VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:27:21.98 ID:H1RzuMIg0<>『終点』*オリジナルです。苦手な方はご遠慮ください*
父さんは昔いつも僕に、
「健一、死ぬ気になれば何でもできるぞ」
と言っていた。
そんな言葉を物心ついたときから徹底的に浴びせられた僕は今、追い詰められている。
死にたい。いや、もう死ぬと決めたんだ。
こんなこと口にしたら誰かが「早まるな、生きていたらいいことある」などと言うだろう。
でも、僕は早まってなんかいない。
初めて「死のう」と真剣に考え出してから、もう二年以上が経つのだ。
しかもその思いはだんだんと強くなっている。そろそろ死んだってバチは当たらない。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1353821241
<>ねぇ健一、線路に飛び込むのはどう?
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:29:21.52 ID:H1RzuMIg0<> 父さんは三年前に会社をクビになってから毎日パチンコと酒に明け暮れていた。
その頃から僕に「死ぬ気になれば――」なんて言わなくなった。
そんなある日、いつものように酔っぱらった父さんは、ただ欲望のままに女子高生を襲い、警察に捕まった。
いまはどうしているのか知らないし、知りたくもない。
母さんは父さんに代わって日夜働いているのだが、僕は最近、母さんがどんな髪型なのかかも分からなくなってしまった。
僕が寝た後で帰宅し、僕が起きる前に出勤する毎日。
父さんが捕まってからは、家に帰ってくることも少なくなったようだ。
母さんも、僕が最近新しいゲーム機を買ったことや、自殺しようと考えていることなんて知らないだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:31:55.64 ID:H1RzuMIg0<> クラスではいじめられた。殴る、蹴るは日常茶飯事で行われたし、靴の中にムカデや犬のフンを入れられた。
最初は嫌がったし、先生にも相談した。けれど先生が、
「もう少しで中学校は卒業だから、我慢しろ。今はみんな受験前でピリピリしているだけだ」
と言ってからは何も口答えせず、反撃もすることなく耐えた。
もう少しで高校生。高校生になればこんないじめも無くなる――。
まだ中学生だった僕はそう信じていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:33:47.10 ID:H1RzuMIg0<> 僕は県内の公立高校に進学した。気分を一新しようと新しい腕時計も買った。
けれど、だめだった。
同じクラスに、僕をいじめていた奴らの一人がいた。
そいつは入学式の次の日に僕の腕時計を叩き壊した。
そして僕は同級生たちの前で、制服を脱がされたり水をかけられたりした。
周りの奴らも黙って見ているだけ。そんな生活が二年以上続く。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:35:09.10 ID:H1RzuMIg0<> いじめられていることを高校の先生にも親にも言わなかった。
今までの経験から言って、どうせ当てにはならない、と思っていた。
それに、弱みを握られるような気がして怖かった。
だから僕は毎日休まず学校へ行った。休んだりしては、先生や親が不審に思うだろう。
そんな中、僕の心を理解してくれる人が、たった一人いた。それが亜矢(あや)水(み)だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:36:21.18 ID:H1RzuMIg0<> 亜矢水は僕と同じ高校で同級生の女の子だ。
理由は知らないが、亜矢水も僕と同じようにいじめられていた。
だからなのかもしれないけれど、僕と亜矢水はお互いに惹かれあった。
僕が苦しんでいるときは亜矢水が慰めてくれたし、亜矢水が苦しんでいるときは僕が慰めてやった。
言葉を介して、体を介して、心を介して、なんとか元気づけようとお互い必死だったけれど、
少しだけ心の隙間を埋めることができた。
けれど、あの「事件」が起きてしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:38:05.87 ID:H1RzuMIg0<> 僕に自殺を決心させた「事件」。それは父さんの女子高生への暴行だった。
リストラされた日から遊び人と化した父さんを毎日のように見てきたが、僕は心のどこかで
「いつかきっと昔の父さんに戻ってくれる」
と期待していたのかもしれない。その思いがあの「事件」によって完全に打ち砕かれ、僕は心に相当大きな傷を負ってしまった。
けれど、亜矢水は慰めてくれなかった。いや、慰める余裕なんてあるわけがない。
僕の父さんが犯したのは、あろうことか亜矢水だったのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:39:21.21 ID:H1RzuMIg0<> 本来、僕が亜矢水の支えとなってやらないといけなかったのだが、今回ばかりは無理だった。
僕と亜矢水は、お互い傷を舐め合うことさえも許されなくなった。
そして、他に助けてくれる人がいないことを改めて知った。
学校ではいつもどおりいじめられたし、家に帰っても誰もいない。
だから僕は自[ピーーー]る。どうせ死んでも誰も悲しまない。誰も泣かない。
亜矢水なら悲しんでくれるかもしれないが、そのことは僕にとって何の意味を持たなかった。
亜矢水も僕と一緒に死ぬからだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:42:07.14 ID:H1RzuMIg0<> 「この薬を使うっていうのはどう?」
「最近流行っているけど、これって実際かなり苦しいらしいよ。僕はできれば一瞬で楽に死にたいな」
亜矢水は驚いた様子で目を見開いた。左目の充血は、この前学校で殴られたときの名残なのだろうか。
「じゃあ踏切に、せーので飛び込もっか」
「あ、それいいかも。あとで親にもひと泡ふかせられるな。でも、亜矢水は…」
「ううん、大丈夫だよ。お父さんは癌で死んじゃったし、お母さんはあたしの弟しか眼中にないし。今の家族は、大嫌い」
そういえば、亜矢水の家庭のことについてはあまり聞いたことが無かったように感じる。
昼過ぎに入店したファミレスの窓からは、もう斜陽が差し込んでいた。
外ではカラスが鳴きはじめているのだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 14:43:44.86 ID:H1RzuMIg0<> ピーーーに引っかかるとはwwww
つづきは15時くらいから <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 14:53:08.85 ID:glxYzyEDO<> 期待する。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:09:54.43 ID:H1RzuMIg0<> >>11
サンクス
いまから続きあげていきます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:12:24.71 ID:H1RzuMIg0<> 「わかった。じゃあ、いつ決行する?」
僕は別にいつこの世からいなくなっても良かったので、亜矢水に判断を委ねることにした
「あたし今日中に遺書を書き終わっちゃうから、明日の夕方くらいがいいな」
「遺書、か。…俺は書かなくていいや」
「最後に何か伝えなくていいの?お礼とか恨みとか」
「いや、言っても無駄だな、俺の場合。母さんとはそもそも全然しゃべってないし、父さんは…」
言いかけて、僕は口をつぐんだ。
「ごめん…」
「健一は悪くないよ、心配してくれてありがとね」
亜矢水は少し困った顔をしながら、でもはっきりとした口調で言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:14:35.51 ID:H1RzuMIg0<> 「うん。…じゃあ、明日の午後六時くらいに駅前集合ということで」
「そだね…」
僕たちはファミレスを出て、西日の眩しい田舎道を歩いた。
すれ違う人、辺りを飛んでいる虫や鳥、遠くに聳える山もみんな、僕たちにお別れを言っているように見えた。
亜矢水は店を出てからというもの、俯いたまま何も話さなかった。
父さんの話をしたからかもしれないと思ったが、どうしても、かける言葉が見つからなかった。
やがて、分かれ道に出た。
僕の家は右で、亜矢水は左。
「じゃ、また…」
と手を挙げかけたところで、
「待って」
亜矢水が今にも消えてしまいそうなか細い声で言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:16:54.61 ID:H1RzuMIg0<> 「えっ…」
「待って、お願い」
「…どうしたの、急に?」
「…あたし、もう限界なの。ホントは今すぐ死にたい。
このまま家に帰ったら、遺書を書き終える前にカッターで手首を切って死んじゃうかもしれない。
湯船に顔を埋めて死んじゃうかもしれない」
そこまで言ったところで、亜矢水の頬を一筋の涙が流れた。顔は歪み、鼻の頭は少し赤くなっている。
「…でも、そうしたら、あたしは一人で天国に、行かなきゃいけなくなる。
それじゃ、だめなの。健一にも、迷惑を、かけることに、なるし、それに…」
僕は亜矢水の言葉を遮って、その小さく震える唇に口づけをした。
それはキスというより、亜矢水に明日まで生きる力を吹き込んだ、といった感じだった。
亜矢水の涙は塩辛くて、海の味がする。
もしこの地球に「海」というものが存在しなかったなら、
僕も亜矢水も生まれてくることは無かった。
こんなに苦しむことも無かったのに。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:21:07.77 ID:H1RzuMIg0<> どのくらいの間そうしていただろう。僕と亜矢水はほぼ同時に顔をゆっくりと離した。
亜矢水は、もう泣いていなかった。
「…ありがとう」
「いや、いいんだ、亜矢水。僕の方こそ、その…ありがとう」
「何か変よね、明日死ぬって言うのに」
亜矢水がぎこちなく笑う。
「まぁ、こんなもんじゃないかな」
「うーん、そうかもね」
今度はにっこりと笑った。
「じゃあ、また明日ね」
「送って行こうか?」
「ううん、大丈夫。元気もらったから。生きられるし、[ピーーー]るよ」
「なんか矛盾してるなぁ」
「そうかなぁ。とにかく、また明日ね、健一」
また明日、という言葉が少し胸に引っかかった。
明日がくるのは、今日が最後なのだ。当たり前のことだけど。
「ああ、亜矢水も」
亜矢水は元気よく手を振り、そのまま帰っていく。生きるため、そして死ぬために。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:23:09.67 ID:H1RzuMIg0<> >>16
ピーーーは
死ぬことができるよ
という内容です
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:24:13.77 ID:H1RzuMIg0<> 家に帰ると、出迎えてくれるのはいつもと同じ光景。
暗い玄関、
冷たい廊下、
そしてリビングの電気を付けると、テーブルの上にはカップ麺。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:25:40.17 ID:H1RzuMIg0<> けれど、ひとつだけいつもと違う。
カップ麺の下に紙切れが挟まっていた。
罫線付きのルーズリーフに何か走り書きしてある――母の字だ。
『最近、かまってあげられなくてごめんなさい。
一泊二日で金沢に出張に行ってきます。
何かあったらすぐに電話しなさいね』
一応心配してくれているという事実が、僕には凄く新鮮だった。
母親という存在の温かさ――。
それは、なんだが懐かしい匂いがした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:28:03.83 ID:H1RzuMIg0<> 母さんと久しぶりに話がしたくなった。
僕が「自殺を考えている」なんていったら何て言うだろう。
やっぱり止めるんだろうか。
止められても、僕は亜矢水と一緒に死ぬことができるだろうか。
期待と不安が入り混じる中、僕はケータイの画面を開いた。
電話帳から母さんの名を探す。
しかし、そこに表示されていたのはメールアドレスだけで、電話番号は無かった。
僕は母さんの電話番号すら知らなかった。
そしてそのことを、母さんは知らなかった。
僕は母さんにメールを送った。
ただ一言、
「ごめん」
と。
これは遺書なのかな、と考えると自分で可笑しくなった。
そして、こんな短い、しかも電子メールでの遺書もいいかもしれない、と思った。
母さんからの返事は、無かった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 15:32:23.38 ID:H1RzuMIg0<> ここで第一部終わりです
第二部(と言っても二部構成ですが)はPM4:30くらいから書きたいと思います
…って見てる人いるんかな
次までの間にピーーー対策しますすいません
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:30:11.69 ID:H1RzuMIg0<> 約束の時間が近づき、僕は駅へ向かった。
少し早目に着いたが、すでに亜矢水は駅前にいた。iPodをぶらさげてイヤフォンで音楽を聴いている。
その表情は、どことなく心地よさそうだった。
きっと彼女が好きなアーティストの曲でも聴いているのだろう。
太陽はちょうどその半身を地平線に飲み込まれていて、空の色は茜から紺へと変わり始めている。
「うっす」
声をかけるだけでは気付かないだろうと思って後ろから肩を軽く叩いた。
「あ、健一。早いね」
亜矢水は左耳のイヤフォンを外す。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:31:36.53 ID:H1RzuMIg0<> 「それはこっちのセリフ。ていうかiPodなんて持ってたっけ。まさかあの世へ持って行くつもり?」
亜矢水はクスクスと笑い、それから右耳のイヤフォンを外すと大事そうにiPodをポーチにしまいながら、
「これ、実はお母さんが弟の誕生日に買ったものなの。
どうせ死ぬんだしと思って、弟の部屋から持ってきちゃった」
そう言うと悪戯っぽくはにかんだ。
とても今から自[ピーーー]るような子には見えない。どこにでもいる普通の女子高生だ。
僕も傍から見ればそんな風に――普通の男子高校生に見えるのだろうか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:32:29.72 ID:H1RzuMIg0<> >>23
ピーーー は、
自殺をする
です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:33:40.00 ID:H1RzuMIg0<> そういえば、なぜ亜矢水はいじめに遭っていたのだろう。
彼女とはそれなりに長く接してきたつもりだが、容姿も性格も全く問題ないように見える。
まあ、明確な理由があるいじめの方が珍しい現代では、そんなこと関係無いのかもしれない。
僕がいじめられるようになったキッカケは「足が遅いから」だった。
体育祭のリレーでいつもクラスのお荷物になっていて…それが最初だったように思う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:34:27.15 ID:H1RzuMIg0<> 「健一は何も持ってこなかったの?」
うん何も、と言いかけて僕は自分のポケットにケータイが入っていることに気づいた。
無意識のうちに持ってきてしまっていたのだ。
結局、母からの返信は無いままだった。
それでも未だに僕はケータイを持っている。
誰かにすがりたいのかもしれないし、誰かからの連絡を無意識のうちに待っているのかもしれない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:35:39.36 ID:H1RzuMIg0<> その後しばらく、今日はよく眠れたかとか、最後の食事は何にしたとか他愛無い会話をして、僕たちは歩き始めた。
駅を死に場所としてもよかったのだが、どうせならあまり人気の無い場所が良いということで、
(そもそも二人ともお金を持っていなかった)
僕と亜矢水は駅から歩いて十分くらいのところにある踏切に向かっていた。
ちょうど目的の踏切に着く頃になって、遠くから電車の音が聞こえてきた。
少ししてから踏切も一定のリズムで音を鳴らし始め、長いバーを気怠そうに降ろしていく。
いつも見ている風景なのに、そこに日常は無く、言い知れぬ感情の渦が僕たちを包み込んでいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:36:25.03 ID:H1RzuMIg0<> 亜矢水が僕の手を、それまでよりも強く握った。
僕もその手を強く握り返し、そのまま歩き続けた。
太陽は地平線にほぼ隠れていたが、まだ空気は熱を帯びていて、握っている手もじんわりと汗ばんでいる。
僕と亜矢水は踏切の前に着いた。
瞬間、電車は僕たちの前を爆音とともに通り過ぎていった。
そこら中に生えている雑草が一斉に揺れ動き、バッタがぴょんと跳ね上がった。
ここで、死ぬのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:37:45.04 ID:H1RzuMIg0<> 「亜矢水」
「ん、何?」
亜矢水はいつの間にか髪留めを外していた。
カッターで切られたせいで少し短い髪が、風にふわりと揺れている。
額の汗は暑さのせいではないのが、僕には分かった。
「こんなこと今言うのもなんだけど…遺書にはなんて書いたの」
「いろいろ。お母さん大っ嫌いとか、幸子のバカ、由紀子のドアホ…それと、ゴメンネって」
「え?」
「弟に。だって、あの子は何も悪くないでしょ。悪いのはぜーんぶお母さんなんだから。
それに、これも盗っちゃったしね」
と言って、亜矢水はポケットからiPodを取り出して、踏切の横にある電柱の下にそっと置いた。
その姿は、何か寂しそうだった。
太陽はもう完全に地平線に埋まり、辺りはすっかり暗くなっている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:39:02.72 ID:H1RzuMIg0<> ふいに、ケータイの着信音が鳴った。
亜矢水は驚いたのか一瞬跳び上がり、すぐに僕の方を見た。
僕は思わず亜矢水から目をそらした。
誰からだろう――。
僕はポケットからケータイを取り出そうとして、やめた。
いまさらそんなこと確認したところで、何の意味も無い。
意味なんて無いのに。
僕はケータイを持ってきた。
どうしてだろう。
何を期待していたのか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:40:36.52 ID:H1RzuMIg0<> 急に自分の決心が揺らいでいくのが分かる。
あぁ、こんなことになるならやっぱり持ってくるんじゃなかった。
淀んだ心にすーっと、懐かしい風が吹いている感じ。
なんだか全てが馬鹿らしくなった。
今までやってきたことも、
これからやろうとすることも。
ここまで来るのに、僕は多くのものを見落としてきたのかもしれない。
もし、いまここで死ぬのを止めれば――。
「あ、そろそろ…」
亜矢水がそう呟いた。もうすぐ電車がここを通る時間だ。
少しずつ電車の音が聞こえてくる。近づいてくる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/11/25(日) 16:41:23.17 ID:jWc4y5lAo<> ピーは、メール欄に『saga』と入力すると解除できるよ
sageじゃなくてsaga
さげ、じゃなくて、さが
死ね、殺すもそのまま表示される <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:41:55.52 ID:H1RzuMIg0<> 僕はケータイを近くの草むらに思い切り投げ捨てた。
と同時に、踏切から規則的な機械音が鳴り始めた。
赤いランプが僕と亜矢水を交互に照らし、まるで僕たちの自殺を止める気もない様子で、面倒くさそうに遮断機が降りてきた。
「…いいの?」
「大丈夫。…よし。亜矢水、行こうか」
「うん」
僕は遮断機を右手で押し上げ、亜矢水を通したあとで自分もゆっくりくぐった。
電車の前方のライトがかすかに見える。
もう後には退けない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 16:43:07.66 ID:H1RzuMIg0<> >>32
そうなのか
知らなかった!サンクス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 16:45:44.03 ID:H1RzuMIg0<> 死ぬ気になれば何でも出来るなんて嘘だ。
僕は死を目前に控えた今改めて思う。
死ぬ気で頑張っても夢を叶えられるのはごく一部の人間だし、働くことすら許されない人だってたくさんいる。
僕はそんな世の中でいじめに耐えることすら出来なかった。
この世には、障害が多すぎる。
電車がどんどん近づいてきた。
ライトがだんだん眩しくなる。
ここにきて、僕の足はすくんで石のように動かなかった。
鼻がつんとして、目に涙がたまる。
こみ上げてくるのは、自分の行動と相反する感情だった。
シニタクナイ
久しく出会っていない感情だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 16:47:18.80 ID:H1RzuMIg0<> 僕は耐えられなくなって、亜矢水の方を見た。
亜矢水は、真っ直ぐ前を向いていた。
けれど――歯を食いしばって、今にも泣きそうな顔をしていた。
小さな体は小刻みに震え、立っているのが精一杯なように見えた。
そうだ、僕は天国で亜矢水を守らないといけないんだ。
亜矢水を励ましてやらないといけないんだ。
そして、亜矢水と一緒に暮らすんだ、
いつまでも、
いつまでも、
いじめのない世界で。
そう思うと、なんだか心に少し余裕を持てた気がした。
僕は前方の線路を見据え、彼女の手を握った。
最初はびくっとした亜矢水だったが、すぐに彼女も強く握り返してきた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 16:48:51.07 ID:H1RzuMIg0<> 「健一」
「ん?」
「ありがとう。健一がいたから今まで生きてこられた」
正面を見据えたまま、笑っているのか泣いているのか分からない顔で亜矢水が言った。
目からは涙が溢れていたが、声はしっかりとしている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 16:49:42.99 ID:H1RzuMIg0<> 「なんだよ、今更。恥ずかしいじゃないか」
僕は手を握っていない方の手で頭を掻いた。
線路の周りの田んぼは全て暗闇に覆われている。
「だって…これが最後だもん」
「いや、最後じゃない」
亜矢水が僕の方を向く。
僕は前を向いたまま続けた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 16:58:39.51 ID:H1RzuMIg0<> 「この世では最後かもしれない。でも、また向こうですぐ一緒になれるから、だから…安心して」
「うん」
僕と亜矢水は、手を握ったまま線路を見つめていた。
この場所で僕と亜矢水を人生の終点まで乗せていく鉄の箱は、何も知らずにこの踏切へ突っ込んでくる。
強烈なライトが二人の身体を包みこんだ。
そのときーー
どうしてか一瞬、母親のことを思い出した。
そしてあのメールが、母さんからのものであることを確信した。理由はないけれど。
僕は一度大きく深呼吸をした。
亜矢水も隣で同じように呼吸を整えている。
「行こう」
「うん」
そして、握り続けて汗ばんだ手を更に強く握り、
一度大きく振って、
「せーのっ」
掛け声とともに、僕と亜矢水は線路へ身を投げた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:00:20.87 ID:H1RzuMIg0<> 『健一へ』
謝らなきゃいけないのは健一じゃないでしょ。
いま帰りで、もうすぐ駅に着きます。
今日は久々に健一が大好きなハンバーグつくる予定。
家に帰る前に連絡してね。
母より
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:07:21.55 ID:H1RzuMIg0<> 電車が通った。
僕の体をぐちゃぐちゃにして、
僕の魂をあの世まで送ってくれる鉄の箱。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:08:31.23 ID:H1RzuMIg0<> それは警笛を鳴らしながら、瞬く間に僕の目の前を通り過ぎて行った。
生きているのか死んでいるのかはよく分からなかった。
目の前は真っ暗でほとんど何も見えない。
そして左手の先を見るとそこには、うずくまって僕の腕を両手で掴み、下を向いて震えている亜矢水がいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:10:22.74 ID:H1RzuMIg0<> 「ほら…上を向いて」
僕は亜矢水に言った。自分でも驚くほどやさしい声だった。
「ごめん…なさい…」
亜矢水はそう言って顔をあげた。
目からは大粒の涙を流していた。
あぁ、僕たちは生きてるんだ――。
そのとき初めて実感した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:11:06.22 ID:H1RzuMIg0<> お互い、死ぬのは怖かった。
どんないじめにも苦痛にも耐えてきた僕たちがまだ味わったことのない「死」の恐怖。
平静を装いながらもずっと心の奥底で恐れていた。
一人なら、あるいは死ねたのかもしれない。僕はそう思った。
結局、亜矢水と僕は互いに命を救いあった形となってしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>saga<>2012/11/25(日) 17:13:27.24 ID:H1RzuMIg0<> 「あたし、勇気が、足りな、くて…」
「分かってる。俺もそうさ。だから泣くなよ」
事態は何も変わっちゃいないけど、心はとても穏やかだった。
久々に、生きている心地がした。
ようやく亜矢水は掴んでた僕の左腕をゆっくりと離し、袖で涙をごしごしと乱暴に拭いた。
そして立ち上がり、僕の方を見て、
「健一、も…泣いてる、じゃん…」
と、泣きはらした顔で笑った。
僕の瞳からあふれた涙は――海の味がした。
完
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/11/25(日) 17:16:40.61 ID:H1RzuMIg0<> はじめての投稿でした!ありがとうございましたー
むかし途中までブログにあげてた話なんですが完結させたくて頑張りました
感想や意見などありましたら今後の参考にしたいので
よろしくお願いします <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/25(日) 18:42:30.57 ID:glxYzyEDO<> 短いが良かったよ
事態が何も良い方向に向かってないのでスッキリはしないが、話を膨らませる要素もあるし、
今後の作品に期待。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/11/28(水) 01:18:14.54 ID:vPS+21koo<> 今読み終わった
俺はすごく好きだ ちょうど俺も将来に不安があって色々考えてたからな
良かったらまた書いてくれ <>