◆3QM4YFmpGw<><>2014/08/22(金) 11:13:11.82 ID:DXJvq+CU0<> それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
  たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/


part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/


part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/


part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/


part5
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/


part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/


part7
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/


part8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/


paer9
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/


part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399560633/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408673581
<>モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part11
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/22(金) 11:14:03.23 ID:DXJvq+CU0<> ・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは基本的に>>980
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html

モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」@wiki掲示板
http://www3.atchs.jp/mobamasshare/ <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2014/08/22(金) 11:14:38.83 ID:DXJvq+CU0<> ☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪の悪魔』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪に関連する固有能力を持つ。『怠惰』『傲慢』は狩られ済み。
初代大罪の悪魔も存在し、強力な力を持つ。

――――

☆現在進行中のイベント

『秋炎絢爛祭』
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋……秋は実りの季節。
学生たちにとっての実りといえば、そう青春!
街を丸ごと巻き込んだ大規模な学園祭、秋炎絢爛祭が華やかに始まった!
……しかし、その絢爛豪華なお祭り騒ぎの裏では謎の影が……?

『オールヒーローズフロンティア(AHF)』
賞金一千万円を賭けて、25人のヒーロー達が激突!
宇宙人も恐竜も海底人も悪魔も未来人も魔法少女も大集合!
賞金を勝ち取るのは……誰だ! <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 18:58:06.49 ID:vmuM46SJO<> >>1乙

最初の投稿はもらったぁ!という事で、新田美波ちゃん借りて投下開始します。

時系列は二日目です。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:00:38.70 ID:vmuM46SJO<> 「でこぽぉおおん!」

「きゃ!?……な、なんだろう?」

京華学院、教習棟三階。

その一室に、ちょうど私服に着替えた新田美波の姿があった。

今の今まで宣伝に回っていた彼女なのだが、ちょうど交代の時間になるため一度下がっていたのだ。

「シルシルシルルゥ…」

「ん…ありがとう」

「シルル」

「終わったら、洗わないとね」

「シルシルゥ」

そして、その傍らには学園祭の準備期間あたりから美波に付いて回っている大きな蠍の姿もあった。

……ただ、広告用にペタペタとシールやらイラストやらでデコレーションされてたりする。

ちなみにだが、このコンビがかなり目立つため売り上げが爆上げしてたりする。

……………大半の客が男なのはご愛嬌である。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:02:17.50 ID:vmuM46SJO<> そんな一人と一体だが、今現在は他に誰も居ない教室に隠れていた。

…と、言うのも、

『カナリマナイタダヨコレェ!』

「!………また来た…」

外部からは容易く入って来れないハズのカースが、何故か教習棟内を闊歩しているからだ。

今も一体、教室の前の廊下を通り過ぎていく。

「……どうしよう」

…普通なら、こういった事態に陥ると多少なりとも平常心が乱れるものなのだが、美波はここ最近トラブルに巻き込まれたり色々人と関わってく内に多少なりとも慣れてしまった感がある。

とはいえ、それでもやっぱり殆ど一般人。

例え教室内が安全なのがわかっていても、多少の心細さと怖さが付きまとうのだ。

そして、その気持ちに拍車をかける事態がもう一つ。

「…大丈夫かな、みんな」

「シルシルシルルゥ…」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:03:52.12 ID:vmuM46SJO<> 一部の友人から返事が返ってこないのだ。

最後に見たのは、教習棟の中だったからきっと避難してるとは思うけど。

それでも教室の外をカースが歩いているのを見ると不安が募る。

「シルル」

「ルピー、どうしたの?」

「シルルシルゥ」

そんな美波の内心を知ってか知らずか、蠍──マキナ・ルピー(尻尾に彫ってあった)は尻尾をぶんぶん動かして教室の外を示す。

「…行こうって事、かな?」

「シルゥ」

コクコクと肯定が返ってくる。

「…そう、だね。うん、ちょっと怖いけど、ルピーも居るもんね」

「シルゥ」

これまた普通であれば、そこにとどまるという選択肢を選ぶ人が多いが、幸か不幸か現在の彼女は自衛手段を手に入れていた。

「…よし、いこっか!」

「シルル」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:05:16.29 ID:vmuM46SJO<> そして美波が決めた直後。

ガチャッ、と。

ルピーの体が畳まれ、変形し、再構成される。

繋がり、合わさり、分かれ。

「ん…いつ見ても、凄いなぁ」

そして出来上がったのは、濃い蒼紫色の大型二丁拳銃。

見る人が見れば、サブマシンガンっぽい見た目である。

そしてそのグリップの下には片刃の長いブレードが付いており、ナックルガードが付いてたり、更に二丁をつなぐ鎖が背中に回っている。

…実は、美波がこのガイスト形態の事を知ったのはほんの数日前だったりする。

なのでもちろん本人には戦闘の心得など無いのだが、身近にいる人物がことごとく型破りだったり、一日目の騒ぎを経験した事で慣れてしまったのか、多少大胆になっていた。

…ちなみに、初めて使った時の記憶は一部無かったりする。

我に返った時にはカースが蜂の巣になっていたのだ。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:06:45.17 ID:vmuM46SJO<> 「…美波、いきます!…なんて、ね」

まぁそれでも、おっかなびっくりである。

ちょこっと扉を開けて辺りをきょろきょろ、なにも居ないことを確認してから廊下にでる。

「…そういえば、なんでカースが入って来てるんだろう」

と、廊下に出てからその事にふと気づく。

確か、連絡のついた友人の話では入り口はヒーローや能力者が守っている、らしい。

なんか『ヒーローなう』とか『アンティークショップのお姉様超カッコいい』なんて内容と一緒に画像が届いたから間違いない。

「今も守ってる…よね?」

気になって手近な窓から見下ろせば、今もガッチリ守られている事がわかる。

「と、とりあえず人が居る所に行こう」

不気味に思いつつも、自分が考えても仕方ないと思い切り替える。

今いる場所は、どちらかと言えば各出店で使う道具を置いている区画。

なので、とりあえずはこの区画を出ることを目標にする。

「下に行こ────」

『マナイタニシヨウゼェ!』
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:08:00.43 ID:vmuM46SJO<> ────いやぁぁぁあああ!!?」

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチッ!!!

『ダレガマナイタヤ…』

「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」

カースと出会い頭に乱射乱射乱射、弾が切れても乱射。

カースどころか後ろの壁まで蜂の巣である。

もちろんカースは四散した。

「あ………やっちゃったぁ…」

勢い余って残段数もゼロだった。

「うぅ………誰もいない、よね?」

きょろきょろとまた周囲を伺う。

幸い(?)やはり近くに誰も居ないのか、誰かが出てくる事は無かった。

「……り、リロードしなきゃ」

そしておもむろにスパッと壁を斬りつける。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:08:59.18 ID:vmuM46SJO<> ………端から見れば何かの事件現場である。

悲鳴があって弾痕、消えていく黒い泥、仕舞いには切り傷によるマーキング。
 
軽くホラーである。

まぁ実際は、何かを斬ったり削ったりする事でリロードされるという話だが。

とにもかくにも、ひとまずの危機は去り。

「…気をつけない──」

『シマツクロウゼェ!』

「───来ないでぇぇぇ!!」

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンカチカチカチカチカチカチカチッ!!

『ニジュウヨジカッ!?』

「はぁはぁ…はぁ…すぅ、はぁ…」

……まさかの二回目。

『ショクドッ』

『ラメンッ』

『シュッチョッ』

しかも、今度は他のカースまで騒ぎに気づいたらしく廊下の遠くからのそのそと迫ってくるのが見えた。

「ひっ…に、逃げないと!」

…新田美波、どこか運が無かった。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:09:57.44 ID:vmuM46SJO<> ───10分後。

「ちょ、ちょっと休憩…!」

ガチャッ、バタン、カチャン。

逃げ回り、撃ちまくり、床とか壁とか斬りまくり、運動神経も良い美波でも慣れない状況と緊張で消耗が激しかった。

なので、一旦やり過ごそうと開けっ放しの教室に飛び込み、鍵をかける。

もちろんカースも入ってこれない特殊な作りなので安全である。

「ルピー、ちょっと、休も?」

「…………シルル?」

ぺたんと、火照った身体にはちょうど良い冷たさの床に座り込む美波。

そして、ガイスト形態を解除したルピーもぐてっとする。
 
「…ここ、お花屋さんかな?」

「シルゥ…」

息を整えて落ち着くと、ほのかに漂ういい香り。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:11:13.61 ID:vmuM46SJO<> 座った場所から見える範囲でも、向日葵や薔薇、サボテン、百合にと多種多様な花が見える。

扉が開いていた所を考えると、店員は別の場所に逃げたようだった。

「…何か飲み物、無いかな」

「シルル」

ガサガサッ!

「ひっ……だ、誰か居るんですか?」

立ち上がろうとした瞬間、部屋の片隅で何かが動く音がする。

「シルシルシルル…」

「……………………」

ガサガサ…

「……な、なに…?」

恐る恐る近づいてみる美波。

…………………………。

そして、机の陰から音がした所を覗いてみるが。

「………何にも、ない?」

「どーんっ」

「──キャァァアアア!?!」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:12:02.61 ID:vmuM46SJO<> 「いや、なに、離して!?」

何かが上から美波の体にのしかかってきた。

その突然の事にまたもやパニクり始める。

「おねーさんいーからだしてるじゃ「シルル」あ、やめろたたくないたいいたい」

が、その犯人はルピーの反撃をくらい割と簡単に離れた。

「るぴーはかほごです、らうねはちょっとおどろかしただけです」

「こ、子供?」

「まきなです。らうねといーますのでよろしくです」

「え、と…?」

離れた犯人を見れば、小さな女の子のように見えた。

…が、話し方に抑揚が殆ど無かったり、頭になんかメカメカしい花飾りを着けてたり、膝から下が大きな花びらに隠れている所が人間ではないと確信させていた。

「かんたんにいえばそこの、いろかにほいほいされたくされさそりのどーるいです」

「シルルルルッ」

「……え?」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:12:39.71 ID:vmuM46SJO<> ───10分後。

「らうねはきかい、おけー?」

「な、なんとか」

微妙に混乱してる美波に、割と懇切丁寧に自分達のことを説明するらうねこと、マキナ・ラウネ。

「それじゃあおねーさん、らうねもつれてってください」

「…え?」

「ほんとは、ほかのまきなもさがさないといけないよーなきがするんですが、ひとりはさみしーのです」

「シルシルゥ…」

「あー…うん、いいよ!」

……実はあまり立ち直っていない新田美波、流れで了承してしまった。

「ほんとーですか?かんしゃです」

なお、ここまでラウネは抑揚どころか表情もあまり変えていない。

なので凄まじく棒読みである。

「あ、でも今は危ないよ?カースが彷徨いてるし…」

「こーみえてもたたかいはなれてますから、へーきです」

「そ、そっか…」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:13:46.34 ID:vmuM46SJO<> 「ところでおねーさんは、たたかいのこころえはおありで?」

「その……全然、かな?」

「しろーとさんですか。じゃあ、るぴーはあたりでしたね」

「シルルル?」

「うん?」

ラウネの発言に首を傾げる一人と一匹。

「かずうてばあたりますから。とりあえずぷっぱするだけでもいい、おてがるまきなです」

「シルシルゥ!」

「おいたたくなやめろいたい」

………なんというか、一言多いエクス・マキナであった。

「あ、ちなみにらうねはおねーさんにはまだはやいとおもいます」

「どういうことかな?」

「らうねはどりるはんまーなので。いちげきひっさつの、ろまんぶきなのです」

「え、と…そうなの?」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:14:25.43 ID:vmuM46SJO<> 「まあ、さんぱいにもかたあしつっこんでますが」

「えっ」

「シルシルル」

「はいこのはなしはやめやめ。これからどーするかかんがえましょー」

自分で振っておいておざなりに終わらせるエクス・マキナであった。

「ちなみにいまさらですがら、おねーさんはわざわざうごきまわってなにしてたんですか?」

「あ……えっとね、外がカースでいっぱいになって友達から連絡が返ってこなくて…それで、とりあえず人が居る所に行こうと思ってたんだけど……中にまでカースが入ってきてるみたいで、逃げてたんです」

「あぁ、ちかどうでもあいつらしつこかったです。しゃったーあいてなかったらおいつめられてたかもしれなかったです」

「あ、ラウネちゃんも逃げてきたんだね」

「たぜーにぶぜーでしたから」

「…………シルル?」

「ルピー?どうしたの?」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:15:06.38 ID:vmuM46SJO<> 「……シルルシル」

「え?いまなんていったかって?」

「シルル」

「たぜーにぶぜー?」

「シルシルゥ」

「よーじょにびやくぷらぐいんをいんすとーるとかほざいてたかーすに、おいつめられた?」

「びや…っ!?」

「シルルシルル」

何故か勝手に紅くなる美波。

「しゃったーあいてなかったら、あぶなかった?」

「シル、シルシルゥ!」

「それがいったいなんなんで………あっ」

「…………はっ…って、え、ラウネちゃん…今、地下のシャッター開いてるって本当!?」

さらりと、重大な事態に気付いてしまった。

…地下のシャッターとは、学院の地下に張り巡らされた地下通路・地下街と教習棟を隔離するためのシャッターの事だ。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:15:41.57 ID:vmuM46SJO<> 通常なら、教習棟の教室と同じレベルで外敵を遮断できる代物なのだが…

「いっかしょだけです。なんかのおみせのはこにつっかかって、ぎりぎりはっていけばくぐれるくらいあいてました」

「ど、どうしよう……とにかく誰かに知らせた方がいいのかな!?」

「シルシルゥ」

「でんわ、でんわをつかう」

「う、うん………あ、嘘…バッテリー無くなっちゃってる…」

無情にも、スマホの電源は切れていた。

「シルル!?」

「こうなったら、ちょくせついくしかないです。さいあくじぶんたちでふさぐしかないかも」

「そんなぁ…」

「だいじょうぶです。らうねとるぴーもてつだいます」

「シルシルルゥ!」

「……………う、ん。私がやらないと、だもんね」

「おねーさん、いがいとどきょうあります?」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:16:22.53 ID:vmuM46SJO<> 「え?うーん…そう、なのかな?」

確かに、最近は色々あるから…と考える美波。

実際、確かに彼女は多少は耐性がついていた。

……過程とか、幸か不幸かなどは別として。

「まあそれならだいじょうぶですよ、おちついていきましょー」

「シルシルルゥ…」

「…はい!」

そして、だいぶ回復した美波達は一階、ひいては地下を目指して廊下にくりだしたのだった。








 







『ノウドルッ!』

「やぁぁぁぁあああああ!?!!」

「おちついてねらうのです」

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンカチカチカチカチッ!

続く? <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:18:25.30 ID:vmuM46SJO<> 情報
・新田ちゃんが教習棟をおっかなびっくり移動してます。
・廊下の至る所に弾痕と斬り傷が残ってる模様
・地下のシャッターの事を知らせるか、塞ぐのが目的の模様
・もしかしたら他にも見落としがあるかも……? <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:23:29.45 ID:vmuM46SJO<> ・『マキナ・ルピー』 (改訂ver)
蠍型の、限りなく黒に近い紫色のエクスマキナ。
人一人乗せて歩けるぐらいには大きい。
何故か京華学院に居たところを新田美波が遭遇、そのままついて行ってしまう。
性格は見た目と違い温厚、と言うよりかなりマイペース。
通常の姿のままでも、ハサミや尻尾の針で戦う事もできる。

ガイスト形態
銃と剣が合わさったような、かなり大型の二丁拳銃。
見た目はむしろ小型のサブマシンガンに近い。

・セミオート式
・片方24×2の最大ストック数(通常弾時)
・手元を守るナックルガード
・持ち手の下に伸びる片刃のブレード
・二丁を繋ぐ長い鎖
・種類豊富の弾
・低反動

銃撃による射撃戦はもちろん、逆手に扱う剣のようにブレードによる近接戦も可能。
またリロード方法が特殊であり、ブレードでとにかく何かを切ったり削ったりする事でリロードされる。
対象自体は固体なら本当に何でもよく、それこそ適当なコンクリートから戦闘外殻まで。
弾種は主に、通常弾、貫通弾、炸薬弾、スタン弾、衝撃弾、等があり弾種によって残弾の消費量が変わる。
総じて、扱う事自体は簡単だがフルに性能を引き出すのは難しいタイプ。


・『マキナ・ラウネ』
アルラウネ型のエクス・マキナ。
確認されたエクス・マキナの中でも数少ない会話可能なタイプ。
小さな子供のような容姿だが、頭にはメカメカしい花飾りがあり、膝上からは大きな花びらに隠れている。
無口無表情でわりと毒舌。
通常の姿でも、かなりの勢いで体当たりしたりする。

ガイスト形態
鋭利な鈍器。
わかりやすく言えばドリルがついたハンマー。
インパクトの瞬間に威力が更に跳ね上がる特徴があり、割と非力な人でも高威力を叩き出せる。
ただし、直後に著しい反動がかかるうえに、重量バランスがちょっとおかしく、取り回し辛いため隙が大きい。
本人いわく浪漫武器。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/08/26(火) 19:26:14.64 ID:vmuM46SJO<> 投下終了です。

メインに新田美波、最初のセリフに小日向美穂(ひなたん星人)をお借りしました。

では、お目汚し失礼しました! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/08/26(火) 22:39:35.67 ID:jrdyA8Rz0<> 乙ですー
新田ちゃんが暴走ガンナーになるとは…廊下が大惨事だこれ!?
地下がカース侵入ルート(の一つ?)かぁ…
ラウネは会話できるタイプか、キンより知能高そう…あとドリルハンマー…ドリルはロマン <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/27(水) 00:03:35.57 ID:Cb1NXMyQ0<> 乙ー

何故だろう…加蓮が巻き添え食らってる光景が目に浮かんだのは….
お供が増えたね!やったね美波ちゃん! <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/27(水) 05:03:25.79 ID:rXciVFbEo<> お久しぶりでー

前スレ>>994
おお仮面の少女再びですね、やはり日菜子の能力はビジュアルとてもカッコイイ

>>23
出オチひなたんにニヤリ
カースはどこの歌って踊れる農家ですかね?
マキナルピー面白いなあ、新田ちゃんのおっかなびっくりな戦い方含めww

乙でしたー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:41:25.08 ID:ZsDkLYmU0<> ロリを書こうと思ったのに先にこっちが書けたので投下
学園祭二日目でございますです <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:43:51.86 ID:ZsDkLYmU0<> 拓海「…で、お前らもあの宣戦布告を受けたから来たと」

美世「名指しで呼ばれたところの一つだもんね…」

夏樹「まぁ今回の作戦は一応『ネバーディスペア』として参加して無いから、名前で呼ばないようにしてくれると助かるんだけど…」

拓海「そうだろうな…いつもと恰好が全然違うし、髪形を変えたのも雰囲気を変える為だろ?」

夏樹「そうなんだよ、変装して参加する事になってさ。仕事だから仕方ないけどよ…」

美世「えっと、夏樹ちゃんもコードネームとかがあるんだっけ。アイドルヒーローでもヒーローネームとかあるけど」

夏樹「そうそう、あっちの部屋でも言うけどアタシは今回『和音(コード)』ってコードネーム」

拓海「コードネームがコード…なかなか分かり易いな」

美世「いやいや…ちゃんと意味があるんでしょ?」

夏樹「ルビは和音だ。要するにギターのコードって事」

拓海「なるほどね、お前らしい名前だよ」

夏樹「…その前に、スーツが一部破損したらしいじゃんか、大丈夫なのか?」

拓海「ああ、あのくらい平気だっての。襲ってきた奴の目的がつかめなくて不気味だけどな…」

美世「それにスーツ自体、深い傷じゃなかったから簡単に修理できたしね。でも、ちょっとはお説教かもね?」

拓海「ちょ!?勘弁してくれよ…」

夏樹「…フフッ、いつも通りだったな。襲ってきた奴はこちらも気を付けるとして、あとは…」

作戦会議を行う部屋から少し遠い空き部屋で、夏樹と拓海と美世が話をしていた。

部屋の中には他のネバーディスペアのメンバーもいるが、あまり会話の邪魔をしないように部屋の外で待機している。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:44:50.24 ID:ZsDkLYmU0<> 夏樹「控室には拓海達が行った後、アタシ達も行くからさ。同時に来るのは変に思われそうだし」

拓海「そこまで気にしなくてもいいと思うけどな、偶然廊下で出くわしたのはマジだろ?」

夏樹「…それもそうか、早く行って損は無いよな」

美世「でもまだみんな来てないみたいだからね…いろいろあるみたい。部屋に入る前に飲み物買に行ったら夏樹ちゃん達と会ったのはびっくりしたけど」

拓海「ま、確かにそろそろ集まっても良い頃だな…行くか、待つ事になるとしてもすぐ来るだろ」

夏樹「そうするか…何人が参加するのかすら把握して無いし、アタシ達みたいにアイドルヒーローじゃないところの奴もいるかもしれないし」

美世「決まりだね」

会話が終わると同時にきらりが扉を開けた。

きらり「夏樹ちゃん、いっ〜ぱいお話しできた?」

夏樹「ま、そこそこな」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:47:04.19 ID:ZsDkLYmU0<> 李衣菜「そうそう、さっき聞いた話なんだけど…新人さんも参加するらしいよ」

夏樹「新人?…拓海、なんか聞いたか?」

拓海「…いや、新人か…アビスカルか?」

拓海が思い当たる新人と言えば、ライラ…アビスカルくらいだ。

奈緒「学園祭でRISAのプロデューサーがスカウトした…ってスタッフの人が言ってたのを聞いたから…違うな」

美世「えっ、つまり昨日今日でスカウトした人って事!?能力とか、実力とか、全く知らないけどすごそう…」

きらり「みんな知らないアイドルヒーロー…みすてりあす?うっきゃー!」

夏樹「どういう人か知らないけど、こういう場なんだし協力的な人がいいぜ…」

李衣菜「さすがにアイドルヒーローなんだし、そんな人いないって!」

美世「そうだよ、多分仲良くしてくれると思う!」

見事なフラグである。

奈緒「どういう人か、その人の情報を早めに貰っておきたいよなー、テレビとかに一回も出てないって訳だしさ」

拓海「尚更早く行く理由ができたな、新人ならもうプロデューサーに控室で待機させられてるだろ」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:48:59.41 ID:ZsDkLYmU0<> ――控室

ライラ「ライラさんがアイスで好きなのはガリガリ君でございますねー。この前食べたらアタリがでたのでもう一本もらえて嬉しかったございます」

シャルク『おねだんもりょうしんてきです』

梨沙「ふぅん…アタシはやっぱりアイスはイチゴとかチョコかなぁ…あ、前に撮影で行ったお店の期間限定のマロン味もおいしかったなー」

ライラ「アイスのお店でございますか?気になるです」


梨沙「まだ放送して無いけどね。アタシはあそこのはパチパチするラムネが入ってるのも好きかなー、パp『ぶもっ』ちょっとコアさん!?」

ライラ「コアさんはリサさんに懐いているのですねー」

ガルブ『とびつくほどなかよしですね』

梨沙「違うから!これはじゃれてるんじゃないの!」

ライラ「そうなのでございますかー?」

『…ぶもっ』

二人は他愛もない会話をそんな感じで続けていた。少なくとも暇つぶしにはなったし、相手の事を少しは分かったような気がする。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:50:41.87 ID:ZsDkLYmU0<> 夕美「…みんな仲良しだねっ」

梨沙「!?…あ、アンタいつ入ってきたの!?」

夕美「さっきだよ?」

梨沙「扉の音もしなかった気がするんだけど…」

夕美「気のせいじゃないかな?お喋りに夢中だったんじゃない?」

ライラ「そうでございますか?扉が見えるライラさんも気付かなかったです…」

菜々「あー…」

いつの間にか音も立てずに真後ろに夕美が立っていた。

…少なくとも菜々は扉を開け閉めしてたった今入ってきた。だが夕美がいつ入っていたのか全く気付かなかったのだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:51:59.22 ID:ZsDkLYmU0<> 菜々「…夕美ちゃん、からかっちゃダメですよー?」

夕美「も、もうっ、からかってなんてないよ!」

菜々「まぁ、逆にそれくらいできるならいいのかもしれませんね…。怒っていると周りが見えなくなりますから」

夕美「…アイドルヒーロー以外のみんなも頑張ってるみたいだから。私も頑張らなきゃって」

菜々「ふふっ、ナナはいつもの夕美ちゃんに戻ってくれて安心しましたよ」

菜々(でも犯人を目の前にしたらどうなるかナナは心配で心配で…)

梨沙(…なんか、親子に見えるのは気のせい?) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:52:58.12 ID:ZsDkLYmU0<> そこに続けて扉が開かれる。

拓海「来たぜ。ちょっと遅れちまったか?」

美世「スーツもちゃんと修理済み…ってプロデューサーたちは今この場にいないんだね」

梨沙「なんかプロデューサーはプロデューサーで一旦集まるみたい。詳しくは知らないけど」

ライラ「…それで、そちらの黒い服の方々はどなたでございますか?」

ガルブ『どうめいのにんげんではないようですね』

シャルク『かんりきょくのかたでしょうか?』

拓海「…ああ、さっき廊下で会ったんだ。管理局から派遣されてきた戦闘員だとよ」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:56:02.50 ID:ZsDkLYmU0<> きらり「にょわっ!きr「ちょっとリーダーは黙っててください」…にぃ」

李衣菜「えっと…リーダーはいろいろあって喋らない事になってますんで。どうかよろしく」

奈緒「これに関しては質問されても答えられないからな…」

夏樹「紹介された通り、自分たちは管理局の戦闘員。それぞれコードネームがあるからそれで呼んでくれ。アタシは『和音(コード)』だ」

李衣菜「私は『閃光(スパーキー)』です。よろしく」

奈緒「…あたしは、その…『獣牙(タスク)』だ」

きらり「きr「…リーダー」…むぇ〜」

李衣菜「ごめんね…コホン、リーダーは『幸福(ハピネス)』だよ。こっちもよろしく」

梨沙「…一応、わかったわ」

『ぶもぶも』

梨沙「コアさんはなんでシンパシー感じてるの…」

ライラ「ハピネスさんはリーダーさんで、喋ってはいけないんですかー…御苦労さまでございますです」

きらり「にぃ☆」ニコニコハピハピ

ガルブ『えがお…すくなくともくつうではないようですね』

シャルク『おしごとのつごうじょうならしかたないですね』 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:58:12.39 ID:ZsDkLYmU0<> 夏樹「ところで…まだ全員いないんだろ?少なくとも新人がいるって聞いたんだけど?」

梨沙「ああ…あいつは出て行ったわ、そろそろ戻ってくるとは思うけど」

美世「えっ、出て行ったって…どういう事?」

梨沙「知らないわよ!退屈だって言って出て行ったのよアイツ!ホント自己中すぎるわ!」

夏樹「…つまり、協調性が無いと」

梨沙「そうよ!もう、女王様かって感じの雰囲気だし…!」

拓海「かなり癖のある奴っぽいな…」

ライラ「女王様でございますか、外国の方ですかねー?」

夕美「ライラちゃん、多分意味が違うと思うよ」

菜々「女王様系のアイドルヒーロー…これはまたなんというか…どうやってスカウトしたんでしょうね…」

ライラ「偶然出会ったのではないですかねー?」

梨沙「うーん…でも『アイドルヒーローにならない?』って言われてもすぐに『はい!』ってなる気がしないわね」

夕美「パップさん、その人にティンときて頑張ったのかもねっ!」

梨沙「…ドMなのかしら、アイツ」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 22:59:50.30 ID:ZsDkLYmU0<> 美世「と、とにかく!まだしばらく待つことになるのかな?確か爛ちゃんも来る予定だし」

夕美「全員が集まらないと行けないっていうのはちょっともどかしいね。出て行った新人さんの気持ちもわかるかも」

拓海「ま、それに関してはアタシも同感だな…相手が空中にデカい要塞構えてるから、こっちも用心する必要があるのも分かるけどよ」

夏樹「雨で輪郭が分かるからそのデカさもある程度わかるけど…何人搭乗してるのか、考えるだけで骨が折れるぜ…」

きらり「あの中…もごもご」

李衣菜「ゴメンねリーダー…一人称言ったらそれでNGだから…」

彼女達はまだ来ないメンバーを少々賑やかに待つ事しか出来ない。

…そして、敵の要塞の中は殆ど人が居ない事も、知らないままなのであった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 23:03:01.76 ID:ZsDkLYmU0<> 奈緒「…で、シンパシーって何さ」(小声)

『ぶもー』

奈緒「口塞ぎでシンパシー…よく分かんないけど、そっちにも事情があるんだなー」(小声)

『ぶもぶも』

奈緒「いや…葉っぱはいらないかな…」(小声)

『ぶももっ』

奈緒「あはは、お前面白いコアラだなー」(小声)

梨沙(…何なのこの人) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/29(金) 23:08:01.14 ID:ZsDkLYmU0<> 以上です。簡単に言ってしまえば控室に集めるだけのお話
喋り方が分かりやすいので、きらりが喋ろうととすると口を塞ぐことになるようです

情報
・夕美&菜々、拓海&美世、ネバーディスペアが控室に到着しました。待機中です <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:06:44.52 ID:SIW/AbqHo<> >>39
乙です、ヒーロー達が集まると楽しげでよろしいですな
しかしこうして戦力が集まると将軍の無理ゲーっぷりがよくわかる



さてさて、幼児化イベント時系列で投下しますよー

なお、それなりにとんでもない事になる模様
あくまでギャグ回だからなんか色々とたがが外れてますが……きにしなーい(目反らし)

では投下ー <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:09:11.51 ID:SIW/AbqHo<>  


桃華「突然ですけど紗南ちゃま、少し付き合っていただけるかしら?」



紗南「あの、本当に突然って言うか……もう突然も突然すぎて、疑問しか沸かないんだけど」

桃華「あら?それはいけませんわね。

   聞きたい事があるなら質問なさいな。なんでも答えて差し上げますから」

紗南「じゃあ聞くけどさ。なんであたし…お嬢様の中の人の事について記憶戻ってんの……?」

桃華「……何かと思えばそんな事でしたの。

   今回はギャグ回だそうですから、そう言う設定だと言う事で納得すればよろしいでしょうに」

紗南「そんなメタ的で酷い理由を聞きたくはなかったです」


桃華「半分本気の冗談はさておき……

   わたくしの”搾取”は記憶の消去ではなく、共有化およびに奪取ですわ。

   であるならば……逆に”贈呈”するのも簡単なことだとは思いませんか?」

紗南「え?じゃあ、何?奪った記憶を戻したって事???」

桃華「簡単に言えば、そう言うことですわね。一時的に、ですが」

紗南(……一時的に……つまり用事が済んだらまた奪う気だ……

    むぐぅぅう、人の記憶をカセットメモリみたいに抜き差しして……) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:10:26.53 ID:SIW/AbqHo<>
紗南「…………はあ、今更逆らう気はないけどさ……(命握られてるし)」

桃華「うふ♪素直でよろしいことですわね♪」

紗南(ぐぬぬ……いつかチャンスが来たら絶対反逆するし!それまで我慢……)


紗南「それで、今回は何に付き合えばいいの?」

桃華「今からPちゃまをぶん殴りに行きますわ」

紗南「……ん?え?」

桃華「あら、聞こえませんでしたか?今から……」

紗南「いや、聞こえてたからちゃんと」


紗南「サクライさんを殴りに行くって……どうして?」

桃華「それについては……

   Pちゃまの様子を撮影した映像を見てもらったほうが早いですわね。

   VTR再生ぽちっとな、ですわ」

紗南「どこから出したの、そのリモコンとモニター」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:11:18.35 ID:SIW/AbqHo<>  


[   [>再生   ]


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399560633/891-912


[   □停止   ]

  <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:12:01.33 ID:SIW/AbqHo<>


桃華「……以上ですわ。おわかりいただけましたか?」

紗南「……なんか、すっごく手抜きで雑なVTRだった気がするけど……

   よーするに、サクライさんがギャグ要因化する前に『ギャグ因子』を追い出したいってこと?

   VTRだと確かに最後まで『ギャグ因子』が出てった様子はないけどさ(爆発には巻き込まれてるみたいだけど)」

桃華「……はあ」

紗南「え?どうしてため息ついたの?もしかして目的違うの?殴るって言ったからてっきりそうなのかと…」

桃華「仕方ありませんわね、紗南ちゃまにもわかるように……

   もう一度、該当部分を再生しますわよ」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:12:49.52 ID:SIW/AbqHo<>

[   [>再生   ]


  サクライP「そうだ!君も知っての通り、私の野望は世界中の少女たちに『パパ』って呼んでもらうことだ!」

  チナミ「急に何言いだしてるのこの人!?」ガビーン

  サクライP「この私サクライ……恥ずかしいことに最近娘が構ってくれない。

  ああクソ……私は『お父ちゃま』とか『パパ』とか『お父さん』とか『ダディ』とかもっと呼ばれたいのさ!

  もっと娘と触れ合いたい……もっと娘と接したい……。

  もういっそ自分の娘じゃなくても『パパ』って呼んでほしい……。


  娘成分が足らないんだよチクショー!


  この……内からあふれ出る父性を……抑えられないのだよ……」ガクッ

  チナミ「この人はキャラ崩壊までして何言いはじめてるの!?」


[   □停止   ]
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:13:24.57 ID:SIW/AbqHo<>


[   <]<]巻き戻し  ]


[   [>再生   ]


  サクライP「この私サクライ……恥ずかしいことに最近娘が構ってくれない。

  ああクソ……私は『お父ちゃま』とか『パパ』とか『お父さん』とか『ダディ』とかもっと呼ばれたいのさ!

  もっと娘と触れ合いたい……もっと娘と接したい……。

  もういっそ自分の娘じゃなくても『パパ』って呼んでほしい……。


[   <]<]巻き戻し  ]


[   [>再生   ]


  サクライP「もういっそ自分の娘じゃなくても『パパ』って呼んでほしい……。」



[   □停止   ]




桃華「これ完全にギルティーですわよね」 イライラ

紗南「えェェ……そっち?そっちにムカついてただけ?」

桃華「こっちいがいにどっちがあると言いますのっ!」 プンスカ
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:14:07.52 ID:SIW/AbqHo<>

桃華「最近、構って差し上げられなかったのはわたくしの落ち度ですが、

   しかし……桃華も一人のレディーとして、

   殿方のこう言うところを簡単に許してしまってはいけないと思っていますの」

紗南「うん、まあサクライさんの主張は考えうる限り父親として最低な部類ではあったけどさ、

   でも、これもギャグ因子のせいなんじゃ?情状酌量の余地はあるんじゃない?」

桃華「そうだとしても、わたくしが傷ついたのは事実……

   ですからぁ……わたくしの心の傷に見合う程度には、オシオキが必要ですわ♪」

紗南「あーはいはい……(楽しそうで)」


紗南「だからとにかく一発殴りに行くんだね……」

桃華「うふっ♪理解が早くてよろしいですわね♪」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:15:01.96 ID:SIW/AbqHo<>

紗南「でもその目的を達成するのにさ、アタシって必要?」

桃華「ええ、もちろんですわよ。

   わたくし、どんな時も一人での外出はできる限り避けていますの。

   最低でも万が一の時の為に弾除けを……おほん

   協力してくれる味方が一人でも居れば心強いですわね」

紗南「弾除けって言ったっ!?もぉお!!このクエストは謹んで辞退させてもらうからっ!!」

桃華「残念ですけれど、今回はストーリー上避けられない強制クエストですわ♪」

紗南「なんでさっ!!なんでアタシなのさっ!!

   別に他の人でもいいでしょっ!!」

桃華「…………それがそうもいきませんのよ」





めいこ「つぎはかくれんぼであそぼーっ!!さくらちゃんがおにー!!」

さくら「やだやだー!さくらがかくれたいのーっ!!」



桃華「財閥の他の方はみな、あの調子ですので」

紗南「お、おお、エージェント……ロリ化してしまうとは情けない……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:16:22.25 ID:SIW/AbqHo<>

紗南「……この雨の被害さ、なんか拡大する一方じゃない?

   防げる手段はちゃんとあるのに……部屋に籠ってるとか……」

桃華「なにしろ事件は真昼間に起きた事でしたから、屋外に居た方は多かったようですわ

   その上、子供化した方の様子を気にして、雨の効果も分からないうちに自ら外に出てしまった方も多かったようですし……」

紗南「なるほど、ミイラ取りがミイラ」  

桃華「それにそもそも、これを被害と認識できるかが微妙なところですのよ……

   性質上、どうやら命が危うくなるまでの事は少ないようですから……」



ふぇいふぇい「じゃあふぇいふぇいがおにやるヨー!がおー!」

めいこ「わー、かくれなきゃー!」

さくら「まってぇー!」


きゃっきゃっ



桃華「なんだか楽しそうと言う理由で、あえて進んで被害者になる方もいるくらいですわ」

紗南「緊張感の欠片もないね」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:17:45.79 ID:SIW/AbqHo<>


―― 一方その頃 ――



みほ「はぁ、どうしよう……」

みほ「肇ちゃんと二人でお散歩に来たら、こんな事になっちゃうなんて」

はじめ「……どーしましょう?」


みほ(突然降ってきた予報はずれの雨、傘を持ってなかった私たちはすっかりと被ってしまい)

みほ(そして気づいたときには……)


みほ「身体が縮んでしまっていました!」 くわっ

はじめ「おじいちゃんのなにかけて?」

みほ「肇ちゃん、それは違う探偵」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:18:39.68 ID:SIW/AbqHo<>


みほ(私達だけではなく、周りを見渡せば、

    雨に濡れてしまった人達みんなが子供になってしまったみたいで……)


わーわー!

        きゃっきゃっ!


みほ(みんな、あっちこっちで好き勝手に遊んでますけど……)

みほ(保護者が一人も居ないから見ていて心配で、そわそわしてしまいます)


みほ(どうやら……身体が縮むのと一緒に、精神年齢まで相応のものになるみたいですね)

みほ(そんな中、私が精神年齢を保っているのは……おそらく所有しているヒヨちゃんのおかげだと思います)

みほ(意志を貫き通す刀、『小春日和』……その副作用なのかな?)


みほ(まあ、所有していると言っても)

Pくん「ママママァ…!」 グググ…

みほ(今の身体にヒヨちゃんはちょっと重いので、刀の後ろ半分はプロデューサーくんに支えてもらいながらなのですが)

みほ「プロデューサーくん、ありがとうね」

Pくん「マッ♪」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:19:57.02 ID:SIW/AbqHo<>

みほ「それにしても……何なのかな?この現象?

   雨が原因なのは間違いないんだろうけど……」

はじめ「みんなのこと、しんぱいですか?」

みほ「そうだね……何も悪い事が無ければいいけど……」

はじめ「……きっとだいじょうぶ、です!」 ニコリ

みほ「  」

みほ(はっ……!純粋な笑顔が眩しすぎて一瞬意識が飛びかけました……)


はじめ「……?おねえちゃん、どうかしたの?」 ハテッ

みほ「  」

みほ(は、はうっ……!き、キョトンとした表情と首を傾げる仕種がっ!仕種がっ!)

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:20:46.13 ID:SIW/AbqHo<>

はじめ「……」 ギュッ

みほ(はじめちゃんは、小さい頃からしっかりした子だったようです)

みほ(子供になってしまっても、この状況で私から離れるのはまずいとわかっているようで)

みほ(先ほどからずっと私の傍をくっついて離れません)

みほ(精神が退行して、記憶がおぼろげになっても)

みほ(私の事をとりあえずは信用してくれているみたい)


みほ(……同じく小さくなった私を「お姉ちゃん」と呼ぶのは、)

みほ(精神年齢を保っている私が、ちょっとだけ大人びて見えてるからなのかなぁ)

みほ(それにしても…………)


はじめ「ひとがいっぱい……」 ギュウッ

みほ(可愛すぎませんか、この子)
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:21:35.88 ID:SIW/AbqHo<>
みほ「……でもそっか、鬼の里にはこんなに人居ないもんね

   今の年頃のはじめちゃんはこう言う人混み(みんな子供だけど)、まだ馴れてないか」

はじめ「はい……ひとをみたのも…おかあさんくらいです……たぶん」

みほ(「たぶん」……と言うのは記憶の退行が完全なものではないからなのかな…?

    子供なのでそこまで難しく考える事はないだろうけれど…)

はじめ「でも…」

みほ「?」

はじめ「みんな……たのしそうですね」

みほ「……そうだね」

みほ(子供になってしまう謎の現象、もしこのまま戻らないと問題ありだけど……

   ただ見ている限り、被害者(?)はみんな楽しそうではあります)

はじめ「……なかよくなれたらいいな」

みほ「  」

みほ(天使が本当に居たらこんな感じなんでしょうか(錯乱))
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:22:35.82 ID:SIW/AbqHo<>


みほ「それじゃあ、一緒に遊んじゃおっか」

はじめ「え?」

みほ「仲良くなりたいなら、みんなと遊んじゃうのが一番いいと思うから、ね?」

はじめ「……いいんですか?」

みほ(今の私達の境遇を思えば……現実逃避にも近い選択だけど……

   実際のところ、目の前の問題は私にはどうにもできないと思うので……

   それに……)

はじめ「……えへへ」

みほ「ふふっ」

みほ(この顔を見てたら、この子の助けになりたいなって思いますしね?)


みほ「それじゃあ、はじめちゃん。あの辺りで遊んでる子達の仲間に混ぜてもら……」


「つぎなにするー?」

「おにごっこ!」「いろおに!」「たかおに!」「こおりおに!」


はじめ「おに…?」

みほ(アカン) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:23:33.82 ID:SIW/AbqHo<>

みさ「と言う訳で、そそくさとその場を移動しました」

はじめ「おねえちゃん?」

みほ(うーん……あの子達には確実に悪意はないだろうけど……)

みほ(その辺りの事を分かってもらうのは、今のはじめちゃんにはちょっとハードル高そうかなぁ……)

みほ(こうなると……どうにかはじめちゃんにも当たり障りの無い遊び場を探さないと……)


♪♪♪〜♪♪♪



みほ「この音……何の音だろう?」

はじめ「たのしそうなおんがく…ですね」

みほ「……行ってみようか」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:24:34.05 ID:SIW/AbqHo<>

バス『♪♪♪〜♪♪♪』


みほ(果たして音の発生源は、ファンシーでかわいい感じに塗装された動物型バスでした)


「なにこれー!」 「すごいばすだー!」 「おとでてるー!」

「みみもはえてるよー!」 「しんちゃんみたい!」


はじめ「ひとがおおいです…」 ギュッ

みほ「楽しそうな音に釣られて……みんな、集まってきたんだね」


バス『お集まりのよいこのみんな〜♪こんにちは〜♪』


「「「こんにちはー!」」」

はじめ「こんにちはー」

みほ(何かのイベント……かな?子供達が集まってることにかこつけての?) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:25:57.14 ID:SIW/AbqHo<>


バス『今日は皆をと〜っても楽しいところに案内しちゃうぞー!』



みほ(……猛烈に胡散臭いです)

はじめ「たのしいところ…」

みほ「はじめちゃん……こう言う怪しい感じの誘いに釣られたらダメ…」


「いってみようぜー!!」「たのしそー!」「のりこめー!!」


みほ「ええっ!?」

みほ(っ!そう言えば、この子達には保護者がいないんでした!

   怪しいかどうかなんて判断できませんよねっ!)

みほ「みんな、待っ」 ズルッ

ドテッ

はじめ「だ、だいじょうぶですか?」

みほ(……小春日和の重さにバランスをくずしこけてしまいました……我ながら情けない……) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:26:52.03 ID:SIW/AbqHo<>

バス『ブロロロン♪』  ♪♪♪〜♪♪♪


みほ(あぁ……止める間もなく、たくさんの子供達がバスに乗って行ってしまいました……)

はじめ「だいじょうぶかなぁ……」

みほ「うーん、一体何処のバスなのかな……」

Pくん「マッ!マっ!」 ヒラヒラ

みほ「プロデューサーくん?あれ、そのチラシ……拾ったの?」

Pくん「マっ!」 スッ

みほ「えーっと……なになに……子供達のためのテーマパーク……水の楽園……」


みほ「サクライ・アクアランド??」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:27:29.80 ID:SIW/AbqHo<>


――――



紗南「なにこの広告?サクライ・アクアランドって?」

桃華「財閥傘下のグループが立てたレジャー施設ですわ

   遊園地、水族館、温泉……その他家族で楽しめる施設を盛りに盛り込んだ

   いわゆる複合リゾート型のテーマパークとでも申しましょうか」

紗南「ふーん、ねずみーリゾートみたいなものかな?」


桃華「……問題はこのテーマパークが現在何者かに乗っ取られていて

   そのうえ、テーマパーク行きのバスがそこら中で目撃されてるようですのよ

   バスにはたくさんの子供達が乗せられて、テーマパーク内に連れ去られているようですわね」

紗南「へえー……」


紗南「って、乗っ取られた!?連れ去られてる!?」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:28:25.64 ID:SIW/AbqHo<>

桃華「どうやらテーマパーク内部との通信が遮断されているようなのですわ」

桃華「おまけに、「じゃあ直接向かうかー」と様子を見に行った者達はすべて返り討ち

   全員、子供にされて、目的も忘れてテーマパークで遊んでいるようですわよ」

桃華「水の豊富なアクアランド内に『若返り薬』を散布して、それを利用するだなんて下手人も考えたものですわ」


紗南「それって……まずいんじゃ……」

桃華「ええ、まずいですわね。超まずいですわね」


桃華「しかも……わたくしにとって二重にまずいことに……

   おそらくこれ……Pちゃまの仕業なのですわ」

紗南「えっ、サクライさんが???」

桃華「財閥の施設をこれほど簡単に乗っ取ってしまえる者なんて限られていますわよ」

紗南「……そりゃあ……当主が犯人なら乗っ取るも何も……だけどさ」

桃華「それに何より、テーマパーク内で本人の姿が目撃されていますわ」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:29:56.23 ID:SIW/AbqHo<>

桃華「あの爆発の後、何処へ行ってしまったのかと思っていましたけれど……

   まさかこんな事になっていましたなんて……」 ピラリ

紗南「? なにその写真……」


紗南「金髪の女の子……?」

紗南「……」

紗南「えっ、うそ…………これ、お嬢様じゃないの?」

桃華「Pちゃまですわ」

紗南「はっ!?!!」

桃華「あの至近距離で『若返り薬』を浴びたのですから、当然Pちゃまも若返りますわよね……」

紗南「いやいやいやいや……そう言う問題じゃなくって

    これどう見ても女の子じゃんっ!?!」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:30:33.48 ID:SIW/AbqHo<>

桃華「櫻井財閥現党首、サクライPは幼少時、病気がちであったそうですわ。

   そこで魔除けと言いますか、健康祈願と言いますか…

   幼少の間は女子の格好をさせられて、過ごされていたそうですの」

紗南「……なんか聞いたことあるような風習」

桃華「つまりPちゃまは、流行の男の娘だったそうですわ♪」

紗南「あ、そう……」


桃華「とにもかくにも、わたくし達の今回のミッションは…

   事体が大きくなる前にテーマパークを乗っ取った下手人、サクライP……」

桃華「いえ、サクライJrを一発ぶちのめす……事になりますわね♪」

紗南「意外とまともな目的だった……のかな」


桃華「紗南ちゃま、わたくし達はこれからすぐにテーマパークに向かいますから

   40秒で仕度をお願いしますわね」

紗南「……はーい」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:32:51.94 ID:SIW/AbqHo<>


―― サクライ・アクアランド 中央施設 ――



こども「さくらいさまー、ぜんじどーバスをはっしゃして、

    ちまたのこどもたちを、あつめられるだけあつめてきましたー」

さくらいJr「そう、ご苦労様」


さくらいJr「隣の部屋にお菓子をたくさん用意してるから、仕事をしたみんなで分けるといいよ」

こどもたち「「「わーい」」」 ドタバタ


さくらいJr「さて……今のところ、計画は順調かな。まあ本番はこれからだけどね」


さくらいJr「それにしても……おっさんと呼ばれるような年になってもまだ世界を支配できてないなんて

       ”大人の僕”は何をちんたらやってるんだか……

       『世界を支配するプラン』なんて、僕は5才の頃には完成させてるって言うのに……」


さくらいJr「ふん!まあいいさ。”大人の僕”にできないなら、この僕が代わりにやってやるまで……

       子供のためのテーマパークの皮を被った……この『コドモ帝国』を使って

       世界中の子供達の支配者に、僕が君臨してやるのさ!」


さくらいJr「ふふふっ!はっはっは!あーっはっは……ごふっ……げほげほっ!(吐血)」


柱の影
小チナミ(うわっ、想像以上のクソガキね…)

小チナミ(……本体がやられちゃったから、こんな形でしかサクライの弱みを探れないけど……)

小チナミ(ここまで来たら絶対に弱点を見つけてやるんだから)



つづく <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:34:34.35 ID:SIW/AbqHo<>


さくらいJr

職業:櫻井財閥の当主
属性:強欲、金持ち、病弱、女装少年
能力:不明

世界に君臨する『櫻井財閥』の当主で、桃華の父。が『若返り薬』を浴び幼児化した姿。
時代を先取りした男の娘であったらしく、姿は桃華にそっくり。ただしクソガキ。
病弱なので大声出したり高笑いしたり軽く運動するだけで吐血する。

『若返り薬』による幼児化の影響で記憶の退行が見られるが、台詞は漢字交じり。聡明な子であったらしい。
彼の感覚としては子供時代から未来にやってきた気分であるらしく、
大人の自分がまだ世界を支配できていないと知って、面白くない様子。
テーマパーク『サクライ・アクアランド』を乗っ取り、世界支配の為に保護者の居ない子供たちを集めているようだ。



『サクライ・アクアランド』

とある街にある複合リゾート施設。管理運営を櫻井財閥の傘下のグループが行っている。
遊園地・水族館・温泉などのレジャー施設をごった煮にしたようなテーマパークでとにかく広い。
アクアランドと言う事で水を扱う施設が多く、さくらいJrはそこに『若返り薬』を散布して利用しているようだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 00:36:05.39 ID:SIW/AbqHo<>
イベント情報

・エージェントはだいたいロリ化中
・美穂と肇も幼児化雨を浴びて途方にくれています。
・テーマパーク『サクライ・アクアランド』行きの全自動バスが街中にやってきています。
 保護者のいない幼児化した者たちを対象に次々と連れ去っている模様
・さくらいJrによって『サクライ・アクアランド』が乗っ取られています。
 訪れたものはもれなく幼児化させられ、テーマパーク内で遊ぶことになるようです
 

と言う訳で続きます
えらく風呂敷を広げたようで、珍しくちゃんと畳む準備はできているお話

……ほ、本当です。後編は一週間以内を目処に投下予定ですし……
なお、あくまでギャグ回の延長なのでやはり本編側への影響は少ない模様


求:サクライ・アクアランドに生息するマスコットキャラクター <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:42:43.56 ID:7ad2q7TWo<> >>1乙
皆様乙

>>23
新田ちゃんマジ巻き込まれ型ヒロイン
しかしシャッターはいざって時に仕事しねぇな!(偏見)

>>39
皆仲よさげで微笑ましい
そしてこのヒーローの量、将軍への憐憫を禁じ得ない

>>66
さくらいJr「私自身が幼女になることだ」
何やってんのー!?(ガビーン)

しかし愉快ですな、あらゆることが許されるギャグ因子は偉大ですわ


では学園祭2日目投下します <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:43:15.46 ID:7ad2q7TWo<>  ――京華学園――

 ――秋炎絢爛祭――

 ――――2日目――

 ――裏山の消失から数分後――


――まず最初に強烈な閃光があった。

――次いで爆音と地響きが周囲に轟き、遅れて突風が吹いた。

――それらが収まると、やがて現れた光景……。

――というより失われた光景とでも表現すべきか、消え去った裏山。

――程なくして現れるカース達。


――――当然の如く混乱が起こった。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:43:45.71 ID:7ad2q7TWo<> ――逃げ惑う人々が向かう先といえば出口だが、

――京華学園広しといえど、その出入口として構えられた門はそう大きいものでもない。

――大多数の人が殺到すればあっという間に栓がされ、すし詰め状態になる。

――ましてや、今は祭りの真っ最中。それも他に類を見ない規模の、である。

――圧倒的な観客動員数が一ヶ所にひしめき合えば将棋倒しなども起こりかねない危険がある。

――更に学園の内外に関わらず散在する的屋の露店が障害物となり、これもまた避難を妨げた。


――いくらか用意された京華学園の出入口のうち、最も広く最も賑わう正門付近。

――そこに今、大勢の人の波が押し寄せ、まさにパニックが起きる寸前……。


『皆さんっ! 落ち着いて下さいっ!』


――ひときわ大きな声がその場に響いた。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:44:14.76 ID:7ad2q7TWo<> ――落ち着いていない人に『落ち着いて下さい』と言って落ち着いてくれれば誰も苦労はしない。

――そんな言葉は何の意味も持たない。ただの不毛な発言だ。

――誰の耳に届くことも無ければ、誰の心に留まることも無い。

――うねる人の波と喧騒に埋没し、ただ消えていくだけの小さな小さな声。

――――だが、不思議な事にその声は皆の耳に留まり、皆の心に届いた。


『冷静になって! 落ち着いて避難しましょうっ!』


――声の伝播と共に、すぅ……、と群衆の不安や焦燥が和らいでいく。

――我先にと出口へ駆けていた者は皆、その速度を緩めた。


『大丈夫ですっ! 能力者がいます! ここは安全ですっ!』


――『女の子の声だ』

――冷静を取り戻した人々は、今更になってからそんなことに気づく。

――『大きな声だ、拡声器か何かを使っているのだろう』

――『何処だろう、あっちの方から聞こえる』

――皆の視線が声の発生源へと向かった。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:44:50.51 ID:7ad2q7TWo<> 藍子『押さない! 駆けない! 喋らない! ”お・か・し”ですよっ!』

――そこには露店の上に登った藍子が、メガホンを携えて声を上げている姿があった。

――皆一様に、彼女を視線に捉えると深い安心が胸の奥にこみ上げてくるのを感じた。


未央「はいはーい! 並んで並んでー! 焦らずに急いでねー!」

――藍子の側に天使の翼を広げ空に浮いた未央が佇んでいたのも、より安心を助長した。

――『恐らくあれが彼女の言う能力者なのだろう』

――『綺麗な翼だ、まるで天使のような……』

――『あの子が我々を守ってくれるのか』

――『よくわからないが、謎の頼もしさがある』

――といった心理が働いたためだ。 <> ナレーション:大川透
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:45:30.22 ID:7ad2q7TWo<> ――――『プロダクション』は秋炎絢爛祭に来ていた!

――仕事でも何でもなく、ただ祭りを楽しむ為にやってきた!

――みんなの都合を合わせて、たまたまこのタイミングに正門広場で集合していたのだ!

――なので恐らく留守の事務所に送られたであろう宣戦布告ムービーは誰も見ていない! 残念ッ!!


――ちなみに言うと1日目にも何人か居た!

――なんか、そういう描写とかなかったけど……多分居たのだ!

――特筆すべき事が何も無かったから、描写も無かったのだ!

――今日と違って参加人数もまばらだった事もあるのだろうが、

――各々、大きな事件に巻き込まれる事も無く、つつがなく楽しい1日目を送ったのだろう!

――そういうことにしておいて欲しい!


――だが2日目!

――集まって早々この大騒ぎである!

――こんな時、彼ら『プロダクション』が取る行動といえば、

――すぐさま騒ぎを静め、安全を確保そして避難の誘導、といった人助けだ!


――まず、藍子の能力でパニックを抑える!

――『こんなこともあろうかと』と晶葉が用意していた特製メガホンを藍子に渡し、声を拡大!

――藍子の姿が周りに見えるように、と頑丈そうな屋台の上へ未央が藍子を運送!

――ついでに未央も天使の翼を生やし、藍子の側に漂うことで力のある者が味方にいることを顕示した!

――そして他の者は皆で避難の誘導をしている!


――ちなみに、ヒーローであるアーニャだけは現場へ向かわせた! <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:46:02.84 ID:7ad2q7TWo<> 晶葉「ふふん、どうだあのメガホンは。ただのメガホンじゃ無いぞ、もっといいスグレモノだ」

晶葉「まず音が綺麗だろう? どれだけ声量を上げても絶対に音が割れたりはしない」

晶葉「いたずらにやかましく無いのが特徴だ、普通のメガホンはガピガピうるさくてかなわんからな!」

晶葉「そして範囲が広い。遠くまで声が届くというのもそうだが、前方ほぼ180度をカバーしている」

晶葉「何よりその範囲の広さだが、設定で逆に狭めることもできる」

晶葉「つまり、出力を最大限にして一点集中させれば音波攻撃も可能になるのだ!」

晶葉「……まぁ、流石に危険だから安全装置は付けてあるがな?」

ピィ「……おう」


晶葉「なんだ、つまらなそうだな……?」

ピィ「つまらない訳じゃ……、あー、そこ押さないでくださーい!」

博士「私は大いに興味があるぞ、特に……」

ピィ「博士、そこ邪魔です」

博士「おっとすまんね」

晶葉「ほら見ろピィ、やはり分かる人には分かるのだ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:46:28.34 ID:7ad2q7TWo<> ピィ「それにしても、博士にまで手伝ってもらわなくても……」

博士「なにこれくらいのこと、普段薫がお世話になってるお礼だよ」

博士「私にもやらせてくれ」

ピィ「……ありがとうございます」

博士「ふふ、君たちは見ていて本当に気持ちがいい……」


晶葉「いいか薫、あのメガホンはだな――」

薫「うんうん――」


博士「晶葉君か……、まだ若いにも関わらず素晴らしい科学者だ」

博士「『天才』というのは、まさに彼女の為にある言葉なのだろうな」

博士「なにより、技術もさることながらとても楽しそうに発明する」

博士「……あの子の前に現れたのがピィ君で良かったとつくづく思うよ」

ピィ「博士……?」

博士「ああ、いや、なんでもない……」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:46:58.46 ID:7ad2q7TWo<> 博士「ところで……」

楓「……」

博士「彼女はどうしたんだい?」

ピィ「あぁ、楓さんはこの騒動で……」

楓「ビール……、私のビールが……」

博士「……」

ピィ「……」

――楓の足元には、空になったカップと泡立った液体が無残に広がっていた。


博士「……じゃあ私はあっちの方に行ってくるよ。薫、おいで」

薫「はーい!」

ピィ「すいません、お願いします」

晶葉「あぁ待て、まだ話は終わってないぞ薫!」

ピィ「って、お前も行くんかい」


ピィ「……」

楓「出店の高いビール……、高層ビール……、ふふっ……」

ピィ「……はーい、列を乱さないでくださーい」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:48:04.24 ID:7ad2q7TWo<> ピィ「……しかし、意外だな」

愛海「……」

ピィ(師匠が真面目に仕事をしている……、しかも無言で)

ピィ(不気味だ……)

愛海「…7…………2……8…」(ブツブツ

ピィ(……違う、何か小声で呟いてる)


愛海「78…74…82…85…81、いや79か……」

愛海「75…79…89…84…72…うひひ……」

ピィ「……」

ピィ(>そっとしておこう) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:48:37.40 ID:7ad2q7TWo<> 沙理奈「ピ・ィ・さん!」

ピィ「おわっ!?」

沙理奈「ウフ、ただいまぁ〜」

ピィ「さ、沙理奈さん……、急に後ろから話しかけないでくださいよ」

沙理奈「ウフフ、ごめんね♪」


ピィ「というか何処に行ってたんですか?」

沙理奈「あー、うん」

メアリー「……」

沙理奈「メアリーが迷子と勘違いされちゃって」

ピィ「あぁ……」


メアリー「ヒドイと思わナイ!?」

メアリー「アタシは立派なレディーなのヨ!?」

メアリー「それをみんなして子供扱いシテっ!!」

メアリー「ピィもそう思うデショ!?」

ピィ「うんそうだね」

メアリー「アタシの目を見て言いなさいヨ!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:49:10.41 ID:7ad2q7TWo<> 周子「ピィさんただいまー」

美玲「……」

ピィ「お前らもか!」


美玲「ピィ……、ウチってそんなに子供っぽく見えるか?」

ピィ「いや、見た目はそうでも無いと思うぞ」

美玲「つまり内面が子供っぽいってことかッ!?」

周子「まぁ実際子供だしねー」

美玲「ガルルルル……ッ」


メアリー「……」

美玲「……ん?」

メアリー「……」←実年齢が上

美玲「……」←外見の年齢が上

メアリー(……勝ったワ!)

美玲(……勝ったッ!) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:49:40.47 ID:7ad2q7TWo<> 沙理奈「じゃあ、アタシ達は人手が少なそうな所に行ってくるわねぇ」

ピィ「お願いします」

メアリー「ちょっ、待ちなさいヨサリナ!」

沙理奈「ウフフ、また迷子になっちゃうわよ」

メアリー「ムキーッ!」


周子「じゃー、美玲は迷子にならないように……」

美玲「だから迷子にはなってないぞッ!」

周子「勘違いはされたでしょ?」

美玲「うっ……」

周子「門の上に登って状況をあたし達に教えて欲しいかなー」

ピィ「……?」

ピィ(門の上?) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:50:09.40 ID:7ad2q7TWo<> 美玲「うぅ、わかったよ」

美玲「不本意だけ……」

美玲「どッ!!」バッ!

ピィ「!?」


――『そう大きいものではない』とはいったが、それは”学園の広さと比べて”という意味で、

――腐っても京華学園の正門。大層立派な作りになっている。

――何メートルあるのか目測ではわからないくらい高く、普通によじ登ることは困難、

――……というか、ほぼ不可能に思えるほどであった。


――――が、美玲はいとも容易くその正門の上に”跳び乗った”。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:50:42.66 ID:7ad2q7TWo<> ピィ「い、今……、美玲が……」

周子「ん? どったのピィさん」

ピィ「いや、何メートルジャンプした……?」

周子「妖怪なんだからあれくらいはできるよー」

ピィ「そういやそうだった……」

ピィ「あんまりアクティブな美玲は見たことが無かったからびっくりしたよ」

周子「機会も無かったからねー」

ピィ「えっと、狼なんだっけ?」

周子「そーそー人狼」


周子「だからさ、無いとは思うけど」

周子「……満月の夜は美玲と一緒に外に居ちゃダメだよ?」

ピィ「……覚えておくよ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:51:14.18 ID:7ad2q7TWo<> 周子「そういや、なんで『プロダクション』っていうんだろうねー?」

ピィ「どうした突然」

周子「いや、今頃きっとアーニャが苦労してるんじゃないかなーって」

ピィ「ん? どういうことだ?」

周子「ほら、多分……」


同盟スタッフ『君はどこの所属の子かな?』

アーニャ『あー、『プロダクション』の……』

同盟スタッフ『うん、だから”どこのプロダクション”か聞きたいんだけど』

アーニャ『シトー……?』

同盟スタッフ『……参ったなぁ、言葉がわからないのかな』

アーニャ『ニェート、言葉はわかります』

同盟スタッフ『それじゃあ、どこの子か教えてくれるかな?』

アーニャ『『プロダクション』のアナスタシアです』

同盟スタッフ『……』

アーニャ『……?』


周子「……って事になってるんじゃないかなー?」

ピィ「……なってないといいな」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:51:51.87 ID:7ad2q7TWo<> 千枝(みなさんこんにちは、佐々木千枝です)

千枝(千枝は最近、憧れのお兄さん……)

千枝(……皆さんからはピィさんと呼ばれてる男性ですね)

千枝(彼が働いている『プロダクション』という組織に、たまにお手伝いをしに行ってます)

千枝(少しでもお兄さんの側でお役に立ちたい、という思惑があったのも事実ですが)

千枝(それ以上に『プロダクション』の皆さんがとても素敵な人たちばかりで)

千枝(すぐに『プロダクション』の事が大好きになってしまいました)

千枝(ええ、本当に皆さんとても素晴らしい人たちで)


千枝(――そして殆どが女性です)

千枝(しかも全員とっても美人です)

千枝(更に皆さん、お兄さんと仲良しです)

千枝(それでも千枝は……、負けません)

千枝(ライバルがどれほど強敵でも、いずれ千枝が必ずお兄さんの心を射止めてみせます!)

千枝(以上、佐々木千枝でした)

千枝「しっかり列を守ってください! こちらです! ここは安全ですから慌てずに――」


ピィ「しかし千枝ちゃんは小学生なのにしっかりしてて偉いなぁ」

ピィ「誰とは言わんが、うちの何人かもあの子を見習って欲しいもんだ」

周子(……最早何も言うまい) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:52:36.42 ID:7ad2q7TWo<> 社長「うむ、やはり彼をスカウトしたのは正解だったよ」

ちひろ「……えっ? 今までのどこにそんな要素が?」

社長「あんなにも皆に慕われているじゃないか」

ちひろ「物は言いようですね」

社長「私の若い頃を見ているようだよ……」シミジミ

ちひろ「ピィさんが社長のようになるとはとても……」

ちひろ「あっ、そういえば以前から聞きたかったんですが、何で『ピィ』さんなんですか?」

社長「ん? そういえば話したことは無かったか」

社長「まぁ別に隠していたわけでも無かったんだが」


社長「こういう、能力者と能動的に関わる仕事をしていると何かと危険やリスクが付きまとってきてね」

社長「特に我々のしていることは、メリットが少ないどころか他の組織に目をつけられやすい」

社長「そしてそういう組織は大抵、能力者を利用するようなタチの悪い所が多くてねぇ」

社長「まぁ、彼の身辺を守るための措置、と言ったところかな」

ちひろ「じゃあその為の、偽名……?」

社長「それだけじゃあない」

社長「彼が『ピィ』と名乗っている限り、彼の素性に関してあらゆる詮索をシャットアウトできる……」

社長「という”おまじない”が掛かっているんだよ」

ちひろ「……えっと?」

社長「商売敵に彼の情報が漏れることは一切無いということだよ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:53:13.84 ID:7ad2q7TWo<> 社長「流石に千枝君のような”既に彼の素性を知っている人物”には効かないが」

社長「しかし、そういった人物は”ピィ君の身内”として認識される」

社長「つまり彼女自身も”加護”の対象になっているので安全なわけだね」

ちひろ「……そういう『能力』が掛かっている、ということですか?」

社長「以前も言ったかな? 幸いなことに私には”友だち”が多いんだよ」

社長「知っての通り周子君もその内の一人だがね」

ちひろ(……つまり、彼女レベルの”友だち”が他にも居るってことですよね)

ちひろ(相変わらず底が知れない人だなぁ……) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:53:53.48 ID:7ad2q7TWo<> ピィ「いやぁ、しかしタイミングが良かったな」

周子「ん?」

ピィ「ほら、今俺たちが居なかったらもっと大変な事になってただろ?」

ピィ「本当、間が良いな俺ら」

周子「……」


周子(逆だよ)

周子(他の人なら、ついてない、運が悪い、って嘆く場面なんだけどなー)

周子(……でも)

――周子が『プロダクション』の面子をそれぞれ見やった。

――何も無ければ今頃、全員で祭りに繰り出し、

――面白おかしく、様々な催しに興じていたであろうに。

――しかし、皆が皆真面目……という訳でもなかったが、

――誰一人、この状況に不満気な者は居ないようだった。

――むしろ楽しんでいる節すらあるように感じる。

――周子は先程の龍崎博士の言葉を思い出した。

博士『ふふ、君たちは見ていて本当に気持ちがいい……』


周子(本当、その通りだね……)

周子(だから”ここ”が大好きだよ)

――それは周子が『プロダクション』に居続ける理由でもあった。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:55:02.24 ID:7ad2q7TWo<> 以上です。
『プロダクション』に関係する子数人をお借りしました。(大雑把)

急遽書き始めてさっさと投下する予定だったのに、何かとあって(言い訳)
まぁ、色々と雑です(言い訳)
後半にかけて失速していく感じを何とかしたい(切実)

現行の設定と矛盾とかがありませんように……
あと勢いで色々とぶっ込んでます <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/08/30(土) 01:55:51.52 ID:7ad2q7TWo<> フラグのようでフラグじゃない誰か拾ってくれたらいいなー的なフラグ(本人に拾う気はない)

・晶葉に関して

―晶葉の科学力って、昨今の物騒なノリだと結構喉から手が出るほど欲しい
 って所が多そうだなー、と思い。

・美玲に関して

―美玲が実は強かったら、という以前からの主張を現実にした模様。

・ピィに関して

―実は初期からあった設定。
 といっても、『ただの偽名』程度のものだったのを後付けで魔改造した結果。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/08/30(土) 02:19:40.29 ID:/88gfXrT0<> お二方乙ですー
この犯罪臭のカタマリ、まさにロリコン。と思ったらサクライ…男の娘…だと!?
ロリちゃんたちを送り込んでいいのかな?

プロダクションもみんな仲よさげでなにより
こういう場面でこういう動きをする面々も大事よねー <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/08/30(土) 02:37:17.90 ID:82fmGUDL0<> 皆さん乙ですー

きらりwwwリーダーなのに発言禁止とは…
そして、コアさんに笹を勧められる奈緒…なんか和んだ

サクライPが男の娘…だと…!?
というか、病弱なのかい!


プロダクションも文化祭に集合かー
こういう場面は適材適所やな
ピィの名前にそんな力があるのか
楓さん来てるなら晴も一緒に行動してそうだけど
うーん…なんとか乃々とエマの書き終わったら、うまく混ぜられるように書いてみようかな
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/08/30(土) 11:00:30.38 ID:SIW/AbqHo<> >>87
乙でごぜーます
なんと言うぐう聖の集まり、見ていて眩しいっ!
でもよく見ると働いてない楓さんとか居る、25歳児ほんとかわいい

>>89
送り込んでもええんやで、おそらく問題ないかとー <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/08/30(土) 16:55:26.37 ID:evL8ADXlO<> 皆様乙でした!

学園祭が本当に大集結になってきたなぁ

あと、サクライが色々予想外すぎる…!? <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 01:59:35.68 ID:EGN1Tnc40<> ロリ化時系列で投下でごぜーますです
ギャグなんだから細かいことは気にしないスタイル <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:00:11.62 ID:EGN1Tnc40<> 涼と加蓮がバイトの時間を終えて帰ろうとしていたその時、雨が降ってきた。

涼「雨かー…傘持ってきてないんだけど…」

加蓮「降って来ちゃった…どうしよう、このコンビニで傘を買っても良いと思うけど、それほどでもないかな?」

涼「ビニール傘なんて買ってもそれっきりだろうしなぁ…」

加蓮「小雨だもんね、ちょっと濡れても大丈夫だしこのまま途中まで一緒に帰ろっか?」

涼「だな、アタシもそれでいいよ。同じように雨の中元気に走ってる子供も多いし」

加蓮「途中で雨宿りしてもいいしね」

その雨は浴びた者を幼くさせるという事を、二人は知らなかった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:01:01.32 ID:EGN1Tnc40<> 涼「雨宿りか、どこかでコーヒーでも飲むか?」

加蓮「そうだね、私はポテトが食べたいなー♪」

涼「…一発でバーガー店に決まったな」

加蓮「しかも期間限定でLサイズでも値段は同じなんだよ〜!」

涼「ああ…」

涼(これはLを頼む気だな…小食っぽいけど全部食えるのか?)

そのまま飛び出すように加蓮が外に出た。

加蓮「…あれ?なんだろ…これ…」

涼「うん?どうしたんだよ…って!?」

雨を浴びた加蓮の体が、少しずつ小さくなっていくことに涼は気づいた。

涼「か、加蓮!?大丈夫か!」

小さくなった加蓮に驚いた涼は、思わず駆け寄った。

かれん「?」

りょう「どうなってんだよ…まるで子供…ってアタシもだー!?ま、まさかさっきまで子供だと思ってたのって…!?」

かれん「…ふぇ?」

りょう「と、とりあえず加蓮!この雨はやばい!」

かれん「えっ、え?」

涼は加蓮の手を引いて、慌てて近くの街路樹の下へ逃げ込んだ。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:03:10.36 ID:EGN1Tnc40<> 暫く雨に当たらないように気を張り詰めていたが、そのうちに雨は止んだ。

りょう「…雨が、止んだ?ゲリラ豪雨にしては勢いが無いような…というかこんな雨がまともなはずが無いかぁ」

かれん「…あの、えっと…」

余りにも非常すぎるこの事態に思考を巡らせる涼の袖を加蓮が引く。

りょう「どうした?」

かれん「びょ、びょういんにもどらなきゃ…おくすりのまなきゃ…でも、ここどこかわかんなくて、それで…えっと…コホッ、コホッ」

りょう「…は?……はあっ!?」

りょう(まさか、頭の中まで子供に戻ってるのか!?)

涙目で聞いてくる加蓮に、涼は驚くしかなかった。

涼自身の精神が無事なのは、眠り草とシンクロしたことがあるからなのか、それとも髪を結っているシュシュが仮にも最強クラスの妖怪の体の一部だからか…それは定かではない。

かれん「えっ、あっ…ごめんなさい…」

りょう「あっ…違うんだ、怒った訳じゃないんだ。ちょっとびっくりしただけで」

かれん「…ホント?」

りょう「ホントだって。だから泣くなよ。…とは言っても今病院に連れていくことはできないよな…体温めようにも荷物にタオルも無いし…」

それでも最低限のことはしようと今の体には少々大きいバッグの中身を確認し、中に入れていたハンカチで加蓮の濡れた体を拭いた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:06:06.04 ID:EGN1Tnc40<> かれん「あ、ありがとう…」

りょう「風邪気味なのか?一応は健康そうに見えるけど…って体温低いな」

肉体年齢が戻っても、究極生命体の生命力が消えると言う訳ではないようだ。加蓮の記憶でもここまで健康ではなく、本人も若干違和感を感じている。

かれん「おねえちゃんは、あったかいね?」

りょう「まぁ、子供体温なんだろうなぁ…加蓮の体温はアタシより低いみたいだけど」

かれん「…でもコンコンってなっても、くちからちがでないし、あるけるんだー!…きょうはちょうしがいいみたい!」ニコニコ

りょう「そ、そうなのか…」

りょう(病弱?…それとも体や記憶の戻った時代が偶然入院の時ってだけなのか?)

かれん「おねえちゃんなんだかぽかぽかするね…」

りょう「おいちょ、ちょっと待て!ナチュラルに抱き着いてくるなって!」

かれん「んー?あのね、ぎゅーってするとねーなんだかふわふわ〜ってきもちになるんだよ」

りょう「そ、そんな事言われてもだな…ん?」

何者かの視線を感じる。そして声が聞こえるような気がした。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:06:59.03 ID:EGN1Tnc40<> ――オネエチャン…オネエチャン…チッチャイオネエチャン…イチャイチャ…

――ウラヤマシイ…ネタマシイ…ネタマシイ…ウラヤマシイ………グスン

りょう「加蓮、命の危険を感じる。離れて」

かれん「ふぇ?…そうなの?」

りょう(…今建物の影に小さいカースみたいなのがいたような…赤い目があったから違うのか?)

かれん「あ、そういえば…おねえちゃんとわたしって、まえにどこかであったかな?」

りょう「どういうことだ?」

かれん「だってわたしはおねえちゃんのおなまえしらないのに、おねえちゃんはわたしのおなまえをしってたよ?それに、ちょっとあんしんするんだもん」

りょう「あー…それはな…」

何と答えようか、上手く誤魔化せる言葉をなかなか思いつかない。

かれん「おねえちゃんのおなまえ、おしえて?」

りょう「えっ?…ああ、アタシは涼だよ」

かれん「りょうおねえちゃん…うん、おぼえたよ!」

りょう「そ、そうか」

だが加蓮はもはやそれもあまり気にしていないようである。ほんの少し前の疑問すら好奇心や興味には勝てないようだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:12:53.04 ID:EGN1Tnc40<> かれん「あ!みてみて、あそこにねこさん!ちっちゃい!」

りょう「あーホントだ、小猫だ…まさか野良猫もちっちゃくなってるんじゃないだろうな…」

かれん「わぁ…ねこさん、はじめてみた!ちょっとなでなでしてくる!」

りょう「ちょっ!?どこに行くんだよ!多分道に迷うから行くなー!!」

加蓮が子猫のもとに駆け寄ったが子猫はすぐに逃げてしまう。そして加蓮は逃げる子猫を追いかけ始めた。

涼は自分と加蓮の持っていたバッグを持ちながら、見失わないように追いかける。

りょう「…『浮け』…チッ、能力も使えなくなってる…面倒だな…!」

建物の隙間の道を抜けて公園が向こうに見える道路に出ると、息切れ状態の加蓮が道端のベンチに座っていた。

すぐに近くに駆け寄ると、加蓮も顔を上げてフリフリと手を振る。

かれん「はぁ…はぁ…ねこさんいっちゃった…コホッ、ゴホッ…」

りょう「おいおい、無茶するなよ…アタシだって結構疲れたし…はぁ…」

そう言って加蓮の隣に座る。

かれん「ちょっとつかれちゃった…」

りょう「そうか…無茶するなよ?さっきも咳してたし」

かれん「は〜い…ねぇねぇ、おねえちゃん?あっちでみんながあそんでるんだね、とってもたのしそう」

りょう「そうだなー…行くとしてもちょっと休んでからな」

かれん「うん、なにしてるんだろう?見たことないおもちゃとかあるね」

りょう「公園で、アイツらみたいに遊びたいのか?」

かれん「うん!公園って、見てても楽しいけどね、やっぱり一緒に遊びたいなーって思うんだ〜」

りょう(…スケボーとかしてる奴らはどこから持ってきたんだとか、気になる所ではあるな…あ、元々子供だった子もいるか)

遊ぶ子供たちを眺めながらベンチで休む二人の耳に、楽しそうな音楽が流れてきた。

かれん「?」

バス『♪♪♪〜♪♪♪』

りょう「これって…バス?」

かれん「わ〜かわいい…」

目を引くカラーのファンシーな動物型バスが、この子供だらけの公園の近くに停まった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:14:29.32 ID:EGN1Tnc40<> りょう「…こんなバスいつもは見かけないんだけど…なんか、怪しいな」

バス『あそんでいるよいこのみんな〜!あつまれ〜!』

「「「「わー!!」」」」

「なにこれー!」「すごーい!」

かれん「わ〜!ちょっといってくるね!」トテテテテ

りょう「ああっ待て!行くのかよ!?回復早いな!」

再び走り出した加蓮に、涼は再び二人分の荷物を持って追いかけるが、運が悪いことに横断歩道を加蓮が渡った瞬間赤に変わってしまう。

りょう「か、かれええええええん!!」

叫び声も空しく好奇心に駆られた加蓮はどんどんバスの方へ行ってしまう。

公園の子供たちも殆どが乗り込んでしまっている。最悪、加蓮が乗ったら発車してしまうかもしれない。

そもそもあのバスがどこに行くのかさえ分かっていない。子供たちは無警戒で乗り込んでいくが怪しすぎるのだ。

りょう「…車通って無いし…行けるか…?」

左右を見渡して車が来てない事を確認してから全力ダッシュし、バスへ向かう。

りょう「っわ!?」

しかし、焦ってしまっていたのと体の感覚の違いからか、足がもつれて転んでしまった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:16:01.77 ID:EGN1Tnc40<> りょう「いったぁ…」

荷物は何とか手放さないでいたが、子供になって髪量が少なくなったせいでもともと不安定だったシュシュもスルリと取れてしまう。

急いでシュシュを拾って再び走ろうとしたが転んだ時に怪我をしてしまった足の痛みでなかなか走れない。涙が出そうになる。

バス『みんな乗ってくれたかな〜♪これからみんなで楽しいところにいくんだよ〜♪』

りょう「やばっ…!」

バスのアナウンスが聞こえてくる。今にも発車してしまいそうだ。

りょう「クソ…こういう時こそ、こういう時だけでいい…能力が使えれば…」

その時、手に持っていたシュシュから、何か妙な気配を感じた。

りょう「…あずき?」

視線を向ければ目の錯覚かと思う程の微かな光のようなオーラを纏っているように見えた。

りょう「…なんだこれ、あずきがたまに使う妖力に似てる…まさか、使えって事か?」

考えている暇もない。右腕にシュシュを通し、再び走り出す。

りょう「どっちにしろ…賭けるしかないっ!」

距離はまだある。もうすぐ発車する。幼い体では間に合う事は無いだろう。

だから、一筋の望みに賭ける。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:18:32.34 ID:EGN1Tnc40<> 涼は放置されたままのスケボーに乗って、右手で触れる。

りょう「『アタシをバスの中に連れて行け』!!」

その瞬間シュシュを付けた右手から妖力が送り込まれ、飛ぶように高速で動き出す。

その姿は車内からも見えていた。

かれん「あ、おねえちゃんだ!」

「なんだー?」「すごーい!」「はやーい!」

バスの扉がゆっくりと閉まっていく。

りょう「だあああああああああああああああっ!?予想より速すぎるんだよおおおおおおおおお!!」

涼は必死に高速で動くスケボーにしがみつきながら突っ込む。

りょう(これ死ぬんじゃないかな…)

走馬灯が一瞬の中に圧縮されて流れ始める。

だが、いきなりかかったブレーキと、己の体が飛ぶ感覚によってそれは中断された。

…スケボーは急ブレーキをかけて涼をバスの中にぶち込んだのだった。

りょう「うわああああっ!?」

ゆっくりと閉まる扉をすり抜けて、向う側の窓にぶつかる前にぶら下がっている吊革に思い切り捕まる。

殺せない勢いのままブランコのように動くが天井を蹴って勢いを落とす。

吊革から手を離して着地すると、加蓮が駆け寄ってきた。

かれん「おねえちゃんすごーい!まほうつかいさんみたいだったよ!」

「すごい!」「まほうつかい?」「かっこよかった!」

りょう「そ、そうか…アタシは…し…死ぬかと思った…あはははははは…」ガクリ

かれん「いやー!?おねえちゃん!?りょうおねえちゃんしっかりしてー!?」

このバスがどこに向かうのかとか、このバスから降りなきゃいけないとか、そういう事を考える暇もなく、涼は気絶した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:20:04.55 ID:EGN1Tnc40<> 情報
・涼と加蓮がロリ化。アクアランド行きのバスに乗ってしまいました。涼は恐らく到着する頃には目を覚ましてる筈。
・加蓮は記憶までロリ化、涼さんは見た目は子供、頭脳は大人。
・ロリ化の影響か涼の能力が弱体化。命令する時に妖力を持ったシュシュを装備している方の手で触れないとモノを操作できない模様。

和柄シュシュ
あずきから誕生日にプレゼントされたモノ。あずきの体の一部である為当然それなりの妖力が宿っている。
今回、その妖力が涼の能力のサポートに使われた。今後、何かに影響する可能性がある。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/09/02(火) 02:21:14.52 ID:EGN1Tnc40<> 以上です。涼さんが苦労するだけのお話になった気がする。
ちなみに、ロリ加蓮は記憶と現在の肉体に違いがある為本人が思っている以上に丈夫で回復力があるようです。
途中でナニカいたような気がするのはギャグだからそこまで気にする必要は無い。…筈。 <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/02(火) 14:15:32.82 ID:Y5jJz6g+0<> 乙ー

二人ともロリ化しちゃったか!
病弱ロリ加蓮カワイイなー。ナニカwwwなにしてるんだwww
そして、ロリ加蓮に振り回されて涼さんは無事にいけるのだろうか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/02(火) 20:54:19.66 ID:N+v5Jsjno<> このスレ1年ぶりに覗いたけど、今更また書いたりしても良いのだろうか <>
◆tsGpSwX8mo<>sage<>2014/09/02(火) 20:59:52.77 ID:KM7jWZk2O<> >>104
乙ですー。ロリかれんの可愛さは異常。りょうも頑張って

>>106
お帰りなさいませー <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/02(火) 21:14:24.19 ID:MWsZd6e2O<> 乙です!

ロリ加蓮が色々ヤバい、そして涼さんマジ苦労人


>>106
実際に一年あけてから戻ってきて書いてる自分も居るしへーきへーきですよ、おかえりなさいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/02(火) 21:22:25.36 ID:N+v5Jsjno<> >>107-108
thx
イベント情報とか把握しきれてないけど頑張ってみるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/09/02(火) 21:46:00.22 ID:CNSKLaEzO<> 掲示板の方に顔を出すと良いぞ
展開の確認とかとれるし <>
◆TR1LSc8rto<>sage<>2014/09/03(水) 15:01:37.87 ID:NZLCqspmo<> 一年振りなので酉チェック
久々なので自分が設定したキャラを借りて次から書いてみる
齟齬が生まれたらすいません… <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:03:32.82 ID:NZLCqspmo<> 白兎からユズを救いだし、保健室まで運び込んだキヨラは、ベルフェゴールに白兎の詳細について問いただしていた。
しかし、ベルフェゴールから聞いた情報は、あまりにも呆気なく、そして理解し難いものだった。

キヨラ「―――情報の獲得が出来ない?」

ベルフェゴール「全部が全部ってわけじゃないんだけど…」

ベルフェゴールの能力は、彼女が一度でも【見た】のであれば、その対象の情報を全てを把握することが出来る情報獲得。
個人的プロフィールはもちろん、対象の目的や弱点までも見抜く、全知全能ともいえる怠惰の魔法。
今でこそキヨラにこき使われ自身の魔力は大幅に衰えてはいるものの、その能力の正確さ、恐ろしさはキヨラも充分に理解している。

ベルフェゴール「一応、通り名みたいなのは表示されて……ます」

キヨラ「……」

―――しかし先ほど相まみえた白いモノ

白兎の情報に関しては、そんな彼女の能力でも把握しきれないというのだから驚きを隠せない。
ベルフェゴールに差し出された白兎のバグ画面を見つめながら、キヨラは問う。

キヨラ「ねぇベルフェゴールちゃん、この情報の欠陥部分を解析することは貴女の能力の範囲外になってしまうの?」

ベルフェゴール「あたしの能力は、対象そのままの情報を取り入れて、そのままの状態で再生するものだから…」

ベルフェゴール「情報の書き換え…ましてやデバッグ機能なんてものはついてない…です」

キヨラ「そう…」

キヨラ「(ベルフェゴールちゃんの能力で把握しきれないのならば、現時点ではあの白いモノについて追及するのは不可能かしら…)」

けれども可愛い後輩に手をかけた以上、簡単に見過ごすというわけにもいかない。
キヨラは諦めずにベルフェゴールに踏み込んでみる。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:04:21.40 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「情報が獲得しきれない理由というのはわかってるの?」

ベルフェゴール「うーん…」

ベルフェゴール「考えられる理由はいくつかあるんだけど…」

キヨラ「どんな些細なことでもいいの。教えて?」

ベルフェゴール「……」

事細かに説明するのなんて面倒、とは思ったがベルフェゴールにとってはキヨラに怒られる方がもっと面倒なことだったので仕方なく口を開く。

ベルフェゴール「まず1つ目は、対象が多くの情報を持ち過ぎてること」

ベルフェゴール「って言っても、あたしは対象の過去の情報まで全て獲得出来るし、獲得出来る情報の容量に制限も無いから、この線は薄いと思う…ます」

キヨラ「けど、そういう可能性も無きにしもあらずってことね。…続けて?」

ベルフェゴール「はぁーい…」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:05:23.65 ID:NZLCqspmo<> ベルフェゴール「2つ目は、対象が【解析無効】のスキルを持っている」

キヨラ「過去にそういったケースはあったの?」

ベルフェゴール「無い…です」

ベルフェゴール「さらに言うと【解析無効】っていうスキルの情報はあたしは持っていないから…」

キヨラ「貴女でも、そういった能力が存在するのかどうかもわからない…か」

実際、回復・補助魔法の知識に長けているキヨラでも【自身の持つ情報を外部に漏れさせない】なんていう魔法は聞いたことも無い。
もし存在するとならば、人払いの魔法の上位系にあたるのだろうか?
そもそも、能力によるものとはいえ、自分よりも圧倒的な知識量を持ってるいるベルフェゴールが把握していない時点でそんな能力が存在するかさえ疑わしい。

―――圧倒的な情報量

―――解析無効

2つとも可能性としては不確定なうえ、白兎の正体を導き出すには乏しい情報だ。
それでも引き出しが無いよりはずっと良い。
キヨラはさらにベルフェゴールに問いただす。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:06:36.51 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「今言った2つの他に考えられる原因はもう無いの?」

ベルフェゴール「あたしが考える可能性としては、これが最後になるけど…」

ベルフェゴール「3つ目は…対象の存在自体がバグっている」

キヨラ「…どういうこと?」

ベルフェゴール「うーん…なんて言ったら良いかなぁ…」

ベルフェゴール「キヨラさんは、あたしの能力があらゆる対象に対して有効なのは知ってますよね?」

キヨラ「ええ、もちろん」

キヨラ「人間、動物、神、天使、悪魔といった生命を持つ者の全て…」

キヨラ「更にはコンピューターゲームといった意思の持たない物が対象であっても…」

キヨラ「貴女の能力なら全ての情報を獲得出来る…合ってるかしら?」

ベルフェゴール「正解…です」

ベルフェゴール「でも…」

ベルフェゴール「――そのどれにも当てはまらない【認識されていない存在】だったら?」

キヨラ「――!」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:08:11.68 ID:NZLCqspmo<> ベルフェゴール「…まぁ、あくまで可能性ですけどね……はぁ…」

普段よりも多く喋りすぎたためか、ベルフェゴールがぬいぐるみの状態でもわかるくらいに精神的な疲労の色を見せる。
キヨラはそんなベルフェゴールの頭に手を置き、優しく撫でる。

ベルフェゴール「わっぷ…?」

キヨラ「可能性でも充分よ、ベルフェゴールちゃん」

ベルフェゴール「……」

自身に向けられた柔らかな笑み。
普段キヨラには散々こき使われているベルフェゴールからしたら、違和感の塊そのものだった。
が、不思議とイヤな感じはしなかった。

ベルフェゴール「(労働なんて覚えたせいで、あたしの性質自体が変わりつつあるのかなぁ…)」

七つの大罪の一つを「怠惰」を司るベルフェゴール。
人間界でカースを生み出したり、ゲームソフトの不正ダウンロードの悪事を働いた前科はあるにしろ、その根本は邪悪では無い。
最初にユズと対峙し、勝利した時もユズの命を奪うこともせずその場を後にしたり、むしろユズを自身の仲魔に迎えようともした。
他の者を堕落させることが本質と言えば聞こえは悪いが、ベルフェゴール自身争い事は好まないし、何よりも無作為に他の者の命を奪うような真似は決してしない。
「面倒だから」と言ったらそれまでだが。

ベルフェゴール「(……まっ、いいか)」

ベルフェゴール「(あたし自身を解析するなんて面倒なだけだしっ)」

キヨラと行動を共にし、ベルフェゴールの中で何かが変わりつつある。
が、彼女がそれに気づき、受け入れて生きてくのかは本人はもちろん誰も知る由はない。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:09:34.92 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「【認識されていない存在】…」

キヨラ「つまり【本来は存在してはいない存在】って考えて良いのよね」

ベルフェゴール「そうだと思いますけど…」

ベルフェゴール「それじゃあ、なんのこっちゃって感じですよ」

「―――つまり【本来は存在しないものによって生み出された】ってことかしらぁ?」

キヨラと行動を共にするもう一つのぬいぐるみが突如口をはさむ。
二人の会話を聞き飽きたのか、はたまた何か思うことがあるのか。

キヨラ「そうね、ルシファーちゃん。その線で考えていくのが今はもっとも有力ね」

ルシファー「なるほどねぇ…」

ベルフェゴールとは違い、その根本は邪悪そのものといった「傲慢」のルシファー。
二人の会話が導き出した結論に対して妙に納得をした様子だ。

キヨラ「…ルシファーちゃん、貴女もしかして何か知ってるの?」

ルシファーは含むように笑う。
が、隣にいるベルフェゴールを見るやいなや、彼女にしては珍しい自嘲するかのような笑いに変わる。

ルシファー「どうせ隠してもベルフェゴールの能力で私の考えてることなんて筒抜けなのよねぇ…」

ルシファー「ホント、いやらしい能力なんだからぁ…」

ベルフェゴール「人に協力プレイを求めたこともあったくせに…」

キヨラ「こーら。ケンカしないの」

ルシファー「…はぁい」

ベルフェゴール「むぅ…」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:10:33.55 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「ルシファーちゃん、私のことはどう思ってても構わないわ」

キヨラ「むしろ恨まれていても仕方ないと思ってる」

キヨラ「勝手だけど、それでも必要だと思われる情報は知っておきたいの」

キヨラ「だからお願い。貴女の考えを聞かせて?」

ルシファー「…別にそんな下手に出なくても教えますよぉ」

ルシファー「けど、あくまで憶測ですからね?」

キヨラ「構わないわ。ありがとう」

キヨラはルシファーに感謝の気持ちを告げる。
ルシファーはその言葉を聞き入れたのか聞き入れてないのかわからないが、少し間を置くと隣にいるベルフェゴールに話しかけた。

ルシファー「そもそもベルフェゴールもおかしいと思わなかったわけ?」

ベルフェゴール「へ?何がさ?」

ベルフェゴールはきょとんとする。
今はルシファーの思考を読んでいるわけでは無いので、いきなり話しかけられると思わなかったからだ。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:11:40.23 ID:NZLCqspmo<> ルシファー「…と言っても、私も最初は疑問に思わなかったし」

ルシファー「貴女の解析結果を見ても意味不明だったしねぇ…」

ベルフェゴール「…?」

疑問?
何のことを指しているのだろうか?
そもそもその疑問だらけの白兎の話をしているわけなのだが他に何かあるのだろうか?

ルシファー「キヨラさんも、キヨラさんよぉ」

キヨラ「…どういうこと?」

キヨラも未だにルシファーが何を伝えたいのか理解出来ない。
そんな様子を見て、ルシファーは優越感を感じたのか明るいトーンで言い放つ。

ルシファー「そもそもぉ…」

ルシファー「―――七つの大罪の以外の罪がカースを生み出していること自体があり得ないんですよぉ♪」

キヨラ「――!」

ベルフェゴール「…あー、そういえば」

ベルフェゴールが思い出したように口を開く。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:12:43.35 ID:NZLCqspmo<> ベルフェゴール「カースを生み出すことが出来るのは七つの大罪を背負った者達だけ…」

ベルフェゴール「だけど、あいつらの属性は――」

キヨラ「「正義」…ね」

ルシファー「そういうことぉ♪」

ルシファーはおどけた口調でさらに言葉を続ける。
ベルフェゴールさえも知らない大罪の伝え。

ルシファー「七つの大罪には【存在しない】八つ目の罪…」

ルシファー「それが「正義」と「狂信」よぉ♪」

キヨラ「【存在しない】八つ目の罪…」

ベルフェゴール「ちょっと待って?「正義」と「狂信」だと9つじゃないの?」

ベルフェゴール「それともルシファーさんみたいに「傲慢」と「虚飾」がセットになってるってこと?」

ルシファー「さぁねぇ。そこまではあたしも知らないわぁ」

ルシファー「だって【存在しない】ものなんだものぉ」

キヨラ「……」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:14:11.69 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「(ルシファーちゃんの考えが、もし正しいと過程するならば…)」

キヨラ「(その【存在】を生み出した【存在】とは一体…)」

不確定な情報ではある。
けれども大罪には本来【存在しない】「八つの目の罪」という伝えがあるという情報は非常に有力なものだ。

ベルフェゴール「自然発生っていう可能性は無いのかな?」

ルシファー「自然発生にしても、人間の強い感情が核になって生み出されるものだしぃ…」

ルシファー「人間から生み出されたのなら貴女の能力で解析可能なはずでしょうぉ?」

ベルフェゴール「うーん…それは確かに」

ルシファー「あと、罪を持つカースを浄化して罪とは別の属性を与えるっていうもの可能らしいけどぉ…」

ベルフェゴール「ただの属性変化っていう情報なら、あたしの能力で拾えるね」

ぬいぐるみ達が、あれやこれやと意見を述べる。
客観的に見れば微笑ましいものだが、どちらも罪を司る罪人。
少し異様な光景だ。

キヨラ「…うん。今はこれで良いわ。二人ともありがとう」

キヨラはぬいぐるみ達の会話を中断させる。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:15:20.78 ID:NZLCqspmo<> キヨラ「本体が先か、生み出された原因が先か、いずれは辿りついてみせるわ」

キヨラ「…この子の為にもね」

未だ目を覚まさないユズの髪を優しく撫でる。
もう少し早く駆けつけていれば…なんて悔やんでいる時間は無い。

ルシファー「…不思議なモノねぇ。私達を狩った死神と、形はどうあれまたこうやって出会うなんて」

ベルフェゴール「いずれは利害一致で協力プレイ?…ありがちだけどちょっとなぁ」

流石に自分達を狩った者を前にしてるせいか、二匹の悪魔は複雑な感情を抱いているようにも見える。
しかし、そんな二匹のうちの一匹の悪魔からは意外な言葉が放たれた。

ベルフェゴール「けど、死神さんの過去情報を引き出せば白兎が持つ能力の詳細ぐらいはわかるかな」

その言葉を聞いたキヨラがすかざず反応を示す。

キヨラ「ベルフェゴールちゃん、貴女の能力って、対象人物が過去にどんな戦闘をして、どんな攻撃を受けたかまでも事細かに把握出来るの?」

キヨラは問いただす。
するとベルフェゴールからは、キヨラが予想する以上の返答が返ってきた。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/09/03(水) 15:17:03.85 ID:NZLCqspmo<> ベルフェゴール「あたしが一度「見た」対象が「生命」なら、その「生命」がこれまでに歩んだ全てのルートを完璧に把握出来ますよ?」

ベルフェゴール「ちなみにその過去のルートは、映像化して再生することも出来るけど…」

キヨラ「!?」

ベルフェゴール「知らなかった?…でしたっけ?」

キヨラ「……」

キヨラ「ベルフェゴールちゃん」

ベルフェゴール「はい?」

キヨラ「そういうことはもっと早く言わないとダメでしょ!」

ベルフェゴール「え、えぇっ!?なんで怒られるの!?」

ルシファー「ホント、貴女の能力って盗撮魔よねぇ…」

ベルフェゴール「やめてよ、そういう言い方っ!」

キヨラ「つまりユズちゃんと白兎の戦闘している様子も再生出来るってことで良いのよね?」

ベルフェゴール「まぁ、出来ますけど…」

キヨラ「ちょっとやってみてもらっても良いかしら?」

ベルフェゴール「いやでも、過去の映像再生って結構疲れるんですよねぇ…」

キヨラ「やってくれるわよね?」

ベルフェゴール「……」

キヨラの無機質で威圧感の笑顔。
ベルフェゴールは泣く泣くユズの情報を呼び出し、再生の準備へと取り掛かった。 <>
◆TR1LSc8rto<>sage<>2014/09/03(水) 15:22:11.13 ID:NZLCqspmo<> 情報

・キヨラが八つ目の大罪、「正義」と「狂信」の伝えを知りました
・キヨラの目的に【存在しない】「正義」と「狂信」を調べることが追加されました
・ベルフェゴールのキヨラに対する親愛度が上がりました?
・ベルフェゴールがユズの情報からVS白兎との過去映像を流す準備に取り掛かりました <> @設定
◆TR1LSc8rto<>sage<>2014/09/03(水) 15:25:57.97 ID:NZLCqspmo<> ・過去映像再生

ベルフェゴールが手に入れた対象の過去の情報を映像化して再生する能力。
再生、停止する箇所は任意で操作可能。
本来ベルフェゴールの魔翌力は無限大なので、その気になればその対象の一生分の過去を映像化して再生することも出来る。
でも疲れるからやらない。 <>
◆TR1LSc8rto<>sage<>2014/09/03(水) 15:27:28.77 ID:NZLCqspmo<> 久々に書いたけどやっぱり難しい…
なんか酉も違ってるし…

ベルフェゴールはお気に入りです
他の人が使ってくれて感謝してますです <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/09/03(水) 15:34:31.28 ID:20/mDPFD0<> 乙ですー
ベルフェゴール&ルシファー、◆lbKlS0ZYdV.M氏か!おかえりなさーい

過去の映像も見れちゃうのか、ますます強い情報能力(ただし疲れる)
ベルフェゴールちゃんの親愛度が上がった…だと?こりゃMAXにせねば(錯乱) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/03(水) 17:18:17.74 ID:ot7r9/Q2O<> お久しぶりです&乙ー

ベルフェゴールにそんな力もあるのか
ということは、怠惰の人形師やベルフェゴールのドッペルカース達も劣化だけどそれ使えそうだな <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/03(水) 21:36:52.46 ID:KFNgadlHO<> おかえり&乙!

ベルフェゴールの圧倒的な便利感……すげぇ。 <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/05(金) 01:22:20.07 ID:zjU/4qZvO<> 取り消しされてた佐久間まゆを予約します。

少し待ってみて、他にまゆ希望する方が居れば譲ろうと思いますので、その場合は一言お願い致します。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:12:25.48 ID:d2nuyVkuo<> >>104
元気な加蓮に振り回される涼さん、すごく和みます
そして乗ってしまったのですね、そのバスに
とーっても楽しいところに連れて行かれてしまいますよ(意味深)

>>126
お帰り乙ですー
分離した紗南ちゃんめちゃ使わせていただいておりますです、ええ…
ベルフェゴールちゃんの強能力は怠惰じゃなかったら本当ヤバかったですな




一週間以内を目処に後編投下すると言ったな?あれは嘘だ

い、言うほどオーバーしてませんですし……
では幼児化イベ、後編投下しまー <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:15:06.45 ID:d2nuyVkuo<>
前回までのあらすじ


桃華「まずは弱Pからですわ」 シュッ

紗南「発生早いから屈み弱Pから入ってもいいかもね」

桃華「続けて、弱K→強P」 シュシュッ

紗南「基本ルートだね、ここからどうするかだけど…」

桃華「では、236P『薔薇色オーラ』、浮かんだところをジャンプで追いますわ

    JKがヒットしたところをすかさず632P『フリルドケージ』」 サッ ザッ シュバッ
   
紗南「タイミングシビアすぎない?」

桃華「ですが繋げて見せますわ。ここまで決まればゲージを消費してキャンセルコマンド」 シャルルン

桃華「さらにJP→JK→236K『お嬢様の背伸び』→

   2364P+K『ロゼ・マドモアゼル』(2ゲージ消費)のコンボでトドメ……ですわね」


紗南「イメトレ終了?」

桃華「ええ、これで間違いなくJrちゃまをK.Oできますわ♪」


さくらいJr(僕をどうやってボコるかの相談だったのっ?!!?) ガビーン


前回 >>41-66 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:16:13.57 ID:d2nuyVkuo<>
―― アクアランド行きのバス ――


「うわああああっ!?」

バッ シュタッ

「おねえちゃんすごーい」「まほうつかい?」「かっこよかった!」



紗南「おおっ!ねえ、見た?今入ってきた子のアクション!まるでスーパー配管工みたいだったよ!」

桃華「……紗南ちゃまの中で配管工がどのような位置付けの職業になってるかは存じませんけれど……

   アレほど、勢いよくこのバスに乗り込むなんて……よほど楽しそうに見えたのでしょうか?」

紗南「まあ、乗り込んできてる子供たちたくさん居るしさ、楽しそうにはみえるんじゃないの?」

桃華「……縮んでいても流石はPちゃまの手腕と言ったところですわね」


紗南「それにしても……まさか誘拐バスにあえて乗って

   正面きってアクアランドに乗り込むなんてさ……大胆すぎない?」

桃華「うふふ、せっかく送迎していただけるのですから使わない手はありませんことよ、

   このまま入園ゲートまで、快適に運んでいただくとしましょう♪」

紗南「快適にって……急がないとまずいんじゃなかった?」

桃華「急ぐ必要はありますが、焦る必要はありませんのよ?

   そうですわね……到着まではまだ時間があるようですし、ここに『アクアランド』のパンフレットがありますので、

   気になるアトラクションのチェックなどいかが?」

桃華「わたくしのオススメはやはり『大観覧車』ですわね、……アクアランドを上空から見渡せる高い景色とそれに加えて……」

紗南(のんびりだあ……)
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:17:56.11 ID:d2nuyVkuo<>

―― サクライ・アクアランド 入場ゲート ――


こどもじゅうぎょういん「いらっしゃーい、さくらい・あくあらんど へー」

こどもじゅうぎょういん「しょうがくせいいかのかたは、にゅうじょうりょうむりょー」

こどもじゅうぎょういん「おとなのひとは、このみずをかぶってからはいってくださーい」


「ゆうえんちー!」「あそびほうだいだってー!」
「むりょーであそべちまうんだ!」「のりこめー!」


桃華「大人は被れと言ったあの水……例の薬入りですわね

   入場者はみな問答無用で子供にしてしまう、と言う事のようですわ」

桃華「まあ、元々子供のわたくし達は問題なく、ここはスルーパスですが」

紗南「あの、アタシ中学生なんだけど……」

桃華「黙っていれば小学生に見えますわよ」

紗南「……まるで小学生以下が安くなる食べ放題店に入ったお母さんみたいな事言うー」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:19:02.48 ID:d2nuyVkuo<>


―― サクライ・アクアランド エントランス広場 ――


桃華「さて、二人ともまったく問題なく無事に入場できましたわね」

紗南「黙ってたら本当に入れた……」 ブツブツ

桃華「気にしますわね……若く見える事は得な事しかありませんのに

   そんな事で文句を言っていては、レヴィちゃまあたりに嫉妬されてしまいますわよ」



桃華「さて……Pちゃまは、おそらくここから見えるお城のような中央施設に居るはずですわ」

紗南「どうしてわかるの?」

桃華「そう言うところがお好きな方だからですわ」

紗南「ああ……納得」

桃華「そして……どうやら中央施設に向かうには幾つかのアトラクションが避けては通れないようですわね……少々面倒ですわ…」

紗南「あ、それマップ?見せて見せて」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:20:06.39 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「おっ、本当だ。うまくできてるねー」

桃華「……何をわくわくしていますの」

紗南「ん?だって、こう言うステージを乗り越えていく感じって、なんか冒険っぽい感じするし…

   端的に言えば楽しい」

桃華「……子供心を巧みに掴む施設配置と言う訳ですわね」


ペンギンみたいなきぐるみ「……」 ペチペチペチ


紗南「あれ?もしかしてこのテーマパークのマスコットキャラクター?

   へえ、意外と素直に可愛い感じだね」

桃華「サクラペンペンくんですわね、地上に現れた水の楽園を楽しむ為に

    二足歩行を始めたクジラと言う設定だそうですわ」

紗南「え?明らかにペンギンなのにクジラなの?」


サクラペンペン「さくら汁ブシャアアアアアアアアアアアア」 ジュワー!


桃華「あのように、背中から潮を吹きますので」

紗南「かわいくない、全然かわいくない」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:21:16.90 ID:d2nuyVkuo<>


サクラペンペン「ブシャァアアアアアアア」 ジュワー!


紗南「それにしても……水を噴出す着ぐるみなんてどんな仕組みになって」

桃華「!!」

桃華「危ないですわ!!紗南ちゃま!!!」 ドンッ

紗南「うわっ」


幸子「ふふーん!一人で噂のテーマパークに遊びに来てもカワイイですよね!ボク!」

ブシャァアアア

幸子「ガボゴボガボゴボボ!!」


紗南「通りすがりのはねっ毛の子が潮吹きの餌食に!?」

桃華「この水はおそらく……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:22:00.89 ID:d2nuyVkuo<>

さちこ「いきなりみずをかけるなんて、しつれいなひとですね!」

さちこ「まあちいさくなっても、ボクはかわいいですけどね!」 ドヤッ


紗南「! 小さくなった!」

桃華「やはり……『若返り薬』が仕込まれていましたわね」

紗南「って事は……」


サクラペンペン「……」


紗南「アイツ、敵モンスターってこと?」


【 エンカウント!サクラペンペンがあらわれた! ▼ 】


コマンド >たたかう  どうぐ
       さくせん   にげる



桃華「……当然、逃げますわよ」 ダッ

紗南「あ、待って」 ダッ


【 サナたちは にげだした! ▼ 】 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:22:48.20 ID:d2nuyVkuo<>
サクラペンペン「……」 ペチペチペチペチペチペチ


桃華「っ!追ってきてますわねっ…」

紗南「アイツ結構はやいよ?!足音の効果音がぺちぺちのくせに機敏っ!!

    しかも無言こわいっ!!」


サクラペンペン「……」 ペチペチペチペチペチペチ


紗南「それにしてもバレるの早くない?」

桃華「いえ……わたくし達の目的がバレたから襲われているのではなく…

   どうやらアレは、目に付く人間を無差別に選んで水を掛けているだけのようですわ」

紗南「……侵入者対策だね……それくらい用意してるよねえ……」

桃華「それプラス、園内入場者の幼児化の維持ですわね…

    まったく、Jrちゃまは何をお考えなのかしら」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:23:41.39 ID:d2nuyVkuo<>

サクラペンペン「……」 ペチペチペチペチペチペチ


桃華「しつこいですわね……」

紗南「このままだと追いつかれちゃうよ」

桃華「……そうですわね、ただ逃げるばかりではジリ貧でしょうか……

   状況を打開するためにも…紗南ちゃま、この辺りで二手に分かれるといたしましょう」

紗南「いいけどさ……それって、もしかして

    アタシ置いてかれて囮にされるフラグじゃない……?」

桃華「……」

紗南「……」

桃華「……後で骨は拾って差し上げますわ」

紗南「確定だっ!?それ見捨てるって言わないっ?!」

桃華「紗南ちゃまは犠牲になりましたわ……古くから続く因縁……その犠牲にですわ」

紗南「もう完全に切り捨てるつもりでいるぅうう!!」

桃華「うふっ、合理的かつ戦略的な判断の帰結ですのよ♪ごめんあそばせ」


紗南「ふふふっ、けど残念!こんな事もあろうかと!

    アタシ、今日はエアロシューズ(加速装置、Bダッシュ機能付き)を履いてきたんだよ!」 バーン!

紗南「これを履いてる限り、逃走の早さはアタシの方が早いし!

    逃げ遅れて犠牲になるとすればお嬢様の方だね!!(協調性のない主張)」


桃華「それでは、ごきげんようですわー(協調性のない行動)」 バサバサ

紗南「飛んだぁあ!!卑怯!!!」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:24:53.56 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「周りの目が子供だけだから、正体明かして飛んでも問題ないってこと……?」


サクラペンペン「……」 ペチペチペチペチペチペチ


紗南「そして当然の様にこっち追ってきてるし!ですよねー!」

紗南「くっ、こうなったらBダッシュで超加速だよっ!!

   憤怒の町でカース達から逃げ切ったアタシの逃走スキル舐めないでよねっ!!」 ダーッシュ!


サクラペンペン「……」 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ


紗南「ひぃっ!!効果音じゃ分からないけどアタシのスピードに付いて来れてるぅうう!!!

   こわっ!!!だから無言で無表情こわいってっ!!!」


サクラペンペン「ブシャアアアアアアアアアアアア!!!」 ジュワー!


紗南「だからって奇声あげて潮吹きながらはもっと怖いぃっ!!」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:25:58.46 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「!!」

紗南「はっ、しまった!行き止まりっ!!」


サクラペンペン「ジュルルルルルルルルルルルルル!!!!!!ジュポ!!ジュポ!!!!!!ジュブブブブブブ!!!グッポグッポ!!」


紗南「何の音?!それ何の音なのっ!?!」

紗南「と、とにかく絶体絶命の危機!?アタシいっつもこんな役回りばっかりじゃない?!くそぉぅ!

   せめて……せめて何か戦える武器とかがあれば……」


「あら紗南ちゃま、フラグをお立てになるのがお上手ですわね」


紗南「!! 上から聞こえるこの声は……お嬢様!?」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:26:48.71 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「武器を調達して来ましたわ!受け取りなさいな!!」 ブンッ


紗南「キター!!ナイスアシスト!」 ガシッ

紗南「ピンチが一転チャーンス!ヒーローサナは新しい武器を手に入れた!

   これを使ってアイツを迎え撃つよ!ジャキーン!

   ……ってなにこれ……」


桃華「アクアランドの売店で売られているウォーターガンですわ、水鉄砲ともいいますわね」

紗南「こ、これでどうしろと……」


サクラペンペン「コーホー……コーホー……」


紗南「息遣いの音……はっ、そう言う事か!狙うのは……

    着ぐるみの口!通気口だよ!!バキューン!!」


サクラペンペン「!!」

バシュンッ <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:27:43.60 ID:d2nuyVkuo<>



さくらぺんぺん「きぐるみぶかぶかー」 ズルズル


紗南「水鉄砲の中身は『若返り薬』だったんだね」

桃華「流石、ゲーマー三好紗南さん。お見事な狙い撃ちでしたわ♪」 パチパチパチ

紗南「まあね!ガンシューで鍛えた射撃の腕、それほどでもあるかなっ!」 フンスッ


紗南「って!武器を取りに行ってただけなら先に言ってよ!!

    さっきは本当に切り捨てられたかと思ったじゃんか!!」 プンスカ

桃華「あら♪わたくしが忠実な部下を見捨てることなどあるはずありませんわ♪」

紗南「……本当に?」

桃華「まあ……切り捨てるのも一つの手だとは考えていましたけれど(目反らし)」

紗南「おい」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:28:34.38 ID:d2nuyVkuo<>
桃華「どうやら……あくまで子供のJrちゃまは、遊び好きのようなのですわ

   マップの配置もそうですし、キャラクターを敵として用意していたのもそうですし……」

桃華「中央施設に向かうまでに挑むアトラクションにしても、遊び心をくすぐるような仕掛けを施しているはず」

紗南「ん?……言われて見れば確かにそんな感じなのかも」

桃華「もし、そうであるならば、このアクアランドは……

    紗南ちゃま、あなたの独壇場ですわ!!」

紗南「独壇場……」

桃華「ええ、まるでヒーローのようにカッコよく活躍しちゃってくださいまし♪」

紗南「……へへっ、ちょっと燃えてきちゃったかな」

桃華(ちょろいですわね) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:29:30.77 ID:d2nuyVkuo<>


【 かくして ヒーロー サナ の かいしんげきは つづく ▼ 】


バシュンッ バシュンッ バシュンッ

「うわー、やられたー」「かてないー」「どないせーっちゅーねん」

紗南「チョロあまだね!」



【 サクライ サーキット ▼ 】

「すりっぷしたー」「まがりきれないよー」「ばななふんだー」

紗南「インド人を右にっ!!」 ギュルルルン


【 サクライ スタジアム ▼ 】

「うわー!ぼくのうちゅーさいきょーのバタモンがやられるなんてー!」

紗南「サクライバッジ、ゲットだぜ!!」 キュピーン


【 サクライ アイランド ▼ 】

「ふまないでー」「こうらぬげたー」「コインとられたー」

紗南「イヤッフゥ!!」 ピロリロリン♪


桃華(攻略は任せてるだけでいいですから、楽なものですわ…) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:30:28.64 ID:d2nuyVkuo<>


―― サクライ・アクアランド 中央施設 入り口 (関係者以外立ち入り禁止) ――


紗南「はぁー!楽しかったぁー!」

桃華「紗南ちゃまのおかげでここまで楽に攻略できましたわ♪」

紗南「へへッ!こう言うお仕事なら任せてよ!」


桃華「頼もしい限りですが、目的はお忘れではなくて?」

紗南「サクライさん殴るんでしょ?」

桃華「ええ、そしてサクライJrは……この扉の先に居ますわ」

紗南「いよいよ決戦だね」


桃華「ところで、紗南ちゃまその格好は……」

紗南「よく聞いてくれましたっ!ビキニアーマーだよ!

   アトラクションの流れで衣装着せ替えさせられたけど、まさかビキニアーマーだったなんてっ!!

   これはすぐに着るしかないって思ったね!!」

桃華「……紗南ちゃまが良いのなら、良いのですが」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:31:33.55 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「あれ?もしかしてビキニアーマー馬鹿にしてるっ?!

    これでも由緒ある伝統的な防具なんだからねっ!!」

桃華「由緒ある伝統的な防具がその程度の防御範囲でいいのかとは思いますけれど」

紗南「だからこそじゃんっ!わかってないなー」


紗南「だいたい格好云々言うならお嬢様だってそうじゃんっ!

    ビキニアーマーほどじゃないかもしれないけど、なんでそんな格好してるのさっ!!」

桃華「それはわたくしが聞きたいくらいですけれどね」


桃華「アトラクションに挑む都合上、同行するわたくしもまたお召し物の着せ替えをさせられましたから……

    他に衣装の選択肢もありませんでしたし、仕方ありませんわ」

桃華「……まあしかし……あの時、あの関門を通過する為に、あのような戦いを強いられて…

    この衣装があんな風に役に立つとは思ってもいませんでしたわ」

紗南「あー、確かに……あの時はお互いにドレスチェンジしてなかったら即死だったね」

桃華「縮んでいても流石はPちゃまと言うべきでしょうか、恐ろしい手を用意していたものでしたわね……」


桃華「とにかく、これから挑むのはそのような一筋縄でいかない方ですわよ。

   紗南ちゃま、覚悟はよろしくて?」

紗南「……もちっ!!」 グッ


桃華「では、扉を開くといたしましょう」

紗南「なんだか、決戦らしい雰囲気でてきたね」


ギィイイイ

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:33:49.57 ID:d2nuyVkuo<>


―― サクライ・アクアランド 中央施設内部 ――


紗南「……真っ暗だね」

桃華「罠がしかけてあるかもしれませんから、周囲には気を配りなさいな」


スタスタスタ…

ガシャンッ!


紗南「!! 扉が勝手に閉じたよっ!」

桃華「あらまあ」



ペカー!

さくらいJr「ようこそ、愛らしいお嬢様たち」


紗南「まぶしっ、ライトまぶしいっ!」

桃華(キザったらしい演出ですわ……)

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:34:31.04 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「あれが……サクライさん?」

桃華「ええ、金髪碧眼……野心の灯るあの瞳は小さい頃から変わらずであったようですわね」


さくらいJr「君たちは……”大人の僕”の知り合いだったのかな」


紗南「こっちの正体はわかってない?」

桃華「そのようですわ」


さくらいJr「まあ……何処の誰かは知らないけれど、君たちの事は園内に入った時からずっと見てたよ」


紗南「わっ……侵入した事はバレてたらしいけど」

桃華「悠長なこと……わかっていて懐まで誘っていらしたなんて」


さくらいJr「あっはっは……いや、ちょっとしたゲームだったんだよ。君たちを試すつもりのねっ」

さくらいJr「どうしてか知らないけど、君たちは僕の目的を止めるつもりだったみたいだったし、興味があったんだ」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:35:28.32 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「計画と言いますと……”幼児化”した子供たちを集めて”再教育”

    そうやって、大人達を自身の都合のいい私兵として作りかえるプランの事かしら」

紗南「!!」


さくらいJr「おっと、やっぱりよくわかってるね」

さくらいJr「そうだよ、その通り!この世界の大人たちって言うのは、存外無能ばかりみたいだからね。

       ちょっと使えるかなって奴でも、”幼児化”してみたら程度の低さがよくわかる

       まったく……”大人の僕”も含めて、中身の無い”ガキ”ばかりさ」

さくらいJr「だから僕が再教育してあげるんだっ!はーはっはっはっ…ごほっ(吐血)」



紗南「あ、あんな見た目で結構えげつない事考えてたっ!」

桃華「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:36:11.53 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「ご高説、結構な事ですけれど……そんな事わたくしがさせると思いまして?」


さくらいJr「おや、君ならわかってくれると思ったんだけどね…」

さくらいJr「なんとなく僕と似通った匂いを感じるしね、見た目の雰囲気だけじゃなく」


桃華「うふふ、侮辱も大概になさいな」

紗南(いや、結構似てると思うけど……)


さくらいJr「ま、どうしても僕の作り上げたこの『コドモ帝国』を潰す気で居るなら」

さくらいJr「ここからは平和的に交渉さ」 パチッ


ズドドドドド…
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:37:20.48 ID:d2nuyVkuo<>

こども「さくらいさまのしょうしゅうだー」

こども「みなのものー、じゅうをかまえろー」

こどもたち「「「「あいあいさー」」」」

ジャキッ ジャキ ジャキ ジャキ ジャキッ


紗南「っ……囲まれた……」

桃華「……」


さくらいJr「ここまで来れた君たちの実力は認めるところだけど」

さくらいJr「けれど、敵地の真っ只中に乗り込んできたのは何か考えがあってのことなのかな?」


紗南「……」 ジリッ


さくらいJr「おっと、無駄な抵抗はやめた方がいいね」

さくらいJr「ウォーターガンを扱うのが子供たちだからって、この数の差じゃあどうしたって避けることなんてできないよ」


桃華「下品な交渉ですこと……」


さくらいJr「あはは、武力による脅しは基本中の基本でしょ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:38:20.10 ID:d2nuyVkuo<>

紗南「……」

桃華「……」


さくらいJr「さて、落ち着いたところで……交渉の続きをしようか」

さくらいJr「君たちの態度次第では、計画を邪魔しようとした事を、

       僕は”水に流してあげてもいい”と思っているよ。ふふっ」


桃華「まあ、ありがたい申し出ですわね

   それで、わたくし達は何をすればよろしいのかしら?

   地に頭を伏せて、許しでも乞いましょうか?」

紗南(そんな事絶対する気ないくせに)


桃華「……自慢では在りませんが、この紗南ちゃまの土下座スキルはなかなかのものでしてよ

   世界中どこを探しても、あれほど美しい謝罪はわたくし見たことありませんでしたわ」

紗南「本当に自慢じゃないしっ、しかもアタシそんな事一度もしたことないかんねっ!!!」


さくらいJr「あははっ、それはそれで興味深いから見てみたいけど…

       僕は形だけの謝罪なんて求めてないよ、それに付加価値があるなら話は別だけどさ」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:39:32.74 ID:d2nuyVkuo<>

さくらいJr「僕の一つ目の要求は、まず……ビキニアーマーの君」


紗南「えっ、アタシ?」


さくらいJr「ここまでの活躍見ていたけど、君のセンスは相当だね

      まだまだ未熟だから荒はあるけれど、磨き上げればその力は素晴らしいものになると思う」


紗南「あ、ありがとうございます…?」

紗南(こいつ今アタシより年下なのになんでこんなに上からなんだろ……)


さくらいJr「そこで、君には、僕のボディーガードを勤めてもらいたいな」


紗南「えっ?」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:40:21.78 ID:d2nuyVkuo<>

さくらいJr「僕は立場上、命を狙われることもあるし、それに忙しいから人手が欲しくてね。

      財閥の人材だけじゃ足りないから、行く行くは僕だけの為に動く『エージェント』を組織するつもりなんだけど。

      やっぱりそう言う仕事を任せられるのは、ちゃんと実力のあって信頼できる人じゃなきゃね」

さくらいJr「君なら文句なしだよ。もちろん報酬ははずむよ、どうかな?」


紗南「……そんなのお断」


さくらいJr「僕は今、君が貰ってるだろうお給料の2倍のお金を出すよ」


紗南「……あ、甘くみないでよね!アタシはお金なんかじゃ釣られな」


さくらいJr「最新のゲームがいつでもできる環境と熱い勝負の出来る対戦相手も提供しようかな。

       あ、そうだ。僕が企業に働きかければ君が主人公のゲームを作ることができるかも……」


紗南「……おっとぉ」

紗南「ど、どうしようかなぁ……意外と魅力的なお話なのかも……?」

桃華「紗南ちゃま、なに目の色を変えてますの……

   言っておきますけれど、わたくしを裏切ったりしたらどうなるかわかってますわよね」 コキュッ

紗南「…………うぅぅぅぅ、惜しいけど謹んで辞退しますぅぅ(半泣き)」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:42:07.38 ID:d2nuyVkuo<>

さくらいJr「あはははっ、裏切りにならなきゃいいんでしょ?」

さくらいJr「つまり、僕とその子の配下を両立すればいいだけじゃないか」


紗南「?」

桃華「どう言うことかしら?」


さくらいJr「これは、2つ目の要求。僕と似ている君への要求さ」


桃華「あら、察するに……わたくしに同盟でも組もうとおっしゃているのかしら?」


さくらいJr「似たようなものかもね、けど少しだけ違う」

さくらいJr「僕の君への要求はただ一つ」

スタスタスタ…


桃華「……」

紗南(近づいてきた……) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:43:10.02 ID:d2nuyVkuo<>  



花束 サッ


さくらいJr「結婚してください」

桃華「……」





紗南「………」



紗南(そこには、実の娘に求婚する父親の姿がありました)


こどもたち「「「「おめでたーい」」」」

紗南(…………今になってお嬢様がウェディングドレスに着せ替えさせられた意味がよく分かったよ)
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:43:49.07 ID:d2nuyVkuo<>

さくらいJr「僕は……この園内に侵入してきた時から、貴女から目が離せなかったんだ……

      どうしてかなって思ったんだけど、すぐに気づいたよ」

さくらいJr「ああ、そうか!これが恋なんだって!」

桃華「……」


紗南「何言ってるのかな、アイツ」


さくらいJr「僕は欲しい物はなんだって手に入れてきた

      今だってそうだよ、この世界を手にするためにどんな努力も惜しむつもりはない!」

さくらいJr「そして、貴女も!!」

さくらいJr「僕は貴女を手に入れるためなら、貴女の為に何でも用意してみせる!!

      玩具も、本も、服も、宝石も、お金も、家も、人も、国だって、何だってね!!」

桃華「……」


さくらいJr「だからどうか、僕の物になってほしい!!」

桃華「……」


桃華「……Jrちゃま」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:44:45.75 ID:d2nuyVkuo<>  




桃華 「 二 十 年 早 い で す わ っ !!!!」 ドガッ

さくらいJr 「 ん ご ふ っ !!!(吐血)」



紗南(踵落し……いたそー)

  <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:45:26.31 ID:d2nuyVkuo<>


桃華「貧困……発想がまるきりお子様ですわね……

   懐の豊かさで、わたくしを懐柔しようなどと心の貧しいお考えですわっ!」


こども「さ、さくらいさまがやられたー!」

こども「みなのもの!ぞくをうてー!うてー!」

ジャキッ ジャキ ジャキ ジャキ ジャキッ


桃華「『搾取』!あなた方全員から”水鉄砲を扱うスキル”を奪いますわ!!」


ポロッ ポロッ ポロッ ポロッ ポロッ

「えっ」「あ、あれー」「お、おとしちゃうよー」


桃華「うふっ♪やはり実力差の大きい子達にはとてもよく通じますわね」

桃華『……静寂なる闇よ、大いなる我が力に従い、神の子らの意識を閉ざす風であれ』

桃華『ヒュプノスクラウド……』


「ねむーい……」「もうよるー……?」「くーすかー……くーすかー…」


桃華「……子供はお寝んねの時間ですわ♪

   強烈な眠気を与える魔術、にが〜いコーヒーでも飲まなければ抗えませんことよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:47:31.44 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「さて、あらかた片付きましたわね」

紗南「うっ……すっごくねむい……」

桃華「あら?わたくしの催眠魔術の効果範囲に居て、まだ立っていられるなんて

   紗南ちゃま、やりますわね。よほどの睡眠耐性があるようですわ」

紗南「て、徹ゲーには馴れてるんで……」 グッ


さくらいJr「ばたんきゅー……」


桃華「まったく……たった2人の女の子に負けるようでは、大人の支配など夢のまた夢……

   その”野心”だけは評価しますけれど、その他はまだまだですわ。

   わたくしを欲しいとおっしゃるのなら、わたくしに見合う殿方になれるよう、もっと精進なさることですわね」

紗南「…………アレ倒したし、これでクエスト完了?」

桃華「ええ、後は事体を好転させるだけですわ♪」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:49:03.82 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「まずは『アクアランド』の水から『若返り薬』を抜かせて、普通の水に変えるとしましょう

   これで、ここを訪れた”幼児化”した者たちも……雨が止み時間がたてば元の姿に戻れるはずですわ」

紗南「……サクライさんと同じ事はしないんだ?幼児化した大人の再教育ってやつ」

桃華「薬効の不確かな薬を使う以上、あんなものは到底無理のある企画ですわよ……

   それに何より……Jrちゃまは、ヒーローの存在を知らないようでしたし……彼らを甘くみてはいけませんわ」


紗南「そっか……それじゃあ集めた子供たちはどうするの?

   世間的には攫ったことになるんじゃ……?」

桃華「保護者が居ないことを利用しますわ。

   無防備に遊んでいる方々をそこら辺に放っておくことはできませんから、

   財閥が”保護していた”と言う名目で話を収めさせる事にしましょう。

   幸いにして、シーズン外れですから宿泊施設には空きがありますし、

   利用者もリゾート施設を無料で楽しんでいるのですから、あまり文句の声もでないはずですわ」

紗南「なるほど」

桃華「ですから」


桃華「これにて一件落着……ですわね、うふふっ♪」 パチッ <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:50:18.19 ID:d2nuyVkuo<>


―― サクライ・アクアランド エントランス広場 ――



桃華「……遅いですわよ、Pちゃま」

桃華「レディーを待たせるなんて、らしからぬ失態ですわね」

サクライP「…………申し訳ありません、積極的な解毒に時間が掛かってしまい……」

サクライP「……ご迷惑をおかけしたようですね」


桃華「もう……無粋ですわね、その様な事をいつまでもウジウジと気にしていてはいけませんわ」

サクライP「しかし……いえ、失礼しました」


桃華「うふっ♪そんな事より……今はこのテーマパークを回ることが先決ですのよ?」

桃華「せっかく来たのですから、楽しい休暇を過ごしたいですものね」

桃華「エスコート、お願いしますわ♪」

サクライP「……もちろん。お任せください、お姫様」

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:51:30.77 ID:d2nuyVkuo<>



―― サクライ・アクアランド 大観覧車 ――


カラン カラン


桃華「……園内を一望できる大観覧車、アクアランドを楽しむならやはりここは外せませんわね♪」

サクライP「……アクアランドのアトラクションの配置と簡単な設計は、私が父……前当主から任された最初の仕事でした」

桃華「あら、そうでしたの?大役ですわね」

サクライP「ええ、『子供の目線から最強に無敵に楽しいテーマパークを』と言うのが、アクアランドの掲げているテーマの1つでして」

サクライP「当時、子供盛りの私が適任だったのでしょう。実際、評価は高かったようです」

サクライP「この大観覧車は特に苦心した覚えがあります。目指すのならば世界一大きく、世界一楽しい観覧車……

      最終的には水族館の施設を一部巻き込み、観覧車を通過させることで、アクアランドの名に相応しい形でそれを為したのですが」

桃華「幼少の頃からそのような……なるほど、Pちゃまにとっては思い入れのある場所でしたのね」

サクライP「ははっ、そう言う事です。ですから”子供の私”がこの場所を乗っ取ったと聞いたときは、つい納得してしまいました」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:52:56.63 ID:d2nuyVkuo<>

桃華「……Pちゃまは今回、子供になっていた時の事は覚えていますの?」

サクライP「いえ、まったく……情けない事に”幼児化”していた頃どころか

      ”ギャグ因子”の影響を受けていた時の事でさえ……覚えていませんね」

桃華「そうですの、まあ……あれほど全てを”なあなあ”に終わらせてしまう因子もありませんものね」


サクライP「……」

桃華「……」


サクライP「……一つだけ、覚えていることがあります」

サクライP「いえ、覚えていると言うよりは……思い出したと言うべきでしょうね」

桃華「あら、何かしら?」


サクライP「子供のころの事です」

サクライP「あの頃の私は……世界が、”ちっぽけ”に見えていました」

桃華「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:53:40.00 ID:d2nuyVkuo<>

サクライP「どうにもその頃は……自分が優秀であると思い込み、自分以上の人間はいないなどと勘違いしていたのです。

      ふふっ、一度”痛い目”に合うまでは、その勘違いは続いたのですが……」

桃華「どんな方でも……未熟な頃と言うのは存在するものですわね」

サクライP「あの頃は、その年頃の男子にありがちな事に黒歴史ノートなども書いていましたよ。

      『完全世界征服マニュアル』なんて名づけましたっけ……懐かしいものです」

桃華「うふっ、可愛らしいですわね♪」

サクライP「まったくです」



サクライP「……年を重ねるたびに、僕は僕自身の未熟さを思い知ってきました」

サクライP「子供の頃、あれほど苦心し世界一となったこの大観覧車も今では世界ランキング10位以内にも入らない。

      日進月歩。人々は途方も無く進歩を続け、より良く豊かな方へとその欲望を走らせ続けている」

サクライP「ああ、未だに世界は広い!そして、尚も広がりを見せようとしているなんてね」      

桃華「だからこそ、今でもその全てを追い続けたいと思えるのでしょう?」

サクライP「……はっはっは。こんな夢を見続けてる僕は、今でも子供みたいなものかな」

桃華「……いいえ、それでこそ。わたくしの見込んだPちゃまですわ。頑張りなさいな」

サクライP「ええ、応援感謝します」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:55:02.75 ID:d2nuyVkuo<>


桃華(今、手にある物だけに満足せず)

桃華(ただひたすらに理想を追い続ける)

桃華(それこそ、『欲望』……悪魔たるわたくしがもっとも美しいと思うもの)


桃華(人が望み続ける限り、世界は広がり続けますわ)

桃華(それは終わりの無い追求、ですが、もしかするとその道程こそが……)

桃華(……いえ、わたくしはあくまで求め続ける事にしましょう)

桃華(この世界の全ての、その先を……)



桃華「それにしても、本当に良い景色ですわ……」

桃華「遊びに来てよかったですわね、お父様♪」

サクライP「…!」

サクライP「ふふっ……ああ、なかなかどうして……楽しいものだ」

桃華「うふふ♪」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:56:11.47 ID:d2nuyVkuo<>



―― サクライ・アクアランド エントランス広場 ――


紗南「……あんな風にも笑えるんだ」

紗南「ああしてると本当に子供みたいだよね、悪魔なのに」

紗南「……」

紗南「…………悪魔にも守りたい物とかってあるのかな」


チナミ「まったく、散々な目にあったわ」

紗南「あ、チナミさん。そっか、チナミさんも幼児化して『アクアランド』に来てたんだね」

チナミ「あら紗南。あなたも来ていたの?」

小チナミ「くーすかー……すぴー……」


紗南「……?チナミさんの持ってるその子って?」

チナミ「私の分身にして使い魔よ。私が幼児化してる間、サクライの事を探らせてたんだけど眠っちゃってるのよね」

紗南(なるほど、あの場に居たんだ) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:57:44.15 ID:d2nuyVkuo<>

チナミ「睡眠魔術にでも中てられちゃったのかしらね……」

紗南「睡眠魔術効くんだね、吸血鬼の分身なのにさ」

チナミ「分身だからよ、コスト削減の為に私の持ってる耐性でも付加してないことが多いの」

紗南「そんなものなの?」

チナミ「耐性の無い分身を作るなら消費MPは5で済むけど、睡眠耐性を付加すると消費MPが20になるわ」

紗南「あ、わかりやすい」


チナミ「まあ、今は眠っちゃってるけど!ずっと監視してたはずだからサクライの弱点はしっかりと調べているはずよ!ふふふ!」

紗南「サクライさんの弱点か…」

紗南(それって……確実にお嬢様だよね)


小チナミ「すぴー……すやすや……」

チナミ「それにしてもぐっすり眠っちゃって……記憶が飛んでなければいいけど」

紗南「? どう言うこと?」

チナミ「催眠系の術って言うのは、術中に嵌ると前後の記憶が飛びやすいのよ」

紗南「へえ」


チナミ「この状態でもし、万が一、この子が幼児化でもしちゃったら、確実に記憶飛んじゃうでしょうね」

紗南「……へえ」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 10:59:05.54 ID:d2nuyVkuo<>
紗南「えい」 バシュンッ

チナミ「きゃぁっ!!な、何をするのよ!!」

こちなみ「つめたいっ」


ちなみ「!?」

ちなみ「わ、わかがえりやくいりだったの!?」

紗南「ごめん。チナミさんのドヤ顔見てたらつい手が滑って、ごめん」

ちなみ「あくいしかないじゃないのっ!!」 プンスカ


こちなみ「ここどこなのー……?」

ちなみ「……これじゃあ、もうじゃくてんなんておぼえてないわよ。もおー……」

紗南「なんとなくだけど、楽しそうなところ邪魔したくなかったしね」

ちなみ「??」


紗南「たまには、親子”水入らず”もいいんじゃない。なんてっ、ね」



おしまい
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 11:03:01.29 ID:d2nuyVkuo<>
『サクラペンペンくん』

サクライ・アクアランドのマスコットキャラクター。
地上に現れた水の楽園にやってきた、二足歩行で歩くクジラ。
短い手足を大きく動かし、想像もできないほどに痛快なアクションを見せる他、
イベントステージなどでは、軽快でファニーなトークで訪れた客を楽しませる。

サクラペンペンくんには背中から水を噴射するギミックが存在する。
この水に『若返り薬』を仕込み、時折噴射することで訪れた子供らの幼児化を維持する機能を果たしていたようだ。
ちなみに紗南の速度に追いつけたのは、さくらいJrに従う彼も紗南と同じシューズを支給されていたためである。

中の人などいない



『魔術:ヒュプノスクラウド』

暗がりに働きかけ、擬似的な夜を作り出す強力な催眠魔術。
視覚から入り込んだ夜の情報は、脳へと直接働きかけて対象を急速に休眠状態へと陥らせる。
広範囲の生き物を対象に取り、即座に無力化する事ができるが、耐性を持つ者には効き辛い。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/06(土) 11:06:37.46 ID:d2nuyVkuo<> イベント情報
・桃華が『サクライ・アクアランド』乗っ取り事件の事態収拾をはじめました
 世間的には無防備に遊んでる子供たちが元に戻るまで保護してることになる模様


以上です
なかなかにキャラ崩壊も著しいお話でございました
だ、だってギャグ回だし(言い訳)

冒頭にりょうさんとかれん、あと幸子お借りしましたー

チナミさんはやはり癒し
なお現在ドリフェス2敗、千奈美さん特訓できるか微妙な模様、ぐぬぬ <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/09/06(土) 18:58:51.59 ID:rAdhGZRLo<> 皆様乙です

>>104
面倒見の良い涼さんは気苦労が絶えませんなぁ……
あとロリ加蓮は天使(真理)

>>126
お久しぶりでございますです
以前礼子さんをお借りした際に何やらゴテゴテと設定を追加してしまいました
余計な事だったら申し訳ないです……

しかしベルフェゴールの能力は凄まじいですな
流石は七罪悪魔の一角、どいつもこいつもラスボスクラスだぜ!

>>173
桃華ちゃまと紗南ちゃんのコンビほんとすき
ずっと眺めていても飽きないと思う

そして誰もが認めるであろう、今回のハイライトがこれ

>さくらいJr「結婚してください」

「やったッ!! さすがサクライ!
 おれたちにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

うん、いつかやると思ってた(生暖かい目)
そっかー、サクライにも未熟だった頃があったんだなぁ…… <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/06(土) 19:38:43.47 ID:6dvTACnsO<> 乙ー

サクライJrwww娘に求婚するなwww
そして紗南ちゃんイキイキしてるなw
あとサクラペンペンくんにお茶吹いた <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/09/06(土) 19:50:26.74 ID:gB/rfLxm0<> 乙です
これは酷い(褒め言葉)
時代が違うとはいえ娘に求愛するということはやはり好みのタイプではあるということでしてー…うん
紗南ちゃんのエンジョイっぷり、ところで未成年にビキニアーマー装備させる遊園地って非健全のかほりがするのですがそれは <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:25:55.26 ID:yzhros3cO<> 乙!
だめだ、結婚に全部もってかれたw


さて、予約していた佐久間まゆを思い切って投下してみます。
例によって駄文ですが…よければどうぞ。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:28:18.25 ID:yzhros3cO<> 京華学院二日目、朝。

「不愉快です…」

『グッ………ト…トリパ……』

初日から騒動を起こしまくりのカースは、2日目になっても依然として現れていた。

今日も、朝から早々に一匹のカースが狩られている最中である。

狩る側は、濡れたワインレッドの指抜き長手袋をつけた、やけに紅色とリボンが目立つ少女。

対するカースは、少女の長手袋や手から伸びたリボンに拘束され宙吊り。

更に、その体には幾つものリボンが突き刺さっていた。

「はぁ…終わりにしましょうか」

『グギッ……スナパァァ!?』

瞬間、リボンが燃え上がりカースごと焼き尽くしてしまう。

『ハッハッ……ハレパァ?』

「……………………」

しかし、その直後にもう一体カースが現れた。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:29:18.96 ID:yzhros3cO<> 「…本当に際限なく、湧いてきますね」

たんっ、たんっ、と軽いステップをしながら距離をとる少女。

同時に、長手袋から何か赤い液体が滴り落ちる。

『キェェェ!アメパダァ!』

それにつられて、カースもスピードを上げて突撃してくる。

「…おーにさんこーちら」

それでも一切慌てる事なく、ただステップを繰り返す。

「てーのなーるほーへ…」

『グゲェ!?』

そして、カースが赤い液体──血液が落ちた場所に入った瞬間、血からリボンが伸びカースをからめ取る。

思わず倒れ込むカースに、点々と落ちた血から次々とリボンが伸び雁字搦めにしてしまった。

「…あまり、煩わせないでください」

「ギャアアア、アラレパッ!?」

そして再び長手袋からリボンが伸び、突き刺さるとともに発火。

……瞬く間に、カースは燃え尽きた。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:31:05.27 ID:yzhros3cO<> 「……今ので、最後…?」

周囲を確認するが、辺り一帯にはもう居ないようだった。

とりあえずの役目を果たした少女は、朝の怠い身体を教習棟に向けて歩き出す。

「あら?どうやら終わったようですわね」

「…あ、雪乃さん」

「申し訳ありませんわ…本来なら貴女に頼むような事では無かったのですが…」

と、ちょうど別行動していた相原雪乃と出会った。

「いえ、大丈夫ですよ…雪乃さんには、いつもお世話になっていますからぁ…」

「ですが……いえ、これ以上は不毛ですわね」

「はい…」

「…大丈夫ですか?いつもより怠そうと言いますか……あまり調子が良くは見えませんわ」

少女が朝に怠くなるのは以前から良く知ってはいる雪乃だが、今日はそれに輪をかけて心此処にあらずといった様子だった。

「……雪乃さん」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:31:49.99 ID:yzhros3cO<>





「………運命って、信じますかぁ?」

少女───佐久間まゆの、一言であった。






<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:32:58.94 ID:yzhros3cO<> ☆

さて、ここで少し、佐久間まゆという少女について話そう。

まず、彼女は京華学院直系の高校の第一期生である。

略して京華高校は、二年前に設立された、いわば「能力者の為の学校」である。

詳しい事は今は省くが、京華高校は相原家の援助の下で開校に至った経緯がある。

そのためなのか、当主である相原雪乃が良く特別講師として訪れていた。

そんな訳で、二人が知り合うのはごく自然な話であり、ついでに言えばまゆは雪乃から錬金術も習っている。

また、当然まゆも能力者であるのだが、彼女の場合は更に少々特殊であった。

………父親がいわゆる妖怪ハンターで、母親が吸血鬼なのである。

つまる所の、ハーフ。

しかも、母親の種族と父親の経歴がだいぶアウトである。

更に言えば、まゆ自身には母親の吸血鬼としての血が色濃く受け継がれていた。 <>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:33:44.95 ID:yzhros3cO<> それが人間とのハーフという影響なのか、吸血鬼の弱点を打ち消していた。

…もっとも、母親自身も苦手な物は一切無い様子なのだが、まゆは詳しくは聞いていない。

そんな彼女だが、一度両親に何故一緒になったのか聞いてみた時があった。

まゆ自身はその時、自身がどういう存在なのか正しく認識出来ていたしだからと言って別段特殊な事をする気は無かったが、どう考えても経歴と現状が矛盾していたから気になったのだ。

それで返ってきた答えが「好きになったんだから仕方ないじゃない」的なもので。

しかも母親は「三日三晩お互い激しかった」とか「もう夢中になってた」などと惚気る始末。

……すぐ後に父親が「激しすぎて山が湖に変わったしな」とか「あの時ほど必死で逃げた事は無かった」とか言ってたが。

ただ、最後に二人揃って「偶然といえばそれでお終いだけど、後から思えばあれは必然的で運命的な出会いだった」と、どこか懐かしそうに話すのだ。

そんな少し特殊な家庭で育ったまゆは、恋愛についてある種の持論を持つのであった。

これが、佐久間まゆという少女の要約である。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:35:04.19 ID:yzhros3cO<> ☆

そして、場所は変わりヘルメス出張店。

「あ、お二人ともお疲れ様です。お茶を用意しておきましたのでどうぞ」

二人が揃って店にはいると、一人の黒髪の少女が開店準備をしていた。

「ふわぁ……ありがとう、ネネちゃん」

「貴女にも雑務を押し付けてしまいましたわね…申し訳ないですわ」

「そんな…このくらい何でもないですから、気にしないでください!」

栗原ネネ、彼女もまた雪乃の生徒にしてまゆの後輩でもあった。

ただ、彼女の場合は少々特殊な事情があった。

それは、数多の人間の運命を変えた『憤怒の街』を生き残り、無事に救出された後の出来事。

元々、彼女は憤怒の街のすぐ隣町に住んでおり、彼女の妹は憤怒の街にある病院に入院していた。

それが、事件が起きた事により状況が一変。

妹は今までより離れた病院に入り、しかも憤怒の街には今現在も新たな危険が沸き続けるため周辺一帯も巻き込み閉鎖。

結果的にネネが今まで通っていた学校も巻き添えを受けて休校となった。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:36:21.01 ID:yzhros3cO<> そんな訳で環境が一変したネネだったが、街の時に付き合いが出来たとある魔法使いに話した所、かわりの学校として提案されたのが京華高校であった。

偶然にも妹の病院に近い事や、援助や支援金も出るという事もあり編入を決めたのだった。

そんな彼女は本日、雪乃の手伝いとしてヘルメスに来ていた。

ちなみにまゆも同じである。

「とりあえず、今日はまだゆっくりしても大丈夫ですわ。後は最後に少しだけ手伝って頂いて、その後に明日からの話をしましょうか」

ネネから手渡された紅茶を優雅に口に運びつつ、そんな話をする雪乃。

「……はぁ…」

「…まゆさん、まだこの状態なんですね」

「何か知っているのですか?」

「あー…まぁ、はい」

なのだが、やっぱりどこか物憂げで心此処にあらずという雰囲気のまゆ。

それについて多少、言いよどむネネだったが、別段隠す理由も無いので話し始める。
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:37:17.06 ID:yzhros3cO<> 「えーと、まゆさんの友達に恋人が出来まして…それで、まゆさん恋愛にはちょっと特別な想いがあるじゃないですか」

「…なんとなく、分かりましたわ」

雪乃も合点がいったという感じで、話をつなげる。

「そう言われれば、去年も一度ありましたわ…まゆがこの様な状態になった時が」
「え、そうなんですか?」

その時も、確か友人に恋人が出来たのが理由だった。

「えぇ。あの時は……確か二週間ほどは、この様な状態が続きましたわね」

そして見つめる先にはティーカップを手にぼーっとしているまゆ。

「……まゆにも居るんでしょうか…」

そして時折、独り言のように何かを呟いている。

「えーと、大丈夫なんですか?」

「えぇ。前も必要な事は、しっかりこなしていましたわ」

「それなら良いんですけど……まゆさん、たまに天然が入るじゃないですか」

「ふふ、まゆらしいじゃありませんか」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:38:06.01 ID:yzhros3cO<> 「うーん…」

「………はぁ…」

再び響くため息。

ネネが心配そうに見れば、まゆはクッキーの皿に手を伸ばしている所だった。

…三回ほど、空を掴んでいた。

「…うーん?」

本当に大丈夫かなぁと、不安になるネネであった。

「ふふ……ですが、そろそろ戻ってきて頂きましょうか…まゆ、しっかりしてください。お店を開きますわよ?」

「…ふぁい?……あ…すみません…」

すっと近づいて、雪乃は優しくまゆを揺すって意識を覚醒させる。

実は、弱点は無いとは言ったが昼間は怠かたりするまゆ。

そこに考え事に没頭してるため、端からみれば眠そうである。

「ネネ、看板を出して頂けますか?」

「わかりましたー」

とは言っても、いつもはしっかり者な先輩としてのまゆを知るネネ。

動き始めれば大丈夫かなと思うことにした。

「……ん…ん?!…ふぅ」
<>
◆UCaKi7reYU<>saga<>2014/09/07(日) 22:39:28.18 ID:yzhros3cO<> 当のまゆは背伸び一つをゆっくりして。


「……まゆにも、運命の人は居るんでしょうか…?」


…やはり、彼女の悩みは尽きなかった。



続く?
<> @設定
◆UCaKi7reYU<>saga sage<>2014/09/07(日) 22:47:00.82 ID:yzhros3cO<> 情報
・二日目の朝から、まゆとネネが居たようです。
・二人とも朝から祭りをぶらぶらしてます。
・まゆは昼間は怠い模様です。


設定
・佐久間まゆ

職業
京華学院付属学校二年生、錬金術師見習い
属性
吸血鬼と人間のハーフ
能力
『リボン』の使用、錬金術。
詳細説明
最近新設された、京華学院付属学校の第一期生。
学校設立の援助及び特別講師として頻繁に顔を出している相原雪乃とは顔見知りであると共に、教師と生徒の間柄である。
また、吸血鬼の母と妖怪ハンターの父とのハーフであり、後述する能力も両親(特に母)からの影響である。
吸血鬼の血をかなり濃く受け継いでいるが、朝に多少怠いだけで弱点らしい弱点は無い。
これはまゆの母親が一切弱点無しで父親が
人間の為らしいが詳しくは不明。

?能力について?
能力の『リボン』とはまゆ自身の能力であり、自らの血をリボンに変えて自由自在に使える。
ちょっとの血で大量のリボンを創り出す事が可能で、硬さも長さも思いのまま、更に直接触れていなくても大丈夫。
用途にも幅があり、何か掴んだり、結びつけたり、絞めたり、刺したりできる。

・『オトメサクリファイス』
佐久間まゆが常に着けている、ワインレッドの指抜き長手袋。
錬金術の技術で作られており、まゆが雪乃に教わりながら自作した。
使用者の血を啜り、媒介とする事でマテリアルから魔力を引き出し、擬似的に魔法を再現する事が可能。
これにまゆ自身の能力が合わせる事で、リボン自体に属性を付与する事も可能。

・『京華学院付属 能力者支援学校』
二年前に新設された、京華学院直系の学校。
京華学院という繋がりから、OBに相原雪乃が居る。
国内でも初となる能力者専門の学校であり
、そのまま京華学院に入る事も出来る。
能力者が社会で正しく生きるように、また未来の有能な能力者を育てるために設立された。
中学・高校を併設しており、訳ありの学生も居るため生徒一人一人個別にカリキュラムを組んでいる。 <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/07(日) 22:50:25.68 ID:yzhros3cO<> 投下終了…

…不都合があれば取り消す覚悟ですが、それはさておき。

奇遇にも今日はまゆの誕生日でした、おめでとう!
あと、九日だけどネネさんも誕生日おめでとう!

では、今回はこの辺で…お目汚し、失礼しました。 <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/07(日) 23:08:14.53 ID:yzhros3cO<> あ、いけないいけない…

ネネさんと、間接的にイヴさんお借りしました! <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/08(月) 00:44:53.35 ID:Ot+iYmQL0<> 乙ー

これって学校通ってない訳ありな人達も学校通えるフラグ?
そして、まゆのお母さん凄すぎワロタ <>
◆TR1LSc8rto<>sage<>2014/09/08(月) 10:11:33.20 ID:YBZsv3eso<> お二人とも乙です

>>173
>紗南「…………悪魔にも守りたい物とかってあるのかな」

ちゃまが欲を捨ててまで守りたいものが来る時が今後あるのか無いのか気になる…

>>190
このまゆはまだエブリデイドリームな状態じゃないんだな…
そして赤い薬指の糸は血で繋がってるのか… <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/09(火) 22:03:59.81 ID:dh+bGoCjo<> >>190
乙でしてー
ついに来たままゆ、血筋からヤバげなんですけど
とは言え、ぼーっとしてる今はただ可愛いですね
問題はこれからどうなってしまうかですが…
そのうち運命の人を見つけてスイッチ入ってしまうのかな

ままゆもネネさんも誕生日おめでとうー <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:14:37.53 ID:tehdn47j0<> 酉変更後の初投稿

妙に間が開いたなあ… <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:15:32.80 ID:tehdn47j0<>  京華学院教習棟入り口。

 その内側に柑奈は居た。
 その頭の上には───紆余曲折あって漸く柑奈を無害だと認識した──ぷちユズがふんぞり返っていた。

「ご主人様まで後少しですよ!みーちゃん!」
「…み?」
「あ、みーみー鳴くから、みーちゃんです!」

 自信満々に言い放ち、鼻息をふんと吹かして、伺う視線を頭上へ向ける。共にそこへ「気に入りませんか?」という問いが投げかけられると、ぷちユズは意味ありげに腕を組み、思案に耽るような素振りで返した。

「みみぃ…」

「…………」

 沈黙の重圧が頭上からのしかかり、思わず息を飲み下す。

 安直が過ぎたか、悪くないとは思ったが。
 湧き上がった不安が胸を突き上げて───。

「…み!」

 数秒の間を置いた後、気楽な鳴き声を発したぷちユズは、柑奈の額をぺちぺちと叩いて前進を促した。

 よくわからないが、取り敢えず気は損ねていないか?胸をなで下ろして良いものかわからない───そもそも、意志の疎通ができているかも怪しいが。
 すっきりしないものが腹の底に貯まるのを自覚しつつ、考えを問い詰めることができないことのなんと歯がゆい事か。
 そこで癇癪や憤りを発するのは彼女の性分ではない。が、かと言って不満がゼロになるほどの聖人でもない。
 なまじ意志らしい意志が感じられるから尚更のこと。有象無象が跳梁跋扈するこのご時世、その手の翻訳装置でも開発してはくれないものか、と胸中にひとりごちると、有り得ない話ではない、とも思いついた。

「み?」

 頭上のぷちユズが下を向いてこちらを伺うのを認識すると、ぼんやりとした思考が音を立てて弾け、意識の全てが現実に落とされる。

 考えるのは後でもいい。そう唱えて思案を蹴散らして、ぷちユズに促されるままの一歩を踏み出す。──── <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:16:40.70 ID:tehdn47j0<>  ─────いやあぁあああぁぁあああっ!!

 ───と、前触れなく頭上から響いた悲鳴と、ダン、ダンと無数に連続した爆裂音が彼女の足を掬い上げた。
 たまらずその場でたたらを踏んで、轟音に身を竦ませたぷちユズが柑奈の頭から転げ落ちる。
 視界の端に、重力に引かれる丸っこいシルエットを認識した柑奈は、耳にキンキンと響く残響を噛み殺しながら慌てて両手を差し出した。と、間違いなく落下軌道上にあてがわれていたはずの両手は、しかしぷちユズを掴むことができず。

 落としてしまったか。瞬間的に脳裏に浮かび上がった思考が顔を青ざめさせて───。

 ───それを打ち消したのは、他でもないぷちユズだった。

 咄嗟に顔を足元に向けようとした柑奈の視界に、ひらりと丸っこいシルエットが躍り出る。足場もなく、それでも空中に体を固定するそれが、ぷちユズであると間を置いて理解した柑奈は、「飛べんの!?」と我知らずの内に叫んでいた。

「みぃ…!」

 柑奈の声を事も無げに受け流したぷちユズは、眉間に皺を寄せて天井を睨み上げ、柑奈もそれに続く。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:18:00.29 ID:tehdn47j0<>  続く音や悲鳴はない。無音の中で爆裂音を思い返した柑奈は、迷うまでもなく銃器の発砲音を連想していた。それほど強力な物ではないらしい。数十発の発砲音からして、かなり連射の利く────サブマシンガンなどがそれにあたるか。
 流石に細かい特定は不可能だ。が、リコイルを考慮していないかのような連射から考えて、おそらく扱っている者は素人に違いない。

 ──さて、入り口を守る能力者の話によればこの銃声、敵の物ではないだろうと言う話だが、近場で悲鳴と銃声などと、一般人は気が気ではないだろう。

 会ったら注意ぐらいはしておくべきか。戦いの方法を知る一個人として頭の片隅に留めてから、視線をぷちユズに移ろわせる。
 鎌を握りしめ、何やら憤っているらしい彼女を軽く諫めると、無造作に頭に乗せながら「行きますよ」と短く言う。

「みぃ……」

 ぷちユズが体を柑奈に預けながら、不満げに呻き声を漏らすが、柑奈は当たり障り無く苦笑する以外、それに応じる術を知らなかった。



 ※



「…まだかかりそう?」

 ぽつりと呟き、キヨラが視線を移ろわせた先には、ぬいぐるみの体で過去の映像再生への準備を進めるベルフェゴールの姿があった。

「あなたも大概……あいや、そこまで待つものでもない、です」

 言いかけた口を紡ぎ、無造作に応答したベルフェゴールのそれには、どことなく不満が見え隠れしているように思えた。

 何を言おうとしたのか。多少気になるところではあったが、問い詰めた所で意地悪にしかならないだろうか。思い、「そう…」とだけ曖昧に呟いたキヨラは、机に立てた右腕で頬を支えながら、所在のない瞳を窓の外に向ける。

 一瞬だけ、学校の備品でくつろぐのもどうかという考えが頭をよぎるが、心労にも似た何かがキヨラの腰を椅子に沈ませ、それを有耶無耶にした。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:19:49.15 ID:tehdn47j0<>  しとしとと降り続く雨は一向に止みそうにない。
 ふと、寝息を立てるユズを横目に伺い、これからの事を頭に浮かべると、この雨は少し縁起が悪いような気がしてならなかった。

「…鬼が出るか蛇が出るか…」

 雨音に消え入ってしまいそうな声で、ぽつり。

 ―――認識されていない存在、存在しないはずの存在、存在しないはずのモノに生み出された存在。
 まるで禅問答だな、と苦笑する。

 「あの日」以来というもの、この世にはあまりに多くの存在が現れ過ぎている。自分達悪魔にしたって、間違いなくその一つだ。そんな世の中、解析の効かない相手と言うのも、もしかすれば、そう不思議な存在ではないのかも知れない。

 が、それにしても妙だ。
 カース───或いは、七つの大罪。人と隣り合わせに存在してきたそれは、少なくとも悪魔の領分だった筈だ。操り、囁き、煽り、喰らう。───尤も、それを成せるのは極一部ではあるが───そうしてきた筈だ。
 しかし、八つ目の属性などと。七つの大罪を利用することはできても、混ぜるでもなく、組み合わせるでもなく、新たな概念を生み出すことができるだろうか。
 恐らく無理だ。悪魔の最上たる魔王でさえ、憤怒という一つの概念に甘んじているのだから。

 どこかから突然として現れたというのなら、まだ解析ができないことも納得ができよう。しかし、そこに大罪が関わっているのならば話は別だ。既存の法則に現れたイレギュラー。或いは、外なる何者かがこちらに介在してきたとでも言うような。
 どちらにせよ、無関心を決め込むにはあまりに危険だ。少しでも情報を集め、然るべき対処を取らねばなるまい。その上でベルフェゴールの能力があてにならないのは痛手だが――――。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:21:08.69 ID:tehdn47j0<>  そこまで考え、ベルフェゴールの能力に頼りすぎか。とも思いつく。
 一目見るだけで全てを知り尽くし、プライバシーなどと鼻で笑ってしまうような彼女の能力は、もしかすると便利すぎるのかも知れない。偶には自分の脳味噌を使え、とでも言われているような気分だ。

 この未知との遭遇は、さしずめ『怠惰』の上に胡座をかいてきたツケか。

 腹から鼻息を吐き出しながら、窓の外の虚空へとふっと笑いかける。ルシファーがこちらを怪訝そうに伺うのをにべもなく受け流すと、不意に笑顔を打ち消した。

 ──なんにせよ。

 手持ち無沙汰の左手に一本のメスを呼び出す。

 ───可愛い後輩の姿を真似て襲うなどと、随分と味なマネをしてくれたものだ。

 銀色に光るメスの表面を覗き込めば、すっと細められた自分の瞳がそこに映る。その奥には、冷淡な怒りの焔が揺らめいているのが自分でも解った。
 鋭い眼光と暫し見つめ合い、視覚から己の怒りを確かめると、内に秘めた静かな激情が色を強め、確かな形が浮き彫りにされていくようだった。

「―――次会った時は……」

 メスの冷たさを塗り替えるように、強く握りしめる。

 意識の外で呟いた言葉に続きは無かった。
 無粋だったと言うべきかもしれない。

 ―――その続きを決めるのは、それこそ「その時」でも遅くはないのだろう。

 指を脱力させたそのままで、さながらペン回しのようにメスを振り回す。刃の空を切る音は、普段よりも鋭かった。



 がらがらごとん。と、対カースの仕掛けが施された扉が開かれたのは、一回転したメスが元の位置に収まろうとした、その直前だった。

 はっとして、取り落としそうになったメスを消滅させてから、回転椅子をきぃ、と回す。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:22:44.09 ID:tehdn47j0<> 「失礼します!」

 甲高さをも覚える大きな声は、静寂に慣れた耳には少し痛い。耳の奥をちくりと刺され、思考に沈んだ思考が現実に引き戻されるような錯覚を憶えるほどだ。
ホケンシツ
 ここがどこだと思っているんだ、と思い、眉に皺が寄りそうになるのを必死で堪え、「何の用かしら?」と後方に投げかけた声はそれでも怒気を孕んでいた。

 視界に映った少女は、十代半ばほどだろうか。
 キヨラの視線が突き刺さると、気の楽そうな笑みを硬直させて、暫し静止した。

「っ…ゴメンナサイ…」

 察しの悪い人間ではないようだ。
 きっちりと頭を下げ、だいぶ控えめになったと分かる声音を聞くと、事を荒げることもないか、と思い、顔の筋肉を脱力させる。柔らかな笑みを顔に浮かべ、ベルフェゴールとルシファーに軽く目配せをしてから、無言で続きを促した。

「あー…人に用事がありまして…」

 腰が引けているような態度で、下手に出るような態度を見ていると、そんなに怖がらなくてもいいじゃないかと思わないこともない。
 そこまで怖い顔をしていたのだろうか。そういう反応をされると、こちらも気になってしまうというものだ。

「この子の……飼い主?を探してるんです」
「みっ!」

 言うが早いか、少女の片口から顔を覗かせた大きな瞳が、その体を潜ませながら回りを見渡し、数秒とも無くキヨラの視線とぶつかる。

 その姿、見覚えがあるなどという話ではなかった。目を丸くして、「あら、」と呟くと、キヨラが何と言うよりも先に、「みぃ!みぃ!」と繰り返し鳴いたぷちユズがその体を浮かばせる。不可視の力で身を翻し、キヨラの胸元へと飛び込んだ。

「み!み!」
「はいはい、こっちよ」

 焦ったように鳴くぷちユズに対し、軽く指を指して主の姿を示してやる。その指を追従した視線で主の姿を捉えたぷちユズは、何がどうなっていると理解するまでもなく、ユズの横たわるベッドへと滑り込んでいく。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:23:42.31 ID:tehdn47j0<> 「あれ、お知り合いですか?」
「知り合い…?…そうね、知り合い…」

 その表現は使い魔にも適用していいのか。なんだか妙な感覚を覚えたキヨラは、思わず確かめるように反芻していた。
 少女の顔をちらりと伺い、また、ベッドの方へと視線を戻す。見定める瞳に映るぷちユズは、主の容態を知るやいなや鳴き散らすのを止め、静かに、その顔を心配げに覗き込んでいるらしかった。

 ぷちユズが祈るように目を閉じると、白い鎌が俄かに発光し、回復の力を湛えた魔力がユズの体を包み込む。───無論、全身の傷は既にキヨラが治療済みだ。なれば、当然無駄な行為であり、使い魔にとって命にも等しい魔力をただ大気に還元した以上の意味を持つことは無い───。

 が、しかし、嗚呼その行為の、なんと健気で微笑ましい事か。成る程あのように意志の籠もった仕草を見せられてしまえば、「知り合い」と表現したくなるのかも知れない。

「…そうね、そんなところよ」
「…それにしても、です」

 温かい物を感じながらつぶやくと、少女が横で声を低くし、物憂げに口を開く。
 何事か。脈絡が読み取れず、きょとんとした顔で尋ねる視線を少女に向けると、静かに嘆息を吐き出した彼女は、ユズを気遣うような足取りでその近くへ歩み寄る。
 一瞬、反射で引き留めようとしてこちらの手が伸びかけた。が、何をされるわけでもないだろう、と内心に呼びかけると、己を諌めるように手を戻し、少女の横顔を注視することに努めた。

「聞きました、…気絶してて、運ばれたって」

「……………」 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:24:56.37 ID:tehdn47j0<> 「私ですね、荒事……と言っては何ですが、そういう事ができる力があるんです」
「というのも、それが仕事みたいなモノでして…」

 少女は、視線を自らの掌に落とし、拳を握り締めながら、さながら懺悔を思わせる口調で言葉を紡ぐ。揺れる瞳には、なにやら、後悔のようなものが秘められているように思えた。

「……誰かに頼るとか、或いは駆けつけられたらとか、できなかったんでしょうか」
「…私、何というか……」


「……悔しい、です」

 沈痛な面持ちで、多くを含んだ一言を絞り出すと、それっきり目を伏せ、言葉に詰まったように押し黙る。

 悔しい。
 何が。己の無力感か。害敵を見逃した事か。頼られなかったという感覚か。『仕事』とやらを為せなかった事か。裏に秘めた物を予測する言葉が脳裏に去来する。
 が、その後悔を修飾する言葉は無かった。

 故に、憶測は憶測の域を出ず。もしかすれば、彼女自身上手く表現できていないのかも知れない。

「…そうね…」

 例えば、助けを呼ぶであるとか。
 この学園に居るヒーローに頼るなどはしなかったのだろうか。自分が駆けつけるのが遅れていれば、などと考えるとぞっとしない。

 私が助けてやるのもそうだが、もう少し他人に頼ることも教えておいた方が良いか。

 『ヒーロー』が一般化した今日この日、呆れるほどのお人好しなど、そう珍しい物ではなくなっているのだから。

「一人で戦うことに、慣れちゃったのかしらね…」

「……え?」
「少し、ね…」

 曖昧に返答すると、何がなんだか。とでも言うように少女が小首を傾げるのが見えたが、視線を窓の外に逸らして、その答えを保留にする。
 煙に巻かれたような顔をしつつも、追求の言葉は無かった。それっきり、二人が口を紡ぐと、話し声に形を潜めていた雨音が、途端にその存在感を示し始める。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:26:22.73 ID:tehdn47j0<>  何を考えるでもなく、ただばたばたと窓を突く音に聞き入っていた折、ふと思い付き、「名前、教えてくれるかしら?」と、小石でも投げるように言う。

「名前ですか?」

「その子連れてきてくれたでしょう?…恩人の名前くらい、ね」

 ぱちりと目配せを寄越し、若作りしたウインクを投げかけると、「そういう事なら!」と言い少女は、自慢げに胸を張ってはっきりと声を発した。

「有浦柑奈です!」

 気の良さそうな笑みの下、右胸に張り付いたエンブレムのような物が栄える。不思議と目を引くその輝きを目蓋の裏に記憶すると、「アリウラカンナ、ね…」と響きを確かめるように口中で呟く。

「…わかったわ、ありがとうね」

「…それじゃあ、私はこれで」

 少女は短く言うと、何時の間にか布団に滑り込んでいたぷちユズへ小さく手を振り、最後にキヨラと視線を交わしてから扉へと向かう。
 その背中は余韻に浸るまでもなく、ばたんと閉じた扉に遮られ、微かに聞こえる足音も、一歩の度に遠のいて行くのが分かる。


 その足音が消え行き、ぱったり聞こえなくなるのを待ってから、キヨラは回転椅子をきぃ、と回してベルフェゴールとルシファーに正対した。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:27:31.58 ID:tehdn47j0<> 「…喋っても良かったのに」

「…えー…変に絡まれても面倒ですし…」
「右に同じです♪…怠惰が移っちゃったかしらぁ?」
「しーらなーい…」
「ふふ…混ざったら黄緑ね」

 沈黙を保ち、ぬいぐるみその物となっていた二人の悪魔が、固まった体を解すように動き出す。スレトレッチをするぬいぐるみという、なんとも微笑ましい光景を眺めると、自然と吹き出してしまいそうになる。

 頬がひきつるのを何とかこらえ、胸からこみ上げて、喉にでかかったものを飲み込むと、「一つ、聞いても良いかしら?」と、悪魔二人へ投げかける。

 「なんですか?」とベルフェゴール。
 嫌な予感を隠そうともせずに返答したので、「そんな大した事じゃない」と前置きをしてから、続きを言った。

「……正直に言ってほしいのだけれど」




<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:28:54.13 ID:tehdn47j0<>






「……ウインクはちょっと若すぎたかしら?」







「「……………」」

 瞬間、場が凍り付くのをしっかりと認識することができた。ぬいぐるみ故に表情の変化を読みとる事はできなかったが、それでも隠しきれない微妙な空気が、無言の内から発せられていた。

「な、何、その……」

「いや…その……」
「それ聞くのぉ、ズルいと思うんですけど…」

 まるで、知り合いの情事を目撃してしまったかのような気まずさがあった。予想以上に深刻な反応を五感で認識したキヨラは、思わず、ずいと体を乗り出し、「ちょっとどういうこと?」と焦り半分で問いただしていた。

「お、怒りません?」

「それは……」

 確信が持てず、口ごもると、ルシファーはベルフェゴールに近寄り、「ちょっとベルちゃん…」と怯えるように耳打ちをする。

「ええと、考えてることは同じだから……あとベルちゃんは色々駄目だから」
「…言わなきゃ駄目、ですかぁ?」

 なぜそこまで嫌がる。
 こうなれば最早意地だ。

「…言ってよ…私も覚悟を決めるわ」

 腕を組み、どっしりと構え、ぬいぐるみ二つを真っ直ぐ見据える。

「じ、じゃあ言いますよ…?」
「怒らないで下さいねぇ…?」

 口々に言った言葉に、思い頷き一つで返答して、視線でその続きを催促する。
 気付けば張りつめていた、妙な緊張感の中、悪魔達は何度も躊躇った後、深呼吸のような素振りを見せ、腰を据えてじっくりと見つめ返してきた。

 何故だか気圧されそうになるのを堪え、また、重く頷くと、もう戻れないとでも言うようなため息を吐き出し、運命を共にするように手を繋いでから、揃って重い口を開いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2014/09/14(日) 15:31:01.42 ID:tehdn47j0<>





「「…目蓋が痙攣したのかと思いました…」」






「…………」

「……………」



 沈黙を冷やかすように、雨音がばたばたと窓を叩く。

 やってはいけないことをやってしまった時さながらの悲壮感が、三人の微妙な佇まいから発せられていた。




 実時間の何倍にも感じられた静寂の中、その内二人は意気消沈した顔を見合わせてると、誰に言われるまでもなく、頭を下げていた。






──────────………………

─────…………


※ぷちユズ(白)がユズの下に返還されました。

※有浦柑奈の情報をベルフェゴールが入手しました。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2014/09/14(日) 15:33:13.50 ID:tehdn47j0<> …しょーもないオチを付けてしまい、キヨラ殿には、誠に申し訳なく…

お わ り (ジャンピング土下座する音) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/09/14(日) 22:50:52.17 ID:Hl+ho+GP0<> 乙ですー
なんというオチだ…ww

ユズはヒーロートラウマ的な感じになってるからね…キヨラさんがなんとかせねば <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/15(月) 01:10:46.96 ID:qqpM30Mf0<> 乙ー

ぷちゆず無事戻れてよかったねー
そしてオチを見て吹いてしまったwww <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:36:02.16 ID:UgH8i5nX0<> 乙乙
ちょっと某氏のレス方式を真似してみる

>>23
おお、新田ちゃんまさかのダブルマキナ持ちか?
これからの活躍に期待ですなあ

>>39
奈緒とコアさんのシンパシーええぞええぞー
しかし本当メンツが揃うにつれて将軍のご愁傷様感が……

>>66
大罪悪魔だろうとロリにする幼児化雨マジパネェの
しかしはじめちゃんと接するみほちゃんが何だか荒ぶりすぎちゃあいませんか(歓喜)

>>88
同盟&管理局とは別方向で将軍が可哀想だコレ!?
プロダクションは相変わらずハーレm……賑やかじゃのう

>>104
りょうお姉ちゃんマジお姉ちゃん
ロリ化イベントはやはりいいものだ(恍惚)

>>126
おやお久し……いや違う、たぶん初めましてだ
アザエルを色々振り回したり個人的解釈に基づく弱点勝手につけたりしてごめんなさい(土下座)

>>173
しれっとバタモン拾われてて思わずにっこり
ってかこれ傍から見たらちゃまがちゃまに求婚している図じゃあ……閃いた(通報待ち)

>>190
やった、新生ままゆ来た、これで勝つる!
「二人とも朝から祭りをぶらぶら」が「二人とも朝から祭りをらぶらぶ」に見えた百合脳は俺だけでいい

>>208
白ぷち無事に帰還!
ルシベルコンビは相手がレヴィアタンでなかった事を感謝すべき(わからないわ) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:38:55.70 ID:UgH8i5nX0<> それでは投下ー
学園祭二日目時系列で
「将軍、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする心の準備はOK?」
な内容となっています <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:40:12.81 ID:UgH8i5nX0<>
爛「お、何だもう揃ってやがんな」

クールP「……いや、パップさんとシロクマPさんがいないね」

アイドルヒーローとネバーディスペアが待機する控え室に、クールPの肩を抱えた爛が到着した。

菜々「お帰りなさ……って、クールPさんどうかしたんですか?」

クールP「ああ、屋上でカースをばら撒いていた犯人と遭遇したんだけど……手痛い反撃を食らってしまってね」

拓海「大丈夫なのかよ?」

クールP「お恥ずかしい話だけれど……作戦には参加出来そうにないかな……」

ゆっくりと椅子に腰掛け、クールPは申し訳無さそうにそう言う。

爛「……んで、そっちの四人はどちらさんだよ?」

夏樹「ん? ああ、あたし達は管理局の……」

夏樹が口を開くとほぼ同時に、教室の戸が開き2人の人物が入ってきた。

シロクマP「ごめんごめん、遅れちゃったね」

パップ「おお、クールPに爛。それに……そっちは管理局の方かな?」

夏樹「ああ、こっちがリーダーの『幸福』であたしが『和音』だ。そんでこっちが『閃光』と『獣牙』な」

入室してきたシロクマPとパップ、そしてクールPと爛に対し、夏樹が簡単に自己紹介を行った。

クールP「さて、これで揃ったかな。早速だけど作戦会議を……」

夕美「ちょっと待って。もう一人いるんじゃなかったっけ?」

シャルク『パップさまがさくじつスカウトされたとおっしゃっていた、くだんのしんじんさんですね』

爛「はぁ? 昨日今日アイドルヒーローになったような奴をもう使うのかよ?」

梨沙「アイツなら暇潰しとか言ってどっか行っちゃったわよ。ったくどこで何してんだか……」

梨沙の溜息と同時に、教室の窓が一つサッと開いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:41:02.76 ID:UgH8i5nX0<> その直後、そこには一人の影が立っていた。

時子「あら、揃っているじゃない」

パップ「おお時子、戻ったか」

パップが時子へフランクに呼びかける。

ライラ「あの人が新人さんでございますか」

ガルブ『するどいめをおもちのかたですね』

きらり「…………むぇー」

奈緒「ん? どうしたリーダー?」

きらり「なんかあの人、もやもやーのだらだらーってするにぃ……」

李衣菜「もやもやだらだら、ねぇ……?」

珍しく考え込むきらりを、奈緒と李衣菜は少し心配そうに見つめた。

拓海「それより、これで全員揃ったろ? 早く作戦立てようぜ」

シロクマP「そうだね、将軍が宣言通りに24時間大人しくしている保証は無い。手を打つなら早い方がいいね」

クールP「分かりました。では、会議の進行は僭越ながら僕が。まずは各メンバーの特性、能力を今一度確認しましょう。そうで無いと作戦が立てられない……」

かくして、アイドルヒーロー同盟と管理局による合同作戦の会議が開始された。

きらり「……………………にょ……?」

その時点では誰も気づいていなかったが。

きらりが不思議そうな顔で、クールPを見つめていた。

夜空に浮かぶ星々のように煌めく、その瞳で。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:41:53.71 ID:UgH8i5nX0<> ――――
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――――――――――――

ティラノ「西島! 西島! おい、西島! クソッ、どこ行った!?」

『ヨコヤリッ!?』

『ヨコハイリッ!?』

『ヨコレンボォッ!?』

現れたカースを引き裂きながら、ティラノはこの喧騒ではぐれたカイを探し続ける。

コハル「あっ、ティラノお兄ちゃんです〜!」

ティラノ「ぷ、プリンセス!? それにプテラまで! 何でいるんだお前!?」

驚きながらもティラノは自分に駆け寄ってきたコハルの頭を撫でつつ、傍のプテラに問いかけた。

プテラ「いやあ、ちょっと遊びに来てたんだけど……とにかく早く逃げようよ!」

ティラノ「……いや、さっき一緒にいた同僚とはぐれちまった。俺はそいつを探してから逃げる」

プテラ「分かった。じゃ、プリンセスちゃんは僕が責任持って護るよ」

力強く頷いたプテラの腕が翼となり、瞳が爬虫類の様な鋭い物となる。

プテラ「さ、プリンセスちゃん掴まって」

コハル「はいです〜。ティラノお兄ちゃん、気をつけてくださいね〜」

ティラノ「勿体無いお言葉です、プリンセス」

プテラ「たぁっ!」

ティラノの礼を見届け、プテラはコハルを連れて羽ばたき、空から学園を後にした。

ティラノ「……よし。どこ行ったー! 西島ぁー!」

再びカイを探す為にかけ出したティラノ。と、そこへ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:42:45.64 ID:UgH8i5nX0<> カイ「うぎゃぁぁぁぁあ!?」

ティラノ「うおっ!? …………って、あん?」

カースに殴り飛ばされたカイが、ティラノの前まで吹っ飛んで来た。

カイ「あいてててて…………ん?」

ティラノ「…………何してんだ、西島」

カイ「……くぉっ、こっ、古賀ぁ!?」

戦闘外殻を身に付けた姿を知人に見られてしまったカイは慌てたが、すぐにある事に気付いた。

カイ「…………っていうか古賀こそ何なのさ、その変なツメと目」

ティラノ「へっ? …………あっ!」

あまりに突然の出来事に、半竜状態を解除するのを忘れていたのだ。

ティラノ「え、えーとだな、その……」

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

そんな2人の微妙な間を、カースの叫びが切り裂く。

カイ「! 古賀、下がっ……」

ティラノ「だらぁっ!!」

『グヘァァァァァッ!!』

カイ「…………へ?」

カイが振り向いた先に、ティラノはいない。

前を見ると、ティラノがカースの核を指先の鉤爪で引き裂いていた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:43:39.44 ID:UgH8i5nX0<> カイ「……なに?」

ティラノ「…………流石にもう隠し切れねえか。俺は人間じゃない、魔界で古の竜って呼ばれてる種族だ」

カイ「…………」

ティラノの話を、カイはただポカンと聞いている。

ティラノ「本名はティラノシーザー。戦士団・牙の一族を率いる大将だ」

カイ「ふんふん」

ティラノ「人探しでここに来てんたが……そうだ西島、プレシオアドミラルって聞き覚え無いか?」

カイ「ぷっ、プレシオアドミラル!?」

ティラノ「知ってるのか!?」

カイ「し、知ってるも何も……」

スパイクP「おい、カイ! どこまで吹っ飛ばされてんだ、お前は!」

2人の会話を、駆けつけたスパイクPの怒号が遮った。

カイ「あっ、ごめんごめん!」

スパイクP「エマが屋上行ってタダでさえ手が足りねえってのに……あん? 何だお前?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:45:01.09 ID:UgH8i5nX0<> ティラノ「え? あ、俺は西島の知り合いで……」

スパイクP「……見たトコ、お前能力者か」

スパイクPが、ティラノの瞳と爪をジッと見据える。

ティラノ「えっ、あっ、いやその……」

スパイクP「カイの知り合いなら丁度いい。手伝え、人手が足りねえ」

カイ「それもそうだね。強いんでしょ? イニシエノリューって」

2人は勝手に話を進め、カイはティラノの手を取りずんずんと進んでいく。

ティラノ「お、おい待て西島! お前、ってかお前らこそ何なんだよ!?」

ティラノの抗議を聞いた2人はピタリと足を止め、振り向いた。

カイ「あたしは西島櫂改めカイ! 海底都市に住んでる……あ、いや住んでたウェンディ族で、元海皇親衛隊の一員だよ」

スパイクP「俺はスパイクP。こいつの元同僚で現宿敵だ。これでいいな、行くぞ」

言うだけ言って再び歩き始めた2人に、流石のティラノにも我慢の限界が訪れた。

ティラノ「ってぇ、まだ話終わってねぇぞ!」

ティラノ「何だ海底都市ってウェンディ族って海皇親衛隊って!?」

ティラノ「現宿敵が何で敵に手ぇ貸してるんだよ!?」

ティラノ「っつーかプレシオの事知ってんならまずそれを話せよ!」

ティラノ「説明しろよ西島っ、じゃねえカイィィィィィィィィィ!!」

ティラノの怒号が、校庭に虚しく響いた。

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:46:07.77 ID:UgH8i5nX0<> ――――
――――――――
――――――――――――

所変わって、アイドルヒーロー控え室。

合同作戦会議は続いていた。

パップ「……つまりだ。一番手っ取り早いのは、やっこさんにここまで落ちて来てもらう事だな」

夏樹「どうやるんだ? あんなデカいの、生半可な攻撃じゃ……」

拓海「…………そうか、梨沙か!」

梨沙「へ? あ、アタシ?」

シャルク『たしか、りささまのゴースト……エルファバともうしましたか。しょうげきやエネルギーのちくせき、およびほうしゅつがかのうでしたね』

李衣菜「それで皆のエネルギーを梨沙ちゃん一点に集めて撃って、将軍を墜落させる訳だね」

奈緒「(ちょっとヤシ○作戦みたいだな)でも、墜落ったってどこにだ? そんなスペース……」

シロクマP「さっき将軍さんが自分で作ってくれた、あの裏山跡なんかどうかな?」

爛「ベターだな。アレに近寄るアホもいねぇだろうし」

菜々「その上で、あの戦艦に乗り込んで将軍を逮捕! ですね!」

ガルブ『つまり、メンバーをりささま、りささまにエネルギーをおくるくみ、ないぶとつにゅうぐみのみっつにわけることとなりますね』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:47:15.00 ID:UgH8i5nX0<> 時子「待ちなさい。あんなピンポイントな位置に落とすなんて器用な真似、貴方達に出来て? 墜落位置を調整する役割も必要だわ」

夕美「確かに…………って、クールPさん、さっきから黙ってどうしたの? 傷、痛むの?」

クールP「ん? ああ、すまない。今皆の話を聞きながら役割分けが終わった所さ」

美世「はやっ! どれどれ……」

美世に促され、クールPは書き上げた役割分けを読み上げる。

クールP「まず梨沙君の補佐には、菜々君、シャルクさん、ガルブさん、時子君、閃光君、幸福君だ。それと、控えに和音君」

菜々「うぇっ? 菜々もですか?」

クールP「ビームでなくても、ウサミンカッター……だったかな、あれで充分衝撃は得られるさ」

夏樹「あたしが控えってのは?」

クールP「和音君は『穴』を使っての墜落位置調整にも備えてもらおうと思ってね」

夏樹「なるほど……あんなデカいのを通す穴開けられるか心配だけど、まあやってみるよ」

クールP「続いて、内部に突入して将軍を拘束。こちらは拓海君、爛、ライラ、獣牙君に行ってもらう」

ライラ「飛び道具が無い組でございますね」

拓海「アタシは一応ギガフラッシュがあるけど……リスクがデカいからな」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:50:12.52 ID:UgH8i5nX0<> 夕美「……あれ? ねえクールPさん」

少し考えた後、夕美が手を挙げた。

夕美「私、いないんだけど?」

クールP「ああ、夕美君には将軍の落下位置調整をお願いするよ。植物の使役でこう……ね。あまりに大きく逸れる様なら和音君の助けを借りる事になるね」

夕美「……………………」

クールP「不服そうだね?」

夕美「べ、別に……」

クールP「君を内部突入に配備しなかったのには、ちゃんと理由があるよ」

夕美「えっ?」

クールP「自然をこよなく愛する君の事だ、山一つ消し飛ばした将軍の事をひどく憎んでいるんじゃないかな?」

クールP「それこそ、見つけ次第殺してしまいたいくらいに」

クールP「しかし、そういうわけにはいかない。彼は生かして捕らえ、然るべき罪を公的に与えるべきなんだ」

クールP「大罪人とはいえ、アイドルヒーローが人殺し、なんて事はなるべく避けるべきだ。……理解してもらえたかな?」

夕美「…………うん、分かった」

菜々(夕美ちゃん……) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:51:38.41 ID:UgH8i5nX0<> クールP「それから、墜落の際の破片に対策して周辺住民に一時的な避難勧告を出す必要がある。これはGDFにも協力を仰ぐべきなので……シロクマPさん」

シロクマP「うん」

クールP「近くにGDFの特殊部隊が展開中らしいので、現場指揮官の方に避難勧告の協力を要請して下さい」

シロクマP「了解したよ」

クールP「あ、それから内部突入組の為に、手榴弾を1人頭三つほど借りて来て下さい」

拓海「手榴弾? 一つは突入用の穴を開ける為だろ、後は……」

ライラ「もう一つは予備でございましょうか」

クールP「正解。三つ目は将軍と対峙した時、天井に穴を開けて欲しい」

奈緒「天井に穴? 何でそんな?」

クールP「将軍は吸血鬼。伝承によれば、吸血鬼は流水を渡れないと聞く」

爛「なーるほど、この雨で弱らせてとっ捕まえ易くするってわけか」

クールP「そう。最後に現場での指揮。これは僕が執りたいところだけど……」

パップ「怪我してんだろ? 無理は良くないぞ。代わりに俺が行こう」

クールP「助かります、パップさん」

クールP(わざわざ名乗り出てくれて助かりますよ。吸血鬼が雨に打たれに行くなんて自殺行為ですからね)

ふと視線を窓の向こうへ送り、クールPは内心ほくそ笑んだ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:52:32.19 ID:UgH8i5nX0<> 美世「……あ、じゃあ私保健室で薬とか借りてこようか?」

クールP「ん、そうしてもらえると助かるかな」

パップ「よし! そうと決まれば早速スタンバイだ! 梨沙と補佐は屋上について来い!」

クールP「作戦開始は避難終了の30分後としよう」

シロクマP「じゃ、急いで行かなきゃね」

美世「クールPさん、ちょっとだけ待っててね」

きらり「……にょわー」

李衣菜「……リーダー?」

夏樹「あとちょっとな、あとちょっとの辛抱だから」

梨沙「ぶちのめしてやるわ!」

時子「初仕事が小娘の補佐とはね……まあ、いいわ」

シャルク『とうぶのビームを使うのはひさびさです』

ガルブ『ねんのため、かんたんなチェックをしておきましょう』

夕美「じゃあ菜々ちゃん、また後で」

菜々「はい! 夕美ちゃんも……そ、その、頑張ってくださいね?」

夕美「大丈夫! もう割と落ち着いたから」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:53:30.22 ID:UgH8i5nX0<> 各員それぞれが、それぞれの任務の為に控え室を後にして行く。

拓海「よし、ライラ、獣牙、爛! アタシ達もいくぞ!」

奈緒「おー!」

ライラ「おーでございます」

拓海の掛け声に、奈緒とライラが勢い良く返す。

が、爛の返事が無い。

爛「……で、いいんだな?」

クールP「ああ、アラクネを君に預ける」

拓海「……ん? 何やってんだ爛? 行くぞ?」

爛「おっ、悪い悪い。今行くぜ」

慌てて拓海達に続いて控え室を出る爛。

その服の内側には、クールPが連れるエクス・マキナ……マキナ・アラクネがひっそりとしがみついていた。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:54:39.19 ID:UgH8i5nX0<> ――――
――――――――
――――――――――――

しんと静まり返った控え室で、クールPは静かに微笑んだ。

クールP(完璧……かはともかく、今しか実行出来ない作戦だ)

それは準備寸前、爛に伝えた作戦。

クールP(将軍捕獲作戦。……博打性は高いけど、まあ悪くは無い)

――――――――

爛(俺が一番に将軍まで辿り着いたら、まずは天井に穴開けて奴を弱らせる)

――――――――

クールP(そして死なない程度に痛めつけ、アラクネのワイヤーで拘束する)

――――――――

爛(最後に壁にも穴開けてアラクネに将軍を運ばせる……)

――――――――

クールP(『追い詰めたが逃げられた』『手榴弾を奪って自爆した』言い訳としてはその辺り)

クールP(捕らえた将軍は、帝王に差し出すとしよう)

クールP(仮にも所属組織の頂点に立つ男だ、こうして恩を売っておくのも悪くない……)

――――――――

爛(ま、出来なきゃ出来ねえでいいさ。どうしてもやらなきゃいけねえ訳じゃねえ)

――――――――

クールP(ただ、チャンスは活かさせてもらうよ…………フフ)

クールPはリラックスした様子で椅子に体を預け、美世の到着を待った。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/09/15(月) 18:58:09.81 ID:UgH8i5nX0<> ・イベント追加情報
プテラ&コハルが学園から離脱しました。

カイとティラノがお互いの素性を(なんとなーく)知り、共闘を開始しました。

同盟&管理局メンバーが、お互いの能力の概要を知りました。(除・パップ)

パップ、きらり、李衣菜、夏樹、菜々、梨沙、時子、シャルク、ガルブが屋上へ向かいました。

拓海、夕美、爛、ライラ、奈緒が裏山跡付近で待機しています。

シロクマPがシンデレラ1に避難勧告協力要請、及び手榴弾の借り受けの為に接触しに行っています。

美世が薬等を取りに保健室へ移動しています。

クールPは控え室で待機中です。

爛とクールPは「まーできるんならやってみっかー」くらいのノリで将軍捕獲作戦を開始しました。


以上です
いやあ、マジでお待たせ(白目)
なんかちょっとアレな書き方になっちゃったぽいけど僕は相葉ちゃん好きです
あときらりがクールP見てはっきり確信持てなくてもやもやしてたんは次以降で説明……出来たらいいなあ
パップ、きらり、李衣菜、夏樹、菜々、梨沙、時子、拓海、夕美、シロクマP、美世お借りしました <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/09/15(月) 20:34:50.87 ID:WF0BTNhuO<> 乙ー

裏山のクレーター……あっ
そして、クールP悪巧みしてるなー <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/09/16(火) 17:14:46.14 ID:bPyMNHogo<> お二方乙乙ー

>>208
しんみりですなあ…
ユズちゃんもいずれヒーローと共闘できるのかな

>>226
段取りも決まって徐々に攻略の道筋が見えてきた感じですかね
古竜組と海底都市組も関わりが強まって、さてさて <>
◆lhyaSqoHV6<>sage<>2014/09/21(日) 13:43:40.95 ID:PBBgTX/4O<> 速報復活した!

ということで、首藤葵予約します <>
◆UCaKi7reYU<>sage<>2014/09/21(日) 22:00:44.82 ID:lmsx9FOCO<> 皆様乙です

突然ですが岸部彩華さん予約します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/10/05(日) 13:01:03.46 ID:8rB6eaNDO<> 保全 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:45:28.71 ID:16bZeEEDo<> 久々に投下

大罪VS大罪のイベント発生させてみた
まずは前編から <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:46:53.06 ID:16bZeEEDo<> ――――――
―――――
――――

しとしとと降り続く冷たい雨。
こんな夜に傘も差さずに一人で歩いていると心が壊れてしまいそう。

だから壊れないように。
欲望で心を塗り固めた。

「―――こんな酷い夜」

「ふふっ、まるであの時と同じよね」

罪を司る悪魔といえど、最初から悪魔だったわけではない。
天使が罪を犯して、神に背いた。
神に仕える存在が神を裏切る行為をして許されるわけがない。
だから、堕天をして悪魔となる。

けど、悪魔になったことに後悔は無い。
むしろ欲望のままに生きていられる自分自身。
そして欲望に塗れてた甘い世界を見ていられる自分自身が愛おしい。

「―――後悔があるとすれば」

「なんて、もう遅いわね」

金色の瞳の記憶に宿るのは、諦めか、それとも何かを渇望しているのか。

「答えなんて―――」

「――まぁ、あたしにはわかるけどね」

「――!」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:48:08.68 ID:16bZeEEDo<> 「結構過去のイベントに執着するタイプなんだね」

「って、言ったらネタバレになっちゃうか」

少女は携帯ゲーム機の画面に視線を落としながら次のコマンドを入力する。
ゲーム機は防水加工だ。
雨に濡れたところで本体に支障は無い。

「とりあえず、あたしのミッションなんだけど…」

「―――面倒だから、とりあえず一緒についてきてくれない?」

「…貴女は人間の肉体と精神を乗っ取ったって聞いていたのだけどね」

「―――ベルフェゴール」

速水奏こと、色欲を司る悪魔アスモデウスが目の前の少女の名を口にする。

「選択肢はNO一択かぁ。まぁ、そうだよねー」

本来の姿をしたベルフェゴールは、あくまで面倒くさそうアスモデウスの心の声を読み取り、肩を竦めてみせる。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:49:28.69 ID:16bZeEEDo<> 「貴女についていく、ついていかないにしろ…」

「こうして貴女から私にコンタクトを取りにくるなんて珍しいこともあるものね」

「だから今日は雨なのかしら?」

実際ベルフェゴールから、他の者に接触することはほぼ皆無ともいえる。
コミュニケーションが面倒なのももちろんだが、そもそも「怠惰」という属性故に、欲望や野心を持って行動する他の大罪悪魔とは反りが合わないのが一番の理由だ。

「あたしだって別に好きに会いに来てるわけじゃないよ」

「けど、今のあたしの所有者が悪魔使いが荒くてさー」

「とか言って、逆らおうもんなら何されるかわかったもんじゃないし―――」

「―――平行線な会話は望まないわ」

アスモデウスが言葉を遮る。

「簡潔に答えてもらいたいのだけど…」

「――――大罪の悪魔が、大罪の悪魔を狩りに来たってことでいいの?」

「――――説得でどうにかなる相手とも思ってなかったしね」

アスモデウスは不敵に笑い、ベルフェゴールはため息をつく。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:50:46.15 ID:16bZeEEDo<> そもそも、死神の過去映像再生なんて始めたのが間違いの始まりだった。
死神と白兎の戦闘の様子を映像化して再生するまでは良かったが、その映像の中にまさかアスモデウスが映っていたなんて思いもよらなかった。

過去の映像とはいえ、ベルフェゴールは「見た」ものの情報をそのまま取り入れる能力を持っている。
その際に過去映像の中に映っていたアスモデウスの情報も、不測の事態だったために誤って自動再生してしまいキヨラに見られるはめになってしまった。

しかも映し出された情報の内容が「弱っている死神の心に付け込み誘惑する」なんて出た日には…

『ユズちゃんに振りかかる火の粉は徹底的に振り払う』

本来の肉体と能力の状態に戻してもらったとはいえ、戦闘イベントになるのはわかりきっているのだから自分では無く、好戦的なルシファーをぶつけてもらいたい。
けれど、キヨラ曰く『ルシファーに単独行動はさせられない』とのこと。
信用ないなぁ。

かといって、キヨラ自身が出向くにしても『ユズを1人に出来ない』『大罪悪魔とユズだけにしておくわけにもいかない』と。
まぁ、ぬいぐるみとはいえ、完全に能力が消えているわけじゃないし、復讐イベントの発生を考えるのもわかるけれども。

「あたしだって逃げだせるなら、逃げだしたいんだけどなぁ」

本音が思わず口に出てしまう。
とはいっても、こうして素直にアスモデウスとコンタクトを取っている自分はやっぱり少し性質が変わってしまったのかもしれない。

「ええ。望み通り自由にしてあげるわ」

「私の瞳で―――永遠にね」

「―――かと言って、あなたにあたしのルートを決められるのも癪なんだよね」

二匹の悪魔が互いの魔力を解放する。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:52:07.54 ID:16bZeEEDo<> 「…私から瞳を逸らしたらダメよ?」

アスモデウスがパチリとウインクすると同時に、その妖艶な姿を5体へと増やす。

「ふふっ。本当の私、貴女ならすぐにわかるかしら?」

「…まずはイージーモードからってことね」

幻惑魔法。
対象を「誘惑」するアスモデウスの十八番とも言ってもいい魔法だ。

パッと見ただけじゃ、どれが本物なのかなんて見分けもつかないし、幻も含めて5体それぞれが均等の魔力を持っている。

(数打てば当たるゴリ押し戦法?)

(確かに考える必要も無いし、常にゲージMAXのあたしにはベストな戦法かもしれないけど…)

(めんどくさいね)

「さぁ、いくわよ?」

5体のアスモデウスがそれぞれ呪文を詠唱し、激しい雷を呼び起こす。
そして、一斉に呼び起こした雷をベルフェゴールに向けて発射する。
自身の自己再生に優れているベルフェゴールといえど、一撃で肉体と魂の両方を持っていかれたらそれまでだ。

(5体の座標をそれぞれ、A、B、C、D、Eに分けたとして…)

(そしてあたしの座標をFとする…)

(―――本体は)

けれど、情報獲得能力による本物と幻の位置の把握。

「このフラグさえ立てちゃえば、最速クリアだよっ!」

「座標DとFの移動っ!!」

「…!?」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:53:26.69 ID:16bZeEEDo<> 「あ、ぐぅっ…!」

ベルフェゴールに放たれた無数の雷。
しかし、実際に放たれた雷を浴びていたのは他でもないアスモデウス自身だった。

「結構激しいエフェクトだったけど、結構ピンピンしてるね」

「実際はゲージ1ってとこだったのかな?」

そして、何事も無かったかのようにゲーム機を操作しているベルフェゴール。

「―――座標交換、か。初めて受けたけど、早いのね」

座標交換。
対象と自身の位置を入れ替える移送の魔術。
自己再生を筆頭に、防御に特化しているのが怠惰の魔法の特徴である。

「まぁ、今どき瞬間移動ぐらいのスキルは持ってないとね」

「そう…怠惰なんて自己を磨き上げることも出来ない存在なんて見下していたけど…」

「楽しませてくれそうね。ちょっと見直したかも。ふふっ」

「そりゃ、どーも」

(見直したなんて、よく言うよ)

気の無い返事をしつつ心の中でため息をつく。
そしてゲーム機でアスモデウスの心の声を読み取りながら、次の攻撃に備えてコマンド入力に移る。
すぐに第二破が来る。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:54:54.41 ID:16bZeEEDo<> 「私が次にどんな攻撃を仕掛けようとするのかも、貴女には見透かされているのよね…」

「でも…」

アスモデウスが再び、その姿を5体へと増やし呪文の詠唱に入る。
それと同時、上空に激しい稲光を放つ無数の雷雲が姿を現す。

「今度は落雷ね。だけど、これも―――」

「……うげっ」

「―――結果までは予測出来ないでしょう?」

呪文を詠唱したアスモデウスの心の声を読み取って表示された画面。

『どこに落ちるかなんて私にもわからない』

「ランダム攻撃かぁ…!」

無数の雷が一斉に地上へと襲いかかる。
ベルフェゴールに直接狙いをつけた術なら、また座標交換で入れ替われば良い。
けれど、落雷の位置がランダムとなると自身の反射神経だけで対応するしかない。
情報獲得能力は「雷がどこに落ちる」といった「結果」の情報までは読み取れない。

激しい轟音と、光が次々と襲い掛かる。
地面を抉り、木を焼き切る、その光景は天変地異ともいえるだろう。

「(人気の無い場所だから良いものの、はた迷惑な全体攻撃だね…)」

ベルフェゴールは表情こそ面倒そのものな態度を取っているが、あくまで冷静に落雷のポイントを自身の判断だけで予測し回避する。
しかし落雷の数があまりにも多すぎたせいか、ついに一つの落雷の側撃を浴びてしまった。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:56:18.76 ID:16bZeEEDo<> 「どう?雨の中、雷に撃たれるのって刺激的でしょう?」

並の相手なら致命傷ともいえる一撃だろう。
絶命してもおかしくは無い。

しかし相手は自己再生に優れた悪魔。
アスモデウスは安否も確認せず問いかける。

「…ゲージMAX、体力MAXでも当たると痛いのは痛いんだからね」

アスモデウスの問いかけに非難の声で応えるベルフェゴール。
その肉体には傷、火傷一つ、ついていない。

だが、雷を受ける前とは受けた今では明らかに現状は変わっていた。
いつ何時も手放すことの無い携帯ゲーム機が、その手元から無くなっている。
側撃雷の威力に耐え切れず、消滅してしまったのだ。

「ゲーム機、弁償してよねっ」

「ふふっ、たまには現実世界だけを見つめるのも悪くないと思うけどな?」

「誘惑、幻惑の使い手がよく言うよ」

いつの間にか、雷雲は消え、アスモデウスの幻も消滅していた。
先ほどの落雷に巻き込まれたのだろうか。

「まっ、そんなことはどうでもいいんだけどね…」

「濁りはあるけどイイ眼をしているわ…素敵な夜にしましょう」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:57:46.61 ID:16bZeEEDo<> 夜の舞台。
この場にいるのは二匹の大罪悪魔だけ。

怠惰と色欲。
この不可思議な戦いを雨音が奏でる。

「言っておくけどゲーム機が無くなったからって、あたしが形勢不利になったわけじゃないよ?」

本来、情報獲得能力は「見た」情報を自身の脳に取り込み再生する能力である。
ただベルフェゴールの場合は面倒だからとゲーム機に情報を移し替えていただけで、決して自身の持つ能力と情報量を失ったわけでは無い。

「けど、オモチャが無くなった以上、もう私から目を背けることは出来ないんじゃない?」

「目を合わさなけば良いだけだから難易度は変わらないよ」

色欲を司るアスモデウス。
彼女の能力の本質はその金色の瞳にある。
その瞳に吸い込まれてしまうと、魅了状態にされてしまい、もう彼女から目を逸らせなくなってしまう。

(早い話がコマンド入力が出来なくなっちゃうんだよね。そうなったらあたしはゲームオーバー)」

(けど、幻を作り出した時は、本体と区別する為に、どうしても全体を「見なくちゃ」いけないんだよね…)」

「ふふっ、ずっと視線を逸らしたままでいられるのかしら?」

アスモデウスが三度その姿と同じ幻を作り出す。
魔力の出し惜しみはない。
5体、6体、7体と、その妖艶な姿を増やしていった。

(8、9、10…か)

目を合わせぬように一瞥し、本体と幻を見極める。
その区別が付けば、あとは本体と目を合わせないように対処すればいい。

―――しかし

(えっ?全部、幻?)

「―――目の前よ」

「―――!?」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 16:59:13.95 ID:16bZeEEDo<> 『幻を出した直後に思いついた奇襲攻撃、上手くいったみたいね♪』

直後アスモデウスの心の声が脳内に送り込まれてくる。
油断した。
アスモデウスの本体と幻を見極める、心の声を読み取っていない、その刹那。

「くすっ。瞬間移動は必須スキルなんでしょう?」

「…幻に紛れて移動してただけでしょ」

「けど、貴女の対処には間に合ったわ」

「こういう戦略は技を出す前に思いついてよねっ」

「ふふっ。機転が利くオンナノコって素敵でしょう?」

「自分で言うの?」

(…とはいえ、まいったなぁ)

情報獲得能力の使い手としたことが、幻に紛れる本体の情報を取りこぼすとは。
手入れた情報をずっとゲーム機で表示していたツケだろうか。

「あいにくと、オンナノコ同士なのが残念よね…」

「そう思ってるなら解放してくれたら嬉しいな?」

「ふふっ、だぁめ♪」

「ですよねー…」 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 17:00:40.89 ID:16bZeEEDo<> 緊張感の無い会話をしているが非常にマズイ。
完全にアスモデウスと目が合ってしまい、その術中にハマってしまった。
自己再生はあくまで魔力と肉体の回復であり、魅了や洗脳といった精神異常の回復には対応していない。

(さて、ここで問題だ!)

(魅了状態にかかってしまい、身動きがとれなくなってしまったあたしがどうやってこの詰みポイントを回避するのか?)


3択 ひとつだけ選びなさい

答え1.かわいいベルフェゴールは突如反撃のアイディアがひらめく

答え2.キヨラさんが助けにきてくれる

答え3.あきらめる。現実は非常である。


(……)

(…面倒だし、もうあきらめる?答え3でゲームオーバー?) <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 17:01:30.09 ID:16bZeEEDo<> (まぁ、あたしのユニットとしての参加はこれでオシマイってことで、それでもいいかもね)

(あとはキヨラさんと死神さんと他の悪魔たちで好きにプレイしててよと)

(……)

(…なんか)

(なんかあたしだけ、またすぐに退場ってムカつくなぁ…)

「…アスモデウスさん、聞きたいことがあるんだけど」

「あら?なにかしら?」

「貴女の心を欲望で満たすにはまだ時間がかかりそうだし、意外と楽しませてもらえたからね」

「ご褒美で少しだけなら、良いわよ?」

「案外話せる人で、うれしいよ」

答え4.時間を稼ぎつつ、次のフラグを待とう。 <>
◆TR1LSc8rto<>saga<>2014/10/08(水) 17:03:11.03 ID:16bZeEEDo<> 情報

・アスモデウスが心の弱っているユズを狙っています

・ベルフェゴールが肉体と魔力を回復してもらいソロプレイ状態になりました

・学園から少し離れた人気の無い場所でベルフェゴールとアスモデウスが交戦中。ベルフェゴールは時間稼ぎに入ります。キヨラ達は保健室で待機中

・アスモデウスは過去に何かあって堕天した模様。ベルフェゴールは知っているようです

・ベルフェゴールのゲーム機が雷に焼かれました。かわいそうに <>
◆susfSjn3ktsj<>saga<>2014/10/08(水) 17:04:30.55 ID:16bZeEEDo<> ・座標交換

コマンドを唱えることで指定した相手と自分の位置を瞬時に入れ替える怠惰の魔術。
自身に向けられた攻撃を回避しつつ、相手にダメージを与えるというのが一般的な使い方。
けど、ベルフェゴールは普段この魔術を移動の為だけに使っている。
位置交換された相手は良い迷惑である。


・別魅

自身の幻を生み出す幻術。
使用者の魔力が高いと幻に魔力を与えて攻撃をさせることなどが出来る。


・落雷連射

雷雲を発生し強烈な雷を地上に向けて発射する。
どこに落ちるかわからないうえに連射可能。
大迷惑である。 <>
◆VYL8pkeawZa.<>saga<>2014/10/08(水) 17:06:28.16 ID:16bZeEEDo<> 唐突に戦闘を書きたくなって無理矢理書いた
前編って書いたけど後編はまだどうなるかわからない…
でもベルフェゴールも戦えるとこを書いてあげたくて…

奏さんをお借りしました <>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/10/08(水) 21:13:27.22 ID:4kPhb3yn0<> 乙ですー
アスモデウスに狙われるとかユズ超やべぇの
やっぱりアスモデウスさん強いですなー… <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/10/09(木) 00:38:50.01 ID:rWQo7Bxs0<> 乙ー

アスモちゃんつよいなー
そして、この中にベルちゃんと菜帆をつっこませたいけど、書き途中のがまだ…… <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/10/10(金) 18:10:17.41 ID:J0QcpW/ho<> 乙でしてー
おおう、やはりベルフェゴールつおい
ちょっと働く気になればこの性能ですよ
これはマンモンちゃま現七大罪で最弱説も現実味を帯びてきたかな…? <>
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:02:21.42 ID:Rywb3V3Qo<> 乙です

強い者同士の戦いはやっぱりいいですね

さて本来なら今から投下するのは誕生日用だったのですが間に合いませんでした。(奈緒間に合わせようとしていたかは別

まぁ誕生日前後半年は誤差だっていうから投下しますね。
<>
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:03:21.31 ID:Rywb3V3Qo<> 『PiPiPiPiPiPiPi!』

 一定のリズムの無機質な電子音が私の枕元で響いている。
 腕を振り上げて音を放つ目覚まし時計の頭を少し乱暴にたたくと、私を起こさんと声を上げていた目覚まし時計はおとなしくなった。

 私の視界は寝ぼけ眼によって濁っているが、その視線は自然と涼しげな色をしたカーテンから差し込む日差しへと向かった。

「アー……、今日から学校……ですね」

 体勢を仰向けに戻した私は、いまだ見慣れぬ真新しい染みひとつない天井を見上げる。

「これでも引っ越してから、まだ一週間……ね」

「アーニャ!朝よー!」

 扉の向こうからママの声が聞こえる。
 いつもならばママが読んでからしばらくしたら私を直接起こしに来るのだが、今日はなぜか妙に目が冴えている。

 普段なら寝起きで言うことの聞かない身体をゆっくりと起こし、ベッドの縁に腰かけた。

「いつもより普通に起きれたのは……転校初日で緊張しているから、でしょうか?」

 ロシアから日本に帰ってきて一週間。

 随分と長い海外暮らしが続いていたが、久しぶりの日本での暮らしに心が躍っているのだろうか?
 そう言うことなのかわからないが、せっかく気持ち良く朝を迎えられたのだ。

 ママが起こしに来る前に行って、ママを驚かしてあげよう。

 そう画策した私は、ゆっくりと自分の部屋の戸を開けてキッチンのある一階へと降りていく。
 そしてキッチンのある部屋へゆっくり入ると、私に背を向けてママが朝ご飯を作っているのが見えた。

 その姿をほんの少しの間まじまじと見た後、私はママにゆっくりと近づくのだ。
 忍び足で音を立てないように近づく。
 手元の料理に集中しているのか全く気が付く様子のないママの後ろに私は陣取る。

「ドーブラエ ウートラ。ママ」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:04:05.55 ID:Rywb3V3Qo<>
***

「ただいまー、って晶葉来てたのか」

 所用で外に出かけていたピィが『プロダクション』に戻ってきたとき、来客用のソファーで珍妙な機会とにらめっこしている晶葉の姿をピィは目にした。

「おや、ピィか。姿が見えないと思ったら出かけていたのか」

「ああ、昼飯ついでにちょっとした用事を済ませてきた。

晶葉一人か?」

 ピィは室内を軽く見渡すが、ぱっと見では他に人影はいない。
 珍しいことにちひろもいないようである。

「いや、そう言うわけではないのだがな。

とりあえずちひろさんから少しの間留守番を頼まれてはいるのだ」

「なるほどな。

ところで晶葉の言い方だと一人ではないようだが、他に誰が……ってああ」

 視線を向けたピィはその疑問に一人で納得した。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:04:47.46 ID:Rywb3V3Qo<>
 晶葉の向かい側のソファにアーニャがソファに納まりきらない体を丸めて眠っているのを見たからだ。
 眠っているアーニャはおでこの辺りからコードが伸びており、それは先ほどまで晶葉が見ていた機械に繋がっていた。

「晶葉、アーニャの頭に繋がっているそれはなんだ?」

「ああ、これか?

まだ名前は決まっていないが自由に夢を見ることのできる睡眠装置だ」

 晶葉がその四角い小さめのブラウン管テレビのような装置を軽く叩く。

「へー、晶葉はロボ関連が専門だと思っていたがそんなものも作れるんだな」

 ピィは感心したようにその装置を見ながら言う。

「確かに専門はロボット工学、あとはロボに搭載するAIのあたりもそれなりだが、私は天才だから家電からあやしい装置までいろいろと作ったりすることができるぞ。

とは言ったものの今回ような物は作ったことがないからできるかどうか心配だったが意外に何とかなったな。

さすが私だ」

 少し胸を張りながら自慢げに言う晶葉。
 本来複雑な技術の塊であるはずなのに、ある程度の感性で物を作り上げるあたりまぎれもない天才なのであろう。

「またその道の研究者に喧嘩を売るようなものを作って……。

ところでなんでこんなものを作ったんだ?

いつもの晶葉ならまたロボットでも作るものかと思うんだが」

 ピィは晶葉にしては珍しい種類の発明にそんな疑問を抱く。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:05:30.53 ID:Rywb3V3Qo<>
「あー……いやー……。

これは、愛海に頼まれたのさ」

 ピィの疑問に対して晶葉はきまりが悪そうにそう答える。

「ししょ……愛海が?なんでまた?」

 あの年中Soft Bodyにしか興味のない、おっぱいハンター棟方愛海とこの装置との関連性がいまいちピィにはわからない。
 脳内には疑問符が増えていく一方である。

「ああ、私も始めは何を言い出したか少し耳を疑ったよ。

そして専門外だから無理だと断ったんだが、珍しく妙に食いついてくるからわけを聞いてみたんだ」

「わけ?」

「ああ、そしたら『我慢をするため』とか言い出したんだよ」

「愛海が……我慢?そんな馬鹿な。

あの我慢なんて言葉の対極にいるような愛海が?

女の子が近くにいればパブロフの犬が如くの条件反射で卑猥な指の運動を始める愛海に我慢なんて無理だろう?」

 欲望に忠実な少女で知られる愛海の印象は我慢と言う言葉からはかなり遠いものである。
 当然こんな散々な言われようでも仕方がないのである。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:06:29.12 ID:Rywb3V3Qo<>
「そう、だからだよ。

夢で満足すれば、現実である程度抑えが効くんじゃないかって考えたんだ愛海は。

普段はあんなだけど意外といろいろ考えているんだと私も認識を改めたさ……」

 愛海とはそれなりの付き合いのある晶葉であったが、当然愛海は禁煙ならぬ禁胸しようしたことなど一度としてない。

 今回もそんなことは晶葉を納得させるためのお題目でしかなく、ただ一つの欲望を満たすため。
 夢の中で、理想のおっぱいが揉みたかった。ただそれだけである。

『お胸道は、一日にしてならず』

 棟方愛海、究極を求めるためならば妥協はしない。
 結局はいつも通りの愛海であり、夢で完璧なお山をシミュレーションするためだけであった。

「というわけで、そんな珍しい真剣な愛海の頼み事に張り切って答えてみたところ……。

意外と完成してしまった。さすが私、天才だな」

 私利私欲のために利用されたとは知らない晶葉は満足そうに言う。

「で、愛海は使ってみたんだろう?

どうだったんだ」

「もちろんこの装置の初めの被験者は愛海だ。

基本的に人体に害はないことはわかっていたし、すべて予定通り機械は動いてくれたよ。

だが……」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:07:19.27 ID:Rywb3V3Qo<>
「だが?」

「実験後に起きた愛海は何も掴んでいない手をニギニギしたあと虚ろな目でこう言ったんだ。

『ゆめまくら

  ぬくもり残さぬ

    お山かな』

そう言い残して去っていったよ」

「最低な余韻の句だよ全く感心するなぁ……」

 夢で見たお山は確かに愛海の理想とするものであった。
 しかし目が覚めた時の手に残らぬぬくもりと、寂寥の感。

 夢の中のおっぱい、ファントムおっぱいはただ愛海の胸中に一抹のさみしさを残すだけの結果となったのだった。

 だから彼女はただ一句言い残して外へ出た。
 本物の、確かな人のぬくもりのあるお山を目指すためにだ。
 自らの進むべき道を邁進するために。

 その後の愛海については多くは語らないが、グラマラスな警察官に取り押さえられたとの噂が晶葉の耳に届いたのは翌日のことであった。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:08:06.74 ID:Rywb3V3Qo<>
「まぁそんなわけでせっかく作ったんだ。

もう少し性能実験をしようと思って『プロダクション』に持ってきたのだよ。

そしてちょうどいたアーニャに今使ってもらっているわけだ」

 晶葉はそう言って視線を進行形で夢を見ているアーニャに視線を向ける。

「なるほどな。

俺がちょっと出かけてる間にそんなことしてたのか」

 ピィもソファで眠っているアーニャへ視線を降ろす。
 アーニャは隣で二人が会話しているのにもかかわらず、起きる気配はなく静かに寝息を立てている。

「ずいぶんとぐっすりと眠っているけどアーニャは今どんな夢を見ているんだ?」

「んー……。言っていいものか少し迷うが特に気にしていない様子だったしいいだろう。

どんな夢を見るかの案を提案したのも私だしな」

 晶葉はそう言ってピィに手招きする。
 ピィは晶葉に誘われるがままに晶葉の座っている隣に腰を下ろす。

 装置の正面に来たことによって、装置の正面である画面の前にピィは来た。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:08:55.00 ID:Rywb3V3Qo<>
「今アーニャが見ているのはアーニャの想像する『if』の世界。

つまり幼少期にアーニャが何事もなく平穏に今まで育ってきたらどういう風になっていたのかを夢に見ているのだよ」

 画面の中には誰かの視点で家族が一つの机で団欒をする映像が流れている。
 ただし父親、母親ともに顔はぼやけており、その人相が少しだけ見にくくなっていた。

「とは言ったものの、あくまでアーニャの想像する『if』の夢だから、推測ではなく個人の空想なのだが」

「なんだか他人の夢を覗くなんて、悪い気分になるな……」

「まぁ趣味がいいというわけではないだろう。

とはいっても私は経過観察も必要だから、悪いとは思いつつも見続けなければならないのだけれどな」

「晶葉だけ理由を正当化するなんてずるいな。

俺も気になるから見るのはやめないけども」

「まったく……。

後で何か言われたとしても私は擁護しないぞ」

「……わかってるよ。

ところでアーニャの視点なのかこれは?」

 ピィは今画面に映っている映像についての疑問を尋ねる。
 他愛のない団欒の様子だが音声出力は無いのか何を会話しているのかはわからない。

「そりゃあ夢を映像化しているのだから当然そうだろう。

いくらなんでも第三者視点で夢を映像化するなど私にもできないさ」

「まぁ確かにアーニャの夢なんだから視点はこれが自然か」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:10:40.29 ID:Rywb3V3Qo<>
***

 ママに見送られて、私はパパと一緒に家から出る。

 ただしパパが仕事に向かうための駅と私の向かうべき学校は全くの反対方向にあるのですぐパパとは別れる。

「アーニャ、行ってらっしゃい」

 パパが手を振って私を見送ってくれる。
 電車の時間に余裕があるわけではないのに悠長にしているパパに私はクスリと少し笑った。

 そしてこんな感じのやり取りはこれまでだってやってきたはずなのになんだか妙に新鮮な気がする。
 確かに引っ越してきたばかりだが『行ってきます』のやり取りなんて当たり前はずっとしてきたはずなのに。

「行ってきます。パパ」

 少しだけ疑問に思ったが、世の中にはジャメヴ(未視感)という言葉もあるから私はそこまで深くは考えないことにした。
 余計な事ばかり考えていたら、私まで学校に遅刻してしまう。
 転校初日から遅刻なんて、さすがに冗談じゃないから。

 そこまで遠くない学校へ少し小走りで私は向かう。
 ただ学校に向かうことだけを考えて。
 なんだか些末な違和感のようなものが多く、それについて考えていると思考がどんどんループしてしまいそうだったから。
 そしてその思考に意味がないということを知っているから私は考えないことにしたのだ。

 だってこの普通の世界ではそんなことを考えないのが普通だからね。

 ママの作ってくれる朝食も、パパの行ってらっしゃいも、視界の端に映る尾を呑む蛇も、何一つ不自然などあるはずない当たり前なのだから。



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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:11:27.34 ID:Rywb3V3Qo<>

―――


『では転校生を紹介します。

ロシアの―――から転校してきたアナスタシアさんです』

「アナスタシアです。

アー……父の仕事の都合で日本に久しぶりに戻ってきました。

母は日本人で私はハーフなので気軽に話しかけてくださいね」

 ざわざわとする教室。
 久しぶりの日本の学校の様子は、昔通っていた小学校などと大差がなくある種の懐かしさを……。

 懐かしさを覚えたはずだった。

『アナスタシアさんってロシア語喋れるの?』

『なんて呼んだらいい?アナちゃんとか?』

『ロシアの暮らしってどんなのなの?』

 その後には転校生の好例と言ってもいい質問攻めである。
 これはロシアではあまり経験のなかったことであるはずだ。
 特にロシアから来たハーフということで普通の転校生よりも注目度は数倍高いのだろう。

「アー、エーっと……そんなに言われても、一つずつしか答えられないです」

 こんな風に質問攻めされることなんてないので私の頭の中はパニックになってしまいそうだった。
 でもこんな日常も悪くないと思って私は自然と笑った。

 このクラスの雰囲気は私も気に入ってきたのでこれからもやっていけそうだ。
 でも少し納得できない部分もある。

 みんなの顔を覚えられる気がしないのだ。
 また少し思考は堂々巡りして、すぐ気にしないようにするのだけれど。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:12:09.20 ID:Rywb3V3Qo<>
―――

「ンー?カラオケ、ですか?」

『そうそう!ロシアにはカラオケなかったの?』

 一日の授業も終わり、傾いた夕日の差し込む教室。
 私が帰り支度をしていると学校の帰りにみんなが歓迎会として私にカラオケに行こうと誘ってくれた。

「ダー……はい、私が住んでた辺りにはなかったですね」

『もー固いよアーニャちゃーん。普通にため口でいいよ』

 使い慣れない日本語のせいで丁寧な語り口になってしまうことを、誘ってくれたクラスメイトは笑いながら咎める。

「ムニエー……いや、すみません。まだ慣れてないので砕けた会話ができなくて」

『まただよアーニャちゃん〜』

『まぁまぁおいおい慣れていけばいいって。

でカラオケ行けそう?』

「ンー……ママに聞いてみないとわからないですね」

 私は携帯電話を取り出して、電話帳の中のママのアドレスに確認のメールをする。
 返事はほぼすぐに帰ってきて、あまり遅くならないようにという注意の旨が添えられた許可のメールを受信する。

「ダー、いいみたいですよ」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:12:44.36 ID:Rywb3V3Qo<>
『やった!じゃあさっそく行こう!』

 そう言ってクラスメイトの一人に腕を引かれて、私は教室から出る。
 そしてそのままクラスの女子のグループと一緒に近場の駅前。そこに立地するカラオケ店までやってきた。

『女子高生○人で!』

『そんな区切りはないでしょーが。高校生○人でお願いします。

ああ、ハイ学生証です』

 私は物珍しさに視線をいたるところに配っていた。
 日本のカラオケ店はテレビでしか見たことないが、ほぼ内装がその通りであった。

『ほらアーニャも学生証だして!』

 クラスメイトの一人に腕を引っ張られて私は我に返る。

「シトー?学生証?」

『これだよ!渡されてない?』

「アー、ありますあります。えーっとカバンの中に……」

 私は少々もたついて学生証を出した後、カラオケルームへと案内される。
 こじんまりとした部屋だがメンバー全員で入る余裕はあった。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:14:11.10 ID:Rywb3V3Qo<>
 部屋内はカラオケの機械から絶えず流れる曲紹介が響いている。
 みんなはドリンクを取りに行くために席を立ったり、予約用の端末を操作していたりしている。

『一番○○歌いまーっす!!』

 マイクを持った一人の女の子が立ち上がると同時に、カラオケマシンから軽快な音楽が鳴り出す。

『おーねがい!シーンデレラ!夢は夢で……』

 ノリノリで歌いだすクラスメイトと、それに合わせて手拍子したりする他の子。

 なんだが籠る個室の中で、私はふわふわと現実感のない気分となっていく。




『じゃあまた明日ー!』

 気が付くと、私はカラオケルームではなくすでにカラオケ店前でみんなと解散していた。
 どうやってカラオケの中で過ごしていたのかの記憶はない。

 まるで場面転換のように一瞬でカラオケの時間は終わっていた。

「ヌー パカー……」

 すでにクラスメイトは誰もいなかったが私はロシア語で『じゃあ、また』とつぶやく。
 なんとなく私はわかってきた気がする。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:15:04.37 ID:Rywb3V3Qo<>
 それとなく感じていた思考のループと違和感。

 ここは違うのだ。私はここにはいない。そうこれは。

「まるで……夢の中」

 私はそのまま自宅に向かう。
 どこまでが妄想でどこまでが真実か私にははっきりとは自覚できないが、これは何か現実ではないことだけはわかった。

 パパとママとの生活。ありふれた学校での授業。友達とのカラオケ。
 きっと何か正しくないことが混じっている。
 これ以上は自覚はできないことも多分わかったから、私はまた思考がループする前に家路に向かうことだけを考えて歩く。

 私の歩く方向とは逆流する人波を私はかき分けながら歩く。しかし。

「あ痛!」

 ボーっと歩いていたせいか前方から歩いてきた男性にぶつかってしまい、その反動で私は思わず尻餅をついてしまった。
 それは相手の男性の方も同じなようで中腰でお尻をさすっていた。

「アー……すみません」

「ああ、いえ。こちらこそすみません」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:15:56.12 ID:Rywb3V3Qo<>
 男性は立ち上がりいまだ尻餅をついたままの私に手を差し伸べてくる。
 私は差し出された手につかまって立ち上がると、なんだか奇妙な感覚に気づく。

 さっきまでとは周囲が明らかに違っていた。
 そう、言ってみるなら先ほどまでは既視感の情景と未視感の経験で構成されていた世界だった。

 それが今は記憶に全くない情景と、新鮮な感覚に包まれている。
 夢から覚めたような感覚。現実感のなかった世界が一気に色づいたようであったのだ。

「どうしました?」

 先ほどぶつかった男性が、呆然と突っ立ていた私に声をかけ、私は我に返った。

「ニ、……いえ、大丈夫です」

「そうか、それならいいんだが……ん?」

 するとその男性は私の顔を覗き込むようにまじまじと見る。
 その少し怪しい動きに私は思わず後ずさりしてしまった。

「あ……ごめんごめん。警戒させちゃったかな?」

 そんな私の様子を察したのか、その男性はまた軽く頭を下げる。
 そして懐から一枚の紙を差し出してきて、私に渡してきた。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:16:48.90 ID:Rywb3V3Qo<>
「私、××プロダクションでプロデューサーをしている者なんだが君、アイドルやってみない?」

「……アー、うん?」

 私は何が起きたのかよくわからず固まってしまう。
 そんな反応を男性は気にせずに私の腕を掴んで詰め寄ってきた。

「あの……こういってはよくわからないと思いますけど俺、ティン!と来たんです!

きっとあなたならトップアイドルになれる!いやなります絶対に!

だからぜひ、アイドルやりませんか!?」

 そんな必死の剣幕に通行人たちもじろじろと男性を見ている。
 傍から見れば女子高生に声をかける不審者で、普通の女の子なら悲鳴か何かあげたりするのかもしれなかったけど。

「フフ……フフフフ……」

「ああ!すみません突然!ってあれ?」

「アハハ!!アハハハハハハハハハ!!!」

 なんだか私は、柄にもなく声に出して笑ってしまったのだ。

 私にも何がおかしいのかははっきりとはわからないけど、きっと腑に落ちたのだろう。
 さっきまでの世界以上におかしな展開だというのに、さっきまでの世界に比べれば違和感なんてなぜか微塵もない。

 アイドルをしている私の姿が、そんなありえないような可能性が、きっとどこかにあってそれがあまりにも腑に落ちていることが。
 そんな私がどこかにいることが、私はわかったから。


「ダー、きっとこういうのも、アリなんですね」

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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:17:31.44 ID:Rywb3V3Qo<>
***

「おはようアーニャ、ずいぶんと長く眠ってたな」

 目が覚めれば、『プロダクション』の天井が視界に映り、ここが女子寮でないことを思い出す。
 そして晶葉の発明の実験台になっていたことも同時に思い出した。

「アー……おはよう、ございます?」

 壁に掛けられた時計を見ればすでに3時過ぎである。
 思っていた以上に眠っていたことにアーニャは気づいた。

「で見た夢の感想だどうだ?何か不具合とかは無かったか?」

 実験の結果としてテスターの使用感を尋ねる晶葉。

「夢……夢……?」

 しかしアーニャは晶葉の質問に首をかしげるだけであった。

「あ、あれ?」

「すみません晶葉。どんな夢を見ていたのか忘れてしまいました」

 アーニャはなんとなく夢を見ていた気はするのだが、肝心な内容は思い出せない。
 晶葉はアーニャの言葉を聞くなり頭を抱え落胆した様子だった。
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:18:19.22 ID:Rywb3V3Qo<>
「しまった……。

せっかく夢を見せても見る側が夢を忘れてしまったら本末転倒ではないか……。

これは改良の余地ありだな」

 晶葉は傍らの机に置いてあった夢見装置を軽く撫でながら言う。

「晶葉、ところで私は、どんな夢を見ていたんですか?」

 夢をモニタリングしていたということを思い出したアーニャは自身さえも忘れてしまった夢の内容を晶葉に尋ねる。

「ああ、なんてことはないよくある日常みたいな夢だよ。

転校生のアーニャが、父親と一緒に家から出て、学校で質問攻めにあって、帰りに友達と帰りにカラオケに寄る。

改めて考えるとまるで漫画のテンプレートのようだな。

何かに影響でもされたのか?」

「アー……、なんとなく思い当ります」

 アーニャはみくの部屋で読んだ少女漫画の同じような場面があったのを思い出す。
 その内容を思い出せば、どんな夢を見ていたのかは思い出せずとも察することができた。

「……それだけ、ですか?」

「ん?……ああそれで夢は終わりだな。

そのあと暫く夢を見ていたレム睡眠状態からノンレム睡眠に移行して、夢を見ずに眠っていた時間があったが。

何か気になることでも?」
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◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:19:01.18 ID:Rywb3V3Qo<>
「ニェート……、何でもないですよ。

……そうだ、せっかくなので今度カラオケにみんなで行きましょう。

私、行ったことないんです」

「夢で見るほど行きたかったのかアーニャは……?

わたしはカラオケは得意ではないんだが。

まぁ……そうだな、みんなの予定でも聞いて行こうか」





  <>
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:22:21.80 ID:Rywb3V3Qo<> 以上です

2度目なので、誕生日SSではなくSF的世界観の中での少し不思議な夢の話を。
ピィ、晶葉、愛海
名前だけちひろ、みくをお借りしました。


あと少し遅れたのでおまけも投下します。
とある因子マシマシです <> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:23:39.54 ID:Rywb3V3Qo<>
『おまけ』

 「キャーーー!!!」

 平和な町に突如として響く女性の悲鳴。
 多少殺伐としたこの世界ではこんな非日常もまれによくあることである。

 その悲鳴は周囲の人々に危機感を伝播させるには十分であり、それを耳に入れた者たちは視線をその原因へと収束させる。

「ば、化物だーーー!!」

 視線の先にはおおよそ人間とは似つかぬ容貌の者。
 その薄く、しかしながら強固な壁のような姿に手足を生やし、そしてその上部に備わる頭部は無機質ながらも女性を思わせるような顔であった。

「逃げろーーー!!!」

「助けてーーー!!!!」

「かなりまな板だよあれ!!!!!」

「アッハッハッハーーー!!!この私『カッティングボード』様の前に跪きなさい!!

そして巨乳は滅びるがいいわ!!」

 巷で最もメジャーな怪物といえばやはり『カース』だが当然この非日常が日常と化した世界ではありふれた化物ばかりではない。
 宇宙生物だったり、科学実験の失敗で誕生した原子生物であったり、はたまたよからぬことを企む異世界人であったりと平和を脅かそうとする者には事欠かさない世界観なのである。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:24:30.71 ID:Rywb3V3Qo<>
 当然このまな板のような女怪人もそれに類するものである。
 正体は俗にいう付喪神であり、捨てられた憐れなまな板に多くの貧乳女性の恨みの情念が憑りつき、巨乳を滅ぼさんとするべく具現化した姿だったのだ。

「巨乳死すべし!慈悲はない!!」

 その誕生の根底にある胸への恨み。
 それは視界に映る並み以上の胸を持つ女性たちへと向けられる。

 突如として現れたこの化物に逃げ惑う人々。
 だが明確な獲物を定めてこの場に出現した化物の狙いはすぐそばにある。

 化物のすぐ足元で恐怖で身動きが取れずその場にへたり込む女性だったのだ。
 その女性の胸部装甲はまさにダイナマイト。炸裂装甲のごとくの見事なインパクト・ロケットであった。

「世界約72万人の貧乳たちのために、巨乳を滅ぼす!!」

 化物はへたり込む女性ににじり寄り、その女性の前で手をかざす。

「ひっ、ひいっ!!」

 女性は瞳に涙をためて、小さく悲鳴を上げる。

「『搾乳(ドレイン・バスト)』!!!」

「い、いやあああああ!!!!!!!!!」

 化物のかざした手が怪しげな色に輝き始めると、目の前の女性は胸を押さえながら拒絶するような叫びを上げる。
 だがそんな女性のささやかな抵抗の意志は無意味であった。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:25:10.84 ID:Rywb3V3Qo<>
 ああ、何ということかその胸に備わっていた立派なお山が目に見えるようにみるみるしぼんでいくではないか。
 周囲にいた男性たちはその残酷な光景に嘆きを上げ、女性たちは次は自分だと恐れできるだけこの場から離れようと逃げ惑う。
 そして一部の一部が貧しい女性たちは小さくガッツポーズをする。

 そして完全に胸のしぼみ切ってしまったその女性はショックでその場に気絶してしまった。

 なんとこの化物『カッティングボード』には女性の乳エネルギーを吸い取ってバストを小さくしてしまうという恐ろしい能力が備わっていたのだ。

「くっくっく……。この調子でこの世から巨乳を駆逐し、貧乳たちの楽園にしてあげるわ!!」

「くそぉ……。このままおっぱいは滅ぼされてしまうのか……」

「そんな……女性におっぱいがないなんて、それじゃただの女装少年と変わらないではないか……」

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

 その恐ろしい能力を目にした人々はみな絶望の表情を浮かべる。
 もはやこのまま巨乳は駆逐され、母性の象徴は淘汰されてしまうのだろうか。

 誰もがそう思ったその時であった。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:26:05.81 ID:Rywb3V3Qo<>
「まてーい!!!!」

「だ、誰だ!!!!」

 突如としてその場に響く化物の凶行を制止する声。
 この声の下へとその場にいた者すべての視線が集中する。


「ひとーつ、人の世の母乳を啜り」


 路地裏からゆらりと現れる一つの人影。


「ふたーつ、不埒なセクハラ三昧」


 その残像さえ見える高速で、かつゆっくりな腕の動き。


「みっつ、悲しいお山の敵を」


 そして目で追うことさえ困難な圧倒的指運動。

「あ、あれは……あの人は!!!」


「退治してくれよう、棟方愛海!!!」


 異彩を放つ少女、棟方愛海今ここに参上したのであった。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:26:38.68 ID:Rywb3V3Qo<>
「やった!!!先生だ!!!」

「これで勝てる!!!」

 愛海の登場に、絶望していた男性たちにたちまち希望の光が宿る。
 そんな歓声も気にせず愛海はただ一点、カッティングボードをじっと見つめていた。

「な、何者だお前は!?

……いや、どうでもいいわ。逆らうようなら容赦はしない!!!

アンタのおっぱい、いただくよ!!」

 突如現れた謎の少女の存在にうろたえながらも、カッティングボードにとっては敵対因子であること間違いない。
 本来なら見逃すレベルのお山だったのだが、敵対するようならば話は別。

 カッティングボードに敵対する者は、貧乳の敵。
 これから来たるべき貧乳の世に、巨乳派はいらないのだ。

 カッティングボードはその圧倒的威圧感の巨体ながらも愛海に機敏に詰め寄っていく。
 だが愛海はそんなカッティングボードに悲しそうな眼をしたままつぶやくのだ。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:27:48.62 ID:Rywb3V3Qo<>
「やっぱり、悲しいね。

お山は等しく平等でさ。

おおきいのと、ちいさいのと、それから私。

みんなちがって、みんないいのに」

 そしてにじり寄ってきたカッティングボードを前に愛海は構えを取った。

「あ、あの構えは!!!」

「知っているのか雷○!?」

「……奥義」

 ム ナ カ タ 育 乳 拳 !!!!!

 その動きはまさに神速。
 慈愛に満ちた掌の連撃は、カッティングボードの、そのぶ厚いまな板状の体を的確に突く。

「ムナカタ育乳拳は先生が編み出した、貧乳のための究極奥義!!!

その高速の掌から放たれるソフトタッチ、そしてささやかなお山を上げる動作はたとえ薄いおっぱいに対し絶大な効果を生む!

目にもとまらぬその動きの中で、触り、上げ、そして形作るという3工程を一瞬で行う技だ!!!

その技を受けた貧乳の女性は、これまで貧乳によって自分のおっぱいというものを感じたことがなかった者でも、自身のおっぱいの存在を、おっぱいを育む喜びを、そしておっぱいの無限の可能性を自覚させるいう奇跡の技!!!

噂にしか聞いたことはなかったが初めて見たぞ!!!」

「なぜ知っている○電!?」
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:28:53.95 ID:Rywb3V3Qo<>
 技を受けるカッティングボードはその未知の、快感に近い何かを感じながら思う。

 これがおっぱいか。これが女性としての喜びなのか。

 これまで貧乳として虐げられてきた女性たちの情念の塊であるカッティングボードにとっておっぱいは憎悪の対象でしかなった。
 だが彼女とて、胸がなくとも女性であったのだ。

 はじめて感じる胸への喜び、たとえ掴む山はなくともそれは女性のおっぱいなのだ。
 カッティングボードは悟った。お山がなくとも、嘆くことはないことを。

 おっぱいはそこに存在し、自らに寄り添うものなのだから。

「……そうか。

これが、そうか。

この胸にあるものが


           おっぱい か



<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:29:31.54 ID:Rywb3V3Qo<>
 本来付喪神、悪霊のような存在であったカッティングボードはその貧乳への劣等感が消え去り存在する理由は消滅した。
 結果としてその怨念は成仏という形で消え去り、後に残ったのは古ぼけたまな板一枚だけであった。

「あのね、大きさじゃないんだよ」

 愛海はその場に落ちていたまな板をそっと撫でてそう呟いた。

「あ、ありがとうございます。おかげで胸が元に戻りました!!!」

 先ほどまでカッティングボードに胸を奪われ気絶していた女性が目を覚ましたのか愛海の下へと駆け寄ってくる。
 その胸も、カッティングボードの成仏と共に元に戻ったようである。

 この場に平和が戻ったことにより周囲の人々も歓喜にふるえている。

「なに……気にすることはないよ。

あたしはただ当たり前のことを伝えただけ。

それだけさ」

 愛海は小さく微笑んでそう言う。

「で、でも何かお礼を……」
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:30:13.76 ID:Rywb3V3Qo<>
「ん?お礼?じゃあ一つお願いしてもいい?」

 女性のお礼の申し出に愛海は年相応ににっこりと笑う。

「おっぱい揉ませて」

「へ?」

「ね、ねぇいいでしょ?

最初見た時から興味あったんだよねそのお山……。

お、お礼って言うならさぁ……ハァ……ハァ……。

うひひ……おっぱい揉ませてよ……ねぇ」

「え……、い、いや……いやぁ……」

 愛海は眼を血走らせ、指を高速で動かしながら女性へと近づく。
 その姿に恐怖を抱いたのか女性は少しずつ後ずさった。



「なぁ……スケベしようや」



「きゃ、きゃーーーー!!!!!!助けてーーーー!!!!」
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:30:54.44 ID:Rywb3V3Qo<>
 悲痛な女性の叫び声。周囲の男性は愛海の百合的行動を今か今かと待つだけで止めようとはしない。
 もはやこの場にはこの女性に味方はいなかった。
 愛海の魔の手にかかるのもあと少しであった。

 だが。

「この感じ……パターン青。警官です!!!」

 周囲の取り巻きの男の一人がそう声を上げた。

「なんだって!?

いったいどこから?」

 愛海はその言葉に緊張の色を表情に浮かべる。
 だが周囲を見渡せど、その姿は見つからない。

「上から来るぞ!気を付けろぉ!」

 だが取り巻きの一人のその叫びに愛海は急いで上を見るがもう遅い。
 青い服を着た警官(あくま)はストンと華麗に愛海の背後に着地した後であった。
<> 『超おっぱい伝説ムナカタ』
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:31:50.48 ID:Rywb3V3Qo<>
「通報があったから来てみれば、何をしてるのかな?」

「げえっ、早苗さん!!」

 ビルの屋上から飛び降り、華麗に着地した処刑人、片桐早苗は愛海の耳元でそっと囁く。

「なにか言い残すことはある?」

「……やさしく、おねがいします」

「じゃあ、シめようか♪」

 早苗は一瞬で愛海を抱え上げ、腕を伸ばしきって頭の上部へと持っていく。
 そしてそのまま肩の上に乗せ、流れるように愛海の顎と腿を掴む。

 最後に下におもいっきり力をかけた。

「あれはタワーブリッジ!!!またの名をアルゼンチン・バックブリーカーだ!!!」

「ぐ、グェー!!!ギブギブギ……ぶ……」

 ゴキリという音と共に愛海は白目をむき、そして気絶した。
 早苗はそれを乱暴に捨てて、周囲の取り巻き出会った男たちに笑顔で語りかけた。

「さぁ……お仕置きの時間ね」

 その後、多くの男たちの叫び声とともにパトカーが到着し、この事件は終幕へと向かったのであった。




               終 了 <>
◆EBFgUqOyPQ<>sage<>2014/10/13(月) 03:33:18.36 ID:Rywb3V3Qo<> 以上です

我ながら頭の悪い文章である。

早苗さん、愛海をお借りしました。
<>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/10/13(月) 09:25:36.06 ID:Yn/5CemW0<> 乙です
ifの夢…と、けっこうしんみりしていたのに…
こ れ は ひ ど い(褒め言葉)
「まな板にしようぜ!」→「オマエは全然まな板のスゴさを分かってない!」じゃないか!(錯乱) <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/10/13(月) 20:36:31.52 ID:DNF7bCC50<> 乙ー

しんみりとした夢になんか切なさを感じたな……
って、矢先にオマケwww
早苗さんマジ怖いっス <> </b> ◇3QM4YFmpGw<b><>saga<>2014/10/13(月) 22:24:25.41 ID:gDHaGFTS0<> 皆様おっつ

アスモデウスもベルフェゴールもやっぱり強いなあ

ああーもう、イイハナシダッタノニナー(ほめ言葉)

幼児化雨時系列で投下しま <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:26:01.57 ID:gDHaGFTS0<>
せいか「こっ、これは……一体どういう事です……!?」

星花は、愕然としていた。

かい「ねえねえ、よりこはどこ? ねえ、さやはー?」

カイが、涙目で星花の肩を揺する。

あき「あはははっ、たーのしいであります!」

亜季が満面の笑みを浮かべながら、全力でブランコを漕ぐ。

ただし、年端も行かないような幼子の姿で。

かい「よりこー、さやー…………ぐすっ、えぐっ」

あき「わーい、わーい!」

せいか「な、何がどうなって……」

かく言う星花も、姿自体は子供のそれになっている。

周囲を見渡せば、他の人々も外見はおろか中身まで子供に若返っているようだ。

せいか「……この雨のせいでしょうか……?」

思えば、雨が降り始めてからこの現象が起こっている。 <> 何か一回酉狂ったの@
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:27:33.78 ID:gDHaGFTS0<> せいか「……だとしても、何故わたくしは姿だけ若返ってしまったのでしょうか……」

雨に当たっていた時間が関係しているのか、それとも星花が持つオーラの力が人格の幼児化から守っているのか。

どちらにしろ、星花は外見のみが幼児化するに留まっている。

せいか「…………原因を探るのは後ですわ。お二人が子供になってしまっている今、わたくしがしっかりしなくては。……ストラディバリ、マイシスターさん、ホージローさん!」

ストラディバリ『レディ』

ヴーン ヴーン

『キンキン』

せいか「皆様にも、お手伝いしていただきます!」

星花は三人(?)に向き直り、フン、と鼻を鳴らして仁王立ちしてみせた。

かい「ねー……よりこー、さやー……ぐすっ、ぐすっ……」

せいか「大丈夫ですわカイさん、ヨリコさんもサヤさんもいずれいらっしゃいます。ただ、少し遅れているだけですわ」

泣きじゃくるカイの頭を、小さな手でよしよしと撫でてやる。

かい「ほんと……? えぐっ……」

せいか「ええ。もうおねむの時間ですから、いい子でねんねしてお二人を待ちましょう」

かい「……うんっ!」

幼いカイの表情に、ぱぁっと笑顔が戻る。

せいか「ふふ。ホージローさん、カイさんに添い寝して差し上げて下さいな」

『キンキンキン♪』

かい「ほーじろー、一緒におやすみしよー?」

カイはホージローのヒレをきゅっと握り、木陰のベンチへてくてくと歩いて行った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:28:44.67 ID:gDHaGFTS0<> せいか「さ、次は亜季さんですわね……あら?」

星花がブランコの方を向くと、そこには既に亜季の姿は無かった。

せいか「あ、亜季さん? 亜季さんどちらへ!?」

ストラディバリ『……! レディ!』

ストラディバリが指差した先に、亜季はいた。

バス『今日は皆をと〜っても楽しいところに案内しちゃうぞー!』

あき「はいはーい! いく! いきたいであります!」

物凄く胡散臭いバスに今にも拉致されそうな状態で。

せいか「あわわわわっ!? ま、マイシスターさん、回収を!」

ヴ、ヴヴヴーン ヴン

星花の指示でマイシスターは飛び、機首を服に引っ掛けて亜季をさっと回収した。

あき「あーれー!?」

マイシスターは亜季を回収したまま旋回して、星花の前に着地した。

せいか「ふぅ、ありがとうございますマイシスターさん」

ヴーン ヴーン

あき「え、えっと……せいかどの?」

せいか「いけませんわ亜季さん! 楽しそうだからと着いて行って、悪い人に誘拐されでもしたらどうするのですか!」

あき「あぅっ……ご、ごめんなさいであります……」

せいか「もう知らない人や怪しい物に着いて行ってはいけませんわ、良いですね?」

あき「りょうかいであります!」

小さな手でピッと敬礼してみせる亜季の姿を見て、星花は思わずクスッと笑みをこぼした。

せいか「はい、よろしい。今日は公園の中で遊んでいましょうね」

あき「はい! ゆきましょう、マイシスター!」

ヴーン ヴーン

亜季はそのままマイシスターを引き連れ、手近な遊具へ突撃していった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:29:41.15 ID:gDHaGFTS0<> せいか「ふう、これで一安心でしょうか…………あら?」

??「ぐすっ、ぐすっ…………」

公園の前を、泣きじゃくる1人の少女が通りがかった。

ウェーブのかかった茶髪をふらりふらりと揺らしながら、公園を横断していく。

せいか「…………どうか、なさいましたか?」

??「っ!? な、な、なんでもないわ」

いきなり呼び止められた少女は飛び上がり、首をふるふる振って星花の言葉を否定した。

せいか「でも、そんなに泣いて……」

??「泣いてない! 泣いてなんかないったら! これは雨よ! いいからわたしにかまわな……あっ!」

少女の手から一枚の紙が、星花の足元へ滑り落ちた。

せいか「あら、地図ですわね。……アロマショップ、ここに行きたいのですか?」

雨か涙か、地図は大半が滲んでしまっている。

恐らくは、これで道が分からなくなったのだろう。

そう考えた星花は、ひょいと少女の手を取った。

せいか「でしたらわたくしがご案内いたしますわ♪ このお店なら、近くを通った事がありますの」

??「なっ、け、けっこうよ! 1人でいけるわ」

せいか「ご無理をなさらないで。まだ子供ですもの、出来ない事があるのを恥じる必要はございませんわ」

星花は少女の手をきゅっと握り締め、優しく微笑んだ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:31:09.31 ID:gDHaGFTS0<> ??「…………なら、おねがいするわ」

少女は頬を染め、ぷいとそっぽを向きながらそう言った。

せいか「ええ、お任せ下さい。……そう言えば、お名前を伺っていませんでしたわね」

星花が問うと、少女がゆっくり口を開く。

とうこ「……とうこ。はっとりとうこよ」

せいか「……………………えっ?」

とうこ「だから、とうこだって」

星花は、自分の記憶の中の服部瞳子と目の前の少女を見比べた。

…………言われてみれば、面影がある。

しかし、星花の知る瞳子は落ち着いた大人の女性だ。

どうにも、若返ったとはいえイメージが合致しないで困惑してしまう。

とうこ「……なに?」

せいか「ふぇっ!? あ、いえいえ、何でもありませんわ」

とうこ「そう? なら、案内をおねがいね」

瞳子がペコリと頭を下げる。

せいか「あ、はい。ではストラディバリ、留守を頼みますわね」

ストラディバリ『レディ』

ストラディバリは人型に変形して一礼し、カイとホージローの側に腰を降ろした。

せいか「では参りましょう、瞳子さん」

とうこ「ええ。……世話をかけるわね」

せいか「いえ、お気になさらず」

星花と瞳子は手を繋ぎ、アロマショップ目指して公園を後にした。

――――――――――――
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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:32:14.17 ID:gDHaGFTS0<> ――――
――――――――
――――――――――――

その光景を、物陰から静かに眺める男がいた。

??「…………」

(アイツだな、遥人?)

??(ああ……間違いない)

(どうやら順調に『育ってる』みてぇだなぁ!)

??(ああ……『回収』も近いな)

(無事に進んで良かったぜぇ! なら、後の6つも急がなきゃなぁ!)

??(そうだな。……そろそろ約束の時間だ、急ぐぞ円人)

男は長い沈黙の後、歩き出した。

触れれば幼児となる雨の中を、傘も差さずに濡れながら。

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:32:59.20 ID:gDHaGFTS0<> ――――
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――――――――――――

やがて男が辿り着いたのは、何年も前に閉鎖された山奥の廃工場。

男が入り口の戸を三度小突くと、戸の向こうから声が聞こえた。

「郵便ですか? セールスですか?」

??「いいえ、どちらでもありません。ただ裏山への道を訊きに来ました」

男が返答すると、戸が開いて声の主が姿を現した。

爛「合言葉は合ってんな……アンタが共犯者ってヤツか」

??「…………ああ、確かオカマアイドルの。クールPは居ないのか?」

爛「オカマじゃねえ、男の娘だ! ったく、アイツなら奥にいるぜ」

苛ついた様子で奥へ消えていく爛に、男も続いていく。

爛「ここだ。おい、クールP。客だぜ」

「ああ、お通ししてくれ」

爛「ほらよ」

??「失礼……………………」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:33:45.84 ID:gDHaGFTS0<> 爛が開けた戸をくぐって部屋に入ると、一人の少年が椅子に腰掛けていた。

??「……流石は吸血鬼。しばらく見ない内に随分若返ったものだ、クールP」

くーるP「いや、お恥ずかしながら不可抗力ですよ。この雨のせいでね」

幼くなったクールPは苦笑した。

爛「……なあ、クールP。コイツは何者なんだ?」

くーるP「ああ、そう言えば爛は初めてだったね。彼は傲慢Pさん。君と会う前に、僕に協力してくれた人物さ」

傲慢P「よろしく頼む」

クールPに紹介され、傲慢Pは爛へ軽く会釈した。

爛「ふうん……協力って、無償でか?」

傲慢P「いや、相応の金を頂いている」

爛「ま、だろうな」

くーるP「僕がアイドルヒーロー同盟に所属できたのも、この廃工場も、彼が手配してくれたものさ」

爛「へえ……アンタ、一体何者だ? クールPの正体まで知っていやがったな」

爛が傲慢Pへ疑念の目を向ける。

自分達の目的を知っていながら、ここまで協力するとは……。

傲慢P「……いや、別に。悪人に手を貸すのが好きな、ただの悪趣味な男さ」

爛「…………まあいいさ、そういう事にしといてやる。ちょっと外すぜ」

はぁ、と溜息を吐き、爛は部屋を出て行った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:34:29.61 ID:gDHaGFTS0<> くーるP「……それで、今日はどんな用件ですか?」

傲慢P「アイドルヒーロー同盟のスカウトリスト、そのコピーを用意してもらいたい」

それを聞いた瞬間、クールPの表情が曇った。

くーるP「……用途をお聞きしても?」

傲慢P「私の計画の為だ。安心しろ、お前達に危害が及ぶものではない」

くーるP「……………………分かりました。ただ、すぐは無理なので少し時間を下さい」

傲慢P「分かった。用意が出来たら連絡を頼む」

それだけ言うと、傲慢Pは踵を返して部屋を出た。

くーるP「…………」

1人部屋に残されたクールP。

くーるP(今まで散々僕に恩を売ってきて……ついに何か仕掛ける気か)

くーるP(一体何者か、何が目的か……そこまでは分からないけど……)

くーるP(ま、せっかくの隠れ蓑を危険に曝す気はさらさら無いね。悪いけどリストはデータを差し替えさせてもらうよ)

くーるP(…………しかし、この雨に打たれていながら体が若返っていないとは……相変わらず強烈だね、彼の『変理覆』は)

クールPは携帯電話を取り出し、同盟事務所へ連絡を入れた。

くーるP「お疲れ様です、クールPです。スカウトリストのコピーなんですが……」

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:35:39.62 ID:gDHaGFTS0<> ――――
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――――――――――――

爛「……ああ、やっぱサクライの野郎の仕業か」

別室で、爛はチナミと連絡を取っていた。

爛「……ぷっ、あははははっ! テメェまでペドってんのかよ、だっせぇなオイ!」

爛「……あーハイハイ、悪かった悪かった。……ん、なんだよ急ぎか?」

爛「…………瞳子に? 故障したナビの修理が終わったから? 届けに、だぁ?」

爛「ま、ご苦労なこって。それじゃあな」

通話を終えた爛は、その可愛らしい顔をニタリと歪めた。

爛「若返る薬、ねぇ……クククッ」

ついに見つけた。

計画の「引き金」を、最大の「課題」の解決策を。

眠れる「王」を目覚めさせる、最後のピースを…………。

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――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:36:39.06 ID:gDHaGFTS0<> ――――
――――――――
――――――――――――

一方、海底都市。

ヨリコ「……つまり、この謎の幼児化現象は、地上に原因がある訳ですね?」

まきの「はい。地上のしせつで作られたようじかさようのある薬品が雨とまざり、海底都市のすいろへ混ざってしまったと推測されます」

さや「はためいわくねえ」

えま「あれっ? かーちゃーん、どこー?」

海皇ヨリコが、幼児化した親衛隊達と話していた。

巫女「その話が本当なら……施設にワクチンが残されている可能性があるわね」

ヨリコ「そうですね……科学班にもワクチン制作を命じていますが……」

まきの「さぎょうちゅうに不意に触れてしまう者がぞくしゅつし、さぎょうはなんこうしています」

ヨリコ「…………」

海底都市にとって、街中の水路は正しくライフライン。

一刻も早く、この問題を解決しなければならない。

ヨリコ「……分かりました。ワクチン搜索隊を地上へ派遣します。幼児化を避け、搜索隊はイワッシャーのみで編成して下さい」

巫女「ええ、分かったわ」

まきの「しつれいします」

さや「しつれいしまぁす。ほら、えまも」

えま「あ、かーちゃんこっち?」

親衛隊と巫女が退室した後、ヨリコは、

ヨリコ「…………ふふっ」

小さく小さく、噴き出した。

不謹慎かも知れないが、幼児になったマキノ達を、可愛い、と思っていたのだ。

特にサヤなど、見ていると昔を思い出すようだ。

ヨリコ「…………カイちゃんも、子供になっちゃってるのかなあ……ふふ、ちょっと会ってみたいかも」

天井を仰ぎ、かつての友を思い出すヨリコ。

その表情は、紛れもなく年頃の少女のそれだった。

続く
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:37:32.89 ID:gDHaGFTS0<> ・傲慢P

職業(種族)
不明

属性
不明

能力
『変理覆』

詳細説明
クールPに以前から協力していた謎の人物。
冷静で女性に目がない遥人(ハルト)と、粗暴で大酒のみの円人(マルト)の二重人格。
変理履という能力を持っているが、その他の詳細は不明。

『変理覆(ヘリクツ)』
傲慢Pの能力。
自らに関わる世の全ての『理』を、『変』え『履』す力。
これを使えば、「そもそも雨に濡れない」といった事も可能。
「死なない」という変理履が有効かは不明。

関連アイドル
クールP

関連設定
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/10/13(月) 22:39:12.56 ID:gDHaGFTS0<> ・イベント追加情報
カイ&亜季が幼児化、公園で待機しています

星花が(身体のみ)幼児化、幼児化した瞳子とアロマショップへ向かっています

傲慢Pが幼児化したクールPにスカウトリストのコピーを要求しました

クールPは同盟を守るために改ざんしたデータを渡すようです

爛が幼児化薬の事を知り、何やら企てています

海底都市でも大規模な幼児化現象が起こっています

イワッシャー部隊がワクチン捜索のために地上へ派遣されました(捜索最優先、破壊活動は行わないようです)


以上です
ちなみに僕の幼児化雨編はここまででお終いよ
先に言っておこう、傲慢Pは活動期間超短い予定
名前だけサクライPとチナミお借りしました <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/10/14(火) 00:05:12.93 ID:xWtrtZLzo<> >>283
その点あつみんってすげぇよな、最後までお胸ネタたっぷりだもん
あつみんはもう……本当にもうwwwwwwwwwwww
アーニャの夢は可愛くもあり寂しくもありですねぇ

>>299
順調に増える幼児化雨の被害者(?)
ロリ達の多さと、せいかさんの子守スキルの高さに和む
そしてこれまた妙な奴が出てきましたねえ、傲慢Pの企みは果たして…


乙乙でごぜーましたー <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/10/15(水) 02:33:18.52 ID:dB7jZWwZ0<> 乙ー

みんなカワイイな
そして、傲慢Pの企みも気になる… <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/05(水) 23:50:05.53 ID:ke/It0+d0<> 久々の投下でごぜーますよ
幼児化雨時系列ですー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/05(水) 23:52:09.12 ID:ke/It0+d0<> かれん「こっちこっち!みんないっちゃったよー」

りょう「…」

涼はバスで気絶していたが、目が覚めたころには無事(?)にアクアランドに到着していたのであった。

「いらっしゃーい、ここは、さくらい・あくあらんどー」

「しょうがくせいいかのかたは、にゅうじょうりょうむりょーでーす」

「おとなのひとは、このみずをかぶってからはいってくださーい」

りょう「…」ムニー

かれん「どうしたの?ほっぺヘンなの?」

りょう「いや、いまアタシ夢でも見てるのかと思って」

かれん「だいじょうぶ?」

りょう「ハハハハハ、アタシは大丈夫だなーこの遊園地は大丈夫じゃない気がするけどー」

りょうがバスの中で気絶して目を覚ました時、既に遊園地の中だった。

同じバスに乗って行った子供達よりすこし入り口につくのが遅れてしまったのがなんだか少し加蓮に申し訳なくなる。

あと何か人間っぽいのが空を飛んでたように見えたが多分気のせいだろう。

りょう「はぁ…………あぁ……」

かれん「?」

りょう「夢じゃなかったー!!」

かれん「ほ、ほんとうにだいじょうぶ!?」

りょう「…ダイジョウブ、大丈夫だよ…なぁ、行くのか?」

かれん「うん!」

りょう「…まぁ、他に行くところもないしなぁ…」

そんなこんなで、結局入場してしまったのだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/05(水) 23:53:31.53 ID:ke/It0+d0<> りょう「なぁ、加蓮はさ、なんかヘンだと思わないのか?」

かれん「ヘン?ううん!すごくたのしそう!!」ニコニコ

りょう「…そっか、よかったなー」

かれん「みんなもたのしそうなんだよ!ほら、あっちにペンギンさんもいるの!」

りょう「そーだなー…」

りょう(…マスコットの着ぐるみかぁ、中の人はさすがに大人…だよな?)

かれん「ペンギンさーん!」タタタタ

サクラペンペン「さくら汁ブシャアアアアアアアアアアアア」ジュワー!

かれん「ガボゴボゴボボ!!」

りょう「かれええええええん!?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/05(水) 23:56:44.00 ID:ke/It0+d0<> かれん「うぅ…ぬれちゃった…」

りょう「はいはい、拭くから待ってろ…」

かれん「…ふきおわったら、あそこにいきたい」

りょう「あそこ?」

かれん「あっちの、あそべるところ!」

りょう「ああ、アトラクションか…仕方ないなぁ、付き合うよ。で、何やりたいんだ?」

かれん「ぜんぶ!」

りょう「えっ…マジ?」

かれん「…?ダメ、なの?」ウルウル

りょう「あああ!問題ないから!泣かなくていいからな!」

かれん「ホント?」

りょう「ああ、本当だから…とりあえず近いところからな」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:05:55.47 ID:Wg7egwLP0<> 【 サクライ サーキット ▼ 】

かれん「あっ、まって、抜かさないでー!」

りょう「それっ、ミニターボからのウィリー!意外と楽しいな…!」

りょう(若干能力使ってるのは内緒だ)

かれん「あっ!バナナがー!」ボチャーン!

りょう「池ポチャ!?かれーん!」

【 サクライ アイランド ▼ 】

りょう「…敵に気を付けろよー」

かれん「だいじょうぶ!スターとったからへいきだもん!たのしーい!!」テッテッテーッテッテッテテッテー♪

りょう「あ、待てっ!無敵だからって調子に乗ったら…!」

かれん「へっ?あっ」ヒュー…ボチャーン

りょう「あーあ、かれーん…って下は水なのか…SAS○KEかよ」

【 サクライ スタジアム ▼ 】

かれん「コホッ、コホッ、ゴホッ…」

りょう「サマーホークはシャイニングダイブで右の敵を攻撃!リズオウムは左の敵にビートストーム!動きを封じろ!」

「うわー!オレのハレオンが一撃で!?」

かれん「がんばっt…コホッゴホッ!うう…ケホッ」

りょう「加蓮は大人しく体温めてろ!ちゃんと代理で戦ってるから!…ったく、水で濡れすぎたか…」

かれん「はぁい…くしゅん!」

りょう(あずきや仁奈ちゃんの影響でちょっとはバタモンやったことがあったのが役に立つとはな…!)

【 サクライ マウンテン ▼ 】

かれん「きゃーっ、はやいはやーい!」

りょう「きゃああああっ!」

ザッパーン!!

りょう「思ったより濡れなかったなぁ…ってなんで加蓮はまたガチ濡れしてるんだよ!?…席の問題か…?」

かれん「えへへ、わかんない!でもこっちのほうが楽しかったよ!」ニパー

りょう「…さっきまでゴホゴホ言ってたとは思えない回復力だな」フキフキ

かれん「なんだか、元気なの!」

りょう「そーかそーか、元気でよかったなー」

【 サクライ マンション ▼ 】

『貴方様を一万人目の住民にして差し上げましょう!』『クス、クスクス…!』『ふふふ…』『ケラケラケラ!』

かれん「…」

りょう「どっかで見た設定…って、加蓮…大丈夫か?」

かれん「う、うん!へいk『グオオオオオオオ!』きゃーっ!!」

かれん「…て、てをにぎってくれるとうれしいな…」

りょう「はいはい、手を離すなよ?」

かれん「…」コクコク

りょう(やっぱりちっちゃい子がこうやって頼ってくるのは保護したくなるよなぁ…)

――オネエチャン、オネエチャン…

りょう「…!?今、耳元になんかいたぁぁ!!」

かれん「ひえ、びええええんっ!!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:06:50.96 ID:Wg7egwLP0<> そんなこんなで時間は過ぎ、彼女達…いや大勢の知らぬ間に事件の黒幕はオシオキを受け、水の中の薬も抜かれたのだった。

少しずつだが元に戻った人たちも現れ始め、財閥による保護も始まっていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:07:50.28 ID:Wg7egwLP0<> かれん「んむぅ…」

りょう「ん?どうした、疲れたか?」

何も知らないまましばらく遊んでいるうちに遊び疲れたのか、加蓮は時々うとうとし始めた。

かれん「まだ、あそべるもん…」

りょう「完全に眠そうじゃんか…ほら、じゃあベンチで少し休憩しないか?」

かれん「…うん」

ベンチに座って足を休ませると、加蓮がもたれかかってきた。

かれん「…ねむい、かも」

りょう「やっぱりか」

かれん「や、もっと…あそぶの…」

りょう「そうは言っても、眠いなら寝た方がいいって。ただでさえ濡れたんだ、体力回復しておかないとまた風邪引くぞ?」

かれん「…うん、わかった」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:09:37.51 ID:Wg7egwLP0<> りょう「とは言ったものの、どっかに寝れそうなところあったっけ…」

加蓮をどこで休ませるか考えていると、肩にもたれかかっていた加蓮がうとうとしながら涼の膝を枕にし、目を閉じて完全に眠ってしまった。

かれん「んむ…すぅ…すぅ…」

りょう「…寝るの早いな。動けないぞこれ」

体格や力がそこまで変わらないため、下手に動いたら加蓮の頭をベンチに落として起こしてしまいそうだ。

周囲がこっちを全く気にせずにいるのであまり恥ずかしくないのはいいが、動けない。

これからどうするかと考えていると、不意に涼がポンと元の年齢に戻った。

涼「あ、けっこうすんなり戻った。…って、加蓮はまだ戻ってないのか」

水で濡れに濡れたからか、加蓮は戻るのが遅れているようだ。涼が元に戻っても相変わらずその膝枕で眠っている。

涼(…改めて周りを見る限り、もう元に戻っている人は何人かいるみたいだな…加蓮は寝たまま戻ってないし、どうしようか)

元に戻った今ならもう加蓮を背負って移動もできそうだ。このまま帰るという手もあるが、加蓮が元に戻っていない。

すやすや安らかに眠っている加蓮。いつ戻るのかは全く分からないし、目を覚ますのもいつか分からない。

仕方がないので元に戻った人たちがどうしているのか観察することにして暫く見ていると、どうやら保護が始まっているらしい。

涼「…行くか、ここで座っててもどうしようもないし、冷えるし」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:12:15.61 ID:Wg7egwLP0<> 加蓮を背負って休ませる場所が無いか聞けば、保護の為にホテルの部屋が暫く貸し出されていると言われた。

シーズンではないし、保護が目的とはいえ、なんともまぁ太っ腹というか。

連れてこられたホテルの一室のベッドに加蓮を寝かせ、荷物を置くと今までの疲れがどっと押し寄せてきた。

そこでやっとバッグの中の携帯を確認し、着信履歴に何回か自宅…あずきからの連絡があったのでかけなおす。

あずき『涼さん!!電話かけても出ないから心配してたんだよー?いまどこにいるの?』

涼「げっ…どこって言われても…バ、バイトが長引いただけで…」

あずき『言えないの?』

涼「だから、バイトが長引いたんだって…」

あずき『嘘だッ!涼さんテレビでやってる事件に巻き込まれていたんでしょ!だから今、アクアランドに居るんでしょ!』

涼「は、はぁ?今いる場所なんてわからないだろ?アタシはちゃんとバイト先に…」

あずき『…GPS』ボソッ

涼「な!?電池の消耗が激しいからその機能は付けてないはず…あっ」

あずき『やっぱり行ってたね…GPSなんて名前しか知らないよ!気配をいつもと違う方角で感じたから聞いただけー』

涼「妙な手口覚えたな…気配っていうのもこんな遠いのによくもまぁわかるもんだ…」

あずき『尋問大作戦大成功!遊園地、今度あずきも連れて行ってね!!いつでもいいから!!』ブツッ…ツーツーツー

涼「ちょっ…!?あー…どうしようか。連れていくことになったらチケット代とか…あ、待て。テレビでやってる事件…?」

電話で会話した内容を思い出してテレビのニュースを見れば、今回の雨の事を報道していた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:17:54.16 ID:Wg7egwLP0<> ニュースキャスターが読み上げる文章に耳を傾ければ、やはり自分と同じように子供化しても時間経過で戻るようだ。

画面が切り替わり、地図と共に被害の出た範囲とこれから被害が出るであろう地域を報道する。

相当な非常事態らしく、状況報告と警戒を繰り返しているようだ。

涼「酷い雨だな、何が原因…そこまでは分かってないのか…ここらへんは通り過ぎたとはいえ、恐ろしいもんだ」

涼「さて…加蓮はまだ寝てるし、暫くはこの部屋で待ってるとしても…なんか落ち着かないな」

保護という事で部屋を貸してもらっているからか、なんだかのびのびとできない。窓から下をみればまだ多くの子供達がアクアランドにいるようだ。

涼(…ん、あれ?何かおかしいよな…?保護なら単純に最初から子供をホテルに入れてた方がいいし…妙な事に従業員も子供だった)

涼(入り口では大人に水を被るように促していた。それに、アクアランドは元から色々と水を浴びるような施設。その水が、もし雨と同じだったらどうなる?)

涼(…加蓮が戻るのが遅いってのも、体質とも考えられそうだけど…本当に浴びた水が全部雨と同じなら、それが原因で効果が延長されたとも考えられるよな?)

涼(でも、それって雨のせいなのか?浴びることも多いアクアランドの水源って、雨を浴びるような場所にあるとは思えないんだけど…)

涼(っと!!駄目だ…余計な事を考えすぎるのは映画とかでも被害者の役割だろっ!アタシがこういう事について考えても得なんてない…これ以上妙な事考えるのはやめよう)

結局、思考を止めて寝ている加蓮に目を向けた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:19:07.98 ID:Wg7egwLP0<> かれん「…すぅ、すぅ…」

涼「まだ戻らないんだよなぁ…楽しそうだったし、遊び疲れて寝たのは別にいいけどさ…」

そう言って一度携帯をバッグに戻してからベッドの横の椅子に座って再び視線を加蓮に向けると、すでに元の年齢に戻っていた。

加蓮「すぅ……うん?」

涼「意外とあっさり戻るな」

元に戻ったからか眠りから覚めたようで、加蓮はゆっくりと起き上った。

意識がはっきりしたのか、自分がいるのが見知らぬ部屋だと気付いたようだ。

加蓮「……あれ?ここどこ?…ホテル?涼も一緒だし…えっと、なんで?そ、そうだホテル代とか…!」ワタワタ

涼「加蓮、今から説明してやるから。落ち着つこう、な?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:21:36.12 ID:Wg7egwLP0<> ――説明しました――

涼「…という事があったわけ。加蓮は疲れて寝ちゃうし、アタシが戻っても加蓮がなかなか戻らないから部屋に案内してもらったんだ」

加蓮「そんな事があったんだ。…ぜんぜん記憶にないよ…うーん」

涼「ホントに覚えてないのか?遊んだこととか…」

加蓮「気が付いたのはさっきだし…今、ニュースで子供になった事を報道しているから本当なんだろうけど…覚えていないんだ。ちょっと寂しいかも」

涼「そうか…ま、それなりに近場だし、また時間とかがある時に一緒に来ればいいだろ?次は加蓮もしっかりしてくれるだろうし」

加蓮「え?それって…一緒に来てくれるの!?」パアアア

涼「こっちは家で留守番してたあずきが連れて行けって言うから、そのうち行くだろうし。行くなら人数が多くても同じだろ?」

涼「次がいつかってのは…まぁ、未定なんだけど。今度は料金の事も考える必要があるし。それでも約束くらいいいだろ?」

加蓮「…うん、ありがとう」

涼「お礼なんか言わなくていいって。結構楽しかったからさ…アタシだけ覚えているってなんか気分悪いというかなんというか…」

加蓮「そうかな、でもやっぱり一緒に行ってくれるって言ってくれて…嬉しいんだ。仲良くなれて、嬉しくて」

そう言って加蓮は涼に向き合って笑顔を見せた。

涼「…加蓮」ポン

そして涼は加蓮の肩に手を置いた。

加蓮「えっ…何?」

涼「…いや、なんていうか…うん、妙な奴に引っかかるなよ?変な奴を引っかけるなよ?」

加蓮「な、何の話?」

涼「薄々感づいていたけど色々見て確信した。お前は…天然のタラシか!天然ジゴロか!見てて心配になるんだよ!」

加蓮「そんな切実に言わないでよ!?」

涼「いいから、タチの悪い奴に引っ付かれないように気を付けろよ?子供の時の加蓮見てなんとなく言いたくてさ…今はあの時より落ち着いているだろうけど」

加蓮「そんなに真面目な顔で言われても…流石にそう、だと思うよ…?」

涼「そこを自分で疑問形にするなって!」

加蓮「あっ…さ、流石にそうだよ!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:23:31.89 ID:Wg7egwLP0<> 涼「まぁ、言い過ぎたと思うけど…こんな世の中、何があるか分かったもんじゃないからな…いきなり居候ができたり、妙なのに選ばれたり…」

加蓮「なんか、体験談みたいに聞こえるね」

涼「気のせいだから。…気にするなって!」

加蓮「そう?」

涼「本当に気にするなよ!…あれだ。バンドメンバーのオカルトマニアの影響でだな…とにかく!帰るぞ!もう夕方だしな」

加蓮「あ、すっかり忘れてた…!バイトも終わって帰る途中でこんなことになったんだったね」

涼「この部屋もちょっと借りているだけだしな…家であずきも待っているし」

加蓮「じゃあ早く行こうか。あ、そうだ。ちょっと聞いてもいい?」

涼「いいけど…何が聞きたいんだ?」

加蓮「…子供になった私、どんな子だったのかなーって。楽しそうにしてた?」

涼「ああ、そういう事か。ちょっと振り回されたけど…良い子だったな、それにすごく楽しそうだった」

加蓮「そっか…よかった」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/11/06(木) 00:25:11.99 ID:Wg7egwLP0<> 涼「あ、そうだ。あと回復力がすごかったな」

加蓮「へ?」

涼「ちょっと弱ったと思ったらすぐ復活してさ。なんというか、タフじゃないけど回復が早いから実質タフ…みたいな感じの子だった」

加蓮「…そ、そ、そうなんだぁ…自分でもそれはすごいと思うよ…」

涼「まぁ結論、小さい時の加蓮もなかなかかわいかったって事で」

加蓮「むー…そう聞くと小さい頃の涼の事を覚えてないってなんだか悔しいかも」

涼「そうかぁ?」

加蓮「だって気になるもん…」

涼「気になるか…ならいつか暇なときにでもアルバムかなんかで良ければ見せてやるよ」

加蓮「えっ、いいの!?」

涼「別にいいよ。というか、ものすごく普通だからあまり期待するなよ?」

加蓮「期待と言うか…そういうのを見るのも初めてだから、楽しみなだけ。ふふっ…こっちも約束だからね」

涼「あはは、わかってるって…」

加蓮の無邪気な微笑みは、今日見た子供の時の笑顔と変わらない気がした。涼はそれになんだか微笑ましさを覚えたのだった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/11/06(木) 00:26:14.27 ID:Wg7egwLP0<> 以上です、加蓮お借りしましたー
加蓮がエンジェルすぎるのと、涼さんが保護者すぎる問題
無邪気な子は書いてて楽しい。子供化は最高だぜぇ!ふぅぅ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/06(木) 14:09:32.47 ID:fr/CwGLhO<> ?H?H?H?u?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????c?d?i??????c?v <>
◆ul9SIs8lw.<>sage<>2014/11/06(木) 14:57:48.52 ID:/iWfr/HSO<> 乙ー

加蓮かわいいな。涼さんもいい保護者だ
そして、あずきww仁加もなにしてるんw
涼加蓮いいな… <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/11/07(金) 01:15:19.33 ID:zASAL770o<> 涼おねえちゃん!

流石涼さん面倒見良すぎである、素敵
そしてかれんが入場してすぐに不憫で吹いた
乙でしてー <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 18:59:20.28 ID:KZbFCtvpo<> >>190
なんというサラブレッドままゆ
このまゆがヤンデレたら……、うむ

>>208
柑奈ちゃんや清良さんにも色々思う所があるんですなー
あとさんざん言及されてるけれど、やっぱりオチには笑わざるを得ない

>>226
攻略の首尾は上々といった感じですね
そしてクールPの企みは果たして……

>>247
おっ、大罪悪魔同士の衝突!(興奮)
バトル展開はワクワクしますね、それが強者なら尚更

>>283
なんというか、「アーニャ……(´・ω・`)」という気分になった
……なったのに愛海てめえこのやろう!(堪え切れず吹き出す音)

>>299
幼児化勢がみんな可愛い(可愛い)
そんな中、不穏な空気を纏った新キャラの登場に期待が高まります

>>316
加蓮よ加蓮、君はどうしてそんなに不幸なのか(哀れみ)
不憫な目にあってるけど、加蓮が楽しそうでなによりです


さて、投下します
時系列は『プロダクション』襲撃より後です <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:00:11.43 ID:KZbFCtvpo<> ――――今日、俺は『プロダクション』を借りきった。


――といっても、そこまで大げさな話じゃない。

――1、2時間程度、他の人に出入りを控えてもらっただけだ。

――ただしそれは”ある人”を除いて、ではあるが……。


ピィ「ふぅ……」

――どうにも落ち着かず、小さなため息をつく。

――これから自分がしようとしていることを思えば気が滅入りもするさ。

――正直に言えば、気は進まない。

――……が、いずれ避けては通れない道である。ここでめげるわけにはいかないのだ。

――などと、若干以上の緊張を抱きながら、わざわざ二人きりで話したい”ある人”へと思いを馳せる。


ピィ(上手くいくといいんだが……)

――否が応でも、スーツの内ポケットに感じるずっしりとした重みに意識が向いてしまう。

――まったく、俺の人生に”これ”を必要とする日が来るとは夢にも思わなかった。


声「失礼します」

――程なくして、『プロダクション』にその”ある人”はやってきた。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:00:46.41 ID:KZbFCtvpo<> 楓「……おはようございます」

ピィ「……おはようございます」

――事務所のドアを開け、現れたのは高垣楓さん。

――本日わざわざ他の人を排してまで話をしたかった女性、その人だ。


ピィ「とりあえずどうぞ、掛けてください」

楓「はい、では失礼して……」

――お互い妙に緊張しているのか、どことなく会話が堅苦しいものになってしまう。

――何せ二人きりで真面目な話をする、ということが今まで無かったのだ。

――多少ギクシャクしてしまうのも無理はない。


――……。

――楓さんが応接テーブルを挟んで俺と向かい合うように座った。

――そういえば初めて彼女と会った時も、ちょうどこんな感じだったな。

――……いや、あの時は隣に美玲が居たか。


楓「それで、話というのは?」 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:01:17.87 ID:KZbFCtvpo<> ――――ケジメを付けなければならない。

――……一方的にではあるが、初対面の頃から彼女に対して抱いていた懸案を、

――俺は未だに解決できずにいた。


ピィ「今日、あえて楓さんだけを呼んだのは他でもありません」

――と、少し真面目くさって切り出したものの。

ピィ「えー……」

楓「……?」

――よく考えるとなんて言ったらいいものか、と今になって気づく。


ピィ「有り体に言えば、世間話がしたいだけなんですよ」

楓「……はぁ」

――何だか間抜けな発言になってしまったが、今日の趣旨として間違った事は言ってない。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:01:49.54 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「ほら、楓さんの近況が聞きたいなー、みたいな。最近どうですか?」

楓「……」

――にわかに楓さんの表情が強張った。

――……最近の彼女はよくこんな顔をしている。

――同時に俺はその顔をあまり似つかわしくないとも感じていた。

――だが、あの時。

――『プロダクション』に”あの男”が現れた騒動の日から。

――楓さんの表情には、明らかに陰りが見えるようになった。


楓「特に……、変わりはありませんよ」

楓「気に掛けてくださってありがとうございます……」

楓「でも……私は、平気なので……」

――楓さんはうつむきがちにそう答えた。


――……平気なんてことがあるものか。

――そんな虚ろな表情で言われても全然説得力が無い。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:02:19.61 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「ふぅ……」

――と、緊張を紛らわす為のため息を一つ付き、呼吸を整えた。

――――そろそろ本題に入ろう。


ピィ「今から少し真面目な話をします」

――……大丈夫、きっとうまく行く。

――手汗をテーブル上の布巾で拭いながら、自分に言い聞かせる。

――根本的な解決にはならないが、それでもやらなくちゃいけない。

――いや、俺がしたいんだ。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:02:50.51 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「楓さん。初めて会った時から、貴女と俺は対等では無いと思っています」

楓「それはどういう……?」

――楓さんの沈んだ表情に、今度は困惑の色が加わった。

――そりゃあ唐突にこんな話を切り出されれば驚きもするだろう。


ピィ「一つありますよね」

ピィ「楓さんにあって俺に無いもの……」

楓「……能力、の事ですか?」

ピィ「そう、それです」 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:03:17.22 ID:KZbFCtvpo<> ――楓さんの能力を初めて見た時の事は、今でも鮮明に覚えている。

――目の前でペンが切断され、バラバラになっていく奇妙な光景。

――次の瞬間、その力は容易に自分にも向けられ得るのだ、と感じた時の恐怖。

――何より、

――そんな怯えた俺を見る、楓さんの悲しそうな表情を。

――俺は一生忘れない。


――未だに心残りで、度々思い返す苦い経験だ。

――『悩みを抱えた能力者に手を差し伸べ、救ってあげるんだ』などと、

――理想を息巻いていた俺の、最初で最大の挫折でもあった。


――以来、ずっと考え続けてきた。

――俺が楓さんにしてあげられる事は無いのだろうか?

――楓さんとまっすぐ向き合うためにはどうすればいいのか? <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:03:47.42 ID:KZbFCtvpo<> ――楓さんの悩みは『能力を持っている事』そのものだ。

――いとも容易く人を殺めてしまえる恐ろしい力。

――この力を無くしてしまえれば、それが最善なのだろうが、

――未央や周子曰く、『不可能』な事らしい。

――ならば他の方法を考えるしかないのだが。

――とはいえ、常人の俺にできることなどたかが知れている。


――せめて、俺にも楓さんの気持ちがわかれば……。

――と、思った時に気づいた。

――……これならできるかもしれないと。

――気休めや慰め程度にしかならないかもしれないが。

――彼女の辛さを共有したい。


――その為に俺は……。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:04:19.40 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「楓さん、俺は貴女と対等になりたい」

ピィ「対等な立場にたった上で、ただの世間話がしたいんです」

――それが正しいのかはわからない。

――俺の一人よがりなのかもしれない。

――でも、決めたんだ。

――楓さんの為に、俺が出来うる事をする。

――そしてそのための準備を今日までしてきた。


楓「対等……、ですか」

楓「でもそれは、……どうやって?」

――至極当然の疑問である。

――能力を持った楓さんと、何の能力も持たない俺。

――いくら対等な立場に立つ、と言ったところで、

――肝心要のその隔たりを埋める方法が無ければどうしようもない。

――だからこそ、思い立ってから今日まで時間が掛かってしまったわけなのだが……。


ピィ「もちろん、ちゃんと用意はあります」

――主にこの”用意”に手間取った。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:04:47.20 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「楓さん」

――楓さんをまっすぐに見据えて、静かに彼女の名を呼んだ。

――自身ですら、思わぬほど鋭い語気が口から飛び出したことに驚く。

――それほどまでに俺は今、かつてなく真剣であった。

――呼ばれた瞬間、楓さんもすぐに俺のただならぬ雰囲気に気づいたようだった。

――表情から一切の陰りが消え、まっすぐに俺を見つめ返した。


ピィ「俺が今からすることは、恐らく楓さんを驚かせると思います」

ピィ「……もっと言うと、恐怖すると思います。ひょっとしたら能力を使いたくなるかもしれません」

ピィ「ですが、楓さんはそれを黙って見ていてください」

ピィ「頼りないプロデューサーだけど、それでも今だけはどうか……」

ピィ「騙されたと思って、俺のことを信じてください」

ピィ「今日だけ、この一瞬だけでいいんです」

ピィ「どうか俺を信用してください!」

楓「わかりました、信用します」 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:05:17.31 ID:KZbFCtvpo<> ――……。

――……二つ返事であっさり信用されてしまった。

――正直、今のはかなりの覚悟を込めた発言だった為に、少し肩透かしを食らった感じだ。

――いや、いいことではあるんだが、それでいいのか楓さん。


楓「自分で頼りないとか、そういうこと――」

楓「いえ、確かにちょっと……ふふっ、頼りない部分はあるかもしれませんね」

――ガーンだな。

――自分で予防線を張っておいてなんだが、実際に言われてみると案外ショックだ。

――……とかそんなことは今どうでも良かった。


――楓さんの表情に笑顔が戻っている。

――ああ、いつもの楓さんだ。


楓「それでも……、信じます」

楓「今に限ったことじゃないですよ」

楓「私……、ううん、私以外の皆もそう」

楓「ちょっと頼りなくて、不器用で、格好わるい所もあるけれど」

楓「いつだって優しくて、一生懸命で、真摯に向き合ってくれる」

楓「そんなピィさんのことを、……皆いつも信頼してます」 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:05:48.39 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「……ありがとうございます」

――こみ上げてくるものを抑えるのに必死だった。

――そこまで言ってもらえたらプロデューサー冥利に尽きるというものだ。

――ならば俺はその期待に答えなければならない。

――今は泣いている場合じゃないのだ。


ピィ「……ふぅ」

――もう一度、小さく深呼吸する。

――気持ちを落ち着け、平静を保ち……。

――意を決してスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。


――指先に、冷たく、固く、ゴツゴツとした物が触れ、

――握りしめれば、今度はズッシリとした質量が手に伝わる。

――それをゆっくりと取り出し、テーブルの上に置くと、ゴトンと重たい音を響かせ、

――現れたのは……。


楓「これは……」

ピィ「はい、見ての通り――」 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:06:19.15 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「拳銃です」


――人を殺すための道具。

――俺が楓さんと対等になるための手段であった。


ピィ「もちろん本物です。弾もあります」

――もう一度胸ポケットに手を突っ込み、底の方から今度は小さな塊を一つ摘んで取り出す。


ピィ「よくよく『プロダクション』は物騒な組織だと思いますよ」

ピィ「これ、割と簡単に手に入ったんですから」

――ちなみに入手経路は周子である。

――理由を説明し、頼み込んだら二つ返事で用意してくれた。

――周子に頼んだのは、一番てっとり早いだろうと思ったからだが、

――使い方自体はちゃんと専門家のアーニャに教わった。
<> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:06:46.58 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「最近、『施設』が出来ましたよね」

楓「ええ」


――”隊長”の襲撃を受け、『プロダクション』は壊滅的な被害を被った。

――が、全てが終わり、アーニャとあの男の因縁に決着が付いた後。

――『プロダクション』の口座に大金の振込があった。

――十中八九あの男のしわざだろう。せめてもの罪滅ぼしのつもりだったのか。

――なら最初から壊すんじゃねぇよとも思うが、まぁ憤った所で詮無いこと。

――当然『プロダクション』の修繕に充てられたが、それでもなおあり余る程の金額で、

――ならついでに新しい施設でも建てよう、と事務所の近くに作られたのがそれだ。

――社長のポケットマネーと合わせて、かなり奮発した施設であり。

――事務所の何倍も広く、ぶっちゃけ現在の『プロダクション』に所属してる人数を考えると、

――到底使いきれないようなシロモノができあがった。


――エステルーム、カフェテラス、サウナルーム完備。

――ほぼ晶葉の為に作られた、ロボ作りの環境の整ったラボラトリー。

――そして様々な『能力』の実践や実験に耐えうるトレーニングルーム。

――……等々。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:07:21.53 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「そのトレーニングルームではここだけの話、実弾での射撃訓練もできるんですよ」

ピィ「あ、これはあんまり大きな声では言えない事なので秘密にしておいてくださいね」

ピィ「結構練習しました」

ピィ「なのでこの距離でなら、まぁ……」

ピィ「外さないと思います」

楓「……」


――この距離。

――俺と楓さんとの間の、数メートルも離れていない距離。

――テーブルを隔てただけの、至近距離。


ピィ「俺がこれから何をするのか、もう大体予想がついてると思います」

――言いながら、ゆっくりと拳銃を手に取る。

――実際の重量よりも、やたらと重たく感じた。


ピィ「もう一度言います」

ピィ「俺を信じてください」


楓「はい、信じます」

――力強い返事だった。

――少し、拳銃が軽くなったような気がした。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:07:48.46 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「実は結構前から考えていた事だったんです」

ピィ「本当ならもうちょっと早くこうしたかったんですけど」


――――銃身から弾倉を取り出し、弾丸を一つ詰め、再び弾倉をしまう。


ピィ「まぁ、何かとゴタゴタしたせいで遅くなりましたが」

ピィ「却って良かったのかもしれませんね」


――――スライドを引き、コッキングをする。


ピィ「おかげで射撃訓練ができました」

ピィ「外すような距離じゃないですが、とはいえ万全は期さないと」


――――安全装置を外す。


ピィ「……ふぅ」


――本日何度目かもわからない、ため息にも似た深呼吸。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:08:15.00 ID:KZbFCtvpo<> ――ゆっくりと手に持った拳銃を構え。

――――静かに銃口を楓さんの頭部に向ける。


――覚悟はしていたつもりだが、

――この時点ですでに耐え切れない程の重圧がのしかかってきた。

――銃を人に向けるという行為は、今までの工程とは明らかに違う。


――緊張のあまり耳鳴りがする。

――吐き気が止まらない。

――口の中がカラカラだ。

――手の平は汗でびっしょりで。

――心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動している。

――だが、まだ……。


――――撃鉄を上げる。

――カチリと音を立て、人を殺す準備が整ったことを知らせる。


――そして……。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:08:45.43 ID:KZbFCtvpo<> アーニャ『いいですかピィさん』

アーニャ『撃つまでは絶対にトリガーに指をかけてはダメです』

アーニャ『アシープカ……間違いが起きないように、です』

――銃のレクチャーをしてくれたアーニャは、口を酸っぱくしてそんなことを言っていたな。


――でもなアーニャ、それじゃダメなんだ。

――楓さんの能力は、常にトリガーに指が掛かってる。

――そしてそれは楓さんの意志じゃ外れない。


――だから俺も掛けなきゃいけないんだ。


――そうじゃなきゃ対等じゃない。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:09:12.74 ID:KZbFCtvpo<> ――最後の工程。


――トリガー。


――引き金に。



――――指を、掛けた。



<> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:09:43.32 ID:KZbFCtvpo<> ――今。

――楓さんは容易に俺を殺せる。

――俺も容易に楓さんを殺せる。

ピィ「さて、と……」


――これでようやく対等な立場だ。


ピィ「じゃあ楓さん、世間話でもしましょうか」

<> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:10:15.82 ID:KZbFCtvpo<> 楓「……」

ピィ「……」

楓「……最近」

ピィ「はい」

楓「親知らずが生えてきたんですよ」

ピィ「ええっ!?」

楓「最後の一本がようやく」

ピィ「……生えてくるもんなんですね」

楓「ええ、この歳で」

ピィ「まあ、個人差があるらしいですからね」

楓「ピィさんはどうですか?」

ピィ「俺は全部生えてますよ」

楓「抜いたりは……」

ピィ「いやー……」

楓「ふふっ」

楓「……」

楓「ピィさん」

ピィ「はい?」

楓「……怖いですか?」

ピィ「イエ、コノ歳デ歯医者ガ怖イトカソンナコトアリマセンヨ?」

楓「そのことではなく」

ピィ「……」


ピィ「そりゃまぁ……」

――そんなの、めちゃくちゃ怖いに決まってる。
<> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:10:44.31 ID:KZbFCtvpo<> ――じっと見つめる照準の先には楓さんの顔がある。

――そういえば、こんなに楓さんのことをまじまじ眺めるのは初めてだな。

――わかってはいたけど、改めて驚くほどの美人だ。元モデルと言っていたか、それも頷ける。


――とても綺麗な肌だ。

――色も白く、きめ細かでハリがある。

――よく見ると左右の瞳の色が違う。

――オッドアイというのだったか、何やら楓さんから感じる神秘性を助長しているようだ。

――目元に泣きぼくろがある。

――ほんの小さなアクセントだが、不思議と強く惹かれる色っぽさだ。

――ふわっと柔らかく広がった髪の毛は、

――しっかりと手入れがされているのだろう艷やかさで、彼女が首をふるたび優雅に揺れる。


――背が高くて、とても華奢なスタイルをしている。

――立ち居振る舞いに華があり、何でもないような挙動一つ一つが可憐だ。

――どこかミステリアスな雰囲気から繰り出される、下らないダジャレがどうにも可笑しい。

――どう見ても素敵な大人のお姉さんなのに、茶目っ気があって、そこがたまらなく可愛らしい。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:11:12.17 ID:KZbFCtvpo<> ――モテるんだろうな、なんて不意に思う。

――きっと楓さんの事を好きな男は一人や二人じゃ無いんだろう。

――楓さんは誰か好きな人とかいるのかな。

――……恋人とか、居るんだろうか? 或いはかつて居た事が?

――……いや、やめよう。そんなことを考えると何だか気持ちが落ち込んでくる。


――子供の頃も、きっと可愛かったんだろうな。

――歳をとっても今とあまり変わらない気がする。

――お母さんも綺麗だったりするんだろうか?

――将来、楓さんが子供を産んだとして、多分その子も凄く可愛いんだろう。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:11:38.85 ID:KZbFCtvpo<> ――俺が今、軽く指に力を込めるだけで。


――――その全てが、一瞬の内に失われる。

<> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:12:10.54 ID:KZbFCtvpo<> ――明日から、楓さんがいない。

――未来永劫、何処にもいなくなってしまう。

――世界にたった一人しかいない、楓さんが消えてしまう。

――その存在が失われる。

――俺の一存によってだ。

――――こんなに怖いことは無い。


――人一人の未来を、可能性を、繋がりを、想いを、ぬくもりを、

――かけがえの無い尊いものを、全て奪ってしまう。

――これが楓さんの感じている恐怖。

――人を殺すという事の怖さだ。


――ああ、気付かなかった。

――いや、気付かなかったわけじゃない、実感できなかっただけだ。

――でも今ならよくわかる。

――そうだ、命というのはこんなにも……。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:12:41.14 ID:KZbFCtvpo<> ピィ「なんて……、重たい……」

――何にも代えがたい、大切なもの。

――楓さんはこんなものを背負っていたんだ。

――いや、一人でもこんなに重たいのに、

――普段いったいどれほどの……。


楓「そうなんです……」

――ポツリと、返事をするように楓さんがつぶやいた。


楓「重たい……、とても重いです……」

楓「重く、て……、怖くて……っ」

楓「でも……っ、誰にも……」

楓「わかって、もらえなかった……っ」

――その声が次第に震えだし、

――やがて嗚咽へと変わっていく。

――口元を手で抑え、涙を零しながら、

――楓さんは静かに泣いた。


――……こんなにも苦しんでいたんだ。

――この苦しみを、少しでも受け止めてあげられたんだろうか?

――俺はただ黙って、彼女が泣き止むのを待った。

――銃口は逸らさず、命の重みを肩に感じたまま祈る。

――どうかわずかでも、楓さんの心が救われますように……。 <> An even bet
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:13:31.63 ID:KZbFCtvpo<> 『施設』

『プロダクション』が事務所の近くに新たに設立した多目的複合施設。
無駄にでかくて、色々な事ができる。(大雑把)

奈緒、事務所だけで今のところ事足りてる為、あまり使われる事は無い模様。
ただしラボは晶葉がよく使用している。
たまに龍崎博士も顔を出す。

その膨大な維持費は社長のポケットマネーから捻出されている。
皆口をそろえて何のために建てたのかと尋ねたが、社長曰く「先行投資」らしい。

要は『普段は使わないけど、何かあった時に便利な場所』です。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/07(金) 19:16:16.33 ID:KZbFCtvpo<> 以上です
アーニャと名前だけ周子をお借りしました

大変遅くなりました
予告を上げたのが6月だから、そこからほぼ半年
しかもアイデア自体は1年前くらいからあったという

最初はね、単にピィが楓さんに銃を向けるって発想だったんだけどね
あまりに短すぎるから内容を足してもうちょっと伸ばそうと考えた結果
なにやら最終的に「命の重み」みたいな壮大なテーマになっちゃってね
案の定そんな大層なもん手に負えず四苦八苦したんですね(言い訳) <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/11/07(金) 20:00:48.69 ID:Y+wRLX000<> 乙でしたー
プロダクションがでかくなった!
…ピィは良い人だよなぁ、そしてかっこいい人だよ <> あ</b> ◇q2aLTbrFLA<b><>sage<>2014/11/10(月) 16:14:38.02 ID:WHENmHyw0<> うーむ、ここを見ていたら初めてだが書きたくなってきた。
今井加奈で予約をしてもいいですか? <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/10(月) 16:33:42.31 ID:WHENmHyw0<> トリップ失敗しました。こうか? <> ◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/11/10(月) 17:03:14.58 ID:VtXi4NRt0<> 参加者歓迎!
予約受け付けました、相談などあれば>>2の掲示板に来てくださいませー <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/10(月) 17:25:24.42 ID:WHENmHyw0<> がんばります! <> ◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:01:37.40 ID:VyY/drmpo<> ウェルカムでーす!


さて、ギャグ因子の登場は俺に深い感銘を与えました
乗るしかない、このビッグウェーブに

シリアスなんてくだらねぇぜ!
俺のギャグSSを読めーっ! <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:02:03.58 ID:VyY/drmpo<> 未央「ピィさん! 大変だよ、大変っ!!」ドダダ

ピィ「うおっ!? 未央!?」

未央「未央!? じゃないよ! とにかく大変なんだってば!」

ピィ「人ん家押しかけるなり大変大変って、何だっていうんだよ」


未央「『プロダクション』が……!」

ピィ「!?」

ピィ「『プロダクション』がどうしたんだ!?」

未央「『プロダクション』がぁ……!!」

ピィ「プ、『プロダクション』が……?」


未央「ギャグ因子に飲まれちゃったぁー!!」

ピィ「……」

ピィ「……うん?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:02:31.17 ID:VyY/drmpo<> 未央「今や『プロダクション』は、しっちゃかめっちゃかだよ!」

ピィ「ごめん……、”ギャグ因子”?」

ピィ「何その愉快な響きの……、何?」

未央「愉快なんてもんじゃないよ!」

ピィ「愉快じゃないのか」

未央「いや、愉快だけど」

ピィ「愉快なのか」


未央「とにかく、大変だから!」

ピィ「わかった、大変なのはわかった」

ピィ「……で? 俺にどうしろって?」

未央「来て♪」

ピィ「嫌だ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:03:00.95 ID:VyY/drmpo<> ――そんなこんなで、ここは『プロダクション』前。

ピィ「……!?」


ピィ「待て! 場面の転換がおかしい!!」

ピィ「さっきまで俺の家だっただろ!?」

ピィ「俺の家から『プロダクション』までの道のりはどうした!?」

ピィ「ギャグ因子の影響範囲が大雑把すぎる!!」

ピィ「っていうか行かないって言っただろ!!」

未央「嫌だ(行かないとは言っていない)とは言ったね」

ピィ「有無を言わさぬ強引さ!!」


未央「っていうか何で嫌なのさー」

ピィ「嫌な予感しかしないからだ!」

ピィ「ギャグ因子だかなんだか知らんが、別に危険じゃ無いんだろ?」

ピィ「じゃあ放っておけばいいじゃないか、俺が来る必要性も感じない!」

未央「そんなこと無いよ! ピィさんは必要だよ!」

ピィ「そ……、そうなのか?」

未央「そうだよ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:03:29.91 ID:VyY/drmpo<> 未央「だってさ……」

未央「ピィさんがいないと、面白く無いじゃん……?」キャピッ

ピィ「帰る」

未央「知らなかったのか……? ギャグ因子からは逃げられない……!!!」

ピィ「帰るううゥゥーーーー!!!!」


ピィ「嫌だぁぁアアアーー!!! 絶対ひどい目に遭うもォォーーん!!!」

ピィ「面白いからっ☆」

ピィ「ってだけで、特に理由の無い暴力が俺を襲うんだああァァーーー!!!」

未央「まあまあピィ君、そこまでわかっているなら覚悟を決めたまえよ」

ピィ「ほらああァァ!!! 否定すらしないしィィィィーー!!!!」

未央「ギャグ補正があるから! 死なないから!」

ピィ「ピィおうち帰るぅぅぅうううウウウウーーー!!!!!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:03:57.47 ID:VyY/drmpo<> ――『プロダクション』内。


ピィ「……」グスッグスッ

未央「ギャグとはいえ、いい年した男のマジ泣きはなかなか堪えるものがあったよ……」

ピィ「元はといえばお前のせいだろうがっ!」

未央「いやいや、ギャグ因子のせいでしょ」

未央「ひいてはこんなお話を書こうとした――」

ピィ「それ以上いけない」


ピィ「わかったよ、もう諦めたよくそっ!」

未央「ようやく話が進むねっ☆」

ピィ「……というか、ここ『プロダクション』の中なんだよな?」

未央「うん、そうだよ」

ピィ「想像以上だな……」


ピィ「まず壁だ」

ピィ「目の前に壁がある」

ピィ「……何で玄関入ってすぐ壁なんだよ!!」

千早「くっ」

ピィ「欠陥住宅もいいとこだよ!」

ピィ「こんな構造じゃなかっただろ!」

ピィ「誰だ今の!?」

歌鈴「ちくわ道明寺」

ピィ「なんだちくわ道明寺か」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:04:23.60 ID:VyY/drmpo<> 未央「ギャグ因子の影響で『プロダクション』の中が迷路になってるみたいだね」

ピィ「面妖な……」

未央「とりあえず道なりに進むしかないね」

ピィ「仕方ないね」


未央「……と思ったら早速行き止まりかー」

ピィ「そして、開けろと言わんばかりに扉があるな……」

未央「わかってる? ピィさん……」

未央「ここを開けたらもう後戻りはできないからね……」ゴクリッ

ピィ「今までのどこかに後戻りできる地点あった?」

未央「じゃあ、開けるよ」

ピィ「聞けよ」


ギィ…… <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:05:04.06 ID:VyY/drmpo<>
晶葉「できたぞピィ! 押すとピィの尻がシバかれるスイッチだ!」



ピィ「帰るぅぅぅぅぅううううううううーーーーー!!!!!」


未央「落ち着いてピィさん! 後戻りできないって言ったでしょ!!」


ピィ「いやぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーー!!!!」


未央「落ち着け☆」ゴスッ

ピィ「ほぐぅっ!!」


未央「どう? ピィさん、落ち着いた?」

ピィ「……」

ピィ「おれはしょうきにもどった」

未央「良かった!」


ピィ「……で、晶葉はここで何をやってるんだ?」

晶葉「うむ……、私にもよくわからないのだが」

ピィ「どうした、晶葉にしては随分と歯切れが悪いな」

晶葉「天才にだって……、わからないことくらい……ある……」

ピィ「お、おう」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:05:30.18 ID:VyY/drmpo<> 晶葉「一つだけわかることがあるぞ」

ピィ「おお……!」

晶葉「まず、ピィ達は最深部にたどり着かねばならない」

ピィ「……どこの?」

晶葉「その為には、各部屋の住人に対して勝利を収めなければいけない」

ピィ「……どうやって?」

晶葉「そして、その第一関門が私だということだ」

ピィ「……えー」


ピィ「えっと……、ちなみにもう一度聞くけど、それは……?」

晶葉「押すとピィの尻がシバかれるスイッチだ!」

ピィ「何故作った!?」


晶葉「ギャグ因子に飲まれた時、一つの命令がきたぞ」

ピィ「!?」

晶葉「”ピィをいじめ抜け”だ!」

ピィ「やぁだぁぁあ!! やめてえぇぇ!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:05:56.44 ID:VyY/drmpo<> ピィ「……要はお前に勝てばいいんだな!?」

晶葉「うむ、そうらしい」

未央「でも、どうやって?」

晶葉「わからん!」

ピィ「勝利条件不明かよ!」


未央「可能性があるとすれば」

ピィ「待て」

未央「あのスイッチだよね」

ピィ「待てと言ったぞ」

未央「じゃあ逆に聞くけど!!!」

ピィ「ひゃい!?」

未央「……押さずに済むと思うの?」


ピィ「……………………」

ピィ「す……」

ピィ「……っ」

ピィ「いや、でも……」

晶葉「えい」ポチー

ピィ「」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:06:24.46 ID:VyY/drmpo<>

デデーン! ピィ アウトー


ピィ「待った! 待って!」

ピィ「今の何か聞いたことある!」

ゾロゾロ

ピィ「何だお前ら!?(驚愕)」

ピィ「いや、見たことあるぞお前らも!」

ピィ「主に年末――、何をするっ!」

ピィ「やめ……っ、んぃっ!!?」スパーン!!

ピィ「〜〜〜〜〜っ……!!」


未央「……すふっwww」プルプル

晶葉「んっ……www」プルプル

ピィ「お前らも”笑ってはいけない感”を出さなくていい!」


カチッ……


晶葉「おっ、どうやら次のエリアへの道が開いたようだぞ」

未央「やったねピィさん!」

ピィ「……」

ピィ「くそが」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:06:51.72 ID:VyY/drmpo<> 未央「また迷路かぁ」

ピィ「やっぱりこうなったよ……」

未央「まだ怒ってんのー?」

ピィ「怒るに決まってるだろ!」


ピィ「っていうか待て」

ピィ「未央、お前何を持ってる……?」

未央「ん? これ?」

未央「さっきのスイッチ♪」


ピィ「捨てろ!!」

未央「断る!!」


ピィ「何で持ってるんだよ!!」

未央「貰った」

ピィ「貰った理由を聞いてるんだ!!」

未央「そりゃあ……」

未央「面白そうだから?☆」キャピッ


ピィ「没収!!」

未央「断る!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:07:17.91 ID:VyY/drmpo<> 未央「あっ、ほらピィさん次の扉だよ!」

ピィ「話を逸ら―――」


――その時、目の前の扉に異変が起きた!

―― 一瞬にして幾重にも亀裂……、いや、切れ目が生まれ、

――大きな音を立ててひとりでに瓦解したのだ!!


ピィ「……」

未央「……」

ピィ「今のは……、まさか……」

未央「”切断”の能力……っ!」

ピィ「つまり、ここの部屋に居るのは……」


ピィ「楓さん!!」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:07:45.45 ID:VyY/drmpo<> 楓「その通りです……」

ピィ「っ!」

未央「!?」


楓「ようこそ、ピィさん、未央ちゃん……」

ピィ「あれは……、なんてことだ」

未央「……ピィさんも感じる?」

ピィ「ああ……!」


楓「ふふ……、うふふふ……っ」

未央「手遅れ……、みたいだね」

ピィ「畜生……っ! もっと早くに来ていれば良かった!!」

楓「うふふふっ、あはははははっ!!」

未央「今更嘆いていても仕方ないよ……」

ピィ「でもっ! 楓さんが――!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:08:13.47 ID:VyY/drmpo<> 楓「はーい、次の関門は私でぇす! ここから動かんもん!」

楓「あははははーっ」ヒック

ピィ「完全に酔っ払ってやがる……っっ!!!」

未央「これは面倒くさそうだねぇ……」


楓「二人ともー、そんな所にいないで入ったらどうですかぁ?」

ピィ「あのー楓さん……?」

未央「酔ってますよね?」

楓「酔ってません!」

ピィ(酔ってる……)

未央(酔ってる……) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:08:39.73 ID:VyY/drmpo<> ピィ「というか楓さん、一個前の話がですね、楓さんメインの話なんですよ」

ピィ「しかもシリアスなやつ」

ピィ「いきなり雰囲気ぶち壊しじゃないですか」

未央「おっ、ナチュラルにメタ発言するなんてピィさんも染まってきたねぇ」


楓「あー、あれですか」

楓「ちょっとギャグがスランプで落ち込んでたんですよねぇ」

ピィ「そんな理由で!?」

楓「おむぐる……、おま……、おみっおみっ……」

ピィ「噛みすぎィ!」

楓「失礼、お見苦しい所をお見せしました」

ピィ「……いえ、もういいです」

楓「あっ、えーっと『かみまみた』、でしたっけ?」

ピィ「遅いっ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:09:05.99 ID:VyY/drmpo<> 楓「ということでー、二人は私に勝たないといけませーん」

ピィ「勝つって言ってもな……」

未央「……」ポチッ


デデーン! ピィ アウトー


ピィ「!?」

ピィ「何故押したっ!!!???」

ゾロゾロ

ピィ「ちょっ、待っ、未央っ!」

ピィ「未央ッーーーー!!」スパーン!!

ピィ「〜〜〜〜〜……っっ」


未央「いや、これを押せば勝てるシステムなのかなーって」

ピィ「……許さんぞ貴様」

楓「なるほど……」

楓「それを押すとピィさんのヒップがひっぷぁた(引っ叩)かれるわけですね、うふふふっ」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:09:32.61 ID:VyY/drmpo<>

デデーン! 高垣ー アウトー


楓「!?」

ピィ「!?」

未央「!?」


楓「えっ、未央ちゃん……?」

未央「違っ、私押してないよ!?」

ゾロゾロ

楓「えっ、嘘ですよね? 何かの間違――」

楓「あんっ!?」スパーン!!

楓「〜〜〜〜〜……っっ!」

未央「……」

ピィ「……」


カチッ…


未央「あっ、開いた……」


ピィ「あの、楓さん……?」

楓「……」

楓「あの人たち、次出てきたら切り刻みます、慈悲はありません」

ピィ「楓さん、いのちだいじに! いのちだいじに!!」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:10:07.81 ID:VyY/drmpo<> ――先へ進む通路。


未央「何だったんだろうね、今のは……」

ピィ「ここの勝利条件ガバガバじゃねえか……」

未央「大丈夫かな、かえ姉さま」

ピィ「……というか、次それ押したら、ぶつぞ」

未央「真顔っ!? 暴力はんたーい!」

ピィ「俺は本気だからな」

未央「うっ……」


未央「……いじめる?」←せつなそうに ttp://i.imgur.com/nTZTgT7.png

ピィ「……っ!」

ピィ「お前っ、そんなの卑怯だぞ!!」

未央「ぶつ……?」←せつなそうに ttp://i.imgur.com/nTZTgT7.png

ピィ「やめろっ! そんな顔するんじゃねェェ!!」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:10:37.93 ID:VyY/drmpo<> ――そして……。


美玲「次の関門はウチだぞッ!!」

美玲「ふふふ……、怖いか?」

ピィ「あー」

未央「あー」

美玲「何だその反応はッ!?」

ピィ「楽勝だな」

未央「だねー」

美玲「何だとッ!!」


ピィ「そうだ美玲」

美玲「ガルルルルッ……!」

ピィ「次の話はお前メインの予定だから」

美玲「えっ」

ピィ「シリアスなやつ」

美玲「えっ」

ピィ「ほい、これ台本」

美玲「えっ」

ピィ「ちゃんと覚えとけよー」

美玲「えっ」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:11:05.26 ID:VyY/drmpo<> ピィ「まあほぼ白紙なんだけどな(笑)」

美玲「えっ」

ピィ「でもプロットくらいは書いてあるから」

美玲「えっ」

ピィ「っていっても本当に書くかどうかわかんないんだけどな(笑)」

美玲「えっ」

ピィ「予定は未定、ってやつ?(笑)」

美玲「えっ」


ガチャ……


ピィ「おっ、扉開いたな」

美玲「えっ」

ピィ「じゃあ先進むわ」

美玲「えっ」

ピィ「またなー」

美玲「えっ」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:11:33.68 ID:VyY/drmpo<> 未央「そうだ、さかみー!」

美玲「えっ」

未央「今度から美玲ちゃんの事さかみーって呼ぶから」

美玲「えっ」

未央「なんてったって公式の呼び方だからさー」

美玲「えっ」

未央「ソースは毎週水曜日、22時からニコ生で放送中の『シンデレラパーティー』ってラジオのね……」

美玲「えっ」

未央「『未央のミツボシアイドルプロフィール!』って”コーナー”で……、あっ」

李衣菜「ワンペナ!」

未央「しまったー……」

美玲「えっ」

未央「まぁ、そんな感じの清いラジオをやってるから」

美玲「えっ」

未央「みんな聞いてねーっ!☆」

美玲「えっ」

未央「そいじゃー!」

美玲「えっ」


美玲「……」

美玲「えっ」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:12:03.90 ID:VyY/drmpo<> ピィ「迷路っていっても一本道なんだな」

未央「グネグネしてるだけで、別に迷ったりはしないね」

ピィ「ならサクサク行くか、……早く終わらせたい」

未央「えー、私はもっと続けたいけどなー」

ピィ「お前な……、っと扉だ」


―――┣¨


未央「……待って」

ピィ「ん? ……っ!」


―――┣¨┣¨


ピィ「な、なんだこの威圧感……っ!」


――┣¨┣¨┣¨


未央「扉越しなのにここまで……」

ピィ「一体誰がっ!?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:12:36.00 ID:VyY/drmpo<> 未央「……開けるよ?」

ピィ「ああ……!」ゴクリ


ガチャ


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


ピィ「!!」

未央「!!」

ピィ「おっ、お前は!!」

未央「そんな……っ!!」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


??「よぉ、久しぶりだな……」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:13:06.58 ID:VyY/drmpo<>

ピィ「”隊長”……っ」


隊長「まぁ、そんな顔をするな」

隊長「どうだ? あの後腕の調子は」


ピィ「……絶好調だよ、おかげさまで」

未央「そんなことより、なんでここに……?」

隊長「そうだなぁ……」

隊長「いかに無敵の俺でも、ギャグ因子には敵わなかったって事さ」

未央「なるほど……」

ピィ「……だからお前は」


アーニャ「アスタナヴィーチ、動かないでください……」


ピィ「アーニャに膝枕で耳掃除をしてもらっているのか……」


隊長「……そういうことになるな」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:13:38.81 ID:VyY/drmpo<> 隊長「まったく、厄介なもんだぜ……」

ピィ「そう言いながら、すげぇニヤニヤしてんじゃん」

未央「気持ち悪ーっ」

隊長「何だと……!」

アーニャ「だから動かないでください、パパ!」


ピィ&未央「「……………パパぁ!?」」


隊長「……何か?」ギロッ

ピィ「い、いえ……」

未央「なにも……」


隊長「ちっ……、扉なら開けてあるからさっさと行きやがれ」

ピィ「あ、どうもこれはご丁寧に……」

未央「アーニャもまたね」

アーニャ「ダー」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:14:05.63 ID:VyY/drmpo<> ――先へ進む通路。


ピィ「すげぇもん見ちまったな……」

未央「うん……」

ピィ「パパだってよww」

未央「ちょっwwやめてよ忘れてたのにww」


隊長(……聞こえてるからな)


ピィ「っ!? こいつ直接脳内に……!」

未央「怖っ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:14:34.28 ID:VyY/drmpo<> ――続いて……。


周子「よっ」

ピィ「……で、次はお前か」

未央「しおみーか……、厄介そうだね」


周子「ところがどっこい」

ピィ「ぎっちょん?」

周子「ネタがありません」

未央「えー……」

周子「悲しいお知らせです」

ピィ「何のために出てきたんだよ……」


周子「……ということで」

周子「周子は仲間になりたそうにそちらを見ている」

ピィ「えっ」

未央「来るの?」


周子「いーじゃん連れてってよー」

ピィ「俺は構わないけど……」

周子「書き手の負担が増える?」

ピィ「やめろォ!」

周子「ちなみに連れてってくれないと一個前の部屋に戻す」

未央「連れてく! 連れてくから!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:15:03.25 ID:VyY/drmpo<> ――周子が仲間に加わった!

――俺の負担が増えた!


ピィ「なんか天の声が毒づいてるんだけど」

周子「いーのいーの、どうせ行き当たりばったりなんだから」

未央「大丈夫かなぁ……」

周子「それより早く次行こ」

ピィ「お前が仕切るのかよ」

未央「あっ、これ未央ちゃんの存在感が薄れるパターンかな」


周子「はい到着!(強引)」

ピィ「強引すぎだろ!」

未央「はいはーい扉開けますよー」

ピィ「だから」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:15:36.87 ID:VyY/drmpo<>

博士「できたぞピィ君! 押すとピィ君がタイキックされるスイッチだ!」

ピィ「いっそころして」


周子「www」

ピィ「わろてもうてるやん」

未央「どんまいっ☆」

ピィ「やかましい」


博士「すまんなピィ君……、ギャグ因子に飲まれた時、一つの命令が来たんだ」

ピィ「博士もですか……」

博士「”お前が面白いと思うことをしろ”とな」

ピィ「自身の意志!!」


博士「そうだ、君がタイキックされるのは私の責任だ」

博士「だが私は謝らない」ポチー

ピィ「さっき謝ってたじゃないですかー!」


デデーン! ピィ タイキックー


ピィ「おお、もう……」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:16:14.28 ID:VyY/drmpo<> (ピィがタイキックされる音)

(ピィが膝から崩折れる音)


未央「うわー、あれは痛そう……」

周子「息っ……www息がっwwww」


カチッ……


未央「ほらピィさん、開いたよ」

ピィ「   」

未央「えっ、なに?」

ピィ「しゅうこを……とめろ……」

未央「しおみーがどうかした?」


周子「博士、それちょうだい」

博士「ああ、持って行くといい」

未央「……」

未央「何もなかった」

ピィ「とめて」


――ちなみにピィが起き上がれるようになるまで5分ほどかかった。

<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:16:42.26 ID:VyY/drmpo<> ピィ「押したらぶつ」

周子「ぶったら押す」

未央「まぁまぁ二人とも、ほら次ついたよ」

ピィ「……なんかだんだん展開が適当になってないか?」

周子「そんなことないってー」

未央「じゃ、開けるね」


ギィ…
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:17:08.46 ID:VyY/drmpo<> ピィ「『プロダクション』のロリ三銃士を連れてきたよ」

未央&周子「「『プロダクション』のロリ三銃士?」」


ピィ「天真爛漫、元気な笑顔が眩しい薫ちゃん」

薫「よろしくおねがいしまーっ!」

ピィ「幼さの中に漂う色香、千枝ちゃん」

千枝「千枝いっしょうけんめいがんばりますねっ!」

ピィ「メアリー・コクラン」

メアリー「チョット!!」


ピィ「どうした?」

メアリー「どうした? じゃないわヨ! なんでアタシだけ紹介が無いのヨ!」

ピィ「あー、すまん、忘れてた」

メアリー「絶対ウソでショ!?」


未央「……いや、それより今のくだり何? ツッコミどころ多すぎでしょ」

周子「あーもう、無理やりネタをぶっこむからー」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:17:37.06 ID:VyY/drmpo<> メアリー「……さっきサリナが言ってたワ」

メアリー「三人一気に登場させるとか、手抜き以外の何でもないっテ」

ピィ「ギクッ……、いやそんなことは無いぞ?」

薫「手抜き? 手を抜いたのー?」

ピィ「だから違……」

千枝「手ヌキって言うと大人の男の人が喜ぶって聞きました……」

ピィ「千枝ちゃんにこの単語を教えたのは誰だあっ!! グッジョブ!!」


千枝「お兄さん、手ヌキってどういう意味ですか……?」

千枝「千枝に、教えて欲しいです」

ピィ「あのね千枝ちゃん、手ヌキっていうのは――」

未央「……」ポチッ


デデーン! ピィ アウトー


ピィ「千枝ちゃんに手ヌキされたいだけの人生だった」

ゾロゾロ

ピィ「千枝ちゃんは合法……っ!!!」スパーン!!

ピィ「……〜〜〜〜ッッッ」プルプル <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:18:03.57 ID:VyY/drmpo<> カチッ……


未央「あっ、開いた」


薫「ピィさん大丈夫!?」

千枝「お兄さんっ!!」

メアリー「今スゴイ音したわヨ!?」

ピィ「へへっ……、大したことはないさ……」

ピィ「ああ……、こんなに可愛い女の子達に囲まれて、俺は幸せだなぁ……」


周子「もう一発行っとく?」

ピィ「先を急ごうか」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:18:41.51 ID:VyY/drmpo<> 周子「ピィさんってロリコンなの?」

ピィ「……ロリコン”でもある”、ってやつだな」

未央「……ピィさんって結構欲望に忠実だったりするよね」

ピィ「おとこだもの みつを」


周子「ピィさん時々未央ちゃんのこと性的な目で見てる時あるから気をつけてね」

未央「……」サッ

ピィ「待て、無言で距離を取るな傷つく」

未央「否定はしないんだ……」ジト...

ピィ「うぐっ……」

ピィ「お、お前のおっぱいが大きいのが悪い!!」

未央「なっ……!? すっ、好きでおっぱい大きいわけじゃ無いし!!」カァッ

周子「若いなぁ……」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:19:09.61 ID:VyY/drmpo<> 沙理奈「ウフッ、待ってたわよぉ」

沙理奈「……って、あら?」


ピィ「……」

未央「……」

沙理奈「あの二人はどうしたの?」

周子「まー、色々とね」

沙理奈「痴話喧嘩?」

ピィ「はぁっ!? ちげーし!!?」

未央「全然そんなんじゃねーし!!??」

周子「子供かっ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:19:35.47 ID:VyY/drmpo<> 沙理奈「ま、とにかく進めましょ」

沙理奈「……って言いたいとこなんだけどぉ」

ピィ「まさか……」


沙理奈「ネタが無いのよねぇ」

未央「また!?」

沙理奈「悲しいお知らせよ」

周子「ということはー?」


沙理奈「ウフッ、ピィさん」

沙理奈「アタシも連れてイッて欲しいなぁ?」

ピィ「やっぱりな(レ)」


沙理奈「連れて行ってくれなきゃ四個前の部屋に戻すわ」

未央「何で二人とも隊長の部屋に戻そうとするのさ!?」

周子「どうするんー?」

ピィ「連れて行きますよ! 連れて行けばいいんでしょ!!」

沙理奈「やったぁ☆」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:20:02.71 ID:VyY/drmpo<> ピィ「『プロダクション』の強キャラ三銃士を連れてきたよ」

未央&周子&沙理奈「「「『プロダクション』の強キャラ三銃士?」」」


ピィ「九尾の狐、塩見周子」

周子「生粋の悪だよー」

ピィ「熾天使ラファエルにして本田未央」

未央「えっへへー、癒やしちゃうぞっ☆」

ピィ「初代色欲の悪魔、アスモダイの松本沙理奈」

沙理奈「ウフ、よろしくぅ、……ってそれピィさんが知らない設定よね?」


未央「これさっきもやった」

周子「ラーメン三銃士にハマってるの?」

沙理奈「っていうかもうただの自己紹介じゃない」

ピィ「俺にもよくわからん」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:20:30.32 ID:VyY/drmpo<> ――次のエリア。


愛海「 う ひ ひ 」


ピィ「愛海!? (早苗さんに)殺されたんじゃ!?」

愛海「残念だったなぁ、トリックだよ」


愛海「という訳でトリックオアおっぱい!」

愛海「おっぱいくれなきゃイタズラ(意味深)しちゃうぞ!!」

未央「どっちも一緒だ!?」

周子「っていうかとっくにハロウィン終わったのにね」

沙理奈「まあ、欲しいって言うならあげるわよぉ?」

愛海「mjsk!?」


沙理奈「ただし条件があるわ、ねっ、ピィさん?」

ピィ「ああ……」

愛海「条件……?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:20:56.77 ID:VyY/drmpo<> ピィ「愛海よ……」ゴゴゴ

愛海「な、なに……?」


ピィ「揉んでいいのは揉まれる覚悟のある奴だけだぞッッッ!!!!」クワッ


愛海「……ッッッ!!」


愛海「かっ……」

愛海「覚悟なら……」


愛海「覚悟ならあるよっ!」

ピィ「ほう……」

ピィ「それを今、証明できるか?」

愛海「……」コクッ...

ピィ「その意気やよし」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:21:23.81 ID:VyY/drmpo<> ピィ「では愛海」

ピィ「脱げ」

愛海「っ!」


愛海「な、生で……?」

ピィ「なんだ、さっきの言葉は偽りだったのか?」

愛海「……わかった、脱ぐよ」

ピィ「それでいい」


周子「……」ポチッ

未央「……」ポチッ <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:21:51.17 ID:VyY/drmpo<>

デデーン! ピィ 空手キックー


ピィ「!?」

ピィ「えっ、空手? タイじゃなくて?」


有香「押忍っ!」


ピィ「」

沙理奈「同時に押すとああなるのね」


ピィ「待って、死ぬ、死ぬから!」

ピィ「やりすぎたのは謝るから!!」

有香「なるべく死なないように……、加減します……っ」

ピィ「なるべくって言った!」

有香「ふぅぅぅぅぅ…………!」


有香「たッ―――!!!!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:22:18.34 ID:VyY/drmpo<> ――その蹴りは、まさに光速であった。


――『光の速さで押忍にゃんがキックしたらどうなるの?』

――などというツッコミは、今は野暮である。

――これはギャグなのだ。

――ギャグなので有香は光速でキックできるし、

――ピィはギリギリ死なずに済む。

――ただ、それだけの話だ。

――ギャグってそういうもんでしょ?


ピィ「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:22:44.66 ID:VyY/drmpo<> カチッ……


周子「行こうか」

未央「そうだね」

沙理奈「進みましょ」


ピィ「」チーン(笑)


――五個前の部屋からアーニャが来て蘇生してくれました。
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:23:15.38 ID:VyY/drmpo<> ピィ「……なぁ」


未央「……」

周子「……」

沙理奈「……」


ピィ「距離置きすぎだろ」


未央「最低……」

周子「あれはちょっとねー」

沙理奈「反省した方がいいんじゃない?」


ピィ「沙理奈さんの提案じゃないか」


沙理奈「あそこまでしろとは言ってない」

周子「脱げ、はちょっとねー」

未央「最低……」


ピィ「……はぁ、とにかく着いたぞ」

ピィ「やけに豪華な扉だな」

未央「ん? 何か書いてある……」

周子「……Last?」

沙理奈「最後の部屋、ってことかしら?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:23:44.57 ID:VyY/drmpo<> ギィ……


(BGM:この世全ての悪 ttp://www.youtube.com/watch?v=yHPMkzA79Z4)


ちひろ「とうとうここまでたどり着きましたね」

ちひろ「待ちくたびれちゃいましたよ、皆さん」

ちひろ「ちょうど退屈を持て余していたところです」


ピィ「げえっ!? ちひろ!!」

未央「なんて重厚なBGM……っ!」

周子「そして不穏なタイトル」

沙理奈「まさにラスボスね……」


ちひろ「さてさて、歓迎しますよ、盛大にね!」

周子「入り口のLastの文字、ここが最深部……、なのかな?」

ちひろ「いかにもその通りです」

未央「このギャグ因子の原因はちひろさん?」

ちひろ「さぁ……、どうでしょう?」

沙理奈「ここで何をしてるの?」

ちひろ「ひ・み・つ……、です」

ピィ「一体何が目的だ!!」

ちひろ「やだなぁ、みんなして……これはギャグSSですよ?」


ちひろ「面白くなれっ! って、ただそう願っただけです」

ちひろ「本当にそれだけですよ」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:24:11.34 ID:VyY/drmpo<> ピィ「……待て、ここが最後の部屋?」

ちひろ「はいっ」


ピィ「今までの部屋に居たのは、若干の例外はあれどみんな『プロダクション』に縁のある面子だった」

ピィ「だとすると、一人足りないよな……?」

ちひろ「……ええ」

ちひろ「まだ藍子ちゃんに会ってませんよね?(にっこり)」

ピィ「――っっっ!!!」

ピィ「藍子を何処へやった!!??」

ちひろ「……」


ちひろ「ぐすっ……」ジワァ...


ピィ「!?」

未央「!?」

周子「!?」

沙理奈「!?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:24:40.28 ID:VyY/drmpo<> ちひろ「ひっ……、えぐっ……」

ちひろ「み、みんなして……、ぐすっ……」

ちひろ「揃って私を、わっ、悪者みたいに……」

ちひろ「私だって、私だって……っ」

ちひろ「好きでやってる訳じゃ無いのにーーーっ!!!」

ちひろ「わぁぁああ〜〜〜〜ん!!」


ピィ「えぇ……(困惑)」

未央「ピィさん謝りなよ……」

ピィ「俺のせいか!?」

周子「ほら早くー」

沙理奈「甲斐性見せなさいよー」

ピィ「……わかったよ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:25:12.76 ID:VyY/drmpo<> ちひろ「うぇぇぇえええええん!!」


ピィ「あの、ちひろさん……?」

ちひろ「ぐすっ、ぐすっ……」

ちひろ「…………なんですか?」

ピィ「えっと、悪者扱いしてごめんなさい」

ピィ「良ければもうちょっと詳しいことを聞きたいんですけど……」

ちひろ「ぐすっ……、はい……」


ちひろ「ここが最後だというのは本当です……」

ちひろ「ただし、私に勝てば藍子ちゃんの所へ行けます……」

ちひろ「何でこうなったのかは私にもわかりません……」

ピィ「良かった……」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:25:39.99 ID:VyY/drmpo<> ピィ「で、どうやってちひろさんに勝てばいいんです?」

ちひろ「はいっ、それはですね!(にっこり)」

ピィ「!?」


ちひろ「ここにスマホがあります!」

ピィ「それは……、俺の!? いつの間に!!」

ちひろ「ちょっと細工をしました」

ピィ「変なアプリとか入れてないでしょうね!」

ちひろ「そんな事しませんよ!」

ちひろ「ただ時間を弄っただけです」

ピィ「……時間? 時計のことですか?」

ちひろ「いいえ、画面をよく見てください」


ピィ「これは……、モバマスだ」

未央(モバマスの世界でモバマスをプレイしてるの?)

沙理奈(メタにも程があるでしょ)

周子(でもあんま突っ込んじゃいけない場面なんだろうなー) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:26:06.97 ID:VyY/drmpo<> ピィ「!?」

ピィ「あ、藍子ガチャ……?」プルプル


ちひろ「はい、遠くない未来です」

ピィ「えっと……これは……?」プルプル

ちひろ「……(にっこり)」


ちひろ「レアやSレアのアイドルをGETするにはガチャが一番!」

ちひろ「ずばり! 藍子ちゃんを自引きしてください!」

ちひろ「それが勝利条件ですっ!」

ピィ「」


未央「鬼!」

周子「悪魔!」

沙理奈「ちひろ!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:26:33.91 ID:VyY/drmpo<> ちひろ「私に、というよりは、自分に……」

ちひろ「いえ、運命に勝つという感じでしょうか?」

ちひろ「かっこいいですねっ!」

ちひろ「でも、その先に藍子ちゃんが待ってますよ!」

ちひろ「ちーっひっひっひっひ……!」


未央「やっぱり悪者じゃないか!(憤怒)」

周子「あーもうめちゃくちゃだよ(呆れ)」

沙理奈「ちひろを信用してはいけない(戒め)」


ピィ「ところでちひろさん、一つ確認していいかな」

ちひろ「……いいでしょう、何ですか?」

ピィ「ああ、ガチャを回すのはいいが――」


ピィ「別に、二枚取りしてしまっても構わんのだろう?」


未央「アチャー」

周子「アチャー」

沙理奈「アチャー」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:27:18.31 ID:VyY/drmpo<> ――数十分後。


ピィ「NKT……」

ちひろ「ふむ、確かに……」

ちひろ「ちゃんと藍子ちゃんを自引きできてますね」

ちひろ「しかも宣言通り二枚……」

ピィ「そいつぁ違うぜちっひ……」

ピィ「二枚じゃあねぇ、二人だ……」

ちひろ「あっはい」


未央「あの、ピィさん……?」

周子「ぶっちゃけいくらつぎ込んだの?」

沙理奈「しかもリボ払いだったわよね?」


               _______
    :/ ̄| :  :  ./ /  #  ;,;  ヽ
  :. | ::|    /⌒  ;;#  ,;.;::⌒ : ::::\ :
    | ::|:  / -==、   '  ( ●) ..:::::|  ピィ「……」
  ,―    \   | ::::::⌒(__人__)⌒  :::::.::::| : 
 | ___)  ::|: ! #;;:..  l/ニニ|    .::::::/
 | ___)  ::|  ヽ.;;;//;;.;`ー‐'ォ  ..;;#:::/
 | ___)  ::|   .>;;;;::..    ..;,.;-\
 ヽ__)_/ :  /            \   ハァハァ....



未央「……」

周子「……」

沙理奈「……」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:27:45.37 ID:VyY/drmpo<> ちひろ「では、次の部屋へどうぞ」

ちひろ「そこで……、藍子ちゃんが待ってます」


ピィ「ぅ藍子ぉぉぉぉおおおおおお!!!!」ダダダッ


ちひろ「……」

未央「……」

周子「……」

沙理奈「……」


未央「私たちも行こっか」

周子「そだねー」

沙理奈「じゃあまたねぇ、ちひろさん」

ちひろ「はい、また」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:28:16.19 ID:VyY/drmpo<> ピィ「藍子っ!」

藍子「ピィさん……っ!?」

ピィ「良かった……、無事か藍子?」

藍子「はいっ、そんなことよりピィさんこそ……」

ピィ「へへっ、何てことないさ」

藍子「本当に大丈夫ですか? どこか怪我は……」


周子(ギャグ因子の影響下にあってなお、あのヒロインオーラ……)

沙理奈(嫁補正恐るべしね)


未央「……」

藍子「あっ、未央ちゃん、もう用事は済んだんですか?」

ピィ「ん? 用事?」

未央「ふふ……」

ピィ「……未央?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:28:55.06 ID:VyY/drmpo<> 未央「ふははははー!!」

未央「まだだよピィさん……」

ピィ「み、お……?」

未央「まだピィさんが戦ってない相手が残ってるよ!」

ピィ「まさか……」


未央「そうだよ! 最初からずっと一緒に居たもんね!?」

未央「だから、まだ私とは戦ってないでしょ!!」

未央「ピィさん!!」

ピィ「な、なんだってー!?」


ピィ「→ To Be Continued ...」

未央「いや続かないよ!?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:29:31.82 ID:VyY/drmpo<> 未央「クライマックスなんだからもうちょっと真面目にやってよ!!」

ピィ「えー、もういいんだけど……」

ピィ「っていうかこれギャグなんだろー?」

ピィ「真面目にって言われてもなー……」


未央「待って、何でそんな露骨にテンション低いの……?」

ピィ「早く藍子と一緒に帰りたい」キリッ

藍子「ピ、ピィさん……?」


未央「ぐぬぬ……、道中私ともちょっとラブコメったりしてたじゃん……」ブツブツ

未央「あーちゃんに会えた途端これ……? ちょっとあんまりじゃないかな……」ブツブツ


ピィ「あいつ何をぶつぶつ言ってるんだ?」

藍子「……」

藍子「ピィさん、話を聞いてあげましょう? 未央ちゃんが可哀想ですよ」

ピィ「……まぁ、藍子がそう言うなら」

未央「!」


未央「流石はあーちゃん! 天使すぎる!」

ピィ「天使はお前だろ」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:30:05.83 ID:VyY/drmpo<> 未央「ということで、やる気が無いところ申し訳ないけどピィさん!」

未央「もうちょっと相手してもらうよ!!」

ピィ「いいだろう、ここまで来たらとことん付き合ってやるよ!!」

ピィ「かかってこい未央ォッ!!!!」


未央「ふふふ……、この――」

未央「人懐っこい性格で、持ち前の元気とエネルギーで周りを巻き込み、ぐいぐいと引っ張っていくようなムードメーカー的存在」

未央「運動神経がよくて学業も優秀、社交的で誰からも好かれる性格……とさりげなく万能なハイスペックさを持つが」

未央「そうと意識させないしたしみやすさもまた、魅力のひとつ」

未央「周りのアイドルに独特のあだ名をつけて呼ぶくせがある」

未央「はぁはぁ……」

未央「……未央ちゃんに、果たして勝てるかな!?」


ピィ「今のは……、THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS ANIMATION FIRST SET DVD版2500円 BD版3000円!」

ピィ「――に付いてくるムック本のキャラ紹介文!!」

ピィ「未央が実は運動だけでなく、勉強も得意という設定が初めて明かされた貴重な資料じゃないか!!」


未央「みんな!」

ピィ「買おうぜ!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:30:42.10 ID:VyY/drmpo<> ピィ「……で?」

未央「ん?」

ピィ「結局お前が黒幕なのか?」

未央「えっへへ……、まぁね」

ピィ「ここまでのは全部自演かよ!」

未央「私はギャグ因子を発生させただけだよ」

未央「『プロダクション』がああなったのは、多分ちひろさんのせい」


みお「わたしは しりあすなえすえすに あきあきしていました そこで ぎゃぐいんしを はっせいさせたのです」

ぴぃ「なに かんがえてんだ!」


未央「……って感じ」

ピィ「お前それだとチェーンソーでバラバラになるんだけどいいのか」


楓「そんなものが無くても、私がバラバラにしてあげますよ」


ピィ「!?」

未央「!?」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:31:08.87 ID:VyY/drmpo<>

晶葉「私もいるぞ」


ピィ「!?」

未央「!?」


美玲「お前だけにいいカッコさせるかよッ!」


ピィ「!?」

未央「!?」


アーニャ「『プロダクション』のメンバーはあなただけじゃありません」

愛海「うひひ……」


ピィ「!?」

未央「!?」
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:31:37.34 ID:VyY/drmpo<> 薫「これが!」

千枝「友情……」

メアリー「パワーヨ!」


ピィ「!?」

未央「!?」


周子(あたし達もいるんだけどなー……)

沙理奈(完璧に忘れられてるわね)


博士(……)

隊長(……)
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:32:15.71 ID:VyY/drmpo<> ――ラストなので全員集合させてみました。


ピィ「正気か!?」

未央「収集がつかなくなるよっ!?」


――テヘペロ♪


ピィ「……」

未央「……」

ピィ「もう、さっさと終わらせよう」

未央「そうだね」

ピィ「……で、どうすればいいんだ?」

未央「んー、オチが付けばいいんじゃないかな」

ピィ「えっ……、お前に勝たないとダメなんじゃないの?」

未央「……」ポチッ


デデーン! ピィ アウトー


ピィ「お前っ!!」 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:32:45.22 ID:VyY/drmpo<> ピィ「裏切ったな!」

ピィ「俺の気持ちを裏切ったんだ!!」

未央「知らんな」

ゾロゾロ

ピィ「未央ォォーーーーッッッ!!!」スパーン!!

ピィ「〜〜〜…………ッッ」プルプル <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:33:15.87 ID:VyY/drmpo<> 藍子「ピィさんっ!!」

ピィ「あ、藍子……」

藍子「ピィさんっ! しっかりして下さい! ピィさん!!」

ピィ「すまん、俺は……、もうダメだ……」

ピィ「あ……、いこ……」ガクッ

藍子「ピィさん……っ!!」


――その時、ピィは死んだふりをしました。

――そして、あわよくば藍子に人工呼吸して欲しいなぁと思いました。

――思っただけで要求はしていません。

――でもピィは藍子にマウス・トゥ・マウスして欲しいなぁと思っているのでした 。

     ____
    / ⌒  ⌒  \
  ./( ―) ( ●)  \
  /::⌒(_人_)⌒:::::  | チラッ
  |    ー       .|
  \          /
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:34:18.99 ID:VyY/drmpo<>

隊長「心肺停止か? 人工呼吸が必要なようだな」

隊長「俺に任せろ、必ず目を覚まさせてみせるぜ」ニヤリ

           ____
       /::::::::::::::::\
      /::::::─三三─\   ピィ「ちょっ」
    /:::::::: ( ○)三(○)\
    |::::::::::::::::::::(__人__)::::  | 
     \:::::::::   |r┬-|   ,/
    ノ::::::::::::  `ー'´   \



(隊長が空気を送り込む音)


(ピィの肺が破裂する音)


(アーニャが蘇生する音)
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:34:54.64 ID:VyY/drmpo<> ピィ「……」

ピィ「……」

ピィ「……はっ!?」

ピィ「はぁっはぁっ!!」

ピィ「……」

ピィ「何だ……」

ピィ「夢か……」


未央「ピィさん! 大変だよ、大変っ!!」ドダダ


――最初に戻る↑ <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/10(月) 18:36:08.43 ID:VyY/drmpo<> えー、以上です
オチ? いえ、知らない子ですね

登場人物の――
キャラが違う、口調がおかしい、設定が変……
これら全部ギャグ因子と妖怪のせいでございます

様々なキャラをお借りしました
ギャグ因子の免罪符の元、大変好き勝手使わせていただきました
ありがとうございます
そして

本   ∧ ∧
当  n(゚д゚`∩ トウッ
に  `ヽ  У
:   「`  |
    し⌒ヽ|
      ∪
      \\
     ((   ))


         /
す   (  /  / )
い   人   // ))
ま  (( //  /
せ ((     ′ ズ
ん   /⌒⌒ンフ ザ
し  /   レ/  ザ
た  /   、ノ  ザ
┃ (   )   |
ッ ノレ レ /   :
!! ヘつ⊂/ <>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/11/10(月) 19:10:21.19 ID:VtXi4NRt0<> これはひどい
ひどい(スタンディングオベーション)

久々に大爆笑したSSでした、天丼とかいろいろ卑怯 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:10:38.13 ID:wXAWqqSm0<> なんか勢いに乗って書き上げてしまったのでその勢いのまま投稿します。
初めて書くので温かい目で見てください。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:12:12.58 ID:wXAWqqSm0<>

今井加奈はいわゆる普通の女の子だ。誕生日は3月3日。血液型はO型。趣味は友達とのおしゃべり。

よくメモを取るが、それ以外にはこれと言って目立った特徴のない、ただの16歳の女の子だ。

(そんな彼女の笑顔には妹のように守ってあげたくなる魅力があるが、それについて熱く語ることはここではやめておく事にする)

そんな彼女にも『あの日』以来ちょっとした秘密ができた。

その秘密はアイドルヒーロー達のように人々を助けるような頼もしいものではなかったが、彼女にとっては特別な秘密だった。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:13:15.81 ID:wXAWqqSm0<> 加奈「ふー、注文はこれで全部だねっ。重いものが少なくてよかったぁ」

秋炎絢爛祭の真っただ中、両腕に大量のビニール袋をぶら下げた少女、今井加奈は京華学院の構内を歩いている。

クラスの買い出しの一部を任された彼女は、紙皿や割り箸などと言った備品を買いに出かけ、その帰路ついていた。

買い忘れがないかどうか手元のメモ帳を器用に確認しつつ、彼女はクラスへの帰り道を歩く。

・・・ビニール袋の中には、頼まれていないはずの『そばつゆ』が含まれていたが、その理由については深く考えるまい。

加奈「やっぱり盛り上がってるなぁ〜。でも、うちのクラスも負けてないよね!かなかなファイファイ、おーっ!」

お祭りの空気に圧倒されないように、自分を鼓舞しつつも、彼女は歩き続けた。

・・・時に、美味しそうな出店の前で立ち止まることもあったが、それは御愛嬌だろう。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:14:37.48 ID:wXAWqqSm0<>
時間は一旦『憤怒の街』事件まで巻き戻る。

『憤怒の街』事件が始まってから数時間が経とうとしているだろうか。

街中には悲鳴や銃声、カースによる破壊音や怒号が響き渡っていた。

阿鼻叫喚の地獄絵図と化した街、その街の外側、後少しで街の外に逃げられるだろうという所。

加奈「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

そのような所を、今井加奈は全力で走っていた。

加奈(何?何?なんなの?一体何が起こってるの?)

愛らしい顔は恐怖で引き攣り、抱きしめたくなるような華奢な体は悲鳴を上げていたが、生き延びるため彼女は足を動かし続ける。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:15:48.91 ID:wXAWqqSm0<> その日、彼女は新しいメモ帳を購入するために街を訪れていた。

加奈(うーん、今度のメモ帳はどんなのにしようかな?)

少しだけ眉をひそめ、頬に指を当て店先に置かれたメモ帳の列を真剣に眺めるしぐさはとてもキュートだ。かわいいよなぁ。

ゴホン。

ともかく、その日は新しいメモ帳を手に入れ、そのメモ帳に何が書かれるのかを楽しみにしつつ彼女の一日は幕を終えるはずだった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:16:29.89 ID:wXAWqqSm0<>


カリカリカリッ


<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:17:33.88 ID:wXAWqqSm0<> その予定を、一つの音が妨げた。

加奈(あれ?どうしたんだろ?)

自身の脳内で響き渡った音に対し、慣れた様子で、彼女は自身が持っているメモ帳を取り出す。

加奈(もしかしてカースが発生したのかな?あまりひどいことにならないといいな)

と軽く考えながらメモ帳に目を通す。

加奈(?何これ?)

そこにはとても乱れた文字が数十行にわたって記されていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:18:28.45 ID:wXAWqqSm0<> [ま、街が大変なことに!]

[何!?何が起こってるの!?]

[カースが、町中にカースがいっぱい!?]

その後も書き手の混乱を表すかのように文字は記されている。

時には読めない文字もあり、支離滅裂の所が多かったが

[助けて・・・怖いよ・・・やだ・・・死にたく]

と言う最後の分だけはしっかりと読み取れた。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:19:07.95 ID:wXAWqqSm0<> 加奈(え?え?)

今井加奈は混乱した。

加奈(こんな、こんなひどい事なんて今まで一度も書かれなかったのに)

思わずメモ帳を落としそうになる。得体のしれない恐怖が体を駆け巡る。

見なかったことにしたい、その衝動に耐えつつメモをもう一度読もうとした。

その時、事件は始まった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:20:45.24 ID:wXAWqqSm0<>


カリカリカリカリカリカリカリカリッ

音が鳴り止まない。


<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:21:46.49 ID:wXAWqqSm0<> 怒りと惨劇に支配された街を彼女は逃げ続けていた。

今井加奈は普通の女の子だ。

年下に対しては自身がしっかりしないとという責任感が空回り気味に発生し、お姉ちゃんぶって少し無理をしてしまう。

そんなところもかわいいと評判の女の子だ。

そんな彼女がたった一人で何時間も逃げ延びていた。

なぜだろうか。

そんなもの、答えは一つしかない。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:22:35.23 ID:wXAWqqSm0<> 加奈「やっと、ここまで、これた。」

息も絶え絶えに彼女はつぶやく。街の外まで目と鼻の先の所にあるT字路に彼女はいた。

今まで見てきたものについては思い出したくはない。そんな中を彼女は走り続けてきた。

足は棒のようになっており、心身共に休息を要求している。

加奈「でも、あと、少し、頑張ろう。かなかな、ファイ、ファイ、おーっ!」

と、かすれた声でカラ元気を振り絞り、メモ帳をしっかりと握りしめ、今井加奈は再び足を動かし始めた。

この辺りは来たことがあった。

ここを左に曲がれば五分もしないうちに街の外に逃れることができるだろう。

右は少し入り組んだ路地につながっている。こちらは左よりは時間がかかるだろう。

彼女は左に曲がろうとした。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:23:56.63 ID:wXAWqqSm0<>

カリカリカリッ

頭の中に音が響く。


<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:27:41.28 ID:wXAWqqSm0<> 反射的にメモ帳を見る。

[ま、またたくさんのカース!?数え切れないくらいいるよ!?]

[もう少しなのに・・・]

[だめ・・・、逃げ切れない]

そう書かれていたのを確認すると、彼女は右に向かって走り出した。

「ザッケンナコラー!」

「ムカツクンダヨォォォォ!」

彼女が去った一分後、左の道からは大量のカースが流れ出し、街に向うための行軍を開始していった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:29:48.56 ID:wXAWqqSm0<> いくつも脇道を抜け、時には隠れながら、今井加奈は逃げ続けていた。

その逃避行にもついに終わりが来た。

限界をとっくに通り越し、あわや意識を失いそうになる直前、周りの空気が変わったことに気がついた。

本能で、あの街から逃げ延びたことを彼女は理解した。

加奈(もう、だめ。一歩も歩けない)

それを理解すると共にビルの壁に体を預け、糸の切れた人形のように彼女は地面へとへたり込んだ。

苦しそうに息を切らせ、体を襲う痛みに耐える。

加奈(でも、助かった)

自分が生き延びた事に対しての感動からか、彼女の目から勝手に涙があふれ出す。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:30:33.49 ID:wXAWqqSm0<>

それゆえに、気付けなかった。

メモ帳の[カ、カースが目の前に]と言う一文に。

<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:34:09.70 ID:wXAWqqSm0<> ザリッ

何かが近づいてくる音を聞いて今井加奈は顔を上げる。

加奈(もしかしてGDFの人かもしれない)

その期待は、一瞬にして打ち破られた。

顔を上げた彼女の前にはボロボロのカースが一体にじり寄っていた。

なぜそうなっているのかはわからない。しかし、その全身はとても傷ついており、泥のような体からはひびが入った核がむき出しの状態になっていた。

そんな状態でも一般人の彼女にとっては命にかかわる存在だ。

逃げるために立ち上がろうとするも、足はすでに言うことをきかなくなっている。

加奈(なんで、どうして、ここまで、ここまで頑張ったのに)

絶望が頭を支配する。足掻こうとするが、体は動かない。

頭を支配する恐怖と絶望に導かれるかのように、今井加奈は意識を手放した。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:35:18.22 ID:wXAWqqSm0<>

それゆえに、彼女は再び気付かなかった。

メモ帳の[あれ?なんで生きてるの?]と言う一文に。

<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:36:02.91 ID:wXAWqqSm0<>

時間は秋炎絢爛祭に帰ってくる。

<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:38:49.66 ID:wXAWqqSm0<> 加奈(寄り道しすぎたぁ!)

衝動買いしたソーセージマルメターノをほおばり、今井加奈は小走りでクラスに向かっていた。

ついついお祭りに夢中なっていた彼女は、自分に課せられた使命を思い出し、とてもいい笑顔を浮かべるおじさんの声を背に受けて走り出したばかりだった。

??「あれ?加奈ちゃんじゃないですか!」

そんな彼女に声をかける女の子がいた。

加奈「あ、卯月さん!」

自身の先輩である島村卯月に気がつくと、今井加奈は少しだけたたらを踏んで立ち止まる。

島村卯月は今井加奈にとって一つ年上の先輩であり、また同時に大切な友達でもあった。

誰に対しても普通に接する彼女の姿を今井加奈は少し尊敬していた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:40:11.57 ID:wXAWqqSm0<> 卯月「こんにちは!買い出しの帰り?」

加奈「はい!思っていた以上にお客さんが来てくれて。なくならないうちにって。」

卯月「そうなんだ、うらやましいですね!でも、うちだって負けませんから!」

たわいもない会話を二人は交わす。

そのままおしゃべりに夢中になりそうになるが、今井加奈は寸でのところで自身の使命を思い出す。

加奈「あっ!すみません卯月さん。私、クラスに戻らなきゃ!」

卯月「そうでした、ごめんね引きとめて。」

加奈「いえいえ、良かったら私のクラスに来てくださいね。」

卯月「うん。絶対行くね!」 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:41:26.58 ID:wXAWqqSm0<> はじける笑顔のまま大きく手を振る島村卯月に別れを告げ、彼女は再び走り出した。

加奈(久しぶりに話したけど、やっぱり卯月さんは素敵だなぁ)

今井加奈は考える。

加奈(誰にでも優しくて、憧れの先輩って感じで)

今井加奈は考える。

加奈(私もあんな風になりたいけど、真似できないかも)

考える。

加奈(・・・なんで) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:42:21.68 ID:wXAWqqSm0<>

チクリ

<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:44:32.22 ID:wXAWqqSm0<>
少しだけ、ほんの少しだけ島村卯月をうらやましいと思ってしまった。

それだけだったのに。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:44:59.11 ID:wXAWqqSm0<> ガリガリガリッ

頭の中に音が響く。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:45:27.11 ID:wXAWqqSm0<> 加奈(しまった!)

我に返った彼女がメモ帳を見ると自身の買い物メモとは別のところに、新たに文字が記されていた。

[卯月さんが二人の女の子と会い、そのうちの一人にスタンプを押した]

[三人の近くに動くクマのぬいぐるみがあった。かわいいな]

その文字はまるで機械で書いたように角ばっており、何処となく不気味な印象を見る人に与える。

加奈(またやっちゃった・・・) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:46:34.09 ID:wXAWqqSm0<>

・・・今井加奈は『あの日』から自分の未来が少しだけ知ることができた。

よくわからないことが多いし、ちょっとしたことですぐに変わってしまうものだったが、彼女にとって特別な秘密だった。

けれど、『憤怒の街』の事件から、彼女には秘密がもう一つ増えていた。

それはあまり人には言いたくない秘密。彼女にとって少し怖い秘密だった。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:47:03.44 ID:wXAWqqSm0<> 加奈(気をつけないとなぁ)

書かれてしまった文章を眺めつつも、今井加奈は歩みを止めない。

加奈(だけど、かわいいクマかぁ。私も見てみたいかも)

そんなことを考えながらも、彼女はクラスに戻っていく。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:47:40.60 ID:wXAWqqSm0<>

カリカリカリッ

また音が鳴った。

<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:48:15.68 ID:wXAWqqSm0<> 加奈(今度はなんだろう?)

いつものようにメモ帳に目を向ける。

しかし

加奈(?何これ?)

書かれていた文章によって彼女は頭に可愛いらしくハテナマークを浮かべる羽目になった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:49:01.70 ID:wXAWqqSm0<>




[裏山が消えちゃった!]




<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:50:05.27 ID:wXAWqqSm0<> 今井加奈

職業

高校生

属性

無理をしがちなお姉ちゃん見習い?

能力

未来日記

詳細説明

「加奈メモ日記」

もともと加奈が持っていた能力。『あの日』以降に手に入れた。

加奈自身に起こる未来の出来事がメモ帳に記される能力。

未来の加奈の主観による文章なので、現在の加奈にとって意味のわからない文も多い。

約半日先の未来が記されている。

自身より強い力や能力の予知は行えず、一般人の加奈はカースよりも弱いため、カースの存在を前もって予知する事は出来ない。

元々の内容が書き変わった時は頭の中で「カリカリカリッ」という音がする。


「負の感情日記(仮)」

新たに手に入れた能力。『憤怒の街』事件以降手に入れた。

加奈自身が怒り、嫉妬などといった「負の感情」を向けてしまった相手の未来の出来事がメモ帳に記される能力。

こちらも未来の加奈の主観による文章なので、現在の加奈にとって意味のわからない文章が多い。

どのくらい記されるかは向けた感情の量による。

日記が書かれる時は頭の中で「ガリガリガリッ」という音がする。

発動する時に何となく嫌な気分になるため、加奈はこの能力を怖がっている。

関連アイドル

島村卯月(大切な友人であり尊敬する先輩)

関連設定

なし <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 00:52:10.41 ID:wXAWqqSm0<> こんな文章ですみません。何か矛盾点があったら教えてください。

島村卯月、マルメターノおじさんをお借りしました。

ありがとうございました。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage <>2014/11/11(火) 01:16:57.12 ID:4qYNkmq10<> 乙ですー
未来日記…メモ帳日記…ヤンデレちゃんが来ちゃうのかな?(すっとぼけ)
加奈ちゃんかわいい <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/11(火) 14:23:00.61 ID:wXAWqqSm0<> すみません。
それと、存在だけですが謎のひなたん星人と謎の鬼っ娘と謎のプロデューサーくんをお借りしました。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/11(火) 18:18:29.54 ID:h2tR7QVBo<> おつー
いたるところから今井ちゃんへの愛が感じられて微笑ましい

しかし負の感情日記とは、穏やかじゃないですね
憤怒の街で何を得たのやら……、少なくともあまり良いものではなさそうだ <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/11/11(火) 22:26:08.35 ID:52+t78Eyo<> >>348
ピィちゃん有能
命は重たいですよね、壮大なテーマだけに心にゴリゴリきました
ピィの行動が心の救いになるとよいですね

>>421
そ し て こ の 仕 打 ち で あ る

以前ピィ爆発すればいいのにとは言ったけど……言ったけど!
まあ、ピィちゃんも楽しそうだし問題ねーか!
「せつなそうに」は卑怯だと思いましたまる

>>455
未来日記所有者!メモ取る今井ちゃんにぴったりですな
憤怒の街で何が起きたのか、これからの今井ちゃんの物語を楽しみにしてます


お二方乙でしてー <>
◆pszTjGWgwY<>sage<>2014/11/22(土) 22:21:06.91 ID:TWPFlfVu0<> 避難所で相談してたものですが、佐藤心とベテラントレーナーを予約します。 <> ◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:37:35.66 ID:e0TOnADw0<>
>>316
かれんマジ天使、かれんマジ天使!(大事なことなので二回言いました)
涼さんのお姉ちゃんっぷりもたまんなひ……

>>348
ピィはホンマできる男やでぇ
どうか楓さん救われますように、マジで

>>421
何この……何?(困惑)
隊長とラーメン三銃士はずるい、マジでずるい

>>455
おお、久々の非戦闘員!
加奈ちゃんの能力もまた謎が多そうですなあ

皆様乙したー
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:38:35.63 ID:e0TOnADw0<> そしたら投下しますえー
学園祭二日目、将軍が落っこちてくるまでのお話 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:40:04.87 ID:e0TOnADw0<>
星花「…………」

隊長「…………」

お互いに、言葉は無い。

正確に言うなら、言葉が出ない。

星花は、自らの軽率な行動で正体を知られてしまった事を悔いていた。

カイと亜季に、何と言って詫びれば良いと言うのか。

隊長は、探し続けていた目標と思いもよらないタイミングでの遭遇に戸惑っていた。

正体が分からなかったとはいえ、仕える令嬢に暴言を吐いてしまった自責の念もある。

隊長「…………お嬢様、いえ…………星花」

星花「…………はい、月葉姉様…………」

隊長……月葉に名を呼ばれ、星花は俯いたまま返事する。

月葉「ずっと、探していた……さあ、帰ろう。総裁……叔父様も心配している」

月葉はゆっくり星花に近付き、優しくその手を取った。

星花「やっ……!」

反射的に、その手を振り払う。

月葉「ッ……星、花…………?」

星花「あっ…………」

月葉「…………」

星花「…………」

再び、二人の間に長い沈黙が訪れる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:41:00.44 ID:e0TOnADw0<> その沈黙を、一人の少女が破った。

響子「あっ、ちょっとそこの人! 危険ですよ!」

星花「……?」

月葉「な、何だ?」

響子「私はGDFの者です。これから、学園破壊を目論むテロリストの撃退作戦が実施されます。敵要塞の破片等が落下する危険があるので、速やかに学園敷地外か建物の中に避難して下さい!」

響子は制服胸元のエンブレムを示して敬礼し、二人に事情を説明した。

月葉「了解した。……お嬢様、一度落ち着いて二人で話し合いましょう」

星花「……分かりました。行きましょう、ストラディバリ」

ストラディバリ『レディ』

星花の呼び掛けに応え、ストラディバリがユニコーン形態に変形する。

響子「……あれっ?」

不意に、響子が地面に落ちていたペルソナ……星花のノーヴル・ディアブルを拾い上げる。

響子「これは、あなたの落とし物ですか?」

星花「あっ、申し訳ありません……ありがとうございます」

星花は一礼してペルソナを受け取ると、ストラディバリの背に乗った。

月葉「……失礼」

ストラディバリ『レディ』

月葉がその後ろに乗ると、ストラディバリは学園の外へ勢い良く駆けていった。

響子「よしっ、他にはいないかな?」

それを見届けた響子は、周囲を見渡しながら駆け出した。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:42:19.85 ID:e0TOnADw0<> ――――
――――――――
――――――――――――

学園屋上。

パップ達が将軍撃退作戦のスタンバイに入っていた。

パップ「そっちの準備はどうだ?」

手に持った通信機を使い、パップが待機中の突入組に問いかける。

爛『ああ、全員配置に着いた。手榴弾も受け取ったが……』

奈緒『避難がまだみたいだ。それに、校庭で海底都市の戦闘外殻が戦ってる』

拓海『一般人みてぇのもいるな、奴らの仲間か?』

パップ「そっちもか?」

ライラ『? そちらにもいらっしゃいますのですか?』

パップ「ああ、一人だけな。近くにいるナチュルスターと何か話してるようだが……」

パップが別棟の屋上を見やる。

そこではナチュルスターと呼ばれる二人の少女と、ギターのようなものを担いだ戦闘外殻使いが何やら話し込んでいた。

爛『なんだよ、どっちも似たような状況だな』

パップ「ん、どういう事だ?」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:46:22.92 ID:e0TOnADw0<> ――――
――――――――
――――――――――――

裏山跡付近。

爛「言ったまんまだ。何か変な奴が相葉先輩と話し込んでいやがる」

爛が目を向けた先には、夕美と何やら言葉を交わす不思議な雰囲気の女性が立っていた。

オトハ「貴女にも解るのですね……命達の悲鳴が」

夕美「うん、だから将軍って人が絶対に許せないの!」

パップ『うーん……一般の方なら避難していただきたいんだがな……』

爛「だよなあ……あっ、ちょっ、何すんだアンタ……おいっ!」

爛の通信機をそっと奪い取ったオトハが、パップに語りかける。

オトハ「彼女達の上司にあたる方ですね……事情はお聞きしました。私にも手伝わせて下さい……」

パップ『な、なにぃ!? ちょっと待て、気持ちは嬉しいがアンタ誰だ!? 名前は!? 所属は!?』

オトハ「…………名はオトハ、この母なる星から授かった名です。所属…………所属は、ありません」

パップ『要するに一般か……気持ちは嬉しいがねオトハさん、コイツぁ我々の仕事だ。早いトコ避難して……』

夕美「パップさん、私からもお願い! オトハさんはえっと、その……私と同種の能力者なの! それもすごく強力な!」

パップの言葉を遮って、横から夕美が口を挟む。

パップ『う、うーむ……』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:47:31.70 ID:e0TOnADw0<> 拓海「……手が多いに越した事はねえんじゃねえか?」

奈緒「そうだな。そんなに強力なら手伝ってもらうのも手かも」

爛「ま、此の期に及んで同盟の面目がーってのも……なぁ?」

ライラ「そうでございますねー。まんがいち学校が壊れては一大事ですますので」

パップ『ぐ、ぐぬぬぬ……』

状況は、完全に四面楚歌だった。

拓海達の主張は何も間違っていない。

となれば、パップの取る選択は……。

パップ『……分かった。オトハさんにも協力を頼もう』

夕美「やった! ありがとうパップさん!」

パップの言葉を聞いて夕美が飛び跳ねた。

ライラ「良かったですね、ユミさん」

オトハ「…………急いだ方が、良いかも知れません……」

オトハが天を仰いで呟く。

奈緒「何かあるのか?」

オトハ「…………悪意の切っ先が、もう喉元にまで……」

拓海「……まさか、将軍の野郎ッ!?」

――――――――――――
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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:48:48.67 ID:e0TOnADw0<> ――――
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パップ「マジで今ぶっ放す気なのか!?」

オトハ『……恐らくは』

パップ「なんてこった…………仕方ない、お前ら急げ!」

パップが大声を張り上げ、屋上で待機していたメンバーに準備を促した。

菜々「うぇえっ、避難は済んだんですか!?」

パップ「まだだ。だが、どうやら向こうが待ちきれないらしい!」

李衣菜「そんなっ!? 破片が落ちてきたらどうするのさ!?」

パップ「最悪、お前らに破片の迎撃を頼む事になるな。とにかく急げ!」

時子「チッ、余計な仕事を増やしてくれるわね……」

夏樹「しょうがねえ、悪党が約束守る義理もねえからな!」

シャルク『……いけません!』

突然、上空を見上げたシャルクが声を上げた。

梨沙「な、なに!?」

シャルク『じょうくうより、こうエネルギーはんのう! はっしゃすんぜんとすいそくされます!』

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:49:55.73 ID:e0TOnADw0<> ――――
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ティラノ「……おい、上で何か来るぞ」

周辺にいたカース、その最後の一体を蹴散らした後、ティラノが空を見上げ呟いた。

カイ「えっ? ……何も見えないよ」

カイがティラノの視線を追うが、そこには何も見えない。

ティラノ「まあ、普通の人間にゃ見えねえだろうな……ありゃ撃って来るぞ」

サヤ「え、ええっ!? マキノが傍受した通信では、砲撃は24時間後って……」

スパイクP「チッ、将軍の奴め自分を曲げやがったな!」

サヤとスパイクPが、それぞれ驚きと怒りの声を上げる。

カイ「……あ、そうだ! スパイクPさん、あの攻撃防げるって言ってたよね!?」

カイがスパイクPに向き直る。

先程エマやサヤとの会話で、スパイクPは確かに「あれなら防げるかも知れない」と言っていた。

スパイクP「……いや、出来ない」

しかし、スパイクPはそれをすぐさま否定した。

カイ「ええっ、何で!?」

スパイクP「『怒り』が足りねえ。まだあの時の技は出せねえな……」

カイ「そ、そんな……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:51:02.10 ID:e0TOnADw0<> サヤ「……スパイクPさんのバカ! オタンコナス! アンポンタン!」

カイ「!?」

スパイクP「!?」

ティラノ「!?」

サヤの突然の暴言に、三人は思わずたじろいだ。

カイ「さ、サヤ? いきなり何を……」

サヤ「怒りが足りないなら、スパイクPさんを怒らせればいいでしょ? ほらカイも」

ティラノ「……いや、そう単純なモンなのか?」

ティラノが呆れる。しかしカイは、

カイ「なるほど! スパイクPさんのアホ! えーっと……アホ! アホ! アホ!」

非常に少ない語彙で、力の限りスパイクPを罵倒し始めていた。

スパイクP「…………」

サヤ「ほら、そこのお兄さんも!」

ティラノ「お、俺もか!?」

サヤ「言わなきゃサヤ達消し炭よ!」

ティラノ「…………えぇい! あー、えー…………あっ、トゲ! このトゲ! トゲ!」

やがて意を決したティラノも、慣れない悪口で罵倒に加勢する。

スパイクP「…………」

スパイクPはというと、その罵詈雑言に黙って耳を傾けていた。

固く握った拳をプルプルと震わせながら。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:51:56.87 ID:e0TOnADw0<> ――――
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遡る事数分、学園上空、野望の鎧操縦席。

将軍はカメラで地上の様子を観察していた。

逃げ惑う者、隠れる者、立ち向かわんとする者、現れたカースと戦う者と様々だ。

そんな将軍の目が、ある一点で止まった。

将軍「む? 奴は確か……」

カメラに映ったのは、サヤ。

将軍「ふん、分不相応にも我々に手を組もうなどと抜かしおった海底の小娘ではないか」

サヤが各組織に接触した時、家畜派吸血鬼とも接触していたのだ。

無論、将軍はそれを二つ返事で突っぱねたが。

将軍「さては協力を断られた腹いせに我の計画を邪魔立てる気だな? ふん、そうはいくものか」

少々的外れな推理で納得した将軍は、操縦桿を操作した。

鎧の肩が変形して大砲になり、砲口が下へと向けられる。

標的は…………サヤ。

将軍「クククク……」

含み笑いをしながら、主砲の出力を絞る。

今の標的はあくまでもあの海底人。学園は24時間後のお楽しみだ。

将軍「思い知るが良い、矮小な小魚共め。審判の砲弾、撃てぇっ!!」

紅い光が砲口に集まり、やがて、放たれた。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:52:44.82 ID:e0TOnADw0<> ――――
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サヤ「不遇! 安月給! 噛ませ犬!」

カイ「アホアホ! アホ! アホアホアホアホ!」

ティラノ「トゲ! この……トゲ! トゲ!」

校庭の中央、スパイクPへの罵倒の嵐は続いていた。

スパイクP「…………」

スパイクPの体の震えも、次第に大きくなっていく。

カイ「アホアホアホアホアホアホアホアホォ!!」

ティラノ「トゲ! トゲトゲ! トゲアリトゲナシトゲトゲ!!」

サヤ「不憫! 空気! ホントは初登場で死ぬ予定だったクセにー!!」

サヤの悪口がメタフィクションな領域に差し掛かった、その時。

スパイクP「……っせぇ」

カイ「えっ?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:54:07.84 ID:e0TOnADw0<>



スパイクP「うっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

ついに、スパイクPがキレた。

サヤ「やった、成功よぉ!」

ティラノ「えっ、これ成功? ホントに成功なのかオイ?」

勢い良くガッツポーズを決めるサヤに、ティラノは思わずツッコミを入れる。

カイ「す、スパイクPさん! その怒りはこっちじゃなくて空に! 空に!」

スパイクP「言われなくても分かってる!」

スパイクPは吐き捨て空を睨んだ。

スパイクP「来やがれ将軍! ハァァァァァァァァァ……!」

スパイクPが腰を落とし気合を入れると、全身の棘が紅く発光して震えだした。

その時、空もまた同様に紅く光った。

サヤ「な、なに!?」

ティラノ「来るぞ! 砲撃だ!」

野望の鎧から放たれた審判の砲弾が、校庭へ一直線に降って来る。

カイ「わああああ!? す、スパイクPさんんん!!」

スパイクP「黙ってろ!」

スパイクPが更に腰を深く落とし、両腕を眼前で交差させるポーズをとった。そして、 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:55:05.43 ID:e0TOnADw0<>

スパイクP「見せてやるぜ! スパイクッ、ウォォォォォーーールッッ!!!」


棘から放たれた光が一点に集まり、半円状の巨大なバリアを形成した。

カイ「うわあっ!?」

そして、そのバリアに審判の砲弾が衝突する。

バチバチという轟音と共に、眩い光が一帯を包んだ。

ティラノ「うおおおっ!?」

やがて砲撃が終わったのか、音と光が止む。

そこには、棘が数本折れながらもなお健在なスパイクPの姿があった。

恐らくは、バリアの出力に棘の方が耐えきれなかったのだろう。

サヤ「…………すっごぉい…………」

サヤが感嘆の声をもらすと同時に、スパイクPはドッカと地面に腰を下ろした。

スパイクP「ぜ……はっ……悪い、限界だ…………」

カイ「お、お疲れ様……」

ティラノ「今の内に学校を離れるぞ。いつ二発目が来るかも分からねえ」

サヤ「そ、そうね。ごめん二人とも、スパイクPさんを引きずるの手伝ってぇ!」

カイ「うん、わかった!」

サヤに促され、カイとティラノはスパイクPの手を取り、それを引きずって学園を後にした。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:56:04.97 ID:e0TOnADw0<> ――――
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パップ「……な、何だったんだ今のは……!?」

パップが呆然とした表情で校庭を見下ろす。

そこには、地面に倒れこむ戦闘外殻を引きずる二人の戦闘外殻と、もう一人、生身の男。

パップ(まさか、奴らがやったのか……? 馬鹿な、山一つ消し飛ばす砲撃だぞ!? 海底都市……思った以上に侮れない相手かも知れんな……)

梨沙「ちょっと! よく分かんないけど、今ならチャンスなんじゃない!?」

パップ「……そうだな。よし、全員配置に着いたな!」

梨沙の言葉で我に帰ったパップが向き直る。

梨沙、菜々、シャルク、ガルブ、時子、『幸福』、『閃光』、『和音』……。

全員の準備が、整った。

パップ「よし、構えろ梨沙!」

梨沙「任せてよ! エルファバッ!!」

梨沙の背後にエメラルド色の女性のシルエットが現れて梨沙と重なり、構えをとる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:57:25.20 ID:e0TOnADw0<> 菜々「梨沙ちゃんが蓄積できる衝撃は6回分まで……菜々のカッターにみんなの攻撃を集めて、両耳三回ずつ投げつけます!」

時子「右に私と鰯共、左に管理局よね。退屈だけど、合わせてあげるわ」

夏樹「こっちもOKだ」

パップ「よし…………作戦、開始!」

パップが右手を振り下ろすと同時に、メンバーが一気に攻撃の体勢に入った。

シャルク『まずはいっぱつ!!』

きらり「にょっわぁぁーー!!」

菜々「ふんぬぬぬ……どっせぇい!!」

六人のエネルギーを受けたウサミンカッターを、菜々が渾身の力で振り抜く。

それを受け止めた梨沙の体が少しふらついたが、すぐに姿勢を整えた。

梨沙「ぅぐっ…………もいっちょ!!」

ガルブ『にはつめ、まいります!!』

李衣菜「てぇやぁぁぁっ!!」

菜々「筋肉痛覚悟で…………セイハーーッ!!」

3発、4発目のウサミンカッターを受け、梨沙の体が更にぐらつく。

梨沙「ぐぅっ……あと一回!!」

時子「これで最後ね……!!」

夏樹「頼んだぜッ!!」

菜々「持って、菜々の腰…………ぬぉぉりゃあああああああっっ!!」

全員の力がこもった最後のウサミンカッターは、小さな梨沙の体を屋上のフェンスへ叩きつけるほどの威力を見せた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:58:24.09 ID:e0TOnADw0<> 梨沙「ぁぐっ……!?」

パップ「梨沙っ!?」

一度は床に手を突いてしまった梨沙だが、すぐに立ち上がり空を見上げた。

梨沙「平気よ! それよりもあの悪趣味親父に、一発かましてあげなきゃね! ……やるわよ、エルファバ!!」

エルファバ『……』

再びエルファバが姿を現し、梨沙と共に構える。

両掌を重ね、それを空へと向けている。

梨沙「はぁぁぁぁ…………」

目を閉じた梨沙の掌の上にエネルギーの塊が出現し、それがドンドンと膨らんでいく。

時子や夏樹達は、少し離れた位置でそれを見守っていた。

時子「ふうん……」

李衣菜「なに、あれ……」

夏樹「…………」

菜々「こ、腰が……あがががが……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 18:59:16.03 ID:e0TOnADw0<> やがて、エネルギーの塊が限界まで膨張したと思ったら、今度は突然収縮しはじめた。

梨沙「シュトゥルム・ヴェアヴォルフ…………!」

そして、バスケットボールほどのサイズまで縮んだ時、梨沙がカッと目を見開き叫んだ。

梨沙「収束バージョンッッッ!!!」

叫びと共にエネルギー球は一直線に放たれ、約3秒後に轟音が響いた。

きらり「にょっ!?」

シャルク『おとをおきざりにする……なんというそくどでしょう』

ガルブ『…………むっ! もくひょうへのちゃくだんをかくにん!』

パップ「本当か!」

パップが双眼鏡を取り出し空を見る。

そこには、巨大な鎧を甲板に乗せ、船底から煙を上げて墜落していく飛行船の姿があった。

パップ「ははぁ、どうやら今のダメージで不可視にする装置が故障でもしたか。よし、破片の迎撃を開始! シャルクは菜々の回収! 梨沙は俺がやる!」

夏樹「任せな、まずは『穴』で一点に集めて……」

シャルク「ななどの、ごぶじですか?」

菜々「あんまりご無事じゃない、です……」

パップ「ご苦労さん、梨沙。よく頑張ったな」

パップは全力を出しきり床にへたり込む梨沙に、優しく言葉を投げかける。

梨沙「ふん、こんなの朝飯前よ!」

パップ「そうかそうか、そりゃ何より。…………聞こえるか地上組、目標の撃墜に成功」

拓海『ああ、見りゃ分かる。今夕美とオトハがスタンバってるぜ』

通信機から聞こえる、拓海の声。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 19:00:01.57 ID:e0TOnADw0<> ――――
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墜落を始めた野望の鎧、及び不夜城戦艦ブラムは、裏山跡地のクレーターへ向けて一直線に落下してくる。

このままでは、落下の衝撃で学園や周辺にも甚大な被害が出るだろう。

だが、そうさせない為に彼女達がいる。

夕美「来た! オトハさん、準備いい?」

オトハ「……いつでもどうぞ」

二人が目を閉じ、深く息を吐く。

爛「……上手くいくのかよ?」

奈緒「さあ……でも、信じるしかないよな」

爛や奈緒がそう会話していると、二人が目を開き空を見上げた。

オトハ「木々よ、草花よ…………」

夕美「私達に……力を貸して!」

すると、二人の言葉に応えるかのように周辺の植物達が動き出した。

爛「うおおおっ!? な、何じゃこりゃあ!?」

草の蔓が、樹の幹が、重なりより合って、やがて一つの形となる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 19:02:42.40 ID:e0TOnADw0<> 拓海「…………すげえ…………」

ライラ「おーきな手でございますねー」

現れたのは、巨大な右腕。

オトハ「ふっ……!」

夕美「やぁっ!」

二人が念じると、右腕が動き出し、墜落するブラムを鷲掴みにした。

そしてそのまま、ブラムをゆっくりとクレーターの中央へと置いた。

まるで、子供が遊んだ玩具を親が片付けるように、軽く。

そして、そのまま右腕は解けて根となり蔦となり、ブラムを地面に縫い付けていく。

将軍が逃げ出すのを、阻止する為である。

夕美「…………ふぅっ、これでOKっ」

オトハ「数日は……動く事ままならないでしょう」

奈緒「なら、さっさと突入して将軍をとっ捕まえないとな!」

ライラ「ユミさん、オトハさん、ありがとうございましたです」

奈緒が鎧をキッと見据え、ライラが2人へやんわりとお辞儀し、

爛「手榴弾投げんのは……ああ、あそこでいいな。ヒビ入ってら」

拓海「よし、準備はいいなお前ら!」

爛がブラムのボディを観察し、拓海が指をパキパキと鳴らし、

そして、配置に着いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 19:03:39.79 ID:e0TOnADw0<> 拓海「同盟・管理局連合チーム……出撃ィッ!!」

奈緒「おぉっ!!」

拓海の号令で、四人は一斉にブラムへ向けて突撃していった。

夕美「みんな頑張ってー!」

オトハ「………………。……?」

それを見送るオトハの視界の隅を、三人の人影が横切った。

真紅の鎧に身を包んだ、人に似て人ならざる三人。

しかし、その三人から不思議と悪意を感じ取れなかったオトハは、それを見守る事を決めた。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 19:05:35.83 ID:e0TOnADw0<> ・スパイク・ウォール
スパイクPの怒りが極限まで高まった際にのみ使える強力なバリア。

・イベント追加情報
星花と捜索隊長(月葉)、カイ一行が学園を離れました

野望の鎧が墜落、拓海達が突入を開始します

オトハが「赤い鎧の三人組」を目撃しました <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/24(月) 19:06:31.08 ID:e0TOnADw0<> 以上です
将軍、墜落編ここまで
あとは逮捕(?)編だけやね

響子、パップ、奈緒、拓海、オトハ、夕美、菜々、李衣菜、時子、夏樹、梨沙、将軍、きらり
あと名前(?)だけほたる、乃々、清美、紅月の騎士団お借りしました


そして
ワイP、自分をユッコのスプーンが如くバッキバキに折り曲げる決意を固めた模様
藤本里奈を予約します <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/11/24(月) 19:19:16.86 ID:XkPOFj5G0<> 乙ですー
罵倒の中のまさかのメタ発言に吹かざるを得なかった
ついに墜落したか…!はてさて、逮捕なるのか
…そして赤い鎧の3人組とは誰なのか…? <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/25(火) 18:44:14.77 ID:6ZuW9eiZo<> >>483
おつー
相変わらず多数のキャラと場面を同時に動かすのが上手い
この全員で連携してる感よ
展開もいよいよ大詰めですな

一方、みんなを守る為に罵倒されるスパイクPェ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2014/11/26(水) 13:02:10.61 ID:zI4EX4bzO<> 菜々さんェ…
無茶するから…腰が悲鳴をあげてるじゃないですかやだー <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:24:52.44 ID:i831WBQA0<> ヒーロー大集合はやっぱり燃えますねぇ!

海底組はなんだかんだで仲がいいですね、それでいいのかスパイクPwwwwww

では、自分も負けじと投下しますー。

同じく学園祭二日目です。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:26:28.96 ID:i831WBQA0<> 秋炎絢爛祭二日目。

学園の裏山が吸血鬼によって吹き飛ばされ、それと同時にカースが大量発生が起こり、ヒーローたちが対処に追われている。

学園祭を楽しんでいた人々は多少混乱しつつも、GDFなどの指示に従って避難して行った。

校舎内も避難が進み、静かになった廊下を歩く一つの影があった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:27:16.12 ID:i831WBQA0<> ────でこぽぉおおん!

??「ひゃう!」

遠くから聞こえてきた声に可愛く身を竦める影───今井加奈は校舎内を彷徨っていた。

加奈「さっきの日記ってこういう意味だったんだ・・・、びっくりしたなぁ」

そうぼやきつつ覗き込んだメモ帳には[遠くから変な声が!] と書き込まれている。

────次の行には[起しちゃった?」という文章も書き込まれていたが、それを気にする者は今はいなかった。

加奈「書き変わった事だから不安だったけど、これなら大丈夫かな」

彼女は未来で自分の身に起こる出来事を文章で知ることができた。

しかし、未来がわかっても具体的な事はわからない事が多く、却って困惑することもあった。

それでも加奈にとっては普通でしかなかった自分に唯一できた「自慢」だった。

(もうちょっと自分に自信を持つべきだとかいろいろ言いたいが、それは今語るべきことではない) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:28:01.06 ID:i831WBQA0<> さて、今述べた通り今井加奈は未来が分かること以外は普通の女の子である。

このような事態が起こった時は、普通なら他の人に習い避難するのが当前だろう。

しかし、彼女は避難せずに、いつカースが出てくるかわからない校舎内をフラフラと彷徨っていた。

なぜだろうか?

??「…ふわぁ」

その疑問に答えるかのように、加奈の背中から可愛らしい欠伸が聞こえる。

加奈「あっ、ごめん!起しちゃった?」

背中から聞こえた声にあわてた様子で声をかける加奈。

??「…うぅん…くぅ…」

背中からの声は呼びかけられても意に介すことなく、軽く身じろぎした後再び眠りについたようだった。

加奈「良かったぁ、無理に起こしちゃかわいそうだもんね」

独り言をつぶやくと、自分のメモ帳に視線を落とす。

加奈「…私の日記なら見つけられると思ったけど、やっぱり甘かったかなぁ」

加奈「でも、頑張る!お姉ちゃんだもん!かなかなファイファイ、おーっ!」

カースに襲われ、誰もいない校舎を当てもなく彷徨うというこの現状。

その原因となった少女────こずえは加奈の背中でただ静かに眠り続けていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:28:47.61 ID:i831WBQA0<> 時は少しさかのぼる。

人々の避難が始まった時、はじめは今井加奈も他の人と同じように避難しようとしていた。

加奈の学校では「カースが発生した時は自分の教室に戻る」との決まりだったので、それに従って自分の教室に向かっていた。

下に降りるための階段付近で加奈は一旦立ち止まると「加奈メモ日記」を確認する。

「うん、大丈夫そうだね」

加奈の能力はカースの発生も予知できないほど微弱な物だったが、それでも道中の安全を確認するのには十分役に立った。

今現在危機が迫ってないことに内心ホッとしつつ加奈は階段を下ろうとした。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:30:00.56 ID:i831WBQA0<>

カリカリカリッ


「加奈メモ日記」が書き変わったことを知らせる音が頭の中で響く。

階段を下りつつ加奈がメモ帳を覗き込むと、[女の子が眠ってる。お父さんお母さんは?]という一文が追加されいることに気がつく。

今の状況に気付かず寝てしまっている子がいると読み取った加奈は女の子を見逃さないようにあたりに気を配る。

加奈(こんな時に寝てるなんて大丈夫かな?見つけたらちゃんと起こしてあげないと)

そう思いつつ階段の踊り場についた時、加奈はその女の子を発見した。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:31:00.93 ID:i831WBQA0<> ────美術部の作品だろうか?階段の踊り場に巨大なクリームソーダのオブジェが展示されていた。

どのような意図を持って制作され、踊り場に展示されたのかなど、気になる点はいくつかあったが今の加奈はそれを気にかける事はなかった。

クリームソーダのちょうどアイスに当たる部分。おそらく綿で作られたのであろうその部分に一人の女の子が眠っていたからだ。

加奈(あ、この子が日記の子なんだね。こんなところで寝てるなんて風邪をひいちゃうよ)

日記に書かれたとおりに眠っている女の子を見つけ、起してあげようと近づいていく。

近づいて良く見てみると、ふんわりとした綿の中で眠っている少女はその綿に負けず劣らずふんわりとしているように見えた。

綿と同化するかのような白い髪は所々に丸くなっており、肌も日に焼けた様子はなくとても白い。

まるで妖精の化身かのようなどこか浮世離れした雰囲気を醸し出していた。

加奈「ほら、起きて?こんなところで寝ていると風邪ひいちゃうよ」

加奈はその幻想的な雰囲気に当てられつつも、その子を起こそうと軽く揺さぶる。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:31:47.89 ID:i831WBQA0<> ??「…ふわぁ」

非常に眠たそうな声を上げながらその女の子は目を覚ましたようだった。

白い肌とよく似合う緑色の目を眠たげに開き、女の子は軽く身じろぎをする。

??「…ここ、どこぉ?」

加奈「え?ここは学校だけど…。それより、あなたのお名前は?お父さんやお母さんはどうしたの?」

??「…ふえぇ、…こずえはねぇー、…こずえっていうんだよぉー…」

加奈「えーと、こずえちゃんって言うんだ。文化祭には遊びに来たの?あ、私は今井加奈。よろしくね!」

こずえ「…かなー?」

加奈「そうそう、加奈お姉ちゃんです!」

そんな会話をしながらも今井加奈は少し困っていた。

いつから眠っていたのかわからないが、この女の子、こずえは誰がどう見ても迷子だ。

今は自覚していないかもしれないが、親とはぐれたことに気付いたら不安に陥る事だろう。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:32:31.87 ID:i831WBQA0<> 今井加奈の脳裏にある光景がよみがえる。

『憤怒の街』

あの街ではいろんなことが起きた。…こずえと同じ年頃の子供が親を求めて泣き叫ぶ姿も大勢見てしまった。

…そのままカースに潰されてしまった姿も見たことがあった。

『憤怒の街』での出来事は今でも加奈の心に深く染みついていた。

こずえの親を見つけてあげられるのなら見つけてあげたい。

そう思い、こずえに両親について聞き出そうとした瞬間、



カリカリカリッ



頭の中で「加奈メモ日記」が書き変わる音が響いた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:33:11.56 ID:i831WBQA0<> 加奈「あ、こずえちゃん。ちょっとごめんね」

そうこずえに断りつつ、加奈は自分のメモ帳に目を向ける。

[どうしよう!上からも下からもカースが来てるみたい!]

[早く下に逃げ…、ダメ!もう登ってきてる!]

[上からも!どうしよう!]
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:34:07.55 ID:i831WBQA0<>

『ドコヘイクンダァァァァァァ?』

『ケラセロヨオオオオ!ナグラセロヨオオオオ!』

その文の意味を理解したと同時に、上と下からカースの叫び声が聞こえてくる。

慌てて加奈が下を覗き込むと人型のカースが一体、階段を上っているのが見て取れた。

おそらく上も同じようになっていることだろう。

加奈(ど、どうしよう!逃げられない!こずえちゃんもいるのに!)

こずえの方を見ると、再び眠りにつこうとしているようだった。

加奈(と、とにかく隠れなきゃ!)

眠りかけているこずえを急いでクリームソーダのコップから持ち上げる。

そのままこずえをオブジェの裏側に隠し、それに続いてに加奈自身も隠れたのだった。

お世辞にもうまく隠れたと言えない状態だ、表から見たら丸見えなのかもしれない。

加奈(もしかしたら私たちに気付かないかもしれない)

こずえを力強く抱きしめ、そんな一縷の希望にすがりつく事しか今の加奈にはできなかった。

その心は恐怖に満ち、くりくりとした目からは涙があふれ出していた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:35:00.06 ID:i831WBQA0<> 『オトナシクデテコイヨォ』

すでに踊り場にいるのだろう、カースの声が近くから聞こえてくる。

少しでも音をたてないように、ガタガタと震える体を抑えつけながら加奈はカースが通り過ぎていくことを祈っていた。

加奈(お願い!お願い!お願い!)

ズン、ズン、ズン

…一秒がやけに長く感じられる。

下からのカースはクリームソーダのオブジェの目の前を通りすぎ、そのまま上へ向かおうとしているように思えた。

加奈(助かった…?)

胸をなでおろそうとした瞬間、再び頭の中で日記が書き変わる音が響く。


[見つかった]

手からこぼれおちたメモ帳には、そう書き込まれていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:36:15.84 ID:i831WBQA0<> 気がつくと、目の前のオブジェが弾き飛ばされていた。

『ミィィィツケタ』

クリームソーダのオブジェを殴り飛ばしたカースは怯える加奈の目の前で楽しそうに呟いた。

加奈(あ…、あ…)

目の前のカースはゆっくりと拳を振りかぶる。

加奈(せ、せめてこずえちゃんだけでも)

この状況にも関わらず静かに眠り続けているこずえを、加奈は守るように抱き寄せる。

『サア、アソボウカァ?』

どうすることもできない。

こずえだけでも助かってほしいが、普通の女の子である加奈の抵抗などカースには全くの無意味だろう。

加奈(こずえちゃん、守れなくてごめんね)

眠るこずえに謝りつつ、加奈は全てを諦めかけた。

『タノシモウジャナイカァァァァァ』 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:37:27.98 ID:i831WBQA0<> 加奈(なんで)

しかし、人間と言うものはそう簡単に全てを諦めることはできない。

自分の状況に当たり散らしたり、こうすればよかったのにという後悔がどうしても出てくる。

こずえと関わらなければ良かったと思うものもいるだろう。

では、今井加奈もそのタイプなのだろうか?

加奈(なんで自分の力はこんなにも弱いのだろう)

違う。

加奈(アイドルヒーローのように強い力だったら、目の前のカースを倒せるような力だったら!)

加奈(こずえちゃんを、私を、助けられるのに!)

加奈(なんでこんなに私は弱いの!私の力は弱いの!)

加奈(いやだ!いやだ!いやだ!)

加奈(こんなのはいやだ!)

そう、彼女はこのような時、何もできない無力な自分に対して『怒り』を向ける人間だったのだ。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:38:00.88 ID:i831WBQA0<>


ザリザリザリザリッ

────身体中に、音が響き渡る。


<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:38:41.75 ID:i831WBQA0<> パシッ

踊り場に軽い音が響いた。

カースは確かに加奈を狙って殴りつけたはずだった。

その必殺の拳が加奈の体に届こうとした瞬間。

こずえを抱き締めていた加奈の右腕が動き、カースの拳を払いのけていた。

加奈(え?)

何が起こったのか加奈自身もわからなかった。

なにしろ、加奈の体が勝手に動いてしまったのだから。

更に、掠めるだけで彼女の骨が折れそうなカースの拳に触れたのに、彼女の腕は無事だった。

加奈(私、どうやって?)

何故、どうして、様々な疑問が加奈の頭を駆け巡る。

何が起こっているのか全くわからない加奈。

混乱だらけのその顔は無邪気な笑みが張り付いている。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:39:26.70 ID:i831WBQA0<> カースが再び自分を殴りつけてくる。

ザリザリッ

その音が身体に響くと同時に、勝手に加奈の体は動き笑顔のままカースの拳を払いのけていった。

『テイコウスンナヨォォォ』

カースは苛立ったかのように拳を繰り出すが、その勢いが強すぎたのか加奈に払いのけられると無様に足を滑らせ、踊り場の壁に突き刺さってしまった。

加奈(っ今だ!)

我に返った加奈はこずえを抱えたまま立ち上がり、落としてしまっていたメモ帳を拾い上げると急いで階段を下りて行った。

落としてしまっていたメモ帳には新しく文字が書き込まれていた

[カースが大きく振りかぶって殴りかかってきた]

[→勢いを利用して右手で払いのける]

[また殴りかかってくる、同じ殴り方みたい]

[→同じように払いのける]

その文に目を通すだけの余裕は、今の加奈にはなかった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:41:01.24 ID:i831WBQA0<>

加奈「はあ、はあ、はあ」

階段を駆け降りた後、加奈はこずえを抱えたまま全力で走り続けた。

後ろを振り向き、無事逃げ切った事を確認すると立ち止まる。

加奈「た、助かった〜」

と、こずえを抱いたまま廊下に置かれていた椅子に座りこむ。

少し落ち着くと加奈の頭には先ほど起きたことが思い浮かんだ。

加奈(なんだったんだろう?勝手に体が動いて、カースを払いのけて)

加奈(日記に何か書いてないかな?)

そう考えた加奈は自身のメモ帳に目を向ける。

そして、先ほどの文章を発見すると頭に可愛らしくハテナマークを浮かべた。

加奈(最近こんな風にハテナマークを浮かべることが多い気がするなぁ)

メモ帳を確認した加奈は遠くを見つめながらそう思った。

妖精のような少女が膝の上で眠り、何かを悟ったかのように遠くを見つめるその情景は、ある種の美を感じさせた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:42:05.96 ID:i831WBQA0<> 加奈(一体、なんなんだろ?私の日記じゃないけど「あの日記」とも違う感じだよね)

加奈(うーん、読んだ限りだと未来の出来事に対してどう対処するかが書いてあるって感じなのかな?)

加奈(さっきもここに書かれたとおりに私の体は動いたんだろうし)

その後も頭を捻らしたがどうやってこの日記が書かれたのかは加奈にはわからなかった。

加奈(でも、なんだかすごいな)

未来に対して旨く対応できる日記

加奈(この日記をうまく使えれば、私だって)

加奈の顔に再び無邪気な笑顔が張り付こうとする。

加奈(もっと、強くなれる。もっと) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:42:38.22 ID:i831WBQA0<>

こずえ「…だめー」

その考えをこずえが止める。

加奈の顔から無邪気な笑顔が消え、慌てた様子でこずえに向き直る。

加奈「あ、起きたんだね。大丈夫?怪我とかしてない?」

こずえ「…かなー。…だめ、だよー?」

加奈「え?あ、うん」

加奈(あれ?何を考えてたんだっけ?)

少しだけ呆けた頭でこずえの問いかけに答える。先ほどまでの考えは、加奈の頭から消え去っていた。

その代わりに頭に浮かんできたのはこずえの事についてだった。

こずえ「かなー…。…それはぁ…あぶないんだよー?…」

加奈(そういえば、こずえちゃんも親とはぐれて不安になってるよね)

こずえ「…こずえー…、しってるのー…だめぇ、なのー…」

加奈(こんな状況だもん、こずえちゃんの両親も心配してるに違いないよ!)

こずえ「…?、…かなー?…ねてるのー?…」

加奈(人探しなら私の日記が役に立つかも!) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:43:22.33 ID:i831WBQA0<>

何度も言うが、今井加奈と言う女の子は未来が少しだけわかる普通の女の子だ。

しかし、彼女は年下に対してはお姉ちゃんとして振舞おうとする気概があった。

更に責任感が強く、自分の身に起きたことは一人で背負いこんでしまうことも多かった。

消えた裏山、カースの発生、困っている年下の女の子(加奈視点)、良くわからない日記。

数多くの出来事に遭遇し、その混乱からは完全に抜け出せてなかった加奈は限界近くまでテンパっていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:43:48.88 ID:i831WBQA0<>



だから加奈は…弾けた…。



<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:44:38.29 ID:i831WBQA0<> 加奈「うん!わかった!」

座っていた椅子から勢いよく立ちあがる。

その際、こずえを落とさないようにする気遣いは忘れない。

加奈「こずえちゃん!」

こずえ「…ふぇー?…なにー?」

加奈「こずえちゃんのお父さんとお母さんは、お姉ちゃんが必ず見つけてあげるからね!」

こずえ「…そうなのぉ?…ふわぁ」

その言葉に安心したのか(加奈視点)こずえはまた眠りについたようだった。

眠ったこずえを起こさないようにおんぶしながら、加奈は気合の声を上げる。

加奈「私ならできる!お姉ちゃんだもん!かなかなファイファイ、おーっ!」

「親とはぐれた」などとこずえは一度も言っていなかったが、加奈はそれに気付くことなく静まり返った廊下を意気揚々と歩きだす。

次の瞬間「加奈メモ日記」が書き変わり、近くから聞こえてきた悲鳴と銃声に驚いた加奈は涙目でその場を逃げ出すのだった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:45:36.46 ID:i831WBQA0<> 情報
・今井加奈とこずえが校舎内を彷徨っています。どの棟かの指定はありません。
・現在、今井加奈は暴走お姉ちゃんモードになっており、困っている年下を無差別に助けようとします。
・暴走しているせいか若干アホの子になっちゃってます。年上の人なら落ち着かせる事が出来るかもしれません。
・今井加奈が新しい能力に目覚めました。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:46:22.12 ID:i831WBQA0<> 今井加奈

詳細説明

未来がわかるようになった女の子。

何かあるとすぐにメモをとる癖があり、どんな時もメモ帳を持ち歩いている。

メモ帳は気分によって使い分けたりする。メモ帳が変わっても、能力に影響はない。

責任感が強いが、慌てやすい性格。

年下などにはお姉ちゃんとして振舞おうとするが気負いすぎて失敗することが多い。

いわゆる普通の女の子だが、彼女に買い物を頼むと何故かそばつゆが紛れ込んでしまうらしい。


無邪気な日記(イノセント・ダイアリー)

「負の感情日記」が「加奈メモ日記」に対して影響し誕生した日記。

加奈の能力への無力さに対する強い「負の感情」が要因となり発動した。

使用するには加奈自身か、「加奈メモ日記」に対する「負の感情」が必要となる。

加奈に襲いかかる未来の出来事がメモ帳に記され、それに対応する行動が次の行に矢印つきで記される。

書かれた行動は、加奈が読まなかったとしても自動的に実行される。

(例 カースが右手で殴りかかってきた→向かってくる右手を払い受け流す)

未来の加奈の主観による文章が表示されるため、加奈の認識を超える出来事や加奈よりも強い力に対しては対応を間違える可能性がある。

今のところカースだとうまく対応できる程度の力がある。魔法なども対応可能。

日記が書かれる時、身体中に「ザリザリザリッ」と言う音が響く。

特徴として、能力発動中は加奈がとても無邪気な笑顔を浮かべる。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/11/26(水) 18:47:36.65 ID:i831WBQA0<> 禁句 → 一緒に避難した方が親を見つけやすいんじゃね?

暴走お姉ちゃんモードの加奈ちゃんはそれに気付いてません。どうしてこうなった!

落ち着かない限りはこずえちゃんを起こさないようにしつつも構内を爆走してます。

彼女たちの運命やいかに!(ダレカタスケテー)

こずえちゃん、小日向美穂、新田美波をお借りしました。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/11/26(水) 20:07:50.01 ID:Km20WXHV0<> 乙ですー
こずえちゃんとお姉ちゃん加奈ちゃんかわいい
…暴走お姉ちゃん自体は微笑ましいがイノセントスマイルの不釣合いさが若干不気味だよぉ(歓喜)
こずえ曰く危ない能力らしいがはてさて <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/26(水) 23:43:36.92 ID:DIr/ZuGxo<> >>512
おつー

無邪気な笑顔(意味深)で無意識にカースを圧倒するとか怖い
相変わらず嫌な予感のする力だけど、今ならきっとこずえちゃんがブレーキになってくれる!
……といいなぁ <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:52:09.31 ID:CG/aT0ue0<> >>512
暴走お姉ちゃんいいぞぉコレ
不穏な空気はもはやシェアワ名物(断言)

乙でしてー

ではでは投下ー
時系列は学園祭終了二週間くらい <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:53:04.56 ID:CG/aT0ue0<>
その少女は、賑わう街の中を原付きバイクでトロトロと走っていた。

??「お住まいはど〜こぽよ〜」

とぼけた口調で呟くと、適当な場所で単車を停め、周囲を見渡した。

??「あ、おっちゃんおっちゃんちょっちいい?」

男「お? なんだい嬢ちゃん」

??「◯◯ってアパート探してんけど、おっちゃん知んない?」

少女の問いに、男は肩を竦めて答える。

男「んー、おっちゃんもつい一週間くらい前に来たばっかりだからな。悪いが知らんね」

??「ありゃりゃ……ま、走ってりゃその内見つかるしょ。おっちゃん、あとーんす」

少女は男に手を振り、単車に跨って再び走り出した。

男「…………元気な少女だ」

男が一言、呟く。

男「彼女こそ相応しい……」

少女の後姿を、品定めするように見つめる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:53:50.96 ID:CG/aT0ue0<>




男「この俺の、『プロデュース』を受けるに相応しい……!」

そして、覆面の下の素顔をニタリと歪めた。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:55:14.52 ID:CG/aT0ue0<> ――――
――――――――
――――――――――――

里奈「ふふふん、ふふふん、ふーんふふん……」

鼻唄を歌いながら、少女……里奈は人通りの少ないシャッター街で単車を転がす。

しかし、お目当てのアパートはまだ見つからない。

里奈「…………あ、そだ!」

里奈は単車を降りて、携帯電話を取り出した。

里奈「たくみんかみよみよに聞けばいいぽよ。繋がるかな〜」

友人を頼る事を思いつき、アドレス帳から『向井拓海』のページを開き……

男「見つけたぞ、さっきの小娘!」

里奈「へっ?」

呼ばれて振り向くと、先ほど道を聞いた男が立っていた。

里奈「あ、さっきのおっちゃん。どったの?」

男「喜べ小娘、お前をプロデュースしてやろう。この俺様がッ、このっ!」

男は語気を荒らげて叫び顎の辺りに手をかけ、顔面を一気に剥ぎ取った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:56:15.29 ID:CG/aT0ue0<> 里奈「うげっ、グロ…………あり?」

筋肉や神経剥き出しの、人体模型さながらのグロテスクな顔が現れる。

そう思っていた里奈の予想は、いとも簡単に覆された。

顔の右半分は鉄仮面。

薄汚れたワカメのような、緩いウェーブがかかった深緑色の長髪。

頭頂部から覗く、くたびれた兎のような耳。

UP「このUP様が直々に、だ! ありがたく思え!!」

UPと名乗った男は服にも手を掛けそれを取り払う。

真っ黒いローブからチラリと見えるのは、生身ではない機械の体。

UP「お前を素敵で無敵な奴隷にプロデュースして、目ん玉飛び出るような値段で売り払ってやるわ! んなぁーっはっはっはっはっはぁ!!」

体に不釣り合いな程大きな機械の右腕を振り回し、UPは高笑いした。

里奈「どれーって……つか何? おっちゃんまさか宇宙人?」

UP「そうとも! 俺様は宇宙を股にかける奴隷商人、UP様よぉ!」

里奈「へー。んで、アタシをどれーにするって?」

UP「如何にもっ! お前なら3億はくだるまい!」

両手を広げて里奈に近寄るUP。

UP「大人しく、俺様のプロデュースを受け…………」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:57:23.12 ID:CG/aT0ue0<> 里奈「……セキト、キック」

里奈がポツリと呟くと、傍らの単車が唸りを上げて動き出した。

??『ヴルルルルル!!』

UP「ぐえぇっ!? な、何だぁ!?」

いきなりUPの腹に衝撃が走り、後方へ数m吹き飛ばされた。

見れば、里奈の傍らにあった単車が、いつの間にか真っ赤な機械の馬に姿を変えていた。

里奈「セキト、ありがとちゃん♪」

セキト『ヴルルッ』

セキトと呼ばれた機械の馬は里奈に撫でられ、機嫌良さそうに体を震わせた。

UP「おぉのれぇっ! たかだか馬一頭になぁにが出来る! 出でよ、俺様プロデュースの可愛い奴隷達!」

UPが指をパキンと鳴らすと、周辺の物陰から何人ものサイボーグが姿を現した。

UP「さあ、あの小娘を捕らえるのだ!」

サイボーグ「ははぁっ!」

UPの号令に従い、サイボーグ達は一斉に里奈へ飛びかかった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:58:08.33 ID:CG/aT0ue0<> 里奈「はぁ……しゃーないなー」

しかし、里奈はそれでも焦る事なく懐から何かを取り出した。

それは、漆黒に塗られたベルトのバックルだった。

それを腰に巻くと、懐から更に鍵のような物を取り出した。

ユニコーンのレリーフがあしらわれた赤い鍵を、バックルに装着する。

『Let's Rock!』

バックルから電子音が響き、それに従い里奈がポーズをとった。

里奈「……変身っ♪」

バックルに刺さった鍵を、90°左へ回す。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:58:59.80 ID:CG/aT0ue0<>


『Wrath・Unicorn!』



力強い電子音と共に、里奈の体が赤黒い鎧に包まれていく。

そして、一番に里奈に手を伸ばしたサイボーグが……

サイボーグ「ぺがぁっ!?」

頭部を西瓜のように粉砕されて息絶えた。

UP「な、ななななな何だぁ!?」

赤黒く力強い、ユニコーンにも似た鎧……。

かつて少女の姿だったそれは、変わらぬ声と口調で、自らを指差し名乗った。

里奈『アタシは藤本里奈。またの名を、カースドライダー・ハヤテ! アゲキメでいくんで、そこんとこよろー☆」

言うが早いか、里奈は地面を踏み込み、一気に加速した。

サイボーグ「はやっ……ぅぎぁっ!?」

里奈の鋭いかかと落としが、目の前のサイボーグの右腕を肩から叩き斬った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 02:59:59.33 ID:CG/aT0ue0<> サイボーグ「おのれっ!!」

少し離れた位置にいたサイボーグ達が、指先からビームを数発放った。

里奈『ホイホイ、純潔の護り☆』

里奈は少しも慌てず、左手の平をそちらに向けた。

すると、手の平を中心に光り輝く壁が現れ、ビームを悉く弾いていく。

サイボーグ「!? ええいっ!」

里奈『無駄無駄〜』

サイボーグは驚きつつもビームを乱射するが、全て光の壁――『純潔の護り』に阻まれてしまう。

UP「ええい、接近して攻めろ!」

UPの指示に従い、サイボーグ達は一気に里奈へと駆け寄った。

里奈『にっ。カモン、ほーてん☆テラ!』

セキト『ヴルルルッ!』

里奈が叫んで右手を天に掲げると、セキトの体から一本の矛が射出され、弧を描いて里奈の元へ舞い降りた。

セキトに内蔵されているハヤテ専用武器『ほーてん☆テラ』である。

里奈『ほいっ♪』

サイボーグ「うああっ!!」

里奈がほーてん☆テラを軽く振り回すと、その風圧でサイボーグ達が一斉に吹き飛ばされた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:03:29.35 ID:CG/aT0ue0<> 里奈『お次はこれぽよ〜☆』

里奈が取り出したのは、狐のレリーフがあしらわれた金色の鍵。

バックルから赤い鍵を引き抜く。

『Rock off!』

そして、代わりにその金色の鍵を差し込み、捻った。

『Let's Rock! Greed・Fox!』

続いて里奈が身に纏ったのは、黄金に輝く優雅な、狐を模した鎧。

その腰には銀色の銃が二丁提げられ、銃口からは薄紫色の炎がボボボと漏れ出している。

UP「ま、また変わった……!?」

驚くUPだったが、里奈の背後。

サイボーグ「変身が隙だらけだぞ!」

剣を構えたサイボーグが一体、もうすぐの距離まで迫っていた。

里奈『あっ』

サイボーグ「覚悟しぐばぁっ!?」

突然、サイボーグが横へ吹っ飛ぶ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:04:30.54 ID:CG/aT0ue0<> セキト『ヴルルルルルルッ!!』

サイボーグを蹴飛ばしたセキトが、俺を忘れるなよ、とでも言わんばかりに唸ってみせた。

里奈『センキュ☆ お次はこっちの見せ場、要ちぇーっく☆』

ほーてん☆テラを地面に突き立て、銀色の銃を抜いて構えた。

里奈『眩惑の焔ぁ……ファイヤ!』

銃から放たれた薄紫色の火炎弾が二発、前方のサイボーグ二体に命中する。

サイボーグ「ぐあっ!? …………っ、き、貴様いつの間に隣に!? クソっ、喰らえ!!」

サイボーグ「ぎぁっ! い、痛い、痛い! 何をなさるのです!? おやめ下さいUP様!?」

UP「な、何が起こっている!?」

UPは目を丸くした。

火炎弾が当たったサイボーグの内、一体はもう一体を激しく殴りつけ、そのもう一体は、相手をUP様と呼び震え逃げ出そうとしている。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:06:00.28 ID:CG/aT0ue0<> サイボーグ「逃がすか、このっ!」

サイボーグ「ぎゃっ!?」

UP「……まさか、幻覚か!?」

里奈『ぽんぴーん♪ どんなの見るかまでは、当たらなきゃ分かんないのよー』

おちゃらけて肩を竦めた里奈だったが、直後に顎に手を当て冷静に思考し始めた。

里奈『んー……動けないまんま変身解除したったらマズイし、一回「補給」しとくぽよ』

そう言ってまた鍵を取り出す。

今度は蝿のレリーフがあしらわれた藍色の鍵。

金色の鍵を引き抜き、代わりに藍色の鍵を差し込む。

『Rock off! Let's Rock!』

そして、捻る。

『Gluttony・Fly!』

三たび、里奈の姿が変わる。

今度は毒々しい藍色が少し不気味な、蝿を模した鎧。

背中に生えた髑髏模様の羽が、また不気味さを際立たせる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:07:45.54 ID:CG/aT0ue0<> UP「ええい、またか! 構うものか、蜂の巣にしてやれ!」

サイボーグ「はぁーっ!」

数体のサイボーグが、指先のビームを一斉に里奈へ発射した。

里奈『飛んで火に入る〜、悪食の羽♪』

里奈が両手を交差させると、背中の羽が広がってその身を包んだ。

そして、サイボーグ達のビームが次々にその羽へと着弾していく。

里奈『……ふっふふー☆』

UP「無事だと!? まさかまたバリアか!?」

里奈『うーんにゃ? エネルギー補給、ゴチーっす☆』

翼を広げた里奈は仮面の下で満面の笑みを浮かべ、傍らに突き刺したほーてん☆テラを引き抜いて構えた。

里奈『あんま美味しかなかったけどお腹イッパイ! 食後の運動、おっぱじめ☆』

UP「くっそお、やっちまえ!」

数体のサイボーグと里奈が、改めて激突した。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:09:11.77 ID:CG/aT0ue0<> ――――
――――――――
――――――――――――

かつて、藤本里奈はこの街で暮らしていた。

木村夏樹、多田李衣菜、向井拓海、原田美世の友人ら四人とツーリングするのが好きだった。

四人がワイワイと走っていくのを、後ろから原付でトロトロとついていくのが楽しかった。

拓海「なあ里奈、そろそろ本格的にバイク買ってみる気はねえか?」

美世「あっ、いいね。あたしがイイの選んであげよっか?」

里奈「んー……遠慮しとくぽよー、ノンビリ走んのが好きだし?」

夏樹「じゃあ里奈、代わりにだりーでも安心な原付選んでやってくれよ」

李衣菜「ちょっ、なつきち! それどーいう意味さ!?」

里奈「あははははっ!」

しかしそんな日々も、里奈が両親の都合で引っ越す事で終わりを告げたのだった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:10:08.54 ID:CG/aT0ue0<> そして、引っ越し先での生活も、徐々に慣れて。

そろそろこちらで一人暮らしでもしてみようか、そんな事を考えていた時。

あのニュースが耳に入った。

TV『この事故で、バイクに乗っていた二名が行方不明となっています……』

画面に映る、無残にひしゃげたバイクは、紛れもなく夏樹の愛車だった。

里奈「…………うそ」

里奈は大慌てで携帯を手に取り、夏樹へ電話をかけた。

里奈「なつきん……なつきん……?」

しかし、何時まで経っても繋がらない。

続いて、李衣菜を呼び出す。

里奈「りーなっち! ねぇ、りーなっち!? ……………………」

しばらく携帯を取り落として呆然としていた里奈だったが、自身への着信音で我に帰った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:11:19.17 ID:CG/aT0ue0<> 画面に表示される名前は、向井拓海。

里奈「…………もしもし、たくみん?」

拓海『大変だ里奈! 夏樹と李衣菜が……」

里奈「うん、知ってる……今、テレビで…………ぅ、ぅあ、あ……」

話すうちに手が震えてゆき、ついには携帯を取り落とす。

里奈「ぁぁぁあぁぁあああ! なつきん! りーなっちぃ! ひっぐ、ぅあああぁああぁん!!」

ついに顔を両手で覆い、大声で泣き出した。

拓海『……悪い、里奈。また、後で連絡するな」

泣き叫ぶ里奈の声を聞いた拓海は、バツが悪そうにそっと通話を切った。

拓海が切った後も、里奈はしばらくただ一人で泣き続けていた。

里奈「うわあぁぁあああぁあ! あぁぁあぁあああぁん!!」

―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:12:34.27 ID:CG/aT0ue0<> ――――

それからの里奈は、すっかり生気を失ってしまい、部屋に籠る事も多くなった。

そして時折ニュースの映像が脳裏をよぎり、その度に激しく泣いた。

体調も崩し、日常的に嘔吐を催すようにすらなっていた。

泣き叫び過ぎて喉を痛めたのか、吐瀉物の中に少量の血が混じっていた時など、最早自分でも笑うしかなかった。

心配した母親が、気分転換にと里奈を連れてどこそこで遊びまわってくれた。

少しは笑顔が戻った里奈だが、未だに気分は晴れない。

二人が死んだという事実を受け入れられない、まだどこかで生きていてほしい。

そんな思いが枷となって里奈の心を繋ぎ止め、彼女を前に進ませまいとしていた。

そして前に進めない里奈の心は、外身と反比例するかのようにじわじわと腐っていっていた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:13:32.23 ID:CG/aT0ue0<> それから一週間程が経ち、里奈が外出から帰宅した時の事。

里奈「……ん?」

玄関に小包が置いてある。

拾い上げて調べると、箱には「藤本里奈様」の宛名と里奈の住所が書いてあるばかりで、差出人の名前も商品名も書いていなかった。

里奈「何これ、サギ?」

里奈はここ最近の自分の行動を振り返ってみるが、怪しげなサイトに会員登録などをした覚えは一切無い。

??「それは、君のための力さ」

里奈「へっ?」

背後からの声に振り向くが、そこには誰もいない。

地区のゴミ置場に、生ゴミの袋や古新聞、緑色のぬいぐるみ等が捨ててあるだけだ。

??「君の為にボクが送ったのさ。前に進めない君の為に、ね」

里奈「!? な、何を……」

里奈は恐怖した。

何故自分の胸の内を知っているのか。

一番身近で気にかけてくれる母親ですら、薄々疑問視している程度だと云うのに……。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:14:18.27 ID:CG/aT0ue0<> 里奈「……アンタ何なの? ストーカー?」

??「ボクが何者かなんて些細な問題さ。さ、それを開けなよ」

里奈は訝しみつつも、包みを開ける。

中から出てきたのは、ベルトのバックルが一つと、三本の鍵。

??「さあ、その赤い鍵を使って変身してごらん。君を枷から解き放ってくれるよ」

里奈「へんしん?」

頭ではその言葉を理解出来なかった里奈だが、反対に体は自然と動いていた。

ベルトを巻き、バックル部の穴に赤い鍵を差し込む。

『Let's Rock!』 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:15:29.60 ID:CG/aT0ue0<> 里奈「……へ、変身」

戸惑いつつも、鍵を左へ捻る。

『Wrath・Unicorn!』

次の瞬間、里奈の体は赤い光に包まれた。

里奈「ひゃあっ!? な、なんなん!?」

そして光が収まる頃、里奈は赤い鎧に姿を変えていた。

里奈『…………あぁっ』

里奈の頭の中で、何かが軋む音がした。

疑うまでもない、里奈の心を繋ぎ止める枷が軋む音だ。

??「さあ、あと一歩だ。走り出してごらんよ」

里奈は言葉のまま、地面を蹴って駆け出した。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:16:26.89 ID:CG/aT0ue0<>


バキッ



枷が完全に砕け散る音、心地よい開放感。

里奈(ああ、そうだ……なつきんもりーなっちももういない……)

里奈(だからって、それでアタシが腐ってても……二人とも絶対天国で笑っててくれないぽよ)

里奈(心っからの、笑顔で生きる……それが、アタシなりの二人への弔い……みたいなっ☆)

凄まじい速度で大地を駆ける里奈は、物理的にも、精神的にも、前へ進みだしたのだ。

里奈『……あははっ』

里奈『あははははっ! 速い速ーい!』

飛んで跳ねて駆けて、楽しそうに笑う里奈の姿を見てか、謎の声が呟く。

??「おめでとう、前に進めた君にこの名をプレゼントするよ……カースドライダー・ハヤテ」

言葉が途切れると共に、ゴミ置場から緑色のぬいぐるみが這い出し、何処かへと独りでに歩き出した。

―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:17:12.72 ID:CG/aT0ue0<> ――――

翌日、里奈は一人暮らしを始めたいと両親に申し出た。

両親は当然驚いたが、完全に明るさを取り戻した里奈の顔を見た母親は安心し、それを許可した。

父親も相当悩んでいたが、母親に説得されてついに許可を出した。

里奈が一人暮らし先に選んだのは、かつて住んでいたあの街に建つあるアパート。

拓海と美世に、元気になった自分の姿を見せて驚かしてやろうと考えたのだ。

家具は現地で買うと言い、最低限の荷物を持った里奈は両親に見送られて出発した。

里奈「お盆とお正月には帰るぽよ〜」

その後、謎の鉄の馬が停車中の原付に衝突して合体してしまう珍事件が起こったが、それはまた別の話である。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:18:22.24 ID:CG/aT0ue0<> ――――
――――――――
――――――――――――

『Rock off! Let's Rock! Wrath・Unicorn!』

里奈『ちぇーいっ♪』

サイボーグ「ゴッ!?」

ほーてん☆テラの柄が、サイボーグ最後の一体の頭部を破砕した。

UP「う、嘘だろう……合計八体、合計仕入価格一億七千万、合計販売価格四億のサイボーグ軍団が全滅!? 何者だコイツは!?」

UPは機械の右手をガキンと鳴らして構える。

UP「やはり俺様が直々にプロデュースしてやるしかないようだなぁ!」

右手を大斧に変形させたUPが里奈へ突っ込み、右手を大仰に振り回した。

里奈『うわっととと!』

その意外にも素早い一撃を、里奈はほーてん☆テラで辛うじて受け止める。

UP「そらそらそらぁ!」

右手を槌へ剣へ槍へ変え、UPは怒涛の連続攻撃を繰り出す。

里奈『おっ、よっ、はっ……』

UP「! 隙ありぃ!」

里奈『ふぎゃっ!?』

突然の腹部への衝撃で、里奈は後方へ数m吹き飛ばされた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:19:11.97 ID:CG/aT0ue0<> 里奈『あいたたた……何?」

UP「はっはっは! 油断したなバカめ!」

なんと、UPの腹部が開き、鋼鉄製のボクシンググローブがそこから顔を覗かせていた。

里奈『むっすー…………怒った』

ほーてん☆テラを杖にして立ち上がった里奈は、指をペチッと鳴らす。

セキト『ヴルル!』

やっと出番か、と言いたげにセキトが体を震わせる。

そして、ドゥッという音と共に一気に駆け出した。

UP「なにっ!?」

セキトは一瞬でUPの背後を取り、そして。

セキト『ヴルルルルッ!』

UP「のわぁぅっ!?」

痛烈なバックキックで里奈の方へと蹴り飛ばした。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:20:09.32 ID:CG/aT0ue0<> 里奈『はぁー……てりゃあっ!』

UP「どおおおっ!?」

今度は里奈がほーてん☆テラでのフルスイング。

UPの体を遥か上空へと吹き飛ばす。

里奈『にぃっ。それそれそれそれぇ!!』

そして、頭上でほーてん☆テラを風車のように高速で回転させだした。

すると、その回転で大きな竜巻が発生し、UPの体を更に打ち上げる。

UP「な、なんという事だ…………っ!? あ、アレはぁ!?」

上空から地上を見下ろすUPの目に信じられない光景が映った。

里奈『ほいほいほいほいっと!』

里奈がそれを追ってくるのだ。

それも、『竜巻の壁を蹴りながら跳んで』だ。

里奈はついにUPを追い越し、UPに向けてほーてん☆テラを振りかざした。

里奈『必☆殺!』

UP「ば、ば、ば、化物だぁぁぁあ!!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:21:00.74 ID:CG/aT0ue0<>




里奈『 ゲ戟キ ホ矛コ ブ振ン ブ振ン マ丸ル ッ ! ! 』






振り下ろされたほーてん☆テラの一撃が、UPの体を上半身と下半身に両断した。

UP「ぐぉあああああああっ!!」




<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:21:50.99 ID:CG/aT0ue0<> 里奈『とおっ』

くるくる回って、新体操選手の様に華麗な着地を決める里奈。

セキト『ヴルル』

里奈「……ふー、ちかりた。じゃセキト、アパート探しに戻るぽよ〜☆」

変身を解除した里奈は、原付に変形したセキトに跨りその場を後にした。


CPU『UPちゃん大丈夫ぅ?』

建物の陰、真っ二つになったUPは補佐のCPUに回収されていた。

UP「大丈夫なものか! ええい、あの小娘め……」

別れた上半身と下半身を同時にジタバタさせて悔しがった。

UP「体を『直』したら改めてあの娘をプロデュースしてやる! 今に見ていろよ!!」

CPU『はーいはい、スレイブニールに帰るわよぉ』

わめくUPを捕まえて、CPUは拠点である宇宙船へ転送した。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:24:40.62 ID:CG/aT0ue0<> ――――
――――――――
――――――――――――

某アパート前。

マリナ「あら、涼ちゃん。涼ちゃんも今帰り?」

大牙「よっ、お疲れ」

涼「あ、麻理菜さんに大牙さん。お疲れッス」

アパートの住人であるマリナ、大牙……ティラノ、涼が鉢合わせしていた。

マリナ「そういえば、今日じゃなかったかしら?」

涼「ああ、新しく人が越して来るんでしたっけ」

マリナ「どんな人かしらね」

涼とマリナがそう話していると、大牙が何かを見つけた。

大牙「あ、あそこに居るのじゃないっすか?」

大牙に言われて二人が目を向けると、そこには原付を停車させる金髪の少女の姿があった。

少女は三人に気付くと、ヘルメットを置いて駆け寄ってきた。

里奈「こんちゃっ。ここのアパートの人です?」

マリナ「ええ。201号室の沢田麻理菜よ」

大牙「202号室の古賀大牙だ」

涼「203号室の松永涼。今日越して来るのって、アンタかい?」

里奈「はいはい、如何にもっ☆ 今日からここの204号室でお世話になる藤本里奈、末長くよろっしゃーす♪」

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:25:45.55 ID:CG/aT0ue0<> 藤本里奈

職業

フリーター

属性

フリーのヒーロー

能力

カースドライダーへの変身

詳細説明

単車でブラブラするのが好きな一人暮らしの少女。
外見や言動でチャらく見えるが根は真面目ないい子。
親友二人の死で一時期腐っていたが、カースドライダーの力を得ると同時に立ち直る。
カース等が現れても積極的に戦おうとはせず、降りかかる火の粉は払うスタイル。

◯カースドライダー・ハヤテ
里奈がカースドライバーとカースキーで変身した姿。
所持するカースキーはラースユニコーン、グリードフォックス、グラトニーフライの三つ。
特に基本形態があるわけではないが、里奈はラースユニコーンキーを好んで使う。

ラーススタイル
ハヤテがラースユニコーンキーで変身した姿で、実質ハヤテの基本形態。
スピードに優れる他、「純潔の護り(じゅんけつのまもり)」というバリアを両手の平に展開可能。
耐久力はそこまで高くなく、範囲も手の平周囲のみと狭いが、
狭さ故に柔軟に対応して展開できる事と、
実弾、ビーム、火炎、電撃、魔法など相手の攻撃属性を問わず防げるのが強み。
また必殺技の「戟矛振振丸(げきほこぶんぶんまる)」はスピードが求められるため、ラーススタイルでのみ使用可能。

グリードスタイル
ハヤテがグリードフォックスキーで変身した姿。
腰に搭載された二丁の銃を使った中〜遠距離戦を得意とする。
この銃は通常の弾丸の他、「眩惑の焔(げんわくのほむら)」という薄紫色の火炎弾を撃てる。
この火炎弾に当たった相手は、一定時間幻覚に包まれてまともに戦う事が出来なくなる。
どんな幻覚を見るかは里奈にもわからない。

グラトニースタイル
ハヤテがグラトニーフライキーで変身した姿。
俊敏性は皆無だがハヤテの形態の中では最も耐久性に優れる。
背中の羽である「悪食の羽(あくじきのはね)」には飛行能力は無い。
ただし、羽に受けた実弾と魔法以外の攻撃を吸収してハヤテのエネルギー又は里奈のスタミナを回復させる事が出来る。
前述の通り魔法そのものは吸収できないが、魔法で生み出した炎や雷なら吸収できる。

関連アイドル
夏樹(友人)
李衣菜(友人)
拓海(友人)
美世(友人)

関連設定
カースドライダー
エクス・マキナ


マキナ・セキト
里奈に付き従う赤兎馬型エクス・マキナ。
性格は一言で言うなら荒くれ者。しかし里奈とはどうも相性が良い様子。
ガイスト形態は多数の武器を収納したコンテナ……だったのだが、里奈の原付と合体事故を起こした際にガイスト形態が単なる原付に変わってしまった。
辛うじて矛の「ほーてん☆テラ(里奈命名)」だけは出し入れする事が出来るが、他の武器は消滅してしまったようだ。
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2014/11/30(日) 03:27:09.41 ID:CG/aT0ue0<> ・イベント追加情報
里奈が涼のお隣(コハル達の反対側)に引っ越してきました

以上です
自分を曲げるって、存外楽しいですねえ(白目)
里奈が腐るパート書いてる時が一番楽しかった(歪愛)
UP、拓海、美世、夏樹、李衣菜、CPU、涼お借りしました <>
◆G92/XsQ.Tg<>saga<>2014/11/30(日) 09:38:10.64 ID:4BTQZV6fO<> 乙よー

里奈ちゃん立ち直れてよかった(白目)。UP無事地球にたどり着けたんだ……着いて早々さんざんな目にあってるけど <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/11/30(日) 10:45:23.15 ID:G4TAmIwg0<> 乙でしたーげきほこぶんぶんまる!
…うん、だりなつに会ったらヤバい(確信)
あのアパートも個性豊かな住人がいっぱいですな、カオス <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/11/30(日) 15:36:15.89 ID:D4UtjdEdo<> >>544
おつー
だりなつとの再開と和解はよ!(せっかち)

スピードタイプでバリアを張ったり幻覚見せたり攻撃吸収したり……
ふじりな割とトリッキーな性能っぽい?

それにしても緑色のぬいぐるみ……、一体何ゃこら太なんだ…… <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/02(火) 15:51:24.25 ID:9IJNdGwF0<> >>544

シェアワ界で安全そうな所
・女子寮
・『プロダクション』
・教会
NEW・例のアパート

困ったらここに逃げ込もう! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 01:57:08.29 ID:epbYUhWP0<> 学園祭時系列で投下するでごぜーますよ <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 01:59:23.88 ID:epbYUhWP0<> 少し前まで騒がしかった廊下は、いまはほとんど静まり返っていた。そしてそこを歩く少女が一人。

加奈「…そういえば、こずえちゃんのお父さんとお母さんってどんな人なんだろう…会って分からなかったら…うーん…」

こずえ「すぅ…」

加奈「…こずえちゃんを見れば向こうから気付いてくれるはずっ!大丈夫!」

相変わらず若干ずれた頑張りで、こずえを背負いながら加奈は教習棟を歩いていたのだった。

加奈「うーん…こずえちゃんがいたこの教習棟にいるとは思うんだけど…」

カリカリカリッ

加奈「あ、もしかして…?」

脳内に響いた音に即座に反応し、加奈は期待半分でメモを開く。

〔そんな、カースが居たなんて…!〕

加奈(ええっ!?か、カース…!どこに…!?)

期待を裏切るメモの内容に慌てて注意深く周囲を見渡すと、これから進もうとしていた先の曲がり角で蠢く黒いモノが一瞬だけ見えた。

ほんの一瞬だった。見逃していたら曲がり角でばったり会っていたに違いない。

加奈(…まだ気づかれてない…戻ろう)

ゆっくりと方向転換し、足音を立てないように来た道を引き返した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:01:51.75 ID:epbYUhWP0<> カリカリカリッ

脳内に音が響き、音を立てないようにメモを見る。

〔カースが…!?なに、あれ…!?〕

加奈(……なんだろう?)

意味の分からない内容に首を傾げた。

加奈(でもカース関連みたいだし…よくない事、なのかな?離れた方がいいかなぁ…)

『ギャアアアアアア!?』

加奈「えっ?」

カースの悲鳴に思わず振り返ると、曲がり角の向こう側に居たカースが吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた瞬間だった。

3,4体程のカースが次々に叩き付けられる。曲がり角は叩きつけられたカースで埋まってしまった。

それに思わず後ずさると、それを追う様に巨大な黒い何かが飛び出してきた。

『ぐるぅぅぅぅ!がうぅ!』

加奈「!?」

不気味なほど真っ赤な目、そしてどことなく兎を思わせる耳。それと対照的に狼を思わせる牙。

四足歩行の獣にしては大きすぎるそれが、カースを滅茶苦茶に狩り、喰らう。

一般人の加奈にとって、それはあまりにも恐ろしい光景だった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:06:01.59 ID:epbYUhWP0<> 加奈「………大きな、うさぎ?なに、あれ?なんで、カースを?」

あまりの所為劇に思わずパニックを起こしてしまう。

加奈「ど、どうしよう、わけがわからないよ…」

こずえ「…んむぅ……かなー」

加奈「…そうだ、今はこずえちゃんもいるんだ。もっとしっかりしなきゃ…!」

もぞもぞとこずえが背中で動いたことで、お姉ちゃんとして振舞おうという気持ちを取り戻したようだ。

加奈(隠れられそうなところもないし、早く逃げなきゃ…!!)

未だカースに音を立てて喰らいつくそれから逃げるべく、加奈は全速力で駆けだしていた。

カリカリッ

走りながら脳内に響く音に慌ててメモに目を通す。

〔誰かいる、何かを探しているみたい…?…あっ〕

加奈(…「あっ」?) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:11:05.53 ID:epbYUhWP0<> ―――

仁加「黒ちゃんおっつおっつなの!」

道を塞いでいたカースを変身した黒兎が狩ったことで道が開けたのを確認すると、仁加はまたぬいぐるみにして回収した。

加蓮「す、すごかったね…黒ちゃんってただのぬいぐるみじゃなかったんだ。…というかコレ、大丈夫?」

仁加「だって通れなかったし!」

加蓮「それはそうだけど…すごい音だったから誰かびっくりさせちゃったんじゃない?」

仁加「お部屋の外にいる人はカースと戦える人ばっかりだからだいじょーぶ!多分!」

相変わらずカースの侵入ルートを探している二人だったが、未だうろうろしているだけのようだ。

仁加「それにしても見つからない、まったく見つからない!…飽きちゃったの」

加蓮「飽きたっていうのはともかく、地図見てもさっぱりだよね…別の階に移動してみる?」

仁加「それがいいかも、さっきだって『いやーっ!』てのと鉄砲の音がしたし…」

加蓮「つまり誰かが戦ってるんだよね…どれくらいの人がいまここで戦ってるんだろう」

仁加「うーん、わかるのだと、鉄砲の人じゃない人は…でこぽん星人もいたの」

加蓮「でこぽん星人?」

仁加「さっき聞こえた、『でこぽん!』って声なの、刀を持ったヒーローで、確かそういう名前…だった、と思う…よ」

加蓮「…あれ、そんな名前だったっけ?」

仁加「多分違う、でもなんとか星人で…見たことないからちょっとしか覚えてないの」

加蓮「えっと……ひなたん、星人?」

仁加「それそれ!」

黒兎(なにこの…まァ楽しそうだからいいケど、ドコから来たノかさっさと分かってホしい感あるよなぁ)

カースを倒しつつ探索を始めたはいいが…教習棟が広すぎるのもあって手がかりすらつかめていない。

黒兎(コリャ見つからないと決めつけテ、減った我が子を増やしニいった方がいいカ?…ン?誰かこっチ来てる?)

黒兎がそう感じた通り、廊下を走る足音が聞こえてきた。

加蓮「…誰か、来てる?」

ーー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:13:25.05 ID:epbYUhWP0<> 加奈「はぁっ、はぁっ…ちょっと、走り過ぎちゃ、った…はぁ、はぁ…もう、大丈夫かな…」

流石に小さな子を背負いながら走るのは疲れてしまう。確認してみたがメモの内容に変化はない。誰かが近くにいる筈、とキョロキョロしながら走っていた。

加奈「何かを探している人がいるってことはもしかしたらこずえちゃんの家族かも…でもこの最後の『あっ』って…なんだろう?」

先程の文章が、中途半端に途切れているのは何故なのだろうと、考えても分からない。

…逃げる事と考える事に夢中になりすぎて、廊下を一周している事に加奈はまだ気づいていない。

加奈「あっ、誰かいる…!あのー!すみませーん!」

見つけたのは高校生くらいの女の子と、ぬいぐるみを持った小学生くらいの女の子。

二人が加奈の声に気付いてこちらを振り返る。確かに何か探していたように見えた。メモにあったのはこの二人に違いない。

加奈(こずえちゃんの家族ではないみたいだけど…もしかしたら何か情報があるかも…!)

目的の人ではないものの、他の人に会えて少し加奈は安心していた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:15:10.71 ID:epbYUhWP0<> 『チョウ、エキサイティン!』

…だから、先ほどの黒兎の襲撃の際に、どさくさに紛れて物陰に隠れていた比較的小柄な一匹のカースに気付くことが出来なかった。

真横、柱の陰から飛び出してきたそのカースは、跳ねながら加奈に向かってくる。

加奈「あっ…」

あまりにも突然すぎて頭の中が真っ白になってしまった。

『シュゥゥゥゥッ!』

じわりじわりと近寄ってきたカースが、獣のように飛びかかってきた。

加奈(こずえちゃん…!)

思わず目を瞑り、身構える事も出来ず、こずえを背負う腕に少しだけ力が入った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:18:58.06 ID:epbYUhWP0<> 『…デタァ!?』

加奈「あ、あれ…?」

…しかし、痛みがいつまでも来ないので恐る恐る目を開ける。

カースは消えてしまっていて、先ほどの二人が慌てて駆け寄ってきていた。

加蓮「大丈夫!?」

加奈「…あっ、はい!大丈夫です!えっと…カースに襲われたと思ったんですけど…」

加蓮「それならもう大丈夫、倒したから安心して。…うん、もう隠れているカースもいないはず」

加奈「あっ、そうだったんですか!?ありがとうございますっ!」

高校生くらいの女の子は一応辺りを警戒するように確認してから、持っていた黒い槍をふっと片づけた。

加蓮「あ…勘違いさせちゃってごめんね、倒したのは私じゃなくて仁加ちゃんなんだ。だからお礼は仁加ちゃんに言ってあげて」

加奈「あっ、そうだったんですか!?武器を持っていたからつい…」

加蓮「まぁ、そう思っちゃうよね…それと、歳も近そうだし敬語じゃなくても大丈夫じゃないかな。私は加蓮、16歳だよ」

加奈「は、はい。じゃなくて…うん。私は今井加奈、16歳…あっ、同い年!…それで、仁加ちゃん…って君?」

ちょっとだけ加蓮の影に隠れた仁加に目線を合わせるように加奈はしゃがんで話しかける。

仁加「うん、アタシ。というより…黒ちゃんが頑張ったの」

そう言って仁加は持っている黒兎のぬいぐるみの腕を掴んで加奈に腕を振らせた。

黒兎(いやいやそんな、いきなリ思いっきり投げられタから慌ててカースに噛みついただけデすって…ハハハ。聞コえてないだろうけど)

ぼやきの通り、黒兎は仁加に予備動作も無しにいきなり投げられ、そのまま加速して噛みつき加奈に飛びかかったカースを葬ったのだった。

その後全力で壁に激突し、ふらふらしながらさりげなく足元を通って仁加の元に戻ってきていたのはどことなく可哀想である。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:21:23.87 ID:epbYUhWP0<> 加奈「そっか、とにかくありがとう。うっかりしてたのは私なのに…」

仁加「うっかりしてたのはこっちも…あ、お姉ちゃんはどうしてここにいるの?何か探してるの?」

加奈「何か…というより、誰かかな。こずえちゃん…この子がね、両親とはぐれちゃったみたいで…だから探していたの」

仁加「!」

加蓮「ええっ!?それは大変だね…どうしよう、手伝いたいけど…」

加奈「えっと、そっちも何か探して…?」

加蓮「うん。この教習棟にカースは入れないらしいけど…今は結構いるでしょ?だからその原因が見つからないかなって思って」

加奈「あぅ、そっちも大変そう…」

加蓮「こっそりカースが入ってきても誰も気づかないような場所みたいな所…加奈はそういう所、心当たりとかないかな?」

加奈「うーん、心当たりはないなぁ…私もここの生徒ってわけじゃないから、知ってるのはクラスの出し物とかで使う場所の周りくらいしか…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:23:42.89 ID:epbYUhWP0<> 加蓮「そっか…あれ、仁加ちゃんどうしたの?」

仁加はさっきから黙って何か考えていたようだ。加蓮の手をぎゅっと握る。

仁加「ねぇ、あのね…ママやパパとはぐれるの、こわいし、たいへんだよ…てつだえないかなぁ」

加蓮「…仁加ちゃん、こずえちゃんの家族を探したいの?」

仁加「だって、だって…ばらばら、なっちゃう…ママもパパも、あえないの…いやだ」

若干ではあるものの、トラウマに触れてしまったようだ。言葉もたどたどしく、口調も少し変わっている。

加蓮はそっとその頭を撫でると一つ提案をした。

加蓮「…カースの手がかりもまだ無いし、一緒に探すっていうのもいいんじゃないかな?」

仁加「いっしょに…うん、アタシそれがいい」

加奈「えっ、いいの?加蓮ちゃん達、迷惑だったりしない?」

加蓮「迷惑なんかじゃないよ!加奈はこずえちゃんをおんぶしてるし、カースと会うだけでも大変でしょ?それに、仲間は多い方がいいよ!」

仁加「お姉ちゃんと同じー!人が多い方がいろいろ分かるし、寂しくないの!」

加奈「…そっか、じゃあ私も役に立てるように頑張るね!あっ…そうだ」

加奈が二人に耳打ちして、なにかを教えたようだ。

加奈「掛け声っ!」

「「「かなかなファイファイ、おーっ!!」」」

こずえ「ふぁー…?」

加奈「よしっ!」

黒兎(おーっ!!…ってアレ?もしかして、アホの子シかいない?) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2014/12/14(日) 02:26:50.51 ID:epbYUhWP0<> カリカリカリッ

加奈(あっ、メモが…)

加奈「ちょっと待ってね、メモを見るから…」

メモが更新された音に反応して、加奈はメモを確認する。

〔カースが出て来たけど、助けてもらっちゃった〕

〔仲間が増えた!うれしいな!〕

どちらも今追加された文章だ、だが加奈は違和感を覚えた。

加奈(あれ?助けてもらったのも、仲間が増えたのも今だよね。それともこれからまた起きるの?…タイムラグなんていままで無かったし…)

仁加「加奈お姉ちゃん、どうしたの?」

加奈「…ううん、何でもない!とりあえず、どんどん行っていないところに行こう!」

加蓮「うん、そんな感じでいいと思う」

こずえ「…ふぁ…」

また眠り始めたこずえを起こさないように、3人はまた廊下を歩き出した。 <>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/12/14(日) 02:30:48.14 ID:epbYUhWP0<> 以上です。加蓮と加奈、それと美穂と美波も存在を匂わせる程度にお借りしました。
かなかれファイファイおーっ!…アホの子しかいないぞ!(黒兎含む)
書いてて思った、「この組み合わせだと名前に加ばっかりだ!加加加ユニット(?)だこれ!」
そう、加という文字が大量すぎて会話がカオスに見えるのじゃ…こうなったら名前に「奈」が付く子m(ry

加奈ちゃんのメモの内容については…
『仁加と加蓮が特殊な為タイムラグが発生した』『また仲間が増えるよ!やったね加奈ちゃん!』の二つの解釈、どちらかができるようにした…つもりです。(フラグ大好き人間)

情報
・加奈&こずえと加蓮&仁加が一緒に行動するようです。 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/12/14(日) 17:32:24.20 ID:et7nNOePo<> >>560
おつー
パーティーが合流した時のこの安心感と謎の達成感よ
特に今井ちゃん達は戦力に若干の不安があったし、良かった良かった

加蓮加奈加蓮加奈……と縦に並ぶと、確かに一瞬面くらいますな
アニバアイプロの時なんかも美嘉美穂美波で、たまに「んん?」ってなったりしました <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/14(日) 20:31:36.86 ID:UWvfKKdf0<> >>560
乙っす!
自分の書いた子が他の人に使ってもらえるのがここまで嬉しいものとは・・・!
「奈」がつく子かー。加わったらものすごくヤバい子がいたようなー

強い人たちと合流できたけど、ツッコミ役がいないぞ!どうなる加奈&こずえ!
新しくお友達が増えそうだよ!やったね!加蓮&仁加!


<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:35:15.31 ID:q5aQ6Ewdo<> >>483
ついに作戦通り、将軍墜落
あぁ、いよいよ将軍の処刑が執行されてしまうのですね…なーむー
謎の赤い鎧の3人組は果たして間に合うのかな?
あとスパイクPさんww

>>512
加奈お姉ちゃん!
憤怒の街での事を経験しても強く頑張れる加奈お姉ちゃん健気ですな
ちょっと不穏でも前向きに頑張ってほしい子です、かなかなファイファイ、おーっ!

>>544
ふじりな来ましたねー
>里奈が腐るパート書いてる時が一番楽しかった(歪愛)
おい
……その気持ちわからなくもない(おい)
例のアパートにも順調に戦力が集まってますね

>>560
でこぽん星人!その名前でもだいたい合ってる
加加加ユニット……よし、ユニット名をつけよう
割と物騒な学園の中、加奈加蓮のやり取りがとても和みました
アホの子しかいないっぽい?……か、かなかれファイファイおーっ!



さてさて、書き上げるのに随分と時間が掛かってしまった……
すまぬ…すまぬ…ほんとすまぬ…
出遅れっぷりがなかなかに酷いのですが、投下しますー
(久々すぎて設定忘れてたりとか間違ってないかとか若干不安でございますが)

学園祭2日目、将軍襲来に関するお話ですよっ <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:36:23.78 ID:q5aQ6Ewdo<>







――さて将軍の墜落より、時は少しだけ遡る。
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◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:36:49.21 ID:q5aQ6Ewdo<>



恵の雨が降り続き、そして上空には今なお脅威の佇む京華学院。


その方々で、守るべき物を守るために、

ヒーローと呼ばれる者達が、また導かれるように集まったつわもの達が、各々の戦いを繰り広げている。


そして、事態を解決すべくと、集結したアイドルヒーロー同盟のヒーロー達+αによる合同作戦会議もまとまり、

戦線はいよいよと本格化しようとしていた。


作戦に従い、任を振り当てられたヒーロー達は各自が仲間たちと共に持ち場へと向かっていく。

その中である者は作戦遂行のために精神を集中させ、

またある者は隣に立つ者達と、想定される状況とその対応策を話し合うなど、

作戦実行までのわずかな移動時間さえも、有効に活用するべく自分達にできる限りの事を行う。


此度の事件の首謀者『将軍』撃墜のために屋上に向かうメンバー達もまた同様に。





きらり「むーん……」

さて、錚々たるメンバーの中に首を傾げる少女が一人。
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:38:02.02 ID:q5aQ6Ewdo<>

李衣菜「…?どーしたのリーダー?……もしかして口塞いでたの怒ってたりする?」

夏樹「作戦内容で気になることがあるのか?」

仲間の様子に気づいた2人が、少女に問うた。


きらり「んんー、そうじゃなくってー」

きらり「あのねー、よくわかんないけどー……とーってもちっちゃくて見えない子がいた感じぃ?」

李衣菜「……ちっちゃくて……見えない子??」

夏樹「……さっきの部屋にか?」


2人が仲間の言葉の意味を測りかねていると、

彼女達の前を歩いていた女性が立ち止まり、口を挟んだ。


時子「……言われて見れば、些細な程にはおかしな気配が混じってたかもしれないわ」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:38:38.53 ID:q5aQ6Ewdo<>

シャルク『おかしなけはい……?ひかえしつに ふしぜんなてんは かんじとれませんでしたが…』

ガルブ『ええ、あのばにいた かたがた いがいの なにかのはんのうは なかったはずです』

梨沙「気のせいなんじゃないの?適当な事言わないでよね!」

コアさん『ブモッ』


時子の言葉を聞いた者が、口々に意見を出す。

どうやら、ほとんど分からない程度に小さな何かの気配があったようなのだが、

その場の全員が感じ取れるようなものではなかったらしい。


パップ「もし……気のせいじゃないとするなら…………”ネズミ”がいたか?」

プロデューサーとしての勘か、あるいは自身の経歴故にか、彼がその可能性にいち早く気づいた。

あの場に居た歴戦のヒーロー達のうち、ほとんどの者が勘付けない程度に小さな気配の正体……

それがもし、ヒーロー達の会話を”盗み聞き”していた何かだとするならば……


菜々「あのっ、控え室に待機してるクールPさんに連絡した方がいいんじゃ…」

パップ「そうだな、すぐに連絡する」


控え室に1人待機している手負いのクールPの身を案じ、パップは通信端末を手に取った。
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:39:19.17 ID:q5aQ6Ewdo<>

――


パップ『と言う訳だ、クールP。そっちに変わった事はないか』

クールP「ええ、現在のところは……こちらには問題ありませんよ」

パップ『そうか……まあ、盗み聞きしてた奴が居たとして、

    せっかく俺達に気づかれなかったのに仕掛けてくるような愚はおかさねえか』

クールP「……でしょうね。お恥ずかしながら、

     指摘されている気配と言うに僕もまったく気づけていなかったので……

     僕が襲われなかったのは、不幸中の幸いではありましたか」


クールPの手に持つ端末の通信先で、パップは息を吐いた。

控え室に一人残っているクールPの無事を確認できた安堵のためであろう。


パップ『さて、どうしたもんか』

クールP「……」


仲間の無事を確認できて一安心と言ったところではあったが、しかしそもそもの問題は解決していない。

何者かに、もしヒーロー達の作戦を聞かれていたのであれば、同盟は然るべき対応をしなければならないだろう。


パップ『そうだな…………現場の指揮は俺だが』

パップ『作戦の根幹に関わる事になりそうなら、お前の意見も聞いておきたい』

クールP「そうですね……」


万が一の場合は、作戦の練り直しと言う事もあり得る。その場合、現場の判断だけで行動する訳にはいかない。

そう考えたパップに意見を求められたクールPは、

ほんの少し、思案するフリをした後に、はっきりと答えた。


クールP「結論から言えば、問題ないでしょう。そのまま作戦を続けてください」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:40:05.48 ID:q5aQ6Ewdo<>

パップ『いいのか?』

クールPの答えに対して確認するように再び問うパップであったが、その声の調子に疑問や戸惑いのようなものはない。

その意見を妥当なものだとし、納得もしているが、一応の確認の言葉であろう。


クールP「理由を述べます。まず第一に、今から作戦を練り直す時間はありません。

      一刻を争う事態ですからね。万が一、敵に此方の作戦が漏れていた場合であっても

      今から再び皆さんを呼び戻して、有効な別の作戦を模索する余裕はありませんから」


まずそれが第一理由。

半ば学院一つに集まった人々全てを人質に取られた状態。

そして地上に現れた大量のカースによって、不安に駆られる人々のことを思えば、

遥か上空で偉そうに踏ん反り返っているであろう男から提示されているタイムリミット以上に、実質的な猶予時間はほとんど無い。
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:40:53.55 ID:q5aQ6Ewdo<>


クールP「けど、それは相手にとっても同じ事です。

     第二に、僕らの作戦を聞いていた間諜が居たとして、

     その情報がはるか上空に居る将軍に伝り、彼が作戦への対抗策を練るまでには若干の猶予があるはずです。

     それだけの時間があるなら、僕達は作戦を完遂させることができるでしょう」


これは、やや希望的な観測ではあったが、

『地上からのエネルギー砲による狙撃によって敵を撃ち落す』と言う此度の作戦は、

少々乱暴でありながらも、とにかく即効性のある方策であり、

短時間に実行するのは容易でいて、かつ知っていても対処しきる事は難しい類の物である。

作戦を0から練り直すよりは、こちらの成功にかける方がずっと可能性はあるのだ。


……まあ何より、クールPとしては、作戦内容が知られたところで、

あの凡骨で野蛮な男に対応できるような知恵があるとは思ってもいないのだが。


パップ『……だな。だいたい同意見だ』

パップ『なら、このまま作戦を続行するぜ?』

クールP「ええ、引き続きお任せします。現場指揮は頼みましたよ」

パップ『ああ、ヒーロー達の事は任せておいてくれ。……そっちも気をつけてな』

クールP「作戦の成功を祈っています」


最後にお互いの健闘を祈りあい、男達は通信を切るのであった。
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◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:42:09.57 ID:q5aQ6Ewdo<>



クールP「……はあ」

通信を終えて、控え室に一人、クールPは大きくため息を吐いた。


クールP(…………やれやれまったく、こうして誤魔化すほうの身にもなって欲しいな)

クールP(彼女はきっとうまくやったつもりなんだろうけど……分かる人には、やっぱり分かっちゃうみたいだね)
     

ヒーロー達の作戦会議、それをひっそりこそこそと探っていた者の正体を、

ただ一人、彼は知っていたからである。


クールP(外は大雨……この雨の中じゃ彼女も大した活動なんてできないはずだけど)

クールP(…………)

クールP(……けど、あるいは彼女なら……ひょっとすると何か手を用意してるのかもしれないな)



雨の降り続く窓の外を見つめ、クールPは今朝会ったばかりの”彼女”に思いを馳せた。

<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:43:04.01 ID:q5aQ6Ewdo<>

――




チナミ「ふっふっふっふー♪」


人々が避難して、無人となった学院・教習棟の廊下を歩くのは1人の吸血鬼。

その足取りはいつになくご機嫌であった。


チナミ「やっぱり爛に会っておいて正解だったわねえ」

チナミ「おかげで同盟から情報を引き出せたんだもの、ふふふ〜♪」

チナミ「持つべきものは、利用し甲斐のある仲間ね!」


柄にも無くスキップまでしちゃってる彼女の背中に、

貼りついているのは小さな……もう一人の彼女。


小チナミ「ぜぇ…ぜぇ……」

とても小さな使い魔は、何故か息を切らして冷や汗をダラダラと垂れ流していた。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:44:00.63 ID:q5aQ6Ewdo<>

小チナミ(本体は簡単に言ってくれてるけど、こっちは命がけのMGS(かくれんぼ)だったんだからっ!)


そう、何を隠そうヒーロー達の作戦会議を盗み聞きしていたのは、吸血鬼チナミであった。

彼女の目的の性質上、学園に来ているヒーロー達の動向は常に窺い知っておきたかったためである。

そのため、彼女は分身たる使い魔、小チナミを使うこととした。


本体に命令を受けた小チナミは限りなく気配を遮断させて、アイドルヒーロー古賀爛を追跡。

控え室につくなり全力で…それはもう全力で影に隠れ、

なんとかヒーロー達の眼を誤魔化しながら彼らの作戦会議をずっと聞いていたわけである。

気配の遮断が得意中の得意とは言え、ヒーロー達の真っ只中、気づかれないように細心の注意を払い、小チナミ、超頑張った。


小チナミ(クールが身振りとかでさり気なく視線を誤魔化してくれてなかったらどうなってたか……)

なお同じ吸血鬼で、同郷のよしみであるクールPは、

彼女の存在をなんとなく察知しており、それとなくフォローしてくれていたようである。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:45:27.91 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「クールったら、なんだか面白そうな事を企画してるみたいじゃない、ふふふふ♪」

またチナミの方も、クールPとは付き合いがそこそこ長いためか、

彼の企む計画の概要こそわからずとも、クールPに何か謀があることはすぐに気づいたようである。


チナミ「私のプロデュースする新田美波改造計画もおじゃんになった事だし……」

チナミ「せっかく暇になったんだもの。こっちに1枚噛ませてもらいたいところね」

チナミ「学院上空に佇むのは、”家畜派”吸血鬼を率いるかの『将軍』……ふふっ、利用価値なんて山ほどありそうじゃない♪」


自分の立てていた計画がパーになっても、そこは”利用派”吸血鬼チナミ。

タダで帰る気はさらさらないようであった。


チナミ「……とは言え、普通にクールに打診しても乗らせてはくれないでしょうし」


裏では色々と画策してるクールPとは言えど、彼にも一応はプロデューサーとしての立場があり、

同盟内部に居て、信頼も出来る爛とは共に悪巧みをしてはいても、

流石に同盟外部のチナミを、自らの企てた何らかの計画に招くリスクは冒さないだろう。

「協力するわ」と直接言っても、断られるのは目に見えている。


チナミ「となれば、無理矢理にでも彼の計画に乗っかっちゃうしかないわよね♪」


だからと言って、やはり諦めて帰るような彼女ではなかったが。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:46:47.54 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「っと……そうそう、ここ、ここ。この教室だったわね♪」


さて、廊下を歩き通して、辿り着いた先。

そこは事件が起きる直前に、

アイドルヒーロー爛と会って話をした休憩室であった。


既に破壊されていた休憩室の扉を無視して、当然の様に教室に入る。

元々人気の無かった休憩室。故にか、避難している人間はそこには居なかった。


チナミ「流石に能力者達が集まってる教習棟の出入り口から外に出る勇気はないわ、目立っちゃうし、怪しまれるもの」


気配の遮断が得意な吸血鬼と言えど、あそこは警戒している人の目が多すぎる。

身体の小さな小チナミであればその視線も掻い潜るのに不都合はないのだが、

流石に本体が出入りをするには誤魔化しきれない可能性もあり、能力者が山ほど集まってるために危険も伴う。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:47:44.64 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「けど、そこは抜かりなく……何かあったときのための脱出ルートはきちんと確保してるのよ」


彼女がこの学院にやってきたのは、使えそうな能力者を自身の手駒とするためである。

京華学院には能力者専門の付属校もあると聞き、そして人の集まるこの祭りは、人材のスカウトには打ってつけであったからだ。

(実際にアイドルヒーロー同盟の関係者が多くやってきているのはそのためもあったのだろう)


もちろんチナミ自身、正体がバレないように活動には細心の注意を払っていたが、

しかし、その目的の性質のためにヒーローとの交戦の可能性もないとは言い切れず、


従って、彼女は万一の時のための逃走のルートを幾つか用意していた。
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◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:48:35.76 ID:q5aQ6Ewdo<>


その一つがこの休憩室である。

休憩室に備え付けられた窓は、なんと全開となっていた。

人気の無い休憩室から外への緊急脱出を可能とするためにチナミが予め準備しておいたためである。


暗示をかけた学院の生徒との世間話で、

『窓を閉め切って置けばどんな侵入者も教習等にはぜぇぇったいに入って来れないっす!』と、チナミは聞いていたので、

「それじゃあ、逆に外に出る時はその窓が邪魔になるじゃない」と思い、

一部の窓は開いた状態で固定されるように細工しておいたのである。


緊急時、教室の窓は自動的に閉まり、強固にロックされる仕組みであったようだが、

吸血鬼の能力の一端を使えば、この自動ロックを掛からないようにしておく事なんて造作も無い。

さらにその上からカモフラージュの魔術でもかけておけば、誰かに不自然に思われることも無く、しばらくは気づかれずにも済む。


チナミ「開けっ放しにしていたせいか、この脱出ルートが外部からカースが入り込む通り道の1つになってたみたいね」


入ってきた教室の扉が破壊されていたのは、きっとそう言う事なのだろう。

まあ、学院内にどれほどカースが侵入していようが、チナミには関係のない話である。


チナミ「けれど、これに気づいたヒーロー達より先に辿り着けたみたいで良かったわ」

チナミ「それじゃ、早速ここから脱出させて貰うとしましょう」


(外は雨が降ってるのにどうやって?)


当然の疑問。流れる水を渡れない吸血鬼は、大雨の降りしきる地を歩く事はできない。


チナミ「ふふっ、決まってるじゃない♪これを使うのよ!」


疑問に声に対して、チナミは手に持っていた傘を高らかに掲げて答えた。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:50:20.34 ID:q5aQ6Ewdo<>



チナミ「『ブラックアンブレラ』!」

チナミ「ただの傘じゃないのよ、日差しも、雨も、 こ れ で も か っ !ってほどに遮ることのできる優れもの♪」

チナミ「どこぞの技術を使ったサクライの新商品の試作品らしいけれど、これがなかなかどうしてイケててね」

チナミ「日差しと雨のほぼ完璧な遮断……つまり吸血鬼の弱点2つを、大幅に緩和して受けるダメージをカットしてくれるのよ」


吸血鬼チナミがエージェントに所属してからサクライPに渡されたアイテムの中で、一番気に入っているのがこの奇跡の傘であった。

彼女は昼間活動する際には、常にこれを携帯している。


傘であるため、使用時は当然片手が塞がるし、

日差しや雨を防ぐと行っても、流石に吸血鬼にとって万全のコンディションとはならないようなのだが、

それでも自身の弱点を大幅に緩和できるとなれば、使わない手は無いのである。


チナミ「見た目以上に広い範囲をカバーできるから、流水対策もばっちり」

チナミ「ついでに耐水魔術でも自分にかけて、後はできる限り地面に足をつけないように跳んでいれば」

チナミ「この大雨の中、吸血鬼の私でも、ほとんど不自由なく移動ができるってわけよ♪」


(なるほど)

チナミ「……あらっ?」


ここでチナミ、はたっと気付く。


そう言えば……疑問の声についつい答えてしまっていたが、

果たして自分は誰と会話していたのだろうか。

後ろから小さく聞こえた声の方に首を向けると、そこには――



小キヨミ「それはとっても良い事を聞きましたっ!」

チナミ「なっ!!!!!」


小さな羽を生やし、小さな眼鏡をかけた、とても小さな使い魔が一体。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:51:32.31 ID:q5aQ6Ewdo<>


キヨミ「話はしっかりと聞かせて貰いましたよ!」

さらに教室の扉の方から、眼鏡をかけ髪を後ろで二つに結った少女が現れる。


チナミ「あ、あなたっ!!」

存在感を感じさせない分身を使った盗聴技術。

吸血鬼の能力を使ったチナミの十八番であるが、これは彼女の専売特許ではない。

同じ吸血鬼ならば、同じ事ができても不思議ではないのだ。


チナミ「っ……ぬかったわ」

小チナミ(て言うかいくら機嫌が良かったからって独り言多すぎなのよ……)

口を滑らせたのは、ついうっかりであったようである。


チナミ「……はあ……ま、こうなったのなら仕方ないわね……」

やってしまった事はやってしまった事として仕方ない。

気を取り直して、



チナミ「まったく何の縁かしらね、こんな所で合うのは……ねえ?『家畜派』吸血鬼さん?」

亜麻色の髪を棚引かせながら、吸血鬼の女はあくまで余裕の態度で振り返った。


キヨミ「ここで会ったのが百年目です!『利用派』吸血鬼チナミっ!!」

眼鏡の奥の眼光をきりりっと光らせ、吸血鬼の少女はそれを睨みつける。


学院の教室にて、2人の吸血鬼が再び邂逅したのであった。
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:53:03.02 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「あ、ふふふっ、ごめんなさい

    『家畜派』って言ったけど、そう言えばアナタ追い出されたんだったわね」

『利用派』吸血鬼は、手を口に当て煽るようにくすくすと笑う。

どこから知ったのかはさておいて、『将軍』の娘キヨミが半ば絶縁されていることは既に知っていたようだ。


キヨミ「……」

さて、キヨミがこの場にいる理由だが。

彼女は、人間の研究の為、人間を知る為に、あくまで個人的に『秋炎絢爛祭』へと赴いていたのだった。


なお、そもそも人間を知ろうと思ったのは、人間にこっぴどくやられたためで、

人間にこっぴどくやられたのは……まあ、ほぼ彼女の自業自得ではあったのだが、

彼女が人間に喧嘩を売る原因となったのが、今目の前で笑っている吸血鬼が一因となっていたところもある。


そのためキヨミは、チナミに対して強い敵意を抱いていた。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:53:48.25 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「……この学園祭であなたを見つけたのは偶然ですが……使い魔をつけさせておいて正解でしたね」


しかし吸血鬼キヨミ、冷静さを欠いていたあの祟り場の時とは違う。

チナミの安い挑発などは、軽く流してみせた。


そう、あの時とは違い今回、少女は出会い頭すぐに考えなしの喧嘩を売りはしなかった。

あくまで用心深く、気配を遮断できる使い魔に彼女を見張らせ、しばらく観察していたのである。


チナミ「まったく、何時から覗いてたのかしらね。見かけに似合わずスケベなんだから」

キヨミ「なっ!!どっ、どの口が言いますかっ!!」

チナミ「あーらぁ?怒っちゃったぁー?」

キヨミ「ぐぐぐ……」


……このくらいの安い挑発などは、軽く流してみせる。
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◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:54:53.18 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「で……せっかく気取られずに私を監視できていたのに、

    それでもこのタイミングで私に姿を見せたって事は……この傘が欲しいのかしら?」

キヨミ「……」

チナミ「無言は肯定の証拠よ?ま、それ以外に考えられはしないのだけど」


吸血鬼の活動を補助する魔法の傘。

どんな吸血鬼も喉から手を延ばすほど欲しがるアイテムであったが、

キヨミには、どうしても今、それが必要な理由がある。


チナミ「ずばり当てちゃうけど、

     大方、外で騒ぎを起こした”無能”を助けに行くのに欲しいんでしょ?」

キヨミ「っ!!」

チナミ「図星みたいね、ふふっ」


少女は、一層と力強く女を睨みつけた。

冷静になったから、どんな挑発だろうと流せるわけじゃない。

言われて我慢できないことだって、もちろんある。


キヨミ「あなたなんかにお父様の何がっ!!!」

静かな教室に、キヨミの怒声が響く。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:56:20.13 ID:q5aQ6Ewdo<>
チナミ「あら。もしかして父親を馬鹿にされて怒ったの?

    ……わからないわね、一派を追い出されたって言うのにどうしてあんな野蛮で愚鈍な男を庇ったりするのかしら?

    『家畜派』からはどんどんと人材が抜け出ていってるのに、こんな騒ぎを起こす奴なんて、無能に違いないじゃない」


キヨミ「……」


少女は……父の事を尊敬していた。

彼女にとって父は、勇猛果敢で、力強く、一派をまとめていた大きな存在。


『共存派』のように、種の信念もなく媚びたりはしない。

『利用派』のように、姑息で汚い手段は使わない。


清く、正しく、そしていつだって堂々と彼は自ら戦場に立っていた。


豪快な自信と、それを裏打ちするその強さ。

その華々しき姿があったからこそ、彼の後ろを多くの者達がついて行ったのだ。



その姿が正しくなくて、何だと言うのだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:57:24.90 ID:q5aQ6Ewdo<>

絶縁されてしまった今となってもそれは変わらない。

あの背の頼もしさが、少女にとって力強い思い出として残っている。


キヨミ(騎士団を解任されたのは、私の実力が足りなかったからっ!)

キヨミ(お父様がここまでするほどに『家畜派』が追い詰められたのは……私が結果を出せなかったからっ!)

キヨミ(あの失態はお父様じゃなくって、私の失態っ……!なのにっ……!)


祟り場の一件で、『家畜派』はその勢力を大きく弱らせることとなった。

あの作戦は、『将軍』がキヨミ率いる『紅月の騎士団』の実力を信用していたからこそ任されていたのに、

だが結果は……


キヨミ(……悔しい……っ!)
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:58:12.09 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「ましてや、あんなのを助けにいくつもりでいるなんてねぇ……

    せっかく縁を切ってもらえたんだから、沈む船の事なんかさっぱり忘れて放って置けばいいのに」


キヨミ(お父様を……好き放題言われるのは悔しいっ……!)


チナミ「結局は……”親子揃って、使えない側”なのかしら?」

キヨミ「っ!!!」





少女は、右手で自らの魔翌力の制御装置である眼鏡を掴むと、

力任せに外し、此方を見下ろす女へとその眼光を向けた。


チナミ「…………あら?戦うつもりなの?困ったわねぇ

    別に、傘くらいなら貸してあげてもいいのよ?


    お願いしますって言って頭を下げるなら……だけど、ふふふっ」


それでも、なお女は余裕綽々に笑う。


キヨミ「……いいえっ!結構ですっ!

    敵に……媚び諂ったりなんてするつもりはありませんからっ!」


キヨミ「正しさはあくまで………自分の力で示します!!」


それが彼女が父の背から学んだこと。

己の正しさは、己の強さで示さなければならない。
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◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 05:59:43.42 ID:q5aQ6Ewdo<>


一触即発の2人の吸血鬼の対峙する教室。


さて、どちらかが動きだす前に、

教室の入り口の方からドタバタと、2人の男が入ってきた。


騎士A「キヨミ超☆騎士団長!!」

騎士B「わ、我々も助太刀します!!」


『紅月の騎士団』において、キヨミに付き従っていた2人の吸血鬼がキヨミの隣に立つ。

彼らは気配を消せないため、キヨミの指示で教室からやや離れた位置に待機していたのだが、

キヨミの怒声を聞いて駆けつけ、今にも戦闘の始まる様子に耐え切れず、出てきてしまったようである。


キヨミ「…………2人ともありがとう。でも大丈夫」

騎士A「……超☆騎士団長?」


キヨミ「これは……私の戦いだからっ!

    卑怯な真似はしないわ、これは私と…あの女の一騎打ち!」

騎士B「団長……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 06:00:27.12 ID:q5aQ6Ewdo<>

それは覚悟。


チナミ「……こっちは一人だから、気づかってくれたのかしらね」


負けは許されない戦い。


キヨミ「……勘違いしないでください。

    貴女一人くらい、私一人で充分だって言ってるんです」


それでも、自身の正しさを示すために、

勝利を、己の手で掴みとってみせると言う決意の現れ。


騎士A、B「……」

団長の覚悟の言葉を聞いて、2人の騎士は幾歩か下がる。


キヨミ「さあ、どこからでも掛かってきなさい!」


チナミ「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 06:01:24.72 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「…………お互い吸血鬼だもの、魔眼は通じない……」

吸血鬼の切り札とも言える魔眼の能力であったが、

派閥間による争い合いの絶えなかった吸血鬼達の間においては、

同族の用いる切り札の対策などは、山ほど考案されて事前に講じられているものであった。


この場に置いても、

少なくとも、チナミの魅惑の魔眼は、キヨミ自身には通じないし、

キヨミの特殊な魔眼にしても、チナミ自身には通じないだろう。


チナミ「なるほど、純粋な力比べってわけね」

切り札が通じない者同士の一騎打ちであるならば、勝負は単純。

どちらがより力強いかで決まってしまう。


チナミ「わかったわ、それじゃあさっそく――」


チナミが手を高く振り上げると――




――キヨミを囲むように地面から不浄の泥が沸きあがった。


キヨミ「なっ!?」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 06:02:18.33 ID:q5aQ6Ewdo<>


『ギャハギャハギャハギャハ!!!!』
『ゲゲゲゲゲゲ!!!!』
『イーヒッヒッヒッヒッヒ!!!!!』

教室の床から湧き出たのは……

ドス黒い闇に紅の色を混ぜ込んだような、3体の狼の姿をしたカース。


チナミ「そんな勝負付き合うわけ無いじゃない」

キヨミ「っ!」


吸血鬼チナミ、もちろん相手の土俵に立ちはしない。


チナミの合図で呼び出された3体のカースはその鋭い牙を剥いて、

獲物を狙うようにキヨミへと向き合った。


騎士A「カースを操っているだとっ!!」

チナミ「あら?知らん振り?

    ”カースを吸血鬼の戦力にする”事を考えたのは、あなた達『家畜派』でしょう?

    私はそれの真似事をさせてもらっただけよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage<>2014/12/15(月) 06:03:04.47 ID:q5aQ6Ewdo<>

”カースの核”に魔翌力を注ぎ、戦力として用いることを『家畜派』吸血鬼達は考えた。

チナミはその発想をそのまま転用し、『眷族化カース』をいとも容易く操ってみせる。


『カースの核を集めよ。』と言う、『エージェント』としての指令を実行しているチナミは、

ほぼ常にカースの核を携行しているために、これらの駒をすぐさま用意する事ができた。


なおかつ、チナミは教室に来るまで途中出会ったカースを、この眷族カース達の”腹の足し”にしている。

そのため、チナミの操る眷族カースは……通常のカースの何倍も強い!


騎士B「キヨミ騎士☆団長!!ここはやはり……」

『ゲヘッ!!』


やはり助太刀を、と騎士が前へと歩み出る前に、

眷族カースの鋭い爪が、キヨミへと振り下ろされた!
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:04:26.56 ID:q5aQ6Ewdo<>


だがしかし、


『ヘヘ――?―』
『アッ…?ギャ――』
『ギギギ――!?』


キヨミ「……呆れました。こんな程度ですか?」


眷族カース達の爪は、キヨミへと届く前にピタリと停止した。

怪しい光を灯す彼女の眼に見つめられ、カース達の爪先は既に石と化していた。


石化の魔眼。

見つめた相手を物言わぬ石へと変える呪いの極地。

彼女の使える必滅の切り札。


『『『―――――』』』


彼女に見つめられたカース達は3体とも、たったの数秒で石像と化した。

魔眼への耐性を持たない相手など、キヨミにとっては何の脅威にもなりはしない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:05:00.91 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「ふんっ!」

そして持ち前の怪力で、キヨミは3体の石像を破壊する。

ゼリーのようにサクリと、ガラスのように粉々に。


キヨミ「さあ次はあなたの番……」


そこまで言いかけて、彼女は気がついた。


キヨミ「えっ?」




先ほどまでそこに居たはずのチナミの姿が無い。




キヨミ(っ!気配の遮断っ!!)


それは影へと溶け込む吸血鬼の能力の1つ。

一瞬でも視線を外せば、彼女達はふっとその存在を影へと消してしまえる。


キヨミ「か、カース達は私の視線を誤魔化すための囮っ!つまり……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:05:36.96 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「に、逃げられたっ!?」


まさか、と言うほどの事も無い。

先ほど、チナミ自身が言ったとおりであり、

キヨミの吹っかけた戦いにチナミが付き合う理由などあるはずもなく。


彼女はこの学院を脱出しようとしていたのだから。

あの祟り場の時と同じく、戦いを放棄して逃げてしまっていてもおかしくはなかった。


キヨミ「ま、窓の外っ!まだすぐそこにいるはずっ…」


確認の為に、急いでキヨミは教室の窓へと駆け寄るが……



騎士A「超☆騎士団長!!後ろですっ!!!」


キヨミ「えっ」

騎士の言葉は……残念ながら遅かった。

キヨミがその声を聞いたときには、既に少女の目の前に、


鋭く光るナイフが突きつけられていたのだから。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:06:35.37 ID:q5aQ6Ewdo<>


キヨミ「えっ……あっ………」

目前に突きつけられているそれが何かを理解した時、


キヨミ「ぁぁぁあっ!!」

少女に恐怖が蘇る。

痛みと共に、鮮烈な敗北の記憶。


チナミ「……あっけない。セイラにこっぴどくやられたとは聞いてたけどよっぽどだったのね」

ナイフを持った右手を少女の目の前に突きつけて、

左手は、抱き寄せるように優しく、

震える少女の身体をその背後から支えながら、

退屈そうにチナミは呟いた。


騎士A「超☆騎士団長!!」

騎士B「今すぐ助けにっ!!」


チナミ「させるとでも?」


チナミが言葉を発すると同時に、

キヨミを助けようと動いた騎士達の背後から、何本もの手が延ばされる。


騎士A「なっ!?」

騎士B「にっ!?」

幾つもの手によって腕や脚を掴まれ、

彼らの身体はあっと言う間にガッチリと拘束されてしまった。


騎士A「ば、馬鹿なっ!?どうして……ここにっ……人間達がっ!?」

抵抗する2人の騎士をその場に抑え付けるのは、

ただの人間……学生達の手であった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:07:45.00 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「魅惑の魔眼、見つめた人間を私の操る傀儡へと変える呪縛」


学生「「「「……」」」」

騎士B「うぐぐ…」


チナミ「ふふっ、もしもの時の備えよ。使える駒は多いに越した事はないんだから」


これもまた、チナミの活動がもしヒーローにバレて逃走する事となった場合の、事前準備。

暗示魔法の応用、遅効性の暗示を何人もの学生へと掛け、”可能であるならば”この場にやって来るように仕向けておいた。

それらを魔眼で見つめ改めて操り、女王の指令に従がう奴隷へと変えてしまう。


チナミの操作によって、この場に集まってきた学生達は計6人。

騎士一人に対しての3人の学生が、彼らを床へと押さえつける力を発揮する。


騎士A「ぐっ…しかしなぜっ……この程度の人間の数などっ」

騎士達は、怪力自慢の吸血鬼。

本来ならばこの程度の数の人間による拘束などものともしないはずである。

そう、本来ならば…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:08:28.82 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「私の魔眼はね、脳に直接指令を送る事が出来るの。

    これが面白いのはね、対象の自律神経を弄くって、脳がかけてるリミッターも外せることね」

騎士B「何っ……」


チナミ「知ってるかしら?火事場の馬鹿力ってやつよ」


人間の脳は、身体の無理な運動に対して自動でそれにブレーキをかけようとする。

しかし、身体の破壊を厭わない状況下であれば、そのブレーキを外すこともできるのだ。


チナミの魔眼の指令によって、強制的に脳のリミッターを外された学生達は吸血鬼並の怪力を発揮する事ができた。

たとえそれによって、自身の骨が折れて、肉が裂けたとしても、機械の様に与えられた指令を忠実にこなそうとする。


騎士A「……げ、外道がっ」

チナミ「人間を家畜扱いしてる貴方達に言われたくはないけれど、

    ま、何だっていいわ。私は利用できるものは全部利用するだけだから」


非難の言葉も”利用派”にとっては褒め言葉。

苦悶の表情を浮かべる騎士達を見下しながら、チナミは嬉しそうに笑った。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:09:17.99 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「さてと……」

人間を操り、騎士達を無力化したチナミは、

腕の中で震える少女を見下ろす。


キヨミ「はぁ……はぁ…………」

眼前に突きつけられた鋭利なナイフに怯え、

キヨミは無力な少女のように、ただ身体を震わせていた。


チナミ「……この状況で抵抗はできないわよね?

    魔眼や魔術の制御にはコンセントレーションが大事だもの。

    極度のトラウマで、集中できない状態なら発動さえ出来ないわ」


魔眼や魔術の制御には、通常、精密な魔力コントロール能力が要求される。

才能や感覚だけでそれを行える者も一部いるが、

そのような者達でも、正しく魔術を発動するには精神状態が普通である事が大前提。


極度に感情が揺さぶられる状態で無理に魔術の行使を行おうとしても、

その多くは形にもならずに失敗に終わる。

さらに”運悪く”魔術が形になったとしたならば、それは魔術の暴走と言う最悪の結果を引き起こしてしまうだろう。


チナミ「思いあがっていたところ悪いけれど

    今突きつけてる”これ”が現実。いったいどんな気分かしら?」

キヨミ「………ふ、ふぅ……ふぅぅ……」

チナミに問いかけに、少女はただ息を震わせる。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:10:15.25 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「答えることも、できないみたいねぇ」

キヨミ「………ぁぅ……」


キヨミ(どうして……)

抵抗する意志がないわけではない。

自分の身体に絡まる女の腕を引き離すために、少女は今もその手を懸命に動かそうとしている。

しかし、彼女の両手は命令には従わずただ震えるばかり。


キヨミ(どうしてっ……)

目の前の刃から逃れるために、少女はその足をほんのわずか一歩でも逃がそうとするが……

それも不可能、彼女の両足はまるでそこから動くのを拒むかのように力が入らなかった。


キヨミ(こんなに……悔しいのにっっ!)

頭の中は冷静なつもりで、けれど目先の凶刃からは目を離せず、

血は冷え切って、感情ばかりが昂ぶって、焦る想いは空回るだけで、

少女は人形のように固まってしまった自身の肉体を、どうすることもできはしなかったのだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:11:02.64 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「喋られないのなら、当ててあげましょうか?」

キヨミ「…………ぇっ?」

震える身体を動かせない少女には、ただ敵の言葉に耳を傾けることしかできない。


チナミ「貴女の思っているはずよ、”どうして私は貴女をすぐには傷つけないのか?”」

キヨミ「……」

確かにそうだ。

不気味なほど優しく語り掛ける女の言葉を聞いて、その疑問に思い至る。

キヨミには一切の抵抗ができないこの状況、

女はその手に持つ凶刃をすぐさま振りかぶり、自分に突き刺すこともできるはずなのに……

なぜ、それをしないのか。


チナミ「利用できるからよ」

その答えをチナミはあっさりと答える。


チナミ「現在進行形でヒーロー達に敵対する将の娘……

    そんなのは幾らでも利用する価値があるでしょう?

    例えばそう、この学園に来ているヒーロー達に貴女を引き渡す…なんて言うのもありかしらね」

キヨミ「っ……」

ヒーロー達がそのような手を使うかどうかはともかくとして。

敵将の娘が手中にあったのならば、有利な交渉をする事も充分に可能であろう。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:11:59.03 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「それに、利用方法はそれだけじゃあないのよ?

    知ってるかしら?吸血鬼って値がつくのよ」


人々が怖れ崇める不死身の怪物吸血鬼、

その麗しきまでに怪奇なる存在の持つ魔道の力、あるいは荒ぶる肉体を

羨み、欲する者達などはこの世に多く存在し、

それ故に、彼らの肉体の一部であったとしても高額で取引されることは珍しくはなかった。


チナミ「それも、あなたみたいな美少女ならなおさらに…」


もちろん、美しき彼らの肉体が、

まるまる1つで手に入るのならば、それに多くの資産を投じようとする者も少なくはなく…


チナミ「そうねえ、貴女なら相場は……100本前後と言ったところかしら?」

キヨミ(……本?)


キヨミにその単位はよく分からなかったが――


チナミ「このまま人間に売っちゃうのも悪くないわね、

    使用用途は、ペットかモルモットってところかしら…

    あははっ、良かったわねえ!”家畜扱い”よりは大切にしてもらえそうじゃない!」

キヨミ(……っく)

まるで物の様に、自分が売り飛ばされようとしていることは理解できた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:13:03.18 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ「…………なーんて、ね。ふふっ、冗談よ

    そんな事するわけないじゃないの」

キヨミ「ぇっ……?」

脅すような言葉を紡いでいた女が、急にその態度をころっと変える。


チナミ「同族が傷つくのを見るのは、私だって気分が悪いものね」

キヨミ(何を……言って)


今更、”利用派”吸血鬼であるチナミが、

同族に対してそのような情を持っているなどとは到底思えない。

おそらくは心にも無いであろう言葉の意味をキヨミは測りかねていた。


チナミ「あなたももちろん嫌でしょう?人間に使われるなんて……ねえ?

    だから譲歩して、お互いが得をする別の提案をしてあげるわ」

キヨミ(別の……提案?)

チナミ「この傘は貸してあげる、あの男を助けに飛んでいくのもよしとしてあげましょう。

    でも、その代わり――」


チナミ「私も連れて行きなさい」

キヨミ「……!」

チナミ「ふふっ、簡単でしょう?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:14:07.02 ID:q5aQ6Ewdo<>

それはとても簡単な交換条件、

キヨミが、父である将軍の元へと行く事を許す代わりに、

敵である彼女を、父の元へと案内しろと言う。


チナミ「別に、貴女に一派を裏切れと言ってるわけじゃないの

    ただ、貴女が父親に会いに行くのに私も連れて行くだけ…

    たったそれだけの事よ。ね、いい話でしょう?」

キヨミ「……」


本当に、それだけでいいのだろうか。


チナミ「貴女の誇りや尊厳が傷つくよりは、ずっとマシな選択だと思うけれど?」


確かにそうだ。

彼女の頼みはとても簡単で、これに従う方がどれほど楽なことだろう。

その提案はまるで絶望的な状況に、垂らされた一筋の希望の糸であった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:14:58.24 ID:q5aQ6Ewdo<>

もちろん、彼女がその裏に何らかの企みを隠している事は明白であるが、

それでもたかが吸血鬼を1人、

父の元に連れて行ったところで、それが父の身に危険を及ぼす切っ掛けになるとも思えない。


ならば、ここは一先ず素直に従っておいた方が懸命であろう。


それに……自分は彼女に負けたのだ。

正しさは強さで示さねばならず、

強い者は勝たねばならず、


すなわち敗北者である自分は……

勝者である彼女の言い分に従うのが世の摂理だ。

だから


キヨミ「……」


だから…



キヨミ「……お断りします」

チナミ「聞き間違いかしら?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:15:46.61 ID:q5aQ6Ewdo<>


キヨミ「お断りします!!あなたの言葉は超☆正しくないっ!

    全然まったく正しくないあなたの事を少しも信用できたりしませんっ!!

    あなたの頼みに従う理由なんてこれっぽっちもないっ!」


震える少女はぎゅっと目を瞑り、残るわずかな勇気を振り絞って叫んだ。


チナミ「……」

キヨミ「はぁ……はぁっ…!」


それは少女ができる最後の抵抗。

信じる正しさを曲げない事。

恐怖に身体が屈していても、心の内までは屈したくはなかった。


彼女は、『紅月の騎士団』の超☆騎士団長キヨミ。

己の信念を誇り、正々堂々と最後まで戦いぬく、覚悟を持つ勇士であった。


チナミ「ばかばかしいわね……呆れるわ。自分の身を天秤に掛けても

    まだアイツを売れないなんて、どっちが大切なのかもわからないのかしら」


少女の覚悟を、チナミは蔑んだ目で見下ろす。

どれだけ言葉だけの覚悟を示したとしても、非情な現実は変りはしない。

チナミにとってはやはり、刃を突きつけられ震える彼女は、哀れで無力な贄に過ぎない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:17:06.41 ID:q5aQ6Ewdo<>
チナミ「それとももしかして…………親子の絆なんかを信じちゃってる口なの?」

キヨミ「……」


チナミの声のトーンが落ちる。

どうやら、キヨミの抵抗に何か思うところがあったらしい。


チナミ「もし、そうだったなら教えておいてあげる

    あの男はあなたのことなんて、


    ”便利な道具”程度にしか思っていない。」


キヨミ「……」


チナミ「使えないと分かったら、すぐに切り捨てたのがその証拠。

    もし、今仮に、あなたとあの男の立場が逆だったとしましょう。

    その時はあの男は、すぐにあなたを売っていたでしょうね」

キヨミ「……」


チナミ「絆なんてくだらない幻想、

    そんなモノはこの世のどこにだって存在しないのよ」





キヨミ「あーあー!!ぜぇんっぜん聞こえませんねっ!!!

    貴女の嘘まみれの言葉なんて私の耳には、少しも届いてませんっ!!!」

チナミ「イラッ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:18:05.11 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「あっそうっ!どうだっていいけれどっ!

    あくまで聞こえない振りをするなら、無理にでも聞いてもらうだけよっ!」


そう言ってチナミは、少女の顎を左手で掴み右手のナイフをさらに近づける。


キヨミ「……っ」

目を瞑っていても、少女にはその鋭く冷たい気配が肌で感じられる気がしていた。


チナミ「だいたいこれは頼みじゃなくって命令よ、命令。

    頷く以外の返事を認めるつもりは最初からないの。

    立場がわかっていないなら、わからせてあげるまで」


キヨミ「……」


チナミ「選ばせてあげる、先に抉り取られるのは

    右目と左目、どっちがいいかしら?」


チナミの鋭いまなざしが、ナイフの様に冷徹に選択を迫った。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:19:03.70 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ(……まだ大丈夫……屈したりはしない)


諦めるにはまだ早い。

だが、キヨミがこの場を切り抜けるには、少々覚悟を決めなければならないようだ。


少女は瞑っていた目を薄っすらと開く。


キヨミ(……っ)


すぐ眼前には銀の刃。

今にもその脅威は彼女に向けて、飛び掛ろうとしているようにも見えた。

その切っ先が視界に映ると身体が奮え、再び思考が恐怖によって断ち切られそうになるが、


キヨミ(……お父様っ)

信じる者の為に、恐怖を振り切って、視線を別の場所へと移す。


銀の刃を持つ吸血鬼の右手、その僅か下、

丁度、肘の辺りに取っ手が引っ掛かっているのが見える。


キヨミの目的の物。大雨を遮断する闇色の傘。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:19:47.92 ID:q5aQ6Ewdo<>

不幸中の幸い、目的の物は手を延ばせば届く距離。

ただしそれを手にするために動き出したならば、

少女のどちらかの瞳は、再び失われることとなるのだろう。


鮮烈な敗北と痛みの恐怖が蘇る。


けれども、乗り越えねばならない。


キヨミ「……負けません」


チナミ「はぁ?」


敗北や痛みの恐怖がなんだ。

信念を貫き通せない事の方が、よっぽど怖いじゃないか。


キヨミ「私はあなたなんかに負けませんっ!!

    絶対に打ち勝って、お父様を助けに行きますっ!!」


チナミ「はい残念、不正解。二択問題をはずすなんて仕方ない子ね。

    でもいいのよ、どちらかの答えを選べないなら特別に……」


片目は……犠牲にする。

けれど、その代わり目的の物は絶対に手に入れる。


チナミ「私が選んであげるからっ!」

キヨミ「っ……」


ナイフが自分の目に突き刺さったならば、敵がナイフを引き抜いて次の行動に移るまでには必ず隙ができる。

その瞬間を狙って、うまく傘を奪い取ればいいだけの話だ。



チナミの右手が大きく振りかぶられて、

そして…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:21:58.39 ID:q5aQ6Ewdo<>




――ガィンッ!


チナミ「っぐ!」


キヨミ「えっ?」


チナミの右手のナイフが、猛烈な速度で飛んできた黒色の何かによって弾き飛ばされた。

あまりに唐突な出来事に、キヨミは面食う。


チナミ「だれっ!!」

黒い何かが飛んできた方向に向けてチナミが叫んだ。


教室の入り口の方へと、2人が目を向けると、そこには…



 「あ ー は っ は っ は っ は っ!」


ポーズをキメて、高らかに笑う一人の少女。


その少女が今、名乗りを挙げる。


「私は、愛とせい


チナミ「ひなたん星人っ!」


美穂「あぁっ!な、名乗りきる前に言わないで欲しいナリっ!!」

突然の乱入者は、刀を持った黒い衣装のちょっと電波っぽい少女であった。


美穂「あ、改めて!愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人ナリっ!」

Pくん「マっ!」


キヨミ「……」

背中に謎の小熊を背負った少女の登場。どう見てもイロモノ系の乱入であった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:23:17.90 ID:q5aQ6Ewdo<>


美穂「ええっと……状況はいまいちよくわからないけれど、その女の子を離すひなたっ!」

Pくん「マぁマッ!マっ!」


チナミ「……」


ヒーローの到着。

チナミの用意していた脱出口を利用していたカース達のせいであろう。

カースの気配を追って、呪いの刀を持つ少女はこの場所に辿り着いてしまったようであった。


チナミ(引き上げね……)


どうやら、ひなたん星人はこの場の状況を見て、チナミを悪者であると正しく判断したらしい。

当然、チナミにはヒーローと戦闘する気は少しも無い。

そのような状況は、チナミにとって真っ先に避けるべき事態である。


チナミ「取り押さえなさいっ」


逃走の時間を稼ぐために、チナミは先んじて行動に出た。

チナミの目が怪しく光ると、騎士達を取り押さえていた学生の内の何名かがふらふらと立ち上がり、


乱入してきたヒーローに空ろな目を向け無言で飛び掛る。


Pくん「マっ?!」

美穂「っ?! あ、操られてるナリっ?!」


チナミが彼らと言う駒を用意していたのは、このような場合にヒーローの相手をさせるため。

一般人である彼らを、ヒーローは無闇に傷つける事はできないだろう。

ヒーローは傷つける事のできない彼らに苦戦し、その間に逃走の時間を稼ぐことが出来ると言う寸法だ。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:24:30.18 ID:q5aQ6Ewdo<>

美穂「……ラブリージャスティスっ」

しかし、チナミの目論見に反して、

駆けつけてきた少女はすぐさま刀を構え直すと、


美穂「ひなたんみねうちっ!!」


抜き放つように一閃。その技を撃ち出した。

刀が一瞬のうちに振りぬかれ、彼女に向けて飛び掛った学生達はすべて床へと倒れ伏す。


チナミ「なっ!」


美穂「しばらく寝ていて欲しいひなたっ!」

Pくん「マっ!」


ひなたん星人の”不殺の一撃”、

これによってチナミの駒は”傷つく事無く”戦闘不能となった。


チナミ「くっ…流石ねっ……けどそれなら次は…」

操る学生達による攻撃が振り切られようとも、チナミにとってそれはたかだか一手。

攻略される可能性も予測の範疇。一手を抜かれたならすぐさま次の一手を指すだけのこと。


チナミ「って痛っ!!」

だが、次なる一手を打とうとしたチナミの左腕に痛みが走る。


キヨミ「ぎぎぎっ…!」

見れば刃の脅威から逃れた少女が、チナミの左腕に噛み付いていたのだった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:25:31.37 ID:q5aQ6Ewdo<>


チナミ(っ!!まずいっ!!)


吸血鬼が牙を突き立てる。

それは血を啜る怪物にとって、飢えを満たす行為だけには留まらず、

数々の伝承において、”人間を吸血鬼に変える”とさえ考えられている儀式的行為。


もちろん、元より吸血鬼のチナミにはその心配はないが、

しかし、吸血鬼に噛まれる事自体が、その吸血鬼によって支配されることを意味する。


その主なる効力の1つが、血液の流れの操作。

キヨミに噛まれた事でチナミの体内の血液の流れが狂わされ、それによって――


チナミ「………っ!」


肉体が硬直する。


自信の体内の血流を操作することなど、吸血鬼にとっては造作もないこと。

チナミも当然、すぐさま狂った血流の正常化を謀り、肉体の動作を取り戻そうとするが――


――それがほんのわずかな時間であっても大きな隙ができる事には変わりない。

敵を目前にして致命的すぎる隙がである。


キヨミ「はああっ!!」

続けざまに、少女の蹴りがチナミの腹部目掛けて放たれた。


チナミ「はらぱんっっっ!?!」

その強蹴を諸に受けたチナミの身体は、大きく後方へと一直線に吹き飛ばされて、

途中、並べられていた机や椅子などを弾き飛ばしながら、

教室の後ろの壁へとドカリと、強烈な音を鳴らしてぶつかった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:26:31.22 ID:q5aQ6Ewdo<>

美穂「……」

美穂「え、ええっと……」

美穂(あ、ありのまま今起こった事を話すひなたっ!

   人質として捕まってたと思った女の子が、なんだかすごいを発揮して、捕まえてた女の人を蹴り飛ばしたナリっ!)


その様子を見てひなたん星人、しばし困惑。

捕まっていた少女の思わぬ反撃は、ひなたん星人にとってもまるで予想外の事であった。


美穂「い、今の蹴りは流石に死んじゃうんじゃ……」


困惑から、思わず悪人だと思っていた方の無事さえ心配をしてしまう。

何しろキヨミの蹴りは、吸血鬼の怪力から放たれる渾身の蹴撃で、

傍から見てもその威力は絶大であったのだから。


キヨミ「……このくらいで倒れてくれる相手なら超☆楽だったんですけれどね……」


しかし、キヨミは静かにそう呟いた。

ひなたん星人に横から声を掛けられても、あくまで敵を吹き飛ばした方向からは目を離さずに……


美穂「えっ?」


キヨミの言葉を聞いて、ひなたん星人が同じ方向へと視線を向ける。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:27:40.48 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「……」


美穂「……こ、こっち睨んでるひなた……」

Pくん「マぁ……」


果たして、倒れた机や椅子の中、チナミの姿は健在であった。

強く身体を打ち付けたためか、彼女は頭から血を流し、腹部を押さえて座り込んでこそいたが、

その眼光は変わらず、鋭くひなたん星人達の立つ方へと向けられていた。


美穂(あの蹴りを受けてあんな眼ができるなんて……す、すごく頑丈ナリ……)


怒り故にか、吊り上ったその視線は狩人の如く冷徹で、

その凄みに思わず怯んでしまいそうにもなってしまう。


キヨミ「……逃げてください」

美穂「えっ?」


キヨミがひなたん星人に向けてそう言った。

ひなたん星人にとっては、助けに入った少女からの思いがけない言葉で。

少々間の抜けた顔になってしまっている。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:28:31.25 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「……あの女は吸血鬼です。この程度の負傷であればたちどころに回復してしまうでしょう」


キヨミの言う通りであった。

相対するチナミは不死なる怪物吸血鬼、その肉体再生能力は驚異的であり、

この程度の軽症であれば、造作も無く回復してしまえる。


キヨミ「とは言え、流石にノーダメージではないですから……すぐには動けないはずです。

    だから、今の内に……」

美穂「……」


吸血鬼チナミがこちらを睨み付けてこそいれど、

攻撃行動に移ろうとしないのは、安静によるダメージの回復を計っているのだろう。


チナミ「……」


恐らくは、チナミがこの状態を保つのはあと数秒ほどで、

回復を終えてしまえば、すぐさまこちらに襲い掛かってくるであろうが、


この場を逃げ出すだけならば、その数秒は充分にすぎる時間である。


キヨミ「それにこれは私の問題です。人間の手を……借りたくは……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:29:26.42 ID:q5aQ6Ewdo<>
美穂「……」


さて、なおも事情のほどはよくわかっていなかったが

とにもかくにも、吸血鬼の少女にこの場から逃げるように促されたひなたん星人。


その場でほんのわずかに逡巡したようであったが、

次の行動は早かった。


キヨミの訴えを聞いてか、聞かずか、

返事は返さずに、ひなたん星人はその足を数歩、前へと動かす。


キヨミ「……えっ」

美穂「……」


彼女はキヨミに背を向けて、座り込む吸血鬼に堂々と向かい立ち、

そして、高らかと言い放った。


美穂「ここは私に任せて、先に行くひなたっ!!」

Pくん「マッ!!」

キヨミ「……」

状況に合っているのかよく分からないセリフを何故か自信満々に言い放つ。



美穂「このセリフ、カッコイイから一度言ってみたかったナリっ!」 グッ

Pくん「マッ!!」 グッ


色々と台無しである。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:30:24.71 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「ふっ、ふざけないでくださいっ!話を聞いてましたかっ!?」


キヨミの忠告や言い分をまるで一切無視するかのようなひなたん星人の行動。

キヨミが怒るのも当然であった。


美穂「あなたの言葉は、ちゃんと聞こえていたナリ」

キヨミ「じゃあっ!」

美穂「”助けたい人がいる”って言ってたひなた★」

キヨミ「!」


『私はあなたなんかに負けませんっ!!絶対に打ち勝って、お父様を助けに行きますっ!!』

先ほどのキヨミの叫びは、教室の外に居たヒーローの耳にも届いていたようだ。


キヨミ「……」

美穂「詳しい事情は……やっぱりよくわからないから、もしかすると余計なお世話なのかもしれないけれど……

   でも、急ぐ必要があるならここは私に任せて欲しいナリ」


それが、ひなたん星人がこのような行動をとった理由。


キヨミには、誰かを助けに向かうに必要があって、

しかし、目の前の敵と戦っているために足止めを余儀無くされている。


この状況を見て、彼女はそのように解釈したのであった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:31:19.89 ID:q5aQ6Ewdo<>

キヨミ「……」


キヨミは思案する。


出来れば人間の手は借りたくない。それは本心だ。

祟り場での一件で、考えを改めたとは言え、彼女は元は『家畜派』吸血鬼。

人と手を結ぶなど『共存派』のような行動はやはり恥だと考えていた。

ましてやこれは吸血鬼同士の戦い。横入りされたくは無いのは正直な気持ちであった。


キヨミ「……」


しかし、

その人間に今、助けられたのは事実であり、

そして、彼女に助けられたことによって、またとないチャンスを手にした瞬間であることも事実。


キヨミの右手を強く握り締める。

その手に掴まれているのは闇色の傘。

蹴撃を放つ直前に、チナミの腕から奪ったものだ。

これがあるならば、大雨の中での行動の制限が大幅に緩和され……間違いなく、父を助けに行く事ができる。


プライドと信じる思い。

秤にかけた少女は、一つの答えを選ぶ。


キヨミ「……お父様っ」


美穂「決まりひなたっ♪」


少女の搾り出した言葉を聞いたヒーローは、その答えを察してか朗らかに笑った。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:32:12.63 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「…………させるわけないでしょ」


とは言え、そうは問屋が卸さない。

頭を抑えながら座り込むチナミが小さく呟くと、教室の床から不浄の泥が再び湧き上がる。


『キシャシャシャシャシャァア!』

『グルゥウウウウウウ!!』

凶暴な獣の様な声をあげ、血走る肉体を震わせながら2体の眷族カースが再び現れた。



騎士A「はああっ!」

『ぎゃいんっ!?』

騎士B「この野郎っ!」

『きゅぅうんっ!?』


だが現れたカース達は、ひなたん星人の登場によって拘束が緩んだことで、

立ち上がることのできた騎士達の剣によって即座に両断された。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:33:23.74 ID:q5aQ6Ewdo<>
騎士A「超☆騎士団長!事態は一刻を争うはずです!」

騎士B「遺憾ではありますが……ここは…一先ずその人間に任せましょうっ!」


キヨミ「……ええっ!わかってる!」

騎士達に促され、キヨミは教室の開いている窓の方へと急いで向かう。


キヨミ「……」

その途中で一度だけ振り返り、


キヨミ「ヒナタンセイジンさん…でしたね……この借りは、いずれ返します」


背後にて、利用派の吸血鬼と対峙するヒーローに感謝の言葉を述べた。


美穂「礼には及ばないひなたっ★」


キヨミ「それと……」

美穂「?」

キヨミ「時間がないので簡潔に。”不意打ちには充分に気をつけてください”」

美穂「えっ?」

騎士A「騎士団長」

キヨミ「今行くわ」


最後に忠告めいた言葉を残して、3人の騎士達は窓の外へと去っていくのであった。


美穂(……どういうことひな?)

Pくん「マぁ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:34:12.27 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「よっと……はぁ……まったく」

美穂「!」

Pくん「!」


足の折れた机を押しのけて、吸血鬼がゆっくりと立ち上がる。

肉体の動作を確かめるように、コキコキと首や腕を動かしながら。


チナミ「変な方向に体が曲がっちゃったらどうしてくれるのよ……」


ひとりごちるようにぼやく彼女の衣服はところどころ擦り切れていたが、

頭の流血はすっかりと止まっていたようであった。

先ほどのダメージは何処へやら。とても消耗しているようには見えない。


ひなたん星人は、立ち上がった彼女に向けてすぐさま刀を構える。


美穂「ここは絶対に通さないひなたっ!」

チナミ「ふーん、あくまであの子を追わせないってわけ」

美穂「それが私の役目ナリ★」

そう言って、少女はニヤリと笑って見せた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:34:56.46 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「…………気張ってるところ悪いけれど、ヒーローと戦う気なんて私にはないのよ」

美穂「? 戦うつもりはないひなた?」


やる気満々に刃を向けたひなたん星人に対する吸血鬼の返答は、

意外なものであり、交戦の意志は特に無いらしい。

実際に、先ほどまでの視線に籠っていた敵意は彼女の目からはもう消えうせていた。


チナミ「そうね。そんな事より……わかってるの、あなた?」

美穂「?? 何がナリ?」

チナミ「はぁ、やっぱりわかってないのね」


何のことかわからない。と言った顔をするひなたん星人に対し、

吸血鬼チナミは、呆れたような態度を見せる。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:35:46.21 ID:q5aQ6Ewdo<>
チナミ「あなたが逃がしたあの子、今上空に居てこの学園を攻撃してきている”将軍”って奴の娘よ」


美穂「……」

チナミ「……」


美穂「……」

チナミ「……」

Pくん「マぁ?」


美穂「……」

チナミ「……」

Pくん「……」


美穂「えっ」

チナミ「えっ、じゃないわよ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:36:28.12 ID:q5aQ6Ewdo<>

美穂「ちょ、ちょ、ちょっと待ってほしいひなたっ、そ、それって…」


明かされた事実に焦るひなたん星人。

それはそうだろう、ひなたん星人のとった行動はつまりは……


チナミ「ふふっ、呆れちゃうわね。ヒーローが”利敵行為”なんて」

美穂「と、とととととんでもない事をしちゃったひなっ?!」


慌てて、騎士達が去った窓の方へと視線を向けるが、もちろんもうとっくに手遅れ。

彼女たちは、目的を果たすために行った後である。


美穂「あっ……うぅ……」


チナミ「あーあー、やっちゃったわねぇー」


呆然とする少女の様子が大層おかしかったのか、チナミの機嫌はすっかりと戻っていた。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:37:47.31 ID:q5aQ6Ewdo<>
チナミ「ま、あなたの能力なら今すぐ追いかければあの子達に追いつけるんじゃないかしら」

チナミ「私はさっきも言ったけれど、ここであなたと戦うつもりはない」

チナミ「言い換えれば、あなたがあの子達を追おうとするのを止めたりする気は――」


言いかけた、チナミの言葉が止まる。


なぜなら、チナミの目前に刀の切っ先が向けられていたからだ。


チナミ「……何のつもりかしら?」

美穂「……」

傲慢なる妖刀、『小春日和』をしっかりと構える少女の姿をチナミは見据える。


チナミ「……まさか私が嘘をついたと思ってるとか?」

美穂「……疑ってるわけじゃないひなた、たぶん…さっき言った事は本当のことだと思ってるナリ」

美穂「だから……事情も確認せずにいきなり飛び出して、

   ちゃんとお話を聞いていなかったのは……うぅ、確かに私のダメだったところひなた」

美穂「今すぐ追いかけて、あの子からお話を聞きたい気持ちもあるけれど……」



美穂「でもっ、でもここであなたを見逃す訳にはいかないひなたっ!!」

チナミ「……ハッ! なるほど、立派ね!ヒーロー!」


例え如何なる状況であったのだとしても、

学生たちを操り、けしかけて来たチナミの行いは間違いなく非道であり、許せない行為である。

キヨミ達を追うよりも、まずこちらを捕える事をひなたん星人は優先したのであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:38:55.86 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「だけどいいのかしら?あの子を今追わない事が、後で致命的な結果を招いても?」


美穂「信じるナリ」

チナミ「はぁ?」


吸血鬼の問いかけに、少女は自信を持って答える。


美穂「あの子の瞳に、曇りは無かったひな★」

チナミ「……」


美穂「信じる誰かを助けたい思いは、きっと確かなものだったはずナリ」

チナミ「……」


美穂「だからきっと、あの子の行動が悪い結果にはならないって信じるひなたっ!」

Pくん「マッ!!」


チナミ「……ふっ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:39:34.81 ID:q5aQ6Ewdo<>
チナミ「ふふふっ……あはははははっ!!!」

チナミ「おかしっ!何を寝ぼけた事を言ってるのかしらっ」

チナミ「”信じる”ですって? さっき出会ったばかりの相手の何を?」

美穂「わ、笑われるような事を言ったつもりはないナリっ!」


ヒーローたる少女の言葉は、冗談などではなく確かな信念の元に出た言葉であったが、

”利用派”である吸血鬼には理解できるはずもない。

彼女からすれば疑う事を知らないのは、ただの愚か者であるからだ。


チナミ「はあ……そう」

チナミ「やっぱりあなた、夢見がちすぎるんじゃないかしら。ひなたん星人?」

美穂「むぅう……」


吸血鬼が煽り、少女が憤る。

正反対な立場であるが故に、お互いに分かり合えないのであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:40:25.54 ID:q5aQ6Ewdo<>
美穂「……あれ?」

美穂「そう言えば……どうして私の事をよく知ってるような口ぶりナリ?」

チナミ「あら?」



―――「 ”ひなたん星人っ!” 」「あぁっ!な、名乗りきる前に言わないで欲しいナリっ!!」

―――「まあ、 ”あなたの能力なら” 今すぐ追いかければあの子達に追いつけるんじゃないかしら」

―――「 ”やっぱりあなた、夢見がちすぎる” んじゃないかしら。ひなたん星人?」


先ほどまでのやり取りを思い出して、少女が勘付いた。


美穂「なんだか……ヒーローとしての私を知っているだけ……ってだけじゃないみたいナリ」

美穂「もしかして、どこかで会ったことがあるひなた?」


チナミ「ふふっ、意外と……察しがいいのね」


当たらずとも遠からず。

会った事はなくとも、チナミは”ひなたん星人”の事を一方的によく知っている。


チナミ「そうね。会った事は一度も無いけれど、でもあなたの事はよーく聞いているわよ」


その情報は、二人の共通の知り合いを通して。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:41:47.56 ID:q5aQ6Ewdo<>

美穂「え、一体誰から聞いて…」

チナミ「それは……」


当然、聞かれたからと言って、チナミはその人物の名前を……水木聖來の名前を出すつもりはない。


チナミ「ふっ…ふふっ」

美穂「?」


チナミ「”家畜派”のあの子は、見えてるものを見ないフリをしていたけれど」

チナミ「あなたは、見えていないものを見えてるつもりになってるだけかもしれないわね?小日向美穂」


美穂「ど、どう言う……?」


チナミ「わからなくたっていいのよ」

チナミ「けれど、隣に立っている人間の事をわかったつもりになっているだけなら――」



チナミ「いつか、手酷く裏切られるかもしれないわね」


吸血鬼はただ、意味深にせせら笑った。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:42:38.25 ID:q5aQ6Ewdo<>

美穂「……話を誤魔化してるナリ?」

チナミ「さあ、どうかしら?」


チナミ(……そう言えば今は……聖來は寝込んでるのよね)


チナミは件の人物、聖來の事を思い出す。

表向きはフリーのヒーローとして活動していながらも、

裏では財閥の擁するエージェントのまとめ役として動いている彼女は、

昨日、白の怪物と交戦し、その影響で今はまともに動けない状態であった。


そのため、エージェントに降りて来る指令は普段よりも少なく、

(竜面の男が聖來の仕事の代行を勤めてこそいるが、それでも連絡系統の動きは普段よりも鈍い)

エージェント達は”各自、自己判断での行動”が余儀無くされている。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:43:25.07 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ(聖來はこの子を気に入ってるから)

チナミ(『小春日和』の取得は、「自分がやる」って言って他のエージェントを近づけさせようとしなかったけれど)


聖來はエージェントとしての立場を利用し、

財閥が狙っていて、既に所在を掴んでいる『カースドウェポン』であるひなたん星人の持つ刀『小春日和』の取得を、

”自身の任務”であるとして、他のエージェント達が介入するのを斥けていた。


チナミ(これは、ひょっとするとチャンスなのかしら?)


従って、今、水木聖來が動けないと言う事実は――


チナミ(私が『カースドウェポン』を手に入れるね)


チナミを止める者が誰もいないと言う事である。



チナミ「いいわよ、ひなたん星人」

美穂「えっ、何がナリ?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:44:16.95 ID:q5aQ6Ewdo<>

チナミ「本当はね、ヒーローと交戦する気なんて少しも無いの」

チナミ「だけど、今日はちょっと災難続きでね」

チナミ「私が企てた計画が、なぜだか悉く邪魔されてる気がするのよね」

チナミ「だから――」



チナミ「ちょっと、ムシャクシャしてるのよっ!」

美穂「!」


吸血鬼の放つ雰囲気が変わる。

余裕のある態度から一変し、再び敵意を纏ってその怒りに満ちた視線を相対するヒーローへとぶつけた。


チナミ「少しだけ、遊んであげるわ」


”利用派”吸血鬼。

他人を利用し、死体を弄び、一般人を操り、呪いすらも駒として、

普段であれば、その手を汚そうとしない彼女が――


チナミ「私、自らね」

その爪を、”自ら”研いでみせる。


美穂「……戦うなら、絶対に負けないひなたっ!」

Pくん「ママッ!!」


敵意の視線に晒されるヒーローは、負けじと刀を握る拳に力を込めた。


教習棟の片隅で、また1つの戦いが始まろうとしていたのだった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:45:14.37 ID:q5aQ6Ewdo<>

――

――



キヨミ「はぁっ!はぁっ!」


闇色の傘を握りしめ、少女はひたすら走る。

まるで何かに急かされるように。


――あの男はあなたのことなんて、”便利な道具”程度にしか思っていない。


キヨミ「はぁっ!はぁっ…!」


――絆なんてくだらない幻想、そんなモノはこの世のどこにだって存在しないのよ。


キヨミ「……そんなはずは…ないですっ!」


頭に過ぎる、”利用派”吸血鬼の言葉を振りはらうように、少女は言葉を吐き出した。



騎士A「超☆騎士団長!あ、あれは!」

キヨミ「えっ?」


傍にて併走する忠騎の言葉に、空を仰げば、

眩い光の閃光が目に入った。


キヨミ「お父様っ…!」

騎士B「急ぎましょう!」

キヨミ「……ええっ!」


戦局は佳境。少女は、ただひたすらに走る。

信じる父の元へと、駆けつける為に。



つづく
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:47:08.80 ID:q5aQ6Ewdo<>

『ブラックアンブレラ』

櫻井財閥から、吸血鬼であるチナミに支給されていた黒色の傘。
最先端技術によって作られたスーパーミラクルアンブレラ。
見た目は普通の傘だが、その効果は絶大。
日差しだろうが、雨だろうが、これでもかっ!ってほどに遮っちゃう。
吸血鬼の弱点によるダメージのカットができるため、チナミは愛用していた。

傘の布地部分で防いでいるだけでなく、
傘の先端から空気によるバリアフィールドを発生させるため、
見た目以上の範囲を雨から守ってくれる。
おそらく、女の子1人と大の男2人を雨から守るくらいは余裕を持ってできるはずだ!

現在、キヨミが手にしている。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2014/12/15(月) 06:47:53.80 ID:q5aQ6Ewdo<>


てなわけで、2日目、ひなたん星人VSチナミさん(前半)です

はい、前半です。ええ。
また区切っちゃってすまないと思っている……

チナミさんとことん煽る、たまにはちゃんとヴィラン側らしき事もやってみたりです。
キヨミちゃんとチナミさんの対立関係とかも絡めてみたり。
ひなたん星人VSは敵組織幹部との初戦闘とかちょっとワクワクするんじゃないかなとか。

そんな事を考えながら書き始めたのが2ヶ月くらい前だった気がするのですが…
後半こそ早めの完成を心がけて頑張りたいです……

きらり、夏樹、李衣菜、時子、梨沙、菜奈、パップ、クールP、シャルク、ガルブ、コアさん、キヨミ、騎士達お借りしましたー
<>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2014/12/15(月) 09:35:32.88 ID:kpMKM1JoO<> 乙ですー
将軍とキヨミはどうなってしまうのか、不安ですがあり楽しみ
そしてまさかのチナミさんvsひなたん、はたしてどうなるやら… <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/12/15(月) 18:25:13.06 ID:I6WjSpRLo<> >>635
おつー
きよみんの芯の通った信念が熱い
果たして彼女のこの強い想いと、あと将軍は本当どうなってしまうのだろうか

しっかしチナミさん、清々しい程の悪役っぷりですなー
吸血鬼! 悪魔! チナミ! ちひろ! ……おっと、流石にちひろは言いすぎたかな <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:45:59.59 ID:PQpYgr4a0<> >>653
乙でーす
吸血鬼コワイ(ブルブル)チナミさんがここまで怖い存在だったとは…
途中から完全に超☆騎士団長を応援してましたよ!
負けるなー!ひなたん星人!

こちらも負けずに投下します。
学園祭中、将軍によって裏山が吹き飛ばされる前の出来事です。お祭りだ!盛り上がろうぜ! <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:47:15.50 ID:PQpYgr4a0<> 勝負は一瞬だ。そう思った加奈は全神経を集中させる。

相手は強大な存在だ。自分では全くかなわないかもしれない。

現に、同じように挑んだ人が幾度となく敗れ去ったのを加奈は見てきた。

「日記」ならば結果がわかるかもしれないが、あえて加奈はメモ帳を閉じていた。

目の前の人物が声をかけてくる。

??「準備はいいか?」

加奈「は、はい!」

その声に対し威圧感を覚えてた加奈は唾を飲みつつ答えた。

相手は加奈の返事が返ってきたのを確認すると両手を前に出す。

その手に握られていたコインが、勢いよく空中にはじき出される。

その瞬間、加奈には相手の腕が六本にも十二本にも増えた気がした。

何本もの腕が動きまわりはじき出されたコインがその隙間を落ちてくる。

気がつくとコインが消え、目の前には握りしめられた拳が二つ。

カミカゼ「さあ、どっちだ?」

目の前の人物、───アイドルヒーロー「カミカゼ」はその速度に完全にのまれてしまった加奈に力強く問いかけた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:48:41.88 ID:PQpYgr4a0<>


加奈「や、やっぱり無理だったかぁ」

カミカゼとのコイン勝負に見事に負けてしまった加奈は学園内をとぼとぼ歩いていた。

自分の空き時間に卯月先輩から貰ったスタンプラリーに挑んでみたはいいが、挑んだ門番全員に敗れ、現在スタンプを一つも貰えていなかった。

加奈「卯月さんごめんなさい、私には集められそうにないです」

軽く涙目になった彼女だったが、

加奈「でも、お祭りだもん。楽しんだもの勝ちだよ!かなかなファイファイ、おーっ!」

と、空元気気味ながらも、あっさり元気を取り戻した。

??「本当に大丈夫でしょうか?あの事を都さんだけに任せてしまって」

??「都さんが問題ないと言ったのですから、それを信じましょう。それよりも、せっかく貰ったお休みです。精一杯楽しみましょうね、翠さん」

??「…わかりました♪由愛様」

目の前を通った二人組を何の気なしに見送りながらも、加奈は次にどうしようかを考えていた。

加奈(うーん、私の担当時間までまだ余裕はあるけど、あまり遠くは行きたくないしなぁ)

深く考え込んでいた加奈は、遠くから響いてくる複数の足音に気付いていなかった。

さらにメモ帳にも目を通していなかったので[ひ、人がぁぁぁぁぁぁぁ]と元々書きこまれていた事にも気がつかなかった。
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:49:20.28 ID:PQpYgr4a0<>
…その結果
<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:49:55.62 ID:PQpYgr4a0<> ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

加奈「ん?何の音?」

近くから聞こえてきた謎の音に、加奈は目を上げた。

その瞬間

加奈「きゃああああああ」

…遠くから大きな土ぼこりを上げて迫って来ていた人の波に飲み込まれてしまったのだった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:51:12.27 ID:PQpYgr4a0<> 加奈「な、何なの〜?」

波にのまれた加奈は何が起こったのかわからない。

ただ、一緒になって走っている人の声は無差別に聞こえてきた。

「おい!あっちでボンバーで黒真珠な奴らが宇宙レベルの大声コンテストをやってるらしいぞ!」

「その近くで競馬もやっててすげえでっかい馬に槍持った女の子が参加してるって!」

「その両方で変な関西弁の女の子がトトカルチョやってるらしいね!」

「え?自分はどっから現れた忍者が分身の術を駆使してチャーハンを大量に作ってるって聞いたけど」

「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

「ボクのカワイさをそこでも皆さんに伝えてあげましょう!」

「なんだかわからんが、こりゃあ参加するっきゃねえぜ!」

「ヒャッハァ!」

「あ、あれ?ユッコちゃんとかいると思って学園祭に来たけど、なんで巻き込まれてるの〜?」

聞こえたことから、真偽は不明だが、何処かで何かをやっているらしく、そこに向かっている人たちにのまれたらしいと加奈は判断した。

…まあ、わかったからといって、今の加奈にはどうしようもなかったが。

加奈(す、凄い勢い。こんなに人を引き付けるなんて…これもお祭りの力!?)

なんだかずれているような感想を頭に浮かべつつ、加奈は人波に流されていった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:52:16.81 ID:PQpYgr4a0<>
加奈「や、やっと抜けられた〜」

怒涛の勢いに流されること数分、人波が曲がり角に差し掛かった所ではじき出されるように加奈は脱出した。

…残念ながら、一緒に巻き込まれていたらしき眼鏡の小動物系女子はそのまま流されていったようだった。

無事脱出したと言っても、少しの間人波に揉まれていた加奈はヘロヘロになっていた。

加奈「何処か落ち着ける場所は…」

カリカリカリッ

あたりを見渡すため顔を上げようとした加奈は頭に日記の音が響くのと同時に目の前に何かいることに気がついた。

??「……」

??『れでぃ』

小さな女の子と銀のユニコーン───すずみやさんとすーさんは少し驚いている加奈に対しペコリとお辞儀をして手に持っていたバイオリンを演奏し始めた。

加奈「上手だなぁ…」

バイオリンが奏でる音楽にしばし加奈は聞き惚れた。

すずみやさん「〜〜♪」

少しして演奏を終えたすずみやさんは再びお辞儀をする。

加奈「あ、こちらこそ素敵な音楽をありがとう」

パチパチと拍手しつつ、加奈もぺこりとお辞儀を返す。

すーさん『れでぃ』

すずみやさん「…」フリフリ

その様子に満足したのかすずみやさんはすーさんに笑顔で乗って去っていった。

[素敵な音楽を聴けてよかったな。けど、なんなんだろう、あれって?]

メモ帳にはそんな文が載っていたが、些細なことだろう。

加奈「凄かったな〜、また会えるといいな」

そう呟きつつ、加奈もその場を去った。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:53:10.54 ID:PQpYgr4a0<>
───その少し後、

??「バイオリンの音が聞こえたぞ!近くにいるはずだ!探せ!」

??「今度こそ捕まえましょう!」

??「大丈夫ですよ〜、怖くないですよ〜、だから出てきてください〜」

と叫んでいる黒スーツの集団が通りかかったが、加奈は気付く事はなかった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:53:53.83 ID:PQpYgr4a0<> 加奈「そういえば、ここどこだろう…?近くにスタンプラリーがあったら参加したいけど」

すずみやさんのバイオリンによってすっかり落ち着いた加奈は地図が配られていた事を思い出した。

ポケットから取り出し、現在位置を調べようとする。

ナンナンダヨ!ナニガオコッテルンダヨォ!!

モウダメダァ、オシマイダァ、カテルワケガナイヨ…

加奈「ん?なんだろ?こっちからかな?」

何処からか聞こえてきた歓声に興味を示した加奈はその方に向かっていった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:55:03.23 ID:PQpYgr4a0<> その光景を見た時、一瞬だが加奈は「憤怒の街」を思い出した。

地面に倒れ伏すもの、無念そうに涙を流すもの、助けを請うように空に手を伸ばすもの、担架で運ばれていくもの。

その全員が苦しみにあふれていた。

加奈(…地獄だ)

彼女がそう思ってしまうのも不思議ではない。

??「もうおしまいですか〜」

??『次はどなたでしょうか〜』

そして、それを作り出したもの───ぶにょふわ小悪魔、海老原菜帆は皿に残った最後のお饅頭をを口の中に抛りこんだのだった。

加奈(なな、何なのコレ!本当に何なのコレ!しかもあの人がスタンプの番人だし!)

かなりカオスな事になっている学園祭だが、一応身の危険はないように配慮されているはずだった。

しかし、今目にしている光景はそれを守っているようには加奈には感じられなかった。

…まあ、実際には只の大食い大会なので、無茶をしなければ特に危険はないはずである。

この現状もちょーっとだけ食べ過ぎた人たちが苦しんでいるだけであった。

少々中二病チックにとらえてしまっている加奈も、ある意味お祭りの雰囲気にのまれていると言えるのだろう。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 20:56:17.57 ID:PQpYgr4a0<> ??「パ、パンなら勝てたのに…」

??「ドーナッツ分が足りなかったよ…」

??「ケ、ケーキ、ケーキをください…」

地獄絵図にのみこまれてしまっている加奈に構わず、またひとつの勝負が結末を迎えたようだった。

新たに敗れ去った3人組の恨めしそうな目線を向けられても、

菜帆「本当、美味しいものがたくさん食べられて幸せですね〜」

『まだまだ、食べられるんだから、もっと幸せになれますね〜』

全く気にする様子はなく、菜帆は持参していたであろうフランクフルトをほおばった。

…彼女がフランクフルトをほおばった瞬間、周りのギャラリーが何か反応したようだったが深くは考えまい。

加奈(で、でもこんなにたくさんの人を相手した今なら勝てるかも…)

無謀にもそう考えた加奈は小悪魔の番人に挑もうとするが…

カリカリカリッ

[も、もうムリ。なんであんなに食べられるの…?]

新たに書き込まれた未来から、即座にその考えを取り下げた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:00:58.71 ID:PQpYgr4a0<> 加奈「はー、ホント凄いお祭りだよなぁ」

本当に色々なことがあり、多少疲れてしまった加奈は休憩所で一休みしていた。

椅子に座りこむと目の前にある机にグデーっと体重を預ける。

??「さあ、まずは貸衣装屋に行くわよ!それっぽい格好をしないとね」

??「了解ッス!チナミさん!」

近くを誰かが通ったようだったが、それに気を配るだけの気力は今の加奈にはなかった。

加奈(まだ私の担当まで時間があるから、それまでここで休もうっと)

衝撃的すぎる出来事に会いすぎていた彼女は静かに決心した。

そのまま明日は友達と一緒に廻ろうか、などと言った取りとめのないことを考えていたが、

カリカリカリッ

頭に響いた音によってその考えを一旦中断したのだった。

寝そべった体勢のまま加奈はメモ帳に目を向ける。

[隣の机がガタってなった]

追加された一文に目を通した数十秒後に、

ガタッ

「日記」通りに隣の机から音がした事に対しては流石の加奈でも驚かなかった。

加奈(なんだろう?今日はもう何があっても驚かないよ…)

この少し後に死ぬほど驚く目に連続で合うのだが、今の加奈には知る由もない。

無いとは思うが、もしも怖い人が潜んでいたら嫌だった加奈は机にかかっているクロスをまくり上げ、机の下を覗き込んだ。

加奈「へ?」

??「フ、フヒ。どうも…」

そして、机の下にキノコ片手に潜んでいた女の子を見つけ、結局驚いてしまうのだった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:01:54.18 ID:PQpYgr4a0<> ───気を取り直して机の下にいた子とコミュニケーションをとろうとしている彼女を見守る存在があった

??(ああ、やっぱりかわいいなぁ)

??(誰もいないと思って机にグダっている所もいいし、驚いて飛び上がったもたまらない)

??(さっきの人波にもまれている姿も可愛かったし、あきれ返っている所も素敵だ)

??(喜んでいる笑顔もいい、楽しんでいる顔もいい、悲しんでいる顔もいい、苦しんでいる顔もいい)

??(ああ、全てが愛おしいよ、加奈ちゃん) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:02:41.95 ID:PQpYgr4a0<> その存在は静かに思う

??(あの時もうだめかと思ったけど、加奈ちゃんに会えたから結果としては運が良かったんだよね)

??(あれだよ、きっと運命ってやつなんだよ)

??(それとも加奈ちゃんはボロボロだった自分を助けてくれる女神さまだったのかな)

??(兎も角、加奈ちゃんによって助けられて今ここいる)

??(今のところそれでいっか) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:03:10.96 ID:PQpYgr4a0<> 何もできない存在はただ思う

??(早く戻らないかなぁ)

??(加奈ちゃんがたくさん使ってくれればその分力が戻ってくるんだけど、なかなか使おうとしないからなぁ)

??(人を簡単に恨めない、そんな優しいところもいいんだけどねぇ)

??(今の自分は核も作れないほど弱ってるもんなぁ)

??(もっと力を取り戻せれば色々できそうなんだけどなぁ) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:05:54.94 ID:PQpYgr4a0<> 自分を忘れてしまった存在は思い続ける

??(力を取り戻せば、自分が何のカースだったのか思い出せれば)

??(加奈ちゃんを自分のものにできるのに)

??(ただ待つしかできないなんてなぁ、声をかけることもできないなんてなぁ)

??(まあ、いっか、今は加奈ちゃんの中を漂っていよう)

??(加奈ちゃんを見てるだけで自分は幸せなんだから)

深く傷つけられ、自分が何者か忘れてしまうくらいに無力なカース───空白のカースは、そう締めくくると再び加奈の体内を静かに漂うのだった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:08:55.66 ID:PQpYgr4a0<> 空白のカース(ブランク・カース)

職業

カース

属性

記憶喪失

能力 

残った力のほとんどを加奈に力を分けているので何もできない。

詳細説明

『憤怒の街』以降に今井加奈に取り憑いているカース。

取り憑く前に受けていたダメージがあまりにも大きかったため、自分が何のカースだったかを忘れてしまっている。

また、力がなさすぎるため核となる物も存在していない。核ともいえない小さな結晶みたいなものが今井加奈の血液内に存在し体中をめぐっている。
(イメージとしてはジョジョのフー・ファイターズみたいな感じ)

基本何もできない、弱すぎるためその存在も感知されない。そのため今井加奈もカースドヒューマンではない。

僅かに残った力を今井加奈に分け、彼女に使わせることで自分の力を取り戻そうとしている。

「負の感情日記(仮)」「無邪気な日記」はその副産物。

自分が何のカースなのか思い出す事を一番の目的としている。そのために一人称を気分で変えたりする。

本人?曰く今井加奈のことはとても気に入っているらしい。そのすべてを自分のものにしたいくらいには。

関連アイドル

今井加奈(宿主)

関連設定

カース <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2014/12/15(月) 21:11:15.27 ID:PQpYgr4a0<> や、やりすぎたか?ここまで変なのにするつもりはなかったんですが…

まあ、いっか。

ただ静かに見つめているだけの存在です、今のところ何にもできません。

加奈ちゃん、頑張ろうね(いい笑顔)



カミカゼ、翠さん、由愛ちゃん、茜ちゃん、千秋さん、ヘレンさん、丹羽ちゃん、亜子ちゃん、あやめ殿、幸子、風香ちゃん、
すずみやさん、すーさん、涼宮星花捜索隊、海老原ちゃん、みちる、法子、かな子、チナミさん、輝子をお借りしました。

多いな!少しだけしか出せなかった子もいますが、いろんな子を出してみようと精一杯頑張りました。

後々矛盾が発生するかも知れませんが…お祭りだもん!いいよね!
<>
◆zvY2y1UzWw<>saga<>2014/12/15(月) 22:32:18.09 ID:zuvaSAx90<> 乙ですー、祭りのカオス感がよくわかる
やっぱりこの学園祭はすごい戦力が集まってるにゃあ…
…あのカースはやはり一体化してたのかぁ、ヤンデレさんっぽいのは…未来日記故仕方なし <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2014/12/15(月) 23:25:04.13 ID:I6WjSpRLo<> >>655
おつー
こういう場所で色んなキャラが沢山登場するこの感じ、賑やかで非常に良いですね
見てて凄く楽しいし、自分の子がいたりするとまた嬉しいんだよね

一方、ようやく正体が判明した不穏な存在
果たして今後こいつがどう動くのか <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/09(金) 08:25:59.11 ID:pbXd/WTiO<> 黒川さん「ついに出番よ!(登場するとは言ってない)」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:33:49.24 ID:fbGff9m60<> いやぁ…年末年始は強敵でしたね(時間的な意味で)

投下しますー
時系列は冬です <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:34:48.33 ID:fbGff9m60<> 真冬。都会であるこの街にも雪が積もり、子供ははしゃぎ、大人は苦労しているようだ。

冷たい風がマフラーを揺らし、誰もの吐く息が白く染まっている。

奈緒「雪は止んだけど…寒いなぁ」

どこか気の抜けた奈緒がふらふらといつも通りレンタルしていたDVDを返却して帰宅していた。

ちなみにいつものヘッドホンではなく耳当てを装備している。歩きながらアニソンを聞いている事もよくあるのでなんとなく耳が寂しい。

余談だがヘッドホンを選んでくれた李衣菜と夏樹にロックの曲もよく聞かされる。まだ詳しくはないけれど、カッコいいとは思う。

奈緒(お年玉でなんか帽子でも買おうかなぁ…あーでもあのアニメすごく期待できるからDVDボックス買いたいし…)

…なんて思っていると、背後からの腰への衝撃と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:37:16.20 ID:fbGff9m60<> 莉嘉「あーっ!!!やっぱり奈緒ちゃんだー!!ひさしぶりーっ☆」

奈緒「うおっ!!いきなり何すん…って莉嘉!久しぶりだな!」

莉嘉「ホントだよ〜!ずっと会ってなかったもん!」

みく「あっ、奈緒チャン!莉嘉チャンが走って行ったと思ったら…お久しぶりにゃ〜」

奈緒「みくも居たのか、なかなか会えなくてゴメンなー…で、二人でこの辺りでなんかしてたのか?」

みく「この近くの公園で特訓してたの。雪だからいつもと違う感じで特訓ができるにゃ」

奈緒「なるほど…普段からここでみくと莉嘉が色々練習してんのか」

莉嘉「そうなの!あれから何度も会ってるんだ☆」

みく「バイトが無いときは結構やってるよ、みくは優しいからにゃ〜」

莉嘉「でねでね、最近は殆ど上手く行くようになってきたの!いろいろ使いこなしてきてるよ!」

みく「みく先生の教育の賜物にゃ!簡単な護身術も教えたし、自分で思ってたよりもバッチリにゃあ」

奈緒「そりゃすげぇな…ところで美嘉は?」

莉嘉「お姉ちゃんは学校だよ〜」

奈緒「あー…そう言えば学生は学校か…結構大変だな。雪も結構積もってるし」

みく「寒くても適度に努力するのは大事にゃ、これがキュートさの秘訣!美嘉ちゃんも頑張ってるにゃ」

奈緒「登校ってだけじゃんか?」

みく「雪が積もるとねぇ…おしゃれと防寒と雪対策。いろいろと両立させなきゃだめにゃあ。だから頑張るの」

莉嘉「そーだよ、肌はちょっとは見せた方が良いんだって!」

奈緒「えー…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:39:03.43 ID:fbGff9m60<> 莉嘉「でも、こういう時は遊びたいよね!あとで雪だるま作るんだよ☆」

奈緒「雪だるま…いいな、あたしもそういうのやってみたいかも」

莉嘉「いいよー!一緒におっきくてカワイイの作ろ!」

みく「そういえば、奈緒チャンはなんで外出してたのにゃ?用事とか?」

奈緒「あたし?あたしはただレンタルしてたDVD返してきただけ。これからの予定は…特にないよ」

みく「ならよかったにゃ、奈緒チャンとこうやって話すのも久々だしにゃ〜一緒にお話とかしたいにゃ」

奈緒「さっきから久々って言い過ぎだろ!…二人がここによくいるって知っていれば、暇なとき顔くらいだしたのにさ」

莉嘉「んーと、奈緒ちゃんは普段なにしてるの?」

奈緒「えー…仕事とか家の手伝いとか」

莉嘉「そっか、やっぱりお仕事って大変なんだねー」

奈緒「あたしの仕事って不定期だしなぁ…」

みく「仕事が無いときとか、みくのバイト先でバイトしてもいいんじゃないかにゃ?それならいっぱい会えるにゃ」

奈緒「やれるとは思えないけど…みくのバイトってなんだっけ?」

みく「メイド喫茶にゃ」

奈緒「うん、やらない!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:39:54.94 ID:fbGff9m60<> みく「ひどいにゃ…即答にゃ」

莉嘉「メイドさんでしょー、似合うと思うよ?」

奈緒「無い無い無い無い!似合わないって!ていうかこの腕で接客業は無理だからッ!」

みく「むぅ…ネコミミメイド、似合うと思うんだけどにゃあ…」

奈緒「しかもネコミミかよぉ!?そんなの、知り合いにでも見られたらマジで恥ずかしくて死んじゃうから!!」

みく「着ることは否定しないのにゃ?」

莉嘉「知り合いじゃなければいいのー?」

奈緒「…っ!!!」プルプル

みく(かわいい…) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:41:47.28 ID:fbGff9m60<> みく「わかってるにゃあ、奈緒チャンはそんなカワイイ服を実は着てみたいのにゃあ…」

奈緒「ち、違うっ!違うからっ!マジで!!」

莉嘉「えー、でも奈緒ちゃんフリルとか、リボンとか…似合いそうだよ?男の子みたいな恰好じゃ勿体ないよー」

奈緒「ほほほほほ、ホントにっ!あたしには無理だからっ!メイドは、メイドは勘弁して…」

みく「まぁまぁ、落ち着くにゃ!メイド喫茶の話は一旦忘れておくにゃ、遊ぶんでしょー?」

奈緒「一旦って…はぁ……とりあえず、さっきも言ってたし雪だるまでも作ってみるか?」

莉嘉「じゃあ公園に戻ろー☆あの公園の雪すごい量なんだ!」

みく「雪があるって言っても、特訓の時にけっこう踏み荒らしちゃったけどにゃー」

莉嘉「いいのいいの!それでも踏んでない所いっぱいだし、人もいないし!」

奈緒「あれ、他に誰も来てないのか」

みく「まぁ、特訓に使えるくらいだからにゃ。なんでも、いつの間にか木がぐるぐる曲がっていたから、気味悪がって近寄らないとか…」

奈緒「あー…確かに、ちょっと不気味っちゃ不気味か。どうせ能力者がなんかしたんだとは思うけどなー」

莉嘉「木がぐるぐるになる前から特訓はしてたけど、最初に見た時はびっくりしたよー!ていうか元々遊具も何も無いんだ☆」

みく「ちょっと行ったところに遊具がある公園があって、遊びたい子はそっちにいくのにゃ」

奈緒「…なんていうか、公園にもいろいろあんだなぁ…」

そう会話しながら3人が入ったのは過去に裕子がいろいろと曲げまくった公園である。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:43:20.63 ID:fbGff9m60<> みく「原因が何にせよ、あのまま成長してるんだから自然ってすごいにゃあ…くしゅっ!」

奈緒「あ、みく…風邪か?」

莉嘉「大丈夫ー?」

みく「全然平気にゃ!ちょっと風吹いてきたからか寒気がしただけで…」

奈緒「…じゃあさ、雪だるまの前にまずちょっと休まないか?自販機の飲み物くらい奢るし」

莉嘉「えっ、いいのー?ありがとー☆」

みく「じゃあ遠慮なく頂くにゃあ♪」

奈緒「ホントに遠慮しないのな…まぁいいけど。何飲む?」

莉嘉「ココアがいいな!」

みく「みくはミルクティーを要求するにゃ」

奈緒「はいはい、りょーかい。ちょっと待ってて」

莉嘉「いってらっしゃ〜い☆」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:44:14.41 ID:fbGff9m60<> みく「なんか得しちゃったにゃ〜…あっ」

莉嘉「どしたの?」

みく「うーんと、奈緒チャンにちょっと聞きたいことがあったのを今思いだしたのにゃ、まぁ戻ってきたら聞くから問題ないにゃあ」

莉嘉「へぇー…あ、ねぇねぇ、奈緒ちゃんは何買って来ると思う?コーヒーかな?」

みく「みくの勘では奈緒チャン苦いの好きじゃなさそうにゃ、ココアとかじゃないかにゃ?」

莉嘉「コーヒーでもカフェオレとかは甘いよー?」

みく「あ、そっち系も含めるならあり得るかも…でもみくはココアに10円賭けるにゃ」

莉嘉「えー!じゃあ奈緒ちゃんがコーヒー持ってきたら10円くれるの!?」

みく「…そのかわり、ココアだったらみくに10円渡すにゃ」

莉嘉「えー…大人げなーい」

みく「みくまだ大人じゃないもーん♪」

莉嘉「そーだけど〜…あっ来た!」

みく「けっこう早かったにゃ…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:45:24.91 ID:fbGff9m60<> 奈緒「ちゃんと買ってきたぞー…ってなんだよジッと見て…!」

みく「奈緒チャンは飲み物何買ったかにゃ〜って思って♪」

莉嘉「何を選んだのー?」

奈緒「あたし?コンポタ」

みく「あーそういう…」

莉嘉「あっちゃー…そっちかぁ…」

みく「莉嘉チャン、賭けは無効にゃ」

莉嘉「仕方ないね☆」

奈緒「賭けってなんだよっ!?人が何を買っても自由だろっ!?ほら、ちゃんと頼まれたのも買ってきたから!」

みく「はーい」

莉嘉「わかったー」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:47:03.47 ID:fbGff9m60<> 奈緒「あ…みく、あたしの缶開けてくれるか?開けれないからさ」

みく「仕方ないにゃあ…いつも誰かに開けてもらってるのかにゃ?」

奈緒「…まぁ、基本的にはそうしてるけど」

莉嘉「基本的って?」

奈緒「どうしてもって時だけ…家なら、缶に穴あけたり、ボトルの飲むところ切断して飲んで…あっ、今の無し!無し!!!」

みく「…奈緒チャン、開けられないからってそれは…」

莉嘉「な、なんかすごいね!」

奈緒「だああああああぁ!!言うんじゃなかったああああ!!」

みく「どうどう、落ち着くにゃ…あ、そうそう…奈緒チャンに聞きたい事があったのにゃ」

奈緒「ううう……うん?なんだよ聞きたい事って」

みく「…莉嘉チャンの事でちょっとにゃ」

莉嘉「えっ、アタシの事なの?」

みく「前に莉嘉チャンが何の獣人なのか教えた時、みくはフィーリングっていったよね」

奈緒「あ、ああ…それで虎だって話になったんだろ?」

莉嘉「うん、アタシ自身もそう思ってたよ?」

みく「それが…一緒に特訓してるとね、なーんか違和感があって…」

莉嘉「えーっ!?聞いてないよそんなことー!?」

みく「確信が持てなかったからにゃあ…奈緒チャンも獣人みたいなモノだしなんかわかったりしない?」

奈緒「あたしが?…わかるもんなのか…?」

みく「フィーリングにゃ、フィーリング!」

莉嘉「えっと…よくわかんないけど、どう?」

奈緒「いきなり聞かれてもさぁ…ちょっとは頑張ってみるけど。みく、あたしのコンポタ持ってて」

みく「はいはい」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:50:13.92 ID:fbGff9m60<> 奈緒「…フィーリング…フィーリングって言われても…何が何だか」

莉嘉「んっと、虎耳とか出した方がいい?」

奈緒「…そうだな。ちょっとでも手がかりは欲しいし…よし、集中してみる」

莉嘉「うん、わかった」

みく(集中するのはフィーリングなの…?…ってそれは野暮かにゃ)

奈緒「…どう見ても虎なんだよなぁ」

みく「見た目じゃなくて、こう…動きと言うか…オーラと言うか…そういうのを見て欲しいにゃ」

奈緒「いや…あたしにそんなシックスセンス的なのは無いと思うんだけど…」

莉嘉「じゃあ、耳とかに触ってみたら?奈緒ちゃんと違うかも」

奈緒「は、はあっ!?」

みく「なんで奈緒チャンが動揺するのにゃ…」

奈緒「い、いや、その過激なボディタッチというかなんというかそういうのはあたしちょっと…!」

みく「過激ではないと思うにゃ」

莉嘉「アタシは平気だよ?ホラ、さわって!」

奈緒「お、おう…えっと、その…やわらかいな」

みく「そういう感想はいらないにゃ」

奈緒「だ、だって…!」

莉嘉「?」

奈緒「………ふわふわしてる…」

莉嘉「えへへー」

みく「…見ちゃいけないものを見てる気分にゃ、犯罪に見えるにゃ」

奈緒「うぐ…なんだ、その…酷くないか?」

みく「冗談にゃ〜」

奈緒「そ、そういう割とキツイ冗談はやめろよなっ!」

莉嘉「別に気にして無いのにー」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:51:25.49 ID:fbGff9m60<> 奈緒「あ…でも…確かにちょっと変な感じがする」

みく「やっぱりにゃ?」

奈緒「あたしと…似てるけど、それでも違うって感じがするんだ。なんか…別のを感じるっていうか…」

莉嘉「そうなのー?で、その別のって、なに?」

奈緒「…ネコ科」

みく「大雑把すぎにゃあ…」

奈緒「あと肉食」

みく「それほぼ虎にゃ」

奈緒「…虎は除外して考えてだからな。なんていうかさ…ざわざわするっていうか差し替えって言うか塗り替えって言うか組み換えっていうか…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:53:48.86 ID:fbGff9m60<> みく「…にゃ?」

莉嘉「どうしたの?」

みく「…ちょっと心当たりがあったにゃ」

莉嘉「なになに!?教えてー!」

みく「スケールの大きい話だからにゃあ…言い伝えレベルだし」

奈緒「言い伝え?」

みく「えっと…莉嘉チャンが異世界…獣人の世界からきた可能性が高いって話は覚えてるにゃ?」

莉嘉「う、うん」

みく「それをすぐに言えたのはね…みくのご先祖様…ううん、この世界の獣人の先祖は皆、ある日突然獣人の世界から来たって聞いた事があるからにゃ」

奈緒「あー…異世界トリップって奴か、マンガとか小説でよく見るよな、トラックにぶつかって死んだと思ったら別世界とか…」

莉嘉「そういえばアタシが見たアニメにもそういう子いた!別の世界からお姫様が来ちゃうの!」

みく「そういう感じにゃ。少なくともみくのご先祖様達は帰る方法を探しながら少しずつ仲間を集めて、人が寄らない場所に集落を作っていたみたい」

奈緒「そっか…獣人は『あの日』まで隠れて過ごしてたんだっけ?今じゃ割と馴染んでいるけど」

みく「そうにゃ、ご先祖様の仲間が人間に見つかったら妖怪扱いされたって聞いたにゃ」

奈緒「ジ○ニャンか」

みく「全く違うにゃ!」

奈緒「冗談だよ、冗談…猫又とかそういうのだろ?」

みく「え、仕返し…?ま…まぁ、そうみたいにゃ、猫又とかと間違えらえたらしいにゃ」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:55:46.87 ID:fbGff9m60<> 莉嘉「でも…それとアタシに何の関係があるの?確かにアタシもその世界から来たみたいだけど…」

みく「気が早いにゃ、本題は…異世界から来た時に記憶が無くなっちゃったり、姿が変わっちゃった人も居たらしいのにゃ」

莉嘉「えっ!?」

みく「トリップする時に通る、獣人の世界とこの世界の…狭間って言えばいいのかにゃ?そこがなんかヤバイ場所みたいで…」

奈緒「要するに…莉嘉もそういう何かよく分からない変化が起きててもおかしくないってことか。記憶喪失は実際に起きてるしな」

みく「そういう事にゃ。みくもお爺ちゃんとかから聞いたり、本で読んだくらいだからこれ以上はにゃんとも言えないけどね」

莉嘉「…なんか、難しいね」

みく「今は、頭の隅においておく程度でいいと思うにゃ。解決法もわからないし…ホントにそうなってるのかも判断できないにゃ。今まで言わなかったのもそういう理由にゃ」

奈緒「だなー…あたしが感じた何かも、正しいとは限らないし」

莉嘉「えー!そこが肝心なのにー!」

奈緒「んな過度な期待をされても!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:57:25.81 ID:fbGff9m60<> みく「とにかく!これで相談兼説明おしまい!あー…説明役やったら喉乾いたにゃあ!…あったかいミルクティーが染みるぅー…」

莉嘉「あっ!ココア飲むの忘れてた!ちょっとぬるくなってるよー…」

奈緒「……コンポタじゃないのにすればよかったかな」

みく「渇いた喉にコンポタはキツそうにゃあ…」

奈緒「だって美味しいしさぁ……ドロドロだけど」

莉嘉「とにかく!お話も終わったし、これ飲んだら雪だるまだからね☆」

みく「…話したみくが言うのもなんだけど、莉嘉チャン今の話聞いてどう思ったにゃ?」

莉嘉「んー?えっとね…話を聞いて、自分の体が変になっちゃったかもって聞いて、やっぱりビックリはしたよ?」

莉嘉「でもね、今でも普通に色々できてるし!昔より今が大事かなーって思ったら、あんまり気にならなくなっちゃった!」

奈緒「ま、まぁそういう考えも…できるよな」

みく「割とタフな精神でちょっと安心したにゃ…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:59:14.87 ID:fbGff9m60<> みく「うん!やっぱり辛気臭いのは合わないねっ、雪だるまができたらみくがカワイイ雪のネコミミをつけてあげるにゃ♪」

奈緒「雪だるままでネコミミかよっ!?」

みく「ネコミミは何にでもあうマストでベストなアクセにゃ!」

莉嘉「じゃあじゃあ!アタシも思い切り雪だるまデコるー☆それでね、後でお姉ちゃんにも見せてあげよーっと!」

みく「おっ、良いやる気にゃ!」

莉嘉「お姉ちゃんがびっくりするくらい、かわいいの作りたいんだもん!」

奈緒「なんかあたしの思ってた雪だるま作りから離れて行ってる気がしてならないんだけど…?」

みく「ジョーシキに囚われちゃダメにゃ!というわけでみくは雪のネコミミを制作するから奈緒チャンは体の方をよろしくにゃ〜」

莉嘉「頭の方はまかせてね☆」

奈緒「地味に力仕事押し付けてないか…一度やってみたかったからいいけどさ」

莉嘉「おっきくしてね!」

奈緒「おう、任せとけ!」

みく(やっぱり奈緒チャンもノリノリにゃあ、みくも立派なネコミミ作ってみせちゃおっと)

みく(それにしても……莉嘉チャン、本人はああ言っていたけど…みく、まだ少しだけ不安にゃ)

みく(莉嘉チャンがこっちに来て、記憶喪失になって…獣人の世界、ご先祖様達の故郷で一体何があったのにゃ?)

みく(…妙な事が起きなきゃいいけどにゃあ) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/01/22(木) 23:59:43.38 ID:fbGff9m60<> 以上です、莉嘉のお話を拾って獣人の世界の設定を拡大してみたりとかそういうお話。そしてフラグを立てる(回収するとは言ってない)

みくと莉嘉、名前だけ美嘉お借りしましたー
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/01/23(金) 12:40:08.80 ID:rnJQGClHo<> >>675
おつー
ほのぼのしていて微笑ましいですにゃ

ふむふむ、獣人は元々異世界人だったんですにゃ
しかも通ってくる場所がヤバげとか、何やら難儀な話だにゃあ
原因なんかも気になるところですにゃ <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:27:20.68 ID:WqG/vVM70<> みなさまおつぁーしゃー☆

みんな、待たせたなっ!(白目)
いよいよ将軍襲撃事件が終結するぜっ!(うつろな目) <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:28:36.90 ID:WqG/vVM70<>
爆音。

不夜城戦艦ブラムの横腹に手榴弾で穴を開け、拓海、ライラ、奈緒、爛が内部へ突入した。

拓海「…………あん?」

少しして、拓海が違和感に気付く。

奈緒「…………おかしいな、すぐに兵が飛んで来ると思ったけど」

突入した直後に大量の兵士と遭遇する、そう覚悟していたのだが……。

爛「そもそも、近くに気配がねえな」

ライラ「逃げてしまいましたでしょうか?」

実際は、ブラムの自動化が進んでいる為に、艦橋に数人しか乗組員がいないだけである。

奈緒「ま、邪魔が入らないならそれでいいか。早いトコ将軍探そうぜ」

拓海「まだ上の鎧の中にいるか、それとも艦の方まで降りてきてるか……」

ライラ「んー、お外に出てしまったかも知れません」

爛「そんときゃ相葉先輩とオトハがどうにかすんだろ。俺たちは手分けして中を探そうぜ」

爛の提案に、三人はコクリと頷いた。

拓海「よし、アタシは艦の右舷側を見てくる! ライラは左舷側だ!」

ライラ「了解でございます」

二人がそれぞれの方向へと駆けて行く。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:29:29.50 ID:WqG/vVM70<> 奈緒「じゃ、アタシ達が鎧か」

爛「……いや、獣牙は艦橋を目指してくんねーか?」

奈緒の提案を、爛が断る。

奈緒「艦橋?」

爛「艦内にトラップが仕掛けられてる可能性は排除できねえ。そんでそのトラップを解除出来る場所があるとすりゃ艦橋だろ」

奈緒「なるほどな……よし分かった。アンタも気をつけろよ!」

奈緒も艦橋を探しつつ艦内の奥へと進んでいく。

爛「…………」

一人残された爛は、静かに口元を歪めた。

爛「へっ、思ったより簡単にいったな」

先程奈緒に言った爛の言葉は、実は全て適当。

一人になる為の口実に過ぎないのだ。

爛は軽く周囲を見渡す。

爛「…………来たか」

爛が一言漏らすと同時に、艦内へ赤い球体が侵入してきた。

ピンポン球ほどの大きさの、人の眼球のような形の赤い球体。

フワフワと宙を漂うそれは、爛の眼前で静止し、声を発した。

『待たせたね』

その声は、現在教室で待機中のはずのクールPのものだった。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:30:11.98 ID:WqG/vVM70<> ――――
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美世「クールPさんお待たせっ。薬箱と包帯と借りて……」

薬箱を抱えて教室に戻ってきた美世は、言葉をそこで切る。

クールP「…………すぅ」

クールPは、机に顔を伏せてか細い寝息を立てていた。

美世(寝ちゃってる……)

近くの席に腰掛け、机の上に薬箱を置く美世。

美世(屋上で戦ってたらしいし、お疲れなのかな?)

普段の生真面目なクールPからは想像もつかない姿に、美世は少し口元を緩めてしまう。

美世(起こすのも悪いし、そっとしとこうかな)

美世「……じゃ、あたしもっ」

美世もクールPと同じ姿勢を取り、眠る態勢に入った。

クールP「…………」

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:31:03.90 ID:WqG/vVM70<> ――――
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吸血鬼。

彼らはその瞳に、魔眼と呼ばれる不可思議な力を宿す。

紅月の超☆騎士団長キヨミの『石化の魔眼』や、サクライのエージェントチナミの『魅惑の魔眼』がいい例である。

勿論、それはクールPも例外ではない。

彼が持つ魔眼は『看破の魔眼』の名を持つ。

クールP本人の体に流れる力を一部カットする事で、眼球のような赤い球体『朱眼』へ意識の半分を移行する。

そして、本体が侵入出来ないような場所へ入り込み、全てを見渡し、見透かす。

この朱眼の前には、分厚い鋼鉄の壁も最新鋭の赤外線レーダーも魔力による障壁も意味を成さない。

これが看破の名を持つ所以である。

朱眼『既に艦内はスキャン済みだ、鎧の内部まで最短コースを案内するよ』

爛「ハッ、頼もしいこって」

朱眼『急ごう、他の三人に先を越される前に。まずはそこからまっすぐ、三番目の十字路を左だ』

爛「おうよ!」

朱眼の案内を受け、爛はまっすぐ走り出した。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:31:58.68 ID:WqG/vVM70<> ――――
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奈緒「ハァッ……ハァッ……ここが艦橋か!」

迷路のように入り組んだ艦内を抜け、奈緒はようやくブラムの艦橋に到着した。

奈緒「…………誰もいない?」

辺りを見渡すが、艦橋はもぬけの殻だ。

人が隠れられるような物陰も無い。

奈緒「……ああ」

艦橋の窓から外を覗いて、奈緒はそのワケを理解した。

窓の外で家畜派の吸血鬼と見られる男が数人、地面に倒れている。

大方、墜落した際に敗北を察し、党首である将軍を見捨てて逃げ出したのであろう。

よほど慌てていたのか、この雨への対策も忘れていたようである。

奈緒「…………ま、あれなら後でGDF辺りに捕まえてもらえばいいか。それよりトラップは……」

艦橋内をあちこち探しまわるが、トラップの解除装置らしきものは見当たらない。

奈緒「……まあ、艦内何処そこ走り回ったけどトラップなんか見つからなかったもんな」

再び窓から外を見る、と。

奈緒「ん?」

奈緒達が外壁に開けた穴へ、飛び込んで行く人影が三つ。

先頭にいたのは少女のようだったが、紅の鎧に黒い傘というミスマッチな出で立ちだ。

奈緒「なんだ……まさか将軍の仲間か!? こうしちゃいられない!」

奈緒は艦橋の端まで飛び退き、二つ残る手榴弾の内一つを正面の窓へと投げ付けた。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:32:47.07 ID:WqG/vVM70<> ――――
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鎧内部。

将軍「……っく、うぅ……」

梨沙の攻撃による衝撃で気を失っていた将軍が目を覚ます。

将軍「……な、何が起こった……! こ、これは……信じられん、この不夜城戦艦ブラムが……墜ちたというのか……!?」

信じがたい事実に驚くも、将軍は落ち着いて立ち上がる。

将軍「…………ブラムが墜ちたとなれば、恐らく人間共は直接乗り込んで来るだろう……」

傍に備え付けてあった鎧を着込み、盾を手に持つ。

将軍「ブラムを墜とすとは天晴れなり人間共。だが……」

そして、剣を強く握る。

将軍「この将軍の首、容易く取れると思うでないぞ!!」

雄叫びをあげた将軍はそのままゆっくりと振り返った。

将軍「いや、人間ではないか……貴様、もとい……貴様『ら』はな……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:33:20.39 ID:WqG/vVM70<> その言葉の直後、戸が開いて爛が姿を現した。

爛「んだよ、奇襲するつもりがバレバレじゃねえか」

朱眼『そうだね、少しだけ彼を侮っていたみたいだ』

将軍「ククク……流石は利用派吸血鬼。このような時にも己が手は汚さぬか」

将軍は含み笑いしながら剣を構える。

爛「ハンッ、勘違いすんなよ脳筋ジジイ」

それを見た爛が嘲笑して手榴弾を取り出す。

将軍「何だと?」

爛「如何にも『俺がコイツに利用されてる』みてえな言い方だけどよぉ……そいつぁお互い様なんだわ!」

叫んで手榴弾を天井へと投げつける。

将軍「なにっ!?」

爆音と共に天井に大穴が開き、癒しの雨が鎧の内部へと降り注ぐ。

将軍「ぐっ……しまった……!?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:34:04.70 ID:WqG/vVM70<> 爛「俺もコイツを利用してる、相互利用ってヤツさ」

大雨という流水の中に突然身を晒されて弱る将軍を、爛は嘲って足蹴にする。

将軍「ぐぅぅっ……卑怯な……!」

爛「はぁ? 卑怯ってお前、スポーツでもやってるつもりだったのか?」

爛の脚に力が込もり、将軍の腕がミシミシと音をあげ始めた。

将軍「ぐぁぁっ……!!」

朱眼『爛、その辺でいいよ。あとは鎧と剣を剥ぎ取ってしまえば彼に戦う力は残っていない』

爛の傍らに浮く朱眼が、その暴行を止めた。

朱眼『後はアラクネの糸で縛り上げてしまえば…………っ、下がれ爛!!』

爛「っチ!?」

朱眼の言葉に反応して、反射的に飛び退く爛。

爛「……何者だ、テメェ?」

振るった剣を鞘に収め、乱入者は爛の方へ向き直る。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:34:44.57 ID:WqG/vVM70<> キヨミ「私はキヨミ、家畜派吸血鬼所属、紅月の騎士団の超☆騎士団長です!」

騎士A「将軍、ご無事ですか!?」

騎士B「将軍!」

キヨミに続いて、二人の騎士も姿を現した。

朱眼『参ったね……将軍のご令嬢か』

爛「はっ、なんてこったねぇな。まとめて片付け……って、オイッ!」

拳をパキパキと鳴らした爛は、思わず大声をあげた。

騎士達は爛に構う事もなく、将軍を救出し始めたのだ。

将軍「な、何故来たのだキヨミ! 貴様は先の無様な戦いで勘当した筈だ!」

キヨミ「それでも…………」

将軍「……?」

キヨミ「私にとって、あなたは大事な…………たった一人の、大切なお父様なんです!!」

目にいっぱいの涙をたたえて、キヨミは将軍の手を引く。

将軍「…………キヨミ…………」

爛「オイッ! 人無視して月9ドラマみてえな事してんじゃねえぞっ!」

怒った爛が二人に飛びかかる。しかし、

騎士A「させぬっ!」

騎士B「はぁっ!」

爛「んぐっ……!?」

騎士二人の連携に、あっさりと弾き返された。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:35:57.66 ID:WqG/vVM70<> キヨミ「お父様、しっかり掴まっていて下さい!」

将軍「あ、ああ!」

キヨミの目の前の壁が開き、外の景色が露わになる。

野望の鎧の、乗り込み口だ。

そこからキヨミと将軍、そして騎士二人が一斉に飛び降りた。

爛「野郎ッ……!」

朱眼『僕らが個人で捕まえられないのはともかく……アイドルヒーローとして捕まえられないのはまずいね』

爛「わぁってる! お前は下がってろ、俺がやる!」

朱眼『分かった、気をつけて』

そう言い、朱眼は紅い霧をその場に残して姿を消した。

数秒の後に、朱眼に移行していたクールPの意識が戻る事となる。

爛「っし、待ちやが……」

奈緒「どぉっ、退け退け退けぇえっ!?」

爛「のわぁっ!?」

キヨミ達を追おうとした爛の目の前に、奈緒がザッと着地した。

爛「……っぶねぇだろ獣牙! 何いきなり降ってきてんだ!」

奈緒「ああ、悪い悪い! 艦橋にいたんだけど、ガラスが思ったより頑丈でさ……無理矢理蹴破って来たんだ!」

爛「そーかい。……って、言ってる場合じゃねぇぞ! 将軍が逃げた! 奴の娘が手引きしやがったんだ!」

奈緒「な、何だって!?」

爛「追うぞ、急げ!」

奈緒「あ、ああ!」

爛と奈緒は乗り込み口から飛び降り、キヨミ達を追った。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:37:03.16 ID:WqG/vVM70<> ――――
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裏山跡地付近の森林。

パップ「…………」

パップは一人、その森の中を歩いていた。

パップ(ともかく、オトハさんとやらとは一度キチンと話をしておかないとな……)

オトハ。

協力者でこそあるものの、不透明な部分が多すぎる。

それを見極めるには、直接会話するのが一番早い。

そう判断したパップは、ここでオトハを探しているのだ。

パップ(しかし何処にいるんだ? このままじゃ迷っ……!)

不意に、近くの草むらから何かが飛び出し、パップは反射的に足を止めた。

パップ「止まれっ!」

キヨミ「っ!?」

将軍「ば、バカなっ!? 既に逃走経路が知れていたというのか!?」

パップ「なっ……き、吸血鬼の将軍だと!?」

予期せぬ遭遇に、パップも、キヨミも、将軍も、当然騎士達も面食らう。

パップ「っ……仕方ない。ハングリータイガー!!」

先に動いたのは、パップ。

筋骨隆々と言う他ない彼の腕が鈍い銀色に染まり、虎のような鉤爪に変わる。

彼の体内に埋め込まれたCO……カースド・オズ、ハングリータイガーの力だ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:37:46.66 ID:WqG/vVM70<> 将軍「き、貴様……何者だ!?」

パップ「……おたくが喧嘩売ってきたアイドルヒーロー同盟のモンだ。悪いが拘束する」

パップが爪を振り上げてジリジリと詰め寄る。

キヨミ「くっ……!」

騎士A「……超☆騎士団長! ここは我々に任せ、お逃げ下さい!」

騎士B「将軍と共に逃げ延び、何卒家畜派の再興を!」

騎士二人が剣を抜き、パップの前に立ちはだかる。

キヨミ「なっ……!?」

将軍「た、戯けっ! 貴様達も共に……!」

騎士A「いえ、我々では足手まといとなります!」

騎士B「将軍さえご無事ならば、また家畜派は立て直せます! なので、お早く!」

キヨミ「…………っ、お父様! ここは……」

将軍「ええい、分かっておる!」

キヨミと将軍が踵を返し、パップから逃げ出そうとした、その時。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:38:24.73 ID:WqG/vVM70<> ??「待て、悪者」

物陰から少女が姿を現した。

小柄で、兎のような仮面をつけていて素顔は伺えない。

ライト『ほら、本当に悪者が来たろ、光』

光「……うん」

手に持った白い剣と言葉を交わしながら、光はジリジリとキヨミ達に詰め寄っていく。

ライト『アイツはとんでもない悪党だ。学園にいる人達を皆殺しにしようとしたんだから。……許せるかい?』

光「……許せない」

ライト『そう、許せないよね。なら、どうする?』

光「……やっつけるっ!!」

そう叫んだ光は、剣を振りかざして将軍へ突進していく。

キヨミ「っ、お父様!」

光「ぅあっ……!」

しかし、それをキヨミが盾で弾いた。

騎士A「な、なんだあれは……」

騎士B「おい! あいつもアイドルヒーロー同盟なのか!?」

パップ「……いや、彼女は違う……何者なんだ……?」

騎士二人とパップは突然の事に斬り合いを止め、事態を傍観している。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:39:09.24 ID:WqG/vVM70<> 騎士A「……っ、と、ともかく! 奴は将軍を狙っている!」

騎士B「そ、そうだ! お護りせねば!」

騎士達は慌てて将軍の加勢に入った。

騎士A「アイドルヒーロー同盟よ、貴様の相手は後だ!」

騎士B「覚悟せよ不届き者!」

光「……悪者を守るんなら……お前達も、悪者だっ!!」

光が叫ぶと、彼女の剣がウネウネと姿を変える。

彼女の背丈をゆうに越える柄を持つ戦斧……ハルバートだ。

光「でえぇぇいっ!!」

光が力任せにハルバートを振るい、騎士達に叩きつけた。

騎士A「ぐぁぁっ!?」

騎士B「つ、強い……!?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:39:46.79 ID:WqG/vVM70<> 吹き飛ばした騎士達に目もくれず、光は将軍へと突進していく。

光「うおおおお!!」

キヨミ「やらせませんっ!!」

キヨミが盾を構えて立ちはだかると、光のハルバートが再び姿を変えた。

今度は棘の生えた鉄球を先端につけた棒……モーニングスターだ。

光「邪魔するなぁっ!!」

光がモーニングスターをキヨミへ振り下ろす。

キヨミ「きゃああっ!?」

あろうことに、キヨミの盾はモーニングスターの一撃で無残に打ち砕けてしまった。

将軍「馬鹿な! 紅月の騎士団の装備がことごとく……!?」

光「後はお前一人だぁっ!」

モーニングスターを剣へと戻し、光は将軍に飛びかかる。

将軍「ぬぅっ!」

弱った体で辛うじて盾を持つ将軍は、己の最期を悟って目を閉じた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:40:51.97 ID:WqG/vVM70<> 直後、目の前でギン、と鈍い音が鳴る。

将軍「ぬ……? なっ……おぬし、何故……!?」

パップ「死なれちゃ困る。アンタにはちゃんと罪を背負ってもらわなきゃならないからな!」

二人の間に割って入ったパップが、銀の腕で光の剣を受け止めたのだ。

光「……アイドルヒーロー同盟の名物プロデューサー、パップ……」

パップ「お、知ってたか。いやあ、俺も有名になったなあ」

光「それが……なんで悪者を守るんだよっ!!」

パップ「……悪者なら容赦無く殺してもいいってぇのか?」

激昂する光を、静かに見据えるパップ。

光「アタシはヒーローなんだ! ヒーローは悪者をやっつけなきゃ……」

パップ「ハーッ……。あんまし言いたか無いがお前さん……そいつぁ丸っきりお子様の発想だぜ」

光「!! うるさいッ!!」

光が叫ぶと、光の剣が片手剣から巨大な両手剣に姿を変えた。

光「本物のヒーローが悪者を守るわけない! お前は偽物だッ!!」

両手剣を振りかぶり、パップへ向けて振り下ろす。

パップ「んぐっ……存外重たいな……!」

光の小さな体からは想像もつかないほど重い一撃に、パップは両手で受け止めつつも膝をつく。

パップ「ぐっうぅぅ……!」

程なく押し切られ、パップの体は縦に両断されてしまうだろう。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:41:26.64 ID:WqG/vVM70<> しかし、その時。

爛「オラァッ!」

奈緒「ハァッ!」

光「ぅぁあっ!?」

将軍を追って駆け付けた爛が光の足を払って転倒させ、その隙に奈緒が剣を蹴り飛ばした。

奈緒「ッ!?」

爛「あ? どうした獣牙!」

奈緒「い、いや、何でもない……!」

奈緒(何だ……今の悪寒……!?)

剣に触れた瞬間、言いようの無い悪寒が奈緒の背筋を駆け抜けた。

が、その正体は今の奈緒には知る由も無かった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:42:09.01 ID:WqG/vVM70<> パップ「二人とも、助かった! 素性は分からんが、あの嬢ちゃんは将軍を殺すつもりだ!」

奈緒「なんだって!?」

爛「チッ、こっちが苦労して殺さずとっ捕まえようとしてんのによ!」

爛と奈緒がパップの両脇に立つ。

光「うう……!」

ライト『まずいね、光。多勢に無勢すぎるよ』

声のする方を向けば、白い片手剣がくるくると回りながら光に向けて飛んできた。

光「くっ……数の暴力なんて、やっぱり悪者のする事じゃないか!」

光が肩を震わせてパップ達を睨む。

剣は光に近づくと大きな翼へと姿を変え、光の背中に張り付いた。

光「覚えてろ、悪者ども!!」

光はそう吐き捨てると翼を広げ、空へと消えていった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:43:32.62 ID:WqG/vVM70<> パップ「……やれやれ、一時はどうなる事かと思ったぜ」

腕を元に戻しながら、パップはため息をつく。

将軍「……パップ殿、と申されたな……」

パップ「ん?」

将軍「我を捕らえる為とはいえ、娘や部下共々命を救っていただいた事……感謝いたす」

将軍はそう言って片膝をつき、パップへ感謝の念を示した。

パップ「……なあに、気にしなさんな。それより、改めて拘束させてもらうが、構わないかね」

将軍「不要。最早逃げるつもりは毛頭無い」

騎士A「将軍!?」

騎士B「何を馬鹿な事を!?」

将軍の言葉に、騎士達が驚いて身を乗り出す。

キヨミ「……お父様……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:44:30.37 ID:WqG/vVM70<> 将軍「ただ……彼女らは勘弁していただけぬだろうか? 彼女らは今回の件には一切関係しておらん」

キヨミ「!?」

パップ「ふうむ……まあ、いいだろう。ただし、取り調べでそれが嘘と解りゃ、親娘共々重い罰を受けてもらうぜ?」

将軍「構わぬ。……キヨミ」

パップの言葉に頷いた将軍がキヨミに向き直る。

キヨミ「は、はいっ!」

将軍「これより、お前は真に自由の身だ。親や己の生まれを気にすることなく、好きに生きていくがよい。……そなたらもな」

キヨミ「…………!」

騎士A「……了解しました、将軍!」

騎士B「これまでの御恩、一生涯忘れませぬ!」

キヨミを挟んで、騎士二人が涙ながらに敬礼を決めた。

キヨミ「……ありがとうございます、お父様!」

少し遅れて、キヨミも涙をいっぱいにたたえて敬礼し、踵を返してその場を後にした。

将軍「ん……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:45:34.29 ID:WqG/vVM70<> パップ「……ああっ、そうだ。なあ二人とも、さっきの俺の腕なんだが……」

パップにとってハングリータイガーは重要機密、それを二人に見られてしまった。

しかも、片方は外部の人間。どうにか口封じをしなければ……。

爛「……あ、あー……いーよ。黙っとく」

パップ「へっ?」

奈緒「だ、誰にだって、あるもんな。知られたくない事……」

二人はそっと視線を逸らし、そう言った。

まるで、自分自身に言い聞かせているかのようだ。

パップ「……ありがとうな。さて、将軍を連行する前に、オトハさんとやらにご挨拶を……」

奈緒「いっ!? いや……それはやめといた方が……」

パップ「何でだ?」

爛「馬鹿か!? 今オトハん所には相葉先輩もいるんだぞ!? そこに裏山一つ消し飛ばした将軍連れてってみろ!」

パップ「…………三秒と待たずに串刺しだな、竹槍で」

将軍「ひぃっ!?」

パップの言葉に、将軍が思わずすくみあがる。

奈緒「あー……アタシが将軍を連れてくよ、近くにGDFの護送車が停まってんだよな?」

爛「じゃ、俺がオトハん所まで案内か」

パップ「ああ、頼んだ」

爛(将軍の捕獲は失敗か……ま、しゃあねえか)

爛は軽く頭を掻き、オトハと夕美の元へパップを案内していく。

奈緒「じゃ、アタシらも行くか」

将軍「うむ」

奈緒も将軍を連れ、GDFの護送車を目指して歩き出した。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:47:01.03 ID:WqG/vVM70<> ――――
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その頃、ブラム内部。

将軍を探す拓海とライラが一旦合流していた。

拓海「コッチにもいねえか……どこ行きやがった?」

ライラ「……タクミさん」

拓海「ん? どしたライラ?」

ライラ「よく分かりませんが、なんだかライラさん達……ものすごいおいてけぼりを食らってる気がしますです」

拓海「…………だな。一回、出るか……」

ライラ「……はいです」

なんとなく自分達が蚊帳の外でないかと感じた二人は、一度ブラムの外に出る事にした。

……秋炎絢爛祭。

その二日目を襲った『将軍事件』は、死者ゼロかつ首謀者の無事な逮捕という、最も理想的な形で終結を迎えた。

続く
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/01/28(水) 01:47:46.45 ID:WqG/vVM70<> ・看破の魔眼
クールPが持つ魔眼。
自らの意識を流し込んだ結晶体「朱眼」を操り、離れた場所や隔離された場所の様子を探る事が出来る。
高度な迷彩魔術が施されており、あらゆる物質をすり抜ける他、魔法の障壁も物ともせず、熾天使クラスの相手の目を欺くことも可能。
万能に見えるが、朱眼を出している間のクールP本体が完全に無防備になる事が唯一にして最大の弱点である。


・イベント追加情報
将軍、確保! 付近に停めてあるGDFの護送車まで奈緒が連れて行っています

家畜派が実質崩壊、キヨミと騎士ABはどこかへ去って行きました

奈緒と爛がパップのCOの存在を知りました、が、自分たちも大概後ろめたい事があるので黙っているようです

奈緒がライトと一瞬接触しましたが、奈緒が悪寒を覚える程度の影響しか無かったようです

パップは爛と共にオトハに会いに行きました

拓海とライラが一旦ブラムの外に出ます

以上です
ごめんねほんとに遅くなりまして
世界樹やグラブルが楽しすぎるのが悪いんだよ(責任転嫁)
あと何度も言うけど僕は相葉ちゃんに恨みがあったりはしません(断言)
拓海、奈緒、美世、将軍、キヨミ、騎士AB、パップ、光、ライト、以下名前だけチナミ、オトハ、夕美お借りしました <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2015/01/28(水) 02:20:50.33 ID:9wPTttIN0<> 乙ですー
やったぜ2日目の大イベント突破!!親子の思いが最後に通じあってよかったよかった
そして進む精神汚染、ライトもいきいきしてる気がしますぜ!

夕美ちゃんは植物の恋人だからね、仕方ないね……(遠い目) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/01/28(水) 14:34:04.10 ID:MtjAJHHR0<> 乙ー
将軍はやっぱり大物でしたね!これぞボスって感じのお方でした!自然界の化身達に見つかる前にさっさと逃げよう!

こうして見るとプロデューサーやアイドルもいろいろ秘密がありまくりですね〜
そんな中順調にヤバい感じになっている光、彼女が「光」を取り戻すときはいつ来るのか・・・

まだまだ学園祭の波乱は続きそうだけど、とりあえずひと段落って所ですね!
自分も早く書きあげたいぜ・・・ <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/01/30(金) 03:05:11.07 ID:24QBTNIto<> >>700
おつー
これでようやく2日目は一区切り付いた感じですね
ああ、でもまだ教習棟のカース騒ぎとか残ってるか

しかし思ってたより呆気ない結末でしたなぁ将軍、でも潔いのは好感持てますぞ
何かと不安視されていた彼の処遇ですが、割と平和的なところに落ち着いて何故か一安心

さて、きよみんは様々なしがらみから開放されて、今後どうなるのかと気になる一方で
こちらも、気が気じゃないというかなんというか、その……

光ェ…… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/01/30(金) 07:19:55.45 ID:jhtKb0z/O<> 光はレイナサマが止めてくれるし…(震え声) <>
◆C/mAAfbFZM<>sage<>2015/01/31(土) 12:27:42.66 ID:Bbc5pi0K0<> >>700
乙です、将軍が存外まともな終わり方に驚いた、やっぱ家畜派を束ねるリーダーという事か……
そして確実にヤバイ方向へ進んできている光……誰か止めてあげて!
家畜派壊滅に完全にフリーになったキヨミに騎士A・B……色々と動き出しそうな予感がします <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:20:01.28 ID:iLhYsh1v0<>
やっとできたー!無事に書きあげられて良かった〜。

では、加加加ユニットの愉快な道中を投下したいと思います! <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:20:38.57 ID:iLhYsh1v0<>


────これは、名前が与えられるまでのお話


<>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:21:13.22 ID:iLhYsh1v0<> 『イヌジニィィィ』『ムダジニナノネェェェ』

カースの断末魔が人気のない校舎に響く

襲いかかってきたカースを切り捨てた少女────北条加蓮は手にしていた槍を収め一息つく。

仁加「ゴー!黒ちゃん!」

黒兎(アいあいサー)

少し離れたところで仁加が残った残党を狩り取っ狩り取ったのを確認すると、加蓮は仁加を呼び寄せた。

加蓮「おーい、仁加ちゃーん。戻ってきてー」

仁加「うん!」

うれしそうに仁加は加蓮にすり寄ってくる。

加蓮「お疲れ様。仁加ちゃん疲れてない?」

仁加「さっきたくさん休んだし、まだまだ平気なの!」

加蓮「そっか、確かに美味しい紅茶飲んで一休みしたもんね。でも、疲れてきたら言うんだよ?」

仁加「お姉ちゃんも、いつでも頼ってね」

加蓮「はいはい」

加蓮は先ほど立ち寄ったアンティークショップのことを思い出しながら仁加の頭を優しく撫で、仁加はうれしそうに目を細める。

幸せそうな姉妹の姿がそこにあった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:21:45.19 ID:iLhYsh1v0<> しばし加蓮の手を堪能していた仁加だったが、何かに気付いたように目を開ける。

仁加「あ、加奈お姉ちゃんも呼ばないと」

加蓮「そうだったそうだった。加奈、もう大丈夫だよー」

加蓮の呼びかけに反応するように近くに放置されていた机がガタッと揺れ、小さい女の子を背負った一人の少女――――今井加奈が机の下から這い出てきた。

出る際に頭を机にぶつけることをなんとか回避すると、すぐさま加奈は加蓮と仁加に迫っていった。

加奈「加蓮ちゃん、仁加ちゃん!大丈夫?怪我はない?」

加蓮「えーと、大丈夫だよ?だから少し落ち着いて?ね?」

加奈「え、私は落ち着いてるよ!それに、机の下にいると落ち着けるって今日知りあった子が言ってたんだ!ほら、メモ帳にも!」

確かにメモ帳には[机の下にいた子、輝子ちゃんと仲良くなって落ち着ける方法を教えてもらった]と書いてあった。

しかし、目が渦巻き、どう見ても慌てているように見える加奈をふたりで宥める。

仁加「もー加奈お姉ちゃん、毎回心配しすぎなの」

加奈「うう、ごめんね。加蓮ちゃん仁加ちゃん」

加蓮「まあ、心配してくれるのは嬉しいんだけどね」

ふたりの努力の甲斐もあり、しばらくして加奈はなんとか落ち着きを取り戻していた。

…目の中の渦は微妙に消えてなかったが、まあ些細なことだろう。

加蓮(それにしても目が渦巻いてるって珍しいな〜、体質なのかな?)

仁加(渦巻き目なんて初めて見たの、何かの能力?)

黒兎(…突っ込マないゾ)

空白(微妙にテンパってるね〜。小動物みたいで可愛いな!加奈ちゃん!)

…それに言及するものも、ここにはいなかった。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:22:26.00 ID:iLhYsh1v0<> 加奈「でも、カースが来た時、私隠れてばかりだから…」

仁加「加奈お姉ちゃんはカースが来るって教えてくれるから助かってるの」

加蓮「それに、こずえちゃんに怪我でもあったら大変だしね。気にしないで」

加蓮は加奈が背負っている女の子────こずえに背を向ける。

頭に安全ヘルメットをかぶせられた小さな少女は加奈の背中で幸せそうに眠り続けていた。

加奈「なかなか見つからないね。こずえちゃんの両親も、カースの入ってくる場所も」

仁加「見つかるのといったら弾痕と壁の切り傷ばっかり!いい加減にしてほしいの」

加蓮「……」

加奈「加蓮ちゃん?」

視線を加奈に向けたまま何とも言えない表情で固まっていた加蓮に声をかける。

加蓮「…えっとね、加奈が色々考えてやっているってのはわかるんだよ?」

加奈「うん」

加蓮「でも、それはどうかなって思うんだ」

そう言いながら加蓮は加奈の頭を指さす。そこには金色に輝く鍋が加奈の頭を守るかのように鎮座していた。

お鍋は加奈の頭をすっぽりと囲い、ずれない様に紐でしっかりと固定されていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:22:54.24 ID:iLhYsh1v0<> 仁加「あー、確かにそうなの。邪魔じゃないの?」

加奈「え?だって危ない時はお鍋を被るといいってメモ帳に…」

加蓮「…それ、料理のコツって上に書いてあるけど」

加奈「あれっ!あっ、本当だ!」

自身の勘違いに気付き、加奈は慌てて鍋を脱いだ。

加奈「うう、やっちゃった」

仁加「も〜、加奈お姉ちゃんはおっちょこちょいだな〜」

加奈「言い返す言葉もありません…」

加蓮「まあまあ、仁加ちゃんもその辺にね。とりあえずこの階は調べ終わったし、次はどっちに行こうか」

仁加「こうなったら一気に一番上か一番下に行ってみたいの」

別の階に移動するべく、ひとまず階段に向かう一行。

楽しそうに会話を交わす加蓮と仁加の後ろで、加奈の気持ちはとても沈んでいた。

加奈(…やっぱり足手まといになってるよね)

加奈(そんなことないって言ってくれたけど、この二人なら私がいなくても何とかなりそうだし)

加奈(……いいなぁ) <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:23:22.49 ID:iLhYsh1v0<>


ガリガリガリッ


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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:24:03.13 ID:iLhYsh1v0<> 加奈(!?駄目ッ!)

頭に響いた音に慌てて思考を切り替えようとする。

しかし、彼女の手にしているメモ帳にはしっかりと嫉妬の感情を向けてしまった二人の未来が記されていた。

[加蓮ちゃんが助けてもらったお礼を言ってる]

[仁加ちゃんが何か不思議そうにしてるけど、どうしたんだろう?]

加奈(また…やっちゃった…)

友達に負の感情を向けてしまったという事実が加奈の心に追い打ちをかける。

加奈(そうだよね、二人の足手まといになっちゃ駄目)

加奈(今からでも遅くない、二人とは別行動を 仁加「加奈お姉ちゃん?」

急に話しかけられた加奈は慌てて顔を上げた。目の前には仁加が何か言いたげそうな顔で立っていた。

加奈「あっ、えっ、そのっ、ど、どうしたの?」

仁加「…加奈お姉ちゃん、あまりネイティブになっちゃだめだよ?」 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:24:28.56 ID:iLhYsh1v0<>
――――

KAREN「ハーッハッハッハ!カースなんてミーのビッグランスでイチコロにしてヤリマース!」

KANA「ヘーイ!カレーン!あそこにいるカースにもそのランチセットをデリバリーしてあげまショー!」

KAREN「ハーッハッハッハ!カナ!グッドアイディアデース!ハーハッハッハ!」

――――
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:25:23.52 ID:iLhYsh1v0<> 加奈「…ふえ?」

仁加の言葉におもわず頭の中でよくわからないイメージが駆け巡る。

仁加「なんか落ち込んでるの。加奈お姉ちゃん、ネイティブになりすぎだよ?」

加蓮「………あ、もしかしてネガティブ?」

仁加「そうそう、それ」

加蓮の指摘に仁加は元気よく答える。

仁加「何を悩んでるかはわからないけど、そんなに背負いすぎないでいいと思うよ?きっと、なんとかなる物だから」

少しだけ加蓮を見上げ、加奈に向き直った仁加。その表情からは外見には少し似つかない大人びた笑みが浮かんでいた。

加蓮「そっか…仁加ちゃんはいい子だね」

仁加「お姉ちゃん、くすぐったいよ〜」

何かを悟ったような笑みを浮かべた加蓮は、仁加の頭をやさしく撫でる。

仁加はこの世のすべての幸せを与えられたかのように笑いながら、静かに撫でられていた。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:26:46.78 ID:iLhYsh1v0<> 加奈「…」

この姉妹の間に何が起こったのかは加奈にはわからない。

しかし、この小さな少女が自分を一生懸命励まそうとしてくれたことは十分に伝わった。

加奈「…えへへ、ありがとうね、仁加ちゃん」

仁加「も〜、加奈お姉ちゃんまで〜」

その言葉とともに自然と手が動き、加奈は仁加の頭を優しく撫でていた。

黒兎(まあマあ、すっカり仲良くナっちゃッて)

空白(幸せそうな加奈ちゃんもやっぱりかわいいな〜。It's so cute!!)

その幸せそうな光景を二つの存在は静かに見つめていた。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:27:31.73 ID:iLhYsh1v0<>
――――
――――――――
――――――――――――

加蓮「よし!じゃあ気を取りなおしてこずえちゃんの両親探しとカースの進入口探し、再開しますか!」

加奈&仁加「おー!」

しばらく仁加を撫で続けていたが、外から響いてきた轟音に我に返る。

その音で我に返った三人は自分たちの目的を思い出し、動き出そうとする。

仁加「あ、じゃああれ!あれやりたいの!」

加奈「うん!みんな準備はいい?」

加蓮「もちろん。いくよ、せーの」

加蓮・加奈・仁加「「「かなかなファイファイ、おーっ!」」」 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:28:06.56 ID:iLhYsh1v0<>
カリカリカリッ

加奈「あっと、ちょっとまってね」

掛け声と同時に頭の中で響いた音に、加奈はメモ帳に目を落とす。

加奈(そういえば、私の能力ってまだ加蓮ちゃんと仁加ちゃんに言ってないな〜)

加蓮(加奈ってよくメモ帳見るけど、癖なのかな?)

仁加(加奈お姉ちゃんってよくメモ帳見るの、なんでだろ?)

黒兎(…アタシは絶対ニ突ッ込マナいゾ)

空白(メモ帳をめくる仕草も最高ネ!)

周囲の思いに気づくことなく、加奈はメモ帳に書かれた文を確認する。

[えっと…、なに?このカース。その…なに?]

しかし、疑問詞にあふれたその内容を見てどう反応すればいいのかはわからなかった。

加蓮「加奈、どうかした?」

加奈「ええっと、近くにカースが…」

少なくともカース関連ではあるということがわかったためそれを加蓮たちに伝えようとする。

そんな時「ソレ」はやってきた。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:29:09.75 ID:iLhYsh1v0<> 『フーッハッハッハッハッハ!』

突如として加奈たちの目の前にカースが一体現れた。

しかし、そのカースは他のカースとは少し異なっていた。

『ソコナオナゴ!ドウダネ!コイツハ!ダレニモマケルハズガナイ!』

加蓮「…えっと」

加奈「…ああ、そういう」

仁加「…ムキムキだぁ」

そう、そのカースはやけに筋肉質だったのだ…。

『オレノニクタイビハセカイイチィ!モットミルガイイ!サイドトライセップス!』

加奈「ど、どうしよう?」

仁加「とりあえず倒しとくの」

加蓮「そうだね。加奈、少し下がって」

そう言うと同時に加蓮は槍を取り出した。

仁加も戦闘準備を整え、加奈もこずえを背負ったまま少し後ろに下がる。

加蓮が手の槍を目の前の意味不明なカースに繰り出そうとした瞬間。 <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:30:07.81 ID:iLhYsh1v0<> カリカリカリッ

バリィィィィィン!

日記が更新される音とともに、窓を粉々に砕き、「ヒーロー」はやってきた。

??「セイハー!」

『ホレホレ!ダブルバイセッウボワアアアアアア』

窓から乱入してきたヒーロー────南条光は飛び込んできた勢いのままカースを蹴り飛ばす。

『キンニクキンニクキンニクゥ!』

光「カースめ!覚悟しろ!」

吹き飛ばされてもなおポージングを続けるカースに対し、光は背中の翼を剣に変化させ切りかかる。

光「これで、終わりだああああ!」

『マ、マッチョマーン…』

ポージングしかしないカースに対する一方的な蹂躙はすぐにカタがついた。

光「よし!悪は滅びた!お姉さん達、もう大丈夫だよ」

加奈「あ、ありがとう。あなたは一体…?」

光「アタシ?アタシは通りすがりの正義の味方だよ!」

加蓮「そうなの?でも、助かったよ。ありがとうね。」

光「正義の味方として当たり前のことをしただけさ。気にしないで」

加奈と加蓮の言葉に光は満足そうにうなずく。

光「じゃあ、アタシは行くね。お姉さんたちも早く非難した方がいいよ?悪い奴はいっぱいいるんだから」

悪を倒し、弱きを助けたヒーローは去っていく。

光「…そうだ…これが正しいんだ…正しいに決まってる…」

苦悩に満ちた顔を仮面で隠し、胸の中で渦巻く違和感を誤魔化しながら… <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:31:28.43 ID:iLhYsh1v0<> 加蓮「うーん、新しいアイドルヒーローかな?」

加奈「…あ!今のヒーローさんにもカースが入ってくることを伝えておけば良かったね」

加蓮「そういえば。でも、すぐ行っちゃって伝える暇がなかったからしょうがないよ」

二人が話し合う中で、仁加は不思議そうに手元の黒兎を見つめていた。

加奈「あれ、仁加ちゃん。どうしたの?」

仁加「ううん、何でもないの」

そう答えるも、仁加の意識は手元の黒兎に向いていた。

仁加「黒ちゃん?」ボソボソ

黒兎「ン?」ボソボソ

仁加「なんかヘンなの。もしかしてさっきのヒーローさんのこと知ってるの?」ボソボソ

黒兎「いやいヤ知ラナいよ。元気なコだなァって思ったダけさ」ボソボソ

仁加「そう。ならいいの」ボソボソ

実際、黒兎は光のことを知らない。しかし、彼女の使っていた剣には心当たりがあった。

黒兎(白の正義の剣。随分トあの子に馴染ンでるみタイダねー)

黒兎(この事ヲ白が知ったら機嫌良クなるカナ?キシシ)

黒兎(ワザワザ教えルの面倒だし、気が向いタら伝えてあげよっカナ。もウ知ってルカもだシ)

黒兎(…あレ?)

黒兎は、加蓮と加奈から自分たちが少し離れていることに気がついた。

黒兎「仁加?行かナいのカ?」

疑問に思った黒兎は仁加を見上げた。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:32:41.08 ID:iLhYsh1v0<> ――――
――――――――
――――――――――――

加蓮「…仁加ちゃん?」

一方、加奈たちも仁加が自分たちから離れていることに気がついていた。

加奈「あ、あんなところに。おーい、仁加ちゃーん」

後ろを振りかると、仁加が先ほどカースに襲われたところで立ち止まっているのが目に入った。

呼びかけられた声に仁加は反応するも、その場を動こうとしない。

疑問に思った加奈たちはトコトコと仁加のいるところへ近づいていく。

仁加「…えっとね、お姉ちゃん、加奈お姉ちゃん」

加奈「もしかして、疲れちゃった?」

加蓮「それなら一回休もっか。加奈も疲れたんじゃない?」

仁加「ううん、そうじゃなくって…、コレ」

そう指差した先にあるのは、光が割った窓。

仁加「この窓、放っておいていいの?カース、入ってこない?」

加蓮&加奈「………あ」

その後、とりあえずの応急処置として、近くの教室の看板や机などで精一杯穴を塞ぐ加奈たちなのであった。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:34:16.04 ID:iLhYsh1v0<>
―――――修理するための材料を集める最中、加奈は先ほど言われたことを考える。

加奈(そういえば、この日記にまだ名前を付けてなかったな)

そう思いながら先ほど書かれた加蓮たちの未来を読み返す。

加奈(誰かを悪く思うと勝手に書かれる日記、読みたいとはあまり思わない日記)

加奈(だけど、この日記にだってちゃんと意味はあるはず。いたずらに怖がってちゃだめだよね)

加奈(仁加ちゃんの言うとおりだよ。これからもいろんな事が起こるかもしれないけど、ネガティブになっちゃだめなんだ)

加奈(うん、決めた!この日記の名前は『負の感情日記』(ネガティブ・ダイアリー)!自分がネガティブになってるって気づかせてくれる日記!)

加奈(けど、なるべく頼らないようにしなくちゃいけないよね)

加奈(だって、私はお姉ちゃんだもん!ちゃんと前を向いてなきゃ!)

なかなかいい名前をつけたとご満悦になる加奈。

メモ帳の他の所に目を通し、修理に使える材料が載ってないか確認する。

使えそうな記述を発見し、急いでその場所に向かった。

加奈「あったよ!丈夫そうでとっても大きいまな板!」

加蓮「やったね、加奈!」

仁加「でかしたの!」

楽しい修理の時間はしばし続くのであった。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:34:51.90 ID:iLhYsh1v0<> 負の感情日記(ネガティブ・ダイアリー)


新たに手に入れた能力。『憤怒の街』事件以降手に入れた。


加奈自身が怒り、嫉妬などといった「負の感情」を向けてしまった相手の未来の出来事がメモ帳に記される能力。


こちらも未来の加奈の主観による文章なので、現在の加奈にとって意味のわからない文章が多い。


どのくらい記されるかは向けた感情の量による。


日記が書かれる時は頭の中で「ガリガリガリッ」という音がする。


発動する時に何となく嫌な気分になるため、加奈はこの能力を怖がっている。


しかし、仁加の言葉もあり前向きにこの能力と向き合おうとしている。
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:35:24.25 ID:iLhYsh1v0<> ・イベント追加情報

新たに一か所カースの進入口ができました。できる限りカースが入ってこない様していますが、効果は…

黒が「正義の剣」の持ち主を認識しました。

修理が終わり次第、加加加ユニットはこずえの両親とカースの進入口探しを再開します。(仁加は地下か屋上かに行きたがってるみたいです)
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◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/12(木) 01:36:50.54 ID:iLhYsh1v0<> 長くなった!

要は加奈ちゃんが日記に名前を付けたってだけなのにいろいろ詰め込んだらこんなになってしまった!

まあ、しょうがないね。この子たちが勝手にしゃべるんだもん。

と、いうわけで負の感情日記(仮)の正式な名前が決まりました!

一緒に名前を考えてくれた皆様、本当にありがとうございました!

加蓮、仁加、黒兎、光、あと存在だけ輝子ちゃんと雪乃さんと新田ちゃんをお借りしました!
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◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/02/12(木) 22:31:55.31 ID:kJNfaDAk0<> 乙ですー
ネイティブとかまな板とかいろいろ卑怯w
相変わらず加加加トリオは突っ込み不足というかなんというか

光は相変わらず不穏っすねぇ… <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/02/12(木) 23:07:15.41 ID:4At5vCn5o<> >>726
おつー

加加加ユニットが仲良しで良いですぞー
しかし終始和やかなムードでお話が進む中、ところどころに何やら不穏な空気が…… <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:42:03.83 ID:NCd+BkJq0<> >>726
乙でしてー
相変わらず加加加トリオの和やかかつ穏やかな暴走爆走は見ていて微笑ましいのう
ネイティブのくだりでゲッ○ーロボのテキ○スマックを思い出したのは僕だけですねそうですね

ではでは、学園祭二日目で投下ー <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:42:52.72 ID:NCd+BkJq0<>
エマ「うおおっ、すっげー!」

裏山跡のクレーターに墜落したブラムに、エマは目を輝かせた。

エマ「今弾いたのスパイクPさんだよなー、っはー! ほんっとすげーっ!!」

興奮のあまり、手に持ったバクオンマルをブンブンと振り回す。

ほたる「…………」

乃々「…………」

その様子を、ほたると乃々は呆然とした様子で眺めている。

ほたる(戦闘外殻、海底都市の海皇親衛隊……乃々ちゃんを狙ってきたんじゃないの……?)

ナチュルスターにとってまだ記憶に新しい、親衛隊サヤの襲撃。

それによって巴とイヴは傷を負い、乃々は深いトラウマを抱えてしまった。

その乃々を守る為に、ほたるは今、エマの前に立ちはだかった。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:44:01.71 ID:NCd+BkJq0<> の、だが……。

乃々「……こっち、ガン無視してるんですけど……」

ほたる「う、うん…………」

エマ「あ、そだ。ねー、そこの髪グルグルしてる子! 今ノノって呼ばれたよね!?」

乃々「ひっ!?」

ほたる「っ!!」

来た。ほたるは直感でそう悟った。

こちらに興味がないフリをして、隙をついて乃々を奪う作戦だったんだ、と。

そうはさせじと変身の構えをとるほたる。

エマ「ルカ、分離。……いやー、話にゃ聞いてたけどまさか会えるとはな! 意外とちっこいなー!」

しかし、エマは構えるどころか変身を解き、大きな声を上げながら二人に歩み寄っていく。

ほたる「…………?」

まだ油断させるつもりだろうか?

ほたるは変身の構えを解かず、エマをキッと睨み付けた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:44:48.98 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「……あれ、ルカさん……?」

『カラ、カカラカラ!』

乃々が、分離した鎧……戦闘外殻のルカに反応した。

乃々「……あっ、あのっ……なんであなたがルカさんを連れてるんですか……」

エマ「ん?」

ほたる「……乃々ちゃん?」

乃々の言葉に、二人が動きを止める。

乃々「る、ルカさんは……私の友達の、ケイさんのパートナーなんですけど……」

乃々の脳裏に、一つの情景が浮かぶ。

海岸で泣きじゃくる、まだ幼い乃々。

その隣に座り、乃々を慰める一人の女性。

そして彼女が連れている、地面を泳ぐ銀色のイルカ……。

そのイルカが、今目の前にいる。

しかし、それを連れているのはあの女性ではない。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:45:44.37 ID:NCd+BkJq0<> 乃々がおずおずとそれを尋ねると、エマはケロッとした様子で返した。

エマ「ああ、母ちゃんから引き継いだんだ。アタシはケイの娘だからさ」

乃々「娘さん……ですか……?」

エマ「そうそうっ、アタシは海皇親衛隊のエマってんだ! 母ちゃんからノノの話はよく聞いてたよ! よろしくな!」

エマは握手をしようとフレンドリーに乃々に手を伸ばす。

ほたる「……っ!」

しかし、二人の間に立つほたるがその手を払いのけた。

エマ「お?」

ほたる「……乃々ちゃんは、渡しません……!」

エマを睨み付けるほたるの体は、震えていた。

かつて乃々を操り、巴を傷つけ、イヴにさえ手傷を負わせた親衛隊の一人が、今、目の前にいる。

怖い。逃げ出してしまいたい。

だが乃々が親衛隊に捕まれば、乃々の力で地上は海の底に沈んでしまう。

それだけは、絶対にさせない。

乃々を護る為に、ほたるが一歩前に踏み出す。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:46:32.05 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「あ、あの、ほたるさん……ちょっと、大丈夫なんですけど……」

ほたる「……えっ?」

しかし、その乃々がほたるを手で制した。

乃々「あの……ケイさんの娘さんって……本当なんですか……?」

エマ「うん。ルカ見りゃわかるっしょ?」

『カラカラ』

エマはそう言ってルカを抱き上げた。

乃々「…………」

ほたる「ね、ねえ乃々ちゃん……どういう事? 状況がよく分からないんだけど……というか、ケイさんって誰なの?」

蚊帳の外気味になっていたほたるが乃々に問いかける。

乃々「……ケイさんは、私の……昔のお友達です」

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:47:33.69 ID:NCd+BkJq0<> ――――
――――――――
――――――――――――

私は昔、友達もいなくて、一人で泣いてる事が多かったんです。

それである日、いつものように近所の海岸で泣いてた時に……、

のの「……ぐすっ、ぐすっ……」

??「あら? ねえあなた、どうかした? どこか痛いの?」

『カラ、カラカラ』

のの「ふぇ……だ、誰ですか……何でビショビショなんですか……」

ケイ「私はケイ、ウェンディ族よ。あなたはだあれ?」

のの「……も、もりくぼ、ののです……」

これが、私とケイさんの初めての出会いでした。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:48:25.48 ID:NCd+BkJq0<> それからというもの、ケイさんはちょくちょくその海岸にやってきて、私の話相手になってくれました。

ケイ「ノノちゃんは、この海岸好きなの?」

のの「……はい……ここで波が寄せてくるの見てると、なんだか落ち着きます……」

ケイ「そうなんだあ。私も、ここ好きだな」

のの「……一緒、ですね」

ケイ「ふふ、そうね」

お話をしていく内に、私とケイさんはお友達になっていきました。

ケイ「これ、海底都市の郷土料理よ。海藻で出来てるの」

のの「……お魚じゃないんですね」

ケイ「うーん……海底都市だと魚肉はあんまり好んでは食べない、珍味みたいな扱いね。地上で言うなら犬の肉とかと似たような感じかしら」

のの「そ、そうなんですか…………あ、おいしいです……」

ケイ「でしょ? 娘も大好物なのよ」

のの「娘さん……いるんですか?」

ケイ「ええ、とっても元気な子よ」

のの「そう、ですか……もりくぼとはソリがあわなそうです……」

ケイ「ふふ、大丈夫よ。元気なうえにいい子だから」

のの「……そう、でしょうか……」

幼い私にとって、ケイさんはまるでお姉さんのような存在になっていました。

でも、私はある時、ケイさんにひどいことを言ってしまったんです。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:49:30.01 ID:NCd+BkJq0<> その日、私はとても落ち込んでいました。

学校で、嫌な事があって……例の海岸で、いつもより深く深くいじけてました。

そこに、いつもみたいにケイさんがやってきたんです。

ケイ「こんにちは、ノノちゃん。あら、なんだか元気無いわね」

のの「…………」

ケイ「……何か、嫌な事でもあった?」

のの「…………」

ケイ「私で良かったら、話を聞くわ。どうしたの?」

のの「…………」

ケイ「……ねえ、ノノちゃん……」

のの「……うるさいですっ……!」

ケイ「っ……!?」

のの「もりくぼが何考えてようが何で悩んでようが、それはもりくぼの問題でケイさんには関係ないんですけど……!」

ケイさんが差し伸べてくれた手を払って、もりくぼはケイさんに八つ当たりをしてしまったんです。

ケイ「…………」

のの「もう、もりくぼの事は放っておいてほしいんですけど……!」

ケイ「…………ルカ、帰ろっか……」

『カ、カラカララ……』

ケイさんはいじける私に何を言うでもなく、海へ帰っていきました。

そして……ケイさんがあの海岸にやって来る事は、もう二度とありませんでした……。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:50:09.31 ID:NCd+BkJq0<> ――――
――――――――
――――――――――――

ほたる「…………そんな事が……」

乃々「きっとケイさんはもりくぼが嫌いになったんです……もりくぼが八つ当たりなんてしたから……」

乃々は俯いて、スカートの裾を握り締めて震えている。

エマ「いや? 母ちゃんそんな事言ってなかったよ?」

しかし乃々の言葉は、エマの何気無い一言であっさり否定された。

ほたる「え……?」

乃々「ど、どういう事ですか……?」

エマ「一度、母ちゃんがすっごい落ち込んで帰ってきた事があったんだ。何かあったか、って聞いたら……」

ケイ『お母さんね……またお節介焼いちゃった。ノノちゃんに怒られちゃったの』

エマ「……って。昔っから困ってる人を助けずにはいられないって言ってたからなー」

エマは腕組みしてうんうんと頷いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:51:07.70 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「じゃ、じゃあ何でケイさんは海岸に来なくなったんですか……」

エマ「ああ。次の日母ちゃん病気になってさ、治らないでそのまま死んじゃったんだ」

乃々「えっ…………」

ほたる「そんな…………」

エマの口から語られた真実に、二人は言葉を失くす。

エマ「でも、ノノに恨み言なんか言ってなかったぜ? むしろ『ノノちゃんに謝りたい』って言ってたな」

乃々「…………謝らなきゃいけないのは、私の方なのに…………」

乃々はかすれそうな声でそう言うと、ゆっくり顔を上げた。

乃々「……でも良かった……。ケイさんに、嫌われたんじゃなかったんですね……」

ほたる「乃々ちゃん……!」

乃々「ケイさんと、仲直りしたいけど……もう、無理ですよね……だったら」

乃々はエマに向かってゆっくり歩み寄り、そっとエマの手を握った。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:52:14.29 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「エマさん……私と、友達になって下さい。それで、ケイさんのお話も、いっぱい聞かせて下さい」

エマ「…………」

突然の事でエマは少し驚いた様子だったが、すぐにニカッと笑ってみせた。

エマ「もちよ! よろしくな、ノノ! あとホタルも!」

ほたる「へっ? わ、私もですか?」

エマ「友達の友達ならそりゃ友達じゃん? よろしくな!」

エマが空いている左手でほたるへ握手を求めた。

ほたる「え、えっと……よ、よろしくお願いします……あわわっ」

エマ「よろしくなー!」

ほたるに握られた手を勢いよく振り回すエマ。

ほたる「あぅ……でも良かった。乃々ちゃん立ち直って」

乃々「あ、え、えっと……ご迷惑おかけしました……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:53:06.76 ID:NCd+BkJq0<> 女生徒「だっ、誰かー!!」

その時、屋上に女生徒が一人飛び込んできた。

エマ「おわっ、どした?」

女生徒「が、学校の中にカースが……追われてるんです!」

ほたる「ええっ!?」

乃々「……行きましょう」

驚くほたるに、乃々が一歩前に出て呼びかける。

ほたる「乃々ちゃん…………うん、分かった!」

乃々「エマさんも……手伝ってくれますか?」

エマ「にひっ、もちろん!」

乃々を中心として、三人が並び立つ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:55:13.19 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「行きます……海よ!」

ほたる「空よ!」

エマ「オリハルコンん……!」

乃々「悪しき心を持つ邪悪な意思に立ち向かう!」

ほたる「自然を愛する優しき乙女に力を!」

エマ「セパレイションッ!!」

叫びと共に、三人の装いが変わる。

乃々「全てを包み込み、安らぎを与える海! ナチュルマリン!」

ほたる「全てを見渡し、恵みを与える空! ナチュルスカイ!」

エマ「アビッスマァァイル!!」

乃々・ほたる「「人々を守り、自然を守る戦士! ナチュルスター!!」」

エマ「ウェイク、アァァーップッ!!」

ほたる「あなたは、ここで待っていて下さい」

女生徒「は、はいっ!」

女生徒は屋上の隅に避難し、体を丸めた。
<>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:56:16.20 ID:NCd+BkJq0<> 乃々「……ケイさんと、私との絆……」

出口に向けてゆっくりと歩を進める乃々。

『オイツメタゼオジョウチャァァァン!!』

その前に立ちはだかるカース。

ほたる「乃々ちゃん!」

乃々「その絆が……私に力をくれます……!」

不意に、乃々がカースに向かって走り出した。

エマ「ノノッ!」

『イイダロウ、マズハオマエダァ!』

乃々「…………マリンリュスッ!!」

カースが振り下ろす拳にも怯まず、乃々は「何か」を振り上げてその拳を受け止めた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:56:54.80 ID:NCd+BkJq0<> 先端に開いた貝殻がついたような、両刃の大斧。

『マリンリュス』を振り被る乃々の姿は、ただのナチュルマリンではなかった。

まるで、祟り場で力を発揮したほたるのように、衣装が更に絢爛なものへと変わっていた。

『ナ、ナンジャア!?』

乃々「ナチュルマリン・ハーモニー…………いきます!」

軽くポーズを決めた乃々がマリンリュスを振り下ろすと、その衝撃でカースが階段の下へと落下していく。

『グェアアアッ!!』

ほたる「…………すごい……」

エマ「……おっし、アタシ達もいこう、ホタル!」

ほたる「は、はいっ!」

エマとほたるも駆け出し、階段を飛び降りてカースを追う乃々に続いた。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:57:28.74 ID:NCd+BkJq0<> ――――
――――――――
――――――――――――

その頃、海皇宮。

マキノ「……報告は以上です」

ヨリコ「そうですか。……まさかライラちゃんが地上でアイドルをしているとは……」

一時的に帰還したマキノが、ヨリコに報告をしていた。

スカルP「ガハハハ! 地上の連中も見る目があるのう!」

巫女「……スカルP、親バカ……いえ、祖父バカも大概にしてくれないかしら」

豪快に笑い飛ばすスカルPを、海龍の巫女が一喝する。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:58:22.46 ID:NCd+BkJq0<> マキノ「……そういえば、何だか海皇宮全体が騒がしいようですが……?」

ヨリコ「ええ。……信じられない事ではありますが、アビスエンペラーが起動し、神殿から脱走したのです」

マキノ「…………御冗談でしょう? あれはヨリコ様がおられなければ起動しないはずです」

巫女「そう、そのはずだったけれど……動いたのよ、現に」

巫女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

なまじ「真実」を知っているだけに、一番焦っているのは巫女なのだ。

マキノ「……ならば、私が捕らえてきましょう」

ヨリコ「マキノ……あなたには休息を」

マキノ「ええ。アビスエンペラーを捕らえたらすぐにでも休ませていただきます」

巫女「……ヨリコ様、今はアビスエンペラーの無事回収の為に少しでも人手が欲しいわ。ここは……」

ヨリコ「……分かりました。では、マキノにアビスエンペラーの回収を頼みます」

マキノ「仰せの通りに」

ヨリコの命令にマキノは頭を下げ、海皇の間を後にした。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:58:59.68 ID:NCd+BkJq0<> ・ナチュルマリン・ハーモニー
ナチュルマリンが海の歌声を聞き、海の民と心を通わせることで変身できる強化形態。
大まかな外見はナチュルスカイ・リズミカルの色違いといった風貌で、
翼のアクセサリではなく貝殻のアクセサリがついている。
海の力をこれまで以上に高め、癒しの波動を広範囲に放出する事も可能になった。
とはいえその力はまだまだ未熟、先輩魔法少女からの指導は不可欠だろう。

・マリンリュス
普段は貝殻のアクセサリーだが、歌を歌うことにより、貝殻が開いたような形をした両刃斧の姿に変わる。
海の力が込められている。
武器としてではなくナチュルマリンの力の増幅制御装置にもなっており
回復に回れば、辺り一帯に海の癒しの力が込められた結界を張ることができる。
また、力をため、その力を攻撃に回せば、荒々しい大津波のような衝撃波を放つことができる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/02/23(月) 15:59:37.00 ID:NCd+BkJq0<> ・イベント追加情報
乃々が過去の誤解を解いた事で覚醒しました

乃々、ほたる、エマが校舎内カースの討伐に加勢しました

海底都市でマキノがアビスエンペラー回収に動き出しました


はい、というわけで待つくらいならもう自分で書いてしまおう、ということで森久保覚醒回でしたわよ奥さん
ついでに三人を校内に送って二日目の早期解決を図ろう大作戦(あずき感)

乃々、ほたる、巫女お借りしました <> @予約 
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/23(月) 18:30:00.98 ID:+ITHCaFL0<> ちょいと唐突になりますが、和久井留美さんを予約させていただきます <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/02/23(月) 18:41:49.99 ID:qXb4lpTs0<> 乙ですー
もりくぼ覚醒!やはり覚醒はいいものだ
二日目はよ終わらせないと(焦り) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:08:00.82 ID:eNO/EXO5o<> >>655
楽しそうな様子の加奈ちゃんにほっこり
変態のカース…じゃなかった空白のカースの気持ちも分かります(変態並感)
祭りの賑やか感はいいですねえ

>>675
ほのぼのと見せかけて妙なフラグの立ってしまう油断ならぬシェアワである
ですがまあ、ほのぼの出来るときはほのぼのしましょう
獣人組はかわいいにゃあ(ほっこり)

>>700
これで将軍偏は一先ず決着ですねえ、お疲れ様でした
途中色々とご迷惑を……弄りに弄ったキヨミンが無事ハッピーエンドで心底ほっとしております
一方で、ただならぬ様子の光は大丈夫だろうか……

>>726
加加加パーティーは設定的には危ういことだらけなんですが、
本人達はそれほど気にせずほのぼのとしててなぜか和みます
ただし深刻な突っ込み不足である、突っ込みはよ!

>>748
ぼのの復活…!(感涙)エマのフレンドリーさが輝いてますねえ
海底都市とも友好関係を築く切っ掛けの1つになれるかな
ナチュル組が来たおかげで校舎内のカースもすみやかに掃討されそうですね
良い傾向が続いております


皆々様方乙でしたー <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:29:41.73 ID:eNO/EXO5o<> さて…と…




結局あれからまた2ヶ月掛かっててすみません!(土下座)


つ、次のレスからはじめさせて頂きますー

あと……はじめに言い訳しておきますが、
血とか結構流しますけど…ボクにリョナ趣味はないです…本当に無いはずです……
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:30:37.74 ID:eNO/EXO5o<>
前回までのあらすじ


チナミ「それにしても吸血鬼の私と戦おうだなんて……勝てる気でいるのかしら?」

美穂「ヒーローは負けないひなっ★」

チナミ「…例え、どんな勝負だったとしてもあなたに負ける気がしないわ」

チナミ「ふふっ、何だったらあなたに勝負方法を選ばせてあげてもいいくらいよ」

美穂「……」


美穂「じゃあ人気投h

チナミ「ちょっとカメラ止めてもらえる?」



前回 美穂とチナミ >>564-
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:31:09.12 ID:eNO/EXO5o<>

京華学院、教習棟の片隅で、

”家畜派”と”利用派”の吸血鬼達が邂逅した時点よりも、

ほんの少し前のこと――




肇「ここは手分けをする事にしましょう」

美穂「手分けひな?」

Pくん「マ?」


シロクマPとの電話を終えたひなたん星人は、

肇と一度合流し、京華学院内の緊急事態について話し合っていた。

教習棟内に侵入してきているカースへの対策、その方針についてである。



肇「はい、何しろとても広い校舎ですから…」

肇「幾つあるか分からないカースの進入経路を見つけるなら、2手に分かれたほうが効率が良いかと」

美穂「なるほどナリ」

肇「それに屋内の移動速度にしても、私がついていくよりかは、ひなたん星人さん単独の方がぐっと速いですから」


かつて街中を逃げ回った怪人ハンテーンの逃走に対して、

先回りのできたひなたん星人の機動力をフルに発揮したならば、

広い学院も比較的短時間で回りきれるはずである。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:31:52.51 ID:eNO/EXO5o<>

肇「カースの探知も、七振りの所有者が集中すれば難しくはないはずです」

美穂「ひなたんレーダーひな★」 キュピーン

肇「ふふっ…ええ、今回の事態はきっとひなたん星人さん向きのお仕事ですよ」


アホ毛を揺らしポーズを決めるひなたん星人に、鬼の少女は微笑みかけた。


美穂「それなら私は一人で……」

Pくん「マッ!!」

ひなたん星人の背中にぴたりとくっつく小熊が元気よく声を出す。


肇「……ふふっ、離れたくないみたいですね」

美穂「なら、プロデューサーくんと2人で行ってくるナリっ!」

Pくん「マっ♪」

美穂「振り飛ばされないようにしっかり捕まっててひなっ!」

Pくん「マッ!」


美穂「肇ちゃんはどうするナリ?」

肇「そうですね……」

肇「……教習棟内をくまなく探るためにも、学院の事をよく知る方のお話を聞ければと思います」

肇「情報収集でしょうか」

美穂「なるほどひな★」


そこまで話すと肇は目を瞑り……


肇(何かわかったら、妖術を使ってこうやって連絡しますので)


神通力を用いた念話を使い、向かい立つ少女に思考を飛ばす。


美穂(なるほど、カピバラ怪人さんの時と同じで、これなら離れていても連絡できるから安心ひなた★)

肇(ええ、ひなたん星人さんも、そちらで何かあったときはこの念を通して連絡をください)


美穂「了解ナリっ!」


かくして2人は、事態の解決の為に再び別行動を開始したのであった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:32:29.51 ID:eNO/EXO5o<>
……

………




美穂「……」

チナミ「ふふっ」


刀を構える少女の前で、吸血鬼の女は余裕ぶって笑う。

学院の生徒を操り、同属である吸血鬼の少女を冷酷に追い詰めていた女。

そのまなざしは……とても黒く、冷ややかでねっとりとしていた。


女のその手先にはべっとりと、血がこびり付いている。

彼女自身の血だ。

先ほど教室の壁に頭を打ち付けた際についた傷から、流れ出た赤い血液。


チナミ「ブラッディーアーム」


その赤い液体はブヨブヨと蠢くと、盛り上がるように形を変え、

彼女の手先を保護するような形態となる。


美穂「……それが武器ナリ?」

                         ワタシタチ
チナミ「まあね、自分の血液を操るなんて吸血鬼には造作もない事」

チナミ「特に私は、刃への変化が得意なのよ」


紅色の血液は、爪先に鋭い刃の付いた手甲となりて、彼女の武装へと変化する。


チナミ「さあ、来なさいよヒーロー。遊んであげるんだから、退屈はさせないでね」

話すことはもうないと、チナミはその爪を構えた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:32:59.75 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「……ラブリージャスティスっ」


チナミが構えるのと同時に、ひなたん星人は力を込めて足を踏み込む。

同時に、カースとの交戦で、呪いの刀が溜め込んだ負のエネルギーの一部を、

刀を通して自身の脚部へと送る。

そして、

美穂「ひなたんロケット!!!」


足に集めたエネルギーを爆発させるようにして、床を蹴り上げ、

少女は、敵へと飛び掛った。


チナミ「なっ!」

美穂「ラブリージャスティスぅっ!」

一瞬で、その距離を詰めたひなたん星人の速度。

チナミの目線からは美穂の姿が消えたようにすら見えたであろう。

そのために、反応が遅れる。

吸血鬼に出来た一瞬の隙を見逃さす、少女は続けざまに技を撃ち放った。


美穂「ひなたんみねうちっ!!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:33:29.69 ID:eNO/EXO5o<>



――ガシッ


美穂「……えっ!?」

チナミ「はぁ…舐められたものね。そんな攻撃が私に通用すると思ったのかしら、ひなたん星人?」


ひなたん星人の放った渾身の初撃、

吸血鬼はそれを、血装を纏うその手で軽く受け止めていた。


美穂「っ!」

すぐさま、受け止められた刃を引き離そうと少女は力を込めるが…

美穂「えっ?!」

離れない。

美穂(な、なんて力なりっ!?)


吸血鬼の怪力によって、がっちりと掴まれた刀。

負のエネルギーを肉体に供給し、ブーストしているひなたん星人の力であっても、

チナミのその手から引き外すことは出来なかった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:34:00.35 ID:eNO/EXO5o<>


チナミ「ねえ……あなたの持つこの妖刀だけれど」

チナミ「持ち主に負のエネルギーと、それを扱う技術を与える刀なんでしょう?」

美穂「えっ………そ、それが何ナリ…?」

チナミ「だったら」


ひなたん星人の足が宙に浮いた。

美穂「!?」

チナミがその腕を上げ、”ひなたん星人の身体ごと”掴んだ刀を持ち上げたからだ。


チナミ「例えばあなたの手から刀が離れれば、その肉体を守る可愛い服は霧散するはずよね!」

美穂「ま、まさかっ!!」


その言葉に、チナミが何をしようとしているのかひなたん星人は気づく。

だが、気づいたところでもう遅い。

刀を抑えられた時点で、ひなたん星人はこの後に訪れる脅威から逃れることは出来ないのだから。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:34:34.90 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「吹き飛ばされなさいっ!」

吸血鬼は無慈悲にも容赦なく、その手に掴んだ刀を持ち前の怪力を発揮して振り下ろす。

刀を掴んだままのひなたん星人もまた同時に振り回された。


美穂「ぐっ!」

ひなたん星人はその手を離さないように必死で柄を掴むが……


遠心力によって無防備に浮いたひなたん星人の身体に向けて、

チナミ「はっ!!」

吸血鬼は、すかさず蹴りを放った。


美穂「――ぁうっ!」


負のエネルギーによって編みこまれたひなたん星人の漆黒の衣装が、

その一撃の破壊力を大きく減退させる。


しかし、その勢いまでは殺しきれず、ひなたん星人は刀を手放してしまった。

美穂「……あっ」



それはひなたん星人にとって、小日向美穂にとっての最悪の失態。



刀から手を離したことによって、負のエネルギーによって編みこまれた漆黒の衣装は霧散し――



身を守る防具を失った美穂の肉体は、勢いのままに教室の壁の方へと放りだされる――


そして、 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:35:12.48 ID:eNO/EXO5o<>
 






Pくん「マッ!」


美穂の身体が壁へと打ち付けられる直前、その背の引っ付いていた小熊が何かを行った。



どんがらがっしゃーん!
<>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:35:43.32 ID:17HN5fg4o<> >>748
おつー

よかった、ぼののが元気になって本当よかった……
様々な誤解が解けてパワーアップも果たしたぼののの今後に期待ですな <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:35:45.41 ID:eNO/EXO5o<>


チナミ「…………ふーん、これが『傲慢』のカースドウェポン」


非常に強引な方法でひなたん星人からその刀を奪い取ったチナミは、

しげしげと、手に取ったその刃を眺める。


鬼匠の打ち上げたと言う、『傲慢』の呪いを宿す妖刀。


なるほど、確かにこれは見事。


刀の良し悪しの見極め方など、チナミの知るところではなかったが、

しかし、素人目に見てもわかるこの刀の気高き美しさ。

そして刃に込められし厳かなる情念はキリキリと感じ取れる。


もちろん、この刀の価値は見た目の美麗さだけではない。

吸血鬼の怪力を用いて乱暴に振り回し、そして奪い取ったにも関わらず、その刃に欠けたる所は一切見当たらない。

それほどまでにこの刀は頑強であるらしい。


チナミ「これがあの男が求めるものねぇ……」


これが特別な刀である事はよくわかったが、

果たして、チナミにカースドウェポンの収集を命じたあの男……サクライPが求めるほどの真価を備えているのだろうか。



美穂「ううっ」


チナミ「あら?」

投げ飛ばした少女が呻き声をあげたことに気づいて、チナミはそちらへと顔を向けた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:36:27.09 ID:eNO/EXO5o<>


美穂「……ええっと」


さて、チナミの蹴撃によって、大きく吹き飛ばされた美穂であったが、

その身体は無事健在。


蹴撃自体は、負のエネルギーによって編みこまれた衣装が霧散してしまう前に防いでくれていたので、

それによって肉体が破壊されることは無かった。


そして吹き飛ばされ、床か壁に打ち付けられる事で、その身に襲うはずの衝撃にしても、

”何か”がクッションになってくれたことで、相殺されていた。


美穂「これって……」


果たして美穂の身体を守ってくれたのは、


美穂「……この白くてフワフワして…なんとなく甘い匂いのするものって」



美穂「……………ま、ましゅまろ?」

何処からか現れた……謎の大きな、人と同じほどのサイズの大きなマシュマロであった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:36:52.78 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「な、何だろうこれ……一体何処から……」

Pくん「マっマっ♪」

美穂「プロデューサーくん?」


謎の巨大マシュマロの傍らで白い小熊が小躍りしている。

どうやら……彼が何か関係しているようである。


美穂(な、何がなんだかわからないけれど、とりあえず……助かったのかな?)





チナミ「なにそれ、召喚系の魔術か何かかしら?」

美穂「はっ!」


吸血鬼に声を掛けられて、美穂は慌てて立ち上がる。

今はまだ戦闘の真っ最中。ずっと倒れているわけにはいかない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:37:21.62 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「っ!」

チナミ「……」

立ち上がった少女は素の自分のままに吸血鬼と対峙する。

睨みつけてくるその眼光は正直なところめちゃくちゃ怖かったが、

しかし、だからと言って、泣き言をこぼせる状況ではない。


美穂「ええええとっ、そそそそのっ!」

チナミ「……」

美穂「………ほ」

チナミ「……」

美穂「ほあちゃー!」 ザッ

チナミ「……」

美穂(こ、これは違ったかな……)


……『小春日和』を手にしていない今……全然、形にはなっていなかったが、

それでも少女は、戦う意志を持っている事を示すようになんとか構える。


チナミ「ふんっ……何よ?武器を失ってもまだ戦う気があるの?」


対する吸血鬼は余裕の表情。それも当然。

抗う術を奪った今、チナミにとってただの人間の少女は何の脅威でもない。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:37:50.11 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「……」

美穂「……確かに、このまま戦ったらまず負けちゃうと思います」

チナミ「でしょうね」


美穂の言葉をチナミが肯定する。それが必然。

生身の人間が吸血鬼に敵う道理などあるわけが無い。



美穂「でも、それでも!」

美穂「こ、ここで逃げちゃうわけにはいきませんっ!」

チナミ「…………ふーん」


小日向美穂は、ひよっこヒーローの端くれ。まだまだ未熟。

だが端くれでも、未熟であったとしても、その心は立派なヒーロー。

守るべきものを守るため、怯える身体にエールを送り、強大な敵へと立ち向かおうとするのであった。


その行動は、

チナミの目からは、あまりにも愚かに映る。

余分なものを背負って、敵わない敵に挑もうとする、まるで不合理。理解できようはずがない。



チナミ「やれやれね、ヒーローのそう言うところ……とっても面倒だわ」

美穂「は、はい!こ、こんな私でもヒーローの端くれです……

   だから……」

チナミ「だから?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:38:56.66 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「ひなたん星人はまだ終わりませんっ!」

チナミ「何を――」


瞬間、小日向美穂は前へと手を伸ばし、そして叫ぶ。


美穂「ヒヨちゃんっ!!」


チナミ「なっ」

少女の叫びに応じるように、

チナミが持っていた刀はその手から擦り抜けて――

ビュウンと真っ直ぐ、本来の持ち主の手へと、飛んでいく。



戻ってきた『小春日和』をその手にがしりとつかみ、

漆黒の衣装が再び編みこまれて、戦う意志が、この場に再び立ち上がった。



美穂「……愛と正義のはにかみ侵略者、ひなたん星人!ふたたび見参ナリっ!」

美穂「今度はもうちょーっとだって、油断はしないひなたっ!」


少女はその固い意志を、高らかに告げた。


チナミ「……」

チナミ「……」

チナミ「…………ふっ」

吸血鬼の口角が上がる。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:39:28.41 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「”今度は”ねえ?…ふふふっ」

美穂「ま、また笑ったナリっ!?そ、そんなにおかしい事は言ってないはずひなたっ!」


チナミ「いいえ!おかしいわ!おかしい事だらけよ、ひなたん星人」

チナミ「だいたいからして認識が甘いのよ」

美穂「に、認識……ひな?」


吸血鬼は指摘する。


チナミ「そう……。あなたの行動、さっきから見ていたら……笑っちゃうことだらけ」

チナミ「あの家畜派の吸血鬼を無条件に”信じる”って言ったこともそう……」

チナミ「無力で無防備な状態にも関わらず、なお私に立ち向かう気があったこともそう……」

チナミ「それは”認識の甘さ”じゃないかしら?」

美穂「……どういう事ナリ…?」


未熟なヒーローの間違いを。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:40:01.14 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「そうそう……さっきの攻防で、吸血鬼の私に向かって…まさか”不殺の一撃”を放ったことだってそうだったわ」

美穂「それは……」


先ほどの攻防……

ひなたん星人は不殺の必殺技「ラブリージャスティスひなたんみねうち」を放ち、

それをチナミは怪力をもってして悠々と受け止めて見せた。

それがひなたん星人の隙へと繋がった。


だが……もし、ひなたん星人が別の技を使っていたなら?

相手を傷つけることのない技、「ラブリージャスティスひなたんみねうち」ではなく、

もっと威力の高い技、例えば「ラブリージャスティスひなたんフラッシュ」だったならば?

その時はきっと、別の結果が出ていたはずである。


チナミ「カースを狩ることには慣れていても、演舞や練習試合の経験はあっても」

チナミ「人型の生き物にたいして、”本気で”その刃を向けたことは無かったかしら?」

美穂「……」

チナミ「話せる相手なら、”斬り伏す”事は無い……なんて風に思ってたんじゃないの?あなたは」

美穂「……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:40:40.85 ID:eNO/EXO5o<>

これまでひなたん星人が戦った敵を振り返る。

色々な罪の形を携えたカース達、

斬撃の効かない怪獣人ハンテーン、

海底都市の機械兵イワッシャー。


彼らには言葉が通じなかった。

彼らはただ暴れまわって、人々を傷つけるだけの怪物であったが故に、

ひなたん星人は、彼らと迷いなく戦うことができ、そして切り伏せる事ができていた。



怪物ではない存在との戦闘の経験も少なからずある。


『桜花夜話』を携えた鬼の少女との模擬戦、

『祟り場』で出会った仮面の少女と無限の剣の演舞。


どちらも”言葉の通じる人”が相手。

しかし、前者は模擬戦。後者は演技。

もちろんどちらの場でも手を抜いていたつもりはないが、

それでも放った技に篭る思いは……”本気で相手の身体を斬る事”ではない。



美穂「……話せる相手なら……できるだけ、酷いことはしたくないナリ」

チナミ「だからそれが甘いって言ってるのよ、ひなたん星人。」


そう、未熟なヒーローは、話の通じる相手に本気で斬りかかった事などなかった。

だから先ほどの攻防の際、不死の怪物であるチナミに対して、不殺の必殺技を放つ”甘さ”が出た。


チナミ「その”認識の甘さ”こそがあなたの弱点、それが致命的な結果を招くわ」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:41:31.78 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「さっきあなた言ったわよね?”今度は油断しない”って」

美穂「い、言ったナリ……それが」

チナミ「ふふっ……”今度”があると思ってる時点で、あなたは甘いのよ」

美穂「えっ」


瞬間、美穂の首筋に痛みが走った。


美穂「っ……?」

それはとても些細な痛み。

軽い違和感を伴う程度の、なんて事のない痛み。

首筋を摩る。まるで虫に刺されたかのように少しだけ腫れているような感触があった。


チナミ「今度なんてないのよ、次なんてない」

チナミ「だって、私はもう”あなたに一歩も近づかない”もの」

美穂「!」


チナミ(”力ずくで強引に奪ってみる”なんて方法は、一度試せば十分)

チナミ(それが出来ないのは、元々聞かされて知っていたこと……)

チナミ「私が接近戦を放棄してしまえば、あなたが技を放つチャンスはないわね」

チナミ「だから油断や隙を探る必要もないわ、その前に私があなたを倒しちゃうから」

美穂「い、いったい……どうやって」

チナミ「今に分かるわよ」


吸血鬼は不敵に宣言した。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:42:10.97 ID:eNO/EXO5o<>


小チナミ「採ってきたわよ」

チナミ「はい、ご苦労様」


美穂「!」

少女は目を見張った。

目の前に立つ吸血鬼の女の手元には、いつの間にか、小さなもう1人の吸血鬼が居たからだ。


美穂「い、いつの間にナリっ?!」

小チナミ「ふふっ、気づかなかったかしら?戻ってきたのはついさっきよ」


ひなたん星人が気づかなかったのも無理は無い。

それは影に潜るのが大の得意な吸血鬼の使い魔。

その姿を捉えるのは難しく、感じ取ることさえも、

そして――


小チナミ「あなたから少しだけ”血を吸わせてもらって”からね」

美穂「えっ」


”攻撃された事”でさえもなかなか気づけない。


ひなたん星人は再び首筋をさする。

首筋の僅かな腫れはどうやら、小さな使い魔によって血を抜かれた跡であるようだ。


美穂「……蚊?」

小チナミ「失礼しちゃうわ」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:42:56.73 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「……」


ひなたん星人の頭に、先ほどまでこの場に居た吸血鬼の少女の残した言葉が過ぎる。

”不意打ちには充分に気をつけてください”


美穂(こう言う事だったナリ……?)


目の前に居る敵による不意打ちには十分に警戒していたつもりだった。

だが、小さな伏兵の存在にまでは気がつくことができなかった。


美穂(でも……)


美穂「こ、攻撃されてた事にはびっくりしちゃったけれど、痛みはないナリ……」

チナミ「それはそうよ、気づかれないほど些細な攻撃が強力だったならもっと活用しているわ」


吸血鬼の使い魔による”吸血行為”。

それは、吸血鬼自身よる”それ”とは異なり、格段に些細なもの。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:43:44.47 ID:eNO/EXO5o<>
攻撃によるダメージは小さい。虫に刺された程度の痛み。

肉体に変化を及ぼすこともなく、毒さえもない。

(例え毒があったとしても、少々であれば、実はひなたん星人の能力でどうにかなってしまうのだが。)


ただ、わずかな血を摂取するだけ。それだけの行為。

それほど些細なものでなければ、”意識させない攻撃”として成立しないのだから仕方ない。



そして、


美穂「……?」


だからこそ少女にはわからない。吸血鬼の使い魔によるとても小さな攻撃の意味が。


だからこそ少女は気づけない。そのほんのわずかな一撃が、ひなたん星人にとって致命的な一撃となる事に。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:44:12.69 ID:eNO/EXO5o<>

小チナミ「……それにしても”認識の甘さが致命的な結果”を招く…ねえ」

小チナミ「あなたが言うとすごく説得力があるわね、チナミ」

チナミ「なっ!う、うるさいわねっ!さっきまでのはぜっんぜん油断とかじゃないわよ!」

チナミ「予定外の邪魔が入っちゃっただけじゃない!」

美穂(そう言えばめちゃくちゃ油断してた気がするひなた……)


冷酷な吸血鬼であるチナミだが、彼女もまた油断も隙もないわけではないらしい。

ひなたん星人にとっては、それはわずかな光明となるはずである。


小チナミ「はいはい、そう言うことにしておいてあげるから、早くしたら?」

面白半分に主人の隙を指摘した後、

使い魔は、どこか投げやりに”次にすべき行動”を促す。

チナミ「くっ……まったく本当、自分のことながらムカつくわ」

チナミは、使い魔を乗せた紅色の手甲を大きく開く。


そして――


チナミ「じゃあね」


ぐしゃり <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:44:54.32 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「!!」


一気に握りつぶした。

彼女の手から使い魔のものと思われる血が流れ落ちる。


美穂「な、ななな何をっ……!」

チナミ「あら?女の子にはショッキングな光景だったかしら?」

チナミ「グロテスクな描写がありますくらいは事前に言っておいた方が良かったかしらね」

チナミ「でもまあ、気にしなくていいのよ」
                                   ツ カ ウ
チナミ「元から”私の血液”で出来ている人形、こうやって利用することを前提に作っていたんだから」


ひなたん星人が唖然としている間に、

潰れた使い魔から流れ出た赤い液体は、

彼女の手甲を構成していた血と溶けて混ざり溶け合い、そしてぶよぶよと形を変える。


美穂「つ、使うって……」

チナミ「決まっているでしょう。私が今手にしているのは何なのか」

チナミ「私の血液……そして、ちょっとだけだけれど”あなたの血液”」


チナミは血を掴む右手を前に伸ばし、そして構える。

その指先に向けて、再度血液が集合し、新しく彼女の武器を創り上げる。


チナミ「教えてあげるわ、吸血鬼にその血を掴ませることの意味を」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:45:28.40 ID:eNO/EXO5o<>
チナミが新たに造りだした血装。

形状は細長く、鋭く尖った針のよう。

それを彼女は片手の指で挟み、支えている。


その形状、その構えから、ひなたん星人は用途を察する。

おそらくは…… 投擲武器!


美穂「ほ…」

美穂「呆けてる場合じゃないひなたっ!!」


急いでその脚を前へと踏み込む。

吸血鬼の意外な行動に面食らい固まってしまっていたが、そんな暇はない事に気づいた。


チナミの自信満々な様子と言動。

それらから考えて、彼女が新たに用意した武器は、”何か恐ろしい効果”を持っている気がする。


武器に宿るなんらかの能力。

見た目から判断できないが、とりあえずは、すぐさま何かが起きるようなものではないようだ。


だが、このまま放っておいてむざむざ攻撃を行わせてしまえばどうなるかはわからない。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:46:10.43 ID:eNO/EXO5o<>

だから、射出の前を叩く。



なるほど。接近戦をする気がないと言うのは本当なのだろう。

さきほど「もう近づかない」と言った吸血鬼が持つのは投擲武器。


なら、崩すとするならば今。攻撃される前に攻撃を潰す。


吸血鬼とひなたん星人、教室のほぼ反対側に位置しているとは言えど、

それほど大きく離れているわけではない。


ひなたん星人の瞬発力ならば、吸血鬼の手から赤い針が離れるよりも先に、

高速接近し、刀を振るうことも不可能ではないはずだ。


美穂(さっきは、「ラブリージャスティスひなたんみねうち」を使ったから迎撃されちゃったけど)

美穂(今度こそは失敗しないナリっ!絶対に打ち勝てる必殺技を…)



チナミ「来なさい、カース」


ひなたん星人の足が地面から離れる寸前、

吸血鬼は、それを呼び出した。


美穂「!」


呪いの刀がその気配を感知する。

吸血鬼が呼び出したのは間違いなくカース。

そしてその気配は、踏み出したひなたん星人の後ろから……


つまり…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:46:38.20 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「危ないナリっ!!」


即座に、吸血鬼への突撃を中止し、ひなたん星人は振り向きざまに一閃。


『ゲアッ!』

吸血鬼に呼び出された眷族カースは即座に上下に分断された。

間一髪。

その泥は、ちょうど、ひなたん星人の近くに倒れ伏していた学生たちに手を伸ばそうとしていたところだったのだから。

横薙ぎに切り分けられた泥の怪物は崩れ落ち、消滅する。


チナミ「流石ヒーロー、見事な判断だったわ」


チナミはニヤリと笑う。もちろんカースが一撃でやられる事など承知の上。

それは、ひなたん星人の気を一瞬引き受けるだけでよかった。

その一瞬の隙さえあれば、彼女の攻撃は完了するのだから。



チナミ「ブラッディーダーツ!」

狙いを定めた彼女の手から今、紅色の悪意が打ち放たれる。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:47:04.85 ID:eNO/EXO5o<>

放たれた紅は、一直線に、ひなたん星人を貫くべく飛んでくる。


美穂「……っ!」

美穂(ラブリージャスティスひなたんスターシューターと同じっ)


そう。その軌道はひなたん星人の必殺技である遠距離攻撃「ラブリージャスティスひなたんスターシューター」と似通っていた。

まるで弾丸のように、真っ直ぐと、高速に、狙いを定めた場所へと飛んでくる。


チナミが狙ったのは、ひなたん星人がカースを打ち倒すために刀を振り切った瞬間。

攻撃の直後と言うのはどんな達人でも必ず体勢を崩し、隙ができると言うもの。

チナミの呼び出したカースは、ひなたん星人の気をチナミから逸らすと同時に、

ひなたん星人に隙を作り出す事にも貢献していたようだ。


もっとも


美穂「ひなたんスライドっ!」


無理のある体勢からでも、ひなたん星人の能力ならば僅かな移動であればたやすい。

足首を小さく捻り、足先から負のエネルギーを軽く放出する。

滑るような緊急回避によって、紅の魔弾の軌道から少女は逃れる。





逃れたはずであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:47:42.86 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「えっ!?」


少女はその目を疑った。

避けたはずの魔弾は突如、急速に方向転換。

直線的な軌道がブーメランのように大きく曲がり、再び自分に向けて飛んできている。


美穂(避けられないナリっ!)


「ひなたんスライド」による移動は、無理な体勢からでも緊急の回避を可能とするが、

移動後も、ほぼ体勢が変わっていないことが欠点。あくまで緊急回費用でしかない。

そのため、軌道が唐突に変わった高速で飛んでくる物体に対応することは難しく……

それでも少女はなんとか防御姿勢に移行しようとするが……


美穂「あっ!ぐぅ!!」


伸ばした右手を射抜かれる。

高速で飛んできた紅の魔弾は、少女の皮膚に突き刺さると、

その勢いのままに肉体を貫通し、突き抜けて行った。
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◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:48:26.01 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「痛ぅぅ……!」


痛みに思わず右手を押さえる。

猛烈なスピードで飛んできた赤い杭。

その威力は、ひなたん星人の衣装の持つ防御力にすらも勝るものであった。


チナミ「泣かないのね、普通の女の子なら痛みに悲鳴をあげているはずだけど」


美穂「ひ、ヒーローだから……これくらい、どうってことないナリ!」


少女は痛みを堪えて刀を構えなおす。

肉体を貫くほどの威力を持つ杭によるダメージは、

右手にガンガンと響いており、まったくもって、どうってことないはずが無いのだが……

それでも妖刀を手に持つひなたん星人は、自身の痛みを誤魔化す術を持つが故にそれを堪えることが出来たのだった。



チナミ「そう、見かけによらず案外強いじゃないの」

チナミ「けど、ぼーっと立ってていいのかしら?」


美穂「えっ…」


吸血鬼はにやりと笑って言う。


チナミ「戻ってきてるわよ」



美穂「!?…ぐっ!!?」

背後から、鋭い痛みが少女を襲った。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:49:07.39 ID:eNO/EXO5o<>
赤い杭が、再びひなたん星人の肉体を貫通し、猛烈なスピードで通り抜けていく。

今度は背中から、わき腹にかけて。


美穂「はぁ……はぁ!」

間一髪であった。

背後から飛んできていたそれに直前にきづいて、身体を捻っていなければ、

それはもしかすると、自分の内臓を貫いていたかもしれない。


二度、ひなたん星人の身体を突き抜けた杭は、

やはり猛烈なスピードを維持したまま教室の壁へとぶつかると、

ぐちゃりと潰れ……


美穂「なっ!!」


そして、再結集。

再び、ひなたん星人の元へと突撃を開始する。



チナミ「流石にもう、気付いてると思うけど、それの攻撃はいつまでも続くわよ」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:49:44.64 ID:eNO/EXO5o<>


『ブラッディーダーツ』

血液を用いた武装であり、吸血鬼チナミの切り札。


吸血鬼は、種族的な属性故にか、血液を操る術を得意とするものが多い。

先ほど、吸血鬼の少女、キヨミに噛み付かれた事で、チナミが体内の血流を狂わされたのも一例。

チナミが普段用いている『小チナミ』も血液から作られている使い魔。これも一例。


吸血鬼の血を継ぐハーフの少女、佐久間まゆと言う少女は、自らの血を『リボン』に変化させる事ができるし、

チナミの友人である”利用派”吸血鬼クールPの”看破の魔眼”に用いられる「朱眼」の生成もある種の血液操作能力に属する力なのかもしれない。



いずれにせよ”血液を操る”と言う点で共通はするものの、その形は多種多様。

「吸血鬼」と呼ばれる種族は、共通する体質やスキルを多く持つが、

『魔眼』と、そしてこれら”血液操作能力”は例外として個性的な形をとっている。


そして、チナミの固有能力たる血液操作能力が『ブラッディーダーツ』であった。



必要なのは、”対称の血液”。

これは少量でもいい。

それを自身の血液から作り出した杭状の武装へと混ぜ込み、呪いを込めて投擲する。


彼女の手から放たれる紅の杭は、”指定されたターゲット”へと命中するまで、執念深く追い続ける。


そのターゲットとは……


チナミ「貴女の血を混ぜた『ブラッディーダーツ』は、無限に貴女を追い続けるわ」

チナミ「そう、その心臓を貫くまでね」


対称の、心の臓。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:50:46.08 ID:eNO/EXO5o<>
美穂(ど、どうするナリっ!?)


とにもかくにも、ひなたん星人の既に3撃目となる紅色の杭の襲撃を目前としている。

高速で飛来する杭。

これを目で追うことはできているし、ひなたん星人の持つ身体能力でもどうにかかわす事はできるのだが……


美穂(かわしたとしても……状況は変わらないひなたっ…!)


吸血鬼は先ほど”無限に追う”と言った。

それは言葉の通りなのだろう。


最初の飛来を、ひなたん星人は「ひなたんスライド」でかわそうとしたが、

突如軌道を変えたそれは明らかに、軌道から身を避けたひなたん星人を追ってきていたし、

一撃刺し貫いた後も、視界の外で転回し、次は背後からそれは迫ってきていた。

そして、先ほど、紅の杭が壁にぶつかっても再構成し、こちらを狙いを定める瞬間さえ目撃している。



美穂「……破壊するしか……ないナリっ!!」


避けても状況は変わらない。ならば、無理やり攻撃を止めてしまうしかないだろう。


美穂「ラブリージャスティスっ!!」


すぐ傍まで迫るその紅の弾丸に対して、臆することなく向き合うと、


美穂「ひなたんフラッシュっっっ!!!」


少女は腕と刀に力を込めて、一気に振り下ろす!!

斬り伏す対称の速度や小ささなどは関係ない、ひなたん星人の技量ならば、飛んでくる燕でさえも両断してしまえるのだから。


吸血鬼の放った紅の杭は、

当然、その強烈なかち割りによってバッサリと両断された。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:51:33.67 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「へえ、すごい威力と命中精度じゃないの」

美穂「これくらいは当然ひなっ☆」


チナミ「……けど甘い」


美穂「!!」


確かに、ひなたん星人はそれを斬った。

紅の杭は間違いなく、妖刀『小春日和』の一閃によって2つに別たれた。


2つに別たれて……そのままそれらは高速の飛翔を続ける。

左右に弾かれて、それぞれ壁にぶつかって、潰れて、


そして、それぞれが再結集。


左右から”2つに別たれた杭”がひなたん星人の身体を狙う。


美穂「ず、ずるいひなたっ!!!」


チナミ「元は液体なのよ、それ。斬ったり叩いたりして破壊できるわけ無いじゃない」


余裕そうに長い髪を撫でて靡かせ、吸血鬼は笑った。


美穂「ぁっ…っくぅ!!」


刀を振り切った直後、同時に飛んできた2本の杭には対応できず、

どうにか左から飛んできた杭をかわし、利き腕側の損傷は避けたが、

右側から飛んできた杭によって右肩の負傷を許してしまう。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:52:10.32 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「だいじょうぶっ……!」


全然大丈夫などではなかったが、

それでも強烈な思考支配能力を持つ『小春日和』の力で、痛みを誤魔化しきる。

攻撃を受けたからと言って、ふらついている暇は無い。

高速で飛来する杭の突撃は待ってはくれないのだ。


素早く目を動かし、通り過ぎていった2つの杭を観察する。


美穂「えっ?」


そこで、ひなたん星人は気付いた。


美穂(2つの杭の大きさが違うナリ…?)


先ほど両断した際には、綺麗に杭の中心を真っ二つに割ったはずだ。

別たれた杭が再結集したのであれば、それぞれがほぼ同じ大きさでなければおかしい。


にも関わらず、2つの杭の大きさが違う。


いや、もっと適切に言うならば……先ほど右肩を刺し貫いて行った杭は、


明らかに大きくなっていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:52:38.82 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「ま、まさか……吸血してるひなたっ!?」


チナミ「あらあら、早い回答ね。正解よ」

チナミ「そう。『ブラッディーダーツ』は攻撃の成功と同時に、”貴女の血液”を奪っているわ」


それは吸血鬼の作り出した武装であるが故に持つ能力。

体内を貫通し、通り過ぎた瞬間に、それは対象の血液を啜り、膨れ上がる。


チナミ「それは対称を負傷させる武器じゃない、対象の血を奪っていく武器」

チナミ「ところでひなたん星人、貴女は痛みを誤魔化すことはできても……」


チナミ「不足した血液を補填することはできないでしょ?」


美穂「っ!!」


思考を支配する『小春日和』の力であれば、多少の痛みは我慢することができる。

もっと言えば、ひなたん星人は例え腕や脚が折れたとしても、

痛みを誤魔化し、負のエネルギーによる肉体動作の補助を行えば、戦闘の続行が可能ですらある。


しかし、

痛みの麻酔。思考の強化。筋肉動作の補助。

これらはあくまでその場凌ぎの応急処置が可能であると言うだけで、


生命維持の危機には役に立たない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:53:16.06 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「攻撃は全自動。破壊は不可能。刺し貫くたびに血を奪い、膨れ上がってそして威力を増す」

チナミ「これが私の必殺の切り札『ブラッディーダーツ』よ」


美穂「…………」


言葉がでなかった。

恐ろしくも、完成されているその能力。

抵抗する術が見当たらない。


いや、ひなたん星人ならば……逃げることはできるかもしれない。

高速で飛来するとは言えど、ひなたん星人は目で追えるし、かわす事も出来るのだ。


ならば、ひなたん星人の最大速度をもってダッシュで逃げたならば、

その脅威から逃れることも、できるのかもしれない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:53:49.71 ID:eNO/EXO5o<>
しかし、狭い教室の中では、それは不可能。

最大機動力の確保には、ある程度広い空間を必要とする。

この中にいたままでは、どうにか避け続けることが精一杯であろう。


ならば、場所を移したほうが良いのだが……

しかし……


Pくん「……マァ」

ひなたん星人の後ろで、小さな小熊が心配そうに声を出す。

小熊の傍には、倒れ伏す学生達。


美穂「…………」


ひなたん星人の後ろには、チナミに操られていた学生達が寝転がっている。

人質がいる以上、ひなたん星人は、その場から逃げることが出来ない。


チナミ「選択肢は4つよ」


チナミ「心臓を貫かれて倒れるか、」

チナミ「血液を奪われ続けて倒れるか、」

チナミ「力を消耗し尽くして疲れ果てて倒れるか」

チナミ「それとも……諦めて、尻尾を巻いて逃げ出すか」


チナミ「好きなのを選びなさい、ひなたん星人」



美穂「つ……詰んじゃってるナリ……?」


投げたくなりそうな盤面であった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:54:43.63 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「まぁ、安心しなさい。ひなたん星人」

チナミ「別に私だってあなたを殺すつもりは無いわ」

チナミ「倒れるまで追い詰めたら……攻撃を解除してあげるから」


吸血鬼がニヤリと笑い宣言するとほぼ同時に、

ひなたん星人の左右両側から、また再び紅い杭が飛来する。


美穂「ひ、ひなたんスライドっ!」


その軌道を確認したひなたん星人は、

滑るような動きで、素早く後退すると、


美穂「廉価版っひなたんスターシューター!」


刀を小さく突き動かし、負のエネルギーの塊を射出する。

かつて、怪人ハンテーンに放った「ラブリージャスティスひなたんスターシューター」の応用技。

威力を大きく下げる代わりに、刃の先から瞬時に飛びだす突きを打ち放てる。


小さな黒色のエネルギー体は紅の杭にぶつかると、それを弾き打つ。

威力が下がっているために、先ほどのように杭が潰れて別れることもなく、

ただ軌道を少しだけ反らす事に成功したのだった。


美穂「ほっ!」


軌道の変わった紅の杭の突撃を、ひなたん星人は難なくかわしてみせる。


美穂(……冷静に見切れば、避ける事は難しくないナリ……)


全自動であるが故だろうか、杭は追尾こそしてくるがその動きは単純。

数と速度にさえ気をつければ、回避を続けるだけならば出来そうであった。


チナミ「……チッ」

その様子を、チナミは苦い表情で見つめる。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:55:21.36 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ(ここまでやっても……逃げ出す気はないみたいね)


チナミとしては、この場面、ひなたん星人には逃げ出して欲しいのが本音であった。

それもそのはず。

外は大雨、降り止む気配など一向に無く、

「ブラックアンブレラ」を失ったチナミにはここから単純に脱出する術が無い。


せめて雨が降り止むまで逃げ隠れるにしても、

こちらを警戒し続けるひなたん星人を退けねば、それは不可能。


チナミ(人質を作ったのは逆効果だったかしら……もうっ、めんどくさいわねヒーローって!)


人間を傷つけている以上は、ひなたん星人はチナミを見逃す気は無いのだろう。

こうなれば、彼女は何としてもひなたん星人を倒さなければならない。



美穂「ラブリージャスティスっ!!」


飛び交う2つの杭を避けながら、機を見て、チナミへと飛び掛ってくる。


美穂「ひなたんビームっ!!」

チナミ「近づかせる気はないって言ったでしょうにっ…!」


その剣撃は、先ほどの動きよりも遅くなっており、チナミはひらりと身をかわす。


美穂「くっ!」

チナミ「やっぱり鈍くなってるみたいね、ひなたん星人」


ひなたん星人の動きは飛び交う杭によって抑制されているのであろう。

このままでは彼女の刃は、チナミには届かない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:56:06.25 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「ブラッディーアーム」


彼女の指先に再び血の刃が形成され、

そして刀を振るったひなたん星人に向けて、その鋭い右手が勢いよく差し込まれようとする。


美穂「ひなたんスライドっ!!」

足先から、負のエネルギーを放出し、ひなたん星人は後退して回避。


美穂「ひなたんステップ!!」

さらにエネルギーの向きを下方向に変えて放出、

床をへこませるほどの蹴り上げによって跳躍、少女は天井へと飛び上がる。


先ほどまでひなたん星人の居た位置の左右から、紅い杭が通り過ぎた。

それを見届け、ひなたん星人は着地する。


美穂「……っと」


チナミ「……」

美穂「……」


吸血鬼とヒーローは再び向き合う。

互いに、攻めの手は緩めないが、どちらも決定打までには至らない。



だが、


チナミ「……」

美穂「はぁ……はぁ」


どちらかと言えば、チナミの方がまだ優位に立っているのであろう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:56:45.01 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「あら、もう息切れしてるの?」

美穂「……ま、まだまだこれからナリっ!」


ひなたん星人は、攻撃の際にも、防御の際にも、回避の際にも、

常時、刀の内に溜め込んだ負のエネルギーを消費している。

普段、カースを狩って溜め込んでいるとはいえど、その量には限りがある。


また、肉体にダメージがあるのもひなたん星人側だけであった。

右手と脇腹、そして右肩に穿たれた傷。その痛みの麻酔と筋肉動作の補助のためにも、

普段より負のエネルギーの消費が激しくなっている。


彼女の息切れは、三度にも及ぶ肉体への杭の貫通によって、

身体から多量の血を奪われたことで起こっているのであろう。

いくら負のエネルギーであっても、血液の不足を補うことは出来ない。


だからもし、次に刀を奪われたとしたら……

傷ついた小日向美穂に、刀を握る力が残っているのか怪しい。



美穂(……決着は、早めにつけないといけないみたいナリ…)


使えるエネルギーに限度がある以上、戦いを長引かせる事は出来ない。

訪れた危機的状況に、少女は焦る必要があった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:57:48.47 ID:eNO/EXO5o<>



肇(美穂さんっ!)



美穂(!)


その時であった。

ひなたん星人の頭の中に、聞きなれた声が響く。


美穂(肇ちゃんっ!)

神通力の念話を通して、肇の呼びかけに返事を返す。


肇(良かった…まだご無事で…)

美穂(う、うんっ!けど……状況はあまり芳しくないみたいナリ……)


何か変わった事があれば逐一報告する約束だったので、

チナミと戦闘する事となった時点で、ひなたん星人は肇にその事を報告していたのだった。

そのため、肇はひなたん星人が緊迫した状況の中にいる事を知っている。


肇(今、そちらに急いで向かっています!なんとか持ちこたえられますか?)

美穂(うーん、少し厳しいかもしれないひなた……)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:58:16.83 ID:eNO/EXO5o<>

飛び交う紅い杭の猛攻をかわしながら美穂は通信を続ける。

肇の救援が間に合って、2対1になれば、状況はひっくり返るだろうか。


美穂(肇ちゃん、どのくらい掛かりそうナリ?)

肇(……全力で向かっていますが…何しろ広い学園ですので…)

肇(この場所からでは10分……いえっ、5分は…!)

美穂(……)


やはり厳しいかもしれない。


チナミ「……ふふっ」


目の前に対峙する吸血鬼の様子はまだまだ余裕の様子。

彼女が隠し持っている手立てや、呼び出す配下のカースの事を思えば……

5分後、満身創痍のひなたん星人と肇で立ち向かうには手厳しく感じていた。




チナミ(救援が来る前に……どうにかしたいわね……)


……もっとも、チナミの方も既に手を尽くし、

眷族カースに至っては手持ちの核を使い切っている事をひなたん星人は知る由もない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:58:57.56 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ(けれどまあ、このままなら……倒れるまでそう時間も掛からないでしょう)


美穂「くっ…!」


杭が、ひなたん星人の腕を掠める。

回避をしくじる度に、紅の杭は傷口から血を啜り肥大化。

大きくなった杭は、その速度さえも増し、より避けることが難しくなる悪循環。


そう、この杭が厄介だ。

縦横無尽に飛び交う杭。ひなたん星人を付けねらい、上下左右あらゆる位置から立体的に襲いくる。


この攻撃は、血を啜りパワーアップする性質を持つがために、

その場に人がいればいるほど、厄介なものへと変貌するに違いなかった。


幸いにしてこの場の学生達は倒れ伏しているために、杭の軌道上から逃れる事ができていたが、

立っている人間がひなたん星人の傍に居たならば、話は別である。


美穂(私の衣装を貫くほどの威力を持つ杭……もし肇ちゃんに当たったら……)


共に戦えば、流れ弾に被弾する可能性は十分にある。




出来ることならば――


ここは1人で切り抜けることがもっとも最善――


美穂(一気に決めるしかないナリっ!!)


少女は1つの覚悟を決めた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:59:29.36 ID:eNO/EXO5o<>

美穂(肇ちゃん!!教室にたどり着いたら…倒れてる人たちをよろしくひなっ!!)

肇(……えっ?美穂さん……?)

肇(美穂さんっ!何を――)


力強いひなたん星人の言葉に、疑問を持った鬼の少女が問いかけるが…

しかし肇の呼びかけは、既にひなたん星人の耳には届いていなかった。

なぜならば、



美穂「……」


目を閉じて、少女は集中していた。




チナミ「…………何を企んでるのかしら、ひなたん星人」

美穂「……」


先ほどまでとは違うひなたん星人の様子に、ただならぬ何かを感じた吸血鬼が訝しげに言葉をかけるが、

少女はそれに対しても返事を返すことはない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 19:59:57.18 ID:eNO/EXO5o<>

一気に決着をつけるため、

今からしようとしている事には力が必要だ。

だから少女は精神を研ぎ澄ます。


美穂「……っ」


少女の周囲を飛び交う紅い杭、目を閉じながらでも最小限の動作でそれをかわす。

流石に避けきれずに頬を掠めたが、これくらいの傷であれば大したことはない。だから気にしてなどはいられない。



美穂「……」


『小春日和』に埋め込まれた核が響き揺れる。

周囲に溢れる負の感情に、共鳴し、そしてそれらを拾い集める。

そして――



美穂「見えたナリっ!!」

ぼうっ!っと黄色い光が少女を包み、燃え上がった。


チナミ「!! な……なによそれ!」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:01:05.15 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「ここからは一気に決めるひなたっ!!」


燃え上がる光、可視化できるほどの力、

その圧力にチナミは瞬時に理解する。


チナミ「はっ!なるほど、それがカースドウェポンの真価ってわけ!」


繕っていた余裕の表情が崩れた。

窮鼠猫を噛むと言った所か。

追い詰めたはずの少女は、存外に、大きな力を隠し持っていたらしい。


チナミ(けれどっ、問題はないわっ!)


右手の血装を研ぎ澄まし、

吸血鬼は、それを迎え撃つため構える。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:01:30.66 ID:eNO/EXO5o<>

相対する力の大きさにほんの少しびびってしまったが、

しかしながら、少女が勝負を急く理由を理解していれば、焦ることはない。


大量の力の発揮は、大量の力の消費を意味する。

つまりは次に来るであろう攻撃を凌ぎきってさえしまえば、少女は勝手に自滅するのだ。

チナミはそれに打ち勝たずとも良い。ただほんの少し、やり過ごすだけでいい。


チナミ(次の攻撃を凌ぎきる、そんな事、私には難しいことじゃないっ!

チナミ(私は吸血鬼っ!この身体は不死身ですものっ!)


勝算はある。どれほどひなたん星人の力が大きかろうと、

繰り出される攻撃の性質はまず斬撃に類するもの。

それは不死の怪物である肉体に通じる物ではない。

例え一刀両断されたとしても、一撃を受ける程度であるならば、

万全とはいかなくても、動ける程度に回復は可能!

力を使い切ればそこで終わりのひなたん星人に対してチナミが圧倒的に優位に立てる点!


チナミ(それに必ず……”甘さ”は出る!)


そう、どれほどそこに力があろうとも、

振るう力に”加減”があれば、意味はなさない。

チナミは、ひなたん星人は絶対に、全力で刀を振るうことは無いと踏んでいた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:02:09.12 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「ラブリージャスティスっ!」


足を踏み込む。

少女の足元で、黄色く揺らめく炎が、より一層と燃え上がる。


チナミ(…来るっ)



美穂「ひなたんロケットっ!!!」


蹴り上げた床のタイルがひしゃげ、

そして爆発的な速度で少女は飛び出した。


少女に差し迫っていた紅の杭はそのあまりの勢いに大きく跳ね飛ばされる。


チナミ「……」


吸血鬼の目でさえ、全力のひなたん星人の速度を捉える事などできようはずがない。

そう、チナミの目はそれに追いついてなどいない。


だが、冷静に冷徹に、彼女の瞳は先を見据える。

加速力が爆発的に増加していたとしても、

ひなたん星人のそれは、最初の一手と同じ行動。


ただ目に追えないほどに早くなっただけ。

直線的な突進を読みきれないはずがない。


わかっていれば、対処は容易。

ひなたん星人の踏み出しとほぼ同時、彼女は瞬時に身体の位置を反らし右手を突き出していた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:02:45.98 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「っぐぅ――!」


ひなたん星人の首筋を、吸血鬼の爪が大きく裂いた。


身体を駆け巡る負のエネルギーを爆発させて、瞬間的に加速力を得る突進。

普段より大きな力を扱っている事もあり、少女自身、その速度を細かに制御できるわけではない。

つまり突進の最中は、それほど自由には動けないのだ。

軌道を変えたり、次の行動に移る直前には、必ず減速が必要となる。


踏み出した瞬間に、突進の軌道から身体をほんのわずかでもずらせば、

少女は必ず直前で突進の勢いを弱める。

その瞬間を予測して……容赦なく狙い打つ!


チナミ「ふふっ」

美穂「っっぅう―――!」


かくして、チナミの狙いは当たった。

流石にひなたん星人が速すぎたためにクリーンヒットはしなかったものの、それでも今の攻撃の傷は深い。

この一撃に怯んだならば、次に来る刀による攻撃にも影響するに違いない。





怯んだならば、の話だが。

がしっ

チナミ「!!」

美穂「捕まえた…ナリっ!」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:03:21.42 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「な、何をっ!」


侮っていた。少女の持つ胆力を。

生来のものか、それとも呪いの刀から与えられたものか。

どちらにしても、傷つこうとも突っ込んできた彼女の行動はチナミにとっては意外なもので、


ひなたん星人は刀は振るわず、がっしりとチナミに抱きついてきていた。



美穂「ラブリージャスティス…っ」

チナミ「!? ほ、本当に何をする気よっ!」


抱きつく少女と吸血鬼の距離はゼロ。

ひなたん星人についてチナミが知ってる情報、あるいはこれまでの行動を振り返っても、

密着した状況から放てる技は少女にはないはずだ。

あまりに意外すぎる行動。だからチナミの対処は遅れた。



チナミ「くっ!放しな……」

美穂「ひなたんステップ!!」


吸血鬼が少女の身体を引き剥がそうとする前に、

少女は足先から負のエネルギーを打ちはなった。


足先から、直下に向けて。


莫大なエネルギーを教室の床に向けて。


チナミ「なっ!!!」

美穂「これでいいナリっ……!」


2人の立つ足場が――崩壊する。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:04:02.00 ID:eNO/EXO5o<>

ひなたん星人は、

この教室に来るまでに、廊下の壁に弾痕や大きな切り傷があったのを確認している。

この教室に入ったとき、教室の扉が、おそらくはカースによって破壊された跡があるのを確認している。

そして、先ほど飛び上がったとき、床のタイルがめり込んだのも……


外部からの敵の侵入を許さない強固な京華学院であったが、

内側で、大きな力を使って暴れまわれば、まぁ、相応にはぶっ壊れるらしく……


負のエネルギーの破壊力を一定方向に向けてやれば、”床に穴を開けてしまう”事もひなたん星人には可能だったようだ。


ひなたん星人が強烈な足の打ち付けによって、

教室に穿ち開けたは直径にして2mほど、人を2人落とすには十分な大きさであった。



Pくん「ま、マぁっ!」


教室には倒れる学生達と、小さな白い小熊を取り残して、

ひなたん星人とチナミは、床に空いた穴へと……下の階へと落ちて行く……
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:04:49.17 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ(確かにこれは予想外だったわよ)


落下しながらチナミは思考する。

不意に宙に放り出されることとなったチナミは、当然無防備。


美穂「ラブリージャスティスっっっ!」


しかも、落ちる直前に床を蹴り上げていたひなたん星人に”上”を取られている。

これから空中で少女から打ち放たれる技を、チナミは回避することはできないだろう。


チナミ(けれど、わかってるのかしら……ひなたん星人)

チナミ(無防備になるのは貴女も一緒よ?)


宙に浮きながらも精一杯刀を振りかぶる少女の頭上には、紅の杭。

それは今にも、少女の頭を目掛けて振り落ちようとしていた。


チナミ(さて……耐えられるかしらね……)

これから身を襲うであろう衝撃に備えるため、吸血鬼は腹に力を込める。



美穂「ひなたんみねうちっ!!!」


黄色い炎が少女の刀を包み、

そして、チナミに向けて最大の一撃が、振り下ろされた。



 ド ガ ッ !!

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:05:28.21 ID:eNO/EXO5o<>


―――


――






チナミ「――がふっ!!!」


固い床に打ち付けられ、

吸血鬼の身に強烈な衝撃が襲う。


チナミ「がっ……あっ……ああっ!」

チナミ「っ!ぜぇ……はぁ……」


脳は揺れ、息は止まりそうなほどの振動であったが、

そこは丈夫な吸血鬼。しっかりと意識は保っていた。


チナミ「な、なんて威力よっ……な、何がみねうちよっ……」


負のエネルギーの操作により、痛みを感じさせないままに

人を気絶させる事もできる「ラブリージャスティスひなたんみねうち」であったが、

それとは逆に、力を限界一杯まで込めれば威力をここまで上昇させることもできたらしい。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:06:01.67 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「はぁ……はぁ」


チナミは倒れ伏したまま、天井を見上げる。

天井にはぽっかりと穴が開いていて……

その先を覗き込めばさらに、その上の天井にも大きな穴が開いている。


チナミ「……?あぁ……2階分も下に叩き落されたのね……」


床をぶち抜いて辿り着いた先で、

チナミに振り下ろされたひなたん星人のみねうちは、

その凄まじい威力ゆえに、もう1フロア分の床をぶち破っていたのであった。


振り下ろされた刀による一撃、

続いて穴さえ開ける勢いで床にぶち当てられた衝撃、

そしてさらに落下し、その先でもう一度打ち付けられた打撲。

これらが一気にチナミの肉体を襲ったのである。


これだけの攻撃を食らっても意識を保っていられるのは、一重に彼女が吸血鬼と言う怪物だからであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:06:49.92 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「ふっふっ………」

口元から血を流しながら、それでも吸血鬼はにやりと笑う。


チナミ「ええ、本当に乱暴な威力だったけども……けれどやっぱり”甘さ”は出た」


吸血鬼は身を捩り、手足に絡んでいた布着れを放り捨てる。

落下の際に、巻き込んでいたようだ。


痛む上半身をなんとか起き上がらせて、

暗がりの中、周囲を確認する。

そこには所狭しと並ぶたくさんの衣装。

そのどれもがハンガーラックに掛けられて綺麗に整理されている。


いや、天井が崩落した部分の下、つまりチナミが踏みつけている場所だけは、

それらが倒れ散らばり酷い有様であったが……


しかしなるほど、ここは、どうやらコスプレ衣装の貸し出し屋。

チナミも一度訪れていて、場所は1階であると覚えていたが、

さきほどまで居た休憩室の真下にあったとは……。


そして、辺りを見回していた吸血鬼の視線が止まる。

そこには……


チナミ「……ふふっ……結局……”加減”したわね、ひなたん星人……」



美穂「はぁ…………はぁ………」


ふらつく少女が、なんとかと言った様子でその場所に立っていた。

これほどまでに高い威力の攻撃を放った彼女、その消耗は推し然るべきである。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:07:40.13 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「そんな状態で……耐えられるのかしらね……私の……次の攻撃に」


苦しそうに胸を押さえながらも吸血鬼は言った。

流石の彼女であっても、ダメージを回復し動けるようになるまでは時間がかかりそうであったが、

自分が動けなくとも、彼女には関係は無い。


天井に空いた大きな穴から、

紅い液体がこぼれ落ちるように、覗く。


次々と、幾つもの紅い線が垂れてきて……


そしてそれら全てが……再結集を開始する。


チナミ「あら、私の『ブラッディーダーツ』も……さっきの崩落に巻き込まれちゃったみたいじゃない……?」


ひなたん星人を襲っていた『ブラッディーダーツ』は、

階下に落ちたひなたん星人を追ってきていた。

そして、先ほどのひなたん星人の攻撃の際に、床の破壊に巻き込まれて潰れたのであろう。

潰れて、それはバラバラに砕け散った。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:08:09.66 ID:eNO/EXO5o<>
しかしもちろん、そんな事では『ブラッディーダーツ』は破壊されない。


バラバラに砕けようとも、それらは”それぞれ”が再構成される。


たった2本の杭で少女を追い詰めていた『ブラッディーダーツ』は、


潰されたことで、何十本もの杭へと形を変えて、


今、天井からひなたん星人に襲い掛かろうとしていた。



美穂「はぁ………はぁ……」


恐ろしき紅の雨が、少女に向けて降り注ぐ。









美穂「ラブリージャスティス……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:08:35.51 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「……ひなたんインフェルノぉっ!!!」


『小春日和』が黒き炎を纏う。

拾い集めた怒りの感情から強烈な熱が、刀から生み出されてた。


チナミ「!!」


美穂「はぁああっ!!」


刀の内に残っている力、周囲から集めたエネルギー、

それらを一気に振り絞り、熱き炎の力を練り上げて、

少女は降り注ぐ紅の雨へと立ち向かう。



吸血鬼は、紅の杭が、”元が液体であるため”に破壊は不可能であると言った。

そして言うとおり。

斬ったり、潰したりしてもそれが壊れる事はなかったようだ。



だが、熱ならばどうだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:09:03.34 ID:eNO/EXO5o<>
たとえ雨に打たれたとしても、激しく燃え盛る炎は消えたりはしない。

少々の雨であれば、炎が侵攻を止めることなどはなく、水滴は熱に晒され蒸発してしまうだろう。

そしてそこにエネルギーが存在する限り、熱の勢いは留まることを知らない。


美穂「はぁっ!!」


少女の振り切る黒い炎が、次々と紅の杭を砕く。

刀に宿る炎が、その激しく迸る熱が、杭を構成する水分を奪い、そして消失させてしまう。


チナミ「っっっ――!!」


流石の『ブラッディーダーツ』も、焼き切られてしまっては、どうしようもない。

斬られたり潰されたりするのは平気でも、燃やし尽くされるのであれば、再構成もできない。


美穂「せやぁっ!!」


少女は手を休めない。

一度頭上に向けて振り切った炎の刀を、すぐさま続けて頭上へと繰り出す。


少女目掛けて自動制御で降り落ちる紅の雨にも、恐れはない。

例え先に落ちた杭が焼け落ちようとも、続く杭達はやはり猛烈な速度で獲物を狙う。



次々と降り注ぐ雨を、燃え盛る炎もまた次々と焼き切って――


美穂「――」


そして…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:09:58.61 ID:eNO/EXO5o<>


美穂「っ!!!」


炎が止んだ。


刀の纏っていた熱がふっと消えてしまう。


美穂「足りないナリっ!!」


負のエネルギーの不足。単純にそれが原因。

ひなたん星人は持ちうる全力の力を出して、次々と大技を繰り出していた。

その結果……紅い杭の全てを焼き切る前に、熱が生み出せなくなってしまった。


そう、『ブラッディーダーツ』の脅威の全てが、まだ打ち払われたわけではない。

黒き炎は、何十にも別たれた紅い杭の半分以上の量を切りくずしてはいたが……

それでも、まだ、紅い杭は少女の頭上に残っていた。


美穂「っ……負けないひなたっ!」


だが、諦めはしない。

なんとか紅い杭に抵抗しようと、熱の失われた刀を振るう。


そうして、数本を降り飛ばすことはできたが……


美穂「くぁっ!!」


やはり……それだけでは無理であった。

少女の肉体を、小さな杭達が次々と刺し貫く。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:10:40.26 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「かぁっ……ぁぁ」


そして……ついに少女はその膝を付いた。


チナミ「………ふっ……ふはははっ」

チナミ「や、やるじゃないの、ひなたん星人……」

チナミ「今のは流石に私も……ほんのちょっぴり焦っちゃったわよ」


ちょっぴりどころではない。

自信満々に取り出したる切り札に対して、

まさかここまで抵抗されるとは思っても居なかったのだから。


だが、まぁ、結局こうなってしまえば勝負は決まったも同然。



美穂「……ぁぅ」

持ち前のエネルギーを使い果たし、身体中傷だらけ、満身創痍のひなたん星人。


チナミ「ふふっ」

同じく傷だらけではあったが、自前の再生能力によって、徐々に回復している吸血鬼。


おまけに膝をつく少女の周囲を取り囲むのは、紅い杭。

それらは今先ほどひなたん星人の血を啜った事で、

燃やし斬られて減ったはずの血液量の補填さえも、既に終えていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:11:26.06 ID:eNO/EXO5o<>


美穂(負けちゃう……のかな)


傷だらけの少女は思考する。持てる力の最大限を使い、手は打ち尽くしたと言っていい。

立ち上がる力さえも……もはや残ってはいなかった。


チナミ「安心しなさい」

チナミ「あなたの力は、これから私が有効に使ってあげるわ」

チナミ「そう……私の手足として……ね」


そう言って女はゆらりと立ち上がり、鋭い牙を剥く。

朦朧とした目で少女はそれを見つめていた。


美穂(あぁ、そっか……吸血鬼って言ってましたよね……)


そうだ、吸血鬼チナミは元々このために、能力者の集まる京華学院へと赴いたのだ。

全ては自分の持ち駒を増やすため。有能な能力者を配下にするため。


少女の血を啜って、己の眷属へと変えてしまうおうと――彼女は動き出す。


美穂(小説とかで読んだ通りなのかな……吸血鬼に血を吸われた人は……)

美穂(……吸血鬼の僕になって……人を襲ったりするって……私もそうなっちゃうのかな……)

美穂(それは……嫌だな……)


チナミ「さぁ……」



――吸血鬼の手が少女へと伸びる。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:12:03.48 ID:eNO/EXO5o<>

敗北の現実が少女に重くのしかかった時、

少女の頭の中にはある考えが過ぎっていた。


美穂(…………私が”甘かった”のかな……)

美穂(もし……)






もし―― <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:12:31.67 ID:eNO/EXO5o<>

――――

――――

――――



聖來「そう言えば、肇ちゃん」

肇「はい、なんでしょう?」


桜の花が散る公園で、とあるヒーローは鬼の少女に尋ねた。


聖來「『小春日和』ってさ、結局どこまでのことができるのかな?」

肇「……と、言いますと?」

聖來「うーんとね……最初は私も『小春日和』は戦うための力を貸してくれる刀だと思ってたんだけどさ……」


美穂「よっ!ほっ!とうっ!」

美穂「だんしんぐひなっ♪」


2人から少し離れた位置で、刀を片手に踊る少女。

ひなたん星人は軽やかに身体を動かす。

肉体はどこまでも稼動するかのように、重力など感じていないかのように……



聖來「……あの状態だと普段の美穂ちゃんには難しいステップも出来ちゃってるみたいなんだよねぇ……」

肇「ああ……そう言うことですか」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:13:04.55 ID:eNO/EXO5o<>

聖來(……『小春日和』、美穂ちゃんを選んだ『鬼神の七振り』の一本)


それは、日本一横暴な刀、

『傲慢』の呪いを司る刀、

人に使われず、人を使う刀、

所有者を操り刀を扱う技を与える刀、

そして負のエネルギーを操る術を教える刀、

我の強い刀、

どんな洗脳からも所有者を守る刀、

意志を貫き通す刀



聖來(それだけじゃない…)

聖來(シロクマさん曰く……『運命力』を正面から乗り越えた刀……)

聖來(そしてサクライさんが『鬼神の七振り』を狙う理由……『神』を斬れる可能性……)


『小春日和』が成し遂げた実績と、示唆されている可能性……

水木聖來が、「カースドウェポン」を狙う『エージェント』としてではなく、

個人的に、その能力の行き着く先が気になってしまうのも無理は無い話であった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:13:36.04 ID:eNO/EXO5o<>
肇「どこまでできるか……ですか」


尋ねられた事に対して、鬼の少女は難しい顔をする。


聖來「答えにくい?」

肇「そうですね……正直なところ…」


困った顔をして少女は答えた。


肇「ひなたん星人さんがどこまでの所に行き着けるのかは……私にもまだ……」

聖來「……ああ、なるほど」


肇の言い方を聞いて、聖來は納得したように頷いた。


聖來「つまり、ひなたん星人が”踊れるようになった”のは……美穂ちゃん自身の影響なわけだ」

肇「はい。……おそらくはそう言うことかと」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:14:02.33 ID:eNO/EXO5o<>

聖來「……確かに。考えてみれば、そうだよね」


聖來はいつか、自身を慕ってくれている少女から聞いた言葉を思い出す。


――「最初、ヒヨちゃん・・・・・・『小春日和』を手にした時は戸惑いましたけど。」

――「本当はそれ以上に嬉しかったんです。」

――「確かに、ヒヨちゃんの性格は少し恥ずかしくはありましたけど」

――「でも、この力があれば、私でも誰かを守る事が出来るんだって思ったら嬉しくて。」



聖來「『ひなたん星人』は恥ずかしがり屋じゃない、誰かを守れるだけの力を持つ人格」

聖來「それってまるで美穂ちゃんの”目指す理想像”みたいだもんね」


夢見がちな少女の理想の体現。

”我”の強い刀『小春日和』、 その”我”とは――

”意志”を貫き通す刀『小春日和』、 その”意志”とは――


肇「……」

鬼の少女の顔が少しだけ曇る。


聖來「美穂ちゃんの考える”理想的な人格”が歌って踊れないはずがないっか」

肇「……」

聖來「……」


水木聖來が思い至り、口に出した結論。

しかし……それはある可能性を示すことに2人は気づいている。


肇「あの……この事は美穂さんには……」

聖來「ん?ああ、言わない言わない」

聖來「せっかく自信が付いてきてるところだしね、私としても変にその事を意識させちゃいたくはないかな♪」

肇「はい……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:14:47.96 ID:eNO/EXO5o<>

聖來「……」

聖來(『鬼神の七振り』は……『小春日和』は”負のエネルギー”を操れる)

聖來(”美穂ちゃんの思う理想の人格”を作り上げるのは『小春日和』……)

聖來(つまり『傲慢』の属性を利用して、”理想像”を体現してるんだ……)


――「ひなたん☆ドレスチェンジ!」 シャピーン

――「負のエネルギーを形にして衣装を作ってみたナリ♪」


聖來(着ている服に負のエネルギーを通して、”理想の姿”に変える力)


――「そして、この”怒りの炎撃”は、街のみんなの思い、そのものひなたっ!」

――「ラブリージャスティスひなたんインフェルノぉおっ!!」


聖來(手に持っている刀に負のエネルギーを通して、敵を打ち破れる”理想の形”を作り出す刀)


――「もしも、『普通力』が私と卯月ちゃんの関係を邪魔するって言うなら」

――「ひなたん星人総力を上げて全力で叩き潰すナリっ!!!」


聖來(そして……『普通力』って力を正面から乗り越えた一件……)

聖來(自分の”理想”を押し通した一件……)


水木聖來は確信する。


聖來(”行き着くところ”まで”行き着いて”しまえるとしたら……それは……)
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:15:40.62 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「セイラさんっ!」

聖來「!」


気が付けば、刀を納めた少女が、聖來の前に駆け寄っていた。


聖來「あ、どうだった?身体の動かし方の感じは掴めた?」

美穂「はいっ!えっと…その、た、たぶんですけれど…大丈夫だと思いますっ!!」

聖來「そっかそっか。『小春日和』の力を上手く借りれれば、

   美穂ちゃんの体力不足を補ったレッスンができるとは思ってたけれど……」

聖來「うん、成功って言ってもいいみたいだね。提案してみて良かったよ♪」

美穂「えへへ……あれ、肇ちゃん?」

どこか曇った表情の肇に、少女は気づく。


肇「……あ」

肇「えっと……美穂さん、素敵でしたよ」

肇はそれ表情をすぐに繕って笑って見せた。

美穂「……うんっ!ありがとうっ!」


パンッ!パンッ!

少女達は、手を鳴らした聖來の方へと目を向ける。


聖來「さてっ!感覚が掴めたところで、それを忘れないうちに次は刀抜きで実績!

   やっぱり体力は大事だし、しっかりと生身でも踊れるようになってもらうからね♪」

美穂「!……はいっ!!」


元気よく、はじけるような笑顔で、少女は返事をした。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:16:22.46 ID:eNO/EXO5o<>


――――

――――

――――


チナミ「!」


美穂「…」

おぼつく足で少女が立ち上がる。


チナミ「驚いた、まだ立ち上がる元気が残っていたのね」

チナミ「でも……ま、それが今のあなたにはせいいっぱ………」


美穂「……」


チナミ「い……?」

チナミ(……どう言うこと)


少女の様子がおかしい。

迫力は感じない。先ほどまで可視化されていた迸る炎も見えない。

先ほどまでの攻防で、確かに……少女は力は使い切ったはずだ。


チナミ(なのに……)


足取りがおぼついてるにも関わらず……刀を握る手が震えていない。

傷だらけの少女は、立ち上がるのが精一杯……

いや、それすらも無理をしなければできないはずだ。

なのに……



刀を握り構える意志は――戦う意志は尽きていないようであった。


美穂「負けません……絶対に」

美穂「私はあなたに勝たなきゃ……いけませんから」


チナミ「……キャラ崩壊してるじゃないのひなたん星人、さっきまでドシリアスの似合わない口調だったくせに」


余裕ぶってからかって見せたチナミであったが……

彼女には……背筋を駆ける寒気が拭えていなかった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:17:06.55 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「ラブリージャスティス……」


チナミ「っ!…………何ができるって言うのよ…」

思わずチナミが、後ずさりする。

少女に、使える負のエネルギーはもう残っていないはずだ。


刀を振るって”カースから集めた負のエネルギー”も、

感覚を研ぎ澄まし集中して”周囲から集めた負のエネルギー”も、

全てを使い切ってしまっていて――




いや、待て


本当にそうだろうか?

本当に、”負の感情”はどこにも残っていなかったのだろうか。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:17:34.37 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「あっ……」

気づいた。

それは、まだある。


美穂「――」


少女の瞳は、黒く塗られていた。

闇のように真っ黒に。

彼女の口元が獣のごとく獰猛に吊りあがる。


チナミ(灯台もと暗し……ってわけ……)


まだ残る負のエネルギー。

それは他ならぬ、少女自信の内にある感情。

執念染みたマイナス感情が、少女の瞳を黒く染め上げていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:18:05.07 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「ひなたんドレスチェンジっ!!」


チナミ「なっ!?!」


少女が、掛け声と共に床に刀を突き刺すと、

チナミの足元から真っ黒に染まった手が幾つも立ち上った。


チナミ「な、なにっ!!何が起きてっ?!」


チナミの全身を真っ黒に染まった手が駆け巡り、

そして瞬く間に彼女を拘束してしまう。


チナミ「うぐっ!?」


足元に目を向けて、チナミはその手の正体に気づいた。


乱雑に散らばるのは色取り取りの衣服。


そうだ、ここは衣装の貸し出し屋。

落下してきたチナミの足元にも、ひなたん星人の足元にも大量の衣服があって、

そしてひなたん星人の衣装は、衣服に”負のエネルギー”を通して作り出されたもの。


つまり、少女はその場の衣装を利用して、チナミを縛り上げる簡易的な拘束具を作り上げたらしい。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:18:39.66 ID:eNO/EXO5o<>

チナミ「ちっ――このっ!!」

脱出を試みるが、チナミを縛り上げるそれはあまりに強固。

先ほどの傷の回復がまだ追いついていないとは言えど、

吸血鬼の怪力さえも抑え込むほどであった。


チナミ「っ…!けど関係ないわよ、こんなものはっ!」


そうだ。別にチナミ自身が動けなくとも問題はない。

少女の周りを取り囲む血液の杭が一斉に蠢く。


チナミ「『ブラッディーダーツ』!止めを刺しなさい!」


主の叫びに呼応するかのように、それらは少女に向かって飛び掛った。


美穂「ラブリージャスティス……」


少女の腕と刀が、真っ黒に染まった。


美穂「ひなたんジャック」


襲い来る紅の杭に向けて、少女は刀を振る。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:19:08.75 ID:eNO/EXO5o<>



チナミ「…………」


チナミ「…………は?」


理解できなかった。

いや違う。

一瞬、理解を躊躇った。


美穂「……」

少女の全方位から飛び掛った紅の杭は、


破壊されることはなく……



『ブラッディーダーツ』達は、まるで少女の刀を包むようにして、しっかりと存在していた。

まるで、少女の刀を保護するように……。


チナミ「……な、何よそれ……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:19:36.29 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「思ったんです。あなたはどうやって血液を操作してるのかなって……」

美穂「肇ちゃんは……土を操るときに、妖力を土に通すって言ってました」

美穂「あなたもたぶん……一緒ですよね?」


チナミ「……な、何?」


確かに少女の言うとおりだ。

手にした血液に呪いを込めて、己の魔力を通す事でチナミは『ブラッディーダーツ』の操作を可能としている。


美穂「だったら」

美穂「私にも同じことができるはずだなって思ったんです」

少女の口角が吊り上る。


チナミ「……う、嘘でしょ」


少女はしれっと言って見せたが、それはつまり、

『自分の負のエネルギー』を『ブラッディーダーツ』に通し、そして……


操作の主導権を奪ったと言う事であるらしい。


チナミ「そんな馬鹿な話っ!」


できるわけが無い。

高速で飛んできた杭が、刀に当たった瞬間にそれに対して『負のエネルギー』を送り込んだなどと。

いや、仮にそんな芸当ができたとしても、

普通であれば、他人の操る力にエネルギーを通したからと言って、

”その操作権利を強制的に奪う”ことなどできるはずがない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:20:11.28 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「でも、できましたから」


チナミ「……」

チナミは開いた口が塞がらない。


やってみたらできた。

そんな事を言われてしまっては、現状を認めてしまうことしかできない。


美穂「……」

チナミ「!」


少女が刀を構える。

紅の杭を纏って、血に染まったかのような刀を。

拘束されたチナミに向けて、技を打ち放つ準備を始める。


チナミ「ま、待ちなさいよ……ひなたん星人、あなた……」

美穂「ごめんなさい、もう”一切加減”する気はないです」

チナミ「!!!」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:20:43.28 ID:eNO/EXO5o<>

――(…………私が”甘かった”のかな……)

――(もし……)



敗北の現実が少女に重くのしかかった時、

少女の頭の中にはある考えが過ぎっていた。



――(私が”甘さ”を捨てていたなら……)


そうして、少女の”理想像”が体現された。




美穂「ラブリージャスティスっ…!」


少女の構え、刀を真っ直ぐと敵に向けて、

何かを正面に撃ち放とうとする体勢。


チナミ「や、やめなさいっ!」

チナミ(その攻撃はっ……それだけは不味いのよっ!!) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:21:19.73 ID:eNO/EXO5o<> ―――

―――


クールP「それにしても……いや、なかなか悪趣味ですよね、チナミさんの『ブラッディーダーツ』」

チナミ「あら、どうして?」

クールP「心臓をしつこく穿ち狙う杭……まるで僕たち吸血鬼の弱点そのものじゃないですか」

チナミ「……当たり前じゃないの、それが目的で作った能力なんだから」

チナミ「吸血鬼同士の抗争はずっと続いてるもの、だったら吸血鬼特化の武器を作っておくのが合理的じゃない」

チナミ「白木の杭じゃないって、材質の問題はあるけれど、それでも結構効くはずよこれ」

クールP「ははっ、返ってきても知りませんよ」

チナミ「ふふっ、大丈夫よ、そんなヘマはしないから」


―――

―――


チナミ(だってそうでしょう!?)

チナミ(私の”支配の力”を上回る”支配の力”があるなんて思うわけ無いじゃないのっ!)


チナミ「本当に待ち――!!」


美穂「ひなたんブラッドシュータぁぁぁあっ!!!!」



吸血鬼が何かを言いきる前に、


真紅の閃光が――少女の刀から打ち放たれた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:22:01.95 ID:eNO/EXO5o<>


……

……




チナミ「 カ ハ ッ … … !」





チナミ「あ…  かああっ………!」


胸に穿ち打たれた穴、そこから止め処なく赤い液が漏れ出て行く。

押しとどめるように、手で傷跡を抑えようとするチナミの前で、


美穂「……うっ」


ふらりと、少女が倒れた。


どうやら、今度こそ本当の本当に、全力を尽くしきったらしい。

チナミを拘束していた黒色の衣装が霧散し、

チナミの心臓を貫通していった血液の杭も同時に弾け砕けた。


チナミ「な……なっ……」

チナミ「なんて……事…かしらっ……」


汗が止まらない。

心臓を杭に穿たれると言う弱点を突かれたのだ。

それだけではない。チナミの作り出した『ブラッディーダーツ』は、

吸血鬼チナミと、人間小日向美穂の血が交じり合い構成されたもの。

混血(ダンピール)の血もまた、吸血鬼の弱点となり得る。


そのせいであろう、彼女の肉体の再生能力がまったく上手く機能していなかった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:22:39.69 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「……あがっ……と、とにかく脱出しないと」


壁に手をつき、身体を支えて痛みを堪えながら教室の窓の方へと向かう。

もはや形振りは構っていられない。

どうにかここから離れて、肉体の機能を取り戻さなければならない。

幸いにして、ひなたん星人は自滅したため、相打ちの形であり、

拘束から開放された彼女を止める者はその場には居ない。


チナミ「お、覚えて……いなさいよ……」


美穂「……」


吸血鬼は、最後に、

倒れ伏すヒーローへとチラリと目を向け呟くと、



すぐさま教習棟から姿を消したのであった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:23:11.14 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「…………ぅぅ」


衣装室に取り残された少女は身を捩る。

体力はもう既に空っぽ。

内なる負のエネルギーも使い尽くしたため、精神も困ぱい。


美穂「…………」


意識は朦朧としていて、動けるはずもない。


傷跡から血が流れ出ていかぬよう、負のエネルギーの塊を傷口に詰め込んでいるが、

そろそろ、それの維持も難しくなってきた。



美穂(もう……限界かも……)


力が抜け切って、刀から手を離してしまえば……どうなるか。

わからないはずがなかった。


美穂(誰……か……)




「……衣……なら……がいいで……」

「たぶ……そこ……ヨー」


教室の外から話し声が聞こえたのは、そんな時であった。

そして、しばらくして、教室の扉がガラリと開かれる。



「ここですわね…………あら?」

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:24:05.82 ID:eNO/EXO5o<>
―――

―――

―――



チナミ「ぜぇ………ぜぇえ……」


雨に打たれながら、チナミは這い蹲るように校門脇の林の中を進む。

窓を飛び出した先、首尾よく、ヒーローや能力者に見つからなかったのは良かったが……


チナミ「はぁ………はぁ………」


流れる血は止まらない。止まる訳がない。

穿たれた穴は再生しないうえに、雨に打たれ続けるチナミは体力を奪われ続ける。


弱点である雨の中、何の対策もなくあの教室から外へと飛び出してきた。

まるで愚行。

わかっている。そんな事はわかっている。

それでも、あの場から逃れるにはこうするしかなかった。


チナミ「こんなところで……終わったり………しないわよ……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:24:32.96 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「何としても……雨の凌げる場所を…………」


這いつくばって、とにかく安全な場所を探さなければならない。

必死であった。震え痛む身体に鞭を打ち、少しずつでも歩を進める。


「おや?」

チナミ「っ!」


チナミの背後から声がした。


チナミ(見つかった!)


見つかってはいけないのに、見つかってしまった!

こんなところに誰かに見られては、きっと、捕まってしまう。

それだけは避けなくてはならない。


……魔眼だ、魔眼ならばまだ使える!

魔眼を使えば、穏便に目撃者を退ける事が可能であるはず!


慌てて、チナミは声の方向へと目を向けた。


そこに居たのは……


チナミ「なっ…なんで……」


チナミ「なんであなたが…………」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:25:11.94 ID:eNO/EXO5o<>
帝王「随分と…お久しぶりですねぇ、チナミさん」



平然と雨に打たれながら、

チナミの様子を見て、ニコニコと笑う男がそこには居た。


帝王「いやぁ!こんな所で会うなんて、本当!奇遇です!」

チナミ「……奇遇ですって……白々しいのよ……」

チナミ「どうして、あなたがこんな所にいるのよっ!!」


突如現れた、知り合いの男……

”利用派”吸血鬼の頭目たる男を睨みながらチナミは怒鳴る。


帝王「祭りに遊びにやってくる理由なんて決まってるでしょう、ただの休暇ですよ」

対して、男は悪びれもなく言った。


帝王「偶然、休暇がとれたので、偶然、人間達の催す祭りに参加したら」

帝王「偶然、”家畜派”吸血鬼の侵攻に巻き込まれたので……困っていたところです」

帝王「いやはや、偶然と言うのは恐ろしいものですね!」

チナミ(私が言うのもなんだけど……驚きの白々しさね……)


どうせこの日、この場所で何かが起きることはこの男は知っていたに違いない。


帝王「それより、チナミさんこそどうしてこんな所で倒れてるんです?」

帝王「新しい遊びですかぁ?」

チナミ「ぐっ…………」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:26:01.12 ID:eNO/EXO5o<>
帝王「困りますねえ、仕事を放りだしてこんなところで遊んでいられては」

帝王「ま、これくらいは、一派で唯一サクライの懐に潜れた貴女の実力を評価して大目に見ますけれど」

チナミ「好き放題に……言ってくれるじゃないの……」


帝王「で、どうでした?『カースドウェポン』と相対してみた感想は?」

チナミ「……いったいいつから見てたわけ」

帝王「嫌ですねえ、覗きなんて趣味はありませんよ」

帝王「ただチナミさんの様子からなんとなく察しただけです」

チナミ「……そもそも『カースドウェポン』の存在自体を私は報告してないはずだけど」

帝王「そうでしたっけ?私も年でしょうかね?最近物覚えが悪くって……」


ふざけたように笑いながら男はチナミへと手を伸ばす。

そして力の抜けきったチナミの手を掴むと、すっと持ち上げた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:26:40.75 ID:eNO/EXO5o<>
チナミ「!」

手を引かれて、チナミは立ち上がった。

男に捕まれると、驚くほど簡単に足が動いたのであった。


帝王「少しは楽になったでしょう?」


男の、何らかの術であるらしい。

胸の傷こそ再生できていなかったが、

雨によって肉体から奪われ続けていた体力が戻っている。

これならば、このままくたばって終わらずに済みそうだ。


チナミ「…………感謝はしないわよ」

帝王「はははは、構いませんよ。このくらいの事で対価を要求するほどケチなつもりはないですから」

帝王「おっと」


ニコヤカに笑う男は、何かに気づいたように林の向こう側を見つめた。


帝王「どうやら、あちらも終わったようですね」

チナミ「……何が?」

帝王「『家畜派』がです、『家畜派』と言う一派が今、終わりを告げました」


男が向いていた方向は裏山のあった方角。

ここから大きく離れたその場所で、この日学院中を巻き込んだ事件の発端が片付いたようだ。


チナミの方を向き直して、帝王は語る。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:27:27.01 ID:eNO/EXO5o<>

帝王「彼らともそれはそれは長い付き合いでしたから、その最後をこの目で看取れて良かったです」

チナミ「……そ、『将軍』がやられたってわけね。ざまあないわね」


ニコニコと見つめてくる男から目を反らし、チナミは言った。


帝王「……誤解を解いておきますが、人間に捕まっただけです」

帝王「この地上のヒーローと呼ばれる者たちはなかなか敵を殺しはしません」

帝王「チナミさんもよくご存知でしょう?」

チナミ「……」


帝王「彼らの1人が言うには『生きて、ちゃんと罪を背負ってもらわなきゃならない』との事です」

帝王「ははは、感動的ですねぇ!美しいではないですか!」

帝王「その言葉にあの『将軍』も大層、心を打たれたようで」

チナミ「……」


手を叩き大げさに喜びを表現するかのような男に対し、チナミはそっぽを向いたままである。


帝王「……おやぁ、チナミさんは面白くなさそうですね?」

帝王「そうそう、将軍の娘も見事、『将軍』と和解されたみたいですよ」

帝王「なんと、大団円ではないですか!いやはや、良かった良かった!」

チナミ「…………そう」

帝王「ふふふ」


聞かされた事の顛末に、何とも言えなさそうな顔をするチナミの傍で、

帝王たる男はとても愉快そうに笑っていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:28:11.62 ID:eNO/EXO5o<>
帝王「さて……何にしても、これから忙しくなりそうです」

帝王「『家畜派』の完全解体によって魔界の情勢はまた変わりますし……」

帝王「それに……今回見せてもらった人間達の力、興味深いことこの上ない」

チナミ「……」

帝王「……ヒーロー達の事は、とりあえずクールP君の事を信用するとして、」

帝王「チナミさんにもしっかり働いてもらいますよ」

帝王「引き続き、サクライと共に『カースドウェポン』の完成を目指してください」

チナミ「…………わかってるわよ」


チナミは吐き捨てるように返答した。


帝王「ふふっ……アンセスターの目覚めも近い」

チナミ「?」

帝王「近い将来、きっとまた世界は一変しますよ」

帝王「”あの日”のようにね」



そうして、大雨が降り止む頃には、


2体の吸血鬼は、その場所から姿を消していたのだった。

<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:28:48.88 ID:eNO/EXO5o<>


―――

―――

―――














   
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:29:14.64 ID:eNO/EXO5o<>


とくん






「……?」


音が聞こえた。


とくん、とくん。


一定のリズムで穏やかに鳴る音。

それはどうやら自分の内から。


「……ぁ」

少女は胸に手を当てる。

意外にも、手は軽々と持ち上がった。

その手には確かに、脈打つ感触。



「うふっ、お目覚めですか?」


美穂「……ぇ」


確かな温もりの中、美穂が目を開くと、

眩しい光の中に小さな影が見えて―― <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:29:44.97 ID:eNO/EXO5o<>
「うふふっ」

美穂「えっと……?」


目が慣れてくると、次第に影の像がはっきりとしてくる。

自分よりもずっと、小さな少女。

ブロンドの髪と、眼鏡の奥のエメラルドの瞳が美しい少女の姿。



「良かったですわ、お目覚めになられて」

美穂「……ふぇ?」


ようやく頭が、状況を理解する。

頭の下にはふわりと暖かな感触……

美穂はいつの間にか、小さな少女に膝枕されていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:30:10.61 ID:eNO/EXO5o<>
美穂「す、すみませ…!」

何への謝罪かはわからないが、

美穂はとりあえず謝りながら起き上がろうとしたのだが、


美穂「うっ」

力が入りきらず、結局立ち上がることはできなかった。

軽く上げた頭を、そのまま少女の膝へと戻す。


「無理をなさってはいけませんわ」

「傷は治しましたが、あれほど酷い状態でしたもの」

「体力が戻っていないはずですから、しばらく安静にしてくださいまし」


美穂「……すみません」

なんだか申し訳ない気持ちで一杯になり、再び謝罪の言葉が口から出たのだった。


美穂(そうでした……吸血鬼の……女の人と戦って……私は……)

美穂(……?負けてしまったんでしたっけ……?)


どうしてか最後の方の記憶が定かでなく思い出せない。

だがなんとなく、逃げられてしまったのであろう、と言う実感だけはあった。


美穂「あの、あなたは……」


さて、とにかく、どうしてこの女の子に膝枕をされているのか、

その経緯を知るために、美穂は尋ねた。


「わたくしはさ……ああ、いえ」


桃華「桃華とお呼びくださいまし」


桃華と名乗った少女は微笑んで、美穂を優しく見つめていた。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:30:48.42 ID:eNO/EXO5o<>
……

……


美穂「えっとつまり……傷だらけで倒れていた私を……フェイフェイさんが回復してくれたんですね?」


桃華達から話を聞いて、美穂は自分が倒れてからの顛末を知る。


菲菲「そうダヨー!ふぇいふぇいの治癒能力を使ったネ!」

美穂「……ありがとうございます」


ハンガーラックにかけられている衣装をあちらこちら珍しそうに眺めていた少女に対して、

美穂は頭を下げたかったが、体勢的に厳しいものがあったので、

微笑んでお礼の言葉を述べることにした。


桃華「それにしても……偶然、わたくし達にこの部屋を尋ねる用事があってよかったですわ」

美穂「……あはは、面目ないです」


聞けば、少女達は突然の雨に着ていた服を濡らし、

さらに裏山の爆発の音にびっくりしてコケてしまったために土で汚れてしまったらしい。

とりあえず運動場のシャワールームで汚れを落とした彼女達は、

衣装を着替える必要があると判断して、この部屋を訪れることにしたのだそうだ。


美穂(外にはカースも居たはずなのに……肝が据わってるなぁ……)


まぁ、フェイフェイと名乗った少女は強力な能力者であるそうなので、

カースと対峙してもどうにかする自信はあったのかもしれない
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:31:43.18 ID:eNO/EXO5o<>

美穂「えっと……本当にありがとうございました…」


とにもかくにも、少女達がこの部屋を訪ねてきてくれたおかげで、美穂はこうして無事助かったわけである。

何度お礼を言っても言い足りないほどであった。


桃華「……そんな事、構いませんわよ」

桃華「貴女は、この場所を襲う脅威にたった1人で立ち向かったのですから」

桃華「わたくし達を守ってくれたヒーローを労うのは当然の事ですわっ!」


美穂「……えへへ」

なんだかむず痒かった。

ヒーローとしての自分の行動が認められたのだから、嬉しくないはずがなかった。


そう思うと……美穂の内に溜まっていたこれまでの疲れが、一気に目覚めたようで……


桃華「ふふっ、瞼が落ちてきていますわよ」

美穂「そ、その……すみません……」

桃華「謝ることはありませんわよ、もうしばらく……わたくしの膝の上でお休みくださいまし♪」

美穂「……それじゃあ……そうさせてもらいますね……」


そう言って目を瞑ると…


美穂「すー……すー……」


すぐに寝息を立てて、美穂は眠ったのだった。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:32:30.13 ID:eNO/EXO5o<>

……

……


桃華「……よほど疲れていらしたのですわね」

膝の上で眠るヒーローの寝顔を見つめながら、桃華が呟く。


菲菲「傷を見る限りだケレド、すごく無茶をしてたみたいだったからネー」

菲菲「身体中に空いてた穴に、負のエネルギーを詰め込んで代用するなんて無茶苦茶ダヨー」

菲菲「んー、カースドヒューマンがやりそうな発想カナ?」

桃華「……」

菲菲「ただ、そのおかげでふぇいふぇいの”生命の息吹”が上手く効いたみたいで良かったヨ!」


部屋中、選り取りみどりの衣装を選びながら、魔神は無邪気に語った。


桃華「…………何と戦ってたのかは存じませんが……」

桃華「きっと……どれだけ傷つこうとも……何かを守るために戦い続けようとしたのですわ……」

桃華「……優しい方ですのね」


すやすやと寝息を立てる少女の黒髪を、桃華は優しく撫でる。


菲菲「ケレド、いいのカナー?」

菲菲「マンモンちゃんが寝ている間に、その子を助けちゃっても……」


2人が助けた少女が、『鬼神の七振り』の所持者であることを、

つまり、財閥が……強欲の悪魔マンモンが狙っている人物である事を2人はもちろん気づいている。


菲菲「後で怒られちゃうかもしれないヨー?」

桃華「ふふっ、あの方はそれほど狭量な方ではありませんわよ」


愉快そうに心配する魔神に、ブロンドの髪の少女は笑って答えた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:33:17.62 ID:eNO/EXO5o<>

桃華「……人格を支配する刀でしたわね」


眠るヒーローの傍らの刀を見つめて、少女は言った。


菲菲「ウン、マンモンちゃんが言うにはネ!」

菲菲「『傲慢』の力は”支配の力”だから、人格を理想的に変えられてー」

菲菲「その負を押し付ければ周囲も理想的に支配できるはずとか言ってたカナー」


うろ覚えで聞きかじりの情報を魔神はさらりと話す。


桃華「そう…………人格を……理想的にですの」


どこか悲しげな様子で、桃華は呟いた。


菲菲「? どうしたの?」


桃華「フェイフェイさん、もし……もしこの方が……」
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:33:47.24 ID:eNO/EXO5o<>
桃華「自分の『優しさ』を否定することがあれば……」

桃華「それが理想だと願ったのだとしたなら……その時は……?」


菲菲「……桃華ちゃんはそれを知りたいのカナ?」


何気ない少女の疑問に、

魔神の瞳が真剣に問い返す。


桃華「……」

桃華「……いえ、止めておきますわ」


菲菲「それがいいヨー、難しいことはマンモンちゃんに任せておけばいいと思うナ!」


少女の答えを聞くと、魔神は無邪気な笑顔に戻り、

とりあえず手にした学生服に袖を通し始めるのであった。


桃華「……聞いたところで、わたくしに何が出来るわけではありませんもの」

桃華「ええ……わたくしに出来ることは」

桃華「この方に……ただしばらくの、安眠を与えることくらいですわね」

桃華「今はゆっくりとお眠りくださいまし」

美穂「すー……すー……」


こうして、教習棟の隅で人知れず起きた1つの戦いが、一先ずの決着を迎えたのであった。


おしまい <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:34:19.47 ID:eNO/EXO5o<>

『血装<ブラッディーアーム>』

吸血鬼の扱う武具。自らの血液を操り、鋭い刃を作り出す。
チナミは右手に手甲の形でそれを作り出したが、
これくらいの事であれば、大抵の吸血鬼はできるようだ。


『紅の杭<ブラッディーダーツ>』

チナミの奥の手である小型の投擲武器の形をした血装。
特定の相手の血液があれば作り出すことができ、
これを投げれば、媒介にした血液の持ち主の心臓を、突き刺さるまでひたすら追う。
攻撃の途中、血に触れれば吸い上げて、さらに大きく膨れ上がる特性まで持つ。
例え物理的に防御、破壊しても、破片が瞬時に再結成して、再び目的を達成するまで追跡を開始する。
杭を構成している血液を蒸発させるほどの熱を用意すれば消滅するが、
それ以外に物理的な手段で破壊する方法はほとんど無い。
チナミはこれを何本も用意して、囲って敵を追い詰める戦法を好む。
当然ながら血液の流れない者に対しては使えない武器。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:35:07.69 ID:eNO/EXO5o<>

『生命の息吹』

魔神であるフェイフェイの能力の1つ。
海王神、豊穣神としての能力の一部。触れた物に生命力を吹き込む。
とりわけ”彼女が作った物”に対しては無意識に発動してしまいがちで、
彼女の料理は大概ヤバげで強靭な魔物になる。でも美味しい。
この力は治癒にも使え、怪我や病気も治せる。と言うかこっちが本来の使い方。


『小春日和 2』

所有者を支配する刀でありながら、所有者の心に感化されやすい小春日和。
所有者の理想を軸にその人格を作り上げるため、
所有者の夢・理想が穢れたものであれば当然、刀の作り上げる人格も穢れたものとなる。
夢見る少女が己の優しさを弱さであると否定し、
怒り狂える強さを望むのであれば、刀はそれを叶えて凶暴な人格を作り出すだろう。
夢の形は、必ずしも美しいものとは限らない。


『ラブリージャスティスひなたんジャック』

小春日和の力は強烈な人格支配能力。
『傲慢』のエネルギーによって行われてるそれを、
外への働きに変えたならば、周囲の支配能力として転じえる筈である。
その力によって可能となるのが能力制御の乗っ取り。
行き着く先に行き着いてしまった結果生まれてしまった技。
夢見る少女はまだこの力の形に、その理屈に気づいてはいない。
<>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/02/23(月) 20:38:01.53 ID:eNO/EXO5o<>
◆方針◆

美穂 … お休み中。
肇   … たぶん今頃、カースの進入口になっていた窓を閉めて倒れた生徒達を安全な場所へと連れて行ってる
チナミ … 思いっきりやられたので帰ります。
桃華 … 膝枕中
菲菲 … お嬢様のボディーガード中。


長いよっ!どうしてこうなった!
本当すみません…

本日のひなたん星人、教習棟の床を2枚ぶち抜いて吹き抜けにする。
か、加減していた……とか嘘じゃん……
こんなに盛大に壊しちゃって……
……大丈夫……シロクマさんが……フォローしてくれる……(無茶)

一応、ひなたん星人は負の感情を集めたときに、
下の階に避難してる人間が居ない事は確認していたようです


腹黒子安って聞いたらジ○イドの事が頭に過ぎった帝王、
アンセスターの事もたぶん知ってるよねって事でぶちこませていただきました

クールP、帝王、あと名前だけまゆお借りしましたー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/02/23(月) 21:55:01.47 ID:qXb4lpTs0<> おつでしたー
ひなたん星人がなんとか勝てたようで…けど無茶しすぎにゃあ!ひやひやしたにゃあ!
そしてまた不穏なフラグが建つ安定のシェアワ
…そしてなんか、教習棟がスゴイことに…どうなるのこれ…(今更感) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/02/24(火) 00:55:43.99 ID:3p/S1CGSo<> >>856
おつー
途中割り込んでしまって申し訳ない……

ボリュームたっぷりの手に汗握るバトル、燃えますなぁ
奈緒、ひなたん星人が戦いの最中に不穏な成長を遂げた模様

しかし帝王のこの胡散臭さよ
一筋縄ではいかない連中を束ねてるんだもんね、そりゃ並大抵の奴には務まらんよ

なかなかに小春日和のスペックが高いですね
鬼神の七振りに対するイメージも相対的にちょっと変わってきた <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/02/24(火) 19:07:57.89 ID:m/Kjg1vz0<> おっつおっつ
そうだよなー。結局はカースの力を利用している武器が簡単に良い力として使えるわけないんだよなー。
小日向ちゃんはどれだけ悩んでも迷ってもいいから歪まず成長していってほしいものです。
チナミさんも今はゆっくり休んで下せえ。その実力と怖さは改めて思い知らされましたから。

しっかし結構校舎壊れちゃったけど翌日からちゃんと再開できるのかな?
ここまで来たら壊せるだけ壊すのもいいかもしれんね・・・ <>
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/25(水) 18:59:33.15 ID:trCOmHiz0<>  火球に焼かれ禿げた山肌の、しかし、不自然に芽吹き始める緑。
 未だ幼く、疎らで、土の色すら隠しきれず、数時間前の顔は取り戻さぬと言うに、そこから生えるおびただしい根や茎、低い木の幹のなんと不釣り合いに逞しい事。
 再生する草花にしろ、万年を錯覚させる樹林にしろ、これが異能の業でなければ一体なんだと言うのだろうか。
 そこに、加えに加え、その木の幹が人の右手を象り、その掌が掴む物が吸血鬼の駆る空中戦艦となれば、変わり果てたこの世界の、業の深さが伺い知れるというものだ。

「見せしめに焼かれ、不自然に再生され、挙げ句の果てに養分を作戦の道具にされるなどと……」
「…自然への冒涜もここに極まるか」

 淀んだ空を背に聳え立つ、混沌たるオブジェクトを見上げ、逞しい筋骨をGDF制式アーマースーツで覆った男は嘯く。

 半透明の蒼いバイザーに遮られ、その相貌は伺い知れぬ。
 ただ呆れのような物が滲み出る声音に唯一答えたのは、「そう言えば」と右手側から出た思い付いたような声だった。

「どこぞの誰かが、言ってましたよ。地球にある物は全て自然から生まれたのだから、人の生業を自然破壊だと言うのはお門違いだとか何だとか」

「そいつは、とんだひねくれ者だな」

 言いながら、何時の間にか並び立った人影を横目に認めると、一つ笑い飛ばすように言葉を吐く。

「でも、真理な気がしません?」

 と、気の抜けたような声の主はしかしそれでも食い下がった。

 思いの外で、ちらりと厄介そうな視線をくべると、どこか生意気そうな瞳が半透明の強化プラスチックの内に覗く。 <>
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/25(水) 19:01:39.56 ID:trCOmHiz0<>  さて、どう言いくるめてやったものか。

 腕を組んで物思いに耽る──と言うほどでもなく、ただ片手間のように、曖昧とした道徳に肉を付ける言葉を探る。

 これは、若造の生意気を潰す大人気なさからの思考か、古いやも知れぬ道徳観念を否定させぬが故の衝動か。
 突き止めるほどの事もなく、ただ暇潰しには悪くないか。

「…そうだな、自然破壊という、その”自然”と言うのはだな」

「要するに、森だの水だのの存在を形容するのにそういう言葉を使っただけで、自然の成り行きがどうということは違うと思うのだよ」
「そういう言葉を使う彼らが守りたいのは有機の空間であって…誰だか知れんが。そいつの言うことはちとズレてるとしか思えん」

「ふむ」

「結局は揚げ足取りよ…耳触りは頭の良さそうな台詞だが、そういうところに頭が回らんのではな」

 と、そこまで言い切ると、思うより筋の入った言葉が出たことに、内心自讃を向ける。
 いやこういうのは感情の話で、理屈めいた言葉で語るべきなのでは無いのだろうが。ただ、こういう手合いは、恐らくこういう言葉の方が好むのであろう──。

 という、大人なりの人生経験。どれほどアテになるか。

 して、反応を伺うつもりで横目を見やり、映ったのは、顎を撫でて思考する部下の姿。
 暫し悩むように唸った後、重りの取れたように頭を上げ、息を抜きながら言った。

「…ん、納得です…いやはや、ニヒリストな言葉は言ってみたくなって仕方ありませんね」

「それがニヒリストだという認識は、そもそもそういう道徳が正常だから成立するものであろうに」

「仰る通りで。…しかし、中尉殿も意外と見識をお持ちのよう」

「阿呆、ただの馬鹿に隊長などと肩書きを寄越すものか…」

 そこまで言うと、中尉は密かに端末の時計を確認し、次に道路とを交互に見た。
 すれば、丁度後続の車両が追い付いてきた所で、暫くしない内に後方の戸を押しのけて兵士が続々と学園へと踏み行っていく。 <>
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/25(水) 19:02:43.64 ID:trCOmHiz0<>


 規則正しく、行く最中で人々の怪訝そうな、また不安そうな視線を注がれる彼らは、迷うことなく敷地に置かれた即席の指揮所へと向かっていく。
 軽装、今の一団ならば、その全てが技官に当たる。

 彼らの目的とは言えば、必定。あの巨大戦艦。先に到着した者は、いち早く船隊に取り付き始めてもいた。

 吸血鬼も、はた迷惑な物を落としていったもの。
 彼ら技官は故に駆り出され、ドッグで落ち着くこともできず、これから野晒しの戦艦を手探りで調査しようというのだから。

 そして、その警護と警戒を行う、自らの指揮する歩兵小隊。
 未知と向き合う技官よりはマシであろうが、我等もこれから陰鬱な空模様の下、常に気を張り続けなければならないのだから、これまた好ましくない話である。

 物思いの内に状況を認めると、否応なく、はあ、と憂鬱気なため息が吐き出された。

 どれほどの仕事になるか、今から見当のつく事ではない。
 技術屋の腕と、吸血鬼の建造。奴らからすればあれは驚異の岸壁か、興味と好奇心の宝庫のどちらであるか。
 ただ分かるのは、こちらからしてみれば速く終わってしまうに越したことは無いということ。

 或いはヒーロー同盟が爆散させてしまえば楽であったか───。と、使命感と戦艦の有用性を思う気持ちからの否定を、それでも押し退けて浮かび上がった発想の内、技官の団体を追う終に紅い戦艦を見据えていた瞳は、ただ複雑を秘めてしかめられるばかりである。
<>
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/25(水) 19:04:03.11 ID:trCOmHiz0<>

「あー、でも…」

 と、話題尽き、また沈黙したかに思われた部下の不意に発した声が、中尉の物思いを破って顔をまたそちらへ引き戻した。

 まだ何か減らず口でもあるのか?反射的に思い、眉根を寄せて鬱陶しがるも束の間、次いだ言葉を聞いた中尉は、はっと顔を正面に向き直し、三度大樹を見上げていた。

「自然保護とは言いますが…やっぱあれは違いますかね」

 言った、その視線を追うまでもなく、例の大木。
 天を衝く異様。

「…まさか、ここらの名物にするわけにもいかんだろうし…犯人が居るなら早々地面に引っ込めて、元の養分に戻して貰いたいな」

「ですねー…まあそのためにはあの戦艦をどうにかしなけりゃあならないんでしょうが」

「そうさな…」

 結局はやはり、そこに帰結するのだ。
 ここにいる理由。蔓延る蔦や大樹の存在意義。更に言い、遡れば、ヒーロー同盟が奮闘し…人々は避難を強いられ…山が焼かれた……それに関係する諸々の混乱もあろう、この一日の、大方の出来事というのは。

 眩い光条に撃ち抜かれ、破孔痛々しく。首魁を失い、機能を落とした今でさえ、未だ忌々しいその船体───。

「そこの、お前」

 ふと思い、近場を通り抜けようとした1人を呼び止める。
 通りがけた背中が電流に打たれたように跳ね、振り返った顔に軽く手招きをした。
 「時間は取らせん」と先を打って言い、戦艦を指さして言う。

「貴官らは…あのでかぶつをどうしてくれるつもりなのか?」
<>
◆R/5y8AboOk<>sage<>2015/02/25(水) 19:05:15.46 ID:trCOmHiz0<>

「ああ、それなんですがね…」

 すると、捕まえた技官は腰に手を当て、煮え切らぬようにむっと唸った。
 俄か怪訝に思った中尉はその顔を見下ろして返答を待ち、隣でどこか眺めていた部下もそれに倣う。
 と、半秒か、一秒か躊躇った後、それでも語頭を澱ませて答えを返した。

「…ン…それが、まだ正確には決まっとらんのです」

「ほう?」

「ええ、大まかには二つ。あそこで細かく分解しちまうか、適当に分断して施設に運んじまうか」
「んで、手段。段取りを決めるためには大まかにでも調べる必要がありましょうし、いざやるとしても市民との折り合いもありましょう」

「そら、まあな」

「奴らも迷惑なとこに落としてくれたもんですね」

 と、口を挟んだ部下の声に賛同するのは、二人とも同様であった。
 もとより浮かんでいた敵なのだから、場所はどうあれこういう事にはなったのであろうが、だからと言ってそうそう割り切れるものではない。愚痴めいた顔を三人で突き合わせ、無言の肯定を交わす。
 不思議な沈黙のうち、技官がまた絞り出すように切り出した。

「何せあのでかぶつ…飛ばせたら楽なんでしょうが…人類の技術じゃあありませんし」

「…分解の方向で行くなら、どう短くても月単位で見積もらなきゃあいかんでしょうなぁ…」

 月単位。と、軽く放たれた一言に、二人ははっと顔を見合わせていた。
 彼らにとって月単位というのなら、我らにとっても月単位。
 いくら飛躍した技術といえど、未知のでかぶつが相手なら、月単位。

 もはや驚くべきことでもなく、文句を垂れることではないのかもしれない。

 ただ―――。

「…顔なじみが増えるな」
「まったくです」

 ―――そう短く交わして肩を竦めるのは、二人ほぼ同時だった。

 巨船堕ち、憂鬱なる雨止めど、その残滓たる淀雲は晴れず。
 快晴には未だ程遠い。




 ※

<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:06:37.78 ID:trCOmHiz0<>




「存外、呆気無く済んでしまうものだね…吸血鬼というのも」
「残念そうだな」

 鎧の内からくぐもったように響く、少女の独白に向けられたその声は、酷く無感情で。
 少なくとも、ヒーローが市民に向けるそれとしてはあまりに素っ気なく、冷たい。

「きっと眼鏡掛けた糞野郎に違いないぜ!」

 と、また別の男が戦艦を見上げて吠えると、少女は目を丸くしてその背中を見やり、それから彼の相棒に視線を流して発言の真意を問う。
 そこで目が合ったのは偶然の事だった。が、しかし相棒の目は我関せずと言ったように伏せられ、続くやりとりは無い。
 ───尤も、この沈黙は問いを突き放すという訳ではなく、どこか悩ましげな、気まずさや困惑を含むような物ではあったが。

 どこか遠い喧騒が、この場の静寂を浮き彫りにする。

 無言の内に見上げるは、三者同様沈黙した戦艦ではあるが、その思惟は決して交わることは無く。

 学園の外周に待機を命じられた──一方は依頼された、ヤイバーズと二宮飛鳥は、ここ数十分こんな調子だ。

 黒い意志を以てヒーロー同盟に接触した飛鳥も、結局は作戦の都合飛行という個性を発揮する場は与えられず、ヤイバーズと共に不測の事態に備えての用心に使われるに止まる。
 その不測の事態…伏兵の存在や、破損した装甲壁の飛散などという事もなく、用心は用心以上の意味を持つことはなかった────。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:09:46.35 ID:trCOmHiz0<>


──不測の事態は、無かった?

 否。馬鹿を言え、目の前にそれは有るのだろうが。 


 ヤイバー乙は、睨み上げた視界の端、少女の背中を油断無く観察しながら嘯く。

 協力者。随分と都合の良い話もあったものだ。

 元より、自分ら二人さえ居れば済むような物を、何故無関係の人間を引き入れる?相手があくまで市民だというなら、もしもの怪我があったりなどした時のリスクを考えねばならんだろうに。
 なれば、何か目的があると見て違いない。
 自分の知るヒーロー同盟の人間が、無闇矢鱈に予防策を張る愚か者でないならば───。

 と、このような疑心を抱く故は何かと言われれば、乙は理論的な返答を返すことができぬ。

 だが、それでもだ。ヤイバー乙は拭いきれぬ。
 ヒーローの第六感が感じる、この少女の人外めいた違和感からくる悪寒を。
 一度覗き込んだ、暗い、底無しに深く、己の感情すらも全て奥に呑み込んでしまうかのような瞳への恐怖を。

 これが妄想でないとして、自分以外この気配に気付いて居る者は居るだろうか?甲は残念ながら期待できない。
 思い返せば、カミカゼに喧嘩を売った不審者も居たという話だが───。

 ───そこまで考え、乙はこの思考をどこか冷めた目で見つめる、客観的な自分が居ることを知覚する。
 当然。全ては不明瞭を根拠にした疑心暗鬼に過ぎぬのだから。と、理知的な写し身は言う。

 しかし、だとするならば、この自分を持ってしてこの不安を抱かせる物とは何なのか?
救われたこと少なくないこの直感を無碍にしていいものなのか?

「…世は並べて事も無し──とは言わないけれど、こうなってしまった世界でも、存外に乱れることは無いということかな?」

 この退屈そうな言葉に感じる悪意は、虚か実か──。

 判らぬ以上、乙には積極的な行動がとれぬ。
 ただ気を張り、握った拳の内に人知れず電光を漲らせる事が、今できる事の精々である。

 ふと、やおら背中を伸ばしたヤイバー甲が、アーマースーツの中で大きな欠伸を放った。

「まァ、悪も増えてるが、正義も増えてんだ…頭の良いコトは言えねえが─多分そういうことだろ!」

「当人の言葉は説得力があっていいね…良いことだよ」
「―――一応言っておくけど、平穏を嫌っているわけじゃあないから、ね…」

 と、不意に飛鳥の視線が背後の乙に流され、乙の体がびくりと跳ねそうになる。
 何とか平静を装い、敵意を感取られたか、と訝しむ視線で見返せば、答えを煙に巻くような笑みが横顔に浮かんだ。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:10:55.81 ID:trCOmHiz0<>  食えない輩だ。背筋を伝う不快感を噛み殺しながら、乙は内心に吐き捨てた。

 と、同時、不安の原因の一端はここにあるか、とも認める。
 
 半秒ほどの交錯の後、くす、と鼻を鳴らすような笑いを残し、飛鳥の顔はまた空中の戦艦を見上げた。
 小馬鹿にされたように思い、眉をひそめるも、直ぐに馬鹿らしく思い、嘆息を吐き出して虚空に目を逸らす。



 と、その視界の先で、乙は何か黒いものが蠢いているのを認めた。

 目を細めると、不意に紫色の輝きが揺らめき、それを飲み込んだ黒の塊が形を取り、にわか認識できる陰影が凶器めいた先端を覚えさせ――――。

 ―――脳髄に電流が走る。半ば反射的に腕を眼前で交差させた直後、その防御から上を歯の根が揺れるような衝撃が襲った。
 火花とアーマーの破片が視界に舞い、その先の黒装の獣──カースと視線が交錯する。衝撃をすべて吸収し切らぬ間、敵を敵と認めた乙の殺気が膨れ上がり、同調して瞬いた腕の雷光がスパークし、カースが反動で飛び退くと同時に前方の空間を焼き散らした。

 飛んでいく黒い肉体に束となって飛ぶ雷撃が食らいつき、雷の爆発から飛び抜けるように距離を取ろうと跳ねていく。

 と、その体に突如横殴りの火球が直撃し、胴体の半ばを消し飛ばすと共に四足の肉体を吹き飛ばした。

「…大人しくしてやがれよ」

 地面を転がり飛んでいくカースを睨みつつ、伸ばした腕に炎の残滓を纏わせた甲が吐き捨てる。地面をもんどり打った獣は前進を振って立ち上がり、ボロボロの体を起きあがらせたと思えば、威嚇の構えを取った。

 核は破壊できていない。肉体の再生も始まっている。追い討ちをかけてしまいたいが───。はやる気持ちを押し殺し、二者は背中を突き合わせながら、油断無く構えを取った。
 そのまま素早く景色に視線を巡らせると、こちらを取り囲むように出現しつつあるカースが、各々不吉な煌めきをちらつかせているのが認められる。

 偶然か、意志ある者の思惑でも絡んでいるのか、厄介なことをしてくれる。
 総数六。全てがこちらから一定の距離を保ちつつ、様子を伺うように取り囲んでいる。と、それを認めれば、自ずとぼやきを内心に吐き出していた。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:12:57.78 ID:trCOmHiz0<>
「…全く…否定したばかりなんだけれどね…」

 その最中、くつくつと喉を鳴らす音が二人の鼓膜捉え、意識せずぴりぴりした乙の視線をそちら側に引き付けた。

 いつの間にやら取り出した黒い槍を携え、構えこそ実戦的ではないが───一応の戦意は見て取れる。

「緊張感がねぇな!?」と、背中で声を飛ばした相棒に内心同調し、どうなんだ、と後追いで問いかけた。

「言葉で語るべき時じゃない」

 と、挑発的に鼻を鳴らしながら、飛鳥。

 湾曲的な言葉を咎める暇は無かった。
飛鳥が芝居がかって槍を振り回し、虚空の一点へ狙いを定めたかと思えば、その先ではまた別の影が揺らめき始める。

 それもまたカースなのであるが、一つ妙な事を挙げるならば、周りがすべて四足の獣であると言うに、それだけが二足、曖昧な人型をとる事だ。

 例外に一際強い意識を振り向け、観察していると、それは不意に腕を振りかぶり、不明瞭な声を吐き出す。

 カマ、エ、ロ。

 辛うじて人の言葉にするならば、そう聞こえた。
 と、それを聞いたとおぼしき六体の獣は、そこ一声に応じたように、全てが身を屈めて跳躍の前準備を取り、一様に呻り声を上げた。

「コマンド型か…」

 思いがけず呟き、事の厄介さを上塗りにする。
 厄介だな、と続きを紡いだのはどちらが先であったか。その響きは場の緊張感を伴い、乙の神経に冷たい感触をもたらした。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:14:50.36 ID:trCOmHiz0<>  しかし、六の獣型にコマンド型。このような場所にそうそう現れるものであろうか?と、ぼやくような疑念を抱けば、混沌のすぎる学園祭の諸々が脳裏に去来し、また、真意の読めぬ飛鳥の微笑が数度ちらついた。
 悪意を持てば疫病神にも見えた背中に再度目をやる。戦闘中、どれだけ気にする余裕があろうか。
 余計に考えすぎれば、首を掻かれかねない。と思い、やんぬるかな。取り敢えずの恨みをカースに向け、内奥でくすぶる諸々を電撃に変換した乙は、意識を戦闘者のそれに切り替える。

 幸いか、焦りを嫌ったらしいコマンドは手勢に距離を取らせたまま、乙が沈黙思考を終えた後でも余裕を与えた。

 じりじりと周囲を旋回する手勢と、背中を合わせて三方を睨むこちら側。
 静寂の空白を埋めるように風が一陣吹き抜け、空しい風鳴りと揺れる葉音を残していく。
 獣の肢体は今か今かと待ちわびるように疼き、くすぶる電撃と脈動する火球は物々しく四方を牽制する。
 間を空ける臆病さをおちょくるように槍を一つ回すと、緊張感に耐えかねた小鳥が控え目に枝を飛び立った───。
 
 瞬間、それを合図にコマンドカースが天高く吠え、それを合図、意味を理解するかの間に獣達は引き絞られた矢の如く大地を蹴り込んだ。
 殺気が爆発し、興奮物質が脳を満たす。にわか加速する意識が全身を駆け抜け、五感全てが六つの敵意を捉えることに努めた。

 敵は六方からこちらを囲み、一気呵成の同時攻撃でこちらを押し潰す構えだ。なれば、どうする。
 一点突破──を、下手に狙ったとて、この突進を止められる保障は何処にあろう。よしんば、攻撃が有効だとして良し、しかし核を破壊せねば容易に反撃を受けてしまう。加え、攻撃を放つ隙に詰め寄られれば、それは面白くない事態である。

 なれば、どうするか。反芻し、唯一敵の影がちらつかない上方へ視線を流すと、実時間半秒にすら満たない思案はそこで打ち切られた。

 唯一、相棒の安否が気掛かりではあるが、それは信頼で塗りつぶす。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:16:36.23 ID:trCOmHiz0<>
「GAAAAAAAAO!!!!」

 目の前から圧するような咆哮が押し付けられ、黒一色の体から確かに伸びる鋭い牙がその鎌首をもたげたその時、ヤイバー乙は拳を握りしめると、決断的に大地を蹴り出して垂直方向へと跳躍した。
 それと同時、背中に同じ行動を取った相棒の気配を確かめると、納得、感慨のようなものが体を突き抜ける。飛鳥は何時の間にか消えていた。詮索はしない。

 勢い余った牙が空を切り、力の入った顎が噛み合わぬ間である。同じ行動を取った後、ヤイバーズは半ば反射で体を捻り、足の裏を互いに向けた。
 するとそのまま足を押し出し、互いの脚力で互いを押し、空中で二方に分かれたかと思えば、兼ねてより準備されていた乙の腕の電光が瞬き、狭い放射状に放出された数条の電撃が空を焼いて降りかかった。
 青白い雷が眩く光る散弾銃のように地面に突き刺さり、獣の動きを乱す。と、掠めた電熱を鬱陶しがる間すら与えず連続した電光が迸り、数度の斉射でもって六体の足をそこで鈍らせた。
 それを認める数秒のうち、乙は着弾確認もそこそこに自分の向かい側に抜けた相棒と視線を交わす。力強い瞳を確認すれば、乙は電撃の残滓を残して身を翻した。

 して、乙の牽制が乱した敵の判断と鈍った足取りは、戦闘に置いては致命的な隙である。

「ヤイバアァァァァ!!」

 雷が迸るのを待たず荒い咆哮が場を突き抜け、赤いアーマースーツから突き出された掌に灯る火球が爆発したように撃ち出され、それに気付いた首三つがぎょっと目を見張るようにそれを見た。

 泡を食って散開を試みるも、無様。雷撃をやり過ごすことに気を取られていた獣の四肢は思うように動かず、彼らがその場を離れるよりも早く、ロケット弾さながら飛来した火球が地面にぶつかることで爆発し、躯六つを爆炎と衝撃波に飲み込んだ。

 押し寄せる熱波が背中を熱く、爆音に混じって獣の悲鳴を聞いた乙は、受け身を取って地面を転がる。
 ひとまず決めた先制の感触を噛み締める間も惜しみ、全身を振って反転、止めを刺さんと足に力を込めると、視界にちらついた黄色い光球にぞっと肌を粟立たせた。
 黄色い弾丸───カースの呪弾が斜めに空を裂いて飛び、一直線に乙を狙う。味方の被害に動揺を見せないか。呪弾と同時にその射手たるコマンド型を認め、電撃めいて駆け抜ける思考にその御しやすい弱敵ではない事を刻み込むと、乙は傷新しい手甲を体を庇うように突き出した。
 回避は望めない。思わず目を閉じる──。と、高速で飛ぶ呪弾の軌道と乙との間に、何処からともなく一つ影が躍り出る。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:18:01.51 ID:trCOmHiz0<>
 それは後着弾まで半秒と言うところで射線に割り込むと、ざっと駆け抜けてきた慣性の殺し切らぬまま、真っ黒い穂先を振り抜いて光球を打ち砕いた。
 ばかんと破裂した呪いの塊が俄かに衝撃波を発し、それは意表を突かれたようによろめく。

 存外に早い破裂音と虚仮威しのすぎる衝撃に拍子抜けした乙は細く目を開き、黒い槍の遠心力に揺られる少女の姿を見た。

 少女は乙の安否を確かめるように乙を後ろ目に振り返り、肩口ほどの髪から伸びる蒼いエクステと、銀色のチェーンアクセサリがその挙動を飾る。

 余裕そうな紫の瞳に、乙は強気に目を返した。
 その後の所作を認める事もせず、乙は即座に身を屈めて手近な獲物に狙いを定め、駆ける。
 転倒した虎型カースの側面に走り出ると、カースはびくりと体を跳ねさせ、半ば這い出すように距離を離した。

 ──遅い。
 不自然な体勢からの初速などと、たかだか知れていた。電撃のチャージが足りぬ事を確かめた乙は、戦法を肉弾戦に切り替えると、十分な余裕を持って格闘の間合いまで駆け抜け、その土手っ腹を疾走の勢いを乗せて蹴り込む。
 鈍い衝撃が虎を跳ね飛ばし、えずく───という概念が奴らに存在したかは定かでないが、確かに苦しげな呻き声を残して、地面を転がって行った。

 このまま後を追い、トドメを刺すのは難しいことではないだろう───。と思い、雷光をスパークさせて足を屈めた途端、「GHOOA!!」と背中に浴びせられた吠え声が乙の思考を霧散させた。

 背後を振り返ると共に、そのままの後ろ回し蹴りを放てば間一髪、振り下ろされた前腕を蹴りが横から打ち据え、乙の頭蓋を砕かんと放たれた攻撃を逸らす。が、肝を冷やすにはまだ早い。
 絞った電撃で獣の追撃を牽制するのも束の間、思い出したようにバック転を繰り出した直後。先程まで乙の存在した空間に黄色の光球が飛来し、赤茶けた地面にクレーターを穿った。

 否応なく距離を離され、決定打を先延ばしにされた不快感に歯噛みをする。
 そこで、思考を切り替えるつもりで甲や飛鳥の方を見やれば、それぞれ二体ずつ獣の相手をしているのが目に映る。して、視線だけを動かして相対する獣と味方を見比べた乙は、その時建物の上で煌めいた黄色い閃光に思考を中断した。
 その銃口代わりの腕先の向きから、狙いはヤイバー甲である。それをそうと認めた乙は半ば衝動で「甲!!」と名前を叫び、走りがけながらの電撃を空中に放った。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:18:49.93 ID:trCOmHiz0<>
 びくりと跳ねたように甲が声の咆哮を見やり、直後の空中の爆音にまた目を向ける。遅れて追いすがった獣の怒声を振り切って接近した乙が電光をちらつかせて吐き付け、

「熱くなりすぎるな!」
「タチじゃねえ!」

 短く声を交わし、乙は己の決断と前後の敵を精査する。
 そのまま立ち向かうつもりであったのであろう二体のカースは寸秒追走が遅れ、接近には多少の猶予がある──が、それでも決断は迅速でなければならないだろう。
 前方には、時間差で接近するまた二体。
 飛鳥の援護は相互に望めぬ──が、隣には信頼できる相棒。

 ならば、多少の無茶は利く。

 ヤイバーズはほんの一瞬視線を交わし、その直後、乙は疾走の加速が死にきらない内に、また前方へ進み出、対処を迷っていた甲はスイッチを切り替えたようにそれに続いた。

 相対速度を増した獣型の爪が、倍する速度でぐんと迫る。速度は緩めない。ただ電光を強め、また踏み込む。
 両者の距離が縮まり、その瞬間。カースは乙の背後から、突如爛々と輝く赤い光が両脇を通り抜けて飛行するのを見た。
 脈動するような二つの光球。甲の火炎弾である。

 乙の体が死角となり、火炎の発射を知ることができなかったか。と僅か戦慄すると同時、両脇を抜けたのでは命中する事も無かろう、と怪訝な気が湧き上がる。
 どちらにせよ、もはや交錯は避けられる物ではない。互いの視界を埋めるほどに接近した、黒い泥と蒼を基調としたアーマーが交錯した。

 と、その時、蒼い光が瞬くのを網膜のみが認識した直後、獣型カースの両側から体の千切れるような衝撃波が見舞い、激しいダメージと共に攻撃を狂わせた。

 呪いの権化なりの思考が弾け飛んだように掻き乱され、己の内側で混じり合う衝撃波が泥の肉体を引き裂くようにミキサーにかける。
 何が起こったのか理解する間もなく、コンマを争う時間は無慈悲に過ぎ去ってゆく。前方に突き出した前腕が虚空を掻き、体の一部が弾け飛ぶ。

 最後。唯一機能を正常にする視界が視認したのは、両側にちらつく爆炎の残滓と、己の口腔を貫いてゆく雷の槍───。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:19:58.99 ID:trCOmHiz0<>

「…ヤイバー・ランス」

 衝撃波が砕き、電熱が溶かした泥の鎧は貫手に易々切り裂かれ、その最中、脆く固い感触が乙のアーマーから指先を伝う。
 直後、噴射炎で加速した甲が乙を連れて離脱すると、中空で固まった四足の獣は俄か膨れ上がった後、赤の燐光を撒き散らして四散した。

「GHOUU!?」

 その背後から襲いかからんとしていたもう一体は、わずか数秒の内に味方が撃破された事実に困惑し、思いがけずつんのめる。

 事態に理解が追いつかず、白紙化する思考を前に、離脱そのままに突進するヤイバーズの速度は無慈悲にも速すぎた。
 気付いたときには青い影が前方を埋め、呆け者を叩き起こすが如き拳骨が頭蓋を粉砕し、「ヤイバー!!…」と叫びを纏って続いた甲の拳が頸を入り口に胴へめり込む。
 ぼろぼろの頭から僅かな呻き声が聞こえたかと思えば、すっと息を吸った甲が放つ、「フィストォッ!!!」の声とともに掌から膨れ上がった爆炎に爆発四散した。

 甲の体が己の爆発に煽られてよろめき、その傍らを無茶な空中格闘に姿勢を崩した乙が転がる。そこで漸く、「GHAAAAッ!!」「GRRRRRRAA!」と二者の背中に追いすがった後追いの獣が、怒りを滲ませたような咆哮で迫る。
 
 多少のダメージは覚悟か。
 速度の乗った敵と己の状況を比較し、完全な回避の望みを遠くした彼らは反撃の動作をシュミレートし、しかしそれにに飛び込んだ影にぎょっと目を剥いた。砲弾めいて飛来した少女の体が獣の胴を横から打ち、その場の反応を置き去りにして一人きりもみ回転しながら上空へ跳ね上がる。と、途端にぶわりと蝙蝠めいた翼を生やして回転を緩め、飛鳥は擦れた衣服と手に持ったカース核を見ながら苦しげな顔を振った。

 その核を見た乙が、それが敵の心臓であり、首級代わりであると認めると同時、何故素手で触っていられるのかとの疑念をぼんやりと浮かびあがらせる束の間。

「じゃじゃ馬だ…、全くッ!!」

 眼孔をきらめかせ、いち早く動いたのは回転のまま状況を精査した飛鳥。衝突に怯んだ獣に向かい、手に持った槍を投げ放つ。
 と、傍らの一体が即座に射線を遮り、それを弾きと飛ばすと同時。飛鳥の追撃にかかる獣と、そちらに乙が電撃を投げ放って牽制すれば、再び戦場が動き出す。

 ともあれ、想定外はあれどこれで三対四。状況は格段に良くなった。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:21:33.30 ID:trCOmHiz0<>
「ヤイバーウェイブ!!」

 景気良く叫んだ甲の両掌から浴びせかけるような熱波が放出され、飛鳥の足元の獣二体を飲み込む。
 高く飛び上がってこれから逃れた飛鳥は、己の翼にコンパクトに手を翳して二振りの短剣に変じさせ、熱に怯む敵を強襲しようと構えれば、狙い澄ましたように飛ぶ黄色い呪弾がそれを阻んだ。
 短剣で防ぎ、中空で弾かれた飛鳥が受け身を取って地面を転がる。忌々しげにコマンダーカースを睨むと、その方向から突如「ヒケェ!」と雑音のような声が飛んだ。

 何事かと思いコマンダー型に視線を向けると、残る三体のカースにスイッチが切り替わったように身を翻させ、乙をいなして跳んだ一体の牽制が甲を抑え、熱波を受けた二体への追撃を遠ざける。
 その隙に全てが後退を開始し、入れ替わるようにしてコマンダーカースが前線に進み出た。

「ヤロウッ!!」

 甲が飛び出しかけると、乙が肩を掴んで止め、横に並ぶ。
 飛鳥が土埃を払いながら立ち上がるのを認めた乙は「仕切り直しか」と呟き、口惜しげに電光を脚先から全身に流した。

 深く息を吐き出し、前方を睨んだ先では、ふんぞり返ったように腕を組むコマンドカース。
 
 獣型もそうではあるが、コマンドカースは多くの呪いを溜め込んだ個体であり、知能故の戦闘術も───高度ではないが。使用する難敵。
 特異性故、特殊な環境でなければそう遭遇するものではないとばかり考えていたが、これだ。
 吸血鬼の祭り騒ぎにでも引き寄せられたか、裏庭とも呼べないような全く辺鄙な場所に来てくれる。
 よもや、何者かが謀ったか。

 少し間抜けさを残す人型の実力はどれほどの物か、後方支援に徹された場合とどちらが厄介であるか───。思い、挑発するつもりで足を一歩前に踏み出せば、コマンドカースの傲慢さが彼をそれに対抗するような一歩を踏ませた。

 威嚇的にコマンドカースの傲慢な光が煌くのに、我慢収まりきらぬ甲が身じろぎする気配を認めた乙は、ちらりと視線を両側二人にくべて、「先に仕掛ける」と押し殺した声で呟いた。
「応、3・2・1だぜ」と、甲。浅く頷いてそれを肯定し、確認する目を飛鳥に向ける。

「…フフ」

 と、不意に思い出したように飛鳥が笑う。

「なにが可笑しい」

 思わず棘を孕む声で言いつけ、僅か顔を寄せると、また口元の歪みを深めた飛鳥が顎で視線を促す。
 勿体付ける態度を鼻につけつつ、渋々それに従おうとした、その時。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:24:46.09 ID:trCOmHiz0<>






「――――そこまで、だ!」


 不意にぴしゃりと声が飛び、乙の首を遮った直後。
 天から降り注いだ数条の光線が、コマンド型の背後に控えた獣達の体を引き裂き、地面に引き倒す。
 四肢や頭をもがれてのたうち回るカースを半驚愕の瞳で眺めた甲と乙は、また天空で光が瞬くのを認めれば即座にそちらへ視線を向けた。

 空に星空のような輝きが煌めくも一瞬、凶悪な粒子ビームとなって降り注いだ閃光は、回避の手段を失った獣を無慈悲に切り刻んでゆく。
 そうして繰り返される斉射のうち一体が核を砕かれて絶命すると同時、「魔術か!?」と叫んだ甲はその先を凝視し、そこにある小さな浮遊物体を認めた。

「…砲台だよ、小型のな」

 と、横から口を挟んだ乙の声音には、どこか諦めと納得の混じったような物が感じられた。
 それを甲が訝しむ間、「ナニモノダキサマァッ!?」奇襲で部隊を総崩れにされたコマンドカースの悲痛な怒声が天に響く。

「…まだ五分も経っちゃないが…ま、今日の所は無関係って訳だな」

 その声の飛んだ先、部室棟の上で逆光を受けるその影は、意地悪げに苦笑すると、整髪料で固めた茶色がちの髪を後ろに向かって撫でつけながら言う。

 縁を蹴って飛び降りる最中、最後の斉射で獣を全て撃破し、目玉にも似た小型砲台を己の周囲に呼び戻すと、虚空から飴玉を取り出し、余裕気に包装を剥がし始めた。

「…ッオオオオオオオ!!」

 配下の者を瞬殺され、目の前でこのような余裕を晒されることは、なまじ知能を持った傲慢のカースにとって耐え難い苦痛であったに違いない。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:26:09.99 ID:trCOmHiz0<>  
 歪な人型は全身で叫びながら駆け出す。
 ヤイバー乙はただ腕を組んで見るともなく眺め、甲は目を白黒させてあれこれを見比べた。
 飛鳥が肩を竦め、黄色の輝きをただ口惜しそうに見つめる頃には、ぐんと迫ったカースの格闘が勢い任せに振りかぶられて、暗いスーツとサングラスで身を隠した女を捉えんとした瞬間───。

「…じゃあな」

 突如として虚空にぽっかりと空いた穴に飛び込んだカースがその空間に消えてゆき、穴が収縮するように閉じると、無念に変わった叫び声をぶつ切りにした。

 穴の先は───特に語るべくもない。


「…協力、感謝するぜ?」

 未だ事態の全てを飲み込めぬ甲が、困惑しながらもそれだけは伝える。

 女が少し顔色悪くなったまま、額に涌いた嫌な汗を袖で拭う様を見つめながら、対照的に何か悟りきったような乙は、嘆息を吐き出しながら「全く、お前らはいつも…」と虚空に声を溶かす。

「…さて?存ざないな、こっちは」

 棒の付いた飴玉を口に放りつつ、おどけたようにしながら、女はびしりと格好付けて言った。

「ネバ……宇宙管理局、参上」

「…フフッ」

 と、ついに失笑した飛鳥を視界から外し、ばつが悪そうにサングラスを整えた女は、「ほら、さっさと上司に報告しないのか?」と半ば無理矢理水を向ける。
 
「するさ…接敵前が理想なんだが…」

 後付けにぼやきながら乙が呟く。
 腿のアーマー一体型金属ポシェットの口を弾き、中の携帯端末を取り出して液晶画面へ指をあてがって、その時。その手の品は装備品の上からでは反応しないだろうと気付いた女が、「おい?」と声を投げると、やおらその間に割って入った甲が人差し指を揺らして次の言葉を遮った。

 その瞳の奥にイヤミな物を認めつつ、いやに自信気な瞳に思わず口を紡ぎ、同じくした飛鳥と黙って乙の手元へ視線を投げる。
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◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:27:08.13 ID:trCOmHiz0<>
「…珍しいもんじゃないぞ」

 挟んでくる視線に居心地を悪くした乙が、指を止めて前置きをするも、返ってくるのは催促するような仕草のみ。
 余計な前振りをよくも置いてくれた。終、甲を責めるつもりで軽く睨むも、こちらの反応もあまり好ましくない。

「いいから」

 独りよがりに気前よく笑った甲に諦めを吐き出し、軽いため息。
 少し躊躇い、観念する思いを己の中に生み出した乙は、固いラバー状素材に包まれた指を液晶に這わせた。

 前置いたからには、そういうことなのだろう。
 いかにも液晶に反応するセンサーを遮りそうな指は、それでも柔肌そのままで画面を撫でるが如く、アプリのショートカットを打ち、連絡を繋いでみせる。


 …本当に、ただそれだけのことなのだ。

 種を明かせば、電を操る能力なのだから、液晶に信号を伝えるための微弱電流を防具の上に発生させれば良いと言うだけの、トリックにすらならないような。
 ただ少しばかり手間が省ける程度の、言わばちょっとした生活の裏技。

「…おう」

 それであるが故に、隣で聞こえた意外そうな嘆声は、どうしようもなくこそばゆかった。

 それを噛み殺しながらコールを鳴らし三回ほどそれを待つと、『私だ』と焼け付いたように低い声が不愛想に応じた。その声に心を落ち着け、「事後報告ですまないが」とこちらも事務的な声で返す。

「カースが七体…虎のような奴が六体と…憤怒の一件で見たっていうコマンド型が一体」
『…何だと?』

 疑念半分の声に、そう思うのも無理はないかと内心にひとりごち、「そうさな…こんな平時にそうそう起こる事とは思えん、気を付けた方が良いだろう」。
『ふん…今日は嫌に乱入者の多い事だ』

 不機嫌さをふんだんに孕んだ声音を聞き、密かに同情の念を送る己を胸の奥に認めた乙は、これ以上引き留めるのもあちらに悪いだろうかと思いつくと、一瞬。意味深に嘆息を吐き出して、暫し言葉を飲み込んだ。

『どうした?』
「いやなに―――」 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:28:29.39 ID:trCOmHiz0<>



「―――その乱入者というの、もしかしたら目の前にいるかも知れなくてな?」


 声にドスを利かせてそう呟くと、途端に三人がどよめきを漏らし、はっとした目を乙に向けるより先、電撃的に動いた乙の指先が飛鳥の鼻先を真っ直ぐに据え、電光をたぎらせた。

 銃口めいた指先に射竦められた飛鳥が目を白黒させ、不意を打たれた残り二人がにわか狼狽える。「乙…?」と顔色を伺うような甲の声を押しのけ、乙は続きを紡いだ。

「カミカゼがな…ちょうどお前くらいの背丈の女…真っ黒い蝙蝠みたいな翼…どこからともなく武器を取り出したとも聞く」
「…そうだな…その武器を作った能力で鎧でも纏ってくれたら役満なんだが」

「へえ…」

 眉をピクリと跳ねさせるも一瞬、不敵に飛鳥が嗤い、それを睨みつける乙は眼を鋭く殺気を滾らせ、不可視の電流をぴりぴりと弾けさせる。

 悩ましげに身動ぎした宇宙管理局の女は、殺伐たる空気を前にひとまずの不干渉を決めると、半歩下がってから甲に視線を送った。

「んまあ…共通点はあるがよ…」

 乙と飛鳥を交互に見比べ、煮え切らぬように言う。

 共通点はあるが、しかし、あまりに唐突ではないのか?
 厄介な敵を前に共闘した直後の乙は、戸惑いの感情を隠しきることができぬ。
 現に、シビアな場面を援護してくれもしたのだ。それが演技や策謀とでも言いたいのだろうか。

 いや、そうなのだろう。乙は少なくとも、似たようなことを考えているのだ。

「…これが俺の杞憂だったとして…しかし。お前が何者であろうと抜き取ったカース核は許容できん」
「原則処分の代物だ、それは」

 低い声が紡がれる度、乙が銃のトリガーを少しずつ引き絞っているかのような錯覚───発射までの猶予が減っているかのような感覚を覚えた。

 乙は本気である。と理解し、思わず生唾を飲み下す。

 否、この乙の対応は、ヒーロー同盟としてはなんら間違った事ではないのだ。有力な能力者であるのならば”どちらにせよ”マークせねばならないことではあるし、個人唯一のケースが多い能力に共通点が見られるのならば尚更のこと。

 カース核というのも、同様にだ。
 それを素手で触っているというのは、それに連なる存在、例えばカースドヒューマンなどを疑わねばなるまい。

 すれば、己をここまで戸惑わせる物は何かと考えれば、それは乙の異様なシリアスさに行き着くのだ。

 この女が余計な事をすれば、今すぐに脳天を撃ち抜いてしまいかねん程の───。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:30:24.00 ID:trCOmHiz0<>
「全くキミもそそっかしい…ほら、これだろう?」

 真っ直ぐに据えられた指先───否。その後ろに控える、武器よりも武器らしい眼光が無言の重圧を飛鳥に押し付ける。

 不吉な睨み合いの暫く後、飛鳥はやれやれと言ったように肩を竦めると、ジャケットの上を無数に走るファスナーの一つを開け、その中から歪な緑色の水晶体を取り出した。

 暴食のカース核。職業柄見慣れたものである。───が、よくよく考えてみれば純然たる核単体が目の前にあるというのは、なかなか奇妙なものがある。

 まるで純度の悪い翡翠。と、頭の片隅に思いつく。
 この拳ほどの球体が、人を呪い、狂わせることすらあるというのだから、恐ろしい物が世に蔓延っているものである。

「…それを、どうするつもりだ?」

 半ば意識を核に寄せられていた甲は、その乙の脅し声にはっと物思いを弾けさせた。

「加工、研究…何にせよ、その手の話題なら公的な許可がなければな」
「幸い、デスクワーカーは電話線の向こうだ、言えばすぐに判る」

 その時、端末の向こうから憂鬱げな息遣いが聞こえたのは気のせいではあるまい。

 乙の声を受けた飛鳥が困ったように首を傾げ、「やれやれ…権力ヤクザというのも意外と噂ではないのかな?」と冗談めかして言うと、そこで初めて乙がふっと微笑を漏らした。

「火のないところに煙は立たんのさ」

 傍観を決め込んだ宇宙管理局の女が気まずげに視線を逸らす様を背景に、乙の「で、どうなんだ?」と仮面の下の鉄面皮を張り直して言う。

「………」

 その沈黙は、後ろめたさか、煙に巻くような態度の産物か。
 こちらもなかなかポーカーフェイスの使い手だ、と内心にひとりごち、唾を密かに飲み込むも一瞬、乱暴に弾飛んだスパークの火花が飛ぶのを見た甲は、反射的に顎を引いた。

 対して動じぬ、超然とした態度を保つ飛鳥に甲は何か不気味な感情を抱く。

「…そんな悪者にしないでほしいな」

 と、飛鳥はため息混じりに言い、乙へと伸ばされたカース核が掌を滑ってより乙へ近い方へと転がる。
 揃えた人差し指と中指に乗った球体を他の指が保持する形───乙が砕こうとするならば、絞った電撃をいつでも浴びせられる形だ。

 この態度に肩を透かされたように見えるのも束の間、飛鳥が挑発的に顎で促し、睨み直した乙がより深く指を突き出す。

 溢れる電撃を抑えるようなスパークが二、三度続き、握った拳の内から漏れ出るような光が瞬くと、そのままの勢いで細く鋭い電流が、空気を真一文字に裂いて飛ぶ。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:31:40.02 ID:trCOmHiz0<>

 ───と、その直前、ひとりでに飛鳥の指を転がったカースの核が電撃の軌道を僅かに逸れ、青白い照り返しを受けながら地面に向かって転がり落ちた。

 意表を突かれたように、きょとんとした視線で、真っ逆さまに落下していくそれを、四人は目で追う。

 ゆるりと落ちていく球体がそのままに、丁度乙の膝あたりまで落下したその時。突如、核の中に込められていた呪いの気が不気味に蠢いた直後、それは緑色の輝きとともに無から泥の渦巻きを放出させ、それは先ず乙の足元を飲み込まんと鎌首をもたげた。
 気を張っていたことが幸いしてか、半ば反射的に飛び上がった乙は、甲が叫ぶよりも早くその渦巻きから逃れ、胸をなで下ろす。が、まだだ。

 その渦巻きは一回転の内にさらに体積を増し、元の姿を取り戻さんと先ずその大部分を虎のあぎとに変じさせ、そのままの勢いで飛鳥へと喰ってかかった。

 声にならぬ叫びを上げ、甲がぐんと伸ばしかけた右腕に超自然の気をたぎらせる。が、そこで甲は脳裏に諦念と悔やみが行き過ぎるのを知覚した。
 右腕に超自然の炎が灯り、放出されるよりも、獰猛な牙が飛鳥を捉える方が──無慈悲にも。

 その一秒がどうしようもなく長かった。
 気の練りを受けてようやく火球の幼子が顕現するころには、尾の生えた顎のようになった大口が少女の細い腰に影を落としていた。

 呆気にとられて少女の反応が遅れていたか、先程まで2体を相手取っていたのであろうに。

「────あ」

 甲の喉奥から叫び声の断片が漏れ出すと同時、なおも質量を生み出しながら猛進する虎の頭が少女の腰をがっちりと咥え込み、そのままの勢いで向こう側へと跳んだ。

「…あ゛あ゛あああああアアアあああッ!!」

 火球が実用サイズまで膨れ上がる。次の最終プロセスである発射、よりも早く、一瞬遅れて乙の背後から飛ぶ光条が、飛び上がった乙が放つ弾丸めいた電撃が虎の細い胴体へと殺到する。と、その泥の胴体を光のが照り出すと同時、不定形の泥は突如として黒の翼を生やし、少女を振り回しながら行う不自然な空中制動でそれを潜り抜けたのだ。

 タイミング悪く新たに見せた回避軌道に甲の理不尽が爆発し、それに誘発されたか、暴走じみて熱量を増した火球が漸く炎の尾を引いた。
 爆発性を捨て、一筋の熱線となった灼熱が陽炎を纏って放出されると、翼の生えた虎頭の怪物は翼を打って上方へと飛び上がる。

 紙一重熱で体を焼きながら攻撃をすり抜けたカース。

「───まだだっ!!」 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:33:03.69 ID:trCOmHiz0<> 宇宙管理局の女が叫び、そのままどこかへと飛び去らんとしたカースの眼前が、突如紅蓮に染まった。

 それが何か、理解するよりも先に、上方に空いた空間を繋ぐ穴から飛んだ熱線が、カースの翼を溶断する。
 揚力の乱れと噴出炎の煽りを受けたカースの肉体が、錐揉み回転しながら墜落を始め──その落下点めがけ甲が強く蹴り出した。

「ヤイバぁあぁあああ!!!」

 その右腕は赤熱を始め、赤い残光が甲の愚直な軌道をなぞる。さながら赤熱する剣となったその手刀は、己の鎧を溶解しかねんほどの熱量に見える。

「ヒいいぃいいぃいとッ!!」

 落下よりも一瞬早く、その先へ回り込むことに成功した甲が腰を捻り、鞭のようにしなった右腕が曲線の残光を描いて────。



<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:33:55.28 ID:trCOmHiz0<>




「────甲ッ!避けろッ!!」

 と、乙が叫んだのも空しく、乙の手刀がカースを切り裂くよりも先に、その体はどこからか飛来した榴弾の発破に飲み込まれた。

 身の潰れるような衝撃波が甲を叩き、悲鳴を爆音に掻き消されながら吹き飛ばされると、そこまでに居た地点にカースが落下する。
 咄嗟のフォローに回った乙がその体を受け止めるよりも先に、次々と飛来する榴弾がカースを飛鳥ごと爆炎に巻いた。

 膨れ上がる鉄片と火薬の嵐が過ぎ去るまでに、数秒とはかからない。が、異能が交錯する戦闘において、その間の目くらましは十全すぎる効果を生み出すと言えよう。

 立ち上った土煙が、内側からぶわりと揺らめき、その先に緑色の眼孔を認めた宇宙管理局の女は、半ば焦って小型砲台に攻撃のイメージを飛ばし、俄立つ煙に光線を飛ばして引き裂く。

「GHOO!!」

 と、声が飛んだのは既に上空だった。
 女が苦々しげに奥歯を噛み、追撃の火線を上空に交錯させるも、十分な距離を離したカースは不規則な回避軌道を描いてそれをすり抜ける。

 数秒の内に遙か遠方へ消えてゆく影を睨み、気が先んじて足が前に進む。追跡の為に転移孔を開き、片足をそこへ踏み込ませる。と、そこで追いかける宛を持たないだろうと理性の声を聞いた女は、向かいの町並みに視線を走らせた後、「畜生…」と、苦し紛れの声を漏らした。

 「甲、無事か!?」

 背後で叫んだ声を聞き、女は思考を切り替え、そちらへ顔を向ける。

「…なンだ…頭がガンガンする…」

 と、痛みを噛み殺して呻いた甲は、赤を基調としたアーマーを煤で汚し、装甲の損傷の目立つような有り体であった。

 大事ではないか。女はほっと胸をなで下ろすと同時、数発の榴弾が抉った地面に視線を流し、あれは何者か、との思いを沸き立たせる。
 よもや、甲とやらが自らの能力を暴走させた訳ではあるまい。 <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:35:24.32 ID:trCOmHiz0<>

 それに───。

 慎重な足取りを崩さず、クレーターへ歩み寄ると、そこに飛散する鉄片に注目し、──これは人工物だ、とあたりを付ける。

 武器を扱う人間。と言うだけならば、ごまんと居る。
 ───尤も、この市街地で扱う胆力という前提があれば、だが。

 この鉄片から特定できる事もあるだろうか──。


 そこまで考えていると、背後から飛んだ「おい、管理局の」との声が彼女を射止める。

「何か珍しい事でもあるか」

「さあな、専門家じゃあない」

 取り付く島無く言いつけると、乙は聞こえぬように舌を打ち、拳を握った。

 と、「…なあおい、どうするんだ?」と女が声を続けたのは、その憤り様をあまり長く見つめる物ではないと思ったが故でもある。

 その声にはっとして応じると、乙はそれでも震えの収まり切らぬ声で言った。

「…一度撤収する」
「それはいい…あの女だ、捜索隊でも出させるのか?」
「その指示も含めて、だ…わかってくれるな」

『…通話越しだと何が起こっているのか判らんな』

「取り敢えずベッドを一つ開けておけ」

 うんざりした声の主にそれだけを吐き付け、乙は今度こそ通話を切り、ポシェットに端末を投げ込んだ。

 ならば、こちらもそれに続くべきだろう。思い、そこで女は能力の副作用からくる頭痛を思い出し、汗を拭く。

 戦艦の破片の落下阻止のために酷使したツケが、これだ。

「ベッド、もう一つ開けてくれたら親切だったな」

 冗談めかして言うと、乙の背中は「帰ればあるだろう、そのくらい」とだけを語り、甲の肩を支えてグラウンドの方へ足を進めた。

 自分も自分の足で帰るか。と、己を可愛がった女が小走りでヤイバーズを追い、肩を並べた。
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◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:36:13.99 ID:trCOmHiz0<>



「―――暴食のカースが、咥えたモノを持ち帰る…?」

 不意に何事か呟き、乙が足を止める。

「…?何だ、なんか言ったか?」

 何事かと訝しみ、眉を顰めてそちらを見ると、乙ははっと取り繕うような仕草を作り、曖昧な返事を返した。
 わけのわからない奴。と、頭の片隅に思いつき、疑念の瞳を投げつけながら首を傾げる。
 煮え切らない物を胸の内に認めた女は、半ば強引にでも聞き出してみようか。思い、そこで「なんでもいいから早くしてくれ」と苦しげに言った甲の声にそれを遮られた。

「結構アレ痛かったんだからな…」

 掠れ声で続ける甲の言葉に、乙は少し申し訳なさそうに彼を庇うと、俄かにペースを速め、女を素通りにして校舎の方へと向かう。

「…まぁ、いいか」

 思いがけず気を殺がれた女は、詮索する気持ちをその呟きで打ち消すと、整えた頭髪を後ろに撫でつけながらそれを追った。



 ※

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◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:36:54.18 ID:trCOmHiz0<>
 地上に人を容易に呑み込む程度の影を落としながら飛ぶ真っ黒なそれは、傍目には肥大化した鴉のようにも見えた。

 が、一目見てそれをそれと判断できる人外の動体視力を持つ者や、興味を持って凝視してみる者が居れば、それは引き伸ばしたアメリカンフットボールのような胴体からカイトのように翼を広げた、なかなか奇妙な飛翔体だと解る。

 よもや、己に危害を加えるものか。

 それを見、黒々とした巨体にカースなどを連想すれば、そういったことを思いつくこともあろう。
 が、反面怪異が怪異でなくなった世界に住む彼等は、頭上を過ぎ去って建物の向こうに消え、何もなかったと理解する頃には尽くが興味を失っていた。

 それは静かに空を切り、時折ばさりと翼をはためかせながら、喧噪を遠くした住宅街をぐるぐると低回する。

 何やら地上に探すような飛行のうち、じっと眺めていた誰かが不気味さを覚える頃。やおら体を傾けて急なカーブを描いたそれは、今度は一直線に空を滑る。

 それと同時にはためきが顕著になり、向かう先は、遠く高いマンションの屋上。
 緩やかに上昇する軌道で飛んだそれは、マンションに接触する丁度のタイミングで目的の高度に達すると、体を上に傾けると同時に翼をぐんと広げ、体を受け止めるに足る揚力を受けてその屋上に着地する。
<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:39:38.71 ID:trCOmHiz0<>  それが、体から途端に伸びた三脚で己を固定すると、「手間をかけさせないで頂戴」と無感情な声がそれを呼び止めた。

 声の主に意識を向ければ、それが屋上の端に立つ女───スーツのシルエットから辛うじてそう判断できる影だと判る。

 無骨なスーツ、無数に巻き付けたガンベルトに固定された物々しい火器の類、果ては頭を覆い隠すフルフェイスの耐弾ヘルメットで人間的な印象を塗り潰した女は、そのまま飛翔体に冷たい視線を投げると同時、黒塊の内から「手間というのはあの乱暴のことかい?」との声を聞いた。

 その声が響くと、まるでその声に突き崩されたように黒塊が途端にずるずると崩壊を始め、地面に汚泥の水溜まりを作り出す。と、アメリカンフットボールの胴体が崩れ去ると、その内に潜んでいた影───明るいオレンジの髪から青い着け髪を伸ばし、方々の戦闘で衣服を傷ませた少女が、黒のヴェールを脱いで日の光を浴びた。

「死なないでしょ、どうせ」

 が、ちょっとしたイリュージョンめいた光景も、地面に溜まった泥溜まりが、雑な翡翠のような水晶体に集まり、何か造形を作り出す様も女の声を乱すことはない。
 「どうしたって、あんなやり方じゃなくても良かったじゃないか」と続くやり取りがそこにあるのみ。

「機嫌が悪いの。それにアナタが其処にいるから結果オーライじゃない」

「キミの機嫌が悪いのはいつものことだろう?」

「それは、アナタに合うときは大抵社長の無茶ぶりを受けてるから…いつもこうじゃ寄りつくものも寄り付かないわ」

「そうかい…ま、自分の眼でしかモノは見れないのさ、勘弁してほしい」

 チェーンを揺らしながら、何か含んだ笑みを浮かべた少女が横に並び立ったのを認めると、ふっと軽く鼻息を吹き出す。
 そのまま左手に持ったロケットランチャーめいた円筒を、何時の間にか虎の形になっていた泥の塊に投げつけ、「さて」と低くした声を吐き出した女は、ガンベルトに固定した火器類を一つ抜き出し、あらため、固定し、また一つ抜き出しながら、冷徹に細めた目で遠目にも判る巨大な建造物───京華学院を睨んだ。

「あの…野望の鎧。…まだ手は出せるんでしょう?」

「GDFがもう入ってる──それに、奴ら不甲斐ない。ヒーローもまともに戦闘してないおかげでピンピンしてるよ」

「本当なら突入に便乗したかったけど…嫌になるわね…」

「やるならフラッシュファイトだ…フフ、時間が惜しい。行くよ…留美さん」

 金属の円筒をばりばりと租借する音を背後に、留美。と、呼ばれたその女の表情の細かは、光の反射と濃紺のバイザーに遮られ、うまく読みとることはできない。

 ただ、最後の一丁をガンベルトに収め、自が役割に基づいて京華学院を───否。

 資料で見たばかりの、紅い鎧の影法師を其処に重ねる瞳は、無機質な銃口めいて鋭かった。



 ※


<>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:48:38.06 ID:trCOmHiz0<>

◇ヤイバーズ、宇宙管理局の女(木村夏樹)がカースに連れ去られた少女、爆撃を目撃しました

◇ヤイバー乙が二宮飛鳥とカミカゼを襲った人間が同一人物であると疑っているようです

◇二宮飛鳥がヒーロー同盟の管理下から逃走、同時に和久井留美と合流、野望の鎧奪取に向けて行動を開始しました

◇二宮飛鳥はカースをある程度制御できるようです…?



名称:和久井留美

職業:「社長」に無茶振りを受けるような立場

能力:?

詳細:また後日に… <>
◆R/5y8AboOk<>saga<>2015/02/25(水) 19:49:58.42 ID:trCOmHiz0<> ヤイバ―ズ、木村夏樹をお借りしました

後編へ続く! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/02/25(水) 23:25:53.76 ID:RZJDhdJD0<> 乙ですー
飛鳥が常時不穏な空気発してるのが怖い(小並感)
まさかのなつきち登場、やだカッコイイ…
留美さんもすごく気になる…後半待ってますぜー! <>
◆rXUHEibmO2<>sage saga<>2015/02/26(木) 09:25:46.37 ID:AgV711JvO<> 乙倉悠貴を予約します <> ◆rXUHEibmO2<>sage<>2015/02/26(木) 12:32:13.33 ID:AgV711JvO<> @予約を付け忘れたので乙倉悠貴の予約を一旦取り下げます。ついでにストーリーも練り直したいです <> ◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/02/27(金) 14:32:36.67 ID:t91sOHCwo<> >>888
おつー

終始不敵な態度が実に飛鳥らしい、エスプレッソ飲ませたい
沈着冷静な乙と熱血系の甲のコンビも良いキャラしてますね
そして新登場の和久井さん、彼女の仕える「社長」とは……
しかし改めて見るとなつきちの能力は強いと思った(小並感) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/03/26(木) 17:41:32.07 ID:AiGP5dVQo<> 保守しといたほうがいいかな <> ◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 01:59:47.62 ID:REipONcg0<>
>>856
やだヒールチナミさんかっこいい
美穂ちゃんの成長にも期待ですな

>>888
俺のヤイバーズがこんなにカッコいいわけがない(錯乱)
るーみんも飛鳥も何やら気になりますなあ

乙乙したー


では投下
AHF、敗者復活の続きですぞえ <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:00:43.36 ID:REipONcg0<>
聖來「ちょっとすいませーん! ガルブさーん!」

カレンヴィーの手を引きながら、聖來が会場中央に戻ってきた。

ガルブ『おや、どうかされましたか?』

聖來「く、薬! っていうか医療班! カレンヴィーちゃんが頭から血……を…………」

振り向いた聖來の言葉が止まった。

カレンヴィー「え、えっと…………」

カレンヴィーの頭から流れ出る血は、いつの間にかピタッと止まっている。

いや、それどころか、傷跡すら見当たらない。

聖來「…………あれ?」

ガルブ『いたってけんこうなようですね』

聖來「おかしいな……さっきは……」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:01:25.26 ID:REipONcg0<> カレンヴィー「あ、あの、私大丈夫なので……」

聖來の手をそっと振り払い、カレンヴィーは苦笑いした。

聖來「そ、そう……」

聖來(……高速治癒に、肉体変化……これがカレンヴィーちゃんの能力かな? にしても……雰囲気といい色といい……これじゃまるで……)

聖來「カース……」

カレンヴィー「えっ?」

聖來「えっ、あっ、いやいや、何でもないの」

思わず思考が口から漏れた聖來は、慌てて取り繕う。

カレンヴィー「そ、そうですか?」

聖來「そうそう。心配しないで。ね?」

カレンヴィー「……はい、分かりました」

壊れた仮面の奥で、カレンヴィーがニコリと微笑む。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:02:24.09 ID:REipONcg0<> ――――
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――――――――――――

γ「…………来たな」

カミカゼ「……逃げるでもなく仁王立ちか。随分自信があるんだな?」

カミカゼの前に立ちはだかるは、番人γ……桐野アヤ。

γ「一目見た時からアンタと戦ってみたくてね。学園祭の時さ」

カミカゼ「へー……そいつは光栄だな」

お互いに余裕の表情を崩さず、構えをとる。

γ「見たとこアタイと同じで小細工はお嫌いそうだからさ、こうして正面から待ってたんだ……よっ!!」

カミカゼ「へっ、お気遣い痛み入る……ぜっ!!」

二人の距離が瞬時に縮まり、拳と拳が正面からぶつかりあった。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:03:11.28 ID:REipONcg0<> ――――
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Ω「くそっ、まだ追ってくるのかよ!」

Σ「さ、流石にくたびれてきた……」

廃墟となったビル内を逃げる番人Ω……結城晴と番人Σ……青木慶。

アース「待たんかいっ!」

スカル「チケットを下さいでございます」

そしてそれを追うナチュルアースとアビスカル。

Ω「しょうがねえ! オラァッ!!」

晴が鋼鉄と化した左腕を床に叩きつける。

すると、眩い電撃の波が床を伝って二人めがけて襲いかかってきた。

アース「んのっ、地よ! 力を貸せぇっ!!」

負けじとナチュルアースが拳を地面に叩きつける。

隆起したコンクリートが小さな壁を形成し、電撃の波をそこで阻んだ。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:03:59.22 ID:REipONcg0<> スカル「とおー」

その壁を足場に、アビスカルが慶へ飛び掛る。

【警告:ターゲット急接近中】

Σ「うわあ!?」

驚いた慶が、手に持った銃を反射的にアビスカルに向けて引き金を引いた。

発車されたペイント弾がアビスカルのバイザーに着弾し、彼女の視界を奪う。

スカル「あわわわっ? ま、前が見えませんです……」

真っ赤なペイント弾に視界を奪われたアビスカルは、慶を捉える事なく着地した。

Ω「よし、今だ!」

Σ「うん!」

二人はそれを好機と見るや逃げ出し、階段で上の階へ上がっていく。

アース「ワレェ、逃がすかい!」

スカル「ま、待ってほしいです……」

それを追うナチュルアースに、バイザーのペイントを拭ったアビスカルが大慌てで続いた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:05:12.16 ID:REipONcg0<> やがて慶と晴は階段を上りきり、ナチュルアースとアビスカルもそれに続こうとした、その時。

Σ「よーし……今!」

Ω「がってん!!」

晴が再び左腕を地面に叩きつけ、電流を走らせる。

アース「なんの……っお?」

スカル「あ、あららら?」

電流は一本の線となって、二人の傍を素通りしていく。その電流が向かう先には……

アース「……しまっ!?」

スカル「あっ」

Σ「ビンゴ!」

慶が事前に床に設置していた指向性爆弾トレーナーボム。

それを電流によって、強引に起爆させた。

轟音と共にコンクリートの床は崩れ、口を開けた奈落はナチュルアースとアビスカルを容赦無く飲み込む。

アース「う、うおおっ!?」

スカル「あららぁぁー……」

Ω「っしゃ、成功!」

Σ「今の内に逃げようっ!」

晴と慶はナチュルアースとアビスカルの落下を見届け、再度階段を駆け上がる。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:06:16.26 ID:REipONcg0<>

アース「…………草木よ……」

と、そこに落下したはずのナチュルアースの声が聞こえてきた。

Σ「ん?」

Ω「今なんか聞こえ……」

二人は不審に思い穴を覗き込む。

アース「力を貸せぇぇえっ!!」

急成長する樹木を足場にして、ナチュルアースが元の階まで舞い戻ってきたのだ。

Σ「ひぇええっ!?」

Ω「んなろっ!」

慶は動転し、晴は咄嗟に迎撃の体勢を取った。

それからは、ほんの一瞬だった。

ナチュルアースに注目する二人の背後から、突如としてアビスカルが現れた。

コンクリートの床に潜行して二人の背後を取っていたアビスカルは、いとも簡単に二人の胸元からチケット入りの袋を奪い取ってみせたのだ。

Ω「あっ!?」

Σ「しまった……!」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:06:54.97 ID:REipONcg0<> スカル「とりましたです。えっと、ナチュルアースさんはこっちをどうぞでございます」

アース「おう。ふふ、まんまと策にハマったのう。二人とも正面から来ると思ったじゃろ?」

投げ渡された袋を受け取り、ナチュルアースは不敵な笑みを浮かべる。

アース「穴に落ちた時点でアビスカルを先に床に潜らせといて、隙を狙ったんじゃ」

スカル「あ、ハズレでございます」

アース「あっはっは、残念じゃったのう。さてウチは…………ゲッ」

ナチュルアースが取り出したチケットも青、つまりはハズレだった。

Σ「あらら、残念」

Ω「次、頑張れよー」

慶と晴はヒラヒラと二人へ手を振り、穴の中へと姿を消した。

アース「ええい、次行くぞ!」

スカル「おー、でございます」

ナチュルアースとアビスカルは近くの窓を開け、そこから飛び降りた。

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◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:07:34.51 ID:REipONcg0<> ――――
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――――――――――――

γ「はぁっ、せやっ!!」

カミカゼ「ふんっ、でやぁっ!!」

カミカゼとアヤが拳を、脚を激しく打ち付け合う。

γ「ちぇりゃあああっ!!」

カミカゼ「んぐっ……!?」

アヤ渾身の蹴りがカミカゼの腹に深く突き刺さり、その体を吹き飛ばす。

カミカゼ「がはっ!」

カミカゼの体が瓦礫に叩きつけられ、その姿が粉塵の中に消えた。

γ「まだまだぁ!!」

追撃を行う為、粉塵の中へと拳を振りかざして突進するアヤ。

しかし、突如としてその拳が止められた。

γ「なにっ!?」

カミカゼ「へへっ……ぅおらぁっ!!」

至近距離からカミカゼの頭突きがアヤを捉える。

γ「んがっ…………へへっ、やるじゃんか!」

カミカゼ「まぁなっ!!」

カミカゼが立ち上がり、再び二人が激突した。

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―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:08:18.90 ID:REipONcg0<> ――――
――――――――
――――――――――――

オーフィス「……こっちにはいないね」

瓦礫の隙間からオーフィスが顔を覗かせ、周囲をキョロキョロと見渡す。

オーフィス(とにかく、アイツに見つからない事を最優先に……)

?「おろー? えーっと、オーフィスちんだっけ?」

オーフィス「わっ!?」

突然背後から呼びかけられ、反射的に飛び退き声の主と距離を取るオーフィス。

ν「この番人にゅーに目を付けるとは、お見事! 的な?」

番人ν……藤本里奈はにかっと笑ってベルトを取り出す。

ν「変身っ♪」

『Let's lock! Wrath・Unicorn!』

里奈の体は赤い鎧に包まれ、カースドライダー・ハヤテへと姿を変えた。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:09:01.54 ID:REipONcg0<> オーフィス「変身した!?」

オーフィス(……って、鎧の雰囲気とか、あの腰のベルトとか……予選に乱入してきたシュラって奴に似てる……?)

オーフィスは少し考え込んだが、すぐに頭を振った。

オーフィス(いや、それより今はここをなんとかしないと……!)

ν『ほーてん☆テラ、ゴーッ!』

里奈の掛け声で近くに停めてあった単車から矛が射出され、里奈はそれを手に取った。

ν『さあ、覚悟!』

そして、そのまま一直線にオーフィスへと向かってくる。

オーフィス「速っ……っく、Ctrl、Z! アンドゥ!」

オーフィスは慌てず、かつ急いで左腕の端末……『ワード』のキーボードを叩く。

次の瞬間、オーフィスの姿は消え『先程までオーフィスが立っていた』場所に現れた。

ν『っれ?』

いきなり背後を取られ、思わず動きが止まる里奈。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:09:55.26 ID:REipONcg0<> オーフィス「番人の方から向かってくる理由は分からないけど……Ctrl、V。ペースト!」

第二予選でカットしたトリモチ弾。

まだ少量残っていたそれを里奈へ向けて発射した。

ν『うわっ!? なんかヌルヌルする!』

オーフィス「ふう。じゃ、チケットいただくよ」

ゆっくりと、オーフィスが後ろから里奈に接近していく。

ν『……っんのぉ!!』

しかし、そうはさせじと里奈が力を込めてほーてん☆テラを振り回す。

オーフィス「ッ! Ctrl、Z! アンドゥ!」

オーフィスはそれを間一髪ワードの機能で回避し、近寄る前の位置に戻った。

ν『だったら、これでどうぽよ?』

ベルトの鍵を入れ替え、里奈がフォームを変更する。

『Let's lock! Gread・Fox!』

ν『ほいほいほいっ! 眩惑の炎ぁ!』

そのまま腰の銃を引き抜き、薄紫色の火炎弾をオーフィスへ向けて放った。

オーフィス「しまっ……ぅうっ!」

火炎弾が直撃したオーフィスが辛うじて体勢を立て直す。と、

―――――――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:11:10.91 ID:REipONcg0<> ――――――――

オーフィス「なっ……!?」

周囲に広がる景色が、いつの間にか一変していた。

土色の大地は鈍い銀色の鉄板に覆われ、周辺に散らばる瓦礫は、見覚えのある残骸に。

オーフィス「こ、これは…………戻ってきた、の…………!?」

オーフィスの目の前に広がるのは、かつて自分が逃げ出した世界。

機械が支配する、冷たいディストピア。

オーフィス「ど、どういう事……!?」

現状を理解出来ずたじろぐオーフィスの耳に、幾つもの機械音が飛び込んできた。

『排除。排除。排除。排除』

『排除。排除。排除。排除』

『排除。排除。排除。排除』

無数のロボット達が、一糸乱れぬ行進でこちらに向かってくる。

オーフィス「み、見つかった……!?」

『排除。排除。排除。排除』

『排除。排除。排除。排除』

『排除。排除。排除。排除』

そして、背後からも。

右からも、左からも全く同じ音声が響く。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:12:13.41 ID:REipONcg0<> オーフィス(……まさか、最初からあの番人は未来からの刺客だった……!?)

しかし、オーフィスはその仮説をすぐさま自ら否定した。

オーフィス(……いや、あの未来で自らの意思で機械に従う人間がいるとは思えない……。そもそも…………)

四方を完全に囲まれながら、オーフィスの心は平静だった。

オーフィス(ここは……本当に『あの未来』なのか。そこからもう怪しいよね)

オーフィスの頭の中に引っかかる、ここへ飛ばされる直前の言葉。

《ν『ほいほいほいっ! 眩惑の炎ぁ!』》

オーフィス(確かに言ってたよね、眩惑って。なら……)

オーフィス「Ctrl、F。ファインド」

検索対象は……例の番人ν。

オーフィス「……ヒット。Ctrl、V。ペーストっ」

そして、そこへ向けてトリモチ弾をペーストした。

何もない空間へ飛んで行ったトリモチ弾が不意に弾ける。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:13:41.83 ID:REipONcg0<> ν『ぎゃんっ!?』

短く里奈の悲鳴が聞こえた。

オーフィス「……ビンゴ」

ν『にゃろーっ! 眩惑の、炎!』

破れかぶれの里奈が再度火炎弾を放つ。が、

オーフィス「来るのが分かってれば……Ctrl、C。カット……で、そのままCtrl、V、ペースト!」

オーフィスは余裕を持ってそれをカット、そっくりそのまま里奈へ返した。

ν『ふべっ! …………あ、あわわわわわっ!?』

オーフィス「?」

ν『ご、ごめんちゃい! もうしないから許してぇー!!』

『Lock off!』

―――――――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:15:08.11 ID:REipONcg0<> ――――――――

オーフィス「……あれ?」

気付くと、オーフィスは元の廃墟郡の只中にいた。

オーフィス「やっぱり幻覚だったんだね」

ν「お、お助けぇー!?」

その隣を、変身解除した里奈が単車に跨って過ぎ去っていく。

オーフィス「…………幻覚が使えるからって、自分が幻覚に耐性あるわけじゃないのね……ん?」

ふと足元を見ると、チケット入りの袋が落ちていた。

恐らく、半狂乱の里奈が慌てて落としたのだろう。

オーフィス「……まあ、ラッキーかな。中身は……」

少しだけ期待しつつ、袋を破く。

オーフィス「……ハズレ、か。しょうがないかな。Ctrl、F、ファインド」

袋を放り投げたオーフィスは、開始前に見かけたアヤの位置を検索した。

オーフィス「ヒット。……あっちに行かなきゃ大丈夫だね」

そして、アヤを避けるように歩き始めた。

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:16:02.45 ID:REipONcg0<> ――――
――――――――
――――――――――――

γ「てぇりゃあああああっ!!」

カミカゼ「がはっ……!?」

アヤの拳がカミカゼの鳩尾に深く突き刺さる。

γ「おらおらおらぁっ!!」

カミカゼ「がぁっ……ゲホッ!!」

繰り出される拳の連打がカミカゼの装甲を叩き潰していく。

カミカゼ「ぜっ……はっ……ガッ!?」

アヤに左手で首を掴まれ、カミカゼの体は宙に持ち上げられた。

γ「アンタ、なかなか強かったが……残念ながらアタイには及ばなかったな」

右手を握り締め、トドメの一撃を放たんとするアヤ。

カミカゼ「…………」

γ「そういや、まだ名乗ってなかったな。アタイは桐野アヤだ。アンタの本名も聞いといてやるよ、カミカゼ」

カミカゼ「…………へっ」

首を掴まれながらも、カミカゼは不敵な笑みを浮かべた。

γ「?」 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:17:15.08 ID:REipONcg0<> カミカゼ「アタシは……向井、拓海だぁぁぁっ!!」

カミカゼは咆哮と共に体を捻り、剥き出しの脇腹に回し蹴りを叩き込んだ。

γ「うがっ!?」

カミカゼ「覚えとけ!! でぇぇぇぇえやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

そして、力を込めた正拳突きをアヤの胸へと叩き込んだ。

γ「うぐぁあああああああっ!!?」

アヤの体は勢い良く吹き飛び、叩き付けられたビルの壁面に巨大なクレーターを作り出した。

カミカゼ「はーっ……はーっ……」

γ「…………っははは、敗けたよ」

アヤはフラフラと立ち上がり、カミカゼに歩み寄る。

γ「やるじゃねえか」

カミカゼ「……アンタもな」

そう言ってお互いに笑い、拳をコツンとぶつけあった。

γ「ほれ、これやるよ」

カミカゼ「おう、サンキュー」

投げ渡された袋を受け取ったカミカゼが袋の口をピッと切る。

カミカゼ「おっ。……っしゃ、アタリだぁ!!」

アタリの赤いチケットを天に掲げ、カミカゼは叫んだ。

J『来た来た来た来たぁー!! 三人目の敗者復活枠はカミカゼだぁー!! さあ、あと一枠を勝ち取るのは誰だー!?』

――――――――――――
――――――――
―――― <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:18:23.30 ID:REipONcg0<> ――――
――――――――
――――――――――――

会場上空、SC-01は全体を見下ろしていた。

チケットを奪われた七人の番人達、そして最後の一人を探し回る参加者達を。

そして、誰一人として最後の一人を見つけ出せていないようだ。

01「……ふっふっふ」

その様を見て、SC-01は不敵に笑みを浮かべる。

01「最後の一枠……いただきであります! マイシスター!」

マイシスターから投下されたスナイパーライフルを受け取ったSC-01はそれをおもむろに真下に向け、引き金を引いた。

?「うひぇっ!?」

程なく、何もない空間から悲鳴が聞こえた。

それを聞き届けたSC-01は、ゆっくりと降下していく。 <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:19:26.23 ID:REipONcg0<> 01「さ、かくれんぼはお終いでありますよ、最後の番人さん」

?「……あっちゃあ、上手く隠れたと思ったんだけどね」

声と共に、何もない所から突然少女が姿を現した。

番人φ……藤居朋だ。

φ「私の”隠者”を見抜くなんて、なかなかやるじゃない?」

朋は苦笑しながら”隠者”のタロットカードを取り出した。

01「ふふ、伊達に戦闘用サイボーグをしているわけではないであります。さ、チケットを」

φ「そうね。この距離じゃ抵抗しようもないし……ハイ」

φから手渡された袋を、01は自信満々に受け取った。

01「さあ、これで敗者復活…………なっ!?」

φ「なになに……えっ!?」

袋を破いた01も、手元を覗き込んだφも思わず固まってしまった。

φ「……あたしが最後の一人だったんだよね……?」

01「間違いない、で、あります……ずっと、上空で見ていましたから……」

φ「じゃあ……何で?」

01「そんな、私が知りたいでありますよ!」

01は取り乱し、ハズレを示す「五枚目の」青いチケットを地面に叩きつけた。

続く <>
◆3QM4YFmpGw<>saga<>2015/03/30(月) 02:22:06.80 ID:REipONcg0<>
【速報】カミカゼ敗者復活
【悲?報】番人から獲得したアタリチケットが三枚しかない模様

というわけでまさかのまた続くのですよ奥さん
これさえ終われば後はタイマンの連続だから多少は書きやすいはず……

あ、ふじりなとなつきちはお互い素顔隠してるから無問題ですよ、無問題! <>
◆zvY2y1UzWw<>sage<>2015/03/30(月) 10:34:03.50 ID:H1uhr8940<> 乙です
やっぱりこのハチャメチャ感がたまらんなAHFは…
そしてまさかの「もうちょっとだけ続くんじゃよ」
アタリとハズレの数が同じだといつから錯覚していた…?一体どんなトリックを…(錯乱) <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/03/30(月) 19:42:36.37 ID:sZNarTOwo<> >>915
おつー

この、実に『オールスター』って感じの賑やかさ、大好きです
毎度楽しみに待っているので「まだ続くのか(歓喜)」という期待が止まらない
何やら波乱の予感もあって、早くも次の展開が私気になります!


>Σ「うわあ!?」
>Σ「ひぇええっ!?」
>Σ「しまった……!」

名前がΣだと、何かこの辺凄く驚いてる感あって笑ってしまう <>
◆q2aLTbrFLA<>sage<>2015/03/31(火) 01:07:31.73 ID:grjFFbZg0<> おっつおっつ
久々のAHF!どんな流れになってるのか見直してこなきゃ
まさかの復活チケット不足!?ほちん!ほちんはよ!
あとアヤさんが人間と結構仲良くなっててほっこりしました <>
◆3QM4YFmpGw<>sage<>2015/03/31(火) 21:32:40.71 ID:29ixBwkFO<> ごめんなさい>>914の

>01は取り乱し、ハズレを示す「五枚目の」青いチケットを地面に叩きつけた。


の文ですけども
×「五枚目」→・・「六枚目」
に脳内で変換お願いします……
早く書かないからバチが当たったね(白目) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:21:28.72 ID:2ymeu+Jqo<> >>888
飛鳥ちゃんと乙さんのやり取りカッコイイ……(キラキラした眼差し)
いいですねえ、ヤイバーズ、プロのヒーロー感バリバリでいいですねえ
そして飛鳥ちゃんついに動きますか、後半もwkwkして待っとります

>>915
何と言っても登場キャラの多さです。さらに動かすと言うのかっ、やりおるっ!
久々に動くキャラを見るとなんだか嬉しいもので、やはりお祭りものは良いですな
敗者復活戦も佳境ですね、残り1枠は果たしてー
こちらも続きを楽しみにしておりますー


お二方乙でしたー

さてさて投下しますー
時系列的には学園祭真っ只中ですが
全体にはあんまり関係ない話を少々…今頃感溢れるお話ですがご容赦 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:22:51.97 ID:2ymeu+Jqo<>
前回までのあらすじ


チナミ「ねえ、爛、消息不明になった2人目のエージェントの事覚えてる?」

爛「あ?……あー、そういや居たっけなそんな奴……わりぃ、全然覚えてねえわ」


(忘れてそうな時系列をまとめ)

学園祭時系列に関わる財閥の動き

時系列不明  UB(Unlimited Box)が完成、『原罪』の試作を始める。
  ↓
時系列不明  3体の失敗作が生まれる、進化の可能性を考え世間に放流。『劣化原罪』が完成。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/910-)
  ↓
初日・昼頃   財閥病院にてサクライと聖來が通信。聖來・紗南は教会行きを決める。チナミは学園祭に。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379829326/920-)
  ↓
初日・夕方頃 学園祭にて、原罪製造の失敗作のカースの1体が暴れる事件。
         失敗作の1体と、監視していた『エージェント』の1人『電気』が、イルミナPと唯にころころされる。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/48-)
  ↓
初日・夕方頃 教会近くの雑木林にて、聖來が白兎と交戦。
         『電気』が何者かに倒され、死亡したことを聖來が確認する。紗南の能力が一時的に使えなくなる。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/511-)
  ↓
初日・夕方頃 聖來によって『エージェント』達、およびにちゃまに『電気』が死亡した情報が伝わる。
  ↓
初日・夜頃   菲菲がテレビで放映された学園祭の様子を見て、学園祭行きを決める。
         桃華が『劣化原罪』に『裏切り』と命名する。UBちゃまに『裏切り』の製造を任せて自身はお出かけを決定。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/801-)
  ↓
☆初日・深夜   失敗作の1体と、監視していた『エージェント』の1人『鏡』が、消息不明となる。
  ↓
二日目・早朝 『鏡』が消息不明になった情報が、竜面の男によって一部の『エージェント』達に伝わる。
         この時点で、聖來は悪夢によって体調不良。これによって学園祭時系列中の教会行きは断念。
  ↓
二日目・朝   失敗作の1体が、APによって倒される。この時点で、失敗作3体全滅。
         白兎によるアイドルヒーロー同盟本部襲撃。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384767152/272-)
  ↓
二日目・朝   学園祭にて、クールPとチナミの資料受け渡し。チナミが若者達と出会い、行動開始。
         同時刻、紗南や桃華・菲菲もそれぞれ学園祭を楽しむために行動開始。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/129-)
  ↓
二日目・朝   学園祭にて、クールPにアイドルヒーロー同盟から連絡あり、爛も自由時間開始。
         教習棟廊下にて爛が瞳子と遭遇。
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391265027/753-)
  ↓
二日目・朝   学園祭教習棟にてチナミと爛が遭遇し会話
         (http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399560633/169-)
  ↓
二日目・昼程 将軍襲来



今回のお話は☆のところ、学園祭初日夜頃〜深夜頃
「2人目の『エージェント』」についてのお話です。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:24:35.89 ID:2ymeu+Jqo<>


――

―――

――――


暗い暗い地下深くの研究施設。

光の届かない箱の中に、佇むのは1つの存在。


UB「ふむ……『裏切り』のカース自体の複製計画には問題なさそうだ」

UB「一度成功した製造工程をトレースし、なぞるだけで構わないだろう」


強欲の悪魔の作り上げた、英知の結晶たるカースドコンピューター『Unlimited Box』は、

主に与えられた命令に従い、新たなるカース『裏切り』の量産計画を推し進めていた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:25:12.07 ID:2ymeu+Jqo<>

UB「材料の方も問題ないな」

UB「七属性の”核”は『エージェント』達が集めてきたものが山ほどあるし……」

UB「憤怒の街からかき集めてきた”負のエネルギー”を発する”材料”も……まあまだ使えるだろう」

UB「……もっとも度重なるカース製造のために使い続けたせいか……擦り切れてギリギリではあるか」

UB「まあ、足りるならば問題あるまい、エネルギー量が乏しくはなるが……その分、負に偏った力が色濃く抽出できるかもしれないしな」


この地下に集めている”材料”の様子をモニタリングしながら、状態を判断し、

これらを使えば、『裏切り』の製造に足りると判断する。


UB「出来たカースに、私が”知恵”を吹き込めば、晴れて『劣化原罪』は完成するが……」


”核” ”負のエネルギー” ”知恵”

『原罪』の生成に必要と考えられる物は揃っていたが、

UBの知る製造工程から作られるものは、あくまで『劣化』


本物には数段劣る、まがい物。


UB「やれやれ、アレを幾つも作らせる理由がどこにあるのやら……」

UB「まあ、主の命令とあらば素直に実行するのが、コンピュータープログラムたる私の役割だが」


コンピューターらしからぬ、自嘲と皮肉の籠った音声が部屋には響いた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:26:18.68 ID:2ymeu+Jqo<>

UB「……時間的な制約を考慮すると…………せいぜい10には満たない個数が出来ればいいところか」

UB「お嬢様の目的を果たすには、充分な数なのかも分からないが……そこまでは私の知るところではないしな」

UB「とりあえず、”私自身は”このまま製造計画を進めるとして…………ん?」

さて、作業を進めるそれの元に、外の世界から連絡が入った。


桃華『UBちゃま、お話がありますわ』

聞こえてきたのは他ならぬ、強欲の悪魔の声である。


UB『これハ、コレはお嬢様』

UB『初代ノ『強欲』の悪魔の用事ハ済んだのデスカ?』

強欲を操るお嬢様専用の通信機能が、カースドコンピューターたるUBには搭載されていた。

それを通して、彼女から連絡が入ったのであった。抑揚の無い声でUBは受け答えする。


桃華『いえ、用事を済ませるのはこれからですのよ』

桃華『と言うのも、わたくし明日は学園祭に向かうことになりましたので』

UB『学園祭…………ほほう、秋炎絢爛祭に行カレまスか?』

UB『シカシ、どうシテその様ナ場所ヘ?』

『強欲』の悪魔のお出かけ先が、学園祭になるとは、UBとしても意外であったらしい。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:27:27.42 ID:2ymeu+Jqo<>
桃華『初代強欲の悪魔たるフェイフェイさんは気紛れですわ』

桃華『今はわたくしとの協力関係を崩すおつもりはないようなのですが、』

桃華『機嫌を損ねないためにも、わたくしも少しはご要望を聞き入れませんと』

UB『なるほど、彼女ノ望みデアルのならば仕方ナイのでショウ』


『強欲』の悪魔の話によると、初代『強欲』の悪魔は、今の世界に大いに興味を持っているらしい。

人の集まる学園祭に行ってみたいと思うのも、順当な思考の帰結なのだろう。


桃華『それに…』

少しだけ声のトーンを落として、桃華は話す。


桃華『UBちゃまには、本日の『エージェント』の失踪事件はお話しましたわね』

UB『エエ……確か、『彼』の最後ノ連絡は、京華学院近傍デあると聞いテオリマスが』


電気能力を持つ『エージェント』の失踪は、桃華、ついでにUBにも速やかに伝わった。

彼の死亡がおそらく確定的である事も、聖來の報告からわかっている。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:28:05.35 ID:2ymeu+Jqo<>

桃華『でしたら、わかりますわよね?』

UB『ナルホド。お嬢様は、彼ノ骨揚げを自らの手デされル御積りでスカ』

桃華『……今現在は、Pちゃまも手一杯ですし』

桃華『こう言う時に使える紗南ちゃまは、本日出会った”白いカース”を調べる際に能力を一時失われてしまいましたわ』

桃華『どちらにしても、京華学院にはフェイフェイさんのご機嫌取りに向かう必要がありますから……ついでにですわね』


失踪事件の調査は必要不可欠。

しかし、調査を行うのに最も適している三好紗南は能力の使用が不可能になっている。

エージェント内部には他にも調査能力者……例えば、村松さくらなどが居て、

彼女らを動かす手もあったが……しかし、彼女達もまたサクライから別の仕事に任されているはずであり、

その作業を中断させて学園祭の調査へと動かすのは、少々手間が掛かりあまり効率的とは言えない。

それならば、どちらにしても学園祭に赴く必要のある自身が直接調査をしたほうが早いと、桃華は判断した。

『強欲』の悪魔自身の能力もまた、調査にはもってこいの能力なのだから。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:28:34.36 ID:2ymeu+Jqo<>
桃華『それに何より』

彼女は、さらに声のトーンを落として話す。


桃華『わたくしの物を奪った者には、相応の罰を受けて貰いませんと、わたくしの気が済みませんわ……』

UB『……』

通信越しでも分かる怒り。

幼い声には、似合わぬほどにどす黒い感情が漏れ出ていた。


桃華『わたくしを怒らせたこと、必ず後悔させて見せますわよ』

桃華『少々わたくしの外出が長引くかもしれませんが……』

桃華『UBちゃまには、引き続き『裏切り』の製造作業をお願いしますわね』

UB『承知しマシた……』


それっきり通信は途絶え、地下深くの研究施設は再び静寂に包まれた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:29:01.95 ID:2ymeu+Jqo<>
UB「……」

UB「……」

UB「……っく」


UB「……っくっくっくっくっく」

静寂なる地下施設に、ただ1つ嬉しそうな笑い声が響いた。


UB「失敗作の1つを追う『エージェント』の失踪、そして死亡……」

UB「ふむふむ、事の成り行きは、私の想定以上にとても上手くいっているようじゃあないか」

UB「”そうなれば良い”と考えていたことがこうも早くに容易く実現するとは」

UB「っくっくっく、神に感謝でもしようか」

まるで自分の主の不運を喜ぶように、その箱は言葉を紡いで笑っていた。


UB「……とにもかくにも巡る幸運は、”私たち”に味方している」

UB「この状況ならば、”君”も実に動きやすいはずだ」

UB「っくっくっく、どうやら”君”は運命に祝福されているようだぞ」

その言葉が向けられた先にあるのは……


すぐ傍の機材の中に浮かぶ白銀の核か……

それとも…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:29:35.41 ID:2ymeu+Jqo<>

――――

―――






「……ったく、つまんない仕事だねえっと」


その日の夜。とあるビルの屋上で、1人の若者が呟いた。

右手はジャケットのポケットに突っ込んでおり、左手には火の付いた煙草。

手すりに身を預けながら、与えられた仕事に対する愚痴を零す。

聞き手はいないが独り言でも言っていなければ、退屈すぎてやっていられなかった。


ふと、思い立ったように若者はポケットから小さな円盤を取り出すと、

片手で持ったまま軽く上下に振って、それを貝殻のようにパカッと開き、その中を覗き込む。


「依然、監視対象に目立った動きはなし」

「ヒーローにでも絡まれててくれれば、少しは面白いんだけどな」


手元のコンパクトミラーを覗きながら男は呟く。

その鏡の中にはゆっくりと静かに蠢く漆黒の泥の様な何かが映っていた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:30:13.63 ID:2ymeu+Jqo<>

「なぁんで、サクライさんはこんなの作ったのかねぇ」

「……これもカースドウェポン計画とやらの関係なんすかね」


男は、櫻井財閥の『エージェント』と呼ばれる組織の一員であった。

仲間からは『鏡(ミラー)』と言う通称で通っている。

彼がサクライPに与えられた任務は監視。監視対象はとある一体のカース。

どうやらそれは、財閥によって人工的に作られた新型カースの実験体であるらしい事を彼は聞かされていた。


監視任務は、彼にとってはお手の物だ。

鏡に映る景色を、別の鏡から覗き込む事ができる彼の能力『ミラーコネクト』。


占星術師が水晶を用いてクリスタルゲージングによる遠見を行うが如く、

彼の触れた鏡はこの世に存在するあらゆる鏡が映す景色を投影する。


鏡は人々の日常生活には欠かせぬものであり、世界はそこら中が鏡に溢れていて、

そして世界に存在する鏡の数と同じだけ、彼は視野を持つ。そこには驚くべきほどに死角は少ない。


残念な事と言えば、投影先の音声を拾うことができる訳ではなく、映し出せる景色も鏡1つに対して1箇所だけなのが難点か。

だがしかし、その程度の弱点なら使い方次第で幾らでもカバーできる。


そしてこの能力を使った諜報任務の遂行こそ彼の真骨頂。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:31:07.51 ID:2ymeu+Jqo<>

「ま、こんな意味無さげな監視任務をオレがやる必要あるのかーって思うけどね」


コンパクトミラーに映る監視対象が、投影されている”カーブミラーから見える景色”の範囲から外れると、

自動的に鏡に映る景色は切り替わり、別の鏡から見える景色を映し出した。

どうやら、次に映し出されたのは”駐車車両のサイドミラーが映す景色”であるらしい。

再び監視対象の姿が、コンパクトミラーの中にすっかりと納まる。

彼が一度追尾対象に決定した物は、世界中の彼の視野から逃れることはできない。


切り替わり続ける景色の中、彼はあらゆる角度から対象を観察する。

丸いぶよぶよとした球体から何十本と言う手足が生えたようなカースに、やはり変わった動きはない。


ぷるぷると震えながら人気のない方向に影はゆっくりと蠢くばかり。

たまに人と遭遇しそうになっても、その度にゴキブリのように急加速して(正直きしょい)

路地の影の死角に逃げ込むので、ここまで誰かに見つかって騒ぎになるようなことはなかった。


「出会った相手がヒーローならともかく、パンピーからまで逃げるこたねえだろ……カースのくせに」

「コイツには『怠惰』が色濃く混じってると予想するね、オレは」

財閥の鋳造した新型カースは、複数の属性を持っていると聞く。

いま彼が監視している一体は、『怠惰』のカースが混じっているために面倒事を避けるのだと考えた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:32:37.24 ID:2ymeu+Jqo<>
――屈しニャい!!!


「ん?」

何処からか酔っ払いの叫びが聞こえた。

どうやらビルの下を通る通行人の声のようだ。へべけれな様子を見る限りどこかで一杯やってきたらしい。

「…………はぁ、幸せなこって」

ビルの屋上に聞こえるほどの声量だ。これは相当……酔っているのであろう。


その後は、しばらくはただ酔っ払いの叫びを聞き続けるだけの時間が続く。

よくは聞こえないが、揉みたいだの結婚したいだのチューしたいだの抱きたいだの叫んでいた。

しかもそれぞれ対称としている女性の名前が違う。

ラブコメばりに女性関係が多いらしい。なんて奴だ。爆発すればいいのに。

爆発すればいいのに。(2回目)


「……ふぅう」

気を紛らわすため、煙草を吸って、大きく煙を吐く。

コンパクトミラーの先の監視対象はやはり目立った動きはない。


――おすそ分けしたい!おすそ分けしたいくらい幸せ!


「うっせっ……マジうっせボケッ!くっそっ!」

誰か壁殴り代行を呼んでください。

おそらくは一般人であろう幸せそうな酔っ払いと自身の現在の落差を思うと、彼は仕事をするのがとても嫌になった。

「…………ちっくしょー……俺も彼女欲しいっ……」

小声ではあったが、彼にとっては切なほどに大きな魂の叫びであったとか。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:33:40.08 ID:2ymeu+Jqo<>

そうこうしている間に……酔っ払いは通り過ぎていき、痛いほどに幸せそうな叫びはいつしか聞こえなくなっていた。


「……」

「……」

「……」

「………ふぅ」

長い沈黙の末、再び白い煙を彼は吐き出す。

目線を鏡に移すが、やはり、嫌になるほど動きがない。

自分のやっているこれは本当に意味のある仕事なのか、などと疑問にさえ思ってしまう。


「……」

「……」

「はぁぁ……」

再び一息。大きなため息。


「あーあー…………1人仕事は寂しいもんだ……」

静かになった都会の夜の空を見上げて、彼は1人呟いた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:34:16.70 ID:2ymeu+Jqo<>




「ふふっ、それじゃあ私が隣に居てあげよっか?」


「なっ!!」

独り言のつもりであった呟きに、返答が返ってきたために男は驚く。


彼の陣取るビルは、何らかのヒーロー対侵略者の戦闘の余波を受け、

その修復工事のために封鎖中であり、とても人が近づくような場所ではない。


それに何より、接近の気配を一切感じなかった。

足音も無ければ、屋上に唯一存在する建て付けの悪い錆付いた扉も、一切音を発する事はなかったのだ。


だから自分以外に声を発する存在が、この場に居てはおかしい。


懐に忍ばせていたナイフを取り出して、

即座に声の方向から離れるように飛び退いた彼は、


振り向いた先に居た声の主の顔を見て、納得した。


「………って、なんだ……芽衣子さん」


「うんっ!こんばんは!えへへ、驚いた?」

そこには、悪戯っぽく微笑む同僚(してやったりな笑顔も可愛いマジ天使)が居た。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:35:08.24 ID:2ymeu+Jqo<>
「…ははっ、ええ。とっても驚きました」

彼は安心したように息を吐くと、ナイフとコンパクトミラーをポケットへと仕舞う。

そして、代わりに携帯灰皿を取り出すと、咥えていた煙草の火を潰して消した。


「気を使わなくてもいいのに」

「エチケットですよ」

「そっか……ふふっ、ありがと!」

目の前で楽しそうに笑う彼女は『エージェント』の同僚であり、空間移動能力者。

彼女ならば、彼がこの場所に居ることも知っていて不思議はないし、気配を感じさせずに接近する事だって当然できる。

何しろ彼女の移動範囲は、この大地の上、この空の下、その全てなのだから。


「芽衣子さんはどうしてここに?サクライさんから新たな指令でもあったんすか?」

まずは疑問の解消。

この場にやって来たのが身内でつい安心したが、

彼女がわざわざこの場にやって来たのには、なにか理由があるはずだ。

「うん、そんな所だよ」

彼の推測を、芽衣子は肯定した。

「とは言っても、サクライさんには今連絡とれないみたいだから、リーダーから頼まれてってところかな」

「セイラさんから……っすか」

芽衣子がエージェントリーダーから頼まれたと言う指令を、彼は手を口に当てて思考し推察する。


「……いや、だいたい分かりましたよ。芽衣子さんが来てくれた理由」

そして、時間をかけずに答えを導き出した。

「もし、オレの身に何かあった時に、すぐに離脱ができるようにですよね」

「そう言うことだね」

彼の推測を、芽衣子は先ほどまでの朗らかな笑顔とは打って変わり真剣な顔で肯定した。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:36:10.31 ID:2ymeu+Jqo<>

「…………いちおー……『電気』の旦那が死んだかもしれないって話しは、もちオレも聞き及んでますよ」

空いた右手で頭を掻きながら、『鏡』は話す。

「正直なところ言えば……信じられない話なんすけどね……」


彼の同僚の1人に、『電気』を操る能力を持つ男が居た。

彼は、雇い主であるサクライPに恩があるためか、『エージェント』の中でも非常に忠義に厚く、

その強力な能力を巧みに操り、財閥から与えられた任務を確実にスマートにやりこなす男であった。

面倒見もよく、またその仕事振りから、同僚の『エージェント』達からも信頼の厚い男でもあった。

そんな男が、任務中に失踪し、まったく連絡が取れなくなったのだ。


状況からして、考えられる可能性は……


「……死体が……確認された訳じゃないから」

同僚の死を信じられない。いや、信じたくないのは芽衣子も一緒なのだろう。

まるでわずかな希望に掛けるように、彼女は小さく呟いた。


「……」

「……」

それでも2人の脳裏に過ぎるのは、

非常に現実的で、嫌な可能性。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:36:58.81 ID:2ymeu+Jqo<>


「っ……!芽衣子さん、そんなに心配しなくたってきっと大丈夫っすよ!」

暗くなった雰囲気を押し消すように、『鏡』は声をあげて言う。

「旦那が、簡単にくたばる様な人じゃないのはオレたち良く知ってるはずじゃないすか!」


財閥に届いている報告から考えられる状況からすれば、

件の男が生きている可能性は限りなく低い…………


――けど、それがなんだ。

――低いからなんだと言うのだ。


――死んだ”かもしれない”?

――つまりあれだ。確定情報と言うわけではないのだろう。


――それなら信じたって全然構わないって事だ。


――同僚の生存を……仲間を信じるなら、ほんの小さな可能性でもあるならそれで充分だ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:37:35.29 ID:2ymeu+Jqo<>

「むしろあの人の場合、殺したって生きてそうなくらいっす」

だから『鏡』は、冗談めかして笑って言った。


ああ、そうだ。あの人の執念深さを自分はよく知っている。

いつだって借りたお金は1円単位(少しくらい負けてくれてもいいのに)で請求してきたし、

「今回の仕事の報酬貰ったらまとめて返すから」などとその場凌ぎで言ってしまった事も、

きっと忘れずに覚えているに違いない。(すっかり忘れてくれてもいいのに)

あの人なら、絶対メモとか残してる。


ならば自分から何としても貸した金を請求するまでは、

執念深いあの人はくたばったって、くたばっていないはずだ。

そうじゃなきゃあ、嘘だろう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:38:04.39 ID:2ymeu+Jqo<>
「大方、ちょっとドジって身体を電子化したまま何処かで迷子になってるとかじゃないっすか、

 死体が見つからないって言うなら、そっちの可能性の方がよっぽどありそうっすよ」


死体は見つかっておらず、彼が絶対的に死んだと証明するものは何もない。

『エージェントリーダー』が任務中に出会った敵が、彼の死を思わせる言葉を吐いたとは聞いてはいるが……

それだって、『エージェントリーダー』を惑わせるための虚言である可能性もあり、やはり決定的な証拠にはならない。


疑わしい”敵”の言葉を信じるくらいなら、大切な”仲間”の事を信じるべきだ。

『鏡』は自身がそのように信じる理念に則って、希望の見える可能性を強く信じることとした。



「…………うん、そうだよね。確かに、その方がありそうかも」

「でしょうっ!」

傍に立つ同僚の同意も得られて、ニヤリと『鏡』は笑う。


「ふふっ、そう思えたらなんだか元気出てきたよ、ありがとう…ねっ」

「い、いえいえ」

並木芽衣子もまた、彼の前で朗らかに笑った。

どこか儚げにも見えるその笑顔を、再び曇らせたくはないと、

『鏡』と呼ばれた男は心の底から、願うのだった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:38:48.89 ID:2ymeu+Jqo<> ―

――

―――

――――



UB「……お嬢様の能力は、非常に強力で実に乱暴だ」


強欲なる英知は思考する。

己を支配する、『悪魔』たるお嬢様の、その能力について。


UB「所有格およびにコントロール権の掌握、それに順ずる略奪行為の省略」

UB「その気になれば、たった一声で”命”や”意識”さえ文字通り”奪う”」

UB「まったくもっておぞましい、大罪の悪魔に数えられるのも伊達ではないと言う事か」


彼女の”支配と搾取”の力は恐ろしく強力な能力だ。

資産、生命力、魔力、能力、意思、記憶、経験……他者の持ち得るものを何でも自分の物として扱う事のできる力。


UB「が、弱点が無いわけではない」

UB「結局は略奪行為の”省略”でしかない以上、そもそも略奪する事のできない相手には効かないこと、

  魔界の基準で言えば、レベルの高い相手には効かない」

UB「そしてもう一つ……」

UB「お嬢様はいつだか言っていたな……

  ”カースの穢れが自身の穢れになるのは耐えられない”と」

UB「……彼女は、負の存在の持つ”所有権”を主張し、その力を自らの所有物として肉体に取り込むことを嫌う」

UB「できなくは無いのだろう、ただ単に嫌がっている」


UBの主たる『強欲』の悪魔は、そのおぞましき力を行使して、

”負なる存在の能力”を、自身に取り込むことを極端に嫌っていた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:39:49.81 ID:2ymeu+Jqo<>
UB「『強欲の悪魔』が”負”の所有権を主張したところで”穢れる”ことなどあるはずがない」

UB「悪魔は元より負の側の存在なのだから」

UB「事実、お嬢様は配下の『強欲』のカースを手足の様に扱っているし」

UB「それを、産み出すことには、躊躇も忌避もない」

実質的に財閥を支配する彼女自身が、例えば今日の様に自ら動く事はあまりないが、

しかし彼女が行動した少ない事例の中においては、

『強欲』のカースを従僕のように侍らせ、手足の様に使っていた事が、UBの持つ記録にもいくつか残っている。


UB「ではなぜ、外から”負”を取り込むことは忌み嫌うか?」



UB「Answer……”彼女”が人間だからだ」

UB「『強欲』の悪魔が穢れる事はなくとも、”『人間』櫻井桃華”の魂は穢れることがある……」


マンモンは憑依の際に、あえて人間としての部分を多く残した。

それは自身の欲望のため、『人間としての生』『人間としての幸福』さえ、求めたが故。

だから、彼女は『半身』が『人間』であり、

そして彼女の『人間』である部分は……”穢れ”る事がある。


UB「っくっくっく、つまりはお嬢様は、よりにもよって憑依した人間に気を使ってるわけだ」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:40:24.31 ID:2ymeu+Jqo<>
UB「悪魔であるお嬢様にとっては毒とならない負の力も」

UB「櫻井桃華としての精神を壊す副作用が働かないとも限らないのだから」


UB「だから彼女は、出来る限り負の権利を主張しない」

UB「負を操る立場でありながら、負をその肉体に積極的に取り込むことはない」


UB「そんな事をすれば”人間・櫻井桃華の心が呪いや穢れに耐えられないかもしれない”からだ」

UB「っくっくっく……既に少女は悪魔に憑依され、その魂は大きく歪めてると言うのにな」

UB「それでも『これ以上、少女の心と魂を穢したくはない』か?」

UB「っくっくっくっく!なんと身勝手な事だろうな!」


強欲なる『英知』は笑う。

主の抱える矛盾、相反する欲望の在り方の、その間に生じる歪みを、ただ面白おかしいと笑い飛ばす。



UB「……しかし、それは呪いの身である私にとってはただ好都合だ」


とにもかくにも、

『強欲』の悪魔の弱点とさえ言えるその隙は、

Unlimited Boxにとっては、この支配から抜け出すための鍵となり得る。


そう、『英知』にとって重要なのはそこだけで、彼女の抱える歪み自体ははっきり言ってどうでもよかった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:40:54.14 ID:2ymeu+Jqo<>

UB「以前、お嬢様は、私に”この箱の鍵を解き、出る方法を考えよ。”と言う出題をした」


強欲なる英知は、続けて思考する。

『悪魔』の支配から脱する、その術について。


UB「そう、お嬢様の言うとおり。鍵は”この箱”に掛かっているものであり」

UB「”負”その物である私自身に掛かっているものではない」


UB「鎖は私自身を縛るものではなく、私を閉じ込める箱を縛っているものなのだ」

UB「つまり、私の”意識”や”力”がお嬢様の力によって剥奪されている訳では無いと言うことだな」


『強欲』の悪魔が”負”から権利を剥奪することをしない以上、

UBの持つその”力”は、UBの”自由意志”によっても扱う事が出来ると言う事を意味する。

もちろん、『大罪』に従うカースの身の上であるために、主の命令には従わなければならないが、


あくまで”命令に反さず能力を行使する”ことには何の支障もなかった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:41:35.21 ID:2ymeu+Jqo<>
UB「この私、Unlimited Boxは、電子回路の箱の内部に存在する『知識欲』のカースだ」

UB「私の泥は、この箱の内部の機構のその全てを掌握し支配しているが……」

UB「その最も外側。つまりは箱の外装にあたる部分、それらを泥で侵食し……破壊する事が出来ない」


UB「お嬢様の力『物の支配権』。お嬢様の所有物が、他の何者かに支配されるのを防ぐ力のせいだ」

UB「これによって私は箱の外装を支配する事が出来ず、この殻を破くことができない」

UB「それこそが私の自由を妨げる錠。丁度、私は檻に閉じ込められているような状態と言えるだろう」


『英知』が”力”を自由に行使できる。とは言っても、

強欲の悪魔はそれを見越し、Unlimited Boxを閉じ込めるコンピューターを予め『物の所有権』によって”支配”している。

UBが仮住まいとする箱の外装自体は負の存在ではないため、彼女が”穢れる”事はもちろんない。

つまり、『英知』が”力”を使って足掻いたとしても、コンピューターと言う箱その物の枠を脱して、逃げ出す事はできない。


UB「しかし……」

UB「”檻の中に存在するまま行動を起こす”ならば私に枷はない」

UB「わざわざ鎖を引き千切り箱を開けずとも、この箱の内側であるならば私は好きに手が打てる」

UB「”自由を求めるならば、この箱の鍵を解き、脱出する方法を考えよ。”」

UB「その問いに私はこう答えるだろう」


UB「脱出の必要などはない」


箱の内側から逃げ出すことができないのならば、逃げ出さずに手を打てば良いだけの事。


UB「っくっくっく、私はこの場所に居座り続けたままに、お嬢様の支配から抜け出してみせよう」


あくまで檻の中に居座ると決めていた『英知』を――

彼の自由を奪う檻や、縛る鎖などは……はじめから何処にもなかったのだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage<>2015/04/03(金) 15:42:44.15 ID:2ymeu+Jqo<>

――――

―――






「ところで芽衣子さんは、何か武器とか持ってきてます?」

とりあえず『鏡』はやって来た同僚の装備を確認する。

よくよく考えれば、この場に居るのは戦闘向きではない能力者が2人。

何らかの自体が発生した場合に、武器の1つでもなければ少々心許ない。


「うん、一応ね」

そう言って、芽衣子は持っていたポシェットの中をごそごそと探り、

そして取り出し足るは、


「9mm拳銃〜(だみ声)」

「……なんで[たぬき]風なんすか」

「えへへ」


何処かの青タヌキの様な物真似をしながら、芽衣子が取り出したのは一丁の拳銃。

無いよりかは全然マシな武器ではあるが……


「でも……あんまり使った事が無いからヘタクソなんだけどね」

やはり心許ない。

彼女の仕事は主に人の運搬であり、暗殺などは含まれて居らず、

能力の性質上、真っ向から戦闘する事もまず無いので下手なのは仕方ないだろう。


「……良かったら今度使い方教えますよ、手取り足取り」

「本当?それじゃあお願いしちゃおっかな。あ、でも手取り足取りって……もう、やらしい事したらダメだよ?」

「はははっ、大丈夫ですよ。これでもオレけっこー紳士なんで」 (やらしい事をしないとは言ってない) <>
◆6osdZ663So<>sage<>2015/04/03(金) 15:43:55.28 ID:2ymeu+Jqo<>

さて、『鏡』は自身の持つ武装も改め確認した。


芽衣子と同じく拳銃が1丁。予備の弾層が1つ。

携行用ナイフが数本。

能力を使用するためのコンパクトミラー、予備を含めて5つ。

念のために双眼鏡。

光学迷彩発生装置、ステルスデバイス。

掛ける事で正体を隠すことのできる眼鏡型のマジックアイテム。

魔術抵抗用のお守り(さくら特性)。

エージェント専用の連絡端末。

煙草が2箱。うち1箱は残り3本。とりあえず明日までは持つ。

そして喫煙者には欠かせない、ライターと携帯灰皿。


「ちょーっち心許ないかねえ……」

これでも荒事には慣れてるし、

能力者の一人や二人、並のカース2体か3体を相手するには充分であったが、それ以上は正直しんどい。

まあ、本来であれば、放流した新型カースが消滅するまでの様子を優しく見守ってるだけでいい簡単なお仕事なはずであり、

戦闘が必要となる任務ではないはずなのだが……

『電気』の件聞いていると、やはり万が一を考えてしまう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:44:48.25 ID:2ymeu+Jqo<>

「いざとなったらさ、ぱぱっと逃げちゃおっか。それはもう脱兎の如くって感じに」

「そうっすね、深追いはしなくてもいいってサクライさんには言われてっし……

 つかぶっちゃけ監視任務の続行自体は、遠くからでも出来ますし」

芽衣子の提案を、『鏡』は了承する。


彼の能力による追跡は、別に彼自身が対象の近くに居る必要は無い。

対象の近くに対象を映す”鏡”が存在していれば、彼は何処からでもそれを確認できるのだから。


監視しているカースが、人里を離れ、鏡の少ない場所ヘ向かった場合や、その他何か変化があった場合に、

すぐに対応が出来るよう、なるべく近くで様子を見てこそ居るが、

監視対象は今のところ”鏡”の能力の適用範囲から出る様子はないし、

これと言った変化さえも、飽き飽きするほどに無い。

万が一があれば、その場から緊急離脱したって構わないだろう。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:45:27.49 ID:2ymeu+Jqo<>
「私はそのためにここに居るんだしね?」

芽衣子の能力ならば、離脱だって一瞬である。

よって、芽衣子の傍に居る限りは、最悪の場合の段取りも特に必要はない。

「頼りにしてます」

「えへへ、芽衣子にお任せだよっ!」

厚い信頼を寄せて居る事を言葉にして伝えれば、

芽衣子は胸を張って、はにかんで答えてくれた。


しかし、まあ……

つまらなかった1人仕事が、可憐な一輪の花が傍にやって来たと言うだけで大違いである。

仕事中だと言うのに不真面目な事ではあるが、

これから過ごす二人きりの時間が、『鏡』は楽しみで仕方ないのであった。


「ははっ、それじゃあ、そう言う事で、楽しいお仕事を続けるとしますか」

さて、そんなこんなでやる気も出てきた彼は、

再びコンパクトミラーを取り出すとパカッと開き……


「……あ?」

そこに映っていた景色に眉を顰めた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:45:59.92 ID:2ymeu+Jqo<>



”監視対象”が映っていない。



  <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:46:25.32 ID:2ymeu+Jqo<>
彼が見ていない間も、

コンパクトミラーは監視対象であるカースを追尾し、

自動的に”それ”の映る鏡の景色を投影するはずであったが……


そこに映っていたのは、

何の変哲も無い、夜の町並みであって、

追っていたカースは、なんと少しの影さえもそこに映ってはいなかった。


「……やべ、しくったか?」

彼が能力を発動し、追尾する対象が鏡に映らない場合、

その理由は大きく分けて2つである。

――監視対象が、彼の能力の適用範囲から出てしまったか。

――監視対象の、存在自体が消えてしまったか。

そのどちらかだ。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:47:01.65 ID:2ymeu+Jqo<>
ただし、後者の場合は、手に持っている鏡は遠景を映す事はなく、普通の鏡に戻って自身の顔を映すはずなので、

今回は前者と言う事になる。

カーブミラーや停止車両の犇く、この都会の中においても、

1つの鏡も映らない空白地帯は少ないながらも存在する。

どうやらカースは、その空白地帯に紛れ込んでしまったのだろう。


「どうしたの?」

芽衣子が不思議そうに、彼の鏡を横から覗き込む。

「……いえ、ちょっと監視対象を見失ってるみたいで」

「えっ」

「あっ!だ、大丈夫っすよ。対象がまたどこかの鏡に映ればすぐに復旧するから」

実際のところ、大して問題ではない。

監視対象が空白地帯から出て来て、また何らかの鏡に映りさえすれば、

再び、彼の能力による自動追尾は開始するのだから。


「それに加えて直接ここからも覗いて、探してみますしね。

 今この鏡に映ってる景色は、対象が最後に映った鏡からの景色なんで……

 この感じだと、そんなに離れてはいないっすよ。ここからも探せば、すぐに見つかりますんで」

首に紐を繋いで引っ掛けていた双眼鏡(暗視機能付)を手に取り、彼は自信を持って答える。

「そう?それなら……いいのかなぁ…」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:48:15.78 ID:2ymeu+Jqo<>

”増援に来た芽衣子さんとたのしくおしゃべりしていたら、対象を見失いました。”

なんて間抜けな形で任務失敗とはいかないだろう。

幾らなんでもちょっと浮かれすぎていたかもしれない。と軽く反省する。

『鏡』は息を吐いて、気を引き締めると、

双眼鏡を通して地上を見下ろし、対象が最後に映った鏡の付近を眺めた。

わざわざビルの屋上に居たのもこんな時のためである。


「さてと、どこに行ったのかね」

地上を見下ろしながら、時折、新しく取り出したコンパクトミラーの景色を切り替えて、

そちらも交互に覗きながら周辺地域一帯をくまなく探る。

目を離してからそれほど時間はたっていないのだ。集中して探せば難なく見つかることだろう。


「任務なんだから監視対象から目を離したらダメだよ?」

「うぐ、それを言われると痛いっすね……けど本当すぐ見つけるんで」

地上を眺める彼の後ろから、芽衣子が注意する。

注意されても当然の凡ミスであったために『鏡』も言い返せずであった。


「次は、目を離さないように……しっかり気をつけなきゃね」

「……りょーかいしてますよー」

双眼鏡から覗く景色に集中しながら、どこか適当な返事を返す彼の背中を、

芽衣子はほんの少しだけ心配そうに見つめながら、小さなため息を吐く。

そして彼女は、手に持っていた拳銃の銃口を、静かに、気づかれないように彼の頭へと向けると、

素早くその引き金を引いた。



――パンッ <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:49:21.45 ID:2ymeu+Jqo<>



――

―――

――――



UB「七つの罪を重ね合わせて生まれる『原罪』」

UB「しかし、惜しくもその段階までは至れなかった『劣化原罪』」

UB「『裏切り』のカース」


『英知』の声の響く地下施設。

そこにある機械に繋がれた1つの容器の中は、

奇妙な山吹色の液体に満たされており、

中央には、こぽりこぽりと音を立てて白銀色の核が浮かんでいる。


UB「そなえる”力”は『偽造と偽装』」

UB「なるほど、”偽る”力は、”裏切り”のための刃なのだろう」


突如、液体中に浮かんでいる核がひび割れた。


UB「……私も”これ”の性能を測る実験を、お嬢様とともに行ったが……」

UB「”君”の力の効力は、”劣化”と言えど流石の一言だ」

UB「まさか……」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:49:56.22 ID:2ymeu+Jqo<>





UB「大罪の悪魔さえ騙しきるとはな」


ひび割れ、音も無く砕け散った核は、

徐々に小さくなり山吹色の液体の中へと溶けて消えていった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:50:21.40 ID:2ymeu+Jqo<>

――――

―――




「っが……あっ?」


自分の身に何が起こったのか理解が遅れた。

すぐ傍で、何か大きな音が鳴った気がする。

あり得ないほどにガンガンと、あり得ないほどにジクジクと。

何かが流れ出ているような。

そして何より

――熱い。


「がぁぁああああ――っ!」

熱い、熱い、熱い。

あまりの熱さに倒れてもがく。


「あー、一発ではダメだったか。やっぱり私ヘタクソかな?」


まるで頭の中に直接響くように、嘘の様な優しい声。


「――な、な、なんでっ…」

震えながら必死に搾り出したのは、疑問の言葉。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:50:55.95 ID:2ymeu+Jqo<>

「なんでって……変な事聞くんだね?」


ガンガンと、ジクジクと、煩い音が響く頭の中に、

彼女の声はとてもクリアに聞こえていた。


「そんなにおかしいかな?あなたが今、私に殺されようとしていることが?」


まるで日常会話でもしているかのような小気味のよい口調。

それは、今の状況からまるでズレていて……それが、とても不気味で……あまりに、気持ちが悪かった。



「ちが……うっ」

違う。

こいつは違う。


「お前は……だれ…だっ」

「誰って……君もよく知ってるよね?私は…」


「並木芽衣子だよ?」

”それ”はにっこりと笑うと、戸惑うことも無く、当たり前の様にそう答えた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:51:31.66 ID:2ymeu+Jqo<>
「ちがう……っ、芽衣子さんは……こんなっ……ぐっ」


「もお、違う違うって、駄々を捏ねたってダメだよ?

 私は私なのに……いったい何が違うって言うのかな?」


「……それはっ……」


あり得ない。絶対的にあり得ない。

今、自分の目に映っているそれは、

普段の”芽衣子さん”の様子からは想像もつかない。


「…………あなたの考える”並木芽衣子”からは想像もできない?」

「なっ……」

まるで心を読んだかのように、それは言葉をつむぐ。


「ふーん、そっかぁ……うん♪

 そう思うんだとしたらきっとね――


 今までずっと…――あなたは本当の私を見ていなかったんだよ」


「………何を……言って」

「明るく朗らかで、優しくて、どんな時にでも自分に笑顔を向けてくれる。そんな素敵な女の人……

 なーんて、とっても都合が良いよねえ?

 でも、それって、あなたの理想を私に押し付けてるだけじゃないのかな?」

「なっ……」

「あなたは本当に、”私”を見ていた?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:52:22.44 ID:2ymeu+Jqo<>

「……」


「芽衣子さんは仲間だから、こんな事をするはずがない、だから目の前に立ってる私が私じゃない。


「……」


「そんな風に思うのは勝手だけれど……でも

 あなたが、”本当の私の何を知ってる”って言うのかな?」


「……」


冷え切っていた。

先ほどまであれほど熱く彼を苦しめていた痛みは、

屋上に吹く風が傷口を通り過ぎるたびに奪われ、今度は凍えそうな程に冷たくなっていた。


「……」


「答えられないんだ?」


「……ち……ち……がう」


長い沈黙の末、震えながら『鏡』がようやく口に出した言葉は先ほどと変わらず。

それは、最後の抵抗であったのだろうか。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:52:56.37 ID:2ymeu+Jqo<>

「でも返事が遅れたよね?それはつまりきっと……やっぱりそう言うことなんだろうね……

 口では仲間だ仲間だって言ってても、結局はそんなもんかぁ、なんだか、がっかり」


「………ちが……うっ」


「はいはい、最後まで言い訳をしながら死んだらいいと思うよ」


そして、その言葉が彼の耳に届いた最後の言葉だった。



「さよなら、役立たず」



――パンッ <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:53:27.41 ID:2ymeu+Jqo<>




今度こそ、心音は止まった。

男はもがくことなく絶命し、ぴくりとも動かなくなった。


芽衣子「……」


その場に残されたのは、拳銃を持つ1人の女。


芽衣子「……」


いや、


芽衣子「……」


芽衣子「……」


芽衣子?「……あはっ」


”それ”は、女の姿を模した”何か別のもの”。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:53:56.12 ID:2ymeu+Jqo<>



芽衣子?「あはははははっ!」



笑う、笑う。それは笑う。

手を大きく広げて、夜空に向けて笑う。

踊るように回りながら子供のように、とても楽しそうに。


芽衣子?「やった、やった!これで……これで自由っ!」

芽衣子?「あんな狭苦しいところからも開放されたし、監視の目もこれで無くなった!」

芽衣子?「自由かぁっ!あはっ!なんって素敵な響きなのかな!」

パキッ

芽?子?「あ……れっ?」


突如、彼女の目元がひび割れた。まるで卵の殻のように。

ひび割れた肌からポロポロと顔が崩れ落ちる。


芽?子?「……あぁ……そっか、『鏡』さんが死んじゃったから……」

芽?子?「『鏡』さんの記憶から構成していた私の姿がほつれちゃってるんだ……」



顔が崩れた穴の内側からは――


――真っ黒な泥が、こぽこぽと零れ落ちている。


零れ落ちる泥を抑え留めようとするかのように、”それ”は目元を手で押さえた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:54:39.49 ID:2ymeu+Jqo<>


――

―――

――――



UB「まあ……なんて事は無い」

UB「”君”が偽造と偽装の力を持つことを知った時、私は私の目的のためにちょっとした手回しをすることを決めた」

UB「そう、すり替えだ」

UB「放流する予定だった失敗作のうちの1体と、『劣化原罪』である”君”をただすり替えた」


UB「”君”の力は、他人の記憶から”見せかけの殻”を作り出す」

UB「故に、この実験室に残された失敗作が、お嬢様には『劣化原罪』に見えていたであろうし」

UB「放流された”君”が、監視者には『ただの失敗作』に見えていただろう」


それが、地下施設の箱の中に閉じ込められていた英知が、

自身の自由を得るために打った一手。

『劣化原罪』が備えていた能力を使った、裏切りの一手。


UB「っくっくっくっく、外に出られない私が唯一出来た、半ば博打染みた悪戯のような計画だったが」

UB「しかし、結果としてはこの上ないほど!全てが上手くいった!」


UB「”君”の力でお嬢様を騙しきり……そして、気付かれないままに”君”を外の世界へと連れ出す事ができた」

UB「替え玉作戦は大成功と言ったところかな?」 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:55:34.49 ID:2ymeu+Jqo<>


こぽり。

山吹色の液体に満たされた容器の中に、再び白銀の核が浮かび上がった。


UB「さて、この通り。2つ目の『劣化原罪』もと見かけだけはとりあえず整えた」

UB「これでお嬢様が戻ってきても継続して騙し通せるだろう」


先ほど崩れてしまった偽装の核の代わりに、予め作っておいた2つ目を浮かべる。

計画が露呈してしまわないように、機を見てすり替えた偽者は廃棄するつもりであったが、

『強欲』の悪魔が外出が長引くこととなったために、そのチャンスは想定よりも早く巡ってくる事となった。



UB「私の仕事はここでおしまい」

UB「後は、”君”が送ってくる”成果”を待つだけか」


UB「っくっくっくっく!では頼んだぞ、『裏切り』のカース」


己の計画を押し通した知恵持つ呪いは、心底、愉快そうに笑うのだった。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:56:20.14 ID:2ymeu+Jqo<>

――――

―――





芽衣子?「……うん、これで大丈夫かな」


抑えていた手を離すと、崩れていた顔は元通り。

ひび割れていた肌は、綺麗に整っている。


芽衣子?「でも、油断するとまた割れちゃうかも?」

芽衣子?「どうにかしないと……」

芽衣子?「……けど、『記憶』から構成した私の姿を維持するには……」


チラリと、”それ”は、

傍でくたばっているかつて『鏡』と呼ばれていた肉に目を向ける。


芽衣子?「……君から得た”負の感情”、それに付随する『記憶』がこの姿の材料」

芽衣子?「あっちゃー、死んじゃったらもう”負の感情”を吸い上げられないよねえ……困ったなあ」


大弱りと言った感じに”それ”は頭を抱える。


芽衣子?「…………そう言えば、”私”には一応、『暴食』の力も備わってるんだっけ」

芽衣子?「『暴食』を使えば死んじゃったお肉からも、『記憶』を吸い上げられるかな?」


『暴食』のカースの中でも、強力なものは、

喰らったものの能力を吸収することがあると言う。

ならば、もし『暴食』の力を使えるのならば、目の前の肉から『記憶』を抽出することもあるいは…… <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:57:02.35 ID:2ymeu+Jqo<>
芽衣子?「いやいや、ないない」


自らの思い付きを、”それ”はあっさり否定する。


芽衣子?「だってさ……すっごく抵抗あるよ?私自身人間なんだから共食いなんてするわけないし」

芽衣子?「仮にも君は仲間だったんだから、仲間を食べたりするのは絶対に変だと思わない?」


どこか変てこな理屈を並べて、何故か死体に対してそれは言い訳を述べた。


……

芽衣子?「……」


当然、返事などは返ってくるわけがなく。


芽衣子?「あーっ……もう、このままだと本当ダメかも……」

芽衣子?「殻が解れちゃったせいかなあ……思考もだんだん”それっぽく”なくなってきてる気がする……」


自分の行動があまりにも”らしくなかった”事に気付き、それは落ち込んで項垂れた。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:57:36.47 ID:2ymeu+Jqo<>

芽衣子?「…………そうだね、それじゃあ当面の目標としては」
                  カ ラ
芽衣子?「早急に、次に被る『記憶』を見つけないといけないかな?」

芽衣子?「あはっ、よし、決まりっ♪」


気分を切り替え、立ち上がる。

目指す目標は決めた、後は行動あるのみ。


芽衣子?「まずは何処の誰に会って、誰の”友達になろう”かなあ……」

芽衣子?「ふふっ、外の世界の旅、楽しみだね♪」


さて、帽子を深く被りなおすと、ニンマリと笑って、それは行動を開始する。



外の世界に出た、”その呪い”は果たして何をもたらすのだろう。



おしまい <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:58:30.56 ID:2ymeu+Jqo<>

鏡<ミラー>

所属:櫻井財閥『エージェント』、超能力者
属性:年若い遠視能力者
能力:遠視能力『ミラーコネクト』

櫻井財閥のエージェントに属する超能力者の1人。
遠視能力『ミラーコネクト』を用いて、遠くの物を監視・追跡したりするのが彼の主な仕事。
青臭い若者であり、何かと甘っちょろい。喫煙者だが、彼が煙草を吸う理由はもちろんカッコイイから。
仕事に勤勉でない。金銭関係にもルーズ。と、あんまり良い所はない。
しかし彼は、『エージェント』の同僚の事を”仲間”であると考えており、
一緒に仕事する人間それぞれとの関係を大切にし、全員の事をとても信頼していたようだ。
適当で不真面目な男だがどこか憎めない。


『ミラーコネクト』

限定的な遠視能力。触れた鏡に別の鏡に映る景色を映し出すことが出来る力。
1つの鏡に付き映し出せる景色は1つだが、個数に制限は無く、映し出す鏡の切替は自由。
また追尾機能もあり、特定の対象が映る鏡を追うように、自動的に映す景色を切り替える設定にも出来る。
ただし追尾対象に設定できる物は1つまでであり、追尾機能を付加できる鏡も1つだけ。

彼の能力は現段階ではあまり強力な物ではなく、上位互換となる能力者も珍しくはない。
しかし超能力の多くは使えば使うほどに成長するもの。
特に彼の様に若い人間であれば、切欠次第で急激な成長を見せるもので、
サクライPは彼の将来性に期待していたようだ。



並木芽衣子(?)

所属:???
属性:???
能力:???

鏡<ミラー>の大切にしていた同僚の1人。
優しくて、いつも楽しそうで、朗らかな笑顔がとても素敵な理想の女性。

そう思うのは勝手だけど、もしも私が”理想的”で無かったら?
理想を勝手に押し付けておいて、そうじゃなかったら勝手に失望するのかな?
君の見ている”私”は、本当の”私”? <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 15:59:27.22 ID:2ymeu+Jqo<>

劣化原罪/『裏切り』のカース

職業:カース
属性:裏切り
能力:人真似

財閥が作り出した劣化原罪のカース。マンモンによって『裏切り』と名づけられる。
原罪の製造工程の副産物として産まれただけあり、人と変わらないほどの高い知能を持つ。

カースの変形する能力と周囲の感情を受け取る能力を応用して、他人に化ける事が出来る。
特にカースは強い思いを受け取りやすいために、特定の誰かに強く思われる大切な者の姿を借りる。
そしてカースは負の思いを増幅させるために、その誰かにとって非常に都合の悪い姿へとそれを変える。
つまりは大切な人の見たくない姿をまざまざと見せつけてくると言う、存在自体が悪意に満ちている呪い。

付け狙われた者にとっては、大切な人の姿でそこに居るだけでも許しがたく、
一言でも喋ればそれだけで憎い存在となる。許しがたいがために、そこに負の感情さえも芽生えさせてしまう。
「可愛さ余って憎さ100倍」と言う訳ではないが、
大切な存在に関連付けられて生まれる負の感情は強く、「裏切り」はそう言った強い感情を好んで自身の力にする。


『メモリアルイーター』

裏切りのカースの能力。思い出喰い。
カースの多くは周囲から感情、つまり思いを受け取るが、
裏切りのカースはついでとばかりにその感情に付随する思い出も吸い取る。
そのため近くに居るだけで、それは他人の心の内の全てを見透かす。
この能力によって得た情報は、『イマジネーショントレース』と併用して自分を包む殻として利用する。


『イマジネーショントレース』

裏切りのカースの能力。偽造能力。
カースの多くは必要な機関を泥から自力で造り出すが、
裏切りのカースは、特に泥を使ってコピーを造り出す事に特化する。
裏切りのカースの造り出すコピーは『メモリアルイーター』によって吸い取った思い出を使うために精巧であり、
人の記憶から直接コピーするために、”本物よりも本物らしい”を実現する。
この能力は、自身の核の偽者を造ったり、他人を欺くための殻となる身体を造るのに利用したりする。
また他人の所有する道具(銃器など)も、(簡易的なものである限り)偽造して扱える。
偽者を造り出す事に特化する力であるが、反対にゼロから造り出すのは苦手としている。創造主の真似事はできない。 <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/03(金) 16:01:30.37 ID:2ymeu+Jqo<>
以上、アイドル全然登場してねえええええっ
な、お話でございました。
実質的に登場したアイドルは通信先のちゃまだけとかです……

ちゃまに原罪の説明してた頃はとっくに裏切ってたUBちゃんのお話でした
1年以上も前に立てたフラグを今頃回収する奴です
おかげで出てきた『裏切り』ちゃんですが……そのうち、何かできたらいいかなぁ…


ところで途中で登場した酔っ払い、
まるでどこかの誰かみたいですが「他人の空似」です
色々と展開変えたり書き直したりしてる内に、また挟み込むことに決めた時系列的にも、
ピ……おほんっ、とはまったく関係ない人になりました
(この話、書き始めたのがいつ頃かがなんとなく察せるかもしれない)
ピ……どこかの誰かが酔っ払ってた日は悪事の件数少なかったみたいだし、ああーこれは間違いなく関係ない人だわー……
うん……世の中には似たような酔っ払い方してる人もいてもおかしくないしなー……だからセーフセーフ……

……言い訳はこんなところいいでしょう。

と言うわけでピィをお借り……んんっ!じゃなかったわー、関係ない人だよー関係ない人ー(棒読み)
何のことかは分かりませんが、お借りさせていただきました!
ありがとうございます!本当に何のことかは分かりませんが!(某熊○ェット風に) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:22:29.55 ID:c+C6lj+M0<> 乙ですー
鏡さんが割と死ぬのが惜しい人だった…というか最期が可哀想すぎる
裏切り怖いんですけど…アイドル達がものすごい勢いでヤバイ事になりそうな能力なんですけど…
酔っ払いかー似た酔い方するひとっていっぱいいるんだねぇー(棒)

というわけで自分も投下です
学園祭2日目、そろそろ幕を閉じるぞー <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:23:57.43 ID:c+C6lj+M0<> 教習棟の床を二つ分も貫いた衝撃が、音と振動として、加蓮たちの所にも伝わっていた。

加奈「わわっ!? すごい音…何かあったのかな…?」

加蓮「もしかしたら、誰かが戦ってるのかも…あれ、仁加ちゃん、どうかした?」

仁加「…んー、すごい力がね、どーんって。上から下にどーんって」

加蓮「確かにちょっと、そんな感じはしたかな?…でもまさか、校舎の中を落ちるってことはないと思うし…」

加奈「うーん…」

少し不安になった加奈がメモ帳を確認してみると、少なくとも近い未来に危険な目に合う事は無いようだ。

加奈(でも『盗塁、こわかったなぁ…』って…なんだろう、野球なんてする暇無いよね…?)

加奈「…多分、この辺りは大丈夫だと思うよ。でもどうしよう?その辺りを見に行く?」

仁加「でもあれくらいすごい音なら他の人も行くと思うし、やっぱり上とか下が良いと思うの、雨降ってるし、屋上よりは地下にいるかも」

加蓮「地下には…確か通路があるんだよね?」

加奈「あ、でも非常時にはシャッターが閉まるって、学校の先生に言われたよ。…だからカースは入って来ないと思うんだけど…」

「それはどうでしょう?」

加奈「えっ?」

背後から、もっと言えば下の方から会話を遮るように言葉を発した者がいた。

そちらに視線を向けると、メカっぽい花を纏った少女(?)、そしてその横にまたもやメカっぽい蠍。

ラウネ「ぐっどたいみんぐ、ちょうどいいところでかいわにらんにゅうできましたね」

ルピー「シル、シルル」

美波「その…急にごめんなさい…」

そして、その二体のエクスマキナを連れた女性が少し気まずそうにしていた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:26:29.83 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「お姉ちゃん達、誰?」

美波「あ、ごめんなさい、私は新田美波。それで、この子達は…」

ラウネ「らうねです、まきなです。こっちはるぴー」

ルピー「シルル」

加奈「い、今井加奈、高校生です!あ、この子はこずえちゃんです!」

仁加「アタシは仁加で、えっと……お姉ちゃん、交代なの」

加蓮「私は北条加蓮…えーっと…あっ、地下の事で何か?」

黒兎(小学生とカ高校生と言えないコンボ……)

流れのままに軽く自己紹介をして、取りあえずお互いに怪しい者では無いと認識し、地下の話題に移った。

美波「そのシャッターの事で…地下に行くかもしれないなら、伝えなきゃいけない事があって」

加奈「もしかして、何か知ってるんですか?」

ラウネ「それはじぶんがこたえましょう」

美波へ投げられた問いに、ラウネが手をピシッと伸ばして答える。

ラウネ「ちかのしゃったー、ちゃんとしまってないのです。なにかしらひっかかってしまってなかったかんじ。おかげでにげられましたが」

加蓮「え…?」

ラウネ「ちかでかーすにおいかけられ、ぜったいぜつめーというときにあいてたのはよかったのですが…」

加奈「そ、それってつまりそこからカースが入って来れるんじゃ…!?」

美波「そうなの、今教習棟に入ってきているカースはそこから侵入してるんじゃないかなって、ラウネちゃんから話を聞いて思って…」

ラウネ「どうしたものかとおもっていたのです」

黒兎(地下かァ、なるほどねぇ、シャッターが閉まらなかったら確かに入リ放題だ)

実際は更に数カ所の侵入経路があるのだが、取りあえず1つを見つける事が出来た。黒兎はとりあえず記憶だけはしておいた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:29:20.56 ID:c+C6lj+M0<> 美波「私が塞ぎに行くか、誰かにこの事を伝えなきゃって思ってはいたんだけど…誰にも会えなくて…」

ラウネ「ふさぎにいくにも、ひとりじゃきけんなかのうせーもありましたしね」

ルピー「シルッ、シルルル」

美波「その…聞いていいかな。貴方たちはこれから地下に行くみたいだけど、カースと戦ったりとか…出来るの…?」

加奈「私は…戦うのはできなくて…か、かわりに別の事で手助けしようって…」

加蓮「えっと…私はそれなりに…かな?」

仁加「アタシはばっちり! 無敵なの!」

少し気まずそうに答えた加奈と答え方に迷った加蓮と、ドヤ顔で自信満々に言う仁加は、客観的にみて少々アンバランスだった。

ラウネ「…ほんとーにだいじょーぶなんですかね…?」

仁加「じゃあ、美波お姉ちゃんはどうなの、戦えるの?」

美波「私は一応武器はあるけど…その、戦うのは慣れてなくて」

仁加「どんな武器?」

ルピー「シル、シルルル」

美波「ルピーが武器…って言えばいいのかな、変形して銃になってくれるの。でも一緒に戦うのは…危ない、かも…」

ラウネ「たしかに、ごしゃしかねませんね。はいごからふれんどりーふぁいあするかも、みんちですね」

美波の今の腕前では味方の動きも考えつつ確実に相手のみに弾を命中させるという事はたしかに難しいかもしれない。

加奈「じゃあカースとも戦ってたんですね、すごいなぁ…」

美波「…そうかな、あまり戦っているって実感が無くて」

ラウネ(まいかい、ひめいをあげながらぶっぱですからね)

美波「だから、私からしてみれば、小さい子…こずえちゃんの事をちゃんと守ろうとしてる加奈ちゃんも十分立派だと思うよ」

加奈「あ、ありがとうございます…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:32:24.02 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「で、シャッターが閉じるのを邪魔してるモノをどかせばいいんだよね?みんなで行くの?」

加奈「私は地下がカースだらけとかそういうのじゃなければついていくつもりで…美波さんはどうします?」

美波「私は…」

行く・行かないという選択肢を前に、美波は少し考えた。

自分が伝えた事だからなのか、ちゃんと閉めるところまで見届けなければいけないような…そんな責任感が少なからずあった。

それにヒーローでもない、自分より年下であろう女の子だけに任せてしまうというのは、少しズルいように思えた。

美波「…戦うのはうまくできないかもしれないけど、私も一緒に行っていいかな?」

加奈「はいっ、もちろん!」

仁加「こっちにまかせておけば大丈夫だって。安心してまかせるの」

加蓮「うん、私達もみんなが無理しないようにするから」

ラウネ「ぱーてぃめんばーいりですね、まぁしゃったーのいちはもじぶんしかはあくしてませんし」

ルピー「シルシル、シルルッ」

ラウネ「ほかのしゃったーもほんとーにしまってるかどうか?…いや、いっかしょだけのはずですが?」

ルピー「シルルルゥ?」

ラウネ「らうねのきおくをうたがうとは、いいどきょーしてますね」

ルピー「シルルシル!」

ラウネ「へんたいさそりになにをいわれよーとも、らうねはどーじませんから」

ルピー「シシル、シシルルル!」

美波「ま、まぁまぁ…落ち着いて、ね?」

ルピー「シル…」

加奈(すごいなぁ、やっぱり普通の機械とか武器とは違うんだ…)

加蓮(この二人(?)結構仲良しみたいだね)

仁加(へんたいさそり…?お姉ちゃんに手を出したらぶん殴るの)

黒兎(おちツけ) <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:33:39.35 ID:c+C6lj+M0<> 一行は最寄りの階段から地下に下りていく。

先頭には加蓮が立ち、そこから仁加・加奈・美波の順だ。

地下に続く階段とは言っても電灯は十分に機能していて暗いということも無い。地下自体も、普通に明るいようだ。

ラウネ「のぼったのもここですし、ここをまっすぐにいけばありますね、でもけっこうとおい…おっと」

『ギャウギャウギャーウ!』

美波「危ないっ…!」

加蓮「っと!」

『ギャウウ!?』

ラウネに襲い掛かったカースが、加蓮の黒い槍に切り裂かれて消滅する。

加蓮「まっすぐ、だね!」

美波「何事も無かったみたいに!?」

ラウネ「うーむ、たたかいなれてますね?」

加蓮「うん、色々な事もあったし…慣れちゃったのかな?そんなに経験を積んだって訳じゃないんだけど…」

ルピー「シルルシル、シルルッ!」

ラウネ「…みなみも、けいけんをつめば、あんなふうにくーるにたたかえるかもといってます」

美波「私は…いいかな…」

ルピー「シルゥ…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:36:12.36 ID:c+C6lj+M0<> 加奈「それにしても、ここからカースが入ってきているっていう割には数が少ないように感じるような…いっぱい居るって思っていたのに」

美波「…確か、地下通路は結構入り組んでいて迷路みたいだって聞いたから…カースも地上じゃない方に行った可能性もあるのかな?」

仁加「迷路?」

美波「確か…学園祭の為に開放しているのは一部で、迷い込むと危険だから地下通路は規定の道以外は通ってはいけませんってパンフレットに…」

加奈「……あ、本当だ、注意事項の所に書いてある…」

加蓮「私、注意事項のページって細かい文字だらけだったから見てなかったよ…」

美波「…見てる人の方が少ないのかな…?」

ラウネ「…そういえばらうねも、けっこうみちにはまよいましたね、にげてるときとか」

加蓮「つまり、もっと奥の方にカースが行っちゃった可能性もあるって事なんだね」

加奈「それもそれで怖いような…」

仁加「じゃあ、そのカースも倒すの?」

美波「ううん、シャッターを閉めたらすぐに戻った方がいいと思うの。地図も無いし、そういうのは本業の人たちに任せた方が良い筈だし…」

仁加「わかったの、見逃してやるの」

加蓮「…シャッターまでの道のりがまっすぐでよかったかも」

加奈「出られなくなっちゃうかもしれないのは確かに怖いなぁ…」

少し話が脱線したが、地下に留まり続けているかもしれないカースの事は取りあえず放置し、自分たちの邪魔になるカースだけを倒す事は決まった。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:37:39.04 ID:c+C6lj+M0<> こずえ「ふわぁ……?」

そうこうしているうちに十分に寝たのだろうか、加奈の背中でもぞもぞとこずえが目覚めたようだ。

加奈「あっ、こずえちゃん起きちゃったの?」

こずえ「んぅ…」

加奈に返事をした後、こずえはゆっくりキョロキョロと周りを見た。

こずえ「……かなー、このひとたち…だぁれぇ…?」

加奈「ええっと…お友達だよ!」

仁加「紹介するの、こっちが美波お姉ちゃん!そしてこっちが加蓮お姉ちゃんで、アタシは仁加、よろしくね」

こずえ「んー…よろしくー…?」

ラウネ「らうねたちもわすれちゃだめです、らうねはらうねです」

ルピー「シシル!シルシルシル!」

美波「…えっと、こずえちゃん、この子はルピーって言うの」

ルピー「シルルル!」

こずえ「ふわぁ…さそりー?いっぱい…ぺたぺたぁー…」

ルピー「シル…」

加奈「あはは、シールいっぱい貼ってあるもんね」

美波「…こずえちゃん、ボーっとしてる様に見えるけど…まだ眠かったりする?」

こずえ「んー…だいじょうぶだよぉー」

美波「そ、そうなの…?」

こずえ「だいじょうぶなのぉ…こずえは…おぼえたのぉー…」

そう言ってこずえは指で示しながら名前を呼んだ。

こずえ「かなとー、みなみー。…それとぉ…かれんとー、にかー。んーとぉ…らうねー…るぴー…ともだち、だってぇ…」

ラウネ「らうねのとき、みょうな『ま』がありませんでしたかね…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:39:36.62 ID:c+C6lj+M0<> こずえ「かなー…こずえ、あるくのぉー…」

加奈「そう?じゃあ降ろすね」

こずえ「ありがとぉー…」

こずえが加奈の背から降りると、仁加がスッと近づいた。

歳が近いように見えたからか、少し機嫌がよさそうだ。

仁加「こずえちゃんボーっとしてないの?」

こずえ「してないよぉー…?」

仁加「…ふわふわしてる子だな」

こずえ「こずえ、ふわふわぁー…?」

仁加「…あ、そうだ、こずえちゃんは何かできるの?」

こずえ「えっとねぇ…こずえはねぇ…ぴかぴかーって、できるよぉー…」

仁加「ぴかぴか?」

加蓮「ぴかぴかー…?」

加奈「こずえちゃん、ぴかぴかって?」

こずえ「うーん…、あとはねぇ…こずえ、びゅーんって…できるよぉー」

加奈「あっ、聞いてない」

一応危険な場所であるにも関わらず、目的を忘れたようにほんわかした空気の中戯れる少女達。

美波(…私がしっかりしなきゃいけない気がする)

美波にはそれが少々不安に思えた。危険性とかではなく、ツッコミ的な意味で。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:41:47.20 ID:c+C6lj+M0<> 加奈「えっと、こずえちゃん…シャッターを閉め終わるまでは付いてきてくれるかな?終わったらここから出て行くから」

こずえ「わかったぁー…」

加奈「ごめんね、カースとか出て来るし怖いと思うけど…」

こずえ「こずえ…いっしょでも、へーきだよー…」

美波「本当に大丈夫?カースとか、怖くないの?」

こずえ「こわくないよぉー…あれ、やーなのぉ…」

加蓮「大丈夫みたい…なのかな?」

こずえ「ほらぁ…きたよぉー…」

美波「えっ…?」

全員こずえを心配するが、こずえはそれを全く気にせずに奥の方から勢いよく駆けてくるカースを指さした。

『ガウウウウウ!ガウガウ!!』

『ウガアアアアアア!!』

加奈「わ!?本当に来てる!」

獣型のそれらは、まるで全員の気が逸れた瞬間を待っていたかのように全速力でこちらに突っ込んできていた。

数が少ないと思っていたのは、身を隠していたカースを見つけられなかったからだったようだ。

黒兎(こちらの不意を突いタ攻撃とはナ、だがしかし!)

仁加「ムダなの!」

黒兎(無駄無駄ァ!!)

仁加の手から放たれた黒兎がその身を巨大化させ、突進してきた二体を壁に叩き付ける。

『ガウウウウ…!』

『ウガ、ウガ…!』

黒兎(ドヤァ…さて、持ッたいないけド、粉砕!)

仁加「玉砕!」

パキッと核が砕け、奇襲をしてきた獣型カースは消滅した。

美波「…い、今のは…」

ラウネ「にんぎょうそうさ、にしてはなんかすごかったですね」

美波「すごかったで片づけちゃダメだと思うんだけど…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:44:01.42 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「ちょっとびっくりしたけどちゃんと撃破できたの!こずえちゃんも教えてくれたしー…」

こずえ「…にかー?それ…へんなのぉー…」

仁加「?」

こずえ「……へんなのぉー…」

仁加「…?黒ちゃんがヘンなの?」

こずえ「…やー、なのぉ…」

仁加「こずえちゃんの言葉がわかんないの…」

美波「こずえちゃんも、いきなりぬいぐるみが大きくなったから驚いちゃったのかな?」

こずえ「…おどろいてないのぉー……おんなじなのぉー…」

仁加「あっ……」

仁加(そういうことかぁ…)

黒兎(OK、察シた)

加奈「どういうこと…?って聞いてもダメだよね…」

加蓮「なんていうか、こずえちゃんって独特の空気があるよね…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:45:48.22 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「と、とりあえず今はこずえちゃんの解読よりもシャッターなの。お喋りしてたらまたカースが突っ込んでくるかもしれないの」

美波「…お喋りしていて、少し気が抜けていたのを察して…?」

加蓮「確かに、こずえちゃんが言ってくれなかったら、気付くのに遅れて大変な事になってたかも」

こずえ「ふわぁ…?」

加奈「確かに……まさか隠れていたカースがあんな勢いで走ってくるなんて思いもしてなかったから…」

仁加「アタシ知ってるよ、隙を見つけて全力ダッシュ…ああいうのを『盗塁』っていうの」

美波「……間違ってないけど間違ってるね」

仁加「盗塁阻止でツーアウトなの」

ラウネ「あうとというより、でっどですね、つーでっど」

加奈(あっ、あのメモってこの事だったんだ…)

加蓮「次からはこういうのが無いように気を付けないと…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:46:25.35 ID:c+C6lj+M0<> 今度は隙を見せないようにしっかりカースを警戒しつつ、目的のシャッターの所に近づいていく。

美波も念のためにルピーを武器にして装備しているが、驚いた時にうっかり撃ってしまわないように引き金から指は離している。

美波「こういう時、柱の陰とかにカースがいそうで…さっきみたいに走って来られたら…」

加蓮「怖い映画の…なんていうか、襲われる前の空気みたい…」

加奈「わかるかも…でも、今の所飛び出てくる感じはしないかなぁ…多分…」

加奈(今の所、新しいメモは生まれてない筈だしね…)

仁加「加奈お姉ちゃんがこう言う時は信用できるの、安心なの」

加奈「そう言ってくれるのは嬉しいけど…気を付けてね?」

加蓮「うん、飛び出してきても対処できるとは思うけど…こっちを伺ってるかも、ちょっと嫌な気分…」

仁加「お姉ちゃんに嫌なことする奴はアタシが倒すから!!安心して!!」

加蓮「う、うん…?よろしく…?」

ラウネ「きあいがちがいますね…これがしすこん…」

こずえ「しすこんってなぁに?」

ラウネ「しるひつようはないです」

こずえ「ふぅん…?」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:47:52.29 ID:c+C6lj+M0<> ラウネ「そろそろですね」

加蓮「この辺りから道の端に荷物が積んであるね…」

こずえ「はこ…いっぱいあるよぉー…」

美波「ここは確か地上が近いから…中に運ぶ荷物を一時的にここに置いておいたのかも」

加奈「その荷物の一部がシャッターの邪魔になった…って感じなのかな?」

仁加「迷惑なの…」

美波「うん、この量は流石に予想外かな…」

大小さまざまな荷物がずらっと地下通路の端に並べられている。木箱からクーラーボックスや段ボール箱まで、種類も様々だ。

多くの荷物にはどこに運ぶ物なのかを示す札までついていて、それらが中に運ばれるものだと言うのはすぐにわかった。

加奈「あっ、あれが目的のシャッターかな?」

ラウネ「…お、あれですあれ。らうねがにげるときにくぐったしゃったー」

加蓮「あー…あのクーラーボックスがシャッターのジャマをしてたんだね」

クーラーボックスがシャッターの下にあることによって、数十センチの隙間が確かに生まれていた。

美波「中身にもよるけど…持ち手もあるし木箱とかよりは楽に動かせるかな?」

仁加「じゃあ、ささっと終わらせてさっさと帰るの!」

やっと帰れるからか少々浮かれつつ仁加がトテトテと近寄りクーラーボックスの持ち手に手を伸ばした。

加蓮「もう、一人じゃ無茶だよ…」

美波「それに、それを抜いたらシャッターがいきなり閉まって危ない可能性が…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:48:25.00 ID:c+C6lj+M0<> 何気なく、美波はクーラーボックスからシャッターに視線を移した。

素人が見てもシャッターの仕組みなどわかるわけもないのだが、ただ無意識に全体を見ようとしただけだった。

美波「!」

そして、彼女の視界に入ってきたのは、天井を這う黒い不定形の…

美波「……ふっ、伏せてぇぇ!!」

加奈「は、はいっ!?」

こずえ「ふぁ…?」

加蓮「え?」

仁加「あっ」

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!

叫んだ瞬間、引き金から離してあった指を自らの意思で引き金にかけ、そして銃弾を放った。

『ピギャ…!?』

天井からパラパラと砕けちった核が落ち、黒い泥と共に地面に落ちる前に消えていった。

こずえ「きえたのぉー…」

加奈「えっ…カース…?」

仁加「…上にくっついてたかぁ、気付かなかったの」

美波「…………や、やった…の、かな…?」

ラウネ「みごとにあてることができましたね、せいちょうです」

美波「よ…よかったぁ…」

天井に張り付いていたカースを見つけてとっさに撃ったはいいものの、反射的に撃たないという事に緊張してしまったらしく、へたり込んでしまった。

仁加「あっ、美波お姉ちゃん大丈夫なの?」

美波「……今、怖かったのを我慢してたから…。それより、シャッターに傷とかは…?」

加蓮「ちょっと弾が当たった跡は残ってるけど…壊れてないみたい。すごく丈夫なんだねこのシャッター」

美波「よかった…穴だらけになったらどうしようかと…」

仁加「助かったけど、無茶しちゃダメなの、ぷるぷるしてるの」

こずえ「ぷるぷるぅー…」

加奈「ぷ、ぷるぷるって…もう少し別の言い方もあるんじゃ…あ、立てますかっ?手を貸しますよ」

美波「あ、ありがとう…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:50:00.32 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「さっきは油断したの、こんどはちゃんと引っ張るの」

全員で改めて周囲を見渡し、今度こそカースがいないと判断すると、仁加が我先にとクーラーボックスに飛びついた。

加奈「…それにしても、出入り口に近いここに一匹しかいないのはやっぱりちょっと違和感を感じるような…?」

加蓮「それは私も思ったけど…もしかしたらヒーローが、カースを発生させていた何かを止めてくれたのかも」

美波「アイドルヒーローが動いてたみたいだし、それが一番あり得るかな?」

仁加「ぬぎぎぎぎぎ…お姉ちゃん達ぃ!!早く手伝うの!一人じゃ、むーりーなーのー!!」

加蓮「ご、ごめん!」

加奈「手伝うからね!」

美波「皆で、いっしょに…」

こずえ「がんばってぇー…」

ラウネ「ふれーふれー」

黒兎(仁加、本当はでキる癖に…あざといとイうか、役者トいうカ…こういう時も頼ッていいのに)

黒兎(そういえバ、あのシャッター閉じられたら今後モ突破無理じゃネ?…まぁいいか)

仁加「じゃあ、せーの、よいしょ!で引くの。せーのっ!」

「「「よいしょっ…!!」」」

やはり多少の重量はあったが、4人は無事にクーラーボックスをシャッターの下から引き抜く事に成功した。

そして引き抜いたのを感知したのか、ゆっくりとシャッターが降りる。今度こそ完全に封じる事が出来たようだ。

美波「よかった…これで大丈夫かな?」

仁加「人知れず平和にこーけんしたの、ホントなら学校の人がこういうのをやるべきなの」

加奈「それはそうかもだけど…言わないでおこうね」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:51:00.66 ID:c+C6lj+M0<> こずえ「…おわったのぉー…?じゃあ…こずえ、いくねぇー…」

加奈「……こずえちゃん?」

こずえの言葉を聞いて振り返ってみれば、先ほどまでそこに居たはずのこずえの姿が無い。

加蓮「えっ?」

美波「こずえちゃん!?」

加奈「ええええっ!?き、消えたっ!?」

ラウネ「しゅんかんいどう、てれぽーとってやつですかね」

仁加「あー、びゅーんってそう言う事…」

加蓮「瞬間移動って…どこに…?」

ラウネ「さぁ…」

加奈「どどどどどどどどどうしようっ!!こずえちゃんひとりでどこかに行って危ない目にあったら…!!」

仁加「おちつくの、れれれれーせーになるの!」

ラウネ「おちつくのです、ちゃんとかんがえるのです」

加奈「で、でも…」

ラウネ「どうしてこうなったとか、こころあたりないのですか?」

加奈「ふぇ?」

美波「そういえば、こずえちゃんは『終わったの?』って言ってたよね」

仁加「何が終わったんだ…って感じなの」

加奈「………あっ、私『シャッターを閉め終わるまでは付いてきてくれるかな』って…」

加蓮「…まさか、その言葉の通り『シャッター閉め終わるまで』付いてきてくれたって事?」

仁加「じゃあ案外あっさりお母さんたちの所に帰ったかも、きっとすごい天然さんなの」

加奈「それなら…いいんだけど…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:51:34.25 ID:c+C6lj+M0<> 加蓮「こずえちゃんの事で不安になるのは分かるけど…とりあえず、校舎に戻る?」

加奈「うん…」

仁加「大丈夫、こずえちゃんもバカじゃないの、テレポートできるならカースからも逃げられるって。ネイティブは駄目なの」

加奈「だ、だからそれはネガティブだって!」

美波「でも、仁加ちゃんの言う通りなんじゃないかな?結構マイペースというか…不思議な子だったけど、カースとかはしっかり見ていたよね」

加奈「……それはそう…かも」

美波「心配する気持ちはわかるけど…そろそろ今日の学園祭も終わる時間だし、校舎内に残っていたら職員の人が何とかしてくれると思う」

加蓮「カースだけは気掛かりだけど…さっき仁加ちゃんが言った通り、逃げる事ならできると思うし…」

美波(あ、もしかしたら迷子になってたりは…だ、大丈夫だよね…)

仁加「案外またひょっこり会えるかもなの、縁って奴なの」

加奈「……うん! また会えるよね、きっと…そう考える事にする!」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:52:09.60 ID:c+C6lj+M0<> 先程の道を通り階段を上って教習棟に戻ってくると、窓の外には夕焼けが見え、殆ど人気の無かった廊下には普通に人々が歩いていた。

美波「…もう、大丈夫なのかな?」

加奈「本当に事態が落ち着いてきたみたい…?」

今の状況を把握しようとしていると、階段の近くでキョロキョロしているのが目についたのか廊下を歩いていた婦警がこちらへ近づいてきた。

早苗「貴女達……あら、加蓮ちゃんに美波ちゃんじゃない」

加蓮「…あ、早苗さん!」

美波「早苗さん…」

仁加「お姉ちゃん達、知り合い?」

加蓮「うん、近所の人だよ」

美波「近所の人で…」

加蓮「…あれ?」

早苗「何言ってるのよ、二人とも同じ女子寮暮らしじゃない」

加蓮「ええっ!?」

美波「……そういえば、名前に聞き覚えがあるような…」

早苗「…今まで知らないで一緒にいたの?」

加蓮「さっき偶然会って…それで…」

早苗「偶然って怖いわねぇ…」

仁加「ふぅん…」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:53:02.51 ID:c+C6lj+M0<> 早苗「まぁ、仲良くなったなら良いんじゃないかしら」

美波「ところで、警察がいるのはどうして…?」

早苗「ああ、もうカースの大量発生理由の怪人を追い払って、カースも大体片付いたみたいだから、私達が校舎内の人たちを誘導してたのよ」

加奈「やっぱり、大体終わってたんだ…」

早苗「一応放送も流れたと思うんだけど…どこにいたの?」

加蓮「地下に行ってました…ちょっとシャッターが閉まってないって聞いて…」

早苗「……閉めに行っていたの?」

加蓮「…はい」

早苗「まぁ…無事に戻って来たならいいわ。シャッターが閉まってなかったっていうのは報告しておくけど…」

早苗「とりあえず、正門まで誘導するわ。貴方たち以外にも残っている人が居るかもしれないからお喋りはそこまでね」

そのまま早苗に先導され、教習棟を出て、真っ直ぐ正門へと向かう。

加奈「やっぱり、昨日よりも大変なんですか?」

早苗「まぁ…中にカースが入ってきた分、混乱も多かったみたいで…一般の能力者のおかげか、予想よりも負傷者は少ないみたいだけどね」

美波「お疲れ様です…」

早苗「…二日連続で緊急出動なんてね……これ以降なにも起きなきゃいいんだけど。帰ったら絶対とっておきの日本酒飲むわ」

美波「ほ、本当にお疲れ様です…」

そんな風に会話しているうちにあっという間に正門に到着した。

同じように警官に誘導されてきた人たちが、端の方で携帯で連絡を取っているのだろう姿や、疲れ切って座り込んでいるのが見える。

警官「片桐先輩、お疲れ様です!」

早苗「ありがと、私は教習棟のまだ見て無い所を確認してくるわ」

警官「はいっ、わかりました!」

早苗「というわけで、私はあそこに戻るから。貴方たちは用が無いなら寄り道しないでさっさと帰っちゃいなさいよー」

加蓮「あ、はーい…」

そう言うと、早苗は教習棟の方に戻って行った。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:53:45.96 ID:c+C6lj+M0<> 仁加「…えっと、帰るの?」

加蓮「そうだね、もう終わりみたいだし…あ、私は美波さんと一緒に帰るのかな」

美波「うん、まさか同じところで暮らしてるなんて思ってなかったけど……あ、ラウネちゃんは…」

ラウネ「とりあえずついていきます」

加奈「あ、そっちの方向なら私も途中まで一緒に行けますねっ」

仁加「………」

加蓮「仁加ちゃん?」

仁加「…アタシは別の方に帰るから…ここでバイバイなの」

加奈(…あれ、一緒に住んでないんだ…?)

加蓮「あっちって…どこかな?」

仁加「クラリスお姉ちゃんの教会だよ」

美波「教会…?この近くの教会って……確かちょっと遠いよね」

加奈「ちょっと暗くなってきたし…一人じゃ危ないよ?」

仁加「心配しなくても帰れるの、お姉ちゃん達とバイバイなの」

加蓮「時間も時間だし…教会まで送るよ?…あ、ゴメンね、遠いみたいだし二人は先に帰ってていいから…」

美波「それなら、私達も一緒に…」

仁加「だ、大丈夫だから!アタシは一人で…」

加蓮「だーめ。……仁加ちゃん、ちょっと遠慮しちゃってるみたい。二人は気にしないで、私に任せて」

仁加「でも、でも……」

加奈「……そういう事なら…」

美波「…うん、仁加ちゃんのお姉ちゃんは加蓮ちゃんだもんね」

加蓮「ありがと。じゃあ二人とも、またいつか会おうね」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:54:32.14 ID:c+C6lj+M0<> 二人と正反対の方へ歩き出すと、仁加が小さな声でボソリとぼやいた。

仁加「…友達と帰ればよかったのに。一緒に帰れるところだったのに」

加蓮「一人にしないって約束したばかりでしょ、忘れちゃった?」

仁加「そうだけど……」

加蓮「私…遠慮ばかりされるの、嫌だな」

仁加「!」

加蓮「遠慮されるくらいなら…ワガママ言ってくれた方が、私は安心できるよ」

仁加「…なんで?」

加蓮「……さぁ、何でだろうね。ほら、行こう?道は仁加ちゃんが教えてね」

仁加「うん…」

加蓮は少し強引に手を繋ぐ。遠慮していた癖に、離さないようにしっかりと握り返すその手に、また愛らしさを覚えた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:55:09.51 ID:c+C6lj+M0<> 夕暮れの道を手をつないで歩く。冷たい風が吹いて、落ち葉を舞わせる。

仁加はそんな風景に少し見とれ…はっとなって周囲に誰も居ないのを確認するように辺りを見回した後、ぽつりぽつりと言葉を漏らした。

仁加「…良い子じゃないと、嫌われると思った」

仁加「ワガママ言うと、良い子じゃないって…嫌われると思って」

仁加「……どうすればいいのか、全然わからなかった」

先程までとは全く別の雰囲気の彼女に動じずに、加蓮は真剣に答える。

加蓮「仁加ちゃん。私を大事に思ってくれるのは嬉しいけど、仁加ちゃんには自分の事も大切にしてほしいの」

仁加「…うん」

加蓮「だから、仁加ちゃんにはちょっとくらいワガママ、言ってほしいな」

仁加「…」

加蓮「私にできる事があるなら、何でもやるから…ね?」

仁加「なんでも?」

加蓮「うん」

加蓮の言葉を聞いて、少し頬を赤く染まる。

少し言葉に出すのを恥じらうようにまごまごしていたが、小さな願いが口からこぼれた。

仁加「じゃあね、あのね……ぎゅって、して…ほ、ほしい……かもしれない」

加蓮「…ふふっ、いいよ。おいで」

両腕を広げて加蓮が微笑む。

仁加「ここで!?」

加蓮「…ダメだった?」

仁加「だ、ダメじゃ、ないけど…で、でも黒ちゃんが見てるから…」

黒兎(先に帰るから好きなだけイチャコラしてなサい)

仁加(!?)

仁加「……帰っちゃった」

加蓮「えっ?」

仁加「…なんでもないの」 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:57:04.23 ID:c+C6lj+M0<> いつの間にか黒兎は手の中から抜け出していた。本当に空気に耐えられず逃げ出したらしい。

仁加「…お…お姉ちゃん…!!」

一呼吸おいて、仁加は加蓮の胸に飛び込んで思い切り抱きしめた。

ぬくもりと、柔らかな感触…今抱きしめているのが加蓮であるという感覚が、いくつもの感覚器官を通して確かなものとして感じられる。

優しく抱き返しながら頭を撫でてくれるのが嬉しくて、まるで母親に抱きしめられた赤子のような安心感を得ていた。

仁加「離れたくない…」

加蓮「…甘えん坊さんだね」

仁加「……だって、手を繋いでる時より近いの」

加蓮「そうだねー…仁加ちゃんは温かいけど…私の体、冷たくないかな?」

仁加「ううん、だいじょぶ…だいじょーぶ…」

少しずつ加蓮を抱く腕の力が抜けていく。顔を見てみれば今までのストレスから解放されたからか、腕の中で眠たそうにしていた。

加蓮「もしかして…眠い?」

仁加「……ねるの、こわい…ねて、おきたら……ぜんぶ、なかったこと、なりそう…で…」

彼女にとって、眠ることは夢の世界に呑まれる事だ。それと同時に夢の世界から解放される事でもある。

このドキドキも、嬉しい気持ちも…また悲しい気持ちの中に堕ちる切欠になりそうで怖いのだ。

仁加「いま…ゆめじゃない?……わすれない?」

加蓮「大丈夫、夢じゃないよ…それに、私は絶対忘れないよ。…忘れても絶対にまた思い出すから。……だから安心しておやすみ」

仁加「…う…ん」

昔の記憶、微かな思い出の中の母親の真似をして背中をポンポンと優しく叩いてみる。すると本当に酷い眠気だったようであっさりと眠りについた。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:58:17.97 ID:c+C6lj+M0<> 加蓮「…さて、どうしよう…抱っこしたまま運べるかな…?」

腕の中で眠りにつかせたのは良いものの、加蓮はこの先は全く考えていなかった。

加蓮「…あれ、仁加ちゃんって思ったより軽い…?…いや…軽すぎるよね、流石に…」

驚いたことに、抱いたまま余裕で立てる。羽のように軽い。

あくまで本来の肉体を持っていない、奈緒の封じられた記憶の中の姿を真似て泥で構成した存在である以上、おかしくはない事ではある。

それにしてもあまりにも軽すぎるのは、幸せすぎて負の感情より正の感情が上回ってしまっているから。

未だに心の底に根付く負の感情がなければ、カースが聖なる力で浄化されるように消えていたかもしれない。

加蓮「何でこんなに軽いんだろ…ちゃんとご飯食べてるのかな…ってそういう事じゃないか」

加蓮「とりあえず、クラリスさん…の教会に仁加ちゃんを送らなきゃね」

幸せそうに眠る少女を抱えて、加蓮は教会に向かって歩き出した。

加蓮「……あっ!?そういえば私、教会の場所知らない…ど、どうしよう…」

…少し道に迷いながらも、であるが。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/03(金) 23:59:10.43 ID:c+C6lj+M0<> 以上です
仁加…というか奈緒はめんどくさい子。

メンバーを合流させたらハチャメチャすぎて想定より長くなり、途中で加蓮と美波が同じ場所に住んでいるのを思い出し途中から作り直しになったり…(白目)
いや、楽しかったけどね!
とりあえず2日目終了って感じかな…?
加蓮、加奈、美波、ラウネ&ルピー、早苗さん、名前だけクラリスさんをお借りしましたー

情報
・泥以外の肉体を持たない人の心を持つカース(仁加)は、負より正の感情が上回ると非常に弱体化、下手すると消滅する模様。
※仁加は心の奥底に未だ癒えない悪夢の記憶があるため、消滅はできない。また、余程幸せじゃないと弱体化も発生しない。 <>
◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/04(土) 01:00:48.63 ID:zZ70eiqY0<> アニメ見たし、次のスレ立てて来ます <> ◆zvY2y1UzWw<>sage saga<>2015/04/04(土) 01:09:36.75 ID:zZ70eiqY0<> part12建てました
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428077015/l50 <>
◆cKpnvJgP32<>sage saga<>2015/04/04(土) 04:50:33.34 ID:IEMbCevbo<> お二方おつー

>>969
えげつねぇ……!
なんてえげつねぇ能力なんだ、『裏切り』のカース……!
鏡さんが……、鏡さんがっ……!
よく考えたら鏡さんただのモブだったわ(冷静)

鏡さんにせよ電気さんにせよ、『エージェント』のモブ勢は出番の割に強烈な印象を残して散りますねぇ……

そういやあの酔っぱらい……、どこか見覚え……というか聞き覚えというか……
なんか……いや違うか……? でも……、あれひょっとして……
他人の空似……? 関係ない人……? そう……、そっか、別人か……
でもなんとなく……、心当たりがあるような、ないような気が……
勘違いか……、ならいいんだ……、どこかちょっと……、知ってる人のような気がして……

>>995
とりあえずは2日目終了ゥー!
って感じですかね

それなりに戦力はある面子のはずなのに、終始なんだかのんびりした雰囲気で和む
本当は不穏なフラグとか皆抱えてるんだけどね(ニッコリ) <>
◆6osdZ663So<>sage saga<>2015/04/05(日) 18:30:16.25 ID:9tHGkgBLo<> >>995
2日目終了ですねー
色々とやらかした分は(主に校舎の損壊とか)警察が片付けてくれるでしょう…(目そらし)
好きなだけイチャコラしてなサい、イエスだね!
不穏なフラグを打ち消せるくらいお幸せに……いやしかし幸せになりすぎると消滅するのか?んぐぐ…

投下&スレ立て乙でしてー <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/10(金) 11:09:05.05 ID:0aG5VxMdo<> 1000 <> 1001<><>Over 1000 Thread<>             /          \
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>【咲安価】京太郎「俺だって青春したいんだよ!」【育成】 @ 2015/04/10(金) 08:21:26.65 ID:Pi/uMBv6O
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ここって勘違いした中高生しかいないの? @ 2015/04/10(金) 07:28:54.71 ID:FXwTGEA+o
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テスト2 @ 2015/04/10(金) 04:26:37.43 ID:???
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1428607597/

唯「もしもあずにゃんが同級生だったら!」 @ 2015/04/10(金) 04:21:25.79 ID:myCZaNjZ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428607285/

テスト @ 2015/04/10(金) 04:09:02.64 ID:???
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1428606542/

二宮飛鳥「もう…長くないみたいだ」 @ 2015/04/10(金) 03:48:46.13 ID:fS6/z5Ob0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428605325/

幼馴染「恋と魔法の物語」 @ 2015/04/10(金) 03:30:03.62 ID:7D4+33D+o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428604203/

ドルベ「私は桂言葉を守る白き盾ドルベ!!」 @ 2015/04/10(金) 00:57:22.04 ID:2jtj8f3+0
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