以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2020/01/20(月) 00:40:19.69 ID:7ZuZWGnL0<>
「見ない顔だなぁ、アンタ」

雨のスラム街。
前歯のない老人がイヒヒと笑うと、ロボットは静かに首を傾げた。

『勿忘(わすれな)の国』、季節は雨期の中盤である。

錆と黒い油の混じった液体をぶちまけた路地裏には、霧のように雨のにおいが立ち込めていた。
半分以上廃屋の住宅の山は、幾重ものパイクの束とともに堆(うずたか)く積み上げられて、
灰色の空を小さく切り取っていた。

一体何を作っていてそんなに頑張るんだろう、という位に大量の煙を吐き出す煙突は、遠くのほうに
霞んで今日はほとんど見えない。



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<>「The Last Page」「Record your memory」(オリジナル) 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2020/01/20(月) 00:41:11.32 ID:7ZuZWGnL0<> 「見ない顔だなぁ、アンタ」

冒頭の発言に戻る。
ウィイ、と小さな駆動音がして、ロボットの顔は老人のほうへ向いた。

それは強いて挙げるならば、小さな宇宙飛行士に似た姿をしている。
顔と思われる正面のヘルメットは、黒い球面ガラスで覆われていて中が見えない。

ヘルメットの横面の耳にあたる部分には、円盤状に青く光るアクリルが取り付けられていた。
左側のアクリルの上部には、何かを受信するように小さなアンテナが付属しており、
時折縮んだり伸びたりを繰り返している。

向き合った一人と一体の映像は奇妙な魅力があり、何かのメッセージ性を持った絵のようにも見えた。
テレビの砂嵐のような、静かな雑音だけが絵の中に響いていた。

雨足が少し強まる。

「これ、要るか? もう古くなってまともに使えたもんじゃねえが」

老人は、何とか雨風を凌げる程度の自宅によたよたと入ると、小さな瓶をロボットに見せた。
着用しているずぶ濡れの布でそれを拭うと、「ウィイ」とロボットが口を開いた。

口を開いた、と表現したのは、顔の黒いガラス窓がスライドして中の空間が見える様が、老人の目に
そのように映ったためである。

老人はロボットに小瓶を渡した。
ロボットは掴む・離す以外の動作のできそうにない二本指のアームでそれを受け取ると、開いた口の中に
瓶ごと放り込んだ。 <>