない」

 時臣は覚悟を決め遠坂邸の地下にある魔術工房へと向かう。言峰綺礼と璃正もそれに続いた。
 ふと時臣が足を止める。
 どうせなら持っていこう、と思った時臣は遠坂家の家宝であるペンダントを手にとった。
 このペンダントは歴代の遠坂家当主たちが魔術を込めてきた至高の一品であり、時臣自身も暇さえあればこれに魔力を溜めている。
 英霊召喚には役に立たない品であるが験を担ぎにはなる。
 その行為が彼のみならず彼の娘の"運命"をも変えるとは想像もせず、時臣は地下へ降りて行った。
<> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:27:06.04 ID:beNkUNGA0<>  時臣が召喚に臨もうとしている折、間桐雁夜もまたサーヴァントを呼び出すため地下の蟲蔵へと向かっていた。
 雁夜は本来なら既に魔道から背を向け、家から出奔した身である。そんな雁夜が聖杯戦争に参加しているのは、遠坂桜――――否、間桐へ養子として間桐に送られた桜を遠坂に帰すためだった。
 間桐の魔術は常軌を逸している。男ならまだ良いが、女なら間桐臓硯という妖怪を生かす為だけの胎盤として扱われる。
 それに嫌気が刺して間桐を出たのだが、よもやその代わりに恋い焦がれていた遠坂葵の娘である桜が犠牲となるとは思いもしなかった。
 雁夜は桜を救うため――――もっと言うのであれば、遠坂葵への恋慕と恋敵である遠坂時臣への憎悪。その二つにより間桐へと舞い戻ったのだ。
 臓硯が桜を解放するための条件として提示したのは聖杯。聖杯戦争を制し聖杯を自身に捧げれば桜を遠坂へ帰す。そう確約したのだ。
 間桐臓硯が約束を守るような奴とは到底思っていない雁夜だが、一方で聖杯さえあれば臓硯が桜に執着する理由がないのも事実。
 雁夜はこの条件を飲み、この一年間。死よりも辛い苦痛に耐えてきた。
 僅か一年でマスターとしての資格を得られるかどうか。それまで生きていられるか……そらすらギャンブルだったが雁夜は賭けに勝った。
 そんな雁夜に臓硯は追い打ちをかける言葉を言い放った。

「雁夜。お主にはこれよりバーサーカーを召喚してもらう」

「なっ……んだって?」

 バーサーカー。聖杯戦争に招かれる七つのクラスのうち狂戦士に該当するクラスだ。
 もともとは弱いサーヴァントを『狂化』のクラス別技能によりステータスを強化させるためのクラスであるが、同時に魔力消費量が膨大となるというデメリットがある。
 過去の聖杯戦争において例外なくマスターの魔力切れで敗退しているという曰くつきである。
 そんなサーヴァントを、よりにもよって魔術師としてもマスターとしても余りに未熟過ぎる自分に召喚しろと命じた臓硯の意図が分からず雁夜は目を見開く。

「そう驚く事もなかろう。付け焼刃の魔術師であるお主がただサーヴァントを召喚してもステータスが落ちてしまおう。より必勝を期すのであれば落ちたステータスを別のもので補わねばなかろうて」

(妖怪めっ!)

 憎しみから歯軋りするが、臓硯は呵呵呵と笑うだけだ。
 血が滲むほど両手を握りしめるが臓硯の言には一理ある。それに元より雁夜には選択権などない。
 桜を救うその日まで。聖杯を掴むその日まで。どれだけ難かろうと間桐雁夜は間桐臓硯に従わなければならないのだ。
 それが聖杯を掴むことに繋がる。なにせ聖杯を求めるのは臓硯も同じなのだから。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:27:46.31 ID:beNkUNGA0<>  そして如何なる"運命"か。奇しくも四人のマスター達は同時刻に英霊召喚の儀を執り行う。
 形の異なる令呪を手に宿し、異なる夢を思い描き、異なるサーヴァントを手繰り寄せる。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ――」

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)」

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 魔法陣にエーテルが暴風となって吹き荒れる。人知を超えた幻想の塊が現世へと降臨する予兆でもあった。
 四人のマスター達は確かな手応えを感じ更に詠唱の言霊を紡ぐ。
<> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:28:24.06 ID:beNkUNGA0<> 「――――Anfang」

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、」

「「「「天秤の守り手よ―――!」」」」 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:33:05.28 ID:beNkUNGA0<>  そして、サーヴァントは地上に降臨する。
 聖杯戦争その第一夜が始まり、そして終わるのだ。
 衛宮切嗣の前には白銀の甲冑を纏った騎士王が、
 遠坂時臣の前には赤い外套の騎士が、
 ウェイバーの前には妖艶な美女が、
 三人の前に全く異なる三体のサーヴァントが召喚された。

「「「問おう」」」

「貴方が」

 セイバーはその翠の目で衛宮切嗣を見る。

「君が」

 アーチャーはその鷹の目で遠坂時臣を見やる。

「貴方が」

 ライダーは目隠しの下でウェイバーを観察する。

「私のマスターか」

 土蔵に似合わぬ澄み切った声が木霊する。
 十年後一人の少年と出会うであろう場所で、騎士王はその少年の養父と邂逅した。 <> 第1話 英霊召喚<>saga<>2012/11/16(金) 22:33:47.47 ID:beNkUNGA0<> ――――――その一方。


「■■■■■■!!」

「がっぁ……」

 間桐雁夜の目の前に現れたのは『最強』――――そう呼ぶに相応しい英霊であった。
 鉛のような肌。山のような巨体。なによりも身から発せられる闘気。英霊の中にあって最上位に位置する大英雄。それを召喚したのだという実感が雁夜にはあった。
 それは正しい。
 雁夜が召喚したサーヴァントこそギリシャ神話最大の英雄ヘラクレス。この日本においても知らぬ者はいないというほど著名な英傑である。
 だがそんな大英雄をよりにもよって最も魔力消費が激しいバーサーカーのクラスで召喚してしまったのだ。
 一流の魔術師でも手に余る大英雄を雁夜如きの魔力で維持できる道理はなく召喚したその瞬間に雁夜の魔力は枯渇した。

「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーっ!!」

 無念と憎悪と苦痛が入り混じった絶叫。
 薄れゆく意識の中、雁夜が見たのは消え去っていくバーサーカーの姿だった。


【バーサーカー 脱落】
【残りサーヴァント:6騎】 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/16(金) 22:38:27.74 ID:eUw27cqKo<> えっ
おじさん終わり? <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:39:09.34 ID:beNkUNGA0<>  セイバーの召喚から一時間後。切嗣は冬木市を練り歩いての情報収集から取り敢えずの拠点である衛宮邸へと帰還していた。
 切嗣が見た限り、やはり序盤はどのマスターも様子見に徹しているようで目立った動きは見られない。
 だがこの衛宮邸に使い魔による監視の目がなかったので切嗣の策略の一つは成功したとみるべきだろう。逆に既に所在が他多くのマスターに知られている遠坂・間桐の邸宅には複数の使い魔が監視をしていた。切嗣は仮の自室とした洋室で今夜収集した情報と事前に得た情報を見比べる。
 一年で急造したマスターを駆り出してきた間桐は兎も角、御三家の一角である遠坂はアインツベルンがそうだったように必勝の準備を整えて第四次に臨んでいるはずだ。
 最大限に注意を払うべきだろう。
 そんな時、部屋のドアが開きアイリスフィールが入ってくる。手には湯呑の載った盆をもっていた。

「そんなに根を詰めたら体に毒よ」

 アイリスフィールが湯呑を机に置く。どうやら自分の身を気遣ってお茶をもってきたのだろう。
 切嗣は「ありがとう」とお茶を飲もうとして、

「……これは、珈琲?」

 口を満たすこの苦みは明らかにお茶ではなく珈琲のもの。
 湯呑に茶碗。日本人であっても日本で生活した事は殆どない切嗣が偉そうなことを言えた義理ではないが、湯呑に珈琲というのはアリなのだろうか。
<> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:40:12.45 ID:beNkUNGA0<> 「もしかしていけなかったかしら。舞弥さんがこの国ではそういうグラスを使うんだって教えてくれたから」

「………………」

 アイリスフィールのことだ。本当に湯呑に珈琲を淹れることが変だと思っていないのだろう。
 彼女は聖杯の器としてこれまでの生涯をずっとアインツベルンの冬の城で過ごしてきた。切嗣が外の世界のことなどを教えたといっても、流石に湯呑とグラスの違いまでは教えていない。
 切嗣はそのことを教えようかと考えたが止める。
 湯呑だろうとグラスだろうと要は中に十分な量の水分が入ればいいのだ。そのような文化や伝統や作法はどうでもいい。
 そんな下らないことを追及してアイリスフィールの好意を無碍にするのも愚かなことだし、教えたところでアイリスフィールの寿命はあと一か月もないのだ。
 彼女は聖杯の器として造られたホムンクルス。この聖杯戦争が終わったその時、彼女は用済みとなって死ぬ。このことはアイリスフィール自身も納得している。納得して、この戦いに切嗣と共に臨んでいるのだ。
 
「いや、ありがとう。丁度体が水分の摂取を必要としていたところだ。珈琲に含まれるカフェインには眠気や疲労感を取り除き、思考力や集中力を増す効果があるからね」

「珈琲にそんなに効果があるだなんて知らなかったわ。切嗣は私の知らないことを沢山知ってるのね」

 申し訳程度にアイリスフィールに微笑み、再び視線を集めた情報を纏めた資料に移す。そこには各マスターの顔写真や経歴などがあり、随所に切嗣自身が追加した書き込みがあった。
 しかしここにある資料は切嗣を除き全部で五。聖杯戦争に参加するマスターは合計七人。未だここには一人分の名前がない。
  <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:40:40.51 ID:beNkUNGA0<> 「切嗣。この人は誰、アインツベルンの城で情報整理してた頃にはいなかった魔術師だけど。彼が五人目のマスターなの?」

 アイリスフィールが指さしたのは『ウェイバー・ベルベット』という青年……否、見た目と年齢からすれば『少年』とするに相応強い魔術師の資料だった。

「まだ確定情報じゃあないけどね。ただこいつが時計塔で英霊の聖遺物のようなものはないか、と時計塔の同期に聞きまわっていたという話は掴んだ」

「といってもこいつが自分の魔術の研究目的で英雄の聖遺物を探していたという可能性もあるけど、こいつがイギリスから日本便の飛行機に搭乗したという情報もある。まだ100%じゃないだけで十中八九こいつが五人目だろう」

「手ごわい相手なの?」

「いいや。データによれば魔術師としての技量は精々三流。本人もなにか武功をあげたという功績は皆無。もし前情報通りなら大した相手じゃないよ」

 しかし表向きの情報とは裏腹にウェイバー・ベルベットに秘められている実力がある、という可能性も有り得なくはない。
 なのでウェイバーの警戒度を遠坂などの下にはおきはしても、切嗣は全くこの三流魔術師に油断をしてはいなかった。
 魔術師を殺すのに一流の魔術師である必要はない。そのことは誰よりも衛宮切嗣が知っている。

(残りのマスターについては現状では後回しにする他ない。もしマスターになるのに相応しい奴が現れなければ聖杯が勝手に『聖杯戦争に参加する意思もないただマスターとしての素養があるだけの者』を選定するだろう)

 そしてそういった穴埋め用のマスターは過去の聖杯戦争の例を見ても最後まで生き残れた試はない。必ず序盤で敗退している。
 至極当然のことだ。穴埋め用のマスターとは言うなれば戦争に巻き込まれた民間人のようなもの。
 戦争という非日常の中にあって、日常に住まう一般人は悲しいまでに無力だ。 <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:41:07.24 ID:beNkUNGA0<> (それに……)

 切嗣にはもう一つ気になる情報があった。
 アイリスフィールに視線を向け口を開く。

「アイリ、僕がセイバーを召喚して直ぐに脱落したサーヴァントが君に取り込まれた。間違いないね?」

「ええ。私はまだ未完成だけど聖杯の器ですもの。なんのクラスのどのサーヴァントが取り込まれたかは分からないけどサーヴァントが一体脱落したのは確実よ」

「そうか」

 アイリスフィールは人間の形をした聖杯だ。だがその聖杯は器だけで中身がない。そしてサーヴァントとは聖杯の贄にして中身である。
 聖杯戦争とは万能の釡を巡って聖杯に相応しい一組を選定するための儀式……というのは表向きの理由で、その真の目的は英霊の魂というエネルギーを集めその魂を聖杯にくべることで聖杯を満たすことだ。
 アイリスフィールの用意してくれた湯呑に例えるのなら、アイリスフィールが湯呑で英霊の魂が珈琲のようなものである。
 そのためアイリスフィールはサーヴァントが死亡し脱落した時、その魂を自動的に自身の心臓(器)に取り込む。もっとも英雄の魂は高純度のエネルギーの塊。英霊の魂を取り込む度にアイリスフィールは人間としての機能を削ぎ落とし『聖杯』として機能していくことになる。つまりは人間として死んでいくと言う事だ。真綿で首を絞められるようにジワジワと。

「問題は誰の、どのサーヴァントが脱落したかだ。最も可能性として高いのは外来のマスターで魔術師としての技量も低いウェイバー・ベルベットだが」
 
 まだ情報が少なすぎる。推理はできるが証明することは不可能だ。
 切嗣は脱落者については一旦置いておくことにする。今気にするべきなのは残っているマスターとサーヴァントだ。脱落者に構っている時間などない。
<> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:42:02.89 ID:beNkUNGA0<> 「ところで切嗣……セイバーとは話さなくていいの」

「セイバー?」

「そうよ。だってあなた、セイバーを召喚してから一言も口を聞いていないじゃない。今後のためにもある程度はお互いで話した方がいいんじゃないかしら」

「必要ないよ」

 切嗣は無情にアイリスフィールの提案を斬って捨てた。

「ステータスは既にマスターとしての権限で見ているし、セイバーの宝具を含めた『性能』については舞弥とアイリ、君達から聞いている。今更そのことについてセイバーの口から説明を受ける必要性は皆無だ」

 セイバーのステータスに不満はない。
 基本ステータスは幸運を除いて全てがAランク相当。更には必殺の対城宝具まで持っている。これだけの性能があれば大抵のサーヴァントは一方的に駆逐できるだろう。

「それに僕は道具と話す趣味はない」

 サーヴァントとは戦うための道具だ。そこに人間と人間としての交流などいらないというのが切嗣の考え方だった。
 マスターは聖杯を得るためにサーヴァントを利用し、サーヴァントもまた聖杯を掴むためにマスターを利用する。
 相互利用。衛宮切嗣とセイバーの関係はそんな四字熟語がピタリと当て嵌まる。 <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:42:29.38 ID:beNkUNGA0<> (それよりも問題なのは……触媒として利用したアヴァロン。聖剣の鞘をどうするかだ)

 アーサー・ペンドラゴンを召喚するための聖遺物、アヴァロンは所有者に回復・老化の停滞の恩恵を与える最上位の概念武装。
 これをセイバーに返せば、元々強力なスペックを更に引き上げることも出来るだろう。そして所有者でなくともアイリスフィールに持たせればそれなりに寿命を伸ばすことにも繋がる。

(いや)

 二つの考えをどちらとも切嗣は却下した。
 アヴァロンなどなくともセイバーには強力な自己治癒能力が備わっている。最強のカードをこれ以上、強化しても大した変化はない。
 アイリスフィールに渡すというのは論外だ。重要なのはアイリスフィールではなくアイリスフィールの心臓――――聖杯の器。極端な話をすれば、アイリスフィールが死のうと心臓さえ無事ならばそれでいいのだ。そんなアイリスフィールにアヴァロンを渡す戦略的意味は殆どない。精々がサーヴァント脱落を察知するレーダーとして使えるということくらいか。
 それならばセイバーにもアイリスフィールにも渡さず衛宮切嗣が自分で使った方が効率が良い。
 死んでもいいアイリスフィールよりも。元から死ににくいセイバーよりも。聖杯を掴み恒久平和を為し得るまでは絶対に死んではいけない切嗣の生存可能性を底上げするのが最も賢い選択だ。

(我ながら……下衆な考えをしている)

 アイリスフィールがこんな自分の内面を知れば軽蔑するだろうか? それとも怒るだろうか?
 だがこれでいい。衛宮切嗣が聖杯を掴み恒久的世界平和を願えば60億の命が救われる。60億の命と妻一人の命。どちらに天秤が傾くかなど考えるまでもない。
 思考回路が冷え切っているのが分かる。アインツベルンの城で得た暖かい風はもう心に吹いていない。切嗣の凍りついてしまっている。固く固く、その鉄の心は聖杯を掴むまで壊れることはない。
 そんな切嗣の感情を察してか、アイリスフィールはそっと部屋から出て行った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2012/11/16(金) 22:42:35.48 ID:mjMftMlmo<> このセイバーは祖国の救済が願いのセイバーなのか?
それともやり直しの方のセイバーか? <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:43:12.48 ID:beNkUNGA0<>  切嗣の部屋から出たアイリスフィールは廊下を歩くと縁側にセイバーが立っている事に気付く。もしこれが普通のサーヴァントなら霊体化していて姿も見えなかっただろうが、セイバーはとある事情で霊体化が不可能なのでこうして見張りをしている間も確かにその存在感を示している。
 恐らくは敵の襲撃がないかどうか見張りをしているのだろう。サーヴァントは魔力供給さえ十分なら食事も睡眠も必要ないのでこういった見張りにはうってつけだ。
 切嗣なら「便利な道具だ」という感想しか抱かなかっただろう行為。
 しかしアイリスフィールはサーヴァントだからという理由で人間性を度外視し、ただの道具として扱うことを良しとするほど冷酷ではなかったのでセイバーに労いの言葉を言う。

「お疲れ様、セイバー」

「アイリスフィール。マスターの様子はどうでしたか?」

 機械的にセイバーが尋ねる。

「元気そうよ、体調の方はね。今は敵マスターの情報を整理してるわ」

「そうですか」

 セイバーは簡素に返事をすると再び黙り込む。

「私がこんな事を言うのも筋違いかもしれないけど……セイバーはいいの? 切嗣とは話さないで」

「構いません。マスターがなんの理由もなく行動しているのであれば私も否と言います。ですが舞弥より聞かされたマスターの戦略眼は確かなものだ。私も王としてそれなりの戦は経験してきましたが、この時代での戦いにはマスターに一日の長がある。マスターが私に話しかけないということは話しかける理由がないからでしょう。もし必要があればそうするはずです」

「……………」

 なんとなくアイリスフィールにはセイバーが言っていることが理解できた。 
 つまりセイバーと切嗣は同じなのだ。
 切嗣は本人の性質もあるだろうがセイバーと話す必要がないから話しかけようとはしない。セイバーもまた自分のマスターと話す必要がないから話そうとしない。
 そしてセイバーは衛宮切嗣の戦略を認めているからこそ、その指示に全面的に従うことを良しとしている。
 信頼し背中を預け合う相棒ではなく。一方がもう一方に忠義を捧げる主従でもなく。どこまでも冷淡で事務的に互いの仕事を完遂するだけのビジネスライクな関係。
 それが衛宮切嗣とセイバーのペアだった。
 自己の感情を排除し効率を優先する。生まれも身分も立場も戦い方もなにもかもが違うが何処となく二人は似ていた。
<> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:50:11.68 ID:beNkUNGA0<> 「そういえばまだ貴女が聖杯にかける望みを聞いてなかったわね」

 そんなセイバーが聖杯にどんな望みを抱いているのかが気になりアイリスフィールは尋ねてみた。
 
「私の願いですか?」

「ええ。貴女はどうしても聖杯が必要と言ってたけど……ちょっと気になったものですから」

 どこまでも自分の感情を排しているセイバーが第二の生や受肉という、自分の為の願いを持っているとは考えづらい。となるとセイバーはサーヴァントとなっても自分の為以外に叶えるに値する祈りがあるということなのだ。

「私の願い。それはもしかしたら貴女の夫、マスターにも似たものかもしれません」

 セイバーはただ何気なく口を開いただけのつもりだったろう。だが自然とアイリスフィールは緊張しセイバーの言葉を待った。まるで神託を受ける信者のように。
 庭に清廉な風が吹く。そしてセイバーは己が胸に抱く祈りを口にした。

「私の願い、それは――――――王の選定をやり直すことです」

 ポツリと家の屋根に水滴が落ちる。
 それを切欠に滝のような雨が降り注いだ。 <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:50:49.36 ID:beNkUNGA0<>  雨が降り注いでいた。大粒の雨が死に体の身を叩き、その心までも折ろうとする。 
 それでも間桐雁夜は走った。理由などない。行く宛などない。ただ意識を覚醒させ魔力切れにより自分が既に敗者となったことを知ると、なにかに背中に押されるように間桐邸を飛び出していた。
 桜から向けられるであろう失望の視線に怯えたのか。臓硯から向けられる嘲笑に怯えたのか。それは雁夜自身にも分からない。
 
「はぁ……はぁ……はぁ」

 しかし雁夜の体はこの一年間の無理な鍛錬によりボロボロだ。程なく息が切れ始め、足は走るのではなく歩くという動作をするようになる。
 走るのを止めると途端に頭に『自分は脱落した』という動かし難い現実が襲い掛かって来た。

「――――ぁ」

 そう。自分は負けたのだ。
 桜を葵のもとに帰すと誓っておきながら。一年間の地獄に耐えておきながら。
 なにを為すことも出来ずに自分は敗北したのだ。

――――――ふざけるなっ!

 こんなのでは終われない。まだ終わってなんてやれない。 
 だって自分はまだ何も出来ていない。桜を救う事も。時臣に復讐することも。
 死ぬのは覚悟していた。元から後一か月も生きられぬ身。死ぬことは恐くない。だがこのまま何も出来ずに無意味に死んでいくのだけは御免だ。
<> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:51:22.68 ID:beNkUNGA0<> 「――――――!」

 再び雁夜の両足が力強く動き出す。
 全身が軋む。臓硯の手により処置された蟲共が騒ぎ立てる。もしかしたら蟲共は雁夜が死んでしまうのを待っているのかもしれない。死んだ雁夜の肉を内側から喰らうために。
 しかしそんなことはさせてやらない。
 生き延びてやる。生きて生きて、戦って戦って聖杯を掴んでやる。
 理屈ではなく本能が雁夜を突き動かした。そして、

「――――――――」

 言葉を失った。
 降り注ぐ雨の中、血塗れで倒れている女がいる。左手には歪な形をした虹色の短剣。全身を覆う黒と紫色のローブ。僅かにローブから見える美しい顔立ち。
 一目で分かる。この浮世離れした姿形をした女が、こんなにも引き込まれてしまいそうな魔性の美を秘めた女が。この時代の人間である筈がない。
 サーヴァントだ。その黒いローブ姿から察するにセイバーなどの三騎士でもライダーやバーサーカーでもない。
 十中八九キャスターのサーヴァントだ。それも血濡れで倒れているところを見るとマスターを失ったはぐれサーヴァント。
 きぃと雁夜の手に刻まれた令呪が発光する。
 マスターとサーヴァントは一蓮托生だ。マスターだけでも勝ち抜くことは出来ないし、サーヴァントだけでも生き残れない。
 であればサーヴァントを失ったマスターと、マスターを失ったサーヴァントがすべきことは一つ。

「お前は……はぐれサーヴァントか」

 意識があるかも分からないサーヴァントに雁夜は問い掛ける。 
 するとサーヴァントは力なく弱々しいながらも返答を返してきた。

「ふ、あははは……つくづく運が無いわね。その令呪……まさか契約を切って最初に出会った人間がまさか他のマスターだなんてね……。最弱の身じゃ他のサーヴァントと真っ向勝負なんてできるはずがない。もっとも私に抵抗する力なんて……残ってないけれど」

「契約を切った?」

 口振りからするとこのサーヴァントがはぐれサーヴァント……それもキャスターなのは間違いないだろう。しかし敵に襲われマスターを失ったという風にも見えない。
 マスター殺し。
 クラスという枠に収められているとはいえサーヴァントはマスターよりも遥かに強大な存在だ。人間というのは自分よりも劣る人間の下につくことに少なからず不快感を抱く生き物だ。それは英霊とて例外ではない。事実最初の第一次聖杯戦争は令呪という機能そのものがなかった為、マスターはサーヴァントを御することが出来ず聖杯戦争そのものが有耶無耶になってしまったという。
 如何に三度の絶対命令権があるといってもマスターが愚鈍かサーヴァントが狡猾ならば、令呪の存在をどうにかしてマスターを排除することはできる。それが搦め手に長けたキャスターならば猶更だ。

「そうよ。……本当に、どうして聖杯戦争に参加しているのか分からない男だったわ。……人を殺す事を生きがいにしていて、人の体を使った趣味の悪い工芸品を作るのに熱を入れる……そんな腐った男。だから殺してあげたわ。どうやらただ魔術回路があるというだけの聖杯戦争も知らない一般人のようだったから、隙を見てこの短剣を突き刺すのは簡単だったわ」

 雁夜は躊躇する。このサーヴァントが自分のマスターを殺めているのは確実だ。
 こんなサーヴァントを自分のような男が扱えるのか。 <> 第2話 雨夜の邂逅<>saga<>2012/11/16(金) 22:52:05.26 ID:beNkUNGA0<> (いや)

 何を恐れている間桐雁夜。
 聖杯戦争を勝ち抜くにはサーヴァントが必須。自分の前にこんなにも都合よくはぐれサーヴァントが現れるなど二度とはない。
 このまま黙して通り過ぎても未来はない。ならばここは命を懸けてでもこのサーヴァントと契約するべきだ。

「おいキャスター、お前は俺を敵のマスターだって思ってるようだけどそうじゃない。俺はお前と同じだよ、自分のサーヴァントをなくした負け犬さ」

「……まさか、あなたは本気なのかしら。私はマスターを殺したのよ。そのサーヴァントと召喚するだなんて」

「本気だ。俺はなんとしても聖杯を手に入れなくっちゃいけない理由がある。その為なら魔女とだって契約してやるさ」

「…………………」

 キャスターは暫し黙り込む。だがキャスターはコクリと首を縦に動かした。
 見れば彼女の体が徐々に透けてきていた。マスターを失い現代に残るための楔を失ったサーヴァントは例え魔力があろうとこの世に留まることが困難になる。
 彼女も限界に近いのだろう。後少したてばキャスターのサーヴァントは幻のようにこの世から消失してしまうだろう。
 だからこそ彼女が生き延びるには間桐雁夜の手をとるしかないのだ。

「いいわ。けれど一つだけ条件があります」

「なんだ」

「二度と私を『魔女』と呼ばないこと。それを守るのであればこの杖を貴方の従者として捧げましょう」

「分かった。その条件を呑もう」

 即座に頷き、雁夜は願う様に再契約の呪文を唱え始める。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば―――――」

「誓いましょう。捧げられた魔力を対価とし、貴方が信用するだけ私も貴方を信用をしましょうマスター」

 こうして誰に知られることもなく、此処に第八の契約が成る。
 間桐雁夜は漸く自身に相応強いサーヴァントを得、キャスターは漸く自身に相応強いマスターを得たのだ。
 チェス盤に全ての駒は並び立った。
<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/16(金) 22:53:47.84 ID:beNkUNGA0<>  今日はここまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/11/16(金) 23:03:15.36 ID:Dy/kSjoc0<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/16(金) 23:31:23.01 ID:JQl1UrUI0<> 乙!
動画の方も楽しみにしてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/17(土) 00:24:31.16 ID:ZKN0rDQb0<> 動画の方は何日おきに最新するんですか、3日に一回位ですか? <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/17(土) 16:47:44.35 ID:VBKGvC6W0<> >>35
大体そんな更新間隔です。
それじゃ再開します。 <> 第3話 女の記憶<>saga<>2012/11/17(土) 16:50:10.28 ID:VBKGvC6W0<>  数年前の話だ。父の紹介で時臣と出会うよりも更に前のこと。

――――生まれながらにして異端者である。

 その真実を受け入れてから、男はあらゆる努力を重ねてきた。
 父と共に聖地を巡礼して回り、時に主のためにと神の代行として異端者を狩る組織にも身を置いた。善行といえるものも数えきれないほど積んできたし、悪行といえるものは努めて行わないように律してきた。
 しかしそんな『答え』を見出すために費やしてきた青年期の努力は全て無為に終わる。
 どれだけの日々を費やしても、どれだけ人々が幸福と思う事柄に触れても。
 男の本質は何一つとして変わる事はなかったのだ。
 誰かの笑顔を見るたびに、その顔を絶望に染め上げたいと願い。
 清らかな聖地を訪れるたびに、その場所を地獄に変えたいと祈り。
 男はただ自分の異常性だけをありありと突きつけられた。
 なんのことはない。
 男にとっては人々が美しいと感じるものを醜いと感じ、醜いと感じるものを美しいと感じる。
 人々が誰かの幸福に至福を感じるなら、男は誰かの不幸にこそ至福を感じた。
 それだけのことだ。 <> 第3話 女の記憶<>saga<>2012/11/17(土) 16:51:08.87 ID:VBKGvC6W0<>  もしも狂えてしまえたら、どんなにも良かっただろう。
 もしも怒れてしまえたら、どんなにも良かっただろう。
 もしも堕ちてしまえたら、どんなにも良かっただろう。
 生まれながらにして人とは真逆の道徳と哲学をもった男は、一方で誰よりも常識というものを弁えていた。
 常識を識るが故に生まれながらの悪に染まることを良しとはせず。
 道徳を識らないが故に、何一つとして至福を得ることが叶わなかった。
 男は最後の希望のに一人の女を愛した。
 特に大それた理由があった訳ではない。
 ただ人間ならば誰しも、一度は妻を愛し子を愛し家庭を成して平穏な家庭をつくることに焦がれるものだ。
 もしかしたらそんな誰しもが焦がれることならば自分を満たしてくれるのではないか。そんな一縷の希望にかけてみたのだ。
 女は病魔に侵され、もう何年も生きられない身の上だった。
 だからこそ選んだのか、女だからこそ選んだのか。
 もはや女の顔や声すら思い出せぬ男にとって、それはもはや迷宮入りとなった解だ。
 結婚生活は二年ほど続いた。
 女は男を愛したし、男も懸命に女のことを愛そうとした。二年の生活の中で子も生まれた。
 だが男は変わる事が無かった。
 女を愛そうとすればするほどに、女の苦痛こそが男の救済となっているのだから。
 男に言わせれば女は聖女だった。
 この世界の誰よりも男の内にある激情と憤怒を理解し、それを癒そうとしていた。父などよりも遥かに女は男のことを識っていた。
 それ故に男の絶望は深かった。
 これより先、女以上に自分を理解する者は現れないだろう。
 もはやこれ以上、生き続け答えを問う必要もない。男が生まれたこと、そのことがもはや何かの間違いだったのだ。
 間違って生まれ出た生ならば、そんな生はもはや消してしまおう。
 自分の命を終わらせる前、最後に別れを告げようと男は女の元を訪れた。自らの欠落を埋めるために妻としたのならば、その試みが終わったことを告げるのは当然の責務だった。
 女は男を愛した。男も女を愛そうとした。だが男には女を愛せなかった。
 言うなればそれだけの話である。 <> 第3話 女の記憶<>saga<>2012/11/17(土) 16:51:42.89 ID:VBKGvC6W0<>  石造りの部屋を訪れた男は短く、別れの言葉を告げた。

「私にはお前を愛せなかった」

 男の言葉を受けても女は微笑んだ。
 そして死病に侵され骨と皮だけとなった体を起こし。

「―――いいえ。貴方はわたしを愛しています」 

 そうして自らの命を断った。
 男には止めることが出来なかった。止めようとする感情すら浮かばなかった。
 
「ほら。貴方、泣いているもの」

 血濡れの体で女はそう遺した。
 無論。泣いてなどいない。女にはそう見えただけのことだ。
 だが女は自らの死をもって、男は誰かの為に涙を流す――――人を愛せる人で、生きている価値があるのだと。そのことを命を懸けて証明したのだ。
 なるほど。たしかに男は女の死に悲しみはした。だがそれは女の死に対してではない。

「なんということだ。どうせ死ぬなら、私が手を下したかった」

 男にあったのは女の死を愉しめなかったという後悔のみ。女の死に嘆いたのではない。そのことを自認した男は踵を返し主の教えと決別した。
 しかし男はもう命と断とうとはしなかった。
 女は自分のために命を賭けた。命を賭して男に生きる価値があると証明しようとした。
 ならばその女の死を無価値なものとはしたくはなかった。
 "無意味"なものは本当に"無価値"なのか。"無価値"なものは本当に"無意味"なのか。価値がないものに価値はあるのか。
 男には答えを出す事ができない。これまでの人生を費やしても、あの女をもってしても答えは出なかったのだ。
 自分で答えを出せないのならば、答えを出す者に聞くしかない。
 もし男に祈りがあるとすれば、それは唯一つ。 <> 第3話 女の記憶<>saga<>2012/11/17(土) 16:52:19.08 ID:VBKGvC6W0<>  目蓋を開く。どうやら眠ってしまっていたようだ。時計の針がチクタクと進みゆく時の流れを示している。
 男のいる場所は冬木市内にある安ホテルだった。
 流石に表向きは聖杯を巡り師と決別したと言う事になっている以上、堂々と師の家に住まうわけにはいかない。聖杯戦争の参加者である以上、監督役である父のもとにいるということも同様だ。

「クッ―――――漸くお目覚めか綺礼、なにやら雅な夢に微睡んでいたようだが」

 すぅと部屋の一か所に人影が浮かび上がってくる。
 時代錯誤なほどに雅な群生色の陣羽織。風情ある男だった。佇まいは柳のようで掴みどころがない。腰まで届く長髪を結い、背中からは五尺余りの長刀――――物干し竿を背負っている。
 そして何が面白いのか口元は愉快気に綻んでいた。この侍こそ言峰綺礼が召喚したアサシンのサーヴァントである。本来は暗殺者のクラス適正などないこの男がどうしてアサシンとして召喚されたのかは不明だ。
 師であり自身より遥かに優れた魔術師である時臣でも分からなかったのだ。元々魔術には門外漢であった言峰に分かる筈もない。

「アサシンか。貴様には冬木市内での諜報を命じたはずだが」

 言峰はアサシンに問う。
 アサシンは自身の主の追及をサラリと受けると、

「いやいや。私は他のサーヴァントと違い合戦などした経験はないのでな。ましてや諜報活動などという真似は。故にどうにもコツが掴めないでいる」

 くつくつとアサシンは笑う。
 
「なにもお前に影に隠れ敵マスターとサーヴァントの所在を掴めなどとは言っていない。諜報でも暗殺ではなく『剣技』に優れたお前がすべきことは実際に敵サーヴァントと交戦しその情報を引き出すこと。そう申し付けたはずだが?」

「私もやってはいるとも。既に三度、市内を散策し殺気……というものを放ってみたのだがな。他のサーヴァントというのは慎重なのか、それとも臆病風に吹かれたのか。私の前に姿を現すことはなかった」

「これでも残念には思っている。聖杯などという得体の知れぬ魔性の釡には興味はないが……英雄とまで呼ばれた者の武技がどのようなものなのか。この私の業が果たして英雄に通じるのか。それには興味がある。特に剣を司るセイバーのサーヴァントとはどんな成りをして、どのような剣を使うのか。考えているだけで時の進みを忘れてしまう。私も修行が足りない」

「…………」

 アサシンの様子からして、わざと手を抜いていたということは考えにくい。昨日の段階で既に七騎のサーヴァントが揃っていると父から報告されているので、そもそも挑発を受けたサーヴァントがいなかったという線もないだろう。
 つまりどのマスターも序盤は様子見でアサシンの挑発にはのらなかった。そういうことだ。
 それを賢いととるか臆病ととるかは人其々だが、言峰はこれを賢いと受け取った。 

「話は分かった。だがアサシン、お前とて冬木中を隈なく回ったというわけではないだろう。今一度挑発行為を行い、それでも誰一人としてサーヴァントが出現しなければ致し方ない。今日は諦め帰還しろ」

「承った。願わくばセイバーのサーヴァントと見えることを……いや、これは期待し過ぎというものか」

 そう言いアサシンは消えていった。代行者である言峰は霊体化していようとある程度はサーヴァントの存在くらいは掴めるのだが、このアサシンは消えたと同時に本当に存在感をも消してしまった。
 如何に素養が限りなく低いとはいえ、アサシンのクラス別技能である『気配遮断』は少なからず効果を発しているようだ。
 言峰はアサシンが向かったであろう街並みを見て、

「衛宮、切嗣……」

 自分と同じように聖杯戦争に参加しているマスターの名を呟いた。
 衛宮切嗣。言峰はその男の経歴に自分に近いものを見出した。
 師である時臣はただ金目当てに魔道を使う許し難い男、と言っていたがそんな筈はない。本当に衛宮切嗣が金を目当てに行動をしているのならリスクとメリットが釣り合わない。
 まるで自らの空虚さを埋めようとするかのような行動の連続。それは正に青年期の言峰綺礼そのものだった。
 そんな切嗣はアインツベルンに招かれると唐突に"魔術師殺し"としての活動を止め聖杯戦争に参加した。

(衛宮切嗣にはアインツベルンでなにかを得たのだ。自らの空虚を満たすなにかを……!)

 だからこそ聖杯戦争に参加している。
 だからこそ言峰綺礼は衛宮切嗣に問わねばならない。
 言峰綺礼には『答え』を出すことができない。ならば『答え』を知る者に問いただすしかない。
 自身の空虚を満たしたものの正体を。 <> 第3話 女の記憶<>saga<>2012/11/17(土) 16:52:55.51 ID:VBKGvC6W0<>  冬木市内を飛び回る青い影が一つ。
 猛禽類のような赤い瞳、荒々しさをもつものの整った顔立ち、全身を覆う青い軽鎧、なによりも右手に携えた真紅の槍。
 彼こそがこの聖杯戦争にランサーのクラスで召喚されたサーヴァントであった。
 ランサーはマスターの命令でこの冬木市内の地形や地の利、マスターやサーヴァントの所在などを調べていたのだが。

「―――――――っ! こりゃ誘ってやがるな」

 刺すような殺気を感じランサーは疾走を止めビルの一つに降り立った。
 ランサーには分かる。この気配は紛れもなくサーヴァントのもの。そのサーヴァントの顔もクラスも知らないがランサーにはそのサーヴァントの言わんとしている事が理解できた。

"私はここにいる。誰か私の首級を獲りにくる者はいないのか?"

「面白ぇじゃねえか」

 つまらない情報収集だけのつもりが予期せぬサプライズを送ってきた。
 ランサーはこの聖杯戦争にただ死力を尽くした戦いを望んで参加している。であればこのサーヴァントの挑発は寧ろ望むところだ。
 問題はマスターの意向なのだが、

「おいケイネス、どうも敵さんは俺を誘ってるみてえなんだが……どうする。このまま尻尾振って逃げるか? 今ならあちらさんも俺の居場所を掴んでねえから逃げるのは楽だぜ」

 敢えてマスターを小馬鹿にするような言い方をする。
 敵サーヴァントが戦うためにランサーを挑発するのなら、ランサーは戦うためにマスターを挑発したのだ。お前は敵の挑発に怯えて戦いを回避する臆病者なのか、と。
 すると案の定、苛立ちを交えたマスターの声がラインを通じて聞こえてきた。

『良かろう。このケイネス・エルメロイのサーヴァントに対しての挑発はこの私に対しての挑発と同義。不届き者を速やかに排除せよ』

「了解、その言葉が欲しかった」

 マスターからの許しが出るとランサーは殺気を感じた方向へと真っ直ぐに疾走する。
 やって来たのは『学校』というこの時代の学び舎だ。
 ランサーは遥かな過去の人間であるが、聖杯から与えられた知識により現代の情報を得ていたので難なくわかった。
 校門には穂群原学園と記されている。この学校の名前だろう。
 その校庭の中心。待ちわびていたとばかりに一人のサムライが立っていた。

「おう色男、テメエが挑発の主ってことでいいんだよな?」

 そのサーヴァントはなにが可笑しいのか、それとも嬉しいのか苦笑すると。

「アサシンのサーヴァント。佐々木小次郎」

 そう名乗った。敵サーヴァントであるランサーの目の前で。
 監視の目であろう鳥などの使い魔たちの監視の前で。
 サーヴァント、アサシンはするりと得物である物干し竿を抜いた。 <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:54:21.05 ID:VBKGvC6W0<> 「アサシンのサーヴァント。佐々木小次郎」

 邂逅して早々に真名を名乗ったサーヴァント――――アサシンにさしものランサーも驚き目を見開いた。
 サーヴァントにとって真名とは最も隠蔽すべきものである。
 何故ならば信仰により英霊となったサーヴァントはその偉業と功績だけではなく『弱点』をも自らの伝説に刻んでしまっているからだ。仮にもしも真名がジークフリートということが敵に知られたとしよう。するとその真名から宝具が世界最強の魔剣であることや無敵の肉体のこと、そして背中が弱点であることまでが暴かれてしまうのだ。
 そのため聖杯戦争ではサーヴァントはクラス名で真名を隠蔽する。宝具という必殺の一撃で相手の命を刈り取るまで絶対に真名を明かさないのだ。味方である己がマスター以外には。
 だがその鉄則をアサシンは事もなげに破って見せた。
 まさかこちらを欺くための嘘だろうか。ランサーは訝しむ。

(佐々木小次郎……源流島で宮本武蔵に敗れた剣士だったか)

 ランサーは佐々木小次郎の生きた時代よりも遥か前の英霊であるが、彼等英霊は通常の時間軸を超えた英霊の座にいるもの。故に自分よりも後に生まれた英霊の名も知っている。そのため佐々木小次郎という侍の名前にも心当たりがあった。
  <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:54:55.92 ID:VBKGvC6W0<> 「その長柄の獲物からして、貴様はランサーのサーヴァントのようだな」

 物干し竿をぶらりと構えたままアサシンが問う。

「本命は私と同じ剣使い、セイバーの英霊であったのだが……槍と刀、兵法の理に背き斃してみるのも一興、か」
 
 夜空より降り注ぐ月光を浴びながらアサシンが笑う。
 掴み所がない男だ。殺気を送ってみても狼狽える様子もないし、アサシンから放たれるそれは殺気というよりも単に今の戦いを楽しもうとする涼しい喜びだけだ。
 喜び勇んで挑発にのったは良いが、どうにもこのアサシンは苦手だ。
 それでもランサーとて最速を冠したサーヴァント。得体の知れない暗殺者のサーヴァントに微塵も恐怖することなく。

「暗殺者が槍兵に真っ向勝負を挑むたぁな。正気かテメエ」

 暗殺者の名の通りアサシンのクラスは隠密行動とマスター殺しに特化している。だがこのアサシンはあろうことか全サーヴァントの中でセイバーと並び最も白兵戦等が長けたランサーに真っ向勝負を挑んできているときた。
 これではアサシンなのだかセイバーなのか分かったものではない。

「コレは異なことを。暗殺者とて必要があれば弓もとろう刀もとろう。否、そもそもこの私は生まれてこのかた暗殺などしたこともない」

「…………なんだって? 暗殺者のサーヴァントが暗殺してねえなんざ意味が分からねえぞ」

「おっと喋り過ぎたようだな。私のマスターめ、いきなり私が名乗ったことでかなり腹を立てているらしい。これ以上はなにも情報を喋るなと口喧しく言ってきている」

「……………………………」

 どうやらこのアサシンの自由奔放さにマスターの方はノータッチだったらしい。
 真名を名乗ったのも暗殺者のクラスでありながら暗殺などしたことがないと発言したのも、マスターの許しがあってのことではなったのだろう。
 今頃アサシンのマスターは腰を抜かしているかもしれない。 <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:55:34.72 ID:VBKGvC6W0<> (ランサー。なにをゴタゴタと敵マスターと話している。敵がアサシンというのなら後患の憂いを断つためにも一刻も早くアサシンを始末せよ)

「へいへい」

 自分のマスターからの命令に肩を竦ませる。どうやら口喧しいのはアサシンのマスターだけではなかったらしい。
 しかしマスター……ケイネスの言うことも尤もだ。
 自分はサーヴァント、アサシンもサーヴァント。ならばとやかく問答をするなど愚の骨頂。
 サーヴァントであれば語るのは言葉ではなく己が得物をもってするべきだ。

「いいぜアサシン、構えな」

 真紅の魔槍の切っ先をアサシンに向けて言う。

「構え、か。生憎と私には構えなど一つしかないのでな。このまま相手しよう」

 ランサーは舌打ちをしそうになるのを寸でで堪える。アサシンは五尺もある物干し竿をぶらりと下げたまま自然体で立ったままだ。
 一流の武芸者が見れば何処から見ようと隙だらけ。容易く討ち取れると誰もが確信するだろう。
 しかし超一流を更に超越したところに君臨した槍の英霊は違った。
 隙だらけのように見えてその実、全くといっていいほど隙がない。これは戦士としての直感だが、どこに槍を突こうとあのアサシンは全てを受け流してしまうだろうという予感があった。
 
「――――たっく、本当にやり難い相手だアサシン」

 剣士とはそれこそ山ほど相手にし、その屍の山すら築いたランサーだがアサシンのような剣士とはお目に掛かった事が無い。
 だがそれで怯むようならランサーは英雄となど呼ばれてはいない。
 ランサーは指でルーンを刻む。すると周囲にいた鳥などの使い魔の悉くが破壊され学校を覆う様に結界が張られた。
 魔術師ならば誰もが知る最も歴史が長い魔術の一つ、ルーン魔術である。
 ランサーは槍兵だが同時にキャスターのクラスで召喚されても遜色ないほどのルーン魔術の使い手なのだ。

「これでもう要らん邪魔は入らんし覗き見する不届き者も現れん。そんじゃま、やるとしますかね――――ッ!」
<> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:56:09.98 ID:VBKGvC6W0<>  死闘の開幕を告げたのは稲妻の如き魔槍の一突きだった。
 突きとは槍という武器における基本にして最強の一撃。どこまでも単純で、小手先の技法のどれよりも速くそれ故に対処が難しい。
 だがその稲妻を払うは円を描く一陣の風。本来なら風では稲妻を払うことなどできない。
 もしまともに打ち合えばアサシンの物干し竿は魔槍と打ち合った途端に粉々に破壊されてしまうだろう。それだけランサーとアサシンの膂力と武器の性能そのものには違いがある。
 けれどまともに打ち合えば、の話だ。正面から打ち合えないのであれば流してしまえばいい。なにも十の力を十で受ける必要はないのだ。一の力でも十の力の向きを逸らすことくらいは出来る。
 アサシンがやったのはそれだった。
 受け流された槍はアサシンの頭部の左を通る。

「そら――――せいっ」

 アサシンが一歩踏み込む。通常の刀ならまだ間合いには届かないが、アサシンの物干し竿は日本刀にしては五尺という長すぎる得物。
 この槍兵のものであるはずの距離ですらアサシンの距離となりえる。
 風が振るわれた。それが向かう先はランサーの首の付け根。

「チッ。いきなり首か」

 突き以上の速度で槍が戻される。風を槍で防ぐと、今度はランサーがアサシンとの間合いを詰める。
 槍は剣の三倍強いとは言うが、もしも距離をつめられれば最後その長さが災いし剣には勝てない。故に槍と刀との戦いの場合、槍兵は槍の間合いであり剣の間合いではない微妙な立ち位置を維持するのが上策なのだが敢えてランサーはそれを捨てる。
 このアサシンの剣技は異常だ。
 直線ならまだしもアサシンの剣の軌道は円である。その円の軌道が直線軌道を穿つ槍と同等の速度で繰り出されるのである。しかもアサシンの相手しているのは最速の英霊たるランサーなのだ。これを異常と言わずに何と言う。
 しかも厄介なのは。

(こいつ首ばかりを……!)

 円を描く軌道はその全てがランサーの首だけを狙っている。
 もしこれが腕や足などにも向くのであれば所謂肉を切らせて骨を断つという戦術も通用するのだが首ではそうもいかない。首を落とさせて骨を断っても意味などないのだから。
 風と稲妻が舞い狂う。昼間は学生たちが日常を過ごす校庭の中心で非日常たる闘演が行われる。
 演者はどちらも至高の武技をもつ達人を超えた超人。
 常人では気が遠くなる悠久の鍛錬を積み重ねようと届かぬ頂き。人間が抱く理想。人間の限界を更に超えたその先に至った者達。
 そんな者達が覇を競いあうという異様。これこそが聖杯戦争。そこにただの魔術師が交わる余地などあるはずもない。
 これは必然だ。もしもこの聖杯戦争に参加したマスターの誰でもがこの演舞に交われば、その瞬間に稲妻に肢体を貫かれ風により首を落とされるだろう。
<> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:56:52.85 ID:VBKGvC6W0<> 「はぁぁぁああッ!」
 
 百獣の王すら怯む怒号。
 ランサーの目視不可能な速さの連続突きがアサシンを襲った。

「ふ――――!」

 ランサーの怒号をアサシンは柳のように受けて流す。
 そして連続突きを同じ数の刃で迎撃した。

「せぇぇいいッ!」

「はっ――――!」

 ランサーとアサシン。
 この聖杯戦争で恐らくは最も高い敏捷性をもった二騎の戦いは撃ちあう度にスピードを増していく。
 もっと早く。もっと速く。より疾く。
 相手よりも刹那よりも速く動かんと槍兵と暗殺者らしからぬ魔剣士は狂い斬り合う。
 その壮絶なる果し合いは、

「ふっ」

 カンッ、という地面を叩く音で一旦終わりを迎えた。
 ランサーは一っ跳びで二十メートル以上もの距離を話すと今しがた斬り合った魔剣士を睨む。

「解せんな。それほどの技量を持ちながら貴様には英雄としての誇りが微塵も感じられん。貴様――――本当に英霊か?」

 偉業を成し遂げた者には相応の威厳や威容、またはオーラというべきものを自然と纏うものだ。
 しかしながら剣の英霊をも上回りかねない剣技をもったこのアサシンにはそういったものが欠片も感じ取れない。
 まるでそこいらの一般人が刀をもって英霊以上の剣技を繰り出してきたような錯覚を覚える。

「クッ、流石は槍の英霊というべきか。中々に冴えている。お前のその推理は間違ってはいないぞランサー。私には英霊としての誇りなどない。……っと、話し過ぎたな。私のマスターがまた五月蠅く小言を言ってきている」

 苦笑しながらもアサシンは構えた。 <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:57:32.01 ID:VBKGvC6W0<> 「……ッ!」

 そう。構えたのだ。
 今までのランサーとの激しい攻防で一度たりとも構えらしい構えをとらなかったアサシンが初めて構えたのだ。
 つまりは。構えをとる必要がある攻撃を繰り出そうとしているということ。宝具発動前の独特の緊張感をランサーは嗅ぎ取った。
 アサシンに動く様子はない。であればあの構えから繰り出されるものは対人宝具の可能性が高いだろう。

「良いだろう。テメエは気に入らん剣を使うが、お前が自らの秘奥を見せようってなら俺もまた見せよう。俺がランサーたる所以を」

 大気中の魔力が真紅の魔槍に集まっていく。ドクンッと槍が脈動した。 
 空気が凍てつく。
 アサシンは対人魔剣で待ち構えている。ならばわざわざ敵の懐に潜る必然性はない。こういう手合いは遠くから攻めるに限る。そしてランサーにはその為の手段があった。
 光の御子たる己の本気の本気を暴き出した魔剣士の技量に敬意を払い、影の国の女王より譲り受けた魔槍の真価を晒す。
  <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:58:00.94 ID:VBKGvC6W0<> 「この一撃、手向けと受け取れ――――!」

 ランサーが一足飛びの跳躍する。そして上空へと飛び上がったランサーはその体を弓のように反らした。
 伝承に曰く、彼の槍は元々は突くものではなく投擲するためのもの。
 一度投げれば如何なる防御をも突破し、30の鏃となって降り注ぎ敵を屠ったという。
 彼の槍には対人・対軍の二つの使用法がありこれは対軍用のものだ。
 だがどちらも因果逆転の呪いによる『必中』の効果は健在だ。
 真名を唱えたが最後『心臓を穿つ』という結果を作り上げてから『槍を放つ』という動作を行うために如何に敏捷性が高かろうと絶対にこの魔槍を回避することは出来ない。

「突き穿つ――――」

 そう。それこそが、

「――――死翔の槍ッ!」

 アイルランド最大の大英雄、光神ルーの血をひくクー・フーリンが影の女王スカサハより譲られた魔槍ゲイボルクの力だ。
 一度解き放たれた魔槍は敵の心臓を穿つまで止まることはない。仮にランサーを殺害したとしても、仮に地球の裏まで逃れようと『心臓を穿った』という結果が成立している以上この槍から逃れることは不可能なのだ。
 もし槍の呪縛を回避するとすれば槍の破壊力を上回る防御力で相殺するか、因果逆転の呪いを覆すほどの幸運が必要となる。
 アサシンの幸運値は数値にしてA。対人用のゲイボルクなら本人の敏捷性もあって或いは紙一重で回避できたかもしれない。
 しかしランサーは対軍用のゲイボルクを使った。対軍用ゲイボルクの破壊力の前では紙一重の回避では意味を為さない。
 英霊を超える剣技をもつ魔剣士の弱点がそれだった。彼は剣技ならば最強クラスであるが逆に言えば剣技しかない。
 技量が物を言う白兵でこそ難敵だが、戦場が火力のぶつけ合いとなった途端にその脆弱性を露呈してしまう。
 アサシンにはゲイボルクを回避することは絶対的に無理なのだ。天地が引っ繰り返ろうと単独でゲイボルクを打破する術はない。アサシン一人だけならば。
<> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 16:58:32.18 ID:VBKGvC6W0<> 『我がサーヴァント、アサシンに令呪をもって命じる』

 ここではない何処か。
 戦場から遠く離れた一室よりアサシンのマスターが令呪を輝かせる。
 学校の周囲には結界が張られていて外部の人間には誰にも見えないが二つの例外がある。それはランサーとラインで結ばれているランサーのマスターであり、もう一人がアサシンのマスターだ。サーヴァントといえど使い魔。その視線をマスターと共有するのは問題なく可能なのだ。
 
『躱せ』

 そして令呪の一画が消費され、それがアサシンに力を与える。
 令呪とはサーヴァントの行動を縛るだけではなく増幅装置だ。命令には絶対服従、真面目になれ、などという広義の命令は効果が薄いが、それが単一でありサーヴァントの意志とも合致したものであった場合、魔法の如き奇跡の行使すら可能となる。
 
「了解したぞ、マスター」

 令呪の魔力がアサシンに力を与える。
 躱せという単純にしてシンプルな命令はアサシンの意志と寸分の違いなく合致していた。
 魔槍が着弾する。
 校庭は爆炎に包まれた。 <> 第4話 月下の死合<>saga<>2012/11/17(土) 17:04:29.38 ID:VBKGvC6W0<> 一旦これまで。続きは夜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2012/11/17(土) 17:05:46.28 ID:pIpw4LFyo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/17(土) 18:44:04.44 ID:zRSedaFuo<> 乙

兄貴とアサ次郎が輝いてるな。 <> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:23:15.68 ID:VBKGvC6W0<>  爆煙が空ける。魔弾の着弾により地面は裂け、瓦礫は粉々に砕け散り転がっていた。
 原典である大神宣言(グングニル)すら超えたクー・フーリンのゲイボルクの一撃は着弾したその場所からあらゆる『命』を奪い去っていた。
 唯一人を除いては。

「クッ――――聖杯戦争、珍妙な祭事に招かれたとは思うていたが、よもやサーヴァントの宝具がここまで羅刹の如き威力をもつとは。まこと天災がこの身に降り注いだような衝撃であった」

 群青色の着物の左肩を血反吐で濡らし、真紅の血の河を地面に流しながらもアサシンは健在であった。
 佐々木小次郎と名乗った魔剣士は右足に力を込めると再びクー・フーリンと対峙する。

「しくじったぜ。奥の手を使った以上、必ずや必殺でなければならねえってのに」
 
 忌々しげにランサーは吐き捨てる。
 生涯で一度の敗北もなく、彼を英雄たらしめた宝具による一撃。放てば必ず一人以上の心臓を穿ち殺めたその魔槍を躱されたのだ。
 幾ら令呪の一画を使用したとはいえ、アサシンも無傷では済まなかったとはいえ、ランサーの憤怒たるや視線で人を殺せるほどである。
 
『ランサー、なにをモタモタしている。勝手に宝具を使用したことは後で言うが、アサシンはダメージを負っている。逃げられる前に早々に排除せよ』

 マスターであるケイネスからも怒りの通信が送られてくる。
 ふぅと溜息をつくが、ケイネスの言う事は尤もだ。宝具を知られたということは真名を知られた事も同じ。そして真名を知られた者は殺すのが聖杯戦争の鉄則だ。いきなり真名を名乗ったアサシンはどうだか知らないが。
 それにアサシンはゲイボルクによって左肩を負傷している。心臓を必ず穿つという呪いをもった魔槍はそれ故に『再生阻害』の呪いをも備えているのだ。
 この再生阻害の呪いを克服するには相当の幸運が必要であり、仮に克服できたとしても完治するのにはかなりの時間が掛かる。それが霊体であるサーヴァントであろうと同様だ。
 倒すのは今をおいて他にはない。 

「マスターからの注文もあることだ。アサシン、テメエはここで脱落しろ」

「それは困る。現世に迷い出たこの身、亡び花と散るのは構わぬが……その前にセイバーと死合わねば死ぬに死ねん」

「――――なら、諦めな」

 三画しかない令呪のうち二つを一晩で消費する度胸がアサシンのマスターにあればの話だが、モタモタしていれば令呪による空間転移でアサシンが逃走してしまう可能性もある。
 幾ら原初のルーンによる結界といえど流石に令呪の転移には無意味だ。
 故に勝負は一刻も早くつけねばならない。

「しゃ――――ッ!」

 青い稲妻が大地を駆けた。群青色の侍は負傷し衰えた風をもって稲妻を迎撃する。 <> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:24:10.94 ID:VBKGvC6W0<> 「これは……不味い」

 ラインを通じての視界共有でアサシンとランサーの戦いを監視していた言峰はそう呟いた。
 アサシンとランサーの戦闘能力は宝具を抜きにすればアサシンにやや分があると言峰は見ている。しかしアサシンが左肩を負傷した今、その戦力比は崩れ去ってしまった。
 左肩が使えないということは左腕が使えないということ。剣士にとってこれは大きなハンデだ。邪剣使いのアサシンとて例外ではない。

「――――――――」

 言峰の脳裏にこの状況を打破する最も今後のリスクが高く最も確実性の高い方法が一つ浮かぶ。
 しかし流石にこの決定を下すには自分の師である導師の許可が必要だ。

「告げる(セット)」

 言峰は師の時臣より借り受けている通信用魔術礼装を起動させる。
 すると遠坂邸の時臣と連絡が繋がった。言峰としてはこんなものに頼らずとも電話でも使えばいいと思うのだが、時臣は本人の好み以上に電化製品にはめっぽう弱いので仕方ないといえば仕方ない。

『綺礼、問題かね?』

 時臣もアーチャーを使い戦場を監視はしていたのだが、ランサーの結界のせいで戦場を目視不可能となっている。
 そのため時臣はアサシンの危機についてなにも知らないのだ。

「はい。ランサーとの戦闘でランサーの真名がアイルランドの光の御子クー・フーリンであることは突きとめたのですが――――」

『フム。それは上々……と言いたいが、その様子だとそれだけではなさそうだ。彼の魔槍を受けアサシンが脱落したか、それとも負傷したかのどちらかかな?』

「後者の方です。令呪を一角消費しどうにか即死は免れましたがゲイボルクの投擲を受け左肩を負傷。このままでは後数分も持たぬやもしれません」

『そうか。……ランサーの真名こそ掴んだがアサシンはまだ使い潰すには惜しい戦力。なんとかしてそこから離脱させたいが……』

「令呪を使用しますか?」

『もしもの時は止むを得んが、サーヴァントを縛るに令呪が一角しかないのでは些か心許ない。とはいえ令呪を使い惜しみアサシンを失っては元も子もない』
<> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:24:41.26 ID:VBKGvC6W0<>  アサシンを失いたくない。令呪も失いたくない。二兎を追う物の強欲さが為に時臣は暫し言葉を詰まらせる。
 しかしその思考はその実ほんの三秒もなかっただろう。時臣は重々しく口を開いた。

『――――綺礼、通信用の礼装に手を置いてくれ』

「……? 分かりました」

 師の心意が掴めない言峰だったが取り敢えず師の言う通り礼装の上に手を置く。

『Feld der Sicht
(視界)
 Anteil(同調).Ich bin Sie(私は貴方を解して貴方を見る)


 ぬっと礼装に置いた手から這い寄るものがあった。勿論実際に礼装からなにかが出てきた訳ではない。ただ誰かに触れられているという感覚が手から徐々に上に上がっていくのだ。
 そしてその感触は頭部に達し言峰の両眼に集まる。

『急を要する為に許可をとらずに済まない。今礼装を使い君の視界を私と共有した。余りこの手の魔術は使ったことがないので賭けだったが私は勝ったらしい。君の師として君の魔力の波長を解していたのも幸いだった』

「視界を共有して如何するのです? 私の視界などを見ても……いや、なるほど」

『そうだ。私は君の視界を見る為に視界共有を行ったのではない。君とラインで通じていて視界を共有しているアサシンの視界を見る為に視界を共有したのだ』

 これで言峰だけではなく時臣も戦場を見る事が可能となった。
 別にそれはどうせアサシンは死ぬのだからランサーの戦いを生で見ておこう、などという後ろ向きの考えではない。アサシンを生かし令呪を活かすための未来へと繋がる最上の策への布石だ。
 サーヴァントとの視界の共有。それは遠坂時臣にも同じことがいえる。遠坂時臣もまたアーチャーと視界を共有しているのだ。
 アサシンの見ている戦場風景は言峰に繋がり次に時臣へと繋がり、最後に時臣とラインで結ばれているアーチャーに繋がった。
 そしてアーチャーこそ七騎のサーヴァント中最も遠距離攻撃に特化したクラスだ。

『アーチャー、仕事だ』

 時臣が命じる。自身の傀儡たるサーヴァントに対して。
 あの自分のことを『無銘』と名乗った赤い外套の騎士に――――オーダーを与えた。

<> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:25:26.40 ID:VBKGvC6W0<> 「了解したマスター」

 アーチャーは戦場である学校より数kmも離れた場所で弓を構えた。
 この距離。人間には戦場の様子など点としてしか見えないであろうが、アーチャーの千里眼があれば数キロ程度の距離ならばクッキリと視認することが可能だ。
 とはいえそれは通常の話。ランサーのルーンにより結界が張られている今、如何にアーチャーの千里眼だろうと戦場を目視することは不可能だ。
 もしもアーチャーの千里眼スキルがA以上もあれば『透視』の能力も付与されるため結界があろうと問題ないのだが、生憎とアーチャーの千里眼はそれほどのものではない。
 遠くの場所を見ることはできても、結界を無視して視ることは出来ないのだ。
 だがそれは克服された。
 他ならぬ彼自身のマスターによって。アーチャーはアサシンの視界を見ることで結果として戦場を視認することに成功したのだ。

『戦場を視認出来るようになったとはいえ、それはアサシンの視界を通してのもの。従来の狙撃とはなにもかもが異なるが……問題は?』

「ない。時臣、少しは自分の呼びだしたサーヴァントを信用して欲しいものだ。仮にも私は弓の英霊、これ以上に難易度の高い狙撃など生前幾らでも熟してきたさ」

『ふっ。ではいつかの発言がただの大言壮語なのか、それとも自身の実力を理解しての自負なのか今回の戦いで見定めさせて貰うとしよう』
<> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:25:52.87 ID:VBKGvC6W0<>  アーチャーは時臣に召喚された直後のことを思い出す。

「念のため確認するが。アーチャー、君の真名は英雄王ギルガメッシュではないのだな?」

「……生憎、どこかの国を治めた王であった記憶はない」

「そうか。触媒すらない召喚だったのだ。都合よく英雄王が召喚される道理はない、か。我ながら未練がましいことだ」

「ム。悪かったな。ギルガメッシュではなくて」

「いや。君が気にする事ではない。こちら側の不手際なのだから――――」

「ああ、どうせ彼の英雄王と比べ派手さに欠けるだろうよ。いいだろう、後で今の暴言を悔やませてやる。その時になって謝っても聞かないし許さないからな」

「…………ほう。癇に障ってしまったかな、アーチャー?」

「障った。見ていろ、必ず自分が幸運だったと思い知らせてやる」

「そうか。それなら必ず私を後悔させくれアーチャー。そうなったら素直に謝罪させて貰おう」

「ああ、忘れるなよマスター。己が召喚した者がどれほどの者か、知って感謝するがいい。もっとも、先ほど言った通りそう簡単には許しはしないがな」
<> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:26:21.37 ID:VBKGvC6W0<>  親子だけあり会話の内容は正史において遠坂凛とアーチャーとで交わされるそれに非常に似通っていた。
 アーチャーはアサシンの視界から二人の戦いを逐一観察する。
 下手に加減を間違えれても駄目だし余りにも過剰な破壊力を叩き込めばアサシン諸共消し飛ばしかねない。
 電子顕微鏡のような精密さが必要となる。

「I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)」

 アーチャーは目を閉じ自己へ埋没される詠唱を唱えた。
 するとアーチャーの手に握られているのは歪な螺旋を描いた一振りの剣。しかしアーチャーはそれを剣として使用するのではなく弓の矢として使う。

「偽・螺旋剣(カラドボルグ)」

 弓から螺旋の矢が放たれた。矢が向かう先は唯一つ。アサシンとランサーが剣と槍を交える戦場に他ならない。
 アーチャーは鷹の目で矢の動向を見守り、ふと口元に笑みを浮かべた。 <> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:27:00.63 ID:VBKGvC6W0<> 『アサシン、これよりアーチャーからの援護射撃がくる。時臣と私とが協力関係であることが知られない為にもお前はギリギリまでランサーと戦い指示したタイミングでその時になって気付いたように回避行動をとれ』

(無理な注文をしてくれる)

 ランサーの槍を寸でのところで受け流しながらアサシンはぼやく。
 とはいえアサシンもセイバーと一度も剣を交えぬままに消えるのは些か以上に無念だ。ここは言峰に従うべきだろう。
 
「そらそらそらそらそらァ!」

「ふ――――っ」

 ランサーの猛攻は烈火の如し。
 万全の右手を使い最小の労力と最小の力でどうにか槍の軌道を逸らしているがそれも限界が近い。幾たびにもわたる魔槍との接触で物干し竿はその形を僅かに歪めアサシン自身も何度かかすり傷程度とはいえダメージを負っている。
 もはやいつアサシンの心臓に槍が突きたてられてもおかしくない。
 そんな時。

『今だ、回避しろ』

 言峰の命令と結界を突き破り螺旋の矢が突撃してくるのはほぼ同時だった。

「……ッ!」

 いかにも今しがたソレに気付いた……というような表情を浮かべアサシンは敏捷性をフル活用し全力で後退する。

「結界を超えて来るとは! チッ、アーチャーかっ!」

 狙撃に気付いたのはアサシンだけではなかった。ランサーもまた自身の結界を容易く突き破り侵入した矢に気付くと後退する。
 矢が着弾する。歪な螺旋剣はランサーのゲイボルクにも迫る破壊を齎すと巨大な炎をあげた。その炎がアサシンとランサーとを分断する。
 逃げるのならば今しかない。

「さらばだ、ランサー」

 小さく別れを告げるとアサシンは霊体化する。
 幸い結界はアーチャーの螺旋剣の一撃で破壊されているしランサーも状況確認に務めていてこちらに目が行っていない。
 アサシンは気配遮断のスキルを発動させ、その場から静かに姿を消した。 <> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:53:35.93 ID:VBKGvC6W0<> 「よくやった。アーチャー」

 時臣は満足そうに微笑み、一仕事終えたアーチャーに惜しみない賞賛を送る。
 するとアーチャーの方もラインから言葉を返してきた。

『ふむ。マスターも満足してくれたようで幸いだ。使い魔は事前にランサーが破壊していたがサーヴァントやマスターの幾人かも戦いの様子は伺っていただろう。こちらの手札も一枚は切ってしまったが……』

「予期せぬイレギュラーだが大したことではない。アーチャー、君の真価は究極の一をもつ他の英霊とは違い手数の豊富さにこそある。君自身が召喚したその日に言った事だ。ならばあの宝具を一つ見られた程度は問題ないだろう?」

『慧眼恐れ入る』

「序盤の戦果としては上々だよ。この戦闘で綺礼のアサシンは負傷してしまったが代わりに三騎士の一角たるランサーの宝具と真名を看破することも出来た。贅沢を言えば最後にして最優のサーヴァント……セイバーの情報も欲しいところではあるがな。バーサーカーも脱落済み。後気にするべきはライダーとキャスターか」

 自分のサーヴァントであるアーチャーは元よりアサシンも味方のサーヴァントであるので気にする必要はない。 
 バーサーカーについては召喚して早々に魔力切れで脱落したと間桐家の方から教会へ報告されている。

(間桐雁夜。一度魔道から背を向けた身でありながら聖杯に目が眩み一年の急造でマスターとなったとは聞いていたが……所詮はにわか仕込みの魔術師。聖杯を求め争う闘争には役不足だったということか)
 
 惨めな敗者に目を向けることはないだろう。時臣は雁夜のことを一先ず思考から外す。
  <> 第5話 無名の侍、無銘の騎士<>saga<>2012/11/17(土) 22:54:22.56 ID:VBKGvC6W0<> 『……時臣、たしかサーヴァントを失ったマスターはマスターを失ったはぐれサーヴァントと再契約するという話だったな。そのバーサーカーのマスターとやらはまだマスター権を放棄し教会に保護を求めに来てはいないそうだが放置していいのかね? 必勝を期すためならばバーサーカーのマスターを探しだし確実に始末する必要があると考えるが』

 アーチャーが進言する。

「心配性だなアーチャー。間桐雁夜は魔術の素人、仮にサーヴァントと再契約したところで大した戦力には成りえんよ。魔道とは一年やそこいらで身に刻めるものではない」

『むっ。マスター、そうやって敵を侮るのは悪い癖だぞ。どうやら君は大抵の物事は完璧にこなしても肝心な所で足元が疎かになる悪癖があるようだな。平時であればいざ知れず今は戦時だ。ほんの僅かな油断が死に直結する』

 もしサーヴァントをただの道具としか思わないマスターであれば、或いはこの諫言にムッとしたかもしれない。
 だが時臣は人の身に余る偉業を成し遂げ英霊にまで昇華されたサーヴァントに対して一角の敬意を抱いている。如何にアーチャーが無銘の英霊であろうと、サーヴァントを己が目的の為に使い潰す算段をしていようと、アーチャーは時臣にとって頼れる従僕であり敬服する対象なのだ。
 なによりも下の者の諫言を受け入れられぬほど遠坂時臣は器の小さい男ではない。
 アーチャーの諫言も素直に受け入れる。

「君の言う事は尤もだ。どうやら序盤が上手くいったことで私の中にも僅かな『慢心』が生まれていたようだ。早い段階で気づかせてくれたこと感謝する」

『分かってくれたのならばいいさ。最も大きな過ちとは過ちを改めぬことを差すのだからね』

「だが間桐雁夜の力量に恐れるところがないというのは動かしようもない真実だ。私も奴とは面識が少しだがある。私の目から見て雁夜は兄よりは魔道の才があったものの、それとて他と比べても並みというだけのもの。天賦の才とは無縁の男だ。僅か一年間でマスターに耐えうるだけの力を身に着けているとはどうしても思えん」

 時臣の考察に「フム」とアーチャーは言うと、

『君が言うのだ、その間桐雁夜が魔術師としての力量が君に遠く及ばないというのはそうなのだろう。だが元来魔術師というのは足りないものがあれば他から持ってくる人種だ。間桐雁夜が自分に足りないものを他で代用するという可能性は幾らでもある。サーヴァントとは霊体、魂喰いだからな。マスターからの魔力供給が足りないのであれば人間の魂を喰らうことで代用できる』

「…………………魂喰いか」

 成程。それは十分に考えられることだ。
 雁夜だけではない。魔術師としての力量が足りなければサーヴァントの力も足りなくなる。それを補うために魂喰いというのは倫理的問題などに目を瞑れば一つの策ではある。
 時臣自身はマスターとしての素養も十二分であり、個人的な思想面からもそのような手を使う気は毛頭ないが。

「分かった。動向が掴めん雁夜にも一応は注意を払っておこう。間桐の翁によれば家を飛び出したきり居場所が掴めないでいるそうだからな。雁夜についてはそれでいいとして……やはり気になるのは未だ姿を確認していない三騎」
<> 第6話 標的<>saga<>2012/11/17(土) 22:55:56.45 ID:VBKGvC6W0<>  サーヴァントの情報は不明だがマスターの名前は判明している。
 時計塔のエリート講師であり、あらゆる部門で名だたる成果を残した一流の魔術師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。そのケイネス・エルメロイの弟子であるウェイバー・ベルベット。
 そして遠坂に並ぶ御三家の一つアインツベルンが雇った殺し屋。

「衛宮切嗣、か」

『……………………………』

 ラインの向こう側でアーチャーが黙り込んだ。まるでなにかを堪えているかのように。
 珍しい事もあったものだ。
 時臣の知る限りこの慇懃無礼で皮肉屋な弓兵がこのように閉口するところなど見た事も聞いた事もない。
 
「どうかしたのかな? 衛宮切嗣という男がどうかしたのか」

『なに。大したことではない……マスター、もう一つ御節介かと思うかもしれないが忠告しよう。衛宮切嗣には気を付けろ』

「言われるまでもないとも。奴の魔道に対する姿勢は気に喰わないが、奴自身の実力を軽んじているつもりはない。いや、この聖杯戦争に参加したマスターで最も危険な男とも考えている」

『まだ足りない』

「足りない?」

『もしかしたら時臣、君は衛宮切嗣のことをただの金目当ての男などと思っているのかもしれないが大きな間違いだ。奴は目的達成の為ならば自分の命すら平然と道具として使う……皮肉なようだが、非常に魔術師らしい男だ』

「やけに衛宮切嗣のことに詳しいのだな」

『サーヴァントとしての勘だとでも思っていてくれ。生前、私もその手の輩とは戦ったしその手の戦い方をする必要性もあったのでね。……話を戻そう。君の家族は今どうしている?』

「葵と凛ならば葵の実家である禅城の家に帰省させている。聖杯戦争に巻き込むわけにもいかないのでね」

『――――甘いぞ、時臣。もしも私が衛宮切嗣で君をなんとしても殺す必要に迫られた場合、私は君の最も弱い場所を狙うだろう』

「…………それは、衛宮切嗣が葵と凛を人質として攫うと?」

『ないと言えるのかね』
<> 第6話 標的<>saga<>2012/11/17(土) 22:56:25.58 ID:VBKGvC6W0<> 「――――――――」

 言い切れるはずがない。
 衛宮切嗣の経歴にもあった。恋人・家族・友人・弟子などを人質にとった上での殺害というものが。
 時臣は魔術師だ。根源に到達することを至上目的としているし、その為なら全てを犠牲にするという覚悟がある。
 だが魔術師としては間違いなのだろうが、時臣は一方でただの夫として父としても葵と凛のことを愛している。もしも二人が衛宮切嗣という外道の手に落ちることがあれば。
 果たして時臣は一切の躊躇なく二人のことを見捨てることが出来るだろうか。

「……分かった。万が一のこともある。凛と葵には倫敦へ行って貰おう。あそこには知人も多いし、切嗣も魔術協会の本拠地で派手なことはできはしないだろう。まして聖杯戦争中ともあればな。凛にもあそこは良い刺激になる」

『それが良い』

 アーチャーの語る最悪の仮定を避ける為にも時臣は二人を倫敦へと送る準備を始める。
 と、その前に。
 時臣は一仕事を見事に達成してくれた弟子に労いの言葉を送るため通信用礼装を起動する。
 アーチャーの狙撃の為に一時的に繋いだラインは急造だったために既に途切れてしまったのだ。

「綺礼、今宵はご苦労だった。アサシンが負傷したこともある。暫くは休んでくれ」

『……いえ。本来ならば未だ様子見に徹するはずだったアーチャーまで動員する事態になり申し訳ありません』

「戦場にイレギュラーは付き物だよ。それにその程度のことならイレギュラーとは言わん」

 本当のイレギュラーは召喚直前に触媒が紛失することだ、とはアーチャーの手前口に出しはしなかった。

「バーサーカーは早々に脱落したとはいえ聖杯戦争はまだ第一戦が行われたばかり。これから激しさを増していくだろう。綺礼、君にはこれからも助けて貰わねばならない。十分に英気を養っておいてくれ」

『分かりました。それと―――――――…………ッ! 申し訳ありません導師、やはり二画目の令呪を使用することになりそうです』

「なに!? どういうことだ綺礼――――っ!」

 唐突に声色を変えた言峰に時臣の語彙も自然と強まる。しかし時臣が声を発した時には既に通信は途切れていた。
 嫌な予感が脳裏を過ぎる。
 言峰綺礼は元代行者だ。並みの魔術師では太刀打ちできないほどの戦闘力をもっている。
 魔術師としての技量なら時臣が完全に上だが、ただの戦闘者と見た場合、場数の差で言峰に分があるとすら時臣は考えている。
 その言峰がサーヴァントを呼び出すという事態となれば、それは尋常ならざる相手。サーヴァントの襲来に他ならない。

『やはり一筋縄ではいかなかったか』

 アーチャーがどこかこの展開を予想していたかのように呟く。
 時臣はなにも言う事が出来なかった。 <> 第6話 標的<>saga<>2012/11/17(土) 22:56:54.00 ID:VBKGvC6W0<>  ただの観戦だけのつもりだったが思ったよりは収穫があった。
 切嗣は戦場となった学校から離れたビルの七階で煙草に火をつける。煙が肺にまで届くたびに心が凍てつくような気がするから煙草というのは良い。あの冬の城で得た温かみというものを消し去ってくれる。

(ランサーの張ったルーン魔術による結界のせいで肝心の戦闘を見ることは出来なかったが……得たものはある)

 一つ目にはランサーがただの槍兵ではなくルーン魔術にも秀でた英霊であること。更に遠方から見た顔立ちから判断するに西洋圏出身の英霊であると予測される。
 更にマスターの一人であるケイネス・エルメロイが赤枝の騎士の末裔であり数少ない宝具の現物を現代に伝えるマクレミッツ家に触媒入手のためコンタクトをとっていたとすれば――――考える限り思い当たる真名は一つ。
 生涯において無敗を貫き、原初の18のルーンをも修めたという半神半人の光の御子。

「アイルランドの大英雄クー・フーリンか。厄介な相手だな……ケルト神話に馴染がない日本だから良いが、これが西洋圏での戦いならアーサー王に並ぶほどの英傑だ」

 英霊が信仰を糧とする精霊である以上、その信仰が強ければ強いほどに力を増す。
 聖杯戦争においても例外ではなく、この日本で知名度の高い英霊ほどステータスにプラス補正がかかり、低い英霊ほどマイナス補正がかかるのだ。
 
「となるとケイネス・エルメロイのサーヴァントはクー・フーリン……ランサーか。手ごわい敵だが」

 普段なら切嗣は真っ先に魔術師として強いケイネス・エルメロイこそを第一の標的としただろう。しかし今の切嗣にはランサーとケイネスという優勝候補にもなりうるペアよりも気にかかるものがいた。

(結界のせいで中の戦闘は視認はできなかったが、途中で強大な魔力の発露は確認できた。……たぶん宝具を使用したんだろう。そしてその直ぐ後に放たれたアーチャーのものと思われるAランク相当の宝具による射撃、負傷していたアサシン。無傷のランサー)

 普通に見れば強力な千里眼スキルをもつアーチャーが結界を透視しアサシンとランサーを纏めて殺そうとした……という風に思える。
 しかし本当にそうなのだろうか。余りにも出来過ぎではないだろうか。もしもアーチャーがアサシンを逃がすためにあの矢を撃ったのだとしたら。
 
「…………」

 自分でもどうしてこんな考え方をするのか分からない。推理には何の根拠もなく理屈もない。
 だが幾たびの戦いで培われてきた戦闘倫理があのアサシンになにかを感じるのだ。いや、もっといえばアサシンの背後にいる何者かに対して。 <> 第6話 標的<>saga<>2012/11/17(土) 22:57:28.41 ID:VBKGvC6W0<>  そんな時、舞弥からの連絡があった。
 切嗣は電話の通話ボタンを押すと「もしもし」とも言わずに。

「なんだ?」

『報告です。ケイネス・エルメロイと言峰綺礼、両名の滞在場所を発見できました』

「……朗報だな」

『はい』

 常道ならばサーヴァントの情報も知れているケイネス・エルメロイを狙うべきなのだろうが、切嗣の本能や勘というべきものは「一刻も早く言峰綺礼を排除しろ」と警鐘を鳴らしていた。
 言峰綺礼のサーヴァントがどんなものなのかは以前として不明だ。あのアサシンがそうなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
 だがそれでも狙うべきだ。この勘には従うべきだ。

「言峰綺礼を狙う。奴はどこに滞在しているんだ?」

 舞弥から聞かされた言峰の所在は……残念ながら切嗣の現在地からやや離れた場所だ。
 しかし逆に舞弥とセイバーの待機している場所からは程近い。

「良し。セイバーに言峰綺礼の滞在しているホテルを襲撃するよう伝えろ。舞弥は例のものの準備を。それとセイバーには追加でもしも戦いが長引きそうならば一時撤退しろとも言っておいてくれ」

『分かりました。では』

 必要最低限の会話を済ませると電話を切る。
 夜は長い。聖杯戦争の第一戦が行われた次の瞬間には最優のセイバーが動き出そうとしていた。
<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 22:58:44.46 ID:VBKGvC6W0<>  セイバーのマスターは衛宮切嗣であるがセイバー自身は切嗣と話したことはない。
 それは道具とは喋らないという切嗣自身の戦いのやり方というのもあるが、一番の理由は話す必要がないからだ。
 不満が欠片もないといえば嘘になるが、セイバーはこの聖杯戦争にマスターと友情や信頼を育むためにきたのではない。戦って聖杯を掴む為だけに来たのだ。
 切嗣もまたこの聖杯戦争に勝つことだけを考え、そのための戦術や戦略を組み立てている。ならばセイバーにも否はない。マスターが勝利の為にセイバーを道具として扱うならば、この身は一時ただの感情なき剣となるだけだ。
 そこまで考えセイバーは表情を崩さないまま自嘲する。
 感情を見せない剣、言えて妙なものだ。感情なき王として振る舞った己がサーヴァントとなったら感情なき剣とは。
 どうやらどこまでも自分は人間的ではないらしい。
 もしも自分が人の感情をもちながらも完璧な王たりえたのならば、彼の騎士は円卓を去ることはなかったのだろうか。

「――聖杯より与えられた知識では知ってはいましたが、貴方はこんなにも姿を変えてしまったのですね」

 僅かな寂しさを込めセイバーは言う。
 誰に対してのものではない。強いて言えば――――この世界そのものに。
 自分の治世よりも遥かな未来。現代は随分と様変わりしていた。世界を埋め尽くす『科学』という魔道に依らぬ万人が等しく扱える技術。
 なによりも歴史より姿を消してしまった自らの治めし国。
 分かってはいた。自分が君臨し自分が守り自分が生きたブリテンはカムランの丘で滅んだのだと。
 だからこそ今際の際に『王の選定は誤りであったのではないか』『もしも自分より相応しい者が王であったのならば』と思いサーヴァントとしてこの世に迷い出たのだ。しかしこうして『圧倒的な現実』と直面すると一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
 少数は多数に呑まれる。この冷酷なる掟はこの現代にも残っている。
 アイリスフィールは衛宮切嗣の願いは『恒久平和』だと言った。もし彼の祈りが叶ったのならば、そんな冷たい掟も世界から消え去るのだろうか。
<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 22:59:26.22 ID:VBKGvC6W0<> 「――――っ」

 その時、契約で繋がったラインに力が灯る。マスターである切嗣のものではない。
 久宇舞弥。切嗣の部下である女性で、切嗣の指示を切嗣にかわってセイバーに伝える役目をおっているのも彼女だ。
 その際に指示の伝達を円滑に行うためにアイリスフィールの魔術によってサーヴァントとマスターとの間に出来るものと似たラインを形成して貰っている。故に舞弥はマスターでないにも拘らずマスターのようにセイバーに遠方から指示を伝えることができるのだ。

『セイバー、切嗣よりの指示を伝えます』

「……はい」

 上司に似たのか彼女もまた余計な物を省き本題のみを淡々と告げる。
 アイリスフィールのなににも一喜一憂する様子を見ていると、どうして切嗣と彼女が夫婦の間柄になったのかセイバーにとっては一つのミステリーだった。

『深山町チープトリックホテル三階の303号室に敵マスターが宿泊しています。これから貴女はそこを襲撃して下さい』

「チープトリックホテルですね。分かりました」

 舞弥の――間接的には切嗣の――――指示でセイバーはこの冬木市の地形を粗方頭に叩き込んでいる。
 そのためチープトリックホテルがどのような場所にあるのか、どうやって行けば一番近いのかなどを簡単に頭に描きだすことができた。

『滞在しているマスターは言峰綺礼、元代行者で多くの封印指定の魔術師を殺してきた男です。マスター相手とて油断はしないで下さい』

「無用な心配です舞弥。相手が例え剣をもっているだけの少年だったとしても私は油断などする気はない。それは命を賭している相手にも失礼だ」
<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:00:29.77 ID:VBKGvC6W0<> 『………………』

「舞弥?」

 セイバーの言葉に思う事があったのか舞弥が黙り込む。
 しかし直ぐに元の事務的な口調に戻ると、

『襲撃の方法などは追って伝えますが、もしも戦いが長引くのであれば撤退しろというのが切嗣の指示です』

 序盤で手札を切り過ぎるなということだろうか。切嗣の思考を予想しながらもセイバーは頷く。

『言峰綺礼を殺せるのが理想ですが、もし敵サーヴァントによりそれが阻まれたとしても出来るだけ言峰をホテルの外には出さないよう留意して下さい』

「はっ。それは構いませんが……何故?」

 生前のセイバーは広い大地を駆け廻り、時に馬に騎乗し戦った騎士。
 そのため敵マスターが屋外へ逃げ戦場が移るのは寧ろ好ましいことなのだが舞弥はそうするなと言う。
 舞弥(切嗣)に限って何の理由もなくそんな指示を出すはずがない。

『理由を説明している時間はありませんし貴女なら問題はないでしょう。私は後三分で準備は完了しますが貴女はどれくらい要しますか?』

「…………」

 舞弥の意図は図りかねる……が、それが切嗣からの命令であるなら従うだけだ。

「道なりに行けば二十分はかかるでしょう。ですが建築物の上を跳んでいけば五分とはかかりません」

 自分は他のサーヴァントと違い霊体化ができないが、それでもそんな常識外の移動の仕方をして良いだろうか? そう遠まわしに尋ねる。
 果たして舞弥の返答はあっさりとした是の意志だった。

『分かりました。では後の指示は移動中に伝えます。ご武運』

 ラインから舞弥の思念が消える。通信を遮断したのだ。
 舞弥の口振りからして時間が押している様子。貴婦人に対しては非礼だろうがアイリスフィールにこのことを伝えている時間はない。
 セイバーは一っ跳びで塀を跳躍すると真っ直ぐに言峰綺礼の滞在するホテルへと向かった。

<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:00:58.80 ID:VBKGvC6W0<> 『綺礼、今宵はご苦労だった。アサシンが負傷したこともある。暫くは休んでくれ』

 通信礼装から発せられる時臣からの労い。
 言峰は「いえ」と言葉を返すと、

「……本来ならば未だ様子見に徹するはずだったアーチャーまで動員する事態になり申し訳ありません」

 手の甲に刻まれた三画の令呪は今や二画となってしまっている。
 サーヴァントを従えるため最後の一角は残しておかないとならないため令呪を使用できるのは後一回だけだ。

『戦場にイレギュラーは付き物だよ。それにその程度のことならイレギュラーとは言わん』

 時臣からしたら言峰の令呪が一角消費されても、それでランサーの宝具と真名が知れたのだから上々なのだろう。
 アーチャーを動員したといっても遠距離からの狙撃だったため姿は視認されていない上に、アーチャーはその真の宝具の本の一欠けらを晒しただけに過ぎないのだから。
 だが言峰綺礼にとってはそうではない。
 衛宮切嗣と邂逅し彼の得た解を聞きだすためにもアサシンと令呪は失ってはいけない戦力だった。

『バーサーカーは早々に脱落したとはいえ聖杯戦争はまだ第一戦が行われたばかり。これから激しさを増していくだろう。綺礼、君にはこれからも助けて貰わねばならない。十分に英気を養っておいてくれ』

 時臣は言峰綺礼が私欲なく自分を助けるために聖杯戦争に参加していると信じて疑っていないだろう。
 しかし既に言峰綺礼の目的は『遠坂時臣』を聖杯戦争の勝利者にするという聖堂教会や父の意向とは掛け離れたものになっていた。勿論このことは誰にも喋ることはないが。
 それでも時がくるまでは忠実なる弟子であらなければならない。

「分かりました。それと」

 言峰はランサー戦以外にもアサシンの諜報で得た情報を話そうと口を開き、

「―――――――…………ッ!」 <> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:02:12.82 ID:VBKGvC6W0<>  数多くの戦いを熟してきた感覚が尋常ならざる気配の接近を告げた。
 隠しても隠し切れぬ清廉なる闘気。身を焦がすエネルギー量。張りつめた緊張で心臓がドクンッとその存在を大きく主張する。
 ここにサーヴァントが来ようとしている。アサシンでもアーチャーでもなく、もっと英霊らしい英霊が。否、英霊の中にあって最上位に位置する者が来ようとしている。

「申し訳ありません導師、やはり二画目の令呪を使用することになりそうです」

 通信礼装にそれだけ言うと言峰は立ち上がった。
 敵はもう目の前に迫っていた。窓の向こう、隣のビルより跳躍しこの部屋の窓に今まさに飛び込まんとしている。
 月光を受けて光る金砂の髪。全身を包む白銀の戦化粧は無骨なれど、それを着こんだ彼女の美しさは欠片も衰えていない。いや鎧までもが彼女に合わせて澄み切ったものへとなってしまったかのようだった。

――――そんな彼女を汚したいと思ってしまうのも、言峰綺礼が異端であるからこそなのだろう。

 あの闘気がキャスターのものである筈がない。となれば恐らくはセイバーのサーヴァント。
 如何に代行者であるとはいえ言峰は人間だ。剣の英霊と立ち合えば一瞬にしてこの身を両断されるであろうことは想像に難しくない。
 二画目の令呪を必要とするのは惜しい。
 だが使用しなければ言峰綺礼はここで死ぬ。数年前のあの時ならばただ死を受け入れただろうが、今や衛宮切嗣より答えを聞きだすまでは絶対に死ぬわけにはいかない。
 令呪は惜しい。しかし命は更に惜しい。
 ならばとるべき手段は一つだ。

「令呪をもって命じる。来い、アサシン!」

 二画目の令呪が消え、空間が割れた様にアサシンがそこに空間跳躍してくるのとセイバーが窓を突き破り部屋に侵入してきたのはほぼ同時だった。
 セイバーはその手に携えた不可視のなにかを振るい、アサシンは五尺余りの物干し竿を振るう。不可視と得物がカンッと金属音を響かせ、サーヴァントとサーヴァントは互いに相対した。
 しかし驚嘆すべきはアサシンの技量。
 如何なる宝具か魔術か、セイバーの得物は風の結界により不可視となっている。その剣を初見で受け流すなど言峰には到底不可能だろう。
<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:03:07.41 ID:VBKGvC6W0<> 「クッ――――よもや一夜にして二度目、それも我が念願であったセイバーのサーヴァントと合い見えることができようとは。これは幸先が良いものだ」

 ランサーとの戦いで受けた傷は未だ完治していない。
 それでも尚この余裕。セイバーの技量を軽んじているのではなくアサシン自身がこういう性分なのだろう。

「先の一合でどうしてセイバーと判断する? 私は自分をセイバーだと名乗った覚えはないが」

「ククッ。なに我が刀とお主の刃が触れあった刹那の感触でなんとなくの予想はついた。刃渡りまで完全に理解できたわけではないが……その得物には私の物干し竿にも似たものがあったのでな。フム。刀とは違う叩き斬るという手法。西洋の剣とはそのようなものか」

「………………」

 セイバーは答えずアサシンの動きを注意深く観察する。
 あの一合で相手の情報を知ったのはアサシンだけではない。セイバーもだ。得物は違えど同じ剣士として『この相手は危険だ』と感じ取ったのだろう。

「どうやらお前の目的は私のマスターのようだが、仮にも私もサーヴァント。マスターを殺そうというのなら我が屍を超えていってからにして貰おう」

「いいでしょうアサシン――――押し通させてもらおう」

 それはアサシンを打倒し言峰綺礼をも殺すという決意に他ならなかった。

「綺礼、お前は下がっているといい。極上の剣士を前にし今宵の私は些か以上に昂ぶっている。そこにいてはお前の首まで切ってしまうやもしれんぞ」

「…………」

 セイバーの真名も宝具も分からないが、二人の戦いに巻き込まれて無事に済む道理はない。
 ここはアサシンの進言に従った方が正解だろう。
 
「任せたぞアサシン」

 アサシンにその場を任せ言峰自身はゆっくりと部屋から出ていく。セイバーは追う様子がない。
 いや追えないのだろう。もしもセイバーが少しでも言峰に気を向ければ、その瞬間にアサシンの刃が首を落とすであろうことを知っているが故に。
 
「は――――っ!」

 セイバーとアサシンが戦いを始める。
 アサシンがセイバーの足止めしているうちに自分は一刻も早く、
<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:03:39.84 ID:VBKGvC6W0<> (……待て)

 心臓がさっき以上に鼓動を強める。
 ランサーはケイネス・エルメロイ、アーチャーは時臣、アサシンは自分が召喚している。
 バーサーカーは脱落しているので残ったサーヴァントは三騎。 
 マスターの中で誰が最優のセイバーのマスターである可能性が高いか。それは言うまでもなくアインツベルンに雇われた衛宮切嗣だろう。必勝を期すならアインツベルンは必ずや切嗣にセイバーのサーヴァントを召喚させたはずだ。
 セイバーのマスターが衛宮切嗣だとしたら、これから奴がとる戦術とは。

「いかん!」

 言峰が衛宮切嗣の狙いを察し動き出すと同時にどこかでカチンという音がする。
 瞬間、光が爆ぜ全ての音が消えた。
 ホテルそのものがガラガラと倒壊していく。ビルごと爆破するという大凡魔術師らしからぬ戦法。
 これこそが衛宮切嗣の戦い方だった。 <> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:04:29.88 ID:VBKGvC6W0<>  衛宮切嗣が魔術師殺しという忌み名で恐れられる所以は彼が多くの魔術師を殺めてきたという実績以上に、彼のとる戦術に由来するところが大きい。
 魔術師と魔術師の戦いというのは本来互いの研究成果の競い合いであるべきだ。何故ならば魔術とは手段でも武器でもなく学問であり、攻撃魔術というのも学問の一分野に他ならないのだから。
 もっといえば『根源』への到達こそ魔術師の至上命題であり、それ以外の俗世など興味を示さずにいるのが正しい魔術師の有り方なのだが――――権力争いと派閥争いが渦巻く今の時計塔に建前は兎も角、本気で『根源』を目指している者は残念ながら少ないだろう。
 あの魔法使いの姉であり当代最高峰の人形師の友人関係であったアグリッパの末裔すら『根源』の到達を本気で目指していないのだ。彼に劣る才能の持ち主が『根源』よりも目先の権力に憑りつかれてしまうのも自然といえばそうなのかもしれない。
 話を戻そう。
 衛宮切嗣が忌み嫌われる理由は至極単純。彼が魔術師らしからぬ方法で、魔術師らしい合理性のもと、魔術師の認識外の方法で、魔術師を抹殺するからだ。
 学問である魔術をただの戦う道具として扱うことすら正道の魔術師からは許し難い行為であるというのに、切嗣は魔道の対極たる科学を平然と使うのだ。これが魔術師に嫌われないはずもない。
 魔術ではなくより分かり易い例えでいうならば岩石を破壊するために作ったダイナマイトを戦争に利用されたノーベルの心境にも近いだろう。
 一方で魔術協会の方は感情はさておき有能性は認めているので切嗣のことを敢えて黙認し、使い潰しても構わない便利な駒として利用していたのであるが。
 今回の作戦もその一つだった。
 舞弥はセイバーが言峰綺礼の部屋を襲撃する前に如何なる方法を使ったのか予め爆発物をセットしておいた。
 そのまま起爆スイッチを押すという手も舞弥にはあったがそれでは確実性に欠ける。セイバーが襲撃する前の時点では未だ言峰綺礼のサーヴァントがなんであるかを舞弥(切嗣)は知り得なかった。故にもし爆弾を爆発させたとしても、言峰綺礼のサーヴァントが言峰を爆発から救ってしまうという可能性を捨てられなかった。
 爆発した建築物から人一人を救出させるなど魔術師であろうと不可能だが、人の身を超えたサーヴァントなら人の身には出来ないこともやってのけるが道理。
 では、どうするか?
 簡単である。サーヴァントが言峰綺礼を抹殺する上でネックとなるならばサーヴァントとマスターを引き離してしまえばいい。そしてサーヴァントに対抗するにはサーヴァントをもって。言峰綺礼のサーヴァントにはこちらもセイバーをぶつける。
 もしセイバーが首尾よく言峰綺礼を一刀のもとに斬り伏せられたのなら上々。叶わずともサーヴァントとマスターを引き離しさえすれば後はボタン一つで済む。
 だからこそ舞弥はセイバーに『言峰綺礼をホテルから出すな』という指令を付け加えたのだ。確実に言峰綺礼を殺すために。

「――――――それが貴方の策ですか、マスター」

 倒壊したホテルの瓦礫より飛び出しセイバーは此処にいないマスターに問いを投げる。
 常勝の王たるセイバーをもってしても人間性や道徳観を無視するのならば、この作戦の有効性は認めざるを得ない。
 事情が特殊故に霊体化こそ出来ないとはいえセイバーはサーヴァント。なんの魔力や神秘の宿っていない攻撃ではそれこそ核兵器だろうとセイバーに傷一つ負わせることはできない。
 倒壊するホテルの中にいようとダメージは皆無だ。アサシンとて同じだ。だがマスターはそうではない。魔力があろうとなかろうとミサイルの直撃でも受ければ死は免れないし足に穴が空いただけでも然るべき処置をしなければ死ぬ。
 そしてマスターを失ったサーヴァントというのは驚くほど脆弱だ。単独行動スキルをもつアーチャーならまだしも、元々さして霊格の高くないアサシンなら一瞬のうちにそこいらの悪霊と見分けがつかなくなるだろう。
  <> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:05:03.34 ID:VBKGvC6W0<> 「……………」

 セイバーの視線は倒壊したビルの更に奥に向けられている。
 このホテルの中にいたのは敵マスターである言峰綺礼だけではない。聖杯戦争など知らぬ一般人も多く宿泊していた。宿泊客の世話をする従業員もまたここにはいた。
 それが死んだ。
 無慈悲かつ冷酷に殺し尽くされた。他ならぬ自分のマスターの手によって。

「この行いの片棒を担いだ私が彼等の死を悼もうというのは恥知らずの行為なのでしょうね」

 だが忘れない。自分が祖国のために犠牲にしてしまった命を忘れてはならない。失ったものがあるのならば、それ以上のものがなければ嘘だ。
 漸く実感をもってセイバーにも衛宮切嗣という男の人間性が分かってきた。
 衛宮切嗣も同じ考えのはずだ。死を悼みつつも、それ以上の救いのために新たな流血を続ける。
 十を救うために一を救う。殺した一の死を無為にしないために、より多くの十を救い続ける。
 それはアルトリア・ペンドラゴンが……アーサー・ペンドラゴンとしてブリテン国を治めていた時と全く同じことだった。
 彼は止まらないだろう。
 喪ってきた命を超える成果を――――恒久的世界平和を為すためには。六十億の命を救うため、彼はこの冬木……いやこの日本という国そのものを血で埋め尽くす覚悟をとうに済ませているのだ。

「なるほど。貴方は私を担うに相応しいマスターだ。ならば私も貴方を私のマスターとして真に認めましょう」

「これより我が剣は貴方と共にあり、我が運命は貴方と共にある」

 切嗣はセイバーの言葉など聞いていないだろう。
 セイバーが配下である騎士達に必要なこと以外の言葉をかけなかったように。切嗣も道具であるセイバーに必要なこと以外の言葉をかけないはずだ。
 だが、それでもいい。
 これはセイバー自身の誓いだ。

「――――ここに契約は完了した」

 そう、契約は完了した。
 この身が彼を使い手と誓ったように。
 きっと彼も、自分を道具として最大限に使いこなすことを選んだのだろう。 <> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:05:37.16 ID:VBKGvC6W0<> 「それはそれは良きこと。私としては勧めんのだが可憐な華が選ぶ主君だ。風情を解する者であることを祈りたいものよ」

「貴方はっ!」

 瓦礫の中より群青の陣羽織を着こんだ侍が姿を見せる。
 だが驚いたのは彼が姿を見せたことではない。マスターを今しがた失ったはずなのに、彼の体を魔力が満たしていることこそに驚いたのだ。
 この短期間に新しいマスターを見つけたとは思えない。となると言峰綺礼はまだ生きている?

「そうだ。言峰綺礼は……我がマスターはまだ存命だ。どうにも土壇場でお前のマスターの姦策を察したようでな。刹那の隙に向かいの部屋の窓より飛び出していたらしい」

 アサシンがセイバーの思考を読んだように淀みなく答える。

「――――――」

 不可視の剣を構える。
 マスターは殺せなかったとはいえアサシンはランサー戦での傷が回復していない。ここで殺るか。
 
「やめておけ。お前との決着は私も望むところではあるが、この場は些か以上に風情に欠けるというものだ。そら、どうやら珍妙な術で人払いをしているらしいがこれだけの騒ぎだ。それとて長くは続くまい。そうなれば戦いどころではなかろう」

「…………」

「追いはせんよ。脱出したとはいえ我がマスターも無傷では済まなかった。サーヴァントならば今はお前を討つよりもマスターの安全を確保することに努めねばなるまい」

 どこまで本気なのか。
 サーヴァントらしからぬアサシンは、そんなサーヴァントらしい事を言った。

「――――――」

 そこでセイバーは戦いが長引きそうならば退却しろ、と言づけられていたことを思い出す。
 アレはもしこうなったらそれ以上は戦わずに一旦退却しろという意味だったのだろう。

「分かりました。では決着はいずれ」

 これ以上ここに留まる理由はない。
 言峰綺礼もアサシンも討つことは出来なかったが、言峰綺礼に傷を負わせ令呪を一角使用させた。今はこれで十分な成果と思っておこう。欲を張れば身を滅ぼすのだから。
 セイバーはアサシンを警戒しながらも地面を蹴り、そのままアイリスフィールが待つであろう拠点へ退却していった。

<> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:06:16.48 ID:VBKGvC6W0<>  時臣が言峰より報告を受けたのはセイバーの襲撃より一時間が経っての事だった。

『――――報告は以上です。申し訳ありません導師』

 言峰の声が聞こえてくるのは今日中世話になっていた通信用礼装ではなく何の変哲もない固定電話からだった。
 礼装は爆発に巻き込まれ無残にも破壊されてしまったのである。

「……そう気に病むな。あの衛宮切嗣の襲撃に合い君は生きていた。それだけで令呪の一画の消耗などどうでも良くなる程に幸いだったのだから」

『恐縮です』

「謙遜するな。もしも私が君ならば或いは奴の手に掛かり死んでしまっていたかもしれないのだ。しかし衛宮切嗣め……魔術師殺しの異名、伊達ではないか」

 アーチャーの言う通りだ。序盤で上手く事が運んだからと油断した結果がこれだ。しかし自分のサーヴァント諸共爆弾で吹っ飛ばすなど時臣のみならず魔術師ならば絶対に思いつかない方法である。
 今回は言峰綺礼が代行者出身であり高い身体能力をもっていたこと。言峰がギリギリでホテルから飛び出たことが功を制して大事には至らなかったが凡百の魔術師ならば必殺となったであろう戦術。
 時臣は切嗣のことを許し難い相手と認識しつつも、同時に一切の油断もしてはならない強敵だと心に刻む。

「……今回の件で璃正さんに衛宮切嗣へペナルティを科すことができれば良いのだがな」

 ポツリとそう言う。
 すると電話越しの言峰はどこか焦った様に捲し立ててくる。

『それは不可能でしょう導師。教会が罰則を科すことが出来る条件は大別すれば「悪戯に神秘の漏洩を行う」「監督役たる教会への敵対行動」の二つです。衛宮切嗣はホテルを爆破するという派手な行為こそ働きましたが、神秘の漏洩には最大限に努めています。また教会への敵対行動も行っておらず、彼に罰則を科すのは道理に合わないと愚考しますが』

「……冗談のつもりだったのだが、やけに真剣に衛宮切嗣に罰則を科すことを否と言うのだな。そんなに衛宮切嗣に脱落して欲しくないのかな?」

 冗談交じりに尋ねる。 <> 第7話 騎士王の誓い<>saga<>2012/11/17(土) 23:06:44.42 ID:VBKGvC6W0<> 『いえ。私自身も深手を負いましたので。……衛宮切嗣は私の手で、と考えたまでです』

「そうかね。代行者のプライドというものかな。ところで綺礼、拠点としていたホテルは残念なことになったが今君はどこにいるんだね?」

『足を負傷したので、アサシンに運ばせ海浜公園の公衆電話よりかけています』

「では一時私の家に来たまえ。アサシンも負傷、君も負傷、令呪も残り一画。しかも衛宮切嗣は健在とあっては君の為にも君を一人にさせておくわけにはいかない」

『しかし私達は表向きには決別したということになっています。私が導師の家にいれば何かと問題になるのでは?』

「聖杯戦争でマスター間で同盟が結ばれるのは難しくない。対外向けには他のマスターを駆逐するまで共闘関係を結んだということにしておこう。それにサーヴァントを失っていない以上は璃正さんに保護されるわけにもいくまい」

『分かりました。ではこれより向かいます』

 電話が切れる。
 時臣は「やれやれ」と受話器を置いた。やはり科学というものは慣れない。
 魔術というのが科学とは逆に過去へ疾走する技術というのもあるが、時臣は生粋の機械音痴でもあるのだ。固定電話程度ならどうにかなるが、携帯電話辺りになると微妙と言わざるをえなかった。

「にしても初戦からしてこれほどの騒ぎになるとはな。これが聖杯戦争か」

 七騎の英霊が招かれての殺し合い、というだけで桁外れの大儀礼だとは認識していたが実際に体験してみると別格だった。
 だが聖杯戦争はまだ始まったばかり。
 
(衛宮切嗣、か。綺礼の手前ああ言ったが此度の非道……冬木のセカンドオーナーとして許し難い)

 いずれ奴とは戦う事になるだろう。時臣には奇妙な予感があった。
 もし切嗣が来なくとも、全てのサーヴァントとマスターの情報が出揃えば時臣から切嗣の打倒へと赴くだろう。
 聖杯戦争初戦の夜はこうして更けていった。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/17(土) 23:07:38.36 ID:VBKGvC6W0<>  これで今日は終了です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/17(土) 23:13:41.67 ID:tMmFcUFNo<> 乙
キャスター陣営とライダー陣営が気になる……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>saga sage<>2012/11/17(土) 23:17:42.51 ID:n7Orxhmdo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/11/17(土) 23:28:27.09 ID:6PkEWt01o<> 乙
これからの展開がすごく楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/18(日) 00:57:55.51 ID:8lhsDgP/0<> 予想通りとはいえおじさんが真っ先に脱落しててワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/18(日) 12:57:28.46 ID:aqREzuADO<> 乙
五次セイバーならある程度切嗣とは同調するだろうが不満はあるだろうな。
結果はだしたなら犠牲はしょうがないとしても切嗣って正史四次は犠牲だしたけど結果も出してない結末だったしな。
正史四次は何百人も殺しただけで誰も救ってない士郎は自分で危機に陥れて自分で助けただけ。 <> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 19:49:52.21 ID:5lRPl6Cs0<> 「朗報だぞライダー! アサシンの真名が分かった!」

 時刻は午前0時過ぎ。代わり映えしない住宅の一室にマスターの一人であるウェイバー・ベルベットの声が響いた。
 しかしその声に答えるべき人影はどこにもいない。第三者から見れば独り言を嬉しそうに喋る危ない人にも見られなねないが……実際にはウェイバーの他にもう一人その部屋にはいた。
 コミュニケーションに支障があると判断したからか、徐々にその姿が見え始める。
 流れるように長く美しい紫色の髪、目を覆う魔眼封じの眼帯、扇情的な姿かたち、隠れていて尚も異性を……或いは同姓すら惹きつけてやまないであろう顔立ち。
 彼女こそウェイバー・ベルベットの召喚したサーヴァント、ライダーであった。

「アサシンの真名? お言葉ですがマスター、そんなものは調べるまでもありません」

「え?」

 ウェイバーの顔が引き攣る。
 聖杯戦争初戦が開幕して早々に敵サーヴァントの真名を掴んだことを教えればライダーもウェイバーに賞賛の一つでも送ると思っていたのだが……ライダーの口振りだとまるでアサシンの真名をとっくに知っているようだった。

「どういうことだよ。お前、アサシンの真名を知ってたのかよ」

「知ってるもなにも。クラスに適合した英霊が呼ばれる他のサーヴァントと違い、アサシンのクラスで召喚されるサーヴァントは"アサシン"の語源にもなった中東の暗殺教団の頭首ハサン・サーバッハだけです」 <> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 19:52:30.47 ID:5lRPl6Cs0<> 「――――――――」

 これはウェイバーの知らない情報だった。時計塔で調べた聖杯戦争の資料にそんなことは書いてなかった。ただ英霊の召喚には原則として聖遺物が必要としか。
 ハサン・サッバーハ。これは十世紀末の中東。シーア派イスラム原理主義ニザール派の創始者の名である。この派は自分達の教義に対して迫害や圧迫を加えた体制派指導者たちに対抗する政治的対抗手段として暗殺を正当化し行ってきた。これが俗にいう暗殺教団である。
 その手口や所業は謂わば現代におけるテロリズムの原型とすらいえた。
 彼等の標的は多種多様で政治的大物や英雄、十字軍の将校までもが彼等の手にかかり死んだ。そして暗殺教団の名は十字軍やマルコ・ポーロの東方見聞録によりヨーロッパにも広まった。
 アサシン(Assassin)という英語名詞はここから生まれたのである。
 ただしサーヴァントとしてのハサン・サッバーハはその創始者ではなく、暗殺教団の頭首を代々継承してきた暗殺者へ送られる称号であり忌み名だ。
 ハサンとは個人を示すのではなく集団を示す名。ハサンとなる者は鼻を削ぎ落とし顔を焼き"元の自分を殺す"ことでハサンとなる。
 そしてハサンの名を持つ者は其々が特異な能力をもっているという。それは鏡写しの心臓を投影するシャイターンの魔腕でもあるし、百の貌の多重人格でもあるし、脳味噌を爆薬にかえる力でもある。
 聖杯戦争に呼ばれるハサンはそういった歴代のハサンの中から召喚者と最も相性が良い者が選定され召喚されるのだ。

「…………」

 しかしである。
 そういう概要は置いておくとしてウェイバーには府に堕ちないことが山ほどあった。

「なぁ。ハサンって中東出身のサーヴァントなんだよな」

「ええ。そうですが」

「それで暗殺者ってことは暗殺者っぽい恰好してるんだよな?」

「直接見た事はありませんが聖杯からの知識によれば、全身を黒い布に包み白い髑髏の面を被っているそうです。ステレオタイプの暗殺者ですね」
<> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 19:55:47.63 ID:5lRPl6Cs0<> 「だよなぁ。……じゃあ、あのアサシンはどういうことなんだよ」

 ウェイバーの脳裏にあるのは今日……いや0時を過ぎているので、昨日のアサシンとランサーとの戦い。
 ランサーのルーン魔術で監視用の使い魔を破壊されてしまったため戦闘の様子は見る事が出来なかったのだが、アサシンの姿や真名を名乗る事はバッチリと視認できた。
 そのアサシンの顔立ちというのは端正な美青年で白い髑髏の面など何処にもない。中東出身者特有の浅黒い肌もなく黄色い肌をしていた。つまりは中東でもヨーロッパ出身でもなくアジア系。 
 しかも纏っていたのは黒とは程遠い雅な群青色の着物。なけなしの日本知識が間違っていないなら陣羽織と呼ばれるものだったはずだ。日本の戦士"サムライ"が好んで着たらしい戦装束だ……と思う。何分日本など来たのが初めてなので良く分からない。

「どういうこととは?」

「僕の見てたアサシン、明らかにサムライっぽい恰好してておまけに"佐々木小次郎"って名乗ったんだけど」

「は?」

 これは予想外だったのかライダーにも驚きの色が浮かぶ。

「佐々木小次郎……宮本武蔵という男と戦ったという侍、でしたか。申し訳ありませんウェイバー。マイナーな英霊のようで私も詳しくは」

「あっ。宮本武蔵なら少し知ってる。たしかゴリンノショってやつを書いた奴だろ。これならどっかで聞いたことある」

 ウェイバーはその名が示す通りヨーロッパ人。生憎と日本の英雄には疎い。佐々木小次郎と言われてもまるでピンとこない。
 しかし宮本武蔵の五輪の書はそれなりに知名度もあるのでウェイバーも知っていた。

「佐々木小次郎、朝にでも図書館で調べてみるかな。この国の英霊ならそいつの書籍も多いだろうし」

「それが良いでしょう。どうして山の翁以外がアサシンのクラスで召喚されたかは不明ですが、そんなことを調べるよりも佐々木小次郎の力について調べた方が能率が良い。他になにか分かったことはありますか?」

「他っていっても。ランサーがルーン魔術の使い手ってことしか」 <> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 19:56:17.36 ID:5lRPl6Cs0<>  この程度の情報ではライダーも特に嬉しくないだろう。
 そう思って力なく発言したのだが意外にもライダーは、

「――――謙遜することはありません、十分な情報です。魔術の基本は等価交換……しかしウェイバー、貴方は今宵たかだか使い魔一つの消耗でアサシンの真名とランサーの能力の一端を掴んだのです。これは誇っても良い成果でしょう」

「ぅ」

 召喚する前、ウェイバーは一体全体どんなおっかない化物が出て来るのかと戦々恐々としていた。
 それは無理のない事だろう。
 ゴルゴンの怪物、メドゥーサはギリシャ神話でも最も有名な蛇の怪物。最終的には英雄ペルセウスによって討たれたが、それまでに数えるのも馬鹿らしいほどの屈強な戦士を返り討ちにし喰らってきた化物だ。
 召喚する前はそれこそ髪の毛が蛇で恐ろしい形相をした魔物が出てくるのを覚悟していた――――が、蓋を開けてみれば召喚されたのは目もくらむような美女。
 おまけにマスターには忠実で礼儀正しいときている。クラスこそライダーであるが宝具もスキルも強力なものばかり。
 大当たりと呼んで差支えない結果だ。ただ一つ欠点をあげるとするのなら、

「ふふふ。本当に凄い御手柄ですウェイバー。それだけの手柄ですので貴方に仕えるサーヴァントとしても"なにかしら"の形で報いなければなりませんね」

 妖艶に微笑みながらライダーがずいとにじり寄ってくる。
 サーヴァントとして十分に合格点のライダーの欠点がこれだった。能力も人格も良いのだが、この熱のこもった対応はどうにかして欲しい。
 もしウェイバーが百戦錬磨のプレイボーイなら望む所なのだろうが良くも悪くもウェイバーは初心だ。いや寧ろだからこそライダーの琴線に触れてしまったとも言うべきなのだろうか。
 ウェイバーは命の危険とは別のなにか大事なものを失う危険を感じ後退した。だが所詮は部屋の一室。直ぐに壁に追い込まれる。

「そ、そんなに褒めても僕は……いや、わ、私は! 栄誉ある時計塔の魔術師として当然のことをしてまでなんだよ……ええ、なのだ! だからそんなに気にする必要は……」

「やはり良いです貴方は。その背伸びする姿はとても愛らしい」

「ひぃぃぃいいい!!」

 ニヤリと形容するのがピッタリな笑みを浮かべるライダー。
 三画の令呪の存在すら忘れてウェイバーが身を守るように両手でバッテンを作る。
 しかしサーヴァントであるライダーにウェイバーの細腕による防御など何の意味もない。逆にその姿がライダーの嗜虐心を誘う。

「知っていますかマスター。私は吸血鬼ではありませんが吸血種。血を吸うことで精機を吸い魔力を供給することができます。特に初心な少年の血は美味しいんですよ、貴方の血はとても私の口に合いそうです」

「な、なにを言ってやがりますか……こ、この……」

「勿論聖杯戦争のためですよ。この身を魔力が満たせば満たすほどに私は強くなれる。なら私がマスターの血を頂くのは立派な戦術ですよ」

「う、嘘だっ! 絶対にそれ以外に何か考えているだろ!」

「肉類はしっかり食べていますか? 昨日は魚と野菜と白米しか食べていませんでしたがそれはいけない。肉を食べないと血にコクがなくなってしまいます」

「ああもうっ! 大人しくしないと令呪使うぞ令呪ーーっ!」

 漸く令呪の存在を思い出したウェイバーが刻印を見せつけるように怒鳴った。
 するとライダーはさっきまでの積極性が嘘のようにしれっと。

「冗談ですウェイバー。明日は図書館でしたね。なら今日はもう休んだ方が良いでしょう。見張りは私がしておきます」

「…………」

 まるで今までのことが本当に冗談だったかのような言動。
 しかし騙されない。
 ライダーはサーヴァントとしては頼りになるし自分の命令にも忠実だが、やはり警戒は欠かしてはいけないだろう。色んな意味で。
 ウェイバーはそう肝に銘じた。 <> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 19:56:59.01 ID:5lRPl6Cs0<>  アサシンとの戦いから帰還したランサーを出迎えたのはご立腹のマスターだった。
 冬木市ハイアットホテル。そのワンフロアを丸ごと借りきったランサーのマスター、ケイネス・エルメロイはブランドの髪をオールバックにした青年だ。
 だが聖杯戦争に参加する彼が唯の青年であるはずはない。
 ケイネスは時計塔有数の魔術師であり名門アーチボルト家の九代目当主でもある。そして高級ホテルのワンフロアを貸し切ることから分かる通りかなりの金持ちでもあった。

「では聞かせて貰おうかランサー。私に勝手で宝具を使用しておき、尚且つアサシンを取り逃がすという失態。どういう言い訳を聞かせてくれるのだね?」

「あー、すまねえな」

 ポリポリと頭を掻きながらランサーは謝罪した。
 そんな心の篭らない謝罪にケイネスが納得するはずがなく、

「貴様はふざけているのかっ! お前は因果逆転の魔槍を使ったのであろう! なのに何故あのアサシンは生きているのだ!」

「何でって令呪を使われたからだろ。ま、確かに俺の失態なのは違いねえよ。ゲイ・ボルクを使う以上、必殺でねえといけねえってのに。俺も焼きが回ったってことか」

「一人で納得するな!」

「そう怒るなよケイネス、あのアサシンの野郎はどうにも苦手だ。ああいう奴は遠くから攻めるに限る」

「遠くから攻めて殺し切れなかったではないか?」

「今回はな。今回はアサシンのマスターが令呪でサポートしたから逃げられた。だけどよ令呪ってもんは無限じゃねえ。三度限りの絶対命令権。つまりアサシンが俺のゲイ・ボルクを躱せるのは最大でも後二回が限度ってこった」

「……お前はアサシンに二度同じ宝具を使用しろと」

「まさか。そこまで必殺を安売りするほど俺も堕ちちゃいねえよ。アサシンの使う剣技はどうにも厄介だが、あいつ自身は特に厄介な力はもってねえ。幾らでもやり様はある」
<> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 20:02:59.44 ID:5lRPl6Cs0<>  粗暴な態度から勘違いされ易いがランサーはただ槍を振るうだけの戦士ではなくルーン魔術を極めし魔術師。
 刀の届く近接戦闘でこそアサシンは対処困難な絶技を使う魔人だが、刀の届かない範囲にいる分にはアサシンは無能なサーヴァントだ。
 全てを修め全てを極められずにいる器用貧乏ではなく、究極の一をもちながらも別の方面でも優れた才気をもつランサーなら幾らでも対処の使用がある。

「寧ろ厄介なのはアサシンよりアーチャーの野郎だろ。俺の張ったルーンの結界をあっさり突破して戦いに水を差しやがった。気に喰わねえ野郎だ……面は見てねえが絶対に捻くれた顔してるぜありゃ」

「……ふむ。たしかにアーチャーは面倒そうな相手だ」

 ケイネスの専門は降霊術、召喚術、錬金術であるがルーン魔術も一通りは会得し成功を収めている。
 故にランサーのルーン魔術師の技量も正確に認識していた。
 ケイネスにとっては非常に腹立たしいことであるのだが、ルーン魔術にかけてならばランサーはケイネスよりも上の実力者である。
 原初の18ルーンを自在に操るランサーの結界は城の外壁にも匹敵しよう。サーヴァントとマスターとの間のラインを除けば決して外から中の様子を視認することなど不可能な守りで戦場は覆い尽されていた。
 なのにアーチャーはあっさりと結界を透視し正確にアサシンとランサーを諸共葬りさる必殺を叩き込んできたのだ。
 ケイネスとランサーはこのホテルのワンフロア全域に共同で魔術結界などを構築し『工房』にしている。
 しかし件の狙撃がアーチャーの実力だとしたら今まさにこの部屋にアーチャーの宝具が飛んできかねないのだ。これを厄介と言わずして何と言うのか。オチオチ眠ることも出来ない。

「先ずはアーチャーを狙いしかる後に真名を知られ、またこちらも真名を知っているアサシンを討つのが妥当……か」

 顎に手をあてながらそう口にする。
 聖杯戦争で最もマスターにとって脅威となるのは気配遮断によりマスター殺しを狙うアサシン。そして遠距離からの狙撃をしかけてくるアーチャー。
 この二騎を倒せば今後の展開も随分と楽になる。そう考えてのケイネスの案だった。

「いいんじゃねえか。俺もアーチャーは気に喰わねえしな。弓兵に背後を狙われてるとあっちゃ存分に殺し合いもできねえ」

「ならばランサー。貴様は一刻も早くアーチャーとアサシンの所在を探し出し殺すのだ。貴様も私のサーヴァントならよもや出来ないとは言うまいな」

「あいよ。了解した」

「此度の失敗の責はそこで晴らす事だ。私は此度の聖杯戦争、片田舎に住まうマクレミッツに借りを作ってまで貴様を呼び出したのだ。それだけの価値は見せてくれるのであろうな?」
<> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 20:04:13.57 ID:5lRPl6Cs0<>  確認するようにケイネスがランサーに言う。
 しかしランサーが答えるよりも前に冷たい声がケイネスに降りかかった。

「あら。戦いはサーヴァントに任せて自分は一人安全な場所で傍観者気取り。時計塔の神童が聞いて呆れたものね」

「そ、ソラウ……」

 ケイネスがソラウと呼んだ人物。彼女は降霊科学部長を歴任してきたソフィアリ家の直系にしてケイネスの婚約者でもある。
 そしてケイネスはこのソラウに心底惚れこんでいるため数少ないケイネスの頭の上がらない人物であった。

「ねぇケイネス。貴方はサーヴァント召喚と契約の仕組みを調べ上げた上で魔力の供給を私が、令呪やマスターとしての権限を貴方が担うという分担契約をした。それはランサーがサーヴァントと戦っている間に貴方自身が万全の状態で敵マスターと戦うため。そうだったわよね?」

「も、勿論だとも!」

 ケイネスとて伊達や酔狂と格好つけたさだけでソラウという婚約者を冬木の地にまで連れて来たのではない。
 幾ら魔術師としては基礎的な魔術しか教わっていないとはいえソフィアリ家の直系たるソラウの魔術回路は一級品。サーヴァントへ魔力供給するのには十二分だ。

「だというのに貴方ときたら。この冬木に来て以来、やったことなんてただ『工房』の作成と調整だけ。戦いに赴く事は一度としてない。時計塔のエリート講師が聞いて呆れるわね。この聖杯戦争で武功という華を添えるために参戦したっていうのは嘘だったのかしら。それとも工房でじっと引きこもってることを貴方は武功というのかしらね」

「ち、違うんだソラウ。今は序盤故にまだ私が出る頃合いではないと――――」

「ならいつが貴方の出る頃合いなの? まさかサーヴァントが残り1騎になった時とは言わないわよね」

「つ、次だ! 次こそは私も本腰を入れようとも!」

「おおっ。恐い恐い」

 ケイネスとソラウのやり取りをニヤニヤと笑いながら観察するランサー。
 だがそれがソラウの癪に障ったのか矛先が今度はランサーに向いた。

「貴方もよランサー。へらへらと笑ってないで仮にも半神半人の英霊ならサーヴァントの一騎や二騎は軽く刈り取りなさい。貴方に魔力を送っているのを誰だと思っているの?」

 肩を竦ませランサーは「へいへい」と頷く。
 咎められたと言うのにランサーに不快感はなかった。というより目一杯にランサーは今の状況を愉しんでいた。

「それじゃ私は眠るわ。明日は精々ケイネス・エルメロイの才気を存分に振るうことね」

 言ってソラウはさっさと部屋に引っ込んでしまう。 <> 第8話 ウェイバーの受難、ケイネスの災難<>saga<>2012/11/18(日) 20:05:02.43 ID:5lRPl6Cs0<>  婚約者に散々といわれガックリと肩を落としたケイネスにランサーの軽快な声がかかる。

「そう落ち込むことはねえよケイネス。気の強い良い女じゃねえか。女ってのは気が強ければ強いほど良い。俺がスカサハから受けた言葉なんざあんなもんじゃなかったぜ」

「サーヴァントの貴様に何が分かるっ! 口を慎め口を!」

「まぁまぁ。義理で忠告するがな、確かにソラウは良い女だしあれに怒鳴られりゃビビっちまうのも情けねえが無理はねえ。だがな、本気でモノにしたけりゃ時に強引に押し倒しっちまうのも大切だぜ。俺はそうした」

「……強引……ソラウに――――って、貴様は私になにをさせようとしているのだ!」

「なんなら俺が口説いっちまうか?」

「それだけは許さんぞランサー。もしもそのような真似をしてみろ。お前が何かする前に令呪で自害させてくれる」

「ジョークだよジョーク。だからそう令呪に魔力込めるなって」

 飄々とケイネスの怒気を躱すランサー。
 "総合的"な魔術師としての技量はケイネスが上だが、こと人生経験においてはランサーはケイネスの遥か上をいっている。本人の性格もありケイネスのヒステリックなどは面白可笑しいことでしかなかった。

「ソラウの言う通り明日は色々とやらねえといけねえんだ。お前も眠っとけ、幾ら魔術師といっても寝不足じゃ満足に力は振るえんだろう。俺のように『不眠の加護』をもってるわけじゃねえんだし。……あっ。今は俺も『不眠の加護』がねえんだったか。聖杯戦争の開催地がアイルランドなら最高だったんだがねぇ」

「……お前の本拠地で開催されてたなら、お前はどの程度のものになったのだ?」

 興味本位からケイネスが訊く。

「そうさな。恐らくスキルが幾つか増えて……いや戻って、戦車と城が宝具に加わるだろう。基本ステータスも幾らかは上がるはずだ。この国じゃ俺の神話は知名度が低いみてえだからな。どうにも生前の力が出し切れん」

「……そうか」

 どうせ参加するのならば日本で知名度の高い英霊にしておくべきだったか。
 ケイネスはそう考えたが後悔先断たずとはこのこと。もう召喚してしまったサーヴァントを今からチェンジすることは出来ない。
 それに先程は怒鳴り散らしたものの、ランサーの実力は折り紙つきだ。知名度補正での不利など気にならない程のポテンシャルをランサーはもっている。
 ならばケイネスに不満はない。知名度の差など自分の魔術師としての才気があればどうにでもなる。
 ケイネス・エルメロイはこの聖杯戦争に参加した魔術師の中でも随一の実力者なのだから。

―――――故に彼は知らない。世界には魔術師の天敵がいるということを。

 それは突然のことだった。
 何の警報も予兆もなくケイネスの宿泊するハイアットホテルに仕掛けられていたらしい爆弾が爆発する。
 ケイネス・エルメロイとクーフーリンの二人が共同で組み上げた鉄壁の魔術攻防は、なんの神秘も宿さぬ科学兵器によりあっさりと崩壊した。
<> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:06:56.83 ID:5lRPl6Cs0<> ――――彼女の夢を見ている。

 国は市民、兵士、騎士に至るまでが大騒ぎだった。それはプラスの意味における騒ぎではない。マイナスの要素における騒がしさ『恐怖』や『憎悪』を源流とする不安の氾濫だった。
 先日の敵軍を見事に撃退してからまだそう日が経っていない。だというのにまた新たに海より蛮族が侵攻してきたのだ。
 ホッとしたのも束の間。再び彼の国は戦乱に呑まれようとしていた。
 敵が攻めてきたのなら国は臣民を守るために迎撃部隊を派遣しなければならない。
 だが一つ問題があった。
 そもそも"ブリテン"という国は酷く貧しい国家である。最下層の民衆は元より王侯貴族すら裕福とは程と言い暮らしを強いられていた。
 古来から戦争というのは非常に金がかかるものだ。
 別に金をかければ戦争に勝てるという訳ではないが、金がなければ満足に武器も揃えられないし食糧物資の調達すらままならない。
 腹が減っては戦は出来ぬという諺の通り、飢えたる獅子は肥えた狼に劣る。如何に屈強な兵士だろうと、練度の高い兵士だろうと『飢え』と『武器の不足』の二重苦を前にしては老兵のそれだ。
 そして少し前に侵攻を受けたばかりのブリテンは、連続して迫った蛮族の侵攻を撃退するに悲しいまでに蓄えがたらなかった。
 しかし騎士達の士気は低くはなかった。蛮族との戦に敗北するということは即ちブリテンが滅ぶということ。
 負ければ死ぬ。勝たなくては生き残れない。
 引く事ができぬ背水の陣。故に騎士達の士気は高まらざるをえなかったのだ。
 騎士達は命懸けで戦う覚悟を決め、自分達の主君へと視線を向ける。
 今まであらゆる戦いで連戦連勝、敗北を知らず老いることもない少年王――――アーサー・ペンドラゴンへと。

「王よ。蛮族共は今まさに我らが領土へと迫っています。どうか我等に敵を討てとご命令を!」

 威勢の良い騎士の一人が前に出て宣言する。何人かの騎士は「そうだ」と強く頷いた。
 だが円卓で最も王に近い位置にいる湖を冠した黒騎士と太陽を冠した白騎士は、じっと黙って王の言葉を待っている。王が騎士達の望みに沿わない言葉を返すことが分かっているかのように。
  <> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:07:36.56 ID:5lRPl6Cs0<>  やがてアーサーが重い口を開く。
 
「南南西の森の側にある村を焼き払い、そこから資金物資を徴用する」

 しん、と円卓が静まった。
 何人かの騎士は信じられないと顔を見合わせると一転、円卓が喧騒にと包まれる。

「お言葉ですが王よ! あそこは我々の領土、そこに住まう村人達もまた我々の守るべき領民。守るべき民から物資を略奪など許せることではない」

「そうです! どうかお考え直しを! 蛮族共は必ずや我々の力で撃退せしめます!」
 
 他の騎士達も同じように王の意見に否と言う。
 しかし彼等の進言は王の心を僅かも揺らすことはない。やはり王は強く決意と限りない冷徹さを秘めた目で。

「では卿等には無から有を生む術があると。兵士達を飢えさせない食糧を生み出し、足りない武器をも作り出すことができると。もしもそれが出来る者がいるのならば申し出るが良い。先の言葉は改めよう」

「――――――――」

 途端に円卓が静まった。
 彼女の言葉に是と返す者がいなかったというのもあるだろうし、彼女自身のもつ威厳に圧されたというのもある。
 なにもない"虚無"より"実"を生む。これはもはやアーサーの後見人たる大魔術師をもってしても不可能な奇跡である。大魔術師に出来ぬことが彼等騎士達にできるわけがない。

「いないようだな。ならば――――」

「し、しかし!」

 尚も食い下がる騎士にアーサーは朗々と告げる。

「先の蛮族を撃退したおりに国庫は既に限界へと達している。卿等の言う通りこのまま迎撃に赴いたとしよう。しかし飢え満足な武器もない兵士たちを率いていては敗北は必至。そうなれば戦いの火は国全土へと広がるだろう。ならば一つの村を干上がらせ軍を万全な状態へとするべきだ。村一つと国全て……比べるまでもないだろう」
<> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:10:23.38 ID:5lRPl6Cs0<>  王の言葉は冷徹だった。それ以上に一部の隙もなく完璧であった。士気や騎士道だけで戦には勝てない。勝つためには然るべき物資が必要。そのために村一つを干上がらせることみなろうと国を守れるのなら安いものだ。
 そんな理屈は誰もが分かっている。だが騎士達にとって犠牲にしても良いのは蛮族だけであり、自分達の領民や同胞が傷つくなどあってはならないことだった。不満は徐々に徐々に騎士達の胸に宿っていく。
 妙な話だ。騎士達は王に誰よりも完璧であることを求めながら、いざ王が完璧な態度をとれば不満を抱くのだから。

「話は以上だ。サー・ランスロット、先の私の命を実行せよ。お前が帰還次第、我々は蛮族の迎撃へと赴く」

「……はっ」

 王の側に控えていた黒騎士は恭しく頭を垂れると王命を実行するために円卓を出て行った。その顔を見せぬままに。 
 結果を見れば彼女の決断は正しかった。満足な食糧物資を得た軍勢はアーサーという優れた指揮官のもと速やかに蛮族を撃滅してみせた。彼女もまた軍団を指揮しながらも自ら前線へと赴き多くの首級をあげたのだ。
 自軍の犠牲はたかが村一つと数えられるだけの兵士と騎士のみ。正に大勝利、戦前の喧騒が嘘のような華やかで晴れ晴れとした勝利だった。
 しかしその裏で不満という塵は山となっていく。
 アーサーはこれからも同じように戦い続けた。
 十を救うために少数の一を切り捨てる。
 国を守るために犠牲を良しとし、その犠牲をもって蛮族の血を大地へと流す。
  <> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:11:53.33 ID:5lRPl6Cs0<> 「――――――」

 冬木市内にあるホテルの一室で切嗣は目覚める。
 カーテンの隙間から暖かな日差しが差し込んでいる。もう朝らしい。
 一仕事終え体に休息を与える為に仮眠をとったのだが……こんなことが起きるのは想像していなかった。

「あれはセイバーの記憶、か」

 契約のラインと結ばれているマスターとサーヴァントとの間にそういったことが起きると知識としては知っていた。
 ならばあの王としての姿こそがアルトリア・ペンドラゴン……いやアーサーとしてのセイバーなのだろう。
 
「……なるほど。そういうことだったのか」

 衛宮切嗣は事ここに至り自分の勘違いを認めた。
 自分はこれまでアーサー王を華やかな武勇譚に彩られた勇猛果敢で騎士道精神旺盛な英雄だと、そういう風に思っていた。
 だがそれはある意味で正しくある意味では不正解だ。
 彼女はたしかに騎士道精神をもっているだろう。正々堂々と犠牲など出さずに国を守りたかっただろう。
 けれど彼女は同時にリアリストだった。犠牲を出さずに勝利することが叶わないと、円卓の誰よりも知っていたからこそ犠牲を良しと許容した。
 一を切り捨て十を救うという選択。
 人間性という感情を排除し、ただのある一定の動作をする機械となる行動。その決意と行いはまるで魔術師殺しと恐れられた衛宮切嗣そのものだ。
 二人に違いがあるとすれば立場だけだ。
 切嗣は一を切り捨て十を救うために感情をもたぬ殺戮機械となった。
 アルトリアは祖国を守るためになんら私欲をもたぬ完璧な王となった。
 切嗣は暗殺者となり、アルトリアは王となった。
 もしアルトリアが暗殺者ならば切嗣と同じ道を辿っただろうし、切嗣が王だったのならばやはりアルトリアと同じことをしただろう。
 歩む道筋は違えど目指す到達点は同じ。
 漸く切嗣はアルトリア・ペンドラゴンを自分と共に聖杯戦争を勝ち抜いてゆくためのサーヴァントとして認めた。 <> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:13:45.17 ID:5lRPl6Cs0<>  切嗣は携帯電話を取り出すと久宇舞弥の番号へとかける。
 数秒の呼び出し音の後「はい」という女性の声がした。

「舞弥、昨日の戦果はどうだった?」

 ここでいう『戦果』とは二つのものがある。
 一つは舞弥とセイバーによる言峰綺礼の襲撃。もう一つが切嗣の行った冬木ハイアットホテルに宿泊していたケイネス・エルメロイの暗殺だ。
 いや規模を考えると暗殺というよりはもはやテロとすら呼んでいい。なにせ切嗣がケイネス・エルメロイを抹殺するためにとった手段というのはホテルごと爆弾で吹っ飛ばすという悪逆非道かつ非道な手段だったのだから。

『残念ながら現状でケイネス・エルメロイの遺体が発見されたという情報はあがっていません。何分巻き込まれた人間が多いですから』

「そうか」

 なにせハイアットホテルには言峰綺礼の宿泊していた安ホテルと違い多くの客が滞在していた。
 その宿泊客一人一人の死亡確認をとるのは警察は元より教会の手の者でも困難だろう。

「肝心の魔術の隠蔽は?」

『問題ありません。爆破前にマスコミ各社にテロリストからの爆破予告を送ってありますから、犯行は恐らくそのテロリストの仕業ということで処理されるかと。それに今回の一件には魔術が使用されていませんから、そもそも魔術の隠蔽をする必要性すらありません』

「……分かった。ならば次は言峰綺礼についてだ」

 ランサーのマスターとその所在については一先ず保留にしておく。
 それよりも言峰綺礼のことこそが目下一番切嗣が気になるものだった。

『それが、なんでも言峰綺礼と思わしき者の遺体が発見されたという話です』

「本当なんだな」

『はい』

 難敵と定めた男のあっさりとした死亡情報に切嗣の語彙が強まる。

『ですが私が直接確認したわけではありませんし、現場の状況が状況だけに誤った情報という線も考えられます。今の所はまだ警戒を解くべきではないかと』

「……話は以上だ。舞弥、お前も休んでおけ。人間ってやつは不便なもので三日間眠らないだけで性能が落ちるからね」

『了解しました』

 電話が切られる。
 言峰綺礼の死亡とケイネス・エルメロイの行方不明。もしも切嗣に幸運の女神が微笑んでいれば二人は既に脱落。サーヴァントは聖杯戦争開幕前に一人脱落しているので残る敵は三人ということになる。
 だがそんな楽観を抱くほど切嗣は甘い男ではなかった。
 最良は想像しない。するのは常に最悪。自分にとって最悪が起きているという前提で考え行動していれば不慮の事態というのはある程度避けられるものだ。
 切嗣はケイネス・エルメロイとランサーは健在であり言峰綺礼もまた生存している。切嗣はそう考えて行動する。
 特に根拠はないが言峰綺礼に関しては確信に近い予感があった。
 こいつはそう安々とは死なない。
 直接会った事は一度もないというのに、何故か切嗣にはそれが分かった。

「言峰、綺礼」

 敵の名を口にする。
 この男こそが衛宮切嗣の勝利を脅かす最悪のジョーカーなのかもしれない。
<> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:14:20.35 ID:5lRPl6Cs0<>  丁度同時刻。
 ウェイバー・ベルベットは先日にライダーと話しあった通り冬木市内にある図書館に訪れていた。
 冬木市の図書館は魔術師の名家が二つも根を降ろす場所だからか市の特色なのか中々の蔵書でそこはウェイバーを満足させるものだった。
 今回は佐々木小次郎というサーヴァントについて調べるのが目的なので『日本史』のコーナーを重点的に探す。

「えーと佐々木小次郎……佐々木小次郎……って僕に分かるわけないじゃないか」

 ガクッと肩を降ろすウェイバー。
 ヨーロッパの魔術師であるウェイバーにとって東洋魔術は専門外である。よって日本語を喋ることもウェイバーは出来ないのだ。
 喋れない日本語を読めることができるはずもなく、本棚の本のどれが『佐々木小次郎』の本なのか分からずウェイバーは右往左往していた。
 だがそこへ救いの主が現れる。

「これではありませんかウェイバー、佐々木小次郎と書物のタイトル欄に書いてあります」

 ウェイバーの隣からぬっと出てきたのはサーヴァント・ライダーだ。
 といっても何時もの妖艶な姿ではなくこの冬木市の洋服屋で購入した現代的な姿だ。この図書館での調査に聖杯から与えられた知識で日本語の読み書きがノープロブレムなライダーの力が必要になるかも、と予想して現代の服まで着せて連れてきて正解だった。
 ちなみに目を覆うのも眼帯ではなく眼鏡である。メドゥーサが召喚されると分かっていたので念のために魔眼殺しの眼鏡をくすねてきたのが幸いした。
 幾ら現代の格好をさせてもあの眼帯をつけたまま街中を歩かせるわけにはいかない。余りにも怪しすぎる。

「…………」

「どうしましたか?」

 ウェイバーの手の届かない場所に陳列されていた本を安々ととってみせたライダーにむっとする。
 魔術師といってもウェイバーは男だ。よってなけなしの男のプライドというやつも少なからずあるわけで。サーヴァントとはいえ女性に身長で劣っているということに良い気分はしない。
 しかしそのことをライダーに言うのもウェイバーのプライドが許さなかったので出来るだけに尊大そうに腕を組み「う、うむ!」と頷いてから偉そうにライダーから本を受け取る。
 
「…………これ、なんて読むんだ」

「……………」

 そして再び立ち塞がる言語の壁。
 佐々木小次郎の本が見つかっても中身の言語が読めないのでは話にならない。
 もし佐々木小次郎がヨーロッパの英霊なら洋書のコーナーから探すのだが、佐々木小次郎は日本の英霊。洋書のコーナーにそれについての本があるかどうかは怪しいものだ。
<> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:15:44.68 ID:5lRPl6Cs0<> 「ウェイバー、頭をこちらに」

「えっ?」

 ライダーがウェイバーの額に自分の額を合わせた。
 いきなりライダーの美しすぎる顔が目の前にきたことにたじろぐウェイバーだが次の瞬間には別の驚愕がウェイバーを襲った。
 読めるのだ。今まで意味不明だった文字の羅列がどんな内容なのか読み取ることができる。

「ライダー、これって」

「共有の魔術の一種です。これでも神代を生きた者ですから。キャスターのクラスで呼ばれるほどの適正はありませんがある程度は魔術を使うことはできます。私は聖杯によって与えられた現代の知識を一時的にマスターと共有しました。これならウェイバーにもこの書物の内容を読み解けるはずです」

「…………」

 そのことは素直に有り難い。だが素直にお礼を言うことは出来ない。
 ぎゅっと拳を握りしめる。
 白状してしまえば悔しかった。ウェイバーにはライダーの使った様な高度な魔術は使えない。出来るのは一般人に軽い暗示をかけるくらいだ。
 背丈だけではない、ライダーは魔術師(キャスター)のサーヴァントでもないというのに魔術師(メイガス)であるウェイバーよりも優れた魔術師だ。そのことがどうしようもなく悔しい。

「どうしましたかウェイバー? なにやら難しい顔をしていますが」

「な、なんでもない馬鹿! 僕はこれを見てるからお前はサーヴァントの警戒でもしてろ! 頼んでもないのに勝手になんでもかんでもするなよ!」

 気付けばそんな言葉をサーヴァントに対してぶつけていた。
 
「――――ぁ」

 言ってから後悔する。 
 ライダーは別にウェイバーに劣等感を与える為に共感の魔術をかけたのではない。ただウェイバーの為に魔術を行使してくれたのだ。だというのに礼を言うどころか逆に八つ当たりをしてしまった。
 もしかして怒ってしまっただろうか。
 ウェイバーは恐る恐るとライダーを見るが、

「……分かりました。では私は命令通り敵の警戒を行います」

 実際にはより酷いことになっていた。口調こそ変わらないが声色は酷く冷たい。図書館に来る前は言葉の端々にあった友愛の感情はもはやなくなってしまっていた。
 ウェイバーはその後、本を調べたが殆ど頭に入ることはなかった。
<> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:16:41.02 ID:5lRPl6Cs0<>  帰り道。結局、全部の資料を読むことは出来なかったので何冊かは借りてきた。
 気付けば空も赤くなっている。随分と長居してしまったようだ。

「…………」

 カツカツと規則正しい足音を鳴らして歩くのはライダー。
 その横顔からは何を考えているのか読み取ることは出来ないが、少なくとも機嫌が良さそうには見えない。

(やっぱり謝らないと駄目だよな……でも、こんなところで謝るのも……ああもう、どうすればいいんだよ)

 聖杯戦争に参加していてもウェイバーは人生の半分も生きていない若造。
 謝りたいという気持ちはあっても気恥ずかしさやらなんやらで実行に移せないでいた。
 それでもとウェイバーは身から絞り出すような思いで。

「……悪かったよ」

 ぶっきらぼうにライダーに言った。

「なにがです?」

「だからさっきの図書館でのこと。僕が悪かったよ、お前には悪気がなかったのは分かってたのについ勢いであんなこと言って。お前がライダーなのに僕の出来ないような魔術を使うから、それで……」

「本当に申し訳ないと思っていますか?」

 確認するようにライダーが訊く。
 羞恥心で顔を赤くしながらもウェイバーは僅かにコクンと頭を上下する。 <> 第9話 完璧なる王<>saga<>2012/11/18(日) 20:17:27.43 ID:5lRPl6Cs0<> 「なら謝意として今夜にでもウェイバー、貴方の血を貰いましょう」

 艶然とライダーが口元を綻ばせる。
 良かった。いつものライダーに戻った。ウェイバーは一息ついて、

「分かった分かった――――ってなんでそうなるんだよっ!」

 華麗なるノリツッコミをした。

「何故と言われてもウェイバー、この国にはごめんで済んだら警察は要らないという格言があります。つまりこの国は謝るだけで謝意は示せないということです。ならば形あるものとして謝意を頂かなければ、安心して下さい。最初はチクリとしますが段々と慣れて気持ち良くなっていきますから」

「なってたまりますか、このアホ! スタカン! やっぱお前は大馬鹿だ! 速く帰るぞライダー、この佐々木小次郎ってやつのことを調べないといけないんだからな!」

 すっかりといつもの調子を取り戻したウェイバー、そしてライダーが帰路につく。
 なんだかんだでこの二人は上手くやっていけそうだった。 

<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/18(日) 20:18:13.74 ID:5lRPl6Cs0<>  続きは10時からです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/11/18(日) 20:29:54.33 ID:7G+0ucJJo<> 乙
細かい指摘だが、「すかたん」な
あえて間違わせてるのならスマン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/18(日) 20:44:31.49 ID:4Ig9uXilo<> あれ? なんか全陣営が元よりスムーズになってね?

そしてウェイバーライダー組可愛いよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2012/11/18(日) 21:29:37.37 ID:JrGs+vRAO<> だってそもそも根本的にライダーキャスター組以外どれも元々がアレだからなぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/18(日) 21:57:21.50 ID:ln4yWt9Do<> 乙
ウェイバーはこの戦争中に大人の階段登るんじゃないだろうか <> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:14:29.74 ID:5lRPl6Cs0<>  冬木ハイアットホテルでの爆破解体。
 百名以上の宿泊客は元より最上階のフロア一つを丸々貸し切っていた魔術師ケイネスの安否は絶望的とされていた。
 一流の魔術師でも魔術回路がある以外はただの人間と変わりはしない。
 物理攻撃手段が一切効果ないサーヴァントは兎も角、ケイネス・エルメロイとその婚約者のソラウは地上150mからの落下に耐え切れず瓦礫に呑まれ死んだ。そう見るのが妥当だった。
 実際もしも宿泊していたのがケイネスではなく他のマスターならば死は不可避だったであろう。
 ビルという一つの巨大な質量の倒壊はもはや軽い天災にも等しい。それを前にして生き残れる魔術師など世界を見渡しても一握りだ。
 だがしかし、ケイネス・エルメロイは一握りの魔術師だった。
 ケイネスが趣味で作った中でも『最強』の魔術礼装、それにより自分とソラウとを覆い衝撃を吸収させ難を逃れたのである。

「おのれ……どのマスターかは知らぬが我が魔術工房諸共にホテルを爆破するとは。なんたる不埒な真似をする……! 魔術師の風上にもおけぬ面汚しめ!」

 ハイアットホテルという拠点を失ったケイネスがいるのは六十年前の第三次聖杯戦争で参加者の一組だった『天秤』の異名をとる魔術師の名家エーデルフェルトが用意したという洋館だ。
 魔術師の館といってもエーデルフェルトは第三次で遠坂に敗北し脱落して以来、日本の土は踏まずと誓っているので放置されたまま空家となっている。
 ランサーが冬木市を調査したおりに発見し、ケイネスはここを新たな拠点としたのだ。
 放置されていたせいで埃っぽいとはいえ魔術師の用意した館。
 新しい拠点とするには絶好の場所といえた。ついでに言うならホテルと違って下の階に爆弾を仕掛けられた爆破解体という事態も避けられる。

「十五時間くらい掛けて作った工房も全部オジャンだからな。怒るのも無理はねえが落ち着けよケイネス。別に死んだわけじゃねえんだ」

 自分達の城塞を失ったというのに飄々としているのはランサーだった。
 ケイネスは青筋をたてながら、

「……あの爆発の中、別の部屋にいたソラウを私のところまで連れて来た事は評価しよう。魔術回路こそ一級品といえどソラウは初歩的魔術しか使えぬ故、あのビルの破壊から逃れることは出来なかったであろうからな。見事な状況判断だ」

「そりゃどうも」

「しかしだランサー、貴様はなにを平然としている! 私のサーヴァントならサーヴァントらしく主をこんな目に合わせた者への報復に赴くべきであろう! そうでなくとも下手人に対し怒りを露わにするべきだ! なのに貴様はなにをヘラヘラとしているのだ!」
<> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:15:11.58 ID:5lRPl6Cs0<> 「だから落ち着けって。ま、俺はこんな程度のことは生きてた頃から日常茶判事だったからな。これくらいで一々ビビってたら俺は英雄なんてなってねえ。殺した殺されたなんざ戦の常、死んでねえだけいいだろ」

「死なずとも後少しのところでソラウは死ぬところだったのだ! これが平然としていられるものか!」

「女の為にってのは嫌いじゃねえぜ。でもな一つだけ言うが……そんなにデカい声で話してたら愛しの御姫様が起きっちまうぞ」

 ランサーの言を受けて慌ててケイネスは口を噤んだ。
 あの爆破から一夜明けて今日。箱入りと呼んで差支えないソラウの疲労は尋常ではなく今は真っ先に掃除した部屋の寝室で休んでいるのだ。
 もしも騒がしくして眠りを妨げればソラウがどんな反応をするか。想像もしたくはないケイネスだった。

「……分かった。ハイアットホテルでのことはもう良い。重要なのはこれからどうするか、だ」

「おっ。とうとう生産的なこと考えるようになったか。それでいい、後ろを振り返るなとまでは言わねえが何時までも過ぎたことをウジウジと考えても仕方ねえ。時間は未来にしか進まねえんだから先のこと考えるのが吉だ」

「貴様の戯言は聞き飽きた。しかし今回の一件でソラウは私に失望を感じているやもしれん。ここは今一度このケイネス・エルメロイの実力を示さねばならんだろう」

「いいねぇ、そりゃ上々だ。次はお前も出陣かい? 男ってのはすごすご城に篭ってるより戦いに赴く方が良い。敵のマスターの首級一つもあげりゃソラウも見直すかもしれねえぞ」

「……本当か?」

 ランサーの粗暴さにはほとほと参っているケイネスだが、ことが愛するソラウの事とあっては聞き過ごせない。
 藁にもすがる思いでケイネスは問う。 <> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:16:53.69 ID:5lRPl6Cs0<> 「おいおい、俺を誰だと思ってる? 俺も十六の頃に一人の姫に一目ぼれしてな。城まで奪いに行った事がある。その姫ってのがこれまた良い女で何の誉もない子供の炉ばたに行く気はねえ、とか言いやがるの」

「ふん! そのくらいは知っている。それで貴様は影の女王のもとに弟子入りし魔槍を授かったのであろう?」

「簡単に言うけどよ、スカサハのしごきっぷりときたらトンでもねえものだったんだぞ。毎日毎日あの女にぶっ刺されそうになるわ殺されそうになるわ『出来ないなら城の回り百週』なんてレベルじゃねえ。『出来ねえならさっさと死ね』みたいな感じだぜ。戦いの中で死ぬんならまだしも俺だって修行中の扱きで死ぬのは御免だからな。死なない気で励んだわけだ」

「………………」

 ケイネスの脳裏に角を生やし巨大なハルバートを持ったソラウがランサーに怒鳴り散らしている光景が浮かんだ。これはイメージだが確かに恐い。もし結果を出せずにいたら最後、真っ二つにされそうな怖さがある。
 そんなスカサハに鍛えられたというのであれば、このランサーの何事にも動じず飄々としている態度にもどこか合点がいってしまう。

「で、スカサハんとこには俺以外にも弟子入りしてる奴がいてな。噂を聞きつけて教えを受けにきた戦士ばかりなんだが、その中でも一人俺とどっこいの奴がいてな。お前に教えるまでもねえかもしれねえが名前はフォルディアって言ってな。隣国コノートの戦士だった。ゲイボルクの伝授をかけて競い合ってたら、いつのまにか兄弟の契りを交わしちまった」

「兄弟の契り……ふん、自分一人が断トツではなかったのか」

 つまらなそうに嘯くケイネスだが――――彼自身が自覚してない深い場所で、どこかケイネスはランサーを羨んでいた。
 千年に一度の才能、最年少の講師。魔術師としての名声は山ほど得、賛美は浴びるほどに受けたケイネスだが自分と張り合えるほどの才能の持ち主は終ぞ目の前に現れることはなかった。
 もしもそんな者が現れていれば、思う存分に魔術の腕を競い合えたかもしれないのに、と。

「俺には三人ばかり得難い親友がいたんだが、フォルディアはその中でも特別な兄貴分だったよ。スカサハはスパルタだが良い師だったし良い競争相手もいたから俺もつい長く滞在しちまってな。たぶん居心地が良かったんだろう」

 魔術師が魔術を学ぶのに最も適した時計塔を出ようとしないのと同じ理屈だ。
 ケイネスにもその気持ちは分かる。 <> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:18:23.33 ID:5lRPl6Cs0<> 「だがその居心地のいい領地を狙う馬鹿がやってきてな。隣国のアイフェって領主が戦争をしかけてきやがった。スカサハは俺を戦場には出そうとはしなかったんだが、それでも結局最後には俺とスカサハとフェルディアで肩を並べて暴れまわったんだけどな。だがまあ、なんだ。始めは難い敵だったんだが、いざ戦って捕まえるとこれがいい女だったんだわ。そのアイフェが。そんなわけで抱いたんだがスカサハにバレて石投げられたっけ。ゲイボルク風味に」

「……節操のない奴だ。貴様はもうソラウには近付くな」

「心配すんなって。別にソラウを抱こうってわけじゃねえんだ。ありゃ良い女だがお前の女だろ。俺が触れていい女じゃねえ。まぁ、あっちから熱烈にきたら分からねえけどな」

 気にした様子もなくランサーは笑う。
 からかわれている、その事が分かるのに何故かケイネスにランサーに対する不快感は感じない。
 ケイネスはランサーへの文句を置いておいて先を促す。

「それでも別れの時ってのは否応なくやってくる。アイフェとも別れたしスカサハやフェルディアとも別れた。俺とフェルディアは同じ日に影の国を旅だったんだが、城を出て同時に口にした言葉が"俺の国に来る気はないか?"だ。引き抜きは無理だなって二人で笑ってもんさ」

「スカサハとは会っていかなかったのか? お前の師なのだろうに」

「ああ。全てを伝授したんで教える事は何もないってな。後はシンプルだ、惚れた姫が求めた誉ってやつを手に入れるために派手な戦争ばかりして武勲を立てた」

 そしてアイルランド全土にクーフーリンの名を知らしめると、約束した通りに姫を迎いに赴き、それを邪魔するフォルガル王とその軍勢を文字通りに皆殺しにし姫を手に入れたのだ。

「ケイネス、お前の武勲を得るために聖杯戦争に参加したって意気込みはいいんだがな。お前はどうも惚れた女を前にしたら奥手に過ぎる。そうさね、この戦いで他の敵を打倒し尽くしたらいっそ強引に押し倒しっちまえ。そうでもしねえと何時まで経っても物にゃできねえぞ」

「不忠さえしなければ何をしても許された貴様の時代とは訳が違うのだ。そう簡単にはいくか」
<> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:19:21.09 ID:5lRPl6Cs0<> 「そういうもんかねぇ。さて何時までもつまらねえ話しても仕方ねえ。敵の首級をあげるのに否はねえが何処を攻める?」

「……そうだな」

 ケイネスは腕を組み思案する。
 贅沢を言えば真名を知られたアサシンと戦いに水を差してきたアーチャーのどちらかを始末したい。だが肝心の二騎の居場所は愚かそのマスターが誰かなのすら掴めていない。
 
「今の所マスターの所在が分かっているのは御三家たる遠坂と間桐……そしてアインツベルンが郊外に城をもっていると聞くが」

「三つに一つ、ってことかい。お前としちゃ何処を狙いたい? 戦いの趨勢を決める最初の首だ。出来る限り上等なやつがいい」

 聖杯戦争そのものを開いた始まりの御三家。初戦の相手としては申し分ない。
 だが、どれが最も上等かと問われれば暫し首を傾けざるを得ない。ここ最近は魔術協会にもこれといった噂を聞かない間桐はさておき、アインツベルンと遠坂はケイネスをもってしても名門と認めざるをいえない家である。
 十世紀もの時間、純血を保ち聖杯を追い求めたアインツベルン家。歴史こそ間桐やアインツベルンに劣るものの彼の第二魔法の使い手シュバインオーグの弟子の家系たる遠坂。
 どちらを狙うかは迷いどころだ。
 しかしケイネスとランサーが如何に優れた魔術師とサーヴァントであろうと二つの体を用意することは出来ない。
 一度に赴ける戦場は一つきり。ならば、

「遠坂に赴こうか」

「ふーん。どうしてだ?」

「ここから郊外の森は遠いというのもある。だがそれ以上に遠坂家当主である遠坂時臣の名は私も聞いている。強い自律精神により時計塔でも多くの実績をもった魔術師と聞く。相手にとって不足はない」

「おう。分かった」

「だがその前に……」

 ケイネスは館に目をやる。
 汚れてる。とんでもなく汚れている。とてもではないが安眠できる家ではない。

「先ずはこの家を満足のいく拠点に仕上げる事が先決だな」

「……締まらねえな、おい」

 結局、生粋の魔術師で貴族のケイネスに館の掃除が出来るはずもないので、その殆どをランサーがすることになるのだがそれはまた別の話だ。
<> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:20:10.89 ID:5lRPl6Cs0<> 「それでは行くが。後の事は分かっているな」

 時臣は愛娘の頭を撫でながら思う。
 凛は痛がってないだろうか。力加減は間違ってないだろうかと。
 常日頃から娘の頭を撫でてやっている親ならばこんな悩みは抱かないだろうが――――無理もない。時臣にはこうしてただの親として凛の頭を撫でてやるのは初めての経験だったのだから。

「凛、成人するまでは教会に貸しを作っておけ。それ以降の判断はおまえに任せる。おまえなら1人でもやっていけるだろう」

 そんな感慨を抱きながらも、生まれてからの性根というものは度し難いもので。
 口から出る言葉はユーモアの欠片もない事務的なものばかり。
 もしかしたら最後となるかもしれない愛娘とのやり取り。ならば笑顔の一つでも浮かべてやるべきだと思っていたのに、いざ凛を前にしてみると顔は真面目な表情に固定されたままだ。
 時臣は宝石の在り処や地下室の管理方法などの、今まで伝えていなかった頭首として知らなければならないことを伝えると最後に、

「いずれ聖杯は現れる。あれを手に入れるのは遠坂家の義務であり、なにより魔術師であろうとするなら避けては通れぬ道だ」

 魔術師・遠坂時臣として後継者・遠坂凛へと告げた。

「行ってらっしゃいませ、お父様」

 娘の言葉に背中を押され時臣は戦場たる冬木の地へと戻る。
 これから凛と葵は倫敦へと渡る。アーチャーの諫言を受けそうするのが一番良いと決断したのだ。
<> 第10話 ザ・メモリー・オブ・ブルー<>saga<>2012/11/18(日) 22:21:05.61 ID:5lRPl6Cs0<> 「……別れはあれでいいのか?」

 もう凛の姿が見えなくなったところで、霊体化したままアーチャーが訊いてくる。

「良かった、そう自信をもって断言できればいいのだがな。私もまだ自問自答を止めることができない。私は先代に魔道の道へと進むか否かと提示され私は進むと答えた。魔道の道を歩む覚悟をその場で決めたのだ。だが私は凛と……桜にはそれをしていない。自分が選んだ道ならばそれによる苦難にも納得がいこう。だが魔道を歩む覚悟なくせずして魔道へと身を置いたのであれば、果たして待ち構えるであろう苦難を乗り越えることができるのだろうか、と」

「……………」

「分かってはいる。凛と桜のもつ才能は私などとは比べ物にもならない。英雄に怪物という敵対者がいるように魔は魔を引き寄せる。凛と桜の才能は本人たちがその才を磨かずとも必ず魔の力を招いてしまうだろう。それから守るには魔道の加護を得るしかない。元より凛と桜に選択肢などあってないようなものだ。二人が魔道から背を向けるということは即ち邪な考えを持つ他の魔術師の魔手に怯えつづけねばならないということなのだから」

「親の気苦労といったところかな。私には縁のないもの故に助言はできないが――――遠坂凛、君の後継者なら問題はないだろうさ。必ず君が腰を抜かするほどアグレッシブな女性になるだろうさ。魔術師としては勿論、人間としても魅力的なね」

「断言するのだなアーチャー。まるで見て来たかのように」

「おや、そう聞こえたかな。まぁこれは私自身の勝手な勘だ。聞き流してくれて構わん」

 不思議だった。アーチャーが言うと本当にそうなるような気がする。
 遠坂凛という愛娘の将来、そこに抱いていた不安に皹が入り粉々に砕ける音を時臣は聞いた。

「……ただし。君が養子に出したという間桐桜、彼女については分からない」

「桜、か」

 もう一人の娘、遠坂桜――――いや、間桐桜について想起する。
 凛と違い何処か引っ込み思案な娘だった。それでも魔術の才においては凛とほぼ同等。五大元素のどれにも当て嵌まらぬ虚数を司る素養をもっていた。

「……彼女にとって果たして間桐の家に養子へ出すという選択肢が正しかったのか。私が決めることではないのだろうが、君自身の意志のみで決めるべきことだったのか。……いや、余計な御節介だなこれは」

 アーチャーはそれっきり思う所があるのか口を噤んでしまった。
 聖杯戦争が開幕してから三日目が終了しようとしている。
 脱落したサーヴァントは一騎だが、この三日間の間に言峰綺礼の宿泊していたホテルとケイネス・エルメロイの宿泊していたホテルの二つが爆破解体され一般人にも多くの犠牲者が出ている。
 ナチスドイツや帝国陸軍の介入があり帝都で開催された第三次もかなりのものだったが、この第四次も序盤から大荒れだ。
 特に衛宮切嗣は聖杯戦争の趨勢を左右する台風の目になるだろう。冬木のセカンドオーナーとしてもマスターの一人としても、一刻も早く排除するべきだ。
 夜は更けていく。
 其々の思惑を風にのせ、戦況が動こうとしている。 <> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:22:13.70 ID:5lRPl6Cs0<> 「そうか。ああ分かった……続きは追って連絡する」

 ピッと切嗣は舞弥との通話を切る。
 悪い情報だ。ハイアットホテルの爆破により抹殺した筈のケイネス・エルメロイの生存が報告されたのである。
 ケイネスが新たな拠点としたのは三度目の儀礼でエーデルフェルトが用意した双子館。
 切嗣はこの聖杯戦争に臨む下準備として冬木市内の住居や地形などは頭に叩き込んでいる。そのため外来の魔術師が工房を作るのに最も適した館だった双子館は事前にマークしていた。お陰で逸早くケイネス・エルメロイの居場所を確認できたのは良いが、やはり彼の生存は痛い。

(あの双子館では爆破解体なんて手法も使えないな。ハイアットホテルは従業員に暗示をかけて爆発物を運ばせただけだったから簡単だったが……まさか魔術師の工房に暗示をかけた一般人を送って意味があるようにも思えない)

 ケイネス・エルメロイ自身一度爆破という手段で命を奪われかけたのだ。それに対する備えも万全だろう。
 伊達にケイネスは最年少で講師となったのではない。名門の出というだけでなくケイネス・エルメロイが真実優れた才能と実力をもっていたからこそのロード・エルメロイなのだ。
 その彼に二度も同じ手段が有効と考えるほど切嗣はお気楽ではなかった。

(相手がケイネスだけならいいが、奴にはクーフーリンがついている。原初のルーン18を修めたルーン魔術師だ。必ず工房の構築にもランサーを使っているだろう)

 ケイネス・エルメロイとクーフーリンの構築した工房。その防御を突破し見事に侵入できるか否か。
 切嗣はこれを"可"であり"不可"とした。
 侵入することは出来るだろう。固有時制御で自分の体内時間を減衰させ存在を薄めれば可能ではある。だがそれにはかなりの時間を要する。
 これでは結界の監視は誤魔化せてもランサーやケイネスが肉眼で切嗣を発見してしまう。
 ハイアットホテルの爆破解体から逃れた以上、長距離からの狙撃や砲撃というのも通用するか疑わしい。それこそアーチャーのように宝具を矢として放てない限りは。

(セイバーのエクスカリバーで双子館を吹き飛ばす? 馬鹿な。そんな真似してみろ。エクスカリバーの破壊は館のみならず周りの街まで諸共消し飛ばす。監督役に目をつけられ要らぬペナルティを負うだけだ。こちらの手の内を晒すことにもなる)

 今はまだ序盤。ケイネスだけを倒せば聖杯戦争が終わるわけではない。ケイネスの後にまだ四組が残っているのだ。
 エクスカリバーは火力でこそ最強と断じられる威力だが、対策手段がないわけではない。切り札はとっておくべきだろう。
<> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:22:56.70 ID:5lRPl6Cs0<> 「………………いや、わざわざセイバーを主力に用いることはない」

 衛宮切嗣の体内にはセイバーの失われた宝具であり、召喚に用いた聖遺物でもある『全て遠き理想郷』がある。
 この聖剣の鞘が切嗣の中にあり、セイバーと契約をしている限り切嗣は即死級のダメージからも瞬時に回復することが出来るのだ。
 そしてこの回復力を利用すれば、身体への負担が大きすぎて二倍速までしか扱えない固有時制御の出力を四倍まで跳ね上げることが可能である。
 更に切嗣自身の魔術礼装『起源弾』。切嗣の第十二肋骨で作られた魔弾は、これに触れた相手に対して強制的に切嗣の起源である『切って』『嗣なぐ』という事象を発現させる。
 しかし切断と結合は『回復』を意味しない。
 紐を切って結べばそこに結び目が生まれるように、それは不可逆への変質だ。
 この弾丸によって受けた傷は瞬時にに『結合』され、血が出ることもなくまるで古傷のように変化する。そして不可逆の変質を遂げた箇所はその機能を喪失してしまう。
 起源弾が最も効果を発揮するのは相手が魔術師であった場合だ。
 魔弾を魔術で防げば最後、切断と結合は魔術回路まで達し、魔術回路を通っていた魔力を暴走させ術者本人を傷つける。
 魔術師殺しの異名に相応しい極悪にして悪辣の極みたる礼装といえよう。

(アヴァロン、起源弾、固有時制御……相手は時計塔の一流講師だが、ケイネス自身が何か戦場で武功をあげたというデータはない。謂わば戦いの素人。サーヴァントがいなければ勝機はある)

 ケイネス・エルメロイを確実に抹殺するための策略を描きだした切嗣は、携帯をてにとり舞弥へと掛ける。

『御用でしょうか』

「セイバーを動かす。ケイネス・エルメロイの拠点――双子館から138.46m離れたポイントEで待機させろ。魔力を抑え気配を少なくして……ね」

 アサシンでないセイバーに気配遮断を行うことは出来ないが、身から発する魔力を抑えることくらいは出来る。
 謂わばアサシンがやった挑発行為の真逆だ。 <> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:23:28.50 ID:5lRPl6Cs0<> 「舞弥、お前はセイバーのいるEポイントと真逆、双子館から127m離れたポイントMにて待機だ。偽装の使い魔の配置は双子館の30m〜50m先に配置。だが本命はお前だ。お前はその地点から双子館の様子を逐一観察しろ。奴等の行動をね。ケイネス・エルメロイの陣営の動き次第で臨機応変に対応する」

『状況に合わせてのミッションプランを』

「先ず第一にランサーとケイネス、両名が揃って双子館を出た場合だ。ランサーとケイネスは放置しセイバーと僕とでソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリを襲撃し拉致する」

 ケイネス・エルメロイが婚約者のソラウに対してただの政略結婚以上の思いを抱いていることは掴んでいる。こういった『情』ほど人を強くすれば、逆に弱点にもなりうる。
 彼女を捕えればケイネスを謀殺するも利用するも自由自在だ。ソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリは衛宮切嗣にとって絶好の標的だった。

『分かりました。その場合は私はこの場所でバックアップとランサーとケイネスの監視ですね』

「そうだ。そして第二にランサーが単独で双子館から出た場合。この可能性が一番高いだろうね。注意して聞いてくれ」

『はい』

「ランサーの正体はクーフーリン。真っ向勝負ではセイバーでも必勝を期待できない。だが拮抗するだけなら十分に可能だ。セイバーにはランサーが双子館を出て直ぐに気配を全開にして貰う。いつかのアサシンと同じようにね。アサシンの挑発に真っ先にのったほどだ。ランサーかもしくはケイネスが好戦的な性格なのは確実だ。間違いなくセイバーを追ってくるだろう」

『セイバーを生餌として使うと?』

「正解だ。セイバーがランサーを引きつけている間に僕は単独で双子館に乗り込み、僕がケイネス・エルメロイを殺す」

『ケイネス・エルメロイが令呪でランサーを召喚する危険性がありますが?』

「その場合は仕方ない。こちらも令呪でセイバーを呼び出すだけだ。でも、それは十中八九ないだろうね。奴は自分の栄光に華を添える為に聖杯戦争に参加した。それが敵マスターと遭遇したからといってサーヴァントを令呪で呼び出すはずがない。必ず自分の手で僕を殺そうとするだろう。魔術師らしく魔術を使ってね」

 魔術師ケイネスが幾ら強くとも、この身は魔術師殺し。魔術師にとってのジョーカー。
 相手が生粋の魔術師であればあるほどに、衛宮切嗣は天敵として機能する。
 
「最後にケイネス自らが単独で双子館を出た場合。先ずないだろうが、その時はセイバーを双子館に向かわせて、僕がその間にケイネスと戦う――――以上だ。質問は?」

『ありません。ではセイバーに指示を伝えますので後ほど』

「頼んだ」 <> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:24:03.87 ID:5lRPl6Cs0<>  電話を切ると切嗣は腰を下ろしていたベッドから立ち上がる。そして近場のファーストフード店で購入しておいたハンバーガーを口へと運んだ。
 衛宮切嗣は一週間飲まず食わず眠らずでも戦闘行動を可能とする鋼の精神力の持ち主である。だが、だからこそ食べられる時に食べておくことの必要性も理解していた。
 どれほど屈強な戦士でも何も栄養を摂取しなければ、いずれは死ぬのだから。
 切嗣の脳裏に飢餓の国での光景が過ぎる。
 骨と皮だけの体でスズメの涙ほどの食糧を糧とする人々。その人々を更に食い物とする一部の富裕層。
 地獄は地獄にしかないと――――平和な微温湯にいる者達は思っているだろう。
 だが違う。地獄は直ぐ隣にある。気付かないだけで地獄と日常は隣り合わせなのだ。
 どれだけ崇高な正義を掲げようと僅かに零れる一を救うことは出来ない。
 切嗣に出来るのは目に見える範囲で一を切り捨て十を救うことだけだ。
 負の連鎖。連鎖する地獄。
 これを断ち切ることは人の手によっては不可能。
 聖杯という『奇跡』でしか誰もが幸福な世界は有り得ない。

――――だが忘れるなかれ、天秤の測り手よ

――――自らの救済には必ず切り捨てられる者がいることを

「忘れないとも。例えこの世全ての悪を背負うことになろうとも、その命を忘れるものか」

<> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:24:36.42 ID:5lRPl6Cs0<>  セイバー陣営の拠点たる日本邸宅。
 マスターである切嗣とは常に別行動をとっているせいか、この邸宅で待機するという事を守る分にはセイバーには自由行動が与えられていた。
 だが本人の性質なのか根が真面目なのか、自由を与えられたセイバーがしていることといったら見張りくらいだった。
 流石にそれでは味気ない。自分にとってもセイバーにとっても。
 そう思ったアイリスフィールはセイバーを誘い他愛ない話に興じていた。
 話の種は主にセイバーの過去についてだ。
 最初は王としての生活やらについての話だったのだが、何時の間にか話は巡り巡り家族関係についてとなっていた。

「――――私がウーサー・ペンドラゴンの嫡子なのは知っての通りです。ですが血が繋がっていようとウーサー・ペンドラゴンが家族だったとは言えませんでした。私は幼き頃はウーサーを父とは知りませんでしたから」

「貴女も大変だったのね」

 アインツベルンの技術の粋たるホムンクルスのアイリスフィールも、その出生は複雑だ。
 しかし英霊だけありセイバーの出生もかなり入り組んでいた。

「いえ、そうでもありません。育ての親こそ実父ではありませんでしたが、幼い私はそれを知りませんでしたし知ってからも敬愛の念が消えたことはないのですから」

「そう。なら良かったわ。彼のアーサー王の育ての親ですもの。きっと素晴らしい養父だったのでしょうね」

「はい。それに私には物心ついてより寝食を共にした兄がおりました」

「知ってるわ。たしかサー・ケイ……だったかしら」

「はい。よく御存知で」

 サー・ケイ。後の円卓の騎士の一人であり最古参の騎士だ。 
 知名度は兎も角、その歴史はサー・ランスロットにも勝る。 <> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:25:28.99 ID:5lRPl6Cs0<> 「私はケイを兄として慕っていましたし、その感情は私が選定の剣を抜き王となってからも衰えることはありませんでした。立場が変わり時に口を尖らせながらもケイは良く私のことを助けてくれた」

「えーと、まさか貴女より強かった、ということはないわよね」

「それは……私の方が強かったでしょう。湖の騎士や太陽の騎士の手前、私があの時代で最強の技量をもっていたなどと憚るつもりはありませんが、ケイと私が剣技で争えば試合では私が勝つでしょう」

「やっぱり。伝承で聞く貴方の義兄上はお世辞にも強かったと記されてはいなかったし」

「……いえ。確かにケイの剣技そのものは私に劣るのですが、私は一度も兄君を倒せたことはなかった」

「え? どういうこと?」

 剣技においてはセイバーがケイよりも遥かに強い。
 ならば二人が戦えばセイバーが勝つのは当たり前だ。少なくともアイリスフィールはそう思う。

「兄君と戦うと――――勿論、木剣を使ってのものですが――――必ず最後は口論となるのです。そして気づけば試合では勝っても、勝負には負けているということになっていました。少なくとも快勝したことは一度としてありません」

「うーん。切嗣もクルミの冬芽探し勝負で『これも実はクルミの一種だから』なんて言って対戦相手の知らないクルミをクルミだって言い張ってたりしたけど、それに似たようなもの?」

「マスターがクルミの冬芽探しなどにわかに信じがたいことですが……そんな程度の屁理屈は比べ物になりません。私も一人の妹――――いえ弟としても王としても兄君と弁論を交わすことは多々ありましたが、一度として勝てた試はなかった」

「あ、貴女が一度も?」

 セイバーの雄弁技能を知るアイリスフィールには想像もできないことだ。
 切嗣の対戦相手こと娘のイリヤも、なんだかんだで最後には切嗣の屁理屈を打ち破っていたというのに、セイバーほどの王が一度も(口先とはいえ)勝てないとは。
<> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:26:10.63 ID:5lRPl6Cs0<> 「はい。私など兄君の足元にも及びません。サー・ケイにかかれば火竜すら呆れて飛び帰る、と謳われたほどの饒舌家なのですから」

「凄いのだか呆れればいいのか、今一分からないわね」

「何を言いますかアイリスフィール。その才覚こそ、政で国を動かす上で必要であったと、王となってから嫌というほど思い知ったのです。ただの弟であった時も王となってからも、あの人に対してはもっぱら苦言続きでした」

「もしもこの聖杯戦争が剣をもってではなく弁論をもって行う闘争であるならば、間違いなくサー・ケイは最強のサーヴァントだったでしょう」

「頭が上がらなかったのね」

「はい。矢銭のやりくりなどは私は不得手ですからね。そこへいくとあの人は釘一本すら無駄にしません。私が全幅の信頼を置いて後陣を任せられたのは、サー・ケイを置いて他にはいません」

「そのケイは貴女が女だってことは知っていたの?」

「はい。寝食を共にしていたくらいですから。ただマーリンから堅く口止めされていたので、生涯秘密は守って下さいましたが」

「……もし切嗣が召喚したのが貴女じゃなくて、そのサー・ケイならどうなってたのかしらね」

「想像になりますが――――兄君のことです。貴女やマスターを上手く言いくるめて、自分は拠点に待機したまま指示をするくらいでマスターを馬車の如く働かせたでしょう」

「それってマスターとサーヴァントの立場が逆なんじゃ」

「マスターの暗殺者としての技能は非常に優れている。反面、兄上の技量は三騎士クラスと比べればやや見劣りする。なのでマスターがアサシンのサーヴァントのように街へ潜み、自身は後衛に身を置き指示を出すというスタイルをとったでしょう。いや、とるように誘導していたでしょう。……率直に言って、とてもではないが敵にしたくはない。もし私が敵ならば真っ先に彼等を狙うでしょう」

「――――――」

 セイバーが断言するほどだ。
 切嗣とサー・ケイが組めば、スペックこそ見劣りするが色んな意味で優勝候補となれただろう。
<> 第11話 ザ・メモリー・オブ・シルバー<>saga<>2012/11/18(日) 22:27:08.07 ID:5lRPl6Cs0<> 「そのケイが……いえ兄君が一度だけ。私が風邪を引いて休んでしまった時に―――――」

 セイバーが続きを言うことはなかった。
 襖が開く。入って来たのは端正な顔立ちに無表情を張りつかせた舞弥だった。
 緩んでいた空気が一瞬にして引き締まる。

「マダム、お話し中のところ申し訳ありません。切嗣からの指示です、セイバーをお借りします」

「ええ。セイバー、貴女もいい」

「無論です。この身は戦うためのもの。マスターが私を使うというのであれば従いましょう」

 ダークスーツを着ていたセイバーの服装が一瞬にして白銀の甲冑へと変わる。

「アイリスフィール、この話の続きはいずれ」

「本当は私の娘のことや切嗣のことも話そうと思ってたんだけれど。まぁいいわ、この戦いが終わって貴女が帰ってきたら続きを話しましょう」

「……はい。それでは行きます」

 セイバーとの話が終わると舞弥が見慣れない子機のようなものを手渡してきた。

「これは?」

「もしも何かがあればこのボタンを押してください。私に、もしも私が出られなければ切嗣に緊急警報がゆくようになっています」

「ありがとう。もしもの時は頼むわね」

 舞弥は会釈をするとセイバーを伴って出ていく。
 聖杯戦争はまだ序盤だ。まだセイバーを入れても五騎ものサーヴァントが冬木に潜んでいる。
 そう。敵はまだ五騎もいるのだ。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/18(日) 22:34:50.54 ID:5lRPl6Cs0<>  今日はここまでです。動画版と違って後書きがないので英雄王の出番はありません。
 セイバーのお義兄さんがツンデレする話の内容が知りたい方はホロウを購入して下さい。

>>102
妙に私の頭にスタカンというフレーズがこびりついていたので使用しました。

>>103
元が最悪なので相対的に良く見えるんじゃないでしょうか。あと召喚早々ぶっ刺された龍之介を忘れないで下さい。

>>104
ライダー陣営は主従逆転、キャスター陣営はCOOLしてたとみると普通に主従してたペアは一組もいませんね。

>>105
登るかも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 03:26:10.34 ID:QE7liVS0o<> おつー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/11/19(月) 03:50:50.01 ID:wG73anZYo<> おつー、誰かやってくれないかなーと思ってたネタだから期待。
上がってた時にたまたま発見できて良かった。
4次英霊でも5次英霊でも大当たりを引いてるウェイバーくんは幸せ者ですね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/19(月) 08:06:16.16 ID:ISMUyEXIo<> 乙、兄貴なら先生も生き残れそうな気がしてきた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/11/19(月) 08:06:45.41 ID:07CX3XaIO<> この手のSSは作者のオナニーになりがちだけどここの>>1は各陣営納得がいく話の進み方で素晴らしいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage saga<>2012/11/19(月) 16:32:14.13 ID:flSqrlHT0<> 上手いのぅ 次の更新も期待 <> アンドリュー・スプーン <>saga<>2012/11/19(月) 22:17:15.51 ID:uFzScOD/0<>  そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 22:18:56.71 ID:TZOol6o6o<> わくわく <> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:19:09.49 ID:uFzScOD/0<>  セイバーと舞弥が出撃してから十数分。
 アイリスフィールは所在なさげにTVをつけた。幾ら外に興味があるといってもセイバーの護衛もなしに外出することは出来ない。
 自分はマスターではないが、ある意味においてマスター以上に聖杯戦争の趨勢を担う聖杯の守り手なのだから。
 その点、TVというのは便利だ。
 家の中にいながら外のことを知ることが出来る。なによりアインツベルンの冬の城にはTVなんてものはなかった。

『冬木市では連続するガス漏れ事件による被害が相次いでいます。幸いにして未だ死者は出ていませんが――――』

 聖杯戦争期間中に連続するガス漏れ事故。
 この二つは無関係ではないだろう。

「サーヴァントの魂喰い、かしらね」

 力量不足のマスターが自分のサーヴァントに命じてやらせているのか、それともサーヴァントの独断か。
 どちらかは分からないが、十中八九これはサーヴァントの仕業だ。
 しかしこの分だと魔術の隠蔽は上手くやっているらしい。
 俗世間には疎いので自信はないが、ニュースで映し出される事件内容には不可解な臭いというものが欠片もしない。隠蔽が完璧だという証拠だ。

(このことを切嗣に報告――――いえ、切嗣ならとっくに気付いてるでしょうね)

 戦いの素人の自分が気付くのだ。魔術師殺しとして名を馳せていた切嗣が気付かない筈がない。
 こうやってニュースを見ていても切嗣の得になるような情報は恐らくはないだろう。
 だがどうせ何もする事が無いのだ。もしかしたら今やっているニュースが少しでも役に立つかもしれない。
 それならこの行為は"無価値"ではない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 22:19:10.05 ID:YSat/US+0<> まってました <> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:19:42.93 ID:uFzScOD/0<> 『次のニュースです。二日前に穂群原学園で発生した爆発事件を受け穂群原学園は臨時休校となっています。依然として犯人は見つかっておらず、警察は生徒の悪戯ではないのかと――――』

 聖杯戦争第一戦。アサシンとランサーの戦いの方も上手く処理されているようだ。
 お礼を言う気は毛頭ないが、聖堂教会の隠蔽能力には舌を巻く。流石はナチスと陸軍の介入があった第三次聖杯戦争を上手く世間に隠し通しただけある。

『冬木ハイアットホテル、冬木チープトリックホテルでの爆破テロについての速報です。TV局に犯行声明を出していた左翼テログループ"こだわりのある革命家の集い"の暫定的永久指導者、ダイクストラ議長と名乗る人物について――――』

「……………」

 胸が痛む。切嗣は自分に何も言ってくれなかったが……これをやったのは恐らく切嗣だろう。アイリスフィールには分かる。
 言峰綺礼とケイネス・エルメロイ、二人のマスターを仕留めるための爆破解体。
 非常に効率的で悪辣で非道なる戦術。
 犠牲になった一般人の中にはイリヤと同い年の子供もいただろう。母親や父親、愛し合う恋人、仲の良い友人。
 それらの人々をあの爆発は一瞬にして奪い去っていったのだ。
  <> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:20:40.65 ID:uFzScOD/0<> 「――――――――ッ!」

 頭に奔るビリッとくる衝撃。アイリスフィールは頭を抑える。
 この感覚、屋敷に張り巡らせている結界が突破されたのだ。しかも魚の骨だけを綺麗に取り出すような丁寧過ぎるやり方。人間の魔術師に出来ることではない。キャスターのサーヴァントだ。
 アイリスフィールは舞弥から受け取った発信機のボタンを押す。これで緊急サインが舞弥か切嗣に届いたはずだ。

(上手く動けるかどうか分からないけど……!)

 自分の武器である針金をとる。
 一人分のサーヴァントを既に納めてしまっている為、全開とはいえないが――――それでも抵抗しないよりはした方が良い。

『――――ふふふっ。無駄よお嬢さん。いいえ、貴女の場合はレディかしらね。この時代の魔術師ならいざ知れず、神代を生きた私にとってそんな魔術、児戯に等しくてよ』

 和室に突如として黒いローブで顔まで包んだ女性が現れた。やはり姿かたちからしてもキャスター(魔術師)のサーヴァント。
 しかし平然としているがとんでもない。
 純粋な空間転移は魔法に近い魔術だ。現代の魔術師ならそれを行うのには令呪のような超常のバックアップを使うか、大規模な魔術式を構築しての儀式が必要となる。
 けれどキャスターはそれをあっさりとやってのけたのだ。
 魔術師なんてとんでもない。彼女は魔法使いクラスの魔術師だ。
 キャスターの英霊は伊達ではないということか。

「……人の家に土足で踏み込むなんて随分な非礼ね、キャスター」

「あら。人の住む建築物を爆破する方がよっぽど非礼じゃないかしら」

「――――――――」

 口での勝負でもキャスターが一枚上手か。
 普通の魔術師ならサーヴァントを前にすれば自然と後退していただろう。
 だがアイリスフィールは逆に慎重に距離を詰めた。キャスターにばれぬよう細心の注意を払って様子を伺う。 <> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:21:31.50 ID:uFzScOD/0<> (キャスターのローブに施されている意匠には見覚えがあるわ。あれは古代ギリシャのもの。これだけじゃキャスターの真名は分からないけど魔術師なら接近戦は苦手なはず)

 アイリスフィール自身もサーヴァントの魂を取り込んだ影響により接近戦などこなせない体調なのだが、相手の得意な距離に身を置くよりはマシだ。
 サーヴァントを倒せるとは思えないが、キャスターが隙を見せれば、急所たる首にありったけの一撃を叩き込む。
 アインツベルンの特性は力の流転と転移。魔力を通した針金は人間の肉など容易く切り裂く切断力がある。
 これをキャスターの首に巻きつける事が出来れば。
 しかしアイリスフィールの狙いなどキャスターにはお見通しだったようだ。

「止めておきなさいって言ったでしょう。幾ら魔力を通した針金でも私は倒せないわ」

「そんなもの――――やってみないと分からないわ! shape ist Leben!」

 針金がアイリスフィールの意のままに動き出す。そのまま針金は意志もつ蛇のようにキャスターの首へと向かっていく。
 だがキャスターの言う通り、そんなもので魔術師の英霊は倒せない。

「無駄よ」

 キャスターがクイと人差し指を動かす。
 それだけの一工程で針金に通されていた魔力は霧のように雲散してしまった。魔力を失った針金は元の無機物となって停止する。

「まだ!」

 一度失敗したならもう一度。針金に再び魔力が伝わる。
 針金は床を切り裂きながらキャスターに迫った。だがやはり無駄。キャスターが紫色の魔術障壁を発生させる。
 傍目で分かるほどの魔力が込められたその障壁はセイバーの甲冑すら上回ろう。剣の英霊の甲冑を超える障壁が針金で撃ちやれる道理は微塵もなく。
 針金はあっさりと弾かれ、アイリスフィールの手を離れあらぬ方向へと吹っ飛んでいった。
<> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:22:16.68 ID:uFzScOD/0<> 「ふふふふっ。何度やろうと同じ、現代の魔術師如きに魔術戦でやられているようでは私はキャスターのクラスを預かったりしないわ」

「…………」

 それはそうだ。元よりサーヴァントを打倒できるのはサーヴァントだけ。
 一つの時代で最強と謳われるまでに至った超越者に対抗できるとしたら、現代において最強と謳われる一握り中の一握りのみ。
 アインツベルンによって特別な調整が施されたアイリスフィールは常人を遥かに超える魔力量をもつ。だがサーヴァントには勝てない。
 仮にもし魔力量で張り合えたとしても、それを扱う技量がサーヴァントは桁外れなのだ。
 そんなことは聖杯であるアイリスフィールが誰よりも知っている。

「そう恐がらなくても、抵抗しなければ別に殺したりはしないわ。貴女にはセイバーを手に入れるための駒になって貰わなければいけませんからね」

「セイバーを、手に入れるですって……?」

 倒すではなく手に入れる。その言い方はまるでセイバーを奪いに来たと言っていることではないか。

「あら。そう不思議がることでもないでしょう。私はキャスター、魔術に秀でてはいても直接戦うのは不得手ですもの。一つ教授してあげるわ。魔術師というのは自分が強くある必要はないの。ただ強い者を自分の玩具にすればいいだけ」

「その点セイバーは駒としてとっても良いわ。強力な対魔力とステータス、セイバーを支配下に収めれば聖杯は私のものになったも同然でしょう。なにより彼女はとても可愛げがあるのですもの。あんな無精髭を生やした男に使役されるのなんて勿体ないにも程があるわ」

「セイバーは貴女のものになんてならないわ! いいえ、聖杯で願いを叶えられるのは一組だけ。聖杯に託す祈りのあるセイバーが貴女に従うわけがない」

「貴女はそう思うでしょうね。現代の魔術師の貴女ならば」

 妖艶に微笑むキャスターに悪いものを感じ、アイリスフィールは後ずさる。
 このサーヴァントならばやりかねない。キャスターが神代に生きた魔術師ならば、アイリスフィールも知らない方法でセイバーを自分のものにする、なんて芸当が可能なのかもしれない。
 だが現状でアイリスフィールが出来る事はもうなかった。
 魔術戦を挑んだところで100戦やって100度負けるだろう。万回やれば万度負ける。
 逃げようにもサーヴァントを納め人間との機能を一部削ぎ落としたアイリスフィールに全力疾走するような体力はない。
 それでも精一杯の抵抗を込めて。

「人質をとろうとしているならお生憎ね。私は人質になんてならないわ。私の夫は――――衛宮切嗣は己の理想のためなら、妻さえ犠牲にできる強さをもっている」

 その強さはある意味において弱さでもあるのだろう。夫を愛するアイリスフィールにはそのことが誰よりも分かってしまっていた。
<> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:22:49.04 ID:uFzScOD/0<> 「貴女も、どうにも理解できない女ね。女ならば夫に誰よりも愛されたいと思うものでしょうに。理想なんて下らないもののために妻を犠牲にする夫によくもそこまで入れ込むものね。私には到底理解できないわ」

「……そう」

 変なものだ。こうして絶体絶命の危機に陥っているというのにアイリスフィールはキャスターに同情してしまった。
 同じ女だから、いいや妻だからだろう。キャスターが嘗て愛に酷く裏切られたのだろうということが容易に想像できてしまったのだ。

「だけど私に悔いはないわ。私が死んで理想を遂げた後、あの人はその生涯の全てを娘のために捧げると誓ってくれたんですもの」

 堂々と言い放つ。自分の生涯に悔いはないと。
 例え夫の理想の贄とされても、夫が娘のために生きてくれるのならば後悔はないと。太陽のような晴れ晴れとした笑顔を浮かべ断言してみせた。
 そのアイリスフィールを見て、キャスターは太陽に目が焼かれぬように目を逸らし笑い始めた。

「あは、あははははははははははははははは! そう、そういうこと。人間離れして美しい顔をしてはいたけど、そういうこと。貴女、人間じゃないわね。フラスコの中で生まれた人ではないお人形。ホムンクルス。それならお人形みたいな理想の母親を演じられるのも当然よね」

「私は人形じゃないわ。ホムンクルスというのは否定しない。けれど私は一人の人間としてあの人を愛した。その事実だけは例え誰であろうと覆せはしない」

「ええ、貴女はとても愉快で哀れで道化で――――腹立たしいわ。安心なさい、貴女は殺してあげないわ。だけど貴女が愛する夫は殺めてあげる。貴女も私と同じになりなさい」

「―――――ッ。まさか貴女の真名は」

「お喋りが過ぎたわね。この気配、セイバーと貴女の大事な夫が近付いてきている。おやすみアイリスフィール、貴女が夢から覚めた時。貴女がどういう顔をするか今から楽しみでならないわ」

 抵抗する間もなかった。
 キャスターが上手く聞き取れない言葉を呟くと、辺り一面に眠りの霧が立ち込める。 
 神秘はそれを超える神秘によって打ち倒されるもの。ホムンクルスという神秘も神代の魔術には叶わず、アイリスフィールは深いまどろみの底へと堕ちていった。 <> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:29:29.82 ID:uFzScOD/0<> 「う……。ここは……どこ?」

 桜が目を開ければ、そこは今まで見た事のない場所だった。
 鼻をくすぐる古い木材の匂い。
 澄み切っていながら、どこか歪なものが混ざった空気。
 ここはどこだろうか?
 今日は九時にお爺様に蟲蔵へ来いと申し付けられていたのに。
 蟲蔵に行かずに済んで良かった、とは思わなかった。寧ろどうして行けなかったんだという後悔が勝っていた。
 もし申し付けられた時間に蟲蔵へ行かなければ、その次はもっと酷いことになる。
 そのことを桜は良く知っていた。

「桜ちゃん……起きたのかい?」

 聞きなれた声が後ろから掛かった。
 誰だっただろうか、と首をかしげつつ背後を見る。

「…………」

 顔を隠す様にすっぽりとローブを被ったその人は桜にとって馴染み深い人物だった。
 間桐雁夜。どうしてか知らないけれど、いきなり間桐の家に戻ってきた人。
 自分が間桐桜ではなく遠坂桜だった頃はよくお見上げとかを貰ったことがある。
 優しかったおじさん。特別なことはないけれど、いつも優しく笑っていた人。けれどそれはもう見る影もない。
 蟲蔵での修練で体はズタズタにされ、顔も左半分は歪んでしまった。まるで幽鬼のようだ。

「おじさんが私を此処に……?」

「ああ。俺と俺のサーヴァントがやったんだ……」

 雁夜から返ったのは肯定の意。 
 桜に若干の苛立ちが宿る。
 どうしてこんなことを。お爺様の言う事を聞かなければ酷い目に合うのは自分なのに、と。

「早く帰して下さい。お爺様との約束を破ったらお爺様は怒ります。蟲蔵にいる時間だって――――」
<> 第12話 セイント・レディ&メイガス・レディ<>saga<>2012/11/19(月) 22:33:31.33 ID:uFzScOD/0<>  言い終わる前に雁夜は桜を抱きしめていた。
 蟲に侵されボロボロの雁夜の両手、解こうとすれば解けたが、どうしてか桜にはそういう気は起きなかった。

「もう大丈夫だ。もう何も、あの妖怪に怯える必要なんてないんだ。俺が……俺とキャスターが桜ちゃんを守る。葵さんのとこにだって帰す。俺は……」

 壊れた雁夜の目から透明の滴が零れる。
 滴は桜の額に当たり頬を伝った。

「もう恐がることはないってどうして?」

 そんなことは無意味だ。
 間桐家にあってお爺様――――間桐臓硯とは絶対的なもの。抗えるはずがない。桜は間桐邸の門を潜ったその日に、その動かし難い事実を受け入れたのだから。

「……聖杯を手に入れるのは俺だからだ。俺はバーサーカーを失ったけど、お蔭でキャスターと会うことができた。キャスターは臓硯や時臣なんて比べ物にならないくらい凄い魔術師なんだ。キャスターがいれば誰にも負けない。聖杯だって手に入れられる。そうすれば本当に……君は自由だ。魔術や聖杯戦争なんて関係のない場所で――――」

 桜は頬を濡らした滴に触れてみる。
 温かい。この温かさに触れたのは何時以来だっただろうか。
 ほんのりとした温かさを感じながら桜は再び微睡の中に溶けていった。
<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/19(月) 22:38:23.49 ID:uFzScOD/0<>  今日はここまでです。次は恐らく三日後です。

>>123
 ウェイバーは性格ではなく力量的にアサシンとかとは相性が悪いかも。

>>124
 死亡フラグの塊ペアですから、どうなることやら。

>>125
 この話の主人公は切嗣ですが群像劇でもあるので全てのペアに見せ場があるようにします。龍之介? あれは例外です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 22:40:15.17 ID:YSat/US+0<> 桜ちゃん無事て事は蟲じじい死んだか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 22:42:34.01 ID:TZOol6o6o<> キャスターならやってくれると信じてました


……つか、自分だけで操れるサーヴァント得たら、おじさんはこうするよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 22:43:31.53 ID:QE7liVS0o<> おつー
まあ龍ちゃんの見せ場とかアート制作くらいしか無いしね… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage saga<>2012/11/19(月) 23:39:11.19 ID:flSqrlHT0<> キャスターなら桜の体の調整も出来るな 聖杯の欠片もまだだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage saga<>2012/11/20(火) 00:30:14.10 ID:nhBmXBXo0<> アチャに消し飛ばされる絵面しか見えないなやっぱ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/11/20(火) 11:10:34.28 ID:jyCmh87r0<> おつですー!
キャスターが凄い… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/20(火) 13:41:36.09 ID:GwceRSTG0<> 龍ちゃんは本編でパーフェクトに報われてるからねえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/20(火) 17:57:06.32 ID:QxJemrr80<> やべぇこれは良いスレ発見した

というかあまりにもガチすぎてなんでVIPなんかでやってんのか疑問がでてくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage saga<>2012/11/20(火) 18:36:59.56 ID:nhBmXBXo0<> ここはSS速報だぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/20(火) 19:02:16.51 ID:YFj8NA0E0<> これはもっと評価されるべき <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/11/20(火) 19:46:22.03 ID:2hN6/Uwho<> 龍之介は自分の血見ることが最終的な目的だったから
描写がないとはいえこのスレでも報われてるかもしれない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/21(水) 00:56:29.63 ID:BLK66qePo<> 龍之介はルールブレイカーで刺し殺されたとしたら即死ではないだろうから
死ぬまでの間に原作みたいに自分の血を見て〜はありえるかもね。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/22(木) 21:54:24.73 ID:7vMyKYQv0<> そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 21:56:31.10 ID:iCv28ZrB0<> まってました <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/22(木) 22:04:18.47 ID:7vMyKYQv0<> >>139
 ちょっとネタバレですが臓硯は死んでません。

>>142
 魔力供給的な意味ならキャスターはベストかも。

>>143
 魔術師として最強でもサーヴァントとして最弱なメディアさんですから。どうなることやら。

>>149
 龍之介はまぁ……雁夜とキャスターを組ませようという段階で脱落は決定的でした。 <> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:29:00.41 ID:7vMyKYQv0<>  アイリスフィールからの緊急警報。
 それを受けた切嗣は直ぐさま拠点へと急いだ。
 アイリスフィールはマスターではない。だが彼女の心臓には脱落したサーヴァントを納めるための『小聖杯』がある。
 もしも万が一なにかの拍子に彼女の心臓が傷つく、または破壊されるなんてことがあれば、聖杯戦争そのものが根底から瓦解してしまう。
 今までに犠牲にしてきた数多の命が全て無為になる。それだけは許してはいけない。
 自分自身へかける強化の魔術による身体強化、そして体内時間を加速させる固有時制御の四倍速。
 固有時制御は解除されれば、使用していた肉体が外界の時間に合わせるよう世界から急激な修正を食らい大ダメージを負うというデメリットがある。
 故に現実的には加速できるのは二倍速が限度だ。だが切嗣の体内にあるアヴァロンによる蘇生効果が切嗣に四倍までの加速を許していた。
 その速度はもはや下手なサーヴァントを凌駕しよう。

「――――切嗣っ!」

 夜空を裂いて青い閃光が切嗣の隣に並ぶ。
 月に濡れた金砂の髪、人を超えし気配。切嗣の召喚した最優のサーヴァント、セイバーであった。
 彼女も舞弥からの連絡を受け急いで戻って来たのだろう。

「切嗣、捕まって下さい。飛ばします!」

 返事はせず、コクリとだけ頷き切嗣はセイバーの肩につかまる。するとセイバーは鎧を解除した。
 魔力放出、息を吸うだけで魔力を生み出す魔術回路を超えた魔力炉心をもつ彼女のスキルだ。
 応用法は様々で、魔力を使い身体能力を爆発的に上昇させることもできるし防御力に優れた白銀の鎧を構成することもできる。剣士としては小柄なセイバーが他のサーヴァントと互角以上に渡り合うことができるトリックがこれだった。
 そして鎧を解除したということは鎧に回していた分の魔力が必要なくなるということ。
 セイバーは生まれた余剰魔力を足に回し、ジェット噴射の如く跳躍した。
 屋根から屋根へ。電柱からビルの屋上へ。道なりを無視しただアイリスフィールのいる拠点へ真っ直ぐに進む。
  <> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:30:05.34 ID:7vMyKYQv0<> 「……結界が」

 拠点を視界に収めた切嗣が歯噛みする。
 あの武家屋敷を拠点とするにあたりアイリスフィールと共同で構築しておいた結界が綺麗さっぱり消滅していた。
 即席とはいえただの魔術師にあそこまで綺麗さっぱりに、結界そのものがなかったかのように解除することが出来る筈がない。
 結界を突破する手段など幾らでもあるが、大抵は必ず結界が存在した跡くらいは残ってしまうものだ。切嗣とて結界を突破することはできても、結界の痕跡をゼロにするのは難しい。
 それをやってのけるということは、

「結界破壊の宝具をもつサーヴァントか、或いは魔術に秀でたキャスターのクラスか」

「…………」

 切嗣の推論をセイバーは黙って聞いていた。セイバーも同じ考えなのだろう。
 魔術師(キャスター)は最弱のクラス。真っ向勝負では最も弱いが、その分、諜報や搦め手に特化したサーヴァントだ。謂わば切嗣の戦い方に近いクラスともいえる。
 アイリスフィールがもしキャスターの手に落ちてしまえば……最悪の最悪の可能性すらあり得る。
 セイバーが邸宅の前に着地すると、切嗣も肩から手を離す。
 間違いない。邸宅の中から人ならざる者の気配を感じる。敵サーヴァントだ。
 
「マスター、対魔力をもつ私が先行します。マスターは後から」

 セイバーが切嗣を守るように邸宅へ入る。
 もし敵サーヴァントがキャスターだというのなら、対魔力Aで魔術が一切通用しないセイバーは天敵のはずだ。
 しかし油断はできない。切嗣は周囲を警戒しながら、セイバーは切嗣の身を気に置きながら慎重に進んでいく。

「……ここです」

 セイバーが居間の前で止まる。そして切嗣の準備が良いことを確認すると襖を蹴り破り突入した。
<> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:30:50.47 ID:7vMyKYQv0<> 「お早いお帰りね、愛しの妻を助けるナイトの登場かしら。迎えに行く手間が省けたわ」

「…………ッ!」

 息をのむ。黒いローブから覗くのは薄く微笑む唇。
 マスターとしての権限で見るステータスは魔力が断トツで高く他は低ランク。見た目からいってもステータスからいってもキャスターなのはほぼ確実だ。
 しかも最悪なことにキャスターはその腕にアイリスフィールを抱えていた。
 人質のつもりなのだろう。

「キャスターか」

「ええ、その通り。この身はキャスターのサーヴァントよ衛宮切嗣」

「――――――」
 
 切嗣の隣でセイバーが腰を落とす。もしキャスターが隙を見せれば即座に斬りかかれるように。
 だが動けない。セイバーだけではなく切嗣も。
 セイバーがキャスターの首を掻き切るよりも、切嗣がキャスターに魔弾を浴びせるよりも。それよりも遥かに速くキャスターの指はアイリスフィールを殺すだろう。

「マスター」

 セイバーが切嗣の指示を急かす。
 もしも切嗣が一言「やれ」と命じれば、セイバーはアイリスフィールに構わずキャスターを両断するだろう。
 それで全てが解決する。キャスターにセイバーの剣を受け止める術はない。キャスターは脱落し残るサーヴァントは五騎となる。
 だが切嗣は妻を見捨てるという冷徹な決断を下せないでいた。
 アイリスフィールを失いたくない、という感傷に囚われた訳では勿論ない。
 キャスターの魔術がアイリスフィールを殺すだけなら、切嗣もセイバーに「やれ」と命じることが出来ただろう。しかし万が一にもキャスターの魔術が、またはセイバーの剣がアイリスフィールの心臓を破壊してしまえば。
<> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:31:28.72 ID:7vMyKYQv0<> (…………僕としたことが、相手の裏をかくことに慣れていても。裏をかかれることには慣れていなかったということか)

 恒久的世界平和のためには絶対に聖杯が必要だ。
 もしこの機会を逃せば次に聖杯が出現するのは六十年後。六十年後に切嗣が生きている確証がない以上、此度の儀礼を逃すことは出来ない。
 万が一があっては、いけないのだ。 
 
「まさか人質をとるなんて卑怯だ、なんて偽善な事は言わないでしょうね。私のやってることなんて、貴方と比べたら遥かに良心的よ。なにせ私はまだ誰も殺していないのですしね」

 キャスターが切嗣を嘲笑う。  
 セイバーがゆっくりと不可視の剣を傾け、

「止めておきなさいセイバー、貴女じゃ私には勝てないわ」

 全てを見通していると言わんばかりに艶然とキャスターが言った。

「そこの衛宮切嗣、彼のマスターとしての素養は平均より少し上といった程度でしょうね。だけど所詮はただの人間、私達サーヴァントを正しく生前と同じ状態にするにはお粗末極まるわ」

「貴様とてそれは同じだろうキャスター。貴様もサーヴァントである以上、マスターからの魔力供給で身を保っているはずだ」

「あら。それは早合点ね。私達サーヴァントは元々魂喰いでしょう。なら魔力供給する方法はマスターからの魔力供給だけじゃない」

「キャスター、貴様は――――っ」

「ふふふふ。今やこの街の全てが私の魔力供給源。謂わば私は、千人ものマスターから魔力供給を受けているようなもの。今の私なら貴女が隠し持つ宝具でも無制限に扱えるわ」

 キャスターは嘘を言っていないだろう。
 切嗣はここ最近冬木市でガス漏れ事故が多発しているというニュースを聞いている。あの事故はキャスターの魂喰いの影響だったのだ。

(だが幾らキャスターだろうと街中の人間から大規模に魔力を吸い取るなんて…………ああ、そういうことか。この冬木の霊脈は円蔵山の柳洞寺へ集約される。謂わば川の最上流。あそこに陣取ったなら、魔力を吸い取るなんてお手の物だろう。キャスターのサーヴァントなら)

 キャスターの居城は分かったが、状況はなにも解決していない。
 どうにかしてキャスターを出しぬき、アイリスフィールの聖杯を安全に確保しなければ。 <> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:32:17.65 ID:7vMyKYQv0<> 「……何が目的だ」

 いつでも起源弾が装填されたトンプソン・コンテンダーを構えられるような体勢をとりながら訊く。
 潤沢な魔力供給を頼みに真っ向勝負をするつもりなら人質などとりはしないだろう。キャスターは他の目的でこの場に来ている。

「話が早くて助かるわ。私はあなたのことが大嫌いだから、あんまりお喋りしたくもないしね」

「…………」

「ねぇ、衛宮切嗣。奥さんを助けたい? いいわよ。解放してあげても。貴方がその腕を切り落としてマスターを放棄するならば」

「貴様――――!」

 怒気を孕ませセイバーが前に出る。
 しかしそれを切嗣が手で制した。

「怒ることはないでしょう? こちらもかなり譲歩しているのよ。腕一本と妻一人、彼女の夫ならどちらを選ぶべきか考えるまでもないでしょう」

「世迷言を。マスターが令呪を破棄したとしてお前がアイリスフィールを解放するという保証がどこにある」

「嘘じゃないわよ。なんならキャスターの名にかけて誓ってもいい。どうやら魔術師殺しなんて大層な名で呼ばれてるみたいだけど、神代の魔術師の私からすれば貴方程度……地べたの蟻のようなもの。煩わしくても脅威たりえないわ」

「マスター、騙されないで下さい。キャスターが約束を遵守するはずがありません。一度言いなりになってしまえば最後、マスターの全てを奪われてしまいます」

 同感だ。他のサーヴァントは兎も角、キャスターの差し出してきた降伏文書に調印することだけは出来ない。
 ある意味でキャスター以上に悪辣な所業をこれまで行ってきた切嗣だからこそ、キャスターの言う事に従うという危険性が誰よりも分かる。

「アイリスフィールのことは諦めて下さい。貴方は妻のために理想を捨てる人間ではないでしょう。ご命令を」

 あのキャスターを倒すのは簡単だ。セイバーにOKサインを出せば、それだけで片が付く。
 
(……どうにかしてセイバーと話したい。だがここで話してもキャスターに聞かれてしまうだろう。マスターとサーヴァントのラインを使った思念での会話は……駄目だ。奴は神代の魔術師と言った。神代の魔術師ならこの距離の思念会話を盗聴するのは難しいことじゃない)

 その時、切嗣の目に不自然に傷ついた床が見えた。
 なにか細く鋭利なものに傷つけられた切断面。それはただ不規則なものではなく、ある規則に則った『文字』を描き出している。

(床に落ちた針金……それに文字…………これはアインツベルンの魔術文字か。――――ギリシャ? なるほど。アイリ、ヒントを残しておいてくれたのか)

 それはアイリスフィールが夫のために残したヒント――――もしかしたら遺言になってしまうかもしれない一単語。
 キャスターと戦っても倒せないと悟ったアイリスフィールは自分の知る情報だけでも切嗣に伝えようとしたのだ。
 
(ギリシャ、神代。つまりキャスターはギリシャ神話の英霊か)

 切嗣の頭の中に幾人ものギリシャ神話に登場する魔術師の名前が浮かんでくる。
 もしキャスターの真名を暴くことができれば、それが突破口になるかもしれない。 <> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:33:14.62 ID:7vMyKYQv0<>  しかし、キャスターはそれを待ってはくれなかった。

「時間切れよ。結局、貴方は彼女の言った通り『理想』なんて下らないものの為に妻を犠牲とする男だったようね。もういいわ、もう人質は用済み。さようなら衛宮切嗣、せめて妻の遺体に縋ってなさい」

 キャスターの指先に魔力が灯る。
 瞬間、セイバーが動いた。疾風の速度で下段から剣を振るう。不可視の剣が向かうのはキャスターの首。
 するとキャスターも動く。ニヤリと笑いアイリスフィールを盾としたのだ。
 恐らくキャスターからすれば、清廉なる騎士に主君の妻を殺したという汚名をきせてやろう、という下らない欲望を源泉とする行為だったのだろう。
 しかしその行いは偶然にも切嗣の最も弱い個所をついていた。
 セイバーの剣の軌道上、そこにアイリスフィールの心臓は含まれている。

「セイバー、止めろ!!」

 令呪の発動が強制的にセイバーの剣を停止させる。
 いきなり体が止められたセイバーは苦悶の声を漏らしながら、心底信じられないという表情を切嗣に向けた。

「マスター、どうして……?」

 貴方はこんな優しさなどないはずだ、セイバーの目がそう尋ねていた。
 しかし切嗣がセイバーに言葉を返す前に、キャスター懐から不思議な形をした虹色の短剣を取り出していた。

「意外だったわ、土壇場で妻の命を選ぶなんてね」

 知識ではなく本能であの短剣は良くないものだと直感した。
 その短剣をキャスターはセイバーへと向ける。通常ならキャスターの突き刺す短剣など楽に躱せただろうセイバーも、皮肉なことに切嗣の令呪により反応が遅れた。

「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」

 解放される真名と共に短剣がセイバーに突き立てられた。
 その時、切嗣とセイバーとの間の何かが消えた。
 短剣が引き抜かれる。セイバーにダメージらしいダメージはないが、まるで力を失ったように刺された箇所を抑えて苦悶する。
 切嗣は一瞬手の甲に鈍い痛みを感じた。 <> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:33:47.94 ID:7vMyKYQv0<> 「…………!!」

 流石の切嗣も驚きで目を見開いた。
 手の甲。そこにあるべきものが綺麗さっぱりに消滅していた。

「令呪が、なくなっている……?」

 いや令呪だけではない。セイバーと切嗣のラインすら消え去っていた。
 間違いない。これがキャスターの宝具。
 成立した魔術契約・サーヴァントとマスターの契約すら全て虚無へと戻す究極の対魔術宝具。
 裏切りの概念を形としたこんなものを持つギリシャの魔術師といえば、思い当たる真名は。

「コルキスの魔女メディア」

「あら正解よ、だけど遅かったわね。もうセイバーは私の玩具よ」

 さっきまで切嗣の手の甲にあった令呪が今はキャスターの手にある。
 ここに至って知る。キャスターの目的は衛宮切嗣とセイバーを脱落させることなどではない。セイバーを奪う事だったのだ。
<> 第13話 切り捨てる者、切り捨てられた者<>saga<>2012/11/22(木) 22:34:25.34 ID:7vMyKYQv0<> 「Time alter ―― double accel!」

 そのことを悟るや否や切嗣は固有時制御を発動させ動いていた。
 セイバーがサーヴァントでなくなった以上、アヴァロンの蘇生効果には余り期待ができない。三倍速以上は危険だ。
 切嗣はトンプソン・コンテンダーを取り出しキャスターへ発砲した。

「そんなものが効くと思って」

 馬鹿にしたようにキャスターが魔術障壁を展開する。
 トンプソン・コンデンターが如何に火力の高い銃だろうとキャスターの魔術障壁には傷一つとして与えられないだろう。
 もしも発砲される弾丸がただの弾丸だったのならば、だが。

「うっ、ぐぅ、ぁぁああ!!」

 魔術障壁に触れた起源弾は今までに使用された37人と同じように、キャスター(魔術師)に効果を発した。
 キャスターが苦悶の呻きをあげながら後退する。普通の魔術師なら止めを刺すシークエンスに移行しただろうが、キャスターは人ならざるサーヴァント。
 起源弾程度の神秘では英霊という最上位の神秘を滅ぼし尽すには足りない。一時的に魔術回路をショートさせたとしても直ぐに復活するだろう。
 故に切嗣はキャスターに止めを刺すという選択肢を早々に破棄する。
 向かう先はアイリスフィールのもと。

「――――させないわよ」

 思ったよりも回復が早い。キャスターが放つ魔力弾が切嗣に殺到する。しかしやはり本調子ではないのか魔力弾の動きにキレがない。
 切嗣はどうにか魔力弾を躱す。しかし魔力弾が霞めたのか腕の皮が切れ血が噴きだした。
 
「……!」

 悪寒を感じ切嗣が後退する。
 そこへ振るわれた一薙ぎ。この鋭い太刀筋はセイバーのもの。キャスターの令呪により操られているのだろう。
 苦々しい表情を浮かべながらセイバーが切嗣に剣を向けていた。
 セイバーと目が合う。

(アイリスフィールは……無理だ。やむをえない)

 今はぎりぎりの所で保っているが、完全にセイバーが支配されてしまえば切嗣の死は不可避となる。
 そうなる前に二倍速となった身体能力を活かし、切嗣は妻とサーヴァントから背を向け撤退した。
  <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/22(木) 22:37:50.10 ID:7vMyKYQv0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/22(木) 23:19:56.71 ID:onUHaxk80<> 乙
前々から思ってたけどこの切継は原作よりも心が強いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2012/11/23(金) 00:03:23.13 ID:FHzHX+Gd0<> というかSN準拠なら本来切嗣とセイバーはこういうキャラのはず
zeroが色々とおかしいだけで <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/23(金) 00:08:54.44 ID:cp0AbQULo<> 乙です。

キャスター陣営が順調すぎてそのうち反動がありそうで怖いな。
とりあえず桜が幸せになって欲しい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/11/23(金) 01:23:08.12 ID:8E9LigmAO<> >>165
おじさんもな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/23(金) 08:04:00.63 ID:DdEmFn4DO<> 乙
メタ視点でみるとどうにもセイバー組の噛み合ってるようでどこかずれてる感じがあるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage saga<>2012/11/23(金) 12:48:20.59 ID:3KmoapP/0<> しかしメディアは救うための治療は出来ないからなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/11/23(金) 12:51:22.53 ID:S/CWf7av0<> おじさんの嫁になって幸せになるキャスターは確かに見たい。
いや、嫉妬に狂いそうだけどどっちかが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/23(金) 13:37:30.11 ID:Ctq3//UXo<> >>168
よく知らないのだけど、
「本編でやってない」
でなくて、
「設定としてあり得ない」の? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/23(金) 16:24:08.66 ID:TYroe1Sm0<> >>170
どちらかと言えば後者じゃない?
ホロウでギルが寺で暴れて葛木が瀕死の時に行なおうとして失敗した。
まぁ、回復阻害のものってあったし救う為はできないともそのシーンで確か書かれていた。
一応、道具作成なら蘇生モドキは可能とはある。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/11/23(金) 16:42:04.38 ID:TCImFqNAO<> >>171
聖杯が必要だけどな
アンコで葛木を蘇らせてたし <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/25(日) 20:19:57.80 ID:7KF1UANx0<> そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 20:22:27.91 ID:phvoN2GM0<> はーい <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/25(日) 20:31:08.72 ID:7KF1UANx0<> >>163
 ある意味、誰よりも人間的に弱いのが切嗣かも。

>>165
 桜の未来は今後の雁夜と時臣にかかってます。あと切嗣。

>>167
 噛み合ってないというより、切嗣はセイバーをただの道具として使用してるだけで。セイバーの方は切嗣の勝利への執念や戦略を認めているだけです。

>>169
 メディアさんは葛木先生の嫁なので他の男には嫁がないんやで〜。

>>170
 死者を蘇らせるのは生者だけという原則があるので、基本的に既に死んでる死者(サーヴァント)が生者を蘇生することはできません。小次郎が山門から動けないのもそのあたりが関係してます。ただしメディアさんなら汚染された聖杯でも願望器として使用できるので、聖杯で葛木先生を蘇生させることはできます。


<> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:51:13.01 ID:7KF1UANx0<>  酷く心が拒否したくなる景色だった。
 自分の目の前で死んでいる――――つい少し前までは普通に平穏を享受していた人々。
 顔見知りなんて全員だ。
 友人だって沢山いた。
 それが今では死体になって死体を増やし続けている。
 一人が一人を殺し、二人が二人を殺し、四人が四人を殺し、八人が八人を殺し……犠牲者は鼠算式に増えていく。
 彼等はもはや生者ではない。吸血鬼(死徒)が生み出すという意志なき動く屍、死者と呼ばれるものだ。
 死者に自己意識などなく、あるのは人を喰らいたいという飢えのみ。肉親への愛情も、恋人への情欲も、人としての理性も失った人間の成れの果て。
 伝え聞いていた煉獄よりも悍ましい。地獄よりも恐ろしい。
 これが本当の地獄。見ているだけで気が狂いそうになる。夢だと、逃避に浸りたかった。
 だが逃げられない。コレは自分の咎だ。背を向けてはいけない現実だ。
 自分はこの地獄の発端を開いた最初の一が誰だったのか知っている。
 この死者達を最初に生み出してしまった大本の一、彼女の名はシャーレイ。自分が姉のように慕い、同時に仄かな淡い恋心を抱いていた少女だ。
 
―――だからお願い。君が殺して。

 彼女の笑顔が好きだった。いつも弟扱いすることが偶に癇に障ったが、いつか追い抜いてやろうと思う事も出来た。
 その彼女に取り返しのつかなくなる前に殺せ、と懇願された時、自分は在りもしない『正義の味方』に縋って逃げ出していた。
 自分では彼女を助けられない。だが自分以外の誰かなら彼女を救える。
 そんな『正義の味方』に縋った結果がこれだ。
 もしも自分があの時、シャーレイを速やかに殺害していればこんなことにはならなかった。死ぬのはシャーレイ一人で、この島の人々が死ぬ事はなかったのだ。
  <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:51:54.86 ID:7KF1UANx0<>  地獄の中、一人の女と出会う。
 女はナタリア・カミンスキー、賞金稼ぎを生業とするフリーランスの魔術師……いや魔術を手段として扱う魔術使いだった。
 封印指定の執行者と名乗っているものの、魔術協会に所属する正しい意味での執行者ではなく、封印指定の魔術師を協会よりも先に確保しそれを協会に転売するというあくどい商売をしている女性。
 そして今回彼女が来たのもまた『正義の味方』として死者に苦しめられた人々を救う、などという目的ではなく封印指定の魔術師を確保するためだった。
 自分はどうしようもなく悪運に恵まれていた。
 これは確信である。もしもナタリアに偶然にも巡り合わなければ、自分はとっくに死んでいただろう。
 今や自分の過ごしたアリマゴ島は人が人を喰う地獄から、一人の魔術師を巡って二つの勢力が殺しあう戦場となっていた。
 聖堂教会の代行者と魔術協会の執行者。
 異端、死すべしを旨とする狂信者。
 秘奥、回収すべしを旨とする魔術師。
 二つの思想は相容れることはない。
 代行者は異端を殺し尽くすために。
 執行者は神秘の漏洩を防ぎ、原因となった魔道を回収するために。 
 死者を殺しながら生者同士でも殺しあっていた。
 彼等は正義の味方ではない。
 死者ではなく一人前の魔術師とすらいえない自分ですら、彼等からすれば獲物に過ぎないのだ。
 しかしナタリアは良くも悪くも生粋の魔術師でも狂信者でもなかったが故に、自分を殺さずにいてくれていた。
 命の恩人というべきなのだろう。

――――今回の吸血鬼騒ぎの元凶になった悪い魔術師がこの島のどこかにいるはずなんだ。君、何か心当たりはないかい?

 ナタリアは自分にそう訊いてきた。
 心当たりといえば自分には誰よりもあった。
 件の魔術師。アリマゴ島に隠れ住んでいた封印指定の魔術師、彼の名は衛宮矩賢。
 自分の実の父親だった。 <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:53:06.89 ID:7KF1UANx0<> ――――すぐにでも逃げるぞ

 家に帰った父は慌ただしくしながらも、自分が生きていたことを喜んでいる様子だった。
 いや、真実喜んでくれているのだろう。
 矩賢は魔術師として冷酷でありながらも、魔術師の常というべきか身内には甘かった。優しい、と言い換えてもいい。
 同時にどうしようもなく悟ってしまった。

――――あぁ、この人はこれからも同じことを繰り返す。
 
 アリマゴ島という小さくとも一つの世界を地獄へとかえながらも、父には魔道の研究を顧みようとする心は全くなかった。
 これからも父は殺すだろう。
 魔道の研究のため、人々を殺していくだろう。
 同じだ、シャーレイと。衛宮矩賢はこれから多くの人間を殺していくであろう大本の一だ。
 自然と自分はナタリアから渡された拳銃を構えていた。父はなにも気付いていない。息子が凶行に及ぶなど一切思わず背中を向けている。
 尊敬していた。冷たいようでありながら垣間見える自分への愛情、期待。
 魔術師の師として以上に、一人の父親として愛していた。シャーレイを失い、この人まで失いたくない。
 自分の中の人間としての感情が悲鳴をあげる。
 けれど感情に囚われてはいけない。私情をもってはいけない。
 正義の味方なんて世界にはいなかった。全てを救う英雄などはどこにもいない。
 
――――ケリィはさ、どんな大人になりたいの?

 正義の味方に憧れてた。だけど正義の味方は期間限定で大人になると名乗るのが難しくなってしまう。
 自分はこの時、否応なく知った。
 犠牲なき救済なんて有り得ない。幸福という椅子は数が限られていて、どうしても座れない人がいるのだと。
 誰もが幸福で、誰もが犠牲にならない世界なんてないのだと。
 ならばせめて、最小限の犠牲で最大の人間を救うのが最善の選択だ。
 この日、衛宮切嗣は父を殺した。 <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:53:43.42 ID:7KF1UANx0<>  それからの切嗣の生涯はただ自分を苦しめるだけのものだった。
 心を鉄へと変え、あらゆる戦場へ赴いては一を切り捨て十を救ってきた。
 殺めた魔術師の数は両手両足の指を足し合わせても足らない。
 結果的に救ってきた人数はそれの百倍はあるだろう。
 だがキリがない。幾ら救っても救っても、殺せど殺せど。争いは一向になくなってくれないのだから。
 戦いの師であり、母のように想っていたナタリア・カミンスキーもその過程で手にかけた。悲しみがない訳ではなかったが、後悔はなかった。自分の決断が、多くの死を防ぐことになると残酷なまでに知っていたから。
 切嗣の戦いは終わらない。世界に争いがなくならないのならば、切嗣は死ぬまで戦うことを止めれないのだろう。
 父の死。ナタリアの死。そしてシャーレイの死。
 三人が三人とも大切な人だった。自分の命よりも失いたくない人達だった。
 だが自分は顔も知らない誰かの為に彼等を犠牲にした。犠牲にしてしまったのなら、犠牲にしたもの以上の結果がなければ嘘だ。
 体は唯殺すための機械として。心は鉄へと変えて。衛宮切嗣は殺し続ける。

――――けれど、終わりのない戦いが終わるかもしれないという希望を得た。

 魔術師殺しの衛宮切嗣。対魔術師戦のエキスパート。
 その悪名を聞きつけたアインツベルンが、切嗣を来たるべき第四次聖杯戦争のマスターとして招聘したのだ。
 聖杯。本来の用途は根源への到達なれど、同時に聖杯として万能の願望器たる力も備えた杯。

――――人の手ではどうあっても犠牲は防げない。

 そのことを誰よりも知っていた。
 正義の味方がいないことも、救うには犠牲が必要ということも。誰もが幸せな世界など有り得ないのだと。
 だが聖杯ならば、人の身を超える奇跡をもってしてならば人の身に出来ないことが可能のはず。
 即ち、恒久的世界平和。あらゆる戦場を超え、ただの一度の勝利を掴むことが出来なかった男は漸く人生の到達点を見出した。
 アインツベルン側は切嗣に一つの条件を出した。
 それは第四次ではなく次の聖杯戦争の為に完成したホムンクルスを作ること。衛宮切嗣という魔術師の精を提供することだった。
 このアインツベルンの面の皮の厚さには切嗣も半ば呆れたように苦笑してしまった。
 必勝を期して招聘した切嗣に、敗北した場合の備えまでやらせるとは。
 しかし切嗣は首を縦に振った。 <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:54:18.58 ID:7KF1UANx0<>  アイリスフィール・フォン・アインツベルンという切嗣が冬の城に来るのとほぼ同時期に錬成されたホムンクルスは、ホムンクルスの例に漏れず機械的な女だった。
 感情の機微などなく、表情はまったく変わらない。切嗣という未知の男を前にしてもアイリスフィールは眉一つ動かさなかった。銀髪に紅の目という人間離れした容貌は真実人形そのものだった。
 しかし気付けば彼女は人形から人間へとなっていた。感情をもち下らない冗談に笑いを零し、愛情を知る人間となっていた。
 そして切嗣にとっても、アイリスフィールが聖杯を掴むための機械ではなく最愛の妻となっていた。
 今から八年前のことである。
 アインツベルンの冬の城に新たな命が芽吹いた。
 衛宮切嗣とアイリスフィール、二人の間にできた子供。
 もしかしたら次の生贄となるかもしれないという『運命』を背負った少女、二人はその子にイリヤスフィールという名を付けた。
 
「ねぇ。この子を抱いてあげて」

 我が子を抱き抱えたアイリスフィールは切嗣に対して言った。しかし切嗣は頷かない。頷くことなんて出来なかった。
 窓の向こう側、終わりない雪景色を見ながら切嗣は返答する。

「僕には……その子を、抱く資格はない」

 自分は多くの人間を殺してきた。
 一を切り捨て十を救うため、殺した数の何十倍もの人間を救ってきたなんて微塵も免罪符にはなりはしない。してはいけない。
 理由がどうであれ自分は殺人者。今までに殺してきた外道の魔術師となんら変わらない。両手は拭いようのない血で濡れている。
 穢れを知らない我が子にそんな汚れた手で触ることはできなかった。

「忘れないで。誰もそんな風に泣かなくていい世界、それが、あなたの夢見た理想でしょう? あと八年。それであなたの戦いは終わる。あなたと私は理想を遂げるの。きっと聖杯があなたを救う」

 衛宮切嗣の伴侶であり彼の最大の理解者でもある彼女は、慈しむように切嗣の慟哭を受け止める。

「その日の後で、どうか改めて、その子を、イリヤスフィールを抱いてあげて。胸を張って、一人の普通の父親として」
  <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:54:49.06 ID:7KF1UANx0<>  アイリスフィールの真摯な目に逆らえず、切嗣は小さな我が子を抱き抱えた。
 瞬間、涙が溢れる。
 イリヤスフィールは軽い。産まれたばかりの体は、切嗣が戦いの中で使ってきた銃が羽に思える程に体重を感じさせない。
 だが重い。今まで衛宮切嗣が背負った全てより、イリヤスフィールは重かった。
 これが命の重さ。
 思えば殺すばかりの人生だった。殺して殺して、その何十倍の命を救ってきた。
 けれどこんな自分にもたった一つ新たな命を生む手伝いができた。
 涙が頬を伝う。
 八年後、自分はこの子の母親を奪う戦いへ赴く。恒久的世界平和を、顔も知らぬ誰かを救うために最愛の妻を生贄とするのだ。
 ならば、せめて。
 全ての戦いが終わった後、自分の人生の総てをイリヤスフィールに捧げよう。
 顔の知らない誰かなど考えない。正義の味方ではなく、イリヤスフィールだけの味方となろう。
 この身が地獄の閻魔に引き裂かれようと構わない。この世全ての人間に恨まれ批難されようと構わない。
 アイリスフィールを殺す覚悟は当に済ませた。否、恒久平和の為ならば億の命すら殺す覚悟はできている。自分が死ぬのも一向に良い。
 だがイリヤスフィールにだけは争いのない平和な世界で幸せに生きて貰いたい。いや絶対にそうしてみせる。
 恒久平和が実現されれば、もう誰も涙を流す必要などなくなるのだ。誰も銃を握らずに済むようになる。誰も理不尽に死ぬことはなくなるのだ。
 八年後。
 衛宮切嗣はその決意のままに冬木の戦場へと降り立った。
 体は殺すための機械となり、頭脳は敵を殺すための回路となり、心は鉄となった。
 手段は選ばない。
 卑怯悪辣、あらゆる手段を使ってでも聖杯を掴み取る。
 そう。手段は選ばない。どんなことがあろうと絶対に聖杯を掴む。何を犠牲にしても、誰を犠牲にしても。絶対に。 <> 第14話 正義の軌跡<>saga<>2012/11/25(日) 20:55:19.20 ID:7KF1UANx0<> 『――――報告です。キャスターが立ち去った後、セイバーとマダムの気配はありませんでした。恐らくはキャスターに連れ去られたものかと』

 ホテルの一室で舞弥の連絡を受けながら切嗣は弾丸の整備をする。
 ここは冬木市外のホテルなので、冬木市中に根を張っているキャスターの監視もここには届かない。

「そうか。それで円蔵山の柳洞寺はどうなっている?」

『住職の全てが修行という名目で一人残らず出払っています。キャスターによる厄介払いかと。やはりキャスターが柳洞寺を根城にしているのは確かのようです』

「……アイリスフィールとセイバーはそこ、か」

 柳洞寺には結界が張られている。人間には影響のないものだが、霊体であるサーヴァントが柳洞寺に侵入しようとすればステータスが低下してしまう代物だ。
 しかし逆に言えば一度中に入ってしまえば柳洞寺は最高の城塞となる。
 
「柳洞寺の結界は正しい道を行く者、つまり石段を普通に登る分には影響がない。そしてセイバーがキャスターのサーヴァントになったことを考えると、セイバーが配置されているのは恐らく山門。キャスターご自身はご自慢の工房……神殿で穴熊か」

 しかし穴熊を決め込むのがいつまでか。
 まだ派手な動きはしていないが、もしもキャスターの戦力が十分なものとなったら満を持して打って出るだろう。
 キャスターから無尽蔵の魔力供給を受ける最優のセイバーと、魔法使いクラスの魔術師であるキャスター。
 まともに戦えば聖杯戦争の勝者は決まったも同然だ。

『どうしますか切嗣、ご決断を』

「決断? 何を今更、僕がこの戦いを降りるとでも思ったのか。まだたかだかサーヴァントを失っただけだ。死んでいない限り敗北じゃない」
 
 今後の聖杯戦争を勝ち抜く上でやはりキャスターは消しておかなければならない。
 時間が経てば経つほどにキャスターは強大となっていく。
 切嗣の脳裏には既に対キャスターの方程式が組み上げられつつあった。
  <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/25(日) 20:55:53.25 ID:7KF1UANx0<>  今日はこれで終了です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 22:06:40.01 ID:EM4Otzeh0<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 22:42:18.36 ID:phvoN2GM0<> キリツグの標的がキャスター陣営に変わった、現状圧倒的に不利なのにキリツグなら巻き返せそうな気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 22:50:38.80 ID:6segDX+Ho<> 乙

切嗣が標的をキャスター陣営に変えたから、ランサー陣営は心置きなく遠坂狙えるな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/26(月) 06:50:15.78 ID:ow68U2Sy0<> 切嗣からしたら原作より難易度上がってんなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/26(月) 15:24:44.38 ID:LeWnhe6xo<> なにこれ面白い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/11/26(月) 15:39:08.83 ID:sIeRHwIto<> 敵の強さが圧倒的なパターンより、今みたいに戦力が脆弱すぎる場合の方が無理ゲーっぽく見えますよね。
ここからどう巻き返すんだろう、切嗣の策略に期待してます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/11/26(月) 16:21:40.42 ID:oNmUsAum0<> 乙

やっと追いついた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/11/27(火) 01:37:21.80 ID:j87EBmceo<> それでもケリィなら、ケリィならなんとかしてくれる <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/28(水) 21:44:41.50 ID:ITvBu4rD0<> そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/11/28(水) 21:46:22.70 ID:nyz3BJHFo<> wktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 21:51:37.75 ID:MdQQULN3o<> 期待機 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 21:54:07.29 ID:cVbAq97DO<> 期待
読んだけどビル爆破で一般市民犠牲にしたのがひっかかるなあ。
それは1じゃなくて9切り捨てる行為じゃないか?
結果的に900救うから9は1とかいう理屈なのかな。
マスター確実に殺せる確信ないのに一般市民犠牲がなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 21:54:24.35 ID:pDuaw0pT0<> まってました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 21:56:35.03 ID:MdQQULN3o<> >>195
避難させてたら気付かれる
人払いの魔術掛けても気付かれる

なら一般市民ごと犠牲にするしかないじゃない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/11/28(水) 22:01:23.62 ID:ibf2BIgKo<> そら聖杯戦争に勝ったら全世界の救済が成るわけだし
勝つためなら100人や200人[ピーーー]でしょ <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/28(水) 22:03:05.72 ID:ITvBu4rD0<> >>185
 真っ当なマスターなら諦めるところですが、切嗣はまだまだ戦えます。

>>186
 ランサー陣営からしたら棚から牡丹餅ですね。

>>189
 圧倒的な戦力差というと吉良のバイツァ・ダストを思い出します。

>>195
 現状の切嗣の思考回路は、聖杯で六十億の人間を救うためなら冬木市の人間全てを殺しても構わない的な考えです。 <> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:04:15.80 ID:ITvBu4rD0<> 「はははははははっ! まさかウェイバーにステンノさんみたいに美人の彼女がいたなんて!」

「水臭いわねぇ、ウェイバーちゃん。ガールフレンドがくるなら事前に教えてくれれば御馳走の準備もできたのに」

「いえお構いなく。私も彼を驚かせようと黙って来たんですから」

「…………」

 ウェイバーの目の前では信じられない光景が広がっている。
 マッケンジー家の食卓を囲むのは四人。
 この家の住人であるマッケンジー夫妻。
 夫妻に暗示の魔術をかけ"孫"だと認識させることで、冬木での拠点として潜り込んでいるウェイバー。
 そして何故か実体化して一緒に夕食を食べているサーヴァント・ライダー。

(どうしてこうなった)

 頭を抱えたくなるのを必死に抑えながら嘆息する。
 今や食卓での話はウェイバーの『大学』での近況や暮らしぶりから、曾孫は何人がいいかだの、娘なら名前はどうだのと耳を塞ぎたい方向へとシフトしていた。
 もしもマッケンジー夫妻が魔術師ならサーヴァント(霊体)と人間(実体)の間に子供なんて出来るか馬鹿、と怒鳴っていたかもしれない。だがそんなことを夫妻に話しても意味がないし、それ以前にそんなことをすれば魔術協会から警告を喰らう。
 神秘は希少であればあるほど魔術基盤を独占することにより強くなる。逆を言えば広く知られた魔術は力を失う。
 故に魔術協会は神秘の漏洩を第一の罪としている。大衆に魔術が知られるということは、魔術の衰退をも意味してるのだ。
<> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:04:49.26 ID:ITvBu4rD0<> (科学とか数学とか……他の学問なら広く一般に伝わるのが発展だっていうのに、魔術は広く知れ渡ることが衰退なんて。これじゃあべこべだな)

 夕飯のご飯を口に運びながらそんなことを考える。
 しかしこの沢庵という漬物は美味い。単品だとそれほどでもないが、ライスと一緒に食べるとがらりと変わる。
 まるで魔法のようだ、と魔術師らしからぬ思考をするウェイバー。
 ウェイバーのような時計塔の末端は知る由もないが、現存する魔法の一つは食事なのではないか。

(ま、そんな訳ないんだけど)

 もし聖杯戦争を勝ち抜いたら少しお裾分けとして持って帰ろう。
 イギリスとこの日本を比べたら国風でも魔術を学ぶ土壌としてもイギリスが断然上だが、こと食事に関しては日本の方が優れている。
 いや、イギリスに食文化で下回る国があるとも思えないが。

「ところでステンノさんは大学ではどんな事を専門に学んでいるのですかな?」

「ウェイバーちゃんとのなれ初めは?」

「それはですね―――」

 マッケンジー夫妻の質問に淀みなく当たり障りのない出鱈目を述べていくライダー。
 しかしステンノさんと呼ばれる度にライダーが怯えたような雰囲気を垣間見せるのは気のせいだろうか。
 ウェイバーはこんな事態になった経緯を回想する。 <> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:05:31.71 ID:ITvBu4rD0<> 「佐々木小次郎、日本の侍……その出生は不明な点が多く……」

 図書館より帰ったウェイバーはライダーと共に借りてきた本を見分していた。
 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎の情報を得る為である。

「刃長三尺三寸余りの長刀を使用し……って三尺!? 1m近い剣を振り回してたのかよこいつ。剣の名前は備前長船長光?」

「ウェイバー、ここにその刀の図がのってますよ」

 ライダーに指差されたところを見る。
 後世の人間のイメージで書かれたせいか、ウェイバーが使い魔越しで見たアサシンの得物とは差異がある。だがそれは僅かな物だ。
 やはりアサシンの真名が佐々木小次郎というのは本人の名乗り通りなのだろう。

「なぁ。ライダー。アサシンの真名が佐々木小次郎なのは一先ず確定として、佐々木小次郎の宝具ってなんなんだ? やっぱりこの物干し竿か?」

「……そうかもしれませんし、そうでないかもしれない。とは言っておきましょう」

「随分と曖昧な答えだな」

「ウェイバー、貴方はサーヴァントの『宝具』についてどの程度の知識がありますか?」

「馬鹿にするなよ。そんなもん知ってる」

 聖杯戦争に参加すると決意してから、ウェイバーは時計塔にある英霊についての資料を調べ回った。
 お陰でサーヴァントのスキルや必殺の武器である『宝具』についても一通りの知識を得ている。

「宝具っていうのは英霊の象徴。英霊と一緒になって伝説を作った武器、または能力……だよな?」

「はい。種別としては一人または二人程度の人数に効果を発揮する対人宝具、軍隊規模にまで効果を発揮する対軍宝具、そして城という一つの拠点に対して効果を発揮する対城宝具などがあります」

 他には魔術に対して効果を発揮する対魔術宝具。結界を構築する結界宝具などだ。
 常時開放型という常に効果を発揮し続ける宝具も中にはあるが、大抵の場合、宝具は真名解放した時にその真価を発揮する。魔術礼装で例えるなら単一の力しかもたぬ限定礼装だ。
<> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:05:57.55 ID:ITvBu4rD0<> 「で。佐々木小次郎って侍と一緒になって戦ったのがこの物干し竿って刀なら、この刀が佐々木小次郎の宝具になるんじゃないのか?」

「それは早計です、ウェイバー。剣士のサーヴァントの宝具が必ずしも『剣』であるとは限りません。なにより英霊の『宝具』とは生前に持っていた能力やアイテムだけではありません。死後に英霊として祀りあげられ、人々の信仰が骨子となり英霊に宝具という形で能力を付与することがある。謂わば後天的宝具といえるでしょう。私は生前に持っていたものしか持っていませんが、サーヴァントの中にはそういった宝具を持つ者は多くいます」

 仮に手にもった物を自分の宝具にしてしまう宝具をもったサーヴァントがいたとしよう。
 しかしそれは生前の伝承が人々の信仰により形となったものであり、生前そのサーヴァントがそんな能力を持っていたという訳ではない。ただそのサーヴァントの宝具である以上、そのサーヴァントの体の一部も同然。よって後天的に得た宝具であろうと、サーヴァントはその宝具を十全に扱う事ができるのだ。
 おまけにこれは聖杯戦争限定だが。後天的に得た宝具であるが故に、その宝具の真名は歴史や伝説に行為として記述はされていても名は記されていない。
 ネームレス・ファンタズム。名も無き幻想。
 解放する真名がネームレスならば、真名解放をしたところで英霊の真名がばれる心配はない。
 もっともアサシンの場合、とっくに真名が分かってしまっているのだが。

「なるほどな。じゃあ佐々木小次郎の宝具は剣じゃなくて伝承そのものってことってこともあるのか」

 けれど、だとすれば佐々木小次郎の宝具になりうるほどの伝承とはなんだ。
 
「この『燕返し』じゃないでしょうか。佐々木小次郎の剣術の代名詞として有名ですし、高名ば剣術家や武術家の奥義がそのまま宝具となる例もありますから」

「うーん、じゃあその燕返しっていうのは――――」

 ウェイバーが『燕返し』なる剣技について調べようとした時だった。
 部屋のドアが開く。

「ウェイバー、帰って来たのなら一緒に将棋でも……おやまぁ」

 この家の家主、グレン・マッケンジーは視界にライダーを納めるとぽかんと口を開け、ウェイバーとライダーを見比べる。
 普段ならサーヴァントは霊体化していた透明だ。しかし透明なままだと佐々木小次郎の真名調査に弊害が出るだろうというということで実体化させていたのが仇となった。
 唯一の救いは図書館から帰ってそのまま調査を始めたのでまともな服装をしていたことだろう。

「ええと、ウェイバー。その女性は誰か教えてくれるかい?」
<> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:06:34.99 ID:ITvBu4rD0<>  その後、訝しむグレン・マッケンジーライダーが咄嗟に自分はウェイバーと大学の同期のステンノだ。冬木には観光ついでにサプライズに来ただのと言い訳して…………今に至るというわけである。
 もう散々だ。後は済し崩し的にライダーも夕食に招かれるわ、ウェイバーの目の前で話が妙な方向にくはと無茶苦茶である。
 ちなみにステンノというのはメドゥーサの実姉の名前だ。

(はぁ。ま、いいか)

 本当に微々たるものだが食事も魔力供給にはなる。そう考えれば悪いことばかりではないのかもしれない。というよりそう思わないとやっていられない。
 
『冬木市で連続するガス漏れ事故は範囲を広げ以前として――――――』

 ニュースキャスターの声がリビングに響く。
 ウェイバーとライダーがこうして平和にいる間も聖杯戦争は続いている。 <> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:07:26.21 ID:ITvBu4rD0<>  日が落ち暗くなってからケイネスはランサーを伴って双子館を出た。
 人手が多い昼間に戦えば神秘を衆目に晒すことになるので必然的に聖杯戦争の本番は夜から、という事になる。
 ケイネスは一つの幸運に恵まれた。
 もしもケイネスが夜ではなく夕方にこの双子館を出ていれば、彼の婚約者であるソラウは一人の魔術使いの魔手に落ちていただろう。 
 しかし彼にとって最悪の天敵である衛宮切嗣は今この時に限りケイネス・エルメロイに削く時間はなくなっていた。

「そんでケイネス、どこ行くんだよ」

 霊体化して後ろからついてくるランサーの声が背中にかかる。

「昨日の話を聞いていなかったのか? この冬木のセカンドオーナー、遠坂時臣の所だ。ふふふふふっ。宝石翁が直系の弟子の実力、堪能させてもらおうか」

 口元を綻ばせながらケイネスは遠坂邸へと歩く。
 ケイネスに付き従うのはランサーだけではない。ケイネスの創り上げた魔術礼装もまた自動的にケイネスに続いて進む。
 本来ケイネスは生粋の魔術師。その例に漏れずケイネスは戦闘者ではなく研究者だ。
 しかしケイネスは面白半分と趣味で幾つか戦闘用の強力な魔術礼装を創り上げており、聖杯戦争に参加するに当たりそれらを持ちこんでいる。
 その殆どはハイアットホテルの爆発に巻き込まれてしまったが、ケイネスの礼装の中で最も強力なものは万全だ。

「やけにやる気じゃねえかよ。やっぱソラウにいいところを見せたいってことか?」

「五月蠅いぞランサー。お前はどうにも喋りが過ぎる。お前もサーヴァントなら唯々諾々と私の言う事に従っていればいいのだ」

「あ? そりゃお断りだ。俺はお前のサーヴァントだが、俺はこの聖杯戦争を愉しむために参加したんだよ。それをだ。お前の言う通り奴隷みてえに動いてりゃ闘争も糞もあったもんじゃない。大体お前はどうも危なっかしいからな。指示に全部従ってたら後ろからやられるかもしれねえぞ。アサシンはアレだが、アサシン染みた奴はいるらしいからな」

「誰が危なっかしいだ!」

「実際に居城爆破されたじゃねえかよ。構築に半日以上かけたご自慢の工房、俺もお前が泣いて頼むからルーンで結界を作ってやったのに」

「泣いて頼んで等いない。勝手に記憶を都合よく改竄するな愚か者! お前も仮にも騎士ならば騎士らしく私に忠義を誓い神妙にしていればどうなのだ?」

「騎士といってもな。後世がどうだったか知らんが、俺の時代なんて不忠さえしなけりゃ好きに戦争して良かったような国だしよ。あんまり今に伝わる騎士道とはいえたもんじゃねえかもしれん」
<> 第15話 出陣、ロード・エルメロイ<>saga<>2012/11/28(水) 22:08:06.35 ID:ITvBu4rD0<> 「………………」

 ケイネスはこのランサーが苦手だった。
 英霊だろうとなんだろうとサーヴァントは使い魔。使い魔ならば魔術師の奴隷であればいい、とケイネスは思う。
 しかしランサーは使い魔の癖して好き勝手に意見を言い好き勝手に振る舞う。
 本当に気に食わない。
 なにより気に食わないのが、そのことを心のどこかで怒りきれていない自分がいることだ。これではまるでランサーという『奴隷』を対等のように扱っているようではないか。

「まぁ良い。これから我等が挑む相手は遠坂時臣、よもや我が工房を無粋な真似で破壊したような連中と同じ真似はしないであろう。お前はサーヴァントの足止めをしてさえいればそれでいい。その間、私は遠坂時臣ととっくり魔術戦に興じさせて貰うだけだ」

「俺はサーヴァント、お前はマスター。どっちが先に仕留めるが勝負ってところだな。ま、もしも危なくなったら令呪を使え。お前が遠坂なんたらとかいう奴にヒーヒー言わされてても助けてやるよ」

「余計なお世話だ馬鹿者!」

「――――――おい、ケイネス。少し身を伏せろ」

 突然ランサーの空気が変わる。
 実体化し猛禽類のような目で夜の闇を睨んだランサーは、空中を疾走してきた流星を真紅の魔槍で叩き落とした。

「これはッ!」

 叩き落とされ地面に転がったのは剣だった。けれど剣にしては近くにセイバーらしき気配はない。
 否応なく最初のアサシンとの戦いが想起される。あの戦いの終盤、今回と同じように剣により超長距離から狙撃されたことがあった。

「アーチャーのサーヴァントか!?」

 剣を矢として放つという攻撃法をとるサーヴァントが他にいるとは考えずらい。
 アーチャーによる狙撃とみるのが妥当だろう。

「そうみてえだぜケイネス。はん、予定通りじゃねえか。マスターとしちゃアーチャーを真っ先に仕留めたかったんだろう」

 ランサーは剣が飛んできた軌道から逆算し、アーチャーのいるであろう狙撃ポイントを見やる。

「――――俺も同感だぜ」

 ランサーにとっての聖杯戦争第二戦が始まる。
 そしてケイネスにとっては今後の趨勢を占う第一戦が始まった。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/11/28(水) 22:08:50.29 ID:ITvBu4rD0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 22:24:38.13 ID:pDuaw0pT0<> 面白かったです、乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 22:31:47.93 ID:FjG0Y38S0<> ランサー陣営がいい感じに凸凹コンビしてるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/28(水) 22:33:23.88 ID:nyz3BJHFo<> 乙でした
ライダー陣営戦争しろw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/28(水) 22:59:44.81 ID:xdKP3qzco<> ライダー陣営はこのままいちゃついていればいいと思うよ

あと、ウェイバーもげろ

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/11/28(水) 23:27:07.05 ID:L66fZZAn0<> ウェイバーちゃんが佐々木小次郎の伝承を調べてるところから身バレしないか心配 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/29(木) 01:42:31.28 ID:pxzpcyvZo<> 乙

水銀vs炎の魔術戦期待。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/29(木) 11:41:13.20 ID:E1kfsgOIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/11/29(木) 20:43:30.06 ID:vGAx7OVT0<> 乙!
今さらだけど、タイトルの綴りフェイト/リ・・・なんなんだ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/29(木) 20:55:53.12 ID:IDrcHuBZ0<> リバースオルタナティブ、だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/11/29(木) 21:00:27.96 ID:2qRMny7z0<> reverse alternative
リバースオルタナティブだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/11/30(金) 00:51:08.25 ID:YYIgK8Ta0<> 全裸待機 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 16:50:49.25 ID:+2cp4WN70<> さすがランサーの兄貴!
お堅いケイネス先生が心を開き始めた

それにしてもライダーは同姓からショタまで守備範囲が結構広いなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/30(金) 23:57:17.88 ID:FqSHpR07o<> ポセイドンの愛人だから髭面のおっさんまで行けるんじゃないか? <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/01(土) 21:50:39.36 ID:7MtnDDMv0<> そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 22:28:56.18 ID:SJ+j8WL8o<> 待機待機 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/01(土) 22:37:00.76 ID:7MtnDDMv0<> >>209
 個人的にケイネス先生とランサーのペアが一番お気に入りです。

>>210
 ライダー陣営はラブコメ、他の陣営はバトル漫画、切嗣陣営はゴルゴ13と考えて下さい。

>>212
 たぶん小次郎のことを調べただけじゃばれないでしょう。……たぶん。

>>219
 中性的なタイプが一番好きっぽいですライダー。つまりライダーは男の娘好き? 式とかタイプドストライクなのかも。

>>220
 ワカメは駄目っぽいですけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 22:37:30.03 ID:eD2sL69W0<> 士郎も童顔だったしね <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:38:58.04 ID:7MtnDDMv0<>  こういう時、召喚したサーヴァントがアーチャーで良かったと思う。
 アーチャーはクラス別技能に単独行動というものをもっている。
 その四文字が示す通りマスターからの魔力供給がなくとも行動できるスキルで、ランクBのアーチャーは三日程度ならマスターのバックアップがなくとも存命できるのだ。
 対魔力と違い正面きって直接戦う分には役に立たないスキルだが、マスターから遠く離れて行動するにはもってこいである。アーチャーの千里眼スキルも合わせれば諜報活動には非常に有効といえるだろう。
 諜報用として綺礼に召喚してもらったアサシンが諜報向けとはいえないサーヴァントだったので、時臣のアーチャーが諜報向けの能力をもってくれたことは不幸中の幸いだ。
 時臣がアーチャーへ命じたのは『衛宮切嗣の所在』と『冬木市で多発するガス漏れ事故』についてだ。
 前者は言うに及ばず。
 衛宮切嗣を排除するためだ。
 聖杯戦争を時臣の計画通りに行わせる為というのもある。
 衛宮切嗣は参加したマスターの中でも危険度は随一であり、魔術師にとっては天敵となりうる相手。早く脱落させるにこしたことはない。
 だがそれ以上に、時臣は魔術協会よりこの冬木の土地を預かるセカンドオーナーだ。犯罪者を逮捕するのが警察の義務ならば、外道の魔術師を排除するのはセカンドオーナーたる時臣の義務である。
 例え聖杯戦争中だろうと、時臣はマスターである前に魔術師であり冬木の管理者だ。この責任を放棄することは時臣の信条が許さない。
 そして後者の『ガス漏れ事故』。
 監督役の璃正神父からの情報でも、一連の事件がサーヴァントの仕業であることはほぼ確実。しかもここまで大規模な行いはキャスターのサーヴァントの所業だろう。
 こちらは死者は一人も出しておらず神秘の漏洩も完璧と、魔術師としての一線は遵守しているので衛宮切嗣よりは優先度は低い。
 しかしこの行為をいつまでも許していればキャスターの力が増すばかり。
 最弱のキャスターとはいえ貯蔵する魔力が『無尽蔵』ならば最悪のダークホースに化けてしまう可能性もある。
 衛宮切嗣を倒した直ぐ後にキャスターを討たなければならないだろう。
 セイバーのようにAランクの対魔力があれば良いのだが、アーチャーの対魔力はD。キャスターのサーヴァントに対しては脆弱すぎる防御力だ。
 時臣はサーヴァントを模したチェスの駒を弄びながら紅茶を口に運ぶ。
 そして魔術師殺しとセイバーの前に時臣とアーチャーの駒を置いた。 <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:39:44.73 ID:7MtnDDMv0<> 「我が盤上の戦略には一部の隙もない。が、綺礼の居城を襲撃した際の手際……セイバーのステータス。もしも私の戦略の見えぬ隙間を縫って私に短剣を突き刺す者がいるとすれば、それはこのペアだろう」

 戦いに"劇的"なものは必要ない。奇襲・奇策などは下の下。
 相手より優れた戦力、正確な情報。必要なのはこれだ。奇襲を使うのは奇襲を使わなければ勝てない弱者だけだ。
 強者にとっての戦いとは常に王道を征き、当然のように勝利を掴むことを云う。

『報告だ、マスター。まさか私を偵察に出して自分は優雅に寝入っているということはないだろうな?』

「――――きたか。いいや待っていたよアーチャー、君から齎される情報をね」

 ラインを伝わって届いたアーチャーの皮肉を余裕をもって受ける。
 アーチャーの情報、これの如何によって今後の戦い方を決めるのだ。眠ってなどいられない。

「最初の案件、衛宮切嗣の所在については確認できたかな?」

『否だ。私は衛宮切嗣の姿を視認できていない。マスターの言う通り郊外にあるというアインツベルンの森に行ってみたのだがな。そこに衛宮切嗣とセイバーはいなかったよ』

「衛宮切嗣とセイバー"は"ということは、別の人間がいたのか?」

『ああ。戦闘用ホムンクルスが幾人かと近代兵器と魔術を組み合わせたトラップ……アインツベルンは素敵な歓迎を客人にするらしい。下手なマスターが足を踏み入れていれば、サーヴァントと戦う事もなく脱落していたかもしれない代物だ』

「……アインツベルンのホムンクルス。話には聞いている」

『十世紀に渡る研鑽は伊達ではないということなんだろう。あのホムンクルス、単純な筋力なら下手なサーヴァントよりも上だ。それが戦車の装甲をミンチのように破壊する得物をもち、疲れも知らないというのだからね。まるで性質の悪い悪夢だ。吸血鬼の居城の方が幾分か慎みがあるというものだ』

「まさか苦戦したのか、サーヴァントである君が」

『それこそまさか。確かに筋力だけはサーヴァントと張り合えるだろうが肝心の技量がおざなりだ。馬鹿力だけが能の木偶など恐くもない。何体か破壊したが衛宮切嗣とセイバーはいないようなのでね。撤退したよ』

「適切な判断だ。戦闘用ホムンクルスなど衛宮切嗣にとっては使い捨ての駒……そんなものに一々構うことはない」

『衛宮切嗣は居城の頑強さよりも隠匿性を重要視したのだろう。森から帰還し冬木市を調査してみたが衛宮切嗣を視界に収めることは終ぞ叶わなかったよ』

「そうか。……衛宮切嗣の所在調査は徒労に終わってしまった、か」 <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:40:19.27 ID:7MtnDDMv0<> 『やれやれ。その決断を下すには早計ではないかね。私はまだ話を終えてないというのに』

「では、見つけたのか?」

『その話をする前に二番目の案件についてだな。最近冬木市を賑わしているガス漏れ事件……いや、サーヴァントの魂食い。いくらキャスターでも冬木市全土から魔力を奪うなど並大抵のことではない。ならば奴がいるのは冬木市全土の龍脈の行き着く先たる柳洞寺だと目星をつけたのだが……そこに驚天動地のサーヴァントがいた』

「……? キャスターではなかったのか。柳洞寺に陣取るサーヴァントは」

 広範囲へと根を張ったことから、ガス漏れ事件を引き起こしているサーヴァントはキャスターだと確信に近い予感があった時臣は呆気に囚われる。

「キャスターではない。となると強力な宝具をもっているライダーあたりか。アサシンより聞き及んだ性格から可能性は少ないと思うがルーン魔術に秀でたクーフーリンもありうる。イレギュラークラスのサーヴァントということも……」

「残念ながら、どれも不正解だ時臣。柳洞寺にいたのはセイバーだ」

「……ッ! 馬鹿な」

 歴代の聖杯戦争で必ず最後まで残った実績をもち、最優のサーヴァントとも言われるセイバーは魔力以外のステータスが水準以上でなければ該当しないクラスだ。
 そう、魔力以外である。まさか此度のセイバーは白兵戦のみならず魔術にも特化したサーヴァントというのか。

「セイバーが魂食いの犯人……なのか。だが……それよりも考えられるのは、まさかセイバーは」

『ふむ。セイバーが一連の黒幕というよりもセイバーとキャスターが手を組み陣取った、と読むのが正解だろう。柳洞寺の結界のせいでサーヴァントは山道を通ってでしかあそこに侵入できんが、その山門はあのセイバーが守っている。キャスターのサーヴァントと衛宮切嗣は柳洞寺の中だろう』

「……面倒な」

 前衛に特化したサーヴァントと後衛に特化したサーヴァント。
 直接戦闘のプロフェッショナルと補助のプロフェッショナル。
 最優の剣士と最高の魔術師。考え得る限り最悪の組み合わせだ。

「アーチャー、もし柳洞寺に挑んだとして勝算は?」

『マスターが勝てと命じるのなら、サーヴァントとしてはその期待に応じるまでだ。だがお勧めはしない。私単独でセイバーと挑んでもがら空きの背中をキャスターに狙われる。万全を期すならアサシンと共同戦線を張るしかないな』

「むぅ」

 単独で柳洞寺の攻略は困難。攻略しようとするならアサシンをも動員しなければならない。
 だが魔術師の工房とは魔窟。キャスターのサーヴァントの構築した工房ともなれば、遠坂邸のトラップの軽く十倍は凶悪なものがあると考えていいだろう。
 
「どうしたものか」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 22:41:21.00 ID:8zl1Tofuo<> 凄く…真っ当な聖杯戦争です <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:41:42.95 ID:7MtnDDMv0<> 『―――――っと、マスター。衛宮切嗣とキャスターにばかり構ってもいられなくなったようだぞ。来客だ、それも物騒な』

「……どのサーヴァントだ?」

『ロード・エルメロイと……あれはランサーだな。歩く方向からしてまず間違いなく君の屋敷へと向かっている。さて、どうする?』

 衛宮切嗣とキャスターは討たなければならない。だが挑んでくる相手に背を向けることもまた出来ない。
 ロード・エルメロイとランサーが遠坂時臣に挑むというのなら迎え撃つだけだ。
 しかしアーチャーは弓兵。ランサーのように白兵戦闘をし、マスターはそれを傍観という訳にもいかない。
 
「アーチャー、ロード・エルメロイとランサーに対し狙撃を行え。ロード・エルメロイは兎も角、ランサーは我が屋敷へと近づけるな。魔術師相手ならまだしも、私もサーヴァントを相手するのは御免蒙るのでね。サーヴァントは君に任せよう」

『屋敷にはアサシンがいるだろう?』

「私と綺礼が水面下で共闘していることは出来れば最後まで隠し通しておきたいことだ。もしロード・エルメロイに知られれば面倒なことになる」

『了解した。では期待に応えるとしよう』

 アーチャーとの通信が切れる。ケイネスとランサーの迎撃行動に移ったのだろう。
 くいと時臣が指を動かすと手元にルビーを先端に埋め込まれた杖が飛んでくる。アーチャーの迎撃が成功すれば良し、しかし失敗したら時臣自身も戦わなければならない局面に至る可能性は高い。
 
「綺礼にも伝えねばな」

 匿っていることが知られない為にも綺礼は地下で傷の静養に努めている。けれど万が一の場合はアサシンの力を貸して貰わなければならないかもしれない。
 ランサーの真名はクーフーリン。クランの猛犬、生涯において負けなしのアイルランドの大英雄。その魔槍は心臓を問答無用で穿つ因果逆転の力をもっている。
 けれどアーチャーの狙撃なら槍の範囲外から一方的に攻撃することができるだろう。それなら因果逆転も怖くはない。

「――――ままならないものだ」

 達観したように薄く苦笑すると、時臣は杖をもち部屋を出る。
 キャスターの対策を考える前に目の前の敵を打破しなければなるまい。 <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:42:23.34 ID:7MtnDDMv0<> 「なんたることだ。遠坂時臣に合い見える前にこのような邪魔を受けるとは……!」

 ケイネスは数キロ離れた場所から狙撃してくるアーチャーに対して愚痴る。だが文句を言ったところでアーチャーが狙撃を止めてくれるはずもない。
 硬いコンクリートの大地には既に三本の矢がランサーによって叩き落とされ転がっている。サーヴァントの武装だけありそれなりの魔力が篭っていることが伺えるが『宝具』といえるほどのものではない。

「いいや。余りにもタイミングが良すぎる、遠坂時臣のとこに行こうとしたら偶然にアーチャーに目ェつけられたってより、遠坂時臣のとこに行こうとしたからアーチャーに目をつけられたって見る方が正解だろ」

「……ぬっ。それは、そうかもしれん」

 サーヴァントの諫言を正しいとするのは癪に障るがその考察に一理あるのは認めざるをえない。
 アーチャーが遠坂時臣のもとへ行こうとする自分とランサーを狙撃して妨害した。そしてアーチャーは白兵戦は不得手とするクラス。
 そこから導き出せる解は遠坂時臣のサーヴァントがアーチャーであるということに他ならない。

「ちっ! こっちが黙って防御してりゃいい気になって撃ちまくりやがって。これだから弓兵風情は気に食わねえ」

 ランサーが四度目の矢を叩き落とす。 
 亜音速で向かってくる矢を当然の如く槍で弾くランサーの技量は驚嘆するものだが、このままではどうにも埒が明かない。
 槍兵の戦場とは正面きっての果し合い。しかしランサーとアーチャーとの距離が離れすぎている。これでは弓兵の独壇場だ。

「ああ、またきやがったか! しかも三連発か、そら――――ッ!」

 同時にきた三本の矢を神速の三連突きで破壊するランサー。
 唇をかむ。
 もし此処にいるのがランサーだけならば如何様にもアーチャーへ接近を試みることができただろう。ランサーには矢避けの加護がある。どれほどの距離があろうと矢を避け叩き落としながら接近するのは難しいことではない。
 だがそれを出来ないでしているのは他ならぬ自分のせいだ。
 ランサーが単独でアーチャーに向かっていけば、アーチャーの狙いはランサーからケイネスへと向くだろう。
 ケイネスの頼りとする礼装はビルの倒壊からも術者を守り通す防御力をもつが、流石にアーチャーの螺旋剣を防げるほどのものではない。ランサーがケイネスから離れればアーチャーは待ってましたと言わんばかりに螺旋剣でケイネスを抹殺してくる。
 時計塔で最年少の講師となり神童と謳われた自分がサーヴァントの足手まといになっている、その事実がどうしようもなく許し難い。
<> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:43:02.05 ID:7MtnDDMv0<> (しかし奴はどうして単なる矢しか撃ってこない。アサシンとの戦いに横やりを入れて来たときは宝具を……奇妙な螺旋剣を矢として撃っていた。だが今は宝具未満の矢だけ)

 そのことを疑問に感じたケイネスだったが、ふと辺りの街並みを視界に収めた事で理解する。
 アーチャーは宝具の出し惜しみをしているのではない。宝具を出せないでいるのだ。
 ケイネスとランサーがいるのは市街地だ。人気がなくがらんとしているが、それでも少し行けば人家など幾らでもある。
 そしてケイネスが見た螺旋剣の破壊力をこの辺り一帯を丸ごと吹っ飛ばすには十分すぎる威力をもっていた。そうなれば騒ぎにもなる。
 遠坂時臣は神秘の漏洩を防ぐ管理者(セカンドオーナー)だ。その管理者が自分で神秘の漏洩をすることは出来ないのだろう。
 これは光明が差したかもしれない。

(これが正しいならば……! これならばいける。遠坂時臣、聖杯戦争中であろうと一般人に神秘を漏洩させまいとする心構えは賞賛に値しよう。だが容赦はすまい)

 自信というものが戻ってきた。応戦するランサーに声をはりあげる。

「ランサー! 一通りの多い場所だ! 人気が出来るだけ多い場所を通りアーチャーへの接近を試みる」

「ん、ああそういうことか」

「アーチャーは人気の多い場所で宝具を使うことを躊躇っている。ならば奴は私達が人気の多い場所にいけばいくほどに派手な攻撃ができなくなる」

 それこそ新都にでも出てしまえば、アーチャーはその弓を納めることになるだろう。
 正道な魔術師のサーヴァントとして召喚されたお陰で魔力供給に不足はないだろうが、正道な魔術師のサーヴァントであるが故に道を外れた行動ができない。
 敵対者の弱点に付け込むこの手のやり方はケイネスの美学に反する行為なのだが仕方ない。これも敵マスターの首級をあげソラウに自分を認めさせる為なのだと思えば我慢もできる。
<> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:43:48.94 ID:7MtnDDMv0<> 「……だがそうは問屋がおろしてくれねえようだぜ。奴め、お前の狙いを読んで切り札を出してきやがった」

 大気を鳴動させながら黒塗りの剣が雷光の速度で迫ってくる。帯電する赤い紫電のようなものはオーバーフローする魔力の発露。
 ケイネスの魔術師としての眼力と知識がそれが『宝具』であることを教えてくれた。前に見た螺旋剣とは形状もなにもかもが違う。
 しかし所詮は雷光。神速の魔槍で打破できぬものではない。
 青い髪をなびかせ、ランサーが槍を一線。黒塗りの剣を弾き飛ばした。
 宝具を出したといっても、やはり神秘の隠蔽に気を遣ったのか大した威力ではない。学校の校庭一帯を抉り取った螺旋剣と比べれば雲泥の差だ。
 さっきまでの矢より威力は強くとも迎撃することは難しくない。
 これで宝具の第一射は攻略した。このまま第二射と第三射と撃退しながら距離を詰めていく。そうしてアーチャーに近付ききれば後はランサーの独壇場だ。
 接近された狙撃手ほど脆いものはないのだから。勝利は貰ったも同然である。
 だがここでケイネスにとっても、ランサーにとっても理解の外の事態が起きた。
 ランサーの魔槍に弾き飛ばされあらぬ方向へと飛んでいったはずの黒塗りの剣。それが意志があるかのように空中でクルリと再びケイネスとランサーを向くと、再び二人に襲い掛かったのだ。
 赤原猟犬(フルンディング)。北欧の英雄ベオウルフの振るったとされるこの剣は必ず敵を斬るという概念をもっている。矢として使用されているので、放たれれば標的を狙い続ける魔弾ともいうべきか。
 ランサーのゲイボルクのような因果逆転の呪いはないため、射手を殺せばこの剣もまた役を終える。しかし逆に言えば射手を倒さない限りこの魔弾は止まらない。
 
「威力は大した事ねえが、また面倒なもんを!」

 逸早くこれに気付いたランサーが渾身の力を込め魔弾に槍を振り落す。
 クランの猛犬の一薙ぎを受けた魔弾は粉々に砕け散った。これならばもう追尾はできない。
 しかしこれで終わったということではなかった。
 ケイネスは目に強化をかけ数キロ先にいるアーチャーを視認する。既にアーチャーは二射目の赤原猟犬を装填していた。
 そして第一射目以上の魔力が込められた魔弾が放たれる。
 ケイネスは勘違いをしていた。アーチャーは人気がない場所では満足に宝具を出せない為、仕方なくただの矢で攻撃していたと、そう思っていた。だがアーチャーは確認していただけなのだ。どの程度なら神秘を漏洩せずに自分の『宝具』を使えるかどうか。そのギリギリの境界線を探していた、それだけだった。

(今はまだランサーで迎撃できる威力だが、もしもこれが段々と威力を増していけば……)

 最悪、ランサーは死に自分も死ぬ。アーチャーはそれだけの力をもっている。
 どうする? ここは一旦退却して体制を整えるか。
 アーチャーの赤原猟犬も一通りの多い新都にでも出ればアーチャー自身が追尾を止めさせるだろう。ランサーの敏捷性ならば難しいことではない。
 だが、敵を前にして尻尾撒いて逃げるなどケイネスのプライドが許さない。
 立ち向かってくる相手は自らの才気をもって圧倒する。それがケイネス・エルメロイの人生そのものの指針。
 こんな極東の島国でその指針を曲げてなるものか。

(このままではジリ貧。退却もできん。これはケイネス・エルメロイの闘争なのだ! 私は逃走をしにきたのではない。闘争をしにきたのだ! 闘い争いにきたのだ! 逃げ走るためにきたのではないッ!)

 自分の持つカード、そしてランサーの性能と宝具とスキル。アーチャーのもつ奇妙な力。
 それらをひっくるめて並べ考える。この窮地を乗り越える策を。
<> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:44:55.44 ID:7MtnDDMv0<> 「……ランサー、お前のゲイボルクの投擲はアーチャーまで届くか?」

「あン。ま、届くには届くだろうが……あの得体の知れねえアーチャーがゲイボルクの威力を相殺するに足るだけの宝具をもっていれば俺は一旦得物を失うぞ。遠距離へ投擲した槍は都合よく瞬時に俺の手元に戻ってきたりはしねえからな。そこを狙われりゃ」

「問題ない。槍が届く、その言葉だけ聞ければ良かった。次のアーチャーの射撃に合わせてゲイボルクを使う。準備しろ」

「策があるみてえだな。いいだろう。俺の命、この一時お前に預けよう」

「グッド」

 数キロ先でアーチャーが次弾を装填していた。遠目からでも相当量の魔力が込められていると一目で看過できる。
 あれだけの魔力だ。宝具のランクを数値化すればBランクはあるだろう。
 魔術師だけではない。人間を超えた神秘の塊たるサーヴァントでもアレの直撃を喰らえば死は免れない。
 しかし――――ケイネスには確信がある。
 あの赤原猟犬は強力なれど、ランサーの魔槍には劣るという。

「ランサー!」

 アーチャーが矢を放ったと同時、ケイネスが強く叫ぶ。ランサーは了解、と腰を沈め飛んだ。
 自らの四肢を槍を投げるためだけの装置とするその動作はランサーが対軍宝具を解放するという兆し。

「突き穿つ死翔の槍ッ!」

 地上へと堕ちる猟犬と、天上へと昇る真紅の魔槍。
 因果逆転の呪いを秘めし真紅は赤い弓兵を穿つその前に、自らの主の喉元を食い破らんと欲する猟犬へ誅罰を下すため疾駆する。
 けれどこれだけでは終わらない。

「ケイネス・エルメロイの名の下に令呪をもって我が従僕たる槍兵に命じる。ランサーよ、跳躍せよ!」

 令呪の使用による爆発的なサーヴァントのブースト。
 魔術では有り得ぬ奇跡すら実現する三度の絶対命令権は、ケイネス・エルメロイの膨大な魔力を注ぎ込まれスペック以上の爆発力を生み出す。
 青い魔力をジェットエンジンのように噴射させランサーが魔槍の後を飛ぶ。
 その直後、魔槍は黒塗りの猟犬の胴体を穿いて砕き弓兵へと殺到していた。
 猟犬との接触により多少破壊力を削がれたとはいえ未だ因果逆転は健在。ただ真っ直ぐにアーチャーの心臓目掛けて飛ぶ。
 されど――――

「I am the bone of my sword.」

 ランサーが英霊ならばアーチャーもまた英霊。
 目を閉じ素早く自己へと埋没したアーチャーは自分の『――――』に貯蔵される最も頼りとする防具を引き出していく。

「熾天覆う七つの円環」

 アーチャーの前面に展開された七つの花弁が槍の進撃を食い止める。
 誰が知ろうか。この花弁こそがアイアス。トロイア戦争においてヘラクレスに匹敵しうる彼の大英雄の投擲を唯一防いだ盾である。
 その防御性は花弁の一枚一枚が古の城塞に匹敵しよう。こと投擲攻撃に対する防御という事ならこれに並ぶ盾はそうはない。
 しかしゲイボルクもさるもの。
 スカサハ直伝の魔槍は接触したその瞬間に花弁の三つを破壊したが、やはり赤原猟犬とのぶつかり合いが大きかったようでそれ以上は破壊することが出来ず弾かれた。
 けれどその弾かれた槍をケイネスの令呪により飛んできたランサーが軽快に掴み取る。
 ランサーが降り立ったのはアーチャーから10m離れた位置。 <> 第16話 赤と青の演舞<>saga<>2012/12/01(土) 22:45:28.72 ID:7MtnDDMv0<>  今、立場は逆転した。
 弓兵の独壇場が遠距離からの狙撃ならば、槍兵の独壇場とは近距離での白兵に他ならない。
 ランサーは魔槍をアーチャーへと向け言い放った。

「漸く面見れたなアーチャー。こっからはやられた分はしっかりやり返すとするかねぇ。っと、よもや事ここに至り逃げ出す、ということはなかろうな」

「クッ――――まさか、もう勝った気になっているのかね? 気の早いものだ。私はまだ両手を挙げたつもりはないのだが」

「抜かせ弓兵」

 青い槍兵と赤い弓兵。青と赤のサーヴァント。
 二騎はまるで互いが倒すべき因縁の怨敵だったかのように睨み合った。
<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/01(土) 22:45:59.82 ID:7MtnDDMv0<>  今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 22:47:31.15 ID:eD2sL69W0<> なにこれ超まともな聖杯戦争・・・!?
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 23:08:18.80 ID:ejE7XkK20<> 乙
戦争やってるなぁこいつら…


そういやアーネンエルベで式が自分の好みのドストライクだって言ってたな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 23:19:07.27 ID:Kk45zkIro<> 乙でした
やだ、兄貴も先生もかっこいい… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/01(土) 23:29:45.98 ID:YqU3Vwyk0<> 乙 
これは間違いなく数年に一度の良SSだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 23:50:20.09 ID:PYk0nevzo<> アチャ夫はイケメンですなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 23:56:06.94 ID:SJ+j8WL8o<> ここでHollowネタも入れてきたり、先生がちゃんと活躍したりで感動した
そしてこれから始まるであろう紅茶と兄貴の因縁の対決が楽しみでならない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/01(土) 23:57:02.79 ID:SJ+j8WL8o<> 日本語がおかしいな
「ここで」は要らねーわ

それはそうと乙でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 03:39:49.17 ID:qJTMxA/AO<> 乙
いいねいいね〜
ケイネス君輝いてるよ〜
本編よりも輝いてるよ〜
時臣との戦いも楽しみだ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 04:06:18.54 ID:lHvZjEJno<> ケイネスのやりたかった聖杯戦争がここにあるって感じですねー。
実に活き活きとしてらっしゃる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 08:09:37.71 ID:/00XWvHu0<> いい感じ
次も楽しみにしとるよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 09:28:02.48 ID:vqXymy9u0<> やっぱりケイネス先生とクー・フーリンは相性ぴったしだな
時臣とエミヤもいい組み合わせだ
2人とも生き残れるとは思ってないけど悲惨な最期だけは回避してほしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 11:51:05.82 ID:QFs6OEve0<> >>1がZeroで死亡したキャラが生存するかもしれないって言ってるからもしかしたら生き残る可能性もある
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 11:53:59.77 ID:8WV/v1d0o<> 士郎の実の父母のことだったりして <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 16:02:47.17 ID:s7rCnMPEo<> けど士郎は聖杯戦争なくても衛宮に引き取られるんじゃなかったか>プリズマイリヤ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/02(日) 21:48:32.13 ID:dAP5kRVEo<> 「敵の人数の反比例の法則」である意味しょうがないけど、通常攻撃で宝具の破壊はちょっとどうかと思う。
ルーンで強化した攻撃とか他にやりようがあったと思う。
ここに書くことじゃないけど、二次創作でホイホイ砕かれる双剣や光子力研究所のバリアのごとく破られるアイアス見ると悲しくなる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 00:05:37.00 ID:wMMhlIzL0<> >>249
プリズマ知らんから聞きたいんだがなんで士郎が引き取られたんだ?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 21:02:54.76 ID:dZSL7sUAO<> >>251
不明。これから平行世界の関連とかで明かされるかもね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 14:18:52.08 ID:REzcU6hi0<> >>250
つってもアーチャーのあれは投影品だし本物よりは強度がなかったってことでいいんじゃない? <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/04(火) 22:07:02.59 ID:6FsDULrm0<> そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 22:07:24.72 ID:ziBzPhwY0<> まってました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 22:10:46.19 ID:WW1WF3g5o<> 来たか・・・ <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/04(火) 22:36:11.01 ID:6FsDULrm0<> >>236
 切嗣がキャスターにかかりっきりになっているお蔭というべきか、聖杯戦争がまともに進んでいます。

>>240
 アーチャーは色々応用力のあるサーヴァントですから。

>>241
 お察しの通りケイネスのアレはhollowのオマージュです。

>>246
 この話がどういう結末を迎えるかは秘密です。

>>249
 ぶっちゃけるとこのストーリーはFate/stay nightでの設定を重視しており、スピンオフ作品の設定は参考程度です。なので大火災が起きなかった場合、士郎が切嗣に引き取られるという可能性は不明です。

>>250
 アイアスの盾を三枚破壊したのは真名を解放したゲイボルクです。最初の赤原猟犬は……アーチャーも本気で魔力を込めた一撃じゃありませんでしたから。 <> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:37:10.31 ID:6FsDULrm0<>  戦いは音もなく始まった。
 眼前の敵へと疾駆する青い槍使い。それを迎え撃つは赤い弓使い。
 アーチャーはその両手に陰と陽の夫婦剣を出現させ深紅の魔槍を受ける。

「―――――クッ」

 小さく苦笑をこぼしながら神速の一撃を見事に受け流して見せた。
 初撃、戦いにおける最初の峰をどうにか乗り越える。
 青い槍使い。クーフーリンはステータスと白兵戦闘力においてアーチャーの上をいっている。もしアーチャーとランサーの条件が真実同じであればアーチャーは最初の一撃で致命傷を受けていただろう。
 そうはならなかった理由はひとつ、情報における優位だ。
 アーチャーはアサシン、言峰、時臣の視覚情報を経由することによりアサシンとランサーの戦いを見ている。そこで視て確認したランサーの戦闘スタイル、そしてアーチャーがもつという『心眼』スキルが弓兵の身でランサーと打ち合うことを許していた。
 
「はぁぁぁ――――ッ!」

 されどランサーとて甘い相手ではない。生涯無敗の英傑は七騎の豪傑が集まるこの聖杯戦争においても随一の知名度と勇名をもった人物だ。
 目にも留まらぬ、ではなく目視の適わぬ神速の連続突きがアーチャーの心臓、腕、足、頭をほぼ同時に狙ってくる。

「せいっ――――!」
 
 気合一閃、アーチャーが吼える。
 ランサーは平然と放っているが、その刺突は『天才』と称された武人が一生かけても辿り着けるか辿り着けないかも分からぬ絶技だ。その絶技でさえ槍の英霊にはただの刺突でしかない。
 対してアーチャーはランサーとは違いどこまでも『凡才』だ。弓においてはランサーを上回ろうが槍と剣においては才能など一切ない。
 そのアーチャーにこの神速の四連突きを受けきることはできない。
 陰と陽。白と黒の夫婦剣、干将・莫耶。丈夫さにかけては折り紙つきの双剣だが双つでは四つの死には及ばない。

「投影――――」

 されど、この身は。

「――――開始!」

 ただの弓兵に非ず。 <> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:37:46.56 ID:6FsDULrm0<>  アーチャーはアーチャーであって弓兵ではなく魔術師。そして初歩的な魔術さえ満足に会得できないでいたアーチャーが特化していた魔術こそ『投影魔術』に他ならない。
 グラデーション・エア。本来は足りないものを一時的に補う代用品を生むことにしか使えぬ余りにも不効率な魔術。
 しかしアーチャーの投影は英霊の奥の手たる『宝具』の模倣すら可能とする。
 アーチャーに双つの剣で四の刺突を受ける技量はない。
 ならば簡単だ。魔術師は足りぬものがあれば他から持ってきて補うもの。
 双つの刃で止められぬのであれば、四の刃を用意してやればいい。
 空中に新たに投影された二つの刃。それは一時の盾としてランサーの刺突を受け止める。

「ちっ!」

 刺突が防がれたのであれば払いで。
 下から突き上げるように弧を描き赤い槍が振るわれた。筋力でもランサーはアーチャーの上をいく。正面から止めれば力負けして吹っ飛ばされかねない。
 故にアーチャーは一歩、一歩だけ後ろに後退し槍の最先端に自分の莫耶を当てる。
 小学生でも知る梃子の原理だ。重心から離れれば離れるほどに錘は重くなる。そしてランサーの槍を止めると、アーチャーは前進し干将を振り落とした。

「弓兵が、やるじゃねえか。だが」

 槍使いが槍のみを武器とする道理はない。真の戦士にとって武器とは自分の体の一部でしかない。槍を振るうというのは立つ、触れる、歩くなどといった人間にとっての当たり前の運動と同じなのだ。
 そのランサーは槍ではなく足という武器でアーチャーの腹を蹴り飛ばした。

「ぬっ!」

 鎧のお陰で大きなダメージはなかったが、それでもアーチャーはほんの一瞬怯む。
 その一瞬、ランサーが槍を突き出していた。

「ままならないものだ」

 暴露すればアーチャーはランサーとの戦いに全力を尽くせないでいる。
 それは別にランサーの技量を軽んじているということではない。アーチャーが本気の本気を出せないのは他ならぬランサーの宝具の警戒のためだ。
 英霊の座と伝承での知識が確かならランサーのゲイボルクには対軍宝具として以外に対人宝具としての側面がある。
 因果逆転、必殺必滅の槍。その真名を開放されれば幸運がAのアサシンなら分からないがランクEのアーチャーでは敗北は必至。
 だが因果逆転の槍を打ち破るのはなにも幸運だけではない。アーチャーの考える限り槍を打ち破る方法はもう二つ。
 一つは大威力の一撃をもってゲイボルクを粉微塵に破壊してしまうこと。ランサーを殺しても心臓を穿つことを止めない魔槍も、槍さえ破壊してしまえば槍に秘められた因果逆転の呪いも消滅する。
 しかしその術をアーチャーはもたない。伝説に伝わる魔槍を破壊するとなればA++相当の宝具が必要だ。けれどアーチャーをもってしてもランクA++の『■■■■■■■■■』の投影は不可能だ。
 あの輝き、あの光を、こんな薄汚れた己がどうして創造できるものか。出来るとすれば相当に劣化した紛い物程度。そんな紛い物の光では魔槍を砕くには足らない。
 もう一つの方法は槍の破壊力を超える防壁を用意すること。
 アーチャーがもつ槍を防ぐ術はこちらだ。
 大英雄の投擲をも防いだ槍。あの盾ならば対軍仕様のものはギリギリだろうが、対人としての魔槍は難なく防げる。
 だが剣ならぬ宝具を投影するとなればアーチャーにも時間が必要だ。そのため常にアーチャーは魔術回路に『盾』をセットしておかなければならず、真の『宝具』を見せられないのだ。
 アーチャーの『宝具』は展開するのにかなりの時間がかかる。そんな時間をかけていればランサーの魔槍は確実にアーチャーの命を奪い去る。

「――――――」

 それでも戦わなければならない。
 本命は此度ではなく十年後だが、もしも『運命』を変えれるのならばという思いはこの胸にあるのだから。
 アーチャーは夫婦剣を構えランサーと打ち合った。 <> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:39:02.07 ID:6FsDULrm0<>  時臣は屋敷を出て来るであろう来訪者を待つ。
 アンティークな古時計がチクタクと時を刻む。時間にして三分もなかっただろう。されど那由多の如き感覚の後。
 来訪者は遠坂邸の門を開けた。

「アーチボルト家九代目当主、ケイネス・エルメロイがここに推参仕る。遠坂の魔術師よ、己が大師父の名にかけて尋常に立ち会うが良い」

 いっそ清々しいまでの名乗りと堂々とした入場。
 それを慢心とも自己顕示とも受け取りはすまい。ロード・エルメロイにはその名乗りを許すだけの実力がある。優れた魔道の力がある。
 ロード・エルメロイは暫し歩き庭にて杖をもち優雅に待つ時臣を視認すると足を止めた。

「ようこそ我が屋敷へ、ロード・エルメロイ。礼節に則り貴公が名乗ったのであれば私もまた名乗りを返そう。魔道元帥シュバインオーグが末裔、遠坂家五代目当主・遠坂時臣。時計塔に名高きロードと見えることが出来たのは私にとっても嬉しい」

 敵マスターを前にしようと"余裕をもって優雅たれ"という遠坂の家訓を常に実践してきた男は優雅さを崩しはしない。いや才能に恵まれぬ身でありながら時計塔の怪物たちと対等以上に渡り合い、終ぞ遠坂の名を知らしめた時臣の精神力はサーヴァントを前にしようと動じることはなかった。
 一方のケイネスは尊大そうに振る舞っているものの警戒心は一切解いてはいなかった。
 ケイネスは一流の魔術師であるが故に魔術師の領地に侵入するというのがどういう意味なのかを熟知している。
 魔術師にとって『工房』とは要塞だ。自分の学んだ研究成果を決して他に漏らすまいとする冷徹なる牙城。至る所に罠があり人を惑わす幻惑があり魔が放たれている。
 ましてや今は聖杯戦争中だ。その工房の防御もより一層高められているのは間違いない。

「さて。ミスタ・エルメロイ、貴方は私にとって招かれざる客人だ。だが招かれざる客であろうと客人は客人。私には客人を持て成す用意がある。貴方は紅茶と杖のどちらをお望みで我が邸宅の門を潜ったのか……お聞かせ願いたい」

「問うまでもなかろう。貴様と私のサーヴァントが剣を交えているのであれば、マスターたる我等が卓を囲み興じる事はするまい」

 魔力の発露。ケイネスの足元に置かれている壺が鳴動する。
 まるで眠りについていた竜が目覚めたような悪寒を時臣は感じた。
 身構える。長年魔術師として研鑽を積んできた時臣には理屈よりも直感で理解できた。あの壺の中身――――そこに収められている魔術礼装は極上だ。

「沸き立て、我が血潮(Fevor,mei,sanguis)」

 ケイネスの詠唱に反応し壺の中身が波立つ。壺から出てきたのは液体だった。金属的な光沢の液体。
 時臣も魔術師として錬金術を齧っていた為にこの世にある貴金属は一通り把握している。だから一目で分かった。
 壺から溢れ出たのはただの液体ではない。これは水銀だ。

「自立防御(Automatoportum defensio)、自動索敵(Automatoportum quaerere)、指定攻撃(Dilectus incursio)」

 水銀に自身の魔力を通し操っているのだろう。そこには恐ろしいほどに難解かつ複雑な術式が積み重ねられているだろうが仕掛けとしては単純明快だ。
 つまりは自由自在に魔力の通う水銀を操る。それがケイネス・エルメロイの礼装の効力。

「礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)!!」

 水銀がケイネスの周りを守護するかのように固める。見たところ風と水の属性における流体操作、それを極端に発展させているものと見た。
  <> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:40:11.49 ID:6FsDULrm0<> 「――――――Anfang(セット)」

 されど時臣とて一流の魔術師。極上の礼装をみせられたのであれば、無限に積み重ねた研鑽にて迎え撃とう。
 先端にルビーの入った杖を構える。全身の魔術回路に魔力が行渡った。服の裏には魔力を込められた合計19の宝石。
 なによりここは遠坂時臣の本拠地。この土地の全てが遠坂時臣の味方だ。
 負けるわけにはいかない。
 
「斬(Scalp)!!」

 ケイネスの発声と同時に戦端がきられる。水銀が鞭のようにしなり時臣へと殺到してきた。
 水銀は数ある貴金属の中でも一際重く固い物質である。そこにケイネスの魔力が込められ更にあれだけの量とあらば切れ味は現存するどんな刃物よりも鋭いだろう。
 レニウムやウルフラムであろうと或いは容易に切断してしまうかもしれない。
 時臣の得意とする魔術は"炎"。物理防御力に欠ける炎では水銀の刃を防ぐには足りないだろう。
 瞬時にそう判断した時臣は自分の"脚力"を強化し水銀の刃を躱した。

「Kugel
(呪詛) Gebühr(起動) Fegen mit Feuer(一斉掃射)!」

 時臣の詠唱を受け屋敷に仕掛けられたトラップの一つが起動する。ケイネスの背後からガトリングガンのように物的破壊力を秘めたガントが発射された。
 威力は正しくガトリングガン。人間に当たれば三秒でその者を蜂の巣の無残な死骸へと変貌させるだろう。
 しかしガントがケイネスへと近づいた瞬間、水銀が自動的にケイネスの背後に広く展開され弾いた。
 人を蜂の巣にするガントも水銀の壁を破壊することはできず北欧に伝わる呪詛は空しく雲散する。

「自動防御機能か――――!?」

「ご名答。良い推理だよ遠坂時臣。我が月霊髄液は我が意のままにただ従うだけの二流礼装とは訳が違う。私に対する干渉をオートでストップさせるのだよ。そんなガント程度ではこの私に傷一つつけることも出来ぬぞ」

 成程。優れた防御性だ。
 この礼装の力でケイネスはハイアットホテルの倒壊から生還することができたのだろう。
 ビルの倒壊から所有者を守りきるほどの防御力となればガントでは歯が立つわけがない。
<> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:41:10.09 ID:6FsDULrm0<> 「そのようだ。だが、Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

 ケイネスの月霊髄液が水銀を操るという単一の力しか持たぬ限定礼装ならば、時臣のもつ杖は術者の力を底上げする補助礼装。
 ルビーに灼熱の光が灯り、それが眩く苛烈な火柱を出現させた。

「Luft
(空気) ausschluss(除去)……」

 炎を操る
ものとは別の詠唱を唱えてから火柱を水銀へ叩きつけた。
 だが当然そんな単純な攻撃が水銀の盾を打ち破ることができるはずがなく、火柱はあっさりと水銀によって防御された。

「Feuermacht(火力)
anstieg(上昇)」

 火は水銀に接触して尚も火力を上げ、やがて水銀が炎の熱で蒸発し始めた。
 蒸発により白煙があがる。もし時臣
の魔力量が常人を遥かに超えていれば、そのまま火力を限界まで上げ続け水銀を蒸発し尽くすことが可能だったかもしれない。
 しかし時臣は凡才、魔力の精密動作性に置いて並ぶものはいなくとも魔力量はそこまで凄まじいというわけではない。ケイネスの操る水銀を蒸発し尽くすなど不可能だ。
 そして勿論、遠坂時臣はそんな力任せの火力に訴えるほど愚者ではない。時臣には別の狙いがあり火力をぶつけている。
 さて水銀が強い毒性をもっているのは誰でも知る一般常識だ。物が物ならば数滴触れただけで死に至ることもあるほどの猛毒だ。 
 彼の始皇帝が水銀を不老長寿の妙薬と信じ摂取し続け寿命を縮めたのは有名な話しである。
 ケイネスの操る水銀は比較的安全な水銀であり魔力で制御されているので、水銀の毒素がケイネスや他の生物を襲うというのは先ず有り得ない。
 それでも例外はある。
 水銀が蒸発するということは水銀が気体となるということだ。
 そして気体となった水銀の毒は恐ろしい。肌を焼き肺に侵入し脳回路すら破壊する。
 時臣は事前に毒素を取り込まぬようにする魔術で防御しているが、もしもケイネスがこれに対して無警戒であれば彼は自分の礼装により死に至るだろう。

「――――面白いことを考える。水銀の毒で私を仕留めようという算段か」

 だがケイネスもまた瞬時に時臣の狙いを察知した。
 
「ならば甘いと言わせて貰おう。このケイネス・エルメロイ、水銀の礼装を作るに当たり水銀の性質を全て理解しているとも。そのような間抜けは踏みはせん!」

 ケイネスが時臣と同じように毒素から身を守る詠唱をする。
 策を看破された時臣だが焦りはなかった。元よりこの程度の策など読まれて当然のもの、もしも成功したら儲けものといった小策だ。
<> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:44:25.19 ID:6FsDULrm0<> 「斬(Scalp)!!」

 水銀が意志もつ蛇のように時臣へ襲い掛かる。その雁首の数は八。
 日本神話における八岐大蛇を連想させる。

「Meine burg invasion
druck(我が城に踏み込みし外敵に制約を)」

「ムッ――――」

 遠坂邸の幾多にも張り巡らせた結界がケイネス・エルメロイ唯一人を縛ろうと圧し掛かる。
 サーヴァントと違いマスターには対魔力はない。頑強な魔術結界の悪意を一身に受けたケイネスはその力をワンランク……否、ツーランクは落とした。
 八首の水銀もまたそれを受け動きが鈍る。

「ええぃ、
これしきのことで……! 斬(Scalp)!」

 それでもケイネスは渾身の魔力で水銀へと命じた。
 文字通り四方八方。躱すことができぬよう八首の水銀は八方向から遠坂時臣の首級を獲りにきた。されど動きは先程のそれに比べやや鈍重。結界の縛りは効いている。
 といっても人間の目は二つしかない。その二つの目で視認できるのは八つのうち三つだけ。残りの五つは時臣の死角から迫ってきている。

「同じ台詞を言わせて貰おうロード・エルメロイ。これしきのことで」

 目が見えなくとも時臣は生まれてこのかた黙々と鍛え上げてきた魔道がある。
 時臣の炎はしかと残る五つの首の熱源を感知していた。それで十分、位置情報は完全に掴んだ。
 得られた情報をもとに思考速度までをも強化して、時臣は八首の同時攻撃を掻い潜っていく。
 息を切らず、惨めを晒さず、醜態をみせず、どこまでも優雅に平然と――――その影に冷徹なる計算をもとに躱していった。
 だが躱すだけではない。この一連の行動は自らの攻撃へ向けての布石でもある。

(……どうやら水銀の防御力は水銀の『量』にも比例するようだ。ならば今、八首の水銀による同時攻撃を仕掛けたケイネス・エルメロイの防御性は低下している)

 それでもケイネス・エルメロイが脅えることなく落ち着いて立っているのは水銀の防御力を信じているからだろう。
 確かに幾ら防御性が低下したといっても、あの水銀の壁は炎では突破しきれない。時臣の渾身の魔術でも不可能だろう。
 しかし、だ。時臣の礼装は杖だけではない。
 時臣は懐にあった大粒のルビーを取り出す。十年以上の歳月を黙々と時臣自身の魔力を注いできた宝石。
 遠坂家が最も得意とする魔術とは宝石魔術。宝石に魔力が込められていればいるほどに魔術の力は増す。それこそ特上の宝石を用いれば術者以上の神秘を行使することもできる。
 
「First release(一番、解放)!」

 ランクにしてA相当。サーヴァントさえも吹き飛ばすだけの破壊が一つの閃光となって真っ直ぐにケイネスへと向かっていった。
 ケイネスはその膨大な魔力の発露を察知し水銀を戻し全力を防御にむけようとするが間に合わない。
 閃光は水銀の壁を貫き、ケイネスの心臓――――ではなく肩を貫いた。 <> 第17話 マーキュリー&ウゥルカーヌス<>saga<>2012/12/04(火) 22:45:52.97 ID:6FsDULrm0<> 「ぐっ……よ、よもや私が一撃を貰い血を流すことになるとはな」

 肩から血を流しながらケイネスは時臣を睨む。けれど時臣も無傷ではなかった。礼装たる杖は真ん中で真っ二つに折れており時臣自身にも負傷がある。
 なによりも首筋からはツーと血が流れていた。もしも後少し水銀が深く切っていれば或いは時臣の首級はこの遠坂邸の庭に転がっていたかもしれない。

「だが見事、この私の最強の礼装をよもや正攻法で突破してこようとは。宝石翁の弟子とは名ばかりではなかったか」

 ケイネスは時臣に対して賞賛の言葉を送る。
 これは珍しい事だ。幼き頃より天才と称されてきたケイネスが人を褒めるなど滅多にすることではない。
 時臣はいや、と。

「賞賛に値するのは貴卿の方だ、ロード・エルメロイ。あの一瞬、水銀では防御しきれないと悟るや全魔術回路を防御ではなく閃光の向きを逸らすことのみに傾けるとは。心臓を穿つはずだったのだが予定が狂ってしまったよ」

 時臣もまたケイネスを褒め称える。嫌味や世辞などではない。
 ケイネスは真実強敵だった。偶然と幸運の巡り合わせにより時臣が先ずは一撃、ケイネスに与えたが。少し運命が狂っていれば立場は逆だっただろう。

「久々の心躍る魔術戦。遠坂時臣、その実力……我が栄光に添える華(武勲)となるに相応しい。討ち取らせて貰おうぞ」

「ふむ。そうですな、私としてもこの戦いに興じていたいのは山々だが……どうにも不埒な鼠がいるようだ」

 すっと時臣が遠坂邸の外。電柱の上を差す。
 連れられてケイネスが見ればそこには紫色の髪と眼帯をした女の影。圧倒的魔力の奔流、確実にサーヴァントだ。
 その正体不明のサーヴァントは自分の姿を察知されると知るや身を翻し消えてしまう。だが逃げたわけではないだろう。ただ潜んだだけだ。

「お分かり頂けたかな? このまま続けていれば、最悪あのサーヴァントに後ろから刺されかねない。我々の決着は先ずは邪魔な者を間引いてから……と、いうのでは如何かな?」

 時臣が提案する。序盤は情報収集に徹しておきたい時臣からすれば、この序盤で自分が自ら出陣する今の事態は好ましいものではなかった。
 ここで一つ軌道修正をしておかなければならない。
 だからといってタダではケイネスも引けないだろう。ケイネスはこの戦いのために令呪の一画を消費しているのだから。
 故に時臣は駄目押しをする。

「だが私も客人をただ追い返すほど礼儀知らずではないのでね。一つお土産話でもしよう。貴公の拠点、冬木ハイアットホテルを爆破解体せしめたマスターの名は衛宮切嗣。アインツベルンに雇われた魔術師殺しと渾名される男だ」

「衛宮、切嗣だと……? それに魔術師殺しとは」

 生粋の研究職であるケイネスは衛宮切嗣を知らないようだ。
 無理もない。衛宮切嗣が名を馳せたのは九年ほど前のこと。アインツベルンに雇われてからはその活躍は音を潜ませているのだから。

「魔術師殺しの衛宮切嗣。対魔術師戦のエキスパートの魔術使い。その辺りにアインツベルンも目をつけたのでしょうな。奴のやり方は御身も身に染みて理解していると思うが、奴は魔術師らしからぬ近代兵器を平然と使い魔術師の裏をかくことに特化している。奴は今、柳洞寺を拠点にしています。もし貴公が柳洞寺を落とそうというのならば、協力を確約することはできませんが貴公とそのサーヴァントには手を出さないことを誓いましょう」

「…………」

 ケイネスは暫し考え、

「……良かろう。貴様の首級をとったところで、そこを他の者に奪われたのでは何にもならん。帰還するぞランサー、今日はこれまでだ」

 魔術と魔術師の原則は等価交換。時臣側が衛宮切嗣の情報とその居場所を教えた以上、ケイネスもそれと等価のものを返さねばならない。
 更に令呪などなくとも自分は勝てるという自負とライダーという不確定要素が混ざりケイネスに仕切り直しを決断させた。
 ケイネスは踵を返して去っていく。ラインでアーチャーからもランサーが撤退したという報告がきた。

「――――――やれやれ。本当にこの聖杯戦争は計画通りにいかぬことばかりだ」



――――この日の夜、ガス漏れ事故で数名の死者が出たと報道された。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/04(火) 22:46:29.31 ID:6FsDULrm0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 22:49:50.81 ID:7C5JCDnBo<> すげえ……先生も優雅も格好いい……すげぇ……



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 22:52:45.95 ID:ziBzPhwY0<> 普通に引き分けで終わりましたね、そしてガス漏れ事故の死者出たとゆうのは裏でキリツグが
動いてるように感じます、キャスターを討伐対象にさせたいのでしょうか、ともかく楽しかったです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/04(火) 22:57:13.74 ID:RebAIm4I0<> 本編でもこんな先生とトッキーが見たかったぜ
サーヴァントとの相性って重要なんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:13:50.33 ID:WW1WF3g5o<> 乙
やっぱり凄いわこのSS
紅茶VS兄貴も、先生VSトッキーのどちらも熱くいい勝負だった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:15:59.33 ID:vFtTonPAO<> やべえトッキーとケイネス先生かっこよすぎる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:21:44.35 ID:RN98IoEmo<> まさに先生の望んでいた聖杯戦争だなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:28:25.59 ID:REzcU6hi0<> 乙
ヤベェ、トッキーも先生もカッコよすぎる
これだけのモンを見せられたウェイバーくんが自信喪失してないか心配だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 23:44:06.77 ID:tERakorKo<> 乙
すげえ、聖杯戦争と真っ当な魔術師の決闘だ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 01:12:06.81 ID:R5fVgrsQo<> >>272
ウェイバーくんは今頃泡吹きながら失禁してるだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 02:43:59.85 ID:ySqAUliDO<> よかったねえケイネスさん…見違える様にいきいきして… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 14:17:47.51 ID:AV6YqLhIO<> 乙
これぞ魔術師の戦いって感じだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 15:59:09.38 ID:HFcuMuuOo<> >>274
白濁液を出しながら失神?(難聴) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 19:33:03.06 ID:YNI1Bhpl0<> やったね先生!トッキー!
ちゃんとした決闘が出来てるよ!

切継がキャスターで忙しくてマスター殺しをする暇がないっていうのも+に働いてるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 00:42:59.24 ID:oapPtRlAO<> こうしたキャラ一人一人の見せ場がまんべんなく原作にもあると良かったのに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 16:36:37.57 ID:kXdkeo5AO<> ふと思ったが 五次でイリヤがランスロット召還してたら詰んでたな
他の奴はどうにかなっても ランスロットだけは 全方面に相性最悪だわ
四次でも おじさんだからどうにかなっただけだしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 16:44:06.73 ID:+oozLhlao<> >>280
そもそもランスロットってアルトリアちゃんが倒したんだし…
ギルだってエア抜けば倒せるだろうし兄貴だって刺しボルグで一発じゃないか?
そこまで強いとは思えない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 18:34:13.14 ID:G0A7laPzo<> マスターがイリヤなら常時アロンダイトでゲイボルグを使わせずに倒すことも不可能ではないはず
アロンダイト抜いてればメドゥーサの魔眼も多分防げるし

ギルはもうエアを抜かないよう祈るしか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 18:54:53.60 ID:fdT2+oT20<> >>281
セイバーが勝てたのはおじさんの魔翌力切れが原因だし、アロンダイト使えば全ステータスワンランクアップでゲイボルグをかわせる可能性もアリ
ギルは慢心してる内に止めをさせればなんとか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 21:16:45.90 ID:CzPygY2lo<> 対魔翌力Eじゃキャスターに勝てないんじゃないですかね
ライダーの魔眼もアロンダイト抜いてても微妙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 21:21:16.15 ID:wFS3Lz8Co<> セイバークラスで喚ばれたならまた話は違ったのかもしれないけど、バサカランスじゃそこまで行かない気がするの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/06(木) 21:32:56.27 ID:RfKtOzrn0<> 質問!
ディルムッドさんはセイバーで召喚されたら聖杯戦争で無双できましたか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 21:38:46.60 ID:dYCibMbDO<> つ幸運値 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 21:43:30.45 ID:wFS3Lz8Co<> べガルタ、モラルタが使えるようになるしな
モラ・ルタ:エクスカリバーの横振りバージョン。あらゆる敵を葬りさるチート宝具
ベガ・ルタ:必ず相手の急所に命中させ貫く。同じくチート宝具

ゲイボウとゲイジャルグが使えなくても勝ち残れんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/06(木) 22:01:00.22 ID:RfKtOzrn0<> じゃあケイネスが、切嗣が騎士王召喚する前に召喚して、
なおかつマキリみたいにクラス固定の呪文を知っていれば不幸なディルムッドさんが無双できた可能性が十分あったんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 22:31:53.81 ID:fv9NbiTv0<> ぶっちゃけもっとも重要なステータスって幸運値だろ。これが高けりゃ大抵どうにかなる。
まぁ第五次のキャスターは葛木に出会ったことでほとんど使い果たしてしまったけど。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 22:39:02.82 ID:G0A7laPzo<> ディルムッドさんは幸運もそうだけど愛の黒子とかいうデメリットスキル持ってるのが… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/06(木) 23:47:06.92 ID:Cm9u19xAO<> 正々堂々1対1ってんならともかく、聖杯戦争では戦い方の方が重要だしなぁ
マスター、ってか令呪があるからそれこそ今回のヘラクレスみたいにどれだけ強くても簡単にひっくり返る <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 01:00:05.26 ID:HgEV2zgb0<> 愛の黒子ってケイネス陣営以外じゃデメリットにならなくね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 01:12:33.25 ID:lzzTZXSIo<> ウェイバーが呼んだらマッケンジー夫妻の間に一つの石が投げられるかもしれない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 01:14:54.45 ID:Wdhbr9Vpo<> トッキーやおじさんの鯖だと葵さんNTRされちゃうんじゃないか?
後はケリィ陣営だと舞弥が黒子のガード出来るのかどうか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 11:37:15.64 ID:HgEV2zgb0<> 葵さんと舞弥はいくらでも対策取れるけどマッケンジー夫妻はヤバいなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 19:58:58.93 ID:J4/uO3BZ0<> マスター二人体制って、モラルタの真名開放連発を期待しての措置だったんじゃね?
ところが召喚してみれば、燃費がいいランサーだった上に、宝具は真名開放の必要が無いタイプ
相性悪すぎだろあのチーム <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 20:13:58.48 ID:SNFwy53to<> >>258
アーチャーは士郎の時の呪文はほとんど使わなかった気がする。
UBWルートで正体を明かすのに使ったきりで、通常は無言で剣を取り出してたような。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 20:19:42.38 ID:HVYEqtQBo<> >>298
それは少しでも自分の正体を隠すつもりだったからじゃないか?
今回はエミヤの事知ってる奴が居ないから気にするのは止めたんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/07(金) 21:08:16.16 ID:Wdhbr9Vpo<> >>297
そもそもケイネス先生は征服王を召喚しようとしてたんだしな
宝具が強力なライダークラスを召喚しようとしてたんだから宝具連発するための措置を行うのは必然だったよな
なのにウェイバーに盗まれちゃったから魔力分割供給の本来の目的を果たせなかったっていう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/07(金) 21:21:45.75 ID:KUR1H2GV0<> >>298
キオク違いだったら悪いが、設定に忠実なら魔術使う場合は呪文なりなんなりが必須。
ゲームとかではアーチャーは干将・莫耶を普通に出していて、それを宝具のように見せた。
敵にも自信の真の宝具が固有結界とバラさないためと、我々プレイしている人間が凛などを通してミスリードを誘うため。
衛宮士郎と同じ呪文をいきなり使っていたらネタバレし過ぎてつまらないし。
だけど、個人的な推測だが超小声で同調・開始とか呟いていたと思う。
呪文、まず最低限魔術回路を起動するために詠唱して威力を上げた魔術を使うには更に詠唱したり何したりって。
うんちく垂れたけど、最近型月作品やってないから、間違ってたらスマソ。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/07(金) 21:28:59.06 ID:J/oVyE8n0<>  そろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 21:36:56.82 ID:HVYEqtQBo<> 来たか(ガタッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 21:37:37.59 ID:Wdhbr9Vpo<> 遂に来たか <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/07(金) 22:21:47.04 ID:J/oVyE8n0<> >>271
 切嗣が今手が離せないのが効いていますね。

>>279
 全く良いところなしだったトッキーは活躍させたいですね。

>>280
 円卓の騎士にはアルトリアより強い騎士もいるそうですが、戦うとアルトリアが勝つそうです。曰く「王より強いのに何故か勝てない」とか。あとギルの場合だとエアを持ちだされたらアヴァロンセイバーかフラガラックでもなければ太刀打ちできません。

>>286
 英霊である以上、ギルに勝てません。あらゆる英霊の天敵がギルですから。エミヤ以外。

>>290
 重要なスキルは筋力です。EXTRA的に。……という冗談はおいておいて、幸運値Eのライダーが最終的に受肉していたりするので幸運値が高い=勝ち組というわけではないかもしれません。

>>294
 常時霊体化していればなんとか……。

>>301
 詠唱は自己へ埋没するためのものなので基本的に魔術に詠唱は不可欠です。しかし魔術刻印を用いた魔術やルーンなどもあるので魔術=詠唱が必要という訳ではありません。まぁ投影魔術には詠唱が必要ですが。アーチャーが詠唱なしで干将莫邪を出せていたのは長い鍛錬で詠唱なくても干将莫邪なら出せるようになったか、それとも小声で言っていたかだと思います。EXTRAでは普通に詠唱していたあたり後者が正解かも。 <> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:23:21.46 ID:J/oVyE8n0<>  神の住まう神殿であって神ではない魔物が根を張る場所。
 海の果てにあるとされる神々の座から追放された神々の用意した流刑地。
 そこは地上に存在する冥府そのものであり、空を自在に踊り海上を舞う海鳥すら近づかぬ人外魔境。
 名を"形なき島"。神の座を追われたメドゥーサが二人の姉と辿り着いた安息の牢獄である。
 一説によれば最大の不幸とは"孤独"だという。使え切れぬ財があろうと誰もが羨む美貌があれど、それは友人や他人がいてこそ輝く。幸せは誰かと共有するからこそであり、孤独である者に幸せはないと。
 その教えが絶対的なものとは言い切れないが、一理はある。
 そしてその説が正しいのなら、少なくとも彼女は幸福だった。
 神々の座を追放されたなど関係ない。
 彼女には愛するべき姉たちがあり、姉たちも多少捻くれた形であれ彼女を愛していた。
 
――――しかしゴルゴン三姉妹が三女、メドゥーサとは怪物である。

 怪物は人間を殺し、英雄が怪物を殺し、英雄は人間によって殺される。
 人間は怪物には勝てず、怪物は英雄には勝てず、英雄は人間には敵わない。
 この原則、この理はあらゆる伝承において殆ど共通とっていい。
 その定めにギリシャで最も著名な『怪物』メドゥーサも逃れられるはずもなく。彼女の住む"形なき島"には多くの勇者たちが怪物を討ち滅ぼすために挑んできた。
 勇者たちは候補である。未だ英雄になっていない英雄の卵。もし彼等のうち一人がメドゥーサを討ち取ったのならば、その異形をもって真の英雄へとなるのだろう。
 けれどメドゥーサはただ座して自らの首級が切られるのを待ったりはしなかった。
 彼女は戦った。己と違い姉二人は成長することのない身である。愛でられ男の慰み者にされるためだけに生まれた二人には戦う力などはない。彼女が戦わなければならなかった。
 そこに迷いはなかったし、躊躇もなかった。 
 悪い夢のような幸せな日々。なによりも大切な姉たちとの暮らしこそが彼女にとっての絶対であり、外のことなどはどうでも良かった。
 だから殺した。神殿へと足を踏み入れた勇者を悉く。
 彼女は自分の意思に沿わぬ行動をとる際、非常に機械的となる。感情を排除し、目的を遂行するまで何も考えない装置となるのだ。
 そうやって殺してきた。何度も何度も。数えきれないほど何度もだ。
 彼女が殺すたびに彼女の名は高まり、名が高まるせいで勇者の襲撃もなくなることはなかった。
 しかし所詮数が増えようと彼女にとって英雄未満の勇者など塵芥である。
 襲撃者が増えようと殺す人数が増えるだけでありなにも変わりはしない。
 つまらない単一の作業。

―――だが、いつからだろう。その作業に意味が宿り始めたのは。

 殺せば殺すたびに彼女は反転していった。少しずつ少しずつ彼女は堕ちていった。恐らく彼女自身も、彼女の姉すら気づかないままに。
 自分で自分を否定しながら、姉たちを守るためと言い聞かせながら、勇者たちを殺すことに喜びを感じ始めていった。
 表向きで姉たちとの平穏に浸りつつ、影では自分達を襲ってくる勇者たちを求めた。勇者たちを殺したいがために。
 生きるために殺すのではなく、殺すために殺した。人を殺すことが娯楽となり、人の肉を咀嚼することに悦びを得始めた。
 手段であった殺しは目的となり、それは黒い泥となり彼女を包んでいき――――やがて殺すことの悦びが、守りたかったものの価値を超えた時、彼女は反転した。
 ゴルゴンの怪物。育ち過ぎた悪意は悪神そのものである。
 彼女は日増しに崩れていき、最後には誰よりも守りたかったはずの姉たちすら自分の住み家にある邪魔者でしかなくなっていた。
 姉たちを守るために強くなろうとした彼女は、強くなりすぎて姉たちをも食い殺す真正の魔へと変貌したのだ。 <> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:23:51.88 ID:J/oVyE8n0<> 『あ、あ――――』

 彼女には己が結末など分からない。
 その頃には目もなく腕もなく、世界はただ喰らうだけのものとなっていた。

『なんて愚かな妹でしょう』

 彼女の前に、否、怪物の前に生贄は現れた。
 力無き生贄たちは、怪物となった彼女の二人の姉は、手を握り合い互いで互いを励まし合いながら愛おしい妹を見上げる。

『……いえ、なんて愚かな姉妹でしょう。ここまで守ってもらう気はなかったのだけど。貴女があんまりにも楽しそうだから、つい甘えてしまったのね』

 上の姉―――ステンノは歌う様に。怪物となったにも拘らず、以前のまま最愛の妹に微笑みかける。
 いいや二人の姉にとって、それが怪物になろうと自分達の妹であることに変わりはなかったのだろう。

『ふん、それはステンノだけの話よ。ステンノは諦めが早いから捨て鉢になってたけど、私は永遠に純潔を守るつもりだったわ』

 下の姉――――エウリュアレは不満そうに。そうなってしまった妹を罵りながら、時折悲しそうに妹を見上げる。

『まあ素敵。じゃあ満足よねエウリュアレ? これで最後まで純潔だったわ、私たち』

『……そうね。私は嫌だけど、そうしないとあんまりにもあの子が馬鹿みたいだし。それぐらいは、意義があったものにしてあげないと』

 姉たちは思う。人間を恨んだのは自分達だ。妹は、メドゥーサは彼等を恨んでなどいなかった。
 生まれながらに男に愛され犯されることを約束された姉妹たち。上の姉は運命だと受け入れ、下の姉は嫌悪して、どちらも諦めを抱いていた。 
 それを末の姉が最後まで守り通したのだ。受け入れた運命に抗ったのである。

『……貴女は私たちを守った。けれど、私達を守ったメドゥーサはもういない。なら守られていた私達も、同じようになくなりましょう』

 無くしてしまったものは二度と戻りはしない。
 水と血が混ざれば、二度とは戻れぬように反転した怪物は元に戻ることはないのだ。
 二人の姉は指を絡ませながら最愛の妹の前に立った。

『……うわ、もう目の前かあ……。じゃあね。さようなら、可愛いメドゥーサ。最後だから口を滑らせてしまうけど――憧れていたのは、私達の方だったのよ?』

 怪物には人の情などない。彼女はなんの躊躇いもなく、誰よりも守りたかった姉たちを喰い殺し、姉たちは永久に妹の一部となった。
 人々に怪物であれと望まれたメドゥーサはこうして完全な怪物へとなったのだ。
<> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:24:54.90 ID:J/oVyE8n0<>
「これ……ライダーの……夢、か」

 ちゅんちゅんと小鳥が鳴いている。ウェイバーは寝起きのだるい体を起こすと、目をぱちくりさせる。
 まるで甘い香に溶けていたようだ。まるで硫酸の底に埋もれていたようだ。
 どうにも現実感がなく、夢遊病にいるみたいである。

(ライダーがメドゥーサだってのは知ってた。……そうじゃない。知った気になってた)

 蛇の頭の怪物。顔のない島にする悪神。
 それが怪物メドゥーサ。だがサーヴァントとして召喚されたメドゥーサは明らかに人間の形をしていて、伝承の方が誤りであり人間であるのが正しいのだと。
 けれどそうではなかった。
 メドゥーサは英霊として召喚されているからこそ人間の形をしているのであり、怪物メドゥーサもまたライダーの側面なのだ。
 
「……どうにも眠いと思ったら、まだ四時じゃないか。第四次だけに」

 ウェイバーはもう一度目を閉じる。
 ライダーを通して見た昨日のケイネスと遠坂時臣。それに劣等感を抱きながらも、どうにか意識しないように頭を空にした。
 すると直ぐに微睡の中に溶けていく。今度は怪物の夢ではなく、もっと幸せな夢に浸りたいと思いながら。
 
<> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:25:25.86 ID:J/oVyE8n0<>  時臣とケイネス・エルメロイが壮絶なる魔術戦をした翌日。
 聖杯戦争の監督役こと言峰璃正は時臣からの連絡を受けていた。
 璃正は遠坂家と個人的な縁があるとはいえ、本質的に魔術師ではなく教会の人間。魔道についてはど素人だが時臣に合わせて教会には通信用の礼装が置いてあった。
 時臣本人には気遣って言わないが、時臣はこと電子機器に関しては酷いのである。あれほど文明の利器に疎い人間を璃正は見た事が無い。
 電話とTVはどうにか扱えるが内心ドギマギ、携帯電話クラスになると確実にアウトだ。
 PC? それはもうアラビア語の寿限無だ。起動しただけで壊れたと思うだろう。

『璃正さん、一連の一般人をも巻き込んだ破壊行動を受けての、衛宮切嗣に対しての警告はどうでしたか? 手応えのほどは』

 時臣のいう手応えとは衛宮切嗣が警告に反省したかどうか、ということではない。
 警告というのは表向き。真の狙いは警告というのを餌に柳洞寺の様子を探ることだ。
 柳洞寺が如何な要塞で幾万のトラップの巣窟だろうと監督役は中立である。その監督役の使者に危害はおいそれと加えられない。
 つまり"監督役の言葉を伝えるための使者"という名目を掲げて行けば、より安全に柳洞寺の内情を探ることができるのだ。

「残念ながら芳しくはない。アーチャーの発言は正しく、柳洞寺の山門にはセイバーのサーヴァントが待機して寺を守護してはいた。けれどセイバーは頑として中に通そうとはしなかった。マスターと私はラインで結ばれている。警告なら私を介して行えば良い、と」

 本当にそれだけ。
 それとなくキャスターと同盟したのか、キャスターのマスターは誰なのか、と探りをかけさせたが無為。
 セイバーは必要最低限のことしか喋ろうとはせず、得られた情報はセイバーが柳洞寺にいてセイバーのマスターも柳洞寺にいるらしいということだけだ。

『そうですか。……セイバーとキャスター、更にあの衛宮切嗣がいるとなれば……一刻も早く排除しなければならないですね』

「うむ」

 重々しく璃正も時臣に同調した。なにもそれはセイバーとキャスターの同盟が戦力的に恐ろしいというだけではない。
 璃正が中立の監督役でありながら時臣に肩入れしているのは、時臣の聖杯にかける願いが"根源への到達"だからだ。
 聖堂教会は異端を排斥するが根源には興味ない。根源とはこの世の内側ではなく外側にあるもの。『』へと到達したその瞬間、到達者はこの世から姿を消してあちら側へと行く。
 故に時臣の祈りとはこの既存の世界に"善意や悪意"の一切を振りまかないものであるのだ。
 しかし他のものはそうではない。
 聖杯は根源へ到達するのが正しい使い方だが、純粋に願望器としての機能も持ち合わせている。
 正しく万能の釡たる聖杯を願望器として使用したのならば、それこそ世界征服だろうと世界平和だろうと叶ってしまうのだ。
 それは良くない。聖堂教会としても魔術師が外側でどうしようと興味はないが、それが自分たちの支配圏にも関わるというのであれば黙していることは出来よう筈もない。そのため聖杯を根源というつまらない願いの為に使い潰してくれる遠坂時臣を聖堂教会は影ながら援助しているのだ。
 しかし衛宮切嗣、己が勝利のために無辜の命を犠牲にした魔術師殺し。
 もしもあんな男が聖杯を掴み、願いを叶えてしまえば――――どれほどの災厄が世に振りまかれるか分かった物ではない。
 聖堂教会の監督役としても、一人の聖職者としても、遠坂時臣の友人としても、衛宮切嗣にだけは聖杯を掴ませる訳にはいかないのだ。
<> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:26:00.80 ID:J/oVyE8n0<> 「しかし最優のセイバーと最弱とはいえ後方での援護に優れたキャスターのペアは中々に難敵。古来より攻めるには三倍の戦力が必要とはいうが……もしあそこを攻め落とすとなれば、攻める側には最低でもサーヴァントが二騎は必要でしょう。なにか算段があるのかね?」

『アーチャーとアサシン、私と綺礼の総出で出陣し柳洞寺を陥落せしめる。シンプルなのは良いが下策だ。勝算も低い。キャスターも自分の牙城に数多くの魔術結界やトラップを張っているだろう。なにより敵はサーヴァントだけではない。衛宮切嗣もいるのだ。下手すればサーヴァントの相手をしている間に側面から衛宮切嗣が襲い掛かってくる』

 しかもアーチャーとアサシンを動員するとなれば乾坤一擲。少しの失敗が全てを決めてしまう大一番となる。
 時臣からすればこの段階ではまだアーチャーの力は温存しておきたいだろう。
 第四次聖杯戦争、万全の準備をして挑んだ時臣の戦略は完全に瓦解していた。
 不正規のアサシン召喚による情報収拾の遅れ。英雄王の触媒紛失による火力不足。
 更には衛宮切嗣とセイバーのペアにキャスターとの同盟だ。せめてもの救いは未だアーチャーが『宝具』を開帳していないことくらいである。
 当初の戦略通り序盤は穴熊を決め込み情報収集などとはいってられない。時間が経てば経つほどに時臣や他の参加者は不利になっていき、逆に衛宮切嗣とキャスターは力を増していく。
 しかも向こう側は時臣や綺礼がマスターであることを知っているかもしれないが、こちら側はキャスターのマスターの名前すら掴んでいないのだ。

「キャスターと衛宮切嗣が神秘の漏洩に加担していたのならば……いかようにも監督役権限を行使できたのだが……」

 先日キャスターは広範囲の魔力喰いで数人の死者を出し、衛宮切嗣は100人以上の犠牲者を出しているが、どちらにも共通しているのは"魔術の隠蔽が完璧である"の一点につきる。
 衛宮切嗣は余りにも犠牲者を出しているために、これ以上悪戯に一般人を犠牲にするようならば令呪の一画を剥奪するという警告は与えられたが、キャスターはまだ数人の犠牲者のみ。
 これでは監督役権限で強硬策に訴えるには足りない。

『止むを得ない。ここは他の参加者を使うとしましょう』

「ほう」

『キャスターとセイバーのペア。更には衛宮切嗣の危険性を解けば"柳洞寺を陥落"させるまでの同盟関係を結ぶことは難しくはない。もっとも同盟として表に立つのはアサシンで、アーチャーにはもしもの時の後詰を担当して貰うことになるでしょうね』

「して同盟相手に心当たりはあるのかな?」

『ロード・エルメロイは実力は申し分ないがプライドが高い。なによりも身内には甘いがそれ以外には冷酷な人間だ。アレは良い好敵手とはなるが、良い共闘者にはならない。一時同盟したとしても衛宮切嗣とは別の意味で背中を預けられない。『尤も彼には仕込みをしてある。運が良ければロード・エルメロイの方から柳洞寺に赴いてくれるかもしれないし、チャンスがあればこちらからそれとなく誘導することもできるでしょう。そして間桐は脱落済み。となれば消去法で残るはウェイバー・ベルベットしかいないでしょう』

「ふむ。やや頼りなさそうではあるが、かえって切り捨てる前提の同盟者としては申し分ないやもしれんな」

 聖杯戦争に参加したマスターは教会へ届け出するのが定められたルールのため、璃正はウェイバー・ベルベットが参加者であることを知っていた。

「しかしウェイバー・ベルベットの所在は分かっているのかね? 時臣くん」

『アーチャーとアサシンが冬木市中を捜索中ですよ。ただ冬木の宿泊施設にウェイバー・ベルベットの名前の人物はいない。偽名を使っているのか、別の方法で潜伏しているのか、それとも冬木市外に陣取っているのか。可能性としては偽名、ですね』

「分かった。聖堂教会の方でも調査はしておこう」

 それで通信は終わった。
 璃正は肩の力を抜いてから、聖堂教会の部下に指示を飛ばす。 <> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:26:41.29 ID:J/oVyE8n0<>  一先ずの監督役としての仕事を完了した璃正は神父としての仕事を黙々とこなしていく。
 聖杯戦争中であろうと此処が教会であることには変わりない。迷いを抱えた一般人が門を叩いてくることはある。
 そうこうして神職に励んでいると、本当に教会の門を叩く者がいた。

「――――どなたかな。既に門限は過ぎているが、教会は決してどのような隣人であれ門を閉ざしたりはしませんぞ」

 落ち着きのある人に安心感を与える声。璃正はぎぎぎっと教会の木扉を開ける。

「――――ッ!」

 そしてぎょっとする。聖堂教会に張ってある『セキュリティー』には何の反応もない。しかし目の前に立っている女は明らかに、

「それはそれは有り難いことですわ神父様。ですけど生憎ね、私は神が嫌いなの。私は神々の気紛れによって狂わされたのだから」

 女の手から紫色の光が発せられる。
 サーヴァント・キャスターの魔術に璃正は為す術もなく意識を刈り取られた。 <> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:27:27.56 ID:J/oVyE8n0<>  第四次聖杯戦争で最初にサーヴァントを失ったマスターでありながら、最初の脱落者ではない男、間桐雁夜はマスターの誰よりも早く冬木教会の門を潜った。
 しかし雁夜が此処へ来たのはサーヴァントを失い保護を求める為ではない。
 教会が管理しているという『聖杯の器』を奪うためだ。

「キャスター、あったか?」

 自分のサーヴァントであるキャスターに問いかける。 
 マスターであっても一年の即席魔術師でその手の知識に著しく欠けている雁夜には聖杯とそうでないものの区別などつかない。
 そのため聖杯の探索はキャスターに任せきりだった。

「いいえ。どうやら此処にはないようですわ、マスター」

「そうか」

「でも、そんなことは些細な問題です。魔力供給は十分以上、最優のセイバーも私たちの手に堕ちました。もう私達に刃向う力をもつマスターはいない。愚かなマスター達はまだその事実すら認識してはいないでしょうけど」

 ニヤリと艶然と微笑むキャスター。その妖しい色気、普通の男なら容易に堕ちてしまうだろう。
 だが雁夜は堕ちない。雁夜の心は既に一人の女性に奪われてしまっているのだから。恐らくは奪った当人は奪った自覚すらしてくれていないだろうが。
 それでも雁夜の心に卑屈さはない。分かっているからだ。キャスターはもう自分達に刃向う力をもったマスターはいないと言った。それは同じようにこの戦いに身を投じている遠坂時臣をも超える力をもっているということなのだ。
 歪な優越感が雁夜の心の隙間を満たし、昂揚感と充足を与えていた。
 
「セイバーだっけ。やけにとんとん拍子で手下にできたけど、信用できるのかよ」

「勿論。聖杯の力の分配とアイリスフィール……と言ったかしらね。あのホムンクルスの命を奪わないと誓うのであれば協力する、そう言っていたわ。元々マスターとも余り仲が宜しくなく不満をもっていたようですし取り敢えずは信用していいでしょう。あんまり他愛なく堕ちるんで面白味には欠けますが」

「お前が言うなら、たぶん大丈夫なんだろうな。でも中立地帯の教会に攻撃したのは。ここは不可侵なんだろ」

「あら。マスターの仇敵たる遠坂時臣に影で協力していたような男が中立というのです?」

「………………」

「それに心配する必要はありませんわ。もう私達を倒す力をもったマスターとサーヴァントはどこにもいない。もう間もなく聖杯は我々のものとなるでしょう。そして聖杯を手に入れればマスターの苦痛も苦悶も苦渋も終わる」

「ああ、そうだな。聖杯戦争に勝つのは俺だ」 <> 第18話 蛇を想い、魔女は狂い<>saga<>2012/12/07(金) 22:28:02.83 ID:J/oVyE8n0<>  自分の悪運の強さには我ながら驚きを通り越して呆れる。
 心からキャスターがサーヴァントで良かったと思う。もし臓硯の言葉に従い呼び出したバーサーカーを使役できていたとしても、自分のような急造マスターでは終盤まで戦い抜けるか怪しかっただろう。

「もう臓硯の顔色を窺って惨めにいる必要はない。解放されたんだ……俺も、桜ちゃんも。聖杯さえ手に入れれば本当に全部から解放される」

 自分にとって良くも悪くも雲の上の存在で逆らう事の出来なかった妖怪・間桐臓硯。
 しかし臓硯を優に上回るキャスターなら臓硯など恐れるに足らない。キャスターを自分のサーヴァントにした翌日、雁夜は自宅だった間桐家を襲撃し桜を臓硯の手から奪い取って来た。
 蟲の知らせで危険を悟ったのか蟲蔵に臓硯はおらず、仕留めることはできなかったがそんなものは些細な問題である。臓硯が妖怪だろうと臓硯がサーヴァントより強い訳がない。
 キャスターを従え間接的にセイバーをも従えた自分に勝てはしない。聖杯を掴めば、もう完全に間桐臓硯を滅ぼし尽くすこともできるだろう。

「でも聖杯はここにはなかったのか。臓硯の奴は聖杯の器は聖堂教会が管理してるって言ってやがったんだけど。……念のために聞くけど、キャスターも知らない場所に隠されてるとかはないのか?」

「私が? ふふふふふふっ。もしそんな隠し場所があるのだとしたら私も現代の魔術師を見直さなければなりませんね。マスターにはなにか思い当たる節があるのですか」

「……俺や桜ちゃんが臓硯にやられたみたいに。体の中に隠す、とかは」

「体の中?」

 キャスターは雁夜の言葉にじっと黙って考え込む。
 深く被ったローブのせいで表情の変化は読み取れない。だがその口元が綻んだのを雁夜は見た。

「あは、あはははははははははははははは! なんだ、そういうことだったの! 私はとんだ道化だったということね。まさか私ともあろうものが、ふふふふふ、あはははははは!」

「きゃ、キャスター?」

「マスター、朗報です。聖杯を手に入れました」

「は?」

「違いますね。私達はとっくに聖杯を手に入れてたんです。ただその事実に気付いていないだけで。帰りましょうか、柳洞寺へ。そこで私達の聖杯が待ってます」

「ど、どういうことだよ! 聖杯はとっくに手に入れているって。俺はそんなもの見た事ないぞ!」

「いいえ。あります、マスターはその聖杯を見ています」

 キャスターは確信をもって言う。間桐雁夜は聖杯を見た事があると。
 しかし雁夜には聖杯を手に入れた記憶も見た覚えもない。雁夜が見たのは精々キャスターが奪ってきたセイバーとあのアイリスフィールとかいうホムンクルスだけだ。

「教えてくれキャスター、手に入れてる聖杯ってなんなんだ?」

「何というより何者でしょう。人と人から生まれぬ命とはいえ命には変わりありませんから」

「おい、まさか」

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。あのホムンクルスこそが聖杯だったのです」  <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/07(金) 22:29:59.92 ID:J/oVyE8n0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 22:35:40.13 ID:VnqAv4EEo<> キャスター組がトントン拍子過ぎて、逆に怖いよ

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 23:57:13.78 ID:08YFWsTLo<> 龍ちゃん&ジルドレでもここまで順調じゃなかったと思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 01:35:39.83 ID:rU7/ONvh0<> これは負けフラグの予感!

というかそうでもなければ順調すぎるよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 12:19:14.43 ID:hls/dKmg0<> おじさん多分勝ち残れないだろうけど、桜ちゃんは幸せになって欲しい無理かな蟲じじいまだ生き残てるぽっいし
やはり報われるは10年後なのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 13:29:53.69 ID:y9hUmBiAO<> 俺は必死に頑張った雁夜おじさんが1番好きだ
報われなくても、死んでも好きな女性の娘を守る雁夜おじさんは最高だ!!
ってわけでこの作品でも雁夜おじさんの活躍を期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 13:52:04.39 ID:sDP2A8NQ0<> たとえ救われないとしても桜には雁夜おじさんのこと覚えてて欲しいな
そのくらいの救いはあってもいいよね・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 14:15:55.20 ID:ZxosL6gco<> キャスターなら桜の体内の蟲取り除くくらいできるはず。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 15:12:16.29 ID:oy6ufQ2Ro<> 五次でキャスターと士郎が組むSSだと、なんだかんだ言って、キャスターが善性見せて蟲を取り除くのが割とあるんだけど……
今回はどうなんだろう、善性有りなのか……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 15:17:50.52 ID:ZxosL6gco<> あ、可能だけどやってない可能性もあったか……。
キャスターが桜に同情するかどうかも分からないかそういや。

というか桜は今どこで生活してるんだろ。間桐邸に放置はないだろうから、雁夜と一緒に柳洞寺だろうか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/08(土) 16:05:11.32 ID:+7yW+aO7o<> 予想はやめよう
雑談でスレを埋めるのもやめよう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 19:25:18.68 ID:cSYLVH5N0<> 別に、このスレを雑談で埋めてしまっても構わんのだろう?

雑談見たくなければ主の投稿だけ抽出すればいいんだし、予想するのも楽しみの一つだと思う
主が言うなら話は別だけど、ぽっと出の奴が言っても何も変わらんと思うよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 19:42:18.79 ID:/Q+XzuH90<> >>325
極論じゃないか
俺は何事もほどほどがいいや <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/09(日) 20:47:46.23 ID:N2NECj/00<> 最悪1000まで行くまでに>>1の作品が完結しなかったら、誰かしらまた建てるからいいかなーと。
日和見主義で悪いが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 20:50:06.78 ID:o+30HADIo<> ネタ潰しはやめとけよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 21:29:29.25 ID:hZWF2Sm1o<> >>325
それただの開き直りやん <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/10(月) 22:08:07.54 ID:XuZXFRWC0<>  そろそろ再開します。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/10(月) 22:13:00.48 ID:XuZXFRWC0<> >>315
 キャスター組はちょっと次話でダーク面がでてきます。

>>319
 出来れば登場キャラ全員になにかしらの見せ場を用意したいんですよね。え? バーサーカー? あれは例外です。

>>322
 キャスターは中立・悪です。…………まぁ、キャスターさんも雁夜に恩義は感じてますから酷いことはしませんよ。

>>324
 別に謂れもない誹謗中傷だとかマナー違反なものでない限り雑談は問題ありませんよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/10(月) 22:13:02.36 ID:TWiuzW5V0<> きた <> 第19話 影の参加者達<>saga<>2012/12/10(月) 22:14:14.75 ID:XuZXFRWC0<>  キャスターによる教会の襲撃。
 監督役の璃正は真っ先にキャスターの魔術にやられて倒れた。――――が、璃正は死んではいなかった。
 言峰璃正は高齢ではあるが、聖地を歩き巡礼した精神力と毎日欠かさず修練に励んでいる肉体は相当のものである。もしも喧嘩慣れした若者十数人に囲まれようと璃正は己が肉体のみでそれを鎮めることができるだろう。
 その精神力と肉体は璃正のことを裏切りはしなかった。
 キャスターの魔術で気絶させられながらも直ぐに意識を取り戻した璃正は、キャスターやそのマスターに気付かれないよう教会を出る。
 
「………………」

 常人なら泣き喚きたく苦痛の中、それでも巌のような貌は動じたりはしない。
 負傷により足を引きずりながらの遅々たる行進。それでも璃正はキャスターのいる教会から少しずつ離れつつあった。

(時臣くんと綺礼にこのことを伝えねば……) 

 璃正は見た。キャスターの隣にいた男、あれは間桐からの参加者になる筈だった間桐雁夜だ。
 間桐家からの報告ではサーヴァントを召喚した瞬間に魔力切れで敗退したということになっていた。その雁夜がどうしてキャスターのマスターとして共にいるかは知らない。大方再契約したか、脱落そのものが間桐家の虚言だったかだろう。
 その時だった。しゅっという空を切る音。璃正の喉に短刀が突き刺さる。

「あっ―――――ごぁ……」

 強靭なる肉体、揺るぎない精神力。
 しかし璃正は人間を超えた者ではない。人間を逸脱した者でもない。人間としての急所を貫かれれば死ぬしかない。
 喉元に突き刺さった意匠からしてギリシャ製の短剣は確実に言峰璃正の命運を奪い去っていた。
 ゴボゴボと口から、喉から鮮血が溢れ出る。

「……状況、完了」
 
 璃正はそんな冷淡な女の声を聞いた。だが視界はおぼろげでそれが誰なのか判別することはできない。
 女が去っていく。
 だがまだ璃正はまだ生きていた。後数秒で消える命。それでも生きているならば出来ることはある。
 最後の力を振り絞り、自分の流した血を文字にして時臣や息子へ遺言を残した。
 敵マスターの名前を書いたところで、これを殺害者が見てしまうかもしれないという可能性に思い至り、最も重要なことは見られぬよう僧服の裏に記す。
 そして遺言を書き終わったのと同時に言峰璃正は永久にその瞳を閉じた。 <> 第19話 影の参加者達<>saga<>2012/12/10(月) 22:14:42.69 ID:XuZXFRWC0<>  一仕事を終えた舞弥は素早く殺害現場より離れる。長居は無用だ。これ以上留まっては時間がなくなる。
 アイリスフィールが遺したヒントでキャスターはギリシャの英霊――――コルキスの魔女メディアだということが分かった。
 舞弥がわざわざアンティークなギリシャ製の短剣を言峰璃正を殺害する武器としたのはその為である。
 状況証拠は完璧。これでこの惨状を見た者は言峰璃正を殺したのはギリシャに縁のある者の仕業と考えるだろう。
 後は言峰璃正を即死ではなく致命傷を与えるだけに留めておけば、勝手に最後の力を振り絞ってダイングメッセージを残してくれる。自分を殺したのはキャスターだという。
 そこで舞弥はダイイングメッセージの内容を確認するために一度璃正の遺体のある場所へ戻る。
 計画通り。言峰璃正はダイイングメッセージを残していた。

(下手人はキャスター。……それにマスターは間桐雁夜……。これは切嗣に報告しなければ。まだこれは掴んでない情報だ)

 思わぬ収穫を得た舞弥だが、遠坂時臣にここまでの優位を与える必要はない。
 マスターが間桐雁夜という情報を特殊な薬品を使い消し去ると、急いでその場を後にした。

(今日はついている。まさか疑わしい監督役を始末できるのみならず、それをキャスターの仕業にできたのだから)

 舞弥がここにいるのは本当にただの偶然だ。
 切嗣に教会は怪しいからそれとなく監視しておけと命じられ、そうしていたら今日のキャスター襲撃。
 お陰で誰よりもこの場に駆けつけ、誰よりも速く仕掛けを施すことができた。
 
(それにしても、まさかキャスターが強硬策にでるなんて。セイバーを自分の支配下に収めて油断している……? それとも勝利を信じた疑ってない?)

 だとすれば幸先の良いことだ。
 どれほどの強者でも油断すれば隙が生まれる。その隙を突くのは『衛宮切嗣』が最も得意とすることなのだから。
<> 第19話 影の参加者達<>saga<>2012/12/10(月) 22:15:08.44 ID:XuZXFRWC0<>  キャスターにとって間桐雁夜と出会えたのは奇跡的な偶然だった。
 彼女は聖杯戦争の第一夜、ギリシャ神話に悪名高い裏切りの魔女は"肉親を切り刻んだ"という共通の咎を触媒として、一人の殺人鬼に召喚された。
 しかし殺人鬼は魔術師ではない。本来ならマスターに選ばれる筈もない、ただ祖先が魔術師だったというだけの一般人。それが彼女の最初のマスターである。
 名前は知らない。訊く前に彼女は自らの宝具で契約を切ってしまったからだ。幸い魔術の知恵もない召喚者に令呪を使うことなど出来る筈もなく処置は簡単だった。
 だが彼女にとって想定外のことがあったとすればその後だ。 
 彼女は契約を切っても大した問題はないと考えていた。他のサーヴァントならいざ知れず彼女はキャスター。マスターからの魔力供給以外に魔力を得る術など数えきれないほどある。しかしサーヴァントの契約とはそう甘くはない。
 サーヴァントは過去の存在であって"この世のもの"ではない。この世のものではないサーヴァントを現世に留めるにはこの世のものの憑代が不可欠だったのだ。
 もしも彼女が万全の状態ならばマスターを失っても数時間は行動できただろう。だが彼女が契約を切断したのが召喚直後だったこと、召喚そのものがイレギュラーだったこと、マスターが魔術師ではなかったことなどのイレギュラーが重なり、彼女には自らの肉体を現世に留めるだけの力が致命的に欠けていた。
 そうして朦朧とする意識の中で彷徨い歩き――――出会ったのが間桐雁夜である。
 召喚して早々にサーヴァントを失ったマスターと、召喚されて早々にマスターを失ったサーヴァント。
 奇しくも境遇はまったく同じだった。
 再契約に至るまで時間はかかることはなく、二人はこうして『八番目』の契約を結んだのだ。
 彼女にとって間桐雁夜は恩人であり賛同者であり同胞である。
 もしも雁夜と契約していなければ彼女は誰と戦うでもなく人知れず雨にうたれながら消滅しただろう。そんな惨めな最期から彼女を救ったのは間違いなく雁夜だった。
 そして間桐雁夜はキャスターにとって『同胞』でもある。恐らくは間桐雁夜自身も自覚していないだろうが。

「……俺の願いなんて大それたことじゃない。桜ちゃんを救うんだ。それだけでいい。俺の身がどうなってもいいから桜ちゃんだけは」

 雁夜は己が願いをそう語った。
 絵に描いたのような綺麗な夢。自分を犠牲にしても誰かを救いたいという、愚かでありながらも崇高なる自己犠牲。
 自分が魔道から逃げたせいで、愛した女性の娘がその地獄に堕ちてしまった。だから自らの命に代えても少女を救い出したい。
 嗚呼、それはとても素晴らしい夢だろう。まともな人間なら彼の願いにエールの一つでも送るかもしれない。
 けれどラインを通じて見た雁夜の過去や話しを聞いている内に気付いてしまったのだ。間桐雁夜の願いにある致命的な矛盾を。
 サーヴァントとして忠実であらんとすれば、その『矛盾』を諫言するべきなのだろう。主が間違えればそれを正そうとするのが忠臣というものだ。
 しかしキャスターはそれを言わない。
 彼女は魔女。忠誠心高き騎士ではない。裏切りと毒と陰謀とに彩られた英雄の敵対者だ。
 間桐雁夜の精神は非常に不安定だ。もしもこの矛盾を指摘しまえば壊れてしまうかもしれない。いや、もしかしたら聖杯戦争から脱落してしまうかもしれない。彼女にとってそれは最悪の結果だ。
 だが彼女は利己的な性格をしているとはいえ人間の情がないわけではない。いや寧ろ情があったからこそ、境遇の反動でここまで彼女は歪んでしまったのだ。
 雁夜に対して恩は感じていたし、出来れば幸せになって欲しいとも思う。
 なればこその聖杯だ。
 聖杯というのは無尽蔵の魔力。キャスターのサーヴァントたる彼女が聖杯を使えば、それこそ不可能なんてものはなくなる。死者蘇生だろうとサーヴァントの受肉だろうと自由自在だ。
 戦いに勝利し、聖杯を手中に収めてしまえば後はどうとにもなる。
 雁夜の矛盾を矛盾のままに全てを修めることもできるだろうし、雁夜の寿命すらも解決するだろう。
 そうして間桐雁夜は己の願いを成就させ、新たなる人生を。
 キャスターもまた第二の生で、次こそはただの幸福なる人生を。
 故に同胞。
 彼女は彼女のために。そして雁夜へ報いる為にも聖杯を手に入れる。
 いいや彼女はもう聖杯を手に入れているのだ。
 歴代の聖杯戦争において最高の魔術師である彼女だ。この地にある聖杯の正体についても大まかには理解していた。……その中にある『異常』についても勘付いていたが問題はない。彼女の技量をもってすれば、聖杯に『異常』があれど問題なく願望器として使うことができるのだから。
 聖杯を手に入れたのなら後は中身を満たすだけ。
 既に聖杯にはバーサーカーが注がれている。必要とするのは最低でも五つ。四体のサーヴァントを注ぎ、この柳洞寺に溜まりに溜まった魔力も合わせれば雁夜と彼女の願いを叶えるには十二分の魔力が溜まる。セイバーの願いを叶えてもお釣りがくるだろう。
 
「勝つのは私たちですわ。マスター」

 月を見上げながら彼女は――――キャスターは歌う様に呟く。
 そうして夜は更けていく。 <> 第19話 影の参加者達<>saga<>2012/12/10(月) 22:15:36.10 ID:XuZXFRWC0<>  遠坂邸ではいつになく悲痛な空気が漂っていた。
 時臣とセイバー襲来により負傷をし今はこの家に匿われている言峰綺礼はただ静かに無言のままいる。
 それでもいつまでも喋らずにいるということはできない。
 現実を受け入れたくなくとも、時間は無情に過ぎていくのだから。
 
「……璃正さんが、殺されるなどとは。なんたることだ……」

 右手を血が滲むほど握りしめ時臣がテーブルを叩く。
 自分への不甲斐なさ、襲撃者への怒り、古き友人を失った傷み、死者への悼み。それらがケイネス・エルメロイを前にしても奪えなかった男の優雅さを一時奪っていた。
 言峰はそんな師の姿をどこか遠い世界のもののように見つめながらも、外面的には『父を失いどうしていいのか分からないでいる息子』を形造る。

「我が父は今際の際、導師へ遺言を残されました」
 
 璃正の死を第一に発見したのは言峰だった。
 いつものように時臣が璃正へ定時連絡をしようとした折、何故か連絡が繋がらなかったのでアサシンを伴い言峰自らが様子を見に行ったのだ。
 時臣は表向き『死者』となっている言峰が外へ出ることを渋っていたが、言峰は自分も驚くほどの饒舌さをもって時臣を説き伏せた。
 思い返せば、その時より言峰にはある種の予感があったのかもしれない。
 父は既に自分の手の届かないでいるという。
 そして言峰が目にしたのは血だまりで倒れる父と、父が血文字で残した遺言――ダイイングメッセージだった。

「父が血文字をもって地面に記した遺言よれば聖堂教会を襲撃したのはキャスターのサーヴァントとのことです」

「キャスターがっ! くっ……そうか、最弱のサーヴァントであるキャスターがこのような凶行に出るとは。いや最弱だからこそ、か。キャスターを見誤っていた。魔術師のサーヴァントなら最低でも聖杯戦争の最低限のルールくらいは守るだろうなどと。もっと私がキャスターに注意を払っていれば」

「導師。これは私見なのですが、我が父の直接の死因となったのは喉元に突き刺さった短剣でした。その短剣はどうにもギリシャ製のもので」

「……ロード・エルメロイもウェイバー・ベルベットもギリシャを祖とするものではない。消去法でいけばキャスターはギリシャ縁の英霊ということになるが」

 しかし一口にギリシャといっても、ギリシャ出身で魔術師のクラスに該当するサーヴァントなどそれこそ五万といる。
 それにギリシャ製の短剣がキャスターの残した囮ということもありえるのだ。気に留めておく程度で信頼するべきではないだろう。

「綺礼。キャスターの横暴は留まることを知らない。冬木市全土の魂喰いは死者も出始め、セイバーと衛宮切嗣のペアと同盟をし、今また監督役の璃正さんまでもが犠牲になった。これ以上、横暴を許すわけにはいかない」

 監督役はサーヴァントを失ったマスターを保護するという役目以上に、神秘の隠蔽の総責任者にして総司令としての役割を担っている。
 その監督役が死んでしまった以上、嘗てほどの隠蔽能力は期待できない。
 ましてや言峰璃正は年こそ離れているが時臣にとってはかけがえのない友人である。友人を無残に殺され怒りを覚えぬ者は友人ではない。

「……キャスターのマスターと衛宮切嗣以外のマスターを召集して、狩りを行うと?」

「そうしたいのは山々だが難しい。璃正さんがいれば監督役権限でそれも可能なのだろうが、その璃正さんがいないのではな。璃正さんの腕にあった予備令呪がない以上、マスターへの報償もまたない。他マスターに利害を説き共闘するしかないだろう。綺礼、ロード・エルメロイとウェイバー・ベルベット。両名の所在は?」

「調査は進んでおりません。父上は冬木中のホテルで両名の名やが意見の一致する人物が宿泊していないかどうか調査をしていたようですが……芳しくなかったようで」

「ならば急ごう。私もアーチャーを使いマスターを探す。君もアサシンを使ってマスターを探してくれ」

「分かりました」
<> 第19話 影の参加者達<>saga<>2012/12/10(月) 22:16:02.85 ID:XuZXFRWC0<>  時臣は霊体化しているアーチャーに命じると部屋から出て行った。
 その後ろ姿を見送ると、言峰は自然と口元に笑みが広がる。

『良かったのか綺礼、父の予備令呪を継承したことを伝えずにいて』

 霊体化したままアサシンが話しかけてくる。
 そう。時臣には話さなかったが言峰は父の予備令呪を継承していた。父の遺言にあったのはキャスターについてだけではない。
 もう一つ、父の僧衣の裏にはヨハネ福音書4:24と刻まれていた。
 言峰がなんのことかとその一節を読み上げてみれば、次の瞬間には言峰綺礼の腕に予備令呪は刻まれていたのだ。

「問われれば応えていたとも。だが訊かれぬことを喋る義務は私にはない。それに父が地面に記した遺言は私が語ったので全てだ。別の場所に遺言がなかったなどとは言ってはおらんよ。これでも聖職者。嘘はつけん」

『建物の爆破の際に、自らが死んだと虚言を吐かせたのは?』

「さあ。私はお前にもしもこうであったのならばセイバーが退くやもしれん、と貴様に伝えただけで貴様に嘘を吐けと命じた覚えはない

『……とんだ生臭坊主がいたものよ。私の時代の坊主も中々に下衆な者はいたが、お前は中でも極上よ。表面こそ神職でありながら、その内面は酷く悍ましい』

「自覚はあるとも。やはりな、父の死を見て再確認できた。人間ならば自分の父親が無残に殺されているのを見て悲しむべきだ。嘆き泣くべきだ。くくくっ、だが私は逆だよ」

――――どうせ死ぬのなら、私の手で殺したかった。

――――言峰綺礼の内側をまざまざと見せつけ、絶望させてから殺したかった。

「まったく貴様の言は正しい。どこまでも悍ましく下衆な考えだ。お前が美しいと感じる花・鳥・風・月――――それらが私にはどうしようもなく醜いものとしか思えないのだから」

『…………』

「だがそのようなことは些細な問題だろう、アサシン? 私はお前を友人として呼んだのでも理解者として呼んだのでもない。お前にはお前の目的があり、私には私の目的がある。価値観が正反対とはいえ私にはお前が必要であり、お前には私が必要なら協力はできるだろう?」

『口も回ることよ。――――しからば、いや……そうであるな。現世に迷い出、あのような極上な剣を見せて貰った事、その一点において綺礼、貴様には借りがある。そして私はあのセイバーとは果し合いをせずにはいられん。その為にはお前という憑代が必要なのもまた正しい』

 アサシンはくつくつと笑うと言峰に背を向け歩いていく。

「どこへいくアサシン?」

『アーチャーと同じ。協力者を探すのであろう? この街を見聞するついで、探して来ようというのだ。願わくば可憐なる華に見えたいものよ。ここはどうもむさ苦し過ぎるのでな』

「勝手にしろ」

『それと綺礼。お前の美観は私には到底理解できぬものだが、唯一つの生き方を追求することはまこと天晴なことよ。そこのみは嫌いではないぞ』

 それだけ言い残しアサシンのサーヴァントは消えていった。
 言峰は一人、自分だけしかいなくなった部屋で空を仰ぐ。

「衛宮切嗣……奴に答えを聞くには、どうにも他のマスターとサーヴァントが邪魔だ」

 自分と衛宮切嗣との邂逅に部外者などは不要だ。
 その前に他の邪魔者を一通りは掃除しなければなるまい。
 言峰綺礼の腕に刻まれた数多の令呪が不気味に光った。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/10(月) 22:16:35.21 ID:XuZXFRWC0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/10(月) 22:33:45.80 ID:XUvsk8EE0<> いよいよ、言峰が動きだしそうですねフェイトの黒幕キャラの活躍も期待しています、乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/10(月) 22:37:26.88 ID:UVdD+YXOo<> おつー
金ぴか無しでもやっぱり麻婆は覚醒しちゃうのね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/11(火) 16:21:51.14 ID:ZM2hAeIS0<> 言峰は最初から自分が異端なことを理解していたのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 18:39:57.09 ID:vhrfzonN0<> さてマーボーはこれからどんな感じに活躍するのか見物だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/11(火) 19:42:44.39 ID:rRY/T80h0<> ところで少し前>>1の書き込みを抽出っぽいけど言ってた人いたけど。
ハーメルンってサイトにこの作品が投稿されているのって既出じゃないよね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 21:42:35.32 ID:oX2rsyn90<> 今見てきた
フツーに>>1本人じゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/11(火) 22:16:21.51 ID:rRY/T80h0<> ただ抽出とか言ってる人いたから、他にも発表してる場所あるようだけど。
って思っただけ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 22:54:17.65 ID:Nyfvgtglo<> ハーメルン、ニコニコ、ここの三つは把握してたけど他にもある? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/11(火) 23:12:03.49 ID:rRY/T80h0<> 自分もその3つだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/13(木) 00:45:37.34 ID:g4cCngUN0<> 相変わらず面白い
けど誤字脱字が増えてきたな
細かいこと言ってすまん <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/13(木) 21:00:16.39 ID:+Qlbh7rv0<> 今日……再開します。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/13(木) 21:19:22.44 ID:+Qlbh7rv0<> >>339
 言峰はまぁ……時臣にとって言峰を弟子にしたことが生涯最大の失策です。

>>341
 麻婆についてはHFルート参照。

>>343
 自ブログがないのでssを纏めるのに利用しています。

>>346
 それだけです。 <> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:39:37.67 ID:+Qlbh7rv0<>  聖杯戦争の一週間目である七日目は不気味なほど静かに何事もなく終わり、戦いは八日目に突入する。
 ウェイバーがサーヴァント・ライダーを召喚してから八日目。今日もお世話になってるマッケンジー邸の台所を預かるマーサの朝食に舌つづみをうっていた。
 やはり美味しい。イギリス人であるウェイバーも……もといイギリス人だからか、ウェイバーには朝食が倍は美味しく感じた。
 よもやこの夫妻が日本に定住してしまったのもこの辺りが理由なのでは? と邪推してしまう。
 
「――――――」

 そして横で粛々と朝食の席を共にしているのはライダー。
 ライダーの言い訳とマッケンジー夫妻の壮絶なる勘違いにより、何故かライダーはウェイバーの彼女ということになってしまっている。それで無駄に気を利かせた夫妻が冬木市にいる間はうちに滞在してはどうか、などと要らぬ節介をやいてしまったのだ。
 勿論ウェイバーは断った。なんなら再び暗示をかけ直すことも辞さない算段で断った。
 しかしライダーの「暗示の魔術を連続で使うのは神秘の隠匿という意味で問題なのでは?」という諫言と、今後ライダーの姿が目撃する度に言い訳や暗示をかけることの憂鬱さ、食料摂取が微々たるものとはいえ魔力供給に役立つことなどから渋々と首を縦に振るうことにした。 
 正直、魔術師のウェイバーとしては人間を超えた神秘の塊のサーヴァントを一般人の目に堂々と晒す方が問題のような気はしたが、そこは意外に口も達者なライダーならなんとかなるだろう。

(うぅ……眠いなぁ)

 朝食に舌つづみをうちつつも眠気は収まってくれない。目を擦りながら白米を口に運んでいく。
 これでも論文を書いたりで徹夜などは慣れているのだが、最近は妙な夢ばかり見るせいで眠っても寝た気がしない。
 心当たりはないのだが、寝ると必ず【自主規制】な夢を見てしまうのだ。夢の内容な内容なだけにライダーにも誰にも相談できない。自分はこんなに低俗な人間なのかと少年ウェイバー、密かに絶望中である。
 この一連の淫夢が実はライダーがこっそり自分に吸精していたことが原因だったと知るのは先の話だ。
 ウェイバーとライダーが静かに朝食を食べていると、なにかに気付いたグレン・マッケンジーが話しかけてくる。

「なぁウェイバー、マーサはどこだい? 姿が見えないようだが」

 キョロキョロとリビングを見渡すグレン・マッケンジー。
 しかし彼の妻であるマーサの姿はどこのも見当たらない。ウェイバーはぼーっとしながらも口を開き、

「おばさんなら、さっき新聞を取りに行くって玄関に……あれ?」

 そこで違和感に気付いた。
 マーサが新聞を玄関にとりにいったのは三分前だ。三分も前なのである。
 自宅の玄関から新聞をもってくる、それだけに三分も要するというのか?
 グレンの方も同じ疑問を抱いたのだろう。よっこらせと立ち上がる。 <> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:40:10.81 ID:+Qlbh7rv0<> 「ちょっと様子を見て来るよ」

 妻の名を呼びながら玄関へいくグレンの背中を見送る。
 しかし朝食を口に運ぶ気にはなれなかった。じっと玄関の方を見つめ続ける。すると暫くしてグレンの叫びが木霊した。

「まっ、マーサ!! おいマーサ!! しっかりしろ!!」

 慌てたようなグレンの声。
 ウェイバーは弾かれたように立ち上がった。朝食を食べても消えなかった眠気が纏めて吹っ飛ぶ。

「ライダー!」

「はい」

 ライダーを伴いウェイバーは玄関へと走り――――そこで血相を変えて妻の名を連呼するグレンと、意識を失い倒れるマーサの姿を見た。

「おじさん、救急車を!」

 考えるより先に声が出た。
 ウェイバーに言われたグレンは「どうして今までそんな事に気付かなかったのか」と言わんべき表情で電話機のあるリビングまで駆けだした。

「マーサのことを見ててくれ。私は救急車を……マーサ、なんで突然……」

 グレンが蒼白になってウェイバーに言う。
 突然、余りにも突然だった。
 マーサは昨日まではなんともなさそうにしていたし、今日だって普通に朝食を作っていた。なにか病気を隠していたとか、そんな様子は見られなかった。
 人間なんてそんなもの。いつ思いもよらぬ病魔に屈するか分からない、といわれればそうなのだろうが。

「……ウェイバー、マーサのこの症状。これはただの病などではありません」

 病魔の可能性を人ならざるライダーは否定した。

「病気じゃないなら、なんだっていうんだよ」

「魂喰いです」 <> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:40:43.10 ID:+Qlbh7rv0<> 「――――――!」

 あっさりとしたライダーの発言は的確に真実を貫いていた。
 マーサはただ倒れているのではない。命そのものを何者かに奪い取られ、そのせいで意識を保っているだけの力がなくなり倒れたのだ。
 ウェイバーもそういうことがあるということは知っている。
 サーヴァントとは霊体。信仰により精霊の座に至っているとはいえ英霊とは人間霊である。
 自然霊が自然から魔力を供給するのが最も効率が良いように、サーヴァントは人間から魔力を供給するのが手っ取り早い。
 それ故に力なきマスターはサーヴァントの力を高めるために人間を襲う。その人間の命を奪い、魔力を得るために。

「治せるのか?」

 恐る恐るウェイバーは訊く。
 サーヴァントによる魂喰い、現代の科学が魔術を追い抜いている節はあるとはいえ――――神秘になされた事象を現代医学で癒せるとは考えられない。
 そして認めたくはないがウェイバーの魔術の技量は一流とはいえない。命を喰われた人間の命を戻す術などウェイバーにはないのだ。

「もしも限界まで命を奪われていたら、もう手遅れでしたが……マーサは限界まで命を奪われてはいません。これならゆっくり休めば三日ほどで命を自然回復できるでしょう」

「そ、そっか」

 ほっと一息つく。だが直ぐにそんな自分に嫌気が差した。

(なに安心してるんだよ僕は……。僕は魔術師なのに、こんなことで慌てたり利用してるだけの一般人が倒れて、無事だって分かって安心したり……)

 家柄も名声も何もないウェイバーは時計塔で自己を保つために、誰よりも魔術師であらんとしていた。自分の才を時計塔に認めさせ、魔術師として大成することを夢見ていた。
 しかしこうも簡単に自分の中の『魔術師』はボロが出る。
 言葉にできない人間としての感情、それが熱く滾っている。これをやった者に怒りを覚えている。
 ぶんぶんと頭を振るう。努めて気を取り直してライダーに言った。

「おばさんがサーヴァントにやられたってことは、もう僕達の居場所は敵に知られたってことだよな。なら今すぐ離れないと」

「いえ、そうではないでしょう。この魂喰い、直接やったにしてはどうにも荒い。なによりもしサーヴァントが近付いてきたのなら私が気付かないはずがない。アサシンのクラスならば或いはといったところですが、この場に残るものは私と同郷の者の気配。アサシンが佐々木小次郎という侍ならこんな残滓を残すはずがない」

「お前と、同郷って。ギリシャ神話の――――」

「確証はありませんが、似たようなものは感じます」

「そうか」

 連日に渡る調査の成果というべきか、ウェイバーはアーチャー、ランサー、アサシンの姿は目撃している。アサシンとランサーは使い魔を通して。アーチャーはライダーとの視界共有で。
 そして聖杯戦争に参加したサーヴァントで直接その場におらずとも人間から魂喰いできるようなサーヴァントはキャスターのみ。
 バーサーカーは狂ってるので論外。セイバーは剣士で、ライダーは自分のサーヴァントだ。
 もしもイレギュラークラスがおらず正常なラインナップで第四次が行われているのなら、これはキャスターのサーヴァントでしかありえない。
 
「行くぞ、ライダー」

「行くって、何処へです?」

「キャスターのところだよ。……いつまでも穴熊ってわけにもいかないだろ。キャスターは一番狡賢い奴なんだし、早めに倒しておかないとな。それに最弱のキャスターならお前で簡単に倒せるだろ」

「素直じゃないですね、ウェイバー」

 薄く笑ったライダーを無視する。
 しかしウェイバーは気付かなかったがその耳は真っ赤になっていた。 <> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:41:54.22 ID:+Qlbh7rv0<>  とはいえキャスターを倒しに行くと意気込んでも当のキャスターの居場所が分かりませんでは話にならない。
 そのためウェイバーはリュックサックを背負いキャスターの居場所を突き止めるため冬木市中を練り歩き調査をしていた。
 
(……なんだか僕、この聖杯戦争で調査しかしてない気がする)

 そんな考えが脳裏を過ぎったがスルーした。
 調査とて大切な作業だ。情報戦を制する者こそが世界を制するのだ、と気紛れに見たB級映画の主人公の台詞を思い出し堪える。

「やっぱりだ。この冬木市の霊脈を辿っていくと全部が円蔵山に辿り着く。あそこがこの冬木市で一番霊格の高い土地なんだ」

 二時間半余りの散策でその答えに辿り着いたウェイバーが円蔵山――――柳洞寺のあるお山を睨む。

「……霊脈? キャスターの居場所を探しているのではなかったのですか?」

 霊体化したライダーが尋ねる。

「おばさんが倒れた時は気付かなかったけど、おばさんが倒れる前から冬木市でガス漏れ事故が多発してた。つまりキャスターは冬木市中から魔力を吸い上げてるんだ。ガス漏れ事故に偽装して」

「それは分かりますが……ああ、成程。盲点でした」

 途中でウェイバーの言わんとしていることを悟りライダーが感嘆の声を漏らす。

「いくら魔術師のサーヴァントでも街中から魔力を吸い上げるなんて芸当、出鱈目な専用の宝具でもない限り無理だ。でもこの街の霊脈の中心の円蔵山からなら街中から魂喰いするなんてこともできる」

 霊脈の中心は謂わば蜘蛛の糸の中心。中心からならば端に掛かった獲物を手繰り寄せるのは難しいことではない。それがキャスターのサーヴァントなら猶更だ。

「……ウェイバー、意外に凄いんですね」

「馬鹿にするな。こんなこと僕じゃない誰にだって出来る。作戦としては下の下だ! 僕はもっとこう……誰にも出来ないような魔術でもっとスマートにやりたいんだ」
<> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:42:52.39 ID:+Qlbh7rv0<>  拗ねたように反論しながらも取り敢えず敵の居場所は定まった。
 敵はキャスター。搦め手ならば厄介だが直接戦闘においては最弱のクラス。
 直接戦闘では三騎士には劣るライダーだが、その魔眼と宝具は聖杯戦争に参加したサーヴァントでも随一だろう。最弱のクラスに負ける道理はない。

「よっし。早速今日の夜に柳洞寺に行くぞ。それでキャスターを倒して――――」

 威勢よくウェイバーは宣言しようとする。だが、

「やめておけ。あれはもはやお前達だけの手には余る魔境と化している。迂闊に飛び込めば飛んで火にいる蟲となろう」

 人間にしては優美すぎる声に驚き、ウェイバーと即座に実体化したライダーが振り向く。
 二人の敵意ある視線を受けても動じないでいる男は……やはりサーヴァントだった。
 群青色の陣羽織、背にある五尺余りの物干し竿。
 このサーヴァントをウェイバーは知っている。使い魔越しだが確かにウェイバーは見た。

「アサシン、佐々木小次郎……?」

「私を知るか。それならば話が早い」

 アサシンが一歩近づく。
 一歩。それだけなのに膝が踊りだしそうになる。これがサーヴァント。ライダーのような味方ではなく、自分の敵対者であり自分に殺意をもつ英霊という規格外。
 逃げ出したくなる衝動を必死に堪えウェイバーは吼える。

「ふ、ふん! この辺りには人気がないけど今はまだ昼だ! さささサーヴァント同士で戦うのは夜になってからだろ!」

 どもりながら、だが。

「ウェイバー、下がって下さい。このアサシン、掴みどころがない」

 慎重に距離をとりながらライダーはアサシンの様子を伺う。
 ライダーの手には鎖つきの短剣。もしアサシンが妙な動きをすれば即座にその短剣を投擲するだろう。
 しかしアサシンはその短剣を見てもやはり緊張感の欠片もなく受け流すだけだ。 <> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:43:18.54 ID:+Qlbh7rv0<> 「武器を納めろ。私とて今お前達と戦う気は毛頭ない。ふむ、直感だがライダーのサーヴァント、といったあたりかな?」

「………!」

 なんてサーヴァントだ。ただの勘でライダーのクラスをピタリと当ててしまった。

「ははははははっ。ライダーのマスター、心の声が顔に出るようでは修行が足りぬぞ? 私が忠言するのも妙な話しであるが……フム。ああ、分かっているとも。淫靡でありながらも天女のような清廉さをもった華を見たのだ。男子ならば心の一つも奪われるだろうに。いや貴様には分からんのだったか」

 アサシンが誰もいない虚空に話しかけている。恐らく自分のマスターとラインを通して会話しているのだろう。

「さて。ライダーとそのマスターよ。我がマスターが五月蠅いのでな。早速だが用件を言おうか。ああ、そんなに構えずとも良い。私にはほらこの通り、お前達と刀を交えるつもりはないのだから」

 両手を広げ自分に敵意がないことをアピールする。
 しかし敵の言う事を素直に信じるほどウェイバーもライダーもお気楽ではないので警戒は緩めない。

「柳洞寺に攻めると言ったが、それはお前達だけでは無理だ。諦めた方が良い」

「な、なんで断言するんだよ! そりゃキャスターなんだから凄い工房を作ってることは分かるけど、こっちだってサーヴァント……しかもライダーだ。負けるなんて断言される覚えは」

「相手がキャスターのみならばそうやもしれん。しかし敵にセイバーが加わるとなれば? そこのライダーのみでセイバーとキャスターの二体を相手取れるのかな」

「せ、セイバーだって!?」

「左様。我がマスターによれば、セイバーとキャスターは手を結んだようでな。柳洞寺の山門はセイバーが守護している。セイバー一人ならば真っ先に赴きたいところなのだが、その背後に魔術師がいるとなればおいそれと攻めるに攻められん」
 
 事の重大さがウェイバーにも一瞬で理解できた。
 セイバーとキャスター。白兵に特化したサーヴァントと搦め手に特化したサーヴァントの同盟、これ以上に極悪な組み合わせはない。

「……待てよ。お前さっき僕達だけじゃ無理って言ったよな。もしかして」

「話が早くて助かる。私はお前達に共闘を申込みにきたのだ」
<> 第20話 熾烈なる八日目、その始まり<>saga<>2012/12/13(木) 21:43:50.94 ID:+Qlbh7rv0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/13(木) 21:55:05.41 ID:c84NP1Vio<> 乙

ところで、ウェイバー爆発しろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/13(木) 22:26:01.14 ID:j1qbH84/o<> 乙
2vs2はほぼ確定か。さて残りの2はどう動くかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/13(木) 23:56:49.72 ID:7vrzIMKb0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/13(木) 23:57:44.22 ID:Y1w8I/U8o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/14(金) 00:07:30.28 ID:CeYCE+FW0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/14(金) 00:14:54.87 ID:KEQbwFzn0<> 燃える展開 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/14(金) 11:51:04.04 ID:JBntSOsF0<> アサシンがライダーと接触しましたね、時臣の方針ではアーチャーの動員しないでしょう、実際動くのはアサシンと
ライダーでしょうか、全力動員すれば確実なのに時臣も爪が甘いですね <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/16(日) 20:39:10.08 ID:nMj60Rk00<>  今日再開します。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/16(日) 20:40:23.13 ID:nMj60Rk00<> >>358
 一人だけ平和なウェイバー。

>>364
 アーチャーの動向については次回。 <> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 21:58:56.97 ID:nMj60Rk00<>  夜が更け日は落ちた。
 文字通り『日常』は退散し『非日常』が闊歩する夜の時間となった。聖杯戦争の刻限である。
 ウェイバーとライダーはアサシンの案内に従い柳洞寺までやってきた。

「……これが円蔵山」

 見上げてみると一目でこのお山が人ならざる者が支配する魔境へと姿を変えている事が分かる。
 この先にセイバーとキャスターがいるのだ。
 ウェイバーはチラリと隣に佇むアサシンを見やる。この暗殺者らしからぬ暗殺者のサーヴァント、どうにも底が知れない。得体が知れないと言い換えてもいい。
 果たして信用できるのか。もしも裏切って後ろから切りかかってきたらどうしようか。

(だ、大丈夫だ……なにを土壇場になってぶるってるんだ僕……。心を平静にして考えるんだ…こんな時どうするか……2… 3 5… 7… 落ち着くんだ…『素数』を数えて落ち着くんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……僕に勇気を与えてくれる)

 やたらテンプレートなネタで気分を平静にして改めてウェイバーはライダーを伺う。
 目隠しで覆われ表情は上手く読み取れないが「大丈夫です」と言ってくれているような気がした。
 変なものだ。それだけでウェイバーの心は嵐が過ぎ去った後の野原のように穏やかなものになっていたのだから。

「さて心の準備は出来たかな。では赴くとしようか」

 こちらの心を見透かしたようにアサシンが言うと柳洞寺の石段を登っていく。
 どこか慣れた足取りだ。まるで通り慣れているような。 
 そんな訳ないと首を振る。サーヴァントは戦場となる冬木市の知識を与えられている。しかしそれは『知識』であって『経験』ではないのだから。
 疑問を振り払うようにウェイバーはアサシンに話しかける。

「馬鹿正直に山門から? どうせなら裏から奇襲した方がいいんじゃないか。表はあっちも警戒しているだろうし」

「それは――――」

「無理ですウェイバー」

 アサシンが答える前にライダーが言う。

「この柳洞寺には元々結界が張られています」

「元々? キャスターのじゃないのかよ」

「はい。サーヴァントによるものとは方式が異なる。それにアサシンの言葉を信じるのならキャスターはギリシャの英霊。この円蔵山のそれはギリシャではなくこの国古来のものですから」

 アサシンは含み笑いをしたまま黙っている。ライダーの発言が正しいから口を挟む余地はないのだろう。
<> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 21:59:31.85 ID:nMj60Rk00<> 「この結界はただの人間にはさして影響はないでしょうが、霊体である私達は正しい通り道以外の方法で寺に侵入しようとすればステータス低下を受けます。キャスターの牙城でステータスを低下させるのは命取りになるでしょう。避けるのが賢明です」

「そうか」

 認めたくない事だが……本当に認めたくない事だが。
 ライダーはマスターからの魔力供給が不足しているせいで幾分かステータスが落ちている。これで更にステータスが低下することがあれば最弱のキャスターにさえ劣ってしまうようになるかもしれない。
 ならばやはり馬鹿正直に山門を目指すのが一番ベターだろう。

「そうそう。ライダーとそのマスターよ、一つ事前に言っておかなければならぬことがあった」

 勿体ぶった様にアサシンが切り出す。
 無愛想ながらもウェイバーは「なんだよ」と先を促した。

「構えずとも良い。ただのつまらぬ確認作業……セイバーは私が担当しよう。お前達は奥の魔術師を討伐しに行け」

「いいのかよ。セイバーは最優のサーヴァントなんだぞ」

「だからこそ、だ。生憎と聖杯にかける望みなどない身でな。私にとっての望みとは極上の剣と果たしあうことのみ」

「聖杯に、興味ない? どういうことだよ。サーヴァントっていうのは皆聖杯が欲しくて聖杯戦争に参加してるんだろ。なのに望みがないって――――」

「他の者がどうだか知らぬが、どう言われようと私には望みなどない。そも私は聖杯が欲しいから召喚に応じたのではない。ふと気づけば現世に迷い出て、いつのまにやらアサシンというクラスと仮初の主君が与えられていた。ただそれだけのこと」

「…………」

 ウェイバーにはアサシンの考えが理解できない。
 もしアサシンが自分の意志に反して聖杯戦争に参加してしまったのだとしても、聖杯はあらゆる願いを叶える万能の釡だ。もし手に入れる機会があるのならば手に入れたいと思うのが感情というものではないのか。

(ってただ正当な評価が欲しくて参加してる僕が言えたことでもないのかもしれないけど)

 それでもウェイバーとて聖杯は欲しい。
 聖杯戦争の勝者として聖杯を掴んだその時、どういう願いをそれに託そうかと考えたことは何度もある。
 なにせ聖杯が真実万能ならば死者蘇生、不老不死、億万長者と人間が望むであろう夢を叶え放題なのだから。
 しかしそんな万人が望むであろう奇跡をこのアサシンは興味ないと言い切って見せた。
 嘘偽りのようにも思えない。
 アサシンが特別なのか、英霊という存在がウェイバーの想像の埒外にあるのか。判断に困るところだ。 <> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 22:00:10.66 ID:nMj60Rk00<> 「まぁいいよ。そっちがセイバーを相手にしてくれるんなら願ったりだ」

 最優よりは最弱を。嘗ての聖杯戦争で必ず最後まで残ったと言うお墨付きよりかは最弱という烙印を押された方を相手に取る方がいい。
 油断する気はないが、やはりいきなり至上へと挑むのはやや緊張する。
 勿論こんな情けない心中はアサシンやライダーには死んでも明かせないが。

「上々。実のところ私は剣以外に能のない男でな。魔術師を相手しろと命じられてもやり方が分からん」

「へぇ」

 俯いたように顔をアサシンから隠しニヤリと笑う。
 剣以外に能はない。つまりアサシンは剣術だけのサーヴァント。ならば宝具も恐らくは剣術か剣なのだろう。

(剣が宝具ならたぶん対人宝具……ライダーの『魔眼』と『宝具』があれば近付かずにいれば……いける)

 得られた情報を整理するウェイバー。
 キャスターとセイバーという共通の敵を打倒するため、こうして共同戦線を張っているがそもそもサーヴァントは全員が敵。
 円蔵山を陥落されれば通常通りアサシンも敵へと戻るのだ。
 敵の敵は味方ではない。また別の敵。今は停戦しているだけなのだから。

「止まれ。門番だ」

「……!」

 アサシンの視線が向いている先を見ると――――そこに、いた。
 全身を包み込んだ白銀の戦装束。夜の闇にあってなお輝く金色の髪。
 理屈ではなく直感で理解できた。彼女こそがセイバー。聖杯戦争にあって最優のサーヴァントとして招聘されし者。 <> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 22:00:39.68 ID:nMj60Rk00<> 「久しいなセイバー。あの時、別れ際にお前が言った言葉を覚えているぞ。再び私はお前と見えた。ならば」

 アサシンが背中に剣を抜く。
 やはり長い。こうして近くで見ると長さが一目瞭然だ。五尺余り。素人目だが、とてもではないが戦いに適した長さとは思えない。
 これでは果物ナイフの方が実戦的ではないかとすら邪推してしまう。
 しかし久しいなという台詞からしてアサシンは一度セイバーと対面したことがあるのだろう。

「アサシン。貴様がこうして現世で形を保っているということは新たな憑代を見つけたか。それともあの死は偽装だったのか――――?」

「さてな。どちらであろうとも構わぬであろう。唯一つ確かなことは私は此処にいてお前がそこにいるという一点のみ」

「……して、如何する気だアサシン? お前はもう一人、サーヴァントを連れてきているようだが?」

「この者達には手出しはさせん。ライダーとそのマスター、先の言葉通りだ。お前達はこの先にいるキャスターを任せよう。……ああ、もしお前達が私とライダーとでセイバーを倒そうと提案するのであれば、この共闘は無しとさせて貰うが?」

「それはいいけど、僕達がキャスターのところへ行こうにもセイバーがいちゃ」

 セイバーの顔を伺う。傍目からも綺麗に整った顔立ちをしていると分かったが、その瞳に爛々と宿る闘志が顔に見とれるなどとふぬけることを許さない。
 もしも隙を見せればあの剣は一瞬で首級をかりとるだろう。 
 やがてセイバーが口を開いた。

「……私のマスターの許可が出た。ライダーとそのマスターはここを通れば良い。私は手を出さないとセイバーの名にかけて誓おう。私のマスターが直々に相手をするそうだ」

「マスター? ライダーの相手をマスターがするのか?」

「…………それ以上は答えられない。行け」

 ウェイバーはライダーを見るとコクリと頷いた。
 ここはセイバーとアサシンに従いセイバーを無視して山門を通るのが吉だろう。

「ライダー、頼む」

「はい」

 ウェイバーがライダーの肩につかまる。するとライダーは人ならざる脚力で一っ跳びで山門を飛び越えた。
 柳洞寺の中に入ると同時、後ろで剣戟が響いてくる。アサシンとセイバーも戦闘に入ったのだろう。
  <> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 22:01:08.58 ID:nMj60Rk00<> 「こうしちゃいられない。ライダー、キャスターの居場所は分かるか?」

「魔術でジャミングされているのか正確な居場所はどうにも掴みがたいですが、肌を焦がす感覚……敵は近くにいます。気を付けて、私に離れない様に」

「……変なことするなよ?」

「安心して下さい。私もこんな時にふざけたりはしません」

 こうして見渡すと円蔵山の頂上――――柳洞寺は中々の敷地をもっている。
 聖杯戦争開催地で最大の霊格を供えているだけあり魔術師の工房としてはうってつけだ。
 
「…………」

 警戒を最大限を超えた最大限に引き上げる。
 いつ何時キャスターがこちらに攻撃を加えて来るか分からない。いや明確な攻撃という形をとってくるかすら不明瞭だ。
 魔術師の英霊ならばウェイバーの心を直接壊すような魔術をもっていたとしても不思議ではないのだから。

『ようこそ。私の神殿に。ライダーとそのマスターさん』

「――――!」

 境内に響く女の声。甘い響きがしながらもどこか毒々しい。男を壊す魔女の声だった。
 緊張と恐怖からウェイバーの身が強張る。それをライダーが守るように前に出た。

「姿を見せなさいキャスター。それともこのまま隠れ潜むつもりですか? それなら私は貴女の神殿を私の色で染め上げるのみです」

『それは困るわ。貴女の他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)なんて発動されたら折角溜めた私の魔力が奪われてしまいますもの。勿論そんな隙を与えるつもりはありませんけどね』

「私の真名を……!?」

 いきなりライダーの宝具(真名)を言い当てたということはキャスターはただのギリシャの英霊ではなくギリシャ神話のサーヴァントということだ。
 それも形なき島にいたライダーの宝具を知る当たり、かなり深い知識をもった者。

「ライダー、キャスターの真名に心当たりはあるか?」

「……申し訳ありません。同郷出身というだけでは流石に」

『そうでしょうねぇ。貴女は人間に怯え姉二人と惨めに穴倉に篭っていたんですもの。その果てに神の寵愛を受けた未熟な英雄の卵に打ち取られたというのは同情はしますけど。だって余りにも惨めですものね』

「安い挑発ですねキャスター。ですが少しは分かりました。その喋り方、口調。どうやら貴女も真っ当な英霊ではないようですね。ならば本来は英霊によって討たれるべき反英雄……もしくは魔女といったところでしょうか?」

『髪が蛇に化けた怪物に魔女呼ばわりされたくないわよ。デカブツ』

「……おや癇に障りましたか? ああ、図星だったんですね。本当のことを言われて」

『………………』

「………………」

 沈黙が続く。恐い。とんでもなく恐い。
 ライダーから漂う無言の殺意と柳洞寺から漂う無言の殺意。本音を吐露すればウェイバーは今すぐ逃げ出したかった。

『ふっ。いいわ、私にはセイバーがいますもの。貴女のような可愛げのないデカ女は必要ない。死になさい!』

 気付けばウェイバーはライダーに掴まれて飛んでいた。
 瞬間、ウェイバーのいた場所を無数の光弾が襲った。地面が抉られ土が舞う。まるで爆弾でも投下されたかのようだ。
 光弾が落ちてきた方向。つまり上空を見上げるとそこにキャスターと思わしき魔女はいた。
 ライダーとキャスター、二騎のサーヴァントの戦いが始まった。 <> 第21話 山攻め<>saga<>2012/12/16(日) 22:01:48.01 ID:nMj60Rk00<> 「始まったか」

 アーチャーは四体のサーヴァントが集った柳洞寺を見て言う。
 彼の居る場所は柳洞寺から1kmほど離れた所だったがアーチャーのサーヴァントにとって大した距離ではない。……といってもアーチャーの『千里眼』ではキャスターの魔術を透視することはできないので、実際の戦闘風景は掴めないのだが。
 
「お手並み拝見というところだが。やれやれキャスターめ、随分と魔力を溜めこんだようだ」

 アーチャーは苦笑してしまう。アーチャーも多くの魔術師の工房を見て来たし破壊してもきたが、あれほど魔力を溜めこんだ『神殿』は早々お目に掛かれない。
 キャスターが現代の魔術師では及びもつかないほどの『魔術師』である証左だ。

(対魔力Bのライダーなら並みの魔術師の英霊は相手にもならんだろうし、アサシンの剣技なら十分セイバーとも互角以上に戦えるだろうが……さて)

 時臣にアーチャーが命じられたのは後詰だ。
 もしもアサシンとライダーが攻勢ならば待機。危機に陥ったのならばアサシンと共闘して攻め込む。そうすれば数の上では3対2となり有利となる。必勝を期すための保険、それがアーチャーだ。
 だからこうしてアーチャーは柳洞寺から遠すぎず近すぎもしない位置にいるのだ。アサシンと言峰綺礼を介して、マスターから伝えられる出陣命令を受けて直ぐに戦場に駆けつけられるように。

(だが……)

 時臣には話していないが、アーチャーが警戒しているのはキャスターやセイバー、それにウェイバー・ベルベットではない。
 彼が眼前の敵以上に警戒しているのはアサシン。もっといえば言峰綺礼だ。

「アサシンがもしも不穏な動きをしたのならば」

 容赦なくカラドボルグの一撃によりアサシンを抹殺する。そして機会があれば言峰綺礼を早めに始末する。
 己がマスターにすら心境を明かさぬ弓兵は、己がマスターの必勝のために戦場俯瞰を続行した。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/16(日) 22:02:33.86 ID:nMj60Rk00<>  今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 22:04:51.75 ID:mAqvbbVQo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 22:14:29.11 ID:KRpqUdsUo<> 乙
エミヤさんならそりゃそう動くよなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 22:18:35.75 ID:OJ6GM+6Bo<> 女の戦い怖いです

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 22:36:00.95 ID:ChSF5TRJ0<> エミヤさん言峰の事信頼してないんですね、まあ当然でしょうけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 23:08:21.11 ID:+/k4Hb5/0<> ランサー組はまだ来ないか <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/19(水) 22:04:57.94 ID:osP5za1Y0<> >>376
 ある意味、バーサーカーより恐い二人。

>>377
 言峰を信用するのは無理でしょう。アーチャー的に。 <> 第22話 逆転する剣戟<>saga<>2012/12/19(水) 22:06:03.49 ID:osP5za1Y0<>  月下のもと古の騎士たちの王と無名の侍が剣を交える。
 響く音は剣戟。透き通った風が吹く中で、風以上に澄んだ剣が踊り舞う。

「せっ、は―――――」

 アサシンが涼やかな顔のまま今という時間を全身全霊で興じながら刀を振るう。
 体勢としてはアサシンが不利。山門を守る騎士王は上段にあり、アサシンは下段にある。セイバーは重力や自重を剣にのせ武器へと変えることができるが、アサシンにはその二つが敵へと回るのだ。
 しかし一生をただ刀にのみ費やしたアサシンはそんな不利で動じたりはしない。
 五尺余りという刀にしては長すぎるソレを自分の手以上に巧みに操りセイバーの首を狙っていく。
 
「はぁぁぁッ!」

 セイバーが刀身の見えぬ剣を渾身で振り落としてくる。
 防ぐことはできない。アサシンの物干し竿ではセイバーの宝剣を受けた途端に砕け散ってしまう。
 ならば、と。アサシンはランサーの魔槍にしたのと同じように剣の腹に撫でるよう己が刀を触れてやると、やんわりとその向きをずらす。
 得物の不利を補うほどの超絶技。だがこの無名にして稀代の剣士の力はそれだけに留まらなかった。

「ほう。以前は完全に全貌を知ることは叶わなかったが…………もはや忘れぬ。刀身の長さ、比重は読んで取ったぞセイバー」

「……ッ! あれだけの接触で我が剣を見切ったか。アサシン」

 有名過ぎる己が宝具を隠すためセイバーの剣の刀身は風の結界に覆われ不可視となっている。
 万軍を焼く力も、必殺の呪いもないが『不可視』とは厄介なものだ。回避しようにも長さが分からぬ故にどれほど避ければいいのか分からず、どのような得物を持つ者が自分の敵なのかも分からない。
 けれどアサシンは風に隠蔽された剣を一瞬のうちに刀身の長さや比重に至るまで見破ってしまった。ただ自らの剣を触れさせただけで。

「それほどの技量――――――貴方はその剣に至るまでにどれほど」

 どれほどの修練を重ねたというのか。
 セイバーをもってしても断言できる。この聖杯戦争、否、歴代の聖杯戦争を見渡してもこの侍に比肩しうる技量の持ち主はおるまい。
 剣の英霊として剣に絶対の自信をもつセイバーだからこそそれが分かる。勿論セイバーに招かれし英霊がそこに悔しさを覚えないはずがない。だが屈辱感はなかった。ただ自分以上の使い手に対しての敬意だけがある。
 恐らく共に戦場を駆けた湖の騎士や太陽の騎士もこの剣士と技量で競えば劣るだろう。

「なぁに。そう誉められたことではない。お前たちのような正道の英霊と違い私には他にやることがなかったのでな。春夏秋冬、巡りめく月日をただ剣を振り続けただけの話だ」

 言葉を交えるより剣を、と言わんばかりにアサシンの刃がセイバーを襲った。
 狙うのは無論、セイバーの首級。一撃必殺となる首のみを狙う。邪剣使いのアサシンに正しい『道』や『術』はない。あるのは我流で極めたものだけ。
 とはいえ此度に限ってはアサシンが邪剣使いであること以上に首を狙わねばならぬ理由があった。
 セイバーは魔力放出スキルで全身を白銀の甲冑で覆っている。
 アサシンの研ぎ澄まされた刀は斬鉄をも可能とするが、流石にセイバーの鎧ほどの神秘を斬ることはできない。
 高ランクの宝具や人外染みた膂力があれば別だが、生憎とアサシンには剣技しかなかった。 <> 第22話 逆転する剣戟<>saga<>2012/12/19(水) 22:06:30.45 ID:osP5za1Y0<> 「――――――はっ」

 しかしセイバーとて剣の英霊としての矜持がある。如何な魔剣士とはいえ早々に敗れる道理はない。
 アサシンが柳のように受け流し疾風の如く斬るのならば、セイバーは山門にあって山のように構え城砦のように守る。
 迫る刃を直感で回避すると暴風雨めいた剣でアサシンを襲う。
 
「ちっ―――しゃ」

 アサシンの剣が必殺ならばセイバーの剣も必殺。
 溢れんばかりの魔力を込めた一撃は限界まで凝縮された嵐そのものだ。神域に剣を高めたアサシンも体は人間。セイバーの剣を一撃でも受ければその身は無残に破壊されるだろう。
 それをさせない為にはアサシンもまた暴風雨を全霊をもって迎撃する他なかった。
 暴風を疾風が流していく。そしてアサシンは更に一歩、セイバーへと踏み込もうとして。

「っ!」

 唐突に後ろへと後退した。セイバーは警戒を緩めることなくアサシンを見る。
 訝しむセイバーだったが、やがてアサシンが口を開いた。

「セイバー。貴様、なんのつもりだ?」

「なんのつもり、とは?」

「お前の剣には本気がない。いいやその言い方は間違えだな。こう言い換えるべきだろう。お前には私を倒そうとする意思がない」

「…………」

「沈黙は肯定と、受け取って良いのかな」

 あの暴風雨のような剣戟にしてもそうだ。あれはアサシンに迎撃するためのものだった。
 防御のための攻撃であって、目の前の敵を倒そうという攻撃のための攻撃ではなかった。
 ステータスに裏づけされている訳ではない、ただの武芸者としてのアサシンの勘だがセイバーは自分の生存こそを第一としていて戦う意思に欠けているように思える。

「私が"マスター"から命じられているのは山門の守護だ。そして私の生存でもある。私はただその命を全霊をもって遂行しているに過ぎない」

「そうか。であれば……お前の『本気』を引き出させるとしようか――――?」

 アサシンが構えた。……二人の居るのは段差のある階段の非ず。激しい剣戟の中でアサシンとセイバーの立ち位置は平らな石段へと変わっていた。
 ランサーとの戦いでは結局披露できず仕舞いで終わった必殺剣。
 アサシンでも佐々木小次郎でもない無名の剣士が己が生涯をかけた辿り着いた究極の一。
 
「――――秘剣」

 宝具をもたぬアサシンがもつ宝具に比肩しうる純粋な剣技。

「――――燕返し」

 二本に分身した刃が同時にセイバーに迫る。
 そう。分身したのは"二本"だけだった。
<> 第22話 逆転する剣戟<>saga<>2012/12/19(水) 22:07:51.18 ID:osP5za1Y0<>  息をひそめる。舞弥がいるのは柳洞寺から程近い建物の影だった。
 流石にここまで戦場の気配は匂ってくることはないが、少し離れた場所にある柳洞寺は今や四体ものサーヴァントが一堂に集結し殺しあう戦場となっている。
 これほどの数のサーヴァントが同じ場所で戦うなど過去の聖杯戦争にも余り例はないことだろう。
 だがこれは決して偶発的に起きたのではない。総ては思うが儘だ。久宇舞弥は物影に息を潜みながら双眼鏡を使い柳洞寺を伺う。
 この局面に持ち込んだのは舞弥の――――ひいては衛宮切嗣の戦略の一貫である。とはいえここまで早く策が成功するのは舞弥にとっても嬉しい誤算だった。
 やはりキャスターによる言峰璃正の殺害が事態を大きく動かしたのだろう。本来なら中立であるはずの監督役の死。それはマスター達にある種の焦りを生むのに十分以上の効果があった。
 しかも言峰璃正の死は不明だったキャスターのマスターの正体についての情報まで舞弥に与えてくれた。
 認めよう。
 この聖杯戦争に集った参加者にあって、衛宮切嗣は至弱である。サーヴァントを失い令呪までも失ったマスター。切嗣がどれだけの強さをもっていようと関係ない。魔術師を震撼させた衛宮切嗣とてサーヴァントと比べれば吹かれれば飛んでいくようなか弱い存在に過ぎないのだ。
 だが至弱が至強に勝てない道理はない。
 素の戦闘力で劣らないのであれば、戦闘力以外のもので優位を確保すればいいだけだ。
 それが『情報』だ。『情報』は決して敵を討つ刃にも弾丸にもなりはしないが……上手く使えば戦わずに敵を討つことすら出来るのだから。

(……そろそろ時間か)

 切嗣と打ち合わせた時間は後少しだ。
 生憎とキャスターのサーヴァントとなっているセイバーと打ち合わせることはできなかったが。それは大した問題ではない。
 セイバーは召喚されて以来、ただ見張りばかりをしていたわけではないのだ。
 切嗣はセイバーを効果的に活用する上で優位となる地形や地理情報は勿論、敵に見破られない『暗号』などを覚えさせている。この『暗号』は謂わばモールス信号のように光の点滅を使ったもので、作ったのは切嗣で暗号の読み方を知るのはこの世に切嗣と舞弥だけだ。
 それなりに複雑な暗号だったのだが、幸いセイバーは頭の回転も速く一時間ほどで暗号を全て暗記しきってしまった。騎士王の面目躍如といっていいだろう。
 この暗号の便利なことは傍受される心配がないということだ。というより例え見られたとしても暗号の読み方を知らなければただの意味不明な光の点滅に過ぎない。それは英霊とて同様だ。
 暗号の解読に特化したサーヴァントならば分からないが、そんなサーヴァントが召喚されている可能性は低い。
 情報の優位を確保するために念を入れてのセイバーへの暗号の教授。石橋を叩いて渡る慎重さが功を制したといったところだろう。

(柳洞寺の結界、それにキャスターの手も加えているのか遠方からでは柳洞寺の状況を目視することは叶わない。しかし)

 外から内を見れなくても、内から外を見る事が出来る。それでも少し不鮮明であろうが、光の点滅くらいならば問題なく視認できるだろう。
 舞弥はケータイの番号を押し通話ボタンを押す。
 すると舞弥から離れたビルの屋上から黄色い光が何度か点滅する。

「…………」

 それで取り敢えず舞弥のやるべきことは終わった。
 舞弥は自分の分は弁えている。自分はただの脇役、サポートだ。戦いの主演は自らの担い手とサーヴァントに任せるべきだろう。
<> 第22話 逆転する剣戟<>saga<>2012/12/19(水) 22:08:24.04 ID:osP5za1Y0<>  時間にしては一秒に満たぬ刹那。その刹那の判断がセイバーの命を救った。
 セイバーは驚愕、感嘆、怪奇。多くの驚きの入り混じった目をアサシンへと向ける。

「アサシン……先程の技は」

 セイバーをもってしても信じ難い。今こうしてアサシンの秘奥を目の当たりにして尚、嘘か真か幻かと納得できずにいる。
 アサシンの放った秘剣『燕返し』。宝具を解放する予兆が欠片もなかった為、最初セイバーはそれをただの剣技だと思っていた。アサシンという武芸者の辿り着いた最強の奥義、そう思い自分が信じる最高の剣をもって迎撃しようとしていた。
 しかしそれは正解であって間違いだった。
 アサシンの秘剣は剣技ではあってもただの剣技ではなかった。
 息をのむ。思い出すだけで身震いするほどに凄まじい。アサシンの剣はなんと二つに分身して同時にセイバーを襲ったのだ。

(そんなことが有り得るのか)

 剣技とて極めれば魔法のような事を再現することはできる。
 それこそ目にもとまらぬ速度で剣を振るえば九つの剣を生む事も不可視とすることもできるだろう。
 だが所詮それは魔法もどきだ。
 如何な超高速九連撃だろうと実際に刀が九つに分身しているわけではない。
 如何な超高速の居合だろうと実際に刀が消えるわけではない。
 前者はただ残像を生み九つに見えるだけで別に刀が九つに増えたわけではなく、後者は目にも留まらぬ速度の剣先なだけで別に不可視となったわけではないのだ。
 けれどもアサシンの秘剣はどちらとも異なる。
 アサシンの剣技は魔法のような剣技ではない。魔法そのものだったのだ。
 多重次元屈折現象。分身した刃による完全同時攻撃。如何な自称によってか招聘された平行世界の刃がアサシンの振るった刃と共にセイバーへと迫ったのだ。
 あの刹那。もしもセイバーが直感をもって危険を悟り全身全霊で後退しなければ己が首は落ちていただろう。

「アサシン、今の剣技は……貴方の宝具によるものか?」

 聖杯戦争だ。情報を漏らすまいとは思っていても訊かずにはいられなかった。それだけアサシンの剣技は異常に過ぎた。
 しかしセイバーの予想に反してあっさりとアサシンは明かす。

「否。私は生前から聖剣・妖刀の類は一切所持してはおらなかった。私がもつのはこの物干し竿と我流で磨いた邪剣のみよ。燕を切るために生み出した秘剣だが堪能して頂けたかなセイバー?」

 なんという出鱈目。宝具や魔術をもってして刀を分身させたというのならば納得もできよう。 
 だがあろう事はこの稀代の剣士はただ剣技のみをもってして英霊の宝具と同じ頂きにまで上り詰めたのだ。人の身にありながら神域へと踏み込む所業。人間であり人間としての技術をもって魔人の業をもつもの。
 一切の宝具をもたず剣技のみで宝具に比肩する剣技を披露する剣士。これほどのイレギュラーがあろうか。
<> 第22話 逆転する剣戟<>saga<>2012/12/19(水) 22:08:49.46 ID:osP5za1Y0<> 「とはいっても我が秘剣は不都合がなければ刃は三となるのだがな。やれやれ足場と負傷に引っ張られるとは私も修行が足りなかったということか。二つでは天を自在に泳ぐ燕には届かぬ」

 つうっとセイバーの首筋から血が流れる。躱し切れずにその首の薄皮を切られていたのだ。

「だが可憐なる華に触れるのみはできたらしい。お前のような華の血を吸うとは我が剣も中々に畏れ多い」

「謙遜を。もし貴方に偽りがないのであれば、三つ目の刃が私の首を落としていたでしょう」

 これは確信であり絶対だ。
 アサシンの刃が二つだけだったからこそセイバーは後ろという場所に逃げることができた。だがもし三つ目の刃があるのなら、それはセイバーの逃げ道を完全に塞いでいただろう。
 ランサーの因果逆転とは別の意味における必殺必中の業。それが秘剣『燕返し』。

「……アサシン。貴方の秘剣の正体は分かりました。ですが――――ここまでのようです。ここを通りたければ通ると良い。もう私は貴方の道を封じはしない。その義務も終わった」

 セイバーは既に見ていた。柳洞寺から離れた場所で点滅する黄色い光を。そして今のマスターの監視が敵の迎撃のせいで向いてないことも承知していた。
 戻らなければならない。自分のマスターのところへ。
 つまらぬ腹芸は終わりだ。しかし兄とのやり取りが思わぬ所で役に立った。

「道理で私を倒す気に欠けると思ったがそういうことか。セイバー」

 アサシンの投げかけた問いにセイバーは答えぬまま地面を蹴る。
 稀代の魔剣士の目的とはセイバーとの尋常なる果し合いのみ。故にその背中に斬りかかることはなく、

「むっ。綺礼か? …………ほう。また面妖な」

 自身もまた霊体化して夜の闇に消える。
 柳洞寺は喧騒がうそだったように静まっていた。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/19(水) 22:16:32.07 ID:osP5za1Y0<> これで今日は終わりです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 22:22:09.11 ID:6jPo3TRto<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 22:30:51.30 ID:JBDIbF9A0<> 乙
あまり影濃くないけどアサシンも十分チートだからな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 22:46:23.99 ID:oVSL4PAAO<> 下手すりゃ令呪瞬間転移ギルの真後ろになれば本編でも勝ててたかもな…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 22:55:13.48 ID:tmYKJycR0<> 乙です、面白かったです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 22:59:28.26 ID:fAhzIwqp0<> 乙
さてさてキャスターとおじさんはどうなったのか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/19(水) 23:02:51.61 ID:jMZQ/Evmo<> 乙だけど、鎧ごと切れなきゃ燕返しの意味がなくなっちゃうんじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 01:18:56.11 ID:LoQ/Vgj1o<> 因みに
小次郎は接近戦でバーサーカーを倒しうる唯一のサーヴァント

のはず <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 01:26:27.42 ID:vuwVgyVKo<> >>392
4次バサカのことだよな?
5次バサカならゴッドハンド抜けないし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 08:45:18.15 ID:fiBTRalIO<> 一対一の勝負で相手を殺せることを倒すというならそれで合ってるんじゃない?

まあゴッドハンドがある以上試合に勝てても勝負には勝てんが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 20:05:13.13 ID:LoQ/Vgj1o<> アサシンのスキル
宗和の心得
これによって

剣技が見切られることはない

ヘラクレスは見切った技に対する耐性だし、魔法相当の剣技は宝具換算でA相当

敏捷性もアサシンの方が高いからナインライブスでも使われない限りはなんとかなるかと <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 20:18:28.44 ID:hF2bslQJo<> 技はAランクでも刀が保たない気がする
セイバーと打ち合うだけで曲がるんだぜ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 20:22:49.53 ID:LoQ/Vgj1o<> >>396
あくまで可能性に過ぎないし
セイバーはほら、主人公補正とかさ
打ち合わずに回避していたら確定必殺だったし

俺のアサシン好きが露呈してるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 21:05:42.96 ID:2UjQycOHo<> >見切った技に対する耐性
ゴッドハンドのこの効果って公式だっけ
見切る見切らないに限らず宝具の神秘パワーで耐性付くんじゃないの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/20(木) 22:26:19.33 ID:i2tfbDb60<> ここで議論するよりまだ動画の方に書き込んだ方がコメ返ししてくれる可能性があるかとおもわれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/21(金) 22:00:09.33 ID:kKkefGK3o<> >>398
確か概念武装みたいなもんでAランク以下は弾くんじゃなかったっけ?
アサ次郎の燕返しって神秘が付加されてない単純な技術だからゴッドハンド突破出来ないんじゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/21(金) 22:07:15.78 ID:YgsfEtQ70<> 第二魔法自体は神秘じゃないのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/21(金) 22:12:59.96 ID:YgsfEtQ70<> このssではバーサーカーは脱落だし、ここでは関係ない議論 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/22(土) 21:22:27.28 ID:PQL5FOy70<> >>387
 アサシンが、というより第五次の鯖は公式で歴代最強なので全員がチートです。

>>388
 どうでしょう? ホロウでちょろっと語られたFateルートの最期だとギルっちにあっさりやられたみたいですし。

>>390
 もう直ぐ明らかになります。

>>392
 ヘラクレスは兎も角、ランスロットやら呂布やら相手には勝機があるかも。

>>394
 ヘラクレスと小次郎は一度戦った事があり、キャスターの援護もあって一回は追い返したとか。
 といってもイリヤが深追いをさけただけで、そのまま続けていれば負けていたそうです。

>>397
 小次郎はどちらかというと相性の良し悪しで苦手と得意がくっきり分かれるパターンだと思ってます。
 白兵戦主体の鯖には滅法強いけど、剣技しかないからキャスターとかには弱いみたいな。

>>398
 見切った技というより、一度殺されたものが今後は無効化されるみたいです。
 例えばランサーがゲイボルクでヘラクレスを殺したら、今度からヘラクレスにゲイボルクが通用しなくなる、みたいな。
 といってもセイバーオルタのエクスカリバー連発で負けるそうなので、余りに強いランクの宝具だとその効果無効化されたりするのかも。

>>399
 コメントの比率的にここに書き込んでくれた方がコメ返しする率は高いです。

>>400
 ヘラクレスのゴットハンドは概念武装なので、地球を滅ぼす規模の宝具でもそれがランクB以下なら問答無用で無効化。
 逆に銃弾クラスの威力でもそれがランクA以上なら通用します。

>>401
 小次郎の剣技は第二魔法というより、第二魔法と同じことが出来る剣技です。
 まあ剣技だけで第二魔法再現しちゃう小次郎は色々と規格外ですが。

>>402
 確かにぶっちゃけ小次郎とヘラクレスが戦うことはありません。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/22(土) 21:24:50.58 ID:PQL5FOy70<> というわけでそろそろ再開します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 21:27:45.69 ID:IqUMB6zAO<> >>403
あまりに強いランクだと無効化じゃなくて一撃で命を複数個分削られるんじゃなかった? <> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:38:12.50 ID:PQL5FOy70<>  ライダーはウェイバーを抱えつつ雨あられと降り注ぐ魔弾を回避していく。
 ランクにしてBもの対魔力をもつライダーだ。キャスターの魔術の一つや二つなら受けても死にはしないが、ウェイバーはそうではない。
 神代の魔術師たるキャスターの魔術はそのどれもがAランク。現代の一流魔術師が大規模な術式を構築して漸く発動できるそれをキャスターは一瞬で行使する。

「Κεραινο」

 キャスターが言葉を紡ぐ。
 柳洞寺に溜めこまれた魔力のバックアップを最大限に活かしAランクの魔術がライダーへ殺到した。
 魔術とは過去に向かって疾走するもの。それは『言葉』にも当て嵌まる。バベルの塔が崩される前、人間は唯一つの言葉を操りその優れた言葉をもって万物を支配していた。
 キャスターのスキル、高速神言。神代の言霊を用いることによりキャスターはたった一言で大魔術を行使することができるのだ。
 それは神代の言葉故に現代の人間には発音することも聞き取ることもできない。
 だがライダーとてキャスターと同じ時代を生きた者。キャスターの発した言葉の内容は理解できた。
 キャスターは『疾風』と言ったのだ。 
 その言葉は違わず台風を小規模に凝縮した竜巻が三つ唸りをあげながらライダーに別方向から迫った。

「ウェイバー、少し揺れます。舌を噛まぬよう口を閉ざしていて下さい!」

「わ、分かった!」

 闘いのど素人であるウェイバーはにべもなくライダーの指示に従う。
 きゅっと顎に力を籠め口を噤む。
 脳味噌が揺れる。内臓が上下に暴れまわる。ライダーはジェットコースターが玩具に思えるような変則的かつ人間離れした動きで竜巻の『隙間』を擦り抜けていく。
 初めて経験した。これが実戦という殺し合い。
 死を友人にして進む決死の踏破。辿り着く場所は生還か敗北か、それとも無残なる死か。
 もはや魔術師としての誇りだの正統なる評価だの言ってる場合ではない。何かしなければ死ぬ。一秒後にはウェイバー・ベルベットの死があるのだ。
 
(くそっ。このままじゃジリ貧だ。どうすれば……)

 口を閉ざしながらウェイバーは必死になって頭を回転させる。
 キャスターは魔術で浮遊していて上空だ。倒すにはこちらも空を飛ぶか遠距離へ攻撃する術がなければならない。
 そして自分のサーヴァント・ライダーにはその両方の手段がある。 
 ライダーは空を飛ぶことも遠距離へ攻撃を届かせる術もあるのだ。

(でも切り札をきるってことはこっちの手札をキャスターに……そうじゃない。キャスターはもうライダーの真名を知ってる。ならもうあいつに宝具やスキルを隠してる意味なんてないんだ)

 ウェイバーが情報漏洩の心配をするべきなのは前方のキャスターではなく、後方でセイバーと戦うアサシンの方だ。
 ライダーの宝具と愛馬は派手に過ぎる。使えば確実にアサシンへとばれるだろう。

(どうせ手の内はキャスターに知られてるなら、最初は派手さがない方で)

 ウェイバーは竜巻を振り切って着地したばかりのライダーに言う。

「ライダー、目だ。目を使え」

「……了解です。ウェイバー、私の目は見ないで下さいね」

 目というその単語だけでライダーはウェイバーの意図を察した。
 ライダーは一っ跳びにキャスターへと跳躍すると目を覆う眼帯を解いた。

「自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)」 <> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:38:46.60 ID:PQL5FOy70<>  外ではなく内へと向けられた結界。英霊メドゥーサの魔性を封じ込める為の封印が解除された。
 露わになる宝石の目。その視線はただ真っ直ぐにキャスターへと向けられている。
 英霊メドゥーサの象徴ともいえる『石化の魔眼』。伝承通り目を見た者を石化させるのではなく、ライダーの魔眼は目で見るだけで誰彼構わずに石化させてしまう。
 マスターのウェイバーも例外ではなく、ライダーがウェイバーに目を見るなと忠告したのはそのためだ。
 キャスターが一言で奇跡を為すならライダーは見るだけで奇跡を為す。
 最上位の吸血鬼がもつという『黄金』の魔眼より更に上位、ノウブルカラーにあって『宝石』のランクをもつ魔眼キュベレイ。
 これに勝る魔眼をもつのはタイプ・ムーン、朱い月のブリュンスタッドだけだ。

「――――甘いわね蛇女。貴女の真名を知る私がその魔眼になんの対策もしていないと思っていたのかしら」

 けれどその魔眼をもってしてもキャスターは動じない。
 キャスターは見せびらかす様に紫色の宝石を見せた。ウェイバーでも分かる。あれは魔術礼装、キャスターの道具作成スキルによって作り出したものだろう。
 
「それは私の石化を無効化するだけの概念武装、ですか」

「正解。それ以外にはなんの効果もない三流礼装ですけどね。私の手にかかればこの程度は造作もないわ」

「…………!」

 ウェイバーは歯噛みする。これが情報量の差。
 聖杯戦争はただ剣を交えるだけが戦いではない。敵よりもどれだけ情報を集められるか。どれだけ自分の情報を隠し通せるかで決まるのだ。
 その観点からいってライダーはキャスターに完全敗北を喫していた。なにせこちら側の真名と宝具に至るまであちらは一方的に知っていて、こちら側はキャスターがギリシャ神話の英霊であることしか掴めていないのだから。
 とはいえこのことでウェイバーは責められまい。キャスターがライダーの真名を知っていたのはウェイバーやライダーが聖杯戦争中にミスをしたのではなく、キャスターが生前からライダーのことを知っていただけなのだから。
 認めよう。情報ではこちらが敗北した。
 だが情報や姦策・奇策・罠・搦め手を問答無用で粉砕する『力』があるのならば。
 覚悟を決めた。アサシンに露見しようと、ここでキャスターに負ければ次はないのだ。
 
「ライダー! 宝具だ! アレを使うんだ!!」

 普段からは考えられない程の大声でライダーへ叫んだ。
 マスターの命令を受けライダーは自分の宝具を解放し、ライダーは宝具を解放する準備を整えた。とはいってもライダーの宝具はそれ単体では殆ど役に立たない類のものだ。
 解放するにはそれなりの手順を踏まなければならない。

「出す気なの? 貴女の愛馬を」

 やはりキャスターはライダーの宝具を――――その操る幻獣をも知っているようだ。
 だがどうしようもない。
 ライダーのクラスは強力な対軍宝具に特化したクラス。石化の魔眼が無力化された今、もはや切り札を切るしかないのだ。 <> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:39:15.94 ID:PQL5FOy70<> (あんだけ余裕があるんだ。もしかしたらキャスターには備えがあるのかもしれない。けど)

 ウェイバーにも切り札はある。それが令呪。
 ライダーの宝具の解放と同時にウェイバーも令呪を使う。宝具+令呪……この二つならキャスターの予測を超えることができるかもしれない。
 情けないが戦闘力に欠けるウェイバーが出来ることなどそれくらいしかなかった。
 しかしライダーが宝具を解放するよりも早く――――ウェイバーの目にあるものが飛び込んできた。
 キャスターの背後から白銀の甲冑の騎士が跳躍してくる。味方であるはずのセイバーにより背後からの奇襲。位置関係からキャスターは気付いていない。
 そしてセイバーは躊躇する素振りすらなく、キャスターの右腕を不可視の刃で切断した。

「がぁ、な……セイバー、貴女!?」

 キャスターの表情が嘗てない驚愕に染まった。それはそうだろう。ウェイバーもなにがなんだか分からない。アサシンならまだしも、どうして味方であるはずのセイバーがキャスターを襲ったのか。

(まさか同士討ち!?)

 ウェイバーがそのことに思い至って直ぐキャスターの姿が令呪でも使用されたのか消え去る。セイバーもまたウェイバー達には目もくれずに柳洞寺へと突っ込んでいった。

「どうなってんだよ」

 緊張状態から一転して気が緩む。
 戦場に置き去りとなったウェイバーとライダーだったが「このままではいられない」と気を取り直して、

「お、追うぞ! なんか中でなにか起きてるのかも!」

 ライダーと一緒に柳洞寺へ急ぐ。
 キャスターの右腕切断とセイバーの不可解な動き。ウェイバーの勘が正しければ柳洞寺の中でなにかが起きているのだ。

<> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:39:45.67 ID:PQL5FOy70<>  アサシン、ライダー、セイバー、そしてキャスター。
 未だ残存している六騎のサーヴァントのうちの三分の二が集った柳洞寺の奥。雁夜はキャスターの用意した遠見の水晶で戦場の様子を伺っていた。
 水晶にはアサシンと戦うセイバーとライダーと戦うキャスターの姿が映し出されている。
 魔術どころか戦いにおいても門外漢の雁夜に詳しいことは分からない。だがセイバーとアサシンの戦いは一進一退の互角で、キャスターに至っては圧倒しているように見えた。

「よし。……いいぞ、キャスター」

 二騎のサーヴァントを相手にして自分とキャスターは互角以上に戦えている。
 だが自分の戦力に満足する一方で、遠坂時臣を憎み劣等感を抱いていたからこそ雁夜は時臣への警戒を緩める事はなかった。
 なにせセイバーの戦っているサーヴァントはあのアサシンなのである。

「キャスター、油断はするなよ。アサシンのマスターの言峰綺礼が時臣の手下だってなら時臣もどこかでこっちの様子を伺ってるはずだ」

 ラインを通して戦闘中のキャスターに言う。
 するとキャスターも余裕があるからか直ぐに返事が返ってきた。

『勿論ですマスター。けれど今のところは心配する必要はありませんわ。遠坂時臣のアーチャーはこの寺より3km先の鉄塔にいるのですから』

「……狙撃は?」

『それもありません。この柳洞寺は私の神殿、アーチャーによる狙撃など許しはしない。マスターは安心して助け出した子とお待ちを。焦らずとももう直ぐ聖杯は私達のものとなるのですから』

「ああ」

 するとキャスターが再び戦闘に戻り通話が切れた。
 キャスターはこの柳洞寺から冬木市中に根を張っている。キャスターがアーチャーは3km離れた場所にいると言ったのならばそうなのだろう。

(…………待っててくれ葵さん。俺は聖杯を手に入れて、時臣を殺し桜ちゃんを貴女のもとへと返す)
<> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:40:16.25 ID:PQL5FOy70<>  当初。桜の体には臓硯によって植え込まれた刻印蟲がいた。
 言うなればそれはセーフティ。
 もし仮に桜が臓硯に抗ったとしても、臓硯はただ「死ね」と念じるだけで命を奪い取ることができる。究極のアドバンテージ。反逆を許さぬ残酷なるシステム。それは雁夜も同じだった。
 間桐臓硯という上位者に下位者(雁夜と桜)は絶対に逆らえないということを絶対とするための首輪。
 これがあるからこそ臓硯は雁夜にサーヴァント召喚を許したともいえる。臓硯が五百年を生きた妖怪だとしてもサーヴァントには敵わない。サーヴァントを召喚した雁夜がそのサーヴァントをもって間桐臓硯に反逆するという可能性をあの妖怪が思いつかないわけがないのだ。
 今思えばバーサーカーを召喚しろと命じたにもその辺りが関わっていたのかもしれない。
 もしも雁夜が魔術に通じたサーヴァントを召喚すれば、その力をもって『首輪』を引きちぎり反抗してくるかもしれない。だが理性のないバーサーカーならそんなことは万が一にも有り得ないが故に。
 しかし臓硯の予定は狂った。
 バーサーカーを失った雁夜はキャスターと再契約した。
 聖杯戦争開始二日目にして発生したイレギュラー。
 こればかりは間桐臓硯をもってしても埒外の事柄だったに違いない。
 キャスターの力により雁夜と桜の体内に巣食っていた刻印蟲は綺麗さっぱり取り除かれた。二人は間桐臓硯から解放されたのだ。

(これは。ああ。キャスターのやつ、使ったのか)

 水晶に映し出されている戦闘は丁度キャスターが対石化の魔眼用の礼装を使っている場面だった。
 雁夜には今一その凄さというのは分かり辛いのだが、キャスターの作り出した礼装は暗示の魔術一つからも守る力はないが、こと石化に対する防御だけは完璧だ。雁夜にも護身用ということで一つ渡されている。
 キャスターのクラス別技能、道具作成。これのランクAスキルを保有するキャスターは疑似的な不死の薬すら作れるのだ。石化の魔眼を防ぐためだけの礼装を作ることなど朝飯前である。
 これが情報力の差。
 聖杯戦争でサーヴァントが真名を隠す理由がここにある。キャスターは既にライダーの石化の魔眼ともう一つの奥の手、更にはランサーの因果逆転の槍にまで対策をたてているのだ。

「いいぞ。このまま押し切れキャスター」

 ライダーを倒せば、今度はセイバーとキャスターの二人掛かりでアサシンを相手どれる。
 今でさえ互角のセイバーとアサシン。そこにキャスターが参戦すれば勝利は確実のものとなるだろう。
 そしてアサシンとライダーが消えれば残るは時臣のアーチャーとランサーのみ。
 万が一にもランサーのマスターと時臣が手を組まないうちに打って出て先にランサーを殺す。
 総てが終わった最後に――――万全をもって遠坂時臣を殺し、聖杯を手に凱旋するのだ。
<> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:40:42.66 ID:PQL5FOy70<> 「桜ちゃん。一緒に帰ろう、葵さんと凛ちゃんの待つ場所へ。もう君は泣く必要なんてないんだ」

 雁夜は安心して寝入っている桜の頬へ右手を伸ばす。

「……?」

 そこで違和感を覚えた。右手を伸ばしているはずなのに右手が伸びない。それに辺り一面にぶちまけられた赤い絵の具はなんだというのか。
 雁夜は左手を右手に伸ばした。だがおかしなことに左手は右手に触れぬまま空を切る。 
 不思議に思い雁夜は右手の付け根を見て――――そこにあるべき『右手』がないことに漸くになって気付いた。

「あ、があぁああああああああああああああああああああああーーーーー!!!!」

 久しく忘れていた血管が抉られる痛み。血のアーチを描きながら右腕の切断面を抑え転げまわった。
 訳が分からない。ついさっきまで自分は絶対的な安心感の中にあったというのに。これはどういうことなのか。

「あが、があああううぅぅうああああああううあうああああああーーーーっ!」

 地獄の釡に焼かれる激痛に苦しみながら雁夜は一人の男を見た。
 黒いコートに黒い髪。なにより何の光も宿さない目をした一人の男を。男は血濡れのナイフと間桐雁夜の右手をもって佇んでいた。
 そう。キャスターの令呪が宿る右腕を。
 男は雁夜の首を掴んで床に叩き伏せると言った。

「倫敦へ渡った遠坂葵と遠坂凛、二人は僕の協力者が人質として抑えている。僕の命令一つで命は思うが儘だ。それにそこの間桐桜、彼女も同様だ。今僕が三人を殺すことがどれだけ簡単か……」

「ッ」

 突然の痛みと出来事で何が起きているのか分からないが、遠坂葵と遠坂凛、そして桜がこの男に命を握られているということだけは分かった。

「キャスターの令呪、マスター権を僕へ移譲しろ。そうすれば三人は殺さないでやる。考える時間はない。今すぐ答えを出せ」

「わ、分かった! なんでもいい……! なんでもいいから、その三人には手を出さないで」

「OKだ」

 雁夜の首元に手刀が叩き込まれる。それで雁夜の意識は闇に沈んでいった。 <> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:41:16.52 ID:PQL5FOy70<>  固有時制御による体内時間の停滞。それにより自分という気配を最大限にまで減少させた切嗣はキャスターの神殿へ忍び込むという偉業を達成していた。
 尤もこの成果にはアイリスフィールの残したヒントによりキャスターの真名を掴めたのが大きい。
 アイリスフィールはキャステーの手に堕ちたがアインツベルンのバックアップは健在だ。それを使いコルキスの魔女メディアに関する情報を出来るだけ集めさせていたのだ。
 そして得た知識をもとにして切嗣は最小限の効率で神殿への侵入作戦を行えたのである。
 切嗣の手には間桐雁夜の右腕、もっといえばキャスターの令呪があった。
 この作戦にとって最大の難関がキャスターの令呪を奪うことだった。切嗣には宿敵・言峰綺礼ほど霊媒治療が上手くはない。というより『切って』『嗣なぐ』という起源をもつ切嗣にとって治癒魔術などは門外漢も門外漢だ。だからこそ首尾よく令呪を奪えるかは一種の賭けだった。
 しかしその賭けの成功率を格段に上げたのがキャスターのマスターが間桐雁夜であるという情報である。
 切嗣は事前に参加するマスターの過去の経歴や戦う理由などを調べていた。無論、それを利用するために。だから雁夜が遠坂葵に複雑な想いを抱いていることも調べがついていた。
 最初に右腕を切断して痛みと右腕を失う『喪失感』で冷静な思考回路を麻痺してやれば、例えブラフの人質でも信じ込ませるのは容易だ。一流の戦士でも一流の魔術師でもない雁夜には『右腕の切断』という異常事態にあっても冷静さを保つことなどはできはしないだろうから。
 切嗣の計画は成就した。 
 キャスターは搦め手に特化したサーヴァント。幻惑などの魔術で自分の変わり身を用意するのは難しい事ではないだろう。正面から切りかかるのは得策とはいえない。
 セイバーがキャスターに奪われたという普通のマスターなら戦意を砕かれてもおかしくない劣勢。だが切嗣はそれを持ち前の鉄の意志と機転により好機へと逆転させた。
 最優のサーヴァントを得たキャスターは油断した。もっといえば衛宮切嗣から目を離した。
 間桐雁夜もそれは同じ。雁夜が警戒していたのは遠坂時臣のみで、サーヴァントを失って尚暗躍する切嗣には目も留めなかった。
 その隙を切嗣は決して見逃さない。四騎のサーヴァントが集ったこの状況すら切嗣の計算通りだ。

「キャスターよ、令呪をもって命じる」

 素早く切嗣は雁夜から奪い取った令呪に魔力を込める。
 刻まれた令呪は三画。それならばどうするかも既に考えてあった。

「この場所に出現せよ。ただし僕に対してあらゆる害となる行動をとることを禁ずる」

 令呪が光り、効果が現れる。
 ライダーと戦っていたはずのキャスターが切嗣の前に出現したのだ。しかし右腕が切断されている。恐らくはセイバーがやったのだろう。ならセイバーもそろそろここに来るはずだ。

「くっ……貴方は……まさか、マスター……そんな」

 キャスターが呪い殺すような憎悪の視線を向けた。それは例えではなくキャスターなら本当に視線だけで呪い殺すこともできただろう。
 だがそれは出来ない。キャスターは切嗣に害となるあらゆる行動を禁じられているのだ。
 それでもキャスターが何かしないとも限らない。切嗣は素早く次の絶対命令を下す。

「重ねて令呪にて命じる。キャスターよ、セイバーのマスター権を衛宮切嗣へと移譲せよ。またその際に溜めこんだ魔力を限界までセイバーへと供給しろ」

「遅くなりました、マスター」

 丁度セイバーが境内に入ってきて、切断したキャスターの右腕を切嗣に投げ渡してくる。
 キャスターは本人の意志とは関係なく魔術の詠唱をする。すると嘗て切嗣の手の甲にあり今はキャスターの手にある令呪。それが再び切嗣のもとに戻った。
 セイバーとの間に繋がるライン。これで元通り。衛宮切嗣はマスターに返り咲いた。

「……あは、あはははは。そういうこと。生かさず殺さずに魔力を奪っていたのに人が死んだのは……全部あなたが糸を引いていたわけね。神父もあなたが殺したの。はははは、他のサーヴァントに寺を攻めさせるために。セイバー、貴女は……どうして……聖杯が欲しければこんな貴女を道具としないマスターなんて」

「聖杯は欲しい。だが私もサーヴァントとしてそう安々と"マスター"を裏切ることはできない。第一キャスター、私がお前のことを信用すると思っているのか?」
 
 それが答え。最初からセイバーはキャスターのことを信用などしていなかった。
 セイバーに聖杯を譲るという契約――――しかし強者は弱者との約束を一方的に破ることができる。令呪という力をもつキャスターは、セイバーをいつ裏切っても不思議ではなかったのだ。
 だからセイバーがキャスターの剣を預けるはずがなかった。
 切嗣は最後の令呪に魔力を込める。最後の処理を行うために。

「最後の令呪をもって命じる。自害しろ、キャスター」

 それで終わり。キャスターは自らの魔術で自らの心臓を破壊した。
 だが何を思ったのかキャスターは自らが消失する直前、神代の言葉を紡いだ。
 その一言で魔術が完成する。キャスターの末期の魔術は間桐雁夜の体を包み込むと、いずこかへと消失させた。 

「マスター……どうか」

 血濡れの顔で一瞬だけ笑い、最後に憎しみを切嗣へ向けて――――裏切りの魔女メディアはあっさりと消滅した。 <> 第23話 アナタハ最期ニ識ルダロウ<>saga<>2012/12/22(土) 21:42:02.92 ID:PQL5FOy70<> 「なるほど。令呪を失いマスターではなくなった間桐雁夜は僕の脅威たりえない。それを逃がすための魔術なら令呪の縛りから逃れられるか」

 どうしてキャスターがマスターを逃がすために力を使ったのかは分からない。切嗣にとってはどうでも良い事だ。

「見事な手際でした、マスター」

 切嗣の隣に白銀の騎士が言う。
 あの時。キャスターがセイバーを奪った時……切嗣は逃げる前にあることをしていた。
 キャスターの魔弾にワザと腕をかすらせ出血し、初歩的魔術でその血を操り腕に文字を描いたのだ。
 ただ一言『トロイの木馬』と。セイバーにはそれだけで十分だったようだ。切嗣の意図を察し、こうしてキャスターにわざと従うふりをしていた。しかも土壇場になってキャスターが令呪でセイバーを操らないように隙を見て右腕を切断させるまでやってのけた。
 切嗣とセイバーが仲が良いとは言えない関係だったのも幸いしたのだろう。キャスターはあっさりとセイバーを信じてくれた。
 一時の不利も蓋をあければこの通り。セイバーは一度として宝具を晒すことはなく、切嗣は無傷、キャスターは脱落、アサシンの秘剣の情報も掴んだと全て切嗣有利に運んだ。
 それに、

(これは間桐桜か。たしか遠坂時臣が間桐に養子に出した旧名は遠坂桜。……対遠坂時臣に使えるな)

 間桐桜という遠坂時臣という強敵を殺すための餌を手に入れることもできたのだ。
 もはや自分を外道だと自嘲することもない。自分の行動がエゴだというのは当に知っているし、今更どのような誹謗中傷をもってしても切嗣の心が揺らぐことはない。
 切嗣は鉄の心のままにあらゆる犠牲を良しとして聖杯を掴むだろう。
 その時、セイバーが警鐘を鳴らす。

「マスター、敵です」

 簡潔にセイバーが言う。セイバーが睨む方向、敵の気配がある。
 切嗣が見るに数は二人。ライダーとそのマスターといったところか。自然な動作で切嗣は二人の隠れる場所に発砲する。
 すると「ひっ」と小さな悲鳴をあげて少年というべき者と妖艶な女が姿を見せた。
 女の方はサーヴァントだろう。それに少年の方は情報にあったウェイバー・ベルベットで間違いない。

「お、お前がセイバーのマスターなのかよ。でもなんでキャスターの令呪でキャスターを自害させるなんて」

 ウェイバーがしどろもどろに言う。
 様子からして切嗣がキャスターを自害させる場面から見ていたのだろう。

「マスター、後ろに。ライダーは私が相手をします」

「ああ。任せた」

 コクリと頷きセイバーに交戦許可を出す。キャスターへと命じた令呪によりセイバーの魔力は万全。一時とはいえ完全に生前の力を取り戻している。今のセイバーの魔力なら奥の手の宝具を二発は撃てる。
 それにここなら魔術の隠蔽に気を遣う必要もなく派手なこともできるというものだ。だが、

「ウェイバー! 彼等は危険です。一旦退却します」

 ライダーは切嗣とセイバーになにかよくないものを感じ取ったのか自分の首に短剣を突き刺した。

「!」

 自分で自分の首を刺すという異常な行動。セイバーが後ろへと跳躍する。
 その瞬間、辺りに目を覆うような突風がたちこめた。それは柳洞寺の柱や瓦を吹き飛ばしながら上昇していき。

「―――――」

 次に目を開けた時にはライダーとそのマスターは忽然と姿を消していた。

「逃げられたか」

 柳洞寺に空いた空洞を見つめながら言った。

「申し訳ありません。……ですが、それよりもアイリスフィールを助け出しましょう。幸いキャスターのサーヴァントだったので、キャスターがアイリスフィールを幽閉した場所は知っています。ご安心を。アイリスフィールはまだ生きている」

 そうか、とも言わずに切嗣はセイバーに続いて歩いた。
 しかし二人がアイリスフィールのいる場所に辿り着くよりも前に、二人はアイリスフィールの姿を目撃することになった。
 アサシンに背負われ連れ去られているのを見る、という形によって。

「追います!」

 即座に判断したセイバーがアサシンを追走する。が、アサシンはセイバーを見やるとニヤリと笑い、そのまま忽然と消失してしまった。アイリスフィール諸共に。
 知っている。この現象は令呪による空間転移。アサシンの令呪は既に二度使用されている。まさか三度目の令呪をただ逃げる為だけに使ったというのか。
 唯一つだけ分かる事がある。
 アイリスフィールはまたしても敵の手に堕ちたということだ。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/22(土) 21:42:49.85 ID:PQL5FOy70<>  今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 21:46:46.96 ID:lscsaMpro<> なんだかんだとマスター思いのキャス子さん……

乙でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 21:56:15.11 ID:3gfULdMt0<> SNでのキリツグの評判から考えるとまあこんなもんなんだろうなぁ


ウエイバーは自分の鯖の情報を知ってる奴が消えるわ相手マスターも分かるわでちゃっかり万々歳だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 22:35:54.80 ID:c66ZoT8U0<> 第五次のサーヴァントって確かにどいつもこいつもスペック高いよな
マスターが雑魚ばっかだったから誤解されやすいけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 23:26:19.87 ID:558MpcLP0<> やっぱりおじさん勝ち残れなかったですか、まあ解ってましたが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 01:01:47.99 ID:Fn6H19Ifo<> でもおじさん生きてたし良かったじゃん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 02:12:09.14 ID:KpQ+RAQDO<> >>517
サーヴァント相手に戦闘してる率を考えればむしろ5次マスター達は強いはず

…直接戦闘以外は全員駄目そうなのでzeroで生き残れる気はしないが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 08:04:04.66 ID:Hox8hSyV0<> 5次マスターは脳筋なやつ多いよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 09:20:56.68 ID:qzZw70m60<> >>420
強いって言うか主人公補正とかのおかげだろ
凛はなぜかキャスターとまともに戦えてたし、士朗くんにいたっては固有結界あるとはいえ人間なのにサーヴァントを二体倒してんだぞ。普通じゃあり得ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 10:19:07.56 ID:hxN9reQ9o<> >>421
脳筋らしい脳筋は凛とバゼットさん位じゃないの?

>>422
Fateバーサーカーはアーチャーとセイバーがいなければ勝てなかった。
UBWギルガメッシュは天敵だけど殺しきれなかった。
HFバーサーカーはイリヤがいなければ勝てなかった。
HFセイバーもライダーがいなければ勝てなかった。

士郎は基本的に相手を上回る宝具を使って宝具対決に持ち込んでるから、
倒せてもそうおかしな話じゃない。
詰めが甘くて助けられている部分がかなりある。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 13:54:38.01 ID:H+ZJBhfS0<> HFの士郎は作中にも言ってるように反則に反則を重ねての戦いだからなぁ
Fateでのコトミー戦で言われるように文字通り命を燃やし尽くして差を補おうとしてたんだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/23(日) 14:52:56.38 ID:z9e9Q1zF0<> おじさんは生存か…まだワンチャンあるか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/24(月) 21:00:46.26 ID:/nRHW+Gz0<> とりあえず今のところ葵さん廃人ルートは避けられてるのか?
原作と違ってロンドンにいるからおじさんと遭遇することもないし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 05:16:38.38 ID:y7Ay8Z07o<> これはアーチャーの死亡フラグが立ったのか?
無事に人質交換できるかな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/25(火) 09:24:51.08 ID:oR6BSKNIO<> >>426
おじさんに首締められたってこと自体zeroでの後付けだし、廃人は避けられても結局はsnの設定通り病死しそうな気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/25(火) 22:30:17.74 ID:9pC5HU2p0<> そろそろ再開します。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/25(火) 22:40:26.20 ID:9pC5HU2p0<> >>415
 メディアさん最期の意地ですね。それが吉と出るか凶と出るかは分かりませんが。

>>416
 絶妙に危険を回避していくウェイバー。

>>417
 雑魚なのは序盤の士郎とワカメくらいで他は曲者揃いです。
 キャスターの援護ありで初見限定だけどサーヴァントすら倒しうる格闘技がある葛木先生。黒幕の麻婆。五大元素の凛、ついでにキャスターと。
 ダメットさんにしても戦闘力なら歴代最強でしょう。マスターとしては。

>>418
 正直、雁夜が颯爽に勝利する未来が欠片も見えない。

>>420
 たぶんマスターでバトルロワイヤルしたら、きのこ補正で凛が勝つ気がしなくもないです。

>>421
 多少無茶することはありますが、正真正銘の考えなしはワカメくらいです。次点で士郎。

>>422
 凛がキャスターと魔術戦したのは凛が全力だったのに対して、キャスターが余裕綽々だったからです。あと凛が魔術戦を放棄して格闘戦を仕掛けてきたのがキャスター的に信じられなかったからです。
 士郎はまぁ主人公補正もあるでしょうが、UBWルートとHFルートでは普通では有り得ない強化がありますし。現にそういったものがないFateルートでは単身でサーヴァントを倒すなんてことはありません。

>>425
 あるといえばありますし、ないといえばないです。

>>426
 ぶっちゃけどういう展開になって、仮に時臣が大勝利のハッピーエンドになろうと十年後までに葵とワカメのパパは死にます。 <> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:41:33.08 ID:9pC5HU2p0<>  ライダーの愛馬から降りたウェイバーはふらふらとした足取りでマッケンジー邸への帰路につく。
 初めて殺し合いの渦の中心に身を投じたウェイバーの精神は嘗てない程に疲弊していた。
 昼夜問わず寝る間も惜しんで論文に挑んでいた時間と比べれば本当に僅かな――――数時間ほどの激戦。
 されどその密度、途轍もなく濃い。
 ライダーはウェイバーの内面を察してか、今回ばかりは挑発することもなく黙って霊体化していた。
 
(ホントに……なんだったんだよ、あいつ)

 セイバーとキャスターは同盟していた。
 それは間違いないはずだ。そうでもなければ二人のサーヴァントが同じ場所にいることなどは有り得ないのだから。
 ではセイバーが途中でキャスターを裏切ったのは……やはり利害の不一致からだろうか。アサシンの話によるとキャスターは随分と派手に暴れまわっていたそうなので、そのことで折り合いがつかなくなったのかもしれない。
 だがそんなことはどうでもいいことだ。
 一つ確かなことは今宵キャスターが脱落し、残るサーヴァントが6騎となったということだ。いや、もしかしたらウェイバーの与り知らぬところで脱落者が出ており、5騎未満まで減っているかもしれない。
 
(あいつ)

 けれど不思議なことにウェイバーの脳裏に焼き付いて離れないのはセイバーでもアサシンでもなく――――あの男のことだ。
 全身を黒いコートで包んだ幽鬼のような男。殺し屋という単語が具現化したような死の化身。
 名前も知らないあの男のことが頭から離れない。
 それは正体不明の男に対する警戒か。それとも――――。

(駄目だ。考えてもなんにも出てこない。今日は帰って寝よう)

 そう決めるとウェイバーはマッケンジー邸のドアを開け、自分の部屋に戻ると着替えもせず眠りの世界に旅立っていった。
<> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:42:13.82 ID:9pC5HU2p0<> ――――アサシンには名前がなかった。

 此度の聖杯戦争でアサシンのクラスと"佐々木小次郎"という真名を得て参加しているが、アサシンは佐々木小次郎であって佐々木小次郎などではない。
 そも歴史上に佐々木小次郎という剣士など存在しないのだ。
 宮本武蔵という稀代の剣士の好敵手として後世で用意された架空の剣客。地に足の突く歴史はなく伝説のみに存在を許された英雄もどき。
 英霊に必要とされるのは信仰である。実際には存在しない英霊だろうと確かな信仰さえあれば架空の剣客だろうと英霊たりえるし、創作物で創作された全てが創作の人物だろうと知名度と信仰を獲得したのなら英霊になることができるのだ。
 佐々木小次郎も同じだった。
 だが彼が現実に存在しなかった人間かというとそうではない。
 彼は佐々木小次郎という名前でこそなかったが、彼は特に何もない生涯を送り歴史に名を残す事もなく死んでいったただの人間だった。
 佐々木小次郎ではない彼が佐々木小次郎として召喚されたのは、彼が佐々木小次郎の秘剣を披露することができたからに過ぎない。
 英霊・佐々木小次郎の殻を被った亡霊。それがアサシンの正体である。
 聖堂教会の代行者であり魔術協会に鞍替えした魔術師でもある言峰綺礼が召喚したサーヴァントが、架空の英霊だというのはなんとも皮肉に満ちていた。
<> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:42:40.44 ID:9pC5HU2p0<>  佐々木小次郎ではない彼は佐々木小次郎と同年代近くに生きたただの農民だ。
 時代が時代である。農作物が不作になれば食にも事欠く事があったし飢饉になれば餓死の危険が常に付き纏った。
 現代の人間からすれば悪夢のようなその生活。
 されど彼は――――自分を不幸だと感じた事はなかった。
 確かに目に見える娯楽はない。
 自分の住んでいるのは華やかな都からも大名たちの合戦する戦場とも離れた地方も地方。
 唯一他と違うところをあげるとすれば一部の者が南蛮伝来の聖書を読んでいるということくらいだ。
 酷く娯楽にかけ、なにもない同じ日々の繰り返しだけが過ぎていく村。
 村人たちは特に目新しいことを目の当たりにすることもなく、普通に生まれ普通に育ち普通に結婚し普通に子を為し普通に老い普通に死ぬ。 
 退屈というのは否定しない。
 だが彼は代わり映えしない世界の中でも"美"を見出した。
 季節ごとに咲く花は温度は気候一つで表情を千変万化させ目を麗してくれた。
 天空を自在に泳ぐ鳥は空の雄大さと憧れ、そして饒舌につくし難い感動を与えてくれた。
 大気に舞う風は木々を揺らし季節の香りを運んできてくれた。
 夜空に浮かぶ黄金の月はその日ごとに形を変え、顔を変え、色を変え、大きさを変え。ただ美しい、という感慨を抱かせてくれた。
 特に月は素晴らしかった。円蔵山の柳洞寺から眺める月はなお良い。それに酒でもあれば一層良い。
 いつしか酒が入れば柳洞寺の石段に座り月見酒と洒落こむのが彼の日課となっていた。
<> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:43:09.93 ID:9pC5HU2p0<>  そして、それは何時の日だったろう。
 彼は五尺余り、とても合戦では使えぬ長刀をもち山へぶらりと出た。
 目的があったわけではない。ただなんとなく山の空気を吸いたくなり行ってみた。ただそれだけのこと。
 山へ行ったのも気紛れなら、燕を切ろうと思ったのもまた気紛れだった。
 彼の前に一羽の燕が降り立ったのだ。
 群青色の翼、黄色い嘴、小さな瞳。
 その美しさに目を奪われたのか、剣を振るいたかっただけなのか。彼には分からない。
 ただ彼は理由はどうであれ燕を切ろうと思い立ち、物干し竿を振った。ただそれだけのことである。
 しかしその剣先は空しく空を切った。
 風を読み風を泳ぐ燕は彼の剣先などお見通しだったのだ。

「――――――」

 それから彼はただただ剣を振るい続けた。春夏秋冬、休まずにただ剣を振るう。
 燕を切ろうと思い至ったのが気紛れならば、やはりそれもまた気紛れだった。
 言葉にする理由などない。大層な大義があったわけでもない。夢でも理想でもない。
 風を読む燕を切る、ただそれだけのために彼は悠久の時間を費やした。
 幸いにして時間はあった。最低限の農作業を済ますと、物干し竿を手にとって振った。
 何年、或いは何十年の月日が経ったころだろう。
 いつものように剣を振っていたら剣が二つに分かれた。折れたのでもなければ二刀を用いたのでもない。
 本当に剣を振るう刹那、剣が二つに分身したのだ。

「ほう。なにかできたな。いや、珍妙なことがあるものよ」

 ただの農民である彼がそれが多重次元屈折現象という『魔法』に等しい奇跡だということを知るはずがない。いや、知っていたとしても彼はそれを当然の如くありのままに受け入れていたっだろう。
 これならば燕にも届くやもしれない。そう思い至り再び燕に挑んでみたが――――またしても彼は敗北を喫した。
 何度かは成功したが何度かは失敗した。
 勘の良い燕はあっさりと二つの刀による牢獄に空いた隙間を見出すと、そこに飛び込みまんまと逃げてしまったのだ。
 
「二つでは、届かぬか」

 悔しさ一つ見せず呟くと、また剣を振るい続ける日々が始まった。
 二つの剣では僅かな隙から燕は飛んで行ってしまう。空を泳ぐ燕を捕えようとするのなら、三つ目をもって行き場を塞ぐしかない。
 特に根拠はなかった。出来るという確証はなかったし、三つならばたぶん切れるだろうという思いつきだった。
 そんな思いつきを実行するため彼はまた幾年かの月日を生きた。
 彼がやったことは物干し竿を持って振るう。それだけである。そうしていたら何時の間にか剣は二つより三つへと増えていた。

「おお。三つになったか」

 目標に到達したという大いなる達成感もなく、小さな感嘆だけ漏らすと彼は山に登った。
 そして普段と何一つ変わらない自然さで剣をもち、自らが辿り着いた秘剣をもって燕に挑んだ。
 秘剣・燕返し。無名の剣客が生涯を費やして辿り着いた奥義は漸く燕を切ったその時に完成をみたのだ。
 だがそれから暫くして彼はあっさりと病魔に斃れこの世を去った。
 彼には後悔も未練もない。ありのままに生きて、ありのままを受け入れた彼は、自分の死もありのまま受け取った。 <> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:43:36.15 ID:9pC5HU2p0<> 「……お前が……アサシンのサーヴァント、か? 暗殺者には彼の山の翁が呼ばれるはずなのだがな」

 次に彼が見たのは僧服のようなものを着た男だった。
 一瞬疑問に感じたが直ぐに『聖杯』より自分が聖杯戦争にアサシンのクラスで招かれたのだということ、現代の知識、そして"佐々木小次郎"という名前を与えられていることを教えられた。
 彼は暫し沈黙する。
 己には聖杯などというものに興味はない。聖杯にかける祈りはない。仮に聖杯を手に入れ、第二の生を得たとしてなんだというのだ。
 自分は"佐々木小次郎"という名前でここにいる。ならばこの迷い出た現世でどれほどの善行を積もうと、その賞賛は佐々木小次郎にのみ与えられる。
 無名の剣客である自分に還るものはなに一つとしてない。

(いや)

 己が感情を否定する。認めよう、一つだけ彼には願いがあった。
 生まれも貧しくただ剣を振るうだけの生涯だった。その生涯の果てに燕を漸く捕え、己は死んだ。
 聖杯戦争には古今東西の英雄豪傑が一堂に会すると云う。その中にはセイバーという剣の英霊もいる。
 燕を切るためだけの己の剣が果たして歴史に燦然と名を残す英雄に届くのか。己の剣は英雄をも捕えることが出来得るのか。
 それが知りたい。
 生前一度として叶わなかった強者との果し合いこそが、無名の剣客である彼にある唯一の望み。
 もし言峰綺礼と無名の剣士に共通点があるとすれば、ただ一つの"答え"を求めた願いの形なのだろう。
<> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:44:12.25 ID:9pC5HU2p0<>  戦いは上手い具合に運んでくれた。ここが師である遠坂時臣の邸宅でなければ祝杯の一つでもあげたい気分だった。
 言峰は自分に与えられた一室で佇みながら小さな笑みをこぼす。
 事ここに至り言峰はセイバーがキャスターの居城にいた真の理由が分かっていた。そして衛宮切嗣の狙いも。
 衛宮切嗣がキャスターを排除するのに掛けるであろう僅かな空白の時間。その時間を要しアサシンに聖杯の守り手を確保させることにも成功した。
 師である時臣の言葉が正しいのなら、あの女が脱落したサーヴァントを納める『聖杯』をもっているのだろう。

「さて。最後の駄目押しだ」

 アーチャーが柳洞寺の第二陣としてここにいないにも幸いだ。
 これは勘なのだが、アーチャーは何故か自分に対して疑惑の目を向けている。警戒と言い換えてもいい。
 故にアーチャーのいる前では言峰は自由に動けないでいた。
 やはり衛宮切嗣との邂逅を確実のものとするためには他のマスターとサーヴァントの排除は必須だろう。

「令呪をもって命じる。アサシンよ、帰還しろ」

 あっさりとした令呪の発動。
 言峰の腕には今や父に刻まれていた予備令呪がある。その数は通常のマスターがもつ三画を遥かに凌ぐ。
 これは時臣やアーチャーすら掴めていない言峰綺礼の絶対的アドバンテージであった。
 令呪に従いアサシンが空間を割り現れる。アーチャーの視覚となる場所で転移させたのでアーチャーはアサシンの空間転移には気付いていないだろう。

「そら綺礼、お前の望み通り連れてきたぞ。現世に迷い出てまで人さらいの真似事をする羽目になるとは思わなんだよ」

「安心しろアサシン。コレは人間の形をしているがその実、人間ではない。故にアサシン。お前は火事場泥棒であって人攫いではない」

「どちらにせよ盗人であることに変わりは無かろう。それに……私には見目麗しい女子を物扱いするほど下賎な者ではないつもりだ」

 アサシンが鋭い視線を送ってくる。
 言峰もアサシンと人間か非人間かについて議論し、無意味に不仲となるほど愚かではなかったのでそれ以上は何も言わなかった。
 アサシンも未だ言峰綺礼という憑代が必要な身の上。言峰が言葉を返さないのならばと黙っていた。
 言峰は眠るアイリスフィールに治癒魔術をかける。
 救う為ではない。ただアイリスフィールに意識を取り戻させ自分の問いを投げかけるためだけに治癒するのだ。
 切り開くことに特化した言峰綺礼の魔術回路は、こと治癒や霊媒治療にかけてのみ時臣に勝ることを許している。
 ほどなくアイリスフィールは意識を取り戻した。
 しかしバーサーカーとキャスターの二体を取り込み、キャスターの呪いをも受けているアイリスフィールには立ち上がる力は残っていない。
 ただ朦朧とした目で言峰綺礼を見た。 <> 第24話 花鳥風月<>saga<>2012/12/25(火) 22:45:10.86 ID:9pC5HU2p0<> 「女、私の声が聞こえるか」

「………………」

 女は返事をしない。しかし強い瞳で自分を睨んだのを肯定の意だと言峰は受け取る。

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン、お前は衛宮切嗣にとってなんだ?」

「…………妻よ」

 アイリスフィールが小さく絞り出した。
 妻という一文字に言峰は否応なく自らの『理解者』を思い出してしまう。

「ならば最後に問おう。貴様の夫、衛宮切嗣は貴様が死んだという報告を受け涙を流すか?」

 アイリスフィールは覚悟を決めるように目を閉じると、真っ直ぐに言峰綺礼の目を睨み言った。

「いいえ。泣かないわ。……あの人は、私が死んでも泣かない。あの人がお前を倒す……」

「そうか。そうか泣かないか! 奴は泣かないのだな。妻が死のうと己が伴侶が敵の手で無残に殺害されようと、奴は涙一つとして流さないのだな」

 狂ったようでいて理性的な笑みを浮かべ言峰はアイリスフィールの首の骨を折り絶命させる。
 もはや語るべき言葉も、投げるべき問いもない。

「やはり奴は私と同じだ。私も泣きはしなかった。ああ悲しみはあったとも。妻を自分の手で殺せなかった悔恨があったからだ。だから悲しみはしたが涙は流さなかった。ふは、ふはははははは! お前も涙を流さないか衛宮切嗣。ならば衛宮切嗣も私と同じだ。お前は私と同じだ!」

 致命的な勘違いをしたまま言峰綺礼は衛宮切嗣を同類と確信する。
 部屋には黙って佇むアサシンと狂笑する言峰綺礼、そして冷たい死体となったアイリスフィールだけがあった。
 
 
【アイリスフィール・フォン・アインツベルン 死亡】 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/25(火) 22:46:32.20 ID:9pC5HU2p0<> 今日はこれまで。ああ、メディアさんに続いてアイリまで死んでしまった。
これで奥様キャラの犠牲者が二人目。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 22:48:41.68 ID:lAudaDw8o<> 思ったより短かったけど、投稿ペースから考えれば、妥当か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 22:49:10.95 ID:RryjlMsI0<> 乙です、言峰は聖杯の器確保した事時臣に言う気ありませんねこれは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 22:52:29.97 ID:TDl47lLzo<> 乙
どんな展開になろうとも死ぬとかワカメパパが一体何したってんだ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 23:14:10.28 ID:paEdyHUk0<> 乙
やっぱりSNの頃からあった設定はそう曲げはしないか
そうすると原作と違ってだれが生存するのか気になるな…大穴で舞弥さんあたりか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 23:38:37.88 ID:EKFkSlbb0<> おつでした

>>441
蟲蔵の桜をいじめてたらしいので罰が当たったんでねぇかなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/25(火) 23:39:38.06 ID:qTNopiwj0<> SN時点で生存していてもあまり影響を与えない人物…ソラウとか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 00:16:08.34 ID:F/3E+StH0<> >>442
その場合士朗が舞弥のことを婆さんと呼ぶことに・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 00:16:29.62 ID:nozDHkPLo<> ケイネス、ソラウは生存してもウェイバーとちょっと揉めるくらいで特に影響はないな
というか他のメンツがSNのキャラと密接に関係があるからなぁ 龍ちゃんは既に死んだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 00:56:52.54 ID:46J6OeXN0<> おつ
そういや言峰の嫁さんの名前って最近出ましたよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 01:07:20.33 ID:F/3E+StH0<> たしかクラウディアさんだっけ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 07:54:56.32 ID:AY6zuEOIO<> >>445
ちょwwww

ぶっちゃけ相性は悪い気がする。どっちも人として壊れてるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 15:10:15.56 ID:IrdSAmSz0<> マイヤに育てられたらマイヤ2号になりそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 18:30:08.52 ID:F/3E+StH0<> そして口癖が「まぁいいや」になるのか <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/28(金) 21:44:50.31 ID:13E8jjON0<> >>440
 いえいえ。そうとは限りませんよ。

>>441
 元々SN時点で凛の母とワカメの両親は聖杯戦争と関係なく死んだことになっているので、今後どうなろうとそれが変わることはありません。

>>442
 原作Fate/stay nightの設定は基本的に曲げる気はありません。

>>444
 ソラウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!

>>445
 舞弥が婆さん……それはそれでありかも。

>>449
 相性というより果たして舞弥は普通の生活に馴染めるのかが問題のような。

>>450
 舞弥二号な士郎って……なんでさw

>>451
士郎「まぁいいや」 <> 第25話 狂人を導きし聖人<>saga<>2012/12/28(金) 21:46:11.11 ID:13E8jjON0<>  時臣にとっても綺礼が『聖杯』を確保したことは想定外だった。
 といっても聖杯戦争開幕前から悩まされている悪い想定外ではなく良い想定外だったが。
 遠坂邸の地下工房、そのテーブルに『聖杯』ことアイリスフィール・フォン・アインツベルンは寝かされている。否、それが既に息をしてないということを鑑みれば置かれているという表現が正しいかもしれない。
 物となったアイリスフィールの隣には彼女から摘出された黄金の杯があった。

「綺礼、今宵はご苦労だった。一番の懸念事項であったキャスターは死に、こうして『聖杯』を手に入れることもできた。上々の上々の結果だ」

 当初の計画よりは遅れているもののアサシンによって他の陣営の情報は集まってきている。
 そして逆に多くのイレギュラーに見舞われながらもアーチャーの情報を漏洩することを抑える事にも成功していた。
 唯一アーチャーの力を知るのはケイネス・エルメロイだが、こちらは彼がこちらを知る以上に彼の陣営の情報を掴んでいる。条件は五分どころかこちらが優位だ。
 
「いえ。導師、差し出がましいことをしました」

 綺礼は小さく会釈する。部屋が暗いので上手く表情が読めない。
 そんな綺礼の一挙一動を注意深く見て――――睨んでいるのはアーチャーだ。時臣にもどうしてか分からないがアーチャーは綺礼を嫌っているような、或いは警戒しているような節がある。
 アーチャーに言わせれば「仮にも敵マスターなのだから敵意をもつのは当然」らしいが、大切な協力者の綺礼にそこまで警戒するのはどうなのかと思わないでもない。
 ただアーチャーが自分の為にしていることだということも理解はしていたので、言葉に出して批難することはないが。

「しかしやはり憂慮すべきは衛宮切嗣。戦いのおり衛宮切嗣とセイバーがキャスターを裏切り仕留めたというのは本当なのか?」

「はい。といっても明確なる根拠はなくセイバーの口調や状況を鑑みた上でのアサシンの推測、ですが」

「君はどう思うのだね?」

「今回の件に関してましては私もアサシンと同意見です。アサシンがセイバーを倒さず、ライダーもキャスターを倒せずにいながらキャスターが脱落しセイバーが生き残ったという結果は、セイバー陣営がキャスターを裏切ったという根拠でしょう」

「同感だな。……もしかしたら最悪、私達は衛宮切嗣の掌で踊っていたのやもしれん」

 綺礼にもアーチャーにも見られぬようきつく拳を握りしめる。
 完璧なる布陣を整え、完璧なる戦略で挑み必勝を誓った聖杯戦争。その己が衛宮切嗣という外道にいいように利用されたという可能性は酷く不快かつ屈辱的であった。
 饒舌につくし難い敗北感。久方ぶりに感じる苦い味だ。

「時臣師。私はこれから教会へ行こうと思います」

「教会へ?」

「ええ。監督役である父の残していた仕事や引き継ぎのこともありますので」

「……そうだな。監督役不在のままでは神秘の隠蔽にも支障をきたす。かといって璃正さんほどの人材はそうはいない。私の知る限り璃正さんと同じ程度に聖杯戦争を運営していけるだけの才幹を持つのは私の目の前にいる人物だけだ」

「恐縮です」

「君が諜報の任を終えたその時、君には次の監督役に就任して貰おう。そのために教会で準備をするのは構わないが怪我は大丈夫なのか?」

「八割方完治しています。これならば戦闘には支障ありません」

 聖杯戦争二日目のセイバー襲撃。それにより綺礼は少なくないダメージを受けていた。
 だが遠坂邸という冬木市において第二位の霊格をもつ土地で休養したことと、言峰綺礼自身の治癒魔術によって万全に近い力を取り戻していた。
 元とは言え腕利きの代行者である綺礼ならば並大抵の敵に襲われようと生還できるだろう。
 それはセイバー(衛宮切嗣)に襲撃され生還したことが証明している。
 弟子の力を知る時臣はあっさりと許可を出した。
<> 第25話 狂人を導きし聖人<>saga<>2012/12/28(金) 21:46:57.94 ID:13E8jjON0<> 「いいだろう。だが気を付けたまえ。キャスターは脱落したが未だこの街には三騎のサーヴァントと三人のマスターが潜んでいるのだから」

「では私はこれで――――」

「待て」

 部屋を出ようとする綺礼をアーチャーが鋭く呼び止めた。
 鷹の眼光が言峰綺礼を射抜く。

「言峰綺礼、君は『聖杯』を柳洞寺での戦闘で偶発的に発見しこの屋敷に連れ帰ったと証言したが相違ないか?」

「相違ないが、なにかなアーチャー。私が『聖杯』を連れ帰った事が気に入らないのかね」

「いいや。そうは言わんさ。ただお前はアイリスフィール・フォン・アインツベルンを柳洞寺から運ぶ際、何故山の裏から出た。私のいる位置から死角となる場所から」

「…………」

「もしも私の視界内にある山門から出れば、もしもの場合は時臣を通じ私も援護射撃をすることも出来ただろう。だがお前はその優位を捨て、敢えて山門の裏からアサシンを逃がした。その理由を聞きたい」

 アーチャーの眼光には敵意と僅かな殺意すら籠っている。
 もし嘘偽りを抜かせばこの場で切って捨てる。そう視線が語っていた。時臣がアーチャーを咎める前に堂々とした綺礼が口を開く。

「私とて意味なくアサシンを山門の裏から逃したのではない。私は山門から出るよりも裏から出る場合の方が逃亡が成功する可能性は高いと判断したまでだ。貴様も知っての通り柳洞寺には霊体に対して効果を発揮する結界が敷かれている。私のアサシンは正統なるアサシンではないが故に気配遮断のスキルが低い。だが柳洞寺の結界に紛れてしまえば力こそ落ちるが気配を感知されにくくすることは可能だ。『聖杯』を抱えたまま戦闘することなど不可能だからな。絶対的に戦闘を回避するために私はアサシンを誰にも視認すら叶わぬように撤退させたのだ。それにアサシンは生前から柳洞寺によく通ったという。円蔵山のことは我々よりも詳しい」

「アーチャー。綺礼もそう言っている。これで納得したか?」

 時臣は弟子の説明に満足に頷くとアーチャーへ言う。
 これ以上なにかを言う必要はないと判断したのかアーチャーは軽く肩を竦めて黙り込んだ。 
 その視線はどうしてか知らないが『聖杯』――――アイリスフィールを見つめている。まるで浸るように。 <> 第25話 狂人を導きし聖人<>saga<>2012/12/28(金) 21:47:27.99 ID:13E8jjON0<> 「…………」

 綺礼を見送りながら思う。
 アーチャーとは一体どんな英霊なのか。
 願いの有無もある。
 聖杯を欲するのはマスターだけではなく、サーヴァントも同様。故にサーヴァントにも等しく聖杯を求める理由がある。だから願いが無いというアーチャーは変なサーヴァントということだ。
 尤もこのことは時臣としても余り気にはしていない。
 彼等サーヴァントからすれば死者蘇生により蘇ったようなものだ。これで普通の人間なら一度死んでしまったのならば今度こそは幸せな人生を、と求めるだろう。
 霊体のサーヴァントとはいえその精神は生前のそれと同じだ。サーヴァントが能力は兎も角、その内面が『人間』なら一度経験した死を恐れるはずだ。
 そして二度目だろうと最初だろうと関係なく、死なないよう生きるために戦う。聖杯の中身を飲んで受肉するために。
 だが――――実際に過去の聖杯戦争の例をみても『第二の生』を求めたサーヴァントは驚くほどに少ない。
 サーヴァントがもう十分に生前に満足していたということもあるだろう。けれどそれ以上にサーヴァントは根本的に普通の人間とは違うのだ。能力以上にその中身が。
 自分の命以上に守るべきもの。己が生命と比しても重いもの。唯人では有り得ぬ強靭なる精神性。それがあるからこそ英霊は英霊たりえる。
 英霊が弱い人間の身でありながら精霊の頂きにまで上り詰めた人間の極限だというのなら、その精神もまた人間の極限であるのは道理。
 故にサーヴァントは自らの命を求めない。命以上に大切なものを持つ彼等は命よりも優先すべきものを持ち、それは生前からもそうだったのだろう。
 外面上の強さや能力以上に、中身もまた彼等は『英雄』なのだ。
 そしてアーチャーである。
 無銘の英霊、正義の味方という概念そのもの。名前に意味などなく名乗る必要もない。
 召喚された日、自分の宝具や能力に交えてアーチャーはそう時臣に言った。
 だが英霊としてのアーチャーが無銘であれ、本当に名前がないというわけではあるまい。
 時臣がラインを通じて垣間見たアーチャーの過去はどれも戦場だった。そしてその中には――――明らかに近代兵器と呼ばれるものすら混じっていた。
 それはアーチャーが近代兵器が存在する時代を生きた英霊だという証左。しかし近代の英霊など数が限られている。時臣も近代を生きた人物で宝具を投影する能力をもった者がいないかどうか探したが終ぞその人物を見つけることは出来なかった。
 この歴史にアーチャーは刻まれていない。無銘だけあり歴史にも名を刻まれずに終わったのか、それとも。

(英霊というのは過去現在未来において不変となったもの。時間という枠組みにもない彼等は未来・平行世界からだろうと呼ばれることすらある。もしかしたら――――)
 
 もしもそうなら歴史にアーチャーの名が刻まれていないことにも説明がつく。
 それに衛宮切嗣という名前を耳にした時の微妙な表情の変化。

(……まさか、そんな筈がない。あってはならない。そんなことは)

 抱いた下らない推測を振り払う。そんなことを考えるよりも今は先ず聖杯戦争だ。
 綺礼を抜けば残るマスターはケイネス・エルメロイ、ウェイバー・ベルベット、そして衛宮切嗣の三人。
 これは確信だ。
 衛宮切嗣を打倒したその瞬間、遠坂時臣の勝利は確定する。
 時計の針が午前0時を差した。
<> 第25話 狂人を導きし聖人<>saga<>2012/12/28(金) 21:48:04.13 ID:13E8jjON0<>  遠坂邸を後にした言峰はアサシンを伴い夜の冬木を歩いていた。
 ごくごく自然体で歩いている言峰だが同時に警戒は緩めてはいない。ケイネスや一時的同盟者だったウェイバーはまだしも、衛宮切嗣にとって暗殺こそが本領。
 もしかしたらこうして歩いている言峰をどこか遠くから狙撃スコープ越しに見ているのかもしれないのだから。

『狸め。よくも師の前で平然とあれだけある事ない事を捲し立てられたものだ』

 霊体化し隣を歩くアサシンが皮肉ってくる。

「私は確かに令呪をもって山門の裏からお前を令呪で転移させ逃がした。山門からお前を転移させればアーチャーに令呪の使用を目撃されることになる。そうなれば奴はこちらを警戒し逃亡の可能性も少なくなるだろう? 柳洞寺の結界やお前が円蔵山の地形に詳しいことを説明しはしたが、だから裏から逃げしたとは私は一言も言ってはいない。それに私は師やアーチャーを含めたサーヴァントとの戦闘を回避するために、誰にも目視が叶わぬよう令呪をもってお前を逃がしたのだ。そら、どこも嘘など吐いてはいないだろう?」
 
 言峰綺礼は歪んでいるが同時に揺るぎない信仰心を持ち合わせている。
 だから言峰は誰に対しても嘘は言わない。ただ本当のことを喋らないだけだ。

『むっ』

 アサシンがなにかに気付き足を止める。一拍遅れて言峰もソレに気付いた。こちらへ近づいてくる者がいる。
 時刻は午前0時過ぎ。普通の人間は寝静まっている時刻だが、それも全員ではない。仕事帰りのサラリーマンや夜中まで遊び歩いている不良などがこの時刻に帰宅するというのは有り得ることだ。
 しかし近付いてくる気配は一般人のものではない。
 脆弱だが魔力を感じる。

(サーヴァントにしては弱すぎる。となると魔術師……マスターか)

 聖杯戦争中に聖杯戦争とは関係のない魔術師がいるとは考えにくいので十中八九マスターだろう。
 しかし残るマスターは自分と師を除き三人。そのうちケイネスや衛宮切嗣はこれほど脆弱な魔力ではない。となればウェイバー・ベルベット。いや魔力を隠した切嗣かケイネスというのも有り得る。
 けれど予想に反して言峰の前にぬらりと姿を見せたのはそのどれでもなかった。
<> 第25話 狂人を導きし聖人<>saga<>2012/12/28(金) 21:48:34.45 ID:13E8jjON0<> 「……が、はぁ……し、神父……」

 髪の色は色素が生気ごと抜け落ちた白髪。顔の半分は奇怪に歪み変形し、どうにか人間らしさを留めた右半分の目もまるで死人のようだ。
 写真越しだが見た事がある。
 この男は間桐雁夜。間桐からの参加者であったはずの魔術師で、召喚早々にサーヴァントの維持に失敗し参加することすら出来なかった敗北者だ。
 雁夜は死に体であった。切断されたらしく片腕がなく留めなく血が流れ続けている。常人ならとっくに出血多量で死んでいただろうが、どうにか雁夜をぎりぎり生者で留めているのは切断面から覗く蟲の力だろう。
 間桐の魔術属性は水。特に使い魔にかけて優れるという。あの蟲は間桐雁夜の使い魔であり魔術とでもいったところか。
 それでも限界が近い。
 このままなら後数分もしないうちに間桐雁夜は絶命するだろう。あの蟲は命を僅かに延命する力はあっても、間桐雁夜を死の淵から救うほどの力はない。

(失われている腕……半死半生……。そうか、なるほど。キャスターのマスターは間桐雁夜で衛宮切嗣かセイバーにでも令呪の宿った腕を切断されたといったところか)
 
 どうしてバーサーカーを召喚した間桐雁夜がキャスターと召喚していたかは知らない。大方間桐の頭首の虚言か、サーヴァントを失った後に再契約でもしたのだろう。
 雁夜は言葉にならない嗚咽を漏らしながら地面に倒れる。もって後三分といったところか。
 敵対者としては脆弱過ぎ、障害にも相応しくなく、かといってマスターですらない間桐雁夜。
 わざわざ手を下す必要性もない男だが、

「問おう、間桐雁夜。――――お前にはまだ戦う意志は残っているのか?」

 神託を授ける聖人のように言峰は雁夜に告げた。
 雁夜には言峰綺礼の顔すら上手く認識できていないだろう。だがそれでも僅かに残った意志でコクリと首を上下させる。

「良かろう。ならばもう暫く生きるといい。その願い、その祈りを私は祝福しよう」

 間桐雁夜の心臓と切断面に手を当てる。
 体内にある魔術回路が起動した。魔力が流れ間桐雁夜の顔色が良くなっていく。
 切断面は塞がれ、これ以上血を流すことはなくなり――――残り三分しか寿命のなかった間桐雁夜はその長さを数日まで伸ばした。
 雁夜の治療を済ませると用は済んだとばかりに立ち去る。

(刻限はきた。導師は情報を揃えつつあり、衛宮切嗣もまたキャスターを殺した)

 これから局面は激動の展開を迎えるだろう。
 一度動き出した岩石はなにかにぶつかるまで坂を転げ落ちていく。
 その運命を止める術は誰にもない。言峰綺礼や衛宮切嗣でも運命の流れにだけは逆らえないのだから。出来るのは運命の流れを読んで波に乗るだけ。
 聖杯戦争八日目はこうして終わり、聖杯戦争九日目はこうして始まった。
  <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/28(金) 21:51:25.38 ID:13E8jjON0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:08:35.90 ID:T1F8vgSAo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:19:05.13 ID:+R086cnHo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:23:03.64 ID:8Ug4wfrC0<> 乙でした、叔父さんやっぱり言峰にまた利用されそうですねまあそうゆう幸の薄さが叔父さんなんですけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 22:26:57.45 ID:7XVkBSki0<> 乙
これからおじさんがどう動くのか期待
>>450
生き残る=一緒にくらすって訳でもないと思いますぜ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 07:46:57.59 ID:ZTmK11uP0<> 思うんだが、佐々木小次郎ってほとんどイレギュラークラスみたいなものなのになんで『アサシン』なんだろう?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 10:30:00.95 ID:xYmsOXx4o<> あれ、雁夜って何か元通りになってなかったっけ?
キャスターが消えたから効果が切れたとから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 10:58:32.52 ID:VrTgvKqM0<> イレギュラークラスNOUMINか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/29(土) 11:39:36.23 ID:5oChKhKDO<> >>463
もともとその枠しか残ってなかったから柳洞寺にゆかりのある亡霊を無理矢理その枠にはめる形で召喚したんじゃなかったっけ?
よく覚えてないが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/29(土) 12:12:10.93 ID:M3jS1DpAO<> >>464
単純に雁夜自身の蟲で応急措置したんじゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/12/31(月) 15:44:12.71 ID:2RktWCFD0<> この分だとおじさんは生き残りそうにないな・・・
個人的には原作以上に不幸になるキャラが誰なのか気になる <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2012/12/31(月) 20:05:28.90 ID:lwpGo7ul0<> >>461
 なんだか一番詐欺師に騙されそうなイメージがありますから。

>>462
 もし舞弥が士郎を拾ったとしたら、自分で引き取るとかはせずに孤児院に預けるでしょう。
 おや……そうすると言峰士郎が爆誕する可能性もゼロではありませんね。

>>463
 単純に言峰がアサシンを召喚しようとしたからです。

>>464
 雁夜は蟲などを取り除かれていましたが、完全に元通りになったわけではありません。
 操ってる蟲は護身用に雁夜の命令しかきかないようにキャスターが調整しておいたものです。

>>468
 雁夜はまぁ……雁夜ですから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 21:02:30.46 ID:cT/I95x7o<> コトミネシロウ出たぜ
アポクリだけどね <> 第26話 敗北者の遠吠え<>saga<>2012/12/31(月) 21:11:13.00 ID:lwpGo7ul0<>  綺礼が教会へ出立して十分ほどが過ぎた。 
 余裕を持って優雅がれ。遠坂家の家訓を胸に刻む時臣は聖杯戦争中であろうと日々の日課を変えたりはしない。
 アーチャーに見張りを命じると休養をとるためにも暫し休もうとして。

『お休みのところ悪いがマスター、不穏な来客だ』

 ライン越しに届いたアーチャーの進言で足を止めた。
 素早く時臣はいつかと同じように先端にルビーが埋め込まれた杖をもつと服を整える。
 
「こんな夜更けに来客か。いや文句は言うまい。聖杯戦争は夜に行うのがセオリーなのだからな。遠坂家当主として歓迎せねばなるまい」

 魔力を溜めた宝石を何個か服に忍ばせる。これで時臣の方は万全だ。
  
「して来客者は誰かな? ケイネス・エルメロイかウェイバー・ベルベットか、それとも衛宮切嗣か? サーヴァントのみというのもあるが」

『クッ。生憎とどれも不正解だ。この屋敷に近付いているのはサーヴァントではないしマスターですらない』

「……? というと何某かの協力者なのか?」

『協力者か。それもなかろう。君の情報が正しいのならアレは嘗てマスターであって今はマスターでないものなのだから。たしか名は間桐雁夜だったかな?』

「雁夜、だと……」

 聖杯戦争に参加する以前に敗退した参加者以前のマスター。間桐雁夜が行方知れずとは聞いていたがどうして今になって此処へ。
 時臣と雁夜は多少面識がある。だがその面識は良いものとは到底言えないものであり、まさか旧交を温めに来たというわけでもないだろう。
 なにか他に狙いがあるのか?
 だが目的があるとして、それはどのようなものなのか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 21:11:32.16 ID:w60vCRtTo<> ガリヘン(ry <> 第26話 敗北者の遠吠え<>saga<>2012/12/31(月) 21:13:28.65 ID:lwpGo7ul0<> 『どうする時臣。間桐雁夜は一人だ。正真正銘に。令呪の気配もサーヴァントの気配もない。やれと命じるのなら始末するが?』

「…………」

 一人前の魔術師未満の雁夜などアーチャーにかかれば矢一本で事足りるだろう。
 アーチャーが宝具でもない矢を射る――――それだけで雁夜の命運は尽きる。弓の英霊にとってそのようなことは造作ないことだ。
 けれど気になる。
 まさか意味なく雁夜がこの屋敷に来る筈がない。間桐家とは不可侵の盟約があるという以上に、魔術師にとって他の魔術師の領地に踏み込むということは命を賭けねばならぬ行為だ。
 未熟者とはいえそのようなルールを雁夜が知らないとは考えにくい。つまり雁夜にとっては今宵この屋敷に来ることには命を懸けるに値する理由があるということだ。

「サーヴァントを伴っているのならまだしも、雁夜は一人でここへ来た。そんな雁夜を相手にサーヴァントを盾に自分は穴熊など遠坂頭首のすることではない。客人は私が担当しよう。それが敵マスターだろうと間桐雁夜だろうと、戦う意思がないのならば客人なのだから」

『そうか。だがこれが何らかの罠ということもある。間桐雁夜が君にとって想定外の行動を起こしたのならば即座に射殺すが如何か?』

「頼もう」

『頼まれた』

 時臣は遠坂邸のドアを出る。
 夜風が肌に染みる。しかしその寒さに顔色一つ歪めることなく時臣は遠坂の門を開け。

「―――――よう。遠坂、時臣」 

「雁夜か。随分と……姿かたちが様変わりした」

 時臣にとって嘗て間桐雁夜に対して抱いていた印象は平凡というものだった。
 才幹にも見た目にも特筆すべき特徴はなく、街中にあれば直ぐに群衆に紛れてしまうような普通の人間。
 しかし今はどうだ。 
 無理な魔術の修練の影響か、左半分は妖怪染みたように変形し片腕はなく無事の右目もどろりと濁っている。化物特有の力強さこそ感じないが、この不気味さは幽鬼そのものだ。

「それで我が屋敷になんの用かな? 私は聖杯戦争のマスターとしてこの戦いに臨んでいる。お前がマスターの一人というのなら相手にするのも吝かではないが、今のお前はマスターではない。私の側にはお前と戦う理由は何一つとしてない。私はバトルマニアでもないし血を見て喜ぶ人間でもないのでね。用がないのならば去れ。それとも茶を望むなら淹れても良いが?」

「……相変わらずだな時臣。お前はいつもそうだった。そうやっていつも平然としていて、余裕気でいて、高い位置から俺を見下す――――!」

 どろりと濁った眼にどす黒い殺意が宿った。
 時臣は礼装である杖に魔力を込める。どれだけ未熟だろうと付け焼刃だろうと雁夜は魔道の一端に触れた者。
 それが脆く細い小刀とはいえ、時臣を殺すに足る力をもっているのだ。 <> 第26話 敗北者の遠吠え<>saga<>2012/12/31(月) 21:14:25.89 ID:lwpGo7ul0<> 「俺が貴様に言いたいのは一つだけだ! 答えろ時臣! お前はどうして桜ちゃんを間桐に送った! 葵さんや凛ちゃんから引き離したんだっ!?」

「桜だと……? 何故お前が桜のことを気に掛ける。確かにお前が出奔したこともあって、間桐家は桜を養子にと申し入れてきはしたが。よもや魔道から背を向けた貴様が、今になって間桐の家督に未練が出たのか?」

「答えろ!!」

 鬼気迫った雁夜の形相。それに押されて、という訳でもないが時臣は口を開いた。
 別に隠すような事情でもない。

「なんでもなにもない。父として娘たちの未来に幸あれと願ったまでだ」

 途端、雁夜の表情が信じられないとでもいうように強張っていく。

「幸、だと……? 家族から引き離すのが桜ちゃんにとって幸福だと抜かすのかお前は!」

「然り。常であれば魔術師の家に二人以上の子があった場合、一人を頭首(後継者)として育てそれ以外は凡俗のまま、自身の家が魔術師の家系であることすら知らせぬままに育てねばならない。だが凛と桜は幸か不幸か、二人が二人とも稀代の才覚をもって生まれてしまった。私など比較にもならないほどに」

「あれほどの才だ。時計塔に見つかれば良くて生涯の監禁。最悪の場合はホルマリン漬けの標本だ。もしよしんば時計塔に捕まらずとも、その果てに待つのは執行者や代行者の影に覚え続ける日々。父として娘がそのような末路を辿るのを見過ごせるものか」

「もしもその運命を逃れるとすれば魔道の名家の加護を得る他ない。だが家督を告げるのは一人のみ。故に長女である凛を後継者に。桜を養子へとやることにした」

「間桐家からの要請は渡りに船だったよ。冬木の地に合わず衰退したとはいえ間桐は始まりの御三家にして遠坂の盟友。魔術師の到達点たる『根源』にも近い一族だ。それに間桐の後継者ともなれば時計塔もおいそれと手出しすることはできない」

「凛と桜、二人が二人ともに時計塔の影に怯えずに済み。そして二人が二人とも己が才能を最大限に活かす道を歩む。これ以上に最良の決断があるものか」

「……なにが盟友だよ。ああ、お前は正しいことを言ってるつもりなんだろうな。だが分かっているのか! それは相争えということなんだぞ! 聖杯戦争で姉妹同士で!!」

「なるほど。次の第五次は六十年後。凛と桜の二人が参加する可能性は低いが……もしそんな局面を迎えたのならば至上の結果だろう。遠坂が勝てば聖杯は遠坂に。間桐が勝っても遠坂の末裔が手にするのだから。遠坂にとってこれほど素晴らしい最終決戦はあるものか」

「……狂っている。この人でなしが! そうやってお前は否定するのか」

「あの幸せだった……葵さんや凛ちゃん、桜ちゃんの三人が居たあの時間を……」

「否定はしない。凡俗には凡俗の、魔道には魔道の幸がある。いいや単純に俗世の幸せを得たければ、ただの人間のまま一生を終えるのが良いのだろう。だが世の中にはその選択肢が最初からない者もいるということだ」

「だからって……もっと、あったんだ。ふざけるなよ。お前はそうやって全部を不幸にする。……殺す。お前みたいなイカれた魔術師はぶっ殺す! お前なんていなければ、桜ちゃんは苦しむこともない! 葵さんも泣く事もないんだ!!」
<> 第26話 敗北者の遠吠え<>saga<>2012/12/31(月) 21:15:39.83 ID:lwpGo7ul0<>  どこに潜んでいたのか雁夜の周囲に喧しい羽音を響かせながら数えるのも馬鹿らしい蟲が展開された。
 間桐の魔術属性は水。特に使い魔の使役に長けている。あの蟲は雁夜の使役する使い魔で、それを操り敵を襲うというのが雁夜の戦術なのだろう。
 しかし――――所詮は付け焼刃。 
 時臣が一言呟き炎が顕現する。それだけで無数の蟲達の悉くが焼き払われた。

「なっ……! 一撃で蟲共を……!」

「驚くことはなかろう。お前は魔術に触れて何年だ? 私は私の生涯をただただ魔術の研鑽に費やしてきた。たかだか一年程度の付け焼刃が通用するものか。もしお前が一年の地獄で数十年を地獄を耐えられると思っているのならば……それは魔術だけではない。あらゆる学問、あらゆる術に対する侮辱だよ」

 時臣と雁夜の間に横たわる差は決定的にして絶対的だ。
 先代からの問いに是と応じたその瞬間から時臣は厳しい修練に挑んできた。それは時に命を賭けるものもあったし、全身を切り裂かれ毒を流し込まれるような苦痛も味わった。
 遠坂時臣は雁夜が思うような天才ではない。どんな物事でも余裕にこなしているが実際には余裕ではない。
 水面下で必死にもがく白鳥のように、誰からも見えぬ場所で果てなき努力をしてきたからこそ、外面が余裕をもって優雅に見える。それだけだ。
 時臣は凡才だ。歴代の遠坂にあって時臣ほどの凡人はいないだろう。それでも不屈の精神で凡才でありながら天才に肉薄するまでに鍛え上げたのが遠坂時臣という魔術師であり人間なのだ。
 雁夜が一年間命を削る拷問のような修練に励んだとはいえ、時間にすればたかだか一年。
 時臣を前にすれば密度が違う。濃度が違う。
 同じ魔術師という土壌で戦うのなら、間桐雁夜に万分の一の勝利すら有り得ない。
 ましてやここは遠坂家の領地だ。待機中に満ちる魔力から調度品の一つに至るまでが雁夜の敵であり時臣の味方となる。
 サーヴァントもなく、地の利もなく、地力にも欠ける雁夜に勝機など欠片もない。

「まだだ! まだ終われるか! 俺はお前を殺すために魔術を身に着けた! お前を殺さすためにだ!!」

 最初の蟲よりも鋭い牙を持った蟲が現れる。
 恐らくはアレが雁夜の切り札。遠坂時臣を殺すための奥の手といったところか。
 あの蟲共の牙は牛の骨すら噛み砕くに足るだろう。だが違うのは蟲の強さだけではない。
 解析の魔術で見たところ炎への耐性をも付与されているようだ。あれならば時臣の炎を浴びても早々に焼き殺されはしないだろう。
 しかしそれを前にしても時臣は焦り一つとして見せなかった。

「魔術を身に着ける……か。やはり雁夜、お前は魔術師ではない。我々は誰よりも弱いからこそ魔術師という超越者であるを良しとした。魔術を便利で強いただの力として捉えるお前はやはり間桐の後継者に相応しくはない」

「抜かせ! 自分の子供を殺しあわせようとする貴様が言うことかーーーーッ!」

 雁夜の怒声と同時に蟲共が一斉に時臣へ殺到してくる。
 炎への耐性を付与された蟲。ただ炎で迎撃しても蟲共は平然と進撃してくるだろう。

「Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

 炎への耐性がありながら時臣が唱えたのは炎の魔術。
 されどただ闇雲に撃った一撃に非ず。如何に炎への耐性を付与されているとはいえ、羽の付け根や足の付け根などは耐性も薄い。
 そこへ最大火力を集中させて叩きつければ――――蟲共に為す術はなかった。
 勿論そう簡単なことではない。蟲は決してダンゴ虫のようなスローな動きではなく、天を貫く鷹の如き高速だ。宝石の十分の一は小さく高速で飛翔してくる一匹一匹の蟲。その蟲の更に小さい羽の付け根を同時に焼き払うなど一流と呼ばれる魔術師でもそう出来ることではない。
 針の穴を通す絶妙なコントロールと魂の髄にまで魔術を刻み込んだ成果。
 それらが合わさり時臣は当たり前のように蟲の悉くを焼き払った。

「Fliege(飛べ)」

 時臣の詠唱で庭内に満ちる魔力が雁夜の腹を殴り敷地外に吹き飛ばした。
 更に時臣が杖を一閃すると敷地外と内に炎のラインが引かれる。 <> 第26話 敗北者の遠吠え<>saga<>2012/12/31(月) 21:16:05.56 ID:lwpGo7ul0<> 「失せろ雁夜。私は魔術師とサーヴァントを倒すために聖杯戦争に参加している。魔術師ですらなかったお前は倒す価値はない。命が欲しければ教会へと急ぐことだ。脱落者であるお前に治癒を施してくれるだろう」

 それだけ言って時臣は背を向けて去った。あれでも一応は妻の友人。最低限の義理は果たしただろう。
 だがもしもラインを超えて死地へ踏み込むのなら是非もない。容赦なく焼き殺すだけだ。

「はは、くくくっ、あはははははははははははははははははは!!!!」

 狂ったような雁夜の狂笑が響き渡る。
 いや既に雁夜は狂っているのかもしれない。片腕を失い左半分の顔を変形させ―――――どれほどの苦痛を一年のうちに味わったのか。
 その一年は間桐雁夜という人格を狂わせて余りある。

「なにが娘の幸せだ!! お前は馬鹿だ!! 大馬鹿だ時臣!! あの臓硯が桜を真っ当な後継者になどするものか!! 臓硯にとって女はただの胎盤だ! 間桐の魔術師はあの妖怪の醜悪な願いの食い物にされて食い潰されてるだけだ!! お前はそこに娘を送ったんだ人でなしがッ!!」

「……な、に――――?」

 雁夜の言葉に初めて時臣が顔を歪める。
 それでも雁夜は止まらない。雁夜は時臣の引いたラインを超える。蟲を全て失った雁夜にはもはや魔術師としての力を振るう力も残っていない。
 故に雁夜が頼れるものは己が体のみ。片方となった拳を握りしめ、雄叫びをあげながら雁夜は時臣へ殴りかかる。

「――――!」

 それは一瞬だった。魔術師としての時臣は反射的に自分を殺そうとする雁夜に炎の魔術を放っていた。
 炎を受け雁夜が悶え苦しむ。それでも怒りと絶望とが入り混じった狂笑をしながらに雁夜は敷地外まで転がっていった。

「…………」

 それでも時臣には嫌な感触が残る。勝ったというのに、まるで勝った気がしない。
 
『マスター、どうしたのかね?』

 ラインから伝わるアーチャーの声。

「すまない。一人で考えたいことができた。後の事は任せる」

 雁夜の断末魔が脳髄にこびりついて離れない。
 時臣は桜と雁夜のことを交互に思い浮かべながら遠坂の屋敷へ戻っていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2012/12/31(月) 21:33:15.85 ID:lwpGo7ul0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 21:44:38.90 ID:eL32uRPE0<> 乙です 原作と違って時臣の心を動かす事に成功しましたね叔父さん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 02:02:32.36 ID:Rv82e/ju0<> 心動かすっていうか本来知る術のないことを教えられただけだな

たとえ桜が間桐に出されなくて花札で言ってたみたいに遠坂嫌いのエーデルフェルトにいったら魔術師として大成できる可能低いしトッキーの言ったみたいにホルマリン漬けでもおかしくねぇしなぁ
常人として生きることもできんしもとから詰んでると言えば詰んでるな 

桜のメンタルが要塞級でなけりゃSN始まる前におわってたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 02:13:26.93 ID:FPMlPr4I0<> 違う家の魔術学ぶってのはきついだろうし髪の色とか変わっていもそういうものだってなりそうだしね

つまるところ蟲爺が悪い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 03:48:11.32 ID:/UR9gWnpo<> 蟲爺さんも元はまともな人だったのにね

いつ間にか手段が目的になっちゃって… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 06:21:44.32 ID:1ngM370AO<> 荒耶・ズェピア・ゾォルケン「どうしてこうなった」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 18:04:20.62 ID:AHxZSY9IO<> 死の直前での間桐遺伝子全開か
そしてトッキーはケリィとバグ爺との決戦フラグ、しかも背後にはマーボーとかエミヤでもこの死亡フラグを捌くのは…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 18:33:17.94 ID:pZmu7Jjm0<> いくら時臣が他のとこよりも肉親の情が厚いといっても、結局のところ「魔術師」だからな
そらある程度苦悩はすると思うが、子孫が成功するんならそれでもいいと考えるんじゃね?

といっても間桐の魔術の本質を理解してないからだと思うが
あんなに非人道的じゃなかったら雁夜くんもあそこまで魔術を嫌悪することなかっただろうし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 19:47:35.95 ID:ag/irM3e0<> >>482
型月では理想を追い求める人間ほど悲惨なことになりますから・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 21:03:48.98 ID:fVSDJNEP0<> トッキーからするとマキリが呪術系統っていうのは令呪関連できるわかるけど蟲使いだなんて知らんもんね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 03:12:07.25 ID:uF4AQNRDO<> でも根源に至ったわけでもないのに数百歳超えてまだ生きてるようなやつなら、なんかしらのヤバい魔術やって無理矢理延命してるって疑うのが普通なんじゃないの?
詳しいことはしらなくても、「間桐はなんかヤバいっぽい」って思うはずじゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 03:33:25.71 ID:IjsaiL4go<> しかしアインツベルンの爺も云百年生きてるんだなこれが
魔術界隈なら魔術師の延命は結構当たり前なんじゃね?
しかも延命の魔術師ってバルトメロイやゼルレッチといい大家だし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 06:15:10.23 ID:HIpil2NAO<> >>487
魔術による死徒化が到達点の一つなのが魔術師だぜ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 10:05:50.88 ID:3IPBTW030<> >>489
作中で登場してるやつは皆二十七祖クラスになってるしな

でもそう考えると空の境界勢はすごいな、別にそんなやばいことやってないし
荒耶はただ単に起源が静止だから弱不老不死だし、燈子さんに至っては自分を作り続ければいつまでも存在してられるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 12:20:00.45 ID:SKP0f9nt0<> トウコさんは体は大丈夫だけど魂の劣化はどうなってるんだろうなぁ

そういえばキャラマテかなんかで時計塔の学長は2000年前から生きているみたいなのもあったな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 17:44:01.51 ID:UfCyptkw0<> 2000年前っつーとセイバーより前の時代から生きてるわけか
どう考えても人間やめてるな、それ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 18:11:18.19 ID:SKP0f9nt0<> アーサー王は大体西暦500年前後やね
赤セイバーのネロくらいの時代だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/02(水) 22:15:02.75 ID:Xi9Z3PUi0<> ぶっちゃけた話、魔術師の修行は薬物投与とか虐待じみた苦痛とか普通のことなので
間桐の無駄の多い無駄に甚振る爺の趣味を直接見ない限りは
誰であっても(魔術の修行が厳しくて落ち込んでるのか……)って程度にしか思わん
髪の色が変わるのも、さしておかしなことではないだろうし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 22:23:56.17 ID:dq5PrzLIO<> >>490
赤ザコさんが却って目立つからやめたげて <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 22:33:44.13 ID:3IPBTW030<> >>495
ゼ、Zeroで活躍したじゃないか!(震え声) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/02(水) 23:07:48.66 ID:IJcJLU6g0<> 赤ザコさんはいくら高等な術が使えるからって戦闘なんかしなけりゃよかったんや・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/03(木) 13:24:22.96 ID:9J5yZCvBo<> 赤ザコさんはケイネス先生並みに強いんだぞ!いい加減にしろ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/03(木) 16:47:18.26 ID:cfI2sqJa0<> 多分ケイネス先生より強いと心の中で思っている。
触媒なしでトッキーの何倍以上の火力ありそう。
水銀ごと灰になりそう、ケイネス先生。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/03(木) 16:54:25.28 ID:IKLH/7CAO<> 強さは同じ位だけど戦ったら相性の問題で先生に負けるんじゃ無かったっけ、赤ザコ <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/03(木) 21:41:08.43 ID:nCSqDPit0<> >>478
 話し合いの大切さというやつです。

>>479
 この辺りの問題は難しいですから。仮に雁夜が完全勝利して時臣が死んで、臓硯が聖杯を手に入れて桜が解放されても、その後が問題となりますから。

>>481
 手段と目的が入れ替わるのは間桐のお家芸なのかも。

>>483
 アーチャーは苦労性です。

>>485
 型月では理想を求めるキャラの末路は酷いもので、理想より愛を選ぶとヤンデレになります。

>>487
 まだ出てないだけで延命法にしても色々ありそうですから。
 それこそ遠坂の大師父は死徒ですしね。

>>490
 橙子さんもアレでぶっ飛んだ精神回路ですからね。……まぁアラヤと橙子さんが型月的魔術師の正しいあり方なのかも。

>>491
 橙子さんは自分と同じ人間を作り出しているだけなので、不老不死というと違う気がします。謂わば自分が死んだら自分と同じクローンが出てくるようなものです。
 ただ完全に同じ人間だから蒼崎橙子としての寿命がきたら普通に死ぬのかも。

>>494
 魔術師全般にいえることですが、魔術の使用には苦痛が伴います。

>>496
 アルバの立場と出身的に封印指定の執行者なんて汚れ仕事をやるはずがないので、あれはスタッフの遊び心で別人でしょう。

>>499
 ぶっちゃけ魔術は戦うためのものではないので、強いか弱いかで優劣はつきません。
 ダメットさんはとんでもない戦闘力をもっていますが、だからといって時計塔で権力者であるというわけでもありませんし。 <> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:43:00.13 ID:nCSqDPit0<> 「あっ――――はぁ……ぁあ」

 地獄の底から響いてくるような呻き声。
 聞いただけで苦痛が乗り移りそうな呪詛の言葉を吐きながら、雁夜はふらふらと夜の道を歩いていた。
 いや、もはや歩くというよりは引きずると言った方が良い。
 言峰綺礼の治癒は一時雁夜を死の淵から生還させたが、それは所詮延命であって救命ではない。
 数分だった寿命を数日に伸ばしただけ。
 そんな雁夜にとって魔術の行使とは命の消費にも等しい行為である。使えば使う程に数日の寿命を削っていく。
 だというのに雁夜は遠坂時臣を殺すために魔術を行使した。更には時臣の炎の魔術すら受けた。
 それでもこうして曲りなりにも生存しているのは奇跡にも等しい。その奇跡を起こして見せたのは間桐雁夜の素養か精神か、それとも偶然か。
 だが奇跡にも限界はある。
 奇跡は間桐雁夜の命を限界のところで世に留めてくれてはいるが、雁夜にとって多少寿命が延びる伸びないなど意味のないことだ。
 寿命が延びても『目的』を果たせなければ意味がない。
 その目的とは間桐桜を救うことであり、遠坂葵を幸せにすることであり、遠坂時臣を殺す事だ。

「桜ちゃんを助けないと……どこだ、桜ちゃんは……葵さん、俺は助けるから。時臣を殺して……」

 もはや正常な思考すら出来ていないだろう。
 呂律の回らぬ言葉を漏らしながら雁夜は歩く。目指す場所は――――教会だ。
 思考が殆ど回っていない雁夜だが、生物としての生存本能のなせる業なのか"あと一度でも魔術を使えば死ぬ"ということだけは直感的に理解できていた。
 そして僅かに残った理性がそんな状態では目的を果たすことなど到底不可能だとも教えてくれていた。 
 故に雁夜は足を引きずって進む。教会へ。神の家へ。
 自分にも救いがあるのかもしれないという、ありもしない『奇跡』に縋って。
 教会の敷地に足を踏み入れた。
 重厚な木の扉を開けて体を押し入れる。
 空気の一欠けらに至るまで澄み切っていて、どことなく歪んでいる雰囲気が間桐雁夜を歓待した。

「こんな夜更けに来客かと思えば――――そうか、お前か。間桐雁夜、最初の脱落者にして二番目の脱落者よ」

 カソックを着た黒髪黒目の男は言峰綺礼。監督役の息子にして聖杯戦争に参加するマスターであり、そして仇敵・時臣の協力者でもある男だ。
 本来なら教会にいる者は監督役とサーヴァントを失ったマスターのみ。
 その観点でいえば未だサーヴァントを失っていないこの男がこの場所にいるのはルール違反ということになるのだろう。
 しかし雁夜はそのことに不思議と思い至ることはなかった。余りにもこの教会がこの男に適していたからなのかもしれない。
 まるで元々が同じものだったように言峰綺礼という人間は教会の中に溶け込んでいる。 <> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:43:31.96 ID:nCSqDPit0<> 「だが歓迎はしよう。神の門は常に開かれている。その様子だと遠坂時臣に惨めに敗北し、すごすごと逃げ帰って来たというところか」

「……!」

 人の心を抉るかのような糾弾。
 怒りという熱情が雁夜の意識をはっきりと覚醒させた。

「違うっ! 逃げて来たんじゃない! 俺はあいつを殺すために戻って来たんだ!」

「成程。つまりこういう事かな。間桐雁夜、貴様は私に施しを受けた身で我が師へと挑み、為す術なく敗北した。それでも命を保っていたお前はこうして再び施しを受けるために教会の門を叩いたと? お前がなによりも恨み嫉妬する遠坂時臣の協力者である私に?」

「ッ!」

 否定したい。が、否定できない。
 言峰綺礼の言葉は紛れもなく真実であり、どうしようもなく核心を突いていたのだから。

「ククッ。それもまた良かろう。遠坂時臣を恨みながら、その恨む相手の協力者に頼るという矛盾。それもまた『人間』というものだ。矛盾なき人間などはなく、矛盾あるからこその人間ともいえる。常に行動に一つの芯が通った者など英雄を見渡そうと一握りだ。故に間桐雁夜、お前は誰よりも人間として正しい。私は無論のこと、遠坂時臣よりも」

「……なにが言いたいんだ。お前は」

「難しいことではない。私には聖杯に託す祈りなどない。ただこれから生まれ出でる者には祝福を与えねばならん。監督役の父の代行として聖杯を得るに相応しいマスターを選別する義務もある。そして今私の手には令呪があり、サーヴァントが健在だ。間桐雁夜、お前の聖杯へと託す願いを言うがいい。貴様にまだ戦う意思がり、その祈りが聖杯に託すに足るものであるのなら貴様に今一度戦う力を授けよう」

「お前、時臣の協力者なんじゃ」

「何を今更。もし遠坂時臣の協力者として正しくあろうとするのなら今頃お前の首は胴と離れている。いいやお前を見つけたその時に貴様を殺している。そのお前が生きてこうしていることが、私が遠坂時臣の協力者として正しくない者という証左だ」

「…………」

 言峰の提案は願ってもない。バーサーカーを失いキャスターを失い、間桐雁夜は一人だ。聖杯を手に入れるにはサーヴァントが必要。そしてサーヴァントを倒すのにもサーヴァントが必要。
 今のままでは仮に全開にまで回復しても勝算はゼロだ。だが言峰綺礼のアサシンがあれば……セイバーのサーヴァントと互角に戦うほどの力があれば、遠坂時臣にも及ぶことができるかもしれない。
 雁夜に選択肢はなかった。

「俺は桜ちゃんを助けるために聖杯が欲しい」

 一言いうとダムが決壊したように理由が溢れる。

「俺が間桐から逃げ出したせいで桜ちゃんが間桐の地獄に堕ちた! あの野郎、時臣のせいで……! あいつが葵さんと桜ちゃんを泣かせたんだ。だから俺がやらなきゃならないんだ! 俺が逃げたせいで桜ちゃんが。だから俺が桜ちゃんを助ける! 桜ちゃんを助けて、葵さんや凛ちゃんを笑顔にするんだ。そして――――――」

 魂を込めた叫び。雁夜の想いをなんの装飾も施さずに吐き出した言葉だった。
 だというのに、

「――――違うだろう。間桐雁夜」

 教会の長たる聖職者はその祈りを否定した。 <> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:44:04.64 ID:nCSqDPit0<> 「な、に?」

「お前の願いは間桐桜の救済ではないし、断じて遠坂葵と遠坂凛の幸福でもない。お前の抱く願いとは他者ではなく己へと還るものだ。何故それを拒絶する?」

「……意味が分からない。俺には自分の望みなんて……ない。だって俺は桜ちゃんのために……」

「間桐桜を言い訳に使うのか? 理解らぬようなら何度でも言おう。お前はお前自身のためにその身を間桐の翁へと捧げ、自らの寿命を削ってきた」

「……っ」

 駄目だ。これ以上、この男の言う事を聞いてはいけない。聞いたら間桐雁夜の総てが壊れてしまう。
 音を閉ざそうと耳を塞ぎ――――そこで思い出した。雁夜には片腕がない。片方の耳を塞げても、もう片方の耳を塞ぐことは出来ない。
 男の声からは逃れられないのだ。

「お前は間桐桜を救いたかったのではない。ただ間桐桜を救い出した自分を遠坂葵の笑顔で迎え入れて欲しかっただけだ」

「違う! 俺は!!」

「遠坂時臣を殺す事に固執したのはどうしてだ? 遠坂葵の心がお前でなく遠坂時臣にのみ向いていることなどお前が一番知っていただろう。遠坂葵にとって遠坂時臣はなによりも大切な生存の理由といえる。本当に間桐桜を救い、遠坂葵を幸せにすることが目的だというのなら、お前は遠坂時臣に事情を説明し協力を仰げば良かった。時臣は芯から魔術師であっても外道な卑劣漢ではない。事情を説明すれば、必ずや間桐桜を間桐家より連れ戻そうとしただろう。そう……お前はそれだけで良かった。聖杯戦争に参加する必要すらない。救われた間桐桜は無論、遠坂葵と遠坂凛。我が師すらお前に謝意を述べただろう。だがお前はそうはせず聖杯を欲した。そのことに気付かぬふりをして、間桐桜の救世主という偶像に酔い痴れながら地獄に浸っていたに過ぎない。間桐桜を救う為、遠坂葵のためにと勘違いの願いを繰り返しながら」

「あ、あああああああ!!」

 大声をだし暴れまわる。しかし教会のものが壊されていっても眉一つ動かさずに、最高の玩具を手に入れた子供のように笑いながら言峰綺礼は間桐雁夜の傷を切り開いていく。

「間桐雁夜。貴様は義務感や責任感、ましてや義侠心によって間桐桜を救おうなどと考えたのではない。お前は遠坂時臣を殺し、遠坂葵を独り占めにしたいが為に聖杯を求めたのだ。いいやそれだけではないな。遠坂時臣はお前の欲するものを全て持ち合わせていた。そう……お前は"遠坂時臣"になりたかったのだろう? 嫉妬、理想、憧れ、独占、愛欲――――それらがお前の願いの源泉」

 言峰が一歩一歩近づいてくる。

「その祈りを祝福しよう間桐雁夜。遠坂時臣でも私でも……ましてや衛宮切嗣でもない。聖杯はお前の手にこそ相応しい。私の手にある令呪をとり戦いへと赴くが良い。そうして遠坂時臣を殺し、他のマスター達を殺し『聖杯』を掴みとれ。そして祈るのだ。遠坂葵を自分だけのものにしたい、と。聖杯は必ずやお前の祈りを聞き届けるだろう」

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 言峰の令呪に触れる前に雁夜は駆けだしていた。
 こんなものは夢だ。これは悪い夢だ。そうでなければ有り得ない。そうでなければおかしい。
 
「はは、はははははははははははは!!」

 そう。夢ならば早く覚めないと。
 頭が痛い。キリキリ痛む。この痛みがあるせいで、自分は。
 頭を教会の柱に叩きつける。鮮血のアーチが宙に描かれるが、まだ夢は覚めてくれない。
 一度で駄目ならもっと叩きつけないと。  
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。柱に頭を叩きつけ、

―――――ぷちゃ。

 なにかが切れた。意識が微睡へ消えていく。漸く夢から覚めることができた。
 悪い夢は終わったのだ。これから幸せが始まる。夢から覚めればきっと、みんなが――――。

「いいや。これは紛れもない現実だよ間桐雁夜。そしてお前は無価値に死ぬ」

 最後に雁夜は夢に浸るまで許されなかった。

「やれやれ。私はお前の祈りを歓迎していたというのに。お前ならば聖杯をくれてやっても構わないと思っていたというのに。残念だよ。しかし神聖なる神の家で自害して果てるとはな。天国には行けんぞ?」

 その言葉を最後に間桐雁夜は死んだ。
 間桐雁夜の行動は無価値だった。だが無意味ではあったのだろうか?
 もし間桐雁夜の叫びが一人の男に疑惑の種を植え付けていたとすれば。もしもその男が一つの決心をしたのだとすれば、決して雁夜の行いは無意味ではないだろう。
 彼の眠りの安らかならん事を。 <> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:44:39.55 ID:nCSqDPit0<>  雁夜を迎え撃った後、時臣は工房にて深い思考の中にあった。
 間桐雁夜の叫びを全て鵜呑みにした訳ではない。あの叫びが雁夜の荒唐無稽なブラフや虚言だということも考えられる。
 しかし雁夜のあの表情と叫び。あれは嘘を吐く者のそれではなかった。
 そしてもし雁夜の言葉が正しいのだとすれば、

(……私は)

 桜が魔術の修練による苦痛に苦しんでいる、というだけなら時臣は看過しただろう。
 元より魔道の探求は死と隣り合わせ。苦しみは友人であり、死は隣人だ。時臣もそれらと共存してきたからこそ、今の己があるのだと自負している。
 そして先代より魔道を受け継いだものは、自分の次の後継者のために。或いは何代も先の後継者のために自らの研鑽を魔術刻印という形にして継承させていかなければならない。
 自分以外の為に先を目指すもの。自分よりも他者を顧みるもの。……そして、誰よりも自分を嫌いなもの。これが魔術師としての素質だと胸に刻んで生きて来たし、娘の凛にもそう言い聞かせ育ててきた。 
 しかし間桐雁夜の語る間桐の在り方は真逆だ。
 時臣は娘の幸福のためにと間桐へと養子に出したのであって、不幸にさせるためではない。
 間桐臓硯が本当に桜を食い物とするために養子としたのなら、遠坂時臣はそれを許すことはできない。
 そんな時、遠坂邸の固定電話に電話がかかった。

「なんだこんな時に」

 訝しながら受話器をとろうとして――――

「あっ」

 うっかり間違ったことをしたのかツーツーと電話が切れた。

「…………」

 アーチャーの視線を感じるが、時臣は努めて平静を装った。
 暫くするともう一度電話が鳴り始めた。今度は冷静に受話器をとろうとして、

「むっ」

 うっかり右足をコードに引っかけて抜いてしまった。

「……時臣?」

「な、なんでもない! 電話爆弾……そう、電話爆弾だ! 優れた魔術師なら電話越しでも魔術的な呪いを仕掛けてくる可能性がある。だから私は念のためこうして受話器をとろうとしないのだよ。こうして何度も不通になれば、呪いを仕掛けようとしている者なら企みがばれたと感じ計画を取りやめにするだろう。私の狙いはそこにあるのだよ」

「……いや、もっともらしく取り繕っているがね。もしかして君は――――」

「お、おっと。また電話がかかってきたな。今度は出ようではないか」

 精一杯の見栄をはってから今度こそ時臣が受話器をとることに成功した。すると驚くべき人物の声がした。

『呵呵呵。こうして会話するのは久しいのう。先代から継承して何年になるかの、遠坂時臣。古の盟約により儂からそちらへ行くことは出来ぬが故に電話越しで話しておる。無礼、とは思うが許してくれい』

「間桐臓硯……か」

 相手は名乗らないが、相手の出したフレーズだけで答えは一つだった。
 電話の相手はあっさり肯定する。
 疑問の渦中にいた人物のいきなりの電話。流石の時臣も驚きを隠せない。 <> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:45:14.10 ID:nCSqDPit0<> 『左様。頭首を鶴野めに譲って長いのだがのう。しぶとく生き長らえておるわい。さて回りくどく話していてもした致し方ない。不可侵の条約を破ってまでこうして話しておるのは桜の件じゃよ』

「桜が、どうかしたので?」

 努めて平静を装いそう返す。
 本当は桜の名前が出た途端、時臣の心臓は跳ね上がっていた。
 そのことに気付いているのか気付いていないのか。臓硯は好々爺めいた口調で。

『いやはや申し訳ないと言う他あるまい。不肖の倅、雁夜めが分不相応にも聖杯戦争に参加しようとし、参加するまでもなく脱落したというのは報告した通りじゃ。だがの、儂にもちと予定外のことを雁夜は仕出かした』

「……ほう」

『雁夜の奴め。どういう奇策を弄したのか、キャスターのサーヴァントと再契約すると何を血迷ったのか間桐の工房を襲い、桜をいずこかへと連れ去ったのじゃよ』

「そうか。なるほどアーチャーの読みは正しかったか」

『むっ。アーチャーとな?』

「いいえ。こちらの話です。それで? まさかそのことを伝える為に不可侵を破ったのではないでしょう。臓硯さん、本題を」

『せっかちじゃのう。その辺りは永人にも似てはいるが。ふむ、だがお主の言う事も道理。桜はの。儂にとって……いいや、衰退した間桐にとって条約を破ってまで迎え入れた大切な後継者。これを失っては儂としても、遠坂の盟友としても申し訳がたたぬ。しかし不甲斐ないことなのじゃが儂も四方八方へ手を伸ばしているのだが一向に桜の行方が知れぬ。そこでじゃ遠坂よ。間桐家は遠坂家に間桐桜の捜索を頼みたい』

「…………臓硯さん。貴方程の御仁に言うまでもないことですが、魔術とは等価交換。間桐家の要望は受けましょう。その対価として私の問いにも、どうか真実を答えて頂きたい」

『呵? 良かろう良かろう。盟友たっての望みじゃ。儂も誠意をもって答えようぞ』

「それでは。臓硯さん、丁度今日ですよ。我が家に件の間桐雁夜が来訪し、気になることを私に言いました。曰く、桜は貴方を生かすためだけの胎盤として扱われていると」

『ほほう。雁夜の奴め、そんな戯言を抜かしおったか?』

「戯言?」

『左様。なぁ遠坂の、主は魔術の深淵に恐れを無し逃げ出した様な雁夜のような半端者の言葉を信用するのかえ。いや間桐が主とする魔術は蟲の使役。遠坂の宝石と比べれば見た目は余り良くはなかろう。半端者の雁夜が間桐の修練を見て愚かな勘違いをしても仕方なきこととも言えるのう』

「……………」

『この地にき衰退したマキリにとって桜は希望なのじゃよ。マキリは儂の代から衰えの一路を辿り、鶴野の倅にはもはや魔術回路すら宿らなんだ。食い物にするなどとんでもなきことよ。魔道の修練故、蝶よ花よとはいかぬが、厳しさが桜の未来を明るいものとすると信じるからこそ儂は敢えて心を鬼にし桜を苦しめておるのじゃよ』

「分かりました。それでは私はこれから準備がありますので」

『ところで二回ほど電話したのじゃが、どうも繋がらずに切れてしまっての。あれは一体なんじゃったのかえ』

「なんでもありません。では」
<> 第27話 切り開かれたインウィディア<>saga<>2013/01/03(木) 21:45:50.56 ID:nCSqDPit0<>  受話器を置く。すると傍でアーチャーが実体化した。

「今の間桐臓硯とやら、信じるのか?」

「いや。雁夜の言葉を鵜呑みにするつもりはないが、間桐の翁の言葉を鵜呑みにすることもないよ。あれは私よりも遥かに長い年月を生きた人間だ。嘘偽りをさも真実のように語るなどお手の物だろう。真相は私自身が確かめる」

「そうか」

「……その際は君の力を借りることになるかもしれないが構わないか?」

「私は君のサーヴァントだからな。君の命令にはサーヴァントとして全力を尽くさねばならんな。やれやれ。聖杯戦争に参加したサーヴァントが聖杯戦争となにも関係のない戦いに駆り出されるとはな」

「……すまない」

「謝る必要はない。私は賞賛や謝意が欲しくてこうして英霊となったのでもないし、自身になにも還らぬ戦いには慣れている」

「ふふふ。私のサーヴァントが君で良かった。彼の英雄王ならこうはいかなかっただろう」

「マスター、そういう言葉は聖杯戦争が終わったその時に言って欲しいものだな。それとマスター、間桐桜の居場所なら探すまでもない」

「なに?」

「これだ。見張りをしていたら鳥の使い魔がこれを持ってきた。君宛に――――衛宮切嗣からだ」

「!」

 アーチャーから渡されたその手紙を見る。それは正しく衛宮切嗣からの果たし状だった。
 未来において師弟ともなった衛宮士郎と遠坂凛。その親たちの激突は今まさに迫って来ていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/03(木) 21:46:49.52 ID:nCSqDPit0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/03(木) 21:59:36.48 ID:+guG5RSM0<> 乙です、叔父さん原作とこちらどっちが幸せだったんだろうか、 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/03(木) 22:02:43.38 ID:n7cy5Ssno<> 乙

綺礼が実に楽しそうだなww
桜としては今のところこっちの方がマシだが、今後どうなるか。死ぬ可能性もあるしなぁ……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/03(木) 23:48:32.06 ID:D9Abf2oSO<> 雁屋の助ける助ける発言が芯から出たものだったらこれ以上ない位なら幸せだな

まぁ実際は今回の話通りだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/04(金) 00:15:00.34 ID:7YUMSAVbo<> いや、雁夜の本心は関係なく
原作通りに、臓硯に刃向かった者の末路の例としての雁夜の最期を見せられて絶望してないのと、
とりあえず臓硯からは逃れられているから、桜としてはマシだと言いたかった。
まあ、この切嗣なら人質にした桜殺すのに躊躇わないだろうって最大の問題があるけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 03:00:33.17 ID:+idGo26to<> 綺礼ウキウキでワロタwwwwwwww

切嗣vs時臣か…胸が熱くなるな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 03:26:43.91 ID:lWdY2dyro<> 乙
臓硯が三回電話掛け直してるところを想像するとなんか笑えてくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 13:55:18.28 ID:MkqM6nIT0<> 五次なら真アサシンがかけてくれるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 17:05:15.49 ID:Vxtm8LJY0<> 雁夜くん原作以上にBADだな、
原作では最後にいい夢見られてたのに
マーボー神父になんか苛められてるけど、桜救済を願ってても本心ではトッキーを殺したかっただけだからしゃーないか

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 01:25:18.85 ID:96z4BcaIO<> 綺礼は既に他人の傷の切開も出来るのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 01:43:50.80 ID:bNVnp3+DO<> 今回の神父がstaynightの顔でしか再生されないww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 08:16:21.15 ID:S5RJAV8lo<> SN設定では最初から自分の異常性に気づいていたし、ああなったのは妻の自殺がきっかけだからな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/05(土) 17:20:10.39 ID:p0Jwgw3j0<> そうなのか
ZEROって結構設定改変されてたんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 01:10:01.25 ID:NYbPqDZk0<> キリツグのせいであの大災害が起きた事になってたりね

まあきのこがうろたんに配慮して正史って認めちゃったからもうなんもいえないのよん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 01:55:57.84 ID:bvUhcdTZo<> 本編に繋がる可能性のある平行世界ということでいいんだよ。
それがみんな安心納得の一番平和な解釈だ。
hollowで変に整合性を取ろうとしたのが良くなかった。

>>516
雁夜は意味のある生を全うできたんだから、客観的には良くなったんじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/06(日) 06:40:42.46 ID:qqO7gr+g0<> どっかのメタスレSSで、セイバーがあれは別人ですって言ってたな。
第五次ではいきなりアーチャーに斬りかかってるし。原作ではそんな騎士道言ってるキャラじゃなかった。
ニトロプラスが大好きなクトゥルフと銃器がてんこ盛りだったし。虚淵が考えた第四次ってことだと自分は思ってる。
決してゼロを乏したい訳じゃないが、世界観を共有したスピンオフとでも思えば、粗が立たないんじゃないかな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 08:29:15.95 ID:yQnBLhaIO<> sageてくれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 15:42:57.82 ID:tp2uOWTSO<> >>523
ここにいるような人逹なら大体みんなその辺の事わかってるんだし別にいいじゃないか

しかしイスカをひげもじゃオヤジに代えたのは許せん
おにゃの娘やったやないか! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 16:17:54.13 ID:qqO7gr+g0<> >>524
下げ忘れたごめん。荒らしたかったわけじゃない。本当に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 17:34:14.05 ID:tZAx2CUp0<> >>525
マジで!!
おのれウロブチィ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 18:38:53.89 ID:n6RXrHlAo<> 発作的突然変異じゃないですかそれー! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 19:55:58.31 ID:NYbPqDZk0<> あとヴィマーナと空中戦闘したりとかセイバーのライバルだったらしいね
セイバーとのラスバトルで引き分けになった後撤退中にギルにやられたんだと <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 20:42:33.07 ID:c1EqCKE6o<> あとギルに引けを取らない傲慢な性格の設定だったとか <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/06(日) 21:38:25.22 ID:8K+vHEZw0<> >>509
 雁夜からしたら、最後に妄想とはいえ良い夢に浸ることすら許されずに死んだのでZeroより酷い終わり方です。

>>510
 桜は今後次第です。

>>515
 真アサシンほどマスターに忠実なサーヴァントはいないでしょう。

>>517
 言峰といったら人の心にダイレクトアタック。
 心理フェイズにかけては最強です。

>>520
 まぁかなり改変されてますね。

>>521
 大火災は起こしたのも切嗣を殺害したのも言峰でしたからね。

>>525
 赤セイバーみたいな性格でクラスもイレギュラークラスだったらしいですね。
 たぶんもしそうなら型月らしく金髪だったかも。

>>529
 ギルに対抗できる宝具をもっていて、セイバーとの戦いで消耗した所をギルにやられたらしいですね。 <> 第28話 トオサカとエミヤ<>saga<>2013/01/06(日) 21:39:46.60 ID:8K+vHEZw0<>  初めて来た倫敦は凛にとってなにもかもが新鮮だった。
 何故か母である葵は頑として食事だけは外食で済まそうとはせず、自炊してきたがそれ以外は異文化というものを堪能できた。
 なによりも魔術師の総本山である時計塔を見学できたというのは大きい。別に時計塔の講師に魔術を教わる、なんてことはなかったが空気を肌で感じることはできたのだから。
 雨に邪魔され散歩を終わらさせられた凛は雨水で髪を濡らして家に戻ってくる。
 凛を出迎えるのは日本式建築の家とは趣の異なるイギリスらしい邸宅だ。
 なんでも時計塔で父の時臣にお世話になった者らしい。快く凛と葵を迎え入れてくれた。
 とはいえ魔術師の原則とは等価交換。
 その者の善意というより時臣に世話になった分の等価を返していると考えた方がいいだろう。

「ただいま、お母様」

「ええ、おかえり。こっちに来なさい、髪を拭いてあげるから」

 家に帰った凛を温かく出迎えたのは葵だった。
 冬木で戦いに臨む父と遠く離れているのは寂しいのだが、そんなことは億尾も出さない。
 努めて明るく振る舞って見せる。

「あれ?」

 ブチっという音がして視線を下に向ける。靴紐が切れていた。

「どうしたのかしら。まだ新しく買ったばかりなのに」

 葵が怪訝に首をかしげた時だった。遠くの方でガシャンとなにかが割れる音がする。
 奥の方を見てみると皿が割れていた。棚に入れてあったのに落ちたとでもいうのだろうか。

「……なんで、こんなことが」

 不吉だ。とんでもなく不吉だった。
 だが決してそれを言いいたくはなかった。言葉にすればそれが現実になってしまいそうで。
 倫敦の冬は肌寒かった。魂まで凍てつきそうなほどに。
<> 第28話 トオサカとエミヤ<>saga<>2013/01/06(日) 21:40:37.15 ID:8K+vHEZw0<>  その手紙は死神の招待状そのものである。
 衛宮切嗣から遠坂時臣宛へ出された封筒には手紙が一枚に写真が一枚、そして『自己強制証文(セルフギアス・スクロール)』と呼ばれる契約書が封入されていた。
 自己強制証文。魔術師にとって最大限の譲歩であり、絶対に違約せぬ契約を結ぶ場合のみに提示される『契約書』である。
 これに自らの意志をもってサインしたが最後、絶対に契約者はその契約を破ることができなくなる。破ったら罰則云々以前に魂そのものが契約に拘束されるため破ることは不可能なのだ。
 もしこの契約を無効できる者がいるとすれば、セイバーのように魔術を全て跳ね除ける対魔力をもつか、キャスターの『破戒すべき全ての符』で契約そのものを破戒するしかない。
 無論、時臣はそのどちらも持ってはいないし現実的に考えて時臣がそれをもつ事などは有り得ないことだ。
 よってこれにサインすることは最後、時臣の数ある選択肢の一部を永久的に消し去るということでもある。

「衛宮切嗣め……! よりにもよって貴様が桜を……っ」

 封筒に封入されている写真を睨む。
 そこに映っているのは魔術によってか薬品によってかぐっすりと眠らされている桜。そして写真の隅から女のものと思われる細腕が伸ばされており、その手に握られた銃口は真っ直ぐに桜に向いていた。
 人質、と見て間違いないだろう。
 時臣が要求をのまねば殺す……切嗣はそう言っているのだ。
 契約内容に目を落とす。

『衛宮矩賢が子息、衛宮切嗣が遠坂家当主・遠坂時臣と契約する――――』

 勿体ぶった言い方だ。効率主義者の殺し屋らしくもない芝居がかった前口上。
 これは時臣の流儀に合わせたか、敢えて礼儀に則った前口上を用意することで神経を逆なでしようとしているのか。恐らくは後者だろう。
<> 第28話 トオサカとエミヤ<>saga<>2013/01/06(日) 21:41:07.61 ID:8K+vHEZw0<> ―衛宮切嗣ならびに遠坂時臣は下記の条項を締結する―

1、両名は本日23時に冬木公園にて単独でくること。
2、その際、サーヴァントを含めた協力者及び第三者の同伴及び交信は認められない。
3、また明日午前2時になるまで冬木公園から半径1km以内の土地とそこにいる生命に対して、自身のサーヴァントと協力者とそのサーヴァントの干渉を禁ずる。
4、両名或いは片方に予期せぬ介入者があった場合、全ての条項を一時破棄する。
5、ただし4の場合、明日午前2時まで両名はお互いに危害を加えることを禁ずる。


―衛宮切嗣は下記の条項を締結する―

1、23時、遠坂時臣に間桐桜を返還する。
2、交換の完遂まで間桐桜に対して後遺症が残らぬ眠りの魔術を除いた干渉を禁ずる。
3、交換完了まで遠坂時臣へ危害を加える事を禁ずる。
4、契約の縛りは午前2時をもって全て破棄される。
5、交換完了後、遠坂時臣が死亡した場合は契約の縛りは全て破棄される。


―遠坂時臣は下記の条項を締結する―

1、23時、衛宮切嗣に小聖杯を返還する。
2、小聖杯を害する如何なる行動も禁ずる。これは永久のものである。
3、交換完了まで衛宮切嗣へ危害を加える事を禁ずる。
4、2を除く契約の縛りは午前2時をもって全て破棄される。
5、交換完了後、衛宮切嗣が死亡した場合は4を除く契約の縛りは全て破棄される。
<> 第28話 トオサカとエミヤ<>saga<>2013/01/06(日) 21:41:40.94 ID:8K+vHEZw0<> 「時臣。これは誘拐犯からの脅迫状というよりは――――」

 アーチャーが腕を組みながら問いかける。
 時臣は頷いた。アーチャーに問われるまでもなく、この契約書にある衛宮切嗣の心意を読み取っていた。

「古風にいうのなら、果たし状だな」

 既に自己強制証文には衛宮切嗣の名前がサインされている。契約書から発せられる魔力は紛れもなく本物であり、偽物ではないことを明白。
 後は時臣がサインするだけでこの契約は完了する。
 しかしこの契約書は降伏文書ではない。サインをしたところで時臣は敗北にはならない。
 サインすれば、時臣と衛宮切嗣はこの冬木の戦場にあって完全に一人となる。サーヴァントの助けを借りる事も、協力者の力を借りることもできない。
 そして、これはただの人質交換ではないのだ。
 お互いの条項にある第三項。交換完了までに相手に危害を加えることを禁ずるという文は、逆に言えば交換が完了すれば相手に危害を加えることができるようになるということだ。 
 更に協力者やサーヴァントの力を借り受けることができるようになるのは明日の午前2時から。
 しかもご丁寧に相手が交換完了後に死ねば自由というお墨付きまで加えてある。

『僕は一人でくる。お前も一人でこい。そこで決着をつけよう。まさか逃げはしないだろうな? 遠坂時臣』

 衛宮切嗣がそう挑発してくるのが聞こえるようだ。
 もはや間違いない。衛宮切嗣は自分を囮にして、遠坂時臣を誘き寄せ単身の力で時臣を抹殺する算段だ。

「いいだろう。この契約、受けよう」

 時臣は迷いなく決断した。
 元より否という選択肢などない。如何な相手からの挑戦であろうと真っ向から受け、それを完膚なきにまで叩きのめすのが遠坂時臣のやり方である。
 そうやって生きて来たし、そうできるように自身を律してきた。
 相手が魔術師殺しだろうと、否、だからこそ背を向ける訳にはいかない。
 なによりこの戦いには桜の命が懸かっているのだ。魔術師以上に一人の人間として逃げる事は出来なかった。 <> 第28話 トオサカとエミヤ<>saga<>2013/01/06(日) 21:42:21.85 ID:8K+vHEZw0<> 「いいのか? 相手は衛宮切嗣。魔術師にとってのジョーカー。君は魔術師として優れているが、だからこそ衛宮切嗣は君の天敵となる。しかも奴の指定した場所には奴自身がありったけの準備を施しているだろう。そこへ敢えて乗り込むのは魔術師としても戦術としても正しいとは言えんな。君は薄情だと思うかもしれんが、私はサーヴァントとしてこの誘いを無視するべきだと進言させて貰う」

 アーチャーの進言は的確だ。
 もし効率を優先するのなら、衛宮切嗣の要求を無視し聖杯戦争を続行すればいい。
 小聖杯を手に入れ、多くのサーヴァントの情報が集いつつある今、最も優位にあるのは遠坂時臣だ。
 聖杯戦争での勝利を至上とするのなら、わざわざ虎穴に入る必要はないのである。
 魔術師としてみるのなら、間桐桜を見捨てるのが最善だ。
 実子とはいえ桜は間桐の後継者。遠坂にとっては部外者でしかないのだから。

「アーチャー、それでもだ。私は私としてこの戦いに赴かねばならない」

「間桐桜が君の娘だからかね」

「いいや。桜は間桐の子だ。血の繋がりがあろうと、私はもう桜の父親ではない」

「ならば何故」

「今は父親ではないが、過去に父親としてやるべき事をしていなかった。ならばこそ未だに僅かながらであるが私は桜の父親であり、桜は私の娘であるのだろう。ならば私は父親として桜の所に行かねばならない。それだけだよ」

「死ぬかもしれんぞ?」

「その時はその時だ。聖杯に手が届かぬまま死ぬのは無念だが、私の後は凛が継いでくれる。大したことではないよ。なにも私が『根源』に到達する必要はない。私の死が礎となり我が末裔が『根源』へと到達するのであればそれで良いのだからね」

「……そこまでの覚悟なら私も頷くしかあるまい。だが……ああ、そうだな。君の在り方は俺にとって眩しいものだ」

 そうしてアーチャーは目を閉じる。
 彼が何を思っているのか時臣には読み取ることができない。ただなんとなくエールを送ってくれているような気がしたので、心中で感謝をする。

「――――――」

 遠坂時臣は凡才だ。歴代の遠坂にあって最も凡庸でありながら、誰よりも遠坂の家訓を実践してきた男。それが遠坂時臣である。
 だが才能こそないものの誰よりも『魔術師』であらんとする精神、自身を制するその意志力は歴代の遠坂にあって随一だろう。しかし遠坂時臣は冷徹にして完璧な魔術師であると同時に『人間』としての側面をもっていた。
 魔術師と人間としての道は相容れぬもの。魔道を選ぶなら人道を、人道を選ぶのなら魔道を捨てねばならない。その相容れぬ二つの道を同時に宿したのが遠坂時臣である。勿論、魔術師として『完璧』であらんとした時臣はただの人間としては不完全だ。人間としての己を捨て去った方が楽だったかもしれない。だが時臣は敢えて己に『人間』を残す決断をした。
 本来なら魔道と敵対するサイドの人間である言峰璃正が時臣と友誼を育むことができたのも、遠坂時臣が『人間』を残していたからだろう。
 だから時臣は妻である遠坂葵を優秀な後継者を生む胎盤として以上に、ただの一人の女性として想っていた。
 遠坂葵は時臣を愛したし、時臣も葵を愛した。そうやって愛を育み生まれたのが凛であり桜だ。
 凛という最高の後継者を得ておきながら、また新たな子を為そうとしたのは時臣が葵を人間として愛していたからでもあるし、葵に魔術師ではなくただの母親としての幸せを与えてやりたいという精一杯の想いの現れでもあった。
 けれど時臣にとって誤算があったとすれば新たに生まれた桜が凛に匹敵するほどの才覚をもって生まれてしまったことに尽きるだろう。

(……そうだ。凛と桜は才能が有り過ぎる。優れた才能は呪いと同じだ。否応なくその者をその道に引きずり込む。魔道に引きずり込まれるしかないのであれば、せめて魔術師として最大の幸福を。そう思ったからこそ私は凛を後継者として桜を間桐へと養子に出したのだ)

 養子にやり姓が変り娘でなくなったとはいえ、桜が時臣と葵との間に出来た子であるという事実は不変だ。
 そんな桜が衛宮切嗣という外道の手に堕ちた。その不届き者は不遜にも遠坂時臣に一騎打ちを挑んできている。

「綺礼へと連絡をせねばならんな。私が死んだ時のことを頼んでおかなければ」

「マスター。死を覚悟して戦場へ赴くのはいい。だが死を覚悟するのと生を諦めるのとは似ているようで異なる」

「おや? 心配してくれているのかな?」

「忠実なるサーヴァントの精一杯の忠言とでも思ってくれ。心配せずとも君は勝つさ。"衛宮"では"遠坂"には勝てない。"遠坂"は真っ向からでは勝てず奇策奇襲姦策を良しとし搦め手を用い上位者と肉薄してきた"衛宮"とは違う。競争相手がいるならば周回遅れにし、刃向かう輩は反抗心をつぶすまで痛めつける。当然のように戦い当然のように勝利する。それこそが"遠坂"だろう?」

「君に我が家の家訓の一つ一つを説明した覚えはないのだが鋭いじゃないか。その通りだ。衛宮切嗣が万の策謀を張り巡らせようと、私は私自身の研鑽を武器に真っ向から打ち砕こう」

 卑怯卑劣、それがどうした。嫌ならばそんなものを纏めて吹き飛ばしてしまえばいいだけだ。
 時臣が切り札として用意していた宝石を全て持つ。そして――――アゾット剣をとった。
 儀礼用のものだが魔力を込めれば武器としても扱えるだろう。
 準備は万全だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/06(日) 21:43:11.82 ID:8K+vHEZw0<>  今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 21:49:26.24 ID:BoemSBo90<> 乙でした、所で何で時臣が聖杯の器持ってること切嗣が事知ってたんでしょうか、言峰がそれと無く教えたんでしょうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 22:56:46.93 ID:NYbPqDZk0<> >>538
アサ次郎がアイリ持ってったからじゃない?

凜なら今回の話は勝利フラグだけどトッキーだとすさまじいレベルの死亡フラグだなおい… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 20:05:00.24 ID:Gw9ZaH0K0<> やべぇトッキーが異様にかっこよく見えるww

そういえば今更だけど、この作品でのサーヴァントのパラメーターってどうなってるんだ?
セイバーとランサーはともかく、アーチャーとライダーがやばそうなんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 20:29:07.03 ID:MYS5lSs0o<> 動画版のおまけで見れるよ。

時臣には聖杯始動まで生き延びてほしいんだが、
アーチャーがいないと生き残れる気がしない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 16:09:50.59 ID:tEr+lPOd0<> >>529
たしかイレギュラークラスでドラゴンライダーだっけ?
空中戦したってことはドラゴンでも召喚して戦ったんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 22:36:53.65 ID:7k8dC7WEo<> >>541
動画のおまけって何話? <> アンドリュー・スプーン <>saga<>2013/01/09(水) 21:46:50.16 ID:I3u8ZVpj0<> >>538
 単純にアイリの体に発信機がついていて、それが時臣の家にあったからです。

>>540
 動画版の第13話にセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシンのステータスが。
 第28話にギルっちのステータスが、第29話にバーサーカーのステータスがあります。

>>541
 アーチャーが鍵になるかも。

>>542
 ドラゴン乗ったライダーと海面上で戦い、最終的にエクスカリバーで停泊していた船ごと吹っ飛ばしたというような感じだったんでしょうね。

>>543
 >>540のコメ返しの通りですが、要望があればこちらにもステータスを記載します。 <> 第29話 表の対峙、裏の理由<>saga<>2013/01/09(水) 22:06:20.99 ID:I3u8ZVpj0<>  召喚された時は本当に何が何だか分からなかった。
 英霊は聖杯を求めるからこそ、サーヴァント召喚に応じる……というのは正しくない。他の霊格ある英霊はどうだか知らないが、彼にとって召喚とは常に強制的なものであり、相手側がこちらの意志を確認してきたことは一度としてない。
 だから彼が彼の祈願を成就する可能性……を一手外したと知ったのは己が召喚者の名を聞いたその時だ。
 遠坂時臣。記憶をすり減らし摩耗した彼にとって『時臣』の名は訊き覚えのないものだったが『遠坂』という姓を聞いた瞬間に雷光の如き速度で己が『目的』を思い出したのである。
 しかしそこで彼は途方にくれてしまった。
 彼にとっての本命は十年後の第五次である。第四次では意味がないのだ。ここにいる者は己であって己ではないもの。英霊となった彼は未だ『誕生』していないのだ。
 ならば適当にマスターに忠実なサーヴァントとして道具のように戦うか、と当初は思いもした。
 だが戦っている内に欲が出た。
 もしかしたら衛宮切嗣に当てられたのかもしれないし、言峰綺礼という男の毒気があの光景を思い出させたかもしれない。

 そう。無銘の英霊は死の中から生まれた。
 摩耗し守護者となった今でも思い出せる己が誕生の日。数えきれぬ救済を望む声とそれに耳を塞ぎ自分のみを守ろうとした己。
 地獄の中、自分だけが生き残った。
 そして唯一人生き残った自分は唯一人の生存者を見つける事の出来た男に見つけられ、呪いを受けたのだ。
 無銘の英霊となった彼が鮮明に思い出せる光景が二つある。
 その一つが月下の下で出会った彼女であり、もう一つが地獄から自分を救い上げた男の死にそうで幸せそうな笑顔だ。

「……今の俺には目的を果たすことはできない。ならば、せめて」

 無銘にあるのは下らない子供じみた八つ当たりだ。
 自分に呪いを残した男を絶望させたい。子供じみた理想をもった男に現実を見させてやりたい。貴様の理想などが存在しないのだと教えてやる。教えて絶望させその精神を叩き折ってやりたい。そんなところだ。
 別に地獄の再現を防いで犠牲を減らしたい、なんて正義の味方染みた願いはもっていない。
 心中に宿るのは薄汚い身勝手な願望である。
 それでもいい。
 遠坂時臣、自身のマスターを聖杯戦争の勝利者にするということは衛宮切嗣を倒すということに等しい。ならば時臣とアーチャーの目的は一致している。
 アーチャーにとっての願いは遠坂時臣を聖杯戦争の勝利者とし、衛宮切嗣の理想を打ち砕くことなのだ。

 だから――――

「言峰、綺礼」

 記憶を取り戻すと同時にこの男の名も思い出していた。生前の自分にとっての最初の壁であり、自分と対極の行動原理をもった同類。
 勿論、摩耗しきった彼は言峰綺礼が具体的にどういう人物だったのかは覚えていない。
 ただ油断ならぬ相手ということは否応なく覚えている。否、覚えていなくとも感覚で分かる。あれは良くないものだ。生理的な嫌悪感といってもいい。
 もしも奴を生かしておけば必ずや遠坂時臣にとっての障害となるだろう。
 皮肉なことだが遠坂時臣にとって真の敵なのはケイネス・エルメロイでも間桐雁夜でも、ましてや衛宮切嗣ですらない。言峰綺礼、己が協力者なのだ。
 そして今日。

「…………」

 遠坂時臣は衛宮切嗣との戦いに赴き、完全に言峰綺礼は自由となっている。
 今までは言峰綺礼は遠坂邸にあり遠坂時臣も邸宅にいた為に監視は完璧といって良かった。しかし先日のアサシンのことといい、もはや一刻の猶予もない。
 アーチャーのとるべき選択は一つだった。 <> 第29話 表の対峙、裏の理由<>saga<>2013/01/09(水) 22:06:47.10 ID:I3u8ZVpj0<>  午後11時。
 人払いの魔術の影響で辺りには人っ子一人としていない。野良猫や羽虫さえこれから始まる不穏な雰囲気を悟ったのか姿を隠してしまっている。
 果たしてそこに衛宮切嗣はいた。隣には眠らされた桜が横たわっている。規則正しい呼吸音からして生きているのは確実だ。害を与えていないのも本当だろう。
 時臣に言葉はない。時臣は切嗣と話をしにきたのではないのだから。
 衛宮切嗣という人格には無関心であり、ただ衛宮切嗣の強さのみに関心を払う。

「止まれ」

 切嗣の鋭い声が無人の公園に木霊する。
 時臣は無言のまま足を停止した。
 濁ってもないし澄んでもいない、虚無的な目を切嗣はしていた。まるで立って動いているだけの死人のようですらある。

「……念のための確認だ。約定通り小聖杯は?」

「ここにある」

 アイリスフィールより摘出した黄金の杯を切嗣に見せる。
 これは真実ただの確認だ。ギアスの縛りがある以上、偽物の聖杯を用意し持ってくるなど出来はしないのだから。
 それは衛宮切嗣も同じ。技術的問題を無視しても桜の偽物を用意するなどは出来ない。

「アイリスフィール・フォン・アインツベルンの遺体は個人的な伝手を使い城へ送ってきた。遠坂がアインツベルンの埋葬をするのも妙な話なのでね。そちらで埋葬してくれたまえ」

「交換を行う。小聖杯を自分の足元へ置け」

 言う通りに小聖杯を置く。そして切嗣と時臣は同時に歩き出す。
 切嗣は小聖杯へ。時臣は桜へ。二人が擦れ違う。それが二人の決定的な違いであり差だったのかもしれない。
 魔術師でありながら人間の心が混在した時臣と。魔術師ではない魔術使いでありながら人間の心を排除した切嗣。
 時臣が桜に触れる。切嗣が小聖杯に触れる。
 瞬間だった。夜の静寂を撃ち抜く銃声が響き渡った。

「――――感謝するよ、衛宮切嗣」

 仕掛けられたトラップによるものだろう。
 エクスプローダー弾をあっさりと炎で焼き尽くした時臣は衛宮切嗣へと向き直り言う。

「手口こそ卑怯で卑劣だがこれは人質交換だ。紳士協定に従うならお互いの拠点に戻るまでは不干渉を貫くべきだ。私は元々この場で貴様を殺すつもりだったが、貴様が紳士協定に従っていれば一抹の躊躇を残しただろう。だがお前が先に私に手を出した――――紳士協定を破ってくれたお蔭で私の中に躊躇は微塵も残さずに焼き尽くされたぞ」

 先端にルビーの埋め込まれた杖を真っ直ぐに衛宮切嗣へと向ける。

「もはやこの遠坂時臣、貴様を殺すのに迷いはない――――!!」 <> 第29話 表の対峙、裏の理由<>saga<>2013/01/09(水) 22:07:19.37 ID:I3u8ZVpj0<>  遠坂時臣が衛宮切嗣と戦闘に入った直後。言峰綺礼もまたアサシンを伴い教会を出る準備をしていた。
 言峰は師である時臣より魔術を学んだが『魔術礼装』なんてものは持っていない。満足に会得した魔術も治癒系統が殆どで戦闘に耐えうるだけのものは皆無に等しい。
 故に言峰綺礼の武器は父より教えられた八極拳を実戦の中でより殺人に先鋭化させたものと、代行者時代から愛用している黒鍵。あとは己が肉体のみだ。
 だが侮るなかれ。無駄な筋肉を削ぎ落とし、作法や礼儀よりも人体の破壊に特化させた八極拳を扱い、扱いの難しいとされる黒鍵を自在に扱う言峰綺礼は殺戮兵器そのものである。
 腕に刻まれた予備令呪のバックアップ、それに信仰と執着とに裏付けされた『執念』をもってすれば埋葬機関の第七位にも迫ることができよう。
 しかも代行者は霊体相手のプロフェッショナル。今の言峰なら下級のサーヴァントはサーヴァントの助けなしで撃破できるかもしれない。

「お前の師、時臣の要請でお前は教会にて待機ではなかったのか?」

 アサシンがそう言ってくる。
 言峰はその追求にも動じないまま歪んだ笑みを張りつかせていた。

「さて。確かに私は遠坂時臣の弟子だった。だが私は令呪を得たその日に師と決別し共に聖杯を求め相争う関係となった。……そうなのだろう? ならば私が遠坂時臣の意向に沿う義務はあるまい」

「……………」

 それは表向きの事情だ。否、表向きの事情だった。
 言峰綺礼にはもはや遠坂時臣を勝利者とするなどという望みはない。あるのは誕生する者を祝福するという己の性と、答えを知りたいという欲求のみ。
 だからこそ予備令呪のことも時臣には話していないし、こうして敵対者である遠坂時臣を始末するために動くのだ。
 裏の裏は表……正に言えて妙なことである。
 今の言峰にとって裏の事情こそが表であり、表向きの事情こそが裏なのだ。

(衛宮切嗣と時臣師か。その戦い、見物したくないと言えば嘘になるな。だが今は衛宮切嗣はいい)

 答えを知る。価値のないものが存在する価値を知る。言峰綺礼はその為だけにある。その為だけに生きてきた。他の生き方など知らないし、するつもりもない。
 そして求めてやまない"答え"を知るであろう者こそが衛宮切嗣だ。自分と同じ"無価値"な男がアインツベルンで見出した"価値"。それを知らなければならない。
 だが答えを問うには邪魔者がいる。言うまでもなく他の参加者だ。
 バーサーカーとキャスターは脱落したが、まだ己と切嗣を除けば未だ三人のマスターとサーヴァントが冬木にいる。
 間桐雁夜のように言峰綺礼を満たす"欲の形"を持つ者がいるならば別だが、あれほどの逸材はケイネス・エルメロイやウェイバー・ベルベットのような価値ある者にはなかろう。
 故に彼等を排除するのに躊躇は必要はない。師である時臣も例外ではなく、寧ろ時臣は三人のうち最初の一人とするつもりだ。
 時臣のサーヴァント・アーチャーが自分を警戒しているというのもある。
 衛宮切嗣が三人のうちの一人目の標的として選んだからでもある。
 しかしそんな戦術的目的以上に、言峰綺礼は己が娯楽のために遠坂時臣をこの手で殺めたいのだ。 <> 第29話 表の対峙、裏の理由<>saga<>2013/01/09(水) 22:08:08.56 ID:I3u8ZVpj0<> (後悔先断たず。後の祭り……だったか。世にあって『後悔』ほど歯痒く惜しいものはあるまい。どれほど過去を想っても過去へ戻ることはできんのだからな)

 聖杯という万能の願望器という例外中の例外を除けば、だが。
 もし過去の改竄という"祈りの形"を持つ者がいるのであれば聖杯をくれてやっても良いかもしれない。

(しかし『後悔』は決して無駄なことではない。人間は『後悔』することで『教訓』を得ることができる。教訓を糧に次こそは、と願うことができるのだからな)

 霞みがかった妻の面影と死んだばかりの父を想う。

(数年前、私はあの女を殺す事ができなかった。そして私を愛し私が敬った父も殺す事ができなかった。もしもあの女をこの手でその顔を苦痛に歪めさせ殺していれば……父上に我が歪みを見せつけ殺していたら……二人は私にどんな表情を見せてくれただろうか)

 後悔はある。だからこそ、今度こそはと願うのだ。

(遠坂時臣は是非にも私が殺したい。願わくば衛宮切嗣、遠坂時臣を殺してくれるな。遠坂時臣、殺されてくれるな。私の愉しみが減ってしまう)

 目的こそ歪んでいるが、どこまでも純粋に言峰は遠坂時臣の生存を祈った。
 無心の祈り。傍から見れば「なんと敬虔なる神父なのだろうか」と溜息をもらすほどの光景。
 されどその願いは邪悪に染まっている。

「言峰、来客だ」

 アサシンが言峰を抱え跳躍する。
 人間を超えた反射神経を超えた反応速度。それがアサシンと言峰の命を救った。
 歴史に名高き宝剣、魔剣、聖剣。無銘でありながらも相当の神秘をもった名剣。それらが豪雨の如くアサシンと言峰の居た場所に降り注いだのである。
 英霊がもつ宝具は基本的に一つ。どれほど多い英霊でも二つ三つが精々だ。ギリシャの英雄として有名なペルセウスすら所有する宝具は五個なのである。
 そんな宝具を雨あられと降らせることができるサーヴァントなど言峰が知る限り一人しかいない。

「これはこれは。何用かなアーチャー。我々は協力関係にあったはずなのだが?」

 緊迫感を宿さず白々しく言峰が嘯く。
 教会の屋根の上から剣の雨を降らせた赤い外套の騎士は常日頃の皮肉さはどこへやら。真剣そのものの表情で言峰を鋭く睨んでいる。
<> 第29話 表の対峙、裏の理由<>saga<>2013/01/09(水) 22:08:35.86 ID:I3u8ZVpj0<> 「衛宮切嗣の提示した契約は完璧だ。時臣のサーヴァントである私も契約期間が終わるまでは一切マスターの援護をすることはできない。だが何事にも例外がある。時臣の戦いの手伝いはできないが……獅子身中の虫を取り除くことはできる」

「時臣師が命じた事とは思えないな。我が師は愚かにもこの私の事を信頼しきっていた。となればこれはお前の独断か。健気なことだな。望みはないと言っておきながら、そこまで我が師に入れ込むとは」

「貴様こそ勘違いをしている。確かに私には聖杯にかけるような願いは何一つとしてない。だが俺は望みがないといった覚えはない。俺の望みのために時臣を殺す訳にはいかん」

「ほう。それなら遠坂時臣が聖杯戦争を制し六騎が脱落した後、令呪をもって貴様を自害させるつもりでも構わんと? 聖杯は万能機として使う分には六体のサーヴァントを生贄とするだけで事足りる。だが『根源』へと到達するには――――」

「七騎全てのサーヴァントが必要、か」

「おや。知っていたのかね?」

「いいや。貴様の発言から推測したまでに過ぎん。なるほど聖杯を餌に呼び出して置いて最後には自害させる、か。とんだ詐欺があったものだ。だが、それがどうした。生憎とこの手のことには慣れていてね。それにさっきも言っただろう。俺の望みは聖杯にはないと。無論、第二の生とやらにも興味はない。俺の望みはサーヴァントとして時臣を勝利者とすることで果たされる願いだ」

「……これは、つくづく」

 面白い。本当に面白い。
 この弓兵は表面上はマスターに忠実を装っておきながら、内には誰にも隠した願いを秘めている。
 その在り方は真っ当なようでいて歪。無銘と名乗った赤い弓兵、このサーヴァントが一体どのような者なのか興味が湧いてきた。
 或いはこの弓兵に聖杯を使わせるのも面白いかもしれない。

「が、すまんが今は貴様の相手をしている時間はない。押し通らせて貰うぞ」

「なっ。その腕にある令呪は――――!」

 さしものアーチャーも驚愕する。言峰の腕から赤い光を放ち浮かび上がったのは数えられない程の令呪だ。
 父から継承したこの令呪、その数は六つ九つどころではない。
 歴代マスターたちが未使用のまま残した遺産。言峰璃正の腕にあったはずの予備令呪だ。

「アサシンよ、二つの令呪をもって命じる。アーチャーを足止めしろ。決してこの教会の敷地内から出すな」

「――――了解した、綺礼」

 言峰は正道の魔術師ではないため、他のマスターと比べて令呪による強制権もやや弱い。
 だが二つの令呪の重ね掛け。しかも単一の命令によってならば効果は絶大だ。今のアサシンはアーチャーを足止めするという目的においてワンランク相当のステータス増加の恩恵を得られるだろう。
 けれど永久ではない。言峰の予想では令呪の効果が続くのはどれほどアサシンが頑張ろうと一時間が限度。それ以降はどうなるか分からない。
 アサシンの剣術は聖杯戦争随一だが、戦術眼にかけては実戦経験が皆無のアサシンは戦上手のアーチャーに遥かに劣る。
 
「さらばだ。アーチャー、また会えることを心待ちにしていよう」

 そしてその時はお前の心も切開させてくれ、と祈り言峰は背を向け疾走する。

「逃がさん!」

 アーチャーはそれを追おうとするがアサシンが割って入った。

「邪魔するか――――アサシン!」

「気に食わんがな。アーチャー、お前のお前の望みがある通り私にも私の望みがある。その為にはあの男にはまだ生きていて貰わねば困るのでな」

 それにアサシンには遠坂時臣に対してなんの義理もない。ましてやアサシンは英霊ですらない亡霊。英雄としての誇りもなく、守るべき名も存在しない。
 故にアサシンは己にある唯一つの目的のためならば戦う事を惜しみはしない。
 アーチャーとアサシンが激突する。
 だがその間に言峰は令呪を魔力源に己が身体能力をブーストすると全速力で教会の外へと走っていく。
 ここに完全に遠坂時臣と言峰綺礼は決裂する。遠坂時臣が与り知らぬままに。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/09(水) 22:09:38.46 ID:I3u8ZVpj0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/09(水) 22:15:31.86 ID:D/WEfk7A0<> 各々の考えが人間臭くて面白かったです

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/09(水) 23:17:39.84 ID:Nm2Qv4670<> 流石エミヤさん、言峰の危険性を良く理解していらしゃる果たして時臣は助かるのかまあフラグ立ってるし無理かな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/10(木) 00:05:46.86 ID:CRYvqoako<> 乙
八つ当たりの対象が士郎以外に向かうというのには凄い違和感がある。
奇跡のような確率で自分抹殺の機会を得たのに即座に[ピーーー]わけじゃないし、
状況によっては他を優先させちゃうようなやつだろ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/10(木) 07:20:03.35 ID:WUg8y2Pp0<> 聖杯被害をとめられる人やサーヴァントが生き残れば、
魔術師士郎正義の味方士郎が誕生することもないし、
失敗した切嗣以外の有能なのに勝ち残ってほしいだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/11(金) 02:15:00.52 ID:iKIU89bB0<> 根源に行くことだけが目的だからどれだけ聖杯が濁ってようがあまり関係はないだろうからな
ある意味Zeroのメンツでは時臣の願いが一番安全とも言える <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/11(金) 07:08:04.53 ID:yIwT3m35o<> 大聖杯に備わった機能として根源への門を開くのであって、聖杯に願うのと違うんじゃないの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 08:09:55.78 ID:AcsV9KlAO<> ファンブックによるとまだ死んでないセイバーが参戦してる時点で、根源到達は無理らしいけどな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 17:48:28.75 ID:ORNct4Y90<> ギルは3人分の容量があるからその分補えないかな
それとも"7人"っていう数が重要なんだろうか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 19:01:12.90 ID:AcsV9KlAO<> ギルがたまたま三体分だったからOKだったけど
ギルが参戦していなければ容量不足で無理って話だな
つまり、このssだと…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 19:09:40.36 ID:OhUAOkNFo<> ヘラクレスなら二騎分くらいは行けそうな気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/12(土) 22:07:56.67 ID:Wf+Ccxiz0<> >>551
 アーチャーは心の中でもツンデレしてますけどね。

>>553
 アーチャーは心の中でまでツンデレして八つ当たりだとか言ってますが、本当は切嗣を助けたいだけです。

>>554
 聖杯の大災害を防ぎたい、という願いとは少し違います。
 より正しくは切嗣を真っ当な人間に戻したがってるんですアーチャーは。

>>555
 願いの貴賤はさておき、一般人にとっては時臣が勝者になってくれるのが一番いいんでしょう。たぶん。

>>556
 願望器としての聖杯はそういう風にも使えるというだけで、根源へ到達するのが聖杯本来の使用法ですね。

>>558
 HFルートでも四体+ギルで大聖杯が起動するあたりギルは英霊三体分というのは信憑性が高いですね。

>>559
 ギルっちが不在な時点で時臣が『』へ到達することは不可能です。ただ勝者となることは可能です。 <> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:09:10.33 ID:Wf+Ccxiz0<>  遠坂時臣と衛宮切嗣。二人の戦いは合図もなく始まった。
 鼓膜を叩く銃声が鳴り雹のように切嗣のサブマシンガンから弾丸がばら撒かれる。
 サブマシンガンの掃射。魔術でいうならガント撃ちにも似ているだろうか。だがガントの魔術は所詮はただの呪い。物質的破壊力はなきに等しい。ガントに物的破壊力を持たせられるのは余程優れた魔術回路をもつ――――凛のような人間くらいだ。凡才である遠坂時臣にガントは使えても、一工程ではとてもそんな真似はできない。
 だが衛宮切嗣にとって物的破壊力をもつガントと同じ破壊力を再現するなど実に容易い。
 魔術を生きるものとしては認めたくないことかもしれないが、こうして近代兵器を使うだけで人間はあっさりと魔術を追い抜くことができる。

「――――――Anfang(セット)」

 魔術を尊重し、科学を蔑視する一方で時臣は科学に対して一切の油断もしてはいなかった。
 科学とは未来へと疾走し、魔術は過去へと疾走する。魔道の根源が原初の過去ならば、未来の根源とは最果ての未来に他ならない。
 魔道も科学も行きつくところは同じ。
 そして発達した科学は多くの『魔法』を『魔術』に堕としてみせた。もはや現代に――――魔術協会が認知しているものでは――――『魔法』は五つしか残っていない。そして『魔法』を扱う『魔法使い』も数人だけだ。
 遠坂時臣ではとてもではないが『魔法』に手が届くどころか指を霞めもしない。時臣が二十年魔力を込め続けた宝石だろうと、大量生産されたミサイル一つ分の破壊力もないのだ。
 真実科学では実現不可能な奇跡の担い手――――魔法使いは時臣が名を知る限りでは大師父の宝石翁と「ミス・ブルー」「人間ミサイルランチャー」などと渾名される蒼崎青子くらいである。
 
「Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

 故に時臣は慢心しない。こちらが魔術を使い、衛宮切嗣が近代兵器を扱おうと、どちらも魔術級の力を扱うという意味ならば立ち位置は同じなのだから。
 高速で飛ぶ弾丸とはいえ所詮は鉛の塊。時臣の操る高火力の炎ならば容易く焼き尽くすことができる。

「Verbrennung(燃えろ)!」

 弾丸の悉くを焼き尽くすと、蛇のように動く炎が次に衛宮切嗣へと向かう。

「Time alter(固有時制御) triple accel(三倍速)!」

 しかし衛宮切嗣が慣れ親しんだ詠唱を唱えると、切嗣は人間離れした速度で炎の蛇を回避してしまった。
 そしてお返しとばかりのマシンガンの掃射。時臣は迎撃の為に炎蛇を消し炎の壁で己を守る。

(身体能力の『強化』か、いや……そうではない)

 英語の詠唱。Time alterは時間を変える。それに三……加速。
 衛宮切嗣の速度と詠唱から推測するに衛宮切嗣は己の体内時間を加速させたとみるべきだろう。

(なんて男だ。時間操作……大規模な術式を必要とするために戦闘には不向きな魔術をあそこまで戦闘用に仕上げるとは)

 三倍の速度で動き三倍の動きで戦う殺しのプロフェッショナル。恐ろしい組み合わせだ。もし普通の殺し屋が五十mの距離を六秒で走破するとしたら、衛宮切嗣は僅か二秒で五十mを走破する。
 だが衛宮切嗣の武器は体内時間の加速だけではない。

「Starting
(起動)」

 ボツリと誰にも聞こえないよう囁かれた一言。
 それがトリガーだったのか。公園のあちこちから弾丸や手榴弾が飛び出し遠坂時臣に殺到した。
 衛宮切嗣はサブマシンガンを投げ捨て、かわりにアンティークな銃を――――トンプソン・コンテンダーを取り出した。
 今まさに自分に襲い掛かる猛威が魔術的な仕掛けか科学的な仕掛けは……どうでも良い。
 問題は四方八方からそれらが殺到しているということだ。
 人間の視界はどうあったって360°を見渡せはしない。どれだけ視界が広い者でも精々180°が限界である。
 時臣の目ではどうあったって自らに迫りくる脅威を全て見る事は叶わない。
 ならば全身を炎の壁で覆えば、とも考えるがそれも無理だろう。炎は弾丸を焼くつくすことはできても、手榴弾の爆風までは避けられないし、衛宮切嗣がそのことを予想していないはずがないのだ。
 まさか衛宮切嗣が遠坂時臣のことを知らずに戦いを挑む、なんてことはないだろう。
 素人ならいざ知れず切嗣は戦いのプロ。情報の大切さなど身に染みて理解しているはずだ。その切嗣が時計塔などから遠坂時臣の得意とする魔術などを調べないはずがない。つまり切嗣は弾丸という鉛玉では炎を操る時臣には不利と知っておきながら、この弾丸と手榴弾を360°から殺到させているのだ。
<> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:09:42.16 ID:Wf+Ccxiz0<> (奴は徹底的な合理主義者。奴のとる行動には無駄がない。必ず意味がある。それを探るのだ)

 切嗣は最初にマシンガンを掃射した。時臣には通用しないと知った上でのつまらぬ射撃。
 それに意味があるとしたら?
 遠坂時臣には弾丸を焼き尽くせても手榴弾による爆風は焼き尽くせない。炎では守りきれないのだ。
 しかし手榴弾が投擲された速度は弾速と比べるまでもない。よって弾丸が先に遠坂時臣を襲い、一拍遅れて手榴弾が時臣を襲うことになる。
 普通に考えれば弾丸を時臣が防いでいるうちに、本命の手榴弾で時臣を殺すための二段構えと思う。だが衛宮切嗣がそんなチャチな指し手(プレイヤー)であるはずがない。
 推測だが本命であろう手榴弾こそが囮。本命は弾丸なのだ。
 炎では爆風を防げない。確かにそうだ。だが炎では防げないが魔術で防げないかといえばそうではない。切嗣の狙いとは時臣に手榴弾は兎も角、弾丸は恐れるに足らないものと思い込ませることにある。
 
(となれば奴は弾丸に雁夜と同じ炎対策の魔術でも刻み込んでいるとみた! それで私を蜂の巣にする算段なのだろう。しかし)

 目を閉じる。視力では決して360°から迫りくる猛威を視認することはできない。
 それならば目など使う必要はない。時臣には己に体以上に自在に操れる魔道がある。道を究めし剣士にとって剣が己の体と同じように、遠坂時臣にとって魔術は己が一部も同然。
 炎による熱源探査。それが時臣を中心とした360°の猛威の位置情報を正確に教えてくれる。

「Acht(八番)……! Ein KOrper ist ein KOrper(塵は塵に、灰は灰に―――!」

 この聖杯戦争のため準備してきた十数個の宝石。そのうち炎と親和性の高いルビーを使う。
 宝石魔術における宝石はケイネスの水銀のような単一能力しかもたぬ限定礼装とは違い、術者の力を増幅させる力をもった補助礼装。
 ルビーに込められた魔力が時臣の地力に上乗せされ、

「Es brennt ab. (焼き払え)
Flamme
schwert(炎の剣)――――!

 物的破壊力すら備えた炎剣が時臣の右手に顕現し、それをぐるりと一閃し手榴弾と弾丸の悉くを消滅させた。
 正に切り札をきった必殺の一撃。ランクAのそれは急所に当たればサーヴァントの命すら刈り取るだろう。弾丸や手榴弾如き対抗できようはずもない。
 だがこれは宝石を用いての一時的ブーストである。時臣の魔力では炎剣をいつまでも顕現させていることはできず、徐々に炎はその火力を弱めていった。
 その時であった。切嗣が挑発するように言ったのは。 <> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:10:13.08 ID:Wf+Ccxiz0<> 「あの程度の罠じゃ無理か。それなら……タンクローリーだッ!」

「なッ!」

 馬鹿な、とはこのことだ。
 熱源を感知し頭上を見上げてみれば、そこに圧倒的質量をもった鉄の塊が隕石の如く落ちてこようとしていたのだから。
 言われずとも一目で分かる。固体・液体・気体を運搬するための特種用途自動車。その総重量は見た限りでは20t以上。
 それを衛宮切嗣は如何なる手法を使ったのか。宙に浮かべ、それを遠坂時臣の頭上に落としてきたのだ。
 弾丸なら容易く焼き尽くす炎も流石にタンクローリーを焼き尽くすなど到底不可能である。こんなものが落ちれば時臣の肉体など跡形もなく潰れて血の池を作ることになるだろう。

「空からタンクローリーだとッ! 正気か貴様は!!」

 奇想天外かつ奇天烈なる奇襲。しかし有効なのも確かだ。タンクローリーという巨大質量による圧殺は魔術師でも如何ともし難いものである。
 時臣の地力でもやはりこれほどの攻撃を防ぎきるのは無理だろう。
 だが時臣には宝石がある。数限られた数しかない宝石であるが、衛宮切嗣もそう湯水のごとくタンクローリーを降らせるなど出来ないはずだ。
  
「Es brennt ab. (焼き払え)
Flamme
schwert(炎の剣)――――!

 先程と同じ炎剣を再び顕現される。

「はぁ!」

 炎でありながら炎を逸脱した性能を誇るそれはタンクローリーという巨大質量を真っ二つに両断してみせた。
 だが時臣は失念していた。タンクローリーというのは固体・液体・気体を運搬するための自動車。
 切嗣が敵へミサイルとして放つそれの中身を空っぽにしているわけがない。時臣の炎がタンクローリーに詰まりに詰まった爆薬が炸裂した。

「まだだ――――――!」

 自分のミスは自分で取り返す。
 遠坂時臣の魔術特性は炎で、爆発の属性も炎。そして魔術師は自らの力だけでなく、外部の力を利用することに長けた者。それがなんであれ炎であるのならば操ってみせよう。
 宝石を消費しながら自らの魔力でタンクローリーの爆発を染め上げて、自分のものとしていく。

「はっ!」

 タンクローリーの大爆発。コンクリートブロックを粉微塵に破壊するほどの爆発の制御に時臣は成功する。
 爆発は遠坂時臣の立っていた周囲の地面を北欧の巨人が天の雷でも落としたかのように抉ってしまったが、遠坂時臣の立った地点だけは無傷だった。
 しかしそこで気付く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 22:10:24.69 ID:e5U/XH9AO<> プライミッツ・マーダーを御するのに必要なのが守護者7体でそれに準えてるんだっけ?
>サーヴァントの数 <> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:10:41.47 ID:Wf+Ccxiz0<> (衛宮切嗣がこれで終わるわけがない)

 宝石のブーストがあればタンクローリーによる一撃でも時臣を殺し切れない可能性など、切嗣は考慮できていたはずなのだ。
 それならばタンクローリーはより強力な一撃を加える為の布石。
 時臣は見た。切断したタンクローリーの向こう側。衛宮切嗣がトンプソン・コンテンダーの銃口を真っ直ぐに向けている。
 解析の魔術を使用したところ装弾数は1発、非常にシンプルな構造の銃だ。だがそれだけではなく魔術的改造も施されている。
 反射的に悟る。遠坂時臣にとって宝石が切り札のように、あの銃こそが衛宮切嗣にとって信頼するに足る切り札なのだと。
 タンクローリーを迎撃したせいで、時臣には僅かな隙ができている。それ以上にもし普通の者ならロードローラーという目に見える圧倒的脅威を排除できたことで安心してしまっていただろう。それは致命的な隙となりうる。

「しかしっ!」

 あの銃から放たれる弾丸は並大抵のものではないだろう。タンクローリーを布石にするようなものだ。 
 軽い気持ちで防げるものではない。これを防ぐなら遠坂時臣も全霊をもって一瞬へとかけるべきだ。

「起源弾」

 鋭い銃声と同時、銃口から一発の魔弾が弾けでる。
 時臣はトパーズの宝石を使い、

「Boden(大地よ) bedienung(我が意のままに).
Es ist ein Wall(それは城壁なりや)!」

 炎ではなく土。公園の地面が下から巨人の槌で叩かれたように隆起する。
 そこに更に宝石の魔力が補強した。魔術の詠唱通りそれは城壁そのもの。アーチャーのアイアスの盾とは比べるべくもないが、あのロード・エルメロイの水銀にも迫りうる防壁である。

「Schaltung abfangen」
 
 更に何事かの詠唱を呟いた瞬間、壁と魔弾とがぶつかる。
 拮抗は目にも留まらぬ一瞬。あろうことか弾丸は城壁を食い破るとそのまま遠坂時臣の左肩へと命中した。

「が、あ――――!」

 弾丸の威力に押されたのか、そのまま時臣は足を地から離して背中から落ちた。切嗣はそれを確認し今度は普通の銃を取り出す。
 切嗣にとってもこの結果は予想外である。遠坂時臣の魔術は見事にトンプソン・コンテンダーの弾丸を防いでくれるものと思っていた。
 トンプソン・コンテンダーは拳銃として携行できる銃では最大火力のものだ。個人装備ならグレードWクラスの防弾装備がなければ防げえぬ代物。故に魔術師はこの魔弾に対し強力な魔術で迎え撃つしかないのだ。それこそが切嗣の狙いとも知らずに。
 しかし遠坂時臣の魔術は意外にもコンテンダーを防ぐことはできなかった。時臣のミスなのか、それとも偶然なのかは分からない。だが相手が強力な魔術で迎撃すればするほどに威力を増す起源弾にとって、起源弾の威力が相手の魔術の防御を上回るというのは良くない結果だ。
 だが些細な問題である。時臣がこうして倒れた以上、あとは止めを加えるだけでいいのだから。
 意識なき魔術師など銃弾どころかナイフ一本……否、指一つでも絶命することができる。
 切嗣は銃口を時臣へ向け、 <> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:11:13.25 ID:Wf+Ccxiz0<> 「……ッ!」

 その瞬間、銃は炎により跡形もなく燃やされた。炎が銃の火薬に引火し爆発する。
 固有時制御で三倍の速度を得ていない切嗣であれば、或いは腕を無残なものにされていたかもしれない。
 けれどそれよりも衛宮切嗣はソレに対して鋭い視線を向けた。

「遠坂、時臣」

 時臣は左肩から血を流しながらも、優雅さを損ねないまま左手にもっていた杖を右手に持ちかえる。

「そんなに私が無事でいることが意外かね……魔術師殺し」

 言うと時臣は穴の開いた左肩に指を突っ込み、くちゅくちゅと動かすとそこから一発の弾丸を摘出した。無論、それこそ切嗣の魔術礼装たる起源弾である。

「ほう。これは骨……それも人骨だな。お前と似た魔力の波長もある。となればお前の骨か。どの部位かは知らないが、自身の骨を摘出し弾丸にしたというところか。詳しく調べぬことには分からぬが、どうやら接触した魔術の強さに応じて術者に威力を返す類の魔術礼装だな」

「…………」

 切嗣は表面こそ平静であれ内心では驚いていた。
 聖杯戦争参加以前より37発を消費し一発の無駄もなく確実に三十七人の魔術師の命を奪った起源弾。それを防がれたばかりか、その効果をも看過されたのは衛宮切嗣の人生で初めてのことである。

「クールを装っているが貴様の焦りが分かるぞ。実は私はチェスを嗜んでいてね。そしてチェスで大切なのは相手の立場となって相手の思考を読み取ることだ。衛宮切嗣……貴様は合理的な男だ。お前の行動には一切の余分も無駄もなく、目的を達成するためだけの機械そのものだ。なるほど。認めたくはないが貴様ほど魔術師らしい男もいなかろう」

「だが、だからこそ読み易い。私はお前の立場となって、最もお前にとって合理的な行動はなんなのか推測すれば良いのだからな。最も合理的な決断とお前の行動は常にイコールの関係にある。貴様の弱点だ衛宮切嗣」

「私は宝石により並大抵の弾丸なら容易く弾き返す防壁を用意した。だが防壁が誕生した瞬間、私は自らの魔術回路を全て閉じていた。貴様の魔術礼装が相手の魔術回路に流れる魔力によって決定するのであれば、魔術回路に流れていた魔力がゼロの私のダメージは皆無! 弾丸によるダメージはあるが……それだけだ」

 序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように。
 衛宮切嗣は最初から最後まで常に機械であり続けた。人情をもたず心を解さず、ただ効率のみを優先した戦術。だからこそ切嗣はこれまで多くの魔術師を狩り続ける事ができたのだろう。
 しかしそれが機械の限界でもある。
 機械は所詮ただの機械。時臣は本のように展開し、奇術師のように振る舞い、機械のように思考した。それが未だ超えられぬ機械と人間との間に横たわる壁である。

「――――貴様の手の内の底を見たぞ。もはや恐れるものは何もない」 <> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:12:22.78 ID:Wf+Ccxiz0<> 「貴様に言うことは一つだけだ。――――"覚悟"しろ」
 
 機械として完成した以降、常に魔術師に対してのジョーカー。対魔術師との戦いにおいて最強であり続けた孤高の魔術師殺し。
 特別な素養もない一人の魔術師が、果て無き研鑽の果てに天才と同じ頂きへと上り詰め、今また最強の魔術師殺し対して反撃の狼を告げる。

「Time alter(固有時制御) square accel(四倍速)ッ!」

 詠唱に偽りはなく衛宮切嗣の体内時間が四倍まで加速する。死徒でもないというのにアレだけ体内時間を加速させて身体の負荷は相当のものだろう。
 しかし速くなろうとも時臣の目は誤魔化せない。相手がアサシンと思って対処すればお釣りがくるというものだ。
 切嗣のばら撒く銃弾を最小限の魔力消費で炎で溶かし接近していく。
 
「Verbrennung(燃えろ)!」

 炎が衛宮切嗣の居る場所に着弾する。が、切嗣もさるもの。その速度を活かし炎の軌道を先読みするとあっさりと回避してしまう。
 それならば、と。時臣は杖に尋常ならざる魔力を注ぎ込み、

「Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung! Verbrennung!」

 ひたすら連打する。されど無規則かつ無計画のものではない。
 一撃一撃が衛宮切嗣の退路を絞り、逃げ場を塞いでいく。

「くっ……!」

 切嗣が素早く次弾を装填し起源弾を放つ。

「Öffnen Sie sich!」

 だが炎は起源弾を避けるように、その軌道上に穴を空けて避けてしまう。その軌道の延長線にいる時臣も真っ向から受けることはせず、自身の脚力を強化し回避する。
 簡単なようでいて炎による熱源感知と強化された動体視力と運動能力、更にタイミングの選定。その三つがあってこその神業だった。
 そして遂に――――。

「そこだッ!」

 衛宮切嗣の逃げ場を完全に塞ぐ。切嗣がトンプソン・コンテンダーに次弾を装填するよりも速く時臣の魔術回路が起動した。
 如何に切嗣が四倍速で動こうと、事前に時臣の側が準備していれば初動にかかる時間は0。切嗣の四倍を超えることができる。
 時臣は最後にとっておきの宝石を取り出すと。

「Funf,Drei,Vier……(五番、四番、三番)! Der Riese und brennt das ein Ende(終局、炎の剣、相乗)――――!」

 とっておきの宝石に相応しいとっておきの魔術で衛宮切嗣を吹っ飛ばした。
 それでも衛宮切嗣は健在。鋼鉄の精神を秘めた両眼は未だ健在。あれだけの宝石を使って倒せないのであれば、衛宮切嗣の度肝を抜かす攻撃をしてやらねばなるまい。
<> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:12:55.59 ID:Wf+Ccxiz0<> 「喜べ。趣味ではないが貴様に私のとっておきを見せてやろう――――!」

 最後に残った四つのうちの一つの宝石を使い尽す。 
 その利用法は居住区を焼き払う炎でも、鋼を貫く閃光でもない。ただの単純にしてシンプルな肉体のブースト。更に二つ目の宝石による爆裂な踏込により時臣はまるで瞬間移動したかのように切嗣との距離を詰めた。

「魔術師が接近戦――――!?」

 衛宮切嗣の魔術師殺しとしての生涯でも、自分と戦っている魔術師が最後の手段に肉弾戦闘を挑んでくることなどは埒外のことだったのだろう。顔が驚愕に染まった。

「だから私の趣味ではない。だが大師父の魔導書(グリモア)の中で、宝石による近接格闘礼装全種がある。遠坂の後継者として極めているのは至極同然」
 
 肉体のブーストは一時的なものだ。十数秒で効果は切れる。
 もしも効果が切れてしまえば時臣には四倍速で動く衛宮切嗣と互角に戦う事は出来ない。もしここで攻めきれなければ時臣は確実に敗北する。

「征くぞ! Würfel! Würfel! Würfel! Würfel! Würfel! Würfel! Würfel! Würfel!」

 ハリケーンが如き拳打。衛宮切嗣の鋼鉄の精神を力ずくで破壊し尽くす勢いで激しく両の腕を動かす時臣。

「余裕をもって優雅に……飛んで逝けッ! Stark――――解放」

 持ちこんだ宝石でも随一の魔力を込められた宝石。
 爆弾とすれば重戦車を跡形もなく消滅させ、閃光にすれば千里も先にまで届くであろう切り札が遠坂時臣の右手に宿る。

「覇ァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」

 叫びと共に繰り出されるは純粋にして単純な突き。されどシンプルであるからこそ最強の一撃。
 ミサイルでも落ちてきたのかと見間違わんばかりの破壊。遠坂時臣の放った一撃は衛宮切嗣の五臓六腑を破壊し尽くし、完全に心臓の鼓動を停止させた。
 切嗣の体が浮き、壁に叩きつけられる。そのまま重力に引っ張られ衛宮切嗣だったものが地面に転がった。
 心臓は止まり、胴体は抉られている。確実に死んでいた。
 固有時制御の速度で回避に全力を費やしたせいか、跡形もなく消滅することは免れているが、腹を抉られ心臓を破壊された人間が生きている道理はない。絶対的に衛宮切嗣は死んでいた。
<> 第30話 父の生き様<>saga<>2013/01/12(土) 22:16:59.38 ID:Wf+Ccxiz0<> 「……やれやれ。一人の敵を、倒すのに我ながら大盤振る舞いをしたものだ」

 時臣秘蔵の宝石はもはや1個しか残っていない。
 だが大盤振る舞いをした価値はあったと時臣は考えている。衛宮切嗣という最大の難敵を仕留めることができたのだから。
 それに消費した宝石の何億倍も価値あるものを時臣は取り戻したのだ。

「すまなかったな桜、遅れた」

 すやすやと激闘を子守歌にして眠る桜の頬を撫でる。一年ぶりになる我が子との触れ合いだった。
 ついでとばかりに時臣は魔術で地面に置かれていた黄金の杯を自分の手元に持ってくる。聖杯を取り敢えず傍に置くと、桜の容体を確認する。
 やはり後遺症になりそうな呪詛や傷の類は見当たらない。
 眠りの魔術で眠らされている以外は健康そのものだ。
 時臣はそっと胸をなでおろす。

――――それが致命的な隙となっていた。

「――――衛宮ッ! 貴様まだ生きて!」

 理屈は分からない。衛宮切嗣は完全に絶命した筈だった。
 しかしその切嗣がどんな『魔法』を用いたのか蘇生を果たし、今またトンプソン・コンテンダーの銃口を桜へと向けている。
 衛宮切嗣が桜に危害を加えられないのは交換完了後まで。小聖杯と桜の交換が完了した今、衛宮切嗣は桜に危害を加えることができる。
 時臣だけなら或いは躱せたかもしれない。残った1つの宝石で自分を強化すれば回避できたかもしれない。
 だがそれは桜の命を見捨てるというのと同じ意味だった。

「Einsatz(展開)! 
Die Mauer einer Flamme(炎の壁)!」

 人生最後となるやもしれない選択肢。
 最後の最期で時臣は己の命ではなく養子にだした我が子の命を選んだ。
 銃声が公園に木霊する。魔弾と炎とが激突する。そして―――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/12(土) 22:17:53.98 ID:Wf+Ccxiz0<> 今日はこれまでです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 22:19:39.58 ID:VFswmUDy0<> 時臣がカッコイイ原作の何万倍もかっこいいです、これこそ遠坂 凛の父です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 22:34:08.48 ID:ezjjkzZUo<> 投稿テンポも良くて、面白い。次が楽しみです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 22:45:42.37 ID:azhsIy+r0<> まさかのタンクローリーの笑撃を吹っ飛ばすほどの優雅さッ! なんという熱い時臣だ、優雅すぎる…! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/12(土) 23:18:46.17 ID:AUVNkkEPo<> やっぱりそうなったか……
アヴァロン使用の死んだふりと遠坂のうっかりは相性が悪すぎる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/13(日) 00:40:35.42 ID:Xj0YTG5B0<> 優雅に戦うトッキーカッコ良すぎ濡れた
顔芸死じゃなくて本当に良かった…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/13(日) 00:42:09.27 ID:FMr7LytZ0<> トッキー近接ダメだと思ってたがそういえば遠坂の開祖は格闘技で根源に達しようとする人だった

しかし相手が尋常の魔術師だったらなんとかなったのに トッキー…不憫な奴よ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/13(日) 12:59:19.07 ID:dwUaITTt0<> まあ、正直起源弾使われた時点で時臣が詰むと思ってたので、ここまで奮闘するとは思いませんでした <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/15(火) 21:26:02.98 ID:FnB4IDDt0<> >>572
 あかいまおうですね。

>>574
 Fate/Zeroで密かに用意してあったので先人の教えに従い投げました。

>>575
 アヴァロンさえなければ時臣の勝ちだったかも。

>>577
 だって凛の父ですし、どこかでも魔術と武術を習得した実践派の魔術師だとか言われてましたからね。 <> 第31話 下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり<>saga<>2013/01/15(火) 21:28:06.53 ID:FnB4IDDt0<>  意識が朦朧とする。頭がもう休ませてくれと懇願している。その願いに応えれば、どれほど楽だろう。
 体を駆け巡る沸騰したような熱さ。眠ることでこの熱から逃れられるならば今すぐ眠りたい。
 だが時臣にはここで眠ってはならない理由があった。
 ブランド物であることが一目で分かるスーツは今やあちこちが破け切れている。
 左肩には穴が空いている。
 口元からは血が溢れている。
 魔術回路も上手く起動してくれない。

「――――――無様だな、私も」

 余裕をもって優雅たれ。家の家訓を実践してきておきながら、事ここに至り無様を晒している。
 しかし誰が彼を無様と笑えよう。
 時臣の腕の中には一人の子供がいた。桜である。
 切嗣の放った起源弾。それを防いだものの重傷を負った時臣は最後の力で宝石を炸裂させて目晦ましにすると、桜を連れてその場から離脱したのだ。
 だが対魔術師に特化した兵装たる起源弾を受けてはさしもの時臣とて一溜まりもない。
 全力の魔術行使をしていた訳ではないため『起源弾』によるダメージは低かった。低かったが……ダメージ・ゼロというわけにはいかない。こうして限界の臨界直前で歩く余力はあれど、戦闘など到底不可能だ。
 しかしこれは誇ってもいいことだろう。
 今まで衛宮切嗣と相対した数えきれないほどの魔術師。
 一体どれほどの魔術師が切嗣と戦い生還することができたであろう。一体どれほどの魔術師が起源弾を受けて絶命しなかったであろう。
 答えは"ゼロ"だ。衛宮切嗣と相対したが最期、全ての魔術師達は等しく死という地獄に突き落とされた。
 それを時臣は無傷でないながらもあの魔術師殺し衛宮切嗣と相対し、我が子を救い出して見せた。
 ゼロを時臣は覆したのである。0を1としたのだ。

「あれ……なんで……?」

 時臣の目が見開く。腕の中にいた我が子が――――桜が目を覚ましていた。
 桜の高い素養が眠りの魔術を破ったのか、それとも魔術の限界時間がきたのか。それは分からない。確かなことは桜が目を覚ましたということだ。

「…………体に異常はないか? 桜」

 こういう場面だというのに、自分から出たのは飾り気のない言葉だった。
 我ながら時計塔でも器用に立ち回って来たと思うが、やはり私人としてはまだまだ修行が足りない。

「どうして……"あなた"が?」

「――――――――」

 他人行儀な桜の声。それを非難はするまい。これは時臣の決断だ。時臣の決断が齎した当然の結果だ。
 桜を間桐の養子に出したその日から遠坂時臣は桜の父親ではなくなったのだ。

「お前は覚えていないのかもしれないがな。桜……お前は雁夜によって間桐家から連れ出され……いやあいつは恐らく救おうとしたのだろうな。認めるのは遺憾だが……感謝せねばならんのかもしれん」

「あの……」

「しかし雁夜は負けた。……それでお前は人質になったのだ。私を単身で誘き寄せるためのな」

「どうして私を助けたんですか?」

 聡い子だと思った。時臣が語った情報だけで自分が人質となり、それを時臣が助けたことまでを悟ったらしい。凛ほどの明快さや溌剌さはないが優れた才能の目を覗かせている。

「…………」

 どうして助けたか。一年前ならば考えるまでもなかった問い。だが今の父親ではない時臣にとってその問いは重く遠い。
 故に時臣は冷徹に言い放った。

「間桐の翁、臓硯さんより連絡を貰ってね。ある情報と引き換えにお前の捜索と救助を引き受けた」

「そうですか。分かりました」

 桜が口を閉ざす。父だった男の腕の中にいる少女は瞳を暗くさせたまま無表情だ。それで漸く雁夜の言葉が実感をもって時臣に浸透してきた。
 凛や自分と同じ黒かった髪は青みがかり、瞳の色も変質している。生来の属性を変え無理矢理に間桐の"水"属性へと変化させたせいだろう。
 生まれ持った属性を変えるというのは自らの誕生した色を否定するということ。その苦痛は想像を絶するものであろう。
 それが桜のような幼い年齢で、魔道に進む「覚悟」を抱いていないと言うのであれば猶更だ。

(雁夜の言葉が正しいのか、間桐臓硯が正しいのか……実際に真実を見ていない私には答えを導き出すことはできない)

 桜に問い掛けたところで意味はなかろう。
 もし前者ならば間桐臓硯は桜に時臣へ助けを求めないよう『教育』を施しているはずだ。尋ねても本当のことを教えてはくれない。後者だとすれば間桐臓硯は桜のために厳しくしているのであり時臣が口を挟むべきことではない。
 どちらにせよ既にして遠坂時臣は部外者だ。
 時臣は自嘲する。
 つくづく不甲斐ないものだ。魔術師として一流であらんとした結果、どうにも父親としてはおざなりになっている。

(それでも……)

 今の時臣は桜の父親ではない。けれど嘗ての時臣はそうではない。
 嘗ての遠坂時臣は我が子――――間桐桜に対して問うべき言葉を問うていなかった。すべきことをしていなかった。
 ならば嘗ての遠坂時臣が我が子に果たしていなかった義務をせねばなるまい。 <> 第31話 下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり<>saga<>2013/01/15(火) 21:28:36.76 ID:FnB4IDDt0<> 「間桐桜……いいや遠坂桜」

 遠坂桜と時臣が口にした途端、桜がビクッと驚いたように肩を震わせた。

「お前はこれからの人生、魔道の道に進むか、それとも進まないか?」

「えっ」

「桜……私はお前に謝らなければならない。本来ならお前を間桐の家に養子に出す前にこの問いをするべきだった。私もかつて先代の頭首に魔道の道に進むか否かと提示され……私は是と返答したのだ。だからこそ今の私がある。魔道を進む『覚悟』を決めたからこそ、私はそれからの難行にも耐えてこれたのだ。だが私はお前の意志を確認せぬままに魔道の道へと進ませてしまった。だからこそ今決めてくれ。お前は魔道の道に進むのか、それとも魔道を棄て唯人として生きるのか」

「でもお爺様が」

「間桐臓硯のことは関係ない。私は嘗ての責任を果たすために問いを投げている。勝手な話だと憤慨するだろう。だが私はお前の父親だった私として、私の娘だったお前に問い掛けているのだ」

「お父さんは、私がどうすればいいと思うんですか」

「桜。それは私が決めることじゃない。お前が決める事だ。お前の人生はお前が決めるのだ。お前がどんな選択をしようと私は受け入れよう。その決断を尊重しよう」

「それじゃ私が魔術なんて嫌っていったら」

「お前を間桐から連れ戻す」
 
 即答であった。気付けば時臣は考えるよりも先に声が出ていた。

「間桐臓硯がその邪魔をするなら強引に口を塞がせる。葵と凛のもとにも帰そう。私もお前がただの人間として生きていくよう最大限努力する」

 だから答えを聞かせてくれ、と出来るだけ優しい口調で時臣は言った。

「私は……魔術なんて、好きじゃありません。……もし姉さんのところに帰れるなら、帰りたい、です」

 細々とした力無き声。それで十分だった。
 桜は時臣を遥かに凌ぐ才能をもちながら『魔道』ではなく、その才能を活かさぬ『人道』を選んだ。
 もしかしたらそれは魔道を進むよりも険しい道なのかもしれない。生まれながら人を逸脱した才能をもちながら人の道をゆく。それは己の宿命への反逆に等しい。

「……雁夜に、感謝せねばならんな。ならば帰ろう、桜。今は凛と葵は倫敦だから直ぐには会えんが、帰ったらすぐにお前も倫敦へ行けるよう手配しよう」

「お父さんは、来ないんですか?」

「すまんが私は『魔術師』だからな。魔術師としての責任をこの地で果たさなければならん。今はもう眠るといい。疲れただろう」

 桜はそれを聞いて安心したように目を閉じると規則正しい寝息を立て始めた。
 だが、なんということだろうか。
 もう時臣には我が子の感触がない。全身を焼く痛みが我が子の温もりを覆い尽してしまっている。 <> 第31話 下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり<>saga<>2013/01/15(火) 21:29:03.61 ID:FnB4IDDt0<> 「時臣師、ご無事でしたか」

 その時、時臣の前に一つの影が現れた。
 警戒はなかった。その声色は訊きなれている。弟子の言峰綺礼だ。時臣の味方である。
 唯一つどうしてここにいるのかという疑問があったが直ぐに「どうでもよいことだ」と思考から外す。恐らくは決戦場には入れぬもののせめてギリギリの場所でと、応援にきてくれたのだろう。

「綺礼か。桜は取り戻したが、無事……とはいかなかったよ。ご覧の通りの様だ。衛宮切嗣の礼装のせいで魔術回路が滅茶苦茶だ。もう満足に魔術行使もままならない」

「……なるほど。それで私をまだ信用しておいでですか」

「?」

 おかしな言い回しをする。自分は元から綺礼に対して全幅の信頼を置いている。
 今更それを確認する必要などはない。

「すまないが、これを持っていてくれ。私では歩いている途中に落としてしまう」

 時臣は懐に隠しておいた聖杯の器――――小聖杯を言峰に渡した。

「これは?」

「生まれついての性というのは消えないらしいな。衛宮切嗣の礼装の魔弾を受けて尚、桜と一緒に小聖杯まで持って離脱するとは」

 黄金の杯。小聖杯、それに桜。
 衛宮切嗣は生きているだろうが、この二つをもって離脱した以上、衛宮切嗣と遠坂時臣の戦いは時臣の勝利といえるのかもしれなかった。

「……導師は、これからどうするので?」

「聖杯戦争を続けるさ。こんな様では十二分の力は発揮できんだろうがな。聖杯を手に入れるのは遠坂の悲願だ。私も遠坂の頭首として生きている限りは戦い抜かなければならん。勝算があろうとなかろうとな」

「随分と達観しておいでですね。私も魔術については多少の知識を得ました。だからこそ少しは分かる。導師の口振り、それは貴方が魔術師として死んだということではないのですか?」

「だろうな。幸い全ての魔術回路が駄目になったわけではないが、今の魔術師としての私の力は君以下かもしれん。魔術師として死んだと言い換えてもいいだろう。しかし私がどうしたというのだ? 私が魔術師として死のうと生命として死のうと、凛が遠坂を継ぐだろう。私の死で遠坂の魔道が凛へ正しく継承されるのであれば問題はないよ。そうだな。私が死んだら凛のことを頼む。才能はあるが、まだ幼い。六代目としてなじむまでには時間がかかろう。私の代わりに魔道を教えてやってくれ」

 自分の体のことは自分が一番分かっている。それになんとなくだが運命も悟った。
 恐らく自分は死ぬだろう。衛宮切嗣の『起源弾』により重傷を負ったからかもしれない。死に近づいたせいで死を感じやすくなっている。
 だからこそ後を頼んだのだ。時臣が誰よりも信頼する弟子へと。

「承りました」

「ありがとう。私は君という弟子を得て良かった。そうだ、もしかしたら使う時があるかもしれんと持ってきたのだがな。結局、使う事のなかった。これを君に送ろう」

 時臣は独特の衣装の施された短剣を言峰に差し出す。それは嘗て時臣が先代より譲り受けたものだった。

「これは?」

「儀礼用のアゾット剣だ。遠坂の魔道を修めたという証だよ。私が先代より譲り受けた品だ。受け取って欲しい。泣き言を言わせて貰えば家に帰るまで息をしているか自信がない。だから今のうちに」

「なにからなにまで痛み入ります」

 深々とお辞儀をして言峰がアゾット剣を受け取った。それを一通り観察すると言峰はアゾット剣をカソックの下にしまう。
 時臣は次いで桜のことを頼もうとして、その前に言峰が声を被せてきた。

「ああ導師、私も貴方という師を得られて幸いだった」

「――――――ッ!」

 余りのことに反応もできなかった。
 時臣の心臓にレイピアのように細い長剣が刺さっている。刺したのは弟子である言峰綺礼。言峰はなんとも嬉しそうな顔をしながら時臣を見ていた。

「綺礼、なにを……?」

「導師。貴方は私を信頼していたが、私を理解してはいなかった。そして貴方の信頼をこういう形で返せること、それが私の娯楽なのです」

 黒鍵が引き抜かれる。心臓から血が溢れ出て、急速に体から力が消えていく。
 皮肉なことだが魔術師としての冷徹さにより一流の魔術師に上り詰めた遠坂時臣は、最後に人間としての情を垣間見せ、魔術師らしい優しさにより弟子を疑うことが終ぞできず死んだ。

<> 第31話 下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり<>saga<>2013/01/15(火) 21:29:32.23 ID:FnB4IDDt0<> 「…………」

 言峰が時臣の死体を見下ろす。さっきまで無残な姿でありながら優雅であった男はただの冷たい躯となっている。
 歓喜が言峰の心中を満たした。

「やっと殺せた! あの女も我が父上も私の手にかけることができなかった! だからこそ嬉しい。私は漸くこの手で愛する者を手に欠けることができた」
 
 人が幸福と思うことを幸福とは思えず。人の不幸にしか至福を見出せない生まれながらの破綻者。
 生まれながらの破綻者に漸く明確なる幸福を与えたのは、自分を信頼する師を裏切り殺すという背徳によってだった。

『呵呵呵呵呵呵! これはこれは奇怪なものよ。遠坂の子倅がどうするのかと眺めておれば、よもやその弟子に殺されるとはのう。やはり永人の代より変わらぬのう。遠坂は詰めが甘い。人を見る力は授からなんだ』

「っ! 貴様……」

 あちらこちらからグロテスクな蟲達が集まりだし、一つの人型を作り出す。
 肌のあちこちが皴がられ腐敗した胴体。間桐の支配者、間桐臓硯だ。

「だが礼を言おうかのう。貴様の裏切りで儂がこの男を殺す手間が省けたというもの。遠坂は詰めが甘いが、その底力は侮れんのでのう。大事な大事な孫娘をこうして取り戻すこともできたのじゃから」

 間桐臓硯が無言で命じると蟲達が時臣へ飛んでいった。だが蟲は時臣を襲わず、その腕に抱かれ眠る桜へと殺到する。
 どういう方法を使ったのか。声もなく間桐桜は虚ろな目で立ち上がると臓硯のところへ歩み寄っていく。

(蟲を利用しての……操作? マキリの属性は水。使い魔の使役に優れているときくが)

 臓硯の使った魔術を分析しながら自然と言峰は黒鍵を構えていた。

「呵? 綺礼よ。その黒鍵は儂に対しての殺意かの。ならやめておけやめておけ。儂はお前をどうこうするつもりはないし、遠坂の子倅の遺体にもなにもしはせんよ。これは貴様の玩具なのであろう?」

「口を閉じろ。貴様の放つ言葉は一々不快だ」

「そう怒るでない。今宵は儂も大切な孫娘を助けに来ただけ。代行者と一戦を交えては儂はいいが桜が危ないのでの。儂はここで失礼させてもらうとしよう。綺礼よ、遠坂の子倅は貴様にとって真実道化であったろうが、儂にとっては貴様も同じ貉よ。上手く儂の役にたってくれおった」

「……ッ!」

 言峰は黒鍵を投擲しようとするが、その時には臓硯の姿は忽然と消えていた。

「逃げられたか」

 師を殺した際の充足や幸福感はもうない。かわりに間桐臓硯に対する不快感だけがこびりついている。

「逃がしたか。だが」

 もし次に会う日があるのならば、今度こそ間桐臓硯は始末しよう。アレがこの世にいることはどうしようもなく不愉快だ。
 臓硯の去った場所から目を外すと言峰は時臣の腕にある令呪を綺麗に剥ぎ取り自分の手へ移植する。
 霊媒治療にかけては師すら超える術者である言峰だ。このくらいは雑作もない。
 自分の中にアサシンの他にもう一つのラインが繋がるのを感じた。笑みを隠そうともせず令呪を光らせ命じる。

「新しき我が傀儡よ。令呪にて命じる。主替えに賛同しろ。更に第二の令呪にて命じる。この場へと来い」

 空間が割れ赤い外套の騎士が言峰の前に召喚される。
 アーチャーは身を焦がす殺意を発しながらも、その両手の夫婦剣を振り下ろせないでいる。「主替えに賛同しろ」という令呪が効いているのだ。

「くくくっ。その様子ではアーチャー、貴様も無事ではないようだな」

 アーチャーの外套には所々傷が入っている。
 足止めのアサシンとの戦いで受けた傷だろう。

「貴様、時臣を殺したか――――!?」

「そうだ。元々そのつもりだったからな。私と衛宮切嗣の邂逅を邪魔する者は消えて貰う必要があった。ましてや私は遠坂時臣の願いになんの価値を見出す事も出来なかった。もし時臣が私を満たしてくれる願いをもっていたのならばこうはならなかったかもしれん。だが過ぎた話だ。遠坂時臣は死に、私は生き、お前も生きている。そして私はアーチャー、お前ならば聖杯を手に入れても良いと考えている」

「馬鹿な事を……! 私には聖杯にかけるような望みなどはない」

「ふっ。それはこれから分かることだ。第三の令呪にて命じる。アーチャーよ、己が心を我が目に晒せ」

「なッ!」

 第三の令呪が光り、アーチャーの魂を縛り付ける。
 アーチャーの口がアーチャーの意に反して動き始め、そして。
<> 第31話 下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり<>saga<>2013/01/15(火) 21:30:18.92 ID:FnB4IDDt0<>  桜が目覚めた時、そこはあの暗い蟲蔵の中だった。慣れ親しんだ蟲蔵。否、慣れさせられた蟲蔵。
 疑問が湧いた。
 自分はさっきまで父の腕の中にいたはず。なのにどうして、

「呵呵呵。桜や、起きたかのう」

 この蟲蔵の支配者の声が桜の耳に届く。
 反射的に桜は身を硬直させた。この人物に逆らってはいけないと文字通り体の髄まで教え込まれているのだ。

「桜よ。ちと面倒なことがあってのう。修練に空きがあいてしまった。遅れを取り戻さねばならん故、いつもよりも痛むかもしれんが、なにお前ならば耐えられよう。なにせお前は遠坂の子倅が太鼓判を押して儂に差し出したほどの胎盤なのじゃから」

「あの……お爺様。お父さんは……それにおじさんは……どこに」

「遠坂の子倅に雁夜の阿呆じゃと? 遠坂の子倅なら貴様のような捨て子など気にも留めず聖杯戦争に挑んでおる。雁夜の愚か者は勝手に野垂れ死におった。それがどうかしたかの?」

「で、でもお父さんが私を助けに来て――――」

「呵、呵呵呵呵呵呵呵呵!! これは傑作よ! 桜、主はこの儂を笑い殺すつもりかえ」

 しわがれた笑い声が蟲蔵に響く。蟲達がそれに呼応するようにざわめいた。

「桜よ。お主は夢を見ておったのじゃよ。貴様のような蟲に侵された小娘を救おうとする者など一人もおらぬし、貴様の父も母も姉も貴様のことなど気にも留めずに日々を謳歌していよう」

 間桐臓硯のその一言。それが駄目押しとなり切欠となった。

「――――――」

 悲鳴はない。叫びもない。そんな力は残っていない。
 全ては自分の都合の良い夢だった。自分を助けようとしてくれた父もおじさんは唯の幻想で、自分にとっての現実は誰も助けてくれない蟲蔵の中なのだ。
 間桐桜は心を完全に閉ざした
 彼女の心が開くのは――――これより数年後。ある一人の少年が彼女の前に現れた時である。


【遠坂時臣 死亡】 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/15(火) 21:31:11.62 ID:FnB4IDDt0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 21:48:16.90 ID:NLaI3dK+o<> 乙
結局報われないおじさん… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 22:01:50.11 ID:cPp6yFWA0<> 桜は結局救われませんでしたか、やはり彼女助けられるのは雁夜でも時臣でもなく士郎なんですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 22:04:01.59 ID:KeMYk79oo<> 乙
Zero放映時も思ったけど、救われない桜を見るとHFのアニメ化しないかなあとか思うんだよな
まあ無理か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 22:07:50.25 ID:EQyNJFPD0<> まあここで綺麗に桜が連れて行かれても何らかの形で魔翌力タンクかなにかにされそうな気がしないでも無いからなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 22:11:02.91 ID:OTaF3mpQo<> エミヤさんの主人公補正に期待したけどやっぱり駄目だったよ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/15(火) 22:32:28.29 ID:P0D0Su7F0<> 乙
これは綺礼がエミヤの口からキリツグとの関係や第5次のことについて知るフラグか?
エミヤの望みは自身の過去と深く関わってるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/15(火) 23:27:34.39 ID:P3OPsD8L0<> 最後の文は、結局衛宮士郎が誕生するということを示しているのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/16(水) 00:20:40.97 ID:YOoZ7aSAo<> 乙
おじさん頑張ったんだけどなぁ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/16(水) 19:03:49.99 ID:152++m8g0<> >>590
そりゃこのアーチャーは衛宮士郎じゃなくてエミヤシロウですし
かつて主人公だった士郎はもう存在しないんだよ・・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/16(水) 21:48:49.92 ID:EziiYS6Z0<> >>590
エミヤは逆補正の塊じゃないですかやだー
宝具を弓でぶっぱと霊体化を切り替えしていれば一番順当に聖杯戦争勝てるはずなのに
なぜか何時も逆境にいる。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/18(金) 21:23:52.74 ID:iMive98c0<> >>586
 雁夜は犠牲になったのだ……

>>587
 正確には士郎と虎ですね。

>>588
 HFルートは桜と言峰とイリヤには見せ場がありますが、肝心のギルは噛ませ犬以下でセイバーはまるで救われませんが。

>>591
 幸運Eが働いてきたアーチャー。

>>594
 この世界にいるのは英霊エミヤであって衛宮士郎ではありません。

>>595
 アーチャーは逆行が一番似合いますからね。 <> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:28:15.38 ID:iMive98c0<>  認めなければならない。今回の戦いは衛宮切嗣の敗北だった。
 手を抜いたつもりはない。油断をしてもいない。
 遠坂時臣の使用する魔術や癖、弱点に至るまで全て調べ尽くしたしその為の対策もしてきた。だが遠坂時臣という魔術師は集めた情報ではどうあっても分からぬものを隠し持っていた。
 もしも『全て遠き理想郷』がなければ衛宮切嗣は聖杯を掴むこともなく脱落していたかもしれない。

「起源弾は確実に遠坂時臣の魔術回路を破壊した。もはやマスターとして十全の力を発揮することは不可能だ」

 しかし起源弾を喰らわせながらも時臣の逃走を許してしまった。
 更に人質である間桐桜も奪還され小聖杯も取り戻せずでは――――衛宮切嗣の敗北だと言わざるを得なかった。

「…………」

 切嗣はアイリスフィールに発信機をつけていた為、アイリスフィールが遠坂邸にいることを察知することができた。
 間桐雁夜のサーヴァントだったキャスターは魔術については現代の魔術師が及びもつかない程に高い位置に君臨していたが、発信機などという現代の精密機械などについては知らなかったようで取り除かれてはいなかったのだ。
 だからこそアサシンが向かった先が遠坂邸であることも分かったし、恐らく遠坂時臣が小聖杯を手に入れているであろうことも推理できた。
 もっとも遠坂時臣はキャスターよりかは慎重なのか、即座に発信機が破壊されてしまいこれ以上の探知は不可能となってしまっている。
 いやそもそも時臣の弁によればアイリスフィールの遺体はアインツベルンの城に送られ、小聖杯は摘出されていたので発信機の有無などはもはやどうでもいいことであるが。

「……時臣を狙うか」

 負傷した時臣を倒す。そうすれば小聖杯を奪い返すことができるかもしれない。
 だが今攻めたところで確実に時臣を殺せるかどうか。それが問題だ。

(言峰綺礼は死んだ。それが嘘か真かは怪しいが……少なくともアサシンは生きている。そしてアサシンと遠坂時臣は共闘関係にいる。遠坂時臣と再契約したのかアサシンと再契約したマスターが遠坂時臣と同盟したのか、それとも言峰綺礼が生きていて遠坂時臣と手を結んだのかはまだ決められないが)

 ランサーはロード・エルメロイのサーヴァントで、ライダーはウェイバー・ベルベットのサーヴァント。
 聖杯戦争開幕と同時に一体のサーヴァントが脱落し、キャスターは脱落済み。となれば消去法でアーチャーのマスターは遠坂時臣ということになる。舞弥が『挑戦状』を時臣に届けた際も時臣の屋敷にいるアーチャーの姿を視認しているのでほぼ確実だ。
 つまり遠坂邸にはアサシンとアーチャーの二体のサーヴァントがいる。
 切嗣のサーヴァントであるセイバーは最優だけあり、この聖杯戦争のサーヴァントでも随一の性能をもっている。一対一で戦えば大抵の英霊には勝てるだろう。
 だが相手が二体となれば難しい。
 セイバーの宝具は強力だが、サーヴァント同士の戦いは何が起こるか分からない。特にアーチャーの実力は未だ未知数なのだ。
 出来ればアーチャーの情報が欲しい。もしくはアサシンだけでも脱落させておきたいが。

(……今すぐには、厳しいが遠坂時臣には重傷を負わせた。経験上、時臣は放っておいても数日はもたないだろう。起源弾のダメージは霊媒治療や手術でどうにかなるものじゃない)

「ならば」

 切嗣にとって望ましくない状況というのは時臣が他のマスターと手を結ぶことだ。
 時臣は衛宮切嗣のスペックや起源弾のことを掴んでいる。もしもケイネスやウェイバーと時臣が同盟すれば、この情報を話し衛宮切嗣への包囲網を敷いてくるかもしれない。
 これをされないようにする一番良い方法は時臣を殺してしまうことだが、

(僕とセイバーなら二対一ならどうにかなる。しかし時臣、ケイネス、ウェイバー……三人が三人とも同盟をすれば)

 それを避けるために二人のうち一人は消しておくべきだ。
 ウェイバーとケイネス。どちらが難敵かなど考えるまでもないことだった。
<> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:28:50.09 ID:iMive98c0<>  時計の針だけが忙しなく動く。
 ベッドの上で何をするでもなくゴロゴロと体を預けながら、ウェイバーは暗い顔で天井を見た。
 聖杯戦争開始より十日目が経とうとしている。過去の聖杯戦争の例かれみれば十日目ともなれば中盤も中盤。七騎のサーヴァントは脱落者を出し始めている頃だ。
 外では今も生存したマスターとサーヴァントたちが壮絶な殺し合いを繰り広げているのだろうか。
 ウェイバーは安全なこのマッケンジー邸で外を想う。

「僕は、なにやってるんだよ……!」

 苛立ちをこめてベッドを殴る。が、ベッドは殴るエネルギーを完全に吸収してしまい反動すらない。
 それが堪らなく空しくて、意味がないと知りながらもう一度殴った。

「この聖杯戦争で……僕は僕を馬鹿にした連中を……ケイネス先生を見返すんだろ。なのに、なんだよ」

 十日目になりながらウェイバーがした事といえばライダーに諜報を命じた事と、使い魔や図書館で情報を収集したことくらい。
 戦闘に至ってはキャスターとの一戦のみだ。
 まったくもって駄目駄目である。
 この聖杯戦争でウェイバーはなにも出来ていない。一体のサーヴァントも一人のマスターも倒せず、こうして日々を過ごしている。
 初戦は最弱のキャスターであったにも拘わらずだ。
 魔術師として正当な評価が欲しいだけだった。聖杯戦争という実力だけが物を言う闘争なら血筋や家柄など関係なく活躍できる。そんな思い違いをしていた。
 しかし現実とは非情にして平等なものである。
 ウェイバーは聖杯戦争でも変わらずにウェイバー・ベルベットであった。
 時計塔にいた頃となにも変わっていない。
 自分は時計塔にあっても有象無象の末端魔術師で、きっと聖杯戦争においても有象無象の脇役なのだろう。
 ライダーという優れたサーヴァントを引き当てておきながらこの様である。
 不甲斐なくて涙が出てきそうだ。泣くのはもっと情けないと思うから、そんなものは意地でも流してやらないが。

「ウェイバー」

 実体化したライダーが声を掛けてくる。
 今日はマッケンジー夫妻はガス漏れ事件のせいで病院に行っており、ライダーの姿が目撃される心配はない。
<> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:29:35.84 ID:iMive98c0<> 「……なんだよ。まさか僕を笑う気かよ」

「いいえ。ただ悩んでいるようでしたから」

「ああそうだよ! 情けないよ僕は! ……ライダー、お前は強いよ。魔眼なんか真祖の黄金以上のランクがあるし、対軍用の鮮血神殿に、場所が場所なら三騎士とだって戦える。切り札の宝具なんか最強だ。……そんなお前をサーヴァントにしてるっていうのに、僕はキャスター一人すら倒せなかったんだ……! あまつさえ気付けば良く分からない敵のマスターにキャスターを倒されて。アサシンもいなくなってて。訳が分からないうちに戦いは終わってた。最後まで僕は蚊帳の外じゃないか。マスター失格だよ」

「私が言っても気休めにもならないでしょう。ですがウェイバー、私の目から見ても貴方は懸命にやっています。貴方の魔術師としての技量が貴方の納得する位置にないのはそうなのでしょう。ですが貴方はサーヴァントを前にしても冷静さを失わず、私に適切な指示を与えた。貴方はマスターとしての役目を存分に果たしてくれている」

「でも魔力供給は? ……僕なんかがマスターになるより、もっと凄いケイネス先生みたいな魔術師がマスターなら、ライダーだって十全の力が使えたんだろ。お前がマックスの力を出し切れていたらキャスターだって」

「貴方の魔力供給が不十分であるということは否定はしません。紛れもない事実ですから。しかし私が十全の力を出し切れていればキャスターを倒せていたかという問いには首を傾けざるを得ない。負けた、とは言いませんが『勝てた』と断言することはできません。あのキャスターはキャスターの中でも最上位に位置する者。しかも私の真名を看破し対策をしていたような魔女です。私の切り札を使ったとしても……それに対するジョーカーがなかったとは思えませんし、私のもつ切り札も知っていたでしょう」

「…………」

 ライダーの指摘は的確だ。的確過ぎる。
 だからこそ否応なくウェイバーは自分の抱いていた本当の『劣等感』『敗北感』『屈辱感』の正体を確認させられた。
 その正体を明確に認識すると両の拳を握りしめて俯く。

「ああ、そうなんだよ。……僕が苛立ってるのは、この十日間大したことができてこなかったことでも。僕が魔術師として未熟だってことでもない。あいつだ……あいつを見たからなんだ」

 柳洞寺の奥でウェイバーは見た。一人の男を。
 果たしてそれは"人間"と呼んで良いものなのか。生物学上は人間なのだろう。魔術師であっても生物学的には人間に違いないのだから。
 だがウェイバーにはどうしてもその男が人間には見えなかった。
 飾り気のない錆びた鉄のような黒いコートと背広。髪の毛は几帳面とは程遠い伸び方をしており、身形を整えることには無頓着なのだと思わせる。
 いいや。きっとアレはそういう物なのだ。者ではなく物。
 アレは単一の目的を果たすためだけの物であり、それ以外には興味を示さない。インプットされた至上目的を完遂するまで動作をやめぬ機械。
 決して砕けぬ鉄の意志。人間でありながら己が心を機械へと装飾し改造する在り方。凡百には無意味であり無価値であることを至上命題とし、そこへと突き進む探究者。
 それは正に在りし日のウェイバーが追い求めた魔術師像そのものだった。
 魔術師とは『根源』を目指す探究者である。より深くいえば『根源』の探究以外には何も興味を示さぬ者だ。
 本当の魔術師というのは魔術を使うことなど二の次だ。魔術とは『根源』に至るための手段であり、『根源』というあらゆるものの"ゼロ"へ到達することだけが魔術師の目的なのだから。
 闘いになれば魔術を使うこともあるだろう。しかし本物の魔術師は魔術を使わざるを得ない状況にならない限りにおいて魔術は使わない。
 地位などはどうでもいい。名誉など欲しくもない。
 ありはしないもの――――『根源』という"ゼロ"に到達したい者。俗物的な我欲をもたず真理を知りたがる者。自分の為に魔術を学びながら、自分の為に魔術を使わぬ者。それこそが魔術師らしい魔術師というものであり、ウェイバーが憧憬を抱く魔術師なのだ。
 その意味においては自分どころかロード・エルメロイと持て囃されるケイネスですら魔術師らしい魔術師ではない。
 ケイネスは自身の栄光に武功を添えるためだけに聖杯戦争に参加している。これは明らかに名誉欲から端を為す願望だ。
 魔術師らしい魔術師ならば、そんな願いで聖杯戦争に参加したりはしない。もしケイネスが『魔術師』ならば聖杯戦争に参加するのは『根源』に至る手段でなければならないからだ。
 人のことは言えない。ウェイバーも同じだ。
 ケイネスと同じただの『名声』を求めて聖杯戦争に参加したウェイバーも、魔術師としては正しくともなんともない。
 それをあの男を見て強く自覚させられた。
 ウェイバーは男の名を知らない。その男が衛宮切嗣という魔術師殺しであり魔術師のジョーカーであることなど考えてすらいない。
 だからこそ、かもしれない。ウェイバーは衛宮切嗣に圧倒された。
 語らずとも話さずとも分かる。その鋼鉄の如き意志力と眼光に。
 魔術師らしい魔術師というのはああいう男をいうのだろう。

「なんなんだよ僕は……。なにが魔術師としての正当な評価だよ。そんな参加理由がそもそも魔術師失格じゃないか」

 そこへ考えが及んだ途端、ウェイバーは自分の抱く願いそのものがちっぽけで下らないものに思えてきたのだ。ちっぽけで下らぬ自己完結した俗物的な欲望。
 いいや真実として下らないのだろう。あの鋼鉄の意志をもった男と比べれば己の願いなどたかが知れている。
 こんなものに命を懸けて聖杯戦争に挑んでいるのだと思えば、ウェイバー・ベルベットという人間そのものが下らぬものに感じてしまう。
<> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:30:10.75 ID:iMive98c0<> 「それでは、止めますか?」

 ライダーはウェイバーの意を組んだのかあっさり諦めを口にした。

「えっ?」

「驚くことはないでしょう。貴方が聖杯にもはや価値を見いだせず戦う意思がないのなら……わざわざ命を懸けて戦う必要はない。この戦いは参加したら最後、逃れられないというものではありません。教会へ行き令呪を破棄すれば、その瞬間から貴方は聖杯戦争とは関係のない部外者になる。戦いから逃れられる」

「で、でもそれじゃお前はどうするんだよ! ライダーだって聖杯が欲しいから参加したのに、僕が途中で投げ出したら」

「ご心配は無用です。私には聖杯にかける望みなどありません。だから貴方が令呪を破棄しようと、私にはどうでもいいことです」

「だからって……」

 いつ聞いても聖杯が要らないというのはにわかに信じ難いが、ともすればウェイバーには逃げ場がはっきりと提示された。
 今ならば逃げる事ができる。これ以上、戦おうと得るものなど大したものではなく負ける可能性の方が遥かに低い。
 ならばここは令呪など捨てて逃げるというのが最善だ。そんなことは分かっている。だがウェイバーの頭とは別の所が叫ぶのだ。そんなことできるものか、と。

「僕は……」

 どうすればいいのか。自分の進むべき道すら定まらずウェイバーは迷う。

「ウェイバー、これはあくまで私の考えです。真っ当な英霊ではなく、英雄に倒されるべき存在である私の意見です。だから聞き流してくれても構いません」

「ライダー?」

「生前、私には大した願いなどありませんでした。世界に覇を為そうなど考えた事もありませんし、国や世界に平和を齎そうなど思った事もありません」

「私にあったのはたった一つの願いだけ。姉たちと平穏に暮らしたい。たったそれだけの……他の英雄が戦ってきた動機と比べれば取るに足らないものでしょう」

「英霊として召喚されたからこそ、私はまだ人間だった頃の姿として呼び出されていますが本来の私は魔物。英雄に倒されるべき人間の敵対者、絶対悪の怪物です。だからこそ私には他の英雄のように高潔な精神などはない。ウェイバー、貴方は一般人を殺すキャスターに対して義憤――――本当はより複雑な心境なのかもしれませんが――――して柳洞寺に戦いに赴きました。ですが生前の私は私の願いの為なら、それこそこの冬木市全土に鮮血神殿を展開することすら厭わなかったでしょう」

「……ッ」

 冬木市全土を覆う鮮血神殿。その規模の大きさに息をのむ。
 ライダーの鮮血神殿は中にあるものの魂を吸収する対軍宝具だ。そんなものが冬木市中に展開されれば一瞬にして平穏な街は生命を許さぬ煉獄と化すだろう。
<> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:30:40.12 ID:iMive98c0<> 「私は生前からそうだった。こうして人間の姿をしていた頃から、私の住む神殿に踏み込んだ勇者たちをなんの躊躇もなく殺し惨殺してきた。ある時は魔眼で石化させ、ある時は力のままに胴体を抉り取り、ある時は魂を喰い殺し……」

「でも、それはそいつらがライダーの領域に踏み込んできたからだろ。お前は襲撃してきた連中を殺しただけで、お前から殺したってわけじゃ」

「関係ないのですよウェイバー。私は数えきれないほど殺しましたし、殺すたびに醜悪な化け物へと反転していった。それが反転しきったのがゴルゴンであり私の末路。貴方は私の夢で見たかもしれませんね。私の反転した姿を」

 思わずウェイバーは蛇の怪物を思い出した。
 人間の姿だからライダーは人間……なんて都合の良い話はない。あの反転しきった怪物もまたライダーの一つの側面でありライダーそのものなのだ。
 そして英霊と怪物、二つの属性をもつ英霊メドゥーサはサーヴァントと召喚されながらも『怪物』へと反転する危険性を孕んでいる。

「そんな私だからこうも思います。願いに貴賤はない……と」

「貴賤は……ない?」

「はい。私は私の平穏を守るため。世界規模からみればちっぽけな願いのために、多くの願いをこの手で命諸共砕いてきました。殺した勇者の中には世界をより良いものにしたいという理想をもった者もいたでしょうし、親兄弟が待っていたという者もいたかもしれません。ですがそんなことはどうでも良かった。私は世界平和などどうでも良かったですし、英雄や大望にも憧憬など欠片もなかった。けれども私の願う姉たちとの平穏が彼等の願いに劣るから私は死ぬべきだ、などとは一度として考えた事はありません。あの男がどんな願いを持っているかは分かりません。もしかしたらその願いは個人のためではなく、世界に安寧を齎す類のものかもしれません。……しかし、だからなんなのですか? あの男の願いがなんであれ、それはあの男だけの願いです。そしてウェイバー、命を懸けて願いを叶えようとしているのなら貴方もあの男と変わりません。貴方達は同じ土台にたち同じように命を懸けている。能力に優劣はあれ、その願いに優劣はない」

「――――――」

 願いに貴賤はない。問題はどういう願いなのか、ではなく同じように命を懸けているかにあるという。
 ライダーのいうことは正しいのかもしれない。
 あの男がどんな願いを抱いていようと、それは所詮あの男だけの願いだ。
 人間とは一人一人が違う。似たような人間はいるとしても完全に同じ人間などは有り得ない。同じ願いを見て同じ場所を目指した仲間も、その心の内にある願いは若干の差異があるものなのだ。
 
(僕は……)

 ウェイバー・ベルベットには強い願いはない。命を懸けて戦っているなら同じステージに立っているとライダーは称えてくれた。しかしウェイバーが聖杯戦争に参加したのは衝動的なところが大きい。
 明確に己の命を懸けているという実感は……なかった。これは戦争。命と命の奪い合い。人の命など容易く失われ、命乞いなど無為の冷酷なる鉄火場。
 果たしてウェイバーには他人の願いを踏み躙り、他人の命を奪ってでも叶えたい願いがあるというのか。

「……僕には自分の命を懸けて叶えるような願いは、ない」

「そうですか」

「だけど僕はまだこの戦いを降りられない。降りちゃいけないんだ」

 魔術師にとって死は観念して然るべきもの。でありながら魔術師ウェイバーは一度も命を懸けてなにかを実践しようとはしてこなかった。
 師であるケイネスに見せた論文だって懸けたのは時間とプライドだけで『命』を懸けてはこなかった。
 それでも現状が認められず、今を変えたいとこの戦いに参加したのだ。
 なのにここで逃げ出せば、なにもかもが嘘になる。魔術師として認められたいというちっぽけな願いもプライドも全てに背を向けることになる。
 それだけはできない。ここで逃げ出したら待っているのはただ生きているだけの人生だ。死んでいるのと同じだ。
 戦わなければならない相手がいる。
 自分より遥かに卓越した技量をもち、才能の塊であり、家柄も優れた――――謂わば、ウェイバーにとっての壁。
 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。彼の者に挑まずしてウェイバーにとっての聖杯戦争は完結しないのだ。
<> 第32話 ちっぽけな願い<>saga<>2013/01/18(金) 21:31:08.74 ID:iMive98c0<> 「行くぞライダー。戦おう」

 覚悟は決まった。後は彼の者を見つけ出すだけだ。
 ライダーは黙ってうなずくと、

「しかしウェイバー。私は先日の戦闘でやや消耗しています」

「知ってる。僕の魔力供給が低いせいで完全には戻ってないんだろ。でも今から回復する手段なんてないぞ。魂喰いは許可しないからな」

「勿論です。私に魂喰いに抵抗はありませんが、ウェイバーに抵抗があるのなら私もする訳にはいきません。ですが魔力供給とはなにも魂喰いだけではないのですよ。魔術師の精を吸精することでも魔力供給にはなるのです」

 ペロリと妖しく舌で唇を舐めるとライダーがウェイバーへにじり寄ってくる。

「ら、ライダー……? あの僕は……その……」

「万全の状態で戦う為です。魔術師は目的のためにはつまらない手段なんて選ばないのでしょう。ならば拒否はありませんね」

「あ、あ」

「い た だ き ま す」

「アッーーーーーーーーーーーーー!!」

 その日、マッケンジー邸に少年ウェイバーのごにょごにょな叫びが響いた。
 これがウェイバー・ベルベットにとって色んな意味での少年時代の終わり。  <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/18(金) 21:32:00.72 ID:iMive98c0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 21:36:28.85 ID:Y3qKT87AO<> まずい、切嗣に狙われたウェイバーに狙われたケイネス先生に巻き込まれ死亡フラグが立った <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 21:38:49.03 ID:3IEfX1s8o<> ……なん……だと……?

ウェイバーもげろ

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 21:40:09.24 ID:RcNjQiSo0<> ウェイバー君とうとう童貞卒業しちゃいましたか、これでライダーのステータスもアップとかするのでしょうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 21:40:17.81 ID:dolZDciuo<> 乙
狙われてるのはウェイバーなのに先生が心配になってくる…
これが幸運格差というやつか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 22:25:58.61 ID:IA3cw9wZ0<> ウェイバーおめでとうもげろ

時計塔二人が切嗣よりも神父の餌食になりそうで・・・



アーチャーとランサーはSNと立ち位置が逆転しましたが、幸運Eがお互いどう効いてくるのやら
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/19(土) 08:03:39.35 ID:pXFxlLevo<> 聖杯戦争中に童貞卒業→つまりウェイバー君はこの物語の主人公だったんだよ!
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/19(土) 19:57:28.71 ID:VekmzYpR0<> でもFateの主人公は生活してるだけで死亡フラグ経つんだぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/19(土) 20:10:17.89 ID:sdxGLOm0o<> アーチャーはランサーと違って2度目の裏切りも躊躇わないだろうから、タイミングが重要だな。
早過ぎるとマスターいないから下手すりゃ消滅だし、遅すぎると自害させられかねない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/19(土) 21:25:29.73 ID:HxSXt5Rs0<> この場合言峰はどうやって生き残るんだろ
ギル以外のサーヴァントじゃ聖杯の泥に耐えられないし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/20(日) 15:30:04.22 ID:j8eNevEn0<> 黒化した状態で受肉、とか?
そもそもここまで展開が違うと心臓ぶち抜かれるかどうかもあやしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/20(日) 15:31:52.71 ID:INnpq7d+0<> ウェイバー……そのまま喰い殺されろ

<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/21(月) 22:21:07.91 ID:dGyBg+IK0<> >>604
 切嗣のいる聖杯戦争に参加した時点でビンビンに立ってます。

>>605
 モゲロ。

>>607
 ライダーの幸運はA+です。

>>610
 残念ながらFate主人公を拝命するにはウェイバーにはまだ狂いが足りません。

>>612
 アーチャーが機会があれば裏切ることは言峰も分かってますから、後は駆け引きですね。 <> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:22:09.57 ID:dGyBg+IK0<> 「ソラウ。それじゃあ私は柳洞寺へと赴く。不埒な侵入者があれば直ぐに私へ連絡をしてくれ。ランサーとのラインはあるから、ソラウなら簡単なはずだ」

 ケイネスは普段の彼からは信じられぬ畏まった表情でソラウに言う。
 ソラウの反応はといえば実に簡素だ。これより戦場に赴く未来の夫を心配そうに気遣うでもなく「ええ」と貴族らしく頷く。

「期待しているわよ、ロード・エルメロイ。今度こそは時計塔の天才講師の名に恥じぬ戦いを見せてくれるのでしょうね?」

「も、勿論だとも!」

 ソラウの視線には皮肉と疑いが混ざっている。
 それも無理のないことだろう。この聖杯戦争が開幕してからケイネスとランサーの挙げた首級はゼロだ。未だ誰も討ち取れていない。
 初戦はアサシンの真名を看過(というより勝手に名乗ったのだが)し、アサシンに重傷を負わせるところまではいったが仕留めるまでにはゆかず、第二戦は令呪の一画を消耗しながらもアーチャーと遠坂時臣を討ち取ることはできなかった。
 ケイネスとしてもそろそろ華麗に敵の首を討ち取りたいところなのだ。己が名誉のためにもソラウの信頼のためにも。
 だからこその柳洞寺だった。
 柳洞寺にはセイバーとそのマスターが陣取っているという。セイバーは最優のサーヴァントであり、マスターの衛宮切嗣は腕利きの殺し屋で自分の拠点を破壊した不埒者。
 この者達を討ち取ればソラウも自分を見直してくれるだろう。
 ケイネスの行動にはそんな打算があってのものだった。
 ちなみに柳洞寺へ赴くのに遅れに遅れたのは一重にソラウのご機嫌取りで……ゲフンゲフンッ。工房の防御を完璧にしソラウの安全を確保するためだ。
 侮るなかれ。
 遠坂時臣以来まるで戦いをせず双子館に引きこもっていたケイネスとランサーの構築した工房は、原初のルーンをもつランサーの協力もあって神殿クラスにまで迫ろうとしている。
 壁や柱の隅々まで魔力を通した双子館は物理反発結界により爆発の衝撃だろうと吸収し受け流すし、ケイネス・ランサー・ソラウ以外の人間が双子館の敷地に足を踏み入れた瞬間、その人間はこの地に根付いていた地縛霊や悪霊、そしてケイネスが使役する"魔”の呪いと怨念を一斉に受け内部から融解することになる。
 また長距離からの狙撃攻撃にも警戒を払った。双子館を中心とした半径100mにほんの僅かな空間の歪を生み出すことで、例えミサイルがここを狙おうとその空間の歪に躓き決して双子館に命中することはない。
 更に更に。もし最初の内部から融解するトラップを突破できたとしても、その直ぐ後には時間操作の魔術を応用した結界を創り上げており、そこに踏み込んだ瞬間、その者の精神は時の牢獄に取り残されることになるだろう。
 その他それに匹敵する罠が合計71。魔術師どころではない。例えサーヴァントだろうとこの神殿に踏み込むのには手古摺るだろう。いやサーヴァントであるランサーの力も働いているので或いは運良ければサーヴァントすら仕留めてしまうかもしれない。

「ふっふっふっ……我ながらエクセレントにパーフェクトだ。爆破解体だろうとミサイルでもなんでもきたまえ。その悉くを撃退してみせよう」

「セイバーか。そういや一度も面見てねえな。最優の名に恥じぬ力があれば俺はそれでいいけどよ」

 ランサーの方も意気軒昂のようだ。
 強者との凌ぎ合いのみを求めて聖杯戦争に参加しているランサーだ。彼にとってもセイバーのサーヴァントは極上の敵対者に違いない。
<> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:23:53.13 ID:dGyBg+IK0<> 「それじゃあ行ってらっしゃいケイネス。相手は三騎士の中でも随一の対魔力をもつセイバー。魔術師の貴方じゃどうあっても勝てない相手よ。注意することね」

「分かっているとも。行くぞランサー、今宵は敵の首級を持って帰るまでは帰らんぞ!」

「アトゴウラってわけかい? ってことは今度ばかりは敵を見逃すわけにゃいかねえな。遠坂時臣みてえに」

「その通りだ。だから貴様もゆめゆめ敵に温情をかけるなどはするなよ?」

「当ッたり前だ。情がねえなんざ言う気はねえが、敵に手心加える気なんざ今も昔も持ち合わせてねえよ」

 ケイネスはソラウをもう一度だけ振り返ると双子館を出た。季節が季節のせいか虫は泣いておらず、夜の冬木市には冷たい空気と真っ暗な空のみがあった。
 常人なら寒さで震えるくらいはしたかもしれないが、そこは天下のロード・エルメロイ。着ている服もなにかと特別性なので寒さくらいはどってことない。

「俺としちゃセイバーよりもうざったいアーチャーから始末しておきたかったんだがな。……やっぱり工房が破壊されたことがムカついてるのか?」

「減らず口を叩くなサーヴァント。……まぁ、それもある。近代兵器を使っての爆破など……かような下衆の手段で我が城塞を壊した不届き者には然るべき誅罰を下さねばならん」

「俺には理解できんが、俺達風に解釈すんなら四枝の浅瀬を破って一騎打ちに乱入してきたようなもんか? そりゃ腹も立つわな。で、それ以外は?」

「遠坂時臣……あの男は正に私にとって最高の敵対者。このような序盤で下してしまうのは惜しい。あの男との戦いはもっと華やかな、そう……聖杯戦争の終盤。フィナーレを飾るものでなくてはな!」

 遠坂時臣の実力はケイネスにとっても予想外だった。
 無論、ケイネスも時臣の実力くらいは又聞きで訊いてはいたとも。
 宝石翁の弟子の末裔というのもあるが、時臣は時計塔でかなりの実績を残しているし広く人脈も持っている。宝石魔術について目を通した際にその名を目にする時もあった。
 だからこそケイネスは『遠坂時臣』という魔術師を自分と同じ優れた血統と才能をもつ魔術師なのだと当然のように思い込んでいた。
 しかし実際はどうだ。
 講師という役職柄というべきか。ケイネスは魔術師の技量を見抜くだけの観察眼がある。それは『魔術の腕』にのみ働く観察眼なのでそれ以外の才能を見抜けないという欠点があるのだが、それは今は置いておこう。
 その観察眼は正確に『遠坂時臣』という男の魔術師としての技量を把握した。
 驚くべきことだが、自分が創り上げた最強の礼装『月霊髄液』を真正面から打ち破った男は――――限りなく凡才だったのである。
 ケイネスは自分の『才能』を自覚しているが誇ったことはない。ケイネスが誇りにするのは名門魔術師の頭首としてのものであり、己が才能を誇った事は一度としてない。
 才能があるのだから優れた結果が付随するのは至極当然のことであり、優れた結果には『才能』があってこそとすら考えてもいた。
 それを覆したのが遠坂時臣である。
 彼には才能などない。凡人からみれば遠坂時臣は『天才』のように見えるかもしれないが、本当の『天才』であるケイネスから見てあれは『凡才』だ。
 ならばどうして『凡才』の時臣がケイネスと互角に戦えたのか?
 単純である。時臣は才能がないからこそ、努力をした。何度も何度も、報われるかどうかすら定かではない努力を延々と反復し繰り返した。
 そうして完成したのが遠坂時臣という魔術師である。

――――これは、素晴らしい!

 才能こそが魔術師の全て。才能がなければ結果は伴わぬ。そういう固定観念を抱いていたケイネスにとって、時臣はその常識を打ち破るイレギュラーであった。
 その遠坂時臣をそこいらの雑魚と同列にただの敵として扱う事は許されない。
 遠坂時臣こそロード・エルメロイの経歴に燦然たる名を残す武勲となるに相応強い。彼の者以上の武勲はこの聖杯戦争にはないだろう。
 ケイネスは時臣に対して『尊敬』の念すら抱いていた。 <> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:25:37.41 ID:dGyBg+IK0<> 「最上の獲物は最後で。だけど俺からすりゃ最上の獲物が最初なんだがな。相手がセイバーとなりゃ」

「文句を言うなランサー。……それにセイバーのマスターを排除せねば、思う存分に魔術戦にも興じられん。魔術師の誇りをもたぬ下衆は掃除しなければなるまい」

「掃除とはいうが、館の掃除は俺に任せっきりだったじゃねえか?」

「黙れ馬鹿者!」

 ランサーとケイネスは二人、柳洞寺を目指す。
 しかし二人は知らない。柳洞寺が既に陥落しており、セイバーと衛宮切嗣はそこにいないことを。遠坂時臣は衛宮切嗣によって重傷を負い、言峰綺礼の手によりこの世から消されたということを。

――――そして二人が館を出たことを見ていた死神の使いの存在を。

 ケイネスもランサーも気付かぬままに館を出る。
 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに危険が迫ろうとしていた。 <> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:26:10.74 ID:dGyBg+IK0<>  ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。ケイネスの前でこそ、貴族らしい品格と、高飛車で女帝さながらの風格を見せる彼女だが実際彼女はケイネスのことを嫌っている訳ではない。ただ特に好いているわけでもないが。
 彼女は元々降霊科学部長を代々担う時計塔魔術師の名門ソフィアリ家の息女として誕生した。
 だが名門魔術師の娘とはいえ、魔道とは『天秤』のような例外を除けば一子相伝が基本である。
 ソフィアリ家を継ぐのはソラウの兄だと決まっていたので、本来ならばソラウは魔道とはなんの関係もなく生きていく筈だった。しかし時代がそれを許してはくれなかった。
 当時ソフィアリ家は深刻な権力闘争の渦中にあり、ソフィアリ学部長や後継者の兄はいつ死んでもおかしくはなかった。
 ここで問題となるのは後継者である。
 ソフィアリ学部長が死ぬのは――――言い方は悪いが、まだどうにでもなる。その後を息子が継げばいいだけなのだから。
 魔術師とは個人ではなく家という群体。後継者さえいれば頭首が死のうと問題はない。
 しかし後継者が死ぬのは大問題だ。もしも後継者を失い、ソフィアリ学部長までもが死ねば名門ソフィアリ家は没落を余儀なくされる。
 そんな状況下で所謂『保険』として魔道の教育を施されたのがソラウだ。
 ソラウには優秀な血族による優秀な魔術回路があり、魔術師としての素養ならば一級品であった。長男さえいなければ頭首にしても遜色ないほどに。
 もしも後継者である兄が死んだ場合、ソラウに魔道の力があれば後継者をソラウにすることができる。そのためソラウは幼少時から後継者ではないにもかかわらず後継者となれるだけの魔術の基礎を教えられてきた。
 だが結果的にソフィアリの兄妹は二人とも権力闘争を生き抜き魔術刻印は兄が継承することになる。そうなると次はソラウの扱いが問題となった。
 ソラウには優秀な魔術師としての素養と魔術師としての知識がある。それは基礎的なものではあるが、一度魔道を進み魔道を身に刻んでしまった以上、今更になって一般人のままというわけにはいかない。
 だがソラウの素養は確かなもの。頭首とすることは出来ないが魔術師の弟子としての魅力はあるし、男を蕩けさせる美貌、なにより新たなる優秀な魔術師を生むための胎盤としての価値もあった。
 その『商品価値』を見込まれ、以来ソラウは政略結婚の道具として扱われてきた。
 ソラウがケイネスの前で高飛車かつ尊大に高嶺の花として振る舞うのは己が『商品価値』を高めるための処世術である。
 『商品価値』として育て上げられたソラウは、そのために何事にも『情熱』を感じられなかった。
 言い寄ってくる男は数えきれないほどいたし、父の紹介で優秀な魔術師の嫡子という者にもあきれ果てるほどに会った。
 ただソラウにもそれに不満があるわけでもなかったので、ソラウはただ唯々諾々と刻まれた処世術に従い高嶺の花として振る舞ってきた。
 ケイネスとの婚約もその一貫である。否、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリという『商品』の集大成というべきかもしれない。
 ロード・エルメロイ。時計塔の若き俊英。神童、天才の名を欲しいままにしたエリート講師。
 彼の隣に座ることを一体どれほどの女が夢見た事か。
 そんなケイネスとソラウが結婚すれば、アーチボルト家とソフィアリ家の繋がりは強固のものとなり、ケイネスの才能も合わせて時計塔に一大派閥を築き上げることもできただろう。
 誰もが二人の婚約を祝福したし、ケイネスの方もソラウに心底惚れこんでおりこれ以上ない理想の結婚……のはずだった。
 だがやはり『情熱』はない。
 客観的な視点がこれほどの結婚はないと判断しながらも、ソラウの心が動かされるということはなかった。
 ケイネスに追従する形で聖杯戦争に参加してもそれは同じだった。
 何一つ変わらない。唯一心が動かされたのは冬木ハイアットホテルが爆破された際に抱いた危機感くらいで、心は冷たく冷え切ったままだ。

 このままこうして――――『情熱』をもたぬままに、ただの商品として演じていくのだとすれば。

 華やかでいて錆びていて。幸せのようでいて不幸せで。全てを持っているように見えて何も持っていなくて。

 それは―――――とても退屈だ。 <> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:27:01.78 ID:dGyBg+IK0<> 「誰っ!」

 だがそういう思考に浸っていられる時間は、冷酷にも終わりを告げた。
 館の中に誰かがいる。自分以外の誰かが。
 ケイネスとランサーというのは有り得ない。二人はつい先ほど出て行ったばかりだ。敵を倒したにしても帰りが早すぎる。

(まさか――――侵入者!?)

 けれど有り得るのだろうか。この双子館には想像を絶する魔術的トラップが張り巡らされている。
 ケイネス・エルメロイの魔術師としての才覚とランサーのルーン魔術。この二つが不規則なようでいて規則的に組み合わさった館は正に鉄壁の城だ。
 突破できる魔術師などいる筈もない。となればこの襲撃者というのは。

「貴女がソラウ・ヌァザレ・ソフィアリか。恨んでくれて構いません。令呪の約定に従い貴女を捕える」

 窓の差し込む月光に照らされその面貌が露わになる。
 月明かりに濡れた金色の髪。深い緑色の瞳。女でありながら溜息を漏らしてしまいそうでいて――――空気そのものが凛と澄み切ったようにすら感じられた。
 ソラウは知っている。セイバーのクラスは三騎士でも随一の対魔力をもつと。魔術師では勝ち目などないと。
 であればケイネスの罠もランサーのルーンも、一切合財が無意味なのは当たり前であった。
 逃げ出す間すらありはしない。ラインを通してケイネスとランサーに助けを求める間すらなかった。
 セイバーは瞬時にソラウの前に迫ると、訳が分からない内にその意識を奪い取った。
<> 第33話 師弟遭遇<>saga<>2013/01/21(月) 22:28:17.04 ID:dGyBg+IK0<> 「…………………」

「なー、元気出せよケイネス。そう落ち込むなって」

 柳洞寺に行ったはずのケイネスはとぼとぼと帰路についていた。ランサーがそんなケイネスを苦笑しながら励ます。
 どうして柳洞寺に挑んだケイネスがこうしてとんぼ返りしているかというと、それはもう柳洞寺が蛻の殻だったという事に尽きる。
 サーヴァントの気配は残っていた。戦闘の痕跡もあった。しかしセイバーと衛宮切嗣どころか、寺には人っ子一人としていなかった。
 恐らくはケイネスが来る前にセイバーと衛宮切嗣が敗れたか、それとも衛宮切嗣が拠点を変えるなどしたのだろう。
 結果的にケイネスはソラウに意気揚々と勝利宣言しておきながら空振りしたわけで、気が落ち込むのも無理はなかった。
 
「貴様はただそうやっておちゃらけていれば良いのだろうがな。ソラウにあれほど言われておきながら今日の失態。誰一人サーヴァントもマスターも討ち取ることなく帰ったらソラウがどんな顔をするか……」

「怒るんじゃねえか?」

「他人事のように言うな!」

 ランサーの指摘が的確そのものだったのもあり、ケイネスは青筋をたてながら叱責する。

「今日は敵の首級を持って帰るまで帰還しない、とか言っちまったしねえ。これで手ぶらで帰ったら、んま男としては情けないわな」

「……ッ」

 男として情けない→ソラウが見損なう→ソラウがソフィアリ学部長に言い付ける→学部長失望→婚約解消→破滅。
 瞬時に頭の中でそんな展開が想像されケイネスは青い顔をした。
 ソラウとの婚約が解消されようとケイネスの魔術師としての人生は破滅しないのだが、ケイネスにとってソラウと別れるということは破滅同然なのである。

「こうなればセイバーでなくともいい。キャスターでもバーサーカーでもライダーでも何でもいい。今すぐにサーヴァントかマスターを見つけ出し倒すぞ」

「無茶言うなよ。まだどいつの居場所も分かってねえじゃねえか。それとも遠坂時臣のとこ行くか?」

「彼奴は最後だ。そこは曲げん」

「マスターも頑固だねえ。んじゃ間桐ってとこでも狙うか? アインツベルンがセイバーなら、残る御三家は間桐だけだろ」

「……それしか、ないか」

 間桐。御三家のマスターなので居場所は遠坂同様掴めている。
 アインツベルンに雇われた衛宮切嗣のように拠点を変えているということもありえるが……それは行ってみれば分かることだ。
 バーサーカーはとっくに脱落し、間桐雁夜もとっくに死んでいることを知らないケイネスは間桐へ行こうとして。

「マスター、噂をすればなんとやらだ。ご客人だぜ」

 ランサーが鋭く声をかける。ケイネスがその視線を追えば夜の闇に紛れて黒い影が一つ。
 ケイネスはあのサーヴァントを見た事がある。他ならぬ遠坂の屋敷で。時臣とケイネスが戦いをやめる遠因ともなったサーヴァントである。

「……奴か。こちらを伺って……誘っているのか?」

「そのようだ。仕掛けてくる気はねえみてえだし。誘いにのるのも一興じゃねえか。念願のサーヴァントがあっちから来たんだし」

 ライダーは挑発するようにケイネスを見ると、そのまま追跡可能な速度で二人から離れていく。

「これは幸先が良い。私がロード・エルメロイだと知って挑んでいるのかは知らぬが、その挑戦を受けようではないか。ランサー」

「おうよ」

 ランサーの肩につかまり、夜の街をかける。
 辿り着いたのは未遠川の側だった。この辺りは娯楽施設もないので夜になれば人気もない。
 サーヴァントが戦うのにはピッタリだ。

「ほう。まさか君がこの聖杯戦争に参加しているとはね」

 サーヴァントの隣に並ぶ敵マスターの姿を見咎めたケイネスは鼻を鳴らす。
 
「え? ウェイバーくん」

 そう。その敵マスターはケイネスの教え子であるウェイバー・ベルベットだったのだ。

「……ケイネス先生」

 ウェイバーもまたケイネスの名を呟く。
 才能や血統もなにもかもが真逆の師弟がぶつかり合おうとしていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/21(月) 22:49:42.68 ID:dGyBg+IK0<> 今日はこれまで
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/21(月) 22:59:18.70 ID:f5RfsIbn0<> あーあケイネス先生原作と違ってキリツグ警戒してたのに何でソウラを残したまま出かけたかな、乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/21(月) 23:56:48.88 ID:vJ57gccO0<> ちょっと先生の口調がおかしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 00:01:05.42 ID:gADaAHYvo<> 乙でした
先生が原作から変わっていってるな、いい意味で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 00:16:59.81 ID:75ZILjS/o<> 他のメンツが凶悪だから、この二人には手を組んでもらいたいところ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 15:06:17.64 ID:qjtLCPSAO<> セイバーの能力を計算に入れてなかったのか、先生 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 18:44:20.88 ID:p+RPrWdF0<> うっかりがこんなところまで伝染したか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 18:49:51.68 ID:ulKTJGDV0<> >>623

ケイネス先生は魔術工房を信頼してるからな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/22(火) 19:33:54.86 ID:GB+2Q5t0o<> 折角神殿レベルの凄い工房作ったんだから先生も優雅に穴熊してれば良かったのにな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/23(水) 18:41:10.39 ID:eFd4rCMU0<> これはどっちかの脱落来るか? <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/24(木) 21:37:30.86 ID:yYDc1nMN0<> >>623
 警戒したから過剰な工房を構築したんですが、役には立ちませんでしたね。

>>624
 ハイになってましたから。

>>627
 セイバーの対魔力は他のセイバークラスとは隔絶してますからね。

>>630
 穴熊していたらソラウの評価が下がってしまいますから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 21:43:18.30 ID:EfizvQRP0<> 乙女げーの奴見ましたよー
なかなかにココロ来る奴でした <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/24(木) 21:59:16.75 ID:yYDc1nMN0<> >>633
 あれはあくまでジョークなので続きをつくる予定はありませんがw <> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:00:40.58 ID:yYDc1nMN0<>  時計塔で偶然にもライダーの触媒を発見できたことといい、つくづく自分は運に恵まれていると思う。
 思い立ったが吉日とばかりにライダーに師であるケイネスの居場所を調べさせてみれば、その日の夜にケイネスとそのサーヴァント・ランサーを発見できたのだ。これを僥倖といわず何というのか。

「ほう。まさか君がこの聖杯戦争に参加しているとはね。ウェイバーくん」

 ケイネスはウェイバーが聖杯戦争に参加していることに面食らっている様子だが、そこに純粋な驚きはあっても『恐怖』は微塵もなかった。
 ウェイバー・ベルベットなどとるに足らないと……そう高をくくっているのだろう。
 少し前のウェイバーならそのことに内心で怒りを燃やし、されど外に出すこともできずに黙り込んでいたかもしれない。
 しかし不思議とウェイバーは『それも仕方ないことだ』と客観的に事実を受け止めることができた。
 自分の魔術師としての技量がおざなりであり、ケイネスは魔術師として紛れもない天才だ。己とケイネスにはプランクトンと哺乳類ほどの差が横たわっている。
 
「……ケイネス先生」

 恐怖はある。なにせ相手はロード・エルメロイ。時計塔きっての神童だ。
 所詮は凡百に埋もれた凡人……否、時計塔において凡人未満の魔術師であるウェイバーではロード・エルメロイと正面から戦っては万に一つの勝ち目もない。
 だがその恐怖にウェイバーは打ち勝った。
 一度実戦を経験したからというのもあるし、ケイネスを超える威圧をもっていた衛宮切嗣と相対したからというのもある。
 なにより傍にいるライダーの存在がウェイバーに勇気を与えてくれていた。

「あぁ? 先生だ? ケイネス、まさかこの小僧とは師弟の間柄なのか?」

 真紅の魔槍をもった青い騎士がケイネスに問い掛ける。
 やけにフランクな口調だ。ライダーとは大違いである。しかしケイネスはそのことを咎める様子はなく頷いた。

「そうだ。時計塔での教え子の一人だよ。ウェイバー・ベルベット……伝統もなければ才能もない。私の教え子の中でも一際凡庸で凡俗で目のない弟子だったよ。それが身の程も弁えずに聖杯戦争のマスターだ。ふむふむ。曲がりなりにもサーヴァントの召喚させたのであれば降霊術の分野においてはほんの僅かに評価できる成果をあげたのかもしれんがねぇ」

「……ま、見たところ才能はなさそうだわな。魔力の波長も弱ぇし」

 ランサーはケイネスの言葉に頷く。ルーン魔術師であるランサーだ。ウェイバーの魔術師としての才能を見抜く程度は訳もないことである。
 しかしランサーとケイネスでは大きな差異がある。ケイネスがウェイバーのことを格下と舐めきっているのに対してランサーの方には油断がないということだ。
<> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:01:14.33 ID:yYDc1nMN0<> 「けれどウェイバーくん。サーヴァントを召喚したのは良いが、この私に対して挑発行為を行うとは……それは蛮勇だ。マスターになったことで君如き三流魔術師がこの私に勝てるのだと、ほんのちょっぴりとでも考えているのだとすれば。それは自惚れだ」

「……じゃない」

「ん?」

 ウェイバーの小さく漏らした声にケイネスが反応する。
 そんなケイネスにウェイバーは精一杯に声を張り上げた。

「自惚れじゃない! 僕は……僕に才能がないことなんて知ってるし、僕の家なんて三代だけの新米だ。ましてや僕一人で先生に勝てるなんて思ってない!」

「ほほう。自らの部を弁えているのは感心するがね。ならばどうして私をここに呼び出したのかな。自らの不才を悟って私に降伏でもする気になったのか、私に取り入り聖杯のお零れに預かりたいということろかね」

「違う。僕は先生に勝つ為にライダーに頼んで先生をここに誘い込んだんだ。…………この誰もいない場所に」

「私に勝つ? ははははっ! 気でも狂ったのかね。君自身が先程私には勝てぬと発言したばかりで意見を翻すとは!」

「狂ってなんかない! 僕一人なら先生に勝てないけど僕にはライダーがいる。勝てるなんて言わない。でも―――――貴方という壁に命懸けでぶつかって初めて僕は漸く自分にちょっとは自信がもてるようになるんだ!!」

 今の今まで沈黙を貫いているライダーだったが、なんとなくウェイバーには彼女が自分を応援してくれている気がした。
 震えはない。武者震いもない。
 命が研ぎ澄まされていく。この戦場にあって不思議なほどウェイバーの頭は冷え切っていた。

「……おい、ケイネス。これはちっとばかし気合入れた方がいいかもしれんぞ」

 ランサーが興味深そうにウェイバーを観察しながら忠言した。

「貴様、なにを戯言を。遠坂時臣ならまだしも、彼のような未熟者に対して気合を入れる? そんな価値がどこにある?」

「俺の勘だ。こいつは経験則なんだがな。この小僧みてえな面構えした野郎は有名無名、天才無才に拘わらず仕留めるに手間取ったもんだぜ。普通なら槍の一振りで死んでいるはずの兵士が何故だか立ち上がったこともあったし、心臓を貫かれても動いて襲い掛かって来た野郎もいた。信じられねえだろうが、そいつらは伝説にも伝承にも名前を残してねえただの兵士だ。この小僧も『そう』なのかもしれねえ」

「眉唾もいいところだ。根性論とは古の英霊が持ちだしそうな幻想じゃないか。ランサーそれにウェイバーくん。忘れてるなら教えるがね。精神などという不確定な要素が魔術に作用することなどはないのだよ。それでも挑むというのであれば仕方ない。君には私自ら特別授業をしてあげよう。その幸運に歓喜したまえ」

「ライダー」

「はい」

 ウェイバーは小さくライダーに合図をした。
 啖呵をきったウェイバーだったがケイネスと戦っては確実に負けることなど承知している。ライダーとの視界共有で見たケイネスと時臣の魔術戦。あんなものをやる力はウェイバーにはない。
 だからこそウェイバーがケイネスに勝つにはライダーの力を必須。
 ウェイバーの見る限りライダーとランサーの力は五分五分。しかし魔力供給が潤沢の分、ランサーの方が優位だ。ならばまずその優位性を潰す。
<> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:01:44.67 ID:yYDc1nMN0<> 「ライダー、令呪をもって命じる。この戦いに絶対に勝て!」

「了解しました。ウェイバー」

 令呪というのは単一の命令であればあるほどに効力は高まる。その観点からいってウェイバーの使った令呪は中間だ。
 この戦いに勝てという単純かつ単一の命令。されど一動作で完結するほど短くもない命令。ならば魔力供給不足により若干落ちたステータスをこの一戦においてのみ万全の状態にもっていくことも可能となる。

「まともに戦っても勝てぬと知り令呪で強化を測ったか! だがウェイバーくん、君は初歩的な戦術ミスを既にしているのだよ! 君が選んだここは人気はないが平地。平地であれば白兵戦特化の我がサーヴァント、ランサーの独壇場! やれランサー! 身の程知らずの弟子に現実を知らしめよ!」

「あいよ」

 ランサーが槍を構え向かってくる。
 しかしウェイバーとて敢えてこの平地を戦場に選んだのには理由がある。たしかに平地は槍兵にとっては最適の戦場だ。そして三次元での変則的な動きを活かした戦法を得意とするライダーにとってこの平地は不得手な戦場でもある。
 ただそれはライダーが普通に戦った場合の話だ。
 ここは既に普通ではない。ライダーのための異界を構築する準備は整っている。

「パート1だ。やれライダー!」

 ライダーは頷き、ケイネスと戦うために用意しておいたものを発動させた。
 公園中を覆い尽すドーム状の結界。優れた結界の第一条件である『張られたことが気付かれない』を度外視した強力無比な結界はライダーの三番目の宝具である。
 結界により空気までが紅く染まった鮮血の神殿。
 吸血鬼ではない吸血種であるメドゥーサが効率よく血を摂取するためのものであり、中に入った人間は融解し血液の形で魔力へと還元、ライダーが吸収する。ドーム状のそれはまるで巨大な眼球に取り込まれたようであった。
 これが対軍宝具。他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)
 ウェイバーは発動するにあたり細心の注意を払っていたから一般人を巻き込んでいるという可能性はない。だがもしこれを街中で発動していれば、平和な街は一瞬にして地獄絵図となるだろう。
 
「これは!」

 ケイネスの表情が歪む。幾らケイネスが優れた魔術師であり上等な魔術回路をもっていようと、発動したのは神代の魔物が扱う結界だ。
 普通の人間と違い即座に気絶なんてことにはならないだろうが、自分から魔力がライダーに奪われていっていることは分かるだろう。
 この中にいて影響がないのは結界の発動者であるライダーと、ライダーと契約で繋がっているウェイバーだけだ。
 だがこれだけでは終わらせない。

「パート2だ!」

 再びライダーに指示を飛ばす。
 するとライダーは迷いなく己が魔眼を解放させた。

「自己封印・暗黒神殿(ブレイカー・ゴルゴン)!」

「なっ!」

 眼帯が解け露わになるライダーの宝石の瞳。
 ギリシャ神話に名高き数ある魔眼でも最も有名なものの一つ、石化の魔眼――――キュベレイである。
 この魔眼自体がライダーの宝具という訳ではないが、その知名度を考えれば英霊メドゥーサの象徴とすらいっていいだろう。
 魔眼の眼光をモロに浴びたケイネスとランサーはダイレクトに魔眼の効果を受ける。魔力のランクがBのランサーだが持ち前の運の悪さのせいか、進行速度こそ遅いものの肌が石化を始めていた。
 一流とはいえサーヴァントではない魔術師であるケイネスもそれから逃れられる筈もなく、身体が石化し始めていた。

「人を融解させ魔力を奪う結界に石化の魔術……いいや魔眼!? まさかメドゥーサをサーヴァントとして召喚するとは。だがまだだ! ランサー!」

「おうよ」

 ランサーがケイネスの指示に従い空中にルーンを描く。するとランサーとケイネスの石化の進行がストップした。
 ウェイバーも何度か見た事がある。ランサーの使用したのはルーン魔術だ。しかしライダーの石化の魔眼を防御するほどのルーン魔術。もしやあの槍兵はキャスターにも該当するのではなかろうか。
 しかし石化効果こそ防げただろうがランクを落とす重圧はかけられる。その隙にライダーは準備を終えていた。

「これがパート3だ」

 鮮血が地面を染めている。これはライダーの血だ。だが別に敵からの攻撃を受けたのではない。
 ライダーは自らの短剣で自らの首を突き刺しているのだ。

――――神話によれば。
 
 ペルセウスの切り落としたメドゥーサの首からは一頭の天馬が誕生したという。
 その天馬こそが現代においても多くのお伽噺にも登場するペガサスである。
<> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:02:23.90 ID:yYDc1nMN0<> 「ウェイバー、捕まって!」

 反射的に頷くとウェイバーはライダーが召喚したソレに飛び乗る。しかし掴む場所がなかったので、仕方なくライダーの体にしがみ付く。……戦闘中でありながら少し緊張したのは秘密だ。
 召喚された天馬は目にも留まらぬ速度で空中へと上昇していく。ランサーは優れた動体視力でその光を見る事ができたようだが飛行宝具をもたぬランサーには天馬を追う術はない。

「はは、はははははははっ!! こりゃ驚いたぜ! 真っ当な英霊じゃねえとは思っていたが石化の魔眼の次は天馬ときたか。いいぜ。こちとら魔獣退治はお手の物ってね。ケイネス、お前はちょいと下がってな。お前も空にいるペガサスを撃ち落とすような魔術は使えんだろ」

「チッ。止むを得んか。断じて不覚をとるなよランサー」

 ケイネスも流石にペガサスには勝てぬとまでは思っていなかったようでランサーの諫言に従い退いた。
 ランサーの判断は正解である。
 本来ならば天馬はそれほど優れた魔獣ではない。サーヴァントを前にすれば遥か格下の幻想である。
 だがライダーのペガサスは別格だ。数百年の歳月を生きた神代の天馬は幻想種でも最上位とされる龍種にすら比肩するだろう。

「しっかり捕まっていて下さい。少し荒っぽいですよ」

 そうウェイバーに言ってから、ライダーは己が愛馬に命じて急降下させる。天から落ちる流星のようだ。天馬は一筋の光となってランサーへと襲い掛かる。
 音速に迫る……否、同等以上の巨大質量の突進である。ダンブカーの追突など比ではない。言うなれば戦闘機の特攻にも等しい破壊力だ。

「はん――――っ!」

 が、ランサーとて数多くの戦場を己が身一つで駆け抜けてきた英霊中の英霊。アイルランドにその名を轟かせし大英雄である。
 超音速の突進とはいえ稀代の槍使いはどうにか回避してみせた。
 
「まだです」

 そう一度躱されたくらいでは終わらない。一度回避されたといってもペガサスは死んではいないのだ。空中に戻り再びランサーの居る場所をロックオンすると二度目の突進を仕掛けた。
 次はさっき以上の速度で。ランサーが回避することを前提とした突進。もしランサーが馬鹿正直に回避行動をとれば今度こそは仕留められるように。
 しかしランサーもさるもの。ランサーはルーン魔術で己が四肢を強化して一時的に身体能力をブーストすると、ペガサスの突進を左に躱して。

「はぁぁぁぁ―――――ッ!!」

 横から天馬の額目掛けて真紅の魔槍を放った。超音速のペガサスへとジャストのタイミングで放たれた刺突。ライダーは咄嗟に忍ばせていた短剣を槍の切っ先にあて軌道を逸らした。
 槍はペガサスの頭部を霞めたが、掠っただけでペガサスほどの神秘を破壊できるはずもなく。

「ぐっ!」

 逆にランサーの方が突進の余波によりその体を吹っ飛ばされた。
 空中で体を回せながらも体勢を整えて着地したランサーは苦渋と驚嘆が入り混じった視線を眼上へと向ける。

「……埒が明かんな。これは」

 石化の魔眼はランサーがルーンによって防御しているが、完全に防御しきてているわけではない。
 それにライダーの鮮血神殿は刻一刻とランサーとケイネスの魔力を奪っていっているのだ。このまま戦いが長引けばライダーは有利となり、ランサーが不利となる。
 せめて鮮血神殿だけでも破壊しなければ。 <> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:03:29.35 ID:yYDc1nMN0<> 「ランサー! あれを攻撃しろ!」

「――――――!」

 ランサーは失念していた。己以外の戦力を。
 ケイネスはドーム状の結界のある一点を指差していた。ランサーがそこを凝視すれば他とは違う歪があった。
 家にしろなんにしろ土台がなければ完成はしない。結界も同じだ。結界を維持する中心、基点が必ずどこかにあるものだ。
 あれを破壊すれば鮮血神殿が解けるかもしれない。

「させません」

 だがそれをライダーが安々と許すはずもない。
 鮮血神殿を破壊しようとすればライダーは無防備なケイネスを狙い、かといって鮮血神殿の破壊を諦めたとしてもジリ貧。

「面白ぇ! 荒っぽいのは馬だけじゃねえぞライダー!」

「ら、ランサー!?」

 意見も聞かずランサーは強引にケイネスの首根っこを掴んで背負った。
 ケイネスがなにやら騒いでいるが無視だ。話している時間も惜しい。
 天馬がランサーの跳躍を遮らんと迫る。だがそれよりも早くランサーはルーンで即席の足場を生み出すと、一気に基点のある場所まで飛んだ。

「押し通すぜ!」

 真紅の魔槍が神殿の基点に巨大な穴をぶち空ける。
 すると皹の入ったダムのように鮮血神殿のあちこちに亀裂が奔り、天馬がぶわりと地面すれすれに停止した瞬間に幻想のように砕け散った。
 だがライダーは鮮血神殿が破壊されたことを気にも留めず天馬でランサーに突進してきた。

「ちっ!」

 ランサーは舌打ちする。幾ら太陽神ルーの子であろうろランサーには飛行能力などない。空中で自在に回避行動はできないのだ。
 ルーンの足場を使い空中での跳躍を実現しようとするが――――間に合うか。

「月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)ッ!」

 ライダーの天馬がランサーを蹂躙するよりも早く、ランサーがルーンを描き終わるよりも素早くケイネスが己の礼装を発動させた。
 まさかライダーやランサーと同時に動いての成果ではないだろう。ケイネスはこうなることを予測し事前に礼装の準備を整えていたのだ。
 ヴォールメン・ハイドログラムの水銀は紐のようにランサーの足に絡みつき、ゴムのように伸びて地面に突き刺さっている。その水銀を一気に縮めればどうなるか。
 結果はこの通り。
 ランサーとケイネスは水銀の力で地面に引っ張られ天馬の突進を回避した。

「御手柄だぜケイネス」

「貴様の独断で行動するなら回避くらい考えておけ」

 同時にランサーは歴戦の戦士の本能で悟る。
 並みの攻撃ではペガサスを倒せない。ならば並みではない攻撃をするしかないだろう。
 ランサーは己が魔槍に大気中の魔力を集め始めた。
 その様子をペガサスにライダーと共に騎乗していたウェイバーも目撃した。

「ライダー、決めるぞ」

 ウェイバーは覚悟を秘め腕に刻まれた令呪に魔力を込める。
 鮮血神殿が破壊された今状況はややケイネスとランサーに傾いた。鮮血神殿があったからこそ持久戦になればウェイバーとライダーの有利だったが、それがなくなった今、持久戦は魔力においてウェイバーを上回るケイネス側の有利に働く。
 天馬の力もあり宝具なしの戦いで今はライダーが優勢だが、サーヴァント同士の戦いにおいてそんなものは前哨戦に過ぎない。サーヴァントの真価とは宝具。つまり互いが宝具を使用したその時こそが真の勝負なのだ。

「任せてくださいウェイバー。私の宝具は誰にも負けません」

 ライダーが黄金の鞭と手綱を手から出現させた。この黄金の手綱こそがライダーがライダーたる所以。
 単体ではなんの役にも立たないが、あらゆる乗り物を御しその力を上昇させる効果をもつ。
 そもそもペガサスとは心優しく争いをこのまない生き物だ。龍種としての力をもちながらも、その優しさにより本来の力を出し切れないのだ。だがライダーの『宝具』を使えばその限りではない。
 
「…………」

 その力の真価を晒し、更にステータスを上昇させたペガサス。
 ランサーはその力の程を想像し苦い顔をした。ランサーは愚かではない。自分の魔槍を対軍宝具として使用しルーン魔術により強化したとしてもライダーの宝具と正面からぶつかり合えば勝てないという予感があった。
 故にランサーは力に対して力で受けはしない。対軍宝具を使うライダーに対して、ランサーは対人の構えをとった。

「令呪をもって命じる。ライダー! 宝具でランサーを倒せ!!」

 ウェイバーの手から二画目の令呪が失われた。最初のものとは違い一つの動作に集約された単純明快にして単一の命令。
 それは確かにライダーの宝具に力を与えた。
 この聖杯戦争で初めて開帳するライダーの宝具。
 強力な宝具をもつライダーのクラスに相応強い一撃必殺の対軍宝具が解放される。 <> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:03:58.89 ID:yYDc1nMN0<> 「―――――騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」

 限界を取っ払い時速500kmの速度でペガサスがランサーに突撃していく。
 もはや流星のような、ではなく流星そのものだ。眩い白い流星が幻想的な光を放ちながらただ一人の敵兵を討ち滅ぼすために堕ちていく。
 それを合図にランサーもまた構えた。対軍宝具のゲイボルクのためではない。
 ランサーの槍ではライダーの天馬には勝てない。これは令呪によるバックアップを受けようと動かしようのないことである。
 
「刺し穿つ(ゲイ)」

 故にランサーが狙うのは『天馬』ではなく騎乗手であるライダーのみだ。
 騎英の手綱がどのような宝具であれ、ペガサスによる突進がどれだけの威力だとはいえ。ライダーの天馬にはランサーのゲイボルクのような因果逆転の呪いはありはしない。
 騎乗手であるライダーを倒してしまえば騎英の手綱は無力化できる。
 それは完全にギャンブルだ。しかも分が悪い。時速500kmの天馬の攻撃を避けて、そこに乗るライダーの心臓を穿つ。そんな神業、英霊と呼ばれる槍兵でも不可能だ。槍の英霊にあって三本の指に入るクーフーリンをもっても出来るかどうか。しかしやらなければならない。やらなければ死ぬ。ランサーが生き残るにはそうするしかないのだ。
 天馬が目の前に迫る。ランサーは身体をしならせ騎乗手へと狙いを定めた。

(やべ。駄目だな、こりゃ)

 勝負が終わる寸前、ランサーは悟ってしまった。自分の敗北を。
 ライダーの天馬はランサー諸共ゲイボルクを木端微塵に破壊するだろう。これは必至だ。
 ここにきてランサーとライダーの幸運値の差が出たのかもしれない。ライダーの幸運はA+でありランサーはE。ギャンブルならばライダーが勝つのは目に見えている。なにせライダーには令呪によるサポートまであったのだから。

――――故に奇跡があるとすればここからだ。

「ランサー! 宝具をもってライダーの心臓を破壊せよ!」

 あれほどウェイバー・ベルベットを舐めきり、自らの勝利を疑わなかったケイネスが令呪をもってランサーをサポートしたのである。
 ケイネスの魔力量はその才能に相応しく並はずれている。よって令呪の効力もウェイバーの令呪以上の効果を発揮した。
 必至であった敗北の運命を、この戦いにて築き上げた魔術師と槍兵の絆が打ち砕く。

「死棘の槍(ボルク)!!」

 赤い魔槍が英霊メドゥーサの心臓を穿った。騎乗手を穿たれた天馬は体勢を崩し地面へと叩きつけられる。
 龍種に迫る神秘を内蔵する天馬が地面に叩きつけられた程度で死ぬはずがない。だが心臓を穿たれたライダーと、共に天馬にのっていたウェイバーはそうではなかろう。
 ランサーは死んだか、と確認のため目をやると。
 
「まだ……ここでは……!」

 驚いた事にライダーはまだ死んでいなかった。
 心臓を貫かれ血を吐きながらもライダーにはまだ息があったのだ。そしてマスターであるウェイバーをその両手に抱えている。
 あの刹那でライダーはマスターの身をも助け出していたのだろう。 
 が、もはやライダーにランサーと戦うだけの余力など残っていない。
 ライダーはランサーとの交戦を諦めると、ペガサスを操り最高速度で空中へと上昇していく。
 天馬が再びこちらへ向かってくる様子はない。逃げたのだろう。

「おいランサー! なにをしている! 速く追わぬか!」

「いやその必要はねえよ」

 自分で突きだした魔槍だ。誰よりもランサーが分かる。

「幸運値の影響だろうな。心臓を一撃で破壊ってわけにはいかなかったが……あの傷は致命傷だ。即死じゃなかったが死は免れん。追わなくても直に消える」

 ランサーの冷酷なる断定は冷たい夜に溶けていった。
 じわりとランサーの腕には嫌な感触が残っている。幾ら魔物とはいえやはり女を殺すのは好きではなかった。
<> 第34話 形なき夜明け、最愛のメドゥーサと共に<>saga<>2013/01/24(木) 22:06:08.20 ID:yYDc1nMN0<>  ウェイバーの目の前には血濡れのライダーが横たわっている。
 ランサーの言う通り因果逆転の魔槍は高い幸運値のおかげでライダーの心臓を僅かに逸れて命中した。そしてライダーが致命傷を受けたのも事実だった。
 刻一刻と薄れていくライダーの体。現実感が希薄となっていく。
 これから彼女はこの世からいなくなるんだ、と否応なく吐きつけられる。

「ライダー! ごめん……やっぱり僕がもっと魔術師の才能さえあれば……こうはならなかったのに!」

 見栄も外聞もなく涙を瞳に溜めながらライダーに泣き縋る。
 最後の一瞬。もしもウェイバー・ベルベットにケイネスの足元に及ぶくらいの才能さえあれば、ケイネスが令呪でランサーをバックアップしようと騎英の手綱でランサーを倒すことができただろう。
 だがやはり、ウェイバーはウェイバーだった。
 最後の最期で才能という石に躓いて転んだのだ。

「悲しまないで下さい。……いいえ、自分を卑下しないで下さい」

 ライダーが優しくウェイバーの頬を撫でる。

「……ずっと形なき島に閉じこもっていた私には分かりませんが……いえ、貴方は命を懸けて己の才能という壁にぶつかったのです。ずっと形なき島での平穏を甘受し現状を変えようとしてこなかった私より……貴方はずっと立派ですウェイバー。貴方は立派に戦ったのです」

「そんなことない! 僕だけじゃ、とてもケイネス先生と戦うなんて出来なかった!」

 この聖杯戦争、何度ライダーに助けられたことか。もし召喚したのがライダーでなければ自分なんて早々に脱落していたかもしれない。

「だから、僕はもっとお前と――――」

「ふふふ。いいのですよ、心も在り方も失い魔物として死んだ私には過ぎた終わりです。こうして誰かに看取られて逝くなど……まるで私が本当の英霊のようではありませんか」

「何言ってるんだよ! メドゥーサ! お前は紛れもない英霊(人間)だ! お前が化物だったなら僕を守ろうとなんかするもんか! 誰が認めなくても、僕にとってライダーは他の奴等なんて目じゃない程の最高の英霊だ!」

「――――人間、ですか。いえ、お礼を言うのはこちらの方です。貴方と過ごした十日間、まるで幸せだったあの頃に戻れたかのようでした。私は貴方に召喚されて良かった」

 そう言ってライダーは妖艶さなどない心からの天真爛漫な笑顔を浮かべて。ウェイバーの口に自らの口を合わせた。
 深いものではなく接触するだけの接吻。そうして陽炎のように英霊メドゥーサは消えていった。

「……なにが、僕に召喚されて良かっただよ。この馬鹿」

 それを言うのは自分の方だ。
 メドゥーサという英霊を召喚したこと。そのことがウェイバー・ベルベットにとって最上の幸運だったのだと、ライダーを失って初めて自覚した。
 涙を拭い顔を上げる。
 胸には悔しさはあったが後悔はない。自分は出来る限りのことをやった。自分の意志で命を懸けてケイネス・エルメロイという壁にぶつかっていったのだ。
 敗北の悔しさはあれど、どこか晴れ晴れとした気持ちだった。
 ウェイバー・ベルベットの聖杯戦争はここに終結する。だがそれは彼の人生の終結を意味しない。
 最高の従者であり初恋の女性を思い出として胸に刻み、ウェイバーは歩きだす。
 明日を目指して。


【ウェイバー・ベルベット 脱落】
【ライダー 脱落】
【残りサーヴァント:4騎】
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 22:08:47.44 ID:yYDc1nMN0<>  今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 22:31:39.81 ID:Wd8UEZsro<> おつー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 22:41:37.56 ID:qpIcoUQw0<> 乙でした、確かにライダーは勝てませんでしたが最後まで最高の主従関係だったと思います、セイバールートで負けた
時よりもずっと満足して行ったでしょう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 22:46:16.84 ID:hNjRePCAO<> まあランサー対ライダーはランサーかなり有利って言われている上に
マスターの質、魔翌力供給量も圧倒してるし
妥当な結果ですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 23:20:26.77 ID:I0llMsgO0<> ライダーが死んだ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 23:27:19.99 ID:u3AAg29qo<> この人でなし! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/24(木) 23:54:50.06 ID:Qt8NCzLpo<> 乙
いい師弟の真っ向勝負だった… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/25(金) 00:18:34.60 ID:U9y3yDUT0<> 乙 
さらばライダー、君の勇士は忘れない
そしてこれから先生の地獄が始まる.... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/25(金) 21:57:20.54 ID:jqrZH3Vxo<> 乙
ライダー主従が原作にも負けないくらい良かった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/25(金) 22:16:25.94 ID:+Zyhho8Qo<> 先生がピンチになっても兄貴だと安心だな
ディルみたいにしくじらないで自害させられながらも原作のイケメンっぷりを見せつけてくれるだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 16:59:17.49 ID:g9+p3qnho<> 乙
時臣に続いてケイネスも真っ当な魔術師してて胸が熱いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 13:02:47.31 ID:AZJAiXUSO<> 兄貴が味方の鴇のこの安心感 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 19:15:54.86 ID:cSBG+ugJo<> 「とき」って打って「鴇」が出るって直前にどんな変換してたらそうなるんだ…… <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/27(日) 22:03:26.76 ID:CxUw9Yjl0<> >>644
 セイバールートではまぁ派手に散ることができたのでまだ救いはありますが、UBWルートだといつのまにか死亡してたという酷い扱いでしたからね。

>>645
 ケイネスが最終的に勝利したのはランサーに魔獣退治の逸話があったことと、魔力の差です。

>>648
 師弟関係の因縁はこれで完結です。

>>651
 さてどうなることやら。

>>652
 ケイネスは今回いいアシストをしてました。 <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:04:43.58 ID:CxUw9Yjl0<>  遡ること数時間前。舞弥は切嗣の指示でセイバーを双子館から200m離れたポイントF6へと呼び出していた。
 遠坂時臣との戦いで破損した装備の破棄と入れ替えを済ませた切嗣が少し遅れて合流する。
 舞弥は簡潔に切嗣のたてた『計画』をセイバーに伝えた。

「ロード・エルメロイとランサーは先程拠点である双子館を出ました。館には今、婚約者のソラウだけがいます」

 切嗣は聖杯戦争のためにマスターのプライベート情報や経歴を洗い出している。
 だからこそ間桐雁夜が遠坂葵に対して浅はかならぬ感情を抱いていた事も承知していたし、ケイネス・エルメロイがソラウに惚れこんでいることも熟知していた。
 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリはケイネスと二人で一つのマスターであるとはいえ令呪はない。戦闘力もない。
 襲撃者に対して令呪でランサーを呼び出すなんて出来はしないし、魔術で応戦することもできない。
 ケイネスにとって最大のウィークポイントといって良かった。
 そして敵の弱点は徹底的につくのが衛宮切嗣のやり方である。
 遠坂時臣のウィークポイントであった遠坂葵と遠坂凛は頭の切れるブレーンでもいたのか倫敦へ逃がされていて手出しできなかったが、ソラウはこの冬木市にいる。狙わない理由はどこにもなかった。

「しかしロード・エルメロイとランサーが留守でも館にはルーン魔術師であるランサーとロード・エルメロイが構築した幾重にも渡るトラップがあるでしょう。ロード・エルメロイのものだけならまだしも、ランサーのルーンは我々現代の魔術師にとっては抗いがたい代物です。切嗣でも突破するのにかなりの時間を要する」

 魔術を学問ではなく武器として。極めるためでなく手段として扱う切嗣は並みの結界崩しを遥かに凌ぐスピードで『結界』を突破することが可能だ。
 しかし所詮は切嗣も現代の魔術師。相手がサーヴァントの敷いた結界ともなると一筋縄ではいかない。

「ですがセイバー、貴女の対魔力スキルであればランサーのルーンは怖れるに足らないでしょう。貴女は双子館に突入し素早くソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを確保して下さい。その後、ポイントC3で切嗣と合流。切嗣の護衛をして下さい」

 お願いするように舞弥は言うが実質命令に近かった。
 セイバーは一度だけ目を瞑ると、真摯に舞弥の目を見て返答する。

「……作戦は、分かりました。マスターらしい合理的な判断です」

 セイバーが切嗣の方を見る。婚約者を人質にとるという卑劣な作戦を指示した切嗣は、それによる後ろめたさも罪悪感も感じさせぬ無機質な表情をしていた。
 舞弥はセイバーの瞳を切嗣と同じような目をして見つめながら口を開く。
<> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:05:25.22 ID:CxUw9Yjl0<> 「そうですか」

「だが私にも王としての矜持がある。譲れぬ一線がある。その指示を実行しろと仰るのであれば私に踏み込む代償に令呪の一画を頂きたい」

 セイバーは、否、アルトリア・ペンドラゴンは決して理想主義者の夢想家ではない。
 彼女は確かに理想主義者であるし理想を胸に抱いているかもしれないが――――その理想が遠いものであることを承知していたし、理想のためならば彼女は誰よりも合理的になる人物だった。
 聖杯をこの手で掴みとり王の選定をやり直し――――ブリテンを救う。その為ならばこの身がどうなろうと構わない。例えその後、己が身が世界の奴隷として使役されようと、己が存在が歴史より消滅しようと構わない。
 それだけの覚悟をもって聖杯戦争に挑んでいる。
 奇襲奇策も良いだろう。これは戦争であって決闘ではないのだ。
 マスターが無辜の命を犠牲にするのも批判はするまい。彼女自身もまた王として同じように罪なき人々を死なす決断をしていたのだから。
 しかし今更になって騎士の誇りなどを持ちだす気はないが、英霊として譲れぬ矜持というものは彼女にもある。
 彼女のマスター、衛宮切嗣は誇りなど欠片もない人間に見えるが違う。切嗣は己の行動がただのエゴであることは理解しているし、そのエゴのために卑怯悪辣な手段を使っても結果をとっている。その罪過に耐えきれているのは彼がそのエゴにある種の誇りをもっているからに他ならない。
 セイバーも同じだ。王の選定をやり直したいという願いを抱いているとはいえ、その生涯を誇っていないといえば嘘になる。自分が最善を尽くしたことも理解しているし、出来る限りのことをやったという自負もあった。……もっとも、最善を尽くしたという自負が故に、自分ではどうあってもブリテンを救えないと知ってしまっていたのだが。
 騎士王アルトリア・ペンドラゴンとしての踏み越えられぬ一線。誇りを失った時、人とは生きているだけの奴隷となる。それならばその誇りを捨てさせる命令には然るべき代価が必要だ。

「……いいだろう」

 切嗣もセイバーの瞳に宿る意志を察したのだろう。
 無理を言って従わせようとはせず、手の甲に刻まれた令呪に魔力を通す。

「我がサーヴァント、セイバーに令呪をもって命じる」

 セイバーを真正面から見て切嗣はセイバーに言った。
 切嗣がこれまでに使用した令呪は一回。キャスターがセイバーを奪った際に一度使用しているが、契約がキャスターに移った時に令呪が三画に戻っているので切嗣の手の甲にある令呪も二画だ。
 その二画目の令呪を切嗣は迷わずに使用した。

「この作戦内容に賛同し、自らに与えられた役割を果たせ」

 令呪がセイバーの魂を拘束する。この命令に従わなければならない、という強い強迫観念がセイバーの背中を突き動かそうとする。
 この令呪をもってセイバーは自らの信念を曲げることを良しとした。常勝無敗の誇り高き騎士王はこの一時、ただの誇りなき一介のサーヴァントとなる。

「舞弥。それでは手筈通りに」

 令呪まで使用させたのだ。セイバーも文句を言うことはなかった。
 主人(マスター)の命令に従い、ただの奴隷(サーヴァント)として命令を実行する。 <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:06:24.12 ID:CxUw9Yjl0<>  ウェイバーとライダーを撃退したケイネスはほっと一息ついた。
 相手が教え子だったとはいえ十日目にして漸く一人敵を倒すことができたのである。贅沢を言えばこの目でサーヴァントの消滅を確認したかったが大した問題はない。
 癪だが戦士としてのランサーの眼力は確かなものだ。ランサーがもう長くないといった以上、ライダーが脱落したのはほぼ100%。
 マスターであるウェイバーは生存しているが……そこはどうでもいい。サーヴァントを失えばウェイバーは教会へ逃げ込むだろうし、自分に刃向ったとはいえ教え子だ。教え子を相手に本気で殺しにかかるほどケイネスは大人気なくはない。

(しかしあの矮小で凡俗で目のないウェイバー・ベルベットが私に真っ向から挑んでくるとはねぇ)

 ウェイバーの魔術師としての才覚はやはり矮小なままだ。しかし戦いで見せたライダーへの指示や令呪の使用法。どれも魔術師らしい合理性に満ちたものだった。
 魔術師として認めたりはしないが、その精神だけは評価に値する。

「……はぁ。なんだかねぇ」

 初めて敵の首級をあげたというのにランサーはどこか浮かない顔をしていた。

「どうして溜息をつく? 私が令呪でサポートしてやったとはいえ初めて敵を討ったのだぞ」

「大したことじゃねえよ。だがな、女を殺すのはあんまり趣味じゃねえんだよ。ゲッシュにするほどのもんじゃねえが……やっぱなぁ」

 ランサーはらしくなく難しい表情をしていた。
 だがそれも一瞬のこと。直ぐにランサーは気を切り替え元の飄々とした風体になると、からかう様にケイネスに話しかけてきた。

「んなことよりケイネス。あの小僧のこと散々に扱き下ろしてたにしちゃ土壇場で令呪使ったのはなんでだ?」

「貴様がそれを言うのか。お前がウェイバーに注意を払えと私に進言したのだろうが」

「へぇ〜。サーヴァントの忠告を頭に入れといたのか。サーヴァントはただ私の命令に唯々諾々と従っていれば良いのだ、って偉ぶってた魔術師とは思えねえな。なんか変なもん食ったか?」

「阿呆が! 減らず口を叩くな愚か者。貴様が不甲斐ないせいでウェイバー如きに令呪を一画消費することとなったではないか! これで私の令呪は残り一画……どうしてくれる?」

「俺としちゃ面倒な縛りが残り一つになって万々歳なんだが」

 口ではそう文句を言うケイネスだが令呪を使った事が間違いだったとは思っていない。
 ライダーの宝具『騎英の手綱』はランクA+にも届く強力な対軍宝具。恐らく火力においてならこの聖杯戦争でも随一だろう。しかも令呪によるブーストつき。ケイネスが令呪を使用していなければランサーが敗北していたのは想像に難しくない。
  <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:07:24.57 ID:CxUw9Yjl0<> (問題はここからだな)

 令呪は残り一画。サーヴァントを縛るためには死守しなければならない防衛線。
 サーヴァントは令呪があるからこそマスターに従っている。もしもこの令呪がなくなればサーヴァントがマスターにおめおめと従う必要もなくなるのだ。

(ランサーなら仮に令呪を消費しつくしても裏切りはしないだろうが。やはり令呪は温存しておきたい)

 ごく自然にランサーならば自分を裏切らないと思考するケイネス。それは紛れもないランサーに対しての信頼の現れなのだがケイネスはそれに気付いていなかった。

(遠坂時臣との戦闘が響いたか。次からの戦いではランサーには足止めのみに徹しさせ、私自らが敵マスターを討ち滅ぼすのも上策、か。最後の令呪は遠坂時臣との戦いにでも使えば良い)

 敵がペガサスにのっていたとはいえ結局ライダーとの戦いはランサー任せとなってしまった。
 武勲を得たいケイネスとしては自らの力だけでマスターの一人でも倒したいという欲がある。

(まぁ取り敢えずは敵は滅ぼした。それは事実だ。ソラウもこれで溜飲を下げてくれるだろう)

 今日中にサーヴァントを一人倒すというノルマはクリアしたわけなので結果は上々。
 ソラウも少しは自分のことを見直してくれるだろう。それでほんの少しでも微笑みかけてくれたら嬉しいのだが。

(それは望み過ぎか)

 ライダーの対軍宝具の影響でこの人気のない川岸は破壊され尽している。
 帰ったら教会へ報告し神秘の隠蔽をさせなければならない。

「帰還するぞランサー。今宵はこれまでだ」

「おう」

 サーヴァントとはいえ無敵ではない。戦えば疲れもする。宝具を使ったともあれば猶更だ。今宵はこれ以上の戦闘は避け館で休養するのが最善だ。
 ランサーも否はなく槍を消し去ると姿を霊体化させようとして、 <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:09:24.56 ID:CxUw9Yjl0<> 「――――――止まれ」

 降りかかった無機質で無感情な声に足を止めた。
 聞いた事のない声色。まさか敵サーヴァントかマスターかとケイネスが声のした方向を見て絶句する。

「なっ……! そ、ソラウ!?」

 そう。ケイネスの目に最初に圧倒的なインパクトで飛び込んできたのは婚約者のソラウだった。口は塞がれ声が出せず怯えながら、ソラウはケイネスとランサーを見ている。
 ケイネスが初めて見る婚約者の『脅え』だった。
 そしてソラウの米神に黒い鉄の塊――――拳銃を突きつけているのは無精髭を生やした東洋人。手の甲には令呪が刻まれている。マスターだ。
 聖杯戦争の参加者、卑怯な手段、拳銃。それらのヒントが雷光のようにケイネスの脳裏に一つの名前を提示した。

「貴様が衛宮切嗣かっ!」

 衛宮切嗣は答えない。だがその沈黙は肯定なのだとケイネスは確信した。

「テメエがケイネスの工房を爆破した張本人ってわけか。なるほどな、想像以上に腐った目ェしてやがる。胸糞悪い野郎だ」

 ランサーがアーチャーに向けた以上の怒気を切嗣へと叩きつけた。
 クランの猛犬の眼光である。常人ならば睨まれただけで腰を抜かし、意識さえ手放してしまったかもしれない。しかし切嗣は鋼鉄のように動じずランサーの威圧を受け止めてみせた。

「僕はサーヴァントに話してはいない。僕が取引するのはお前だ……ケイネス」

 切嗣は懐にしまっていた一枚の羊皮紙をみせる。

「『自己強制証文(セルフギアス・スクロール)』!?」

 切嗣が時臣への提示したものと同じ魔術師にとって最大限の譲歩とされる絶対遵守の契約書。
 しかし記されている内容は時臣のものとは比べ物にならないほどに酷い要求だった。
<> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:10:03.29 ID:CxUw9Yjl0<> 『衛宮矩賢が子息、衛宮切嗣がアーチボルト家当主・ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと契約する――――』


 やはり衛宮切嗣で正しかった。
 自分の推測が正しかったことが立証されたが嬉しくもなんともない。なにせ契約内容はとてもではないが安々と頷けないものだったからだ。


―ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは下記の条項を締結する―

1、最後の令呪をもって自らのサーヴァント、ランサーを自害させる。
2、衛宮切嗣に害となる行動をとらない。
3、この冬木市から出るまで魔術を使わない。


―衛宮切嗣は下記の条項を締結する―

1、衛宮切嗣及びセイバーはケイネス及びソラウに危害を加えない。
2、1の条項はランサーが消滅した後に有効である。 <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:10:36.11 ID:CxUw9Yjl0<>  事実上の降伏勧告。この場で敗北を認めろ、さもないとソラウを殺す。
 衛宮切嗣はそうケイネスに要求しているのだ。

「ひ、卑怯者め! 貴様も仮にも魔術を刻んだものであるのならば魔術師としての誇りはないのか! いいやそれ以上に……ソラウを人質にするなど……そんな……」

「僕はそんな言葉を聞くために来たんじゃない。要求を呑むか呑まないか……直ぐに決断しろ。無論、お前が呑まないのであれば婚約者にはここで死んで貰う」

「ああそれでも僕はいい。お前が婚約者を見捨てるのであれば、僕自身の力でお前達を始末するだけだ。過程が変わるだけで結果は同じだ」

 愕然とする。もしも要求をのめばソラウは助かるだろう。ギアスの条項は完璧だ。冬木市に出るまでは魔術が使えないという制約はつくが、契約が結ばれれば最後セイバーも衛宮切嗣も自分とソラウに手出しができなくなる。
 しかしそんなことをすれば武勲を得るためにケイネスの立場はなくなってしまう。時計塔での威信は地に堕ち、ケイネスは極東での儀式に挑みながら惨めに逃げ帰った弱虫という烙印を押されるだろう。
 時計塔での名声とソラウの命。どちらを選ぶか。

(そんなもの考えるまでもない……ソラウだけは、失なえん。だが)

 ランサーを伺う。これは名声かソラウかの選択だけではない。ソラウを選ぶということはその場でランサーを自らの命令で殺すということでもあるのだ。
 だがランサーはまるでケイネスの心の葛藤を訊いていたように言った。

「俺を気遣う必要はねえぜ。ソラウがああしてあの糞野郎の人質になっちまったのには半分俺にも責任がある。落とし前はつけるさ。俺の命で済むんなら安いもんだ」

「……そうか」

 合点がいったと頷きケイネスは切嗣を見た。
 切嗣は口を開く。

「選択はできたか。なら選べ。要求を呑むか?」

「教えてくれ。ラ…ランサーを自害させれば…ランサーを殺せば……。ほ……本当に……私とソラウ……は見逃してくれるのか? 本当に私とソラウを見逃すんだなッ!」

 ケイネスの顔は鬼気迫るものがあった。
 魔術師として死は観念すべきもの。ケイネスが芯より魔術師であれば、ソラウの命を切り捨てていただろうが、ケイネスは魔術の誇りよりもソラウを選ぶ『人間』だった。
 例えその過程でランサーを自らの命令で殺す事に成ろうと。ソラウだけは失えない。

「ああ。それが契約だからな。お前達の『命』と引き換えのギブ&テイクだ。約束は守るよ」

 切嗣の言葉に少しだけ安心したように肩を降ろす。そしてケイネスは、 <> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:12:19.17 ID:CxUw9Yjl0<>



「だ が 断 る」



<> 第35話 奴隷として<>saga<>2013/01/27(日) 22:12:48.54 ID:CxUw9Yjl0<> 「……」

「このケイネス・エルメロイが最も好きな事のひとつは自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ……」

「なるほど。婚約者を見捨てる方を選んだのか」

「それもNOだ! そして落とし前をつけるのはランサーの命をもってではない。無論私でもない! 貴様の命だ!すっかり忘れていたが仕込みは既にしていたのだ! ランサー!!」

「おう!」

 ランサーがルーンに魔力を込める。しかしランサーはルーンを描いていない。ならばどこに刻まれたルーンに魔力を込めたのか。
 
「ッ!」

 ソラウの体から閃光弾のように眩い光が放たれる。あくまでも光の中心点たるソラウには傷のつかない閃光はしかし、衛宮切嗣には身を焦がす炎となる。切嗣は素早い判断力でソラウから手を放した。
 もしも切嗣が尚もソラウを掴んでいれば、切嗣の手は閃光により焼けただれていただろう。
 切嗣に生まれたほんの一瞬の空白。その隙を逃さずにランサーは走り槍を切嗣に突き出した。

「――――!」

 けれど槍は割って入った白銀の騎士によって払われる。
 手に握るは風に覆われた不可視の剣。風になびく金の髪。切嗣のサーヴァント、セイバーだった。迎撃された槍。しかしランサーは首尾よく人質となっていたソラウを取り戻すことに成功していた。
 ランサーが魔力を込めたルーン。それは空中でもなければ地面でもなく、ソラウの服に刻まれていたのだ。時臣から切嗣の情報を聞いて、もしかしたらの可能性を考慮しランサーがこっそりソラウにばれないよう服に刻んでおいたルーン。それが役立ったのである。

「残念だったな下衆野郎。テメエの下らん策略は終わりだ」

 ランサーがそう突きつける。そう人質を失い切嗣の策略は瓦解した。
 しかし戦いは終わらない。セイバーとランサー。そして切嗣とケイネスはここに正面から対峙した。

「ソラウ、無事か。怪我は呪いは……ないかね?」

「ええ……大丈夫よ……」

「そうか、それは本当に良かった」

 いつもの気丈さはどこへやら。ソラウは憔悴しきっている。
 ソラウが味わったであろう恐怖を想像しケイネスは憤怒の視線を切嗣へと向けた。

「ソラウは下がっていてくれ。あの不埒者はこのロード・エルメロイが誅罰を与えてくれよう」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/01/27(日) 22:13:48.04 ID:CxUw9Yjl0<> 今日はこれまで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 22:21:00.52 ID:tuBNI9BPo<> 乙

まさかの だが断る とはww
このケイネス先生はとある日本のマンガの愛読者ですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 22:30:50.55 ID:tDUggrkq0<> 乙です、ケイネス先生原作よりカッコイイですねここだと原作で光らなかったキャラが輝いてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/27(日) 22:31:01.83 ID:4qTKBxiK0<> 先生がチョー格好良い!

槍兵の兄貴も素敵だ!

まるで主人公
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 22:51:13.55 ID:oGzYzyowo<> ……ごめん、突然のジョジョパロで萎えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:05:46.67 ID:dtdGJTrLo<> 面白かった。ケイネスには幸せになってほしいもんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:55:32.17 ID:FHptRQqTo<> 乙
まさにケイネス先生のあの下りは予想可能回避不可能な言い回しだなwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 00:26:48.01 ID:HnvLX1koo<> 無事先生は死亡フラグを乗り越えられたか
流石兄貴だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 01:21:48.11 ID:huRPdkySO<> パロネタがあるのも悪くないけどあんまり露骨にやるのはちょっとなぁ

しかし兄貴いるとメチャクチャ便利だなぁ
足止めから防壁から罠まで何でも出来るし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 01:43:09.99 ID:7pp/sXsCo<> いきなりパロネタでちょっと驚いたけど見事なぐらい正しい使い方
ゲイ人でさえなければこうなっていたのか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 01:53:27.90 ID:zjxGUV/7o<> 作者変わったのかと思ったわww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 03:15:22.83 ID:pZ4tnxNjo<> 今回は露骨に来たなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 08:23:41.57 ID:9cj/0KGIO<> >>673
というかディルムッドのスペックが絶望的…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 13:29:52.99 ID:8kpXdqFz0<> 先生違いじゃねーかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 17:13:39.82 ID:sPem7QdG0<> >>677
ていうか本来ディルは双剣使いだからセイバーで呼ばれた方が遥かに強い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 18:58:14.78 ID:CnqqSbW/0<> 兄貴だって宝具いくつも持ってきて無いし〜が有ればってのはあんまり言いたいことじゃないんだよなぁ
セイバーだって聖剣以外にも有名な武器あるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 15:34:36.72 ID:dL7Qq25Io<> >>677
ディルさんはセイバークラスなら強かったかもしれないと専らの噂らしいぞ!馬鹿にするな! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/29(火) 21:38:37.36 ID:gVBOkXgd0<> ケイネス先生が、Zeroの時が嘘だったかのように輝いてるなぁ……wwww
しかし、起源弾二発も使って時臣仕留め損ねるわ人質作戦失敗するわ、キャスター戦以降切嗣さんちょっとポカし過ぎじゃね?(トッキーの時は、言峰の時と大体同じ原理で偶然ミスっただけだが)
今回も、彼なら先にランサーにセイバーを当てて、二人を引き離してから脅迫するかと思ったが……。
まぁ、先生が楽しそうだからいいや! けど、結局起源弾の餌食になりそうで怖い……ww そしてソラウが仇打ちのためにランサーのマスターになったりとかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 23:10:19.55 ID:j4zrDYGs0<> いや、ソラウは別にケイネスのこと好きでもなんでもないし死んだら教会に行くかイギリスに帰ると思う
これがディルムッドだったら別だったかもしれんが兄貴だし・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 13:06:10.54 ID:4M2qjL7z0<> ますます先の展開が見えなくなったな <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/01/30(水) 21:49:49.53 ID:4juFuTQv0<> >>666
自分の講義中に漫画を読んでいた学生の漫画を没収して、その漫画の台詞を気に入ったから使用したという限りなくどうでもいい裏設定があります。

>>668
 一応群像劇なので全員に見せ場があるようにしています。出落ちのバーサーカー? あれは例外。

>>673
 兄貴は潰しのきくサーヴァントです。

>>676
 露骨な肋骨。

>>677
 兄貴はランサーでも三本の指に入るほど凄い英雄なので、兄貴と比べてはいけません。
 あのギルっちを相手に不利な戦場で半日もたせた上に手傷を与えるくらいですから。

>>680
 セイバーは武装をフル装備させると大変なことになります。

>>682
 ぶっちゃけ切嗣は人質作戦以外にも二重三重に罠を張り巡らせているので人質が駄目だったくらいではなんともありません。 <> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:51:41.34 ID:4juFuTQv0<>  衛宮切嗣にとって戦いとは即ち作業だ。
 多くの戦士である英雄がそうであるように、死力を尽くした戦いに昂揚感などはもたない。
 国家を担う将軍がそうであるように、自らの戦果を誇り喜ぶこともない。
 工場で働く機械のように、敵を殺すという行動を黙々とこなす。
 機械と異なる点があるとすれば、切嗣は自分で思考し自分で考え自分で応用するというところだ。
 故に隙がない。
 遠坂時臣のような相手の思考を読み、その最善手を予測できるような例外中の例外を除けば誰にとっても衛宮切嗣は最悪の敵対者となりうる。
 人質をとりケイネスにランサーを自害させるという策は瓦解した。
 しかし切嗣にとってその程度のことは特に問題に値しないことだ。
 衛宮切嗣は大胆のような行動とは裏腹に石橋をたたいて渡る慎重さも備えている。
 人質なんていう古典的かつチープな策略、これだけで必勝を誓うほど愚かではない。作戦が失敗した場合の作戦も考えている。
 ランサーのルーン魔術により焼けた肌がビデオの巻き戻しのように再生していった。『全て遠き理想郷』の本来の担い手であるセイバーが側にいるため回復速度も段違いだ。
 この分だと首を切断されても直ぐに傷口につければ再生することも出来るかもしれない。流石にこればっかりは実験することはできないが。

「マスター、私はランサーを担当しましょう。敵マスターの相手はお任せして宜しいですか?」

 セイバーが確認してくる。そう、これはただの確認作業だ。
 お互いに自分がやるべきことは理解しているし、そのことに疑問をもってもいない。
 切嗣は無言で頷きそれを『確認』とした。

「……ご武運を」

 セイバーは不可視の得物をもってランサーへ。切嗣は起源弾を装填したコンテンダーと通常の銃火器を潜ませケイネスと相対する。
 自分のターゲット以外のことを考える必要はない。切嗣はランサーを意識から外した。
 衛宮切嗣とセイバーの主従にとって会話は不要であった。ただ己が最善と信じる行動をとればそれでいい。
 故に切嗣はランサーのことを考える必要はないのだ。ランサーはセイバー、切嗣はケイネス。役割分担ははっきりしていて、お互いがその線を超えることはないのだから。
 無論敵対者にもその線を踏み越えさせる『余力』など与えない。
 ケイネスの方も自分の敵は自分で払うつもりなのだろう。ケイネスは自尊心が強い。自分の工房を破壊した下手人をサーヴァント任せにはしたくないのだ。その思考回路も切嗣は読んでいたが。

「どうした下郎。貴様お得意の絡め手は打ち止めかね? 今更になって降伏しても無駄だ。私はこれより――――」

 ケイネスが口上を言い切る前に切嗣は無言でマシンガンを掃射した。
 切嗣にとって殺しは作業でしかない。殺す相手とお喋りに興じる趣味などないし、会話する必要性もなかった。

「月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)ッ!」

 オートで反応した水銀が壁となって銃弾を防ぐ。時臣の業火すらも容易く防ぐほどの壁だ。
 ただの銃弾では突破できる道理もなく全て弾かれる。

「下賎な猿が……つくづく礼儀を知らぬ者と見える。良かろう、ならば私もこれは決闘とは思うまい。貴様のような魔術師の面汚しはこの場で死刑にしてくれる!!」

 ケイネスの怒りがそのまま水銀に伝わり脈打つように鼓動した。
 月霊髄液というケイネスの礼装。恐ろしい性能だ。銃弾にオートで防壁をはる反応速度。時計塔最年少講師は伊達ではないということか。
 魔術師としての実力はあの遠坂時臣よりも上手だ。出し惜しみはしない。切嗣はアヴァロンがなければ禁断となる呪文を唱えた。

「Time alter(固有時制御) triple accel(三倍速)ッ!」

「斬!」

 ケイネスが水銀に攻撃命令を下す。が、それより一拍速く切嗣は詠唱を完了している。
 人間どころかチータのような速度で鞭のようにしなり、風のような速度で振り落された水銀の刃を躱した。 <> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:52:42.52 ID:4juFuTQv0<> 「なッ! そのスピードは!? 貴様……どんな魔術を」

 切嗣の体内時間は三倍となっている。速度に限っていえばセイバーには及ばないものの中堅のサーヴァントに匹敵するだけとなっていた。ケイネスの驚きは当然のものといえる。
 そしてサーヴァント並みのスピードならば水銀の刃を回避することなど造作もない。
 目にも留まらぬ速度でケイネスの背後に回り込んだ切嗣は手榴弾をばら撒きつつフルオートでグロッグを放った。しかし背後からの攻撃だろうと水銀はやはりケイネスを守った。次いで手榴弾が爆発する。水銀のせいで爆風はケイネスに届かないが、その爆風と爆音とに紛れて切嗣は距離をとった。

(あの反応速度……死角からの一撃にもダイレクトに対応する防御。……水銀に自動防御機能があるのは確実だな)

 魔術回路以外はただの人間であるケイネスに弾丸を目視で捕え反応することなどできるはずがない。
 それが出来るとしたら完全に成りきった死徒かサーヴァントくらいだ。
 しかし遠坂時臣での戦いにおいて苦戦したため最初から三倍速をきったが、

(ペースを落とそう。水銀の速度、軌道、反応速度は見切った。これなら固有時制御二倍速でも十分だ。寧ろ三倍速に消費する魔力の方が痛い……いや固有時制御なしでもタイミングを違わねば躱せる)

 固有時制御を二倍速に戻す。瞬間三倍速分の振り戻しのダメージが切嗣を襲った。
 全身の肉体をバラバラに解体されたような激痛が襲うが……鋼鉄の意志力で表情を変えることなく堪える。
 
「ええぃ、ちょこまかと!」

 苛々としながらケイネスは水銀を切嗣へと殺到させる。しかし何度やろうと水銀は空を切り、切嗣には当たることがない。
 衛宮切嗣は優秀な魔術師殺しであり兵士だ。鋼の精神と駆け抜けてきた戦場により培われた戦闘技術は超一流のものである。
 既に水銀のパターンを読み取っていた。
 月霊髄液は確かに優れた礼装だろう。しかしそれを扱うのは人間である。
 防御や索敵をオートでやらせるだけのプログラムがあろうと、攻撃をさせるのはケイネスだ。
 ロード・エルメロイは優秀な魔術師だ。そして優秀な研究者でもあるかもしれないし、優れた才能をもっているのだろう。
 だが所詮は時計塔で研究に明け暮れていただけの人間。一流の魔術師であっても一流の戦士ではないのだ。
 他の魔術師との魔術戦くらいなら時計塔でも暇潰しや趣味感覚で興じることはあったかもしれないが、正真正銘のルール無用の殺し合いは初めてだろう。

(ケイネスは魔術は知っていても、近代兵器には無知だ。そして奴は自分の魔術の才能がなまじ優れ過ぎているせいで科学に目がいっていない。まずはその油断を―――)

 敢えてケイネスに接近していく。取り出したのは飾り気のないナイフ。勿論これはケイネスを殺すためのものではない。弾丸の速度をも防ぎきる水銀をナイフで突破できはしないのだから。
 これは勝利への布石の一つだ。

「――――っ! 貴様め!」

 真正面まで接近されたケイネスは顔を真っ赤にさせ四方八方から水銀を動かす。だがその水銀は切嗣へは向いていない。このままでは埒が明かないと思ったケイネスは思い切って水銀を牢獄のようにして切嗣を閉じ込めようというのだ。
 しかし無意味。ケイネスがそういう行動をとることは切嗣も了解していた。これ見よがしにナイフをケイネスに投擲すると、水銀が閉じきって逃げ場を防ぐよりも早くその場から離脱した。
 ケイネスの苛立ちがみるみる激しくなっていくのが分かる。怒りは時に力にもなるが、同時に冷静な思考を鈍らせてしまう。
 挑発行為はこれで十分だ。そろそろ次の行動に移ろう。
 
「斬!!」

 代わり映えしない水銀の一撃。やはり躱すのは簡単だ。けれどここで切嗣は敢えて足がガクリと止まったような演技をして、動きを一時止める。
 そして水銀が切嗣の肌を切り裂いた途端、ふたたび足が回復したような演技で動き始めた。
 服が切れ、そこから血が流れていく。ほんの僅かな接触だったというのに深い傷が刻まれていた。通常なら即座に治癒魔術なり応急処置などで手当てをしなければ大事にもなるダメージだが『全て遠き理想郷』のある切嗣には無用なものだ。
 深い傷は即座に塞がれる。 <> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:53:15.96 ID:4juFuTQv0<> 「ふふふ、ふははははははははは!! どうやら貴様のその魔術にも限界があるとみたぞ! それはそうだろう。貴様の使用しているのは自分の体内のみに限定してでの時間制御だ。だが世界は幻想を認めない! 時間制御が終われば振り戻しのダメージが貴様自身を襲う! お前の体はもう限界なのだろう! 速度が最初より衰えたのもそれが理由とみたぞ!」

 もし心に表情があれば切嗣は笑っていただろう。
 ケイネスの観察眼は確かなものだ。
 固有時制御にはケイネスのいうようなデメリットがある。だからこそ切嗣の演技には信憑性が宿るのだ。
 100%の嘘というのはどうしても真実味にかける。人を騙したければ嘘の中に真実を混ぜるのが最も良い。
 真の虚実とは虚と実が同梱するものなのだから。
 苛立ちが最高潮となり、切嗣を傷つけたのが自信となり慢心となる。
 徐々にだが準備は整ってきている。その上でケイネスの行動にある一定の『方針』を見定めた上で切嗣は行動を決定した。
 ケイネスが切嗣に止めを刺すべくより多い量の水銀を切嗣へと向けてきた。当然、攻撃に重きを向けた分、ケイネスを守る防御を薄くなる。
 切嗣は素早く通常の弾が装填された予備のコンテンダーを抜くとケイネスへ発砲した。
 通常弾丸ならば楽々ストップさせる水銀。しかしコンテンダーは実用性にかけるものの、携帯できる火器としては最大火力のものだ。しかもそれに魔術的処置も施されているので通常のものよりも威力は高い。
 もはやその火力は小規模な大砲だ。その一撃を受け水銀の防御は破壊され、奥にいるケイネスを貫いた。

「が、あ――――っ!」

 弾丸がケイネスの左脇腹を霞める。水銀が威力を相殺した為にそれで留まったが、もしもコンテンダーがカタログスペック通りの仕事をしたのならケイネスの腹をそのまま抉り取っていただろう。
 しかしこれで十分。ケイネスを怒りで忘我させるには。

「おのれ……。このようなもので! この私を! ロード・エルメロイをッ!!」

 時臣にやられた際のように、魔術により水銀を突破され傷を負ったのならケイネスとて怒りはしなかった。逆にそんな成果をなした敵を称えただろう。だが切嗣は魔術ではなく近代兵器をもってこれをやった。故にケイネスは激高する。
 切嗣は動じず予定通り最後の布石をうつ。懐にしまっておいた煙幕弾を炸裂させた。

「下衆な銃火器の次は煙だと? 小細工がッ! 私に効くか!!」

 勿論そのようなことは知っている。ケイネスの月霊髄液はケイネスの視界を塞いだところで意味などない。
 精々ほんのコンマ一秒ケイネスの動作を止めるしか役立ちはしない。切嗣は手榴弾からピンを抜くとある場所へと投げた。
 その投げた場所とは、

「そ、ソラウ――――!!」

 ソラウが隠れていた物影だ。ケイネスと同じようにソラウも戦闘の素人。魔術の才能がある他はただの気位がそうに演じているただの女性だ。
 手榴弾の爆発に驚き、その姿を物影から晒してしまった。
 ソラウ或いはケイネスは懸命な判断をしたといえるだろう。
 もしもソラウがケイネスの目の届かない場所まで逃げていれば、その時は舞弥が動く手筈になっていたのだから。
 だが近くにいるなら近くにいるでやりようはある。お蔭でこうしてケイネスの眼前で弱点を晒させることができた。
 切嗣は一切の躊躇なく予備ではない方のコンテンダーの銃口をソラウへと向けた。
 ケイネスは時臣と同じである。土壇場にあって『魔術師』を選べない。だからこそ同じ手が通じる。感情を捨てた衛宮切嗣には絶対に通用しない手がケイネスには意図も容易く通用する。
 人は情があるからこそ強くなるが、同時に情があるが故に弱点を抱えることとなるもの。
 弱いからこそ卑怯になる。正にその通りだ。
 衛宮切嗣はそれ単体では最強にはなれない。最強を名乗るには素養というものに欠けていた。
 感情を突き放してトリガーを引く素養とて世界規模でみれば精々が優良と堕ちよう。
 固有時制御という多少は特殊な魔術を扱う事は出来るがそれだけだ。別段飛び抜けた力がある訳でもない。
 だからこそ衛宮切嗣は誰よりも卑怯となる。足りないものを補う為にあらゆる手段をもって己を『最強』に染め上げているのだ。
 故に敵の弱点を徹底的に容赦なく断固として叩くのが切嗣の戦術である。

「月霊髄液ッ! ソラウを守れぇぇえええ!!」

 ケイネスの行動に一つだけあった規則性。それは衛宮切嗣をソラウのいる場所から遠ざけようとしていたことだ。それは彼が忘我状態に陥っていても変わることはなかった。それだけケイネスにとってソラウは大切な人間なのだろう。だからこそ狙う価値がある。
 婚約者の危機にケイネスは己の魔術回路を全開にさせ水銀を展開させる。先程コンテンダーの威力を身を持って知っているからこそ、水銀にありったけの魔力をケイネスは込めた。
 そこへ魔術師を殺す為だけの礼装――――起源弾が接触し、

「が、ぁああああああああああああああ!!」

 ロード・エルメロイの魔術回路を滅茶苦茶に切って嗣なぎ。魔術回路を破壊した。
 魔術回路の破壊により水銀が動きを止め、ただの魔力の通わぬものとなり地面へと落ちる。そこへ有無を言わさず通常の拳銃でケイネスの眉間を貫く。
 驚くほどあっさりとケイネス・エルメロイは切嗣によって殺害された。 <> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:54:04.35 ID:4juFuTQv0<>  白銀の剣舞と青の槍舞。七騎のサーヴァントで最も英雄らしい二騎の戦いとは即ち聖杯戦争の華である。
 この両者の戦いほど英雄らしい戦いもないだろう。セイバーは己が剣技を、ランサーは己が槍術の総力で敵を殺す為に得物を振るう。

「チッ。卑怯者め! 己が武器を隠すとは何事か!」

 ランサーが野次を飛ばす。だがセイバーは答えず不可視の剣をランサーへと振り下ろした。
 セイバーの凄まじい魔力に裏付けされた一撃は火花をちらし、ランサーを後退させる。
 最優のサーヴァントは伊達ではない。剣の一振りに途方もないエネルギーが籠っている。
 神話に伝わる魔槍だからこそ受けていられるが、下手な得物なら即座に叩きおられるかもしれない。
 並みの英霊ではない。恐らくはセイバーのクラスにあって最上位に位置する英雄だ。ランサーはそう当たりをつけた。

「―――どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが」

 いけしゃあしゃあとセイバーが挑発してくる。
 安い挑発だがクランの猛犬として真っ向からの挑発を無視することもできない。

「は、わざわざ進んで死地に踏み込むか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。貴様の宝具―――それは剣か?」

「―――さあどうかな。戦斧かも知れぬし、槍剣かも知れぬ。いや、もしや弓という事もあるかも知れんぞ、ランサー?」

 セイバーはひょうひょうと言った。

「く、ぬかせ剣使い(セイバー)」

 人は見た目に依らないとは言うものだが、可憐な顔をしておいて中身はとんだ獅子だ。
 これほどの技量と魔力をもつ英雄の宝具がよもや透明な剣なんてチャチなものではないだろう。セイバーは戦いを優位に運ぶために剣を不可視としているのではない。
 なんらかの理由があって仕方なく剣を不可視の鞘で覆っているのだ。寧ろあの透明な鞘なんて無い方がセイバーは強い。

(気に入らねえ)

 つまりはセイバーは加減した状態で己と剣戟を交わしているということだ。
 その自尊心、その技量。英霊として打ち砕きたくなる。

「はぁぁぁあッ!」

 俊足を活かして目にも留まらぬ速度でセイバーに迫る。透明な刃と赤い槍がぶつかり合い火花を散らした。
 だが通常の切り合いでセイバーを倒せるなどと高をくくってはいない。
 セイバーを倒すのは自らの必殺をもってでなければならない。
 ランサーはセイバーと切り結びながら槍へ大気中の魔力を集中し始めた。魔槍ゲイボルク、その力をもってセイバーの心臓を穿つ。
<> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:54:43.34 ID:4juFuTQv0<> 「――――!」

 だがランサーがゲイボルグの真名を言う寸前、セイバーは全速力で後ろに後退する。
 その意図と考えを理解したランサーは舌打ちをした。

「その動き。貴様、俺の真名と俺の魔槍について知っているようだな。でなきゃこの槍の真価を晒すことを避けようとはしないだろうからな」

「ああそうだ。アイルランドに名高きクランの猛犬。貴方ほどの勇者がこの戦いに参戦しているとは思いませんでした」

「抜かせ、剣使い。そのクランの猛犬を平然に押してやがるのはどこのどいつだよ」

「ここが戦場ではないのなら尋常に果し合いたくもあるが――――ここは戦場。貴方はここで斃れろランサー!!」

「ほざけ!」

 槍と剣が何度目かに分からぬ剣戟を響かせる。しかし戦いながらもセイバーは決して真名解放の予兆に注意を払うのを忘れない。
 セイバーは一方的に知っている。
 ランサーの真名はクーフーリン。舞弥を通して得た情報だ。信憑性は高いだろう。
 そして彼の英雄がもつ槍はゲイボルク。因果逆転の呪いを秘めた必殺必中の槍である。
 ランサーがライダーの心臓を貫くその瞬間をセイバーは切嗣の視界を通して目撃した。
 あの槍の真名を解放されれば最後、幸運値の低いセイバーでは如何に技量と直感力に優れていようと死は避けられないだろう。
 セイバーが身を包む白銀の甲冑は並みの一撃ならば防御できるだけの耐久力をもつが流石に真名解放されたゲイボルクは防げない。
 故にセイバーがとれる槍への対抗術とはそもそもランサーに真名を解放させないということのみ。
 宝具の真価を使うには真名を解放しなければならない以上、その解放までには一定の時間がかかる。セイバーの敏捷性ならば真名が解放される前に槍の射程距離外に逃れるのは難しいことではない。
 その時だった。

「そ、ソラウ――――!!」

 ランサーのマスター、ケイネスが婚約者を呼ぶ焦りの声。自身のマスターの窮地にほんの刹那、ランサーの意識がそちらへと向く。

(ここだ!)

 その隙を見逃さずセイバーは自らの剣を覆う風王結界を解放し、それをランサーへと放つ。
 吹き荒れる風は暴風である。ランサーほどの英霊が風程度でどうこうするということはないが足止めには十分だ。 <> 第36話 究極の一<>saga<>2013/01/30(水) 21:55:13.21 ID:4juFuTQv0<>  そして風による仮初の鞘が解け、彼女のもつ剣の姿が初めて露わとなる。
 人の心を奪い憧憬の念を抱かずにはいられない眩い黄金の光。人の望みによって造られながら、人の意思に影響されず生まれるもの。
 騎士達の描きし夢。人々の幻想が星によって鍛えられた神造兵装。

「その剣は、まさかセイバー。貴様が――――!」

 ランサーは瞬時にセイバーの真名を悟る。
 風王結界は余りにも有名すぎるその形を隠す為にあった。英霊の座にまで祀り上げられた英雄豪傑ならば一目で看過するだろう。
 幾たびの戦場を超えて常勝無敗。常若の島にて傷を癒すために眠りについているとされ、イングランドが危機に陥った折に目覚め現世に現れるとされる『いつか蘇る王』。
 円卓を束ねた騎士達の王が振るいし剣の銘こそが、

「約束された――――」

「――――突き穿つ死翔の槍!!」

 ランサーもまたルーン魔術の重ね掛けで槍を強化し、最強の聖剣を先んじることで迎え撃とうとする。
 しかしそれに如何程の力があろうが、セイバーの聖剣はその遥か上をいく。

「勝利の剣――――!」

 黄金が炸裂した。星の光を集めし究極の斬撃が閃光となって刀身より放たれる。
 ライダーの騎英の手綱すら霞む最強の一撃は槍の呪いごとゲイボルクを粉々に消滅させてランサーへと直進していった。 
 光がランサーを覆い、そのまま川の水面に衝突する。星がそのまま落下してきたかのような水飛沫をあげながら水が蒸発していった。それでも光は止まることがなく停泊していた船をも切り裂く。
 これこそが彼のアーサー王が振るうとされるエクスカリバー。
 聖剣というカテゴリーにおいてこの剣の右に出る物はない究極の一である。
 漸く光が消える。幻想は幻のように。あれほどの眩い光は蛍のように儚くその残滓を残すのみだ。
 セイバーは剣の刀身を再び風の結界で覆うと、切嗣のもとへと戻った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2013/01/30(水) 21:55:52.53 ID:4juFuTQv0<> 今日はこれまで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 21:59:37.97 ID:im4EIx2ho<> 乙

ケイネス、アンタ男だったよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 22:23:11.36 ID:uSar4qz80<> 乙でした

セイバーさん今回は普通に暴れられましたね原作だと 最優笑 と言われてましたが今回の戦いで汚名返上できたでしょうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 22:30:57.55 ID:iEpOhGMHo<> あっけなさすぎる..... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/30(水) 22:36:22.88 ID:4M2qjL7z0<> 乙
現時点で生き残ってる第4次での死亡キャラは舞弥、ソラウの二人か
次回ソラウがどうなるかによって舞弥の運命が決まるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 22:57:38.23 ID:n2H8xubC0<> 投げボルクじゃなく刺しのほうだったら何とかなったがそこはセイバーの作戦勝ちだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 23:45:05.22 ID:iS0bsOc00<> 安定の外道w <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/31(木) 00:41:34.97 ID:KRzkN5cK0<> 兄貴ェ・・・
まあ令呪で縛られて全力で戦えずに自害で終わるよりはマシな最期・・・なのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/31(木) 00:50:51.42 ID:GCCCv3TE0<> 荒耶は拳銃を撃たれてから回避可能だよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/31(木) 06:00:16.53 ID:uyLvyy2AO<> いや待て、ゲイボルグが破壊されたとは書いてあるが、兄貴が消滅したとはどこにも書かれてない
そしてソラウがまだ生きてる事、兄貴のしぶとさ、往生際の悪さを考えたらもしかするとまだワンチャンあるかもしれないぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/31(木) 07:53:12.83 ID:veB2AYb5o<> ランサーがそのまま終わる気がしないし。
どうなるんだろうな.... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/31(木) 12:49:38.75 ID:KRzkN5cK0<> 動画のほうのあとがきで作者もはっきり死んだって言ってるからさすがにもうダメじゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/01(金) 00:39:36.13 ID:p02y7jTZ0<> これで残ったサーヴァントはセイバー、アーチャー、アサシンの3人か
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/01(金) 21:34:59.33 ID:8ASQ4K7f0<> 気付いたら追い付いていた
乙です <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/02(土) 21:51:55.43 ID:D34Ij9740<> >>693
 これからもっと男になります。

>>695
 あんまりグダグダとしていてもなんなので。

>>696
 安心して下さい。一人はZeroで死亡した参加者が生き残ります。

>>700
 アラヤのレベルを他の魔術師に求めるのは可哀想でしょう。

>>704
 生き残っている鯖は兎も角、残ってるマスターは二人だけです。 <> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:09:10.64 ID:D34Ij9740<>  都市の名前に『冬』という文字が使われているからという訳ではないが、冬木市の冬は寒い。
 息も凍るような冷たい風が戦場を吹き抜ける。この寒さでは血の臭いすらも凍りついてしまいそうであった。
 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。時計塔において羨望と嫉妬とを一身に受けた天才を仕留めた切嗣には、強敵を倒したもの特有の誇らしさや達成感などは皆無であった。勝利の美酒を味わうこともない。
 それもそうだろう。
 厳密にいえば切嗣は勝利などしていないのだ。切嗣にとっての勝利とは恒久的世界平和。誰も争わない世界だ。それの達成こそが唯一の衛宮切嗣がもつ勝利条件であり、だからこそ切嗣は生涯においてただの一度の勝ち戦を体験したことがなかった。
 ライターで煙草に火をつける。冬の城では決して纏っていなかった煙の臭いが切嗣を満たした。
 
「ご無事ですかマスター?」

 セイバーも首尾よくランサーを仕留めたのだろう。剣を消して切嗣の隣へとやってきた。

「問題ない。ご苦労だった」

 適当に答えを返す。
 切嗣自身はロード・エルメロイとの戦いに掛かりきりだった為、セイバーとランサーの一戦の一部始終を観戦していたわけではない。しかし噂に聞く聖剣エクスカリバーの破壊力は想像以上だった。
 所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで放たれる『究極の斬撃』。神霊レベルの魔術行使すら可能とする最強の聖剣。正に彼の騎士王こそが振るうに相応しい剣といえるだろう。
 事前に『全て遠き理想郷』や大まかなセイバーのパラメーター上のスペックは確認できたが対城宝具である『約束された勝利の剣』は魔力消費が激しいことや神秘の隠蔽などの問題でこの目で確認することはできなかった。しかしランサーとの戦いでその威力をある程度は知ることもできた。そういう意味でもこの戦いには成果があったといえる。念のための緩衝剤として大型客船を配置しておいたのも功を制した。もしもあれがなければ聖剣の光は対岸まで届き焼き払っていたかもしれない。
 『約束された勝利の剣』に弱点があるとすれば燃費の悪さと派手さだろう。
 強すぎる威力が災いして使用する場所を選び、衛宮切嗣の魔力供給では連発することが難しい。しかし些細な問題だ。
 あれだけの破壊力の一撃である。連発する必要性にかられることは殆どないといっていいだろうし、聖杯戦争はもう終盤も終盤。
 バーサーカー、キャスター、ランサー、ライダーが脱落し残るはセイバーを除けばアサシンとアーチャーのみ。最終局面にもなれば出し惜しみをする必要はなくなる。どれだけ派手にやろうと聖杯を手に入れさえすれば衛宮切嗣の勝利が確定するのだから。
 寧ろ懸念事項はセイバーではなく遠坂時臣の手に渡った『聖杯』のことだ。

(後悔先断たずだな。聖杯があるんならまだしも、過去をやり直すことはできない。それなら建設的に考える方が遥かに良い)

 気を取り直すと切嗣は拳銃を取り出す。
 手始めに一応済ませておかなければならないことがある。それは敗残兵の処理だ。処置ではなく処理。今後の戦略にほんの僅かでも不安を感じさせるものがいるのであれば消して置く必要がある。
 切嗣は無表情にケイネスの亡骸の隣で蹲り震えているソラウに銃口を向けた。

「ひっ……た、助け」

 ソラウが懇願してくる。だがそんな命乞いが切嗣の心を動かすはずもない。こんな命乞いなど数えきれないほどに見て来たし、されてきたのだから。そしてその度に命乞いする者を殺してきた。ならばソラウだけを見逃す理由はなかった。
 自分の想像を遥かに超えた事態に足がすくんでいるのだろう。ソラウは逃げたくても逃げられない様子だった。

「わ……私は、マスターじゃない! ケイネスについてきたけど、マスターじゃないのよ! ほら令呪だってない!」

 これ見よがしに令呪の宿らぬ手を見せつけてくる。
 普段の気丈さはどこへいったのか。常人ならその様に哀れさを感じたかもしれない。無論、切嗣がそんな感傷を抱くことはなかったが、隣にいる剣士には少しは通じたようだ。

「マスター、どうやら彼女は本当にマスターではないようです。見逃したところで特に問題はないと思いますが?」

 ソラウの顔に希望の色が宿る。だがそれを、

「駄目だ」

 あっさりと打ち砕いた。

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリはマスターじゃない。だがロード・エルメロイの婚約者だ。万が一以下の可能性だが僕達の障害になる可能性は"ゼロ"じゃない。弾丸一発でゼロ以上をゼロにできるならやっておいて損はないだろう」

「分かりました。マスターがそういう考えならば」

 セイバーはあっさりと引き下がった。セイバーもソラウを哀れと思う心はあるだろうが、わざわざ自分のマスターとの間に不協和音を奏でてまで助けたい命ではない。
 ここにソラウの命運はつきた。つきたかに見えた。

「恨むなら、恨むといい」

 切嗣がそう吐き出すのと銃口から弾丸が飛び出るのは同時だった。
 正確無比なる射撃。鉛玉は真っ直ぐにソラウの眉間へと飛び、 <> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:10:22.18 ID:D34Ij9740<>


「失せろ下衆。こいつはテメエなんぞが触れていい女じゃねえ」


<> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:11:38.19 ID:D34Ij9740<>  雷光の如く間に入った青い影によって弾丸は叩き落とされた。
 その男の面貌を見ると流石の切嗣も驚きに眉を歪めた。

「……ランサー。生きて、いたのか? あのエクスカリバーを受けておいて」

 酷い有様だ。光の御子と称えられた面貌は鮮血を浴びており、その胴体は四分の一が抉られたように失われている。
 肉体のある人間ならは確実に致命傷。霊体であるサーヴァントだからどうにか立って歩けているだけだ。
 手には真紅の槍。だがそれは決してゲイボルクではない。彼の魔槍はエクスカリバーの光により跡形もなく消滅してしまっている。それはランサーがルーン魔術の力で、周囲の地面の土を材料にして生み出した即席の槍だ。恐らくは黄金の聖剣と接触するだけで形が崩れるような脆い得物。されどその槍はゲイボルクと比して尚、劣らぬもののように切嗣に見えた。或いはランサーの瞳に宿る鬼気がそう見せているのかもしれない。

「はっ。あの程度で死ぬようなら俺は英雄なんてなってねえ。――――と言いてえところだが、俺でもセイバー、テメエの聖剣ばかりはどうしようもねえさ。俺がこうして生き恥を晒してんのは俺の功じゃねえよ。マスターの……ケイネスの遺志だ」

 ケイネスの遺志。直ぐに切嗣はある可能性に思い至りケイネスの腕を見た。
 そこからある筈のものが失われている。ケイネス・エルメロイがランサーのマスターであることを示す令呪、それが失われていた。
 恐らく自らの礼装を打ち砕かれ、魔術回路を破壊された死ぬまでの刹那、ケイネスは願ったのだ。どうかソラウだけは助かって欲しいと。
 ケイネスの最期の遺志が令呪の発動という形をとりランサーに力を与えた。セイバーのエクスカリバーを真っ向から受け、あろうことか生還するという『奇跡』を掴み取ったのだ。
 ランサーが元々『生き延びる』ことに特化した英霊であった事実。ゲイボルクによる若干のエクスカリバーの威力減衰。そしてケイネスの遺志。どれか一つが欠けてもこの奇跡は起こりはしなかった。揃っていたとしても起こるはずのない現実だった。それを起こしたのである。ケイネスが生まれながらにもった才能ではなく、後に生じた意志が魔術ではどうしようもないことをやってのけたのだ。
 意志の力。そんな曖昧なものを切嗣は微塵も信仰していない。だがもしそんなものがあるのだとすれば今それを目の当たりにしたのだろう。

「……ケイネスは、死んだ。そのことに恨み言をぐだぐだと言うつもりはない。あいつも俺も己が命を賭して聖杯戦争に挑んだ。なら死んだっていっても文句は言えねえ」

「ならどうしてソラウを庇う? 令呪の縛りか?」

 切嗣が言う。ランサーは鼻で笑うと。

「これだから魔術師風情は気に入らねえ。令呪なんぞで本当に英霊を縛れるとでも思ってんのか? 俺は俺の信条に肩入れしてるだけだし、俺はあいつのことが気に入ってたから俺の意志でこうしてんだよ。文句あっか」

 ランサーは満身創痍だ。体はもう消えかかっている。サーヴァントにとっての心臓たる霊格を破壊されたランサーにはもう如何な回復手段であろうと救うことはできないだろう。
 それこそ『全て遠き理想郷』を使っても無理だ。ランサーがこうして今なお現世に留まっているのはケイネスの『遺志』とランサーの『意志』があったからこそだ。
 ランサーは決死の覚悟を秘めた視線で切嗣とセイバーを睨む。

「貴様等が我が朋友、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの屍を踏み越えその伴侶を害そうというのならば、貴様等も決死の覚悟を秘めて挑んで来いッ! その先は四枝の浅瀬(アトゴウラ)と知れ!」 

 四枝の浅瀬。その陣を布いた戦士には敗走は許されず。その陣を見た戦士に、退却は許されない。
 赤枝の騎士に伝わる、一騎討ちの大禁戒だ。
 もしも切嗣かセイバーかが一歩でもケイネスの亡骸を超えれば、ランサーは迷わずその陣を布くだろう。そして己が全てを賭してセイバーと切嗣の喉元に噛みかかってくる。

「…………」

 切嗣は背を向けてランサーとソラウから離れていく。
 セイバーがランサーを警戒しながら後に続いた。

「宜しいのですか?」

「ランサーは満身創痍だ。だが追い詰められた奴ほどなにをしでかすか分かったもんじゃない。といってもお前が手負いのランサーにやられるなんて万に一つの可能性だ。殺そうと思えば殺せるだろう。だが万に一つならソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが僕達の障害となる可能性よりは高い」

 本当にそれだけだった。切嗣にとって優先すべきは効率である。
 手負いのランサーと戦うよりも、ここは退いておく方が効率がほんのわずかに良いと判断した。だから退く。簡単なロジックだ。
 セイバーは敬意を払う様にランサーを一度だけ見ると、その姿を己が心に刻み付けその場を去った。

<> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:12:42.20 ID:D34Ij9740<> 「……退いたか」

 去っていく二人の主従を見送ると、ランサーは地面に膝を突く。
 無理して立っていたがランサーにはもはや戦う力などはなかった。もって一分未満といったところだろう。
 霊体とはいえ自分の体である。ランサーには誰よりも自分の命運がどの程度なのかを把握していた。

「ランサー! 早く傷を癒さないと……」

 慌ててランサーに駆け寄ろうとしたソラウを一喝して留める。

「来るんじゃねえ。さっさと逃げろ……不甲斐ねえが、もう俺もそろそろ死ぬからな。流石の俺も死んでから蘇るのは無理だ」

「で、でも貴方は……私を、助けて……」

「勘違いするんじゃねえよ。俺がお前を助けたんじゃない。ケイネスがお前を助けた。そこは間違いちゃいけねえ」

 ソラウを助けたのはケイネス。そこだけはランサーも譲るわけにはいかない。
 セイバーのエクスカリバーは最強の聖剣というに相応強い代物だった。だからこそ相対したランサーは死んだはずだったのだ。だがその死者を動かしているのはケイネスの遺志である。それならばランサーの功はケイネスへと向けられるものであろう。

「ケイネスが、私を守った……ケイネスが?」

「信じられねえ顔すんなよ。ははっ! あの野郎、四六時中お前のことばっか考えてやがったからな。寒い台詞だが、あいつのお前への愛は本物だった。だから行け。行って生きろ。ケイネスが最後の最期に望んだのは――――自分の命じゃなく、お前の命だったんだからよ」

 ランサーの体が粒子となり消えていく。残り三十妙といったところだろう。
 ソラウは亡骸となったケイネスとランサーを交互に見ると、ケイネスの愛したいつものソラウらしい表情で偉そうに――――涙を溜めて口を開く。

「良い働きでした……ランサー。我が夫、ケイネスにかわり礼を言います。ありがとう、貴方がケイネスのサーヴァントで良かった。そして……さようなら、ケイネス。ごめんなさい。……ありがとう」

 限界だったのだろう。最後に気丈さを取り戻したソラウはケイネスとランサーへの別れを言い切ると、弾かれたように走り出した。
 友の愛した女性を見送るとランサーも目を閉じる。

「終わりこそ後味の悪いもんだったが……いい、戦いだった。俺からも礼を言うぜ。亡骸を火葬してやりてえが、魔術刻印ってのがあるんだよな」

 ランサーは数千年の時の果てで出会った友人に笑みを見せる。
 霊体だからだろうか。ケイネスが隣にいる気がした。

「ああ。お前は愛した女を守り通したんだ。単純なことだが、それすら出来ねえ英雄がどれだけいると思う? お前はよくやったんだ。誇っていいぜ。……赤枝の騎士のお墨付きだ」

 惜しみない賞賛と友愛、ほんの少しの謝罪を込めてランサーは謳う。
 そうして生涯において無敗を貫き、己が信念を貫き通した騎士は晴れ晴れとした顔でこの世から消えた。
<> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:13:50.42 ID:D34Ij9740<>  ランサーとセイバーとの戦場から逃げ出したソラウは冬木市の市街を走っていた。
 目的地は唯一つ冬木教会である。教会は中立地帯であり、サーヴァントを失ったマスターはそこへ逃げ込めば保護を受けられるようになっているのだ。
 なにせ衛宮切嗣とセイバーは今もどこかで自分の命を狙っているのかもしれない。この冬木市で他に安全な場所などないと考えた方が良かった。

「はぁ……はぁ……」
 
 どこまで来ただろうか。路地の一角で足を止める。
 ソラウは箱入りの令嬢であり激しい運動とは無縁の生活を送ってきた。こうして懸命に走るのは生まれて始めての経験といえる。当然直ぐに息が切れ始めた。
 それでも動くのを止めない。自分の命への執着もあるが、ケイネスの死を無意味なものとしたくないという思いが背中を押していた。

(馬鹿ね……私は)

 自らの人生を振り返り自嘲する。
 生まれたその時点から親によってレールが敷かれていて、その与えられた役割を演じるだけの人生。胸を焦がす情熱など一度としてなかった。だがソラウはあの一瞬に感じたのだ。胸を焼く情熱を。自分の命を守り通した婚約者であるケイネスに対して。
 だからこその自嘲だった。あれだけ望んでいた情熱を遂に見出したと言うのに、それを自覚したその時にはその相手はいなくなっているのだから。これを嗤わずに何と言えばいいのだろうか。
 故に、死ぬわけにはいかない。もし自分に情熱を教えてくれた人に報いる方法があるとすれば、それは生き延びることによってのみなのだから。
 しかし参った。ソラウには土地勘がない。一体どうすれば冬木教会へ辿り着けるのか……最短の道はどこなのか。それが分からなくなってしまった。

「あっ」

 ぐらりと視界が暗転する。石に躓いたのだ。
 ソラウの体は走った勢いのままに地面に叩きつけ――――られなかった。

「と、大丈夫ですか? そんなに急いで危ないですよ」

 一人の青年が倒れそうになったソラウを支えたのだ。
 年の頃は二十代あたりだろうか。柔和な笑みを浮かべたお人好しに見える男だった。
 名も知らぬ男は悪意を感じさせない表情でソラウを伺っている。
 こんな時間に出歩いているのだ。恐らくは冬木市の住民だろう。なら教会への道を知っているかもしれない。
 そう思いソラウはその男に問いを投げる。

「……あ、あなた。教会へは……どう行くか、知っていて?」

「えーと、外人さんだよね見た目からして。にしては日本語上手いけど。そういえば前に米軍基地の近くに行った時にやたら日本語の上手い人いたっけ。教会ってえーと丘の上にあるあの?」

「そ、そうその教会よ。良かったら教えてくれないかしら」 <> 第37話 四枝の浅瀬<>saga<>2013/02/02(土) 22:15:47.22 ID:D34Ij9740<> 「オーケイ、オーケイ。それじゃ御一人様、ごあんな〜い!」

 ドンっ、と頭に重い衝撃が奔った。

「え、あ――――」

 頭に激しい痛みを覚えてソラウは地面に膝を突く。
 心臓がドクドクッと脈動する。頭に触れた手を見ると赤くなっていた。一体なにが起きたのか。

「あららぁ。勘が鈍っちゃったかなぁ。今のは血とか出さないで気絶させるつもりだったんだけど。一度魔女さんにぶっ刺されてたせいかなぁ」

 男は――――雨生龍之介は倒れたソラウを見て溜息を吐く。
 誰が知ろう。この龍之介こそキャスターの最初のマスターである男。冬木市を賑わせた快楽殺人者だった。
 キャスターの宝具によって刺され契約を無効化された龍之介だが、世界にとって不幸なことに彼は死んではいなかったのだ。
 起き上った龍之介は自分の流す血を悦び魅入り、そして生贄用の子供を殺し証拠を隠滅すると病院へと厄介になったのである。
 そして快楽殺人者が夜中に女性を殴りつけたとなれば、これからやることは一つだけ。即ち人殺し。

「い、いや……こないで」

「知ってる? この辺りってさ、この時間は人っ子一人として来ないんだよねぇ。教会に行きたかったんだっけ。大丈夫大丈夫、安心していいよ。教会より素敵な天国に行けるからさ。きっとクールなところだよ天国はさ」

「あが、ああああああ――――痛い痛い痛いっ! もうやめて! 痛いのは嫌なの!! ケイネス! ランサー! 助けて助けて! お願いもう嫌なのよ! 助けてぇええええええええええええ!!」

 包丁が深々とソラウの腹に突き刺さる。内臓から血が溢れだし血反吐を吐き出した。それでも痛みは消えてくれない。
 地獄の激痛に苦しみ悶えるソラウは愛おしそうに観察していた龍之介は次に足を切り腕を斬り指を切り落とし、ソラウが出血多量でショック死する直前にその顔にナイフを突き刺した。

「天国へ一人ご案内〜。リスクは高いし証拠消すの面倒だけど野外でヤるのも別の味があるよね。屋内では味わえないスリリングなクールが味わえるっていうかさ。って聞いてないよね、死んでるんだから」

 龍之介は残念そうにソラウだったものを見下ろす。
 顔に突き刺したのは失敗だったかもしれない。折角の美人だ。顔が無事なら生首を使って生け花風味にアートの作成ができたというものを。
 龍之介は自分の浅慮を呪った。

「まっ、いいか。それじゃリハビリに付き合って貰うよお嬢さん。なぁに勿体ないことしないって。その命は俺が限界ぎりぎりまで使わせて貰うから」

 唯一つ言えることがあれば、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの亡骸はイギリスの土に戻ることはなかったということである。
 そして聖杯戦争十一日目の夜が終わった。

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト 死亡】
【ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ 死亡】
【ランサー 脱落】
【残りサーヴァント 3騎】 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2013/02/02(土) 22:17:02.32 ID:D34Ij9740<> 今日はここまで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 22:19:00.41 ID:/dhYxaCMo<> ランサーは勝ったよ。マスターの命令を果たしたんだから勝ったんだよぉぉ!!

と書こうとしたら全部吹っ飛んだ

おおおう……



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/02(土) 22:49:31.92 ID:MD337e4q0<> うわああああああああ生き残るってそういうことかよおおおおおおおおお!!!!

 
それはそうとして乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 23:01:08.96 ID:GluWfNJJo<> あげておとしてってレベルじゃねーなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 23:27:59.54 ID:MUbR0q1o0<> お前は虚淵か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 23:29:01.39 ID:MUbR0q1o0<> お前は虚淵か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 00:32:49.08 ID:59YoRjMAO<> このスプーンに『虚淵二世』と名付けよう(笑)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 00:50:11.01 ID:oPcx+2KV0<> もうこうなったら龍之介が火災に巻き込まれて死ぬことを祈るしか..... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 02:51:31.87 ID:+TzpWGco0<> ケイネスが愛してくれたソラウは死んだ。何故だ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 03:21:45.61 ID:7/hP19kAO<> 自分のすっげえ綺麗な腸見たんだから自傷に走ってろよこの鬼畜外道があ……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 04:27:21.73 ID:purzy8kZo<> なるほど…
参加者が生き残るってこういうことか…
まさか序盤のキャスターの台詞が伏線だったとかとんだ鬼才だな
この落差がなんともいえない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 06:55:01.80 ID:OKdpU0ep0<> これが人間のすることかよ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 11:08:45.40 ID:6b5ACwk/o<> 乙…まさか生きてたなんて想像できるか…
この鬼!悪魔!虚淵! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 13:33:22.21 ID:vyLr9//I0<> なるほど、何故五次で青髭が呼ばれるのか不思議に思ってましたがそうゆう事ですか
とゆう事は葛木先生は参加しないんですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/03(日) 16:02:28.89 ID:5OUPSGdF0<> 槍兵が…………生きていた!! 

人であり!! 



兄貴を救ったのは令呪では無い。先生の漢臭だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 21:17:44.50 ID:M7T+e6Zj0<> わーとってもウロブチックーwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 22:20:26.01 ID:wV0GnMfjo<> 最後に叩き落としやがったな!畜生!
ただでは終わらんと思ってはいたが…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/04(月) 00:38:09.41 ID:d+8Ea05e0<> 第5次がエライことになりそうだなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/04(月) 02:00:48.68 ID:7sVlNGjXo<> この虚淵がっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/04(月) 17:54:29.70 ID:z6/o4ae80<> 次はいよいよ対言峰戦か
いったいアーチャーから何聞いたんだか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/04(月) 23:41:57.77 ID:mTDGmgTRo<> 結論:鯖を5次にしても碌なエンドが待っていない

虚淵めーッ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 10:54:54.97 ID:85XkQ6RY0<> まあ、あれだ四次マスターは人でなしが多すぎるだろう、逆に五次は青臭いマスターが多いし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 14:17:49.47 ID:X0Zz/i400<> 五次は外来マスターがイリヤだけで後は全員学校関係者だもんな
あれじゃもう聖杯戦争という名の学校行事じゃん
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 20:37:09.94 ID:4yJM5IS9o<> >>735
言峰ェ…
バゼットェ…
そういえば4次も5次も聖杯を本当に欲しがってるやつって少ないよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 21:50:00.11 ID:fIWz2m+Y0<> >>734
一番青臭そうに見える士郎でも参加者の死なら仕方ないって割り切るくらいはあるけどねぇ
作品の媒体上立場が変わりやすい物と固定されたものの違いだなぁ <> アンドリュー・スプーン <>saga<>2013/02/05(火) 22:16:04.69 ID:MAyzMirA0<> >>714
 ランサーは勝ちました。ソラウが死亡したのは天災のようなものです。

>>715
 嘘はついていません。Fate/zeroで死亡したキャラがしっかりと生き残ったでしょう?

>>717
 勿論違います。この作品のテーマの一つは絶望に立ち向かうことです。

>>721
 坊やだからさ。

>>723
 漸く伏線を回収できてスッキリしました。

>>727
 兄貴が生きてたのは意志の力が生み出した奇跡です。

>>729
 大丈夫です。ソラウがあんな最期を遂げた事をケイネスやランサーは知りません。

>>732
 あらゆることを、です。

>>734
 臓硯と麻婆と生き残った龍之介がスタンバってますので。

>>735
 麻婆とキャスターの元マスターにダメットさんに臓硯とメディアさんは学校関係者ではありません。

>>737
 士郎はお人好しですが、殺る時は殺りますからね。 <> 第38話 降霊前夜<>saga<>2013/02/05(火) 22:22:19.73 ID:MAyzMirA0<>  時計の針が頂点のゼロを超え、十二日が始まる。冬木教会の私室に座っていた言峰は卓上におかれた『小聖杯』を見ていてニヤリと笑った。
 11日目。この小聖杯が二度、普通にはない反応をした。言峰は知識と推論でこれが聖杯がサーヴァントを取り込んだ兆項であることを察知していた。
 
(小聖杯に反応があったのは二回。……十一日目にして一気に二体のサーヴァントが脱落したということとなる)

 そして今は言峰のサーヴァントとなっているアーチャーの鷹の目はしかとロード・エルメロイと衛宮切嗣の戦闘を視ていた。
 残ったのはやはりというべきか衛宮切嗣とセイバー。ロード・エルメロイとウェイバー・ベルベットは脱落した。
 
(しかもエクスカリバーか。セイバーの真名までも分かったのは誤算だ。彼の聖剣をもつ騎士となれば真名はアーサー王しかあるまい。女性とは思わなかったが些細なことだ)

 切嗣のサーヴァントの真名は知れた。だが切嗣の側はアサシンは兎も角、アーチャーの真名を知らない。もしアーチャーが宝具を晒したとしても、この時代の人間にアーチャーの真名がばれる心配はないという確信すらある。 
 ここにきて亡き遠坂時臣の戦略は成就したといえるだろう。
 残った全てのサーヴァントの真名と宝具の情報を掴み、こちらのサーヴァントの力は出来る限り隠蔽し、しかるのち打って出る。
 小聖杯をも手中にしているとなれば戦略以上の結果ともいえる。ただ一点。遠坂時臣が死んだということを除けばの話だが。

「アサシン」

 短く己がサーヴァントを呼ぶ。すると待っていたかのように群青色の陣羽織を着た侍が姿を現した。

「何の用だ綺礼。……まぁ、お前のことだ。碌でもないことを言うつもりなのだろうが」

「良い推理だ。お前はこの盤上をどう見る?」
 
 チェス盤を指して尋ねる。

「さぁ。元より私は貧しい生まれでな。文字も知らぬし、チェスとかいったか? そういった遊戯にも嗜んだことはない」

「チェスのことではない。今の状況だ」

「……それならば大方、貴様の思い通りだろう」

 そうだ。全部が全部、言峰綺礼の思い通りに局面は進んでいる。
 衛宮切嗣に答えを聞く際に邪魔となる他のマスターとサーヴァントは悉く排除され、残るマスターは言峰綺礼と衛宮切嗣のみ。そして切嗣の情報をも入手し、こちらにはアサシンとアーチャーがいる。
 しかし――――。

「遠坂時臣ほどの魔術師なら別なのだろうがな。魔術師としては数年たらずの付け焼刃でしかない私に二体のサーヴァントを維持する力はない。無理に維持しようとすれば二体のステータスを著しく低下させることになるだろう。それは好ましくない。衛宮切嗣とセイバーのペアは難敵だ。これほど恐ろしいペアはない。そんな相手に兵力分散をして挑むのは愚の骨頂だ」

「貴様、狸とは思っていたが……?」

「さて、アサシン。現状で貴様とアーチャー、どちらの駒を残すべきかと思うかね?」
<> 第38話 降霊前夜<>saga<>2013/02/05(火) 22:25:28.82 ID:MAyzMirA0<>  アサシンの真名と必殺剣はセイバーに知られている。第一セイバーにはあの聖剣があるのだ。アサシンの間合いに入らずとも、遠距離から聖剣を繰り出されればアサシンは為す術なく敗北する。
 対してアーチャーならばあの聖剣にも或いは対抗できる……かもしれない。
 特殊性の高い宝具と広い汎用性。
 究極の一をもつが故に他には何もないアサシンと、究極の一をもたないが故に多くを修めたアーチャー。
 この最終局面においてどちらの駒を選ぶべきか……そんなものは考えるまでもない。

「兎死して猟犬煮られる……といったところか?」

「悲観することはないアサシン。別に私は今ここで貴様を自害させようとは考えていない。だがお前の良い処理方法はないかと考え、そして思いついたのだ」

 言峰はアサシンに大粒の宝石を投げ渡す。
 それを掴むとアサシンは訝しげに言峰を見る。

「これは?」

「時臣の遺品だ。衛宮切嗣との戦いで持っていかずに残った唯一つの宝石。それにはランクB相当の魔術行使を可能とするだけの魔力がある。サーヴァントであるお前にとっては下手な人間を喰い尽すよりも効率よく魔力を得ることができるだろう」

「…………」

「貴様にはこれをやろう。そして私は貴様との視界供給などのラインを除いて、あらゆる干渉を停止する。無論、魔力供給もだ。お前は残った魔力で柳洞寺へ赴き待機するといい」

「柳洞寺だと? セイバーがそこへ現れると」

「勘が良いな。そうだ、可能性はある。なにせあそこは冬木市でも最高の霊地だからな。今回の降霊地があそこである確率は高い。お前はそこが此度の降霊地なのかという調査を行え。そしてもしもセイバーがきたのならば存分に殺し合い給え。なんなら討ち取ってしまっても構わん。私にとって重要なのは衛宮切嗣だけだからな」

「やはりお主はとんだ生臭坊主よな。私の第一印象は間違いではいなかった……か。まぁ良かろう。天に運を任せるのも一興。セイバーがこなければ、元より私には巡り合わせがなかったのだろう」

 アサシンはもう語ることはない、と姿を消す。
 霊体化して柳洞寺へと向かったのだろう。自分が召喚された土地であり、自分の生きた時代を残す唯一の場所へと。

「――――――」

 アサシンを行かせてから、想起する。衛宮切嗣。あらゆる行動に『虚無』しか宿らず、その癖、聖杯を求めようとするあの男。
 己はあの男こそ自分が長年抱いていた疑問を解決する『解答者』と思っていた。だがもし衛宮切嗣が『解答者』であるならばどうして聖杯を求めるというのだ。
 不快な違和感が拭えない。アイリスフィール・フォン・アインツベルンを殺した時の確信による歓喜を超える不快感がある。

(令呪によりアーチャーに話させた衛宮切嗣という男。そしてこの衛宮切嗣の行動原理。あらゆる戦場に赴き、メリットとデメリットが釣り合わぬ死線に身を置く虚無的願望)

 一つの推論が言峰綺礼にはある。
 自分と同類であり、自分では出せない答えを見出した者と思い込んでいた衛宮切嗣。あれはもしかしたら。

「お前は私と同じなのではなく、貴様は――――」

 その疑問はロウソクの蝋に溶け込み消える。
 ロウソクの火が一つ掻き消えた。 <> 第38話 降霊前夜<>saga<>2013/02/05(火) 22:27:12.78 ID:MAyzMirA0<>  キャスター襲撃より四日目の今日。切嗣とセイバーは八日ぶりに日本邸宅の門を潜っていた。
 当然落ち着いた拠点で羽休みしようなどという生易しい考えではなく、今後についての作戦会議を行う為だ。リビングには切嗣とセイバー以外に久宇舞弥の姿もある。

「……最初に何某かのサーヴァントが脱落し、僕達の知る限りキャスター、ランサー、ライダーが脱落した。となると残るはアーチャーとアサシンとみていいだろう」

 切嗣の話を二人は黙って聞いている。二人にも異論はないのだろう。

「聖杯戦争に勝利するためにはこの二体を始末しなければならないが……それよりも確保しておかなければならないのが、聖杯の降霊地だ」

 冬木市の地図に切嗣は赤鉛筆で四つの地点に丸を記す。

「一つは言わずと知れた円蔵山だ。冬木においては最上位の霊地、最初の聖杯降霊の土地であるし一番確率が高いのはここだろうね。そして二番目が遠坂邸、三番目が冬木教会、四番目が新都にある霊脈加工によって後天的に霊地と化した場所だ」

 セイバーと舞弥は赤い丸で囲まれたポイントを脳裏に焼き付ける。
 切嗣がそんな二人を一拍待ってから先を続けた。

「聖杯戦争はサーヴァントが脱落し終わりに近づくにつれて、このうち一つの霊地に僕達が用意せずとも聖杯降霊のための『力場』が生まれる。アイリスフィールが持っていた聖杯は今はアサシンのマスターの手にある。だから僕達は他の者より先に『降霊地点』を確保しなければならない。頃合いから見て既に『力場』は出来上がっているだろう。聖杯降霊の霊地は第一回から順々に回っていく。第一回目の降霊場所は柳洞寺、二回目は遠坂邸、三回目は冬木教会。順々にいけば次は四番目のここなんだが……なにせ後天的な霊地だ。確証はないし霊格は最低だ。決めつけることはできないだろう。現状で最も可能性が高いのは柳洞寺だろうね。新造の霊地は二番候補といったところか」

「ですがマスター。聖杯の降霊場所は四つですが、こちらには舞弥とマスターを含めても三人しかいません。四つの地点は距離があって同時に二つを確保するのは困難でしょう。どうするのですか?」

 セイバーの的確な指摘に頷く。それは切嗣も考えていた。
 いっそ暗示を施した一般人やアインツベルンのホムンクルスを狩りだそうかとも考えたが、それでは正確ではない。
 この最終局面はやはり信頼できる道具を使った方が良いだろう。

「四つの霊地で最も可能性が高い柳洞寺、そこにはお前が行けセイバー。もし残りのサーヴァントが集結していようとお前ならば離脱できるだろう。舞弥は四番目の霊地を、僕は遠坂邸へ行く」

「二番目に可能性の高い霊地を舞弥に? 差し出がましい発言ですが、切嗣ご自身が向かった方が良いのでは?」

 単純な役割分担の不平等故にセイバーが言った。
 セイバーが柳洞寺にいくのは妥当だ。一番確率の高い霊地だからこそ一番生存力の高いセイバーを向かわせる。その考えに誤りはない。
 それならば二番目の候補たる新造霊地には二番目に生存力の高い切嗣が行って然るべきだろう。だが切嗣は首を振る。

「三番目の候補の遠坂邸は多くの魔術的トラップが敷かれているだろう。舞弥もそれなりの性能はあるが、一流の魔術師の工房を突破できるほどは高くない。魔術師としては素人に毛が生えた程度のものだからね」

 久宇舞弥は切嗣のパーツともいえる人物であり、数多くの戦場を切嗣と共にした熟練の兵士だ。だが所詮はただの兵士。魔術回路があるため魔術を使うことはできるが、それは使い魔の使役などの初歩的なものに限られる。
 切嗣のように魔術師の工房にあるトラップを解除してそこへ乗り込むなんていうのは難しいのだ。

「そして万が一どの霊地にも『力場』がなかった場合、残る候補地は冬木教会だけだ。……役割分担はこれで終わりだ。質問は?」

「「…………」」

 沈黙は質問はないという意味だと切嗣は受け取る。
 そして切嗣が「終わりだ」と言うと先ずはセイバーが柳洞寺へと向かっていった。舞弥と切嗣がそこに残される。
<> 第38話 降霊前夜<>saga<>2013/02/05(火) 22:29:02.09 ID:MAyzMirA0<> 「舞弥」

 切嗣は懐からあるものを取り出すと舞弥に手渡す。

「これは?」

 舞弥がアイリスフィールに似た発信機にも似た機械。だがよく見ると細部が異なるのが分かる。
 機械ある赤と青のボタンが目に付いた。

「アイリに渡したのと似たものだが……舞弥、もしお前が退却困難で新造霊地に『力場』があれば青のボタンを、『力場』がなければ赤を押せ。そうすれば合図が僕や拠点にある機械に届くことになっている。これはボタンを押して十五秒で爆発するようになっているから処分する必要はない」

 遠まわしに『もし死ぬとしても情報だけは伝えろ』と切嗣は言っていた。
 だがそれに不快感一つみせることなく舞弥は機械的に頷く。

「分かりました。ではご武運を」

 飾り気のない言葉。だがどうしてだろうか。切嗣にはこれが舞弥と会う最後の機会のような気がした。
 ナタリアやシャーレイ、そしてアイリスフィールを喪った時の光景がフラッシュバックする。
 自分は小を切り捨て大を救う過程で彼女達を殺してきた。舞弥もまたその時がやってきたのかもしれない。
 妻ではなく愛情を与えてもいない相手とはいえ、長年共にいた女が死ぬかもしれないという予感があるというのに切嗣には舞弥を戦場に投入することに対する忌避感はまるでない。
 そう今はそれでいいのだ。自分を正義だと名乗る気は毛頭ない。その行いが善であると驕ってはいない。自分はただの薄汚れた殺人者の悪だ。その自覚はある。
 だが目的を達成する為ならばどこまでも人でなしの悪にも染まろう。
 やがて全てが終われば、断罪の刃から背を向けはすまい。己の行いが原因となり死んだ者の仇を討とうとする復讐者が現れれば、甘んじてその刃を受けよう。死者への哀悼も涙も終わってからすればいい。
 舞弥を見る切嗣は顔色を変えることはなく、

「ああ。君もね」

 簡素な相槌をうつと準備のために戻る。
 それが結果的に舞弥と交わした最後のやり取りとなった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2013/02/05(火) 22:31:09.52 ID:MAyzMirA0<> 今日はこれまで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 22:43:06.01 ID:X0Zz/i400<> 乙
>>736
すっかり忘れてたwwwwあとイリヤは御三家だから外来ではないか
結局第五次にはバゼット含めて三人の外来マスターがいたんだよな
全員始まる前に脱落した上、本来のキャスター・アサシンのマスターは名前すら出ないという不憫っぷりだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 22:48:56.91 ID:D2oltKFH0<> 乙でした
後質問、1位が円蔵山なのは分かりますが何故2位が四番目の霊地なのですか確か霊地としての質は
遠坂邸の方が上なのでは、原作でもキリツグ市民会館には使い魔飛ばしただけでしたけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/05(火) 22:50:26.15 ID:fIWz2m+Y0<> これはセイバーに分が悪いかねぇ
士郎もhollowでアチャにはエクスカリバーへの対処があるかもしれないといってたし
白兵戦では負けないが情報の差は恐ろしいもんだ

乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/06(水) 00:20:28.28 ID:QQ/g5Cy90<> 乙
あらゆることを、ということは当然アーチャーの正体や未来のことについても色々知っちゃったんだろうなぁ....
間違えてもコトシロくん誕生なんてことになってくれるなよ...
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/06(水) 01:00:21.40 ID:L8w0+NlAO<> 乙

>それが結果的に舞弥と交わした最後のやり取りとなった。

これ見る限り少なくともこの戦いでの切嗣か舞弥の死亡が確定か
順当なら舞弥なんだけどこの>>1はここで切嗣[ピーーー]ってのもありそうだから油断できないな…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/06(水) 19:21:58.97 ID:/IR5PSNko<> 乙
>>744
アサシンは元々マスターいなくてキャスターが召喚したんだぜ
確か山門を寄代にしたりサーヴァントがサーヴァントを召喚したとかで少々変則的な召喚だったからハサンが召喚出来なかったのな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 00:24:59.43 ID:dTMho9DE0<> >>749
いや、たしか本来のアサシンのマスターはサーヴァント召喚前にキャスターに令呪奪われて殺されてたはず
そういった意味じゃ結構可哀想なマスターかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 00:38:55.71 ID:GQGjAGbDo<> >>750
そうなのか
てっきりアサシンのマスターは不在だと思ってたぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 20:19:04.74 ID:6NTtYSjX0<> アーチャーってあれだな
作中ではそんな大量の宝具使ってないからわかりずらいけど
ありとあらゆる種類と属性の宝具をいくらでも使用可能なんだからステータスが低いだけでめちゃくちゃチートだよな
もっと積極的に投影使ってたらそれこそギルガメッシュ並に猛威を振るっていたと思うんだがなんでそうしなかったんだ?

後どうでもいいけど36話のタイトルでてっきりORT辺りが出てくるのかと思ったのは自分だけじゃないはずww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 20:19:24.00 ID:6NTtYSjX0<> アーチャーってあれだな
作中ではそんな大量の宝具使ってないからわかりずらいけど
ありとあらゆる種類と属性の宝具をいくらでも使用可能なんだからステータスが低いだけでめちゃくちゃチートだよな
もっと積極的に投影使ってたらそれこそギルガメッシュ並に猛威を振るっていたと思うんだがなんでそうしなかったんだ?

後どうでもいいけど36話のタイトルでてっきりORT辺りが出てくるのかと思ったのは自分だけじゃないはずww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 22:08:43.97 ID:qF0xyEcZ0<> >>753
究極の一はSNのUBWルートで士郎が言ってたあれじゃね

あと宝具乱射使わなかったのは凛がマスターで正体を明かせなかった事と単純に紅茶のこだわりだろうね
弓すら使わないで干将莫耶使った白兵戦ばっかりしようとするし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 22:37:11.15 ID:N25ePZ6go<> 無限の剣製の能力のみ、つまり空っぽだと相手のをコピるしかないから勝てないとされているけど、
本編のアーチャーは大量の武装を登録しているからかなり強いよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/07(木) 23:31:40.99 ID:SUjjGe/6o<> でもUBW展開しても、セイバー相手だと防戦で精一杯みたいなこと、きのこが言ってなかった? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 00:23:13.31 ID:p/IYhz15o<> 接近戦やUBW展開よりホロウでの狙撃スタイルの方が遥かに強いとしか思えないんだよなアイツ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 14:29:24.42 ID:QodN4Orm0<> そりゃ本業は弓兵ですし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 19:00:45.41 ID:lUByIQdQo<> 五次アーチャーの本懐はやっぱ弓兵だよ。
接近戦は訓練の末に英霊連中と打ち合える位にはなってるけど、それのみで戦うと厳しいはず。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 19:56:57.70 ID:lIfU0gzAO<> >>756
防戦というかUBWでも抑えきれるかどうか?みたいな
勝ち負けはマスターの機転次第という解答がされている <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/08(金) 21:41:32.10 ID:pDLh4H720<> >>744
 キャスターの元マスターに至ってはメディア以外に召喚しようのない触媒使ってメディアを召喚したことに逆切れしたり、令呪を全て浪費したりする駄目人間なのでわりと自業自得なところはあります。
 アサシンのマスター候補は純粋に不遇ですが。

>>745
 霊地の候補地は四つのポイントを順々に回っていって、順番的には市民会館近くだったからです。
 ただ新造な上にメディアさんが柳洞寺に魔力を溜めこみまくっていたので切嗣は第一候補を柳洞寺と判断しました。

>>747
 アーチャーの真名などについてはばっちり掴みました。

>>752
 アーチャーは対サーヴァント戦においてはそこまで強力なサーヴァントではありません。
 無限の剣はあってもそれだけでは一つのものを極限にまで鍛え上げた他の英霊には及ばないとかなんとか。無限の剣も究極の一には敵わないということでしょうね。
 ただそれは相手が英霊であった場合のみで、贋作といえど宝具なのでそれ以外の相手には滅法強いのでしょう。

>>754
 宝具乱射はさておき、弓を使わなかったのは状況的なところもあるでしょう。
 大抵は遭遇戦やら結界あって狙撃できなかったりなどの理由がありますしね。まぁあとは型月の弓兵の正しい在り方は弓が切り札ではないことですから。

>>755
 アーチャー含めた第五次の三騎士は殆どの死徒27祖にわりと余裕をもって戦えるとか。

>>756
 それはアーチャーが弱いのではなくセイバーが強すぎるだけです。

>>758
 殆ど弓を使わずに戦うのが型月的な弓兵の正しい在りようです。

>>759
 第五次のサーヴァントたちと比べるのも酷でしょう。第五次は歴代最強の鯖が集った戦いなので、その中だとアーチャーも中堅クラスです。 <> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:50:50.46 ID:pDLh4H720<>  足を踏み入れた冬木市民会館の空気は淀んでいた。これはもしかするかもしれない。
 舞弥は警戒を怠らずに会館の中を進む。完成前だからか、それとも人払いか、或いは聖杯の意志か。
 市民会館には人っ子一人見当たらなかった。違和感を覚えるが、この状況は舞弥にとっては好ましいものだ。
 彼女は非情であるし冷酷でもある。だが人を殺して快楽する殺人鬼ではない。
 神秘を目撃した一般人を殺すのは出来ることならばしたくはなかった。人を殺すという忌避感からではなく、弾丸の無駄使いはしたくないという意味で、だが。

「……これは」

 そうして市民会館の大ホールまで歩を進めた舞弥は『それ』を目の当たりにした。

「成程。第二候補で確かだったか。切嗣に報告しなければ――――」

 大ホールにあるそれは明らかなどことなく黒く濁った魔力の瘤。空間を歪めてみせるほどの『力場』は聖杯の降霊地としてこれ以上もなく適している。
 万全を期すとすればこの土地で聖杯を降ろさなければならない。
 舞弥が切嗣への連絡用の携帯電話を取り出した。
 着信音が耳に木霊する。

「ほう。切嗣の名を呼ぶとは貴様……衛宮切嗣の協力者といったところか」

 虚空より投擲された黒鍵が携帯電話を粉々に破壊し、地面に突き刺さる。
 舞弥が黒鍵が投擲された方向を見てみれば、そこにいたのは僧服をきた一人の神父。

「言峰、綺礼」

「私の名を知るとは、やはり一般人ではないな。貴様には話して貰わねばならんことがある。悪いが帰すわけにはいかん」

 反射的に舞弥は言峰に自動小銃を発砲していた。フルオートで放たれた弾丸は無数の薬莢をばら撒きながら言峰に殺到する。

「どこを狙っている」

 しかし気付けば言峰はそこにはおらず、舞弥の背後へと回っていた。

(馬鹿な。まったく見えなかった……! この速さ、本当に人間――――!?)

 舞弥が銃を投げ捨て、ナイフを構える。
 だがそれよりも速く言峰は鉄のような拳を舞弥へと放っていた。
 
「ごっぁ」

 肺の中の空気が強引に吐き出され、舞弥の体が宙に浮く。そのまま体はホールの壁へ叩きつけられていた。

「なに安心しろ。殺してはいない」

 安心させるように言峰が語りかけてくる。
 嘘ではないだろう。言峰は自分を殺さない。殺しては情報が得られなくなるから殺さない。久宇舞弥という衛宮切嗣のパーツから本体たる切嗣の情報を喋らせるためには久宇舞弥が壊れていては駄目なのだから。

「くっ――――――」

 このままでは不味い。舞弥は切嗣から渡されていた魔術的な効果すら持ち合わせた閃光弾を炸裂させる。

「むっ」

 目を瞑っていた舞弥には被害は最小限だが、目を開いていた言峰には不意打ちに等しいだろう。
 しかし舞弥は言峰綺礼が目を晦まされただけで自分で倒せる相手に堕ちるほどの者ではないと承知していたので、これ以上の交戦を止めて逃げる。
 大ホールから出た舞弥は切嗣に渡されていた発信機の青いボタンを押してから、壁に背を預ける。
 傷が深い。骨が何本か破壊されているようだ。 <> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:51:54.14 ID:pDLh4H720<> 「――――」

 息が荒い。動悸が激しい。吐き気もある。
 そしてなによりいつも身近で他人が放っていた死の臭いを自分が放ち始めていることに気付いた。
 舞弥はここにきて、自分がここで死ぬことを確信し受け入れた。

(役目は、果たした。後は切嗣がやってくれる)
 
 不眠不休での行動など慣れているのだが無性に眠りたい気分だった。舞弥はすっと目を閉じる。
 死期が近いせいで走馬灯でも見ているのか。舞弥は己の過去を回想した。
 久宇舞弥という名前は切嗣が彼女に与えた最初の偽造パスポートの名前であって実のところ本名ではない。ただ顔が東洋系で、日本人の名前にするのに都合が良かったから『久宇舞弥』となった。ただそれだけのことである。
 元の名前は覚えていない。彼女が両親につけられた名前はなんだったのか。そもそも自分には両親がいたのかすら定かではない。
 彼女にとっての原初の記憶は銃をもって敵の兵士達を殺していた場面だ。
 親すら知らぬ彼女だが、自分が生まれた母国が貧しく戦争ばかりしていた国だということは覚えている。そして彼女の母国は戦争に駆り出す兵士の育成にかける資金が負担となり、最も金のかからない兵士を調達するという悪しき選択をとった。
 現代でも呆れるほどあちこちで行われる"少年兵"というものだ。物心つく前の子供を攫ってきて、兵士として仕上げる。安上がりな兵隊作り。
 舞弥は有り触れた少年兵のうちの一人だった。ただ彼女は不幸なことに"女"だった。そして戦場で力ない女が野蛮な兵士から受けることなどいつの時代も大して変わらない。
 まだ少女であった舞弥は頻繁に兵士の慰み者として扱われ――――その過程で出産も経験した。
 親の顔を知らなかった彼女は、自分の子の名前すら知らない。というより名前を付けることもなく引き離された。彼女と同じように兵士として仕立てあげられるのが手に取るように分かり、それ以上考えることを止めた。
 思えばそんな事ばかりしていて、彼女はとうに人間として死んでいたのかもしれない。
 だから精神的な苦痛はなかった。感情をもつのは生き物だけ。道具や機械に感情はない。故に機会である自分は肉体的な痛みを覚えても、精神的な痛みを覚えることはなかった。
 自分の心を守るためにそうなったのか、周りの環境がそうさせたのかは分からない。答えは永久に出ないだろう。
 そうやって幾年かの月日が経ったある日、彼女は衛宮切嗣と出会った。
 物語のように運命的な出会いがあったわけではない。偶然居合わせた戦場で偶然に出会った。それだけである。
 彼女の使い手だった集団は彼によって殺されていて既にいなかった。機械には心がない。人間によって機械は人を殺すが、機械は機械によって人は殺さない。
 故に自分の使い手を殺した切嗣にも、なんら殺意は湧かなかった。
 切嗣は彼女を戦災孤児のための施設に送ろうとしたが、舞弥は切嗣に付いて行こうとした。恩を感じていたのではなく、自分を使っていた者を殺したのなら自分は殺した者の所有物になるのだと当然のように考えていただけだ。例えるならば殺した兵士が金品をもっていたのならば略奪するように。
 衛宮切嗣は最初は彼女のことを引き取ろうなどとはしなかったが、彼女が優れた『技術』をもっていることと『魔術回路』を宿していることを知ると引き取った。否、新しい彼女の所有者となったのだ。
 切嗣は以前の所有者のように暴行を加えていることはなかったが必要以上に干渉することもなかった。彼女――――久宇舞弥の死をもって、二人以上の人間を救えるのであれば価値はある。切嗣はそう考えていたのだろう。
 そこに疑念は挟まない。己はただの機械であり道具。衛宮切嗣という殺戮機械をより優れたものにする為の部品でしかない。
 しかし今となっては衛宮切嗣という使い手を殺した者がいたとしても、他の者の道具になる気は起きなかった。

「……ふ、ふふ」

 生まれて始めて彼女は――――分かる人にしか分からないほど小さくだが――――笑った。
 とうに失われていたと思っていた感情。どうやらほんの小さくだがその残滓が残っていたらしい。ならば最後に人として行動するのもいいだろう。
<> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:52:31.22 ID:pDLh4H720<> 「随分と遠くまで逃げたものだ。そんな体で」

 呆れたように追ってきた言峰が言う。
 舞弥は言峰を誘うために命乞いをした。

「……確認します。切嗣について……話せば、私の命は助けて……もらえるんですね?」 

「主の御名にて誓おうとも。私は別にお前に対して含むものなどない。衛宮切嗣は……あの男が聖杯にかける願いとはなんなのか。それを知りたくてね。貴様ならそれを知っているのではないか?」

「…………知っている」

「そうか。では」
 
 言峰が舞弥の言葉を聞くために近付いてきた。
 もう、いいだろう。十分に距離は縮まった。

「けどそれは、貴様には永久に分からぬ願いだ」

 舞弥は自分の体に巻きつけてあった爆弾の起爆ボタンを押した。
 切嗣の不利益となる情報は欠片も残してやらない。死体からだって情報は探れるかもしれない。だからこそ久宇舞弥という人間の痕跡を完全消滅させる。
 轟音が轟く。爆弾は久宇舞弥という人間を跡形もなく吹っ飛ばし破裂した。
 爆風で天井の瓦礫がおちてくる。
 しかし爆発に巻き込まれたはずの言峰綺礼は死んでいなかった。優れた動体視力と戦闘経験に支えられた反応速度で咄嗟に回避していたのだ。

「また自殺か。慣れないものだ、これで私の前で人が自殺するのは三度目だぞ。聖職者失格だな」

 自嘲したように嘆息すると言峰は大ホールへと戻っていく。
 聖杯降霊は近い。 <> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:53:11.00 ID:pDLh4H720<>  これで此処に来るのも二度目だな、と柳洞寺の山門を潜ったセイバーは小さく漏らす。
 キャスターの魔術で難攻不落な神殿へと姿を変えた寺は城主たるキャスターが脱落しても未だ暗鬱とした空気を散らしてはいない。
 石段や境内のあちこちには戦闘の跡も残っていた。

「……マスターの話によれば『力場』があるということだが」

 セイバーは魔術が当然のようにあった時代と国の生まれであり、それなりに魔術について心得ている。が、魔術を使う術もたない。
 だがセイバーはサーヴァント。聖杯降霊の力場というのであれば感じ取れるはずだ。

「………………? この気配」

 直感がとある"気配"を察知し自然と足を止める。聖杯降霊の"力場"ではない。
 この敵意や悪意、あらゆる害意をそのまま流す山河のような感覚。セイバーはその香りをもつ男と二度に渡り戦った事がある。
 セイバーは真っ直ぐにその気配の発信源へと歩を進める。するとやはり――――その男はいた。

「待っていたぞセイバー。私もつくづく悪運が強いらしい」

「アサシン」

 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎がその得物を抜いてセイバーに笑みを見せる。

「貴方がここで待っていたということは、やはりこの柳洞寺が此度の降霊地ということか?」

 慎重にセイバーが探りを入れる。

「否」

 だがアサシンはやけにあっさり否定した。

「私もマスターの命令でこの寺を隈なく調べさせられたのだがな。珍妙な"力場"とやらは見つけることはできなんだ」

「――――――」

 セイバーが怪訝な目をアサシンへ向けた。
 アサシンはやけにあっさり答えたが、これが口から出任せということもあり得る。鵜呑みにすることはできない。

「尤も私にはどうでもいいことだ。私の目的は……お前なのだからな」

「私だと?」

「見よ、この体を。我がマスターは私への魔力供給を切断し、今宵一夜を過ごせるか過ごせないかという魔力のみを与え放逐した。その癖、柳洞寺の調査まで命じるのだ。とことん面の皮の厚い男よ。彼奴も」

 放逐。それはアサシンが己がマスターに用済みとなって捨てられたという告白であった。
 しかしセイバーは疑念を抱く。
 聖杯とは霊体であり、霊体に触れられるのはサーヴァントのみ。そしてサーヴァントを相手できるのもサーヴァントのみだ。
 故にサーヴァントは聖杯を得るのに必要なのである。それを捨てたということは、そのマスターは聖杯戦争に恐れをなして逃げ出したか。
<> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:54:03.77 ID:pDLh4H720<> (アサシンのマスターにはアサシン以外の切り札が、もう一体のサーヴァントがいる?)

 アサシンのマスターは言峰綺礼だった。しかし言峰綺礼が以前のビル爆破で死んで、アサシンが別のマスターと再契約していたら。その再契約したマスターが既にサーヴァントをもっていたマスターだとしたら。
 この最終局面で二体のサーヴァントを使役していることが負担になり捨て去る可能性は多分にある。
 だがそうだとしてもセイバーには疑問が残った。

「それならば何故お前は私に刃を向ける。貴方がマスターの裏切られたのであれば、もはやマスターに義理立てして動く必要はないはずだ。それとも使い捨てにされて尚、消えぬ忠義を抱くものか。それとも――――」

 サーヴァントを強制的に使役する絶対命令権。令呪を使用されたか、だ。

「クッ。生憎だがお前達のような英霊は知らぬが、私は私を捨石にするような輩に忠節を尽くす心意気などない。元より私は私の目的で動いている。私の意志でお前と相対しているのだ。聖杯など要らぬし、英霊としての誇りも私には無縁のものだ。なにせ私はそもそも"佐々木小次郎"ではないのだから」

「……! 佐々木小次郎ではない? 名乗りは虚言だったのか?」

「それも否。確かに私は佐々木小次郎として召喚された。だからサーヴァントとしての真名は佐々木小次郎なのだろうよ。だがそもそも佐々木小次郎という剣士は存在せぬのだ。ある天下無双と名高き剣豪の敵役として作り出された敵対者。現実にはありえぬ架空の剣豪――――それが"佐々木小次郎"。
 ああ。佐々木小次郎という名の剣士はいたかもしれん。だが私は"佐々木小次郎"ではない。私には名があるほど裕福な生まれではなかったし、誰か他の剣豪と果たしあったことは生涯一度としてなかった。ただのこの土地に嘗て生きていた農民に過ぎん。
 私はただ伝承にいる佐々木小次郎の"秘剣"を披露できるという一点のみで"佐々木小次郎”の殻を被り呼ばれた亡霊」

 それが真実だ。思えばこの剣士には英霊ならば誰しもがもつ威圧感がまるでなかった。
 過去とは重みである。英霊とは等しく人の身では為し得ぬ偉業を為し得た者であり、そういった英雄にはただの人間にはない気配を纏うものなのだ。
 セイバーやランサーのように正純な英霊とはいえないキャスターですらある種のオーラはあったというのに、この剣士はまったくの"虚無"だったのである。
 それもその筈。
 なにせこの剣士は英霊ではない。英霊に匹敵する剣技をもつというだけの人間。なんの偉業も為し得ていないというのであれば、英霊のような気配がないのはごく自然なことだった。

「分かるかセイバー。私にはなにもないのだ。例え聖杯とやらの力でこの世に生を受け、そこで私が偉業を為したとしても、それは総て佐々木小次郎へと向けられる。賞賛を浴びるのは佐々木小次郎で、無名の剣士たる私には何一つ還らぬ。
 だがもしそんな私に一つ激情を燃やすにたる願いがあるとすれば――――」

 アサシンは限りなく純粋な瞳でセイバーを捕える。

「生前、終ぞ叶わなかった極上の剣豪との果し合い。それを果たすことだけ。我が秘剣が彼の騎士王に届くのか、私はそれが知りたい」

 唯一つの事が『知りたかっ』た。アサシンと彼のマスターとの間に明確なる共通項があるとすれば、それはこの一点につきるだろう。
 そしてそれこそ彼の者が無名の剣士を呼び寄せた最大の因果なのだ。 <> 第39話 我が魂、この虚空に在り<>saga<>2013/02/08(金) 21:55:22.03 ID:pDLh4H720<> 「――――失礼。無駄な時間をとらせました」

 セイバーは謝罪し、風王結界の刃を構える。アサシンもまた『構え』た。
 本来明確なる構えをとらぬアサシンが唯一構えをとる刻。それこそ彼が一生を費やして辿り着いた秘剣を披露する前兆に他ならない。

「―――――――」

 セイバーは一度、その秘剣を体験していた。奇しくも此度と同じ柳洞寺にて。しかしその秘剣は万全であれば二つではなく三つの刃をもつという。
 あの時は二つだったからこそ躱すことができた。後方に残った僅かな隙間から、その首級を逃すことができたのだ。だがもし刃が三つならば、最後の刃は最後の逃げ道を塞ぎセイバーの首級を落としていただろう。
 必殺の剣。因果逆転により死の運命を決定するゲイボルクとは異なる意味における不可避の必殺剣だ。

(認めよう。私にはアサシンほどの……『魔法』に至る剣技はない)

 それは決してセイバーにとって恥ではない。そも『魔法』に至る剣技をもつ剣士など、セイバーの知る全ての騎士を見渡してもいない。
 湖の騎士や太陽の騎士は或いはセイバーを超えるだけの技量をもっていたが、剣術という"術"を魔法という"法"にすることはできなかった。
 ただ魔法に至る『奇跡』ならばセイバーにもある。
 湖の乙女より与えられし聖剣。神霊クラスの魔術行使を可能とする一撃はもはや『魔法』とすら呼んでいい至高なる一撃だ。だが致命的に隙が多い。
 セイバーとアサシンの距離は約5m。この程度の距離であれば、セイバーが『約束された勝利の剣』を放つより一瞬早くアサシンの秘剣はセイバーを殺すだろう。

(されど『勝算』はある)

 セイバーは騎士である前に王だ。その優れた戦術眼は決して根拠なき自信をもたせない。だからこそセイバーの『勝算』は紛れもない勝機だった。
 アサシンは確かに稀代の剣士である。だが彼が振るうその刃は悲しいまでに彼の技量と釣り合っていない。業物ではあるだろうが『宝具』といえる神秘ではないのだ。
 千年の歴史をもつ『業物』も、英霊の『宝具』と比べれば鈍と同じ。
 アサシンの物干し竿は以前のセイバーとの一戦を因としたのかはたまた別の理由があるのか僅かに歪んでいる。
 そしてアサシンのマスターの不手際なのか、ランサーとの戦いの傷も完全には回復しきっていないようだ。
 ゲイボルクが破壊された今、もはや治癒不可の呪いはないはずだが……それがなくとも回復するだけの魔力がなかったということだろうか。隠せないダメージが残っている。
 それらはランサーとの戦いではなく、アーチャーとの死闘でのダメージなのだが勿論セイバーはそんな事情を知る由もない。
 
(勝負は一瞬だ)

 恐らくは瞬きする間もないほどの虚空、これで決着がつく。
 必要なのは大岩を砕く力ではない。風よりも疾い速度。セイバーの速度はアサシンに僅かに及ばないが、
 セイバーの鎧が消失していく。アサシン相手に鎧など無意味だ。鎧に回す分の魔力をただ速度につぎ込む。それでも足りない。ならば、

「――――秘剣」

 佐々木小次郎の声が、無名の剣士の言霊が風と混じり消える。静かだった。騎士達の王と魔法に至りし剣技の戦場とは思えぬ静かさだった。
 無音の結界、その中心にセイバーとアサシンだけが向き合っている。
 もはや殺意や敵意すら失せてしまっている。
 あらゆる邪念はなく、あらゆる感情は無くなった。二人はただ己が最高の剣を相手に披露するということのみに全神経を傾けているのだ。
 那由多のような刹那。虚空のような永遠。
 騎士王も農奴もない。あらゆる束縛の届かぬ俗世などを超えた位置に二人はいた。
 この虚空にこそ騎士王アルトリアは在りて、この虚空に無名の剣士は在って対等に立っているのだ。
 例え佐々木小次郎などではない無名だったとしても、誰の記憶にも残らぬ亡霊だったとしても、人の身で神域に踏み込んだ男の生き様は確かにここに在る。

――――ふと、

 風に誘われたのか、一枚の木の葉が宙を舞う。
 木の葉が二人の中心をひらりひらりと踊り、それが地面に落ちた時。

「燕返し!」

 二人の戦いは終わっていた。
 アサシンはまるで自らが勝利者であるかのように、満足した晴れ晴れとした表情を浮かべると口元を釣り上げる。そして五臓六腑から湧き上がる血反吐を呑み込んだ。
 彼は花鳥風月を、美しいものを美しいままに好む男だ。その男が、どうして己が吐き出したもので思考の"美"を穢せるものか
 
「……見事」

 小次郎は惜しみない賞賛を騎士王へと送る。

「剣を覆う風をも自らの味方にしての一撃。花鳥風月……空に舞う鳥までは届いたのだが、空を吹き抜ける風を捉えることはできなんだか。私もまだまだ未熟」

 セイバーの疾さでは佐々木小次郎には届かない。そのことを佐々木小次郎以上に承知していたセイバーは風王結界の風を自らに速度に合わせたのだ。
 それでも。こうして首が繋がっているのは奇跡だった。ほんの阿頼耶の差が二人と勝者と敗者とに分けた。

「いいえ。見事、と言う他ないのは私の方です。佐々木小次郎。貴方は私が見えたどの騎士よりも強く険しき頂きだった」

「それはまた――――お前のような者に賞賛されるとは、私も剣に生きた甲斐があっというもの……か」

 万事を万事、あるがままに受け入れた雅な男は。
 己が死すらもありのままに受け入れ、僅かな醜態を晒すこともなく潔く逝った。
 敗者は早々に消え、残るは勝者のみ。
 遂に聖杯戦争はセイバーともう一人を残すのみとなった。

【久宇舞弥 死亡】
【アサシン 脱落】
【残りサーヴァント:2騎】
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2013/02/08(金) 21:58:22.04 ID:pDLh4H720<>  今日はこれまで。今回は舞弥の捏造過去回とVS小次郎最終戦。
 地味に小次郎とは三回も戦いました、セイバー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 22:39:19.59 ID:if91cnWSO<> おつー

しかし燕返しがないと比肩するとならない型月の武蔵も相当あれだな やっぱ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 22:43:50.94 ID:6G03/NbFo<> 乙
型月のSAMURAIやNOUMINはまっこと恐ろしいで…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 22:48:36.07 ID:YEbggIMm0<> 乙です、言峰また自殺させましたか、初めは自分の妻2人目は叔父さん3人目は舞弥 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 23:18:44.45 ID:qWqsvEyBo<> 乙、迷いを捨てさせているという点ではそれらしいのかもね。
みんな死んじゃうだけで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/09(土) 16:51:02.79 ID:BclnqZ8IO<> 乙
ふと思ったが小次郎みたいな亡霊の場合、鯖として召喚されてた間の記憶はどうなるんだろ?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/09(土) 18:50:12.82 ID:KBSO33RC0<> そのまま消えるんじゃないかな、小次郎が英霊の座か、あるいは他から呼ばれたかは不明だけど英霊は
悪魔でその英雄のコピーだから本体は自分が召喚された事は分かってもその内容までは残らないと思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 01:16:26.58 ID:ObZfQMvJ0<> そもそも小次郎の場合、英霊と違って本体そのものが呼ばれてるんじゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 02:30:22.18 ID:uC++5CnAO<> 小次郎かっこ良いよなあ

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 19:12:55.93 ID:IW7IdnIE0<> 今更だがなんできのこは小次郎を架空の英霊にしたんだろう?
現実世界じゃ小次郎以外の連中こそ100パーセントフィクションなのに <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/11(月) 22:09:25.33 ID:0KIQMDRJ0<> >>769
 武蔵はまぁどんな強さなんでしょうね。

>>700
 THUBAMEやBANZOKUもいますけどね。

>>771
 自殺に人を追いこむことに定評のある言峰。

>>773
 消えるんじゃないでしょうか。

>>777
 きのこ氏が魔界転生のファンで、Fateは魔界転生の影響を大きく受けた作品らしいです。
 現実には存在しない架空の英霊として佐々木小次郎が登場するのも魔界転生に宮本武蔵が出たことのオマージュだとかなんとか。 <> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:10:52.88 ID:0KIQMDRJ0<>



 そして閉幕の鐘が鳴る。その目覚めは、誰のものか。
 聖杯戦争最終日となる十三日目は静かに始まった。その果てにある"ゼロ"の終点へと辿り着く為に。残った者達は走り続ける。
 果てにある景色を知らぬままに。



<> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:11:49.63 ID:0KIQMDRJ0<>  風の音で目を覚ます。セイバーを召喚して十三日目の今日、天気は晴れだった。
 熾烈な殺し合いが行われていることなど感じさせぬ晴れ晴れとした空。それがどこか残酷でもあった。
 コンディションは最高といっていい。
 最後の戦いのため休養は十分にとったし、起源弾の残弾は三十近く。体内のアヴァロンもその力を正しく発揮している。今なら死徒でさえ真正面から打ち倒せるかもしれない。

(舞弥からの……最期の報告で聖杯降霊地は分かった。……後は残ったサーヴァントとマスターを排除するだけ)

 遠坂邸に赴いた切嗣だが遠坂時臣の姿は確認できなかった。
 もしかしたら暗殺を警戒して拠点を移したのかもしれないし、既に誰かに仕留められているのかもしれない。もしくは起源弾のダメージにより死んだか。
 ただ一つ確かなことは残ったサーヴァントが後一体――――アーチャーだけということだ。
 聖杯戦争の第一夜に先ずクラス不明のサーヴァントが脱落し、ライダーはランサーが倒し、ランサーとアサシンとキャスターはセイバーと切嗣が倒した。
 故に残るサーヴァントはセイバーとアーチャー。それだけである。

(アーチャーについては情報面での遅れがある。だが如何な超長距離からの宝具による狙撃だろうとセイバーのエクスカリバーの威力の前には無意味だ)

 仮にアーチャーが3km離れたビルから狙撃をしてこようとセイバーの直感力とステータスなら一撃でやられることは先ずない。
 そして一発凌げば、どれだけ離れた距離だろうとエクスカリバーを使わせ周囲の建物諸共アーチャーを焼き払えば済む。
 数km離れた場所にいる敵に――――しかも街中で――――エクスカリバーを使えば、当然被害は途轍もないものになるだろう。死傷者も相当数が出る。だがそんなことは関係ない。もしエクスカリバーの光が万の命を奪ったとしても、アーチャーを倒した時点で聖杯は衛宮切嗣のものとなる。そうすれば六十億の命が救われるのだ。なんら躊躇する必要はない。

「さて。世界を救いに行こうか」

 まるで今日の夕食について思案するような軽い声。
 衛宮切嗣にとってこれが日常なのだ。毎日を常に一を切り捨て十を救ってきた。今日の戦いはそれを最大規模でやり遂げることに他ならない。
 規模は違うがやることは同じ。 <> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:12:46.78 ID:0KIQMDRJ0<> (この戦いを人類が流す最後の流血にしてみせる)

 聖杯により救世をなせば、争いはなくなるのだ。ならば何を犠牲にしても勝たなければならない。
 切り捨てた命を無駄にしないために、より多くの命を流してみせる。その命に釣り合う結果を手にするために。
 アイリスフィールと久宇舞弥。
 この聖杯戦争で犠牲にした二人の女性。一人は切嗣の伴侶であり、もう一人は切嗣の部品だった。
 だがその死を悼みはすまい。
 死者を悼む。死者を尊ぶ。
 それは生者の責務であるが、衛宮切嗣は『生者』ではない。心を鉄にした切嗣は人間ではなく機械。恒久的世界平和が為され世界から争いがなくなったその時にこそ、衛宮切嗣という機械はただの人間となるのだ。
 ならば死者を悼むのは戦いが終わってから。

"その日の後で、どうか改めて、その子を、イリヤスフィールを抱いてあげて。胸を張って、一人の普通の父親として"

 八年前。冬の城でアイリスフィールから託された願い。
 忘れはしない。必ず恒久的世界平和をなしてイリヤスフィールを迎えに行く。それをアイリスフィールは望んでいるだろう。
 
「そして舞弥」

 切嗣はより多くの者を救うために久宇舞弥を機械として仕上げてしまった。そしてこの戦いで使い潰した。
 彼女は恐らく死を悼まれても喜びはしないだろう。切嗣が涙を流すことも望まないはずだ。だから彼女が願う言葉を送ろう。

「任務、ご苦労だった。お前の犠牲をもって、僕はこの戦いに勝利する」

 刻限はきたし、準備は万端だ。
 今こそ人類史最後となる戦争を。願わくばこの戦いを最後の流血とするために、衛宮切嗣は戦場へと赴くのだ。

<> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:13:14.67 ID:0KIQMDRJ0<>  衛宮切嗣が冬木市に用意した拠点は中々の武家屋敷で、敷地にはなにに使うのか道場まである。 
 その道場でセイバーは目を瞑り静かに瞑想していた。
 道場を満たす厳粛な空気はセイバーという騎士を戴いてより澄み切っている。もしこの中に足を踏み入れれば、どんな荒くれ者だろうと自然と口を閉ざし沈黙を遵守するだろう。

「―――――――――」

 瞑想しながら、セイバーは多くのことを回想する。
 この冬木市での英霊たちとの戦い。選定の剣を抜く前、一人の敬愛する老騎士の教え子だった頃。義兄との思い出。選定の剣を抜き王となってからのこと。最も信頼した朋友がキャメロットを去った日。そしてカムランの丘での最期。
 セイバーは自らの生涯に後悔はない。
 自分があらゆるものに裏切られ、人間として死に、一人孤独なまま悲惨な最期を遂げることなど選定の剣を抜く前に大魔術師に見せられ知っていた。

――――多くの人が笑っていました。

――――ならそれは間違いじゃないと思います。

 己がどんな悲惨な末路を迎えようと、その先に皆の笑顔があった。それならばこの道は間違いではないとアルトリアという少女は選定の剣を抜き、アーサー王となった。
 感情を殺し、涙を流さず、弱音を吐かず。騎士達に疎まれようと完璧なる王として、常に自分が最善だと信じることを行ってきた。
 だから後悔はない。未練があるとすれば――――己が破滅ではなく、滅びた国に対して。
 己が最善と思う行動をとり続け、それでも国が滅んだのなら自分は王として相応しくはなかったのだろう。ブリテンを崩壊させない新たなる王。その者を選定する事こそアルトリア・ペンドラゴンが王としてやらねばならない最後の責務である。

「ランスロット、ガウェイン、ベディヴィエール、兄君、マーリン、ギネヴィア…………モードレッド」

 多くの騎士がいた。黄金の聖剣をもちし己と円卓に集いし無双の騎士達。
 しかしカムランの丘で殆どは死に絶えた。
 人々の羨望を一身に集めたサー・ランスロットは裏切りの汚名をかぶり。
 誰よりも忠誠心高きサー・ガウェインはランスロットとの一戦における負傷のせいでモードレッドにより討たれ。
 マーリンは恋心故に幽閉され。
 最後までアルトリアの味方であった兄はカムランで死に。
 ギネヴィアは王妃としての責務と女としての心に挟まれ苦悶し。
 完璧なる王故にモードレッドを王の子息であると認められなかった。 <> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:13:46.76 ID:0KIQMDRJ0<> ――――もしもアルトリア・ペンドラゴンが王ではなく、より相応しい者が王であれば。

 サー・ランスロットは完璧な騎士のままであり。
 太陽の騎士は忠義の騎士として生涯を完結させ。
 マーリンは常に傍らにあり。
 兄は傍にあり、ギネヴィアも心満たされ。
 そしてモードレッドを自分の息子であると胸を張って宣言できたかもしれないのだ。
 円卓は割れることなく平和で、ブリテンには恒久の安寧が齎される。

「嗚呼……」

 正に遠き理想郷。彼の王が生前到達することのできなかった場所。そこに人々や騎士達を導かねばなるまい。
 少し寂しいものがあるとすれば、そこにアーサー王はいてもアルトリア・ペンドラゴンという己はいないことだろうか。

「だが立ち止まるわけにはいかない」

 今宵、自分は聖杯を手に入れるだろう。そうして役目を終えた王は英霊の座へと祀り上げられる。人々を守る守護者として。
 それに忘れてはならない。
 自分はこの戦いでも多くの命を犠牲にした。
 この手で殺めたサーヴァントたち。ビルの倒壊に巻き込まれた無辜の命。
 ビルの倒壊は自分でやったのではない、という言い訳はできない。もしも切嗣が自分をそういう目的で運用していたのだと知ってもセイバーはそれを止めなかっただろうから。
 そしてアイリスフィールと久宇舞弥。
 キャスターの呪縛から解放されて直ぐセイバーは切嗣へと問い掛けた。
 どうしてあの時、令呪にて自分の刃を止めたのだと。もしかしたら切嗣にも人間らしい情というものが残っているのかもしれない。そう思っての問いだったが切嗣の答えはあっさりしたものだった。

「お前には話していなかったが、アイリスフィールは霊体である聖杯を降ろすための『聖杯の器』を隠し持っていた。お前の剣の軌道がその器を破壊する可能性が高かったから止めた。それだけだ」

 衛宮切嗣という男はやはり衛宮切嗣だった。
 人々を守るために人々を守りたいという感情を消した、アルトリア・ペンドラゴンと同じ――――感情なき完璧なるシステム。
 あの男なら勝てる。あの男ならば負けない。どんな障害が立ち塞がろうと、衛宮切嗣は勝つ為に最善の選択をとり続けるだろう。やはり衛宮切嗣こそが自分を使うに相応しい担い手だ。セイバーはその時、改めて確信したのだ。
 切嗣に代わり自分に指示を与えていた久宇舞弥も死んだ。
 文字通り命を賭して『聖杯の降霊地』を切嗣に伝えたのである。
 
「――――行くのですか、切嗣」

 庭内の方角で暗殺者らしい秘めたる戦気が湧き上がる。間違いなく衛宮切嗣がこれから戦闘を始めようとしているのだ。
 セイバーは立ちあがり気配のした方へと向かう。すると切嗣は準備万端といった様子でセイバーを待っていた。
 言葉はない。二人に余分な言葉などは不要。ただお互いの役目を果たせばいい。
 セイバーの役目とは即ちアーチャーを殺すことであり。衛宮切嗣はそれ以外の敵を排除することだ。

「…………」

 切嗣は一度口を開きかけたが、何も言うことはなく屋敷の門を潜る。セイバーもそれに続いた。
 第四次聖杯戦争。最後の戦いが幕を開けた。
<> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:14:13.94 ID:0KIQMDRJ0<>  冬木市市民会館の大ホール。その中心で此度の演劇の主演が一人、言峰綺礼は笑みをこぼす。
 真ん中の台におかれた黄金の杯は最後の贄の接近を感じてか光り輝いている。言峰が無数に放っておいた使い魔の何体かも衛宮切嗣とセイバーの接近を感じ取っていた。

「衛宮切嗣とセイバーが近付きつつある。我が願いの成就も近い、ということか」

「……………」

 言峰の独白を滲み出る殺意と共に睨みつけるアーチャー。
 恐らくセイバーよりも聖杯に近い位置にいるというのにアーチャーにはなんの達成感もなければ優越もない。
 いやアーチャーは憎んですらいるだろう。自分を最も勝者にしようとする言峰綺礼に対して。
 今すぐにでもアーチャーは黄金の杯をその手で砕いてしまいたいに違いない。だがそうさせてくれないのが言峰綺礼だ。
 言峰の腕に刻まれた無数の令呪。これを使い言峰がアーチャーに命じたのは『主替えに賛同しろ』『知っていることを全て話せ』『聖杯の破壊を許可しない』の二つだ。
 元々対魔力の低いアーチャーである。マスター権が遠坂時臣から言峰綺礼へと移ったことで低かった対魔力は更に低下している。令呪の縛りに抗うことなどできるはずがない。
 それを知りながら言峰は笑顔を浮かべアーチャーに言う。

「浮かない顔だなアーチャー。少しは喜んだらどうだね。もう少しで君の悲願も叶うというのに」

「戯言を。確かに私には願いはあるが、それは聖杯で叶える類のものではない。例え聖杯をもってしても、英霊の座に祀り上げられたこの身を滅ぼすには足らんのだから」

「それはどうかな。然り、聖杯は英霊の座にある貴様を殺してはくれんだろう。この世の内にあって万能である聖杯も、理の外にある貴様の本体を消すことはできん。だがものは考えようだ。お前の本命が十年後の第五次聖杯戦争ならば、聖杯に満ちた中身を飲み干し確固たる肉をもつがいい。さすれば十年間を生き続け本懐を遂げられるだろう」

「…………!」

 アーチャーの眼光には殺意があったが、僅かな迷いが見えてきた。
 言峰綺礼の語ったことをすれば、己が願いを遂げられることをアーチャー自身理解しているのだろう。

「そう殺気立つな。しかし少し気が早かったな。まだ最大の敵である衛宮切嗣とセイバーは残っている。お前にはこれからセイバーの相手をして貰わなければならん」

 言峰綺礼の目的は衛宮切嗣と邂逅し、奴の得た"答え"を聞きだすことだ。
 だがその邂逅にセイバーはいらない。セイバーは邪魔となる。切嗣との邂逅を確かなものにするにはアーチャーにセイバーの相手をさせておかなければならないのだ。
 答えを聞く。その為だけに言峰綺礼の生涯はあった。我ながら下らぬ願いだとは自覚しているが、自分は今までそんな事の為に生きてきたのだ。今になって降りることなどできはしない。
<> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:14:51.99 ID:0KIQMDRJ0<> (問題があるとすれば、私でもアーチャーでもなく……奴等の方にあるといえるが)

 衛宮切嗣とセイバーの主従は強力だ。この聖杯戦争に集いし主従の中でも恐らく最強といっていいだろう。
 そのことは衛宮切嗣に真っ先に標的にされ、ビルの倒壊により死にかけた言峰が身を持って実感している。切嗣もセイバーも聖杯を掴み勝利するためなら、どんな手段を用いてくるか分かったものではない。

(それに……降霊地が住宅地のど真ん中であることも宜しくない)

 ここは余りにも人気があり過ぎる。この冬木市市民会館の中こそ人気はいないよう手配したが、幾ら教会とはいえ住宅地から人を消し去るなんてことはできない。
 贅沢をいえば柳洞寺が聖杯の降霊地であれば良かった。あそこなら誰の邪魔も入らずに戦えたものを。

「今更言っても私にはどうしようもできないのだがな。こんな人気の多い場所が戦場では不便だ。ここから人がいなくなればいい。私と衛宮切嗣との邂逅を邪魔する悉くがいなければいい。無論、セイバーを含めてな」

 本当に何気ない独り言のつもりだった。しかしなんの因果か悪しき運命か。言峰綺礼の独白を聖杯は聞き届けた。
 聖杯の完成には六体のサーヴァントの生贄が必要。しかし五体分の生贄を捧げられた聖杯はサーヴァント一体一体の質が高いこともあり、ある程度の願いを叶えるには十分の力をもっていた。
 結果的に言峰綺礼の願いを聞き届けた聖杯は、それを『破壊』という手段をもって成就させた。

「……これは」

 言峰綺礼をもってしても驚かざるを得ない。
 黄金の杯から、なんとも醜い己の腸のような泥が溢れ――――それが灼熱の業火となりて。この市民会館から溢れだしたのだ。
 炎は新都の新興住宅地を覆い尽し、この世の地獄を現出させる。多くの命が消えていくのが視界を閉じても感じられた。
<> 第40話 アンハッピーバースデイ<>saga<>2013/02/11(月) 22:15:31.64 ID:0KIQMDRJ0<> 「は、はははははは」

 その光景を目に焼き付け、口元に満面の笑みが広がる。
 街は火の海だった。さっきまで確かな現実感をもって存在していた冬木市市民会館も見る影もない。人々が日々を謳歌していた住宅地は言峰綺礼の呟いた"願い"により、一瞬にして火の海へと姿を変えたのだ。

「ふっ、ふははははははははははは!! はははははははははははははははははははははは!!!!」

 狂ってはいない。純粋なおかしさから、言峰綺礼は笑う。
 五臓六腑から声という声をしめ出して、生涯最高の面白おかしさを体現してみせる。

「そうか! 私だったのか! これが聖杯だったというのか! なにが万能の釡だ! なにが奇跡の杯だ! これが聖杯で、これが聖杯の中身で魔術師共はこんな代物を求めて殺しあっていたのか!!」

 参加した魔術師達よ聞いてくれ。
 お前達が命を懸けて求めた聖杯は、地獄を誕生させるしか脳味噌が働かない欠陥品だったのだ。お前達は聖杯に選ばれた探究者ではなく、ただ聖杯に踊らされたピエロだった。
 これほど可笑しいことがどこにあろうか。地獄のような喜劇。喜劇のような地獄。この悲劇/喜劇。この光景を生み出したのは聖杯であり言峰綺礼だ。
 左を見ろ。右を見渡せ。
 幾らでも言峰綺礼の大好物の不幸や悲劇が転がっている。

「アーチャー! お前も目を開き括目しろ! この面白おかしい恐怖劇(グランギニョル)を!! この悲劇的な茶番劇(バーレスク)を!! アーチャー。否! 英霊エミヤシロウ! お前をこの世に誕生させたのは、この言峰綺礼のつまらぬ独り言(願い)だったのだ!!」

「――――――」

 アーチャーは言葉にもできない怒りを言峰綺礼へと向けた。
 だがその怒りこそが言峰綺礼にはなによりも楽しい娯楽なのだった。だからこそ言峰は笑みを絶やさない。慈愛すらアーチャーへと見せる。

「エミヤシロウ。私は神父だ。故にお前の誕生を祝福しよう。未だ生まれ出でぬ者に罪過は問えぬ。それが世界を滅ぼす大罪人だろうと、それが正義の名のもとに無辜の命を殺し、無辜の命を救い上げた度し難い愚者だったとしても。その誕生を祝福しよう」

「ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデー……ディア、エミヤシロウ。ハッピーバースデートゥーユー」

 この地獄こそがアーチャーの誕生の地。英霊エミヤシロウはこの地獄より誕生した。
 エミヤシロウにとって原初の記憶。これがエミヤシロウの"ゼロ"だ。

「衛宮切嗣は私を殺し聖杯を手に入れるために。セイバーはお前を殺し聖杯を手に入れる為に。私は衛宮切嗣に答えを聞くために。そしてエミヤシロウ。お前は聖杯を飲み干して、十年後の己を殺し給え。役者は揃った! さあ最後の夜を始めよう。汝、聖杯を欲するのならば。存分に殺し合い給え。そして自らをもって最強を証明せよ」

 腕にある令呪が輝き始め、言峰が己が従僕となったアーチャーへ命令を下す。

「令呪によって命じる。アーチャーよ。聖杯の正体を私以外の何者に対して伝えることを禁ずる。そしてアーチャー、貴様は命を賭してセイバーを打倒せよ。私と切嗣の戦いを邪魔してくれるな」

「…………!」

 腕から二つの令呪が消えアーチャーを縛るが、未だ予備令呪は大量に残っている。戦闘に支障はない程に。
 しかも令呪の使用により低下したアーチャーのステータスを補うこともできた。これならアーチャーの意志に拘わらずアーチャーは最高のコンディションでセイバーを迎え撃つことができるということだ。
 火の海を見つめながら、言峰綺礼は聖杯戦争のマスターではなく、聖杯の担い手を選定する監督役として宣誓する。

「最後の聖杯戦争の夜を始めよう。第四次聖杯戦争は今日ここで決着するだろう」

 勝つのは言峰綺礼か、それとも衛宮切嗣か。
 もしくは勝者など出ずに終わるのか。それもこの日が終われば答えが出ているだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/02/11(月) 22:16:27.99 ID:0KIQMDRJ0<> 今日はこれまでです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 22:32:16.15 ID:1E/Ta+kQ0<> 乙です、小説では回収してなかった、大火災の真実本来はこんな感じだったでしょうね小説だとキリツグ起こした
でしたから、これなら次回セイバーの火の海のなかで戦ったとゆう語りが回収されるんですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 23:05:38.20 ID:1fLUVEYDO<> 乙です
切嗣の思考美麗美句ならべて戦争する奴と同じだな。
戦争起こす人の中には正真正銘正義だと思って戦争する人いるだろうし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 23:05:42.70 ID:IW7IdnIE0<> 乙!
なるほどそうきたか
たしかにSN準拠だと本来この展開の方が正しいんだよなぁ
なぜかzeroでは切嗣が聖杯を壊したせいで災害が起こったことにされてたけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 23:20:52.99 ID:Qh4aA2gb0<> きれいのテンションが駄々上がりしてるなwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 23:46:00.61 ID:fRZUBB+2o<> 俺もジョージボイスならハッピーバースデイとか言われたいなあ
そういえばジョージさんって神父もやれば吸血鬼もやってるのな
今気が付いた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 00:19:14.94 ID:HhuZz51l0<> 今回アルトリアの独白を読んでて原作での疑問を思い出した
過去を変えたり自分殺しはいけないとかいう以前にそもそもこの願い叶うのか?って

「選定の剣」が「完全な王」を選ぶなら、アルトリアは「完全な王」じゃないといけない
アルトリアが「完全な王」じゃないなら「選定の剣」が間違ったことになる
例え聖杯に選定の剣を挟まずに完全な王の降臨を願っても、聖剣が間違ったのに聖杯が間違えない保証がどこにある、と

彼女が何かに裏切られたというなら国でも臣でも民でもなく、全て失ってなお持ち続ける剣に最初から裏切られてるよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 01:15:52.61 ID:RUUM43IR0<> 聖杯が純正品だったら問答無用で願いがかなうんだから別に大丈夫だろうと思われ
膨大な魔無職の力で過程をぶっぱ抜いてかなえちゃうしその間の齟齬やなんかは押し流されて立ち消えるんじゃないかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 01:45:41.99 ID:Q2hmsYGAO<> 乙
泥と炎の中で笑いながら誕生日の歌を歌う外道神父想像したら凄くシュールだった


>>794
>膨大な魔無職の力
大したことなさそうな力だなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 01:53:31.85 ID:pV9lQG/A0<> 乙
そういや本来は火災→戦闘→聖杯破壊の流れだったな
たしか火災によって分断された状態でそれぞれが戦った結果、勝った切嗣が聖杯破壊を命じるんだっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 05:58:06.42 ID:nYY2M7cSO<> >>796
SNのセイバーイバーの言を聞く限りそんなかんじっぽいね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 10:35:26.54 ID:5u+7Sx9n0<> 新作fate/Apocrypha でシロウ・コトミネという人物が出てきたな

弱冠麻婆に近い感じ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 15:22:16.64 ID:Sh1GngXxo<> >>798
その話題はもう二月たちまっせ
第四次がない世界だったのになぜ教会所属なのか
八月が待ち遠しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 15:28:10.23 ID:pV9lQG/A0<> あの世界の御三家がどうなってるのかも気になるな
アポ読んだ限りじゃ少なくとも無くなってはいないっぽいが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 16:38:59.51 ID:OPWHhDc3o<> >>799
元々士郎が火事に巻き込まれる前の家が教会に関係のある家柄だったんじゃないの
士郎は魔術回路持ってるし案外辻褄が合うと思う
そもそも士郎は拾われる前の記憶が無いから頑張ればこじつけられると思うの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 17:15:08.23 ID:Sh1GngXxo<> >>800
アインツベルンは出てたけど他は出番なさそうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 00:44:49.90 ID:hyWejdWx0<> ギルガメッシュ以外の英霊で聖杯の泥による受肉ってできるんだろうか?
通常の英霊だと泥に触れた瞬間自我を失って分解されるか汚染されて黒化、ハサン先生曰く反英雄に属する英霊でも触れると魔翌力を吸い取られるらしいし
まあ一応エミヤも反英雄の部類に入ってはいるけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 00:55:09.36 ID:Tiz5lZo7o<> >>801
士郎は一般家庭の子だよ。
ただ、そっちの才能があったから、裏側の世界に関わるのは運命なんだろう。
型月世界じゃ魔は魔を呼び寄せ引き寄せるということらしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 04:33:58.30 ID:Hb2dVtyAO<> >>803
オルタが受肉してなかったか?
正気を保ちつつ受肉出来るのはギルだけだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 20:23:21.64 ID:4P6XsIxT0<> 並行世界でラーメン屋に就職する言峰綺礼

客の笑顔を見て愉悦する綺麗な綺礼がみられるよ☆ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 20:52:26.98 ID:fPJdtM1P0<> 士朗君って聖杯の泥をかぶったせいで一度起源焼かれて
そのあとアヴァロン体内に入れられてそのまま同調したから起源が剣なんだっけか?
というか災害以前の記憶って無くなってるんだっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 22:44:17.89 ID:RwsiKxhP0<> 起源焼かれてっていうか一度死んで産まれ直した様なもんってきのこがいってた
アヴァロンが入ったから起源が剣になったのはあってるよ

記憶についてはきれいさっぱり0になってると思うなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 16:53:38.11 ID:/am2JDLV0<> 昨日落ちてたからまだ来てないか <> アンドリュー・スプーン <>saga<>2013/02/15(金) 18:19:11.50 ID:EfYomPKK0<> >>788
 伏線回収しました。

>>789
 魔術師だということを除けばまんまテロリストですから。

>>791
 言峰は最高に「ハイ」になりました。

>>792
 ジョージさんは魔術師・吸血鬼・神父をコンプリートしました。

>>793
 完璧な王だからブリテンを必ず存続できるというわけではないのかも。 
 歴史上には王様があんまり能力なくても、周りの部下が優秀で成功した人もいますから。

>>798
 言峰士郎というフレーズを聞くとどうしても某二次創作のキャラしか思い浮かびません。

>>801
 個人的に士郎の過去は今まで通り不明の方がいいですね。
 それにきのこ氏が書くならまだしも、流石に執筆者の違うスピンオフで捏造していいようなネタでもないですし。

>>803
 どうなんでしょう。完全に聖杯に呑まれるかそれとも黒化して受肉するのか。このあたりははっきりとしたことは言えないので各々の解釈でやるしかないでしょう。
 ただ黒に染まらないのはギルっちだけです。

>>807
 士郎はあの大火災の日に心が死んだそうです。切嗣に引き取られてからも変わらず曰く必死に人間のふりをしているロボットだとか。なので衛宮士郎になる前のことはまるでわかりません。
 月姫主人公の志貴が過去が頻繁に語られるのと対照的ですね。 <> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:21:31.98 ID:EfYomPKK0<>  新都にある新興住宅街へセイバーと共に向かっていた時、それは唐突に発生した。
 街中に奔る業火。人間の存在を真っ向から否定するような悪意の念が滲み出たそれは明らかにただの天災では有り得ない。

「マスター!」

 驚きセイバーが切嗣を守ろうと手を伸ばす。しかし間に合わない。
 発生した炎はまるで意志をもつかのようにセイバーと切嗣の間に奔り、二人を分断する。どうにかセイバーに近付こうとするが炎の火力が高すぎた。

「…………っ」

 ふと街に意識を向ければ――――様相は一変していた。
 つい数分前まで何もなく、数日前の爆破テロに恐怖しながらも安穏とした平和を享受していた人々。そんななんの罪もない人々の街が焼けていた。
 灰と人の焼ける匂いがする。何が起きたのかも分からず、生きながら身を焼かれる幼子や女性の苦悶の絶叫が耳に響く。
 衛宮切嗣が何度も聞いて来た――――地獄の気配が充満していた。
 助けを求める声を切嗣は訊く。だが敢えてそれを無視した。己は恒久的世界平和のため。六十億の命を救う為にこそここにいる。であれば目の前の命を救い、時間を浪費している暇はなかった。
 それに仮に彼等を助けたところで、またあの炎が発生すればただの繰り返しだ。
 この場で切嗣がとるべき選択とは元凶の排除に他ならない。しかし、

「これは……英霊の、宝具なのか?」

 一つの街を一瞬にして地獄へ変貌させるほどの炎。こんなものがただの魔術師に操れるはずがない。
 となれば魔術師など及びもつかないほどの神秘の塊、サーヴァントの宝具による仕業と考えるのが妥当である。
 しかしそれは違う気がした。
 セイバーやランサーを例にすれば分かるが、英霊とは基本的に清純なものであり人々の祈りと信仰こそを糧とするものだ。
 対して街を覆い尽した炎からは明らかに人々の祈りを食いつぶす、ただ呪うためだけの悪意が垣間見えた。確証はないが、あんなものが英霊の宝具であるようには思えない。あれはもっとどす黒く最悪な代物だ。

(自分の直感を信じれば……これは英霊の宝具じゃないということになるが……そんなことは有り得ない。魔法使いならまだしも、聖杯戦争に参加した魔術師にこれだけのことをやれるほどの奴は一人としていないだろう)

 切嗣の殆ど確信に近い予測では残ったサーヴァントはアーチャー。
 アーチャーの宝具については今一掴めていないが……まさかこれがアーチャーの宝具だというのか。

「まあいい。この炎が英霊の宝具に相応しくないなんて関係ない。英霊には反英雄って連中もいる」

 例え相手がなんであれ、やることは変わらない。
 残る最後の一騎のサーヴァントを抹殺し聖杯を完成させる。そして聖杯を手にとり恒久平和を祈願する。それこそが衛宮切嗣にとっての唯一の勝利条件であり目的。ならばそれに邁進するのみだ。
 炎のせいで完全にセイバーとは分断されてしまった。恐らく炎の役目は切嗣とセイバーの分断にこそあったのだろう。ならばこの炎は実に効果的だった。セイバーと共闘するにあたり凝らしていた策が全て無為となった。
 しかもこの炎。ただ位置を分断するだけでなくサーヴァントとマスターのラインを使った思念通話すら妨害する効果があるらしい。つくづく厄介なものだ。

(この炎だ。合流するには令呪を使う必要があるが……駄目だ。最後の一角の令呪は温存するべきだ。ここは)

 セイバーとの合流を断念し、切嗣は先を急ぐ。
 炎で外観は完全に滅茶苦茶だが、地形は頭に叩き込んでいる。聖杯の降霊地たる冬木市市民会館へ行くのには支障はない。
 急ぎながらも慎重に進む。
 出遭うのが敵マスターならいいが、もしもサーヴァントならば……その時はやむを得ない。令呪を使うことになるだろう。
 切嗣とて自分がサーヴァントと真っ向勝負できると思うほど自惚れてはいない。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:22:12.10 ID:EfYomPKK0<> 「――――――――」

 暫く歩いて、漸く人の気配を感じた。無論、炎に焼かれる人々とは異なる、歪でありながら猛々しい敵の気配だ。
 切嗣は固有時制御で自分の体内時間を半分にして気配を薄め、そして僅かな気配の淀みと同時に飛び出すとその敵へ発砲した。

「無粋な挨拶だな」

 だが敵はあっさりと黒鍵で弾丸を全て叩き落とすと、切嗣へと顔を向けた。
 まるで地獄で誕生したかのような虚無の瞳。それでありながら天界で生を受けたような清らかさ。聖職者として誰よりも正しく見えながら、その実誰よりも正しくないような男。
 切嗣はこの男を写真越しにのみ見た事がある。
 言峰綺礼。衛宮切嗣が直感的に『宿敵』だと感じた唯一人の敵対者だ。

「言峰、綺礼」

 宿敵の名を呟く。自然と切嗣は銃口を向けた。アサシンのサーヴァントが失われたというのにどうして言峰がここにいるかなど気にもならなかった。
 確実なのは言峰が自分の敵で、恒久平和の障害になるというだけだ。
 言峰はそんな切嗣に視線を向けると…………怒りを滲みだしながら、笑った。

「クッ、クックックっクッ。なんだというのだ衛宮切嗣、その不甲斐なさは」

 嗤いながら言峰は明らかに憤怒していた。他ならぬ切嗣に対して。
 言峰が黒鍵を投擲してくる。凄まじい速度で黒鍵がむかってくるが避けられない程ではない。弾丸を切っ先に当て軌道を逸らし防御した。

「私はお前のことを私の同類だと思っていた。だが違う。アーチャーとの話で勘付いてはいたが、やはりこうして直に目の当りにすると堪えるものだな。同時にあらゆる葛藤や疑問が氷解していく……妙な心地よさすらある。もしもお前が私であるのならば、例え"答え"を得ていたのだとしても聖杯を必死に欲するなどということは有り得ない」

「――――っ」

 言峰が喋る一言一句がどうしようもなく切嗣にとって不快だった。その口を閉ざさせるため発砲するが、言峰綺礼は容易くそれを回避してみせる。
 その言霊は止まることはない。

「然り。そうだったのだ。私がお前に注目したのは、私とお前が同じだからではなく――――お前が私と正反対だったからなのだ。大方お前は恒久的世界平和などという願いでも聖杯に託そうとしているのだろう?」

「ッ!」

「なんだそれは? 貴様はそんな下らんものの為に貴様を愛した妻を犠牲にしたのか! 私が求めても得られなかったもの。手を伸ばしても零れていった幸福を、そんな愚かな願いのために取りこぼしたというのならば―――――」

 言峰綺礼が二つの黒鍵を構える。
 彼が思い起こすのは、自らの目の前で自害し果てた女の記憶。女は彼を誰よりも理解していた。
 人の美しいものを醜いと感じ、醜いものを美しいと感じる破綻者。言峰綺礼が愛するのは天国ではなく地獄であり、花ではなく毒草だった。
 善人が人の幸福に至福を感じるのなら、言峰綺礼は人の不幸にこそ至福を感じた。
 生きる価値など微塵もない、間違った人間。だからこそ最大の理解者である女を妻としながらも、終ぞ言峰綺礼は当たり前の幸福など得ることはできなかったのだ。
 普通に愛したいという心はあった。間違って生まれたことを自覚していながらも、言峰綺礼は当たり前の幸せが欲しかった。しかし言峰綺礼の腸はどうしても当たり前の幸せというものを呑み込んでくれない。
 だからこそ"答え"を求めたのだ。
 人として誤りである己が精神。間違って生まれた無価値なる己。そんな己が存在する価値を知りたかった。そのために遠坂時臣を殺し、そのためにアーチャーを奪い、そのために衛宮切嗣との邂逅を果たした。
 しかし衛宮切嗣は言峰綺礼の同類ではなく――――真逆の男だった。
 想起するのは自分が捕えさせた衛宮切嗣の妻。銀髪の女アイリスフィール。
 確信をもっていえる。あの女は衛宮切嗣を愛していた。衛宮切嗣の内面を理解し、その上で深く愛していたのだ。
 そして恐らくは衛宮切嗣もあの女を愛していた。
 言峰綺礼が求めても得られなかった当たり前の幸福。それを衛宮切嗣は手に入れておきながら、手放したのだ。たかだか恒久平和如きのために。

 生まれながらの異常者は、主の教えを捨て当たり前を求めた。
 生まれながらの健常者は、当たり前の幸福を捨て理想を求めた。

 衛宮切嗣と言峰綺礼。
 この二人は決して相容れる事はない。二人は誰よりも似た者同士でありながら誰よりも正反対だ。
 同極に位置する異質の願望をもつが故にお互いはこの世の誰よりも互いを憎み合う。

「私はお前が許せない。お前のやること為す事が総て癇に障る。存在そのものが不愉快だ。故に私はお前の祈りを目の前で打ち砕こうと思う」

 それは切嗣とて同じだ。思えば最初から切嗣は言峰こそを仇敵と見定め、言峰は切嗣に目をつけていた。
 生まれも育ちも境遇も、何一つとして共通点のない二人であるが――――自分の天敵だけは直感的に感じ取っていたのだ。
 言峰綺礼は衛宮切嗣を殺し、願いを破壊し。
 衛宮切嗣は言峰綺礼を殺し、願いを叶える。
 二人はやはり同時に地を蹴った。目の前の相手を殺し尽くすために。 <> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:22:45.89 ID:EfYomPKK0<>  炎の海と化した街をセイバーは疾走する。
 この炎のせいで切嗣とは完全に分断されてしまった。ラインを通した通話もできないときている。
 唯一つ不幸中の幸いなのは、この炎が隠れ蓑になって戦いの邪魔が入らないことだろうか。
 あらゆる怨嗟、あらゆる悲鳴に背を向けてセイバーは走る。
 助けたいと思う感情がないわけではない。救いたいと思う心もある。本音を吐露すれば、聖杯戦争に背を向けて助けに行きたい。
 だがセイバーはあの選定の剣を抜いた日から、人々を救うために人々を救いたいという心を切り捨ててしまっている。
 それに切嗣は自分にそんなことは望まないだろう。だからただ走った。向かう先はサーヴァントの気配のある場所。
 残るサーヴァントは一騎。敵マスターの方は切嗣がなんとかするだろう。ならばセイバーの仕事は最後のサーヴァントの相手をすることだ。

「――――!」
 
 立ち止まる。炎の中、炎と同じ真っ赤な外套に身を包んだ騎士が、まるで何年もそこにいたかのようにセイバーを待っていた。
 両手はなにも武器をもたず、ぶらんとしている。それでも隙らしい隙が見当たらないのは彼の者がサーヴァントだからだろう。

「貴様は……アーチャーだな?」

「セイバー、か」

 感情を宿さなかった弓兵の両眼。しかしそれもセイバーを目にする前までの話。
 セイバーの姿を見咎めた途端、アーチャーの瞳に郷愁とも哀憫とも見えぬ不思議な色が宿った。

「余計な問答をするつもりはない。アーチャー、貴方はここで脱落しろ」

 セイバーが真っ直ぐに不可視の剣を向ける。
 しかしアーチャーはセイバーの宣戦布告に構えるでもなく、頭を抱え顔を隠すと笑い出した。

「くくく、あははははははははははははは!! 私を……殺すか。そうだな。否定する気はないとも。こんな私など死んでしまった方が世の為というものだ。しかし俺としてもここで死ぬことはできない。聖杯は要らんし、マスターが死のうが生きようがどうでもいいが……こちらも退くことはできん」

「聖杯が要らない。貴様もアサシンのように、戦いが望みという英雄か?」

「まさか。私は奴とは違う。俺が抱くのはあの侍などとは真逆の負の感情だ。それに願いがないわけではない。ただその願いが聖杯にかける類のものではないというだけ。いやもう一つあるな。俺の願いはお前のマスター、衛宮切嗣の願いを踏み躙ってやることだ」

「な、に?」

 思わぬ人物から出た思わぬ願いの形に、流石のセイバーも唖然とする。

「馬鹿な。どうしてそんな願いを抱く。お前と私のマスターになんの関係がある!?」

「クッ――――。それは言えんな。だがあの男はどうせ恒久的世界平和などという戯けた望みを抱き続けているんだろうよ。実に下らん。愚かなものだ。恒久的世界平和などこの世界には有り得ない。正義の味方なんて、誰も傷つかない世界なんてありえないんだよセイバー。そのことをあの男に見せつけてやりたかったのだがな。俺にはもうそれすら出来ない。俺はたった一つのつまらぬ八つ当たりの願いすらも叶えられなかった惨めな敗者だ」

 絞り出すような声だった。何度も何度も裏切られ、絶望した男の慟哭だった。 
 その慟哭の源泉がなんであるかをセイバーは知らない。しかし決してこのアーチャーはただの気紛れの感情でこの場に立っているわけではないのだ。そのことだけはセイバーにも理解できた。だが、

「貴方がなにに絶望しているかは知らぬし、我がマスターにどういう感情を抱いているのかも知らない。しかしお前にマスターの願いを否定する所以はない」

「私は衛宮切嗣のことだけを言ったのではない、セイバー、君もそうだ。お前はいつまで間違った望みを抱いているつもりだ」

「…………!」

 衛宮切嗣の名を出された時以上の驚愕がセイバーを襲った。
 セイバーの願いを知る者はセイバー自身を除けば切嗣だけだ。断じて他の者に自分の願いを喋ったことはない。だというのにこのアーチャーはまるでセイバーの願いを知るかのように、その願いを否定した。

「貴様は、何者だ――――?」

 聖杯戦争において問う意味のない問い。
 真名を隠すのがサーヴァントの鉄則なれば、サーヴァントが名前を尋ねられたところで馬鹿正直に名乗るはずがない。
 それでも訊かずにはいられないほどアーチャーの存在は埒外の極みだった。

「おや。先程の君自身の発言を忘れたのかな。余計な問答をするつもりはない。お前はここで脱落しろ……だったか。然り。もはや問答する意味はないし、俺にもそれをすることはできない。お前と今日この日、この場所で戦うことに運命の悪意すら感じるが良いだろう。いずれ追い付きたいとは思っていた壁だ」

 アーチャーの手から陰と陽の夫婦剣が出現した。
 セイバーの聖剣と比べれば劣るものの、見る限り相当の強度をもつ宝具とみえる。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:23:29.98 ID:EfYomPKK0<> 「良いだろう。もはや貴様の正体については気にはすまい。……そう、押し通らせて貰うぞ! アーチャー!」

 相手が双剣を握ったとはいえ、己はセイバーのサーヴァント。アサシンは例外として、剣においてならこちらの方が優位だろう。
 逆に弓兵を相手に距離をとることこそ愚の骨頂。
 故にセイバーは地面を蹴ると一気にアーチャーと距離を詰め剣を一閃。アーチャーはそれを双剣をもって受けるが何分、ステータスの差があり過ぎる。
 アーチャーは他の英雄たちとは違う。唯一つの才能を除けばただの人間だった。人間として埒外の筋力をもっていようと、サーヴァントの中にあれば平均以下。最優のセイバーと剣戟を交えるほどの力はない。
 ましてやセイバーの剣は不可視なのだ。

「はっ――――!」

 だがアーチャーはセイバーの剣を弾いてみせた。
 令呪によるバックアップもあるだろう。しかしそれ以上にアーチャーはまるでセイバーの剣を知っているかのように不可視を無意味とし、その剣術を熟知しているかのように先を読み受けたのだ。
 
「はぁぁぁあああッ!」

 が、一度防がれたところでセイバーが剣を振るうことを止めるはずがない。
 魔力炉心が生み出した莫大なる魔力が風王結界を高め、力を高め、刃を振り落す。力を前面に押し出しながらも、その切っ先は流麗にして清廉。
 力任せの暴風ではなく、才をもちながら才に溺れず極限にまで高めた芸術性すら感じさせる剣術だ。耐え凌ぐのは並大抵のことではない。
 やがてアーチャーの左下腹部に隙を見出す。セイバーは迷わずにそこに剣を打ち込んだ。

「!」

 だが隙に繰り出されたはずの一撃をアーチャーは読み切っていたように黒い刃で防御した。
 アーチャーにはセイバーと真っ向から戦う力はない。だが凡人には凡人なりの戦い方がある。アーチャーが行ったのは攻撃の誘導。意図的に隙を生みだし、敢えてそこに打ち込ませる。そして狙う場所の分かった一撃を防御し次に繋げる。
 口にするのは簡単だが、わざと隙を作り出すというのは危険極まる綱渡りだ。だがそんなリスクを冒さなければアーチャーはセイバーと戦うことはできない。剣の英霊は伊達ではないのだ。

「せいっ!」

 剣を防いだアーチャーはセイバーの左下腹部に回し蹴りを叩き込む。
 蹴り自体は鎧に阻まれてダメージは届かないが、衝撃は響く。セイバーがほんのわずかに両足を宙に浮かせた瞬間、アーチャーが攻勢に出た。
 陰と陽の夫婦剣。それを無骨な手つきで操り、セイバーの首級に振り落してきた。

(アサシンと同じく首狙いか!)

 直感で夫婦剣の狙いを読みとり躱す。そして逆襲の斬撃を叩き込んだ。アーチャーは風圧に圧され、三歩半下がった。
 そこを逃さずセイバーが追撃した。

(しかし弓兵でありながらこの剣技とは)

 アーチャーだけあって技量そのものはセイバーに及ばない。白兵戦ということならランサーにも及ばないだろう。
 しかしアーチャーは持ち前の戦上手さで最優のセイバー相手に曲がりなりにも戦っているのだ。ただそれは曲がりなりにも、に過ぎない。
 どれだけ取り繕うとアーチャーは所詮アーチャー。弓による狙撃なら兎も角、向かい合っての剣技でセイバーには敵わない。
 セイバーはアーチャーを仕留めるために再び距離を詰めようとするが、アーチャーも自分の不利は分かっているらしい。真っ向から双剣で打ち合うなんて愚策をとることはなかった。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:24:07.85 ID:EfYomPKK0<> 「工程完了(ロールアウト)。全投影、待機(バレット クリア)」

「なっ!」

 アーチャーの周囲に無数の剣が現れた。
 その一つ一つにただの武器では考えられない魔力と神秘が込められている。

「停止解凍(フリーズアウト)、全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

 アーチャーの詠唱で宙に浮いていた剣が起動する。剣という魔弾は一斉にセイバーへと殺到してきた。
 魔弾は一つ一つがサーヴァントを殺すだけの力をもった魔弾である。だがセイバーとて王であった頃からこういった掃射は慣れていた。蛮族たちとの戦いでは数千の矢を掻い潜ったことすらある。その魔弾に驚きながらも、風王結界で全ての剣を叩き落としてみせた。
 それでも疑念は残る。

「…………まさか、こんなことが」

 アーチャーの正体について気になり、驚くのは何度目だろうか。
 信じ難いことだがアーチャーが放ってきた無数の剣は一つ一つが『宝具』だった。

「ありえない。英霊のもつ宝具は一人につき一つ。多くても二つ三つが精々だ。なのに……」

「喋っている暇があるのか!」

 今度はアーチャーが両手にもっていた夫婦剣をセイバー目掛けて投げてきた。
 ランサーのゲイボルクでもあるまいし、自分の得物を敵に投げつけるという愚行。本来であれば一蹴するところだが、このアーチャーはなにをするか分からない。
 警戒を緩めず、油断せず双剣を切り払った。

「鶴翼(しんぎ)、欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)」

 セイバーが双剣を切り払おうと気にせず、アーチャーはまた同じ双剣を出現させると投げつけてきた。
 ただの魔術師なら双剣を投げつけるだけで殺せるかもしれないが、セイバーは闇雲に剣を投げつけるだけでやられるほどの愚図ではない。
 雑な投擲を再び同じように斬って捨てた。
 同じ双剣を出してきたことは気にかかるが、このアーチャーに対して一々驚いていても仕方ないと結論して接近を試みる。

「心技(ちから)、泰山ニ至リ(やまをぬき)」

 セイバーに接近されればアーチャーは後退しながら続いて三度目の正直とばかりに剣を投げつける。
 無骨な金属音が響く。三度目も二度目までと同じようにあっさりセイバーは防いだ。

「心技(つるぎ)、黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)」

 四度目の双剣。また同じように投げつけてくるのかと思いきや、アーチャーは魔力を込めて双剣をより巨大かつ強力に肥大化させた。
 アーチャーは殺傷力を格段に上昇させた双剣を構え、セイバーに突っ込んできた。

「唯名(せいめい)、別天ニ納メ(りきゅうにとどめ)」

 そこでセイバーの直感力が警鐘を鳴らす。
 咄嗟に首を左に傾けると、そこに弾き飛ばしたはずの夫婦剣が向かってきたのだ。
 それだけではない。アーチャーにより投げつけられた三組の夫婦剣は今や宙を飛びながらくるくると舞い、セイバーを中心とした円の結界で取り囲んでいた。

「両雄、共ニ命ヲ別ツ……!」

(アーチャーの狙いはこれかっ!)

 陰と陽の夫婦剣。干将莫邪は離れた時に互いが互いに引きあうという特性をもつ。
 干将は莫邪を呼び寄せ、莫耶は干将を引き寄せる。故に宙に舞う三組の干将莫邪は終わりなきワルツを舞うことになるのだ。
 セイバーなら剣を粉々に破壊して円の結界を力ずくで突破することもできるだろう。だがそんなことをしていれば突っ込んできたアーチャーにより切られるだけ。
 これこそアーチャーが編み出した必殺剣、鶴翼三連。
 アサシンの必殺剣が回避不可能な魔剣であるのなら、アーチャーの必殺剣は敵を回避しないようにさせた上での必殺であった。
 もはやセイバーは円の結界に閉じ込められた囚人。アーチャーのオーバーエッジした干将莫邪による一撃を防ごうとすれば、結界を構成する双剣が喉元を切り裂き、結界を対処しようとすればアーチャーに両断される。
 故に必殺。もはや為す術などはない。

――――しかし常勝無敗の騎士王はこの程度で膝を屈することを良しとしない。

「風王鉄槌!」

 アーチャーの必殺剣の正体を見破ったセイバーの行動は早かった。
 聖剣を囲っている風王結界を解き放ち、暴風を吹き荒せる。干将莫邪は互いが互いを引き寄せる性質をもっているが、その力は風王鉄槌による暴風を超えられるものではない。
 暴風が干将莫邪を弾き―――剣の牢獄から、彼の王は解き放たれる。
 露わとなった聖剣が黄金の輝きを発し始める。

「はぁぁぁあああッッ!」

 気合一閃。黄金の刃が巨大化した干将莫邪と打ち合う。 
 拮抗は僅かな時間。聖剣における最上位に君臨する聖剣は巨大化した干将莫邪を粉砕してみせた。アーチャーは黄金の光に目を奪われたように目を細めると、このままではやられると悟ったらしく全力をもって後退した。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:24:36.56 ID:EfYomPKK0<> 「逃がさん!」

 敵が逃げるのをみすみす許すほど愚かではない。必殺剣を真っ向から破りアーチャーは僅かなりとも狼狽えている。そこを見逃しはしない。
 セイバーは止めを刺すべくアーチャーに突進するが、アーチャーはにやりと笑い。

「壊れた幻想」

 投擲された三組の干将莫邪が内に秘められた魔力を炸裂され爆発した。
 
(上手い!)

 セイバーはアーチャーの戦運びの上手さに舌を巻く。
 必殺剣を破り狼狽えたと思えば、円の結界に使用した干将莫邪を今度は盾として自分の後退用に利用したのだ。
 行動に無駄がなく、一つの攻撃が次の攻撃に繋がり、同時にもしもの保険にも働いている。この戦い方、何故だろうか。不思議と自分のマスター、衛宮切嗣と被って見えた。
 爆炎が止むと、セイバーは身構える。
 しかしそこにアーチャーの姿はない。

「逃げたか……? いや、まだ気配が近くにある」

 アーチャーは弓兵だ。セイバーの背後から弓で狙っているかもしれない。
 全包囲を警戒しながらセイバーがゆっくりと歩を進める。

「――――なるほど。相変わらずだな、セイバー」

「!」

 アーチャーの声がどこからか聞こえてくる。だが周りの炎が邪魔で上手く場所を探れない。

「勝ったところで俺には得るものなどない戦いだが、そういった戦いは慣れている。……それに、どうせなにも還らぬ戦いだというのなら一時の感情に流されるのも悪くない」

「…………っ!」

 背後になにかを感じ炎を切る。だがそこには誰もいない。

「征くぞ、セイバー。全ては遠き理想だが――――お前を超えてみよう」

 疑問が遂に臨界に達する。
 アーチャーの口調、それに戦い方といいまるでこちらのことを知っているかのようだ。これは確信である。アーチャーはセイバーを知っている。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:25:04.44 ID:EfYomPKK0<> 「I am bone of my sword. 」

 いずこからか無骨なる声が鳴いている。 

「Steelis my body, and fireis my blood」

 それは唄であり歌であり、詩でもあった。
 他人に聞かせるためのものではなく、ただ男の生涯を歌い上げただけのもの。

「I have created over a thousand blades. 」

 赤い外套の騎士の歌は周りの炎に焼かれ消えていく。
 それでもセイバーは一言一句それに耳を傾けてしまう。

「Unknown to Death.」

 まるで呪いのように。

「Nor known to Life.」

 この唄を聞いていると、どうしてかアレを思い出してしまう。全ての理想と騎士とが死に絶えたカムランの丘。己があらゆるものを失った最期の土地を。
 セイバーは渾身の意志で迷いを振り払う。
 アーチャーの唱えるこれを完結させてはいけない。この土壇場で繰り出してくるものだ。恐らくこれがアーチャーにとっての切り札。
 しかしアーチャーを探せど炎が邪魔だ。衛宮切嗣とセイバーを分断するための炎は隠れ蓑としても有効だった。

「Have withstood pain to create many weapons.」

 だがその時、月の光が差し込みアーチャーの姿を露わにする。アーチャーは片膝を閉じ、祈るように目を閉じていた。

「どうやら月の女神の加護がなかったようだな。覚悟しろ、アーチャー!」

 見咎めた敵へセイバーが剣を振りかぶる。

「Yet, those hands will never hold anything.」

 セイバーがアーチャーに斬りかかる。けれどセイバーの刃がアーチャーを切り裂くよりも早く、

「So as I pray, unlimited blade works.」

 最後の一節が唱えられた途端、炎が奔り世界が変わる。
 炎のせいで目を晦ませられたセイバーが目を見開いて見せれば――――そこは異界となっていた。
 草木など一切生えていない赤い荒野。空には回転する巨大な歯車があった。
 なにより目につくのは荒野に突き刺さる剣だ。
 一つ一つが宝具と思わしき魔力を秘めた聖剣魔剣、それらが無造作に無限に連なり刺さっている。 <> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:25:42.26 ID:EfYomPKK0<> 「まさか固有、結界……?」

 魔法に最も近いとされる大魔術。魔術師にとっての一つの到達点であり大禁呪。世界を己の心象風景で塗りつぶす悪魔か精霊の御業。
 
「そうだ。俺は生前、聖剣も魔剣も持っていなかった。俺がもっていたのはこの世界だけ。それが剣であれば一度見ただけで複製し貯蔵する。それが英霊としての俺の能力」

 剣の丘の中心に赤い外套の騎士はいた。
 セイバーの疑問が氷解する。あらゆる剣を複製し貯蔵する。信じ難いがそれならアーチャーが数えきれないほどの宝具をもっていることにも説明がつく。
 つまりあれは本物ではなく、この騎士が生み出していた贋作だったのだ。
 固有結界"無限の剣製"。それがアーチャーの象徴にして宝具。

「お前の聖剣ほどの代物となるが完全に複製するのは不可能だが、真に迫ることはできる」

「それは!」

 アーチャーの隣に突き刺さっているのは眩い黄金の聖剣。セイバーのエクスカリバーだった。 
 だがどこか違う。他は完全にトレースしきれているのにエクスカリバーはどうにも偽物臭い。セイバーのエクスカリバーは人の願いによって生まれながら、人の意志とは関係なく生み出される神造兵器。神造兵器の投影はできないというのがアーチャーの『能力限界』なのだろう。
 アーチャーはニヤリと笑うと、エクスカリバーではなく隣にある剣を手にとった。

「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣。剣戟の極地!  恐れずしてかかってこい!!」

「望むところだ。貴様が無限の剣ならば、私は至高なる一で迎え撃つッ!」

 アーチャーは無限の剣を、セイバーは究極の剣を武器に真っ向からぶつかり合う。
 しかし『無限の剣製』の担い手たるアーチャーにはこの宝具の弱点も熟知している。如何に無限の剣をもとうとも、それだけでは一つを極限に極めた英霊には及ばない。
 故にアーチャーはただの剣ではなく龍殺しの逸話をもつ剣を手にとった。
 セイバーは体に竜の因子を秘めている。そのため龍殺しの逸話をもつ剣はセイバーにとって天敵だ。

「くっ……!」

 間違ってもその剣を受けるわけにはいかない。ただの剣なら大した傷にならずとも、それが龍殺しの魔剣であれば一撃が致命傷になりかねない。
 セイバーは打ち合い、その龍殺しの魔剣をアーチャーの手から弾き飛ばす。しかしそんなことは無意味だ。ここは無限の剣のある場所。ならば一つをアーチャーの手から弾き飛ばしたところで意味などはない。アーチャーは直ぐに同じ龍殺しの逸話をもつ剣を抜くと、それでセイバーを切り裂く。
 今度は避けきれずセイバーの左肩から血が噴きだした。

「行け!!」

 アーチャーが一言命じると、突き刺さった剣が浮かび上がっていきセイバーに殺到した。
 無限の剣による一斉掃射。一つ一つは宝具とはいえ、セイバーなら楽々対処できる。しかしこの数は厄介だ。
 セイバーは自らの動体視力と直感を総動員して剣の雨を掻い潜っていく。
 そうしてセイバーが剣の雨に襲われている中、アーチャーは右手に身長ほどもある巨大な斧剣を構えていた。
<> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:26:10.35 ID:EfYomPKK0<> 「――――投影、装填」

 如何なアーチャーとはいえこの斧剣は扱い難い。それもそうだろう。この巨大な斧剣はアーチャーが振るうようなものではない。これは本来ならばギリシャ最大の英雄が白い少女を守るために振るったものだ。
 アーチャーはその時の記憶は摩耗して覚えていないが、彼の英雄の斧剣は確かにこの世界に記録されていた。記録された斧剣からアーチャーはそこに込められた経験をも自らに投影する。

「全工程投影完了――――是、射殺す百頭」

 九つの軌道を描きセイバーに迫る斧剣。超高速九連撃。豪快にして精密な剣技は驚嘆に値しよう。しかし所詮は憑依経験を降ろしただけのもの。本物の彼の大英雄の剣技と比べれば劣る。だがそれで十分。超高速で繰り出された九つの斬撃に完全とはいえずとも大英雄の筋力をも再現した攻撃だ。英霊とてこの一撃を前にすれば抗えはしないだろう。
 しかしセイバーからすればたかが超高速九連撃だ。
 セイバーはこれ以上のものをこの聖杯戦争で見ている。超高速なんてものではなく、完全同時に三つに分身して襲い掛かってくる必殺剣を。

「はぁぁ――――ッ!!」

 万力の力で黄金の剣を振るい斧剣を粉砕する。数こそ九つと多いが、所詮は超高速の連撃。最初の一撃を破壊してしまえば、次の二撃目はない。
 破壊された斧剣が砕けると、幻想は現実に押し潰され消滅する。

「ふっ!」

 アーチャーは斧剣による超高速九連撃を破壊されて尚、動じることはなかった。
 斧剣はなくアーチャーにはまた別の剣が握られている。
 この場において手元に武器がないことはなんの不利にもならない。得物を失ったのならば別の剣に持ちかえればいい。なにせここには無限の剣があるのだから。

「はっ――――どうしたセイバー、動きが鈍いぞ!」

 愚直ともいえるアーチャーの猛攻。次々と武器を変え得物を変え、その攻撃はセイバーに慣れさせるということを許さない。
 単純な剣技ならばセイバーはアーチャーより遥か上でも、アーチャーはセイバーの弱点となる宝具を的確に選定し、その都度、最も有利に戦いを進められる武器に持ち替えてくる。

「舐めないで貰おうかアーチャー!」

 けれどセイバーとて円卓を束ねた騎士達の王者。その練度は無銘の英霊に劣るものでは断じてない。
 自身の弱点となる剣と剣技。それらを持ち前の直感力と極めた剣技により互角以上に押し返していく。

「これで止めだっ!」

 セイバーがアーチャーの城塞のような防御を突破して、首級目掛けて刃を奔らせる。
 確実に討ち取った、と確信するほどの一撃。だがそれをアーチャーは手にとった黄金の剣で切り払う。

「っ! 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)……私の剣を」

「そら。余所見をするなよセイバー。まだ戦いは終わってないぞ」

 どこか楽しさすら感じさせる口調でアーチャーは黄金の剣を振るう。
 不思議な感覚だった。
 勝利すべき黄金の剣――――カリバーン。
 それはセイバーが王となったあの日に抜いた選定の剣だ。
 嘗てセイバーが騎士道に反する戦いをした際に折れてしまい、永久に失った黄金の剣。
 権力と権威の象徴であり、美しい剣であることの代償として武器としての性能はエクスカリバーには及ばない。
 ただ失ったとはいえセイバーにとってはエクスカリバー以上に馴染み深い愛剣だ。
 そんな愛剣を贋作とはいえ誰とも知らぬ他人に扱われているのに、セイバーには不快感というものがまるでない。こんな感覚は初めての経験だった。

「せいッ!」

「はッ!」

 カリバーンとエクスカリバーがぶつかり合う。
 鍔迫り合いは一瞬で終わる。聖剣というカテゴリーにおいて頂点に君臨するエクスカリバーは一度の接触で贋作のカリバーンを砕いた。
 しかしアーチャーはそれで終わらない。
 後方に大きく跳躍したアーチャーは剣の丘から『ある剣』を抜いた。 <> 第41話 剣の丘<>saga<>2013/02/15(金) 18:26:48.69 ID:EfYomPKK0<> 「貴様、今度はエクスカリバーを……!」

「そうだ。だが偽物だ。どれだけ本物のように見せようと、やはり本物にはなれないのだろうな」

 男の独白は諦めにも似ていた。男が担う聖剣――――その形は寸分違わぬ黄金の剣そのもの。
 それは嘗てともいえるし、これより先ともいえる時代の話。五つを残しあらゆる魔法が追放された現代において、一つのちっぽけな英雄譚を築き上げた少年がいた。
 少年は終幕のゼロに生まれ、一人の男に憧れ、そして運命の夜に出会った少女に憧憬の念を抱き生きてきた。
 恐らくは一秒にも満たぬ刹那。されどその時の光景だけは、少年は地獄に堕ちようと忘れはしなかった。
 彼らしくもない愚かな選択だ。
 無限の剣では究極の一には敵わない。どれだけ宝具や技量を模倣しようと一つを極限に極めた英雄には及ばない。
 英霊達の宝具をいくつも記憶した上で、それらを効果的に運用し相手の弱点を衝くことで初めて彼は他の英雄達に対抗できるのだ。
 故にエクスカリバーに対して同じエクスカリバーをもって挑んだところで敗北は必至。

「振り払ったつもりなのだがな」

 そう。偽物が本物に敵わぬ道理はないのだ。
 今、少年は彼女と同じ英雄として、自らの一生を費やして投影した偽物の黄金を手に構え、あの日に見た本物の輝きへと挑む。

「いいだろう。受けてたつぞアーチャー」

 相手が聖剣をもってくるのならば、こちらも聖剣をもって相手する。
 アーチャーの正体をセイバーは知らない。その宝具を見せつけられてもセイバーにはその男の正体に皆目見当がつかない。アーチャーは自分を知っているが、セイバーは男のことをなにも知らなかった。これほどの使い手、忘れるはずはないというのに。
 だがもはやそのことを問いはすまい。
 セイバーがやるべきことは英霊として、アーチャーの生命を込めし一撃を迎え撃つことだけだ。

「「約束された――――」」

 言葉が重なる。本来なら有り得ぬ同じ宝具の同時解放。

「「――――――勝利の剣!!」」

 ぶつかり合う二つの黄金の輝き。
 圧倒的エネルギーの奔流の衝突は周囲に突き刺さる無限の剣をも巻き込み大地に皹を入れていく。
 拮抗は一瞬。されど那由多の感覚の後、本物の輝きが偽物の光を呑み込んでいく。まるで優しく包むように。 

「セイバー、いつか必ずお前を解放する者が現れる。その時もやはり関わるのは私なのだろうよ。……ありがとう。お前に何度も助けられた」

 光がアーチャーをも飲み尽くす。アーチャーの最期の独白も光と消える。
 主を失ったからだろう。剣の丘が――――固有結界が消え去っていく。
 セイバーは再び地獄の業火に包まれた戦場へと戻ってきた。そこにアーチャーの姿はない。

「行こう。マスターが待っている」

 アーチャーは斃した。残るサーヴァントはもはや自分一人。後は聖杯を確保するだけだ。
 セイバーは己が主の助力のためにも、なにより聖杯を手に入れるために聖杯の気配のする場所に向かった。



【アーチャー 脱落】
【残りサーヴァント:1騎】 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/02/15(金) 18:27:53.58 ID:EfYomPKK0<>  今日はこれまで。……恐らくこのss内で一番悲惨なのはアーチャーです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 18:35:53.29 ID:/am2JDLV0<> 乙 
まさかのアーチャー脱落
こうなると原作の英雄王ポジは消滅か・・・それともまさかのセイバーオルタとか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 18:39:06.07 ID:y6cjXC170<> さて、原典の黄金王のポジションは誰?

そして、いよいよ佳境だが、千に収まるのか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/15(金) 19:00:14.89 ID:61/SLAE40<> 乙でした!

動画の方を先に見たが、アーチャーvsセイバーはやっぱり胸に来るなぁ……。多分、このシリーズで一番感動した戦いだったかもしれない。この戦いを書いてくれたスプーン氏に感謝を。

だが、先の展開で気になることが一つ。
切嗣が「残り令呪は一つだけ」的な発言してるよね。確かセイバーは対魔翌力スキルがAランクで、たとえキャスターの令呪であっても一回分なら抵抗できたよね? 原典どおりに進めるなら、エクスカリバーで聖杯を壊す必要があるのだが……(原作の詳しい描写は覚えてないが、Fateルートでセイバーがそんなこと言ってたような)。

果たして切嗣くんは、聖杯(この世全ての悪)を止められるのだろうか……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 19:12:49.46 ID:/VTbZtCp0<> 何処かで言っていたな
「本物に成ろうとする偽者は本物よりも価値がある
本物にたどり着こうとする意思と研鑽は本物よりも圧倒的に価値がある」

正しいの間違ってるのかそんなものは知らんがアーチャー肯定する為にあるような言葉に思えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 19:39:56.55 ID:khS9MZUD0<> >>789禁書の上条当麻の言葉で衛宮切嗣を否定するならば

「それは方法からして間違っている。
みんなを騙して傷つけるような最速最短なんて相互不信の疑心暗鬼を生むだけだ。
それでお前が今まで以上の敵になったらなんの意味もないんだ
よ。
そんな世界にお前が守りたかった人達の平和な日々なんて絶対にありえない。」

賛否両論あるけど結構正論言ってるよねあの人
後上条さんじゃないけど「効率優先の短縮ばっかしてたらいずれ取り返しのつかない失敗をする」みたいな事も言ってたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 19:41:21.29 ID:KxEbwG1DO<> >>824
聖杯破壊はセイバーと対話してあれじゃ無理と教えれば問題ない。
原作での令呪使用は無理矢理エクスカリバーぶっぱのためだし。
普通にエクスカリバー使用で破壊は可能。
ぶっちゃけセイバーは冬木の聖杯に拘る必要はないし世界のどっかの聖杯入手するまでまた召喚されればいい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 19:49:21.85 ID:9LbrVec20<> 乙です、アーチャー脱落してしまいましたがこれだと五次の時に士郎に助言できる人間がいなくなってしまって大丈夫で
しょうか?、士郎が成長できた要因の1っにアーチャー存在がありましたし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 19:59:38.48 ID:KxEbwG1DO<> >>826
きのこはインタビューで切嗣は開き直って悪人になればすんごいわかりやすい世界の敵になれたと言ってたな。
カリスマ性ないから悪の組織のボスとかにはなれないだろうけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 20:58:16.80 ID:HwSd2FSI0<> 乙ー

>>826
確かに普通の方法であれば短縮し続けた先に不和が生じるかもしれない
けどキリツグの願いは聖杯にちょる解決をはかる物だから問答無用でかなってしまうところがあれなんだよなぁ
清純の聖杯だったらだけど・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 00:47:56.43 ID:2cb/sU2T0<> まあ仮にそれを言ったところでその程度のことじゃ切嗣は揺らがないだろうけどな
「言いたいことはそれだけかい?」で済まされるか、下手すりゃ説教途中に撃たれて終わる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 04:03:09.57 ID:NHNeIKGto<> 乙
もう出番がないから全部詰め込んだんだと思うけど、
必殺技の連打は軽く見えちゃうしもったいない。

>>808
記憶については後戻りしないように自分で封印してる感じ。
ほほをつたうでそういう描写があった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 07:16:08.77 ID:C9pUJrUAO<> >>831
まぁそこはそれ、あくまでメタ視点での話だし。実際に相対するって話なら、スペック上は主人公補正を加味しなければそこらへんの人に銃器持たせるだけで手も足も出ないだろうし
それに結果論ではあるけれど切嗣は冬木史上でもトップクラスの不幸の元凶だろうしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 12:41:32.55 ID:KUIYZqGSO<> >>833
被害者数だけなら言峰のがうえじゃね?
大火災起こしたし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 14:31:49.70 ID:S0Qzg4ODO<> >>834
zeroが正史なら後先考えず聖杯ぶっ壊した切嗣が主犯言峰も原因ではあるけどな。
切嗣合理主義といわれるけど感情に流されるよね。
感情的な葛藤があろうとそれとは無関係に引き金ひけるのが切嗣なわけだし。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 14:52:28.69 ID:4S5XrYrIO<> zeroの方においても火災が起こった原因は、切嗣が破壊を命じる前に聖杯が言峰の無意識下の願いを汲み取ったためみたいな理由じゃなかったっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 22:41:34.79 ID:d5SCY8Ni0<> 言峰「吐き気を催す邪悪とはッ!
くだらん理想の為に妻を犠牲にすることだ…!てめーの都合でッ!!!

だから…俺が倒す!!!!!」ビシイッ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/17(日) 00:44:50.78 ID:QeVLx1mo0<> >>837
なんというブーメラン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/17(日) 01:02:28.77 ID:8UhrhpWO0<> しかしアーチャーが脱落となるとパスを通じての泥の恩恵を受けられなくなるな
そもそも原作通り心臓を撃ち抜かれるとも限らんが <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/17(日) 22:44:07.49 ID:jsb4E51b0<> >>822
 これでアーチャーはこの聖杯戦争より脱落です。

>>824
 Fate/stay nightでセイバーが最後の令呪で聖杯破壊を命じられたという発言をしているので。

>>825
 その理屈も当て嵌まるものと嵌まらないものがあるでしょう。
 偽物は偽物でも養父とか養子ならそれでいいかもしれませんが、どれだけ本物に辿り着こうとしたものでも偽札は偽札ですし。

>>826
 上条さんは諸々の事情からアンチ意見も多く綺麗事だと揶揄されることはありますが、基本的に正論を言っていますね。
 まあ正論を言うキャラクターが一部の人間から疎まれるのがいつの時代も同じなんですが。

>>829
 この世全ての悪を使って悪人を断罪するとか掲げて参加していたらいい感じなラスボスになれたかも。

>>830
 たぶん正しく願いが成就した世界はEXTRAにおける西欧財閥の管理社会の究極形のようなものになるでしょう。

>>831
 生半可な人間なら説教で怯んだりするでしょうけど、良くも悪くも切嗣は自分の行動がエゴに満ちていることも完全に理解した上で突き進んでいるので並大抵のことでは止まってくれません。

>>833
 言峰と切嗣さえいなければケイネスも時臣も桜も凛も皆幸せだったんですけどね。

>>837
 言峰が切嗣に怒ったのは正義感からではなく単なる八つ当たり。悪い言い方をすれば僻みです。 <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:46:33.15 ID:jsb4E51b0<>  炎の海で一人の強欲な暗殺者が身を翻す。背徳の信仰者が疾走する。
 性質の異なる黒衣に体を包ませた二人の参加者は自らの信頼する武器を手に殺し合いを始めた。互いの存在を否定するために。

「Time alter(固有時制御) square accel(四倍速)ッ!」

 この相手に切り札の出し惜しみこそが愚策。もはや先の戦いを心配する必要もない。"戦い"はこの日ここで終わるのだから。
 切嗣は全ての切り札を惜しみなく晒す。
 固有時制御の四倍速。
 時間とは万人が等しく享受するものだ。しかし切嗣の固有時制御はそれを覆す。この術が発動した瞬間、唯人の1秒は切嗣にとっての四分の一秒となった。諸人が一日を一日として生きるのなら、この身は一日を四日として生きよう。

「……!」

 宿敵――――言峰綺礼は流石に切嗣の速度に驚いたようだ。目が見開くが狼狽えることはなかった。
 言峰綺礼の腕に刻まれた予備令呪が輝く。一画を消費すれば『魔法』に比肩しうる神秘を可能とする紋様は言峰綺礼に人間を超越した力を与える。
 四倍速で動く切嗣にも追従しうる速度を得た言峰は真っ直ぐ切嗣の心臓目掛けて突きを放った。

(あの光は令呪か!?)

 一目で言峰にあるものの正体を看破した切嗣は、高速の突きを紙一重で交わすと至近距離から起源弾を発砲した。
 切断と結合という切嗣の起源を強制的に発現させる魔弾。魔術師にとっては真実必殺となりうるものだったが、言峰はその魔弾の効果を知っているかのようにニヤリと笑い地面を縮めた。
 それがどういった技法なのか、切嗣は知らない。しかしなんとなくだが、それが八極拳における独特の歩法なのだということは分かる。最初の一歩にして全速力のスピードを実現する歩法、言峰綺礼の常人ならざる速度をもってすれば彼の縮地にすら匹敵しよう。

「衛宮切嗣。生憎だが、貴様の魔弾の正体は我が師より聞き及んでいるぞ」

 消えたように姿を晦ました言峰は、切嗣の右の死角に回り込み急所へと発勁を打ち込もうとする。
 外面ではなく体の内にこそ真価を発揮する八極拳、その発勁ともなれば一撃のみで衛宮切嗣の内臓器官は粉々に粉砕されるだろう。アヴァロンを身に宿す切嗣は内臓が破壊され即死しようと蘇生することはできる。だが瞬時に蘇生できるわけではない。
 もしこんな火の海で十数秒でも意識を失っていれば火に巻き込まれ焼け死ぬ可能性もある。それに例えアヴァロンの加護があろうと脳髄まで破壊されてしまえば蘇生はできない。
 であれば言峰綺礼の攻撃は切嗣にとって致命となりうる。
 なんとしても受けるわけにはいかない。

「――――!」

 右手にもっていたトンプソン・コンテンダーと起源弾の弾丸を宙に放り投げ、懐から別の拳銃を抜き去る。
 そして抜いて直ぐに発砲した。構えなしでの早打ち。固有時制御なしでも切嗣は一流の戦士に相応強い早打ちの業をもつ。それが更に四倍で動くのだ。抜いてから発砲に至るまでの時間は0.5秒未満である。
 人間の頭をトマトのように破裂させる殺傷力の弾丸が必殺を打ち込もうとした言峰の顔面目掛けて殺到した。
 言峰が自滅覚悟で切嗣を殺そうとするのならば分からないが、もし言峰に自分を生き残らせる気が欠片でもあるのならば攻撃を止め回避するしかない。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:47:08.89 ID:jsb4E51b0<> 「ちっ!」

 予想通り。言峰は弾丸の回避のため攻撃を停止した。
 そこにジャストのタイミングで先程宙に投げたトンプソン・コンテンダーが落ちてくる。それを掴んだ切嗣はコンテンダーを折り開くと、そこに投げておいた起源弾が降りてきて弾の装填が完了した。
 言峰は弾丸を回避したばかりで隙が生まれている。そこに容赦なく必殺の魔弾を放った。だが言峰は令呪による爆発力で魔弾を回避する。
 それも切嗣は織り込み済みだ。令呪のバックアップさえあれば言峰なら魔弾の回避もできるだろうとは思っていた。
 切嗣は手榴弾を投擲し炸裂させると一旦距離をとる。
 接近戦においては切嗣より言峰の方に一日の長がある。相手の得意とする戦場でわざわざ戦ってやるのはバトルジャンキーだけだ。切嗣はそういった連中とは違う。
 戦いの基本は相手の嫌がることをやることだ。
 言峰がどれだけ優れた歩法をもっていて、姿を消したように移動することができても、実際の速度までが目にも留まらぬ速度なわけではない。令呪によるバックアップさえなければ、言峰のスピードは四倍で動く切嗣には到底及ばない。
 自分の優位を活かし、30m以上の距離を開かせるとサブマシンガンを掃射した。

「ふんっ!!」

 数えきれぬ弾丸の雨を前にして言峰は冷静だった。冷静に五臓六腑に空気を送り込むと、両手に黒鍵をもちそれで弾丸を正確に弾きながら突進してきた。

「!」

 余りにも無茶苦茶。令呪によるサポートがあるとはいえ、言峰の戦意は鬼気迫るものがあった。言峰にはそれだけの意志力で戦う理由があるのだろう。生涯において唯一つの生き方しか出来なかった男の戦気は限りなく純粋だ。
 言峰の腕がしなる。音を切り裂きながら投げつけられた黒鍵が切嗣に襲い掛かってくる。
 投擲という単調な攻撃も、それが音速に迫る速度であるのならば大砲の一撃にも匹敵しよう。それでも切嗣は黒鍵の軌道を正確に読んでいた。
 迫りくる黒鍵は合計三つ。その一番手前にある黒鍵の切っ先に拳銃の弾丸を撃ち込む。
 正確無比な射撃は狙い通りに黒鍵の軌道をそらし、続く二つの黒鍵はその黒鍵に当たり空中で交え弾ける。
 
「墳ッ!!」

 空中で弾けた三つの黒鍵。言峰はそれを突進しながら回収すると、その両手で黒鍵を切嗣に振り下ろしてきた。
 切嗣は後ろに宙返りしてそれを避けると、ナイフをありったけの魔力で強化させオーバーエッジさせるとがら空きの心臓へ突き刺した。
 耳にまで響く空気の軋む音。
 これは殆ど全ての刀剣類にいえることだが刃は鋭利でも刃の腹は撃たれ弱いものだ。
 ジャンルこそ違えど言峰も黒鍵という刃物を武器としているためナイフの特性も理解している。
 言峰はしなる腕を武器に、猛虎の如き膂力でナイフの腹を殴りつける。強化されオーバーエッジしたナイフだったが言峰綺礼の埒外の力の前に砕け散る。
 防御に回っていた言峰が攻撃に転じる。
 腕をまるで刀に見立てて切嗣の左肩に振り落した。令呪の力も働いた手刀は威力も刀そのものだ。切嗣の肩など容易く切り裂かれてしまうだろう。
 二つの手に二つの銃。両方の手にもった銃を『強化』すると銃をただの鈍器にみたてて手刀の一撃を受け流し、もう片方の銃を発砲した。弾丸が言峰の頬を霞め一筋の血を流させる。
  <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:47:49.88 ID:jsb4E51b0<> 「覇ぁぁぁぁあああ!!」

「くっ――――!」

 至近距離で銃弾が飛び、拳打が踊る。
 常人にはなにが起きているのかも分からぬ高速戦闘。互いに攻守を入れ替えながら、時に切嗣が言峰をあわやというところまで追い詰め、今度は追い詰められる。
 そんな攻防が終わりなく続く。
 切嗣が蹴りを叩き込めば、言峰は腕でそれを防ぎ黒鍵で突き刺す。
 言峰が拳打を放てば、切嗣は銃でそれを流して弾丸を発砲する。
 それでも切嗣の弾丸に限りがあり、言峰の黒鍵と令呪にも限りがある以上、無限に続くということはありえない。このまま続けていれば数が切れた方が負ける。
 二人はほぼ同時にそのことを直感した。 
 五分五分のギャンブル。
 言峰綺礼はそれもまた良しと、運命に身を委ねる。
 一方で衛宮切嗣はそんなギャンブルを良しとはしない。
 切嗣は人間の『運命』というものを打破するために冬木の戦場に降り立った。ならば運命に任せるなどという選択をとるはずがない。
 懐にあるもう一本のナイフを取り出すと、ありったけの魔力で再びオーバーエッジさせる。
 一見なんの変哲もないナイフのように見えるが、これは錬金術の名家アインツベルンが切嗣のために用意した特別性の刃物だ。
 切嗣はアインツベルンでただ安穏とアイリスフィールやイリヤスフィールと過ごしてきた訳ではない。生粋の戦闘者である切嗣は先ずアインツベルンの『錬金』に目をつけた。
 ホムンクルスという人間を超えた生命すら創造を可能とするアインツベルンの錬金術。これを軍事に応用すれば、強力な武器を作ることが出来るのではないか。そんな切嗣の意見にアインツベルンは首を縦に振った。アインツベルンは聖杯を手に入れるために衛宮切嗣という最強の手駒を用意したのである。ならばその手駒をより強力にする提案を呑まないはずがない。
 そうして切嗣はアインツベルンにて製造された武器の多くをこの冬木市に持ち込んだ。今持つナイフもその一つ。
 サーヴァントにさえ一定の効果を発揮するように設計されたナイフである。
 人間を殺すのにはオーバーキルなほどの切れ味をもつし、言峰の筋力をもってしても破壊することは困難だ。
 それが『強化』されたのであれば猶更である。
 切嗣は体重をのせながら、ナイフで言峰の心臓を狙う。言峰はナイフを躱すのかと思いきや、驚くべきことに逆に向かってきた。
 そしてナイフの刃を殴りつけるでもなく、剣の腹を掌で掴んで見せた。
 
「ふっ――――!」

 そのまま掴んだ箇所を軸にして空中へと回転しながら飛ぶ。突きのパワーがそのまま言峰を回転させるためのエネルギーへと変わった。
 余りにも曲芸染みた動きに切嗣は唖然とする。だが唖然としながらも行動を止めることはなく切嗣は背後に回転すると拳銃弾を放った。ナイフと同様アインツベルンに用意させた特殊弾丸。如何に言峰の纏っている僧衣が防弾性能をもっていようとお構いなしとする代物だ。
 一つの弾丸を錬成するのにそれなりの金はかかるが、どうせこの戦いを終えれば不要となるものだ。使い潰しても問題はない。
 言峰は黒鍵で弾丸を切り落とそうとするが、特殊弾丸は黒鍵を砕きながら直進し言峰の肩を射抜いた。しかし強すぎる貫通能力がここでは災いした。弾丸は言峰の肩を貫通し、致命傷とはなりえない。
 そして言峰の精神力もたかが肩を貫かれたところで動じるようなものではなかった。
 言峰は新たに右手から三つの黒鍵を出現させると切嗣に投げつけながら自らも突進してくる。しかも黒鍵は先の轍を踏んで一つを逸らされ三つを全て落とされるなどということがないように一定の距離を置いて突き進んでくる。切嗣は特殊弾薬を装填した拳銃で三つの黒鍵を正確に撃ち落としていく。
 しかし黒鍵を撃ち落とすために使った僅かな時間が言峰の接近を許してしまっていた。

(まだだ!)

 幾ら言峰が人間離れした身体能力をもっていようと肉体は人間のものだ。
 左肩を撃ち抜かれたばかりでは満足に左腕を使うことはできない。得意とする治癒魔術をもってすれば左肩を治療することも可能だろう。だがそんな時間を切嗣が与える筈もなく、言峰は左腕を失ったままでの戦闘を強いられている。左肩が使えなければ当然戦闘の幅も狭まるだろう。そこに勝機はあった。
 これまでの戦い方から左腕が使えなくなることで最も攻撃しにくくなる位置を割り出すと、切嗣はそこへ歩を進めナイフを振るった。
 確かに言峰綺礼の白兵戦の実力は切嗣を上回っているだろう。しかしだ。言峰綺礼はその戦闘力故に距離を開けての射撃では効果が薄い。もしも『起源弾』の正体が知られていなければ、どうとにでも戦いを運んで行けるのだが遠坂時臣が魔弾の情報を言峰に伝えてしまっている。起源弾の正体を知っている以上、言峰もそれに対しての警戒はしているだろう。種の明かされた手品ほどチープなものはない。故に起源弾はただの戦う上での布石以上の効果は期待できないのだ。
  <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:48:50.14 ID:jsb4E51b0<> (この炎とセイバーと分断されたのが災いした……もしこの炎さえなければ、仕込みを使えたものを)

 言峰綺礼の衛宮切嗣への『憎悪/執念』。それらが加算され言峰綺礼は歴戦の魔術師殺しの哲学を超えてきた。
 けれど今言峰の左肩は撃ち抜かれ左腕が使用不可能となった。それならばチャンスはある。左腕が使えずとも遠距離からの射撃なら問題なく防御できるだろうが、より繊細にして精密な動きが要求される近距離戦ならば隙を見いだせる。
 言峰の蹴りが切嗣の膝を抉る。だがそれは敢えて喰らった一撃。膝の骨を粉砕されながらも、どうにか転ぶことなく踏みとどまりオーバーエッジしたナイフを左腹に向かって振るう。左腕が役立たずな以上、言峰は別のもので防ぐしかない。右手にもった黒鍵でナイフを受け止める。だが右手で防御をとったせいで今度は右手が使えなくなった。切嗣は右手で拳銃を抜くと言峰の眉間に発砲する。

「――――!」

 驚きは切嗣のもの。あろうことは言峰は右腕が封じられたと悟るや、その口で切嗣の銃に噛みついて銃口を逸らしたのだ。逸らされた銃口からはやはり逸れた弾丸が放たれる。
 切嗣は拳銃から手を放すと後退しトンプソン・コンコンテンダーを抜く。既に弾丸は装填済みだ。
 距離は依然として至近。連続攻撃を防御したばかりで言峰も万全ではない。
 この位置と距離ならは先ず回避されることはないだろう。そして『起源弾』はただの防御では絶対に防げぬ魔弾である。
 勝利を信じ切嗣は銃爪を引いた。コンテンダーから切嗣の骨によって作り出された弾丸が放出される。

「っ!」

 言峰の腕から同時に二画の令呪が消失する。
 一画の使用でさえ純然たる空間転移という魔法一歩手前の魔術行使を可能とする魔力原の相乗作用。言峰の肉体は過剰なブーストを得て、まるで雷光の如く切嗣の視界より消失した。

「ぐぅ――――っ!」

 だが如何に五体を鍛え抜いた言峰綺礼の肉体も令呪の相乗作用の動きに耐えきれるほど頑丈ではなかった。
 筋肉が悲鳴を上げ、内臓が押し潰されそうになる。常人なら内部より肉体が崩壊しても不思議ではないほどの負担。それに言峰はどうにか耐えきった。
 言峰が肉体の苦痛に怯んだ僅かな隙、そこを切嗣は狙う。コンテンダーを銃口を真っ直ぐに言峰へ照準し引き金を引く。

「させん!」

 刹那の差だった。言峰の蹴りがコンテンダーを切嗣の手より弾き飛ばした。鞭のような蹴りの直撃を喰らったコンテンダーは空中で粉々に破壊され炎の海の中へ消えていく。
 地獄を衛宮切嗣と共に渡り歩いてきたトンプソン・コンテンダーの呆気なさすぎる終焉だった。
 喪った愛銃を嘆くでもなく、悼むでもなく即座に切嗣は後退して次なる武装を取り出そうとする。しかし言峰の踏込がほんの僅かに早かった。

「、は――――っ!」

 心臓にめり込む言峰の掌底。しかしそれだけで言峰は終わらせてくれず、膝蹴りを切嗣の頭部に喰らわせた。

「――――――」

 切嗣の足がよろめく。
 咄嗟に腕で防御したお陰で脳味噌を破壊されることはどうにか免れたが、脳にまるで血が届いてくれない。
 最後のとどめとばかりに言峰がその拳を放つ場面が何処か遠い世界の出来事のように思える。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:49:46.94 ID:jsb4E51b0<> 「……ッ!」

 走馬灯のようにフラッシュバックする記憶。今まで自分が喪い、自分が殺してきた人達の横顔。顔も知らない赤の他人もいたし、良く見知った友人や家族も、初恋の女性もいた。
 世の中は決して幸せに満ちてなどいない。幸せがある分、それを超える不幸が世の中には溢れている。
 泣きながら親を撃ち殺す少年、生きるために他人を殺さなくてはいけない人間、自分の夢は十歳まで生きれることと嬉しそうに語った横顔。
 人が人である以上、そういったものは永久になくならないのだと誰よりも知っていた。人類の歴史に戦争がなかった時代など一瞬たりともない。
 衛宮切嗣はちっぽけな人間だ。こんなどうしようもない現実の不条理を覆すことはできない。出来るのは最大少数を切り捨て最大多数の命を救うという生き方だけ。
 しかしそんな不条理を覆す奇跡があるのならば、なにを犠牲にしてでもその奇跡を掴み取る。
 誰もが幸せでありますように。そんな子供じみた願いのために、これまで生きてきた。
 こんな場所で衛宮切嗣は終われない。

「言峰、綺礼――――!」

 切嗣の想いに応えてかアヴァロンが嘗てない速度で切嗣の肉体を治癒する。治癒が完了したことを脳が理解するよりも早く切嗣は動いた。
 言峰が繰り出した拳を掻い潜り、全霊を込めて殴り飛ばす。
 新たに手に構えるのはコンテンダーとは違う拳銃。装填されているのはアインツベルンに錬金術で作らせた特殊弾だ。
 切嗣はトリガーを引いた。 

「ふん」

 言峰が嗤う。
 神秘とはそれを上回る神秘により敗北する運命。魔弾が言峰綺礼を貫く寸前、突然に黒い泥が巨大な鞭のように言峰の前に現れ魔弾を呑み込んだ。

「なんだ……これは……!」

 予期せぬ乱入者……いや、それは果たして者なのか。サーヴァントとも魔術とも思えぬ呪いに切嗣が驚愕で目を見開いた。

「せっかちなものだ。まだ聖杯は完成してないというのに……焼け死ぬ人間の臭いに釣られ出てきたのか? それとも自分で自分の担い手を決めるつもりか」

 言峰はさも当然のように泥の存在を受け入れる。
 未だその泥の正体を掴めずにいる切嗣に対して、言峰はなんとも毒々しい笑みを浮かべながらその正体について話した。

「なにを呆けている衛宮切嗣。お前が在り来たりな幸せというものを切り捨ててまで欲した聖杯、それがこうしてお前の目の前に現れたのだ。少しは嬉しそうな顔をしたらどうだね」

「……聖杯? 馬鹿な……そんな筈が……」

 聖杯とは無色の力。無限に等しい魔力の塊。
 切嗣はアインツベルンでそう教えられたし、200年以上前の資料で見た聖杯についての詳細についてもそう記されていた。
 断じてこんなものではないのだ。こんな人間を呪う為だけの代物などでは。

「その顔、信じられないのかね。ならば身を持って知れ。この世全ての悪を……受けるがいい!!」

 言峰は具体的に何をしたわけでもない。ただ願っただけだ。衛宮切嗣に呪いあれ、と。
 それだけで十分だった。聖杯とは元より願いを叶えるためのもの。言峰の願いを受け泥は切嗣に覆いかぶさった。
 避けることは出来なかった。 <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:51:08.94 ID:jsb4E51b0<> 「ここは……?」

 切嗣は一人、暗い闇の底にいた。炎の海も、人の焼ける匂いもしない。何もない虚無の空間。
 唯一つ特徴があるとすれば――――中心にある黒い太陽くらいだろう。
 いや一人だけではない。もう一人いる。
 闇にいるもう一つの影は正に"影"という他なかった。それがどんな面貌をしているのか、どんな姿をしているのか、どんな格好をしているのかが全くもって分からない。
 影がそのまま実体として浮き出てきたかのようだった。

「初めまして……というべきかな。衛宮切嗣」

 影がどことなく軽快な口調で話しかけてくる。
 正体が掴めない。この影は何者だというのか。
 疑問は湧いたが切嗣の手元には武器はない。状況を確認するためにも切嗣は口を開いた。

「お前は誰だ?」

「誰だとは失礼だね。君達参加者が命を懸けてまで求めてきたものだというのに。名前を忘れてしまったのかい?」

 参加者が命を懸けてまで求めた。
 その言葉で切嗣の脳裏に天啓のようにある二文字が思い浮かんだ。

「まさか聖杯…なのか?」

「そうだ。本来ならば聖杯には自分の意志などはない、ましてや人格などない虚無の存在だ。だから僕はこうして誰かの皮を被らなければ誰かと会話することもままらない」

「で、聖杯がなにを話す気だ? 聖杯は言峰綺礼のものだから、僕の願いは叶えないとでも言うつもりか?」

 考え得る限り最悪の事態を想定して聖杯と名乗る影に問うた。

「いいや。そんなつもりはないさ。別に聖杯は君の物だなんて言うつもりはないが、聖杯は勝者の手に委ねられるものだ。君が勝利者として聖杯を手に入れるならその願いを叶えるさ。この僕がね」

「…………!」

 僅かに影の中身が見える。
 切嗣の視界にまず飛び込んだのは形容しがたい黒い紋様だった。人間が出来得る悪行の全てを刻み込まれたようなその呪いに切嗣は戦慄する。
 こんな呪いが聖杯で、こんなものが聖杯だというのならば、本当に聖杯は願いを叶えられるのか。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:51:37.30 ID:jsb4E51b0<> 「聖杯、答えろ。お前は本当に僕の祈りを……恒久的世界平和を成就させるのか?」

「是と返答させて貰うよ。君が望むのならば僕は必ずや恒久平和を実現させる」

 答えはYes。しかしやはり疑念は尽きない。
 影はそんな切嗣の心を読んだかのように――――実際に読んだのかもしれない―――――言った。

「それじゃあこちらからも問おうか。衛宮切嗣、君は己の祈願がどういう形を成して実現をすると思うかな?」

「なにを……言っている」

「恒久的世界平和。争いのない世界。……だがね、そんなものは有り得ないんだよ。この世界のどこにも。そんなもの君が一番理解しているだろう?」

「今更お前に説明されるまでもない。だからこそ僕は聖杯を求めた。人間ではそんな望みは叶わない。だがあらゆる望みを叶える聖杯なら人間に不可能な願いを叶えることができる。それが聖杯、万能の願望器のはずだ」

 元より切嗣はその為だけに生きてきた。恒久的世界平和を実現するためにこれまで戦ってきた。
 故に迷いなく答える。
 だが影はそれで納得することはなかった。逆により鋭利に衛宮切嗣を糾弾する。

「然り。聖杯とは無限なる力だ。その魔力をもってしてならば、確かにその願いは成就するだろう」

「ならば叶えろ。それともまだ生贄が必要なのか? 言峰綺礼を殺さないと願いは叶えないか?」

 聖杯が首を振る。否定しているのだろう。

「そろそろ最後の生贄がこちらにくる。もう生贄は必要はない。完成した聖杯は正しく君の願いを叶える筈だ」
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:52:22.44 ID:jsb4E51b0<> ――――しかしその過程こそが問題なんだ。

――――恒久的世界平和、それをどういう手段を持って聖杯が叶えるが知っているかい?

――――聖杯はね。ただの暴力なんだ。どこぞの機械仕掛けの神様みたく、平和を願えば脈絡なくいきなり世界が平和になるわけじゃない。

――――必ず『過程』があるんだよ。

「……過程?」

――――難しく考える事はない。君がやってきたことと同じだ。

――――人間が人間である以上、恒久平和などありえない。ならば争いを起こす人間が消えれば、世界は平和になるだろう?

「ふざけるな!」

――――ふざけてなどいない。僕は至極真面目さ。

――――仮に世界の全人口を60億だと仮定しよう。であれば40億と20億、どちらか一方を切り捨てずに平和がならないのであれば君は20億を切り捨てる。

――――15億を切り捨て25億を救い、10億を切り捨て15億を救う。7億を切り捨て8億を救う。3億を切り捨て5億を救う。2億を切り捨て3億を救う。そうやって続けていけば最終的には世界に三人だけが残る。

「三人……だと?」

 聞いてはいけない。そう分かっているのに聞かずにはいられなかった。
 第一切嗣には耳を塞ぐなんてできない。……それに許されないのだ。正義のために常に一を切り捨ててきた切嗣には、切り捨てられた側の糾弾に耳を塞ぐことはできない。

――――そうだ。衛宮切嗣、アイリスフィール、イリヤスフィール。この三人を除いた全ての人間を抹殺する。

「……ッ!」

――――約束された理想郷。争いのない平和なるユートピア。人類最後の三人は戦争という争いなどすることはなく、幸福な一生を過ごす。

――――59億9999万9997人の人間を切り捨て、久遠の平和を僕は保障しよう。 <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:53:19.75 ID:jsb4E51b0<> 「……違う。それは……確かに平和だが、そんなものは違う。僕が望んだのは……そんな形の救世じゃない」

 誰も傷つかない世界。誰もが理不尽な暴力に怯えることなく、一生を幸福に生き遂げられる世界。
 そんな世界を切嗣は求めていた。それが自分の力で出来るはずがないと理解していたから、聖杯を求めたというのに。

――――然り。我が身はこの世全ての悪。全人類を呪うという呪縛をもちし、人類の敵対者だ。

――――アンリ・マユたる僕はあらゆる願いを『破壊』という方法によって叶える。

 影の姿が露わになっていく。その影は衛宮切嗣の形をしていた。
 まるで鏡写しのように二人の衛宮切嗣は対面する。

「そんなのは……違う」

 本物の切嗣が縋るように声を漏らす。

「違う? なにが? ここまできて希望を打ち砕かれたことを呪う気か。こんなものは理不尽だと呪いを吐くつもりか。ふざけるなよ衛宮切嗣。お前にそんな権利があると思っているのか? お前はその手で何人の命を殺してきた。何人の希望を、夢を、未来を奪ってきた」

「っ!」

「一を切り捨て十を救う為なんて言い訳はするな。それはお前の独善でありエゴだ。そんなものは免罪符になりはしない。お前は恒久的世界平和の実現という己の欲望のために、他の命を踏み躙って来た」

「……そんなことは知っている。一々お前に説明されるまでもないことだ。正義の味方なんていうものは所詮はエゴイストだ。味方をした側しか救えない。だから殺したさ。常に命が多い方の味方をして、少数の命を殺し尽くした」

「それならば今度もまた己のエゴに満ちた選択をすればいい。聖杯を受け入れ、恒久平和を実現させればいい。大多数のために少数を切り捨てる。切り捨て続ける。その果てに僕の予見した三人だけが救済されるはずだ」

 切嗣は思う。『この世全ての悪』の提案はなんて魅力的なことだろうかと。
 愛した妻と愛する娘と文字通り三人だけでの生活。あらゆる命や責任にも背中を向けての生活はきっと楽しいだろう。毎日毎日が幸せに違いない。

「では問おう。衛宮切嗣、君はこの世全ての悪を担うか否か」

 けれど切嗣の答えなどとっくに決まっていた。

「断る。僕は三人のために59億9999万9997人を犠牲にすることはできない」

 生涯を鉄の心で生きてきた男は『この世全ての悪』に覆われながらも変わる事はない。
 誰よりも合理的で最善の選択のみをとり続けた男は、たった三人の恒久平和よりも59億9999万9997人の世界を選び取った。

「そうか。ならば適応者ではない君は眠るといい」

「……ッ!」

 自分を受け入れないのだと知った『この世全ての悪』の動きは早かった。
 切嗣の意識はこの世全ての悪によって呑み込まれ沈んでいく。切嗣にはそれに抗う力などは残っていない。 <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:53:52.39 ID:jsb4E51b0<> 「最後に一つだけお前に言おう」

 この世全ての悪が話す。

「世界なんてものは基本的に足し算引き算なんだ。マイナスはプラスでしか打ち消せない。希望を打ち砕くのはいつだって絶望だし、絶望を乗り越えるのはいつだって勇気だ。そして衛宮切嗣、お前は虚無だよ。プラスもマイナスもない全くのゼロ。一を切り捨て十を救う? つまらない冗談だ。お前は生涯で誰一人として救ってなどいない。ゼロでしかないお前はなにを為す事もできていない。お前はただ何にもならないゼロを、死を世界にばら撒いていただけだ」

「ぁ」

 それで完全に折れた。あらゆる糾弾にも、あらゆる絶望にも決して折れぬ男が膝を屈した。
 地獄の底で弱々しく声を漏らす。衛宮切嗣にはもはやなにも残っていない
 理想のため、恒久平和を目指して鋼鉄とした心は砕けていた。指一本に至るまで力が入らない。総ては無駄だった。その事実だけが否応なく突き刺さる。
 恒久平和、その実現のためだけの戦いだった。
 そんな遠い理想を目指して、自分は多くの命を殺してきた。ビルの倒壊に巻き込んだ無辜の命は数百を数えよう。この大火災でもかなりの数の人間が死んだはずだ。
 久宇舞弥、自分の一部ともいうべき女もこの戦いで切り捨てたし妻のアイリスフィールも犠牲にした。
 恒久的世界平和を為してイリヤのためだけに生きるという誓い、それすら守れない。
 この世全ての悪。
 六十億の人間が等しく善性と平等に備える悪性。あらゆる悪が衛宮切嗣という人間を否定する。
 思えば意味のない生涯だった。あのアリマゴ島での災害から一を切り捨て十を救うという生き方をしてきた。その果てに一度の勝利も掴めず、ただの一度の偉業らしい偉業も為し得なかった。
 アンリ・マユはまことに正しい。
 多くの命を踏み躙っておいて、自分は誰一人として救うことができなかったのだ。こんな無様な男が世界を救うなど出来るものか。

「お前が私を殺したんだ」

 父が切嗣の心臓を銃で撃ち抜く。

「お前が私を殺したんだ」

 ナタリアが切嗣を消し飛ばす。

「お前が私を殺したんだ」

 顔も知らない誰かが切嗣の首を切り落とした。

「お前が私を殺したんだ」

 十歳にも満たぬ子供が切嗣をナイフで突き刺す。

「お前が私を殺したんだ」

 花嫁衣裳の女性が切嗣の首を絞める。

「お前が私を殺したんだ」

 無残な赤子の亡骸を抱えた母親が切嗣を焼き殺す。

「お前のせいだ。お前がいなければ死なずに済んだ。お前が殺した。お前なんていなければ。お前が生まれなければ。お前なんて存在しなければ」

 ある時は肉体ごと消し飛ばされ、ある時は刃物で両手両足を切り落とされ、ある時は毒で苦しみながら内臓を溶かされた。
 衛宮切嗣の処刑は終わらない。だって少し目を落とせば、切嗣が殺してきた人間が果てのない列を作って順番待ちをしている。数えきれないほどの犠牲者達は幾千か幾万か。
 全て衛宮切嗣が殺してきた者達だ。衛宮切嗣を殺す権利のある者達だ。
 やめてくれと懇願はできない。切嗣は延々と壊れた様に謝罪の言葉を吐き出しながら、彼等に殺され続ける。 <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:54:19.35 ID:jsb4E51b0<>  ふと処刑執行人の行列から一人の少女が飛び出してきて、自分の前に立った。 

「……君は」

 日焼けで小麦色に焼けた肌。溌剌としていて一緒にいるだけで自分まで元気になるその笑顔。シャーレイ。なにもかもが遠い初恋の女性だった。
 シャーレイは優しく切嗣に言った。

――――ケリィはさ。どんな大人になりたかったの?

 より多くの命を救う為、人を救いたいという感情を排除して生きてきた。
 恒久的世界平和。それだけを望んできた。それを実現する最後の希望が『聖杯』で、たった今その聖杯に裏切られた。
 その果てがこれだ。
 数えきれないほどの人間を犠牲にしておいて、結局なにも成し得ることができなかった。

「僕は恒久的世界平和を実現したかった」

――――それは、本当に?

 本当に……そうだったのだろうか。これまでずっと争いのない世界だけを夢見ていて、最初の想いなどとっくに置き去りにしてしまっていた。
 己が……自分が……僕がなりたかった大人は。

――――嗚呼、そうだ。僕は正義の味方になりたかったんだ。

 漸く思い出せた。自分が最初に抱いていた願いは恒久的世界平和なんてご大層なものではない、もっと簡単な有り触れたものだった。
 自分はただ……誰かを救いたかったのだ。誰かを助けて、そうして「ありがとう」という感謝だけが嬉しくて、正義の味方に憧れていたのではなかったか。
 
「……ぁ」

 だとしたら終われない。思い返せば間違いばかりの人生だった。生涯を振り返っても、自分という人間ほど碌でもない者はいないだろう。
 悪人が笑い善人が泣くのが世界の在り様なのか。
 嘘つきは頭が良くて、正直者は馬鹿を見るのか。
 欲望のままに生きるのが正解で、誰かの為に生きるのは間違いなのか。

「そんなはずが、ない」

 体内にあるアヴァロンが光り輝く。衛宮切嗣という存在そのものを否定する呪いを真っ向から受け止めて乗り越えていく。
 もういいではないか、と甘い声が囁く。全てを投げ出して死んで楽になってしまえと呪いたちが嘯く。
 そんな安易な救いに背を向けて、切嗣はただ苦しいだけの生へと一歩を踏み出していく。
 思えば間違いだらけの人生だった。最初の想いを捨て、ただ殺すだけの日々。
 衛宮切嗣の生涯は、張り通した生き様は全て間違いだったのかもしれない。だが、だとしても。

「誰かを救いたいという想いだけは間違いであるはずがない!!」
  
 生きることが地獄でしかないとしても、衛宮切嗣は『誰かを救いたい』という想いを張り通すために死という安寧ではなく生という地獄を生きる。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:54:48.23 ID:jsb4E51b0<> 「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 体内にあるアヴァロンが闇を照らす。その一筋の光を道しるべとして、雄叫びと共に切嗣は泥を払いのけた。
 泥を払いのけたとはいえ既に体は『この世全ての悪』の呪いに侵されている。それでもこの一瞬、切嗣は最盛期以上に最盛期であった。
 敵を見据えろ。宿敵はそこに立っている。
 言峰綺礼が守るのは六十億の人間を殺すこの世全ての悪。あれを破壊しなければ大勢の人間が死ぬ。
 どうして言峰綺礼があんな代物を守ろうとするのか、そんなことはどうでもいい。
 言峰綺礼は衛宮切嗣を打倒し聖杯を守り通し。
 衛宮切嗣は言峰綺礼を打倒し聖杯を破壊する。
 聖杯は唯一人勝利者に与えられるというのならば、聖杯を破壊するという願いのために言峰綺礼を倒さなければならない。
 夢見た理想郷はもはや本当に理想の中に消えてしまった。言峰綺礼を倒したところで六十億の人間が救われることはない。
 それでも衛宮切嗣は戦う。
 恒久的世界平和実現の為などではない。
 誰かを殺す為ではなく誰かを救う為に戦うのだ。生まれて初めて『正義の味方』として。

「泥を振り払ったのか。そうか……それがお前か衛宮切嗣!! それが剥き出しの貴様かっ!!」
 
「言峰、綺礼――――!」

 言峰綺礼の歓喜を無視して衛宮切嗣は突進する。もはや手元に武装はない。あるのは生まれたその時より共にある肉体のみ。
 十分だ。これほど信頼できる武器は他にない。

「固有時制御、五倍速ッ!」

 肉体の不可。四倍速という限界を超えた限界を超えるデメリット。そんな合理的な計算式を完全に頭から追い出した。
 切嗣は鋼鉄の精神に覆われていた感情をむき出しにして拳を振るう。

「感情任せな動きが、通じるものか――――!」

 言峰とてこれまで四倍速で動く切嗣と互角以上に戦った化物。五倍速になったとはいえ、武装を全て失った切嗣であれば対応できなくはない。
 だが、なら対応できなくすればいいだけだ。

「六倍速ッ!」

 言峰が令呪でブーストするよりも早く、切嗣がその鳩尾に拳打を叩き込んだ。言峰はそれでも切嗣の動きに食いついてきたが、

「七倍速ッ!」

 切嗣の速度が完全に言峰綺礼の認識を超えた。もはや言峰には切嗣を捉えることはできない。
 そうして最後の一撃が言峰綺礼を穿った。

「がっ――――ぁっ」

 遂に言峰が地面に膝を突き倒れる。すると同時に固有時制御の限界時間がきて振り戻しのダメージが切嗣に殺到した。
 もはや苦痛すらありはしない。七倍速という人間の分を完全に超えた固有時制御は一瞬にして衛宮切嗣という男を絶命させる。

「、――――――!」

 しかし一瞬で絶命した切嗣は数瞬の後に蘇生を果たす。言うまでもなくアヴァロンの力だ。
 切嗣は足元に自分が落としたらしい拳銃が転がっている事に気付き拾う。
 少し遅れて言峰がよろよろと立ち上がる。
 生きていたのは切嗣だけではなかった。言峰も半死半生の身ではあるがどうにか命を長らえていた。
 もはや息をするのも苦しいだろうに。こうして立ち上がるのは精神力の為せる業か。

「……聖杯を拒んだのか。残念だな。お前の大層な祈りが世界を犯し尽くす様にも興味はあったのだが……まぁ、良かろう。どうやら私のアーチャーもやられたようだ。直にセイバーが来るだろう。私にも戦う力は残っていない」

 言峰は無防備に背中を晒すと両手を挙げた。

「令呪も破棄しよう。衛宮切嗣、納得はいかんがお前が此度の聖杯戦争の勝者だ。そして聖杯は勝者のもの。……行って、己の願いを叶えるがいい」

 迷いはなかった。切嗣は感情の宿さぬ瞳のまま銃爪を引く。銃弾が背中を向ける言峰綺礼の心臓を正確に貫いた。
 しかしまだ切嗣の仕事は終わらない。

「……あれは、生まれかかっているのか」
 
 聖杯からは『この世全ての悪』が誕生しかかっていた。
 先程自分を襲った泥などは前兆に過ぎない。泥は聖杯より溢れだし今もなお冬木の土地を焼いている。そしてあれの本体が聖杯の魔力により受肉して外に出ようとしていた。
 あれが外に出てくれは冬木市一つで済みはしないだろう。この世全ての悪は六十億の人間を呪う宝具をもったサーヴァントとして誕生し世界は滅びる。それだけは阻止しなくてはならない。
 今すぐ止めなければならないが、例え泥をいくら破壊してもこの災害は終わりはしないだろう。泥をなんとかするには『聖杯』の中で受肉しかかっている『この世全ての悪』を一刀のもと両断する必要がある。
 そして『この世全ての悪』を完全消滅させるだけの切り札に一つだけ切嗣には心当たりがあった。もはや一刻の猶予もない。一秒でも早く聖杯を破壊しなければならない。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:55:22.22 ID:jsb4E51b0<> 「マスター!」

 セイバーが切嗣のもとに辿り着いた時、丁度戦いは終わっていた。
 背後から切嗣に撃たれ倒れていくのは言峰綺礼。アサシンのマスターであるはずの言峰がどうしてここにいるのか今は考えるまい。最後のサーヴァント、アーチャーを下した今となっては些細な問題だ。
 切嗣は敵を倒して一息ついているのか、静かに聖杯のある方向を見つめていた。尤もセイバーのいる位置からは炎が邪魔で聖杯を見ることは出来ないのだが。
 無理はないことだろう。
 衛宮切嗣という男が一生をかけて目指していた願い、それが漸く叶おうとしているのだから。ある種の達成感や感慨に襲われるのが普通だ。
 セイバーはゆっくりと切嗣へと近づく。
 数えるほどしか会話などしたことのない相手。二回しか話しかけられなかったマスター。
 しかし同じように聖杯を求めて共に戦った主だ。ガウェインや兄へ向けられたものとは別種の信頼がセイバーにも芽生えていた。
 マスターの健闘を称えようとしたセイバーだったが、その前に切嗣が口を開いた。

「我がサーヴァント、セイバーに令呪をもって命じる」

 呆れ顔でセイバーが立ち止まる。この状況で最後の令呪を使うとすれば、それは一つしかない。
 聖杯とは霊体。霊体である聖杯を掴めるのは霊体であるサーヴァントだけ。切嗣は令呪によってセイバーに聖杯を掴ませるよう命じるつもりなのだろう。
 我がマスターならがせっかちなものだ。セイバーは苦笑してしまう。
 だが次の瞬間、セイバーは信じられない命令をマスターから告げられた。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり<>saga<>2013/02/17(日) 22:58:08.12 ID:jsb4E51b0<>



 第四次聖杯戦争。歴代において最高峰のサーヴァントが集いし聖杯争奪戦。
 誰の願いが叶うこともなく。誰が幸せになることもなく。
 ただ犠牲者の死体の山だけを築き上げて。

――――第四次聖杯戦争はここに終結した。



【第四次聖杯戦争 終幕】
【勝者 衛宮切嗣】 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/02/17(日) 22:59:27.30 ID:jsb4E51b0<> 極限変態バトルと第四次聖杯戦争終幕。次回が最終話です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/17(日) 23:01:26.04 ID:rsFM5/YT0<> 乙でした、第四次聖杯戦争完結おめでとうございます、なるべくステイナイトの展開にそった終わり方でしたね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/17(日) 23:03:19.19 ID:QeVLx1mo0<> 乙乙

そういえばことみーはFateルートで聖杯の泥使ってたなー
親子揃ってあれに耐えるのはある意味恐ろしいというか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/02/18(月) 00:23:39.68 ID:biXqAxFM0<> 言峰「切嗣は私と同じボッチに違いない!」

アイリ「ンな訳ねーだろ、お前と一緒にするなバーカ!!」
舞弥「そうだそうだ消えろボッチ!!」

言峰「ゆるせん切嗣!!!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 00:28:40.10 ID:dp4SmksAO<> >>858

エミヤ「そんな幻想を抱いてるのなら麻婆で溺死してろ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 00:48:17.38 ID:5uwuPr170<> あれ、動画の方にあった切嗣による聖杯破壊命令からセイバー消滅までの流れが抜けてないか? <> 第42話 理想の果て、ユメの始まり <>sage<>2013/02/18(月) 00:51:45.64 ID:oVvTS5q40<> >>869
 本当だ。>>853と>>854の間にこれ







「聖剣の一撃をもって聖杯を破壊せよ」

「な、なにを……! マスター! 血迷ったのですか!?」

 突然のことに上手く言葉が出てこない。しかしそんなセイバーの心中とは裏腹に令呪によって命じられたセイバーの体は、セイバーの意志とは関係なく聖剣を発動させようとしている。

「どういうことですかマスター! 貴方は恒久的世界平和を目指していたのではなかったのか! その為にアイリスフィールや舞弥を切り捨てて来たのでは……答えろ!!」

 しかし切嗣は沈黙するだけだ。 
 その間にもセイバーの体はエクスカリバーを振り下ろそうとしていた。彼の騎士王が振るいし星の光を集めた剣は、彼の騎士王の意志とは関係なくその真価を晒す。

「やめろぉぉぉおおおおおお!!」

 極大の眩い光が炎を蒸発させながら『聖杯』を跡形もなく完膚なきにまでに破壊していく。それを目の当たりにしてセイバーは自分の聖杯探索がまたしても失敗したのだと悟った。

(どうして……マスター)

 どうして土壇場で自分を裏切ったのだという疑問だけが残る。しかし直ぐに思い至った。

――――王よ。貴方には人の心が解らない。
 
 そう言い残してキャメロットを去ったのは誰であったか。セイバーは疲れ切ったように目を瞑る。

「……ああそうだった。私は――マスターのことを名前で呼んだことすらなかったではないか」

 これでどうして信頼関係が結べるものか。なんていうことはない。騎士達の心を解さなかった王は主の心も解することができなかったというだけだ。
 体が消えていく。聖杯という力を失い、エクスカリバーを放ったせいで魔翌力を枯渇させたセイバーが世に留まれる道理はなく。
 人の心の解らぬ王は、最後までマスターの心が分からぬままに消えていった。
<> 第42話 理想の果て、ユメの始まり <>saga<>2013/02/18(月) 00:52:27.94 ID:oVvTS5q40<>  第四次聖杯戦争。歴代において最高峰のサーヴァントが集いし聖杯争奪戦。
 誰の願いが叶うこともなく。誰が幸せになることもなく。
 ただ犠牲者の死体の山だけを築き上げて。

――――第四次聖杯戦争はここに終結した。



【第四次聖杯戦争 終幕】
【勝者 衛宮切嗣】
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2013/02/18(月) 00:53:18.26 ID:oVvTS5q40<> これで本当の本当に今日は終わり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 01:03:57.43 ID:5uwuPr170<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/18(月) 04:24:30.29 ID:gRRhkVzO0<> 乙でした! 切嗣くんのことをカッコイイと思ったのは多分初めてだ……ww こんなにも「エミヤ」が似合う切嗣は見たことないwwww スプーンさん、感動をありがとう!!

ただ、言峰たしかHFルートで切嗣のこと「感情のない機械のような人間」とか言ってたよな……(正確な文面は忘れたので意訳だけど)。これ見た後だと、間違ってもそんなことは言えないなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 06:48:20.31 ID:I6VQJIOv0<> いや感情の無い機械っていう殻の奥にある人を救いたいって言う気持ちっていう話じゃなかったか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 07:25:27.41 ID:nVEheCY1o<> 乙
後日談が楽しみです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/18(月) 08:00:35.94 ID:pZf80Bjgo<> くぅ〜疲 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 08:54:11.50 ID:yYQLpVDGo<> >>868
やめろwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 10:06:58.50 ID:RV+Vh6rD0<> >>868
言峰「みんなみてくれてありがとう!
ちょっと腹黒な所もあったけど気にしないでね!」

ウェイバー「いやーありがと!
僕の可愛さは十二分に伝わったかな?」

切嗣「みてくれてありがとな!
正直、作中で言った僕の気持ちは本当だよ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/19(火) 01:45:33.71 ID:m/HFAvph0<> あのコピペ思い出してコーヒー吹いちまったじゃねえかww <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/20(水) 23:12:57.26 ID:wo0F1rCa0<> >>856
 取り敢えず最終話にて回収した伏線は纏めます。

>>857
 アヴァロン様様ですね。

>>858
 言峰はボッチというより、普通の幸せが欲しいのに普通の幸せを幸せと感じられないという困った御仁でしょう。

>>865
 まぁ切嗣は地獄の底に突き進んでいる感があってエミヤが似合いませんからね。

<> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:14:11.99 ID:wo0F1rCa0<>  聖杯は破壊され、四度も繰り返された魔術師達による聖杯探索はまたも失敗に終わった。
 だが探索の失敗は魔術師だけのものではなく、数ある英雄譚の中でも『聖杯』と深く関わる物語の主演にとってもそうであったのだ。
 アルトリア・ペンドラゴン。騎士王アルトリア、アーサー王、ブリテンの赤き竜。
 嗚呼、呼び方は幾らでもあろう。
 十二の会戦の全てにおいて勝利という結果だけを齎した常勝無敗にして無敵の王者。ブリテンの守護神。
 生前において敵に対し常勝無敗を貫いた孤高なる王者は、その最期にて最も信頼した騎士と不義の息子の裏切りにより果てた。
 皮肉なことに、それは決して伝承に残されることなきアーサー王による聖杯探索においても同じだった。
 聖杯により招かれた彼女は最強であった。
 衛宮切嗣という男を主と頂いた彼女は軍団を率いる王ではなく、戦場を駆け抜ける騎士として戦い――――やはり最強であり続けたのだ。
 ギリシャ神話に伝わる裏切りの魔女。人の技のみで神の御業にまで辿り着いた魔剣士。アイルランドに名高きクランの猛犬。そして無限の剣を束ねし赤い外套の騎士。
 彼女と彼女のマスターはその悉くを討ち取り見事、聖杯戦争を制したのである。
 聖杯に手が届いたはずだった。もう後一歩、願いを託すだけで悲願を成就させるという段階にあったのだ。
 だというのに彼女は自らのマスターの裏切りにより――――千年後の世界における仮初の生に終止符を打たれた。誰よりも聖杯を求め欲した彼女は、自らの聖剣で聖杯を砕いたのである。
 そうして彼女は戻ってきた。
 彼女はサーヴァントにあってサーヴァントに非ず。死の間際に聖杯を手に入れるために世界と契約した彼女は、このカムランの丘から『聖杯を手に入れる可能性があるありとあらゆる時代』へと召喚され、彼女が聖杯を手に入れるまでそれは続く。
 だから最期の土地はこの場所なのだ。
 キャメロットで武勇を競い語らっていた勇猛果敢な騎士たち。その一人一人の顔を彼女は覚えている。彼女の目の前では彼女の息子が彼女に切られ死んでいた。
 カムランの丘は数多の騎士達の血を吸い赤く染まっている。その様はまるで血の湖のようですらあった。

"聖剣の一撃をもって聖杯を破壊せよ"

 自らのマスターの言葉をこの地へ戻ってもまだ覚えている。
 どうして彼が最後にそんな命令をしたのか、彼女には見当もつかない。会話こそ少なかったが、お互いに信頼し合っていたと思っていた。彼女は彼の勝利と聖杯にかける執念を知っていたからこそ、彼のことをマスターとして認めたのだ。その彼がどうして自らの意志で聖杯を捨てたのか。
 告白すれば『令呪』の存在をこの時ほど憎んだことはなかった。

「……まだだ」

 しかし彼女は膝を屈指はしない。世界で最も有名な騎士道物語、その王たる彼女は不屈だった。
 元より簡単な道程ではないと覚悟していた。所詮は一度の失敗、失敗したのなら成功するまで何度でも挑めばいい。
 彼女にとって時間は一瞬であり無限である。
 聖杯を手に入れるその時まで彼女は無限に戦い、この一瞬から一秒も進むことはない。聖杯を手に入れることこそが『世界』との契約条件であるのであれば、この身はいつの日か聖杯を手に入れることを約束されているのだ。それが幾度目かの探索で達成するかは分からないが。
 第四次聖杯戦争と衛宮切嗣。この二つを頭から排除し、頭を切り替えた。
 
 誉れ高き騎士が代名詞。勇猛果敢にして常勝無敗のアーサー王。
 彼女は無限の戦いの果てに、聖杯を掴み取るだろう。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:14:50.72 ID:wo0F1rCa0<>  エクスカリバーの光が黒い聖杯を破壊していく。砕け散った黄金の杯が炎の光を反射しながら地面に落ちていく光景がスローモーションのように見えた。
 切嗣は力を失ったかのようにそれを見つめ続け、背後にある罪過に目を奪われた。

「――――――ぁ」

 ついさっきまで気にも留めなかったもの。灼熱の業火に焼かれる紅蓮の街と、炎に焼かれ死んでいく人々。
 これは自分が齎した災厄だ。大火災を起こしたのは言峰綺礼であるが、その責任は聖杯戦争に参加した衛宮切嗣にもあるのだ。
 恒久的世界平和。聖杯による救済はならなかった。
 喪われた命があるのならば、それ以上の結果がなければならない。
 だが今のこれはどうだ。
 自分はなにも成していない。この冬木での戦いを人類史における最後の戦争にするなどと嘯いておきながら、自分は誰一人として救ってはいなかった。
 では彼等はどうして死んでいる。彼等の死は……なにも生まない、ただの死だ。

「がっ!」

 切嗣が紅蓮の街に釘づけになっていると、その足元で死んだはずの言峰綺礼が跳ねる。
 視線を向ければ、銃弾に貫かれ失われたはずの心臓に『黒い泥』が詰まっていた。恐らくアンリ・マユ、聖杯の中身の一部が事前に聖杯に触れていた男の命に宿ったのだろう。

「はぁ……ぐっ……衛宮、切嗣……」

 言峰綺礼の黒い瞳が切嗣を射抜く。それは咎めているようにも、懇願しているようにも見えた。
 自然と銃口を言峰へと向けるが、直ぐに下ろす。
 例え相手が誰であれ、今日この場所ではもう誰にも死んで欲しくはなかった。誰も殺したくなどなかった。殺す事など出来なかった。
 切嗣はふらふらと希望を求める死刑囚のように炎の海へと歩いていく。
 まだ誰か生存者がいるかもしれない。いや、いなければ耐えられない。この大災害である。この地獄の中で生きている人間などいるはずがない。それでも探さずにはいられなかった。
 
「クッククッ……はははははは」

 切嗣が去った後、漸く自分の状態を認識した言峰綺礼は立ちあがる。
 心臓のあたりを撫でると、そこにはなにもなかった。心臓の鼓動はなく、極大の呪いが言峰綺礼の肉体を稼働させていた。

「私を、見逃したのか。あの男は」

 蘇生したばかりの言峰は完全に無防備だった。切嗣が殺す気なら一息つく間もなく言峰綺礼は絶命していたはずである。
 だというのに死んでいない。それはつまり言峰綺礼が衛宮切嗣に見逃されたということに他ならない。
 よりにもよってあの衛宮切嗣が言峰綺礼を見逃した。それがどうしようもなく不愉快だった。
 それでも言峰綺礼は笑みを浮かべて見せた。
 彼は知っている。
 生者などいる筈のない地獄。誰一人として生き残れる死の淵。
 しかし衛宮切嗣はそこで見つけるだろう。いる筈のない生存者を。
 切嗣がその生存者を見つけた時、運命は廻り始めるのだ。

「そうだろう? アーチャー」

 そうして言峰は問いかける。未だラインにて繋がっている自分のサーヴァントへと。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:17:28.55 ID:wo0F1rCa0<>  偽物が本物に敵わぬ道理はない。それはいつの頃の己が言ってのけた言葉だったか。
 しかし己はもはやあの頃の己ではない。
 月下のもとに誓いし理想は既になく、内に宿すのは"自分を殺したい"という汚れた願望のみ。こんな自分では本物を凌駕することなどできるはずもない。
 本物の輝きが偽物を駆逐し、偽物しかない世界を崩壊させたのは当然の帰結すらいえた。
 だがエクスカリバーの光を浴びて尚、アーチャーはまだ世に存在を留めていた。
 アーチャーがもしこの大地でセイバーと戦っていたのであれば、今頃アーチャーは跡形もなく消滅していただろう。しかしアーチャーがセイバーと戦ったのは『無限の剣製』の結界内部である。
 本物のエクスカリバーが偽物のエクスカリバーを放逐しているのを見たアーチャーは、恐らく令呪の強制力が働いたのだろう。無意識に結界内にある盾という盾を引っ張ってきて自分を守っていた。
 そうして結界を自ら解除し、セイバーと離れた位置に再出現することでどうにか難を逃れたのである。
 けれど所詮それは延命行為に過ぎない。セイバーのエクスカリバーはアーチャーの霊核を著しく破壊しており、数十秒か数分後かの消滅を待つのみの死に体だった。
 そう――――何事もなければ、アーチャーは綺麗さっぱり死ねていたのだ。だが如何なる運命か、何事かがあってしまった。
 破壊された霊核が戻っている。いや別のもので補填されている。

「壮健なようでなによりだアーチャー。お互いかろうじて生き延びたようだな」

 炎の海の中から一人の神父が姿を現す。言峰綺礼だ。

「貴様は……」

「どうやらお前も私と同じように生き長らえたらしいな。私の心臓に巣食った『この世全ての悪』……それがラインを通じて貴様にも流れたということだろう。さながら山から海へ川を通して水が運ばれるように。今のお前は半・受肉状態にあるといっていいだろう」

 完全なる受肉ではない。ただアーチャーの欠けていた場所を『この世全ての悪』が補っただけだ。
 然り。この世全ての悪を背負い飲み干すことが出来るのは英霊の座広しといえど彼の英雄王以外にはいない。アーチャーでは世界の悪を背負うことなどはできないのだ。
 そんなアーチャーが『この世全ての悪』を受けて尚もこうして自分の意識を保っているのは、アーチャーがそもそも正純な英霊ではないということと、『この世全ての悪』がアーチャーを呑み込んだ訳ではないということに尽きるだろう。
 赤い外套の中にある自分の体を見てみる。するとそこには『この世全ての悪』を示す黒い刺青が刻まれていた。

「ぐっ……!」

 やはり『この世全ての悪』の呪いは恐ろしい。言峰綺礼の心臓から流れた僅かなものだというのに、英霊エミヤシロウの精神を真っ黒く塗りつぶそうとする。
 気を確かにもっていなければ即座に精神が『悪』に乗っ取られるだろう。否、恐らくは実感がないだけで自分はとうに汚染されてしまっている。ただ汚染されながらもぎりぎりのところで堕ちきってはいないだけだ。

「………………」

 それでも、生き残ったところでアーチャーには生きる理由などはない。
 半・受肉状態とはいえ完全に受肉したわけではないのだ。弓兵の単独行動スキルの力もあってどうにか残存しているが、意図的にそのスキルを使うのを止めれば直ぐに消えるだろう。
 聖杯戦争は終結した。これ以上、生きている理由はない。アーチャーは目を瞑って。

――――本当に?

 悪魔の囁きを聞く。自分を染め上げようとする『この世全ての悪』が囁いてくる。悪しき願いを。
 渾身の意志をもってその呪いを跳ね除けたアーチャーだが、ここに一人、この世全ての悪の意志を代弁する者がいる。言峰綺礼であった。

「令呪をもって命じる。――――汝の自害を禁ずる」

 自ら消えようとしたアーチャーの意志が強制的に生存へ再稼働させられる。
 憎々しげに言峰を睨むが飄々と言峰は言った。

「そう怒るな。私とて聖職者の端くれだ。そう何度も目の前で自殺されるわけにはいかん。それにお前には願いがあるのだろう。お前となったお前をお前自身の手で殺めお前を殺す。自己の抹殺という願いが。アーチャー、この聖杯戦争に集った英雄や魔術師の中で私はお前にこそ聖杯を手に入れて欲しいと思った。そしてお前は私の望み通り、多少捻くれた形であれ聖杯の力を受けた。運命とは思わないかね?」

「戯け。運命だと? ああ、そうだな。貴様のいう『運命』とやらは存在しているのだろうよ。でなければ、こんな光景などありはしなかった……」

「そうだ。だからこそ私は運命の夜へとお前を導こうと思う。眠れ、アーチャー。十年後の戦いまで。安心しろ。眠っている間のお前を維持するための魔力は用意する。幸いこの大災害のお蔭で餌には困らない」

 それがアーチャーがこの十年前の世界で聞いた最後の言葉となった。
 令呪による魔力がアーチャーの意識を強制的にブラックアウトさせていく。令呪の意志が黒い泥と混じり合い、アーチャーを深い暗闇へと誘う。そうして『この世全ての悪』の呪いはアーチャーの魂の隅々に至るまでに侵食していった。
 彼が目覚めるのは、これより十年後の話だ。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:18:30.85 ID:wo0F1rCa0<>  やはり『運命』はあるのだろう。
 奇しくも英霊エミヤシロウが十年間の長き悪夢に落ちた時と同じくして、エミヤキリツグはいる筈のない生存者を見つけた。
 切嗣は広大砂漠の中からたった一つだけの泉を見つけた旅人のように微笑む。
 炎の海を歩いてきた少年の目は虚ろだったが、確かな呼吸音と心臓の音があった。少年を抱きしめると重みを感じた。あの冬の城以来となる命の重みだった。
 
「良かった……本当に、良かった」

 衛宮切嗣はこの日、地獄から一人の少年を救い上げた。
 だが本当に救われたのは誰だったのだろうか。
 往年の鋼鉄の意志力をもちし魔術師殺しは既にない。衛宮切嗣は理想に敗れ、在りし日のユメを思い出しただけの残骸である。壊れた殺戮機械には未曽有の大災害の罪過を背負いきれるほどの力はない。けれどそんな誰もが死に絶えた絶望から衛宮切嗣はたった一人の希望(生存者)を見つけたのである。
 希望を砕くのが絶望であるならば、絶望を砕くのもまた希望。
 少年が切嗣に命を救われたのなら、少年は切嗣の心を救い出したのだ。
 しかし救った少年は予断を許さない状況である。
 切嗣は少年の体から命の温もりが失われていっていることを感じていた。どうにかしなければならない。どうにかしなければ、少年は死ぬ。

(僕に治癒魔術や治療手段なんていうのは…………いや、一つある)

 切嗣自身に少年を治癒する術はない。されど衛宮切嗣の体内には『全て遠き理想郷』がある。
 セイバーとの契約が既に切れており、セイバーがこの世にいない以上、その治癒は完全なものとはいえないだろうが。ないよりはましだ。
 切嗣は魔術を唱え自分の体内からアヴァロンを摘出すると、その鞘を今度は少年の体内へと『融合』させた。
 すると、どうだろうか。
 死にむかうだけだった少年が、生へと戻り始めた。

「……すまない。ありがとう」

 それは自分が裏切ってしまったサーヴァントへのせめてもの謝意と感謝だった。
 この日、衛宮切嗣がセイバーの鞘をもって救い出した少年。名前を"士郎"と言った。
 大災害で唯一の生存者となった士郎は衛宮切嗣の養子となり、こうして"衛宮士郎"は誕生した。
 時計の針は漸く"ゼロ"を刻む。







――――ゼロが終わり、夜が始まる。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:19:01.17 ID:wo0F1rCa0<>  ライダーを失い、自分の聖杯戦争が終わって幾日かが過ぎた。
 第四次聖杯戦争は終結したのだろう。元参加者であったからか、それとも魔道に身を置く者だからなのかなんとなく肌でそう感じることができた。
 だが決して戦いの終わりは静かなものではなかった。
 冬木市新都の新造住宅地で発生した未曽有の大災害。今をもって原因不明とされるそれは聖杯戦争による爪痕に間違いない。
 それでもウェイバーはマッケンジー邸へと帰って来た。理由は多くあるが明確に一つこれだといえるものはない。
 強いていえば荷物を取りに来るためというのが一つと、夫妻への暗示をとくためというのが一つ、最後の一つは口にするのも恥ずかしい理由だからだろう。
 ウェイバーは久しぶりにマッケンジー邸へと戻ると上から「おーい」という声がしたので頭上を見上げる。すると屋根の上でグレン・マッケンジーが手を振っていた。

「お、お爺さん! なにしてるのさ!」

 驚き慌ててウェイバーが言う。
 この寒いを通り越して焼けるような寒さの夜に家の屋根に上る。見る人が見ればボケ老人の奇行とすら受け取られかねない。いや、ウェイバーは内心もしかして寒さで頭がボケてしまったのかと真剣に考えていた。しかしグレンの方は笑みこそあるが至極真面目なようでいて、とてもではないがボケ老人には見えない。
 ウェイバーには皆目見当もつかないが、グレン老は正常に働いた頭で自分の家の屋根に上るという奇特をしているのだろう。

「まぁまぁ。お前さんも上がっておいで。ちょいと話でもしようじゃないか。ここは朝焼けが良く見える」

「…………えーと、うん。分かった」

 自分でも驚くほどあっさり頷くとウェイバーは屋根を目指した。
 グレン老の趣味なのかマッケンジー邸は天窓から外へ出やすいよう設計されている。なのでウェイバーがグレン老と同じように屋根の上にでるのは容易かった。
 屋根へ出るとグレン老の隣に座った。この寒空に屋根に座りこむというのはそれなりに忍耐力のいることだったが、ライダーのペガサスでの高速飛行と比べれば大したことはない。

「ほら、コーヒーじゃ。あったまるぞ」

 用意のいいことだと感心しながらコーヒーを受け取る。正直この寒空に温かいコーヒーというのは有り難かった。
 一口飲むだけで温かさが芯まで伝わるようだ。

「お爺さん、なんでこんなところにいるんだよ。落ちたら危ないし、こんな寒い中一人で」

「なんじゃウェイバー。お前さんも、小さい頃はこうして一緒に空を見上げてたじゃないか」

 ありもしない思い出を語られ、ウェイバーは曖昧に頷いた。
 当然そんな思い出などありはしない。ウェイバーにとっての小さい頃の思い出など、魔術書を片手に悪戦苦闘していたことばかりだ。少なくとも屋根に登り夜空を見上げるなんてアウトドアな思い出は一つもありはしない。
 ウェイバーが珈琲を啜っていると、やがてグレン老が快活に笑いだした。
<> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:19:56.39 ID:wo0F1rCa0<> 「……? どうしたの。いきなり笑い出して」

「あはははははははっ。すまんすまん、あんまりにも嬉しいことを言ってくれるもんじゃからついな。なぁウェイバーや、お前さん儂らの孫ではないね?」

「っ!」

 これにはウェイバーも身が凍るかと思った。
 暗示が破られたのである。魔術のまの字も知らないただの一般人に

(僕も、まだまだ全然だな……)

 前のウェイバーなら暗示一つも完遂できなかったことに絶望するか憂鬱になるかしただろう。しかしロード・エルメロイという壁と命懸けでぶつかったことが精神的な成長をウェイバーにさせていたのか、素直に自分の失敗を認めることができた。

「……ごめんなさい。そうです、僕はお爺さんやお婆さんの孫じゃない。赤の他人です」

「ん、そうか」

「怒らないんですか?」

「むぅ。そりゃあのう。お前さんが性質の悪い人間だったなら儂も黙っちゃいられなんだが、お前さん。最近じゃ見ない気の良い若者じゃ。こうして儂たちの孫になっておったのもそれなりに大事な理由あってのことなのじゃろ? それにのう。この年になると不思議なことは不思議なもんなんだと受け入れることもできるもんなんじゃよ」

「そういうものなの?」

「ははっ。まだお前さんには分からんよ。あと五、六十年は生きんとな」

 五、六十年。先の長い話だ。明日がどうなっているかすら分からないのに、六十年先の未来がどうなっているかなど予想もできない。
 もしかしたら『魔法』が幾つか『魔術』になっているかもしれないし、ウェイバーだって生きているかどうか。
 魔術師とは常に死と隣り合わせ。幸せに天寿を全うできる方が稀だ。
<> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:20:28.31 ID:wo0F1rCa0<> 「それに、どちらかというと儂はお前さんに感謝もしておるんじゃよ。さっきよく孫と一緒にここで星を見上げてたなんて言ったがのう。あれは嘘じゃよ。孫は一度もここに上がってきてくれなかったし、マーサは高い所が苦手で儂はずっと一人で星を見上げておった。それがお前さんのお蔭で孫と一緒に屋根から星を見るという願いを叶えさせて貰った。……マーサもお前さんが来てからよく笑うようになった。だからのう、ウェイバーや。お前さんが気に病むことなんてなーんにもないんじゃ」

「……ありがとう」

「だけど一つお願いを言わせて貰えば、マーサが退院するまでは儂らの孫でいてくれんかのう。あれが退院して孫なんて本当はいなかったってなれば、悲しむかもしれん」

「うん。いいよ」

 考えるより早く頷いていた。
 最初からまだイギリスに帰るつもりはなかった。当然いつかは帰るが、まだウェイバーには見たいことや知りたいことがある。それは魔術だとかそういうものではなくて、もっと有り触れたもの。

「なにかウェイバー、お前さん。少し見ない間に大きくなったのう。男子三日合わずんば括目して見よ……だったか」

「そうかい?」

 手の甲にはもう令呪はない。こうして過ぎてみると、ライダーと過ごした一週間は夢だったのかと思えてくる。
 しかし形としてなくとも思い出としてしっかりと脳裏に刻まれていた。ライダーと過ごした数えるほどの日々。けれど今までの生涯で一番濃密だった時間。

「そういえば、ステンノさんはどうしたんじゃ?」

 グレン老が訊いてくる。
 ウェイバーは星を見上げ、ぎゅっと右手を握りしめると言った。この言葉が届いているように祈りながら。

「元の場所に帰ったよ。……大丈夫。またいつか会えるから」

「……そうかね」

 グレン老はなにかを察したように、それ以上追及することはなかった。正直ありがたい。もしも問い詰められていれば困ってしまう。
 彼女との最後の別れを思い出して収まったものが目から溢れてしまうかもしれない。

(いや、最後じゃない)

 そうだ。先は長い。ウェイバー・ベルベットの生涯はまだ始まったばかり。
 人生のさいころの出る目次第ではまた会えることもあるだろう。
 これからのウェイバーの未来を祝福するように、寒空には似合わぬ温かい風が背中を押した。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:21:28.42 ID:wo0F1rCa0<>  未曽有の大災害より半年が経ってから漸く遠坂時臣の葬儀は執り行われた。
 時臣は最後にしっかりと己の最期の責務をやり遂げていたといっていいだろう。娘・凛への魔術刻印の移植と頭首の移譲。入念な下準備のもと記された遺言は滞りなく凛への遠坂家当主の継承を完遂させた。
 これは時臣の実績と人格が創り上げた人脈あっての成果といっていい。実際、言峰が苦心したのはほんの些細なことくらいだった。
 故・時臣の願いは『根源』への到達だった。根源に到達した魔術師がその瞬間にこの世から姿を消すというのなら、時臣は最初から自分がもう妻子のもとに戻らないであろうことは覚悟していたのだろう。
 言峰の視線の先ではまだ十歳にもなっていない子供の凛が喪主として葬儀を執り行っている。その隣では最愛の夫を失った葵が悲しみというスパイスで美しい顔を彩りながら凛の手伝いをしていた。
 本来なら喪主は子供の凛ではなく、妻の葵の役目だ。
 しかしこれは魔術師の葬儀。葬儀の喪主を執り行うことこそが新しい頭首の最初の仕事といってよく、それがそのまま自分が新しい頭首であることを外へ示す道具でもあるのだ。
 傍から見ても凛はよくやっていた。子供とは思えぬほどに親類縁者や父の友人に慇懃な物腰で接し、遠坂の頭首は自分であると示していた。
 もう誰も彼女のことを子供とは侮りはすまい。
 今日この日をもって名実共に遠坂凛は遠坂家の頭首となった。
 それは同時に彼女もまた聖杯戦争に参加し聖杯を掴むという義務を負ったことを意味している。

(アーチャーの話では十年後か。さて、奴はどう足掻くのか)

 言峰には分かる。ああして気丈に振る舞っているものの凛の中では深い悲しみが渦巻いている。
 本心では母に縋って泣きたいだろう。しかし凛はそれを良しとはしない。誰の前でも気丈に振る舞い、誰よりも頭首然として魔術師として振る舞いながら、一人自分の部屋で枕を濡らす。
 そんな様子を想像するだけで言峰の胸中は至福で満たされる。
 凛は言峰綺礼こそが父の仇だと知れば、どんな顔をするだろうか。激高するか悲しむか、どちらにせよ面白くはある。

(だが、まだ駄目だ。楽しみは後にとっておかなければな)

 時臣を殺した時に全身を駆け巡った喜びを回想する。もしも亡き妻や父をこの手でかけていれば、あれに匹敵するだけの悦びを感じることができたのだろう。我ながら惜しいことをしたものだ。
 だからこそ凛には頑張って貰わなければならない。凛があの未熟さをもったままに成長すれば、きっと時臣以上の逸材となるだろう。
 葬儀が終わると人も疎らに散っていく。
 遠坂凛の後見人ということになっている言峰は葵と二言三言話してから、凛を教会へ呼び出した。

「さて。まずはご苦労だった。亡き遠坂時臣師父と比べれば随分と未熟で背伸びした感が拭えなかったが、まあ妥協できるものではあった」

「あんたねぇ。お父様の弟子の癖して、自分だけおめおめ逃げ帰っておいて……少しは悲しんだり責任感じたらどうなの?」

「心外だな。私は私なりに時臣師父の死を悼んでいるとも。師父の弟子としても、聖職者としても。お前こそ少しは年上に敬意を払ってはどうかね。一応私はお前の後見人ということになっているのだが?」

「どうだか。このドグサレ神父」

 この調子だ。凛が一人悲しむ様を想像するのは楽しいのだが、こうも年不相応に振る舞われては多少面白味に欠けるというものだ。
 
「お前も私などと話したくはないだろう。それは私も同じでね。これでも私は忙しい身だ。いつまでもお前に関わってやるわけにはいかん。故に後見人としてやるべきことを果たしておこう。お前は時臣師父の後を継ぎ頭首となったわけだが、魔術刻印はよく馴染んでいるかね?」

「ええ。とってもよく馴染んでるわよ。で、これで終わり? 私も忙しいから早く帰りたいんだけど」

 売り言葉に買い言葉。凛は負けじと言い返してみせる。
 言葉通り馴染んではいないだろう。十世紀ほどの歴史のある家ならまだしも、遠坂はまだ十代も経っていない家だ。魔術刻印は肉体にとって異物に等しい。刻印を継承した凛にはそれによる苦痛や気分の悪さがあるはずだ。
 それでも凛は自分が苦しめば言峰が喜ぶだけだと知るからこそそんなことはおくびにも出さない。
<> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:21:59.22 ID:wo0F1rCa0<> 「ああ終わりだ。ああ、そうだ。後見人としてお前の頭首就任祝いに贈呈するものがある」

「アンタが? ……呪われた十字架だかニンニクなら間に合ってるわよ」

「そんなものではない。私などよりお前が持っているべきもののはずだ」

 ただの気紛れだった。どうせ自分が持っていても仕方ないから、この可愛気のない弟子にでも押し付けてやろう。それだけのつもりだった。
 懐から取り出したのは装飾の施された儀礼用の剣だった。

「私が時臣師父より見習い修了の祝いにと譲られたアゾット剣だ。お前の就任祝いには相応しいものだろう?」

「これが……お父様の、剣?」

 軽い動作で凛に手渡す。美しい意匠が施されたソレを凛は食い入るように見つめていた。
 その剣を見つめていると漸く凛の目から年相応の滴が零れ落ちた。透明の滴はアゾット剣に落ちると、刀身を通って刃先から落ちる。
 葬儀中も一度も見せなかった遠坂凛の涙。それを見た言峰は満面の笑みを浮かべるとその場を立ち去った。
<> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:22:25.94 ID:wo0F1rCa0<>  視界は白く染まっている。
 全身を黒いコートで固めた切嗣は極寒の地獄を一人孤独に行軍していた。目指す場所は唯一つ、アインツベルンの冬の城のみ。
 強風にのせられた白い雪が体を叩く。雪は服の中にも入り切嗣の体を重くする。
 それでも行軍を止めることはなかった。この苦しみの数十倍の苦痛を娘のイリヤが背負っていると思えばなんのことはなかった。
 自分はアイリスフィールとの約束をなにひとつとして守れていない。
 恒久的世界平和どころかイリヤスフィールを迎えに行くという父親として当たり前の義務すら果たせていない。
 切嗣は『聖杯』を一度その掌中に収めておきながら、自らの意志で聖杯を拒絶し破壊した。アインツベルンはそれを怒り、切嗣を裏切り者としてアインツベルンの領地に入れることはなかった。
 アインツベルンは裏切り者の粛清に刺客でも差し向けるかと思っていたが、それすらなかったのは……アインツベルンがその価値すらないと思ったからか、それとも娘と引き離したうえで生を終えることこそが切嗣にとって最大の罰と考えたかだろう。
 そのどちらが正しいのか答えは出せないが、少なくとも後者が切嗣にとって最大の罰であるということは間違いではない。
 常に自分より他人を優先させ続けてきた切嗣にとって、自分よりも娘の不幸こそが最大の不幸に他ならないのだから。

「アインツベルンに何の御用ですか、衛宮切嗣」

 やがて切嗣の前に二人の女性が現れた。
 人間離れした銀髪赤目の容貌。何度も見た事がある。アインツベルンのホムンクルスだ。

「退け。……娘を迎えに来た。邪魔をするなら、容赦はしない」

 言峰綺礼に『この世全ての悪』の呪いを浴びせられ魔術回路の七割を死滅させて尚、魔術師殺しと怖れられた男の威圧は健在だった。
 しかし凡百の魔術師を恐れさせた威圧を受けてもホムンクルスは眉一つ動かさなかった。

「娘? なにを仰っているのです。アインツベルンには貴方の娘などはおりません」

「とぼけるな! イリヤのことだ……イリヤを返せ……僕の娘だ」

「お嬢様の名前を気安く口にしないで下さい。貴方はアインツベルンとはなんの関係もない人間でしょう」

「違う。……イリヤは僕とアイリの、たった一人の娘だ。だから迎えに」

「無礼なことを。お嬢様はアイリスフィール様の娘であらされますが、貴方の娘ではありませんよ。貴方はお嬢様を見捨てて、アインツベルンを裏切り聖杯を破壊したのですから」

「――――!」

 否定はできなかった。この世全ての悪がどうこうは関係ない。
 確かにあの時、切嗣はイリヤの命よりも聖杯を破壊することを優先したのだ。アインツベルンを裏切れば、イリヤがどうなるかを知っておきながら。
 二人のホムンクルスは切嗣に冷たい視線を一瞥すると立ち去っていく。

「待て!」

 切嗣はそれを追うが、その行軍は結界によって阻まれた。

「がっ!」

 目に見えぬ力に弾かれ、尻もちをつく。負けじと幾度となく挑むが同じだった。
 もしも切嗣が万全ならば或いは結界を突破し、冬の城にいるイリヤスフィールを助け出す事が出来たかもしれない。
 しかし言峰から受けた呪いで半死人の切嗣にはもはやそんな力はなかった。

「……イリヤ」

 これが罰なのだろうか。娘が地獄の中にいると分かっているというのに何も出来ずにいるのは。死ねば楽にはなれただろう。だがイリヤを地獄に追いやり数えきれぬ命を絶望に堕としておいて、自分だけにそんな救いを与えることなど許されていいはずがなかった。
 雪の丘に両膝をつき慟哭する姿には最強の魔術師殺しの面影はどこにもない。ここにいるのは理想を抱いて溺死した惨めな男だった。
  <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:22:59.64 ID:wo0F1rCa0<>  そうして気付けば聖杯戦争が終わってから五年の月日が流れてしまっていた。
 時間が流れるにつれ、おぼろげながら切嗣にも自分の死期というものが分かってきた。
 極大の呪いは切嗣の全身を犯している。もう長くはないだろう。
 最初の失敗から幾度となくアインツベルンの城に挑んだが、結局、切嗣が冬の城に足を踏み入れることはなかった。勘を取り戻すため戦場に足を運びもしたが、勘が戻っても力を取り戻すことはできなかった。
 要は身体の問題である。
 時に精神が肉体を凌駕することもあるが、それとて限界があるというものだ。どれだけ若い精神をもっていようと100を超えた老人が全盛期の兵士に勝てはしない。
 もはや切嗣の肉体は死を待つのみの老人のそれと化していた。
 だから段々と家を空けることも少なくなり、養子とした士郎や隣の藤村家の人達と一緒にいる時間が多くなった。
 喪うばかりの切嗣の人生。しかし聖杯戦争が終わってから切嗣の前から消えていった人は誰一人としていない。
 そう――――つまりは喪われるのが漸く他人から自分へとなったのだろう。
 切嗣は士郎と縁側で月を見上げながらじっと佇む。
 なんとなくだが分かる。もう直ぐ自分は死ぬ。この夜を超えて朝日を見ることは、ない。
 隣にいる少年、士郎を見る。 
 これから死にゆく切嗣だが、恐怖はなかった。数えきれないほどの罪過を背負った切嗣にとって死は祝福であり福音であり安息でしかない。
 けれど心配事があった。士郎は切嗣のことを『正義の味方』だと思い、それに憧れ自分もまた成ろうとしている。
 もしも士郎が自分のような人間を目標として、同じ道筋を歩むのならばそれは止めなければならないのだろう。
 さもなければ士郎にとってこの一時一瞬が生涯を縛る呪いとなる。
 自分の人生の無為さを知るからこそ、せめて士郎にはそんな人生をおくって欲しくなかった。自分の背負っているような罪過を士郎にまで背負わせたくはない。
 衛宮士郎を第二の衛宮切嗣とする訳にはいかないのだ。

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」
 
 そんな声が出た。
 ずっと昔に置き去りにしてしまった願い。誰かを救う正義の味方になりたいという子供の頃の自分が抱いた愚かな夢。そして聖杯戦争最終日のあの時まで忘れていた想いだ。

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 むすっとしたように士郎が言った。

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気が付けばよかった」

 もっと早く自分の理想なんて、この世にはないのだと気付いていれば――――もしかしたら何を喪うこともなかったのかもしれない。
 アイリスフィールもイリヤスフィールも。総て喪わずに、幸せにただの人間として暮らせていたのだろうか。
 もはや手を伸ばしても届かない遠い夢だ。

「そっか。それじゃしょうがないな」

「そうだね。本当に、しょうがない」

 こんなことを後から思ったところで何にもならない。
 切嗣は申し訳なく相槌をうちながら遠い月を見上げる。 <> 最終話/第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:23:26.58 ID:wo0F1rCa0<> 「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ」

 士郎は輝く笑顔でそう言ってみせた。

「任せろって、爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやるから」

 どこまでも無垢で純粋なるユメ。それを見て漸く衛宮切嗣の憂いはなくなった。
 切嗣は思う。
 士郎なら大丈夫だろう。自分は忘れてしまった少年の頃の夢。一を切り捨て十を救うのではなく、十を救い一をも救う正義の味方になりたかったという愚かしくも尊い願い。
 自分はその夢を地獄を渡り歩き死を運ぶ中で摩耗し忘れ去ってしまった。 
 だがこの美しい月の下でかわされた言葉なら士郎は忘れない。自分のような『衛宮切嗣』にはならないはずだ。
 どれだけの苦しい道だろうと、この日の記憶さえあれば――――必ず原初の想いに戻って来れるだろう。

「ああ――――安心した」

 二つの目蓋を閉じて、この日、衛宮切嗣は覚めない眠りについた。
 この世界に永遠の命をもつものなどはいない。不老不死とされる死徒や真祖であろうと不老であれ不死であれ永遠ではない。それはこの星とて同じだ。
 それでも世に不滅なものがあるとすれば、それは『意志』なのだろう。
 誰かを救いたいというちっぽけな夢はこの日、衛宮士郎へと確かに受け継がれた。
  <> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:34:03.12 ID:wo0F1rCa0<> 『回収できなかった伏線』

・言峰がギルガメッシュを召喚する

・征服王イスカンダルが召喚されて、セイバーのライバルだった

・ギルガメッシュがセイバーに求婚する

・ギルガメッシュの求婚をセイバーが切って捨てる

・イスカンダルがセイバーと戦い、消耗したところをギルガメッシュにやられる

・ライダーはドラゴンライダーだった

・イスカンダルはイレギュラークラス

・切嗣は冬の城に妻子を置いてきた

・セイバーがギルガメッシュには勝てなかった <> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:34:58.56 ID:wo0F1rCa0<> 『屁理屈込で回収した伏線』

・最終決戦は切嗣とセイバー、言峰とギルガメッシュだった
 四人中三人は同じ。ギルガメッシュはそもそも召喚されていないが、クラスが同じアーチャーが最終決戦に参加した。

・ベンツの活躍
 描写はないがアイリが衛宮邸に来るときに使用。

・言峰が序盤にサーヴァントを失い父に保護される
 父を"師父"ととらえれば時臣に保護されている。だがサーヴァントを失ったというあたりは未達成。
 一応アサシンが次のマスターを探しに行くという発言をしているので、かなり強引に辻褄を合わせればサーヴァントを探しに行く発言=サーヴァントを失うと捉えることもできる。

・セイバーが遅れをとらない
 ルールブレイカーはセイバーというより切嗣の遅れ。
 更に切嗣とセイバーの連携によりそれすらも逆利用して自分の優位としている。

・第四次まで聖杯は無機物
 アイリスフィールが死んでからは小聖杯を摘出されたので無機物。

・第四次のマスターは化物揃い
 雁夜は見た目、時臣は宝石を出し尽したとはいえ切嗣と互角以上に戦い、ケイネスとも張り合った。ケイネス先生はビルの倒壊からも生還。切嗣は語るまでもなし。ウェイバーは例外。強いて言えば幸運が化物。

・ギルガメッシュが聖杯の泥を浴びて受肉する
 ギルガメッシュではないがクラスが同じアーチャーが半・受肉状態になる。
<> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:35:48.88 ID:wo0F1rCa0<> 『回収した伏線』

・切嗣がセイバーに話しかけたのは三回
 セイバーからの質問に切嗣が応えることはあったが、切嗣側から話しかけたのは三回のみ。

・時臣が凛に家督を譲る
 第10話にて譲る。

・時臣が言峰に殺される
 切嗣戦のあとに黒鍵で心臓を一突き。

・言峰の父がアクシデントで死亡
 キャスターの暴走と舞弥の偽装殺人。

・璃正の支援していた魔術師敗退
 時臣が言峰に殺害された。

・切嗣が敵マスターごと建物を爆破する
 言峰とケイネスに対して仕掛けた。

・切嗣は真っ先に言峰を狙う
 狙った。ケイネスは言峰の後。

・切嗣が敵マスターを騙す
 雁夜へのブラフや璃正神父殺害の偽装など。

・切嗣が恋人を人質にとる
 対ケイネスでのソラウ。

・切嗣が家族を人質にとる
 対時臣における桜と対雁夜における桜。

・切嗣が友人を人質にとる
 ブラフだったが対雁夜における葵。

・桜を救おうとした人は誰もいなかった
 雁夜と時臣に関しては臓硯により夢だと思い込まされている。
 その後に待っていた修練という名の拷問の中でその夢の存在も忘却。

・言峰は真っ先に脱落
 表向き切嗣の襲撃で死亡扱いにされる。
 一番最初に脱落したのは龍之介と雁夜だが参加以前の問題だったので除外。

・歴代バーサーカーのマスターは魔力切れで敗退
 第一話にてバーサーカー瞬時に脱落。間桐家にとっての聖杯戦争はそこで終結。
<> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:36:17.74 ID:wo0F1rCa0<> ・未遠川でセイバーが約束された勝利の剣を使う
 対ランサー戦において使用。

・セイバーの戦闘回数は七回未満
 柳洞寺の戦いはアサシンとの交戦からキャスター奇襲までの流れで一回。
 キャスターとのファーストコンタクトは切嗣の令呪で戦闘を止められたのでノーカウント。
 そう計算すると最初のアサシン戦、柳洞寺での戦い、ランサー戦、最後のアサシン戦、アーチャー戦で合計五回。

・土蔵でセイバー召喚
 第一話にて切嗣が土蔵でセイバーの召喚をした。

・間桐からの参加者はいない
 雁夜は召喚に失敗したので参加者以前の問題。
 キャスターと再契約後は間桐家に反旗を翻しているので『間桐家』の参加者ではない。

・言峰と臓硯との間に面識
 時臣を殺した直後に邂逅した。

・十年前、不完全ながらも聖杯は満ち、手に取る事が可能だった
 アイリスフィールから摘出した『小聖杯』を言峰は手に取っている。また五体のサーヴァントがくべられた不完全な聖杯を意図的ではないとはいえ使用している。

・言峰と切嗣は会話したこともなければ面識もなく一度戦っただけ
 会話もしてないし面識もない。最終戦でもよくみると会話のキャッチボールはしていない。

・セイバーと言峰が一度だけ対面する
 初戦におけるビル爆破解体作戦にて。セイバーにとっての第一戦。

・言峰と切嗣は一度だけ戦う
 最終決戦の一度以外は戦ってない。セイバーは言峰を襲撃したことはあっても切嗣は動いていなかった。
<> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:37:15.97 ID:wo0F1rCa0<> ・切嗣無双
 サーヴァントを失った状況から雁夜の令呪を奪ってのキャスター殺害及びセイバーの奪還。
 時臣に致命傷を与え、ケイネスを殺し、言峰を倒す。事実上ウェイバー以外の全員を倒している。

・セイバー無双
 キャスターへの奇襲による腕切断、アサシン撃破、ランサー撃破、アーチャー撃破。
 首筋から血を流すことはあっても大打撃を受けてはいない。

・切嗣は自分で『全て遠き理想郷』を使用、十年後のセイバーはそれを知っている
 自分で使用した。またセイバーも納得済み。

・セイバーがイリヤを知らない
 アイリスフィールから娘の名前を聞いていない。
 またアインツベルンの戦闘用ホムンクルスがいて、それがアイリスフィールとよく似た顔立ちをしているのは知っているのでイリヤ相手に無反応でも不思議ではない。

・切嗣が自分を囮として敵をおびき寄せる
 対時臣での一騎打ち。

・切嗣とセイバーのペアは強かった
 セイバー諸共ビル倒壊作戦、トロイの木馬作戦など。
 前者は言峰が身をもって実感している。

・切嗣は典型的な魔術師で、人間らしい感情は見当たらなかった
 序盤の第二話にてアイリスフィールに対して申し訳程度の笑顔は見せているものの、表面だけなものな上にセイバーの前では完全に人間らしい感情を見せていない。

・セイバーはアーチャーのマスターが誰なのか知らない
 言峰のサーヴァントがアサシンだったことをセイバーは知っていた上に、アーチャーの正規マスターである時臣の死も知らない。

・言峰が切嗣とセイバーを分断するために聖杯を使用
 わざとではないとはいえ使用。

・言峰が冬木大災害を引き起こす
 意図的ではなかったが、言峰の呟いた祈りを聖杯が叶えたので言峰のせい。

・切嗣が言峰より『この世全ての悪』を受ける
 言峰の願った『この世全ての悪』が切嗣を襲った。 <> 伏線一覧<>saga<>2013/02/20(水) 23:37:53.40 ID:wo0F1rCa0<> ・言峰が両手を上げ降参し令呪を破棄するが切嗣に心臓を討ち抜かれる
 両手をあげ降参した。また令呪を破棄するという発言もした。

・切嗣とセイバーが最後まで勝ち残り、聖杯が切嗣の手に渡る
 セイバーとの合流時点で切嗣が勝利者であることを確定しているので聖杯が手に渡ったといえる。
 また非公式とはいえ監督役の言峰綺礼が切嗣を勝利者と認めた。

・言峰が討ち抜かれる場面をセイバーが目撃する
 アーチャーを倒して駆けつけたセイバーが目撃。

・最後の令呪でセイバーが聖杯を破壊させられる
 残り一画となった令呪による命令で破壊している。

・セイバーは聖杯を破壊した直後に消滅
 消滅した。一刻を争う状況だったので切嗣もセイバーに『この世全ての悪』の情報を伝えることができなかった。

・セイバーが令呪の存在を呪う
 カムランの丘で呪ってた。

・言峰の心臓に『この世全ての悪』が宿る
 宿った。これにより言峰は蘇生した。

・切嗣が言峰を見逃す
 蘇生した言峰を殺そうと思えば殺せたが殺さなかった。

・衛宮切嗣が衛宮士郎を救い出して養子とする
 最終話にて。 <> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:38:35.60 ID:wo0F1rCa0<>  一面どころか世界が焼野原だった。
 たぶん想像もつかないような大火災が起きたのだろう。何事もなく日々を甘受していた街は一夜のうちに地獄へと変わった。
 見渡す限り『死』が溢れる赤い世界。頭上を見上げれば邪悪な黒い太陽。
 まるで映画で見た地獄のようだった。いやもしかしたら地獄そのものなのかもしれない。
 家の建っている位置が良かったのか、それとも居た場所が良かったのか。
 そんな地獄でも自分は辛うじて生きていた。
 炎の中を当てもなく彷徨い歩く。
 こんな地獄だ。自分だけが助かるなんて思ってはいなかった。ただ為す術もなく死んだ人がいるのならば、為す術がある限り生きなければ嘘だと思った。
 自分は助からない。自分は死ぬ。もう直ぐ死ぬ。そんなことばかりが脳裏をよぎる。
 助けを求める声があった。
 生きながら焼かれ苦しむ子供の叫びがあった。
 自分はいいから子供だけは助けてくれ、と懇願する母親がいた。
 炎に焼かれながら泣き喚く赤ん坊がいた。
 もはや声も出せないほどに焼かれた人がいた。
 あらゆる怨嗟、あらゆる懇願、あらゆる求めに耳を塞いで歩き続ける。
 自分には貴方達を助ける事は出来ないと、そんな言い訳をして。助かるはずのない道程を歩み続けた。
 やがてそんな足掻きも力尽き為す術もなくなり地面に倒れる。
 雨が降っている。それはいい。雨が降ればこの悪夢も洗い流してくれるだろう。失った残骸を無にすることはできないが、この炎くらいなら消せるはずだ。
 だけど自分はとっくに死んでいた。
 肉体は生きてはいる。心臓もまだ鼓動を止めていない。
 けれどこの時、確かに死んだのだ。思い出も名前も、自分すら全部綺麗さっぱり失った。
 なんのことはない。
 要するに肉体を生かすために、心が死んだだけのこと。
 肉体が生きていても、中身が"ゼロ"ならそれは死んでいるのと同じことだ。
 それでも―――――あの顔は鮮明に覚えている。
 十年前、奇跡的に助けられた。
 だけど助けたのは消防士でもレスキュー隊の人でもない。
 一人の正義の味方だった。
 その人は『正義の味方』ではないと否定したけれど、自分にとっては紛れもなく正義の味方だったのだ。

「――――――」
 
 その人は不思議な笑顔を浮かべていた。
 救われたのはこっちだというのに、まるで自分こそが救われたような笑顔。
 それがなんて綺麗なのだろうと、思ったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/20(水) 23:39:31.10 ID:pwWQ0x2DO<> サヴァが入れ替わった時点で伏線の回収なんてできないだろ。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:39:44.06 ID:wo0F1rCa0<> 「ぁ――――え?」

 次に気付いた時には真っ白な部屋にいた。鼻孔を擽る薬品の臭い。着た事もない場所だが病院であることは直感的に分かった。

「……どこだろ、ここ」
 
 はっきりしない頭を左右に回す。
 自分はベッドに寝かされていて、窓からは澄み渡った青空が見えた。
 それに部屋にある別のベッドには自分と同じように包帯で巻かれた同年代の子供が沢山眠っていた。
 この部屋にはもうあの炎はない。ならもうここは安全なのだ。
 それでも全部失ってしまった。親も家も、なにもかも。
 子供ながらこれからどうなるのか、とぼんやりと考えていたら――――その男はひょっこりとやってきた。
 手入れのまったく行き届いていないしわくちゃの背広にボサボサの髪の毛。
 年齢は20代の後半くらいだろうか。

「こんにちは。君が士郎くんだね」

 その男の人が笑いながら言う。なんだかとても胡散臭そうな人だったけど、とても優しい人のようにも見えた。

「率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな」

 別にその人が親戚だったわけではない。
 本当に自分とはなんの面識もない人だ。ただ地獄の中から自分を救い出してくれた、ということを除けば本当に赤の他人。
 それでも自分を引き取ると言った。
 どうせ孤児院も知らない場所だ。ならこの人の所に行こうと、その時に決めた。

「そうか、良かった。なら早く身支度をすませよう。新しい家に、一日でも早く慣れなくっちゃいけないからね」

 そいつはこっちが了承したことに喜ぶと荷物を纏めだした。
 こういう作業に慣れていないのか、その手つきはとても遅々としたものに見えた。
 そして荷物を一通り纏め終わった後に。
 
「おっと、大切なコトを言い忘れてた。うちに来る前に、一つだけ教えなくっちゃいけないコトがある」

 夕食の献立を話す様に気軽く振り向くと、

「――――うん。初めに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ」
 
 人にいえば笑われてしまいそうなことを真正直に堂々と言った。
 自分も子供だったのだろう。そんな言葉を疑いもせずに信じると。

「――――うわ、爺さんすごいな」

 それから俺はそいつの子供となった。血は繋がっていないから養子だろうか。
 親父の名前は衛宮切嗣。だから俺の名前は衛宮士郎になった。
 それで他の人に言っても信じて貰えないだろうし、言う気もないし、言ってもいけないそうなのだが。
 親父が魔法使いというのは嘘でも冗談でもなく真実だった。
 引き取られて二年後くらいだろう。俺はどうにか親父を言い負かして、魔法使いの弟子になった。
 俺が弟子になったからか、それなりに生活に慣れて来たか。親父はよく外出するようになった。
 外出といっても隣町にぶらり、といったような規模じゃない。親父は「世界中に冒険にいくんだ」と子供のように顔を輝かせては、本当にそれを実行してのけた。
 そのことを不満に思った事はない。
 一緒にいられる時間は少なかったけれど、帰ってきた親父から旅行での話を聞くのが楽しかった。 <> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:40:17.60 ID:wo0F1rCa0<> ―――――それは五年前の話。

 月が綺麗な夜、自分はなにをするでもなく切嗣と月見をしている。
 季節は冬だったが、温度はそう低くはなかった。僅かに肌寒かったが、月を肴にするにはいい夜だったろう。
 この頃になると親父は外出することが少なくなっていた。
 ちょっと前までは半年以上帰ってこないなんていうのはよくあったのに、近ごろはずっと家にいてのんびりしていることが多かった。
 それが死期を悟った老人のそれだと、子供の頃の俺は気付きはしなかった。

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」

 俺にとって正真正銘の『正義の味方』はその名を否定するようにポツリと呟いた。

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 むすっとして言い返す。
 切嗣は困っているようだった。

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気が付けばよかった」

 言われると納得する。切嗣が内心でどんな想いを抱いているのかは分からなかったが、切嗣がそう言うならたぶんそうなのだろうと思った。

「そっか。それじゃしょうがないな」

「そうだね。本当に、しょうがない」

 切嗣は苦笑して相槌をうつ。切嗣がたぶんそうやって返すことは分かっていたから、俺の答えもとっくに決まっていた。

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。――――任せろって、爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやるから」

 自分が言い終わる前に切嗣は微笑った。これ以上訊くまでもないという風に。
 切嗣は本当に嬉しそうに笑ったのだ。

「ああ――――安心した」

 切嗣は静かに目蓋を閉じると深く寝入った。朝になれば普通に起きてくるような穏やかさだったから、騒ぎだてはしなかった。
 だが切嗣の死に顔を心に刻み付けるように見つめていた。
 両目が熱かったから、きっと涙を流していたのだろう。
 悲しみはなかったし、泣き声もなかった。けれど月が落ちるまで涙だけが止まらずにいた。
 切嗣がいなくなっても、生活は変わらない。
 正義の味方を目指すのだから衛宮士郎はのんびりなんてしていられない。
 そう―――――確かに、覚えている。
 誰も助からない様な世界。誰も助かるはずのない世界。
 そんな世界にいた自分を唯一人助けてくれた人がいた。

――――だから、そういう人間になろうと思ったのだ。 <> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:40:51.02 ID:wo0F1rCa0<>  黄金の剣を見ている。権威を象徴しながら驕らず、華美でありながら静謐であり尊い剣。
 日本刀こそとある縁もあって何度か見たことはあるが、西洋剣を見るのなんて数えるほどしかない。だというのに一目でそれが素晴らしいものだと分かる。
 ただそれは武器としての力や装飾の美しさではなく――――その剣を担う人間を想像し、その者こそを尊いと思ったのだ。

「――――ぅ、あ」

 差し込んだ朝日の光が目に入り意識を覚醒させる。
 床が冷たいと思ったら、どうやら土蔵で寝てしまったらしい。これで今年に入って何度目だろうか。切嗣に引き取られてからこの土蔵を秘密基地にしていたからなのか、この年になっても土蔵に篭って作業した挙句に眠ってしまうという癖が抜けない。

「おはようございます先輩」

 そんな自分を微笑ましそうに眺めクスリと笑うのは後輩の桜だ。
 今日も朝食を作りに来てくれたのだろう。一人暮らしで隣の家の姉貴分がそっちの方面にはまるで役立たずなこともあり、桜は今の衛宮家にとって必要不可欠な人間といえる。
 いや衛宮家といってもこの家には衛宮士郎こと自分しかいないわけだが。養父である切嗣は五年前に他界してしまった。
 土蔵を出て衛宮邸の居間へと歩く。
 自慢ではないがこの家はかなりデカい。学生一人が住むには分不相応な規模の歴史を感じさせる武家屋敷でその気があれば人が十五人は住めるだろう。何に使うのか知らないが敷地内には道場まである。

「悪い桜。いつもありがとうな」

「いえ。好きでやっていることですから」

 そう言ってにっこりとほほ笑む桜。
 最初はそうでもなかったが、ここ最近の桜はどうにも大人びてきていて健全な男子としては少しドギマギとした心境になってしまう。

(気を付けよう。藤ねえにばれたら色々と不味い)

 藤ねえは英語教師らしく卓越した頭脳と洞察力がある――――というわけではないが、野生の本能と直感力にかけては右に出る者などいない御仁だ。
 もし虎が爆発すれば偉いことになる。これに封印した虎竹刀までもが解放されれば冬木市はハルマゲドンに陥るだろう。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:41:20.53 ID:wo0F1rCa0<> 「あー、士郎。おそーい。もうお腹ペコペコだぞー! 桜ちゃんの折角の朝ごはんが冷めちゃうじゃない」

「藤ねえ……なんかもう、なんでさ」

 ツッコみたいことは山ほどあるが、藤ねえに対してそれらがどれだけ無意味なことなのかはこの十年間で身に染みている。
 触らぬ虎に祟りなしだ。

「藤村先生、大丈夫ですよ。このくらいじゃ朝ごはんだって冷めたりしません。それに時間だってまだ余裕があるじゃないですか」

「むむむっ。桜ちゃんは士郎の味方とな。ああ、こうやって弟は離れていくのね」

 よよよ、とわざとらしく泣き崩れるポーズをとる虎。朝から元気な人だ。
 しかしいつまでも虎と漫才しても仕方ない。そんなことしていたら本当に折角の朝食が冷める。藤ねえではないが料理は冷めてるより出来立ての方が良いものだ。
 朝食を食べ終えると教師の藤ねえは一足先に学校へ行った。
 あんな人だが一応は立派な社会人。藤ねえもやることはやるのだ。……やらなくていいことも全力でやる上に、やることをたまにポカするのが玉に瑕だが。

「……んっ!」

 制服に着替え家の門を潜ったところで手の甲に痛みが奔った。
 別にそれほど傷んだわけではない。例えるなら少し威力の強い静電気でも喰らったような痛みだ。

「なんだ……これ?」

 手の甲になにやら刺青のような紋様のようなものが浮かび上がっている。
 一体全体これはなんだというのか。切嗣の弟子になって魔術師見習いになってそこそこ経つがこんなことは初めてだ。昨日息抜きにやった投影魔術に少し失敗でもしたのだろうか。

「先輩、それ」

 士郎の手の甲を見た桜が「あっ」と口を開けて驚く。
 無理もない。いきなり人の手の甲に入れ墨のようなマークが浮かび上がれば驚きたくなるというものだ。

「えーと、なんでもない。ちょっと怪我したみたいだ。包帯とってくるな」

 桜を心配させるわけにはいかない。士郎は桜に一度断ると家に包帯をとりに戻った。
 この紋様。水で洗えば落ちるだろうか。士郎は呑気にそんなことを考えた。
 今はまだ衛宮士郎は知らない。気付いてもいない。
 自分が五度目となる聖杯を巡る戦いに巻き込まれた事を。自分が父と同じサーヴァントを召喚し戦う運命にあるということを。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:41:48.54 ID:wo0F1rCa0<>  夜の冬木市を駆ける。
 日常ならば通学路として通いなれた道だが、聖杯戦争中の今は戦場の一つに他ならない。

「ああもうっ! なんでサーヴァント召喚前に……!」

 愚痴りながらも走る。気分は最悪を通り越してどん底の最低だった。

"お前もさっさとサーヴァントを召喚しろ。尤も戦いに怖気づいて逃げるというのであれば令呪を摘出しよう。いつでも来たまえ"

 一応は自分の後見人ということになっているド腐れ神父の言葉を思い出し、更に最低な気分になった。
 いけない、と神父のニタリ顔を振り払う。今はあんな人間のことなど気にしている場合ではない。
 迫りくる襲撃者の対処をするべきだ。
 遠坂の魔術刻印が輝く。その刻印に刻まれし術の一つ、北欧に伝わる有名な呪術――――ガントを放った。
 一般に物理的攻撃力すら備えたガントの一撃をフィンの一撃と呼称する。
 であるなら私の撃ったのはフィンのガトリングというべきものだった。自慢ではないが、これだけの一撃を詠唱なしに撃てる魔術師はそうはいないだろう。

「はぁ――――――っ!」

 だが敵はそれ以上に出鱈目。
 ルーンの刻まれた手袋を装着している女魔術師は全てのガントをあろうことか殴り落としてしまう。
 歯噛みする。
 自分の技量にはそこそこの自信はあるが、相手はそれ以上の出鱈目。いや魔術師としての総合的な技量ならこっちが上だろう。しかしこと戦闘においてはあちらが遥かに上手だ。
 封印指定の執行者。
 外道に堕ちたり余りにも特異性のある魔術を修め『封印指定』となった魔術師を狩る執行者は、戦闘魔術師のプロフェッショナルといっていい。
 けれどもしも並みの執行者というのなら撃退する自信はあった。相手が執行者だとしてもこっちは五大元素(アベレージ・ワン)。そうそう負けはしない。だが相手は執行者でも随一の力の持ち主だった。

「逃がしませんよ」

 執行者が涼しげな表情で追ってくる。
 足はあちらの方が早い。フェアな勝負を心がけているのか、執行者のプライドかサーヴァントは使って来ていないとはいえこのままではジリ貧だ。
 いずれ追い付かれ殺される。それならば、

(一か八か!)

 手の甲に刻まれた赤い印、令呪を見る。
 魔法陣もなければ時間だって悪い。宝石の手持ちだって多くはない。これといった霊地ですらなかった。
 しかしやらなければ死ぬというのなら、やって後悔した方がいいというものだ。

「閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ」

「っ! まさかサーヴァントを召喚する気ですか!? こんな場所で!」

 執行者の女が驚いている。それはそうだろう。普通の魔術師から見たら常識外の行動に違いない。
 我ながら自分でもどうかしていると思う程だ。彼女が驚くのは当然といえる。
 それでも、

「繰り返す都度に五度――――ああもう、時間ないのよ面倒臭い! なんでもいいからさっさと出てきなさい! 天秤の守り手よ――――!」

 投げつけた宝石を起点としてエーテルが舞う。
 エーテル流は私と女魔術師の間で渦を巻き、そして。

「なんにも……ない?」

 エーテルが晴れた時、そこにはなにもなかった。
 力が抜ける。どうやらギャンブルには失敗したらしい。十年間この戦いの為に準備をしてきたというのに、こんな『うっかり』で脱落とはつくづく家にかかった呪いには腹が立つ。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:42:18.38 ID:wo0F1rCa0<> 「……万策尽きたようですね。遠坂凛――――相手がアサシンとはいえ独力で倒してのける貴女の実力は危険だ。ここで排除させて頂きます」

 女魔術師、バゼット・フラガ・マクレミッツは格闘戦の構えをとると静かにこちらを見た。
 実力差は明白。けれどこっちもただでやられる気はない。全部ではないがこちらには十年間休まず魔力を溜めてきた宝石がある。これの一つでもぶつけられれば勝てる。
 バゼットが動いた。
 私はガントを撃ちバゼットの目を晦ますと、

「―――――――Sechs Ein Flus,ein Halt……!」

 ありったけの魔力を込めて文字通りの全身全霊の一撃。
 ランクにしてAにも届く宝石の炸裂はサーヴァントの頭蓋すら吹き飛ばし得るだろう。だがバゼットはお見通しだったようだ。宝石が投げてから炸裂するまでもほんの一瞬、その一瞬のうちに宝石を頭上高く蹴りあげていた。

(あ、やば。終わったわ)

 私の頭めがけて拳を振り落そうとするバゼットを見て否応なく悟ってしまう。バゼットの拳は数瞬の後には私の頭部をトマトのように破裂させてしまうだろう。
 目を瞑るのも癪だったから、せめて死ぬまでその顔を睨めつけてやるとつまらぬ意地で目を見開いていたが、

「御下がりを! 我が主!」

 霊体化を解除した端正な顔立ちの槍騎士がバゼットを抱えると、全速力で後退した。
 その直ぐ後に地面に突き刺さる剣。北欧風の衣装の施された剣は地面に刺さると同時に小規模なハリケーンを発生させた。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:42:44.82 ID:wo0F1rCa0<> 「――――酷い顔だ」

 頭上から天啓の如く鳴り響く声。
 傲慢さを隠そうともしない声色だったが、不思議なことに不快感はない。寧ろそれが当然のような気さえする。

「冥界の悪鬼にでも出くわしたか、はたまた裁定を待つ罪人か、悪趣味な夢に浸っていた結果か。どうだ、その萎えた魂に我の名を口にする気骨はあるか」

 全身を覆うは黄金の甲冑。髪の色は月の光を凌駕するほどに黄金色に輝いており、その端正な面貌には血のように真っ赤な赤い双眸がある。

「アンタが……まさか?」

 令呪がこの黄金の男に反応している。だとすれば、この男こそが、

「私のサーヴァントってこと……クラスは?」

 ランサーとアサシンは既に見ている。となると残るクラスは四つ。
 バーサーカーは有り得ない。月の光を背にして立つなどイカしたことを仕出かしているが、彼は狂っているようには見えない。
 キャスターも違うだろう。離れていても肌で分かる王気を見せる男が魔術師であるわけがない。
 となれば――――。
 私の思考を中断したのは男の「ふん」というつまらそうな声だった。

「我は絶対にして始まりの王、英雄の中の英雄王、ギルガメッシュ。凡百の英霊どもと一緒くたにするな! 我にクラスなどない。故に貴様もそう呼ぶがよい」

 ギルガメッシュ。それはこの世で最も古い神話を元とする人類最古の英雄王。
 黄金の英雄王は堂々とした立ち振る舞いで遠坂凛の聖杯戦争が開闢したことを告げた。
<> 第零話 運命の夜<>saga<>2013/02/20(水) 23:43:34.93 ID:wo0F1rCa0<>


























「問おう。貴方が私のマスターか」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/20(水) 23:44:35.06 ID:wo0F1rCa0<> 以上でこの物語は終了です。今までありがとうございました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/20(水) 23:48:34.81 ID:shOGW7xPo<> どうか続きを読ませてくれ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/20(水) 23:53:14.56 ID:nF6MjyxIO<> 完結おめでとうございます。
ギルガメッシュのセリフCCCか。すげえ続きが気になる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 00:11:05.12 ID:SQIxeWVvo<> 乙でした!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 00:23:34.98 ID:VHi0DqCc0<> 乙
「この」物語ってことは「次の」物語があると信じてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 00:31:37.08 ID:XMI3qpqAO<> なんかアレだな……
とにかく凄かった
続きが気になる

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 00:49:08.37 ID:qp5TPTe9o<> 乙
アーチャーは第二のアンリになれるかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 01:08:33.82 ID:+EDjkusro<> 乙、完結おめでとう
最初はどうなるものかと思ったけど見事に収束していく展開に驚愕
とりあえず一番不憫なのは登場一瞬で第五次にも出番がないヘラクレスさんか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 01:50:26.14 ID:qHkSed/Ho<> 5次アサシンが不憫でないと? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 02:02:50.58 ID:znMZ8z3Z0<> 乙でした!
次も期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/21(木) 03:34:50.19 ID:9QNs2oaX0<> 完結おめでとうございます!!
もっと続くのかと思ってて油断してたら最終話/零話が投稿されて焦りました。
スプーンさんの解釈(?)も読んでて楽しかったです!


零話の最後、どういう経緯であのシーン(セイバー召還)にいたるのかが気になりますー
それに加えてアーチャー(エミヤ)がどうなるのかなどなど気になることがありすぎて夜もねむれません!!

気になってるけど、個人的に五次聖杯戦争に関してはちょっと複雑な気持ちになります(笑)

最後に、完走おつかれさまでした。
ゆっくり休んでくださいね〜
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 03:51:37.98 ID:vEDnXCF20<> 公式でギルは時臣とは相性最悪だけど凛とは最高だってたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 07:33:27.17 ID:+lqgSd8Lo<> この流れだと征服王は間桐家に行くのか

ワカメがウェイバー状態になるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 11:50:37.74 ID:iRlrh8b0o<> ワカメがライダーに令呪で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 12:10:12.63 ID:vEDnXCF20<> この前アニメイト行ったらゲート・オブ・前売り券ってやってたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 15:01:21.96 ID:gIzwzlvS0<> どうか・・・どうか続きを・・・頼むううう

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 17:34:40.11 ID:WFEC6Q7SO<> >>913
聖杯戦争開始時点でゾウケンにあれされてる慎二じゃどうにもならんだろ

それにライダーが大人しく従ってたのも桜のためだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 01:54:05.36 ID:Cj4fnRUU0<> イスカンダルと慎二じゃエクストラみたいな関係になりそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/22(金) 04:12:20.79 ID:yC49bXuG0<> 切嗣はアンリから提案された「ただの幸福」を断っておいて最終的にはそれと同質の幸福が何より尊いと結論づけちゃうのな。
どうしようもなく結果論で選択の余地なんか微塵もなかったとはいえ......切ないなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 05:33:31.80 ID:W+ptki0b0<> >>912
たしか凛は(宝石的な意味で)金の消費が激しいけどギルがいれば補えるとかそういう方向だった気はする。
性格面はどうだったかな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 11:09:20.44 ID:d5kF0/Sj0<> 完結お疲れ様でした!
しかし赤アーチャーますます悲惨だなwwwwww セイバーとの第二戦ははたしてどうなるのやら
次回はバゼットさんの活躍があることを祈ります
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 11:13:51.62 ID:LXALGlnAO<> 所でこのスレはこの後どうしますん?
続きがあるのかそれともhtml化するのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 12:03:51.81 ID:hGgVuBZIO<> しかし五次でもセイバー以外入れ替えだとアサシンのマスターはだれだろう?
ジルにメディアみたいなことができるとは思えないから蟲爺か言峰がマスターか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 15:55:38.41 ID:qIAxHAhAO<> >>923
バゼットさんが普通に参加してるから言峰なんじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 19:21:22.83 ID:Cj4fnRUU0<> だとするとジャスティスハサン先生の出番もあるかもな
ゾウケンなら桜ルートみたいにアサシンそのものを下敷きにして新たにアサシンを召喚できそうだし
幸いにも四次アサシンはたくさんいるから何体か消えたとこで問題ないしね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 01:25:22.10 ID:8/TdI2dco<> >>925
アサシンを2体同時に現存させておける程の魔翌力って聖杯にあったっけ?
あれって一回アサ次郎を殺してハサンを呼び出したから大丈夫だったけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 02:22:43.84 ID:m+r2T8dD0<> 呼び出せないこともないだろうがその場合アサシン全部生贄にする必要があるから同時に存在することは難しいかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/23(土) 13:58:12.65 ID:r+rYwPeo0<> 第5次は龍ちゃんが参戦するはずだからカオスだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/23(土) 16:33:47.47 ID:nUce90IIO<> 10年前よりさらに殺しの技術を上げた龍ちゃんがマスターか・・・
へたすりゃ原作の4次よりも酷いことになりそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 19:52:09.94 ID:zTART4pu0<> ハーメルンのあとがきによるとFate/Extra CCC全ルートコンプ後に第五時聖杯戦争書くみたいだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 20:00:30.00 ID:7Kpsph6R0<> そういえば龍ちゃん生きてたなww
<> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:30:10.22 ID:ucIj/ixg0<> >>902
 続きはCCCを全クリした後です。

>>907
 アンリというより、より自分殺しに積極的になったアーチャーっぽくなるかも。

>>908
 ヘラクレスは犠牲になったのだ……

>>909
 真アサシンは犠牲になったのだ……

>>911
 取り敢えず冒頭の流れまでは出来てるんですが、結末がどうなるかどかまるで決まってません。

>>913
 イスカンダルはワカメのサーヴァントになります。

>>919
 切嗣はもうああいう結末になることが決まっていた人ですから。

>>921
 アーチャーは悲惨過ぎてもう。

>>922
 どうしましょう。

>>926
 真アサシンの出番は本編ではありません。

>>928
 おまけに監督役がアレなので積極的に龍之介を排除しようとするかも怪しいですね。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:33:20.26 ID:ucIj/ixg0<> さて問題は残り67のレスをどうするかですね。……仕方ないのでテキトーなやつで埋めます。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:41:39.20 ID:ucIj/ixg0<> 切嗣「閉じよ閉じよ閉じよ――――<以下省略>――――天秤の守り手よ!」

??「問おう」

アイリ「う、嘘っ!?」

切嗣B「君が僕のマスターか?」

切嗣「なん……だと……?」

アイリ「まさかキリツグがサーヴァントになるなんて!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 21:41:57.62 ID:3SzPj2Wco<> セイバーは四次の国の救済を願うセイバーになるん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 21:45:35.35 ID:sYZTsAWY0<> なんか始まったー!? <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:47:03.97 ID:ucIj/ixg0<> 切嗣(馬鹿な……なにがどうなっている? 僕はサーヴァントに、英霊となるような功績や偉業をあげているわけじゃない。それがどうしてサーヴァントに)

切嗣B「切嗣? ノンノンノン。違うよ。僕は切嗣じゃない」

アイリ「で、でもどう見てもあなたは切嗣の顔をしているわ。ねぇキリツグ」

切嗣「あ、ああ」

切嗣(僕じゃない? まさか変身能力をもったサーヴァント……もしくは形の不確かなサーヴァントが僕の姿で実体化しただけなのか)

キリツグマシーン「僕はキリツグマシーン! 取り敢えず敵サーヴァントとマスターを虐殺さ!」

切嗣「(゚д゚)」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:51:35.58 ID:ucIj/ixg0<> ケイネス「……まさかウェイバー・ベルベットに我が聖遺物を奪われるとは」

ソラウ「どうするの? ケイネス」

ケイネス「ふっ。こんなこともあろうと実は聖遺物をもう一つ用意していたのだよ。多少風評被害を受けているサーヴァントだがまあいい。英雄には違いないのだから」

ケイネス「閉じよ閉じよ――――以下省略――――天秤の守り手よ!」

???「…………認識した。マイマスター」

ヴラド「さあ戦争の時間だ」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 21:55:57.74 ID:ucIj/ixg0<> 時臣「あー、そのアーチャー。私は君のマスターの遠坂時臣だ」

カルナ「真の英雄は目で応じる!」

時臣「……アーチャー、いや英霊カルナ。聖杯戦争期間中の仮初の主従とはいえ共に戦う間柄だ。私のたてた作戦についても話したい故、少しはコミニュケーションをとってくれると嬉しいんだが」

カルナ「真の英雄は目で語る!」ジー

時臣「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:01:07.43 ID:ucIj/ixg0<> キリツグマシーン「むっ。敵の気配発見さ!」ピロリロリン

アイリ「分かるの? えーと、キリツグマシーンでいいの名前?」

キリツグマシーン「ふっ。僕を誰だと思っている?」キリッツグ

アイリ(それは私が聞きたいわよ……)

キリツグマシーン「さーてそれじゃ、レッツ虐殺さぁぁぁぁあああ!! 皆殺しタイムの始まりだよ!」

アイリ「待って! 切嗣の指示を仰がないと! ってもういないわ」

切嗣(もう疲れた) <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:04:35.00 ID:ucIj/ixg0<> キリツグマシーン「むむむ。君が殺気の主だね?」

ヴラド「なにが゛むむむ゛だ」

キリツグマシーン「取り敢えず先制攻撃の起源弾一万連発! 死ね!」ダダダダダダダッ

ヴラド「高貴さも信念も理念もなくキリにもコウモリにも姿を変えられない。撃たれたキズの回復すらできない。喰うためでもないのに女・子供を皆殺し。挙句銃弾が切れたら戦う事すらできない。貴様それでも吸血鬼のつもりか。恥を知れ」

アイリ(会話がまるで成立していない……) <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:06:53.50 ID:ucIj/ixg0<> ジークフリート「やめろ二人とも!」

キリツグマシーン「!」

ヴラド「!」

ジークフリート「戦いなんて下らない。……だから、一緒に自害しようじゃないか!」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:08:36.03 ID:ucIj/ixg0<> ヴラド「自害だと?」

ジーク「そう自害……それは自分を害すると書く……つまりは自殺。最近は練炭自殺に凝ってるんだけどね。ご覧の通りサーヴァントだから中々死ねなくて」

キリツグマシーン「なら……ダイナマイト腹に括り付けて特攻なんてどうだい?」

ジーク「それだ!」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:11:05.82 ID:ucIj/ixg0<> ジーク「うぉぉぉぉぉおぉおお! TYPE-MOONに栄光あれぇー!!」

間桐雁夜「え?」

ジーク「ばんざーい!!」ドカーン

間桐雁夜「うわああああああああああああああああ!!」


桜「雁夜おじさんが死んだ!」

臓硯「この人でなし!」

鶴野「お前が言うな」

キリツグマシーン「ともあれこれで一人脱落さ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/23(土) 22:11:38.86 ID:xrcI+CHb0<> 作者がこわれた・・・(´;ω;`) <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:13:33.62 ID:ucIj/ixg0<> キリツグマシーン「さーて、今度はさくっと遠坂でも潰すとするさ!」

アイリ(なんなのこのサーヴァント。いきなり間桐を脱落させるなんて)

切嗣(もしかして意外に凄いサーヴァントなのか……)

キリツグマシーン「さーて、それじゃあ遠坂家にミサイルの波状攻撃を喰らわせよう!」

切嗣「は?」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:16:32.39 ID:ucIj/ixg0<> 時臣「アーチャー、我が屋敷に何故だか知らないがミサイルが接近しつつある。早く退避を!」

カルナ「真の英雄は目で話す!」

時臣「いや、だから」

カルナ「真の英雄は目で受け止める!」ジー

時臣「み、ミサイルが……あああああああああああああああああ!!」



キリツグマシーン「ふっ。戦いとは無情なものだ」

アイリ「わけがわからないわ」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:18:05.91 ID:ucIj/ixg0<> 龍之介「えーと閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ。繰り返すつどに――――」

アッーチャー「ウホッ! イイ殺人鬼」

龍之介「え?」

アッーチャー「や ら な い か」

龍之介「アッーーーーーーーーー」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:19:55.60 ID:ucIj/ixg0<> ウェイバー「なぁギルガメッシュ。聖杯戦争始まってもう結構たつけどお前なにしてるんだよ」

ギル「五月蠅いぞ雑種。我はジャンプを見るのに忙しいのだ」

ウェイバー「いや、それ暇だろ」

ギル「貴様! ジャンプを見るのと聖杯戦争……どちらが大切なのか、お前には分からないというのか!?」

ウェイバー「聖杯戦争だよ!」 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:20:56.06 ID:ucIj/ixg0<> えー、取り敢えず残り50スレまで完全にテキトーに頑張りましたが……疲れました。
なにかいい案があれば下さい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 22:22:08.54 ID:n+K7Ap5co<> >>950
AUOルートでCCC実況 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 22:24:15.45 ID:GonClB5t0<> 前の動画であげた、綾香ちゃんの乙女ゲーの続きやって下さい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/23(土) 22:43:28.25 ID:tmvAiq5Wo<> >>952
なにそれ気になる <> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:49:08.61 ID:ucIj/ixg0<>


――――自己評価であるが私の性格は最悪だ。
 根暗で、臆病で、視野が狭くて、見栄っ張り。そして何より――
 どうしようもないぐらい、平凡で、平凡だ。



<> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:49:49.24 ID:ucIj/ixg0<>  ちゅんちゅんと鳥の鳴く声で目が覚める。
 いつも思うが『朝起きる』という事は一日最初の難関だ。
 起きた途端にもう一度ふかふかなベッドに体を預けたくなるし、少し目を閉じればそのまま再びの眠りに入ってしまう。
 だから『起きる』という行為には睡魔という名の悪魔の誘惑を振り切り、強靭な意志力をもって意識をはっきりさせる必要があるのだ。
 
沙条綾香「……顔、洗わないと」

 睡魔を振り切りながら立ち上がると洗面台で顔を洗う。
 顔に冷たい水をかけてゴシゴシと擦れば段々と睡魔が消えていく。やはり朝はこれがないと始まってくれない。
 朝の日課を済ますと眼鏡をかける。それで――――沙条綾香という地味で平凡な女子学生は完成する。
 眠気はもう抜けきっていた。
 きびきびとした動作でカレンダーを確認する。
 今日は4月2日。嘘が許されるエイプリルフールの翌日。カレンダーの2の数字には青いペンで丸く囲ってある。
 ブルーというネガティブな色が連想する通り今日は余り良い日ではない。
 春休みという安息の時間が終わりをつげ、入学二年目の新学期が始まるのだ。
 別段学校が嫌いというわけではないが、春休み明けというのは日曜日にサザ○さんを見た様な遣る瀬無い憂鬱さがある。
 これが夏休みだと逆に休みが長すぎるせいか、そこまで憂鬱ではなかったりするので人間というのは不思議なものだ。
 コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。
 来客にしては早すぎる時間。誰なのかなんとなく予想はついたので「どうぞ」と言った。、
<> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:50:40.92 ID:ucIj/ixg0<> ???「驚いた。物音がしたからもしやと思ったが……綾香、まだいたのかね。とっくに学校へ行ったと思っていたぞ」

沙条綾香「あっ。エミヤさん」

 ニヒルを気取った口調で綾香の部屋に入って来たのは浅黒い肌をした長身の男性だ。
 サングラスでもかけていたらハリウッド映画に出てくるマフィアの用心棒みたいになるだろうが、彼にはそんな雰囲気を感じさせぬ親しみやすさ……というより主夫っぽさをもっている。
 彼はエミヤシロウ。私が下宿しているアパートの管理人だ。
 しかし彼は今なんと言った?

沙条綾香「とっくって……つかぬ事を聞きますけど、今何時ですか?」

エミヤシロウ「……自分の家で他人に名前を聞くのはどうかと思うが、私の腕時計が壊れてなければ8時だな」

沙条綾香「は、八時! いけない、遅刻するっ!」

 嫌な予感がピッタリと的中した。学業にそこまで真面目に取り組んではいないが、流石に二年生という新たなる始まりの初日に遅刻という汚点を残したくはないくらいの羞恥心はある。

エミヤシロウ「やれやれ。このアパートの管理人として一つ助言させて貰うが、目ざまし時計くらいセットしておくことだ」

沙条綾香「昨日セットしようとしたら壊れてたんですよ! 夜も遅かったから明日買いに行こうと思ってたんです」

 そこで目ざまし時計が壊れたなら普通に携帯電話のアラームをセットしておけば済むということに気付いた。
 つくづく馬鹿だ私。本当になにやってるんだろう。

沙条綾香「それじゃ行ってきます!」

エミヤシロウ「ああ。くれぐれも事故には気を付けたまえよ。事故なんてことになれば、君だけではなく他人にまで迷惑が伝染するからな」

沙条綾香「…………」

 根は良い人なんだが、本当にこのシニカルな態度はどうにかならないものなのだろうか。
 こんなんだから上司の不況をかって経営悪化の責任をとってリストラされたんだろう。
  <> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:51:27.67 ID:ucIj/ixg0<>  私服のまま全力疾走すること五分。バスに揺られること二十分。
 ぎりぎりで……本当にぎりぎりで間に合った。
 後は歩いていっても大丈夫だろう。スローでいっても十分に間に合う距離だ。
 今思えばこの時の私は安心して油断しきっていたのだろう。

沙条綾香「きゃっ!」

???「あっ」

 前方不注意とはこのこと。私は曲がり角を歩いてきた人にぶつかって尻もちをついてしまった。

沙条綾香「いつつ……なんでこんなベタなことやってるんだろ」

 これが俗にいう五月病か。四月だけど。春休みダラダラしていたせいで精神の方が鈍っているのだろうか。

???「すみません。大丈夫ですか」

 夜に輝く星空を連想させる綺麗な響きだった。
 そして私は見る。視線の先には――――ある種の芸術があった。
 太陽の光を浴びて輝く金色の髪。グリーンの瞳はまるで雄大な草原のように澄み渡っている。私は面食いではないのだが、それでも見惚れずにはいられない。
 彼という人がそこにいるだけで、まるで世界が清廉なる理想郷になってしまったような感覚を覚える。
 そんな彼が自分と正面衝突したその人であり、自分に手を差し伸べているのだと一拍遅れて気付く。

沙条綾香「あ、ありがとうございます」

 しどろもどろにお礼を言う。
 しまった。ここは謝るべきタイミングだったというのに。前方不注意だったのは私でぶつかったのも私のせいだ。なのにどうして被害者に謝らせているんだ。
 自己嫌悪に襲われ私は俯く。が、直ぐに気を取り直して口を開いた。

沙条綾香「すみませんでした。私ぼーっとしてて」

???「そんな気にしないでいいよ。ぼーっとしてたっていうなら僕だってそうだ。それじゃ僕は急ぐから。ぶつかってすまない」

 そう言ってその人は走り去っていく。
 名前を聞いておけば良かったと、彼が走り去って十秒後に思い至った。 <> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:53:17.39 ID:ucIj/ixg0<>  ともあれ学校だ。
 アクシデントはあったが、それで学校が休校になるはずがない。
 少し歩くと校門が見えてくる。もう直ぐ予鈴がなるというのに、校門近くにはバラバラの服を着た人影がちらほらと。
 ちなみに皆服がバラバラなのは私の学校には他校とは異なり『制服』という概念がないからだ。
 断じて制服をきたサーヴァントの立ち絵がなかったからではない。私の学校は生徒の個性を重んじる校風なのだ。少しフリーダム過ぎるんじゃね、とかこれっぽっちも思っていませんとも!

ヘラクレス「おはよう」

 校門で史上最強の警備員と噂されるヘラクレスさんに声を掛けられる。
 身長が2.5mほどあるギネス記録保持者並みの巨大なヘラクレスさんは日本刀もったヤクザ100人を咆哮一つで鎮圧したという伝説をもつ凄い人だ。
 正直どうして学校の警備員しているのが全く分からない人だ。プロレスでもやれば世界王者確実だというのに。
 唯一つ言えるのは、もしこの学校にナイフをもった不審者が入り込もうとすれば確実に死者が出るということだ。不審者の。

???「綾香。お前も遅刻未遂者か」

 後ろを走ってきた男子生徒がポンと肩を叩き前に出る。
 このハンサムを絵にかいたような超絶イケメン黒髪男子はディルムット・オディナ。陸上部のエースで特に短距離と槍投げにかけては敵無しらしい。
 とはいえこれは同級生のワカ……げふんげふんっ。もとい間桐慎二と遠坂凛が話していたのを聞いただけだ。
 私は陸上には余り興味がない。なにせマラソンなんて疲れるものをどうして好き好んでやるのか、と正月の駅伝を見ながら毎年疑問に思うような人間だ。
 きっと陸上部の人間にしか分からない良さがあるのだろう。そして自分はそれを一生理解できないんだろう、とある種の諦めを抱いている。
 だからという訳でもないが私はディルムットという同級生が得意ではなかった。だが彼が嫌いというわけではないし、あちらもこちらに友好的な感情をもってくれているので上辺の友人関係が続いている。

沙条綾香「そういうディルムットくんも遅刻? 帰宅部の私は笑い話になるけど、陸上部のエースが新学期に遅刻なんてしたら顧問の先生に怒られるんじゃない?」
<> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:53:52.55 ID:ucIj/ixg0<> ディルムット・オディナ「……陸上部のエース、か」

 私は何気なく言ったつもりだったがディルムットはじっと黙り込んでしまう。

ディルムット・オディナ「本当は俺より、クーフーリン先輩が帰って来てくれればいいんだけどな。あの人に比べれば俺なんてまだまだだよ」

沙条綾香「クーフーリン先輩って三年の」

ディルムット・オディナ「ああ。去年の五月までは陸上部始まって以来のエースだったんだが……ちょっとしたいざこざがあってな。今では釣り愛好会の所属だ。残念だよ」

 三年のクーフーリンといえば有名だったから私は一年生の時から知っていた。
 インターハイで新記録を叩きだしたとかでTVの取材を受けていた所を一度目撃したことがある
 ディルムットの横顔はなんとも深刻そうで、事情の複雑さを想像させた。

ディルムット・オディナ「っと、こんなことお前に相談しても致し方なかったな。忘れてくれ」

 超絶イケメンだとそういった何気ない愚痴ですら格好よく見えるのだからイケメンというのはお得なものだ。
 しかしワカメ曰く三年のマックール先輩と後輩のグラニアとの三角関係に発展しあわや自主退部という所までいったこともあるそうなので、ルックスが飛び抜けているというのは決して良いこと尽くめではないのだろう。
<> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:54:23.58 ID:ucIj/ixg0<> ディルムット・オディナ「おや。綾香、遅刻未遂者はまだいたようだぞ」

沙条綾香「え?」

ディルムット・オディナ「ほら。あれを見ろ」

 ディルムットが指さしたのは――――空。そんな所に遅刻未遂者がいるはずがないだろ、とこの学校に入学する前の綾香ならツッコんでいただろうが、この学校で二年も過ごせばここの学生が色々と常識外れなのは理解しているので今更オーバーなリアクションはしない。
 
沙条綾香「けどさ。……幾らなんでも学校にヘリってどういうことよ!? ヘリってどういうことよ! 大事なことなので二度言いました!」

 爆竜大佐の如くワルキューレの騎行を奏でながらヘリコプターが学校上空に接近してくる。
 非常識人の集いともいえるこの学校だが、ここまで非常識かつ空気読めない登校をしてくる人間は一人しかいない。というか他にいて欲しくない。

ディルムット・オディナ「ヘリコプターでの登校か。迫力は十分だな」

沙条綾香「なんでディルムットくんは平然としてるの! ヘリコプターだよヘリコプター!」

ディルムット・オディナ「むっ。そうだな、あのヘリコプターめ、どうでるか。ここにはヘリポートなどないぞ」

沙条綾香「気にするのそこなの!? でもそれも重要かも。まさか校庭に降り立ったりはしない……よね」

 その答えは直ぐに示された。他ならぬヘリコプターによって。
 ヘリコプターの扉が開く。するとそこからインゴットよりも一層の輝きをもつ黄金の髪と血のような真紅の瞳をした男が飛び降りた。
 一瞬投身自殺か、と目を見開く。だがヘリから飛び降りると同時にその男はパラシュートを開いていた。

ギルガメッシュ「ふんっ。チャイムが鳴るまで後三分しかないだと……? 執事め。計算が違うておるぞ。四分前に到着すると言ったであろうが。まったく計算もできぬとは戯けた雑種よ」

 この学校の生徒会長という名の独裁者であるギルガメッシュ先輩は相変わらずマイペースにそんなことを言っていた。
 ヘリコプターで登校するなんて非常識だ、なんて考えはあの人にはないようだ。この人の二つ下のギルくんは凄く良い子なのに、どうして兄弟でああも性格違うんだろう。ミニマム・ミステリーだった。
 私は嘆息しつつ、この世の非常識を呪いながら教室に入っていった。
  <> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:55:32.96 ID:ucIj/ixg0<>  始業式という退屈な時間は終わり、朝のHRというこれまた退屈な時間がやってくる。
 トワイス・H・ピースマン校長の話は他の学校のそれと違い三分程度で終わるのが救いといえば救いだった。内容は謎ポエムで意味はさっぱりなのが玉に瑕である。
 春休み明けの教室。
 久しぶりの学校、入学以来初めてのクラス替えということで普段以上の喧騒をみせている周囲と距離を置いて、頬杖をつきながら担任の先生をまつ。

ワカメ「なぁ沙条、噂聞いたか?」

 前の席にいるワカメ――――もとい間桐慎二もといワカメが話しかけてきた。

ワカメ「おい誰がワカメだ誰が!」

 地の分までツッコミを入れないで欲しい。
 ちなみに何故ワカメかというと頭がワカメだからだ。それ以上の理由はない。強いてあげるなら存在がワカメだからである。

沙条綾香「噂って、なんの? ランスロット先生が生徒の母親と不倫してクビになった話なら聞いたけど」

ワカメ「はぁ? あんな根暗教師がクビになった話なんて古いって。面白くもないしね。お前さ、情報が遅れてるぜ」

沙条綾香「………………」

ワカメ「鈍いねえ相変わらず。転入生だよ、今日うちのクラスに転入生が来るって話。まさか本当に知らなかったわけ?」

沙条綾香「初めて聞いたわ」

 ワカメの言い方にはムカムカするが、転入生というのは純粋に驚きだ。
 転入生がくるなんて一大イベント、小学生の時以来である。
<> もしもFateが乙女ゲーだったら<>saga<>2013/02/23(土) 22:56:22.12 ID:ucIj/ixg0<> 沙条綾香「それで転入生は男子、それとも女子?」

ワカメ「女子ならいいけどね。それで可愛い子なら僕のファンクラブにスカウトしてもいいんだけど。まっ! 僕の御眼鏡に叶えばだけどさ! HAHAHAHAHA!」

沙条綾香「…………」

 ワカメは放っておこう。どうしてこんなのと中学生からの腐れ縁なのか。自分で自分が悲しくなってくる。
 普通中学生からの腐れ縁といったらちょっと鈍いけどイケメンな主人公タイプが相場だというのに何故にワカメなのか。
 ロマンもなにもあったものではない。
 朝のHR開始の時間となった。
 その瞬間、教室のドアが開き倫理の葛木先生が入ってきた。
 成程。今年の担任は葛木先生なのか。まぁ去年のヴラド先生よりは一兆倍くらいマシだろう。ヴラド先生は以前に通り魔に心臓を突き刺されたからなのか、やたらと言動がアレなのだ。悪い人ではないのだが。一応。

葛木宗一郎「HRを始める。出席をとるが本日は転入生がいるので先ずはそちらの紹介をする」

 恐らく転入生という一大イベントをここまで機械的に消化する先生はこの人くらいだろう。
 教室は転入生というフレーズにざわめいたが葛木先生はそんなのお構いなしだ。淡々と「入れ」とドアの向こうにいるであろう転入生に声をかけた。
 入ってきたのは男子生徒だ。

ワカメ「ちっ。男かよ」

 ワカメが小さく舌打ちする。が、それは主に女生徒からの黄色い声で掻き消された。

アーサー・ペンドラゴン「転校生のアーサー・ペンドラゴンです。本日からここで学ばさせて頂くことになりました。宜しくお願いします」

 がたっと思わず立ち上がってしまう。
 なんとも出来過ぎたことであるが、

沙条綾香「貴方……あの時の」

アーサー・ペンドラゴン「あれ、君は今日ぶつかった」

 そうまるで少女漫画のような展開ではあるが。
 転入生というのは私が今日ぶつかってしまった彼だったのである。 <> アンドリュー・スプーン<>saga<>2013/02/23(土) 22:57:42.61 ID:ucIj/ixg0<> 取り敢えずニコニコにうpした乙女ゲー風味のFateの文章版です。残り37ですね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:01:16.00 ID:pkgUTFEDO<> スプーンさん的にクロとキャス狐ってどう? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:22:13.79 ID:J51/6HKc0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:25:22.53 ID:p0gv5Ohao<> クソワロタ
このベッタベタなノリで続けて欲しいw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/24(日) 03:54:14.18 ID:OFnBnuGS0<> ツッコミどころが多すぎて困る。
とりあえず紅茶とヘラクレスとピーマンに突っ込んでいいかなww
それとこの葛木先生は果たして魔女の夫の方か少年王の兄の方なのか。どっちでもいいけどね! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/24(日) 03:55:57.84 ID:OFnBnuGS0<> あ、ごめんなさい誤爆。
ピーマンじゃなくてピースマンね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 08:14:23.73 ID:NfZtSpbf0<> 今更知ったけどこの作品動画にまでなってたんだ
タイトル動画検索したら普通にニコ動に上がってた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 11:35:40.31 ID:gq5IykaDo<> 動画と同時進行だったよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 12:14:13.13 ID:rOerQaJ9o<> スプーンさんが自分で動画作ってるんだよ
(最後なので言うと動画はあまりにも見辛かったので途中からこちら一本にしました) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/25(月) 00:21:27.35 ID:eh/tSfJZ0<> SSから知ったが動画もおもしろくて一緒にみてたわ
次回が楽しみです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/27(水) 23:22:18.67 ID:Fs8RANod0<> いや、微妙な部分修正すれば本当に本編となんら変わりないレベルで面白いわ

次回は何ルートだろ、やっぱりFateルートでやるのかね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/28(木) 16:57:39.44 ID:3s4pKZQ2o<> >>973
どれも楽しみだな
セイバーがどれよりも死にもの狂いになってるだろうし
アーチャーは黒化してギルガメッシュ味方だし
桜は前より絶望深くてもライダーのおかげでワカメが綺麗になりそうだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/28(木) 18:47:12.59 ID:Ziww42GSO<> ライダーは速攻令呪でがんじからめにされそう
マスターのレベルが低いのは同じだけどその代わり魔翌力が桁違いだから厄介だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/28(木) 21:06:12.52 ID:JOFr0IE+0<> >>973
動画のあとがきで慎二と共闘するとか言ってたからどのルートにも属さない可能性アリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 02:53:23.08 ID:enRfj89y0<> キャスターは葛木先生と龍ちゃんのどっちがマスターだろうか
ハサン先生の立ち位置も気になるな、普通に虫じじい参戦か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 03:56:02.36 ID:PTOf8O7m0<> とりあえずセイバーと桜が幸せになるならどんな話でもいいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 16:56:39.41 ID:c+fGtza6o<> >>978
凛ちゃんさんェ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 17:51:38.30 ID:TqK1U1Fd0<> >>979
だって凛ちゃんさん自分で幸せになりにいっちゃうじゃないですかー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/04(月) 04:09:53.63 ID:GtHhQN3vo<> 続編はCCCの後でしたっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/05(火) 20:07:09.89 ID:9jhZMaODO<> >>978
い・・・イリヤもいれたげてよぉ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/03/27(水) 20:49:14.10 ID:MBvtYFDm0<> ライダーは桜なら宝具連発可能で。宝具持ちも召喚可能かな
イリヤはバーサーカーは全ての宝具同時使用可能だろうけど何か強力なものを操ってほしいところだ
アサシンはキャスターでは召喚できないだろうし誰が召喚だろう
キャスターは一人で行動かな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/03/27(水) 20:52:50.54 ID:MBvtYFDm0<> バーサーCAR が本家より違和感ないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/04(木) 20:53:33.62 ID:+bz0UGva0<> >>983
亀だが一応アサシンのマスターは存在したんだってワールドガイドに会ったよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/04(木) 21:29:22.65 ID:Z0rr2s710<> たしか召喚前にキャス子に令呪奪われて殺されたんだっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/06(土) 11:38:53.39 ID:Kmu1GdIx0<> >>1はそろそろCCCクリアしたかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/07(日) 12:19:04.97 ID:2KQea7DV0<> CCCで英雄王がマジでチート的存在だったことが明らかになったな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/09(火) 00:23:34.69 ID:LL+PVtPJo<> 1ターンにバビロン連打...とどめとばかりに即死のアレ... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/13(土) 17:05:19.32 ID:7jTH8rx50<> 動画で全ルートクリアしたって言ってたからそろそろかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/23(火) 19:44:12.48 ID:4NPmWolf0<> raの続き楽しみにしてる <>