◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/08(木) 23:50:43.47 ID:LdFPouvJ0<> それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/


part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/


part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/


paer9
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399560633
<>モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/08(木) 23:52:26.65 ID:LdFPouvJ0<> ・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは基本的に>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」@wiki掲示板
http://www3.atchs.jp/mobamasshare/ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/08(木) 23:54:48.35 ID:LdFPouvJ0<> ☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪の悪魔』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪に関連する固有能力を持つ。『怠惰』『傲慢』は狩られ済み。
初代大罪の悪魔も存在し、強力な力を持つ。

――――

☆現在進行中のイベント

『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?

『オールヒーローズフロンティア(AHF)』
賞金一千万円を賭けて、25人のヒーロー達が激突!
宇宙人も恐竜も海底人も悪魔も未来人も魔法少女も大集合!
賞金を勝ち取るのは……誰だ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/05/09(金) 08:12:13.21 ID:n3uaoOPaO<> 立て乙
ついに二桁目突入ですね
おめでとうございます <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:28:09.91 ID:V1EdhFAt0<> 投下します。

時系列はイルミナティテロです <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:29:00.61 ID:V1EdhFAt0<> 黒い雨が降りしきる、街の広場。

多数の蜥蜴のカースが現れ、爆発し、人々は逃げ惑いパニックにおちいっていた。

「ひっ!は、離れろ!離れろぉぉぉ!!」

「あ、あいつはもうダメだ!巻き込まれる前に逃げるぞ!」

「巻き込まれる前にスタコラサッサーだぜ!」

そんな中、逃げている人々の中、一人の男性に蜥蜴型カースがくっついた。

周りの人々はまきこまれまいと、男性を見捨てて一目散に逃げ出した。

男性は必死に払おうとするが、蜥蜴型カースは離れず、そのまま閃光を放ち…… <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:30:17.87 ID:V1EdhFAt0<> 『加蓮ちゃん。そっちお願いします〜』
??「加蓮ちゃん。お願いします〜」

??「こ、今度はこっち!?」

??「加蓮ちゃん。がんばるにゃ!」

爆発する前に、重なるように聞こえる二つの声と慌ててるような声とそれを応援するかのような声が聞こえたかと思うと、黒い何かが横切り、蜥蜴型カースを飲み込んだのだ。

その黒い何ーー黒い泥でできた蛇を辿って見ると一人の少女の腕から伸びているのがわかる。

そう元・嫉妬のカースドヒューマン北条加蓮である。

加蓮「や、やっぱり変な感じ……あっ、そこの人速く逃げて!!」

蜥蜴型カースを蛇が飲み込んだにも関わらず、蛇は爆発されている様子はなかった。その代わり、加蓮は始めて苺パスタを食べた人のような顔をしている。

が、今はそんな場合じゃないと首を振ると、男性に向かい、逃げるように促した。

「あ、ありがとう」

男性はお礼を述べると急いで他の人達と同じように避難して行った。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:31:26.93 ID:V1EdhFAt0<> みく「加蓮ちゃん。大活躍だにゃ。みくだとあの爆発するカースは厄介だったにゃ!」

菜帆「そうですね〜。加蓮ちゃんと相性があってよかったです〜」

『嫉妬のエネルギーで爆発される前に加蓮ちゃんの蛇に食べさせちゃえばいいですからね〜。加蓮ちゃん調子は大丈夫ですか〜?』

加蓮「うーん…変な感じはするけど、取り込んだからって核が再発してる様子はないから多分大丈夫!」

そんな彼女の近くに、猫の獣人・前川みくとベルセブブの契約者・海老原菜帆はお喋りをしながら辺りに逃げ遅れた人と爆発する蜥蜴型カースがいないか警戒していた。

……なんか緊張感が感じられないが… <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:32:28.40 ID:V1EdhFAt0<> さて…彼女達がここにいるのかというと至って単純な話である。

それはある二人の発言が発端だった。

K歌『私、友達だけで新年会って言うのやってみたかったの♪』

K蓮『新年会?えっ?みんなで楽しくご飯食べてお泊まりするの!?やる!……ねえ、仁加ちゃん…私の妹も連れて行っていい?』

っと、世間知らずなお嬢様と残念になった世間知らずな元病人のWKが言ったことにより、急遽いつもの日菜子の家で食事してる組+他数名で新年会をやることになったのだ。

そのために買い出しに、加蓮、みく、菜帆&ベルちゃんでここに来たのだ。

その時にイルミナティによるテロが起こったのだ。
ついでに言うと、最初の爆発で加蓮は巻き込まれたのは言うまでもない。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:33:44.21 ID:V1EdhFAt0<> みく「それにしても、酷いにゃ!まるで憤怒の街とはいかないけど、酷いありさまにゃ」

加蓮「………多分、カースドヒューマンの仕業かも。なんか同じような感じがするし…なんて言ったらわからないけど…」

菜帆「私達、巻き込まれちゃいましたね〜。どうしましょうか?」

みく「決まってるにゃ!元凶を倒して速く新年会を開くにゃ!日菜子ちゃん達には悪いけど、買い出しが遅れちゃうけどしょうがないにゃ!」

加蓮「そうだね。困ってる人達を放っておけないし……この元凶の人を止めてあげないと…これ以上過ちを犯して欲しくないし」

菜帆はのんびりと聞くと、みくは元気良く、加蓮はどこか悲しげに答えた。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:35:37.25 ID:V1EdhFAt0<> 『(……情報収集ありがとう)』

一方、菜帆にとりついてるベルセブブは、菜帆の近くにいた一匹の蝿と会話しながら、考えていた。

『(イルミナティ……マズイですね。バアルちゃんには邪魔をしないよう言われてますし〜。邪魔したらバアルちゃんに追いかけられますね)』

…そう。ベルセブブはバアルこと唯に協力を求められていたのだが、菜帆を巻き込みたくないために断り、その代わり邪魔はしない事を約束していたのだ。

『(バアルちゃんはどこに逃げても来れますし………だけど、加蓮ちゃんとみくちゃんに何言っても止まらないと思いますし、力づくで止めたら今日の新年会で美味しいご飯が食べられなくなるのも嫌ですね〜)』

だから、イルミナティの活動を邪魔はできない。かといって加蓮とみくを止めるとなると、今日の新年会がパァーになってしまう。

『(…菜帆ちゃんを危険な目に合わせたくないですし、ここは…)』

『じゃあ、ここから二手に別れましょ〜。加蓮ちゃんとみくちゃんは二人で原因を探ってください。私と菜穂ちゃんは怪我してる人や逃げてる人を安全な場所に避難させますから〜』

……そう。別行動をとり、自分がイルミナティの邪魔をしないで、尚且つ新年会にありつけることだ。

『(今回の目的は虐殺じゃなく、宣戦布告。それなら怪我して動けない人や逃げてる人を安全な場所に避難させても、その人達が今回の恐怖や現状を認識してるのなら、それは心に刻まれ、口伝えに広がる。だから、私はバアルちゃんの邪魔はしていないですよね〜)』

『(……それに虫たちの情報ですとこちらを観察してる人達がいるみたいですし、イルミナティかはたまた別の方達かわかりませんが私の手の内を見せるわけにいけませんしね〜)』

唯との約束を守り、尚且つ加蓮達の邪魔をしないように、更になるべく自分の実力を他者に見せないためにベルセブブは思考する。

実に悪魔とは思えないだろうが、己の利益と欲求に忠実に動くのは実に悪魔らしい。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:36:40.24 ID:V1EdhFAt0<> みく「そうだにゃ!逃げ遅れた人もいると思うし、それは菜穂ちゃんとベルちゃんに任せるにゃ」

加蓮「確かにその方が効率良さそうだし…そうする」

そんなベルちゃんの考えに気づかず、二人はその提案を受け入れた。

菜帆「それじゃあ、そうしましょ〜。ベルちゃんお願いします〜」

『任せてくださ〜い』

のんびりと話していると、菜帆の背中から虫のそれに似た大きな異形の羽が生えてくる。

菜帆「それじゃあ、二人ともお願いしますね〜」

『気をつけてくださいね〜』

そう言うないなや、異形の羽を振動させ、菜帆の姿はあっという間に消え去った。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:37:36.76 ID:V1EdhFAt0<> みく「さて、みくたちは原因を探して倒して、サッサッと新年会の買い出しを終わらせるにゃ!」

加蓮「そうだね。まずは……」

加蓮が後ろを振り向くと、爆発する蜥蜴型のカースの群れ、そして、黒い雨により産まれた嫉妬のカースの大軍が見える。

加蓮「コイツらを片付けよう」

加蓮の両腕からいつもの槍ではなく、黒い泥の数匹の蛇を腕にまとわせるように作り出す。

みく「わかったにゃ!爆発する蜥蜴は加蓮ちゃんに任せるから、みくは普通のカース達の相手をするにゃ!」

みくは両手から爪を飛ばし、戦闘体制にはいる。

カースの群れと二人が衝突するように同時に動き出す。

だからなのか、この場にいるもの達は気づかなかった。

加蓮の影が陽炎のように動き、何かを掴むような仕草をしているのを…… <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:38:53.82 ID:V1EdhFAt0<> ーーー−−−−

『うーん…≪私≫ってトラブルに増しこまれる体質でもあるのかな?』

暗い暗い、枯れ果てた場所。

まるで死後の世界のようなその場所で、北条加蓮……いや、その姿をした≪影≫がどことなく悩んだ様子でいた。

『だけど、おかげでここもだいぶ賑やかになってきたね』

よく見れば、淡く光る火の玉のようなモノが沢山動き回っていた。

『それに≪私≫の役に立ちそうなのも手に入ったし』

そう言いながら、蜥蜴のようなモノを手に持ちながら、楽しそうに微笑む。

『さて、もしかしたら少しの間だけ外に出れるかもしれないから、みんな準備しといてね。特に貴重な戦力になりそうなそこの………ごめん。名前わからないや』

そう≪影≫が言う先には、バチバチと音を立てる苦労してそうな火の玉のようなモノがいた。

果たして、コレは加蓮にどう響くのだろうか?



終わり <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:43:08.74 ID:V1EdhFAt0<> 追加情報

・イルミナティのテロ現場に加蓮、みく、奈帆&ベルが巻き込まれました

・加蓮とみく、奈帆&ベルで別行動とってます。ベルはこのテロがイルミナティの仕業と知りました

・ベルちゃんはイルミナティの邪魔をしないように、逃げ遅れた人や怪我してる人達を助けて今回のテロの生き証人させてます。だから邪魔してないよー

・おや?影の中の様子が…


ついでに前回貼り忘れたモノ

・影に潜むモノ

加蓮の影に住むモノ。一人称はアタシでだるそうな感じの声をしている。
その正体は祟り場で加蓮を追いかけていた影。
本来ならユズにより消滅されたはずなのだが、究極生命体の一部である加蓮に取り憑いてた事により加蓮の身体の一部となってしまった。

その為、加蓮の影は一種の≪冥界≫となってしまいそこには過去に≪影≫の被害にあった大量の魂や妖怪達が住んでいる。

またエンヴィーモードになると影から取り込まれた死者や妖怪達が影から現れ、死者が生者に≪嫉妬≫するように影に引きずり込むこもうとするが、それの権限は影ではなく加蓮が持ってる。

ついでに加蓮に対しては取り込みたいと思ってはいたが、今は自分自身と一体化してしまったために加蓮の魂を回収しても結局加蓮に帰ってループするため諦めてはいるが
ちゃっかり、彷徨ってる魂は回収して加蓮の影を広くしようとしている。 <>
◆AZRIyTG9aM<>saga<>2014/05/10(土) 00:47:12.40 ID:V1EdhFAt0<> 以上です。

加蓮、テロに巻き込まれる前編です。

ベルちゃんは唯ちゃん達の邪魔をしない範囲で動いてます。約束を律儀に守るとは悪魔らしくない気もしますが… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/05/10(土) 00:50:52.63 ID:ctj66v7do<> おつおつ。いちごパスタ加連ぇ
そして電……電設の人。苦労してるなぁ(泣)

約束(契約)を守るのは悪魔っぽい気がします。正確には契約"は"守るのが <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/10(土) 00:54:21.00 ID:hd4snF4e0<> 乙です
泥での捕食を健全者がやった時の例えがイチゴパスタなのか…ww
というかナチュラルにさらっと爆発喰らってる安定の加蓮である
電気の人ー!活躍できるっぽいぞー!死後だけどー! <>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:05:21.95 ID:ctj66v7do<> この勢いなら言える。ルキトレちゃん投下します
戦闘描写って難しいですね <>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:06:41.77 ID:ctj66v7do<> ―――
――


『ジャマダ!ジャマダ!』

『ヒヒヒ、ブッコワシテヤル』


先ほどまで平和だった街中に、黒い泥の体を持った怪物――カース――が2体現れる
侵略者が現れるようになったこの世界では、もはや当たり前になってしまった光景である


男「ひ、ひぃぃ」

『ナニミテヤガンダ!』『マズハオマエカラダ』

不幸にも転んでしまい逃げ遅れた男が、犠牲者になろうとしたその時…
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:08:15.12 ID:ctj66v7do<>
青木慶「……セットアップ」
【文書:RTX-001 正常起動】

パンパンと2発の銃声が鳴り響き、2体のカースに赤い華を咲かせた。

『ナンダゴルァァ』『ヤルノカオラァ』

カースたちが振り向いた先、ビルの上にあったのは

太陽を照り返すメタリックアーマー、肩にライトグリーンで書かれた『ROOKIE TRAINER』の文字

そう、この街が誇る我らのヒーロー《ルーキートレーナー》である

ルキトレ「さぁ、始めるよ! 全力でかかってこーいっ」

そう言って、5階建てのビルから飛び降り戦闘が始まった。ちなみに男はカースが振り返った隙に逃げている <>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:09:05.05 ID:ctj66v7do<>
『ッザケンナテメェ!』『ナメテンノカオラァ!』ブンッブン

ルキトレ「よっ、とっ。ダメダメだなぁっ!そんなんじゃ当たらないよっ!」ヒョイヒョイ
ルキトレ(2体1だと1回当たっただけでやばいんだけどねっ!)

2体のカースの猛攻を、やけっぱちにも聞こえる発言をしながらバク転やバク宙、側転によって紙一重で避けていくルーキートレーナー。

【文書:目標確認 左胸】
ルキトレ「よし、それなら……」

そして、ルーキートレーナーの視界にカースの核の位置を知らせる文書が表示されたことで動きが変わった
左手にどこからか取り出した剣――トレーナーブレード――、そして右手には小型の機械――トレーナーボム――を持ち近接した
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:10:10.08 ID:ctj66v7do<>
ルキトレ「それっ」ザシュ

『アァ?』

ルーキートレーナーが切りかかったブレードはカースの左肩にわずかに食い込んで止まり

『オラァ!』ブンッ

ルーキートレーナーを狙ったもう片方のカースの攻撃でそこから裂け、わずかに核を露出させ

【文書:設置完了】

露出部分にトレーナーボムを設置された
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:11:11.85 ID:ctj66v7do<>
ルキトレ「さぁ止めっ!かかってこーいっ」

最後に、2体の間に立って挑発すると

『ヤロウブッコロシテヤアラァ!』『キサマヲコロシテヤルァ!』

憤怒のカースらしく、簡単に挑発に乗る


その後に起こったことを説明するのはとても簡単だ

――2体のカースが真ん中にいるルーキートレーナーを殴ろうとした
――ルーキートレーナーは、ボムを仕掛けたカースのこぶしの先にブレードを添えた
――その後2体のカースの腕の間をすり抜けると


――ブレードはカースの拳によって核に深く突き刺さり

――もう1体のカースの拳はボムの起爆スイッチを正確に押していた


ルキトレ「よしっ」

それを確認したルーキートレーナーは、歓声を背に街を跳び回りどこかへ去って行った
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:11:44.83 ID:ctj66v7do<> ―――
――

<人気のない路地裏>

ルキトレ「ふー、これで終わりっ。上手く行ってよかった」

ルキトレ「よし、人もいなさそうだし変身解除――」
【警告:一般人の反応あり 機密保護の為変身解除を中止】

男の子「あーっ、ルキトレさんだー!」

女の子「わーい、見つけたよー」

ゲームを持った女の子「ふー、やっと見つけたっ」

ルキトレ「……見つかっちゃったかー」

男の子「ねえねえ、バク転教えてバク転!」

女の子「鉄棒教えてー!」

ゲームを持った女の子「えっ、何このマゾゲー」

子供に見つかってしまった。どうやら変身解除して家に帰れるのは、まだまだ先になりそうだ
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:12:33.93 ID:ctj66v7do<> 青木慶
人間の大学生、行方不明の姉が3人いる。
筋力はちょっと鍛えた人程度しかないが、予測や認識能力に非常に長けており、動きは非常に効率的
また、子供に教えるのも上手く、変身後も変身前も運動場のヒーローである。
カースに追われ逃げ込んだ山ので謎の穴に落ち、発見した地下施設でパワードスーツ《ルーキートレーナー》を手に入れる
ちなみにそのカースは施設と一緒に地面の底へ埋まっている。
ビルの屋上へはパルクールで駆け上がった

ルーキートレーナー RTX-001
青木慶が使用する全身メタルスーツ。待機時はベルトのバックルになっている
本人は対カース用の特殊兵器だと思っているが、実は名前の通りただの新人用訓練機であり操作性はいいがその他は抑え目。
というかぶっちゃけ装甲と操作性以外は底辺レベル。カースに同士討ちさせたのはそうしないと倒せないから
(白いクウガとか龍騎ブランクとか電王プラットフォームとかをご想像ください
人(人間)前で変身及び変身解除しようとするとセキュリティ警告が出るので、毎回人目につかないところまで移動する必要がある。
【】内は、バイザーに表示される文章。中の人にだけ見える

他の戦闘用パワードスーツはカースと共に地の底に埋まっている。
謎の崩落現場を態々掘り起こして中にあったものをコレクションするような酔狂な人が居ない限り、陽の目を見ることはないだろう

ルーキートレーナーの装備
トレーナーブレード:何の変哲もない金属製ブレード。折れやすいが3分で復活する
トレーナーハンドガン:訓練用のペイント銃。打った対象を補足できるほか、しみこませればカースの核を発見できる。弾の色は赤
トレーナーボム:貼り付け式の指向性爆弾。核に直接張り付けて起爆すれば破壊できる。
   遠隔爆破はできず爆弾についているスイッチで起爆する。3発までストックできる
<>
◆qTYZo4mo6E<>saga<>2014/05/10(土) 01:16:11.94 ID:ctj66v7do<> かなり短くなってしまいましたが、以上です。(ぐぬぬ、難しい。

ルキトレちゃんの戦闘は、TASさんじみた精密操作で成り立っております。ほんとに人間かこの人
戦闘時の動きはみたいな感じです。
ttp://www.youtube.com/watch?v=TQyS8ZqhF_U <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/10(土) 01:20:59.19 ID:V1EdhFAt0<> 乙ー

ルキトレちゃんいいね!

姉三人行方不明って一体何が…… <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/05/10(土) 01:27:58.59 ID:ctj66v7do<> >>28
慶「『慶へ。ちょっと出かけてくる。何かあったら《麗・聖・明のうち2人》に頼ること。《←で書かれてない一人》より』って書置きを3枚残して出かけましたっ」

そして私は何も考えてないです。思いついた方がお願いします(他人任せ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/10(土) 01:28:56.39 ID:hd4snF4e0<> 乙です
やだルキトレちゃんの動きパナイの
姉さん達どこ行っちゃったんです…? <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/10(土) 11:54:10.87 ID:MBe0ex8sO<> >>16に追加で

みくにゃんお借りしました! <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/05/10(土) 12:59:38.09 ID:ctj66v7do<> おっとと、ゲームを持った女の子お借りしましたー。
一体誰なんだろうなー(棒) <>
◆sULNt76UFI<>sage<>2014/05/10(土) 19:13:33.46 ID:ceArWc+Lo<> お二方乙です

>>16
K歌さんに言動にどこか某軽音漫画のK吹さんを思い出すww
K蓮ちゃんは安定して残念ですが影の中はとんでもないことになってるのね

>>32
ルキちゃんすごい(KONAMI)
ゲーム少女はやはりSちゃんか
その子が追ってる理由は果たして <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/10(土) 23:23:30.10 ID:jdICBmJV0<> 憤怒の街が遂に完結、イルミナティvs櫻井財閥、加蓮の影が密かに蠢き、いろいろ気になる新キャラ登場。
良い傾向です。負けてらんねぇぜ!

そんなわけで飛鳥ちゃん学園祭珍道中その2投下しまー <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:26:23.88 ID:jdICBmJV0<> 「そろそろ休憩にしましょう」

 不意に、後ろから投げかけられる言葉。
 それを聞きいた特攻戦士カミカゼ───向井拓海は目の前に並ぶ人々にその旨を伝える。

 ある者は抑えようとして抑えられず、ある者は半ば反射のように、ある者は隠そうともせず、思うところは数あれど、彼女を目当てに来た者は落胆の声を共通して漏らした。
 予め決められていた事とはいえどこか罪悪感を拭いきれず、せめてもと”アイドル”として目一杯の愛想を振り撒く。
 ついでに次に控える仕事の宣伝もしておく。
 取り敢えずは納得して貰えたようで、満足とは足りなくとも騒ぎを起こすようなマネは無くてなにより。

 安堵を胸の奥に仕舞い込み、地を踏む脚に力を込める。
 曲げた膝をバネに大地を蹴り出せば163cmの体は数メートルを跳躍、そのまま人目から消えていった。

 所謂一つのファンサービス。異能の者の退場は普遍であってはならないのだ。


 かくして跳び去ったカミカゼは、数度の跳躍を経て人目の付かない小影に着地する。尋常ならざる衝撃を身に受けるも、尋常ならざる体には何の影響もない。
 まるで階段を少し飛ばしたかのような気楽さで無事着地に成功する。

 首を回すついで、周囲に人が居ないかどうかを確認する。

(誰も居ねぇな……)

 終えると、向井拓海は体を解すように肩を伸ばす。それだけでは足りず、背中を少し反らして全身を伸ばす。

「くぁ……」

 思わず大きな欠伸が出る。
 アイドルとしてもヒーローとしても見栄えの良い行為ではないが、人が居なければ大口を開けてさえ出来るというもの。

 数時間コインを投げて過ごした体は予想以上に固まっており、軽いストレッチを行いたくなる程だ。

 実際した。

「………ふぅ」

 屈伸を終え、準備運動レベルのストレッチを終える。





「転身」

 静かに、敵意を孕んで唱えられる。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:27:23.04 ID:jdICBmJV0<> 「出て来な」

 アイドルとしての向井拓海は既に消えた。
 両の拳は固く握られ、脚は地面を踏み締める。
 その立ち姿に隙は無く、その背中には甘え無し。
 漢が惚れるその尊容、”ヒーロー”特攻戦士カミカゼがそこに居た。


「流石、かな」

 ゆらり、影が揺れる。
 幽鬼の如く掴みようの無く、妖魔の如く障気を散らす。
 黒い闇に包まれたそれは人型であること以上を伺い知ることは出来ず、ともすればカースにも見えるかも知れない。
 しかし黒と言うには暗過ぎる、まるで光を拒絶しているかのようなそれはカースなどと生易しい物には感じられず、やはり何も伺い知ることは出来ない。

「気付くなってのが難しいぜ、人の事ジロジロ眺めやがって、アタシのファンか?」

「そんなに熱っぽかったかな?ボクの視線は」

「………テメェ何モンだ?」

「……通りすがりの悪魔、」

「ケッ、随分とちんちくりんな悪魔も居たモンだなァ?」

 言葉を紡ぐ毎、影は一歩ずつにじり寄る。隙だらけのようで、誘うような足取りはどこか近寄り難い。

 貫くような眼孔が、影の双眸を捉える。真っ黒の人体にふたつだけ灯る瞳はひどく不気味だった。

「…………」

「…………」

 静寂を彩るように、互いの間を風が吹く。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:29:00.32 ID:jdICBmJV0<> 「…………らッ!」

「…………ッ!」

 季節の移りを象徴するそれを合図に、両者は大地を蹴った。
 木の葉が巻き上がり、地が割れ、その者達の膂力を体現する。

 たかが数十メートルという間合い、異能の者には短か過ぎた。猛烈な相対速度の中、一秒と経たず拳の射程に互いを捉える。

 激突。
 残像すら残す速度が殺し合い、伸びきった鋼の腕と影の拳が火花を散らす。凄まじい拳圧が風圧となって駆け抜け、その破壊力を有象無象を伝える。

 殺人的な衝撃により芯が逸れ、ベクトルのズレた拳はけたたましい擦過音を鳴らして交錯する。 
 やがて高度を維持できるだけの速度を失った両者は慣性を残して落下する。地に着いた足が地面を穿ち、その勢いに引っ張られその場から長い爪痕を引いた。

 影が姿勢も整わぬ間に腕を大きく振るい、左足を軸に体勢をぐるりと捻じ曲げる。いち早く回り、残光を描いた瞳がカミカゼを捉えると、空中に遊ぶ右足を無理矢理に振り下ろしそのままの勢いで大地を蹴り出した。

「ふっ………!」

 過剰な脚力を受けた地面にヒビが走り、影は飛ぶように跳び、弾丸の如く間合いを詰める。
 最中視線が衝突し、迎撃の拳がカミカゼより振るわれた。

「しァッ!」

 抉るように、気迫を乗せて打ち込まれるカミカゼの左腕。

「……!」

 対する影は猛烈な勢いで迫るそれを、すり抜けるようにして逃れる。
 耳元を過ぎる破壊力が軌道上の空気を押し退け、圧力となって大気を震わす。甲高い音が風を切り、鼓膜から空気が奪われたような感覚を与える。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:30:34.51 ID:jdICBmJV0<>  その脅威に戦慄する隙すら許さず、既に追撃の蹴りが放たれている。
 そのプレッシャー故か、振るわれる脚は何倍にも質量を増大させたように映り、ともすれば丸太が迫るかのようにも見えた。
 加速する体を半ば倒れ込むようにして低くとり、すかさず頭上を腕で庇う。直後、影で形取られた手甲に鋼の蹴りが打ちこまれ、派手な音が頭上で響く。
 手甲に対して斜めに命中した蹴撃は、流れに沿って表面を滑る。硬質同士が擦れ合い、不愉快でけたたましい金属音が重い衝撃と共に互いの体を貫いた。

 影は鋸で腕を削られたような感覚を覚えるが、怯むこと無く。

 擦過の余韻が残る腕に鞭を打ち、カミカゼの脚を押し退けるようにして弾き飛ばした。
 大きく振り上げられた右足と、未だ体重を支える左足。攻撃をいなされ、不安定な体勢のまま大きく隙を晒す結果になった。

 マスクの下で芳しくない状況に歯噛みするも、カミカゼも黙ってはいない。有り余る膂力で足に働く慣性を殺し、震脚の要領で地に叩きつける。凄まじい脚力に大気は震え、地面にめり込んだ足から地震のような振動が響き渡っていく。
 強引に姿勢を持ち直したは良いが、しかし状況は好転したとは言えず、隠そうともしない舌打ちをアーマーの中で鳴らした。

 作り出した隙に飛び込み、軽い意趣返しだとでも言うのだろうか、真っ黒い装甲に包まれた脚が鞭のようにしなり、鋭い蹴りを浴びせかける。
 大上段に振るわれたそれを回避する余裕はカミカゼには無く、引き締めた腕でガードの体勢を取るほか無かった。

「ぐ────ッ!!」

 それから攻撃が襲い来るまでに寸秒ほどの間も無く、身を固める腕を相手の蹴りが芯に打ち据え、次いで凄まじい衝撃がカミカゼを襲った。華奢な脚から繰り出された重い破壊力は、幾度目かの金属音と共にヒロイックなアーマーの下、肉で固められた骨の随まで響きじんじんとその余韻を浸透させる。
 堪え、食いしばられた歯の隙間から短く呻き声を漏らし、さしものカミカゼもその上体をぐらつかせた。

「ふっ!」

 効果を確認すれば、相手は息を付く間も与えず次の攻撃に移る。静かな掛け声に確かな闘志を灯し、脚を引いたそのままから反転、左回りの勢いを乗せ、肘鉄がまたも腕に向けて叩き付けられた。
 金鎚もかくやという威力のそれは、先程の蹴りには及ばずとも確かな衝撃をカミカゼに伝える。
 崩された重心に追い討ちを受け、安定を取ろうとした左足は無意識のうちに後退っていた。

 僅かに開いた間合いを詰めるが如く、影は右足を一歩踏み出す。下方から抉り込むように接近し、肌と肌が、装甲と装甲が触れ合うまでに踏み込み、フェイスガードの下、相手の目線の死角───固められた腕の向こうから拳を繰り出した。
 顎を狙い澄ましたアッパーカットは残像を残して接近、その目標を──── <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:31:54.62 ID:jdICBmJV0<>



「チョーシ、乗ってンじゃねェ……!」



 ─────打ち据えることは、無かった。

 その拳はカミカゼの眼前で止まっていた。

 否、止められていた。

 腕力を受けた腕が小刻みに震え、それをカミカゼの手が押さえつける。襲い来る敵意を捉え、掴み、捕らえ、止め、握り、そのまま潰してしまいそうにすら思える。
 明確の過ぎる危険から逃れようと、力を込めて腕を引く。
 逃げられない。カミカゼの眼孔からは、掌からは、握力からは、敵意からは、恐怖からは、危機からは、怒りからは、覚悟からは。
 逃げられない。逃げられる道理など在る訳が無い。

 みしみしと、不穏な音が腕から響く。それは数秒毎に存在感を増し、迫り来る脅威を嫌と言うほど伝える。

         ステゴロ
「────アタシに素手喧嘩を挑んだ度胸は褒めてやるよ……」

「体捌きにしてもなかなかのモンだが………」


 握る掌に力を込める。


「たが、ちっ──とばかしおイタが過ぎたみてェだなァ?…………」


 ───ばきり。

 おぞましいまでの握力に耐えられず、ついに手甲にヒビが走る。


 ───ばきり。

 めきめき。

 みしみし。

 みきみき。

 べきべき。




「オイ」


 ───ばきり。


「歯ァ」


 ばきり。
 ばきり。ばきり。


 ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。ばきり。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/10(土) 23:33:04.50 ID:jdICBmJV0<>


「………喰いシばれぇえええエエエエェあああああああああッッッ!!!!!」


 大地を震わす絶叫が腹の底から響き渡り、龍の如く咆哮が森羅万象を伝い天を砕く。
 腕を肩から引く抜かん勢いで掌を振り上げ、技も無く、知恵も無く、ただただ力のみで相手の無防備を晒す。

 右足を上げ、ぐるりと体を回転させて───


 ───ある一点を超えた地点で、猛烈な力が乗せられる。ぶわりと、音が聞こえる程の力が込められる。軌道上の空気までも蹴り飛ばし、突風となって吹き荒ぶ。残像を残すばかりか景色までも歪ませる。

 鋼鉄を灰燼と帰すまでのパワーが、防御の字のない影に迫る。

 防御の字が無ければ、回避の字も無く。

 無防備。無抵抗。残された道はただ一つ


 命中。
 激震。
 破砕。
 粉砕。


 今日という日において最大の威力を持った回し蹴りが、向井拓海の怒号を孕んだ回し蹴りが、有り余る破壊力が空間までもを砕かんばかりの回し蹴りが──

 ──哀れ、無防備な影に叩きつけられる。

 その身に有り余る攻撃翌力は装甲を砕くばかりか、その肢体を遥か上空に砲弾の如く打ち上げる。二度目の突風が吹き荒び、気持ちの良い程かっ飛んで行く。

 悪魔を名乗る影は消え、その場には脚を振り上げ、攻撃の余韻を残すカミカゼが残った。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/10(土) 23:34:29.03 ID:jdICBmJV0<>  蹴りを繰り出した脚を庇うように、ゆっくりと地に着ける。

 敵を打ち砕いた。
 それは紛れもない事実に見える。


 だが、仮面の下、向井拓海の表情は芳しくない。

 瞳に灯る火は未だ消えず、堅く結ばれた口は弛むことがない。

 まるで、まだ闘っているかのように。


「…………」

 耳を澄ませば聞こえてくる。
 空気を裂いて接近する音が。
 数秒毎に勢いを増す音が。
 上空より迫り来る音が。


 まだ生きている奴の影が。


 拳を再び握り締め、地を蹴って後ろ跳びをする。

 直後、カミカゼの居た空間を猛禽の如く振り下ろされた”爪”が切り裂き、その切っ先が地面に三本の傷を抉った。
 おそらくは位置エネルギーも加算されていたのであろうそれは、カミカゼをして、”もしもそこに自分が居たら”と悪い想像を働かせる。
 それほどまでに強烈で、鋭利で、凶悪な一撃であった。

「手応えが無ェと思ったぜ……!」

 吐き捨てるように、誰に言うでもなく呟く。

 視線の先に浮かぶは影。
 腕を振るって土を払い、不敵な瞳を覗かせる影。

 その背中には新たに翼が携えられ、その両手は鉤爪へと変貌している。蝙蝠を思わせるそれは分かりやすいほど禍々しく、人の身に余る大きさのそれは、成る程悪魔を名乗っていても問題はないように見える。

 真っ黒い、表情の読めぬ顔をカミカゼに向けたけり、脱力したように両の爪を提げる。ばさりばさりと羽音鳴らし、ただただその場に浮かび続ける。
 体に合わせてぶらぶら揺れる腕は酷くだらしなく、今すぐにも叩き落とせてしまえそうに思えるが、隠しきれない気迫はそれ以上の物を感じさせ、彼女が実力を出し始めた事を伝えている。
 それについてはカミカゼに於いても同様で、たかが数発の打ち合いなど、ウォーミングアップもいいところだった。

 睨み合う両者。

 羽音だけが時間の経過を感じさせ、耳を塞げば時間が止まっているように思えることだろう。
 そんな事を考えさせる程の静寂。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:35:58.56 ID:jdICBmJV0<> 「はあっ!」

 破ったのは、影の気合いと一際大きい羽音。
 羽が大気を叩きつけ、背後に風圧を推進力の如く打ち出す。漂うのみだった体が不意に弾き出され、蝙蝠の羽根を器用に制御しながら、鋭角的で、曲線的で、直線的で、不気味なほど不規則な機動でカミカゼに襲い掛かる。
 手慣れたようなその機動はさながら水を得た魚のようであり、カミカゼに、なかなかどうしてやり手であると一種の畏怖を抱かせた。

 なればこそカミカゼは動じず、両の足で地面を錨のように噛み締め体をその場に固定させる。腰を落とし両脇を締め、拳を顎の前に置く。
 所謂ファイティングポーズを取り、万全を以て迎え撃った。

 依然として不気味な程不規則に飛ぶ。右に左に上に下に。縦横無尽に、ともすれば嘲るように飛び続ける。

 対するカミカゼは敢えてそれを追わず、対照的に静寂を保つ。静かにその距離だけを測り、攻撃を放つその時を、カウンターを狙う機会を虎視眈々と待った。

「せえっ!」

 塗り潰したように黒い爪を右手より振りかざされる。反応したカミカゼはその眼孔を煌めかせ、満を持して右腕の突きを繰り出す。 
 その拳が影を打ち据えんとしたその時、鉤爪はそのままの勢いで切り裂くかに思われたが、突如としてその慣性をねじ曲げる。

「っ!?」

 暴風をはためかせ、不可視の力に引っぱられる
ように反対側へ飛び去る。右手に気を取られていたカミカゼの反応は遅れ、結果その攻撃は左腕でガードするに留まった。
 嫌な奴。胸中で呟き、アーマーの下で憎々しげに影を睨みつける。

 腕とかち合う力が緩んだかと思えば、矢継ぎ早に次の斬撃が放たれ、すぐさま逆側からの衝撃がカミカゼを襲う。相手を叩き落とさんと右の腕が振るわれるも、先んじてその右爪がカミカゼに迫っていた。

 不意にぞっとした物を感じ、守る左腕を突き出してその右爪の軌道を逸らす。直後三つに割れた切っ先の内二つが両の頬を掠め、フェイスアーマーに一本の傷を引く。
 削られた破片を視界の端に捉え、背筋にひやりと冷たい物が走る。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:37:07.84 ID:jdICBmJV0<>  ようやく現れた右腕が横殴りの拳を繰り出すも、影はその身を翻し、行き場を失った威力は暴風となって駆け抜けるのみとなった。

 左後方に飛び去った影から放たれる爪を、視線を転じるまでもなく防ぐ。振るわれる毎に空気を切り裂き、接触の度に金音が響いた。
 右足を軸、地面を抉りながら回転し、遅れて無機質な顔を敵意に向ける。
 勢い良く振り下ろされた両爪を身を固めて耐えきると、一際強い衝撃がカミカゼの装甲を貫いた。

 無数に振るわれる爪の数々は、強いと言うよりも先に速いと思わせる。しかし考えなしに受けきれる程虚弱でもなく、ガードの上から走る衝撃は各所に傷を刻んでいき、装甲を伝いじわりじわりと向井拓海の肉体を蝕む。
 気持ちの悪い相手。真っ向からの正面衝突を好むカミカゼからして御し易い相手ではなく、愚であると理解しながらもイライラを募らせていた。

 がりがりと音を鳴らしながら散る火花が目に耳に鬱陶しく、腕を振り回して爪を弾き飛ばす。その衝撃を利用しくるくると回りそのまま視界の外に逃げていく影。視線が半ば反射的に追従し、それに引っ張られるように体が続く。
 その勢いのままに腕を振り回し、刈り取るようにして影を狙う。影はひらりと小さく宙返りをし、またも腕は虚空を抉った。
 体にかかるGにも似た慣性を噛み殺し、間を置かずに左のジャブを打つ。拳が放たれる前に左旋回していた影はそれを逃れ、右斜めから左爪を繰り出す。

「っ!」

「オラァッ!!」

 その時、カミカゼは防御を捨てた。
 影の居る左前方に踏み込み、右腕を振るう。
 ガードを取らない体は爪の衝撃をもろに受け、脳みそをぐらりと揺らす。
 カウンターのように打ち込まれた拳は、影からして予想外であったらしく、僅かに回避の遅れた鎧を拳が掠めその砕けた破片を周囲に散らす。

 仮面の下、向井拓海は唇の端を愉快そうに吊り上げる。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:38:45.47 ID:jdICBmJV0<>  相手の攻撃は驚異だが、それでも致命傷には成り得ない。対してこちらの攻撃力に対してあちらの鎧は脆く、直撃させられれば破壊は容易。
 相手の攻撃は致命傷にならず、こちらの攻撃は致命傷になる。手数で負けているが、それ以上にパワーで勝っているのだ。
 捉えるのが難しいならば捉えられるまで打ち込むまで。そこに防御は必要無い。
 作戦と言うにはあまりに粗暴で、されど彼女の生き様を体現するかのようなそれは、その場に於いては確かに有効な策であった。

 気合いを盾に爪を耐え、根性を杖に体を支える。その足は踏み出す為に在り、その拳は砕く為に在った。
 攻撃が来れば好機と捉え、後ろに逃げれば食らいつく。精巧な技術に裏打ちされた猪突猛進。

 繰り出し、打ち込み、抉る。
 爪が襲い来ようと揺らぐことなく、破片を散らしながら左腕を大振りに振り回す。

 鎧の下で嫌な汗を滲ませながら、それでも影は空を飛び続ける。巧みな機動でカミカゼを交わしながら、襲い来る敵意をすり抜けながら。
 それは恐ろしく素早く、凄まじく不規則で、憎らしくおぞましい。

 ────だが。

 ここで彼女は気付くべきだった。

 向かい合うカミカゼの拳は。

 歴戦の拳は。

 それ以上に、覆さんばかりに───


 ───鋭い。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:39:53.21 ID:jdICBmJV0<>  ひらり体を翻し、手足を振り回した慣性で相手に正対する。右前方から対角を突っ切るようにして動いたお陰で、まだ相手の体はこちらを捉えきってはいない。
 瞳はその限りではないが、相手が行動するより先、こちらの翼がはためいている。
 翼で空気を蹴りつけて、後方に風を打ち出し、前方に突風を纏って突撃。耳元を気持ちの良い音が通り抜けていく。
 ぎらつく視線がこちらを見据え、捻りを加えられた裏拳が繰り出される。一種で的確に軸を捉えたそれは、やはり驚嘆すべき物がある。
 命中まで寸秒と無い間、猛烈な勢いのまま頭を垂れる。速度と体重がぐんと下に働き、落ちるように潜り込む。僅かに拳が背中を掠め、金属音が内部を伝播する。しかしこちらの勢いを殺ぐには至らず、僅かに破片を抉るのみ。
 舗装された地面が目前に迫り顔面に不可視の圧力が圧しかける。すかさず反り返る勢いで体を振り上げ、同時に翼で真上への力を発生させる。頭上には青空が広がり、先程の景色と併せ一種の開放感を感じさせた。
 激突してしまいそうな程接近して、上昇の勢いを乗せた爪撃でカミカゼの胴体を切り裂く。腰から右肩にかけて、さながら袈裟斬りのように斜めの傷を刻みつけた。

 反撃の拳が来る前に体を捻らせる。そのまま横ロールをして、その場からの離脱を図る。カミカゼを見やれば、先の攻撃により、ダメージになったとは言えずともその体を仰け反らせている。 

 このまま回り込んで追撃の爪を───



「───────」


「っ!?」


 ぎろり。

 カミカゼの瞳だけが動く。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:40:59.95 ID:jdICBmJV0<>  その瞬間、カミカゼを中心に突風が吹き荒び、同時に空気がどろりとした粘性に変質する。
 それは悪寒となって体を駆け抜け全身の毛穴を萎縮させ、それは泥のような粘り気を以て肢体を絡め捕り、指の先まで動きを鈍らせる。

 それらは全て錯覚である。

 カミカゼの放つ無言の圧力が不可視の風を起こし、何倍、何十倍にも引き延ばされた時間感覚が空気の泥を作り出したのだ。

 カミカゼの右腕がゆっくりと持ち上げられる。

 かつてない戦慄が襲い来る。

 あれはダメだ。逃げなければ。避けなければならない。一心不乱に唱え、全身に力を込めて逃避を試みる。
 されど体はそれに反応せず、動くにしても鈍すぎる。何故だ、何故動かない。思考だけが先行し、声にならない叫びが胸の内に反響する。泥はクッションのように体を支え、墜落することさえ許されない。
 もし普段の肉体であれば今頃脇は冷や汗でぐしょぐしょだろう。しかし動くのは意識のみで、代謝さえも鈍っている。

 じわりじわり。ゆっくりと。
 しかし、確実に迫ってくる。

 もしも狙いが逸れていれば。ありもしない事を考えるも、その拳は軌道上に置かれるように、おそらくはこちらの動きを読んでいるのだろう。冷酷な程正確にこちらを据えている。

 せめて一瞬の出来事であれば、まだマシだったかも知れない。ゆっくりと確実に驚異を滲ませる拳を視界の端に捉えながらそんなことを考える。

 息を吸えず、視界が拳でいっぱいになる程接近する。殴られる事は確定事項で、既に時間の問題だ。

 ────がちり。

 硬質同士のぶつかり合う音がじっくりと、水中で聞くように低く響き─── <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:42:16.76 ID:jdICBmJV0<> 「─────ォラあッ!!!」


 直後、影の頬を渾身の右ストレートが貫いた。影で構成された仮面の左半分が砕け散り、真っ黒な中身を露出させる。
 暴力的なベクトルが加わり、離脱のための横ロールは失墜の錐揉み回転へと変貌を遂げた。

 すかさず左の拳をぐっと握り締める。
 追い討ちをかけようと言うのだ。

 右足を大きく踏み出す。後方に振りかぶった左手を前方に引っ張り出す。その勢いで二度目の右ストレートを放つ。


「……ッ!!」

 しかしこの影もカミカゼと渡り合った相手。ただ殴れるだけでは終わらない。凄まじい回転の中、相手の視界を誤魔化しながら反撃の策を練っていた。
 まともに捉えることは出来ないが、既にその手に鉤爪は存在していなかった。──おそらくは彼女のできる最後の抵抗──二つ分の質量を一つに纏めて別の質量とした。
 すらりと伸びる持ち手、極端に肥大した先端。愚鈍なまでの力の象徴、影で出来た鉄槌。

 少し遅れたが、カミカゼはそれを認識する。しかし攻撃のみを考えたそれの体勢は回避を許さない。──よしんば可能だったとして、今度は彼女の矜持が許さないだろう。

 最後まで諦めることを良しとせず、一矢報おうとするその姿は賞賛に値すべきものなのだから。

 その形状と凄まじい回転を攻撃力に転化し、強烈な遠心力を得るに至った鉄槌。

 固く握られ、人知を超えたパワーで放たれる拳。

 縦の回転により叩き下ろされ、勢いのまま一直線に打ち出され────


 ───鉄槌が、先んじてカミカゼを打ち付ける。
 伸びきった左肩に直撃。削られるのみだった装甲を潰し、波紋の如くヒビを、内側からスパークの光を押し広げる。

 次いで、鉄拳が影を貫く。
 腹部に直撃。先の攻撃で勢いが削がれていたとは言え、その鎧を粉砕し踏ん張りの利かない体を吹き飛ばすには十分過ぎる威力があった。

 肩から重い鈍痛が全身に響き渡り、奥歯を噛み締めながらたまらず膝を着いた。

 腹部を鋭い衝撃が貫き、粉塵を巻き上げながら地面を転がっていく。

 カミカゼの耳元でバチバチと火花が爆ぜ、煙の向こうでめきりと鈍い音が鳴った。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:43:36.53 ID:jdICBmJV0<> 「………流石、と言うべきかな」

 晴れ始める煙の中から声が聞こえる。

「ケッ……案外元気そうじゃねぇか」

「いやいや?これでも結構参っているよ」

「そうは見えねぇがな」

 影はその鎧を崩壊させはじめ、砕いた仮面の左半分からは少女の澄まし顔を覗かせている。
 苦痛を訴えているようには見えず、虚勢を張っているのか、それともまだまだ余裕なのか。いまいち推し量れず、勝利したのかすら曖昧になる。

「カワイイ顔してなかなかやりやがる……」

 自分の体を眺めながら忌々しさ半分、賞賛半分に吐き捨てる。
 大きなダメージは肩のみであるが、下手に見せればちょっとした騒ぎになるだろう。

「ふん?…まぁ、容姿に自信が無い訳じゃあ無いけれど、少しこそばゆいかな…」

「そっちじゃねぇよ、テメェアタシを誰だと思ってやがる?」

「知ってるさ。みんなのアイドル、向井拓海だろう?」

 あの質問の後にアイドルかよ、せめてヒーローを付けろよ。先の反応と言い、天然なのか?わざとやってんのか?
 胸中に問うても答が出るはずもなかったが、視線の先に映る頬はほんのり赤みがかっているような気がした。
 何でだよ。

「……で、まだやんのか?」

「遠慮しておくよ。ただでさえアイドルをキズモノにしたんだ、これ以上となるとボクもどうなるか理解らない」

「中身はまだピンピンしてるつもりだがな」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:45:15.47 ID:jdICBmJV0<> 「お互い後が控えているんじゃあないかな?仕掛けておいてなんだけど、大怪我をするのは望むところじゃあ無いだろうし、どちらが勝ったとてどちらも得しないんだ。」

「なら何だって………」

「なあに、ちょっとした悪巧みさ」

 くつくつと喉を鳴らし、口元を悪戯っぽく歪めてみせる。クールそうに見えるが、コロコロと表情が変わってなかなかどうして愉快な奴。

「この事は、同盟に報告させてもらうぜ」

「是非とも」

「………ケッ、読めねぇ奴……」

 その癖妙な態度もとってみせる。何というか底が見えず、当たり体に言ってすごく胡散臭い。

「それじゃあ、ボクはこの辺で失礼するよ」

「次会うときは……そうだね、味方として会いたいな」

 こちらに背を向けて歩き出すと、「また会う日まで」と言い残し、影に飲み込まれるように音も無く消えていった。

 ガチャガチャと音を立ててスーツが形を崩していき、元のバイクの姿となる。

 辺りは嵐の後のように静かで、火照った体を撫でる風が、草木を揺らす音のみが目立つ。

 そこかしこを抉られた地面と、ヒビの走った木の幹、そこに素のままの向井拓海が残された。

 戦闘の残響を全身に感じながら、ふと傍らのバイクを見やる。そこかしこに傷が目立つ。後で労ってやらねばなるまい。

 帰った後のことを考えていると、その表面に相棒の顔が浮かび上がってきた。

 傷は基本的に装甲に留まっているので損傷は見た目ほど酷くはないが、それでも見た目にはかなり痛々しい。


 思う。


 こんなバイクを見せたら、また小言を言われるんだろうな。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/05/10(土) 23:46:39.68 ID:jdICBmJV0<> ※善悪問わず実力者に正体を隠した飛鳥ちゃんが喧嘩を売っています。
 でもカースが居たらそっち優先。


能力詳細:影を司る能力

近くにある影から質量を作り出す→光を反射せずシルエットしか見えません。大きくするほど、堅くするほど大きな影が必要。でも結構脆い。
 相手の足元から針を出すなんて芸当も出来るが、意識をそちらに向ける必要がある。

影と影を移動する→所謂瞬間移動。触れ合っていれば他人も一緒に。でも戦闘中咄嗟に出せるほど便利じゃない。登場、退場にどうぞ。

七罪探知:こちらは能力ではなく技術。強欲Pの思い付きと、飛鳥の努力の結晶。魔術もどき。目がすごい疲れる。
 飛鳥は自身の能力にかけて『心の影を覗く』と呼ぶ。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/10(土) 23:51:41.15 ID:jdICBmJV0<> カミカゼ、向井拓海お借りしました

……大丈夫だよね?どっか矛盾してないよね?


戦闘描写にこだわり始めると本当にキリがない。
結果総文字数は約一万。楽しかった。



<>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/10(土) 23:52:03.61 ID:MBe0ex8sO<> 乙ー

飛鳥なかなか強い!
実力者探しか…晴ちんと戦わせてみようかな? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/10(土) 23:57:10.81 ID:hd4snF4e0<> 乙です
やだ飛鳥ちゃん強い。そして戦闘描写パナイの <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/11(日) 14:40:03.26 ID:dR5qdFxMo<> >>33で書いたトリが全然違うことに気づく
わたしだー!

>>51乙です
戦闘描写が超濃厚ですごいの(KONAMI)
飛鳥ちゃんの企みはいかに <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 22:46:28.87 ID:13mgev/DO<> 憤怒の街最終決戦の時間軸で投下します
今から悪い憤怒Pに罰を与えっからなあ! <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 22:48:30.25 ID:13mgev/DO<>
‐1‐

 コツ……コツ……コツ……その闇の中に、一定の間隔で響く足音を除いて生命の気配はない。
 壊れた非常灯が時折思い出したように点滅し、黒い人影を血まみれのコンクリート壁に映し出す。
 足元にも乾いた血溜まり。この非常階段にまで入り込んだカースによる殺戮の痕跡だ。

「上と下を挟まれたなら、どこへ逃げれば生き残れたんだろうな」

 通気性の悪いこの空間には、未だ死の匂いが留まる。どれだけの人間が絶望の中に死んだのか。彼は誰に言うでもなく呟いた。
 返答はない。当然だ。あるいは“彼女”がここにいれば何か気休めでも返してくれただろうか。

「…クソ野郎め、まさか逃げちゃいないだろうが」

 あの不愉快な男は、随分と岡崎泰葉に入れ込んでいるようだった。勝つにしろ負けるにしろ、最後まで見届けるつもりだろう。
 この地獄にあってようやく研ぎ澄まされつつある彼のヒーロー第六感もまた、オロシガネ吊り天井めいた邪悪な存在感を上階に察知している。
 これまでのヒーロー人生の中でも恐らく最強の敵との戦いを前に、不思議と黒衣Pの心は落ち着いていた。

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◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 22:52:08.76 ID:13mgev/DO<>  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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 “憤怒の王”の誕生は最悪の事態であったが、街に残されていた人々にとっては同時に生存のチャンスでもあった。
 市街封鎖カース達が王の下に参じたことでハイ・テック機器が完全復旧し、さらには各勢力の突入も容易となったのだ。
 アイドルヒーロー同盟を始めとする突入勢力はテント村を設営、負傷者の治療や安全地域へのハイペース移送を本格化していた。
 ビルの谷間に見える巨大なドラゴンの姿が、脅威は去っていないと告げる。それでも、人々は希望を取り戻しつつあった。

「なんとか、生きて帰れそうですねっ」

 ストレッチャーに横たわり、洋子が言う。健康的な体も、今はあちこちに包帯が巻かれ痛々しい。

「…いろいろ台無しだけどな」

 傍らのパイプ椅子に座る黒衣Pの声は暗い。洋子が重傷を負う結果となってしまった事実が重苦しくのしかかる。
 アイドルヒーロー同盟のロゴが印刷されたテントの中に彼らは2人きりだ。
 洋子が著しく消耗している今、能力の制御に支障が出るやも知れぬ。周囲に何らかの危害を及ぼす可能性を考慮しての対応だ。

「…プロデューサーは、行かなくて大丈夫なんですか?」

「まだいいだろ。人員は足りてるし、俺はついでだ」

 黒衣Pには他の男性アイドルヒーローと協働でのテント村護衛命令が下っていたが、彼は何とも釈然としないものを感じていた。
 任務が更新された今、命令に従い人命を守るのがヒーローとしては正解なのだろう。だが、それで本当に良いのか? <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 22:56:12.51 ID:13mgev/DO<>
 黒衣Pの脳裏に、あの男の邪悪な笑いが反響する。少女の憤怒を煽り殺戮に突き動かした危険存在。決して見逃すわけには……。

「…ふふっ。プロデューサー、怖い顔になってる」

「元からだ。…もう寝ろ、そうしたら俺も仕事に」

「本当は行きたいんですよね? “アイツ”を倒しに」

 不意打ち気味の一言に、黒衣Pの心は揺れた。彼女の能力故か、それとも分かりやすく顔に出ていたか。
 洋子の視線が遠赤外線めいて彼を炙る。やっぱりだ。見透かされている。抵抗は無意味と悟り、黒衣Pは口を開いた。

「……俺はあのクソ野郎をブッ潰したい。アイツをここで見逃せば、またどこかでこの街みたいな地獄を作るだろう」

 重傷の担当アイドルヒーローを置き去りにし、人道ミッション指令に背き、得体の知れぬ邪悪存在に挑む。言うまでもなく愚行だ。
 だが、悪と戦い倒すことは人命救助と並ぶヒーローの存在意義であり、黒衣Pに迷いはない。
 洋子もまた、止めるつもりはなかった。ヒーローの信じるべき正義は、ヒーロー自身の内にしかないのだから。

「止めませんよ、プロデューサー。……でも、生きて帰ってきて」

「当たり前だ、こんなところで死ねるかよ。ヒーローとしてやるべきことは、まだ山ほどあるんだからな」

 洋子は満足げに微笑み、目を閉じた。程無くして、静かな寝息が聞こえてきた。

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◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:00:27.96 ID:13mgev/DO<>  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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「オイオイオイ…どうなって…オイ! どういうことだこれはァ!?」

 想定外の事態だ。“憤怒の王”が敗れ、消失した。憤怒Pは転落防止手すりを怒りに任せて殴り、蹴り、引きちぎる。
 “憤怒の王”は彼の最高傑作だった。この街に溢れる憤怒のみならず、彼自身も持てる力を惜しみなく捧げた。
 そして“憤怒の王”はヒーローだの能力者だの、有象無象どもを相手に実際優勢だったのだ。

「……ハァーッ。…アイツだな…“怠惰”のガキ…クソッ、追いかけて確実に殺しとくべきだった」

 爆発的な怒りを短時間に吐き出し、憤怒Pは冷静さを取り戻した。失敗の原因も何となく想像がついた。
 思考を切り替えろ。今重要なのは、これからどうするかだ。
 泰葉は逃亡し、彼の下にはもう戻るまい。“憤怒の王”に捧げた力も戻らなかった。憤怒Pは今や龍の残滓に過ぎない。

(ヒーロー連中がどれだけ入り込んでるか知らねぇが、二軍相手でも囲まれたら現状ヤバイか。まずはどうにかトンズラ)

 BLAM! 重い銃声が響き、大質量の12.7mm重金属弾が憤怒Pの首から上を吹き飛ばした。
 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM! さらに銃声! 紅白二丁拳銃のフルオート射撃が憤怒Pの体を細切れにする。
 憤怒Pの破片はコンクリート屋上に散らばり、血の代わりに黒い流動体が広がった。

「立て、クソ野郎。楽に死ねると思うなよ」

 ヒーローマスクの内側でくぐもったその声に油断はない。眼前の邪悪存在をこの程度では倒せないと分かっている。 <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:04:11.84 ID:13mgev/DO<>
 ……おお、見よ。黒い流動体が幾分か蒸発しながらも憤怒Pの残骸を中心としてズルズルと集まってゆくではないか。
 黒い流動体は徐々に盛り上がり、龍の頭と尾を備えた、ギーガー・エイリアンめいて異常痩身のシルエットを成した。

「ケケケ、もちろん死ねるなんて思ってねぇさ。ただの人間じゃ、このティアマットは殺せん」

 邪龍ティアマットは嘲笑い、挑発的にシャドーボクシングして見せた。手足が長い。機敏な動きはまさに強者の風格。

「コレは別に最強形態だの最終形態だのってワケじゃねぇんだ。ただ、身の程知らずのテメェを叩きのめすのにちょうどイ」

 BLAMBLAMBLAM! ティアマットの言葉を遮り再度の銃声! だが、ティアマットは銃弾を全て指で摘み取っている!

「…オイオイ、話は最後まで聞くモンだぜ。スゴイ攻略ヒントとか喋るかも知れねぇだろ? ま、喋らないんだけどさ! ヒヒヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「知ったことか。1発でも多くブチ込んで、1発でも多く殴るだけだ。…来いよ、トカゲ狂人!」

 エボニーコロモは二丁拳銃の弾倉を交換する。常人では目にも止まらぬ無駄のない動きだ。
 しかし、その僅かな隙さえティアマットには充分! エボニーコロモが銃を構えた時、既にティアマットはその懐に飛び込

「トゥオーッ!」

 鋭いシャウトと同時に繰り出された膝蹴りがティアマットの顎を痛烈に突き上げ、黒い流動体が飛散、不快な臭いと共に蒸発した! <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:08:12.26 ID:13mgev/DO<>
‐2‐

『ッああああ!!?』

『はぁ……はぁ…あなたは…?』

『………来たんですか、愛梨さん』

『……愛、梨? …あれ…どこかで……?』

(……愛梨。十時愛梨。元トップアイドル。能力者。風。邪悪でない。強力な。管理下にない。要観察)

(…違う。これは重点警戒能力者リストに書いてあった、ただの表面的な事実)

『ハスター』

(…ハスター。知ってる。…ううん、私は知らない。知ってるのは、私の中の…)

『ヨーコっ! スゴイツイてるっ!』

『――触発されて! イア! ハスター! イア! クト――』

『――私たちの神様! ――火力――森とか焼――』

『私が引き出す! ヨーコが使う! …もうちょっとだけ、ガンバロ!』

『――るはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん』

『――いあ! くとぅぐあ!』

『――ッ、危ない!』

 洋子は咄嗟に手を突き出し――同時に、赤と黒の炎が激突した。

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◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:12:26.74 ID:13mgev/DO<>  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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 洋子は目を開いた。背中に感じる振動。何らかの車両内だろうか。慌ただしく聞こえる声は3人分。いずれも女性のものだ。
 ゆっくりと頭を動かし、周囲を確認する。壁が近い。無機的だが清潔感がある。
 体に何か重いものが乗っている。あまり肌触りは良くない。防火用の不燃性繊維シートだ。

「姐さん、発火現象、鎮静化しました。心拍数、意識レベル正常です」

「シートそのまま。まだ完治してない以上、再度発火可能性重点」

 洋子は医療スタッフのやり取りを聞き流しながら、思い出したように腹部を手で撫でた。
 包帯はない。眠っている間に焼失したのだろう。そして、黒い炎を纏った拳を受けたそこは、未だ焼け爛れていた。
 普段ならば、この程度のダメージは一眠りもすれば完治しているはずだ。

(ちょっと張り切りすぎちゃったかな…もっと、鍛えないと…)

 あの戦いにおいて、洋子は完膚なきまでに打ちのめされ、ヒノタマの力さえも失われようとしていた。
 だが、ヒノタマとの対話を経て彼女は戦い続ける力を得たのだ。悍ましき黒い炎をも相殺できるほどの力を。鮮血のごとく艶やかな、赤い炎を。
 そのきっかけとなったのが、彼女を救った十時愛梨だった。

(もう一度愛梨ちゃんに会えれば、あの時私の体に何が起こったのか分かるかも。それに、あの赤い炎を自由に操れるようになれば…!)

 新たな決意。しかし、今はその時ではない。洋子は再び目を閉じ、温泉めいた穏やかな眠りに沈んでいった。

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◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:16:06.04 ID:13mgev/DO<>  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! やったな! やりやがったな人間! ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 狂笑するティアマット。その体は無惨に損なわれ、頭から胸部、そして右腕が残るのみだ。
 “憤怒の王”に力を捧げて弱体化していなければ、こうなるよりももっと早く、愚かなヒーローをクズ肉に変えていただろう。
 ティアマットは決断的殺意と共に右腕のみで這い進む。曲がりなりにも龍たる彼を追い詰めた存在、今ここで殺さねば。

「…クソッ…アバッ…まだだ畜生」

 血を吐き、呻くエボニーコロモ。ヒーロースーツは著しく破損し、両脚は曲がるはずのない方向へ曲がっている。
 人狼カース戦のダメージがなければ、反撃を受ける前にエボニー・カミナリ・キックがティアマットを破壊し尽くしていただろう。
 エボニーコロモは左腕の力だけで後ずさりながら、右手の銃を発砲する。敵の再生も限界のはずだ。……だが、当たらない。

「おとなしくしてりゃ、カースドヒューマンにしてコキ使ってやってもイイと思ってたが、もうダメだ。やり過ぎたんだ、テメェは」

「生憎、人生夢と希望で満ち溢れててな、そんなのはこっちから願い下げだ。…ヒーロー舐めてんじゃねえぞ」

 発砲。大きく逸れる。狙いが定まらない。ティアマットは前進する。 <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:20:11.83 ID:13mgev/DO<>
 エボニーコロモの背中が何かに当たった。先ほど彼がエントリーした非常口のドアだ。これ以上は下がれぬ。
 発砲……できない。残弾なし。邪龍は勝利を確信し、表情を醜悪に歪めて笑った。

「…ケケケ。夢だの希望だのが潰える瞬間ってのはイイ気分だなぁ?」

 ティアマットは腕を伸ばし、エボニーコロモの喉元を掴む。残る力でへし折ってやれば、終わりだ。
 エボニーコロモは銃を捨て、ティアマットの腕にチョップを打ち込む。キレがない。もはや無駄な抵抗なのか? ……否!

「アッ」

 その悲鳴ですらない声が最後だった。ティアマットの腕が崩れ、次いで胸部、そして頭が形を失った。
 再び黒い流動体と化したティアマットは、シュウシュウと不快な臭いの煙を上げて蒸発してゆく。
 黒衣Pは半壊した黒子ヒーローマスクを脱ぎ捨て、空を見上げた。彼に最後の力を与え、ティアマットを蝕んで劣化させていた雨は、既に止んでいる。

「終わったか……どれだけ死んで、どれだけ助けられたか…数えるのはヒーローの仕事じゃない。それよりも、な」

 夕日を眺めながら勝利を噛み締めるのは正義のヒーローの特権であり、意識を失うまでの数秒間、彼はその特権を誰にも気兼ねなく行使した。
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◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:23:32.38 ID:13mgev/DO<>
 ――未だ煙を上げ続ける黒い流動体から、6本足の黒いトカゲめいた小さな物体が這い出した。
 ――それは夕日に焼かれながらも屋上をひた走り、排水パイプに飛び込み、誰に気付かれることもなく姿を消した。

【終わり】 <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage saga<>2014/05/11(日) 23:25:19.52 ID:13mgev/DO<> 斉藤洋子(ヒーロー名:バーニングダンサー)

職業
 一般人 → アイドルヒーロー

属性
 等身大変身ヒーロー

能力
 『ヒノタマ』による身体強化および各種ワザの行使

詳細
 朱色の炎が形を成した、踊り子ヒーロー装束を纏うヒーロー。肌色の部分が多く、おまけに変身すると衣服が焼失してしまう。
 パワーは比較的抑えめだが、スピードと精度、そして聖炎の力で戦う短期決戦型特殊アタッカー。
 主なワザは以下の通り。

◆カエン・イリュージョン
 自らの精神を炎の幻覚として対象の精神に直接ぶつけ、焼く。アイドルヒーローとして鍛練を重ねて以降、火力の調整も利く。
 精神を直接ぶつけるためカウンターを受ける危険性もあるが、非常に使い勝手が良い。
 かつて洋子が暗黒ピエロとなった時に発現し、その後ヒノタマの覚醒で変質したもの。

◆カエン索敵
 精神攻撃の前段階から派生したカエン・イリュージョンの亜種。精神空間内で対象を感知する。
 遮蔽物を無視でき、カースなど特定の感情が強い対象はより正確に形状を把握できる。
 人口密集地では精度が落ちるのでフィルタリング重点。

◆バーニングダンス
 聖炎を纏った手足から繰り出す、舞踊めいた格闘術。聖炎を扇や剣の形に変化させることもできる。
 下級カースならば多数相手でも問題にならないが、憤怒の街では怒りに身を任せた泰葉のゴリ押しに破られた。

※UNKNOWN※
 憤怒の街にて、十時愛梨との接触を引き金にヒノタマに何らかの変化があった模様。
 聖炎の色が朱色から赤に変わっているが、真価を発揮するには至っておらず詳細不明。 <>
◆OJ5hxfM1Hu2U<>sage<>2014/05/11(日) 23:29:50.60 ID:13mgev/DO<> 以上です
もっと指と頭が早ければいいタイミングで投下できただろうに
そして>>66、@設定付け忘れてる

・愛梨ちゃんと泰葉ちゃん、名前だけ借りました
・一部part7からそのまま流用してます、ごめんなさい
・憤怒P討伐! …ま、そんなワケないよね
・せっかく愛梨ちゃんとの接触があったのでパワーアップフラグ <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/11(日) 23:36:00.27 ID:/zQ6vMPT0<> 乙。
相変わらずニンジャスレイヤー的アトモスフィアを感じる文章
しかし憤怒P、やはり簡単にはくたばらないか。
次は何をやらかしてくれるんでしょうね(ゲス顔) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/11(日) 23:50:04.43 ID:MR1PijhA0<> 乙です
ハスター…というよりクトゥルフ関連で炎と言えば…うん、わかるわ(ニャル子くらいしか見てない感)
憤怒Pもやっぱりしぶとい、でも悔しがる姿は見てて楽しいわぁ…愉悦だわぁ… <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/12(月) 00:04:44.01 ID:7gFwcfqyO<> 乙ー

ヒノタマ……一体どこの森を焼きつくした奴だ?

憤怒Pやっぱりしぶといねー
kwsm「ねえねえ、計画潰された上にボコボコにされてどんな気持ち?どんな気持ち?」(AA略というのが脳裏によぎった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/05/12(月) 00:07:27.91 ID:HXUnwbePo<> おつおつ

憤怒P ●<このままでは済まさん……!
これを想像してしまった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/05/12(月) 11:49:54.73 ID:01/McnnAO<> はじめまして、カキコ失礼します。

私も参加したいのですが、よろしいでしょうか?


このスレは以前から知っていたものの、続いていたこともあって、ヒマな時に一気に読もうとGWから読み始めたのですが…

妄想が捗りすぎて困ってます(笑)
なんとかして下さいお願いします <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/05/12(月) 11:59:18.43 ID:CtGIyQXAO<> >>72
ええんやで
トリップつけてアイドルを予約するといいよ
空いてるアイドルはまとめWikiのアイドル早見表を参照のことー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/12(月) 12:20:04.67 ID:x9fIzhbZ0<> You書いちゃいなyo(参加してくれる方が増えるの大歓迎です!) <> ◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/05/12(月) 12:30:47.65 ID:LUgC641co<> >>72
ナカーマ(私も10スレ目からの人です

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/05/12(月) 12:37:25.91 ID:M2jaB1nM0<> ゴールデンウィークあたりから人が増えてるな、よいことだ
矛盾とか怖いならなら掲示板のほうで設定見せてもいいしね <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/12(月) 13:10:02.96 ID:7gFwcfqyO<> 来いよベネット!銃なんか捨ててかかって来い!(訳・ぜひ参加してくださーい)

質問とかあれば雑談所までどうぞー <> 72 トリップテスト
◆0lcgcQtP4I<>sage<>2014/05/12(月) 13:38:08.71 ID:01/McnnAO<> 我慢できなくてカキコミしたら、もう反応あって嬉しいです!


今のところ予約はしないつもりです。

このスレでの設定が好きな娘やモバマス本家で好きな娘で、出番が少ない娘がいるから、いわゆるテコ入れしたい、みたいな感じなので。

それに、まだ7スレめが終わる辺りまでしか読めてないので、いま考えてる話も使えるかどうか微妙だったり(笑) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/12(月) 13:46:06.37 ID:M2jaB1nM0<> なるほどなるほど、そういうのもアリよね!
まぁ不安なら掲示板のスレでどういう話書きたいか書いてみたら親切に対応しますですよ
スレ読むのがんばれ! <>
◆0lcgcQtP4I<>sage<>2014/05/12(月) 21:24:23.32 ID:01/McnnAO<> とりあえずスレを読み続けながら、書きたい話をまとめていこうと思います。

近いうちに掲示板にもお邪魔しますね。


既にネタが2〜3つ使いにくくなってしまいましたけど… <>
◆0lcgcQtP4I<>sage<>2014/05/13(火) 19:07:25.44 ID:oP+IrXBAO<> 書こうとしていた物とは別に、さっき閃いたことへの意見を求める為にwiki内掲示板に書き込みしました。

よろしければ御協力をお願いします。 <> @予約
◆0lcgcQtP4I<>sage<>2014/05/14(水) 02:38:20.20 ID:cbo4U+xAO<> 姫川友紀、予約させて頂きます。

「予約はしないといったが、あれは嘘だ!」になってスミマセン。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:09:41.21 ID:Jq8DlX090<> 菜々さんの誕生日だ!投下!
なんかシリアスすぎてお祝いじゃなくなってしまったことを最初から謝罪させていただきます <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:10:29.23 ID:Jq8DlX090<> ―――あとどれくらい 切なくなれば…

―――あなたの声が 聞こえるかしら…

暗いドームの中に、一筋の光が降りてきた。

光の中、半透明な空中階段を下ってくる人影。

『碧いうさぎ』を歌いながら、彼女は自らの能力によって作った階段を下る。

それは切ない愛の歌。思いを込めて、彼女は歌う。

一人では死んでしまうくらい寂しいから、愛しのあなたに抱きしめて欲しいと歌う。

階段を下り続け、足元に蒼いサイリウムの海が近づいてくる。

歌い終えると同時にステージに足が触れる。

観客の拍手と歓声に包まれ、幸せそうに菜々は微笑んだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:11:41.98 ID:Jq8DlX090<> 菜々「皆さん、今日のライブに来てくれて、ありがとうございます!」

菜々「ナナの誕生日記念ライブ!…あっ、でも18歳じゃないですよ!ナナは永遠の17歳ですから!」

「にじゅ…「「「「菜々さんマジ永遠の17歳!!」」」」

観客が菜々のお決まりネタにそれぞれ反応を見せる。

菜々「…この一年も皆さんの応援のおかげで、アイドルとしても、ヒーローとしても活躍できました」

菜々「そんなアイドルヒーロー、ラビッツムーンとして活動できることがナナの喜びです!では次の曲はナナのデビュー曲!メルヘンデビュー!」

「「「「ウオオオオオオオオオオ!!」」」」

観客席に花が咲き誇る。舞台の影で夕美が手をヒラヒラ振っているのを一瞬だけ菜々はチラリとみると、マイクを強く握った。

菜々「ウサミンパワーでメルヘンチェーンジ!夢と希望を両耳に引っ提げ、ナナ、がんばっちゃいまーす!ぶいっ♪」

明るく電波なミュージックが会場を桃色に染め上げる。

「「「「「「「ミミミン!ミミミン!ウーサミン!」」」」」」」

これが菜々のステージ。多くのファンに愛されながら、コールに包まれる。

あの日からコールの中の故郷の名前に胸を痛めるけれど…彼女は笑顔で歌い続ける。

『ウサミン星人』という名前にのしかかる重圧は、自分の行いで起きた故郷の崩壊を考えてしまう菜々の心にのしかかる。

でも今は忘れないといけない。アイドルは笑顔が一番ステキな職業なのだ。

菜々(今のナナは地球人の菜々…何も知らない普通の菜々…!笑うのが一番幸せなアイドルの菜々!!)

演技ではない。心の底からの笑顔。菜々はしっかりと心の底から笑えていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:12:51.76 ID:Jq8DlX090<> 菜々「ウサウサウーサ、ウーサミーン!!」

コールと共に菜々の歌が響く。

コミカルで電波なミュージックが空気を振動させる。

不意に、間奏の中で菜々はすぅ、と息を吸って言葉を放った。

菜々「…ファンの皆は、ナナの事を…ずっと好きでいてくれますか?」

「「「「「「「…ウォォォォォォォォォ!!」」」」」」

これにはファンも一瞬は戸惑ったが、すぐに歓声が返事として帰ってくる。

誕生日ライブ限定の演出だろう。そのくらいの認識だ。

袖の方でプロデューサーが慌てていた気がするが…今は気にしない事にした。

今はこのステージで、この光景の中心に居たいから。

まだライブが終わるまで、ナナは菜々でいたかった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:15:44.38 ID:Jq8DlX090<> ――

菜々「プロデューサーさん!ライブ、大成功でしたね!」

873P「いやーあのセリフはびっくりしたけど…まぁいいか、ファンにもウケたし」

夕美「うん、ナナちゃん輝いてたよっ!」

菜々「えへへ、ありがとうございます…」

夕美「…ナナちゃん、ちょっといつもより元気ない?」

菜々「そ、そうですかねぇ〜…?」

ちょっとだけいつもよりもフラフラとしている。

873P「どうした?疲れているなら休め。…アレだ、体力もつのは一時間なんだろ?」

菜々「い、今はもっと持ちますよ!?…でもお言葉に甘えちゃいます…休みますね…」

873P「…はぁ」

プロデューサーはため息を吐いたが、夕美がそれを菜々の視界に入らないように割り込んだ。

夕美「本当に…大丈夫?」

菜々「…大丈夫ですよ、夕美ちゃん。でも…ちょっと一人にしてもらえますか…?」

夕美「そ、そう…わかった。…無理しないでね」

その背中を名残惜しげに夕美が見送る。この後夕美には撮影の予定があった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:17:17.79 ID:Jq8DlX090<> 扉が閉じ、廊下を歩く音が聞こえなくなったところで夕美はプロデューサーを叱る。

夕美「…プロデューサーさん!女の子の前で溜息なんて、デリカシーが無いよっ!」

873P「あぁ、すまん…菜々さ…菜々は今日以降暫く実家に帰るみたいでな、同盟に何か言われないか不安で仕方ないんだ」

夕美「!?」

873P「…ん?知らなかったのか?」

夕美「…@■○★×▽▲☆☆▼◎●…!?」

873P「どうした夕美、言語が変だぞ!?」

夕美「あ…ごめんなさい、びっくりしちゃって…!」

873P「何語だったんだ、今の…」

夕美は完全に動揺する。実家とは恐らくウサミン星の事。ショックだった。それと同時に背中に汗が流れ始める。

873P「まぁ菜々さ…菜々は最近どうも調子悪いみたいだし、少しの休みくらいではそう文句は言われないとおもうがなぁ…さて、テレビ局に行くぞ」

夕美「は、はーい!ぱぱっと終わらせます!絶対に!」

873P「お、やる気あるみたいだな!」

夕美「ガンバリマス!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:18:43.15 ID:Jq8DlX090<> ―

菜々「…」

夕焼けに染まる道を歩き、考えるのは故郷の事。

アイドル仲間もファンも捨て、故郷に帰っても…故郷を崩壊させた自分に何ができるだろうか。

だがこのまま故郷に帰らず、彼の思いを踏みにじり…故郷への罪を背負って生き続けるのは辛い。

行くも地獄。行かずも地獄。思いは眠るたびに頭の中でグルグル回る。

知らなければ幸せだったと、自分の中の無責任な自分がぼやく。

一晩でグルグル、二晩でグルグルグル、三晩でグルグルグルグル…

時間と共に重圧は増えていく。でも彼女は動けない。人気アイドルヒーローとして、滅多に休日は無い事も関係する。

アイドルヒーローは挫けない。弱音を吐かない。そしていつもみんなを安心させるために笑う。

いつでも絶望しないその強さに人々は安心し、憧れ、夢を見る事が出来る。アイドルもヒーローも夢を見せることが出来る。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:20:24.46 ID:Jq8DlX090<> だから彼女が悩むのは眠る時と、一人の時。安部菜々でもラビッツムーンでもなく、一人のウサミン星人、ナナとして考える。

…決められないのだ。どちらも菜々のアイデンティティ。どちらも菜々の大切な場所。生まれ育った故郷と、長く住み続けた第二の故郷。

夢だったのだ、みんなを笑顔にするアイドルになる事が。自分の夢に忠実に生きたのは、何年振りの事だっただろう。

諦めていたのだ、アイドルになることを。ナナはアイドルになるにはウサミン星人基準でも歳を重ねすぎたと思っていたから。

バイトの合間に見かけた地方アイドルのステージ。ただのバックダンサーの一人でしかない夕美に、何故か惹かれた。

バックダンサーではあったが、踊る夕美の笑顔は心に響くものがあった。…彼女のように笑って踊りたかった。

その後、偶然が重なり夕美と共闘し、お互いの事を知り…その後スカウトされた。

彼女が居なければ、自分も彼女もアイドルヒーローになることも無く生活していただろう。スカウト云々ではなく、アイドルになろうという意思の時点で。

ずっと菜々は孤独だった。ウサミン星人は不老長寿であるために、何度も各地を転々とし、別れを繰り返した。

うさぎは寂しいと死んでしまうなんて、実は嘘らしいけれど。でも菜々は寂しかったから。

誰かを笑顔にする仕事をしたかった。皆に愛され皆を愛し、笑顔を振りまき笑顔が返ってくる。そんな仕事が。

だから今、大人気アイドルヒーロー・ラビッツムーンとして、大変ではあるが幸せな生活を送っていた。…筈だった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:22:55.43 ID:Jq8DlX090<> 記憶の中、白黒のテレビに映るアイドル達は…菜々の憧れであり夢であり希望だった。

だからある日思いついたように本星にこの星の娯楽の情報を持ち帰った。

何故今まで思いつかなかったのだろう、とその時は喜びながら思っていた。

今までで一番量の多いデータ。音楽、絵、小説、映画、アニメや漫画…持ち帰れる限り持ち込んだ。

娯楽に秘められていたのは…個性、自由、文化。ウサミン星に今まで無かったもの。

その行動がまさか革命に繋がるなんて思っても居なかったのだ。

菜々(ウサミンPさん…ナナは分からないんです、自分のした事が許されるのか…)

菜々(ファンのみんなが菜々の歌で笑顔になる。街の皆が菜々の活躍で笑顔になる。それが幸せでした。でもナナは、故郷の平和を…)

平和が壊れ、争いを起こすようになった故郷の民。地球に来て犯罪に手を出す者も少なくない。

ナナが奪ったのは故郷の平和だけではない。地球に限らず他の星の人々の未来や希望さえ奪ったはずだ。

管理社会であったが平和だった昔のウサミン星と、自由ではあるが争いが絶えないウサミン星、どちらがよかったのだろう。

結論が出せない。…でも、今日までに結論を出すと決めていた。

あまりにも彼を待たせ続けた。だから、今年に入ってから菜々が初めて地球に来た日付までには決めると決めていた。

菜々「ナナはウサミン星に帰って…許されないなら、罰を…。許されたなら、償いを…」

どちらにしろ…ナナはやはり帰らなくてはならない。地球に帰れなくても。

…いや、帰れる可能性なんて無いに等しいかもしれない。

どちらも取れない二択。でも心はもう限界だった。

何もかも諦めたように夕日を見つめながら、電話…いや、同盟の管理下ではない通信機を手に取った。

菜々「…もしもし、ナナです。突然の連絡ですみません…今から行ってもいいでしょうか」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:25:09.04 ID:Jq8DlX090<> ――

連絡通りの路地裏に来るとテレポーターが起動し、ナナは地上からウサミンPの宇宙船へ再び乗り込んだ。

ウサミンP「…ナナ様、お久しぶりです」

菜々「…お久しぶりです。まずは結論を出すまでにこれほどの時間がかかったことを謝罪させてください」

ナナは深々と頭を下げる。その姿にウサミンPは心を痛めた。

これほど時間がかかる選択肢を提示したのは己なのだから。

ウサミンP「…ナナ様、どうか頭を上げてください。貴方が謝る事は無いのです」

菜々「いえ、ナナのせいでこんなに時間がかかってしまったんです。謝るのは当然です」

菜々の結論に時間がかかったのには彼女の職の都合もあると、ウサミンPは知っている。

だが頭を上げても俯き気味のナナと視線は交わることは無かった。

その後は沈黙。コツコツと、廊下に足音が響く。

ウサミンP「こちらへ…」

一室に案内され、椅子に座る。テーブルを挟んで向かい合った。

…身長146cmと2mの二人のウサミン星人。ナナは擬態を解き、つやつやとして真っ白なその姿を晒した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:27:46.79 ID:Jq8DlX090<> 菜々「…結論を出しました。ナナは…ウサミン星へ帰ります」

ウサミンP「…ではナナ様は、ウサミン星のグレートマザーに…」

菜々「いえ…ナナは、本当に自分がグレートマザーなんて言われる程の器なのか、わからないんです」

ナナは彼と比較すれば本当に小さなウサミン星人だ。長い耳が少し垂れてる。

自分はただ調査結果を持ち帰っただけであり、称えられる程の事をした実感もない。だから、ナナは怯えている。

だがすぐに耳を立て、その白目が無い瞳を彼に真っ直ぐ向けた。

菜々「だから、ナナがウサミン星に行ってどうするかは…向こうで決めさせてください…それと」

持っていたバッグから、スケジュール帳を取り出した。

菜々「アイドルヒーロー…今日を境にしばらく休養をとることにしました。…あの歌姫の子の予定もあるでしょうし、すぐに行けるとは思っていませんけど…しばらくはこちらで生活させてください」

一か月の休養でもかなり渋られた。帰って来なかったら事務所にきっと迷惑をかけるだろう…考えると胸がズキズキと痛んだ。

ウサミンP「ええ、ナナ様が過ごす生活スペースは用意してあります。…ただ」

菜々「…ただ?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:29:27.15 ID:Jq8DlX090<> ウィーン

菜々「あれ、ドアが…?」

『テーンテーン!』

ほうじょーさん「ふふっ♪」ウィィィィィン

自動ドアが開き、ハンテンバに乗ったほうじょーさんが足元を通り過ぎていった。

こにか「おねー!おねー!」シュタタタタタタタ

こにかが全力でほうじょーさんを追いかけ、足元を駆け抜けていく。

かみゃ「んなー!」ダダダダダダ

かみゃがこにかを止めようと追いかけ、また足元を駆け抜ける。

きらきら「にょわー☆」ドドドドドドドド

そしてそれを楽しい鬼ごっこか何かと勘違いしたきらきらが追いかける。

ぐんそー「まいしすたー!」ヒュイーン

そのきらきらをラジコン飛行機のコントローラーを操作しながら乗っているぐんそーが追跡する。

まきのん「…きょーみぶかいな」ジー…

そしてまきのんは初めて見るメスのウサミン星人…ナナを扉の外からじーっと見ていた。

思わず地球人の擬態を再び行うと、驚いた後に眼鏡をクイッとさせて再び「きょーみぶかいな」と呟いた。

菜々「あ、あの…この子達は?」

ウサミンP「…ここに住み着いてる謎の生物です。外に捨てる事も出来ず、ずっとここに…」

シリアスムードを一気に壊したぷちどる。恐らくウサミン星に行く時も連れていくしかないだろう。

菜々「も、もしかしてウサミン星に一緒に行くんですか!?こんな子達が!?」

ウサミンP「そうなってしまいますが…恐らく大丈夫でしょう、結構丈夫なのはいろいろ見て知りましたし…」

菜々「そ、そうですか…」

後ろを見れば何やらお互いにおもちゃを使ったり倒れた子に水をかけたり噛みついたりして遊んで(?)いる。

菜々(…大丈夫なのかな)

菜々は若干ウサミン星に行った後の事が不安になった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:31:17.89 ID:Jq8DlX090<> ――夜

ウサミンPの宇宙船に、緑色の光が意思を持つように侵入した。

夕美「…」

??「みみみん…!?」

人の姿をとると、腕に抱えていた小さな生物も目を白黒させた状態で出現した。

夕美「あっ…肉体の再構成を利用して移動するのはちょっと怖かったかな?ごめんね?」

??「みーん…」

夕美は仕事を終わらせると、女子寮に植物と自分のエネルギーで影武者を作り菜々を探していた。

ステルスで隠されているこの宇宙船を探すのに何時間もかかってしまったが、ついにたどり着いた。

夕美(ナナちゃんの気配を追ってみたけど…やっぱりここなんだね)

??「うっさみーん!」

夕美「よしよし…ナナミンちゃん、良い子だからちょっとだけ静かにしていてね?」

ナナミン「ぶいっ☆」(小声)

菜々がこの船内に居ることを、瞳を閉じて気配として確認する。

夕美(本当に…帰っちゃうんだ、ウサミン星に)

夕美はここまで来たのにはちゃんと理由がある。一緒に行って、ウサミン星と菜々がどう生きていくのか見届けたいのだ。

夕美(あのウサミン星人も言ってたもんね、だから…最後まで見届けるよっ!)

…恐らく、そこまでしろという意味は全く含まれていない筈だ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:32:56.63 ID:Jq8DlX090<> さっそく具体的な位置を割り出そうともう一度瞳を閉じる。

菜々「あれぇ…夕美ちゃん?…夜更かしはだめだよぉ…」スタスタ

夕美「!」ビクッ

ナナミン「みみんっ!?」

だがパジャマを着た菜々が丁度真横から出て来て通り過ぎていった。

菜々「…ん?……あれぇ!?ここ女子寮じゃなかった筈ですよねっ!?」

夕美「ナナちゃん寝ぼけてたの!?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:34:18.73 ID:Jq8DlX090<> 菜々の住むことになった部屋に入り、二人はソファに腰を掛ける。

菜々「…そうでしたか、ナナの事を気にして…ここまで来ちゃったんですね」

薄れていた記憶の中、真実を告げられたあの時の記憶の断片…意識を失う寸前の記憶に夕美が居たことをはっきり思いだした。

…彼女はいつだって菜々の事を心配しているのだ。依存的ともいえる程に。

夕美「…ナナちゃんを止めようとは思ってないの。ただ…あれが最後の別れだなんて嫌だよっ!私以外の皆にも本当の事を言わなかったでしょ!」

菜々「…すみません。でも引退を宣言するより、行方不明のほうがまだ…同盟からの減点も少ないと思って…」

涙目で抱き着く夕美に、申し訳なさそうに菜々は俯く。

夕美「…ナナちゃん、暗い顔しないでよ…どんな理由でも故郷に戻るんでしょ?それにウサミン星の皆も、絶対ナナちゃんの笑顔を好きになってくれるよ?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:37:26.38 ID:Jq8DlX090<> 菜々「アイドルと、これからは違うんですよ…ナナは償いをしなきゃいけないんです。そんなナナが笑顔なんて…」

夕美「…ナナちゃんのバカっ!思い詰めすぎちゃダメだよ…!」

菜々「え?」

夕美「ナナちゃんが今までやろうとしたことは…やりたかった事は!みんなを笑顔にする事でしょ!?」

菜々「でも…っ!ナナは…!!」

夕美「私は、ナナちゃんのした事が正しいのかなんて、分からないけど…!ナナちゃんが笑顔になれない世界で、みんなが笑顔になれるわけないよ!」

菜々「…それは、そうかもしれませんけど」

夕美「そんなの嫌だよ…離れ離れになるのが嫌だとか、ナナちゃんが居ない地球なんて滅べばいいとか、ワガママ言わないから…!せめてナナちゃんに幸せになってほしいのっ…!」

菜々「…だって!だって!ナナは、ナナは…っ…!ウサミン星を滅茶苦茶にした犯人で…!ナナのせいでたくさんの人がぁ…!」

菜々も夕美もぼろぼろ涙を流しながら抱きしめ合った。

菜々「ナナが幸せになっていいんですか…!?こんな女が、幸せになっていいんですか…!?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:39:00.31 ID:Jq8DlX090<> 夕美「違うよ…ナナちゃんが幸せになれないウサミン星なんて…そんなの駄目だよ…」

夕美の声のトーンがだんだん落ちていく。

菜々「はっ!?ス…ストーップ!夕美ちゃんそれ以上は駄目です!!」

ナナミン「ミミーン!ミンミン!」

夕美「…あっ…うん、ごめんね…」

菜々(夕美ちゃんの入っちゃいけないスイッチが入る所でした、危ない危ない…)

菜々「…落ち着きましたか?…なんて、そんな事言ってるナナも泣いちゃいましたけどね」

夕美「うん、私も思い詰めちゃった。おそろいだねっ」

菜々(それはおそろいって喜んでいいんでしょうか)

ナナミン「ぶいっ☆」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:40:39.98 ID:Jq8DlX090<> 菜々「…ところで、さっきから気になってはいたんですけど…この子はなんですか?」

夕美「ナナミンちゃんは、私からの誕生日プレゼントだよ?」

ナナミン「うーさみーん!」

菜々「えっ」

夕美「この子…というかこの種族(?)はね、外見が似てる人と魂の気配がそっくりなんだよ」

菜々「そうなんですか…よくナナには分かりませんけど…」

夕美は優しくナナミンを菜々に抱かせる。

ナナミン「みみみん!」

夕美「だからね、一度見かけた時からずっと探していたんだよ…ナナちゃんそっくりなこの子、ナナちゃんも大事にしてくれると思って」

ナナミン「ななー!」

さっき見かけた小さな子達と同じ種族であろうナナミンという名前の小人は、笑顔でぴょこぴょこと跳ねた。

菜々「そっか…ふふ、ナナミンちゃん…」

夕美「ふふっ、ナナちゃんやっと笑ってくれたねっ!ナナミンちゃんに癒し効果でもあったのかな…?」

菜々の微笑みに夕美も笑顔になる。先程まで泣いていたとは思えない程の、いつもの花のような笑顔だ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:43:16.40 ID:Jq8DlX090<> 菜々「…ふぅ」

夕美「ナナちゃん?」

菜々「ナナ、ちょっとだけ悲観的になりすぎていたのかもしれません…」

ナナミンの頭を撫でながら、菜々は窓の外を見た。夜の街はまるで地上が星の海のように煌めいている。

菜々「…これから見るウサミン星は、ナナの知っているウサミン星と全く違うウサミン星の筈です。ナナのやった事で、たくさんの人が犠牲になって生まれ変わったウサミン星です」

菜々「きっとウサミン星のみんながナナの事を許しても、ナナは絶対に自分を許せない。…それでも、ナナはこれからを生きる人々を笑顔にしたい」

この景色は、菜々がみんなと共に守ってきたもの。菜々が愛した地球の光景。

菜々「ナナは神様じゃないから、全部を救う事なんて難しいかもしれません。でも…資格が、才能が、ナナにあるかなんて分かりませんけど…ナナはやっぱり笑顔が好きだから…!故郷のみんなにも笑顔になってほしいから…!」

地球の娯楽を持ち帰ったのも、みんなの笑顔が見たかったから。その気持ちはずっと変わっていない。

菜々「…そうですよね、みんなのリーダーになる人が笑えないなんて…寂しすぎますよね。なら、ナナはまたみんなと笑いたい…!」

夕美「うん!それでこそナナちゃんだよ♪」

ナナミン「みみみん♪」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:46:14.68 ID:Jq8DlX090<> でも菜々はまだ不安だった。一瞬だけ夕美から視線を逸らし、再び真っ直ぐ見つめる。

菜々「あの…夕美ちゃん、ナナのお願いを一個だけ聞いてくれますか?」

夕美「お願い?」

夕美の手を菜々は握る。夕美の好意を知っていて、この言葉を言うのだ。きっと前世は悪女だったのだろうと、心の中で皮肉った。

それは彼女の好意を利用したとも言える、意地悪なお願いなのだから…誰かが知ったら卑怯者と後ろ指をさされるに違いない。

菜々「もしナナがウサミン星から帰って来れなくなっても…ナナの大好きなこの星を…地球のみんなを守ってくれますか…?」

夕美「…ナナちゃん」

夕美の使命や立場を考えれば、この約束はしてはいけないものだ。

いつかこの星が植物を滅ぼしそうになれば、夕美はこの星の文明をリセットさせるという使命があるのだから。

菜々と約束してしまえば、きっと夕美はもう二度とこの星を滅ぼせない。もしかしたら菜々が死んでもこの約束に縛られ続けるかもしれない。

菜々(でも夕美ちゃんは、きっと約束してしまう。…ほら夕美ちゃん、ナナはこ〜んなに悪い女なんですよ…?)

夕美「…うん、約束するよ。ナナちゃんが居なくなっても、ナナちゃんの大切なこの星を…絶対に守るよ」

夕美の愛を菜々は知っている。菜々の思いを夕美は愛している。こんな自分の卑怯さを恥じる菜々も、夕美は愛していた。

彼女が愛するこの星を、たくさんの友達がいるこの星を、約束が無くても夕美はもうきっと滅ぼすことは難しいというのに。

菜々「…ありがとう、夕美ちゃん」

夕美「だから私とも約束して?…夢と希望を両耳から無くしちゃダメだよ?」

ナナミン「ミン!」

菜々「…ふふっ、わかってますよ」

菜々(…まだ、都合のいい未来を夢見てもいいですよね?ウサミン星も夕美ちゃんも、ナナも幸せになれる未来を…)

どうかその夢が現実になりますようにと、幼い少女のような心で菜々は祈った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:47:24.60 ID:Jq8DlX090<> オマケ・影武者ユミミン

・ヮ・「いべんと、ちゃんとせいこうさせなきゃー」

拓海「お、今日のイベントで一緒の仕事なのか。よろしく頼むぜ」

・ヮ・「たくみちゃん、よろしくねー」

拓海「…ん?」

・ヮ・「どーしたです?」

拓海「い、いや何でもない、気のせいだな!」

・ヮ・「なーんだ、びっくりしちゃったー!」

スタッフ「夕美さんスタンバイお願いしまーす!」

・ヮ・「はーい、いまいきまーす」

拓海(…あそこまで口を開けっ放しにする奴だったか…?)

※イベントは無事に成功したようです <> @設定
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:48:53.36 ID:Jq8DlX090<> ナナミン
安部菜々によく似たぷちどる。鳴き声は「みみみん!」「ぶいっ」「うっさみーん」「ぴりぴり〜ん」等。割と豊富。
みんなを笑顔にすることが大好き。耳が良く、さらに頭のリボンから情報を載せた電波や、電気を発することが出来る。
ちなみに白い体のウサミン星人モードにもなれるらしい。

影武者ユミミン
夕美が毎日世話をしている植物と夕美のエネルギーで作り上げた影武者。致命的な欠陥として基本的に表情が・ヮ・だがそれ以外は大体同じ。
今回のウサミン星突撃の間に身代わりになってもらう事になった。
歌って踊れて変身できて植物も操作できるが飛ぶことだけが出来なくなっている。 <> @設定
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/15(木) 00:51:35.31 ID:Jq8DlX090<> 以上です。ぷちどるの癒しを間に入れないと心が折れる。
イベントの時系列は方舟より前か後かとかウサミンPの宇宙船の他の搭乗者の数とかは一応ぼかしておきました。
菜々さんマジでごめんなさい!こんなの誕生日祝いじゃないわ!ただの誕生日記念よ!
…そして今まで書いてきた話の中で一番濃厚でドロドロな百合を書いた気がする。どうしてこうなっちゃったんだろうねー(棒)

情報
・ウサミン星イベントはシェアワ時系列で5月15日以降一か月以内の話になる模様
・菜々が決断しました。一か月ほどアイドルヒーロー業を休養し、ウサミン星へ帰還します。夕美も同行します。
・夕美は影武者を用意したので恐らくそれなりにはばれない…はず。 <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/15(木) 00:58:16.72 ID:PogtX7nj0<> 乙ー

ウサミン星突撃か
果たしてどうなるやら

そして、ウサミンPが胃痛引き起こさないか心配に

ナナミンかわいいな。他のプチ達との絡みもどうなるやら

そして、たくみん気づいてーw <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/15(木) 01:23:31.31 ID:C53O8Kgu0<> 乙。
遂にか……色々複雑なもんだから、先が凄い気になるぜ <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:14:31.44 ID:/9fLi8ur0<> 乙乙
色々起こって感想がおっつかないぜ!

投下しますわよー <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:15:43.47 ID:/9fLi8ur0<>
アイ「やれやれ、手応えのない仕事だった」

ナイフを手慣れた動作でしまいながら、アイは女子寮への帰路に着いていた。

アイ「早く帰らないと、茨姫が拗ねてしまうな」

今回は簡単な依頼だと踏んだアイは、ハナも茨姫も用いずに依頼に臨んだのだった。

部屋でハナに当たり散らす茨姫の姿が、まるで目に浮かぶようだ。

〜〜

茨姫『あーもう! アイはまだ帰ってこないの!!』

『ギギン、ギギギギン!』

茨姫『うっさいわね! アタクシは寂しいのよ!』

『ギギギン、ギンガギン!!』

茨姫『上っ等じゃない! 表に出なさい、決闘よ!』

〜〜

アイ「……急ぐか」

まあ、茨姫単独では外に出られないし、ハナの背ではドアノブに届かないのだが。

??「待ちなよ」

ふと、アイを呼び止める声があった。

女性にしては高めな背丈、露出の高い水着のような衣服、外側にくりんと跳ねた茶髪……。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:16:43.64 ID:/9fLi8ur0<> アイ「……何だ、君か」

カイ「やっと見つけたよ、傭兵さん」

海底都市の反逆者にして現在依頼による奪還対象、カイだった。

アイ「何か用かな? もしかして、私に捕まってくれるのかな?」

カイ「冗談言わないで。依頼がしたいの」


アイ「君が……私にかい?」

アイは訝しんだ。

捕えられるリスクを冒してまで、依頼したい事があるというのか?

カイ「報酬ならあるよ、ほら」

カイが取り出したのは、数枚の紙幣。

カイ「大した内容じゃないから、これでいいでしょ?」

アイは紙幣を受け取り枚数を数えると、顔を上げた。

アイ「まあ、内容を聞こうか。話はそれ次第だね」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:18:20.98 ID:/9fLi8ur0<> ――――
――――――――
――――――――――――

海底都市、海皇宮。

エマ「ヨリコ様、ハッピーバースデー!!」

エマが盛大にギターを掻き鳴らし、ヨリコの生誕を祝う。

ヨリコ「ふふ。ありがとうございます、エマ」

エマ「はいっ、コレ! 親衛隊一同からのプレゼント!」

エマが、綺麗に包装された小箱をヨリコに手渡す。

ヨリコ「ありがとうございます。……開けてみても良いですか?」

エマ「どうぞどうぞ!」

ヨリコが丁寧な手つきで箱を開けると、箱の中には宝石をあしらった首飾りが入っていた。

ヨリコ「わぁ……」

エマ「ヨリコ様ヨリコ様! 早速つけてみなって!」

エマに促され、ゆっくりと首飾りを身につける。

ヨリコ「に、似合いますか……?」

エマ「……っんもう超バッチリ!! 綺麗!! マジで気品そのもの!!」

ヨリコ「あ、ありがとうございます…………気品、ですか?」

エマの一言に少し引っかかったヨリコは、その言葉をくり返す。

エマ「あ、うん。えっと、それゴシェナイトっていう宝石で、地上でいう石言葉が『気品』なんだってさ。マキノが言ってた!」

ヨリコ「そう、マキノが……ありがとうございますエマ、大切にしますね。マキノ達にもそう伝えて下さい」

エマ「ッザァーッス!!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:19:14.26 ID:/9fLi8ur0<> エマの威勢のいい返事の直後、部屋の戸が軽くノックされた。

兵士「ヨリコ様、アンダーワールドのアイ様がお越しです」

ヨリコ「はい、お通しして下さい」

兵士「はっ。ではアイ様、こちらへ」

兵士が下がり、代わりにアイが部屋に入って来た。

アイ「お邪魔するよヨリコさん、誕生日おめでとう」

ヨリコ「あ、ありがとうございます……ご存知だったのですか?」

ヨリコは少し驚いた。

彼女には誕生日の事など話していないはず……。

アイ「いやなに、彼女からそう聞いたのさ」

ヨリコ「彼女?」

アイ「私の依頼主様だよ、ほら」

そう言ってアイは小さな袋をヨリコに手渡した。

ヨリコ「これは……?」

アイ「全く、彼女は傭兵を何でも屋か何かと勘違いしているんじゃないかな」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:20:03.90 ID:/9fLi8ur0<> ヨリコが袋から取り出したのは、折り紙で出来たカイの二頭身の人形だった。

エマ「おっ、カイじゃん!」

ヨリコ「手紙も入っています……」

『ヨリコ、誕生日おめでとう。

ごめんね、まだそっちには帰れそうにないかな。

これはその代わりっていうか……そんな感じ。

あはは……やっぱダメかな?

ホントにごめんね、やっぱり今の海底都市には帰れないよ。

でも、またいつかきっと……あの時みたいに、

ヨリコやサヤと3人で笑い合える日が来るって信じてるよ。

じゃあ、また会おうね。

親衛隊のみんなにもよろしく。

カイより』

手紙を読み終えたヨリコは、手紙をたたんでほほ笑んだ。

ヨリコ「……そうですね、また、きっと……」

その目に涙をいっぱいにたたえながら。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:21:14.98 ID:/9fLi8ur0<> アイ「良いご友人を持っているようだね。なるべく早く連れ戻すから、安心して待っていてくれ」

ヨリコ「はい、ありがとうございます」

ヨリコは涙を拭い、アイへ微笑みかけた。

エマ「……あ、そうだ! 今厨房でケーキ作ってんだ、デッカいヤツ! 完成してるか見てくる!」

突然大声を上げたエマが、慌ただしく部屋を出て行った。

アイ「ふふ、彼女はいつも忙しないね」

ヨリコ「賑やかで元気なのが、エマの良い所でもあります。そうだ、良ければアイ様もご一緒にケーキいかがですか?」

アイ「お誘いありがたいけれど、そろそろ気の短い同居人達が暴れ出す頃合でね。今日は失礼させてもらうよ」

アイはヨリコに軽く会釈し、部屋を後にした。

ヨリコ「お気をつけて。…………」

アイを見送ったヨリコは、手に持ったカイの折り紙人形をしげしげと眺める。

ヨリコ「…………ふふっ」

微笑んで頭のアンテナを2度撫でると、絵皿の隣にチョコンと飾った。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:22:25.12 ID:/9fLi8ur0<> ――――
――――――――
――――――――――――

一方その頃カイは。

亜季「ガミガミガミガミガミガミガミガミ」

星花「クドクドクドクドクドクドクドクド」

カイ「はい……すいませんでした……」

亜季「ガミガミ」

星花「クドクド」

カイ「はい、海より深く反省してます……………………海底人だけに(ボソッ」

亜季「」ブチィッ

星花「」ビキィッ

カイ「ひぃいっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい冗談ですぅ!!」

……チームのお金を勝手に使った事を2人にこっぴどく叱られていた。

ちなみに、この後事情を話して一応は許してもらえたものの、

それでも罰としてしばらくカイだけ三食惣菜パンのみの食事となったのは、また別の話。

おわり <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/18(日) 01:23:50.15 ID:/9fLi8ur0<> 以上です
「しんみりした話を書くとしょうもないオチをつけたくなる奇病」を患った僕だけどヨリコ誕生日おめでとう!

アイをお借りしました <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/18(日) 01:27:42.85 ID:xstey2C20<> 乙ー

ヨリコさまお誕生日おめでとう!
そしてカイェ…… <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/18(日) 09:17:20.22 ID:Rcv9et0m0<> 乙です
ヨリコ様おめでとー!
やっぱりカイとは切れない絆があるんだよな…

茨姫とハナ…女子寮の外で決闘…できるのか?
ゴシェナイトググったけど綺麗な宝石だなぁ
カイ、説教中にジョークはアカン <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:16:11.18 ID:TXxZQOIZ0<> 学園祭、ナニカと加蓮のお話投下 <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:17:26.30 ID:TXxZQOIZ0<> 眠る加蓮を心配そうにナニカ…仁加は見つめていた。

頬に手を伸ばして、その暖かさにほっとする。

仁加「お姉ちゃん…」

腕を掴んで動脈に耳を当て、その流れる血の脈の音を聞く。不思議と心が落ち着いた。

このぬくもり。それが自分の一番欲しかったもの。仁加はずっと求めていた。

心が生まれてからずっと『奈緒』の心の奥底に悪夢と一緒に閉じ込められていたから。

ただの封じられた記憶の中に、心が生まれた事自体が異常で…生まれた瞬間から地獄で。何度も何度も死に続けた。

首も腕も足も分からなってしまいそうな『奈緒』が何度も心を壊されていった地獄。幼い心がその記憶…悪夢に囚われ続けた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:19:45.66 ID:TXxZQOIZ0<> 存在する理由すら分からないまま、ただ辛くて、ただ奈緒が羨ましくて、ひとりぼっちで泣いていた。

…悔しかった。奈緒には『家族』や『友達』が居て、愛されて。でも自分は誰にも見つけられないまま、死の記憶の中で溺れていた。

どうして生まれてしまったんだろう、生まれなければよかった。お願いだから殺さないで。せめて死なせて。

記憶の中の長い耳の人たちが言葉を聞くはずも無く、ただ記憶を再現して殺され続けた。

嘆きの声も悲鳴も、誰の耳に届くことも無い。暗い空間、冷たい床の上でずっと…独りだった。

こんな世界、変わってしまえ、滅んでしまえ…独りよがりに何度も願った。自分しか信じることが出来なかった。

泣き声に何も誰も答えることは無く、自分一人きりの世界で。

神様に願っても、祈っても、死なせてくれない。苦しくて泣き続けた。涙で海ができるなら、溺れてまた死んでしまうくらい。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:22:20.06 ID:TXxZQOIZ0<> 『アタシはそんなに悪い子だったの?』なんて言葉に、だれも答えてくれなかった。

幼い心である為に、何も知らない無知ではなくある程度の知識があった為に…やがて心は疲れ、絶望した。

無知であったなら、まっさらな心だったなら…涙を流すことも、絶望することも、無かったのかもしれない。

人の心を僅かに持っていた為に、気が狂った。それでも…憎くて、恨んで、嫉妬して、泣き続けた。

『奈緒がきえちゃえば、アタシがきらりお姉ちゃん達に好きになってもらえるのかな』

『………奈緒なんて、大嫌い…みんな、嫌い』

幼い心は少しずつ崩壊し、化け物のような心を持った。渇望と殺意と嫉妬と欲求と破壊衝動ばかりが思考を埋め尽くしていった。

奈緒の記憶を他人のモノと認識し、自分が『奈緒』である事を否定し続け、心は、『ナニカ』になった。

奈緒は自分から逃げ続けている。自分は彼女が見てはいけないモノだから。夢に介入してもすぐに認識の外へ追い払ってしまう。

悪夢から現実に零れ落ちても誰も見つけてくれなかった。だけど現実の世界を知って、もっと世界を変えたくなった。

現実の世界も、喜びばかりではない。

痛みも苦しみも絶望も無い、誰も誰かを傷つけない、全ての存在が平等な…シアワセな世界を求めた。

誰かがその過程で犠牲になっても…どうでもいい。理想郷を夢見た。今の世界はナニカにぬくもりすらくれない、酷い世界なのだから。

奈緒を殺して、全部奪って、世界を変えよう。そう考えては化け物はキシシと笑った。そうしなければ、自分はシアワセになれないから。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:23:58.35 ID:TXxZQOIZ0<> そう思っていたある日の夢、加蓮が見つけてくれた時は嬉しかった。やっと自分の事を見つけてくれた人が現れたから。優しく声をかけてくれたから。

魂に刻み込まれるほどに彼女に愛される事を求めた。生まれて初めて見つけた、たった一つの希望だったから。

自分の声を聞いてくれる人を、自分を見つけてくれる人を、自分を愛してくれる人をやっと見つけたから。

加蓮の声と姿が忘れられなくて、会うたびに嬉しい気持ちでいっぱいだった。独占欲すら湧く程に、加蓮を愛していた。

彼女とのふれあいの中で、どんどん確立された人格を形成していった。少しづつ、少しづつ、心が悪夢の世界から離れだした。

でも怖かった。また独りになるのが怖かった。拒絶されたら、彼女が壊れたら…自分はまた独りになる。

暗い悪夢の世界で、今度こそ永遠にひとりぼっちになってしまう。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:26:17.98 ID:TXxZQOIZ0<> ひとりぼっちは、さみしいから。…我慢した。愛されたいという欲求を必死で抑えて、起きれば忘れてしまう夢の中の少女でいた。

奈緒と精神の居場所が反転して、偶然会ったときは逃げ出した。奈緒のふりをして誤魔化した。

祟り場でやっと『自分として』会えたけれど、それを夢の事だと思いこませ、記憶を消した。

自分の事を思いだすという事は奈緒に取り込まれてしまったという残酷な真実すら思いだしてしまうだろうから。

きっと壊れてしまう、きっと嫌われてしまう。だって自分は、『自分たち』は化け物だから。

この体は泥でできていて、自分はやっぱり普通の子ではないし、奈緒も加蓮も泥を操る不死で。

実際に自分は暴走しかける事があった。お腹がすいた時は人間でもいいから食べたい衝動に駆られたし、怒った時はその身すら真っ赤に染まる程に怒った。

零れ落ちたのは『正義』『狂信』。自分自身も何か大罪を背負っているのかもしれないけれど、それが何かまでは知らない。

現実の世界は夢や記憶の中よりずっと複雑で、自分から零れ落ちた二つの兎や、色々な人と出会ったけれど…一番なのはやっぱりたった一人で。

この時を一緒に過ごせない事があまりにも辛くて。その事を考えるなと、楽しい事で心を埋めようとしても空しくて。

会いたい気持ちと拒絶される恐怖に心がごちゃまぜになって、混乱して、泣いてしまった。

でも、また見つけてくれた。名前を呼んでくれた。ずっと一緒だと約束してくれた。自分の為に泣いてくれた。

もう、何もいらないくらい幸せだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:27:44.83 ID:TXxZQOIZ0<> ちょっと遠慮がちに、眠る加蓮に抱き着く。

仁加「えへへ…お姉ちゃんあったかい……」

生まれて初めて、『少女』として笑うことが出来た。

拒絶しないで、受け入れて、認めて、愛してくれたから。

やっと求めていた『愛』を胸いっぱいに感じたから。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:29:59.29 ID:TXxZQOIZ0<> 黒兎『…もうナニカは仁加になっチャったなぁ。うーん…イニカロだな、イニカロ』

仁加「いにかろ?…黒ちゃん何言ってるの?」

黒兎『何でもナイっすよー』

仁加「?…変な黒ちゃん」

黒兎『とりアえず、加蓮が起きるまで待つのか?』

仁加「うん!お姉ちゃんとお祭りまわるのー!」

黒兎『そっかーよかッタな』

仁加「一緒においしいもの食べたりね、あとリサちゃんのライブ見たりしたいの」

黒兎(…なンか壮絶に嫌な予感がスルけど面白そうだからイっか)

仁加「…お姉ちゃん起きないね…」

ベンチで足をぶらぶらさせながら、加蓮が起きるのをずっと待っている。

それを見て黒兎は仁加に提案した。

黒兎『じゃあ加蓮が起きるまで一緒に寝てレば?』

仁加「うーん…うん、そーするぅ…おやすみー…」

黒兎『オう、おやすみ』

ぎゅっと加蓮を抱きしめ、瞳を閉じた仁加の頭に黒兎が登り、テレパシーを開始した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:32:32.65 ID:TXxZQOIZ0<> 黒兎(…さっきから白がこっちを見ているな!っつーことでミラクルテレパシー!…白ぉー聞こえルぅ?)

白兎(ふざけるな、聞こえてるよ。…ものすごくアタシ不機嫌なんだけど)

黒兎(うん、なんとナくわかるわ。…仁加が『人間』になった事ガそんなに嫌?)

白兎(当たり前だ!あの化け物の憎しみが、妬みが、苦しみがあってこそのアタシの計画だったんだぞ!!)

白兎は怒っていた。電話か何かだったら確実に近くのモノをぶん殴る音が聞こえただろう。

白兎(黒!!お前もなんで邪魔をしなかったんだ!!また記憶を消すとかAMCで弱ってる加蓮を殺すとか手段はあっただろうが!!)

黒兎(嫌だね!加蓮と仁加!血のつながらない姉妹ノ感動の再会なんて面白そウな事を邪魔するの、嫌に決まってるダロ常識的に考えて)

白兎(はあああああ!?何!?お前そんな理由で!?ちょ、はあああああああ!?あんたバカァ!?)

黒兎(おこナの!?いいじゃん、仁加みたいな子も人になれる可能性を見つけたんだゾ!?)

テレパシーの中でも耳を思わず塞ぎたくなるほどの絶叫で、黒兎もキレそうになる。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:35:04.36 ID:TXxZQOIZ0<> 白兎にとって、記憶操作をした加蓮がここまで思いだすことはあまりにも計算外だった。これでは、計画は成立しない。

白兎(ぜー…ぜー…畜生、なんか腹が痛い…チッ、仕方ない。プランAが駄目になっただけだ。プランBを実行するまで…)キリキリ

黒兎(何ソレ初めて聞いた)

白兎(だって今思いついた)

白黒兎(HAHAHAHA…)ドッ

黒兎(…マジでぇ?)

白兎(割り切るしかないだろ。時間は永遠にあるんだ…ゆっくり次の準備をすればいい。それに、能力者という奴は取り込めば取り込むほど得っぽいし)

白兎(さらに言えば正義の剣の計画はどう転んでも次につながるはず…プランA以外の実行方法なんていくらでもある。プランにしていなかっただけだ)

黒兎(そっか…一応確認だけど白の計画にアタシは必要ダヨね?)

白兎(…特にこれからは…不本意ながらな。量で攻めるのはお前が得意だろ。アタシはもう嫌だね、なんか八つ当たりしたい気分だ)

自身の行動プランをへし折られて、白兎は相当腹が立っていた。ものすごく苛々している。

でも黒兎はそれを全く気にしない。

黒兎(そっかそっか、白はやっぱアタシがいないと駄目ダねー)

白兎(お前の価値観で判断するんじゃねぇよ。…まったく、どうしてやろうか。まだ、その時じゃないのは分かるけどさ)

黒兎(力、血から得ればバいいんじゃない?我ながらナイスじょーくだね、キシシ)

白兎(なるほどね、血か。…確かに生体情報は得ることが出来るだろう。多くて損は無い。…だが、後天的な能力は手に入らないだろうな)

黒兎(あーそうなルか…。ちかたない、待つしかないね。確かに時間は永遠にあるわけだし。…それに、方舟ぶっ潰したいし)

白兎(ああ。神が作って神が洪水を起こすとかいうアレ?くだらない、この世界はアタシが作り変えるべき世界だ。全生命を幸福にできない神に任せられるかよ)

黒兎(だね、それでこソ白だ。アタシの欲しい世界を一緒に語れる白はこうでなくちゃ、とーってもツマラナイ!)

白兎(この世界を支配すべきは、神でも天使でも悪魔でも、ましてや人でもない!!この哀れな世界の為に生まれたアタシこそが…!キシャシャシャ!)

黒兎(そレ、ちょっと痛いヤツっぽいヨね)

白兎(…アァン?)

黒兎(げっ…じゃねバイ!)

―ブツリ

白兎が切れるより早く、テレパシーを切断した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:36:43.82 ID:TXxZQOIZ0<> 黒兎『…さてト』

ぺちぺちと加蓮の頬を軽くたたく。

黒兎『おきろーオきろよー』

ぺちぺちぺちぺちぺち…

加蓮「…zzz」

黒兎『…なんだコレ、やばい楽しい…♪』

ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ…

黒兎はテンションが上がり、加蓮の頬をひたすらやわらかいぬいぐるみの腕で叩き続けた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:40:20.07 ID:TXxZQOIZ0<> ――

加蓮の意識は記憶の海の中にいた。

と言っても半分以上は無意識のまま。引っかかりを見つけた思い出を遡っていた。

思いだしていたのは浄化されてすぐ、管理局で奈緒に能力の制御方法を教えてもらう直前の事。

管理局が初めて確認したカースドヒューマンという事もあり、少なくない検査も受けたが、捕まるという事は無かった。

だけど浄化前は容易く扱えていた力が上手く使えなくなって…自衛の為にと、似た能力を持つ奈緒に指導を受けることになって…。

練習の為に管理局の施設の中のトレーニングルームに向かう途中で、すれ違ったきらりが言っていた言葉が、今思いだされた。

『加蓮ちゃん、奈緒ちゃんをよろしくねー?』

その後すぐに、奈緒に『いや逆だろ!?』と突っ込まれていたけれど…。

今、思い返せば…もしかしたらきらりは知っていたのかもしれない。

奈緒に既に取り込まれ、永遠の命を得た事を。…きっと、いつかきらりも命の終わりがくるから。

…きらりは真実を見る事が出来ると聞いた。知っていてもおかしくはない。

それを言わないのは、彼女なりの思いがあるのだろう。

そして、奈緒。自分と他のネバーディスペアのメンバーより深く関わった記憶喪失の少女。

(奈緒は、何も知らない。仁加ちゃんの事も夢の中のあの子達の事も…私が奈緒の一部だって事も)

奈緒と暫く一緒に過ごしたこと、そして夢の中で見た残酷な光景が脳裏を過る。

(…奈緒は、知ったらどうなっちゃうんだろう)

記憶を無くしたのは、きっと浄化のせいじゃない。心を守る為。

不意に、妙な感覚がやってきた。きっともうすぐ目を覚ますのだと、心のどこかが悟った。

目覚めた時、この事を憶えているのだろうか…それがわからないまま、意識は浮上した。

―― <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:41:30.38 ID:TXxZQOIZ0<> ぺぺぺぺぺぺぺぺ…

加蓮「…うう…ん?」

黒兎『』ピタァッ

加蓮「…?…何かほっぺに当たっていたような…あっ、仁加ちゃん…そっか、さっき気を失って…」

自分が気を失って、その後どうやって場所を移動したのかはよく分からないが、とにかく仁加は自分から離れることは無かったことを理解する。

そして加蓮が目を覚ましたのを感じ取ったように、仁加も目を覚ました。

仁加「…おねえちゃん…?…!加蓮お姉ちゃん!」

加蓮「ごめんね、心配かけちゃって…」

ぎゅっと抱き着いて離さない仁加の頭を、加蓮は優しく撫でた。仁加の頬が赤く染まる。

仁加「…ねぇお姉ちゃん、約束、ホント?ホントに見つけてくれる?ずーっと一緒に居てくれるの?」

瞳を潤ませ、顔を埋めながら加蓮に尋ねる。『少女』は今が幸せだからこそ不安で仕方なかった。

またいつか、悪夢に溺れる日が来たら…幸せな今から転落したら、今度こそ自分は壊れてしまいそうで。

加蓮「うん、約束するよ。仁加ちゃんをもうひとりぼっちにしないって…そうだ」

加蓮は抱き着く心配性の仁加の腕を優しく解き、横に座らせた。

仁加「?」

加蓮「指切りしようよ、ほら…」

小指を立てた右手を仁加に見せ、微笑んだ。

仁加「う、うん。わかった…」

加蓮が恐る恐る差し出された仁加の小指と小指を絡め、二人で歌った。

「「ゆーびきーりげーんまーん、うそつーいたらはりせんぼんのーます♪指切った!」」

加蓮「よし、これなら絶対に約束を守れるよ、仁加ちゃん!」

仁加「…うん!」

加蓮の笑顔を見て、仁加は不安になることを止めた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:44:20.29 ID:TXxZQOIZ0<> 仁加(お姉ちゃんがアタシを幸せにしてくれたから…今度はアタシもお姉ちゃんを幸せにしよう。お姉ちゃんが笑ってくれるようにがんばろう)

仁加(…だから、奈緒をちょっとだけ許してみよう。まだアタシは奈緒に会っちゃダメだと思うけど。…そもそも見えないかな)

加蓮「じゃあ、一緒にお祭りまわろっか?仁加ちゃんは行きたいところある?」

加蓮は仁加の手をしっかり握って、立ち上がった。

仁加「えっとね、アタシは…」

一緒に歩き出そうとした時、ポロポロと仁加の瞳から涙がこぼれた。

思わず手を離して、涙を抑えようとしてしまう。

加蓮「仁加ちゃん…?」

仁加「…あれ?あれ?なんで…」

ずっと悲しい時や苦しい時に泣いていたから、どうして涙が溢れて止まらないのかわからなくて、ひたすら困惑した。

仁加「ど、どうしようお姉ちゃん…悲しくないのに、寂しくないのに、止まんない…」

オロオロする仁加の涙を、加蓮がハンカチを取り出して拭った。

加蓮「大丈夫だよ、これは嬉しいから流れる涙なんだから」

仁加「嬉しい…から?…そっか、嬉しいから…えへへ」

やっと涙が止まると、仁加は今度こそ加蓮の手を離さないようにしっかりと握った。

嬉しいのは、やっとその手を握ることができたから。

仁加(もっと楽しいこと、お姉ちゃんと一緒に…)

だから…この嬉しさと幸せが、終わらないなら。きっと世界を好きになれると思った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:46:15.39 ID:TXxZQOIZ0<> 情報
・ナニカは『仁加』としての人格をほぼ確立しました
・お姉ちゃんと一緒にお祭りだよ
・白兎がナニカを利用した計画を断念、次のプランを計画中。でもストレスが溜まっている模様 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/05/20(火) 00:47:32.37 ID:TXxZQOIZ0<> 以上、究極生命体は愛を得て心が人間になるという話(仮)とちょっとだけ語ってない部分の過去を振り返ったり。
それとシルフとかの精霊とかも人に愛されることで不滅の魂を得るとかなんとか

それと、仁加視点で書くと冗談抜きで加蓮が女神すぎるの
ナニカは当初はただの奈緒暴走イベントの為だけの怪物だったはずなんですが…こうなるとは当初は全く予定して無かった
やっぱりシェアワってすごいなぁと思いました(小並感)

白「プランAが出来なくなった…」キリキリ
黒「じゃあプランBでいこう、プランBはナに?」
白「あ?ねぇよそんなもん」(白目) <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/20(火) 01:15:03.57 ID:MZKMdND9O<> 乙ー

やだ…加蓮マジ女神…実の姉妹みたいでホッコリする

そして、黒ちゃんwww
白ちゃんの計画も加蓮が無意識に潰すとは…

パップの胃痛のカウントダウン始まったな <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:07:47.23 ID:05qgQJtF0<> 乙ぅ
加蓮おねえちゃん超絶女神! 女神!!

投下しまう <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:08:37.63 ID:05qgQJtF0<>
ライラ『みなさーん、今日はライラさんのバースデーライブにお越しいただいて、とてもありがとうございますですよー』

観客「ライラさーん!!」

ライラが客席に手を振ると、大歓声がホール中に響き渡る。

ライラ『次の曲はクールP殿に作詞してもらったわたくしのデビュー曲「アイスクリーム・クライシス」ですよー』

観客「うおおおおおおお!!」

ライラ『合いの手をよろしくお願いしますです。あ、わーんつーすりーふぉー……』

ライラの合図でバックバンドがイントロの演奏を始める。

会場の熱は増すばかりだ。

ライラ『ラ・ラ・ラ・ラ・ラ……♪』

ライラが歌い始めれば、もうボルテージは最高潮。

観客「わぁぁー!!」

そんな光景を、彼女の担当プロデューサーがステージ脇から眺めていた。

クールP「…………」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:10:09.24 ID:05qgQJtF0<> ――――
――――――――
――――――――――――

ライラの楽屋。

ライラ「ふう、おしまいでございます」

シャルク『おつかれさまです、ライラさま。ドリンクがひやしてあります』

ガルブ『ファンからプレゼントがとどいています。もちろん、なかみはスキャンずみです』

シャルクがクーラーボックス、ガルブがいくつかの小箱を抱えながらライラに近寄る。

ライラ「ありがとうですよ。んぐんぐ……ぷはっ。ところでクールP殿はどちらですか?」

ライラが周囲を見回すが、そこにクールPの姿はない。

シャルク『すこしようがあるといって、せきをはずされました』

ガルブ『もどりがおそいようなら、ライラさまのそうげいをまかせる、ともいわれております』

ライラ「……シャルクとガルブがでございますか?」

ライラは二人へきょとんとした表情を向けた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:10:49.32 ID:05qgQJtF0<> ガルブ『しんぱいごむようです。クールピーさまよりこれをあずかっております』

ガルブが自慢げに取り出したのは、一冊の手帳。

表紙にはクールPの丁寧な字で『プロデューサーのいろは』と書かれている。

シャルク『こんごは、クールピーさまもおひとりでふたりのアイドルをどうじにアシストすることはむずかしいだろうと……』

ガルブ『われわれが、プロデューサーみならいとしてライラさまにおつきします』

ライラ「それは頼もしいですねー。では、わたくしの次のご予定は何でしょうか?」

ライラに尋ねられ、シャルクはスケジュール帳をパラパラとめくって答えた。

シャルク『つぎはぼうきょくでバラエティばんぐみのしゅうろくです。からだをつかったゲームでしかいチームとたいけつするものですね』

ガルブ『ライラさまはゲストのアイドルチームとして、ようこさまとしのぶさまときょうえんとなっております』

それを聞いたライラは少し考えてから口を開いた。

ライラ「うーん……たしかシノブさんとご一緒のお仕事は初めてでございますね。楽しみです」

んっ、と軽く伸びをして、ライラは椅子から跳ね起きた。

そして率先して楽屋のドアを開けようとした瞬間、ドアの向こうからノックの音が響いてきた。

ライラ「はい、どうぞです」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:11:35.36 ID:05qgQJtF0<> ドアを開けて入ってきたのはクールPだった。

クールP「やあライラ。もう出発かな?」

ライラ「はいです。クールP殿が送ってくれますですか?」

クールP「いや、悪いけど別の用が入ってしまってね。送迎はシャルクさんとガルブさんにお任せするよ」

ライラ「そうでございますか」

クールP「……ライラ、最近はアイドルヒーローがだいぶ板についてきたね」

クールPがライラの頭を撫でながら微笑んだ。

秋炎絢爛祭でのデビュー発表以降、ライラは大小様々な仕事をこなしてきた。

監視役・APと友達になる懐柔策、先輩アイドルのバックダンサー、奴隷商人に攫われた人々の救出、オールヒーローズフロンティア……。

その下積みがあったからこそ、今日という日にバースデーソロライブを開けるまでに至ったのだ。

ライラ「はい。ライラさん頑張りました」

クールP「うん。これからも頑張ってほしいな」

ライラ「はい。でも……」

クールP「でも?」

クールPの、ライラの頭を撫でる手が止まる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:12:09.64 ID:05qgQJtF0<> ライラ「アイドルヒーローだけでなく、ライラさんはお二人の『計画』ももっとお手伝いしたいですよ」

クールP「…………!」

ライラの言葉に、クールPは思わず絶句した。

ライラ「……クールP殿?」

クールP「…………あ、いや、何でもないよ。そうだね……とりあえず今はまだ、APの監視を一身に受けていてほしいかな」

少しだけ慌てた様子で、クールPは口を開いた。

クールP「ほら、それよりも。そろそろ移動しないと間に合わないんじゃないかな?」

シャルク『そうですね。いそぎましょうライラさま』

ライラ「あ、そうでございますね。ではクールP殿、また事務所でですよ」

ガルブ『わたしがくるまをだしましょう』

ライラ「ガルブ、運転免許を持っていたですか?」

ガルブ『ふっ、ライラさま。きかいがきかいをうごかすのに、とくべつなしかくはひつようありませんよ』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:13:05.44 ID:05qgQJtF0<> 三人が慌ただしく出ていった楽屋の中で、クールPは一人立ち尽くす。

クールP「……………………ハハハッ、これは傑作だ。もう笑うしかない…………」

僕がライラを見つけ拾った時、ただ利用するだけの存在としてしか見ていなかった。

それは当然のこと、何故なら僕は立場のみとはいえ『利用派』に属する吸血鬼だからだ。

帝王や御大将だって利用しているに過ぎない、全ては僕が吸血鬼の王となる為に。

だが……彼はライラの言葉で気づかされた。

クールP「彼女に言われるまで……僕は『彼女達を利用している』ということをすっかり忘れていた…………アハハハッ」

担当プロデューサーか、はたまた兄か父親か。

とにかく、そういう目線でライラを見続けていたことに、気づかされたのだ。

いつ頃からそうなったのか、全く覚えがない。

このまま彼女を抱えていては、また同じことが起こるかもしれない。

捨てるか? とも考えるが、すぐに首を横に振る。

クールP「いま彼女を手放せば上層部やAPの疑念はすぐに僕たちへ向かう……それだけは避けないと……」

やがて、クールPは小さく息を吐いてからどこかへ電話を掛けた。

クールP「……ああ、もしもしチナミさん。……いや何、ちょっと声が聴きたくなって…………はは、これは手厳しい」

電話口から飛び出すチナミの嫌味に苦笑しながら、クールPは近くの椅子に掛けた。

クールP「実は偶然この後仕事が空いていてね、良かったら夕飯でもどうかと…………」

気分のリフレッシュ、仄かな恋の攻略、今後の為の情報収集。

三つの目的を同時に進行させようとするクールPの顔は、少しだけ気分よさげに微笑んでいた。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/05/21(水) 00:15:31.70 ID:05qgQJtF0<>
以上、ライラ誕生日&クールP心境の変化
え? 最初が菜々さんとダダ被りだって? しょうがねえだろアイドルヒーローだぜ!?(逆切れ)

名前だけ洋子、忍お借りしました <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/21(水) 01:34:35.50 ID:2MgbAOXB0<> 乙ー

ライラさん誕生日おめでとう!
クールPはどうするのかね?今後が楽しみ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/21(水) 07:51:38.95 ID:As04sEZQ0<> 乙です
ライラさん誕生日おめなのですよー

ちゃんとアイドルやってるなぁと改めて実感。…機械が機械を動かすのにたしかに免許はいらないな、うん
クールPもちょっと複雑な心境になってきた?これからが楽しみだネ <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:25:11.23 ID:qLytG6T/0<> テロ時系列で投下します <> ◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:26:21.17 ID:qLytG6T/0<> サクライとエージェントが眼下のテロを見下ろすビルの屋上。

大蜥蜴を消滅させた後は同じような脅威に襲われることも無く、何事も無いのではないかと思われていた。

…そう、思われていたのだ。それは油断ではない。本当にカースも殆ど襲ってこない状況だったのだ。

だか確かに異変は起こっていた。

『もし私から♪』『動くのならば♪』『すべて変えるのなら♪』『黒にする!』

黒い人の様なモノが蜥蜴型カースを捕え、嫉妬のエネルギーを暴走させることなく飲み込み、生まれ変わらせる。

自爆能力を持つ狂信のカースが同じく自爆能力を持つ嫉妬のカースの核を黒く染め上げ、変形させる。

『メガネ、メガネハアカン…』『メガネナンテキエチャエ!』

燃え上がるのは狂信の炎。AMCの体内で命を落とし、生まれ変わった蜥蜴型カースが口々にメガネへの嫌悪の言葉を吐いていた。

紗南「…あれ、嫉妬じゃない属性のカースが湧いてきてる?」

ふと調べた個体の属性の表記が『狂信・AM(アンチメガネ)』となっているカースがいるのを紗南は見つけてしまった。

紗南(狂信…どうしてここに?)

サクライ達にこの事を報告しようとした矢先に、周囲の状況を知らせる画面に異変が起きた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:27:21.48 ID:qLytG6T/0<> 紗南「…!サクライさん、何か来てる!」

画面に表示されたアイコンは、高速でこちらへ向かってきていた。

サクライP「情報は?」

紗南「ちょっと待って、今調べ…」

コマンドを入力しようとして悪寒が走った。調べてはいけない…きっとこの感覚は…

紗南「っ…!!」

ブツリと、思い切りゲームの電源を落とした。

サクライP「ん?」

さくら「あれ、電源を切ったら調べられないんじゃ…」

さくらの言葉が終わるよりも早く、紗南のポケットの通信機から白い泥が溢れ出す。その通信機を投げ捨て、全力で距離を取った。

紗南「やっぱり…!」

屋上の端まで投げ捨てられた通信機から溢れる白い泥は、球体の形をとりながらどんどん溢れてくる。

さくら「えっ?えっ?な、なんですかぁ!?」

紗南の悪寒は、あの秋に出会ったあの白い怪物とのファーストコンタクトの時のデジャヴのような物だった。

情報を調べようとすれば、また暫く使用不能になっていただろう。通信機から出て来る可能性も考えていたので対処も早めにできた。

竜面「『愚かなる汝の影は、大いなる我が力に従い暗黒の呪縛へと縛られん…シャドウバインド!』」

白い泥を見てすぐに異常事態と判断した竜面の男が束縛式を放つ。

ドロドロと溢れ続ける白い泥の足元から黒い腕が溢れ、溢れないように、動かないように…その白い泥を拘束した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:27:59.59 ID:qLytG6T/0<> 竜面「…これは、カース…なのか?」

紗南「わかんない、前に調べようとしたら能力が使えなくなっちゃったから…」

さくら「つ、通信機からお出ましなんて…まるで貞子ですねぇ!」

サクライ(…情報獲得能力が使えなくなるほどの力を…?それにしてはやけに容易に拘束された…)

その白い泥を見つめる4人の後ろで、声が響く。

『メガネナシ!問題無シ!』『メガネ進化ハ許センゾキサマ!』

『メガネは居ないけどメガネを売ってる人はいるよね』『ジャアおしおきしなきゃねー』『メガネ無き世界のためー!』

竜面「…なるほど、囮か」

AMC…アンチメガネカース人間模倣体。嫉妬の蜥蜴が変化したメガネ嫌いの蜥蜴を引きつれて、音も無く屋上に現れていた。

『メガネぶっコロなんだ!』『メガネある世界に幸福ない!』

しかもAMCは全員どこか不気味な白い剣を装備し、赤い目をしていた。今までの目撃情報にこの状態になった個体は居ない。

それは狂信が正義の呪いによってより過激な思想を持つように進化したAMCだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:29:31.87 ID:qLytG6T/0<> 『さっくらい!』『パッってはじけて!』『裸眼世界にこーせー!』『こーせー☆』

赤い目をぎらぎらさせながら、剣を持ったAMCとメガネ嫌いの蜥蜴がじりじりと近づいてくる。

竜面「…今、自分は拘束しいている。攻撃はさくらがやるんだ。良いな」

さくら「ええっ!?はい…」

サクライP「そうだな、そうするしかない」

少なくとも現在の数では先程の大蜥蜴程の脅威にはならないだろう。さくらが詠唱を始めようとしたまさにその瞬間、声が響いた。

「止まれ」

ピタリと、その声の通りにAMCは動きを止める。

「久しぶりが1人、初めましてが3人か。まったく…面倒だな」

その声の持ち主は、黒い腕に拘束された白い泥。

「これが魔術による拘束か、拘束は結構慣れたつもりだったけどこういうのは初めてだな…結構ヘンな感じ。これが魔術なのか?」

そう言い終わるや否や泥が急激に膨張し、拘束の腕が千切れて消滅した。

飛び散った白い泥が紗南の足元に渦巻き巨大な触手となって足を捕まえ、宙吊りにする。

紗南「!?」

サクライP「この触手は…」

竜面「間違いなくイカだろう」

さくら「イカでもタコでもどっちでもいいですよぉ!!」

そして本体と思わしき白い泥が渦巻き、やがて首の無い白い男の姿になった。

その顔の部分に一匹の黒い蜥蜴がサクライ達の足元を潜り抜けて乗り、黒いミミズクの姿になる。その姿はまるでミミズク頭の男のようだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:31:11.00 ID:qLytG6T/0<> その男…白兎が宙吊りになった紗南を真横に持ってくると、頬を思い切り抓った。

白兎「キシャシャ、紗南…また会う事になるなんてな。しかも学習していて驚いたよ。ちょっとだけ感心してやってもいいかな」

紗南「お前なんかに感心されても嬉しくないし!」

正直震えが止まらない。紗南は目の前の存在が聖來を追い詰めた事を知っている。そして奴が少しずつ近づいて来た時の恐怖も覚えている。

だが、だからこそ自分が奴に屈することを許せなかった。

白兎「無駄な強がりを言って…。はぁ、聖來は居ないのか。…どこにいるか知ってるよなぁ?」

複数の触手がヌチャヌチャと音を立てて絡みつき、紗南に恐怖を与える。さらに鋭い爪が紗南の首筋に傷をつけ、指に付いたはずの血は飲み込まれるように消えた。

痛みと濡れた服が不快になるが、それを表情に出さないように紗南は必死になる。

紗南「い…言う訳ないじゃん!」

白兎「チッ…まぁ今回の目的は別だし、無理には聞かないでおいてやるよ。エージェントで最初に殺すか服従させるのはなるべく聖來が良いし」

紗南の頬から手を離し、サクライに向き合う。首の上の真っ赤なミミズクの瞳が見つめていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:33:26.16 ID:qLytG6T/0<> 白兎「やぁやぁ、櫻井財閥のお偉いさんがこんなところで何しているのかなぁ?物騒な現場にわざわざ来るとは御苦労な事で。理由があるんだろ?」

サクライP「話す必要は無い…君の事を話せば考えてもいいけれどね」

白兎「お生憎様、その『おう、考えておいてやるよ』っていうのは信じない主義なんで。…何が知りたいか程度なら聞いてやってもいいが」

サクライP「…その姿、見覚えがあってね」

白兎「そうそう、アンタの部下だった奴らしいな?不用心な事に首なしで放置されてたから貰っちゃったんだけどさ!」

腹の探り合いだ。だが、そういうのはきっとサクライの方が上手だと悟った白兎は中断した。

白兎「まあ、来た目的ぐらい言わなきゃ意味ないな。…えーっとなんだっけ。あ、そうそう『イロカニ』の命令でここまで来たんだけどさ…」

命令で動くのが相当不本意なのか、不機嫌そうに白兎は地面を蹴った。ぴちゃぴちゃと水が跳ねる。

『イロカニ』は単純に仁加という漢字を分解し並び替えた言葉だ。仁加という名前も珍しいと言う訳ではないし、ただ単に錯乱目的でこの名前を言った。

…その言葉から適当な組織の一員だとでも思ってくれれば万々歳と言う訳である。もちろんそんな事期待していないが。

実の所は加蓮の友人宅にいる仁加に、買い出し組の加蓮を見守っておいてと指示され、不満はあったが仕方なく追跡してこのテロに遭遇したのだ。

白兎はそのこと自体はどうでもよかったが、加蓮が戦っている近くにサクライ達が居る事が動く原因だった。

湧き上がったのは紗南に久々に顔を見せておこうという好奇心と、サクライや他のエージェントの実力を見ておこうという余裕。

まだ、白兎は弱い。だからこそ様々な人間の戦闘技術をラーニングしようとしている。

サクライのエージェントに売られたケンカだ、またいつ何度でも買ってもいいだろう。身勝手にそう思っている。

ついでに加蓮の泥の蛇での捕食行為が目立つ事が、自分たちといつか繋がり不都合になる可能性も考えてはいるが…基本的に自分の為だ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:35:40.86 ID:qLytG6T/0<> 竜面(イロカニ…何者なんだ…)

白兎「まぁ、ちょっとした監視命令って奴?つまりさぁ…ちょっとここから消えてくれない?ここが結構見晴らしが良い場所だしさ」

ここからサクライ達を追い払えば加蓮を見守ることも楽になるし、戦う理由になる。白兎は存在しない顔で笑っていた。

サクライP「…後から来ておいてその言いぐさは無礼にも程があるんじゃないかな?」

さくら「そうですよぉ!私達が頑張って守った場所でもあるんですよぉ!!」

白兎「ふーん…身の程知らずの人間共はそうするよなぁ。じゃあ当初の予定通り、無理やりにでもここから退いてもらおう」

『ヒャアッッハアアアアアア!』

腕を高く掲げれば、動きを止めていたAMCはその剣で、蜥蜴はその狂信の炎で…4人を追い詰めようと動き出した。

白兎は背中に白い翼を生み出し、空から適当に観戦しようという態度だ。

サクライP「…なら、こちらも武力交渉となるのかな」

そう言って彼は剣を取り出す。

サクライP「水よ、僕に従え」

足元で輝く鎮火の祝福を受けた水が剣に纏われ、輝く。

白兎「ふぅん、そういうことが出来るんだ」

水を纏った神秘の剣が、紗南を宙吊りにしていた巨大なイカの触手を破壊した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:36:46.30 ID:qLytG6T/0<> そこまで高く吊られていなかった事も幸いし、紗南は何とか無傷で着地する。

紗南「と、とりあえず助かったぁ…」

サクライP「紗南君、君は先に逃げておいた方がいい」

紗南「うん…でもサクライさん達を置いてなんて…」

サクライP「ふっ、僕を誰だと思ってる。簡単に負けたりはしないさ。それにその靴なら大体の相手には逃げ切れるだろう」

紗南「あっ、そういえばそうだった」

紗南は自分の装備しているエアロシューズの存在を思いだした。

憤怒の街でもカースから逃げる時に使った靴だ、その速度は身をもって知っている。地上に降りて一般人のフリをして保護してもらうのもありだろう。

サクライP「なあに、無理をするつもりはないよ。だから安心してくれ、君の元へカースは行かせないつもりだ」

紗南「わ、わかった!」

情報獲得は使えない。使った瞬間に画面から白兎が出てくるのは間違いない事だからだ。

ただでさえ非戦闘要員であるのに、唯一の能力も封じられてはただの一般人に過ぎない。だから紗南は…逃げ出した。

白兎「生意気な、アタシから逃げる気か…」

竜面「…さくら!」

さくら「はぁい!」

紗南「ごめんなさいっ!あとはお願い!」

足元の水がカッターのようになってカースを切り裂いたのを確認するが、散っても散っても次の援軍が湧いてくる。

なるべく邪魔にならないように、紗南は屋上の階段を駆け下りて逃げ出した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:38:37.56 ID:qLytG6T/0<> 白兎「…追え」

『天元突破ラガンラガン!!』『マジラガン1000パーセント!!』

『まってまって!』『ゲームのアバターにサングラスつかってそうだなぁ!!』『きゃはー!』

階段へ向かって黒いカース達が殺到する。

サクライP「行かせないと言ったはずだ」

『『あ…?』』

追いかけようと動いた蜥蜴やAMCを、サクライは再び剣に鎮火の水を纏わせ、容易に切り裂いた。

『レェェェェザァァァァァッ!』『ビビビビィムッ!』

サクライP「隙だらけだ」

『ウォ…』『ヅギィ…』

他の個体が放ったレーザーも軽く躱し、逆にその個体に接近して瞳を真っ二つにした。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:40:56.83 ID:qLytG6T/0<> サクライP「幼い子供の姿をしたカース…趣味が悪いと思うよ?」

白兎「そんなに躊躇なく斬っておいてよく言うよ。…それにしても面白い剣だな」

サクライP「欲しくなってもどうせ手に入らないさ」

白兎「奪ってしまえばいい。お前の腕を切り裂いて、お前の腕ごとな。まぁそこまでアタシもオッサンのお古なんて欲しいわけじゃないけど」

サクライP「オッサン…」

「ホー!」

バカにするように首の上のミミズクが大きく翼を広げた。

白兎「…とりあえず、そろそろ自分も戦おうかな?やっぱり見てるだけってのはどうも性に合わない。オッサン、相手してよ」

そう言って着地すると同時に白兎は自身の右手を切り落とした。呪いと生命の生への執着の象徴である血液が、屋上を流れる水を汚してしまう。

切り落とした右手を右腕の切断面から伸びた触手が回収するが、何故かその手をくっつけようとしなかった。

白兎「これでいいか…さてさて、遊ぼうか」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:42:28.64 ID:qLytG6T/0<> 左腕が白い剣…正義の剣に変化し、サクライの剣と正義の剣がぶつかり合う。

サクライP「剣の技術は無いようだね…!」

白兎「ああ、無いさ!でもお前もさっきより攻撃力大幅にダウンしてるなぁ…?大蜥蜴の時よりも!」

サクライP「…見ていたのか」

白兎「見ていたよ、だからお前たちは面白いと確信したね!あの女が所属してるだけの事はある…!」

彼の剣『セイヴザプリンセス』は、英雄的行為によって力を発揮する。

誰か…女の子を守る時、相手が己より強い時、相手が人類の敵の時…

だが大蜥蜴の時よりも、今の状況は英雄的とは言えない。

確かに強いが、今の白兎はサクライだけを狙っているのだから。今の彼は誰も守っていないのだ。

そして鎮火の水も汚されて使えなくなり、白兎の正体は知らずとも、確かに先程よりも苦戦する状況なのはサクライもよく知っていた。

バチバチと正義の剣が電気を纏う。そんな状況にあるにも関わらず、サクライはにやりと笑っていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:44:26.61 ID:qLytG6T/0<> 白兎の振り下ろした剣を躱し、電流が流れバチバチと音を出す水たまりから飛び上がる。

技術の差は覆せない。あまりにも適当な攻撃なのだ、容易く避けることが出来る。そして彼は迷いなくその肉体に剣を突き刺そうと構えた。

だが白兎の足元から泥が溢れ…地面を這う泥から大量の正義の剣が生まれ、それが柵のようになって彼を妨害してしまう。

白兎「危ない危ない、やっぱりオッサンは剣の扱いの技術あるんだな。これが慣れって奴か」

サクライP「オッサンと言っている君も首から下は成人男性じゃないか」

白兎「これは仕方なくだからな。心は乙女だったりするのよぉ❤…なんてな。あー気持ち悪い」

サクライP「確かに…とても気色悪い」

白兎から放たれた電撃を神秘の剣が受け流し、サクライの剣を白兎がステップのように躱す。

そして回避した白兎の足を、サクライは着地と同時に足払いした。

白兎「……!」

サクライP「消えてしまえ」

頭部のミミズクが飛び上がるが…転んでバランスを崩した白兎を、神秘の剣が真っ二つにしてしまった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:46:49.65 ID:qLytG6T/0<> 神秘の剣がその体を崩壊させ…いや、崩壊と同時に泥のようなその肉体が動き出した。

どんな神秘でも、どんな法則でも、どんな力でも、それを殺すことはできない。

サクライP「…神秘の剣でも死なない…不死の怪物か」

ぐちゃぐちゃと足元に滴る血を白い泥が回収しながらその怪物は復活する。

白兎「痛ぇな畜生…はぁ、やっぱり技術の差があるとこうなっちゃうか。あとで真似するか…あ、そっちも構ってやるよ」

そして思いだしたように切り落とした右手を思い切りさくらと竜面の男へと投げつけた。

さくら「ひぇぇ!?」

竜面「さくら!前を見ろ!」

さくら「えっ?」

しゃがんで腕を回避した次の瞬間、目の前にさっきまで首の上に居たミミズクが目の前まで迫っていた。

ミミズクは泥のように溶けて黒い人型に変形し、さくらを押し倒すとその首筋に吸血鬼の牙が傷をつけた。

その傷を舌で舐め、味わう様にその血を吸う。頭の中に訳の分からない感覚が叩き付けられさくらは混乱した。

サクライP「さくら君!」

竜面「さくらぁ!!」

さくら「あっ…血…血が…!やだっ…!」

白兎「キシシシシシシ!今のうちに追え、狂信兵!」

『ラガン!』『ラガン!』『ゲーム娘は将来的にメガネ娘になる可能性が高い!』

その隙に狂信兵と呼ばれたAMC数体が、屋上から飛び降りて紗南を追った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:48:11.58 ID:qLytG6T/0<> さくら「たすけ、ひぃっ…!」

竜面「…」

「あら、オ怒りのようで」

竜面の男が何か呪文を唱えようとしたのを察すると、すぐにその泥はさくらから離れた。

「甘くておいしいO型の血をありがとネ、サクラちゃん?ずっと黙ってた甲斐があったヨ」

血を吸った目の前の人型がニタァと口が裂けるように笑うと、明確な人の姿に変形する。

真っ赤なリボン、黒い魔女の様な服を着て、黒い肌に真っ赤な瞳。そんなさくらの姿になった。

サクライ「…コピーしたのか」

さくら「わ、わたし…?」

黒兎「キシシ、どう?どう?」

白兎「性能が良ければ見た目はどうでもいい」

黒いさくらが白い首なしの男にニコニコ笑うが軽くスルーされてしまう。

黒兎「…はいはい。じゃあ、やルことやっちゃおっか♪」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:50:06.52 ID:qLytG6T/0<> ちょっとしょんぼりしつつ黒いさくらの格好のまま泥から取り出した巨大な骨の様な杖を持つと、足元から大量の泥が溢れ出す。

泥は無数の口の形となって、彼女の背後に大量に生み出される。

異形の者だからできる事。それは体のパーツをいくらでも生み出せる事。

その瞳を赤く輝かせながら、楽しげにステップをしながら無数の口達と共に詠唱を始めた。

「「「「大いなる我が力を用いて、星空・宇宙の理を読み解き、星々の輝きよ我が敵を貫け!スターライトスピアー!」」」」

無数の口が一斉に一つの呪文を唱え、口の数だけ現れた輝く光の矢が現れた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:50:41.55 ID:qLytG6T/0<> その呪文はたった一つだけ知っている、死神が邪悪な影を討ち取った時の呪文をラーニングしたもの。

黒兎はたった一人で何人もの魔術師が唱えたような状況を引き起こしたのだ。

さくら「ええええええ!?こんなのありですかぁ!?」

竜面「これは…!不味い、『我が影よ!大いなる我が力に従い、光すら防ぐ暗黒の盾となれ…シャドウシールド!』」

竜面の男の足元から拘束式を応用した大量の黒い腕が出現し、今度はその腕は無数の光の矢から3人を守る為に動き出す。

黒兎「いっケえ!」

放たれた矢は黒い腕に食い込み、今にも千切れそうになる。

竜面「…『より固く』『破られるな』!」

だがさらに詠唱を加えたことにより、光の矢は突き刺さるが貫けずに終わってしまう。

竜面「この程度か…どうやら碌に魔術を使用した経験は無いようだな。量で何とかできると思ったのか…!」

黒兎「むえー、頑張ったのに防がれタ!まだまだレベルは低イっぽいよ白ぉ!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:52:51.31 ID:qLytG6T/0<> だが、その空気を無視した音が響く。コインが空高く弾かれた音だった。

白兎「仕方ない奴…手伝ってやる、ありがたく思え」

黒兎「あ、イケる?じゃあ頑張る」

白兎「…殺すなよ」

黒兎「あイあいサー」

白兎が左腕に電撃を纏わせ、黒兎も無数の口を竜の口へと変形させる。

白兎「残念ながら『参考にした記憶』程の威力にはならないんだがなぁ…」

白兎が落ちてきたコインに電撃を纏わせ弾けば、それが弾丸のように黒い腕の防壁を打ち砕いた。

竜面「なんだと…!」

サクライ(疑似レールガン…のようなものか)

そして先程投げた右手が動き出し、背後から白兎に引き寄せられる途中で殴りつけ、竜面の男の詠唱を邪魔する。

竜面「ぐ…っ」

さくら「師匠!」

腕が元通りになると同時に足元の血で汚れた水を残さないように完全に吸収してしまう。

白兎「慣れればインパクトと火力はあるから結構好きだな。ほら、片付けもしたしさっさと終わらせてしまえ」

小さな白い兎の姿になり、黒いさくらの腕の中に納まった。

黒兎「あいよー!発動、ドラゴンマジック!オラァ、ぶっ飛びなァッ!!」

『『『『『〜〜〜〜〜!!』』』』』

サクライP「…っ!」

竜面「これは竜族の…!さくら、離れるな!」

白兎「やっぱりテメェら人間共のそういう顔は良いなぁ!!ゾクゾクする…最高の気分だ…!」

その言葉と同時に、ビルの屋上に恐ろしい衝撃が襲い掛かった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:55:23.41 ID:qLytG6T/0<> 計り知れないほどの暴風が何重にもなって襲い掛かり、黒兎自身も吹き飛ばされそうになるがスカートの裾をいくつもの角に変化させ突き刺し耐える。

風が止み、黒兎は生物の広範囲の生命の気配を探る。何度確かめても屋上にいたのは二つの狂気だけだった。

白兎「どうだ?…死んでないよな?」

さくらに化けた黒兎の腕から飛び出た白兎が、紗南の姿に化けて着地する。

白い髪に赤い瞳の紗南が、サクライ達が吹き飛ばされたであろう、駅とは逆の方向を見つめた。

黒兎「この程度で死んでたら、とっくに殺されてると思ウよ?キシシ♪」

白兎「それもそうか…キシッ、キシシ…」

「「キシシ、キシャシャシャシャシャシャ…!!!」」

白兎「よくやった黒、褒めてやるよ」

黒兎「その上から目線をやめて欲しいんダけど…とりあえずここを陣取っておこうか。ここからはいろいろとよく見えるし」

白兎「だな。紗南は狂信兵が追いかけているし、運が良ければ聖來が見つかるかもなぁ?」

黒兎「ナんとも執念深い…まぁ、防戦くらい一人で出来るモン。安心していいよ、入口は部下に守らせて、上からぶっ飛ばすだけのお仕事だし?」

白兎「そういえば、結構このテロで血も肉体もゲットできたんじゃないか?配下も増えただろ」

黒兎「だね、狂信は乗っ取ルことでしか生まレないから。食べた人間は…能力者はさすがに居ナかったけど、魔力の最大値もどんどんおっきくなってルぞ」

そこまで言うと思いだしたように腕を組みながら黒兎は少し困った顔をした。

黒兎「あ、でも問題は魔術の呪文が殆どわからないわ…ってコトだね。魔法やドラゴンマジックは割とノリで使えるけど」

テロに紛れて黒兎は蜥蜴の姿で血を吸い、裏では焼けた死体を喰らっていた。究極生命体は血を吸えば姿を手に入れ、死にたての肉は喰らえば血と共にその者の力を得る。

かつて喰らった吸血鬼の魔眼の力も使って逃げ惑う人間を操って案内させてしまえば、容易に死体を集めて喰らうことが出来た。

死体を喰らう事に躊躇いはない。むしろそれが当然であると二つの狂気は考える。そして、魂の無い死体は白兎にとっても都合が良い。

…自分たち以外の魂は取り込んでも悪影響を与えるだけだと、加蓮の件で身をもって知ったのだから。

白兎「呪文か…そこは後々考える。今のアタシは電子の海さえ庭のようなものだし、そこからどうにかなるかもな」

黒兎(やっぱり白って時々イタイ子…『正義』は『傲慢』と違って妙なところが純粋だから…そういうトコがこういうコトなのかナ?)

白兎「なーに考えてやがる…碌な事じゃないな」

黒兎「碌な事じゃなくてゴメんね!」

白兎はお気楽そうに笑う黒兎を思い切り殴った後に溜息を吐き、その後は静かに事が起きることを待った。 <> @設定
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:58:06.79 ID:qLytG6T/0<> ・狂信兵
AMCに正義の剣を装備させた状態。
装備時間が長くなれば長くなるほど正義の力が強まり、白い泥の鎧を纏う様な姿になっていく。救世兵とは違い物理耐性は無い。
目が赤く、身体能力も上昇し過激で暴力的になっている。
この状態だと白兎、黒兎両方の命令を聞くようになる。

・『ラーニング』
究極生命体が周囲に適応したり、敵を凌駕し頂点に立ちそして生き続ける為の力。
周囲の言動や映像の内容を僅かな時間で把握・記憶・学習し、自身に応用することが出来る…後天的な才能のようなモノ。
奈緒は浄化され記憶を失った後、この能力を周囲の環境に適応する為に無意識に使っており、一年未満の期間で現在の人格と言葉遣いと知能を得ている。
白兎と黒兎は主に戦闘能力にこの能力を活用しており、戦闘経験を積めば積むほど強くなっていく。
ちなみに白兎黒兎のアニメ等の知識が多すぎるのは主人格の影響が大きい。

また、白兎・黒兎が姿などを擬態・模写できるものは『肉を喰らった生物』『血を吸った生物』『封印されたモノを含む、奈緒の記憶の中の強いイメージ』となっている。
擬態しても色は模写できない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/25(日) 22:59:43.52 ID:qLytG6T/0<> 以上です
サクライ達を追い払っていいと聞いて書いてしまった話。サクライP書くの難しい…
プランAが潰れた白兎はプランB(未完成)の為に経験値を貯める方向性で行く模様。
掲示板の雑談スレpart6から一部サクライPのセリフお借りしました

ちなみに超電磁砲やっておいてとあるシリーズはあまり詳しくなかったりする(小声)

情報
・紗南が狂信兵からエアロシューズで逃走中。
・サクライP・竜面の男・さくらが吹き飛ばされました。十中八九無事。
・黒兎(さくら擬態)&白兎(紗南擬態)が屋上を占拠して観戦中。(追い払ってもいいのよ) <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/25(日) 23:10:46.97 ID:FwcwDAE/O<> 乙ー

やだ…二人とも強い
そして、少し面白いこと思いついた
書き途中の加蓮vsインちゃんにつけくわえよう <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/26(月) 00:12:30.48 ID:buOmktNUo<> しばらく感想書いてなかったので溜まりすぎなの

>>67
エボニーコロモVSティアマットは正直スカッとしました
逃げられはしましたけど、それでもよくやってくれたと称賛したい

>>105
・ヮ・ ようせいさんなのです?ユミミンかわいい
菜々さん旅立つ決意はちょっと意外でした果たしてどうなる

>>116
カイさん、それはいけませんよ……
海底組は最終的にハッピーな結末となって欲しいものです

>>134
白ちゃん、ねえねえどんな気持ちー?(AA略)
加蓮と仁加は一先ず安心でしょうか、今後楽しそうな2人を見れればいいと思うー

>>143
ライラさんええ子やで……
クールPもなんだかんだ良い奴だと思ってます
真面目にプロデューサーやってるし、このままやっていければいいのにねえ

>>166
おお、サクライよ。ふきとばされるとはなさけない。
残念ながらぐうの音も出ないほどオッサンだしロリコンだよね。仕方ない
兎さん達は怖いですねえ、この因縁が後にどんな風になって行くかな


皆さん乙乙したー
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/26(月) 00:13:45.65 ID:buOmktNUo<>
さて、投下しまー



前回のあらすじ


チナミ「それにしたって、アイドルヒーロー同盟の資料はどうしてこんなに一般人の個人プロフィールにも詳しいのかしらね」

チナミ「身長や体重はともかく3サイズまで分かるものなのかしら……」

クールP「別に不思議でもないんじゃないかな?」

クールP「世の中には一目見ただけで、女の子の3サイズが分かる子が居るとも聞くし」

チナミ「へえ、能力者かしら?」

クールP「いや、素らしいよ」

チナミ「なにそれこわい」


櫻井財閥と学園祭
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/129-

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/26(月) 00:16:35.66 ID:buOmktNUo<>



爛「『エージェント・バックメンバー』だぁ?」

目の前に座る女の口から出た聞きなれない言葉。

爛は眉を寄せて、聞き返す。


チナミ「そ。 とっておきの情報(おはなし)よ。もちろん買うわよね?」

向かいに座る女は、肘を突いて膝を組み、まるで当然のようにそんな事を言い出すのだった。

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/26(月) 00:17:05.93 ID:buOmktNUo<>
爛「……」

爛「つーかよぉ、そんな話をこんな時にこんな場所ですんのかよ」


こんな時のこんな場所。すなわち、学園祭真っ最中の京華学院。

教習棟内に設置された休憩スペースの一角である。


爛「……」

ちらちらと爛は周囲に目を配った。

学園内で休憩するならば、例えば喫茶店のような出し物は棟内には多くあるし、

無料で使える休憩スペースにしたって他にたくさんあり、

棟内の一番端にあるこの教室まで、わざわざ足を運ぶ人間は少ない。

ぶっちゃけここは人気のない休憩スペースであった。


とは言え、まったく人が居ないわけではなく。

爛達以外にも、少人数ではあるが雑談している者達が何組か存在している。


爛「あんま大っぴらに話せるコトじゃねーだろ?」

『エージェント』とは、櫻井財閥と言う巨大な組織に存在する裏の機関。

公に開かされてはならない仕事を担当する財閥の影。

それに関わる話を、目の前の女はこの場でしようとしているらしい。


チナミ「問題ないわよ」

しかし女は、平然と答えた。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/05/26(月) 00:17:54.02 ID:buOmktNUo<>

チナミ「この部屋に居る人間は誰も私たちの話なんて聞いてないわ」

チナミ「いえ、”意識できない”とでも言い換えた方がいいかしら」

爛「……暗示か」

チナミ「まあ、そんなところね♪」

くすくすと、魔性の存在たる吸血鬼はおかしそうに笑う。

簡易的にではあるが”おはなし”とやらをする場は既に作っていたらしい。


爛「……」

爛「……おい、そこの[ピザ]。ちょっと俺の話聞け」

でぶ「ここでしばらく休憩したら次は早食い勝負に挑戦するぶー!」

傍の席にいた、デ……少しふくよかでぽっちゃりした方に話しかけてみたが無視される。

どうやら、本当にこちらの言葉は周りの奴らには聞こえていないようであった。


爛「本当みてえだな」

チナミ「あなた、試し方が酷いんじゃない?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:18:52.31 ID:buOmktNUo<>
爛「で、わざわざ休憩中のアイドル呼び出して商売の話かよ」


教習棟の廊下で瞳子と別れてからすぐに、爛はチナミと出会う事となった。

随分短時間の間に、『エージェント』の同僚と二度も遭遇するとは奇妙な事だが、

ただ、こちらは瞳子の時と違い偶然ではなく、

連れ込まれた休憩スペースの人間達に掛けられていた暗示から考えても、

どうやら、爛が居る事をわかっていて待ち受けていたらしい。


チナミ「休憩中に、急に連れ出して悪かったけれど」

チナミ「こう言う好機はあまりないもの。有意義に利用しなきゃね」

爛「好機?」

チナミ「あら?もしかして……爛は気づいてないの?」

爛「……チッ」

どこか小ばかにされているような態度。やりにくい女である。

相方であるクールPはこいつと好んでつるんでいるが、これの何がいいのかは爛にはさっぱりであった。

爛「わかりやすく説明しろよ」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:19:38.54 ID:buOmktNUo<>
チナミ「それじゃあ、今が好機である理由を順を追って説明するけれど……」

チナミ「まず1つ、『エージェント』のメンバーが消息不明になってるのよ」

爛「知ってる。電気能力使ってたアイツだろ?たしか名前は……ま、どうでもいっか」

電気を操る能力を持つ『エージェント』が、消息不明になった事件。

その事は、聖來からの連絡で他の『エージェント』達に速やかに伝わった。

恐らくは、彼が死亡してしまっている事もである。


チナミ「それも2人」

爛「は?」

チナミ「消息不明になった『エージェント』は”2人”よ」

チナミ「もう1人の方は、つい今朝に発覚した事なんだけどね」

爛「……」

新情報であった。『エージェント』内にもう1人、行方不明者が居るとは初耳である。

チナミ「他の『エージェント』達からは『鏡(ミラー)』って呼ばれてた奴よ。知らないかもしれないけれど」

チナミ「そいつも”財閥から放流されたカース”の一匹を追ってる最中に、それごと消息不明になったらしいの」

チナミ「まあ、たぶん『電気(エレクトロン)』を消した奴と同一犯の仕業なんでしょうね」

淡々と、その話の流れをチナミは推測を交えて語った。

チナミ「あ、この情報についてはタダでいいわよ」

爛「当たり前だろ、待ってれば俺にも普通に伝わる話じゃねえか」

チナミ「ええ、でしょうね」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:20:52.94 ID:buOmktNUo<>
爛「おい……その今朝ってよ。何時くらいの話だ?」

チナミ「具体的な時間は知らないけど……早朝も早朝よ。日が昇るか昇らないくらいの」

爛「……そうか」

爛(…………ならどうして”今になるまで”俺に伝ってなかった)

爛は考え込む。『エージェント』の2人目の消息不明について。

それは今朝に、発覚した事だとチナミは言った。

昨日の『エージェント』の死亡は、比較的速やかに『エージェント』に属する人間に伝わったのだから、

この件に関しても、既に爛の耳に入っていてもおかしくない話である。

しかし、実際には今チナミの口から聞かされるまで、爛にはそれらに関する情報が伝わってはいなかった。

爛「今の話、嘘じゃねえだろうな?」

チナミ「もちろん。後で確認してもらってもいいわよ」

爛(……ま、すぐバレる嘘付く意味とかねえよな)

爛(しっかし、嘘じゃねえとしたら……ちょっと情報が伝わるのに時間が掛かりすぎじゃねえか…?)

いや、そもそも”チナミから新情報を聞かされる”と言う状況からして何か引っ掛かる。

爛(俺の気にしすぎ……か?)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:21:49.28 ID:buOmktNUo<>
爛「……」

爛「セイラは何してるんだよ」


『エージェント』をまとめて取り仕切る事の多い、水木聖來の様子を尋ねてみた。

チナミは彼女ともよくつるんでいるのだから、彼女の仕事の状況なども把握しているだろう。


『エージェント』に関わる連絡はサクライPでなければ、聖來から入ってくる事が割とある。

事実、昨日の連絡は彼女からであったし、ならば今日の情報も彼女から入ってくるのが自然であろう。

少なくとも、情報の伝達ラインにチナミが間に割り込んでるよりは不自然ではない。


チナミ「聖來は寝込んでるわ」

爛「……寝込んでる?なんだ、病気かよ」

チナミ「似たようなところね、昨日、正体不明の白いカースと交戦した影響で体調不良みたいよ」

爛「……白いカースねえ」


そう言えば、つい先ほどにクールPを通して伝わったアイドルヒーロー同盟からの情報の中にも、

『白いカース』についての話があったような気がする。

恐らくは昨日、聖來が交戦したと言う『白いカース』とも関係があるのだろう。

まあ今はそこはどうでもいいのだが。


チナミ「さて、かわいくてかしこい爛ちゃんの事だからそろそろわかったんじゃないかしら?」

爛「うっせえよ」

茶化すチナミに、爛は適当に言い返す。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:22:50.17 ID:buOmktNUo<>
爛(1.『エージェント』2人が行方不明)

爛(2.まとめ役の聖來は寝込んでて)

爛(3.俺に情報が伝わったのはチナミから)

爛(つまり……)


爛「『エージェント』内部の伝達系統が微妙に混乱してやがるってところか」

チナミ「正解よ」

チナミ「しかもおまけに、今現在サクライには連絡が繋がらないわ」

爛「は?こんな時にかよ……微妙にどころか、ガッタガタじゃねえか」


組織の指揮権を持つ男と、それに順ずるリーダーの不在。

さらには、メンバー2人が突然脱落したこの状況。

『エージェント』にとってそれは組織が回らなくなるほどの不具合ではなかったが、

しかし、どうあっても内部の情報伝達網は、多少なり混乱するだろう。


チナミ「今は臨時で、あの辛気臭い竜のお面被った男が指揮してるみたいだけど」

チナミ「それでも情報が伝わるのはちょっと遅れるわよね」

チナミ「だって『エージェント』の全メンバーを把握しているのはサクライだけなんだもの」

爛「なるほどな、”好機”って言うのはそう言う事かよ」

チナミ「ええ、今なら私たちがこんな風に会ってても、サクライに何か勘付かれる心配はまったくないってわけ」

チナミ「とは言え、この状況も今日中には回復するだろうし……」

チナミ「その前に爛ちゃんに大切な事を話しておいてあげようと思ってね」

爛「……つか、さっきから”ちゃん付け”で呼んでるんじゃねえよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:23:54.82 ID:buOmktNUo<>
爛「んで、何なんだ。その『バックメンバー』って言うのはよ」


話は戻る。

チナミが先ほど言葉に出した『エージェント・バックメンバー』と言う存在について。


チナミ「その前に、わかってるわよね?」

爛「……」


含みのある遠まわしな言い方であるが、

詰まる所、『教えて欲しかったら、対価を寄越せ。』と言う事らしい。


爛「……本当に価値のある情報なんだろうな」

チナミ「少なくとも私たちにとってはね」

爛「……幾らだよ」

チナミ「お金は要らないわよ、アイツからは妙に高い給料貰ってるもの」

爛「まあ、だろうな……(つかアイツは何処からあれだけの資金調達してんだ……)」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:24:46.48 ID:buOmktNUo<>
爛「……で、金じゃなかったら何だよ。何が目的だ」

チナミ「協力してほしいのよ、今じゃなくていいわ」

チナミ「でもいつか、私が必要な時に、私の為に動いてくれるって約束してくれれば」

チナミ「それでいいの」

爛「…………らしくねーな。そんなもんいくらでも反故にできるだろ」

具体的な対価をすぐには要求せず、しかも後払いでいいとは、

どこか”利用派吸血鬼”らしからない。

チナミ「その時はその時よ」

チナミ「私の目的はただ単に、『これからはより仲良くしましょう』って……それだけなのよ」

チナミ「お互いがお互いに損しないように、お互いの行動がお互いの利益になるように」

爛「……」

爛(つまりは同盟みたいなもんか……?)


別に悪い話ではない。

チナミとの関係は元から利害関係の一致で時々情報の交換をする程度であったが、

これからはもう少し頻繁に情報交換をし、そしてもう少し踏み込んだ協力関係を築きたいと言う事だろう。

爛もチナミもお互い、サクライの犬たる『エージェント』に身を置いてこそいるが、

その実、お互いにサクライの駒で居続けるつもりはさらさら無い事を知っているのだから、

そう言う意味では仲間と言ってもいいし、協力できるのであればしてやってもいいとは思う。

ただ問題があるとするならば、

目の前の女が信用に足るかどうかだ。


爛「……」

チナミ「やっぱり、”利用派吸血鬼”なんて信用できないかしら?」


その思いを見透かしたように女は言った。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:25:49.68 ID:buOmktNUo<>
爛「はっ!”利用派が”つーか、”テメェが”だけどな!」

チナミ「……」


可愛らしい顔立ちにまるで似合わないほどに、爛は凄んでみせる。

小さな口を獰猛に開き、恐竜のような牙を見せ、

ギラギラと瞳を光らせて、目の前に佇む女を睨んだ。


爛「俺も、アイツ(クールP)もよ、腹に一物抱えてる同士だ」

爛「お互いの事を、心の底から信用してるなんて言葉はまあ口が裂けても言えねーけどよぉ」

爛「でも、ま、同じニオイがする者同士割と仲良くやっていけてると思ってるぜ」

爛「けど、テメェは違うな。俺たちと同じ様に見えてニオイが全然ちげぇ!」

爛「仲良くしてくれぇ?」

爛「とてもじゃねえけど、『はい、こちらこそ^^』なんて言えそうにはねえな!」

やはりどこか信用ならない。

クールPに感じる同族の様な意識を、彼女にも向けることは爛にはできなかった。


チナミ「……」

チナミ「ま、当然よね」

チナミ「私だって実のところ、誰も”信頼”はしていないもの」

爛「おいおい、なんだよ。そっちから話を持ちかけておいて即交渉決裂か?」

牙を剥いた口を閉じ、呆気に取られたように、爛はリアクションする。

チナミ「”信頼”はしていないけれど…」

チナミ「でも私、あなたの事”信用”はしているのよ」

爛「アぁ?」

よく分からないチナミの言葉に、再び爛は眉を顰めた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:26:57.46 ID:buOmktNUo<>
チナミ「ええ、あなたの内面はともかく、その能力は信用しているわ」

爛「そう言うことかよ、別に、評価されてても嬉しくはねえけどな」

チナミ「同じ様に……私の事も内面じゃなくって、私の能力を信用して欲しいのよ」

チナミ「つまり利用価値の提供ね。どうせお互い信頼なんて出来ないんだから。」

チナミ「都合よく利用して利用されあう関係。お互い切ろうと思えばいつでも手を切れる」

チナミ「それでいいでしょ?」

爛「……まあ、それが一番わかりやすくていいわな」

結局はそこに落ち着く。

少しだけ踏み込んだ協力関係を築いてもいいが、あくまで少し。

お互いに踏み込みすぎはしない。爛としても信頼できない奴との一蓮托生は御免被る。

チナミ「で、私の能力を信用して欲しいから話すのよ。とっておきの情報を」

つまり彼女は、自分の情報獲得能力を売り込みに来たわけである。

爛「なら、それを聞いてから決めるとするか。テメェとの関係をこれからどうするかは」

チナミ「ふふっ、それでいいわ」

爛の答えを聞いて、彼女は僅かに微笑んだ。


爛「聞かせろよ、そのとっておきの話」

爛「『エージェント・バックメンバー』について」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:27:46.03 ID:buOmktNUo<>
チナミ「あなたも知っての通りだけど、『エージェント』はサクライの犬」

チナミ「あの男が揃えた財閥の影の仕事を担当する能力者集団なわけだけど…」

チナミ「それには実は2種類居るのよ」

チナミ「それが『エージェント・フロントメンバー』と『エージェント・バックメンバー』」

爛「……初耳だぞ」

チナミ「そりゃあそうよ、私たち『フロントメンバー』には知らされていない事だもの」

女はそんな事をケロリと言う。

爛「私たち?」

爛「俺が『フロント』ってのはなんとなくわかるけどよ。テメェも『フロント』って奴なのかよ」

チナミ「ええ、そう。『フロント』、つまり”表側”」

チナミ「『エージェント』って言う影の組織に所属しながら”表”にも立つ必要のある人材のこと」

チナミ「だから『フロントメンバー』の『エージェント』は、全員表向きの肩書きを持ってるの」

チナミ「例えば、『アイドルヒーロー』だとか財閥に所属する企業の会社員だとか」

チナミ「一応、私もルナール社員としての名義をまだ持ってるから……『フロントメンバー』になるわね」

爛(……って事は俺の知ってる奴は全員『フロントメンバー』か)

彼が知る限りの『エージェント』には全員表向きの立場がある。

『フリーのヒーロー』だとか、『櫻井財閥に所属する救護班』だとか。

爛「んで、そうなると『バックメンバー』って奴らは表向きの肩書きさえ持ってねえってことか」

チナミ「そうね、財閥の影の組織『エージェント』のさらに裏側。裏の裏を担当する能力者部隊」

チナミ「それが『エージェント・バックメンバー』よ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:28:49.63 ID:buOmktNUo<>
チナミ「彼らは表の立場を持たない。」

チナミ「表の名前を持たない。」

チナミ「表の顔を持たない。」

チナミ「表に立つことは決してない。」

チナミ「正真正銘の暗部って訳ね」

爛「文字通り、『バックメンバー』ってことか」

チナミ「それで、ここからが大事なんだけど…」

チナミ「そんな部隊が必要になる機会って、あなたにもわかるでしょ?」

爛「人知れず何か消したい時だろ」

爛「例えば粛清とかな」

チナミ「そう言う事」

爛「なるほど、テメェが大事な話って言った理由はわかった」

爛「つまりアレだろ?”もしも”、”万が一””仮定の話で””ありえねえ話だけど”」

爛「俺やお前がサクライを裏切ったりすれば、”そいつら”から狙われるって事だ」

チナミ「私に感謝しなさいよ?爛ちゃんの身を案じて、教えてあげたんだから」

爛「ケッ!心遣い痛み入るな!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:29:30.56 ID:buOmktNUo<>
チナミ「今のところ、『バックメンバー』について教えられるのはこんな所ね」

チナミ「顔を持たない部隊のことを、これ以上調べて教えろだなんて無茶は言わないでね」

チナミ「だからここまで。何か質問はあるかしら」

爛「……」

爛(……んで、今の話は本当なのかねっと)

少々疑り深いかもしれないが、”利用派吸血鬼”を相手にするのであれば、このくらいは警戒しなければなるまい。

とは言え……チナミが話を持ってきたタイミングや、理由を察すれば、偽りの情報と言う事はおそらくないだろう。

”粛清される可能性”を考え『バックメンバー』とやらを警戒するのはチナミも一緒で、

それを知ったからこそ、今になって爛との協力関係を強めたいなどと言い出したのだろうから。

だが、信じきるには後一歩足りないと言ったところか。


爛「おい、信用してほしいって言うなら1つだけ教えろ」

だから、後一歩のために爛は聞く。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:30:13.83 ID:buOmktNUo<>
爛「そんな情報どうやって調べやがった?」

爛「『フロントメンバー』には一切知らされてないんだろ?」

知らされていないと言う事は、決して知られないようにもされているはずだ。

彼女も『フロントメンバー』であるなら、その話を知る機会などなかっただろう。

隠された情報を暴き奪うため、一体どんな手を彼女は使ったと言うのか。


チナミ「……それは」



『私が調べたのよ』


爛「……は?」

目の前の女からではなく、爛の耳元から声が聞こえた。

横を見てやれば、

チナミ(小)『あらっ、気づかれちゃった?』

爛「んなっ!?」

いつの間にか彼の肩に、掌サイズほどの小さいチナミが乗っていた。

爛「なんだこいつ!なんだこいつっ!?!」

チナミ「紹介するわね、その子はブラッド・ドッペルゲンガー」

チナミ「私自身にして、私の使い魔みたいなものよ」

チナミ(小)『よろしくね』

爛の肩に乗るチナミは、そう言ってウィンクしたのだった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:30:59.41 ID:buOmktNUo<>
ブラッド・ドッペルゲンガー

一部の吸血鬼が使役する、吸血鬼の血液と魔力から造られる分身体の如き使い魔。

小さな身体と影に溶け込める性質を活かして、本体をサポートするメッセンジャーとして活動する。


チナミ「その子を使って、色々と調べまわって貰ってたの」

チナミ「吸血鬼の使い魔は、影に潜り込むのは大の得意よ」

チナミ「実はこの部屋に入ってきたときから、あなたの傍に居たんだけど全然気づかなかったでしょ?」

チナミ(小)『爛ったらおかしいわね。そんなに驚くなんて』

爛「……チッ!」

気を抜いていたつもりはなかったが、確かにまったく気づいていなかった。

古の竜たる爛の持ち合わせる高い精度を誇る五感と、野生的な直感さえも欺く、恐ろしく高度なステルス能力。

なるほど。これをスパイとして使ったならば、隠された情報を知ることもできるのだろう。


チナミ「どうかしら?私の能力、少しは信用できた?」

爛「んな能力、却って警戒するっつの」

チナミ「ふふ、『評価されてる』と受け取るわよ」

爛「……」

チラリと再び、爛は自身の肩に目を移す。

そこには先ほどまで座っていた使い魔の姿はなかった。

爛(……一度認識した後でも気配を消せるのかよ……末恐ろしいな)

何気に凄まじい能力である。

彼女を侮っていた訳では無いが、その認識を少しだけ上方修正する必要はあるようだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:32:06.45 ID:buOmktNUo<>
チナミ「さて、これから贔屓してくれるなら」

チナミ「”私”の集めて来た情報の一部をあなたにも提供してもいいと考えてるのよ」

チナミ「どう?」

爛「……別に情報収集の分野でこっちが困ってるってほどでもねえけどな」

爛「クールPの奴も居るしよ」

爛の相方たるクールPは、アイドルヒーロー同盟のプロデューサーにして利用派吸血鬼。

チナミと同じ事ができるかは知らないが、少なくとも情報収集能力が劣っているとは思わない。

チナミ「でも立場が違えば、集めてこれる情報も違う。そうでしょ?」

アイドルヒーロー同盟に所属するクールPだからこそ集められる情報もあれば、

彼女だからこそ集められる情報ももちろんあるのだろう。

爛「……」

爛「はあ」

頬杖をついて、溜息。

爛「わかったよ」

そして、了解の返事を返した。

爛「どうせ切れる手なら、損が無い限り使ってて問題ねえしな」

チナミが先にクールPの奴に話を通してるのかはわからないが、アイツのことだから断らないだろうと爛は考える。

爛「何かあったら協力してやる。ただてめえの望み通り、利用するだけ利用してやるから覚悟しとけよ」

チナミ「ふふ、それでいいわ。イイ関係を築きましょうね、お互いに」

かくして2人の『エージェント』は、手を結ぶのであった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:33:22.74 ID:buOmktNUo<>
チナミ「それじゃあ早速だけど、少し協力して貰っていいかしら」

爛「あ?」

爛「おい、さっきお前”今じゃなくて”とか言ってなかったか」

チナミ「ええ、確かに」

チナミ「”いつか私が必要なときに”って言ったわね。それが”その時の今じゃない数分後の未来”だとは教えてなかったけど」

爛「……屁理屈かよ」

大方、今すぐ協力して欲しいなどと言えば、交渉の弱みになるとでも考えたのだろう。

しかし一度協力する事を了承をしてしまった後ならば、弱みにはならず、爛としても断りづらい。

と言う心理を利用したかったのだろうが……別に爛には断るに足る理由は充分にあった。

爛「言質とってから協力仰ぐとか、わざわざ姑息な真似して貰ったところ悪いけどよ」

爛「俺この後アイドルの仕事だから、あんまり時間ねえんだよ」

爛「流石に今は、そっち優先な」

至極、単純で真っ当な理由である。


チナミ「大丈夫よ、すぐに済むし迷惑だってかけないから」

爛「?」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:34:18.20 ID:buOmktNUo<>
――


チナミ「はい、チーズ」

爛「……」(むすっ)


カシャ <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:34:46.02 ID:buOmktNUo<>
――


チナミ「もう…せっかくなんだから、少しでも可愛く写りなさいよ」

携帯電話の画面に映る写真を見ながらチナミはぼやく。

爛「ちっ……なんだってそんな写真……」

チナミ「ちょっと、アイドルヒーローの写真が欲しかったのよ」

爛「……プライベートのをか?」

チナミ「ええ、プライベートの」

爛「……まあ別に、手に入れようと思ったら簡単に手に入るもんだからいいけどよ。俺の写真くらい普通に売ってるしな」

とは言え、プライベートの写真となると、ファン垂涎ものなのだろうが。

チナミ「まあ、これは使わないかもしれないけど、使うかもしれないから一応ね」

爛「???」

チナミ「これで準備はだいたい整ってきたかしら。後は……」


「チナミっさぁ〜ん」

爛「あん?」

チナミ「丁度いい時に来たわね」

爛とチナミが、声の方向に目をやれば、そこには奇抜な格好をした若者が1人。

爛「誰だそいつ」

チナミ「この学園祭でさっき会った子達の1人よ、私の事案内してくれるんですって」

爛「なんで普通にナンパに引っ掛かってんだよ、お前は」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:35:35.07 ID:buOmktNUo<>
「チナミさんが探してた新田っすけど、見つけてきたっすよー。相変らずエロかったっす」

若者は2人の座る席まで、足早に近づくと、大仰な身振りを交えて何やら報告を始めだした。

チナミ「後ろの部分の報告はいいから、状況は?」

「今、仲間の一人が追跡してるっすー」

チナミ「そ。それじゃあ案内してもらうとしましょうか」

「任せてくださいよ!」

爛(あん?…………ただナンパに引っ掛かた訳じゃなくて良い様に使ってんのか……?)

爛(つか……この様子だと軽い暗示かけられてるなコイツも)

爛が訝しげに睨めば、若者はきょとんとした顔で見返してくる。

恐らく彼は自分の意思で行動してるつもりで、実際はそこに吸血鬼に操られているのだろう。

「……そっちの子も可愛いっすね、チナミさんの知り合いッすか」

爛をアイドルヒーローだとは気付かなかったようだが、可愛い容姿をしている事には目ざとく勘付いたらしい。

「ねえ君、どう?この後俺と一緒にお茶とかさー?」

爛(殴りてえ)

チナミ「残念だけど、彼女は今忙しいみたいよ」

「あっちゃあー……そっすかー……残念ッ!」

爛「おい、誰が彼女だ、誰が」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:36:33.45 ID:buOmktNUo<>

チナミ「じゃあ、私はそろそろ行くけど」

チナミ「最後に1つ、いい事教えておいてあげる」

爛「いいこと?」

チナミ「サクライの現在の居所よ」

爛「……それも知ってんのか」

チナミ「いいえ、でも今回の事で予想はついたわ」

チナミ「エージェント2人の行方不明に加えて、まとめ役の体調不良」

チナミ「これだけの事が起きてるのに、向こうからも連絡が無い」

改めて言われれば、爛も気付く。

爛「あー、わざと連絡切ってたり、連絡してこないんじゃなくって」

爛「連絡できねー場所に居るってことか」

例えば、異世界とか、異世界に順ずる土地に赴いてると言う事だろう。

チナミ「そこまでわかれば、何処に行ったのかもだいたい予想もできそうよ」

爛「ま、その条件でアイツが行きそうな場所っつーと限られてくるな」

最後の情報提供を終えると、チナミは席を立った。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:37:27.03 ID:buOmktNUo<>
チナミ「それじゃあまたね、爛」

チナミ「直接会える機会が、次にあるのかはわからないけれど」

チナミ「何か伝えたい事があれば、”使い魔の私”を送るから」

チナミは、まだ席に座る爛の横を通り過ぎ、部屋の入り口へと向かう。


爛「さっきのか」

爛「ま、あんま期待はしてねーけど」

爛「協力し合うって言った限りはせいぜい使える情報集めて来いよ」

爛は顔の向きを変えずに、返事だけを返した。


チナミ「そこは信用して貰っていいわ」

チナミ「その代わり、そっちも私の期待に答えなさいよ」

爛「おう、考えておいてやるよ」

互いに背中合わせ、向かい合わずに言葉を交し合う。


チナミ「じゃあね」

爛「じゃあな」

そして顔を合わせないままに、

チナミは部屋を出て、爛はそれを見送った。



<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:38:20.50 ID:buOmktNUo<>
――


「新田も、この教習棟にいるみたいっすね」

「ビラ配りしてたんすよ。チラシ渡す時にちょっと前に屈むんだけどさ。それがグッと来るんすわ」

チナミ「だから、後ろの報告はいらないから」

ツカツカと、若者を従者のように侍らせて、女吸血鬼は学院の廊下を歩く。

「言われたとおりに、新田の休憩時間も新田の友達に聞いて確認してっすから」

「アイツが暇になるのはもう少し後みたいっすよ」

チナミ「それじゃあ、今のうち衣装合わせを済ませておきましょうか」

「コスプレの貸し出しなら1階にあったはずっス」

チナミ「ええ、それじゃあ行きましょう」

彼女は無駄な事は嫌う。いつだって目的に向けて一直線に、邁進するのみ。


チナミ(待ってなさい、新田美波)

チナミ(これから、私が迎えに行ってあげるから)


かくして準備万端。満を持して、吸血鬼チナミによる新田美波攻略が始まる。

何も知らぬ少女に潜み寄る魔性の企み。

チナミ「ふふ…楽しみね」

チナミは毒牙を剥いて、まだ見ぬ少女の純潔なる血の味に思いを馳せるのであった。




……しかし、この後彼女は、

”物事はすべてが思い通りには動かないものだ”と痛感させられる事となるのである。


おしまい

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:39:25.64 ID:buOmktNUo<>
『暗示魔法』

吸血鬼チナミが習得している魔法。対象の物事の認識をほんの少しだけ弄くれる。
術者であるチナミへの警戒心の高さがレジスト判定に用いられるため、
警戒心の無い一般人にはよく効くものの、爛のように少しでもチナミを警戒してる者には全然効かない。
その点では、有無を言わさず見つめた相手を操れる『吸血鬼の魔眼』より劣るが、
効果時間の長さや適用範囲の使いやすさ、操られてる事に対する気付かれにくさなど、こちらの方が勝る点もあり、使い分けが大事。


『チナミ(小)/ブラッド・ドッペルゲンガー』

吸血鬼チナミの血液と魔力から作られた使い魔の一種。分身であるため、ほぼ本人そのもの。
掌サイズであるため戦闘力はないが、吸血鬼と同じく影に溶け込みこっそり活動するのは得意。
人に見つかりにくい性質を活かし、メッセンジャーあるいはスパイとして使われる。
身体が小さいので物陰に隠れやすく、そのため本人ほど日光に気をつけなくていいので日中の活動も多い。
チナミのヘルパーとしての役割を持たされて作られたためか、どうにも興味本位でお節介を焼く性格になったらしい。
暇な時は自由気ままに過ごし、恋に悩む女の子を見つけてはこっそり耳打ちして行動を煽っ……手助けしたりしているとか。


『エージェント・バックメンバー』

櫻井財閥の暗部を担当する『エージェント』の、さらに裏側。
裏の裏、影の影たる詳細不明の特殊能力部隊。
彼らは表舞台に立つ名前や顔、立場さえ持たず、
ただ財閥と言う組織の敵対者を始末するためだけに動くと言う。
『バックメンバー』に対して、表でも活動する必要のある『エージェント』は『フロントメンバー』とされるが、
『フロントメンバー』には、基本的に『バックメンバー』の存在は明かされていない。


『鏡(ミラー)』

『エージェント』の1人。鏡に関わる能力を持っていたが、消息不明となった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/05/26(月) 00:41:39.02 ID:buOmktNUo<> 性懲りも無くべたべた伏線を貼っていくスタイル
無事回収できるかは知らない(投げっぱなしジャーマン)
が、頑張ります!

バックメンバーってどんな奴らかって?
私も知りません(ほぼ何も決めてない奴)

爛ちゃんお借りしましたー
<>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/26(月) 01:28:15.27 ID:ytAvJpBl0<> 乙ー

バックメンバー…そんなのもいるのか
そして、新田ちゃんの運命は!? <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/05/26(月) 07:25:16.50 ID:y/2zeQvF0<> 乙です
フロントとバック、なるほど面白くモバマスネタ使えるなぁ
ちっちゃいチナミさんかわいい
美波ちゃんを襲う前に失敗が確定してるチナミさんェ <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:47:28.90 ID:C603DOHD0<> 乙乙ぅ
サクライは本当に底が知れないのう

学園祭二日目投下すっとよー <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:48:14.54 ID:C603DOHD0<>
秋炎絢爛祭で開催されている、スタンプラリー。

その番人の一人、特攻戦士カミカゼこと向井拓海の前に、新たな挑戦者が現われていた。

拓海「おし、それじゃラスト…………よっと」

コインが宙に舞い、眼前の男女ペアの前に拓海の両拳が突き出された。

拓海「さあ、どっちだ?」

カイ「…………ねえ古賀、分かった?」

ティラノ「ああ、左だろ?」

男が拓海の左手を指差す。

拓海「……正解」

拓海が左手を開くと、打ち上げられたコインが顔を見せた。

拓海「ほら、カード出しな」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:49:07.57 ID:C603DOHD0<> ――――
――――――――
――――――――――――

カイ「順調にたまってきてるね、スタンプ♪」

ティラノ「ああ。まあ、まだまだ先は長いけどな」

ウェンディ族・カイと古の竜・ティラノシーザー。

二人は今それぞれ西島櫂、古賀大牙として学園祭中の会場設営等で働いている。

ティラノ「にしても、働いてるトコをゆっくり見てまわれるとはな」

カイ「監督達に感謝しなきゃね」

事の起こりは今朝、二人がいつものように出勤した時のことだった。

〜〜

現場監督『ああ、古賀と西島。今日は暇だからお前ら祭り見てていいぞ』

〜〜

……というわけで、二人は今学園祭を満喫しているのである。

ティラノ「…………史上最短の回想だな」

カイ「だね……」

ティラノ「まあいいか。よし、次はどこいく?」

カイ「あ、ここ!」

カイが広げたパンフレットの一部を指差す。

そこに書いてあったのは、『メイド喫茶エトランゼ☆秋炎絢爛祭出張店☆』の文字。

ティラノ「メイド喫茶……お前そういう趣味か?」

カイ「違う違う。友達が働いてるからさ、ちょっとからかいに、ね」

そう言ってカイは爽やかににかっと笑った。

ティラノ「悪趣味だなお前。ま、ちょうど腹も減ってきたし、そこにすっか」

カイ「おーっ♪」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:49:40.69 ID:C603DOHD0<> 二人がエトランゼへと歩き出した、そのすぐ後ろで。

クォーツ『ふむ……やはりここだな』

むつみ「どうかしたんですか、クォーツ?」

一人の少女が、首に提げたペンダントへ語りかけていた。

傍から見れば、少々不可解な光景であろう。

クォーツ『喜べむつみ。今この辺りから、《ステージ衣装》の気配を感じた。それも一つや二つではないな』

むつみ「すっ、『ステージ衣装』の!?」

クォーツ『そう、言ってみればここはボーナスステージだな。早速探しに行こう、むつみ』

むつみ「は、はいっ!」

ペンダントをぎゅっと握り締め、少女は駆け出した。

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:50:34.21 ID:C603DOHD0<> ――――
――――――――
――――――――――――

そして。

亜季「……何で来るのでありますかぁ……」

カイ「来ちゃった☆」

亜季は今にもぐずりだしそうな、紅潮しきった顔でカイとティラノを出迎えた。

ティラノ「あー……西島が世話になってるな。同僚の古賀だ」

ティラノはどうしていいか分からず、とりあえず自己紹介する。

亜季「あっ、はい。こちらこそカイがお世話になっているであります、大和亜季と申します」

それに対応して亜季は即座に態度を切り替え、ティラノへ自己紹介を返した。

亜季「ええと……申し訳ありません、今ちょっとばかり混んでいて……相席でも構わないでしょうか?」

カイ「いいよ。ね?」

ティラノ「ああ。別に」

亜季「了解しました。……申し訳ありませんお嬢様、相席とさせていただいてもよろしいでしょうか?」

近くのテーブルに座っているスーツ姿の女性に亜季が尋ねる。

隊長「ん。ああ、構わない」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:51:25.32 ID:C603DOHD0<> 亜季「ありがとうございます。……では、こちらへ。まるでお似合いのカップルですなぁ?」

亜季は二人を席に通しながら、意地の悪い笑みを浮かべた。

それは自分をからかいに来たカイへの、ささやかな反撃のつもりだった。

〜〜

カイ「かっ、カップルって……バ、バカ亜季! 何言ってんのもう///」

〜〜

などと、自分と同等かそれ以上に恥ずかしい思いをさせたかった。

カイ「カップルだって」

ティラノ「ふーん?」

しかし、その反撃は完全な不発に終わってしまった。

亜季「」

呆然と立ち尽くす亜季に、後ろからアーニャが声をかけた。

アーニャ「アキ、交代です」

亜季「へっ? あ、ああ、はい。……アーニャ殿、何やら嬉しそうですな」

アーニャ「ダー……良い強敵に出会いました。強敵と書いて、とも、です」

亜季「それは何よりです。では、お先に休憩いただくであります」

アーニャと入れ替わりで、亜季が後ろへ引っ込んでいった。

――――――――――――
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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:52:43.20 ID:C603DOHD0<> ――――
――――――――
――――――――――――

亜季「ふう……」

缶コーヒーを飲み干し、亜季は一息つく。

と同時に、腕時計型の端末に司令室から通信が入った。

亜季「こちらSC-01、大和亜季。司令室、どうしました?」

司令室『そっちの第65535次世界に、不認可での世界間渡航者が複数人いるようなんだ』

亜季「なんと。世界間渡航には我々を始めとした、特定の機関からの認可が必要だったハズですが……」

司令室『まあ、事故に巻き込まれた可能性もあるな。それで、お前が今いる地域の近辺に一人いるんだ』

亜季「ほう」

司令室『データベースに該当したデータを参照すると、《道明寺歌鈴》という名だ』

亜季「道明寺歌鈴、ですな?」

司令室『そうだ。時間がある時でいい、彼女に接触し、意図した不正渡航なら強制送還してくれ』

亜季「了解しました。彼女の人相や現在地点などのデータは?」

司令室『ああ、それは追って送信する。悪いな、なにぶんこっちも人手不足で』

亜季「了解しました、こちらで探しておきます」

司令室『助かる。じゃあな、亜季。カイさんと星花さんにもよろしくな』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:53:46.96 ID:C603DOHD0<> 通信を終了した亜季は、送られてきたデータに目を通す。

不正渡航者リストNo.0101805783
Name:道明寺 歌鈴
Age :17
Sex :♀
From:第15543次世界
Job :巫女、妖怪退治屋
備考:彼女自身は極めて温厚な性格であり、転移の術を操る妖怪との交戦経験も多い。
   よって断定は出来ないが、現時点では事故による渡航の可能性が高い。
また彼女の能力は対妖怪に特化しており、万一戦闘に陥っても危険性は低いと推測される。

亜季「……まあ、だからといって油断は大敵ですな……」

ふむ、と顎に手を当て、画面を切り替える。

亜季「! 現在地が随分近い……これは、学園内にいるのでしょうか……」

むつみ「あ、あのう……」

亜季「はい?」

呼びかけられた亜季が顔を上げると、そこには少し気弱そうな少女が立っていた。

むつみ「…………あ、あのクォーツ。本当にこの人であってるんですか?」

かと思えば、少女はペンダントをギュッと握り締めてヒソヒソと話し始めた。

クォーツ『間違いない。彼女こそかつての勇者達の意志を継ぐ一人だろう』

亜季「…………?」

小首を傾げる亜季をよそに、むつみはなおもクォーツとヒソヒソ話を続ける。

クォーツ『しかし、また若い女か……どうせならガチムチの成人男性から力を授かりたいものだ』

むつみ「クォーツ……その発言は結構危ないですよ……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:54:32.26 ID:C603DOHD0<> 亜季「どうかしたのでありますか?」

いきなり話しかけてきたと思ったら、突然ペンダントに喋り始める。

流石に不可解に思い、亜季の方から呼びかけた。

むつみ「ひゃいっ!? え、えと、その……」

むつみがたじろいでいると、胸のペンダントが発光してすーっと浮き上がった。

クォーツ『単刀直入に言おう。君の《衣装》をいただきたい』

…………

亜季「…………」

むつみ「…………」

クォーツ『…………』

…………

しばしの沈黙の後、亜季が突然宙に浮くペンダントをギュッと握りしめた。

亜季「女性の衣服を欲しがるとは、とんだ変態ペンダントでありますな……」

握る手にギリギリと力がこもる。

クォーツ『ぬおおっ!? や、やめたまえ誤解だ! 放せ、割れる! 割れてしまうっ!!』

むつみ「あ、あの、すいません! その人……いや、その石、悪気があるわけじゃないので……」

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:55:25.54 ID:C603DOHD0<> ――――
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――――――――――――

亜季「ふむ……『勇者の力』と『ステージ衣装』ですか……」

クォーツは亜季へ事情を説明した。

太古から未来に至るまでの勇者が纏った戦装束『ステージ衣装』の事。

クォーツがむつみの助けを借りて『ステージ衣装』を集めている事。

そして、亜季から『ステージ衣装』の一つの気配を感じた事。

クォーツ『うむ。どうだろう、君のステージ衣装を譲ってはくれないか』

亜季「生憎ですが……そのような物は持っていないであります。勘違いでは?」

むつみ「そんな!?」

亜季の言葉を聞いて、むつみが露骨に肩を落とす。

しかしクォーツは強気だ。

クォーツ『そんな事は無い。君は確かにステージ衣装を持っているはずだ』

亜季「そう言われましても……無いものは無……」

「きゃああああああああ!!」

亜季「!?」

亜季の言葉を遮って、どこからか悲鳴が響く。

むつみ「今のは……」

亜季「くっ!」

むつみを置き去りに、亜季は声がする方へと走った。

クォーツ『いかん! むつみ、追うんだ!』

むつみ「は、はいっ!」

クォーツに急かされ、むつみも亜季を追って駆け出した。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:56:22.68 ID:C603DOHD0<> ――――
――――――――
――――――――――――

AMC「お姉さーん、メガネはダメダメよー?」

AMC「それ、はっずーせ♪ はっずーせ♪」

女性「ひっ、いや……来ないで……」

ある女性が、複数体のAMCに囲まれていた。

AMC「怖くない怖くなーい」

AMC「一気♪ 一気♪」

AMC「お姉さんの、ちょっといいトコ見てみた……うぅあっ!?」

突然、一体のカースに銃弾が撃ち込まれた。

AMC「な、なんだ?」

AMC「なにごと!?」

AMC「あそこ! あそこから誰かが撃った!」

AMC達が視線を向けた先に、拳銃を構えた亜季が立っていた。

亜季「見たところ、カースの亜種のようですな……そこの方、今のうちに逃げてください!」

女性「は、はい! ありがとうございます!」

女性は大慌てでその場から逃げ出した。

AMC「ああっ、逃げた!」

AMC「許さないよそこのお姉さーん」

AMC「やっちゃうよー? ガーンいっちゃうよー?」

AMC達がじりじりと亜季に近寄る。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:57:02.52 ID:C603DOHD0<> むつみ「や、やっと追いついた……って、何アレ!?」

クォーツ『恐らくカースの亜種だろう。彼女に攻撃するようだ』

むつみ「あんなに大勢!? 亜季さん、早く逃げて下さい!」

むつみが後ろから亜季に叫んだ。

しかし、亜季が動じずに鼻を鳴らす。

亜季「フン、出来るものならやってみるがいいであります! SC-01、バトルターン!!」

次の瞬間、メイド・大和亜季の姿は、ヒーロー・SC-01へと変化した。

むつみ「わあ……」

クォーツ『おお、もしやあれこそが……』

AMC「いけえ!」

AMC「それえ!」

数体のAMCが目からビームを放つ。

亜季「遅いっ!」

しかし、空を華麗に舞う亜季にそれを当てることは出来なかった。

AMC「わあ、高ーい」

AMC「速ーい」

AMC「ぜかましー」

亜季「呑気に見上げて、核が丸出しであります!!」

上空から拳銃の引き金を四回引くと、その弾丸が二体のAMCの核を正確に撃ち抜いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:57:46.00 ID:C603DOHD0<> AMC「うぎゃっ!」

AMC「ひああ!?」

AMC「同志ー! ……ん?」

むつみ「すごい……あっ」

むつみがふと視線を下すと、一体のAMCと目が合った。

AMC「お前あいつの仲間だなー!」

AMC「やっつけるぞー!」

むつみ「ええええ!?」

クォーツ『やれやれ、仕方ない。むつみ』

むつみ「は、はい! 衣装チェンジ、エピックパイレーツ!」

海賊風の衣装に身を包んだむつみが、レイピアを片手にAMCの群れに突撃していった。

クォーツ『な、なにっ!? ま、待てむつみ!』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:58:40.51 ID:C603DOHD0<> むつみ「やあ! ていっ!」

AMC「うわあ! やったなあ!」

AMC「すけだちだ、同志!」

AMC「同志を助けるぞー!」

一体のAMCにダメージを与えたむつみだが、直後に他のAMCに囲まれてしまった。

容赦ないビームの雨がむつみを襲う。

むつみ「きゃああっ!?」

クォーツ『むつみ、前にも話したがエピックパイレーツは1対1の戦いを得意とするステージ衣装だ。今のままでは不利だ』

むつみ「そ、そんなあ……」

困惑するむつみをよそに、AMC達はじりじりと距離を詰めていく。

AMC「さあ覚悟しろー!」

AMC「お前にもアンチメガネを植え付けてやるー!」

むつみ「ひぃっ……」

むつみが怯えながら退く。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 00:59:19.03 ID:C603DOHD0<> AMC「ふがっ!?」

AMC「うぎゃあ!?」

直後、二体のAMCの頭がパァンと吹き飛んだ。

亜季「むつみ殿、ご無事ですか!」

拳銃を構えたまま、亜季が空中からむつみの隣へ降り立つ。

むつみ「あ、亜季さん……ありがとうございます!」

亜季「無理はなさらず、むつみ殿は下がっていて下さい」

亜季は拳銃を格納してビームソードを構え、むつみの方を見ないままそう言った。

むつみ「で、でも……」

クォーツ『いや、ここは彼女に任せるべきだ。エピックパイレーツでは多数に対して不利だ』

むつみ「そ、そんな! クォーツが言うから変身したんじゃないですか!」

クォーツ『私はあくまでこの場を凌ぐために変身を提案した。まさか真っ向から突っ込むとは……』

クォーツから溜息に似た音が聞こえてくる。

そうしている間にも、AMC達は2人との距離を詰めて行く。

むつみ「そ、それでも……」

むつみはレイピアを力強く握りしめ、AMC達をキッと見据えた。

むつみ「一度首を突っ込んだ以上、他人任せは嫌なんです!!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:00:07.21 ID:C603DOHD0<> 亜季「むつみ殿……分かりました!」

亜季がむつみの隣に並ぶ。

亜季「共に行きましょう、むつみ殿!」

むつみ「……はいっ!」

亜季の差し伸べた手を、むつみがしっかりてて握り返す。

むつみ「……あっ……?」

すると、亜季の手を通じてむつみの頭の中に、何かが流れ込んでくるような感覚が起こった。

亜季「む、むつみ殿……?」

むつみ「見える……火器を操る、歴戦の兵士のイメージ……」

クォーツ『……そういうことか』

何かに納得した様子で、クォーツが語り始めた。

クォーツ『確かに君はステージ衣装を持っていた。ただし、その自覚は無かった』

クォーツ『そしてステージ衣装は、むつみと持ち主の間に絆が繋がれた時、初めて手に出来るものだったのだ』

亜季「なんと……」

クォーツ『むつみ、今こそ呼ぶんだ、その衣装の名を!』

むつみ「はいっ!」

むつみ(イメージして……鋼鉄の機兵……深緑の軍服……) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:00:53.84 ID:C603DOHD0<> むつみ「衣装チェンジ! セクシーカモフラージュ!!」

叫びと共に、光に包まれたむつみの姿が変化する。

迷彩柄でビキニスタイルの上着にホットパンツという、少々露出の高めな衣装……。

SC-01を展開した亜季によく似たこの姿こそ、ステージ衣装の一つ『セクシーカモフラージュ』だ。

むつみ「こ、これは……ちょっ、肌出過ぎじゃないですか……?」

亜季「私に言われても……」

クォーツ『お喋りは後だ、来るぞ』

二人がクォーツの言葉でハッと顔を上げると、今まさにAMC達のビームが迫ってくる瞬間であった。

亜季「っく!」

むつみ「きゃあっ!?」

亜季はギリギリで回避したが、むつみは避けきれずに数発食らってしまった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:01:40.07 ID:C603DOHD0<> 亜季「むつみ殿!?」

AMC「やったー!」

AMC「やったかー?」

しかし、直後に亜季やAMC達が目にしたのは、無傷でそこに立つむつみの姿だった。

AMC「な、なんだとー!?」

AMC「やったか、すなわちやってない!」

むつみ「すごい……直撃したのに……」

クォーツ『なるほど、この防御力がセクシーカモフラージュの特性の一つか』

むつみが感嘆の声をあげ、クォーツが冷静に分析する。

むつみ「次は、こっちの番です!」

むつみが手のひらを前方にかざすと、光と共に大型のライフル銃が出現した。

むつみ「それっ!」

引き金を引くと轟音と共に弾丸が飛び出し、一体のAMCの頭部を吹き飛ばした。

AMC「あばばーっ!?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:02:21.31 ID:C603DOHD0<> むつみ「次!」

続いてむつみの手に現れたのはハンドレールガン。

亜季「ならば私も! マイシスター!」

亜季もマイシスターに指示を出し、ハンドレールガンを投下させる。

AMC「まずいぞまずいぞ!」

AMC「早くやっつけなきゃ!」

焦ったAMC達が二人へビームを乱射する。

むつみ「よく狙って……」

亜季「そこです!」

そのビームの雨を亜季は避け、むつみは正面から受け止めつつハンドレールガンを発射した。

数体のAMCの頭部が、軽快な音と共に弾け飛ぶ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:02:57.93 ID:C603DOHD0<> AMC「ひいい!?」

亜季「むっ、どうやら奴が最後の一体のようですな!」

逃げ出した一体のAMCを、亜季が目ざとく見つけた。

むつみ「だったら、私が!」

むつみの手に、大型のバズーカが現れた。

むつみ「よく狙って…………発射ぁ!」

煙をあげて飛ぶバズーカの砲弾が、逃げ続けるAMCの背を追う。

AMC「ひえっ、ひっ、ぴぇええっ!」

そして、着弾。

AMC「あああああああっ!!」

爆風で核を焼かれたAMCは、その場に崩れ去った。

むつみ「……これが、セクシーカモフラージュの力……」

光に包まれたむつみの姿が、セクシーカモフラージュから元の姿へと戻った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:03:32.85 ID:C603DOHD0<> クォーツ『ついにステージ衣装の一つを手に入れたな、むつみ』

むつみ「はいっ!」

嬉しそうな顔を浮かべるむつみの肩に、亜季がポンと手を置く。

亜季「外様が勝手ながら、おめでとうと言わせていただくでありますよ、むつみ殿」

むつみ「あ、ありがとうございます亜季さん」

クォーツ『さて、こうしてはいられないな。急ごうむつみ、次のステージ衣装を探すんだ』

むつみの胸元からクォーツが浮かび上がり、むつみの体を引っ張るように浮遊していく。

むつみ「あっ、ちょ、ちょっと! 待って下さいよクォーツ! ご、ごめんなさい亜季さん! さようなら!」

そしてクォーツに引っ張られながら、むつみはヨタヨタとその場を去った。

亜季「……健闘を祈ります、むつみ殿」

むつみが去った方向へピッと敬礼した亜季は、ふと時計に目をやる。

亜季「まだ休憩時間は余っていますな……折角です、件の歌鈴殿を探すとしましょうか」

亜季は端末に道明寺歌鈴のデータを表示させ、そのまま歩き出した。

……メイド服のままな事を忘れて。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:04:52.96 ID:C603DOHD0<> ・セクシーカモフラージュ
むつみが亜季と絆を築く事により得たステージ衣装の一つ。
ライフルやバズーカ等の銃火器召喚能力の他、防御力も向上している。

・イベント追加情報
カイとティラノが学園祭をまわっています。

むつみがステージ衣装『セクシーカモフラージュ』を獲得しました。

むつみは他のステージ衣装も探すようです。

亜季が「不正渡航疑惑者」として歌鈴を探しています。
不穏な事態になる予定は一切ございません。重点。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/05/29(木) 01:05:27.63 ID:C603DOHD0<> 以上です
むつみちゃんに力を与えて解き放つの巻
拓海、クォーツ、むつみ、アーニャ、名前だけ歌鈴お借りしました <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/05/29(木) 07:20:51.81 ID:6t/TAl2S0<> 乙です
カイとティラノ…まぁ友人どまりだよな(ピピンさんを思いだしつつ)
歌鈴はまぁそうなってもおかしくないよねーって
むつみちゃん新衣装おめ!確かにアレは露出多いわ <>
◆AZRIyTG9aM<>sage<>2014/05/29(木) 12:47:46.68 ID:dY8F0BZAO<> 乙ー

よし、カイとティラノが仲良く歩いてる映像を誰かヨリコに見せるんだ

むつみはこの後どう強化されていくのか <> @予約 
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/05/30(金) 23:59:38.17 ID:QVsgV1ec0<> 五十嵐響子、有浦柑奈、矢口美羽で予約しまー
明日中には投稿したいかな… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 01:45:00.79 ID:7gDjGsfu0<>  五十嵐響子、有浦柑奈、矢口美羽で投下しまー




 ある駅前通り。
 普段は道行く人々に溢れかえり、急ぐ者、並ぶ者、彷徨く者、ありとあらゆる雑踏が支配するその通り。

 しかし現在に於いて雑踏と呼ぶべき者は存在せず、数分前までの華やかさは何処へやら、まるでゴーストタウンのような様相を呈していた。

 靴音や話し声に変わって響くのは銃声と怒号。
 そこにあるほぼ全てのシャッターが閉鎖され、人々が簡易シェルターに消え失せた街並みで、幾重にも重なる銃声と荒々しい怒号が飛び交っていた。


「ネタマシイ!!ネタマシイ!!」

「ヨコセヨコセヨコセヨコセ!」


 不定形の泥の、どこからか発せられる声。醜く、怨唆の如き叫びが、いつもより広く感じられる大通りにこだまする。
 怪音とも感じられる響きは酷く頭に響き、相対する者には不快感を、身を縮ませる人々には恐怖を植え付けた。

 カース。

 この世界に於いて最もポピュラーとも言うべき災害が、源たる負の感情を周囲に撒き散らしている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/01(日) 01:46:35.16 ID:7gDjGsfu0<>  憤怒のカースが、大きな破壊力を持つその腕を振り上げる。
 直下に存在するのはシャッター──ではなく、隔壁とも呼ぶべき物々しい扉。数十もの人間が一時避難をしている簡易シェルターの一つ、その隔壁であった。
 中の人々は外の状況を知る術を持たず、そこに突然の衝撃──それも、外とを隔てる壁から走ったとなればその恐怖は相当の物であろう。

 それを知ってか知らずか、憤怒をカースは泥で固められた巨碗を振り下ろす。

 と、不意にその腕を横殴りの衝撃が襲った。

 弧を描いて放たれたグレネード弾がカースの腕を直撃、内蔵された爆薬が炸裂し、火薬の臭いを散らしながらその腕を半ばからもぎ取った。
 腕は攻撃力を発揮することなく地に落ち、鈍い水音を跳ねさせる。

 カースからして知覚外からの攻撃は、単調な判断を一瞬だけ鈍らせた。

 そしてその一瞬は、カース達を相手取る彼等──戦闘のエキスパートたるGDF軍陸戦歩兵部隊にとっては十分すぎる隙であった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 01:54:58.34 ID:7gDjGsfu0<> 「ナンダテメエ───」

 その名の通り憤怒を露わにし、衝撃が襲った方向に体を正対させるカース。同時に放たれた怒声を遮ったのは、一発の強い銃声だった。

 重い銃声が空に響き、三十メートル後方より放たれた12.7mmウサミン弾が回転しながら飛来した。異星よりもたらされた技術で精製された弾丸は、その特性を遺憾なく発揮。
 スナイパーライフルの性能、そして何より射手の練度による正確性でカースの急所たる核を撃ち貫く。
 断末魔を上げる間さえ無く消えてゆくカース。

 スコープの先に崩れゆく泥を確認し、獲物を狩ったハンター──クール?3?2の名を与えられた彼は余韻に浸るべくもなく次の得物へ視線を移らせた。
 耳元でボルトアクションの奏でる音が子気味よく鳴り、熱っぽい空薬莢が銃身より吐き出される。
 そしてハンターが次なる獲物を猛禽の如き瞳に見定めたのは、空薬莢がコンクリートに落ち、甲高い音を弾けさせるより先だった。


 時にピンホール・ショットとも渾名される核への狙撃の連続は射手に絶大な集中力を要求する。故に銃爪を握る指は手汗に濡れ、眉間に畳まれた皺には焦りが刻まれる。

 雑念の一切を排した事で研ぎ澄まされる感覚。ノイズを片隅に追いやった思考。押し殺した息に代わって聞こえる自らの鼓動を耳に聞きながら、銃爪を引き絞り次射を放った。
 薬莢に秘められた火薬が爆ぜ、慣れた爆音と共にふざけたネーミングの弾丸を飛翔させる。
 ブレが最小限に抑えられた銃口から空を切って一直線に進んだ弾丸は、泥を掻き進んで今度は強欲のカース核を貫いた。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 01:57:40.40 ID:7gDjGsfu0<> 「感謝する!!」

 強欲のカースの足元で手に持った軽機関銃を乱射していた一人の隊員───特殊アーマースーツの色からしてパッションチームの一員であろう───は、弾丸の飛来した後方に感謝の言葉を投げかける。

 しかしその言葉は狙撃手には届かなかった。

 そんな余裕など無かったと形容すべきだろう。
 急ぐコッキングの一秒の間に戦場を俯瞰した狙撃手は、半無意識下で固く結ばれた唇から呻き声を漏らした。

「どれだけ湧いてきやがる……!」

 見て取れるだけで後七体ほど、先の二体を撃破するまでにもう三発のウサミン弾 (12.7mmウサミン弾は、異星よりもたらされた技術の産物であること、素材の入手が手間であること、精製自体が専用の生産ラインを必要としたこと、主にこの三点により通常の弾丸をあざ笑うかのような生産コストを持っていた。故に生産量も限られており、一歩兵の携行弾数に制限がかかることは自明の理であったと言えよう) を無駄にした。

 彼は狙撃という行為に──スポーツマンがそうであるように、また職人と呼ばれる者達がそうであるように──一種の誇りを持っていた。傲慢かも知れないその誇りは自信に直結し悠々とした独自のスナイピイング・スタイルを確立した。

 だが、今の彼を見て、『悠々とした』などと形容する者は居ないだろう。
 前線の悲鳴と木霊する雑音は、彼に中てることよりも撃つことを優先させた。そんな狙撃は彼の美学に反するところであるが、そうしなければならなかった。

 それほどまでに危険な状況なのである。

 狙撃を知り尽くしたからこそ、自分の誇りを貫くことが出来ない。どうしようもない現状に対して彼ができることは、ただ銃爪を引くことと、憎々しげに奥歯を歯噛みすることだけだった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:00:51.75 ID:7gDjGsfu0<> 「うおおおおっ!!」

 前線に展開するパッションチームの一人が雄叫びを上げながら軽機関銃を乱射した。
 鼓膜を叩く発射音と共に毎秒15発で放たれる鉄の嵐が、マズルフラッシュに照らされた黒い泥に殺到する。
 猛烈な反動を筋肉で抑えつけられた銃身から空薬莢が雨霰と吐き出され、泥と地面との接地面───辛うじて足と呼べるような───を引き裂かれたカースが不定形の巨体を地面に倒れ込ませた。  

「装填する!援護しろ!!」

「「了解!!」」

 空になったマガジンを交換しながら放たれたパッション?2の隊長たる彼の一声で、前方に突出した二人の隊員が突撃しながら銃爪を引く。
 訓練された動作で構えられたニ挺の銃身が倒れ込んだカースに二人分の火力が集中させる。
 隊員のバイザーに表示された核の位置に鉄の雨が投下され、火力の集中により泥を掻き出し内部の核を破砕すると言う───ウサミン弾の登場以前から使用されてきた戦術により、歪な球体の核が紫色の輝きを飛散させた。

「一つやったぞお!!」

 粘性を失い始めた泥を踏み、戦域に響き渡るようにして声が飛ぶ。
 撃破報告を部下に任せたパッション?2隊長は、片手で器用にマガジンを装填しながら左肩の無線機を取り出した。


「パッション?2?1より本部!!このままでは隊に犠牲が出る!!後退射撃戦術の使用許可を!!」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:03:18.82 ID:7gDjGsfu0<>  後退射撃戦術───

 その内容は名前がほぼ説明してくれている。
 主に短絡的な思考パターン───近くにいる人間に襲いかかるという───を持つカースに対し使用される戦術である。
 後退を続ける事で敵の圧力を軽減し、突出した個体に火力を集中させることで各個撃破を狙う。じっくりと削り合うという側面では慚減作戦にも似た特性を持つ、対カースにおける有効な戦術の一つである。
 俗に”引き撃ち”とも呼ばれるこの戦術は、しかし様々なデメリット───無用な戦域の拡大、逃避を続けることによる、また否応無く引き延ばされる戦闘時間による隊員の損耗、そして能動的な殲滅による被害の抑制という大前提を投げ出す等の───により、対カース戦初期はいざ知らず、現在においてはしかるべき立場の人間の許可無くしては使用する事のできない戦術であった。

 つまりパッション2隊長が無線機に叩き付けた内容は、『人的被害を防ぐため、諸々のデメリットを許容してほしい』という内容であった。


 ──しかし。

「作戦司令本部よりパッション2ー1、後退は許可できない。そのまま戦線を維持せよ」

 しかるべき立場の人間の返答は、ひどく冷徹なものだった。
 事務的な返答に眉がぴくりと跳ね、隊長は腹の底からふつふつと黒い物が沸き上がってくるのを感じる。

 椅子に座ってる温室育ちが、現状を解っているのか?

 熱となって脳天まで突き抜けたそれは、そのまま喉を通り怒号となって吐き出される。

「ふざけるな!!部下を見捨てろとでも────
「たが安心しろ、現在輸送ヘリでそちらに増援が向かっている」

 歴戦の怒声を遮り、明朗とした声が無線より響く。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:04:54.58 ID:7gDjGsfu0<>  虚を突かれ、隊長が次の言葉を探り当てる前に、無線機より何かを押し殺した声が吐き出された。

「……三十秒だ、三十秒だけ持ちこたえろ」

「……輸送ヘリ……?三十秒……増援……?」

 一拍遅れて、一つずつ確認するように呟く。
 普通に考えて、不自然の過ぎる文面だった。

 先ず輸送ヘリ。普通増援をこんな町中に空輸するものだろうか。生身の隊員が投下されたとて、パラシュートを展開した兵士がこのピンポイントな戦場に辿り着けるものだろうか。
 増援を送るのなら兵員輸送車あたりが妥当なはずだ。

 もしや機甲兵器でも持ち出そうというのか、こんな町中でか?
 ……いや、前指令ならいざ知らず、現司令に限ってそんな判断を承認するものか。彼は被害の拡大を極端に嫌う。

 三十秒と言うのもだ、兵員を送るにしても機甲兵器を送るにしても不自然だ。

 こんな条件に当てはまる増援など心当たりが──


「──……まさか」


 あった。ひとつだけ。
 はっとして、誰に向けるでもない声が口から漏れた。

「──そのまさかだ」


 短く返された、血の通った返答を聞くと、こみ上げてきた黒い熱が不適な笑みへと変換されるのを感じた。



「…お前らぁ!!三十秒持ちこたえろ!!そうしたら───」


「────勝利の女神を拝めるぞ!!」


 勝てる。

 無線機をしまい、周囲に叫び散らすその声音は確信に満ち溢れていた。



─────………

──────────………………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:06:16.67 ID:7gDjGsfu0<>


 パッションー2ー1が本部に無線を繋ぐ数分前。

 某都上空にて、四枚羽のローターを二つ装備した輸送ヘリが上空を飛行していた。
 普段多量の物資などを輸送するそれは一般からして物珍しい存在であり、その大きな機体により異様な存在感を上空に放ち続けた。
 身ごもった魚の卵にも例えられる輸送コンテナには、地球を象った蒼いエンブレム───G.D.Fのスペルが刻まれている。この世界に於いて圧倒的な普遍性を誇るそのエンブレム。

 しかしその傍らにある、部隊の所属を示すエンブレムは、大多数の人間───それこそ、GDF内部においても───見慣れぬものであった。

 『C.G』と刻まれたそれは、この世界に於いては唯一無二のエンブレムである。

 テールローターを除いた八本の風切り羽から、『オクトパス』の渾名を頂戴する輸送ヘリは普段よりも軽快に空を駆けた。

 輸送ヘリ『オクトパス』。
 時に補給物資、時に戦車をも運び得る空の運び屋。
 GDF陸戦部隊の遊撃性をさらなる物とするために新規設計された機体。圧倒的なキャパシィを誇るでっぷりとした腹部は、現在その内包量を持て余していた。

 積み込まれているのは多数の電子機器と、慌ただしく作業を続ける作業員。

 そして三体の───”三人”の少女達である。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:08:59.04 ID:7gDjGsfu0<> 「A.Cリキッド、純度問題無し。」

「擬似神経ファイバー、伝達テスト完了。問題無し」

「透過スキャン完了。問題は見当たりません」

 無数に鳴るタイプ音と、技術者達の平坦な声。
 特殊な防音加工が施されたコンテナ内部は、聴覚を妨げるローター音の中にあってもコミュニケーションに問題が無いよう配慮がなされていた。

 技術者達がにらめっこをするコンピューターからは無数のコードが伸び、その多くが物々しい機械に留められた少女達に繋がっている。

「A.Cジェネレータ起動問題無し。後は彼女等次第です」

「よろしい」

 長身の女性が最後に聞こえた男の声を飲み込み、男が目を擦っているのを確認すると、無言で休憩を促す。
 周囲の技術者達もそれに倣い、それぞれが凝った肩を解しながら思い思いの場所へ散っていった。

「………ん゛っ……」

 目を閉じて鎮座する少女達に正対し、一つ咳払いをする。
 同時に手元に持ったコンソール画面操作すると、少女達を固定していた金具が金音を鳴らしながら順に外されていった。

 最後に赤いランプが青にその色を転じさせると、閉じられていた少女達の目が開かれる。



 ………一人を除いて。



「………美羽?」

「はっ!?寝てません!!」

 美羽と呼ばれた彼女は、体を跳ねさせつつ反射的な弁明を口にした。……無駄に伸ばされた背筋と、バツが悪そうに逸らされた視線。

 説得力は皆無。

「…本当のことを「寝てました!!」

 長身の女性の目がすっと細められた瞬間、電撃的に動いた体が腰を九十度ぴったりに曲げさせ──所謂謝罪のポーズを取った。

「………はぁ………」

 ……これもある意味たくましさか。
 暫しその姿を見下したが、彼女は溜め息を漏らす以外その胸に湧き上がる感情を処理する術を知らなかった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:11:54.19 ID:7gDjGsfu0<> 「……いいわ、頭を上げて」

「はいっ」

 なぜだかこちらが悪者のように思えて、早々にこの話題を終えることにする。

 それに、本来ならばまだ十四の少女。耳を撫でる話し声や子気味良いタイピングが子守歌代わりにでもなったのだろう。これぐらい愛嬌として見てやるのがいい大人というものだ。

 そんな理屈で自分を取り敢えず納得させるも、ショートカットの頭を抱える左手がどこか拭えないしこりを謙虚に表していた。

「そんな顔は止めて、セイピース♪」

 そう言いながら満面の笑みとピースサインを向けてきた少女は、名を有浦柑奈と言う。ラブとピースと形見のギターをこよなく愛する少女だ。

「大丈夫よ、ちょっと呆れちゃっただけだから」

「あ、キレられたわけじゃないんですね!」

「でも寝ちゃうのはダメだよ美羽ちゃん」

「あ、いや、あの……」

 眩いピースサインに申し訳程度の笑みを返しながら、寒い駄洒落を聞かなかった事にする。どこか牧歌的な雰囲気は、これから命を張りに行く集団のそれとは思えない。



「……さ、そろそろ切り替えなさい」

 いち早くそれに気付いたショートカットの彼女は、微笑みを打ち消して冷淡な顔を作り、射止めるような声音で三人の少女達にその旨を伝えた。
 一つ手を叩けば即座に緊張の糸がピンと張られ、三人分の靴音と共に凛とした顔を眼前に並ばさせた。

「では、ミッションプランの再確認を行うわ」

 踵を揃えたまっすぐな瞳を一人ずつ見据えてから、抑揚の押さえられた声で淡々と説明を始めた。

「今現在クール3、パッション2、キュート5が十体前後のカースと戦闘中、敵の数は多く決して良い状況とは言えないわ」

「作戦エリアは都市化が著しく進んでおり、交通、スペースの観点から装甲車による兵員の輸送では迅速な援護は望めない」

「バイクによる突入も実行されたのだけど…嫌に高慢な宇宙人が立ちはだかったとかで、対応が遅れているわ」

「そこで、この『オクトパス』により上空から作戦エリアに侵入、そのままあなた達を直接投下して対象の援護を行う……これが作戦の概要よ」

 口外に「ひどく乱暴な計画である」と付け加えてから、単純明快な内容の説明を締めくくった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:14:04.39 ID:7gDjGsfu0<> 「何か質問は」

「……何故、私達なんでしょうか?」

 一瞬視線を伏せてから口を開いたのは、明るめの茶髪をサイドで纏めた少女──五十嵐響子。
 目上の者に質問をするという事に後ろめたさを感じているのか、その口調はどこか控えめな物に感じられた。

「……そうね、さっき都市化が進んでいると言ったわね?」

「周囲には高層ビルが乱立していて、ビル風が強いの。…だから一般の兵員によるパラシュート降下では危険が伴うわ」

「その点、あなた達なら……そうね、ざっと百メートル位ならパラシュートなしでも無傷で着地できるだろう…っていうのが上層部の判断ね」

 言葉を終える一瞬、響子の体を構成する鋼鉄を一瞥する。照明を照り返す銀のメタリックボディが、あどけない顔にアンバランスな異様を湛えていた。


 ──いつ見ても慣れるものではない。
 恐るべき強靭性を誇る鋼の肉体は、傍目から見ればただただ痛々しいばかりであった。

「了解しました」

「よろしい。じゃあ───」
『報告。間もなく作戦エリアへ到着。降下準備をされたし』

 紡ぎかけた言葉を遮ったのは、パイロットから伝えられた機内通信であった。

 一瞬天井を仰ぎ、「予想よりも早い」とひとりごちてから、再び少女達と凛とした顔を突き合わせる。



 決意の固められた表情は、おおよそ十代半ばの娘達がしていて良いものなのだろうか。

 ふと、そんな事を考えてしまう。

 しかし、同情的に胸を痛める事は独り善がりな事で、彼女達の前にあっては罪なことのようにも感じられた。

 ──この自問自答に、きっと答えは存在しない。
 結論付けた彼女は、兎に角それを表情に出さないように努めた。

「…聞いたわね?」

「「「はいっ!」」」

 頭を突き抜けるように明瞭な声が、ぴったりと揃えられて返された。こちらを見据える瞳と同じく、まっすぐなそれには迷いが感じられない。

 信念に迷いで応えてはいけない。

 なれば、彼女にできることと言えば一つしかない。


「では……『シンデレラー1』総員!!降下に備えよ!」


 一つ目を閉じた後、一際強い声でそう告げた。

「「「了解!!」」」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:15:59.62 ID:7gDjGsfu0<> 『輸送コンテナ、後部ハッチ開放まで間もなく。』

『繰り返す、後部ハッチ開放まで間もなく!』

 力強い返事に次いで、けたたましい警報とパイロットの声が響く。赤い警告ランプが瞬けば、隅に座していた技術者達が蜘蛛の子を散らすように動き始め、様々な機材の回収を慌ただしく始めた。

『作戦エリア直上に到達。後部ハッチ開放まで三十!』

 一通りの準備を終えた技術者達はエレベーターによりコンテナからの避難を開始している。
 残っているのは『シンデレラ1』の識別を与えられた少女達とひとりの女性だけだ。

 エレベーターから顔を覗かせた禿頭の男より、少女達を見据える女性に声が投げかけられる。

「作戦参謀も!早く!!」

 作戦参謀。
 それが彼女のこの場における肩書きであった。

「心配ないわ!足腰には自信があるの!…少なくともあなた達よりはね!!」

 警告にかき消されてしまわぬよう、声を張り上げて。

「…っ!……知りませんからね!!」

 吐き付けられた呆れ声は、エレベーターの扉に遮られ消えていった。
 機内放送から流れるカウントダウンは0を目前に控え、───

 ───遂に、その時を迎えた。



 ごうん、というような音と共にハッチを固定する金具が外れ、ゆっくりと開く扉から照明ではない太陽光が差し込み始めた。

 次いで襲い来るのは風。
 隙間が空くやいなや猛烈な空気の瀑布が雪崩れ込む。初めは脚を掬い、次の瞬間には凄まじい圧力が体を吹き飛ばさんと圧しかけた。

「くっ……ぅ……!」

 腕で顔を庇い、奥歯を噛み締め、大股に開いた脚で踏ん張りをかける。風とローターとが暴力的な音圧を放ち、苦しげな呻き声をも掻き消していった。

 それでもめげずに姿勢を保ち、苦しげに歪められた顔を正面に向ける。この風の影響下で瞼を開くことは、冬の寒い夜遅く、暖かい布団にくるまった際のそれに匹敵した。

 それでもめげずに、やっとの思いで薄目を開ける。

 太陽光の逆光の中に、三つの影を捉えた。

 その三つの影は、猛烈な空気の瀑布の中でも身じろぎ一つさえしていなかった。顔を庇うこともせず、音に耳を塞ぎもしなかった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:18:14.11 ID:7gDjGsfu0<>



 当然だ。

 何故なら。

 彼女等はGDF陸軍特設遊撃部隊『シンデレラ1』。


 鋼の肉体と電子の神経。
 化学薬品を血潮と流す機械の戦士。



 ───『サイボーグ』であるのだから。




 髪を短く切り揃えた長身の女性が、有りっ丈の息を腹に溜め込む。


 そして叫ぶ。


「『シンデレラ1』ッ!!」



「状況を開始せよッ!!」


 その指令は、彼女等に届いたか、風音に掻き消されたかは定かではない。


 だが───彼女等が空に飛び降りる寸前に見せたサムズアップと、ピースサインと、振りかぶられた手は、鮮明に脳裏に焼き付いていた。




────────………………

────………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:19:21.39 ID:7gDjGsfu0<>
















 ──GDF陸軍特設遊撃部隊『シンデレラ1』

 その誕生の経緯についてここに記す。


<>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:20:22.33 ID:7gDjGsfu0<>  その誕生を語るには、GDFという組織について語る必要がある。

 過剰な少数精鋭を誇るこの部隊。
 そもそも、GDFと言う組織の体系からして誕生したこと自体が異常と言える部隊である。


 現代戦──銃爪を引くだけで少年が大男を殺せるようになった時代───に於いてのパワーとは、即ち数そのものであった。

 それは『あの日』以来においても、辛うじてその形を留め続けていた。──つまり、”能力者という圧倒的な個”が存在していようと─……圧倒的な能力が個に委ねられるからこそ、パワーに対抗するパワー。

 もっと言えば常識を覆すパワーに対抗し得る常識的で制御が容易なパワーは重宝され続けた───




 ──いや、”そうでなくてはならなかった”。

 数が個に圧倒されるという事実は、力を持たぬ大多数にとって混沌の象徴であり───そういった意味では”ヒーロー”という存在は忌むべき物であったかも知れない。

 事実、現在にもたらせれる災禍の影には必ずと言っていいほど能力者の姿が在った。


「個がよからぬ事を考える時、罰するのは数であるべきだ」

「個が混沌であるのならば、数は秩序であるべきだ」

 数において最強を誇る軍隊であるのGDF上層部。 権力という力を持っただけの数である彼等にそのような思想が根付くのは当然であり、それまでにはそう時間はかからなかった。

 故に彼等は数を誇ったのだ。
 力であり続けた。
 力であろうとした。



<>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:21:27.70 ID:7gDjGsfu0<>





 ───時に、12.7mmウサミン弾という装備が存在する。


 GDFに配備されるこの弾丸はある側面から見た場合、”数こそが力”という理念に生まれ始めた綻びを、雄弁に語っているのかも知れなかった──────



<>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:22:40.23 ID:7gDjGsfu0<>  以下設定

 ・『シンデレラ1』

 通常の部隊では対応が困難な状態に対処する少数精鋭の特殊部隊。唯一の戦力は三体のサイボーグであり、それ以外の人員はそのバックアップに当たる。
 基本的には本部の直轄で行動するが、独自の命令系統を保有し特殊な装備の使用権限をも保有する。
 言わばGDF軍におけるヒーローのような存在であり、通常の部隊の援護から単身での任務遂行まで多岐に渡る任務をこなす便利屋でもある。
 ただし、GDF軍の所属である彼女等の真価はやはり集団戦である。様々な戦術を駆使、他の部隊との連携を行った際の戦闘力は筆舌に尽くしがたい。

 奈緒、人道的観点から公には彼女等がサイボーグであるという事実は伏せられており、一部の人間以外にはパワード・スーツを装着した兵士であると公表されている。

 ・『オクトパス』

 GDFの保有する輸送ヘリ。
 ニ対のメインローターの羽が計八枚であることからこの名が付けられた。
 今作戦においてのシンデレラ1はコンテナに機材を積み込むことによってサイボーグの簡易ドッグとして運用した。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:24:09.85 ID:7gDjGsfu0<>  矢口美羽

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:精神攻撃耐性、瞬間的な加速、高い身体能力

 詳細設定:
 GDF陸軍特設遊撃部隊シンデレラ1の一員。
 コードネームはシンデレラ1?3。
 特殊な戦闘訓練を受けたサイボーグであり、鋼の肉体のスピード、タフネス、パワーはそれ単体で身体強化系の能力者に匹敵、時に超越するスペックを誇る。
 それらは主に胸部に埋め込まれた『A.Cジェネレータ』の恩恵であり、その他の技術は特段珍しい物ではない。
 金属で構成されるのは全身のおよそ40パーセント程であるが、それ以外の部位も殆どが人工物に置き換えられており、事実上85パーセントはサイボーグ化が完了している。

 彼女の戦闘スタイルは、四肢に装備された『フレキシブル・リボルバー・ロケット』による瞬間的な加速、それを利用した格闘戦である。
 上記装備は、可動式のノズルから爆発にも似たエネルギーを瞬間的に放出、推進力を発生させるというもの。
 汎用性が非常に高く、単純な加速から急制動による回避行動、限定的な空中戦闘までもをこなし、攻撃面に於いては打撃の威力を高めるだけでなく、直接噴射する事により対象を焼く事まで可能である。
 加速はレンコン状の回転弾倉にストックされたエネルギーを消費して行う。一機毎に六回の使用が可能で、それ以上の使用は一発あたり七秒のリロードを待つ必要がある。

 弱点としては、使用エネルギーの融通が利かないことが挙げられる。つまりどんな使い方をしようと一発は一発であり、常に一定、瞬間的なエネルギーしか放出できない。

 奈緒、精神攻撃耐性は『シンデレラ1』の中でも彼女だけが持つ特性である。


 有浦柑奈

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:バリア発生装置、高い身体能力

 詳細設定:
 コードネームはシンデレラ1?2。
 基礎的な情報は上記に準ずる。

 彼女の戦闘スタイルは、掌に装備された『フォース・フィールド・ジェネレータ』による防御支援である。
 上記装備は空間上に有色半透明の壁を形成すると言うもの。
 この壁───正確には可視化された『斥力』そのものと言うべき存在であるが───は物理エネルギーに対し極めて高い遮断性を誇り、盾として使用した場合その突破は非常に困難である。
 また、圧縮して鋭利性を持たせることにより武器としての使用も可能である。

 弱点としては、精々四方七メートル程度の展開が限度であること、エネルギーの消耗が激しいことが挙げられる。

 千奈美に、彼女等サイボーグ兵士にとって上司に当たる人間の命令は絶対であり、どのような物であっても逆らうことは勿論疑念を抱くことも無い。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/01(日) 02:31:16.59 ID:7gDjGsfu0<>  五十嵐響子

 職業:GDF軍所属サイボーグ兵士
 属性:サイボーグ
 能力:高度な情報処理能力、高い身体能力

 詳細設定:
 コードネームはシンデレラ1?1
 基礎的な情報は上記に準ずる。

 彼女の戦闘スタイルは、高度な情報処理能力を駆使した各種重火器による火力支援である。
 他の二名と違い特殊装備を持たないためパワーに余裕があり、それを利用することで本来銃座に固定して運用するような重機関銃を両手に携えて使用したり、アンチマテリアルライフルを通常のスナイパーライフルの感覚で使用したり、果ては攻撃機に搭載されるような回転式機関砲を個人で運用したりとダイナミックな戦闘を展開する。

 弱点としては、どうしても重量が嵩むため機動力が低下しがちな事が挙げられる。

 千奈美に、彼女等は戦闘向きの思考調整が行われており、人格の大きな変貌こそ無かったがどことなく戦闘行動に対し前向きな傾向が見られる。


 作戦参謀

 職業:シンデレラ1作戦参謀
 属性:
 能力:特になし

 詳細設定:
 シンデレラ1の作戦参謀としてサイボーグ隊に指示を与える立場。
 仕事と割り切っているつもりだが、自分よりも年下の少女達を戦地に送ることに少なからず疑念を抱いている


 シンデレラ1司令

 職業:シンデレラ1司令
 属性:未登場
 能力:特になし

 詳細設定:
 シンデレラ1という部隊において一番偉い人。
 存在だけ知っといてください。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/06/01(日) 02:32:56.21 ID:7gDjGsfu0<> 設定以外中途半端な終わり方で悪いな!!

色々ブラックな設定が付いてるけど、鬱展開とか胸糞は無いはずだから安心してちょ <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/01(日) 02:36:15.85 ID:mBO5dAyM0<> 乙ー

テロ現場にきたかー
果たしてどうなることやら?

…………あれ?何故だろう。下手したら加蓮誤射されるフラグが見えた <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/06/01(日) 02:45:38.74 ID:7gDjGsfu0<> シチュエーションが似ちゃったけどテロ現場じゃないで……

って思ったが、そっちでも面白いか(適当) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/01(日) 02:55:36.39 ID:mBO5dAyM0<> あっ…(勘違いに気づく音

駅前の広場っていうからてっきりテロ現場かと……勘違いすみません……

よく考えたら憤怒や強欲がいるはずないな… <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/01(日) 09:03:46.96 ID:SVzGYBRy0<> 乙です
だりなつと絡ませたいですなー
説明にいきなり出てくる奈緒ちゃんと千奈美さんに少しワロタ

…加蓮誤射…大丈夫なのかそれは(色々な意味で) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:32:10.24 ID:Pbo6hGJyo<> >>220
カイとティラノはこれ以上発展しないんだろうなあ……
むつみとクォーツのコンビは何気に気になっていたコンビでした
衣装は絡みやすい設定だと思うのでそのうちなんかで絡んだりしたいなあ

>>244
千奈美さんが登場してるー!(違う)
新戦力の登場はいつもわくわくします、
サイボーグ3人のお話はどんな風に広がっていくかなー


乙乙でしたー

そいでは
ギリギリですが投下しまー <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:32:40.22 ID:Pbo6hGJyo<>

――

―― <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:33:14.43 ID:Pbo6hGJyo<>




「君は欲が深い」


テーブルを挟んで対面に座るその男が、彼女に言った。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:33:44.07 ID:Pbo6hGJyo<>

「今持ってる物では満足できず、常に今以上のものを求めているのだろう?」

「世界に新しい刺激を求め続ける。そのスタンスに僕は共感したのさ」

男の持つ深緑の瞳が、彼女を真っ直ぐと見つめる。

まるで彼女の心のうちを見透かすように、その男は語る。


「あなたなんかと、一緒にしないで欲しかったわ。」

男の言葉に、彼女は即座に言い返す。

初対面から図々しい要求をしてきた男に、自身の心の内を見抜いたような言葉を吐かれて不快であったからだ。


「……けれど、まあ。このまま元の生活に戻るのも確かにつまらないことだわ。」

不快ではあったが、

しかしそれ故に……彼女は男がもたらすかもしれない新たな刺激に興味を持った。

「だから、”条件”付で、あなたに協力してあげてもいいわよ。」

興味本位。この男の企みに付き合うのも、退屈な今よりは少しはマシかもしれない。

「そうか、では、”条件”を聞こうか。」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:34:35.94 ID:Pbo6hGJyo<>



「私を退屈させないで」

それだけ。

それだけが、彼女が”今”ここに居る理由。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:35:08.88 ID:Pbo6hGJyo<>

――


さくら「ぱんぱかぱーんっ!」

芽衣子「っと言う訳でっ!!」


さくら・芽衣子「お誕生日おめでとうっ!!チナミさんっ(ちゃんっ)!」


チナミ「……」

さくら・芽衣子「……」

チナミ「……」

さくら・芽衣子「……」

チナミ「……えっ?」

さくら・芽衣子「えっ?」


さくら(め、芽衣子さん!チナミさん何故か困惑してますよぉっ!) ヒソヒソ

芽衣子(ど、どうしようっ!この反応は流石に予想外っ!!) ヒソヒソ

さくら(はっ!!もしかして誕生日間違えてましたかっ!?!」

芽衣子「えっ、それは不味いよさくらちゃん!」


チナミ「思いっきり聞こえてるわよ……て言うか最後まで声潜めなさいよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:35:40.70 ID:Pbo6hGJyo<>
チナミ「そんな事より、どうしてあなた達が私の誕生日を知ってるのかしら?」

芽衣子「どうしてって」

さくら「サクライさんから教えてもらえましたよぉ?」

チナミ(くっ……あの男、どうやって調べたのよっ)


――


サクライP「どうやって調べたって……普通に回収した履歴書(チナミがルナールに提出した物)に書いてあったよ」

桃華「Pちゃま、誰に向けて喋ってますの」


――



芽衣子「だから、お誕生日祝い!」

さくら「プレゼントもありますよぉっ!」

チナミ「……」

チナミ「誕生日祝いねぇ……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:36:34.10 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「……ま、そうね。せっかくだし…頂くわ」

さくら・芽衣子「!」

さくら「普通に貰っちゃうんですかぁっ?!」

芽衣子「ちょっと意外だったかも…!」

チナミ「……あなた達、さっきから私にどんな反応を期待してるのよ」

芽衣子「いえ、チナミちゃんの事だからもしかしたら『いらない』って無下にされるかもと」

さくら「私も思ってました」

チナミ「あなた達ねえっ……!」


チナミ「はあ……別に、貰えるものならありがたくいただくわよ」

チナミ「それに一応は同僚なんだから、円滑な関係を築くためにも好意は断らないわ」

チナミ「もっとも、だからって私からの見返りは期待しない事ね」


さくら「芽衣子さん、アレがツンデレですね」

芽衣子「うんうん、ツンデレだね」


チナミ「だからせめて声を潜めなさいよっ!!」

さくら「まあまあまあまあ」

芽衣子「受け取ってもらえるなら何でもいいのでどうぞどうぞー」

チナミ「ああー……もう……調子狂うわー」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:37:47.55 ID:Pbo6hGJyo<>

さくら「チナミさんも芽衣子さんと同じで1箇所に留まらないと思うのでぇ」

さくら「同じく持ち運びやすいものを選びましたよぉ!」(えっへん)

芽衣子「たまたまだけど今日は拠点に居てくれて良かったよ」

チナミ「そうね、こんな事があるって分かってたら居なかったかもしれないし」

芽衣子「ツンデレ」

さくら「ツンデレ」

チナミ「違うっ!」

チナミ「……と言うかめげないわね……あなた達。よくそんな都合よく解釈できるものだわ…」

芽衣子「まあまあまあまあ」

さくら「はいっ!プレゼントですっ!」

チナミ「ったく…………あら、アクセサリーなのね」


芽衣子「結局、エージェント全員誕生日プレゼントがアクセサリーになっちゃってる気がするね」

さくら「そう言えばそうですねぇ、他には思いつかなかったんでしょうか…?」

チナミ「ねえ、それちょっとメタい話になっていないかしら?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:38:53.23 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「……黒い宝石のブローチ……へえ、これは……パールかしら?」

チナミ「なかなかいいじゃない」

芽衣子「気に入ってもらえたようで何よりっ」

さくら「ちなみにそれは、バロックパールって言うそうですよぉ!」(カンペ)

チナミ「バロックパール?」

芽衣子「できる過程で、真円にはならなかった歪んだ真珠の事だよ」

芽衣子「昔は粗悪品って言われてた時代もあったそうだけど」

芽衣子「今は養殖技術で簡単に真円が出来ちゃうから、歪なものも却って評価されてるみたい」

芽衣子「自然の中で偶然出来る、この世に2つとない形ってね!」

芽衣子「だからなのかな、宝石言葉は『芸術性』なんだって」

チナミ「へえ」

さくら「ちなみに、人間界では6月9日の誕生石がバロックパールなんですよぉ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:39:40.22 ID:Pbo6hGJyo<>
チナミ「なるほど、だからこれをね……」

さくら「ちなみに、それはお守りとしても効果を発揮しますよぉ」

さくら「私が魔力を込めておきましたからっ!」(えっへん)

チナミ「ふーん……ところでさっきからあなた、わざと「ちなみに」って使ってるわよね?」

チナミ「怒るわよ」

さくら「えっ……えっへっへー!」

チナミ「私は笑って誤魔化されないわよ」

さくら「ごめんなさい」


チナミ「まあ……邪魔にはならないものみたいだし、ありがたく受け取っておくわ」

芽衣子「……やっぱり」

さくら「……ツンデ」

チナミ「違うって言ってるでしょうっ!もうっ!」

チナミ「くだらない事言ってると受け取らないわよっ!!」

さくら「えぇっ!あ、謝りますから、そう言わずにぃ!」

芽衣子「あはは、ごめんね」

チナミ「まったくもう……」

芽衣子(と言いつつちゃんと懐に仕舞ってくれるチナミちゃんかわいい)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:40:19.46 ID:Pbo6hGJyo<>

芽衣子「それじゃあプレゼントも渡したところで」

さくら「いつものですねぇ」

チナミ「……?いつもの?」

芽衣子「うずうず」

さくら「うずうず」

チナミ「……???」

芽衣子「……そわそわ」

さくら「……そわそわ」

チナミ「一体何を待ってるのよ……」


芽衣子「何かって、それはもちろん」

さくら「回想ですよっ!回想っ!」

チナミ「はっ?」

芽衣子「私の時もさくらちゃんの時もこのタイミングで回想が入ったから…」

さくら「チナミさんももちろん回想しますよねぇ?」

チナミ「だからっ!!話がメタいのよっ!!!!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:41:22.28 ID:Pbo6hGJyo<>

芽衣子「あれれ?じゃあ、もしかして回想しないつもりなのかな?」

さくら「ええーっ!私聞きたいですよぉ!チナミさんのカコバナ!」

チナミ「カコバナってなによそれは……」

チナミ「……」

チナミ「……回想って言ってもね」


――――


帝王「ははははは!」

御大将「わはははは!」

サクライP「あはははは!」


――――


チナミ「はあ……やめやめ、なしなし」

チナミ「昔の事なんて思い出しても、不快な顔しか浮かばないわ」

芽衣子「たぶんだけど、すごくあっさりと上司を馬鹿にしたでしょ?」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:42:34.02 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「昔の事を振り返る必要なんてないのよ」

チナミ「だって昔は昔。今は今でしょ」

チナミ「過去に置き去りにして後悔したものなんてないし」

チナミ「必要なものは未来にしかないんだから」

チナミ「後ろ向きに歩く意味なんてないじゃない」

チナミ「私はいつだって前しか見てないわ」

芽衣子「……」

さくら「……」

チナミ「何よ、その狐につままれたような顔は」

芽衣子「いえ、ただただ感心しちゃって」

さくら「チナミさんちょーカッコイイですよぉっ!!」

チナミ「……当たり前の事を言ったつもりだけど……調子狂うわね」

チナミ「……」


チナミ「…………」


そう、過去に置き去りにして後悔したものなんてない。

選択を誤ったつもりもないし、間違った道を歩んでいるつもりもない。

だから、前を向いて、未来に向かって突き進むのみ。

目標に向かって邁進するのみだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:43:21.69 ID:Pbo6hGJyo<>

――

――


『目標?あなたの目標って何なのかしら?』

チナミ「……っ」


何処からか声が聞こえた。

彼女の周りに広がる深い霧の中から?

その声の発生源は特定できそうにもない。


声。誰かの声。

聞いたことある声。

それは誰の声だったか。


『あなたの目標って何?』

『あなたは何に向かって邁進していると言うの?』

チナミ「……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:44:00.12 ID:Pbo6hGJyo<>


 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』


芽衣子『……え?私?』

芽衣子『目標かぁ。そうだなぁ……』

芽衣子『昔は世界中、色んな場所を旅行する事!』

芽衣子『だったんだけど、能力を手に入れてからは現在進行形で叶っちゃってるから』

芽衣子『今は能力で行けない場所に行くことかな?』

芽衣子『宇宙旅行もいいよね、地球の蒼さを実際にこの目で見てみたいし』

芽衣子『獣人さん達みたいに、私たちとは違う住民が暮らしてる異世界にも行ってみたいかな』

芽衣子『後はなんと言ってもタイムトラベルっ!こんな時代だし、不可能じゃないと思うんだよね』

芽衣子『とにかくっ、これまで見たこともない景色を見る為にっ!並木芽衣子は日々前進中だよ!』


チナミ「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:44:41.64 ID:Pbo6hGJyo<>


 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』



さくら『目標ですかぁ…?』

さくら『可愛くてかっこいいヒロインみたいな魔法使いになることでぇすっ!えっへっへー!』

さくら『魔法使いはですねぇ!ちょーすごいんですよぉ!素敵な事がたくさんできちゃうんだからっ!』

さくら『でもどうしてか、魔法使いを認めてくれない人たちが居るみたいで……』

さくら『それって悲しいことですよねぇ、私は嫌ですよぉ』

さくら『でもでもいつか、みんなに魔法が認められたらいいなぁって思いまぁす!』

さくら『なので私は、みんなに認められる魔法使いになりたいなあって思っててぇ』

さくら『サクライさんも、お師匠さんも、聖來さんも、芽衣子さんも、たぶんチナミさんも……みんな私の実力認めてくれてますし』

さくら『この調子でみんなに認められるちょーすごい魔法使いになっちゃいますよぉ!えへへー!』


チナミ「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:45:17.50 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「あなた達は2人とも、その意思を貫き通すに足りる目標を持ってるのよね」

チナミ「……私は」


私は、無駄で無意味な事が嫌いだ。

”目的”を果たすためには、常に最良の選択をする事を心がけて生きてきた。


チナミ「私の目的、それは」

チナミ「サクライを……そして一派を出し抜いて、最後に全てを手に入れること」

『それは一体何の為に?』

チナミ「……」


そもそも私は、何かに従わされることが嫌いだ。

『利用派』吸血鬼と呼ばれる一派に所属し、櫻井財閥の『エージェント』に所属しているが。

その実、どちらの組織にも心から従うつもりはまるっきりない。


だから”何のため”の行動なのか、”誰のため”の意思表示なのか。

問われれば『自分自身のため』だと答えるしかない。


チナミ「もちろん私自身のため……だけれど」

『チナミと言う存在のために、全てを手に入れる?』

チナミ「……」


仮に全てを手に入れたとして、それが私の何になるのだろう。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:46:42.50 ID:Pbo6hGJyo<>

全てが欲しいのか。と問われたならば、どうだろう。

例えば、今、自分の目の前に神様が居たとして、


「こう見えて私は神でしてー、そなたに世界の全てを差し上げましょうー」

などと言ったとしよう。

私は……何と答えるだろうか?



チナミ「……」

チナミ「愚問よね。そんなのいらないわ……」


世界の全てなど、本当は求めていない。

そんな重荷を背負わされるのは、まっぴらだ。

全てを手に入れる事を目的と言ったが、

そんな”価値の無い物”を得ようなどとは、微塵もこれっぽちも思ってはいなかった。


チナミ「……」


では、何の為に私は行動しているのだろう。

私は別に、”この世に全て”に価値など見出してはいない。

にも関わらず、『他人を出し抜いて、全てを手にしようとする』


その行いに意味はあるのだろうか。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:47:25.78 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「……」


爛『はっ!出ないんだろ、その答えがよ!』

爛『それがテメェと俺らの違いだ』

チナミ「……そんな事言われなくてもわかってるわよ」


それが違い。

”彼ら”とチナミの違い。

目的の為に、他者を利用することを、何の迷いもなくできたとして、

他人を蹴落とすことを、躊躇無くできたとして、

その先が決定的に違う。

行き着く先がまるで違う。


チナミ「あなた達が求めてる物は、きっと確かにあるんでしょ」

チナミ「あなた達にはちゃんと見えてるのでしょうから」

チナミ「進むべき道の先に……価値のある何かが見えているのでしょうから」


目の前に広がるのは深い霧。


そこに私の進むべき道は……見えていなかった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:48:01.24 ID:Pbo6hGJyo<>


クールP『なら、チナミさんは何処へ向かってるのかな?』

クールP『目的や目標は道しるべになる。導も無く宛も無くただ邁進するだけじゃあ……どこに行っても迷うだけだよ』

チナミ「……」

チナミ「わかってるわよ、そんな事」


チナミ「でも仕方ないじゃないの」

チナミ「一派に従って、魔界から地上に出てきて」

チナミ「サクライに従って、『エージェント』として活動して」

チナミ「そうして最後に私が何かを手にしようとしている理由なんて……」


チナミ「退屈しのぎ以外に思いつかないんだから」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:48:38.19 ID:Pbo6hGJyo<>

退屈しのぎ。

凌ぐ。すなわち誤魔化すこと。

持て余した時間を紛らわして、すり潰して浪費すること。


チナミは無駄を嫌う。無意味を嫌う。

浪費するしかない時間は無駄であり、つまらない時間は無意味である。

しかし、世界はどうしてもつまらない。

どうしてだろう、ただ見ている限り……あまりに退屈なのだ。


だから誤魔化す。

退屈である事を誤魔化す。

「一派に従い、地上支配の為に地上に出て櫻井財閥について調べあげる」

「財閥を調べる為に、サクライに従い、彼が手にしようとする物を見つけだす」

「しかし、最後には彼らから全てを横から掠め取る」


退屈をしのぐため、それらしい目的を作り上げた。

らしいと言うだけで、本当は伽藍堂。

それに追い求める価値を見出してなどいないのに。


チナミ(それはなんて、つまらないことなのかしら)



 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』


チナミ「……」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:49:22.51 ID:Pbo6hGJyo<>

――

――


芽衣子「チナミさん?」

チナミ「……」

さくら「どうしましたぁ?ちょっと顔色悪いみたいですけど……」


チナミ「……いえ、ちょっと考え事をね」

芽衣子「あ、回想してたのかな?」

さくら「やっぱりチナミさんもするんじゃないですかぁ」

チナミ「だからメタいのよっ!」

チナミ「……別に過去を思い返していたわけじゃないわよ」

チナミ「ただ……そうね、感傷に浸っていただけよ」


そう、これはただの感傷なのだろう。

気紛れにも似た、一時の気分の迷い。

そう決め付けて、霧の中へと誤魔化す。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:49:58.48 ID:Pbo6hGJyo<>

さくら「うーん、そうですねぇ」

さくら「気分が悪いときはやっぱりてらぴーですよぉ!てらぴー!」

芽衣子「アロマテラピーとか?」

さくら「それですっ!」

チナミ「別にそう言うのは求めてないのだけれどね」

芽衣子「まあまあ、丁度財閥から送られきた花束もあるし」

芽衣子「眺めてると、案外癒されるかもしれないよ?」

芽衣子「はい、どうぞ」

チナミ「……」

チナミ「……ふーん」

チナミ「まあ……花も意外と悪くないかもしれないわね」


さくら「ちなみに、それはサクライさんからのメッセージ付きの贈り物です!」

チナミ「……どうして気分が悪くなる情報を付け加えるのかしら」

チナミ「悪くないと思った気持ちを返しなさいよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:50:36.15 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「メッセージカードねえ」

チナミ「切り刻んで燃やしちゃってもいいのかしら」

芽衣子「あはは……一応、本人は誕生日祝いのつもりのはずだから見てあげてよ。たぶん悪意はないはずだし」

チナミ「あの男もその辺りよく分からないわよね」

チナミ「妙なところでまめって言うか」

チナミ「……ま、どんな事書いてるのか気にならなくもないし」

チナミ「ちょっとでもイラッとしたら破り捨てるつもりで読んであげるとしましょうか」

さくら「……ツンデ」

チナミ「それだけは絶対に違うわよ、アイツにはデレるくらいなら私は死を選ぶわ」

芽衣子(真顔で言った……サクライさん、嫌われてるなぁ)


チナミ「えーっと……」

チナミ「『まずは破り捨てなかったことを感謝するよ、チナミくん』」

チナミ「……早速イラッとしたのだけれど」

芽衣子「まあまあまあまあ」

さくら「どうどうどうどう」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:51:21.49 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「……」

チナミ「『誕生日おめでとう、君がここまで付いて来てくれた事に僕は礼を言いたい』」

チナミ(……まあ、あなたに追従していた覚えはないけどね)

チナミ「『君との……」

チナミ「……っ」

さくら「?」

芽衣子「チナミちゃん?」

チナミ「……ふふっ」


びりっ


さくら、芽衣子「あっ」

チナミ「やっぱり読まないほうが良かったわね、まったく」

さくら(……結局破っちゃいましたね……)

芽衣子(どんな空気読めないこと書いちゃってたのかな……)


チナミ「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:51:56.87 ID:Pbo6hGJyo<>

――

――


『君との約束の事を、僕は忘れたつもりはない』


チナミ「……」


サクライP『あの時君が出した条件……君を退屈させない事が、僕が君の助力を得る条件だった』

サクライP『だから、申し訳なく思うよ』

サクライP『君がどうやら……まだ退屈を持て余していることにね』

チナミ「どうだかね」

チナミ「あなたが申し訳ないだなんて心にも思っていないのはもちろんだけど、」

チナミ「そもそもあんな口約束、とっくに忘れてるものだと思ってたわ」

チナミ「……まあお互い様じゃないかしら、私もあなたを助けていたつもりは少しも無いもの」


サクライP『……』

サクライP『君の退屈を満たすために、僕はこれまで多くの物を提供してきたつもりだが……』

サクライP『しかし……やはりと言うか、その中にも君を満足させる物はなかったようだね』

サクライP『それだけ君は、欲が深いようだ』

チナミ「……」

チナミ「……どこがよ」

チナミ「浅いでしょ、ただ退屈を凌ぎたいなんて望みは」


私は、退屈を凌いでいたい。

なんて浅くて、つまらない望みなのだろう。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:52:55.66 ID:Pbo6hGJyo<>

サクライP『……そうだね。ただ退屈を誤魔化すためだけに、新しい刺激を求めていると言うのならそうだろう』

チナミ「……」

サクライP『退屈から目を背けられるなら物ならなんだっていい、と言うのなら確かにそれは浅い』

サクライP『けどね、君は違うはずだ』

チナミ「違う……ですって?」


サクライP『君は退屈を凌ごうとしている』

サクライP『凌ぐとは耐えることだ。つまり耐えた先に何かがあると信じて、それを求めている』

サクライP『そして君が求めているのは、』

サクライP『”全てを投げ打ってでも手に入れたい価値のあるもの”なのだろう?』

チナミ「……」

サクライP『ならば、君の求める物は、何でも良いはずがない』

サクライP『例えそれが霧中にあり、今はまだ見えなかったのだとしても……手にする事を諦めるつもりはないんじゃないかい?』

サクライP『見つかるまで捜し求め続けることができるのなら、それは決して浅くはない』

サクライP『君の望みはどこまでも深いところにあるのだろうさ』

サクライP『深いからこそ手に入れ難く、手に入れ難いからこそ確かに価値がある』

チナミ「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:53:43.61 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「……あなた、本当にムカつくわ」

チナミ「文面からでも伝わるのよ、何でもお見通しって顔がね」

サクライP『何でもは見通せない、ただ君とは少しだけ気が合うと言うだけさ』

チナミ「……ふんっ、私はそうは思わないけど」

サクライP『ははっ、そうかもしれないね……現に、君の求める理想を僕が見通すことはできない』

サクライP『それを見つけることができるのは、やはり君自身だけなのだろうからね』

チナミ「……」

サクライP『だから、せめて僕は祈っているよ』

サクライP『君が邁進し彷徨う霧の先に、君を満たすことの出来る答えがあることをね』

チナミ「……」


チナミ「……ふっ、ふふっ」

チナミ「あははははっ!」

チナミ「祈るだなんて、おかしい事言うわね!」

チナミ「何に祈るって言うのよ。第一、そんな殊勝なキャラじゃないでしょ、あなたは」

サクライP『ふっ、違いない』

サクライP『確かに僕は祈ったことなんてなかった』

サクライP『決して希うことは無く、いつだって自身の手を延ばした先に望む物を掴み取ってきたまで』


サクライP『そして』


サクライP『君だってそうなんだろう?チナミくん』

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:55:16.40 ID:Pbo6hGJyo<>

――

――


チナミ「はあ……まったく……あんな奴に良い様に言われてるようじゃあ、私もまだまだかしらね」

さくら「?」

芽衣子「?」


さくら「……どうしたんですかぁ?チナミさん?」

芽衣子「んー……心なしかすっきりした顔してる?」

チナミ「別に」

チナミ「やっぱり私は前を向くしかないって再確認しただけよ」

チナミ「過去に置き去りにしたものは、やっぱりないし」

チナミ「必要なものは未来に…きっと必ずあるんでしょうから」

さくら「えっとぉ、よく分かりませんけど前向きなのは良い事ですよねぇ!」

芽衣子「うんうん、何にしても気分が良くなったみたいで良かったよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:56:15.76 ID:Pbo6hGJyo<>

チナミ「そうねえ……2人とも」

チナミ「気分転換にどこか遊びに行かない?」

さくら、芽衣子「……えっ」

チナミ「せっかく誕生日なんだし利用させてもらうわ、ちょっと接待しなさいよ」

芽衣子「いえいえ、それは全然構わないんだけど」

さくら「チナミさんからお誘いなんて珍しいなぁって」

チナミ「そう?……まあそうだったかもね」


芽衣子「ふふっ、それじゃあどこ行こっか?」

さくら「はいはーい!ケーキ行きましょうよぉ!ケーキ!」

チナミ「それもいいけど、久しぶりにダーツとかしたいわね」

芽衣子「へえ、チナミちゃんダーツ好きなんだ?」

チナミ「ええ、好きよ。狙った的に向かって真っ直ぐ飛ぶところとか」

さくら「それじゃあダーツバーとかですかねえ?」

芽衣子「うん、さくらちゃんそこ入れないからね」

チナミ「あら残念……今度、瞳子達でも誘って行こうかしら」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:57:09.19 ID:Pbo6hGJyo<>

――

――


認めましょう。

これからも後ろ向きなんかにならず、邁進し続けるために。

退屈を凌いで、価値のある未来を勝ち取るためにも。

”目標”なんて今はない事を認めるわ。


だからって歩みを止めたりなんかはしないわよ。

無意味な事は嫌いだもの。


例え、この霧の中道が見えていなかったのだとしても、

それでも私は私の道を言い張ることにするわ。



 『 Q.あなたの目標はなんですか? 』

チナミ「私が目指すに足りる確かな目標を手にする事よ」



おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:57:50.68 ID:Pbo6hGJyo<>

『パーシービューティー』

チナミにプレゼントされたバロックパールのペンダント。
歪な形の真珠。歪んだ真円、けれど歪であるからこその価値がある。
それはこの世に同じ形は2つとないまさに自然の芸術。
このお守りは『守護』『肯定』『唯一の価値』などの属性を持つ。


『精神世界』

精神世界には誰もが切欠次第で入り込んでしまうことがある。
基本的には本人の精神模様でその形は多用に変化する。
チナミの精神世界の景色は深い霧の中。
なお、内面世界でありながらチナミの知らない情報が紛れ込むのはご愛嬌。
ここで行うのは自己問答。問うのは自身。答えるのも自身。
自分自身を見つめることは精神の特訓となるとか。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/09(月) 23:58:58.64 ID:Pbo6hGJyo<>

と言う訳でチナミさん誕生日のお話でしたー
爛ちゃんとクールPお借りしましたー。なおチナミさんの心の中での登場のため本人の言では無い模様。

予定ではもっと茶化すはずだったのに思いのほか真面目に……
チナミさんは、このスレではその立場とかもあってグレ気味だった模様。ツングレ。
サクライ相手にデレることはないよ間違いなく。

一方、モバマス内では千奈美さん割と素直にデレデレでした。かわいい。
千奈美さん誕生日おめでとー
<>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/10(火) 00:08:38.99 ID:0EMRytVr0<> 乙なのでしてー

メタな発言に溢れる中でのツンデレなチナミさんの目標の話、いいなぁ
霧の中の自問自答というのが神秘的である(小並感)

精神世界、いろんなキャラで個性がありそうで楽しそうだな…(何か思いついた音) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/10(火) 00:09:14.73 ID:0EMRytVr0<> おっと言い忘れてた、お誕生日おめでとうなのでしてー(日付変わってる) <> ◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/10(火) 01:08:41.99 ID:a24hGqs+0<> 乙ー

チナミさん誕生日おめでとー

メタ発言wwwというか芽衣子さんとさくらちゃんwww

霧に覆われてるでペルソナ4を思い出すなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/06/11(水) 08:13:45.83 ID:OEWRIt7xO<> >>帝王「ははははは!」
>>
>>御大将「わはははは!」
>>
>>サクライP「あはははは!」



やはり子安だな(確信)

チナミさんそいつ吸血鬼にしてみましょう!きっと全身蛍光色になりますよ <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:02:47.77 ID:FRVOrVQHo<> トウカサセテイタダキマスー <> ◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:03:14.19 ID:FRVOrVQHo<>

6月14日(土)

◇某高校◇


美穂「うーん……」


卯月「美穂ちゃんがすっごく悩んでます、どうしたのかな……」

茜「やっぱりさっきの授業難しかったからかな?」

卯月「あ、それは違いますよ、茜ちゃん」

卯月「美穂ちゃんはさっきの授業ぐっすり寝てましたからっ!」

美穂「ふぇっ!?!う、卯月ちゃん、み、見てたのっ!?」

卯月「はいっ、ばっちり!とっても気持ち良さそうでしたよ!」

美穂「うぅう……は、恥ずかしい……」

茜「でも気持ちはわかりますっ!教室の窓から差し込む午後の日差しは、とっても気持ちいいものですからねっ!!」

美穂「分かってくれるんですね!茜ちゃんっ!」 ギュッ

茜「ええ!もちろん!だって私たちは親友ですからね!美穂ちゃん!!」 グッ

卯月「えっ、何だろうこのノリ。わ、私も分かるって言っておいたほうがいいのかなぁ…?」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:03:43.16 ID:FRVOrVQHo<>

卯月「ところで、美穂ちゃんは何を悩んでたの?」

茜「悩み事があるなら友人として放っては置けませんっ!もし辛いことあるなら相談にのりますよっ!!!」

美穂「えっ?えっと……辛いことで悩んでた訳じゃなくって、その…プレゼントで悩んでて」

卯月、茜「ぷれぜんと?」

美穂「うんっ!お誕生日プレゼントですっ、肇ちゃんへの!」


美穂(6月15日は肇ちゃんのお誕生日です!)

美穂(以前、肇ちゃんには私の誕生日を…とってもとーっても素敵な形でお祝いして貰ったから)

美穂(私も何か素敵な形でお祝いを返したいけど……)


卯月「なるほど、居候の女の子へのプレゼント」

茜「ううーん……それは難題ですね!!!」

美穂「そうなんだ…なかなか素敵なものが思いつかなくって……」

美穂「うぅ……お誕生日はもう明日なのになぁ……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:04:22.28 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「うーん……うーん……」

美穂「あーでもない……こーでもない……」

卯月「……ふふっ」

茜「?」

茜「卯月ちゃん、どうかしましたか?」

卯月「いえ、美穂ちゃん悩んでるけど……それも結構楽しそうですから」

茜「……ですね!!」

茜「その人が喜んでくれる姿を思えば……プレゼント選びはとってもウキウキするものですっ!!」

茜「ならばこうしてはいられません!!美穂ちゃん!私も一緒に悩みますっ!!!」

美穂「えっ」

茜「考える人が2人居ればさらにいい考えが浮かぶはずです!!」

美穂「茜ちゃん……」

卯月「そうですね、1人じゃ思いつかなくても、私達も考えればいい物が思いつくかもしれません」

卯月「三人寄ればかしましいです!」

美穂「卯月ちゃん……」

美穂「たぶん、この場面に適切なのは三人寄れば文殊の知恵じゃないかな?」

卯月「えっ……へ、へごった訳じゃないですからねっ!」

美穂(へご…?)

美穂「ふふっ……でも一緒に考えてくれるって言ってくれて嬉しいな、2人ともありがとうございます!」

卯月「いえいえー」

茜「えへへっ」


――

―― <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:05:12.01 ID:FRVOrVQHo<>

――

――


美穂「……はい、けど結局何も思いつかないままに学校からの帰り道です」

美穂「色々と案は出してもらえたけれど……なかなかしっくり来なくて……」

美穂「うぅ、2人には申し訳ない……」

美穂「……」

美穂「肇ちゃんの事だからきっとどんな物でも喜んでくれるんだろうけれど……」


肇『美穂さん、私にこんな素敵な贈り物。ありがとうございます』 ニコリ


美穂「……かわいい」

美穂「じゃなくって、真面目に考えなきゃ」

美穂「プレゼントも用意しなきゃだけど……やっぱり演出には拘ったほうがいいのかなあ……」

美穂「となるとサプライズがいいのかな?……私のときはすっごく驚かされたし……」

美穂「うーん……でも上手く出来る気がしない……」

美穂「私がする隠し事って肇ちゃんにはすぐバレちゃいそうだし……」

美穂「うううーーん……悩みどころです」


美穂「……と、そんなこんなで悩んでいたらもうお家です」

美穂「ってあれ?」

美穂「誰か来てるみたい?」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:05:50.13 ID:FRVOrVQHo<>

◇小日向家◇


美穂「ただいまー」

肇「おかえりなさい、美穂さん……」

美穂「……?」

美穂「肇ちゃんどうしたの?なんだかげっそりしてるみたいだけど……」

肇「いえ……少し……ほんの少しですけど、疲れることがあって……」

肇「あ、心配には及びませんよ!すぐに!本当すぐに帰らせますから!」

美穂「帰らせる……?」


「おやおや、帰ってきたようであるな、美穂さん」

肇「あっ」

美穂「……」

美穂(奥の方から、スラリと長身で和服を着た男の人が現れました)

美穂(……もちろん知ってる人なので、今更その人の外見の特徴を描写する必要はないのですが)

美穂(今回はあえてやらせて貰います)

美穂「あの、肇ちゃんのお父さん……突っ込んだほうがいいですか?」

藤原父「ん?何かおかしいかな?」

美穂「なんですか、その頭の……?」

美穂(その男の人の頭の上には……)


美穂(三角錐の形をした背の高いやけにキラキラとした飾りのついてる帽子が乗っていました)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:06:33.63 ID:FRVOrVQHo<>

藤原父「ふむ、やはり美穂さんは良い所に気がつく!」

藤原父「この帽子は、『ぱーてぃーはっと』と呼ばれる物であるそうでな」

藤原父「世間で祝い事があるときは、これを被るのが慣わしなのだろう?」

美穂「……た、確かにそう言う三角錐の帽子を被る事もあるかもしれませんけれど……」

藤原父「いやはや、この帽子は便利でな!」

藤原父「私の頭に生える鬼の角もすっぽりと、それとなく隠せるのだ」

藤原父「おかげで今日、この家をお邪魔するために人里を歩く際も一目を引かずに済んだ」

藤原父「はっはっは!」

美穂(……流石は……鬼の里出身の半妖と言ったところなのかな……)

美穂(疎いっ!!肇ちゃん以上に世間に疎いっ!!!)

美穂(しかも、それを頭に被って外の道を歩いてたなんて……)

美穂(そりゃあ通行人も目を背けますよっ!?)

肇「すみません……なんかもう本当すみません」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:07:15.55 ID:FRVOrVQHo<>

肇「お父さん……私の誕生日の事で…ちょっとはしゃいじゃってるみたいで……」

美穂(ちょっとはしゃいでるで済むのかなぁ……)

美穂「あれ……?と言うか……肇ちゃんの誕生日って15日……つまり明日だったよね?」

藤原父「うむ、そうなのだ。肇の誕生日は明日であった!」

藤原父「どうやら私は一日も早く来すぎてしまったらしい!はっはっは!」

美穂「ねえ、肇ちゃん……もしかしてだけど」

肇「はい、美穂さんが考えてる通りだと思いますが……」

肇「お酒入ってます」

美穂「やっぱり……」

美穂(このめんどくさい感じはそうだよね)

美穂(お酒が入るとめんどくさくなるのは、私のお父さんも一緒だからわかります)

藤原父「ああ、以前知人から大量に頂いた酒が随分と余っていたのでな」

藤原父「小日向殿の家に尋ねる際の手土産にしようと思っていたのだが……」

藤原父「持ってくる前に味見をさせて貰っていたら……いやはや、あまりの旨さに口が進んでな!」

藤原父「気付けばこの通りだ!はっはっは!」

美穂「陽気に笑ってるけど……」

肇「もう……お父さん、一口でも飲んだら妖術が使えなくなるくらいお酒弱いのに……」

美穂(あ、そう言えばこの人普段(素面)なら心を読めるんだったよね……今更だけどかなり失礼な事思ってたかも)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:08:10.16 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「とりあえず……肇ちゃんの誕生日のお祝いのために来てくれたんですよね?」

藤原父「その通りだ。肇の様子見もかねてな!」

藤原父「本当は父も来たがっていたのだが……」

肇「流石にお爺ちゃんまで来てたら私も怒るよ」

藤原父「はっはっは!そう睨むな、ちゃんとわかっている!」

藤原父「いくら酔っているとはいえ、そのくらいの分別はあるとも」

藤原父「父の様な大妖怪がその辺をうろうろしていれば、悪戯に人の世を乱すだけであるしな!」

肇「分別ついてるって言うならお酒飲んでから来ないでよ……」


美穂「でも、それなら帰ってもらうのも悪いよ。肇ちゃんのために来てくれたみたいだし」

肇「ですが……」

美穂母「そうよ、肇ちゃん。そんなに気を使わなくたっていいんだから」

美穂「あ、お母さん。ただいま」

美穂母「おかえり、美穂」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:08:50.19 ID:FRVOrVQHo<>

美穂母「藤原さん、客間にお布団敷きましたから、よければ酔いが醒めるまでどうぞ横になっててください」

藤原父「いやいや、そこまでしていただかなくとも、このくらいならば問題は……」

美穂母「いえいえ、お気になさらずどうぞ」

藤原父「心配にはおよば……」

美穂母「お 気 に な さ ら ず ど う ぞ」

藤原父「……」

藤原父「では、お言葉に甘えさせていただくとしよう」

藤原父「この様な酔っ払いに、ここまで気を回していただきかたじけない」

肇「もう、本当だよ」

藤原父「客間は…こちらだったかな?」

肇「お父さん、そっちはトイレだから。……平気そうな顔してるけど足元もフラついてるよ」

肇「ほら、私が支えるから……」

藤原父「ふふっ、済まぬな」

肇「美穂さんのお母さん、私の父の為にわざわざすみません」

美穂母「肇ちゃんのせいじゃないから、気を使わなくってもいいのよ」

肇「……父には言い聞かせておきます」

肇「美穂さんもすみません、父は私がお部屋まで連れて行きますから」

美穂「ううん、私の事は気にしないで」

肇「ありがとうございます。ほら、お父さんこっちだよ」

藤原父「はっはっは、委細承知した!」

肇「もう、どうして楽しそうなの」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:09:41.69 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「……」

美穂(肇ちゃんのお父さんが来てるなら、どっちにしてもサプライズでは祝えなかったかな?)

美穂母「……不器用よねえ」

美穂「えっ?」

美穂母「藤原さんの気持ちも分かるけど、あれじゃあ年頃の娘の印象はよくないかな」

美穂「……わかっちゃうんだ……あんな風になっちゃう気持ち」

美穂母「そりゃあ分かるわよ、親だもの」

美穂母「子供が遠く離れちゃって、見えないところに居ると、どうしても心配しちゃうものよ」

美穂「……」

美穂母「でも子供の方は案外平気だったりして……」

美穂母「それが寂しくて、余計に構いたくなっちゃったり、逆に構って欲しくなちゃったりね」

美穂母「ふふっ、意外と親離れよりも子離れの方が難しいのよね」

美穂「……お母さん達も?」

美穂母「ええ、もちろんでしょ」

美穂母「まさか美穂がヒーローだなんて、今でも心配に決まってるじゃない」

美穂「……」

美穂母「でもそれがあなたの決めた道なら、私は見送る覚悟はできてるから」

美穂母「これからも美穂は好きにやっちゃいなさい」

美穂「……うんっ!お母さんありがとう」

美穂母「お礼はいらないわよ、美穂を味方するのは親として当たり前の事だから」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:10:23.75 ID:FRVOrVQHo<>

美穂母「でもそうねえ……代わりってわけじゃないけど、子供としての義務も果たして貰いたいかな?」

美穂「えっ?ぎ、義務?」

美穂母「言っておくけど、あなたのお父さんだって藤原さんに負けず劣らず心配性よ」

美穂「ううっ……想像できちゃうなあ……」

美穂母「だから、ほんのすこしだけでいいから労ってあげてほしいのよ」

美穂「労い?」

美穂母「これよこれ」

美穂「チラシ?……あ、近くの大型デパートの」

美穂「……『父の日感謝祭 大バーゲンセール』」

美穂母「今年は6月15日が父の日なのよ」

美穂「あ、そう言えば……」

美穂母「美穂は肇ちゃんの誕生日のことで頭が一杯で忘れてたんじゃないかしら?」

美穂「え、えっと……うん……完全に忘れてたかも」

美穂母「泣くわよ、お父さん」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:11:19.84 ID:FRVOrVQHo<>

美穂母「まあそう言うわけで、お金は渡すから何かあの人に買ってあげてきてほしいのよ」

美穂「何かって、私が選ぶの?」

美穂母「もちろんよ。あなたが選ぶから意味があるでしょ?」

美穂「……」

美穂母「美穂?」

美穂「うん、わかったお母さん。お父さんへのプレゼントも私に任せて!」

美穂母「ええ、頼んでおくわね」

美穂「それに……サプライズも出来そうになかったから丁度良かったかも」

美穂母「?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:11:58.98 ID:FRVOrVQHo<>

――


美穂「と言う訳で、肇ちゃん」

美穂「明日なんだけど、一緒にデパートに行かないかな?」

肇「……でぱーとですか?」

美穂「あ、鬼の里にはなかっただろうし……知らないかな?」

肇「いえ、どのような施設かは把握していますよ」

肇「たくさんのお店が入ってる大規模な販売施設のことですよね」

美穂「うん!色んなお店があるから友達と一緒に見て回るだけでも結構楽しいんだよ」

美穂「明日は肇ちゃんのお誕生日だけど、父の日でもあるから」

美穂「お父さん達への贈り物を買いにね」

美穂「肇ちゃんのお父さんも今日は家に泊まって、明日の夜まで居るみたいだし、丁度いいかなって」

肇「お父さんへの贈り物ですか……なるほど、いいですね」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:12:38.34 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「それとね、肇ちゃんへのお誕生日プレゼントも一緒に買っちゃおうっ」

肇「えっ?」

美穂「ごめんね、色々考えたんだけど今日までずっとしっくり来るプレゼントが思いつかなくって」

肇「いえ、そんな事…全然構いませんよ。私自身も美穂さんの時は同じく当日まで悩みましたし」

肇(と言うか、その時はお誕生日である事を当日に知ったのですが……)

美穂「それで、せっかくデパートに行くなら……」

美穂「肇ちゃんへのプレゼントも…一緒にお店を見て回って……一緒に決められたらいいんじゃないかなって」

美穂「……どうかな?」

肇「ふふっ、なるほど合理的で良い案だと思います」

肇「是非っ、お供させてください」

美穂「うん!ありがとう!肇ちゃんっ!」

肇「お礼を言うのはこちらですよ」

肇「美穂さん、私へのプレゼントの為に色々と頭を悩ませてもらい本当にありがとうございます」


肇「ふふっ、明日は素敵な日になりそうです」

美穂(うん、絶対肇ちゃんが素敵だったって喜んでくれる日にしなきゃ!)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:13:39.96 ID:FRVOrVQHo<>


――翌日


――6月15日(日)ー


◇ 駅前 櫻屋百貨店前 ◇


肇「で……デカいです」

美穂「こうして外からじっくり見ると……本当にデカいね」

肇「これがデパートですか……もしかすると鬼の城よりも大きいかもしれません」

美穂「冬休みに一緒に行った鬼の里のお城だよね、確かに良い勝負しそうかも」

美穂(ある意味、デパートもダンジョンって言えるかもしれないし)

ガヤガヤ ガヤガヤ

肇「すごいですね……人通りもとても多くて…目を回してしまいそうです」

美穂「今日は日曜日だし、『父の日感謝祭』って事で大バーゲンをやってるみたいだから」

肇「なるほど……だから皆さんこぞってお買い物に来ているわけですね」


美穂(けれど……どうして『父の日感謝祭』をこんなに盛大にやってるんだろう?)

美穂(……櫻屋百貨店は……たしか前に調べた時、櫻井財閥が関わってるらしいって知ったけど……)

美穂(櫻井財閥と父の日が関係あるのかな……?) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:14:28.71 ID:FRVOrVQHo<>

◇1F 集合販売店 ぬいぐるみ店◇


美穂「はぁあ……おっきなクマさんです……ぎゅうう」

肇「ふふっ」

美穂「はっ……ご、ごめんね!肇ちゃんやお父さんのためのお買い物の日なのに真っ先にここに来ちゃって!」

肇「いえ、構いませんよ。ふふっ、それにしても美穂さん本当に熊さんが好きなんですね」

美穂「うんっ!抱いているとなんだか安心しちゃうからっ!えへへっ」

肇「それは買っちゃいますか?」

美穂「うーん、この大きさと抱き心地はとっても捨て難いけれど……」

美穂「家にはプロデューサーくんが居ますからっ」

肇「そうですね。でももし、プロデューサーくんは仲間が増えたら喜ぶのでしょうか?それとも嫉妬しちゃったりするのかな?」

美穂「ふふっ、どっちにしても可愛い姿が目に浮かぶけれどね」


「もふもふ」

美穂「あ、こっちにもおっきなクマさんがっ。ぎゅっ」

仁奈「ふふふ、抱きつかれるクマの気持ちになるですよ!」

美穂「えっ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:15:06.56 ID:FRVOrVQHo<>

仁奈「好きなだけもふもふするでごぜーます」

美穂「わわっ!き、着ぐるみでした!?ご、ごめんなさいっ」

仁奈「?…もうもふもふはでもうしねーですか?」

美穂「え、えっと…は、はい、満足しました」

仁奈「それなら良かったですよ」

ニナチャーン

仁奈「! お連れが呼んでるので、さらばでごぜーます」

トテ トテ トテ


美穂「……びっくりしちゃったなあ」

肇「あの子は……」

美穂「? どうしたの、肇ちゃん?」

肇「……ふふっ、いえなんでも」

肇「もしかしたら美穂さん、今日は良い事があるかもしれませんよ」

美穂「?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:15:35.88 ID:FRVOrVQHo<>

◇エスカレーター◇


肇 ソワソワ

美穂「肇ちゃん?」

肇「い、いえ……その……階段が動くのがなんだか落ち着かなくって」

美穂「あ、そうだよね。鬼の里にエスカレーターはなかったし……」

肇「足元が昇っていく感覚はなんだか変な感じです」

肇 ソワソワ

美穂「ふふっ」

肇「あ、も、もう!わ、笑わないでください!」

美穂「ごめんね、ふふふっ」

肇「むぅ……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:16:15.03 ID:FRVOrVQHo<>

◇2F 婦人服売り場◇


美穂「やっぱり女の子としてはオシャレにも気を使いたいです」

美穂「だから買うお金がなくても、ついつい服を見に来ちゃったりして……」

肇「でも難しいですね……」

肇「世間で今風のファッションと言うと……私は全然からっきしですし」

美穂「うっ……実は私も得意じゃないかな……」

美穂「今日は一応お出かけだから可愛い服を着てきたつもりなんだけど……」

美穂「肇ちゃん、私の着てるこれってどうかな?」

肇「……」

美穂「……」



通りすがりの少女「……あの、やっぱりこんな所にステージ衣装があるなんて安直すぎるんじゃあ……」 スタスタ

通りすがりの水晶『この星には灯台下暗しと言う言葉があるだろう。何事も決め付けてかかるのはよくないぞ」

通りすがりの水晶『それに気配は確かにこの近くに……』

通りすがりの少女『はあ……』 スタスタスタ



肇「……」

美穂「……」

肇「美穂さんらしい可愛い服だと思いますよ」 ニコリ

美穂「……あ、ありがとう」(今の間の意味って一体……)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:17:43.59 ID:FRVOrVQHo<>

◇3F 紳士服売り場◇


肇「見たところ、このフロアは男性用の衣服売り場のようですが?」

美穂「うん、お父さんへのプレゼントは身に付けられる物がいいかなって思って」

美穂「ネクタイとか喜ぶと思うんだ」

肇「なるほど、日常的に使う物ですから、大切な人から貰えたら嬉しいと思いますよ」

美穂「……肇ちゃんも身に付けられる物がいいかな?」

肇「私は、美穂さんが選んでくれるならどんなものでも嬉しいです」

美穂「そ、そう言う事を面と向かって真顔で言われると……な、なんだか恥ずかしいな」

美穂「……あれ?あそこに居るのは…?」


黒衣P「やはりプロデューサーたるものフォーマルな衣装には気を使わなければな」

黒衣P「さて……これと……これと……これ辺りを試着してみるか」


美穂(やっぱりプロデューサーヒーローの……?)

美穂(と言うか黒子衣装にフォーマルなとかあるんだ……) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:18:31.75 ID:FRVOrVQHo<>


◇エレベーター◇

ウィィィン……


肇「……」

美穂「……」

肇「高い……ですね」

美穂「うん、外を見渡せていい景色だね」

肇「はい、きっとこのエレベーターを考えた人はロマンチストだったんでしょうね」

美穂「ふふっ、そうかもしれないね」

肇「ええ、これでもし……」

ギュウギュウ

赤い髪の少女「せ、狭いのう……」

幸薄げな少女「辛いです……」 

くるくる髪の少女「もう帰りたいんですけれど……」

ギュウギュウ

肇「これでもし、ぎゅうぎゅう詰めの箱の中で無ければ、本当に素敵だったとおもうのですが……うぅ…」

美穂「大バーゲンで利用するお客さん多いからね……ちょっと苦しいよね…」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:19:02.97 ID:FRVOrVQHo<>

◇9F 催し物フロア 『日本文化展』◇


肇 マジマジ…

肇「……なるほど、いい器ですね」

美穂「わかる?」

肇「はい、刀匠見習いとして詳しいのは刀ですが」

肇「他にも古くからの伝統的な文化と言うのは、鬼の里にもしっかり伝わってますからね」

肇「ふふっ、特に備前の焼き物は、どこか故郷の香りがしますから。私は好きですよ」

美穂「そっか……うん、それならこう言うの買っちゃう?」

肇「えっ…展示品なのでは?」

美穂「展示物もあるけど、買っちゃえるものも幾つかあるみたい」

肇「そうなんですか……では、この辺りでも何か良さそうな物を探してみましょうか」

美穂「うんっ!」


美穂「えーっと……あ、刀も飾ってあるみたいだよ。肇ちゃん」

肇「おや、忍者刀ですね」

美穂「忍者刀……忍者が使う刀って事だよね」

肇「ええ、隠密活動に活かせる様調整された刀です」

肇「具体的には…」

あやめ「ニンッ!普通の刀よりも短く手に馴染みやすい刀でございます!」

美穂「わわっ!?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:19:45.13 ID:FRVOrVQHo<>

あやめ「短い為に、取り出しや持ち出しはしやすいのですが、切れ味自体は落ちてしまうのです」

あやめ「しかしこれは真っ向勝負するための刀ではありませんが故にそれでも良かったのですね!」

あやめ「忍者は影にて忍ぶ者ですからね。その代わりに刀には色んな仕掛けが仕込まれていますよ!」

あやめ「忍刀の多くは、刃の反りは少なく鍔は大きく頑丈に作られています」

あやめ「これは塀を越えたり屋根を昇る際に、刀を足場代わりに使えるように工夫された作りになっていまして!」

あやめ「他にも鞘は先端まで穴が貫通していて、水中に隠れる際に息を吸うために活用できます」

あやめ「刀を分解して懐に隠せるようになっていたり、取り外した部分に火薬や毒薬を収納して持ち運んだりもできるんですよ!」

美穂「な、なるほど……」

肇「詳しいですね」

あやめ「ええ!忍者ですからね!ニンニン!」

美穂「……」

肇「……」

あやめ「あっ……い、いえ!!違います!!ワタシ忍者ジャアリマセーン!」

美穂「えっ!?ど、どうして急にカタコト!?」

あやめ「さ、さらばです!ドロンッ!!」 タッタッタッタ…


美穂「……急に現れて素早く去っていく様は、確かに忍者っぽかったけど」

肇「忍ぶ者にしては忍び方が甘かったですね……」

美穂「うん……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:20:16.50 ID:FRVOrVQHo<>

◇11F レストラン街◇


美穂「うーん、これだけお店があるとやっぱり目移りしちゃうよね」

肇「お昼は、おうどんにしましょう」

美穂「え、どうして?」

肇「いえ、器をずっと見ていたからなんとなく食べたくなりまして……」

美穂「じゃあそうしよっか」

肇「はいっ、丁度そこにおうどん屋さんが……」

肇「あっ」

美穂「あっ」


菜帆「あらら〜?」

『おやおや〜』


美穂「菜帆ちゃんも来てたんだ」

菜帆「ええ、もちろんですよ〜。女子としてバーゲンは見逃せませんからね〜」

『デパ地下はもう行きましたか〜?美味しいものたくさんありましたよ〜』
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:20:50.37 ID:FRVOrVQHo<>

肇「こちらに並んでいると言う事は、菜帆さんもお昼はおうどん屋さんですか?」

菜帆「そうですね〜、と言うより〜」

『フロアの端から1件1件回ってる途中ですね〜』

肇「……そ、そうですか」

美穂(1件1件って……)

『本当はお友達と一緒に来てたんですけど……』

菜帆「1フロア回るって言ったらどこか行っちゃいましたね〜」

美穂「…………うん」(それはそうなるよね……)


菜帆「ところで、肇ちゃん。知ってますか〜?」

肇「?」

『ここのうどん屋さんの、蒸篭うどんはですね〜』

『30枚以上食べる事ができたら、お食事代がタダになって』

『しかもこのデパートで使える金券まで付いてくるんですよ〜』

肇「!!」


肇「……」

肇「なるほど、理解しました……」

肇「つまり、あの時のリベンジマッチですねっ!!」 ゴゴゴ

菜帆「あ、そう捉えますか〜?」 ゴゴゴ

『ふふふー、受けて立ちますよ〜』 ゴゴゴ


美穂(……おうどん屋さんご愁傷様です………)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:21:33.38 ID:FRVOrVQHo<>

◇B1F 地下食料品売り場◇


肇「菜帆さんは本当に凄いですね」

肇「お腹の限界なんて言葉は、きっと菜帆さんには無縁でしょう。そんな風に思える食べっぷりでした」

美穂「あれだけ食べて、このデパ地下を一通り回った後だって言うんだから」

美穂「すごいを通り越して……なんだかもう言葉では表現できないけれど」

肇「リベンジマッチも負けてしまいましたが、」

肇「それでも、菜帆さんが居てくれたおかげで、私達も金券を手に入れましたから」

肇「これを使って、家族へのお土産を買って帰りましょう」

美穂(うどん屋さんには少し悪いことをしちゃった気もするけれど)

美穂「でもせっかく貰えた物だし、使っちゃおうか」

美穂「何を買っていこう?」

肇「試食もできるみたいですから、実際にいただいてみて選んでもいいかもしれません」

美穂「そうだね、えっと……」

美穂「……あ、あれって」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:22:19.94 ID:FRVOrVQHo<>

櫂「すみません、これ試食させてもらってもいいですか?」

店員「ええ、どうぞ!是非お試しください!」

櫂「やったっ……じゃなくって…それじゃ、いただきます」

星花「私もいただきますわ。もぐっ……まあ、とても美味しいですわね」

店員「ありがとうございます!」

星花「でも今日はもう持ち合わせがなくて……」

星花「また今度来たときには、購入させて頂きますわ」

店員「いつでもお待ちしております!」


櫂「すみませーん、これ試食させてもらっても――――」

星花「まあ、とても美味しそうですわ、でも――――」



美穂「……」

肇「……」




美穂「肇ちゃん、金券あげちゃって良かったの?」

肇「もちろんですよ。フルメタルの亜季さんにはエトランゼではとてもお世話になってますから」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:22:51.66 ID:FRVOrVQHo<>

◇連接施設 シネマ◇


美穂(デパートからすぐに来れる映画館にもやってきました)

美穂(せっかく肇ちゃんとのお出かけなので、色々な事をしておきたいと思って)

美穂(だけど……)


『―――!――!』

『――!』


美穂(うーん……あんまり面白くないかな?)

美穂(いわゆる、外れ映画だったのかもしれません)

美穂 チラリ

肇「……」

美穂(……肇ちゃんは面白いと思ってくれてるかなあ……?)

肇「……」 マジマジ

美穂「……」

美穂(ん……なんだか眠くなってきちゃったかも……)

美穂「…………スー……スー」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:23:40.29 ID:FRVOrVQHo<>


肇「?」

美穂「……スヤスヤ」

肇「美穂さん寝ちゃってますね」

肇「今日は上へ下へ忙しかったですから、疲れていたのかもしれませんね」

美穂「ムニャ……」

肇「……ふふっ、美穂さん。今日は私に付き合ってもらって本当にありがとうございます」


奏「それにしても眠たくなるくらい退屈な映画よね」

肇「!」

奏「いかにも面白そうな広告を出しておいて、中身がこれなんて正直がっかり」

奏「そっちの子はすっかり寝ちゃってるみたいだけど、あなたもそう思わない?」

肇「えっと……?」

肇(……隣の席に座る方に声を掛けられちゃった)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:24:08.11 ID:FRVOrVQHo<>

奏「ふふっ、そんなに警戒しなくてもいいのよ」

奏「ただ見に来た映画がつまらないから、少し世間話がしたくなっただけで」

奏「何も採って食べようって訳じゃないわ」

奏「あ、それとも食べられたいのかしら?」

肇「……世間話ですか?」

奏「そう、ただの世間話。世間のお話」

奏「ふふっ、私は勝手に喋ってるから貴女は聞いてくれてるだけでもいいわ」

肇「……は、はあ」

奏「今日はとっても素敵な日よね。父の日、大切な家族の1人に贈り物をする日」

奏「恋人達のための日ほどじゃないけれど、それでもこう言う記念日って結構好きなのよ」

肇「……そうですね、素敵な日だと私も思います」

奏「ねえ、人はどうして贈り物をするための日をわざわざたくさん作ると思う?」

奏「バレンタイン、ホワイトデー、母の日、父の日、クリスマス……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:24:45.31 ID:FRVOrVQHo<>

奏「そして、誕生日」

奏「他にもたくさん、贈り物のための日を作っているわよね」


肇「そうですね……」

肇「贈り物は……感謝の気持ちを伝えることのできる方法の1つです」

肇「大切な人に大切である事を伝えたい」

肇「そして、出来ればその事をちゃんと伝えたおきたいと思う気持ちは皆さん一緒であるはずです」

肇「だから、このような日がたくさんあっても別段不思議ではありませんよ」


奏「そうよね。そうなのかも」

奏「でもそれって、まるで……その絆が本当にそこに存在しているか。疑っているみたいじゃない?」


肇「えっ?」


奏「目に映らないそれが、”嘘”じゃない事を確かめているみたいよ」


肇「……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:25:24.85 ID:FRVOrVQHo<>


奏「絆は普通は目には見えないもの、とても繊細で不確かなもの」

奏「不確かだから、そこに裏打ちがなければ信じきれないだけなのかも?」


肇「……」


奏「繋がりが無ければ人は生きてはいけないわ」

奏「ううん。人に限らずこの世界に息づくモノはみんなそうなのよね」

奏「だから絆の存在を証明したい。繋がって居る事を確認しておきたい」

奏「そうなんでしょう?だから求めるのよね?」

奏「贈り物と言う形があれば、とりあえずは安心できるもの」

奏「でも、それだって”本当”だって言いきれる?」

奏「例えば、この映画みたいに外側だけ取りつくろって、中身を良い様に見せているだけなのかも」

奏「ソンナモノを貰っただけで、満足してもいいものかしら?」


肇「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:26:01.69 ID:FRVOrVQHo<>

肇「……確かに、あなたの言う通りかもしれません」

肇「贈り物を渡したい気持ち……贈り物を貰いたい気持ち……」

肇「それは……おそらく綺麗なだけな物ではないのでしょう」


肇「”本当に”大切にしているのか、”本当に”大切にされているのか」

肇「それは”嘘”ではないか」

肇「確認する為に……確かな形のある物や、それ以上の物を求めてしまうのは、」

肇「もしかすると、相手の事を疑っているからなのかもしれませんが……」

肇「だけど、疑ってしまうのは、やっぱり信じていたい気持ちが強いからなのだとも思います」


肇「私は、傍に居る大切な人たちの事を信じていたいです」

肇「そして……いただいた贈り物から、私が感じたこの心の温もりは確かに本物です」

肇「……物と言う形があるから、疑わずに済むのではなく、」

肇「心に温もりがあるから……相手を信じられるのだと私は思います」

肇「贈り物の中身は……綺麗なだけではないのかもしれませんけれど、」

肇「ふふっ、でも、きっと悪いものではありませんよ」


奏「ふーん」

奏「いいわね♪やっぱりあなた達も面白そうよ」

肇「……?」

奏「とても純粋に相手を信じていて、それでもなお欲していて」

肇「…………貴女は……一体?」

奏「だからとっても」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:26:43.77 ID:FRVOrVQHo<>

奏「めちゃくちゃにしがいがありそう」

肇「っ!」

奏「フフフっ」

肇「美穂さんっ!」

美穂「むにゃ……ふぇっ!?あ、あの!ね、寝てませんっ!」

肇「すぐにここを出ましょう」

美穂「えっ?あれ……?えっ?ちょ、ちょっと……肇ちゃん?」



奏「……」

奏「あら、残念。逃げられちゃった」

奏「あの業突く張りが狙ってるって聞く子達みたいだったから、ほんの少し突いてみるつもりだったけど」

奏「思いのほか、楽しそうな玩具ね」

奏「力強くも繊細で、繋がってるようで綻びの見える糸」

奏「もし手を出しちゃったら、私が『強欲』に目を付けられるのかしら」

奏「それは嫌だけど、でも勿体無いわよね……ふふっ、ほんと悩ましいわ」

奏「……」

奏「……ところでベルの1フロア巡りはそろそろ終わったかしら」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:27:24.02 ID:FRVOrVQHo<>

◇屋上庭園◇


美穂「肇ちゃん、大丈夫?」

肇「……ふぅ」

肇「ええ、ご心配には及びません。もう大丈夫ですから」

美穂「そっか、気分がよくなったみたいで良かったよ」

肇(しかし結局……あの人はいったい何だったんでしょう……?)

肇「あっ。映画……途中で抜け出す事になってしまい、すみません」

美穂「ううん。気にする事はないよ。と言うか……私も途中で寝ちゃってたし……」

肇「……ぐっすりでしたね?」

美穂「め、面目アリマセン……」

美穂(うぅ……やっぱり映画館に寄ったのは失敗だったかも)

肇「ふふっ」


肇「ところで、どうしてデパートの屋上に?」

美穂「えっと、今日は用事はもう済ませちゃったけれど」

美穂「せっかくだし、帰る前にここから見渡せる景色を肇ちゃんにも見てもらいたくて」

肇「……」

肇「……なるほど。確かに……良い眺めですね」

美穂「うん。風もとても気持ちいいから、ここに寄った時はよく来るんだ」

肇「夕刻。まるで空の色の青と赤の境が見えるようです」

肇「寂しさと温かさ。相反する二色が混じりあい、世界の色を変えていくようで……とても綺麗ですね」

美穂「ふふっ、そうだね。綺麗な空です」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:28:07.95 ID:FRVOrVQHo<>

肇「……」

美穂「……」

肇「……」

美穂「……」

肇「あの、美穂さん」
美穂「ねえ、肇ちゃん」

肇「……」(被った)

美穂「……」(このタイミングで被った)

肇「……」(どうしよう)

美穂「……」(ちょっと気まずい)

肇「美穂さんの方からお先にどうぞ」

美穂「ええっと…それじゃあそうさせて貰うね?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:28:40.70 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「肇ちゃんへの誕生日プレゼント、本当にそれでよかったのかな?」

肇「はいっ、もちろんです」

美穂「特別に高いものでもなかったけれど……」

肇「ええ、日常的に使うものですよ」

美穂「それに……故郷の香りのする備前の焼き物でもないし」

肇「そうですね。でも、私はこれがいいのです」

美穂「そっか……まあ、私はそれに書かれたイラスト好きだから」

美穂「肇ちゃんに気に入ってもらえるなら、とても嬉しいな」

肇「このクマのマグカップは、大切に使わせていただきますよ。美穂さん」

美穂「うん、えへへ」 <>
◆rXUHEibmO2<>sage<>2014/06/15(日) 18:28:59.76 ID:Fwz9f18ZO<> フルメタルの三人ェ… <> ◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:29:24.80 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「それで……肇ちゃんの方は何を言いかけたのかな?」

肇「いえ、今日一日のお礼を言っておきたくて」

肇「本当に素晴らしい一日でした。美穂さん、ありがとうございます」

美穂「ううん。私にはこれくらいしか出来なかったけれど」

美穂「私の誕生日に肇ちゃんがやってくれた事に比べたら大したことは……」

肇「そんな事はありませんよ」

肇「美穂さんが、私の為に時間を割いてくれて一緒に行動してくれた」

肇「それだけでもう、とても素敵な贈り物なんですから」

肇「もしかすると、私の誕生日の方が美穂さんの時よりずっと良い物を貰っているかもしれませんよ」

美穂「えっ、そ、そんな事はっ!私の誕生日の方が肇ちゃんよりずっとずっと良い物を貰ってて……」

肇「うふふっ」

美穂「あっ…」

肇「あははっ」

美穂「…えへへっ」

美穂(肇ちゃんを喜ばせる。本日の一番の目的は達成できたのでしょうか)

肇「ふふっ」

美穂(その答えは……きっと……)


美穂「……それじゃあ、帰ろっか。一緒に」

肇「はい、帰りましょう。美穂さん」

美穂「帰ったらお父さん達にもプレゼント渡さなきゃね」

肇「ええ。間違いなく喜んでくれるはずです」

美穂「うんっ!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:30:56.00 ID:FRVOrVQHo<>

――

――

◇小日向家◇


藤原父「そう!だから私はその男にそう言ってやったのだ!はっはっは!」 グビグビ

美穂父「いやあ、藤原さんは良い事言いますねえっ!」 ゴクゴク


美穂「……」

肇「……」

美穂、肇(既にお酒入ってる……) ズーン


藤原父「おっ、帰ってきていたか。肇に美穂さん」

美穂父「待っていたぞー、本日の主役ー」

藤原父「肇ー!はっぴーばーすでーだっ!はっはっは!」

美穂父「ちゃんと、ケーキも用意してあるぞー」


肇「ははは……」

美穂(肇ちゃんが乾いた笑いを…っ)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:31:27.35 ID:FRVOrVQHo<>

肇「もう……っ」

肇「本当にもーっ!!!」

美穂「肇ちゃんっ?!」

肇「せっかくお父さんにも父の日の贈り物用意してたのにっ!」

肇「お父さんの馬鹿っ!馬鹿!!」

藤原父「肇っ!?なぜ怒る!?」

肇「知らないっ!!」 ダッ

藤原父「ま、待つのだっ肇っ!せ、せめて言い訳を……」 ダッ


美穂(あんなに怒っちゃう肇ちゃんも珍しいなあ…)

美穂父「そうかぁ、今日は父の日でもあったかぁ」 チラッ チラッ

美穂「うん、お父さんにもプレゼントあるよ」

美穂父「本当かっ?!」

美穂「はい、これっ!」

美穂父「これは……」

美穂「クマさん柄のネクタイですっ!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:32:12.82 ID:FRVOrVQHo<>

美穂父「……」

美穂「……」

美穂父「美穂……」

美穂父「ありがとう美穂!!お父さんめちゃんこ嬉しいっ!!」 バッ

美穂「……」 サッ

美穂父「ん……どうして避けたの?」

美穂「お酒臭いから抱きつかれるのはちょっと……」

美穂父「!」


美穂父「……」 ズーン

美穂母「はぁ、うちの人はしばらく子離れできそうにないわね……」




おしまい?
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:32:41.32 ID:FRVOrVQHo<>





―――


―――


――― <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:33:09.64 ID:FRVOrVQHo<>

その日の夜


美穂「……」

肇「スー……スー……」

美穂「眠れないなあ……」

肇「スヤスヤ……」

美穂(……本日も肇ちゃんのお父さんは、お家に泊まっていくらしく)

美穂(客間のお布団は彼が使っているので、)

美穂(いつも客間のお布団で寝ている肇ちゃんは)

美穂(今日は、私の部屋のベッドで寝ています)

肇「クー………クー………」

美穂(はい。一緒のベッドです)

美穂「……」

肇「ムニャムニャ……」

美穂(いえいえ、だからと言って、別段これといって特に何があると言う訳ではないのですけれど。だいたい女の子同士ですしね?)

美穂(普段は私も肇ちゃんも寝付きがいいから、一緒にお布団に入っても3分後には2人ともぐっすり夢の中な自信はあります)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:33:45.71 ID:FRVOrVQHo<>

肇「クースカ……クースカー……」

美穂「……」

美穂(……でもなんだか今日は寝付けなくて)

美穂「……ねえ、肇ちゃん、起きてたりしない?」

肇「むぅ……だからわたし、おうどんキャラじゃ……ないよ……えっ……ううん……きらいでは……ないけど……むにゃ……」

美穂(え、なにその寝言)

美穂(……)

肇「………んん………ふにゃ」

美穂(……)

美穂(水でも飲みに行こうかな、起こしちゃわないようにそーっと)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:34:11.90 ID:FRVOrVQHo<>

――


美穂「お水、お水……」

美穂「?」

美穂「あれ?玄関が空いてる?」

美穂「……」

美穂「誰か外に出てるのかな?」

美穂「……」

美穂「ちょっと様子を見てみよう」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:34:37.28 ID:FRVOrVQHo<>

――



藤原父「……」


美穂(玄関先に立っていたのは、予想通りの人物ではありました)

藤原父「ん……?」

藤原父「おや、こんな夜遅くまで起きていたのかな。美穂さん」

美穂「ええっと……なんとなく寝付けなくて」

藤原父「ふふっ、そうか」

美穂「……」

藤原父「……」

美穂(今はもう酔ってないのかな……?)

藤原父「うむ、この通り。心の声もしっかりと届いてるが故」

藤原父「いやはや、美穂さんにはご迷惑をかけた」

美穂「い、いえ、私は気にしてませんから」

美穂「でも肇ちゃんには……その……」

藤原父「そうであるな、私が一番迷惑をかけているのは実の娘にであった」

藤原父「あの子には……いつも気を使わせてしまっていて、申し訳なく思う」

美穂「?」

藤原父「その事についてな……月を見ながら考えていたのだ」

藤原父「丁度美穂さんと同じく、と言ったところか」

美穂「えっ?」

藤原父「おや、美穂さんも何か考え事があったために眠れなかったのではないのかな?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:35:28.01 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「……」

藤原父「ああ、言いにくいことは言わなくてもよい」

藤原父「まあ言葉は無くとも心で伝わってはしまうのだが……それはただすまないと思う」

美穂「……肇ちゃんのお父さんにも、眠れなくなるくらい考え込んじゃうこともあるんですね」

藤原父「こんな事を言うと、とても意外に思われるかもしれないが」

藤原父「私とて人並みに悩み、眠れなくなることもあるのだ」

藤原父「半分は、人であるが故にかな」

美穂「良かったら、聞かせて貰ってもいいですか?」

藤原父「そうだな、美穂さんには世話になっているし……」

藤原父「私ばかり心の内を見通しているのも面白くは無かろう」

藤原父「公平を期すためにも、私の話もすべきであるか」

美穂「あ、いえ、それだけじゃなくって」

美穂「悩みって、人に話せば……楽になる事もあるかなって思って」

藤原父「……」

美穂「な、なんだか生意気言っちゃってすみません」

藤原父「ふふっ、美穂さんは本当に優しい子だ。感謝する」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:36:03.81 ID:FRVOrVQHo<>



藤原父「……肇は今日、美穂さんから自分への誕生日プレゼントを選ぶ時」

藤原父「美穂さんが好きな柄のマグカップを選んだそうだな」

美穂「はい、かわいいクマさんのマグカップです」

藤原父「……それを聞いたとき、私は思ったのだ」

藤原父「もしかすると、肇は……」

藤原父「美穂さんとの別れを前提に考え、それを選んだのではないかと」

美穂「えっ……?」


藤原父「……思い出とは形があれば思い起こせるものだ」

藤原父「だからあの子は、遠く離れた故郷を感じさせる焼き物が好きであるし……」

藤原父「そして……同じ理由で今日の贈り物に、美穂さんを想起するマグカップを選んだのではないかと考えたのだ」

藤原父「それが傍にあれば、いつか別れ遠く離れた時に、美穂さんの事を思い起こせるだろう?」

美穂「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:36:50.34 ID:FRVOrVQHo<>

( 肇「やるべき事を全て果した時」 )

( 肇「そう遠くない未来だと思います……」 )

( 肇「……その時は……鬼の里に戻ります……」 )


美穂(そうだ……使命を果たしたとき、肇ちゃんは……)

美穂「あの、すごく勝手なこと……言ってしまうかもしれませんが」

美穂「肇ちゃん……どうしても帰らないといけませんか?」

藤原父「……」

美穂「……」

藤原父「いいや、そんな事はない」

藤原父「そもそも私の父は……肇の祖父は、『使命が終わるまで里に帰ってくるな』とは言ったが、」

藤原父「全てを終えた後、里に戻って来いとは言っていない」

藤原父「むしろ、望むならば現世に残りこちら側で暮らしても良いと考えているのだ」

藤原父「今は、それが問題なく許される時代であるしな」

美穂「じゃあ……」

藤原父「しかし美穂さん」

藤原父「肇は使命だから、今も美穂さんの傍にいると思うのかな?」

美穂「えっ」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:37:44.11 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「えっと、それは……あれ?」

美穂(……そう言えば肇ちゃんの使命は刀配りと材料集めだから……)

美穂(別に私の傍にいる理由に……使命は関係ないんだよね)

藤原父「然り」

藤原父「即ち、美穂さんと傍に居ることも……そして別れを選ぼうとしていることも」

藤原父「使命は関係なく、それは肇の意思と言う事になる」

美穂「そっか…………肇ちゃんは……」

藤原父「あー、待ち給へ。気を落とされるな」


藤原父「誤解を解いておくが、何も肇は美穂さんと別れたいと思っているわけではないのだ」

藤原父「あの子も美穂さんにはよく懐いている。むしろ本当なら別れたくはないはずだ」

美穂(……そうだとするなら)

美穂(別れたくはないけれど、別れなければならない理由があると言う事?)

美穂(それが”使命”じゃないとするなら……?)

藤原父「うむ。この頃は、私に反発しがちな態度を見ている限り、どうやら理由は別にある」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:38:26.60 ID:FRVOrVQHo<>

藤原父「美穂さん。肇が貴女によく懐いているのは……」

藤原父「貴女が初めての同世代の友人だからなのだ」

藤原父「と言うのも……鬼と言う存在は、人よりも寿命が長い為に個体数がずっと少ない」

藤原父「故に、鬼の里には同世代を生きるものなど数えるほどしか居ない……」

藤原父「特に肇は、四分の三は人であるからな……」

藤原父「里の者達も気さくで根は悪い連中ではないから、人に近い肇にも分け隔てなく接していたが……」

藤原父「それでも、真の意味で心を許せる友人は、里の中には1人も居なかったように思う」


藤原父「半妖たる私にも、人の血は混じっている」

藤原父「しかし、割合としては肇の方が人に寄っている」

藤原父「そんなあの子が妖の世に生きるには、必要以上に苦労をかけていたと思うよ」

藤原父「しかし、かと言って……これまでは人の世に移り住むわけにもいかなかった」

藤原父「薄れているとは言えど、やはり我々は鬼なのだから」

美穂「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:39:17.38 ID:FRVOrVQHo<>

藤原父「事情が変わったのは”あの日”が境となるか」

藤原父「すべてが一変し、妖達もまた無理をして息を潜める必要がなくなった」

藤原父「だから私と父は、あの子を人の世に送り出すことを決めたのだが……」


藤原父「しかし、それでも……鬼に対するイメージは今も変わらぬ」

藤原父「いや、美穂さん達の様に、受け入れて接してくれる人も多く居るのは知っているとも」

藤原父「それでも、『”鬼”であることは変わらず、人の世を生きるべきでは無い』と肇は思い込んでいるのかもしれない」

美穂「……」

美穂「……だから」

藤原父「そう。だから人の世に生きる美穂さんとの別れを、受け入れるつもりでいるのかもしれないな」

美穂「……」

藤原父「しかし……時が過ぎれば過ぎるほど、別れ難くなる」

藤原父「使命を終えるのを丁度良い区切りとし」

藤原父「いずれ妖の世に戻る腹積もりでいるのだろう」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:40:07.19 ID:FRVOrVQHo<>

美穂(『鬼が混じっているから、人の世に生きるわけにはいかない』……か)

美穂(「そんな事気にしてないよ」とも「そんなに気にしないで」とも、軽々しくは言えないことだろう)

美穂(たぶん、その悩みと苦しみは当事者にしか分からないこと……)

美穂(…………だけど分かってあげたいな)


藤原父「鬼の孫として生まれてしまった以上」

藤原父「あの子はその業と、これからも付き合い続けることとなる」

藤原父「……あの子を育てて16年になるか」

藤原父「時々思ってしまうのだ」

藤原父「私に聞こえるのは心の表層。深層までは除きこめはしない……」

藤原父「だからもしかすると……」

藤原父「私にも見えぬ心の奥底で、娘は生まれを恨んでるのではないかとな……」


美穂(あ……もしかしてそれがこの人の悩みだったのかな)

美穂(なるほど。この人が眠れなくなるほどの悩み……合点がいきます)

美穂(……)

美穂(でも……だったら言わないといけないよね)


美穂「……肇ちゃんのお父さん、それは絶対に違いますっ!」

藤原父「むむ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:41:34.14 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「肇ちゃん、自分の誕生日のことも父の日のことも」

美穂「とても素敵な日だって言ってましたからっ」

藤原父「……」

美穂「もし、生まれを恨んでいたりなんてしたら」

美穂「そんな風には思えないと思うんです」

美穂「誕生日を祝われてあんなに笑えないと思うし、父の日に贈り物を用意するなんてきっとしないです」

藤原父「……」

美穂「だから……安心してください」

美穂「肇ちゃんは絶対、生まれた事を恨んでなんかいませんからっ」

藤原父「……ふふっ」

藤原父「やはり美穂さんは、優しい人だ」

藤原父「……そのように曇りなき目で言われては、心の陰りも晴れてしまおう」

藤原父「ありがとう美穂さん、私の話を聞いてくれて」

美穂「い、いえ。なんだかまた生意気言っちゃいましたけど……お役に立てたなら良かったです」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:42:12.28 ID:FRVOrVQHo<>

藤原父「……確かに我々は鬼」

藤原父「しかし、人に混じり人と共に生きることは不可能ではないはずだと私は信じている」

藤原父「現に、父も私も人に惹かれ、人と交わる事を決めたのだ」

藤原父「妖の世でできたこと。変わったこの世でできぬ道理はないはず」


藤原父「……美穂さん」

美穂「はい」

藤原父「これから私は、とんでもなく卑怯で身勝手な頼みをする」

藤原父「美穂さんは断らないだろうと知っているし」

藤原父「本来ならば、この様な不躾な頼みを私からするべきでは無いのだろう」

藤原父「しかし、これも親心。なのでどうか許して欲しい」

美穂「……」


藤原父「これからも、肇と良き友人として仲良くしてやってくれないか?」

藤原父「あの子がこれからどのような選択をしたとしても……友であり続けてやって欲しい」

美穂「……はいっ、もちろんです!」

美穂「頼まれなくても、肇ちゃんは私の大切な友達ですから!」

藤原父「……真、恩に着る」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:43:04.01 ID:FRVOrVQHo<>

美穂「……」

藤原父「……」

美穂「…………ふわぁ」

美穂「あ……す、すみません欠伸がでちゃって」

藤原父「いやいや、こちらこそ夜遅くだと言うのに長々と話してしまい悪かった」

藤原父「美穂さんはもう眠れそうかな?」

美穂「……はい。これからの事、色々と考えちゃう事はあるけれど」

美穂「でも……いい答えはなんとなく、出てきそうです」

藤原父「……そうか」

美穂「はいっ」

藤原父「では、もう戻るといい。夜風に当りすぎて、身体を冷やしすぎても良くはない」

美穂「そうさせてもらいます……それじゃあ、肇ちゃんのお父さんおやすみなさい」

藤原父「おやすみ、美穂さん」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:43:55.28 ID:FRVOrVQHo<>

美穂(人と鬼)

美穂(近い未来に、来るかもしれない別れ)

美穂(肇ちゃんの思い)

美穂(考えなくちゃいけないことはたくさんある)


美穂(タイムリミットは、肇ちゃんが使命を果たし終える時)

美穂(その時が来たら、何か答えを出さなくてはいけません)

美穂(私だけじゃなくって、肇ちゃんも)

美穂(……)

美穂(だけど、選択や結末がどうなったとしても)

肇「……んん……おじいちゃん…?」

肇「あのね……みほさんは…わたしの……たいせつな……ともだち…だよ……すぅ」

美穂「うん。私も一緒だよ」

美穂(結局のところ、それは変わらない)

美穂(だから、考えすぎるよりもまず)

美穂(今日みたいに、友達として当たり前の事を一緒にやっていけたらいいかなって思います)

美穂「……」 ウツラ ウツラ

美穂「…………すやすや」

肇「すぅ……すぅ……」


おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:44:28.16 ID:FRVOrVQHo<>
『櫻屋百貨店』

とある街の駅前にある大きな百貨店。創業者の一族が櫻井財閥に名を連ねている。
売り場は充実のラインナップであり、そのため地域の内外問わず利用客は多い。
櫻井に名を連ねてこそいるが、黒い事業への関わりは薄い。クリーンな事を売りにしているためか。
とは言え、現当主の意向には逆らえないらしく、何故か父の日に大バーゲンを行わされたりしている。
人が多く利用する割りには、あの日以降も侵略者などに一度も破壊されることはなかったらしく、
無事に立ち続けている珍しい施設。風水的に立地条件がとてもいいらしい。


『鬼の城』

岡山県が鬼の里から入れる異次元の城。
異次元に存在するため、鬼達の手を借りないと進入さえ出来ない。
鬼達の住まいであり、一種の祟り場。一応ダンジョンとしても登録されている。
住民達はみな親切だが、彼らに礼儀を尽くさない者は、相応の報いを受けるのだとか。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/15(日) 18:46:24.59 ID:FRVOrVQHo<>

と言う訳で肇ちゃんのお誕生日のお話でしたー
つまるところデパートデートの話ですね!デパートデート!

卯月、茜、仁奈、むつみ、黒衣P、巴、ほたる、乃々、あやめ、菜帆、カイ、星花、奏
お借りしましたー
登場キャラが多いのはデパートのお話を賑やかにしたかった模様です

ただ時系列的に登場したらまずかった子が居たら……申し訳ない、その時はなんかうまいこと無かった事に…… <>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/06/15(日) 20:03:53.90 ID:D5e2UOVl0<> 乙です、お誕生日おめー!
買い物× デパートデート○ うむ、重要な事だな
いろんな子がいっぱいで見てて楽しーでごぜーますよ
ちょっと不穏な空気を感じないことも無いが友情とラブで乗り越えるしかないね! <>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:14:23.89 ID:+Kg8RP0AO<> 肇ちゃんお誕生日おめでとうございます。
ほのぼのとした良い話でした……肇父がまた微妙に親バカな所もまたよし。

さて遅くなりましたがやっと将軍in秋炎絢爛祭が完成しました。
時系列としては文化祭二日目でお願いします。

……ある意味親バカ対決かも。 <>
◆C/mAAfbFZM<>saga<>2014/06/15(日) 22:16:05.42 ID:+Kg8RP0AO<> 将軍「……ついに完成か」

ここは魔界の奥底にある『家畜派』達の秘密工場。

そこに『家畜派』の総大将たる『将軍』がいた――その顔に満面の笑みを浮かべながら。

部下「はい……なんとかして完成しました――一応は……」
『将軍』の眼前には二つの物体が存在していた。

一つは真紅の鎧を身に纏った巨大な機械人形としか言いようがない鎧――『野望の鎧』。

もう一つはこれも真紅の色をした巨大な空母――『不夜城戦艦 ブラム』。

これら二つは『将軍』が密かに建設していた『家畜派』の秘密兵器であり、本来ならば来るべき吸血鬼の頂点を決める闘いまでに完成をすれば良かったので期日は十分なまでにあるはず。

しかし実際には開発を急がざるえない状況に陥っていた。

それも――

部下「ただ……何分突貫作業だったので『ブラム』には何一つ武装がついておりません……」

ー―明らかな『欠陥』があるにもかかわらずである。

そうまでして彼らが急がねばならない理由――それは『祟り場』でやらかした失態が関わって来る。
<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:17:55.40 ID:+Kg8RP0AO<> あの日、『紅月の騎士団』の初陣を見せつけ今一度『家畜派』の実力を知らしめるために魔界の電波をジャックし騎士団の活躍を生放送したが、結果は知っての通り残念な事に全くの逆効果となってしまう。

さらに『祟り場』収束後予想以上に強い人間達の姿にビビった『家畜派』の約9割が脱退して『共存派』や『利用派』に鞍替えするなど、離反者が続出した結果組織としての弱体化に至ったのである。

このままではさすがき不味いと焦りだした『将軍』が巻き返しのために開発を急がせた――それが事の真相てある。

将軍「かまわん、『野望の鎧』が予定通りの性能を発揮できればな」

部下「しかし『将軍』様――いくら『野望の鎧』が強力だとしてもそれだけで人間達を相手にするのは少々無理な気が……」

将軍「その点に関してはすでに策がある――少し耳を貸せ……」

部下「……ッ!?こ、この策なら人間達を相手にしつつ、ついでに我が『家畜派』を立て直す事も可能……!」

将軍「そうであろう!――この策さえ通れば逆転すら可能よ」

部下「そうとわかれば……『将軍』様、早く出撃の準備を!」

将軍「ククク……見ておれ、人間共――我々の本気をな!」 <>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:19:30.63 ID:+Kg8RP0AO<> そして現在――京華学院上空数万kmにて……真紅なる空母――不夜城戦艦 ブラム――が京華学院を見下ろす形で浮かんでいる。

将軍「あれが人間共の祭――秋炎絢爛祭か……」

その甲板では『将軍』がその身を紅き巨大な鎧――『野望の鎧』――に包みながらつぶやいていた。

将軍「ククク……せいぜい今の内に楽しんでおくがよい、人間共――準備の方はどうだ?」

部下「ハッ! カメラの準備と魔界のテレビのジャックは完了しました――後は『将軍』様の演説次第かと」

将軍「――では行くぞ」

<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:21:02.59 ID:+Kg8RP0AO<> 将軍「――人間を守るヒーロー、そしてそれに味方する者共よ見ているか?……我こそは『将軍』――吸血鬼を統べる王になる者であり、いずれ人間界と魔界を支配する王となる存在なり!」

将軍「その我に貴様ら人間共は刃向かい、認めたくはないが大損害を被っている――所詮、家畜の分際でだ!」

将軍「だが貴様らの愚行もここまでだ!――今、我は京華学院の上空に待機している」

将軍「――ククク、我はその京華学院に24時間後に砲撃を開始する!」

将軍「……と言ってもどこまで本気かわからんだろう」

将軍「だから見てもらおうか――」

と、突然『野望の鎧』が肩が変化して巨大な砲塔が顔を出し、その砲塔に紅い光が集まっいき――

将軍「――この『野望の鎧』の力をな!」

――『将軍』の怒号と共に収束した紅い光が京華学院……近くの裏山に放たれる。

程なくして強烈な閃光と爆音が発生し着弾地点に巨大なクレーターが出来上がる。

将軍「フハハハ!後悔するがよい!――この我を本気にさせた事をな!」

最後に『将軍』の嘲笑が映し出され、そこで彼の撮った動画は終了する。
<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:22:53.46 ID:+Kg8RP0AO<> ――

将軍「……動画の配布の方はどうだ?」

部下『はっ、既に主要なアイドルヒーローの組織――『アイドルヒーロー同盟』、『ネバーディスペア』、『プロダクション』等々――にはおくりました』

将軍「そうか……後は待つだけだな」

将軍(そう、後は待つだけ――)

――

将軍『……京華学院と言う人間界の学園の事は知っておるか?』

部下『はっ、確か調査報告によりますとなんでも現在秋炎絢爛祭と呼ばれる『祭り』をやっているとの事ですが……』

将軍『そうだ、その『祭り』が行われる京華学院に我らが攻撃をする――それも24時間後と言う時間制限を設けて――と言ったらどうなると思うか?』

部下『そうですね……やはり全力で防ぐでしょう――特にアイドルヒーロー共が……』

将軍『ククク……ではそのアイドルヒーロー共を逆に倒したら?』

部下『人間達には大打撃でしょうね……ま、まさか』

将軍『そうだ、愚かな人間共の希望であるアイドルヒーロー共をこの『野望の鎧』で叩き潰す事で我らの人間界征服を阻む者はいなくなる寸法よ』

部下『し、しかしアイドルヒーロー共が我らを無視した場合は?』
<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:25:18.04 ID:+Kg8RP0AO<> 将軍『その時は予定通り京華学院に攻撃を開始すればよい――アイドルヒーロー共は我らに臆して逃げたと言いながらな!』

部下『は、はぁ……それにどのような意味が……?』

将軍『わからぬか?――奴らが『守るべき者』を見捨て我らから逃げたと言うことを言いふらすのだぞ?……それを知った愚かな人間はどう思うか?』

部下『それは、最早人間達にとってアイドルヒーロー共は信用できる者ではなくなる――ハッ!これはどちらにこれはどちらに転ぼうと我らにとっては好都合!』

将軍『そうだ、我らに挑んで返り討ちされたとしても、逆に逃げたとしても我らにとっては得にしかならない!』

部下『……ッ!?こ、この策なら人間達を相手にしつつ、ついでに我が『家畜派』を立て直す事も可能……!』

将軍『そうであろう!――この策さえ通れば逆転すら可能よ』

部下『そうとわかれば……『将軍』様、早く出撃の準備を!』

将軍『ククク……見ておれ、人間共――我々の本気をな!』
<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:26:57.64 ID:+Kg8RP0AO<> ――

将軍「ククク……来るが良い、愚かな『アイドルヒーロー』共よ!――我らを本気にさせた報い、その身を持って味わうが良い!」

こうして『家畜派』首領、『将軍』は人間界に舞い降りる――逆転の秘策と共に。

しかし、彼らは知らない――今から攻め入る『京華学院』が人外魔境の巣窟になっている事を……。

――そして、人間の底力を完全に見誤っている事を……。

――彼らは知らない。
<> @設定
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:33:15.56 ID:+Kg8RP0AO<> 野望の鎧

『将軍』が作りし『家畜派』の最終兵器。
見た目は鎧と言うよりむしろ巨大メカにしか見えない。
動力源に人工的に作り出した大罪の核『野望』使用しておりある種のカースドウェポンと言える。
機能としては『紅月の鎧』を強化したような再生能力に状態異常耐性までついておりかなり強い。
武装面では以下の3つの強力な武装を装備している。

●断罪の刃
『紅月の剣』を強化したような武器で吸収攻撃に加え魔力の刃を纏わせる事で射程距離を伸ばすことも可能になる。

●弾圧の鎖
自分の周囲に強力な重力波と呪縛の魔法を発生させ相手の動きを封じさせる武装。
主にこれで動きを封じて『断罪の刃』や『審判の砲弾』を当てていく。

●審判の砲弾
両肩に装備された砲台で強力な魔力砲撃(と言うか極太レーザー)を放つ。
かなりの距離からでも的確に狙う事が可能でこれを利用したピンポイント爆撃はかなり強力である。

不夜城戦艦 ブラム
『野望の鎧』と共に建造された空中戦艦で強力な三つの結界を装備している。
でかさと耐久値はかなりのもので生半端な攻撃では傷一つつけれない。
しかし如何せん突貫工事だったのか武装が何一つ装備されておらずさらに眷族カース+『紅月の騎士団』も乗せる予定が諸々の事情のため『野望の鎧』しか格納庫に積み込んでおらずほぼスカスカ状態である。
なお装備されている結界は以下の三つである。

●漆黒の帳
周囲を暗くして太陽光が差し込まないようにする結界。
吸血鬼の弱点の一つ太陽光が遮断されるため持久戦に持ち込まれる心配がなくなる。

●不可視の衣
外部からは見えなくなる結界。
これで相手に発見される心配がなくなりいきなり敵陣のど真ん中を突っ切っる事も可能になるなど戦闘の補助にバッチリな性能である。

●再生強化
吸血鬼の再生効果を高める。
『野望の鎧』の再生能力と合わせて毎ターンHP50%回復も可能になる。
<>
◆C/mAAfbFZM<>saga sage<>2014/06/15(日) 22:35:30.30 ID:+Kg8RP0AO<> と言うわけで将軍の出陣までを書かせていただきました。
とりあえずスパロボ風にいくと。
●勝利条件:24時間までに将軍を倒す。
●敗北条件:24時間経過する。
●チャレンジミッション:5時間以内に将軍を撃破できるか?
と言ったところでしょうか?
後、各種アイドルヒーロー達を名前だけお借りさせていただきました。
最後に将軍はどう料理してもかまいません(エッ)。
<>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/06/15(日) 22:54:38.92 ID:D5e2UOVl0<> 乙です
将軍☆降臨、プロダクションやネバーディスペアにも来てるなんてこりゃカオスになるしかない
そして混沌に定評のある裏山がついに山の形を失った…おのれ将軍
装備がとにかく強いな、まずはどこにいるのか見つけるところからかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/06/15(日) 23:40:54.95 ID:vJnjZg5nO<> お二方乙です

肇ちゃん誕生日おめでとー!
フルメタルwwwそして、あやめ殿www

将軍来たか…
そして、裏山にクレーター開けちゃったか…自然の大精霊の怒りが…… <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/16(月) 07:04:03.75 ID:60stwyB5O<> お二方乙です。

肇ちゃん誕生日おめでとう!

そしてとうとう将軍来たか……。何時間持つかな? <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/17(火) 19:20:04.56 ID:hTchYh1kO<> 加蓮vsインちゃん……を後回しにして
時間列、文化祭二日目で投下します <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:21:27.37 ID:hTchYh1kO<> 学園の裏山……そのあった場所は巨大なクレーターが出来上がっていた。

………だが、遠くからよく見ると一部だけ無事な場所があった。半径3kmの円の形でそこだけ何事もなかったように……

オトハ「ハァ……ハァ………」

その円の中心にある広場で、自然の大精霊オトハは息を荒げ、汗を流しながら空に向かい両手を上げていた。

そう。オトハは空から邪悪な気配を察知し、急いで結界をはりあげたのだ。

その為、自身の半径3kmの部分だけは凶悪な砲撃から耐え抜いたのだ。

そのせいか、オトハの顔には疲れの色が濃くなっていた。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:22:33.77 ID:hTchYh1kO<> オトハ「………聴こえる…聴こえる…生命の、樹々の、大地の悲鳴が……怒りが……不協和音が……」

目から何かが零れる。

全てを守り抜いたわけで無い。その証拠にそれ以外の場所に生えていた樹々が、動物が、無意味に消えて行ったのだ。

自然の声が聴こえる彼女にとってそれは最悪なものだった。まるで山を守れなかった自分を責めているようにも聴こえた。

彼女の目から流れるモノは、人間でいう涙なのかわからない。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:23:53.36 ID:hTchYh1kO<> 『あれ?メガネは?』

『なんか変な感じするよー』

そして、オトハがハープの演奏をやめたからなのか、周りから凄い音がしたからのか、はたまた異変を察知したからなのか?

広場で眠っていたAMCを始め、動物達が目を覚まし始めた。

『あれ?ここにきた同胞達の気配消えてるよ?』

『なんでー?メガネの仕業?』

そして、一緒に裏山を登り、別れた仲間達の気配が消えたことに気づく。

オトハ「あなた達の仲間は消されました。雑音を放つ見えないモノに…」

『お姉さん誰ー?』

『メガネの仕業?メガネの仕業なの?』

突然、話しかけてきたオトハにAMC達は口々にそういう。

本来なら、オトハを洗脳しようと行動するのだろうが、それができなかった。

何故なら、AMC達は感じ取ったのだ。オトハから異様な気配を。大精霊の放つ巨大なオーラを…

オトハ「今すぐこの場から去って欲しい。見えない雑音が再びこの地にいるもの達に災いを呼ぶから…」

そう言いながら、彼女は再びハープを手に持ち始める。

『なんだわからないけど、大変だ。お母さんに報告だ』

『メガネの仕業だー!空にメガネがいるんだ!』

オトハの忠告にAMC達は大人しく去っていく。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:25:04.05 ID:hTchYh1kO<> オトハ「ごめんなさい……私の力不足で……ごめんなさい……」

ポロンッ♪とハープを奏で、彼女は自然に謝罪する。

そして、再び心地よい音楽を響かせ始めた。

すると、どうだろうか。

突然、空が曇り始めたではないか。

そして、暫くするとポツリポツリと雨が降り始めた。それは段々強くなり大雨となっていった。その範囲は学園を始め、クレーターとなった裏山まで及んでいる。

まるで、今のオトハの感情をあらわすかのように…… <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:25:53.71 ID:hTchYh1kO<> オトハ「今の私にはコレしかできない」

そして、その雨を浴びたクレーターの部分から小さな芽が次々と芽吹き始めた。

彼女は、被害にあった山を完全にとはいかないが再生させようとしているのだ。

そして……

オトハ「願わくば、自然を荒らした者達に災いを……」

その雨により、学園上空にある見えない何かが形を作り始めた。

見えなくとも、雨に辺りその輪郭が現れ、その真下だけが雨を防いでいる。

コレでヒーロー達は気づくだろう。この異変に…… <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:27:12.58 ID:hTchYh1kO<> 一方、同時刻

梨沙「中止!?どういうことよ!説明しなさい!!!」

学園のライブステージの控え室で、アイドルヒーローRISAこと的場梨沙は怒鳴っていた。

横では、コアラ型エクス・マキナのコアさんが梨沙をなだめていた。

時子「うるさいわね。その口を縫うわよ?……っで、下僕。説明しなさい。このバアル・ペオルの晴れ舞台を潰した理由を。ことによってはただでは済まないわよ?」

その隣ではスカウトされたばかりのバアル・ペオルこと財前時子は何処からか用意されたフカフカのソファーに腰掛け、脚を組みながら不機嫌そうにしていた。

パップ「まあ、簡単にいうと喧嘩売られちまってな…。詳しくはこの映像を見てくれ」

そう言いながらパップは二人に将軍の宣戦布告の映像を二人に見せた。

梨沙「……つまり、コイツらが邪魔したのね」

時子「私がいない間に虫ケラが随分粋がっているのね。まあ、いいわ。役不足だけど、このバアル・ペオルの晴れ舞台の引き立て役になってもらうわ」

映像を見終わり、梨沙はワナワナ怒りが混み上がり、時子は口を歪ませていた。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:28:25.68 ID:hTchYh1kO<> パップ(はぁ…コレは少し大変そうだな)

そんな二人を見ながら頭をかきながら溜息を吐く。

パップ(にしても、この映像を送ってきた奴らはいったい何を考えているんだ?アイドルヒーローだけじゃなく他の組織にまで宣戦布告をしている)

パップ(そんな複数の組織を相手にできるのか?それとも考えなしの馬鹿か?だが、どちらにせよ。見えない上にこの京華学院を人質にとっているようなもんだ。ただではやられないはず)

そして、思考し始める。

パップ(空に浮かんでるなら、万が一やられた時、京華学院ごと自爆する事も考えられる。そうなると被害はデカイ。どうにかしてそれを学園から離さねえといけないか………)

万が一の時は、第二段階を解放しないといけない。

そうパップは自身の胸に手を当てた。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:29:17.41 ID:hTchYh1kO<> パップ「とりあえず、俺は今からここに来てるクールPと白熊Pと合流しめ他の組織と連絡をする。お前らは他のアイドルヒーローが全員くるまでここに待機しろ。揃い次第、行動だ」

梨沙「えっー?勝手に行っちゃダメなの?」

時子「この私に命令するとはいい度胸ね」

文句を言う二人にパップは再び溜息を吐く。

パップ「あのな…少しは協調性もってくれ……」

果たして、こんなんで大丈夫かと不安に思うパップだった。


終わり <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:30:12.89 ID:hTchYh1kO<> 情報追加

・オトハがいる広場を中心に半径3kmの場所の被害を防ぎました。

・裏山で、唯一無事だったAMC数匹が何か行動しはじめました。

・京華学院と裏山を含めた広範囲に雨が降り始めました。クレーターの部分から小さな芽が次々と芽吹き再生しはじめきます。

・雨の影響で、ブラムの場所がハッキリとわかります。更に流水が弱点の吸血鬼にも影響するかも。

・パップは万が一の場合、京華学院に被害が出ないようにCOの第二段階を解放するかもしれません。

・梨沙と時子は京華学院にいるアイドルヒーローが全員が来るまで待機しています。協調性は大事だよね! <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/17(火) 19:32:07.87 ID:hTchYh1kO<> 以上です。

果たしてこの二人は、他のアイドルヒーロー達と協調性をとれるのか?

そして、オトハさん激おこぷんぷん丸です。

果たして、将軍は生き残れるのか? <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/17(火) 20:26:48.54 ID:hTchYh1kO<> あ、時子さまお借りしました <> ◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/17(火) 21:41:15.05 ID:0mKEM12IO<> 乙ですー。

協調性?そんなもの時子さまなら楽勝さー(棒)

将軍は無事に生きていられるのか <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/17(火) 21:59:29.37 ID:SM3C6VsxO<> 乙ですー
オトハさんおこなの
AMCとオトハさんの絡み物凄くなごんだ

アイドルヒーローは基本的に自己主張が強いんだろう、うん <>
◆C/mAAfbFZM<>sage<>2014/06/17(火) 22:00:45.49 ID:nI1LzucAO<> 乙です。
早速将軍の死亡フラグがでてきましたね……いくつ増えるのやら。
果たしてある意味身内であるクールPからどんなツッコミが出るか、今から楽しみです。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/17(火) 22:49:49.36 ID:EGtcqQLCO<> 「やれやれ………」

 多めに持ってきたお小遣いが底を見せ始めた頃、二宮飛鳥は口いっぱいにたこ焼きを頬張りながら、青のりの付いた唇を愉快そうに歪ませた。

 服に付いたチェーンを三つほど揺らしながら、降り降りた暴虐と、周りを取り囲む恐怖を無邪気にもそれらを楽しんでいる。

 空の一点から放たれた閃光は近辺の裏山を直撃する。

 大地に走った激震と、大気を震わせた爆風は瞬く間に周囲を駆け抜け、浮かれポンチの喧騒をいとも簡単に静寂に変えて見せたのだ。

 まるで水面に落とされた小石。

 ともすれば、波紋の如く広がるは混乱か。 

「…まったく、これじゃあせっかくの悪巧みが霞んでしまいそうじゃあないか」

 周囲にどよめきが広がる。

 全身を撫でるざわめきを噛みしめる度、心の底から湧き上がった感情が小躍りを始めるようであった。

 閃光の放たれたおおよその地点を眺めながら、高揚をたこ焼きと共に租借した後に、ゆっくりと飲み下す。

 全く面白いことをしてくれる。

 とんだ怖いもの知らずも居たものだ。

 それとも、それに足る実力者だと言うか。

 様々な思いが胸中に浮かんでは消えていく。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/17(火) 22:50:51.45 ID:EGtcqQLCO<>  落ち着けるようにして、瞳を閉じる。

 一つ息を吸い、一拍置いてから吐き出す。

「まさかとは思うけど…」

 ひとりごちながら開けられた瞳には、魔力的な輝きが怪しく揺らめき始めている。

 藍色のフィルターがかけられた視界を左右に振り、澄んだ秋空の中に暴虐の主を探した。

 そこに何かが在るのなら、それがカースの力を用いているのなら、見つけることが出来るはずだったから。

「…………ん」

 ぼんやりと眺めた空の一点に、いっとう強く色付いた何か──間違い無く目的の──が、彼女の瞳の中にだけその存在感を示し、つくづく便利な能力だな、と率直な感想を胸に落とした。


「…つくづく妙なものを造るね」

 口外に、あまり人のことは言えないか、と付け足してから、くつくつと喉を鳴らし始める。

 高笑いを上げてやりたいところだか、流石にそこまでタガの外れた人間では無かった。


 焦燥に揺れる瞳達の中で、唯一強気に細められたそれがどこか淫らに舌なめずりをする。

 口内で唾と粘膜が跳ねて、弾けた水音を押し流すようにして、雨が降り始める。

 が、二宮飛鳥は何と変わらぬように天を仰ぎ続ける。

 ぽつぽつと降り続ける冷たさも、彼女の熱を奪うことはできなかった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/17(火) 22:51:58.78 ID:EGtcqQLCO<> 「…さあて、覚悟してもらうよ」

 周囲の景色から黒い障気が二宮飛鳥の足下へ集い、形を成して彼女の柔肌を這いずり回り始めた。

 蚯蚓を思わせて蠢いたそれらは、不規則に動きながらも背中の二点へと集まっていく。


「キミは”悪魔”のお眼鏡に叶ってしまったんだからねぇ?」

 ぶわりと、音を立てて背中より黒い翼が顕現する。

 空気と共に押しのけられた雨水が千々に散って地面へと落ち、疎らな水音を奏でた。

 無地気さと狂気を湛え、爛々と輝く瞳が、『野心』の気配と浮かび上がるシルエットを睨み据える。

 空気を叩きはためいた翼が風圧を押し出し、少女の体を宙に舞い上がらせた。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/17(火) 22:52:35.58 ID:EGtcqQLCO<>  背中に翼、右手に刃を携えて、黒い影が雨空を切り裂いて飛んでいく。

 切り開かれた唇を目一杯に吊り上げながら。

 一直線に、一番槍を勤めんとする少女が、高笑いを響かせて、不可視の空中戦艦へ向かっていった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/17(火) 22:55:45.20 ID:EGtcqQLCO<>
※二宮飛鳥が単身空中戦艦へ向かいました。
吸血鬼勢の敵の立場を取るようです。(ヒーローの味方とは言ってない)

※到着次第殺戮ショーを開始する予定 <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/17(火) 22:58:38.36 ID:hTchYh1kO<> 乙ー

将軍逃げて!超逃げて!

果たして飛鳥が到着する前にヒーロー達は行けるだろうか?

そして、飛鳥は鎖を突破できるだろうか? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/06/17(火) 23:04:02.83 ID:0T3Jo13h0<> 乙ですー
一番槍になれるのか、それは鎖にかかっているはず
野望の核争奪戦になりそうな予感 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 00:59:52.70 ID:R6vFgbqx0<> 乙乙
かなり遅れたけどチナミさん肇ちゃん誕生日おめでとう!
将軍の到着で学園祭がさらに混沌としてきましたね!

今からさらに混沌にしてやっかんなあ!(ゲス顔) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:00:48.69 ID:R6vFgbqx0<>
京華学院・正門前。

マキノ「……成程、春菜さんには会えていないのね」

エマ「モグモグ……学園内にはいないっぽいなー」

サヤ「そうねえ……あ、それ一個ちょうだい」

マキノ、エマ、サヤ。

慌てふためく人々をよそに三人は、情報交換の為に集合していた。

マキノ「……しかし、思っていた以上に色々な事が起こりすぎたわね」

エマ「だなー。眼鏡を嫌う子供型カースに、上手くいきゃ協力してくれるかもしんない眼鏡ヒーロー。あと……」

サヤ「…………ライラちゃん、ね……」

サヤがその名を口にした直後、三人揃って何とも言えない微妙な表情を浮かべた。

ライラ。それはマキノ達の上司である親衛隊長スカルPの孫娘の名前だ。

それがまさか、新人アイドルヒーロとしてパンフレットに名を連ねていようとは……。

マキノ「それもあるけれど……」

マキノはそこで言葉を切り、後ろの裏山「だった」場所を見つめた。

将軍と名乗る人物が野望の鎧なる物を持ち出して作り出したクレーター。

彼が言うには、24時間後には京華学院を直接砲撃するという。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:01:47.39 ID:R6vFgbqx0<> マキノ「海底人の立場からすれば、地上がどうなろうと知った事では無いけれど……」

サヤ「このままじゃ、マスクドメガネちゃんに恩を売るどころじゃなくなっちゃうわねぇ」

エマ「んじゃ、ぶっ飛ばしちゃう?」

エマの提案に、二人は深く頷いた。

サヤ「さんせー♪」

マキノ「そうね。ただ、今回の事は一度ヨリコ様に報告すべきだと思うの。だから、私は一度海底都市に帰還するわ」

エマ「そっかあ。二人じゃちょっと心細いかな?」

エマが少し不安げに呟いた、その時。

??「話は聞いたぜ、手伝ってやる」

馴染み深い声が、三人の背中に投げ掛けられた。

サヤ「す、スパイクPさん! 何でここに!?」

スパイクP「息抜きだよ、息抜き。ったく、ネオトーキョーは魔境だぜ」

スパイクPは方舟の封印を破壊する為に、ネオトーキョーに向かっていた。

しかし、探せども探せども封印の楔は見つからず、妙なサイボーグ軍団に絡まれ、苛立ちとその場のテンションでネオトーキョーを抜け出し、現在に至る。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:02:45.83 ID:R6vFgbqx0<> スパイクP「大体だ、ヨリコ様ならともかくあんな胡散臭い女の指示で……」

サヤ「あ、うん……」

スパイクP「で、だ。憂さ晴らしも兼ねてちょっと手伝ってやろうかってな」

マキノ「ありがたいわ、スパイクP。そうだ、良ければこれを使って」

マキノは腰からアビスドライバーを取り外し、スパイクPに手渡した。

スパイクP「ん、何だこりゃ」

エマ「それつけてると、海水浴びる必要無いんだよ!」

サヤ「ちょおっと、チクっとするけどねぇ」

スパイクP「ほお、そいつぁすげ……あだぁっ!?」

早速巻き付けたスパイクPの腹を、アビスドライバーの針が突き刺した。

スパイクP「お、ぉお……マジで結構痛いな……」

マキノ「……では、後の事は頼んだわね。明日の昼には戻って来られると思うわ」

マキノはそう言うと、ツカツカと学園を後にした。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:03:28.78 ID:R6vFgbqx0<> スパイクP「……さて、ヤツはどうする?」

スパイクPが上空を見上げると、一つの雲にぽっかりと大穴が空いている。

その向こうには、ただ青空が広がるばかりだ。

エマ「……逃げた? それとも……」

スパイクP「もしくは……光学迷彩か何かか?」

サヤ「でもまあ……24時間後にまた砲撃に来るのなら、そう遠くにはいないかも?」

周囲の喧騒をよそに、将軍対策を話し合う三人。

サヤ「あれだけのビームを撃てるんだから、きっとかなりの巨体よね」

スパイクP「加えてかなり高度からの砲撃……かなりの技術力を持ってやがるな、将軍とやらは」

エマ「あんな高さ、どうやって……」

スパイクP「……攻めるならともかく。あの砲撃……俺なら防げるかも知れん」

サヤ「え、ええっ!?」

スパイクPの言葉に、サヤは驚愕する。

山一つ吹き飛ばす光線を、戦闘外殻一体で食い止めると言うのだから当然だ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:04:31.79 ID:R6vFgbqx0<> スパイクP「ネオトーキョーで戦ってる時に気付いたんだが、どうやら今のアビスパイクは、俺の怒りや苛立ちに呼応して力を増しているようだ」

それはバイオに内蔵された憤怒の核の力だが、スパイクPはそれに気づいていないようだ。

スパイクP「それで限界までイラついてた所に、100mぐらいありそうなバカデカい超電磁砲の直撃をもらったんだが……棘が何本か折れただけだったな」

エマ「すごっ!」

サヤ「その超電磁砲の持ち主さんも気の毒にねえ……」

ちなみに超電磁砲の持ち主はルナールである。

その後その超電磁砲が破壊されたのは言うまでも無いだろう。

スパイクP「まあそういうわけで、怒りを貯めに貯めれば、多分あの砲撃もなんとか耐えられるかも知れねえ」

??「なーるほど……ね、それあたしも手伝っていいかな?」

突然後ろから声をかけられる。

聞きなれた声に三人が振り向くと、そこに立っていたのは…… <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:05:22.07 ID:R6vFgbqx0<> カイ「久しぶりだね、3人とも」

三人の同僚にして反逆者でもある、カイだった。

スパイクP「カイ……どういう企みだ?」

カイ「企みなんて無いよ。ただバイト先を守りたいだけ」

そう言ってカイはにかっと笑った。

敵対している事を感じさせない、屈託の無い笑顔だ。

サヤ「…………ふふっ、相変わらずよねぇ、カイは」

スパイクP「全く……こっちの緊張を返せ、ドアホ」

エマ「んじゃっ、カイも一緒って事で!」

三人もつられて笑い、カイを出迎えた。

カイ「んじゃ、まずは…………」

スパイクP「ああ…………コイツらの駆除だな!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:06:06.19 ID:R6vFgbqx0<> 『オアアウ……』

『グウウウ……』

四人が振り返ると、敷地内に溢れ帰らんばかりのカースが沸いていた。

エマ「って、思った以上に多い!」

サヤ「まさかこれも将軍っていうオジサンの手下?」

スパイクP「可能性はあるな……ま、どっちにせよ」

カイ「うん、コイツらやっつけなきゃいけないのは変わんないよね!」

『キキン!』

『カチッカチッ』

『キリキリリ!』

『カララ!』

「「「「オリハルコン、セパレイションッ!!」」」」

四人が掛け声と共に、相棒の鎧を装着していく。

カイ「アビスナイト!」

スパイクP「アビスパイク!」

サヤ「アビスティング!」

エマ「アビスマイル!」

「「「「ウェイク、アァップ!!」」」」

そしてそれぞれの獲物を振りかざし、カースの群れに突撃していった。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:06:45.58 ID:R6vFgbqx0<> ――――
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京華学院の屋上。

黒い翼を生やした少女が、手のひらに次々と球体を生み出し、それを放り投げる。

球体は地面に落下する前に泥を纏い、カースとなって行動を開始する。

千鶴「吸血鬼の将軍……あまり大きな顔はさせないわ」

独り言をもらす少女の名はアザエル、堕天使だ。

将軍の蛮行を不愉快に感じた彼女は、こうして独断で京華学院までやってきたのだ。

千鶴「これだけのカースが居れば、野望の鎧だろうが何だろうが……」

??「おーい、そこでカース不法投棄してるデコッパチー」

千鶴「……誰?」

爛「アイドルヒーローのラプターだ、知ってんだろ?」

爛はニヤリと口角を上げ、親指で自らを指差した。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:07:29.38 ID:R6vFgbqx0<> 千鶴「知らないわ。アイドルなんか興味無いし」

爛「ンだよモグリか。……ま、どっちにしろ」

爛は溜め息を吐きながらも、鉤爪を振りかざして構える。

爛「カースをばら撒くような悪党は野放しにゃあしてけねえなあ……っと!!」

そのままアザエルに突進し、爛は勢いよく爪を振り下ろした。

爛「……っ!?」

しかし、そこにアザエルの姿はない。

千鶴「驚いた。思ったよりも速いのね」

爛「なっ……いつの間に……!」

爛は振り向き、後ろに立つアザエルを睨み付けた。

千鶴「無駄なことはやめて、帰ったら?」

爛「ムカつくな、てめぇ……!!」

アザエルは爛の攻撃を回避しつつ、なおもカースを生み出し続けている。

その態度が癪に障ったのか、爛は再度アザエルに突進した。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:08:08.14 ID:R6vFgbqx0<> ――――
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クールP「了解しました。今ライラを連れてそちらへ向かいます」

パップとの通話を終えたクールPは、即座にライラに向き直った。

クールP「悪いねライラ。この騒ぎでイベントは中止だ、移動するよ」

ライラ「むー、残念でございます」

少し頬を膨らませ、クールPの後をついていく。

クールP「途中でシャルクさんとガルブさんも拾っていこう。……全く、相変わらず馬鹿げた事をするね、彼は」

ライラ「お知り合いでございますか?」

ライラの質問に、クールPは額に手を当て、少し困ったようなアクションで答えた。

クールP「将軍。吸血鬼の、僕とは違う派閥の首魁さ。脳ミソが野望と暴力と筋肉で満ち溢れた、野蛮な男だよ」

ライラ「そうでございますかー……ところで爛殿はどこに?」

クールP「そういえば……もう集合時間も近いのに戻ってこないのは変だな」

クールPは立ち止まり、腕時計をのぞき込んでそう言った。

クールP「……少し探してくるよ。ライラは先にシャルクさん達と控え室に向かっていてくれ。場所は分かるね?」

ライラ「はい、大丈夫でございます」

クールP「OK、よろしく。パップさんの言う事をよく聞くんだよ」

それだけ言うと、クールPは駆け足で近くの階段を駆け上がっていった。

ライラ「えっと……こっちの奥ですでしたね」

ライラはライラで、駆け足で控え室へと向かっていった。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:08:50.45 ID:R6vFgbqx0<> ――――
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――――――――――――

一方で。

仮面を被った涼宮星花が、憤りを乗せて弦を弾く。

エトランゼ出張店に戻った大和亜季が、窓からカースへの狙撃を開始する。

古賀大牙が、喧噪ではぐれた友人を探す。

古賀翼が、古賀小春と共に避難を開始する。

服部瞳子が、迫りくるカースを片端から焼き尽くす。

煌びやかな学園祭に撒かれた新たな火種が、各地で火の手を上げ始めた。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/06/18(水) 01:11:04.38 ID:R6vFgbqx0<> ・イベント追加情報
カイ、サヤ、エマ、スパイクPがカースの群れ相手に共闘しています

マキノが報告の為に一度帰還しました

アザエルが屋上でカースを生み出しつつ爛と交戦中です

クールPが屋上へ、ライラ&シャルクガルブが控え室へそれぞれ向かっています

他、>>395のように行動しています

以上です
飛べない人用に雑魚撒いておいたよ!(いらん世話感)
アザエルはわりとすぐに帰す予定なのでごあんしんください
千鶴、名前だけ春菜と将軍とパップお借りしました <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/18(水) 01:24:34.29 ID:0jZ3RvLI0<> 乙ー

いつも余計なことしちゃうアザエルェ……

果たしてどうなることやら? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/06/18(水) 17:07:24.56 ID:Nj6mYILKO<> 乙!

やだ戦闘外殻一斉装着かっこいい……
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:06:01.95 ID:LNT2VAaAo<> >>358
こんな人外魔境にやってきてしまった将軍の運命やいかに
ろくな結末は迎えそうに無さそうです……

>>371
オトハさんのとばっちりっぷりに泣けてきそうです
そらこの人は怒る、将軍ェ……

>>381
こ、この子殺戮ショー開始する気満々なんですけれどっ?!
しょ、将軍ェっ……

>>396
スパイクPの久しぶりの登場に「おっ」って思いました
そして登場キャラ数の多さに改めて学園に集まって戦力やべえなと……
将軍、もう帰ろう。今なら無事に帰れるって


皆様方乙したー


さて、将軍がやってきた学園祭2日目

ほーんの少しばかり時間を蒔き戻したところから投下しまーす
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:07:11.35 ID:LNT2VAaAo<>

前回までのあらすじ


桃華「あらかた出店は回ったでしょうか?」

桃華「このような場所での食事も、それなりの風情があって良いものですわね」

桃華「スタンプカードの方も順調に集まって」

桃華「あら、もう5枚になりましたの?」

桃華「ところでこれは何と引き換えて戴けるのでしょうか?」

菲菲(ふぇいふぇいは別にいいケド、マンモンちゃん本来の目的すっかり忘れてないカナ?)


桃華と学園祭
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/129-
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:08:47.85 ID:LNT2VAaAo<>

京華学園 運動場 バスケットコート


渚「いやァ、参ったよ。ほんと凄いもんだね」

学園祭の催し物スタンプラリーの『番人』を勤めるバスケ部キャプテンが称賛する。


渚「バスケ部部員との1on1対決、シュートを決められれば2ポイント!」

渚「さらに、部長の私との勝負でのシュートならさらに3ポイントッ!」

渚「真剣勝負だったんだけど、綺麗に負けちゃったね。悔しいなァ」

渚はタオルで汗を拭きながら、あくまで爽やかに相手選手を称えるのだった。


「うっふっふっ!」


桃華「当然ですわっ!!」

桃華「どんな勝負事においても、わたくしは負け知らず!」

桃華「欲しい物を得るためでしたら、桃華は少しも容赦しませんのよっ!」(どやっ)


菲菲「いや、頑張ったのはふぇいふぇいダヨー。桃華ちゃんは見てただけだったネ」

桃華「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:09:57.65 ID:LNT2VAaAo<>

渚「フェイフェイさん凄かったよ、実はどっかの選手だったりしない?」

菲菲「ううん、ばすけっとぼーるだっけ?地上に来て初めて触ったヨ」

渚「えッ!ホント!?初心者!?」

菲菲「加減の難しいスポーツだったネー」

渚「才能かなァ……いやァ、世界は広いねッ!」

渚「今日の勝負は久しぶりに燃えたよッ!ありがとッ!」

菲菲「こっちこそ楽しかったヨー」

菲菲「得意なスポーツとは言えふぇいふぇいに迫れるなんて渚ちゃん見所あるネ!」

渚「へへッ、実力者に褒めてもらえるのは悪い気はしないねッ!」

熱く爽やかな勝負を繰り広げたキャプテンと魔神はガッチリと握手を交し合うのであった。


桃華「このわたくしを置いて話が進むなんて、なんだか納得いきませんわね…」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:10:32.29 ID:LNT2VAaAo<>

菲菲「……それにしても桃華ちゃん」

桃華「……なんですの」

菲菲「身体能力部門はからっきしダネー?」

桃華「む……」

菲菲「コイントスもそうだったけれど」

菲菲「陸上部との100m走勝負も」

菲菲「つづくサッカー部、バレー部、テニス部との勝負も」

菲菲「全部ふぇいふぇいがいなかったらスタンプとれてなかったと思うヨー?」

桃華「……」

この運動場で2人が回ってきた、スタンプラリー運動部系『番人』達との勝負。

強欲のお嬢様はと言えば、てんで役に立ってはおらず、

スタンプをかけた勝負は全て菲菲がクリアしていたのであった。

ちなみに、それぞれ部活のエキスパートが相手の勝負であったが、

彼らが人間の身である以上、魔神に敵うわけがない。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:11:07.83 ID:LNT2VAaAo<>

菲菲『でもマンモンちゃんも、完全な悪魔として存在していれば、』

菲菲『人間なんか相手にならないはずなのにネー』

強欲の証を通したテレパシーで、魔神は強欲の悪魔へと語りかける。

桃華「……」

菲菲『もしかしてマンモンちゃん』

菲菲『その身体のせいで本来の力を発揮できてないんじゃないのカナー?』

無邪気な笑みを浮かべて問う魔神。

幼げにも見えるその眼は、意外に本質を見抜いているのであった。


桃華「フェイフェイさん、言いたいことはそれだけですの?」

魔神に煽られたお嬢様は、つかつかと渚の方へと歩み寄る。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:11:40.07 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「渚さん、少し…”お借りできるかしら?”」

渚「?」

渚「……あ、バスケットボールか」

渚「はいッ、どうぞ」

桃華「うふっ♪ありがとうございますわ」

渚の手から桃華に、バスケットボールが渡される。

渚「……ん?」

その瞬間、渚はわずかに自身の身体に虚脱感を覚えた。

が、その理由には気づきようがなく。


さて、桃華はバスケットボールを受け取った位置から動かずに、

シュートするための構えをとった。

渚「えっ、この位置から?」

コートのほぼ中心位置センターライン付近に立つ彼女達。

ゴールリングは、当然ハーフコート分離れているのだが……

渚(まァ、私なら入れる自信はあるけれど…) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:12:16.12 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「はっ!」

意外にも、綺麗なシュートフォームで、彼女はボールを投げ放つ。

ボールは美しい円弧を描いて――

カラン、とゴールシュートが決まった。

渚「おォ、ナイスシュート」

桃華「……ま、こんなものですわね」

いそいそと、転がるボールを拾いに向かうお嬢様。

意外と律儀である。

桃華「渚さん、”お返ししておきますわ”♪」

渚「うん、綺麗なシュートだったよッ」

桃華の手から、渚にバスケットボールが返還される。

渚「ん……?」

同時に、渚は再び身体の違和感を覚えるのだった。

渚(何だろ、この感覚?)

それが、あるべき物が戻ってきた感覚だとは渚は知らない。


桃華「と、まあこんなものですわ。フェイフェイさん」

「文句ありますの?」と言わんばかりの目で、彼女は菲菲を見つめていた。

菲菲(……そこでムキになっちゃうあたりが……ネー?)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:13:54.64 ID:LNT2VAaAo<>


渚「……んー?そう言えば……」

菲菲「…?」

菲菲「渚ちゃん、どうかしたのカナ?」

渚「いや、大したことじゃないんだけどサ」

渚「前に桃華ちゃんを何処かで見たような気がしてねッ」

桃華「……」

渚「たぶん、初対面なはずなんだけどなァ」


桃華「ウフッ♪わたくし次に向かわなくては行けませんわ」

桃華「渚さん、ご機嫌麗しゅう」

桃華「……行きますわよ、フェイフェイさん」

急いでるのか。スタスタとその場を去ってしまう、桃華。

菲菲「あ、待ってヨ!桃華ちゃんっ!」

菲菲「渚ちゃん、また遊ぼうネー」

渚「うん!また熱い勝負をしようッ!」

爽やかな約束を交わして、2人は渚と別れたのだった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:14:25.92 ID:LNT2VAaAo<>

――


――


桃華「『正体隠しの眼鏡』、その効力が切れつつあるようですわね」

人気の無い地上通路を歩きながら、桃華は状況を語る。

菲菲「なるほどネー、だから渚ちゃんも桃華ちゃんの正体に気づきかけてた訳だネ」


『正体隠しの眼鏡』、大罪の悪魔としての存在感を極めて薄め、

さらには顔の見た目さえ印象に残らなくするマジックアイテムなのだが……


桃華「いかんせん能力の行使をしすぎましたわ」

能力を使い続ければ、その眼鏡の効力はどんどん失われていく。

『強欲』の悪魔は、此度、学園祭を訪れる他人の記憶を覗くために、

その能力を使い続けていたので、そろそろ限界が来ていたのだろう。

菲菲(渚ちゃんの”バスケットのスキル”の所有権の主張なんてしてる場合じゃなかったヨネ…)

まあ、特に使う必要のない場面でも彼女は能力を使っていたせいでもある。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:16:17.57 ID:LNT2VAaAo<>

桃華『わたくしの正体がバレると少々面倒な方は多いですわ』

桃華『例えば……途中見かけたベルゼちゃまのように、わたくし達以外の魔界関係者』

桃華『さらに言えば死神ちゃまに見つかるのが一番面倒ですわね……ぷちユズでしたか?使い魔も徘徊しているようですし……』

桃華『おまけに……』

菲菲「……?おまけに何かな?」

桃華「いえ、視線を感じましたのよ」

桃華「まるで人の心の形に触れるかのような視線……」

桃華「誰かの心の影に触れながら……仲間を探すかのような、あるいは助けを求めているかのような」

桃華「そんな哀れな小鳥の視線を感じましたの」

強欲の悪魔が気づいた視線。それは、とある悪魔を騙る少女の目線。

菲菲「ふーん」

魔神は適当に相槌を打つ。

桃華「と言うか、フェイフェイさんも見られていると思いますが気づきませんでしたの?」

菲菲「えっ?うーん……よく分からなかったヨ?」

魔神は細かいことには無頓着であり、興味の無いことにはとことん興味が無い。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:17:11.54 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「まあ、とにもかくにもわたくしの欲しい情報はまだ手に入っていませんのに」

桃華「これ以上の能力の行使は難しいとなると、困ったものですわ」

彼女の欲しい情報。それはこの学園祭で消息不明となった『エージェント』の行方。

学園祭を楽しむ一般人達の中には、昨日のカース騒ぎを目撃した者こそいたが、

流石に、『エージェント』を目撃した者は一人も居らず、

手がかりらしき物は…………1つしか掴めなかった。


菲菲「ところで、今はどっちに向かってるのカナー?」

桃華「この学園の裏山ですわ」

桃華「裏山の方で何かが暴れた痕跡があると言う情報を、わたくし掴めましたので」

桃華『財閥の用意したカースはおそらく、そちらの方で倒れたはずですわ』

カース騒ぎのあった時間帯。

学園中どこを探しても、カースの騒ぎの元凶となった本体の目撃情報はなかった。

その一方で、裏山の一角がいつの間にか焼かれて何かが暴れた痕跡はあると言う情報を掴むことができた。

それらが意味する答えは一つである。


菲菲「……今は裏山の方に行くのはやめておいた方がいいと思うヨー?」

桃華「あら?」

珍しく、本当に珍しく、魔神が忠告した。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:18:30.62 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「フェイフェイさん、それは一体どう言うことですの?」

菲菲「音楽が聞こえるネ」

裏山の方に目を向けて、魔神は答える。

桃華「……音楽?」

菲菲「心地よいハープの音色、自然に語りかける旋律ダネ」

桃華「…………」

桃華「確かに耳を澄ませば、美しいハープの音色が聞こえるような……?」

桃華「……♪」

桃華「……なるほど、わたくし好みの音ではありますわ。これは……どなたが……」

菲菲「単刀直入に言えば、自然の大精霊が来てるヨー」

桃華「…………この学園祭、まるで超存在のバーゲンセールですわね」

よくもまあ、これほどまでに変わった存在が集まったものである。


桃華「自然の大精霊、少し興味はありますわ……」

桃華「ですが、わたくしの能力が制限されている今は、近づかないほうが良さそうでしょうか…?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:19:07.72 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「ところでフェイフェイさん」

菲菲「…………何カナ?」

桃華『自然の大精霊は、その名の通り。”神霊”に属する存在ですわ』

菲菲「……」

桃華『どうして神霊に対する特攻能力”天使喰い”を持つフェイフェイさんが、それを怖れることがあるのでしょう?』

ニッコリとした笑みを浮かべて、強欲の悪魔は言う。

桃華『まさかフェイフェイさん。それを飲み込みきれるほどまでには、力を取り戻せていないのではありませんの?』

菲菲「……」

桃華「……」

菲菲「……」

桃華「……」

菲菲「……ふっふっふ」

桃華「ウフフフ……」

結局、強欲の悪魔も、強欲の魔神も、

共に行動することはあっても、お互いに完全に心を許せる相手と言う訳ではなく……

行動のアドバンテージを得るためにも、相手の弱みを握っておきたい訳である。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:19:50.88 ID:LNT2VAaAo<>

桃華(フェイフェイさん、かつて魔界最強の一角であった貴方ですが…今は随分と弱体してしまったのでしょう?)

桃華(『計り知れぬ者』の隠蔽能力があるために、貴方の現在の実力をはっきりとは読みきれませんでしたが……)

桃華(”自然の大精霊”に近づく事を、多少なり怖れる様子を見たところ……)

桃華(当時の力を取り戻すのには、まだまだ時間が掛かりそうであると……察しますわ)

桃華(まあ、それでもわたくし程度ならば、今すぐにでも倒せる実力はあるのでしょうが……)


菲菲(マンモンちゃんも、随分と優しいヨネー)

菲菲(いくら強欲の末に、「人間としての生」も求めたカラって)

菲菲(人間の身体や精神を壊さないために、そこまで気を使うなんて…なかなかしない事ダヨー)

菲菲(それだけ桃華ちゃんの身体が大事みたいだけれど、)

菲菲(その僅かな優しさは、悪魔としてはやっぱり致命的な弱点にもなるんじゃないのカナー)


桃華「ウフフフ♪」

菲菲「えへへ♪」

2人は向き合って、笑い合う。

お互い考えていそうな事はだいたいわかっているが、

今はやはりお互いに利用価値があるのだし、手を取り合い共に行動する事に異存は無いのであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:20:43.09 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「…………しかし、自然の大精霊が居るからと言って」

桃華「裏山を探索しないわけにもいきませんのよね……」

桃華「残る手掛かりは、もはやここくらいしか残っていませんし……」

菲菲「でも、裏山に何かが残ってるとも限らないヨー?ここまで探して見つからなかったんだしネ」

桃華(…………そう、わたくしの能力である記憶の閲覧)

桃華(それを使って学園中探索しても、不自然なまでに手掛かりがなかったのですから……)

桃華(裏山も探索したとして…欲しているモノを見つけられるのかどうか……怪しいものではありますわ……)

桃華(ですが……『エージェント』と、彼が追っていた『失敗作』をここまで綺麗さっぱりに消せる勢力など……)

桃華「!」

菲菲「?」

桃華「……1つ思い当たってしまいましたわ」

桃華「何一つ証拠は無く、わたくしの直感でしかありませんが……」

桃華「この混沌のした世界にあって、どのような場所であっても秘密裏に動くことの出来る勢力」

思考の結果、彼女は、未だ見えざる敵の正体に1つの可能性を思い浮かべた。

証拠はない。しかし、証拠が無さ過ぎるのが証拠であり、その可能性を疑うにはそれで充分であった。


桃華「裏打ちを得る為には……やはり、裏山の探索は不可欠ですわね。」

桃華「たとえもし、そこに踏み入ったことによって自然の大精霊を敵に回すこととなったとしても」

菲菲「うーん……ここまで来たらふぇいふぇいも出来るだけ手伝うケド……どうなっても知らないヨー?」

『強欲』の悪魔は覚悟を決める。

自身の手から奪われた物を、必ずや取り戻すため、

再び、裏山へと向けて歩を進めようと振り向いて、
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:21:42.74 ID:LNT2VAaAo<>    



次の瞬間


彼女の視界は真っ白に染まり、


全てが吹き飛んだ


    <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:22:08.81 ID:LNT2VAaAo<>

――――

――――



チナミ「ふっ!」 バッ

若者A「おぉっ!チナミさん、グッドっす!超イケイケ!」

若者B「めちゃ決まってるじゃんっ!」

若者C「スーツ姿もセレブレティっすね!」(セレブレティの意味はしらない)


その頃、吸血鬼チナミはと言えば、

暗示で操る若者を従えて衣装の貸し出し屋にやってきていたのでした。


チナミ「当然よ、私はどんな服だって着こなして見せるわ」

チナミ「……ふふふ、それにしても……我ながら完璧な変装よね」

チナミ「これなら、どう見ても」


チナミ「プロデューサーにしか見えないわよね!」(眼鏡装着ー!)

若者C「あ、眼鏡はいらないかもっす」

チナミ「あらそう?」(眼鏡外しーの)

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:22:35.46 ID:LNT2VAaAo<>

チナミ「知ってるのよ、私。人間の女子はみんなアイドルに憧れるもので……」

チナミ「そして、プロデューサーはこの世界で最も怪しまれない職業だってね!」

チナミ「アイドルのプロデューサーなら見知らぬ女子に話しかけてもそんなに警戒されないし」

チナミ「アイドルのプロデューサーならどんな場所に不法侵入してもなんとなーく許される」

チナミ「でしょう?」


若者B「な、なるほど……そんな風潮ありますねっ!」

若者A「た、確かに一理あるかもしれないっす!」


チナミ「クールPからの話でアイドルヒーロー同盟の情報は頭に入れてるし、」

チナミ「アイドルの爛ちゃんともプライベートで交流がある証拠があるし、」

チナミ「そしてこの通り、名刺も偽造」

[名刺:プロデューサー小室千奈美]

チナミ「あら、私どう考えてもアイドルヒーローのプロデューサーじゃない?」

若者C「小室Pって名乗るのもなんとなくプロデューサーっぽいっす!」

チナミ「後はPヘッドがあれば完璧だったけれど……」

若者B「……それはやめといた方がいいんじゃないすかね?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:23:27.15 ID:LNT2VAaAo<>

チナミ「ま、とにかく……これならどんな女子にも怪しまれずに接触して、」

チナミ「都合の良い場所場所に誘い出すのも容易よね」


それがこの度、吸血鬼チナミが気合を入れて変装した理由。

眷族にするのに丁度いい能力者を見つけても、学園内で襲うつもりはない。

それをするにはリスキーであるし、血を啜るならば、別の場所におびき寄せてからだ。

プロデューサーへと変装し、正面から堂々と話しかけ、

「アイドルに興味ない?」と言えば、だいたいの女子はコロッと落ちるはずだ。そう言うものなのだ。

後は適当に、約束を取り付けて、後日好きな場所へと誘い込めば良い。


チナミ「ふふふふふ!さて、待ってなさい、新田美波!」

最初の得物の居場所は既に把握している。後は怪しまれずに近づくのみ!


チナミ「今から私が直々に”スカウト”しに行ってあげ……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:24:13.30 ID:LNT2VAaAo<>


ちゅどーん



チナミ「…………へ?」

若者A「じ、地響きっ!?」

若者B「な、なんだっ?!今の音っ!近くでなんか爆発したのかっ!?!」

若者C「まさか学園を狙う謎の組織の陰謀!?!」


ざわざわ

     ざわざわ

突然の地響きと爆音、学院内の人々がざわつき始める。


チナミ「……ちょ、ちょっとどう言うことよ、この騒ぎは……」

何が起きたのか、彼女はこの時点ではすぐにはわからなかったが、

とりあえず……

彼女の計画が実行前から失敗に終わったことだけは理解したのだった。


チナミ「……」 ワナワナ

チナミ「もうっ!!なんなのよっ!!!もうっ!!!!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:24:46.45 ID:LNT2VAaAo<>


――――

――――



桃華「……」


桃華「……えっ」

菲菲「危ないところだったネー、桃華ちゃん」

菲菲「フェイフェイが近くに居なかったら、大事なその身体、無傷ではなかったと思うヨー?」

桃華が気づけば、菲菲の両手に抱えられ宙を飛んでいた。

お姫様抱っこの形である。

桃華「な、ななっ…何が起きましたのっ!?」

何やらすぐ近くで巨大な爆音が聞こえたのは覚えているが、それ以降が曖昧であった。

菲菲「んー……説明するより、見てもらったほうが早そうダネ」

桃華「…………なっ」


魔神の指差す先を目にして、『強欲』の少女は絶句する。

なぜならば……先ほどまでそこにあったはずの裏山が、綺麗さっぱりと吹き飛んでいたからだ。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:25:21.15 ID:LNT2VAaAo<>

菲菲「何かが上から振ってきて、それが裏山をこんな風にめちゃくちゃにしちゃったみたいだネー」

そう言いながら

タンッ、と魔神は軽やかに着陸する。

魔神たる彼女は、先ほど上空から迫る砲撃に即座に気づくと、

傍に居た少女を抱えて、すぐさまその場を一足跳びで離脱したのであった。


菲菲「あのままだと桃華ちゃんは、まあ死にはしなかっただろうケド……結構ダメージ食らってたと思うヨー?」

桃華「……」

裏山のすぐ近く、あの場に居れば爆風の直撃は免れなかったであろう。

しかし菲菲は、魔神の危機察知能力と身体能力を発揮して、見てからの回避も余裕で間に合わせた。

さらに彼女は、着弾地点から飛来してきた木々や土砂でさえ、少女を抱えて両手が塞がった状態で全てを防ぎきってみせたのだった。

腐ってもかつての魔界最強の一角。このくらいの事は目を瞑っていてもやってのけるだろう。

おかげで、桃華もここに無傷で健在と言う訳である。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:26:17.20 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「…………フェイフェイさん……下ろしていただけるかしら」

菲菲「オッケーダヨー」

魔神は両手に抱えていた少女を、優しく地に下ろした。

抱えられていた少女は、特に礼も言わず……先ほどまで裏山のあった場所の惨状へと目を向ける。

桃華「……」

菲菲「それにしても桃華ちゃん、いくら久しぶりの外出だからって、ちょっと無警戒だったんじゃないカナー」

桃華「……」

菲菲「流石に不意打ちだったのはわかるケド、これを避けたり防げてなかったら、」

菲菲「この後すぐに死神に狩られててもおかしくなかったヨー?」

桃華「……」

菲菲「?」

魔神は面白そうに、軽口を叩いてみたが、

『強欲』の悪魔の反応はなく……どこか様子がおかしい。



桃華「……ふふっ」

菲菲「………も、桃華ちゃん?」

桃華「ウフフフフフフ」

そして、突然笑い出した少女の背からは、この世の全ての色が混ざったようなドス黒い翼が現れた。


      グ リ ー ド ガ ー
桃華「 『 強 欲 の 

菲菲「そ、それだけはダメだヨ!!!桃華ちゃんっ!!」

魔神は慌てて翼を広げた少女の身体をガシッと掴む。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:27:03.23 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「フェイフェイさんっ!! 離してくださいましっ!!!」

桃華「今、わたくしの前で何が起きたのかお分かりでしょうっ!!!」

桃華「わたくしの欲していたものを!!すぐ目の前で奪われましたのよっ!!」

桃華「こんなっ……こんな屈辱っ!!!許せませんわっ!!絶対にっ!!」

菲菲「だからってこの場で『強欲の庭』の展開だけは無いヨっ!悪手にも程があるってば!!」


確かにこうなってしまってはもはや、彼女の求めていた手掛かりの一切はこの世に存在しないだろう。

目的への道筋を絶たれたがために、怒り、我を忘れ、翼を広げて今にも飛び出していきそうな少女を魔神は力強く抑える。

幸いにして、周囲に目撃者はおらず、菲菲の方が実力が上であるためその場で抑え付ける事は難しくは無かった。


菲菲「目立つわけにはいかないって桃華ちゃん言ってたヨネっ!?」

桃華「そんな事は既に問題ではありませんのよっ!!」

桃華「それよりもわたくしの誇りを傷つけられて、黙って見過ごすなんて出来るとお思いですのっ?!!」

桃華「このような蛮行を振舞った不埒な輩から全ての権利を……ええっ!自由に生きる権利も正当に死ぬ権利さえも奪い取って!!」

桃華「わたくしの物を奪ったこと、今すぐ後悔させてあげますわ……っ!!!」

菲菲(な、なんでふぇいふぇいが暴走を抑える側になってるのカナー…?)

菲菲「と、とにかく落ち着いて……」


ぽろんっ♪

菲菲「!」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:28:20.29 ID:LNT2VAaAo<>

♪ ♪

音が聞こえた。


菲菲「……」

それはあまりに美しく、そして心地よく聞くものを惹きつけてやまない音色。

だが同時に、あまりに悲しい音色でもあった。


♪ ♪ ♪

その音は裏山のあった場所、クレーターの内側、

そこに何故か無事に残っていたわずかな緑の方から聞こえていた。

菲菲「自然の大精霊ダネ…」

桃華「……」

ぽつり、ぽつり。と降ってきた水が、抑え付けられて地に這う少女の金色の髪を濡らす。

少女の耳にも、その音は聞こえていた。

♪ ♪ ♪ ♪

痛みと嘆き、悲しみと慰め、怒りと謝罪。

音色の運ぶ思い全てが、少女の心の奥にすとんと落ち込む。

雨は、すぐに大振りとなった。

流れる水が大地を濡らし、破壊された大地に再び生命の息吹を吹き込んでゆく。


桃華「…………離していただけるかしら、フェイフェイさん」

菲菲「頭は冷えたのカナ?」

桃華「ええ、わたくしとした事が……酷い失態でしたわ」

大精霊の奏でた癒しの音色は、クレーターの近くに居た少女の耳にも届き、

その心に燃え上がった怒りを静める結果さえももたらしたようであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:29:30.17 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「…………状況を整理いたしましょう」

大雨の中立ち上がり、背に生えていた翼を収めて、少女は頭を抱える。


桃華「まず探索は……当然ですが打ち切りですわね……」

菲菲「探索する場所がこうなったらネー……」

桃華「それに『正体隠しの眼鏡』も……今ので壊れてしまったようですし……」

ただでさえ効能が切れ掛けていたところに、『強欲』の悪魔の奥の手『強欲の庭』さえ展開しかけたのだから、

マジックアイテムが壊れるのもやむなしであった。

さっと掛けていたグラスの割れた眼鏡を外して仕舞うと、少女は話を続ける。


桃華「わたくしの正体を隠しての積極的な活動は……これ以降はできませんわね」

桃華「何より、今ので死神ちゃまに大罪の気配を察された可能性がありますわ……」

桃華「ええ……完全に失態でした……」

菲菲「まあ、やってしまった事は仕方ないヨ。それよりどうするのカナ?」

桃華「……」

桃華「この場に残るにしても、早々に去るにしても、死神ちゃまの目を誤魔化すことだけはしなくてはなりませんわ」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:30:40.76 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「幸いにして、フェイフェイさんの眼鏡はまだ効能を発揮しておりますし」

桃華「何より『計り知れぬ者』として正体の隠蔽能力があるので、そちらは大丈夫でしょう」

菲菲「じゃあ、桃華ちゃんの気配をどうにかしないとネ」

桃華「……」

『強欲』の悪魔は考える。自身の気配を絶つ方法を。

いや、その一手は既に思い浮かんではいるのだが、

その選択をするのは少し、迷ってしまう。

桃華「…………この手だけは出来るだけ使いたくはありませんでしたが」

桃華「とは言え、他に手もありませんわね……」

桃華「フェイフェイさん」

菲菲「何カナ?」

桃華「”櫻井桃華”をよろしくお願いいたしますわ」

菲菲「えっ?」

それだけ言い残すと、『強欲』の悪魔は目を瞑り、

ほんの数秒ほど沈黙した後に、少女が目を開く。

桃華「……」

菲菲「……あれ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:31:26.37 ID:LNT2VAaAo<>

すぐにその違和感に気づいた魔神は不思議に思う。

何故ならば、再び目を見開いた少女からは…”悪魔としての気配”が消失していたからである。

菲菲「……桃華ちゃん?」

桃華「ええ。わたくしですわ」

桃華「”はじめまして”でよろしいのでしょうか?フェイフェイさん♪」

話しかけられた少女はニコリと笑った。

菲菲「…………え」

微笑む少女のその瞳には……宿していた野心の炎が存在していなかった。

桃華「……どうやら”マンモンさん”は正体を隠すために一時、”わたくし”の心の内に眠ることにしたようですの」

菲菲「……う、うそー」

『強欲』の悪魔マンモンは、人としての生をも得る為に櫻井桃華の肉体と魂を完全に乗っ取る事をしなかった。

彼女の肉体を、彼女の魂を、彼女の心を、彼女の意志を生かしたままに、悪魔として活動を行う。

それは時折、悪魔にとってはとても不便を強いられたが、

しかし、代わりに『強欲』の悪魔にはこう言う事が可能であった。


菲菲「……入れ替わることなんてできたんダ?」

桃華「ええ、わたくし達は”リバーシブル”なのですわ♪」

少女の身に宿った悪魔が心の内に眠ることで、少女から悪魔としての機能を全て絶つ。

それによって、少女から発せられる悪魔の気配を遮断する技法。

つまり今の少女は、限りなくただの人間に近く。

誰が近づいたとしても、彼女が『強欲』の悪魔を宿している事に気づくことはないだろう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:32:31.19 ID:LNT2VAaAo<>

菲菲「…………確かにこれなら死神ちゃんの眼でさえ誤魔化せるかもしれないケド……」

菲菲「その代わり、他の脅威に対して無力すぎるんじゃないのカナ」


悪魔としての機能を絶つとはそう言うことである。

『強欲の庭』はもちろん、固有能力である『搾取』や、さらにはカースを操ることさえ少女には出来ない。

今の少女は、道端のカースに襲われて倒される可能性さえあるのだ。


桃華「あら、お舐めにならないことですわね!」

桃華「うふふ♪わたくしだってほんの少しは基礎魔法を学んでいますので、それを扱うことができますのよ!」

菲菲「うん。それを無力って言うんダヨー?」

菲菲(マンモンちゃん……櫻井桃華をよろしくってこう言う事だったんダネ……)

つまり、『強欲』の悪魔は櫻井桃華の身の安全を、魔神に守らせようとしているらしい。

他に手は打てなかったとは言え、それでも彼女にしては実にリスキーな選択をしたものである。

菲菲(……フェイフェイがちゃんと守ると思ってたのカナ)

桃華「?」

魔神の前では、無垢な少女が首をかしげている。

なんかもう今ならばデコピン一発で倒せそうだ。

菲菲(…………いや、守るけどネ)

そもそも魔神が、『強欲』の悪魔を排除するつもりでいるならば、彼女がこうなる前から既にそうしている。

しかし、人間界では世話になってる身であり、お互いに利用価値がまだある現在、魔神が彼女と敵対する理由なんてなく。

そして魔界一、優しい魔神であった菲菲には、

目の前の一応は知り合いである非力な少女が、危険に晒されるのを見過ごす理由も特にはなかった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:33:45.70 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「くしゅんっ」

桃華「冷えますわね……そう言えば……雨で濡れてしまいましたし、お召し物も汚れてしまっていますわ……」

振り落ちる生命の雨は、傘を持っていなかった2人の身体を濡らす。

また、先ほど菲菲が桃華を地に抑え付けたため、お互いに着ていた服は土で汚れていた。

菲菲「うっ……それはふぇいふぇいのせいだったヨ……ごめんネ?」

桃華「あら、構いませんのよ?これもマンモンさんのためでしたから」

桃華「逆に、お礼を言わせていただきたいほどですのよ!感謝ですわ♪」

菲菲(うわあ……すごく調子狂うヨ)

桃華「ですが…………どこかで、代わりの服を……あと出来れば湯浴みをさせていただきたいですわ…」

雨に濡らされ、ふるふると震える彼女は実に無力そうである。

菲菲「…………財閥の人間を呼べばいいんじゃないカナ?」

桃華「それが……今は、お父様とは連絡ができませんからお迎えに来ていただくことも出来ませんし」

桃華「京華学院は、雪乃さんの母校で彼女の財団の管轄になりますから……」

桃華「そちらに許可を頂きませんと財閥は立ち入ることができないのですわ」

菲菲「……そんな条件下でマンモンちゃんはよくここに乗り込む気になったネ」

桃華「そうですわね……けれど、望む物の為には時に大胆なのがあの方の良さだとは思いますの」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:34:57.94 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「……どちらにしても教習棟には一度、戻らせていただいた方が良さそうですわね」

桃華「ですがどうしましょう……わたくしの顔は有名ですし……騒ぎになってしまうかもしれませんわ」

菲菲「既に騒ぎが起きてる今なら、それも別に問題なさそうだけどネ」

菲菲「でも気になるなら、これを渡しておくヨー」

桃華「……これは……フェイフェイさんの分の眼鏡ではありませんの?」

魔神である菲菲は、ここまでその能力の行使をほとんどしていなかったため、

マジックアイテムの眼鏡の効能もまだ発揮されている。これを使えば櫻井桃華の顔を隠すことはできるだろう。


菲菲「一応マンモンちゃんに持たされてはいたケド」

菲菲「ふぇいふぇいには顔見知りなんて、この時代にほとんど居ないからネー」

菲菲「実力を隠すのも自前の能力があるから気にしなくていいヨー」

桃華「……それでは、お言葉に甘えて使わせていただきますわね♪」(眼鏡装着ー!)


丁度その時であった。

『あれー?なんかメガネ居るっぽいよー?』

桃華「!?」

大精霊の忠告に従い、自分達の母への報告のため、

裏山の広場を出てきたAMCがその場所を通りがかったのは。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:36:02.46 ID:LNT2VAaAo<>

桃華「……か、カースですわね」

『ね、外して!ねっ!』

一応彼らAMCには、自分達の母に仲間がたくさんやられた事を報告すると言う使命もあったのだが、

『外して!メガネ外して!絶対かじらないから!』

狂信のカースであるために、このような時であっても優先事項は通行人の眼鏡を外させることであるらしい。

『かじらないから絶対!外して!』

桃華「……っ!」

今にも襲い掛かろうと、人の形をした泥人形が少女へと迫る。


『外っ……』

瞬間、カースの頭が木っ端微塵に弾けた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:36:44.81 ID:LNT2VAaAo<>



『…………えっ』

いや、弾けてなどはいない。

ただ、ソレは錯覚してしまったのだった。


菲菲「えへっ、次は本当に壊しちゃうヨー?」

『あっ…………』


どうしてだろう?

ただ、人差し指を頭に向けられていただけなのに、

強く、強く……酷くて怖い…自身の嫌な未来を想像してしまった。


『こ……』

『こわいっ!!チャイナこわいっ』

AMCは、慌ててその場を逃げ出した。

もたついて、すっ転びながらも、どうにか足を前へと進める。

『メガネもよくないけどチャイナもよくないと思うよっ!?』

悲鳴をあげながら、AMCは脱兎の如くその場を去っていくのであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:37:28.61 ID:LNT2VAaAo<>

菲菲「……」

菲菲「うん!言葉で分かってもらえたみたいで、良かったヨー!」

菲菲「無駄な争いなんてよくないからネ!」

少女に迫った脅威を追い払った魔神は、にっこりと笑った。

彼女は、好んで殺さない。何故ならそれは”無意味”だからである。

競争は嫌いではないし、立ちはだかる敵を殺す事もあるのかもしれない。

しかし、この世の多くは彼女にとって”敵でさえ”なかった。

だから彼女は、好んで壊さない。取るに足りない虫なんて逃がしてしまってもいいのだから。


桃華「……フェイフェイさん、助かりましたわ」

菲菲「まあ、頼まれてたことだからネー」

菲菲「桃華ちゃんにはお世話にもなってるカラ、このくらいの露払いなら引き受けるヨ」

桃華「……うふふ、魔神に守って頂けるなんて、頼もしい限りですわね」

桃華「それでは申し訳ありませんが、しばらくの間よろしくお願いいたしますわ♪」

菲菲「任されたヨー」


と言う訳で、しばし櫻井桃華は、魔神に守られながら行動する事となるのであった。


桃華「……それにしても裏山がこうなってしまって、大精霊さんは無事なのでしょうか」

菲菲「無傷で残ってる部分があるみたいだから大丈夫みたいだけど、消耗はしてるだろうネー?」

菲菲(あ、消耗してる今ならふぇいふぇいが美味しくいただく事もできるカモ……じゅるり)

菲菲(だけど桃華ちゃんから離れられないしネー……今回はお預けカナー?)

桃華「素晴らしい音色を奏でる方ですから無事でいらっしゃるなら良いのですが……心配ですわね」

菲菲(…………しかもこの感じ……ホントに調子狂うヨー!)


おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/19(木) 19:39:29.59 ID:LNT2VAaAo<>


『リバーシブル』

憑依の技法。表裏一体となったマンモンの裏返りの裏技。
憑依したマンモン自身の魂を眠らせることで、身体に現れる悪魔としての機能を擬似的に遮断する。
これによって大罪の悪魔としての気配を完全に絶ち、誰から見ても普通の少女にしか見えなくなるが、
悪魔としての能力はほとんど使えなくなる。また、マンモンが眠ってしまっているために、
その身体を動かすのは憑依された少女自身であり、現れる意志は櫻井桃華本来の物となる。
マンモンの魂を起こせば、再び裏返り、マンモンの人格と悪魔としての機能が復活する。


◆方針◆

チナミ … 今日は計画が実行できなさそうなのでぷりぷりと怒ってる。
桃華 … マンモンちゃま不貞寝。とりあえず濡れて汚れたので身体を温めて服を交換できる場所を探している。
菲菲 … お嬢様のボディーガード中。



とりあえず書いてた話のハンドルを切った結果こんな感じのお話に。
マンモンちゃま大失態である。何にしても菲菲がいなきゃやばかった。
じゃけんこのまま、どこか適当な場所で濡れた服を交換して適当に帰りましょうねー。

チナミさんは個人的にとても癒し、ほんと素敵

渚ちゃん、大精霊、AMCお借りしましたー <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/19(木) 20:43:30.83 ID:VzQm96VyO<> 乙ー

チナミさん多分その作戦自体将軍来なくっても失敗してるかと……

そして、フェイフェイっょぃ…桃華ちゃまマイペースだな… <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:32:27.00 ID:Chlg+FKO0<> 乙ですー

戦闘外殻組は何やかんやで仲が良くて川島さんはどう思うのですー?と聞きたい

桃華ちゃまと菲菲、いいコンビ…なのか?
チャイナ怖いか…ACC…イナイ

取りあえず投下
学園祭二日目ですのん <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:33:00.80 ID:Chlg+FKO0<> 奈緒「LPさんっ!急に呼び出して何かあったのか!?」

きらり「奈緒ちゃんおかえりー☆…あのね、いまからお話し聞くところでねー?…やなよかんするの…」

奈緒「あ、そうだったのか」

LP「ああ…今、説明する」

奈緒が夏樹の生み出した穴を通り、カフェの地下に現れる。抱えていたレンタルしたアニメのディスクが入った袋をテーブルに置くと既に他の3人の横に並んだ。

憤怒の街以来だろうか、久々の緊張した雰囲気に奈緒は思わず深呼吸をしてしまう。

LP「…宣戦布告、といったところか。『将軍』と名乗る者から映像が送られてきた。流すぞ」

モニターに流れ始めた映像をみて、全員に緊張が走った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:34:55.40 ID:Chlg+FKO0<> クレーターが出来た山。人類を家畜と評する吸血鬼の男。そして宣戦布告。

奈緒「なんだよ…これ…山が、一発で…!?」

LP「被害自体は山だけで済んでいるし、湧いてきたカースもその場の人々が対処しているらしい。だが奴を叩かなくては終わらない」

夏樹「マズイな…昨日のカース大量発生と言い…あの学園祭、災難続きにも程があるんじゃないか?」

李衣菜「…相手が24時間の猶予を与えてなかったら正直不味かったかもですね」

LP「それほど自信があるんだろう。ここ以外にもアイドルヒーロー同盟等にも同じ映像が送られたようだ」

夏樹「アイドルヒーロー同盟もか…まさかとは思おうがヒーローとかが一名でもいればこの映像送ってるんじゃないだおうな…」

李衣菜「さ、さすがにそれは無いんじゃないかな…」

LP「非常事態だ、すぐ出撃してもらいたい。…だが、同盟とはどうもギクシャクした関係なのは知っているだろう」

きらり「ヒーローちゃん達とは仲良しなのにねぇー…」

李衣菜「…大人の事情だから仕方ないよ、商売敵みたいなものだしね」

奈緒「あー、もしかして、アイドルヒーローもこの映像見て動くからいろいろややこしい事になるかもって事?」

共闘したいところだが、アイドルヒーロー同盟上層部はあまりこちらに良い思いは抱いていない。

共闘になっても完全に問題がないとは言い切れないのだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:35:51.73 ID:Chlg+FKO0<> LP「ああ…そこでだ。商売敵扱いされているのは『ネバーディスペア』というチーム。今回は管理局の無名の戦闘員として動いてもらう」

夏樹「…それで大丈夫なのか?名前とか見た目でバレると思うんだけど」

LP「名義という物は意外と大事にされるものだ。…名前の方は一応与えてたコードネームがあるだろう?」

奈緒「えっ、あれ考えたはいいけど、なんやかんやで使ってなかった奴じゃんか…」

LP「本名の方が何かと動きやすいからな…だが今は使わないといけない。各自コードネームは覚えているな」

夏樹「あー…『和音(コード)』だっけ」

李衣菜「私は『閃光(スパーキー)』ですね」

きらり「『幸福(ハピネス)』だにぃ☆ほら、奈緒ちゃんもー!」

奈緒「えっ、ええー…言わなくてもわかるだろ?」

きらり「んー?忘れちゃった?」

奈緒「う…うぅ…『獣牙(タスク)』だよ。憶えてるよ!自分で名乗るのは恥ずかしいだろっ!勝手に呼ぶのは仕方ないけどさぁ…」

夏樹「まぁ、わからなくもないけどな」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:36:39.74 ID:Chlg+FKO0<> 李衣菜「でも、見た目はどうしようもないと思うんですけど…どうするんですか?変装ですか?」

LP「そうだな、だが変装用の服装を用意する時間が無い。…気は進まないがこのデバイスを使う事にした」

LPがそう言って取り出したのは携帯端末だった。

LP「ウサミン星人の違法工作員から押収した、映像投射型擬態装置だ。これで外見を変えてもらう」

李衣菜「…ウサミン星人の使っていた擬態装置…。私達も使えるんですか?」

LP「デバイスの使用言語はウサミン星の言語だが、それ以外は問題ない。壊れると擬態が解けるから戦闘員向けではないんだが…仕方ない」

きらり「うっきゃー!すごーい!」

LP「きらり、最初に使って見るか?使い方は…」

きらり「うん、リーダーちゃんに言われなくてもわかるゆ!えっとー…こーして、こーしてぇー…うっきゃー!」

LPにデバイスと渡されると同時にきらりが電源を入れると、空中にヴァーチャルディスプレイが表示された。

きらりが目をキラキラさせながらそのディスプレイを操作する。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:37:17.55 ID:Chlg+FKO0<> 奈緒「ったく、適当にやってないだろうなー…」

きらり「?…ちゃんとまじめさんだにぃ!おしとやかにょわにょわ…」

夏樹(きらりだし、感覚で操作方法わかってそうだな…)

きらり「…あ、はい!奈緒ちゃんがボタン押して!」

奈緒「えっ、アタシ?」

きらり「これ奈緒ちゃん用だったみたいなの!だから…きらりに使えないんだってぇ…」

LP「ああ、すまん。体格や骨格は誤魔化せないから予め身長とかは設定して固定してたんだ。それに夏樹が命令する時に混乱しないようにあまりにも見た目が大きく変わることも無いようにしてある」

李衣菜「奈緒、どうせならきらりの設定で使っちゃえば?」

奈緒「お、おう。まあいいか…えっと…このボタンかな」ポチッ

言われるがままに奈緒がデバイスの決定ボタンを押す。

すると頭上から映像が投影され、1秒ほどで設定通りの服装の姿になった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:37:55.85 ID:Chlg+FKO0<> 奈緒「…な、な、ななななな…っ!!」

夏樹「」

李衣菜「」

LP「…きらりに設定させたらそりゃこうなるか…」

きらり「うっきゃー!奈緒ちゃんかわいいー☆」

フリフリのスカートにたくさんの飾りがついた、のまるでアイドルの衣装のような恰好。虎耳も異形の左腕も、普通の少女に見える。

奈緒は顔を真っ赤にして完全に硬直した。

奈緒「………はっ!キャンセルキャンセル!!真面目にやるぞ!こんな恰好で戦えるか!ばかっ!」

きらり「えー!?」

夏樹「…まぁ結構思ったより細かく設定できるって言うのは分かったよ。腕とかも誤魔化せるみたいだしさ」

奈緒「そりゃそうだけどさぁー…は、恥ずかしいし変だろ…?」

すぐさまデバイスのキャンセルボタンを押し、普段の格好に戻すとディスプレイを操作し始めた。

李衣菜「読めるの?」

奈緒「…まぁ、なんとなくは理解できてると思う」

李衣菜「へー」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:38:45.42 ID:Chlg+FKO0<> ディスプレイを何度か操作している途中で、指が止まった。

奈緒「…でもさ、結局どういう格好にすればいいんだ?」

LP「『ネバーディスペア』と結びつくような見た目じゃなければ…さっきのでもいいぞ?」

奈緒「ふ、ふざけんなよLPさん!あたしはべべべ、別に!ああいう格好がしたいわけじゃないんだっての!」

LP「…そうか」

李衣菜(わかりやすいなぁ)

夏樹「ま、変わるのは見た目だけみたいだしな。どんな格好でも…あ、やっぱり今無しで」

きらり「むぇ〜?夏樹ちゃんもかわいいの、似合うと思うにぃ」

夏樹「いやいやいや!?…アタシにああいうのは似合わないだろ…とりあえずコレの使い方教えてくれよ」

きらり「はーい」

李衣菜「さて…私はどーしよーかな?目も腕も足も顔もそこまで隠さなくていいみたいだし…」

LP「李衣菜、悩んでいる所悪いが…武器もいつもと違うのを使ってもらう事にした。…慣れない武器を急に使わせることになってすまない」

李衣菜「え、ええー…そうですよね、仕方ないですね…」

LP「重量や持ち手、重心はなるべくあのギターに近い性能に調整してある。上手く使ってくれ。ちょっと取ってくるよ」

李衣菜「あ、私が運びますよ。重いでしょうし」

LP「そうか、悪いな。…そうだ、時間もないし李衣菜のデバイスの設定も済ませておいてくれると助かる」

きらり「りょうかーい!いってらっしゃ〜い」

李衣菜とLPが部屋を出て行った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:40:19.08 ID:Chlg+FKO0<> 3人は自分のデバイスの設定を取りあえず終わらせようと操作を続ける。

奈緒は自分のデバイスの設定を終了させると、置きっぱなしの李衣菜のデバイスを見て、ニヤリと笑った。

夏樹「…なぁ奈緒、何企んでるんだ?」

奈緒「いや、時間も限りがあるし、あたしが設定しておこうかなーって」

夏樹「わかった、建前はいいから。本音は?」

奈緒「ちょっときらりにやられた事をだよ…悪戯みたいで楽しいかなと」

夏樹「みたいじゃなくて実際に悪戯なんじゃ…まぁ、だりーも後で自分で直すか…」

一応、夏樹が止めようとしたが李衣菜自身が設定しなおせば問題ないだろうと自分の設定に戻る。

それをいいことに奈緒は素早く設定していく。

きらり「李衣菜ちゃんじゃなくてぇ、自分にもかわいいお洋服選べばいいのにー」

奈緒「い や だ !」

きらり「やぁーん!奈緒ちゃんも、とーっても似合うにぃ☆」

奈緒「いいんだよ、あたしは夏樹みたいな感じでやるから!」

夏樹(人の設定いつの間に見てたんだ…)

きらり「んー…じゃあ李衣菜ちゃんのを、もっともーっとかわいい感じにしちゃう?しちゃうー?」

奈緒「…よし、もっと過剰な感じでやろう」

きらり「おっけー☆」

夏樹「おいおい…あまりだりーをオモチャにするんじゃねーぞー?」

「「はーい」」

夏樹「適当な返事だなお前ら…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:41:21.56 ID:Chlg+FKO0<> そんな感じで夏樹も大体の設定を済ませたところで、李衣菜がハンマーのような武器を持ってLPと一緒に帰ってきた。

持ち手の形状はギターのネックような形になっている。そして頭部はギターの形状に近づけた結果なのか、まるで両刃の斧の幅を小さくして分厚くして鈍器にしたようだった。

李衣菜「ただいまぁー…あ、設定してくれたんだ?」

奈緒「そうそう!…ところでその武器はどういう武器なんだ?」

LP「急遽使う事にしたからまだ最終調整は終えていないんだが、元々李衣菜に使わせる予定だった武器だな。仮称は『D・クラッシャー』だ」

李衣菜「電気を纏わせやすくなってたり、持ち手の長さが調整できるようになっててるんだよ!使い心地は良いし、実戦でも問題ないと思う」

李衣菜が少し振って問題ない事をアピールする。夏樹はそれを見て問題ないと確信できた。

夏樹「そっか、それなら立ち回りとかも普段通りで問題なさそうだな。そうだ、だりーもさっさとデバイスの設定を変えて終わらせておけよ?」

李衣菜「え、なんで?」ポチッ

どんな風に設定されているのか見もしないで李衣菜はボタンを押した。

奈緒と同じように一秒ほどで設定通りの見た目に変わる。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:41:54.69 ID:Chlg+FKO0<> 頭にはヘッドドレス、黒いブーツに過剰なまでにリボンやフリフリのフリルがついたゴスロリ。

頭のボルトは見えないし、右目は縫い合わされていないし、体中にある縫合の跡も消えている。そして恰好がかわいかった。

突然の事に思わず体を見まわしてしまう。そして3人の表情から大体の事を察した。

李衣菜「…奈緒、きらり。これはどういうこと?」

奈緒「は…反撃?」

李衣菜「まぁ…確かに奈緒にきらりが設定したのを使う様に言ったのは私だけどさぁー…」

夏樹「あー…なんだ、似合ってるぞ、だりー」

李衣菜「か、可愛い格好だとは思うけど…ロックじゃないよね?カッコいい格好の方が私だって嬉しいと思うし…ロックじゃないし…」

LP「まぁロックかどうかは個人の主観じゃないか?というかそろそろ出動予定時間だ。すまないが李衣菜はそのままの格好で出動してくれ」

李衣菜「えっ」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:42:45.68 ID:Chlg+FKO0<> LP「…D・クラッシャーの取り出しに手間取った俺の責任でもある、文句は好きなだけ言ってくれても構わない」

奈緒「り、李衣菜ゴメン…」

きらり「ごめんなさい…」

李衣菜「それじゃあ仕方ないですよ、諦めます。ハイ」

謝罪に李衣菜はため息を吐いてとりあえず納得した。ゴスロリとギターに似たハンマーという奇妙な組み合わせだ。

LP「すまない…。ああ、他の3人も起動してくれ」

夏樹「了解」ポチッ

奈緒「わかった!」ポチッ

きらり「はーい!」ポチッ

夏樹は黒いジャケットにサングラス。髪は降ろされ、腕や脚はもちろん普通の人間の物に擬態されている。

奈緒は黒いパーカーにメガネ。髪は纏めてポニーテールにしてある。異形も消え、ほぼ完全に人間に見えるだろう。

きらりは全力で小物がいっぱいのかわいい服装にしてあるが、色は合わせたのか黒っぽくして、髪形もおさげにしてある。

四人が並ぶと…黒、としか言いようがない印象になる。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:43:29.91 ID:Chlg+FKO0<> LP「…黒の組織かお前らは」

奈緒「LPさんがそう言って突っ込んでくるとは思ってなかったよ」

夏樹「…なぁ、ちょっとだけ時間貰っていいか?数秒で済ませるからさ」

LP「…夏樹なら問題ないか。いいぞ」

許可が出た瞬間、夏樹は李衣菜のデバイスに触れ、簡単な追加を加えた。

李衣菜に映像がもう一度投影される。殆どは変わらなかったが確かに変わっている箇所があった。

李衣菜「あ…ヘッドドレスがヘッドホンになってる」

夏樹「やっぱり、それがあればだりーには何でも似合うよ。だからその恰好も気にすんなって!」

李衣菜「…うん。ありがとう、なつきち」

奈緒(仲良いなぁ…)

きらり(なかよしさんねぇ〜) <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:46:06.83 ID:Chlg+FKO0<> LP「もう問題ないようだな。ではこれよりネバーディスペアという事は隠し、管理局の戦闘員として動いてもらう!」

LP「まずは既に連絡をしてあるアイドルヒーローたちと合流し、作戦などを合わせてくれ。敵はステルス機能を持った空中要塞をもっている。雨によってある程度の輪郭や場所はわかるが…逆に言えばそれだけだ」

LP「任務内容はもちろん、将軍の拘束及び無力化だ。また空中要塞の事は現場に一任するつもりだが、緊急事態があった場合は何をしても良い事にする」

LP「ああ、あとそのデバイスが破壊されればもちろん擬態は解ける。気を付けてくれ。身に着けていれば生体電流等で電池切れになることはない」

LP「以上だ、あとは任せたぞ…こちらからも情報が手に入り次第すぐに連絡をする。くれぐれも無茶はしないように」

「「「「了解!」」」」

黒色だらけのネバーディスペアが、雨の降る学園祭の建物の中に飛び出した。

夏樹「…拓海…いや、カミカゼが見破ってきそうだなぁ」

李衣菜「まぁ知り合いだしこの程度は見破れるでしょ」

奈緒「そうなったら空気を読んでもらうしかないか…」

きらり「だいじょーぶだいじょーぶ!きっとなんとかなるにぃ☆」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:47:27.10 ID:Chlg+FKO0<> ――ほぼ同時刻

『おかーさーん』『ままぁー』『ふぇぇ…』

白兎「…AMC、どうした。黒を探してるのか?」

『おばさーん』『そうだよー』『チャイナこわい』

白兎「おばっ…あぁん?」

『ひぃぃぃ!!』『だってママの姉妹だしぃー!!』『こわいこわいこわい…』

白兎「黙れ!お前らはどこから来て、黒に何を伝えたいんだ!!」

『裏山』『お空にメガネが』『山吹っ飛ばした』

白兎「…ああ、あのすごい衝撃の正体か。そして、この雨…ステルスでもばっちり位置がわかるな。…殺すか」

『メガネの気配ー』『えーでもママのところいこーよー』『またチャイナが出るぞー』『ひぃっ』『じゃ、じゃあいこー』

白兎「そーかそーか適当にやってろー」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:50:41.23 ID:Chlg+FKO0<> 白兎「…っ!!?」

AMCを適当に見送り、その後に光を暴走させようかと白兎が考えたその瞬間、懐かしく、そして恐ろしい者の気配を感じた。

『逃げろ』と『帰りたい』、真逆の事を本能が訴える。それを理性で無理やり抑えても、吐き気の様なものは止まらない。

奈緒だ。本来の居場所であり、帰るべきであろう場所。それがすぐ近くまで来ているのだ。

白兎は奈緒とそこまで触れ合う事も無かった。だからこそ、仁加や加蓮のように奈緒自身への耐性が無い。

白兎「ごほっごほっ…!!奈緒、来たのか…チッ、光の事は明日以降に見送りだ…!ムカつく、あの空でふんぞり返ってるんだろうなぁ犯人の野郎!!」

『どしたのー?』『わさわさー』

白兎「…AMC。黒は仁加の面倒見てるから今は近寄らない方がいいだろう。仲間、減ったんだろ?この辺りのカース仲間にしてこい」

『…そーだねー』『同志いっぱいにするー』『あっちいこー』 

白兎「…はぁ、今から何しようかね。ストレスでどうにかなりそうだ。…適当にボコるか。アタシのストレス発散のサンドバックになっておくれよ、雑魚共」

AMCに適当に手を振って、白兎は白い鳥に姿を変えてどこかへ飛び立った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:51:39.45 ID:Chlg+FKO0<> ――さらにほぼ同時刻

夕美「信じられない、絶対に許さない…」

菜々「お、落ち着いてください!」

夕美「この星の大精霊ちゃんもきっと悲しんでいるよ!!山も怒ってる!!殺すだけで許されると思わないでよっ!」

久々に怒りを露骨なまでに表す夕美を、菜々はなんとか落ち着かせようとするが、下手すれば今すぐ飛び出してこの辺り一面を植物に変えてしまいそうだった。

既に映像は送られているのだが、このままの夕美を控室に入れても空気が悪くなるだけだ。菜々は必死だった。

ふと、腰にしがみついていた菜々は夕美が涙を流していた事に気付いた。

夕美「…それに、私達のステージまで台無しにしたんだもん。ファンのみんな、喜んでくれると思ったのになぁ…」

菜々「…夕美ちゃん」 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:52:25.76 ID:Chlg+FKO0<> 夕美「悲しいよ…楽しい事いっぱいした後のライブだもん、すごく楽しいんだろうなぁ…って思ってたから」

菜々「そう、ですよね…ナナも悲しいです」

夕美「…やっぱり、一人で怒りに任せて強行突破は駄目だよね、被害が大きくなる可能性が高すぎるもん」

しょんぼりしつつ、落ち着いた夕美は菜々の手を解いて手を自分の手とつなぎなおす。

夕美「新人さんや拓海ちゃん達と一緒に、あの吸血鬼を倒そう!そして罪を償わせないとっ!」

菜々(…落ち着いたんですよね?大丈夫ですよね!?)

菜々「あ、あの!?夕美ちゃん具体的にはどうやって償わせるんですかねぇ!?」

夕美「もちろん、ナイショだよっ!」

菜々(嫌な予感しかしません…しかし今はこの学園の危機ですし…うーん…)

夕美の影が修羅の表情をしていたように見えたのは気のせいだと、菜々は今からも疲れそうな頭にごまかしの言葉をかけ続けた。 <> @設定
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:54:13.99 ID:Chlg+FKO0<> ・映像投射型擬態装置(ウサミン・変身デバイス)
ウサミン星の工作員がよく使っているらしいデバイス。
外見を自由に設定し、設定が完了したら決定ボタンを押すことで、立体映像が全身を覆うように投影される。
当然ながらインターフェース言語はウサミン星公用語なので、知らないとチンプンカンプンである。
立体映像は、頭から順にスーッと浸透するように投影される。展開完了までは1秒ほど。間違っても魔法少女の変身バンクみたいな変わり方はしないので悪しからず。
デバイス本体は生体バッテリーを使用しており、使用者の生体電気を利用して常に充電されている。
よって、使用者がデバイスを肌身離さず持っている限りバッテリー切れの心配はほぼない。
強い衝撃を受けるなどしてデバイスが破損、あるいは動作不良を起こした場合は強制解除される。
割と最近の技術らしく、菜々はどうやら別の手段で擬態しているらしい。
(説明文の殆どに雑談スレpart7のものをお借りしました)

・D・クラッシャー(ディスペア・クラッシャー)
李衣菜用に開発されていた鈍器系の武器。ギターとハンマーと斧を組み合わせたような特殊な形状をしている。
電気を纏わせたり、持ち手の長さを変えることが容易にできるので、戦略の幅が広がったと言える。音楽は演奏できない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/06/23(月) 23:58:06.84 ID:Chlg+FKO0<> 以上です
まだ他に動けるアイドルも居ますが、とりあえず確定している子達を動かしました感じ…かな?
名前だけ将軍、拓海、チャイナ、光、地球の大精霊をお借りしましたー

情報
・黒服のネバーディスペアが管理局の戦闘員という事とコードネームだけを名乗り、同盟などと共闘する模様
・奈緒が来て白兎のストレスがマッハ。誰かに適当にちょっかいをかけるかも
・激おこな夕美とちょっと胃が痛い菜々さんが控室に向かっています <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/24(火) 00:24:52.18 ID:YpJUWS7uO<> kwsm「仲がいいのにそれがいずれ嫉妬によって崩壊する姿っていいと思わない?わかるわね?」

乙ー

奈緒ちゃん素直になろうよ!
白兎のストレスがヤバイなw誰が八つ当たりされるのやら…
そして、夕美ちゃんおこなの?コレは将軍……うん。生存率が0以下だな… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:48:53.61 ID:dBjcNl2U0<>  ──京華学院上空

 数刻前に地面発った二宮飛鳥は、雨に浮かび上がるシルエットを目前にしていた。

 雨に濡れた衣服が肌にじっとりと張り付く。

 ぬめりのある不快感を伴うそれは、上空の低温に冷やされて飛鳥の体を蝕んでいた。

 影の鎧を纏おうにも、この上空では媒体となる影が存在していない。

 もう少し後先を考えて行動をするべきだったか、などと、地上でそれを行わなかった事に後悔を抱きつつも、しかし引き返そうとはしなかった。

 何故ならば───


 ───いや、特に理由など無い。

 なんとなくだ。


 しかし、運良く降った雨のおかげで対象が視認できるのは良いことだが、これだけではどうにも距離感が掴みづらい。

 そろそろ速度を緩めなければならないか、そう思いつき、体へかかる空気抵抗を強めさせ始めると…… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:50:25.38 ID:dBjcNl2U0<>  ごつん。


「────…………っ…、」

 額に何やら堅い物がぶつかった。

 予想外の衝撃であったそれは、備えをしていなかった体にしてみれば存外に痛々しいもので。

 結果、頭蓋に響いた鈍痛に、数秒ほど空中でうずくまる事になった。

「…っ、たぃ……………」

 脳みそが揺さぶられるような、鈍い衝撃が頭蓋の中を反響する。

 耐えようと歯を噛みしめるも、痛みそのものはどうしようもない。

 頭を抱えながら、痛みが過ぎ去るのを待つ他無かった。


「…、……本当に、後先を考えないとね……」

 瞳に滲んだ涙を拭いつつ、目的地との距離を測り損ねた結果、自分からぶつかったのだと理解した彼女は、思いがけずボヤキを漏らしていた。

 痛みを振り払おうとして頭を左右に振ると、なんだか悪化したような気がする。

「……やれやれ、幸先が悪いね……」

 また、ぼやいていた。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:51:22.66 ID:dBjcNl2U0<>  痛みが引いたのを頃合いに、細い指を雨露の這う何かへあてがった。

 柔らかい指の腹から感じた温度は、上空であること、雨に濡れていることを差し引いても冷たかった。

 爪を立てて表面を叩くと、くぐもった鈍い音と予想通りの硬質が爪を伝わった。

 金属だろうか、この大きさの?となれば、人工物と見るのが妥当か。

 工学迷彩とでも呼ぶべき物を搭載しているのか、間違ってもGDFでは無いだろうが、どれほどのテクノロジーを有しているのだろう。


 まあ、人外魔境が跳梁跋扈する現代、裏山を一つ焦土に変えるくらいさして珍しい力だとは思えないが。

「……どこか、入れる場所は無いのかな」

 建造物であるのなら、おそらくは。

 無機生命体であったり、無人運用されている可能性も無きにしもあらずだが、そこは追々考えていけばいいだろう。

 思い、雨にしかめた顔でシルエットを見上げた飛鳥は、翼を翻しどこか取り付く島を探し始めた。

 ついでに、鎧を生成出そうな影があれば嬉しい。

 再び意識すると、雨の冷たさが増して身に凍みるようだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:52:20.03 ID:dBjcNl2U0<> 「小石が飛んできたかと思えば、子蠅だったか」

 不意に嘲笑の声音が飛鳥の耳へ届く。

 誰が発したのか、どんな意味なのかを理解するよりも先に、膨大な熱量が飛鳥を狙い襲いかかった。

 呑気ながらも警戒はしていた体は、背筋を撫でる敵意を敏感に感じ取り、全身を打ち上げて回避行動をとっていた。

 膨大な光の奔流が紅を辺りに押し広げ、黒い翼の生えた少女を上空に照らし出す。

 低い気温を塗り替えるような熱量が、飛鳥の肢体へ叩きつけられた。

「くっ……」

 衝撃を受け流すように宙返りをし、体勢を立て直す。

 全身を軽く一瞥して身の安全を確認した後、内心ひやりとしながらもポーカーフェイスを保った顔を光線の飛来方向へ向けた。

「家畜の分際で審判の砲弾を交わすか、……おとなしく消え失せていれば良い物を」

 嫌みたらしい言葉を吐き出す、人工的なシルエットの巨大な人型。

 両肩より突き出した突起からは、魔力の残滓が硝煙のように吐き出されていた。

「……よかった、言葉は通じるみたいだ」

 高慢で鼻につく態度に、飛鳥は眉をひそませるよりも先に口端を吊り上げる。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:53:27.45 ID:dBjcNl2U0<> 「いやいや、本当に丁度いい、少し困っていてね」

 おそらくは、地上に向けて砲撃を放った張本人なのであろう。

 可能性を脳の片隅で認識しつつも、その相手にから肌に突き刺さる殺意を気にも留めず、飛鳥は飄々とした態度を崩さない。

 秒毎に憎たらしさを増していくそれは、将軍にとってひどく忌々しい物であったのだろう。

 直接顔が見えないのをいいことに、飛鳥は悠々と言葉を続けた。

「見たら理解ると思うんだけど、ひどく濡れてしまってね」

 手を広げたり、くるくると回転してみたり、身振り手振りでずぶ濡れの衣服を強調する。

 全身に張り付く髪と服。少女なりの色気は、多少なりとも興味の対象足りうる物であったかも知れないが、その表情と───何より瞳。

 こちらを見ているようで、見ていないようなそれは、将軍からしてその興味を打ち消す程度には気に食わない物だった。

「どうか小娘一人ぐらい、雨宿りさせてはくれないかな?」

 心にも無いことだ。興味本位で、あわよくば妙なカースの源を───例えば、殺すなどして奪い取れれば僥倖かと思って来たのだ。

 嫌みな口調に対する彼女流の挨拶のようなもの。

 実のない言葉は、飛鳥には話し合う気が無いことの表れでもある。

 人がごまんと居る地上へ攻撃を行う輩など、多分死んでしまっても問題はないだろうから。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/06/24(火) 18:54:23.81 ID:dBjcNl2U0<> 「フン!貴様ら家畜の踏む場所など、このブラムには存在せん!」

「この野望の鎧の最初の犠牲者となるがいいわ!!」

 無感情な殺意と憎たらしい笑み。

 その腹の内を知ってか知らずか、将軍はでたらめの要望に審判の砲弾で応えて見せた。

 左肩から伸びる砲身に紅の光が収束していき、最大の四分の一ほどの充填率を示した魔力の光線が吐き出される。

 地上を砲撃した時よりも大分細い光軸は、それでも人間を一人殺すくらい造作もない。

 一点に定められた思惟を読み取った飛鳥は、前方へ飛び出しつつ紅の線の真下へ潜り込んだ。

「ぬ……!」

 将軍は飛鳥を目で追おうとするが、視線を光線に遮られ、そこにいるはずの飛鳥を捉えることができない。

 相手の動向を見つつ、右肩による併差射撃を行う腹積もりであったが、これではそうもいかない。

 家畜が、小賢しいことをする。

 頭に熱が上るのを感じつつ、内心に吐き捨てた将軍は乱暴に右肩の魔力砲を一射するも、粗雑な狙いの射撃など空中に躍る敵に当たるはずもない。

 迸った熱量は、敵を掠めてブラムの船体を赤熱させるのに終始し、着弾点から紅い光輪が爆ぜる。 

 背後から来る衝撃波を振り切った飛鳥が、左側へ飛び出す。同時に翼をもぎ取るような動作をすると、そこから影の得物を取り出した。

 事前に翼と一体化させていた物を、剣として削りだしたのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 18:55:39.12 ID:dBjcNl2U0<>  左手の視界の端に捉えた敵を見失う前に、刃を振りかざして突進したのは、将軍も同時。

 機動力で勝る飛鳥にとって、鉄巨人の一振りを避けるのはそう難しいことではない。

 体を速度を乗せて上昇させると、足元を断罪の刃が通り過ぎぬ内に野望の鎧の頭部へ急降下をかける。

 速度に落下のエネルギーを加えた影の刃が、紅の兜へ振り下ろされ、高々と金属音が打ち奏でられた。

「…………っ」

 火花をあげて弾き返された刃から、骨に衝撃が伝わる。前腕が短い悲鳴を上げ、意識しない内に奥歯を噛みしめていた。

 やはり通らないか。

 元よりこの能力は貫通力に優れた物ではない。
 少なくとも、コンクリートや有機物を引き裂くならまだしも、装甲と呼べるレベルまでに高められたそれを斬り裂けるほどでは。

 背後へ通り抜けつつ憎々しげに舌打ちを鳴らした後、突破口を探した視線を装甲の表面に走らせていると、「その程度か?」と高慢に嘲るような声が飛鳥を射止めた。

「まだまだこんな物では無いぞ!我が野望の鎧はぁ!!」

 雨を弾き飛ばして回転した巨人が、その勢いを乗せた剣閃を飛鳥へ振りかざす。

 速度は先の比ではなく、なる程本気を出したのであろう事を感じさせ、もし一瞬反応が遅れていたならば真っ二つにされていただろう。

 宙返りで刃のすれすれを回避した飛鳥の足下で、突風と重く空を切る音が鳴り、何に当たるでもなくその威力を示した。

 射程内で遊んでいていい相手ではない。

 そう断じた飛鳥は、体を将軍に正対させながら距離をとろうとするが、次いで放たれた返しの刃がそれを許さない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 18:57:10.44 ID:dBjcNl2U0<> 「速……!?」

 いつの間にか目前まで突進してきていたシルエットに、気圧された飛鳥の神経がきゅっと萎縮して、悠然とした思考へ冷や水がかけられた。

 その刃は、一度思い切り振り抜かれたものとは思えないほど早い。

 電撃的に追撃をかけた巨体が、飛鳥の視界を目一杯に覆っていた。

「フハハ!!貴様如き、結界を使うまでもないわぁ!!!」

 火花を散らして追いすがる将軍の剣閃が、空中を無数に斬り刻む。

 対する飛鳥はぎょっと目を見開いたのも束の間、平静を取り戻して次の手を探っていた。

 というのも、そもそも倒す必要性が無い。

 攻撃をするにも、生憎あの装甲を貫く手立ては無い。
 この巨人の声の主が人間ならば中身だけを殺害する事もできなくはないが、単独ではとてもじゃないが。

 そもそもこの相手、一人でどうこうできるものではない。

 先の砲撃にしても、今の剣にしても、表情こそ変えていないが実のところかなり危ない橋を渡っている。

 このままの回避がいつまで続くとも知れず、次の瞬間に絶命している可能性も無きにしもあらず。

 ただ、このまま尻尾を巻いて帰るというのも癪だ。

 せめて何か残しておきたいが………

 と、こんな事をぐるぐると考えている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 18:58:05.86 ID:dBjcNl2U0<>  が、一つだけはっきりしていることがある。

 ──自分はこんな物に殺されるつもりはない。

 ボクを殺してくれるのなら、もっと───


「………あ」

「そこだぁ!!」

 ふと耳をつついた気合いと、視界にぎらついた剣先が浮遊していた思考を目の前の剣戟へ引き戻す。


 しまった。


 ふと気の弛んだ一瞬のうちに、実力か偶然か、いやに鋭い一撃が飛鳥を狙い据えた。

 雑念が弾け飛び、冷や汗が流れ出るのも一瞬、こめかみを敵意が貫いていく。

 為すすべもなく、直後襲いかかる刃に骨も柔肌と同等に引き裂かれて絶命する少女───

 脳裏に幻視した映像は、おぞましい悪寒を伴って神経を駆け抜け、吹き飛びかけた意識を傍らを抜ける風が引き戻した。

 生きてる。意識の糸を手繰り寄せてそう理解するも、飛鳥にそれを噛み締める時間は与えられなかった。

 「ふん!」と、短い掛け声が聞こえたかと思えば、空中でバランスを崩した飛鳥へ鉄の拳が打ち込まれた。

 理解するよりも速く動いた翼が、その場から離脱しようと試みるもすでに遅かった。一瞬全身が千切れ飛んだような激震が飛鳥を見舞い、骨が叫び声を上げて思考を激痛の一色に塗り潰す。

 まともに衝撃を受けた体が呻き声を残して船体の外へ弾き飛ばれると、将軍は口元を歪めて両肩の砲身を起動した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 18:58:46.60 ID:dBjcNl2U0<>  剣戟の内にチャージを完了させていた審判の砲弾が、膨れ上がった紅い燐光を二つ分顕現させると、上空が仄かに色付く。

「フハハハハハ!!」

 これで終わりだ。

 高笑いの内に確信を我が物とした吸血鬼が、砲身の射線を調整したのも束の間、指向性を持って解放された紅い閃光が吐き出され、雨空を飲み込んで進んでいく。

 触れずともその熱量だけで雨を蒸散させる魔力の光。何もない空間で交差するように放たれた二つそれは、少女の体には不釣り合いな威力を示しだした。

 きりもみする体を翻し体勢を整えた飛鳥が、苦悶の表情を振り払って最初に見た物は、紅の一色に染まった世界だった──── <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 18:59:37.69 ID:dBjcNl2U0<>  交差した先で干渉し合った光線がスパークすると、地上を焼いたのと同質の力が、雨の降る曇天に巨大な爆輪を咲かせた。

 大気を激震させる爆発音と衝撃波が無差別に叩きつけられ、空中に鎮座するブラムの船体をガタガタと揺らす。

 世界から音が消える。足元から鳴っているはずの駆動音もすべて爆音に吹き飛ばされて、全身が雄叫びのようなそれに包まれて、将軍は一瞬顔を強ばらせた。

 が、開けた瞳に紅の空を見ると、途端に体からふつふつと湧き上がる感情があった。

 優越感と自己陶酔。

 独り善がりなそれに身を浸して、自ら生み出した暴力の余韻を五感で読み取り、不適な笑みでそれを享受した。

「我に逆らおうなどと、身の程を弁えておけば良い物を」

 爆風が収まるのを待って呟かれた声音は、高慢に満ち満ちていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……とか、言ってるんだろうなぁ」


 果たして、存外無事そうな二宮飛鳥は、ため息混じりにぼやいた。

 落ちながら。

 トリックは───トリックと言うほどのこともない。

 審判の砲弾が爆発するより、飛鳥が体勢を立て直して降下する方が早かったというだけの話。

 もっとも、爆風に煽られてまともな滑空ができていないし、飛散した熱に衣服の端を焼かれたのも事実であるが。

 お気に入りの一張羅を台無しにされたのもそうだし、情けなく敗走したのもそうだし、何ともやるせないというのが正直なところであった。

 空回りをして行き場をなくした興奮が、宙に浮いて胸に滞留する感覚がひどく気に入らない。

 適当なところで発散してやろうとも考えたが、一度気勢を殺がれた衝動はどうにも発散しきれる物ではないと思い当たると、やりきれない思いが体を弛緩させた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 19:00:18.11 ID:dBjcNl2U0<> 「……さて、と………」

 一つ頭を切り替え、地面へ向けられていた頭部を上空に振り上げて着地に備えると、血の気の引いた視界にノイズが走り、同じくした脳を浮遊感が苛む。

 眉間にしわを寄せてそれを噛み殺すと、眼下には予想外に迫っていた地上。

 慌てて翼に揚力を受けさせると、急制動の圧力がぐんと全身に圧しかけた。

 これからどうしてくれようか。

 さて、気勢を殺がれはしたが、このままで終わるつもりがないのも事実。

 奇妙なカースの反応もあることだし、放っておくにはもったいない。

 顎に手を当てて思案を巡らせつつ、学園祭の景色に視線を走らせているとアイドルヒーロー、RISAによるステージが行われるはずだった会場に目が止まった。

 アイドルヒーロー同盟。

 当然、彼等もこの事態へ対処するのだろう。

 場所が場所だ。事態が事態だ。宣伝効果も大きい。
 或いは、新人の顔見せなどには恰好の場所なのかも知れない。

 ヒーローが徒党を組んで立ち向かえば、あの巨人にも───犠牲が出ない保障はないが、多分負けはないだろう。

 アイドルヒーロー同盟と言えば、先程カミカゼと交戦したばかりだ。
 あまり会いたくない。次闘えば勝てる気がしないから。

 もっとも、先程闘い続けていても負けていただろうが。

 思わせぶりな事も言ってしまったし、半日経たずの再会というのも─── <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 19:01:02.01 ID:dBjcNl2U0<> 「──いいかもね、それ」

 ひとりでに悪い顔をして、くつくつと喉を鳴らす。

 例えば。

 善良で勇敢な正義感溢るる一市民としてなら、協力しても問題は無いだろう。

 たかがカースの反応一個、土壇場で持ち去ったとてなんの問題があろうか。

 そうとなれば話は早い。

 身を水平を構えた飛鳥が、するりと地上へ滑っていく。

 アイドルへ接触を試みるその顔は、控えめに見ても善人のそれではなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/06/24(火) 19:03:22.42 ID:dBjcNl2U0<> ※飛鳥がアイドルヒーロー同盟、もとい将軍に対抗する組織へコンタクトを試みました。

※野望の核は持ち逃げする気マンマン



将軍、RISA、カミカゼお借りしました。 <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/24(火) 19:54:17.16 ID:Kf70YrNYO<> 乙ー

見えない+硬い+再生持ち+高火力ビーム=厄介
これは一筋縄ではいかないな。鎧のおかげで流水でも動きはいいみたいだし、流石腐っても家畜派のリーダーやな

そして、飛鳥ちゃん悪い顔するなー。果たしてどうなるやら <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/24(火) 20:02:11.39 ID:zcoYKZ3M0<> 乙ですー
巨大ロボ相手に影使いが空中戦したらそうなるわなー…
飛鳥ちゃん企むなー、拓海にちょっと顔見られてるけど大丈夫なのか <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:55:23.45 ID:OAIarRD7O<> >>455

乙ですー。白兎はパップとkwsmさんで胃痛同盟を作ろう(提案)

>>470
飛鳥ちゃんから漂う良からぬ企みの匂い。どう動くか楽しみだ。

投下します。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:56:06.52 ID:OAIarRD7O<>
「まったく……信じられないわね」

控室のソファに座り、テーブルの上に足をのせて不機嫌そうに眉値を寄せる。

財前時子ことバアル・ペオル、もといアイドルヒーロー「レポ・クラリア」は苛立たしげに言葉をはいた。

「私の晴れ舞台の邪魔をしてくれるとは……」

自分のアイドルとしての初仕事を邪魔されバアル・ペオルはとても腹をたてていた。

「本当よね。どこの馬鹿がこんなことを……」

隣に座る少女、梨沙もそれに同調する。あまり相性のよくなさそうな二人だがこの時だけは意見が一致した。

苛立たしげに窓の外をにらみ、怒りを込めた口調で、時子は静かに言った。

「私の舞台の邪魔をした報いは盛大に受けてもらわないと気がすまないわ……苦しんで苦しんで苦しみ抜いた末に、死んだほうがましだと思うほどの苦痛を全身に味会わせてやるんだから」

それを聞いたパップは「とてもアイドルヒーローの口から出た言葉じゃねぇな」と言った。

「もう時子はアイドルヒーローなんだから、ちゃんと自覚を持てよな」

パップや梨沙には「財前時子」という仮の名前を教えていた。

「はいはい、解ってるわよ」

と、解ってるのか解ってないのか、曖昧な返事をする。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:56:58.70 ID:OAIarRD7O<> 「……それにしても」

ソファの上で大きく延びをしながら言った。

「退屈ねぇ」

ライブは中止、中止にした元凶を倒しにいこうにも他のアイドルヒーローがまだ到着していないからそれも出来ない。

「なにもしないでただ待つのは面倒臭くて嫌いよ」

「仕方ないだろ、もう少し待ってろよ」

しかし元々怠惰の悪魔である時子はその「待つ」という行為がとても嫌いなのである。物事、人、時が来るのを予期し、願い望みながら、それまでの時間を過ごす。待つだけこの時間が、待つだけでなにもしないのが、面倒くさくて嫌で堪らなかった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:57:33.23 ID:OAIarRD7O<> 「………」

足をテーブルから下ろし、ゆっくりと立ち上がる。

「ちょっと出掛けてくるわね」

「え?」

「は?」

「集合したらすぐに戻ってくるわよ」

「ちょ、時子?!」

それを間近で聞いたパップと梨沙。時子のいた場所を見たときにはすでにそこには誰もいなかった。

「あ、あいつ自己中すぎでしょ!」

しかしそんな言葉は悪魔のもとには届かないのだった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:59:15.60 ID:OAIarRD7O<> 「……ふぅん、随分派手にやってくれたのねぇ」

外に出た時子。巨大なクレーターのできた裏山を眺めながら、呟く。あの裏山は時子がパップにスカウトされた場所なのだが、別になんの感慨も沸いてこない。過去にすぎたことに興味は持たない。

「さて……別にすぐにでもいってもいいのだけど」

上空に目線を移す。そこにはぽっかりと穴の空いた雲があった。そこには確かに「何か」があった。

「直ぐに倒すのはつまらないわよねぇ」

パップとの約束は一応守るようだ。他のアイドルが到着するまで待つらしい。しかしただ待つだけなのは嫌だ。

「ふふふ、暇潰しにはなるわよねぇ」

この学園にはパップやアイドルヒーローの他にも人外の気配を感じていた。その中には良からぬ気を含んだものもある。

さらに周囲には大量のカースの群れ。それらをみて不適に笑うアイドルヒーロー「レポ・クラリア」。

「私は「アイドルヒーロー」……くくく、家畜たちの「秩序」を守ってあげることにしましょうか」

そう言うと同時に翼を展開し空へと舞う。

<>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 22:59:57.23 ID:OAIarRD7O<> 眼下には逃げ惑う人々、そして暴れまわるカース。

眼下からそれらを見下ろし、その顔の笑みをいっそう強く歪ませた。

それと同時に、背後に五つ、魔方陣を展開。レポ・クラリアの特性により、彼女は詠唱なしで強力な魔術を発動できる。

そして、五つの魔方陣から一斉に魔術を放った。

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド!!!

と、轟音をたてながらカースを蹴散らす。光線のように放たれた魔翌力はカースの体を構成する泥を突き破り、露出した核を正確に撃ち抜き、カースを再起不能にしていく。

一般人には当たらない、しかしカースは倒れていくのだった。

「ふはははははは!つまらない、つまらないわねぇ!もっと抵抗してみなさいよ愚物共ぉ!」

やってることはヒーローかもしれない。しかし言ってることと光景はとてもヒーローのものではないのだった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:01:45.40 ID:OAIarRD7O<> ―――――――

時子が暇潰しを始めた同時刻。

学園内は連続しておきた事件でパニックになっていた。

ひとつは上空に現れた姿の見えない侵略者。

そしてもうひとつは、これまた突如現れたカースの群れであった。

「ムダムダムダムダァ!!」

「オレカラノファンサービスダァ!!ウケトレエェ!!」

「ンネッケツシドウダァ!!!」

暴れまわるカース、そしてそのカースから逃げ回る人々でごった返していた。
<>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:02:44.00 ID:OAIarRD7O<> 混乱と暴虐が渦巻く最中。

「はぁ!」

服部瞳子ことエンジェリックファイアの放つ灼熱の炎がカースを焼く。ジリジリと表面の泥がやきつくされると、追撃を放つ。それが核にぶつかると、カースはバラバラに砕け散った。

しかし、一体倒したと思ったのもつかの間。

「マダマダァ!ンネッケツシドウダァ!!!」

エンジェリックファイアのすぐ背後にカースが急接近した。

「しまっ……」

エンジェリックファイアが振り向こうとした瞬間。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:05:46.76 ID:OAIarRD7O<> 「?!」

「……?」

カースが突如動きを止めた。

なぜカースが突如動きを止めたのか、その理由を探すため目線を動かす。

そして、カースの後方に二人の人間と、二匹の小さな生き物がいるのが見えた。男の方は筋骨隆々で、そして肩にその小さな生き物を乗せて立っていた。肩の小さな生き物は何か念を送っているらしい。そう、マルメターノおじさんとぷちどるのかわしまさんである。カースの動きが止まったのはかわしまさんのお陰のようだ。

もう一人は、頭の上にぷちどるを乗せた、エンジェリックファイアよりは年下だろう女性だった。ぷちどるは顔になぜかどや顔、そして女性はどや顔のぷちどるとは対照的に苦虫でも噛み潰した顔をしていた。

そして、二人は止まったカースの真横を通り、エンジェリックファイアの真横にたった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:07:40.42 ID:OAIarRD7O<> 近づいてきた二人に、とりあえず礼を言うエンジェリックファイア。

「ありがとう、助けてくれて」

「あんたを助けてくれたのは俺じゃなくてこの子だよ」

頭上のかわしまさんを指差す。

エンジェリックファイアはかわしまさんにも礼を言う。

「わ、わかるわ///」

かわしまさんはちょっと照れたように顔を赤くした。

そしてその隣に立つ頭の上にぷちどるをのせた女性に目を向けた。

その女性の頭の上に乗るぷちどるは、女性の頭をぺしぺし叩く。

「ふふーん!」

なぜか小さな生き物は誇らしげである。

「あーもう!アタシの頭を叩くな!鬱陶しい!」

そしてこの二人(?)がこのやり取りをしている間に。

かわしまさんの能力が切れてしまったらしい。再びこちらへ向かってくるカース。

<>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:09:08.72 ID:OAIarRD7O<> 「ンネッケツシドオオオオオオ!」

「二人とも来るぞ!」

男がエンジェリックファイアに声をかけると同時に、カースに飛びかかる。

続いて女性も、渋面をとき表情を引き締めて、カースに向けて跳躍した。

「!」

それを見て弾かれたようにエンジェリックファイアもカースに接近。

まず、マルメターノおじさんの黄金に輝く螺旋を纏った右腕で、カースの体を殴る。光輝く螺旋がカースの体を構成する泥を抉る。

続けてエンジェリックファイアの炎の大鎌が抉られた場所に降り下ろされる。泥が焦げ付き削ぎ落とされると、カースの心臓である核が見えた。

最後に女性が露出したカースの核に蹴りをいれた。それも一発ではない、眼に見えない早さで、何度も何度も連続で蹴りこむ。そしてとうとう核が限界を迎え砕けた。泥が流れ、カースの体は崩れ去った。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:10:11.72 ID:OAIarRD7O<> 「ありがとう!」

エンジェリックファイアは男に礼を言う。

「どういたしまして!だがまだまだ来るぞ!」

みればカースが群れをなして雪崩れ込んでくる。

しかしエンジェリックファイア達が戦っている間に、一般人達は逃げたようだ。

「くそっ……折角の学園祭だってのに散々だな」

「全くね。他にも厄介な敵が来てるみたいだし」

ちらりと裏山に目をやる。そこにできたクレーターはついさきほど出来たものである。

そして先程から気になっていた女性に目を向けた。

「ドヤァ!」

「……」

頭にのせた小さな生き物は満面に笑みを浮かべ、そして対照的に女性は嫌そうな顔、というか恥ずかしそうな顔ををしている。その光景に強いギャップを感じるエンジェリックファイア。

取りあえず頭上の小さな生き物について聞いてみた。

「……えーっと、貴女の頭のその生き物」

しかしその質問に被せるように女性が先回りして口を開いた。

「アタシはアヤだ。このチビについてはなんにも聞くな」 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:11:43.17 ID:OAIarRD7O<> よほど聞かれたくないのか、アヤと名乗るその女性はささっと自分の自己紹介だけして頭のぷちどるについてはぐらかした。気のせいか顔の赤さが増した気がした。

はぐらかされた事が不満なのか、小さな生き物はアヤの頭をぺちぺちと叩く。

「あーもう!だから叩くな!」

「ふーん!」

ぷちどると口論になりかけるが。

「おい来るぞ!」

そこでカースの攻撃が飛んできた。

「レディースエーンジェントルメーン!」

「イマカラミナサンニタノシイギャクサツショーヲオミセシマース!」

それを避ける瞳子達。カースはまだまだ出てくる。終戦はいつになるやら、エンジェリックファイアには検討もつかなかった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:12:33.03 ID:OAIarRD7O<> ――――――

(くそ、こんなことしてる場合じゃねぇのに……)

カースの攻撃を避けながら、アヤは苛立たしげに唇を噛んだ。

安全な場所に着地しつつ、思考を続ける。

(はやく大石泉を見つけ出さねえと)

そう、彼女がこの場にいるのは、未来からの反逆者、大石泉を捉えるためである。これだけ大きなイベントだから、もしかしたら大石泉がどこかにいるかもしれないと考えたのだが……。

頭のぷちどるに目を写した。

(うぅ……可愛いからってこいつと遊んでたらカースが出てきて……)

(散々だ……)

そんなアヤの考えを知ってか知らずか、頭の上のぷちどるは不思議そうに首をかしげる。

「ふふーん?」

どうやらアヤがなにやら落ち込んでいるのに気づいたらしい。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:13:41.83 ID:OAIarRD7O<> 「……なんでもねぇよ。つか降りろ!」

「……」

と、ぷちどるはアヤの体から動き、胸の辺りへと移動した。

「お、おい……?」

「……どやぁ」

小さな手でアヤの衣服を握り、アヤを見上げるその目には涙が貯まっていた。

「うっ………」

そう。最初もそうだったのだ。一人で寂しそうにしていたこの生き物が、小さく体を震わせて今にも泣き出しそうにしていたこの生き物が、とても哀れに見えた。

ついつい、ぷちどるの遊び相手になってやって、マルメターノおじさんのソーセージ屋台でソーセージまで買って食べさせてやった。そうして気がついたら、短時間でこんなにもなつかれてしまったのである。

そうしてしばらく戯れているうちにカースが現れ、そして自分に襲いかかってくるカースを倒していると言うわけである。

といっても、戦う理由はこのぷちどるが離れてくれないのもあるが。

「……あーわかったよ!振り落とされないように捕まってろよ!」

「!ふふーん!」

それを聞いたとたん、表情が明るくなり、今度は肩の上に移動した。

「……ふん」

顔の真横にあるぷちどる、さっちゃんの顔を見、捕まってるのを確認したあと、アヤはカースの群れへと飛び込んでいった。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:15:15.76 ID:OAIarRD7O<> さっちゃん
輿水幸子に似たぷちどる。よくどや顔をする。かまってあげると喜ぶが、無視されると悲しそうにする。 <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/24(火) 23:17:04.32 ID:OAIarRD7O<> ここまで。

イベント情報
・時子さまが暇潰しにカース退治をしています。気まぐれで悪そうなやつに襲いかかるかもしれません。
・アヤとマルメターノおじさんがエンジェリックファイアと共にカース退治をしています。

瞳子さんお借りしました。お目汚し失礼しました。 <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/24(火) 23:36:54.52 ID:Kf70YrNYO<> 乙ー

うん。知ってた(パップの心を代弁)

そして、なんだかんだで優しいアヤに和んだ。さっちゃんカワイイ
照れてるかわしまさんもカワイイな <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/25(水) 00:06:57.21 ID:8aYnLu3g0<> 乙ですー
時子様はお暇が嫌い
さっちゃん&アヤちゃんとかなにこれ天使? <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:44:04.69 ID:rgXaRrSY0<> 皆様乙乙したー
将軍の追い詰められっぷりが地味に半端ないね、うん

投下しm@s <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:45:17.29 ID:rgXaRrSY0<> それは、まだカイが地上へ派遣される前の話。

マキノ「…………」

マキノが一人で、深夜の海皇宮の見回りをしていた。

時刻にして午前2時、そろそろエマが交代にやってくる時間である。

マキノが時計から目を離し前を向くと、後ろから足音が聞こえてきた。

カツッカツッカツッと、やや早足だ。

マキノ「……そんなに急ぐ必要は無いわ、エマ……」

マキノが振り向くと、そこに立っていたのはエマではなかった。

カイ「お疲れー、マキノ」

マキノ「カイ……? 今日はエマと交代のはずだったけれど」

カイ「うん、それなんだけどね。エマに代わってくれって頼まれたんだ。明日朝から大事な用が入ったらしくて」

マキノ「そう。ならいいわ」

マキノは軽くため息を吐いて、記録用のノートとペンをカイに手渡す。

カイ「はい、引継ぎました……っと。にしても、エマの大事な用って何だろうね?」

マキノ「さあ? 気になるなら本人に訊いてはどうかしら」

マキノはカイに振り向く事なく、自室へ向かって淡々と歩を進めて行った。

カイ「連れないなあ」

カイはわざとらしく頬を膨らませてみせ、マキノに代わって見回りを開始した。

カイ「…………あっ、そういえば今日って……」

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:46:08.94 ID:rgXaRrSY0<> ――――
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――――――――――――

翌朝、海底都市第五地区の墓地。

そこに、荷物を提げたエマの姿があった。

やがて、一つの墓標の前で足を止める。

エマ「……えへへっ、久しぶりだね、母ちゃん」

そこにエマの母、ケイは居ない。

在るのは、ケイの墓標だけだ。

ゆっくりと腰掛け、花を添えて手を合わせる。

エマ「……ねえねえ母ちゃん、今日が何の日か覚えてる?」

物言わぬ墓標へ、エマは話しかけ続けた。

エマ「……そっ、アタシの誕生日。今日で幾つになるんだっけ…………あははっ、忘れちゃった!」

笑い声を上げたエマは、直後に慌てて口を塞いだ。

ここが墓地だと、すっかり忘れていたのだ。

エマ「…………アタシね、母ちゃんに代わって親衛隊頑張ってるよ」

エマ「みんないい人でさ。……サヤはたまに訓練サボろうとしたりするけど」

エマ「えーっとそれからね……」

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:47:20.52 ID:rgXaRrSY0<> ――――
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エマの母、ケイ。

かつて海皇親衛隊の一員であり、戦闘外殻アビスマイルの装着者だった女性だ。

優しく聡明で、常に落ち着いた笑顔を絶やさない。

その美貌も合間って、彼女を慕う人物は多かった。

ある同僚が云うには。

『ああ、時々菓子を焼いてきてくれてたが……本当に美味かったぜ、あれは』

ある兵士が云うには。

『ケイ様は素晴らしいお方だ。私なぞ何度訓練で助けられたか……』

ある兵士が云うには。

『我々が目標とすべきは、ケイ様のような方なのだろうな。……まあ、偶にフラリと地上へ遊びに行かれるのが問題か』

ケイ唯一の悪癖、地上への放浪である。

思いついたように海底都市を離れては、またフラリと戻ってくる。

そして地上で会った友人の事を、同僚や娘のエマに話すのだった。

先代の海皇が云うには。

『……今思えば、ケイの土産話はマリナ脱走の遠因になっていたのかも知れん……』

……まあ、そういった点を除けば、誰からも信頼される優秀な人物だった。

――――――――――――
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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:48:18.06 ID:rgXaRrSY0<> ――――
――――――――
――――――――――――

そんな彼女が詳細不明の謎の病でこの世を去ったのは、わずか半年ほど前の事だった。

エマ「……って、そんな感じかな? 母ちゃんがいなくなっちゃった穴は頑張って埋めるからさ、安心してよ」

エマ「……じゃ、今日も仕事あるからさ、そろそろ行くね」

エマは荷物を手に立ち上がり、墓地を後にしようとした。

エマ「……あ、そうだ。誕生日プレゼントだけどさ」

その途中で思い出したように振り向き……

エマ「アタシが一人前になるまで、見守っててくれると嬉しいかなっ! ……えへへ、そんじゃ!」

ケイの墓標へ満面の笑みを見せ、改めて墓地を後にした。

ちなみにエマはこの後、誕生日と知った同僚達からクラッカーの集中砲火を食らう事となった。

終わり
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/06/27(金) 01:50:03.85 ID:rgXaRrSY0<> 以上です
書いてるうちになんだか誕生日らしからぬ雰囲気になっちゃったけど、
これも全てゴルゴム所属の乾巧ってヤツが変身するディケイドの仕業なんだ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/27(金) 07:55:10.51 ID:eC4JSTCX0<> 乙です
な、なんだってそれは…ん?

誕生日らしからぬ雰囲気?…た、誕生日はそのキャラにスポットを当てる日だから…(震え声) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/27(金) 12:08:07.86 ID:drqZRXE30<> 乙ー

なんだって!それは本当かい!?
エマ誕生日おめでとー

学園祭二日目で投下しますー
<>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:09:49.44 ID:drqZRXE30<> 梨沙「もう!なんなのよ!アイツ!!!!」

『ぶもぶも』

控え室にそんな苛立ちの声が響き渡った。

そんな梨沙に対し、コアさんは落ち着かせるように梨沙の足をペチペチ叩いている。

パップ「まあ、なんとなく予想はついてたし、そう怒鳴るな」

頭を軽くかきながら、パップはそう答える。

一応、彼女の正体が≪悪魔≫っていうのは知ってる。それもかなりの高位のもので、言動からしてこういう縛られるのが嫌いなのを知ってる彼にとっては予想の範囲ではあった。

まあ、バアル・ペオルと名乗っていたからでもあるが、彼の腰にある人形から聞いたからでもあるが。

よく、それを知っててスカウトしたな…

パップ(後で時子には本名を名乗らないよう口出ししとくか……まあ、無駄になるんだろうけどな…。まあ、楽しんで輝いてくれればいいか。それが彼女の魅力だし、きっと、いい影響にもなるだろうしな。俺の苦労が増えるだろうが)

そう心の中で苦笑いする。プロデューサーとして彼はアイドルヒーローが美しく輝くところを多くの人に見せる事を望んでいるからこそ、彼女の自由にさせることを望んだ。まあ、止める時は止めるが。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:11:17.03 ID:drqZRXE30<> 梨沙「こうなったら私も勝手に行動して…」

パップ「おいおい…梨沙まで行ったら後から来る連中が困るだろ?飴やるから機嫌直せ」

梨沙「ちょっと、撫でないでよ!このヘンタイ!ロリコン!」

行こうとする梨沙の頭を落ち着かせるように撫でながらポケットから飴をとりだすパップに対し、彼女はいつものように罵った。

パップ「はっはっはっはっはっ!それだけ、元気あるなら大丈夫だな!」

そう笑いながら、飴を梨沙に渡すと彼は部屋のドアに手をかけようと動く。

パップ「さて、じゃあ俺は白熊Pの所に戻るぞ。さっき、クールPから連絡があって、新人の子が向かってるみたいだし、菜々さんと夕美ももうすぐここに来るそうだ。拓海と爛も連絡つきしだい来るからおとなしくまってろよ?それと管理局から戦闘員が来るみたいだから、北条さんのことは言うなよ?」

梨沙「……わかったわよ」

『ブモッ!』

ちょっと不服そうにしながら貰った飴を口に含み、椅子に座った。

コアさんは「まあ、梨沙は俺が面倒見るから仕事頑張れ」と言ってるように鳴いた。

パップ「それと他のヒーローや管理局の人と仲良くしろよ?子供なんだから友達も作ってもバチは当たらないしな。ヒーローとか関係なく、普通の子供としてな。ただでさえ、友達少ないんだしな」

梨沙「だ、誰が友達いないよ!アタシはパパだけいればいいのよ!」

梨沙の慌てたような抗議の声に対し、パップは苦笑いしながら部屋を出た。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:12:14.62 ID:drqZRXE30<> パップ(……本当に子供らしく、生きて欲しいんだよな)

梨沙の素性を知っているパップはそう心から願っていた。

父親に振り向いてもらおうと必死で頑張ってるのに、愛情ももらえず、道具としか見てもらえず。
母親からも同じようにしか見てもらえてない。
積もるのは加蓮への憎しみだけ。

だから、せめて友達を作り、普通の子供のようにすごしてほしい。梨沙の監視をしてる彼は、観察対象としてではなく実の子供のように梨沙を見守っているのだ。

パップ「……本当に俺は最悪だな」

それを知ってて、梨沙を監視している。無理矢理でも梨沙を連れて逃げ出せばいい。

だが、彼はそれができない。それが仕事であり、死にかけていた自分を助けてもらった恩があるのだから。

パップ「さて、気を取り直して仕事だ」

サングラスをクイッとあげ、彼は早足で歩いていく。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:13:21.64 ID:drqZRXE30<> 一方、場所が変わり爛とアザゼルが戦ってる屋上………とは別の屋上。

そこに四人の人影がいた。

ほたる「巴ちゃん。雪菜さん。二人で大丈夫ですか?」

巴「大丈夫じゃ!なあ、雪菜姐さん」

雪菜「もちろん♪私も戦う事はできるから。それよりほたるちゃんと乃々ちゃんも気をつけてね?」

ナチュルスターの三人と傲慢の悪魔に憑かれ、今はイヴ非日常相談事務所でお世話になってる井村雪菜だ。

裏山が消し飛び、邪悪な気配を察知したナチュルスターの三人は、その気配が見える屋上へと向かっていた。

そこへ警備に来ていた雪菜と合流し、屋上へと来たのだ。

そして、下を見たらカースの大軍が暴れまわっている光景が見え、巴と雪菜がカースを退治に行くところである。

もちろん、ほたると巴は屋上に来た時に変身をしている。

だが……乃々はナチュルマリンに変身できなかった。操られた時のトラウマが心を縛っている。

だから、ほたるは空にいる敵の監視と共に乃々の護衛をかねて屋上へ待機することになった。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:14:36.53 ID:drqZRXE30<> 巴「さて…雪菜姐さん。ちょっと失礼するのう」

雪菜「……えっ?ちょ、ちょっと巴ちゃん?」

雪菜をヒョイッとお姫様抱っこすると巴は屋上のフェンスの上に飛び乗った。

雪菜「ちょっ……ちょっと待って!降りるなら普通に行きましょう!?」

巴「こっちの方が早いんじゃ。ほたる。乃々を頼む」

雪菜「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………………」

嫌な予感がして慌てる雪菜を他所に巴はそのまま屋上から地面へ飛び降りて行った。

雪菜の叫び声が辺りに響き渡り、その後にズドォォォォォン!!!!と轟音が響き渡る。

下を見れば、巴は無事に着地し、その着地した場所から岩が飛び出し下にいたカース達を貫いて行った。

雪菜はフラフラと巴から離れると、涙目で、逃げ延びたカースを、鎌に変身させたロッドで斬り裂いた。

多分、八つ当たりだろう。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:16:16.56 ID:drqZRXE30<> ほたる「せ、雪菜さん大丈夫かな?」

乃々「あ、あの…ほたるさん」

ほたる「なに?乃々ちゃん?」

心配そうにソワソワするほたるに対し、乃々は怯えたように声をかける。

乃々「も、もりくぼなんて放っておいて、ほたるさんも皆さんを助けに行ってください…」

視線を目に向けながら、彼女はそう言う。

変身できない自分がいるから、皆の足を引っ張ってしまう。

自分がいるから、また仲間を危険な目にあわせてしまう。

ならいっそ、自分をおいて行ってくれた方が……

そう彼女は思ったのだ。

乃々「ど、どうせもりくぼは足手まといになるだけですし……また…また、誰かを傷つけてしまうかr」

ほたる「乃々ちゃん!」ガシッ

乃々「ひぃっ!な、なんですか?」

その言葉にほたるは真剣な表情で乃々の両手を掴み、驚いて顔を上げた彼女の目を見つめた。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:17:24.43 ID:drqZRXE30<> ほたる「私は…私達は乃々ちゃんを足手まといなんて思ってないから」

優しい口調で、そして、強い意志を込めた声で彼女は言う。

ほたる「乃々ちゃんが変身できないのはしょうがないよ。恐怖があるのもわかっている。けど、だからといって放っておくこともできない。私達は何があっても乃々ちゃんをまもるからね」

乃々「ど、どうして…どうしてですか?」

ほたるの言葉に乃々は声を震わせながら怯えるように言う。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:19:11.25 ID:drqZRXE30<> ほたる「友達を放っておくことなんできないよ!」

不安と恐怖で表情を曇らせていた乃々に対し、普段は大きな声をださないほたるが叫んだ。

乃々「ほ、ほたるさん…」

ほたる「だから、乃々ちゃんは私から離れないで」

呆然とする乃々に対し、ほたるは手を離すと、空へと視線をあげた。

その先に見えるのは雨によりその形だけがハッキリとわかる見えない要塞。

ほたる「……一応、≪スカイルノート≫なら届くかもしれないけど……うーん」

そう対策を考えてるほたるの後ろで乃々はその姿をみていた。

乃々(もりくぼは……もりくぼは……どうすればいいんですか?)

乃々(……≪ケイさん≫………もりくぼは…)

昔、海岸で出会った≪大切な人≫。

自分が酷いことをいってしまったから会えなくなってしまった相談相手。

乃々はそのせいで誰かを傷つけてしまうのを恐れていた。突然といなくなったのは自分が酷い事を言ったから。

そう思っている。 <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:20:14.44 ID:drqZRXE30<> ………………だけど、乃々は知らない。

その大切な人が突然といなくなったのは彼女のせいではないことを……

その大切が…………海底人であることを……

その≪大切な人の娘≫がこの騒乱してる場所に来ていることを…

さあ、果たしてどうなるのやら?

終わり <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:21:22.40 ID:drqZRXE30<> イベント情報追加

・梨沙はコアさんとおとなしく控え室でまってます。パップは白熊Pのところへ行きました。

・ナチュルアース(巴)と雪菜はカース退治に動きました。

・ナチュルスカイ(ほたる)と乃々は屋上で待機してます。乃々は恐怖心から変身できません。ほたるは何か動きがあればスカイルノートでブラムに雷の矢を放つかも?

・乃々はエマの母親ケイと面識があるようです。乃々のトラウマの原因になる出来事があるようです <>
◆ul9SIs8lw.<>saga<>2014/06/27(金) 12:25:34.72 ID:drqZRXE30<> 以上です。

パップもいろいろ苦労してるようです
そして、乃々はまだ変身できません。果たしてどうなることやら
巴とサヤが遭遇したらどうなることやら………

いろいろとお借りしました <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/06/27(金) 17:10:10.95 ID:C8ioGuJgO<> 乙です。パップまじ苦労人。そしてやっぱり根は善人なのな

乃々が再び変身できたら強化来るかな? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/27(金) 17:21:55.19 ID:eC4JSTCX0<> 乙です
色々と苦労してる人が多いなぁ…
森久保もトラウマがまだ癒えないか…ほたるちゃんがんばれー <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:41:03.51 ID:LyRTQnBBo<> 皆々様乙ですー

>>455
だりーなはロリィな格好も似合うと思います、かわいい
夕美ちゃんも怒らせて将軍がこの先生きのこるには……詰んでね?

>>470
しかし心配しなくても、なんだか強そうだぜ将軍☆いけるよ将軍!
ただ将軍より飛鳥ちゃんの企みの方が怖そうなんですがそれは

>>489
味方に居る時子様の頼もしさは異常、やっぱ将軍ムリジャネ?
アヤちゃんとさっちゃんの組み合わせは素敵、ご飯3杯いける。ドヤァ!かわいい

>>497
遅ればせながらエマさん誕生日おめでとうごぜーます。
エマさんもそうですが、海底都市周囲の因縁は後々を思うとワクワクですな
誕生日らしからぬ雰囲気?い、祝う気持ちがあればいいのですよ、ええ

>>510
パップいいやつ、ハゲに悪いやつはいない。影ながらパップ応援してます
ナチュルスター組も活躍しそうですね、あれ?天変地異による学院の危機です?


改めて皆さん乙です、
役者も出揃ってきた感のある2日目ですが
続けて投下させていただきますよー
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:42:08.02 ID:LyRTQnBBo<>

――

――
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:42:33.13 ID:LyRTQnBBo<>



シロクマP『心配だとは思うけど』

シロクマP『今回の件に関して、ひなたん星人ちゃんは……』

シロクマP『あまり首を突っ込まないでいてくれるといいかなぁ』


美穂「えっ」


まさかの戦力外通告でしょうか。

いえ、確かに私は空を飛べたりはしないのですが……


窓の外、大雨を降らす雨雲の方向に、今回の事件を引き起こした首謀者たる人物が居るそうです。

その人のせいで学園の傍には大きな穴が開くことになり、

何より私がとーっても楽しみにしていたRISAのライブがなくなっちゃったりして…

(このライブには菜々さんも参加する予定だったと知って、本当に泣きたくなりました。ぐすん)

……それはともかく…………おかげでたくさんの人たちが困っています。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:43:12.08 ID:LyRTQnBBo<>

いえ、困っているなんてレベルではなく……

電話の向こうのシロクマさんからお話を聞く限りだと、私たち自身それなりに身の危険に晒されてはいるはずなのですが……

あのアイドルヒーロー同盟がすぐ傍で守ってくれているので、あんまり実感はなかったりして……


と、とにかくですね!

こう言う場合……曲りなりにもヒーローを名乗っているならば、

何かお手伝いできることはないのかな。と思い名乗りをあげることにしたのですが……


シロクマP『事件の解決は、アイドルヒーロー達に任せてくれればいいからね?』

美穂「で、でも……」


…………どうやら丁重にお断りされているようなのです。


今回は、その経緯を詳しくお話したく思います。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:44:14.25 ID:LyRTQnBBo<>

――

――


美穂「前回までのあらすじです」

美穂「肇ちゃんと学園祭を回っていたら」

美穂「いきなり凄い音と地響きが起きて」

美穂「それどころじゃなくなりました」

Pくん「マッ!」

肇「簡単なあらすじですね」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:44:43.00 ID:LyRTQnBBo<>

――

――


そう、始まりの合図はお祭り騒ぎには相応しくないほど大きな……突然の爆音でした。

前触れは無く、ドーン!とまるでアクション映画みたいな爆発音がして、地面が揺れて、

びっくりして目を瞑って……

次に目を開けたときには、学園から見える景色の一部が変わっていました。


美穂「えっ!!」

肇「えっ!?」

Pくん「マっ?!」


まあ、なんと言う事でしょう。

教習棟の窓から見えていた緑の山は、匠の手によってとっても見晴らしの良い巨大なクレーターに……


美穂「ってなりませんよっ!?!」


あまりに突然すぎるビフォーアフターに周りの人達も吃驚仰天だったようです。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:45:25.31 ID:LyRTQnBBo<>


周囲はざわつき始め、最初はみな好き好きに突然起きた怪現象について話し合っていました。

やれ、学園祭運営によるサプライズイベントだ。やれ、学院内にある秘密研究室の実験だ。

やれ、謎の地球外生命体の飛来だ。やれ、伝説のモンスターXの爆誕だ。

などなど、様々な突拍子のない憶測が飛び交っていました。


肇「いきなり山が爆発するなんて……なにが起きたんでしょう……?」

美穂「爆発しそうな物なんて見えてなかったよね?うーん、隕石が落ちてきたとか……?」

Pくん「……もぐもぐ」

美穂「あ、プロデューサーくん、その和菓子どこから……もしかして菜帆ちゃんのところから持ってきてたの?」

Pくん「マッ!」


今思えば、緊張感なさすぎでしたね……。

とは言え、その時は本当に何が起きたのかさっぱりで……

山が消し飛んでも、あまりに現実味がなかったし…事態の大きさには中々気づけないものでした。


その事態の深刻さに気づいたのは……


『ワルイコハイネーカ!!』


美穂「!!」

肇「!!」

何処からか、紛れ込んできた1匹のカースが私たちの前に現れた頃です。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:46:18.76 ID:LyRTQnBBo<>

―省略します。―


『チ、チクショー!』


美穂「ふっ、またつまらない物を斬ってしまったナリ……」

Pくん「マっ♪」

現れたカースは、ひなたん星人となって問題なく対応できたのですが、

流石におかしな事態が起こってることには気づきます。


美穂「カースが現れるなんて、いったいどう言う事ひなた?」

肇「……もしかすると……先ほどの爆発と何か関係があるのかもしれませんね」

肇「何が起きたのか把握するためにも……ここは一つ、アイドルヒーロー同盟に連絡してみてはどうでしょう?」

美穂「なるほどっ!それは名案ナリっ!」

Pくん「マっ!」


と言う訳で、貰っていた名刺からシロクマさんへと電話を掛けて、

事態のだいたいの全容を聞かされて、冒頭の会話へと続くと言った感じです。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:47:42.06 ID:LyRTQnBBo<>


――

――


美穂「……」

シロクマP『いやいや、気持ちは嬉しいんだよ。本当に』

シロクマP『事態を解決する為に、わたし達と一緒に動きたい』

シロクマP『そう言ってもらえて、助かるのは確かなんだけどさ』


学院の上空に滞在している将軍と呼ばれている吸血鬼。

そして地上に蔓延るのは何処からか現れたカース。

これらの問題を解決する為に、学院ではアイドルヒーロー同盟の皆さんが動いてくれています。

Liveをする予定だったRISAはもちろん、菜々ちゃんや夕美ちゃん、それに爛ちゃん。

そしてカミカゼに、期待の新人アイドルヒーローまで。

プロデューサーさん達も集まって、上空の敵を倒すための作戦を練っているようなのです。


シロクマP『でも、その現場に美穂ちゃんが居るのは少し困る結果になりそうかな』

美穂「……どうしてでしょう?」

お話を聞いて、大変な事態であるのは私にもわかりました。

だからこそ、少しでもお役に立てるならば共闘できたらいいなと思っていたのですが……。

シロクマP『……』

美穂「……」

シロクマP『ふぅ……美穂ちゃんにはぶっちゃけトークしちゃうけどさ』

シロクマP『同盟のメンツのためだよ』

美穂「!」

シロクマさんから、返ってきたのは驚きの返答でした。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:48:32.84 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『今回の一件、同盟は既に失態を犯してるんだよね』

シロクマP『人の集まる場所だから仕方ない……とは言え』

シロクマP『同盟のヒーローが滞在していながら、2日も続けて学園に集まる民間人を危険に晒してるんだからさ』

シロクマP『……にも関わらず、フリーのヒーローの手をほいほい借りちゃったら、これはもうアイドルヒーロー同盟の沽券にさえ関わるよ』

シロクマP『まあ、そう言うじじょーもあって……少なくとも上空の敵を退治するのは、できればアイドルヒーローであって欲しいかな』

シロクマP『下世話な話なんだけどね』

美穂「……」

美穂「えっと…………つまり…………」

美穂「もし下手に私が前に出ちゃうと…………アイドルヒーローが活躍できなくなるからって事ですか……」

シロクマP『だね。飾らずに言ってしまえば』


すみません。たぶん……今私、とっても怒ってます。

なんでしょうそれ。困っている人たちがたくさん居るんですよ。

そう言う……大人の事情を挟んでいい問題なんでしょうか。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:49:18.47 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『”名誉挽回のための手柄を横取りされるわけにはいかない”』

シロクマP『上はそう判断するだろうね』

美穂「だからって」

シロクマP『美穂ちゃんの言いたい事はよくわかるし、申し訳なくも思うよ』

シロクマP『でも……もしひなたん星人ちゃんが前に出てくれば、美穂ちゃん自身も困ることになるかもしれない』

美穂「……えっ」


私が……困ることに……?

……確かに、前線に向かえば私の身にも危険が及ぶのは明らかです。

ですが、シロクマさんの言う”困ることになる”は、

直接的に、また物理的に、私の身に及ぶ危険とは少しニュアンスが異なるように聞こえました。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:49:47.64 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『いいかな?美穂ちゃん、君は今はまだフリーのヒーローだね?』

シロクマP『これまでの活躍で、地域での人気があるのは間違いなく認めるところだけれど……』

シロクマP『それでもアイドルヒーロー達とは』

シロクマP『そうだねえ……例えば、菜々ちゃんやカミカゼやRISAに比べて』

シロクマP『美穂ちゃんの知名度は決して高くないのはわかってくれてるよね?』

美穂「それは…………はい」

テレビに出る頻度はもちろん、活躍が知られる範囲もアイドルヒーロー達とは全然違います。

私がせいぜい地域に名前を知られている程度ならば、アイドルヒーローは全国区です。


シロクマP『だから、今は見逃されてる部分はあるんだよ』

美穂「見逃されてる……ですか?」

……不穏な言葉でした。

……私は、誰に何を見逃されているのでしょう? <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:50:32.46 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『同盟の内部にはね』

シロクマP『どんな手段を使ってでも、同盟が手柄を立てさえすれば良し。とする過激派が少なからず居る』

シロクマP『そのためには、同盟以外のヒーローをあの手この手で潰そうと考えるような困ったさん達もね』

美穂「……」

アイドルヒーロー同盟が、あまり在野のヒーローの事をよくは思っていない話は時々耳にします。

だからフリーのヒーローとして活動する間は、

アイドルヒーロー同盟の活動は出来るだけ邪魔しないようにセイラさんには注意されてたっけ……。


美穂「……あの手この手で?」

シロクマP『分かりやすいところでは、そのヒーローについてある事ない事書いたゴシップを飛ばす』

美穂「!」

シロクマP『死神と呼ばれてヒーローに追われる事になった魔法使いの女の子の話は記憶に新しいでしょ?』

シロクマP『あんな風に、民衆の興味や関心は、時には凶器になるからね』

美穂「……」

死神さん。もとい魔法使いの女の子の柚ちゃん。

櫻井財閥に付き纏う黒い噂について調べた時、彼女の名前はよく見かけました。

彼女が冤罪によって追われる事となったのは、一般的には人に化ける怪人の仕業と言う事になっています。

しかし、原因は怪人だけではなく……ネットで実しやかに囁かれる噂によれば

彼女の周りにはとてつもない悪意が渦巻いていたようです。

あの時……アイドルヒーロー同盟でさえその情報の真偽を疑わず、彼女を追う側になっていたのは……

同盟が在野のヒーローをあまり良い風には見ておらず、信用していなかった事が少なからず関わっていたのではないかと思います。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:52:12.20 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『同盟もマスメディア関係には強いからねえ……』

シロクマP『それを使って商売敵の都合の悪い噂を広めようとするのも珍しい話じゃない』

シロクマP『…………特に、一時期のネバーディスペアに対してなんかは酷かったよ』

シロクマP『まあ、彼女達は広い地域で活動していたから、民間から強く信頼されていたし、』

シロクマP『何より後ろ盾のおかげで、そんな風評被害も早々に打ち消したんだけどねえ』

シロクマP『……そう。彼女達みたいに”広い地域での信頼”や”後ろ盾”があるならこんな事問題にもならないよ』

シロクマP『例えば、同盟と協力関係にあるような組織の後ろ盾があるとかならね』

シロクマP『でも、美穂ちゃん。美穂ちゃんには……』

美穂「はい……どっちもないです」


どこにでもいる普通の女子高生。

そんな私がある日、力を手に入れて……憧れのヒーローへと転身しました!


よく考えると……それって、ぽっと出ですよね……。

ぽっと出に対する世間の風当りは厳しいと聞きます。

そんな時に守ってくれるのは、所属しているプロダクションだったりの組織するのですが……。

あくまで普通の女子高生として個人的にヒーローをしている私に、それはありません。


シロクマP『今回の事件はね、美穂ちゃんが活躍するとどうしてもアイドルヒーローと比べられる』

シロクマP『比べられると疎まれて、疎まれると潰されることになる……かもしれない』

美穂「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:53:04.76 ID:LyRTQnBBo<>
シロクマP『これは美穂ちゃん個人で立ち向かうには大きすぎる壁だよ』

シロクマP『わたしは、できるだけ助けたいけれど……君が同盟の外に居る間は、あんまり庇うこともできないかな』

美穂「あのっ、だったら私がアイドルヒーローになれば……」


話を聞く限りでは、私が今すぐアイドルヒーローになってしまえば問題ないはずです。

もし疎まれるとすれば、それは同盟の手柄を奪うヒーローなのですから。


シロクマP『……美穂ちゃん。君の進む道の選択はよく考えてからして欲しいって…わたし、言ったよね?』

美穂「っ……考えていない訳じゃなくって……そのっ!」

シロクマP『選択肢に”自分”がある時は、”自分”を選んでほしいとも言ったよ』

シロクマP『それは本当に、美穂ちゃん自身のための選択なのかな?』

美穂「…………あ、アイドルヒーローは私の憧れですからっ!」

シロクマP『……』

美穂「だから……」

シロクマP『……』

美穂「……」

なんだか苦し紛れでした。まるで自分の夢を、考え無しに選択しようとした言い訳に使っているようで、

自分でも「これはないな」と思いなおしたほどです。


美穂「……私……焦りすぎてます……か?」

シロクマP『それがわかってるなら、充分だよ』

シロクマさんは優しい声で返事を返してくれました。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:53:49.73 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『事件解決のために手を貸してくれようとする美穂ちゃんの心意気は間違いなく優しくて正しいよ』

シロクマP『1人のヒーローとしてはとても立派だね』

シロクマP『だけど、わたし達としては信頼もしてほしいかな』

シロクマP『菜々ちゃん達の実力は、美穂ちゃんもよく知るところでしょ?』

美穂「……はい」

シロクマP『なら、今はアイドルヒーロー達を信じてあげてほしい。同盟は必ず、これを解決するから』

美穂「…………でも、なんだか人任せになっちゃうみたいです」

戦える力があるのに、自分を守る為に前に出ない。

それは正しい事なのでしょうか……。


シロクマP『悪いことじゃないよ。今はまだ君はそんな責任を負ったりする時期じゃあない』

シロクマP『それに、気に病むことでもないね。力の有る無しに関わらず、君たちを守る為にわたし達同盟はここに居るんだから』

美穂「…………はい」

でも……一応、ヒーローを名乗っている限りは……気に掛かってしまいます。

私の憧れのヒーローなら……こう言うとき……


美穂「……もし……もしセイラさんならどうしたでしょう?」

シロクマP『わたしの忠告を無視して前線に飛び出して行っただろうねえ、そして後でわたしに怒られるかな』

美穂「…………えへへっ、想像できちゃいます」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:54:38.35 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『ふふっ、まあ……あの子の場合はその辺りの事情にも上手く折り合いをつけられるだろうけど』

シロクマP『美穂ちゃんはまだ、セイラちゃんほどには経験も信頼も積んではいない。でしょ?』

美穂「はい……まだまだ……本当にまだまだ経験不足なんだと思います……」

美穂「なんだか難しいですね……」

美穂「アイドルヒーローになったらそう言う事情も考えて行動しないといけませんか……?」

シロクマP『いや。こう言うやらしい事考えるのは、わたし達プロデューサーの仕事だよ』

シロクマP『君たちヒーローには、みんなの笑顔を守る為にも笑顔で居て欲しいからね』

美穂「……」


……シロクマさんは、本当に私の事を考えて正直な事情を話し、意見をくれたのだと思います。

私が焦って前に出て、そしてもし同盟内の過激派に邪魔に思われる様な事があれば、庇えなくなってしまうかもしれない。

だから、忠告してくれました。……それは、私を守るための忠告です。


( 「だけど、覚えておくといい。君自身も誰かの大切なんだからね?」 )


美穂「……」

美穂「…………わかりました」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:55:30.07 ID:LyRTQnBBo<>

美穂「私は、憧れのアイドルヒーロー達を信じて……事件が解決するのを待ってます」

美穂「周りの人たちを守りながら……」

シロクマP『うん、そうしてくれると助かるかな』

シロクマP『偉そうな事は言ったけど、広い学園に現れたカースの全部に対応するのは難しいから』

シロクマP『結局、地上のカースの討伐には、学院や同盟外のヒーロー達、能力者たちの力も借りざるを得ない状況だしね』

シロクマP『前線には出てもらいたくないけれど、その場の人たちは守っていて欲しい』

シロクマP『つまり美味しい所は持っていってほしくないって身勝手な理由なのは、謝るけれどね』

美穂「い、いえっ!そのっ、シロクマさんが私の事考えて言ってくれているのはわかりますからっ!」

美穂「だから……安心してくださいっ!周りに居る人たちは精一杯守ってみせます!」


今回は……その方がいいはずです!

後ろの心配がちょっとでも少なくなれば……それだけアイドルヒーロー達もフルパフォーマンスで活躍できるはずですからっ!
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:56:11.19 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『あはは、頼もしいね。けれど、絶対に無理はしちゃダメだよ』

シロクマP『万が一の時の避難の段取りも、同盟は学院側と話し合ってる』

シロクマP『その時は、美穂ちゃん達も迷わずに避難してほしいかな』

美穂「……はいっ、でもそうなる前に解決してくれるって信じてます」

シロクマP『ふふっ、プレッシャーだね』

美穂「あっ!いえっ、そうではなくっ!」

し、信用している事を伝える言葉のつもりだったのですが、

プレッシャーになっていたなら…その…悪いです。


シロクマP『あはは、わかってるよ。美穂ちゃんがわたし達に期待して言ってくれてたのは』

シロクマP『だから、アイドルヒーロー達がその期待に答えられるように』

シロクマP『わたし達プロデューサーもしっかりサポートしなきゃね』

美穂「…………あのっ、アイドルヒーローの皆さんにも伝えておいて貰えませんか?」

シロクマP『伝言だね、わかった。何て言っておけばいいかな?』



美穂「『皆さんを信じて応援してます!』って……1人のファンからですっ!」


私たちを守ってくれるアイドルヒーロー達に……

いえ、アイドルヒーロー達だけでなくみんなを守ろうとしてくれる全てのヒーロー達に、

信じる思いが伝わればいいな。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:57:09.19 ID:LyRTQnBBo<>
―――――

―――――

―――――

―――――




美穂「あ、ところでこんな時になんですけれど……」

シロクマP『ん?どしたのかな?聞きたい事かい?』

美穂「はい。実は……シロクマさんと別れてから迷子の小熊さんに出会って……」

Pくん「マッ!」

私の背中に器用にしがみ付いている小熊さんは、元気よく挨拶(?)します。

話している事が分かるのかな?

シロクマP『……わたしが言うのも難だけど、熊が学院内で迷子になってるの?』

美穂「はい。えっと……その子はぬいぐるみみたいなサイズで……腕や脚のところに少し金属みたいな光沢が見えるんです」

Pくん「マぁ?」

私の肩に乗っかっている小さな白い手のその間接部分には、金属質のパーツらしき何かが覗いています。

これがプロデューサーくんが生き物ではない?と思ってしまう理由なのですが……

……様子を見ているとよくお菓子を食べているのでロボットだとも思えないんですよね……うーん、どちらでもないのかな?

シロクマP『ん……うんん?』

美穂「獣人さんでも普通の小熊さんでも無いだろうとは思うんですけれど……」

美穂「シロクマさん、この子の事何か分かりませんか?」

シロクマP『一度電話を切って、名刺のメアドに写真送ってもらえるかな?ちょっと判断してみるよ』

美穂「あ、それなら…お願いしますね」

ピッと電話を切って、ポケットに仕舞うと背中の小熊さんを廊下の床に下ろします。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:58:11.27 ID:LyRTQnBBo<>

――


美穂「プロデューサーくん、写真取るよー」

Pくん「マっ…!」 キメポーズ


ピロリ〜ン☆


――
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:58:40.17 ID:LyRTQnBBo<>


……

……


シロクマP『エクス・マキナだね』

美穂「えくす…まきな?」

聴きなれない言葉でした。

シロクマP『正体不明の機械仕掛けの兵器と言ったところかな』

美穂「えっ…」


美穂「ええっ!?!」

お、驚きの情報ですっ!!

ま、まさかプロデューサーくんが機械仕掛けの兵器だったなんて!?

言われて見直してみると確かに……

Pくん「マ?」

美穂「……」


美穂「もおっ、シロクマさんっ!」

美穂「そんなジョーク、流石の私でも信じませんよっ!」

シロクマP『いやいや……確かに信じ難いかもしれないけれどさ』

Pくん「マぁ?」

どうして目が合ったのか分からず、小首を傾げるこの子が、

実は兵器なんて言われてもまったくピンと来ないのでした。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 17:59:14.51 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『RISAの相棒のコアさんは知ってるでしょ?』

美穂「はい、可愛くて頼もしいコアラさんですよねっ」

美穂「実はグッズも持ってたりしますよ」

小さくて可愛くて、でも頼もしいアイドルヒーローRISA。

そのすぐ隣にはいつだって、もっと小さな相棒が居ます。

それがコアさんっ。ダンスがとても得意でRISAと同じくとっても頼もしいコアラさんです。


シロクマP『そのコアさんと一緒の……うーん…まあ種族とでも言えばいいかなぁ』

美穂「……なるほど?」

そう言われて見ると、どことなーくコアさんと似たような雰囲気が……

Pくん「マっ!」 キリッ

美穂「…………」

美穂「シロクマさん、やっぱりどう見てもただ可愛いだけですよっ!?」

シロクマP『う、うん……まあ……うん。』

とてもじゃないですけど……

RISAの相棒のコアさんのように頼もしい感じはありませんよね。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:00:01.27 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『そこまでぬいぐるみチックなのは初めて見るけれど……』

シロクマP『エクスマキナなのはたぶん間違いじゃないとは思うけどね』

美穂「うーん?」

Pくん「まぁー?」

兵器、と言われてもなんとなくそんな気がしないのですが……

じゃあ他に何か説明できるかと言えば……私には出来ないので、

たぶん、シロクマさんの言うとおり……なのでしょうか。


美穂「えっと、とりあえず……シロクマさん、有力な情報ありがとうございます!」

美穂「もしこの子が機械兵器なんだとしたら、元の持ち主さんが居るって事ですよね?」


懐かれちゃって、プロデューサーくんと名前まで付けちゃいまいましたが……

私はこの子が1人で居るところにたまたま出会って、

もしかすると迷子なのかも?と思って、この子の事を知っている人を探していただけですから。

この子に元の持ち主さんが居るのなら、きちんと帰してあげるべきなのでしょう。


Pくん「マ……?」

美穂「うっ……」

こちらを見つめるどこか不安そうな目に、少し気持ちが揺らいでしまいますが……が、我慢です。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:00:56.43 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『………ふふっ』

シロクマP『面白いこと言うね、美穂ちゃん』

美穂「えっ?」

シロクマP『エクス・マキナの元の持ち主か……ふふっ、確かに居る事はわかってるんだけどね』

美穂「??」


シロクマさんは、何だか変な物言いです。

居る事はわかってる……?うーん、それってどう言う……?


シロクマP『謎に包まれていて何処から現れたかもわからない正体不明の機械兵器エクス・マキナ』

シロクマP『彼らには本来の持ち主である”マスター”の存在がインプットされてるみたいなんだけれど』

シロクマP『残念ながらそれが何者なのかは、わたし達にもわからないんだよ』


美穂「……」

なんだか、背筋が寒くなりそうなお話です。

お話を整理して、まとめてみましょう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:01:47.35 ID:LyRTQnBBo<>


――この子は、謎に包まれた


Pくん「マっ?」


――何処から現れたかもわからない


Pくん「マぁ♪」


――正体不明の……機械兵器……


Pくん「もぐもぐ」


――本来の使役者たる”マスター”の存在がインプットされてるが……


Pくん「zzz…」


――その存在の事は……誰にも分からない……


Pくん「マッ!!」



美穂「すっごく胡散臭いですよっ!?!」

シロクマP『わたしに言われてもねえ……』 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:02:17.01 ID:LyRTQnBBo<>

美穂「えっと……プロデューサーくんには、本来の持ち主さんは居るには居るけれど……」

美穂「それが何処の誰なのかは、誰にも分からないって事でいいんでしょうか?」

シロクマP『そんな感じの認識でいいよ』

シロクマP『……と言うかプロデューサーくんって?』

美穂「あっ、い、いえ!し、シロクマさんに似ていたので…………と、とりあえずの名前としてですね……」

シロクマP『ははは、確かにそっくりかもね』


うーん、でもそうなると……プロデューサーくんを元の持ち主さんに返す事はできないのでしょうか。


シロクマP『彼らは機械だけど、何かに命令されて動いてるって訳じゃなさそうで、どの子もマイペースで自由気ままだね』

シロクマP『自分の意思で考えて、気に入った人に勝手について行って、その人の為に行動しようとする事で知られているよ』

シロクマP『美穂ちゃんは、きっとその子に気に入られたんだと思うんだ』

美穂「……懐かれていると思います」

たぶん初対面でお菓子をあげたので、そのおかげかと思います。

…………お菓子で人に懐く機械兵器って? <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:03:08.49 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『まあ簡単に言っちゃえば、元の持ち主なんて居て居ない様なもので』

シロクマP『その子自身は美穂ちゃんの事が好きみたいだから』

シロクマP『美穂ちゃんが貰っちゃってもいいと思うよ』

シロクマP『もちろん、美穂ちゃんが嫌じゃなければだけどね』

美穂「えっ!えっと……」

どうやらプロデューサーくんは、このまま私が連れ帰っちゃってもいいみたいです。

ほ、本当にいいんでしょうか?このまま飼い主(?)になっちゃっても……

Pくん「マぁ……」

美穂「……」

足元の小熊さんは、私の脚にギュッと捕まっています。

まるで離れたくないみたいに……シロクマさんと私が何を話していたのか、やっぱりわかっていたのでしょうか?

こちらを見上げる目は少し潤んでるようにも見えます。うぅ……そんな風に見つめられたら……。


美穂「よいしょ」

私は手で持っていた携帯を首を傾け固定して、開いた両手で小さな熊さんを抱えあげました。

小さいその体は見た目以上に軽く、簡単に腕の中へと収まりました。


美穂「……それじゃあ、この子は私が連れて行くことにしますね」

Pくん「マっ♪」

今更放り出して1人になんてできませんよね。

けれど……家に連れ帰ってお母さん許してくれるかなあ……。まあ何とかなるよね……? <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:04:02.21 ID:LyRTQnBBo<>

シロクマP『ふふっ、そうしてあげてよ』

シロクマP『エクス・マキナについて聞きたい事があったら連絡してくれればいいからね』

シロクマP『彼らについて知ってそうな同僚にも色々と話を聞いておくしさ』

美穂「はいっ、そうさせていただきます」

シロクマP『それじゃあ、悪いけどそろそろ連絡切るね』


シロクマP『もうすぐ作戦会議もあるだろうしさ』


美穂「…………あっ」


お恥ずかしい話ですが……

”作戦会議”と聞いて現在の状況をようやく思い出しました。

私の顔から一気に血の気が引いていきます。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:04:41.00 ID:LyRTQnBBo<>

……い、言い訳をさせて貰います……。

現在、私の居る教習棟の廊下は先ほど見かけたカースを退治して以降、

廊下に居た人達はみんな教習棟の室内に籠っちゃって出てくることもなく、新たにカースがやってくることもなくてですね……

つ、つまり私以外にはプロデューサーくんしか居なくって……

(肇ちゃんは、私が電話している間にエトランゼの皆さんの様子を見に行くと言っていました)

だから電話している間は……ずっとプロデューサーくんのことを眺めていたのですが……

そ、その仕種を見てると……つい緊迫してる状況であることを……忘れちゃったと言いますか……

だ、だから……そ、その……


美穂「す、すすすすみませんっ!!ほっ、本当こんな時にっ!!!」

シロクマP『ははは、まあタイミングは悪かったけれど』

シロクマP『こっちはやる事やりながらだったから気にしなくっていいよ』

シロクマP『美穂ちゃんと話してて、わたしもだいぶリラックスできた気がするしさ』

美穂「う、うぅ……本当すみません……」


電話の向こうはきっと忙しいのに……私の都合でシロクマさんの手を止めちゃってました……。

こんな調子じゃあ、本当にヒーロー失格かも……うぅ……もっと考えて行動しないといけませんね……。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:05:49.12 ID:LyRTQnBBo<>


シロクマP『ま、とりあえず……そっちは大丈夫そうだってわかったしね』

シロクマP『何かあったら、また連絡してよ』

シロクマP『そっちの状況が変化すれば、こっちでも判断して対応できるからさ』

美穂「シロクマさん……色々とありがとうございますっ!!!」

シロクマP『うん、美穂ちゃん。それじゃあ、またね。気をつけて。』

美穂「はいっ、シロクマさんもお気をつけて」


数秒後にプツッと音がして、通話が切れました。

忙しいところ、私の為に時間を割いてもらって……シロクマさんには感謝しなきゃ。


美穂「……とりあえず」

私は足元の小熊さんに目を合わせる為に屈みました。

Pくん「……」

こちらの言葉を待っているのか、プロデューサーくんは静かに私を見つめています。

美穂「プロデューサーくん、これからもよろしくね」

Pくん「マッ!!」

美穂「ふふっ」

任せてと言わないばかりに、両手を振り上げる小熊さんはやっぱり可愛かったです。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:06:44.00 ID:LyRTQnBBo<>

美穂「それじゃあ、この後は肇ちゃんが帰ってくるのを待ってそれから……どうしようかな」

美穂「……周りの人たちを守るってシロクマさんには言ったけど……」

美穂「……そのためにも状況を整理して、考えて行動しなきゃ」


先ほどと変わらず、学院の晒されている状況に反して今も私の周囲は静かなものです。

それだけ、この場所は安全と言う事でそれは良い事なのだと思いますが……。


京華学院には、それ自体に備えられたセキュリティーとして、窓や扉に変わった細工がされているらしく、

教習棟は、締め切ってしまえば外部からのカースの侵入はとても難しくなるそうです。

だから棟外にはたくさんのカースが沸いていながら、屋内は比較的安全なんですね。


美穂「ってあれ?」

……それじゃあ、先ほど見かけたカースは何なのでしょう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:07:32.72 ID:LyRTQnBBo<>

教習棟内で出会ったたった1体だけのカース……

教習棟に幾つかある入り口は、屋外からの避難者を受け入れる為に開いては居ますが、

そこにはシロクマさんの言っていた学院や同盟外のヒーロー達や能力者たちが待機しているはずで、

一匹だってカースの侵入を許したりはしないはずです。


美穂「……私も教習棟の入り口を守る為に、そちらに向かうべきなのかもしれないけど……」

やはり、先ほど屋内で見かけたカースが気がかりです。


美穂「まさか……入り口とは別の……どこかから侵入してきた……?」

もしかするとセキュリティのどこかに穴があって……そこから侵入して来たのではないでしょうか……?

もしそれに……誰も気づいていないのだとしたら……?


美穂「た、大変ですっ!!」


『ミツケタミツケタゾ!!!』
『フヒヒヒヒヒ!!!』
『クックック、クッテヤル!!』


美穂「!!」

まるで、私の仮説を証明するかのように目の前に再びカースが現れました。今度は3体もですっ! <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:08:37.69 ID:LyRTQnBBo<>

美穂「ヒヨちゃんっ!!」

私はすぐに腰の提げた『小春日和』を抜いて応戦します!

『小春日和』を抜くと、私の中に何かが流れ込んできて……


美穂「……は〜はっはっはっはっは〜!!」


誰も居ない廊下には、私自身の発した高笑いがよく響きます。

うぅ……恥ずかしい……この性格どうにかならないのでしょうか……。


美穂「愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人!久方ぶりに惨状ナリっ☆」 キュピーン

Pくん「マっ♪マッ♪」

そう言えばなんとなくこれ久しぶりな気がします。

そんなに久しぶりじゃないはずなんですけれどね?


美穂「とにかくここは早く片付けて、肇ちゃんと合流するひなたっ」

美穂「そしてカースの侵入してきてる穴をきっちり塞いでしまうナリっ!!」


そうです、今は周りの人たちを守るためにも、

そして、私たちを守ってくれるヒーロー達の心配を少しでも和らげるためにも、

焦らずに考えて、私に出来る事をやるのみです!


美穂「でこぽぉおおん!」



おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/28(土) 18:09:28.97 ID:LyRTQnBBo<>

◆イベ情報◆

・カースがばら撒かれているのは屋外であるため、棟内は比較的安全っぽいですよ
・教習棟のどこかからわずかな数のカースが侵入してきてる?美穂達が捜索中。


と言う訳で、美穂ちゃんが前線に出過ぎないためのブレーキのお話、あとプロデューサーくんの話。
なお、危険な状況のはずなのにどこか緊張感ない模様
カースがばら撒かれ発生しているのは屋外なので、
現在、屋内に居る美穂の周囲は意外と静かだったりするみたいです。

時系列的に菜々ちゃんとカミカゼには会えないので、ひなたん星人はひたすら後方支援です
先の時系列で会わせておくとこう言う事考えなきゃだから困るぜ、いや正直すまんかった。

ちなみにシロクマさんのお話は、美穂ちゃんの安全と今後を考えて、
現場から遠ざけるための方便じみたところがあるのであしからずー。
現在ごく普通の女子高生でしか無いひなたん星人は、政治的な駆け引きには弱いので心配なのでしょう。
<>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/28(土) 19:37:27.35 ID:tLBM7dyBO<> 乙ー

同盟も上層部に過激派がいるといろいろ厄介だな
そして、プロデューサーくんマジ癒し!

なんか、飛鳥が協力持ち込みにいくのは難しそうですね <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/06/28(土) 21:24:30.27 ID:1XhbL2IL0<> 乙です

同盟も難儀な商売をしてるからねぇ…大人の事情は怖いねぇ
Pくん可愛すぎるね、兵器に見えないのも当然だネ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:06:56.45 ID:1Ls41AtI0<> 投下しまー <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:08:08.57 ID:1Ls41AtI0<> 死の事実は様々な理由で人の身や心について回る。愛する者を失う事、それは二度と出会えないという事。

余りにも重すぎるその死が与える重さから、人は目を背けるか乗り越えるしかない。

どんな人間も普通ならば己の死の事実と向き合う事など無い。

ありえるならば、それはきっと既に人間ではないのだろう。

霊としてか、不死としてか…とにかく、人から外れた存在として。

肉体は心に影響を与え、魂は肉体を動かし、心は魂を揺さぶる。

そのバランスが整っているのかすら怪しい存在。それも、確かに悩みを抱く事はあったのだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:09:57.49 ID:1Ls41AtI0<> ―――
――

絶対に忘れることの無いだろう記憶がある。

あり得ない筈の方向から響くブレーキの音。

私は無我夢中で突き飛ばしていた。

生きて欲しいという身勝手な思いが頭の中を埋め尽くす。

自分の事を考える余裕も、それが正しいのか考える時間もなかった。

目覚めた時、私は全く別の存在になっていた。

間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。

…なら、私は。

――
――― <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:12:57.35 ID:1Ls41AtI0<> カフェ・マルメターノ閉店後、ワインバーも開かれず、唯一明かりがついているキッチンに響いているのは低速のハンドミキサーの音だけだった。

大きなボウルの中で、白い生クリームが波打つ。

「…っと」

泡立てられた生クリームはシロップが塗られたスポンジケーキに塗られ、フルーツと共に慣れた手つきで丁寧に巻かれた。

それを繰り返し何本か完成した者を冷蔵庫に入れるとボウル等を片づけ始める。

その時、扉の向こうで話し声が聞こえてきた。電話で誰かとLPが喋っているのだと察した時に、扉が開かれた。

「…こんな遅くまでご苦労さん」

「あ、LPさんもお疲れさまでした。めずらしいですね、キッチンに来るなんて」

「いつも思うが…仕込みの後、一人で帰る時があるのは何でなんだ?」

いつもは夏樹に迎えに来てもらっているが、たまに李衣菜はそれを断って一人で帰る。今日はそういう日だった。

「大丈夫ですよ?そこまで遠いというわけでもないですし、たまには一人で歩くのもロックな気分になりますし、それに…」

エプロンと帽子を脱ぎ、たたみながら李衣菜はその後の言葉を考えていなかったのか数秒だけ考えた。

「ロールケーキは一晩寝かせて、クリームの水分をスポンジに移さなきゃ…生地はしっとりしないしクリームもドロドロになっちゃいます」

「ははは、そうか。慣れたな李衣菜も」

論点が変わったのは意図的だろうか。…あまり追及はせずに流す。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:14:11.11 ID:1Ls41AtI0<> 「んー…クリーム舐めます?」

「遠慮しておく」

「…そうですか」

壊さないように丁寧に、使われた調理器具が洗われていく。

「座っていてもいいんですよ?」

「そうするよ」

言われるがままにLPはキッチンのテーブルの近くの椅子に座る。

「すぐ片づけも終わっちゃいますけどね。……でもLPさん、何か私に話したい事でもあるんじゃないですか?」

「ああ…よくわかったな」

「勘です。LPさんって特別な時以外は過干渉はしないタイプですし」

「…そうか、俺もわかりやすくなったもんだなぁ」

「そういう訳じゃないと思いますけどね」

水を止め、拭き終えると李衣菜はLPに向き合った。淡々と、事実からできる推測を言う。

「あの…装置の話ですよね?久々の全身検査の時に見つかった…とかで。電話してたのはその技術者の人とかだったり」

隠していたことを気まずく思うような演技ができる程、李衣菜は器用ではなかった。

表情が上手くできないのだから仕方ないと、自分に言い訳をしながらLPの返事を待つ事しか出来ない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:16:46.83 ID:1Ls41AtI0<> 「…脳付近の検査の結果、感情制御装置は壊れていたと報告された。ちなみに摘出とそれに伴う電圧調整はもう終わっている」

「…」

「なあ、答えてくれ。いつからだ」

「…あの日ですよ、祟り場現象が起きたあの日」

「何故…報告しなかったんだ」

「故障しても動けたので問題ないと思った…って言っても嘘ってばれちゃいますよね」

向き合っていた李衣菜が、無表情に近い表情で困ったように頬をかいた。

「…壊れてからも、なかなか上手く笑えないんですよ。祟り場が終わってから、思ったより変わらなかったんです」

「あはは…おかしいですよね。もう戻ってるのに、祟り場が終わったらまた笑えない。こんなの…おかしいじゃないですか」

「…私は、『昔の私ならこう思うだろうな』って考えて行動していたんです。そしたら、どんどん『私』は『私』じゃなくなってきて」

「だから、装置が壊れてもずっと…装置が無いのに笑えないままです。私は『私の心』を無くしちゃったんですよ」

感情制御装置は脳に組み込まれていた。感情を脳が発してもそれを自分で知覚できなくなるその装置は、感情そのものを衰退させる。

痛覚や味覚等の感覚すら失い、激しい衝撃を感じにくくなり、自分の心がわからなくなる。さらに李衣菜は演じ続けた結果、自分を見失った。

魂と心がバラバラになり、それを異常と感知できないまま、心の事を忘れたまま時間が過ぎていた。

感情があり、過去のように振る舞えていた祟り場と言う環境が異常だったのだ。あの時の李衣菜に、今の李衣菜は戻りたくても戻れない。

死人は生者に戻れない。李衣菜自身もそう思っている。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:18:29.03 ID:1Ls41AtI0<> ぎこちない笑顔で、李衣菜は確かに笑っていた。…LPはそれを悲しい微笑みだと思った。

李衣菜もそれを知ったうえで、ぎこちない笑顔のままLPに向き合っていた。

「…李衣菜、そう考えている奴を俺は壊れているなんて思えない」

「…」

LP立ち上がり、少しだけ眉が下がり困ったような表情になった李衣菜の頭にポンと手を置いた。

「少しだけ話しを聞いてくれるか?」

「え…はい、問題ありませんけど…」

「…俺は、この姿になる前の李衣菜を知らない。俺の知り合いでは夏樹だけだな、知っているのは。だから無神経な言葉かもしれんが…」

「…」

「…変化する事を恐れていないか?前の李衣菜のままでいようとし続けるのは、変化したくないからじゃないのか?」

「変化…」

「どんな者も、変化する。それは心や体だったり、周囲の環境だったりする。奈緒だってきらりだって夏樹だって、みんな少しづつ変わっていた」

「でも私は、できません…変われない…だって、もう死んでるから」

LPの言葉を聞きたくなくて耳に両手を当てそうになった。誤魔化すように指に触れたボルトを撫でる。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:21:38.09 ID:1Ls41AtI0<> 「『死』という言葉に囚われるな。…李衣菜はそうやって悩むことが出来る。例えお前が演技だと言っても、これだけは事実だと思う」

「…その言葉、信じていいんですよね」

「…ゴメンな、こういう事、もっと早く言えばよかったのにな」

「謝らないでください。答えてください。…信じて、いいんですか?」

「ああ、死体でもロボットでもない。そうやって悩めるなら、きっと笑えるようになるはずなんだ、上手く顔に出せなくても…心の底からな」

「本当に、いいんですか?」

俯きそうになった顔を、まっすぐLPに向ける。怖いと思っているのかもしれない自分に負けたくなかった。

「少し遅くなったが、今まで常時起動型だった為に取り外せなかったあの装置をやっと取り外せたんだ。…リハビリを始めよう」

「リハビリ?」

わしゃわしゃと髪の毛が乱れるくらいにLPは李衣菜の頭を撫でた。

「もう自分の体の事で不安になるな。お前は俺達の仲間だ。李衣菜を否定したりしない。だから落ち着いて、しっかりと自分の心を見つけることが出来ればまた笑えるさ」

「…心を」

心、ココロ。何故だろう、キーワードを入力されたように、どこかのロックが外れたような不思議な感覚がした。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:23:10.48 ID:1Ls41AtI0<> 「ほら、取りあえず今日は早く帰るんだ。送るぞ」

LPは李衣菜の手を引いて、キッチンから駐車場まで歩き出した。

「いつもは送ったりしないのに…」

「…忘れてるんじゃないか?ほら、今日の日付は?」

「6月30日………えっと……そうだ、今日は…私の…」

思わず立ち止まる。本当にすっかり忘れていた。今や年齢は享年と書くはずの身だ。誕生日が来てもどうリアクションすればいいのかわからない。

「…夏樹達、もう準備が終わってる頃だろうしな。一緒に帰るなら一緒に準備したんだろうが」

またわしゃわしゃと頭を撫でるLPの腕を李衣菜が力を込めずにつかむ。

「…LPさんって、たまにお父さんみたいに思えちゃいますね」

「そうか?まだ未婚なんだがなぁ…」

「お相手見つからないんですか?」

「こういう仕事してると…なかなかなぁ。こっちの事にも理解がある人だといいんだが…」

「管理局にLPさんに興味持ってそうな女の人っていないんですか?」

「少なくとも俺なんかに興味をもつ女は見たことが無いな………女は」

「…そうでしたね」

遠い目で空を見上げたLPに、李衣菜は何も言えなかった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:24:23.51 ID:1Ls41AtI0<> こころ、ココロ、心。李衣菜は繰り返し脳内でリピートを続ける。

さっきの謎の感覚が忘れられなくて、続けてしまうのだ。

乗せられた車の中、それを繰り返し続けて…無意識に瞳を閉じていた。

「…李衣菜?」

「…」

「…寝れたんだな、初めて見たよ」

「…」

「俺が、ああいう役目を請け負って…よかったのか」

「…?」

眠くなったわけではないが、そうせずにはいられない。言葉を理解する気にもなれない。

少しずつLPの声も聞こえなくなっていく。深く、深く…水の中へ沈んでいくように感じた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:25:41.90 ID:1Ls41AtI0<> ―
――


『―ザザッ――ザザザ』

「…なに?」

閉じたはずの瞳はノイズで目を覚ました。美しい黄昏時の空とどこまでも広がる草原が瞳に映る。

東の空と西の空に二つの太陽が同じ空模様。どちらが東でどちらが西なのかはさっぱり分からない。

東は『彼は誰』、そして西が『誰そ彼』。登る太陽と沈む太陽がどちらも停止してしまった世界。

夢を、かなり久々に見たのかもしれない。そもそも夢を見たのはいつ以来だったか。

ボーっとしていると、少し遠くに空と同じ色の服を着た少女が立っていたのを見つけた。

黄昏時は『誰そ彼』という語源を持つ通り、人の顔などよく分からないものだ。

(…会いに行かなくちゃ)

だから李衣菜はそれが誰なのか、全く分からなかった。だが…行かなければならないと思った。

こんなに広い草原で、見失ってはいけない気がした。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:26:27.32 ID:1Ls41AtI0<> 草原を駆ける。とにかく速く、全力で。魂が、走れと己に命令しているようだ。

『ザザザッ――ザザザ』

ノイズがどんどん大きくなる。耳障りな音を無視して、ただひたすら走る。

あの時から変わっていない、両の瞳がこちらを見つめている。ヘッドホンを耳から外し、少女はこちらに手を伸ばした。

変わらない心。前を向いて、一直線だったあの日のまま。今の李衣菜に、その心は眩しすぎるような気がした。

いったいどれほどの時間、魂と心が切り離されていたのだろうか。

ずっと、心は感情を発していた。だが死という現実と、あの装置が魂と心をバラバラにしてしまっていた。

ずっと心を見失ったまま、向き合おうと思う事もできずにいた。思ってしまえば、見つけてしまえばこんなにも簡単な事だったのに。

黄昏色の心が伸ばした腕を李衣菜が静かに手を掴む。

オレンジ色の炎が、李衣菜の体を包み込んだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:29:21.22 ID:1Ls41AtI0<> 炎は全く熱く無いし、身体が燃えることも無い。炎はただ一つだけ、李衣菜の右目の眼帯を消滅させた。

縫合された糸も焼き払われ、瞳の中に埋め込まれた機械が自動的に開く。その機械が守るように中に収納していたのはこの空と同じ色の宝石。

その輝きは、魂の輝きだった。

その瞳の中の宝石に吸い込まれるように、心は李衣菜の中へ溶けていく。

ノイズはもう、聞こえなくなっていた。

それと同時に胸の辺りが暖かいような、そんな感覚を感じている。

「……私、やっと、やっと。生きてた頃に戻れたのかな…」

膝から崩れ落ち、涙が出なくとも泣いてしまう。

行動する魂と、感情を発する心がバラバラになって長かったのだ。感情を封じられていた分、今まで溜まっていた悲しみや喜びが溢れる。

いかに生前の自分が感情豊かだったのかと、これでもかという程痛感した。

心に戸惑いと不安が溢れてくるが、それよりも喜びの方がはるかに大きい。

今まで悩んでいたことに、理解できなくて困惑していた事に、全て答えを得た。

自分が思っていたよりも、自分は思い切りがある人間だったようだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:30:24.08 ID:1Ls41AtI0<> ――精神に異常感知
――感情制御装置・エラー ×
――原因のhあいzYowおOkOnAいm@S ×
――hAいSyうtUWおkaいSiSIまs ×
――エラー!エラー!エラー!

「…っ」

頭の中にバグの起こった文字の列が通り過ぎる。それは今の李衣菜にとってあまりにも不快だった。

「LPさん、変わっても…いいよね。良いんだよね」

こういう事が前にも起きた気がする。確か…何等か理由で一時的な故障を起こした時だ。理由は思い出せない。

オレンジ色の草原に、空から無数の標識が突き刺さる。

進入禁止、通行止め、制限速度0…

そして自分の内側から問いかける声。

『行くの?』

その光景は李衣菜を留めておこうとしているようにも見えた。そして聞こえる言葉は、李衣菜の心を折ろうとしているように感じた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:31:48.38 ID:1Ls41AtI0<> 取り戻したのに、失うわけにはいかない。だから言葉を放つ。

「私は…帰るよ。このまま、私のまま…!」

『怪物なのに、人間の心を持って帰るつもりなんだ?』

「…」

『死体の癖に、ゾンビの癖に?…機械みたいに生きていた方が幸せだと思わないの…?』

自分の声が問いかけてくる。人ではない自分に心が耐えきれるのか、聞いてくる。

「…大丈夫だよ。二度目の人生、全部を平和の為に使うから。幸せじゃなくたっていい」

「それに、怪物だとしても、ゾンビだとしても…私を受け入れてくれるみんながいる。それだけでいい。なつきちや、きらりや、奈緒やLPさんたちが私を受け入れてくれた」

「今までの私と、これからの私は違うかもしれないけど…それでも、みんなは大丈夫だと思う」

『…ねぇ、それは勝手な思い込みじゃない?みんなが裏切ったら…なつきちが私の事嫌いになったら、怖いよ』

「…思い込み?ううん、絶対に違うよ。みんなが信じてくれたから、みんなを信じていたから私はここにいるんだ」

「私がこのチームが好きなのは、なつきちだけじゃない、みんなが一緒だから。…今度こそ、絶対に無くしたくないものだから…」

『そんな生き方辛いだけだよ。何も考えないで、ただ人のように振る舞い続ければいいよ。今更『私』に戻っても、役立たずになっちゃうよ』

『役立たずなんて嫌だよ…体なんてもう人間じゃないんだよ。なら心が人間であり続ける理由なんてないでしょ?ねぇ…』

悲しそうに、怯える声。これが自分自身の恐怖だ。変わってしまって、役立たずになることを恐れている。

「ロックにも人生にも、大事なのは魂と心…思いなんだよ!…だから…辛いなんて思いたくない!」

「壊れるまで生き続ける!動ける限界まで!思考できる限界まで!私の存在がどんなに世界から見て醜くても!世界の常識から外れていても!」

「それが私の、多田李衣菜のロックだから!!」

心の声は、その勢いだけの非論理的な言葉をまるで待っていたかのように悲しい言葉を止めた。

『…そっか、ロックか…うん、ロックだね』

「すっごくロックでしょ!」

『…本当に。…こうやって喋ってるだけで幸せになってる』

「そうだね、幸せ…だから行くよ。…いろいろ無くしちゃった第二の人生だけど…やっと心を取り戻せたんだもん、もったいないよ」

風が吹いて草原を揺らす。標識はもう無くなっていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:33:11.13 ID:1Ls41AtI0<> 『心、いつでも置いてっていいからね』

「ねぇ…今のを聞いてそれを言うの?」

『しなきゃいけない時もあるよ。私はそれができる』

「…普通はできないでしょ」

『普通じゃないからね。…心の避難場所だよ。何も考えたく無くなったら、心だけここに置いてくればいいから』

「…うん、覚えておくよ」

李衣菜が響く『自分』の声と会話しながら草原を歩く。

心があっては精神攻撃などには弱くなる可能性がある。だからこそ、心を切り離す必要が出てくる時もあると李衣菜自身も理解していた。

『自分』の声はきっと前向きになれず、かといって後ろ向きにもなりきれない、臆病なまま惰性で生きている自分の声。

自問自答。自分の心で自分の魂に問いかける。

「私、笑えるようになりたいんだ」

『できると思う?』

「上手く笑えなくても、心から笑えるよ。今なら」

『…人間関係ってさ…歌と一緒だね、上手さよりも心が大事なの』

「…心が今まで離れてた私に言っちゃうんだ」

『これからは心、ちゃんとあるんだから…あー…、時間だ』

「え?」

『これからは、一緒だからね』

李衣菜の頭上に無数の流れ星が輝き流れていく。それと同時に李衣菜の意識は精神世界から切り離された。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:34:46.97 ID:1Ls41AtI0<> 目覚めるとまだ車の中だった。それほど時間は経過していないようだ。

「…李衣菜、起きたのか」

「ぐぁう…ふがー…んんー」

ずれていたことに気付き、喉の装置を素早く戻す。

「はい、大丈夫ですよ!」

「誕生日祝いが終わったら、しっかり休めよ」

「…了解です」

少しだけ、会話が途切れる。

その途切れた時間に言葉を刻むように、李衣菜は空気を震わせた。

「その…えっと…ありがとうございました」

「…何のことだ?」

「LPさんが言ってくれた言葉のおかげで、今の私、ちょっと幸せだから」

「そうか、もう…大丈夫なんだな」

何かを隠してそうなLPに、李衣菜は何も聞かなかった。

「はい!多田李衣菜、完全復活です!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:36:17.20 ID:1Ls41AtI0<> ―――
――

彼のギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンは言ったはずだ。『死とは、人が変化することだ』と。

間違いなく多田李衣菜はもう死んだ。ロックも死んだし私も死んだ。

一度死んで生まれ変わったと言えば聞こえばいいけれど、とても世間から良い目で見られないような方法だった。

でも…私は幸せだと思いたい。私を人間として扱ってくれるみんながいるから。

思考も、できる事も、姿も…変わってしまったかもしれないけれど、その変化を受け入れようって思えたんだ。

例え変わってしまっても、心は変わってないとやっと実感できたから。

私は、死んでも変わり続けて、結局は私のままであり続けているんだ。

――
―――― <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:39:07.33 ID:1Ls41AtI0<> 隠れ家にたどり着いて、ドアノブに手をかける前に扉が開かれ、きらりにガシッと掴まれ中に引き込まれる。

「李衣菜ちゃーんお帰りー!!…きらり、準備して待ってたゆ☆」

「もう準備は終わってるからなー。…あ、やばっ!プレゼントまだ二階に置きっぱなしだった、取ってくる!」

「きらりもー!」

「おいおい、よりによってそれかー…」

きらりと奈緒が二階へ駆けていくのをチラリと見ながら夏樹は李衣菜に向かい合った。

「だりー、お帰り。…誕生日おめでとう、こんな時間になっちまったけどな」

「…ありがとう、なつきち。…えへへっ、なんか他にいろいろ言おうとしたことあったのに、吹き飛んじゃった」

「なんだよ、何が言いたかったんだっての……」

李衣菜の返事を聞き一瞬だけ、ほんの一瞬だけではあるが、夏樹の表情が変わった気がした。

多分、分かってくれた。少なくとも李衣菜はそう思えた。

「んー…言わなくていい事、かな?」

だからそう答えた。信じているから、そう言えた。

「…なぁ、だりー」

「なぁに、なつきち?」

「なんか、ヘンだと思うかもしれないけどさ…おかえり」

「…うん、ただいま!」

まだうまく笑えないけれど、きっともう大丈夫。

未来永劫変わらない私は、もういない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:40:20.11 ID:1Ls41AtI0<> ―おまけ・二階

「これ…いつ一階に下りればいいかな、なんか入りづらい空気なんだけど」

「うっきゃー☆らぶらぶ〜」

「なっ!?いやいや、あの二人女同士だしっ……で、でもぶっちゃけ性別での分類ってよく分かんないしなぁ…うーん」

「あー…リーダーちゃんまだ入ってこれてないの、ずっと玄関の外にいるみたーい」

「LPさん…」 <> @設定
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:41:32.38 ID:1Ls41AtI0<> ・黄昏石
右目に埋め込まれている機械によって保護されている黄昏の様なグラデーションの宝石。李衣菜の魂を封じ込めてあるらしい。
この宝石を取り除かれたり破壊されたら、李衣菜は肉体を失う事になる。
今までは魂だけで心が欠けていたが、ついに心と魂を一体化させる事に成功した。

・李衣菜の精神世界
死と機械的な生の間で揺れ続ける李衣菜の精神を象徴した世界。どこまでも広がるグラデーションが特徴。
ずっと李衣菜の魂と心は分断され続けており、その心はずっとこの世界にいた。
『心』をキーワードに李衣菜の魂が精神世界に迷い込み、ついに一体化に成功。正常な感情を取り戻すことに成功した。

その経緯からか、通常ならば肉体と魂以上に魂と心を切り離すことは容易ではない筈なのだが、李衣菜は自らの意思で心を魂と分離させることが可能となった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/06/30(月) 00:42:51.32 ID:1Ls41AtI0<> 以上です。だりーな、誕生日おめでとー!
いつか感情を取り戻そうと思っていたらいつの間にか一年以上…時の流れは早い
精神世界のイメージは主にTwilight Skyから。名曲だと思います。
キービジュアルの李衣菜も可愛かったので満足(あと奈緒加蓮の距離が誰よりも近くて幸せ) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/06/30(月) 01:33:57.87 ID:yJ5CJUit0<> 乙ー

だりーな誕生日おめでとう!
魂と心が一緒になってよかったね!

そして、LPェ… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/06/30(月) 23:59:12.78 ID:x4mEkMIzo<> あらやだ素敵
ロックも死んだし私も死んだ。ってフレーズ好き
だりーはとことん幸せになればいいと思います

乙です、だりー誕生日おめでとー
<>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 06:53:52.89 ID:pThR+vU4o<> お久しぶりです

副業でしばらく離れていたけど、落ち着いたので丹羽ちゃん復活編投下します
今や懐かしの憤怒の街時系列という

あと長くなっちゃってますごめんなさい <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 06:55:48.63 ID:pThR+vU4o<> 期間空きすぎてるのでこれまでの流れ

丹羽ちゃん登場編
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/628-634

アヤカゲとの邂逅
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/861-863

憤怒の街騒動における仁美とあやめの立ち位置
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/142-146

狼型カースとの対決
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/49




仁美が次に意識を取り戻した場所は、周囲に一片の存在も感じない空間だった。

仁美「あれ……アタシ、どうしたんだっけ……?」キョロキョロ

辺りを見渡してみるも、虚空が広がるばかりである。
起き抜けに混乱しているかのような頭で今までの記憶を探るが、はっきりと思い出せない。


「ああ、情けなや情けなや!」

仁美「っ!?」

突如、周囲に何者かの声が響き渡り仁美は肝を冷やす。

「あの程度の異形に簡単に敗れるとは……それでも丹羽の人間ですか!」

仁美「エ……?」


声が聞こえてくると同時に、仁美の眼前に一人の女性が現れる。

仁美「も……もしかして……母さん?」

その姿は、仁美が物心付くか付かないかの時分に死に別れた母親のものだった。


「そう言うんじゃないよ」

先程とは別の声が聞こえたと思うと、新たな人影が仁美の傍らに立っていた。

「仁美が頑張っていたのは、あなたも見ていたでしょうに」

仁美「!!?」

その姿を認めた仁美の表情が驚愕の色に染まる。

仁美「お、おばあちゃん! なんで!?」

仁美の傍に姿を現したのは数年前に亡くなった祖母だった。


母「母上は仁美を甘やかし過ぎだったのです、だからあの程度の相手に死にかける」

祖母「あのねぇ……あなたが戦う術を伝えてあげられなかったのが悪いんでしょうよ」

母「む……それを言われると弱い……」

仁美「ど、どういうこと……?」

仁美の困惑をよそに、突然現れた母と祖母は口論を始めていた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 06:56:25.11 ID:pThR+vU4o<>
仁美「あ……そっか……アタシ、死んじゃったんだっけ……」

死に別れたはずの身内に会ったことで、現在の状況に対する理解と、目を覚ますまでの記憶が戻ってくる。
街に現れたカースの相手をしていて、致命傷を負い意識を失ったのだ。

母「いいえ……仁美よ、あなたはまだ生きています」

自分は死んでしまったのだという答えに対し、しかし母から聞かされた言葉はそれを否定するものだった。

仁美「……だってここ、あの世じゃないの?」

母「あの世ではありません、現世と冥府の狭間とでもいうべき場所です」

現状の把握に苦戦している仁美に対して、母が説明を始める。


母「こちらに来る直前、あなたは『かあす』なる異形と対峙していた……それは覚えていますね?」

仁美「う、うん……」

母「その際にあなたは深手を負い、その身体から魂が抜け出てしまったのです」

仁美「よく分からないけど、それってつまり死んじゃったって事じゃなくて?」

母「実際危険な状態でした……既のところで治癒が間に合ったようですが……」

母「あと一歩遅かったらどうなっていたことか……」

仁美「(治癒って……病院か何かに運び込まれたってことかな)」

仁美「(あの状態のアタシを治すとか……腕の良い医者も居たもんだね)」

要約すると、瀕死の重傷を負いはしたものの、身体の生命活動が止まる直前で首の皮一枚繋がった……ということらしい。


母「そして、あなたは一時的とはいえ魂だけの存在となったことで」

母「私や母上の居る、この空間に立ち入る事が出来たのです」

母「もっとも、現世を彷徨うあなたの魂を、我々がこの空間へと呼び寄せた…という形にはなりますが」



大雑把に現状の説明を終えた仁美の母だったが、さらに言葉を続ける。

母「結局のところ、現世のあなたの身体が負った傷は完治してはいるのですが……」

母「現世に戻る前に、こちらでしばらく修業を受けてもらいます」

母「そのためにこちらに呼び立てたのですからね」

仁美「……」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 06:57:10.46 ID:pThR+vU4o<>
母から、現在に至るまでの顛末を聞かされた仁美は、浮かない表情を浮かべながらたどたどしく口を開く。

仁美「……この空間て、現世と冥府の狭間とかって言ってたけど」

仁美「言ってしまえば、夢か幻みたいなものなんだろうけどさ」

仁美は今まで聞かされた話を何とか繋ぎ合わせ、少しずつ言葉にする。

仁美「そんな場所で目を覚まして……それで、母さんとお婆ちゃんが出て来て……」

仁美「まあその……流れ的に……なんとなく予想はしてたけど」

仁美「なんだって……生きるか死ぬかって時にまで修業しなきゃいけないの……?」ゲンナリ

母が自分の前に現れた理由を聞かされた仁美だったが、うんざりとした態度をおおっぴらにして隠そうともしないのだった。


仁美「(アタシ自身、母さんの事は全然覚えてないけどさ……)」

仁美の記憶の中の母の姿はその殆どがおぼろげであったが、
今まで生きてきた中で、幼くして母を亡くしたことによる寂寥感などを抱いたことは無かった。

仁美「(こんなわけのわからない状況とはいえ……もっとこう、感動の再開ーみたいなさ)」

仁美「(少しくらい……そういうのあってもいいよね)」

それでも、些か奇妙な状況ではあるが、折角の再開である。
仁美がそれに対し感慨深さのようなものを求めるのも無理からぬことだった。


母「あなたにはいずれ現世に戻った際に、今以上に戦えるようになってもらわねばならぬのです」

母「現世においてあなたを鍛える事が出来なかった以上、こうするより他に方法が無かったのです」

そんな仁美の様子を見ても、しかし母は意に介する風もない。

仁美「本当に戻れるのかすらも怪しいんだけど……」

仁美「……まあ……しょうがないか」

不満気だったが、それでも仁美は渋々といった様子で母のいう事を受け入れる。
いずれ現実に戻れるのなら力をつけておくことに越したことは無いし、
それに、拒否したところで現世への戻り方も分からない今の仁美には、他にどうすることも出来ないのだ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 06:58:27.69 ID:pThR+vU4o<>
母「ふむ……なるほど」

仁美の意思を確認した母は、しばらく品定めをするかのように仁美のことを眺めていたが、やがて満足気に口を開いた。

母「身体能力の基礎は、どうやら出来ているようですね」

祖母「私の言いつけを守っていたんだね、偉いよ仁美」

仁美の様子を観察していた母の発言に、祖母が相槌を打つ。

仁美「そりゃ、おばあちゃんの遺言だったからね……毎日、鍛錬は欠かしてなかったよ」

自主的な鍛錬に加え、悪人やカースとも幾度となく戦ってきたため、
仁美には身体能力だけでなく実戦経験も豊富に身についていたのだ。

その能力は、母と祖母二人の大方の予想を大きく上回っていた。

母「これなら、"技"を伝えるのに問題は無さそうですね」

仁美「……技?」


祖母「丹羽の家には、一族相伝の戦闘術があるんだよ」

祖母「異形を仕留める為の"狩人の技"がね」

仁美「狩人の……技……」

祖母の説明を受けた仁美は、その言葉の意味を確かめるように繰り返す。

祖母「私がもう少し若かったら、生きてる内に仁美にも教えてあげられたんだけどねえ」チラッ

母「……私が伝えてやれなんだのは、済まなかったと思っています……」

祖母の非難するような視線を受けて、母はバツが悪そうに呟く。
本来なら一族相伝の技は親から子へと継がれるはずなのだが、幼くして母を亡くした仁美にはそれが叶わなかったのだ。


母「しかし、それはそれとして、ものすごーく頼りになる先生をお連れしたので」

母「あの方にかかれば私が伝えるよりよほどうまく、一族の技を体得することができましょう」

仁美「先生……?」


母「それではお呼びしましょう、仁美に一族の技を伝えて頂くのはこの方ですどうぞー!」

「よろしくお願い致します」

仁美「!?」

母が呼びかけに応じて虚空から現れたのは、仁美と寸分変わらぬ容姿を持った少女だった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:00:08.82 ID:pThR+vU4o<>
仁美「あ、あれ……? ア、アタシ!?」

母「っ!! この子はなんてことを! こちらにおわすお方をどなたと心得ますか!」

仁美の発言を聞いて母が言葉を荒げる。

母「畏れ多くも、丹羽家興隆の魁と称えられしご先祖様にあらせられますよ!」

先祖「どうも、ご紹介にあずかりました、先祖です」

母から紹介を受けたご先祖様と呼ばれた少女は、目を丸くしている仁美の前に進み出る。

先祖「仁美、あなたの活躍はずっと見ていましたよ」

仁美「ご先祖様……興隆の魁?」

先程から状況についていけずに、仁美の頭の上には疑問符がいくつも浮かんでいる。


母「あなたは……自らの家系の歴史も知らないのですか?」

仁美「だって、興隆とか……うちの家ってそんなに大層な家柄だったの?」

母「くっ! ……ご先祖様、不肖の娘が申し訳ありません」

母は仁美の発言に憤慨しつつも、自らの娘の非礼について先祖の少女に詫びを入れる。

先祖「詮無きことです」

先祖「この国においては異形を相手にする者といえば、妖怪退治屋の方が名が有りますから」

それを受けた先祖の少女は、しかしさほど気に留めていないようだ。

仁美「(母さんとおばあちゃんが出てきただけでもわけわからないのに、今度はご先祖様……?)」

そんなやりとりを眺めながらも、相変わらず仁美は現状についていけていない様子だ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:00:34.48 ID:pThR+vU4o<>
祖母「それじゃあ簡単に、ご先祖様の偉業について話してあげようかねえ」

混乱している仁美を見た祖母は、軽い前置きの後に目の前の少女についての逸話を語り始める。

祖母「かつて人間界に、魔界より攻め入ってきた吸血鬼の軍勢があってね」

仁美「きゅ、吸血鬼……!?」

祖母「その軍勢の首魁……吸血鬼連中の"祖"の一柱を討ち取り、軍勢を魔界へと追い返したのがこちらのお方なんだよ」

仁美「そ?を討ち取る?」

先祖の偉業とやらを語られてもいまいち理解が出来ず、仁美の頭上には相変わらず疑問符が浮かんでいる。


祖母「今より遥か昔……まだ人間が地上を全面的に支配する以前の時代」

祖母「この地上を手中に収めんと跋扈する魔界の勢力があってね」

祖母「それらの親玉が、『祖』などと呼ばれる吸血鬼だったんだよ」


祖母「彼奴はその膨大な魔力を用いて世界を暗雲で覆い尽くし、人々から陽光を奪い去った……」

祖母「こりゃいかんということで、幾人もの豪勇の者が挑んだものの、その尽くが返り討ちにあったということでね」

祖母「最終的にはこちらのご先祖様が、三日三晩にも渡る死闘の末に、見事討ち取ったというお話さ」

先祖「うーん、懐かしいですねー」

祖母の話を共に聞いていた少女が口を開いた。


先祖「あの時は大変でした……現代は電気? でしたっけ? それのおかげで夜でも明るいですけど」

先祖「当時はロウソクとか油を燃やして明かりをとっていましたから」

少女は今しがた祖母が語った"吸血鬼の親玉"と対峙していた当時の様子を語る。

先祖「日光が弱点という事で考えたんでしょうね」

先祖「あれを退治するまでは夜が明けなくなってしまって……」


母「吸血鬼の祖といえば、魔界における諸勢力の中でも相当な上位に位置する存在……」

母「そのような難敵を下したのだと言われれば、ご先祖様の偉大さは自ずと理解できましょう」

仁美「……えっと、よく分からないけど、その吸血鬼とやらはとにかく強いってことよね」

仁美「それで、こちらのご先祖様は、それ以上って事ね」

状況に頭が追い付いていないのは変わらなかったが、
目の前にいる自分と瓜二つの少女の実力だけは辛うじて伝わったらしい。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:01:07.89 ID:pThR+vU4o<>
先祖「そのことなんですけどね……」

少女はふう、と、一息吐き出すと、若干顔を強張らせながら続ける。

先祖「実は……その、私が退治した祖ですけど……」

先祖「……そろそろ……復活しそうなんですよね」

仁美「あー、復活ね……そういう大ボス的な相手には付きものよね、うん……」

仁美「って! そんなのが復活するって結構マズいんじゃないの?」

先祖「申し訳ない話なのですが、奴の存在そのものを完全に滅することは出来なくてですね」

先祖「辛うじてその身を封じた……というような形になるのですが、その封印がそろそろ解けそうな感じでして……はい」

仁美「事の大きさの割になんか適当じゃない……?」

先祖「それでですね、あなたに今一度奴を退治してもらいたいという事でして……」

仁美「……エ?」

少女からさらりととんでもない事を言われ、仁美は言葉の意味を咀嚼するのに手間取る。


先祖「もしかしたら、もう既に復活しているという可能性もあるんですよね」テヘッ

仁美「えっと……それをアタシが?」

仁美の脳内で、先程の母の発言が少しずつかみ合っていく。

「現世に戻るにあたり、今より強くなってもらわなければならない」

「そのために、修業を受けてもらう」

「そもそも、修業を受けさせるためにこちらの世界に呼び出した」

といった内容だったはずだ。


仁美「(そうすると何か? アタシがその何とか言う吸血鬼をやっつけることになるって……?)」

仁美「……無理でしょ!?」

母や目の前の少女の言わんとしている事を理解した仁美は、知らず声を上げていた。

先祖「心配には及びません、ちゃんと吸血鬼と戦う術は教えますから」

仁美「そ、そんなこと言われても……で、出来ないよ……出来ないって……!」

そもそも不確実な未来の話なのだが、しかしどうしても仁美は引き下がる。
狼型カースとの戦いで手酷くやられて以来、戦うという事に対しどうにも臆病になってしまったらしい。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:02:08.21 ID:pThR+vU4o<>
母「……仁美」

母「あの、かあすだとかいう異形にやられ、臆しましたか」

食い下がる仁美の様子を見かねた母が口を開く。

仁美「う……」

母「戦えないというのならば、仕方がありませんね」

母「あなたは、もののふの魂を持ち合わせていなかったと……それだけの事です」

仁美「むむ……」

母は、仁美の反発心を煽るように言葉を続ける。

母「後は、世界が再び闇に閉ざされるのを、指を咥えて見ていればいい……それもまた一つの選択でしょう」

仁美「ぐぬぬ……!」


仁美「わ、わかったわよ! やればいいんでしょ! やれば!」

仁美「アタシがやらねば誰がやるってね!!」

母「よろしい!」

先祖「(チョロい……)」

祖母「(すぐムキになるあたり、血は争えないねえ……)」

仁美「(なんか乗せられた感があるけど、どっちみちそんなの放っておけないもんね!)」

吸血鬼と戦う意志を見せる仁美だが、その理由は煽られたからだけでは無かった。
元より仁美にも、彼女なりの正義感が備わっているのだ。
自分が動かねば世界が危ういなどと言われれば、それを拒否する様な事は出来ない。


母「まあ、吸血鬼と戦うという事は別として」

母「ご先祖様から直接ご指導頂けるというのは非常に栄誉なことなのです」

母「くれぐれも、粗相の無いように!」

祖母「それではご先祖様、孫をよろしく頼みます」

先祖「はい、任されました」

仁美「……なんか締めに入ってるのは気のせい?」

仁美に吸血鬼と戦う約束を取り付けた母と祖母は、言いたいことだけ伝えるとそのまま立ち去ろうとする。


仁美「ちょっと! 色々と投げっぱなしじゃない!?」

祖母「大丈夫、仁美ならきっとうまくやれるよ」

母「私達は、離れて見ていますからね」

仁美「ええー……」

仁美の困惑をよそに、二人の姿はそのまま立ち消える。
そして、先祖の少女と二人きりとなってしまった。

先祖「マンツーマン指導というやつですね」

仁美「うーん……まあ、なるようになる……」

仁美「というより、なるようにしかならない……か」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:02:34.21 ID:pThR+vU4o<>
先祖「さて……それでは、とりあえずこれを」スッ

少女は仁美の眼前に腕を突き出す。
その手には仁美も見慣れた斧槍が握られていた。

仁美「あ……そういえば、その槍……」

仁美「ごめんなさい……壊しちゃったんだ……」

少女の手にある斧槍を認めた仁美は、かつてない程にしおらしい態度を取る。

こちらの世界に来る前──つまり、現世において狼型のカースと戦った際に、
一族の伝える斧槍をへし折ってしまったことを思い出したのだ。

先祖「ええ、承知しています」

仁美の申し訳なさそうな声色を聞いて、少女は諭すように、あやすように言葉を続ける。

先祖「形あるものは、いずれ朽ちて無くなります……それは、万物に課せられた宿命……」

先祖「けれど、人の想い……心は、それを伝えようとする意志がある限り、絶えることなく」

先祖「永遠に、受け継いでいくことが出来るのです……」

仁美「想い……?」

先祖「我が一族が真に伝えるべきものは、この斧槍の様な物質的な"物"ではありません……」

先祖「仁美……あなたに、一族の技と共に、私の想いを託します」

先祖「受け取って、貰えますか?」

仁美「……」


退魔士として代々称えられてきた仁美の祖先である少女が言うには、
仁美が真に受け継ぐべきは退魔士としての心構えや志といった、精神的なものであるという。

仁美「(ご先祖様の想いを託されるっていうのは……)」

仁美「(それってつまり、跡を継ぐってことだよね)」

仁美の場合はその精神を伝えてくれる相手が居なかったため、今まではただ思うがままに得物を振り回すだけだった。
そうした経緯があって今回、一族の中で最も優秀であったとされる祖先の少女が出張ってくるという事態になったのだが──

仁美「(退魔士として大活躍してたっていうご先祖様の跡を、アタシなんかが継ぐことできるのか……自信無いよ……)」

逆にそれが仁美にとっては重荷となっている様子が見受けられた。


仁美「(けど……アタシだって退魔士の端くれ、丹羽家の人間なんだもんね……やるしかないよね!)」

仁美「……上手く出来るか分からない……けど……やれるだけやってみるよ!」

仁美は少女の問いに対し、声に若干不安の色を孕ませつつ、それでも最後は力強く意気込んでみせる。

先祖「それでこそ、私の後裔です……ありがとう」

仁美の決意を受けて、少女はその顔を綻ばせた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:03:20.33 ID:pThR+vU4o<>
仁美「それじゃあお師様、よろしくお願いします!」

仁美は改まって、これから世話になる少女に頭を下げる。

先祖「お師様?」

仁美「その、アタシ殆ど我流でやって来たから、体系立てて武術を学んだことって無いんだ」

幼くして母を亡くした仁美は、唯一の肉親は祖母のみであった。
その祖母もかつては退魔士として活躍していた時分はあったのだが、寄る年波には抗えず、
仁美が得物を握る事が出来る年齢に至った頃には満足に構えを取ることも出来なくなっていた。
故に、仁美は独力で戦いの術を編み出す他無かったのである。

仁美「だから、諸々の技を教えてくれるご先祖様はお師匠様ってことだよね」

先祖「そうですか……わかりました」

先祖「そういうことでしたら私も、あなたの師匠の名に恥じないようにしないといけませんね」スッ

少女は改めてその手に持った斧槍を仁美に差し出す。
仁美はそれを、決意を秘めた面持ちで受け取るのだった。



先祖「それでは修業を始めるにあたって、とりあえず場所を移しましょうか」

少女が手を一つ叩くと、何も無かった周囲の空間が一変し、だだっ広い荒野へと変わった。

仁美「エ!? ここどこ!?」

先祖「私の心象風景を具現化してみました……修業するからには、それっぽい場所の方がよいかと」

仁美「すごい! マ○リックスみたーい☆」

先祖「この空間はいわゆる物質的な概念から切り離された場所ですからね、何でもアリなのです」

先祖「とはいえ、物理法則などは現実世界に則っていますので、修業をするという点ではそれなりの効果が見込めます」

仁美「……つまり、ご都合主義的空間ってことね」

先祖「……細かいことはいいでしょう……始めますよ!」

仁美「おーっ!」

仁美は少女に応じて気合いを入れ、修業への意欲をみせる。



仁美「(こちらの世界で目覚めてからというもの、理解を超す出来事がそれも短時間の間に多く起こったけど)」

仁美「(いつまでも混乱してばかりもいられないもんね!)」

仁美「(あれこれ考えても分からないし、それなら今出来る事に専念するのが一番!)」

現状に対する折り合いが付いたのだろう。
いよいよ、仁美の修業が始まろうとしていた。

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─── <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:04:03.39 ID:pThR+vU4o<>
修業を始める準備が整ったという事で、改めて仁美と少女は向き合う。

先祖「そうですね……最初は遠隔攻撃技から教えましょうか」

仁美「遠隔攻撃技……?」

先祖「武器に闘気を込めて振るう事で力場を生み出し、遠くの標的を切り裂く技です」

仁美「何をするのかさっぱりわからないけど、言葉だけ聞いてるとやたら凄そう……」

先祖「なんてことのない、いわゆる"飛び道具"というものですよ」

先祖「長柄を扱っているとはいえ、例えば空を飛んだりする相手には手が出せませんから」

先祖「そういう存在を相手取った時の為に編み出された技です」

仁美「なるほど……」

仁美「アタシは今まで空を飛ぶのは相手にしたことなかったけど、そういうのが出てきたら確かに厄介かも」

先祖「ちなみに、我が一族に伝わる技の中で、遠隔攻撃の基本にして究竟と呼ばれるものです」

仁美「……なんか大仰すぎて鼻に付くけど、ガッカリオチだったりしないよね!?」


先祖「百聞は一見に如かずと言いますからね……とりあえず、見ていてください」

少女は自分用に用意していたのだろう、手に持った斧槍をくるりと半回転させると逆手に持ち替え背後に回し、半身を乗り出し構える。

仁美「(あの体勢は……抜刀術?)」

その構えはさながら日本刀による居合抜きの様に見えた。


先祖「いきますよ! 『ペレグリンエッジ』!!」

少女が斧槍を思い切り振りぬくと、その正面50メートル程離れた位置にあった巨岩が真っ二つに割れる。

仁美「おほっ! すっご!」

斧槍の刃は当然ながら届いていないので、少女の言う通り何か目に見えない"力"で切り裂いた……という事になるのだろう。


先祖「ふぅ……どうでしたか?」

仁美「うん、実際すごかったんだけど……」

仁美「……何を叫んだの?」

先祖「技名ですよ」

怪訝そうな顔をしている仁美の質問に、少女はしれっと答えた。


先祖「攻撃をする前に気合い声を上げるでしょう? それの変化形です」

仁美「ああ、一族の"技"ってそういう……」

先祖「掛け声は重要ですよ? あるのとないのとでは、気合いの入り方も違いますからね」

仁美「……そういえば、あやめっちも忍術を使う前に何か叫んでいたっけ」

先祖「ちなみにこの技名には、空を舞う隼の様に素早い……または、その隼を落とす程の一撃」

先祖「そんな由来があるらしいです」

仁美「へえ……よく分かんないけど……」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:04:49.07 ID:pThR+vU4o<>
先祖「それでは、あなたもやってみてください」

仁美「うん……こうやって構えて……」

仁美は見様見真似で斧槍を構える。

仁美「(えっと……闘気を込める……闘気? 闘気って何……?)」

仁美「ええい分かんない! ペレグリンエッジ!」

仁美も師匠である少女と同じように得物を振るうが、目標にした岩は表面が多少削れる程度で真っ二つとまではいかなかった。

先祖「これは……!」

先祖「初見でここまでできるとは、お見事です」

それでも少女の目から見れば十分過ぎるほどの成果だったらしく、その表情には驚きの色が浮かぶ。

仁美「(うーん……どうもしっくりこないなー)」

しかし、仁美本人からすると納得のいかない出来らしい。


仁美「ねえお師様、叫ぶ技名って、決められたものじゃないといけないの?」

先祖「え? ああ、自分の中でその技のイメージが固められるのなら、どんな言葉でも効果はあると思います」

仁美「そっか……もう一回挑戦してみても?」

先祖「どうぞどうぞ」

仁美「(うーん……ペレグリン……ペレグリンかぁ……空を舞う隼ねえ……)」

仁美「(……よし!)」



仁美「それじゃ改めて……!」

どこか吹っ切れたかのような様子で、仁美は今一度構えを取ると──

仁美「『隼空刃』!!」

叫ぶ技名を変えて、今一度斧槍を振りぬく。


仁美「(横文字は今一つピンと来ないから、漢字を充ててみたよ!)」ドヤァ

仁美の放った技の勢い自体は先ほどと変わらなかったが、その視線の先にある岩は轟音を立てて崩壊した。

先祖「っ!?」

仁美「お? おー! やっぱり掛け声で変わるものなんだね、気合いの入り方が違うってヤツ?」

今度は目標にした岩を真っ二つにすることに成功したらしい。


先祖「(まさか……教えてすぐここまでこなすとは)」

はしゃぐ仁美の様子をよそに、少女はその能力に驚愕していた。

先祖「(この子の伸びしろは……計り知れないものがある)」

先祖「(これは、鍛え甲斐のありそうな弟子ができましたね……!)」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:05:23.10 ID:pThR+vU4o<>
先祖「素晴らしいです、仁美」

満足げな笑みを浮かべながら、少女は仁美に呼びかける。

先祖「正直驚きました、あなたの能力は私の想定以上です」

仁美「そ、そう? そんな風に褒められると背中がかゆいね!」

先祖「この調子で修業を続けましょう」

先祖「あなたなら、いずれ私を越える事も出来るかもしれません」

仁美「えっと……あんまり期待されても困るというかー……精いっぱいやってみるけどね」

先祖「その意気です、弱気になってはいけませんよ」


先祖「それでは、この技をもう千回ほど練習です!」

仁美「エ? 千回!?」

先祖「一度の成功では極意を得たとは言えませんからね、極意を得るためには千回でも少ないかも知れません」

仁美「(存外スパルタだったー!)」

先祖「ほら、呆けてる暇はありませんよ!」

仁美「(これは……現世の身体より先にこっちの身体が滅びそう……)」

先行きに若干の不安を覚えつつ、仁美は先祖の少女との修業を続けるのだった。


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◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:06:28.26 ID:pThR+vU4o<>
──それからしばらく後──


仁美と先祖の少女の修業は(時間の流れの曖昧な空間ではあるが)かなりの長期に渡り続けられていた。


先祖「次は投擲武器の扱いを会得してもらいますよ!」

仁美「何これ? 液体の入った……ビン?」

先祖「投げてみて下さい」

仁美「うん……うわっ!? 燃えた!? 火炎ビン!?」

先祖「聖水です」

仁美「聖水!?」



先祖「お次はコレです」

仁美「何これ……手裏剣?」

先祖「十字架(クロス)です」

仁美「十字架!?」

先祖「投げてみて下さい」

仁美「うん……うわっ!? 戻ってきた!? あぶなっ!?」サッ

先祖「あーっ、避けたらダメですよ! キャッチしないと!」

仁美「無理無理! こっちが怪我するって!」



仁美が修業を始めて以来、一族の伝える珍妙な技の数々に始まり、
丹羽家の人間が今まで戦った相手の対処法や斧槍以外の武器の扱い、
あらゆる状況展開における最善手等々、戦闘に関する事柄をひたすら教え込まれることとなっていた。

今まで思うがままに得物を振り回していただけだった仁美にとっては、
若干形式ばったそれらの内容は不慣れでやり辛いものだったが、
持ち前の負けん気で修業を続けていくうちに、先祖の少女の教えを着実に物にしていった。
<>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:06:58.11 ID:pThR+vU4o<>
先祖「ふむ……中々様になってきましたね、それくらいで良いでしょう」

離れて見ていた少女は、及第点に達したということなのだろう、仁美の練習を切り上げさせる。

仁美「はあ……やっとお許しが出た……」

先祖「さて仁美……これで、私からあなたに教えられることは最早無くなりました」

仁美「……エ?」

諸々の訓練が一段落ついたところで、少女が唐突に切り出す。
それに対し、仁美は疑問の表情を浮かべる。


先祖「あなたは、私の教え得るすべての事柄を体得してしまったので」

仁美「そうなの?」

仁美「アタシとしては、まだ全然お師様に追いつけた感じが無いんだけど」

先祖「現世と同等の環境で修業が出来るといえど、やはりこちら側で鍛えるにも限界がありまして……」

仁美「限界か……まあ言ってみれば、こっちの世界で修業するのって、睡眠学習みたいなものだもんね」

仁美「ここでいくら修業をしても、実際に自分の身体を動かすのとは訳が違うって事よね」

先祖「その通りです」

仁美が今いる空間は、重力等の物理法則、自身の身体能力や五感等の感覚も現実と全く同等に再現されている。
いわば、ものすごく高度なイメージトレーニングを行っているとも言える状況であった。

こちらの空間で得られた経験は、仁美の記憶(あるいは魂とも言える)に刻み込まれ、
現実世界においても容易に出力が可能となるのだが……。

先祖「こちらの世界で学ぶべきが無くなったあなたが、さらに力を付けんとするならば」

先祖「現世に戻り、後はひたすら実戦をこなす……という事に尽きるのです」

仁美「なるほどね……まあ幸か不幸か、向こうでも戦う相手には困らないけど」

物質的な概念から切り離されたこの空間では、鍛えることが出来るのはあくまで心技のみとなる。
先祖の少女の手により精神的に鍛え上げられ、さらに一族に伝わる妙な技の数々を体得したとはいえ、
その力を真に己が物とするには、やはり現世での実戦を経る必要がある……という事らしい。


先祖「と、いう訳で」

先祖「仁美よ……現世へと戻る時が来ました」

仁美がこちらの世界での修業を終え、現世へと戻る事になったという事実を受けて、少女は改まって仁美に語り掛ける。

仁美「そっか……いよいよ戻ることになるんだね……」

仁美「お師様……どうもありがとうございました」ペコッ

それに対し仁美は、神妙な様子で頭を下げる。

先祖「いえ、私も久しぶりに楽しかったです」

先祖「あなたなら、丹羽の人間としての務めを立派に果たしてくれると、信じていますよ」

仁美たちが居るのは現世における時間の流れから隔絶された空間ではあったが、
体感的に短くない時を過ごしていた二人の間には、師弟の絆とでも呼べるようなモノが出来上がっていた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:08:22.48 ID:pThR+vU4o<>
祖母「仁美……逞しくなったね」

母「ええ……本当に……」

仁美「おばあちゃん……母さん……」

見送りに来たという事だろうか、いつのまにか母と祖母も仁美の傍へと立っていた。

祖母「現世に戻ったら、よくやるんだよ」

仁美「うん……頑張るよ」

祖母「それと、家に帰ったらうがい手洗いと、寝る前には歯を磨くのを忘れないようにね」

仁美「……うん」

祖母「あと、遅くまで時代劇見てないで、夜は早く寝るんだよ」

仁美「(おばあちゃん……心配性過ぎるよ……!)」


母「仁美……」

祖母とのやりとりが済むと、次に母が進み出て来る。

母「あなたが傷つき、倒れるところを見るのは、忍びないものがありましたが」

母「こうして、あなたに会えたという点においては、巡り合わせに感謝しています」

仁美「うん……アタシも、母さんに会えて、嬉しかったよ」


母「……あなたには、母らしい事は何もできませんでしたね……」

母「そのことについては、申し訳なく思います」

仁美「……」

"母らしいこと"と聞いて仁美は自らの記憶を探るが、その言葉の通り思い出せる事は何も無かった。
物心付いた時には祖母と二人暮らしだった仁美には、母親のその腕に抱かれた記憶すら無かったのだ。


母「けれど仁美……」ギュッ

仁美「っ……」

母は両の手で仁美を抱きしめると、慈しむように囁く。

母「母はいつでもあなたを見守っていることを、忘れないで」

仁美「母さん……うん、ありがとう」

現世では叶わなかった母親の愛情に触れ、仁美も強く抱き返すのだった。



仁美「あ、あれ……これは?」パァァ

身内との別れを済ましていると突如、仁美の身体が淡い光に包まれる。

先祖「……そろそろ、時間みたいですね」

それは、仁美が現世へと戻る時が近づいている事を意味していた。

仁美「そっか……今は、お別れってことね」

話している間にも、仁美を包む光はますます強くなっていく。

先祖「それでは仁美、武運を祈っていますよ」

仁美「はい! 行ってきます……!」

少女の言葉に強く頷き返すと仁美の視界は白一色に包まれ、そこで意識が途切れた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:09:01.27 ID:pThR+vU4o<>
──その頃・現実世界では──

明かりの無い暗い部屋に、白衣を着た男が佇んでいる。

男の目の前には鈍く輝く手術台のような形状の机が置かれており、
その上には意識を失ったまま目を覚まさない仁美の身体が横たえられていた。

手術台の周囲には巨大なコンデンサやらラジエータやらがひしめいており、部屋のそこかしこに種々の導線が這っている。
それらの導線は最終的に男が両の手に持った妙な装置(さながら版画を摺る"ばれん"のような)に繋がっており、
その装置からは時折パチパチと静電気スパークが発生していた。

「(うまく行くかはかは分からんが……やってみるほかあるまい……)」

男が手に持った装置同士を摺り合わせると、一際大きなスパークが走る。

「さあ! 蘇るのだ! この電撃でーっ!!」ビリビリ

男は満を持して両の手の装置を仁美の身体に押し当てる。
すると、暗い部屋が眩く照らされるほどの電撃が彼女の身体を走り──

仁美「っ!?」ムクッ

その光が収まると、その身体が跳ねるように起き上った。


仁美「……ここは?」キョロキョロ

「おぉっ! なんと! 成功してしまったぞ!」

仁美「……」

仁美「何奴っ!?」ガバッ

「うわーっ!?」ドンガラガッシャーン

見知らぬ場所で目を覚ました仁美は、目の前に居た男に掴みかかる。

「わ、私は怪しい者ではない! 話を聞いてくれ!」

だが、相手の必死の弁明を聞くに、どうやら敵意を持ってはいないらしかった。


───────────────

────────

─── <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:10:05.02 ID:pThR+vU4o<>
男は話をするのに落ち着けないという事で仁美を居間の様な部屋へと通すと、
自らを龍崎博士と名乗り、仁美がこの場所へと運び込まれた経緯を語り始めた。

仁美「……つまり、狼型のカースに襲われてた所をアタシに助けられて、とりあえずシェルターに避難して」

仁美「ほとぼりが冷めた頃に外に出てみたらデカい馬に背負われる血まみれのアタシを見つけたから」

仁美「この家まで運び込んで治療してくれた……と」

博士「だいたいそんな感じ」

博士「(月宮博士を目覚めさせるために開発していた装置が、まさかこんなところで役に立つとはな)」


仁美「いやー、そうとは知らずにごめんなさい」

目の前の男がどうやら善人であるらしい……という事を把握した仁美は、謝意を示す。

博士「いやいや、目覚めてすぐ目の前に怪しい男がいたら致し方ない事だよ」

博士「しかし、無事に意識が戻って良かった……」

それに対し博士は、仁美の復活について、心から安堵した様子を見せた。


仁美「けどアタシ、結構な怪我をしてたと思ったんだけど……博士が治してくれたの?」

博士「そのことなんだがな、君の乗っていたあの馬が、どうやら治癒の能力を持っていたらしくてな」

仁美「エ!? 初耳だよ!」

博士「君がカースと戦っていた現場からこちらに来るまでの間に、ほとんどの傷は癒えてしまっていたのだよ」

仁美「(そっか……松風が……)」

博士の話では、仁美が死の淵から生還出来たのは博士の力だけでは無く、
仁美の使い魔である松風の協力があってのものだったらしい。

普段から憎まれ口ばかり叩いていた松風の様子からは想像もつかない話だったが、
ほとんど第三者である博士が言うのだから事実なのだろう。 <> 区切る箇所間違えた<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:11:48.63 ID:pThR+vU4o<>
仁美「それで松風……アタシが乗ってた馬は、どこに?」

博士「ああ、うちの庭に居てもらっているよ」

仁美「あ……そうなの?」

仁美「(松風のことだからアタシが死にかけてる間に何処か行っちゃいそうなもんだけど……)」

仁美「(でも、逃げないでいてくれたんだ……良かった)」ホッ



博士「ところで仁美君、君の私物に手を付けたわけではないのだが……ちらと目に留まってしまったのだがね」

仁美「?」

博士が急に畏まって切り出す。

博士「君の扱っていたと思われる武器なんだが……少し拝見させて貰ってもいいかな?」

仁美「あっ……」

仁美「(すっかり忘れてた……折っちゃったんだった……これからの得物どうしよう)」

仁美「……壊れちゃってるし、好きなだけどうぞ」

仁美は、博士が保管していたという仁美の私物の中から折れた斧槍を取り出し、博士に手渡す。


博士「これは……やはり、レイディアントシルバーではないか!」

仁美「れいでぃあんと……? 何?」

博士「神気霊銀とも呼ばれる、伝説上の金属だ」

博士「退魔の力を宿すなどという話だが、その製法は失われて久しい……とのことでな」

博士「私も、古い文献に出てくる情報しか知らなくてね、実物を見たのは初めてだ」

仁美「へぇー……何気なく振るっていたけど、すごい物だったんだ」

博士の話に、仁美は適当に相槌を打つ。
自らの得物についてどういった物なのか特に意識したことは無かったが、
博士の興奮ぶりからすると、割と大層な代物らしい。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:12:26.24 ID:pThR+vU4o<>
博士「時に仁美君、この槍……私に預けてみないかね?」

龍崎博士は怪しい笑みを浮かべながら仁美に提案する。

博士「このままでは、使い物にならんだろう」

博士「君さえよければ修繕というか、今一度使えるようにすることも出来るが」

仁美「えっと……? 直してもらえるなら、ありがたいことだけど……」

博士からの提案は願っていもないことだったが、いかんせん興奮した様子でまくし立てられているため、
仁美は思わずたじろいでしまう。

博士「悪いようにはせんよ! うむ!」

仁美「えっと……じゃあ、お願いします……?」

結局博士の勢いに押され、頷いてしまった。

博士「任せていてくれたまえ!」


仁美の許可が下りたのを確認するやいなや、博士は跳ねるように立ち上がった。
そのまま部屋から出ていこうとするが、思い出したかのように振り向き口を開く。

博士「いずれにせよ、君も目覚めたばかりで、身体もまだ思うように動かんだろう」

博士「しばらくは療養がてら、この家は好きに使ってもらって構わんのでな」

仁美「うん、ありがとう……あ! そうだ博士!」

博士「ん? どうしたね?」

仁美「アタシの槍だけど、出来たらでいいから赤くして欲しいんだ」

仁美は、立ち去ろうとする博士を呼び止めると、斧槍に関してよく分からない要求を出す。

博士「赤く? 別に構わんが、どうしてかね?」

仁美「赤備えってヤツよ! カッコいいでしょ?」ドヤァ

博士「ふむ……なるほど、承知したよ」ニヤリ

博士は不敵な笑みを浮かべ了承すると、先程仁美が目覚めた部屋(どうやら研究室らしい)へと入っていった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:12:59.61 ID:pThR+vU4o<>

仁美「(博士……行っちゃった)」

仁美「(さて……これからどうしよう)」

一人取り残された仁美は、改めて現在の状況について思案する。

仁美「(とりあえず、ズタボロの制服は着替えとこ……荷物の中に体操着があったはず……)」

仁美「(それにしても、全身切り裂かれたはずが、傷はほとんど無い……)」

仁美「(博士の言う通りだとしたら……そうだ……松風は……)」

仁美は立ち上がり、窓にかかったレース状のカーテンを開き、庭の様子を伺う。


仁美「ねえ……松風、居るの?」

恐る恐るといった様子で、使い魔の名を呼んでみる。

松風『……なんだよ?』

すると、植え込みの陰から、見慣れた黒馬が姿を見せた。

仁美「あ……居たのね」

松風『……もう少しで、自由の身だったんだがな』

仁美「えと……その……アタシのこと、助けてくれたんでしょ?」

仁美「あの、博士から聞いたよ」

松風『……あの人間……余計な事を……』

仁美の発言を聞いて、松風は不機嫌な態度をあらわにする。


松風『確かに、事実上はお前を助けたという事になるのかも知れんが、勘違いするなよ』

松風『俺はお前に対して慈悲だとか温情だとかいった感情は一切持ち合わせていないからな』

松風『お前を助けたというのも……単なる気まぐれに過ぎん』

仁美「(松風、いつもより饒舌……)」

仁美は長年の付き合いから、松風が言葉数多く否定するのは、何かを誤魔化したい時のものであると知っていた。

仁美「それでも、助けてくれたっていう事には変わりないもんね……ありがとね!」

松風『チッ……勝手抜かしてろ』

仁美に対しつっけんどんな反応を返す松風だったが、その声色はどこか嬉しそうなものだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:13:58.26 ID:pThR+vU4o<>
――一方その頃――

研究室に引き籠った博士は、新しい玩具を得た子供の様な目で、仁美の斧槍を弄り回していた。

博士「(うむ、この輝き……文献で見る通りだ……素晴らしい)」

博士「(……穂先と斧刃に、柄も一体成形なのか……なるほど、見事な技術だ)」

博士「(GDFから寄越された地球外金属のサンプルはまだいくらか残っていたな……)」ガサゴソ

博士「(……折れた槍は成形し直して斧頭に利用しよう……新しい槍身と穂先にはもっと軽量の金属を用いる……)」トンテンカンテン

博士「(後は、ネオトーキョーのアングラマーケットで仕入れた諸々の機械技術を盛り込んで……)」カチャカチャ

───────────────

────────

───


ガチャッ


仁美「(あ、博士やっと出てきた……)」

研究室に引き籠って数時間後、ようやく部屋から出てきた博士の手には巨大な斧槍が握られていた。

博士「出来たぞ仁美くん! 機械式斧槍だ!」

仁美「(機械式?)」

博士「仁美君の要望通り、豪勇無双の者のみが持つことを許されるという朱槍をイメージし、赤くしてみた」

博士「名付けて……『クリムゾンブロウ』!」

仁美「何それ!?」

博士「格好良かろう?」

仁美「ま、まあ、何でもいいけど……」

博士は持ってきた斧槍を仁美の目の前の机の上に置く。
仁美の目から見ると、修復されたそれは以前の面影が殆ど無くなっていた。

仁美「(……これが……アタシの新しい得物……)」

仁美は博士から斧槍を受け取ると、それを掲げ、感慨深げに目を細め眺める。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:14:47.89 ID:pThR+vU4o<>
博士「ふむ……軽く説明しておこうかね」

博士は一呼吸置くと、改造した点(殆ど作り直しなのだが)について説明を始めた。

博士「一番目につくであろう全体の大きさだが、攻撃能力の向上を図り、以前より柄と穂先を長めに取り、斧頭も大型化してある」

博士「その大きさの割に――実験的にではあるが、斧槍を構成する大部分に特殊な金属を用いた結果」

博士「本体の重量はかなり軽量に仕上がった」

仁美「確かに見違えるようになったけど、機械式っていうのは?」

仁美「アタシ、機械とかダメなのよね……」

博士「ふむ、機械式というのも、これまた実験的にだが様々な機構を組み込んでみたのだがね……」

柄をよく見ると、銃火器のトリガーの様な部品がいくつか取り付けられていた。

博士「まずは伸縮機能の説明から──」

仁美「(ここを引くと、よく分かんないけどどうこうなるワケね……)」グイッ

博士の説明を聞くより早く、仁美は槍身に据え付けられたトリガーを引いてしまう。
すると「ガキン」と硬質な金属音と共に、元より長大な斧槍の穂先が更に伸びた。
伸びた、というより飛び出した──あるいは、撃ち出されたといった方が適切かもしれない。

仁美「!?」

博士「」

突然の出来事に思わず硬直している仁美と博士の視線の先──斧槍の、その尖端は天井を突き破っていた。


仁美「エ……何事!?」

博士「あー……説明が遅れたな」

博士は冷や汗をかきつつ、斧槍の機能の説明を続ける。

博士「その柄の内部にはバネが仕込まれていて、今君が引いたそのトリガーによって槍身が射出されるようになっている」

博士「近接戦闘における隠し種として組み込んでみたのだがね」

仁美「そ、そうとは知らずに、ごめんなさい……」

博士「いやいや、機能を伝えられずに渡されたのなら致し方ない事だよ」

仁美と博士は本日二度目となるやり取りを交わす。

博士「だが、その他の機能については外で試して欲しい……危ないからね」

仁美「はい……」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:16:02.38 ID:pThR+vU4o<>
博士「──と、まあ、そんなこんな機能を追加しておいたのでね、有効活用してくれたまえ」

仁美「うん、後は実際に使ってみてってところね」

博士の斧槍に備わったその他の機能についての諸々の説明を聞き終えると、仁美が口を開いた。

仁美「博士……ありがとう」

仁美「助けてくれた上に、武器まで修理してもらって……」

博士から少なくない恩を受けた仁美は、心からの感謝を告げる。

博士「君は私の恩人だからな、そんなに畏まらないでくれたまえ」

博士「君はカースを倒し、人々を守ってくれているのだろう?」

博士「その手伝いが出来るというのなら、私にとっても嬉しい事だよ」

それに対し、博士は微笑んで返すのだった。


仁美「そういう事なら、博士の気持ちに応えるためにも」

仁美「新しくなったこの槍で、じゃんじゃんカースをやっつけないとね!」

博士「うむ、実に頼もしい限りだ」

心機一転し、活動を再開しようと意気込む仁美だったが──

仁美「……ん……メール?」

その元に、一通のメールが届く。

仁美「これは……あやめっちからだ……!」

それは、戦友である少女からの、カース発見の報であった。


仁美「(あ……よく見たら、着信とか安否確認のメールとか凄い来てる……)」

仁美「(そりゃそうだよね……カースの出現場所に応援に呼んでおいて音信普通になったら心配するよね)」

仁美「(考えが回らなかった……ごめんあやめっち!)」

博士「(仁美君……機械が苦手と言っていたが、まさかシニア向けケータイを使っているとは……)」


仁美「博士! 急な話でごめんなさい! アタシ行かないと……!」

博士「カースが現れたのかね」

仁美「うん、アタシの友達が戦ってるっていうから、助太刀に行ってくる!」

博士「そうか……それならば、ここで無事を祈っているよ、その友人の分もね」

仁美「ありがと! また改めて挨拶に来るから!」

そう言うと仁美は、松風の元へと急ぐ。
助けを求める戦友の元へと駆け付ける為に。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:18:28.93 ID:pThR+vU4o<>
──どこかの街中──

『正義の忍者アヤカゲ』こと浜口あやめは、街中に出現したカースの集団と対峙していた。

あやめ「(敵の数が多いですね、目測で十体以上……)」

カースの数は多く、あやめ一人での対処は少々厳しいかも知れない。

あやめ「(しかし、それはそれとして)」

だが、眼前のカースの集団に関して、その数以上に気になる点が見受けられた。

今はお互い遠巻きに出方を伺っている状態であるが──そもそも、"カースが相手の出方を伺う"という状況そのものが特異だった。
通常、カースといえば何処かしらから突然湧いて出て、好き勝手に破壊行為を行う存在であったはずだ。

あやめ「(あの妙な気配は……)」

見ると、カースの集団の中央に一体だけ、他とは異質の存在感を放つ個体が居座っていた。
その姿は不定形の泥では無く、トカゲに翼を生やしたかのような──いわゆる"ドラゴン"の様なシルエットを象っている。
ここ最近出現が相次いでいる『獣型カース』だ。


あやめ「(見慣れぬ相手故、まずは小手調べから──!)」

あやめは懐から棒手裏剣を数本取り出すと目標の有翼型カースを見据え、目にも留まらぬ速度で投擲する。
しかし、今まで動かなかった通常型の一体が素早い動作で射線上に立ち塞がり、手裏剣は全て受け止められてしまった。

よくよくカース集団のその動きを観察してみると、有翼型が周りの通常型に"指示"を出しているようにも見受けられる。

あやめ「(あのトカゲの様な、コウモリの様なカース……アレが司令塔の役割を果たしているという事ですか)」

あやめ「(これまでのカースには見られなかった性質ですね……)」

今まで相対してきたカースとは異なる存在を前に緊張が走り、刀を握る手はじんわりと汗ばんでくる。

あやめ「(ヤツの能力は未知数……おまけに周囲のカースの数も多い)」

あやめ「(なんとも分が悪いですね)」

多勢に無勢、そのうえ戦闘力の読めないイレギュラーまで居る。
まともにぶつかれば勝ちの目は薄いだろう。

あやめ「(とはいえ、わたくしがどうにかせねば!)」

それでも、あやめは戦う姿勢を崩そうとはしない。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:19:28.72 ID:pThR+vU4o<>
カース出現に際し周囲の一般人の避難は完了しており、然るべき組織へのカース発生の連絡も既に行われている筈だ。
しかし現在、カースに対抗する力を持つ者の多くは『憤怒の街』の解放に専心しているため、
アイドルヒーロー同盟にせよGDFにせよ、街の外での散発的なカース発生に割ける戦力は多くないのだった。

実際、カース集団が現れてかれこれ十分以上が経過しているが、未だにヒーローやGDF隊員のやってくる気配は無い。
これほどまでにカース対策組織の初動が遅れることなど、かつてない事態だ。
まさしく、余剰戦力が不足しているという事の証左だった。


あやめ「(僅かばかりの時間稼ぎも、果たして意味を成すかどうかわかりませんね……)」

援軍が見込めないのであれば、一人で何とかするしかない。
例え勝機が見えなくとも、遁走することなどあやめのニンジャヒーローとしての矜持が許さない。

あやめ「(かくなる上は、殲滅する気構えで臨むまでです!)」

あやめは刀を構え直すと、カースの集団へと飛び込んでいくのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:20:40.00 ID:pThR+vU4o<>

「ギャース!(単騎で手向かうか……ふむ、手並みを見せて貰おうか)」

真正面から猛スピードで迫るあやめを認めた有翼型が雄叫びを上げると、数体の通常型カースが迎撃に動く。
標的を射程圏内に捉えたカースは腕状部位を振り上げ、あやめを叩き潰さんと振り下ろす。

あやめ「(遅いっ!)」

だが、次の瞬間には攻撃目標とした場所にあやめの姿はなく、その腕は地面を穿つばかりだった。
当のあやめはと言うと、大通りの両側にそびえ立つビルの壁面目掛け跳躍していた。
壁面まで辿りつくと、それを足場としさらに反対方向へと跳躍する。

「ギャース!(小娘が、猪口才な!)」

背の高いビルが林立する街中は、あやめのテリトリーであった。

地形の高低差を利用した高速の三次元的機動によって相対する敵を翻弄しつつ、僅かな隙を見つけて致命打を見舞う──
高機動戦闘を是とする忍者一族の戦闘理論に基づいた、あやめの基本戦術である。
以前より、基本的に動作の緩慢なカースという存在に対しては必勝の戦法だった。

御多分に漏れず、このカースの集団も縦横無尽に飛び回るあやめのその姿を追うのが精一杯の様子だ。


あやめ「もらったっ! 疾風弾導破!!」

自分を追いきれていないのを好機と見たあやめは、有翼型へと攻撃を加える──が。

「ギャース!(効かぬわ!)」

あやめ「くっ!?」

狙いすました必殺の一撃だったが、しかし周りのカースがすぐさま立ちはだかり泥の壁となり有効打には至らなかった。
あやめの素早さに無理に付いていこうとするのは得策ではないと判断したのだろう、
有翼型は配下のカースに防御態勢を取るよう指示していたらしい。

あやめは一旦仕切りなおすべくカースの集団から距離を取る。

あやめ「(向こうの攻撃はこちらには届かない……けれど、こちらの攻撃も効かない……)」

あやめ「(このまま続けたとて千日手……まずは取り巻きから倒すべきやも知れませんね)」

あやめは今一度カース集団へと攻撃を仕掛けるべく、再度突撃する。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:21:23.51 ID:pThR+vU4o<>

「ギャース!(見えたぞ!)」

あやめ「っ!?」

あやめ様子を探っていた有翼型は、待ち構えていたのだろう彼女の跳躍と同時に地上を離れ宙を舞う。
翼を備えているという事は──それが飾りでなかった場合、飛行能力を有しているという事になるのだ。

有翼型は戦闘が始まってからというもの、ずっと動く気配を見せなかった。
そのため、あやめの頭からは「敵は翼を備えているため飛ぶかもしれない」といった可能性は排されていた。


「ギャース!(堕ちろ!)」ゲボー

あやめ「ぐうっ!!」

敵の予想だにしない動きを前に対処が遅れたあやめは、有翼型の放ったカース弾の直撃を受けてしまった。
咄嗟に防御の姿勢を取ったものの、大きく吹き飛ばされ地面へと叩きつけられる。


あやめ「油断……しましたね……」

あやめはなんとか立ち上がると、カース弾を受けた個所を庇いながら、面頬の奥で苦々しげに眉をひそめた。
致命傷とまではいかないが、攻撃を受ける前までの様に満足に動き回る事はもはや出来ないだろう。

あやめ「(もはやこれまで……でしょうか)」

勝ちの目が本格的に潰えたことで、あやめの中に絶望感が広まっていく。

あやめ「(仁美殿さえ居てくれれば……こんな奴らに……!)」

弱った心に去来するのは、今この場には居ない戦友の姿だった。

あやめ「(……仁美殿……一体いずこへと消えてしまわれたのですか……)」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:22:03.13 ID:pThR+vU4o<>
数日前にカース発見の報せを受けて以降、あやめは仁美との連絡が取れずにいた。
あやめが当のカース出現地点にたどり着いた時には既に戦闘は終結しており、その場に仁美の姿は無かったのだ。

あやめ「(あの現場に残っていたのは、カースの残滓と、誰のものとも知れぬ血痕……)」

あやめ「(そして、仁美殿の得物の破片だった……)」

周囲の荒れ具合からみて、確かに戦闘が行われていたのであろう事は推察できたが、
あやめが見つけたのは、仁美の遺留品──血だまりに浮かぶ、折れた斧槍の片割れである柄の部分だけだった。

近場にいた人々の話では、黒馬に跨った少女が複数のカースと戦闘をしていたとのことだったが、
誰も彼もが早々にシェルターに避難してしまったため、仁美の身に起こった顛末を語る事の出来る者は居なかった。

一見すれば仁美の身に何か大変な事が起こったのであろうことは想像に難くなかったが、あやめはその無事を信じて疑わなかった。
もし仮に──最悪の想像ではあるが、仁美がカースとの戦闘で死亡していたのだとすると、亡骸が現場に残っている筈だ。

状況証拠だけで仁美がやられてしまったと判断するのは早計だと、
何度も安否確認の連絡を入れ、仁美の居場所について心当たりを巡り歩いた。
だが、精一杯の捜索にも関わらず、仁美の足取りは全く掴めぬまま数日が過ぎてしまうのだった。

それでも、仁美の無事を気丈に信じて過ごしてきたあやめだったが──

あやめ「(仁美殿……やはり仁美殿も、カースに……やられてしまったのですか……?)」

絶望に支配された今となっては、もはやその望みも持てなくなっていた。

今回のカース集団の発生においても、今までの習慣から半ば無意識的に仁美へとカース出現の定型メールを送信していたが、
その仁美の行方の知れない現状においては、彼女からの救援などは望むべくもないものだろう。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:23:09.17 ID:pThR+vU4o<>
「(やはり『外』に出てきたのは正解であったな)」

あやめを撃ち落した有翼型は、勝ち誇っていた。

「(脅威となり得るヒーロー共は、『街の中』に気を取られており、『外』の警戒はおざなりだ)」

「(多少の反抗はあれども、ヒーロー共の主力でなければ制するのは容易い)」

「(つまり、我のやりたい放題というわけだ!)」

満足に動きの取れないあやめにトドメを刺すべく、再度カース弾の発射体勢に入るが──




「そこまでだっ!!」




突如響いた声に有翼型は動きを止め、声の正体を探し始める。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:24:32.68 ID:pThR+vU4o<>

「義に殉ずるは本望と、華と散らしたこの命」

「何の因果か冥府を追われ、死出の旅路を舞い戻る……」


「ギャース!?(何奴!?)」

あやめ「こ、このなんとも言えない口上は……もしや!?」

周囲を見渡すと、カースの出現に際し遺棄された路線バス車両の上に声の主と思しき人影が見えた。
しかし、傾きかけた陽光が逆光となり、その姿ははっきりとしない。


「ギャース!(おのれ! 何者かは知らんが邪魔立てするか!)」ゲボー

闖入者の姿を認めた有翼型がその影目掛けてカース弾を吐き出すと、人影はそれを回避するべく跳躍する。
直後、今までお立ち台にしていたバスがカース弾の直撃を受け爆発炎上した。

芝居がかった動作で飛び上がった人影は空中で一回転すると、これまた大仰な動作で着地する。
衝撃を和らげるために両手と片膝を付いた体勢からおもむろに立ち上がると、たすき掛けに背負った長物を手に取り構えた。

あやめ「あの姿は……!」

立ち上る黒煙を背にしたことで光が遮られ、その姿がはっきりと見て取れるようになる。




仁美「人の世に、仇成す異形を狩らんため……武辺者仁美! 黄泉の国よりただいま帰参!!」ババーン




あやめ「やはり……! 仁美殿!!」

あやめ「……って、ジャージ姿ー!?」ガビーン

大仰な登場に似つかわしくないえんじ色のジャージ上下に身を包んだその人物は、
まさしくあやめの追っていた少女──大武辺者(自称)、丹羽仁美その人であった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:26:06.91 ID:pThR+vU4o<>
仁美「あやめっt……アヤカゲ! 心配かけてゴメン!」

あやめ「仁美殿! ぶ、無事だったのですね!」

仁美「うん! アタシなら大丈夫だから、アヤカゲは下がっていて!」

仁美は手傷を負ったあやめの前に躍り出ると、後退するよう呼びかける。
再会を喜び合うより前に、まずは目の前のカースの処理を優先すべきと判断してのことだ。


「(フン、これまた一人で向かってくるか……)」

「(大した自信ではないか……よかろう)」

「ギャース!(者共かかれ! ヤツから先に始末してやるのだ!)」

有翼型の指示で、周囲のカースが仁美に向かって一斉に動き出す。
正確な数は不明だが、通りを埋め尽くす程のカースの群れがたった一人の人間に襲いかかるのだ。
並の人間では泥の波に文字通り飲み込まれ、それでお終いだろう。

あやめ「っ!? 仁美殿!!」

あやめの目にもその光景がありありと浮かんだのだろう、仁美に逃亡を促すかの様に悲痛な叫びを上げる。

仁美「(どう動けば良いかが分かる……!)」

仁美「(一対多のこの状況、お師様ゼミでやったところだ!)」

だが、当の仁美はさして動じる様子も無く構えを取るのだった。


──────────────────────────────

先祖「次に教えるのは、大地を引き裂き、穿ち、削り取る一撃──『グランスクレーパー』です」

仁美「うちの一族の技には何かしらそういう大仰な前置きが付くのね……」

先祖「地面を掠めるように武器を振るうことで、飛礫やら何やらを飛ばして相対する者の気を削ぐ技です」

先祖「有り体に言えば『すなかけ』に類する目つぶし技ですね」

仁美「名前とか前置きの割に中身は狡っ辛い!」

先祖「む……『補助技とかイラネ』などと馬鹿にしてはいけませんよ」

先祖「互いの間合いに入る前に機先を制することが出来れば、有利に戦えるというものです」

──────────────────────────────


仁美「(パッと見カースの数は十体以上……まともにやりあうのは下策)」

仁美「(まずは遠距離から連中の出鼻を挫く……!)」

仁美はカースの一団に背を向けると、鍬で畑を耕すかの様な動作で斧槍を地面に突き立てる。
そして、柄を握ったままカースの方へと向き直ると、地を掘り返す軌道を描くように斧槍を正面へと運び、
丁度地面と柄が垂直となる位置で一旦その手を止める。

穂先も含めれば全長三メートルにも達しようかという長大な斧槍の、その半分までが地中に埋もれる形となった。

仁美「(大丈夫……やれる……散々特訓してきたんだから……)」

目を閉じ深呼吸を一つ、精神を研ぎ澄ませる。
数秒の間を置いた後、斧槍を握る手に全神経を集中させる。
カッと目を見開くと、目標となるカースの一団を見据え──


仁美「逆駆け地烈衝!!」


斧槍を思い切り振り抜いた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:26:54.11 ID:pThR+vU4o<>
地面に突き刺した斧槍を振るう際には、地面の硬さが抵抗となり相応の反発力が発生するため、普通に振り回すようにはいかない。
しかし、その反発力は運動エネルギーの蓄積に利用できる──いわゆる、デコピンの原理である。
地面との抵抗により限界まで溜め込まれたエネルギーは斧槍を抜き放つ際に反動として一気に放出され、
通常の斬撃とは比べ物にならない威力を生み出すのだ。


仁美「(うん、修業の成果は出てるね!)」

地面から抜き放たれた斧槍に付随するように発生した衝撃波と、削り取られた大小のアスファルトからなる無数の弾丸が、
暴風雨の如くカースの一団を強かに打ちつけられる。

仁美「って……アレ?」

自らの"技"の出来栄えに得心の行った仁美だったが、
攻撃時に舞い上がった砂埃が晴れた後に残っていたのは、想像だにしない惨憺たる光景だった。


ほんの数瞬前までは(カースが暴れ回っていたにしては)健全な状態を保っていた街角は、
しかし仁美の放った攻撃の影響で混沌の様相を呈していた。

舗装された路面は斧槍の軌跡に沿って地割れでも起きたかの様にぱっくりと口を開け、
地中に埋設されていた水道管は破裂し、さながら噴水の様に水を吹きあげる。
同様に断線した地中送電線がバチバチとスパークを起こし火花を散らしている。

仁美「(……牽制のつもりだったんだけど……や、やり過ぎた……?)」

通りに面したショーウインドーは衝撃波のあおりを受け粉微塵に破れ、中に飾られていたマネキンは見るも無残な姿を晒している。
辺りのビルの壁面に目をやると所々が欠けており、その下には砕けた外壁材の破片が散らばっていた。
恐らく仁美の放った飛礫の一部が命中したためだろう。

仁美「(ま、まあ、カースをやっつける為だし? 人的損害が無ければ大丈夫よね!)」

当初の目標のカースはと言えば、その尽くが核を失い消滅していた。
周囲にもたらした被害に勝る効果は、一応はあったようだ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:28:06.02 ID:pThR+vU4o<>
「ギャース!?(ぜ、全滅……? 12体の憤怒のカースが、全滅!? 三分も経たずにか!?)」

「ギャース!(ば、化け物か……!)」

カースの集団から離れ、遠巻きに様子を見ていた有翼型は、その光景を目の当たりにし狼狽していた。

「(だがしかし、こちらには翼がある! 空へと逃れれば手を出せまい!)」

「(奴には飛行能力は無いようだ、飛び道具の類も一見すると持っていない、上空は安地だ!)」

敵の様子を観察していた有翼型は空を安全地帯だと考え、羽ばたき上昇していく。
しかし、それをみすみす見逃す仁美では無かった。

仁美「空飛ぶ相手は散々対策してきたからね……」

仁美「賢しらに飛び回ったところで、アタシからは逃げられないよ!」

仁美は口角を釣り上げると、手に持った斧槍を弄ぶように二回三回と回転させる。
そして、新たな"技"を放つべく構えを取った。


「(一体何の真似を──?)」

仁美「切り裂け! 隼空刃!!」

仁美の振るう斧槍から放たれた不可視の刃が、飛び回る有翼型の片翼をもぎ取った。

「ギャース!?(な、何だと!?)」

バランスを崩した有翼型はそのまま地上へと真っ逆さまに落下していく。


仁美「(あれ、少し狙いがずれた? ……仕留め損なったか)」

その様子を眺め、しかし仁美は眉毛を八の字に曲げる。

仁美「(うーん、やっぱり新しくなったせいか、重心の取り方がどうもね)」

思いの外技が上手く決まらず、手元の新調された斧槍に視線を落としぼやくのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:29:14.87 ID:pThR+vU4o<>
仁美「まあそれはそれとして……トドメと行くよ!」ダッ

有翼型の落下予測地点を見据え助走を付けると、棒高跳びの要領で地面に斧槍を突き立て跳躍する。

仁美「(ここで、槍身を撃ち出す!)」

仁美はタイミングを見計らい、博士が斧槍に追加した槍身射出機能のトリガーを引く。
すると、地面との反発力により飛び出した斧槍の柄が、仁美の身体を空中へと強く押し出した。
その軌道の先には、片翼をもがれ回避ままならない有翼型カース。


──────────────────────────────

先祖「次に教えるのは、対空攻撃技──『シャッターシェードデミルーン』です」

先祖「『虚空に閃く一筋の白刃は、さながら無明の暗夜に一時、雲間から覗く半月の如し』……とかなんとか」

仁美「相変わらずよく分からないけどなんかカッコいい!」

──────────────────────────────

仁美「(弧を描くように……身体の捻りを効かせて……スッパリと切り裂く!)」

仁美は落下中の有翼型目掛け、下方から上方へ半円を描くように、自身の身体ごと斧槍を縦に一回転させる。
その動作は、見る者に某国空軍少佐の格闘術──サマーソルトキックを想起させるものだった。

対空攻撃技で有翼型を切り裂いた仁美は高所からも難なく着地すると、残心の構えを取る。
だが、目標の有翼型は核を砕かれ、地上に落ちる前に既に消滅してしまっていた。


仁美「どこか憎めぬ敵でござった……」


この場に居た敵を殲滅した仁美は誰ともなく呟くと、傷を負い退避しているあやめの元へと駆け出すのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:31:37.03 ID:pThR+vU4o<>
補足的なおまけその1


──狼型カースとの戦闘後──


松風『おい、仁美……やったのか?』

"外の空間"のカースの気配が静まったのをみて、松風は仁美に呼びかける。

だが、仁美からの反応は無い。

松風『だんまりか、何があったってんだ』

再度問いかけるも、やはり反応が無い。


松風『(どうなってやがる)』

松風『(そうだな……久しぶりに、出られるか試すか……)』

松風は丹羽の一族との契約によって、普段は一族の斧槍へと封印されている。
現世へと実体を現すためには、仁美の呼びかけに応えて出てくるほか無いのだが、
その仁美からの応答が無いため、駄目元ではあるが自力で封印を破る事を試みるのだった。

松風『(丹羽の人間に捕らえられてからしばらくは、よく出られないか試したものだったが……今となっては懐かしい話だ)』

松風はこれまでも、自らに科せられた封印を自力で解こうと幾度となく試みてきた。

魔族の中でもそれなりに勤勉だった松風は、魔術の理論にもある程度通じていた。
故に、魔法的な封印の解き方──封印のキャパシティを超える魔力を一気に解放することでそれを破る事が出来るということを知っていた。

斧槍に囚われている状態ではほんの僅かずつではあるが、外部からその身へと魔力を取り込み、
そして、ある程度の魔力が溜まった段階でそれを解放するという方法である。
しかし、何度試してもそれが成功することはただの一度も無かった。
ある時、数百年分溜め込んだ魔力を満を持して解放した時ですら失敗したのを機に、松風は自力で外へ出る事は諦めたのだったが──

松風『ハアアアァァァ!!!』

松風は斧槍の封印を解くべく、今一度自身の魔力を解放する。

松風『アアァァ…………ア、アレ?』

すると、いとも簡単に斧槍の外へとることができた。
あるいは、封印自体が機能していないとも受け取れる。


松風『(おいおい……どういうこった……なんで外に出られた?)』キョロキョロ

松風は状況を確認するべく、周囲を見渡す。
すると、そう遠くない場所で自らの主である少女が倒れ伏しているのが目に入った。
よく見ると、その身体はあちこちが切り裂かれ、地面には血の池を作っている。


松風『……仁美……お前、やられっちまったのか』

倒れている仁美を認めた松風の脳裏に、"自由"の二文字が過る。

かつて丹羽の人間に敗れ、主従の契約を結ぶ羽目になって以来、
数百年以上も望み焦がれていたその時が、ついに訪れようとしているのだ。

自らの意思で封印を解き、斧槍の外へと出られたという事は、契約者である丹羽家最後の一人が死に絶えたか、
あるいは遠からずそうなる状態にあるということだった。


松風『(あとは簡単だ……仁美を放置してこの場を離れてしまえばいい……)』

松風『(そうすれば俺は……自由だ)』 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:34:41.91 ID:pThR+vU4o<> >>610訂正
×すると、いとも簡単に斧槍の外へとることができた。
○すると、いとも簡単に斧槍の外へと出ることができた。


松風は今一度、血だまりに倒れ伏し動かない少女を見やる。

松風『仁美……本当にくたばっちまったのか?』

語り掛けるも、変わらず少女からの返答は無い。


松風『(……丹羽の人間は、クソ忌々しい俺の宿敵だ……)』

松風の脳裏に、かつて自分を使役していた丹羽家の人間達が浮かんでは消えていく。

松風『(それが、あんな訳の分からない犬っころにやられて……それで、俺が自由になれて……)』

松風『(そんな決着で、いいのか……?)』

松風は、自らに問いかける。

松風『(いいわけねえ……納得できるわけ、ねえよなあ……!)』

その答えは簡単に出た。
魔族としての矜持を悉く打ち砕いてくれた一族が、こんなにも簡単に滅びてしまうことなど到底容認できないことだった。

望むらくは、自らの力で封印を破り、今一度魔族としての恐ろしさを丹羽の人間に知らしめてやろう──と、
そのように夢想し、囚われの屈辱を堪え忍んできたというのに。


松風『(そういや仁美のヤツ、さっき妙な事を口走ってやがった……)』

ふと松風は、狼型カースとの戦いの中での仁美の発言を思い出す。


仁美『もし"自由"になれても、もう人間界で暴れるのは止してね』


松風『(……ッ!)』

松風『(クソったれが! 最初から……そのつもりだったってか!)』

先程の仁美の発言の意図を理解した松風は、倒れたままの仁美の元へと駆け寄る。

松風『おい仁美! 俺はな!』

仁美の首根っこを咥えると、振り上げた勢いで自らの背中に持たせ掛ける。

松風『てめえ如き小娘に……憐れみをかけられるほど……』

松風『落ちぶれちゃあいねえんだよ!!』

松風が叫ぶと、その感情に呼応するかのように身体を眩い光が包み込んだ。


松風『(今一度、この姿を晒すことになろうとはな…)』

光が収まると、そこには漆黒の魔馬の姿は無かった。
松風の姿は、青白い体毛に純白のたてがみをたたえた──一見すると神々しさすら感じられるものに変わっていた。

松風『仁美! 簡単には死なせねぇからな! 覚えとけよ!』

言うと松風は駆け出す。
仁美を助け得る存在を求めて。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:36:49.98 ID:pThR+vU4o<>
補足的なおまけその2


──有翼型を倒した後──


松風『ところで仁美よ、一体どこでその技を……?』

仁美「エ? ご先祖様に教わったんだけど」

松風『何ィ!? 何を意味不明な事言ってやがる!』

仁美「いや、あの世でちょっとね……いろいろあってね」

松風『……なんてこった……悪魔の技が受け継がれちまったというのか……』

仁美「いや、悪魔はあなたでしょうよ」

松風『そいつはな、多くの魔族にトラウマを植え付けた禁忌なんだよ!』

仁美「トラウマって……馬だけに?」ンフッ

松風『……』イラッ


松風『お前には分からんだろうな……気がついたら半身を真っ二つにされているという恐怖が』

仁美「何それ、大げさでしょ……」

松風『それでその、先祖ってのはどんなヤツだった?』

仁美「んー、外見はアタシと瓜二つだったね」

松風『お前に瓜二つ……? 知らんな』

仁美「じゃあ、松風が契約するより前の時代の人だったのかもね」


仁美「ちなみに、吸血鬼の祖? とかいうのをやっつけた人らしいよ」

松風『なんだと!?』

松風『(吸血鬼の祖って……アンセスターの事か?)』

松風『(その実力は魔王の肩書を持つ者にも匹敵するとかしないとか言われているが……まさかな)』


松風『お前、それ担がれたんだよ……人間如きがどうこうできる相手じゃねえぞ』

仁美「そうなの? 封印したヤツがそろそろ復活するからまた倒して来いって言われてるんだけど」

松風『ハァ!? 何言って……俺は知らねえぞ! やるなら一人でやんな!』

仁美「エ? ……まあ、言われなくても勝手にやるけど」

松風『……』


松風『(アンセスターを倒したってのが事実だとすると……丹羽の一族ってのは結構ヤバい相手だったのか……?)』 <> @設定
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:39:54.15 ID:pThR+vU4o<>
※吸血鬼の祖(アンセスター)

始祖だとか真祖だとか呼ばれることもある最高位の吸血鬼。
かつて仁美の祖先が戦ったのは『夜明けを遠ざける者』とかいう二つ名で呼ばれていたこれらのうちの一体。
世界を闇で覆い、陽光を奪い去る程の魔力を持っていたという(二つ名の由来でもある)。
辛うじて封じたけれどもそろそろ復活する(あるいはもう既に復活してる)らしい。


※退魔士の技

退魔士一族である丹羽の人間が強大な力を持つ魔族に対抗するべく編み出した戦闘技術。
原理がよく分からないモノや、ただ武器を振るうだけのモノも多いが、深く気にしてはいけない。
仁美は繰り出す際に日本語に(独自の解釈で)訳した技名を叫ぶ。

先祖「なんで日本語にするんですか?」

仁美「そっちの方がカッコいいでしょ?」


※朱槍『クリムゾンブロウ』

カースとの戦いで損壊した仁美の斧槍を、龍崎博士が修復(ついでに魔改造)したもの。
出所不明の怪しい素材で大部分が構成され、同じく怪しい技術が多数搭載されている。

内部には複雑な構造や特殊な機構を多く備えているが、
ネオトーキョーの由来の高度な機械工学に基づいた設計により、相当に頑強な作りとなっている。
また斧刃は"魔"の者に特攻の神気霊銀製で、ソッチ系の相手にも強い。


※アムフィフテーレ型カース

カナヘビに羽根が生えたような形状の獣型カース。
パッと見ドラゴンぽいんだけど、よく見るとドラゴンと呼ぶにはちょっとショボい……というような印象。
アイドルヒーローやGDFの防衛線を上手い事潜り抜けて憤怒の街から出てきた。
今回あやめと仁美が対峙した個体は、コマンドカースとしての性質も併せ持っていたらしい。


※シャドウメア変異体

瀕死の仁美を救わんとする松風が現した「もう一つの姿」。
青白く輝く体毛と純白のたてがみが眩く、人間界の伝承においては「ペイルホース」などと呼ばれていたとかいないとか……。
死を司るだとか、死を運ぶ魔馬だとか人々から恐れられている(いた)が、その能力は見方を変えれば死を"遠ざける"ことも出来るということになる。
松風的には、余程のことがなければこの姿を現すことは無いらしい。


仁美の先祖が死神に連れていかれないのは、多くの魔を狩ってきた影響で魂がかなり高位に位置しているため
母と祖母は多分もうすぐお呼ばれする <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/02(水) 07:42:58.89 ID:pThR+vU4o<> 終わりです
詰め込み過ぎでわけわからんけどキニシナイ

・仁美の「ヴァンパイアハンターの末裔」設定を落とし込みたかった
・ロマ○ガシリーズに出てくるようなケレン味溢れるダサカッコイイ技を考えてみたかった
 それと、必殺技を覚えさせれば強化された感が分かりやすいと思った

みたいな話でした

あと、あやめっち噛ませ役させちゃってゴメンね
あやめっちも強化したいね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/02(水) 08:48:41.23 ID:bySkjHkSO<> 乙です
そしてお久しぶりです

パワーアップ回は見ててテンションが上がる
先祖がカタカナで当代が漢字という混沌ぶりに吹かざるを得なかった
吸血鬼の祖かー、もう登場しているのかそれとも今後出てくるのか…
どちらにしろ楽しみですね <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/02(水) 09:38:53.34 ID:OIvn9Y/X0<> 乙ー

吸血鬼の祖かー。丹羽ちゃん一人で倒しに行くのか
うん。吸血樹をボツネタにしてよかった

松風はツンデレだなー。
魂がいる場所が別空間っぽいし、死神がこれない場所の可能性あったりして? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/02(水) 10:03:42.27 ID:bySkjHkSO<> 携帯だからうっかりしてた、>>615は自分です <> ◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/07/02(水) 12:23:12.20 ID:iMrmzBZW0<> 乙ん

かっこいいなぁ……(恍惚 <>
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/07/06(日) 08:05:15.59 ID:ktK/36yGo<> ドーモ、お久しぶりです。

一ノ瀬志希ちゃん予約します。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:51:45.55 ID:B53ryTsM0<> 皆様乙乙
学園祭も混沌だしだりーな感情復活めでたいし仁美ちゃん祝復活だし!

投下します <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:52:41.06 ID:B53ryTsM0<> ライラ「改めまして、わたくしライラさんですよー。こっちは相棒のカンタローでございます」

シャルク『わたしはライラさまのおつきで、シャルクともうします』

ガルブ『おなじく、ガルブです』

控え室に到着したライラ達が、改めて梨沙に自己紹介をした。

梨沙「…………」

一方、梨沙は呆然としていた。

確かにパップから「新人の子がこちらに向かっている」とは聞いていたが……。

梨沙「まさか敵対中の海底人が来るなんて……」

『ぶもっぶもっ』

『ゴトンゴトトン』

その足元で、カンタローとコアさんは既にすっかり意気投合している。

梨沙「……って、そういやアンタのプロデューサーはどうしたのよ?」

梨沙の目の前にいるのは、ライラとシャルク達だけだ。

ライラの担当プロデューサーである、クールPの姿は無い。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:53:34.69 ID:B53ryTsM0<> シャルク『クールピーどのは、べつこうどうちゅうのらんどのをさがしにむかわれました』

梨沙「ふうん……」

梨沙(っていうかあのイワシロボ喋れたのね……それともこいつらが特別?)

梨沙「ま、爛に限らず今は集合待ちってコトね」

ライラ「そうでございますねー。ではその間、お話をして待ちましょう」

ライラが梨沙の隣にチョンと腰掛けた。

梨沙「ハァ? 何だってそんな……」

ライラ「ライラさんは早くアイドルヒーローのお友達を作りたいのですよー」

ライラの言葉に、梨沙がピクリと反応した。

梨沙(友達……友達ねぇ……)

梨沙の脳裏を、パップの言葉が過る。

梨沙「…………」

ライラ「…………リサさん? どうかしましたですか?」

黙り込んだ梨沙の顔をライラが覗き込む。

梨沙「…………まあいいわ、話し相手くらいなってあげる」

ライラ「はいっ、たくさんお話しましょうです」

梨沙「ぷっ……」

ライラのへにゃっとした笑顔を見て、梨沙は思わず少し吹き出してしまった。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:54:37.68 ID:B53ryTsM0<> ――――
――――――――
――――――――――――

爛「っでぇぇぇあ!!」

千鶴「……ふん」

爛が振りかぶった鉤爪を軽々と回避したアザエルは、カースの核を屋上から放り投げた。

千鶴「ああ、面倒臭い……早く諦めてくれないかな……」

頬を掻き目を逸らし、独り言を漏らすアザエル。

爛「チッ、ナメやがって……テメェ、ブッッッ殺すっ!!」

爛が激怒の咆哮と共に両手の鉤爪を振りかざし、アザエルへ突撃した。

千鶴「無駄な事を……きゃあっ!?」

突如、アザエルの体を背後からワイヤーが拘束した。

爛「っ! ……へっ、遅かったじゃねえかよ」

クールP「ふふ、すまないね。見た所、こちらのお嬢さんがカースをばら撒いているようだね」

千鶴「っ、な、仲間……!?」

必死に拘束を解こうとするが、マキナ・アラクネのワイヤーはビクともしない。

魔法を使えばあるいは解けるだろうが、今のアザエルにはそこまで考える余裕は無かった。

クールP「ふんっ!」

クールPがワイヤーをグイッと手繰り寄せる。

千鶴「きゃああああああああっ!?」

振り回されたアザエルの体が、豪快に壁に叩きつけられた。

千鶴「ケホッ、ケホッ……!」

クールP「さて、君の身柄を拘束させてもらうよ」

ワイヤーを手繰り寄せ、クールPはアザエルを捕らえようとした。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:55:22.12 ID:B53ryTsM0<> 千鶴「……まだ!」

突然アザエルが黒い光球を生み出し、クールPへ向けて叩きつけた。

クールP「ぐぅっ……!!」

突然攻撃されたクールPは防御もままならず、吹き飛ばされて踊り場まで転落した。

爛「クールP!?」

千鶴「不意を突かれちゃったけど……それだけじゃ、ね」

アザエルは背中の翼を勢いよく広げ、緩んだ拘束を力技で解いた。

千鶴「あの街以降、どうも調子が出ないわね…………ふんっ」

そして独り言を吐き捨て、翼を羽ばたかせて学園を後にした。

爛「チックショウ、あんの太眉デコッパチが!! ……おい、生きてるか?」

クールP「まあ、どうにかね……」

爛の手を取り、クールPは少しよろけながら立ち上がった。

クールP「それよりも、奴の対策だ。今学園中のアイドルヒーローが集結中だから、僕達も急ごう」

爛「何なんだ、アイツ?」

クールP「詳しくは道中で話すよ。とにかく急ごう」

爛「おう。……あの太眉、次会ったらタダじゃおかねえ」

アザエルへの怒りと苛立ちを隠そうともせず、爛はクールPに続いて控え室へと向かった。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:56:20.97 ID:B53ryTsM0<> ――――
――――――――
――――――――――――

『ウォラアアアア!』

『ブッチノメス!』

エマ「へっへへー、来い来い来い!」

エマがギターの首を掴んで豪快に振り回す。

と、カチリという音と共に、ギターの胴から大きな刃がせり出した。

その姿は、まるで長柄の大斧のようだ。

エマ「バクオンマル、アックスモードッ! でぇいやぁっ!!」

『ギェェエッ!?』

振り下ろされた大斧が、カースの核を両断した。

サヤ「わお、エマったら激しいの。じゃ、サヤも……」

『ヨソミシテンジャネェェッ!』

サヤ「あらっ、危ない」

カースの拳をヒラリと回避したサヤは、カースの図上に着地した。

そしてエストックの柄をカチッと操作し…… <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:56:57.19 ID:B53ryTsM0<> サヤ「ベノムエストック……メロメロモード♪」

足元に見える核へ、それを一直線に突き刺した。

『アガッ……グ……!?』

サヤがエストックを引き抜き、宙へと舞って指揮棒のように振るう。

サヤ「あなたはもう、サヤのト・リ・コ……♪」

その言葉に呼応するように、カースの体がビクンと跳ねた。

カースの核に、淡いピンク色の光が宿る。

サヤ「さ、可愛いカースちゃん。サヤ達の為に……同士討ち、しちゃって♪」

『……アイアイサー!』

威勢良く返事したカースは拳を振り抜き、それを隣のカースへと叩きつけた。

『ウギェー!? ナニヲスル!』

『フレンドリーファイアハカンベンダゼグワァア!』

サヤのベノムエストック・チャームによって操られたカースが、混乱する味方へ次々と攻撃を加えていく。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:58:38.27 ID:B53ryTsM0<> 『シネェッ!』

『ホァァァーッ!』

スパイクP「!!」

四方からの絶え間ないカース弾がスパイクPを襲う。

カイ「スパイクPさんっ!?」

スパイクP「……苛立つぜ……」

やがて爆風の中から現れたのは、無傷のアビスパイク。

スパイクP「この程度で俺を倒せると思ったのか? ムカつくんだよぉ!!」

スパイクPは怒号と共に棘を数発発射し、周囲のカースを打倒した。

カイ「ひゅうっ、すご! あたしも負けてらんないかなっ!」

『グェッ!?』

カイも迫りくるカースを蹴り倒し、ハンマーヘッドアームズの銃弾を撃ち込んだ。

『ギィィッ!』

その時、一体のカースが壁を登って逃げ始めた。

カイ「あっ、アイツ逃げるよ!」

エマ「逃がすかぁっ!」

エマがそれを追い、壁の中にトプンと沈んだ。

『ギェッギェッギェェェッ!?』

壁を登って逃げるカースの背後に、エマの大斧が迫る。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:59:18.06 ID:B53ryTsM0<> ――――
――――――――
――――――――――――

ほたる「な、何この音……?」

乃々「ひっ……」

屋上まで響くカースの足音に、ほたると乃々は困惑する。

『ヤベェヤベェヤ……オン? コッチニモニンゲンガイヤガッタカ!』

そして、ついにカースが屋上に到達した。

乃々「っひぃい!?」

ほたる「カース! ……空よ!」

ほたる(私が……乃々ちゃんを護らないと!)

ほたるが決意して変身の構えを取った、その時。

エマ「だらっしゃあああああ!!」

『アギャエエエエエエエエエッ!?』

屋上へ飛び出したエマが、カースを真下から両断した。

ほたる「えっ……?」

乃々「…………」

エマ「ぃよおっし! …………ん?」

振り向いたエマが、ほたると乃々の姿を視界に捉えた。

乃々「せ、戦闘外殻……!?」

ほたる「親衛隊……乃々ちゃん、下がって!」

ほたるが乃々の前に立ち、再び変身の構えを取った。

エマ(ノノ? ……あ、確か前に母ちゃんが言ってたっけ。地上で出来た友達だって……)

ギターに戻ったバクオンマルを肩に担いだエマは、緊迫したほたる達とは対照的に、そんな事を呑気に考えていた。

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 11:59:49.95 ID:B53ryTsM0<> ――――
――――――――
――――――――――――

隊長「……撒いたか」

涼宮星花捜索隊長は廊下を早足で歩いていた。

空からの砲撃に、大量のカース。

これを見た隊長は、反射的にエトランゼを飛び出した。

もし星花が来ていれば、その身に危険が及ぶと考えたのだ。

ここにいた方が安全だと、猫耳をつけたメイドに追いかけられたが……。

隊長「私が安全でも、お嬢様がそうでなくては意味が無い……!」

ギリ、と歯ぎしりした隊長は足を早め、星花の捜索を続けた。

隊長「お嬢様……お嬢様…………星花…………!」

うわ言のように星花の名を口にしながら、隊長は校舎の外へ飛び出した。

『クタバレニンゲンッ!』

隊長「っ!?」

しかしその直後、運悪くカースに発見されてしまった。

カースが大口を開けて隊長に迫る。

隊長「っく!」

隊長はすぐさま指で拳銃の形を作ってオーラの銃弾を数発放った。

しかし、いずれもカースの体表である泥を少し削った程度で、カースの進撃を止めるには至らない。

隊長「ちぃっ!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 12:00:42.31 ID:B53ryTsM0<> 『ソウラ、ブチコロシテヤ……』

??「オーラロケットパンチッ!」

『グボェッ!?』

突如飛来した銀色の拳が、カースの核を粉々に破砕した。

隊長「い、今のは……!」

見間違えるはずが無い。

あれは星花の為に開発されたオーラ式人形、ストラディバリの右腕に違いない。

ということは、間違いなく星花もここに来ているという事だろう。

??「そこの方、ご無事ですか!?」

隊長「お嬢様っ!?」

隊長は声の方を向く。

そこに立っていたのは確かに星花だった。しかし……

星花「あっ…………」

隊長「っ……!?」

外見上は星花ではなく、悪魔風の衣装とペルソナを身につけた「謎の人物」だった。

星花「…………隊長、さん……」

隊長「……っ、貴様何者だぁっ!!」

星花「っ!?」

隊長はその姿を見るや、激昂して星花に掴みかかった。

隊長「何故貴様があの人形を扱える!? アレは、ストラディバリはなぁ、お嬢様にしか動かせないんだ!」

隊長「それを何故貴様がぁっ! どんなトリックを使った!! さあ吐けっ! お嬢様を……星花をどうしたぁ!!」

隊長は怒りに任せ、星花のペルソナに手を掛け、一気に奪い取った。

隊長「……っな!?」

星花「…………」

隊長「…………お嬢……様…………」

思わぬタイミングで探し求めていた相手と再開した隊長は思わず硬直し、奪ったペルソナを取り落とした。

カースとヒーロー達が戦う喧騒の中、ペルソナが地面にぶつかる音が、小さく響いた。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/07/08(火) 12:01:18.75 ID:B53ryTsM0<> ・イベント追加情報
ライラと梨沙が控え室で雑談中です

アザエルが撤退、カースの増援が停止しました

爛とクールPが控え室へ向かっています

エマが屋上へ移動、乃々&ほたると遭遇しました

捜索隊長が星花と遭遇しました

以上です
副業に足を取られるスタイル
梨沙、コアさん、千鶴、乃々、ほたるお借りしました <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/08(火) 13:43:56.63 ID:iQ/CMwaAO<> 乙ー

梨沙がライラとお話してなんか和んだ

千鶴調子悪いのかー

出会ってしまった乃々とエマ…そして乃々を守るほたるちゃんカワイイ

そしてこちらも出会ってしまったか……隊長、実はヤンデレです? <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/07/08(火) 18:31:40.43 ID:xVKeZNxgo<> 乙乙
いろんなとこでいろんな事が起こってますねぇ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/08(火) 19:45:34.53 ID:/oMHvY+/0<> 乙です
いろいろ気になる展開ですなぁ <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 07:56:34.48 ID:hGgJ+5Tso<> 皆さん乙です。
いろいろ展開が進んでいく中私は久しぶりの投下



前回のアーニャ関連あらすじ
元憤怒の街で悲劇的ビフォーアフター

前回のその他のあらすじ
イルミナティの行き当たりばったり計画第一幕開始 <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 07:57:17.54 ID:hGgJ+5Tso<> 「ダー、ダー……。こちらシルバー1。……目標に変化なし、ドーゾ」

「はーい、こちらキュート2−8です。こっちも問題ないですよ」

「こちらパッション2−3。今日も糖分満タンで元気ですよ!」

『えーっと……これ一応作戦用の無線なんですが……』

 都心よりほんの少し離れた山中。
 杉一色ではなく種類さまざまな木々が、あちらこちらで自生しており身を隠せるような低木も比較的多いこの山。

 そんな中、3人の少女が低木を影にして身を潜めていた。

 いや、正確には4人である。少し離れた乱雑な山の斜面を一望できる場所に、スコープを覗き込む少女が身を隠しながら3人の様子を遠巻きに見ていた。

「まぁちょっとくらい問題ないですよぉ。固いこと言わないでください」

 パッション2−3と名乗った少女、槙原志保は楽観的にそう言う。

「それに今回の作戦はそこまで重要な作戦ではなく安全でしょうからから、比較的緩くできますからね」

 キュート2−8と名乗った少女、江上椿は微笑みながら言う。

『とはいっても作戦中なんですから気を引き締めてくださいね』

 無線の先で気楽な二人に忠告するのは瀬名詩織。
 そう言う彼女も気を張り詰めているわけではなくそれなりにリラックスしているようである。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 07:58:01.46 ID:hGgJ+5Tso<>
「ンー……比較的重要な作戦ではない?安全とは、どういうことですか?」

 そんな疑問を投げかけるのは、シルバー1と名乗った銀髪の少女、アナスタシアであった。

「えーっと……まぁいろいろあるんですけど、あなたがこの作戦に参加しているっていうのが一番の理由ですね」

 椿はアーニャのその疑問に答える。

「GDFがわざわざアーニャちゃんに仕事を依頼する理由ってなんだかわかります?」

「ヤー……私の力が必要だから、ですかね?」

「まぁ私たちにとっては頼もしいと感じるのですが、上はそう言う意図ではないんですよ」

 少し苦笑をしながら答える椿。

「本来ならばGDFは傭兵……まぁアーニャちゃんは厳密には違いますが、傭兵は滅多なことがない限り雇いません。

それでも雇う場合に考えられるのはだいたい2つほどの理由があります」

 椿はアーニャの隣で顔を見ながら人差指をピンと立てる。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 07:58:43.83 ID:hGgJ+5Tso<>
「まずは人材不足。

最近なんかカースの出現が妙に多い時がありますし、基本的にそちらに人員が動員されてしまいます。

防衛のための待機人数の動員が多くなってますし、こちらから打って出るような作戦は重要度が低いものほど割かれる人員が少なってきてしまいまして……。

そんな猫の手も借りたい時がGDFにもたまにあるので、仕方なくGDF外から人を雇うことがあるんですよ」

 そして椿は人差指を立てたまま2本目である中指を立てた。

「それともう一つはかなり危険な作戦の場合に雇ったりします。

人材というのは宝、なかなかきな臭い噂の多いGDFも基本的に例外ではありません。

じゃあ犠牲者が確実に出るであろう作戦などではどうするべきか?

……ようするに当て馬としてGDF外から人を雇うんですよ」

 椿はあまり話していて気分がよさそうな様子ではない。
 雇われる立場の人間を前にして気持ちよく話せることではないのは明白だろう。

「……じゃあ、この作戦も危険なのでは?」

 アーニャはあまりそのことに対して気にしていないようで、先ほどと真逆のことを言っている椿に対して疑問を投げかける。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 07:59:36.37 ID:hGgJ+5Tso<>
「う、うーん……そう言うことじゃなくてね、そんな感じの危険な作戦の場合は作戦部隊を全員傭兵で固めるから今回のには当てはまらないの。

それに最近は傭兵も様変わりしてきて能力者も多くなったし、日本にはそう言った組織があまりないから基本的に雇っても採算が合わなんですよ。

GDFの上層部も個としての主張が大きい能力者と言う存在に肯定的でない人も多いですから、大々的に能力者の傭兵を雇うなんてことはプライドが許さない。

だからそんなことは滅多にないと思ってもいいんです」

「ターク リェータ……そうなん、ですか?」

 もともと特殊部隊出身であるアーニャにとっては傭兵などよく見るものであったので、椿の話は意外であった。

 カースなどの襲撃はあっても、人間同士の戦争のない日本では海外から傭兵を呼ぶ方が金がかかってしまうのは仕方のないことだ。
 それに対して大陸と地繋ぎならば移動や武器の持ち込みが容易な場合が多く、雇うための必要資金を多少抑えられるからだ。

「ええ、そうですね。

そしてこの作戦が重要ではないのは普通に分かるでしょう?

GDFが部外者に機密性の高い重要な作戦をGDF外の人間にさせるわけがないんですから。

その上で安全である理由は、初めに言ったようにあなたが参加しているからなんですよ」

「?」

 アーニャはやはりよくわからないと言いたげに首をかしげる。
 椿はそんなアーニャの様子に苦笑した。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:00:28.62 ID:hGgJ+5Tso<>
「だってあなたのピィさん?プロデューサーと言えばいいんですかね?

あの人が、あなたに本当に危険な作戦をさせるわけがないでしょう?」

「ピィさんが、ですか?」

「仕事選びはあなたがしているわけではないんですよね?

アーニャちゃんは強いけど、きっとそのピィさん、いや他の人もきっと心配しているんじゃないんですか?」

 椿自身はあまり『プロダクション』に行ったことはないがなんとなくあの場の雰囲気は理解している。
 そこから簡単に想像することはできた。

「ダー……そうですね。せっかく安全な仕事を選んでくれたんです。

心配かけないように、きっちり完了させて帰ります」

 アーニャのその言葉に椿が少し面食らったような表情をする。

「アーニャちゃん、少し変わりました?」

「?……なにがですか?」

「……いえ、気にしなくていいですよ」

 前に一緒に仕事をしたときとは少し違うアーニャの雰囲気。
 それが悪い変化ではないことに気づき、椿は表情を少し緩ませた。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:01:10.36 ID:hGgJ+5Tso<>
『さて、おしゃべりもこのくらいにしましょう?

志保さんが難しい話のし過ぎで舟をこいでるのがこちらからも見えますし……』

 会話を打ち切るように聞こえてくる無線からの詩織の声。

 その声に従うように妙に静かだった志保を見てみれば、居眠りをし始めていた。

「さすがに……いささか緊張感がなさすぎではないですか?」

 椿もこれには苦笑いするしかない。

「志保、起きてください。……そろそろ動きます」

 アーニャは志保の肩を掴んで揺り起こす。
 それによって涎を垂らして眠っていた志保はようやく目を覚ました。

「ああっ、すみませんボーっとしてました。

寝てませんよ!寝てませんってば!」

「よだれたらしながら言うセリフじゃないですね……」

 志保はその言葉に慌てて口元に垂れた涎を拭う。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:01:51.24 ID:hGgJ+5Tso<>
『では目標の確認をしましょう』

 無線の先の詩織が場を仕切りなおすように話し始めた。

『視線の先、約100メートル先、開けた場所にある一軒の廃墟。

そこがある犯罪グループの研究施設に改造されているらしいです。

今回は作戦はそこの制圧。幸いいつぞやのような番犬もいないようですし、罠も多分なさそうです』

「なんだか簡単そうな作戦ですね〜」

 志保は気楽なことを言うが椿はそれを否定する。

「なんだか少し怪しくないですか?簡単すぎるというか……」

『ブリーフィングによればもしかしたら宇宙人の技術協力があるかもしれないなんて情報もありますわ。

警戒すべきはそこでしょう』

「ツィジィロードヌィフ……宇宙人、ですか?」

「あれ、見たことありませんか?宇宙人」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:02:37.68 ID:hGgJ+5Tso<>
 宇宙人という単語に対して反応したアーニャに対して志保はそんなことを聞く。

「ニェート……宇宙人の武器っぽいものは、見たことありますが、よく考えてみると宇宙人そのものは見たことないですね。

武器を使ってたのも人間だけですし……」

「いったいどんな経験なのかわからないけど、なかなか殺伐としてますねぇ……」

 尋ねた志保もアーニャの答えに苦笑いするだけであった。

『とりあえず、途中で合流しながら廃墟へと潜入します。

今回はアーニャさんもいるのでリスクはかなり低くなりますが、それでも慎重に行きましょう』

「わかりました!」

「ダー」

「……了解です」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:03:08.59 ID:hGgJ+5Tso<>
 無線の先の詩織の指示を合図に各々に返事をし、目標へ向かって慎重に、素早く動き出す。
 これ以上先には遮蔽物はないので身を隠しにくい。

 故に目標の廃墟へと一直線に向かう。

 そんな中で椿は先ほどの自らの『怪しい』という疑念を拭いきれずにいた。

(正直私たち3人だけでも十分な作戦なような気がするのですが……。

どうしてアーニャちゃんも参加を?保険、ですかね?

まぁこの不安も杞憂に終わればいいんですが……)

 やはり不安は解消されそうにない。

「敵なし……ですね!」

 志保の言葉と同時にあっさりと4人は廃墟までたどり着いてしまった。
 その気が抜けるほどの簡単さは、椿の中の疑念をさらにねっとりとさせるものとなった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:03:50.67 ID:hGgJ+5Tso<>
―――――――――
―――――――――――
 数日前。


「いやーこんにちはピィさん。急に押しかけて申し訳ない。

それにしても、だいぶ春も近づいてきましたねー」

 軽薄な笑顔を張り付けたその男は、言動の軽さとは真逆の暑苦しささえ感じるスーツにきっちりと身を包んでいる。

 きな臭いセールスマンのようなその男は『プロダクション』のソファに座って笑顔を崩さない。

「お久しぶりですね少佐。いつもならメールなどで済ませるのに突然どうしたんですか?」

 突然の来客、であろうその男に対してピィはその理由を尋ねた。
 少佐と呼ばれた男は特にいやそうな顔もせずそれに答える。

「いや近くに行く用事があったので、そのついでに寄ってみたんです。仕事も一緒に持ってきてね」

 そう言って少佐は、持っていた鞄からいくつか書類を取り出した。
 ピィはその出された書類を一瞥したが、すぐ視線を少佐に戻す。

「まぁ焦らないでください。少しくらいゆっくりしてもいいんじゃないですか?」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:04:31.25 ID:hGgJ+5Tso<>
 書類は全て『プロダクション』、主にアーニャに依頼される仕事に関するものである。
 ピィとしてはこの少佐という人物を苦手としていたが、早々に仕事の話に入るというのにも気が乗らなかった。

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますよ」

 少佐はピィの提案を飲んだようで、緊張させていた背筋を解き背もたれに体を預ける。
 すると少佐はピィに向けていた視線を、その背後へと移した。

「おやおやかわいらしいお嬢さんがいますね」

 ピィが後ろを振り向けばそこには藍子がお茶を持ってきていた。

「こんにちは。お茶をどうぞ」

 藍子は少佐の目の前まで来てお茶を目の前のテーブルへと置いて微笑みかけた。

「ふむ、どうもありがとう。気の利くお嬢さんだ。私は……少佐とでも呼んでくれるとうれしい。あなたのお名前は何でしょうか?」

 そのまま下がろうと思っていた藍子に名前を訪ねてくる少佐。
 一瞬びっくりしてしまった藍子だが、それに普通に答える。

「え、はい……。高森、藍子です」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:05:10.68 ID:hGgJ+5Tso<>
「藍子……いい名です。うちにもこういった愛嬌があって気の利く隊員が欲しいですね。

おっと自己紹介が遅れました少佐ですどうぞよろしく。

せっかくですし、うちの部署へ来ませんか?」

「ええ!?そ、それはちょっと……」

 少佐のまくし立てるような急な勧誘を受けて慌てふためく藍子。
 助けを求めるように後ろのピィへと視線を向ける。

「いいでしょピィさん。ちょっと貸してくださいよ」

「それはちょっと、了承しかねます少佐」

「はぁ……まぁいいか。それよりも藍子さん。少し頼みがあるのですが……」

「な、なんですか?」

 勧誘を受けたかと思えば、今度は頼みごと。
 きょとんとした表情で藍子は少佐を見る。

「図々しいようだがコーヒーを、もらえないでしょうか?」

「コーヒーですか?いいですけど……」

 藍子は少佐の言葉を聞いて、お茶の入った湯飲みをもって給湯室へと向かおうとする。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:05:57.70 ID:hGgJ+5Tso<>
「あ、いやちょっと」

 しかし少佐はそれを引き止めた。

「そのお茶は、置いといてもらえませんか?」

 藍子はお茶が苦手なのかと思ってお茶を下げようとしたのだが、それを制止されてしまった。
 いまいち少佐の意図がわからないがとりあえず少佐の言う通り、買い置きのインスタントのコーヒーを淹れる。
 ついでに給湯室から見えるように、少佐の向かいに座るピィのためにお茶をもう1杯持っていくことにした。

「インスタントですが、どうぞ」

「ああ、ありがとう藍子」

「わざわざ手間とらせてすまないね」

 そのまま注文通りのものをもって二人の元へと戻った藍子は、コーヒーとお茶を置く。

「藍子ちゃんみたいな歳の娘がここにきているということは、藍子ちゃんにも何か能力があるのですか?」

 少佐はその笑顔を張り付けたまま藍子の方を見て尋ねる。

「え、えーっと……」

「すみません少佐。あまりうちの子にそう言った踏み込んだ質問はご遠慮していただけませんか?」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:06:43.10 ID:hGgJ+5Tso<>
 急な質問にたじろぐ藍子を庇うようにピィが少佐に言う。

「おやこれは失礼。出過ぎた質問でした」

 少佐は謝罪を言うが、悪びれる様子はない。
 そして目の前にあったコーヒーカップと湯呑を両手に持って胸の前辺りまで上げる。

「まぁ少し聞いてください。私はお茶も、コーヒーも大好きなんです。

これは私の持論なのですが、おいしいものならば、どんなものでも交わると思うんですよ」

 そして少佐は湯呑を傾ける。

「おいしいものとおいしいもの、混ぜ合わせれば最高なんじゃないか、ってね」

 徐々にコーヒーカップに注がれていく緑茶。
 そして溢れそうにいなったコーヒーカップから今度は湯呑側へとその混ぜ合わさった液体を入れていく。

 それを繰り返して濃度が均等になるように撹拌していく。

「あ、あの……それ」

 突然の少佐の奇行にどうしていいのかわからない藍子に構わずに、少佐は鼻にコーヒーカップを近づけてお茶でもコーヒーでもなくなったその液体の香りを楽しむようなしぐさをする。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:07:30.76 ID:hGgJ+5Tso<>
「んー……、やはりこれがいい」

 そしてその液体を口へと運んだ。

「私としては、GDFもこれと同じように個としての強大である能力者を受け入れていく方針でもいい気がするんですがねぇ……」

 少佐は誰に語るでもなくそんなことを呟く。

「頭の固い上官たちは、あくまで無能力者、数にこだわって組織を作っている……。

そんな前時代的なスタンスに固執するあまり、無能力者を改造したサイボーグを作ってるなんて噂もある。それの方がよっぽど非人道的です。

そんなんだからヒーローに後れを取るというのに……」

「しょ、少佐?」

「そうは思いませんかピィさん 」

「うわ!?」

 少佐はソファから身を乗り出してピィの眼前すれすれまで顔を近づけてくる。
 ぶつぶつと独り言をつぶやき始めたかと思えば、その様子を心配して声をかけたピィに対して急に同意を求める少佐の突然の行動でピィは声を上げながら後ろへとのけ反ってしまった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:08:20.48 ID:hGgJ+5Tso<>
「おやこれは失礼、少々興奮してしまいました」

 ピィの声で我に返った少佐は、声を落ち着けて再び元いたソファに座る。

「ともかく私のようなGDF内でも能力者賛成派からすれば、あなた方が我々の依頼を受けてくれるのはありがたいことなのですよ。

こうして地道に能力者の協力を仰いでいけば、上層部の意向もすこしは変わるのではないかとですね」

「は、はぁわかりました少佐」

「さてではお仕事の話に移りましょう」

「ええ……そうですね。藍子は少し下がっててくれ」

 ピィはすぐ近くで固まっていた藍子に下がっているように言う。

「わ、わかりましたピィさん……」

 すっかり少佐に怯えてしまったのか藍子はおとなしくその場から離れていく。
 少佐はそんな藍子の背中を変わらぬ笑みで姿が見えなくなるまで見続けていた。

「ふむ、やはりいい子ですね」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:09:01.37 ID:hGgJ+5Tso<>
「早く仕事の話をしましょう。少佐」

 終始表情を変えない少佐に対してピィは表面上は笑顔を、それでいて瞳の中には警戒を残したままである。
 当然少佐もそれには気付いているが、気にしないようであった。

「そうですね。じゃあ今回は依頼の作戦をいくつか持ってきました。

どれにします?」

 少佐は資料の束に手のひらを置いて横にスライドさせる。
 それによってすべての資料がすべてみられるように並んだ。

 ピィは一枚一枚手に取って内容を入念に確認する。

 それに横槍を入れるように、少佐がピィがまだ見ていない一枚を手に取ってピィの前へと差し出した。

「これなんかどうですか?

作戦内容はとある研究施設の制圧。護衛がいる可能性はありますが事前の調べでは武装している者はいないようですし他に比べて比較的安全かと?

随伴するGDF隊員もあの銀色ちゃんとこれまで何度か作戦をこなしたことのある隊員です。

信用できるでしょう?」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:09:49.61 ID:hGgJ+5Tso<>
 ピィは手に持っていた資料を置いて、少佐に差し出されたその資料を手に取る。
 その内容を流し読みしてみたところ、少佐の言う通り危険度も比較的少なく好条件に思える。

「……考えておきましょう。私一人では、決定できないですから」

「……ですよね。でもいい返事を期待してますよ。

依頼を選ぶ代わりに、あなた方は普通の傭兵に比べてかなり安めで依頼を受けてくれますから私としても重宝していますので。

あなた方とはこれからも仲良く付き合っていきたいですね」

 少佐はにこりとピィに笑い、ソファから立ち上がる。

「では今日はこの辺でお暇しましょう。

藍子ちゃんにおいしかったと伝えてください」

 そして嵐が去るように少佐は『プロダクション』を後にした。
 そのタイミングを見計らったかのように、藍子がピィの元へと戻ってきた。

「ど、どうしたんですかピィさん?」

「おー……藍子か……」

 ピィは先ほどまでとは打って変わってソファに全体重を預けてぐったりとしている。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:10:32.37 ID:hGgJ+5Tso<>
「あの人を相手にすると、ホント精神が削られるな……」

 ピィは思い返す。
 少佐はすでに去ったというのに、未だにあのポーカーフェイスよりもたちの悪い、気味の悪い笑顔がピィの脳内にへばりついている。

「どちら様ですかあの人は?」

 藍子のそんな疑問に、ピィは窓の外の曇り空を見ながら答えた。

「GDFの『プロダクション』担当にして、対外作戦部部長さん、本名不明の階級少佐。

あの人も少佐としか自称しないから、俺も少佐って呼んでる。

そしてあの人のさっき言ってた通りGDF内の能力者賛成派……というか推進派だな。それのエースだよ」

「なんだか……ちょっと変わった人でしたね」

 ピィは藍子のそんな言葉にため息をついて言う。

「まぁあの人のおかげでGDFから安定的に仕事が舞い込んでくるんだけどな。

アーニャのヒーローとしての収入減を支えてくれてる人だ。

普通の傭兵に比べて安いとはいってもそれなりに羽振りもいい。

ありがたい……んだけどな」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:11:00.71 ID:hGgJ+5Tso<>
「けど?」

「あんな気味の悪い雰囲気やWin-Winであるということをあえて主張してくるような態度。

あの人が言ってること以外に、絶対何か裏がありそうなんだよな……」


―――――――――――――
――――――――――

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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:12:07.53 ID:hGgJ+5Tso<>

「廃墟まで来てみたものの何もないですねぇ」

 志保が廃墟の中をぐるりと見渡しながら言う。

 その廃墟は見た目以上に狭かった。。
 大きさとしても前に宇宙人が根城にしていた廃墟より少し小さく、むき出しのコンクリの壁や扉が備え付けられていないために入ってきた枯葉が散乱としているだけの室内ばかりであった。

 かつて人が住んでいた気配さえ感じさせない殺風景な空っぽの廃墟である。

「この場合、目標はすでに引き上げてしまったのか……それとも?」

 詩織はそう言うとしゃがみこんで落ち葉に埋もれた床を探り始める。

「やっぱりおなじみの、地下ですかね?」

 椿はいつぞやの作戦を思い浮かべる。
 ウサミミの宇宙人の潜伏していたあの一件だ。

「……でもそんな簡単に、見つかるでしょうか?」

 アーニャはそんなことを言いながら壁にもたれる。
 ブリーフィングではここは研究施設らしい。さすがにそんな頭の悪い単純な仕組みはしていないだろう。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:12:55.17 ID:hGgJ+5Tso<>
 カチリ。

 そんなことを思っていたアーニャの背後で無機質な音。

「まぁ確かにそうかも……ひえぇっ!!!」

 それと同時に床を探っていた詩織の目の前の床が跳ね上がるように勢いよく開いた。

 アーニャが後ろを振り向いてみれば、コンクリート壁にカモフラージュされていた隠し扉のスイッチであろうものが窪んでいた。

 そして視線を戻したアーニャから見えるのは床の隠し扉から奥に続く階段と顔を青くさせ、涙目な詩織。

「ディスヴィーチェリナ……ホントに、地下ですね」

「アーニャさん……何か私に言うことありませんか?」

「……ゴメンナサイ」

 あと一歩詩織が前にいたならば扉が顔面直撃であっただろう。

「ま、まぁともかく見つけましたし先へ進みましょう」

 気を取り直すように志保が先へ進むことを提案する。
 その視線の先の階段はどこまで続いているわからず真っ暗であった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:13:35.69 ID:hGgJ+5Tso<>
「とりあえず、誰か一人ここで待機しておきましょう。

もしかしたら今ので気づかれた可能性もありますしね」

 椿は冷静に先へ進むための人員について考える。

「い、いつも通り私が待機でいいんじゃないですか?」

 いまだに驚きで閉まりきっていない心臓を押さえながら言う詩織。

「まぁそれでいいんじゃないですか?賛成の人は挙手で!」

 志保のその声に従うように皆手を上げる。

「決まりですね。

詩織ちゃんは何かあった場合本部に連絡をお願いします」

「了解しましたわ」

「じゃあ行きましょう〜」

 椿と志保が階段を下りていく。

 アーニャはその背後で気を引き締めるように顔を緊張させる。
 そして拳銃をいつでも撃てるように構えながら二人の後を着いていった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:14:14.22 ID:hGgJ+5Tso<>
***

 薄暗い手術室のような部屋の中、数少ない光源の一つであるモニターの前で人影が一人。

「にゃーっはっは!や〜っと来たね。あと数分遅かったら飽きて帰っちゃうところだったよー」

 けらけらと笑いながらモニターの前の人影はモニターの中を注視する。
 暗視装置によって緑色の画面の中には3人の人物が歩いているのが見える。

「じゃああやしい実験の対象も来たことだし、さっそくはっじめましょー」

 身に纏う白衣をはためかせ、モニターの後ろへと視線を向けた人影。
 その先にあるのは手術室で見るようなキャスター付きの台、そしてその上には雰囲気に似付かないおもちゃのようなスイッチ。

「ぽちっとな♪」

 人影はためらいなくそのスイッチを押したのだった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:14:47.19 ID:hGgJ+5Tso<>
***

 場面は戻って3人の元へ。

「……明りが少なくて、薄暗いです。

内装はなんだか……バリニーツァ、病院みたいな感じがします」

 暗い場所には慣れているアーニャが、周囲の状況を伝える。

「うーん、なんだか怖いですねぇ〜」

「確かに不気味ですけど……隠し部屋だったというのになんだか人の気配がほとんどしませんね」

 3人は周囲を警戒しながら進んでいく。

『とりあえずは3人固まったまま、しらみつぶしに調べましょう。

どこかに本命の研究室がきっとあるわ』

 その指示の通り、3人は前後を警戒しつつ先へ進み、階段から降りて最も近かった部屋へと入る。
 ゆっくりと中を確認して、安全を確認した3人はその実内の状況を確認した。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:15:20.93 ID:hGgJ+5Tso<>
「……っていうか案の定何にもないですね〜」

「本当にここに敵性の研究施設なんてあるんでしょうか?」

 入った部屋の中はやはり何もない。
 せいぜいあるのは、棚であったらしいものと先ほどまでの落ち葉の代わりに剥がれ落ちた壁材の破片くらいである。

「……まだ一部屋目です。

まだ奥もあるようですし、もう少し探りましょう」

 アーニャとしても拍子抜けしてしまうほどに何もないこの状況に違和感を覚えながらもとりあえず先に進むことを提案する。

「そうですね。そうしましょう」

 椿が振り向いて後ろにいたアーニャに同意する。

 だがそれは一瞬であった。

「え?」

「シトー?」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:15:54.45 ID:hGgJ+5Tso<>
 アーニャ自身ですら油断していた。
 実際室内には何もなさすぎるほど違和感がなかったためにこの結果を招いてしまった。

 アーニャが感じる浮遊感。
 重力に従って体が落ちていく感覚。

 椿から見れば、アーニャの足元に円形の穴が開いて、その穴は状況を把握させる暇もなくアーニャを飲み込んだ。

「くっ!?」

 椿は何が起きたのかさえ理解できていない志保の腕を引いて飛び退く。
 転がり込むように部屋の隅まで到達し、迅速に銃を構える。

「ど、どうしましょう!?アーニャちゃんボッシュートされてしまいました!」

「落ち着いて志保ちゃん、次は私たちかもしれません」

 だが室内は沈黙したまま変化はない。
 気が付けばアーニャを飲み込んだ穴は跡形もなく消失していた。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:16:33.09 ID:hGgJ+5Tso<>
『どうしたの?みなさん』

 無線の先での異常を察知したのだろう詩織が無線で話しかけてくる。

「アーニャちゃんが敵の手に落ちました。どうしましょう?」

 詩織に作戦を仰ぐ椿。
 この状況で撤退か、それとも作戦を続行しアーニャの捜索もするかの2択である。

『その後の敵の様子は?』

「変化はないです。私たちに追撃してくる様子もないです」

「と、とりあえずアーニャちゃん探しましょう?ね。

あの穴だって、私のロケランでこじ開けますし……」

 志保は背負っていたロケットランチャーを構える。

「待って志保ちゃん」

 椿は考える。

(多分どこかで見ているのでしょう。

その誰かの目的は侵入者である私たちの排除?それとも……)

 椿は慎重に動き出してアーニャが落ちていった穴の辺りを調べる。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:17:10.41 ID:hGgJ+5Tso<>
 その床には、切れ目もなく穴があった痕跡すら見つからない。

(多分宇宙人かどこかの私たちの知らない技術でこの施設はできている。

じゃあ監視カメラもきっと目に見えないようになっている可能性もあります)

「まるで生き物みたいですね、この建物」

 椿はぼそりと呟いて床を撫でる。

『出来ればいったん撤退した方がいいと思うわ』

 無線の先の詩織から撤退の提案。
 だが椿はある一つの考えへと至っていた。

(この中で目に見えて派手な武装をしているのは志保。

それに対して一番軽装なのはアーニャちゃんでした。

それなのにあえてアーニャちゃんを真っ先に狙った理由。

まさか……)

「つ、椿ちゃん?」

 椿の後ろにいた志保が考え込む椿に声をかける。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:17:49.90 ID:hGgJ+5Tso<>
(偶然でないとするならば……)

「すこし、厄介かもしれませんね……。

詩織ちゃん、少し危険かもしれませんが撤退はしません」

『え?なんでです?』

 椿には漠然とした予感があった。
 きっとそれを知ったのならば引くべきなのだろうが、椿としては引いてはいけないと思ったのだ。

(もしかしたらこの作戦自体が……)

「志保ちゃん、駄目元でいいですからやっちゃってください」

「なんだかいつもは反対するのに……わかりました!派手に一発やります!」

 とはいっても狭い室内でロケットランチャーを発射するわけにはいかないので一旦外へと出る。

 少し距離のある階段まで引いて、志保が手に持つのは起爆装置。

「派手に、ドーン!」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:18:22.96 ID:hGgJ+5Tso<>
 それを合図に起爆装置に指をかける。
 それと同時に先ほどまでいた部屋の辺りから爆音が響いた。

「ど、どうですか?」

 椿はおそるおそる爆心地を確認しに行く。
 だが扉は吹き飛んでいる者の壁や床は少し焦げただけであった。

「だ、駄目でした!」

 椿としては穴をたどってショートカットがしたかったが無意味ならば仕方がない。

「詩織ちゃん志保ちゃん、アーニャちゃんを探しに行きましょう。

勘ですがこの作戦では、私たちに直接的な危害が加えられることはないでしょうから作戦通りしらみつぶしでいきます!」

「わかりました椿ちゃん!」

『よ、よくわからないけど……わかったわ椿さん』
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:19:52.38 ID:hGgJ+5Tso<>
***

 なんだかいつも以上に体の重さを感じながら、まどろむ意識をアーニャは覚醒させる。

 視線の先には手術に使う円形のライトがアーニャを直接照らしているのが見えた。

「……こ、ここは?」

 アーニャは記憶を思い返す。
 あの時、穴に落ちた後水の張った水槽のような何かに落下したことまでは思い出せた。

 だがそれ以降は着水後、一気に意識が遠くなったことぐらいしかアーニャには思い出せなかった。

「グッモーニン、アナスタシア!気分はどうかな〜?」

 急にそんな声が聞こえてくる。
 アーニャは急いで起き上がって対処しようとするが体が起き上がらない。

「シトー?……なんですかこれ?」

 アーニャの体は手足や腰の部分が金属製の枷で今寝そべっている台の上に固定されていた。

「くっ……動けません」

 いくら力を入れてもアーニャの枷はびくともしない。
 それどころか意識が完全に覚醒していないようなまどろむ感じが体中に残っており、全身に力を入れることすらままならなかった。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:20:28.47 ID:hGgJ+5Tso<>
 当然思考がまとまらない故に集中もできず、天聖気を全身に纏うこともままならないので、今のアーニャはただの少女程度の力しか発揮できない。

「無駄だよー♪それは宇宙怪獣バゲマゴン用の枷にも用いられる金属だから絶対びくともしないってー」

 気楽そうな声がアーニャに近づいてくる。
 アーニャはかろうじて動く首をその声の主の方へと向けた。

「ふっふふーん。その上あたし特製の強力な麻酔に全身漬けてあげたから多分しばらくは満足に体を動かすことすらできないだろうしね」

 その声の主は、学校の制服のような衣装の上に白衣を身に纏い、くせっ毛の長髪に爛々と輝く瞳。
 そして何よりも。

「ネコミミ?」

「ノーノー、よく間違える人いるけど、これ実は短いけどネコミミじゃなくてウサミミなんだよね〜」

 ボリュームのある髪をかき分けると、後頭部と頭頂部の境目辺りから少し短めだがウサミミのようなものが生えていた。
 それが髪に隠されることによってネコミミのごとくの短さになっていたのだ。

「耳の短いウサギと言えばネザーランドドワーフを思い浮かべるかな?

でも残念あたしのこのウサミミはウサギの耳ではないのだよー」

「……ウサミミなのに、ウサギの耳ではない?」

 状況を理解できないアーニャはとりあえずそんな単純な疑問しか口にすることができないが、そのウサミミ少女は気にせずマイペースに話を進める。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:21:14.19 ID:hGgJ+5Tso<>
「まぁそんなことは置いておいて、自己紹介と行きましょーか。

あたしは、シキ。自称マッドサイエンティストのシキなのだ!」

 シキと名乗った少女は耳をピコピコと動かしながらニヤリと笑う。
 アーニャはそんな顔を見上げるしかできなかった。

「さてアーニャちゃん?どうしてこんな状況なのかわっかるかなー?」

 シキはアーニャの顔を覗き込みながら言う。

「……どうして、こんなことを?

そうでした、他のみんなは無事、なんですか?」

 真っ先に思い浮かぶのはこの作戦に一緒に来ていた他の3人である。

「他のみんな?

ああ、他の人たちには興味がないから放置してあるよ」

 その言葉を聞いてアーニャは少し安堵する。
 シキの言葉をどこまで信用できるかはわからないが、本当に他の皆が無事ならば、どうにかして自分がここから脱出すればいいだけだからだ。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:22:04.39 ID:hGgJ+5Tso<>
「いーまのあたしの興味はキミだよ♪

あーにゃんにゃん」

 シキは急にアーニャに顔を近づけて、おどけたように言う。

「インチェリエス……興味、です?」

「そう、あたしの興味はアーニャちゃんのその体だよーん」

 シキは近づけた顔をアーニャの首元まで持っていき、匂いを嗅ぐように鼻を這わせる。

「ぐっ、私の体?……どういうことですか?

……というか、あなたのような人に、アーニャと呼んでほしくないです……」

「固いこと言わないでよねアーニャちゃーん♪ハスハス〜」

 アーニャは身をよじるが枷のせいで全く動けない。
 その隙にシキは全身様々なところを嗅ぎはじめ、その呼吸はアーニャの体をくすぐった。

「うーん、なかなかいい匂い。気に入ったよアーニャちゃん♪」

 満足したのかシキはアーニャから離れて背後の方の別の台の元へと行く。
 キャスター付きのその台を物色するシキの後姿をアーニャは見ていることしかできない。
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:22:44.23 ID:hGgJ+5Tso<>
 アーニャは冷静に自分の置かれている状況を振り返ってみる。
 気が付けばコートも、支給された拳銃もない。武器になりそうなものは全て身から外されている。

 枷はシキの話を聞く限り宇宙怪獣の強さまではわからないがかなり強固なものだろうと思われる。
 そしてこのように囚われた状況ならば助けは来ない可能性が高いとアーニャは考える。

 仮に来るとしても、眠っていた時間が短いならば暫くは来ないであろう。

(あれを……使えば)

 アーニャが思いつく一つの脱出案。
 だが切り札であるだけに、ここで切るかは少し迷ってしまう。

「さーて、趣味はこの辺にしてさっそく実験にはいろー」

 シキのその陽気な声にアーニャは現実に引き戻される。
 シキが何らかの準備を終えたようで、再びアーニャの方へと近づいてきた。

 アーニャは首を動かしてシキの方を向く。

「そ……それは」
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◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:23:22.61 ID:hGgJ+5Tso<>
「そりゃーあやしい人体実験の醍醐味と言ったら解剖っしょ〜」

 シキが満面の笑みで右手にナイフ、左手にフォークをもって近づいてきた。

「あの……それ……ちがいます」

 さすがにアーニャもそれには絶句する。
 一瞬でこの手術台が、盛り付け皿に感じられるようになってしまった。

「あれ?そうだっけ?

まー大して違わないし気にしない気にしない♪

どうせアーニャちゃんは再生能力持ってるんだからケチケチしないでさー」

(……能力のことまで知って!)

 アーニャにとって絶望的なこの状況の上に、能力のことまで知られていることが判明してしまった。
 これで切り札さえも、通用するのかのリスクが高くなってしまった。

(でも……)

 だがこの状況。
 このままナイフとフォークで解剖されるなんて死んでも御免である。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:24:07.71 ID:hGgJ+5Tso<>
「あたし解剖はグッピーしかしたことないけどまぁ問題ないよね♪にゃはは」

 アーニャの目の前でナイフとフォークを構えながらさらに物騒なことを言い始めるシキ。

「仕方……ない」

 もはや決心はついた。
 切り札を使うことに。

「『聖痕(スティグマ)』」

 アーニャは爪で指先を思いっきり突き刺す。
 鋭い痛みと共にじぐじぐと広がり始める傷口。

 それが特徴的なダイヤ型になった途端に一気に湧いて出てくる天聖気。
 それは天聖気を持たぬシキでさえも視認できるほどの光だった。

 突如アーニャからあふれ出す光にシキも少し後ずさる。

「な、なにこれ?あたし聞いてないよー!」

 そんなことを言いつつも、まるで新しいおもちゃが手に入ったかのようにさらに目を輝かせるシキ。
 アーニャの力の入らなかった全身は一気に力がみなぎる。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:26:36.98 ID:hGgJ+5Tso<>
「はあ!」

 そして力を入れると同時にアーニャを拘束していた枷は一瞬ではじけ飛んだ。

「容赦は……しませんよ。シキ」

 そのまま足の枷も外して手術台からアーニャは降りる。
 それに対してシキは苦笑いをしながらさらに後ずさった。

「ちょ、ちょっと落ち着こうアーニャちゃん。ね」

 さすがに焦りを感じてきたのかシキもアーニャに制止するように言うが、当然聞くはずがない。

 アーニャはじりじりとシキに近づく。
 シキもその歩幅に合わせてゆっくりとさらに後退する。

「それは……聞けませんよ」

 そしてアーニャは拳を構え、背中から翼の様に天聖気の放出が始まる。

「にゃ、にゃはは……タンマ、タンマあああ!!!」

「はああぁぁーーー!!!!」

 アーニャの拳は背後の壁さえも貫いて崩壊させる。
 その轟音は地下に幅広く根付いていたこの研究施設内全体に響いた。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:27:16.75 ID:hGgJ+5Tso<>
「……し、シトー?」

 上がる土煙の中アーニャは違和感を感じた。
 拳が壁を殴った感覚はあったのだが、シキにあたったという感覚が全くしなかったのだ。

 あの状況で避けられたとも思えないし、避けるほどの実力もシキにはなかったように思えた。

「どこに、行ったのでしょう?」

 しばらく警戒して周囲を見渡してみたが、存在はおろか気配さえしない。
 仕方がないのでアーニャは警戒を解いて、『聖痕解放』も解除した。
 そして一息吐く。

「シキとは、いったいなんだったんでしょう?」

 まるで幽霊のごとく忽然と消えてしまったシキに疑問を抱きつつも、近くに掛けてあったコートを羽織って拳銃を装備しなおす。
 そして壊した壁の向こうにあった廊下へと出ると、奥の方から近づいてくる人影が見えた。

「おお、いました!アーニャちゃんですよ!」

 手を振ってくる人影は志保でありその隣には椿がいて、アーニャの方へと向かってきた。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:27:52.72 ID:hGgJ+5Tso<>
「無事ですか?アーニャちゃん」

 身の安全を心配してくる椿。

「ダー……もんだいない、です。

敵は逃がしてしまいましたが……」

「まぁ無事でしたんだから良しとしましょう!

途中でこの研究所の研究員を見つけましてその人たちを制圧してたら大きな音がしたんで辿ってみればこの通り。

無事にアーニャちゃんが見つかりましたー」

『アーニャさん無事?』

 無線の先から詩織の声がする。

「ダー……心配かけさせてしまい、すみません」

『次からは、気を付けてくださいね。

この研究所の制圧もあらかた終わったようですし、いったん戻ってきて』

「そうですね。いったん戻りましょうか」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:28:20.62 ID:hGgJ+5Tso<>
 椿の提案で3人は一度地上に戻って、本部に事の報告をすることにした。

 その地上までの道中で先を行くアーニャと志保の背を見ながら椿は考える。

(結局、気の回しすぎ、だったんでしょうか?

ちゃんとここは敵性組織の研究施設だったみたいですし、アーニャちゃんが囚われたのも偶然?)

 頭の中の可能性は、一気に信憑性を失っていく。
 それでも、椿には一抹の違和感が残っていたがとりあえず頭の片隅に追いやっておくことにした。

「ありえないですよね……この作戦自体がGDFの仕組んだ罠だなんて」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:29:06.01 ID:hGgJ+5Tso<>
***

 誰もいなくなった手術室。
 そんな沈黙した室内で、パラリと瓦礫の一部が転がり落ちた。

「ぷ、ぷはー……」

 それと同時に気の抜けるような声が一つ。

 虚空からまるで色がついていくかのごとく一人の少女が出現した。

「まったくあんなの聞いてないってばー」

 悪態をつきながら、その少女、シキは近くの椅子へと座った。

「まーなかなか興味深い子だったけどねー、アーニャちゃんはー」

 自身の座る回転椅子をくるくる回転させながらシキは言った。

「それなりに、データはとれたしね♪」

 ご機嫌な様子で回転する椅子を足で止めると、振動音が響く。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:29:47.65 ID:hGgJ+5Tso<>
 シキは白衣の胸ポケットからスマートフォンを取り出して人間の耳へと押し当てた。

「もっしもし〜♪」

『どうもシキさん。わたしです。少佐です』

 電話の向こうからおおよそ軍人ではなくセールスマンにしか見えない男、少佐の声が響いた。

「やっぱり少佐さんかー。ごめん失敗しちゃった。てへ♪」

『……そう、無事ですか?』

「なんとかねー。あと一歩あたしの『透明薬』の効きが遅かったらきっと壁にめり込んでたねー絶対」

 そんな物騒なことを言いながらもシキは楽しそうである。

『ふーむ……その透明薬ってうちでも使えませんかね?』

「あいにくこれは質量さえも透明にするからなかなか複雑な薬でね、あたし専用だから量産は難しいかも〜」

『……残念。それいったいどんな仕組みなんですかね?』

「それはマッドサイエンティストシキの超科学の謎パワーですぞ少佐殿。にゃっはっは♪」

『なるほどそれは納得だ。ははは!』

 電話口にお互いに笑い合って、本当に廃墟と化したこの研究施設内に笑い声が響く。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:30:31.03 ID:hGgJ+5Tso<>
『で目標の確保に失敗したとは言いましたけど、今回の作戦で手に入れた研究データとか隠したりしてませんよね』

 急に少佐は圧力をかけるように志希に尋ねてくる。

「そんなわけないじゃん♪だって採血しても再生能力のせいかすぐ血は消えちゃうし、眠ってる隙にいくら解剖してもすぐ治っちゃう。

サンプルも取りようがないよ全くもー」

『なるほど確かにそうですね』

 少佐もシキの言うことに同意する。
 アーニャ自体を確保できなければ、能力の性質上体細胞などのサンプルの確保が厳しいのも事前にわかりきっていたことだ。

『……で、本当にないですか?』

「ないよ」

『本当に?』

「ホントー」

『…………』

「…………」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:31:29.67 ID:hGgJ+5Tso<>
『わかりました。それならいいんですよ。

出来れば欲しかったんですけどね。あのアナスタシアの再生能力を我らがGDFに……。

まあまだ到底諦めきれるものではないですね……』

 そんなことを言いながらも仮面のごとくの笑顔が崩れていないことが電話口でも察しが付く。

「それとアーニャちゃんのあの技何なのさ?

少佐の情報になかったんだけどなー」

 シキはアーニャの使った切り札の説明を少佐にする。
 シキが思い返すアーニャの急激な身体能力強化とあの光。
 あんな技は少佐の事前の情報にはなかったはずである。

 本来ならばあのままずっと拘束し続けることが可能であり、作戦上ではもっとじっくりとアーニャの体を調べられることができたはずだったのだ。

『なるほど、あいにく私もそんな隠し玉があるなんて知りませんでしたよ。

いや一杯食わされました。

こんなことになるならやはり護衛をつけておくべきだったんでしょうかね?』
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:32:11.01 ID:hGgJ+5Tso<>
「それは事前に言ったよねー少佐さん♪

あたしがアーニャちゃんの能力の解明に参加するけど、その際には護衛とか監視とかはつけないでってね。

そんな余計なものが近くに居たらあたし集中できなくなって、ぜーんぶ台無しにしちゃうよ。にゃはは」

 シキは少佐を暗に脅すような口調で言う。
 もともと少佐はそのような契約でシキを雇っていたのだ。

『それは怖いですね。できれば勘弁してほしいものです』

 シキは自称フリーのマッドサイエンティストの名の通り、報酬さえ払えばあらゆる研究に手を貸しそれを成功させる。
 各研究機関からすれば喉から手が出るほどに欲しい人材だが、その気まぐれな性格と個人レベルを超える圧倒的な科学力は雇う側からも脅威となっているのだ。

 契約違反によって研究所が謎の壊滅したなんて話はシキについての噂の中でざらにある。
 その上普通では見つけることですら監視カメラでさえシキに発見されたこともあり、少佐自身シキの勘の鋭さでは契約違反など到底できないことは理解していた。

「……まーいっか。

ところで少佐さん」

『なんですか?』

 ずっと笑っていたシキが顔を引き締める。
 それだけでこの場の空気までも引き締まったような感じだった。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:33:00.40 ID:hGgJ+5Tso<>
「あたしの主観だけどね、あれは多分単なる再生能力じゃないと思うよ」

『というと?』

「あたしもはっきりとはわっかんないけど、多分本質はもっと別。

再生とか回復じゃなくて、蘇生……いやきっとそれ以上の何かが深淵にある。

きっと予感だけど、それを思いどおりになるなんて考えてるときっと痛いしっぺ返しを食らうかもね。

一応、忠告しておくよ」

『マッドサイエンティストに忠告されるとはいやはや……。

元より諦めるつもりもありませんし、時間もたっぷりとあるのでゆっくりとやっていくつもりでしたが……。

まぁ一応、ありがたく受け取っておきますよ。』

 ブツリ、と電話が切れる。
 シキは腕をだらりと下げて、椅子の背もたれに体重を預けた。

「かといって、忠告したあたしも引くわけないんだけどねー♪」

 携帯を持つ手とは逆の手でポケットから取り出したのは、機械的な装置の着いた注射器。

 その中には赤黒いような固体が詰まっていた。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:33:43.59 ID:hGgJ+5Tso<>
***

 アーニャは帰り道、今日のことを思い返していた。

「なんてむちゃくちゃな人だったんでしょう……」

 結局シキの存在が現実か幻だったのかアーニャにはわからないが、とりあえず二度と会いたくないことだけ痛烈に感じた。
 アーニャは沈みゆく夕焼けを見ながらそう思う。

「……っ」

 そんなとき指先に鋭い痛みが走る。

 アーニャはその指を見るとまるでかさぶたのように結晶状の何かが指先にくっついていた。

「これは?」

 それは指でこすると簡単に剥がれ落ち、何事もなかったかのようにいつもの指がある。

「砂か、何かですかね?」

 アーニャは結局ほとんど気にも留めずに、そのまま歩いていった。

 結局アーニャは気づかなかった。
 その指が『聖痕』の発生源として傷つけた指であることを。
<> @設定
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:34:24.83 ID:hGgJ+5Tso<> シキ/一ノ瀬 志希

職業 フリーのマッドサイエンティスト
属性 科学者
能力 科学的知識、特に薬学

詳細説明
自称、フリーのマッドサイエンティスト。仕事ではシキと名乗っている。
様々な組織に科学者として協力しているが基本的に自分の興味を満たすためにしか動かず、あっさりとクライアントを裏切ることが多々ある。
自分が好きに実験できることが志希の中では重要であり、それを邪魔するものは自身の研究成果を用いて排除するので、これまでに彼女の雇ったせいで壊滅した組織がいくつもある。
そのかわりに確実に結果を出すので、雇う上で危険性はあったとしてもそれに見合うリターンは保障されている。
父がウサミン星人、母が地球人のハーフで短めのウサミミが頭に生えている。うまく耳をたためるらしく髪の中に隠すことも可能で、通常時も髪に埋もれているため傍から見ればウサミミではなく猫耳に見えてくる。見た目は完全に地球人。ウサミミだけがウサミン星人。
両親は全く家に帰ってこないので一応暮らすための住居として自宅を使っているが、志希自身もかなりの頻度で家を空けている。
両親共に科学者であり、その遺伝子をしっかりと受け継いでおり本人もまたマッドサイエンティスト。興味のためならば人体実験とていとわない性格。
研究成果は自己満足であり、それをほとんど明かすことはなく自分の目的以外には使うこともほとんどない。
<> @設定
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:35:20.87 ID:hGgJ+5Tso<>
少佐
GDFの『プロダクション』担当にして、対外作戦部部長さん、本名不明の階級少佐。
さらにGDF内の能力者推進派のエース。
GDFに所属する軍人だが、常にスーツを着たセールスマンのような出で立ちで様々な活動をしている。
歪んだ思想の持ち主で自身の目的のためならばあらゆるものを利用し、切り捨てる非情さがある。
好きな飲み物は紅茶とコーヒーの1:1ブレンド。

アブソルートスレンジ
宇宙技術の一つであり医療器具。
抽出した液体を即時に絶対零度で保管する注射器。
結構いい値段する。

宇宙怪獣バゲマゴン
豚のような熊のようなよくわからない奇怪な怪獣
とても強く危険な怪獣だが比較対象としてよく使われるためあまり強そうに思われない。
例1.宇宙怪獣バゲマゴンが乗っても壊れない筆箱
例2.バケモン図鑑:スゴー
   うすい カスじょうの せいめいたい。カスに つつまれると 宇宙怪獣バゲマゴンも 2びょうで たおれる。


<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:36:02.43 ID:hGgJ+5Tso<> ***

 都内の某所。

 一軒のコンクリート造りの建築物の前の門。
 そこにかかれていたのは『一ノ瀬研究所』という文字であった。

 その建物内にいるのはたった一人である。

「まーったくフリーのマッドサイエンティストてのもなかなか忙しいものだよー」

 地下の研究施設に会った回転椅子の何倍も座り心地のよさそうな椅子に座るのはシキ。
 『一ノ瀬研究所』の所長の一人娘、一ノ瀬志希であった。

 この研究所兼自宅は家庭というものを全く感じさせえない雰囲気を家の外観の時点で醸し出しており、その家の中も閑散としていた。

「やっぱり家には一人で退屈。

パパは絶対に帰ってこないし、ママは世界中飛び回ってるから滅多に帰ってこない」

 志希の父親はウサミン星人であり、科学者であった。
 だがあいにく行方不明であり、地球規模ならまだしも宇宙規模の行方不明なので探す当てなど全くないのだ。

 さらに父はかなりのマッドサイエンティストであり、様々な者に狙われている。
 見つからないように潜んでいるために、この屋敷に帰ってくることはありえないだろう。

 母親も世界規模で有名な科学者であり家には滅多にいない。

 そんな親から、この志希が生まれたのはある意味必然であった。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:36:34.31 ID:hGgJ+5Tso<>
「だけど今日はこの子がいる!

出ておいでアブソルートスレンジちゃん。

抽出したものを絶対零度で保存してくれる優れもの〜♪

偶然だったけど、これのおかげでアーニャちゃんの血液を採取できたよー」

 当然取り出せば、絶対零度は解除されてアーニャの能力の性質上消えてしまうので、絶対零度を保ったまま調べる必要がある。
 よって専用の特別な装置を用いて志希はその血液を調べることにした。

「えーっとこれはロシア系の男性の血かな?

そしてこちらは日本人の血の要素。

そしてこのところどころに見える光の粒らしきものがあの力の源かな?」

 着実にアーニャの血液を調べていく志希。
 今の技術ならば採取された血液だけで様々な情報を読み取ることができる。

 だが志希はその途中で本来ならば見逃してしまいそうなほどの一つの違和感に気づいたのだった。

「ん?なんぞこれ?」



<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/07/10(木) 08:37:24.81 ID:hGgJ+5Tso<>
以上です。

志保、詩織、椿、藍子、ピィお借りしました。
まだしばらくは忙しいけれど、あと少しすればしばらく暇ができるので2,3ヶ月も投下期間が開くことはなくなるかもしれません。
それとアーニャに設定盛りすぎな可能性も反省すべき点かも(やめるとは言ってない) <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/07/10(木) 08:43:35.81 ID:xTX6Uua3o<> 乙乙。マッドサイエンティストいいですねえ。マッドとマッドで人間ダビスタ
黒い黒いよGDF
そして血液から何が作られるのか。普通の方法じゃクローンとかは難しそうですし <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/10(木) 10:15:36.98 ID:g+KagyY/O<> 乙です
GDFこわい。黒い。
バゲマゴンってインドゾウなんです?

……もしかして父親のウサミン星人って… <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/10(木) 11:17:09.99 ID:xpPV8hpY0<> 乙ー

GDFは黒い(断言
少佐は藍子の能力に反応しないってことは倫理観がもともと違うのかな
しきにゃん。ハーフか
しかも母親も科学者か

アーニャになんか不穏なフラグたってるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/10(木) 16:56:48.71 ID:Wc70jJNP0<> 不穏だね!しきにゃんは不便な便利屋みたいなポジかしら

みうさぎ誕生日おめで投下 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 16:57:16.94 ID:Wc70jJNP0<>  白く長い廊下を矢口美羽が一人歩く。
 靴と床の擦れる音が虚しく響き渡り、彼女の孤独を浮き彫りにした。

 それ以外に音らしい音は無く、得も言われぬ不安感が重くのしかかる。

 泥のように身体に絡みつくそれに、動きが鈍るような錯覚まで覚えてしまう。

 いっそ止まってしまえれば楽だったかも知れないが、彼女にそんな選択肢は存在せず。
 辛気くさい顔でため息とぼやきを漏らすくらいが清々の抵抗だった。

「……何言われるんだろうなぁ……」

 力無く吐き出された声は、誰に届くでもなく冷たい壁に溶けて消えていく。

 冷たい廊下はまだ長い。

 足取りは決して重くはないが、どこか鬱屈とした気分を雄弁に語っていた。


 遡ること数刻。

────…………

───────……………… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/10(木) 16:58:22.06 ID:Wc70jJNP0<>  自室で休息がてら録画しておいたお笑い番組を見ていたときのこと。

 きっちり二メートル画面から離れて、だらけきった体をソファーに委ねていた時のことだ。

 力無く投げ出された四肢は気の弛みの現れであり、時折笑い声にあわせて揺れるぐらいが関の山。

 女子力の欠片もない休日を享受していた。



 不意。周りをはばからない笑い声を遮るように、通りのいい電子音が部屋の一角から鳴り渡る。

 それが内線通信から発せられていると理解した矢口美羽は、誰も見ていないのをいいことに苦々しく顔を歪めた。

 内線通信から発せられているということは、つまるところ任務か何かの話なのであろう。

(…今日はガッツリ休もうと思ってたんだけどな)

 そんな企みも虚しく、けたたましく鳴る電子音は怠惰の思考に鞭を打つ。

 居留守を決め込む訳にも行かず、手元のリモコンに動画の停止を命じてから、スリッパをパタパタと鳴らして固定電話へ駆け寄った。

 気持ち乱暴に受話器を手に取ると、連動した画面に大写しになる大柄の男性。

 年期のある皺を畳み、テレビ電話の向こうで胸を張るその男は『シンデレラ1』の司令官その人に違いない。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:00:13.15 ID:Wc70jJNP0<>  嫌な予感がいよいよ現実味を帯びてくると、今すぐこの受話器を元の鞘に収めてしまおうかなんてことを考えてしまう。

「はい!美羽です!」

「大佐さん、なんの御用でしょうか!」

 そんな思考の中でも明朗な声を出すことのできた自分を、ちょっぴり誉めたくなったというのは大袈裟だろうか。

「うむ」

 画面の向こう、『大佐』と呼ばれたその男は取り繕った声を飲み込むと、短い返事と仏頂面で応じた。

「司令室に来い。それだけだ」

 有無を言わさぬといった体で言い放つと、無感情な仏頂面は返事を聞くまでもなく画面から消える。

(……絶対怒ってる……)

 僅か数秒。
 酷く簡素なやりとりから、───だからこそ理解すると、受話器を収める音がいやに鎮痛に響いたものだった。


 沈んだ肩を生気無く動かして、引き出しの上に放置されたプラスチックケースを手に取る。

 同時、バックから顔を覗かせる化粧品を名残惜しげに一瞥するも、今の彼女には流された髪を結わえる程度の時間しかない。

 特段見栄を張る相手に会うに行く訳では無かったが、彼女は女だった。

 軍隊という組織の窮屈さを実感する数多い瞬間の一つだ。

「はぁ……」

 何もつっけんどんな言い方をする事もないのに。
 そんな言葉の代わりに吐き出されたのはため息。

 無造作に取り出した青いゴムを髪にあてがい、緩慢な動作でポニーテールを作る。

 視界の端、鏡に写った自分の姿は酷く不格好だったが、どうにかできるものではないと思考の端に追いやった。

 薄い部屋着の上から制服を羽織ると、いよいよ扉が目前へ迫る。

 嫌な予感しかしない以上、その足取りに普段の活快さが無いのは必然だった。


─────────……………

─────………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:01:00.77 ID:Wc70jJNP0<>  廊下の突き当たりを右に曲がると、漸く目的の部屋を確認することができた。

 が、同時に体の重みが増したのも事実。

 壁が圧迫感を増して、無機質な冷たさが肌に突き刺さる。

 道幅に変化は無いはずなのに、押しつぶされそうな圧力が全身にかかって、無意識の内に肩幅を狭めさせる。

 横道に逸れることを許さない一本道。ともすればそれは、断頭台へ向かう階段のようにも見えた。

 まあ、落ちるのはギロチンではなくカミナリか拳骨か。

 どちらにせよ、受け入れたい物ではない。

 故に、ついに扉の前に立った時は、複雑な心境だった。

 予想よりも廊下が短かった事を恨めしくも、それでよいのかとも考えたり、実は長かったのではないかという思いが胸を突き上げたり。

 『司令室』と書かれた達筆を見上げると、この扉はこんなに大きかったのかと思い、無意識に唾を飲み下していた。

 扉の横に備え付けられたコンソールに非戦闘用駆体へ換装された左手をあてがうと、諸々の情報を読み取った扉が遂に開き始める。

 存外に軽快な動作に、美羽は心臓をどきりと跳ねさせる。
 腹をくくる時間くらいはあると決め込んでいたからだ。

「矢口美羽!到着しました!」

 急いでぴんと背筋を伸ばし、咎められる前にきっちりと敬礼を作る。


 そんな彼女を出迎えたのは───








 ───連続する破裂音と火薬の臭い。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:01:49.37 ID:Wc70jJNP0<> 『ハッピーバースデー!!』



「………ほえ?」


 一瞬、虚を突かれた脳が真っ白になった。

 はっぴーばーすでー。

 重なって耳に届いた響きを脳内で反芻すると、漸く目の前の状況を整理し始めた。


 目の前に並ぶのは見知った顔ぶれ。

 まず目に付いたのは有浦柑奈と五十嵐響子。
 自らと同様に非戦闘用駆体へ換装したその腕に、円錐形の何か───クラッカーか。…が握られている。

 よくよく見てみると、目の前に並ぶ殆どが同様であるらしく、なるほど火薬の正体はこれからか。

 ただ理解できないのは大佐までもがそれを握っているということだ。
 それも若々しい笑みを浮かべて。

 なんで?さっき怒ってなかった?

 ていうか、なんでクラッカー?

 そこまで考え、漸く先の言葉に行き着く。

 ハッピーバースデー。

「ぁ……」



「ああ……」

 なんと納得したような声を絞り出すも予想外のサプライズに言葉を失っていた。


──────………

───────………………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:02:53.05 ID:Wc70jJNP0<> ───────…………………

──────………

「びっくりしちゃいました……」

 事実を飲み込んだ途端急に腰が抜けた。

 無意味に強ばっていた体が力を失い、へたり込みそうになる体を柑奈が咄嗟に支える。

「ごめんね?」

 と、申し訳無さそうに響子。
 クラッカーから飛び散った紙テープは今し方彼女によって掃除されたところだ。

「はっはっはっ!!すまんな!!」

 先程の仏頂面はどこへやら、豪快な笑い声が部屋に響き渡る。

「怒ってるのかと思っちゃいました…」

「ちょっとサプライズをしようとな?あの顔を保つのは中々に大変だったよ」

 付け加えられた笑い声を頭から聞いた美羽は、先ほどまでの自分が酷く恥ずかしくなっているのを感じていた。

「さて」

 一つ咳払いをした後、大佐が場を仕切り直すように切り出した。

 短い声に惜しむ感情を滲ませた後、それを打ち消した瞳で柑奈と響子に視線を注ぐと、彼女等も強い瞳でそれに返す。

 お互を見据え無言の内に何かを確認し合い、満足げに頷いたと思えば、その目を今度は美羽へ向けた。

「じゃ、私の部屋に来ようか」

 にこやかに笑い、美羽の肩に手を置く響子。

「へ?」

 素っ頓狂な声が口から漏れて、今日はこんな事ばっかりだなと頭の片隅に思いついた。

「誕生日パーリィーの準備はもうできてますよ!!」

「い、いつの間に!?」

「そりゃあ、美羽ちゃんが知ってるわけ無いですよねー」

「ねー♪」

 美羽の両脇から、悪戯っぽい笑みを浮かべた二人が顔を突き合わせる。

 取り残された矢口美羽は、どうやら自分の預かり知らぬ所で事態は進行していたらしいと理解する。
 同時に、自分がとれる行動はこのまま大人しく祝われているだけらしいということも。

 いつの間にやらがっちりと拘束されていた両腕は、彼女に逃げ場は無いのだと雄弁に語る。

 やがて堪忍の切れた二人が美羽のことをグイグイと引っ張り始めると、完敗だな、と内心独りごちた。

──────………

────────………………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:04:47.68 ID:Wc70jJNP0<>













《シンデレラ・ガールズ・プロジェクトにおける被検体四号に関する手記》

 GDF極東方面軍3-Aデータベース保管用データ

 機密レベルA 閲覧には権限レベルA以上、またはその人間の許可を要求。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:05:52.36 ID:Wc70jJNP0<>  ────────────────────
 計画の発足、及び該当被検体について
 ────────────────────


 始めに、この手記はあくまでも手記であり、レポートとしては不十分な物であることを明記しておく。


 12.7mmウサミン弾の強い個体依存性、及び台頭する能力者によるGDFの権威喪失を恐れた上層部は、総司令の手動の下『無能力者に対する後天的な能力付与実験群』───通称、《シンデレラガールズプロジェクト》を発動。

 四人の少女を被検体とし、七人の研究者を中心にプロジェクトチームを結成、以後水面下でこの計画を進行する。

 私が担当することとなった少女を、上層部は被検体四号と命名。

 曰わく、『好きに使え』。

 明日から寝覚めが悪くなりそうだ。






 ─────────────────
 実験の開始、以後の傾向について
 ─────────────────


 他のチームメンバーとの兼ね合いにより、彼女には先ず能力者と同等の脳波への変調実験を開始。

 少女の頭へ電極を差し込むのはひどく犯罪的な作業だった。

 実験は失敗。無駄な負担を増やしただけで、能力の”の”の字も見ることができなかった。

 だが、脳波の変調幅が基準に比べ大きく、干渉が容易、影響を受けやすい体質であることが判明。
 これを軸に実験を行うことも視野に入れる。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:08:00.07 ID:Wc70jJNP0<>  ────────────────────
 総司令の失踪に際する実験の一時中断について
 ────────────────────



 カースの大発生に対抗した大量破壊兵器使用の責任を問われ総司令が失踪。

 これを受けた上層部は急遽プロジェクトの休止を言い渡してきた。

 ざまあみやがれ。

 今夜の酒はきっと美味い。


 ※追記
 プロジェクトリーダー殿がやけに咽び泣いていた。よほど嬉しかったのだろう。

 印象的だったので、一応記しておく。





 ───────────────────
 実験再開について
 ───────────────────


 三日後、プロジェクトチームに実験の再開が言い渡される。

 どうやら俺達と老人共では時間感覚に大きなずれがあるらしい。あんな老人にはなりたくないものだ。

 それにしても新指令を欺いてまで人体実験を進めるとは、古狸にとって人間は同族ではないとでも言うつもりか。





 ────────────────────
 憤怒の街事件、及びカースドヒューマンの研究開始について
 ────────────────────


 憤怒の街という事件が地上で起きたらしい。

 巻き込まれなかったことを幸運に思い、無関係を貫くつもりであったがそうもいかないらしい。

 プロジェクトチームの意向はカースドヒューマンの研究へとシフトしていく事になる。


 とは言った物の、その実一人の男の意向に依るところが大きい。

 プロジェクトメンバーの一人であるその男は、憤怒の街に関する資料を興味深く眺めてはひとりでににやついていたものだ。


 俺はあの時止めるべきだったのだろうか。

 どうにも嫌な予感がする。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:08:55.65 ID:Wc70jJNP0<>  ──────────────────
 初の実験成功について
 ──────────────────


 俺が被検体四号に精神感応実験を行っている最中、あの男が被検体三号に対するカース核の移植実験に成功したらしい。

 憤怒の街に異様な興味を持っていたり、カースなんて物の研究を進んで行ったり、イカレた野郎だとは思っていたが腕は確かか。

 更に得られたデータも実用的なものであったらしい。

 上層部からも、他の被検体に対するカース核移植も視野に入れるようにとのお達しだ。

 被検体四号は、身体、精神、諸々のデータを参照した結果、傲慢、嫉妬のカースへの適合が可能であるらしい。

 今後の核移植を行うにあたり、スムーズにカースドヒューマン化を行うために俺の専攻する脳波の類を使って対応する感情を引き出すそうだ。

 くそったれ。






 ────────────────
 無題
 ────────────────


 被検体三号の暴走、担当者共に失踪した一連の事件により、被検体四号の担当者が死亡。

 遺品整理の際この手記を発見、以後私が引き継ぐこととする。

 しかしこの手記、どうやら個人的見解の占める割合が大きいようだ。

 こればっかりは私には真似できそうにない。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:13:23.95 ID:Wc70jJNP0<>  ───────────────────
 被検体三号の暴走、失踪事件に対する個人的見解
 ───────────────────


 この手記の持ち主が記していたように、私の目から見ても三号の担当者はどこか異常であったように見える。

 カースの研究を自ら───それも、憤怒の街などという惨劇を受けて切り出すなど、私から見れば尋常ではない。

 (もっとも、そのようなことに手を出してでも成果を出さなければならない状況であったのは否定できないが)

 喜々として少女に核を移植する様子はいささか狂気的であった。

 何が彼をあそこまで突き動かしたのか。


 そんなとき、上層部直々にカースの研究中止が言い渡されたときのあの男の顔は筆舌に尽くしがたい。

 そんな直後に彼等の失踪事件だ。

 彼が被検体三号を連れ去ったとしか思えない。
 同時にカース核のサンプルや諸々の機材が持ち去られていた。この手記の持ち主の口癖を引用させてもらうなら、これが所謂”役満”というやつか。


 ───────────────────
 被検体四号のその後の処遇について
 ───────────────────


 被検体三号の暴走事件を重く見たGDF上層部は以後のカース研究の中止を決定。共に残った三人の被検体に対するカース核移植計画も中断する。

 同時、他の二人の被検体と共に、A,Cジェネレータ※1の装着を前提としたサイボーグへの改修が決定。

 (主な理由として、実験の負担により彼女等の寿命はそう長くなかったこと、戦力としての利用価値を示すことで証拠隠滅、もとい廃棄処分を防ぐことがある)

 シンデレラガールズプロジェクト完遂に向けて、A,Cジェネレータの開発と平行し、ルナール社出の技術を主軸にこの計画を進める。


 ※1 正式名称 Anti,Curse(アンチ,カース)ジェネレータ
   カースに対して示す特殊な反応から命名された


 ──────────────────
 被検体を中心とした特殊部隊の結成について
 ──────────────────


 実験の最中、日本支部総司令の息がかかった存在がこちらに接触を図ってきた。

 この非人道的実験をようやく察知したらしい。

 我々はこれを好機と捉え、計画の凍結に賛同すると同時、被検体三人の処遇についてうまく打診してくれないかと要求した。

 数度に渡る密会の末、三人のサイボーグ化が完了した後GDF内部で見られる特殊部隊編成の動きに組み込み、その後にプロジェクトを凍結する方針で決定した。

 言葉ほど簡単ではないのだろうが、彼の手腕ならやってくれるのではないか。


 柄にもなく感情論を語ってしまった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:15:49.80 ID:Wc70jJNP0<>  ───────────────────
 シンデレラ1の結成について
 ───────────────────



 総司令の尽力により、被検体三名を上層部の暗部とすることなく、特殊部隊として表向きの存在にすることができた。

 部隊名は『シンデレラ1』。

 独自の命令系統を持たせた遊撃隊だ。


 ただし、全てが思い通りにはいったわけではない。

 作戦司令部やサイボーグの力を恐れた一部の人間が、『少女の精神では戦闘行為をするには繊細すぎる』『反逆の芽は積んでおくべきだ』てして一種の精神操作を強行してきたのだ。

 我々はやむなくこれを承認。

 (これを断れば、諸々の事情により彼女等の身の安全は不完全な物にならざるを得なかった)

 人格へ影響を及ぼさない範囲であるが、彼女等へ精神操作を行った。


 ─────────────────── 
 被検体四号のシンデレラ1-3としての運用について
 ───────────────────

 彼が遺した研究データより、精神感応に対して高い反応を示していたことが判明、これに基づいた戦意高揚回路への適合実験は成功。

 精神操作に関する数値は三人の中でもっとも高い数値を示し、これを応用すれば精神攻撃に対する耐性の獲得も可能であると考える。

 戦意高揚回路の効果も上々、接近戦に際しても恐怖は見られなかった。

 これより、部隊の前衛として十分な素質を備えていると判断。

 以後被検体四号をシンデレラ1-3と任命。 
 専用の格闘兵装を用いての前衛を務める。

 追記
 総司令曰わく本名は矢口美羽だそうだ。
 シンデレラ1結成の直前まで彼女らの名前を知るものは居なかった。
 これは被検体二号──有浦柑奈の担当者が悔しげに語っていたことである。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/10(木) 17:16:43.38 ID:Wc70jJNP0<>



 ▼データの削除を実行しますか?




 ▼…………………………




 ▼データの削除を完了しました <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/07/10(木) 17:19:27.90 ID:Wc70jJNP0<>

ほのぼのだけで起承転結が組めない(白目


あんまり祝った感じしないけど、みうさぎ誕生日おめでとおおほぉ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/10(木) 17:33:54.58 ID:NLsVc/RxO<> 乙ー

みうさぎ誕生日おめでとー!
ほのぼの?誕生日は設定を(ry

そして、3号とその担当ってまさか…… <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/10(木) 17:34:30.62 ID:NLsVc/RxO<> あ、酉つけわすれた <> ◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/10(木) 17:51:07.80 ID:g+KagyY/O<> 乙です
みうさぎ誕生日おめでとー!
GDFやっぱり真っ黒じゃないですかやだー!

3号…あっ(察し) <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/07/10(木) 20:27:41.52 ID:lZ9aV10xo<> 乙乙。お誕生日おめでとー
この黒さ、癖になる <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 07:59:43.47 ID:jkXjcee+o<> 今、GDFが熱い!

組織ってのは大きくなればなるほど一枚岩で居られなくなるからね
多少黒い要素が混じるのも仕方ないね!

投下します <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:00:57.28 ID:jkXjcee+o<>
およそ一週間に渡り、世間を大いに騒がせた『憤怒の街』騒動。
その事件名は、一般的には"憤怒の性質を持つカースの大量発生"に由来すると考えられていた。

大多数の人間は、事件の真相──
たった一人の少女の──しかし、一人の少女が抱えるには余りにも強すぎる呪いによって、
史上類を見ない規模のカース災害が引き起こされたのだという事実を知らない。
(さらに言えば、その少女を扇動していた黒幕が居る事を知る人間はなお少ない)

政府が事態の収束を宣言し数日が経過したが、
現在も憤怒の街騒動における死者・行方不明者の数は共に増え続けており、被害の全容は未だ計り知れない。
昼のワイドショーや人々の世間話から、その話題が消える事はまだまだ先になるだろう。


その惨劇の舞台──今なお災禍の爪痕が生々しく残る市街地に、GDFの三人組は居た。


志保「偵察任務って……この街からカースは一掃されたんじゃなかったんですかね」

椿「それを調べるための偵察ですよ」

彼女らの眼前には、色彩を欠いた"死んだ街"が広がっていた。
偵察の任を帯びた三人は、人間はおろか、その他の生き物の存在さえ感じられない荒れ果てた街中を進んでいく。


詩織「この街には、かつて50万もの人が暮らしていた……それが、今ではゴーストタウン……」

こんな光景は見たことが無い、と、詩織は誰にともなく呟く。

人々が日々の生活を営んでいた街角は崩れ去ったコンクリート片に覆われ、今となっては見る影もなく、
廃墟と化したビルが整然と立ち並ぶ様はさながら墓標の様だ。
しかし墓地という場所に多く見られる静謐さなどは無く、ただ、無機質な静寂に支配されるばかりであった。
道端に転がる、衣料品店のバーゲンセールを知らせるのぼりが、かつての賑わいを想起させ余計に寂寥感を強める。


志保「空爆で、街ごと更地にしちゃうなんてのはもっての外ですけど……」

志保「とは言えもう少し……やりようが無かったんですかね……」

志保が、地面に落ちていた埃だらけのぬいぐるみを拾い上げながら口を開いた。

志保「この有様……こんなの……余りにも……っ」

ぬいぐるみの埃を払いながら、歯噛みする。

緑色の、ブサイクながらどこか愛嬌のある表情をしたキャラクターのぬいぐるみ──
持ち主が憤怒の街の混乱の最中、どのような運命を辿ったのか、知り得る術も無い。

三人はやり場のない感情を抑えつつ、廃墟の探索を続ける。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:01:55.09 ID:jkXjcee+o<>
椿「そろそろ目標地点ですね」

志保「結局カースの存在は確認できず……か」

詩織「ともあれ、任務達成ね……帰還しましょう──っ!?」

偵察を終えた三人が街の外へと足を向けたその時、地響きと形容できそうな爆音が、廃墟の彼方から響いてきた。
大型トレーラーのエンジン排気音のそれに近い。
そして、それに混じって、微かな金属音が聞こえる。

三人は思わず顔を見合わせる。

椿「こ、これって……」

志保「履帯音……ですよね?」


彼女達が耳にしているのは、装軌式車両の走行音であった。
一般的に装軌式(いわゆるキャタピラー走行)が用いられるのは、不整地で運用される農業機械や大型の建設機械に多い。
だが、その存在のいずれも、この場においては似つかわしくないものだ。
未だに憤怒の街の封鎖は解かれておらず、そもそもそのような車両がおいそれと立ち入れる状況ではない。

あるいは、軍用車両の類──例えば、現代で運用されている主力戦車はその全てが装軌式だが、
GDFの軍用車両が街の中で作戦行動を取っているなどといった話は聞いていない。

その他の可能性としては──出撃前のブリーフィングではそのような存在の可能性は言及されなかったが、
GDFの感知していない何らかの組織の戦闘機械か何かがうろついているのだろうか。

得体の知れぬ存在を知覚した彼女らは、不安を掻き立てられる。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:02:50.91 ID:jkXjcee+o<>
志保「……一体何が動いているのやら」

椿「油断はできませんね……」

その正体に思いを巡らせている間にも、音はますます近づいてくる。
次第にコンクリートの破片を踏み砕いているかのような、破壊的な騒音も聞こえ始めた。

対象の接近に伴い、今までは残響音に近かったそれが明瞭になるにつれて、発生源の位置も明確になってくる。
彼女達の視線の数十メートル先には大通りの十字路があり、件の存在はその右方から接近してきているようだ。


詩織「この音……エンジン音……『キュクロプス』のものね」

騒音の正体を聞きわけた詩織が口を開く。

椿「ええっ!?」

志保「よく聞き取れますねー……って、嘘!?」

その発言を聞いた二人は動揺を顕わにする。

キュクロプスとは、GDF陸軍機甲部隊の保有する主力戦車の名だ。
詩織の言が真実だとすれば、なぜこの場に存在しているのか。
滅多な事がなければGDFの基地から外に出る事すら稀だ。

椿「何でそんな……聞き間違いじゃないんですか?」

詩織「あれがここに居る理由は分からないけれど、聞き間違いは無いわ」

戦車随伴訓練等で接する機会が多い為、その走行音は詩織にとって聞きなれた物なのだ。
故に、聞き取りに誤りは無いらしい。


椿「本部! 応答願います!」

詩織の発言を受けた椿は屈み込むと、切羽詰まった様子で本部に通信を繋ぐ。

椿「当作戦区域内において、機甲兵器の投入は予定されていますか!?」

正体不明の──場合によっては極度に危険な敵ともなりうる存在について、確認を取ろうというのだ。
その返答如何によって──つまり、作戦司令本部の意図した存在であるのならば、"音の発生源"が敵ではないと分かる。

──半ば祈りにも似た希望的観測ではあるが。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:03:45.23 ID:jkXjcee+o<>

本部『キュート2-8、質問の意図が不明である』

だが、本部からの返答は、彼女達の懸念と噛み合わないものだった。

──あるいは、これ以上無いほど明確に、彼女らの疑問に答えているとも言えた。


本部『該当地域において、貴官ら以外のGDF部隊は存在しない』

椿「そ、そんな……! 現に今、すぐそこに──っ!?」

ただならぬ気配に顔を上げた椿は、思わず息を呑む。


その視線の先には、角ばった威圧的なフォルムを持つ巨大な鉄塊──まさしく"戦車"の姿があった。


艶消し塗装のモノクロモザイク模様──いわゆる都市迷彩の施された巨体と、そこにあってなお目立つ『G.D.F』の三文字。
さらに、その巨体の先から突き出す長大な砲身は、彼女達がGDFの基地において毎日の様に目にしているそれと寸分違わない。

戦車は足を止めると、上半身だけを旋回させ始めた。

──彼女達の居る方向に向かって。



椿「(ど、どうして……?)」

椿の目には、戦車の砲塔がゆっくりと、自分の立っている位置に回頭するのが映っていた。
時が止まったかの如き無音の世界で、自身の鼓動だけがいやに頭に響く。

目の前のGDF所属の戦車が、しかしGDFの管轄を外れて行動しているということは、先ほどの本部とのやり取りからはっきりしている。
それを踏まえた上で、今まさに砲口をこちらに向けようとしているという事実から導き出される答えは明白だった。

しかし、椿の身体は動かない。
無意識化で、その"答え"を出すことを拒否しているのだ。
もしその答え出してしまえば──目の前の存在を"敵"と認めてしまえば、戦わざるを得なくなる。

他ならぬ『GDF』同士で──。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:04:22.09 ID:jkXjcee+o<>
志保「伏せてっ!!」

志保の怒号が聞こえたかと思うと、椿の視界の天と地がひっくり返る。
直後、凄まじい轟音が廃墟に響き渡った。

突然の衝撃と痛みに呻きながら目を開けると、身体の上に志保が覆いかぶさっていた。
どうやら突き飛ばすような形で飛び掛かられたようだ。
状況から鑑みるに、件の戦車の砲撃から身を挺して庇ってくれたのだろう。
彼女らが数瞬前まで立っていたその場所には、戦車砲の直撃が原因と思われるクレーターが出来上がっていた。


椿「く……うぅ……」

砲口初速は毎秒4,000メートルを超える徹甲弾の着弾──それにより発した衝撃波が、脳と三半規管を揺らしたのだろう。
激しい耳鳴りと眩暈に嘔気を催しつつも、おぼつかない足取りながらなんとか立ち上がる。

椿「志保ちゃん……げほっごほっ……生きてますか……?」

椿は自分を庇って倒れ伏す志保を助け起こす。

志保「な、なんとか……けほっ……煙た……」

どうやら、怪我をしていたりという事は無さそうだ。

椿「ありがとう……助かりました」

志保「咄嗟に身体が動いてました、まさかいきなり撃ちこんでくるとは思いませんでしたよ……」


詩織「二人共、今のうちに離れるわよ、急いで」

詩織の急かす声で二人は現状を再認識する。

着弾時に舞い上がった砂埃が丁度良い隠れ蓑になっているらしい。
戦車からの追撃は無く、体勢を立て直すには今を置いて他に無いだろう。

突然の攻撃に戸惑いながらも、三人は急ぎその場を離れるのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:05:32.33 ID:jkXjcee+o<>
戦車から攻撃を受けた三人は安全な場所へ退避すると、事の次第を本部へと報告していた。

本部『貴官らに砲撃を加えたキュクロプスだが──』

本部『IFF確認の結果、第03機械化装甲機動隊所属の車両と判明した』

報告を受けた本部は、敵味方識別装置の信号を解析した結果を伝える。

志保「それって……」

椿「この街の解放作戦に参加した車両……ですよね」

詩織「……」

その結果を受けた三人の脳裏には、『憤怒の街』解放作戦におけるGDF部隊突入時の光景が浮かんでいた。



憤怒の街(まだそう呼ばれる以前の話だが)に突如として発生したカースは、さらにその数も多く、
的確に──あるいは、そう動くよう誘導されたかのように都市インフラの尽くを破壊。
電撃的に地方都市まるごと一つを占領するのだった。

今までになく組織立った行動を見せるカースの大群相手にGDFは対策が後手に回ってしまい、逐次的な戦力投入を余儀なくされる。
GDF極東方面軍作戦司令本部は悪化の一途を辿る戦況を鑑み、歩兵戦力のみでの解放を早期に断念。
そして、これまでは周囲に無用な損害を及ぼすとして敬遠してきた戦闘車両の投入を決定し、戦局の打開を試みるのだが──
しかし虎の子の機甲部隊がその性能を発揮することは無かった。

満を持して投入された装甲兵器や戦闘ヘリの類は、憤怒の街に立ち込める瘴気の影響で動力部や電子機器が動作不良を起こし、
そのほとんどが街の入り口から少し入り込んだ辺りで立ち往生してしまうのだった。
溢れかえる程のカースの大群を前に動けない車両はまさしく棺桶そのものであり、本部は止む無く搭乗員に車両の放棄を指示。
結果、何両もの戦車やら装甲車やら戦闘ヘリやらを放置し、撤退するという大失態を演じることとなる。



詩織「解放作戦に参加した部隊の所属という事は……」

本部が確認した結果を踏まえると──先程椿達の目の前に現れた戦車は、その際に放棄された車両の内の一つだという事になる。

椿「放棄された当時のままだとすると、誰も乗っていない……?」

しかし、実際に目の前で動き回っていたのだ。

志保「誰も乗っていない戦車が……動いてた……」

あまつさえ、攻撃までしてきた。


"無人の戦車が自分達に敵対行動を取った"という出来事は、三人の理解の範疇を超えていた。
しかし、事実は事実である。

もしGDFに──"人類"に敵対的な存在であるのならば、早急に対処しなければならない。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:06:39.32 ID:jkXjcee+o<>
本部『作戦司令本部よりキュート2-8、作戦目標の変更を伝える』

三人が戦車への対策を考えあぐねていると、本部より通信が入った。

本部『敵性戦闘車両と交戦し、可能な限り情報を集めろ』

本部『ただし、無理はするな、生還を第一に考え行動しろ』

本部『──以上だ』


本部からの通信を受けた三人は、思わず顔を見合わせる。

志保「生きて帰れっていう割に、命令自体は死にに行けって言ってるようなものですよね……」

歩兵がたったの三人で、支援も無しに最新鋭の主力戦車を相手にする──誰がどう考えても無謀だ。

椿「……まあ、あくまで"情報を集める"のが目的ですから」

詩織「撃破しろと言われている訳では無いわ……やりましょう」

志保「はぁ……持ってて良かったロケットランチャー……」

幸い、目標の戦車は移動時に騒音を立てているため、補足は容易だ。
三人はその音の方向へ歩みを進めるのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:07:45.81 ID:jkXjcee+o<>
市街地(廃墟ではあるが)という地形は性質上──路地裏であったり建物の内部であったり、其処彼処に物陰が点在する。
それらは、小回りの利かない戦車にとっては防御の目の行き届かない死角となる。
通常の運用方法であれば数人の歩兵と共に行動し、その死角をカバーするのだが──件の戦車は単独で入り組んだ市街地を進行していた。
逆に戦車を攻撃する側にとっては地形のお陰で接近が容易となり、アンブッシュをはじめとする種々のゲリラ戦を仕掛けるには絶好の環境だ。

椿と志保の二人は、崩れかかった平屋建てのコンビニエンスストアの内部に陣取り、敵戦車を待ち構えていた。

椿「最新鋭の複合装甲と言えど、履帯の駆動部は脆いはず……」

志保「足を止めさえすれば、後はどうにでもなりますよね」

ロケットランチャーを構えた志保が、照準装置を覗き込んだまま安全装置を解除する。

椿「後方確認! 発射OKです!」

志保「よしよし……もう少し近づいてきて下さいねー……」

照準の中央に目標を捉えつつ、攻撃のタイミングを見計らい──

志保「てっ!」

その引金を引いた。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:08:42.26 ID:jkXjcee+o<>
発射機から撃ち出された対戦車弾頭は、数メートル飛翔したのちに内臓された推進剤に点火。
肉眼での視認が困難な程の速度をもって敵戦車へと迫る。

志保「これは直撃コースですね!」

しかし──

詩織『命中ならず……目標、損害無し』

志保「っ!?」

椿「そんな……!」

離れた場所から着弾観測をしていた詩織の無線を聞いて、二人は狼狽する。


詩織『弾頭は着弾直前に撃墜されたみたいね』

志保「それって……自車に飛んでくる砲弾とかミサイルを迎撃するっていう……あれですか?」

椿「アクティブ防護システム……」


最新鋭兵器であるキュクロプスには、同じく最新の兵装が備わっている。
先の対戦車弾頭を無効化した装備もそのうちの一つだった。

ロケットランチャーという、現状持ち得る最大の火力を封殺された以上、もはや対抗する術は無い。


椿「とりあえず、反撃が来る前に移動しましょう!」

見ると、敵戦車の上半身が回頭を終え、椿達の潜伏場所を捉えていた。

志保「まあ、撤退時の言い訳は立ちますかね……」

二人は慌てて廃墟を後にする。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:10:03.16 ID:jkXjcee+o<>
詩織「あの戦車について、私に考えがあるわ」

合流地点で椿と志保を迎えた詩織が、唐突に切り出した。

椿「考えって……どうするんです?」

詩織「今回持ってきた装備の中に……少量だけど、瓦礫発破用の爆薬があるわ」

詩織はバックパックから、ビニールで梱包された粘土状の物体を取り出す。

詩織「これを使って目標の足回りに損傷を与えて、動きを封じるの」


椿「……無線起爆装置は持ってきてます?」

詩織の"策"を聞いた椿が、訝しげな視線と共に尋ねる。

詩織「無いわ……有線起爆するしかないわね」

志保「そんな! それじゃ、目標に近づかなきゃならないじゃないですか!」

爆薬の信管に点火するための導線は長くて数メートル。
戦車の足元に爆薬を設置し、尚且つ瞬時に爆破するためには、それだけ接近する必要が出てくる。
今のところ他に策も無いが、とは言え余りにも危険過ぎる賭けだ。

無線起爆装置があれば、予め敵戦車の予想進行ルート上に爆薬を設置しておくといった方法が使えたのだが。

詩織「起爆は私がやるわ、二人には、目標の気を引いて貰いたいの」

椿「そんなの危険過ぎます! 無理しないで……撤退しましょう?」

志保「この街は既に廃墟だし、本部に頼んで『ケトス』でも呼んで貰えばあんな戦車……」

無謀ともいえる詩織の作戦に、他の二人は反対するが──

詩織「『GDFは敵に背中を見せない』……志保さん、あなたがいつも言っている言葉よ」

志保「う……それは、時と場合によりますよ……」

詩織の決意は固く、説得は難しそうだ。


椿「……はぁ、どうなっても知りませんからね!」

志保「椿ちゃん!? ……わかりました! やりますよ!」

言い包めるのが困難だと悟った椿が匙を投げ、志保もそれに倣う。

詩織「大丈夫よ、必ず成功させるわ」

三人は再度、敵戦車の元へと向かうのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:11:19.42 ID:jkXjcee+o<>
椿「目標補足しました」

椿と志保の二人は、先ほどと同じように、廃墟の陰に潜み戦車を待ち構えていた。

椿「真っ直ぐこちらへ向かっていますね……概ね予定通り」

志保「持ってて良かった予備弾頭……」

椿は双眼鏡で敵戦車の予想進路を確認し、志保はロケットランチャーに予備の弾頭を装填している。

椿「詩織ちゃん、こちらは準備出来ています……どこにいるの?」

詩織『そこから左前方の建物よ、二階にいるわ』

詩織の無線と同時に、正面の建物から光の明滅が見えた。
恐らく、タクティカルライトで合図を送っているのだろう。

その建物は大通りに面しており、数十秒後には敵戦車は詩織の直下を通るはずだ。

志保「準備が出来たら合図を下さいね、無駄弾だとしても、気を逸らすくらいなら出来る筈ですから」

詩織『了解よ』



詩織は攻撃の準備をしながら敵戦車を待ち構えていた。
その戦車が移動する際に発する履帯音が徐々に接近するにつれて、否が応でも緊張が高まる。

詩織「(相手は、いつも目にしている戦車……正体不明の存在などではないわ……だから大丈夫)」

粘土状の物体──高性能プラスチック爆薬を変形させ、弄びながら、なんとか気を落ち着かせる。

詩織「(けれど……もし、失敗したら……)」

詩織「(いえ、雑念は不要……集中しなさい)」

緊張から来るものだろうか、自分が攻撃に失敗した際のビジョンが何度も浮かびかけるが、その度に頭を振り払い思考の隅へ追いやる。

そうこうしている内に、目標の戦車が眼下までやってきていた。

詩織「(っ! 来た!)」
<>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:12:43.97 ID:jkXjcee+o<>
詩織「今よ! 攻撃をお願い!」

志保『任されました!』

詩織の居る建物の向かいの廃墟の中の一棟から、敵戦車を狙った対戦車ロケット弾が飛来する。
弾頭はやはり迎撃されてしまったが、戦車の動きは止まった。


椿『行き足止まりましたよ! 後はお願いします!』

詩織「やってみせるわ、二人は下がって!」

詩織は爆薬を抱え、窓(といっても破られてガラスは無くなっているが)から身を乗り出し、飛び降りた。


詩織「なっ!? これは……!」

戦車の砲塔上部目掛け飛び降りた詩織は、恐るべきものを目にする。
装甲の隙間から、カースの泥が染み出しているのだ。
今までこちらを攻撃してきていたのは、カースの影響ということなのか。

詩織「……っ!」

詩織は気を取り直すと、近距離戦において脅威となり得る車載機関銃に少量の爆薬を設置し地上へと降りる。
そして、履帯の車輪部分に残りを貼り付けると、すぐさま近くの物陰へと滑り込んだ。


詩織「(上手くいくことを祈りましょう……)」

心の中で呟くと、手にした起爆装置のスイッチを押す。
小気味良い爆発音が響き渡り、それに続いて戦車が慌ててエンジンを吹かす音が聞こえてきた。

恐る恐る敵戦車の様子を確認すると、履帯のベルト部分が千切れ飛び、車輪が瓦礫に挟まって動けないようだ。
必死に車体を動かそうとしているようだが、金属の車輪がコンクリートを削る耳障りな音を響かせるばかりで全く移動出来ていない。

詩織「どうやら攻撃成功ね……合流しましょう」

詩織は敵戦車の視界に入らないように隠れつつ、椿と志保の元へと急ぐ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:13:56.62 ID:jkXjcee+o<>
敵戦車の足止めに成功した三人は合流すると、再び本部に通信を行っていた。

椿「本部、応答願います! こちらキュート2-8、敵性戦闘車両への攻撃に成功」

椿「目標の機動力を削ぐことができました」

本部『こちら本部、よくやってくれた……貴官らの健闘に感謝する』

椿「それと……目標の車両ですが……」

椿は詩織から伝えられた情報を、さらに本部へと伝える。

椿「どうやら、カースに乗っ取られている……模様です」

内容が内容なだけに、おっかなびっくり言葉を選びつつ。

本部『カースに……乗っ取られているだと?』

無線の向こうで、相手が狼狽する様がありありと浮かぶ。

もしカースが無人の戦闘車両を乗っ取り、それを動かしているのだとすれば──
放棄された車両はまだ多く残っている、他にも乗っ取られているものがある可能性は高い。


GDFの兵器はいずれも、世界各国の軍隊のそれを凌駕する。
"地球を守る"という行動理念の背景には、人類種同士での大規模な戦闘行為を未然に防ぐ意味合いも含まれている。
故に──強大な力を持つ侵略者に対抗するという目的もあるが、
GDFの保有する個々の兵器のその過剰なまでの戦闘力は、人類間においての抑止力としての機能を期待してのものなのだ。

しかし、その抑止力──"地球を守る為の兵器"が、人類の敵であるカースの手に落ちる──

あってはならないことだった。


椿「(応答が無いですね……)」

敵戦車がカースに乗っ取られている旨を伝えた椿は本部の応答を待つが、かれこれ一分以上反応が無い。
指揮所内では今頃、通信を聞いた戦術行動士官やらカース研究者やらが大わらわといったところだろう。

本部『作戦司令本部よりキュート2-8へ』

素麺が茹で上がる程度の時間が経っただろうか、それまで無言を貫いていた本部からようやく反応があった。

本部『たった今当基地より航空隊が発進した』

本部『あとは彼らに任せていい、キュート2-8以下三名は帰還せよ』

椿「了解しました、我々は帰還します」

航空隊の発進──恐らく、カースに乗っ取られた戦車やら装甲車やらが他にも居た場合に、それらを駆逐するための攻撃ヘリの類が来るのだろう。

本部の指示通り、彼女らの役目は終わった。
あとは基地へ帰還するのみだ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:18:06.83 ID:jkXjcee+o<>
椿「……ん……何か聞こえませんか?」

志保「え? またですか……?」

本部からの指示で帰途に就いた三人だったが、その道中にまたも発信源の不明な音を聞いた。
それは、空の彼方から響いてきているようだ。

椿「ヘリの……ローター音?」

詩織「どうやらそのようね」

その音は回転翼の風切音のようだ。
近くにヘリコプターが居るらしい。

詩織が双眼鏡で、音の発生源を探す。

詩織「居たわ……あれは……『アネラス』ね」

双眼鏡越しに、空気を切り裂いているかのように飛行する鋭角的なシルエットが見える。
ローター音の主は、GDF陸軍航空隊の攻撃ヘリだった。


志保「えっ? もう騎兵隊のご到着ですか?」

詩織の発言を聞いた志保が、素っ頓狂な声を上げる。
それもそのはず、本部が言う航空隊の発進から、ものの五分と経っていないのだ。
あの攻撃ヘリが本部からの指示で、足止めした戦車を仕留めるために寄越されたのだとすれば、些か到着が早すぎる。
最寄りのGDF基地から──例えスクランブルをかけたとしても、この街までは十数分はかかるだろう。


椿「このやり取り……既視感が……」

志保「まさかね……」

詩織「……」

三人の脳裏を、最悪の想像が過る。

そして、そういった悪い想像は──悲しいかな、得てして現実のものとなるのが世の常である。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:20:01.31 ID:jkXjcee+o<>
詩織「っ!? アンノウン、AGM発射!」

双眼鏡越しにヘリを監視していた詩織が声を上げる。
彼女の視界には、ヘリから羽の生えた円柱状の物体が投下されるのが映っていた。

椿「目標は!?」

詩織「……こちらに向かっているわ、着弾まで十数秒というところかしら」

その円柱状の物体──すなわちミサイルが、白い尾を引きながら飛来するのが見て取れた。


詩織「まったく……悪い予想というのはどうしてこうも当たるのかしらね」

志保「言ってる場合ですか!」

諦観の色を含んだ詩織の発言を受け、志保が叱咤する。
しかし、詩織が諦めかけるのも無理からぬことだ。

地上を移動する戦車相手ならまだしも、空から狙われたのでは廃墟群も遮蔽物の役目を成さないため、ゲリラ戦法が通用しない。
戦闘ヘリを相手に、現状で対抗する手段は無きに等しい。

そもそも、空対地ミサイルに補足されており、そう遠くないうちに辺り一面木端微塵だろう。
完全に"詰み"状態だった。


椿「二人共こっちへ! 早く!!」

椿が呼ぶ方を見ると、共同溝へ通じるメンテナンスハッチがあった。

地上に居てはどうしようも無いが、地下へ逃れればあるいはヘリからの攻撃を凌げるかもしれない。
一縷の望みに賭けて、三人は地の底へ口を開ける暗闇の中へ飛び込んだ。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:29:02.46 ID:jkXjcee+o<>
共同溝へ逃げ込んだ直後──所属不明ヘリ(恐らくはカースであろうが)の放ったミサイルが地表に着弾したのだろう、
轟音と衝撃が地下通路を揺らし、辺りを照らす蛍光灯が激しく明滅する。

志保「おー恐っ……崩れてきたりしませんよね?」

詩織「地上の建物の様子からすると、どうかしらね……」

ミサイルの爆発の影響か、天井からはパラパラと建材の欠片が降り注いでおり、大規模な崩落の危険もありそうだ。
あまり長居は出来そうもない。


椿「本部! こちらキュート2-8! 応答願います!」

椿が新たな敵性存在の情報を本部に伝えるべく通信を繋ぐ。
その背後では、詩織と志保の二人が、不安そうな面持ちで通信を聞いている。

椿「所属不明機より攻撃を受けました!」

本部『なんだと!? 無事なのか?』

椿「はい……幸い、三人共無事です……ただ」

椿「その、攻撃してきた機体の形状ですが……アネラス攻撃ヘリと酷似していました」

先程の戦車の件もある。
今攻撃を仕掛けてきたヘリも、カースに乗っ取られている可能性が極めて高い。

本部『了解だ、間もなく航空隊がそちらに到着する』

本部『新たに確認された所属不明機に関してもこちらで対応する』

椿からの、出来る事ならなるべく聞きたくないであろう報告を受けた本部の対応は、
しかし先ほどとは打って変わって、特に動じる様子などは無かった。

その声色は、目標が何者であろうと、何体に増えようとも殲滅してみせるといった気概に溢れていた。
イレギュラーに多少たじろぐことはあろうが、それが敵であるなら戦い、そして倒すのがGDFの存在意義だ。


本部『貴官らは、可及的速やかに作戦区域から離脱せよ』

椿「了解しました」

本部との通信を終え、三人は胸をなで下ろす。
たった今報告したヘリに関しても「攻撃してこい」といった命令があるのではないか──と、
三人は内心穏やかではなかったのだが、どうやら杞憂だったようだ。

流石に何度も生身の人間に戦闘車両との交戦を強いるようなことはないらしい。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:31:37.16 ID:jkXjcee+o<>
椿「えっと……この通路を真っ直ぐ進めば……うん、街の外に出られそうですね」

椿は懐から取り出した地図の様な紙切れを、片手のタクティカルライトで照らしつつ眺めていた。
出撃前に用意しておいた、憤怒の街の直下に広がる地下施設のブループリントだ。


椿「これから考えることは沢山ありそうですけど……今はとりあえず、帰還しましょう」

やれることはやりましたから、と、付け加えると、椿は街の外へと続く通路を進み始める。

詩織「そうね、後の事は後続の航空隊に任せましょう」

志保「はぁーっ……今日だけで、寿命が数年分縮んだ気がします……」

残る二人もそれに続く。

三人が感じた新たな激戦の予兆は、その日以降やはり現実のものとなるのだが──
しかし今はただ、刹那の安息を求めて帰るべき場所へ歩みを進めるのだった。




カースに乗っ取られた戦闘車両。
自らが信頼を置く兵器が、牙を剥き襲い来る恐怖。
今までにない敵との対峙に、精神を──命を擦り減らすGDFの戦士達。
さらに、事情を知らない世間からの「おいお前んとこの戦車とかヘリが攻撃してくんぞ何してくれてんだ」といったバッシング。
そして、極東方面軍総司令の私室に散乱する胃腸薬の空箱───

右も左も上も下もトラブルだらけだが、耐え抜け我らがGDF! <> @設定
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:35:45.10 ID:jkXjcee+o<>
※コラプテッドビークル(CV)
放棄されたGDFの戦闘車両の操作系をカースが乗っ取ったもの。
歴戦の搭乗員の操縦となんら遜色なく動き回る。
そこらをうろつくはぐれ戦車を見かけた時は物見遊山で近づかないで急いで逃げてね!


※GDFの戦闘ビークル
単体での戦闘力もさることながら、偵察衛星や電子戦用哨戒機、
あるいは同地域に展開するGDF部隊間での相互通信(いわゆる戦術データリンク)によって、連携行動を行うことでその真価を発揮する。

GDFの兵器は世間の軍事アナリストらをして「火力過剰」と冷評されることも多い(GC爆弾の投下以降はより一層)が、
その保有戦力はあくまで"抑止力"としての意味合いが強い。

ちなみに、戦闘ビークルの受注生産を請け負っているのは世界的コングロマリット企業のヘカトンケイル重工。


※のりものあつまれ

・戦闘ヘリ『アネラス』
GDF陸軍航空隊の誇る対地攻撃ヘリコプター。
主兵装の35oリボルバーカノンは地球外テクノロジーの産物であり、本機を対地攻撃において並び立つ物の無い存在たらしめている。
その火力たるや言葉に尽くせず、いかな重装甲の目標であっても瞬時に灰燼へと変貌せしめるだろう。
注:実戦経験がほとんど無いため憶測を多分に含んだ物言いです。

実は地球外テクノロジーと既存の"枯れた技術"の融合を検証するためのテストベッド機だったりする。
存外良好な性能を見せたため量産化に至った。


・主力戦車『キュクロプス』
GDF陸軍機甲部隊の誇る第五世代主力戦車。
本機もまた、地球外テクノロジーの塊である。
主砲には、超小型核融合電池のお陰で実用化にこぎつけた160mm電熱砲を採用しており、従来の滑腔砲装備戦車の攻撃力を遥かに上回る。
特筆すべき点としては他にも、地球外金属を用いた新鋭複合装甲による超軽量化が挙げられる。
その結果、大型輸送ヘリ『オクトパス』による懸吊輸送が可能となり、迅速かつ柔軟な部隊展開を容易としている。

「戦車と銘打っておきながら榴弾砲しか撃てない」なんてことは無いので安心してね!


・高高度戦術攻撃機『ケトス』
GDF空軍の保有する対地攻撃ガンシップ。
大口径の榴弾砲をはじめ、多数の火砲を搭載している。
航空優勢下において、その圧倒的なまでの火力をもって、半ばゴリ押しで目標を制圧する役目を負う。
が、対カース戦の様に散発的かつ小規模の戦闘の多い現状では完全に無用の長物。


・超音速戦略爆撃機『デイブレーク』(今回出てきてないけど)
GDF空軍の保有する大型爆撃機。
巡航ミサイルやらスマート爆弾やら(誤爆を避けるため無誘導爆弾は積んでない)を多数積載可能で、
そのペイロードは40,000kgにも達する。
やっぱり出番は少ない……というか無い。
いつぞやのGC爆弾投下がほとんど唯一の仕事。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/07/11(金) 08:37:30.60 ID:jkXjcee+o<> 終わりです
ジャバウォックー!早く来てくれー!!

以前から巨大戦用のやられ役としてGDFの戦車とかの戦闘車両を妄想してたけど、
◆BPxI0ldYJ.氏のオクトパスがカッコよかったので思い切ってぶちまけた

ネーミングセンスに一貫性が無いのは大体元ネタのせい <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/11(金) 10:19:12.35 ID:SOsKHPruO<> 乙ー

なんだろう?実はGDFがカースと融合させた無人兵器を裏で作っているんじゃないかと疑心暗鬼に陥ってしまった

なんか裏がありそう <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/07/11(金) 12:02:29.74 ID:pSTXaqKLO<> 乙

E… G・D・F!G・D・F!!

こりゃあヘカトンケイン重工が四人乗りバトルマシンやガラスのエアバイクを開発するのも時間の問題だな! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/11(金) 17:37:38.48 ID:gd/BACvg0<> 乙ですー
カースが戦車を動かす…ふむ
GDFはどこもかしこも大変だなぁ…
<>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/07/19(土) 07:15:53.36 ID:NXL1nG2+0<> なんか無駄に期間が開いた……
これも絵描いたりss書くのが楽しかったせいなんや

手持ちキャラの将軍に対するスタンス、投下しま <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:16:38.76 ID:NXL1nG2+0<>  異様な雰囲気だ。

 真っ白い壁で囲われた、ソファーぐらいしか目の見張る物がない部屋においては、あまりにも。
 ソファーの端っこで、線の細そうな若者が身を縮ませる。存在を出さぬように、物置のように。
 不自然なほどに当たり障りのない佇まいで、脇と股を閉めるのは、自分をこの空間から切り離し、喰い潰されてしまわないようにするためだ。

 所在のない瞳を伏せて、ただ時間の過ぎるのを待つ。
 握った拳は手汗で湿り、圧力のかかった心臓が早鐘を打つ。

 彼は若かった。
 大学を卒業してから早々に、自らの高学歴を武器にして、アイドルヒーロー同盟という優良企業に就職することができたのは僅か数ヶ月前の出来事である。

 卒業間際でありがちに今後の進路について語り合う最中、内心他人の言葉を嘲りながら、それを態度に隠しきれずにいた彼の、高慢な態度はどこへやら。
 もしここに彼の友人が居たならば、鼻で笑われても文句は言えまい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:17:50.26 ID:NXL1nG2+0<>  ただ、彼には全くの非もない。

 それが疑いようのない事実であるのも、また。

 だがそれでも、でっぷりとした肉の中に荘厳な迫力を秘める男は。
 紙袋を頭から被り、二つ空いた覗き穴の奥で深い瞳を揺らめかせる少女は。

 気に留めようともしなかった。
 その程度、取るに足らないことだった。

 少なくとも、今この場所に於いては。


 男の腹に置かれたネームプレートには、黒木宗雄の名が記され、少女の名前が二宮飛鳥であるということを知る者はごく僅かだ。

 宗雄は、人差し指でテーブルを叩き、遊びのない時計を一瞥した一瞬の後、視線を少女に向け直して口を開いた。

「…あー…我々に協力してもらえるという話だったな?」
「そうだね」
「敵の情報も提供すると」
「そうだね」

 ただ二つ、確かめるように、それ以上に推し量る意を含めて言葉を交わすと、視線を合わせたまま複雑な胸中より鼻息を吐いた。
 時計の秒針がぎこちなく時を刻み、立場ある人間である彼は、場を早める必要を改める。

 切れ味の鋭い眼孔で相手の瞳を覗き、その中に相手の底を探りながら、「単身で乗り込んだんだとは、殊勝じゃないか」と沈黙を押しのけるように言葉を続けた。

 そして、一泊置いた後「善良なる一市民として、最善をしたまでさ」と切り返された直前、その瞳が愉悦の色を映し出したのを、宗雄は見逃さない。

 太い眉が僅かに跳ねて、辛うじてなりを潜めていた剣呑な空気が徐々に顔を見せ始める。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:20:02.85 ID:NXL1nG2+0<>  若者の目には、宗雄の僅かな動作でさえ──たったの一呼吸でさえ、殺意の兆候のように見えた。
 対する少女は、たまに足を組み替える程度で一切の隙を晒さず、その視線がこちらに向けられただけで、自分が泥に飲まれてしまうのではないかとも。

 剥き出しの警戒心と、底の知れぬ不気味さがテーブルを挟んで向かい合う。その脇で息を押し殺す若者は、観葉植物に等しかった。

 耐えかねた若者が顎を僅かに上げて、伺う視線を上司へ向ける。瞳だけを動かしてそれを受け取った宗雄は、人差し指で顎を撫でながら、体重を背もたれに預けて次の言葉を探る。

 一点を見据えた視界の端で、少女が足を組み替えるのがちらついた。すると、足の上で拳を組んだかと思えば、そのまま自分を追うように身を乗り出す。

「……何か問題があるかな?」
「ボクとしては、わざわざこんな面接をする必要さえ無いように思えるけどね」

「…ウチのアイドルを襲った不審者のこともあるでな、大人の事情だと理解してほしい」

 お前も有力な容疑者の一人だ。と口外に付け加え、見合わせた瞳をすっと細めて睨みつける。
 暗い瞳の奥で、何かが揺れたように見えた。

「うんうん、しがらみは煩わしいけれど、なればこその世の中ってね」
「理解ってるつもりさ」

 敵意を受け流すように悠々と語り、その口元が嗤っているのは被り物の上からでも明白だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:21:14.44 ID:NXL1nG2+0<>  状況だけを整理すれば、彼女の協力を受けることにデメリットは無く、むしろ大きなメリットに成りうるのは分かる。

 目の前の彼女は、今し方相手の戦力と交戦をしてきたと語り、その情報を提供すると語る。
 つまるところ、ヒーローの突入に際して何かしらの対策を講じる事が可能である。

 彼等は戦力であると同時に商品。
 そめそも、人間が命を張る様子を見世物にしようなどと歪な商売をしているのだ。
 その多くが見た目年端の行かぬ少女であるという事実も手伝い、傷か付くような自体は極力避けたかった。

 よしんば彼女が敵の手の物だとして、こちらを攪乱する目的があったとしよう。しかしその場合、確かめる手段はいくらでもある。
 多少の手間を無視すれば、同盟の人材に精神の内を覗いてもらえば済む話。

 それでなくとも、彼女は単独飛行が可能である。

 人間が空を飛ぶという物は、非常識が現実になった今であってもなかなかどうして難しいものだ。
 被り物の下が麗しくあったら、スカウトしているやも知れない。

 そういう点では貴重な人材だった。

 彼女はこれを、協力の承諾を条件に引き渡そうと言う。

 なる程デメリットなど見られない。

 ──しかし、だからこそ不気味だった。

 彼女の要求はこちらへの協力。
 そこに何かしらの目的を見いだしているのは確実だった。
 よしんば彼女が善意の人であるならば、このようなアプローチをとるとは考えにくい。
 それにより同盟に──アイドル達に危害があるようならば、対応を考えなければならない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:22:09.21 ID:NXL1nG2+0<>  そして何よりも彼女を不気味たらしめるのは、その佇まいであり、口調であり、被り物であり、目だ。

 どす黒い思惟がこちらを絡め取ろうとしているのが、無能力者の彼でさえわかった。
 時折相手の視線が体を撫でる度、ぞわりとした、おぞましい何かが体内を蛇の如く這い回る。

 剥き出しの敵意でそれをすり潰さなければ、次の瞬間には神経を食い散らかされてしまうのではないかという錯覚を覚えるほどに。

 似たような手合いは知らないわけでは無い、それこそ、逆に食い潰した経験すらあるが、こと不気味さにおいて彼女は一級品だ。

 理屈ではない第六感が、脳内でけたたましく警鐘を打ち鳴らす。

 これは間違いなく取引だ。
 そこにおいて腹の底が読めぬというのは、どれほど─── <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:30:43.24 ID:NXL1nG2+0<>  瞼を閉じ、体をソファーに沈ませながら、暫し押し黙る。

 承諾か拒否。
 重量の分からない二択に思案を巡らせながら、脳裏に去来するのは同僚やアイドル達の顔ぶれ。

 或いは作戦を成功させた喜びの顔であり、体を千々に引き裂かれる光景であったり。

 彼女を受け入れることで生まれる無数の可能性。
 突き放すのは簡単だが────

 そして数秒の後、分針が頂点を示したのを合図に、よりいっそうの意志を湛えたと分かる瞳が開けられる。

 一言一言の重みを確かめながら、結われていた唇をゆっくりと開いた。

「…いいだろう、考えておく」
「えっ」

 返ってきた素っ頓狂な声に、眉をひそませたのも一瞬、この場で許可が貰えると思っていたのだろうと当たりをつけると、「これも大人の事情だ」と、取り付く島もなく言った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/07/19(土) 07:33:10.01 ID:NXL1nG2+0<>



「…まあいいさ、これで──」
「ただし」

「二つ、言っておくことがある」

 足を崩しながら紡ぎかけた言葉を強い言葉で遮り、ソファーに委ねていた体を起こしながら、指を二つ突き出す。

 目の前の少女は不意を突かれたというように、浮かしかけた腰を硬直させながら、目を白黒させこちらを覗き込んだ。
 その目を睨み付けながら、有無を言わさぬ言葉で先を続ける。

「一つ、こちらも商売でやっているという事」

 それはつまり、あまり出過ぎたマネをするなと言うこと。それはお互いの為であり、おそらくは暗黙の了解ですらある。

「ふふ、少しの手助けでもできれば、それでいいさ」

「二つ」

 言いかけて、鼻から深く息を吸うと、一旦の間をおいた後───

「おまえの後ろにいるのがヒーローだということを忘れるな」

 ───鼻先をずいと寄せて、全身から今日一番の殺気を放ちながら、めいっぱいのドスを利かせた声音で吐き付けた。

「……肝に銘じておくよ」

 二宮飛鳥が押しかけた迫力を物ともせず、おどけたような口調で切り返したのも気に留めず、宗雄は「こちらも忙しいでな」とにべもなく言い残すと、そそくさと部屋を後にする。

 少し遅れて若者が腰を浮かせ、タイミングを逃し、自分がどうするべきなのかを見失っていると、ソファーに沈んだ飛鳥に「キミは行かなくて良いのかい?」と突かれる。

 はっとした顔を飛鳥と突き合わせた直後、見てはいけない物を見てしまったとでも言うように青ざめた後、まるで助けを求めるように宗雄の背中を追いかけていった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:34:25.84 ID:NXL1nG2+0<>



 最終的に宗雄を動かしたのは、信頼だった。

 彼の知る仲間ならば、あの気持ちの悪い存在を受け入れたとて、そう揺らぐことはないであろうという。

 屈することなく、逆に食いつぶしてさえ見せるだろうという。メリットだけを取り出せるだろうという。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時を同じくして。

 京華学院へ向けて疾駆する装甲車が一つ。

 その獣の如きエンジン音はそれの持つパワーを聞く物に伝え、それが支えるボディもそれに足る重厚さを備えている。

 他よりも一回り大きい無骨な車体が街中に異様な存在感を放ち、GDF軍のエンブレムがそれをより引き立たせる。

 ある程度軍事に詳しいものであれば、その装甲車に多少のカスタムが施されている事が、更に詳しいものならばそれがシンデレラ1によるものだと判るだろう。

「目的地まで、後数分もありませんよ」

 運転手を務める男が、背後へ横顔を向けながら投げかける。
 するとすぐさま三者三様の返答が返され、男は顔を正面へ向け直す。──その頬が僅かに弛んでいるのは気のせいではないだろう。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:35:18.00 ID:NXL1nG2+0<>  軍という組織は、どうしても男臭くなるものだ。

 そんな組織にあって年若い女性で構成されるシンデレラ1が、一種の羨望の的となるのは、当然のことなのかも知れない。

 特殊なパワードスーツを着込むことによってヒーローに匹敵する戦闘力を発揮するというのもそれを助長させている。

 特殊部隊という言葉の響きも良い。
 何かと秘密の多い部隊だというのもそうだ。

 男という生き物はいつまで経っても、格好良い物と強い物とロマンのある物が大好きなのだ。

 そんな訳あって、特設遊撃部隊シンデレラ1は、GDF軍内部においてどこかアイドル的人気を獲得していた。

 そんな彼女等を乗せてハンドルを握ることができるのだ。鼻の下が延びるのも、不可抗力と言うものだろう。

 有浦柑奈の奏でるギターを聞きながらの運転は、何時もより数段気分の良いものだ。
 いささか聞き慣れぬメロディーではあったが、くぐもったラジオ回線よりは遥かに良い。

 後ろに乗せるのは噂の美少女。
 片手でハンドルを切りながら、今夜の酒の肴はこれで決まりだな、と内心一人ごちた

「しっかしね……」
「なんでしょう?」

 しかしこのまま運転手だけで終わるのも勿体ないと思いた男は、顔を正面に向けたまま不意に口を開く。
 何を話すかは決めていない。話題など、話しながらでも作ればいい。
 男にはその心得があった。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:36:14.55 ID:NXL1nG2+0<> 「吸血鬼退治に行くんでしょう?せっかくのお祭りだってのに、迷惑な奴ですね?」

 と、少しおどけたように言う。

 将軍の発した声明──宣戦布告、と言うべきか。は、主に能力者を扱う集団に向けて発信された。

 アイドルヒーロー同盟に始まり、ネバーディスペア、その他諸々………

 さて、GDFへ発信されることは遂に無かったのであるが───互いの仕事を食い合う関係といえども、それほどの情報を開示しないというのは、あまりにも不自然だ。

 故に当然の如くGDFもこの情報を掴んでいる。

 男の所属する基地では、GDFも舐められた、などと多くの隊員が憤って居たものだが────

「──いえ、私達は警備に当たるだけですよ?」
「ほ?」

 返された返答は、彼の認識に反するものであった。
 きょとんとした顔を思わず後ろに向けると、物々しい棒状の武器を点検する響子の顔が正面にあった。

 運転手の性から直ぐに正面へ向き直したが、それでも意識を後ろから離すことができない。

「そいつぁ、一体?」

 シンデレラ1などという大きな戦力を派遣しておきながら、やることはただの警備だと。
 疑問を投げかけずにはいられなかった。

「…ああ、なんでも───」

 一瞬の間を置いた後、ギターを弾く柑奈と財布とにらめっこをする美羽を後目に、響子は説明を始めた。


 時は少し遡る。

────…………

───────……………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:37:30.81 ID:NXL1nG2+0<>


「五十嵐響子、以下二名到着いたしました」

 司令室で横並びなった三人。右端で響子が敬礼を作ると、隣の二人がそれに続く。

「よし、楽にしてよろしい」

 参謀が厳かな態度を崩さないままそう告げると、腰に手を提げた三人は次に大佐の言葉を待った。

「……いつも急で済まないな」

 司令室の真ん中で、咳払いをした後、三人の顔を眺めてから大佐が言う。

「命令は、京華学院の警備だ」

 間を置かずに言い放った時には、一瞬だけ見せた後ろめたさは消え失せ、老練の司令官として彼女等を見つめていた。

「警備?」

 目をぱちくりとまばたき、意を外されたようにこぼしたのは柑奈だ。

 彼女が言わんとしていることはその場の誰もが理解していた。

 こんな大胆たる事件に対して、GDFが手をこまねいている訳がない。それこそ、機甲部隊を出撃させてもおかしくは無さそうだ。

 ことフットワークに対する戦力比の高いこの部隊のこと。当然直接事態に当たる事とばかり思われていたが───

「そう、警備」
「GDFとしては分からないけれど……少なくともシンデレラ1としてはそこまで」

「…はぁ」

「ヒーロー同盟との兼ね合いよ……」

 様々な物を含んでいるような言葉だ。
 彼女が詳しくを語ることは無かったが、どこか悩ましげな表情は、事態の複雑さを推し量るには充分であった。

「まあ、休暇代わりだと思って気楽にしてくれたまえ、ははは…」

 大差の作るぎこちない笑いは、参謀の苦悩を打ち消そうとしているようにも見える。

 彼等の表情の裏に何があるのか、シンデレラ1の三人は知る由もない。ただ、彼女らなりに心配だったのは確かだ。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:38:30.05 ID:NXL1nG2+0<>
「あと…これ」

 先程よりも陰を増したと見える参謀が、どこか投げやりに端末を操作する。すると最寄りの液晶に、武器の物であるらしい図面が映し出された。

「試作型プラズマ・ランス…今回、重火器を扱うわけにはいかないわ」
「だから響子。あなたはこっちを持って頂戴」

「試作型…」

「ええ、ヘファイストス・アーマリーのね。」
「純地上性の技術でプラズマ兵器を造ろうって魂胆らしいのだけど…」

「…わかるわね?」

「……はい」

 データ収集をしてこい。そういうことなのだろう。

「それと、技術部が美羽の装備を改良したそうよ、そっちもお願いするわ」

「はいっ」

「私からは以上、…司令」

 無愛想に切り上げると、半歩後ろに下がりつつ大佐へ伺う視線をくべる。

 視線を受け取った大佐が無言でうなずくと、場を改めるように咳払いをし、凛と引き締め直した顔を正面へ向けた

「よし……作戦は、今し方参謀君が話してくれた通りだ」
「先程休暇代わりとは言ったが、誇りあるGDFの一員として恥ずかしいことの無いようにしてほしい」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:39:20.61 ID:NXL1nG2+0<>
「…それでは………」

 一旦もったいぶって一つ息を吸い、目を閉じる。

 一秒の後、開眼。

「シンデレラ1ッ!出撃ィッ!!」

「「「了解っ!」」」

 四人分の気合いが、司令室を揺さぶった。





「………貴方達も大概ノリがいいわね…」


───────……………

─────………… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:40:08.11 ID:NXL1nG2+0<> 「なるほどね……」

「俺の見立てじゃあ、大方同盟のケツを持てって所かな……」

 前方を眺めながら、少し気取った声音を吐き出す。

 アイドルヒーロー同盟が事に当たると言うことは、それまでそこに居たヒーロー達が出払ってしまうと言うことでもある。

 聞けば学園祭二日目にして、既に何度か民間人を危険に晒しているのだそう。
 敵の打倒が目的とは言え、そんな状況で警備を緩めたりなどすれば────最悪の状況を考えなければならない。

 そこで、彼女等に留守を任せる事で万全を期す。それが彼の大方の予想であった。

 フリーの能力者も居るだろうが、分かり易いネームバリューによる抑止力という物は存外に馬鹿にできないものだ。
 その点で、GDFというバックを有する彼女等には、充分な力があるだろう。

 おそらくは、もっと多くの事象が裏で複雑に絡み合っているのかも知れないが───もっと言えば、この予想自体大はずれの可能性も有り得るが───ただの一兵士でしかない彼には関係のない話だ。

「けつ………」

「おっと、下品な表現だったかな?」

「えっ……あ、はは……」
「これは失礼」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:41:12.06 ID:NXL1nG2+0<>

 見れば、京華学院のでかい校舎の輪郭を、しっかりと捉えることができていた。
 もう一分となく到着することだろう。

「…柑奈ちゃん、美羽ちゃん、そろそろだよっ」

「あれっ、もう?」
「む、…もうちょっと弾きたかった気も…」
「俺は充分楽しんださ」

 自分の肩越しにピースサインを作ってみせると、ルームミラーに柑奈の笑顔が咲く。
 やはり少女の笑顔はいつ見ても良いものだ。

 通りを右手に曲がると、遂に学院の塀さえ認めることができた。同時、ちょっとした物悲しさが胸を突き上げる。

「さ、下りな」

 表情を読み取らせぬよう、余計な心配をさせぬように目を伏せて、ぶっきらぼうに言い放つ。

 後部扉の金音が重く響くと、開いた扉の隙間から外気がすっと入り込んできた。

 直接見えずとも、彼女等が遠ざかっていくのが不思議と分かる。

「ありがとうごさいましたっ!」
「また会いましょう!!」
「あでゅー!」

 三人目が言い終わると、金属の軋む音と共に少女の気配が完全に消え失せる。

「……礼を言いたいのは、こっちさ」

 苦笑して呟きながら、懐から煙草を取り出そうとして………止めた。

 車内に残っているのは、明るい声の残響と─── <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:42:00.23 ID:NXL1nG2+0<>  ────残り香。




 敢えて記そう。

 彼はGDF陸軍の一員であり、運転に自信があり、パッションチームの一員である。

 だが、彼はそれ以上に。

 それ以前に───



 ────男だった。





「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!………」


<> @設定
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:43:17.01 ID:NXL1nG2+0<> ・紙袋

 飛鳥が買い食いのに際して手に入れた物。
 あまり素顔を見られたくない飛鳥は、目の辺りをくり抜き、額に油性ペンで『正義』の文字を書いて被り物にした。


・試作型プラズマ・ランス
 現在まで存在していたプラズマ兵器の数々は外来の技術に由来する存在であった。
 そしてその技術を取り込み、科学力の飛躍した現在、それを自分達で作り出そうとした計画の産物。

 見た目は機械的な大槍。
 長い持ち手にグリップとトリガーが装着されており、それを引き絞ることにより穂先からプラズマの奔流を放出する。
 オリジナルは小型核融合炉から電力を確保するが、こちらはカートリッジ型バッテリーでそれを賄う。

 威力だけは高いが、装填弾数に対する割合が悲惨で、かさばるために取り回しも劣悪。射程も短いが、これは周囲に被害を出しにくいという点に於いては長所たりうる。
 総合すると『どうせ試作品』といった感じ。

 奈緒、ランスの名を関してはいるが、格闘武器として扱えるかは未知数。
 一応、金属の塊である。


・フレキシブル・リボルバー・ロケットver.1.2

 改良型らしいのだが、大きな変更点は、それこそ運用する面では見られない。
 曰わく、目に見えないところが変わっているらしいのだが…… <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/07/19(土) 07:45:30.27 ID:NXL1nG2+0<> ※飛鳥「ぼくわるい能力者じゃないよ」
 飛鳥「なかよくしようよ!」(ゲス顔)
 宗雄「おう考えといてやるよ」

※シンデレラ1がブラム攻略作戦の間留守を預かるようです
※響子の装備が変更されています。


以上。

腹の探り合いも、面接も、モブに名前を付けたのもただの趣味。大した意味はない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/19(土) 10:27:25.66 ID:gBMdEP0w0<> 乙ー

飛鳥w完全に怪しいんですが。それは?
普通ならお断りなのに……モブェ…

GDFまできたか
そして、最後w <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/07/19(土) 20:19:46.50 ID:wYHygck/o<> 感想が遅れるのは
暇な時に一気に書いちゃおうとしてるからなんだからねっ!

>>614
仁美ちゃんTUEEEEEEEE!
パワーアップするとは聞いてたけれどここまで一気にとは予想外でしたぜ
何はともあれ、仁美ちゃんともどもお帰り喜ばしい

>>631
色々とお話の動き出しそうな出会いの連続ですな
それぞれの因縁がこの後どうなるかな、どの関係もうまくまとまってくれると良いですな

>>689
変態だぁぁ!!しきにゃんが変態になるだろう事は知ってたけど少佐も変人か
GDFも一枚岩ではないのね
アーニャンもなかなか面倒そうなアレコレに巻き込まれそうで…しかも変人がらみの…頑張ってアーニャン…

>>707
かなり遅れましたが、みうさぎ誕生日おめでとぉお!
最近黒いことに定評のあるGDF、色々やってるんですねえ(小並感)
そんな中シンデレラ1組が思われている事や、誕生日祝いしてもらえる事に心温まります

>>731
うん、熱いねGDF、来てるねGDF。3人組のプロ感いいですね。頼もしい
戦車withカースは厄介そうですねえ(小並感)

>>753
シリアスなやり取りのひりひり感。飛鳥ちゃん痛い中二ではなく、出来る中二ですな。
一先ず飛鳥ちゃんが前線参戦できそうで一安心。
シンデレラ1組も参戦するようでそちらも期待。
ああ、本当GDFの男って……



全体的にドシリアスな空気にやや理解が追いついてないところがあるかもですが……頑張ろう
皆さん乙乙でしたー <>
◆Q75HNPCDy2<>sage<>2014/07/19(土) 21:42:18.72 ID:x86EV82K0<> 乙ですー
紙袋…これはあれか、途中で破けちゃうのかな?
シンデレラ1のおかげで安心して突撃できるね!

…………クンカーかぁ(目そらし) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:02:33.32 ID:sk3VYZTRo<> 今日は何の日? ふっふー♪

投下します
投稿者と投稿日を見てもらえれば大体予想が付くような内容 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:03:00.92 ID:sk3VYZTRo<> ――――あらすじ!!


――俗に『憤怒の街』と呼ばれる悲劇が終息した後。

――多くの死者、行方不明者、怪我人が公になった。

――その内、怪我人も含め辛くも死を免れた生存者たちの中には、

――身内や親しい人物を失った、恐ろしい光景を目の当たりにした、危うく命を落としかけた……、

――等々の筆舌に尽くしがたい絶望に遭遇した者も少なくない。


――そういった体験をした人々……特に幼い子供の多くは、

――いわゆる『PTSD”心的外傷後ストレス障害”』を患い、

――事件が終わった今でも、未だに酷いトラウマに悩まされ続けている。

――以後、そんな子供たちを集め、定期的に心のケアを行うための公共のカウンセリングの場がいくらか設けられた。


――そこへ、「藍子の能力は心的治療に対して有用である」と、判断したピィが、

――『プロダクション』から彼女を臨時カウンセラーとして派遣する仕事を取ってきたのであった。

――ちなみに今回の仕事に際して、ピィは藍子の送迎として一日彼女に付き添って行動した。


――――話は、カウンセリングを終えた二人が帰路につく所から始まる。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:03:33.89 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「いやー、まさかあんなに喜んでもらえるとはな」

藍子「お手紙たくさん貰っちゃいましたね、ふふっ」

ピィ「また今度機会があれば来ようか」

藍子「そうですねっ、またみんなに会いたいです」


ピィ「それに、藍子の先生役も随分と様になってたぞ」

ピィ「小さい子の相手も得意みたいだし、結構向いてるのかもな」

藍子「ええっ!? 私なんてそんな大したこと……」

ピィ「『藍子ちゃん先生ー』ってみんなも懐いてたじゃないか」

藍子「あれは……、ちょっと恥ずかしいというか……」


――

子供『藍子ちゃんって、先生みたい』

子供『藍子ちゃん先生だ』

子供『藍子ちゃん先生ー!』

―― <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:04:00.60 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「可愛くて良いと思うけどな」

藍子「か、かわっ……!?」

ピィ「やっぱり子供は純粋だよなぁ」

藍子「あっ、そ、そうですよねっ! みんな可愛かったですねっ!」

ピィ「……」

藍子「ピィさん?」


ピィ「あの子達、普段は……」

藍子「あっ……」

ピィ「あんまり笑ったり元気よく遊びまわったり、しないんだそうだ」

藍子「……」

ピィ「突然泣き出したり、暗闇を怖がったり、全然寝付かなかったり」

ピィ「眠っていても急に目を覚ましては、やっぱり泣き出したり」

ピィ「カウンセリングを始めてからも、症状は良くならなくて」

ピィ「他のカウンセラーの人にもあまり心を開かないらしい」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:04:28.41 ID:sk3VYZTRo<> 藍子「……でも」

ピィ「うん」

――藍子の脳裏に、今日出会った子供達との思い出がよぎる。

藍子「そんな風に、全然見えなかった……」

ピィ「そうだな」


――みんな元気よく遊んでいた。

――みんなとても楽しそうだった。

――みんなぐっすりとお昼寝していた。

――そう、みんな……。

藍子「みんな、笑顔でした」

ピィ「ああ!」


――笑っていた。


藍子「みんなを……、笑顔にできる!」

――藍子の持つ、素敵な能力。


藍子「それが、私の力……!」

ピィ「そうだ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:04:55.40 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「あっ!」

藍子「えっ?」

ピィ「いやぁ……、う〜ん」

藍子「ど、どうしたんですかピィさん?」

藍子「そこを肯定してもらわないと何だか凄く恥ずかしいんですけど……っ」


ピィ「いやなに、”力”って言い方がな……」

ピィ「藍子のそれは”パワー”って感じじゃ無いだろ?」

藍子「そ、そんな事ですか?」

ピィ「イメージは重要だろう」

藍子「普通に”能力”じゃダメなんですか?」

ピィ「もっと素敵な呼び方が良いな、うん」

藍子(す、素敵な……?) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:05:27.26 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「こう……ふんわりとした、柔らかい感じ……」

ピィ「……魔法、とか?」

藍子「でも、魔法使いは既に居るんですよね?」

ピィ「ほら、普通の魔法じゃなくて、……優しい」

ピィ「そう、”やさしい魔法”!」

藍子「……”やさしい魔法”ですか?」

藍子(あ……、でも少し素敵かもしれない)


ピィ「じゃあ、それでリテイクしてみようか」

藍子「…………え?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:06:02.93 ID:sk3VYZTRo<> 藍子「みんなを笑顔にできる!」

藍子「それが私の……、っ」

藍子「やっ、やさしい魔法……っ!」


ピィ「うん、無いな」

藍子「ピィさんっ!!」


ピィ「はっはっは、怒るな怒るな」

藍子「もう……っ」

ピィ「まぁ、当面は”能力”呼びかなー、残念だけど」

ピィ「でも、アイデアの一つとしてはいいんじゃないか?」

藍子「そうかもしれないですけど……」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:06:30.92 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「それにしても結構歩くなぁ」

ピィ「藍子、疲れてないか?」

藍子「はいっ、私は平気です」

藍子「むしろピィさんこそ、私が無理を言ったせいで……」

――『プロダクション』から現場までは、そこそこの距離があった。

――当初、ピィは車を出そうかとも提案したが、

――藍子が『できれば歩いて行きたい』と申し出たため、こうして二人とも徒歩で帰路についている。


ピィ「んー、疲れてるってほどでもないんだが」

ピィ「ちょっと喉が乾いてきたな……、自販機で何か買うか」

藍子「あっ、それなら――!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:07:03.47 ID:sk3VYZTRo<> ――――とある喫茶店。


ピィ「こんな場所に喫茶店が……」

藍子「前にこの近くをお散歩してた時に偶然見つけたんです」

ピィ「へぇ、随分遠出するんだな」

藍子「好きなんです、色々な場所を歩くのが」

ピィ「なるほど、だから今日も」

藍子「はい、ピィさんまで付きあわせてしまいましたけど……」

ピィ「なーに、藍子と一緒にいられるんだからむしろ役得ってもんさ」

藍子「そ、そう言ってもらえると助かります」


――二人が席に着いて軽く談笑を交わしていると、店員が注文を伺いにきた。

店員「ご注文はお決まりでしょうか?」

ピィ「おっとそうだった、……何頼もうかな」

藍子「私は……、カプチーノで」

ピィ「んー、じゃあ俺はアイスカフェラテ」

店員「かしこまりました、カプチーノとアイスカフェラテですね。少々お待ち下さいませ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:07:36.60 ID:sk3VYZTRo<> ――程なくして二人のテーブルに、注文したカプチーノとアイスカフェラテが届けられた。

――その内、藍子のカプチーノの方にはサービスで猫のアートが施されており、二人の口から感嘆の声が漏れた。


藍子「可愛いですよね、前に来た時も描いてもらったんですっ」

ピィ「ほー、大したもんだな」

藍子「その時に写真を撮ったんですけど、あんまり上手く撮れてなくて……」

藍子「……」

ピィ「ど、どうした藍子? そんなに落ち込まなくても……」

藍子「いえ、違うんです……、撮れなかった事はいいんですけど……」


――藍子はふと、以前来店した時の事を思い出した。

――……少しばかりメタな発言をすると、具体的には1スレ目の藍子が初登場した回である。

――その回で藍子と麗奈の訪れた店がまさにここだった。

――恐らくお忘れの方も多いかと思うが、藍子はこの時にちゃっかり麗奈とメルアドを交換してたりする。

――で、その麗奈であるが、こんな発言を残している。

麗奈『そういえば』

麗奈『テレビでカメラ好きのお笑い芸人が言ってたわ』

麗奈『カメラにわかは空だの犬だの猫だのおしゃれなカプチーノだのばっかり撮るって』



藍子「思い出し凹みと言うか……、そんな感じです」

ピィ「お、おう……」

――大したことは無いが、少しばかり沈む藍子であった。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:08:03.66 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「……」

藍子「……」

――しばらくすると、二人の間に沈黙が訪れた。

――決して気まずいものではなく、落ち着いた静寂。

――藍子が作る、能力とはまた異なった特有のゆるふわ空間である。

――そこへコーヒーのリラックス効果と、能力の相乗効果が合わさり最強に見える。

――つまり……。


ピィ(あー……落ち着く……)

ピィ(やばい、寝そう……)

ピィ(心地いい……)

ピィ(幸せ………だなぁ……)

――ピィの意識は今、ふんわりと狩られようとしていた。

ttp://i.imgur.com/6GWPGSZ.jpg <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:08:35.17 ID:sk3VYZTRo<> PiPiPiPiPi!!

藍子「っ!?」

ピィ「おわっ!!」

藍子「なっ、何事ですかっ?」

ピィ「いかん、もうそんなに経ったのか……」


藍子「ピィさん、それは……?」

ピィ「アラームだ」

藍子「見ればわかります」

ピィ「うむ、藍子タイマーとでも言おうか」

藍子「えーと、どういう……?」

ピィ「藍子と一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまうからな」

藍子「そ、そうなんですか?」

ピィ「店に入る前にセットしておいた」

ピィ「ちなみに1時間だ」

藍子「ええっ、そんなに!?」

ピィ「うん、そろそろ出ようか」

藍子「そ、そうですねっ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:09:11.05 ID:sk3VYZTRo<> ――ピィは伝票を取り立ち上がると、財布を用意しようとする藍子を手で制した。

藍子「自分の分くらいは出しますっ」

ピィ「そんなの気にしなくていいから」

藍子「でも……」

ピィ「俺は男で大人なんだから、俺に任せなさい」

ピィ「それに藍子には今日頑張ってもらったしな」

藍子「……ありがとうございます」


――といった定番のやりとりの後、二人が店の外に出る。

ピィ「あー、そういや今日はこの後もう仕事無いんだった」

藍子「そうなんですか?」

ピィ「ああ、別にまっすぐ帰ってもいいんだが……」

ピィ「どうせだからもう少しこの辺ブラブラしてこうか」

藍子「いいですねっ!」

ピィ「さっき大きな公園があったし、そこ寄ってみよう」

藍子「はいっ」


ピィ「……」

ピィ(ん? これって……)

藍子「……」

藍子(よく考えると、なんだか……) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:09:41.49 ID:sk3VYZTRo<> 未央(ピ……)

未央(ピィさんと藍子ちゃんがデートしてるーっ!!??)ガビーン


――たまたま近くを通りかかった未央が、

――喫茶店から出てきてそのまま公園へ向かうピィと藍子を目撃していた。

――未央の言うとおり、傍から見ると二人のその行動はまさにデートの様相であった。


ピィ(な、何か意識しだすと無性に照れるぞ……)

藍子(ど、どうしよう……、何か……何か喋らないと……)

――まるでデートのようだ。

――……ということに『一緒に公園を散歩する』という段階になって二人ともようやく気づく。

――すると、途端に空気がギクシャクしだした。

――何せ二人ともデートの経験というものが無かったのだ。


未央(これは面白い事になってきたぞー♪)

――未央は隠れて二人の後をこっそりつける事にした。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:10:16.01 ID:sk3VYZTRo<> ピィ「……」

藍子「……」

未央(ふっふっふ……)

――ぎこちない雰囲気を纏った二人……と未央が、公園に流れる川を渡す橋へ差し掛かった時であった。


藍子「……? あっ! ピィさんっ!」

ピィ「どうした」

藍子「猫さんが流されてますっ!」

ピィ「なにっ!?」

未央(ええーっ!? なんてタイミングだーっ!?)

――まさにこのなんとも言えないタイミングで、猫が川に流され溺れていた。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:10:45.03 ID:sk3VYZTRo<> 藍子「どっ、どうしよう……っ!」

ピィ「悪い藍子、荷物持っててくれ!」

藍子「ピ、ピィさん……っ?」

――藍子に荷物を預けると、次の瞬間ピィは一切の躊躇無く川へ飛び込んだ。


藍子「ピィさんっ!!」

ピィ「うおおおおお!!!! 待ってろぉぉぉおお!!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:11:16.48 ID:sk3VYZTRo<> ――――数分後。


ピィ「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

藍子「大丈夫ですか!?」

ピィ「あ、あぁ……、猫は無事だ……」

――ピィの腕の中に、にゃあにゃあと元気に鳴き声をあげる猫がしっかりと抱えられていた。


藍子「良かった……、ピィさんもこの子も平気そうで……」

藍子「でも、あんまり無茶しないで下さい!」

藍子「心配したんですから……っ」

ピィ「ああ、すまない……」


未央(……) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:11:49.88 ID:sk3VYZTRo<> 未央(うーん、結局デートは台無しかー)

未央(でもまっ、仕方ないよね、あの二人じゃ)

未央(困ってる人とかいると助けずにはいられないんだからもー)

未央(この先もずっとこんな感じなんだろうなぁ)

未央(そこが良いところなんだけど、ね♪) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:13:24.43 ID:sk3VYZTRo<> 以上です

誕生日おめでとう藍子!
ということで誕生日記念SSです
お祝いじゃなくて記念
なので時系列とかは特に定めていません
この辺きっちり設定している人も多い中、あえてぼかしていくスタイル

やべえ藍子の誕生日もう1週間後じゃん、と
予告編を投下したSSを放って書いてた学園祭の話を放って、慌てて書いたので色々荒い

Q.あまり露骨なラブコメはしたくないってメタネタ没ネタスレで言ってなかった?
A.露骨じゃないからセーーーッ!(言い訳) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/07/25(金) 00:19:44.54 ID:kgnUR6ZBo<> 乙です

なお直前まで本スレの誕生日祝いムードを眺めてたので、
このスレに新着レスがついた時点で誰が投下をはじめたのかだいたい予想は付いてた模様

誰がどうみてもデートでございますねえ、末永く爆発すればいいのに

とにかく藍子ちゃん誕生日おめでとー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/07/25(金) 00:50:19.09 ID:qtOvlVIQ0<> 乙です、藍子ちゃん誕生日おめでとう!
藍子ちゃんの前には時系列もゆるふわと化す
良い雰囲気ですねぇ、露骨じゃないけど良いラブコメ <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/07/25(金) 11:57:15.51 ID:Jdjr0sI6O<> 乙ー

藍子ちゃん誕生日おめでとー!
ラブコメ(ラブコメとは言ってない)です?
こういう日常系も和んでいいね!
ただ、ピィは末長く爆発しろ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/26(土) 20:06:56.74 ID:jxwVueIUO<> 誕生日を迎えたのに
忘れられた皆さん「羨ましいなぁ(ムカつく)」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/26(土) 21:49:47.90 ID:5X0v5+n60<> し、暫く見てない人の手持ちだとか、誕生日が近すぎて間に合わなかったとかいろいろ事情があるから… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2014/07/26(土) 22:25:56.46 ID:OMEaTj1p0<> ならあなたが書けば(ry
忘れてるわけじゃないのよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/07/26(土) 23:47:01.08 ID:9FoFl7GxO<> 書く時間がないのよ(血涙 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 03:57:46.55 ID:ZvpkelKXo<> 秋炎絢爛祭に向かう前のむつみさん投下します

この逃げ文句何度目か分からないけど…茶番長いですごめんなさい <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 03:59:07.76 ID:ZvpkelKXo<>
──龍崎邸──


『先生! 大変です!』

ある日の昼下がり、書斎で書き物をしていた龍崎博士の元へ一本の電話が入った。

博士「助手君? 久しいな」

通話相手は龍崎博士の元教え子にして一番弟子──現在はとある国際的な研究機関の構成員を務めている人間だった。

博士「どうしたね? そんなに慌てて、君らしくも無い」

電話口のその人物は酷く狼狽している様子だ。
博士は諭しつつも、次の言葉を待つ。

助手『"バベルストーン"が……! 何者かに盗まれました!』

博士「何だって!?」

助手の言葉を聞いた博士は、手にした万年筆を思わず取り落とした。

どうやら、助手の所属する研究機関が保管していた何某かが、これまた何者かに盗み出されたようだ。
助手のただならぬ様子に身構えていたものの、しかし彼から聞かされた内容は博士も予想だにしないものだった。


博士「詳しく聞かせてくれ」

助手『……昨晩、バベルストーン保管部屋の防犯センサーに反応があったんです』

助手『それで、警備が駆け付けた時には既に……』

助手『あの区画は厳重に管理されていたというのに……』

助手は状況を伝えると、口惜しげに呟いた。


博士「うーむ……犯人の目星は?」

助手『分かりません……あの区画への入出パスを持っている人間は全員シロでした』

博士「だとすると、外部の人間の犯行か」

助手『とりあえず、今は地元当局が現場検証中です』

助手『それと、国際刑事警察機構にも捜査協力を要請しました』

博士「なるほど、な……」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 03:59:52.30 ID:ZvpkelKXo<>
博士「しかしまあ、手掛かりが無い以上は、あれこれ騒いでも仕方あるまい」

助手から事のあらましを聞き終えた博士は、戒めるかの様な調子で話し始める。

博士「警察組織も捜査をしてくれているのならば、彼らに任せた方が良かろう」

助手『そ、そうですね……私が慌てたところで、何が出来るわけでもないですし』

助手も博士と話をして、幾分落ち着きを取り戻したようだ。

博士「この件について、進展があればまた教えてくれたまえ」

助手『わかりました、それでは失礼します』

助手は伝えるべき内容を話し終えたのだろう、受話器を置く音の後に通話は途切れた。



博士「バベルストーンが盗まれるとはな……」

助手との電話を終えた博士は、座した社長椅子に深くもたれ掛かると大きな溜息をついた。

博士「(アレは、知識の無い人間にとっては、"少し綺麗な石"とでもいう程度の物だが──)」

博士「(それなりの警備もある研究施設に忍び込んでまで欲するという事は、盗み出した者はあれがどういった性質の物かを知っているという事か)」

博士は立ち上がると、部屋の隅に据えられたキャビネットへと向かう。
そして、そこに仕舞われている分厚いプラスチック製リングファイルのうちの一つを手に取った。
その背表紙には「報告書」「バベルストーン」「研究結果及び考察」といった文字が並んでいる。

博士「(バベルストーン……その存在自体、長らく忘却の彼方にあったが……)」

博士はファイルを机に置くと、中の書類に目を通し始める。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:01:30.76 ID:ZvpkelKXo<>

博士と助手の話題の中心にあった、バベルストーンと呼ばれる存在──
それが一体どういったものであるのかを知るためには、今から数百年ほど時間を遡ることになる。

時は中世期の終わり頃、さる探検家が某大陸の奥地にて現地の部族の集落に立ち寄った際、眩い光を湛え輝く神秘的な石を発見する。
その探検家は、集落において御神体として祀られていたその石に大いに興味をそそりたてられたという。
それこそが件の『バベルストーン』なのだが、当時その探検家が残した手記には「ただの綺麗な石」とする以上の記述は無かった。

ともかく、これが現在知られているバベルストーンの存在が最初に人類の歴史(あくまで有史以降のではあるが)に登場する出来事である。



博士「(太古の昔……神の頂に臨まんと、人類の叡智を結集し建造された巨塔……『バベル』……か)」

博士は丁寧にファイリングされた書類を読みふけりつつ、頭の片隅で思案する。

博士「(その正体は、古代メソポタミア文明の建立した神殿が神話化した物であるとする説が有力だが──)」

博士「(地球上に四大文明が興るより遥か昔に存在していた何らかの文明が建てた塔であると)」

博士「(言うなれば、"真のバベルの塔"とでも呼ぶべきものが実際に存在していたとする説も、学会の中には根強くある)」

博士「(そして、その説の根拠となるのが『バベルストーン』……)」



話はバベルストーンの祀られていた集落へと戻る。

探検家の来訪より数百年の時が過ぎ、世界の文明は目覚ましい発展を続けてゆく中で、
外界から隔絶されていたその集落にもやがて近代化の波が押し寄せる事となる。

当時、その集落においては、先祖伝来のしきたりや因習などはカビ臭い悪弊として軽視されており、
かつては御神体として崇められたバベルストーンも、ふらりと現れた何処ぞの国の好事家に二束三文で売り払われてしまうのだった。
しかし、バベルストーンが世界的に認知されるようになった要因として、この好事家に買い取られたことが実際大きく関わっている。

バベルストーンを買い取った好事家は、その正体を探るべく専門家に調査を依頼。
その結果、それは外宇宙からやって来たものであると判明する。
当時の学界では、俄かにセンセーションが巻き起こったと、とある資料は伝えている。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:02:25.43 ID:ZvpkelKXo<>
その後、バベルストーンについての本格的な研究が始まり、つい十数年ほど前にとある学者が大きな発見をする。
その学者に曰く
「バベルストーンは情報記憶媒体としての性質を持っており、その小さな石ころ然とした中には膨大な情報が記録されている」
というものだった。


博士「(バベルストーンからほんの僅か引き出された記録を分析した結果)」

博士「(有史以前の地球上に、天を衝くほどの超高層建造物が存在し、バベルストーンはその頂上に安置されていた物であるとする内容があった)」

博士「(──すなわち、『バベルの塔』が実在したとする説の根拠と『バベルストーン』の名前の由来だ)」


「バベルストーンには多くの情報が詰まっている」とする発見を受けて、その中に残された全ての記録を引き出すべく、
バベルストーンの研究プロジェクトに対し、世界中から途方もない資金と人材が投入されることとなる。
しかし、ついにその中身を引き出すことは叶わなかった。

多くのリソースを費やしたものの目立った成果は得られず、世界の関心は次第に冷めてゆき、
そしてさらに研究の第一人者──バベルストーンが情報記憶媒体であると導き出した考古学者『氏家博士』が謎の失踪を遂げた事によって、
バベルストーン研究プロジェクトは凍結されることとなる。
そして現在まで、龍崎博士の助手が勤める研究機関の施設に保管されていたのだ。


博士「(氏家博士が失踪してからというもの、バベルストーンの研究は遅々として進んでいなかったが……)」

博士「(しかし、よもや盗まれるとはな)」

博士「(盗んだ者の意図は分からんが……早く見つかる事を祈ろう)」


博士は再び大きな溜息をつくと、盗まれたバベルストーンのその行方を案じるのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:04:11.46 ID:ZvpkelKXo<>
──所変わって、"冒険大好きっ子"氏家むつみの部屋──


むつみ「アストラルクォーツ?」

クォーツ『そうだ』

怠惰のカース集団との戦闘後、自宅に戻ったむつみは、クォーツと話し込んでいた。
話し込むというよりは、クォーツが一方的に語る話をただただ聞いているといった方が適切かもしれない。

クォーツ『とある恒星系で産出される特殊な宇宙鉱物に、フォトニック・ラミネート・デポシジョン加工を施し、情報記憶媒体としての性質を持たせた物──』

クォーツ『それが、アストラルクォーツだ』

むつみ「……じょーほーきおくばいたい?」

宇宙からやってきたクォーツの語る内容は、やはり宇宙レベルの話になる。
理解の追い付かないむつみの頭上には絶えずインタロゲーションマークが浮かんでいた。


クォーツ『地球人も、円盤にレーザーを照射して情報の読み書きを行っているだろう? あれと同じような物だ』

むつみ「(……? 光ディスクのことかな?)」

クォーツ『あるいは、もっと広義に捉えれば、"紙"も情報記憶媒体と言えよう』

クォーツ『ふむ、そうだな……太古の地球人の行動を考えれば"壁面"や"地面"もそれに含まれるな』

クォーツはむつみを意に介さず一人(?)で何事かを呟き、そして一人で勝手に納得している。

むつみ「そ、そうなんですか…」

その様子にむつみの表情は少しばかり引きつっていた。

クォーツ『……話が逸れたな』


クォーツは間を置き仕切りなおすと、話の続きを語り始める。

クォーツ『そのアストラルクォーツだが、製造方法やら加工技術やらが、太古の昔にこの宇宙から失われてしまってな』

クォーツ『今はもう、新たに作り出すことが出来ないのだ』

むつみ「はぁ……」

地球の外の──ましてや、太陽系の外の話などをされても、むつみの思考力の及びもつかない世界だ。
実際、クォーツの語る内容に関してむつみの反応といえば、適当に相槌を打つ程度だった。


クォーツ『だが、どういうわけか、この地球にはかつてアストラルクォーツの一塊──』

クォーツ『宇宙的に見ても希少な、かなり大きな塊が存在していたとする話があってな……地球人からは『バベルストーン』だとか呼ばれていたか』

クォーツ『ある時期を境にそれは無数に分かたれ、世界各地に散らばったらしいが……』

クォーツ『今でも地球上にいくらか残っているであろうそれを、むつみ……お前に集めてもらいたいのだ』

むつみ「えっ……私?」

どういった内容の話かもよく分からずに聞いていたが、突如として自分の名前が出てきた事でむつみは僅かに面食らう。
しかし、クォーツからの──自らを非日常へと導いた張本人からの頼みである。
内容を理解出来てはいないが、今までの話の流れからすると、今後の行動の指針となるものだろう。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:05:45.59 ID:ZvpkelKXo<>
むつみ「それを集めると、どうなるんですか?」

クォーツの要請を受けるにあたり、むつみは純粋な疑問をぶつけた。
目標が自らの理解を超えた存在であったとしても、それがもたらすものを少なからず知っておく必要はあるだろう。

それに対し、クォーツは『アストラルクォーツ』についての説明を続ける。


クォーツ『先にも話した通り、アストラルクォーツは大容量の情報記憶媒体なのだ』

クォーツ『この星で作り出すことが出来ない以上──何者が、何の目的で、どのような手段を用いたのかは分からんが、宇宙の何処かしらから運びこまれたものだろう』

クォーツ『そしてその中には、この宇宙に関するありとあらゆる情報が大量に記録されている可能性が高い』

むつみ「情報って……なんか、漠然としていますね」

クォーツ『そうだな……目当ての内容としては、勇者の記憶──』

クォーツ『ステージ衣装の情報であったり、あとは、私の求める情報も含まれているであろうことが考えられる』

ステージ衣装の情報──実際にカースと渡りあう為に重要なものであるが、それ以上にむつみの気を引いたのはその後の言葉だった。

むつみ「その、クォーツの求める情報って?」

クォーツ『……すなわち、"宇宙の法則"だ』

クォーツは静かに、呟くように語る。


クォーツ『私はこれまで、世界に安定をもたらすための手段を求め、気の遠くなるような時間をかけて宇宙の深淵を旅してきた』

クォーツ『その旅の最中、アストラルクォーツに出会ったのだ』

クォーツ『アストラルクォーツに内在するあらゆる情報は、その多くが私にとって有益なものだった』

クォーツ『故に、それを集める事が目的を達する早道だと考えるに至ったのだ』

むつみ「クォーツの目的……世界の安定……」


むつみの呟きを聞き取ったクォーツは、それに答えるように話を続ける。

クォーツ『確かに私は、世界に安定をもたらすために……むつみよ、お前に協力を願った』

クォーツ『だが、何もこの世に存在するカースの全てをお前に駆逐させようなどと、そのような事を考えている訳では無い』

むつみ「えっ?」

クォーツの発言を聞いたむつみは、思わず素っ頓狂な声を上げた。

むつみ「でも前は、私にカースをやっつけるよう言ってましたよね?」

しかし、クォーツは気にした素振りを見せず話を続ける。


クォーツ『実際のところ、この世の混沌を収める為の手段を、私は既に持ち合わせているのだ』

むつみ「確かに……私一人で世界中のカースをやっつけるなんて、出来ないです……けど」

むつみ「クォーツなら、それが出来るんですか?」

クォーツ『理論上はな……だが、その方策は未だ完全ではなくてな』

クォーツ『それを完成させるために、アストラルクォーツの情報が必要となるのだ』

むつみ「そういう事だったんですね」

世界を安定させるという最終目的に関しては、いずれクォーツが(詳細は不明だが)どうにかこうにかするということらしい。
むつみの目下の役割は、カースを初めとする混沌の原因を退治しつつ、クォーツの欲する宇宙鉱石を集めるということになる。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:06:47.92 ID:ZvpkelKXo<>
むつみ「ところで、そのなんとかいう石……どんな形をしているんですか?」

クォーツ『うむ、私を形作るこの水晶体とほぼ同じ物と考えていい』

むつみ「クォーツと……? あれ、ちょっと待って……」

クォーツに目標となる石の外見的特徴を尋ね、その答えを聞かされたむつみは眉を八の字に寄せ、思案を巡らせる。


むつみ「(アストラルクォーツって石は、クォーツそのものとほとんど同じ見た目だって事だけど)」

むつみ「(そういえば、クォーツと初めて会った時は、今みたいに光ってなかったよね)」

むつみは首から下げた輝く石を観察しつつ、自らの記憶の中のその姿を比べる。

むつみ「(あの時の、光ってないクォーツと同じような石……透明の、水晶みたいな石……)」

むつみ「(何処かで……見かけた気が……)」

むつみは、クォーツと出会う以前の記憶を探っていた。
いつぞやの出来事かも定かではないが、むつみの人生の中で、かつてクォーツに酷似した石を見かけた事があるのだ。


むつみ「(そうだ!お父さんから渡された、あの石!)」

心当たりを突き止めたむつみの脳裏には、数年前の記憶が蘇っていた。


──────────────────────────────


「むつみ……むつみ!起きなさい」

ベッドで寝ていたむつみは、何者かに揺り動かされ、目を覚ました。
正確な時刻は定かではないが、寝入りばなの最後の記憶が遠い昔の様に感じられるため、深夜と呼ぶべき時間帯なのは確かだ。
そのような時間帯に突然誰かに起こされた経験など、今までに無かった。

むつみ「ん……うん?」

むつみは寝ぼけまなこをこすりながら周囲を見渡す。

部屋の照明は付いておらず、開け放たれた部屋の扉の向こうから差し込む僅かな明かりが唯一の光源だ。
起き抜けで、さらに部屋自体暗いため、傍らに誰か立っているのは確かだがその姿は判然としない。

むつみ「……おとうさん? どうしたの?」

だが、むつみにはその人物──頭に被った大仰なカウボーイハットのシルエットが特徴的なその男性が自らの父親だと、瞬時に分かるのだった。


父「むつみ、聞いてくれ」

父「父さんはこれから急いで仕事に出なければならない」

父「そこでだ、これを預かって欲しい」

父が握っていた手のひらをむつみの眼前で開く。
そこには、一欠片のガラス玉めいた物体があった。
暗くてそれが何なのか、形状なども含めはっきりとは分からない。

むつみ「これ……なあに?」

父「とっても大事な物なんだ」

父「いいか、これは誰にも渡してはいけないよ、いいね」

父はそのガラス玉をむつみの手に握らせる。
そして、どういった意図があるのかは不明だが、それを大切に保管しておくよう念を押した。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:07:45.60 ID:ZvpkelKXo<>
むつみ「……また、出かけちゃうの?」

むつみはガラス玉を握ったまま、訝し気な目線で父を見上げ、口を開く。
その声色には、何処か諦めにも似た感情が篭っていた。

「ああ……今度は長くなりそうなんだ」

それを受けた父は、ばつが悪そうに目を伏せ答える。

むつみ「そっか……」

半ば分かっていた答えとはいえ、父の言葉を聞いたむつみの顔には、寂寞の色が浮かぶ。

むつみの年の頃は、未だ初等教育を受け始める以前といったところだ。
そのような幼子が、なるべく親と共に時間を過ごしたいと考えるのは当然の事だろう。

だが、むつみは父の仕事──『超古代考古学者』という職業がどういったものなのか、幼いながらに理解していた。
あるいは、物心ついた頃から父は家を空けがちだった為か、それに慣れてしまったのかも知れない。

ただ一言

むつみ「なるべく……はやく帰ってきてね」

と、遠慮がちに、ささやかな要望をつたえるのだった。


父「……わかったよ」

娘の健気さを前に、父は泣き笑いのような表情でその頭を撫でる。

父「むつみも、母さんの言うことをよく聞いて、良い子にしているんだぞ」

しばらくそうしていた父だったが、やがてその手を止めると意を決したように立ち上がる。
そして、部屋の窓を開け放つと、軽い身のこなしで夜の闇へと飛び出していった。

むつみ「(なんでおとうさんって、いつも窓から出ていくんだろう……?)」


──────────────────────────────


むつみは思い出したかのように目の前の勉強机の引き出しを勢いよく開けると、中から小さな巾着袋を取り出した。

むつみ「あの、これってもしかして、そのアストラルクォーツっていう石ですか?」

その巾着の口を開き、逆さにして何度か振るうと、中から直径1センチに満たない透明の水晶のような固形物が転がり出た。

クォーツ『これは……!!』

クォーツ『まさしく、アストラルクォーツ!』

その姿を認めたクォーツは驚愕を隠し切れない様子だ。


クォーツ『……だが、アクティベートされていないようだな』

クォーツ『むつみよ、私をそれに近づけてくれ』

むつみ「はい」

むつみは首の後ろのペンダントの留め金を外し、クォーツを無色透明の水晶のような物体に近づける
すると、突如としてその物体は眩い光を放ち、その光は勢い良くクォーツへと吸い込まれていった。

クォーツ『ほう……これは……ふむ……ふむふむ……なるほど』

むつみ「(なんか納得してる……)」 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:09:35.35 ID:ZvpkelKXo<>
クォーツ『むつみよ、これは一体何処で……?』

むつみが持ち出したアストラルクォーツの欠片の情報を読み取り終えたクォーツが問いかける。

むつみ「えっと……私の、お父さんから渡されたんです……保管しておくようにって」

それを受けたむつみは、"仕事"へ出たまま未だ帰らぬ父の姿を思い起こし、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。

クォーツ『なるほど……そうか……』

むつみのその憫然たる表情を読み取ったクォーツは深入りはせず、無難な相槌の後に話題を切り替えた。


クォーツ『今調べて分かったことだが、このアストラルクォーツの欠片にも、ステージ衣装の情報が含まれているようだ』

むつみ「えっ? それはなんというか、ラッキーですね」

クォーツ『(事実、僥倖だ……早速欠片の一つが見つかるとは、幸先が良い)』


クォーツ『そうだな……試しに、変身してみるといい』

クォーツの言葉の後に、むつみの頭の中にまたもや"衣装"のイメージが流れ込んでくる。

むつみ「(よしっ……衣装チェンジ!)」

イメージを固め念じると、その姿は眩い光に包まれた。
一瞬の後、光が晴れ視界が戻ったむつみは、変身後の自らの姿を確認する。


むつみ「(これは……)」

サンドベージュのサファリハットとサファリシャツを基調とし、首元に赤いスカーフのワンポイント。
いかにも冒険家然とした衣装だった。

むつみ「(私が、探検する時の服装に……近い?)」

むつみの自前の服に比べると、その衣装は細部に至るまで遥かに精巧に出来ている。

クォーツ『なるほど……このステージ衣装はむつみよ、お前の服が元になっているようだ』

だが、その元となった物はやはりむつみが冒険時に着ている服装に間違いないようだ。


むつみ「私の服が、ステージ衣装の元になった……ということは?」

クォーツ『うむ、どうやらお前には勇者としての素質があるらしい』

むつみ「えぇ!? そ、そんな……特に自覚無いですよ!?」

突然の出来事に色めき立つむつみだったが、

クォーツ『それはそうだ、お前はまだまだヒヨッコに過ぎん、他の勇者と呼ばれる者達とは比ぶべくも無い』

クォーツ『故に、このステージ衣装自体、まだ大した能力を持ってはいないようだ』

対するクォーツの反応はシビアなものだった。

むつみ「う……そうですか……」

クォーツの、ともすれば辛辣にも感じられる指摘を受けたむつみは、目に見えて落ち込む様子をみせる。


クォーツ『まあそう腐るんじゃない……"今は"まだ力を持たないという事だ、精進を重ねるのだ』

クォーツ『お前が勇者としての素質を伸ばすことが出来れば、この衣装にも相応の力が宿るだろう』

むつみ「はい……頑張ります……」

むつみはクォーツのフォロー(?)に力無く答えると、試しの変身を解くのだった。 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:11:03.53 ID:ZvpkelKXo<>
クォーツ『ふむ……色々とあったが、とりあえず話を整理しよう』

クォーツは改まって話を切り出す。

クォーツ『まずは大目的として、アストラルクォーツを集めるのだ』

クォーツ『アストラルクォーツを追い求める事で、あるいはお前の父親の足跡を掴むことも出来るやも知れん』

むつみ「そっか、お父さんの最後のお仕事って、この石の研究をしてたんだよね……多分」

むつみ「……うまくいけば、お父さんが見つかるかも知れない……」

諸々の状況証拠からすれば父がアストラルクォーツの研究に携わっていた可能性は高く、
クォーツの言う通り、それを追っていく事で行方の知れぬ父の所在なり、現在の状況なりが分かるかも知れない。
思いがけずクォーツとむつみの利害が一致する形となった。


クォーツ『それと合わせて、勇者の意志を継ぐ者を探し、ステージ衣装を集める』

続いてクォーツは、副次的な目標を確認する。

クォーツ『カースをはじめとする、敵性存在に負けぬよう、力を付けるのだ』

すなわち、アストラルクォーツの捜索を有利に進めるための、むつみの戦力増強だ。


むつみ「……でも、その"勇者"って人は、何処に居るか分かるものなんですか?」

クォーツ『いいや、分からん』

むつみ「えぇ……分からないんですか……」

クォーツ曰く、ステージ衣装を所持しているとされる"勇者"を探し、
その衣装を授かることがむつみの戦力増強の手っ取り早い手段とのことではあるが、
しかし、その勇者の所在はクォーツでも分からないらしい。

クォーツ『分からんが、どういった場所へ赴けば出会えるか、予測を立てることは可能だ』

しかし、そのクォーツは事もなげに言い放つ。


クォーツ『そうだな……直近での狙い目は『京華学園』だな』

むつみ「京華学園……秋炎絢爛祭ですか……どうして?」

クォーツ『うむ、人が多く集まる場所であれば、"勇者"に遭遇出来る確率も高まるというものだ』

むつみ「それって……根拠が薄くないですか……?」

むつみはクォーツへと懐疑的な視線を向ける。

クォーツ『まあそう言ってくれるな』


クォーツ『聞くところによると、秋炎絢爛祭には多種多様な人種が集まるとのことだ』

クォーツ『そういった場では、およそ一般の社会ではまみえる事の無い存在も出張ってくることがあろう』

クォーツ『つまり、勇者と呼ばれる連中も参加している可能性は十分に考えられる』

クォーツ『……そして、仮に収穫が無かったとしても、単に祭りを楽しめばいい……違うか?』

クォーツの弁解じみた説明を聞いたむつみは力強く頷いた。

むつみ「……分かりました、それじゃ差し当たりの目的地は、京華学園の秋炎絢爛祭ということですね」

むつみは部屋の壁に掛けられたカレンダーを見やると、
秋炎絢爛祭の日程を確認し(あまりにも大規模なイベントの為、学園の近隣地域の市販カレンダーには日程が記載されている)出立の準備を始めるのだった。


むつみ「お小遣い、沢山持って行かなきゃ!」

クォーツ『(……存外楽しみにしているじゃないか)』


果たして、秋炎絢爛祭において、むつみとクォーツの前にはどのような冒険が待ち受けているのだろうか。 <> @設定
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:14:56.42 ID:ZvpkelKXo<>
※バベルストーン/アストラルクォーツ

宇宙の何処かで生産されていた情報記憶媒体。
その保存容量は凄まじく、1ミリメートル四方のそれに約1ペタバイトのデータが保存できる。
地球においては『バベルストーン』の名で知られている。
ちなみに、クォーツ自体を構成している物質でもある(あくまでハード面)。

クォーツの目的はアストラルクォーツと、その中に記録されている情報を集めることらしい。


※ステージ衣装への変身メカニズム

基本的にはクォーツがアストラルクォーツ内部の情報を読み取る事でステージ衣装(のレプリカ)を具現化出来るようになるが、
情報が断片化されていたりデータ保護等のロックがかかっていたりで出来ない場合もある。
その際はステージ衣装の持ち主である"勇者"に所縁のある者との接触を経て"フラグ"を立てる事で解放することが可能。
大和亜季からセクシーカモフラージュを受け取った(?)時みたいな感じ。


父が幼むつみに渡した石は父が独自に見つけてきた物で、今回研究施設から盗まれた石とは無関係 <>
◆lhyaSqoHV6<>sagasage<>2014/08/04(月) 04:17:26.88 ID:ZvpkelKXo<> 終わりです
メタネタスレからネタ頂戴しました

・イ◯ディージョー◯ズとかア◯チャーテッドっぽい流れにしてみたかった
・説得力やらなんやらを求めるあまり説明だらけで冗長になってしまった
・反省はしている

むつみちゃんのセクシーカモフラージュとか鼻血噴出レベル
もっと着せ替えさせよう <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/04(月) 10:37:34.87 ID:/uqrO0nT0<> 乙です
研究所から盗まれたバベルストーンも気になる所
やっぱりステージ衣装はおいしい設定、もっと衣装集めていこう <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/05(火) 12:53:22.87 ID:WyxM2NlC0<> 乙ー

いったい誰に盗まれ何に使われるのか?気になる展開です
そして、むつみちゃんの父親は無事なのかな?クォーツの目的も気になるな <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/08/10(日) 16:38:54.32 ID:cIz7hY1f0<>
響子ちゃん誕生日、投下します <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/10(日) 16:41:11.62 ID:cIz7hY1f0<>  私は二重人格者だ。

 五十嵐響子は自らをこう評する。


 一つの人格は、逞しく冷徹な戦士の人格。

 驚異を目の前にしても臆することなく立ち向かい、甘え無く引き金を引いて任務を遂行する人格。

 その人格は、サイボーグとして目覚め、自分の名前を知らせれるよりも先に拳銃を握らされたときに、人為的に埋め込まれた兵器としての人格だ。

 もう一つの人格は、優しく軟弱な少女の人格。

 献身的なまでに甲斐甲斐しく、人のために生きているように健気な人格。

 この人格が目覚めたのは果たして何時のことであったか。もしかすればこの人格は、永い眠りの内に押し込められていた、彼女という人間の本質なのかも知れなかった。

 相反する二つの心。
 矛盾とでも呼ぶべき二つの。


 ───正直、怖かった。

 この二つが、自分に内包されているという事実が。
 銃を握れば人間性が消え失せて、任務が終われば強さが消える。都合のいいスイッチのような心は、彼女の意志とは関係なく彼女を翻弄し続けた。

 どちらがどちらなのか、或いはどちらでもないのか、どちらもそうなのか。自分という存在を処理できないのがたまらなく怖くて、魂の在処に苦悩する。

 自分が知りたかった。何が何とわからないあやふやな自分が。

 だから─── <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:43:06.34 ID:cIz7hY1f0<>


「───私って、何才なんですか?」

 ────不意にそんな事を聞いたのは、自分という存在を見定める為だったのかも知れない。

「え?」

 夜。
 冷たい風に当たりながら、隣で同じようにしていた参謀にそう投げかけると、不意を付かれたような顔をこちらに向けた。

 普段大抵は仏頂面をしている彼女のそんな顔は珍しく、酷く素っ頓狂なものに見えて、思わず失笑してしまう。

「笑ったわね?」

「はい」

「…なんでそんな事……誕生日だから?」

 五十嵐響子は───おそらく美羽と柑奈も───自らの年齢という物を知らない。
 記憶のはじめには、もう既に成長した肉体が構成されていて、そこに至るまでの過程を知らない。

 今まで気にする事の無かったそれだが、何故今更聞いたのかと聞かれたら──

「…はい」

 ───自分を知るためなのだが、そんな気取ったようなことを言うのは少し恥ずかしかった。

 少し間を置いた返事を受け取ると、「ふうん」と含めたように呟きながら、夜景へと顔を逸らす。

 二人が言葉を止めて静寂が訪れると、壁の向こう側のどんちゃん騒ぎが存在感を増した。
 主役を欠いた誕生日パーティ。
 響子が場を外してなお冷めやらぬそれの中から一際豪快な笑い声が響くと、二人同時に背後を見やり、そして肩を竦めた。

「…お酒、まだ飲んでるんでしょうか」

「…大人って、いつでも酒を飲む理由を探してるものよ」

 アンニュイな笑みを浮かべてそう語った彼女の右手にも、月光を受けて淡く光るビール缶があった。

 彼女も他ならぬ、酒を飲みたい大人の一人なのだろうと、ぼんやりと理解する。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2014/08/10(日) 16:44:05.46 ID:cIz7hY1f0<> 「少し、心配です」

「悪酔いは、しないと思うの…だけれど…」

「…歯切れ悪いですね」

「…彼らも大人よ?」

「だから心配なんですっ」

 小さく頬を膨らませてそう言うと、負けた、とでも言うように肩を竦めて、缶ビールの口にそっと口付けをした。

「…正直なんですね」
「貴女もそのうち、ね」

 ふっと嗤いながら、見せつけるようにビール缶を揺らす様を横目に伺った響子は、酒に縁の無いように生きようと淡く誓う。

 缶の中身を少しだけ口に含んだ参謀は、響子の態度がなんだか懐かしいように思えて、私にもあんな頃があったかと思いつくと、時間の流れを残酷に思いながら何とも言えない感傷に浸った。

「…十五才」

「えっ?」

「貴女が聞いたんでしょう?…十五才よ」

「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:45:22.37 ID:cIz7hY1f0<>  十五才。
 存外に若い、というのが正直なところだった。
 普通の人ならばまだ学生───それこそ、大人と呼ばれるのはまだ早いような年齢。もっと言えば、銃を握るにはあまりにも。
 ああやはり、自分はどこかおかしい存在なのだと。

 それを告げた参謀の顔は伏せられていて、その表情を読み切ることは困難だった。
 ただ、どこか憂鬱な佇まいは、何かをひどく悲しんでいるように見えて。

 ──何か言葉をかけるべき。
 そう心の奥の何かが告げている。 

 だが、肝心の言葉が見つからない。
 続く言葉を紡ごうとして紡げず、言葉を探り当てることができない。

 ただただ胸が詰まるばかりで、何も。

「……ねぇ、貴女は」

 後ろめたさの蔓延する沈黙を切ったのは、先に言葉を失った参謀。
 ひどく物憂げな相貌は、これから紡ぐ言葉の色をそのまま表しているようだった。

「…私が言ったことの意味、わかるかしら」
「貴女はまだ十五の女なのよ?…」

 そこまで言い、詰まらせたように言葉が止まる。
 重苦しい沈黙だけを残して。

 だけど何を言おうとしているのか、なんとなくわかる気がした。
 それによって参謀が苦しんでいるらしいことも、その顔を見ればそれとなく。


「……私は十五でも…」

 気づけば口が開いていた。
 あまりに自然に出たもので自分で喋った気がしなかったけれど、だからこそ続きに詰まることもなく。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga sage<>2014/08/10(日) 16:46:46.15 ID:cIz7hY1f0<> 「…普通の女の子じゃありませんから」

 なんとなく星を眺めながら、参謀に、誰よりも自分に言い聞かせるように呟く。


 普通の女の子ではないこと。
 それは、五十嵐響子が唯一、明確に理解していること。
 同時に、彼女が彼女たる所以。

 自らの二面を恐れる彼女が、それ以上に恐れることがある。

 自分を構成するどちらかが消えてしまうことだ。

 例えば強さを失ってしまえば戦うことができなくなってしまう。
 優しさを失ってしまえば笑うことができなくなってしまう。
 そのどちらもあってはならないことだ。

 だから彼女は、大きな悩みの種であるそれを否定することだけはしなかった。
 強さも優しさも、必要なものだったから。その持ちようがどれだけ歪であっても。

 苦悩を孕んで、苦しくても歪な存在であり続ける。

 普通でないことなど、自分がよくわかっていた。

「…………」

 普通でないという言葉が参謀にどう聞こえたのかはわからない

 ただ―――

「……強いわね」

 ―――と呟いた声は幾分かすっきりしているように聞こえた。

 まだ何かつっかえるものがあって、割り切れていないようにも思えたが、今はそれで十分だ。

「……………」

 次の沈黙に居心地の悪さはなかったから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2014/08/10(日) 16:48:00.45 ID:cIz7hY1f0<>

「…これ、貴女の誕生日祝いよ」

 そう言って不意に突き出されたのは、先ほどまで彼女が握っていた缶だった。

「十五って、言ったじゃないですか」

 視界の端に銀の輝きを視認した響子が少しだけ顔をしかめながら両腕を組み合わせて拒絶すると、参謀は何がおかしいのか失笑したようにくすりと笑った。それがなんだか小馬鹿にされているように思え、思わず「なにが可笑しいんですか」と言う声に力がこもる。

「よく見て」

 缶のラベルを見せつけるように持ち直しながら言うので、渋々というようにそれを覗きこむ。

「…りんご、サイダー」

 なんと、まぁ。

「笑うわよ、これ」
「新モノかって思ったら、…これ、とんだジョークグッズあるものね」

 確かに、パッと見ればビール缶にも…というか、あからさまなパロディしているような。
 よく確認しなった方もしなかった方もだと思わないこともないが…

「だめよ、炭酸でもこれじゃ…だから、ね」

 露骨に残念そうな顔を作りながら、ずいと寄せられる缶ジュース。
 「それじゃあ」と苦笑して今度は快く受け取った。

「乾杯」

「…乾杯」

 夜風で体を冷やしながら、夜景を前にして炭酸を飲み下す。
 炭酸に果汁っぽい甘味が目立つ、なるほど確かにリンゴジュースだ。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:49:07.34 ID:cIz7hY1f0<>  十五才の少女、五十嵐響子は自らの年を知った。
 それが彼女の中で何を生み出すのか、今はまだわからない。
 自らを規定する助けになるか、それとも。

 すぐに答えの出るものではないだろう。
 今はまだ、彼女は自分に怯え続けて、それでも立ち向かって生きていく。

 誰にも知らせない戦いはまだ始まったばかりなのだから。












 月 日

 昼ごろの話だ。
 少し遅めの昼食を片付けていたとき、GDFのほうからコンタクトがあった。
 なんでも近々大きなプロジェクトを動かすとのことで、それに協力してほしいとの話。
 詳細は追って伝えるとのことで、今日は挨拶のようなものらしい。忙しいだろうに中々律儀だ。

 それにしても、いよいよ俺の頭脳が認められてきたて感じか。
 最近おざなりになっていたこの日記にも書くことが増えることだろう。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga sage<>2014/08/10(日) 16:51:22.37 ID:cIz7hY1f0<> 9月10日

 冗談じゃない。何が協力だ、何が契約だ。
 あんなもの、脅迫じゃないか。
 軍人のくせにビジネスマンだか詐欺師だかヤクザみたいな真似しやがって、あんな横暴許されてたまるか。
 報酬が潤沢だろうと容認できるか、人体実験などと。



 月 日

 プロジェクトが始まった。
 くそったれ、誰が日記になど書いてやるものか。
 この先正気を保てる自信がない。


 月 日

 いいニュースだ。
 計画を主導していた総司令が失踪したおかげで、プロジェクトが中止になった。
 報酬周りとか面倒ごとは増えるだろうがさしたる問題ではない。
 罰があったたんだろうよ、いい気味だ。



 月 日

 くそったれ。
 司令が交代したっていうのに、なんだって計画を続けようとする。
 そこまでしてヒーローを淘汰したいのか。多少の犠牲なんてなんでもないってのか。
 このままじゃチームの誰かが狂いだすのも時間の問題だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:52:41.86 ID:cIz7hY1f0<>  月 日

 俺は預言者らしい。
 なにせカースなんて物の研究を始めようなんてやつが現れたんだからな。
 おまけに反対意見がでないときた、これは本格的に末期だぜ。

 後天的に能力者に匹敵する力を手に入れた例として、カースドヒューマンの存在は視界にちらつくものがあった。それに手を出さなかったのは、その存在を恐れていたからだ。
 そこまでして何かしらの成果を上げなきゃならないところまで来たってことでもある。

 俺たちはGDFの闇を知りすぎた。


 月 日


 研究所に能力者の傭兵が配属された。
 おそらく、カースドヒューマンの研究に対する安全策としてだろう。
 正規の隊員を配属しないあたりに、上層部のこの実験に対する認識が透けて見えるような気がする。

 皮肉なことだがカースの核はある意味では信頼のあるエネルギー源だった。
 その性質が人類に敵対するものでなければ完璧だったのだが。

 しかし、カースドヒューマンを作り出してしまったところを見ると、もう戻れないという思いが込み上げてくる。
 やり遂げるしかない、という感じだ。

 そういえば、最近日付を書いていなかったな。
<>
◆BPxI0ldYJ.<>saga sage<>2014/08/10(日) 16:53:53.06 ID:cIz7hY1f0<> 6月30日

 冗談じゃない。成果が出たからと言って調子に乗り過ぎだ。
 二つ以上の核が存在するカースドヒューマンなどと、何が起こるかわからない。
 ハイブリッドカースドヒューマン?呪いを受け入れる体質だと?ふざけるんじゃない、研究所は遊びの部屋じゃないんだぞ…


7月5日

 くそったれ、だから止めろって言ったんだ。
 あんなモンはもうカースドヒューマンなんて呼んで良いものじゃない、バケモノだ、人の形をしたバケモノだ。
 カースの呪いに心と体を食いつぶされた、カースドヒューマンの成れの果てと言ってもいい。
 やっぱりあれには手を出すべきじゃなかったんだ。護衛の傭兵部隊も壊滅状態、遂に死人まで出しちまった。

 どうなっちまうんだよ、俺達は…


7月20日

 あの野郎が失踪した。
 どんな手段を使ったのかは知らんが、バケモノと器材を持ってだ。
 研究中止を言い渡された直後にこの様だ。
 あいつにとってカースとはどれほどの意味を持っているって言うんだ…
<>
◆BPxI0ldYJ.<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:55:19.94 ID:cIz7hY1f0<> 8月5日

 もうだめだ、この研究所にマトモな人間は残っちゃいねぇ。
 上層部に結果を催促されたからと言って、またカースの力に手を出すってのかよ、何が『被検体四人全員を救うため』だ、何でリスクを考えない。
 そもそも、内一人は正真正銘のバケモノになったんだ、救えるわけが無いだろうに……

 どうせ逃げられないんだからもっと堅実にやってほしいもんだ。


 月 日

 やりやがった。いや、俺も協力したことだが
 書類を偽装してまでカースの研究を続けて、遂に成果を出しやがったんだ。奇跡だ、奇跡が起きたんだ。
 被検体がどうのこうの言ってたが、知ったこっちゃねぇ。こいつなら上層部を黙らせて、デカい報酬を受け取ってこの気味悪い研究所を後にできるんだ。
 A,Cジェネレータ。
 こいつの生み出すエネルギーなら。


 月 日







 月 日





───────………………
────………… <> ◇設定 
◆BPxI0ldYJ.<>sage saga<>2014/08/10(日) 16:58:07.88 ID:cIz7hY1f0<> ・A,Cジェネレータ

 シンデレラ1の戦闘力を裏付けする強力なエネルギー発生装置。
 特殊なエネルギー晶体(仮称:コア)を中心に、それを制御する様々な電子機器で構成される。
 特異な点として、これから発生されるエネルギーはカース由来のエネルギーにのみ反応してある反応を起こすことである。
 主にカースの泥にエネルギーを照射した際の発光現象や、その際のカースの泥の消失などが認められているが、詳しい観測が困難で、詳細は確認できていない。

 この装置から得られるエネルギーは強力ある反面、欠点も備えている。
 一つは、使用者の精神的コンディションにエネルギー発生率が左右されること。(もっとも、この点に於いては精神操作によりある程度クリアされている)
 二つは、コアの部分にあまりにもブラックボックスが多く、関係者や資料が失踪していることも併せて量産の目処が立っていないことである。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/08/10(日) 17:00:34.66 ID:cIz7hY1f0<> 響子ちゃん誕生日おめ!

露骨に伏線を張っていくスタイル
千奈美に今まで響子→柑奈がタメ語だったのは互いの年齢を知らないからっていうどうでもいい設定 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/10(日) 18:32:31.56 ID:MH7NAb0VO<> 乙ですー
お互いの年齢も知らなかったのか…
なんともブラックとしか言いようがない

バケモノ…うん、ダレナンダロウナー <> ◇設定 
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/10(日) 21:33:55.53 ID:cIz7hY1f0<> 二重人格の件が説明不足過ぎたので追記

・シンデレラ1の好戦傾向

外部から好戦的な性格を植え付け、戦闘に対する恐怖を薄れさせる操作を施されている。
あくまで植え付けられたに過ぎないため、本人には本来の人格とは剥離した『好戦的なもう一人の自分』が存在しているように感じる <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/11(月) 01:42:08.13 ID:w6Hrz0+60<> 乙ー

響子ちゃん誕生日おめでとう!
なかなかブラックな……。サイボーグ達には幸せになってほしいな

そして、なんか毒にも薬にもなりそうなモノが…果たしてどうなるやら <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 01:49:42.87 ID:Wlg5+QCQ0<> 学園祭時系列で投下でごぜーます <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 01:52:10.65 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「…」

ぷちユズ「みぃ?」

両腕で一匹のぷちユズを抱きかかえながら、建物の陰で雨に濡れながらユズは困っていた。

『デアエデアエ!デデデアエ!!』

『ゾイゾイゾーイ!!』

ユズ「ぷち、お願い」

ぷちユズ「みみみっ!」「みー!!」

『グオオオオオオ!?』

『チッコイノニマケタ!!』

黒いコートも出さず、鎌も杖もバッヂにしたまま、抱きかかえていない方の二匹のぷちユズに近づいてきたカースを倒させている姿は少々異様であった。

膨大な魔力を感じたと思ったら学園の裏の山に巨大なクレーターが発生していたのだ。大罪の悪魔の仕業かと思いきや、感じたものはまるで別の力だった。

ユズ「強欲の力を感じたけどすぐに消えた…多分だけど、身を守る為とかだったのかな。それもすぐに見失っちゃったし…」

強力な力を感じて飛び出したはいいものの、どうすればいいのか全く思いつかないという状況だ。

ユズ「姫様達はクラスメイトと教習棟に避難中だと思うし…建物の中は安全なんだよね、ぷち?」

ぷちユズ「みみぃ!」

ユズ「…数匹見かけた?…だ、大丈夫…だよね?…蘭子様も一緒だし、戦えるから大丈夫かな…」

ユズ「それに…傲慢の力を感じるね。そして昨日みたいに雨が原因じゃないなら、悪魔か何かが生み出したとしか思えないカースの量…アザエルが近くにいるのかも」

初代大罪の悪魔の存在など知らないユズは、心当たりは一人しかいなかった。そしてその予感は間違いなく的中している。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 01:55:24.95 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「…でも、空から感じるのは七つの罪の気配じゃないんだよねー。つまり、これは少なくとも犯人は二人いるって事で…」

ユズ「強欲の悪魔もいたっぽけど…もう力を使う事は無い気がするね、身を隠してるっぽいもん」

アイドルヒーローのライブは中止になった。詳しい情報は伝わっていないが、あのクレーターの犯人の目的を阻止するのが目的なのだろう。

ならばアザエルの存在を把握していない可能性が非常に高い。だからここはアザエルの存在を予測しているユズが少しは動くべきなのだろうが…

アザエルは一度も攻撃を与えることは愚か、魔力を逆に操作されるという屈辱を与えられた、あまりにも強い堕天使だ。

ユズはまだ彼女に勝つ方法を見出していない。だから今向かうのは無謀だ。

かといってあの空の敵とアイドルヒーロー達と共に戦う…のも、ユズの精神的に無理だった。

目立つのは嫌だし、何より自分のような者が今いきなりアイドルヒーローと共闘すると言っても拒否される気がする。

何をすればいいのか分からない。避難している人たちとずっと一緒にいるのすら、ユズの潜在意識が拒否していた。

大罪の悪魔狩りすら満足に進んでいない。既に二人倒している時点で大金星ではあるものの、進んでいないというのは結構つらい。

憤怒の街で黒幕から奪われたサタンの魔力を全てではないが側近のマナミが取り戻し、サタンの呪いに対抗する力もある程度戻ってきている。

だからこそ、今こそユズはアザエルすら超えなくてはいけないという使命感に燃えているのだが…一種のスランプに陥っているのだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 01:56:52.78 ID:Wlg5+QCQ0<> ―ガサガサッ

ユズ「ん?」

そこに何か妙な気配を感じ、思わずそちらを見た。

それは木の上から降りてきた一匹の白い鳥だった。木の下で雨宿りをしているように見える。

ぷちユズ「…みぃ〜?」

ユズ「あ、ちょっと…もう」

興味を持ったのか、ユズの腕からぷちユズが飛び出し、その白い鳥に近づく。

ぷちユズ「みみぃ♪」

白い鳥を撫でようと、ぷちユズが手を伸ばす。

だが触れる直前にその白い鳥は逃げるように飛んでしまい、建物の角を曲がって見えなくなってしまった。

ぷちユズ「みぃ…みー!」

そしてぷちユズもそれを追いかけて飛び出してしまった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 01:58:13.68 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「コラ!どこにいくのー!?」

ぷちユズ「みみー?」「みぃ?」

ユズ「二人もついてきて!」

ぷちユズ「「みー!」」

あまり遠くに行かないように、ユズは慌てて飛び出した白い鎌のぷちユズを追いかけた。

ユズ「ぷちー!遠くにいっちゃ……」

しかし、ユズが建物の角を曲がった瞬間、言葉が思わず途切れた。

その視界に映ったのは異様な光景だった。

…白い鳥の体がパックリと裂けていたのだ。

そしてそこから触手や牙が飛び出しており、ぷちユズは触手に捕えられ今にも食べられそうになっていたのだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:00:49.84 ID:Wlg5+QCQ0<> ぷちユズ「み!みぃぃぃ〜!!」

ユズ「ぷ、ぷち!?今助けるから…!」

ユズはバッヂを杖の姿に戻し黒いコートを纏い、その白い怪物に杖を向けた。

「うるさいな…」

ユズ「しゃ、しゃべった!?」

その白い怪物…白兎が喋ったことに思わずユズは驚いてしまう。魔界にもこんな生き物はいなかったし、それにこの白い怪物からはカースの気配を感じる。

正直に言って、カースの気配を持つこの白い怪物がまさか意思疎通が可能だとは思ってなかったのだ。

白兎「黙って聞いておけば…助けるだって?何故だ、アタシがコイツを喰らって何が悪い。ウザいよ」

ユズ「う、うるさい!ぷちを離して!」

ぷちユズ「みみみー!」

ユズの背後から緑の鎌のぷちユズが飛び出して鎌鼬を放った。

触手を切り裂きぷちユズを開放するも、再生した触手に再び掴まってしまう。

ぷちユズ「みぃぃ!?」

白兎「そっちもウザいよ」

さらに緑の鎌のぷちユズに触手が突き刺る。そしてぷちユズの核であるクリスタルが砕け、消滅する。

ぷちユズ「み…?」

ユズ「ぷちっ!?」

魔力がクリスタルから溢れると同時に自動的に先程の様な鎌鼬が再び白兎に襲い掛かるが、今度は甲羅の様なものを泥で構成して防いでしまう。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:04:02.62 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「…黒、一回塔に帰って」

ぷちユズ「みぃー」

ユズはまだ生きている黒い鎌のぷちユズを、一度塔へと帰らせる。白い鎌のぷちユズはまだ逃げられない。

白兎「なるほど。このちっこいのは魔法で作った生物っぽいな…ちょっと傷つけても血が出ないのはそういう訳ね」

ユズ「…何者なの、キミ?…カース?それとも生き物なの?敵なら容赦しないよ」

魂から感じられるのは、目の前の存在が人間ではないという事。ならば戦っても問題はない。

白兎「この程度の事で驚いたのか、魔法使い。動揺が隠せてないぞ?手が震えてるじゃないか」

ユズ「…そっちこそ、さっきから偉そうだね。カースとその力は関連しているっぽいけど、どうなのさ」

白兎「偉そう?…お前が生まれつきこっちより格下だというだけの話だ。そしてこの力も永遠に理解できないだろうさ」

ユズ「そっちこそ、ただの魔法使いだなんて思ってたら痛い目に合うよ」

白兎「ふぅん…じゃあ、やってみろよ」

ユズ「…その高慢な態度、壊してあげるよっ!」

杖を持っていない方の手に缶バッヂを取り、鎌の形へと戻す。

同時に杖に魔力で構成した鎌の刃を付与し、死神の鎌と魔力の鎌の二刀流の形をとった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:06:25.70 ID:Wlg5+QCQ0<> 白兎「…ああ、思いだした。『死神』って呼ばれた魔法使いの…柚、だっけ。なるほどね、指名手配されながら逃げ延びることが出来たあの…!」

ユズ「…うるさいな!」

ユズが二つの鎌を器用に振り回すが、白兎は赤い瞳に真っ白な体の二足歩行の人のような姿に変わりぷちユズを掴んだまま華麗なステップで踊るように躱していく。

白兎「ダメだなぁ、さっきより動揺してるじゃないか。それじゃあこのちっこいのがアタシに食われるのが先かもなぁ?」

ぷちユズ「みぃぃぃぃぃ!?」

白兎「キシャシャシャ!魔法生物の癖に食われることにビビってやがる!」

白兎は完全にこの状況を楽しんでいる。ユズを煽り、動揺させ、その顔を見るだけで楽しい。

ぷちユズを喰らう事も考えたが、それはこの人質の役割を終わらせてから…そう考えてほくそ笑む。

ユズの振りおろした魔法の刃が白兎の躱した背後にあった木に突き刺さる。

刺さった瞬間に魔法の刃を一旦消すと、ユズは杖を真横の白兎に向けた。

ユズ『大いなる我が力を用いて、星空・宇宙の理を読み解き、星々の輝きよ我が敵を貫け!スターライトスピアー!』

星の力で構成された光の矢が、白兎に放たれる。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:12:12.78 ID:Wlg5+QCQ0<> 白兎「ダメだね」

だが白兎は変形して体に穴を開けて矢を回避すると、思い切りユズに駆け寄る。

ユズ「しまっ…!」

白兎「はい、残念でした♪」

そのまま懐に潜り込み、ぷちユズでユズの腹部を思い切り殴った。

ぷちユズ「みー!?」

ユズ「っ!」

殴られたユズはそのまま地面に倒れ、そこを白兎は追撃とばかりに蹴った。

白兎「ほんっと、分かりやすかったよ!バーカ!」

ユズ「あぐっ…うぅ…」

水たまりのせいで泥まみれになってしまった。殴られ蹴られ。とにかく体が痛い。

白兎「…こんな雨の中、泥水に突っ込んで…惨めだなぁ」

ユズ「ゴホッ、ゲホッ、ううう…」

ぷちユズ「みぃぃ…」

杖と鎌を支えに立ち上がり、口の中の泥を咳をしながら吐いた。

白兎「さっきの攻撃でまた思いだした。目の前でお前を見たことあったなぁ…あ、まだ戦うんだ…キシャシャシャ、バカめ」

触手で捕えたぷちユズをぶら下げ、ユズに見せつけるようにニヤニヤ笑う。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:13:40.47 ID:Wlg5+QCQ0<> 白兎「このちっこいの、結構丈夫だな…あーあ、目を回して気絶してる。さすがに反動はあったのか」

ユズ「…」

挑発だ。分かり易いくらいに、白兎はユズを煽っている。

それを自分に言い聞かせ、ユズは自身に冷静な判断を取り戻させた。

ユズ(…強い…ううん、今のはアタシの焦りも酷かった…ぷちが食べられるかもしれないっていうのと、アイツにあの時の事を思い出させられたから…)

ユズ(落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ…コイツも越えなきゃ、アザエルも越えられない…!)

ユズ(最悪、ぷちには自壊って手段もある…でも、あの子は回復…自壊してもアイツを回復させちゃうかも…どう動けば…ううん、やれることは…ある!)

ユズは白兎から距離を取り、再び同じ呪文を唱える。

ユズ『大いなる我が力を用いて、星空・宇宙の理を読み解き、星々の輝きよ我が敵を貫け!スターライトスピアー!』

白兎「またそれか!もっとでかい炎の魔術とか使えるんじゃなかったか?」

白兎が再び矢が当たる直前に穴を開けて変形して矢を回避する。

ユズ「…ううん、これでいいんだ!『風よ!』」

魔法の風に乗って急加速しながら、体に穴を開けたままの白兎に二つの鎌を振り下ろす。

ユズ「同じ攻撃なら、同じ避け方をする可能性がある…予想通りだったね!!」

白兎「っと!?」

振り下ろされた鎌を白兎は再び変形して固い腕で受け止めるが、さすがに少し驚いたようだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:14:51.89 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「まだまだっ!『水よ!』」

鎌の刃を付与している杖から水流の束が白兎の赤い瞳に向けて噴射され、思わず白兎は目をつぶる。

白兎「うぐっ…!」

そしてそれと同時にユズが鎌と杖をバッヂに戻し、素早く真後ろに回り込んでバッヂを元に戻す。

しかし、その気配は白兎がしっかり察していた。白兎は真後ろに鋭い触手を這わせ、ユズの足を切り、さらに転ばせる。

ユズ「…!」

足の傷が痛む。だがユズは転びながらも鎌を投げた。

白兎はそれを躱すが、なんと回転する鎌がブーメランのように戻ってくる。

白兎「!…なんて動きするんだよ、この鎌…」

振り返って戻ってくる鎌も余裕で回避しようとした白兎の視界に映ったのは今にも鎌に当たりそうな半透明のカード、そしてパリンと…ガラスが割れるような音が聞こえた。

白兎「…は?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:17:05.63 ID:Wlg5+QCQ0<> 黒い鎌のぷちユズが、再び現れた。ユズが直接召喚しないことで意表を突くことに成功したのだ。

だからユズは急いで命令を下す。

ユズ「…黒!!あいつの動きを!!」

ぷちユズ「みーみみ!」

現れた黒い鎌のぷちユズが現れ白兎の動きを封じ、そして消える。

白兎「なっ…バカなっ…!」

それはユズが生み出した特殊な召喚魔法だ。カードを生み出し、破壊と同時に召喚し、すぐに還す。

水で目を攻撃した時に、同時にセットしていたのだ。真後ろに回り込んだのもカードに意識を向けさせない為。

動きを魔法で封じられた白兎は接近する鎌を回避することはできない。

回転する鎌が白兎を真っ二つに切り裂き、上半身と下半身から血を吹きだしながら倒れた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:20:56.58 ID:Wlg5+QCQ0<> 真っ赤な血にユズは思わず驚く。

ユズ「あ、あれ?カースは血なんてないのになんで血が…いや、そんな事より今はぷちを…!」

だが驚きよりも救出が先だ。気絶していたぷちユズをユズが血だまりから救出する。

ぷちユズ「………みっ!…みぃぃぃ〜!!」

目を覚ましたぷちユズが、ユズに抱きつき、泣きながら傷を治すために回復させる。

ユズ「ゴメンね、怖かったよね…でももう勝手に一人になっちゃダメだからね?」

ぷちユズ「みみ、みみみぃ…!」

腕の中でぷちユズは首を激しく上下に振った。

ユズ「はぁ、アタシは泥まみれだし、ぷちも血まみれだし…ちょっと掃除したら塔に行って体洗おっか?」

ぷちユズ「みぃ!」

そうぷちユズが返事をした次の瞬間、足元の白い泥が血と共にうねりながら再び動き出す。

ユズ「うわぁっ!?」

足元をすくわれユズは転び、転んだユズに白い泥が覆いかぶさってきた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:23:38.86 ID:Wlg5+QCQ0<> ユズ「!?…やめっ、離せっ!離してっ!!」

ぷちユズ「みー!?みっみ!」

白兎「…はいはい、邪魔だから遠くでカースとでも遊んでな」

白い泥はどんどん大きくなってユズの動きを封じていく。ユズの腕の中で暴れるぷちユズは、遠くにぶん投げられてしまった。

ぷちユズ「みぃぃぃ…ぃぃぃ…ぃぃぃ!」

ぷちユズの中でも白い鎌…回復魔法のぷちユズは戦闘が苦手だ。カースと出会ってしまえばたちまちピンチになるだろう。

ユズ「ぷちーっ!?…うそ、なんで生きて…」

白兎「遊びは終わりだ…殺してやるよ、アタシを殺したんだから文句はないな?」

次の瞬間、電流がユズの体を駆け巡った。

ユズ「…っああああああ!?」

白兎「キシャシャシャシャシャシャ!!悲鳴は肯定と受け取ってやるよ!」

不機嫌がMAXに達した白兎の赤い瞳がユズを睨み付けていた。

そして、その姿は先ほどまでの『人間に近い不定形』ではなく、完全に人に似た姿。

その姿は…白い髪に白い肌、赤い瞳のユズだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:26:53.48 ID:Wlg5+QCQ0<> 押し倒された状態で、何度も何度も電流を流される。いくら人より丈夫で体力がある死神のユズでも、意識が朦朧とし始める。

ユズ(…やだ、意識が…これ…じゃあ、まほうも…)

白兎「…ダメダメダメダメ、もっと苦しそうにしてみろよ。アタシに刃向ったことを泣きながら懺悔してみろよ…なぁ?」

ニヤニヤ笑う白兎によって足首から少しずつ上に登るように、鋭い爪で深い傷をつけられていく。どんどん血が流れ、目の前が真っ暗になりそうだ。

ユズ(誰か、だれか…たすけ、て…)

???「…懺悔は、別の場所…もっと相応しい場所でやるべきよ」

ユズ「こ、この声…まさか…」

その声が聞こえた瞬間、ユズは意識を無理やりたたき起こす。

白兎に大量の刃物が襲いかかり、白兎はそれをユズの上から飛び退いて回避する。

ユズに当たるかと思われたその刃物も、当たる直前にまるで幻のように消えてしまった。

白兎「ッチ、誰だ!」

???「私はキヨラ。その子の味方よ」

白兎が声の方向を見ると、メイド服のキヨラが両手に大量のメスを構えて立っていた。

ちなみにユズはうつ伏せのままで姿は見えていない。

ユズ「ほんとうに…キヨラさんだった…どうして?」

キヨラ「ユズちゃん、助けが遅くなってごめんなさいね。その質問は後で答えるわ。あとちょっと、我慢してね?」

ユズ「…わかり、ました」

そう返事をするとユズは力尽きて完全に地に伏した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:30:20.40 ID:Wlg5+QCQ0<> 白兎「なんでだよ…アタシの敵なんだから、あのまま死んでしまえばよかったのにさぁ…」

白いユズの姿の白兎は、怒りを隠す気はないようだ。

キヨラ「いけない子ね、いつか神様の罰が下されるわよ?」

白兎「…はぁ、神の罰?…バカかお前。子ども扱いするんじゃねぇよ。全ての人を見守っている『とってもやさしい神様』なんて…いないのに」

キヨラ「…そう、貴方はそう思うのね」

白兎は深い溜息をして、赤い瞳でキヨラを見た。可哀想なものを見るように。

それはキヨラも同じだった。白兎の言葉に、何かを感じたのだろうか。その視線は怒りだけではない感情を宿していた。

白兎「もういい…カルト信者は嫌いだ。顔も見たくないね。ストレスはソイツボコって発散したし。別の所に行かせてもらうよ」

キヨラ「そこまで言われて…逃がすと思っているの?」

白兎「逆に言ってやるよ、アタシを捕えられるとでも思っていたのか?って。出てこい救世兵」

骨、肉、羽…流れるように白い翼を背中に作った白兎は、手に4つの核を生み出して救世兵と呼ぶ兵士型カースを放ち、飛び去る。

白いユズの姿はたちまち白い鳥の姿になり、すぐに見えなくなってしまった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:34:42.88 ID:Wlg5+QCQ0<> キヨラ「これもカースね…」

左右から二人ずつ、救世兵がキヨラに剣を振り下ろす。だがキヨラはそれを二つの医療用鋸で受け止め、押し返してしまう。

キヨラ「鎧…面倒ねぇ…」

??「キヨラさん!こいつらの属性は正義!物理は無効!弱点は炎!…です」

キヨラ「物理無効で…炎が弱点?それは良い情報ね…」

バッグの中から、何かの声がキヨラに情報を伝える。

次の瞬間、救世兵だけが天聖気の炎に包まれていた。

??「え…?早すぎて見えなかった…」

キヨラ「炎が弱点なんでしょう?これが一番早かったのよ…あまり、簡単に使う物でもないけれどね」

キヨラはすぐにユズに駆け寄り、ボロボロになったその体を魔術で癒した。

キヨラ「…出て行ってしまったあの『お嬢様』を探していたら…まさかユズちゃんに会うなんてね。とにかく、助けられてよかったわ」

彼女は涼宮星花捜索隊長が飛び出した後、みくには中を探してもらいって自分は外へ探しに来ていたのだ。

キヨラがここに来たのは本当に偶然であり、キヨラは今その偶然に感謝した。

キヨラ(多分、体の動かし方から見て…あのお嬢様は腕に自信があるはず。そこまで心配しなくても大丈夫…よね)

気を失ったままのユズを背負い、キヨラは一旦エトランゼに帰ることを決める。

バッグの中のぬいぐるみが嫌がっている気がしたが、バッグを軽く振ったらリアクションが無くなったので問題ない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:38:25.89 ID:Wlg5+QCQ0<> キヨラ「…本当に、よく眠ってるわね。気絶とはいえ、目を覚ましてもいいはずよ?」

返事は無い。落ち着いたような寝息だけが背中から聞こえる。

正直言えば背負うのが楽な身長差ではないのだが、そこは仕方ない。

??「…ねぇ、どうしてこんなに眠っているの?…もっと強いはずじゃない、私達を倒したのよ?」

??「疲労状態だからじゃないの?」

キヨラ「…疲労、いえ…心労ね。体よりも心が弱っているみたい。…ベルフェゴールちゃん、後であの白いモノの説明を聞くからよろしくね」

ベルフェゴール「…はーい。もう情報は手に入れたから整理しておきます…」

中のぬいぐるみに命令をして、チャックをしたバッグに防音の魔法をかける。

いつのまにか死神の黒コートの姿から人間の時のパーカーになったユズは、キヨラに完全に体重を預けている。

キヨラ(…最初から調子が良すぎたのが、逆に負担になっているのかしら。それとも、誰かに負けたことがあったのかも…)

雨の中、キヨラはユズを背負って店へ向かう。

キヨラ(誰かの為にもっと強くなりたい。そう願うのはとても素敵な事よ…でも、体を壊したら元も子もないの)

キヨラ(サタン様の指示が間違っていると言う訳ではないわ…人に憑依した七罪の悪魔を狩るには死神という種族…ユズちゃんが必要)

キヨラ(目立つわけにはいかない任務、単独でもおかしくはない。でも…狂ったのよね『死神事件』で…いろいろと有名になっちゃって)

キヨラ「もう既に二人…貴方は頑張ったわ、ユズちゃん。だから、少しだけ休みましょう…サタン様の体調も良くなったのだし…ね?」

返事は無い。当たり前だ、ユズは気を失っているのだから。

キヨラ「…体調が万全になったら、私も少し手伝ってあげるからね」

キヨラ(…店のスペースを借りて寝かせるのはキツイかしら…目が覚めないままなら、保健室に行きましょう) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:41:37.34 ID:Wlg5+QCQ0<> ――


教習棟の廊下に、仁加と加蓮は避難してきていた。

殆どの人は教室に避難しているらしく、二人は人気のない廊下で雨で濡れた体を拭いていた。

仁加「…むぅ」

加蓮「仕方ないよ、あんなすごいことが起きたらアイドルヒーローはみんなを守らなきゃいけないでしょ?」

仁加「わかるけど…んー!雨も降っちゃうしカースは出るしリサお姉ちゃんのライブ見れなかったし!なんなのなの!」

『ウルセェ!』

仁加「?」

仁加が苛立ちを吐き出したその時、背後からカースが飛びかかってきた。

とても小さく、地を這うようにしていたため、気付くのが遅れた。

加蓮「仁加ちゃんっ!」

『ガボボボ!?』

仁加「うわっ!びっくりした…」

仁加に襲い掛かったカースは、加蓮の槍によって貫かれ消えた。

加蓮「…建物の中にもカースがいるし、やっぱりただ事じゃないみたいだね…教室とかに避難してる人たちは大丈夫かな?」

教室にカースが入ってしまえば無力な人が多い教室では大変なことになってしまうだろう。

実際は扉に細工がされてあるため大丈夫なのだが、やはり心配してしまう。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:44:12.79 ID:Wlg5+QCQ0<> 仁加「あれれ?…ねぇねぇお姉ちゃん、玄関はもうカースが来ないように守ってる人がいたの。全部そうでしょ?」

加蓮「多分そうだと思うけど…あれ?じゃあ今のカースはどこから?…まさか守ってる人がやられた…ってわけじゃないよね?」

仁加「わかんない…窓とかから入ってきたのかな?」

加蓮「うーん…でも仁加ちゃん、この窓…隙間が殆ど無いみたいだよ」

仁加「ほんと?…あ、ほんとだ、アタシでもこれじゃあ通れないかも。カースも多分同じだよ」

仁加が髪の毛を泥のようにして窓の隙間を探しても、少しも通せる気がしない。

加蓮「…中から外にカースを産み出しているからって考えても、それにしては数が少ない気もするし…ちょっと変だね?」

仁加「うん。ちょっと変なの」

加蓮「どういう事なんだろうね…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:48:14.36 ID:Wlg5+QCQ0<> 『ロォォォリィィィィィ!!』『ジェェェケェェェッッ!』

色々と考える二人の前に、二体のカースが現れる。

加蓮「また来た!ど、どこから!?」

仁加「とりあえず戦わなきゃ!」

黒兎(奈緒が来てるけど…この状況じゃ仁加と話ス事も難しいカな、狂信のカースを産み出すことも難シそうだ…黙るしかないカ)

黒兎(…さっきノ攻撃で山のがすごく減ったンだよなぁ、生き残りもいるみタいだから後デこっそり仁加から離れて情報収集しますかネ)

黒兎(まテよ、このカースがどこから入ってきてるか分かれバうちの子達の役に立つナ?…もう少シ様子を見るか…)

黒兎は仁加のポシェットの中で適当に思考する。

加蓮は槍を構え、仁加は髪を触手のようにうねらせ、戦闘態勢に入った。

――
― <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:51:19.05 ID:Wlg5+QCQ0<> 見た目より少し大きいキヨラのバッグの中、ベルフェゴールはゲーム画面を見ていた。



白兎の情報は、確かにベルフェゴールが拾っていた。紗南の時のように故障することも無く、画面には情報が映る…はずだった。

ベルフェゴール「…うーん、なんじゃこりゃ…バグってる?」

情報のところどころの文字が赤いバグのようなものによって隠されてしまっていたのだ。

怠惰の人形師が奈緒を調べた時のように強制中断までは起こさないものの、その身はやはり調べることが難しいらしい。

ルシファー「あら?貴方の能力で調べきれなかったってこと?」

ベルフェゴール「こんな事、滅多にないんだけどね…相手があまりにも多くの情報を持ちすぎているか、それとも『そういう存在』だからなのか…」

ルシファー「そういう存在?どういうことぉ?」

ベルフェゴール「生まれつきのスキルとして【解析無効】持ちか…存在自体がバグかってところかなぁ。解析先がバグってたらそりゃ結果もバグるよ」

ルシファー「よく分からないけどぉ…もしかしたらその両方だったり?」

ベルフェゴール「…ありえるんだよねぇ…不明って描写されている所とバグの両方があるように見えるし…キヨラさんにありのままの情報を伝えるしかないかぁ」

いろいろ不明な点が多すぎる。だが、つまり『そういう存在』ということが分かればそれもやがて役に立つだろう。

ベルフェゴールは怒られないように情報を整理し始めた。

ー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/15(金) 02:54:33.88 ID:Wlg5+QCQ0<> ― ―

≪Information≫(バグが発生した部分は「*」で表記する)
名前・****(*称・白兎)
年齢・不明
性別・♀(変化可能)
種族・**生命*
属性・正*
能力・*義の**スの使*、**、電*化、*死
備考・**の崩**た**の*つであり、自覚は無いが***よって選**想を***け**た。
****を忘れ、**が***変*て統*す**であると疑う事**く確*して*る。
本来は封じ***記*の一*であったが、そ**憶が*つの**と変**、**から離***たことによ**体の一つとして零れ落ちた。
非常に傲**あるが、同時***に子**よう**粋。戦***それほ**くはない。
世界**乱させる存在であ*、その目的は『**********』。

― ― <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/08/15(金) 02:57:43.62 ID:Wlg5+QCQ0<> 情報
・白兎がどこかに飛び立ちました。帰宅するのか誰かを襲うのか…
・隊長を探しに行っていたキヨラさんですが、ユズの保護を優先しました。
・ベルフェゴールが白兎のバグった情報を獲得しました。
・白い鎌(回復魔法)のぷちユズが敷地内のどこかに投げ飛ばされました。
・ナニカと加蓮が教習棟に避難しました。屋内にカースが湧いている事に気付いています。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/15(金) 02:59:06.30 ID:Wlg5+QCQ0<> 以上です。
久々に書けた…

Q・戦闘すると白兎がほぼ毎回血をまき散らしてるのはなんで?
A・カウンタータイプのバトルスタイルだからさ…(震え声) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/15(金) 13:35:02.71 ID:XjK1qNUrO<> 乙ー

ユズちゃん危機一髪
白兎はやっぱり強いなー

いったい屋内のカースはどこから来てるのやら <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:26:13.74 ID:WRmB1SKW0<> 皆様乙乙

ヒャッハァー! めでてぇ日だ、投下するぜぇー!! <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:27:42.07 ID:WRmB1SKW0<>
カイ「……んんっ……暇だね、ホージロー」

『キキン』

ベンチに座って、カイが大きく伸びをした。

亜季は仕事、星花は何やら雪乃に呼ばれたらしい。

そしてカイはバイトが休み、つまり先程からずっとこうして暇しているのである。

子供「あー! サメのおねーちゃんだー!」

子供「ほんとだー!」

子供達が数人、こちらへ駆け寄ってきた。

カイ「おー、ちびっ子達こんにちはー」

『キンキキン』

朗らかに挨拶を返すカイ。

フルメタル・トレイターズが拠点とする公園は、普段から子供達がよく遊ぶ場所である。

ここで過ごす内に、子供達やその保護者達とも次第に打ち解けていったのだ。

子供「あれ? バイオリンのおねーちゃんとおっぱいのおねーちゃんは?」

言わずもがな、バイオリンのおねーちゃんは星花、おっぱいのおねーちゃんは亜季の事である。

カイ「しかし名前覚えないね君ら。星花は用事、亜季は仕事だよ」

子供「ふーん。サメのおねーちゃんはなんでここにいるの? むしょく?」

カイ「あははっ、言ったなクソガキめ! じゃなくて、普通に仕事がお休みなの」

子供の悪意ない言葉に、カイは笑いながら返す。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:28:36.68 ID:WRmB1SKW0<> 子供「サメだサメだー、あはははは!」

子供「待て待てー!」

『キンキンキキンキン♪』

その内何人かの子供が、ホージローと鬼ごっこを始めた。

カイ「……平和だねえ」

子供「ねえ、サメのおねーちゃん」

カイ「ん、なに?」

1人の子供が、不安そうな顔でこちらを見つめている。

子供「この街とか、みんなが……海の底に沈んじゃうってほんと?」

カイ「…………」

神の洪水計画。

カイが海底都市に居た頃には立案されていなかった計画だ。

サヤがイヴ達に漏洩し、そこからアイドルヒーロー同盟などに情報が渡った。

その途中か、サヤとイヴ達の会話を盗み聞きしたかは分からないが、こうして一般市民の間にもその「噂」は広まっている。

カイ自身、その計画の事はつい最近又聞きで知ったばかりだ。

計画の(表面上の)指導者は、当然ながら海皇ヨリコ。

カイにとっては、掛け替えのない親友でもある。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:30:13.60 ID:WRmB1SKW0<> カイ「…………」

子供「ねえ、おねーちゃん……」

カイ「……心配しないで」

不安そうな子供の頭を、カイは笑顔を浮かべながらよしよしと撫でてやる。

子供「ふわっ……」

カイ「おねーちゃんに任せて。何たって、沈めようとしてる人達の偉い人はおねーちゃんの友達だから。おねーちゃんが『そんなひどい事はやめて』ってお願いしてあげる」

子供「……ほんと?」

カイ「ホントホント。カイおねーちゃんに任せなさいって」

カイは子供の頭をポフポフと軽く叩き、そう言ってニカッと笑った。

子供「……うん、ありがとう! カイおねーちゃん大好き!」

子供は目を輝かせ、カイの胸に勢いよく飛び込んだ。

子供の顔が、カイの天然エアバック(88cm)にむにっとうずくまる。

カイ「ひゃっ……こら、セクハラだぞ?」

カイは少し顔を赤らめ、苦笑しながら子供を引き離した。

そして制裁。子供の頬を指でつまみ、左右へ軽くむにっと引っ張った。

子供「ごめんなひゃい……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:31:10.79 ID:WRmB1SKW0<> 星花「あら、お楽しみだったようですわね」

いつの間にか、星花が公園に戻って来ていた。

星花の手には、見慣れない紙袋が提げられている。

カイ「あ、星花お帰りー。早かったね」

子供「ファイオリンのおねーひゃーん、たふけてぇー」

子供の頬をむにむにと弄びながら、カイは星花の方に向き直った。

亜季「こほん、私もいるでありますよ」

カイ「あれ? 亜季随分早いじゃん。何かあったの?」

亜季に気付いたカイの手が緩んだ一瞬の隙を突いて、子供がカイの手の内から脱出に成功した。

子供「助かった……ありがとう、おっぱいのおねーちゃん!」

亜季「い、いい加減名前を覚えてほしいであります……」

星花「まあまあ亜季さん。以前お聞きしましたが、本日はカイさんのお誕生日でしたわよね」

カイ「えっ? ……あ、そっか。誕生日だ」

そう、今日は海底都市の暦で、カイの誕生日だったのだ。

子供「カイおねーちゃんお誕生日なんだ! おめでとう!」

亜季「……カイだけ名前覚えられてズルいであります。まあそれはさておき、そういう訳なので今日は事前に早く上がれるシフトを組んでもらっていたのでありますよ」

星花「わたくしも、雪乃さんに少しお願いをして……ほら」

星花が紙袋から取り出した箱から出てきたのは、そこそこ大きめのホールケーキだった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:31:59.74 ID:WRmB1SKW0<> カイ「うわあ、すっご! これホントに食べていいの?」

星花「もちろんですわ♪ カイさん、お誕生日おめでとうございます」

亜季「おめでとうであります、カイ」

子供「おねーちゃんおめでとー!」

子供「はぴばー!」

仲間から、子供達から、次々に送られてくる祝福の言葉。

カイ「ありがと。……あははっ、何か照れ臭いな」

子供「……あ、そうだ! カイおねーちゃん、プレゼントあげる!」

先程抱きついてきた子供が、ポケットから何かを取り出してカイに手渡した。

青いメダルの真ん中に、武士の様な姿をした鮫の絵が描かれている。玩具だろうか?

子供「それね、バタモントロッカ! キリサメマルはシルバーレアですごいんだよ!」

カイ「ば、バタモントロッカ?」

星花「確か、今子供達の間で流行っているゲーム……のキャラクターを使った玩具だったかと」

カイ「へえー……ありがと、大事にするね」

そう言ってメダルを懐にしまったカイは、またニッと笑って子供の頭をわしわしと撫でた。

子供「えへへっ!」

星花「では、皆さんでケーキをいただきましょうか」

子供「えっ、オレ達ももらっていいの?」

カイ「いいよいいよ! 皆で食べようよ!」

子供「わーい! ありがとうおねーちゃん!」

カイ「いいって事よ。さ、食べよ食べよ!」

昼過ぎの公園で、カイの誕生会が賑やかに行われた。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:33:19.09 ID:WRmB1SKW0<> ――――
――――――――
――――――――――――

一方その頃、海皇宮では。

ヨリコ「アイ様、お仕事の依頼を。この特製ケーキをカイの元まで届けて下さいますか?」

アイ「……君も傭兵を便利屋か何かと勘違いしているね」

巫女「ホラ断られた」

終わり <>
◆3QM4YFmpGw<>saga sage<>2014/08/17(日) 01:36:11.25 ID:WRmB1SKW0<> ・バタモントロッカ
小学生を中心に人気のアニメ「バタモン(バタリオンモンスター)」のキャラクターを使ったゲーム。
ゲーム筐体のパネル上でメダルを弾いて、モンスター同士を移動させて戦う。一プレイ100円。
カイが受け取ったキリサメマルは、主人公のライバルが使う切り札モンスターであり人気も高い。


以上、カイの「初めての」誕生日短編及びフルメタルのご近所付き合いを少し
そう、初めての
アイ、巫女、名前だけ雪乃お借りしました <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/17(日) 09:49:33.48 ID:UpmYnex80<> 乙です
カイ誕生日おめでとう!子供たちと仲がよさげで何より
バタモンが地味に気になるぞ!←

>初めての
せ、せやな <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/17(日) 16:45:01.27 ID:AmQ7JYb/O<> 乙ー

カイ君誕生日おめでとー
バタモンがすごい気になる…

アッハジメテデシタネ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:20:18.14 ID:YmRmlKlS0<> なつきち誕生日おめ!ということでメダルSRが出てくる事を願いながら書いた誕生日SS投下ですよ <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:22:21.50 ID:YmRmlKlS0<> 夏樹「…」

今日は眠れない夜だった。理由もなく、ただ眠れない。今日はそんな日だった。もしかしたら覚えていないだけで嫌な夢でも見たのかもしれない。

眠気が全く来ないし、こんな夜中に何かをするということも思いつかなかった。

奈緒もきらりも李衣菜もすっかり眠ってしまっている。(李衣菜はどちらかといえばスリープモードだが)

…少し気分を変えようと、物音をたてないように寝室から抜け出した。

夏樹「…あぁ、もう19日か」

暗いリビングのカレンダーを見てそういえば日付が変わって今日は誕生日だという事を思い出した。

今年もまたパーティでもするのだろう…誕生日はそんな日だ。

ソファに横になり、カーテンの隙間から見える月を見る。

視界には窓越しの空しか映らない。一つの視界で、何も考えないで空を見ているだけ。

クーラーのスイッチが入ってないこの部屋は少し暑いが、気にする程でもない。

夏樹「…」

…何故か、何も考えていない思考とは裏腹に、脳はいろんな記憶を掘り起こしていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:23:12.98 ID:YmRmlKlS0<> ――

今の瞳は宙を漂う球体の機械で、瞳があった場所にはそれらを人間の脳で操る為の機械が埋め込まれている。

脳の演算処理機能拡張、視覚ユニットコントロール、穴…ポータル形成。それが脳と繋げられたこの『瞳』の機能だ。

改造された日から、少し頭の回転が良くなったことは自覚している。頭にコンピューターを埋め込まれたようなモノだから、仕方ないのかもしれない。

…様々な機能を詰め込まれたこの体は、研究員にとっての『成功作』だったらしい。

そしてその成功作を逃がさないように、一つの『失敗作』が利用された。

穴に飛び込めばあの研究所の外にだって行けるはずの体は、とても簡単な方法でどこに行くこともできなくなった。

李衣菜との友情を利用された。ただそれだけの事ではあるが、あまりにもえげつない。

お互いにとってお互いが人質にされたようなものだったのだから。

…李衣菜は親友だ。そして相棒だと思っている。李衣菜も同じ思いだと思うのは自惚れではない筈だ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:27:32.47 ID:YmRmlKlS0<> 出会いは、とても単純でありながら偶然だった。そもそも通っている学校が違ったのだから、本当に巡り会わせというものだったのだろう。

家から逃げたくて一人で上京して通う事になった高校で自分は少し浮いた存在だったが、あまり気にしていなかった。

家から逃げたのは自分らしく生きることを認めない親と喧嘩になったからだ。髪もピアスも趣味さえも、もっと女らしくしろと言う。

だから逃げ出した先で自分を曲げることは絶対にしなかった。自分が自分の思うままに自分らしく生きるための道を選んだ。

偏差値はそれなりに上、そして校則が厳しくない高校を選んだのだ、親も文句を言う事は無い。…逆に学費を払うと聞いたときは耳を疑った。

あれは諦めだったのだろうか。それとも認めてくれたのだろうか。…今はもう分からない。

生活費とさらに趣味の為の資金を稼ぐためのバイトが少々大変だったが、それくらいは全く苦にならない。自由であることは素晴らしいと思えた。

バイクのメンテナンスの為に行った近くのガレージで美世や拓海と仲良くなり、それなりに楽しく生活していた。

それでもロックが共通の趣味な友人は居ないまま過ごしていたある日、行きつけのCDショップで彼女と出会った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:29:05.05 ID:YmRmlKlS0<> いつも通りどんなCDが出ているかをチェックしていた時、CDを取る手が重なった。お互いに手をひっこめて向き合う。

その相手こそ、李衣菜だった。

李衣菜「わわっ、すみませんっ!」

夏樹「っ…と、ゴメン…ん?」

慌てて手をひっこめた時に引っ掛かったのか、音楽プレイヤーとヘッドホンの接続が外れてしまったらしく、李衣菜の聞いていた音楽が漏れてしまった。

李衣菜「?…あっ!?ごごごご、ごめんなさいっ!?」

夏樹「…なぁ、その曲って…」

李衣菜「ふぇ?」

夏樹はその音楽にとても聞き覚えがあったから、目の前で慌ててプレイヤーのスイッチを切る彼女と会話がしたくなった。

回りにロックについて話せる人が居なかったから、少し年が近くて話せそうな人がいたのが嬉しかったのかもしれない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:30:21.07 ID:YmRmlKlS0<> …まぁ、李衣菜はロックについて全く知らない…所謂に「にわか」だったが、夏樹はそれでもよかった。

ロックに魂を揺さぶられ、それが好きと言える。仲間のように感じたのだ。知識なんてものは後からいくらでもついてくる。

李衣菜も、自分と年が近くそれでいて自分より遥かにロックな夏樹に惹かれ、憧れた。

お互いに人見知りをしない性格だったのもあり、いつの間にか互いの自宅に行くほどには仲が深まっていた。

夏樹はギターやおすすめの曲を教えたり、時折妙な暴走をする李衣菜に付き合ったり。それに李衣菜と共にいる事で改めて発見することもあった。

李衣菜がロックを好きなのは本当の事。彼女も自分と同じロックに魅せられた。積み重ねた時間が違うだけ。

だから波長が合ったのかもしれない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:30:56.29 ID:YmRmlKlS0<> そしてある夏の夜。それが運命の日だった。 <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:32:33.40 ID:YmRmlKlS0<> 李衣菜「ねぇねぇなつきち!凄かったよね!超ロックだった!!」

夏樹「はいはい、何回それ言うんだよ…確かに興奮したよ。まだアタシの熱も冷めないし」

李衣菜「うん!やっぱり行ってみて良かったねロックフェス!夜遅くまで外出できるようにお母さんを説得するの。すごく大変だったけど…」

夏樹「最後は折れてくれてよかったな。だりーはこれが初めて見る生バンド演奏だったんだろ?」

李衣菜「うん!ドラムがドドンってきて、ギターが頭にズギューンって入ってきて、みんなで盛り上がって…とにかくすごかった!」

夏樹「だな、次はもっと盛り上がるぜ。フェスに来る人はみんなそう思ってるさ」

李衣菜「うん!よくわからないけど、確かに次ももっと盛り上がりたい!」

二人でロックバンドの屋外フェスを見に行った帰り、飲み物でも飲もうかと自販機の近くにバイクを停めていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:34:38.86 ID:YmRmlKlS0<> 李衣菜「私もいつかああいう舞台に立って思い切りロックしてみたいなぁ…!ロックスターみたいに!」

夏樹「おいおい、まだギターも碌にできないのに随分と気が早いな…」

李衣菜「それはえっと…そ、そうだ!アイドル!アイドルみたいにボーカル専門って感じの…ダメ?」

夏樹「…まぁアイドルも嫌いじゃないし、ロックアイドルって結構イケる気がするけど…だりーはギターの練習だな」

李衣菜「はーい、ギター&ボーカルのリーナ目指して頑張りまーす!…頑張るよ、うん!!」

夏樹「はは、アタシだってベースも練習し始めたんだ、一緒にやればイケるって。上手く行かない時もあるだろうけどさ」

李衣菜「…なつきちがベースで、私がギター…ボーカルも!ツーピースバンドだよ、カッコいい!」

夏樹「ツーピースなら、ギターとベースじゃなくてギター二つの方がいいんじゃないか?」

李衣菜「あれ?そうなの?」

夏樹「ベースとドラムは一緒にいるもんだよ。片方だけじゃ物足りないのさ」

李衣菜「うーん…じゃあやっぱりいっぱい仲間がいた方がいいかなぁ…あ、でもなつきちと一緒ってなんかいいね、舞台の上ですごく絵になる気がする」

夏樹「そうか?そういうのはちょっとよくわかんないけど…」

李衣菜「でも、やっぱりドラムもベースもギターも欲しいよねーあとキーボード?」

そんな会話をしていた時だった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:38:17.20 ID:YmRmlKlS0<> ―バチッ、バチバチバチッ

李衣菜「?」

―オオオオオオオオオオオオオ!

夏樹「!?」

不意に聞こえた大きな音に振り返って眩しい光に視界を奪われる。

それがトラックだと気付いた時にはもう何もかも遅かった。

来た方向がさっきまで何もなかった筈の空間で、運転席に誰も見えない。…そんな事にしか思考が働かなかった。

李衣菜「っダメ!!」

夏樹「…!」

ドンっと、突き飛ばされる。

無我夢中で自分を突き飛ばした李衣菜に手を伸ばしても届くことは無くて。

突き飛ばされたままゆっくりと時間が流れるような感覚に襲われる。

トラックの真正面に居る李衣菜は、あとコンマ数秒でトラックとぶつかる。

夏樹「だりいいいいいいい!」

自分の事を考える余裕なんてなかった。今のこの状況への疑問を解く時間も無かった。

だた、自分を助けようとして突き飛ばした馬鹿な親友の名を叫んだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:43:22.38 ID:YmRmlKlS0<> そして無慈悲な事に非力な少女が突き飛ばした程度で人1人をトラックの幅から完全に出すことは叶わず…

…夏樹の記憶はここで途絶える。目を覚ました時、その瞳と四肢はもう失われていた。

手足を失った真っ暗な世界で、あれは事故。研究の失敗による事故だと聞かされた。

空間を歪め、歪みと歪みを綺麗な形にして繋げる事。それがコンピューターでは不完全な結果にしかならないと。

―― <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:45:33.91 ID:YmRmlKlS0<> 「なつきち…?大丈夫?」

その声で少し眠りかけていた意識が戻ってくる。

意識をはっきりさせると夏樹を見下ろすように、李衣菜が顔を覗かせていた。

夏樹「うおっ…なんだ、だりーか。大丈夫も何も、ただ眠れないから外を見てただけだって。ちょっと眠りかけていたけど」

思わず起き上って横になっていたソファに座る。外を見ていた視覚ユニットも自分のすぐそばまで戻した。

李衣菜「あ、そうだったんだ。ならよかった…えっと、誕生日おめでとう、なつきち!」

夏樹「おう。ありがとうな!…珍しく夜に起きてこっちまで来たのはそれが言いたかったからか?」

李衣菜がわざわざ充電しながらのスリープモードを解除してまで起きるのは珍しい事だ。朝になるまで起きない事がほとんどなのに。

李衣菜「うん。なつきちが動いたの感知しちゃって。今日誕生日だし、どうせなら一番最初に言おうと思ったんだ」

真横に座り、微笑みながら李衣菜はそう言う。最近笑顔が少しずつ自然なものに戻ってきているのを夏樹は知っている。

…その頬に、なんとなく手を伸ばしていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:46:50.01 ID:YmRmlKlS0<> 李衣菜「…どうしたのなつきち?」

夏樹「いや、なんとなく…肌、綺麗になったなと思ってさ」

李衣菜「…縫合の跡、最近消えてきたんだ。キュアイスの効果が地味に効いてきたみたいでねー…ここまでだと思ってなかったけど」

夏樹「そっか…なぁ、ちょっと…見せてもらっていいか?」

李衣菜「…いいよ?私は気にしないから」

返事を聞いて頬に伸ばしていた夏樹の手がゆっくりと降りていく。

李衣菜「?」

指が首をなぞり、視覚ユニットが少しずつ近づいている。…感覚は無いけれど、くすぐったいような感じがする。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:48:38.06 ID:YmRmlKlS0<> そのまま指がパジャマの襟に引っかかると、器用に片手でボタンを外す。流石にこれは動揺した。

李衣菜「っ!?…!?!?ななななつきち、私達そういうのはその、早いって言うかもう遅いって言うか…!」

夏樹「…まだ残ってるのか」

李衣菜「…あれ?」

指で示したのは胸の上の傷跡。治りつつある今でも残っているそれはとても小さな火傷のようだった。

それに気づいた李衣菜も、それが示す意味を悟る。

李衣菜「なつきち、なんで…」

夏樹「アタシがだりーを撃った跡だ」

李衣菜「…違う、脅されて撃たされた跡だよ」

夏樹「どっちにしろ事実は変わらないさ。…はじめて人間に向けて引き金を引いたのが、だりーだったんだ」

李衣菜「…」

夏樹「時々思うんだよ、アタシは…役に」

李衣菜「せりゃっ!」

夏樹「!?」

その言葉を遮るように、李衣菜は無理やり夏樹を押し倒した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:49:53.03 ID:YmRmlKlS0<> 李衣菜の体温は慣れていなければゾッとするほど低い。密着されても暑苦しくないのだが、それでもいきなり押し倒されたら動揺する。

夏樹「ちょっ…!?」

李衣菜「さっきのお返しだよ、もう…」

夏樹「人の話を遮ってやることがそれか!?」

李衣菜「なつきちだってセクハラしたもん!」

夏樹「あっ、ゴメン」

李衣菜「やっぱり自覚なかったんだね…」

力の差故に、夏樹は抜け出せない。無理やり突破する方法はあるが、今は使わない。

こんなに密着して話したのはいつ以来だろう。昔は李衣菜を後ろに乗せてバイクで二人乗りもしたのに、その時の温もりをもう感じることはできない。

いつの間にか、押し倒されるというよりは李衣菜を抱くような姿勢になっていた。

こんなに近いのに、どこか遠く感じるのは、生死の壁があるからだろうか。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:51:56.96 ID:YmRmlKlS0<> 夏樹「だりー」

李衣菜「なぁに?」

胸元に顔を埋める李衣菜には心臓のリズムが聞こえてしまっているのだろうか。流石にそれは少し恥ずかしいけれど、伝えたい事があった。

夏樹「また…ロックフェス行けたら、行こうか」

李衣菜「うん、絶対行きたい。なつきちと一緒にバンドもやりたい」

夏樹「…覚えてたんだな、それ」

あれがある意味最期の会話だ。だからこそ覚えていたと思うべきか。

李衣菜「夢だからね、今でも。…奈緒ときらりとかもメンバーに入れたら楽しそうじゃない?」

夏樹「そうだなぁ…それにセッションしたあの祟り場の時はいろいろ大変だったし、もっとデカイ舞台を夢見ても良いだろ?」

李衣菜「大きな舞台…いけるかな、私達。一応特殊部隊でしょ?」

夏樹「平和な世界になったら、必ずなれるさ。そうじゃなくても、今のままでも方法や手段はあるだろ。特殊部隊だからって歌っちゃダメって事は無いだろうし」

李衣菜「だよね!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:53:41.08 ID:YmRmlKlS0<> 夏樹「ははっ、だりーもいろいろ上手くなってるし…あー…」

だんだん夏樹の声が小さくなっていく。

李衣菜「眠そうだね、まぁ時間が時間だし…疲れてるんじゃない?ちゃんと休まなきゃだめだよ」

夏樹「…あー、そーする…悩みすぎるとどうしても疲れんだよなぁ…やっぱ性に合わないか…」

李衣菜「ロックとは…振り返らない事さ!ってね」

そんな事を言いながら李衣菜が立ち上がる。返事が無いので振り返ると、既に夏樹は視覚ユニットはとっくの昔に回収し、もう眠っていた。

李衣菜「なつきち?…もう寝ちゃってるよ!早いなぁ…風邪引いたらどうするの。今日はなつきちが主役の日なのに」

出来る限り優しく夏樹を背負うと、李衣菜は寝室へ向かう。

その表情はどちらも穏やかだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:54:47.33 ID:YmRmlKlS0<> オマケ ―究極生命体は見た

奈緒「喉乾いた…夏樹も李衣菜も台所かなぁ…ん?リビングにいる…?」

奈緒「なにしてるんだろう…」コソコソ

 夏樹『ちょっ…!』

 李衣菜『さっきのお返しだよ、もう…』

奈緒「」

奈緒(ほああああ!?なつきがりーなに、おしたおされて…うわ、わわわわわわわ…)

奈緒(…あたしは何も見なかった)スタコラサッサ

――この後滅茶苦茶寝れなかった <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 00:56:12.79 ID:YmRmlKlS0<> 以上です。安定のシリアスで百合になる病である
誕生日おめでとうなつきち!メダルSRは一枚引けました!!(なお底だった模様)
この話と何の関係もないけど、なつきちは黒い水着似合うよね…

二度目だけどメダルとかアイチャレのせいでネタが浮かんだから仕方ない <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/19(火) 01:39:48.13 ID:AgtYF+8N0<> 乙ー

なつきち誕生日おめでとー
そして、最後の奈緒w <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:05:24.48 ID:3xHL6HTto<> 乙です

なつきち誕生日おめです


学園祭時系列二日目で投下します <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:07:00.30 ID:3xHL6HTto<>  あるビジネスホテルの一室で、日は登り切っているのにもかかわらず男は室内に籠りきり机の上でせわしなく指を動かす。
 男の義手と思われる金属色の右腕は目の前のパソコンと安っぽそうなコードで接続されている。

「やはりUSBじゃあ速度が遅いな……。

まぁもともとこの『マジックハンド』自体が世間からすればオーバーテクノロジーなのだから仕方ないと言えば仕方ないか」

 男はぶさくさと一人で文句を垂れながらも、その手は動き続ける。

 画面上にはさまざまな文字や画像が動き続け、目で追うことさえも困難である。
 しかし男にとってはその程度の高速処理は容易であり、キーボードをたたく指の動きは収まることを知らない。

「昨日の戦闘データとか調べてみたけど、もう得られそうなものはなさそうだなぁ……。

あの……えーっと、なんだっけ?

まぁ電気男でいいか」

 男、イルミナPの脳裏に浮かぶのは昨日、秋炎絢爛祭初日での出来事。
 せっかくの祭りであるというのに最後にはあの下品ガエルのせいで気分の良いままに一日を終えることができなかった。
 だがそのかわりに下品ガエルの監視をしていた電気男から情報を手に入れることはできたのだ。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:07:36.34 ID:3xHL6HTto<>
「しかし、あの電気男重要なことはなんも知らないとは……。

あの『仮面男』の弱みとか知ってればよかったのに」

 しかしイルミナPの独り言の通り、電気男はろくな情報は握ってはいなかった。
 エージェントの人員のことや財閥の内部の情報など様々なものを得ることはできたが、あくまでこれでも『表』の情報であった。
 イルミナPが手段を選ばなければ容易に手に入る情報でしかない。

 だからこそイルミナPは昨日の戦闘データからささやかなことでもサクライの情報を引き出そうと躍起になっているのだが。

「くっそ忌々しい……。

あの『仮面男』の余裕の表情が頭に浮かんできそうだ……」

 結果は芳しくないようである。

「せめてバックメンバーぐらいの情報は探りたかったが……まぁいいか」

 イルミナPは手を止めて、腕からUSBコードを引き抜く。
 そして両手を組んで大きく伸びをした。

「全く暇だからと言って徹夜するんじゃなかった……」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:08:17.90 ID:3xHL6HTto<>
 眼鏡を外して目頭を押さえる。
 そして右腕を瞼に押し当てた。

「あー、金属の吸熱で疲れ目に効くなー……」

 現在イルミナPは一人である。
 唯は目を離せばすぐにどこかに行ってしまう。

 それ故、昨日も彼が近場のビジネスホテルに向かう少し前に唯はいなくなっていたのだ。

「まぁいつでも連絡は取れるからいいんですけど」

 イルミナPは椅子から立ち上がり、昨晩から閉めっぱなしであったカーテンを勢いよく開ける。
 その日差しは暗い室内に慣れたイルミナPの目に勢いよく差し込んできた。

「眩しー……ってあれ?」

 目に差し込む日の光に慣れ始めたイルミナPは何となく違和感を覚える。
 その眼前の先には京華学園の校舎が見える。

 ここは京華学園の裏側に位置するホテルであり、ここら辺一帯ではそれなりに高さのある建物で視界を遮るものはないのだ。
 故に、京華学園をこの窓から視界に全体を収めることができる。

「……まぁいいか」

 イルミナPは感じた些末な違和感を無視して窓から踵を返す。
 眠気目を覚ますためにいったん部屋から外に出て、苦めの缶コーヒーでも買いに行こうと思い立ったのだ。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:09:14.55 ID:3xHL6HTto<>
 日本の食品はどれも質が高い。
 イルミナPにとってただの缶コーヒーでも侮れないものであった。

「自販機を普通に置ける国も少ないしな〜」

 そんな風に『災害』以外での治安の良さを考えながらイルミナPは歩いていく。

『PiPiPiPiPi!』

 しかしその歩みを遮るように一つの電子音が鳴り響いた。
 イルミナPはポケットから携帯電話を取り出そうとしたが、手を入れたところで止める。

「こっちか」

 右腕を前に出して、左手の指で右手の手の甲を軽くなぞる。
 それだけで電子音は制止するとともに、右腕が光の文字列が一瞬走っていった。

 イルミナPは右手の人差指、中指、薬指のみを折り曲げたいわゆる『電話』の形にしてそれを耳に押し当てる。
 まるで子供の遊戯の様であったが、その行動の通り親指部からイルミナPのものではない声が響き始めた。

「はい、どちらさまで?」

『おう相変わらずカビの生えてそうな声をしてやがるなイルミナP』

 電話の先でイルミナPに軽口を叩いてくる男の声。
 その声にイルミナPはあまり機嫌が良くはなさそうに返答した。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:10:33.53 ID:3xHL6HTto<>
「わざわざポラボリウム次元通信まで使って、いったい何の用ですか『深淵(エイビス)』?」

 エイビスと呼ばれた男は、機嫌の悪そうなイルミナPの声に一切介さず話をする。

『まったくオレたちは長い付き合いだろう?そんな堅苦しい口調はナシにしようぜ』

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうがいったい何の用だエイビス?

下らん事だったら即刻切るぞ」

『実はな……』

 先ほどまでとは打って変わり深刻そうな口調になるエイビス。



「どうしたんだ?またなんか厄介ごとでも……」




『フランスでいい女のいる風俗店見つけブチッ』

 右手のひらを開いて通信を切るイルミナP。
 当然間髪入れずに再び電子音が腕から鳴り響いた。

 仕方なしに再びその電話をイルミナPは取る。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:11:27.26 ID:3xHL6HTto<>
『いきなり切るなんてひでぇじゃねえか!お前の童貞の身を案じてせっかく誘ってやったていうのによー』

「……余計なお世話だ。そんな下世話な悪魔の囁きなんぞいらん。

まさか用事それだけじゃないだろうな?」

 イルミナPは先ほどまで作業が思うようにいかなかったことによって刻まれた眉間のしわがさらに深く刻まれる。

『それだけだ。すまんな』

「お前……。

どうやらこの積年の因縁に決着をつけるときが来たようだな」

『はっはっは。そう怒るなよ。

悪魔ジョークだ。笑えよ』

「人の童貞を弄っておいてジョークで済まそうとはいい度胸だな。

言っとくが私の童貞は超希少なヴィンテージ童貞だ。そこらへんの普通の童貞と同じように馬鹿にできると思うなよ」

『それ自分で言ってて悲しくならねぇのか?』

「……言うな。自分でも後悔してる」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:12:12.98 ID:3xHL6HTto<>
 イルミナPはベッドに腰掛けて頭を抱える。
 先ほどまでのイラついた様子から一変し、すっかり意気消沈してしまったようだ。

「まぁいいさ。本当に何の用だエイビス?

もう下らんジョークはいらんぞ」

『いいネーちゃんのいる風俗店見つけたのは事実なんだがな。

いい加減本題に移るか。

ちょうど面白そうなことがあったからそれでちょっとした賭けでもしないかってな』

「賭けだと?」

 抱えられていた頭を上げて、その隈を蓄えた目を床から正面に向けるイルミナP。
 その視線の先は、疲れ目には眩しいほどの日差しの差し込む窓へと向けられる。

『そう賭けだ。

ちょうどアンタが日本にいるってのを聞いてね。

その様子だときっと知らないだろうからニュースでも付けてみろよ。賭けの内容はそれで行くぜ』
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:13:07.04 ID:3xHL6HTto<>
「悪いがまだその賭けに乗るとは言ってないんだが……。

……なんだって言うんだまったく」

 イルミナPは空いた左手をベッド横に置かれたテレビのリモコンへと伸ばす。
 そして逆方向に置かれた備え付けのテレビの電源を入れた。

 画面の中は元から国営放送にチャンネルがあっており、進行形でニュースを垂れ流す。
 キャスターがあつらえられた原稿を読み上げられるありふれた場面であった。

『現在、国内最大と言われる学園祭である秋炎絢爛祭が開かれている京華学園内にて原因不明の爆発事故が発生しております。

現場は京華学園敷地内である裏手にある学園所有の山中であり、かなり大規模な爆発で何者かのテロである可能性が高いとのことです。

各機関が調査にあたっておりますが、この事故に関する死傷者の数はいまだ不明であり……』

 イルミナPはテレビ画面から目を話し視線を窓の外へと向ける。

「ああ、違和感の正体はこれか」

 カーテンを開けた時の違和感の正体にイルミナPはようやく気付く。
 本来この窓から見えるのは京華学園の裏山である。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:14:07.66 ID:3xHL6HTto<>
 しかし現在、その裏山はきれいに抉られており本来この場から見えるはずのない校舎が見えてしまっているのだ。

「ま、まさかお前の仕業じゃあないよなエイビス?

もし独断でこんなことをしようものなら俺は」

『ちょっと待てイルミナPよ。

あいにくあれはオレの仕業じゃない。

さすがにこんな遺恨の残る面倒事はオレも起こさねーよ』

「じゃああれはいったい誰がやったっていうんだ?」

 イルミナPは窓にもたれ掛りながらエイビスに問う。
 紛争地帯ならいざ知らず、この日本であんなことを身内がしていたともなれば計画を大きく修正せねばならなくなる危険性があった。

『あれはうちの誰かの仕業じゃない。

どっかの組織がヒーローその他諸々に喧嘩を売ったらしい。

偶然第八位(ディフ)と第四位(メダル)が仕事でそっちにいてな。

そこからの情報によると、目的は力の誇示ってのが濃厚そうだ』

「なるほど、うちじゃないなら放置でいいんだが……。要するにお前はこの偶然出てきた『祭りの余興』で遊ぶつもりと」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:15:01.06 ID:3xHL6HTto<>
 イルミナPはエイビスの言っていた『賭け』の意図をくみ取る。
 エイビスは偶然見つけた『玩具』でただ遊ぼうとしているだけだったのだ。

「というかなんで『騎士兵団』の序列持ちを二人も寄越してるんだ?

私としてはそっちの方が気になるが」

『ディフの仕事に手の空いてたメダルをお守りとして付いて行かせただけさ。

ディフは目を離すと多めに爆破するせいで、後処理が面倒になるからな』

「……納得だな。あの爆弾魔はすぐ調子に乗る。

それでいて調子に乗ってる時が一番厄介だ」

 脳裏に浮かぶは爆炎の海。
 あの男が都市ひとつで盛大な花火大会をしたのがイルミナPの記憶に新しかった。

『とにかく賭けっていうのはこの後の展開さ。

山を派手に吹き飛ばした連中は、結局どうなると思う?』

 イルミナPはどうせそんなことだろうと思っていたのでため息を吐く。
 すっかり目が日の光に慣れてしまったので、窓を開ける。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:16:14.90 ID:3xHL6HTto<>
 比較的高い建物であったので風通しがよく、室内の少し淀んだ空気が窓から流入した外気と入れ替えられていく。

「ただの力の誇示が目的の連中の末路はほとんど決まってる。

どうせヒーローに全滅させられるか、敗残兵として逃げ延びるか程度だ。

大方テロ起こした連中は、ヒーローの厄介さを知らないんだろう」

『ま、そうだろう。

それに連中は結構残念な連中だしな』

「なんだエイビス、犯人に心当たりがあるのか。

それじゃあ公平な賭けにならんだろうが」

『かっはっは。

悪いなイルミナP。だが安心しろ。

ちゃんと公平な賭けとしてその詳細は教えてやるさ』

 電話口に得意そうに語るエイビス。
 待っていたと言わんばかりのその口調に少しイルミナPは苛立つが表には出さなかった。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:17:41.94 ID:3xHL6HTto<>
『デーモンスレイヤーであるこのオレとしては魔族の知識はそれなりにある。

そしてあの山を削った兵器は、吸血鬼の玩具として昔見たことがあってな。

とはいっても威力はかなり高くなってたが』

「吸血鬼だと?」

『ああ、不死種(ノスフェラトゥ)の種族にして、暗黒王アンセスターの子孫とも言われる魔族。

人間を糧として、幾度となく人間の世界に進行を続けてきた人間の天敵。

人間から雇われることもあった俺からすれば、何度も殺し合ったことのある馴染みの連中だよ』

「吸血鬼か。聞いたことはあるが一度も見たことはない」

『それは意外だな。

まぁ数も多いし、能力が高かったり知恵が回ったりと厄介な奴らだったね。

最近は連中ともご無沙汰だったが、ちょっとした情報くらいは知ってる。

なんでも派閥が3つに分かれているらしい』

「派閥まであるとは……魔界の連中にしては社会的ということか」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:18:49.95 ID:3xHL6HTto<>
 魔王によって秩序が生まれたとはいっても魔界はもともと力が物を言う世界である。
 社会を形成するなんて面倒なことをするより、力で支配するような単純な社会構造を好む者が多いのだ。

『自ら貴族だとのたまう連中だからな。

多くの魔族のように脳筋じゃないのさ。

ともかく人間に対しての価値観の差として『共存派』『利用派』、そして『家畜派』の3つがある。

今回の騒動の発端はおそらく家畜派だろう』

「その根拠は?」

『奴らが最も『脳筋』だから』

「なるほどな」

『もう少し詳しく言うなら、共存派はこっちに攻め入って来ることはないし、利用派は狡猾で慎重、こんな単純な作戦は多分使わない。

家畜派の仕業だと思うのが一番納得できる』

「それは確かに納得だ。

その『家畜派』とやらの戦力はどれくらいなんだ?

ヒーローたちに対抗できるほどの力はあるのか?」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:20:07.95 ID:3xHL6HTto<>
 『賭け』の対象である『家畜派』の吸血鬼たちがどれほどの戦力なのかは気になるところである。
 戦力はもっとも重要な判断材料で現状の日本のヒーローとどれだけやり合えるかが鍵となる。

『まぁあんまりお前に情報与えすぎるのはさすがになぁ……。

俺が教えられる程度と言えば、本来それぞれの派閥が拮抗していたんだが少し前に『家畜派』がヘマをやらかしたらしい。

なんでも精鋭部隊が侵攻したにもかかわらず、見下していた人間ことごとくに負けたそうだ。

それが原因で、派閥を鞍替えする吸血鬼が多く出たとかなんとか』

 エイビスの情報を聞きながら、吸血鬼たちの情勢を想像するイルミナP。 
 初めは乗り気ではなかった『賭け』にいつのまにか乗り気になっている。

「なるほど今回の襲撃はその汚名返上と言ったところか。

とはいっても戦力的に欠けた状態で挑もうなんてお前の言う『脳筋』は相当のようだ」

『ははっ、まぁあの派閥は弱くはないんだが上のお頭の足りなさは陰でいろいろ言われているらしいからな。

でどうする?

お前はこの吸血鬼の侵攻はどんなオチを迎えると思う?』

 電話の向こうのエイビスはどんな結果に『賭ける』かをイルミナPに聞いてくる。
 子供のように弾んだ声はこの吸血鬼の侵攻ですら退屈な子供に与えられた新しい玩具でしかないようだった。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:21:07.65 ID:3xHL6HTto<>
「その前に確認するが、お前は何を賭けるつもりだ?」

 イルミナPにとってもう一つ重要なことはそれである。
 自分が追うリスクを把握せずに賭けをすることなど愚か者のすることだ。

『そうだな……。

せっかくだ。『全賭け(オールベット)』とまではいかないが、来年の『騎士兵団』、つまり傭兵会社ヴァイスハオプトとしての活動を一切休業。

お前に一年くれてやる。どうせそろそろ計画を始めようと思ってたんだろ?』

「……鋭いな。誰かに語った覚えはないんだが……」

『なんとなく、そろそろだと思っただけさ。

スポンサーのチェアマン連中もしびれを切らす頃合いだしな』

 意地の悪い笑いをしながら語るエイビス。
 『第二位』として一つの組織をまとめ上げてきた男としては納得な思考と観察眼である。

「ふん……。まぁその通りだよ。

なんとなく計画のヴィジョンは見えてるさ。

さて逆に俺は何を賭ければいい?

あまりむ無茶な要求は私には飲むことができないぞ」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:22:31.90 ID:3xHL6HTto<>
『そりゃあお前の腕でとびっきりの兵器(おもちゃ)を作ってくれ。

そしてそれにふさわしい戦場(ぶたい)もだ。

闘争を思いっきりエキサイトさせるようなとびっきりイカれたやつをな』

 そして一つの組織の頭である以前に一人の戦闘屋である狂気を露わにする。

「相変わらず悪趣味だな。そう言うところは昔から好きになれない」

『言うなよ。オレの数少ない『生きがい(シュミ)』だ。

好きなもんはしょうがねえだろが』

 そんなエイビスの言い草に思わずイルミナPはため息をつく。
 300年前から変わらない電話の向こうの男にとってイルミナPもこればかりは諦めの感情しか浮かばない。

「あんたほど多趣味な『悪魔(ヒト)』がそれを言うか……。

まあいいよ。賭けに乗ってやるさ」

『おお!さすがだぜ!

で、お前はいったいに何に賭ける?』

 意気揚々と尋ねてくるエイビスに、イルミナPは淡々と答えた。

「私は―――――」

 イルミナPは窓の外、視線の先にある巨大な何かの影を捉えながら、この余興に乗ってみることにしたのだった。



  <> @設定
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:23:49.84 ID:3xHL6HTto<>

イルミナティ騎士兵団/傭兵会社ヴァイスハオプト

イルミナティの内部組織であり、少数精鋭の戦闘部隊。
所属人数は25人で、その内の上位十人のみ『序列』として順位が定められている。
当然トップとして第一位の兵団長が存在しているが、無口のため基本取り仕切っているのは『第二位』であるエイビス。
イルミナティの中でも特に化物集団であり、イルミナPでさえも自由に動かすことのできない集団。
インヴィディアもここに所属しているが、序列持ちではない。
普段はイルミナティとは別行動であり、一般的に傭兵会社として名が通っている。

『第二位』エイビス

深淵の悪魔。地球出身の魔族であり昔はデーモンスレイヤーとして活動していた。
多趣味であり、見た目軽薄そうな男。
イルミナティ創設メンバーの一人であり、昔イルミナPと唯を狙いことごとく返り討ちにされた経歴がある。
ただし現在ならばかつて大敗を喫した唯に追随する強さを持つ。
無口な兵団長に代わり騎士兵団をまとめている。

誰もが深淵(エイビス)に挑まねばならぬ時がある。底見えぬ深い深淵へ。
底があることに絶望を覚えるときもあれば、限りない底無しに絶望することもあるのだ。 <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:27:17.85 ID:3xHL6HTto<> 以上です

とりあえずイルミナティは今回に関しては静観の方向です。

あれ?モバマススレのくせにアイドルが出てないって?


……


というわけでもう一本投下します。
なお個人的にはかなりギャグ色強くしてあり、キャラ崩壊が著しいキャラがある可能性があるのでそれを微妙に感じた場合はすっ飛ばしてしまうのもいいかもしれません。



  <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:28:13.84 ID:3xHL6HTto<>



サクライP「突然なんだがチナミくん、ちょっと付き合ってもらえないか?」


チナミ「本当に突然ね。突然呼び出しておいて、突然付き合えなんて突然すぎて失礼だとは思わなかったのかしら?」

サクライP「いやー全く本当にそう思うよ。だが私にも少し事情があってね。

ちょうど手が空いているのは君だったし、その上今回の用事に適任だと思ったわけさ」

チナミ「誰も行くなんて言ってないわ。私忙しいから帰る」

サクライP「ちょっと待ってくれよチナミくん、いったい何が忙しいっていうんだい?」ガシッ

チナミ「放してくれるサクライ?セクハラで訴えるわよ。

それに今日は私夕日に向かって走らなきゃいけないんです。さようなら」

サクライP「待て待て。まだ真昼間だから夕日の時間には早いし、それに吸血鬼が太陽に向かって走るのっておかしくない?

嘘だよね。それ嘘だよね」

チナミ「ばれました?じゃあ帰りますお疲れ様です」

サクライP「ストップスト−ップ!頼むからついてきてくれないか?

正直私一人で行くのは嫌なんだ。それに今回行くのは君もよく知るルナール社だ。安心だろう?」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:29:30.39 ID:3xHL6HTto<>
チナミ「その物言いの時点ですでに安心できないのだけど一応聞くだけ聞いてあげるわ。話してみてサクライ」

サクライP「一応私上司だよ……。

つまるところ今ちょっと厄介な人がルナール社にいてね。

要するに護衛ということで付いてきてくれないかな?」


チナミ「別にそれこそ私じゃなくてもいい気がするのだけれど」

サクライP「あー……それは

(全員に断られたなんて言えない)

……ともかく別に君にメリットがないわけじゃない。

この分の給料だって出るし、何より君にとっては有益な情報だって手に入る」

チナミ「情報?」



サクライP「私の『弱点』だ。気になるだろう?」



チナミ「自ら弱点をさらすなんてあらかさまに何かあるのでしょうけど……。



いいわ。興味も出てきたしその話に乗ってあげる」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:31:21.74 ID:3xHL6HTto<>
サクライP「それはよかった。

ちなみにもう拒否なんてさせないぞ」

チナミ「わかっているわよ……。

(サクライが自称するくらいなんだから何か怪しいけど、本当ならやつを出し抜く鍵になるかもしれないわね)」

サクライP(なんてことを考えているんだろうが……。

確かに私の弱点、苦手としている人物だが、きっと会えば君の弱点にもなるだろうしなぁ……)



サクライP「そんなわけでルナール社に付いたわけだ」

チナミ「地の文がないからシームレスに移動したみたいになってるわよ」

サクライP「大丈夫最悪元からルナール社にいたことにすればいいから」

チナミ「メタ的で身も蓋もない理論ね」

サクライP「とにかくたのもー」ガチャ
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:32:26.56 ID:3xHL6HTto<>
チナミ「もはやツッコむ気すら失せるわ。

というかこの部屋ルナール社内の研究室よね?



一体ここに何の用があって……ってなんじゃこりゃあ!」

ギャーギャーワイワイ

チナミ「なんでこんなところに子供がたくさんいるのよ!

いつからルナール社は幼稚園になったっていうの!?」

サクライP「いや、この子たちの姿見る限り、年齢的には小学校の方が表現的には正しいだろうね」

チナミ「そういう問題じゃないでしょ!」


???「そうそう、そういう問題じゃあないでしょサクライさん」

チナミ「誰!?」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:33:15.19 ID:3xHL6HTto<>
サクライP「この様子を見る限り……やはり完成させたようだね」スタスタ

???「もちろん!報酬分は最低限あたしも働くからね」

サクライP「君のことは苦手だが、さすがの手際だよ。


ドクターネコミミ、いや……マッドサイエンティスト・シキ!」バーン

シキ「いやいつも言ってるけどこれネコミミじゃなくてウサミミだからね」



チナミ「なるほど……。

あなたがこの騒動の張本人というわけね」

シキ「にゃっはっは!そのとーり!

そして約束通り完成したよ。例の薬!」

サクライP「くっくっく……これで私の野望に一歩近づく。

腕がよく、秘密が守れる雇われの科学者など世界広しと言えど君くらいだからな。

君に頼んで正解だった」

<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:34:02.32 ID:3xHL6HTto<>

チナミ「サクライ……いったいその薬は何?

その薬で何をするつもりなの?」

サクライP「この薬か?これはな……」


シキ「これはざっくり言えば『若返り薬』さおねーさん!

つまりこの子供たちは研究員の実験のなれの果てってワケ!」

サクライP「…………」


チナミ「なるほどね……。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:34:59.93 ID:3xHL6HTto<>


じゃあサクライ……一体それで何をしようっていうの?

あなたの野望ってたしか『世界のすべてを手に入れ……」




サクライP「そうだ!君も知ってのの通り、私の野望は世界中の少女たちに『パパ』って呼んでもらうことだ!」

チナミ「急に何言いだしてるのこの人!?」ガビーン

サクライP「この私サクライ……恥ずかしいことに最近娘が構ってくれない。

ああクソ……私は『お父ちゃま』とか『パパ』とか『お父さん』とか『ダディ』とかもっと呼ばれたいのさ!

もっと娘と触れ合いたい……もっと娘と接したい……。

もういっそ自分の娘じゃなくても『パパ』って呼んでほしい……。


娘成分が足らないんだよチクショー!


この……内からあふれ出る父性を……抑えられないのだよ……」ガクッ

チナミ「この人はキャラ崩壊までして何言いはじめてるの!?」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:36:06.11 ID:3xHL6HTto<>
サクライP「つまりこの薬で全世界の女性を幼女にして私を『パパ』と呼ばせるこの計画」スクッ

シキ「名付けて……」




サクライP「『ロリフォーマー計画』だ!」




チナミ「ロ……ロリフォーマー計画……ですって……」

サクライP「さてチナミ君、君がこの計画を止めるというのなら私にもかんが……」


チナミ「ばかばかしい……帰るわ」

サクライP「え……止めないの?

まぁ止めないのならそれはそれでいいんだが……」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:37:04.79 ID:3xHL6HTto<>
チナミ(正直こんなアホな計画付き合ってられないし吸血鬼の私にはどうせあの薬は効かないでしょうから無視でいいわね。

人間全員幼児化してくれるならその方がいろいろやりやすくなる可能性もあるだろうし。

それに何よりサクライがこんなアホな人間だったってことがわかった事が一番の収穫ね)

サクライP「さぁみんな……私のことを『パパ』と呼んでくれ!

……って蹴るんじゃない!こらやめろ!」

チナミ(実験台にされた研究員たちは精神的に幼くなってるみたいだけど洗脳されてるわけじゃないみたいだしサクライの野望早くも頓挫しそうね)

ガシッ

チナミ「って誰よ私の足掴むの」

???「ちょっと待ちなさい!お願いあの男の野望を止めてチナミ!」

チナミ「誰よあなた……ってもしかして研究主任?こんなに小さくなって……」

しゅにん「わかってくれたのはありがたいけど、その憐みの視線止めて」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:37:50.79 ID:3xHL6HTto<>
しゅにん「っていうか名前までひらがなになってるし!」

チナミ「で何で止めなきゃいけないのよ。面倒事に首突っ込むのは嫌よ」

しゅにん「あの男、サクライは今正気じゃないわ」

チナミ「それは見ればわかるわよ。幼女に蹴られて恍惚の表情してるあの様子を見ればね」

ハッハッハ、コラコラヤメタマエー


  <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:38:41.00 ID:3xHL6HTto<>


チナミ「……ああなったら人間おしまいね」

しゅにん「まぁ、ああなっているのにも原因があるのよ」

チナミ「原因?

なんだか元からあんなだったような気がしてきたのだけれど……」


しゅにん「実は、彼は今『ギャグ因子』の影響を受けているわ」

チナミ「何それ?」

しゅにん「さいきん発見された運命を構成する因子の一つよ。

その影響を受けるとどんなにシリアスな人でもギャグ的な行動を起こし始めるわ。

普通ならしばらくして元に戻って、運命の強制力でさも無かったかのような『なあなあ』な感じになるけど……

チナミ「けど?」

<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:39:42.48 ID:3xHL6HTto<>

しゅにん「きっとサクライはこのままいくと多分手遅れになるわ」


チナミ「……て、手遅れになると一体どうなるっていうのよ?」

しゅにん「良くてギャグ要因、コメディーリリーフとして一生シリアスに首を突っ込めなくなりギャグ世界に隔絶される……。

最悪の場合だとギャグにもシリアスにもなれずにその中間の存在として運命の中を永遠にさまようことになるわ」

チナミ「なにそれこわい」

しゅにん「わかったでしょう?だからサクライを手遅れになる前に止めて!」

チナミ「小さくてかわいい主任にお願いされるのはやぶさかではないけど……。


逆にこれ、サクライ始末する絶好の機会じゃない?」

しゅにん「なに物騒なこといいだしてるのこのひとー!?」

チナミ「もしかしてあのシキって娘ももしかしてサクライ始末してその利権かすめ取ろうとしてるのかしら?」

シキ「…………」ニヤリ

チナミ「あいつ今ニヤッってした!確定じゃないの!

そんなことなら私にも一枚かませなさいよ!」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:40:36.25 ID:3xHL6HTto<>
しゅにん「目先の欲にとらわれ過ぎよあなたたち!

だいたいほぼワンマン経営に近い財閥のトップであるサクライがこのままギャグ要因になって失脚したら財閥は崩壊するわ!

さすがにそれはチナミにとってもまずいでしょう!」

チナミ「……たしかに、これだけ都合のいい隠れ蓑は他にはそうそうないわね」

しゅにん「それに財閥なくなったらわたし無職になって飢え死にしちゃうから〜!

わたしのためにあのおっさんの凶行を止めてチナミ〜!」ビエーン


チナミ「結局本音は自分のためじゃないの!

ええいその姿で泣きついてこないでようっとおしい……。

わかったわよ止めればいいんでしょう止めれば!」

しゅにん「ありがと〜!」

チナミ「……で、サクライを元に戻すにはどうしたらいいの?」
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:41:30.47 ID:3xHL6HTto<>
しゅにん「グスッ……一発気絶するくらいおもいっきり殴ってやれば、たぶん元に戻るはずよ」

チナミ「オーケイ楽でいいわ。

日頃の文句と共に顔面に叩き込んであげる!」ザッ


シキ「そうはいかせないよ!」

チナミ「邪魔しようっていうの?マッドサイエンティストのネコミミ」

しゅにん「気を付けてチナミ。

わたしたちはあの子に薬を飲まされたりあびせられたりしてこの姿にされたの」

チナミ「浴びてもダメって相当効力な薬のようね」

シキ「ていうかまだ正気保ってるんだそこの娘。

もうほとんどの子たちは精神まで幼児化してるっていうのに」

<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:42:42.17 ID:3xHL6HTto<>

しゅにん「このままおとなしく幼女になってたまるっかての!

せめてあなたに一矢報いるまでわね!」


シキ「えー、そんなこと言わずにおとなしく幼女を楽しめばいいのに。

人類の夢の一つである若返りなんだよー♪」

しゅにん「会社潰れて路頭に迷う方が困るわよー!

さいきん都内にマンション買ってローン残ってるんだからー!!」

チナミ「ちょっと前に聞いた嬉しそうな悲しそうな表情してたのはそれが理由ね。

独身女がマンション買うとかある意味終わってるもの……」

しゅにん「いうなー!」

シキ「とにかく!あなたはどうあがいてもあたしを止めることは不可能!

それどころかあたしに近づくことだってできないのさ!」




チナミ「……どういうこと?」

しゅにん「チ、チナミ!床を見て!」

チナミ「ハッ!こ、これはー!!
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:43:35.97 ID:3xHL6HTto<>
りゅ、流水!蛇口から水を流しあふれさせることで部屋を分断するように流水を作ったのね!」

しゅにん「これじゃ吸血鬼のチナミは向こう側にいるシキに手を出すことができないわ!」

※なぜ主任が吸血鬼のことを知っているのかは空気的に流してください

シキ「たとえそれを超えられる主任がサクライを殴ったとしても今のサクライにとって幼女のパンチはただのご褒美!

逆にライフを回復させる!ましては幼女の腕力で成人男性を気絶させることはほぼ不可能!!」

しゅにん「くっ!これじゃあ……」

シキ「そう!これで詰み!

そこで二人であたしの計画をおとなしく見ているといい!にゃっはっはー!」

しゅにん「もう……どうすることもできないの……」


<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:44:25.54 ID:3xHL6HTto<>

チナミ「いや蛇口止めればいいだけよね」キュッ

しゅにん「…………」

シキ「…………。

ひ、卑怯者!!」

チナミ「あなたに言われたくはないわね……。

とにかく遮るものもなくなったことだし後はサクライに顔面パンチをくらわせるだけよ!」

シキ「くう……こうなったら!



特製の『若返り薬水風船』くらえー!」ポイッ!

しゅにん「なっ!避けてチナミ!」


<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:45:09.80 ID:3xHL6HTto<>

チナミ「ハァ……。

たぶん吸血鬼のあたしには効かないだろうけど一応弾いておくわ」パシッ



シキ「なんだってー!

水風船を割ることなくいともたやすく弾かれたー!!」

しゅにん「ナイスチナミ〜!!」

チナミ「さぁこれで障害はもうないわ」

シキ「くぅう……こんなとこで……。




……なんちゃって!!」

しゅにん「!

チナミ上!」

チナミ「なっ……

(上からも水風船!まさか初めからトラップを仕掛けてあったの!?)」

バシャア!!
<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:45:51.28 ID:3xHL6HTto<>
シキ「はじめの水風船は囮!

本命は注意を逸らした後のトラップだったんだよね!!」

ちなみ「くっ……。

馬鹿にしないで……吸血鬼に人間用の薬なんて……」

ちなみ「って普通に効いてるし!!」

シキ「さっすがあたし!

一ノ瀬の医学薬学は世界一!」

しゅにん「そんな……ちなみまで……。

わたしのむしょくはかくていてきだ〜……。

さらに、とうとうかんじまでいえなくなってしまった……。

あとはまかせたよ、ちなみ〜」ガクリ

<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:46:50.35 ID:3xHL6HTto<>
ちなみ「こら主任しっかりしなさい!

ここで倒れたら花の独身生活が終焉を迎えるわよ!」

しゅにん「はなのどくしんから、むしょくのどくしん。

たいしてかわんないでしょ〜……」

ちなみ「ええい……。

こうなったらダメもとでも!

くたばれサクライ!!」ポカポカ

サクライP「はっは、こらやめたまえ。

そんな乱暴な言葉づかいは止めて私のことは『パパ』と呼ぶといい」

ちなみ「ほんと腹立つわね!!」



シキ「もう無駄なことはやめてサクライがギャグの住人になるのを見届けるのがいいと思うよー。

研究費に使った後、残ってたら分けてあげるかもしれないしね!」

ちなみ「…………」

シキ「にゃっはっは……にゃーっはっはっは!!!」

サアミンナー!ワタシノコトヲ、オトウサントオモッテクレー


  <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:47:40.01 ID:3xHL6HTto<>


ニャーッハッハッハーーー……

「なぁ、そういえばここってなんだっけ?」

「なんだか漫画の中とかにある研究所みたいだよなー」

「じゃあ研究者ごっこしようぜ!!」

「俺これとこれ混ぜてみよーっと」

「じゃあ僕はこれも混ぜてみる!」

「ところでこれ『まぜるな……なんて書いてあるんだろうな?」




シキ「ーはっはっは!にゃーーっはっは」







ドーン☆


<>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:48:33.13 ID:3xHL6HTto<>


『先日、ルナール本社内で研究中の事故による爆発が発生した事件についてです。

今回の事故で軽傷であったのは研究員である男女数名と、その視察に来ていたサクライ氏であることが判明しています。

なお事故による死傷者は確認されませんでした。

ルナール社社長は「今回の事故の原因を一刻も早く究明するとともに、事故防止に努めていきたい」とのコメントを残しています。


続いてのニュースは全国的に降り続く謎の幼児化雨のニュースです。

この雨を浴びた人は例外なく数時間の間幼児化してしまうことが確認されており治療法はいまだ発見されておりません。

しばらくすれば幼児化はするとの報告が上がっているのでできるだけ浴びないように傘を差し、もし浴びてしまっても慌てず完治するまで様子を見ましょう。

以上で夕方のニュースを終わります』


  <>
◆EBFgUqOyPQ<>saga sage<>2014/08/19(火) 17:50:27.11 ID:3xHL6HTto<>

イベント情報

謎の幼児化雨が全国的に降っています。
完治までには雨を浴びた時間だけ伸びます。
しばらくすれば雨雲も止み、問題は勝手に解決するのでこのイベントは特に期限が存在しません



以上です。
困ったときは爆発オチ。
なお、投下後にいくつかの誤字に気づいたので脳内補完お願いします

この話は出来はともかく一応ギャグ回なので今回の設定はほとんど本編側には影響しない扱いとします。
サクライP、チナミさんをお借りしました。

そして最後にキャラの扱いについて◆6osdZ663Soさんゴメンナサイorz <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/19(火) 18:11:59.82 ID:YmRmlKlS0<> 乙ですー

前半のシリアスを後半のギャグがぶっとばしていった
そ し てロリ化イベントだ!!これで勝つる!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/19(火) 19:22:00.14 ID:XzR4UQNzo<> 乙乙ですー

なつきち誕生日おめでとう。奈緒はいろいろ(いみしん)プレゼントしたらいいんじゃないかなw

電気の人相変わらずだなー、そしてシリアスを吹き飛ばす後半wwww <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/19(火) 21:02:46.10 ID:z9RcDgCXO<> 乙ー

前半のシリアスと後半のギャグの差w
そして、キャラ崩壊しすぎわろた <>
◆qTYZo4mo6E<>sage<>2014/08/19(火) 21:07:56.69 ID:XzR4UQNzo<> あとシキにゃんどこからが計算でどこまでが天然なのか分かんないね、素敵 <> ◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/20(水) 10:51:48.15 ID:GaU1kirBo<> 毎度の事ですが誕生日祝いの話は遅れて乙するとなんとなく申し訳ない気分になる
こ、こことは違う場所でちゃんと当日祝ってますので許してくださいな…


>>796
うーん、わくわくしますねぇ、とにかく設定のワクワク感がすごいです
目的がはっきりしたところでむつみちゃんのこれからの活躍ワクワク待ってます(ワクワク)

>>811
遅ればせながら響子ちゃん誕生日おめでとー
安定の真っ黒組織である。響子ちゃん始めにシンデレラ1組には強く幸せになってもらいたい

>>839
おおう…相変らず白兎さん絶好調ですな……こわいわ
後ベルフェゴールちゃん、既にしたっぱが板に付いてないだろうか…それでいいのか大罪の悪魔

>>849
(去年の誕生日を見返す音)
>>手紙『誕生日おめでとう。今年で20歳だな。21歳は来ないものと思え。 スパイクP』

す、スパイクPさん……
遅ればせながらカイちゃん誕生日おめでとー

>>870
全俺が泣いた
2人の夢が、いつか叶えばいいと思う(小並感)
遅ればせながらなつきち誕生日おめでとー

>>890
サクライの弱みかー……娘だな、間違いなく
イルミナティも愉快な組織ですが賭けの結果はどうなりますやら

>>913
キャラ崩壊?サクライって元々こんな感じじゃなかったっけ?(すっとぼけ)
サクライとチナミさんで一本書いてもらえたのが嬉しいくらいなのでオールオーケですぜー


相変らず感想が遅れててすまないの
で、でもちゃんと楽しんで読んではいますのでー……
皆さんがた乙でしたー <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:04:27.95 ID:dQJCJhcq0<> 乙う

イルミナティは本当に底が知れなくて恐ろしいのう
とか思ってたらこの幼児化雨だよ!

AHF敗者復活が異様に長くなったので前後編に分割、前編だけ投下しま <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:05:55.14 ID:dQJCJhcq0<>
AHF、敗者復活戦会場へ向かうバスの中。

01「ナイト、体は平気でありますか?」

ナイト「へーきへーき! あれくらいでやられる戦闘外殻じゃないって」

カミカゼ「……にしても、アイツは何だったんだ?」

東郷「カースドライダー・シュラ……名前から察するに、カースの亜種か……?」

ひなたん「あれは物凄い剣の達人ナリ! カースにはとうてい真似出来ないひなた!」

ナイト「おわっ、ひなたんちゃん?」

ひなたん「腰の入り方から手首のスナップに至るまで、まるで達人技ひなた!」

ナイト「へ、へぇ……」

RISA「じゃあ、アイツまさかカースドヒューマンなの?」

カレンヴィー「……かもね」

カレンヴィー(なんだか私と似た感じがした……ううん、よく似てて、それでいて違う……?)

オーフィス「なんかあっちの会話、ちょっと物々しいね」

アーニャ「……あの、イズ……オーフィス。あのミリアという子の事を、許してあげて下さい」

ファイア「悪気があった訳じゃないものね。私が気を失った時も、救助隊が到着するまで横にいてくれたらしいし」

オーフィス「……そうだね、ちょっと頭に血が上っちゃってたかも」

聖來「……ねえ、そろそろ見えてきたみたいだよ」

スカル「おー、あれですか」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:06:50.41 ID:dQJCJhcq0<> ――――
――――――――
――――――――――――

会場。

〜〜〜〜♪

忍『〜〜♪』

〜〜♪

J『……はい! というわけでですね! 選手移動の間、客席の皆さんにはちょっとしたステージをお楽しみいただきました! 皆さんありがとうございました!』

忍・アイドル一同『ありがとうございましたー!』

亜里沙『本当に素敵なステージでしたねぇ』

ウサコ『……おっと、敗者復活組が会場に到着したと報告があったウサ』

J『はい、それでは映像つないでみましょう!』

亜里沙『ここからは久々に地の文さんが活躍しますよ』

J『相変わらずメタいですねー!』

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:07:54.32 ID:dQJCJhcq0<> ――――
――――――――
――――――――――――

オッス、オラ地の文。久し振りだな、みんな元気してたか?

さて、敗者復活戦に参加する選手達がバスを降りる。

そこは、広大な廃墟群だった。

01「こんなにも広大な廃墟が……」

東郷「憤怒の街の復興を優先した結果放置されている……そんなところかな?」

??『いえ、これはどうめいのりっぱなくんれんしせつです』

選手達に近付く影が一つ。

ガルブ『へいしょせんとうのくんれんようにもうけた、にせのはいきょなのです』

ガルブ『ああ、もうしおくれました。わたくし、はいしゃふっかつのあんないをまかされたガルブともうします』

首に社員証を提げたガルブは選手達へうやうやしく頭を下げた。

ガルブ『では、さっそくルールのせつめいにうつりますが……みなさんカモン!』

ひなたん「!?」

ガルブが指をパキンと鳴らすと、廃墟の影から素顔を隠した人間が現れた。

その数、八人。

甲「な、何だこいつら!?」

ガルブ『かれらは、ほんせんしゅつじょうのチケットをまもるばんにんです』

α「にゃふふ、そういう事にゃ」

番人αが首に提げたカードをこれ見よがしに見せつける。

アーニャ「(あれはみくですね)……それを、奪えばいいんですか?」

ガルブ『はい。ただし、ほんもののチケットはこのなかによんまいだけです』

乙「ははあ、つまり奪うまで本物かは分からないと」

β「そういう事だねっ」

番人βが炎を纏って踊る。

カミカゼ(バーニングダンサー……隠す気ゼロかよ) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:08:56.05 ID:dQJCJhcq0<> RISA「で、チケットを奪ったらどうすればいいの?」

ガルブ『チケットはこのようなふくろにはいっています。かいふうしてあかいチケットがでてくればほんもの、あおいチケットがでてくればにせものです』

ガルブが小さな袋を取り出して説明した。

アース「なるほど、ルールは分かった。はよう始めようや!」

γ「あははっ、威勢がいいな! アタイも賛成だ、開始はまだか?」

番人γが腕組みを解き、ガィンと金属音を鳴らしながらガルブに向き直った。

オーフィス(っ!? あれってまさか……)

その番人γの姿に、オーフィス……いや、大石泉は戦慄した。

駆動音や動作から察するに、彼女はアンドロイド。それも……

オーフィス(あれほど精巧で、しかも人の様に感じて話す……間違いない、あれは『私がやってきた未来』で造られたアンドロイドだ)

オーフィス(まさか、私を追って来たの……? ……でも)

オーフィスは番人γの様子を観察する。

番人γは少し苛立った様子でガルブに開始を促している。

オーフィス(まだ私には気づいてないみたい……なら、こっちから向こうに近付かなければ危険は無いね……)

オーフィスはそのまま、番人γの動向を見据えた。

ガルブ『そうですね、ではさっそくかいししましょう』

ガルブがスッと右手を挙げると、番人達が一斉に四方へと駆け出した。

オーフィス(……あっちに行かなきゃ大丈夫だね)

オーフィスは番人γが駆けていった方角を確認した。

スカイ「…………」

RISA「…………」

聖來「…………」

ガルブ『……ころあいですね。では、はいしゃふっかつ、かいしです!』

カミカゼ「っしゃあ!」

ひなたん「サーチアンドデストロイナリ!」

01「逃げない敵は良く訓練された番人であります!」

ガルブの掛け声と共に、参加者達もまた四方へと散って行った。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:09:48.50 ID:dQJCJhcq0<> ――――
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番人α(前川みく)が逃げた方角にて。

アーニャ「止まって下さい、みく」

それを追うのはアーニャ。

α「にゃははは! 悪いけどアーニャチャン、みくは知り合いにも手加減は無しにゃあ!」

廃墟と廃墟の隙間を、みくは軽やかに舞って逃げる。

アーニャ「……なら、こちらも手加減は無しです」

パァンパァン、と、乾いた音が二度響いた。

驚いたみくが振り向くと、アーニャの手には拳銃が二丁握られている。

α「ちょっ、ガチかにゃ!?」

アーニャ「ダー……ガチです」

勿論、本当にみくを撃つつもりは無い。

というより、アーニャの腕前を持ってすれば当てる事も可能だろう。

この銃撃はあくまで脅し。みくが怯んだ所で素早くチケットを奪う作戦だ。

アーニャ「あまり動かないで下さい、みく」

(でないと本当に当たってしまいます)と心の中で続け、アーニャは再度銃を構えた。

α「うにゃぁあっぶ!?」

直後、銃を向けられ慌てたみくが瓦礫につまづいて転倒した。

アーニャ「今です……!」

アーニャがみくに駆け寄り、首のチケットに手を伸ばした、その時。

α「んにゃああああああっ!?」

アーニャ「っ、これは……竜巻?」

突如その場に発生した竜巻が、みくの体を攫って持ち上げた。

そしてみくの首に提げられているチケットに、手を伸ばす者が空にいた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:10:51.98 ID:dQJCJhcq0<> スカイ「い、今っ!」

ナチュルスカイだ。

みくの体を空に持ち上げ、体の自由が効かない空中でチケットを奪う作戦を立てていたのだ。

アーニャ「シトッ……!」

アーニャは威嚇のためにナチュルスカイへ銃口を向けた。

スカイ「……っ! 風よ、力を貸して!」

ナチュルスカイの巻き起こした暴風が、アーニャの手から銃を奪い取った。

アーニャ「っ……!?」

スカイ「よし、今度こそ!」

ナチュルスカイは一気に距離を詰め、ついにみくからチケットを奪い取った。

α「にゃあっ、しもた!?」

スカイ「これで赤が出れば……」

ナチュルスカイは一息置いて袋を一気に引き裂いて、中身を取り出した。

スカイ「あっ…………」

出てきたカードは青、ハズレだ。

アーニャ「……まだチャンスは残っていますね」

ガックリと肩を落とすナチュルスカイの様子を見たアーニャは、他の番人を探すべく駆け出した。

スカイ「……そ、そうだ、早く次の番人を探さないと!」

落ち込んでいたナチュルスカイも、ハズレのチケットを握りしめたまま空を飛んで行った。

場に残るのは、みくただ一人。

α「……何やねん、この扱い……」

瓦礫に頭を突っ込んで真っ逆さま、両脚をダイナミックにおっ広げた無様なギャグ漫画スタイルで、みくはぼやいた。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:11:48.17 ID:dQJCJhcq0<> ――――
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番人β(斉藤洋子……バーニングダンサー)が逃げた方角にて。

カミカゼ「っしゃ、追いついたぜ!」

甲「チケットを渡しな、バーニングダンサー!」

乙「逃げ場はねえぞ?」

β「あいたた、まさか同僚に囲まれちゃうとはね」

バーニングダンサーの前方にはカミカゼ、後方にはヤイバーズ。

そして左右には大きな瓦礫、完全に逃げ場を塞がれている。

乙「ヤイバーセイバー! いっくぜぇ!」

甲「ヤイバーセイバーァッ!!」

まずヤイバーズが専用の刀を構えてバーニングダンサーへ突進した。

β「しょーがない……なっ!」

バーニングダンサーの両手に踊る聖炎が剣を形作り、それらを受け止める。

甲「チッ!」

乙「だが捉えた! 今だカミカゼ!」

カミカゼ「おぉあっ!!」

β「っ!?」

一瞬の隙を突いたカミカゼが、バーニングダンサーの胸元へと手を伸ばす。

β「甘いよっ!」

しかし、カミカゼの手はバーニングダンサーの回し蹴りで弾かれた。

カミカゼ「チッ!」

甲「もらった!」

β「うぁっ!?」

その回し蹴りで一瞬崩れたバランスを、ヤイバー・甲は見逃さなかった。

刀でバーニングダンサーの体を押し切り、そのまま左手を彼女の胸元へ伸ばした。

β「しまった……!」

ヤイバー・甲の手が、ついにバーニングダンサーの守るチケットを奪い取ろうとした、その時。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:12:38.35 ID:dQJCJhcq0<> δ「イヤーッ!!」

どこからともなく飛来した鎖分銅の鈍い一撃が、ヤイバー・甲の左手に直撃した。

甲「グワーッ!? ってぇ……何なんだ一体!?」

乙「り、リーダーあそこ! 瓦礫の上だ!」

ヤイバー・乙が指差した先に立っていたのは、「成敗」の文字があしらわれたメンポで顔を隠した、忍者装束の少女だった。

彼女は番人の一人、番人δ……またの名をアヤカゲ、本名浜口あやめだ。

δ「ニンッ! 番人δただいま見参! β殿、助太刀いたします!」

β「どーも、δさん。恩に着るよっ!」

大きく跳躍したアヤカゲは、バーニングダンサーの背を守るようにカミカゼとバーニングダンサーの間に着地し、腰の忍者刀を引き抜いて構えた。

甲「番人同士が共闘!? 聞いてねえぞ!」

カミカゼ「……っ大体、δを追ったヤツだっていたはずだ! そいつらはどうしたんだ!?」

スタートと同時にアヤカゲを追ったのは、カミカゼが視認出来ただけでもひなたん星人、マーセナリー・東郷、カレンヴィー、アビスナイトの四人だ。

その四人を振り切ったというのか? カミカゼは訝しんだ。

δ「ふっふっふ、この特製煙幕弾の力をもってすれば造作も無い事です!」

アヤカゲはメンポの下に盛大なドヤ顔を作り、煙幕弾を手の上で弄ぶ。

そしてそれを突如地面に向けて叩きつけた。

全く姿勢を変えない状態からの素早い投擲、まさにワザマエと言う他ない早業である。

カミカゼ「っ! しまっ……」

カミカゼが気付くも時既に遅し、辺り一面には濃い煙幕が充満していた。

β(やったね!)

δ(さあβ殿、今の内に……)

バーニングダンサーとアヤカゲが煙幕に紛れての離脱を試みた、が。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:13:30.72 ID:dQJCJhcq0<>

ボゥッ


β「うわぁあっ!?」

δ「ンアーッ! なな、何事ですか!?」

突然巻き起こった爆発で、二人の体は投げ出された。

煙幕も綺麗さっぱり吹き飛んでしまっている。

そして爆発の中心部には、少しスーツの焼け焦げたヤイバーズが立っていた。

乙「……粉塵爆発。小麦粉とかが充満した部屋でライター点けると大爆発すんのと同じ原理だぜ」

甲「ま、ぶっちゃけホントに爆発するかは賭けだったがな!」

カミカゼ「オイコラァ! 爆発すんのは勝手だけどアタシを巻き込むんじゃねえよ!」

少し離れた先の瓦礫から這い出したカミカゼが、ヤイバーズに毅然と抗議した。

甲「知らねえな! さあ、今度こそチケットいただくぜ!」

ヤイバー・甲はダッシュし、バーニングダンサーに一気に駆け寄った。

β「くっ…………きゃあっ!?」

δ「アイエエエッ!?」

甲「な、何だ!?」

突然の出来事に、ヤイバー・甲が思わず足を止める。

視界の隅から、突如蔦の様な物が伸び、番人二人の胸元からチケットを奪い去ったのだ。

??「やれやれ、ようやく追いついた」

乙「っ! テメェ……!」

声のする方を振り向くと、そこに立っていたのはアヤカゲに撒かれた筈のマーセナリー・東郷だった。

その手には、二枚のチケットがしっかりと握られている。

東郷「まさか私でも見切れない速度で煙幕を仕掛けたとはね」

カミカゼ「おい、お前! 漁夫の利取る気かよ! セコいぞ!!」

東郷「……いやなに、彼女を追ってきたらチャンスだったからチケットをいただいたまでさ。君達がいようといなかろうと関係無く……おっと」

背後に何者かの気配を感じ取ったマーセナリー・東郷は軽く身を捻る。

その脇を、銀色の物体が猛烈な速度で通り抜けた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:14:26.05 ID:dQJCJhcq0<> ナイト「っ……一枚取ったりぃ!」

東郷「……おや」

アビスナイトは、マーセナリー・東郷から紙一重で奪い取った一枚のチケットを誇らしげに天に掲げた。

ナイト「へっへん、ざまあみろ! 最初にあたしを襲った時より遅くなってるんじゃない?」

東郷(……いや、むしろ君が速くなっているな。劇的に、では無いが……少なくとも、私の予測を微かに上回る程度には)

憎たらしい顔で挑発するアビスナイトを無視し、マーセナリー・東郷は彼女の予想以上の成長に感嘆した。

乙「……なあ、アビスナイト。開けねえのか?」

痺れを切らしたヤイバー・乙が口を開く。

アビスナイトの幼稚な挑発が余りにもバカバカしく、チケットを奪う気さえ起きなかったのだ。

ナイト「っと、そうだったそうだった。さてさて……?」

我に返ったアビスナイトは、袋を破いて中を覗き込む。

ナイト「…………青だぁ……」

ガックリと肩を落としたアビスナイトの手をすり抜け、袋が地面に落ちた。

切れ端から顔を覗かせたチケットの色は、ハズレを示す青。

東郷「ふふ、他人が取った物を奪うからさ。さて私はどうかな?」

カミカゼの、お前が言うな、という言葉を無視し、マーセナリー・東郷は袋からチケットを取り出した。

東郷「おや…………ふふっ」

チケットの色は、赤。アタリの色だ。

乙「あっ……」

直後、会場全体にJのアナウンスが響き渡った。

J『決定ー! 最初の敗者復活は、番人δのチケットを奪ったマーセナリー・東郷だぁー!!』

甲「チックショ、まだ番人は残ってる! 急ぐぞ相棒!」

乙「あっ、ま、待てよリーダー!」

アナウンスが終わらない内に、ヤイバーズはさっさとその場を去って行った。

カミカゼ「チッ……」

ナイト「くそ、今度こそ!」

続いて、カミカゼとアビスナイトも別々の方向へと散った。

いつの間にか、アヤカゲとバーニングダンサーもいなくなっている。

東郷「……さて、この後はガルブさんに聞けばいいかな」

茨姫を鞘に納め、元の位置へ歩き出したマーセナリー・東郷。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:15:15.05 ID:dQJCJhcq0<> ??「待ってくれるかしら?」

東郷「ッ!!」

そのマーセナリー・東郷へ、突然向けられた物は三つ。

一つは落ち着き払った声。もう一つは明確と言えるほど分かりやすい敵意。

そして最後の一つは、黒く燃え盛りながら回転する炎の鎌だった。

東郷「……どういうつもりかな?」

間一髪で鎌を回避し、マーセナリー・東郷は声のした方を睨み付けた。

ファイア「……別に他意は無いわ。少しお手合わせ願いたいだけよ」

回転しながら戻ってきた鎌を手に取り、エンジェリックファイアは不敵に微笑んだ。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:16:13.29 ID:dQJCJhcq0<> ――――
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番人θが逃げた方角にて。

聖來(……瞳子さん、大丈夫かなあ)

姿を眩ませた番人θを探しながら、聖來はエンジェリックファイア……服部瞳子の事を考えていた。

それは、つい先程の事。

――――

ファイア『あのマーセナリー・東郷という女……少し実力の程を確かめて来るわ』

聖來『えっ……まさか、攻撃するの? それは流石に……』

ファイア『あら、反則とは言われてないじゃない?』

聖來『それは、そうですけど……』

――――

聖來(確かに『鬼神の七振り』の所有者ではあるけど……別に今じゃなくても……)

ひなたん「あ、聖來さん!」

その聖來を見つけ、駆け寄ってきた影が二つ。

聖來「あ、美穂ちゃんにRISAちゃん」

ひなたん星人……小日向美穂とRISA……的場梨沙だ。

RISA「ちょうど良かった。こいつ預かってよ!」

RISAがウンザリした顔でひなたん星人を聖來に押し付ける。

聖來「え、えっ?」

RISA「こいつ、アイドルヒーローの事メチャクチャ細かく訊いてきて鬱陶しいのよ!」

ひなたん「だ、だって現役アイドルヒーローと話せる機会なんて滅多に無いナリ! 据え膳食わぬは乙女の恥ひなた!!」

RISA「意味分かんないわよ!」

聖來「あ、あはは……まあまあ二人とも……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:17:02.53 ID:dQJCJhcq0<>
ガィン!

聖來の言葉を、上空から響く音が遮った。

θ「くぬっ、しつっこいですな!」

片方は生き物のように蠢く刀を振るい、烏天狗の翼で空を舞う小柄な剣士。

番人θ……脇山珠美だ。

カレンヴィー「追いかけっこはおしまい? なら、チケット渡してもらうよ!」

もう片方は泥の翼で羽ばたき、泥で出来た右腕の槍を構えるカレンヴィー。

θ「そう簡単にはお譲り出来ません! たぁあっ!」

カレンヴィー「だったら……力ずく!」

二人は再度空中で交差、激しい斬り合いが始まった。

聖來「…………あれは……」

ひなたん「もしかして、鬼神の七振りナリ!?」

聖來「かもね…………って、アレ? RISAちゃんは?」

ふと横を見れば、先ほどまでいたRISAの姿が無い。

RISA「たあああっ!」

ひなたん「!?」

そして頭上から響くRISAの怒号。

RISAは圧倒的な脚力で大ジャンプを繰り出し、飛び蹴りの構えを取った。

RISA「エルファバッ!」

エルファバ「…………」

RISAの背後に現れた人影……ゴーストのエルファバが、RISAの体を掴んで珠美へ向かって投げつけた。

θ「なんとっ!?」

珠美は間一髪、刀……餓王丸の腹でRISAの蹴りを受け止めた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:18:01.59 ID:dQJCJhcq0<> RISA「ちっ、やるじゃないチビッこいのに!」

θ「チビ言うなし! てぇぇっ!」

珠美は餓王丸を上段に振りかざし、RISAへ向けて勢いよく振り下ろす。が、

RISA「エルファバ!」

エルファバが再度RISAの体を掴み、今度は地面へ向けて投げつけた。

ズドン、という音を上げ着地し、土煙の中から珠美を見据えるRISA。

ひなたん「むむむっ、あんな高くにいたら届かないナリ……」

聖來「そうだねえ…………よし、月灯」

聖來が少し考え込んでから月灯を構える。すると、月灯が一瞬の内に姿を変えた。

聖來「お、いけたいけた。……しかし熱いねえコレ」

それは、熱く燃え盛る黒炎の鎌。

ひなたん「それ、エンジェリックファイアさんの……?」

聖來「そ。レース中にチラッと、ね」

イタズラっぽくウインクしてみせる聖來。

実際は、エージェントとしての任務中に瞳子に頼んで鎌を写させてもらっただけである。

聖來「さーて、上手く出来るかな?」

聖來は腰を深く落とし、鎌をググッと振りかぶる。

標的は、カレンヴィーと空中戦を再開している珠美。

聖來「ファイアズムサイズ、ブーメランってね!」

振り抜かれた鎌が、ギャルルルと音を立てながら珠美へ直進していく。

カレンヴィー「えっ!?」

θ「うぉあっ!?」

それに気付いた二人が回避しようとするも間に合わず、互いに翼を刈り取られた。

カレンヴィー・θ「「わあああああああああっ!?」」

二人はそのまま墜落、鎌は弧を描きながら宙を舞い、聖來の3mほど手前に突き刺さって月灯の姿に戻った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:18:56.97 ID:dQJCJhcq0<> 聖來「あちゃあ、やっぱ完全にコントロールするには練習が必要かな」

聖來は頭を掻きながら月灯に歩み寄り、一気に引き抜いた。

と、その時。

ひなたん「お先ひなた!」

RISA「仕留めるチャンスね!」

聖來の両脇を、二人が物凄い速さで駆け抜けた。

そしてそのまま、二人が墜落した土煙の中へ突入していく。

聖來「おっと、出遅れちゃったね!」

すかさず聖來も突入、土煙の中は大混戦の様相を呈した。

ひなたん「ふんっはったぁっ!!」

RISA「てぇやあああああ!!」

聖來「フッフッフッ!!」

θ「まだまだまだまだぁ!」

三方向からの連撃を、珠美は刀一つで捌き切る離れ業を魅せる。

聖來「…っ、流石番人、やるじゃん!」

θ「伊達に幼少から刀を振るってはいません!」

RISA「簡単にはチケット奪えそうには無いわね……って、ん?」

その時、RISAがある事に気付いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:19:50.87 ID:dQJCJhcq0<> RISA「ちょっとアンタ……チケットどこよ?」

θ「へ? いや、こうして首に提げて……あ、あれ?」

そこで珠美も気付いた。

無いのだ。

首に提げていたはずのチケットが、無い。

θ「あっ、あれ!? あれぇ!?」

慌てふためき周囲を足元を探し回る珠美。

ひなたん「…………」

聖來「…………」

RISA「…………」

あまりにも哀れな光景に、三人は珠美をじっと見たまま動きを止めてしまっている。

θ「うぅ……西蓮、間違って食べちゃってませんか?」

『馬鹿言え、そんな悪食じゃねえ』

刀と会話し、泣きじゃくり、足元を探し続ける珠美。

カレンヴィー「ね、ねぇ……チケットってこれかな?」

θ「あ、それです! ありがとうございます拾っていただい……ひゃああああああああああ!!?」

カレンヴィーからチケットを受け取ろうとした珠美は、カレンヴィーの顔を見るなり悲鳴を上げて尻餅をついてしまった。

受け取り損ねたチケットが足元に落下する。

ひなたん「えっ、何が起こっ……うぎゃあああああああああああ!?」

カレンヴィー「えっ、何? 何があったの?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:20:45.14 ID:dQJCJhcq0<> 聖來「ち……血! っていうか顔顔!」

カレンヴィー本人は気付いていないが、落下の衝撃で仮面は半壊し、頭頂からは鮮血がドクドクと流れ出ている。

RISA「うげぇ…………って、今がチャンス! それっ!」

四人の隙を突いて、RISAは珠美の足元からチケットを奪い取った。

θ「あっ!」

RISA「さ、中身は……」

RISAが中から取り出したチケットの色は、赤。

RISA「ふふん、やったわ!」

J『来たぁー!! 2人目の敗者復活は、番人θからチケットを奪ったRISAぁー!!』

ひなたん「むむっ、悔しいひなた! 次へ行くナリ!」

歯噛みしたひなたん星人が、次の番人を探すべく駆けていった。

カレンヴィー「わ、私も!」

聖來「い、いやいやカレンヴィーちゃんは一回治療受けた方がいいよ! 私もついてくからさ!」

カレンヴィーを引き止め、聖來はそのまま彼女を廃墟群中央へと連れて行った。

RISA「…………うーん?」

θ「どうかされましたか? 何かお悩みでも?」

1人考え込むRISAに、珠美は何気無く問い掛けた。

RISA「いや、大した事じゃないんだけど……」

RISA「あのカレンヴィー……何か分かんないけど、引っかかるのよね」

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:21:31.17 ID:dQJCJhcq0<> ――――
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会場上空。

01「…………これで2人目」

会場全体を見下ろすのは、SC-01。

01「当たりが一方向に集中する事は無いでしょうから……もうあちらには居ないと見るべきでしょう」

そう結論付けたSC-01が視線に捉えたのは、番人γ……桐野アヤの姿だった。

そのアヤの方へ、接近するヒーローが一人。

01「……カミカゼ殿……?」

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/08/21(木) 00:24:30.88 ID:dQJCJhcq0<>
【速報】マーセナリー・東郷、RISA、敗者復活決定【AHF】

以上です
RISAとカレンヴィーに関してはただ会わせてみたかっただけなので引っかかるのは思い過ごしだよきっと
番人ポジションは後編もバリバリ遊んでいく所存(ゲス顔) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/21(木) 00:28:43.75 ID:rT4PONlyO<> 乙ー

みくにゃんドンマイ!そして始まるアイさん対瞳子さん…どうなる?

たまちゃんwそして、普通にチケット渡そうとする加蓮w
そのまま梨沙と修羅場にならなくってよかったね

はてさて、この後どうなるやら <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/21(木) 01:06:33.17 ID:yMjYQs6c0<> やったぜAHFだ!乙です!
東郷さんもRISAも復活おめでとう

色々な思惑も混ぜてあってよいよい
番人も個性的でいいですなー
後編が待ち遠しい、あと二人は一体誰なのか… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/21(木) 02:12:59.34 ID:RThjrn2uo<> 乙でしてー

AHF相変らず賑やかで良いですな
そして結構な割合で七振りが活躍していてにっこりです
後編も期待していますぞー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 15:53:22.19 ID:MmUahvQ/0<>  戦闘痕の目立つ建物の影に、肩を落として立ち尽くす人影が一つ。

 その場にヒーロー、またはGDFにそれなり知識を持つ人間が居たならば、それがシンデレラ1に所属する人間、もっと言えば有浦柑奈であると認めることができただろう。

 衣服の隙間から鋼を覗かせるその背中は、どういうわけかひどく頼りなかった。

「帰ったら駄目なとかな……」

 力無く無線機を起動しながら溜め息混じりの弱々しい声を吸い込ませる。

 その声から活力は感じられず、少なくとも方言を隠すことを放棄するくらいには落胆していた。

『だ、だめだよっ…命令だし』

 咎めるような響子の声も、語尾に近づくにつれて語気が弱くなっていく。いまいち否定しきれない、とでも言うように。

 ──まるで命令じゃなかったら帰ってそうな口振り。

 …と考えかけた直後、それがひどく卑屈な考えだと気付くと、途端に自分がひどく矮小に感じられた。

 無論、彼女が普段からこういった思考回路を有している訳では無い。

「ばってん、そがん事言っても…」
「……どう考えてもオイ達役に立ってなか…」

 と、後ろ目に戦闘痕を精査しながら自嘲する。

 目立った破壊がなされた痕跡こそ無いものの、所々に見られるそれはそこで戦闘が行われた事を雄弁に語っている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 15:54:27.92 ID:MmUahvQ/0<>  有浦柑奈が戦闘音と悲鳴を聞きつけ、この場所を訪れたのはつい先ほどの事。しかし既に此処はもぬけの殻。
 つまり、彼女が駆けつけるまでに事態は収束していたと考えるのが妥当である。

 此処だけではなく、響子が駆け付けた屋上でも似たような事があった。

 あちらはクルエルハッターとラプトルバンディットが関与しているらしいことが判ってはいるが、それでも彼女が一足遅かった事に変わりはない。

 所々で確認されるカース達にしても、それぞれ居るヒーローがその場で対処してくれている。
 それこそ、シンデレラ1の出る幕が無いくらいに。

「こがん物騒な物置いてラブとピース重点にしたかー…」

 ともすれば、やる気が空回りするばかりの彼女の口からそんな愚痴が出てくるのは、無理のないことだったのかも知れなかった。

 帰るわけにいかないのは重々承知。
 だからこそ愚痴ぐらいは許して欲しい。というのが彼女の言い分である。

『うーん、もう少し人を回したりしてくれたら、ちょっとは楽になるんでしょうか?』

「どーなんやろうね…」
「回ってこんね、……来ない、かもわからんよ?」

『え?』 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 15:55:59.67 ID:MmUahvQ/0<> 「ヒーロー同盟的にはあんまいGDFに関与して欲しゅうなかやろうし」

『それは?』

『…真っ正面から宣戦布告されちゃったらしいしね、私もそう思う』

「まぁ、GDFも黙ってられなかけんこそ、オイ達がここに居るんやろうばってんね…」
「一番当たり障りの無か関与の仕方が”警備”やったと思おる」

『へー……』

『でも、GDFがこれ以上関わってこない保証もないけどね』
『それこそキュクロプスとか……ケトスが出撃してもおかしくないと思う』

『ケトス!!?』
「っ」

 突然大きくなった驚愕の声に、ほか二人の耳へ不意に強い刺激が走る。

 ケトスと言えば228mm榴弾砲を初めとした過剰火力の権化のような攻撃機だ。知る者がその名前を聞けば、驚愕が口に出るのも無理はないだろう……

 ……至近距離からの大音量が耳に痛くなかったと言えば嘘になるが。

『…ま、まあ、実際に動くかどうかは…偉い人が決めることだから、可能性の話だけどね』
「案外、ヒーロー同盟も気にせんかも知れんし」 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 15:57:05.02 ID:MmUahvQ/0<> 『…………なんか』

「ん?」

『柑奈ちゃんが頭の良いことを話してると違和感が』
「流石に傷つくよ?」

『あぁあ、むむ…ここは私がお詫びに一発…』
「ええよ、気持ちだけで」

 美羽だけがテンションを維持していられるのは、そういう性格だからだろうか。
 無線機から鳴る明朗な声を聞いていると、なんだか自分の情けなさが浮き彫りにされるような気がする。

「負けていられんねぇ…」

 誰に言うでもない呟きは無線の先には届かず、風に紛れたノイズとなって電子に消えた。

『…?何か……』

 美羽に負けじと気を保とうとして、気を切り替えるために自らの頬を一発叩く。
 あまり強く殴る度胸は無かったが、それでも儀式としては十分。陰鬱とした気分を強く鼻息に乗せて追い出し「……何でもないですよ!」と幾分か持ち直した声を無線機を投げかける。

 役に立たないからどうした。
 出る幕が無いから何だ。
 別に戦うために来たわけじゃあ無いんだ。
 それに、もしもがあったらどうする?

 そうだ、卑屈になってる暇はない。

 固め直した気合いを足に込めて一歩踏み出す。意気込みと共に再び歩き出そうとすると、その決意に応えるように、どこからか甲高い悲鳴が鳴り響いた。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 15:57:50.42 ID:MmUahvQ/0<> 「み゛ぃ゛ぃ───ッ!?」
「っ!」

 思うよりも早く、駆け出していた。
 音源はそう遠い距離では無く、異能の者が全力で踏み込めば五秒とかからずその原因を認めることができる。

 頭の中に居る何かが、柑奈の心に戦意を掻き立てる。衝動のようにこみ上げるそれは、柑奈の拳を無意識の内に握りしめさせた。 

 背後に背負ったギターケースが暴れながら柑奈の体を追従する。高速で飛ぶように駆けながら、眼前に見定めた目標──泥に身を固めたカースに向かい、左足を踏み込んで、その身を弾丸のように飛翔させた。
 強まった大気の圧力に顔が歪み、呼吸が押し込められる。景色が先刻に倍する速度で流れ行き、視界に広がる真っ黒な泥との相対距離が一気に近付いた瞬間を見計らって、腰にだめに構えた右拳にフォース・フィールドを纏わせて振り抜く。
 俄かに発光するフィールドが空中に光の軌跡を描き、泥へ打ち込まれた一本の楔となって食い込んだ。

「コノヤぉエ゛エ゛エ゛アア゛アア゛ウア゛ッ!!」

 速度を乗せて、弱点を正確に狙い澄ました一閃は、泥を掻き進んで核を破壊。恨み言の如き叫び声をそのまま断末魔に転じさせる。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 15:58:57.61 ID:MmUahvQ/0<>  ───次っ!

 衝動の如き敵意と覇気を視線に乗せて、飛び散る泥と核の破片が埋め尽くす視界の中に次の敵の影を探る。
 右前方に位置していた泥の塊を認識するとこのまま飛びかかりたくなる気にもなったが、空中の不安定な姿勢のままでは叶うことではない。
 やりきれなさに歯噛みしながら、消滅する寸前の泥を蹴って後方に飛び下がるのが精々だった。

 仲間の断末魔を聞き、漸く外敵の存在を認識したカースが、辛うじて頭部と判る部位を柑奈へ振り向ける。
 彼等に仲間意識という物があったかは判らないが、憤っているらしい叫声を上げながらその全身からおぞましい触手を顕現させた。

「…テメェェェェッ!?ブチ◆□テヤロウカァッ!」

 間違っても放送コードには乗せられなさそうな、およそ品性の見て取れない発言に思わず眉をひそめる。
 敵を睨む瞳に憤りが宿った時には、次の手を考えるまでもなく前のめりに飛び出していた。

 相対する色欲のカースから無数の触手が展開される。
 ある数本は進行方向を遮るように、ある数本は側面から絡め取るように、ある数本は足をすくうように。
 空中に敷かれた網を思わせて襲い来る触手の全てを回避することは困難だろう。
 ならば弾くか、斬るか、逃げるか、捻るか───

 ──柑奈は防ぐ。
 足先に慣性を乗せたまま体を倒して、地面を抉りながらスライドする。同時に上方にフォースフィールド展開すると、その上から柑奈を捉えようとした触手が薄橙のフィールドの表面を滑った。途中何本かが柑奈に引っかかったが、二、三本程度の力などたかが知れていた。
 速度の乗った重量物を止めるには至らず、包囲網を潜り抜け、触手を置き去りにした柑奈の体は、数秒ともなくカースの下方へ滑り込む。
 自らの体を影が覆ったのを頃合いに、無心で泥の体を蹴り上げた。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 15:59:41.28 ID:MmUahvQ/0<> 「ギャアッ!?」

 蹴撃の衝点で鳴った鈍い水音と共に黒い泥が放射線状に撒き散らされて、柑奈の体と芝のある地面を汚す。
 だからと言って核が露出するよな事は無く、依然として泥に覆われたままだったが───

 ───次いで、起き上がる勢いを乗せて放たれた貫手を防御するにはあまりにも薄かった。
寸秒遅れて柑奈に追い付いたカースの触手が肢体に絡み付くが、既に遅い。
 柑奈の掌の中には、もう桃色の核の質量が在ったのだから。

 触手が体を縛り上げるよりも先に体を捻らせ、核を一気に引き抜く。力の源を取り上げられたカースの触手は死んだように硬直して、水分を失った泥のように崩れ落ちた。

 勝った。

 背後でパラパラと落ちる泥の残骸が、その感覚を確かなものとする。

 このカースの命運はまさしく彼女の手の中だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 16:00:26.30 ID:MmUahvQ/0<> 「ラブとピースを乱す輩は、この私が……」

 目を閉じて余韻に浸りながら、誰に聞かせるでもなく、穿って見れば自己陶酔とも取れる台詞を吐き出そうとして、止まる。

 ふと思いつき、先の戦闘を思い返す。
 視界外からの奇襲。攻撃を封じて弱点を捉える。

 一方的だな、と。

 これはラブとピースに則しているのであろうか。───無論、戦闘行為自体が則していないと言えるが───もしかして自分もあまり人の事を言えないのか?

 よくわからない。
 いつもこう言う時になると自分の中の何かが………

「……ァ…ぁ…」
「!…」

 不意。そんな思考を突くように、未だ活動を止めていないカースの核から泥が染み出す。

 ──まあ、カース相手に考えても仕方のない事か。

 そう唱えて思考にとりあえずの決着を付けると、握る手に力を込めて色欲のカースに止めを刺した。

 ぱきゅん、と子気味の良い音を鳴らして弾け飛んだカースの核が桃色の粒子を散らす。
 どことなく幻想的な気がしないでもない、とぼんやりと考えていると───背後からだろうか、耳を済まさなければ聞き逃してしまいそうな呻き声が鼓膜をくすぐった。

 叫び声を上げた存在だろうか。 
 なるだけ好意的な笑みを形作り、背後に「もう大丈夫ですよ!」と明るい声を投げかけると、帰ってきたのは柑奈の虚を突く返事だった。

「…み、みぃ……」

 否、返事ではなく、鳴き声と形容するべきだったかも知れない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 16:01:02.65 ID:MmUahvQ/0<>  物影からひっそりと顔を出して、控えめにこちらを伺っている存在。人をデフォルメしたような容姿をしたそれは、柑奈にとっては未知との遭遇だった。

 予想よりも随分と間抜けな生物が現れたもので、事態を飲み込めていない頭が寸秒フラットになる。
 あれは一体何者なのか。いまいち把握しきれなかった。しかし、理解よりも先に湧き上がる感情があった。

「……かわいい」
「……み?」

 その小じんまりとした体躯を眺めていると、何だか胸が締め付けられるようだ。何かに脅えているような仕草も、無性に保護欲を掻き立てさせる。愛らしい。

 名を呼ぶのなら”ぷちユズ”なのだろうが、それは柑奈の知るところではない。

「怖くないよー…怖くないよー…」
「み、みぃ…」

 感情そのままを顔に出しながら、腰をゆっくりと落として一歩一歩にじり寄る。───欲望をだだ漏れにしたその様が本当に怖くなかったかどうかは定かではない。

 小じんまりとしたその生き物が、怯えたように二、三本後退りするが、それでも両者の距離は縮まっていく。
 およそ三メートル。まさしく目と鼻の先とも呼ぶべき距離まで接近したのを見計らい、柑奈は一気呵成にその距離を詰め、無駄に無駄のない動作で小さな体を抱え上げた。

「捕まえた!」

 小さな体は腕の中にすっぽりと収まり、幼子を抱き上げたときのような感覚だ。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 16:01:57.19 ID:MmUahvQ/0<> 「こがん所でなんばしとったの?」
「みぃーっ!?みぃぃーっ!!」
「おー、そうかそうか♪」
「みみぃぃぃーッ!!」

 驚焦に陥ったぷちユズが腕の中で暴れが、奮闘虚しくサイボーグの体はその体では揺らぎもしない。
 喚き散らすのも無視して、一方的に撫で回す替わりに頬摺りを寄越すと、見た目通り柔らかな感触が頬から帰ってきて、得も言われぬ幸福感に包まれる。

「みぃ!みぃ!!みぃ!!!」
「みー♪みー?」

 このぷちユズの持っている鎌が白色だったことは、柑奈にとって幸運であったに違いない。

「こが…こんな所に居たら危ないから私と一緒に安全な所に行きましょうね!」

「………みぃ」

 力のない返事は諦めの結果だったのか、ただ疲労困憊しただけの話か。

「ふん♪…ふんふふん♪…」




「……とぉぉぉおおおおおおう!!」

 どこかの空から咆哮が轟いたのは、鼻息を歌いながら歩き出そうとしたまさにその時だった。

 音源を振り返り見れば、太陽に浮かび上がるシルエットが此方に向かって落下してきているのが見える。

 ぎょっとして身を竦ませたのも束の間、腕の中のぷちユズを庇いながら身を投げ出すと、間髪入れずに落下した物体が後方で轟音を巻き上げる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/08/21(木) 16:02:43.09 ID:MmUahvQ/0<> 「……あぶなっ!?ちょっと大丈夫です、…か……」

 飛び散った小石が背中で弾けるのを待ち、身の安全を確認した後、青ざめた顔を後方に振り向けながら動転して上ずった声を落下物へ投げかけて、その姿を認めた瞬間語尾が止まる。

「大丈夫ですかっ!?私が来たからにはもう安心………」

「……って、あれ?」

「何しとんの?…美羽ちゃん」
「ほえ?柑奈ちゃん…」

「悲鳴を聞きつけて来たんですけど……」

「それ、この子の悲鳴ですよ!」

 鼻息をふんと吹き出しながら腕に抱えたぷちユズを前へ突きだすと、美羽の白黒する瞳が否応無くそこへ落とされる。

 その大きな瞳をじっと覗き込んだ数秒の後…

「…かわいいっ!」
「ですよねっ!」

 ぷちユズを見つけた柑奈と同様の反応を弾けさせて、今度は二人できゃいきゃいと黄色い声を上げながら愛で始めた。

 繰り返すようだが、このぷちユズの持っている鎌が白色だったことは、彼女らにとって幸運であったに違いない。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>saga<>2014/08/21(木) 16:04:34.18 ID:MmUahvQ/0<> 「持ち帰っちゃだめですかね?」

 と、思いつきを口にすると、美羽が反射で遮るように「それはダメですっ!」ときっぱり言い放った。

 それはいったいどういうことか。
 不意な言い方を怪訝に思いつつも、無言で話の続きを促すと、ぱちくりする視線を受けとった美羽は「この子飼い主が居たの…」とあからさま残念そうに紡いだ。

「そっかあ、だったら返さないといけませんね…」
「うん、そうだねー……」

「「…………」」

 寂しさの揺れる瞳で覗き込まれたぷちユズが、あまりに激しいテンションのギャップに狼狽えているのを後目、そのままの瞳を美羽に上げた柑奈が「どんな人だったんですか?」と寂寥感を噛み殺す思いで投げかける。

「ちょうど、この子をそのまま…柑奈ちゃんぐらいにおっきくした感じの人?」
「この子みたいな子を三匹ぐらい連れてた」

「ふむ…だったらすぐ見つかりそうですね!」

「いつまでも捕まえてるのもかわいそうだし、早く返しに行ってあげようねっ!」

 多少胸に残るものはあっても、知ってしまった以上、誘拐してしまうような度胸も、悪意も無かった。

 ひとまず人の多い所へ、―――校舎へ向かって歩き出す





「……あ、私は別の場所の警備しなきゃいけないから、ごめんっ」
「やっぱり?」

 柑奈一人で。 <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/08/21(木) 16:05:55.27 ID:MmUahvQ/0<> おわり

所々の長崎弁はコンバーターに突っ込んだだけなのであしからず <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/21(木) 16:38:48.33 ID:LpFUTu6rO<> 乙
ぷちユズは柑奈に拾われたか
柑奈強い(確信)

ただ申し訳ねえ
ラプトルバンディットは爛ちゃんが隠してる古の竜としての本名であり、
ヒーローとしての名前はラプターなのよ <>
◆BPxI0ldYJ.<>sage<>2014/08/21(木) 17:11:57.12 ID:MmUahvQ/0<> あ゛っ………



脳内変換、オネガイシマス… <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/21(木) 18:40:20.93 ID:nNtrMVkOO<> 乙ー

ぷちゆずは柑奈ちゃんが拾ったかー
そして、みうさぎはユズがぷちゆずを連れているの見たことあるのか
そういうのに気づくとはこのみうさぎできる

果たして無事に柑奈はぷちゆずをユズに届けることができるのか <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/21(木) 19:20:07.70 ID:yMjYQs6c0<> 乙ですー
やったぜぷちユズ保護された
可愛がられているのを見るのは微笑ましいなー(なおぷちユズ本人はあまりいい気分ではない) <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/22(金) 02:10:17.86 ID:flEj5dsP0<> 長い投下に備えて次スレ立ててきてもいいかな? <> ◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/22(金) 11:16:36.94 ID:DXJvq+CU0<> http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408673581/

返答まだだったけど「近く長めの投下来るからはよう立てや」と神のお告げがあった気がしたのでやっちゃったぜテヘペロ <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/08/22(金) 11:37:50.29 ID:T2abXD+eO<> >>960
乙ー <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/22(金) 17:52:25.37 ID:AhGFpKGVO<> スレ立て乙です <> ◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:48:26.91 ID:vPkahXRyo<> >>954
乙でしてー
やだ…柑奈ちゃんつよこわい
ラブ&ピースを守る為の戦闘、正しいのかとかやっぱり考えちゃいますな


>>960
スレ立て乙ですのー


では投下ー
どうやらおよそ2ヶ月ぶりの投下になるらしい
やだ…時の流れって怖い

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:49:33.95 ID:vPkahXRyo<>


アイドルヒーロー同盟の事務所の廊下を、

のっそのっそと歩く巨体が一つ。

その大きな風貌には、すれ違う誰もが一度は目を向けるだろう。


黒衣P「……ん?ああ」

とは言え、彼(彼女?)の姿はもはやこの事務所に訪れる誰もが見慣れたものであり、

(と言うよりもヒーロー含め同盟関係者には変わった姿をした者の方が多く、いちいちこの程度で驚かない)

今しがたすれ違おうとしている黒衣Pも、ただ普通に挨拶を交わすのであった。


黒衣P「よう、お疲れさん。シロクマP」

シロクマP「やあ、お疲れ様。黒衣Pさん」

そう言って会釈を返す、どこからどう見ても白熊にしか見えない彼(彼女?)も、

アイドルヒーロー同盟に所属しているプロデューサーの一人なのである。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:51:14.60 ID:vPkahXRyo<>


黒衣P「今日は…センセイのとこか?」

お互い同業者、すれ違えば立ち止まり、情報交換を兼ねた世間話が始まると言うもの。

差し当たり黒衣Pは本日の用向きを尋ねた。

ヒーローやプロデューサー達が使用する控え室が連なるこの廊下の突き当りには、

センセイこと持田亜里沙の受け持つ『ヒーロー応援委員』に用意された部屋も存在している。

シロクマPは彼女と特に仲が良いようなので、おそらくはそちらに用があるのだろう。

シロクマP「そだね、ちょっと届け物でさ」

そう言いながら、シロクマPは手に抱えていたダンボールを少し上に掲げた。

両手で持つ大きさだが、内容物は重くないようで、シロクマPは軽々と抱えている。


黒衣P「そうか、しかし仲がいいよなアンタら……ああ、いや変な意味でなくな?」

シロクマP「……わたしにとっては恩人だからねえ」

シロクマP「あからさまに獣人なわたしがここに居られるのも、せんせーのおかげもあったしさ」

黒衣P「ああ、なるほどな。”橋渡し”はあの人の得意分野だったな」

シロクマP「だね」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:52:30.33 ID:vPkahXRyo<>

見た目の印象と言うのは、誰に対しても強烈に作用するもので。

今ではシロクマP自身、自らそのインパクトを利用してはいるものの、

彼(彼女?)が人間社会に出たばかりの最初のうちは、

凶暴そうな熊の見た目と言うのはどうやら人に対して悪印象を残しやすいらしかった。

それを解決してくれたのが、件の持田亜里沙であったらしい。


シロクマP「誤解から来る仲違いなんて言うのは、せんせーは一番放っておきたくないだろうしね」

黒衣P「実際頼もしいな、色んな奴の言い分を聞いてまわってくれる人ってのは」


会話の難しい者同士の間にも、話し合いの場を設けることのできる彼女の能力は、

”あの日”以降増え続ける、異色の者達の来訪に伴う問題を平和的に解決するのに一役買っている。

戦闘力と、何より派手さに欠ける為にアイドルヒーローを名乗る事こそないものの、

彼女もまた、ヒーロー達と同じく、平和のために尽力し人々の希望となり得る人材なのだ。


黒衣P「けど、最近は根詰めすぎにも見えるぞ。センセイな」

シロクマP「んー……まあ確かに、ここの所は気を揉む事件が多いからね」

黒衣P「ああ、心配事が多くなる気持ちは分かるけどな」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:53:35.06 ID:vPkahXRyo<>

西で、東で、度々起きる事件…事件…事件……

同盟のヒーロー達は西へ東へと奔走する事となり、

そしてそれはヒーローのサポーターとして従事する者達も例外ではなく。


黒衣P「事件の性質を見極めて、同盟が派遣するヒーロー達の適切な采配を行うためにも」

黒衣P「センセイみたいなサポーターが居てくれるのは助かるが……」

黒衣P「あんま働きすぎて身体壊したら元も子もないしな」

黒衣P「洋子もあんま顔色良くないみたいだって言って心配してたし、アンタからも注意しておいてくれよ」

シロクマP「わかった、気にかけてもらってありがとうね」

黒衣P「気にすんな。センセイには俺たちも世話になってる」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:54:49.66 ID:vPkahXRyo<>

黒衣Pと幾らか情報交換をした後に、別れたシロクマPは、

可愛らしいウサギ型ドアプレートの掛けられている扉の前に立っていた。

ドアプレートには『ウサコちゃんとありさ先生の控え室♪♪♪(いつでもお悩み相談受け付けるウサ)』と書かれており、

部屋の中では、亜里沙(とウサコ)が待機しているはずである。


シロクマP「……ノックしてもしもーし」 コンコン

届け物のダンボールを小脇に抱えるよう持ち直し片手を空けると、

ドアをこんこんとノックして、中に居るはずの彼女の応答を待つ。


シロクマP「……」



シロクマP「………」



シロクマP「…………?」

しかし、しばらく待っても返答は無く。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:56:00.41 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「今日は居るはずなんだけどねえ?」

なお、彼女が外出中の時はドアプレートは裏返しとなり、『現在、外出中(留守ウサ)』となっているため、

不在かどうかの判断は、一目で付けられるようになっている。

そもそも亜里沙には事前にアポをとっているので、不在の可能性はまずない。


シロクマP「せんせー、わたしですー!居ませんかー?」

扉に向けて声を掛けてみたが、やはりそれにも返事はなかった。


シロクマP「…………居ないわけは……うーん」

シロクマP「あまり気はすすまないけど、確認しますか……」

シロクマP「すみません、せんせー。失礼しますよー」


がちゃり、と掴んだドアノブは、固い感触に阻まれることは無く、

スムーズに回転し、扉は簡単に開いたのだった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:56:48.97 ID:vPkahXRyo<>


可愛らしく内装が飾られた部屋に入れば、

中央に置かれた背の低いテーブルがまず目に入る。


テーブルの上には、ファンシーなキャラクターのグッズが綺麗に並べられ、

その近くには、たくさんの資料が散らばっており、

そしてその大量の紙束を枕にして、亜里沙の頭が転がっていたのだった。


亜里沙「……すーすー」


シロクマP「……なるほど、通りで返事がないわけだ」


ピンク色の座布団に座り、テーブルにもたれ掛った体勢で亜里沙はぐっすりと眠っていたようで。

ちなみにいつもその右手に嵌っているウサコはと言えば、


ウサコ「……」

今日は外されて、キャラクターのグッズと一緒にテーブルの上に綺麗に置かれていました。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:57:36.83 ID:vPkahXRyo<>


亜里沙「んん…?うーん」

亜里沙「ふぁあ」

誰かが部屋に入ってきた気配に気づいたのか、

眠っていた彼女はむくりと身体を起こすと、大きなあくびをして、ぱちりと目を開いた。


シロクマP「おはよ、せんせ。起こしちゃったみたいですね、すみません」

亜里沙「あ……シロクマちゃん、来てたんですねぇ」

亜里沙「恥ずかしいところみせちゃったかしらぁ?」

寝顔を見られていた事に気づいた、亜里沙は気恥ずかしそうに微笑む。

シロクマPはその優しい微笑の内に、やはり疲れが見える気がしていた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 00:59:39.08 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「せんせー、最近ちゃんと家に帰ってます?」

持ってきたダンボールを部屋の空いているスペースに置きながら、シロクマPは尋ねる。

お仕事中に居眠りしていた事から察するに、よほど疲れが溜まっていたらしい。

彼女のテーブルと、そしてその周りの床にも散らばる大量の資料は、

長時間の作業をしばらく続けていたらしい事を物語っている。


亜里沙「大丈夫よ」

亜里沙「お風呂はちゃんとここの浴場を借りてるからね♪」

シロクマP「問題はそこじゃなくて……と言うか、つまり帰ってないんですね?」

亜里沙「……うふふ」

シロクマP「笑って誤魔化してもダメですよ」

ちなみに同盟事務所内に存在する浴場は何気に広く豪華であったりする。

(戦闘後に訪れるアイドルヒーロー達の要望によるもの)

機会があれば是非とも利用してみると良い。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:00:46.84 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「…………この資料、例の白いカースですね」

シロクマPが、床に置かれた資料の1つに目を向ければ、

それにはアイドルヒーロー同盟を襲撃した白いカースの写真が載っていた。

亜里沙「うん、白兎を名乗った”正義”の呪い」

彼女が寝る間も惜しんで、調べていた事の1つがそれについて。

亜里沙「……前に、セイラちゃんが交戦してるのよね?」

シロクマP「ええ、あの子が言うには能力者の能力をコピーする力を持っているらしいですが…」

水木聖來とシロクマPは、今でも定期的に情報交換を行っているようで、

その時に、聖來は交戦理由と交戦した場所を伏せて白兎の情報をシロクマPに話している。

シロクマPは、聖來と交戦したそれが、同盟を襲撃したそれと同一の個体と考えているが……

シロクマP「それ以上の事は、何も分からないのが現状ですね」

亜里沙「そうなのよねぇ……」

シロクマP「……せんせー」

亜里沙「なあに?」

シロクマP「『告知《アナンシエーション》』、何回使いました?」

気づけば、シロクマPの表情は険しいものに変わっていた。


亜里沙「……う、うふふ」

シロクマP「だから笑って誤魔化してもダメですからね」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:02:07.26 ID:vPkahXRyo<>


『告知《アナンシエーション》』

それは、亜里沙の能力の1つである奇跡の行使であり、

”本来ならば知れるはずのない事でさえ、知ることのできる”力。


亜里沙「啓示が上手く成功してくれれば、知りたいことを知れるはずなんだけど……」

シロクマP「ハイリターンなのはいいですが、たしかそれちゃんと成功する確率はとても低いんでしょう?」

シロクマP「しかもせんせーの能力はカース相手には分が悪すぎるんですから」

シロクマP「それでもダメ元で何回か使って、おそらく一度も成功しなかったんじゃありませんか?」

亜里沙「……シロクマちゃんは何でもお見通しですねぇ」

シロクマPの推理は見事的中であったらしい。

居心地が悪そうに目を反らしながら、亜里沙は誤魔化すように言った。

シロクマP「せんせーが意外とわかりやすいだけです」

亜里沙「……ぐうの音も出ないわねぇ」

シロクマP「おまけにハイコスト、せんせーの能力は自身の内側の力を消費してるはずですから」

シロクマP「強力な能力を何度も使おうとすれば、それだけ消耗してしまう……そう言うことですね?」

亜里沙「……」

彼女が居眠りしてしまうほどにまで疲れていた理由は、

仕事のしすぎ+能力の行使のしすぎによるものだったようだ。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:04:14.96 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「……他の資料も……人に擬態する眼鏡嫌いのカースに、神の洪水計画関連……」

テーブルに置かれた資料にも目を配れば、

いずれも現在、アイドルヒーロー同盟を悩ます問題ばかり。


シロクマP「確かに……これらの事について少しでも調べがつけば、いい事尽くめですよ」

シロクマP「でもせんせ、必要以上に身を削ってまでそれを為そうとする事が美徳だとはわたしは思いません」

亜里沙「…………心配かけちゃってるかな?」

シロクマP「心配しないわけがないでしょう」

亜里沙の言葉にシロクマPは少し語気を強めて返答する。

シロクマP「それがせんせーの戦い方なのは重々理解していますけれど、ほどほどにしてください」

亜里沙「うん……ありがとう、シロクマちゃん」

もちろん、シロクマPの言葉は、本気で亜里沙の事を思ってのものだとわかる。

その思いは、亜里沙にも確かにしっかりと伝わっていた。



亜里沙「でも、ね」

そう、一言区切って、 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:05:37.07 ID:vPkahXRyo<>


亜里沙「わたし…ここに居るみんなの事が本当に好きなの」

亜里沙は自分の思いを語る。


亜里沙「アイドルヒーローのみんなは、大切な誰かを守りたいと思って」

亜里沙「あるいは、見知らぬ誰かを守りたいと思って、それぞれ戦ってる…」

戦う理由は人それぞれだ。

十人十色の理由、しかし、その中に共通事項があるとするなら、

「守るべきものを守りたい」と言う事ではないだろうか。彼女はそう思っていた。


亜里沙「心からそう思ってる事が、私にはわかっちゃうから」

亜里沙「だから、出来る限り協力したいと思ってるの」

亜里沙「シロクマさんも、きっとそれは同じじゃないかなぁ?」

シロクマP「……」

アイドルヒーロー達の活躍を支援する為に、亜里沙は同盟に所属しているが、

そんな亜里沙よりも、アイドルヒーロー達の事を理解し、そして寄り添い、

きっと誰よりも彼女達の事を応援したいと考えているのは、プロデューサーと呼ばれる者達のはずだ。


亜里沙「……これがありさお姉さんの戦い方」

亜里沙「前線の戦うみんなのために、わたしができる最大限のこと」

皆の笑顔を守るヒーロー達のために、彼女ができること。

だから彼女は力を奮う。ヒーロー達の笑顔を守る為に。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:07:01.23 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「……」

シロクマP「せんせーが、彼らを思ってよく働いてくれている事はみんな知っていますよ」

やれやれと言った感じに、シロクマPを肩をすくめる。

何を今更、そんな事はちゃんと知っている、と言いたげであった。

シロクマP「でも、時々はしっかりと休んでください」

シロクマP「彼らが守りたい笑顔の中には、せんせーの笑顔も含まれているんですから」

亜里沙「うふ、それも…そうよねぇ」

亜里沙「休息もとっても大事な事っ。先生、うっかり失念しちゃってました」

がむしゃらに頑張れる事は、時として良い結果を招くが、

しかし、何事に対してもがむしゃらでいい訳では無い。過ぎたるは及ばざると言う事もある。

週休八日は言いすぎだとしても、休むべき時は休むべきである。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:08:46.67 ID:vPkahXRyo<>

亜里沙「なら……ちょっとだけ……休ませてもらってもいいのかな?」

シロクマP「もちろんですよ、上には……まあ上手く言っておきますから」

シロクマP「そうですね……二、三日くらいは好きなだけ羽を伸ばしちゃってください」


亜里沙「……じゃあ、少しだけ遊んじゃってても?」

シロクマP「全然結構、ストレス解消も大事です」


亜里沙「子供達のところに行って、一緒に遊んでも?」

シロクマP「……却って疲れませんかそれ」


亜里沙「たまにはお酒飲んじゃっても…?」

シロクマP「絶対やめてください、死人が出ます」

亜里沙「えっ…ええっ?そ、そこまで言われちゃうのっ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:09:42.20 ID:vPkahXRyo<>

亜里沙「ごめんね、シロクマちゃん。今日はせっかく来てくれたのに」

気を使ってか、帰り支度を始めるシロクマPに申し訳無さそうに声を掛ける。

シロクマP「いえいえ、お気になさらず。今日、尋ねたのは届け物を持ってきただけですから」

そう言って、シロクマPは傍においていたダンボールをぽんぽんと叩く。


亜里沙「そう言えばそれ、何なのかしらぁ?」

シロクマP「おっと、わたしとした事が伝え忘れてましたね。すみません」

シロクマP「これの中身はファンレターですよ」

ダンボールの中身はファンレターであったらしい。

シロクマPがダンボールの頭を開けば、

両手で抱える大きさの箱の中に、ぎっちりとお手紙が詰まっている。


亜里沙「ファンレター?誰宛の?」

シロクマP「せんせーに決まってるじゃないですか」

亜里沙「へえ……えっ?」

すっとんきょうな声を出す亜里沙、どうやら本気で自分宛だとわかっていなかったようだ。


亜里沙「で、でもこんなにたくさん……」

シロクマP「ま、なんだかんだで、せんせー有名ですからね」

シロクマP「亜里沙先生が出てる番組も好調ですから、見てくれてるファン増えてるみたいですよ?」

亜里沙「そうなんだ……うふふっ、嬉しいわね」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:10:39.87 ID:vPkahXRyo<>

シロクマP「せんせーを見守ってくれているファンも居るんですから」

シロクマP「彼らを心配させないためにも、顔に出るほどの無茶はしないでくださいね」

亜里沙「うん、わかったわ。とってもよく…ね。……本当にありがとうね?シロクマちゃん」

シロクマP「お礼を言われるような事は何もしてませんよ」

シロクマP「それじゃあ、わたしは戻りますので」

シロクマP「せんせーはちゃんと、休んでてくださいよ」

亜里沙「ええ」

シロクマP「では、失礼しました」

亜里沙「ばいばーい」

別れの言葉を告げると、部屋に入ってきた時と同様に

のっしのっしと、シロクマPは帰っていくのだった。


亜里沙「……」

彼(彼女?)が外に出た後、亜里沙はダンボールの中の手紙を1つ取る。

可愛らしい便箋には、大きく丸っこい文字で「ありさせんせいへ」と書かれていた。

亜里沙「そっか、うふふ♪」

この後、彼女はしばらく、届いた手紙を読みながら、

ゆったりとした時間を過ごすのであった。




ウサコ(……あれ?結局最後までテーブルの隅に放って置かれるだけの扱いウサ?)

おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/08/24(日) 01:14:25.91 ID:vPkahXRyo<>


と言う訳で、てんてーの誕生日記念SSでごぜーました。
今更時系列を固定しないスタイル…
シェアワてんてーはこんな仕事してるんじゃないかなって思います
黒衣Pお借りしましたー

話は変わりますが
パラダイスリゾートのてんてーは
一人称がお姉さんとか先生からほとんどわたしになってたり、
プロデューサーの呼び方が○○くんじゃなくって○○さんだったり
珍しく年下系の女の子やってて溜まらんよね

てんてー誕生日おめでとー(あとてんてーで誕生日一周したのでたぶん誕生日投下はお休み)



●どうしててんてーの能力はカースと相性悪いの?

破壊力の無い天聖気由来の伝達能力だからです。
破壊力がまったくないくせに天聖気を通した伝達だから、
その都合上、天聖気を受け入れられないカースには却って効かないと言う事になってます。

糸電話で会話するためにお互いのコップに糸を繋げようとしてるのに、
相手のコップの底に穴が開いてるせいで無理、と言ったニュアンス


『告知《アナンシエーション》』は…まあ、成功しませんよね
お、おいそれと成功しちゃったら奇跡じゃないですしね!(なげっぱ) <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/24(日) 03:06:15.60 ID:zDh/qVO80<> 乙乙てんてーおめでとう
裏方には裏方にしかできない事もあるんやねえ

あとは埋めかな? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/24(日) 10:18:19.16 ID:hwwuMnqK0<> 乙ですー
てんてー誕生日おめでとう
前線の子達のために頑張ってるんだなぁ…本当にいい人ですぜ

埋め…なのか、短いのがねじ込めるか…って微妙なところかなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 11:25:30.63 ID:YaTevzb60<> 乙ー

てんてー誕生日おめでとー
色々と大変そうだな… <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:30:14.49 ID:CEYRCorxO<> 初めましての方は初めまして。

久しぶりの方はお久しぶりです。

だいたい9ヶ月ぶりでございます…色々ありましたが戻ってきました。

とりあえず、前置きは置いておいて、短いですが投下参ります! <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:33:32.69 ID:CEYRCorxO<> 「むふふ…」

秋炎絢爛祭、二日目。

カースが投げ売りされたり、ヒーローが沸いて出たり、裏山が吹き飛ばされたり、今日も祭りは面白おかしく回っている。

「今年は輪をかけて、特異な方々が集まってるみたいですねぇ」

人間に、

機械に、

悪魔に、

兎に、

精霊に、

堕天使に、

吸血鬼に、

海底人に、

死神に、

カースに、

あらゆる存在に、あてもなく歩いただけ遭遇する。

そんな混沌とした祭りに、当たり前のように混沌を宿す少女──喜多日菜子はいた。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:35:49.10 ID:CEYRCorxO<> 「グギャ…アガ…」

「これで最後みたいですねぇ」

そんな彼女は今日も片手に剣を持って誰にともなく語りかける。

そして、彼女の前にはもはや虫の息のカースが一体。

「この程度なら、何も問題ないんですけどぉ…」

いつも通りに虚空に話す彼女。

いつもなら完全な独り言。

しかし、今日は少々勝手が違った。

「グギギ…ア」

バギンッ。

核を握りつぶされたかのような音を立てて『一本の触手に貫かれた』カースは崩れ落ちた。

「今の状態でも、これくらいなら簡単に出来るようになりましたかぁ……早いと思うべきか遅いと思うべきか、迷いますねぇ…」

目の前で、するりと『不自然に漂うテニスボール大の大きさの暗闇』に触手が引っ込んでいく。

そしてふよふよと、日菜子の周りを浮かび始めた。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:37:00.09 ID:CEYRCorxO<> 「……それにしても、カースくらいなら別に構わないですけどぉ……アレはちょっと問題ですねぇ…」

そんな不可思議な物に話しかけながら空を見上げる。

何も無いようで、何かある。

…アレくらいなら、まだヒーロー達で何とかなるかなぁ、と思う。

なのでいつも通り、深く干渉しなくても問題ない、と思う。

そういう意味では問題無い、と思う。


















思う、のだけど。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:38:52.58 ID:CEYRCorxO<> 「…どうしましょうかぁ。日菜子としては、せっかくの逢瀬を邪魔されたという気もしてるんですよねぇ」

若干。

「本当なら、この後はみくさん達のお店に行って、菜帆さんの所に顔を出して、ついでに加連さんに電話して、ライブを見て、その後に里美さんの知り合いの方のお店に寄って、最後にもう一度みくさんを冷やかして帰ろうかと思ってたんですよぉ?………むふふ」

いつも通り。

「それが、これです」

一見はそうだが。

「……当たり前じゃないですかぁ、日菜子は実は楽しみにしてたんですよ?」

同居人でも。

「この日のためにお洋服も新調しましたし、今日の日菜子は勝負服ですぅ…むふ、むふふ…♪」

分かるか分からないか。

「それに、明日は………むふふ、あの街が終わってから、あの人はまた一歩前に進みましたからねぇ♪」

だが、一番近いモノは。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:40:48.53 ID:CEYRCorxO<> 「…そうですねぇ、いつもならこの様な騒ぎは歓迎なのですけどぉ……」

すぐに感じ取ったようで。

「…あ、やっぱり解っちゃいましたぁ?」

つまるところ。

「はい…ちょっとだけ、こう……暗いものが沸き上がってますよぉ?」

───彼女は、不機嫌になっていた。

「日菜子だって、一応まだ学生ですからぁ」

と、いうより。

「それに」

更に珍しい事に。

「ここには、日菜子の友達も居ますからぁ」

彼女は多少。

「後は…楽しみを邪魔されるのは、好きじゃありません」

───怒っていた。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:42:13.43 ID:CEYRCorxO<> 「でも、やっぱりまだ目立ちたくは無いんですよねぇ…」

ただ、珍しく少し困ったような表情にもなっていたりもする。

「え?そろそろ表側に立っても良いんじゃないか、ですかぁ?」

ぷらぷらと、襲撃により閑散とした道を歩く。

「……うーん、日菜子としては、それは別の方に任せたいんですよ」

「その方が動きやすいですからぁ」

「それに、下手に目を付けられるのもちょっとぉ…」

「あ、勝つとか負けるとかじゃ無いですよぉ?」

「ただ、インパクトに欠けちゃうじゃないですかぁ…色々と」

「…むふふ…分かってるなら言わせないで下さいよぉ……意地悪ですねぇ、王子様は♪」

「…うーん」

「……やっぱり、前にやった方法でいきましょうかぁ」

「という訳で、お色直しを……」

「……あ、ご希望があるなら日菜子は応えちゃいますよぉ?」

「………………………………………」

「………………………………………」

「……………………………むふふ♪」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:45:40.41 ID:CEYRCorxO<> 「こういうのが、タイプなんですかぁ?」

「分かっていますよぉ…むふふ♪」

「とりあえずはいいとして…」

「後は……そうですねぇ…」

「…まぁ、」

「コレコレをこうして…」

「…むふふ、これでバッチリです♪」

…………………………………。

長い長い相談が終わり、彼女は一人歩き始める。

「…とりあえず、教習棟にでも行ってみましょうかぁ」

「デオチダァ!」

ヒュンッ。

「アザスッ!」

脇道から待ち伏せていたカースを、白銀の槍で貫き、そこに触手がもう一撃浴びせ葬る。

「では、参りましょうか王子様……ついでに役者も探して、楽しい楽しい舞踏祭の幕開けです♪」

窓ガラスには、仮面を付けて、一本の槍と暗闇を携えた、帽子にサイドテールの少女が映っていた。
<> @設定 
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/24(日) 15:49:03.75 ID:CEYRCorxO<> ※情報※
・仮面の少女があたりを歩きながら教習棟を目指しています。
・基本的に裏山を吹き飛ばした犯人に敵対する模様
・ただし『面白そうな』事には少し手を出すかも。
・今回も『招待状』を配る様子。


※設定※
・仮面の少女

属性:?

能力:武器操作、召還

詳細:

祟り場にも現れた謎の少女。

特殊な仮面を着けているので、その正体は謎に包まれている。

基本的には穏やかそうだけど、なにを考えてるのかは分からない。

また、何かの招待状を配っていたりと、目的も良く分からない。

かなり多芸な様で、今回は自在に飛び回る一本の白銀の槍と謎の暗闇を伴っている。

…実は謎の暗闇から出てくる触手は、普通なら頭の中の何かがガリガリ削られる系の物だが、京華学院自体の異常が多くてむしろ逆に普通。

ちなみに名乗る時はある人物から言われた「ニコちゃん」を名乗る模様。

『白銀の槍』
仮面の少女の武器。
能力を一点集約しているため、スピード・精密性・破壊力・貫通力・耐久性・その他全てが高レベル。
また、自由に消せて好きなところに出せる模様。

『暗闇』
仮面の少女の周りをふよふよ漂っている謎の闇。
内側からはあらゆる常識を無視して黒い触手が出てくる。
例によって数値的な物がガリガリ削られそうな奴。
現在はテニスボール大の大きさだが、それより小さい物は内側に引き込める模様。
この世じゃない「どこか」に繋がってるとかなんとか。
<>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/08/24(日) 15:54:27.66 ID:CEYRCorxO<> 投下終了です。

久しぶりすぎてキャラががが…これからまた、ゆっくり書きますのでお見知りおきを…

そして書き忘れですが、時間軸は学園祭二日目です。

それと遅ればせながら、てんてー誕生日おめでとう&誕生日ss乙です!

では、お目汚し失礼しました。 <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/24(日) 16:34:40.24 ID:46+RO+3EO<> おひさおつ
ニコ <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/24(日) 16:45:11.13 ID:46+RO+3EO<> まさかの途中送信……
ニコちゃん正式採用ヤッター!
日菜…ニコちゃん相変わらず底知れなくて恐ろしい……底知れない奴ばっかりだなシェアワ! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/24(日) 17:03:42.33 ID:hwwuMnqK0<> 乙ですー
SAN値チェックが入らないとは…なんというカオス
招待状も継続して配られてるんですかやったー(?) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/24(日) 19:08:34.23 ID:PMzcjoidO<> 乙ー

h…仮面の少女も動き出したかー
あれ?将軍がまたピンチに? <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/08/24(日) 19:15:31.11 ID:8X8r+NDBO<> 乙&久しぶりですー

もう将軍はなにもしないで帰ったほうがまだダメージ少ないんじゃないかな <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/24(日) 19:33:06.07 ID:hwwuMnqK0<> 1000なら超☆平和に将軍事件解決 <> 1001<><>Over 1000 Thread<>    /|\
     |::::0::::|    
    |`::i、;;|
    |;;(ヽ)|
    //゙"ヘヘ
    //   ヾ、
    ! !    l |
   | |     .! !
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   ヽ!   !ノ      http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>哩さんにリザベーション(物理)とか菫さんにシャープシュート(物理)とか塞さんに防塞(物理)とかされたい断のスレ @ 2014/08/24(日) 19:22:08.30 ID:UxIzfMw9o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1408875718/

女「あなた…消えるの?」 @ 2014/08/24(日) 19:04:32.00 ID:HNxXi40ZO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408874672/

下着をつけるようになった話 @ 2014/08/24(日) 18:48:45.14 ID:QnWv/swg0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408873715/

女「あなた…消えるの?」男「は?」 @ 2014/08/24(日) 18:46:27.79 ID:IRL7Gw7+0
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【みなみけ】ヒトミ「ナツキ!買い物に付き合ってくれ」 @ 2014/08/24(日) 18:40:39.85 ID:e6wqfjyW0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408873229/

あずさ「一生懸命頑張る貴方は好きだったから」 @ 2014/08/24(日) 18:33:10.82 ID:DhpPxqUe0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408872780/

にこ「μ'sと学ぶ古典文法! 助動詞」 @ 2014/08/24(日) 18:29:53.09 ID:o0tZSIYB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408872583/

春香「プロデューサーさん!BEMANIですよ!BEMANI!」 @ 2014/08/24(日) 18:18:05.84 ID:VLJFzSTQ0
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