◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:12:00.88 ID:smbC/+Dp0<>・このSSは、中国の新〜後漢時代を舞台にした作品です。

・史実と異なる点があります。ご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454242320
<>モバマス光武帝
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:13:30.44 ID:smbC/+Dp0<>

〜蔡陽(さいよう)〜


劉秀(塩見周子)「ふわぁ〜……今日も暇だなぁ」

農民「おや、文叔(劉秀の字)ちゃんじゃねえか。今日も散歩かい?」

周子「そだよ。おじさんも、畑の手入れに精が出るね」

農民「おうよ! この土地は今年から開墾してるからな。うまくいけば、暮らし向きがもっとよくなるはずさ」

周子「でも、なんだか苦労してるみたいだけど?」

農民「そうなんだよな。灌漑を伸ばしやすい土地を選んだんだけど、この辺の土地は石が多くていけねえ。
   いちいち石を取り除かなくちゃならねえんだよ」

周子「え、一個一個手でのけてるの?」

農民「そうだけど」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:14:18.54 ID:smbC/+Dp0<> 周子「そんなことしなくても、篩(ふるい)にかければいいじゃん」

農民「え、篩だって? ……ああ、そっか!」

周子「ちょっと面倒臭いけど、確実に小石を取り除くことができるよ。それに、選別した石は別の用途で使えるし」

農民「相変わらず農業に詳しいな、文叔ちゃんは」

周子「そうでもないよ。あたしはただ、楽がしたいだけ」

農民「でもさ、何か勿体無くないか? 農業だけじゃない。このあたりでは一番文字に明るいし、いろんな書物の知識があるじゃないか。
   冬場の狩りだって、誰よりも多くの獲物を取ってくるんだし」

周子「いーのいーの。あたしは片手間に仕事して、何事も無い平穏な人生を送りたいんだ」

農民「ふ〜ん……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:15:10.98 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯(りゅうえん)「おい文叔、こんなところにいたのか」

周子「あ、お兄ちゃん」

劉縯「まったく、昼間からプラプラして、畑の世話はどうした?」

周子「ちゃんとやってるよ。何なら一緒に見に行こうか? あたしの畑」

劉縯「別にいい。今のは愚問だったな……お前は誰よりも働いていないように見えて、その実一番成果を上げる奴だということはよく知ってる」

周子「それで、何か用?」

劉縯「ああ、お前に話がある。家にケ禹(とうう)を待たせているから、一緒に来い」

周子「わかった」

周子(何かな……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:16:47.53 ID:smbC/+Dp0<>
〜劉氏屋敷〜


ブリッツェン「……」スヤスヤ

周子「あ、ブリッツェン寝てる。それに……」

ケ禹(イヴ・サンタクロース)「こんにちは〜、お邪魔してますぅ〜」

周子「イヴちゃんおはよ。で、うちのお兄ちゃんから何の用事をたのまれたの?」

イヴ「ふふふ。詳しい話はお兄さんからうかがってください」

周子「むぅ〜、焦らすねぇ」

劉縯「外で立ち話というのも何だから、お前たち中に入れ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:17:42.87 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……で、話って何なのさ?」

劉縯「文叔、お前もいい歳になったんだから、いつまでもこの地で遊んでいるわけにもいかないだろ」

周子「いやいや、ただ遊んでるわけじゃないって。ちゃんと農作業もしてるし、家の手伝いもしてるじゃん」

劉縯「そういうことじゃない。お前は親戚の中でも頭抜けて出来が良い。
   だから都に留学して、官途を目指すというのはどうだ?」

周子「えぇ〜、留学?」

劉縯「そうだ。お前なら、どこぞの県令や太守ぐらいにはなれるんじゃないか?」

周子「面倒臭いなぁ。そもそも都に留学するって言っても、お金ないし」

劉縯「金のことなら心配するな。ほれ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:18:37.37 ID:smbC/+Dp0<> 周子「この壺なに?」

劉縯「開けてみろ」

周子「うわぁ、お金が一杯……こんな大金、どうやって工面したの?」

劉縯「来歙(らいきゅう)殿が貸してくれたんだ。来歙殿は昔からお前のことを可愛がっていたからな。
   実はこの留学の話も、来歙殿から勧められたものなんだ」

周子「そっか……」

劉縯「それに、慣れぬ地で一人じゃ心細いだろうということで、ケ禹に同行をお願いしたというわけだ」

周子「ああ、それでイヴちゃんがいるんだ」

イヴ「私も都は初めてなので、いまからワクワクです♪」

周子「う〜ん、でもなぁ」

周子(お金まで用意してるなんて、これじゃ断れないな)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:19:48.58 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯「どうした? これでもまだ不満か?」

周子「……ちょっと待った。一つだけ、まだ問題があるよ」

劉縯「なんだ?」

周子「留学するのはいいけどさ、紹介状とかいるんじゃないの? 関係各所に」

劉縯「なんだそんなことか。ほれ」

周子「え、何、それ」

劉縯「これも、来歙殿がわざわざ都の進士にまでかけあって用意してくれたものだ。
   ここまでお前に尽くしてくれているのだぞ、断れるわけないだろ」

周子(ぐぬぬ……逃げ場がない……)

劉縯「もう諦めて留学してこい」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:20:44.23 ID:smbC/+Dp0<> 周子「けどさぁ……」

劉縯「いいか、良く聞け。俺たちは漢の開祖である、高祖劉邦の末裔だ。官職に就いてもおかしくはない」

周子「高祖の子孫だって言っても、天下に劉氏なんて掃いて捨てるほどいるよ」

劉縯「その通りだ。しかしお前は、出生からして並外れている」

周子「たとえば?」

劉縯「高祖の母、劉媼が沢で昼寝をしていると、彼女の体の上に赤龍が蜷局を巻いていたという。
   その後生まれたのが劉邦なのだ。それに、劉邦はどこにいても天上に雲が煌めいていたという」

周子「ただの言い伝えでしょ、それは」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:21:42.01 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯「お前が生まれたときも、部屋の中が赤い光で満たされ、赤龍が飛翔したと母上がおっしゃっていた。
   それにお前が生まれた年は、近辺の水田では嘉禾(かか:豊作の稲穂)が生じたというではないか。
   父上はそれゆえ、お前を“秀”と名付けられたのだ」

周子「まぐれだよ、まぐれ」

劉縯「どうだ、お前はどこか高祖と似ているところがある。きっと将来大成するに違いない」

周子(……うん? ちょっと待てよ。都って言うからには、娯楽がたくさんあるんだよね。
   ということは、適当に勉強してこのお金で遊び放題……!)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:22:12.37 ID:smbC/+Dp0<> 周子「わかったよ、お兄ちゃん。あたし、留学する!」

劉縯「そうか、よくぞ決心してくれた!」

周子「善は急げって言うからね。いまから旅支度して、数日中に出発するよ」

劉縯「ケ禹も、妹のことをよろしく頼む」

イヴ「がんばりま〜す」

周子「イヴちゃんもいるから安心だよ。じゃあ、あたしはこれで……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:23:00.24 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯「そうだ、一つ言い忘れていたことがある」

周子「何?」

劉エン「そのお金だがな……」

周子「今すぐには返せないから、出世払いってことでいいよね?」

劉縯「いや、返さなくても良いらしいのだが……それ、学費分しかないぞ」

周子「ってことは、都までの路銀は?」

劉縯「お前の貯金があるだろ」

周子「えーっ! じゃあ生活費はどうすればいいの?」

劉縯「自分で稼げ」

周子「そんなのってないよ! あたしみたいな田舎っぺいが、都会に出ていきなり働けるわけないでしょ!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:23:46.52 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯「つべこべ言うな。どうせお前のことだ、仕送りしてもらいながら暢気に都会暮らしができるとか考えていたんだろう」

周子「うっ」

劉縯「甘いな。それにさっきお前は、留学するってはっきり宣言した。二言はないよな?」

周子「ちぇ……しょうがないか……」

劉縯「少しは世間の荒波に揉まれてこい。良い経験になるだろうし、人脈も視野も広がるだろう」

周子「こうなったら後には退けないか。じゃあ行ってくるよ」

イヴ「私もいますから、大丈夫ですよ」

周子「うん、頼りにしてる」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:24:31.25 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……とは言うものの、何だかうまいこと言いくるめられて、家から追い出されちゃったってかんじ」

イヴ「先のことを考えるのは、後にしましょう。今は都への旅を楽しめば良いんですよ」

周子「ふふっ、そうだね」

イヴ「ブリッツェンも楽しそうですし。ね〜?」

ブリッツェン「?」

周子(ブリッツェンって、人の言うことわかってんのかな)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:25:05.66 ID:smbC/+Dp0<> 周子「そういえばさ、ブリッツェンって何なの? 鹿でもないし、馬でもなさそうだし」

イヴ「ブリッツェンはトナカイですよ〜」

周子「トナカイ? トナカイって何?」

イヴ「トナカイはトナカイですよ〜」

周子(よくわかんない)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:26:01.88 ID:smbC/+Dp0<> 周子「ところでさ、イヴちゃんは学費とか生活費とかは大丈夫なの?」

イヴ「周子ちゃんと同じですよ。足りない分は自分で働いて賄えって言われてますから」

周子「実家はお金持ちなのに?」

イヴ「お母さんが厳しくて……“学問だけに打ち込むのは良くない。世間に出れば学問なんて役に立たないこともある。
   だから少しは都の世俗に触れてくるのも良い勉強だ”って……」

周子「それは厳しいね。千尋の谷から突き落とすような感じ」

イヴ「大変だとは思いますけど、それよりも都会暮らしが楽しみです!」

周子「そうだね。あたしも、先のことを考えるのはよそう。まだ都にすら着いてないんだから……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:26:57.29 ID:smbC/+Dp0<>
〜長安〜


周子「やっと着いたぁ、ここが都か」

イヴ「すごく大きな城郭ですねぇ〜。城壁を見上げていると、首が痛くなっちゃいます」

周子「さて、まずは学舎と寄宿舎に行って手続きをしてこないと」

イヴ「でも、こんなに広いとどこに何があるのかわかりません。迷っちゃいそうです〜」

周子「こういう時は焦らない焦らない、どっかの茶店にでも入って休憩しようよ。
   ついでに店の人に場所を聞けばいいし……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:27:44.62 ID:smbC/+Dp0<>
ドン


周子「おっと」

?「いてて……」

周子「ごめん、大丈夫?」

朱祐(十時愛梨)「こちらこそごめんなさい……私、いつもこうで……」

周子「……ん? もしかして」

愛梨「あの、私の顔に何かついてますか?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:28:47.51 ID:smbC/+Dp0<> 周子「やっぱりそうだ! 愛梨ちゃんだよね!?」

愛梨「ど、どうして私のことを知ってるんですか?」

周子「ほら、昔あたしの家に何回か遊びにきてたじゃん。蔡陽の劉秀、周子だよ」

愛梨「蔡陽の……あーっ! 思い出した!」

イヴ「お二人はお知り合いなんですか?」

周子「そう。愛梨ちゃんは朱祐って言って、劉家とは遠い親戚なんだ」

イヴ「そうだったんですか〜。私はケ禹って言います、イヴと呼んでくださいね〜」

愛梨「初めまして、イヴちゃん。よろしくおねがいします」

ブリッツェン「〜! 〜!」

愛梨「あれ、この子は?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:29:52.56 ID:smbC/+Dp0<> イヴ「トナカイのブリッツェンですよ。とってもお利巧さんなんです」

愛梨「へえ〜、すごいですね〜」

周子「ところで、愛梨ちゃんがどうして都にいるの?」

愛梨「私、最近留学を始めたんだよ」

周子「それじゃあ、アタシ達と同じだね」

イヴ「周子ちゃんの場合は、家から追い出されたと言った方が近いようですが」

愛梨「い、いろいろと大変なんだね……」

周子「ま、都に知り合いがいてよかったよ。あたしたち、太学(たいがく)も寄宿舎の位置もわからなくてさ」

愛梨「じゃあ私が案内してあげましょう。愛梨についてきてね♪」

周子「ありがとー」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:30:27.04 ID:smbC/+Dp0<>
〜寄宿舎〜


周子「ふぅ……手続きは終わったし、これで晴れて書生になれたわけだね」

愛梨「いっぱい勉強すれば、朝廷の高官の人たちに勧誘されることもあるみたいです」

イヴ「それで官吏になって出世していくというわけですか」

周子「あたし達には、出世よりも先に考えないといけないことがあるけどね」

愛梨「どういうこと?」

周子「生活費だよ。学費は何とか工面してもらったんだけどさ、これからどうやって生活していこうかと思って」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:31:11.43 ID:smbC/+Dp0<> 愛梨「難しい問題ですね。私も、勉強の合間に庸作とかしてますけど」

周子「庸作?」

愛梨「文章を書き写すお手伝いとか、そんな感じです。賃金は安いけど、勉強にもなるし一石二鳥かな」

イヴ「私も何とかしないといけませんね〜」

周子「う〜ん、どうしよっかな〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:32:15.72 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……あ、そうだ! いいこと思いついちゃった!」

愛梨「どんなの?」

周子「蔡陽にいた頃ね、近所の農家の子が熱を出して薬を飲ませたことがあったんだけど、薬って苦いでしょ?
   だからあたしが、薬を蜜で包んで飲ませてあげたことがあったんだよ」

イヴ「そういえば、そんなこともありましたねぇ〜」

周子「だからさ、安い黒蜜とか用意して、風邪薬に混ぜて路上販売するってのはどう?」

愛梨「おおっ、それは良い案かもしれません」

周子「上手くやれば文章の庸作なんかよりずっと稼げるんじゃない? 皆でやろうよ」

愛梨「愛梨、参加しまーす!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:33:09.98 ID:smbC/+Dp0<> イヴ「えっとぉ……私は別の仕事を思いついたので、そっちをやります〜」

周子「別の仕事?」

イヴ「ねー? ブリッツェン?」

ブリッツェン「?」

周子「まあいいや。何だかわかんないけど、そっちはイヴちゃんにまかせるとして、あたし達はさっそく準備しよう」

愛梨「はい♪」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:33:49.12 ID:smbC/+Dp0<>
〜しばらく後〜



周子「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 誰でも飲みやすい風邪薬だよ〜」

愛梨「薬なのにとっても甘くって、薬は苦手という方におすすめですよ〜!」

女性客「お嬢ちゃんたち、薬を売ってるのかい?」

周子「そだよ。でもただの風邪薬じゃないんだよね〜。ほら見てよ」

女性「へえ、薬と蜜を混ぜてあるんだね?」

愛梨「そうなんです。これなら、薬は苦手なお子さんにもオススメです♪」

女性「それじゃあ、この小壺を一つおくれ」

周子「まいどあり〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:34:51.11 ID:smbC/+Dp0<> 周子「よしよし、順調な滑り出しだね」

愛梨「この調子なら、用意した分は全部売れちゃうかもしれないね」

男性客「お嬢ちゃんたち、辻で何を売ってるんだ?」

周子「ほらこれ。蜜でくるんだ風邪薬だよ。甘くて飲みやすいよ」

男性客「ふうん、薬を蜜で包むとは考えたな。うちの子に風邪薬を飲ませるのは、確かに骨が折れるし……
    よし、一つもらおう」

愛梨「毎度ありがとうございます♪ どうぞ……」

男性客「お、おっと!」

愛梨「きゃあ!」ベチャ
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:35:34.23 ID:smbC/+Dp0<> 愛梨「ふえ〜ん、ごめんなさ〜い。少しこぼしちゃいました〜」ベトベト

男性客(こんな可愛い女の子に……蜜がかかって……なんというか、その……)

愛梨「別のものと取り換えますから、少し待っててください」

男性客「い、いや、いいよ。こぼれたのもほんの少しだからさ、このまま持って帰るよ」

愛梨「本当にいいんですか!?」

男性客「いいって、いいって」

男性客(いいもの見せてもらったし……)
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/31(日) 21:36:03.02 ID:D0iqnfOB0<> 期待 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:36:41.98 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……」

愛梨「ど、どうかしましたか、周子ちゃん」

周子「いや、なんでもないよ」

周子(蜜まみれの愛梨ちゃんか……これは流行るっ!!)

周子「ねえ愛梨ちゃん」

愛梨「はい?」

周子「今度から、もうちょっと露出多めな服で販売してみようか」

愛梨「な、何言ってるんですか、も〜!」

周子「あはは、冗談だって」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:37:10.41 ID:smbC/+Dp0<> 周子(でも、愛梨ちゃんを全面的に押し出して売り子をさせれば、集客につながると思うんだけどな……)

客「お〜い、甘い薬を売ってるのはここか?」

客「私にも一つ頂戴!」

周子「おっと、お客さん増えてきたね」

愛梨「今度はドジしないように……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:39:21.95 ID:smbC/+Dp0<>
ワイワイ ガヤガヤ

?「おや、あの人だかりは何だろう? ちょっと覗いてみようかな」

客「俺にも一つくれ〜」

客「こっちはその大きい壺でおねが〜い!」

ギュウギュウ

?「全然見えない……たかが露店に、こんなに人が詰めかけるなんて珍しいな」

?「ちょっとー! あたしにも見せてー!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:40:24.71 ID:smbC/+Dp0<> 周子「次のお客さんどうぞー」

?「やれやれ、やっと来れた」

愛梨「お待たせしました。ご注文をお伺いします」

?「な、ななな……」

周子「ん? お客さんどしたの」

?「な、なんと! こんなところに大きいお山(巨乳)と美しいお山(美乳)が二つもあったとは!
  今まで都に居ながら見落していたとは、長き己の不明を恥じよ! 自分!」

愛梨「あの〜、お客様、どうかしましたか?」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:41:15.67 ID:smbC/+Dp0<> 銚期(棟方愛海)「あたしの名前は銚期(ちょうき)です! 趣味は指の運動です! どうぞ愛海と呼んでください!!」

周子「えっと……わざわざ自己紹介ありがとう。で、何買ってくれるの?」

愛海「あ、その……」

愛海(しまった! 露店で何を売ってるか見物するだけのつもりだったのに〜)

愛梨「美味しいお薬ですよ。『良薬は口に甘し』です♪」

愛海「あの……その……」

周子「?」

愛海(こういう時、何て言えば良いのかな……よし!)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:41:58.10 ID:smbC/+Dp0<> 愛海「あたしを、弟子にしてください!」

周子「は?」

愛梨「で、弟子?」

愛海(……ってちがーう! テンパって見当違いのこと言っちゃったぁ……)

周子「ああ、つまり、売り子の手伝いをしたいってことだよね?」

愛海(ちょっと違うけど……まあいっか!)

愛海「お二人のお山……じゃなかった。お二人があまりにも商売がお上手なものですから、
   その秘訣の一端でもご教授願えませんかということでして……」

周子(ふむ……愛梨ちゃんに較べれば幼すぎる。でも世のニーズにお応えして、童女趣味も取り入れておこうかな)

周子「その熱意、しかと受け止めた! このシューコちゃんが採用してあげよー」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:42:51.41 ID:smbC/+Dp0<> 愛梨「え、雇っちゃっていいんですか?」

周子「いいのいいの、その分目いっぱい働いてもらえばいいんだし」

愛梨「周子ちゃん、ちょっと悪い顔してる……」

愛海(こき使われるのは目に見えてる。でも、長年理想としてきたお山が二つも目の前にあるとくれば、断然話は別!
   いかなる艱難も乗り越えてみせる! お山だけに!)

愛海「うおぉおおお! 頑張るぞ〜っ!」

周子「ほら、すごくやる気になってるよ?」

愛梨「う、うん……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:43:50.57 ID:smbC/+Dp0<> 〜数日後〜



周子「いやー儲かるね、この商売」

愛梨「この調子なら、生活費も学費も何とかなりそうですね」

周子「愛海ちゃんもよく頑張ったね」

愛海「それほどでも〜……あたしは“報酬”さえ貰えればなんでもするよ!」

周子「でも、女性客を鋭い目で見るのはやめようね。この前の女の子、怖がってたじゃん」

愛海「いや、あの娘は特にあの稜線が素晴らしくて……服の上からでもわかるハリの良さときたら……」

周子「あんまり調子に乗ってると、クビにするよ?」

愛海「いやいや、冗談ですってば!」

愛海(……素晴らしい山こそ険しいもの! ここは耐えるんだ、あたし!)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:44:40.55 ID:smbC/+Dp0<> 愛梨「そういえば、イヴちゃんは何をしているんでしょうか」

周子「最近イヴちゃんの姿を見ないね」

愛海「イヴさんって誰?」

周子「あたしの幼馴染だよ。一緒に留学しに来たんだ」

愛海「どんな人なの?」

周子「どんなって……そうだね……銀髪で、スレンダーな感じかな?
   いつもブリッツェンっていうトナカイを連れてるよ」

愛海「それってあの人のことじゃ……」

愛梨「え?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:45:29.28 ID:smbC/+Dp0<> 子供「わあ! “さんた”さんだ〜」

子供「本当だ! “さんたくろーす”さんだ〜。わたしにもプレゼント頂戴!」

イヴ「皆待ってね〜、順番ですよ〜」

イヴ「……はいどうぞ」

子供「わあい! 武将人形だ〜。ボク、前からこれ欲しかったんだ〜。ありがとー」

イヴ「どういたしまして。貴方にはこっちがいいかな?」

子供「首飾りだ! とっても綺麗〜。さんたさんありがとう!」

周子「……ねえイヴちゃん、何やってんの?」

イヴ「あ、お久しぶりです〜。今はサンタクロース役で都じゅうを駆け巡っているんですよ〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:46:12.12 ID:smbC/+Dp0<> 周子「商売をするって言ってたけど、これのこと?」

イヴ「はい! 親御さんたちにお金をもらって、サプライズで子供たちに玩具をくばってるんですよ」

周子「で、ブリッツェンに橇を牽いてもらっているんだ」

ブリッツェン「〜♪」

周子「でもブリッツェンも大変だね。一人(一匹)で橇を牽くのは」

イヴ「ブリッツェンだけじゃありませんよ〜。そこはちゃんと考えてます♪」

周子「え?」

イヴ「おいで〜! ダッシャー! ダンサー! プランサー! ヴィクセン! コメット! キューピッド! ドナー!」

トナカイ達「ゾロゾロ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:47:17.26 ID:smbC/+Dp0<> 周子「うわぁ! トナカイが増えてる!」

愛梨「た、たくさんお友達がいたんですね」

愛海「新参のあたしには何が何やら……」

周子「このトナカイ達は何なの?」

イヴ「皆でかわりばんこに橇を牽いてるんですよぉ〜。シフト制ですね」

周子「あたし、イヴちゃんが何者なのかわからなくなってきたよ……」

イヴ「何者ですかって? 夢と希望をお届けする、サンタクロース運送です! よろしくね☆」

周子「そういうことにしておこうか……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:48:05.80 ID:smbC/+Dp0<>
後漢書・朱祐伝に曰く、


『劉秀は常安(長安)に留学中、朱祐らと共に、薬売りや運送業を営んで学費を稼いでいた』

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:49:05.16 ID:smbC/+Dp0<>
〜数日後 講堂〜


講師「……というわけで、湯王は夏王朝の桀王を倒し、殷王朝を開いたのです。
   湯王には伊尹という腹心がおり、彼は或る貴族に料理人として仕えていたので、宮中の動きを知悉していたようです。
   湯王が伊尹を重用したのは、彼が持つ豊富な政治知識ゆえでしょう……」

周子「お客さ〜ん、お代金足りてませんよ〜……」ムニャムニャ

愛梨「ねえ周子ちゃん、授業はちゃんと聞かないと……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:49:54.70 ID:smbC/+Dp0<> 講師「……数百年後には、その殷王朝も滅亡してしまいます。
   皆さんもご存じの通り、牧野の決戦において殷は周の武王に敗北し、殷の紂王は鹿台から身を投げました。
   武王を補佐したのは“太公望”として知られる呂尚であり、この二人は湯王と伊尹の関係によく似ていますね……」

周子「毎度ありー……えへへ……」スヤスヤ

愛梨「周子ちゃん、夢の中でも薬売りしてる……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:50:44.28 ID:smbC/+Dp0<> 講師「……春秋戦国の世になってからは、鉄器の普及によって人々の農業生産の効率が上がり、人口が爆発的に増加しました。
   一部の人々は片手間で仕事をするだけで、または部下や奴隷に仕事を任せておくだけで生活できるようになり、
   その結果様々な思想が誕生することになります。
   これは“諸子百家”と呼ばれるものですね。孔子、孟子、墨子、などなど……」

周子「やった……ダブルブルだ……」グウグウ

愛梨「もぉ〜! 周子ちゃんったら、後でノート見せてって言っても知りませんよ?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:51:45.05 ID:smbC/+Dp0<> 講師「……特に孟子は、天子とは天から天命を受けた者を指すと述べています。
   天命を失った殷の紂王は、既に天子ではなくただの蒼氓(そうぼう)であり、武王の挙兵は弑逆ではないと論述しています。
   さらに孟子は、『五覇ハ三王ノ罪人ナリ。今ノ諸侯ハ五覇ノ罪人ナリ。今ノ大夫ハ今ノ諸侯ノ罪人ナリ』
   と、当時の群雄割拠を批判しており、武力で天下を統べた“覇王”は覇王のままでは長続きせず、
   覇王の次に“王者”として天下を治めなければならないとして……」

周子「あ、軍の行進……やっぱり執金吾(しつきんご)ってかっこいいな……」ムニャムニャ

愛梨(こんな調子で大丈夫かなぁ……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:52:55.51 ID:smbC/+Dp0<>
〜数年後〜


周子「……なんというか、あっと言う間だったね」

愛梨「うん。無事に留学は終えたけど……」

イヴ「生活費を稼ぐのに熱中してしまって、勉強を忘れてましたね〜」

愛海「あたしも、結局お山に登ることは叶わず……」

周子「成績良くなかったから、どこからも声をかけて貰えなかった。
   けど、世の中勉強だけじゃないし、この留学中にいろいろ学べたと思うよ」

愛梨「そうですね。最後の方は薬売りに熱中しすぎて“薬膳ケーキ”とか作っちゃったり……
   私も商売なんて初めての経験だったし、確定申告とか源泉徴収とか、いろいろ経理が大変だったのは勉強になったかな?」

イヴ「私も、あんなに税金で持っていかれるとは思わなかったですぅ」

周子「どうなってるんだか、今の世の中は……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:53:53.60 ID:smbC/+Dp0<> 愛海「あーあ……あたしも武挙を目指せばよかったのかな」

周子「科挙じゃなくて武挙? どうしてまた」

愛海「あたし、こう見えても腕っぷしには自信あるから。登攀(お山登り)で鍛えた握力は本物だよ。
   それに、あたしの同郷の馮異(ふうい)ちゃんは武挙に受かってたしな〜」

周子「愛海ちゃんと同郷って、どんな人なんだろうね」

愛海「あたしのことはともかく、皆どうするの?」

周子「あたしは故郷に帰るよ。暫くは蔡陽でゆっくりするつもり」

イヴ「私も周子ちゃんと一緒ですね〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:54:42.99 ID:smbC/+Dp0<> 愛梨「私は、もう実家の皆が離散しちゃったから、もうしばらくここで下宿しようかなって考えてるんだ」

愛海「愛梨さんも大変なんだね」

愛海(よしキタ! 周子さんもイヴさんも離れたことだし、これで思う存分愛梨さんのお山を……)

愛海「じゃあ、あたしは薬売りを引き継ぐよ! せっかく評判になったのに、ここでやめたら勿体無いもんね!」

周子「そっか。じゃあお店の方はよろしくね」

愛海「おまかせください!」

周子「それから、愛梨ちゃんのこともよろしくね。
   愛海ちゃんなら、愛梨ちゃんに寄って来る悪い虫を、追い払ってくれるって信じてるから」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:55:54.33 ID:smbC/+Dp0<> 愛海(うう……その悪い虫っていうの、あたしの事を言ってるような気がする。それに周子さんから頼まれると、なんだか断りづらい)

愛海「ば、万事おまかせを……」

周子「ありがと……さあイヴちゃん、用意しようか」

イヴ「寮監さんや他の皆さんに、お別れの挨拶をしに行きましょうか」

愛梨「……あ! それよりも、出発する前に皆でお別れ会をするのはどうでしょう」

愛海「さすが愛梨さん! よく思いついたね」

周子「それもそっか。面倒なことは後回しにして、今日は皆で遊び倒そう!」

イヴ&愛梨&愛海「「「おーっ!!!」」」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:56:42.62 ID:smbC/+Dp0<>
〜数日後〜


周子「……さてイヴちゃん、忘れ物は無い?」

イヴ「え〜っと、大丈夫だと思います」

周子「でも本当にいいの? トナカイ達に荷物を牽かせても」

イヴ「この子達はそれが本業ですからねぇ。皆大丈夫だよね〜?」

トナカイ達「〜♪」

周子「そういうことならトナカイ達に任せますか。じゃあ蔡陽に向けてしゅぱーつ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:57:36.12 ID:smbC/+Dp0<> 来歙「おや、文叔ではないか?」

周子「あ、来歙さん! どうしてこんなところに?」

イヴ「お久しぶりです〜」

来歙「おお、仲華(ケ禹の字)もいたか。そういえば、二人とも長安に留学していたのだったな」

周子「とぼけなくてもいいよ。あたしの学費を出してくれたのは来歙さんでしょ?」

来歙「はっはっは! 出世払いでいいぞ」

周子「実は長安に行く道すがら、屋敷を訪ねたんだけど留守みたいだったから」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:58:14.81 ID:smbC/+Dp0<> 来歙「気にすることはない。私も都に出仕する役人だからな。
   小役人とはいえ、家に帰れないことが多い」

周子「まあ仕方ないよね」

来歙「私も、これから蔡陽に向かうところだが、一緒にどうだ?」

周子「ご一緒させてもらうよ」

来歙「では道中、留学中の話でも聞かせてもらおうか……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 21:59:11.54 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……そんなわけで、学問で身を立てることはできなかったけど、江湖の何たるかは少しだけ分かった気がするよ」

来歙「それはよかった。それにしても薬売りに馬借など、君たちもなかなかやるではないか」

イヴ「私はただ橇に乗ってるだけで良かったんですよ。ブリッツェン達が目的地まで牽いてくれましたから」

来歙「それにしても、朱家の朱祐が留学しているとは思わなかった。彼女とも親交を深めたを深めたのだろう?」

周子「うん。けど、愛梨ちゃんはもうちょっと都で勉強するって言ってたけど」

来歙「しかしまあ、今の時期に都から離れられたのは正解だったかもしれんぞ」

周子「どうして?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:00:00.63 ID:smbC/+Dp0<> 来歙「遠い徐州の地において、“呂母の乱”と呼ばれる叛乱があった。知らないのか?」

周子「知らない」

来歙「徐州の琅邪(ろうや)郡に、呂母という女がおり、彼女には育(いく)という息子がいた。
   罪状は不明だが、その育が小さな罪を犯した。呂母は軽い罪になるだろうと思っていたのだが、結果は死罪だった」

周子「どうしてそんなことになるの?」

来歙「わからん。この司法の裁きに対し、呂母が反撥したのは言うまでもない。彼女は都に上って皇帝に直訴しようとしたが、果たせなかった」

来歙「打つ手無しと悟った彼女は、私費を投じて生活苦の若者たちを無償で庇護した。
   数年後、無一文になった呂母を若者たちは助けようとしたのだが、彼女はこう言ったのだ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:01:14.37 ID:smbC/+Dp0<> 来歙「人を殺せば死罪となるのは常識だ。つまり、息子を死罪にした県令が死罪となるのは必定である。とな……」

周子「まさか、若者たちを嗾けて県令を……」

来歙「そのまさかさ。若者たちは呂母に助けられた恩を返すため、県令の屋敷に討ち入った。
   この報せは都にまで上ったが、王莽はこれを孝であるとして彼女たちを許し、
   罪に問わないという条件の下、この叛乱勢力に解散を命じたらしい」

イヴ「でも、解散を命じたぐらいでおとなしくなりますかねぇ」

来歙「その通りだ。彼らは一度解散したうえでいつの間にか再集結し、一つの組織として成り立っておる。
   敵味方を区別するために眉を赤く染めておることから、“赤眉(せきび)”と呼ばれているそうだ」

周子「あたしの知らない間にそんなことが…… でも、都にいる間そんな話は聞かなかったよ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:02:03.22 ID:smbC/+Dp0<> 来歙「おそらく民心を安定させるために、朝廷の上層部の連中が箝口令を敷いているのだろう。
   いまでさえ、王莽の政治は民心の離反を招いている。やがて都も、騒擾の坩堝となるだろう」

周子「皇帝王莽からは、天命が離れつつあるってことかな?」

来歙「文叔、さては孟子に影響されたか? まあ良い、それだけでも留学した意味はある」

イヴ「周子ちゃん、授業中はずっと寝てたって愛梨ちゃんから聞きましたけど?」

周子「睡眠学習ってやつかな? 寝てても少しは講義を聞いてたみたいだね」

来歙「それでもよいわ。帰ったら劉縯の奴が喜ぶぞ。文叔と仲華の二人が立派に成長したとな。はははは!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:02:58.69 ID:smbC/+Dp0<>
〜蔡陽〜


周子「……で、久しぶりに帰郷したわけですが」


ガヤガヤ ザワザワ


劉縯「おう、文叔戻ったか。少しは成長したか?」

周子「お兄ちゃん、この騒ぎは何?」

劉縯「お前聞いてないのか? 赤眉の乱のことを」

周子「来歙さんから少し聞いたけど」

劉縯「その叛乱に呼応して、南の賊徒たちも挙兵したのだ。今は“緑林”と名乗っているがな」

周子「蔡陽のすぐ近くじゃん」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:03:41.49 ID:smbC/+Dp0<> 劉縯「だからこそ、この蔡陽も武装しなければならない。
   王莽が政治の紊乱者であることが江湖に知れ渡ったいま、各地で反乱軍が萌芽しているからな」

周子「ふーん」

劉縯「他人事だと思ってるな、お前は。今の世はもう官は信用できない。自分の身は自分で守る世が来ているのだ」

周子「でもさ、挙兵とかやめようよ。下手したら蔡陽が火の海になるかもしれないよ?」

劉縯「手を拱いていれば、いずれはこの地も燎原の大火となろう。お前は故郷を守りたくないのか」

周子「まあ、少し考えておくよ」

劉縯「是非お前にも参加してほしい。数年間の留学で得た知識と経験をもって、この兄を輔けてほしい」

周子「う、うん……」
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2016/01/31(日) 22:04:41.66 ID:9vw186Sb0<> 緑林の馬武くんは誰になるかな?() <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:05:07.04 ID:smbC/+Dp0<>
〜数日後〜


周子(やっぱり戦なんてダメだよね。あたしは平穏に暮らしていければ、それで満足なんだけどな)

イヴ「ごめんくださーい!」

周子「あれ、イヴちゃんどうしたの?」

イヴ「最近蔡陽も物騒になってきましたよね。だから、周子ちゃんは大丈夫かなって」

周子「あたしはピンピンしてるけど、お兄ちゃんが挙兵するってさ」

イヴ「いよいよ本格的になってきましたね〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:06:26.10 ID:smbC/+Dp0<> 周子「蔡陽を守るためだって言ってるけど、集まってくる兵は数が知れてる。
   それに、実戦経験のない素人集団が本当にこの地を守れるのかな。おとなしく南方の緑林の傘下に入ればいいのに」

イヴ「でも、緑林は賊徒の集団って話を聞きますからねぇ。そんな集団に下っても、あんまり待遇は良くならないのでは?」

周子「それもそうか……何か良い方法ないかなー」

イヴ「ありますよ! 周子ちゃんの周りには昔から、いろんな人が集まってきたじゃないですか。
   留学中の薬売りでも、人脈は広がったと思います」

周子「留学しても学問は身につかなかったかわりに、いろんな人と知り合えたと思う。けど、それがあたしの力になるとは思えないよ」

イヴ「いいえ、周子ちゃんは“日角(にっかく:帝王の人相)”の相がありますからね〜」

周子「いやいや、それはない」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:08:29.27 ID:smbC/+Dp0<> イヴ「それに、先祖に高祖と武帝(劉徹)を持つ由緒正しい家柄じゃないですか。
   周子ちゃんが世に名乗りを上げ続ける限り、周子ちゃん下にはたくさんの人が集まってくるはずです」

イヴ「私には見えるんです。いつの日か周子ちゃんが雲台に登極し、二十八の将星たちに聖断を下す光景が」

周子「話が膨らみすぎだよ。そんな話、今時の子供でも騙されないって」

周子(けどイヴちゃんは、昔から不思議なところがあったな……真面目な顔のイヴちゃんが言ったことは外れたことがないし)

愛梨「ごめんくださーい! 周子ちゃんはいますか〜?」

愛海「あの! この棟方愛海もご一緒してます!」

イヴ「ほら、噂をすれば何とやら、ですよ。さっそく、将星の二人が来たじゃないですか」

周子「あの二人が、あたしの星か……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:09:35.24 ID:smbC/+Dp0<> 周子「久しぶり。二人とも都にいたんじゃないの?」

愛梨「そうしたかったんだけど、あの後、都では黄霧が発生したり群盗が出たりして、留学どころじゃなくなっちゃたんです」

愛海「薬を売ろうにも、都の住民はそれどころじゃないし……結局商売あがったりだよ」

愛梨「私たちには帰るあてなんてありませんし、せっかくだから蔡陽の周子ちゃんを訪ねてみようと思ったんですよ〜」

周子「それは大変だったね。ま、あがってよ。ついでに湯を沸かすから、旅塵を落とすといいよ」

愛海「ご迷惑をおかけします。お言葉に甘えて、周子さんの家にしばらく逗留するってことで……」

周子「愛海ちゃん、変なことしたらつまみ出すからね?」

愛海「わ、わかってますって!」

愛海(相変わらず、周子さんにはかなわないな……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:10:49.73 ID:smbC/+Dp0<> 周子「……というわけで、うちのお兄ちゃんは挙兵することになったんだ」

愛梨「でも、蔡陽に入ってからあんまり兵の姿を見なかったよ?」

周子「それが問題なんだよ。打倒王莽の旗を掲げても、人が集まってこないんだよねー。
   お兄ちゃんって人望無いのかな?」

イヴ「お兄さんの人望云々ではなく、“暴政に堪えられない。だから挙兵しよう!”
   なんて勇ましいことを考える人は、そう多くないということですよ」

愛海「誰だって死ぬのは怖いもんね」

周子「どうしたものか……」

イヴ「ここはひとつ、周子ちゃんが挙兵して、それを周囲に喧伝するというのはどうでしょう」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:11:27.62 ID:smbC/+Dp0<> 周子「妹のあたしが名乗りを上げたところで、大してかわらないんじゃない?」

イヴ「そんなことありませんよ〜。周子ちゃんは昔から蔡陽の皆さんに慕われていました。
   だから、周子ちゃんがやるなら私もやるって言う人も少なからずいますよ」

イヴ「少なくとも、私はどこまでも周子ちゃんについていきますからね♪」

愛梨「私も、留学中は周子ちゃんにお世話になったし、最後まで一緒だよ」

愛海「目指すお山がそこにあるのに、背を向けるわけにはいかないもんね!」

周子「皆ありがとう。少なくともあたしの味方は三人はいるってことか」

周子「よ〜し! 生まれ故郷を守るためにも、一つやってみますか!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:12:31.17 ID:smbC/+Dp0<> イヴ「でしたら、周子ちゃんにピッタリの具足をご用意しましょ〜」

イヴ「何が出るかな♪ 何がでるかな♪」ゴソゴソ

愛海「前から気になってたんだけど、イヴさんの袋って何が入ってるの?」

愛梨「さ、さあ?」

イヴ「これだっ!」ヒョイ

周子「うーん、赤備えの具足一式か……」

イヴ「劉氏は火徳の王朝ですからね。火といえばやっぱり赤でしょう♪ それとこんなのも」

周子「赤地の劉旗か。ずいぶん用意がいいね」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:13:35.00 ID:smbC/+Dp0<> イヴ「それだけじゃありませんよ。最後にこれを」

周子「剣? ずいぶん古びているけど」

イヴ「はい、“斬蛇ノ剣”です♪」

周子「ははは! 斬蛇ノ剣か! イヴちゃんも冗談が上手くなったね。
   けど斬蛇ノ剣って言えば、高祖が道を塞いでいた大蛇(白龍)を斬ったっていう伝説の剣でしょ?
   漢王室の至宝がこんなところにあるわけないよ」

イヴ「ふふふ♪ 信じる信じないは周子ちゃん次第ですよ〜」

愛梨&愛海(イヴちゃんって何者なんだろう……?)

周子「とにかく、これで支度は整ったことだし、さっそくお兄ちゃんのところへ行くとしますかね……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:14:16.83 ID:smbC/+Dp0<>
〜劉氏軍 本営〜



周子「やっほー、お兄ちゃん。可愛い妹が来たよ」

劉縯「おう、文叔か……って、その恰好はまさか」

周子「あたしと、あたしの友達三人。劉氏軍に参加します」

劉縯「そうか。お前が参戦してくれるなら心強い。ケ禹達もよろしく頼むよ」

周子「それで募兵の方は順調なの?」

劉縯「いや、なかなか人が集まらなくてな。正直軍需品も足らん。どうにも皆怖気づいているようだ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:15:04.12 ID:smbC/+Dp0<> 周子「そっか。じゃあ皆を連れてきてよかったね」

劉縯「へ、皆?」

農民「へえ、ここが劉さんとこの本営か」

無頼漢「ふん。兵は少ないが規律はきちんとしているな」

若者「やっぱり文叔さんについて来て良かったぜ!」

劉縯「おい文叔。後ろの集団は何だ?」

周子「ここに来る途中、行きすがりの人に声かけてたんだ。そしたらいつの間にかこんな数になっちゃって」

劉縯「おいお前ら、どうして文叔の誘いに乗ろうと思ったんだ?」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:17:09.34 ID:smbC/+Dp0<> 農民「そうりゃあ、文叔ちゃんが挙兵しようってんだ。成功間違いねえ」

無頼漢「文叔殿には、昔お世話になった。報恩の機は今だ」

若者「文叔さんがいれば、何とかなるって思いました!」

劉縯「お前、ただ遊び呆けてたわけじゃなかったんだな」

周子「少しは見直した?」

劉縯「見直したよ。参りました」

周子「えっへん!」

劉縯(劉秀に高祖劉邦の風ありか……我が妹ながら、兄として鼻が高い)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:17:57.15 ID:smbC/+Dp0<>
後漢書・光武帝紀に曰く、


『劉縯が挙兵した際、「伯升(劉縯の字)に殺される」と言って誰も参加しなかった。
 しかし劉秀が挙兵すると、「あの勤勉な文叔も挙兵するのか」と安心し、
 多くの人が集った』
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/31(日) 22:19:51.07 ID:MJjfhAtvo<> そういや兄貴の劉演はオラついたタイプだったから挙兵しても皆心配して集まんなかったけど、
弟の劉秀も次いで挙兵したら「アイツですらそんな大それた事やるんだからこれ超鉄板レースや!」って感じで、
続々人が集まったみたいな逸話もあったような <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/01/31(日) 22:20:00.51 ID:smbC/+Dp0<> 今日の投稿はここまでにします。
思ったより長くなってしまったので分割して投稿していこうと思います。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/31(日) 22:21:05.63 ID:MJjfhAtvo<> と思ったら既に作者氏が書いてた…  申し訳ない <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/01/31(日) 22:34:32.07 ID:9vw186Sb0<> 劉伯升は基本劉秀を見下してるような作品が多いのに…。このssはとてもいいものだ。(確信) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/01(月) 01:56:08.00 ID:KKsy67Cd0<> 劉邦もそうだったけど地元にチート級の人材集まりすぎだと思う
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/01(月) 10:42:07.39 ID:dZsnzDvo0<> 類は友を呼ぶって奴なんかね? <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:47:45.97 ID:wvIGXzxa0<> 劉縯「とりあえず、状況を説明しよう」

劉縯「いま我々がいるのが、蔡陽ということはわかるよな? そして私たちの背後、つまり南方には緑林軍という勢力があった。
   しかし、これは最近疫病によって組織が分裂し、新市・下江の二つの軍が誕生した」

周子「挙兵したはなから分裂とか、前途多難だね」

劉縯「確かに、新市軍を率いる王匡(おうきょう)という人物は、相当な佞物だと聞く。
   だが、その配下には馬武という名うての武将もいるし、一方下江軍の指導者は王常といって、これもまた一廉の人物らしい」

周子「油断してると痛い目に遭うってことだね。それで、現在官軍に動きは無いの?」

劉縯「それが本題だ。甄阜(しんふ)を大将に、梁丘賜(りょうきょうし)を副将とした官軍およそ五万が、南下してきているらしい」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:48:52.11 ID:wvIGXzxa0<> 周子「五万かぁ、そんな大軍防ぎようがないよ」

劉縯「お前が引っ張ってきた者を含めて、私たちは五千というところか。
   新市軍が一万。下江軍も一万。私たちは丸呑みにされてしまうかもな」

周子「個別で戦おうとすると、もっと勝ち目が無いよ。ここは三軍を合流させて、総出で官軍に当たらないと。
   それでも敵は二倍なんだから」

劉縯「それもそうだが、王匡と王常が仲違いして今の状況が現出しているんだぞ。
   それを我らも含めて連合させるのは難しくないか?」

周子「呉越同舟ってことだよ。人間だれでも危難に襲われれば、仲の悪い人とも協力せざるをえなくなるって」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:49:28.23 ID:wvIGXzxa0<> 伝令「劉縯様、よろしいでしょうか?」

劉縯「どうした?」

伝令「新市と下江から、それぞれ使者が参っておりますが」

周子「ほら、噂をすれば何とやら、だよ」

劉縯「双方とも、こちらに同盟の要請してきているのだろう?」

伝令「はい」

周子「双方ともに同じことを考えているなら、いくらでも遣りようはあるよ。
   ま、ここはシューコちゃんにまかせなさい」

劉縯「本当に大丈夫か?」

周子「とりあえず、三軍の指導者を面会させてだね……」

<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:50:11.49 ID:wvIGXzxa0<>
〜数日後〜


劉縯「……」

王匡「……」

王常「……」

劉縯(おい文叔、すごく気まずいぞ、この空気)ヒソヒソ

周子(ま、見てなさいって)ヒソヒソ

周子「えー、本日はご多忙の中、皆さまにお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
   本日はお日柄も良く……」

劉縯「見合いじゃないんだ。真面目にやれ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:50:50.55 ID:wvIGXzxa0<> 周子「冗談だって……本日皆さんに集まっていただいたのは、近々この地域に官軍が押し寄せてくるという情報が入ったため、
   その対処はいかにすべきかということを議論したいと思います」

王匡「それはわかってる。だが、そこの王常は許せんぞ!」

王常「何を言うか。私は以前から軍の衛生管理について、貴方に相談していたはずだ。
   それを人の諫言を素直に聞き入れず、結局緑林軍は雲散霧消したではないか!」

王匡「お前も緑林軍の指導者の一人だったはずだ! 疫病が発生した途端、私一人に責任をなすりつけおってからに!」

王常「なんだと! 今の言葉は聞き捨てならんぞ!」

王匡「やるか!?」

周子「まあまあ、二人とも落ちついて。今は目の前の脅威に、いかにして対処すべきかを議論しなきゃ。
   過去のいざこざは水に流して、今は三軍が結束すべき時だよ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:51:54.45 ID:wvIGXzxa0<> 王匡「ふん、同盟を締結したところで、後ろから矢が飛んでくることも考えられるぞ」

周子「へー、じゃあ王匡さんは単独で官軍に立ち向かうつもりなんだ?」

王匡「いや、それは……」

周子「あたしたちがそれぞれ個別で戦ったら、それこそ各個撃破されてしまうよ。
   兵法では軍はなるべく一つに纏めるべきだって説いているし、今のあたしたちの状況は兵法に反しているんじゃないかな?」

王常「確かに、今は忌むべき者とも手を結ばなくてはならないのかもしれない。しかし、連合したところで我らの兵力は官軍の半分だ。
   いかにして勝つべきかを考えねばならん」

周子「あたし、もう考えてるよ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:52:31.17 ID:wvIGXzxa0<> 劉縯「おいおい、それならもっと早く言ってくれよ」

周子「でもねお兄ちゃん、シューコちゃんの作戦は三軍の同盟が成立してこその作戦なんだ」

王匡「フン! 小娘ごときが何を言うか。ならばその作戦とやらを披瀝してみろ」

周子「まず、連合軍を本隊と別動隊の二つに分ける。本隊は二万、別動隊は五千ってところでいいかもね」

劉縯「我らは寡兵であるのに、さらに兵を二つに割るのか? 兵法に反している」

周子「話は最後まで聞いてよ。それで、敵は五万って大軍を遠征させるんだから、随行する輜重の数も膨大なものになるでしょ?」

王常「確かに、純粋な戦闘員が五万だとすると、輜重隊の兵力は少なくとも数千。長駆する遠征軍だと一万は下らないだろうな」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:53:43.98 ID:wvIGXzxa0<> 周子「だから本隊は、会戦予定地点に野戦城塞を築城して、なんとか敵の鋭鋒をやり過ごす。
   その間に別動隊が戦場を繞回して、敵後方の輜重隊を襲撃する。
   敵は遠征軍だから、敵地で物資が無くなれば四分五裂するはずだよ。
   おまけにこっちは敵の軍需品が手に入るんだから、一石二鳥でしょ?」

王匡「しかし、別動隊を指揮する者の人選はどうする?」

周子「とりあえず、劉家軍から一千ほど割いてあたしが直率するよ。言い出しっぺだしね」

王常(なかなかの戦術構想だな。こいつをただの小娘だと侮ってはならん。
   しかし、強大な敵に対して自前の兵力を割くのはごめんだ)

王匡(兵力を割くのは痛い。しかし、敵の軍需品を鹵獲できるという点において旨みがある。
   ここは兵力を供出すべきだろうな)

王匡「わかった。我が兵力の一部を別動隊に回そう」

周子「え、ほんとに!? ありがとー♪」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:54:31.78 ID:wvIGXzxa0<> 王匡「王常よ、これは私からの誠意だ。私はお前よりも少ない兵力で官軍と立ち向かうのだ。
   ともに轡を並べる戦場において、これはお前を信用するという証だ」

王常「王匡、お前……」

劉縯「決まったな。しかし、文叔にこんな大役を任せても良いのか?」

周子「あたしは、もう昔のあたしじゃないってことだよ。
   それよりも、官軍の攻撃をまともに受け止めるのはお兄ちゃんの方なんだから、しっかりしてよね」

劉縯「ああ、まかせておけ」

王匡「新市軍からは四千出す。馬武という者に統率させよう」

周子「じゃあ、三人とも同盟を結ぶってことで異存は無いね。
   向うに祭壇を用意してあるから、共に盟約の贄の血を啜るってことで」

劉縯「えらく用意が良いじゃないか」

周子「シューコちゃんにとって、これくらい何ともないのだよ♪」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:56:37.31 ID:wvIGXzxa0<>
〜数日後 淯陽(いくよう) 官軍本陣〜


甄阜「梁丘賜よ、敵の数が少ないと思わないか?」

梁丘賜「そうだな。敵は蔡陽・新市・下江の連合軍と言うが、我ら官軍の勢威を見て怖気づいたのかもしれん。
     きっと脱走兵が出たのだろう」

甄阜「ははは! 違いない!」

梁丘賜「敵はどうやら応急野戦築城をしているらしいが、気休めにすぎぬな。
     大軍に兵法無しと言う。ここは一気に攻め潰してはいかがか?」

甄阜「さもありなん! 犀笛を吹け! 全軍出撃!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:57:34.22 ID:wvIGXzxa0<>
〜一方 同盟軍 別動隊〜


馬武(向井拓海)「……ところで周子、さっきから一つ気になってることがあるんだが」

周子「何?」

拓海「周子が乗ってるその生き物、何だ?」

周子「ああこれ? トナカイのブリッツェンだよ。可愛いでしょ」

ブリッツェン「〜♪」

拓海(トナカイ? ブリッツェン?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:58:04.96 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「ま、またえらく珍妙な生き物だな……まるで人語を解してるような……」

周子「挙兵した時お金が無くてさ、馬を用意できなかったんだよねー。
   だからイヴちゃんにブリッツェンを借りたってわけ」

拓海「それでトナカイとやらに騎乗してるのか。馬の一頭ぐらいなら、こっちで用意したのに」

周子「そこまで気を使わなくてもいいよ。
   それに、そんじょそこらの馬よりもブリッツェンの方が言うこと聞くしね」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:58:37.21 ID:wvIGXzxa0<>
後漢書・光武帝紀に曰く、


『劉秀は挙兵した際、馬を用意する金が無かったので、代わりに牛に乗って出陣した』

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 20:59:45.94 ID:wvIGXzxa0<>
ブォー


周子「お、犀笛が聞こえるね。本隊が開戦したみたい」

拓海「こっちも早く輜重隊の位置を探り当てねえと」

周子「もう探り当ててるから大丈夫だよ。
   ここから北に十里の地点に、輜重段列が武剛車(ウォーワゴン)を展開してるらしいから」

拓海「手回しがいいな。けど、これだけの兵力で輜重を襲っても大丈夫なのか? 輜重隊だけでも一万はいるぜ」

周子「輜重ってのはね、本来軍事調練とかで落伍した兵が配属される部署なんだ。
   それに人手が足りなかったら、免税と引き換えに農民が駆り出されることもある。
   錬度からすればこっちのが上だよ」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:00:36.76 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「そこまで考えてたのかよ。なかなか見事な作戦だと思うが、周子は実戦の経験があるのか?」

周子「無いよ。そもそもこの手で人を殺したことさえ無いし」

拓海「はぁ? にしてはえらく余裕じゃねえか」

周子「緊張してないわけじゃない。けど、あたしがテンパってたら皆不安に思うでしょ?
   相手は弱兵とは言え、命のやり取りをするんだからさ」

拓海(こいつ、なかなかのタマ持ってんじゃねえか。こんな田舎にもこういう奴はいるもんだな)

周子「よし、話してる間に敵の輜重段列を捕捉したね。
   あたしが先に突っ込むから、タクミンは後から戦況を見定めて……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:01:22.98 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「ウサミンみたいな呼び方やめろ……
   って言うか、アタシが先に殴り込むから、お前は後に続けてこい」

周子「どうして?」

拓海「別に、戦功がどうのと言うわけじゃねえよ。周子は劉家軍の副将。一方アタシは、新市軍の諸将の内の一人。
   軍の序列で言えばアタシの方が格下なんだから、周子はアタシが開いた血路を進んでくれ」

周子(見かけによらずいい人だな……)

周子「じゃあお言葉に甘えて、あたしは二番手に攻撃するよ。
   奇襲だし、敵は弱兵だからこの二撃で決まると思うけどさ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:02:15.49 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「聞けば、今回の作戦は周子が考案したんだろ。
   官軍襲来って一大事において、三軍同盟の媒(なかだち)をしれたのは周子だからな、ここで報いねえとアタシの名が廃る」

周子(それに義理堅くもあるのか……)

周子「そんなに気負わなくてもいいよ。もっと肩の力を抜こうよ。
   敗北したとしても、所詮はそれまでの運命だったんだって、諦めればいいんだよ」

拓海(こいつ、初陣にしてこの落ち着きような何だ? 鈍感なだけなのか、それとも途轍もない大器なのか……)

拓海「ありがとよ。じゃ、行ってくるわ」

周子「気を付けてね〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:02:47.31 ID:wvIGXzxa0<> 兵「ああ、荷物重いな〜。背嚢だけでどんだけ詰まってんだか……」

見張り「敵襲だ〜! 東方に敵影が!」

兵「嘘だろ!? 敵は本隊と戦ってるんじゃ……」

兵「こんなの聞いてないよ〜」

農民「やめだやめだ! なんで俺たちが、戦なんぞに駆り出されなくちゃいかんのだ!?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:03:36.68 ID:wvIGXzxa0<> 拓海(敵の戦意が低すぎる。弱兵でもあり、奇襲ということが奏功したな)

拓海「降伏しろ! 得物を捨てた者は、命だけは助けてやる!」

農民「助けてくだせぇ〜! おいら、無理やり駆り出されているんです〜!」

兵「ちっ! こいつらまるで役に立たねえ。こんな戦やってられるか。退散だ〜!」

隊長「貴様ら、敵に背を向けるとはどういうことだ! 踏みとどまれ!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:04:29.56 ID:wvIGXzxa0<> 周子「……ねえ愛海ちゃん、敵の指揮官の位置がわかったでしょ?」

愛海「うん! あの周囲だけ、やけに統率がとれてるもんね」

周子「じゃ、お願いするよ。
   イヴちゃんや愛梨ちゃんはこういう荒事に向いてないから、愛海ちゃんを前線に連れてきてよかった」

愛海「これもお山道の修行のひとつだから! 行ってきます!」

周子「無理しないでねー。後ろにはあたしがついてるんだからさ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:05:02.60 ID:wvIGXzxa0<> 愛海「どけどけ〜! 銚期様のお通りだ〜!」

ズシャ グサッ

敵兵「ぐあっ!」

隊長「貴様、何者だ!?」

愛海「我こそはお山の求道者、銚期なり! 貴方がこの軍の指揮官か?」

隊長「そうだ! 貴様のような小娘に、遅れをとる俺ではないわ!」

愛海「身の程知らずだね……自分の登れる山の高さを知らぬ愚か者が!」

愛海「喰らえ! 棟方流奥義・握撃!!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:05:49.00 ID:wvIGXzxa0<> グシャッ

隊長「ぎぃゃ〜! お、俺の腕が!!」

愛海「さあ、次はどこを潰してあげようか?」ニヤリ

隊長「た、たすけて……」

「隊長がやられたぞ!」

「しかも素手で握りつぶされた!?」

「化け物だ! 逃げろ〜!」

愛海「ふっ……またつまらぬものを握ってしまった……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:06:46.27 ID:wvIGXzxa0<> 周子「やあ愛海ちゃん。お疲れ様」

愛海「どうだった、あたしの活躍は?」

周子「上出来だよ。あんなに強いのに、武挙に通らなかったっていうのが不思議だね」

拓海「おい周子、敵兵は粗方片づけたぞ。あっちに鹵獲品を集めといたし」

周子「ありがと。じゃあ全軍の被害状況を確認した後、負傷者は後陣に搬送。
   斥候および物見以外の兵は、皆休息をとらせるってことで」

拓海「わかった。それで、休息後はどうするんだ?」

周子「本隊同士の戦況はどうなっているの?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:07:43.64 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「斥候によれば、膠着してるみたいだ。敵は本隊の野戦城塞を攻めあぐねてるよ」

周子「そっか。じゃあ、あたし達は敵の進軍してきた経路を捜索し、その道を通って敵本隊の背後を扼してしまおう」

拓海「なるほど、挟撃ってことか」

周子「敵の背後に手頃な丘稜があればいいんだけど」

拓海「丘?」

周子「敵から見えないように、稜線の向こう側に埋伏するの。
   敵の攻勢が激化するのを待って、一気に稜線から飛び出してしまおうって作戦で」

拓海「なかなか良い作戦じゃねえか。早速、周囲の地形を調べてみよう」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:08:25.31 ID:wvIGXzxa0<>
〜同盟軍 野戦城塞〜


オオオオ ワアアアア


王匡「くそっ! 敵の攻勢が凄まじいな。これで何度目だ?」

王常「そろそろ別動隊が敵の輜重を制圧している頃だ。何か敵軍に動きがあってもよさそうだが」

劉縯「二人とも、あれを見ろ! 敵軍の背後の丘稜を!」

王匡「あの赤旗は……別働隊か!」

王常「敵の動きが乱れている。ここは逆撃だな!」

劉縯「よし! 全軍に出撃命令! 陣地から打って出るぞ!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:09:05.64 ID:wvIGXzxa0<> 甄阜「しまった! 敵は背後に繞回していたのか!」

梁丘賜「いや待てよ、我らの背後には輜重隊がいたはずだ!
   もしや、敵の別働隊に壊滅させられたのではないか?」

甄阜「さもありなん! ここは一度軍を下げ、立て直すしかない」

周子「ふっふっふ。そんな時間があるのかな?」

梁丘賜「貴様、何者だ!?」

周子「蔡陽の劉秀。悪いけど、後方の輜重段列はすでに壊滅したよ」

甄阜「貴様がやったのか! その首叩き落としてやる!」

周子「やめといたほうがいいと思うけどなー」

甄阜「ほざけ!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:10:02.00 ID:wvIGXzxa0<>
ザンッ

甄阜「な、なにがおこった……?」

周子「ほら、言わんこっちゃない」

甄阜「こんな小娘ごときに……この私が……」ドサッ

梁丘賜(何だ今のは? 奴の剣筋が全く見えなかったぞ)

周子「シューコちゃんはね、こう見えても武芸百般は何でも得意なんだ。
   地方軍の将官風情に負けるつもりはないよ」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:10:39.90 ID:wvIGXzxa0<> 梁丘賜(私が敵う者ではない……命あっての物種だ。ここは隙をみて離脱せねば)

愛海「おや? もしかして逃げ出そうとしてない?」

梁丘賜「いつの間に背後に!?」

愛海「じゃあね……お山こそ至高。尻好きには死んでもらおう」

梁丘賜「一体何のことだ……ぐふっ」

グシャッ

愛海「一丁あがりっと」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:11:25.40 ID:wvIGXzxa0<> 周子「お疲れ様。敵軍は潰乱しているし、あとの掃討は本隊にやってもらおうか」

拓海「二人とも、なかなかの手練れじゃねえか。官軍の将軍二人を、あっと言う間に斬り伏せちまうなんて」

周子「いやあ、それほどでも……それよりも、お腹すいたーん♪
   愛梨ちゃんたち、ご飯用意してくれてるかな? 拓海ちゃんも一緒にどう?」

拓海「お言葉に甘えさせてもらうとするか……しっかし、輜重隊の鹵獲品はどうするつもりなんだ?」

周子「ああそれね、軍に必要なものだけを接収して、あとは近隣住民に配布する」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:12:14.94 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「は? 勿体ねえことするな」

周子「官軍のものは、元をたどって行けば民のものだからね。そもそもあたし達の挙兵って、いまの政を糺すためでしょ?
   まず蒼氓を第一に尊重するっていうのが大切だと思うな」

拓海「それもそうだけどよ……しかし、王匡の奴がそれで納得しねえかもな」

周子「文句は言わせないよ。今の理屈を聞けば、ぐうの音もでないだろうけど」

拓海「まったく、お前って奴は……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:14:18.31 ID:wvIGXzxa0<> 〜劉家軍 本営〜



兵「痛ぇよ……誰か、助けてくれ……」

愛梨「はいはーい♪ このお薬を塗れば、怪我なんて簡単に治っちゃいますよ♪」

ヌリヌリ

兵「あぁ……痛みが和らいできました……朱祐さんに治療してもらうと、なんだか治りが早いような……」

愛梨「えへへ。しばらくは安静になきゃだめですよ」

兵「はぁい、わかりました……」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:14:53.87 ID:wvIGXzxa0<> 「ところでさ、朱祐さんに治療してもらうとすっごくやる気出るよな?」

「そうそう。あと、朱祐さんって結構無防備だから、胸の谷間とか見えそうでやばい!」

「あー、わかるわそれ」

拓海(なるほど、愛梨は軍事には向いてないが、兵達の心をしっかり掌握しているな。
   後方支援や戦後処理の手腕はかなりのもんだ……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:15:41.34 ID:wvIGXzxa0<> 兵「すみません、ケ禹さん。剣が折れてしまったんですが」

イヴ「は〜い。いま新しいのをご用意しますね」

ゴソゴソ

イヴ「はいどうぞ」

兵「やった! 今度の剣は一段と切れ味よさそうだ。ありがとうございます!」

イヴ「いえいえ。武具が痛んだら、また言ってくださいね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:16:24.41 ID:wvIGXzxa0<> 兵「すみません。俺は槍が折れてしまったんですが」

イヴ「槍ですか? ちょっと待ってくださいね」

ゴソゴソ

イヴ「はいどうぞ」

兵「新品だ! それにこの長さといい、重さといい、俺の腕にぴったりだ。ありがとうございます!」

イヴ「それほどでもありませんよ〜」

馬武(イヴは兵站担当ってところか。だが、あの袋の構造はどうなっている?
   どうやってあの袋から槍を取り出したんだ?) <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:17:43.32 ID:wvIGXzxa0<> 愛海「そう……お山っていうのはね、この世でもっとも完成された、言わば芸術品なんだ。
   とても繊細なものだから、登攀するときは細心の注意を払って、でも時には大胆にならなきゃいけない。
   注意しなければならないのは、お山は“自由”に愛でるものであって、“放埓”であってはいけないということ。
   わかる?」

兵「銚期さん、マジパネェっす!」

愛海「お山を愛でる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、何というか救われてなきゃダメなんだ。
   独りで、静かで、豊かで……」

兵「お山のグルメっすね? 銚期さん、マジ澱みねぇっす!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:18:34.70 ID:wvIGXzxa0<> 兵「俺にもその極意を教えてください。よろしくお願いします!」

愛海「あたしのお山道は長く険しい荊の道だよ? それでも歩む覚悟はあるの?」

兵「俺も、銚期さんみたいにビッグになりたいです!」

愛海「その意気や良し! これからは、あたしのことを師匠と呼びなさい!」

兵「はい、師匠!」

馬武(愛海の腕っぷしは既に絶人の域まで達している。でも、さっきからいったい何の話をしているんだ?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:19:32.87 ID:wvIGXzxa0<> 周子「どう、我が軍の陣容は?」

拓海「わけのわからん奴らの集まりかと思ったら、意外にそうでもねえな」

周子「そこまで評価してもらえれば上出来かな。でさ、一つ相談なんだけど」

拓海「何だ?」

周子「拓海ちゃん、うちに来ない?」

拓海「勧誘かよ」

周子「言っちゃ悪いけど、王匡って人は小者だね。
   拓海ちゃんみたいな人が、いつまでもあんな人の下にいることないよ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:20:28.45 ID:wvIGXzxa0<> 拓海「周子、悪いが今の言葉は撤回してくれ。あんな奴でも一応は主君なんだ」

周子「ごめんごめん。でもさ、考えておいてよ」

拓海「それに、アタシは周子の幕僚となるような奴じゃねえから。
   そもそも、アタシがなぜ叛乱軍に身を投じたのか知ってるのか?」

周子「ううん」

拓海「過去にアタシは、ある誤解から人を殺したことがあるんだ。
   役人から追われる身となったアタシは、王匡に身を寄せるしかなかった。
   あいつは、身一つで逃げてきたアタシを、何も言わずに匿ってくれたんだ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:21:24.88 ID:wvIGXzxa0<> 周子「なるほどね。しっかしあたしは、人を口説くのが下手だな〜。
   拓海ちゃんを勧誘できなくて、これから本当にやっていけるのかな?」

拓海「思うに、いずれ周子の下には、アタシよりも優秀な人材が雲の如く集まってくるだろうよ」

周子「励ましてくれてありがと。でもさ、この蔡陽だけが天下の全てじゃないんだからね?」

拓海「って言うと?」

周子「空はどこまでも広がっているし、大地はどこまでもつながっている。
   天と地の間のどこに自分の居場所があるのか、それを考えてみてもいいんじゃない?」ニコッ
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:22:28.63 ID:wvIGXzxa0<>
ドクン

拓海(なんだ、今のは……)

拓海「よせよ、アタシはそれほど大それた人間じゃねえって。
   世間の片隅で、陽の明るさに目を背けながら歩くのが、アタシには似合ってる」

周子「拓海ちゃんがそう言うならそれでもいいけどね。ま、同盟者同士なんだし、これからも仲良くやろうよ」

拓海「ああ……よ、よろしくたのむ」

馬武(こいつの笑顔を見た瞬間、何か吸い込まれそうな気分がした……
   高祖劉邦の子孫だって言うし、将来大物になるんじゃねえのか)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:24:06.33 ID:wvIGXzxa0<> >>113

最後の行、馬武→拓海ですね。ごめんなさい。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:24:38.22 ID:wvIGXzxa0<> 周子「どうしたの、タクミン? 顔赤いよ」ニヤニヤ

拓海「うるせー!」

周子「もしかして、シューコちゃんの魅力にやられちゃった?」

拓海「か、顔が赤いのは夕陽のせいだっての!」

周子「そんなに照れなくてもいいのにー。タクミン可愛いー」

拓海「ほっとけ! それからタクミンって呼ぶな!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:25:51.55 ID:wvIGXzxa0<>
〜劉縯の幕舎〜


劉縯「おう文叔、よくぞやってくれたな」

周子「ま、シューコちゃんにかかれば朝飯前だよ」

劉縯「今回の大勝により、各地から参集する兵が急増している。急いでこれらを練兵し、北上しようと思うのだがどうだろう?」

周子「無理な侵攻は兵站に難が出るんじゃないかな?
   あたし達が官軍を破ったときと同じ作戦を、敵に使われるかもしれないよ。」

劉縯「そうだな。一度軍議を招集して、王匡殿や王常殿と今後の方針を練るべきか……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:26:37.24 ID:wvIGXzxa0<> 周子「お兄ちゃん、悪いけどそんなに時間は無いかもね」

劉縯「どういうことだ?」

周子「五万という大軍が敗北した今、敵はさらなる大軍を派兵してくると思う。
   各地で叛乱が頻発しているとはいえ、一つひとつの勢力はとても小さい。だから朝廷にはまだ余力があるはず。
   派手に大勝してしまった今、このあたし達が慮るべきは第二波、第三波の討伐軍にどう対応するかでしょ」

劉縯「しかし、確実というわけではあるまい」

周子「軍事において、希望的観測はご法度だよ。常に最悪の状況を想定して作戦を立てなきゃ」

劉縯「なるほどな。お前の忠言、しかと胸に刻み付けた。軍議ではそこに着眼して話し合うことにする」

周子「頼むよ。あたしはか弱い美少女なんだからさ」

劉縯「はいはい。好きに言っておけ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:27:38.61 ID:wvIGXzxa0<>
〜数日後〜


王匡「ふむ、つまり劉秀殿が言うには、朝廷がさらなる大軍を寄越してくるかもしれんというわけだな?」

劉縯「そういうことだ。せっかく領土が広がったわけだから、ここでひとまず防備を固めて地盤を強固にすべきだと思うのだ」

王匡「しかし、いまの領土が本当に防衛に適しているかどうか、それが問題だろう」

王常「どういうことだ?」

王匡「蔡陽のような田舎城では心もとない。
   ならばいっそのこと、さらに北上して宛(えん)と昆陽(こんよう)の二つの城を奪取するというのはどうだろう」

劉縯「何故その二つの城を獲るのだ?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:28:57.53 ID:wvIGXzxa0<> 王匡「宛も昆陽も、中原(ちゅうげん)の中心都市である南陽、潁川(えいせん)の南方の要であろう?
   城郭の堅牢さは比類なく、先にこれらを掌中に収めておけば、対朝廷軍において有力な防備になりうると思うが」

王常「なるほど。それは良い考えだ」

劉縯「しかし問題は、それらの城塞都市をどうやって攻略するかだろう」

王匡「なあに、朝廷は南征に頓挫したばかりなのだ。宛も昆陽も防備は弱体しておろう」

王常「不確定要素が多すぎる。もっと慎重を期するべきだと思うが」

王匡「先の戦で大活躍した劉家軍にかかれば、造作もなかろう。そうだな、劉縯殿?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:29:27.91 ID:wvIGXzxa0<> 劉縯「我らに先鋒を任せてくださるとおっしゃるか?」

王匡「応とも。先の戦にて劉縯、劉秀の二将軍の令名は天下に鳴り響いておるからな」

劉縯「わかった。では先鋒は我ら劉家軍が受け持とう」

王匡「ああ。よろしく頼む」

王匡(ふふふ……単純な男だ。宛も昆陽も、鉄壁の城塞として名高い。どんな名将でも、無傷で手に入るものか。
   それに、官軍が侵攻してきたら矢面に立つのは劉家軍だし、官軍と劉家軍が鎬を削っている間に我らは南方に後退し、
   領内に深く引き込むことができる。焦土戦術を用いるにはうってつけではないか……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:30:11.47 ID:wvIGXzxa0<> 王常「しかし劉家軍だけでは心もとない。我らも加勢いたそう」

劉縯「忝い」

王匡「そうかそうか。では私は、お二方の後方支援に徹するとしよう」

王匡(王常までも前線に出張ってくれるのか、これは僥倖だ。
   劉家の驍将と言われる劉秀がいようとも、この難局は乗り切れまい。
   私は、二軍との戦で疲労困憊したの官軍を討てばそれでよい……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:31:19.92 ID:wvIGXzxa0<>
〜新市軍 本営〜


拓海「王匡、これはいったいどういうことだ!?」

王匡「おう馬武か。お前も早く支度しろ」

拓海「下江軍と劉家軍は北上しているのに、どうしてアタシ達は後詰どころかさらに南に下がろうとしているんだ?」

王匡「これは軍議で決定したことだ。劉縯殿と王常が、宛と昆陽の二城を落とす。
   二軍はそのまま籠城し、討伐軍を邀撃するという作戦だ」

拓海「だったらこっちも兵を出して、後詰に回るべきだろうが」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:32:39.56 ID:wvIGXzxa0<> 王匡「何を青臭いことを言っているのだ、馬武よ。官軍との戦いで劉縯と王常が死んでくれればそれで良い。
   我らは北に延びた領土内に官軍を引き込み、兵站が伸びきったところを逆撃するのだ。
   良い作戦であろう?」

拓海「てめえは他の二人と盟約を結んだはず。同盟とは信と義の結びつきでなくちゃいけねえのに、てめえの行いはそれに反しているぞ!
   助けに行かねえと!」

王匡「何が信義だ! 誤って人を殺した貴様が言えることか! ……なるほど、貴様あの劉秀とか言う小娘に誑かされたと見える。
   私もあの小娘に言いくるめられて、先の戦で得た鹵獲品は、ほとんど民衆に還してしまったのだからな!」

拓海「周子はそんな奴じゃねえ! 劉文叔を見殺しにすることは、天下のにとっての損失だってわからねえのか!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/01(月) 21:33:26.88 ID:wvIGXzxa0<> 王匡「つけあがるなよ、馬武。お前の主君は誰だ?」

拓海「てめえだよ、腐ってもな」

王匡「では信義がどうのとぬかすならば、主君の命が絶対であろうが」

拓海「……」

王匡「沈黙は肯定と受け止めるぞ。私も、お前のような有為な人材を失いたくはないのだ。
   さあ、早く軍をまとめよ」

拓海「ぐ……」

馬武(スマン、周子。やっぱりアタシは、お前と一緒に歩むような人間じゃねえんだ……
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/01(月) 21:46:59.67 ID:TRsmVqiBo<> 馬武はたくみんだけど、伏波将軍馬援も出るならふじりな辺りになるのかねぇ <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:41:02.46 ID:n6zpmT+70<>
〜一月後 昆陽 劉秀軍本営〜


周子「……いやあまさか、こんな簡単に昆陽を陥とせるとは思わなかったよ」

イヴ「でしょう? 攻める前に降伏勧告をしてよかったんですよ」

老人「淯陽の戦いでは、劉秀殿は鹵獲品の殆どを人民に返還されたと聞いておりましたからな。
   劉秀殿であれば、この昆陽を朝廷から守ってくださると信じております」

周子「でもさ、今の朝廷ってそんなにひどいの?」

老人「ひどいという言葉では現せません!
   税金は年々増えるし、官職名は何百年も前に廃止されたような名前に変わるし、地名も変更されたと思ったらまた前の地名に戻るし。
   とにかく、どちらを向けばよいのかわからないのが、今の政(まつりごと)です」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:41:52.59 ID:n6zpmT+70<> 王常「おう劉秀殿、こんなところにいたか」

周子「王常さん、お疲れ。こっちは片づいたけど、お兄ちゃんの方が心配だね」

王常「劉縯殿は宛を水も漏らさぬほどに重囲し、着々と攻略しつつあるらしい」

周子「“囲師ハ周スルコトナカレ”って孫子も言ってるのに、どうして完全包囲してしまうかな?」

王常「まあまあ、現場を見ていない我らが口出しすることではあるまい。
   それよりも、他人のいないところで話がしたいのだが良いだろうか?」

周子「いいよ。悪いけどイヴちゃん、外してくれる?」

イヴ「はぁい」

老人「では、私もこれで……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:42:25.11 ID:n6zpmT+70<> 周子「さあ、これで誰もいなくなったよ」

王常「落ち着いて聞いてほしい。朝廷の討伐軍が、ここに迫っている」

周子「なんだそんなことか。想定通りじゃない。その前に昆陽を攻略できたのは御の字だし」

王常「いや、その兵力が桁外れなのだ」

周子「どんだけの大軍が来てるの?」

王常「朝廷が喧伝するに、総数百万」

周子「……へ?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:43:19.02 ID:n6zpmT+70<> 王常「いいか、百万だぞ百万。朝廷は地方軍や近衛軍まで、外征可能な兵力を根こそぎ動員しているのだ。
   地平を埋め尽くすほどの大軍を、どうやってこの昆陽で迎え撃てばよいのか……」

周子(戦で兵力を誇張するのは常套手段だ。だから実数はその半数以下だろうね。
   それでも四十万ってところか……)

周子「ちょっと待ってね……いま考えを纏めるから」

王常「考えている余裕はないぞ。この城で防ぐか、領内深くまで誘い込むか、早く決めねば」

周子(本当はこんな城は放棄してしまった方が良い。
   できるだけ深く敵を引き込んで、兵站を分断できれば、敵は大軍ゆえに軍組織の維持ができなくなる。
   けどそうなると、お兄ちゃんが宛を攻略しているのに取り残されてしまうことになる。
   かといってお兄ちゃんが攻囲を解くと、宛の防衛部隊に後背を衝かれて大打撃をうけちゃうし……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:44:14.18 ID:n6zpmT+70<> 王常「劉秀殿、どうなのだ?」

周子(やっぱり縦深陣は却下。ではこの城で迎え撃つか……でも精々一万程度の兵力でどうやって……)

周子「ねえ王常さん、敵の陣容ってわかる?」

王常「ああ。間者の報告によると、王莽は朝廷の威信にかけて、津々浦々の兵法家や軍学者を登用して指揮を執らせているらしい。
   また兵科も様々で、なかには猛獣を操る部隊もあるとか」

周子「官軍ってことは、星読みも連れてきているよね」

王常「多分な。官軍は星辰によって軍を進退させることもある」

周子「なるほどね……風の向き、靉靆(あいたい)とする雲、この季節、今の秋(とき)……
   何もかも、全て読めた」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:45:00.34 ID:n6zpmT+70<> 王常「何を言ってるのだ」

周子「王常さん、この戦、勝てるよ」

王常「本当か?」

周子「うん。まずあたしに、三千ほどの軍を貸してほしい。あたしは三千を率いて城外に出る。
   残りの兵力は王常さんの指揮の下、昆陽城を防衛して」

王常「城外と城内の軍が連携して敵を討つということか。しかし、大軍を相手にそれが通用するかな」

周子「あたしはある“機”を見て敵に夜襲をかける。それだけでこの戦は勝てるよ」

王常「本当か? こんなことを言いたくないが、自分だけ戦場を離脱しようとか考えてないか?」

周子「じゃあ人質として、ケ禹と朱祐を置いていくよ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:45:36.00 ID:n6zpmT+70<> 王常「なるほど、劉秀殿の覚悟の程度はわかった。だが、もうすこし具体的に説明してくれぬか」

周子「とにかく、王常さんは丸一日城を守ってくれるだけでいいよ。
   あたしの作戦は作戦と言えるほどのものじゃないし、こればっかりは……
   何と言うかな……そう、“天祐”ってものじゃないかな」

王常「天祐か……劉秀殿はツキがよさそうだし、ここはひとつ劉秀殿の策に乗ってみよう。
   どのみち、座して待っていても死ぬだけだからな」

周子「じゃあさっそく、出撃の準備をするよ」

王常「私も残された時間で防備を強化しよう。相手がどんな大軍でも、一日や二日は守り切ってみせるさ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:46:13.39 ID:n6zpmT+70<>
〜昆陽 官軍本営〜

キラッ


兵「お、おい! いま星が落ちたぞ!」

兵「何言ってんだ。こんな真昼間に星なんて見えるわけねだろ」

兵「見間違いかな。俺、目はいい方なんだけどな……」

キラッ キラッ

兵「やっぱり見間違いじゃない! 流星だ! それも幾つも!」

兵「本当だ! 戦の前に流星なんて、なんて不吉な……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:46:48.52 ID:n6zpmT+70<> 天文家「まさに凶兆じゃな……」

兵「先生、敵は少数だって聞いてますが、この戦本当に大丈夫なんでしょうね?」

天文家「どうであろう……むむむ!」

兵「どうしました?」

天文家「皆、あれを見よ! あれは“営頭星(えいとうせい)”じゃぞ!
    あの星が落ちるとき、軍の大将は首を刎ねられ、兵どもの血で大地は赤く染まると言われておる!」

兵「雲のようにしか見えませんが」

天文家「ほれ、もうすぐ営頭星が落ちてくる!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:47:36.17 ID:n6zpmT+70<>
ゴオオオオオ

兵「わあ! 雲が崩れる! 星が砕けるぞ!」

兵「こんな戦やってられるか! 俺は逃げるぞ!」

ワーワー キャーキャー




周子「……やっぱりね。敵が少しずつ混乱しはじめた」

愛海「でも、営頭星、だっけ? そんなのが出てくるなんてよくわかったね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:48:22.03 ID:n6zpmT+70<> 周子「歴史上では、太白星(たいはくせい:金星)が昼間に現れるのは凶兆っていうのがよくあるんだ。
   昼間に流星が見えたりするのも同じかな。日食とか月食もそうだよ」

愛海「へー、」

周子「でも実際のところ、少し天文学に詳しければ、星の巡りなんて予測しようと思えばできる。
   ま、今回は運が良かっただけなんだけど……」

周子「さあ、おしゃべりはおしまい。今から敵を奇襲するよ」

愛海「こんな真昼間から!?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:48:58.32 ID:n6zpmT+70<> 周子「勝算はある。第一に、圧倒的寡兵のこちらが城外に兵力の一部を展開してるなんて、敵の誰も予想してないと思う。
   第二に、奇襲は夜に仕掛けるという固定概念を覆す。この二点かな」

愛海「さ、さすが周子さん……このあたしでも冷や汗がでてきたよ」

周子「怖いのはあたしも同じだよ。これから敵の先鋒部隊を横撃し、一度離脱。
   けど、離脱すると見せかけて、初撃で見極めた敵本陣を目指してひたすら突撃する。こんな作戦でどうよ」

愛海「十中八九死ぬね、これ」

周子「死はもとよりのこと、戦わなくては生き残れないよ……じゃあ、行こうか」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:49:37.92 ID:n6zpmT+70<> 見張り「ん? なんだあの部隊は」

兵「どうかしたのか?」

見張り「いや、側面の丘稜から三千ほどの部隊が来てるぞ」

兵「進軍隊形のままだから、きっと先鋒への増援か、側面援護の部隊だろう」

見張り「じゃあ、先鋒部隊に伝令するよ。増援部隊の受け入れ態勢を頼むって」

兵「ああ、わかった」

ドドドド

見張り「い、いや待て! 突っ込んでくるぞ! あれは味方じゃない!」

兵「うわあ! 本当だ! すぐに隊長に知らせないと……!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:50:14.72 ID:n6zpmT+70<>
ヒュウウウウ ドスッ

兵「ぐえっ!」

見張り「えっ、この矢、どこから飛んできた……」

ヒュウウウウ ドスッ

見張り「ゲボッ!」




愛海「すごい腕前だね、周子さん! 見張りの兵が二人とも倒れたよ!」

周子「これで少しは敵襲の連絡が遅れるでしょ。さあ、先鋒をズタズタにしてしまおう!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:50:59.35 ID:n6zpmT+70<>
愛海「うおおおお! どけぇ!」

ザシュッ

周子「ほらほら、さっさと逃げなよ。道を塞ぐ人は斬っちゃうよ〜」

ズバッ

敵兵「こ、こいつら、強すぎる……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:52:35.76 ID:n6zpmT+70<> 伝令「た、大変です! 将軍!」

王邑「なにがあった!?」

伝令「敵が奇襲を仕掛けてきました! 先鋒は潰走しつつあります!」

王邑「敵の数はどれほどだ?」

伝令「三千から五千ほどかと。赤地に『劉』の旗を掲げているそうです」

王邑「うむ、敵ながら見事な奇策だ。おそらく、淯陽で甄阜と梁丘賜を破った劉家軍だろう。
   先鋒部隊はひたすら後陣に逃がし、後衛部隊を前進させて支援させよ!
   奇襲の原則は一撃離脱。初撃を耐えればこちらの勝ちだ」

伝令「ははっ!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:53:22.28 ID:n6zpmT+70<> 周子(そろそろ頃合いかな……)

周子「よし! 総員退却! 敵が混乱してる隙に!」

敵兵「よ、よし……あいつら退却していくぞ……」

周子「……って、退却するとでも思った? 残念、波状攻撃でした〜!」

周子「愛海ちゃん! 牙門旗が翻っているのが見えるよね、あそこが本陣に違いない!」

愛海「合点承知!!」

ドドドド ワーワー ヤーヤー

王邑「な、なんて奴らだ! 退却すると見せかけて、また突撃してきた!
   誰か、誰かおらぬか! 急いでこの本陣を……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:53:58.41 ID:n6zpmT+70<> 愛海「待て待て〜! そこのおじさん、この軍の総大将でしょ?」

王邑「誰だ貴様は!」

愛海「悪いけど名乗るような名は持ってないんだ。あたしの野望のために、さっさとあの世に行ってくれる?」

王邑「我こそは、言わずと知れた王邑だぞ! 数十年の間に積み重ねた戦功では人後に落ちぬわ!
   この王邑の首を武勲とするならば、余程の野望なのであろう」

愛海「ふふーん、聞いて驚け!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:54:36.91 ID:n6zpmT+70<>
戦で活躍する

周子大先輩に褒めてもらう

褒美として愛梨さんのお山を……



愛海「どう、すごいでしょ? あたしの完璧なプランは!!」

王邑「何を言ってるのかさっぱり……」

愛海「ってことでその首もらったー! 八大招・立地通天炮!!」

ブッシャー

愛海「総大将王邑の首、獲ったど〜!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:55:04.95 ID:n6zpmT+70<>
〜官軍 後陣〜


馮異(小日向美穂)「ムニャムニャ……フヘヘ……」

兵「馮異殿、馮異殿!」

美穂「……」スヤスヤ

兵「馮異殿、昼寝してる場合ではありませんぞ!」

美穂「ふえっ! な、ななな何があったんですか!?」

兵「敵の奇襲により、先鋒が潰滅しました! 王邑将軍も討たれたようです!」

美穂「こ、こんな昼間に奇襲? わあ、敵さんもすごいこと思いつくんですね〜」

兵「暢気なこと言ってる場合じゃないです! これからどうするんですか!」

美穂「ええええっと、まず状況把握を……落ち着いて、落ち着いて、と……」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:55:45.36 ID:n6zpmT+70<> 美穂「じゃあ今、潰走した先鋒部隊を纏める人がいないってことですね?」

兵「そのようです。後陣の中からも既に脱走を始める兵もいまして」

美穂(昼間に流星が落ちたのが良くなかったのかな。
   ううん、きっとこれは敵の指揮官が、戦の流れを読むのが上手いんだ)

美穂「じゃあ、周辺の部隊に呼びかけて降伏しちゃいましょう」

兵「え、そんなことしていいんですか!?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:56:30.20 ID:n6zpmT+70<> 美穂「しかたありませんよ。
   総大将が戦死した場合、次級の者が指揮を執ると言っても、この軍は兵法家や軍法家の数が多すぎて統制が取れていません。
   これ以上戦を長引かせても、傷つく人が増えるだけです」

兵「なるほど」

美穂「わたしも前線に出ます。ついてきてくれますか?」

兵「はい!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:57:18.41 ID:n6zpmT+70<>
ガッシャーン

兵「げえっ、檻が壊れた! 虎が逃げ出したぞ!」

虎「グルルルル!!」

兵「もうおしまいだ……」

美穂「と、虎が脱走してる……誰か、槍を持ってませんか?」

兵「どうぞ」

美穂「お借りします」

虎「ガウガウ!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:57:52.44 ID:n6zpmT+70<> 美穂(落ち着いて、よ〜く狙えば……)

美穂「えいやっ!」

ドスッ

虎「キャン!」

兵「おお、虎を一撃で屠るとは、さすがは馮異殿。た、助かりました……」

美穂「怪我は無いようで安心です。さあ皆さん、白旗を掲げましょう! こんな戦いで死んじゃうなんてダメです!」

兵「はい!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:58:40.55 ID:n6zpmT+70<> 愛海「……あちゃあ、敵の後陣が纏まり始めたか。追撃もここまでのようだね」

周子「いや待って、何だか様子がおかしい」

軍使「道を開けよ! 道を開けよ! 我こそは官軍の軍使である! 劉家軍の大将はどちらだ!」

周子「お〜い、ここにいるよ〜!」

軍使「貴方様が大将であらせられるか?」

周子「そだよ」

軍使「官軍の指揮を代行している、馮異から伝言です。我らは降伏する、と」

周子「ふーん、そっか。お疲れ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:59:10.23 ID:n6zpmT+70<> 愛海「あれ、馮異ってまさか……」

周子「馮異? 誰だっけ?」

愛海「ほら、前に話したあの人だよ」

周子「愛海ちゃんの同郷の人だっけ? 知り合いなら好都合だね」

周子「じゃあ、さっそく帰って伝えてよ。我が軍は降伏を受け入れるってね」

軍使「ご英断、感謝いたします!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 19:59:59.26 ID:n6zpmT+70<>
〜夕刻〜


美穂「あ、あの、官軍の馮異と申します、此度は降伏を受け入れていただき……」

愛海「美穂ちゃん!」

美穂「あ、あれ? もしかして、愛海ちゃん?」

愛海「そうだよ! 久しぶりだね〜」モミモミ

美穂「やっ、ちょ、ちょっと、どこ触ってるの!?」

愛海「いやあ、旧友の成長を確かめるのは義務ってもんでしょ〜。ほらほら」

周子「感動の再会は後にしてくれるかな? 話が進まないんだけど」

愛海「あ、ごめんなさい……」スゴスゴ

美穂(愛海ちゃんを一言で押さえるなんて、この人何者……?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 20:00:37.38 ID:n6zpmT+70<> 周子「美穂ちゃんだっけ? 今回は、軍を纏めて降伏してくれてありがとう。
   愛海ちゃんから聞いてたけど、聞きしに勝る統率ぶりだね」

美穂「そ、そんなことないですよ」

周子「自己紹介が遅れたね。あたしは劉秀、字は文叔。シューコって呼んでくれればいいから」

美穂「はい、こちらこそよろしくお願いします。それで、降伏した皆さんはどうされるつもりですか?」

周子「別に処刑したりなんてしないよ。
   官軍が放り出していったものがまだ戦場に残ってるから、それを回収する作業をしてもらおうかな。
   後は希望する兵だけ軍に加わってもらって、それが嫌な人には路銀をあげて故郷に帰ってもらおう」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 20:01:20.95 ID:n6zpmT+70<> 美穂「そんな処遇でいいんですか?」

周子「もっとこき使って欲しい?」

美穂「い、いえ、そんなことないです」

周子「兵と言っても元は民だし、助けてあげられるなら助けたいかな。他に何か足りないこととか無い?」

美穂「特に無いです」

周子「じゃあ次は、美穂ちゃん自身はどうするの?」

美穂「わたし、ですか……?」

周子「多分今頃都では、馮異は敗将として扱われてるだろうね。今から帰還したところで譴責は免れないと思う」

美穂「そ、そうですよね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 20:02:14.07 ID:n6zpmT+70<> 周子「だから馬鹿正直に帰るのは損だ。だったら故郷に帰って、ひっそりと暮らすという手もある」

美穂「でも今の世の中、帰郷したところで安全ってわけじゃないし、どうしようかな……」

愛海「だったらさ、あたし達のところに来なよ!」

美穂「え?」

周子「あたしもそう思う。美穂ちゃんには是非、あたしの幕僚になって助けてほしいな。
   あの軍のまとめ方を見てもわかる。美穂ちゃんは戦が上手いって」

美穂「そんなことないです。
   わたしあがり症で、何かあったらいっつも後手に回ってて、だから武挙に通ってもあんまり出世もしてなくて」

周子「杓子定規の官軍の規律じゃ、美穂ちゃんの実力がだせなかったってだけだよ」

愛海「そうそう。それにね、劉家軍には他にも愛梨さんとかイヴさんとか、面白い人がいるんだよ、きっと楽しいよ!」

美穂「じ、じゃあ、そうしようかな……不束者ですが、これからよろしくお願いします!」

周子「よろしくー」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 20:02:59.36 ID:n6zpmT+70<>
〜次の日〜


兵「あ、馮異殿! いかがでしたか?」

美穂「劉家軍の劉秀将軍から、皆さんに通達があります。帰郷を希望する者には路銀を与える。
   入軍を希望する者は誰でも受け入れると」

「おお、助かった……」

「見せしめに処刑されるのかと思ったぜ……」

ガヤガヤ

兵「それで、馮異殿はどうされるんですか?」

美穂「わたしは劉秀将軍に誘われて、劉家軍に参加することになりました。
   皆さん、短い間でしたが、至らないわたしと共に戦ってくださってありがとうございました!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/02(火) 20:04:25.16 ID:n6zpmT+70<> 兵「馮異殿が劉家軍に行くなら、俺も行きます!」

美穂「え、なんで?」

兵「あの敗戦で馮異殿がいてくださらなかったら、追撃で皆死んでたか野垂れ死にしてたところです。
  馮異殿には返しきれない恩がありますから!」

「俺も馮異殿と一緒に行くぞー!」

「俺もだ! 馮異殿は命の恩人だー!」

美穂「み、皆さん……あ、ありがとうございます!!」




愛海「どうよ、あたしの幼馴染の実力は!」

周子「なんで愛海ちゃんが威張ってるの……確かに頼りなさそうに見えるけど、あれだけ兵から慕われるってことは、相当な将器だね」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/03(水) 17:20:23.28 ID:LOQaftcRO<> 光武帝よく知らないけど面白い <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 20:59:54.66 ID:JmhlVSGn0<>
〜数日後 宛〜


周子「お兄ちゃん、戦況はどう?」

劉縯「来たか文叔。もう噂に聞いてるぞ。僅か数千の兵で、百万の官軍を大破したそうだな」

周子「もう知ってるの? つまんないなぁ、びっくりさせようと思ったのに」

劉縯「兵達の中には、お前を“軍神”と呼ぶ者もいる。
   この宛も、昆陽陥落に続き官軍大敗の報せを受けて開城したのだ。まさに文叔様さまだな」

周子「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

劉縯「調子に乗るな」

周子「えー、たまにはいいじゃん……ところで、この人だれ?」

劉縯「宛の守将だ。見どころがありそうな人物だから助命した」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:00:32.10 ID:JmhlVSGn0<> 岑彭(しんほう)「貴方が劉秀殿ですか。私は岑彭、字は君然と申します。此度は劉縯殿に情けをかけていただいて、こうして生き延びております」

岑彭「私はかつて甄阜将軍に従っていたのですが、淯陽の敗戦の後、ここまで撤退してきたというわけです」

周子「なるほどね、こっちもよろしく……でお兄ちゃん、戦には勝ったけどこれからどうなるのかな。
   朝廷軍はもう再起不能だよ」

劉縯「朝廷の総力をかけた遠征を挫いたわけだし、後はこのまま北上して長安を攻めるのみだな」

周子「そんなにうまくいくかな?」

劉縯「何か気がかりなことがあるのか」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:01:17.08 ID:JmhlVSGn0<> 周子「この同盟軍は、いままで朝廷という強大な敵を相手にしてたからこそ、一致団結できてたわけでしょ。
   外に強敵がいなくなった今、身内でおかしなことを考える人が出てくるかもしれないよ」

劉縯「そうかなあ」

周子「一番危険なのはあたし達だってこと、お兄ちゃんはわかってる?」

劉縯「どうして俺たちが危険なんだ?」

周子「同盟軍の中で最も寡兵の劉家軍が、全軍に冠絶した武勲を挙げている。
   だから、あたし達のことを面白く思わない人もなかにはいるはず。
   劉家軍の発言力が大きくなり、他の二軍を隷下におさめてしまうのではないか……とかね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:01:54.15 ID:JmhlVSGn0<> 劉縯「おいおい、身内を疑うのは良くないぞ。ともかく、一度全軍を編成しなおす必要がある。
   しばらく俺たちはこの近辺で蟠踞しよう」

周子「岑彭さんはどう思う?」

岑彭「さあ? 私は降将なので、あなた方の人間関係には疎いのものですから……」

周子「それもそうだね」

岑彭(劉縯殿もなかなかの器量だと思っていたが、妹の劉秀殿は更に頭抜けているな。
   昆陽で百万の官軍を破った軍才に加え、この歳で保身まで思慮しているのか。大したお方だ……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:03:06.98 ID:JmhlVSGn0<>
〜数日後〜


使者「劉縯将軍! 劉縯将軍はいずこにいらっしゃる!」

周子「ん、どしたの?」

使者「それがしは王匡様の使者でございます。劉縯将軍にお目通りしたいのですが」

劉縯「劉縯は俺だ。王匡殿はいかなる御用かな?」

使者「申し上げます。王匡様から、此度の同盟軍の戦勝をお祝いします、という伝言をうけたまわっております」

周子「上から目線で嫌なかんじ。しかも、劉家軍じゃなくて同盟軍って言い方は何さ。
   後方支援をするって言っておきながら、何もしなかったくせに」

劉縯「まあまあ、そう言うな……王匡殿の要件とはそれだけか?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:03:45.98 ID:JmhlVSGn0<> 使者「王匡様は、此度の戦において新王朝は潰え去ったと判断しました。
   よって、同盟軍のなかから新しい皇帝を擁立しようとのことでした」

劉縯「ほう……して、誰を皇帝にしようと言うのだ?」

周子(普通に考えて戦功第一のお兄ちゃんでしょ)

使者「……劉玄(りゅうげん)様でございます」

劉縯「なんだと!?」

使者「劉玄様は、劉縯様の族兄にあたります。血筋から言っても順当なところかと思われますが」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:04:39.20 ID:JmhlVSGn0<> 劉縯「あの男にどれほどの器があるというのだ? 挙兵してから今日に到るまで、どれほどの功績を挙げたというのだ?」

使者「しかし、もう登極の儀式は済んでおりますし……」

劉縯「事後承諾とはますます許せん! 俺が直接王匡殿と話をする!」

周子「お兄ちゃん、これは王匡さんの策略だよ。
   お兄ちゃんを皇帝に即位させるよりも、劉玄さんのほうが与しやすいとか考えたんでしょ」

劉縯「そういうことだろうな。とにかく、こんな大事は捨ておけん。俺は一度蔡陽に行くから、お前は劉家軍の指揮を頼むぞ」

周子「あ、ちょっと! ……行っちゃった」

周子「どうしよう……追いかけたいけど、あたしの他に劉家軍の指揮ができる人いないし……お兄ちゃん大丈夫かな……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:05:25.46 ID:JmhlVSGn0<>
〜宮殿〜


劉縯「おい番兵、劉縯が来たぞ。王匡殿に目通りしたい」

番兵「お話しはうかがっております。どうぞ」

劉縯(俺に何の相談も無しに皇帝を立てるとは、王匡殿はいったい何を考えているのか……
   それに、しばらく見ないうちにこれほどの宮殿を建てたのか)

王匡「おう劉縯殿。宛でのご活躍、既に聞いておるぞ」

劉縯「挨拶は無しだ。なにゆえ聖公(劉玄の字)殿を皇帝に践祚させたのか、理由をお聞かせ願おう」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:06:08.81 ID:JmhlVSGn0<> 王匡「理由? 単純明快ではないか。“更始帝陛下”は識見に富み、そのお人柄は天下万民を包み込むであろう。
   王莽に簒奪された漢王朝を復興させるには、劉氏を立てるのが良い。
   系属で言えば劉縯殿の族兄に当たるし、至極順当ではないかな?」

劉縯(何をもっともらしく……詭弁をぬかすな)

劉縯「王匡殿、今の時世に勝手に皇帝を立てるのがどれほど危ういか、わかってないのか」

王匡「なんだと?」

劉縯「いま朝廷と戦っているのは我らだけではない。赤眉、銅馬という勢力もある。
   我らが皇帝を立てれば、これらの勢力もこぞって皇帝を立てるだろう。天下に劉氏なんぞいくらでもいるのだからな」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:07:06.35 ID:JmhlVSGn0<> 劉縯「つまり、朝廷を斃しても今度は“別の皇帝”と戦うことになる。
   皇帝が複数いる以上、天下の兵はこぞってどちらかの陣営に属し、血で血を洗う戦になるぞ。
   天下万民の安寧を目指す我らにとって、いまの時期に皇帝擁立など愚策でしかない!」

王匡「……では、劉縯殿は更始帝陛下に異議を申されるというのだな?」

劉縯「そうだ」

王匡「衛兵! 劉縯を捕らえよ!」

ザザザザ

劉縯「な! 兵を伏せていたのか!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:07:46.13 ID:JmhlVSGn0<> 王匡「たった今、貴様は陛下の御稜威(みいつ)を蔑ろにした! その言動は不敬である!」

劉縯「貴様……!」

王匡「更始帝陛下の王朝創立にあたり、貴様の命は一罰百戒の贄となってもらおう。ありがたく思うがよい」

劉縯「は、放せ!」

王匡「こいつを牢にぶちこめ! 準備ができ次第、即刻処刑する!」

王匡(これで劉縯は始末した。あとは劉秀の小娘だけか……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:08:23.32 ID:JmhlVSGn0<>
〜宛〜


周子「お〜、よしよし。いっぱい食べるんだよ、ブリッツェン」

ブリッツェン「〜♪」ムシャムシャ

イヴ「ブリッツェン、これも食べましょうね〜」

ブリッツェン「……」プイッ

イヴ「うう……ブリッツェン、周子ちゃんになつきすぎたせいで、私の餌を食べてくれません……」

周子「こらブリッツェン、ご主人様を困らせたらだめでしょ」

ブリッツェン「……」ショボーン

周子「そういえば、他のトナカイ達はどこにいるの?」

イヴ「厩舎の方で休んでますよ〜。このところ戦続きで、城内や陣営内を駆け回ってましたからね〜」

周子「優秀なトナカイ達だなぁ……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:09:03.43 ID:JmhlVSGn0<> 愛梨「……ねえ周子ちゃん、ちょっといい?」

周子「どうしたの、愛梨ちゃん。いつになく遠慮がちだけど」

愛梨「さっき、間者の人が届けてくれた書簡なんだけど」

周子「どれどれ……あっ!」

イヴ「どうしたんですか〜?」

周子「あ、いや、その……」ブルブル

イヴ(周子ちゃん、震えてる?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:09:58.24 ID:JmhlVSGn0<> 周子「恐れていたことが……現実になったよ……」

イヴ「まさか……」

周子「お兄ちゃんが……殺された……って」

愛梨「帰ってくるの、遅すぎですよね……向うで数日間は、王匡さんと話合いすると思ってましたけど」

周子「……あたし、行ってくる」

愛梨「絶対だめです! 今度は周子ちゃんが……」

周子「遅れて行ったら、遅れたことで揚げ足取られる。なら王匡が思ってもない早さで行く!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:10:25.13 ID:JmhlVSGn0<> イヴ「でも、行ってどうするんですか?」

周子「お兄ちゃんは不敬罪で殺されたんだ。だからお兄ちゃんの不敬を詫びる。こうすれば王匡も難癖つけられないはず」

愛梨「でも、危険なことにかわりないよ」

周子「お兄ちゃんが出て行ったとき、無理してでもあたしがついていくべきだったんだ。
   そうすればこんなことにならなかったし、それを口実に王匡を討つこともできた」

イヴ「せめて私や誰かを連れて行くべきじゃありませんか?」

周子「大人数で行ったら疑われる。あたし一人で行かなきゃならない……じゃ、そういうことで留守は頼んだよ」

愛梨「あっ、周子ちゃん!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:11:03.70 ID:JmhlVSGn0<>
〜数日後 宮殿〜


側近「王匡様、王匡様……」

王匡「どうした?」

側近「劉秀殿が面会にいらっしゃいました」

王匡「何だと!? それで、どれほどの軍を従えておるのだ?」

側近「従者も連れず、お一人で」

王匡「わ、わかった。とりあえず客間に通せ」

側近「はい」

王匡(一人でくるとはどういうことだ……?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:11:57.49 ID:JmhlVSGn0<> 王匡「それで、今日は何の要件かな?」

周子「我が兄劉縯が、陛下に不敬をはたらいたとか。そのお詫びに参りました」

王匡(劉縯を処刑したことを詰問するのではなく、謝りに来たのか……)

周子「劉縯は宛を攻略した戦功により、すこし驕っていたようです。
   それが今回の事件を惹起させてしまったことを、心よりお詫び申し上げます」

王匡「そ、そうか……それはまことにご苦労であった。それで、劉秀殿はどうされるおつもりか?」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:12:46.96 ID:JmhlVSGn0<> 周子「私の処罰は陛下の御聖断のままに。
   それまでは、劉家軍の指揮権は廷臣のどなたかに委任し、私は自宅で謹慎しております」

王匡(この娘、昆陽で官軍を破ったというが、政治に関しては疎いのだな。
   ならば殺さず、朝廷のために働かせておくか……)

王匡「劉秀殿の赤心は十分に伝わった。自宅で謹慎するまでもない、しばらくここで待ってもらえぬか」

周子「かしこまりました……」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:13:36.49 ID:JmhlVSGn0<>
〜数刻後〜


周子「……」

王匡「待たせたな、劉秀殿」

周子「いえ、とんでもございません」

王匡「更始帝陛下が、貴殿にこれを下賜されるとのことだ」

周子「これはいったい?」

王匡「河北討伐の節(せつ)だ。劉秀殿にはこれより、賊徒を討伐するため河北に赴いてもらう」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:14:04.34 ID:JmhlVSGn0<> 周子「では、罪は許していただけるのですね?」

王匡「罪も何も、貴殿には何の罪は無いではないか。これからは劉縯殿の分も、陛下に尽くされよ」

周子「ありがたき幸せにございます。この劉文叔、粉骨砕身し、陛下のためなら犬馬の労も厭いません」

王匡「そうかそうか、存分に励むがよい。つい最近、王莽が病死したと聞く。
   貴殿が河北を討伐している間、我らは北上して長安を攻める。
   その後、陛下は長安にて親政されるのだ。これで天下は盤石だな」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:15:15.83 ID:JmhlVSGn0<> 周子「さすがは王匡殿、素晴らしい構想ですね。感服すること頻りです。では、私はこれにて……」

王匡「またいずれ、長安で会おう。吉報を待っておるぞ」

王匡(劉秀は戦しか能が無いのだ。賊だらけの河北討伐は、あやつにまかせておけばよい。
   死んだら死んだでよし、河北討伐を成功させたら、難癖をつけて占領地を召し上げてまえばよい……)

周子(覚えておけ、王匡……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:15:55.75 ID:JmhlVSGn0<>
〜宛〜


周子「ただいま〜」

愛梨「お帰りなさい!」

イヴ「周子ちゃんが無事でほっとしました〜」

周子「特にお咎めは無しだったよ。それに、こんなお土産をもらったしね」

愛梨「何ですか?」

周子「皇帝陛下の節だよ。今度は河北を討伐してこいってさ」

イヴ「難題を次から次へと……」

愛梨「周子ちゃんは休む暇も無いですね。体調とか大丈夫ですか?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:17:07.29 ID:JmhlVSGn0<> 周子「平気平気。面倒臭い仕事押し付けられたけど、旨みもあるよ」

イヴ「旨みって何ですか〜?」

周子「朝廷内の様子を見てきたんだけど、安楽に耽っている廷臣が多すぎる。
   王匡達はこれから長安討伐に行くって言ってたけど、長安を占領してもいずれあの政権は崩壊するよ」

愛梨「じゃあ、今は政治から離れていた方がいいってこと?」

周子「そうだね。それに、河北を討伐するってのがミソだよ。ほら、昔からよく言うじゃん?
   “河北ヲ制スル者ハ中原ヲ制スル”って」

イヴ「河北を手に入れたら、周子ちゃんは独立するってことですか?」

周子「王匡も馬鹿じゃないから、たぶん息のかかった軍監とか着いてくると思うよ。けど、事が成ったら始末しちゃえばいいし」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:17:45.63 ID:JmhlVSGn0<> 愛梨「周子ちゃん、あの……」

周子「さ、そうと決まれば出発だよ! 数日中に出陣しよう!」

イヴ「ちょっと話を……」

周子「二人とも何してるの? あたしもう行くよ?」

愛梨「……」

イヴ「……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:18:29.08 ID:JmhlVSGn0<> 愛梨「周子ちゃん、無理してますよね?」

イヴ「はい。なんとか、皆に心配かけさせまいとしているように見えます」

愛梨「私、どうすれば……私がもっとしっかりしておけば、こんなことにはならなかったのかな……」

イヴ「愛梨ちゃん、自分をせめちゃダメですよ。いまの私達がしてあげられることはありません。
   普段通りに接してあげるのが、周子ちゃんにとって一番いいと思います」

愛梨「うん……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:19:24.22 ID:JmhlVSGn0<>
〜その夜〜


見張「馮異殿、こんな夜中に巡回でありますか?」

美穂「はい。今日はなんだか寝付けなくて……」

見張「馮異殿が寝付けないとは、そんなことがあるんですね。どこか、お体の具合でも悪いのですか?」

美穂「だ、大丈夫です……」

美穂(劉家軍に来て良かったな。皆、敵だったわたしにも親しくしてくれるし、軍の雰囲気がとてもいい。
   厳しすぎず、かといってだれてもいない……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:20:37.34 ID:JmhlVSGn0<> 周子「……」

美穂(あれ、周子さんだ……)

美穂「周子さん、眠れないんですか?」

周子「あ、美穂ちゃん……いや、ちょっとね……」

美穂(お兄さんのことがあったから、それがまだ……)

美穂「そうですよね、誰だって眠れない時くらいありますよね。あはは……」

周子「……」

美穂「……」

美穂(気まずい……) <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:21:03.81 ID:JmhlVSGn0<> 美穂「あ、あの!」

周子「悪いけど、一人にしてくれない?」

美穂「で、でも……」

周子「どっか行ってよ」

美穂「そんな……」

周子「誰だって、一人になりたい時ぐらいあるでしょ」

美穂「……」

周子「どうしたの?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:21:50.72 ID:JmhlVSGn0<> 美穂「……そ、そんなのはだめです!」

周子「い、いきなり何?」

美穂「お兄さんが殺されてしまったのはお気の毒です。それは周子さんが悪いというわけでもありません。
   でも、どうしてその悲しみを誰かに打ち明けないんですか?」

周子「美穂ちゃんに何がわかるの? 新参のくせに」

美穂「新参も古参ありません! わたし達は、仲間じゃないですか!」

周子「美穂ちゃん……」

美穂「嬉しい時は一緒に笑って、悲しい時は一緒に泣く。仲間ってそういうものでしょう?
   どうしてわたし達を頼ってくれないんですか?」

周子「だ、だって……」

美穂「遠慮せずに言ってください」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:22:53.53 ID:JmhlVSGn0<> 周子「だ、だって……あたしは、劉家軍の総大将だから……
   あたしが泣いてると………み、みんな不安に思うし……」グスッ

周子「本当は泣きたい……身を斬られるほど悔しい……
   でも、あたしがしっかりしなきゃ、だれが皆を導くの……」グスッ

美穂「泣いたっていいじゃないですか。悔しいのも悲しいのも、皆同じですよ」

周子「グスッ……ご、ごめんね、美穂ちゃん……八つ当たりみたいなこと言っちゃったね……」

美穂「えへへ、いいんですよ。血も涙もないような総大将より、
   泣いたり笑ったりする人の方が、着いていきたくなるじゃないですか」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:23:26.00 ID:JmhlVSGn0<> 周子「そ、それじゃあ、美穂ちゃんはついてきてくれるの?」

美穂「はい♪ 河北だろうと雲南だろうと、どこへでも」

周子「どこへでも、か……」

美穂「さて、いつまでも夜風に当たってると風邪ひいちゃいます。今夜は一緒に寝ませんか?」

周子「へ、一緒に?」

美穂「一緒に寝れば、暖かくて安心して眠れますよ。どうですか?」

周子「ふふっ、たまにはそんなのもいいかもね……ありがとう、美穂ちゃん」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/03(水) 21:24:26.34 ID:JmhlVSGn0<>
後漢書・馮異伝に曰く、


『劉秀が、劉縯の死を密かに悲歎しているとき、馮異はそれを慰めたが、かえって劉秀に窘められた。
 その頃の劉秀は、王匡に命を狙われる立場であり、公に劉縯の死を悼むことは憚られたからである』

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/03(水) 22:22:47.95 ID:FtwovQlEo<> 劉秀は兄貴の弔問客も全部追っ払って更始帝やその側近たちに対して、
疑心が無い事を態度を示して粛清されるの防いでたらしいからなぁ〜 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/05(金) 01:57:48.74 ID:WxkEspbxo<> やる夫光武帝スレを思い出して懐かしい気持ちになった

>>185
後漢末に河北を有していた袁紹さん「…………」
西晋末に河北を有していた王浚さん「…………」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/05(金) 19:35:22.52 ID:kLRflPH6O<> >>196
曹操『お前らが間抜けだっただけやで?』
石勒『せやせや』 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:28:28.73 ID:rA0nMrfh0<>
〜数日後〜


「おーい、そっちの箱を運んでくれ!」

「ちょっと待ってくれ。こっちのを片づけるから!」

「よし、ここいらの槍は全部まとめた。後は箱詰めするだけだ」

周子「皆きびきび働いてくれるね。河北に行っても心配なさそうだよ」

イヴ「そうですね〜。私は河北という地を知りませんけど」

周子「あたしも知らない。けど、河北は中原の穀倉って言われてるぐらいだし、美味しい食べ物とかいっぱいあるんじゃないかな」

イヴ「それは楽しみです〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:29:12.98 ID:rA0nMrfh0<> 周子「……話は変わるけど、あたし、出発の前に陣営内を巡回したんだよ」

イヴ「そうなんですか」

周子「遠征の準備に支障が無いかとかね。で、あたしの思い過ごしなのか、人が増えてるような気がするんだけど」

イヴ「ああそれなら、ただの思い過ごしではりませんよ〜」

周子「どういうこと?」

イヴ「周子ちゃんが留守の間、これはという人物に役職を授けて働いてもらってるんですよ〜」

周子「それならそうと言ってよ……知らない人が部隊の隊長をしてたりするとびっくりするじゃん」

イヴ「ごめんなさい。けど、皆さんすぐに馴染んでいますよ〜。皆さんをご紹介しましょうか?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:30:15.31 ID:rA0nMrfh0<> 周子「うん、頼むよ」

イヴ「みなさ〜ん、どうぞこちらへ〜」

ゾロゾロ

周子「なんかすごい集まってきてるんだけど」

イヴ「紹介しますね。右から順番に、祭遵(さいじゅん)さん、臧宮(ぞうきゅう)さん、劉隆さん、
   馬成さん、陳俊さん、杜茂(とも)さん、傅俊(ふしゅん)さん、堅鐔(けんたん)さん、王覇さん、
   以上九名になります」

周子「よくこれだけの人材をよく集めてきたね」

イヴ「周子ちゃんの新たな門出には、新たな人材が必要かと思いまして〜」

周子「あ、ありがと……」

周子(イヴちゃんってどこからこういう人たちを見つけてくるんだろう……武器とか食料ならともかく)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:31:07.55 ID:rA0nMrfh0<> 周子「コホン。えー、あたしが劉秀だよ。これからあたし達は河北の討伐に向かう。
   皆も知ってると思うけど、前の劉家軍の総大将にしてあたしの兄劉縯はもう亡い。
   あたしはお兄ちゃんの代わりが務まるように精一杯頑張るから、皆も協力してほしい。
   いろいろと至らないところのある大将だけど、皆あたしに着いてきてくれるかな?」

一同「「おーっ!!」」

周子「皆の命はあたしが預かった! 話は以上、各自持ち場に戻って」

ゾロゾロ

イヴ「……あの〜、お兄さんの件は……」

周子「今でも心の整理はついてないよ。けど、いつまでもクヨクヨしてたら前に進めないしね。
   お兄ちゃんの為にも、今はあたしが力をつけないと」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:31:42.26 ID:rA0nMrfh0<> イヴ「本当はそのために、河北討伐なんていう難題を請け負ったんですか?」

周子「どのみち断れなかったよ。けど、あたしが誰にも負けない力をつけて、皆を守れるようになったら、
   あたしやお兄ちゃんと同じ目に遭う人もいなくなると思う。あたしが皆を守らなきゃ」

イヴ「その“皆”という言葉は、天下の皆ということですか?」

周子「勿論そのつもりだよ。あたしもここまで来たら、天下人としての自覚が無いわけじゃないしね」

イヴ「ふふふ。私の言ったことがどうやら現実になりそうですね〜」

周子「そうだよ。イヴちゃんが言い出したことなんだし、最後まで責任とってもらわなきゃ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:32:28.81 ID:rA0nMrfh0<>
〜数か月後 邯鄲〜


「劉将軍! ようこそ邯鄲へ!」

「あれが劉将軍か? すごい別嬪さんだな〜」

「劉将軍恰好良い〜! こっちむいて〜!」



周子「何この歓待は?」

イヴ「あれ、知らないんですか? 周子ちゃんって、自分で思ってるより有名人なんですよ〜」

周子「あたしが何をしたって言うんだ……」

イヴ「昆陽で百万の官軍を、僅か数千で撃破したじゃないですか〜。
   劉秀の名は軍神として、遠近に名高いものになっていますよ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:33:21.11 ID:rA0nMrfh0<> 周子「あたしが軍神か……お兄ちゃんもそんなこと言ってたっけ。
   可憐な美少女シューコちゃんとは、ちょっとイメージが違うんだけどなー」

イヴ「それに周子ちゃんは、更始帝の節を持っていますからね。
   河北に安寧を齎す者として、皆から期待されているんですよ」

周子「はいはい。精々その期待に応えるとしますか」

イヴ「もう準備はできてますから、政庁に入ってください。近辺の豪族の皆さんとの謁見がありますから」

周子「面倒臭いな。わざわざそんなことしなくてもいいのに」

イヴ「豪族の皆さんからすれば、周子ちゃんは将来の処遇を決する存在になるかもしれませんからね。
   皆さん保身に必死です〜」

周子「身も蓋もない言い方だね……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:33:55.70 ID:rA0nMrfh0<>
〜政庁〜


豪族「……ということで、私の領地から得られる作物は、先に提出した書類に記載されている通りでして」

周子「ふ〜ん。ま、追々精査していくから、沙汰はしばらく待っててよ」

豪族「ははーっ……では何卒よしなに……」

周子「……ふー、毎日毎日、書類とにらめっこしてると肩が凝るよ。空いた時間も、客がひっきりなしに来るし」

イヴ「仕方ありませんよ。周子ちゃんは更始帝の名代ですからね……お客さんはまだいますけど、どうします?」

周子「もうこんな時間か。けどいいよ、せっかく来てもらってるのに、追い返すわけにはいかないからね」

イヴ「では次の方、どうぞ〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:34:39.23 ID:rA0nMrfh0<> 劉林「お初にお目にかかります。劉林と申します」

周子「劉? ってことは、あたしと同じ劉氏皇室の流れをくむってことかな?」

劉林「その通りでございます。私の父は、趙繆王・劉元でございます」

周子「ってことは、劉氏の中でもかなり皇室に近い血筋ってわけだね」

劉林「恐れながら」

周子「ふーん……」

周子(何だろうこの人……皇室に近い人物と言うわりには、顔つきや所作に卑しさがにじみ出てる。
   あたしの経験から言って、信用ならない人物だね)

劉林(昆陽で百万の官軍を破った者だと聞いていたが、実際に見てみるとどこにでもいる小娘ではないか。
   血筋からいえば、蔡陽の田舎劉氏と違って、俺のほうが断然上だ)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:35:53.21 ID:rA0nMrfh0<> 周子「それで劉林さんは、あたしに何の用?」

劉林「申し上げます。いま、赤眉という勢力が旭日の勢いであることはご存じですか?」

周子「知ってるよ」

劉林「彼らは、元を糺せば善良な蒼氓なのです。彼らの叛乱という罪を赦し、主だった者に地位を与えてやれば、
   強大な赤眉を兵力として取り込めると思うのですが……いかが?」

周子(何言ってんだこいつ……赤眉なんて、王莽の朝廷でさえ鎮撫できなかった叛乱勢力でしょうが。
   それを取り込むなんて、いまのあたしじゃ無理だよ)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:37:02.02 ID:rA0nMrfh0<> 周子「え〜っとね、あたしは河北に来て日にちが浅いから、周辺勢力のことはよくわからないんだ。
   だから赤眉の勢力を取り込むとか、そういう遠大な計は、ちょっと今は無理かな」

劉林「そうですか……それは残念です」

劉林(やれやれ、これだから田舎者は……名族たる俺が協力してやろうと言っているのに、人を見る目が無いな。
   わざわざこんな小娘の下につく必要はない)

周子「それにあたしは、これから北の薊(けい)に行くんだ。
   まずは河北の状況を見定めて、それからまず何を為すべきか、それを考えることにするよ」

劉林「これは恐れ入りました……劉秀将軍の貴重なお時間を私のような者に割いていただき、まことに失礼致しました。
   私はこれにてお暇させていただきます……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:37:31.87 ID:rA0nMrfh0<> 周子「……ようやく帰ってくれたか。イヴちゃんは、あの劉林って人をどう思う?」

イヴ「あの趙繆王の息子さんってことで、一応周子ちゃんに面会してもらったんですが、
   あんまり信用してはならない人物のようですね〜」

周子「イヴちゃんもそう思う? ああいう手合いは関わらない方がいいよ」

イヴ「でも、案外すんなりと引いてくれましたね」

周子「そこがちょっと気になるね。まあ、落ちぶれた劉氏の人間なんて、気にするまでもないと思うけど」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:38:06.91 ID:rA0nMrfh0<>
〜邯鄲 街中〜


劉林「全然面白くねぇ。あの劉秀とかいう奴、お高く留まりやがって」

劉林「……ん? なんだありゃ」


『貴方の運勢占います』


劉林「占いをやってる乞食か。腹いせに冷やかしてやるとするかな」

劉林「おい、そこの占師、ちょっと俺の運勢を観てくれないか」

?「……どうぞ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:38:53.30 ID:rA0nMrfh0<> 劉林「で、運勢を観るって、どうやるんだ?」

?「この水晶玉を使えば、貴方の知りたいことは何でも見えます」

劉林「そうか、なら俺の未来を占てくれ。俺の将来はどんな感じだ?」

?「いいでしょう……むむむむ! むむん!」

劉林(なんだ!? この気迫、ただの占師じゃねえな。ここはひとつ、真面目に話を聞いてみるか……)

?「むむっ! これは……!」

劉林「ど、どんな未来が見えたんだ?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:39:20.53 ID:rA0nMrfh0<> ?「……貴方は将来、皇帝を輔佐する丞相となるでしょう」

劉林「この俺が丞相? ははは! あんたはただの占師じゃねえと思ったが、それは大法螺ってもんだ!」

?「それが法螺じゃなくて、現実になるとしたらどう思う?」

劉林「……あんた、正気かい?」

?「貴方が丞相になるのは夢想じゃないよ。あたしを誰だと思ってるのさ」

劉林「あんた、一体……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:40:03.88 ID:rA0nMrfh0<> 王郎(藤居朋)「あたしの名は王郎、って名乗ればわかるかな?」

劉林「こ、こいつは失礼しました! 王郎って言えば、あの有名な占いの先生じゃありませんか!
   古今東西、あらゆる卜占術に精通し、その占いは百発百中だってお聞きしております」

朋「ふふふ、それはどうも……いまあたしは王郎なんて名乗ってるけど、これは仮の姿なんだ」

劉林「占師王郎は仮の姿であると? そいつぁ興味が尽きませんが」

朋「何を隠そう、あたしの本名は劉子輿(りゅうしよ)! 成帝の正統な嫡孫なのだ!」

劉林「な、なんだってー!?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:40:46.22 ID:rA0nMrfh0<> 朋「……ま、本当かもしれないし、嘘かもしれないけどね」

劉林「なんだ、驚かさないでくださいよ……」

朋「けどね、劉子輿っていえば長安で挙兵しようとして、謀殺された人の名として天下に広く伝わっているでしょ?
  こんなビッグネーム、立身出世に利用しない手はないよ」

劉林「さっすが王郎先生、いや劉子輿様! この劉林、微力ながら力添え致します!」

朋「ありがとう! 話が早くて助かったよ」

劉林「それで、具体的にどうやって身を立てるんですか?」

朋「まずは各都市に檄文を送るんだ。劉子輿はここに健在である!ってね。
  後は更始帝の劉秀って奴が河北に来てるけど、これは劉氏の名を騙った偽物だと付け加えておく」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:41:33.75 ID:rA0nMrfh0<> 劉林「周辺を制圧するためには武力が必要ですが、それはどうなさるおつもりで?
   いくら檄文を飛ばすと言っても、全員が全員つき従ってくれるとは限りませんよ」

朋「それはね、銅馬の勢力を利用しようと思う」

劉林「むむむ! 話は読めましたよ。銅馬の奴らに、神輿として担ぎ出す劉子輿がここにいると、教えてやるんでしょう?
   そしてその兵力を引きずり込む、と……」

朋「その通り! よくわかったねー」

劉林「さっすが王……じゃなかった、劉子輿様! 先生が河北の覇者になるのも、遠い未来のことじゃありませんぜ!」

朋「ね、完璧な計画でしょ?」

劉林(劉秀の小娘め、目にものみせてくれる……!)

朋(くっくっく……卜占術を軽侮していた朝廷の高官たちめ。このあたしが天下を統べ、卜占の本当の価値を教えてやる……!) <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:42:18.99 ID:rA0nMrfh0<>
〜薊〜


イヴ「周子ちゃん、周子ちゃん! 一大事ですよ!」

周子「そんなに慌ててどうしたの?」

イヴ「ほら、これを見てください!」

周子「なになに……劉子輿、邯鄲で挙兵す……はぁ!?」

イヴ「こんなの絶対おかしいですよね?」

周子「劉子輿なんて、いたかどうかも確証が無い人じゃん。こんな人が挙兵したところで誰が信じるのかな」

イヴ「でも、河北の殆どの都市はこの劉子輿につき従っているみたいですよ〜」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:43:15.58 ID:rA0nMrfh0<> 周子「むう、単細胞の奴らめ。成帝の嫡子なんて証拠はないのに」

イヴ「でも問題はこっちですよ。これを見てください!」

周子「なにこれ!? 劉秀の首級に十万両の懸賞金をかけるだって? 冗談じゃないよ!」


「おい! 南からやってきた劉秀ってのは、どっちだ!?」

「たしかこの辺の旅館に宿をとってたよな」

「あそこに軍馬が繋がれてるぞ! あの旅館に違いない!」


周子「うわぁ! あたしの首、すでに狙われ始めてるじゃん!」

イヴ「ここはいったん脱出しないと……」


「この旅館に違いねえ! 皆、火をかけろ!」


周子「どーしよ……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:43:46.35 ID:rA0nMrfh0<> 愛海「ちらっ、ちらっちらっ」

周子「どうしたの、愛海ちゃん」

愛海「周子さんがお呼びかな、と思いまして」

周子「丁度良いところに来たね。呼んでないけど出番だよ」

愛海「最近あたしの出番が無いなーって思ってたところなの。ここは任せて!」

愛海「あたしが、城外に脱出するための血路を開くよ。周子さんたちはあたしの後に続いて脱出して」

周子「わかった! あたしの命、愛海ちゃんに預けたよ」

愛海「この銚期、一世一代の晴れ舞台、存分に戦ってみせましょう!!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:44:36.18 ID:rA0nMrfh0<>
後漢書・銚期伝に曰く、


『劉秀が城外に脱出しようとした時、王郎の檄文を読んだ人々が挙兵した。
 劉秀は馬車を走らせたが、群衆に防がれて立往生した。
 そこで銚期は馬上で戟を振るい、「蹕」と大喝して道を拓いた』


※蹕(ひつ)

・先触れの掛け声。「頭が高い」、「控えおろう」などの意。

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:45:41.17 ID:rA0nMrfh0<> 愛海「どけどけ〜! 劉秀将軍のお通りだ〜!」

ズシャッ ドシャッ

敵兵「あの先頭の兵、相当強いぞ」

敵兵「どんなに強くとも、所詮は匹夫の勇だ! 数で囲んで押しつぶせ!」

愛海「蹕!(頭が高い! 控えおろう!)」

周子「愛海ちゃん大丈夫?」

愛海「ゼエゼエ……この程度の敵、なんてことはないよ!」

愛海「それよりも、あと少しで包囲を突破できる! 殿軍はあたしが受け持つから、みんな早く離脱を!」

周子「絶対に死じゃだめだよ?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:46:08.43 ID:rA0nMrfh0<> 愛海「わかってるって、周子さん。あたしがこんなところでくたばるわけないでしょ!」

周子「ごめん! お先!」

愛海(周子さんたちは何とか逃げてくれたか。けどこの数は……)

敵兵「てめえ、さんざん暴れてくれたが、ここが年貢の納め時だ。おとなしく死ね!」

愛海(あぁ……あたしのお山人生もここまでか……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:46:49.15 ID:rA0nMrfh0<> ?「手を貸そうか?」

愛海「え、誰……?」

グサッ ザクッ

敵兵「ぐえええ!」

?「かなり無理っぽいんでしょ? ここは私に任せなよ」

愛海「う、うん……」

愛海(なんだろう、あの人……あの槍捌き、相当な手練れだな……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:47:32.62 ID:rA0nMrfh0<> 周子「はあはあ……なんとか逃げ切れたか……でも、愛海ちゃんは無事かな」

イヴ「どうでしょうか? 急いで脱出したせいで、兵のみなさんとはぐれてしまいましたからね〜」

愛海「お〜い! みんな〜!」

周子「よかった。愛海ちゃんも無事みたい」

愛海「な、なんとか敵の追撃を振り切ったよ」

周子「お疲れさま。それにしても、よく逃げ延びてこれたね」

愛海「途中で助太刀してくれた人がいたんだ」

イヴ「その人はどうなったんですか?」

愛海「それが、先に逃がしてもらったから、その人がどうなったか……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:48:37.34 ID:rA0nMrfh0<> ?「もう安心していいよ。敵の追撃隊は殲滅しておいたからさ」

周子「え、誰?」

賈復(多田李衣菜)「私は賈復(かふく)、李衣菜って呼んで。ちなみに私、ロックな武人、目指してます」

周子「へー李衣菜ちゃんか、恰好良いね。ちなみにロックっていうのは、具体的にどんなの?」

李衣菜「え、えっと……く、屈原とか荊軻とか……」



※屈原(くつげん)

・戦国時代の楚の文官、詩人。
 秦の縦横家、張儀(ちょうぎ)の連衡策を見抜き、それを楚の懐王に上奏したものの、受け入れられなかった。
 楚の滅亡後、入水する。
 詩人としては『楚辞』、『離騒』などが有名。


※荊軻(けいか)

・戦国時代の刺客。
 燕の太子の要請により、始皇帝の暗殺を計画するも失敗する。
 「風蕭々トシテ易水寒シ。壮士ヒトタビ去ッテ復タ還ラズ」という一文は、司馬遷の『史記』の中でも特に有名。
 また、“傍若無人”の語源になった人物でもある。
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:49:14.50 ID:rA0nMrfh0<> 周子「屈原とか荊軻って、わりとメジャーじゃない?」

李衣菜「うっ」

周子「それならさ、いっそ豫譲とかどうかな?」

李衣菜「え、よ、豫譲? ああ、あの豫譲ね、うん、それもロック……だと思う」



※豫譲(よじょう)


・戦国時代の刺客。
 主君智伯(ちはく)のために趙無恤(ちょうむじゅつ)を暗殺しようとしたが、失敗し自決する。
 “士ハ己ヲ知ル者ノ為ニ死ス(知己)”の語源になった人物。
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:50:04.78 ID:rA0nMrfh0<> 周子(なんだ、豫譲は知らないんだ)

周子「まあいいや。けどさ、どうして賞金首になってるあたしに味方しようと思ったわけ?」

李衣菜「いまや河北の大部分は、劉子輿とかいう奴の味方になってますよね。
     でもあの人、実際は王郎っていう卜占の先生なんですよ」

周子「えー、それじゃただの占師が皇族の末裔を騙ってるってこと?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:50:36.58 ID:rA0nMrfh0<> 李衣菜「そういうことです。赤の他人の名前を使ってのし上がろうとか、そんなの全然ロックじゃない。
     方や、聞けば蔡陽の劉秀ってひとは、僅か数千の軍で百万の官軍を撃破したとか。
     これってすげーロックだと思うんですよ」

周子「そりゃどうも……」

李衣菜「だから、私も仲間にしてほしいかなーって」

周子「あの追撃を振り切るぐらいだから、協力してくれるなら心強いよ。これからよろしくね」

李衣菜「こちらこそ、よろしくお願いします!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:51:40.85 ID:rA0nMrfh0<> 周子「……で、さっそくなんだけど」

李衣菜「なになに?」

周子「李衣菜ちゃん、全身に蘇芳(すおう)を浴びたみたいになってるよ。大丈夫?」

李衣菜「こ、これは返り血みたいなものだから、大丈夫ですって」

愛梨「えいっ!」ツンツン

李衣菜「痛っ!」

愛梨「ほら〜、返り血じゃなくて怪我も負ってるよ。化膿しないように、ちゃんと治療しないと」

李衣菜「こんなの、唾つけとけば治りますって」

愛梨「まあまあ、そう言わずに」

李衣菜「はぁあい……」

李衣菜(なんかこの人押しが強いな)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:52:20.38 ID:rA0nMrfh0<>
後漢書・賈復伝に曰く、


『賈復は単騎で敵陣に突撃することを好んだため、戦でしばしば負傷した。
 劉秀はその勇気を讃えたが、遠征はさせなかった。
 劉秀は賈復の活躍を間近で見ていたためか、「賈復の功績は賈復自身が知っている」として直接評価しなかった』

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:53:11.67 ID:rA0nMrfh0<>
〜数日後〜


愛海「ああ〜、お腹すいた〜」

愛梨「この数日間、ろくに食べてないもんね」

李衣菜「イヴさん、その袋の中に、何か食べ物とか入ってないんですか?」

イヴ「これはプレゼント専用ですからね〜。生ものは入ってません」

李衣菜「そっか……じゃあ仕方ない、あのトナカイ達の内の一匹を……」

ブリッツェン「〜! 〜!」プンスカ!

李衣菜「じ、冗談だって……痛い痛い! ちょ、角でつつくのはやめて!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:53:53.41 ID:rA0nMrfh0<> イヴ「冗談でもそんなこと言っちゃだめですよ〜。
   確かにトナカイの肉は、素朴な味わいでで栄養も豊富ですけど、ブリッツェン達を食べるのは私が許しません!」

李衣菜「ごめんなさい……って、イヴさんトナカイ食べたことあるの!?」

イヴ「企業秘密です♪」ニコッ

李衣菜(笑顔が怖い……)

ブリッツェン「……」ブルブル

李衣菜(ブリッツェンが震えてる……もしかして、営業成績の悪いトナカイは食べられるとか……)

李衣菜「い、イヴさんはロックだなー……あはは……」

周子(李衣菜ちゃんのロックって何だろう?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:54:27.60 ID:rA0nMrfh0<> 周子(ってそんなことより、だよ。皆飢えてるのはしょうがないか。見ず知らずの土地で何のあても無く彷徨ってるんだから)

李衣菜「ところで周子さん、行くあてとかあるんですか?」

周子「ギクッ」

周子「も、もちろん決まってるよ。河北全土が王郎の味方をしてるって言っても、王郎に懐疑的な目を向けている都市もある。
   そういう都市はきっとあたし達の味方をしてくれるはずだから、これからそういう都市に向かおうと思ってるんだ」

李衣菜「なんだ、ちゃんと先の事を考えてるんですね、良かった〜。
   この数日間、都市はおろか集落にも立ち寄らないから、てっきり方向も目的地もわからずに彷徨ってるんじゃないかと心配してたんですよ〜」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:55:03.74 ID:rA0nMrfh0<> 周子「だ、だいじょーぶだいじょーぶ。このシューコちゃんにまかせなって」

李衣菜「頼りにしてます、御大将!」

周子「は、ははは……」

周子「……」

周子(どうしよ〜! あたしも、どこに行ったらいいのか全然わかんないよ〜!)

周子(いやいや落ち着け、周子。ここは授業で習ったことを思い出すんだ……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:55:44.71 ID:rA0nMrfh0<>
『君子ハ固ヨリ窮ス。小人ハ窮スレバ斯ニ濫ル』

(君子はもとから困難に陥るものだ。愚者は困難に直面すると慌てふためいてしまう)



周子(そうだ、孔子はこんなこと言ってたらしいね。だからあたしは、精々皆の前では余裕を見せておかないと)

周子(ありがとう孔子。あたしがもし天下人になったら、必ず儒教を普及させるよ)

美穂「あの、周子さん。豆粥があるんですけど、食べますか?」

周子「豆粥? どこからそんなものを調達してきたの?」

美穂「え、えっと〜、それはその、秘密です……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:56:12.12 ID:rA0nMrfh0<> 周子「食べ物を用意してくれたのは嬉しいんだけど、美穂ちゃんは何か食べた?」

美穂「ふえっ! も、もも勿論食べました! お先にいただきました!」

周子「そっか、それならいいけど……」

美穂「それじゃあ、わたしはこれで……」グウウウ

美穂「あ……」

周子「美穂ちゃん、今の音って」

美穂「早く食べないと冷めてしまいますよ! わたしは周囲の斥候に行ってきます!」

周子「あ、ちょっと!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:56:48.54 ID:rA0nMrfh0<> イヴ「どうしたんですか〜。美穂ちゃん大急ぎでどこかに行っちゃいましたけど」

周子「ねえイヴちゃん、美穂ちゃんって今日何か食べてた?」

イヴ「何も食べてないと思いますよ〜。だって美穂ちゃんは、一日中斥候とかで走り回ってますから」

周子「あのね、さっき美穂ちゃんがあたしに豆粥を用意してくれたんだ」

イヴ「なるほど〜。美穂ちゃんは周子ちゃんのために、自分の食べる分を削っているんですね」

周子「気持ちはありがたいけどさ、何だか気がひけるな」

イヴ「食べたほうがいいですよ。美穂ちゃんはそれだけ、周子ちゃんのことを大事に思っているということです。
   大切なのは、周子ちゃんがこの先何があっても、自分に尽くしてくれた人に対する感謝の気持ちを忘れないことですね〜」

周子「いいこと言うね。ありがとう、イヴちゃん。あたしも美穂ちゃんに報いるためにも、何としても生き延びなきゃ……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:57:16.27 ID:rA0nMrfh0<>
後漢書・馮異伝に曰く、


『河北の逃避行中、劉秀は食料に窮したが、馮異がどこからか粥や薪を調達して、これを乗り越えた』

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/05(金) 20:58:19.31 ID:rA0nMrfh0<> 周子「……あっ!」

イヴ「どうしたんですか〜?」

周子「さっき、向うの丘の上に騎兵がいた!」

イヴ「気付きませんでしたけど」

周子「もしかしたら王郎の追手かもしれない。早くこの場を離れなきゃ」

イヴ「でも、皆飢えてます。これ以上の速度で進軍するのは難しいのですね〜」

周子「そうだよね。どうすれば……」

周子(見間違いじゃない。さっき確かに、騎兵が見えた。
   さっきの斥候が、あたし達の位置を本隊に報告すれば本格的に追撃が始まる。
   かといって追撃するのも無駄だよね……万事休すか……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:48:42.93 ID:S1lSzqCS0<>
〜上谷(じょうこく)〜


呉漢(和久井留美)「こんにちは。耿一家の皆さん、いるかしら?」

耿弇(こうえん:村上巴)「おお! 留美姐さん、今日はどうしたんじゃ?」

留美「邯鄲で劉子輿が挙兵したらしいけど、それが本当の劉子輿なのか怪しくて」

巴「そうか。うちが思うに、邯鄲の奴らはきな臭い。
  なんとも言えんのじゃが、本当の成帝の孫と言う割には、側近たちに令名のあるモンがおらん」

留美「耿況さんや耿純君はどう思う?」

耿況「私は巴と同意見だ。奴の檄文は私にも送られてきたが、あの高圧的な文面は気に食わん。
   邯鄲の劉子輿は信義に欠ける」

耿純「俺の意見も二人に同じです。ある噂によれば、邯鄲にいるのは劉子輿ではなく、著名な占師の王郎だとか。
   我らが真に信ずるべきは、現在消息不明の劉秀殿でしょう」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:50:11.65 ID:S1lSzqCS0<> 留美「劉秀か……昆陽で百万の官軍を撃滅したという、あの英傑。
   更始帝の命によって河北に来てたはずだけど、今どこにいるのかしら?」

巴「その口ぶりからすると、姐さんは劉秀の味方をするつもりなんか?」

留美「ええ、劉秀は蔡陽の出身だと聞いてるけど、曲りなりにも劉氏。
   高祖の血をひいているのだから、旗印としてはこの上ない人物よ。劉秀本人の器量も問題ないでしょう」

耿況「では呉漢殿と我らの意見は同じだな。実は数日前から、配下の蓋延(がいえん)を劉秀一行捜索に派遣してある」

耿純「俺は一族郎党に、荷物を纏めるように命じました。いつでも“夜逃げ”できます」

留美「貴方たちも結構用意周到ね。そうなれば漁陽の任光(じんこう)さんにも文を届けましょう。
   あの人も一廉の人物だし、きっと私たちに協力してくれるはず……」

留美(これは時間との勝負ね……王郎よりも早く、劉秀一行を救出しなければ……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:51:11.24 ID:S1lSzqCS0<>
グルルルル

愛海「あぁ……お腹の虫が泣き止まないよ。お腹一杯食べたいな……」

周子「皆もう少しの辛抱だよ。もっと西に行けば、王郎の目の届かないところまで行ける!」

李衣菜「どうして西に行けばいいってわかるんですか?」

周子「え、えっと……」

周子「そ、それはだね、北の薊からは追撃軍が出てくるのを見たし、南には邯鄲があるから論外でしょ。
   東には銅馬がいるから、それもわざわざ敵中に飛び込むようなものだよ」

李衣菜「なるほど〜。けど、西にどれだけ歩けばいいのやら」

周子「もう少し、もう少しの辛抱だから、今は皆頑張って!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:51:46.93 ID:S1lSzqCS0<> 周子(もうだめかもしれないな……この種の激励も効かなくなってきたし、食料もないし、行くあても無い。
   こんな北の果てに来て、あたしの人生は終わるのか……)

愛海「あ! 皆、東を見て!」

周子「え?」

愛海「ほら、あの稜線に騎兵の一団が見えるでしょ」

周子「まずい! あれは王郎の手下だ。皆走って!」

愛海「あたしが時間を稼ぐよ! 皆はその隙に逃げて!」

李衣菜「絶体絶命のピンチ、敵は数百騎、味方は十数騎。これは燃える展開だねー!
     武人賈復の精華、ここに極まれりってかんじかな?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:52:26.42 ID:S1lSzqCS0<> イヴ「周子ちゃん、西の丘の上にも騎影が見えますよ〜」

周子(もう詰んだか……愛海ちゃんや李衣菜ちゃんがどれだけ強くても、この数を相手じゃ勝てない。
   皆、ゴメン。あたしなんかについてきたばっかりに……)

愛梨「ねえ周子ちゃん、あの騎兵なんだか挙動が変だよ?」

美穂「本当ですね……あれは弓かな? あの距離からわたし達を射るつもりでしょうか」

周子「いや、ちょっと待って……あの騎兵、本当にあたし達を狙ってるのかな?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:53:21.29 ID:S1lSzqCS0<> ?「偽物劉氏の手下ども、覚悟しなさい! 河北一と謳われたこの弓で、成敗してさしあげましょう!」バシュッ

ギュウウウウウン

周子(矢の飛ぶ音が強烈だな。やっぱり、あの騎兵はあたし達を狙ってるんじゃなくて……)


ドゴッ!

敵兵「ギィヤアアアア!!」

愛海「うわあ、何あの弓……」

李衣菜「敵兵の土手っ腹に風穴空いてるんだけど……」


「あの距離から射抜いたのか!」

「それに加えて、なんという強弓だ!」

「敵にとんでもない神箭手(弓の達人)がいるぞ! 逃げろ〜」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:53:55.62 ID:S1lSzqCS0<> 周子(あの弓騎兵、こっちに近づいてくるね)

?「王郎の追手は逃散したようですね。ご無事ですか、劉秀様」

周子「あの、貴方は?」

蓋延(水野翠)「私は蓋延と申します。どうぞ、翠とお呼びください」

周子「危ないところを助けてくれてありがとう。命拾いしたよ」

翠「勿体無いお言葉です。これが私の任務ですから」

周子(なんだかお堅い人だな〜)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:55:07.97 ID:S1lSzqCS0<>
後漢書・蓋延伝に曰く、


『蓋延は、字は巨卿、漁陽郡要陽の人である。
 身長は八尺(約185p)、三百斤(約68s)の強弓を引くことができた』
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:56:04.39 ID:S1lSzqCS0<> 翠「これから劉秀様一行を上谷にご案内いたします。私についてきてください」

周子「あのさ、あたしの首に賞金が懸かってるの知ってる?」

翠「十万両でしたね。いくら劉秀様を捕らえるためとはいえ、見ず知らずの他人の力を借りようなど、浅ましいものです」

周子「たしか上谷に行くって言ってたよね? 上谷郡はあたしに味方してくれるって解釈でいいの?」

翠「上谷郡太守の耿況殿、安楽県の県令の留美さ……いや、呉漢殿、それに漁陽郡太守の任光殿。
  以上の方々は、劉秀様こそ河北を統べる方であるとして、志を共にしております」

周子「あたしを担ぎ上げてくれるってことか。それは頼もしい」

翠「食料も十分に用意してありますので、あともう少しご辛抱ください」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:57:01.58 ID:S1lSzqCS0<> 周子「ありがとう。皆聞いた? あと少しで温かい食べ物にありつけるよ〜!」

愛海「よかった……危うく、人生のお山の五合目あたりで転げ落ちるところだったよ」

李衣菜「どういう表現なの、それ?」

イヴ「ブリッツェン、今度は食料も運べるように、クール便とかやってみよう?」

ブリッツェン「……」コクコク

愛梨「でも、皆大きな怪我も病気もなかったので良かったですね」

美穂「昼寝の時間を削って、薪や豆を集める作業が終わった……」

翠(随分個性的な人々がそろっていますね……これも劉秀様の人徳によるものでしょうか?)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:58:14.02 ID:S1lSzqCS0<> 王覇「あの、劉秀殿……」

周子「どうしたの、王覇さん」

王覇「私はいま、自分の不甲斐なさを恥じております」

周子「な、なにをいきなり……」

王覇「河北に来る前に貴方にお仕えしたとき、私は数十人の食客を率いていました。
   しかしそれらは日が経つにつれていなくなり、残ったのは私一人のみ。
   そして残っている私自身も、大した働きもできず、真に申し訳ございません」

周子「いいよいいよ。それよりもさ、こんな状況でも生き残れた自分を誇ればいいんじゃない?」

王覇「逆に誇る、とおっしゃいますか……」

周子「“疾風ニ勁草ヲ知ル”……なんてね」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 18:59:03.07 ID:S1lSzqCS0<>
後漢書・王覇伝に曰く、


『河北の逃避行中、劉秀の下からは次第に人が離れていった。
 そこで劉秀は王覇に、
 「潁川以来、ついてきてくれたのはお前だけだ。まさしく、疾風に勁草を知るということだな」
 と語った』

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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:00:54.27 ID:S1lSzqCS0<> 王覇「……疾風に勁草を知る、ですか?」

周子「勁(つよ)い草も弱い草も、凪いでいる時にはどれも同じように上を向いている。
   けど強い風が吹くと、弱い草は倒れてしまう。草の勁さは、疾風が吹かないとわからないよね。
   困難に直面して初めて、その人の勁さがわかるんじゃないかな」

周子「だから謝らなきゃならないのは、あたしの方なんだよ。頼りなくてごめんねって。
   王覇さんも、あたしにここまでついて来てくれてありがとう」

王覇「私ごときには勿体無いお言葉です。この王覇、より一層の忠勤を誓いまする」

周子「そこまで思いつめなくていいよ。それよりも、おなかすいたーん♪ はやく上谷に行こうよ」

王覇「はい!」

王覇(よし! くよくよせずに、これからもっと頑張ろう。武勲を立てる機会はいくらでもあるはずだ……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:02:02.10 ID:S1lSzqCS0<>
〜上谷〜


翠「蓋延、ただいま帰還しました。劉秀様ご一行も、お連れしました」

耿況「ご苦労だったな、巨卿」

周子「あたしが劉秀だよ。危ないところを助けてくれて、本当に感謝してる」

耿況「初めて御意を得ます、私が上谷郡太守の耿況です。以後、お見知りおきを。
   こちらは娘の耿弇。そしてこちらは耿純。耿純は同じ耿の姓を名乗っていますが、遠戚にあたります」

巴「うちは巴って呼んでくれてもええぞ。よろしゅうな」

耿純「耿純です。若輩者ですが、よろしくお願い致します」

留美「私は安楽県の県令、呉漢。字は子顔(しがん)。留美と呼んでくれていいわ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:02:53.20 ID:S1lSzqCS0<> 耿況「こちらに控えているのが、すでにご存じでしょうが蓋延でございます。
   また、蓋延を筆頭に、上谷には寇恂(こうじゅん)、景丹、王梁といった者たちもおります」

周子「ご丁寧にどうも。それであたしを助けてくれるのは嬉しいけど、どうして王郎につかないの?
   あっちの方が勢力が断然大きいよ」

耿況「目に見える利益だけ求めるならば、その通りでしょう。しかし、ここに集いし者たちには等しく志があります」

周子「志?」

耿況「王郎などという、得体のしれない者をのさばらせておくと、天下にどんな災厄を齎すかわかりません。
   かといって、長安の更始帝を頼ろうかと思っても、あちらも民を顧みずに酒色に耽っているとか」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:03:47.53 ID:S1lSzqCS0<> 周子「けどあたしも、更始帝の手下みたいなものだって。いまあたしが河北にいるのは、帝の勅令なんだから」

耿況「遠い河北の地においても、劉秀様の令名はつとにうかがっております。
   劉秀様は戦に強いだけではなく、破った敵も殺さず解放しているとか。
   天下にこれほど仁愛に溢れた武将がおりましょうか」

周子「買いかぶりすぎだよ、それは。あたしはそんなに偉い人間じゃないし、仲間にも迷惑かけてばっかりだし」

耿況「ならば、迷惑をかけられているはずのお仲間たちが、どうして貴方様の傍を離れないのですか?
   これぞまさに、劉秀様が天下人の器であることの証左ではありませんか」

周子「そこまで褒められると照れるな」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:04:49.74 ID:S1lSzqCS0<> 耿況「また、この場にはおりませんが、東の漁陽郡太守の任光殿も、劉秀様にお味方すると返書を寄越しております。
   任光殿は清廉潔白な方で民からも慕われており、彼の下には李忠、万修、邳彤(ひとう)という三人の勇将もおります」

耿況「更には、西に勢力を持つ劉植殿も、是非劉秀様にお力添えしたいと申しております。
   この天下に、劉秀様のお味方は決して少なくありませんぞ」

周子「そっか、そんなにたくさんの人が協力してくれるんだ」

耿況「いかがでしょう劉秀様。ぜひ我らの主君となり、お導きください。
   我らは劉秀様の剣となり鉾となって、乱世の汚穢を斬り払ってみせましょう」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:05:21.68 ID:S1lSzqCS0<> 周子「そこまで言われちゃ断れないね。けど、敵のほうが圧倒的に巨大だよ。
   あたしの歩む道は平坦ではないけど、分かってる?」

耿況「艱難はもとより覚悟の上。劉秀様の志ある限り、我らも共に歩みましょう」

周子「わかった。これからよろしくね」

耿況「では本日はお疲れでしょうから、客殿でお休みください。
   今後の戦略については、明日以降にしましょう。皆さんもどうぞ」

周子「いたせりつくせりで、申し訳ないよ。お言葉に甘えて、今日はゆっくり休もうかな……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:06:05.84 ID:S1lSzqCS0<>
〜翌日〜


留美「では、現在の状況について、私から説明するわ」

留美「まず私たちを仮に劉秀軍とすると、劉秀軍の勢力は上谷、漁陽、それから劉植さんの真定ぐらいなもので、幽州の一部でしかない。
   一方、王郎の勢力は河北のほぼ全域。彼我の戦力差はいいとこ十対一ね」

周子「兵力差もそんなところか。問題はその差をどう埋めるかだね」

留美「策はある。何せ私たちがいる幽州は、北方の烏桓(うがん)族の勢力範囲に近い。
   耿況さんは前から烏桓を慰撫してきたから、彼らとの関係も良好よ」

周子「もしかして、その烏桓を味方にするとか?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:06:55.50 ID:S1lSzqCS0<> 留美「その通り。烏桓族は騎馬民族だから、その騎兵は中原や河北の騎兵に較べて精強極まりない。
   烏桓一騎で中原の五騎に匹敵するでしょうね。勿論、馬の速度も段違いよ」

周子「機動力で優位に立てるのは美味しいね。じゃあ野戦は心配なさそうかな」

巴「烏桓へはうちが行く。烏桓には尚武の気風があるから、戦ができると聞いたら大喜びで来よるぞ」

耿況「いいのか、巴。俺も一緒に……」

巴「親父は太守じゃろ。親父はここにおらないかん」

耿純「なら俺が一緒に行こうか?」

巴「伯山(耿純の字)は騎都尉じゃから、親父を助けたってくれ。その代り、寇恂を借りるぞ。
  あいつは騎馬戦が得意じゃからのう」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:07:55.38 ID:S1lSzqCS0<> 留美「じゃあそっちは巴ちゃんに任せたわ。では次に、私たち本隊はどうするのかということなんだけど」

周子「何か画期的な策でも?」

留美「特に無いわ。兵は少ないけど、幽州の兵は剽悍だし、耿況さんは日頃から軍の調練を怠っていない。
   周子ちゃんの一行も含めて、戦慣れしてる指揮官が多いから、複雑な部隊運用ができる。
   戦略的には、周囲の城を落として王郎の勢力を蚕食するってこと」

周子「やっぱり、地道に攻略していくしかないのか……」

留美「劉秀軍の強みは人材が豊富であることよ。占領した城から次の城へ出撃し、その間の領地の防衛は別の指揮官が行う。
   人材が多いから、攻守の隙を作らずにすむ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:08:41.77 ID:S1lSzqCS0<> 周子「じゃあ役割分担はどうしようか」

留美「組織をばらすのはよくないわ。上谷は北方および西方へ、漁陽は南方へ。
   東側は海が近いから気にしなくていいのが幸いね。各郡はそれぞれの軍をもって、各方面へ侵攻すること」

周子「ん? あたし達はどうすればいいの? そもそも率いる兵が無いんだけど」

留美「巴ちゃんが連れて帰ってくる、烏桓突騎を指揮すればいいんじゃないかしら。
   周子ちゃんは遊撃軍として、各戦線を支援するということで」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:09:12.14 ID:S1lSzqCS0<> 周子「わかった。じゃあ巴ちゃんはあたしの指揮下に入ることになるけど、それでもいい?」

巴「異存は無い。精々うちを上手く使ってくれ」

周子「ふふっ、存分に働いてもらうから覚悟しといてね」

留美「それでは、これにて軍議は解散ということでいいわね」

周子「皆お疲れ様。まあ、あせらずじっくりいこーよ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:09:50.66 ID:S1lSzqCS0<>
〜邯鄲〜


劉林「た、大変です! 王郎先生!」

朋「そんなに慌ててどうしたの?」

劉林「劉秀の居場所がわかりました。上谷郡の耿況って奴が、劉秀を擁立したんですよ。
   他にも、漁陽や真定も劉秀側についてます」

朋「上谷か……遠いね。でも、あんな北の果てにいるんだったら、じわじわと包囲して……」

劉林「悠長なこと言ってる場合じゃありませんよ。奴らいきなり兵を動かして、周辺の諸城が次々に陥落してます」

朋「え〜っ! でも皆、劉子輿に忠誠を誓いますって返書を送ってきてたじゃん」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:10:31.62 ID:S1lSzqCS0<> 劉林「草が風に吹かれて靡いているようなものですよ。自分たちがやばくなったら、さっさと鞍替えするんでしょう」

朋「あてにならない人たちだね」

劉林「どうします? 報告によれば、奴らは寡兵ですが滅法強いとか」

朋「ちょっと待ってね、いま占ってみるから」

劉林「お願いします」

朋「水晶よ、この王郎がとるべき道は何か、教えたまえ〜!」

劉林「……」ワクワク

朋「……むむむむ!」

劉林「ど、どんなお告げが?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:11:01.41 ID:S1lSzqCS0<> 朋「北に行け、だって」

劉林「北に? 北っていうと、奴らがいる場所ですが」

朋「うーん……そうか、烏桓だ!」

劉林「烏桓? ああ、烏桓の騎兵を味方に引き入れろってことですか」

朋「きっとそうに違いないよ。彼らは遊牧民族だから、お礼として珍しい宝石とか米とかあげれば喜ぶんじゃないかな」

劉林「さっすが王郎先生! さっそく、気の利いた奴を北に派遣します」

朋「よろしく」

朋(……さっき水晶に黒い影が見えたけど、気のせいだよね。
  せっかく河北一帯を手に入れたんだ、こんなところで終わってたまるもんですか!)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:11:49.80 ID:S1lSzqCS0<>
〜幽州 白狼山〜


寇恂「お嬢、烏桓の族長たちが集まってますぜ」

巴「ご苦労さん。さっそく面会するか」

寇恂「……あっ、お嬢、あれを見てください」

巴「何じゃあいつらは」

寇恂「あれは王郎の手下に違いねえ。おそらく、烏桓の騎兵を引き入れようって魂胆でしょう」

巴「捨ておけんな」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:12:35.27 ID:S1lSzqCS0<> 寇恂「いかがします?」

巴「決まっとるじゃろ。消す」

寇恂「やっぱりお嬢はそうでなくっちゃ!」

巴「あいつらはうちが対処する。その間にお前は、族長たちと話をつけといてくれ」

寇恂「了解!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:13:15.15 ID:S1lSzqCS0<> 巴「おいお前ら、何しとるんじゃ」

隊長「貴様らこそ何者だ!」

巴「お前がこの部隊の隊長か?」

隊長「こちらの問いに応えんか!」

巴「ごちゃごちゃとうるさいのう」

ザクッ

隊長「い、いきなり……なにを……」ドサッ

兵「た、隊長!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:13:56.62 ID:S1lSzqCS0<> 巴「お前ら落ち着け。うちは何も、お前らの命までもらおうとは思わん。悪いが烏桓は劉秀軍の味方なんじゃ。
  わかったらさっさと邯鄲に帰れ」

兵「……」

巴「なにを黙っとるんじゃ」

兵「いや、このまま帰ったら、俺たち陛下に殺されてしまいます」

巴「おお、それはすまんかった。うちの考えが足りんかったみたいじゃのう。どうじゃ、劉秀軍に参加してみんか」

兵「え?」

巴「お前らも薄々気づいとるやろ、邯鄲におるのが本物の劉子輿じゃないって」

兵「それは……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:14:30.04 ID:S1lSzqCS0<> 巴「一方、劉秀って奴は飄々としとるけど、心の底には熱いモンを持っとるぞ。
  やる気があるなら働きやすい軍や。今はまだ小さいけどな」

兵「いいんですか、敵側の俺らが参加しても」

巴「そんな弱気でどうするんじゃ! 男ならすぱっと決めい!
  俺が頑張って、劉秀軍を勝たせてやろうというぐらいの気概を持てい!」

兵「は、はい! 俺たちを劉秀軍に加えてください!」

巴「よっしゃ、その意気じゃ! うちについてこい!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:15:13.10 ID:S1lSzqCS0<> 巴「……で、どうなった、寇恂」

寇恂「族長たちは烏桓の参戦を快諾してくれましたよ」

巴「それは重畳。じゃあ周子が首を長うして待っとるじゃろうから、はよ帰ろうや」

寇恂「あの、お嬢」

巴「なんじゃ」

寇恂「後ろにいる奴らって、まさか」

巴「元王郎の手下や。うちが説得して引き入れた」

寇恂「やるう! さすがは耿家の次期当主ですね!」

巴「阿呆、胡麻すっとる暇があったら出発の準備じゃ」

寇恂「ははーっ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:15:51.06 ID:S1lSzqCS0<>
〜劉秀軍 本営〜


巴「ただいま帰ったぞ、周子」

周子「お帰り、結構早かったね」

巴「これが烏桓突騎の実力じゃ。そんじょそこらの騎兵とは踏破能力が違う」

周子「それにしても早すぎない?」

巴「まあ、奴らは馬を大量に飼育しとるからのう。
  兵一人につき、五〜七頭ほど馬を持っとるから、馬を次々に乗り換えて進軍するんじゃ」

周子「いいなー、あたしなんか挙兵したとき、馬を用意するお金が無かったからブリッツェンに乗って出陣したものだけど」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:16:37.80 ID:S1lSzqCS0<> 巴「あのだらしない顔の、馬か鹿かわからん奴に乗っとったんか。よくそれで生き延びれたな」

周子「ブリッツェンを馬鹿にしちゃいけないよ。ああ見えてやる時はやる子なんだから」

巴「まあええわい。さあ、疾風迅雷、天下無敵の騎兵を用意したんじゃ。どこを攻める?」

周子「このまま南下しよう。西方には劉植さんがいるから目ぼしい敵はいないけど、南方は王郎の勢力が強いからね。
   南方が激戦区になりやすいと思う」

巴「ほ〜ん、けどそれだけじゃ芸が無いのう」

周子「これで終わるわけないでしょ。南を援護したら、そこから北西方向に各戦線を遊撃しつつ横断し、西方の戦線に到る」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:17:21.87 ID:S1lSzqCS0<> 巴「さっき西方には目ぼしい敵がいないって言ったばかりじゃろうが」

周子「行かないとは言ってない」

巴「補給はどうるすんじゃ。いくら替え馬があっても、馬は人間に較べて大食いじゃから補給ができんかったら戦にならんぞ。
  秣と水が大量にいる」

周子「冀州の北に、浦陽山っていうのあるよね。実は巴ちゃんが白狼山に行ってる間に、その山に補給物資を運び込んであるんだ」

巴「お前いつの間に……」

周子「浦陽山は各戦線のちょうど中心に当たる。だからその拠点を中心に、南方から西方に弧を描くように遊撃戦を展開しようと思う。
   どこにいたってほぼ最短距離で補給が受けられるから、兵站を心配しなくてもいいよ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:18:27.66 ID:S1lSzqCS0<> 巴「とんでもないことを思いつくのう。昆陽で百万の軍を破ったっていう話は、本当みたいじゃ」

周子「皆に助けられてばかりじゃ、立つ瀬が無いからね。
   それから巴ちゃん、烏桓突騎の中から腕のたつ兵を数百騎程選んでくれないかな」

巴「ええけど、どうするんじゃ」

周子「イヴちゃんが赤い具足を用意してくれたんだ。あたしがその数百騎を直率して、巴ちゃんは残りを指揮する。
   言わばあたしの旗本みたいなものかな」

巴「赤備えの騎兵か、勇ましいのう。そのかわり、烏桓の兵は腕の立つ奴ほど誇り高いから、その辺注意して指揮してくれよ」

周子「わかった。準備ができ次第出発しようか」

巴「ああ! うちらだけ出遅れとるから、早う取り返さんとな!」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:19:03.58 ID:S1lSzqCS0<>
後漢書・耿弇伝に曰く、


『耿弇は、生涯で四十六の敵軍を破り、三百の城を落とし、ただの一度も敗北は無かった。
 劉秀は、「耿弇の用兵手腕は韓信を凌駕している」と絶賛した』 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:20:09.25 ID:S1lSzqCS0<>
〜数か月後 邯鄲〜


劉林「……」

朋「ねえ、各戦線の様子はどう?」

劉林「旗色は良くないです。いま鉅鹿(きょろく)が包囲されておりまして、王饒が死守していますがそれも時間の問題かと。
   早急に何か手を打たないと」

朋「手をうつって言っても、どうすればいいのかな? 各地に部将を派遣しても、皆討たれたり逃げたりして全く勝てないもん」

劉林「そうですよねぇ。膠着した戦線でも、劉秀率いる遊撃隊がどこからともなく現れて、陣形を崩しにかかってくるんですから。
   最近では、劉秀の旗本の赤騎兵を見るだけで、我が軍の兵が逃げ出すようです」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:20:43.28 ID:S1lSzqCS0<> 朋「運の落ち目なのか、この頃水晶を見ても何も映らないし、もうあたしも終わりなのかな」

劉林「そんなこと言わないでくださいよ! 俺が丞相になるって話はどうなったんですか」

朋「だってもう丞相じゃん」

劉林「ちゃんとした、一国の丞相って意味でえすよ。まあ、こんなこと言っても始まりません。何か方策を考えて……」

伝令「丞相! 丞相はいらっしゃいますか!?」

劉林「ここだ」

伝令「申し上げます! 鉅鹿を包囲していた劉秀軍が、抑えの兵のみを置いてほぼ全軍で邯鄲に攻めてきました!」

劉林「なにぃ! あいつら、鉅鹿にかかり切りだと思ってたのに……ちょっと待て、勿論王饒は出撃したんだろうな?」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:21:20.12 ID:S1lSzqCS0<> 伝令「それが、出撃しようとしたところ、敵は城門の外に土塁や堀を作っており、城に出ることが難しい状態になっております」

劉林「なんてこったい!」

朋「と、ともかく、急いで城の防備を固めないと……」

ドゴン ドゴン

朋「……なに、この音は?」



「敵の遊撃隊だ! 赤騎兵もいるぞ!」

「奴ら、馬上で破城槌を使ってるぞ!」

「門が破られる!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:21:53.13 ID:S1lSzqCS0<> 朋「どうして劉秀が来てるのよ! さっき伝令が来たばっかりじゃない!」

劉林「おそらく、遊撃隊だけ先行してきたんでしょう。邯鄲の防備が固まる前に、城門を突破するつもりです!」

朋「じゃあ早くなんとかしないと……」



「門が突破されたぞー!」

「敵が城内に侵入した! 止められん!」

「早く持ち場につかないと! ……うわあああ!!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:22:40.64 ID:S1lSzqCS0<> 劉林「もはやこれまでか……」

朋「何か無いの? この状況を打開するようなものが」

劉林「先生は隠し通路から逃げてください! 俺がなんとか敵を食い止めます」

朋「で、でも……」

劉林「さあ早く!」

朋「わかった!」

劉林「……」



劉林(先生は行ったか……ふふふ。俺もこんなところで死ぬつもりはねえよ。兵どもが騒いでる間に、こっそり脱出しようっと……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:23:11.65 ID:S1lSzqCS0<> 王覇「お主、どこへ行く?」

劉林「ふぇっ!?」

王覇「我こそは、劉秀将軍麾下、王覇である! 貴様は王郎か、それとも劉林か」

劉林「あ、あっしはただの下男でございやす。将軍様、王郎の奴はあっちの方角に逃げていきましたぜ」

王覇「そうか。ご苦労」

劉林「それじゃあ、あっしはこれで……」

ズバッ

劉林「ど、どうして……」

王覇「こいつ馬鹿なのか? お前の服装、明らかに丞相の装束ではないか……まあいい、次は王郎だ……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:23:57.60 ID:S1lSzqCS0<> 朋「はあはあ……ここまで逃げれば一安心かな? これで追っ手は……」

王覇「貴様、こんなところで何をしている!」

朋「ひえっ!」

王覇「なんだ娘か。お前は宮廷の侍女か何かだろう? 王郎がこっちに逃げてきてるはずなんだが、知らないか」

朋(よかった、ばれてないみたい)

朋「えっと、変な男の人が、あっちに逃げて行ったよ!」

王覇「そうか、あっちだな?」

朋「そうそう! あっちだよ!」

朋(ふう、命拾いした……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:24:41.61 ID:S1lSzqCS0<> 王覇「そんな手に引っかかると思うのか? 貴様が王郎だな?」

朋「ええっ! どうしてわかったの!?」

王覇「ほら見ろ! その反応、やっぱり貴様が王郎だ! 念のためカマをかけたのが奏功したな」

朋「この卑怯者!」

王覇「とは言っても、俺は小娘を斬る剣は持たぬ。おとなしくついてこい。お前の裁きは劉秀様にまかせよう」

朋(うう、こんなしょーもないミスで捕まるなんて……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:25:15.02 ID:S1lSzqCS0<>
〜劉秀軍 本営〜


王覇「劉秀様、お喜びください!」

周子「おっ、王覇さん嬉しそうだね」

王覇「劉林の首級を挙げました! それと、こいつが王郎です」

周子「敵の首魁を捕らえるとは、なかなかやるね〜」

王覇「王郎の処遇については、劉秀様におまかせしようと思いまして」

周子「わかった。じゃあその子を幕舎まで連れてきてよ。二人で話する」

王覇「よろしいのですか? 武器の類は没収してありますが」

周子「心配しなくていいよ。じゃあそういうことで」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:26:03.02 ID:S1lSzqCS0<> 周子「……さてと。ねえ王郎さん、自分のしたことわかってる?」

朋「……はい」

周子「きみが劉子輿なんて名乗ったから、天下に余計な乱がおこった。その結果、多くの人が犠牲になった」

朋「おっしゃる通りです」

周子「どうしてこんなことしたの?」

朋「……あたし、卜占術が得意で、官にも卜占をやるような役職があるから、それを目指していて……」

周子「それで?」

朋「けど、科挙を受けたけど通らなくて、それで官は諦めたんだ。それからは占師として、結構うまくやってたんだけど……
  それでも官職に就けなかったのが悔しくて、それで劉林さんが訪ねてきたときに、ふと挙兵を思いついたんだ」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:26:57.68 ID:S1lSzqCS0<> 周子「呆れた……そんな理由で劉子輿を騙ったの? 官職に就けなかったのはドンマイだけど、それって自分のせいじゃん」

朋「返す言葉もございません」

周子「本来なら打ち首だね」

朋「それだけはどうか! あの、劉秀様にきっと役立つものを、あたし持ってるから!
  それをあげるから、どうか命だけは助けて!」

周子「役立つもの?」

朋「あの、素直に渡しますから、命だけは勘弁!」

周子「いやだから、実物を見てみないとなんとも言えないんだけど」

朋「えっと、これなんだけど……」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:27:40.32 ID:S1lSzqCS0<> 周子「なになに……“赤伏符”? なにこの古びた書物」

朋「その書物は、あたしが見つけたすっごい書物なの! 中には大予言が書かれていて、遠い未来のことまでわかるんだよ」

周子「じゃあこの書物の通りにしてれば、きみも虜囚なんかにならなかったんじゃない?」

朋「うっ、その……肝心の中身なんだけど、解読が難しくて」

周子「はあ? それって無用の長物ってことじゃ……」

朋「解読は難しいんだけど、後から読み返すと、ああ、これはこういうことだったんだ〜、ってことがよくあって。
  だから、これを解読できる人がいれば、きっと劉秀様のお役に立つんじゃないかと……」

周子(うちにはいろんな人材がいるから、解読できる人もいるかも……)
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:28:25.91 ID:S1lSzqCS0<> 朋「だめ……かな……?」

周子(うーん、こんな上目遣いで見つめられたら斬りにくい。どうしよっかなー)

朋(やっぱり無駄な抵抗だったか。もう諦めよう……)

周子(けど考えてみれば、今回の騒動があったからこそ、この短期間で実力をつけることができたのかも。
   そう思えば、苦労した甲斐があったのかな?)

周子「じゃあ王郎さん、じっとしててね」ジャキン

朋(ひえ〜っ、斬られる!)

ザクッ
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:28:53.94 ID:S1lSzqCS0<> 朋「……あ、あれ?」

周子「枷を斬ったよ。さあ、早く行きなって」

朋「ほ、本当にいいの?」

周子「いいよ。あたしの気が変わらないうちに、どこか遠くに行くべきだね」

朋「あ、ありがとうございます! 今回は、本当にご迷惑をおかけしました! 失礼します!」

周子「……逃げ足早いな。まああの様子だと、これで懲りただろうね」
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◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:29:19.67 ID:S1lSzqCS0<> 王覇「劉秀様、先ほど、幕舎から王郎が飛び出していきましたが?」

周子「悪いけど、一日だけ捜索をやめてくれる? 一日だけでいいから」

王覇「せっかく捕らえた王郎を解き放つとは、勿体無いことです」

周子「ごめんね。けど、王覇さんの功績は後でちゃんと評価するから」

王覇「い、いえ、私は別に、そういう意味で言ったわけではありませんよ」

周子(一日あれば、なんとか逃げ切れるでしょ)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/06(土) 19:30:19.02 ID:S1lSzqCS0<> 巴「周子、こんなところにおったんか。城内の掃討は粗方片づいたぞ。それで、王郎は?」

周子「そっちも片づけたよ。これで王郎が“死んだ”わけだから、鉅鹿の残党もすぐに降伏するでしょ」

巴「そうじゃな。じゃあこっちに向かってる本隊に使者をだそうか? 王郎は死んだぞ〜って」

周子「うん。それと、城内の降兵とか負傷者の手当てとか……」

巴「見くびってもらっちゃ困るのう。もう手配しとる」

周子「さすがだね、巴ちゃん」

周子(ふう……長かった……河北に来てからここまですっごく長かった……)
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/07(日) 01:03:06.63 ID:OZUVZB44o<> 劉秀は王匡すら殺さずに降伏勧告したくらいだからなぁ〜
まぁ、なぶり殺しにされると思って洛陽搬送中に逃げて劉秀の配下に斬られるんだけど <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:48:51.49 ID:O+AvpSUD0<>
〜数か月後 邯鄲〜


留美「……というわけで、王郎戦後の各地の状況は、以上になるわ。何か質問は?」

周子「あ、うん、ありがとう留美さん。やっぱり留美さんの報告は緻密でわかりやすいな〜」

留美「この程度、造作もないわ」

周子(緻密すぎて聞いてると眠くなるんだけどね……)

留美「最後にもう一つ」

周子「えぇ、まだあるの?」

留美「長安の更始帝から、謝躬(しゃきゅう)という使者が来てるわ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:49:41.43 ID:O+AvpSUD0<> 周子「使者? 何の用?」

留美「要約すると、河北討伐は大方終わったのだから長安に帰ってこないか、というところかしら」

周子「ふーん」

留美「私は長安の廷臣たちのことはよく知らないのだけど、あんな人ばっかりなの?」

周子「謝躬ってどんな人だった?」

留美「一言で言えば、尊大、ね」

周子「ああ、更始帝の配下はそんなのばっかだよ。ある意味奇跡だよね」

留美「……で、どうするのかしら?」

周子「どうするって?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:50:22.77 ID:O+AvpSUD0<> 留美「とぼけないで。更始帝の言いなりになるつもりなんてないんでしょう」

周子「まあね」

留美「じゃあ決定ね……岑彭さん、こちらへ」

周子「おっ、今回は岑彭さんもやるの?」

岑彭「謝躬は私のかつての同僚ですからな。彼も油断するでしょう」

周子「あくどいね〜。あたしこんな大人にはなりたくないな〜」

留美「周子ちゃんも、ある意味大悪人でしょうが……冗談言ってないで、さっさとやりましょう」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:51:01.72 ID:O+AvpSUD0<> 謝躬「うぬぬ……いつまで待たせるつもりだ。私は更始帝の勅使だぞ……」

岑彭「お待たせしました」

謝躬「やっとか……って、お前は岑彭じゃないか! 久しぶりだな、おい!」

岑彭「いやあ、お前も元気にしてたか? まあ中に入れよ。劉秀将軍がお待ちだ」

謝躬「なにをやってたんだ。遅すぎるぞ」

岑彭「まあまあ、そう言わずに。お前は勅使として来てるんだろ? だったらおもてなしの準備がいるだろうが」

謝躬「気が利くなあ。劉秀将軍も、前はただの小娘だったがそれなりに成長してるんだろうな?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:51:31.27 ID:O+AvpSUD0<> 岑彭「いやいや、大したことないよ。正直なところ、無能すぎて困ってるくらいなんだ」

謝躬「やっぱりそうか? あいつの兄も大したことなかったからな〜」

岑彭「積もる話は後だ。さあ、この部屋に劉秀将軍がいらっしゃる。俺は部屋の外で待機してるから」

謝躬「おう。それじゃあ行ってくるわ」

謝躬「おっほん! 私は謝躬。更始帝陛下の勅使として参った!」

留美「遠路はるばるご苦労様でした。劉秀将軍は奥にいらっしゃいますので、どうぞ」

謝躬「うむ……うん? あの帳の向う、劉秀将軍はいらっしゃるのか? 誰もいないように見えるのだが」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:52:00.23 ID:O+AvpSUD0<> 留美「ええ、誰もいませんよ」ジャキン

謝躬「そういうことか! おのれ劉秀め、謀ったな!」

留美「観念しなさい」

謝躬(入口で剣を預けたままだし、ここは一端逃げよう)

謝躬「あ、あれ?」グイグイ

謝躬「どうして戸が開かないんだ? おい岑彭、そこにいるんだろう? 開けてくれ! 殺される!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:53:04.24 ID:O+AvpSUD0<> 岑彭「すまんな謝躬。劉秀将軍は更始帝と訣別し、俺はお前とは別の道を歩む。
   たまたまお前の歩んだ道の先に、深淵が口を開いていたというだけのことなのだ……」

留美「辞世の句を詠まなくてもいいのかしら? それぐらいなら聞いてあげるけど」

謝躬「いやああああ!」

留美「しまらない最期ね……」


ザクッ
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:53:31.71 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・呉漢伝に曰く、


『謝躬は、呉漢と岑彭に捕らえられたとき、命乞いをした。
 岑彭が謝躬にとどめを刺せないでいると、呉漢は
 「どうして幽鬼(幽霊)と話しているのか」
 と言って、謝躬を斬った』
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:54:25.23 ID:O+AvpSUD0<> 周子「……首尾よく終わった?」

留美「ええ」

岑彭「しかし、外に謝躬の兵が残っておりますが、いかがいたしましょう」

周子「降伏勧告しようか。彼らに罪は無いんだから」

留美(厳密に言うと、謝躬にも罪は無いんだけど……)

岑彭「では、謝躬の首を曝してみましょう」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:55:11.40 ID:O+AvpSUD0<> 兵「謝躬殿はいつまで待たせるんだよ」

兵「こういうのは形式や礼儀が煩雑なんだよ。時間がかかるのも無理ないさ」

拓海(確かに、時間がかかりすぎてるよな。謝躬の奴は何やってるんだ……それはそうと、周子は元気にしてるかな)

兵「うわあ! なんだあれは!」

拓海「ん? どうした」

兵「馬武殿、あれをご覧ください! 謝躬殿の首が!」

拓海「なっ!」

周子「皆落ち着いて! 謝躬さんには悪いけど、これがあたしの更始帝への返事だよ!」


ザワザワ
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:56:39.53 ID:O+AvpSUD0<> 拓海「周子!」

周子「あれ、タクミン? 久しぶりー。元気にしてた?」

拓海「は、はぁ、到って健康だが……いや、今はそんなことを言ってる場合じゃねえ! これ、どういうことだ!」

周子「さっきも言った通り、あたしはあたしの道を征くことにした。金輪際、更始帝の言うことは聞かない」

拓海「それじゃあ逆賊ってことになっちまうぞ!」

周子「このご時世に、官軍も賊軍も無いよ。逆に拓海ちゃんに聞くけど、更始帝が本当に世に正道を齎す人物だと思うの?」

拓海「それは……」

拓海(アタシの周りにいるのは、酒色に溺れ、政を顧みない更始帝とその廷臣たち……
   一方、周子はどうなんだ? 今の世をかえてやろうって思ってるのは誰なのか、明瞭じゃねえか)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:57:42.27 ID:O+AvpSUD0<> 拓海「アタシは……」

周子「拓海ちゃんはもう十分に、朝廷に忠義を尽くしてきた。
   でもね、小義に拘って大義を忘れてしまうなんて、本末転倒じゃない?」

拓海「……はは、ははは!」

拓海「……アタシはずいぶん遠回りをしてきたようだな。本当に仕えるべき人は誰か、いまようやく理解したような気がする。
   こんなどん臭いアタシでも、周子の力になれるのかな?」

周子「遠回りしたのは拓海ちゃんだけじゃないよ。
   “過チテ改メザル、是ヲ過チト謂フ”って孔子も言ってたらしいし、間違いに気づいたらその場で直せばいいんじゃない?」

拓海「その、適当に言ってるのか真面目に言ってるのか、わからないところが周子らしい」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:58:19.10 ID:O+AvpSUD0<> 兵「馬武将軍……まさか……?」

拓海「すまんな、皆。アタシはこれより周子の家来だ。長安に帰ることはできねえ」

兵「それじゃ俺たちはどうすれば」

拓海「心配するな、皆には路銀を分けてやるって。それぞれが故郷に帰ればいい」

兵「お、俺は馬武将軍についていきたいのですが」

拓海「そう言ってくれるのはありがたいけど、苦労することになるぞ。
   何せ周子は、いま天下で一番忙しい奴だからな」

兵「それでもかまいません!」

拓海「ありがとよ……というわけだ、周子。馬子張以下、これより劉秀軍の麾下に入る」

周子「ようこそ劉秀軍へ。ま、うちはノルマとか無いからさ、気楽にやってよ」

拓海「やれやれ……昆陽以来、変わってねえな……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:59:19.19 ID:O+AvpSUD0<>
〜数日後 邯鄲のどこか〜


イヴ「本日は皆さんご多忙の中、お集まりいただきありがとうございます〜。
   これより『第一回 周子ちゃんに登極してもらう作戦会議』を開催しま〜す」

パチパチパチ

愛海「うんうんそうだよね〜、周子先輩には是非皇帝になってもらって、あたしが登山しやすい世の中にしてもらわなきゃ」

愛梨「確かに、周子ちゃん以外に皇帝にふさわしい人なんていませんね♪」

イヴ「河北一帯を掌中に収めたことですし、そろそろ周子ちゃんにも天下人としての自覚は芽生えていると思います〜。
   皇帝になって〜、って頼んだら快諾してくれると思うんですが」

愛海「周子先輩なら『皇帝? 別にいいけど』って感じで受け入れてくれそう!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 19:59:51.40 ID:O+AvpSUD0<> 愛梨「じゃあ誰が周子ちゃんに頼んでみる?」

愛海「やっぱりここは、昔馴染のイヴさんしかいないでしょ!」

イヴ「私でいいんですか〜? なら、さっそく明日にでも言ってみますけど」

愛梨「善は急げ、だね」

愛海(むふふ……周子さんが皇帝に即位したら、必ず論功行賞があるはず。
   長安以来、周子さんと一緒にいるあたしは勿論ご褒美がもらえるだろうから、これは期待できる!)

愛海「うへ、うへへへへ……」

愛梨「愛海ちゃん、涎が」フキフキ

イヴ(皆こう言ってるし、問題なさそうかな……?)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:00:19.53 ID:O+AvpSUD0<>
〜邯鄲 宮殿〜


イヴ「あの、周子ちゃんちょっといいですか〜」

周子「どしたの」

イヴ「河北一帯も治まったことですし、ここで一つ、周子ちゃんに即位してもらおうと思うんですが」

周子「即位ってどういうこと?」

イヴ「皇帝に登極してくださいっていうことです」

周子「皇帝? 別にいいけど」

イヴ「良かった〜。ならさっそく践祚の準備を……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:01:06.48 ID:O+AvpSUD0<> 周子「いや、そうじゃなくて、別に皇帝の位なんていらないよってこと」

イヴ「えっ」

周子「えっ、じゃないよ。あのね、まず河北一帯はまだ沈静化してないじゃん! まだ銅馬とかの叛乱勢力が残ってるよ」

イヴ「ですが、更始帝と絶縁したんですから、周子ちゃんは何者であるのか、天下の皆さんに喧伝しなきゃなりませんよ」

周子「嫌」

イヴ「どうしてそんなこと言うんですか〜」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:01:34.10 ID:O+AvpSUD0<> 周子「お兄ちゃんが言ってたよ。どこかの勢力が皇帝を立てれば、別の勢力が別の皇帝を立てる。
   天下の兵たちはどちらかにつかざるをえず、乱世が激化してしまうって」

イヴ「あの時とは状況が違いますよ〜。周子ちゃんには是非とも皇帝になってもらって、皆を導いてほしいんですよ〜」

周子「戦乱が収まっているならともかく、こんな群雄割拠が続いてる時に皇帝になるなんて、でしゃばりもいいとこだよ。
   あたし、ちょっと仕事が残ってるから、じゃあね」

イヴ「ああ! 周子ちゃん!」

イヴ(失敗してしまいましたか……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:02:03.70 ID:O+AvpSUD0<> 愛海「ちょっと待って、周子さん!」

周子「今度は愛海ちゃん?」

愛海「あたしからもお願いします! どうか皇帝になってください!」

周子「あのさ、愛海ちゃんの場合は下心が見え隠れしてるような気がするんだけど」

愛海「えっ」

周子「あたしが皇帝になれば自分も顕彰される。
   だから褒美としてお山の一つや二つに登れるとか、そんなこと考えてない?」

愛海「や、やだなぁ、そんなこと考えてるわけないじゃないですか……」

周子「図星なんだね?」

愛海「……はい、そうです……」

イヴ(愛海ちゃんでも説得できませんでしたか……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:02:50.14 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・銚期伝に曰く、


『ある時、銚期は劉秀に、
 「長安の更始帝は失政し、人心は離れています。
 一方、劉秀様は黄河という城壁と、河北の精鋭を抱えておられます。
 いまこそ天下の人心に報いるときではありませんか」
 と言って皇帝即位を薦めた。
 それに対し劉秀は、
 「お前は薊を脱出した時と同じように、“蹕”と叫んで先触れしたいわけだな」
 と笑って誤魔化した』
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:03:24.05 ID:O+AvpSUD0<>
〜数日後 邯鄲のどこか〜


イヴ「すみません、説得に失敗してしまいました」

愛梨「困ったね……どうしよう……」

拓海「お前ら最近コソコソやってると思ったら、そんなこと画策してたのかよ」

留美「それで私を呼んだというわけね」

イヴ「そうなんです。できるだけ多くの人に助言していただければと思いまして〜」

拓海「まあ、周子に皇帝になってほしいって気持ちはわからんでもないけどな」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:04:07.22 ID:O+AvpSUD0<> 留美「ふむ……じゃあ、周子ちゃんの言葉尻を捕らえれば良いのではないかしら」

イヴ「どういうことですか?」

留美「周子ちゃんの言い方からすると、乱世が続いているのに皇帝を名乗るなんて烏滸がましいってことでしょう。
   それならば逆に、平和になったら即位してくれるのかと言ってみるとか」

愛梨「なるほど、さすが留美さんです」

愛海「やっぱり大人の女性は違うなー」

留美「あのね貴方たち、いくらなんでも直截すぎるわ。
   こういうのは噯にも出さずに、まずは外堀を埋めていくことが肝要よ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:04:51.11 ID:O+AvpSUD0<> 拓海「搦め手からってわけか。やけに手馴れてるな……」

留美「あたりまえじゃない、これくらいできなきゃ県令なんて務まらないわよ。
   私は明日にでも、周子ちゃんに銅馬討伐を進言するわ。
   河北を鎮圧できれば、他の群雄と比べて引けを取らない勢力になるのだから、周子ちゃんも嫌とは言わないでしょう」

イヴ「留美さんの意見は勉強になります〜。皇帝即位って案外難しいんですね〜」

留美「貴方たち、皇帝の位をなめてない?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:05:35.33 ID:O+AvpSUD0<>
〜次の日〜


留美「おはよう周子ちゃん、大切な話があるのだけどいいかしら」

周子「いーよ、朝一番にどうしたの」

留美「そろそろ銅馬を鎮圧しましょう」

周子「う〜ん、潮時なのかな」

留美「銅馬は往時の勢力は無くしたとはいえ、現在は冀州で跳梁している。
   冀州は河北の枢要な地域なのだから、これ以上彼らを跋扈させるわけにはいかないわ」

周子「それじゃあ具体的にどうするの」

留美「いくつか案は用意しているけど、周子ちゃんの希望を聞きたいわ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:06:21.45 ID:O+AvpSUD0<> 周子「銅馬ってさ、もとは農民反乱でしょ。だからあんまり殺したりしたくないな。
   彼らを叛乱に踏み切らせたのは王莽の暴政なんだし、逆に言えば善政を布いていれば彼らのような叛乱は発生しないと思う」

留美「至極真っ当な意見ね、それならこの案にしましょう。まずは地図を見て」

周子「どれどれ……これって冀州の地図? ずいぶん細かく書き込んであるね」

留美「書き込んであるのは、主に冀州の街道と関所の位置ね。
   劉秀軍をいくつかの部隊に分け、各街道を扼する位置にある城に部隊を常駐させるのよ。
   他の州からの連絡と補給を断てば、彼らの戦力を減殺できるわ」

周子「兵糧攻め、経済封鎖、ってわけか」

留美「彼らは数が多いから、干上がるのに時間はかからないはずよ。
   戦闘不能に陥ったところで降伏勧告をする、という流れになるわね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:07:24.21 ID:O+AvpSUD0<> 周子「一つ質問がある。まずね、窮地に陥った銅馬が封鎖の一点突破を図ったらどうするの?
   敵は農民の集まりだって言っても、その破砕力は軽視できないよ」

留美「勿論、彼らに軍事行動を起こさせないための策はあるわ。城の守備隊をとは別に、彼らに対して擾乱攻撃を加える。
   正規兵ならいざ知らず、数だけが大きい軍が、訓練された奇襲部隊に対処できるはずないもの。
   経済封鎖と擾乱によって、彼らの遠征能力を消失させてしまうのよ」

周子「なるほどね。要約すると、攻性の高い持久戦を展開するってわけか」

留美「そういうこと。ただし、この作戦には一つだけ穴があるわ」

周子「穴って?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:09:00.49 ID:O+AvpSUD0<> 留美「戦の後の話よ。彼らを降伏させて受け入れたところで、どうやって彼らを食わせるのか、それが問題なのよね」

周子「銅馬って確か三十万ほどいるんだっけ。たしかに、いまのあたし達の台所事情じゃ厳しいな。うーん、どうしよ」

留美「それが無理なら、彼らを纏めて処刑するという手もあるわ。
   項羽にしろ、白起にしろ、捕虜を数十万人生き埋めにしたという前例もあるのだから」


※白起(はくき)

・戦国時代の秦の名将。
 秦軍の主力として多くの戦で勝利を収め、長平の戦いでは趙軍の捕虜四十万人を生き埋めにしたとされる。
 しかし、あまりにも強すぎるために宰相の范雎(はんしょ)に危険視され、自害に追い込まれた。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:09:28.89 ID:O+AvpSUD0<> 周子「それはだめ。留美さんも、項羽や白起がどんな末路を辿ったのか、知らないわけないでしょ」

留美「周子ちゃんの言う通りね。じゃあ銅馬を生かすとして、彼らをどう処遇するつもり?」

周子「えっと……そうだ! いいこと思いついた!」

留美「聞かせてちょうだい」

周子「あのね……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:10:22.03 ID:O+AvpSUD0<>
〜清陽 劉秀軍包囲陣〜


翠「包囲開始から早一月が経ちました、敵に動きが無いところを見ると、敵はこちらの意図に気づいていないようですね」

李衣菜「ふむふむ……なるほど……」

翠「おや、李衣菜さん、難しい顔をしてどうしたんですか?」

李衣菜「え、ああ、これだよ」

翠「『孫子』ですか……しかし李衣菜さんって、こういう書物はお嫌いだったのでは」

李衣菜「そうなんだけどさ、この前愛梨さんにもっと書物を読んだ方がいいって言われて、それで最近読み始めたんだ。
     けど、読んでみると結構面白いよ、これ」

翠(孫子に面白味を感じるとは、変わってますね……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:10:56.08 ID:O+AvpSUD0<> 見張「敵襲! 敵襲! 銅馬軍の部隊がこちらに接近中!」

翠「どうやら、痺れを切らした敵が動き始めたようですね」

李衣菜「来たね! よ〜し、ここはあたしが……」

李衣菜(いや、ちょっと待てよ、そういえば司馬遷の『史記』の中で、韓信が項羽を“匹夫の勇”って酷評してたような……)

李衣菜「よし、翠ちゃん、敵に向かって矢を射てくれる? 当てる必要はないから」

翠「造作もありませんが、どういう意味が?」

李衣菜「ほら、取り敢えず撃ってみてよ」

翠「は、はい……ならば、あの岩でも狙いましょうか」キリキリキリ 
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:11:42.68 ID:O+AvpSUD0<> 翠「えいっ!」バシュッ


ズガン!


敵兵「な、なんだ! 敵陣から飛んできた矢が、岩に突き立ってるぞ!」

敵兵「まさか、敵に蓋延がいるんじゃねえのか! あいつの矢を喰らったらひとたまりない」

敵兵「退却だ! 退却!」


翠「ふう……こんなところで良いでしょうか?」

李衣菜「すげーっ! 翠ちゃんなら李広の真似できるかなって思ったんだけど、やっぱり石に矢が立ったね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:13:14.29 ID:O+AvpSUD0<> 翠「なるほど、“虎ト見テ石ニ立ツ矢ノ例アリ”ということですか。李広に喩えていただけるとは光栄です」

翠「しかし、李衣菜さんの機転のおかげで、敵味方の一人も失うことなく敵を追い払うことができましたね。
  お見事な采配でした」

李衣菜「いや〜、それほどでも……」

李衣菜(史記も読んでてよかった……いつまでも猪武者でいるわけにはいかないもんね)



※李広(りこう)


・前漢時代の武将。
 文帝、景帝、武帝の三代に仕えた宿将で、多くの戦で活躍し、“飛将軍”と呼ばれた。
 弓の達人としても知られ、“石に立つ矢”などの逸話も多い。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:14:07.79 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・賈復伝に曰く、


『賈復は若くして学問を好み、李という人物に師事した。
 李は賈復を、
 「容貌、志に優れ、それに加えて学問を究めるからには、宰相、将軍の大器となるであろう」
 と評価した』

<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:15:09.74 ID:O+AvpSUD0<> 翠「ふう……しかしこれでようやく、李衣菜さんが日頃おっしゃっているロックというものについて、理解できたと思います」

李衣菜「どゆこと?」

翠「これぞロックじゃありませんか、岩だけに……」

李衣菜「えっ」

翠「えっ」

李衣菜(こういう時、どうフォローすればいいんだろ……)

翠(さすがに今のは失言でしたか……)

李衣菜「……」

翠「……」

李衣菜&翠(気まずい……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:16:52.26 ID:O+AvpSUD0<>
〜常山 劉秀軍包囲陣〜


「……ってなわけで、俺はそのとき敵の部隊長の喉笛を槍で突いたのさ!」

「俺なんてこの前の戦、単騎で敵の中隊に突入して首級を挙げたんだぜ!」

美穂(皆すごいな……わたしなんて、周子ちゃんのとこに来てからどんな功績があったんだろう)

「そういえばさ、劉秀軍の中で一番活躍してる人って誰だろうな?」

「そうだな呉漢殿とか耿弇殿とか……」

美穂(こういう自慢話は苦手だな。
   皆の活躍を聞いてると、わたしにはこの軍にいる価値が無いんじゃないかって思えてくるよ)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:18:04.61 ID:O+AvpSUD0<> 美穂(よし、ここは昼寝でもしてやり過ごそう。寝たら嫌なことを忘れられるのが、わたしの唯一の長所なのかも……)

美穂「おやすみなさい……」

兵「……あいつら自慢話ばっかりしてやがる。何かうざいんだよな、ああいうの」

兵「ああ、他人の自慢話ほど下らねえもんはないぜ」

兵「一方、馮異将軍を見ろよ」

美穂「……」スヤスヤ

兵「さすが馮異将軍だな。くだらねえ自慢話なんかせずに、悠然と木陰で瞑想していらっしゃる」

兵「きっと劉秀軍の、今後百年の計を練っておられるに違いない……
  そうだ、これからは馮異将軍のことを、“大樹将軍”ってお呼びしようじゃないか!」

兵「お、それいいな! カッコイイ!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:19:16.85 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・馮異伝に曰く、


『諸将が戦功について話し合っている時、馮異はそれに加わらず、木陰に離れた。
 その様子を見た兵卒たちは、馮異を大樹将軍と呼んだ。
 軍の再編成の際、多くの兵達が馮異の麾下に入ることを望んだ』



※大樹(たいじゅ)


・上記の逸話は日本に伝わり、“大樹”は征夷大将軍の異称となる。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:19:51.11 ID:O+AvpSUD0<>
〜数か月後 劉秀軍 本営〜


留美「今日も銅馬に動きは無いわ。数か月前までは、こちらの包囲網を突破しようとしてたのに

周子「そんな元気も無いんでしょ。けど敵も粘るね、もう食べ物は無いはずなのに……」

伝令「申し上げます! 銅馬軍から、使者が参りました!」

留美「おそらく、降伏の使者でしょうね」

周子「ついに来たか……わかった、じゃあその使者を通して」

伝令「かしこまりました」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:20:28.29 ID:O+AvpSUD0<> 周子「それで、今日は何の用事かな」

老人「本日は劉秀様に、我ら銅馬の降伏を受け入れていただきたく、参上仕りました」

周子「そっか、よく決断してくれたね」

老人「しかし、降伏には条件がありますぞ」

周子「聞かせて」

老人「まず、降伏した者の全ての命を助けてください」

周子「もちろん」

老人「それから、我らを受け入れたところで貴方様は我らを食わせることができますか?
   それをお尋ねしたい」

周子「それに関しても問題無いよ。けど、最初のうちは苦労してもらうことになるけどね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:21:17.28 ID:O+AvpSUD0<> 老人「ではお聞かせ願いたい。どうやって我らを食わせるのか」

周子「“兵屯”と“民屯”制度を施行する」

老人「兵屯と民屯? 聞き慣れぬ言葉ですが……」

周子「兵屯って言うのはね、戦時以外の時は兵士たちにも農業に従事してもらうということだよ。
   だから兵士たちは、ある時は訓練、ある時は殖産ってことになるから大変だけど、そこは生きるために頑張ってね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:22:11.37 ID:O+AvpSUD0<> 老人「それでは、民屯とは?」

周子「民屯って言うのは、農地や農耕用道具を国から貸与するから、自分たちで頑張ってねっていうこと。
   税率は五公五民(収穫の半分は国が徴収)だけど、その年の食料の確保は約束するし、有事の際は土地と人民の生活を保障する」

周子「兵屯と民屯を合わせて、“屯田制”って命名したんだ」

老人「なるほど……しかし、国が民の衣食住と生命を保障するなど、前代未聞です」

周子「信用できないのはわかるよ。けど、これから行うことがあたしの誠意だと思って欲しい」

老人「い、一体なにを……」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:22:48.14 ID:O+AvpSUD0<>
〜銅馬軍 本陣〜


「長老遅いな……」

「もしかして、長老は既に首を刎ねられているんじゃないのか?」

「そうだ、そうに違いない!」

「こうなったら、いちかばちかで劉秀軍に攻め込んで……」

老人「何を馬鹿なことを言っとるんじゃ!」

「長老!」

老人「皆安心せい。劉秀様は、まことの仁君であらせられるぞ。
   劉秀様は我らの命を助けるばかりか、後の生活まで保障してくだされた」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:24:44.75 ID:O+AvpSUD0<> 「やった! これ以上戦をせずに済むぞ!」

「けど長老、劉秀が約束を守るという保証はありませんよ」

老人「何を言うか! お前たち、わしの後ろを見よ!」

「えっと、長老、後ろにいる方は誰ですか?」

老人「劉秀様だ」

「「「な、なんだってー!!!」」」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:26:03.55 ID:O+AvpSUD0<> 周子「皆、いきなりあたしのことを信じろっていうのは、確かに無理があるよね。
   けど、論より証拠って言うし、これからあたしのすることを皆の目で確かめてほしい。
   あたしがここまで一人で来たのも、皆に信じてほしかったからだよ」

老人「皆の者。これで劉秀様が信頼するに足る人物だということがわかったであろう?」

「大将が平服で、しかも一人で来るとは……」

「おお! 劉秀様こそ、真の名君に違いない! 劉秀様、ばんざーい!!」

「「「ばんざーい!!!」」」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:27:16.83 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・光武帝紀に曰く、


『劉秀は銅馬軍を降伏させた時、兵達がいまだ安心していないと知り、一人で巡察に赴いた。
 それを見た銅馬軍の兵達は、
 「蕭王(劉秀)は真心を持って人を信じて疑わぬ方だ。命を懸けてこの方をお助けしようではないか」
 と語り合った』


※赤心を推して人の腹中に置く


・誠意をもって人に接すること。上記の故事が由来。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:28:21.40 ID:O+AvpSUD0<> 周子「巡察終わったよー、お腹すいたーん」

留美「びっくりしたわ。一人で降兵を巡察するなんて」

周子「確かに不安はあったけど、まあなんとかなったよ。話してみれば皆悪い人じゃなかったし」

留美「これで銅馬軍は完全に掌握したわね。こんなに手際良く処理できるなんて思ってなかったわ」

周子「ま、あたしはやる時はやる女だし」

留美「……けどね、これでわかったでしょう?」

周子「何が?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:29:27.65 ID:O+AvpSUD0<> 留美「周子ちゃんは、人の上に立つ器ということよ。
   数十万、数百万を遍く包み込む未曾有の大器、それが周子ちゃんなの」

周子「……もしかして、留美さんはイヴちゃんとグルなの?」

留美「グルなんて失礼ね。私はこの世に安寧を齎すにはどうすればいいのか、最善の方法を模索しているのよ。
   考えに考え抜いた結果、周子ちゃんに皇帝になってもらうという結論に達したわ」

周子「だから、あたしはそんな人間じゃないって……」

留美「韜晦するのはもうやめて」

周子「……」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:30:20.94 ID:O+AvpSUD0<>
ワーワー キャーキャー


留美「見なさい、兵たちの歓呼を。さっきまで敵愾心を持っていた両軍が、肩を抱き合って周子ちゃんの名を叫んでいる。
   自ら皇帝になった者は多いけど、周りから押し上げられて皇帝になった者は歴史上皆無なのよ」

周子「けど、皇帝になる人には天命とか天祐とかがあって、それで、天から何かお告げとか……」

留美「“天ハ語ラズ、人ヲシテ語ラシム”……とか。この歓呼が天命でなくて、何なのかしら?」

周子「こ、怖いよ留美さん……」

留美「ご、ごめんなさい。私もこんなに熱くなるなんて、らしくなかったわね」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:31:38.57 ID:O+AvpSUD0<> 拓海「まあまあ、頭から否定することないんじゃないか」

周子「拓海ちゃんまで加担してたんだ」

拓海「無理にとは言わねえ。けどよ、少しは皆の気持ちを考えてくれよ」

周子「……」

拓海「いまアタシ達が誰のために、何のために戦っているのか、その理由がわからなくなる時もある。それは確かだ」

周子「あたし達が戦っている理由か……」

周子(あたしが皇帝? 冗談じゃない。
   ついこの間まで、田舎で暢気に暮らしてたあたしが、いつの間にか河北まで来てしまって、そしてなぜか数十万の大軍に号令している……
   こんなのおかしいよ、絶対おかしい……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:33:23.27 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・馬武伝に曰く、


『馬武は劉秀に、
 「今の天下には主がおりません。
  このような状態では、もし聖人が乱世に現れ、孔子を宰相とし、孫子を将軍にしたとしても、おそらくは何をすることもできないでしょう。
  覆水盆に返らず と言います。大王(劉秀)は謙譲し辞退しておりますが、宗廟と社稷はどうするのですか。
  皇帝の位につき、その後に征伐について朝議を行ってください。更始帝のために戦うのはもう御免です」
  と進言した。
 
 劉秀は驚いて
 「その進言は死罪に値するぞ」と言ったが、
 馬武はこう返した
 「諸将は皆同じ意見です」と』
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:36:22.45 ID:O+AvpSUD0<>
〜鄗(こう)〜


美穂「あの、周子さん」

周子「どうしたの、大樹将軍?」

美穂「へ?」

周子「兵の皆が、美穂ちゃんのことを大樹将軍って呼んでるから、美穂ちゃんも知ってるもんだと思ったよ」

美穂「わたし、いつの間にかそんな渾名がついてたんですか」

周子「どんな時でも冷静沈着、知略広遠にして常勝不敗の名将馮異! ってところかな」

美穂「わたしはそんなにすごい人じゃないですよー! ……って、それは置いといて」

周子「ごめんごめん……で、何の用だっけ?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:37:00.40 ID:O+AvpSUD0<> 美穂「えっとね、他の皆からも言われてると思うんですけど、皇帝に即位したらどうかなって」

周子「美穂ちゃんまで嚙んでいるのか。こりゃ参ったね」

美穂「けど、皆さんからこれだけ皇帝になってほしいって言われているから、
   自分には不向きだって考えずに、前向きに検討してほしいです」

周子「……けどさ、歴史上皇帝とか王になった人って何かしら天啓を受けているんだよね」

美穂「たとえば?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:38:00.25 ID:O+AvpSUD0<> 周子「周の武王なんかはさ、乗ってた船に白魚が飛び込んできた、とか。高祖は常に輝く雲が頭上にあった、とか。
   一方、あたしにはそういうのが無いじゃん。だから本当にあたしが皇帝になってもいいのかなって」

美穂「じゃあ、あの本を解読してみるのはどうですか? 何か書いているかも」

周子「あの本って?」

美穂「ほら、王郎を捕らえたとき、占いの書物を手に入れたって」

周子「ああ、赤伏符のことか。とんと忘れてたよ」

美穂「その本を検めたら、何か見つかるかもしれませんよ」

周子「そんな旨い話が……」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:38:59.53 ID:O+AvpSUD0<>
『劉秀ハ兵ヲ発シテ不道ヲ捕ラヘ、四夷ハ雲集シ、龍ハ野ニ戦イ、
 四七ノ際ニ、火ハ主トナラン』


“劉秀は失政を続ける更始帝を捕らえ、銅馬や赤眉などの反乱軍が集結し、劉秀はそれらと野戦し、
 (高祖劉邦から)二百八十年(四×七十年)後に、火徳の劉氏が皇帝となるであろう” <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:39:57.09 ID:O+AvpSUD0<> 周子(って、それっぽいことが本当に書いてあるし……しかもあたしが名指しされてるし……)

美穂「ほら、予言書にも書いてあるじゃないですか! これこそ天命ですよ!」

周子「参ったな……こりゃ腹をくくるしかないか」

美穂「と言うことは……」

周子「美穂ちゃん、皆を集めてくれる? 大切な話があるんだ」

美穂「はい!」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:40:43.37 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・馮異伝に曰く、


『劉秀は即位の直前、馮異を呼び寄せて下問した。
 「私は昨日、赤龍に乗って飛翔する夢を見た。目覚めたとき動悸がした」と。
 それに対し馮異は、
 「それは皇帝に即位せよという天命です。劉秀様が慎重な性格をしていらっしゃるので、動悸がしたのでしょう」
 と答えた』
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:41:54.54 ID:O+AvpSUD0<>
〜広間〜


周子「忙しいところ、わざわざ来てもらってごめんね。今日は皆に大切な話があるんだ」

シーン

周子「前から多くの人から、皇帝になってほしいと言われていた。
   けど、あたしはそんな器じゃないし、皇帝としてやっていける自信も無かった。
   それに、周の武王にしろ高祖にしろ、何か天啓を受けて登極したって言うけど、あたしにはそういう瑞兆はない」

周子「でも最近、赤伏符っていう予言書を紐解いてみると、なんとあたしが名指しでかかれている。
   しかも他の群雄を斃して朝廷を築くとまで書いてあったんだ。これがそうだよ」

一同「おおっ! 確かに書いてある!」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:43:03.63 ID:O+AvpSUD0<> 周子「これこそ天命だとあたしは思う。それに最近、いつも不思議な夢を見るんだ」

美穂「どんな夢を?」

周子「あたしが赤龍に乗って、大空を駆け巡る夢だよ。目覚めた後、しばらく動悸が止まらなかった」

周子(……本当は、そんな都合の良い夢なんて見てないけどね……)

美穂「その夢はまさに瑞兆に違いありません! 動悸がしたのは、周子さんが慎重で謙虚な性格だからですよ!」

美穂(ここは周子ちさんに合わせておこう。いつも木陰でお芝居の練習しておいてよかった……)

周子(さすが美穂ちゃん、空気を読んでくれたんだ) <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:43:55.59 ID:O+AvpSUD0<> 周子「だからあたしは、皆の要請に応え、皇帝に即位することにした。
   あたしは、湯王や武王や高祖や武帝のような名君にはなれないかもしれない」

周子「……けどあたしは、蔡陽で逼塞していた頃のあたしじゃない。天下万民と臣下百官が推戴するなら、喜んで皇帝となろう!」

愛梨「ようやく決心してくれたんだ、周子ちゃんならきっと適任だよ」

周子「ありがとう愛梨ちゃん……では次に、今まであたしのために働いてくれた人たちに報いたい。
   諸将の中から、特に功績のある人を二十八人選んだから、それを発表しようと思う」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:44:57.50 ID:O+AvpSUD0<>
首席 太傅・高密侯 ケ禹

次席 大司馬・広平侯 呉漢

第三席 左将軍・膠東侯 賈復

第四席 建威大将軍・好畤侯 耿弇

第五席 執金吾・雍奴侯 寇恂

第六席 征南大将軍・舞陽侯 岑彭

第七席 征西大将軍・陽夏侯 馮異

第八席 建義大将軍・鬲侯 朱祐

第九席 征虜将軍・潁陽侯 祭遵

第十席 驃騎大将軍・櫟陽侯 景丹

第十一席 虎牙大将軍・安平侯 蓋延

第十二席 衛尉・安成侯 銚期

第十三席 東郡太守・東光侯 耿純

第十四席 城門校尉・朗陵侯 臧宮
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:45:49.58 ID:O+AvpSUD0<>
第十五席 捕虜将軍・楊虚侯 馬武

第十六席 驃騎将軍・慎侯 劉隆

第十七席 中山太守・全椒侯 馬成

第十八席 河南尹・阜成侯 王梁

第十九席 琅邪太守・祝阿侯 陳俊

第二十席 驃騎大将軍・参蘧侯 杜茂

第二十一席 積弩将軍・昆陽侯 傅俊

第二十二席 左曹・合肥侯 堅鐔

第二十三席 上谷太守・淮陵侯 王覇

第二十四席 信都太守・阿陵侯 任光

第二十五席 予章太守・中水侯 李忠

第二十六席 右将軍・槐里侯 万脩

第二十七席 太常・霊寿侯 邳彤

第二十八席 驍騎将軍・昌城侯 劉植
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:47:06.51 ID:O+AvpSUD0<> 周子「……各々の序列はあたしの独断で選んだよ。
   必ず同じ一族が固まらないように選出したから、選ばれた人はその家の代表って考えればいいんじゃないかな。
   以上の二十八人は名付けて、“雲台二十八将”ってことで」

周子「勿論、この二十八将以外の人にも追って恩賞を下すから、待っててね」

イヴ「あの〜、どうして私が首席なんでしょうか?」

周子「当然でしょ。この中で一番古参だし、イヴちゃんが陰で支えてくれたから今のあたしがいるんだ」

巴「なあ周子、どうしてうちが四席で、親父の名前が無いんじゃ?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:47:53.69 ID:O+AvpSUD0<> 周子「事前に聞いてみたんだけど、耿況さんは引退するってさ。
   家督は巴ちゃんに譲るって言ってたから、今や上谷耿氏の頭領は巴ちゃんでしょ」

巴「あの親父、最近姿を見んと思ったらそういうことやったんか。後で話しとくか」

拓海「皆はいいとして、どうしてアタシの名前も入ってるんだ?
   アタシが劉秀軍に来てから、何か功績あげたか?」

周子「そりゃあ、敵対してた人でも降伏したらちゃんと褒賞あるよって示さないと、この先誰も降伏してくれないじゃん」

拓海(おいおい、そこまで考えてんのかよ……)
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:48:41.42 ID:O+AvpSUD0<> 周子「皆この席次に納得してないと思うけど、これは現時点での評価だから、
   これから頑張ってくれたら褒賞も考えないこともないよ」

愛海「ってことは、もっともっと未開のお山を探索できる可能性が……」

周子「あるかもね」

翠「待ってください」

周子「どうしたの、翠ちゃん」

翠「周子さんの言い様からすると、やはりその予言書通りに群雄を討ち平らげてしまうということですね?」

周子「そうだよ。これ以上、乱世を長引かせてはいけない。
   戦を終わらせるために戦をするってことになるけど、これからは最速で乱世を終わらせる」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:50:22.13 ID:O+AvpSUD0<> 周子「というわけで、二十八将に選ばれたからと言って、安堵するのはまだ早いよ。これからは各方面に向けて、皆それぞれ出陣してもらうから」

李衣菜「なんかすげーロックな展開になってきましたね! 私も上位になってるし、張り切っていこう!」

周子「二十八将は名将ぞろいだからね。どんな敵と戦っても、遅れをとることはないでしょ」

周子「というわけで、これから忙しくなると思うけど、天下に平和を齎すため、あと少しの間だけあたしに力を貸してほしい。
   天下統一を果たしたら、皆が平和に暮らせる世を作って見せる、必ず!」

イヴ「皆さん異存はありませんね〜? では、ご唱和ください!」

一同「「「皇帝陛下、万歳!!!」」」 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:51:02.75 ID:O+AvpSUD0<>
後漢書・光武帝紀に曰く、


『劉秀は、部下から皇帝即位を上奏されたが、二度固辞し、三度目に「考えておく」と言った。
 四度目に、赤伏符という予言書と共に上奏され、即位した。
 その際、元号を建武とした』 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:51:35.19 ID:O+AvpSUD0<>
〜夕刻〜


イヴ「ふふふ♪ 本当に周子ちゃんが皇帝になっちゃいましたね!」

周子「あんまり実感無いよ」

イヴ「けど、皆さん嬉しそうにしてましたよ」

周子「だといいんだけど」

イヴ「一つお聞きしたいんですが、どうして皆さんを丞相や三公として起用しなかったんですか?」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:52:33.51 ID:O+AvpSUD0<> 周子「あのねイヴちゃん、有能な家臣が人生の最期まで有能であり続けるという保証はないでしょ。
   いままで活躍してた人が、小さなことで躓くこともあるし」

イヴ「え〜っと、つまり、皆さんを韓信や彭越みたいな目には合わせたくないと」

周子「そういうこと。大きな権力を持たせると、豹変する人もいるかもしれない。
   高い地位に就いても、転がり落ちて大怪我する人もいるかもしれない。あたしはそういうのは避けたいんだよ。
   漢建国後の高祖や、晩年の武帝みたいになりたくない」

イヴ「いろいろと考えているんですね〜」

周子「それだけじゃなくて、今後のことも考えないといけないよ。まだ各地に群雄は残ってる。
   まずは赤眉をどうするかなー、あの予言書にも書いてあったし」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:53:29.86 ID:O+AvpSUD0<> 周子「……そうだ、予言と言えばイヴちゃんの予言もそうだよ」

イヴ「何のことですか?」

周子「ずっと前イヴちゃんが、あたしが雲台に登極して二十八の将星に号令する……とかって言ってたじゃん」

イヴ「そんなこともありましたね〜」

周子「その予言を信じた結果、こんな北の果てまで来ちゃったり、いつの間にかあたしの周囲にはいろんな人が集まってる。
   今では皇帝なんかになっちゃったりさ」
<>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 20:54:03.36 ID:O+AvpSUD0<> 周子「その袋からいろんなものを取り出したり、どこからか人材を発掘してきたり、イヴちゃんって一体何者なの?」

イヴ「ふふふ……知りたいですか?」

周子「知りたい」

イヴ「残念でした〜、私は何者でもありませんよ〜。今も昔も、周子ちゃんの幼馴染のケ仲華です♪」

周子「やれやれ……あたし、いつまでもたってもイヴちゃんには敵わない気がするよ……」



おわり <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 21:01:12.08 ID:O+AvpSUD0<>
・高祖劉邦が建国した漢は、王莽によって簒奪され、その後光武帝劉秀によって復活しました。
 そのため、劉邦が建国した漢を「前漢」。劉秀が復興した漢を「後漢」と呼びます。

・劉秀は、歴史上の他の皇帝に較べて、毛色の異なる皇帝でもあります。
 自ら皇帝を名乗らずに、部下から何度も勧められてようやく即位したこと。
 功績のある部下は各地に封し、要職には就けなかったこと。
 皇帝即位後も自ら軍を率いて遠征し、部下を破った敵を自分で討伐したり……

・また、内政面においても「理想の名君」ぶりを発揮しています。
 屯田制度を採用し、減税を行ったこと。
 奴隷や奴婢を開放したこと。それにともなって人身売買に規制をかけたこと。
 恩赦や特赦によって労働力を増やしたこと、など……

・また劉秀の下には、その覇業を支えた「雲台二十八将」という家臣団がいます。
 これは明帝が、光武帝の功臣たちを雲台に描かせたのが元と言われており、光武帝即位に尽力した二十八人が選出されました。
 二十八将には序列が決められていますが、これはあくまで光武帝即位時の序列なので、
 王覇のように下位でありながら、以後の群雄討伐戦において活躍した武将もいます。
 
・「二十八」と言う数字は二十八宿と関係ありそうですが、范曄は後漢書の中でその理由を暈しているあたり、
 このあたりはこじつけなのかもしれません(後に三十二将に増えています)。 <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 21:03:20.38 ID:O+AvpSUD0<> 以下は作者の過去作です。
日本の歴史・古典ものですが、興味のある方はどうぞ。


モバマス太平記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396429501/

モバマス太平記 〜九州編〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399632138/

モバマス・おくのほそ道
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400847500/

モバマス徒然草
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402232524/

モバマス方丈記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403442507/

モバマス枕草子
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404649529/

モバマス海賊記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405427187/

モバマス土佐日記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407070016/

モバマス雨月物語
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408107058/

モバマス竹取物語
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410021421/

モバマス源氏物語
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411908026/

モバマス五輪書
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413117041/

モバマス・戦国公演 〜石山合戦〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425212942/

モバマス・戦国公演 〜豪商茶人伝〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439122638/

モバマス山月記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441109263/

モバマス・戦国公演 〜風来剣客伝〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445860782/ <>
◆818HMgmAXY<>saga<>2016/02/07(日) 21:03:53.05 ID:O+AvpSUD0<> 以下は中国の歴史・古典作品です。


モバマス史記
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414934626/

モバマス蘭陵王
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417351292/

モバマス海東青鶻
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419684911/

モバマス・トークバトルショー 〜塩鉄論〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422188849/

モバマス史記 〜高祖本紀〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428236484/

モバマス太公望
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433679504/ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/07(日) 22:58:44.76 ID:XlQVAhRI0<> 乙!
新メインの話も聞いてみたいっちゃ聞いてみたいね <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/07(日) 23:42:16.23 ID:pQWZPfYm0<> このあたりは名前も似た人が多いし、時代もこんがらがりそうになって学ぼうと思っても訳わかんなくなるんだよなぁ

こんな優れた名君様でもこの後は負けちゃったり裏切られたり堕落したりするんかね? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/08(月) 00:53:47.44 ID:kg0TRuqao<> >>367
劉秀は中華統一後もスーパー名君のまま亡くなってる数少ない人物だよ
後漢は初代から三代目辺りまでは名君続きだったけど、
三代目が早死にしてからは外戚と宦官の内紛ばっかになった
<> 作者
◆818HMgmAXY<>saga sage<>2016/02/08(月) 21:04:20.16 ID:Ac6o7T140<> >>368さんに補足しますと、四代目の和帝が9歳で即位して以降、歴代の後漢皇帝は十代で即位しています
そんな幼年皇帝では親政できないので、おのずと外戚と宦官が権力を握るようになっていきました
彼らの政治は賄賂が横行する政治だったので、各方面で次第に歪みが大きくなり
党錮の禁→黄巾の乱、及び後漢末期の動乱→三国時代と歴史がつながっていきます
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/02/09(火) 02:18:43.15 ID:sRKCJJC1o<> 乙です
あと正直この時代の世代レベル、劉秀など一部を除いたら低いような
競馬で例えると、ダート、障害抜きの05世代(ディープ世代)みたいな感じ <>