VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2014/08/21(木) 05:35:25.91 ID:DImNb6JAO<>
 満月が南中に登り、その姿を僅かに隠す雲が霞のように流れている。
 夜更かしは美容の大敵と公言して憚らない自分も、この時ばかりはついつい寝床から身体を起こし窓に寄るのだ。
 時計の針は綺麗に真上を指している。辺りは静かなもので、波の音だけが耳をくすぐっていた。

叢雲「…………」

 艤装を解除し寝間義に着替えると、力こそ弱まるものの、いつもは取れない体勢を取りやすい。
 例えば窓の縁に腰掛け、背を預けながら見上げるような……今まさに行っている体勢などが最たるものか。
 左手側には、並んだ布団にくるまって寝る特型駆逐艦の艦娘達。
 姉、と意識したことは余りないが、自分の姉妹に当たる艦娘達が安らいだ顔で各々眠りについていた。

叢雲「……?」

 ――ふと、何かを感じて腰を上げる。
 考えが巡る前に立ち上がったものだから、何を感じたのか、少し思案を交えたのは内緒だ。
 そしてそれは、音の波の中で微かに響いているそれだと理解した。硬い球が跳ね回る、あの音だ。
 彼だ。いや、もうこの際奴だ。またあの場所にいる。こんな遅くに、きっと独りで。
 またか。内心愚痴る。でも知ってしまったからには行かねばならない。
 必要は無いし要求もされていない。でもそうしないと自分の気が済まないのだ。何故? ……何となく。
 義理みたいなものだし。か、勘違いしないでよね。誰にともなくそう告げた。

吹雪「えへへぇ……」

叢雲(蹴り飛ばしたい、この寝顔)

 そうこうしている内に歩き出す。人の苦労も知らず、にやけ顔で寝ている吹雪を蹴っ飛ばさないよう……故意、過失両方の意味で……注意して、部屋を出た。
 向かいの部屋で「ねのこくだよぉ!」と聞こえたのは気のせい、もしくは寝言だろう。
 少しざわつく初春型の部屋を無視しつつ、軋む廊下を早足で抜けて、彼の元へ急いだ。


この鎮守府の提督にして、私を最初の艦娘に迎えた、異邦人の下へ。

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<>叢雲「落ち着きが無いわね。大丈夫?」グラハム「私は我慢弱い」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 06:07:34.97 ID:XgoAoKesO<> 駄目だ、グラハムって名前だけでワロス <> ◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/21(木) 06:11:28.45 ID:DImNb6JAO<>
 けたたましい音を立てて、コンクリート壁に取り付けられたバスケットゴールが揺れる。
 細身ながら鍛えられた身体が軽々と浮いて、ボールを輪の中に叩き込んでいく。
 ――やっぱりいた。娯楽用の空きスペース、稀に奴は此処に現れ球技に興じるのだ。
 3mの高さにあの身長でよくほいほいと入れられるものだ。いつもながらに感心する。
 そしてその表情が苦悶に歪んでいるのにも気付いて……小さく息を吐いた。
 少し歩を進める。いつもなら背後からこっそり近付こうが感づく男が、まるで私に気付かない。
 呆れたものだ。腕を組み、少し多めに息を吸い込んで、声を張り上げてやった。

叢雲「グラハム・エーカー中将っ!!!」

グラハム「!?」

 奴は跳ね返ったボールをキャッチし損ねて、背後に転がるそれを目で追ってから、驚いたような顔で私を見た。
 してやったり。今の私は美しいしたり顔を浮かべていることだろう。
 だが……何か反応が遅い。奴は、悩んでるようにも困っているようにも見える。なのに全く喋らない。
 そのまま十秒くらい経っただろうか。はっとした顔をしてから、なぞなぞが解けた子供のような顔で彼もまた叫んだ。

グラハム「叢雲か! どうしたこんな遅くn『遅いッッ!!』」

叢雲「何秒かかってんのよ愚か者! あんたねぇ、私が一番付き合い長いのよ!? いい加減艤装無しの私で迷うの止めなさいよ!!」

グラハム「失敬。だが頭の耳が無いととかく判別が困難でな」

叢雲「耳じゃないっつってるでしょ!! 電探用の艤装カバー! つうかあんたにとって私の印象艤装カバーだけなの!?」

グラハム「耳にしか見えん!」

叢雲「開き直るな!!」

 そんなやり取りを交えてから、奴はバスケットボールを拾い上げて歩き出す。
 もう馬鹿らしくなりつつあるが、私も後についていく。備え付けの休憩椅子、いつもの場所に奴は座り、息を整えながらタオルで汗を拭う。
 表情はまた少し曇っただろうか。この男がこんな顔を見せるのは、私か、榛名か、鳳翔さんくらいだ。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/21(木) 06:28:46.93 ID:DImNb6JAO<> グラハム「もう一年を過ぎた」

 不意に、奴が口を開く。
 次から次へと噴き出す汗を拭いながら、何か感慨深さを感じさせる顔をして。

グラハム「この世界に来て、この国に来て……この鎮守府に、お前と共に着任してから、もうそんなに経ったのだな」

叢雲「ぴったり一年の節目でも無いでしょうに、何を言い出すかと思ったら……」

グラハム「ふふ、月を見上げていたらついそんなことを考えてしまった。私としたことが、随分とセンチメンタルなことだ」

叢雲「……榛名は? 丸め込んで来た訳じゃないんでしょ」

グラハム「よく寝ていた、安心しろ。抜け出すのは孤児院時代からの得意分野でね」

叢雲「その得意分野のおかげで、あんたとの出逢いは最悪だったんだけど」

グラハム「ふっ、懐かしいものだな。あの待遇、今となっては考えもつかんが……」

叢雲「…………」

叢雲「そう……もうそんなに経ったのね」

 二人して、多分同時に月を見上げた。
 満月の明かりが鎮守府を白く照らして、眩しいくらいだ。
増改築を繰り返し新旧まだらな建物の壁は、短くも怒涛な我が鎮守府の道程を、白光の下で何も言わずに語っているようだった。

叢雲「色々あったわね、本当に」

グラハム「あの時は本当に何も無かった。まるでまだ夢を見ているかのようだよ」

叢雲「脛でも蹴り飛ばして現実を体感させてあげましょうか?」

グラハム「御免被る。十分過ぎるほど噛みしめているさ……現実をな」

叢雲「……なら、良いけど」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/21(木) 07:30:08.45 ID:DImNb6JAO<> 叢雲「ねえ」

グラハム「ん?」

叢雲「恋しいの? 元の世界が」

 本当に、何気のない一言だった。
 だが完全に的中したのだろうか、彼の目は見開かれ、その表情は驚愕の一言で表せるものに変わっていた。
 図星、ね。
 自身の驚きを少し取り繕うように顔を逸らして呟いた。
 彼は自嘲気味に笑い、顔を上げた。
 視線の先の月は、群がる雲に覆われ光を半分失っていた。

グラハム「――自分でも皆目分からんのだ。」

グラハム「私には故郷など無かったし、家族もいなかった。混沌とした情勢も、きっと彼ならば切り抜けただろうという確信がある」

グラハム「未練は無い。無いはずだ……思いつかないのだからな」

グラハム「だが……ふと過去を思い返していると、もし、と考えてしまう自分がいることに気付いて、な」

叢雲「だから、此処に来たのね? いつも悩んだり溜め込んだりしたら来ていた、この場所へ」

グラハム「ふっ、最近は全く足を運ばなかったがな」

叢雲「はぁ……いい加減お悩み相談の役目を譲り渡せたと思ってたのだけれど」

叢雲「ま、しょうがないか……内容が内容だもの。他の子には荷が重いわよね」

グラハム「元々、元の世界を懐かしむ程度の目的で作った場所だ。だが……裏目だったかも知れん」

グラハム「ますます……考えが纏まらなくなった……ッ!」

 また湧き上がってきた感情を払うように、彼は遙か遠くのゴールポストにボールを投げつけた。
 当たり前だが届きはしない。ボールは地面に当たって数度跳ね、最後には力無く転がりながら、鎮守府の壁に寄り添うように止まった。

グラハム「なぁ……私はどうすれば良いのかな? 叢雲」

叢雲「……それを決められるのはあんた自身よ、グラハム」

 そうだ、彼はいつだってそうしてきた。
 初めて出逢った、あの時から――――


 ・
 ・
 ・

――時は遡る――

――二人が出逢ったその日まで―― <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/21(木) 07:32:09.40 ID:DImNb6JAO<> 今んとこ此処まで
おやすみなさい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 07:40:39.34 ID:+N8l2rWIO<> 刹那と島風の思い出した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 08:00:20.15 ID:F/+HNrdh0<> SS深夜のリメイク、いや、リスタートなら大歓迎だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 08:07:37.38 ID:7YynJlbr0<> >>2
変態仮面ミスターブシドーと模範軍人グラハムエーカーは全くの別人だろ!いい加減にしろ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2014/08/21(木) 08:54:22.69 ID:KVrFQKfg0<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 09:40:40.99 ID:4w7Az099o<> あえて言おう!乙であると! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 13:18:35.37 ID:MgIjtlnKO<> 日本かぶれのアメリカ人が提督というのも数奇なものだ……
支援させてもらうっっっっ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/21(木) 20:13:05.96 ID:LoGz2owSO<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/22(金) 14:00:43.36 ID:YQBBZvKr0<> >>9
愛だの抱きしめたいだの言っちゃう人を模範とは言いたくないです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/23(土) 07:00:38.80 ID:BtXZBVawO<> テ、テンションが上がらなければ、真面目なイケメンだから… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/23(土) 11:39:25.51 ID:7AC68HjnO<> テンション上がりっぱなしなんですがそれは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/23(土) 13:29:53.58 ID:wXCq06JPO<> グラハムはホモだから間違っても間違いは起きないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/23(土) 14:45:47.42 ID:7AC68HjnO<> ガンダムとフラッグを愛してるだけだろいい加減にしろ! <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 04:18:52.23 ID:pdM52p6AO<> 続き抜錨
此処からは自己解釈マシマシ妄想チョモランマニンジャカラメ。
良ければどうぞ。
悪ければまあそう言わずにどうぞどうぞ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 04:28:30.69 ID:/1MeU57vo<> 待ってた <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 04:52:09.69 ID:pdM52p6AO<>  ――最初に彼ら……いや、それらが確認されたのは、現在から十年ほど前と言われている。

 前触れもなく、突如として発生したそれらは、その苛烈な攻撃性を以て、海から人を完全に排除してしまう。
 それらの領域に入った船舶は悉く沈められ、空路ですらも海上ならば航空戦力で封鎖される。
 起源は不明。目的も不明。知性の有無も、そもそも生物なのかすら不明。
 一切の対話すら許されず、一方的に始められた敵対行動は、人類の営みから海を奪い去ってしまうに至る。

 勿論、人類は抵抗した。叡智を、物量を、今まで人が生み出したありったけの兵器を費やして、闘った。

 だが、無意味だった。
 兵士達の撃つ弾丸は、それを貫きはするも殺せない。
 艦船の放つ砲撃は、それらをまとめて砕きはするが滅せない。
 暴風の如き艦載機のミサイルも、命中し形を崩しはするが、まるで巻き戻された映像のように瞬時に戻り、意味を為さなくなる。
 爆炎と水柱の織り成す壮大な徒労を過ぎて、それらは何事も無かったように反撃を開始。

 第一次反攻作戦、開始時刻0900。
 米中の二大武力が中心となって送り出した国連軍は、夜を待たずして戦力の三割を喪失。
 甚大な被害だけを負い、這々の体で太平洋から逃げ帰ることとなった。

 翌日、中核だった二国の撤退を理由に、国連軍は何一つの成果もなく解体された。
 たった一つ――「人ではあれには勝てない」という、絶望を残して。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 05:31:54.73 ID:pdM52p6AO<> ――広島県呉市・呉基地――

――応接室、彼女達が到着して現在二時間が計画――

「……以降、小規模的な戦闘を交えて調査をした結果、国連はこの正体不明の勢力を【深海棲艦(Abyssal Fleets)】と呼称」

「以降、対抗策となりうる【艦娘(ship girl)】が誕生するまでの間、各国は半鎖国とさえ言える物流の黎明期を過ごした…………聞いてるのか? 叢雲」

叢雲「聞いてるわ。もう耳にたこが出来るくらい聞かされてて、退屈の極みではあるけれど」

叢雲「せっかくご教授頂いているのだから、多少つまらなくとも聞いてあげなきゃ失礼だもの。ねぇ?」

「……本日の講義はここまでにしとくよ、お姫様」

叢雲「そう、なら良いわ。ためにならない話をありがとう」

「……自分から退屈しのぎに何でもいいからって言い出したのになぁ……ブツブツ」

叢雲「何か仰って?」

「さぁ。妖精さんの呟きかな?」

 ソファーに優雅に腰掛け、若い士官の苦痛な世間話を聞かされ続けている哀れな艦娘。
 それが私、特型駆逐艦の五番艦、叢雲だ。
 この呉の特別工廠で生み出され、本来ならば新しく着任した提督と初顔合わせをして、共に鎮守府に向かい栄光の道を歩むはずだったのだが……

叢雲「ねぇ、貧乏くじさん」

「貧乏くじ……まぁいいや……何だい?」

叢雲「彼は……新しい提督は、何で着任前に逃げてしまったのだと思う?」

「……僕に聞かれても困る、君ら艦娘の担当官ではあっても、提督じゃあないから」

「だが、今だって誰もが深海棲艦を恐れている。幾ら君らが奴らに対抗しうる力で、提督になる【適性】が見いだせたとしても、いざ矢面に立つとなれば逃げたくなる気持ちも分かると言うもんだ」

叢雲「……平凡な駆逐艦一隻からの提督生活は不満、だったのかも」

「それは考えすぎだ。誰しも最初は君ら特別工廠の五人と【縁】を結び、共に鎮守府への第一歩を踏み出す」

「良い提督も悪い提督もいたが、どうあれ誰もが通る道に文句を言う権利は無いだろう?」

「仮にそうだとしたなら、そいつはとんだ身の程知らずの大馬鹿野郎だ。見つけ次第ケツをマストでひっぱたいてやれ」

叢雲「……お下品な表現ね、もう」

「っと、失敬。レディの前で言うことじゃなかったな」

叢雲「まぁ良いわ、少し気も晴れたし。特別に許してあげる」

「ははっ、感謝の極み」

叢雲「ふふっ」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 06:23:17.67 ID:pdM52p6AO<>  こうやって彼と時間を潰すのもこれで五回目となる。
 【深海棲艦】による海洋封鎖を、唯一切り開くことが出来る存在、【艦娘】。
 如何なる近代兵器ですら止められなかった深海棲艦という存在。
 だが艦娘による攻撃だけは、その深海棲艦の尋常ならざる復元機能を一時的に無効化し、撃退することが可能なのである。
 あくまで一時的、というのが根本的な解決に至らぬ理由でもあるが、それでも昔よりは世界の情勢は改善しつつあると言える。
 故に私は自負をもって生まれ、自負をもって此処にいる。
 それを理解しない提督など、此方から願い下げだ。たとえ今日の彼で五人目だとしても、だ。

 何故艦娘の攻撃だけは深海棲艦に通用するのか、それが出来る艦娘がどうやって生まれているのか。
 それはまた今度の話にしよう。少なくとも、私の退屈を紛らわせるには不適格な話なのだから。

叢雲「!」

「! どうぞお入りください!」

 ふと、入り口の扉が二回のノックを受ける。
 ようやくか、と思い咄嗟に立ち上がる。軽く着衣を正し、万全の態勢で。
 着衣の乱れは心の乱れ、私なら艤装の隅々まで光沢を放っていてようやく心の美しさに並ぶと言うものだ。

 ……が、扉を開けた来訪者を見るなり、不覚にも私は身を強ばらせてしまう。
隣の担当官に至っては顔をひきつらせ脂汗をかいていた。
 入ってきたのは二人。一人は女性、一人は艦娘。
 恐怖、とは違う萎縮をする私達に、彼女はおもむろにアイサツをした。

憲兵「ドーモ、叢雲=サン、担当官=サン。ハジメマシテ、憲兵です」

あきつ丸「ドーモ、ハジメマシテ。あきつ丸であります」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 06:58:59.37 ID:pdM52p6AO<>  現れたのは、いかにもな古めかしさを持つ軍服……私はむしろ身近に感じるくらいだが……に身を包んだ、憲兵。
 長い赤毛を後頭部で結び、鋭い目元から下を黒い布で隠しているため容貌は分からない。
 年齢は二十前後だろうか、かなり若いがその威圧感は狼めいていて、つい唾を飲み込んでしまう。
 艦娘の方は、逢ったことは初めてだが知っている。
 陸軍所属の揚陸艦、あきつ丸。
 白雪めいた肌に肩ほどで切りそろえられた艶やかな黒髪が映え、何よりその胸部装甲は豊満であった。

「ど、どうも。はじめまして……」

叢雲「はじめまして、叢雲です。憲兵殿が此処に何ようです?」

 つい負けん気が出て、強気に発言してしまったが、憲兵は気にも留めずに向かいのソファーに座ってよいかと聞いてきた。
 記憶の中の憲兵も対応は人それぞれであったが、それでもここまで緊張するのは、私の中の誰の記憶によるものなのだろうか。
 自分の中の記憶が誰のモノか、今更気にすることでもないと思っていたが。

憲兵「ドーモスミマセン。待たせてしまいました。つい先ほど、此方で件の提督候補を確保したとの報告が」

叢雲「! そ、そうですか……」

憲兵「ご安心を、彼は抵抗しなかったし、我々も手荒な真似はしなかった。ケジメ案件にするほどでもない」

憲兵「ですが、やはり提督としての着任は認められない。インガオホー。表向きには彼の着任辞退として処置いたしますが、以降も彼が提督として登録されることは無いでしょう」

叢雲「……えぇ、本人が嫌なら構いません。私も誇りを持たず着任するような恥知らずなんかと、【縁】を結ぶつもりは毛頭ありませんので」

憲兵「実際強気。分かりました、では今日はこれにて」

あきつ丸「お待たせしたお詫びであります。お口に合うかは分かりませんが、スシであります」

憲兵「お昼にドーゾ」

「こりゃご丁寧に……」

叢雲「わぁ、お寿司……!」

あきつ丸「ふふ、お気に召したようで何よりであります」

叢雲「……!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 07:39:22.27 ID:QgpyA6r9o<> アイエエエエエエエエエ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 07:46:26.67 ID:NnXPaXC3o<> 憲兵があからさまにニンジャなのだ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 08:06:33.61 ID:nYD6ALbkO<> またグラハムが喜びそうな憲兵をwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 08:14:39.94 ID:kmqA++I3o<> 深夜の人とは別人か?
とにかく楽しみにしてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2014/08/24(日) 08:19:41.53 ID:vb9TTCvi0<> 前スレ見たいっす
ってか同じ人だよね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 08:41:46.30 ID:ObfhTT5Xo<> ナンデ!?ニンジャナンデ!? <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 11:32:52.64 ID:pdM52p6AO<>  穏やかに話が進んでいくにつれ、固くなった肩が下りていくのを感じた。
 私としても憲兵に逮捕されるような謂われは無いので、下手に警戒するのは無礼だとも思うようになった。
 隣の担当官ときたら、早くもあきつ丸と憲兵、毛色の違う二人にデレ始めているくらいだ。

担当官「そう言えば……あきつ丸=サンは、誰かと【縁(えにし)】を結んでいるのですか?」

あきつ丸「はい、元々は提督殿と結んでおりましたが、今はこちらの中尉殿と結んでいるであります」

憲兵改め憲兵中尉「海に出ることがまず無いので陸の仕事ばかりですが、彼女は実際よく働いている」

あきつ丸「自分などまだまだであります」

担当官「そうですか……やっぱり提督以外にも認められるのですね」

憲兵中尉「……そうか、叢雲=サンはまだ…………」

憲兵中尉「…………」

叢雲「……? 何か」

憲兵中尉「いえ、何も。人生はサイオー・ホース、きっと叢雲=サンにも良い縁(えにし)が巡ることでしょう。備えよう」

叢雲「願わくば、私に相応しい提督であることを」

担当官「はは……すみません。叢雲ですから、彼女も」

憲兵中尉「……では、失礼致します。行くぞ、あきつ丸=サン」

あきつ丸「了解であります」

 二、三の雑談の後、用事を終えた二人は直ぐに引き上げていった。
 だが、彼女の目線が何処か私を量るように見つめていたのが、不気味だった。

 結局、その日はその場で解散となり、私は二時間待ちぼうけを食らいタダでスシを貰うだけの一日となった。
 提督との縁が無ければ、私達は海に出ることが出来ない。
 艦でありながら、いや艦娘でありながら陸にいるしかないという今の状態が、少しずつ耐え難くなりつつあるように感じられた。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 12:17:16.64 ID:pdM52p6AO<>
 ・
 ・
 ・

憲兵中尉「どうだ、見つかったか?」

憲兵A「はっ。それが……」

憲兵中尉「報告は短く、分かり易く、包み隠さず。イイネ?」

憲兵A「アッハイ。結論から言えば見つかりました。既に隔離房に戻してあります」

憲兵A「ですが、奴は部屋から抜け出した後、逃亡するどころか基地内の資料室に入り浸っておりまして」

あきつ丸「重要な情報を持ち出し、スパイしようとしたのでは?」

憲兵A「そう思いますか、あなたも。しかし、奴が見ていたと思われる資料は新聞や一般交付されているようなありきたりなものばかり」

憲兵A「そもそもわざわざ見つかって捕まった挙げ句、あんな小さな資料室でスパイ行為する諜報員は、サンシタにだっていないでしょう」

あきつ丸「むぅ……」

憲兵中尉「……結局、彼がどうやって呉基地の特別工廠に侵入したかは分かっていないのだな?」

憲兵A「相変わらず分からんの一点張り。そもそも、言っていることが荒唐無稽過ぎる。地球連邦? MS? ガンダム? 彼はきっと狂人です」

あきつ丸「アイエエ……中尉殿、どう致しましょう?」

憲兵中尉「……上は、明らかに彼のことを訝しんでいる」

憲兵中尉「特別工廠の【中身】、我々が知り得ない遺物。深海棲艦の起源。彼がその秘密の一端であるとすれば……彼の存在を狂気の一言で片付けてしまうのはウカツだとは思わないか?」

憲兵A「しかし……」

憲兵中尉「何より我々憲兵隊の警護をすり抜けたことはまだしも、起動前の封印状態にある工廠内に入るなど、ワープでもしなければ不可能だ」

憲兵中尉「実際彼の周りに散らばっていた何かの機械部品、それは我々の技術の埒外のものという鑑識結果が出ている」

憲兵中尉「上が我ら【マリダ・ケンペイ・キカン】に処遇を任せたのもそういうことだろう。上は確かめたいのだ、自分達にもたらされたモノが、一体何処から来たものなのかを……」

あきつ丸「な、難解であります。自分、そこまで知能指数が高くないのであります」

憲兵中尉「アブハチトラズ、さ」

憲兵中尉「あきつ丸=サン、今日逢った叢雲=サンの担当官に連絡を。彼女を初期艦とし、手続きを進めてみよう」

あきつ丸「……本気、でありますか?」

憲兵中尉「勿論私にそんな権限はない。これは海軍側の意向、ということだ」

憲兵中尉「彼を……グラハム・エーカーを提督として着任させる」

 ・
 ・
 ・ <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/24(日) 12:33:23.90 ID:pdM52p6AO<> ちょっと此処まで。寝落ち申し訳ない
今夜にでも続きを。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/24(日) 13:37:41.48 ID:Ee5wX6MS0<> 不釣り合いに詳しい描写だと思ったらそうか彼女か
……ダメだ、想像出来ないww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/26(火) 12:57:52.92 ID:v+/dI729O<> なるほど彼女か
……なんでニンジャめいたアトモスフィアを醸し出してるのかしらww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/29(金) 21:47:51.45 ID:9FyPmy34o<> まだかい <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 04:48:16.15 ID:Ne73roXAO<> ボーキが掘り開始から三万減っているのを確認し……
提督は自分の部屋へ行き2時間眠った……
そして……
目を覚ましてからしばらくして
あきつ丸が一人も来なかったことを思い出し……泣いた……

続きです。
何でもう憲兵中尉の中身がバレているの。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 05:05:41.01 ID:Ne73roXAO<> ――呉基地内部・特別収容施設――


 現在午前五時。彼はいつものように目覚ましもかけず、ぴったりこの時間に起床した。
 大きな欠伸をして、関節を軽く鳴らしてからベッドを降りる。
 未だ繋がっている手錠を一瞥し、小さく笑んで息を吐く。
 慣れたつもりでいたのだが、やはり不便には変わらないな。そんなことを思いながら、彼は自分の強がりを自覚し、自嘲していた。
 部屋に備えられた洗面台に立ち、一通り身なりを整える。急ぐ理由は無い、が、何事にも急がねばいられない彼は、それすら時を惜しんで消化する。
 髭を剃り終え。ムースを洗い落としてから、ふと鏡を見詰めた。
 右顔面に広がる火傷痕が、厭でも目に付いた。
 触れてみれば、治らない肌の凹凸を指が感じ取る。
 こうなってから人はあまり近寄りたがらない。女性には特に忌避された。
 そんな【過去】を思い出して、彼は一言呟いた。

グラハム「……おはよう、グラハム・エーカー。今日もいい男だ」

 彼の朝は、そんな皮肉から始まる。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 06:14:57.00 ID:Ne73roXAO<>  見計らったように扉の小窓が開き、何者かが彼の存在と位置、状況を確認する。
 そうしてから鍵を幾つも開ける音がしてようやく扉が開き、食事を持った憲兵が姿を見せた。

憲兵「ドーモ、グラハム=サン。憲兵です。朝食を持ってきました」

グラハム「おはよう、憲兵君。待ちわびていた」

 少しのやりとりを経て、手錠を外され食事が許される。
 こうなったのも、グラハム本人が脱走したのが原因であるため、彼はある意味納得してこの待遇を受けていた。

 朝食を済ませると、改めて手錠がかけ直される。
 憲兵の態度は事務的ではあったが丁寧であった。グラハムもまた抵抗や再度の脱走など考えもしなかった。

憲兵「面会と聴取は予定通り1200より行われます。備えるように」

グラハム「…………」

グラハム「この時代の警官は皆そのような覆面をしているのか?」

憲兵「メンポです。我々は憲兵なので、ハイ」

 憲兵はそれだけ告げて去っていく。もう少し会話を楽しみたかったものだ。グラハムは少し残念そうにテーブルに肘をついて、顎を乗せた。
 暇を紛らわすため、まどろみの中で思案しながら……


 ――彼の記憶と共に、来歴を少しばかり紹介しよう。
 彼の記憶にある世界、西暦2314年の地球で、彼は機動兵器・MS(モビルスーツ)を運用する特殊部隊【ソルブレイヴス】を指揮していた地球連邦軍軍人であった。
 階級は少佐。最終搭乗機体はブレイヴ指揮官用試験機。
 地球連邦軍のみならず、地球規模で見ても最上位の技量を持ったトップエースであり、そんな彼のいたソルブレイヴスもまた、地球連邦軍最精鋭を集めたエリート部隊と言えた。
 そんな彼らと地球の前に現れたのは、異星からの来訪者ELS。
 地球の総兵力を併せてなお戦力差一万対一と予測された数と、取り付いた存在を吸収しそれに完全変身する能力を持つ、金属生命体であった。

 最終決戦、彼は奮闘し一騎当千の活躍をしてみせるが、とあるMSを庇ったことで被弾。
 それから次々にELSの接触を受け、自身も全身を侵蝕され死を待つのみとなる。
 眼前には雲霞の如き敵。後方では圧倒的な物量に蹴散らされる友軍。
 彼が見据えたのは、二つの光。彼自身が追い続けた男の背中と、その先で閉じようとする敵中枢への入口であった。

 彼は飛び込んだ。迷うことなく、一直線に。世界の未来のために。

 そこで彼は死んだ。
 そのはずだった――。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 06:27:14.96 ID:Ne73roXAO<> 憲兵中尉「起きろグラハム=サン! シエスタはもう終わりだ」

グラハム「!」

 彼ははっとして、飛び起きる。
 いつの間にやら寝ていたらしい。彼の目の前には四人もの男女が並び、テーブルに突っ伏した彼を見下ろしていた。

グラハム「あぁ……済まん。どうやら寝ていたらしい」

叢雲「緊張感無いわね……大丈夫なの?」

憲兵中尉「インタビューの時間だ。準備しろ」

 彼は目をこすり、入ってきた男女を見据える。
 二人は顔見知り。憲兵中尉、いつもの憲兵。
 そしてその後ろに立っている、軍所属と思われる男と――仰々しい機器を背負い、槍のようなマストを携えた淡い髪色の少女。
 彼は跳ねるように立ち上がった。そしてまっすぐに彼女を見た。
 自分の艦娘を。提督となって初めて迎える、無二のパートナーを。

グラハム「君が、私の艦娘……か?」

叢雲「はじめまして、グラハム・エーカー。特T型駆逐艦五番艦、叢雲……」

グラハム「逢いたかった……!」

叢雲「え?」

グラハム「逢いたかったぞ、叢雲ォッ!!!」

叢雲「ふぇえっ?!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 06:28:57.92 ID:Ne73roXAO<>


 それが、この二人の出逢いだった。


<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/08/30(土) 06:40:04.76 ID:Ne73roXAO<>  獲物を前にした猫のような素早さで叢雲に詰め寄るグラハム。
 突然の事態に叢雲は全く動けない。その小さくなだらかな肩をグラハムの手が掴んだ。

グラハム「ふむ、ふむふむ!」

叢雲「やっ、やだ……顔、近……!」

グラハム「見れば見るほどただの少女だ。肩から伝わる温もりも人のそれに相違無い」

グラハム「しかし装着している機械類は明らかに少女の担げるそれではない。艤装と言ったか……成る程、少女に艤装、これが艦娘を構成する要素なのだな?」

叢雲「ひゃんっ!?」

 何か独り言をまくし立てながら、彼女の身体を文字通りまさぐっていくグラハム。

叢雲「な、な……?」

 髪を掬い、絹を確かめる職人のように眺め。

叢雲「っぅん……そこだめっ……!」

 艤装を撫で、軽く小突き、それが金属であると確かめ。

叢雲「っ!……っ!!……っ」

 すらりと伸びた腕をそっと握り、二の腕から指先にかけてなぞりながら。

叢雲「っぁ…………!」

 襟元やスカートの裾を摘まんで、それが艦娘用の特別な服であると認識し、どう特別なのかを改めて入念に


憲兵中尉「イヤーーーッ!!!」

グラハム「グワーッ!!?」

 チェックする前に、憲兵中尉の砲弾めいたリクグンカラテの一撃で軽々壁に叩きつけられたのだった。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2014/08/30(土) 07:05:46.27 ID:Ne73roXAO<> 憲兵中尉「私の目の前で艦娘にセクハラとは良い度胸だグラハム=サン……ハイクを詠め、カイシャクしてやる」

憲兵「中尉殿、それ以上はいけない! もう呼吸がカバシラめいて弱っている!」

グラハム「アァ……トキガミエル……」

叢雲「[ピーーー]……今この場でコイツだけは[ピーーー]っ!」

担当官「抑えろ叢雲ぉ! それだけはいかん! いかんから!!」

 事態が収拾するまでには多少の時間を有した。
 拳を鳴らしながら怒り狂う憲兵中尉を憲兵が宥め、真っ赤になりながらぷるぷると震え怒り哮る叢雲を担当官が堪えさせた。
 あまりにも突然のことに呆気にとられた三人だが、一応性的な目的で彼が動いていないのは明白であるとして、今回の件は不問となった。

グラハム「……大変済まなかった。時折だが我を忘れ目的に邁進する癖がある、許してほしい」

叢雲「がるるる……!」

 なおも収まりがつかない叢雲に土下座しつつ、改めて事は進められた。
 グラハム・エーカー、この世界においては犯罪者でしかない彼に対し、何故特例措置が取られ、提督としての着任要請が来たのか、という説明も踏まえて。


担当官「え〜……まず、グラハム少佐」

担当官「現在あなたが拘束されている理由、それは理解されていますか?」

グラハム「一応は、な」

担当官「叢雲にも既に話はしてありますが改めて……あなたへの罪状は国家の最高機密に当たる呉鎮守府基地・特別工廠内部への侵入、及び逮捕後の脱走」

担当官「深海棲艦特別対策法第92条四項及び……まぁ難しい話を抜きにして言えば、現在の日本の法において極刑クラスの大罪に値します」

グラハム「……何度も言うが、全く見に覚えの無いことでね」

担当官「調書にもありますね。ですが実際に……その……全裸で寝ていたって状況証拠もありますので、ね」

叢雲「うわ……」

グラハム「無理やり言わんでも良い。全く……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2014/08/30(土) 07:22:55.61 ID:Ne73roXAO<> 担当官「此方があなたから聞いた内容……西暦2314年までの出来事ですが、無論我々には確認する術などありません」

担当官「今のところあなたに対する妥当な評価は、【艦娘に対する特別な性的執着を覚える妄想癖の変態】としか言いようがない」

グラハム「ふっ、ひどい言われようだ」

憲兵中尉「…………」

担当官「ですが!」

担当官「ですが、我々海軍はあなたの言い分の全てを認め、真実と考えた上で、これからの話と提案を致します」

グラハム「理由は? 何故この変態とやらにそこまでする」

担当官「……」

憲兵中尉「状況証拠そのものが、成立しえないものであるからだ」

グラハム「……詳細を聞こうか」

憲兵中尉「まず、一つ」

憲兵中尉「入るだけでも極刑になる最重要施設の特別工廠、当然ながらそれそのものを護る最新鋭の警備システムが幾重にも厳重に張り巡らされている」

憲兵中尉「それを完全にすり抜けた上、窓や排気口などもなく入口が一つしかない特別工廠内部に全裸で侵入するなどという神業は、ニンジャでも不可能だ」

叢雲「…………」

憲兵中尉「二つ」

憲兵中尉「だとすれば、艦娘を産み出す工廠中枢から君は出て来たことになる」

憲兵中尉「ということは、君は我々が確認していない全く新しい艦娘なのかも知れない……という仮説が浮かび上がってくるからだ」

グラハム「何と!?」

叢雲「はぁ!?」



担当官「あぁ、提督適性が羅針盤で確認されたからその仮説はもう成り立たないけどね」

叢雲「あ、そうなの……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 07:52:40.88 ID:RYPGcKVZO<> グラハムなら擬装背負っても不思議はねーな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 09:00:35.38 ID:a1QsPr2B0<> グラハムには空軍のイメージしか湧かない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 10:39:41.58 ID:6Nkv6hYDO<> >>45
軍団規模のレ級も相手出来そうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 11:26:38.75 ID:nendjff0o<> まさしく愛だとか告白のセリフにしかなんないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 12:02:35.04 ID:99UNmZ/RO<> グラハムが艦装渡されたら変形機構をつけかねんな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/30(土) 12:34:08.50 ID:AiA1VvTDO<> 乙
ELSの侵食とかはどうなってんですかね? <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2014/08/30(土) 13:17:28.98 ID:Ne73roXAO<> 担当官「……3つ」

担当官「はっきり言って、海軍自身、艦娘がどのようなものかは理解してもどのように産まれているかは殆ど分かっていない」

担当官「原理の説明も出来ない工廠の、それも特別な代物だ。もし万が一、何らかの歪みが生まれて過去と未来、もしくは別世界との繋がりが生まれたとすれば……」

グラハム「……私の妄言も妄言ではなくなる、ということか?」

担当官「そうなります」

担当官「もとより海から艦の能力を持つ怨霊が湯水のように湧き出る世界だ。そんなオカルトめいたことが起きても不思議ではないでしょう」

担当官「いっそのこと、深海棲艦も別の世界から現れた、とか有り得そうで怖いですよ」

グラハム「……」

 そこまで喋ってから、グラハムは黙った。
 叢雲の眼からは、彼が今までの仮説に納得していないように見えていた。
 彼も知らないのだ、此処に来た理由を。
 彼も知りたいのだ、此処に来た原因を。

 調書を見るに、彼は宇宙を飛び回る人型の巨大兵器に乗っているパイロットで、気付いたらこちらの世界に来ていたという。
 荒唐無稽だとは思った、が、肝心なのはそこではない。
 どう見ても担当官らは何かを隠している。海軍にとって重要で、このグラハムと繋がりうる、隠さねばならない何かを。
 だから納得していないのだ、彼は。
 そして納得をしないままに、顔を上げ、口を開いた。

グラハム「……どの道、私に拒否権は無いな」

グラハム「君達の認識に真っ向から対立したところで、私は犯罪者として処理されるだけだ」

担当官「そうなります。従え、なんて傲慢な言い方はしません。委ねて下さい。」

叢雲(ま、そうなるわよね……) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/08/31(日) 22:52:07.82 ID:y2GR3Mb0o<> 私は我慢弱い! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/01(月) 13:58:51.42 ID:TZG1bJOaO<> 顔に火傷……ミスター……ブシドー? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/01(月) 21:30:13.68 ID:Wxg6i92X0<> グラハムが実はブシドーとか大型新人が実はベテランだった並にありえない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/08(月) 22:06:25.56 ID:b0jblcQd0<> わんわんアーミー(∪^ω^) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/30(火) 18:26:15.10 ID:+O+fCBpUo<> 壮大になると見せかけて速攻でエタったな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/11(土) 18:01:56.58 ID:fnemdH9AO<> あい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/28(火) 01:03:42.34 ID:6tFeiFgGo<> まだか <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/10/29(水) 07:46:55.22 ID:FdwzcHUAO<> 誠に申し訳ない
今夜から本気出す <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 08:01:16.36 ID:j1L+QrUwO<> おっ、待ってた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 08:52:49.44 ID:xpTHO+Jdo<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 09:17:46.37 ID:CJ1QA/2bO<> その旨をよしとするっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 10:35:04.09 ID:uk//DPaSO<> 了解した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 15:55:46.83 ID:zrARdj+4O<> ナイスな対応だ、>>1!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/29(水) 20:53:02.82 ID:lUYb2szwo<> 多分こない <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/10/29(水) 23:48:10.92 ID:FdwzcHUAO<> 夜は夜でもこんなに深夜
いや本当に申し訳ない
再開といきますか <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/10/30(木) 00:32:55.13 ID:D7epLHdAO<> グラハム「叢雲」

叢雲「えっ?」

グラハム「二三、聞きたいことがある。構わないかね?」


 唐突に話を振られて、つい身じろいでしまった。
 それは突然のことであると共に、あまりにまっすぐにこちらの目を見つめてきたからで。

担当官「質問ならば私がお受けして……」

グラハム「結構。私は叢雲と話がしたい」

担当官「いやしかし」

グラハム「私は、叢雲と話がしたい、と、言っている」

グラハム「……それとも、提督とやらの着任を拒否してみようか? 死なば諸共というのも、一興」

担当官「っ…………」


 それを制止しようとした担当官は、あっさりと丸め込まれて黙ってしまった。
 私には言っている意味が分からなかったが、要は上のつまらない目論見が見透かされているということなのだろう。
 内心、ざまを見ろと笑ってやったが……勿論、私自身は無表情を装って、彼と対峙した。

――――

あきつ丸『……中尉殿、やはりバレているのであります』

憲兵中尉(あぁ、だろうな、とは思ったさ。今回彼には着任してもらわねばならないが、海軍は体裁上と今後の手綱も踏まえ【情状酌量の末、仕方無く】としたがった)

憲兵中尉(原則、提督は個々人の判断と裁量で鎮守府を運用出来る。自由に動かれてはモノの試しにもならない以上、ムチをちらつかせたがる理由は分かるが……)

あきつ丸『もし着任を拒否でもされたら、むしろ困るのは海軍の方。それを理解しているにもかかわらず、取引を持ちかけずに話を進める意図は……』

憲兵中尉(すぐに判る。見透かされた以上、どうせ無意味な牽制だ)

あきつ丸『カホーはフートンにくるまって待て、でありますな』

――――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/30(木) 00:34:44.78 ID:Bv4ZNarvo<> 来たか…! <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/10/30(木) 01:05:57.36 ID:D7epLHdAO<> 叢雲「私は構わないわ。ただ、そこの担当官殿より詳しく分かり易く話す自信は無いけれど……?」

グラハム「君達艦娘は、深海棲艦に対して対抗しうる唯一無二の存在だ」

グラハム「深海棲艦が地球規模の脅威であることは……君達が少女の外見と性格をしているにもかかわらず、第一線で戦うことが社会的に容認されていることからも伺える」

グラハム「認めよう。君達はこの世界になくてはならない抑止力だ」

叢雲「……どうも」

グラハム「だからこそ、君に問おう」

グラハム「何故、戦う?」

グラハム「君が、そして分かるならば君たちが。強大な存在である深海棲艦と戦おうと決意するに至った理由は、何だ?」

叢雲「……何故……って…………?」


 ――言葉に詰まった。
 艦娘だから、戦えるのだから、奴らと戦うのは当たり前だ。そう言おうともしたが、多分違う。
 彼が聞きたいこととも、私自身の理由ともだ。
 何故、戦うのだろう?


グラハム「……言えないかね?」

叢雲「……っ」

グラハム「だろうな。君の眼は、まだ戦士のそれではない。乙女のそれだ」

叢雲「なっ……!」

グラハム「勘違いをしたなら謝ろう。君が戦いに不適格だと言ったわけでない、だが」

グラハム「……戦う理由を言葉に出来ない以上、戦場に出ればいずれ心が死ぬ」

叢雲「っ……!」


 私はまだ戦場に出ていない。訓練こそ積んだが、深海棲艦とはまだ一度も相対すらしていない。
 強制でもない。半強制ということすら難しいほど、私達の立場は篤く護られている。
 戦いたくないといえばすぐにでも人間としての生活を与えられる。実際、そういう選択肢を選んだ同期建造の子も少なくない。
 艦娘として戦う上で金銭的な優位性があるわけじゃない。むしろその重要性と比較すれば、小林多喜二が筆を取るほどにどす黒い職場といえる。
 見知った顔が奴らの餌食になったことさえ無い。そもそも記憶の中の顔なんて、とうの昔に全員死んでいる。

 何故、戦うのだろうか?

 私に、その答えが言えるのだろうか?


グラハム「……なぁ、叢雲」

グラハム「私は、一度死んでいる」

叢雲「!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/10/30(木) 01:39:05.37 ID:D7epLHdAO<>  彼がそう告げた瞬間、割れんばかりの警報が基地を怒号に包み込んだ。
 赤いランプがくるくると灯り、次々にサイレンの咆哮が鳴り響く。


『緊急警報、緊急警報』

『深海棲艦・内地侵攻形態の接近を確認、大型タンカークラスと推定』

『提督の指揮下にある戦闘が可能な艦娘は、至急抜錨し迎撃に移れ』

『これは演習ではない、繰り返す、これは、演習ではない』

担当官「ひっ……!」

憲兵中尉「内地侵攻形態……【幽霊船】か!」


グラハム「…………」

叢雲「…………」


 それでも、彼は私から目を逸らすことなく、言葉を続けた。
 サイレンの音が遠退くような感覚。私は、ただただ彼の言葉に集中した。

 そこに、私の答えの手がかりがあるように思えたからだ。


――少し時間を遡り、呉基地・近海――

 空高く昇る太陽が、見渡す限りをあまねく照らす呉の近海。
 穏やかな水面に白波を立てながら、警護の艦隊が母港を出て真っ直ぐ外海の方へと進んでいく。
 編成は軽巡洋艦1、駆逐艦4、水上機母艦1。複縦陣形を取りつつ巡航速度にて航行中。


吹雪「千歳さん、あれが目標の輸送船ですか?」


 望遠鏡(本来彼女の提督の私物である)を覗き込みながら、吹雪は隣に立つ千歳に話し掛けた。
 彼女は手に持つカタパルトから偵察機を発進させてから、吹雪の方を向き応える。


千歳「えぇそうよ。海上護衛任務の登録船ね」

千歳「どうやら運送途中に深海棲艦と鉢合わせたみたい。SOS要請と一緒に、呉基地への一時退避を希望してる」

秋雲「まぁた編成規則無視した違法輸送船じゃないの? やんなるねぇ」

由良「こら、秋雲」

『どうだ千歳、状況は?』

千歳「船体は……結構損傷が酷いわ。左舷がボロボロ、コンテナも穴だらけね」

千歳「あ、随伴護衛艦娘確認……四人ね。全員駆逐艦かしら? 軽巡洋艦らしい艦影は見えないかな」

秋雲「ほーらぁ!」

響「あまり当たってほしくない予想だったんだけどな……」

長波「あんまり騒ぐんじゃねーよ。もしかしたら沈んじまったかも知れないだろう?」

秋雲「あ……ご、ゴメン」

由良「そうじゃないことを祈りたいけど……とにかく、合流を急ぎます」

『あぁ、そうしてくれ。千歳は何か分かり次第報告。任せたぞ』

千歳「ふふ、任されました」 <>
◆WHzNz9zb1A<>saga sage<>2014/10/30(木) 01:44:09.77 ID:D7epLHdAO<>  艦隊は陣形を保ちつつ、速度を上げて輸送船に近づいていく。
 しばらく進んで、それが大型のタンカーであると分かる程度に距離が狭まる。
 対比的に艦娘らしき影は本当に小さく見える程度。
 更に近付こうとする艦隊、しかし、不意に千歳が速度を落とした。

千歳「待って……様子がおかしい!」

由良「! 全艦停止」
『何か見つけたか? 千歳』

千歳「変だわ。私の艦載機が何度も通過してるのに、艦娘は全くそっちを見ようとしない」

千歳「それに人の影も船外に無い……綺麗さっぱり。船体の損傷も、それ以外が不自然なくらいピカピカ。おかしいわ」

秋雲「あー……嫌な予感してきた。胃がいてー」

響「……無線の方はどうだい? 怪我人がいるかも」

吹雪「繋いでみます!」

由良「輸送タンカー【かたしな】、こちら呉基地所属第六水雷戦隊、応答願います、どうぞ」

 艦隊に不穏な空気が流れ出す。吹雪の繋げた無線に由良が話しかけるが、それは酷いノイズと共に返ってきた。

『こ…ら……輸送……か…しな…あ……あ……』

 それは、豪雨の中で何かを叫ぶような、頭上を航空機が飛びかき消された声のような、とにかくとても聞き取れないような声だった。

 船影はどんどんと近付いてくる。違和感に気付いたのは響だ。
 先程より明らかに速度を増している――それも、輸送船が出せる速度ではない。

 そして、無線を遮るノイズに、吹雪が小さく悲鳴を上げた。
 気付いたのだ。
 それが、ノイズなどでは断じて無いことに。

吹雪「これっ! 人の悲鳴ですっ!! 叫んでます!! 物凄い数ですっっ!!」

響「っ……!」

秋雲「ゆ、【幽霊船】だぁぁぁ!!!」

長波「ビンゴかよ……!」

由良「提督っ!!」

『全艦転進、最大戦速! 直ちにその場を離れろ!! 早くッ!!』 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2014/10/30(木) 01:48:26.83 ID:D7epLHdAO<>  踵を返し、一目散に呉基地へ引き返していく艦隊。
 それを見て、気付かれたと理解したのだろう。
 彼女らが後ろ目に追う前で、輸送船の形は見る見るうちに融けて崩れ落ち、黒ずんだ汚泥のような怨念へと姿を変えていく。
 その中から生まれ落ちるかのように飛び出してくる、影、影、影……
 海軍が【駆逐艦級】と定める、下級の深海棲艦。それが何十という数飛び出し、逃げる一行を追撃し始めたのだ。

長波「来やがったぁ!!」

秋雲「うひ〜!」

『全員一斉に魚雷を放て! 倒そうとは思うな、怯ませればそれでいい!』

由良「了解、全艦雷撃準備! 足止めをしてから再度転進!」

響「Урааа!!」

 統率された動きで全艦同時に反転、魚雷を発射。そして、それが命中するかも確認せず再び基地へとひた走る。
 彼女らのはるか後方で、数多の水柱が立ち上り、敵駆逐艦が勢いそのままに吹き飛ばされていく。
 その影は着水と同時にもがき苦しむように跳ね回ると、白く石化して崩れ去る。
 当然ながら、それを確認している間など無い。
 倒した数の優に数倍、まさしく黒い津波となって、それらは呉基地に押し寄せていたからだ。

秋雲「だぁから嫌な予感するっつったのにぃ!」

長波「つべこべ言わずに走れ走れぇ! 追いつかれたら一発で沈んじまうぞぉ!」

千歳「艦載機は……駄目か、戻れない……!」

吹雪「急いで千歳さんっ!!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>saga sage<>2014/10/30(木) 02:41:30.57 ID:D7epLHdAO<>  基地は既に非常事態警報を発令、けたたましいサイレンと共に防衛ラインを敷きつつある。
 だが、先遣の六名はまだ着かない。
 そのすぐ後方、もう目と鼻の先には、彼女らを捉える深海棲艦の波浪が迫りつつある。
 呑み込まれたが最後、塵芥となって消滅する末路が待っている。

 万事休す、か。
 六名は覚悟した。

 が。

『第一次攻撃隊、攻撃開始っ!!』

 彼女達と深海棲艦の境界を分かつように、深海棲艦側が突如として爆発。
 次々に空を切る音と共に小さな何かが水面に吸い込まれ、そして爆ぜていく。
 精緻かつ執拗な、航空機による爆撃に、たまらず深海棲艦は左右へと広がり逃れていった。
 恐怖や本能ではなく、機械的な意思を思わせる回避。
 どうあれ彼女達は危機を脱し、それを労うかのように爆撃機・彗星が彼女達の頭上を旋回した。

瑞鶴『やりぃ! どうよ提督、一丁上がり!』

『油断するな馬鹿者ッ! だがよくやった!』

翔鶴『第六水雷戦隊の皆さん、今です! 急いで此方へ!』

由良「他の艦隊……? た、助かった……!」

秋雲「ひゃ〜、神様仏様瑞鶴様ぁ!」

響「安心するのはまだ早い……来るよ」

 六名を避けたとはいえ、後続と合流した深海棲艦はその物量を以て呉基地に押し寄せている。
 それを迎え撃つは数多の提督に指揮された幾多もの艦娘達。
 伊勢、日向、陸奥、山城……戦艦達が先頭に陣取り、背部の巨砲を構え待ち受け、空母達が次々に艦載機を繰り出し空を覆い尽くす。
 それを見ても相手は怯みもせずに突っ込んでくる。まるで恐怖などもとより持ち合わせていないとでも言うように。

 穏やかだった海は怒涛の戦場へと瞬く間に姿を変える。
 その荒波に、六人は顔を見合わせてから、我先にと飛び込んでいった。


―――― <>
◆WHzNz9zb1A<>saga sage<>2014/10/30(木) 02:42:57.15 ID:D7epLHdAO<> 今夜はここまでで。
次は最低一週間以内に必ずや。
幽霊船の説明はどうしようかしら。
おやすみなさい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/30(木) 06:06:06.48 ID:AZKtHi+Vo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2014/10/30(木) 07:56:19.72 ID:/OMKEB0M0<> 会いたかった……会いたかったぞ!ガンダムッ!!

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/30(木) 10:25:17.03 ID:pPClMF8SO<> あえて言わせてもらおう、乙であると!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/31(金) 23:02:41.20 ID:gX+V8+UW0<> 「いきなり深海棲艦が融合してタンカーに化けるSS」でも、俺は期待してるよ <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/12(水) 04:05:32.39 ID:uE8vX/GAO<> 申し訳ない、ノロった
修復までにもうちょいかかりそう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/12(水) 06:45:34.84 ID:i+FqmLH7o<> カラダニキヲツケテネ! <> </b> ◇WHzNz9zb1A<b><>sage<>2014/11/15(土) 05:21:28.85 ID:BCNLrFMAO<> お腹治ったよ
ついでにイベントも片付けてきたよ
だから明日の夜中に投稿するよ
ごめんなさいね <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 03:06:57.53 ID:sXdg96BAO<> 何故か酉がおかしい? <> ◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 03:20:20.23 ID:sXdg96BAO<> 大丈夫だった
では続きを置かせて頂きます
イベントの合間にでも良ければ、どうぞ <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 04:04:31.33 ID:sXdg96BAO<>

グラハム「私は、軍人としてとある戦場に赴いた」

グラハム「君達が滑稽と笑う、MSに乗り込んで……SF映画に出てくるような、異星人との戦争の為に、だ」

叢雲「…………」

グラハム「推定戦力比、一万対一。上下左右、あらゆる場所は敵に埋め尽くされ……仲間からの通信などは、阿鼻叫喚の中に撃墜を表す電子音の途切れる音が混じる、まさしく地獄のオーケストラだ」

グラハム「そして私もまた助からぬ損傷を負い……敵陣に吶喊し、自爆して果てた。あぁ、まごうことなきカミカゼだ、それは自覚している」

グラハム「不思議なものさ。こうやって五体満足のままで君の前に立っているのに……あのときの感覚は、はっきりと記憶の中に刻みつけられている」

グラハム「爆炎と高濃度圧縮粒子に感覚を奪われた身体が呑み込まれて……まるでスローモーションのように、少しずつ自分が千切り取られて無くなっていく感覚」

グラハム「……あのとき、確かに私は死んだ。そう言い切れるだけのことを私は覚えている」


 軽い身振り手振りと共に、実にあっさりと告げられたこと。
 彼を見る他の者の眼は、彼の正気を疑うように直視を避けて向けられる。


グラハム「……だが、私はそれでも後悔はしていない」

グラハム「軍人として任務に当たる以上、生命の危機は想定して然るべきだ。だがそんな定型文とは別の場所に、我々には必要なものがあると私は考えている」

叢雲「……それは、何?」

グラハム「命を賭けるに値する理由。この為ならば死ぬことさえ厭わないという、何かだ」

グラハム「私の師にとっては、家族だった。彼は自らの命を捨てることで家族に報い、私との戦いで空に散った」

グラハム「それを見て、私は一つの考えに辿り着いた。我々軍人に必要なのは、納得なのだと。自らの死を許容出来る、理由なのだと」

グラハム「それが無い死は……きっと、死ぬよりも苦しむことになる。全てに絶望し、憎悪し、呪った挙げ句に、死ぬ」

グラハム「その理由が、私には存在した。そして……今の君にも存在するはずだ」

叢雲「!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 04:39:02.16 ID:sXdg96BAO<> グラハム「先ほどの非礼、詫びさせてほしい。君は乙女の眼をしていると言ったが、それは戦士として不適格だという意味ではない」

グラハム「私にとっての軍人、戦士は、理由を持つ者。己が生命と肉体を投げ打ってでも、果たすべき信念を宿す者!」

グラハム「私の指揮下に入り、その命を受ける以上、その信念と覚悟を持つ者が望ましい。ましてや私と共に最初の一歩を踏み出す者ならば、尚更のことッ!」

グラハム「私の定義は君に告げた。そして、君の眼はその定義に見合うだけの何かを秘めている」

グラハム「そう……私の眼に告げているのだよ。静謐に、雄弁に……!」


 ――なんて、まどろっこしい!
 感じたことをはっきり言うなら、その一言に尽きる。
 この非常事態の中で、コイツは素知らぬ顔で自分の言いたいことだけをまくし立て、結局のところ「きっとあるはずだから私の戦う理由を聞かせろ」だ!


担当官「あ、あの……避難した方が良いのでは?」

憲兵中尉「此処に深海棲艦が来るようなら、この地区はおしまいです。どちらにしても、逃げても無駄でしょう」

担当官「あぁくそっ……!」


 おかげで私の危機感も何処かに消え失せてしまった。
 慌てている担当官が浮いて見えるくらいである。
 多分、危機感が戻って来る前に非常事態の方が先に終わるだろう。
 だから……不思議と醒めた頭のままで、もう一度彼の翠の眼を睨みつける。
 おかげさまで言葉になりそうな、私の「理由」とやらを。


叢雲「ふー…………」

叢雲「……私達艦娘は、それぞれ名前になってるかつての軍艦の記憶を宿している、と言われているわ」

グラハム「らしいな。私には想像もつかぬことだ」

叢雲「じゃあ聞くけど、艦の記憶って何?」

叢雲「特型駆逐艦五番艦、叢雲の記憶って、誰の何の記憶を指すわけ? 軍艦に物を考えたり、記憶する頭がある?」

グラハム「…………全く以て理解の埒外だ。私はオカルティックなことは詳しくない」

叢雲「当事者からの実感を答えとするなら、それは叢雲に乗った人の記憶」

叢雲「私の中には、あの当時叢雲に乗って戦っていた搭乗者達と、叢雲に関わった人々の記憶が宿っているのよ」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 05:17:37.96 ID:sXdg96BAO<> グラハム「スケールの大きい話だ。一体何千人分の記憶になる?」

叢雲「正直、あんまりはっきりとしない。断片的で人数も凄いから、誰がどれで、なんて言えるのはせいぜい艦長くらいかしらね」

叢雲「でも……その中でも、はっきりと思い浮かべられる記憶が二つだけあるわ」

グラハム「それは?」

叢雲「叢雲(わたし)が竣工したときと、叢雲(わたし)が沈んだときの記憶よ」

グラハム「……」

叢雲「竣工のときは、晴れがましくなるくらい皆が叢雲に期待してくれている。思い出すのが正直恥ずかしくなる」

叢雲「沈んだときのは……あんたみたいに痛いとか苦しいとかの感覚は多分無いわ。そういうのは残らない訳じゃない、ぼやけていてよく分からないというのが正しいのかも」

叢雲「だから、沈んだときの記憶で一番強いのは、【無念】」

グラハム「無念?」

叢雲「叢雲(わたし)で戦い抜くことが出来なかった、搭乗員達の無念」

叢雲「そんなに怨念めいたものじゃないし、もっと酷い記憶の子もいるはずだけれど」

叢雲「……それが、私の理由なのだと思うわ」

グラハム「…………」

叢雲「叢雲に乗った軍人にも家族が居て、国があって……それを護るために、彼らは命を懸けて戦っていた」

叢雲「その結果が今のこの国、この場所。叢雲の記憶が彼等の記憶なら、彼らの無念は叢雲の無念……彼らの夢は、私の夢!」

叢雲「自分の大切なものの為に命を賭す志、【大和魂】に従い、彼等の目指した未来(いま)を護ること!」

叢雲「私にはその力がある! 誇りがある! だからこそ、深海棲艦と戦い、この日本を護りたい! 今度こそ、最後まで!」

叢雲「それが私の戦う理由! 特型駆逐艦五番艦艦娘、叢雲の戦う理由よ!」

グラハム「…………」

中尉「ワオ……ゼン……」


 勢いのままに、一気に吐き捨てた。
 迷いも恥じらいも無い。感じたことをただそのままに叫び倒しただけの、言葉だった。
 彼は、グラハム・エーカーは無言のまま、息を切らせる私を見つめていたが。
 薄く笑みを浮かべて、息を吸いゆっくりと話し始めた。

グラハム「かくすれば かくなるものと知りながら 已むにやまれぬ 大和魂」

叢雲「え……?」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2014/11/16(日) 05:56:20.52 ID:sXdg96BAO<> 憲兵中尉「幕末時代の革命家にしてサムライ、ヨシダ・ショーインのハイクですね」

グラハム「こんなことをしでかせば、この様な結末を迎えることは明らかだった」

グラハム「それでもやらずにはおれなかった……その心こそが大和魂である、と、鎖国の時代に密出国しようとした彼は詠んだのだ」

グラハム「少し意味合いは違うかもしれない。言葉が広義になれば意味合いは時代と共に変遷するものだからな」

グラハム「だが、己が身を危険に晒すと理解しながらも、矛を携え危機に立ち向かう君の志……まさしく大和魂と呼ぶに相応しい」

叢雲「っ……」

グラハム「吉田松陰は辞世の句としてもう一つ、大和魂を詠んでいる」

グラハム「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」

グラハム「……かつての勇敢なる帝国軍人の大和魂は、君という姿で今に残っているようだ」


 彼は立ち上がり、私に右手を差し出す。
 その顔からは笑みが消え、真剣な表情へと変わっていた。


グラハム「叢雲、改めて私から君に頼みたい。縁(よすが)も無い、自由も無い。このような異世界からの漂流者が道を切り開くには、提督として戦う以外選択肢は無い」

グラハム「君の力が必要だ。私と共に戦ってほしい、暁の水平線に勝利を刻む為に!」

叢雲「…………」

グラハム「…………」

叢雲「ほんっとう、仰々しい言い方。呆れちゃうわね」

グラハム「……よく言われるよ。演劇じみた語り口調だとね」

叢雲「一つ、聞かせて頂戴」

グラハム「何なりと」

叢雲「あなたの戦う理由。まだ聞いてなかった」

グラハム「か弱き人々の安寧と未来の為に」

叢雲「……ふふっ……」

グラハム「おかしい、か?」

叢雲「いいえ、何となくだけど、そんな感じだと思ってたから」

叢雲「ま、せいぜい頑張りなさい。グラハム・エーカー司令官?」

グラハム「提督として微力を尽くすことを今此処に誓おう、よろしく頼む。叢雲よ」

 差し出された手を取り、固く誓いの握手を交わす。
 自らの戦う理由を反芻しながら、この男と共に戦うのだと、少しずつ追いついてきた実感と共に、大きな手を強く握り締めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/16(日) 06:58:01.17 ID:TRGL7nXCo<> ヒューッ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/16(日) 10:08:58.30 ID:Fq4ea3sSO<> 乙です
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/16(日) 12:47:23.41 ID:ODSF6Gl+o<> ゴウランガ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/16(日) 19:56:06.95 ID:XEToYKCo0<> この憲兵中尉ネオサイタマ出身じゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/17(月) 07:04:01.85 ID:+l+G8KLJo<> ブシドーはネタっぽい感じだけど、グラハムはやっぱりかっこいいなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/12/09(火) 09:40:15.58 ID:nGm3W2au0<> 久しぶりに来て更新あってびびったぜ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/01(木) 07:03:04.42 ID:pPKYib1M0<> 残念じゃのう <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/10(土) 14:03:43.94 ID:iFlZRUCw0<> これすげー好き
いつでも続き待ってる <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/12(月) 23:37:54.34 ID:Qz/D9qcPo<> エタってないらしいし気長に待つわ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/15(木) 08:10:49.12 ID:+0h7mfxJo<> 明日中に書き込みなかったら強制HTMLだけどもう来ないのだろうか? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/15(木) 08:47:59.70 ID:DiyQHTA5o<> 依頼スレに出さないと処理されんぞ、出すけど <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/15(木) 12:53:41.84 ID:n5ZGCBVAO<> J( 'ー`)し<ごめんねたかし、もうちょっと、もうちょっとでいいから待ってほしいの……

J( 'ー`)し<正確には土曜日にお休みが貰えるのよ…… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/15(木) 16:49:49.91 ID:umvLe9Q3O<> ktkr
期待して待ってます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/15(木) 16:56:45.20 ID:/8dmI2pSO<> 了解です <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/15(木) 18:53:31.68 ID:njnpRjJVo<> 待ちかねたぞ!少年! <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/18(日) 01:32:08.48 ID:Z51wJq0AO<> 再開 <> ◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/18(日) 02:07:16.41 ID:Z51wJq0AO<> >>87


グラハム「ッ!」

叢雲「きゃっ……!?」


 そして、ほぼ同時に建物全体が大きく揺さぶられた。
 繋がった手が引かれて、彼が私の身体を抱き寄せる。
 外見からは分からなかったが、相当に鍛えられた男の身体が支えてくれた。


担当官「砲撃……?!」

憲兵中尉「あきつ丸=サン!」

あきつ丸『こちら外であります。どうやら防衛ラインを抜けた敵の砲撃が、運悪く支柱を腐らせたようであります』

あきつ丸『キカンの者達はもうすぐ合流するとのこと、装備が整い次第我々も!』

憲兵中尉『引き続き偵察を頼む。可能ならば迎撃に当たる艦娘のサポートを』

あきつ丸『ヨロコンデー!』

憲兵中尉「……どうやら、敵が沿岸にまで近づいているようです。此処もそろそろ危険かと」

グラハム「……そうか」

グラハム「ならば、往くか。叢雲」

叢雲「えっ?」

グラハム「奴らがすぐ其処まで迫っている。水際で止めねば、誰かが犠牲になるやも知れん」

グラハム「お前はそれを祓う力がある、艦娘だ」


 抱き締めていた手が肩に置かれ、引き離された。
 もうすぐそこまで、深海棲艦が近づいているのだ。
 彼は知っているかは分からないが、奴らの力の前では如何なる防衛設備も無力に等しい。
 対抗出来るのはただ一つ、艦娘という存在のみ。


叢雲「ッ……」

 もはや一刻の猶予も無い。
 恐れもある、躊躇いもある。
 でも、逃げるつもりはない。己の魂に、嘘偽りなんて残さない。

叢雲「えぇ、往きましょうグラハム……いいえ、司令官」

グラハム「君の戦う理由の為に」

叢雲「貴方の戦う理由の為に!」


 マストを構え直し、迷いを振り払うように、先端で空に孤を描く。
 目指すは海。敵は深海棲艦。
 待ちわびていたというように憲兵が扉を開く。向かい風が、試すように私の髪を撫でていった。


叢雲「叢雲、出撃するわ! ……抜錨!」


 これが、私達の初陣。最初の共同作業となった。


<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/18(日) 02:25:40.49 ID:Z51wJq0AO<> ――――


磯波「み、見えました! 数は三、単縦陣形!」

綾波「曙! そちらに行きましたよ!」

曙「分かってる! ちょこまかちょこまか……とぉっ!!」


 防衛ラインより遥か後方、駆逐艦隊が数体の深海棲艦を相手取っている。
 敵は駆逐イ級。駆逐艦という同一分類ながら、彼女ら駆逐艦娘と比較にし難い大きさの深海棲艦だ。
 回り込もうとする黒い怨念目掛けて磯波、綾波二名が砲撃。
 敵の鼻先を押さえつつ、曙が内側から相手に一気に接近していく。


綾波「曙、近付きすぎです! もっと離れて!」

曙「近付かなきゃ、倒せないでしょうが!」


 敵の先鋒に三名の砲撃が突き刺さり、その身を崩して轟沈。
 だが、二番手が即座に回頭、砲撃の合間を縫って曙へと肉薄してきた。
 さながら小型の鯨を思わせる丸みのボディを跳躍させ、食らいつかんと飛びかかってみせた。

 だが。


曙「ッ……の!」


 彼女はその飛びかかりに急停止、後方に跳躍。
 連装砲の上部装甲を盾に受けつつ、見事に突進の勢いを殺しながら真っ向から受け止める。
 そのまま着水と同時に砲撃を敢行すれば、至近弾が次々と黒いボディを貫通。
 青白い火花が散り、イ級の全身に細やかな亀裂が走った。


曙「しぶといッ! さっさと……くたばれぇ!!」

 倒しきれないと踏んだ曙は、僅かに前進してから水面を蹴り、高く飛び上がる。
 腰に差した特殊警棒を逆手に引き抜き、落下しながら狙いを定めて……一息に振り下ろす。
 砲撃を浴びて割れた装甲の合間に突き刺されば、先ほどのような火花が迸る。
 一度付いた亀裂は大きな裂け目となり、遂には完全に崩壊。
 イ級は煙を発しながら灰化し、波紋を残して沈んでいくのみだった。

曙「ふんっ……!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/18(日) 02:48:57.20 ID:Z51wJq0AO<> 綾波「曙! 無茶は控えるとこの前約束したばかりでしょう!?」

曙「今のは無茶じゃなくて、出来るからしたのよ!」

綾波「近接攻撃までして、無茶以外の何なのですか!」

曙「うるっさいわね石頭! 結果オーライって言葉知らないの!?」

綾波「過程に問題があると言っているんですっ!」

磯波「ひー、二人とも喧嘩は止めてくださぁぁい!」

 半泣きの磯波を挟んで二人が言葉のドッヂボールを始めると、生き残った後方の一匹が二人の砲撃を回避しながら大きく離脱を始める。
 そのボディには暗く揺らめく紅のオーラ。
 エリート級、曙が舌打ちと共にその名を呟いた。

曙「説教なら後で聞いてやるから、今はアイツを何とかするわよ!」

綾波「……言いましたね! 必ず後で聞いてもらいますから!」

曙「やっぱ前言撤回! 聞いてらんないわあんな長ったらしいの!」

綾波「こらぁぁ!?」

磯波「え……あ、はい!」


 深海棲艦は人間を優先して狙う。
 それは人間を殺して負の怨念を蓄える為とも、己の無念、憎悪を慰める為とも言われている。
 そうはさせまいと二名が身構える。
 その間の磯波が、小さく息を吸ってから声を張り上げた。

磯波「提督より入電! こちらに駆逐艦が一隻、支援に入るそうです!」

綾波「援軍ですか?」

磯波「はい! ですが初陣とのことで、みんなでフォローよろしくっ! だそうですっ!」

曙「相変わらず軽いんだから、あのクソ提督……!」

曙「聞いてるんでしょクソ提督! 初戦闘とか使えるのそいつ!? 足手まといなら要らないから!!」

綾波「こら、曙!」

『そう言うなってぼのぼの、こっちも余裕が無いんだからさぁ』

曙「ぼのぼの言うなっ! こっちはあたしと綾波がいれば……どうにかっ……なるんだからっ!」

磯波「私は!?」

綾波「ッ!十一時の方向、敵増援! また駆逐艦、数、二!」

磯波「私はぁ?!」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/01/18(日) 03:07:57.22 ID:Z51wJq0AO<>  敵のエリート級が後詰めと合流し、再び陣形を組んで侵攻を再開する。
 駆逐艦とはいえ、その砲撃は艦娘以外の万物を崩壊させる。
 決して逃がすわけには行かない。それが艦娘の使命なのだから。


曙「こっから先は通行禁止よ、化け物!!」

 曙は砲、警棒をそれぞれの手で持ち、身構える。
 磯波、綾波もそれに並び、砲で狙いを定めていく。
 そして、まもなく彼女達の電探に反応が出る。
 先ほどの提督からの話にあった、初戦闘の艦娘だろう。

 三人は、一斉に振り向いた。




叢雲「ぐぬぬぬ…………!!」

曙「……は?」

綾波「…………」

磯波「えぇ……?」

 そこに現れたのは、汗だくになりながらもゆっくり、ゆっくりと水面を歩いている叢雲であった。
 本来主流であるスケートのような滑走も出来ず、積もりすぎた雪を掻き分け進むようなぎこちなさで必死に海を渡っている。
 これは、典型的な提督と艦娘の接続障害。
 主に、提督側の過干渉が原因に起こる艦娘の動作不良であった。


グラハム『叢雲、大丈夫か?』

叢雲「大丈夫に……見えるの……あんた……?!!」

グラハム『全く見えんから聞いている。なんだ……意外に不器用か?』

叢雲「ッ! あんたと縁(えにし)結んだせいでしょうがっっ!!」

担当官『落ち着いて、叢雲! 深呼吸して、彼からの力をスムーズに行き渡らせるイメージをしてみるんだ』

叢雲「してるわよっ……でも、動きにくいったら……!」

担当官『グラハムさん、叢雲に対して力を渡すイメージをもっとマイルドにしてみてください』

担当官『こう、ゴムボールを軽く投げ渡すみたいに……糸電話に軽くしゃべりかけるみたいに、そんな風に』

グラハム『とは、言うがな……これはどうにも、難解だ……!』

担当官『う〜ん、ここまで艦娘側に影響あるとなると、多分イメージと力の使い方がよっぽど悪いんだと思うんだけどなぁ……』

叢雲「悠長なこと言ってぇ……!!」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/01/18(日) 03:32:52.96 ID:Z51wJq0AO<>  あまりにぎこちない叢雲の動作に、三人は慌てた。
 よもや危惧していた完全な足手まといになるとは、口にしていた曙ですら本気で思ってはいなかったからだ。
 この明らかに過度な動作不良は、実のところグラハムのイメージに問題があった。
 艦娘の抜錨状態とシンクロした提督の精神と肉体の負担の強さは並々ならぬもの。
 その状態から行った彼女への干渉のイメージを、あろうことかMSの操縦と重ね合わせて行っていたのだ。
 故に送られた力はそのイメージに合わせて彼女の四肢に干渉。
 内部の妖精と叢雲の間の伝達を阻害する原因を生み、艤装の効果を著しく弱めていた。
 一般的に重機や車の運転と重ねるイメージが過干渉の原因になると言われている。
 なまじ人型兵器たるMSの操縦と、エースパイロットの意識で同一にしてしまったのが、不運であった。


曙「ばっかじゃないの!? まともに動けないのに此処まで来るなんて!」

『マズいな、伝えていたよりそっちの戦線が手前すぎたのもあるが……!』

綾波「行きますよ曙!」

磯波「このままじゃ叢雲さんが危ない!」

曙「ちぃっ……!」


 此処で最も危惧していたことが起きる。
 三体の深海棲艦が、三人を迂回して叢雲を攻撃しようと転進したからだ。
 彼女と三人の間には、まだ相応の距離があった。
 まだ相手の砲撃も到底届かないが、それも時間の問題だ。
 叢雲は波に足を取られて尻餅までついている。
 あれでは、逃げようも無いのだから。


曙「こっちよ化け物! あんたらの相手は私達でしょう!?」


 砲を放ち、何とかして動きを止めようと気を引く三名。
 だが獲物を見据えた敵の動きは変わらない。見向きもせずに一直線に叢雲へと接近していく。
 焦燥が喉を焼く。もし水面下に引きずり込まれたら、自分達の力では助けられないかも知れない。
 速度を出して先に叢雲の下へと向かおうとするが、どうしても先に動いた相手の方に分があるようだ。
 当たれ、当たれ!
 頼むから、当たってくれ!
 縋るように祈って引き金を引いても、最高速でぶれる砲口は狙った的を大きく外れてしまう。

 そして、紅いオーラが軌跡を残しながら、飛びかかる。

 座り込んで動かない、叢雲目掛けて、無慈悲なまでに。


曙「駄目ぇぇーーーっ!!!」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/01/18(日) 03:56:23.41 ID:Z51wJq0AO<>

――――


 さて、どうしたものか。
 グラハムは、事態の深刻化とは別に、酷く冷めた頭で思考を繰り返していた。

 今の彼の視界は、雑多なデータが所狭しとモニタリングされ、非常に騒々しい。
 例えるならば、本来視界として存在する光景の外側が更に拡張され、風向きや気象データ、艦娘の体調や視界などを放り込んで自分の視界そのものとミキシングしたような状態。
 まるで神経にLANケーブルでも繋げられたかのような、多量の情報がグラハムに襲いかかっていた。
 どれがどれやら、意識する度にそのデータに視野が集中するなどして分からなくなる。
 明らかに人のキャパシティを超えた情報の波が、彼の頭に注ぎ込まれていた。


グラハム「……ふむ……」

グラハム「どうだ叢雲、動かしやすくなったか」

叢雲『全っ然……それとちょっと黙ってて、敵がこっちに来てるから……!』

担当官「まずい、早く彼女を下げないと!」

グラハム「……どうだ……?」

叢雲『変わらないわよっ! さっきから何も!』

グラハム「分かった。ならばもっと根本的な問題だ、しばし待て」

叢雲『出来るだけ早くね……!』

グラハム「任せろ」

 眼を閉じ、椅子に深々と腰掛け、腕を組む。
 瞼の裏側からでも容赦ないデータの嵐が網膜を刺激する。
 それを一つずつ、迅速に確認し、組み直し、整理する。
 だがそれでは変わらない。叢雲に対してのアプローチ、結んだ契約により成立した何らかの行為が、スムーズに運ばれていないのが原因なのだ。

担当官「……良いですかグラハムさん、彼女達への力の送信は、肉体的な実感を伴わない為に、何も考えてなくても実は行えます」

担当官「ただ抜錨、戦闘態勢においては大抵何らかのイメージを挟んで、強い送信を行うように努力されるのが一般的だと説明しました」

担当官「今はとりあえず一切のイメージを止めてください。縁が繋がっている状態なら絶対に一撃轟沈はしません、彼女が自由に動けるレベルにまで……」

グラハム「どうだ、叢雲」

叢雲『! 動けるわ、軽くなった!』

グラハム「よし、次だ」

担当官「……え?」

 だからまずグラハムは、一切の思考を止めた。
 やり方そのものを知らないのに巧くやろう、よくやろうは愚の骨頂。
 脳髄を焼く情報のブリザードの中で、グラハムはあっさりと無我に入り込んでみせた。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/01/18(日) 04:17:01.15 ID:Z51wJq0AO<>  滝行によく似ている、と一人ごちた。
 身を裂くような勢いと冷たさを以て降りかかる滝の中で、ただ一つの意識だけを見つめる修行。
 最初は一分すら耐えられずに逃げ出していたものだが、慣れた頃にはむしろあの中の方が落ち着くほどであった。

 改めて、彼女に対するアプローチを考える。
 繰り返し行っていた試行錯誤により、送信に対する彼女の受信状況もだいぶ分かるようになった。

 彼女を動かすのは、駄目だ。
 彼女に動いてもらうのも、いけない。
 彼女は動いているのだ。
 私が何をするとなく、彼女は自らの意志で動いている。
 手を離した途端、ふらりふらりと覚束なく歩く幼子を見るような、そんなイメージでいいだろう。

 私が助けねばならない。だが彼女は自ら動いている、自ら動かねばならない存在だ。
  あの短い脚が長く太くなれば、もっと速く走れる筈。
 あの頼りない腕が伸びて逞しくなれば、転んだとしても支えられるだろう。
  そんなものは何処にある?
 ――此処にある。くれてやれるものは全て与えよう。
 使い方は分かるか?
 ――私自身が知っている。だから一緒に渡してやろう。


グラハム「聞け、叢雲」

叢雲『何……!?』

グラハム「私を使え」

叢雲『えっ?』

グラハム「私が見てやる、考えてやる」

グラハム「だから、お前が倒せ。いいな?」

叢雲『ちょ、何を言って……!』


 彼女の視界に、真っ赤に揺らめく影が映り込む。
 飛びかかってきた敵の姿が、スローモーションのようにゆっくり近づいてきている。

 どうするべきか、自分は判断出来る。
 だから、問題はあるまい。
 今、彼女に全てをくれてやったのだから。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/01/18(日) 04:53:23.94 ID:Z51wJq0AO<>  それを【受け取った】瞬間、叢雲はまだしゃがんでいた。
 一度は立ち上がったものの、イ級の砲撃で揺れた水面に足を掬われた為だ。

 それに覆い被さるようにエリートのイ級が襲いかかる。
 絶体絶命、本来ならば。
 叢雲は、自然に身体が動いていくのを感じていた。

叢雲「……!」

 水面に触れる靴型船底艤装を最大加速させ、相手の跳躍の内側に身をちぢこませ潜り込む。
 マスト槍を抱きかかえ、立てながら懐の下を潜り抜ければ、穂先はイ級の顎下から腹先までに、【力】を込めた先端を押し当て引っかかる。
 それを腕で強く抑え、自分の身体の動きと相手の動きに合わせて、強く支える。
 そうすれば自分から振る必要はない。
 相手は自分の動きで自らマスト槍に当たりに行き、柔らかな腹を裂かれていく。
 思わぬ反撃を受けたエリートイ級は、力無く水面に叩きつけられた。

叢雲「……えぇいっ!!」

 立てた槍が抜けたと同時に、前に突き出す。
 真っ向から現れた二番目のイ級が飛びかかる前に、鼻先目掛けて槍を置く。
 身体は立てない。代わりに強く足を踏ん張って、真正面からイ級を迎え撃つ。
 二体目のイ級の額に穂先が見事に突き刺さる。弾ける火花が黒いボディを白く焼き、イ級は石化しながら身を反らし沈んでいく。
 だがマスト槍に負担がかかったのだろう、柄にまで響く衝撃で中程からへし折れてしまう。
 まだだ。役に立たなくなった槍を投げ捨て、イ級を迎撃した衝撃を僅かに利用し、下がる。
 腰の砲を構え、撃破したイ級の上に狙いを定めれば、ほぼ同時に三匹目のイ級が飛び上がり、彼女目掛けて落下を始めていた。
 猶予など無い。一心不乱に引き金を引く。
 念じれば放たれる12.7cm連装砲の砲弾がイ級の顔面に浴びせられる。
 だが、止まらない。

叢雲「っあ……!!」

 慣性に従い落ちてくる巨体に弾かれて、白く小さな叢雲の身体は容易く海面を転がった。
 防御に使った魚雷発射管はひしゃげて曲がり、撃つことは出来ない。
 ならばと、体勢を立て直す間も惜しんで砲を放った。

叢雲「沈めぇええッ!!!」

 既に虫の息の深海棲艦の胴体を、次々に砲弾が舐めていく。
 断末魔の咆哮を上げながら、イ級の身体は白くひび割れて砕け散った。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/18(日) 04:54:51.67 ID:Z51wJq0AO<> 中断 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/18(日) 05:34:57.26 ID:bKcVrkm8o<> おかえり待ってた <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/18(日) 14:11:45.17 ID:tx3TNpDDo<> おかえり <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/18(日) 20:05:37.48 ID:hqxM6Muao<> グラハムスペシャルならぬ叢雲スペシャルをだな… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/18(日) 20:16:51.78 ID:L+7+FIeSO<> ハムがイメージしたのはトランザムしたブレイヴだろうな <> ◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/01/21(水) 04:22:02.90 ID:6m953BEAO<>  爆炎は何もかも諸共に散らし、辺り一面、雨のように飛沫が降り注ぐ。
 体当たりを受けた魚雷発射管は、経年劣化したように曲がった中程から亀裂を発して割れてしまった。
 息を切らしながら立ち上がる。水面に手を添えれば、陸のように沈まず身体を支えることが出来た。
 先ほどの一瞬を経て、凪いだ海に立つ叢雲。
 己の身体に、何かが入り込んでいくのを感じた。

 ――唖然。
 それを見ていた三人の艦娘は元より、誰よりもまず叢雲が自分の所業に驚愕していた。

『旗艦補正か……ここまで強いのは初めて見るが……!』

曙「旗艦、補正って……あの子、さっきまで歩くのもやっとなくらいだったじゃない」

曙「ろくに戦った事もない初期艦が、いきなりあんなに戦えるもんなの……?」

『うんや、まぁ例外って奴だろう……さ』

『知っての通り旗艦は提督と艦隊との繋がりの基本、要だ。提督は情報も旗艦のものを基準に受け取るし、縁からの加護も旗艦から他の艦娘に分配される』

『故に旗艦は他の艦娘よりも加護を強く受けている反面、旗艦の損傷は他の艦娘の加護そのものの減衰に繋がっちまう』

『そこでだ、もし……提督が戦闘経験豊富な武術家や何でもこなせる天才だったりして、類い希な反応速度・判断力なんかを有してたりするとな』

『旗艦が見たり感じたモノをタイムラグ無しで提督に伝えて、提督が考えたり反応したりしたことを、これまたタイムラグ無しで旗艦に反映して対応、なんてのが出来たりする訳よ(俺ムリだけど)』

綾波「抜錨状態の艦娘の思考・反応速度を人が上回る……そ、そんなことが可能なのですか?」

『初めて見たっつったでしょ。うちの地域の【三大将】くらいなもんだと思うぜ、そんなことこなせるの」

磯波「じゃ、じゃあ……」

『金の卵って奴だろうな。良いもん見ちゃったね、ラッキー』

曙「あんたもそんくらい出来るようになりなさいよ、クソ提督!」

『無茶苦茶言いなさる! あぁそれと……』

『磯波は彼女の救護、他は索敵及び撤退支援、宜しく!』

曙「へ?」

『命令通りだよ。あの子――多分もう無理だ』 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/01/25(日) 22:54:15.39 ID:3m015y/QO<> んっ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/25(日) 23:27:19.67 ID:uYr3iOXr0<> >>118
上げるな。期待しちまったよ <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/02/15(日) 18:55:51.76 ID:aOQ4rx6AO<> J( 'ー`)し<今夜、続きを上げさせて頂きます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/15(日) 18:57:33.43 ID:k0t7oLQSO<> 待ちわびたぞ、>>1!!
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/15(日) 19:28:37.14 ID:RN1laAkKo<> 待ってた <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/16(月) 02:08:53.49 ID:/wnYdRjAO<> 再開 <> ◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/16(月) 02:35:08.03 ID:/wnYdRjAO<> >>117


叢雲「ッ……!?」


 提督の指摘を体現するかのように、それは突然叢雲を襲う。

 達成感と共に立ち上がった身体を揺らす、一拍の鼓動。
 続いて、発汗。
 どろりとした脂汗と共に湧く胃酸、更には全身を爪先から一気に駆け上がる痺れと悪寒。

 勝利の余韻など一瞬で吹き飛ばす異常事態に、叢雲は再び水面に崩れ落ちた。


叢雲「ゔっ……おぇええっ……!!」

グラハム『どうした叢雲……?! 大丈夫か、応答しろ叢雲!!』

担当官『縁の適合率を上げたのか……いや、まさか、そんなことが初めての提督に……』

グラハム『担当官殿、叢雲の様子がおかしい! 何が起きた、私には何も……!』

担当官『落ち着いてください。恐らくは、貴方との繋がりが彼女自身のキャパシティを超えて強まった為に起きた、拒絶反応です』

担当官『旗艦補正に、艦娘側の練度と改修が耐えきれなかったのが原因でしょうが……』

グラハム『それは理解した、だが!』

担当官『落ち着いてください。提督の動揺は艦娘の恐怖に繋がります』

グラハム『……ぐ……』


 海面にうずくまり、苦しげに呻きながら嘔吐を繰り返す叢雲。
 それを提督として得る情報から知るグラハムは、初めて狼狽を顔に映し出した。
 よかれと思い彼女に与えた力が、よもや内から彼女を害するとは。
 握り締めた拳に、血が滲んだ。


担当官『他の鎮守府の艦娘が援護に来てくれています、彼女達に曳航してもらうしかありませんね』

担当官『……良いんですよね? スレッガー・ロウ大佐』

スレッガー『あいよっ、僕ちゃん元々そのつもり!』

担当官『はぁ……お願いしますね』

スレッガー『曳航するのは駆逐艦だけど、大船に乗ったつもりでいなよお兄さん』

スレッガー『これでも、俺の部下は良い仕事をする良い部下でね。そこんとこは保障するよ』

グラハム『……かたじけない、叢雲を頼みます』 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/16(月) 03:07:56.49 ID:/wnYdRjAO<> スレッガー『磯波、どうだい?』

磯波「縁酔いですね、激しく動いたせいで少し悪化したようですけど……」

叢雲「う……」


 叢雲を仰向けにし、看病しながら曳航用バルーンを脇の下に通していく磯波。
 船底艤装を損傷した艦娘も引っ張って航行が可能という、ハイテックな救護装備といえる。
 作業の合間、グラハムは黙して語らない。
 事が上手く運ぶよう無心に祈っているようにも見えた。


磯波「少し休めばすぐに良くなります。ちょっとだけ酷い二日酔いを起こしたようなものですから」

曙「綾波、そっちは?」

綾波「敵影無し、どうやら向こうの戦闘も収束に向かってるみたいです」

曙「どうなのよクソ提督、赤城さん達は?」

スレッガー『こっちはかねがね落とし終えたってとこかねぇ。よその海岸に散った奴を、他の艦隊が追撃し始めてる』

スレッガー『だが油断はするな、特に潜水艦の索敵は厳とせよ、ってね』

曙「りょーかい、クソ提督」


 本当に、それからは驚くほど何も起きずに、戦いは幕を閉じた。
 何百と押し寄せた深海棲艦達も、偶々とはいえ多くが基地に残っていた艦娘らの迎撃により壊滅。
 建造物への被害も少なく済み、事態は慌ただしさの余韻だけを残してあっさりと収束していった。
 グラハムと叢雲、二人の初陣は、海軍の規定に沿えばS勝利判定。

 実に苦々しい、初勝利であった。


スレッガー『んじゃ、俺も顔見せついでに動きますか』

スレッガー『そっち行くぞカツ坊! 大丈夫だよな!?』

担当官『えぇ、大丈夫です。それとカツ坊は止めてくださいと言ったはずですが』

スレッガー『そういうのは酒が飲める歳になってから言うもんだ。無線切るぞ』

担当官『あっ……くそっ!』 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/02/16(月) 04:09:51.26 ID:/wnYdRjAO<>

――――

「アイエエ……」「アイエエ……」「アイエエ……」

憲兵中尉「これで最後か」

あきつ丸「はい、中尉殿」


 死屍累々、ざっと数えても二十を超す数の武装した悪漢達が正面門前に倒れ伏している。
 ただ一人その中に立つ憲兵の、ツキジめいた光景に悪漢達の呻き声が重なる。
 おぉ、見よ!
 それは死者が自らを慰める読経のように響き渡り、予言されしマッポーカリプスの如き、サツバツとした情景を生み出しているではないか!

あきつ丸「しかし、流石は中尉殿でありますな。この数のアンタイ・カンムスギャングを、たった一人で殺さずに制圧してみせるとは」

憲兵中尉「この程度、ニュービーケンペイであってもベイビーサブミッションであろう」

憲兵中尉「我らケンペイ、モータル(一般人)に遅れを取るようでは任務遂行など夢のまた夢だ」


 しばし、「この憲兵は何を言っているんだ?」「高速修復材の過剰摂取か、オハギの食べすぎか?」と訝しんだであろう読者の皆さんに説明をさせていただきたい。
 此処で言う【ケンペイ】とは、憲兵の【軍内警察】という意味とは別の存在を差している。
 人間よりも行動範囲が広く、肉体能力に長け、対深海棲艦特化とはいえ武装を常備した存在、艦娘。
 彼女らがもし人に害を為す犯罪者になったり、提督に唆されるまま悪事に荷担した場合、単なる憲兵では防ぎようが無く、かといって艦娘という戦力を無碍に散らすことに反対意見が少なからずあったのだ。
 それらを鑑みた結果、【陸戦において艦娘を殺害せずに捕縛、制圧すること】を目的とした【対艦娘陸戦制圧・カラテ超人部隊】が運用されることとなった。

 それが【ケンペイ】

通常の憲兵と同じ組織に身を置きながら、特定の事案においてそれ以上の権限を有する、対艦娘、及び対提督に特化した存在なのである。
コワイ!

 そして、そのカラテ超人がモータル(一般人)に暴威を振るったのだ。
 如何に彼らがサブマシンガンや手榴弾で武装して、如何にケンペイが素手であろうとも。
 この結果が必然の二文字で片付けられることは、聡明な読者諸兄には容易に理解して頂けたと確信している。


憲兵「お疲れ様であります!」

ケンペイ中尉「ご苦労、私達は戻る。後始末は任せた」

憲兵「ハイヨロコンデー!」


 そんなケンペイが出て逮捕する物語は、また別の機会にお見せしよう。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/02/16(月) 04:18:25.51 ID:/wnYdRjAO<> 中断
また翌日、月曜日に <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 09:48:24.21 ID:zvTiC6mSO<> 乙です
スレッガーさんは撃沈する度に
「悲しいけどこれ、戦争なのよね」


って言いそう <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 09:57:50.96 ID:1E7APjlQo<> あー、元の世界では死人がこの世界にやってくる感じなのか
乙 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 12:45:06.62 ID:pMNAIyD0O<> オタッシャデー! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 13:04:30.38 ID:dOgAhhYGo<> カラダニキヲツケテネ! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 13:19:33.72 ID:tkXeQFPdo<> オツカレサマドスエ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/16(月) 23:12:33.75 ID:G2E1tFJw0<> おつー待ってたかいがあったってもんだ! <> ケンペイ外伝とか迷ってる
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/02/17(火) 02:48:58.73 ID:iZPXpWBAO<> J( 'ー`)し<キラ付けたのしい……たのしい……

再開 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/17(火) 03:46:25.56 ID:exmBx99q0<> おう、期待させてからの熱い手のひら返しとかやめーや。 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/17(火) 03:55:03.00 ID:iZPXpWBAO<> ――医療施設――


叢雲「…………」


 苦い顔。


グラハム「…………」


無表情。


今、二人は基地内医療施設の一室にいた。

 寝台に横たわる叢雲。
 それを見下ろすグラハム。
 叢雲は寝ているわけではない。
 だが、どちらも終始無言。ただただ時間だけが過ぎている。


叢雲(……き、気まずい……)


 重い空気が、主に叢雲にだけのしかかってきていた。


『どうだ伊勢、ドッグの方は』
『ぜーんぜん……損傷した子の順番待ちで溢れかえってる』
『雷〜! 電〜! どこ行ったの〜?!』


 外からは、慌ただしい空気と共に通りすがる人々の会話が聞こえてくる。
 叢雲は艤装の一部が損壊したものの本体には被害がなかった為、休養を理由に此方に回された。
 先の戦闘で多くの艦娘が損傷した為、現在ドッグはバケツと衣装の飛び交う戦場と化している。
 体の良いたらい回しだが、どちらにせよ休息が取れるのは叢雲にとってみれば僥倖と言えた。


『ドーモ』
『アイエエ! ケンペイでち!?』
『アイエエ……でっち……怖いよう……』

叢雲(通りすがりを怖がらせてんじゃないわよ……)


 扉の左右には、監視のためのケンペイが立っている。
 叢雲に個室が与えられたのも、グラハムを隔離する為であった。
 提督になったとはいえ、今の彼の身柄は自由に程遠い。
 叢雲は、これが厚遇なのか冷遇なのか、分からなくなりそうな程度に複雑な心持ちだった。


叢雲(我ながら……とんでもない男の初期艦になったものだわ)

叢雲(国家の最重要機密に触れた極刑クラスの大罪人……その実態は別の世界から迷い込んだエースパイロット様(故)、か)

叢雲(……正直、あれを見てからだと、否定しにくいのよね) <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/17(火) 04:17:30.52 ID:iZPXpWBAO<>  叢雲は、彼が与えた旗艦補正の感覚……【彼が感じている風景】を思い返した。
 風が視覚化し、波に、敵に、空に、目まぐるしい程に巻きつき延びている。
 何かが動く度にそれはゆっくり、スロー再生のように全体が動いていく。
 見えない敵の動きまでもが、はっきりと肌で感じ取れる。
 故の、あの大戦果であった。


叢雲(とんでもないスピードだったイ級が、いきなりスローモーションみたいに見えたものね)

叢雲(こいつ……一体どんな速度の世界で戦っていたの?)


 それは本当に見えている訳ではない。
 そう感じていることを前提に、目が見て動いているのだ。
 見えていないはずの背後の敵にさえ、視覚的なイメージが浮かんでいると言うべきか。
 脅威的な動体視力に知覚、思考の連結。
 それらに膨大な経験則が深く結び付き、恐ろしく精緻な戦闘感覚を結実させるに至っている。
 その【眼】を受け取っただけで、自分は敵駆逐艦を一瞬の内に掃滅するに至ったほどだ。
 果たして、駆逐艦以上の大型艦がこれを受け取ったらどうなるのか。
 考えるだけで、震えが背筋から這い上がるのを感じた。


グラハム「叢雲」

叢雲「! ……何?」

 不意にグラハムが口を開く。
 叢雲はいきなりのことに少し驚き、身が跳ねたが、何事も無いように振る舞ってみせた。


グラハム「悪寒はまだ残っているか?」

叢雲「おかげさまで全く。ていうか、それ今更になって言うことなの?」

グラハム「済まなかった」

叢雲「……な、何よ……いきなり」

グラハム「よかれと思い渡した感覚が、君を窮地に追いやった」

グラハム「もし友軍のフォローが無ければ、君は敵地で無防備を晒す羽目になっていた」

グラハム「完全な失策だ……不甲斐ない指揮を見せた、これはその謝罪にあたる」

叢雲「…………」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/02/17(火) 04:36:01.76 ID:iZPXpWBAO<>  僅かに俯き、深刻そうな表情を浮かべて謝意を表すグラハム。
 叢雲からすると、とても意外なことに感じられた。


叢雲「ふぅん……あんたもそんな顔をするのね」

グラハム「私とて人の子だ、失態には気を落とさずにいられんよ」

グラハム「思い返せば、もっと上手くやれた筈だ。君の命がかかった場面で、情けない……」

叢雲「……そう」

叢雲「なら言うわ。今回の一件、謝ることはこの私が許さないから」

グラハム「……何?」


 叢雲は身体を起こし、真っ直ぐにグラハムの眼を見た。
 彼よりも経験不足で、練度も能力もまだ未熟。
 だがその眼差しだけは彼に並ぶほど鋭く、ずっと遠くを見据えていた。


叢雲「確かに、あんたの旗艦補正が強すぎたのが原因でこうなったわけだけど」

叢雲「逆にあのまま戦っていたら、私には今以上に損傷していただろうし」

叢雲「私以外の三人にも、もしかしたら被害が出たかも知れないわ」

グラハム「む…………」

叢雲「他に良い手があったかもとか以前に、まず最初から私がまともに動けていればそうもならない話で」

叢雲「加えて私が奴らを倒し終えた後に、あんたがさっさと旗艦補正をカットすれば良いだけの話に、そんな世界が終わったみたいな顔されて謝られたんじゃ、勝利の余韻も吹き飛んじゃうじゃない」

グラハム「むう…………」

叢雲「だから、誇りなさい」

叢雲「初陣で、改修もしていない私があれだけ動けたのは、あんたの【眼】があったからこそよ」

叢雲「提督があんただからこそ、私は戦えた。生き残れた。今一番大切なのは、そこじゃないかしら?」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/02/17(火) 05:21:44.50 ID:iZPXpWBAO<> 中断
また今週中に一回は来たい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/17(火) 07:13:15.28 ID:bkgGmGCQo<> おつおつ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/17(火) 09:42:28.72 ID:hXt0gGMSO<> 乙です <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/02/24(火) 08:21:03.74 ID:xtKKlMlSO<> これは興味深い <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/03/07(土) 12:44:49.04 ID:sAakvQqM0<> 今週中(2月中とは言ってない)
まってる <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/01(水) 05:06:36.93 ID:NMh09KcAO<> 叢雲「……まぁ……私が勝てたのも、あんたの【眼】のお陰ってのは……多少ながらもあるわけで……」

グラハム「何?」

叢雲「っ……何でもないわ!」

叢雲「とにかく、あんたは謝るな! 私も感謝なんかしない! おあいこよ、お、あ、い、こ!」

叢雲「良いわねっ!!」

 不遜にごまかし……もとい、まくし立ててから、叢雲はグラハムに背を向け寝転がる。
 それが照れ隠しであることなど知る由も無く、グラハムは口元を緩め笑った。


グラハム「……そうだな、お前の言うとおりだ。叢雲」

グラハム「我々はチームだ。今回の初戦、反省点は別に鑑みるとしても」

グラハム「勝利は勝利として、今は、ただそれを喜び合うとしよう」

叢雲「分かれば良いのよ、分かれば」


 向き直る叢雲。
 幼さと大人びた雰囲気の重なる双眸が、彼を見て小さく笑んだ。
 それに釣られたのか、グラハムもまた笑みを深くして応える。

 今回の一戦、海軍の規定ではS勝利判定。
 グラハム・エーカー提督と艦娘・叢雲の、記念すべき最初の勝利となった。

グラハム「さて……」

グラハム「そろそろ入ったらどうかね。今更気兼ねする仲でもあるまい?」

叢雲「!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/01(水) 05:18:13.22 ID:NMh09KcAO<>  グラハムの声に叢雲はハッとして入り口を見やる。
 いつの間にか増えていた影が、ゆっくりと扉を開け放つ。

「ドーモ、グラハム=サン、叢雲=サン。ケンペイ中尉、マリダです」

 ただの挨拶に只ならぬ鋭さを見せながら、彼女は部下を数名引き連れて部屋に入ってきた。
 あっと言う間に囲まれるグラハム。
 叢雲の見ている目の前で、彼の両手に再び手錠が装着された。

叢雲「ッ……」

グラハム「厳格なことだ。このグラハム・エーカー、今更逃げも隠れもしはせんよ」

マリダ「規則です。自身が自由の身ではないこと、努々お忘れなく」

マリダ「……鎮守府に到着すれば、すぐに外させます。代わりのものが付けられますが……今は、辛抱を」

グラハム「配慮に感謝しよう、マリダ中尉」


 覆面越しでもはっきりとした声に宿る冷徹さと、その裏のささやかな心遣い。
 叢雲の緊張をよそにグラハムは立ち上がり、ケンペイ達に連れられていく。


叢雲「グラハム!」

グラハム「鎮守府で逢おう叢雲、今はゆっくり休め」

叢雲「あんた……」

グラハム「提督命令だ、いいな?」

叢雲「っ、了解、司令官」


 案ずることはないと、彼の目は最後まで語っていた。
 彼を挟んだケンペイの列が部屋を出て行く。
 最後尾のマリダが振り向き一礼し、扉が閉められる。

 再び、静寂が病室の中を包み込んでいく。
 先ほどの無音とは明らかに何かの欠けた、寂寥の風が叢雲の頬を撫でる。


叢雲「ん…………」

 だが、彼女は満ち足りた感触を確かに掴んでいた。
 犯罪者だろうと、異世界人だろうと、危なっかしい変人であろうと。
 グラハム・エーカーという一人の男の指揮下に、自分は着任を果たしたのだ。

 艦娘としての、一歩を踏み出せたのだ、と。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/01(水) 05:27:30.69 ID:NMh09KcAO<> 叢雲「…………」

 見上げた天井に手を伸ばす。
 まだ残るマストの感触、確かに掴んだ栄光の感覚を追うように、指がさ迷った。

 何もかも、これからだ。
 これからなのだ。

 そう呟いて、瞼の外へ世界を追い出した彼女は

 夢の中へと、意識を沈めていった――


――――




――そして、翌日――


グラハム「…………」

叢雲「…………」


グラハム「どうだ? 叢雲」

叢雲「……何が?」


――現在地・呉基地第壱百八鎮守府――


グラハム「感想だよ。此処が我らの門出の地となる、何か思うこともあるだろう?」

叢雲「そうね……強いて言うなら、一言で事足りるわ」

グラハム「あぁ、是非とも聞かせてもらいたいな。君の思いの丈を詰めた一言を」





叢雲「 最っっっっ低 」



――通称【廃墟】――

<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/01(水) 05:39:21.86 ID:NMh09KcAO<>
 グラハム達の目の前に広がる光景。
 爆発で半分程度が吹き飛ばされた艦娘寮。
 煤けた壁と割れた窓ガラスが蔦と雑草の侵略を受けた工廠。
 打ちつける波に削られたコンクリートの岸壁に、すっかり錆び付いたビット。
 倉庫と思われる建造物の名残は、そのことごとくが壁の輪郭のみを残して倒壊して朽ちていた。

 鎮守府の中でも最初期に造られ、反海軍及び反艦娘組織の武力行使によって破壊され放棄されていた、鎮守府とは名ばかりの残骸。

 此処が、グラハム・エーカー新米少佐と駆逐艦・叢雲に与えられた神地であった。


叢雲「……どうやら、お偉い方はあんたを本気で飼い殺しにするつもりみたいね」

グラハム「私はさながら実験動物か。モルモットに与えるにしても、もう少し上等な檻は選べたと思うのだがな」

叢雲「で? あんたはどうなのよ、グラハム」

グラハム「どう、とは?」

叢雲「栄えある私達の鎮守府を見た感想、司令官様はどのように感じ入ったのかしら?」

グラハム「……そうだな、敢えて言わずとも一言で十分だ」

叢雲「どうぞ」




グラハム「――上等!!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/01(水) 06:07:29.06 ID:NMh09KcAO<>
 手のひらと拳を強く叩き合わせ、グラハムは闘争心を露わに笑んで見せた。
 叢雲も釣られて頬を緩める。そして、更には頬を釣り上げた。


 支給される資材の量は規定の半分以下。
 工廠の機能は劣化し、艦娘のドロップ対応と建造に著しい支障を来している。
 入渠も効果を維持するのに精一杯で、高速修復材の精製は不可能に近い。
 そもそも彼らの住む場所すら、現状この鎮守府の何処にあるというのだろうか。


 ――だからどうした!

 グラハムは、そして叢雲も。
 そんなことを理由に止まる気は無いと、笑ってみせた。
 ここから、彼等の闘いは始まった。
 世界を変え、フィールドを異にし、自ら赴くことさえ許されずとも。

 グラハム・エーカーは、新たな友と共に、新たな戦場で立ち続けるのであった。


 ・
 ・
 ・


【グラハム・エーカー】

【階級:少佐 提督歴:初日】

【初期艦:叢雲】

【主力艦:叢雲】

【提督補正:超戦闘感覚(グラハム・スペシャル)】

【備考:現在レベルAの特級監視対象。その全ての行動にケンペイの監査を必要とする】


大淀「中将、これが例の新しい提督の資料です」

「ふん……狂人を提督に据えるとは、上も随分と暇になったものだ」

「情報を集めろ。ケンペイどもが何を企んでいるかは知らんが、私の知らぬ場所で勝手な真似は許さんからな」

大淀「心得ております、ダニンガン中将」

ジャマイカン「グラハム・エーカーか……ふん、今に思い知らせてやるぞ」

ジャマイカン「貴様の首輪に繋がる縄は、誰が握っているのかをな……!」



〜To be continued〜 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/04/01(水) 06:09:55.53 ID:NMh09KcAO<> いや本当にごめん
また次回に <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 07:02:28.74 ID:uMPxozOUo<> 舞ってた
おつ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 07:13:35.98 ID:g2Jl3wF6O<> 乙ですって <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 09:22:39.85 ID:TZadbXvZo<> 淀さんジャマイカンを目の前でダニ呼ばわりかよww
次回期待してます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 09:23:47.10 ID:TZadbXvZo<> 違ったわすまん、ジャマイカンダニンガンって名前だったなあいつ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 09:51:27.40 ID:lSYd1/jSO<> 乙です
他の死んだガンダムキャラもいそうだな(OOならオーバーフラッグスの連中やセルゲイとか)
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 10:42:24.45 ID:zTEIqS8Zo<> 乙
シロッコは技術部詰めだなww <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/01(水) 11:31:30.56 ID:ksG/QKOYo<> 待ってた <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/11(土) 02:03:43.46 ID:+4hLUTFAO<> やばい
やばいすぎますよコレは
叢雲改二時報22時がワザマエ過ぎてサンズリバーですよ
これはSS的にも大正解ですよ!
(ネオサイタマの方言で月曜日に続きを上げます、もう少し待っててくださいすみませんの意) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/11(土) 20:18:33.97 ID:7KfZOxcho<> いつか改二パワーアップイベントが見れるわけか楽しみだ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/11(土) 20:43:23.70 ID:vDZCFQx6o<> 待ってる <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/11(土) 20:45:21.16 ID:NlX2eXySO<> 了解です <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 14:06:25.64 ID:BUMHCSab0<> カラダニキヲツケテネ!
(ネオサイタマの方言で待ってますの意) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:20:43.88 ID:6OuRRc5AO<> 再開
なお結構きつめに怪我をしてもさっさと治る仕様の模様
(艦娘や提督が多量の流血を伴う重傷を負う可能性があります、ご容赦を) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:21:32.86 ID:6OuRRc5AO<> ――第壱百八鎮守府・提督執務室

……という名前のプレハブ小屋――


叢雲「ふぅ……こんなもんかしらね」


 本部から届いた荷物のより分けを終え、時計を見ればもう短針が12時を過ぎつつあった。
 ただの大きな箱に過ぎなかった小屋には、最低限の家具や荷物が並べられ、棚は早くも本や資料ですっかり埋まりきってしまっている。

 外からは、鎮守府の改修工事の作業音がけたたましく鳴り響いている。
 しばらくは昼夜問わずの突貫工事だ。
 プレハブ小屋の薄い壁では眠ることすらままならないだろう、それを思うと今から頭が痛くなる。

叢雲「……はぁ、最っ低……」


 思わず零す。それは誰に向けたわけでもなかったが。
 それを咎めるかのように、天井で何かが置かれたような音がする。

 向こうも終わったらしい。
 此方も作業を終えたことを伝えようと外に出る。
 二階建てのプレハブ小屋……当面の生活拠点がずらりと並ぶ様は、私の肩を落とすに十分過ぎる重みであった。


――提督私室になる予定のプレハブ二階――


『入れ』

叢雲「グラハム、そっちはどう?」

グラハム「順調だ。どう贔屓目に見てもあの牢屋暮らしよりは快適になる」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:24:12.24 ID:6OuRRc5AO<>  下階の執務室と全く同じ広さ、間取りの私室。
 入った途端出迎えるのは、壁一面に貼り付けられた新聞記事や近海の情報のプリント達。
 用意されたベッドや冷蔵庫の周りにも、所狭しと寄贈……又の名を強奪……された海軍の書物が重なっている。

 此処の準備に要したのは三日間。
 それまでに外出許可を得ていた彼は、呉本部の一般資料室を嘗め尽くすかのようにこれらのものを漁ってきていたのだ。
 許可は、恐らく、何も言われていないのだから、大丈夫ということだろう。多分。


叢雲「……これを順調と言うつもりなら、あんたの美的センスを疑わざるを得ないわね」

グラハム「よく言われるよ。かつての私室は友人に戦時中の野外作戦司令部と喩えられたこともある」

叢雲「前の世界からの悪癖って訳ね……」

叢雲「……これ、何がどこにあるか分かってるの?」

グラハム「無論だ。下手に弄るなよ、私にとって今のレイアウトがベストなのだからな」

叢雲「頼まれたってってお断りだわ……!」


 新築の真新しい匂いが早くも紙とインクの匂いに押し切られつつある私室。
 彼は無造作に教科書を枕元に放ると、支給された軍服の上着を羽織り身なりを整え出す。

 典型的な外国人の体格に、若さの残る顔立ち。
 腑には落ちないし認めたくもないが、彼の身体は白い軍装をこの上なく着こなしていた。


グラハム「どうだ、叢雲」

叢雲「……何が?」

グラハム「ユニオン……もといアメリカ人でも、まあ見れたものだろう?」

叢雲「えぇ、馬子にも衣装とはよく言ったもんだわ」

グラハム「ふっ、君なりの賞賛と受け取ろう」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:28:14.16 ID:6OuRRc5AO<>
 そんな彼の首下には、目立つ黒いチョーカーが付いている。
 これがいわゆる手錠の代わりとなる鈴、【爆弾首輪】である。

 何らかの問題を彼が引き起こした場合、遠隔操作により即座に起爆、彼の頸椎及び頸動脈へ甚大な損傷を与えるのだという。
 つまり、爆発すればまず即死。運良く生き残っても爆発後十数秒苦しんでから死ぬことが確約されたようなものなのだ。

 そんなものが自身の首を締め付けているのに、彼の顔は少しも変わらず自信に溢れた笑みを浮かべている。
 ……肝の据わり方にも限度というものがあるだろう。
 此方の方が見るに耐えず視線を外してしまう。

 この男のうろたえる姿を見る日は来るのだろうか?
 勿論、自責の念で塞ぎ込んだ初陣後の姿は除いてだ。
 ……自分の為にそうなったから、ではない。
 ……とにかく、除くのだ!


「……雲……」

グラハム「叢雲!」

叢雲「! な、何!? 何何?!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:38:51.70 ID:6OuRRc5AO<> グラハム「……時間だ、迎えが来る。大丈夫か?」

叢雲「え、えぇ……問題無いわ」

グラハム「よし、行くぞ。目指すは呉本部だ」

グラハム「直に迎えの方が来るだろうがな。至れり尽くせり、全く良い身分だよ」

叢雲「…………」


 その言葉を待っていたかのように、扉を三回のノックが叩いた。
 僅かに肩を跳ねさせたのを見られたのか、グラハムは笑って私の肩を叩く。

 扉を開けたケンペイに連れられながら、ふと見た横顔にはもう笑みは無く。
 ふと思う。彼は、いつも本当に笑っているのだろうかと。


――――

『入りたまえ』


 広い呉本部の敷地内を奥へ奥へと進み、いつの間にか到達していた執務室の入り口前。
 グラハムは叢雲を伴い、ケンペイに挟まれ、この場所まで連れてこられた。
 用件は聞かされていても、緊張は隠せない。
 自然と眉は潜まり、唇は固く結ばれた。


グラハム「失礼致します」


 ケンペイが扉を開け、招かれた部屋の中。
 その真正面に堂々と鎮座していたその人に、グラハムは脱帽し敬礼をした。

 頭髪の無いスキンヘッドに、水中眼鏡にも似たレンズ。
 それでもはっきりと表情から警戒と分析、威圧が伝わってくる。
 叢雲は早くも気圧されたのか、動きがぎくしゃくとし始める。
 ずらりと胸元に並ぶ勲章、階級章の示す【大将】という地位。

 彼の名はバスク・オム。

 この鎮守府本部の中でも特に地位の高い、そしてグラハムに対し最も嫌悪の感情を抱く人物であった。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 00:54:30.23 ID:6OuRRc5AO<> バスク「貴様がグラハム・エーカーか」

グラハム「はっ、グラハム・エーカー少佐であります。閣下」

バスク「私はバスク・オム大将だ。元帥の不在に留守を任されておる、私の命は元帥閣下のそれに等しいものと肝に銘じておけ」

グラハム「はっ! 畏まりました」

バスク「ふん……写真で見るよりも生意気な面構えだ。気に食わん」

グラハム「恐縮であります」


 初対面にもかかわらず、グラハムに対する態度は不快の域を越えている。
 対するグラハムの態度は波立たぬ海のよう。
 慣れているのだと叢雲は感じた。
 グラハムは、このような態度との相対に慣れていた。


バスク「貴様のデータには全て目を通してある」

バスク「妄言の真偽など私にとってはどうでも良いことだ。三文芝居や狂人の真似事で、我々の課すノルマや提督としての責務から逃れられると思うな」

グラハム「はっ」

バスク「いいか、私の眼は節穴ではない。貴様が提督として相応しい男だとも、この呉鎮守府に必要な存在だとも! 私は毛ほども考えてはおらん」

バスク「貴様の立場など、水面に落ちた羽虫同然だと心得ておけ。余計な真似はするな、いいな?」

グラハム「はっ!」

バスク「あぁそうだ……もし我慢ならなくなったら、遠慮は要らん。好きなようにやればいい」

バスク「そうすればさっさと貴様の首輪を爆破して、その汚い尻が乗った席を有望な若者に任せられるというものだ」

バスク「我ら【ティターンズ】の……人粋派の生ゴミ共に取って代わる覇者の系譜をな」

グラハム「…………」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 01:07:06.34 ID:6OuRRc5AO<>  言いたい放題吐き散らしてから、いい加減飽きたのだろう。
 バスクが軽くサインを送ると、両脇にいた高翌雄、愛宕の二人が前に出る。


グラハム「!」


 机の上に丁寧に置かれたジュラルミンケースと、差し出された小さなケースが開かれる。
 愛宕のケースには一振りの軍刀、拳銃に弾倉が。
 そして高翌雄の手元のものには、赤銅色のカードが収められていた。


バスク「今日から貴様は、提督として海軍から認められた存在となる」

バスク「カードはいわゆる免許だ。特殊ICチップが内蔵され、それ一つでクレジット機能、本人確認、決められた機密情報閲覧のセキュリティ認証などが可能なハイテックカードとなっている」

バスク「本人が使わなければ認証解除が出来ない仕組みになっているが、盗まれるなよ。自己管理は提督の基本だ」

高翌雄「どうぞ」

グラハム「ありがとう」

高翌雄「あ……///」

バスク「ゴホン! そしてこの武器だが!」

グラハム「閣下」

バスク「んん!?」

グラハム「この刀でありますが、今この場で抜いてみても宜しいでしょうか?」

バスク「…………」

ケンペイ「…………」

バスク「構わん。だが妙な真似はするなよ」

グラハム「ありがとうございます」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 01:21:34.90 ID:Nan19cfPo<> バスク裏切られそう <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 01:22:10.21 ID:MC9WLN4lo<> 玩具を貰った子供のようにはしゃいおる <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 01:24:31.26 ID:6OuRRc5AO<>  鞘を握り、手に取ると目の前でゆっくり抜き放つ。
 飾り気の無い白鞘から姿を現す直刃の鈍い光が目を刺激する。
 切っ先を引き抜き、耳を震わせる微かな響きに小さく息を吐くと、軽く一振りして、改めて微笑んだ。

グラハム「素直な良い刀だ。逸品です」

バスク「当然だろう、腐っても我が海軍の提督に持たせる特別製なのだからな」

バスク「それには艦娘が艤装の改装などに使う特殊金属が使われている。使い手のカラテに共鳴し、僅かながら深海棲艦に対し有効な波長が放出されるらしい」

グラハム「カラテ?」

バスク「とぼけるな、そんなことまで説明はせんぞ」

バスク「見たところ刀には慣れているようだ、それで前線に出てみたらどうかね? ははははは……」

グラハム「可能な選択肢として考慮に加えさせて頂きます」

バスク「……皮肉だ馬鹿者、これだから俗物は……」

グラハム「……?」


 訝しむグラハムは何事も無く納刀したが、叢雲からすれば気が気でない数十秒であったことだろう。
 グラハムが刀を手にしてから、背後のケンペイはいつどのように動いても制圧出来るように集中していたからだ。
 彼等は容赦が無い。命は奪われずとも、万が一の際は腕の一本くらいは迷い無く失わせてくる。
 まだ、彼は此処で信用を得ている訳ではない。
 それを端的に表した数十秒だった。


グラハム「この拳銃も、同じ効果が?」

バスク「それはただの護身用だ。提督にとっての敵は深海棲艦だけではない」

バスク「提督のなり損ないのような貴様も例外とは言えん。備えろ、奴らは何処にでもいる」

グラハム「……?」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 01:59:13.51 ID:6OuRRc5AO<> バスク「さて、私からはこのくらいだ。もう会うこともあるまい」

グラハム「はっ、ありがとうございました」

バスク「此処からは貴様を管理する上官を紹介する」

バスク「入りたまえ、中将」

『はっ!』


 グラハムが渡された装備一式をケンペイに預け終わると、バスクの声に続き執務室横の扉が開いた。
 入り口とは違う、応接室に繋がった場所から入ってきたのは、中年の軍人。
 バスクの横に立つ彼は小柄に見えるが、それはバスクが巨漢だから相対的に見えただけだろう。
 目つきは鋭いが小さく、少し後退した額に口髭と、鼠めいた印象を思わせる男であった。


バスク「私の下に就いて更に下の提督達を統括する、ジャマイカン・ダニンガン中将だ」

ジャマイカン「ジャマイカン・ダニンガンだ」

グラハム「グラハム・エーカー少佐であります。閣下、お会いできて光栄であります」

叢雲(…………?)


 二人は握手を交わす。
 ジャマイカンの側からさっさと振り払うように離されたのは、言うまでもない。
 だが、叢雲は僅かながらグラハムの反応が良い方に変わったように感じた。
 処世術か、バスクへの反抗か?
 そんな器用な男だと思っていないからこその、違和感があった。


バスク「当たり前のことだが、彼にも貴様の鈴を鳴らす術は与えてある」

バスク「中将、後は任せる。吉報を期待するぞ、綺麗な花火の報告をな」

ジャマイカン「お任せください閣下、これ以上お耳を煩わせることもありますまい」

ジャマイカン「……では、付いて来い少佐。ここでは閣下のお邪魔になるからな」

グラハム「はっ、ではバスク大将。失礼致します」

バスク「…………」

ジャマイカン「聞こえなかったか! さっさとしろ!!」

グラハム「……了解致しました!」


 もはやいないもののように扱われるグラハムの後ろに付き従う叢雲。
 彼女が終始無言なのは、彼女に発言権が無いからだ。
 この呉本部において最高権力者の一人であるバスク大将とその部下ジャマイカンに対し、何を言うのにも許可が要る。
 自らの上官に対する侮蔑極まる発言に、失礼極まりない態度を取られ、腸が煮えくり返ろうとも、彼女には挨拶の一言さえ許されてはいない。
 出来るとすれば、見えぬよう拳を固く握り締め、悟られぬよう唇を噛み締める位なのだ


叢雲「……ッッ……!!」

<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 02:38:28.74 ID:6OuRRc5AO<> ジャマイカン「……ふー……」


 部屋を出て、少し歩いてから息を吐く。
 ジャマイカンの溜め息もまた、緊張から来る安堵の吐息だった。


――ジャマイカン執務室――


ジャマイカン「先に言っておく。私も、貴様には期待をしていない」


 開口一番、部屋に着くなりジャマイカンははっきりとそう告げた。
 グラハムは慣れたように返事を返し、叢雲は抜けぬ棘に呻くような顔を見せた。
 バスクからも初めから散々言われたことだった。
 グラハムはもう慣れっこだったが、プライドの高い叢雲には何度言われても堪える言葉だった。


ジャマイカン「……だがそれは、貴様の技能の足らなさから来るものだと考えている」

グラハム「……はっ?」


 だが此処からは違った。
 先に部屋にいた大淀に資料を手渡され、数枚めくってから机に放る。
 その顔には嫌悪も侮蔑も無い。
 あるのは厳格にして冷静な、海の男の威厳だった。


ジャマイカン「考えてもみろ少佐。お前は士官学校を出とるか? 提督と成るための学術は? 確認する限り空軍少佐だったようだが、艦隊運用のノウハウとイコールに出来ることか?」

グラハム「……その全ての問いに、否と答えさせて頂きます」

ジャマイカン「それ見ろ、それで我々に期待しろと言うのが無理なことだ」

ジャマイカン「期待はしておらん、だが私は無能を手元に置いて腐らせる悪趣味な男ではない」

ジャマイカン「私に一任されたからには、貴様にはモノになってもらわねば困るのだ」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 03:18:59.68 ID:6OuRRc5AO<> ジャマイカン「我々はこの国の海を護るだけではない。大地を、そして其処に遍く地球環境そのものを護る義務がある」

ジャマイカン「提督とはその大任を担う栄えある器であり、艦娘とはその一助となる特別な道具だ。これからのお前には、その自覚と自制を求める」

ジャマイカン「さもなくば、何もかもを無かったことにするまで。いいな!?」

グラハム「っ……は、はっ! 承知致しました、閣下!」

叢雲「……っ」


 少し気圧されながらも、真っ向から返したグラハムの言葉。
 満足したようにまたジャマイカンは小さく息を吐き、それを見た大淀も笑みを浮かべた。
 次いでジャマイカンは、困惑する二人を後目に、その胸元目掛けて束ねた書類を投げ渡す。
 見れば、これからの鎮守府の改装修繕計画表に、時刻指定の書き込まれた日付カレンダーが挟まっていた。


ジャマイカン「そこにカレンダーがあるだろう、確認してみろ」

グラハム「はっ……これは?」

ジャマイカン「既にお前の学術を指導する教官を此方で準備してある」

ジャマイカン「その日付に鎮守府に向かうよう伝えた。1日に三時間、どのように指導するかは教官と相談するがいい」

ジャマイカン「お前への資材支給だが……お前の鎮守府の保管庫があの様だ。仮置き場にはおそらく千と少ししか入らんから、残りは此方で一時的にだが管理する」


ジャマイカン「早急に修理するように伝えてあるが、当分は出撃も控えろ。工廠があれではどちらにせよ価値もない」

ジャマイカン「他に何か?」

グラハム「…………」

叢雲「…………」

ジャマイカン「……他にはッ!?」

グラハム「はっ!? いえ、委細承知致しました!」

叢雲「い、致しました!」

ジャマイカン「ふん……」

大淀「ふふふっ」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/04/14(火) 03:55:15.75 ID:6OuRRc5AO<> と、一時中断
また次回に <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 04:55:31.77 ID:3IvzwEsKo<> 乙でち <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 06:56:43.03 ID:dqRaDJomo<> バスクのおかげでダニンガンがまともに見えるティターンズって凄い <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 09:20:18.46 ID:chJzZca2o<> 乙です
>>177
分かる、普通にしてるだけなのにね <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 10:01:33.76 ID:ncLbe9hSO<> 乙です。
バスクとジャマイカンいるなら元帥はジャミトフっぽいよな

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 10:21:11.43 ID:FHmHznL9o<> おつおつおつ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 12:08:38.35 ID:i/b4Me/Uo<> 乙です
ジャミトフ・ハイマン閣下の出番は有りますか! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/15(水) 00:14:48.97 ID:ObQAXhN3o<> 超乙 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/03(日) 13:55:31.03 ID:FrJWN4zAO<> 明日再開さそていただきます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/03(日) 14:47:15.47 ID:nZG2+xVao<> 了解 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/03(日) 14:49:24.80 ID:075rCs71o<> トランザムは使うなよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/03(日) 15:43:35.29 ID:1+Ru73naO<> 了解、トランザム! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/03(日) 16:45:54.45 ID:WRNYW/kSO<> >>185-186
それ刹那だから。グラハムというかMr.ブシドーは
「我が盟友の作りしマスラオの奥義、とくと見よ!!」


って自分からトランザム披露だから <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/04(月) 13:37:33.29 ID:dzH8qXKAO<> カタギリ「いいかいグラハム、このブレイヴはまだ調整段階だからね?出力は4割くらいにしといてよ」

グラハム「了解した。ならば私の力で100%を超えさせてみせよう!トランザム!!」

カタギリ「……おぉ、神よ……」

叢雲(あれ、何だろうこの親近感)


こういうことしてるからグラハムもどっこいどっこいだったりしまする
刹那がイアンの造ったガンダムというものへ全幅の信頼を寄せているように、カタギリの造った新型の性能を微塵も疑ってないワケですたい

ではまた夜に
<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 00:23:26.23 ID:wKWZysDAO<> ほんじゃま再開
GWとかいう仕事量三倍化イベント無くなりませんかね <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 00:44:12.72 ID:wKWZysDAO<> 大淀「ではこれから、エーカー少佐には着任するために必要な書類の記入とチェックをお願いしたいと思います」

グラハム「はっ……?」

ジャマイカン「分からんか? お前には戸籍はおろか、そもそも国籍そのものが存在しない」

ジャマイカン「我が日本国を守る海洋の鉄壁たる提督になるための必要な資格の殆どを欠いたお前には、今からそれが存在するというでっち上げをしてもらうということだ」

グラハム「成る程……一理あります」

グラハム「ですが……」

ケンペイ「問題ありません。今回の一件は我が陸軍、及びケンペイの最高指揮官の認知の下行われています」

ケンペイ「その我々からのリクエストです。実際、グラハム=サンには監視対象ではあっても案件は記録されていないのですから」

グラハム「案件、ですか」

叢雲(あぁ、罪人扱いでは無いってことね……)

ジャマイカン「……もう良いか? 私からお前に言うことは終わった」

ジャマイカン「此処で書類とにらみ合うのは私だけで良い。場所を変えろ」

ジャマイカン「後のことは大淀に任せる。一日も早くマシになることを期待する」

グラハム「そのご期待に、一秒でも早くお応えしてみせましょう」

ジャマイカン「口ばかり達者だな。それだけに終わらんことを願う」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 01:07:11.97 ID:wKWZysDAO<> 大淀「ではエーカー少佐、叢雲さん。私に付いてきてください」

グラハム「世話になります」

大淀「仕事ですから、はい」


 ――そうして、大淀に連れられ一行は退出していく。
 段ボールが山積みとなった滑車をケンペイが押す音が遠退いてから、ジャマイカンは深々と椅子に身体を預けた。

 軋む音が、二人のいる部屋に静かに広がる。
 誰一人にも悟られず、いつの間にか入り口に立つマリダ中尉。
 ジャマイカンは視線を向けず、口を開く。その顔は、どこか懐かしむように穏やかだった。


ジャマイカン「これで良かったのだな、クルス中佐」

マリダ「今はマリダ中尉です、中将」

マリダ「彼への便宜、重ねて御礼申し上げます。ご助力無ければ、彼の提督生活はロウソク・ビフォア・ザ・ウィンドであったことでしょう」

ジャマイカン「止めろ。無能の飼い殺しが好かんのは真意だ」

ジャマイカン「だが、やはりまだ気になるか。あの壱百八鎮守府……お前の鎮守府が。」

マリダ「……もはや、戻れぬ日々です。未練などありません」

マリダ「ですが彼ならばもしくはと……そう思うのは感傷でしょうか」

ジャマイカン「……どうだか。素養はあるのだろうが、お前ほどかはまだ分からん」

ジャマイカン「しかしな……まさか、本当にあの男の言っていた通りのことになるとは」

マリダ「よく似ています。口調や性格はまるで違いますが……生き様は、瓜二つかと」

ジャマイカン「あぁ……子は、親に似るか……」


 机の引き出しから、一枚の写真を取り出す。
 集合写真なのだろう、何人もの提督が列を作り、枠の中に写し出されている。
 その中には、今より少し若いジャマイカンと、緊張気味の笑みを浮かべるマリダ中尉の軍装姿も見える。
 そして、彼らの話す、【彼】の姿も。


ジャマイカン「もう戻れんのだ……今更だよ、今更……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 01:19:13.47 ID:wKWZysDAO<>  悔いるような声を残し、眼を閉じる。
 そんなジャマイカンに背を向けて、マリダは音も無く部屋から抜け出した。

 写真に写るマリダの隣には、一人の駆逐艦が満面の笑みで寄り添っている。

 その中で遠慮がちに繋いでいた左手を、今はただ強く握り締めるのみであった。

――三時間後――


叢雲「お…………」

叢雲「終わったぁぁぁ……!!」


 少し日も傾き、春の日差しも和らいだ午後の一時。
 カフェの一角に座る二人は、眼をちかちかとさせながらテーブルに崩れ伏していた。

叢雲「何なのよあの書類の山脈……書くことの大半同じことばっかなのに減る気配すら無いじゃない……!」

グラハム「紙面記帳がこれほどに過酷なものだとは……少々事務的行為を軽んじていたようだ……っ」

叢雲「つうかパソコン使いなさいよパソコン……何で全部ペン使って書かなきゃならないのよぉ……!」

グラハム「答えは一つ、我々の鎮守府にそのような文明の利器は存在しないからだ……!」

叢雲「威張らないでよ甲斐性無し……!」

伊良湖「お待たせいたしました! アイスコーヒーにクリームソーダになります!」

叢雲「来たっ!!」

グラハム「おぉ……耳が立った」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 01:40:24.56 ID:wKWZysDAO<>  グラハムの眼差しは、電探カバー艤装を楽しげに揺らす叢雲から、素朴で可憐なウェイトレス……給糧艦・伊良湖へと移った。
 このカフェのみならず、呉本部鎮守府内部にある飲食店の大半は間宮か伊良湖という特別な艦娘を起用している。
 戦闘能力が皆無という点はあれど、彼女たちの存在はとても重要なのだと資料には強調されて書かれていた。
 グラハムはまだその意味を原理的には理解していない。
 故に、見えるもの全てが新しく見えていた。


グラハム「…………」

叢雲「ん〜♪……どうしたの? ジロジロ見ちゃって」

グラハム「給糧艦とやらとはファーストコンタクトだ、意識せずとも視線を奪われる」

叢雲「ふーん、あんたああいう子が好みなの?」

グラハム「ほう、驚いたな。君からそのような浮いた話を持ちかけられるとは」

叢雲「ばっ……違うわよ! よく見なさい!!」

グラハム「む」


 叢雲に指摘を受けたグラハムは、此処でようやく気付く。
 彼の熱い視線で嘗め回すように見つめられた伊良湖が、恥ずかしげに盆を盾にし奥に引っ込んで行く様に。


グラハム「……もしや、やらかしたか」

叢雲「もしかしなくとも、よ。あんた、眼力だけは凄いんだから気をつけなさい……んふ〜」


 ばつが悪そうにコーヒーを含む。
 傍らのクリームソーダは早くもアイスを半分ほど掘削され、叢雲の唇へ吸い込まれている。

 まだ一回、大淀の監修の下最低限の量を片付けたに過ぎない以上、休息は必要だ。
 初めて見る叢雲の弛んだ表情。
 自然と頬が上がるのを感じた。


グラハム「……さて」

グラハム「そろそろ出て来ても構わんよ、我々は休憩中だ」

グラハム「今ならケンペイも遠い。邪魔は入らんと思うが?」

叢雲「むぐっ……?!」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 02:05:24.67 ID:wKWZysDAO<>  あからさまな大声に、周りの客の視線が集中する
 突然の奇行に慌てふためく叢雲の背後。
 胸中の逡巡を思わせる一瞬の間の後、観念したかのようにゆっくりと人影が近づいてきた。
 そして、それに続く2つの影。
 全員、提督を示す白い軍装を身に着けていた。


担当官「……バレてましたか、やっぱり」

叢雲「! あんた……!」

グラハム「やぁ、担当官殿。御機嫌うるわしゅう」

グラハム「それとも……提督殿と呼ぶべきかな?」

担当官「はは……お好きなように。」


 グラハムの問いに、彼は何とも言えない表情を浮かべた。
 それと……。そうやって続けた言葉を止めて、後ろの2人を見る。
 一人はくだけた軽い挨拶を、もう一人は丁寧に頭を下げて。
 瞬く間に、テーブルを囲む人数は倍以上に膨れ上がった。


グラハム「さて……初対面が二人、いや、三人とでも言うべきか」

グラハム「まずは自己紹介を。グラハム・エーカー、第壱百八鎮守府所属、階級は少佐」

グラハム「此方は私の相棒、駆逐艦・叢雲だ。共々、よろしく頼む」

叢雲「相棒って……コホン」

叢雲「初期艦、及び秘書艦の叢雲よ。共々、以後よろしく」


 グラハムの言葉……悪意ではなく、軽い悪戯心からのそれ……に、顔をしかめる担当官。
 それを楽しげに見ていた男性が、勢いを付けて立ち上がった。


スレッガー「では俺からも。スレッガー・ロウ、第五拾五鎮守府所属、階級は大佐」

スレッガー「今此処にはいないが、初期艦は五月雨。もっぱら秘書艦は赤城だ。よろしくっ!」


【スレッガー・ロウ】

【階級:大佐 提督歴:六年】

【初期艦:五月雨】

【主力艦:赤城ちゃん(はぁと(追記:余分な記述は控えてください)】

【提督補正:熟練航空機運用能力(ベテランパイロット)】


【備考:横須賀本部第七拾鎮守府、通称『白の要塞(ホワイトベース)』所属経験のある熟練提督。ただし素行不良と度重なる命令違反により出世街道からは完全に脱落、現在レベルEの監視対象(不良提督)】 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 02:21:40.53 ID:wKWZysDAO<> グラハム「! 失礼致しました、大佐。無礼な態度を……」

スレッガー「あーあー、いいからいいから。俺ら提督にはそういうの無いんだよね、上下関係」

スレッガー「ほれ、次!」

「はいはい……」


 やれやれとばかりに立ち上がるのは、中性的な見た目の美少年。
 緑色の髪は陽光に輝き、大きな瞳は吸い込まれそうなくらい透き通っている。
 真っ直ぐにそれを見た叢雲が、思わず惹かれてしまうほどに彼は綺麗な若者だった。


ニコル「はじめまして、ニコル・アマルフィです」

ニコル「第八拾八鎮守府所属、階級は中佐。初期艦は電ちゃん」

ニコル「エーカー少佐の第壱百八鎮守府とはご近所さんです。これからよろしくお願いしますね」


【ニコル・アマルフィ】

【階級:中佐 提督歴:半年】

【初期艦:電】

【主力艦:龍田】

【提督補正:異能迷彩機能発生力(ミラージュコロイド)】

【備考:着任当初の評価は同期最高。
    現在呉着任の新人の中で最も安定した戦果と鎮守府運用をこなす期待の新人】


グラハム「……此方こそ、よろしくお願いします。アマルフィ中佐」

ニコル「ニコル、で結構ですよグラハムさん」

グラハム「了解しま……コホン、した。ニコル」

ニコル「ふふ、はい」


 自分より遥かに若い少年が提督であり、階級も上。
 染み付いた絶対的上下関係が不必要と言われたグラハムの狼狽えようは、叢雲からすると面白くもあり、違う価値もあり。
 そして、ニコルの綺麗な笑顔につい視線を逸らし、紅潮をソーダで冷やす中。
 背を叩かれた担当官が、意を決しようやく口を開いた。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 02:44:07.35 ID:wKWZysDAO<> 担当官「……グラハムさん」

グラハム「!」

担当官「改めて自己紹介をさせていただきます」

【担当官改めカツ・コバヤシ】

【階級:中佐 提督歴:半年】

【初期艦:漣・大井(当時練習艦)】

【主力艦:大井(現在重雷装巡洋艦)】

【提督補正:特殊直感力(ニュータイプ)】

【備考:幼少期、【白の要塞(ホワイトベース)】にて生活をしていた経験あり。
    着任当初の評価は同期最低。現在はその限りではない。これからの成長と活躍に期待】


カツ「呉第壱百四鎮守府所属、カツ・コバヤシ中佐です。貴方の着任した第壱百八鎮守府とは隣同士となります」

カツ「大規模作戦や緊急時には、共同で艦隊運用をする場合もあると思います。その際は、共に勝利を目指しましょう!」


 立ち上がり、挙手の敬礼を見せるカツ。
 突然のことにグラハムと叢雲のみならず、他の二人も仰け反った。
 勢い余った自己紹介に、見ていた周りの客たちから微笑ましげに拍手が巻き起こった。

 目立つことに慣れないのか、顔を真っ赤にして座るカツ。
 焚き付けた本人は意地悪な笑みを、見ている少年は苦笑いを。
 当のグラハムと叢雲は、真っ直ぐにその決意を受け止めて。
 五人の自己紹介が終わると、春の陽気を乗せた風が皆の間をすり抜けていく。
 散った桜の花びらが、彼らの出逢いを祝福した。


スレッガー「とまぁ……今日あんたのとこに来たのは、様子見とご挨拶ってとこだ」

ニコル「僕達は担当する海域が一部重なっていますから、後々共に連携して防衛任務や輸送作戦を行うことになるかと思われますので」

カツ「え、えぇ……ですから、そのときは……」

グラハム「…………」

カツ「……グラハム、さん?」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 02:59:30.77 ID:wKWZysDAO<>  風に背を押され、グラハムは立ち上がる。
 その眼は変わらず真っ直ぐで、彼らもまた笑みを止めて彼を迎えた。


グラハム「カツ・コバヤシ中佐」

カツ「! は、はい!」

グラハム「その節は本当に助かった。君の助言が無ければ、叢雲は今此処に無事でいられなかったかも知れない」

グラハム「改めて礼を言わせてほしい。ありがとう」

カツ「……そんな、大半はあなたの力です。自分は何も……」

グラハム「それとスレッガー・ロウ大佐」

スレッガー「おう」

グラハム「窮地の叢雲を救出していただいた御恩、このグラハム・エーカー、決して忘れません」

グラハム「いつか必ず返礼を、出来うるなら戦場でお返しさせて頂きたく」

スレッガー「……そりゃあいい、待ってるよ少佐」

グラハム「ニコル・アマルフィ中佐」

ニコル「っ、はい!」

グラハム「私は君よりも年配者だ、だが提督としては前後不覚の未熟者。気遣い、遠慮、一切無用。至らぬことは容赦なく指摘してほしい」

グラハム「よろしく頼む。共に勝利を」

ニコル「……えぇ、是非ともそうさせていただきます!」


グラハム「既にコバヤシ中佐から気いているかも知れないが、改めて」

グラハム「私は、この世界の人間ではない。時代か、次元か、とにかく異邦の存在だと認識してほしい」

グラハム「だが、提督になったからには、軍人として返り咲いたからには! 市民の安寧と平和の為、全力を尽くすことを改めて先達の諸兄らに誓いたい!」

グラハム「私は未熟だ。無能であり甲斐性も無い。敢えて言うなら足手まとい!」

グラハム「だからこそ、どうかお三方の力を借して頂きたい。これから私が指揮するであろう子等の為、何より私と共に来てくれた彼女の……」

グラハム「……叢雲のために」

叢雲「!」

カツ「っ……!」

スレッガー「へっ……」

ニコル「……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 03:09:06.09 ID:wKWZysDAO<>  新たに決意を言葉にするグラハム。
 誰にともなく。右手を差し出した。

 最初に手にとったのは、カツ・コバヤシ。
 左右から、スレッガー・ロウとニコル・アマルフィが続く。

 四人の手がテーブル中央に集められ、重なった。

 もっと軽い顔見せになると思った、とは、後のスレッガーの言。
 気恥ずかしいが、悪い気はしなかったとは、後々のニコルの言。


 此処に、三人の提督と一人の役立たず、計四名の同盟が結ばれたのだ。


スレッガー「おぉい、叢雲ちゃんよう。なんかかけ声かけてくれよ」

叢雲「っえ、あたし!?」

スレッガー「このまま重ねててもどうにもなんねえだろ」

グラハム「私の決意表明は終わった、最後に君が締めてくれ」

ニコル「すみません、よろしくお願いしますね」

カツ「ビシッと決めてくれよ、ビシッと」

叢雲「う、うぅん…………」

叢雲「……あぁ、もう! 分かったわよ!」



叢雲「良いこと! 暁の水平線に! 勝利を刻みなさい!!」

「「「「 応!!! 」」」」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 03:42:22.87 ID:wKWZysDAO<>  笑い合い、肩を抱き合う四人を、工廠の屋根上から見つめる眼差し二つ。

 そのうちの一つ、マリダ中尉は、普段見せない微笑みをメンポの下にうっすら浮かべていた。


マリダ「どうですか大佐、あれがグラハム・エーカーです」

「面白くもあり、危うげでもある。だが磨けば光り、叩けば鍛えられるだろうことも確か」


 そう、評する大佐。
 その風体はあまりに異質。
憲兵の着用する国防色の軍装の下に纏うは、黒・赤・金のトリコロール装束。
 無論顔全体を覆うメンポと一体になったそれをもってしても、彼が今この場にいることにマリダ以外一切気付けていないという事実。
 まるで彼は神話時代の半神的存在、ニンジャのようであった。


「それと大佐は止めろ。弟子のお前にまでよそよそしくされたのではかなわん」

マリダ「スミマセン、シュバルツ・ブルーダー=サン」

シュバルツ「うむ、それで良い」


 そんなシュバルツ・ブルーダーを迎えるかのように、強い風が吹き始める。
 木の葉や花びらが僅かにマリダの視界を奪うと、まるで最初からいなかったかのようにシュバルツ・ブルーダーの姿は消え失せた。
 フシギ!

 だが、まだそこに彼がいるかのように声がマリダ目掛けて響き渡る。
 このニンジャ真実めいた光景に耐える自信の無い読者は、今すぐこのスレを閉じて欲しい。
 井戸の中の闇を覗きすぎると落ちる、平安時代のテイトクにしてMSパイロット、ミヤモト・マサシのコトワザである。


『彼はお前に一任する。そう厄介なことにはなるまい』

『だが……万が一の際には容赦するな』

『我々はケンペイ。秩序の為にカラテを振るうオニ・デビルなのだ』

マリダ「言われるまでもない」


 風が止み、そこにはマリダただ一人が立っていた。
 先ほどまで誰かがいた痕跡さえ残っていない。
 ただ、マリダだけが恨めしげに蒼空を見上げていた。


マリダ「……言われるまでも、ない」


 また、固く拳を握りしめる。
 その手の中には、【安産祈願】と縫われたオマモリ・タリスマンが握られている。
 ちゃり、と音を立てるオマモリ。
 その小さく儚い音だけが、マリダの心を慰めているようだった。



To be continued <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 03:48:53.38 ID:wKWZysDAO<> ――その夜・第壱百八鎮守府――


――入渠ドッグ――


グラハム「…………」


 照らすは月光、奏でるは夜風。
 テロリズムの爆発により倒壊した入渠ドッグの中に、ささやかな水音が跳ね回る。
 息を潜め、陰に隠れるはグラハム・エーカー。
 その眼差しの先、月明かりに照らされたもの。

 それは、湯船で水を浴び、身を清める少女の裸体。
 何一つ纏わない、産まれたままの姿であった――



グラハム(……叢雲ではない……)

グラハム(誰だ……!?) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/05(火) 03:50:19.68 ID:wKWZysDAO<> 今日は此処まで
もしかしたらイベントとか、何か書く、かもです <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 04:59:11.15 ID:J8ZUwxMGo<> アイエエエエエエエ!?ニンジャ!?ゲルマンニンジャナンデ!? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 07:05:17.67 ID:KFpRiSqYo<> 乙
中性的な緑髪でまさかのリボンズかと思ったわ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 10:21:00.89 ID:mqvKBAbSO<> 乙です
赤城さんより鳳翔さんの方がお袋さん的でスレッガーさんにぴったりだけどそこはどういった感じで決めたのかな? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 10:56:53.16 ID:x4vnXZZho<> おつつ

これだけの面子が揃っていて滅ぼせない深海とは一体…… <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 05:50:10.87 ID:2q1neMZAO<> 赤城さん目覚まし時計のボイスは新妻力53万くらいある


冗談はさておき、まぁその辺ぼちぼち設定は置いてあるで、いつか書きますよ。いつか

続きぃ <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 06:20:43.28 ID:2q1neMZAO<> ――人類がエスニシズムとレイシズムの狭間をようやく越えた先、目の当たりにしたものは

  ナショナリズムという、途方も無い奈落の入り口だった――



【世界紛争根絶デー】

 深海棲艦が制海権を掌握し、世界が分かたれる前。
 今日この日の時点を以て、人種・民族・宗教の間にくすぶっていた紛争の火種は、互いの歩み寄りと文化の芽吹きを経て鎮火したと判断された。
 正式に、全世界から紛争が消滅した、と認められたのだ。

 当時国連代表のリカルド・マーセナス事務総長は、この日の演説で

「今日この日を紛争根絶の記念日として定められたことは、人類にとって音楽の発明に等しい偉業である」

と、壇上で諸手を挙げてその日を祝福した。

 誰もが高らかに声を上げ歌った。
 肩を組み、笑い合う人々の色はまばらで。
 抱きしめ合い、飛び回って踊る者達は信ずる神を違えていた。

 もう争うことはない。
 誰もが、そう思った。
 ここに彼等は、お互いの差異を認めて手を繋ぐことが出来たのだ。
 もう、争う理由など無いと。
 傷つけ合い、罵り合う理由が無いと。
 誰もが、そう思った。


 彼らは知らなかった。
 もしくは、知っていて目を背けていた。
 なかには、もうその対策に乗り出す者までいた。

 火種とは、何かを燃やすためにあるものだ。
 火種が消えたということは、燃やすべきものが消えて、凍えてしまうのだ。
 燃やさねばならない何かが際限なく溜まり、異臭を放つのだ。

 だから、火種は無くてはならない。
 燃やすべきものを燃やして、絶えず温もりを得る為に。
 燃やさねばならない何かを、絶えず燃やし尽くす為に。


 やがて、世界は火種を求め始めた。
 自らを焼かぬよう、強固に足場を固め、壁を作り、風の通り道を作って。

 紛争根絶デーが定められて、ちょうど一年が過ぎた頃。
 世界は既に、国境線という見えない境界に不可視の壁を形成しつつあった。


―――― <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 06:44:06.13 ID:2q1neMZAO<> ――呉本部付近・商店街裏路地――


――レストラン【クァバーゼ】――


「おまち。日替わりランチA2つ、B2つ」

「注文は以上で? ……ごゆっくり」

スレッガー「よぅし、今日は遠慮なく食え! 俺の奢りだ!」

カツ「奢りったって……クァバーゼの日替わりランチじゃどっちにしろ安上がりじゃないですか」

ニコル「まあまあ……では、ご相伴に与ります。いただきますね」


 昼時の喧騒の中、レストランは海軍の関係者で溢れかえっていた。
 右を見れば軍服、左を見れば艦娘。
 ……後ろは見ずに、前を見る。

 プレートに乗った飴色の玉葱と豚肉が、音と蒸気を併せて唇を誘惑する。
 洋風アレンジこそ加えられているが、これこそいわゆるジャパニーズ【定食】というものだ。
 三人とも、手にとっているのは銀色の食器ではなく、オハシ。
 実に手馴れた様子で、白米と共に鉄板焼きを口へと放り込んでいった。


グラハム「……今目の当たりにしてもなお、にわかには信じがたいな」

カツ「むぐ……どうされました?」

グラハム「道を行けば物に溢れた店々が客の気を引こうと立ち並び、いざこのように注文をすれば当然の如く質の良い食品が暖かいままに提供される」

グラハム「これが海洋封鎖を受け、半鎖国を経験しまだ日の浅い国の内情とは……」

ニコル「そうですね、他国の……特に元中国や米国の方々は、相当驚かれると聞きます」

スレッガー「日本は島国で、元々文化的にも単一性の強い国家だったからな」

スレッガー「まぁこうやってある程度は国内体制を維持できるのが、深海棲艦どもが現れる前の国家自足政策のおかげってのが皮肉なもんさな」

グラハム「国家自足政策……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 07:07:49.44 ID:2q1neMZAO<>  琥珀色の鶏肉を噛み締めながら、スレッガー大佐はしみじみと語り出す。
 今の状況に陥る前、この国のみならず、世界的に【国家】としての独立性、国際関係における地位の確立という点に主眼が置かれた政策が各国の間で打ち出されていったのだという。
 そう気取った話ではない、つまり【自国の在りようを礼賛し、他国の有り様を悪し様に否定し始めた】だけなのだ。


スレッガー「人間さまのやることだ、間違い無く確実に成功する政策なんか有り得ないし、どう考えても失敗することでもやらなきゃ立ちゆかないことだってある」

スレッガー「問題は、その不満の捌け口が徹底的に潰れてたってことだった。行政とかへの当たりはどこの国でも桁違いに高くなっちまってたのさ」

ニコル「……僕達が言うのもおかしいかも知れませんが、その時点でもうどの国も多民族国家の様相を呈していて、紛争根絶デーが定められるくらいには、それが問題に見られなくなってたんです」

ニコル「なので……国としては、どうしても必要だったのでしょうね。国家を維持する枠組みと、不満解消の矛先が」

グラハム「…………」


 その後、それがもはや手当たり次第だったらしい、と語ってくれたのは、【講師】だった。
 特に多数の国民を抱え、格差と杜撰な管理が致命打になりつつあった中国と、それに対する外交の展開を見誤ったアメリカが引きずり込まれてしまったのが、世界的な緊張を決定的なものにした。

 国家対国家対国家対国家……
 それは、体制維持の為の戦争。
 戦争状態が平時となり、常に敵を抱えたまま暮らす戦争経済の世界。

 地球戦国時代……もしそのまま緊張が持続していたなら、そう呼ばれたであろう時代のことである。


カツ「それの為の前準備のせいで、自給率や内需枠の層が厚くなって、まだいい暮らしが出来てる……複雑ですよね」

スレッガー「そう言うな。まだ配給生活してる連中だっているんだ」

スレッガー「俺達に出来るこたぁ、せいぜい米粒一つ残さず食って、イ級一匹残さず叩き潰すだけのこった」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 07:30:46.23 ID:2q1neMZAO<>
 奇妙だとは思っていた。
 この国は、私がいた世界ではユニオン、つまりアメリカに属していた経済特区だったのだ。
 にも関わらず、この国には米国との一切の関わり、そして近隣国であるはずの中国・朝鮮との関わりが一切無い。
 わざわざ遠方の欧州国家と同盟を組んでいる有り様だ。

 知ってしまえば、無理もないと誰もが思うだろう。
 今や、その二国は半鎖国状態と内陸・沿岸部の格差、深海棲艦対策とその被害を受けて内部分裂。
 国家機能が分散し、その大半が停止してしまっているのだから。


カツ「国家意識が州ごとってのが戦争無くなって強まったってのは、何て言えばいいんだろうなぁ……」

ニコル「アメリカの太平洋沿岸部を占めるNCR(新カリフォルニア共和国)が、以前日本に敵対的外交をしていた政府の流れを組んでいますからねぇ」

スレッガー「友好的な奴らは内陸の小国連合だからなぁ……ま、向こうの艦娘はアホみたいに強いらしいし、いいんじゃね?別に」

カツ「中国・朝鮮の方は、特に強い敵対外交の影響で分裂した国の大半が未だに中指立ててますからね……」

スレッガー「あいつらそのうち内陸まで抉れちまうんじゃねえか? 敵泊地対策が相当後手後手らしいぜ」

ニコル「でも……台湾の方とはまだ強い繋がりがありますから、ね? 私達の艦隊も南にだいぶ進出しましたし……」

スレッガー「ついでで守れるほど甘くねえでしょ……鬼姫クラスの詰まった【幽霊船】、リランカ周りで彷徨いてたってよ?」

カツ「あー……聞きたくない、聞きたくないよ、そういうの」

ニコル「うわぁ、勘弁だなぁ……それは」

グラハム「…………」

 紛争が無くなって、人々は戦争を求めた。
 あの少年がこれを聞いたら、どんなことを言うだろうか。

 きっと、それでも、彼は対話の為に戦い抜くと誓うだろう。

 そう考えたら、少し気が楽になった。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 07:55:18.76 ID:2q1neMZAO<>

グラハム「ところで、諸君」

三名「「「 ? 」」」

グラハム「話は変わるが、一つ聞きたいことがある」


 雑談混じりの食事もすっかり食べ終えて、各々食休みの態勢になってきた頃合い。
 この寄り合いで是非とも話そうと思っていたことを、三人に向けて切り出した。

 国際情勢に関する話はひとまずお開きとしよう。
 ワシントンDCが対深海棲艦要塞都市として生まれ変わっている話とか、アイオワ級戦艦改め洋上艦娘運用母艦ミズーリからアイオワ級戦艦娘が次々飛び出していく動画の話など、母国への興味は尽きないばかりだが。

今はどうしても、これの話をしなくてはならなかったのだ。

グラハム「これを見てくれ、どう思う?」

スレッガー「……どうって……」

カツ「すごく……赤い紐? です……」

 彼らの前、食器を片付けたテーブルの中心に置いたもの。 それは、解けた一本のリボンタイであった。
 それもかなり汚れて掠れており、コバヤシ中佐が赤と形容したのも辛うじて、が頭に付くほど汚かった。


ニコル「これは、陽炎型のリボンタイですね」

スレッガー「あ、ほんとだ」

カツ「よく判ったね……」

ニコル「一応黒潮が着任していますから」

ニコル「それでグラハムさん、これが一体……」

グラハム「あぁ……少し長くなるかも知れないが、聞いて欲しい」


 私は、腰を据え直し珈琲を一口啜ってから、語り出した。
 このリボンタイを手に入れた、昨晩の不可思議な出来事のことを――。


―――― <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/13(水) 07:57:30.89 ID:2q1neMZAO<> 一時停止

また今夜 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/13(水) 08:06:46.40 ID:rVADOTaFo<> 了解
トランザムで待機してる <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/13(水) 09:58:57.30 ID:mvgyva9SO<> 一旦乙です
この店のコックやってるのギリだろ <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2015/05/14(木) 04:08:30.52 ID:WOuYuSWAO<> 案外キャラの縛り大変かもっぽい

さぁて再開でち <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/14(木) 04:28:17.53 ID:WOuYuSWAO<>

 ・
 ・
 ・

グラハム「……想像以上の有り様だな、これは」


 片付け切らない瓦礫を乗り越え、嘆息混じりに呟く。
 青いビニールシートの隙間を縫いながら進む我が鎮守府の内装は、焼け焦げた煉瓦がレトロなアクセントを醸し出し、なかなかにモダンな味わいを引き出している。

 これで壁に穴が空かず、天井が崩れておらず、窓ガラスがしっかりはまっていたなら、言うことはないのだが。


グラハム「…………」

 鎮守府の見取り図を覗き込む。
 今目指しているのは【入渠ドッグ】、言わば艦娘の風呂場だ。

 其処は工廠から繋がった水道を介し浄化水を沸かし、深海棲艦による【穢れ】を受けた艦娘を浄化するための清めの場。
 本来、有機無機問わずあらゆる物質を腐食、風化、崩壊させる深海棲艦の砲撃。
 だが、艦娘はそれに唯一対抗しうる力を持っている。
 その艦娘を以てしても、受けて残留した奴らの怨念は、決して消えず悪影響を残してしまう。
 それを消すのが、この入渠ドッグの役割ということだ。


グラハム「……ふう……」


 また、溜め息。
 明かりを使わず歩けているのは、酷く眩しい月明かりのおかげだが。
 その満月が、ドッグの天井から隠れることなく顔を出して、こっちを覗いていた。

 此処は其処までではなくとも、他と変わらぬ荒らされ方をしていた。
 恐らくは携行ロケットか何かを何発も叩き込まれたのだろう。
 露出しねじ曲がった水道からは、工廠からの浄化水が漏れて小川になっている。
 これでは、出撃した叢雲の穢れを満足に祓うことなど出来はしまい。


グラハム(何がともあれ、まずは入渠ドッグからどうにかしてもらわねばならんな……)


グラハム(…………)

グラハム(……?) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/14(木) 04:40:22.25 ID:WOuYuSWAO<>  水が滴り落ちる音が聞こえた。
 海は直ぐ近くにあるが、その音とは誤認しようがない。
 すぐ近くからの音だ。
 足下の小川がこの先で滝にでもなっているのかと思ったが、違う。
 これは、人為的な音。
 誰かが近くにいるのだ。


グラハム「…………」


 腰から拳銃を引き抜き、身を屈め息を潜める。
 工事を受け持つ大工や大工妖精かとも思ったが、最悪に備えセーフティーを外し引き金へ指をかけた。
 考えてみれば、この鎮守府は機能を失って久しい廃墟そのもの。
 セキュリティー面を見ても守りようがない有り様であれば、誰がいてもおかしくはない。
 そう、この鎮守府をこの有り様にした者達がいても、だ。


グラハム「…………!」


 音を頼りにゆっくり踏み込んだ先は、どうやら脱衣所のようだ。
 燃えカスに紛れた籠や体重計に気を使いながら、ゆっくりと、更に距離を縮めていく。
 途中、下着の破片らしき布片などが目に留まったが、生憎そんなことを気にしてはいられない。

 傾いた扉の隙間を、慎重かつ無音で這って抜ける。
 この先は、かつて艦娘達が裸の付き合いを重ねたであろう大浴場。

 そこに、音の主はいた。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/14(木) 05:08:25.46 ID:WOuYuSWAO<>

「――…………」


 瓦礫に埋もれた大浴槽の中心で、膝立ちのまま浄化水を掬い上げ身に浴びる。
 伝う水は薄桃色のセミロングから華奢な肩を流れ、控えめな胸元から艶めかしいラインの腹部を濡らしていく。
 丸く引き締まった臀部から大腿部にかけては、若々しく瑞々しい肌の張りが遠くから見てもはっきり解るほど。

 ちょうど崩れた天井からは、月光がスポットライトのように彼女を真っ直ぐ照らしている。
 春も半ばでまだ冷たかろう浄化水を塗り込むように、掬っては掌と肌をこすり合わせていく。

 さながら、舞台に上がった裸のプリマドンナ。
 気配を殺しながらも、この目は突然現れた来訪者に釘付けになっていた。


グラハム「…………」

グラハム(叢雲、ではない)

グラハム(何者だ……彼女も、艦娘なのか?)


 壊れた浴槽に僅かながら溜まる浄化水は、先ほど辿った小川とは別の水道も含めたものらしい。
 侵入者という自覚はあるらしく、辺りをぞんざいに見回して警戒する素振りは見せているが。
 時折、冷たさに小さな肩を震わせ吐息を洩らす。
 それでも、彼女は繰り返し繰り返し、この清めの水を浴び続けていく。

 一心不乱に。
 祈りのように。


グラハム(……) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/05/14(木) 05:30:15.47 ID:WOuYuSWAO<>  音が止むまでの間、目を離して柱の側に腰を下ろすことにした。
 いくら監視せねばならないとしても、うら若き乙女の沐浴を許可無く眺めるのは矜持に悖る。
 拳銃のセーフティーを戻し、しばし音にのみ気を向ける時間を過ごす。

 ……おかしいな、私は山のような書類から逃れたくてここに来たはずなのだが。

 今の状況がついおかしくなって、笑む唇を抑えるのにしばらく苦労した。


「……ふぅー……」

グラハム(! 終わったか)


 そうしていると、水をかき分け、浴槽から上がる音が聞こえてくる。
 どうやら彼女の用は済んだらしい。
 傍らに置かれていた服や外套には気付いていた。
 直に、布擦れの音が微かに聞こえ出す。

 では、次は此方の用を済ませよう。
 もうそろそろ着付けも終わった筈だから。
 頃合いを見計らって、声をかけた。


グラハム「こんばんは……今夜は良い月だ」


「ッ!?」


 柱の陰から姿を現し、彼女の前に出る。
 目映いほどの月明かりは、お互いを綺麗に照らしあげはっきりとその姿を映し出してくれた。





 彼女は、まだ裸だった。




 そして、逃げられた。


 ・
 ・
 ・


カツ「最低」

スレッガー「最低だな」

ニコル「最低ですね」

グラハム「……面目ない……」 <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/05/14(木) 05:32:07.07 ID:WOuYuSWAO<> 今んとこここまで
また今日来ます


ごめんね深夜ばっかりで <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/14(木) 06:00:43.96 ID:A3T3PDd5O<> 乙ですって!
スサノオ横特格のように「君の視線を釘付けにする!」とか言いながらくるくるスピンして回り込むんじゃとか思ったけど杞憂で良かった <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/14(木) 23:38:22.68 ID:HD6KaD1aO<> 乙です!
しかしハムとマリーダさんかぁ…
復活しないかなぁ… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/14(木) 23:42:22.43 ID:HD6KaD1aO<> 乙です!
しかしハムとマリーダさんか…
復活してくれないかなぁ <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2015/05/15(金) 04:30:10.88 ID:WBJqKoBAO<>  思い出すのも恥ずかしい失態だ。
 どうやら外套や衣服の汚れを落とすために擦り合わせた音を誤認していたと思われる。
 皆の一言を一斉に浴び、右手で古傷ごと顔を覆い隠した。

 あぁ、くそっ。
 こんな感覚、何年ぶりになるだろうか。
 絶望と連ならない恥の感情など、本当に久しい心地がする。


スレッガー「……ま、それはおいといて……だ」

スレッガー「陽炎型でリボンタイ、薄ピンクの髪っつったら……一人しかいねえよな」


 一転して、顔を引き締めた大佐が二人の顔を順に見た。
 既に察しが付いているのだろう。二人も頷き、眉を顰め険しい表情をしている。


スレッガー「なぁ、グラハム」

グラハム「! 何でしょうか、大佐」

スレッガー「敬語止めろって。今からお前さんとこの鎮守府に行くけど、暇か?」

グラハム「……時間はある。どうせ出撃は出来んからな」

スレッガー「そうか。なら早いとこ声かけとかねえと……な」


 事態が動き出した予感に、渦中にも関わらず蚊帳の外のむずがゆさが加わる。
 三人はそれぞれ携帯端末(薄い板状のタッチ式端末、実にレトロチックだ)を取り出すと、自分の艦娘達に連絡を取り始めた。
 中佐の二人は鎮守府にいる部隊のようだが、大佐は【彼女たち】にかけたらしい。
 それを胸ポケットに収めてから、帽子を被り直してまた呟く。


スレッガー「間に合ってくれりゃあいいが……」


 その言葉の意味を理解したそのとき、私は今この瞬間の私の愚鈍さを呪うこととなる。 <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2015/05/15(金) 04:50:48.37 ID:WBJqKoBAO<> 【一方その頃、甘味処『間宮』】


五月雨「はい……はい、分かりました。皆さんを連れて現地で合流を」

五月雨「はい。失礼します」


 『提督達とは別に、初期艦だけでガールズトークを!』
 そう意気込む漣に連れられてきた間宮で、私は何故か与えられるまま大量のアイスに囲まれつつあった。
 だが、それもどうやら終わりのようだ。
 席を離れてスマートフォンで連絡を取る五月雨が、表情を曇らせていくのが此処からでも分かったから。


漣「どったの五月雨Chan。スレッガー大佐から?」

電「緊急のご予定なのですか?」

五月雨「すみません皆さん、これから壱百八鎮守府に移動をお願いします。向こうで皆さんの提督さんも合流するそうです」

叢雲「うちに?! どうしてまた……」

五月雨「……昨晩、脱走艦をエーカー少佐が発見していたと、兄さんは言ってました」

叢雲「え……!?」

電「脱走艦、なのですか?」

漣「……叢雲Chanにインタビュー、知ってた? それ」

叢雲「……!」


 知るわけがない。
 完全に寝耳に水の出来事だ。
 今朝方起きて、工事の進捗と予定を話し、インスタントとはいえ朝餉もゆるりと取った。

 言う機会が無かったとは思えない。
 脱走艦よりも、そのことが私にとっては衝撃的だった。


漣「いけないなぁ……ホウレンソウ、これ大切よ?」

電「む、叢雲さんの司令官さんもまだ馴れてないと思うのです。だから仕方ないのですよ!……多分」

叢雲「…………くッ!」

五月雨「反省会は後にしましょう。今は壱百八鎮守府へ」

漣「そうだね、間に合えばいいけど」

漣「……今あの鎮守府の周り、ケンペイだらけだしさ」


 あいつの不手際が原因か、私の頼りなさが起因か。
 悩む暇すら消し飛ばすほど、漣が告げた「ケンペイ」と「脱走艦」という言葉の相性は最悪だった。

 早くしなくては、取り返しのつかない事になるかも知れない。

 私の鎮守府には、早速大きな問題が転がり込んできていた。 <>
◆WHzNz9zb1A<>saga<>2015/05/15(金) 05:20:42.99 ID:WBJqKoBAO<> 【第壱百八鎮守府】


 【脱走艦】とは、呼んで字の如く「鎮守府から脱走した艦娘」のことを表す言葉である。
 基本的に、提督と縁を結んで着任した艦娘は、提督を介し鎮守府という神地と繋がり力を得る。
 故に、此処に立っているだけでも彼女達は力を受け、万全な状態で物事に向かうことが出来る。
 言わば自動的に充電してくれる実際スゴいフィールドなのである。

 その他にも、補給・入渠・工廠・開発……彼女達が機能の維持に必要な全てが、この鎮守府には集まっている。
 つまり、脱走という行為はそれ以外の部分で問題がない限りは発生しない事件なのである。


スレッガー「とはいえ、艦娘同士のいざこざってのはなかなか無いもんでな」

スレッガー「艦種違いやかつての記憶がそうさせるのか、脱走にまで至ることはまず無いっていってもいいくらいだ」

グラハム「……ならば」

スレッガー「あぁ……だいたいは提督と艦娘の間のことになるな……っと」


 二人は壱百八鎮守府付近の地図と睨み合いながら、昨晩の彼女がどういう経路で此方に来たのかを考察する。
 脱走艦なら、夜目が利く分海路も視野に入る。
 これなら、まだ警備網をかいくぐって侵入する可能性も高いはずだ、と大佐は推測した。


スレッガー「ケンペイ連中はあくまであんたの監視がメインだ。鎮守府そのものを警備してるわけじゃない」

スレッガー「それに、だ……おい、最近マリダ中尉見たか」

グラハム「いや、ここしばらくはさっぱり……」

スレッガー「それだな。マリダ・キカンが別の仕事に人員を引っ張られたんだ」

スレッガー「元々マリダ・キカンは艦娘保護の荒事担当だからな。たまたまだろうが……ますます猶予がねえな」

グラハム「スレッガー大佐」

スレッガー「あん?」

グラハム「そろそろ話してくれ」

グラハム「何を焦っている」

グラハム「彼女に一体どのような危険があるというのだ?」

スレッガー「…………」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/15(金) 10:54:30.55 ID:djKXTeDFO<> 一体何の落ち度があると言うんです? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/25(月) 16:26:54.35 ID:3YB3sjaAO<> 春雨かな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/05/26(火) 20:32:15.49 ID:eHzpOqxa0<> >>228春雨ちゃんは白露型だよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/26(金) 07:07:47.70 ID:zQu7tErc0<> 臥薪嘗胆 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/08(水) 21:22:01.83 ID:VZIVI77O0<> 面白い作品だったんだけどもう放置かな? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/10(金) 20:05:29.95 ID:xq1ZhQZDO<> 話は面白いけどニンジャスレイヤー語?が読みにくい・・・ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/10(金) 20:35:53.07 ID:KqpHINyOo<> 忍殺語というらしいけど変に絡ませると一気に会話も話の内容自体もワケ分からなくなる…
もしかしたら展開に詰まってるんじゃね? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/11(土) 22:11:55.44 ID:Fjk+Vckvo<> もう一つのスレの感想に糞としか書かれなかったから拗ねたんだろ <> 月に+2日でいいから休みくれ
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/07/15(水) 04:22:10.25 ID:kfGRlG8AO<>  大佐は少し考える素振りをしてから、顔を隠すように帽子を被り直す。


スレッガー「お前さんがマジで余所の世界から来たってんなら……まずは十年前から今までの海軍の歴史から学ぶこったな」

グラハム「……そこに答えがあると?」

スレッガー「知っといた方がいいことは多い。特に当時から今に繋がる派閥の流れとかな」

スレッガー「海はままならんぜ、空と違ってな」

グラハム「!」


 唐突だった。
 まだ彼には、自分が元空軍所属だったことは話していなかったからだ。
 他の提督から聞いたのかとも思ったが、違うようだ。
 彼の見透かすような眼差しが、そう告げていた。


スレッガー「空の男は風を着る。一目で解ったよ、あんたが俺と同じ……元々空軍出身だってのは」

グラハム「……御名答、ですな」

スレッガー「だから、これは同じ空の男としての忠告だな」

グラハム「謹んでお受けしましょう」

スレッガー「まあ気にしなさんな! 今と昔は違う。そう大した問題でもないよ」

スレッガー「あぁ……大丈夫だ」

赤城『ロウ大佐、準備できました。偵察を開始します』

スレッガー「おう、視界情報は常にリンクしといてくれ。五月雨に地図は渡してある、細かい指示はそっちから、な」

赤城『了解しました、彩雲の視界、繋ぎます』

スレッガー「……受け取った。感度良好、やっぱり相性良いんじゃない? 俺達さ」

赤城『はいはい……ありがとうございますー』

グラハム「…………」

グラハム(はぐらかされた……な)
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/15(水) 08:34:34.95 ID:IePA+O1Ao<> ギリギリだな <> あと拗ねてないよぅ、あっちは忙しくて切ったのよぅ
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/07/15(水) 10:49:44.20 ID:kfGRlG8AO<>  コバヤシ提督の話によれば、彼はかなり長く提督として勤めを果たしているベテランだという。
 その古豪からすれば、新参者の私にこの問題は重く感じられたのであろう。
 妥当な判断だ。異を唱えるには経験も知識も不足極まっている。
 今は黙して耐えるとき。
 そう言い聞かせて帽子の位置を直した。

「 グ ラ ハ ム 」

グラハム「……っ……」


 あぁ……問題はもう一つあった。
 至近の背後からかけられた言葉に身じろぎしつつ、ゆっくり、振り返る。
 いた。やはり、叢雲だった。
 憤怒に燃える鬼の形相で此方を見上げ、肩を震わせ槍を顎下に突きつけている。
 ロウ大佐は、もう離脱済み。
 流石は空の男だ。退き際は見極めているか。

叢雲「私が何を指摘したいか、四文字以内で答えなさい」

グラハム「……報告不備……か?」

叢雲「かは余計よ! か、は!! お馬鹿っ!」

グラハム「理不尽だな……だがそれを除けば君の怒りは正当た」

グラハム「済まなかった、叢雲」

叢雲「ふんっ……謝罪の言葉なんて事態の解決には無用というものよ」

叢雲「今度からは、私に必ず相談をすること。提督として秘書艦との情報共有は常識なんだからね! 分かった!?」

グラハム「もっともだ。その旨に従おう」

叢雲「ま、今は脱走艦の捜索と保護が最優先。意気消沈してる暇なんか無いけど、反省はしなさいよね!」

グラハム「仰せのままに、秘書艦殿」


 眉を釣り上げ、腕を組み鼻息を荒くする我が秘書艦。
 随分穏やかなお怒りで済んだのは、運が良いと言うべきか。

 彼女に伝えなかったのは、ばつの悪さもあったが……何より、これ以上の問題を抱えさせたくないというのが大きかったと思う。
 分かっている、手前勝手な言い分だ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/16(木) 20:40:16.71 ID:3I7P+hn/0<> 往生際が悪い作者だな延命処理しないで黙って書き直せよ
こんなテンポが悪いから他のSSで糞なんて言われるんだよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/17(金) 17:24:42.27 ID:GBmFKzx90<> 乙です。罵詈雑言は気にせず頑張ってください!
楽しみにしています。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/17(金) 22:30:08.84 ID:NH6i2LZDO<> 乙ッス!!
続き待ってましたー!! <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/08/02(日) 23:37:06.07 ID:upknM08AO<> 明日にまた続きを載せたいと思います
すんません <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/03(月) 01:55:08.36 ID:TVaXLOnDO<> ヒャッハー(明日)続きだー!! <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:21:49.86 ID:kpdyAUcAO<> 設定を纏めていたらマスターとサーヴァントめいていると思った
後で香取さんが教えるコーナーします

再開 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:27:54.67 ID:kpdyAUcAO<> >>237


叢雲「…………」

グラハム(だが、それが通じているはずもない)

グラハム(猛省、だな)


 これから命を預けられる立場として、彼女を信用しないような行為を選択した。
 これは私の間違いとして認めよう。
 気を遣うのではない、気を利かせ合う関係。
 それこそが、我々にとっては理想なのだと、今は思っている。


グラハム「叢雲、ちょっとこっちに来い」

叢雲「? なによ」


 少しだけ他の提督とは距離を取り、叢雲を呼ぶ。
 せっかく艦娘本人である叢雲がいるのだ、彼らに聞けぬなら彼女に聞けばいい。
 聞きにくいことではあるが、提督として、当事者として。お互いにとって必要な情報だ。
 頼れる初期艦にして秘書艦へ、提督からの勅命となるだろう。



――――


グラハム「……脱走艦の件だが、お前に一つ聞きたいことがある」

グラハム「大佐をはじめ、彼らは今回のことで随分と急いている」

グラハム「そのことについて確認してみたが、過去を調べろとはぐらかされてな」

グラハム「お前ならば何か分かるかと思った。見当がつくなら、教授を頼みたい」

叢雲「……そういうこと、ね……」


 この不埒者がいきなり隅っこに動いて、何を言うかと思ったらそんなことか。
 後ろを向けば、遠くに見えるロウ大佐が小さく手を振り笑っていた。
 五月雨も一緒ということは、とどのつまり気を遣われたわけであるが……まぁ、感謝すべきなのだろう。
多分。

叢雲「……いいわ、ここでは特に、あんたにとっては輪をかけて重要だもの」

叢雲「教えてあげるからしっかりと聞きなさい。端折ってはみるけど、少し長くなるかもしれないわね」

グラハム「ありがとう、頼む」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:31:59.02 ID:kpdyAUcAO<> 叢雲「あんたも見ての通り、この日本において海軍は国防における絶対の支柱」

叢雲「それでも、それを快く思わない連中というのは数多くいるわ」

叢雲「一つは反国家・反海軍を掲げ、延長上で反鎮守府を唱える武装テロ勢力」

叢雲「一つは艦娘や資材を簒奪し裏で売買しようとするヨタモノ……まぁ、言わばヤクザとかマフィアみたいな犯罪組織ね」

叢雲「そして一つは……人粋派。かつての海軍筆頭勢力にして、今の海軍の癌よ」

 人粋派。
 そう読んだ私の声は、怒りや憤りを追い出すように震えた。
 彼の顔も察したように険しくなる。



 現在鎮守府には、政治思想や対深海棲艦戦略、艦娘運用論で様々な派閥が鎮守府本部問わず広がっている。
 ティターンズは政治に強く関わり海軍を主とした政軍統合をねらう急進的派閥。
 エゥーゴはあくまでシビリアンコントロールの中で海軍は政治に手を出すべからずと、ティターンズに対抗するハト派の大勢力。
 プラントと呼ばれる、科学的な観点から人類のありようを変えるべきと言う派閥も、少なからず海軍の中に影響を見せ始めている。
 そんな彼らと比較した際の人粋派の思想、運用論は、反吐が出るほど一方向へとはっきりしていた。

 日本の覇道を阻むものは全て敵。
 艦娘は人型の道具であり、人間に所有される存在。
 深海棲艦打倒は国内体制統一と対外戦略の一手段。本気で取り組むなど馬鹿馬鹿しい。


叢雲「つまり……人粋派という派閥は、深海棲艦発生以前にこの国を動かしていた連中、国粋主義派閥の息がたっぷりかかった連中って訳よ」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:38:19.76 ID:kpdyAUcAO<> グラハム「……世界中に半鎖国を強いるほどの深海棲艦を軽視、だと? 楽観視にも限度がある」

叢雲「奴らは自分達の巣である【泊地】を持つわ」

叢雲「その【泊地】から離れ過ぎない勢力展開を行う奴らに対しては、水際での対処と泊地形成直後の奇襲が基本だと判明した時期でもある」

叢雲「だから、泊地の増加拡大を阻止しつつ最低限の数で対処していれば、対深海棲艦用予算は最小限に抑えられ……残りで軍備拡張し従来の侵攻路線を継続できる」

叢雲「それが当時の人粋派の持論だったわけ」

グラハム「っ……?!」

叢雲「むしろ他国が混乱し深海棲艦に対処している隙を狙えば容易く勝てる、そんなことを本気で考えていた連中よ」

叢雲「従来の甘い汁を吸っていた奴らの考え方を反映してるんだから、当然なのかもだけど」

グラハム「待て、分かった。いや理解不能だが今はいい」

グラハム「それがあの艦娘の、脱走艦の危険にどう繋がる?」

叢雲「……奴らのやり方は、提督や深海棲艦を脅威と考える有識者、艦娘を人やそれに近しい存在と扱う人々から多大な反発を受けたの」

叢雲「それに対し、万が一鎮守府が反乱や抵抗を起こした場合を想定し、一つの組織を作った」

叢雲「そしてそれは、人粋派が弱体化した今でもまだ海軍の中に残っている」

叢雲「それがあんたの疑問の答え、大佐達の懸念の正体よ」

グラハム「……まさか……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:39:21.73 ID:kpdyAUcAO<>

 そう、それが憲兵隊所属の対艦娘陸戦カラテ制圧超人部隊。
 【ケンペイ】である。


グラハム「……!」

叢雲「かつての人粋派は、提督となった者や艦娘には僅かな給与と権利しか与えず、一部の傘下以外は奴隷のようにこき使ったというわ」

叢雲「そして、逆らった対象、蜂起や離反を目論んだ鎮守府にはケンペイを差し向けた」

叢雲「あなたはまだ分かってないと思うけど、私達の身体能力は人間のそれとは格が違う。人型の猛獣とさえ揶揄されるレベルにはね」

叢雲「でも、特殊な訓練を積んだ彼らは、陸なら艦娘を簡単にねじ伏せるだけの力と技術、装備を持つ。だいたいは生け捕りが殆どのはずだけど」

叢雲「艦娘がもし抵抗したり、一般人や提督に危害を加えるようなら……生死問わずの対応が彼等には赦されているわ。今でもね」

グラハム「……ある意味では当然と言える。人がそうであるように、艦娘もまた自意識を持つが故の不完全性を内包するものだ」

グラハム「だがこれは……ナンセンスだ」

叢雲「……ロウ大佐が焦るのも無理はないでしょうね、昔から提督として戦ってきた人なら、殊更彼等は畏怖の対象だもの」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:46:51.52 ID:kpdyAUcAO<>  そう、ケンペイという存在を恐ろしいものだと語る人は少なくない。
 かつての世界を取り巻いていた腐敗と狂信の手先だったと知る者は、怒りと共に彼らを睨みつけるだろう。
 私でも知っている、あの忌まわしい【第二次太平洋征伐】を経て凋落したにも関わらず、人粋派の根底は何も変わらなかったのだ。
 彼らに向けられる視線が鋭くなるのは、必然といえるだろう。

だが……


叢雲「でも、あんたは無傷だった」

グラハム「?」

叢雲「もしもの話、あんたを害するのも辞さない相手なら、いきなり攻撃してきたかもしれないし」

叢雲「やむにやまれない行為なら、なおさら手を出さないだけ自制心があるってことだとも思う」

叢雲「とっさのことだろうから何とも言い難いけど、彼女が脱走艦だからと悪い子とは言い切れないんじゃないかって……そう思うのよ」

叢雲「それなら、ケンペイだって手加減くらいしてくれるでしょ?」

グラハム「叢雲……」

叢雲「それに、今までのは過去の話。今のケンペイは、再編に次ぐ再編で人員も仕事内容も相当変わったらしいし」

叢雲「第一、マリダ中尉が、金や権力に屈して違法捜査する人に見える?」

グラハム「……いや、彼女はそんな人物ではない。そんな確信はあるよ」

叢雲「でしょ?」

叢雲「だから、そんな顔するんじゃないの」

叢雲「提督が不景気な顔して突っ立ってたら、鎮守府の格が疑われるというものよ。良いこと?」


グラハム「……はっ……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:49:07.56 ID:kpdyAUcAO<> グラハム「感謝する、叢雲。気を遣わせてしまったようだ」

叢雲「貸しにしとくわ。出世払いで返して頂戴」


 正直、気休めだ。
 ケンペイの内情などさっぱり判らないし、彼が襲われなかったのも運がいいだけだったとも言える。
 ただ、彼が周りの焦りに眉を顰めている理由は、何となく解っていた。
 だから、ついこんなことを言った。

 彼はまだ、私達を【女の子】だと思っている。
 可憐さや儚さと繋げ、故に正しくあろうとする存在だと信じているのだ。
 だから、脱走艦が悪し様に思われることや、酷く扱われる可能性に言及されたことに、悲しげな顔を見せたのだ。
 艦娘は兵士だし、ときとして警戒もすべき存在だというのに。
 呑気なのか、はたまた性分がそうさせるのか。
 まあ……ほっとけない奴だとは、感じた。
 嫌いではない。そういう男は。


叢雲「まあ、そういうことよ。一番厳しかった時期からいる大佐や、彼に近しい二人がケンペイを警戒するのは当然だし、未だにケンペイの一派が人粋派に飼われていることも事実」

叢雲「だからこそ、みんなで先に探し当ててしまいましょうってのが現在の流れ。何か質問は?」

グラハム「一つだけ」

叢雲「どうぞ」

グラハム「叢雲、君は此度の脱走艦についてどう考える」

叢雲「!」

グラハム「君は、彼女を赦せるか? 如何なる理由があるとして、戦場から逃げ出した彼女のことを」

叢雲「…………」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 02:52:24.67 ID:kpdyAUcAO<> 叢雲「分からないわ。私はその子のことを何も知らないもの、憶測で感情を乱すほど愚かではないつもりよ」

叢雲「ただ……それがどうあろうとも、再び相対したその時は」

叢雲「司令官、あなたには提督として相応しい状況判断を求めるわ」

グラハム「…………」

叢雲「情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される。無情かもしれないけど、もしまた対峙することがあって、危険を伴うことがあるなら……躊躇わないで」

叢雲「両手を広げたって、守れる範囲なんてたかが知れてるんだから……」

グラハム「……あぁ、痛感している。過去に、幾度と無く――な」


 彼が確かめたかったことを、敢えて袖にして言葉を投げ返した。
 もし……もし、そうなれば素晴らしいことだと私だって思う。
 だがまだ判らないというのは事実で、今から感傷のままに考えを固定させるのは正しい判断ではない。
 背を向けて歩き出した彼に付き従って、一歩を踏み出す。

 ふと思った。
 此処に来るまでのことだ。彼は一体、何を判断し、結果として失ってきたのだろうか。

 私には教えるほどのこともなく、彼のことは本当に欠片ほどのことさえ知らない。

 不公平だ、と感じた。何故か胸元に靄がかかった。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 03:00:22.08 ID:kpdyAUcAO<> ――昨晩、ホンシ・ハイウェイ――



マリダ「ドーモ、はじめまして。憲兵隊のマリダです」

SD「ドーモ! 元憲兵隊のサンドージュです。イヤーッ!」


 草木も眠るウシミツ・アワー。
 ハイビームがまばらに行き来する狭間の仕切りで、二人がアイサツを交わした。

 アイサツはケンペイのイクサに置いて絶対不可侵の礼儀である。
 それは如何なる状況、関係においても不変であった。

 アイサツ直後0.5秒、サンドージュと名乗ったミルク色の改造軍服を纏ったケンペイが叫ぶ。
 異形としか言えぬ六本の腕が蠢き、それぞれの手首の放出機構から何かが放たれる。
 それは風呂敷めいた広さを持った粘着質のスパイダー・ウェブだ!


SD「マイッタカ! これが俺のバイオ・シルク・ジツよ!」


勝ち誇った叫びを挙げたサンドージュ。
 懐から鋭利なドス・ダガーを引き抜き、ウェブを追うように距離を詰める!
 宿したカラテにより、スパイダー・ウェブは鋼鉄の強度と蜘蛛の糸の軽さを誇る。
これに絡まった敵を、即座にドス・ダガーで突き[ピーーー]。
 この無慈悲な戦法こそが、彼の得意技であった!
 コワイ!

サンドージュ「その豊満な身体をサシミめいて……アバーッ!!」

マリダ「イヤーッ!!」


 しかし! サンドージュの身体は硝子にぶつかるスズメめいて反対方向に吹き飛ばされた!
<>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 03:04:58.96 ID:kpdyAUcAO<>  ゴウランガ! マリダはスパイダー・ウェブに片手でトンボめいて円回転を付与!
 右手にのみそれを巻きつけ、全身拘束を無力化していたのだ!
 蜘蛛の糸の軽さが招いた戦術的弱点を、状況判断により瞬時に利用!
 勝利を確信したサンドージュの鳩尾に、カウンターのポン・パンチを浴びせたのだ! ワザマエ!


マリダ「勝負はついたな、サンドージュ=サン。ハイクを詠め」

SD「ま、待て! マリダ=サン! 俺は実際艦娘とは前後にも至らぬ控えめな悪事に留めた! こんなことをされる謂われは……」

マリダ「軍紀正すべし。慈悲はない」

SD「あ……朝潮の……肩幅が実際カワイイ……インガオホー」

マリダ「イヤーッ!」

SD「ヤ!ラ!レ!ターッ!!」


 胸倉を掴み軽々持ち上げていたサンドージュを、マリダは決断的速度で振り上げ地面に叩きつけた。
 猥雑なハイクへの怒りをぶつけるようなトドメに、断末魔の叫びを上げてサンドージュは失神した。
 虫めいたメンポを引き剥がし、身元確認を急ぐマリダ。
 直後、ハイウェイの仕切りにあきつ丸が降り立ち、マリダに一礼。
 その手にはカラテ封印用のチェーンが握られていた。

あきつ丸「お疲れ様であります、中尉殿」

マリダ「そちらこそご苦労だった、あきつ丸=サン。これを」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 03:16:08.60 ID:kpdyAUcAO<>  あきつ丸の探照灯の調節弱光に照らされたマリダのメンポには、まるで金属のような鈍い光沢と【憲】【兵】の威圧的な二文字が刻まれていた。
 しかし、すぐに波が引くかのようにそれは元の布の質感と表面に戻っていく。
 それは言わばマリダの戦闘形態、ケンペイ装束にカラテが満ちた証拠であった。


あきつ丸「……………………照合したのであります。横須賀憲兵隊第八分署のトランプ=サンです」

マリダ「ほう、艦娘への不正セクハラ行為の余罪追及を拒み脱走した元人粋派閥ケンペイだな」

マリダ「こんなところでうろついていたということは、再就職を奴らに打診していたか? ならば重畳」


 呻くサンドージュを縛り上げながら、マリダは無表情のままだった。
 今や大規模な再編と内部監査により、多くの悪しきケンペイがヨタモノやヤクザと化して野に放たれていた。
 その大半は数合わせの為に正規のケンペイ養成ドージョーを経ない、半ば短期間の違法薬物や暴力的カラテ鍛錬により生み出された粗製ケンペイであった。

 時代や権力の波にも負けず正しき在り方を固持し、憲兵隊としての職務を切々と全うしてきた先達の憲兵達。
 そんな彼らをマリダは心の底から尊敬していた。
 先達の憲兵隊を侮辱するような、カラテも理念も未熟で邪悪な抜けケンペイ。
 マリダの個人的信念とは別にしても、到底許されぬ存在であることは明白であった。


あきつ丸「抜けケンペイの確保は我等の重要案件! だとすればキンボシ・オオキイでありますな!」

マリダ「この程度のカラテしか持ち合わせないサンシタなら、プレア=サンやヨハン=サンに任せても良かったかも知れんが」

あきつ丸「かつての事変の残党がいるかも知れない現状、今回は中尉殿が動かざるを得ない情報量でありました」

マリダ「そうだな、結果が出ただけ由としよう」

あきつ丸「……この六本腕は、本物でありますか?」

マリダ「バイオ・シルク・ジツによるクグツめいた操作だ。これを活かしたカラテでも身に付けていれば、多少は違ったろうにな」

あきつ丸「そうなったら、中尉殿はどのように対処されましたか?」

マリダ「全部引きちぎる」

あきつ丸「アイエエエ……」


 コワイ! <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 03:45:10.28 ID:kpdyAUcAO<>  憲兵隊の特殊工作戦車・ケニにサンドージュを積み込み、部下に後のことを任せた二人。
 これから彼はスガモ・プリズンのケンペイ収容施設に収監され、モータルに悪事を働けぬようカラテを簒奪されることになるだろう。

 インガオホー。そう呟いたマリダの眼差しは、彼ではなく夜空の砲口めいた月に向いていた。
 少女の果てた夢を追う、哀れな大人の女性の瞳。
 そんな彼女に見つめられた四国の月は、ショッギョ・ムッジョとその人生を嘆いたように見えた。

 直後、あきつ丸の懐に微振動が走る。
 携帯端末に浮かび上がる相手の名前に、あきつ丸の顔は驚愕に彩られた。


マリダ「……ドーモ、マリダです」

『ドーモ、マリダ=サン』

『スネークハンドです』

マリダ「…………」


 彼女は眠らない。

 戦うべき敵がいるかぎり。
 護るべき者がいるかぎり。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage<>2015/08/04(火) 03:45:58.71 ID:kpdyAUcAO<> 次こそは、ここの展開を終わらせたい

ではまた <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/05(水) 20:43:58.27 ID:sEGlmTd8O<> 乙乙

この作りこみ、好きだぜ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/15(土) 22:25:17.56 ID:X7w70WKDO<> 乙!!
ガンダムキャラが艦これ世界に来たのはスペドラが関わってたりはしませんかねぇ・・・ <>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/08/19(水) 22:55:48.99 ID:KVQcdoM40<> テスト <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/19(水) 23:58:02.75 ID:pE2ESVMl0<> 乙
続きが来たか
ところで、吹雪が初期艦の提督の姿が見えないんですが…
<>
◆WHzNz9zb1A<><>2015/09/06(日) 03:59:24.51 ID:vas4fTRF0<> イベント終わったらなので月曜日に来まする
それまでE5Gにこもります <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/09/06(日) 16:10:09.96 ID:/lQMDzXDO<> イベント頑張って下さいノシ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/09/07(月) 00:03:19.95 ID:taFOfR/DO<> >>1さんはスパロボBXは買いましたか? <> まだ買っておりませぬ
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 02:45:24.28 ID:Kssodf2Io<> (´・ω・`)「今回のイベント楽しかった(純真)」

遅ればせながら、よろしくです <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 03:28:38.08 ID:Kssodf2Io<> ――そして現在、夕刻の第壱百八鎮守府――


スレッガー「駄目だ、全然わかんね」

カツ「ちょっと、諦めるんならこっち手伝ってくださいよ!」

ニコル「叢雲さん、これはこちらでよろしいですか?」

叢雲「あっ、はい! お願いします!」

グラハム「……」


 唸りながら寝転がるロウ大佐と、いつの間にか荷物に囲まれた自分。
 その外周に更に荷を積む三名と、執務室はのどかな混迷に包まれていた。
 この物資は、鎮守府に供給される配給である。
 前もってカタログに書き込んだ内容に添って、定期的に無料で食料備品を得ることが出来る。
 提督の受けられる恩恵の一つであり、私がここから出る言い訳を潰す忌々しいシステムでもあった。

 
グラハム「済まないおふた方、このような雑用を押し付けてしまうとは……」

ニコル「気にしないでください、引越の手伝いみたいで結構楽しいもんですよ」

スレッガー「ホワイトベースでもよくやったなあ、手伝い。なあカツ坊」

カツ「じゃあ手伝え三十路前!」

スレッガー「うっ、急に頭痛が……知恵熱かな?」

叢雲「これはこっち……と」

叢雲「で? 進捗を聞いてもよろしいかしら、頭脳労働担当殿?」

グラハム「さっぱりだ」

スレッガー「お手上げ」

叢雲「ぐうたら亭主でも見てる気分だわ」

スレッガー「耳が痛いよ、良妻賢母殿」


 ため息とともに机上の鎮守府周縁見取り図に目を落とす。
 書き込まれた赤いインク文字は、この鎮守府への侵入が事実上不可能であることを示している。
 
 そう、あの艦娘がどうやって侵入したか、皆目検討もつかないのだ。
 
スレッガー「東西の陸路はケンペイが定期的に見廻ってる上に、ナリコ・トラップだらけで通り抜けるのは至難の業だ」

スレッガー「あれを越えられる練度の艦娘がグラハムの覗きに気づかないわけがねえしな、ボツだ」

グラハム「おい」

叢雲「厳然たる事実でしょうに。猛省なさい」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 03:53:24.86 ID:Kssodf2Io<> ニコル「海路はそもそも港に出撃禁止のネットが張られてますし、監視網も厚めときたもんです」

ニコル「っと……海防巡視の目もありますから、いくら人出が少なくなっていてもここからの侵入は陸路を混ぜないと難しいですね」


 20キロの飲料タンクを3つ抱えたアマルフィ中佐が話に入ってくる。
 驚く叢雲を尻目に、地図の黄色い枠線……憲兵隊の巡回範囲を指差して、なぞっていった。
 綺麗に鎮守府を囲むその枠線が示すのは、万全の警備体制か、私の檻の頑丈さか。
 ともあれ、ケンペイが怠けていたという以外の答えが出せないのが現状なのだ。

カツ「マリダ・キカンのケンペイはそうそう手を抜いたりはしないと思うけどね」

グラハム「ほう、詳しいのか」

カツ「そこまでではありませんが……貴方、一回脱走騒ぎ起こしてましたよね?」

カツ「その後マリダ中尉がキツイ訓練させたらしくって、僕が貴方に会う前に全員すごい顔してましたから」

叢雲「……それはダメージ的な意味?セイシンテキな意味?」

カツ「両方」

ニコル「……昨日今日で、ケンペイ三たちが同じ轍を踏むとは思えない、というのには同意です」

スレッガー「だが、現に侵入してたわけだしな」

グラハム「何かある、な。もう一つ、ケンペイを欺ける要素が」


 また、ため息。
 今度はこの場の全員が発したものだ。
 ケンペイに気取られぬように、というのも難しいもので、今外では三人の初期艦が作業に見せかけて警戒をしてくれている。
 いつまで続くかもわからない苦肉の策だけに、今日中に事を運べないことが焦りを後押しさせてくる・
<>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 04:20:47.88 ID:Kssodf2Io<> グラハム「……」

 正直、ケンペイに話してしまってもいいのでは、と思う自分がいる。
 だがそれでも、密に進めるべきというロウ大佐の意思は固い。
 過去に何があったかを知らぬ自分では、ベテランの彼に反対するに足る理由を見いだせない。
 そう思わせる眼を、時折彼が見せるのだ。

スレッガー「しゃーねえ、今夜辺り張って様子を見るかんねえ」

カツ「それなら僕の鎮守府に移動しますか? 距離的にも近いですし、グラハムさんたちにも迷惑が……」

グラハム「いや、目的を考えれば此処にいてもらった方がいいはずだ」

グラハム「それより、貴官らの任務に支障は出ていないだろうか? 如何に懸案事項とはいえ、此処に提督が四人もいるのだが」

ニコル「それに関してはお気になさらず。哨戒遠征任務を出していますから、海防の初動に遅れることはありません」

ニコル「幽霊船などは流石に厳しいですが……あれは本来予兆があるくらい察知が容易な存在ですから」

グラハム「ほう……」

カツ「羅針盤が探知できなかった前回のものは、そうとう珍しい事例なんですよ」

スレッガー「……恣意的なもんを感じるレベルには、な」

グラハム「何?」

スレッガー「聞き流してくれ、重要な事じゃねえ」

カツ「……」

叢雲「……?」

ニコル(あぁそっちの事情か……エゥーゴ……二人も大変だなあ)

ニコル(まぁ、僕もなんだけれど、ね。電はうまくやってくれてるかな?) <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 05:01:56.67 ID:Kssodf2Io<> ニコル「では、もう少し此方におじゃまするということで、いいですか?皆さん」

ニコル「流石に寝泊まりまではご迷惑でしょうから、程々で、ね?」


 アマルフィ中佐が手を叩いて、意見をまとめた。
 一同が賛同の意思を示す中、不穏さだけは残り香のように辺りを漂い続けていた。

 さて、どうしたものかな。


 もう見当は付いているのだが、この状態で言うのは得策といえるのだろうか。


――一方、呉鎮守府本部北西海岸――


『どうだ、やはりいたか』

吹雪「はい、司令官。大破着底状態ですが、間違いありません」

吹雪「駆逐艦級深海棲艦、ロ級です」

『間一髪……だな』


 倒れた木々と崩れたコンクリートの陰、嵌り込むように流れ着いた悪夢の具象。
 深海棲艦という存在を囲むのは、かつての呉本部襲撃を一番に察知した駆逐隊の面々だ。
 この個体を発見したのは、付近の浮浪者であった。
 今は活動困難なまでに怨念を浄化されているため動かないが、もう少しでも状態が良ければこの辺りは惨事となっていただろう。

秋雲「ギリギリ自爆しないレベルで生かしとくとか、何処の馬鹿か知らないけど丁寧な手抜きするよねえ」

響「どうせ人粋派閥でしょうよ。変わらないね、連中は」

由良「そこまでよ二人とも。確証がないことに結論を繋げない、提督の持論でしょう?」

響「高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)の方が聞き慣れてるかな」

秋雲「それなー」

由良「もう!」

『お前たち、任務に集中しろ』

『このドレル・ロナの信頼を託されていることだけは忘れてくれるなよ』

秋雲「出たよ殺し文句ぅ……」

響「それを言われちゃうと、やる気を出さざるをえないね」


【ドレル・ロナ】

【階級:大佐 提督歴:一年】

【初期艦:吹雪】

【主力艦:瑞鶴・翔鶴 千歳(追記:主力艦枠が煩雑です。簡略化してください)】

【(修正)主力艦:瑞鶴・翔鶴 次点:千歳(追記:違う、そうじゃない)】

【提督補正(テイトクスキル):高貴なる者達の尖兵(クロスボーン・バンガード)】

【備考:前期着任提督の中で最高評価を受けていたものの、本人の血縁やその周囲の評判からその立場は常に薄氷の上にある。スキル効果を最大限生かした重量編成と運用戦術を好む】


<> 出すか死ぬほど迷ったけど出しちゃう
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 05:41:05.14 ID:Kssodf2Io<>
吹雪「司令官、捕縛完了しました。これよりケンペイ到着まで付近を調査します」

ドレル『任せた』


 駆逐ロ級を白い鎖が締め上げ、青白い火花を散らす。
 このようなことが出来るのも珍しいことだが、実際ほとんど意味のない行為であることも彼女らはよく知っていた。
 これはいわば「点数稼ぎ」だ。
 捕縛という困難な事例を行うことで提督の点数を上げる、棚ぼたのようなものであった。

長波「どうせ中身は皮の無えまんじゅうみてえに怨念ぎっちりだってのに、欲しがる学者の気がしれねえや」

千歳「なにか新しいことが分かるかもしれない、という意味では、これも貢献よ」

長波「そりゃそうだが、ね」

ドレル『分かっている。この場で始末したほうが後顧の憂いを断てる、その懸念は正しいものだ』

ドレル『だが上を疑い続けてもきりがない。有効活用されると期待して送るべきだ』

長波「あんたを疑うつもりもなければ、点数稼ぎに否定的になるつもりもないよ、閣下」

長波「でもさ、やっぱり付き合う相手は考えた方がいいよ。あいつらの贅沢にあんたの金が飛ぶなんて、おかしいじゃないか」

ドレル『……そこまでだ。ケンペイが来た、引き渡し後すぐに帰投しろ』

長波「ちっ……りょーかい」

千歳「……」



吹雪「! 由良さん、これ……」

由良「どうしたの、吹雪」

吹雪「このロ級の腹の弾痕……多すぎると思いませんか?」

由良「……サイズからして12.7cm砲だとは思うけど、確かにそうね」

吹雪「この位置にこの数撃ちこむということは、恐らく接射かそれに近い距離での砲撃……」

由良「それで殺しきれないということは……このロ級と戦ったのは」

「「単独の、練度の低い建造直後の駆逐艦」」

由良「……」

吹雪「……」

由良「だからなんだって話ね……犯人探しなんてうちの柄じゃないし、ね」

吹雪「ですよねえ……はぁ」

由良「さっさと渡して帰りましょう。今日はこれでおしまい、ね?」

秋雲「はーい」

響「はーい」


 ・ 
 ・
 ・ <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/08(火) 05:46:00.19 ID:Kssodf2Io<> 終わらなかった(半泣き)

ドレルの最期は分かってないんだよなあ・・・個人的には、まあそういう結末だったということで一つ。
ではまた、明日 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/09/08(火) 22:39:03.25 ID:Y2pSNhz4o<> この世界で出てくるガンダムキャラって作中で死んだ描写のあるキャラばかりってことは、バーニィもワンチャン……あ、いや、小説版じゃ奇跡的に助かってたか…… <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/09/09(水) 04:19:55.84 ID:jHpNtScoo<> だみだ、お呼ばれ後だとやっぱりこんな時間。厳しいです
申し訳ない <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/09(金) 23:34:24.86 ID:DUxi46s30<> なんかこう、グラハムはいざとなったら自ら深海棲艦と戦いそうなイメージ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/10(土) 01:53:37.65 ID:ExZm7BJDO<> >>272
ヒーロー戦記のアムロみたいに変身するグラハムを想像してしまった・・・ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/10(土) 18:30:40.13 ID:/kHpJdVo0<> 精神状態によって変身内容変わりそう。けどどんな状態でも愛を叫んでそうだ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/11(日) 18:23:52.79 ID:EQKGxALDO<> 弱ってる→フラッグ
怒り→スサノオ
元気→ブレイヴ
みたいなかんじ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/12(月) 00:58:42.52 ID:hs2H8cL1o<> 楽しむ→バルキリー <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/10/12(月) 02:29:46.49 ID:2tmowe6DO<> 深海棲艦の瘴気で勇者エクシアと戦ったマスターガンダム(マスラオ)みたいになることも・・・ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/08(日) 11:44:46.24 ID:wTQdcceDO<> 続き待ってます <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/09(月) 00:09:22.27 ID:hKXGv7fZ0<> あれですね
次、二週間過ぎたら打ち切りとしましょう
もう一年過ぎてんですよ
申し訳がたたんですよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/09(月) 00:27:24.63 ID:71iupiKso<> ある程度まとまった量書いてからスレ立てて投稿って形はどうっすか?
このSS面白いから打ち切りENDはきついっす <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/09(月) 00:50:02.94 ID:hKXGv7fZo<>  ・ 
 ・
 ・ 
 ・

「行きましたか」

「ああ、行った」


 光の差さぬ下水の闇、先ほどのロ級の漂着場所から見れば目と鼻の先。
 大きく口の空いたトンネル状の排水口を奥から眺めるは、二人のケンペイ。
 イカマントとも呼ばれる憲兵隊官給マントに身を包んだ小柄な少年ケンペイは、同じくマントを羽織る長身の浅黒い肌の青年ケンペイを見上げて、笑った。


「見事ですね、彼女らはアレの痕跡を辿れませんでした」

「いつもやっていることだ、今更褒めるな」

「当たり前にこなせるから賞賛の価値があるんですよ」

「おだてられても木には登らんぞ……それに、一人、気づいていた」

「ええ、千歳=サンですね」

「彼女はドレル大佐の立場を理解しています、ややこしいことには近寄らないようにとの判断でしょう」

「ありがたいことだ、おかげで仕事が捗る」


 二人は振り向く。下水道の奥、本来なら漆黒の虚ばかりが広がるはずの場所を。
 そこには、どす黒く腐って崩れ落ちたコンクリート壁と、本来無いはずの、その先の空間。
 舗装された、幅5メートルの長い長い【道】が延々と延びていた。


「運のない……いや、むしろ幸運だったのでしょうか?」

「さてな。だが私たちには関係ないことだ」

「彼女のこれからは、我々が作るものではないのだから」

「……重々、承知を」

「対象はロ級との交戦で負傷していると推測される。可能なら保護するが、だがもし抵抗されたなら……」

「我々のやり方で、ですね」

「何時も通りだ」


 穴から【道】へ、滴り落ちる汚水を避けつつ降り立つ二人。
 二人の顔には、かたや銀褐色の金属メンポ。
 かたや黒褐色の特殊繊維メンポが瞬時に形成されていた。

「行こう、ドレッドノート=サン。時間だ」

「ええ、スローンズ=サン。少し急ぎましょう」


 ・ 
 ・
 ・
 ・


叢雲「脱走艦の居場所が分かったぁ?!」

グラハム「シーッ……!!」

叢雲「っ……!!」

<>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/09(月) 01:33:00.68 ID:hKXGv7fZo<>
 突拍子も無いことに素っ頓狂な声を上げ、それをお互い口を手で抑えあって……こんなことを厠で繰り広げている私たちは、実に滑稽に見えることだろう。
 だが、本当に突然のことだった。
 彼が、グラハムが脱走艦の侵入経路はおろか、現在地を特定したと言ってきたのは。

叢雲「……どうやって突き止めたのよ、さっきまで頭抱えてたのはあんたと大佐でしょ?」

グラハム「確定はしていないが確信はある、というべきかな。とにかく時間がない、一緒に来てほしい」

叢雲「それは構わないけど……他の三人には話したの?」

グラハム「まだだ」

叢雲「ならすぐに言わなきゃ! 私が行くわ、ちょっと待ってて……」

グラハム「駄目だ、不都合が出る」

叢雲「え?」


 表情は硬かったが、焦りや迷いは全く見えない。
 ただただまっすぐに見つめてくる彼の静かな視線に、何となく目をそらす。
 というか、近い。大変に、近かった。主に顔が。


グラハム「説明は移動しながらで構わんな。いくぞ」

叢雲「あっ、ちょっ……もう!」


 沈黙を肯定ととらえたか、我慢が限度を超えたのか。
 彼はそのまま手を引き、競歩でどんどんと歩き出す。
 歩幅の違いからちょっと小走りに追いかけるけれど、途中で歩きづらくて、手を振りほどく。
 そして、そのまま隣に並んで、高い位置の頭を見上げれば、それを合図に、険しい顔が口を開いた。
 向かう先は工廠横の入渠ドック。
 グラハムが彼女に遭遇した現場だ。


グラハム「まずひとつ、偶然侵入できたという可能性は皆無だ」

グラハム「万が一それがあったとして、同じ賭けを脱出時にもやらなくてはならない。ここは侵入困難な要塞以前に、脱出不可能な私の檻でもあるのだからな」

叢雲「じゃあ、出入り可能な侵入経路は確保されている……と考えていいわけね」

グラハム「そしてふたつ目、今回の案件は偶発的な事故に近いものだ」

叢雲「……?」

グラハム「考えてみろ叢雲、脱走犯がどこかへ計画的に侵入するとして、だ」

グラハム「目的を有するならまず侵入しやすい場所を狙うはずだ。なぜわざわざケンペイが蔓延るこんな廃墟に来る?」

叢雲「う……確かに、あいつら正面門に堂々と立ってるものね……」

グラハム「天敵に喧嘩を挑む馬鹿なら、恐らく私は無事ではなかったろうしな」

グラハム「そして彼女が入渠用浄化水に浸かっていたということは、すなわち負傷しているということ」

グラハム「そして更にッ!」

叢雲「!」
 

<>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/09(月) 04:32:07.22 ID:hKXGv7fZo<>  
 彼が掲げた携帯端末には、一件の海軍広報が着信されていた。
 題名は【先日の内地侵攻型深海棲艦の残存個体の撃破報告と分布について】。
 その横には、小さくプリントし直された周辺海域の地図。
 相当数の残党が撃破されていること、それもここからそう遠くない海域でされていることが示されていた。

グラハム「彼女に入渠の必要性があったということは、深海棲艦と交戦したということ」

グラハム「その際、偶発的に此処に通じる道ができた可能性があるとするなら……」

グラハム「奴らの攻撃で、以前見た建造物のようにコンクリートやアスファルトヘ穴が空くこともあるだろう」

叢雲「まさかあんた……!」

グラハム「そう! 彼女は我々から見えない位置……つまり!!」

グラハム「下水にいる!!!」


 ――――――――

グラハム「……………!!!」

叢雲「……」

グラハム「ぬぅぅぅ………はぁッ!」

叢雲「……」


 ……一応、補足しておく。
 基地そのものに浄化作用と循環機能があるここは、確かに地下も多くの設備を有していたりする場合が多い。
 下水も、もしかすれば侵入経路になりうるかもしれない……が・


叢雲「そもそもA監視対象のあんたの檻で、下水は普通真っ先に封鎖しとくわよねそりゃ」

グラハム「……むう……」

叢雲「ま、私としてはあんたの空振る姿が見れただけ良かったけど。ぷくく」

叢雲「で? 実際のところ、どうなの」

グラハム「……」

叢雲「プランAが駄目なら終わり、てタマでもないでしょ。司令官殿」
 


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/11(水) 18:47:10.55 ID:dnERsdTDO<> >>279
面白いSSが打ち切りになったと思ったら一年後復活とかあったりしますしそこまで気にしなくてもいいと思います。
打ち切るには勿体無い良い作品ですので時間がかかっても打ち切らずに続きを書いていただきたいです。 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/23(月) 00:49:05.77 ID:ngC+RrEX0<> 今夜、また来ます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/23(月) 18:49:25.05 ID:aQ8VTmKiO<> よろしくお願いします <> ◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/24(火) 03:51:19.76 ID:e/uNOisao<> 帰宅。
では続きをば <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/24(火) 04:43:10.40 ID:e/uNOisao<>
 顎に手を置き、少しばかりの考える仕草。
 それは、どう言えば良いのか、という迷いに見えた。
 そうしてから、取り出したのは携帯端末ではなく、一冊の手帳。
 真新しい官給品は、早くもページに寄れが出来つつあった。


グラハム「確証はない、決定的な情報もない。そもそもあったら問題ではないかとさえ考えている」

グラハム「だが、後はこれくらいだろうな」

叢雲「……これは?」

グラハム「以前、この鎮守府を襲ったテロの詳細と、その顛末」

グラハム「我々の前任者の結末等々、此処に至るまでの簡易的な写し書きだ」


 渡された手帳には、意外にも見やすい達筆で連々と綴られていた。
 前任・マリーダ・クルス中佐。秘書艦と国道〇〇号を走行中、反海軍武装勢力の襲撃を受け死亡。
 秘書艦・漣。同上。
 マリーダ……聞き覚えがあるようなないような……ともあれ、心の中で手を合わせた。御霊、安らかなれ。
 ただ、その後に強調の円で囲まれた部分。
 そこが目に留まると、思わず彼と顔を見合わせた。
 

叢雲「……どこでこんなの見つけてきたの? あんた」

グラハム「次から次へ、新情報というのも申し訳ないがね」

グラハム「こう見えて、猜疑心の強い男なのだよ。グラハム・エーカーという男は」


 一枚の地図、簡単なこの鎮守府の見取り図を取り囲む矢印たち。
 地図自体は先ほど見たものと相違ない、取るに足らない代物でしかない。
 だが、囲んでいるもの。鎮守府へ小さな矢印を飛ばす大きな矢尻の集団。
 それが武装勢力だと知ってしまうと、背筋に嫌な冷たさが走るようだった。


グラハム「彼らが襲撃してきたのは深夜二時過ぎ、海防夜間警備任務の帰還を待ってからという徹底ぶりだ」

グラハム「まず施設めがけての一斉砲撃、頑丈な工廠や資材倉庫には特に念の入った回数を仕掛けている」

グラハム「出入り口、そして港にも即座に装甲車と小型船舶の同時突入。装備もその後接収したものを見ても相当な重武装だ」

叢雲「艦娘を殺したいだけなら、ここまでのはいらないわね……」

グラハム「海に出られないようにしつつ、陸で確実に徹底的に仕留める手口」

グラハム「そして遂行速度と確実性を重視した電撃的なテロ行為……完全にプロの手際だ」



グラハム「だが、誰も死ななかった」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/11/24(火) 05:42:36.67 ID:e/uNOisao<>
 そう、強調された箇所の記述。
 この襲撃において、艦娘は誰も死亡しなかったのだ。 


グラハム「艦娘と提督は常に【縁】によって鎮守府の加護を介し繋がっている、その繋がりはお互いが生きている以上認識でき、【縁切り】以外では死を以てのみ断ち切れる」

グラハム「講師の話を引用して思考するなら、マリーダ中佐の死によって彼女らは真っ先に異変を察知できた、ということだ」

叢雲「でも、その後の襲撃を、誰も死なずにくぐり抜けたとなれば話は別である……と」

グラハム「いかにも」


 この鎮守府が襲撃以前にも何らかの不穏な動きを察知していたらしきことは、手帳にも書かれていた。
 それが分かっていながら警備もなく、みすみす提督を暗殺されていることなど、追求したいことは山ほどあった。
 それを飲み込んで考えてみても、だ。
 

叢雲「包囲された鎮守府から抜け出すための出口が、もしあるとすれば……」

グラハム「無論、それは入り口として機能するだろうということ」

グラハム「そして……」

叢雲「?」

グラハム「そのことにケンペイが、マリダ中尉が気づかないはずがない、ということだ」

叢雲「あっ……!?」

グラハム「……言ったろう、確証はない。だが時間もないのだ」

グラハム「もしその抜け道があるなら、既に高確率で彼らが調査、もしくは追跡を開始しているやもしれん」

グラハム「手負いの脱走艦一人、遠くへは逃げられまい。昨日今日の時点では、まだ可能性があるということだ」

叢雲「抜け道の中に……まだ隠れている、と?」

グラハム「ただの勘さ」

グラハム「今思えば、ほんの少しだけ見えた彼女の瞳に、あってはならぬ光を見た気がする」

グラハム「それが、そう思わせるのかもしれんが」

叢雲「それは、何?」

グラハム「――諦観だ」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/25(水) 00:56:54.76 ID:2WGtjPwDO<> 続き待ってました!! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/11/25(水) 00:59:34.91 ID:LGkDiPIwo<> 来てたか! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/25(水) 01:00:01.14 ID:LGkDiPIwo<> あげゴメン <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/11/25(水) 17:46:30.02 ID:PJIuol3ZO<> 乙
こいつが欲しかったんだ
打ち切りだなんてとんでもない
勿体無いっすよ
<>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/12/09(水) 03:20:18.12 ID:sOoipi3A0<> 今夜にまたお会いできますれば
まっこと申し訳ない <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/12/11(金) 04:04:45.33 ID:MTcjzCmDo<>  諦観。
 その言葉の意味は、どう取ればいいのだろう。
 彼の考えていることが何となく分かってしまうのが、かえって事態の深刻さを重ねているようにも感じた。


グラハム「急ごう、とにかくこうなれば他の面々にも事情を……」


 そうして、グラハムが立ち上がった瞬間。


『その必要はありません』

グラハム「!!」

叢雲「え……?!」


 私達の前に、【彼女】が現れた。
 失念していた、あまりにも意外なタイミングで――。


―――――


「なあんだ、まだ生きていたんだ」

「とうの昔に餓死か自害でもしたかと思ってたぜ、お嬢ちゃん」


 暗い、暗い、洞穴の中。
 うずくまった桃色の髪の少女が、二人のケンペイに囲まれていた。
 舗装された床に粗く塗られた冷たい壁の重み、そして心ない言葉が彼女の心を凍てつかせていく。
 薄汚れた華奢な身体が、ホコリまみれの空気の中で力無く顔を上げる。
 見下ろす二人の男女の眼差しが、口から出した以上の暴力を彼女めがけて降り注がせた。


「あんたにはアイサツも要らないわね、手間かけさせてくれたもんだわ」


 女性の右手には三本のクナイ・ダート、男の両手には改造された大口径長銃がそれぞれ握られている。
 抵抗すれば即座に無力化、ないしは殺害するための装備。
 一目瞭然の恫喝・牽制であるが、もはや相対する少女にそんな意志も力もなかった。


「来てもらうぜ、脱走艦。お前の存在がバレると色々面倒なんだ」

「ちょっと、一応は生け捕り重点よ」

「ガラクタの申し開きなんぞ待つ気はねえ」

「呆れた……好きにして頂戴」


 抵抗どころか立つことすらままならぬ彼女に、長銃の銃床を掲げるケンペイ。
 気絶させて運ぼうというのだろう、たしかに彼らの身体能力なら艤装付きでもやすやす飛び回れるはずだ。
 だが、その衝撃を弱った彼女に与えるとなれば、話は別。
 万が一を考慮する余裕が無いわけではない。
 どうでもいいのだ、彼らにとって、その結果がどう転ぼうとも。


「じゃあな……!」

  <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/12/11(金) 05:01:19.56 ID:MTcjzCmDo<>
 振り上げられたバイオバンブー製の銃床が、決断的に振り下ろされる。
 少女は避けない。むしろ、待ち望んでいたもののように少し顎を上げさえした。
 澱んだ瞳がゆっくりとまぶたの中へ消えていく。
 これが救いだとでも、いうかのように。
 もういいと、言い聞かせるように。


 ――だが、それは届かなかった!


「Wasshoi!」

「グワーッ!?」

「ワッザ?!」


 少女の頭上、寄りかかる壁から突然発せられる轟音。シャウト。
 彼女を守るように一直線の軌道で突き出たそれは、碧色の光をまとう拳であった。
 迫る銃床を弾き飛ばし、驚く少女の頭に優しく置かれたそれは、暗闇の中でも雄々しくその輝きを絶やさない。
 身構える二人のケンペイの前で、壁は本来の役割……隠し扉として、その役割を果たす。
 
 開かれた先、夕暮れの紅い光とともに現れたのは――ケンペイ!
 国防色の軍装、長い赤毛に碧眼、顔を覆うメンポには【憲】【兵】の二文字が燃えている!


マリダ「ドーモ、憲兵隊マリダ・キカンのマリダ中尉です」

 
 堂々としたアイサツが、風とともに通路へカラテを満たした!
 法の守護者のエントリーだ!



叢雲「ねえ……あんた、出番取られてない……?」

グラハム「言うな叢雲……言うな」


――――

あきつ丸「ドーモ、同じくあきつ丸です」


Bダーガ「ドーモ、マリダ=サン。あきつ丸=サン。憲兵隊【イタイノハキノセイ】のブルダーガです」

Vパッラ「ドーモ、同じくヴェルデパッラです」


 二人のケンペイは、構えていた武器を下ろし両手を合わせ一礼した。
 先程まで威圧だけで射殺せそうな殺意を発していたにも関わらず、奇妙な光景だ。
 叢雲曰く、彼らはこの【アイサツ】という作法を神聖視しているのだという。
 だがその眼だけは、絶えずこちら側の脱走艦とマリダ中尉に向けられていた。


Vパッラ「そいつを渡してもらおうかマリダ=サン、そりゃこっち側の艦娘だ」

マリダ「断る。この鎮守府は我らの管轄下にあり、この艦娘は我らが庇護すべき対象だ」

マリダ「どうしても欲しいというのであれば正式に手続きを踏み書類を提示してもらおうか」

Bダーガ「ねえマリダ=サン……それが出来るんなら最初っからやってるわけ、分かる?」

Bダーガ「第一そいつも、あんたからしたら軍法に背いた脱走艦……庇い立てするような義理もないんじゃなくて?」

マリダ「……」

グラハム「中尉……」 <>
◆WHzNz9zb1A<>sage saga<>2015/12/11(金) 05:59:02.62 ID:MTcjzCmDo<>  男の方は大きな緑色の防護バイザーに目元を隠した褐色の青年。
 服装は国防色の軍装ではなく、鎧のような装甲防弾衣に身を包んでいる。
 
 女の方は顔を白い布……メンポで覆い、目元は強い化粧を施した派手目な外見。
 ノースリーブにへそまで見せる刺激的な軍装も、マリダ中尉とは対照的だ。

 
 両者を並べてみても、同じ職種には全く見えない。
 叢雲の言うとおり、ケンペイと一言で言っても違いははっきりしているようだ。
 

あきつ丸「ひどい怪我なのであります……今、手当をさせて頂く」

叢雲「大丈夫? もう平気よ、安心して」

脱走艦「!?……?!」


 我らより二歩前に出たマリダ中尉の後ろで、未だ状況を飲めぬ脱走艦。
 うろたえる彼女の肩を、左右から支えるように叢雲とあきつ丸が寄り添った。

 「わからない」なんて言っていた彼女であったが、いざとなるとこうして真っ先に支えようと前に出る。
 光栄な事だ、彼女が私の一番最初の部下なのだから。


マリダ「その口ぶりを見れば、やはり正規の届け出はしていないと見える」

マリダ「お前ら人粋派のやり口はいつもそうだな。反吐が出る」

Vパッラ「あんたにどう思われようが知ったこっちゃねえんだよ、こっちのやり方とやかく言える立場かコラー!」

Bダーガ(シャムス、スラング出てる。止めなよみっともない)

Vパッラ(おい、ビズ中はケンペイネームで呼べって……!)

Bダーガ(はいはい)

Bダーガ「……で? どうしてくれるのかな、マリダ=サン」

Bダーガ「【脱走艦の捜索任務に協力して頂いた】のでも、【脱走艦を不当に匿い捜査を妨害した】でも」

Bダーガ「こっちとしてはどっちでもいいんだけど……?」

マリダ「……屑が」

グラハム(まずいな、連中退く気は全く無いらしい)

グラハム(……ここは一つ、弄してみるか……)


Vパッラ「あぁ……?」

Bダーガ「んー?」

マリダ「!」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/12/12(土) 18:14:52.26 ID:3NUMIeKlo<> 乙乙

Bダーガさんは犬に食われそうな名前ですね… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/12/12(土) 18:58:36.86 ID:lpubLDBLo<> おつ
あっこれってスタゲのがモデル? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/12/14(月) 12:52:28.26 ID:PL3v/YuxO<> ガンダムだと思ってたら忍殺じゃねーかと思ったらやっぱりガンダムだった <> 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします<>sage<>2016/01/05(火) 00:25:19.09 ID:y/1ZGiaDO<> あけましたねおめでとう <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/25(月) 01:59:25.67 ID:12fBV2Jfo<> 追いついた
面白いので続きはよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/31(日) 20:48:58.92 ID:oasKx+DU0<> そういえば00世界って何人ぐらい名有りの人死亡したんだろう <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/04(金) 05:33:01.88 ID:KFjSKewPo<> そし <>