◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:23:13.58 ID:ImpwMRpT0<>男「はあ……はあ……」スタ スタ

足が鉛のようになってきた。

男「はあ……はあ……」ズンッ

おぶった彼女が岩のように重い。

男「こんなこと言ったら怒られちゃうね」

女の子に重いって言うなぁーっ。

男「って」

山頂は遠い。
まだ中腹にも差し掛かっていない。

眠り姫は未だ起きる兆しがない。

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<>眠り姫をおぶって山登りはキツい。
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:23:43.42 ID:ImpwMRpT0<> 額の汗が目に染み込んで足を止める。
途端にぼうっと意識が揺らいだ。

男「体力ないな、僕は」

彼女も言っていた。

『細くて華奢だと女の子にモテないぞ〜?』ニシシ

悪戯っ子のような笑み。

興味がないと僕は答えた。

『う、嘘だっ、そんな男子がいるはずないよっ』

本心だった。
彼女に好かれさえすればいい。
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:24:11.12 ID:ImpwMRpT0<> それが切欠か次々に思い出が蘇る。
例えば、彼女との出会い。

ある日の日直は僕と彼女だった。
放課後に軽い掃除をするために残っていた僕らの間は沈黙だ。

特に接点もなく、話したこともない。
二人してさっさと帰ろうとしていた。

『え?』

彼女に釣られて目を向けると
教室に不似合いな動物がいた。

そいつはゴロニャンと首を回す。

『ね、猫だよ男くん』

そうだね。

『どこから入ってきたんだろう……よーしよし、おいでー』チチチ

小鳥の鳴き声で誘う彼女。
けれど猫はそっぽを向いている。

『んー仲良くしたいのにー』

うんうんと顎に手を添えて首を傾げる彼女に釣られて猫も首を倒す。
携帯で保存するのは失礼だから網膜に焼き付けた。
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:24:53.36 ID:ImpwMRpT0<> 『にゃん、にゃん、にゃーご』

よほど仲良くなりたいのか猫真似を始める彼女。
丸めた右手で空を引っ掻く。

『にゃん、にゃぁーん……むぅ』

猫は素知らぬ顔で欠伸を一つ。
その調子で無視しててくれと邪なことを思った。

『男くん、いい案はないでしょうか』

猫は動くものを追いかける習性があるよ。

『なるほど、猫じゃらしだね!』

彼女は通学鞄から大きめのストラップを取り出す。
犬の編みぐるみ。

『そーれそれ、美味しいぞー』

その誘い方はどうかと。

『いいじゃんいいじゃん』

能天気。

『よく言われるもんねー。あっ』

ぱあっと表情が眩しくなる。
猫はせっせと犬を追いかけていた。

それから三十分ほどして帰った。
特に代わり映えのしない、出会い。
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:25:37.00 ID:ImpwMRpT0<> 「小屋だ……少し休もうか」

休憩所だろうか、古びた木の小屋があった。
中は片付いていたが埃が被っていた。

彼女にブランケットを被せる。
壁に凭れると足の疲れが溶けていく。

頼りない電気傘がゆらりと揺れた。

「奇跡が起きたのはいつだったっけ」

彼女に好かれるという奇跡。
それを教えて貰えた軌跡。

かれこれ一年前だったか。

「いつまで眠ってるんだか、お姫様は」

ぐーすかぴーすか。
そんな音も立てずに。
静かに夢の世界を彷徨っている。 <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:26:09.39 ID:ImpwMRpT0<> 『お、男くんはさ、好きな人とか、とか、いるの?』

学校の帰りに近くの喫茶店へ寄った時のことだ。
どう答えるのが適切かな、と考えて。

さあ?

とはぐらかした。

『ず、ずるいんじゃないかなーそういうのって!』

そう?

『そうだよ、だってさ? だってさ……ゴニョゴニョ』

この頃の僕は女さんに好かれているかも、なんて甘い期待はしていなかった。
根っからネガティブな方だから。

『仮にさ、誰かに付き合ってって告白されたらどうするの?』

女さん以外に告白されても困る、と考えて。

断るかな?

『そ、そっかー。断るかー、そっかー、あははー』

遠目で窓の向こうを見詰める女さん。
視線の先にあるのは精々工場の煙突から吐き出される煙ぐらいだ。

ばちんっ、と唐突に女さんが自分の頬を叩く。

『あう』

余程強めに叩いたのか頬が赤かった。
可愛かった。

『だからどうしたって話なわけでさ、うん。そうだよ、うん!』

どうしたの?

『男くんが好きです付き合ってください!』

衝撃的な言葉に、どれぐらいだろう。
女さんが沈黙の緊張に耐えかねて涙ぐむぐらい放心していた。

答えはもちろん――喜んで。

あの時の女さんの笑顔が忘れられない。
彼女の周りだけ妙に鮮やかだったのは、気のせいじゃないはずだ。
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:26:48.85 ID:ImpwMRpT0<> 「よし、行こうか」

充分とはいえない休息を終えて再び山頂を目指して登る。
背負った女さんは死体のようにぐったり力が抜けていた。

泥酔した人間もこうなるらしいけど、飲んでないんだよね?

「もう少しで叶うからね、女さん」

女さんがどうしてもと頼んできた願い。
どうしてそんな話になったんだっけ? <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:27:32.43 ID:ImpwMRpT0<> 『男くんは夢ってある?』

女さんと幸せな家庭を築くことかな。

『男くんってそういうの照れずに言うよね……こっちは照れるけど//』

女さんはどんな夢があるの?

『私はね、夢っていうより、そうだなあ……』

公園のブランコに並んで乗っていた。
錆びた鎖が悲鳴をあげる。

ぎい、ぎい。

『どうしてもこれだけは叶えたいってことができたんだ』

なに?

『三坂山って知ってるよね?』

うん。北の山だ。

『そこの景色を男くんと見たい、かな。えへへ//』

嬉しいな。

『そ、そう? えへへ// すっごく綺麗なんだよ。目が覚めるような壮大な景色でさ、あれは近くにいるのに見ないなんて損だよ!』

よし、是非見に行こう。

勢いをつけた女さんがブランコから飛び降りる。
腰に手を添えた彼女は喜色満面に振り返った。

『やくそくだよっ』
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:28:00.17 ID:ImpwMRpT0<> 「そうだ、女さんはいつも突然な人だから」

踏みしめた拍子に小枝がぽきっと折れた。
バランスを崩しかけたのを必死に踏ん張る。

万が一にも女さんを落すわけにはいかない。

大切だから。

親より、僕より、三坂山より、この世界より。
誰より。
何より。 <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:28:46.34 ID:ImpwMRpT0<> 朝に登り始めたのにも関わらず山頂についたのは真夜中だった。
十八時間は歩いたのか。
休みながらとはいえ自分を褒めてやりたい。

女さんが居たからできたことだ。

山頂には馬鹿でかい木があった。
見上げれば空を突き抜けているかのような木があった。

そんなわけはないだろうけど。

木の傘の下で大木に身を預ける。
女さんを引き寄せて、朝になるまで眠った。

壮大な景色は夜のことではないようだ。
きっと、女さんはこの景色を見たら泣いてしまうだろう。

どこまでも深い暗闇が延々と続く様子は圧巻ですらあれ、壮大には遠い。

壮大な闇?

闇の下で沢山の人が暮らしているのかと思うと苦笑した。
ああ、これは人食い闇なんだな、と。

今にも僕を食らいそうだ。
それだけの圧迫感があった。

無なのに。 <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:29:31.97 ID:ImpwMRpT0<> 目が覚めると昼過ぎだった。
雨が降ることもなく、霧もなく。

女さんが興奮していた壮大が目に移る。
なるほど、壮大だ。

山に続く山。山に連なる山。
雲の絨毯が民家を隠して、世界に自然だけを残していた。

寝起きだからこそ感慨深い。
僕の目は、頭ははっきりと覚めた。

「で、いつまで寝てるの女さん」

彼女は未だ眠っている。
起きる気配がどこにもない。

「目が覚めるような景色だって、自分で言ってたじゃんか」

それでも起きることはない。
まあ、それならそれで。 <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:30:08.02 ID:ImpwMRpT0<> 彼女に告白された時、彼女の周りだけが色づいて見えた。
彼女だけが僕にとっての色だった。

世界は灰色。
物心ついた時からずっとそう。

先天的な心因症らしいけど、つまりそれは脳の欠陥だ。

物を穿った見方でしか見れない。
人の真意を汲み取れない。
愛情を裏返して読む。
自分の気持ちを伝えられない。

何一つとしてまともじゃないと親になじられた。
それでも僕はなにも感じなかった。

嬉しかったのも、笑えたのも、女さんと話した時だけだ。
理由がなくても納得できたのも、女さんと居た時だけだ。 <>
◆QkRJTXcpFI<>saga<>2013/01/17(木) 02:30:50.75 ID:ImpwMRpT0<> 彼女はいつまで寝てるのだろう。
再び女さんを背負って考える。

彼女はいつまでも寝てるのだろうか。
足を踏み出して考える。

彼女と話すことはもう叶わないのだろうか。
絨毯を見詰めて考える。

僕が眠ればまた会えるのだろうか。
青い光に包まれた。


世界が急速に反転する。
青空が下に。雲が上に。

僕を眠りに誘う力は強かった。
彼女を起こすには至らなかった。

いつまでも眠る女さん。
それなら僕も眠ればいいだけ。

雲の絨毯に突っ込んで。
青い光が遠ざかる。

次に女さんと会った時は。
一度でいいからまともな人間になりたいと思った。

「好きです」

きっと、多分、かも、もしかしたら。
曖昧な感情を四捨五入して感情的に伝えたい。

だって、僕はまだ好きだと言っていないんだよ。

でもその前に。

「おはよう」
<>
◆QkRJTXcpFI<>saga sage<>2013/01/17(木) 02:31:16.81 ID:ImpwMRpT0<>

end. <>
◆QkRJTXcpFI<>saga sage<>2013/01/17(木) 02:32:07.94 ID:ImpwMRpT0<>
よく作者のオナニーだ、とかいうレスを見かけるけど。
こういうのがそうだと思う。

しかも早漏、さーせん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/18(金) 16:56:52.05 ID:GCsi+NLR0<> 乙

無粋かもだが女の動かない理由が知りたいな <>