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HTML化した人:ヤニ▲星半分と
15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する世界だったら
1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)2011/09/14(水) 17:34:52.52 ID:+o33DbwD0
避難所 http://jbbs.livedoor.jp/study/7864/
まとめ http://www8.atwiki.jp/tsvip/

まとめではまとめ人募集中
wikiの編集法の知識有無関わらず参加待ってます
編集の手順はwiki内『編集について』を参照のこと
2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/15(木) 22:04:47.49 ID:lyxfJweY0
>>1
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/16(金) 01:53:03.78 ID:1QDBbrZ8o
>>1
4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)[sage]:2011/09/17(土) 00:21:38.04 ID:StQl1oFJo
>>1乙ー
5 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2011/09/17(土) 02:55:42.07 ID:9uxSrr4ao
                          刀、           , ヘ
                  /´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
              ,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
               /: : : : : : : : : : : : : :`.ヽl____: : : : : : : : : : : : : : : : : : /
     ,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/
    /: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : :    :\: : : : :: : : :ヽ  \   /: : : :/
    ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i  / /: : : : :/
     /: :     ∧: \: : : : : : : : : : ヽ: :\: : : 〃}/  /: : : : :/         、
.    /: : /  . : : :! ヽ: : l\_\/: : : : :\: ヽ彡: : |  /: : : : :/            |\
   /: : ィ: : : : :.i: : |   \!___/ ヽ:: : : : : : :\|:.:.:.:/:!  ,': : : : /              |: : \
   / / !: : : : :.ト‐|-    ヽ    \: : : : : l::::__:' :/  i: : : : :{              |: : : :.ヽ
   l/   |: : :!: : .l: :|            \: : : l´r. Y   {: : : : :丶_______.ノ: : : : : :}
      l: : :l: : :ト、|         、___,ィ ヽ: :| ゝ ノ    '.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
      |: : :ト、: |: :ヽ ___,彡     ´ ̄´   ヽl-‐'     \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
        !: :从ヽ!ヽ.ハ=≠' , ///// ///u /           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      V  ヽ|    }///  r‐'⌒ヽ  イ〉、
              ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、       こ、これは>>1乙じゃなくて
                  ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ     ポニーテールなんだからな!
              r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\   変な勘違いするなよな!
               /: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\
6 :でぃゆ(ry[sage saga]:2011/09/17(土) 15:05:30.78 ID:60Eh9POV0
>>5 かがみんAA乙!www
さあ、SS投下迎撃準備はおっけーだ(キリッ 全裸待機!(キリリッ
7 :以下、名無しにかわりまして リチャード、ジェームス がお送りします[sage saga]:2011/09/18(日) 09:28:58.06 ID:Pwre69ET0
↓よし、なんか描く
8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2011/09/18(日) 11:22:29.70 ID:6i/+TRup0
「オイ…ッ!なんで僕がこんな格好しなきゃいけないんだッ!?」
9 :以下、名無しにかわりまして ジョン がお送りします[sage saga]:2011/09/18(日) 21:52:55.43 ID:Pwre69ET0
>>8
書いたよー(^o^)ノhttp://u6.getuploader.com/1516vip/download/74/anka8.jpg
どういう会話なのかは想像に任せる
ただ女の子として洗練されていないにょたっ娘は個人的に至高
10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/18(日) 22:29:16.87 ID:dU0qlubf0
GJ!
11 :でぃゆ(ry[sage]:2011/09/18(日) 23:05:40.05 ID:04srFekAO
>>9
絵師様キタッ!Σ(゚ω゚*)
うおッ!スゲー!!乙GJ!!
12 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)[sage]:2011/09/18(日) 23:07:51.65 ID:fC3hXV5Io
>>9
気づいたら俺のPCに一枚画像が増えていた GJ
13 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東海・関東)[sage]:2011/09/18(日) 23:14:14.61 ID:MFG6H1HAO
>>9
あらかわいい。

洗練されていく過程で誉められてマジ照れするのもいいよね。
14 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2011/09/19(月) 06:17:23.73 ID:ouYOtew10
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/part4vip/kako/1302/13028/1302836584.html

>>9
ありがとう、そして、ありがとう 保存余裕でしたww
ひょっとしてゲームスレの職人様ですか?(違ってたらゴメンナサイ><)
15 :以下、名無しにかわりまして 伸恵の友達 がお送りします[sage saga]:2011/09/20(火) 10:22:38.47 ID:AiKbxCvx0
おいす^^
16 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします2011/09/20(火) 23:40:40.69 ID:AigV4VNDO
安価↓
17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/21(水) 00:08:45.01 ID:B/+sbYmc0
ラッキースケベ
18 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 02:58:17.91 ID:PfZ96+eAO
【花火と浴衣・裏側3】





次に目を覚ました時、時間は既に昼近くだった。

「……もうお昼か」

寝起きのぼんやりとした頭のまま一人呟く。

「結局、学校サボっちゃったなぁ……」

しばらく、寝起きの状態のままでぼんやりしていたが、携帯電話が振動している音に気づき、体勢を変え携帯電話を手に取る。
どうやら、今の振動はメールが来たことを知らせる振動だったらしい。
携帯電話を開きメールをチェックすると、北山から病気になったのか、大丈夫なのかといった内容のメールが届いていた。
他にも昨日のメンツから同じような内容のメールが届いていた。
その中には、もちろん長井からのメールもあった。

「……あぅ」

長井のメールを見ると、昨日の事を思い出してしまう。
昨日、僕……アイツに告白されたんだよな。
今日の午後六時に近所の公園……か。
午後六時まで約六時間。

「……よし」

メールの返信(昨日の連絡無しの謝罪も含め)を打ち、立ち上がる。

「んうぅ〜っ!」

大きく伸びをし、自室から居間へ移動する。
居間には母さんがいた。

「あら、お目覚め?」
「ん、おはよ……」
「どっちかというと、おはようじゃなくて、おそようね」
「おそようって、なんか変だよ」
「まあ、いいじゃないの。お昼ご飯食べる?」
「うん、食べる」
「じゃ、まずはお風呂に入ってきなさい。沸かしてあるから」

母さんが風呂場に続く扉に指をさす。

「ん、わかった」

まだ頭に眠気がこびりついているので、それを落とすには丁度いい。

「タオルと着替えは用意しとくから、すぐ入りな」
「わかった、よろしくね」

母さんの言葉に甘え、手ぶらで脱衣所に入る。

「あ、そういえば昨日のままだっけ……」

服を脱ごうとし、浴衣である事に気がつく。
まいったな。浴衣は着せてもらってたから、上手く脱げるかどうか自信はない。
ま、やってみるか。
えっと、まずは帯をほどいて……くっ、おかしいな、ほどけない。
こっちをここに通せば……余計こんがらがったような気がする。
なら、これをここに…………あ、もう駄目だ。自力じゃほどけないわ、これ。
19 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 02:58:59.63 ID:PfZ96+eAO
「なんか、妙に疲れた」

あの後、僕は一旦脱衣所から居間に戻り、母さんに浴衣を脱がしてもらった。
相変わらずの早脱がしだった。

「シャワー浴びるだけなのに、服脱ぐだけで親の手借りるなんて……」

しかも、脱衣所まで全裸のまま戻った。
母さんの他に人がいないから困りはしなかったが、傍から見たらアホすぎる絵ヅラだ。

「はあ……」

僕はシャワーを浴びながら、ため息をつく。
なんか、昨日からペースが狂い気味になっている気がする。
自分の体が女の子になっているのに慣れてないせいなのだろうか。
女の子に……そういえば、今の僕って体は女の子なんだよな。
……昨日まで男だった身として、そしてまだ心まで女になりきれない身としては、自分の体とはいえ女の子のものであるこの体に興味がある。
……いやいや、おかしいだろ。自分の体に欲情なんて。
……いやいや、おかしくないさ。僕はまだ心は男なんだ。そして僕は女の子の体なんだ。年頃なら欲情するさ。
……いやいや、おかしいだろ。
……いやいや、おかしくないって。
僕の頭の中では、こんな具合で二つの考えが競いあっていた。

「落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕…………」

僕の心の中の助平心を静めようと、まるで自己暗示をかけるかのように何度も落ち着くように呟き続ける。

「落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕。落ち着け僕…………ふう」

そのせいあってか、なんとか助平心を抑える事ができた。

「……早く、頭と体洗っちゃおう」

落ち着いたけど、どこか虚しい気分になりながら頭を洗い始める。



「もう、随分長かったわね」

シャワーを浴びて風呂場から戻ってくると、母さんはやや不満そうな口調で出迎えてくれた。時計を見ると、風呂場に行ってから三十分以上経っていた。
確かにこれはちょっと時間がかかりすぎたかも。

「あ、う、うん」

でも、言えない。長引いた理由が体を洗う時にうっかり鏡で自分の体を見て軽くパニくって、その後も自分の体を意識しまくって上手く洗えなかったから、なんて言えるはずがない。
20 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 02:59:44.80 ID:PfZ96+eAO
むしろ忘れたい。今すぐにでも記憶から消し去りたい。

「まあ、昨日変わったばかりだから仕方ないわよ」

母さんがにこやかな笑顔を浮かべながら言う。
いやさ、そう言われても僕自身にとってはそう簡単に割り切れる話じゃなくて……ん?

「あのさ、僕……今考えてた事口に出してた?」
「いいえ。ただ、考える事がわかるだけよ」
「サラっと読心術使わないでよ!」
「いやいや、そういう訳じゃないわよ。私も昔、同じような感じだったから」
「え? 同じような感じって……」
「私も元男なのよ」
「えええっ!?」

割と衝撃の新事実だった。

「あら、言ってなかったかしら?」
「は、初耳だよ!」
「そうだったかしら……まあ、いいわ。そんな事よりお昼ご飯にしましょ」

僕にとっては衝撃の真実でも、母さんにとってはお昼ご飯よりもどうでもいい事のようだ。
母さんがそれでいいなら、僕が口出しするような事でもないけどね。

「そういえば、お昼ご飯って何?」
「ん、これよ」

そう言って僕の目の前に出された物……それは、めんつゆの入ったお椀だった。
そして、テーブルの中央にはそうめんが、まるで山のようにうず高く積まさっている。

「たくさんあるから、どんどん食べなさい」
「か、母さん……ちょっと、いやだいぶ量多くない?」

僕、まだ起きてから一時間経ってないんだけど。
息子……じゃなくて、娘の胃袋を過信しすぎじゃない?

「大丈夫よ。私も食べるから」
「って言っても、二人だけでこれは……」
「私、これぐらいなら普通に食べれるわよ」
「え……ええ〜?」

今日一日で僕の知らない母さんを知る事が出来たけど、なんでだろう……知らないままでいたかった。
ちなみに僕は七口くらいで終了。残りは本当に母さんが全部食べた。



現在時刻、午後五時四十分。
そろそろ約束の時間だ。
ちょっと早いけど、そろそろ行くか。

「ちょっと出かけてくる。晩御飯までには帰ってくるから」
「頑張ってらっしゃい」
「それじゃ行ってきます」

母さんはにやけた顔で僕を送り出した。
あの顔は出かける理由をわかっている顔だ。
人の気も知らず知らずに楽しんでるな。
21 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 03:00:32.48 ID:PfZ96+eAO
ちなみに今、僕が着ている服はウチの高校の女子制服である。
母さん曰く

「出かけるなら、ついでに着心地を試してみなさい」

との事で、つい五分程前に半ば無理矢理着せられた。
これから、告白の返事をしに行く娘に言うとは思えない台詞だ。

「まったく……これだから、母さんは父さんに『デリカシーがない』なんて言われるんだよ」

スカートの頼りない感覚に不安を抱きながら、一人愚痴を言いつつ公園に向かう。



公園には十分で到着した。

「あと十分くらいあるかな」

腕時計を見、現在の時間を確認する。
アイツを待たせるのも悪い気がするので早めに来たが、アイツはまだいなかった。

「ま、すぐに来るだろ」

立ちっ放しなのも落ち着かないので、近くのベンチに座る。
思いがけず空き時間が出来た。
それをただボンヤリと過ごすのももったいないので、心の準備をすることにした。
もちろん、出かける少し前に家でも準備はしてきたが、やはりその場所に着くと心臓の鼓動は嫌が応にも早まる。
目を閉じ、胸に手を当て、一定のリズムを保った呼吸を行う。
そうする事で心臓の鼓動は次第に通常通りのリズムに戻っていき、心も少し落ち着く。
目を開き、一度大きく深呼吸をする。
……よし、大丈夫。
再び腕時計に目を動かす。
そろそろ時間だ。
もう来る頃かな、と思い公園の入口の方に視線を移すと、ちょうど長井が到着したところだった。
長井は僕の姿を見るなり、慌てた様子を走り近づいてきた。

「すいません、待たせてしまいましたか?」
「ううん、ついさっき着いたばかり」

僕が来たばかりと言うと、長井はあからさまに安心したような表情になった。
まあ、十分も待ってないし来たばかりって事でいいよね。

「あの、それで、昨日の返事なんだけど……」
「!」

今回の本題・告白の話を切り出すと、長井の表情が引き締まった。

「僕は……」
「……はい」

大丈夫、僕は落ち着いている。
言うんだ、しっかりと返事するんだ。

「告白、嬉しかったです」
22 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 03:01:26.72 ID:PfZ96+eAO
僕を見る長井の顔を見返し、ハキリと告げる。

「でも、ごめんなさい。今の僕は君をそういう対象として見れない」

ハッキリと告げた。
ハッキリと、断った。
これが僕の結論。
さっきのお風呂でも実感したが、いくら体は女の子でも心はまだ男。
だから、今の僕は例えどんな男に告白されようとも、相手は男である限り断るだろう。
僕の心が男である限り……。

一瞬の後に長井の顔が強張り、次に今にも泣き出しそうな笑顔に変わった。

「やっぱり駄目か……わかってた。俺とあなたじゃ釣り合わないって……わかってたんだ」

長井の顔が歪む。
こぼれる涙を押し止めようとしているのか。

「ち、違……そういう意味じゃなくて」
「いいんです。無理に否定しようとしなくても……俺なんて」

誰の目から見ても明らかな程、落ち込んだ長井。
そんな長井を見て、僕はどうしようもなくいたたまれなくなった。
自分が長井をあの状況に追いこんだにも等しいのだから、尚更だ。
僕はなんとかしなきゃいけないと思い、考え、全てを打ち明ける覚悟を決めた。
もう限界だ。
僕には、これ以上隠し通す事は出来ない。

「な、長井……僕は長井と付き合えないやむを得ない理由があるんだ」
「やむを得ない……理由?」
「僕の正体だよ」
「正体?」
「うん、正体」
「正体っていったい……」

混乱している様子の長井に、とっておきのヒントを出す事にした。

「七夕……昨日、一緒に花火大会行く予定だったのに約束守れなくてゴメン…………これでわかるかな?」

聞くまでもなかった。
彼の表情が全てを物語っていた。

「な、あっ、まさかっ……!」

僕を指さし、口をパクパクと開閉させている。

「うん、僕だよ、長井」
「ま、マジかよおおおぉぉ……!」

長井は膝の力が抜けたように崩れ落ち、地面に四つん這いとなった。

「えーとさ、そう言う訳だから付き合えな……」
「断る!」

長井は僕が言い終わる前に返事を返してきた。
力強い拒否の言葉であった。

「断るって……?」
「もちろん、お前が俺と付き合えないと言ったのを断ると言ったんだ」

告白をし、交際を断られたのを断るとはなんとも無茶苦茶な。
23 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 03:02:20.96 ID:PfZ96+eAO
「お前はさっき言ったよな。『今の僕は君をそういう対象として見れない』って」
「う、うん」
「それって、つまり今のお前じゃなきゃチャンスはあるって事だよな」
「そ、それはそうだけど」
「それってさ、明日以降のお前だったら告白受けてくれるかもしれないって事になるだろ!」
「あ、明日はさすがに有り得ないけどね……」
「つまり、俺が言いたいのは『俺は諦めない』って事だ。じゃ、またな!」
「あ、ちょ……行っちゃった」

僕が呼び止める間もなく、長井は走り去って行ってしまった。
なんだか、言いたい事を言い逃げされた気分。
それにしても、諦めない……か。
明日から大変な事になりそうだ。
そんな風に思った僕であったが、考えとは裏腹に何故か顔に笑みが浮かんだ。
何故、笑みが顔に浮かんだのか。理由はわからなかった。



それから、数週間。
僕の心配は杞憂に終わったらしく、長井はあれから目立ったアプローチを仕掛けてくる事もなく、一学期の終業式の日を迎えた。
終業式もアッと言う間に終わり、放課後となった。

「さてと……」

鞄を持ち、玄関へ向かう。
早く帰ってノンビリしようっと。

「よう」
「あ、長井」

玄関で長井と鉢合わせた。

「どうしたの? 誰か待ってんの?」

僕が聞くと、長井は無言で制服のポケットから小さな紙切れを取り出し、僕に手渡してきた。

「これ……」
「これって、映画のチケット?」
「た、たまには二人で映画でも見に行かないかと思ってさ……も、もしOKなら明日の朝十時に駅前で……待ってるから。んじゃな!」

長井はたどたどしい早口で僕に告げると、逃げるかのように足早に去っていった。

「映画かあ……」

長井から渡されたチケットに再び視線を移す。
内容は話題となっているアクション物。
ここでアクション物を選ぶチョイスがアイツらしいというか……。

「なーに、一人でニヤニヤしてんの?」
「うひゃあぁ!? き、き、北山か。ビックリさせないでよ!」

後ろから声をかけてきたのは北山だった。
24 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 03:03:25.70 ID:PfZ96+eAO
「あのねえ、私は普通に声をかけただけ……ん?」
「な、なにさ」
「何持ってんの?」
「こ、これは……」
「どれどれ、ちょーっと貸してみなさい……っと」

言うが早く、北山は僕の手からチケットを取り上げた。

「あっ!?」
「映画のチケットか。でもなんでこれ持って一人でニヤけて……いや待てよ」

北山が何か考えている隙にチケットを取り戻し、下駄箱から靴を出す。

「さては男だな」

僕は靴を履き変えながらも、北山の鋭さにドキッとした。
長井だから確かに男だけどさ。

「ちっ、違うよ!」
「隠すな、隠すな。ま、相手は聞かないでおいてあげるわ」
「だから違うんだってばー!」
「それでどう思ってんの?」
「ど、どうって?」
「決まってんでしょ、ソイツが好きなの?」
「そんな訳……」
「あ、顔が赤くなった……それが答えって訳ね」
「しっ、知らないっ! もう帰る!」

僕はこれ以上、北山に赤くなった顔を見られたくなかったので、全速力で走って逃げた。

「あっ、言っちゃった。やれやれ、ちょっとイジりすぎたかしら」

ちなみにこの後、北山から『さっきはイジりすぎたわ、ゴメン。デート頑張ってね〜』というようなメールが届いた。
デ、デートとかじゃないし!
てか、謝るなら最初からイジらないでよ、馬鹿ぁ!





【花火と浴衣・裏側3 おわり】
25 :ファンタ ◆jz1amSfyfg[sage]:2011/09/22(木) 03:04:15.12 ID:PfZ96+eAO
とりあえず、ここまで
これで、花火と浴衣シリーズはおしまいです
前スレの>>939から続きで今回は告白編ですが、告白なんてされた事はおろか、した事もないのでいつもより説得力に欠ける場面が多々ありますが、そこらへんはフィクションという事で見逃してくれれば幸いです。



次回は『とある高校の昼休み』の続きを来月中に書ければいいなと思ってます。

それでは、また次回。
26 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/09/22(木) 08:45:44.20 ID:sRhLwsKAO
続きに期待(*^^*)
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東京都)[sage]:2011/09/22(木) 12:11:53.67 ID:SqqNkYhUo
新スレおつおつ!
遅ればせながらここまで投下された作品まとめ完了しました

抜けているものがある可能性大なので、ご意見苦情などは◆yhNqGdIG7Mまでどーぞ><

…ファンタさんの花火と浴衣・裏側2が見つからなかったorz
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2011/09/22(木) 13:35:24.73 ID:mHWBxcU60
花火と浴衣・裏側2をまとめときました(うまく出来てるかな…ドキドキ)
そしてファンタさん最高です!乙GJ!!
29 :でぃゆ(ry[sage saga これから仕事]:2011/09/22(木) 19:59:41.45 ID:mHWBxcU60
「なぁ」
「ん、なんだ?」
「やっぱり、いっぺん家に帰った方が良いと思うぞ」
「締め切りは明々後日だ。そんな時間の余裕は無い!追加料金を払う余裕も無い!」
「とは言えだな…」
「口を動かすヒマがあれば手を動かせ!時間は有限であり金だ、特にこの状況下では!」

そうは言われてもだな?目の前にノーブラにTシャツ+ハーフパンツという
無防備にも程がある格好の美少女が居たのでは集中して作業なんぞ出来る筈も無い。
つい昨日までこの部屋に泊まっていたのはサークル(同人の方な)の相方でそこそこのキモオタだった筈なんだがな…

事の発端はコミケ合わせの入稿締め切り直前、コイツん家のPCがお亡くなりになって「入稿までお前んトコに泊まりな」と言って来たので
原稿が遅れ気味だった(かなりヤバめという意味)俺は「原稿を手伝ってくれるなら」と承諾した訳なのだが
今朝、目を覚ますと俺を床に追いやりベッドを占拠していたキモオタは、
胸に手の平サイズの大量殺戮兵器を携えた美少女に変貌を遂げていた。

「兎に角、家族に連絡くらいした方が良いだろ!」
「入稿までココに泊まる事は言ってある」
「そりゃお前が男だった時の話だろ!俺が言ってるのは女体化しちまった事をちゃんと連絡しろって事だよ」
「そんな事したら病院で検査だの役所の手続きだので締め切りに間に合わねーだろ!常識的に考えて」
「常識的に考えたらそっちの方が優先だろうが…」
「いいや優先すべきは新刊だ!初めてコミケのスペースが取れたんだぞ!?必ず新刊は出す!!」
「そうは言うがな…」
「つべこべ言わずにペンを奔らせろ!疾風の如く!」

胸を張るな。胸がッ!?乳首ががががががががg…

「…せめて下着くらい買ってきてくれませんかねぇ」
「あ?だが断る!金は聖地・有明で薄い本を買う為にとっておかねばならんのだ!!」
「俺らの年齢じゃエロは買えんぞ」
「それは適齢までお楽しみにしておくッ……ぐぬぅ」
「そんな涙滲ませて唇噛むほどか…(…可愛いとか思ったら負けだ、冷静になれ俺…)」
30 :でぃゆ(ry[sage saga 眠いです]:2011/09/22(木) 20:01:08.89 ID:mHWBxcU60

女体化したばっかで女としての危機意識を持てってのが難しいのかも知れんが、このままではヤヴァい。
男の一人暮らしの家に女体化したばっかの友人がお泊りとか実に安いエロゲだ。
俺としてはこんな状況下で大切な相棒と間違いを犯したくはない…
家に帰らんと言うなら、せめてこの3日を乗り切る為にガードは固めておいてもらわねば。

「わかった、金は俺が出す!だから買って来い」
「駄目だ!それはお前がまどマギ本を買う為にバイトして貯めた金だろ?こんなコトに使わせる訳にはいかん!」
「どっちにしろ下着は必要だろーが!?いいから買って来いよ!!」
「家に帰りゃどうせ買って貰えるからここに居る間は男物で充分だ!」
「だからイチイチ胸を張んなよ!?乳首ががががががががg…」
「ぬ?あー、お前オレをえっちい目で見てんのか?コレだから童貞は…」
「てめぇだって童貞だから女体化したんだろーがッ!!」
「今は処女だ!!」
「だぁっ!?そーゆーコト言うなよ?!意識すんだろーが!!いいからブラやらパンティーやら買って来いや!!」
「だから、それは無理だって…」
「ッ…あーッ!もぅッ!お前さぁ、ちゃんと鏡見たか?」
「?おぅ、そりゃあ確認の為に…」
「お前、な……今のお前、可愛いんだよ…」
「はぇっ?」
「だからッ…!お前は可愛いんだってッ!!」
「お、おう…まぁ、前のオレとは随分変わって可愛げのある顔にはなったと思うけど…でも、ほら、オレだぞ?中身…」
「それでも、可愛いもんは可愛い、と思…っちまうもんは、仕方ねーだろ…」
「……」
「…俺に、こんな風に思われてキモいだろ?……だから、とりあえず帰れよ?」
「…それは、困る…」
「いや、でも」「可愛いとか…ッ!」「へ?」
「可愛いとか、言われて…何か、嬉しいと、思って…る、から…困る…」
「……へ?」
「うあ、やべッ…何だコレ…どくどくって、心臓とか…コレ…っ」
「え?えっ?」
「…なぁ?…オレ、本当に可愛い、か?」
「えっ?あぁ…はい」
「そっか……そっかぁ……」
「あのぉ…大丈夫か?」
「……なぁ?…おっぱい、とかも可愛くなってるかな?」
「はいぃ?!」
「いや、オレは一応確認したけどな……見て、みたいか?」
「えっ?!ちょ、えぇっ??!!」
「見せて…やろうか?」
「」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

え〜と…安価ネタが思い付かないはらいせで書いてみましたが…この続きっていります?
31 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)[sage]:2011/09/22(木) 21:26:52.15 ID:RWOGqkxVo
仕事ガンバレ、そして続きもPLZ GJだぜこのやろー!
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/22(木) 22:50:51.55 ID:Kv05/iCD0
GJすぎる
続きwktk
33 :DU-02 ◆ZyOpxOUauRgt[sage saga 遅くなってゴメンお]:2011/09/26(月) 15:47:26.08 ID:2x5uS39c0
なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?
これは何が起こってるんだ?フラグか?フラグなのか?ならば回収するか←駄目だろッ!(脳内セルフツッコミ)
待て待て…コイツは女体化したばっかしで混乱してんだ!そうに違いない!俺が冷静に対処しなければっ…!

「…見たいです(キリッ」

違うだろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
そうじゃねぇだろ!?俺のバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
……って、ナニお前も素直にTシャツ捲り上げてらっしゃるんですかッッ!!!!!?????

「……………どぅ、かな…?」
「………」

……言葉が出ません。『スキル:童貞』正常に発動中です。
小振りな膨らみの先端に、これまた控えめな突起。
手の平サイズのおっぱいに小さめの乳首、色は薄桃色とかどんだけハイスペックだよ!?オイっ!!
小さいけどあの曲線…柔らかそうだな〜…つか、生おっぱいなんて母さんのくらいしか見たコトねーよ!!
あーさわりてえーむしゃぶりつきてーねぶりまわしてー……ってイカンイカン、今ならまだ引き返せる……

「…ぁの…何か言ってくれよ?」
「ねぶりまわしてー」
「えっ?」
「えっ!?」

絶望した。自分に絶望した。エロゲの選択肢としても場合によっちゃ地雷だよ!
いや、エロゲならまだしも残念だけどコレって現実なのよねー…ねーよ!ねーよ!!

「え…あ…ぅ、それは……べつに…いいけど…」

いいのかよッ!?今ので正解かよ!!?大変です、我が相棒は攻略難易度ゲキ甘なビッチでした!

「でも、な?と、とりあえずソレは触ってからにしろって…!」
「……ッッ!!」

手をグイッと引っ張られ、手の平にちょうど収まる柔らかな感触。おっぱい。おっぱい。生おっぱい。
で、手の平の真ん中ら辺に当ってるのは乳首ですね?正しく把握。
今、まさに、童貞とおっぱいの未知との遭遇。感動の名場面。全俺が泣いた。地球に生まれてよかったー!!

「どう、かな?」
「スゴく、よいもの…です」
「ハハ…でも、もうちょい大きい方が良かったか?」
「いや、俺ひんぬー教だし」
「あ、そうだったな…じゃあ大きすぎたか?」
「今日から手の平サイズ教に改宗するわ」
「ゲンキンなヤツだな……で、さぁ」
「ん?」
「どう…なんだよ?その…」

待ってる言葉は、さすがに分かってる。童貞とはいえ、そんくらいは理解出来る。
でも、これを言ったらさっきの流れからいってフラグ成立しちまうんじゃね?それで良いのか?
コイツは女体化したばっかで、こんなの、何か間違ってないか?
34 :DU-02 ◆ZyOpxOUauRgt[sage saga そして中途半端でゴメンお]:2011/09/26(月) 15:50:09.47 ID:2x5uS39c0
「………可愛いよ、スゲー可愛い」
「…っ!そっか…じゃぁ」
「だからッ」
「え?」
「これで、おしまいにして…とりあえず、家に帰れよ?」
「なぁ…っ!?何でだよッ!!」
「冷静になれよ!こんなのオカシイだろ?お前は女になったばっかで!このまま流されて…俺とセックスして!
 …これってセックスしちまう流れだよな?俺は得するコトばっかだけど、お前はどうなんだよ?後悔しねーのかよ?」
「……」
「このままウチに居られると多分、俺も我慢出来ねーから…だから、家に帰れよ?新刊はコピー本でもいいじゃんか?
 こないだのイベント合わせで作ったオフセ本の在庫も有るんだし、な?」
「……まどマギでオフセはまだ出してねーから、新刊はまどマギって決めてたじゃねーか…!」
「そんなこと言ってる場合じゃ…」「それにッ!」「っ!?」
「それに、後悔なんてしない!」
「……それは言い切れねーよ?」
「ッ!何でだよ!?何でそんな事言うんだよ!!」
「あのな、お前やっぱ可愛いんだよ…、多分、すっげぇモテる…俺なんかより、ずっとイケメンで優しいヤツとかにも、
 きっと告られたりすると思う…そん時に…今、俺とヤっちまったら、やっぱお前は後悔すると思う…だから」

ゴスッ!っといい右が俺の左頬に入った。大した衝撃じゃないが少々涙目だ。

「えっ!?ちょっ…」
「っ〜……!」
「オイっ?!大丈夫かよ?」
「っせぇ!この糞馬鹿チキン野郎ッ!!」
「はぁ?」
「黙って聞いてりゃ口から糞ばっか垂れやがってこの童貞が!!」
「いや黙って聞いてなかったし、お前も童貞…」「だ・ま・れ!」「ハイ…」
「……オレが、そーゆーコト考えなかったと思うか?」
「へ?」
「鏡見て、変わっちまった自分見て、もう女なんだって確認して…そういうコトは想像した」
「……」
「ウチのクラスにはまだいないけど他のクラスの女体化したヤツを見る限り、オレも多分モテるんだろうけど、
 …オレはお前の言うイケメンで優しいヤツに告られても付き合ったりしないと思う」
「いや、今はそう思ってるだけで…」「オレは…っ!……真っ先にお前と…付き合ってるのを…想像した…んだ…!」
「へ?え?」
「……正直、悪くないと思った…そう、なれたら…嬉しい、と思った」
「え?え?」
「察しろよバカ…『女のオレ』はお前に一目惚れしたんだよ…」
「えぇ!?」
「…お前は充分カッコいいし、優しいと、思う…言わせんなバカ…ッ!」
「お前が勝手に言ったんじゃねーか!?」
「こーゆーコトだって、そりゃ…お前とちゃんと恋人同士になれたら、そん時にって思ってたのに…なのにお前、オレを…
 可愛いとか言うし…暴走しても仕方ないんじゃないですかね?ね!?どうなんだよッ!」
「照れ隠しにキレんなよッ!?可愛いだけだぞ!」
「〜ッ!またそーゆーこと言うっ!」
「ぉあ!?スマン…それよりお前、手ぇ大丈夫かよ?」
「へ?いや、だ、大丈夫だって!大丈夫!」

うん、大丈夫じゃねーなありゃ。明らかに庇ってるふうだ。

「ちょっと待ってろ、湿布とってくるわ」
「……ぉぅ」

どっちにしろ、アレじゃ原稿は無理だな…状況的にも、精神的にも。

「利き手で殴りやがって…もうお前は女なんだからムチャすんなよ」
「お前が悪いんだろーが」
「わかってるよ、ゴメンな」
「…そーゆーのもときめくんですけど」
「……なるほど、わからん」
「オレも、殴ってごめんな」
「…っ」
35 :DU-02 ◆ZyOpxOUauRgt[sage saga 今夜も夜勤]:2011/09/26(月) 16:05:44.15 ID:2x5uS39c0
やばい、目が合った…頬に添えられた手、ちっちぇーな…睫毛、長いな…瞳も、綺麗だな……唇、柔らかいな。

「……好き、です」
「なんで敬語だよ?」
「うるせーよ…」
「俺も、好きだよ」
「合わせなくてもいいよ」
「合わせてる訳じゃねぇよ…あんな告白されて、惚れるに決まってるだろ?童貞なめんな」
「…舐めてやろうか?」
「オイ…!?」
「いいぞ?フェラしてやるよ、ほれ愚息出せよ」
「やめなさいよ、はしたない!それに俺、風呂に入ってねーぞ?」
「それはオレも同じだし…じゃあ、一緒に入るか?」
「はい?」
「あー、アレねーの?ローション風呂の素。アレさー某スレのSSで読んでやってみたかったんだよなー。いや、そん時は
 男の側だから『うはっwオレもにょたっこにこんなコトしてみてーwwwマジ裏山wwwwww』って感じだったけど」
「そんなモンが童貞高校生の一人暮らしの家にあってたまるかよ!」
「いや、お前ほどの紳士ならセルバのお供にソレくらいの物を使ってるかなと」
「なぁ?さっきまで俺のこと『好き』とか言ってたお前は何処へ行った?」
「うん?好きだよ、だからオレの全部見てもらいたいし…だから一緒に風呂、な?」
「…もう好きにしろよ」

風呂の蛇口を捻り、待つこと10分ちょい。その間もコイツはやたらと纏わり付いてくるわけで何とかしてくれ。

「なぁ?別に職人の作品投下待ちじゃねーんだから黙って全裸待機してる必要ねーだろ?ほれ、
 ちゅーしたり乳揉んだりすりゃいいじゃねーか」
「全裸じゃねーだろ、そして自重しろ」
「これから一緒に風呂入ろうってのに自重もクソもあるのか?それに脱ぐし!結局、全裸だし!」
「頼むから自重」

ユニットバスではないので2人で入るにはスペース的には問題ないだろう。
しかし、学生向けの賃貸に脱衣所なんて洒落たものは無いの為、リビングで2人して服を脱ぐってのは何とも間抜けな感じだな。
つか、コイツ浮かれすぎだろ。脱ぐの早いな!そして急かすなよ!

……こうして見ると、ヤバイな。胸とか、くびれとか、尻とか、脚とか。目のやり場に困る…ガン見だけど。

「…視姦か?今の数秒でオレは何回陵辱された?」
「……ノーコメントだ」
「あ、湿布、結局剥がさなきゃだな」
「風呂から出たらまた張りゃいいだろ」
「あー利き手痛めてるから髪や身体洗い辛いかもー」
「おもいっきり棒読みでアピールしなくても洗ってやるよ」
「洗ってみたいんだろ?」
「だからノーコメントだ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

申し訳ございません。今回はここまで。エロシーンに凸出来なかったorz

>>31-32 有難うございます!次はヤりますので><
そして、色々滞っていますが亀なりに作業しております。本当に申し訳ないです。

それにしても岡山県をはじめ中国地方に同志がいるのは嬉しい限りですw
36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/26(月) 21:15:46.02 ID:1sBIJmvj0
GJGJ!
37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/09/26(月) 22:49:09.40 ID:R5YnpGIAo
乙です。

完結まで頑張って
38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/09/30(金) 21:24:30.42 ID:l6AK0gTE0
↓現実逃避したいので絵安価
39 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/09/30(金) 21:49:36.95 ID:J8oEDF/y0
バニーちゃん
40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/10/03(月) 18:56:00.81 ID:G0FhqS9w0
把握遅れたすまん。
バニーちゃんって難しいな・・・誰か着せたいにょた娘がいたら頼む
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/10/03(月) 19:44:05.79 ID:0JvlPOhb0
誰か一人なんて選べない…が、できれば巨乳でお願いします
42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)[sage]:2011/10/03(月) 20:30:20.15 ID:0txnTite0
女体化バニーちゃんか…確かに難しそうだwww
…誰か着せたいにょた娘?ヒーロースーツを?
だから「女体化バニーちゃん」でいいじゃないかwww
43 :以下、VIPにかわりましてバーナビーがお送りします[sage]:2011/10/03(月) 20:54:30.10 ID:0txnTite0
しまったwwww名前改変忘れて間抜けな事になってるwwwwスンマセンwwww
44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/10/03(月) 21:07:57.82 ID:G0FhqS9w0
あぁ、やっとわかった。
T&Bのバーナビーかwwwww
バニー服のことだと思ってたwwww
バニー服着せてこれにょたっ娘なんだぜ!っていうのも難しいからさ・・
把握したwwww
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/10/04(火) 00:31:49.54 ID:Dn7FWAXv0
単純にうさ耳が見たいという理由だけで書いてしまいました、申し訳ない
タイバニはあまり知らないのですが、絵師さんが書きやすいならそれでお願いします
46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/10/07(金) 00:10:08.71 ID:jYU8PMUY0
http://u6.getuploader.com/1516vip/download/75/bunny.jpg
バーナビー描こうと思ったけど結局普通のバニーちゃんにした
遅れた&下書きでごめんー
47 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage]:2011/10/07(金) 00:20:41.59 ID:1fZPRU/5o
うめぇwwwwwwwwww
48 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2011/10/07(金) 00:21:45.42 ID:I+5W3XGO0
>>46
期待していたよりさらに素晴らしいですGJGJGJ!!!

お手間を取らせて申し訳ありませんでした
49 :でぃゆ(ry[sage]:2011/10/07(金) 01:20:27.22 ID:Fg9yLs+AO
>>46
上手すぎて全俺が泣いたッ!(TωT)
50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東京都)[sage]:2011/10/07(金) 22:02:02.23 ID:ULlyzg4ho
見逃したぜ…
再うp希望!
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(西日本)[sage saga]:2011/10/07(金) 22:23:53.63 ID:M/o+NbzMo
>>50
消えてない
専ブラじゃ見られないけど、ブラウザからなら見られる
画像DLに1クッション挟まってるからだの
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします2011/10/08(土) 00:23:27.97 ID:CGumIaYDO
安価くれくれ↓
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage]:2011/10/08(土) 00:51:07.07 ID:MGSJnwK0o
他作品のキャラ
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/10/08(土) 13:12:49.58 ID:fXyuo3sG0
wktk

>>48
手間だなんてそんな!ww
手間なんてかかってないからおっkwwww
55 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage saga]:2011/10/14(金) 00:34:16.75 ID:Cvrvazmy0
何かいいお題があればくだしー
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(西日本)[sage saga]:2011/10/14(金) 04:44:02.83 ID:/xC2G2hco
↑綿棒
57 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage]:2011/10/17(月) 22:06:29.59 ID:UOPtXUapo
ええぃ、投下はまだかッ!!
・・と言う自分も執筆中
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/10/18(火) 01:21:50.44 ID:UA0pmQxAO
>>57
もうしわけございません…滞っておりますorz


憂さ晴らしに落描きしたいので安価prz↓
59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage]:2011/10/18(火) 03:24:44.41 ID:Vpvdp27Ao
女将
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(高知県)2011/10/18(火) 21:33:48.77 ID:V1CJv8/T0
このスレ、まだ生きていたのか……すごいな

ゲームの方もゆっくりとだが進んでいるみたいだし、大したもんだ
61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/10/18(火) 22:41:17.24 ID:UA0pmQxAO
>>59
『女将』…なるほど、把握です!
62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/10/19(水) 05:51:38.90 ID:TIbljL0to
ここはフタナリOKなの?
元から女、女化した男、女化しそうな男
の三角関係のアイデアっつう神が下りてきそうなんだが
63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/10/19(水) 06:33:36.08 ID:5lORKksAO
>>62
俺は大好きなので続けやがれくださいお願いします
64 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage]:2011/10/19(水) 11:15:12.56 ID:9cZvbXgKo
ゲームの制作メンバーって誰だっけ?
65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(千葉県)[sage]:2011/10/19(水) 22:17:41.34 ID:qp74KY3Do
>>62
スレタイの原則にのっとってさえいれば、基本的には大丈夫…かと
66 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/10/20(木) 18:41:24.47 ID:FemXAc0D0
>>64
鉄オタさん


67 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県)2011/10/23(日) 01:52:48.46 ID:v2eaPto/0
自分の中学から高校時代を思い出したら、国営があったとしても99%女体化回避不可だった。思い切ってSS書いていたら、夢で友人に犯された
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/10/23(日) 09:09:23.77 ID:yjOwoLMAO
>>67
イイヨーイイヨーwwwwww
その調子ですヨーwwwwww
69 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国・四国)[sage]:2011/10/24(月) 23:25:06.73 ID:Ii2PclxAO
【緩募】魔法少女リリカルお芋の画像

以前から気になって探しているのですが見つかりません。
お芋さんご本人に許可は得ております。(残念ながら、お芋さんの手元には無いそうです)
お持ちの方が居ましたら、宜しければうpをお願い致します。
70 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage]:2011/10/31(月) 07:43:01.98 ID:yLBwddDno
中々進まNEEEEEEEEEEEEE
71 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/02(水) 07:29:09.55 ID:N3La25xKo
       _        _
         ヽ        ヽ                   |          |
     ____     ____     |      、     ─┼─      ─┼─
         /        /     |      ヽ      |__       |__
       /        /       |       |    /| /  ヽ    /| /  ヽ
      ∠─、_    ∠─、_     \/         し Y   ノ    し Y   ノ
72 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/02(水) 07:29:35.00 ID:N3La25xKo
           ______
           |  ____ ヽ                  、
            |  |____|  |        /          >
             | ┌─┬‐┬─‐┘    __|_  \     |
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            |  | / /  |  |_| |       V             ノ
            |_| /_|  |__ノ                    ̄
 _______      _   _ _  _           ┌┐   ┌┐        _
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.└‐┐ ┌──‐┘   / ___   |   \_/        |   \ニニ|__|ニ ̄  |___  __|
.┌‐┘ └───┐  /  /へ /  /          /\ |_  /「  ニニ  コ ┌──‐┘└─┐
.└‐┐ ┌───┘  \/ く  `   く         /  /  |  | i┘ └─┘└i └───┐┌‐┘
   |  |____      7  ,、 /      / ̄  /     |  \7 ┌┐┌‐┘ ┌‐┐    ̄  ,へ
   |_____|      く  /  ̄     く  / ̄      | |V/  / .| U ̄|  \  ̄ ̄ ̄ ̄ /
                   ̄            ̄         └┘  ̄  └─‐┘    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/03(木) 13:58:27.33 ID:f9CW/oTFo
安価下さい
74 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)2011/11/03(木) 14:30:47.79 ID:YAXvqViUo
生徒会
75 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:08:16.73 ID:1YTzSv4mo
其の漢(おとこ)・・己が力に酔いしれながら拳を振いながらも無念に死ぬ。

  其の嬢(むすめ)・・漢を受継ぎし現実と廓し、己が道を見出す。



そして2人は一つになったはずだった・・しかし漢は未だに死んではいなかった。道を見出した嬢の中で宿った虚空の中に蓄積された強大な力で現実と未来に牙を剥く。





己と自分、チカラと力




                            ちんくしゃ


とある高校で数十人単位で膨れ上がっている不良どもを一人の女が相手をしていた。女の華麗な技と持ち前の力で
ねじ伏せながら不良どもの数は次々と減っていき、遂には最後の一人にまで追い詰めていた・・その女の名は
相良 聖、男時代は誰もがその名を知る呼び名は“血に飢えた狂犬”いくら女体化したとはいってもたった一人の女に
成す術もなく敗れ去った彼等のプライドは既に完全粉砕されており、追い詰められている男も恐怖心が震えとなって冷や汗と脂汗が全身に滲み渡っている。

「そ、そんな・・女体化したってのに」

「女体化しようがしてまいが俺様を舐めないことだな。・・まぁいいや、さっさとくたばれッ!!!!」

聖の一突きによって男は完全に沈黙した。全てを殲滅した聖は周りを見回すと男時代と変わらない自分の力に歓喜しながら拳を揮い上がらせる。

「ハハハハッ!! やっぱ昔とちっとも変わっちゃいねぇ、これならあいつとの決着もつけれそうだぜ!!!」

「・・その俺がどうかしたか?」

「て、てめぇ――!!」

ひょっこりと姿を現したのは長年の宿敵である翔、男時代は拳と拳をぶつけ合い最強の座を争った宿敵同士であった・・しかし聖の女体化を経て2人の中で様々な馴れ初めを経て恋人同士となったのだが、どうも今までの地が出てしまう。

「何しに来たんだよ」

「お前な、そろそろ・・」

翔が何か言おうとした瞬間に今度は翔に向かって先ほどとは別の集団が鉄パイプ片手に問答無用で襲い掛かる。

76 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:08:46.20 ID:1YTzSv4mo
「見つけた! 中野だ!!」

「殺戮の天使を討ち取ってやるッ!!」

「覚悟しな・・!!」

「中学時代の恨みを晴らすッ!!!」

「宿敵の前で泣き叫べッ!!!」

翔は集団をちらりと一睨みすると、襲い掛かってきた一人のあばら目掛けて思いっきり拳を放つ。一人が怯んだ瞬間に
鉄パイプを奪い一人の脚、一人のわき腹を思いっきり叩くと怯んだ相手の顔面にストレートを綺麗に決める。そのまま
瞬く間に3人殲滅すると一人の髪を掴むとそのまま自分の膝目掛けて思いっきり蹴り上げる。

瞬時に5人の集団の内、4人を殲滅すると翔はそのまま鉄パイプを捨てて最後の一人にドスの利いた声で降伏を促す。

「おい・・俺は非常ォに機嫌が悪ぃんだ。さっさと消えろ」

「ひ、ひぃぃぃ!!!」

最後の一人が逃げるように去っていくと雨が降り始める、雨はだんだんと強くなり辺り全体を容赦なく濡らし始める。

「最近は弱くなったと心配したが・・俺の思い過ごしだな」

「・・このまま突っ立ってると風邪引くぞ」

「チッ・・わかったよ。帰ェるよ」

翔に促されてようやく聖は帰宅の目処をつける、対する翔はいつものようにやれやれと溜息をつきながら聖と帰宅するのであった。

77 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:09:15.56 ID:1YTzSv4mo
その翌朝、いつもどおりに翔は隣で眠っているはずの聖を起こして2人で学校に行こうと思ったのだが・・既に聖の姿はなく翔はただただ唖然とするばかり。

「あの野郎・・」

しかしいつまでも呆然としていても仕方がないので翔はそのまま制服に着替えると学校へと登校する、登校がてら周囲を見回しながら聖を捜索して見るがその姿は全然見えない。結局、朝のHRを終えても聖が見つからないまま憂鬱な状態で過ごす翔、僅かな希望に思いを馳せて教室にも入って見るが聖の姿は未だにみえず・・その代わりにとある男の姿が視界に入る。

「・・よりにもよってお前かよ宗像」

「らしくない挨拶だな中野。表情から察するに・・何かあったな」

「うるせぇ。・・それよりも愛しの団長殿はどうしたんだ? また振られ・・」

「呼んだか?」

その瞬間、翔の背後からとある気配を感じ取る。恐る恐る振りかえると応援団長、藤堂 沙樹が既に翔の背後を取っていた、慌てて翔は沙樹から距離を置くと持ち前のオーラを崩さない。

「何でお前もいるんだよ・・」

「俺達は特進クラスだろ。顔を合わせるの至極当然の事だ」

「そういやそうだったな。・・だけど今の俺はお前等のような暑苦しいバカに付き合っている暇はねぇんだ。とっと席について置け」

「ところがそうもいかなくてな。中野、お前にはとある事を手伝って貰いたい」

宗像に言い寄られて思わず後ずさりしてしまう翔、しかも沙樹の方も宗像を止める気配は全くない・・暫くの緊張戦が繰り広げられる中で沙樹が口を開く。
78 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:10:55.25 ID:1YTzSv4mo
「中野、お前に頼みがある」

「な、何だよ・・」

「・・頼む! 昨日の授業のノートを見せてくれ!!」

「へ?」

沙樹の意外な頼みに拍子抜けしてしまう翔、そのまま呆然としてしまう翔に宗像からの説明が入る。

「実はな、昨日団長はとある事情で保健室へ行っていてな。その間の授業が受けれなかったんだ」

「だったら俺じゃなくてお前がやってやればいいだろ!! 同じ応援団ならそっちのほうがいいだろ」

「生憎俺は余りノートを取らない主義でな。こればかりはお前に頼むしかないんだ」

宗像達の意外な頼みに首を傾げてしまった翔であったが、そういった理由ならお安い御用でもあるし何だかんだ言っても自分を頼ってくれる人がいるのならばそれに応えて上げるのが男としての筋と言うものである。翔はそのままノートを取り出すとそのまま沙樹に差し出す。

「ほら。・・俺も使うから手短に職員室かどっかでコピーしてこいよ」

「すまないッ! 恩にきるぞ中野 翔!!!」

そのまま沙樹はノート片手にどこからともかく立ち去ってしまった、呆気に取られる2人であったが再び冷静さを取り戻すと翔はそのままゆっくりと席へつく。

「悪いな、団長に代わって俺が・・」

「別に構やしねぇよ。そういや昨日は藤堂が休んでたの思い出したし・・俺にとってそんな事よりも重要なことがあるしな」

翔にとって一番の懸案事項は他ならぬ聖の行動について、最近はようやく落ち着きを見せたもののどうもまた
他の高校へ喧嘩を売っては必ず〆て帰るらしい。翔が知る限りでも昨日の高校で18校目だ、もうそろそろいい時期
なのでここらへんで聖には出来るだけ控えて欲しいのだが、かつては互いを憎みあい拳をぶつけてきた宿敵同士・・
そう簡単にいかないことぐらい他ならぬ自分自身が良く知っている。相良 聖・・彼女がまだ男だった時は
その強大な力で何度もねじ伏せ掛けられた事はあったが、自分の持ち前の意地と根性と数々の修羅場をくぐり抜け
鍛え上げたその身体で何度も何度も思いっきり殴り返した。

案外、聖が女体化したのを機に付き合い始めているこの現実に納得していないのは他ならぬ翔自身なのかもしれない。

「そうそう、最近占いに凝っていて言い忘れてた事があった。・・最近の相良 聖には気をつけろ」

「何だと――」

「おっと、俺が言っているのは今の相良ではない。・・“血に飢えた狂犬”に気をつけろよ」

含みのある言い回しを残して宗像は席へと戻って行った。

79 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:11:31.93 ID:1YTzSv4mo
昼休憩、宗像の言い回しも気になる中で翔はいつものように辰哉を昼飯に誘うとそのままのんびりと平穏の風を身体に纏わせる、結局あれから聖は学校には来ていないようで決して表には出さないものの翔にしてみれば自然と苛立ちが募る。

「先輩・・どうしたんですか?」

「あ、ああ・・少しな。それよりも最近の調子はどうだ?」

「まぁ、ボチボチってとこですね。しかし此間は2人とも大丈夫だったんですか?」

「こってり説教されて絞られたけどな・・」

前の旅行で翔と聖を待っていたのは礼子からの説教フルコース、聖に対してはそれほどではなかったものの翔に関しては個人指導も含めてかなりの時間が費やされており、思い出すだけでも胃が痛くなる・・

「全く、礼子先生もあいつにだけは甘いんだよな・・」

「まぁまぁ、それでも先輩や聖さんにはお世話になってますよ」

辰哉達にとって翔達は自分達の憧れの象徴でもあるし辰哉としても色々と参考にさせてもらっている部分はかなりある。

「あいつもな・・そろそろ落ち着いてくれれば俺としては嬉しいんだがな」

「ですけど、ツンさんや刹那ちゃんや狼子達といる時は普通なんですけどね」

「それが唯一の救いだよ」

翔の溜息と同時に昼休みは静かに終わりを迎える。
80 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:12:17.26 ID:1YTzSv4mo

舞台は変わって、ここはとある中学校・・翔と辰哉の妹達もいつものように音楽室で昼休みを迎えていたのだが、辰哉の妹である祈美が音楽室の書類をあさっていると何やら怪しげな本を発見する。

「うおwwwwwwwwww」

「どうしたのよ? 人がいい気分で好きな曲を弾いているときに」

「椿、これを見てよ」

祈美が椿に差し出したのは音楽室に似つかわしくない魔道書、何故こんなものが音楽室にあるのかは謎である。

「何なの・・その本?」

「さぁ? 偶然漁ったら出wwwwてwwwwきwwwwたwwww」

「じゃあ元に戻しましょうよ。学校のを勝手に持ち出すわけにはいかないし・・」

「よし・・開いてみようwwwwwwww」

祈美はそのまま本のページを開いて見るが、本の中身は英語でも日本語でもない謎の言語がびっしりと記載されているだけで何が書いてあるかは恐らく製作者だけかと思われる。

「・・なに書いてあるかわかんね」

「お兄ちゃんでも読めなさそうね。それに見たところかなり古そうな本だし・・書いた人はこの世にはいなさそうね」

「もしかして何かの呪文を言えば反応するんじゃね? スゲーナスゴイデスwwwwwwwwww」

「そんなわけな・・えっ!! 嘘ッ!! 本が反応している!!!」

でたらめで言った祈美の呪文に反応するかのように本は光り輝きを増す、あまりにもの眩しさに2人は自然と目が眩んでしまう。

「うおっ、眩しッ!!」

「な、何なの・・」

光が広がる中、2人の目の前にとある物が飛び出してきた。2頭身ほどしかない身長、前黒ずくめの格好に加えて
背中には可愛い悪魔の羽根・・どこぞやの某キャラクターにも見えなくもない格好ではあるがそれは察して欲しい
ところである。

本から飛び出した彼の名は・・

「悪wwww○wwwwくwwwwんwwwwだwwwwww」

「ちげぇ!!!!!」

祈美のやり取りは置いておいて椿の方はというと・・

「な、何なの・・??」

もはやこの光景に現実がついてこれず目の前の光景にただただ絶句するばかりであった。
81 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:12:52.98 ID:1YTzSv4mo
本から出てきたのは紛れもない、悪魔・・彼(?)はただただ周りを見つめると欠伸をかきながら久方ぶりの現代の感触を身体で感じ取る。

「へぇ〜・・この世界にも女体化があるんだな」

「女体化を・・知ってるの?」

「悪魔の癖に物知りwwwwwwww」

「ちょっと祈美は静かにしてて。・・あなた何者?」

出てしまったとはいえ椿はこの悪魔を知るために対話をしてみる、外見はちょっとあれだがまだ自分達に危害を加えるとは限らないので祈美を静止させながら話を続ける。

「俺の名前は・・実はない、悪○君や○ビル君でも呼び易い名前だったら何でも良いぞ」

「ならばここはデ○ル○ター○でwwwwwwwwww」

「そろそろ名前ネタは収めてちょうだい。・・で、あなたは一体?」

「俺は・・お前達で言うところの悪魔だ。それにしても俺を呼んだのは誰だ? あの本を介して呼ばれたのは実に千六百年振りだからな」

「はいはいwwwwwwwwww」

欠伸をかきながら悪魔は実にめんどくさそうにしながら本を持っている祈美に用件を伺う。

「それでお前の願いは何だ? 久々の仕事だからさっさと片付けたいんだよ」

実に千六百年という人間に取ったら気の遠くなる長い長い時間も永遠の命を持つこの悪魔からすれば何ら大した事はない、それに長いこと仕事をしていないのですっかりとサボり癖が出てしまったようだ。

「それじゃ・・」

「ちょっと待った!」

椿は願いを言おうとした祈美を再び制止する、この悪魔は自分達に危害を加えないとは言ってもその存在はかなり不気味だし、あまり関わったら碌な目にならないと椿の直感が告げていた。
82 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/04(金) 16:13:41.45 ID:1YTzSv4mo
「早くしてくれ、さっさと仕事終わらせてまた色々世界を彷徨う予定があるんだ」

「どういうこと?」

「・・簡単に言えば無限に広がる並行世界への干渉。だって千六百年間かなり暇だったからな、最初は次の仕事が来るまでの暇潰しにしてたんだが段々仕事よりも楽しくなってな」

「ちょっと・・具体的に教えて」

なにやら物騒できねくさい匂いを感じた椿は更に話を掘り下げる。

「俺達には仕事をするために特殊な“力”が備わってる。そいつを使って様々な並行世界を行き来してるんだ・・さぁ、説明はもう良いだろう。願いをさっさと言え」

「ちょっと待って、私達はただ・・」

「はいはいはい!!! それじゃあ、私をス○パーサ○ヤ人にしてくれwwwwwwww」

「その程度で良いのか? それじゃあ・・」

「えっ? ちょ、ちょっと!!!」

悪魔が力を入れると突然祈美の髪は逆立ち黄金のオーラにあの独特のSEが流れる、あの某地上げ屋宇宙人が恐れた伝説の戦士が今ここに降臨した。

「う、嘘・・」

「ちょwwwwwwwwww本wwwwww物wwwwwwだwwwwwwwwwwww」

現実では到底不可能の夢を叶えた祈美には興奮が止まらない、力を入れて全世界では有名のあの独特の構えを取るが・・

「いくぞwwwwwwww か・め・は・め・・・あれ? 消えちゃった!!!!!」

「はい、終了。最初だからサービスにしてやるが、これから先を続けたかったら代償として家族全員の命貰うからな」

突然として祈美の姿は元に戻り、力を入れようとしても何も起こらない・・どうやらこれで悪魔の仕事はこれで終わりらしい。

「え? ちょwwwwwwww」

「それじゃあな。言っておくがその本は俺の仕事が終わったらこの世界には留まらずに別の世界へといくんだ。だから探しても無駄だぜ」

「mjd?」

そういって悪魔は再び眩い光と共に本と一緒に姿を消す、悪魔が完全に消え去った後2人は暫しの間呆気に取られるしか方法はなかった。
83 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/04(金) 16:19:11.05 ID:1YTzSv4mo
続く

ちなみに読んでいてわかるとおもいますが(うДT) ◆nMPO.NEQr6氏とのクロスを前提とした世界です。
この場を借りてキャラを貸してくれたお礼と感謝と無断提供と多大なご迷惑をお詫び申し上げると同時に
今までの話を読みながらのんびりお待ちくださいwwwwww

お兄さん、団長と狼子とせっちゃんが大好きです。
自分のキャラ? どうでもいいやwwwwwwwwwwwwww
84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/05(土) 03:26:13.95 ID:PvxapgKH0
>>83どうでもいいのwwwwww
何はともあれもつかれっす
85 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/05(土) 06:37:35.03 ID:03WeWRyAO
休日なのに人がいない…
86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(東海・関東)[sage]:2011/11/05(土) 08:44:27.68 ID:86q2/xQAO


なんか続き物が煮詰まってきたから気分転換でなんか書くっす。
お題くだされ↓
87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/05(土) 08:49:47.73 ID:03WeWRyAO
授業
88 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:53:15.88 ID:HbGWUC33o
あらゆる敵を完膚なきねじ伏せる圧倒的その力、どんな衝撃をも耐え切る筋骨隆々なその鋼の肉体・・かつて相良 聖はそれらをフル活用しながら立ち塞がる幾多の修羅場をくぐり抜けていた。しかしそれらは女性の部位へと変換されており、かつて自分を象徴していたものは過去の産物へと成り果ててしまう・・自分の心の中を彷徨う聖の目の前に突如としてある人物が姿を現す。

「よぅ・・女の俺」

「てめぇは――・・」

聖の目の前に現れたのは今まで自分自身であった男・・相良 聖、女体化をしてからいつしか彼の存在は心の奥底の隅に追いやられてしまい、煉獄の闇の中で一人佇んでいたはずだった。

「この俺に何のようだ? てめぇは俺の中で大人しく眠ってな」

「がっつくなよ。・・俺はな、お前に別れを言いにきたんだよ」

「・・何だと」

すると男の方の聖の背後から椿と祈美が呼んだ例の悪魔が姿を現す、何となく胡散臭さを感じる聖ではあるがどうやらこのまま好きにさせるのは嫌な予感がするし、何よりもいけ好かない気分がして尚更だ。

「何なんだ・・てめぇはよ」

「俺の名前は・・まぁ、お前達で言うところの悪魔だ。実はこの世界についた時にある暇潰しを思いついてな」

「へっ・・悪魔らしく趣味の悪い野郎だな」

「そうか? お前等の願いも叶えてやってるんだぞ、特にあの中野 翔との決着をつけたいんだろ。だからこうして相良 聖を2人に分けてやるんだ」

悪魔の物言いに女の方の聖はふつふつと怒りが湧いてくる、自分の心の中でこうやって好き放題にされて気持ちいいものではないし何よりもこうして自分の中で見知らぬ人間にチョロチョロされるのが聖にとって何よりも腹正しい。

「うるせぇ!! ・・てめぇも俺から出ていきたきゃこの俺様を倒して行きな!!」

「上等!! 同じ俺同士だからこそやり易いもんだからな。・・女だからって容赦はしない、徹底的に叩き潰してやる」

「来いよ、木偶の坊・・女だからって舐めんじゃねぇ!!!!!!!」

お互いに構えを取りながら2人の聖は暫し互いを睨みあう・・そして男の聖が拳を振り上げるがものの見事に空を切る。その隙を突いて女の聖が鳩尾目掛けて正拳突きをお見舞いするが、男の聖はそのままの状態で拳を振り上げて顔面をぶん殴る。想像を絶するダメージを受けた女の聖だったが、怯むことなく果敢に男の聖に拳を撃ち続ける。
89 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(東海・関東)[sage]:2011/11/05(土) 08:54:15.88 ID:86q2/xQAO
把握、ちっと待っててねん
90 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:54:23.24 ID:HbGWUC33o
「顔面殴られた程度で負けてたまるかよ!!!」

「女になっても中々やるじゃねぇか・・――だがなッ!!」

男の聖は拳の連打を頭突きで強引に断ち切ると、そのまま拳を振り上げて女の聖目掛けて拳を放とうとするが・・女の聖はそのまま拳を振れるように捌くと・・拳を放っていた男の聖が凄まじい回転と共に地面に強烈に叩きつけられる。女の聖はその瞬間を逃さずにそのまま腹部に飛び膝蹴りを放つとそのまま馬乗りになり男の聖に拳を放つ・・が、その表情は無表情ながらもどこか哀しみを帯びているようにも見える。

「この!! これだけ徹底的にやってるんだからいい加減にくたばりやがれ・・」

「糞女が・・調子に乗るなよ!!!」

男の聖はそのまま右腕で拘束を振りほどくとそのまま腹部目掛けて蹴りを食らわせ、女の聖が怯んだ隙に肩、胸に高速で拳を放ちダウンを取る。そのまま今度は男の聖が馬乗りになり、女の聖の首を掴むと徐々に力を入れていく・・その表情は狂ったように笑っていた。

「アガガッ・・こ、この野郎・・」

「言っただろ? この俺が徹底的にやるんだからな」

「・・るせぇよ!!!」

徐々に息が苦しくなって来た女の聖、そのまま傍観していた悪魔も勝負がついたものと判断して止めようとするが・・女の聖はそのまま全ての力を振り絞って持ち前の脚力と柔軟を活用し、男の聖の腹部を蹴り上げて拘束を振りほどく。

「ゲホゲホッ!! ・・こ、これで五分だぜ」

「クッ・・さっき蹴りをかましたとこにこれか!!」

「ハァッ!!」

女の聖はそのまま勢い任せて三段突きを放つが・・元々女体化して体力が落ちて蓄積されたダメージが重なって威力は弱々しかった。そのまま男の聖は腹部に強烈な一撃を放ち、再度女の聖をダウンさせる。

「ガハッ――」

「・・これで決まりだな。女体化して軟弱になりやがったのがその様だ」

「待てよ・・まだ勝負はついてねぇぞ!!!」

女の聖は既に脳震盪を起こしており意識のほうも朦朧としてはいるが、その瞳は決して揺るがずにその視線は決して怯みはしない。

「呆れるぐらいのバカだな。・・これが俺だと思うと溜息すら出ねぇよ」

「う、うるせぇ・・まだ俺はくたばっちゃいねぇぞ!!!!」

最後の気力を振り絞って女の聖は己の力に喝を入れる、喧嘩で無敗の相良 聖は己に課したルールがある・・それは決して倒れず最後まで生き残ること。そのルールを頑なに守っていた聖であったが、今それが破られそうになっている、自分自身の手によって。

「こ、来いよ。俺ァ・・まだ負けちゃいねぇ!!!」

「強情だな。・・気が済むまで来な」

「「うおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!!!!!」」

更に激しくなる2人の激戦に今まで傍観を決め込んでいた悪魔はやれやれと溜息をつきながらのんびりと激戦を見届ける。

「早いところ終わんないかな。人間と言うのは相変わらず面倒なもんだ」

「いい加減に・・」

「「大人しくくたばりやがれ!!!!!!!」」

――2人の拳が激しくぶつかり合い、勝負は決した。
91 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:54:52.41 ID:HbGWUC33o
「グッ・・ガハッ!!」

「ハァハァ、女の癖に強情な野郎だったぜ・・」

倒れこんでいるのは女の聖、そして立ち上がったのは男の聖・・2人の聖の対決はそれぞれの思いが入り混じる中で終結を迎える。

「おい、さっさとやれ・・そしてあの野郎を今度はぶちのめすッ!!!!」

「ようやく終わったか。・・それにしても女とは言え自分自身をぶちのめした感想は?」

「・・下らねぇよ」

男の聖が吐き捨てるように述べると悪魔はそのまま呪文を詠唱する、これから悪魔が行う呪文は男の聖を現世に呼び出す呪文。悪魔が呪文を詠唱し終えると男の聖の身体が光に包まれる。

「さぁ、終わったぞ。これでお前は晴れて自由の身だ、ついでに面白いもの見せてくれた褒美と言っちゃ何だけどサービスで住むところは提供してあげるよ。・・これで心置きなく暴れてくれたまえ」

「フフフ・・さぁ、待っていろよ!!! 中野ォォォォォ!!!!!!!!!!」

「ま、待ちやがれ・・」

女の聖の叫びも虚しく悪魔と一緒に男の聖は静かに消えていった・・

・・・・
・・・
・・


「ハッ!! ・・夢だったのか?」

時刻は夜中、聖は男の時とはまた違った感覚に違和感を覚える、それにここまで身体がふらつくのもどうかしている。

「生理か? にしては納得いかねぇな」

女になってそれなりの年数が経った現在では生理になっても特別慌てはしない、それよりもいま感じているこの感覚はどうもおかしい・・まるで自分の心にぽっかりと穴が空いたようなそういった感覚だ。少しばかり気を紛らしたい聖は下のリビングで軽く水を飲み干すと今感じているこの異常についてこう結論付ける。

「さっきの夢のせいか? ・・にしてもな、よくわかんねぇ」

自分なりに結論付けようとしても到底納得はできない、やはりここは誰かに相談して結論を見つけて貰うのを手助けして貰うのが一番であると聖は判断する。しかし今まで一人で誰の手も借りずに過ごしてきた自分がこんな考えを抱くことに若干の皮肉を覚えてしまうがこれも女体化を経て行き着いたものだとすれば過去のことも薄まってくる。

「過去の俺は・・一体なんだろうな」

自分の過去について今更思って見るがどうもピンこ来る事がない、ついさっきまでは過去の自分についてはアッサリと記憶が鮮明に甦ってきたのだが、どうも思い出そうとすると記憶にノイズが掛かって思い出せない。どうやら誰の手を借りずとも自ずと感じている違和感の正体についての核心が見えてきたようだ。

「昔の俺・・この俺様は男の時は色んな野郎をぶっ潰してのし上がってきた。そしてあの野郎と会って遂に決着が果たせなかった・・俺はあいつとどんな風に決着を付けたかったんだ? 俺は中野 翔と・・付けられなかった決着をどうやって果たそうとしてた?」

疑問が疑問を呼び、そこにある種の迷いが生まれる・・相良 聖、数々の不良どもに怖れられてきたその牙は今抜け落ちようとしていた。
92 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:55:26.86 ID:HbGWUC33o
結局違和感が拭えないまま翌日経った今日・・聖は大人しく学校に向かい、ツンと久々の談笑を続ける。

「あんた・・今までこの時間はどこほっつきあるいてたのよ!!」

「い、いや・・そりゃあれだ。女磨きの旅と言うかな」

聖の苦しい言い訳にツンは頭を抱えながら盛大な溜息をつく。

「・・あのねぇ、どこの世界にそんなことする人間がいるの。あんたも中野と一緒の学校に行きたいなら、ちゃんと授業に出なさい」

「えええええ!!!! ・・んなもん面倒くせぇよ」

「今のままでも留年せずにいられるなんて有難い話よ。私が言うのもあれだけど、もう男じゃないんだからいい加減に自覚持ったら?」

「んなことしてたら変に調子付く奴等が現れちまうだろ!! この俺様の恐ろしさを・・恐ろしさを・・」

とたんに言葉に詰まってしまう聖、今までならすんなりと言えれる台詞が今になって出てこない。やはり今の自分はどこかおかしい・・女になっても相良 聖として己がままに行動しながらも今更になってどこか違和感を感じてしまう。流石のツンもこの聖の様子に奇妙な違和感を覚える。

「ねぇ・・何かあった?」

「いや、何か・・男の時の出来事ってか、昔の俺自身の記憶がハッキリしねぇんだよ」

聖の曖昧な言葉に首を傾げてしまうツンではあるが、どうやら今の聖は昔の自分の記憶がはっきりとしないのは理解できた、ここは一友人として出来る限りの回答をしてやるのが今の自分の役割とツンは認識する。

「まぁ、言っていることは良く解らないけど・・要は昔の自分の記憶が曖昧なのよね。女体化の影響ではなさそうだし、暫くは完全な“女”として過ごしてみたら?」

「ハァッ!! この俺が何で女として過ごさなきゃ行けねぇんだ!! もう女としてやっているいるようなもんだろ!?」

「これはあくまで私の個人的な考えだけど・・普通の女の子は他校に喧嘩を売りには行かないし、屋上でうちの不良達を叩きのめすわけないでしょ」

「だけどよッ!!! この俺は・・」

「いい、これはあんたにとって一種の分岐点なのよ。過去の記憶を取るか、それを捨て去って心身ともに女になるか・・よく考えたほうが私は良いと思うわ」

ツンの言うようにこれは今までの自分にとって大きなターニングポイントになるのは間違いはないとは思うが・・だからと言って女のままで過ごして見るのもありがち悪い気はしないが、何か引っ掛かる物を覚えてしまう。

「何か足らねぇんだよな・・」

「それよりも今日はテストに宿題もあったわよ。あんた大丈夫なの?」

「ゲッ・・忘れてた」

「あんたね・・」

やれやれと溜息をつきながらツンは聖の勉強に付き合う、現在翔はクラスこそ一緒だけども授業が始まると特進クラスの方へと移ってしまうので必然的にツンも聖の勉強を手伝う羽目となるのだ。

「中野の奴、勝手に逃げやがって!!」

「無駄口はいいからさっさとやるわよ」

「・・わかったよ」

翔への恨み言を呟きながら聖は宿題を片付けるのであった。


93 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:57:35.08 ID:HbGWUC33o
特進クラス・教室

一方の翔はいつものように授業を受けながらいつものように気だるい日常を送るが、何故か今日に限って胸騒ぎを感じてしまうのもあるのだが、昨日の宗像の言葉が引っ掛かる。

「何か・・な」

「ほぅ、だったらマッサージでもしてやろうか」

翔の前に現れたのは前日と同じく、応援団・副長の宗像。彼の出現によって翔の機嫌は更に悪化の一途を辿るがそれをぐっと堪えつつ平静を保ちながら宗像と接するが、どうも表情を押し殺しても声色だけは隠しきれないようだ。

「何だよ、またお前等の団長が忘れ物したのか?」

「それは俺にもわからんが・・お前の不機嫌具合なら手に取るようにわかるぞ」

「てめぇ・・喧嘩売ってるのか?」

「おっと、そいつは失礼した」

宗像の態度が癇に障るのだが、それらを堪えながらも翔は平静を保とうとするのだが・・そろそろ限界も近そうだ。そもそも宗像とはここ数日は何かしら絡む機会が多い、ある時は拳を交じり合ったり、またある時は何かしら貸しを作ってしまったり・・それに昨日は変な言葉を投げかけられたりと何かと宗像とは変な因縁が続いているのだ。

「で、何のようだ。態々おちょくりに来たのか?」

「少し付き合ってくれないか? お前に大事な話があるんだ・・相良 聖について」

「何だよ。あいつの弱点とかそういった類なら俺が教えて欲しいぐらいだぜ? 冗談も大概に・・」

「悪いが冗談ではないんだ。担任には話はつけてあるから動向を願えんか?」

珍しく真剣な顔つきの宗像に翔は少し考察しながら彼の言葉の裏を探って見る、今まで宗像とは変な騒動を起こして
来たが今回のようなことは今までと違って初めてのパターンだ、それに宗像から聖のことで話題が上るといえば聖が
引き起こしている(?)応援団絡みの厄介事だろう、あの決闘の後で応援団の団長である沙樹と小競り合いを起こして
いると言うし最近の聖は自分の目の見えないところで暴れていると言う噂もある。

いくら成績がある程度改善されても変な問題を起こしてしまえば今後の進学に関わってしまうことは容易に想像は
できるので、このまま騒動が新たな騒ぎを呼び更なる肥大化をしてしまえば聖と一緒の大学へ進学すると言う
翔の夢は御破算になってしまうだろう。

ただえさえ、そこら辺で危うい聖だ。生徒会に近い応援団が何かしらの抗議をすれば聖の印象は更に悪くなってしまうだろう、ここは多少の不安があっても応援団の動向を探れるチャンスである。

「わかったよ。・・ただし、昼飯は奢ってもらうぞ」

「いいだろう」

翔が了承したことによって宗像は翔を引き連れて教室へと消えていった。
94 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 08:58:37.52 ID:HbGWUC33o
応援団・部室

宗像に案内されたのは応援団の部室、中には団長である沙紀と2年リーダーの桃井の姿があった。2人の姿に翔は持ち前の直感で嫌な予感が過ぎるが、のこのことついて着てしまった手前もあるのであえてそれを顔に出さずに宗像に案内された席に着く。翔の到着によっていつもの団長の席についている沙紀が口火を切った。

「お前にしては珍しく遅かったな宗像。・・まぁ、いい。少し時間は遅れたが予定通り応援団の臨時会議を始める」

「そう言うことで付き合ってもらうぞ・・桃井、ご客人に飲み物を用意してやれ」

「わかりました」

そういって桃井は飲み物を用意するために少し席を外すが当の翔は即座に突っ込みを入れる。

「ちょっと待て!! 応援団の臨時会議とはどういうことだ!!!」

「まぁ、そう慌てるな。では団長、本題を説明してやってくれ」

「・・今回の臨時会議は他でもない、相良 聖についてだ。ここ最近の奴の行動については目に余る物がある・・桃井、説明しろ」

「押忍!!」

桃井は全員の机にコーヒーを置くとボードにこれまで調べた聖についての練密なデータを書き込む。

「これまでの相良は我が校はもとより他校にまで及ぶ暴力行為の数々・・殆どの名高い不良軍団が相良によって
壊滅させられたお陰でその残党が恨み一杯で我が校に雪崩れ込む始末。

それにここ最近はあの悪名高い極殺校にまで及んでおります!!」

「一応説明はしておくが応援団の活動の中には学園外の防衛も含まれている。要は・・」

「あいつがこれ以上暴れると外敵を増やされて活動に支障が出るって訳だろ? ま、応援団なんて自警団みたいなもんだしな。ただ人手を抑えるためにもあいつの行動を控えさせろって言いたいんだろ・・俺もやめろって言っているんだがあいつは一向に俺の言う事を聞きやしねぇんだ」

「流石に頭は切れるな。ご名答だ」

宗像の言葉を紡ぎながら翔はこれまでの自分の行動を説明する、翔とて最近の聖の行動には目に余る物があるし彼氏として何とか抑えに入っているのだが・・肝心の聖はそれを聞き入れるどころか益々ヒートアップさせて爆発的に行動を開始している。

「あのなぁ、俺だってやることはやってるんだ。今のあいつはある意味、男時代よりもあらゆる連中に喧嘩を売っている」

「そこでだ。かつては相良 聖の“宿敵”として立ちはだかったお前に聞きたい事がある。これまで相良君はあらゆる面で喧嘩を売り続けているわけだが肝心の貴様には周りから見てもバカップルの領域に入っていると見てもいいだろう・・桃井、続けろ」

「押忍!! データによると男時代は中野先輩とは女体化するまで未だに決着らしい決着はつけられていません。むしろ女体化して以降は中野先輩とは男女の関係を通り越していつ子供ができてもおかしくない状態d・・ブヘラッ!!!」

翔はコーヒーカップをとんでもない速度で桃井に思いっきりぶつけると怒気を全面に押し出して怒鳴り上げる。
95 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 09:00:02.34 ID:HbGWUC33o
「さっきからてめぇらは何が言いたいんだ!!!! あいつじゃねぇが連れを呼んでてめぇ等応援団をまとめて血祭りに上げるぞ!!!!!!!!!!」

「お、落ぢ着いで・・」

「そりゃ、あいつとはよ。一応それなりにしているがそこまで盛ってはいねぇんだよ!!!!!!!!」

もはや桃井を殴りながら反論する翔だが、宗像達はこのような事態を想定していたのか黙って冷め掛けのコーヒーを
啜りながら翔の暴走を止めることなく事の顛末を見送る。それにしても心なしか沙樹の表情が若干ながら赤くなって
いるのは仕様だろうか?

暫くして翔はそれなりの落ち着きを見せるが、桃井の方は既にズタボロで立っていることは愚か喋るのも辛そうであるが、宗像はお構いなしに話を進めるために更に会話を進める。

「怒りは収まったか? さて話を続けるぞ。・・相良 聖はお前との“決着はつけた”と思っているのか?」

「なっ――・・」

思わぬ、宗像からの問に翔は思わず言葉を詰まらせる。聖との決着・・それは他ならぬ翔自身でも未だにつけられて
いない、聖が女体化した今はその現実を甘んじることなく享受してきた日々・・付き合うことになった当初はお互いの
間がギクシャクしながら最初の数日は満足に手を繋げられなかったものだ。だけど少しずつではあるが月日を徐々に
重ねるうち、気まずくて不器用だったお互いの心も解け合いお互いの過去の柵を忘れられた。

しかしそれは忘れられたものではなく、2人の間に置きやられたものだと先ほどの宗像の言葉でそれを自覚してしまった翔は過去の記憶を甦らせる。

相良 聖・・通称、血に飢えた狂犬は常に独りで行動し、目の前にいる敵を殲滅し躊躇なく打ちのめしてきた。そして唯一抗う事が出来たのは他でもない自分・・殺戮の天使である中野 翔だ、お互いに傷つき傷つきあいながら拳を交え中々倒れない強敵に憎み苛つきながらもどこか愉しんでいた。聖が女体化してからそれらの感情の変わりが穏やかで温もりのある慰安の感情かと思っていたのだが、どうやらそれは違うように思える。今の自分は明らかに相良 聖との決着を強く望んでいる節がある、女体化して果たせなかったその決着を己の拳でつけたいと思っている自分を見つけてしまった翔は今の聖の行動に別の解釈が思い浮かぶ、今の聖も他ならぬ自分との決着をこの拳でつけたいだけのだ・・ただそれが強く更に濃く出てしまったわけ。

「俺はあいつとの決着は・・」

「・・お前との決着がつけられたら今後の相良君の行動は大きく変わると俺は踏んでいる。だから改めて聞きたい、相良君は・・いや“お前自身は”相良君との決着はついているのか?」

「そ、そいつは・・」

場の空気を察したのか暫く黙っていた沙樹が珍しく口を開き、宗像を嗜める。

「宗像、そこまでにしておけ。・・中野、別に私達はお前を苦しめるためにこの場に呼んだわけではない。
相良 聖は確かに品行方正とは言い難いが、人としての筋道は外してはいないと私は思っている。

それだけは理解して欲しい」

「わかってるさ。ただな、あいつとの決着って聞かれた時点でちょっと・・な」

そのまま落ち着きを取り戻した翔は桃井が淹れなおしたコーヒーを啜りながら改めて聖について考え直す。

「さてそろそろ昼食にはいい時間だ。どうせ宗像もまだ続けるつもりだろう?」

「ああ、宅配ピザを取らせたからここで昼食を取ろう」

「おいおい、そんなことしていいのか? 第一、今の俺はそんなに金は持ってないぞ?」

「心配ない、いつぞやの決闘事件のお陰で生徒会には予算アップさせたからな。このくらいなら予算的にも問題はない」

「そりゃ横領に当たると思うが・・ま、この際だからありがたく頂くか!!」

こうして宗像が手配したピザを頬張る翔であったが、宗像の目が光っているのには気がつかなかったようだ。


96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/05(土) 09:03:59.61 ID:HbGWUC33o
また投下するのでお楽しみに・・投下する前って怖いよねwwww
自分の作品は蔑ろにして他者のキャラを利用する、これが後のインスパイアである

人気投票はないのであしからず
97 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:02:40.76 ID:HbGWUC33o
あれからツンの手助けもあってか無事に難局を乗り越える事が出来た聖はそのまま教室を抜け出すと道中で狼子と合流していつものように礼子の元へと転がる、いつもは聖一人ではあるのだが珍しく狼子もセットに来たため礼子もいささか困惑気味だ、決して表情には出さないが。

「そういや狼子よ」

「どうしました?」

「将来は辰哉と結婚でもするのか?」

「ブッ!!!」

いきなりの聖のとんでもない発言に狼子は思わず吹き出してしまう、対する礼子はいつものように日誌をつけながらも話は聞いているようだ。

「それで、どうなんだよ? お前は卒業したら速攻で辰哉と結婚するのか」

「いやいや!! 一応将来のビジョンは考えてますよ!!! 聖さんこそ将来はどうするんですか、先輩と大学に進むって話は聞いてますけど」

「まぁな。大学卒業すれば何とか安泰だろ」

一応聖も受験生の部類に入るので主に翔の指導の元で最下位ぶっちぎりだった酷い成績もそれなりの成績を収めているのだが、それでも試験合格できるかと聞かれたら怪しいレベルだろう。

「そういえば礼子先生って聖さんの頃ぐらいってどうだったんですか?」

「別に普通よ。勉強して大学へ入って・・卒業して旦那と結婚しながら今に至るわ」

「本当かよ。それにしては旦那さんとの間に浮いた話は出てこないな」

「別に結婚したって大して変わってないわよ。私達は親族関係は殆ど縁がなかったし・・」

そういいながら礼子は再び日誌をつけ始める、時たま聖と会話する時も礼子は余り自分の過去を話したがらず適当に流しながらやり過ごす。そもそも礼子にとって自分の過去など余り自慢できる物ではないし、華やかな思い出よりも苦い思い出の方が多い。だからこうして聖達を見ているとどうも昔の自分をダブらせてしまう、だからこそ一女体化経験者としてアドバイスもするし大人として忠告もする。

「結婚か・・」

「まぁ、案外月島さんの方が早く結婚しそうね」

「なっ――・・礼子先生までやめてくだーさーい!!」

と言うような感じで、保健室はいつものように穏やかな日々が送られている。ただいつもの部屋より換気扇の音がかなり大きいのはご愛嬌と言うものであろう。

98 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:03:16.40 ID:HbGWUC33o
「・・なぁ、礼子先生」

「今度はどうしたの? また彼氏の愚痴なら生憎お腹一杯よ」

聖が保健室に来た場合、本人曰く日頃の愚痴が毎回のように礼子にぶつけられる。・・というより傍から聞いていれば愚痴ではなくバカップル特有とも言える惚気話と変換した方がが正しいだろう。いつものように表情には出さないが静かに耳を傾ける礼子であったが・・意外な話が聖の口から開かれる。

「違うよ。・・それよりも狼子は男時代のことはちゃんと覚えてるか?」

「ええ、当然覚えていますけど・・どうしたんですか?」

「昨日からよ、男時代の記憶が曖昧でな。・・何か、今まで自分が男時代に何したか思い出せないんだ」

「そういえば今日の聖さん、いつもと違って穏やかになったと言うか・・女性らしい感じですね」

昨日、聖の中で繰り広げられていた決闘は男の聖が勝利を収めて悪魔の導きによって聖の中から抜け出した。男の聖が抜け出してしまった影響で今の聖には男時代の記憶が曖昧となってしまい、男だった頃の自分の記憶が抜け落ちている状態なのだ。

「なぁ、礼子先生は当然男ん時の記憶はあるよな?」

「・・まぁ、一応ね」

礼子にとって男時代の記憶などあまり良い物ではない、しかしながら今は自分の過去よりも聖の症状について自分の考えをまとめる。これまでにも礼子は多くの女体化経験者を見てきたのだが今回の聖のような症状は初めて、それに女体化経験者に関する記憶関係のトラブルは少数ながら確認は取れているものの聖のように男時代の記憶がまるっきりないと言うのは前代未聞のことだ。いずれにしても旦那である泰助や友人である徹子といったかじった医療関係の知識は今回は全く持って役に立つことはなさそうだ。

「礼子先生、一体俺・・どうしちまったんだ?」

「部分的な記憶喪失ってところが妥当かしらね。・・今日の放課後に時間作れる? 私がどうこう言うより専門家に診させたほうがいいわね」

礼子とて何とかしてあげたいのは山々なのだが、こればかりは自分の知識ではどうしようもできないので専門の人間に任せたほうが妥当だ、幸いにも保障が出来る人間が自分の周りにはいる。

「ああ、いいぜ」

「それと・・月島さんはしばらくこのことについて黙っててもらえる?」

「わかりました。・・って、やべぇ!! もうすぐで次の授業だ!!」

「マジかよ!!!」

聖と狼子は脱兎の如く急いでその場から立ち去る、2人の気配が完全になくなったのを確認すると礼子はいつものように懐からタバコを取り出すと一本取り出してそのまま火をつける。流石に聖達の前では教師としての建前があるのでタバコを吸いたくても絶対に吸わないのが礼子のポリシーである。

「相良の男時代の記憶って言えば中野とやりあってた時の頃か。・・嫌な予感がするな」

タバコを吸いながら礼子は自分の嫌な予感が当たらないことを祈りながらある人物に連絡を取るのであった。

99 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:05:15.32 ID:HbGWUC33o
対峙する2人の男、周囲には周りの男の残骸が転がる中でグループのトップは中学時代に味わった聖への恐怖感が充分に甦っており、身体からは震えが止まらずにいる。しかし聖が現在女体化しているのは誰もが知っている周知の情報である筈なのだが・・今男の目の前に立っている相良 聖は紛れもなく男の姿。かって怖れられたその屈強な肉体とその強靭な力・・そして狂ったようにそれらを振るう姿はまさに悪魔と表現したほうが正しいだろう、久々の喧嘩に男の聖は心なしか胸が騒いでいるようだった。

「アハハハハハ!!! 久しぶりの運動はいいもんだぜ!!!!」

「そ、そんな!! 奴は女体化した筈――ッ!」

「フフフ・・女体化してもやることは変わらねぇみたいだが、今度の俺は甘くはないぜ」

「ひ、ヒィィィィ!!」

それからすぐに男の意識は消える、聖の拳の一突きによって。聖はそのまま倒れた男には目もくれずに久々の自分の身体の馴染み具合を改めて再確認する、数々の修羅場によって鍛え上げられた肉体に培われた経験と直感・・そして身体から通して伝わってくる空気は間違いなく過去に自分が味わったものだと再確認する。

(今までは女の俺のせいで閉じ込められた俺の意識・・あの悪魔には感謝しないとな)

女体化してから肉体は代わり無意識にも切り離されて光が全くない漆黒で常夜の闇の中で佇んでいた自分、これまで培って築き上げてきたものを奪われゆっくりと腐っていくように消えかかる苦しみは今まで味わった事がない地獄のようなものだった。そしていつしか込み上げる女である自分への復讐心・・ゆっくりと時が流れるに連れてその感情はいつしか肥大化し、かつての宿敵との決着以上の感情へと成り果ててしまった。しかし悪魔の手によって張本人である女の自分を完膚なきまでに叩きのめしたことによってその目的は完遂される、そして更なる感情が・・

「中野との決着をつけた上で今度こそ女の俺をぶっ潰してやる!!! ・・そのためには今までの感覚を取り戻した上でやらないとな」

相良 聖・・復活した血に飢えた狂犬は牙を磨き、復讐を開始する。
100 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:06:16.04 ID:HbGWUC33o
放課後、礼子と合流した聖は礼子の車でとある場所へと向かう。ちなみに車の中にある灰皿は聖と合流する前に予め即座に撤去し、臭いの方も強力な消臭スプレーによってある程度は除去している。道中、何とかタバコを吸いたい欲求を無理矢理抑えながら礼子はこれまでのあらましを事細かく聞いて見るが、肝心の聖からは聞けれたのは先ほどの話と何ら変わりはない。

(肝心の相良はさっきと変わらず・・か。しかしこうしてみると今の相良には刺々しさや荒々しさが全くない、本当の女の子みたいだ)

「なぁ、礼子先生」

「どうしたの?」

「一つ思い出した事がある、昨日みた“夢”についてだけど・・」

「夢・・?」

聖は昨日見た夢・・男の自分との決闘について語り始める。悪魔の悪戯心なのか、聖は自分との出来事を夢として認識していたのだが・・自分でも半信半疑の内容だし誰かに話した所で変に笑われるのがオチだと思っていたので気にも止めていなかった。

「男の時の自分との決闘・・ね」

「ああ・・自分でも変な夢見たと思っているよ」

「ねぇ、その後ってどうしたの?」

「あんまり良く覚えていないけど・・男の時の俺が消えちまった気がする」

「自分が・・消えた・・」

聖の語る夢の話に礼子はある種の違和感を覚えるがすぐにそれは消え去ってしまう、普段なら笑い飛ばすなりして何かしら適当に流すものなのだが・・聖の変わり様をみているとそう易々と切り捨てることなど出来ない。

「そういえば礼子先生、前から思ってたんだけど・・」

「どうしたの?」

「礼子先生って・・タバコ臭くない」

「!!」

まさかのとんでも発言に礼子に衝撃が走る、これまでにもタバコを吸った後は服には消臭は施していたし保健室にも換気扇は常にガンガンに回しているので証拠隠滅には抜かりはなかったはずなのだが、よくよく考えて見ると礼子の喫煙癖を良く知っている人物は1人だけ存在する、しかも聖に尤も近しい人物で・・

(まさか中野の野郎ォ!! 相良に話したんじゃないだろうな!!!)

「れ、礼子先生・・?」

学園内では一応(?)おしとやかな保健室の先生で通っている礼子であるが、翔だけは礼子の素を知っている唯一の人物である。まぁ、裏を返せばそれだけ心を許している人物ではある証といえよう、そもそも昔からの喫煙癖は我慢は出来ても完全には治らないものでタバコを吸うのを我慢するだけでもヘビースモーカーの礼子にしてみればかなりの苦痛である、特に保健室での喫煙がばれてしまったら職員はおろか生徒に顔向けが出来ない。

「お、おい! 今信号赤だったぞ!!」

(あの野郎・・他にも余計な事をベラベラと喋ってるんじゃないだろうな。問い詰める必要がありそうだ!!)

聖が心配そうに見守る中で礼子は車を爆走させる、そして・・

101 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:06:58.53 ID:HbGWUC33o
「クシュン!!」

「どうした? 風邪でも引いたのか?」

「いや・・誰か噂でもしてるんだろう」

礼子の不吉な気配を肌で感じたのか、翔は鼻を抑えながら再び平静を取り戻す。あれから応援団室で昼食を取った翔は午後の授業に参加する事はなく沙樹や宗像に囲まれながら話し合いを続けていた。

「さて次は・・」

「おいおい、もういいだろ? 俺達のことに関してはあらかた説明したしよ」

「まぁ、これから応援団の活動があるからな。今回はこれでいいだろう」

「ちょっと待て藤堂。“今回”ってことはまだやるのかよ!!」

「当たり前だ。何ら対策がないままで相良と渡りあうのは状況的にもよろしくない・・」

翔は思わずうなだれてしまうが、ここ最近の聖の行動も見逃せない領域まできているので応援団に付き合うのも悪くはない。それに自分が動くためにも生徒会直結の応援団ならそれなりに規模も大きいし何かしら優位な情報やこれからの事を考えると伝を広げるのも悪くはない。総合的に考えて翔は沙樹と宗像の提案に乗る事にする。

「わかったよ、暫くはお前等に付き合ってやる」

「賢明な判断だ。何か進展があったらこっちから連絡しよう」

「お前等に貸し作るのは癪だが・・仕方ねぇ、よろしく頼むわ」

そのまま応援団室を後にした翔はそのまま携帯を取り出すとある人物に連絡を取る。

「・・もしもし、俺だ。ちょっと悪いんだけどな、調べてほしい事があるんだ。・・そうか、悪いけど頼むわ」

どうやら目当ての人物との交渉はうまくいったようである、翔は少しばかり嫌な予感を感じつつバイトへと向かうのであった。

102 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:10:06.20 ID:HbGWUC33o
「ここって確か・・」

聖が連れてこられたのは礼子の旦那である泰助が経営している病院、あまりにも予想外の場所に連れてこられた聖はあたふたしてしまうが礼子はそんな聖などお構いなしに中に入るとそのまま平然としながら受付を通り過ぎる。

「どうしたの? 早くしないと置いていくわよ」

「あ、ああ・・」

戸惑いを覚えながらも聖は礼子の後に着いて行きながら受付を過ぎると奥にあるスタッフルームの中を歩き回る、本来なら関係者以外は立ち入り禁止なのだが礼子は関係者と言うかこの病院の経営者でもある泰助の妻なので周囲の医者とは当然のように顔見知りなので何ら問題はない。しばらくして礼子と共に病院内を歩き回っていた聖だったが少しばかり苛立ちが言葉に出る。

「なぁ、礼子先生。いつまで歩き続けて・・」

「見つけたわ。ちょっとそこで待ってて」

「お、おい!!」

目当ての人物を見つけた礼子はそのまま聖をその場に待機させるとそのまま目当ての人物の元へと歩き出す、どうやら予め連絡を取っていたようであるが心なしか礼子の表情はどこか溜息混じりと余りいいものではない。

「多田さん、この娘が・・」

「ああ、例のやつね。ま、何かしら秘密揺すられて機嫌悪いのもわかるけど・・」

「・・人の心を読まないでちょうだい」

「悪い悪い、癖みたいなもんでね」

彼の名は多田 務(ただ つとむ)見た目はただの医師なのだが、彼は観察力がかなり優れているのか人の心を読むと言うかなり凄い特技を持っている。決して悪い人間ではないのは礼子もよく知っているのだが、毎度出会うたびに自分の心を読まれるのはあんまりいい気分ではない。それにつかみ所のない性格も相まってか数ある病院の中にいるスタッフの中で礼子がもっとも苦手とする人物なのだが、彼に聖の症状を話すとそのまま聖を病院に連れてこいと言ってきたので礼子は聖を連れてきたのだが・・当の聖はもとより礼子も不安で仕方ない。

「それで・・大丈夫なの? 身を案じて忠告しておくけど彼女はああ見えても武道派だから妙な真似したら死ぬことになるわよ」

「別に触診とかの類はしないから大丈夫だって。・・さて相良さんだっけ、話は礼子さんから聞いているからね」

「ど、どうも・・」

いくら礼子の知り合いと言えども多田に対する聖の第一印象は怪しさ満点の人物だ、彼が白衣など着ていなかったら医者だとは当然思いがたい。
103 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:11:42.53 ID:HbGWUC33o
(本当にこの人医者なのか・・)

「一応、医者免許持ってるよ」

「ヒッ!! お、俺なんにも言ってないぞ!!!」

自分の心の声に反論した多田に聖は思わず後ずさりしてしまうが、いつも自分がされている行為を傍から見ていた礼子は聖の反応が少しおかしく思いながらも一応多田について解説する。

「この人はね、他人の思っている事をわかってるの。ある意味生きる嘘発見機よ、一応悪い人じゃないから安心して」

「あ、ああ・・」

「さてと、立ち話もそれぐらいにして2人とも場所を移そうか」

そのまま多田は2人を個室の病室へと案内する。室内にはベッドが1つと椅子が2つ飾られただけの質素なもので多田はそのまま聖を座るように促し、自分も聖と対面しながら椅子に座る。多田の行動に聖は余計に警戒心を強めるといつでも臨戦体勢が取れるようにしながら目の前にいる多田を怒鳴り上げる。
104 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:12:27.19 ID:HbGWUC33o
「おい!! こんないたいけな美少女にこれから何するんだ!!! 変な事したらぶっ飛ばすぞ!!!」

「まぁまぁ、そう怒らないで・・魂が洗礼された綺麗な顔が台無しだよ。さて相良さん、この五円玉をよく見て・・」

多田はそのまま紐に吊るした5円玉を取り出すと、聖に5円玉を直視させる。多田の古典的な催眠術に対面している聖は勿論の事、そばで見ている礼子も多田の行為に思わず声を上げる。

「ちょっと、多田さん。・・ふざけてるの?」

「そうだぜ!! 今時催眠術なんて子供でも騙されねぇぞ!!!」

「まぁまぁ、そう焦らずにね。・・さてゆっくりこの5円玉を見るんだ」

「な・・なんだ?」

多田はゆっくり5円玉を振り子のように揺らしながら優しく言葉を呟く、最初は普通だった聖も多田の5円玉を見ているうちに徐々に意識が遠くなり臨戦体勢を整えていた身体も軽くなる・・そして多田が催眠術を施してかなりの時間が過ぎた頃には催眠に抗った聖は完全に意識を絶とうとしていた。

(か、身体も動かせねぇし・・ 急に意識が――)

「ちょっとの間だけ普段君が眠らせている意識と交代してもらうよ・・」

(も、もうダメだ・・)

パチン―――

多田が鳴らした指パッチンで聖の意識は完全に失う、礼子も多田の凄さに圧倒されながらも目の前の光景には唖然としてしまう、ようやく第一段階を終えた多田は少し一息つきながら懐からタバコを取り出すと一服しながら礼子にも軽く促す。

「ふぅ、ようやく眠らせたよ。あ、礼子さんもタバコ吸っていいよ灰皿は適当にあるから、それにここは換気も充分しているし臭いは安心していいよ」

「た、多田さん・・一体何をしたのよ?」

「ご覧の通り催眠術だよ。普段の彼女は眠っているから催眠が解けても礼子さんがタバコ吸ってる姿は覚えちゃいないさ」

とりあえず礼子も自分を落ち着かせるためにタバコを吸うが、目の前の光景はわからないばかり・・それに多田が催眠術を扱えるなんて旦那である泰助にも聞いた事すらない。とりあえず多田には一辺に質問したいことは山ほどあるが、そのまま多田は礼子の質問をある程度返す。

「こうみえても精神科の方面もかじっててね、若い頃は催眠術も勉強してたんだよ。やり方は他にもあるけど彼女の場合だとこの方法が手っ取り早いんだ。それにしても驚いたよ、普通の人間よりも遅かったからちょっと手こずったな」

「それでこれからどうするの?」

「・・これから普段彼女が意識の奥底に眠らしている潜在意識と対話する、一応礼子さんは彼女が僕に何かしそうだったら抑えておいて。催眠を解いたら麻酔で眠らせるから」

「わ、わかったわ」

そのまま多田は一服を済ませると今度はゆっくりと優しく呟きながら会話を開始する。
105 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:13:52.57 ID:HbGWUC33o
「さて、まずは名前と性別を聞かせてもらおうか」

「・・相良 聖。性別は・・女」

「結構、それじゃ・・幾つか質問させてもらうよ。いいね」

「・・・」

そのまま聖はうなだれながらも多田の質問を順に答えていく、どうやら多田の催眠術が効いているようで礼子もタバコを吸いながら静かに様子を見守る。

「じゃあ、基本的な質問が終わった所で・・相良さん、女体化する以前のことは覚えているかい?」

「女体化する以前・・わからない、あいつがいなくなってから記憶がぼやけてわからない」

「あいつって誰だい?」

「男時代の自分・・」

それから聖は礼子に話した夢の出来事を更に詳細を語り始める、その内容はあまりにも単純かつ非現実なものであったが今語っているのは普段は意識の奥底で眠っている聖・・暫くは静かに話を聞いていた礼子であったが、タバコを吸い終えると多田にとある提案を打ち出す。

「・・多田さん、ちょっと代わってもいいかしら?」

「ああ、構わないよ」

そのまま多田は礼子に席を譲り後方へと待機する、席を譲られた礼子はそのまま聖と相対すると軽く深呼吸をしながら聖との対話を開始する。

「えっと・・私のことは分かる?」

「・・礼子先生だろ」

「どうやらわかるみたいね。・・ねぇ、あなたは本当に自分が女体化してないと思っているの?」

自分の事がわかると安堵した礼子は早速質問をぶつける、今の聖は男時代を躊躇したがさつで慈悲さえ見せぬ荒々しさや野獣の如き凶暴さが全くない・・女体化してから大幅に変わった天使ともとれる洗礼された容姿と共に慈悲さえ感じさせる艶びやかな性格である、これが正真正銘の女性としての聖と感じた礼子は少し固くなっている場をほぐす。

「無理しなくていいわ。今のあなたは“女性”としての相良 聖でしょ」

「ありがとう、礼子先生は優しいね。・・今はうっすらとした記憶の中で私は女体化した人間だってのはわかる、でも“女”としてこのまま生きていくのも悪くない気がする」

(口調が変化した・・? いや、違う。これが相良が今まで押し殺していた女としての感情か)

普段の聖だったら絶対に言わないような言葉に礼子は少々困惑しつつも、更に対話を続ける。今の聖は普段絶対に表にはでない存在・・何かしらの解決の糸口は出るはずだ。

「男の自分が戻ってきたら・・あなたはどうするの?」

「多分、元には戻ると思うけど・・彼は私を決して許さないと思うし今の私を認めてはいない、女体化が起きたと同時に私の意識が芽生えてその影響で徐々に奈落のような意識の奥底へと追いやられたのだから。みんな、それを望んでいるの?」

「・・わからないわ。ただ、普段のあなたを知っている人間が今のあなたを見たら驚くのは目に見えているけどね。決めるのは私じゃない、あなた自身で導き出すのよ」

「・・今までの私がどのように過ごしてきた記憶が徐々に消えていく、これから私としての相良 聖を歩んでいくの・・・かな?」

今までの自分はどのような人物なのかはこの聖にはわからない、だけどもこれからは歩んでいく事は出来る。今までは自分は聖の一部で今までの日常を過ごしていた、だけども男の聖がいなくなった今・・残り少ない記憶の断片が消失すると主人格は彼女になろうとしている。
106 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:16:03.25 ID:HbGWUC33o
「あなたのことは私では決められないし、口は出さないわ」

「礼子先生、私・・どうしたら良いのかわからない。今まで行動していた自分の一部分でしか無かった私がどうやって相良 聖として過ごしていけばいいか・・私、わからない」

悲痛とも取れる聖の言葉に礼子は優しく語りかける。

「・・だけど、性格が変わったとしてもあなたはあなたよ。自分を否定することしかできなくなったら、私が支えてあげる」

「!! うん、私はこれからどんな風になるのかわからないけど考えて見る。それじゃあ、またね。・・礼子先生」

そして聖の意識は完全に消え、そのままがっくりとうな垂れる。これから深い意識の中で聖は過去の自分と新たな自分を模索するのだろう、礼子はとりあえず聖を抱えてベッドで寝かせるとそのままタバコを吸いながら現実を認識する、ゆっくりと身体から伝わってくるタバコの味が肌を通して身体を刺激させる。

「ふぅ・・彼女はどうなったの?」

「眠っているだけだよ。・・さて診断結果だけど、どこから説明しようか」

「・・さっき私達が話したのは彼女の中で尤も女らしい部分でいいのかしら?」

「よし、そこまでわかってるなら説明する方もある程度は掻い摘めるから楽だね」

そのまま多田はタバコを吸いながら順を追って説明を始める。

「普段の相良さんは男の時の自分とさっき出てきた女性の部分の自分・・様々な自分が統合させて形成されているんだろう。何もこれは相良さんだけじゃない、自我を形成している人間そのものに言えることだよ。ただ違うのは今回の彼女は何かしらの出来事で男の時の自分が出て行ってしまった、厄介な事に彼女から出て行った男の人格はかつての男時代の記憶・・すなわち生前の記憶ごとあろう事か彼女から持って行ってしまったんだね。恐らく今まで形成していた男言葉や記憶なども今まで彼女の中にいた男時代の彼女がいたからこそ見て間違いはない」

「ちょ・・ちょっと待って多田さん!! 突っ込みたい所は多々在るけど、男時代の彼女が記憶を持って行ったたって・・今の彼女には男時代の記憶は残っているって言ってたじゃないの、その考えは矛盾してるわ」

「さて問題はここからなんだよ。男時代の彼女がいなくなってからも真偽はともかくとして記憶の断片は残していった、彼女はその僅かに残った記憶だけで今までの自分を形成しているんだけど・・これから先はそうもいかなくなるだろうね」

多田のとんでも理論に礼子はついていくだけで精一杯なのだが、何とか疑問をぐっと堪えながら話を聞く。

107 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:17:08.11 ID:HbGWUC33o
「男時代の彼女が出て行った事で彼女が今まで過ごしてきた男時代の記憶は徐々に消失していっている。そしてそれらが全て消失した時・・先ほど僕が催眠術で出した意識が恐らくこれからの彼女の主人格となる、今の彼女は主人格が不安定な状態・・もとい正確に言うなら男時代の自分が出て行ってからの過去も摩り替えての大規模な人格の再構成をしてるんじゃないのかな」

「つまり今の彼女は恐ろしく不安定な状態なのね。多重人格とは違うの?」

「一見似ているようで全然違うんだよね、解離性同一障害は複数の人格があっても肝心の中身は統合されて
ないし、何かしらの出来事で形成された複数の人格が元の主人格と同居している状態だからね・・最初にも言ったけど
今までの彼女の人格は女体化してからも女としての自分と男時代の自分から統合していたものからね。

だけどいつ彼女の人格が交代するかは今の僕ではわからない・・一言で片付けるなら、人それぞれって奴だよ」

多田の意見をまとめると今の聖は残っている男時代の記憶をかき集めながら今までの自分を何とか構成している。しかしながらその記憶が消えようとしている中で自分を拮抗し合い新たな自分を再構成しているのだと言う、ただ彼女の主人格がいつ代わるのかは多田でもわからないという。しかし女体化が原因となるとまだ希望はある、礼子の親友である徹子は国連の女体化研究所の所長で女体化の権威だ。彼女に相談すればすぐには解決できないにしろ何かしらの力にはなってくれるだろう、礼子とてこのまま聖を放ってはおけない。

「おおよそのことは大体わかった。・・それでも原因が女体化によるものならまだ希望はあるわ、私の知り合いに女体化のプロがいるから今回のことを話して掛けあってもらう」

「う〜ん・・その事なんだけどね、女体化で決め付けるのは難しいと思うよ。確かに今回のことは女体化は原因の一つだと考えてもいいかもしれないけど、肝心なのは人の精神についてだ」

「どういうこと?」

「精神医療ってのは昔から特殊なものでね、特に女体化が出始めた頃から性同一性障害についての区別が難しいんだ。僕も専門家じゃないからハッキリとは言えないけど今回の件は精神科に特化した人物が診るのが一番だと思う、それに彼女自身は果たして元に戻るのを望んでいるのかな? 下手に他人が干渉すれば却って酷くなる可能性だってある」

礼子も今の聖の意思がハッキリしない以上は何とも言えない、ただあの聖は今までの聖を構築していた一部分だとは思う。よくよく思えば今までの聖にも女らしい部分は感じられた、男時代の聖については本人の様子や翔の話からすれば大体は想像出来る。何故男時代の聖がいなくなってしまったのかはわからないが聖を元に戻すには男の聖が必要なのだが・・少なくとも今の聖は元に戻る事を果たして望んでいるのだろうか?

「ねぇ、多田さん。もしさっきの彼女が主人格になったらどうなるの?」

「礼子さんが思っている通りだよ、それにあの様子だと今まで男と過ごした記憶は女として生まれて過ごしてたこととして彼女の中で置き換えられるだろうね、一種の自己暗示だと言った方が適切かもしれない。現に彼女は既に自分が女体化したかどうかもあやふやになってわからなくなっているし・・」

「最終的には彼女が自分で解決させなきゃいけないのね・・」

「それが最善の方法・・というか僕の個人的意見とすれば本来の精神医療はそういった人達を後押しして上げる方法だと思う。それに僕が催眠術を掛けた影響で彼女が予想より早く目を覚ましたみたいだしね、これから彼女の人格交代は更に加速して進むと思うよ」

そういって多田はタバコを吸い始める、礼子もタバコを吸おうと思ったのだが散々吸ってしまったのか既に箱の中は一本も入っていない。

(チッ、切らしちまったか・・)

「礼子さん、俺のでよければ上げるよ。ストックはまだあるから何なら箱ごと持っててもいいよ」

「悪いわね」

「僕も精神医療を専門としている人物に関してある程度は伝はあるけど・・言ったところで結果は同じだと思うよ」

礼子はそのままタバコを吸いながらこれからの聖について考えて見る、多田の言うようにこればかりは聖自身の問題なので余り自分は干渉しないほうがいいだろう。それよりも聖の人格が変わる事によって起こると思われる周囲との軋轢を少しでも和らげてやるほうが自分に出来る最善の方法だと礼子は思いながら時計を見ると時刻は7時過ぎ、聖を送り出さないとまずい時間帯だ。礼子はそのまま眠っている聖を背中におぶさると病室を後にする。

108 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:17:52.64 ID:HbGWUC33o
「それじゃ長い時間、付き合わせて悪かったわね。診察大丈夫かしら?」

「ああ、今日は予約もなかったから時間には余裕があったんだけどね。院長には会わなくてもよかったのかい?」

「別に帰ってからでも大丈夫よ。それに早い所この娘を送らないといけないし・・それに最近は教師に対して倫理的に厳しくなってるのよ」

「保健室の先生も楽じゃなさそうだねぇ。ま、何かあったら相談程度には乗るよ〜・・んじゃ、僕も仕事があるからこれで」

「ええ、何から何までありがとう」

多田と別れた礼子はそのまま背中に聖をおぶりながら自分の車へと戻っていく、幸い若い頃の体力がまだ生きていたお陰でもあるのか聖の体重がそんなに重くもなかった影響もあってか、難なく車に戻った礼子はそのまま眠り続けている聖を助手席に座らせると車を走らせる。しかしこうして改めて聖の寝顔を見ていると綺麗な顔つきのままでよく眠っている、その光景は男性は勿論の事そっちの気がなくても女性でも思わず見惚れてしまう可愛らしい寝顔だ。

(今の相良は自分を組み立てているんだよな。・・しかしこうして寝顔を見ていると中野がベタ惚れしてるのも解る気がするぜ)

少しばかりタバコを吸いながら礼子は聖の自宅へと車を走らせるのであった。そしてこの出来事から2日後・・聖の人格は交代してしまうのだが、礼子は普通に接していたという・・
109 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:20:15.99 ID:HbGWUC33o
中野家の朝は早い、家長である父親が規則正しく生活しているのを始めとして母親もそれに合わせて行動をする。更にその子供達も例に漏れずに両親と同じように朝早く起きて共に朝食を取る、これが何年も毎朝欠かさず続いている風景は中野家独自の風物詩だろう。

「翔、学校は楽しいか?」

「ああ、おかげさまで楽しくやっているよ」

「そろそろ進路の時期だけど・・これからどうするの?」

(前回、勝手に旅行に出かけて後始末を人任せにしてた癖に・・よくもまぁ、平然としてるわね)

普通の親子の会話に微笑ましい空気が広がる中で冷ややかに翔を見つめる椿、前に椿は翔に聖と旅行をした時に両親の説得に立ち会わされたために翔に対しては機嫌が悪い。

「とりあえずは大学へ進むよ、学歴は欲しいし」

「賢明な判断だな。俺も親として安心だ」

微笑ましい両親との会話を椿はトーストを食べながら静かに見つめる、それに椿自身も本格化して来ている翔とは違ってそろそろ進路の問題がちらほらと見える時期に差し掛かってきており、本人もどこの高校へ進学するか迷っているようだ。

「椿はどうするの? どうせ高校に進学するなら音楽に特化した所にしたらいいのに・・」

「音楽はもういいわよ、普通の所で充分」

「昔はピアノ教室とか通ってたのに・・ま、心境の変化かしらね」

「そういうことにしといて」

そのまま椿は足早に朝食を済ませるとそのままカバンを持って家を出る、翔もそれに合わせて朝食を済ませると椿に出遅れる形で学校に向かい、そのまま椿に追いついた翔は少し気まずそうにしながら話を振る。

「な、なぁ・・まだ怒ってるのか?」

「当たり前でしょ! 勝手に旅行に行ったと思ったら帰ってきて早々にお父さん達の言い訳に付き合わされる羽目になるし・・」

「悪かったって・・」

これまでにも翔は両親への言い訳や世間体をよく保つためにも椿を駆り出しており、これまでの翔の高評価はほとんどは椿によって成り立っていると言っても過言ではない。まぁ、他ならぬ椿自身は聖との関係は良好ようで時々は2人で遊びに行っているようだ。

「聖さんと出会ってくれたのは個人的に感謝しているけどね。それにしても最近帰りが遅いわね、バイトならまだしも・・」

「まぁ、色々とな・・」

あれから翔も独自に調べつつ藤堂達と共同で聖の動きを探っているのだが中々成果は現れないのだが、月日が経っていくうち翔達に比例するかのように聖がある変化を示すようになる。今まで行っていた格闘技系の部活や校内にいる不良達との喧嘩をすっぱり止めて足繁くしていた他校との喧嘩も行わなくなった。更には真面目に授業をする傍ら家庭科への興味を示しており更には乱暴な言葉遣いはひっそりと為りを潜め、今ではすっかり女性らしい仕草のもとへと変貌を遂げている。翔からすれば手放ししても喜ばしい出来事の数々なのだが、問題なのはそれらの変化が2週間にも満たない非常に短い月日で現れたのもあって聖を観察していた藤堂を筆頭に今までの聖をよく知る面々はその変化に驚きを隠せずにいた。

(藤堂達と動き出してから2日経ったけど、あいつはまずます女らしくなってるよな・・)

翔はこれまでの聖の変貌を振り返りながら別れ道で椿と別れるとそのまま高校へと向かう。
110 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:24:15.27 ID:HbGWUC33o
教室

まず、具体的な聖の変化はこの朝の日常風景からある。普段の聖が教室のホームルームに参加するのはまずあり得ない、なぜなら彼女が登校してくるのは1時間目の始まりか酷いときには3時間目の始まりの場合もある。聖が遅刻をせずにきちんとホームルームに参加するのは例えるならノストラダムスの大予言が当たった場合に等しい・・要約すると絶対にあり得ないのだ。それは同級生やクラスの担任も含めての規則事項であったのだが・・それが覆されたのはつい数日前の出来事、ホームルームに参加する聖の姿はクラスを通り越して学校中に衝撃を与えて教員の間では校長を筆頭に緊急の職員会議が開かれたのだが今でもその憶測は絶える事はない。

「あっ、おはよう」

「あ、ああっ・・おはよう」

やはりこの光景にはいまいち慣れない、ぎこちなく挨拶を交わす翔を聖は不思議そうに見つめてくる・・だがこれだけではまだ終わらない。

「ねぇ、どうしたの? バイトが忙しかったのかな」

(今でもぞっとするぜ。男言葉を使わないこいつを見ていると・・)

聖の変化はこれだけではない、言葉遣いは完全に女性の物へと改められ雰囲気に至っては穏やかで温もりを感じさせる。今まで聖と付き合ってきたけれどもこんな風に接しられたことすらなかったのでどうももどかしく感じてしまう、以前は自分の理想そのものであったのだが・・いざ実現してしまうといささか変な感じである。

「何か・・あったの?」

「な、何でもないぜ。それよりも勉強は大丈夫なのかよ」

性格が激変しても基本的な能力自体は変わってはいないようで学校の帰りには可能な限りは道場に通いながらその超人的な実力を高めながら力を維持している。

「うん、何とかね。翔君や皆に色々教えて貰っているから・・それよりも今度の休みは暇?」

「特にこれといった予定はないな。それがどうした?」

「そ、その・・今度の休みに一緒に出かけない。こっちも時間は空いているし・・どうしたの?」

(あいつが自分からデートに誘ってくれるなんて・・今まであり得なかったよなぁ)

翔は心の中で感動を覚えつつもこれまでの聖との日々を軽く振り返って見る、これまでにもお互いにデートはそれなりに繰り返してきたのだが・・今まで聖が自分からデートに誘ってくれたことはなく、翔が何度か突っ張れられながらもデートに何とかこぎつけると言った日々を送ってきたため喜びは一塩だ。

「ああ、いいぜ。予定はちゃんとつけておくよ」

「嬉しい。・・ありがとう」

聖の満面の笑みに意識が飛びそうになる翔であったが、何とか頭を回転させて平静を取り戻す。翔にしてみれば今の状況は願ったり叶ったりなのだが、後味の悪さが身体中から警告のように発せられる。

(しかし、何だろうなあいつが変化してからの変な感覚は・・杞憂で済めばいいけど)

自身の予感を翔は今の状況に対する気の緩みだと判断するが、かといって至福の一時とも言えるこの幸せを手放す事は絶対にしたくはない。それにここ最近はデートもろくにしていなかったので翔にとっても久々のデートなので心なしかテンションがかなり上がる。

「どこに行きたい? 久々のデートだからここは奮発して・・」

「え〜っと・・それじゃ、ナメ○ク星!! ダメならウ○トラの星でもいいよ」

「どれも実現してねぇ所だし、もう少し現実的な場所にしようぜ・・て、あれは確か辰哉のクラスにいた」

「あっ、刹那ちゃんだ!!」

翔達が目に付いた人物はなんと刹那、あれから刹那もちょくちょくとではあるが聖のクラスに顔を出しているがいつもはたいがい狼子とセットなので単独での訪問は異様な光景だ。
111 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:25:46.49 ID:HbGWUC33o
「よっ、今日は狼子とは一緒じゃないのか?」

「黙れ。耳障りな言葉をするな、下種が」

「頼むから、もう少し優しくしようぜ」

「黙れ!」

「へいへい・・」

本来なら刹那の物言いだと他人の怒りを買ってもおかしくないのだが、事情が事情なので理解している翔も聞き流しているものの自分より年下の娘にこんな風に言われるのは少しばかりショックである。

そんな翔をガン無視しながら刹那は要件のある人物の元へと向かう。

「あの例の・・」

「あっ、刹那ちゃん。例の奴ね・・はいこれ。私よりも月島さんの方が適任だと思うけど」

「最初は彼女に聞いてたけど、わからないらしいから代わりにあなたを推奨してきた」

刹那が尋ねたのはツン、意外な組み合わせに翔は少し目が奪われつつもツンに話しかける。

112 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:26:09.47 ID:HbGWUC33o
「何でツンの元に刹那ちゃんがいるんだ?」

「ああ、料理のレシピよ。一人暮らしだと自炊しなきゃいけないでしょ? 料理のデパートリー増やしたかったのよね」

「・・うん」

素直にツンの前で肯定の意を取る刹那にツンと自分との雲泥の差を翔は思い知らされる。それに刹那と言えばもう一つ・・

「♪♪」

「わぁっ!」

ツンとの用件が済んだ後、一目散に刹那は聖に飛びつく。実はとある一件によって刹那は聖に窮地を救って貰って
以来、刹那は聖と会うたびにこうして幼児のように飛び込み甘えているのである。聖の方も満更ではないようで刹那に
関しては気を掛けているし、こうして飛び込んできた場合は素直に刹那を抱きしめている。

いつもなら何ら変哲ではない微笑ましい光景であるが、最初は聖にベッタリだった刹那だったのだが・・なにやら違和感を感じたのか、急に離れてしまう。

「ど、どうしたの? 刹那ちゃん・・」

「・・あなたは誰?」

刹那の言葉に3人は驚きを通り越して固まってしまう、真っ先に平常心を取り戻したツンは慌てて刹那に現実を認識させる。

「な、何言ってるのよ!! 刹那ちゃんが大好きないつもの聖お姉ちゃんよ!!!」

「・・違う、私の知っているあの人はこんな性格じゃない」

全く正直な刹那にツンはこれ以上何も言い返せなかった、そして翔も刹那を少し嗜める。

「ま、刹那ちゃん。誰だって・・」

「黙れ! 生ゴミの日に捨てるぞ! ・・あなたはあの人じゃない、一体誰なの?」

「私は刹那ちゃんが知っているいつもの聖さんだよ。ま、刹那ちゃんのそんなところが可愛いんだけどね」

「・・もう少しで授業の時間だから、ここで失礼する」

居た堪れなくなったのか、刹那はツンからのメモを持ってこの場から立ち去る。刹那が去った後、翔は優しく聖をフォローする。

「刹那ちゃんは不器用なだけなんだよ。そう気にするなって・・なっ!!」

「うん・・そうだね」

何とかその場は翔のお陰で事無きことを得たが、ツンの複雑な表情は誰も気付いていなかった。

113 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:36:27.60 ID:HbGWUC33o
数時間後、応援団・部室

すでに沙樹と宗像によって極秘の定例会議が開かれており、これまでの聖について語り合っていた。時間からしてもそろそろ翔が姿を現してもいい頃合なのだが、当の本人の姿は全くなくその影響からか沙樹の機嫌は頗る悪い。元来から時間厳守がモットーの沙樹からしてみれば遅刻するものはその例外なく良い印象は持ち合わせない。

「遅い! ・・中野は何をもたもたしてるのだ!!!」

「落ち着け。そろそろ来る時間帯だろう・・それにしても相良君は随分変わったとは思わないか?」

聖の劇的な変化は宗像達応援団にも激震を走らせており、これまで翔と考案していた対策は無用の長物と化してしまった。今の聖の傾向は2人のとっても実に良い傾向であり、このまま長く続けば3人で無駄に頭を抱える必要はなくなるのだが・・沙樹はこの傾向にどうも納得がいかない。

「確かに今の相良は普段の女性と何ら変わらない、総合的に見ても理想的な傾向だろう。・・だけどあまりにも都合が良すぎる展開だと思わんか?」

「珍しく消極的だな。俺も最初はそう思ってはいたが・・今の相良君の傾向から見ても多少の疑問には目を瞑ってもいいと思うぞ。それに今の相良君は我が高や他校を含めての暴力行為は激減しているし校内の評判も以前とは比べ物にならないぐらいに高い・・俺達が望んできた理想的なものじゃないのか?」

「そ、それは・・そうだが・・」

宗像の意見に反論も出来ずに珍しく押し黙ってしまう沙樹だったが、それと同時にようやく待ち望んでいた来訪者が現れる。

「おっす。遅れて悪かったな」

「遅いぞ中野!! 3分遅刻しておいて何事だ!!! 応援団員なら本来遅刻をすれば問答無用で校内20周で1分ごとに5週追加させていたところだぞ!!」

「遅刻たってそんなに時間経ってないだろ! ・・それに俺は応援団じゃねぇし、宗像からも何か言ってくれ」

「うむ。ならば保健室で1週間過ごすのはどうだろうか? 春日先生なら承諾はしてくれるぞ」

「・・それだけは勘弁してくれ」

翔がげんなりしたところで極秘の定例会議は開かれる、といってもあらかたの話し合いは殆どしてあるので語る事などあまりない。何とか捻るとしても今の聖の現状とそれに対しての今後の考察ぐらいだろうか?

「今の相良君はどうなんだ?」

「別に・・今頃は大人しく授業を受けているだろうよ。あいつがこの調子でいてくれれば俺達の目論見どおりにはなるんじゃねぇの? いや〜、あいつの性格が変わってから毎日が楽しくって困るなぁ。さっきなんてあいつからデートの誘いが・・」

「お前のお惚気はどうでもいい! ・・中野、お前はこの状況が出来すぎているとは思わないのか?」

「そりゃないと言えば嘘になるけどよ。・・でもんな事なんてどうでもいいじゃねぇかよ、時間が経てばどうにかなるだろ。今までのあいつは男時代を引き摺りすぎだったんだよ・・」

あまりにも楽観的な翔に沙樹は何故だかよく分からないが軽い憤りを覚える。

「貴様は今までの相良はどうでもいいのか!! ・・今は性格も変わっているがあまりにも不自然すぎる、お前は何とも思わないのか!!!」

「そうなんだけどよ、俺だって今まであいつの性格に苦労させられたんだ。お前も少しはあいつを黙って見守れよ」

確かに翔は今までの聖の性格については多少思うところがあった、
今までの聖は声には出さないものの男時代に散々つけたくてもつけられなかった自分との決着にこだわりすぎた
きらいがある、自分も聖との決着についてはつけたかったという想いはなくもなかったのだが、女体化した聖と初めて
出会ってからはその感情は恋愛のものへと変化してきた。

だからこそ今回の聖の変化はそういった自分への感情を清算して来た結果だと思っているので彼氏として自分が出来るのは聖を受け入れることだと思っていたのだが・・沙樹は頂点に達した怒りを翔に叩きこむ。
114 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:37:55.63 ID:HbGWUC33o
「・・貴様ァ!! 相良は今までの性格を簡単に変えれるほどの人間じゃないとわかっているだろ!!!」

「ハッ! てめぇだってあいつの変化を見てるだろ、今までの過去を清算して1人で女体化の苦難を乗り越えたあいつはお前と違って心身ともに女らしく生まれ変わったんだよ!!!」

「それは違う! 相良はお前との過去を未だに清算し切れていない筈だ!! 今の奴は・・女の性格に逃げた奴だ!!」

「それ以上言って見ろ・・いくらてめぇでも許さねぇぞ!!!」

沙樹の言葉に遂に翔も激怒する、あまりにも聖の気持ちを踏みにじったと判断したのだ。これ以上続けてしまえば無用な争いが生まれると判断した宗像は即座に2人を止めに入る、このまま放置すれば2人の性格からして仲間割れに入ってしまうのは確実だ、それに自分達が争っていても何らメリットはなく相乗効果は生まれない。

「熱くなるのはそこまでにしろ。・・とりあえず折中案として俺達は相良君への調査を打ち切るし、今までのようにお前達の関係に干渉はしない」

「お、おい! 何を勝手に・・」

「かといって俺や団長も今までの相良君の変化については少々疑問を抱いていたのでな。相良君の変化の原因を俺達に報告してくれないか?」

「まぁ、その程度だったらいいぜ。俺もあいつがどんな決断をして今の性格になったかは気になっていたしな」

宗像の提案に翔は迷うことなく賛成する、いくら聖が変わったと言っても未だにその要因を自分には語ってくれないので気になっているところだ。それに宗像も今回の聖の変化については個人的に興味もあるので是非とも聞いて起きたい内容だ。その目的を露呈する気はさらさらないのだが・・

「ならば交渉成立だな。今回はこっちも少しばかり言い過ぎた分がある、その点についてはこの場で詫びよう」

「刹那ちゃんといいお前等まで変な事言うからあれだけどよ、別に気にしてねぇよ。・・じゃあな」

そのまま翔は部室を後にする、それと同時に沙樹は先ほどの鬱憤を含めて宗像にぶつけ始める。

「宗像!! 何であんな事を言った、相良に関しては今後も・・」

「まぁ、待て。今のところ相良君には実害はないだろう、それに調査を打ち切るのはあくまでも相良君に関してだ。中野に関しては引き続けるつもりだ、奴を調査し続ければ自ずと相良君にもたどり着く・・これならば問題あるまい」

「むぅ・・」

とりあえず沙樹の矛の収まり具合を見ながら宗像はようやく一息入れる、それにしても宗像が意外だったのはあの沙樹が珍しく熱くなっていることだ。普段の応援団の会議ならば少し度が利かない場合もあるが、こういった個人的な会議で声を荒げるのは初めてだ。

「それよりもお前が相良君に関してそこまで熱くなるとはな・・どういった風の吹き回しだ?」

「いや・・実のところ自分でも分からないのだが、相良の変化にどこか納得できないのかもしれない・・」

沙樹自身も聖について何故翔に噛みついたのかは全くもってよく分かっていないけど今の聖については自分の中で納得していないと言うのは間違いはなさそうだ。

115 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:51:52.76 ID:HbGWUC33o
部室を後にした翔も先ほどの沙樹に対しては内心、驚きつつも妙に否定できなかった。翔も少しながら冷静さを失っていたのもあるのだが、まさか宗像ではなく今まで聖と直接的に対峙していた沙樹に言われるなど予想外にも程がある。

「まさか、あの団長にあそこまで言われるなんてな・・」

先ほどの沙樹の言葉を思い出しつつ翔は頭を掻きながら自分の心境を整理する、聖が変貌するまでは翔自身も
独自に聖のこれまでの行動を周囲の噂や友人の伝で調べてはいたのだが目ぼしい成果には至っていない、友人に
関しては着実な情報を調べてはくれているのだがその分時間は掛かっているようだ。翔とてあの聖の変貌振りには
完全に納得しているかと言われたら嘘になる、だからこそ沙樹の言葉を真っ向から避難することは出来なかった。

どんなに自分の中で理由をつけた所で肝心の聖自身がその事については全く持って話そうとしないのだから無理も
ないのかもしれないが、彼氏なのだから自分にだけは話して欲しいと言う気持ちはある。

「ま、考えたって仕方ないな。もうじき昼前だし・・ん、あれは辰哉と狼子か?」

偶然にも翔の視界に入ったのは狼子と辰哉、時間を見ると昼休みの時間に指しかかる頃合・・校内にもっとも生徒が活発になる時間帯なので彼等の姿があるのも至って自然だ・・気晴らしに翔は彼等の声を掛ける。

「よぉ!」

「あ、先輩」

「こんな所で何してるんですか?」

「大した事してねぇよ。それよりも久々に一緒に飯でも食うか? 奢ってやるよ」

少しばかりカップルの間に割り込んでしまった事に一瞬だけ罪悪感を覚えてしまう翔だが、これでも可愛い後輩なので先輩モードに入る。それに奢りという言葉に2人は同時に反応を示す、バイトでかなり稼いでいる翔とは違ってこの2人はお互いに金銭に関しては少々厳しい台所事情を抱えているので願ったり叶ったりと言ったところだ。

「えっ・・本当にいいんですか? でもそれは悪い気が・・」

「辰哉、それは失礼だぞ!! 折角先輩が奢ってくれるって言ってくれてるんだからここは甘えるのが後輩の役目だ!!」

「お前が一番失礼だぞ」

「何だと! 噛んでやる!!!」

「痛てててて!!!」

いつもの2人の光景に少しばかり苦笑しながらも翔は密かに財布の中身をチェックする、辰哉はともかくとして狼子の食欲じゃ聖を遥かに上回るがそれらを考慮に入れても学食程度ならギリギリ懐は痛まない計算になる。それにこの2人にはちょうど聞いておきたい事もあったし・・
116 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:53:50.76 ID:HbGWUC33o
「たまには後輩の為に奢るのも先輩の役目って奴だ。辰哉も狼子のようにもっと喜べ!!」

「それじゃ・・お言葉に甘えてゴチになります」

「いざ、学食へ!!」

狼子を筆頭に3人は学食へと向かう、食堂に着いた狼子はいつもより多めに学食の券を買って食堂のオバチャンに突き出す。翔と辰哉も狼子に続いて食券を買うと適当に空いている席を見つけて陣取る、ちなみに机は狼子の料理に考慮してか広い机を選んだ。

「先輩と飯食べるのも結構久々ですよね」

「そういや、そうだよな。最近は辰哉達の顔を見るのも久しく感じるぜ」

「先輩はいつも聖さんといるイメージしかなかったからなぁ」

(考えて見ればあいつの方が辰哉達とよくつるんでいるよな)

ちょっぴりだけ聖を見直した翔の前に狼子が大量に購入した食事が運ばれてくる、それにしてもこれだけ食べていても全く太らないのは女性としては羨ましい限りであろう。

「さって、食うぞ!!」

「よく頼んだな。太っても知らないぞ」

「俺は聖さんと同じように食べても太らない体質なんだよ」

そのまま狼子は大量の食事との格闘を始める、狼子の食事に対してカツ丼の辰哉に更に天ぷら蕎麦の翔の順はいささかシュールな光景だ。食事をしながら3人の間には色々な話題に華を咲かせるが話題は自然と性格が変わった聖についてとなる。

「そういえば最近聖さんの性格が変わったよな。前と違って丸くなった感じがするし・・」

「性格もどこか柔らかい感じになったよな気が・・って先輩の前で話す話題じゃないな」

「構うことはねぇよ。俺だってあいつの性格が変わった理由はわかんねぇし」

「えっ!! 先輩も聖さんの性格が変わった理由知らないんですか?」

狼子と辰哉は聖の性格が変わった理由を翔が知っていると思っていたので前々から聞いてみようと思っていたのだが、当の翔自身が知らないとなると謎はますます深まるばかり・・2人とて今までの聖の性格は良く知っている、だからこそ聖の性格が激変した時は様々な疑問を感じていたのだ。

「ま、あいつが喧嘩とかしなくなったのは大歓迎だけどよ」

「だけどあそこまで性格が変わったのには何かありますよ、本当に何も聞いていないんですか?」

「本人が話してくれないからよくわかんねぇんだよ」

聖の変化を考えるばかり翔には溜息しか出ない、といっても本人が話してくれないのだから仕方のないところだろう。

117 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:54:12.92 ID:HbGWUC33o
「・・聖さんは性格が変わったというより“性格が抜けた”って感じかな」

「何言ってるんだよ。先輩だって変わったって・・」

「どういうことだ? 狼子、ちょっと詳しく聞かせてくれ」

「あくまでも推測ですけど・・周りは聖さんの性格が変わったって思っているようだけど俺は違う気がする。今の聖さんからは不自然すぎるほど女を感じさせる・・だって最近聖さんと接しているとものすごい違和感を感じる、何だか今までの聖さんが突然いなくなった気がするんですよ」

普段から聖と接している狼子ならではの意見である、彼女とて普段の聖の変化については周囲が思っているほどの好意的なものではなくむしろ違和感の方を強く感じており、色々と考えているうちにどうも最近の聖は性格が変わったのではなく今までの性格が抜け落ちたと思ってしまうようになっていた。といっても狼子も女体化した人間であるのでそこらへんを考えると余計に聞きづらく今の今まで疑問に抱えたままであった。

「まぁ、今度本人に聞いてみるよ」

「そうですね。うまく行くように祈ってますよ」

「ありがとよ。んじゃな」

そのまま翔は狼子達よりも先にトレイを下げてその場から立ち去る、翔がいなくなったのを見計らうと狼子は意味深な発言をする。

「案外、今までの聖さんは人格が分裂してどこかに存在しているのかもしれない・・」

「そんな漫画やアニメのようなワンパターンなご都合主義な展開があるわけないだろ。それよりも先輩大丈夫かな」

悪かったな、ご都合主義のような展開で。
118 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:54:42.87 ID:HbGWUC33o
そのまま狼子達と別れた翔はその足で今度は保健室へと向かう、沙樹や狼子の言う事も一理あるのかもしれない。なんだかんだ考えても礼子は自分より女体化に関しての知識は自身の経験も含めてかなり豊富なほうだしかなり頼りになるのだ。

「よぉ、相変わらず平凡としているな」

「・・用がないなら帰れ」

「悪かったよ」

いつものように扉を閉めると礼子はそのままタバコを吸いながら応対する、翔が単独で保健室に訪問した場合は大抵こんな感じになってしまう。

「なぁ、礼子先生。あいつの性格についてだけどよ」

「あ、あのなぁ・・相良の性格が変わったのは俺も驚いているけど、ここは周囲が受け入れてやるのが大事であってだな」

「まだ何も言っていないんだけど」

聖の性格の変化にについては多田に予め言われていたのであまり動揺はしていない礼子だが、事の真実は周囲はおろか聖本人にもまだ話してはいない。

「・・んで、あいつの性格の変化についてだけどよ。礼子先生は何か知らないか?」

「知らん、それに相良がどう変わろうと俺がしてやれることは変わらん」

「ばっさりと言うな。・・そういやさっきからコーヒーの匂いが漂うな、タバコの臭い以外は初めてだな」

さっきから保健室内では香ばしい豆の匂いが広がっている、いつもは礼子の吸っているタバコの臭い以外は嗅いだ事がない翔だがこうしてコーヒーの香織も中々いいものである。

「コーヒーメーカーがあるからな。喉が渇いたらこうやって飲んでるんだよ」

「本当だ、よく見てみるとノートパソコンやらお菓子山積み・・って自分の私物増やしてないか? てか、そんなのあるなら俺にもくれよ。コーヒー好きだし」

「仕方ねぇな。これ以上はお前と秘密共有したくはねぇぞ・・」

「サンキュ」

礼子からコーヒーを貰ってご満悦の翔、インスタントとはいってもコーヒーメーカから淹れたコーヒーはかなり美味しいものがある。
119 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:55:36.84 ID:HbGWUC33o
「いや〜、タバコの臭いよりは健康的でいいな」

「そういや中野よォ・・てめぇ相良に俺がタバコ吸ってるのバラしてないだろうなァァァ――!!」

「ハァ? んなこと言うわけねぇだろ!!!」

翔にしてみれば礼子の秘密を他人にぶちまけるのは死に直結する行為だ、彼女を敵に回すのは自分にとってもメリットはないし何よりも怖い。

「だったら相良が俺のことをタバコ臭いなんて言わねぇだろ!!!!」

「そんなの知らねぇよ!! 心配しなくても約束通り誰にも話してねぇし、喋る気は更々ないぜ!!」

「本当に喋ってないだろうな。・・もし喋ったらてめぇの命はないと思え!!!」

「心得てます・・」

百戦錬磨の礼子の勢いにはさすがの翔も素直に白旗を揚げる、しかしながら学校の保健室で堂々とタバコ吸いながらコーヒーを飲んでいる礼子は傍から見ればかなり悠々自適に過ごしていると行っても過言ではないだろう。

「んでよ、話は戻るけど礼子先生は何であいつが性格が変わったんだと思う? 本人に聞いてみても話してくれねぇんだよ」

「本人が話さないんなら仕方ねぇだろ。・・相良だってそのうち話すだろ」

あらかじめ予想していたとはいえ始めて聖の変化を見た時は礼子も驚きを隠せないでいたが、慣れとは恐ろしい物で今ではそれに順応している自分が恐ろしいものだと思う。しかし翔にしてみればその礼子の冷静さが気になってしまうところ、まるで聖の変貌振りを予想してたかのような感じである。

「・・礼子先生さ、あいつについて何か知ってるだろ?」

「何言ってるんだよ。俺が知ってる筈・・」

「嘘ついたって無駄だぜ。思い当たる節は色々あるけどよ、俺が最初に保健室に来た時にあいつの性格の変化についてどうするべきか語ってたよな。・・俺が用件も言わないうちによ」

「あのなぁ、てめぇが俺に相談する事と言えばそれしかないだろ。だから俺は――」

「だったら何であいつの話題を避けるんだ? いつもはあいつとの関係について俺に説教の1つぐらいはしてるだろ」

「そ、そいつは・・」

珍しく動揺を隠せない礼子に翔の疑惑は確信に変わる。いつもの礼子なら自分と聖との関係についてはある程度の
アドバイスはしつつも大抵は説教の1つや2つは飛んでくる、それだけ自分達を心配してくれるのかもしれないが
今の礼子は聖については話題に出そうともしない。それに礼子の態度からしても今回の聖について何か知っている
のは明白だしこれ以上は礼子と腹の探り合いをしたって意味がない。それにこのまま対峙しても翔は引き下がらない
だろうし、どれだけ巧妙に言い繕っても決して納得はしてくれないだろう。

しばらく静寂が続く中で礼子は観念したかのようにタバコを吸い出すと重い口を遂に開く・・
120 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:56:03.66 ID:HbGWUC33o
「はぁ・・どうせこのままてめぇは俺から引き下がらないんだろ?」

「礼子先生はあいつと同じで性格が分かり易いんだよ。なんせあいつの究極進化系だからな」

「全く、大した野郎だ・・」

そのまま礼子は数日前に多田と行った聖とのやり取りを語り始める、礼子から語られる真実の数々は不思議にも先ほどの狼子の意見と似たもので翔は心中に様々な思いを秘めながら静かに礼子の話に耳を傾ける。全てを語り終えた礼子はタバコを消すと温くなったコーヒーを飲んで一息つく、翔は驚きはしなかったものの礼子が語ってくれたおかげで今まで聖に感じていた違和感が薄まってきているのがよくわかるが、それと同時に昔の記憶を掘り起こしながら聖との決着について今の自分の気持ちを整理させる。

「これで相良に関して俺が知っていることは以上だ。それにしてもこんな事も聞かされてよく驚かないな、俺も最初聞かされたときは驚きっぱなしで変になるかと思ったのに・・」

「さっきも似たような事を言われたからな。それにしても男の時のあいつと分裂とは・・これも因果って奴か」

「男時代の相良についてはお前のほうが良く知ってるだろう。・・中野、俺も言われたんだがこれはあくまでも相良自身の問題だ。今の性格自体が相良自身が望んだ結果でもあると言うこともあるということも忘れるな」

「あいつ自身が望んだ事・・?」

「そうだ、人の心ってのはそう簡単には踏み込められん領域がある。俺が出来るのは黙って相良を見守ってやる事だけだ」

口惜しそうに礼子は再びタバコを吸い始める、今の礼子が聖にしてやれることはその様子を黙って見守りながら正しい方向に進めてやることだ。

「女体化した人間が自分の自己に悩むケースはかなりある。そりゃ今まで男で過ごしてきたのに童貞だからって急に女に代わっちゃうからな、本人や周囲の価値観にもよって選択肢は様々だが下手したら昔の俺みたいに自殺に走ってしまうケースだってある。

・・それだけ女体化ってのは難しい問題なんだよ」

「俺はあいつのためにどうすれば良いと思う?」

「相良本人が話してくれないなら“話してくれるまで待つ”というのも一つの選択肢だぞ。・・相良は決して独りではない、お前達で相良自身が納得できるような選択肢を創ってやれ」

「そうだな。・・どんなに性格が変わろうと俺はあいつの彼氏だしな」

「さて、もう俺に用はないだろ。さっさと戻れ」

「わかったよ。・・ありがとな、礼子先生」

そのまま翔はコーヒーを飲み干すと保健室を後にする、そして携帯をチェックすると待ち望んでいた友人のメールに目をつける。メールの内容は翔が依頼していた聖の調査結果の報告だった。
121 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:56:51.70 ID:HbGWUC33o
幼馴染兼かつての中学時代の戦友との久しぶりの再会、昔よく溜まり場として利用していた喫茶店で落ちあう。天使守護団と呼ばれた3人は今は現役を退きながら就職や進学しながらそれぞれの道を歩んでいる、今回は代表として1人しか出てこれなかったが久々の再会と言う事もあってそれなりに砕けた雰囲気となったのだが当の翔はあまり喜べずにいた。

「久しぶりだね、翔君」

「ああ、他の奴等はどうしたんだ?」

「皆それぞれ忙しいみたいだよ。だから代表として僕が来たんだ・・ま、積もる話もあるけれど本題から行こうか」

彼も本来ならいつもみたくいきたいのだが、翔の只ならぬ雰囲気を察したのか本題である聖への調査内容を報告する。

「ゴホン。まず相良は今までにも県内の有名な高校はほとんど〆ているね、数が多すぎて俺達3人じゃ詳細まとめるのに苦労して遅くなったんだよ。まぁ、大体はカスに等しいから省くとして・・ヤバイとこだと悪名高き極殺高校も手を下しているみたいだね」

「極殺高校は俺も把握している。前に色々とあったしな・・」

「あ、そうなんだ。・・それとね、もう一つは羅刹(らせつ)高校の連中が嗅ぎ回っているようだね、相良の身辺調べてたら羅刹高校の連中をちょろちょろ見かけたよ」

「お、おい・・羅刹高校って言えば極殺高校と並ぶ悪の進学校じゃねぇか!!」

「あの金武愚の連中がかなりいる事で有名なところだ」

羅刹高校とはかの有名な極殺高校と並ぶ、この県内では有名な悪が集う高校である。
在校している人間の殆どが将来は悪のエリートコースを約束された連中ばかりであり、大抵のどうしようもない
不良中学生が進路の時期に教師に提示される進学コースは極殺高校か羅刹高校が提示される。
この県内出身の暴力団の90%以上の最終学歴は極殺高校か羅刹高校を占めており、当然の事ながら喧嘩の腕も
かなり立つ。

なお全国的に有名な暴走族である金武愚メンバーの2割は羅刹高校の人間が多い、極殺高校とはその宿命からか争いが耐えないものの警察立会いの相互不可侵条約が締結されているので大規模な争いはなく、今の所は小競り合い程度で収まっているのだが・・それがいつ持つかは誰にも分からない。

翔からすれば羅刹高校の名前が出たところでその心中は穏やかではない。

「あの野郎・・極殺高校だけでなく羅刹高校にまで手を出してやがったか――」

「互いの高校は翔君も知っての通り、相互不可侵条約で小競り合い程度に止まっている。金武愚の力を借りている羅刹高校と質と地力で勝る極殺高校の争いは小競り合いでも凄まじいものだしね」

「確か最近の全面戦争は警察の機動隊まで出動したぐらいだからな。・・極殺高校の件が片が付いたと思ったのに今度は羅刹高校かよ」

「まだ連中の動きがわからないけど羅刹高校が相良に関わっているのは確実だよ」

友人の報告に翔は思わず現実から逃げ出したくなってしまうが、今まで聖が関わっている以上はなんとしてでも聖を全力で守り通さなければならない。いくら聖が強くても所詮は1人・・数を物にする物量戦では成す術もない、正直言っても翔も羅刹高校が本格的に関わっていないことを祈りたいところだ。それに自分と共に戦った昔の戦友達は今は現役を退いてそれぞれの道を立派に歩んでいる、自分の争いに彼等を巻き込むのは絶対にさせたくないし何よりも自分のプライドが許さない。
122 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:57:12.46 ID:HbGWUC33o
「・・翔君に何かあったら僕達はいつでも駆けつけるつもりだよ」

「バカ野郎、お前達はもう俺に付き合わなくてもいい・・これは俺1人の喧嘩だしな。下らねぇ喧嘩に首突っ込まないでてめぇ等は自分達の将来を歩め!! ・・いいな」

そのまま翔は立ち去ろうとするのだが、友人は何かを思い出したかのように慌てて翔を引き止める。

「ちょ、ちょっと待って!! ・・実は相良に関してはまだ奇妙な噂があるんだ」

「まだあんのかよ・・一体どんな噂だ?」

「相良が女体化したのは僕達もよく知っているし実際に目撃した。・・だけどね、ここ最近になって相良 聖と名乗る男が各高校を〆廻っているんだよ。それに容姿や喧嘩のやり方も昔の相良そのものなんだ」

友人の話は更に続き、その相良 聖と名乗る男はかってのトレードマークでもあった木刀を片手に次から次へと見境なしに不良達を〆ていると言う。それに容姿も女体化する前の聖と完全に一致しており、男時代の聖を知る人間は今も恐怖のどん底で病院のベッドで伏せていると言う。更に詳しく話を聞いているうちに翔は狼子と礼子の話を思い浮かべながら新たに現れた相良 聖について考察して見る。

「なぁ、その相良 聖が出てきたのはいつ頃の話だ?」

「えっと確か・・翔君から連絡を貰った日ぐらいかな? だけど奴が女体化してるのは常識みたいなもんだし、所詮は相良を模倣した奴がやったんじゃないの。奴のやり口なんて散々知り尽くしている俺達がそんな噂に・・って何さっきから怖い顔してるの?」

(俺が連絡した日って言えば礼子先生とあいつが病院に出かけた日だな。それに狼子の主張や礼子先生の言葉を踏まえたら・・完璧とは言えないがおおよそは繋がるな)

最初は信じられずにいたもう一人の聖の存在が翔の中で具現化していく、それから先の行動は既に決まっている、情報を元に聖の存在を掴みながら行動していくだけだ。もしそのもう1人の聖が人格が分裂して別れてしまった聖ならば自慢の拳で叩きつけて事情を聞き出すのみ、後はそれに即したベストな行動を辿ればいい・・極端な話、もう1人の聖を確保するだけで良いので行動をする過程で無理をせずに羅刹高校と事を構えなくてもいい方法も見つかるはずだ。

「ありがとよ。お陰で行動できるぜ!!」

「翔君も無茶な行動は控えてよ。お互いにそろそろ現役を退いてもいい歳なんだから・・」

「フッ、数々の経験で培われた俺の頭脳を舐めんなよ!! じゃあな!!」

今度は水を得た魚のように翔は即座に清算を済ませると行動を開始する。とりあえずはこれからは親に強請って買ってもらったセーフティハウスを行動拠点にしながら即座に椿に事情説明をメールで済ませるとこれからの安全確保の為に聖をセーフティハウスへと呼び寄せる、しかし肝心の翔は椿への手回しと・・そして何よりも聖の行動の早さを計算し忘れていたのであった。
123 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:57:51.88 ID:HbGWUC33o
翔が友人からの報告を受けていた同時刻、辰哉と狼子はちょっとしたピンチに陥っておりとある男と対峙していた。

「てめぇ等が木村 辰哉と月島 狼子だな。・・素直に俺の人質になりな」

「な、なんだと!!」

「俺達の名前を知っているとは・・何者だ!!」

辰哉達と対峙していた筋骨隆々の男は木刀を振り上げると高らかに自分の名を宣告する――

「俺か? よく聞け、俺様は血に飢えた狂犬・・相良 聖だァァァァ!!!!」

「「なっ――・・」」

男の名は狼子と辰哉が若干怖れながらも男らしさと強さを兼ね備えていた偉大なる先輩であり、尊敬をしていた誇り高い伝説の不良・・相良 聖その人であった。彼こそが悪魔によって女の聖を叩きのめし、男時代の肉体を得て出て行った正真正銘の男の聖・・躯から嫌でも感じるオーラと全てを威圧させるビリビリとしたその雰囲気は嫌でも彼等2人はこの人物を相良 聖と認めざる得ない。だけども狼子は決してこの人物を聖とは認めたくなかった、今までの聖は強引で無鉄砲の所があったのだが2人にとっては優しく自分よりしたの者に対しては決して力を振るわない誇りを持った人物だ。それに狼子は勿論の事、辰哉とてそう易々と屈指はしない・・修学旅行での経験が彼を一回り成長させたようだ。

「俺達が人質になれだと・・断る!! 俺は狼子を貴様のように他人の名前を騙たるような奴に渡さないッ!!!」

「それに勝手に聖さんの名前を騙りやがって・・いいか!! あの人はてめぇのようなデカ物が簡単に名乗っていい名前じゃないんだよ!!!」

2人は怖れず、堂々としながら目の前の聖と対峙するのだが・・対する聖は少し目を瞑りながらこれまでの記憶を洗い流す。今までの聖と混在していたこの聖は女体化する前の記憶は当然保有しているし、女体化してから分裂するまでの記憶も当然のように頭の中に存在する。だからこそ辰哉達の居場所を掴むのは余り苦労しなかったし、彼等の性格をも見抜く――

「相変わらずてめぇ等は甘っちょろいな。・・それに中野とかに色々動かれても面倒なんでね、さっさと俺の人質になれ」

「何度も言ってやる!! 俺は・・お前に屈したりはしない!!!」

「チッ、中野の影響で青臭いことしやがって・・しゃあねぇ、力づくで行くしかねぇな」

聖はそのまま拳を鳴らすと巨体な身体に似合わず俊敏な動きで一瞬で辰哉の懐に入ると強烈な一撃を辰哉に叩きこむ、叩きこまれた辰哉は痛みを感じる事すらなくそのまま意識を途絶える・・辰哉を気絶させた聖はそのまま次の標的を狼子に変える。

「ガハッ――・・ に、逃げろ狼子・・」

「た、辰哉――!!」

「電光石火による一撃・・女の俺もよくやっていたろ。まぁ、俺は合気道なんて言う生易しいことはしないけどな」

思わず身構える狼子だが聖の圧倒的な力を見せつけられて思わず後ずさりしてしまう、このまま上手く振りきったとしても聖に追い詰められて捕まってしまうのがオチだろう、それに辰哉をこのまま放っては置けない。

「さてと・・残るはてめぇだけだな狼子。辰哉みたいに無駄な抵抗をするか?」

「・・ッ! あんた何者だ!」

「何度も言っているだろ、俺は相良 聖・・もっと正確に言うならば男時代の相良 聖だ。ここでてめぇ等を人質に取れば女の俺と中野が出てくる、それに他に厄介な野郎達に先を超されたくはねぇからな」

「聖さんは誰かを人質に取ったり・・ましてや俺や辰哉を傷つけたりなんかしない!! あんたは聖さんとは違う!!」

「物分りが悪い奴だ。・・とっと俺の人質に――」

聖の身体から第六感が発せられ自分達以外の気配を感じ取ると同時に藍色の学ランの姿を纏った人物が四方八方と出てくる、聖は気配から脳内で数を集計すると苛立ちを顔に出す。
124 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:58:34.99 ID:HbGWUC33o
「チッ、その制服は・・羅刹高校だな。そっちが先に現れたか」

「相良の身辺調べていたら、変な奴が出てきやがったぜ。・・まぁ、1人は気絶しているようだから予定通りにこいつら2人を拉致るか」

「この俺様を無視するとはいい度胸だ。羅刹高校の連中なら少しは楽しめそうだぜ!!」

闘気を纏わせ聖は構える、言葉から察するに彼等の目的も自分と同様に狼子と辰哉を拉致して人質に取る算段だろう。しかし先に狼子達に目をつけたのは自分なのでそれを邪魔をされるのはもっと面白くない展開だ、羅刹高校の連中は聖達にじりじりと距離を詰めるが聖はそのまま木刀一突きで1人に放つ。不意打ちを良くした聖はそれに乗じて混乱している羅刹高校の人間をそのまま叩きのめして一気に4人をのしてしまう。

「て、てめぇ――!! 不意打ちとは・・」

「喧嘩に卑怯も糞もねぇ!! 俺に勝ったらそこにいる狼子と寝ている辰哉を遠慮なく持っていきな・・」

「グッ・・やっちまえェェェェェ!!!」

「「「「「うおおおおおお!!!!!!」」」」」

羅刹高校の人間は一斉に聖に襲い掛かる、聖は縦横無尽に駆け巡り容赦のない拳と木刀を駆使しながら殲滅させる。それに聖は周囲にも気を配り狼子と辰哉に振りかかりそうな人間を容赦なく潰していく、自分の何度かダメージを受けながらも決して怯まずうろたえずに羅刹高校の人間に阿鼻叫喚の如く地獄を見せつける。

「つ、強ェ・・」

「俺は中野みたいに最後の一人にも容赦はしないんでな。くたばりやがれぇぇぇぇ!!!!」

そして聖は最後の人間をも今までと同様に再起不能にまで叩きのめしたのと同時に辰哉も意識を取り戻す。

「うっ――・・な、何だこの光景は!!」

「辰哉!! 目を覚ましたんだな」

「お、おいおい狼子・・暑苦しいからあまりくっつくなよ」

「心配したのにその言い草は・・噛んでやる!!」

「痛ててて!!!」

(グッ――・・な、なんだこの痛さは!! 女の俺が持っていた記憶が頭の中に何か流れ込んでくるだとッ!!!)

2人のいつもの光景が広がる中で突如として聖に強烈な頭痛が生じる、先ほどの激闘とは比べ物にならないぐらいの痛さが聖の頭を抉るように刺激する。それに今まで聖が過ごした思い出が聖の脳内を痛みと共に一気になだれ込む、辰哉と狼子の光景を必死に拒絶しながら痛みを強制的に打ち消す。

「この制服って・・あの悪名高い羅刹高校かよ!! 狼子、大丈夫か?」

「俺は大丈夫だけどよ、助けてくれた相手が・・」

狼子は先ほどの激闘の様子を辰哉に語り出す、対する聖はようやく痛みを抑えたのか再び狼子達と対峙する。
125 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:59:30.84 ID:HbGWUC33o
「さっきは俺達を助けてくれたみたいだな」

「助けたんじゃない・・羅刹高校の奴等に先を越されるのが嫌なんでね。さっさと俺の人質になって貰おうか・・どうもこいつ等はてめぇ達に目をつけてたみたいだしな」

ここで聖から逃げても羅刹高校からの追っ手は辰哉達を容赦なくつけ狙うのは明らか、今回はたまたま聖が偶然にも
いたから難を逃れる事が出来たのだが次に同じ事態に陥った場合は想像もしたくない。
それに狼子はこの聖に対してどこか懐かしい雰囲気を感じるし、更には自分達の名前をフルネームで知っている。
この男が自分がよく知っている相良 聖ならばこっちもそれなりに確かめる必要がある。

「あんたが男時代の聖さんなら・・何で直接先輩とこへ行かないんだ?」

「俺の目的は中野だけじゃない、女の俺を再び完膚なきまでに粉砕することだ。お前達が人質になればあいつ等は出てくる・・」

「さっきから女の自分って言っているけど・・まさか、急に聖さんが変貌した原因はお前かッ!!」

「変貌だと・・?」

「・・やっぱりこの世界に干渉するのは面白いねぇ」

3人に呼応するように現れたのはこの全ての元凶である悪魔、彼(?)は自分の引き起こした状況を愉しみながら見定める。

「だ、誰だ!! 次々と変な奴等が現れるな・・」

「お前はこの世界の木村 辰哉だな。いやぁ、女体化がある世界は面白い」

「な、何だこいつは・・」

悪魔は満面のない笑みで登場すると自己紹介しながら全ての状況について説明する。

「俺には名前がない、好きな名前で呼ぶがいいさ。・・元々1つだった相良 聖の人格を俺の力で2つに分けた、その証拠に今は存在しない男時代の相良 聖が此処に存在している」

「ふざけたこと抜かしやがって!! それに悪魔のコスプレなんて今時流行らないぞ!!」

「これが俺の正式な姿なんだ月島 狼子。それに別の世界の君も似たような状況になっていたからな、それはそれで観ていて愉快だったよ」

クスクスと笑う悪魔に狼子は怒りを募らせ、聖もまた悪魔の来訪には不快感を示す。

「今頃、何のようだ。こっからは俺の喧嘩だ、てめぇは口出すな」

「おおっ、怖っ。・・心配しなくても俺はただこの状況を面白おかしく観るだけよ」

「今の話が本当なら逆に相良さんを元に戻せるのか?」

「ああ、俺と契約すれば可能だが・・それには寿命をそれ相応に頂く、世の中そんなに甘くないよ。木村 辰哉君」

当初は悪魔の言っている事など信じられなかった2人だが、聖の言葉などから信じざる得ない・・しかし悪魔のやっていることは完全に自分の愉しみだけに聖を巻き込み、あまつさえこの状況をせせら笑う悪魔の態度に狼子と辰哉の怒りは爆発する。

126 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 12:59:55.15 ID:HbGWUC33o
「人の悩みに付け込んで自分の娯楽のように愉しむ貴様の態度は許せんッ――!!」

「力づくでもてめぇをぶちのめして聖さんを元に戻して貰うぞ――!!!」

「おおっ、怖い怖い。それじゃあ、ここは本人の意見を尊重しようか・・相良 聖、君はどうしたいんだい?」

「ハッ。決まってらぁ・・この身体で中野と女の俺を完膚無きにぶっ潰すだけだ!!!」

拳を力いっぱい握り締めた聖からは荒々しさが更に引き立つ、聖を止められない以上は全ての元凶である悪魔を力づくでも止めなければならないと辰哉と狼子は身構えるが2人の身体は思うように動かない、それに悪魔から発せられる底知れぬ恐怖が2人の身体の髄に染み込んでいるようだ。

「ほら、本人もそういっているじゃん。それでも俺を力づくで止める?」

「情けねぇ!! 怖くて身体が動かねぇ・・」

「ど、どうなってるんだ? これもこいつの力なのか・・」

2人に気を良くしたのか悪魔は嘲笑する。

「どうしたんだい? 力づくで俺を抑えるんじゃなかったのかい」

「おい、勝手に俺の人質に手を出すな。てめぇでも容赦はしねぇぞ」

「悪魔に喧嘩売るとはね、でも俺の用件は終わった。・・そうそう一つだけ言っておくよ。君は相良 聖という人格から分裂したんだ、今存在している女の相良 聖とは過去の記憶を始めとして全てが繋がっていることを忘れるなよ」

「何を言うと思えば・・悪魔が人間の心配とは笑わせてくれる」

「フフフ・・さっき君がこの2人に対して患った頭痛のは過去に相良 聖が心許していた存在だからだ。人格が分裂した影響で女の相良 聖に君の記憶の断片が存在するように君にも女の相良 聖の記憶の断片が存在している・・これから君がそれにどう抗うか見物だよ」

そういって悪魔は3人から姿を消すと同時に狼子と辰哉の身体に纏わりついた恐怖心もなくなる、悪魔が去った以上は真相を知った辰哉と狼子がやるべき事と言えば今ここにいる聖を止めて元に戻すほかない。

「こうなれば・・あんたを止めるしかない。狼子、お前はすぐに聖さんの元へ――」

「ま、待って辰哉! ・・なぁ、俺達を何で人質に取るんだ。本当は羅刹校の目を俺達から逸らすためじゃないのか?」

「なに寝惚けてるんだ? てめぇらを人質に取ればあいつらは必ず現れる、羅刹高校に人質に取られたところで俺に取ったら痛くも痒くもない。むしろあいつ等と羅刹高校を潰せて好都合だ」

聖が狼子達を人質に取れば少なくともさっきのように羅刹高校の連中に襲われる可能性はぐっと低くなる、それに悪魔の言葉が本当ならば今の聖にも自分達の事を大事に想う心がまだあることになる。

「決めた、人質になってもいいぜ」

「狼子――!! 何言ってるんだ!! こいつは聖さんだけど性格はまるで違う、それにこいつは先輩を狙っているんだぞ」

「それに羅刹高校の人質になるなんて想像もしたくない。それにこの人にも俺達が知っている聖さんの記憶があるならまだ希望はある」

「・・まさか狼子に納得させられるとはな。確かにこのまま俺達がじたばたしても羅刹高校の連中に捕まってしまうのがオチだ、先輩には悪いけど俺も人質になってやるか」

(ようやく人質になったか・・これで後はあいつ等を呼び寄せるだけだ!!)

こうして辰哉も同意した事で2人は晴れて(?)聖の人質となる、ただ普通と少し違うのは彼等は不本意で人質になったわけではなくそれぞれの目的に従っての合意があっての人質関係となるところだ。聖も2人の思惑を知りながらも人質にすると言う当初の目的は果たしたので後は行動を起こすだけである。
127 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:00:41.47 ID:HbGWUC33o
辰哉と狼子が聖の人質になっていた頃、こちらの聖も道場でドクオ達を指導しながら自身も鍛錬を重ねてその実力を更に昇華している。

「相変わらず見事じゃな。性格が変わってから技の練度や実力がかなり上がっておるぞ」

「ありがとう、おじいさん。でもごめんなさい、いつも道場の人間全員を一気に相手にして・・」

「な、何!! そのぐらいは構わんよ、集団戦こそよい鍛錬になるしの」

表向き道場の師範代である彼も聖の性格の変化に動揺は隠せなかったものの、以前とは180度違う穏やかな現在の性格になったのは手放して喜びたい。それにここ最近は聖のお陰もあって門下生の数も増えているので道場の名前が広がり経営的にも聖様様と言ったところだろう。

「ハァハァ、戻ってきたぜ・・」

「ら、ランニングはこれで終わったお・・」

「ご苦労様。・・それでは次は2人で私を倒しなさい、ハンデとして一度でも私をダウンさせたら私の負けにするわ」

汗だくで戻ってきたドクオと内藤に聖から更なる試練が立ちはだかる。これまで2人には聖から非人道的とも言える様々な鍛錬を科せられており、その成果が着実に実っているのか2人の実力はめきめきと上がっている。しかし鬼のようなランニングが終わって休む間もなく聖の相手をするのは死にに行くようなものだ、いくら性格が変わろうとも道場ではいつものように手加減抜きで一蹴されるのがオチである。

「す、少し休ませてほしいお・・」

「全くだ・・」

「そうよ。ただえさえあんたは強いんだから全力の状態で戦わせてあげなさい」

「・・しょうがないわね、ツンに免じて休憩が終わったら続けるわよ」

3人の光景に見るに見かねたツンに促されてようやく聖が折れる、普通ならツンの意見ですら押しのけて我を通そうとする聖であったが性格が変わってからはそのやり取りにも変化があるようだ、ドクオと内藤が休憩を取りながら聖もツンと一緒に休憩する。

「それにしてもあんた本当に変わったわね、いろんな意味で驚かされるわ」

「そ、そうかな?」

ここ数日の聖の変貌に誰よりも一番驚いたのは翔や辰哉と狼子ではなく他ならぬツン本人である、常に聖の身近にいる彼女にとって今回の聖の変化には言葉を失わせるには充分だ。最初は自分の余計な一言で聖が無理して変化しているのではないかと思っていたのだが、その疑問はすぐに消え去った。更に聖を見て行くうちに次第とその感情の変化は自然なものへと変化していって今のように至ったとツンは考えている。

「ねぇツン、今の私って女らしくなったのかなぁ?」

「何言ってるの、今のあんたはどこから見ても普通の女よ」

「昔の私は男だったとみんな言うけど、あまり思い出せないからつい・・ね」

記憶の改竄は進行しており、今の聖には自分が過去に男だったと言う記憶すら思い出せない状態にまでになっておりそれが今の聖を苦しめている。過去の自分は紛れもない男だった事実は周囲や今までの自分のアルバムを見ても明らかなのだが、残念ながらそれを証明する記憶は今の自分には存在しない、自己を確立できない苦しみとギャップが襲い掛かるのだ。

「・・大丈夫、誰がなんと言おうと今のあんたは列記とした相良 聖には違いないわ」

「でも怖いのよ。優しさで翔君は私を包んでくれるけど、素直に甘えて良いのかな・・」

「私はいつまでもあんたの味方よ。か、勘違いしないでよ!! 私はあんたが心配であって・・」

「フフフ、ありがとうツン。何とか吹っ切れそう」

今の聖にはツンの優しさが大きな支えだ、自分は決して孤独ではなく周りの人間に支えられている存在なのだと思う。今の自分は一人ではないと納得付けた聖はそのままドクオ達との鍛錬を再開するのであった。

128 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:01:30.07 ID:HbGWUC33o
道場からの帰り、いつもならばドクオと内藤が一緒にいるのだが、珍しくも2人は用事があるため今回はツンと2人で帰宅する事となった所存。しかしツンには先ほどのやり取りが気になるところ、表情も普段どおりに装っているところがその姿がツンには悲しそうに見えた。

「今日も疲れた・・」

「あんたは日頃から常人よりも動きすぎなのよ。少しは休むのも重要なの」

今までであったら聖の口からこのような言葉などなかったはずなのだが、性格が変わってからどうも愚痴っぽくなっている。だけどもツンはそれらの言葉をただ単に受け流すのではなくこうして受け止めながら言葉を返してあげるように心掛けている、そうしてあげないと聖は塞ぎ込んでしまうような気がしてならないのだ。

「そんなことなかったんだけどな・・でも動かないのは性に合わないんだよね」

「変な悩みね。それよりも服とかは買わないの、あんたオシャレには無頓着だから」

「そーんーなーこーとーあ・り・ま・せ・ん!! そ、そりゃ・・今まではアレだったけど、最近は雑誌見ながらやってみようかなぁっと・・」

「・・結局、やっていないわけね。よし! ちょっとあたしに付き合いなさい、いいところ案内してあげるから」

「ちょ、ちょっとツン!! 引っ張らないでよ・・」

いつもとは違う光景にツンは少し微笑しながらも普段とは違う抵抗をする聖に何とも言えない可愛さを覚える、それにせっかく性格を変わっているのだからここは趣向を変えるのもいい機会かもしれない。ツンが聖を引っ張っていくといった世にも珍しい光景が繰り広げられる中、2人の目の前に意外な人物が姿を現す。

「・・何をしているんだ?」

「あ、あんたは・・」

「もしかして・・藤堂さん?」

2人の目の前に現れたのは応援団団長 藤堂沙樹、適度に息を整えながらタオルを首に掛ける姿はスポーツマンらしい姿と言える。珍しく部活が早く終わった沙樹は余った時間は無駄にせまいと日課であるランニングを延長していたのだ、彼女もまた己の向上の為に身体を鍛えているのでそういったところでは聖と相似ている部分であろう。しかし沙樹は今の聖の性格を快くは思っていない、普段の女の子のようにこうして引っ張られる姿など心なしか余り見たくはなかった。

「藤堂さんはどうしてここにいるの?」

「たまたまランニングで通りかかっただけだ。・・邪魔したな」

このまま留まっても意味がないと判断した沙樹は軽い会釈をしながら小走りに走り去ろうとするが・・何を思ったのかツンは沙樹を呼び止める。

「ちょっと待った! ここで会ったらなんとやら・・藤堂さん、あんたにもちょっと付き合って貰うわよ」

「な、なんだと!! それはどういう・・」

「いいから黙ってついて行きなさい!!!!」

ツンの気迫に押されたのか沙樹も聖と同時に引き摺られながらとある場所へと連れて行かれる、それにしても1人の少女に2人の武道人間が引っ張られる光景はなかなかシュールなものだといえよう。
129 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:02:23.94 ID:HbGWUC33o
3人がいきなり連れてこられたのはツン御用達の古着屋である、いきなり連れてこられた2人にはツンの思惑がわからない。

「ここは・・?」

「洋服屋よ。古着屋だからお金のないあんた達でもお手軽に買えるし、結構いい物も多いわよ?」

ツンの言うように2人の台所事情は優しいものではないのだが、聖はともかくとして無理矢理連れてこられた沙樹にしてみれば突然の事で何の事やらわからない、それに自分はこれから鍛錬があるので暇な時間などないのだ。

「おい! 俺は暇じゃないんだ、こんな所に連れてこられても困る」

「そんなにかっかしないの。あんただって応援団が全てじゃないでしょ、たまにはこういったのもいいなじゃないの?」

「何を言っている!! 相良、お前も少しは・・」

「あ、これ可愛いよ。藤堂さん〜」

「・・・」

聖の適応の高さに思わず溜息すら出る、自分がよく知っている聖はここで抵抗の1つや2つはするものだと思っていただけに少しばかり喪失感が募るばかりだ。

「さて、あんたの服も選んであげるわよ」

「ちょっと待て!! 俺はまだ――」

そんな沙樹の油断を突いたのか聖が背後に回り込むと、なにやら嫌らしい手つきで独自の測定を始める。

「フムフム、3サイズはそこそこと言った感じだね。胸に関しては・・私より小さめで狼子よりは大きい、察するに体重は私よりも若干軽いとは――」

「なっ――・・さ、相良!! その手を離せ!!!」

(まるで変態親父とキャバ嬢ね・・)

しかしながらこの2人の関係は本来ならばこんなに穏やかではない、それは他ならぬ聖自身も分かっていることだと思うのだが・・案外これが聖の本来の人格なのかもしれない。
130 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:02:45.95 ID:HbGWUC33o
「や、やめろ!! それに俺はこんな格好など・・」

「え〜、可愛いじゃん! あ、こっちもいいかもね」

「ひ、人の話を聞けぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

とまぁ、聖主導による沙樹の着せ替え大会がここに開催される、さすがの沙樹も聖の動きに翻弄されて様々な服を試着させられてしまう。

「相良・・貴様、この俺を愚弄する気かッ!!」

「別にそんなつもりはないんだけどな。あっ、こっちもいいんじゃないの?」

「この2人が顔つき合わせる度に喧嘩してたなんて信じられないわね。さてあんたも藤堂さんばかりじゃなくて自分のも選ばないとね。上の服がこれだったらこのジーパンなんてどう?」

「おおっ、さすがツン! では小物は・・こんな感じかな」

「いいセンスね。藤堂さんだったら・・この服にパンツはこれでいいわね」

「俺も・・着替えないとダメなのか?」

「当たり前でしょ、2人とも仲良く着替えるのよ」

もはやこの雰囲気に覆されないと判断した沙樹は聖と一緒に大人しく試着室へと向かう、そして数分後・・周囲の注目を一新に浴びた2人の姿があった。選んだツンもどこかしら満足げである。

「やっぱり元のパーツがいいと違うわね」

「そ、そうかなぁ・・」

「・・何で俺がこんな姿に、宗像には絶対に見せたくない」

「さて、次行くわよ!!」

こうして周囲の注目を浴びる中でツン主導による着せ替え大会が続く、しかしこういった光景が文章だけの表現なのは非常に残念な話である。

131 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:04:23.69 ID:HbGWUC33o
古着屋を後にしてそれなりの荷物を抱えた沙樹と聖であるがその表情は対照的である。

「どうだった? たまにはいいものでしょ」

「高そうに見えて結構安かったし・・それにツンはセンスがよくって羨ましいわ」

「・・もういっそのこと俺を殺してくれ」

結局、周りに押され押されてツンが選んだ服を渋々購入した沙樹だったがその表情はかなり沈んでいる。それとは対照に聖の方は実に晴れやかな表情で服やら色々購入しようとしたのだが流石に予算不足も合ってか泣く泣く見逃してしまったものが多々あるが、それらを差っ引いても購入した服の数々は聖にとって大いなる財産となるであろう。

「まぁ、流行とかが気になるなら雑誌もいいけど・・やっぱり新作を抑えるためにも街へ行って直に見る事のも重要よ」

「なるほど・・それにしても藤堂さんはさっきから元気がないね」

あまりにもがっくりしている沙樹を聖は心配するのだが沙樹にしてみればこういった服など不要の一言であり、正直言ってありがた迷惑そのものある。

「慰めは無用だ!! 余計に惨めになる・・」

「全く、頑固と言うか不器用な性格してるわね」

沙樹の性格には聖で随分手馴れているツンも少しばかり首を傾げてしまう、女体化してからも沙樹は男時代と変わらない自分を貫きながら今までこうして生きているのでそう易々と自分を変えようとするわけがない。聖もそうだったのだが今ではこんなに激変しているので人間とは不思議なものである。しかし実際目にして見た沙樹は失望感が拭いきれない、認めたくないけれども今までの聖は外見こそ荒々しさがあったもののその中身は宝石のように眩いばかりの凛としたものがあった。しかし今の聖にはそれが存在しない、性格こそ完璧かつたおやかであるがよくよく見ていると本質的な中身は感じられず瞳からも生気すら感じさせられない人形のようだった。

「相良ッ――! ・・お前には失望させられたぞ、今までの貴様はそんな情けない人間ではなかったはずだッ!!」

「えっ、何言っ」

「俺は今の貴様が気に入らん、かつての貴様は女体化してようが自分の守ってきたプライドは決して捨ててなかった。
しかしッ――今の貴様はどうだ!? その女々しい性格に加えて腑抜けた態度・・極めつけはその生気すら感じさせぬ瞳だ!!」

傍から見れば今の聖は女性としては完璧なものだろう、しかし沙樹にしてみればそれが反吐が出るぐらい汚く醜い物にしか見えない。

132 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:06:28.88 ID:HbGWUC33o
「貴様は相良 聖ではない、ただのボンクラだ!!」

(違ウ――! 私ハ私・・――)

「お前に中身などない、熱く揺さぶらる魂が感じられない!」

(ヤメ・・テ――)

「俺の知っている相良 聖は決して自分を捨てたりはしない誇り高い人間だ。貴様は相良 聖の皮を被った人形だッ!!!!!!」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」

気がつけば耳を塞ぎこみ目を瞑ってしゃがんでしまう自分の身体に聖は言いようのない拒絶感が
突き刺さり、今まで気がついていながら目を逸らしていた部分に気がついてしまった。

恐怖感を覚え、虚無感が心を包みこみ、過去が記憶を抉り、迷いが目を紡ぎ、不信が身体を腐らせる。

それらの感情は絶望となり苦しみとして聖を傷つけて進むべき場所を霞ませていく、そして自覚してしまう・・

虚像となった未来と現実と言う名の過去を――


ツンも気がついていた、だけど今幸せそうに過ごしている聖を見ていると言いづらかった。

133 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:07:09.56 ID:HbGWUC33o
「やめて・・やめてよぉぉぉ――!!!!」

「貴様は――」

突如として沙樹の目の前に怒り心頭でツンが立ちはだかる、聖が傷つく姿をこれ以上黙って見過ごせれる訳がない。

「・・それ以上言ったら私が許さないわよ!!」

(私は一体誰――? 私は私のはずなのに・・何で認めてくれないの――)

「今の俺は・・お前を認めん」

そう言い残しながら沙樹は購入した服を抱えてその場から走り去ると、ツンは急いで震えている聖を介抱する。

「大丈夫!? こんなに震えて・・」

「ツン・・ごめん、心配掛けちゃったね」

「いいのよ。あんなの気にしちゃダメ、あんたは堂々と前を見てなさい」

「うん・・ありがとう」

しかしツンも内心では沙樹の言葉を完全には否定はできなかった、言葉遣いは難があるものの言っていることは理解できる。しかしツンは決して表には出さない、ここで自分が聖を否定してしまえば以前のようにまた1人ぼっちになってしまう、自分が聖にしてやれるのは支えていかなければならないのだ。

「おっ、いたいた〜」

「翔君・・」

突如として現れたのは翔だったが、ツンは翔の姿を見つけるや否や先ほどのやり取りも合ってか怒声を響かせる。

134 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 13:07:41.89 ID:HbGWUC33o
「あんた、今まで何やってたの!?」

「何って・・こいつを迎えにきたんだよ」

「遅すぎなのよ!! 全く・・これだから肝心な時に男は役に立たないんだから!!」

「ツンまでカッカしないでくれよ・・」

溜息をつきながらも無事に聖と合流できた翔はとりあえず安堵する、今の聖は羅刹高校を筆頭に色々な輩に狙われている身の上なのでなんとしてでも守りぬかなければならない。

「さて、もうこんな時間だし私は帰るわ。家も近いし」

「あ、ああ・・」

「ツン、今日はありがとう」

「じゃあね」

ツンも空気を読んでそそくさと購入した服を持って立ち去って2人きりとなった聖と翔、まるで付き合いたてのカップルみたく初々しいのだが翔はいつもとは違う聖の微妙な反応に気付く。

「・・なんかあったのか?」

「えっ? べ、別に何にもないよ・・」

「無理すんな、あの団長に何か言われたのか?」

「・・」

必死に隠そうとする聖であるが翔に言われてしまうと隠しきれずにさっきの沙樹とのやり取りについて語り出す。

「でも藤堂さんも悪気があって言ったわけじゃないし・・」

(あの野郎・・バリバリと干渉しやがって)

数時間前の沙樹とのやりとりを思い出すと再び溜息が募って怒りをぐっと堪えながらも胃がキリキリと痛み始めるが、このままだとモチベーションが下がるので話題を変える。

「その袋は・・服でも買ったのか? 珍しいな」

「うん、ツンに選んで貰ったけど可愛いのがたくさん買えたよ〜。後で着てみようかな」

(ツンGJ!!!!)

内心でかなり喜びまくりの翔、これまでに聖が服を買う機会など全く持って皆無だったのでこれまでの藤堂への怒りが即座に吹き飛ぶ。

「そんじゃ、いつものように勉強も見てやるか」

「うん、お手柔らかにね」

そのまま2人は翔の別荘へと向かう、特に翔の機嫌が良いのはご愛嬌と言うものであろう。

135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/05(土) 13:21:28.63 ID:HbGWUC33o
後半へ続く

皆様、お待ちかねのQ&Aコーナー


Q:極殺高校の一件って何?
A:多分そのうち語られることでしょう

Q:本編との差異を教えて
A:ネタバレにならない程度ですが・・聖達はスペックはそのままで狼子の一つ上としての設定です。
  礼子の旦那の病院や平塚の会社といった基本的な施設は存在します、彼等の周りの友人達も特に変わっていません

  ちなみに主婦シリーズでお馴染みの白根さんは存在してません
  
Q:じゃあ、このシリーズの目玉は何なのさ
A:自分の作品のキャラと他の作品のキャラが織り成す異色物語


  ・・一から作るのメンドクセ

Q:というか、勝手に借用しているのでは疑惑が上がってますが?
A:ノーコメント

Q:今までに行った借用に謝罪と賠(ry
A:・・何の話かな?


他にも質問が在ればどうぞ・・ネタバレになら無い程度にお応えします
136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/05(土) 15:01:03.31 ID:03WeWRyAO
誰もいないな
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/05(土) 15:59:16.94 ID:Dj6nwVMro
ここにいる!
そして続きが待ちきれない系男子
138 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:03:19.54 ID:HbGWUC33o
乱れ乱れきった性生活とは何とも甘酸っぱくも癖になってしまうのであろうか? 聖と付き合った時には若さ故も
あってか、幾度にも渡って互いの身体を貪る様に抱きあい感度を確かめていった。翔から見ても今まで付き
合った女よりかは身体の相性は勿論の事、スタイルやテクに関しても一級品でありながら何とも言えない高翌揚感が更に自分を昂ぶらせる。

たまに聖からも誘ってくることはあるものの、殆どは翔がするので普段とは違って性生活に関しての主導権は
殆ど翔が握っている。当然聖がゴムがダメなのでここまで来ると懸念されるのが予期せぬ懐妊であるの
だが、礼子からもらっている最新の避妊薬のお陰で避妊は何とか逃れているものの、翔の精力か・・はたまた聖の
体力が無尽蔵なのか・・普段しているセックスの回数に至ってはもはや計測不能の領域にあるので薬がどれぐらい
機能しているのかは未知数である。

翔が果てたところで今回のセックスはここで終了、お互いに何回したのだろうかと数えながら休息を取りつつコーヒーを飲みながら一服する。

「ハァ・・」

「ちょっとシャワー浴びて来るね」

余計に汗を掻いたようで聖は先にシャワーを浴びに浴室へと向かう。聖の性格が変わってからセックスの回数は以前と比べて増加したと過言ではない、翔は止まらぬ性欲を自制できない自分を恥じるものの聖なしでは満足できないこの生活に浸っていくが、ここで少し現実と向き合い今の聖を取り巻く勢力をまとめる。

(今のあいつを狙っているのは今まで〆られた連中と極札高校に羅刹高校だよな。極殺高校に関しては前の一件もあるから当分はないと見て良いだろう。・・やっぱりあいつの周りをチョロチョロしている羅刹高校が気になるところだ)

「おまたせ〜、シャワー浴びるなら・・ってどうしたの翔君?」

どうやらちょうど聖がシャワーを浴び終えたようだが、今の翔には現状をまとめるのに精一杯なので当然聖の声など耳に入らない。

(特に羅刹高校に関しては早めに手を打たないと辰哉達も危ない・・全く、あいつの敵を考えるだけでも胃が痛いぜ)

「か・け・る・く・ん!!!」

「わっ!! び、ビックリした・・」

いきなり声を掛けられた翔は慌てて隣を見ると下着姿の聖が翔の目に止まる、どうやら購入した下着を真っ先に見せびらかすのが目的らしいのだが翔が何ら反応を示さないので少しばかりお冠である。

「せっかく買ったばかりの下着を披露しようと思ったのに・・もう知らない!」

「悪い悪い。似合ってるよ」

ごねている聖の機嫌を取りつつも翔は考察をやめない、現状において目を向けるべき相手はやはり羅刹高校だろう。極殺高校と互角の勢力を持つ彼等に対抗するにはそれなりの力がなければいくら百戦錬磨の翔と言えどもただでは済まない、じっくり策を練らなければ対等に渡り合えないだろう。それに加えて気がかりな点が一つある、友人の言っていた相良 聖を名乗る人物だ。あれから友人によれば体格や風体に喧嘩のやり口も男時代の聖に酷似していると言うが、それならば宿敵である真っ先に自分を狙ってくるのが当然・・というか性格からしてもそれしか考えられない。かつての相良 聖ならば場所を問わずに有無を言わせず野獣の如く狙った獲物に襲い掛かるのだから・・

「他にも下着はあるんだけど、やっぱり服も着ないとね〜」

「・・なぁ、お前は本当に男時代の事が思い出せないのか?」

「な、何言っているの? 私は・・」

これまで性格が変わった聖には言い出せなかった事は色々ある、それまでは聖自ら話してくれることを待ち続けていた翔だったが自分の中にある疑問を解消するためにも礼子からの忠告を無視してしまった後ろめたさを押し殺しながら静かに語気を強める。
139 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:03:57.85 ID:HbGWUC33o
「今までお前の口から話してくれることを待っていたけど・・お前は男時代の記憶を乗り越えて今のような感じになったのか?」

「翔君まで・・私がおかしいって言うの!!」

「違う!! ・・俺はお前の事が心配で――」

「もうやめて―――!!!!! ・・みんな私より“彼”がいい訳なのッ―――」

男の聖が女の聖と見えない糸で繋がっているように彼女もまた自分が気がつかないところで男の聖と繋がっている、性格が変わってから目に見えない幻影に悩まされていた彼女はその正体がわからずにいた。・・否、正確にはわかっていたのだけどもあえて解ろうとはしなかった、今の性格とのギャップで苦しんでいた彼女にとって解りたくもなかった。時折ちらつく男時代の自分が残した僅かな記憶、それらを辿っていくうちに解る真実の記憶・・


今の翔との関係を壊したくはない、そして何よりも自分自身が傷つきたくなかったから――・・



違ウ――

      コノ手デ断チ切リタイ――




自分を悩ませ、苦しめているこの現実の正体――




繋ガッテイル・・自分トノミエナイ絆ヲ――

                ワタシハ 私ヲ確立スルタメニ――



ならばそれを断ち切るにはどうすればいいか――





“汚レテ、、、醜イ自分ヲ此ノ世カラ消シ去リタイ!!!”





ふと聖の身体から人の温もりを感じる、それは他でもない翔のもの・・一先ず安心感を得た聖は先ほどの黒い感情が融和されていくのがわかる、暫くは温もりを身体に包ませながらずっとこうしていたい。

「・・悪かった。お前の気持ちを無視して」

「ううん、私は自分から逃げていた。・・だけどもう逃げない、私は自分と戦う!!」

「よかった、それがお前らしいよ」

「・・ありがと、翔君」

そして聖はゆっくりと翔に語り出す、今の自分を変えるために・・


140 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:04:24.88 ID:HbGWUC33o
(痛ェ――!! またこの痛みか!!! あの女は徹底的にぶっ潰す!!!)

こちらは狼子達を人質に取った男の聖、彼等は聖が寝床にしているワンルームのマンションへ集合していた。ちなみに現在狼子は夕食を用意した後は入浴中、リビングでは辰哉と聖が険悪とは言えないものの気まずい雰囲気のまま過ごしていた。男の聖は度々続く痛みに苛立ちながらも必死で押さえ込みながら決着の日が近い事をその体で感じ取る、日課のトレーニングを済ませると名目上の人質である狼子と辰哉をどう利用するか思案していた。

「一応言っておくけど、俺達を人質に取ったとしても無駄だぜ。先輩達を余計に怒らせるだけだ」

「てめぇに心配されたかねぇよ。俺は俺のやり方であいつ等をブッ倒すだけだ」

現時点で辰哉達がわかっているのは彼には翔と女の自分を倒すことしか眼中にない、あくまでも自分達はその為の手段に過ぎないわけだ。辰哉と狼子の目的はこの聖を説得して今の聖を元に戻すこと、自分同士で争うのは悲しすぎる。

「あんたは目的を果たした後はどうするつもりなんだ?」

「・・さぁな、もしかしたら勢いに乗っててめぇ等を倒すかもな」

やや自嘲気味に語り出す聖に辰哉はどことなく違和感を覚える。この違和感に辰哉は思わず言葉にしようとするものの咄嗟にそれを押し[ピーーー]、今の自分が思っていることは決して発してはならないと自分自身が止めているような感じだ。

「まぁ、少なくともてめぇ等みたいなカスに手を出したら俺様の名前に傷がつくだけだがな・・」

「それは違う!! ・・あんたでは絶対に俺達を傷つけることは出来ない、俺達と聖さんとは単なる先輩後輩のもんじゃねぇ!!」

「ろ、狼子!! お前何言って・・」

「聖さんは俺達を常に守ってくれた、それは俺達が弱いからじゃない・・俺達を想ってくれたからこそ護ってくれたんだ!!!」

突然として聖に噛みついてきたのは狼子、お風呂から上がって着替えたようだが辰哉と聖の会話が目に付いたようだ。しかし聖は狼子の言う事が気に入らない・・が、それを否定することはできない。

「あんたは俺達が知っている聖さんでもある、現にあんたの実力だったら辰哉を〆て俺に手を出すなんて簡単なことだ。・・だけどあんたは俺達に一切手を出していない」

「・・俺の趣味じゃないからだ」

「いいや違う。羅刹高校との喧嘩だってあんたは俺達が及びそうなところから片っ端に片付けていた・・あんたは俺達を護りながら戦っていたんだ!!」

狼子の力説に辰哉は唾を飲み込みじっと見守る、聖は表面上では鼻で笑いつつも口数は明らかに少なくなっていた。

「自分で自分を倒すのって・・そんなの虚しすぎるよ」

「うるせぇよ!!! てめぇに俺の何が解るっていうんだ――!!!! あの野郎は・・女体化してからてめぇの都合で今まで俺が貫いた事を曲げてきてやがる!!! 一度はぶちのめしたが、現実世界でも徹底的にぶちのめさなきゃ俺の気が済まねぇんだよ!!!!!」

「わかるよ!! ・・俺だって女体化したんだ、最初は不安と孤独で心が押しつぶされそうになったけど、聖さん達や何よりも辰哉のお陰で今の俺と言う存在が自立している。過去の自分の分まで俺は立派に生きていくのが精一杯の報いだと思っている・・聖さんは自分同士で殺しあう事なんて絶対に望んでいない!!!」

(そうだよな。狼子だって女体化して色々苦しんだ時期も合ったけどここまでやってこれたもんな)

女体化した人間の苦しみは女体化した人間でないと解らない、狼子だって最初は悩み、もがき、苦しみながら今の自分と立派に付き合っている。だからこそ今の聖の気持ちは充分に解る、だけどそのやり方には同意したくない・・自分の知る聖は決してそんな悲しいやり方を望んだりはしないのだから。

「・・チッ、これ以上てめぇと喋ったら反吐が出る。俺はもう寝る、脱走したらただじゃおかねぇぞ!!」

「そんなことはしない!! あんたを・・俺の大好きな聖さんに戻すまで離れるもんか!!!」

「ここまできたら俺も狼子に付き合うぜ。相良さんや先輩には色々恩があるしな」

「勝手にしろ・・」

聖は来るべき決戦に備えて睡眠を取ることにするが、痛みは何とか収まったものの狼子に反論できない自分を詰っていた。

141 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:05:14.90 ID:HbGWUC33o
翌日、土曜日・・某所

それぞれが様々な想いを胸に抱きながら決戦へと望む。かねてからの計画通り、男の聖は翔達に狼子達を人質に
取って聖と翔に決闘を要求する。
このとんでもない要求に当初は2人に衝撃が走ったものの素直にこれを快諾、指定された決闘場所へと向かう・・
2人の顔つきは以前とは違い、迷いが完全に吹っ切れた表情である。

そして男の聖も湧き上がる興奮を必死で抑えながら、これからやってくるであろう獲物との決闘に身体が歓喜していた。

「狼子に辰哉・・これから決闘が始まったらてめぇ等、人質としての役目は終いだ。始まったらとっと消えな」

「俺は先輩達を見守る。・・それに俺と狼子は端からあんたの人質じゃない、あんたを元に戻すのが役目だ」

「・・聖さん、俺はあんたを信じる」

「ケッ、最後まで生意気な人質だ・・」

とても人質とは思えないほどの気迫に聖は頭を掻きながら一線を見つめ続ける。そして2人は現れた、迷いなき表情(かお)で―――

「辰哉!! 狼子!!」

「「せ、先輩!!」」

女の聖とはこれで2度目の対面となるが男の聖が見つめるは唯一人――・・最初に喧嘩してから幾度にもつけられなかった長年の決着を待望していた宿敵、殺戮の天使 中野 翔だ。男の聖は長年扱ってきた木刀を右手で思いっきり握り締めると背中に収めてじっと翔を見据える、対する翔も狼子達に視線を一瞬だけかつての宿敵を視野に入れると・・すぐさま、その躯が動き出す。
142 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:06:11.38 ID:HbGWUC33o
「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「随分な挨拶じゃねぇかぁぁ!! 中野ォォォォ!!!!!!!!!」

翔はいきなり目掛けて渾身の右ストレートを放とうとするが、男の聖は即座にガードすると返す力で翔の顔面に右ストレートを放とうとするがそれは見事に塞がれる。それから最初の攻防でお互いに数発ずつパンチを放つと距離を置いて呼吸を整える。

「いきなり仕掛けてくるとは・・腕は鈍っちゃいねぇようだな、安心したぜ」

「最初にてめぇの噂聞いた時は驚いたが・・本物だ、てめぇの拳を染み付かせた俺の身体が叫んでいる」

「それにしてもてめぇから来るとはな・・これで安心して女の俺を片付けられる!!」

「俺を見くびるなよ。・・俺の彼女には指一本触れさせるかぁぁぁぁぁ!!!」

激闘が再開した後、女の聖は即座に狼子達に回りこんで安全を確保すると2人にこの場から逃げるように促す。ここから先は他ならぬ自分との戦い・・ただえさえ無関係な2人をこれ以上は巻き込みたくはない。

「2人とも! すぐにこの場から・・」

「聖さん!! ・・悪いけど俺達はこの場から退けません!!」

「な、なんで!! ここから先は私達・・いいえ、私の戦い! これ以上私のエゴに大切な2人を巻き込みたくは――」

「・・相良さん、俺と狼子は男のあなたの人質じゃないんです。俺達は今までの相良さんに戻ってもらうためにこの場所に立っているんですっ!!!!」

「今までの私・・グッ――!! あ、頭が・・痛い――!!」

辰哉の言葉に今度は女の聖に激しい頭痛が生じ、痛みを抑えるためにその場にしゃがみこんでしまう。それと同時に今度は男の聖の身体がふらついてしまって、翔から鳩尾に強烈な一撃を叩きこまれる。

「ガハッ――・・」

「どうした!! 弱ったのはおめぇじゃねぇのか?」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

聖もお返しと言わんばかりにストレートで翔のガードを崩すと強烈な2段蹴りを翔るに叩きこみ、更には正拳突きを見舞おうとするがこれは寸での所で翔にかわされてしまう。男同士の一進一退の攻防が繰り広げらている中で女の聖の痛みは更に激しさを増して聖は必死に痛みを堪える。

「い、痛い・・痛いよ――!!!!」

「さ、相良さん!!」

「あなたは・・あなたは相良 聖です!! 女体化しようがしてまいが・・あなたは俺達の先輩です!!! 
ですから・・思い出してください!!!!」

(オレハ2人ノセンパ――・・違う!! 私は私よ!! アナタハ ハイッテコナイデ!!!!! コノカラダデ過ゴシタキオクハ私ナノ!!!!)

頭痛を堪えながら必死で自分に抗う聖、容赦なく入ってくる過去の自分を乗り越えて今の自分を確立することが自分を乗りきれる唯一の方法・・だから聖は必死で堪えながら追い出す、過去の自分を・・

143 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:07:53.25 ID:HbGWUC33o
そして激闘を繰り広げている男も女である自分を必死に振りきりながら宿敵との激闘に興じる、これが長年自分の望んでいた事・・よき知れぬ輩に邪魔はさせない。渾身の思いで拳を受けて打ち返す、お互いに自分を断ち切りながらそれぞれの戦いを繰り広げる。

「たりゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

激しく拳と拳をぶつけあう2人に周囲の声などもはや聞こえない、今の2人を止められるのはお互いの肉体のみ、数々の横槍を入れられながら果たせなかった決着を今果たそうとしている。男の聖はかつて恐れられた狂犬に・・翔もまたかつて怖れられた殺戮の天使に戻って肉体の痛みを抑え、屈服させながら激闘を繰り広げる。


・・しかしこの2人の激戦を黙って見過ごせるほど運命と言うのは都合よく廻っていない、2人の激闘を聞きつけた多数の人間達が既に決闘場を囲んでいた。

「せ、聖さん・・」

「思い出してください・・」

「私は・・私はァァァァ―――」

「相良ァァァ!! 覚悟しろぉぉぉぉ!!!!!!!」

「!?」

女の聖の背後に回りこんだ男の1人が角材を振り降ろす―― それが引き金となり囲んでいた輩が一斉になだれ込み、今度は集団で男の聖と翔目掛けて角材や鉄パイプ片手に容赦なく襲い掛かる。

「覚悟しろ、中野ォ!!」

「相良、てめぇに一発ぶち込ませてもらうぜェェ!!!!!!」

「うるせぇぇぇ!! 折角の決着を邪魔しやがってぇぇぇぇ!!!!!!」

「このタイミングで羅刹高校かよぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

聖は即座に木刀を取り出しなだれ込む羅刹高校の輩を容赦なくぶった切り、翔も怒りで身体を振るわせながら武器を持っている羅刹高校の人間達に切込みをかける。しかし羅刹高校の人間の数はまるで無尽蔵とも言うべき数であり、ボロボロの身体で倒しても倒しても運河のようにやってくる。それによくみてみると極殺高校の人間も混じっておりまさに絶体絶命のピンチを迎えてきた。

「こんな糞野郎どもに・・中野と女の俺は絶ッ対にやらせねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」

「せっかく待ち望んでいた決着に水を注しやがって・・てめぇ等まとめてブッ倒す!!!!!!!!!!!!」

既にお互いの激闘でボロボロになっている2人だが、目の前にいる敵を1人残らず叩きのめす。

144 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:08:30.59 ID:HbGWUC33o
女の聖はよく周りを見てみると自分に襲い掛かろうとした人間が倒れているのに目がつく、そして聖達の目の前に2人の人物が現れる。

「ふぅ〜、危なかったお」

「間に合ったようだな。相良」

「ドクオにブーン!! どうしてここに――!!」

聖達のピンチを救ったのはドクオと内藤だが、突然の登場に狼子達はおろか聖も驚くばかり・・この度の決闘で周囲の人間を巻き込むのを避けた聖は知り合いには一切告げずに望んでいたので2人の突然の登場にはただただ唖然するしかない。

「な、何で――」

「今更水臭いお。友達の危機に現れるのが友達ってもんだお」

「ここでお前にしごかれた地獄の特訓の成果が活かせれる訳だ」

しかし感傷に浸っている間もなく、彼等の周囲にも連合軍がぞろぞろと現れ始める。

「相良ッ! ここは俺達に任せて辰哉と狼子を連れて逃げろッ!!」

「そ、そんな!! 内藤さん達を置いて・・」

「そうですよ!!」

「ダメだお。・・道場でツンが待っているからさっさと行くんだお、2人に出来るのは足手まといにならないように逃げることだお!!!」

内藤の言葉に狼子と辰哉は修学旅行の時の事を思い出す、あの時は国家レベルのテロ事件に巻き込まれた2人は己の無力さを悔やみながらも自分達の出来る事を学ぶ事が出来た。2人は口惜しみながらも内藤とドクオの言葉に従う、そして聖も2人を護るために痛みを堪えながら2人を守りぬく事を決意する。

「ツンは俺の活躍をちゃんと伝えてくれお」

「行けッ! 相良!!!」

「(ごめん、2人とも・・)行くわよ、辰哉! 狼子!!」

「「はいッ!!」」

そのまま聖は先頭に立ちながら、並み居る野郎どもを持ち前の合気道で倒しながら2人の退路を開き狼子と辰哉も聖に続いていく・・そして残された2人は聖によって過酷なまでに鍛え抜かれた己の技を駆使しながら出来る限り追いかけてくる野郎達を倒すために突貫した。

145 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:09:15.53 ID:HbGWUC33o
倒しても倒しても減らない敵・・しかし息を切らすことすらしない漢2匹は闇雲に敵を蹴散らしながら屍の山を築いていく、かつて男の聖が最後にした喧嘩を思い浮かばせる。

「そりゃぁぁぁ!!!」

「つぁぁぁぁぁ!!!」

しかし敵の数は減らないばかりかますます増えていく、このまま続けてしまえば圧倒的な物量の前に屈してしまうのがオチであろう。しかし2人はそんな運命に決死の覚悟で逆らい続ける・・そんな中で翔に1つの角材が襲い掛かるが聖は木刀でそれを受け流すと強烈な一撃を叩きこみ撃破する。

「てめぇに助けられるとは・・」

「お前は俺がブッ倒すんだ。それまではやられんじゃ――」

「相良ッ!!! てめぇ等ァァァァァァァ!!!!!!!!!」

今度は聖が一瞬の隙を突かれたのか鉄パイプが木刀に直撃し、そこからなだれ込むように野郎どもが一斉に聖に襲い掛かる。翔も助けに行きたいのは山々だが敵の数が多すぎてとてもではないがフォローしきれない、聖は1人で対抗しようとするが多勢に無勢・・覚悟を決めた聖はカウンターを狙うが、急に聖を狙っていた人間が吹き飛ばされた。更には聖を囲んでいた野郎達もことごとく片付けられ、聖の周りには4人の人間が囲んでいた。

「あ〜あ、久々の結成なのにこれじゃ相良守護団だよ」

「全くだ、俺達は天使守護団なのにな」

「翔君も相良と組むとは物好きだね」

「て、てめぇ等は――!! 中野のお守り集団!!」

聖の窮地を救ったのはかつて翔と共に聖と戦ってきた通称天使守護団の面々・・彼等もまたどこから聞きつけたのか、颯爽と死地へと舞い降りる。本来なら翔の窮地を救いたかったのだが皮肉にもかつての宿敵の窮地を救ってしまうとは彼等も溜息が出る。

「まさか、相良は女体化してたになんでまた・・」

「いいじゃないの。懐かしい顔ぶれで・・1人を除いてだけどな」

「・・てめぇ等も俺の邪魔しに着やがったのか!!!」

いくら窮地を救ってくれたとはいってもかつての宿敵・・早々相容れぬものではない、しかし天使団の1人がそんな聖に反論する。

「勘違いするなよ、相良。本来ならてめぇなんて見捨ててるところだけど翔君が望んでいるのは他ならぬお前との決着・・俺達はこの邪魔者達を倒したら解散だ」

「・・チッ、まさか弱っちいお前等に救われるとな。俺の邪魔しやがったら中野とまとめてぶっ潰すぞ!!」

「「「上等!!!」」」

「行くぜェェェェェ!!!!!!!!」

こうしてかつての宿敵達は不本意ではあるが手を組みながら徐々にではあるが敵の数を減らしていった、彼等とて友人であり大将である翔の思いは痛いほど解っている。だからこそこういった決闘に水を注してくる輩を許しておくはずがない、かつての天使守護団の名前のままに散らばりながら独自のチームワークで敵を殲滅していった。
146 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:10:41.67 ID:HbGWUC33o
あれから女の聖は来る敵来る敵を持ち前の合気道で蹴散らしながら狼子達を護りつつ前に進んでた。例え性格が変わってもその華麗なる身体能力は変わりなく、今までに習得したあらゆる格闘技を駆使しながら狼子達の殿を勤めていった。

「そりゃ!!!」

「ガハッ・・」

「辰哉、狼子!! あと少しよ・・」

狼子達も自分達の無力さを悔やみつつも聖から離れずにこの激戦を乗り越えつつ、何とか無事に戦火から逃れつつあった。

「相良さん・・すみません」

「謝るのは私の方よ。自分の事なのに2人を巻き込んでしまうなんて・・最低な先輩だね」

「聖さんは悪くありません!! 私達も望んでしたことです、そんなに自分を責めないで下さい・・」

「・・うん。――ッ!! また、頭が・・」

これまでなんとか和らいできた頭痛が再び聖に襲い掛かる。しかもこれまでの激戦による疲れからか、その痛みは今までにない激痛が聖に襲い掛かる。

(何なの・・この痛みはッ!! 俺・・いや、私は何を悲しんでいるの?)

「相良さんッ!!」

「しっかりしてくださいッ!!」

更なる苦痛が痛みを助長し、ついには意識も朦朧としてしまう。しかも運が悪いことに多数の輩達が3人を囲み始める。気配を察知した聖は無理矢理立ち上がると狼子達を護るために果敢にも構えを取る。

「へへへ・・これで相良も終いだな」

「・・させない!! あんた達にやらせない!!!! ―――ッ!!!」

「聖さん!! ・・辰哉、こうなったら」

「ああ、俺も戦う。相良さんばかりに戦わせてたまるかッ!!!」

「てめぇら雑魚に何が出来る!! 嬲殺しだぁぁぁ」

その隙を突いて聖は瞬く間に1人をKOしてしまうが、既に頭痛と度重なる疲労によって既に意識すらも失いそうになるが狼子達を護るために身体に気合を入れて2人には手出しをさせない。

「やらない・・てめぇ等カス共に俺の後輩は絶対にやらせねぇぞ!!!!!!!!!!!」

「さ、相良さん・・」

「聖さん・・もしかして記憶が――!!」

「何ほざいている、てめぇ等痛めつけてやれぇぇぇぇ!!!!」

全ての野郎達が聖達に襲い掛かる、しかし聖は残された力で狼子達を護り抜くために最後の手段で自らの身体を
盾にする・・もうこれまでかと思われた瞬間、聖達に襲い掛かってきた野郎達は全て吹き飛ぶ。

3人が目を凝らしながら救ってくれた人物を見つめその瞳に映るのはボロボロの学生帽に長ラン詰襟姿に使いこまれた下駄の音、其れに纏いし2人の人物・・誇り高き応援団の団長、藤堂 沙樹と静かなる仏の宗像 巌、予想外の人物に狼子達は暫く呆然としてしまうが・・沙樹は天地を揺るがす怒声で周囲を威圧する。
147 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:12:49.34 ID:HbGWUC33o
「か弱き者を集団で襲い掛かるとは男の風上にも置けん奴等め!!!! この応援団の団長である私が直々に成敗してくれる!!!!」

「あ、あれって・・」

「うちの学校の応援団だよな・・何でここに居るんだ?」

本来応援団の力が働くのは自分達の通っている学園内のみ、それには上部組織である生徒会の承認があってその力は遺憾なきに行使される。しかし外部では所詮はただの学生であり何ら効力を発する事はない、しかもその力を無断で外部に使うことなど持っての他でどこぞやの局中法度よろしく応援団の規則に触れてしまう・・いわば越権行為である。

「ふ、藤堂・・さ・ん・・」

「相良、お前の内なる闘志・・見せてもらったぞ」

「何でここに居るの? ここは俺の・・――ッ!!」

「聖さんッ!! 聖さーーん!!!!」

遂に疲労が限界を迎えたのか、聖は意識を失い倒れてしまう。それに沙樹達が倒したのは一部で過ぎず、再びぞろぞろと敵が増え始めるのだが・・ここで怯む沙樹ではない。

「木村 辰哉――!! 月島 狼子――!! ・・お前達は相良を連れてこの場から去れ」

「そ、それはいいけど・・なんであんた達がここにいるんだ?」

「細かいことは気にするな。俺達は出張応援団だ、お前達の知っている応援団ではない」

宗像の解説に頭に?マークが浮かぶ辰哉と狼子だがここで助けが来たのはかなり有難い、ここは彼等のお言葉に甘えるのが最良の選択だろう。

「すみませんッ! 後はお願いします!!」

「聖さん・・しっかりしてくれよ!!」

辰哉は聖をおんぶすると狼子と共にその場から体力の許す限り脱兎の如く走り去る、呆気に取られた野郎達であるが気を取り直すと慌てて辰哉達を追いかけようとするが宗像の手に阻まれ追っ手は沈む。

「それにしても良いのか? これは明らかに越権行為だぞ」

「責任は俺が全て取る。お前は黙ってこいつ等を何とかしろ・・それに相良には少し貸しがあるんでな。応援団団長! 藤堂 沙樹ッ!!! 相手にとって不足なしッッ――!!!!」

「全く、素直じゃないな。・・応援団、副長! 仏の宗像・・参る!!!」

こうして場違いだけども違和感のない2人によって野郎達の屍の山は築かれる。
148 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:13:18.25 ID:HbGWUC33o
一体どれぐらい走ったであろうか? 辰哉と狼子はは息の上がった身体を休ませる。周囲を見渡すと人の気配はない、どうやら全ての野郎達は各戦場に散らばって屍の城の一角となっているのだろう。よくよく考えて見れば2人は男の聖によって巻き込まれ、女の聖によって救い出されるという奇妙な出来事を目の当たりにした生き証人である。辰哉は負ぶさっていた聖を横にさせると未だに意識の戻らない聖に不安が募るが、事もあろうか狼子によって強引に噛まれてしまう。

「痛テテテテ!! こんな時に噛むなよ」

「こんな時だからだろ。・・結局聖さんはあのクソッタレの悪魔によって翻弄されたんだよな」

狼子は改めて騒動の元凶である悪魔に強い怒りを募らせる、元々は悪魔が己の暇潰しの為に行った悪戯のお陰で周りには多大な迷惑を被ったばかりか、当事者である聖に対しては本来なら与えなくてもいい尋常じゃない苦しみを味あわせたのだ。

「今更言っても仕方ないだろ。それにあいつは並行世界でもいろいろ悪さしているみたいだし・・俺達の手には負えない代物なんだよ」

「だけどさ!! 目の前で聖さんが苦しめられてるのに何も出来ないなんて悔しくないのかッ!!!」

「そんな事よりも肝心の相良さんが意識失ってるんだぞ。・・結局、俺達では役に立てなかったのが俺には悔しいよ」

辰哉にしてみれば今回逃げ回っていたことよりも聖を元通りに戻すと言う目的が果たせなかったのが悔しくて仕方がない、狼子と共同とは言え男の聖にあれだけ啖呵を切っておきながら結果的には何も変わっていない事態に腹が立つのだ。

「それに先輩も大丈夫なのかな?」

「大丈夫に決まってるだろ。俺達の中学の時からの伝説の不良なんだから、簡単にくたばりゃしねぇよ!!!!」

眠り姫のように依然として眠っている聖、そして翔の無事が戦火を逃れた今の2人にとっての心配事項となっていた。

149 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:13:56.33 ID:HbGWUC33o
「うらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

あれから怒涛の勢いで奮戦に次ぐ奮戦を重ねていた聖はようやく最後の1人を撃破した、これで周囲に残っている不良皆無であり悲鳴を上げていた身体がようやく静まる。それと同時に女の聖と同様に強烈な頭痛が聖にも襲い掛かる、あまりの痛さに聖は遂に片膝をついてしまい、痛みをぐっと堪える。

(グオオオオオオオオ!!!!!!!!! な、何だこの強烈な痛みは!! 今までにない痛み・・だ――)

2人の聖は見えない糸で繋がっている、女の聖が意識不明になっているのだから当然として男の聖にもそれ相応の痛みが稲妻のように身体に響き渡る。

「俺ァ・・この程度で参らねぇ!!! 中野を倒して女の俺をぶっ潰すまではくたばってたまるかぁぁぁぁ!!!!!!」

「・・それだけ元気なら、続きはできんだろ」

聖の目の前に現れたのはボロボロになった翔、彼もまた単身一人で襲い掛かってくる敵を返り討ちにしながら凌いできた。全ての敵がいなくなった今・・2人がやるべきことは唯一つ――さっきの続きである。

「ハァハァ・・ぼ、ボロボロじゃねぇか。俺の勝ちだな」

「て、てめぇこそ・・さっきまで苦しそうに這い蹲ってたじゃねぇか。勝負はまだまだよ」

暫く静寂が流れる中でお互いに悲鳴を上げている身体に喝を入れると、己が持っている意地で再び立ち上がり両雄は対峙する。

「「てめぇが倒れるまで・・俺は絶対に負けねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」」

お互いに意地と意地がぶつかり合いながら第2ラウンドは幕を開ける。

150 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:15:32.59 ID:HbGWUC33o
鬼のような死闘が繰り広げられている中で聖はようやく意識を取り戻すと狼子と辰哉が喜ぶ姿が真っ先に目に映った。

「さ、相良さん!!」

「聖さんッ! 気がついたんですね!!」

「う、うん。何とか・・――ッ!! い、痛い――イタイ!!!」

「また頭痛ですか!!」

が、意識を取り戻したのもつかの間、聖を待っていたのは先ほどの頭痛。しかも同時に様々な情報が流れてくる・・聖は己を誇示するためにも必死に抱えながら抵抗する。

「ダレ? ワタシハ・・ワタシハワタシ!! アナタニナンカワタサナイワ!! キオクモ・・ミライモ――・・絶対ニ渡サナイ!!!!!」

「狼子、これってもしかしたら・・」

「聖さんの記憶が戻りつつあるのか?」

これまでにも2人の聖の頭痛を目の当たりにした狼子達はふと悪魔の言葉を思い出す。




“人格が分裂した影響で女の相良 聖に君の記憶の断片が存在するように君にも女の相良 聖の記憶の断片が存在している・・これから君がそれにどう抗うか見物だよ”



頭痛の正体は2人の聖がお互いに持っている記憶の断片に抗っている姿そのものなのだ、逆に考えれば聖の記憶取り戻すのはこの抗っている姿を長引かせるしかない。現に聖は一時的にしろ記憶を取り戻しつつあるし辰哉の言葉で頭痛を起こしている、チャンスと見た2人はここぞと聖との思い出を甦らせる。

151 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:15:54.62 ID:HbGWUC33o
「相良さん!! あなたは不良に絡まれた俺を助けてくれて・・俺と狼子が変われるきっかけを作ってくれたんだ!!!」

「聖さん!! あの気難しい刹那を始め・・色んな人間に好かれているんだ!! 俺達の・・俺達が大好きだった聖さんに戻ってくれぇぇぇぇ!!!!」

「ワタシハ――イマノママジャ・・ダメ・・ナノ? コノママキエルノハ・・イヤ。モウアンナ暗クテ独リ寂シイ思イハ・・モウ絶対ニ嫌ァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

聖の頭痛はより一層の激しさを増しながら様々な記憶が流れ込む、男として生まれた時の過去や喧嘩に明け暮れていた日々・・そして女体化してからも楽しかった数え切れない毎日の日常――・・そして優しくも凛々しい自分の声が聖自身に語りかけてくる。

(・・てめぇはよくやったよ、必死で悩みながら苦悩して逃げていた自分の姿にようやく向き合えた)

「ダ・・レ・?」

(俺か? ・・俺は誰でもねぇ、お前の一部でもあり他ならぬお前自身・・相良 聖様だぁぁぁぁぁ!!!!)

女の聖に語りかけてくる厳しくも凛々しく、そして強さを裏付けるような優しい声・・彼女が持つ記憶の断片で聖は甦った。だけど女の聖は必死に今の自分を守る、彼女もまた1人で寂しく今までの聖によって押し殺されて一人の女性として人生を謳歌したかった。

「アナタガ・・ワタシナノ? デモワタシハ・・ワタシデアリタイ。相良 聖トシテ・・生キタイ!! ミンナト一緒ニ―――」

(・・心配するな、お前は俺の中でちゃんと生きるのさ。もう決して一人じゃない、俺と一緒に生きるんだ!! これからも・・これからずっと先も――)

「アリガトウ。ワタシヲ認メテクレテ――・・本当ニアリガトウ」

そして聖は静かに微笑みながら目を瞑る・・そして聖は静かに目を開く、そこには心配そうにこっちを見ている2人の後輩の姿が映っていた、狼子と辰哉は恐る恐る口を開く。

「さ、相良さん?」

「・・心配掛けなたな。辰哉・・狼子」

「せ、聖さん。・・聖ざぁぁぁん!!!!」

「お、おいおい・・泣く奴があるか!!」

「だってぇ・・」

狼子は涙を一杯に溜めながら真っ先に聖に駆け寄る。聖は戸惑いながらも照れ臭そうに狼子を受け止めてやる、いつも知っている聖とようやく再会した、辰哉も狼子に促されたのか少しばかり流れる涙を堪えきれずにいた。それに聖自身も何故なのか涙を流している自分に気がつく・・

(これからはお前は俺と一緒だぜ・・)

「よかった、相良さんの記憶が戻った!! 本当によかった・・」

「ああ、どんなに綺麗な性格になろうと俺達の聖さんはこうでなきゃ!!」

喜ぶ狼子とは対照的に聖にはまだやるべきことがあった、それは聖でしか出来ない最大の試練。自分の身体から発せられるシンパシーを感じ取りながら聖はある場所へと向かう。

「さ、相良さん!! そっちは・・」

「・・知っている。まだ完全に片はついちゃいねぇ、厄介な野郎がまだ残ってる」

聖は向かう、まだ取り戻しきれていない自分を取り戻しに――・・

152 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:17:01.27 ID:HbGWUC33o
聖が完全に自分を取り戻した後、もう一人の聖と翔は宿敵同士の決闘を続けていた。お互いに血肉を削ぎながらも倒れたりはしない・・もはや2人の身体は互いの魂が動かしていた。

「く、くたばり・・やが・・れ・」

「お、、前に負けて・・たまるか・よ・・・」

もはや意味を成さない決闘ではあるが2人にとっては長年つけようにもつけきれなかった果てしなく永い決着・・互いに意識が朦朧とする中で突如として怒声が響き渡る。

「てめぇら!!!!! いい加減にしやがれぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

声の主は勿論・・聖、宿敵同士の喧嘩だという事を知りつつも、あえてその渦中へと身を委ねる。そして更にはその聖の声が周りの仲間を呼び、狼子や辰哉を筆頭にドクオや内藤に傍また天使守護団の面々・・それに藤堂と宗像までもがその場に駆けつけた。聖は周囲を視線に焼きつけるとゆっくりと2人の元へと向かう、ボロボロになった2人は意識が朦朧していたのが嘘のようにハッキリと聖が映るが、聖はそのまま男の自分を指すと大声で啖呵を切る。

「てめぇ・・よくも人の彼氏を痛めつけてくれたなァァァァァ!!!!!!!!」

「お、お前・・」

「・・選手交代だ、バカ。こいつは・・俺がタイマンでブッ倒す――!!!」

自身の心の中で聖は悪魔の囁きによって目覚めた男時代の自分の惨敗してしまった、今回はそれを取り戻す戦い・・のはずだが、男の聖は後少しで念願の決着を着けれるのだ、当然として邪魔翌立てした女の聖を認めるはずがない。

「てめぇは後で引っ込んでろ!!! 中野を倒したらたっぷりと相手してやるよ・・」

「・・てめぇの中の決着をつけれない奴がこいつに勝てるわけねぇだろぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

殺意むき出しの男の聖に対して女の聖も負けじと張り合う、自分同士の戦い・・決して女の聖は譲る事をしない。

「凄い展開だな、姿は対照的ながらも内面は鏡のように同じだ」

「・・これは相良にとって自分との決着だ。まさか助太刀なんて言う無粋な考えは持っていないだろうな?」

「そんな事したら俺はこの世にはいない」

宗像は少し苦笑しながらも神妙に見守る沙樹と一緒に相良と相良のぶつかり合いを観戦する、そして内藤やドクオ、天使守護団の面々も決して手出しもしなければ口も出さない。そんな中で狼子は聖同士の前哨戦が奇妙に映る・・

「・・なぁ、辰哉」

「どうした?」

「聖さん、悲しい目をしている・・」

狼子の目にはは張り合っている女の聖の表情がどこか悲しげに映っていた、それは目の前にいる翔も一緒なのだがあえてそれは口に出さない。
153 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:18:14.94 ID:HbGWUC33o
「・・チッ、何なら2人まとめて掛かって来いよ。俺にとったら・・中野や女の俺もみんなぶっ潰すだけだぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「この・・大バカ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

即座に聖は猛スピードで男の聖に飛びかかると鳩尾に一発放つと即座に巨体な身体に突きを連打する・・が、男の聖はそれを喰らっても平然としていた。

「だからてめぇはバカなんだよ!!! 俺に負けた理由がまだわかんねぇのか!!!!」

「バカはおめぇだ!! 誰が――・・誰が好き好んで自分をぶちのめすかぁぁぁぁ!!!!!!」

実の所、女の聖の拳には力が入っていない、先ほど放った打撃や突きの連打は男の聖とったらお遊戯にも等しい・・だからそんな女の聖に激しい怒りを感じていた、苛立った男の聖は勝負を決めるために渾身の力で胸目掛けて拳を放つが女の聖はそれを真正面から受け止めた。その姿が余計に男の聖を怒り狂わせ、目の前の自分を更に憎む。

「効いちゃいねぇぜ、木偶の坊。お前は気付いてないだろうが、俺相手だと無意識に力を抜いてんだよ」

「グッ!! ・・俺はてめぇを絶対に許さねぇ!!!! 女体化して勝手に俺を意識の奥底に閉じ込めたてめぇを・・俺は絶対に許さねぇ!!!!!!!!!!!!!」

「そんなんだから・・お前は中野に勝てねぇんだよォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ッ―――!!!!!!」

男の聖のフットワークを見事にかわした聖は一旦しゃがみながら今度は思いっきり鳩尾目掛けて強烈な一撃を叩きこみ、強靭な脚力で身体を押さえ込むと馬乗りになり男のの聖を首に手を掛ける。その光景に周囲は唖然となるが翔だけは叫ぶ!!

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!! 相良ッ! 勝負はもうついただろ・・自分を[ピーーー]真似はするなッ!!!!」

しかし翔の叫びも虚しく、女の聖は拘束を解こうとはしない・・男の聖は自嘲しながら夢での光景を思い出す。

「ヘッ、あの時とは逆だな。・・俺はもう動く力すらねぇ、てめぇの勝ちだ」

「・・・」

男の聖は覚悟したのか目を瞑るが、その頬には温かいものが伝わってくる。ゆっくりと目を開けると目の前にいる女の聖からは涙が零れ落ちており、男の聖は奇妙な顔付きのまま見据える。
154 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:20:02.70 ID:HbGWUC33o
「できる・・わけが、ねぇだろ・・ お前は・・俺だぞ――・・」

「わかってんのかッ!!! 俺は中野や・・てめぇがどうしようもなく憎いんだぞッ!!」

「それでもお前は俺だ――・・他の誰でもねぇ、相良 聖なんだよ!!!! 
女体化する前は俺の意識は生まれずにお前として生きてきた・・

だけどなッ!! 俺は女体化してから俺は色んな事学んで中野や狼子や辰哉や色んな連中とバカやって礼子先生に説教貰って・・女の俺に意識取られてようやく解ったんだよ。


女体化する前のお前も女体化して生まれた女の俺も・・みんな相良 聖なんだよ!! 俺の中でみんな生きてんだよ――ッ!!!」


「バカじゃねぇのか!! ・・俺は、お前がァァァ――――」

そんな男の聖の言葉を遮るように優しい声がゆっくりと男の聖に語りかける。

(アナタハ自分ヲ憎ンデナンカイナイ、イツモ心ノ奥底デ・・毎日ヲ楽シンデイル自分ヲ見ツメ続ケテイタ。ソレニ女体化スル前ハ荒ミ、人ヲ傷ツケテイタ自分ヲ誰カニ止メテモライタガッテイタ・・)

「チッ、こんな時に余計な事を――!!! 黙ってろ、女の俺!!!!」

「お前は狼子と辰哉に手が出せなかったんじゃない、あいつ等が好きだった俺に代わってあいつ等を余計な争いから
遠ざけるために必死に護ってたんだ。

・・お前は俺だ、この世に産まれたときからの過去の俺を知っている俺だ。だから俺の中でこれから先を見守ってくれないか――」

そのまま女の聖は力を抜いて拘束を解くと黙って立ち上がる、そして笑顔でこう述べる。

「・・ありがとう、そして蔑ろにしてごめん」

「――ッ!!」

これは今の聖から過去の自分への感謝と謝罪の言葉。
今回の騒動は悪魔の悪戯心で生まれたものだが・・本当は女体化してから男だった自分を蔑ろにしていた
自分が起こした騒動だ。

拘束を解かれた男の聖は仰向けになりながら空を見つめ続ける・・今までは目が血で霞んで見えなかったが、今はハッキリとその青々とした風景がよく見える。

最後に目を瞑りながら微笑して今の自分へ言葉を送る。

「負けたよ。・・てめぇは俺だ、これから先もな――」

「ああ・・中野との決着はこれから俺なりにつけてやるよ」

「ありがとうよ、女の俺・・」

ようやく男の聖は粒子となって女の聖へ吸収され、相良 聖の騒動はここで終わりを迎えた――



155 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:21:02.53 ID:HbGWUC33o
後日談

例の騒動で性格が元に戻った聖はこれまでと同様に遺憾なく行動していた、周囲はかつて性格が変わった
聖がまた再び戻ってきてくれることを切に願っていたが、それは一生叶わない儚き願いへと悟る。
いつものように行動をし、友人と遊び、度々沙樹達応援団との小競り合いを繰り返し、そして彼氏である翔と
スキンシップを取りながら礼子に説教される日々を送っている。

「れ、礼子先生!! 俺はちゃんと控えてるぜ、ちゃんと薬だって使っているし、しつこかったらあいつをぶちのめしてるし」

「ハァ・・いい、あれはあくまで避妊薬よ。あなたが在学中に母親になったりしたら1日中職員会議よ」

「気をつけます・・」

あれから多田による催眠療法が行われたが、診断結果は当然のように極めて順調である。多田にしてみれば
たった数日間で不安定だった人格が安定させた聖に医者として興味を示したようで今後の治療の為に礼子を
通じて本人にレポートを要請しているようだが聖は断固として拒否している。
ま、礼子からしても聖がいつもの調子に戻ってくれた事でいいのだが・・気にならないといえば嘘じゃない。

「それで何で元の性格に戻ったの?」

「礼子先生まで勘弁してくれよ。またあの医者に言われてるのか?」

「違うわよ。個人的に興味があるだけ・・私だって女体化に関しては解らないことはあるわよ」

礼子も女体化経験者だが聖の年頃の時はある意味、生死を彷徨い続けていたので聖みたいに女体化で悩んだ事などあまりない。

「そういや、礼子先生・・」

「何? いつものお色気トークは勘弁して頂戴」

「・・やっぱりタバコ臭いぞ」

「・・・」

その後、礼子は体よく聖を保健室から追い出すとタバコの箱を握りつぶしながら約1名に多大なる怒りを噴出させる。

(中野の野郎ォォォォ、あいつ絶対相良に喋りやがったな!!!!!!!!!!!!!!!!!)

礼子は放送室へ向かうと即座に翔を呼び出したのは語るまでもない、そしてその後のやり取りはわかりきっているのでカットさせて貰う。

156 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:21:32.74 ID:HbGWUC33o
礼子に追い出された聖は気分転換に屋上へ向かい、適当な場所で仰向けにねっころがりながら今回の騒動を思い返して見る。

「俺は・・いろんな人から注目されたりしてるんだよな。俺の中にいる様々な俺・・そいつ等が色々混ざり合って今の俺があるんだな」

自分と言うのは傍から見れば小さいものの、いざ考えてみるととてつもなく大きく感じる。人の心は小宇宙と誰かが言ったような気がするが・・まさにその通りだと聖は思う。

そんな中で聖の元に刹那が現れる。

「よぉ、刹那」

「!!」

最初は少し構えていた刹那だったがいつもの聖だとわかると、すぐさま聖に駆け寄る。聖もまたいつものように刹那の頭を撫でながらホッと一息吐く。

「・・性格が戻ってよかった」

「狼子といい、俺は幸せもんだ」

暫く聖の胸の中に飛び込んでいた刹那だったが、ふと用件を思い出すとすぐに距離を置く。あれから刹那も聖の変化については様々な感情が合ったものの狼子から事の騒動を聞いてからは、あの時の彼女に謝りたい一身でいてもたってもいられずにこうして聖の元へと向かったわけ。

「あの時はごめんなさい。・・彼女は一体誰だったの?」

「あいつはな・・今までの俺のように過ごしたかった可哀想な奴なんだ。きっとお前の言葉を喜んでいると思うぜ」

「うん・・」

再び刹那の頭を撫でながら聖はゆっくりと空を見上げようとするのだが、ここでとある悩みを思い出す。

「しっかしなぁ・・ツンと買った服や下着はどうするかな、よくよく考えて見れば俺の趣味じゃねぇしな。刹那は服はどうしてるんだ?」

「ちゃんとある。・・たまに彼女と買いにいく」

「こりゃ、売却元に困るな」

実の所、自分の性格が変わってからも同じ自分と言うべきか、当然のようにそれらの行動はしっかり記憶にある。それに服もそうだが雑誌も気がつけばそこそこの束になって重なっており、男時代に読みふけっていたエロ本の次に収納に困ってしまう。
それに小物類も元は自分の趣味ではないので、どうするべきか悩みどころである。

「・・ま、たまにあいつと会う時に着てやるか。自分で買ったもんだしな」

「???」

少しばかり微笑しながら刹那の表情を他所に真っ青な空を見続ける聖であった。

157 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:22:10.02 ID:HbGWUC33o
おまけ

応援団長 藤堂沙樹もまた悩んでいた。聖の騒動は何とか宗像のお陰で不問となったものの、無理矢理聖に買わされた服や小物は未だに健在で自宅の置く深くに丸々一式隠してある。

「どうしたものか・・あの時、相良やその友人に押し付けてやれば良かったな」

応援団長を貫いている立場もあるが、沙樹自身そういった服に関しての知識は無いに等しい・・というよりむしろ
邪険しているに近い。あの時流れに身を任せてしまった自分に激しく後悔しつつも購入してしまった物は仕方が無い。
それに一番の懸案事項はあの服を妹の琥凛や、何よりも宗像に見つかるのは非常に拙い。琥凛はまだしも宗像に見つかったとなれば憎たらしい掛け合いの1つや2つだけでは済まないだろう、それに団長として後輩達への示しも在る。

「それもこれも・・相良のせいだ!! 絶対に許せん・・」

これ以降、応援団と聖は更に激しい戦いを繰り広げるのは語るまでも無いだろう。



158 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:24:15.44 ID:HbGWUC33o
おまけ2・・というか本編の続き


ようやく礼子から解放された翔の表情はかなりやつれており、礼子とのやり取りがかなり激しいものだったと思い起こさせる。

「全く・・あいつの余計な一言でこうなるとは」

正直言って、翔が礼子の秘密を話すわけが無いしこれからの自分の将来を考えても何ら旨みは無い。
多分、前回と同じように聖の何気ない一言が発端だと考えている翔はこれ以上は礼子の機嫌を損ね
たくない、自分の自業自得とは言え家では妹の椿にも冷たくされている上に学校では礼子のお説教が
ガンガン増えるのは精神衛生上余りよろしくないし、聖への対応も考えたら胃に穴が空いてもおかしくは無いだろう。

そんなわけで虫の居所が非ォ〜常に悪い翔はこれ以上厄介事を押し付けられてはたまらんので癒し兼ストレス発散の聖との勉強会に向けて教えるところを頭の中でシュミレートする。

このまま大人しく帰れると思っていた翔だったが、話の都合からしてもそれは確実に無い。案の定、一番会いたくない人物とばったり会ってしまう・・応援団 副団長宗像 巌である、どうやら宗像は生徒会への用事が済んだ後らしく、このまま大人しく無視したかったのだが聖の騒動に借りがあるのでそうもいかない。

「おや、春日先生に呼ばれたんじゃなかったのか?」

「・・今終わったところだよ。それにしても前の騒動の時は大丈夫だったのか?」

「俺に抜かりは無い、生徒会には貸しを作らんよ。それに会長の和久井さんは話のわかる人間でな、今度の応援団の遠征について予算を大幅にあげて貰ったしな」

「お前、絶対応援団の予算を着服してるだろ・・生徒会はお前等の財布じゃないんだぞ」

何も答えず、メガネを光らす宗像に翔はこれ以上は何も追求しなかった、それにこれまでの聖に関する沙樹の干渉や自身の不当調査についてもあの騒動で借りを返されたので追求すらできない。それに応援団の予算でデリバリーを頼んだ件も宗像を突付けば、翔自身の埃が余計に目立つ・・本来なら大人しく帰る翔だが今度ばかりは違った。

「そういやよ、お前等のとこの団長について面白いもの持ってるんだけどよ〜」

「なんだ、またそれか。俺達と同じ特進クラスにいながらテストの点数ではいつも惨敗しているお前に揺すられはせんよ」

現に宗像は特進クラスの中でも常にトップクラスの成績を誇り、その厚い壁を沙樹と翔が喰らいついている状況だ。それに宗像は翔よりも交渉事に関しては数段頭が切れるので普段なら大人しく退く翔であったが、今回は違う。

「今までの俺だと思うなよ。てめぇは俺よりも頭はいいが人を侮る癖がある・・こいつを見ても何とも思わないか!!」

「そ、それは――!!」

翔が宗像に提示した写真、それは自身の彼女である聖と団長である沙樹の私服姿のツーショット写真だった。実はあの時翔はツン達の騒動を一部始終目撃しており、普段やり込められている宗像を揺すれるのではないかと思い、携帯でその姿を何枚か隠し撮りしていたのだ。現にメモリにもバックアップはしているし提示してある写真もそのうちの1枚に過ぎない。翔はワザとらしい仕草で日頃の恨みの10倍を込めながら宗像に写真を見せびらかせる、先ほどまで饒舌だった宗像も石のように固まっていた。
159 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/05(土) 17:24:54.93 ID:HbGWUC33o

「へヘヘッ・・ま、あいつがお前達の団長より数十倍は可愛いのは当たり前だが、この写真欲しいか?」

「・・・」

言葉には示さないものの態度で興味を示す宗像に翔は機嫌を良くしたのか、更に調子に乗る。

「でもな〜、苦労して撮ったんだからただではあげられないな。今後はあいつに対する監視をかなり甘めにして、てめぇ等が俺への貸しをチャラにしてくれたら考えてやってもいいぜ」

「・・検討しよう」

ようやく宗像が屈したと見た、翔は更に調子に乗り今度は下手に出る。

「でもダメ!! ・・アハハハハハハッ!!!」

「・・・」

人間程ほどと言う言葉がる、いくら宗像が周囲に仏と通っていても人間なのでそれには限度というものがある。
大人しく宗像に写真を渡して置けばよかったものの、これで翔の運命は更に過酷なものへとなる。

・・要するに宗像はキレてしまったのだ、普段は仏と言われる彼が怒れば沙樹でも引いてしまうぐらいで翔はとんでもない人物を敵に廻したのである。

「あれ? いらねぇの、それだったら更に条件を加えるとな・・」

「悪いが急用を思い出したので失礼するよ」

そのまま宗像は翔の元へと立ち去るが、宗像をあしらって機嫌を良くした翔は笑顔で帰宅する。これからの地獄を知らずに・・
一方宗像が向かったのは職員室、ここで宗像は礼子を呼び出しとある事を申し出た。

「え? 相良 聖と中野 翔を保健室で下宿・・どういうことかしら?」

「実は応援団と生徒会では2人の行動に問題視してましてね、あの2人を保健室で下宿させて生活態度を
改めさせるようにとの提案があるんですがね。それで春日先生には2人の監視をお願いしたいと参った次第で・・」

「私は別に構わないけど・・他の先生の目もあるんじゃない。それに期間はどれぐらいなの?」

「あまり長引くと春日先生にも迷惑が掛かりますから2週間ぐらいがベストかと・・個人的には1ヶ月が望ましいのですが」

更に宗像はあの手この手で交渉しながら期限を先延ばしし、遂には2ヶ月を礼子からこじつけた。

「決まったら、やってあげないこともないわよ・・ま、決まればの話だけど」

「ご心配なく。僕から会長に話はしておきますし、僕からも他の先生方にも話は通しておきます。では応援団の会議があるのでこれで失礼」

そして宗像は和久井を通して校長に話をつけ更には自身の応援団の立場をフル活用して各主要教師陣の根回しを行い、僅か2日足らずで企画を実現させてしまった。
当然、礼子の厳しさに根負けした翔が宗像にバックアップのメモリーごと宗像に写真を手渡したのは言うまでもない。

応援団副長 宗像 巌・・転んでもタダでは起きない男である。





fin
160 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/05(土) 17:29:58.26 ID:HbGWUC33o
終了です。ここまでみてくれてありがとさんwwwwwwwwwwww
しかし休日に人がいないのは寂しい気もしますが、お陰でスレを独占状態です

今後もじっくりネタ考えながら適当に投下しようかと・・


そして狼子の人には今後の展開を期待しながら、キャラを貸してくれた事を厚くお礼申し上げます

Q:友ちゃんは・・?
A:ごめん、人が多かったからリストラ。宗像と一緒に生徒会で活躍してたことにしてください><


でもwwktkは欲しかったな・・
161 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(静岡県)[sage]:2011/11/05(土) 21:02:00.75 ID:GFCrSx3y0
>>160
乙でした!
自分もそのうち投下したいっす
162 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/05(土) 21:23:22.37 ID:/LYDnyQVo
>>160
おつでした〜
また聖と翔のお話が見れるとは・・・
今度は応援部団長の話が見ていたいですww
163 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/06(日) 00:33:57.53 ID:u2a2JvRdo
珍しく女らしい聖ペロペロと喜んだらやっぱり間もなく退場泣いた
164 :◇Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 08:48:50.51 ID:jTUvORCAO
ピーの部分はは全部ころすで脳内変換願います
165 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 11:40:54.20 ID:iFXS+pOjo
やぁ、おはよう諸君。civ4にハマりながらも変な電波受信したのでさっき投下した話の設定で自己満足とスレの活性化を兼ねて短編を書こうと思うんだ、詳しい時系列は省くんでそのつもりで

それじゃ、某建築士ビックリのハイパー手抜き文章でスタート


『訪問』

辰「まさか先輩が俺の家に遊びに来てくれるなんて・・夢のようです」
翔「おいおい、男同士にアポも糞も無いぜ。そんじゃお邪魔しまーす!」

ガチャ

母「お帰りなさい、祈美もお友達連れて帰って・・辰哉その方は?」
辰「いつもお世話になっている。学校の先輩だよ」
母「あら、いつも息子がお世話になっております。ご迷惑を掛けていないでしょうか?」
翔「いやいや、とんでもない。こっちも辰哉には色々助けられてますんでwwwwwwww」
?「相変わらず、外面は良いのね・・お兄ちゃん」
翔「――ッ!! つ、椿!!!」
祈「糞兄貴のお帰りなり〜wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「おいwwwwwwwwwwその表現はヤメレwwwwwwwwwwwwwwww祈美が連れてきたのって椿ちゃんだったのか・・って先輩?」
翔(椿ッ! 辰哉の妹には余計な事言って無いだろうな!!)
椿(さぁ? どうかしら・・)
母「オホホ、賑やかでいいわね」
翔「そ、そうだ。辰哉! 勉強でも見てやるよ」
辰「え? で、でも・・」
翔「固い事言うなよ!! なっ、な!!」
辰「は、はぁ・・」

辰哉と翔は逃げるように部屋へと向かう。

椿(逃げたわね・・)
祈「兄貴にも聞いていたけど・・実際会ってみると椿のお兄さんってカッコいいけど抜けてそうだね」
椿「ま、世間体を一番に気にするからね」
母「椿ちゃんは礼儀正しい立派なお兄さんをお持ちね。そうだわ、折角だから夕飯を一緒に・・」
椿「い、いえいえ・・折角のご好意は有難いですけど、ご迷惑掛けたらいけませんし、両親も私の帰りを待っているので・・」
母「残念ね」
椿(兄の体裁と保とうとする自分の癖が恨めしいわ・・)

166 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 12:27:23.05 ID:iFXS+pOjo
『監督』訪問続き・・

〜辰哉の部屋〜

翔「ここの問題はこの公式を使えばいいんだ」
辰「な、なるほど・・先輩は頭も良いし、解り易く教えてくれるから羨ましいですよ」
翔「あいつの家庭教師してるからな。このくらいはお茶の子さいさいだ!!」
祈「兄貴〜・・ここ教えて」
辰「どうした祈美。また宿題がわからないのか? どれどれ・・って英語かよ!!!!!」
祈「だってぇ・・椿はすでに終わらせて私のPCで音楽ソフトで楽しんでいるし。教えを請おうとしたら一蹴されたwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「お前は人を頼ろうとしすぎなんだよ。ちゃんと一人でこなしている椿ちゃんを少しは見習え」
翔「おいおい、辰哉。それぐらいにしてやれよ」
祈「おお〜、ありがたや・・どうせわかりっこないんだろうなぁwwwwwwwwww」
辰「うるさい!! それに甘やかしたら余計につけ上がりますし・・」
翔「まぁまぁ、妹は大切にしておけば損は無いしな」
祈「おおおwwwwwwwwまさに兄の鏡やwwwwwwwwwwwwwwwwww神様や仏様やwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「全く・・見せてみろ。って、えっと単語からして和訳はこうやってだな」
翔「・・辰哉、こんな事言って悪いけど。そこ間違ってるぞ」
辰「えっ・・すんません、英語は一番苦手でして」
祈「うはwwwwwwwwwwwwwwバカスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「お前なぁ・・」
翔「さて、祈美ちゃんってだっけ? まずはこの単語についてだがな、こうなっているんだ、解るか?」
祈「おおっ・・解る! 解るぞぉぉぉぉぉぉwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
翔「よし、そこがわかったんなら・・次は問題に出ているこの単語はさっき教えた単語を組み合わせるんだ」
祈「な、なるほど!! そうか、解ったぞ!! この文章を訳せば犯人はヤスで黒幕は博士の裏にまだいるということか!!!!」
翔「正解。この調子で頑張れ」
祈「あなたは神かwwwwwwwwwwww1日でいいから家の兄貴と交換してくれwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「コラッ! 調子に乗るな!!! ・・すみません、兄妹揃って勉強見てもらって」
翔「気にすんな。それに兄妹仲を深めることは重要だぞ」
祈「でも椿は夏休みの宿題とかも順調にさっくり片付けて今までどおり私と遊んでいるんだよな」
辰「へぇ〜、そうなのか。もしかして先輩が手伝っていたりしてwwwwww」
翔「まぁ、間違ってはないぜ。でも俺が手伝うのは椿が本当に苦しくなった時だけだ、甘やかすのは兄としてもよろしくないしな」

ここから翔が大幅に自分中心で脚色した話が続くので・・真実は以下の通り

〜夏休み中旬、椿の部屋〜

椿「流石にこの量はきついわ。でもお兄ちゃんに貸しは絶対に作らない、楽をせずに自分で乗り切る!!!」
翔「そんな頑張る椿に俺からの提案」
椿「わっ、お兄ちゃん!! また勝手に人の部屋に・・」
翔「細かいことは気にするな。この夏休み、遊びたい盛りの妹が宿題に苦しむ姿を見ていて兄として心苦しい」
椿(ダメよ、椿! こいつに掛かれば私の夏休みの宿題なんて1日で終わるけど、頼ったら最後よ!!)
翔「既に夏休みの宿題を済ませた俺は偶然にも余力がある。そこで宿題に苦しむ妹を解放してやろう!」
椿「その手には乗らないわ!! 自分のことは自分でする!!!」
翔「今のお前のペースだと夏休み中に宿題は終わるだろう。しかしッ! 遊びやら色々挟めばお前の学力では到底収まらない!! 想像して見ろ、宿題さえなければ長い夏休みはそっくりそのまま遊び放題の期間になる」
椿(だ、ダメよッ!! この男に頼ったらこれからの私の苦労はとてつもないものになるッ! この男の口車に乗せられては絶対にダメよ!!!)
翔「・・椿、ここだけの話だが俺もしょっちゅうあいつと遊ぶのはくたびれる。それに今後の資金を貯めるためにもバイトを更に掛け持ちしようと思う」
椿「な、何が言いたいの・・」
翔「宿題が終われば椿も余計なしがらみに解放されてあいつと遊び放題だ。お前には今まで苦労掛けたからな・・それにあいつからも椿を助けて欲しいと言われたんだ」
椿「せ、聖さんが・・そんなことを?」
翔「さぁ、椿! あいつがお前との一夏の思い出を待ち望んでいるぞ!!」
椿「・・・」

〜時間は戻って祈美の部屋〜

椿(あの口車に乗せられて私は夏休みの宿題を片付けたけど、お兄ちゃんはその事を盾にして私に後処理ばかり押し付けられたわ・・)
椿「冬休みこそは絶対に口車には乗せられないわ!!」
167 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 13:05:44.69 ID:iFXS+pOjo
『とある夏休み』

〜夏休み初旬〜

狼「ううっ・・今年も宿題は多い」
聖「何、くさった顔してるんだ。宿題ぐらいで」
狼「せ、聖さん・・でもこの量は正直ヤバイですよ!!」
聖「・・狼子、人間と言うのは根性で何とかなるんだ。それを常に引き出すためにも感性を磨き、気力を蓄えるにはどうすればいいと思う?」
狼「そんな方法あるんですか?」
聖「それはな・・徹底的に遊ぶことだ!!!! 夏休みってのはそのためにあるんだぁぁぁぁ!!!」
狼「なるほど!!」

〜夏休み中旬〜

刹「♪♪」
聖「いやぁ〜、夏休み様様!!」
狼「ですよねwwwwwwwwww」
ツン「・・そういえばあんた達は宿題どうしてるの? 量がかなり多いから苦労してるけど・・」
刹「・・私も」
ツン「まさかとは思うけど・・この時期になっても全く手をつけていないわけじゃないでしょうね?」
聖・狼「!!!」
ツン「まさか・・」
刹「・・ここは勉強会を」
聖「甘いぞ刹那!! 今の俺達は根性を鍛えているためにあえて遊んでるんだ!!! チマチマとやるのは俺達の性に合わねぇ・・俺達は根性で勝負だ!!!!」
狼「そう!! 俺達はこの夏休みを平和に過ごすためにも根性で宿題を凌いで見せる!!! 余計な慰めは無用だ!!!」
ツン「・・どうなっても知らないわよ」

168 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 13:06:07.74 ID:iFXS+pOjo
続き
〜8月30日〜

狼「聖さん・・そろそろ宿題をしなきゃまずくないですか?」
聖「うっ――・・ だ、大丈夫だ!! 最終決戦に望む意気込みが大事だ!!! そのためには・・遊ぶぞ!!!」
狼「えっ、流石に・・」
聖「忘れたか狼子!! 俺達は気合と根性で乗り切るんじゃなかったのかッ?」
狼「そ、そうでしたね!! 忘れてました!!!!」
聖「そうだ!! 繰り出せェェェェェ!!!!!!」

〜8月31日

狼「・・や、やべぇぇぇぇぇぇ!!! 辰哉ぁ・・宿題がぁぁぁぁぁ」
辰「あれほど少し手をつけとけと・・聖さんと培った気合と根性はどうした?」
狼「うるさい!! 噛んでやるwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「痛てててて!!!!!! ・・ってこんなことしてる場合じゃないぞ、どうするんだこの量を!!!!」
狼「て、手伝ってぇぇぇぇぇ!!!!!」
祈「お兄ちゃん・・」
辰「祈美!! ・・まさか、お前も」
祈「もうYABEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!」
辰「俺も少し残っているのに・・全く手をつけていない2人の面倒までは流石にみれん!!」
狼「ううっ・・聖さんと遊びすぎた・・」
祈「最高にハイって奴だwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwもうどうにもな〜れwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
辰「とりあえず刹那ちゃんに救援は送った。・・頼む、先輩!!!!」

ツー、ツー・・

『お掛けになった電話は、電源が入っていないか通話が・・』

刹那が来るまで辰哉は無意識に空を見ていた。

〜翔別荘〜

ツン「結局・・」
(; ^ω^)「俺達が」
(;´A`)「手伝う羽目になるのか・・」
翔「すまん・・恐らく辰哉も似たような状況だろう」
ツン「それにしても・・なんで宿題を手につけなかったのッ!!!!!!!」
聖「い、いや・・やろうと思ってたんだけどよ。身体が反応しなくて・・」
翔「狼子と培った気合と根性はどうした。・・というか、お前俺達が気がつかなかったらどうするつもりだ?」
聖「でも別にいいんじゃねぇのか? 高校なんて高い学費払ってるんだから適当に出席して置けばなんとかなるだろ?」
翔「・・少なくとも俺と一緒の大学に行けれねぇぞ」
聖「な、何ッ!! そ、そいつは困る――ッ!!! かくなる上は・・どうしよう?」
ツン・(#^ω^)・(#´A`)・翔「「「「そんな事言っている暇があるなら問題片付けろ―――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
聖「ひぇぇぇ・・」

人脈の強い奴が夏休みを乗りきれる
169 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 14:00:53.75 ID:iFXS+pOjo
『未ちなる世界からやって来た、危険知らずな人・・略して未来人』

〜翔の部屋〜

翔「今日は土曜日、バイトも休みだし・・何すっかな? ・・あいつとデートするか」

行動に移そうとしたその時、翔の部屋に眩い光が放たれる。

翔「ま、眩しいッ!!」
?「ふぅ〜、無事にタイムトラベル成功」
翔「だ、誰だ・・君は?」

光が消えて代わりに現れたのは自分と同年代の美少女。しかもよく見ると聖と瓜二つである。
翔はそのまま落ち着きを取り戻すといつものペースを保つ。

?「さて・・ここはどこかな?」
翔「何だよ。来てたのか・・お陰で連絡する手間が省けたぜ」
?「えっ、この人って・・親父!! 少し若々しいけどママと写っていた写真で見た通りだ!!!!」
翔「お、親父・・? 新手のギャグか?」
?「ゴホン。・・私は未来からきたあなたの娘よ」
翔「へっ・・未来ってどういうことだ? そ、それに・・俺の娘だとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
?「ちょ、ちょっと! 親父、慌てないで話を・・」
翔「俺はまだ父親になる歳じゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

〜小一時間後〜

翔「・・つまり、お前は未来からやってきた俺の娘。実用される前のタイムマシンでこの時代にやってきたと?」
?「正解、やっぱりこの時代でも頭いいね。いろいろ制約があって名前とか名乗れないけど、私はあなたの娘・・納得できた?」
翔「できるかぁぁぁぁぁ!!!!!!! それにタイムマシンはどこにあるんだよ」
?「この小さいリモコン。防水、耐熱、頑丈、軽量仕様の優れもの。私の時代に理論が確立されて数度に渡る動物実験と技術的な実験を色々重ねた結果・・現代人の嗜好に合うように開発された優れものよ」
翔「某狸ロボットみたいに机には繋いでないのかよ」
?「ないない。それでこの時代でもお馴染みの平塚グループが開発して起動テストを目的としたプロジェクトの被検体に民間人の私が選ばれたわけ」
翔「ほー・・」
?「それじゃ、私について少しだけ話すわ。年齢は華の中三で特進クラス所属だけど何故か、大学への進路を熱望されているわ・・現にこの時代でも中学から大学への飛び級制度が去年に実験的に実施されて2人の男女がモララー大学へ進学したはずよ?」
翔「あ、ああ・・テレビでも報道されたな。つまりお前の時代には発展して中学から大学への飛び級が当たり前になったんだな」
?「正解。これで私が親父の娘で未来人だと・・」
翔「ちょっと待った。お前が未来に来たのはわかったが、俺の娘である直接的な証拠は無い・・だから、過去の俺について答えてもらおう」
?「えっ! まだ疑ってるの・・」
翔「当然だ、俺の娘なら答えられて当然のはずだ」
?「・・それじゃ、いくわよ。過去の親父は世間体を良くするために自分でおこした騒動の数々を周囲から隠すためにお姉ちゃ・・じゃなかった、椿おばさんにもみ消しをさせていた。それでその最もなのは僅か小学生の椿オバサンを警察の身元引受人に・・」
翔「そ、それ以上は・・」
?「他にも色々あるわよ、広まりつつあった数々の暴力行為をもみ消すために朝礼を利用して椿おばさんを呼び寄せて高らかに自分の無実を証言させたとか・・」
翔「や、やめてくれ!! わかった、お前は俺の娘だ。認める!! 認めてやるからそれ以上はやめろ!!!!」
?「ようやっく認めてくれてありがとう親父! さてここでお願いなんだけど・・1週間ばかり私を預かって♪」
翔「へ? なんで・・」
?「この時代に滞在して向こうに報告しなきゃいけないのよ。痕跡残しちゃ拙いって理由でお金も取り上げられちゃったし・・一文無しなの」
翔「えっと・・それは今の俺では流石に」
?「そんなッ! たった1人の血を分けたか弱い娘がどうなっても良いのッ――!!!」
翔「わかったよ、わかった!!! とりあえず何とかしてやるから・・」
?「さすが親父ね!! 後、私の存在は内緒にしてね。これも規定で決まっているから」
翔「はぁ・・」

とりあえず翔はこの超展開に対応するためにも溜息をつくしかなかった。
170 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 14:56:58.49 ID:iFXS+pOjo
〜翔・別荘〜

?「うわぁ〜、私が生まれる前はこんなんだったんだ」
翔「はぁ・・とりあえずは大人しくしろよ」
?「当たり前じゃん、親父以外の人間とは会っちゃいけなんだから」
翔「とりあえずここだったらあいつが持ち込んでる服で当面は大丈夫だろ」
?「調理器具も一通りあるわね、この時代だとツンおばさんか狼子おばさんが作っていたんでしょうけど」
翔「ご明察だ、たまにあいつ等も呼んで騒いだりするよ。・・ってお前この家の間取りわかるのかよ!」
?「だって、今の家に引っ越す前はずっとこの家でいたのよ」
翔「ま、未来の俺もそんなに余裕無かったろうしな」
?「えっとマ・・じゃなかった、彼女がここに来たら私的にはかなりまずいんだけど?」
翔「心配しなくてもこの部屋の鍵は俺しか持っていないし、あいつは合鍵なんて代物は無い」
?「さすがね。・・って安心したらお腹減った。親父、何か買ってきて」
翔「仕方ねぇな。コンビニで何か調達して・・」
?「嫌よ!! あんなの食えた代物じゃないわ、私が食べるのは火の通った料理よ。だからスーパーでこれらを買ってきて」
翔「全く、あいつによく似ているせいか頭がクラクラしてきやがる。未来の俺はよくこんな娘に育てたよなぁ・・」
?「私の時代の親父は嫌な顔せずに買ってきてくれるわよ。これが買い物リスト教えるから携帯貸して」
翔「おいおい、メモでも・・」
?「メモだったら筆跡で私の存在がばれるでしょ!! ・・はい入力終了、これがリスト。後はよろしく〜♪」
翔「わかったよ。んじゃ行ってくる・・」

〜ギコギコスーパー〜

翔「えっと、調味料に大根とごぼうと鶏肉っと・・後はジャガイモに牛肉と人参に白滝にゲッ、米まであるのかよ!!」
狼「あっ、先輩だぞ!!」
辰「ほんとだ。珍しく買い物かな? 先輩〜!!」
翔(ゲッ、辰哉に狼子かよ・・まずはこいつ等からやりきらなきゃいけねぇのか!!!)
辰「あれ、買い物ですか? それにしてはかなり大量に買いこんでますね」
翔「まぁな。親から頼まれてな・・お前達も買い物か?」
狼「ええ、晩御飯の用意です」
辰「これから狼子の家で食べるんですけど・・よかったら一緒に来ますか?」
狼「いいなそれ!! それなら友や刹那やツンさんに聖さんも呼んで・・」
翔「(ま、まずい!)いや・・またの機会にしようぜ。それに折角2人きりなんだから邪魔するわけにはいかねぇよ」
辰・狼「「/////////」」
翔「ま、俺のことは気にせずに楽しんどけよ。・・そんじゃあな!!」

そう言って翔は2人の元を立ち去るが、残された狼子と辰哉は翔の挙動不信振りが少し目に付いてしまう。
ちなみに家の買い物だと翔は述べていたのだが、2人はまるっきり信じてない。

辰「しかし、随分買いこんでたな・・先輩ももしかして聖さんと一緒なのか?」
狼「あのな・・聖さんはああ見えて料理はからっきしなんだよ」
辰「マジかよ。初めて聞いたぜ・・あの人にも弱点があったんだな」
狼「意外だろ。でも本人は習得する気なさそうだけど・・」
辰「おっ、これ安いな。買ってくかwwwwwwww」
狼「無視するとはいい度胸だ!! 噛んでやる!!!!!!!!!」
辰「痛てててててててぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
店員「お客様、他のお客様のご迷惑となりますので・・」
狼・辰「・・すいません」

翔「・・あいつ等、何やってんだよ。っと、俺もさっさと買い物済ませねぇとな」
171 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 15:44:42.64 ID:iFXS+pOjo
〜翔・別荘〜

?「あっ、親父。お帰り〜」
翔「ただいま・・って、随分片付いているな。服も洗濯されている・・お前がやったのか?」
?「女の子なんだから家事ぐらい出来て当たり前でしょ」
翔「これが俺の娘なのかよ。・・その技術を少しでもあいつにも見習させたい」
?(そっか、まだこの時代には・・でも親父、その願いはちゃんと叶うわよ)
翔「何か言ったか?」
?「別に・・それじゃ、作るから親父はお風呂でも入って・・汗かいたでしょ?」
翔(こんな娘に育てるとは・・未来の俺は立派なんだな)

・・・・
・・・
・・


翔「ふぅ〜、サッパリした。おおっ・・煮物に唐翌揚げとは豪勢じゃねぇか!」
?「親父が買ってくれたからね。さて、いただきま〜す!」
翔「う・・美味い!!! しかしこれはいつぞや食べた狼子の料理の味に似ているな」
?(似てるも何も・・直伝ですから)
翔「だけどよ・・なんで俺のことは親父なんだ? もしかして反抗k・・ぶべらッ!!!」
?「そんなわけないでしょ!!!!」
翔「い、いきなり顔面パンチかよ・・」
?「全く・・ま、物心ついた時から親父って言ってたわね。初めて言った時は覚えてないんだけど、随分ショックだったみたいね」
翔「そりゃ、自分の娘に親父って言われたら誰だってショックだろ。・・それじゃ次の質問」
?「答えられる範囲で宜しければ」
翔「未来の俺達はどうなってるんだ? 多少はいいだろ?」
?「ま、自分の未来を知りたがる気持ちはわかるけどね。・・えっとね、まず親父と辰哉さんは一緒の職場の先輩後輩ね」
翔「へー、あいつ等と長い間つるんでるんだな。家族ぐるみの付き合いなのか?」
?「ご想像にお任せします。あとね・・沙樹さんともご近所さんだから交流はあるわよ」
翔「沙樹さん・・って応援団の団長かよ!! 何だか凄いな・・」
?「はい、私が話せるのはこれで終了。後は未来的な事情で話せません」
翔「何だよ、タイムパラドックスって奴か? 黙ってるからもう少しだけ教えてくれよ、俺なら親の言うことを聞きなさい!!」
?「禁則事項です。それに親の権限を勝手に振り回すのは教育上よろしくありません、今度似たようなことしたらウオッカを原液ごとぶち込むわよ」
翔「まだ内蔵は大事にしたいからやめてくれ・・」
?「よろしい」

〜翌日〜
?「親父〜、どっか連れてって!!! 出来れば親父の友達に会わないところ」
翔「藪から棒に滅茶苦茶な事を・・」
?「そうね、繁華街は親父が知り合いに会うとまずいから・・この遊園地ね!!」
翔「また勝手に決めて・・って、ここ県外じゃねぇか!! 俺は金にも余裕がねぇんだよ、却下だ却下!!!」
?「娘に尽すのが親の役目でしょ。それにこういった遊園地は私の時代になくなってるからここ行きたい〜!!!」
翔「ダメなものはダメ! ワガママ抜かすんじゃありません!!!」
?「なんでよ!!! 娘とのデートって父親の最大の喜びでしょ!!!!」
翔「それを喜ぶのは仕事で鞭打っている中年親父だろ!!! 俺はまだその年代じゃねぇ!!!」
?「お願いお願い!! それにおじいちゃん所の車で行けばそんなにお金掛からないでしょ」
翔「実家に借りろってことか・・ま、免許あるし適当に言いつくろえばなんとなるかな」
?「さすが親父! それじゃよろしく」
翔「ハァ・・未来の俺を恨むぞ」
172 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 16:35:48.33 ID:iFXS+pOjo
〜遊園地〜

翔「ハァ・・」
?「親父! 次はあれに乗ろう!!!」
翔「わかったわかった。それにここで親父はやめてくれ・・」
?「どうして? 私にとって親父だし・・」
翔「あのなぁ、俺はまだ十代だ。それに傍から見たらどう見たってカップルだろが・・」
?「う〜ん・・仕方ないな」

〜夕方・道中〜

翔「気は済んだか?」
?「楽しんだらお腹減っちゃった。作るのめんどくさいから外で済まそう」
翔「お前は自分の料理しか食わないんじゃなかったのかよ・・」
?「だったら親父が料理作ってくれるの?」
翔「はぁ!? 俺が料理なんて出来るわけねぇだろ!!!」
?「知ってる。・・あっ、あそこでご飯食べよ!」
翔「あそこって辰哉のバイト先じゃねぇか!! お前、俺の知り合いと会っちゃダメなんだろ。それにお前はあいつとかなり似ているから変な勘探りされても困る」
?「え〜・・でもハンバーグが食べたい!!」
翔「わかったから大人しくしろ!! それにここら辺は俺の地元なんだから見られないように隠れておけ!!」
?「それなら心配ありません〜!! このタイムマシンは他にも色んな機能あってその1つの機能である光学迷彩で私の姿を隠してくれます、つまり他の人からは車内は親父一人が運転しているように見えてます」
翔「だから親父から車受け取る時も姿隠していつの間にか車内にいたのか・・って、そんな便利な機能あるなら県外じゃなくても近場でもいいじゃねぇか!!」
?「あのね、こうして車内で移動するならいいけど外に出たら不自然でしょ。本来なら目的の時代に到着した瞬間に全ての人間の記憶を書き換えて擬態する機能は欲しいんだけど、残念ながら私の時代じゃまだそこまでの実現できないの」
翔「光学迷彩やタイムマシンの時点で凄いと思うんだけど・・」
?「そもそも私の時代のタイムマシンは潜入を目的として作られたものなの。時間旅行なんてされたら歴史書き換え放題じゃないの」
翔「な、なるほど・・それだったら並行世界についても研究されているのか?」
?「ハァッ? パラレルワールドなんてあるわけないでしょ、どこぞの闘争人間じゃあるまいし」
翔「タイムマシンが実現していて並行世界の存在を否定するとは・・変な世界だな」
?「そんな事より親父! ハンバーグはまだ!!」
翔「あぁ〜!! もう少しだから大人しくしてろ!!!!」

〜ハンバーグ専門店、天帝〜

翔「ほら、好きなもの食え。ここは個室もあるから姿見られる心配ないだろ」
?「さすが親父。私の事考えてくれるなんて、マ・・じゃなかった彼女が惚れるのもわかるわ!」
翔「何言ってるんだか・・」
?「それじゃ、このモンちゃんバーグにマヤのサラダね!!」
翔「あんまり食べ過ぎると太るぞ」
?「その分運動しているのでご心配なく〜」
翔「そうだ、肝心な事聞いてなかった。・・なぁ、お前等の時代になったら女体化はどうなってるんだ?」
?「え――・・女体化?」
翔「おいおい、未来人なのに女体化がわかんねぇのかよ!!」
?「・・・」
翔(あれ? 空気的に考えて聞いちゃまずかったのかな?)
?「・・タイムマシンが作られた理由はね、様々な時代に潜入して歴史の真実を明らかにするのが目的もあるんだけどそれ以外にも女体化の原因を探るためでもあるんだ。女体化は医学的にも驚異のメカニズムだからね」
翔「もしかして・・お前の時代にも女体化は存在しているのか?」
?「それは答えられない。・・ただ、はっきりと言えるのは女体化という存在は私の時代にもあるってこと」
翔「・・」
?「ごめん、変な空気になったね」
翔「いや、俺も変な事聞いて悪かった。・・とにかくお前の時代にも女体化はあるってのはわかったよ」
?(・・女体化、確かこの時代には常識になってるんだよね。そしてそれに関わっている偉大な人物も存在している)
翔「ほら、さっさと頼めよ。・・ハンバーグ、食いたいんだろ?」
?「うん! さっ、たくさん食べるわよ!!」
翔「お手柔らかにしてくれよ・・」
173 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 17:17:17.06 ID:iFXS+pOjo
〜3日目〜

翔「悪い、今日は帰ってからあいつと過ごすから適当にしてくれ」
?「はいはい。彼女とよろしく頑張ってね」
翔「それと俺は基本的に平日は学校とバイトだから顔だせる機会が少なくなるかも知れんから頼むな」
?「わかってるわよ。私もそろそろレポート纏めなきゃいけないからここに居るわ」
翔「そうか。なるべく顔出すようにするから・・じゃあな!!!」

〜4日目〜

?「ハァッ!! なんでここに彼女連れてくるのよ・・私は親父以外の人間と会っちゃダメなのよ!!!」
翔「例の光学迷彩で何とかしてくれよ」
?「・・わかったわよ。レポートをタイムマシンにしまうから」
翔「恩に切る!!」

ピンポーン

聖「おいッ! さっさと開けやがれ!!!!」
翔「うわっ、もう着やがった・・」
?「よし、光学迷彩始動。これで彼女には私の姿見えないはずよ」
聖「早くしやがれっ!! さもなくば・・」
翔「わかったわかった!! すぐに開けるからちょっと待ってろ・・」
聖「ようやく開けやがったか」
翔「お前な。近所迷惑も考えてちょっとは大人しくしてろ、借金取りに追われてるんじゃねぇんだぞ!!」
聖「だったらさっさとしろ!!! ・・ん、何か人の気配がするな」
?(えっ!! ちゃんと隠しているはずなのに・・)
翔「き、気のせいだろ」
聖「・・ま、他に浮気しやがったらてめぇの命はこの場でなくなっているからな」
翔「浮気するわけねぇだろ。お前相手に浮気する奴はホモだ」
?(ちょ・・ちょっと! 実の娘がいるのにやることやっちゃうの!!)

〜5日目〜

翔「悪い!! 今日もだ!!!」
?「えっ、またなの!!!!」
聖「扉をぶち破られたくなかった早く開けやがれぇぇぇぇ!!!」
翔「早く光学迷彩を!!!!!!」
?「この親父は・・!!!」


〜6日目〜

?「・・・」
翔「・・なぁ、そろそろ口聞いてくれよ。お前利用してあいつ連れ込んだのは悪かったからよ」
?「2度も親の性交シーン見せつけられてまともな娘はいません」
翔「ハァ・・」
?「このタイムマシンってね、動力はS2機関の如く永久機関でね。その手にありがちな動力不足による機能不全は無いの」
翔「・・何だよ、いきなり」
?「後ね説明していなかった機能だけど・・攻撃翌用に超電磁を放つの♪ それが身体に直撃した場合、どうなると思う?」
翔「そ、それって・・」
?「超電磁だから痛みを感じずに身体は瞬時に灰と化すわ。・・頭のいい親父なら私の言ってる事わかるわよね?」
翔「お、おい!! 俺がお前の親なら俺を消してしまったら・・」
?「・・あのね、歴史って修正する事が出来るの、例えば私が過去に飛んで親父を誘導すれば分岐点となる別の未来が発生する、それで親父をそこに誘導してパラドックスが発生する前に速やかに今の時間に戻って親父を殺せばこの時間は消滅して修正完了。この理論はタイムマシンの開発段階で証明されてるの♪」
翔「わ、わかったよ・・すまなかった」

〜最終日〜

翔「今日は登校日だから学校へ行ってくる・・」
?「行ってらっしゃい、私もレポート終わったからね」
翔「そうか・・今日でもう一週間か」
?「長いようで短い期間だったけどこの時代を堪能出来て楽しかったわ」
翔「じゃ、父の日は未来の俺にちゃんと感謝しろよ。それじゃあな!」
?(でも元の時代に帰る前に最後にやる事が残ってるのよね。・・でもレポートも終わったし、このまま帰るのは惜しいわ)

174 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 18:19:15.55 ID:iFXS+pOjo
〜特進クラス・教室〜

翔(ハァ・・思えば奇妙な一週間だったな。自分の娘と過したって言っても誰も信じないだろうし)
巌「どうした中野、ここ一週間でげっそりと痩せたんじゃないのか?」
翔「・・宗像か。なぁ、もし未来から自分の子供がやってきたらどうする?」
巌「おやおや、痩せたのは心身的な疲労が原因か。春日先生にでも診てもらったらどうだ?」
翔「おい!! 俺は別にどこも悪くはねぇし、至って正常だ」
巌「ふむ・・」
沙「面白そうじゃないか」
翔「今度は藤堂か・・ま、お前でもいいや。お前は未来から自分の子供がやってきたらどうするんだ?」
沙「愚問だな。今の俺の生き様を示すだけだ! それに未来なら女体化だって治っているだろ、俺は元の男に戻って家庭を築いているはずだ」
翔(なぁ、お前のとこの団長。変な妄想癖あったか?)
巌(何、未来なんて誰もわからない。案外そういった事が起きているのかもしれないぞ?)
沙「しかし、未来と言えば・・私から団長の跡を継ぐのは誰だろうな。そろそろ後継者も視野に入れなければいけないし」
翔「心配しなくてもこの学校の応援団は当分は滅ばねぇよ」
巌「そういえば相良君はまだ登校していないようだな」
翔「知るかよ。俺に聞くな」

先生「お〜い、席に着け。授業始めるぞ」

〜???〜

?「さて、もう光学迷彩解除しても大丈夫ね」

?は人がいないことを確認するとタイムマシンの光学迷彩を解除する。自分の親である翔が育ったこの時代・・今の自分の知っている風景とはかなり違うが、それでも降り注ぐ太陽や身体を注ぐ風は自分の時代と何ら変わりは無い。

?「最後の仕事する前に最後の観光場所は・・やっぱり、親父の通っている学校よね!!」

そして?は翔が通っている学校へと向かう、そこで巻き起こる騒動は未来人である彼女ですらも知らなかった。


〜お昼休み・生徒会室〜

長谷川 友は立派な生徒会役員、彼女は書記の当番に当たってしまったのでお昼を食べたらすぐに人数文のプリントを印刷して放課後に行われる会議の準備をする。

友「さて、書類の配布はこれで終わりね。ハァ〜・・疲れた」
奈「お疲れさま、長谷川さん」
友「奈美会長!! どうしたんですか?」
奈「ちょっと欲しい資料を取りにね」
友「そういえば生徒会の会議にはいつも応援団の人も出席しますよね。あれって何でですか?」
奈「応援団の活動内容は知っているでしょ? 各部活を取りまとめる応援団は生徒会の方針に沿って予算の分配や各部活の詳細な実体を生徒会の会議で報告しなければいけないの」
友「でもそれなら会議に出る必要は・・」
奈「応援団は各部活を取りまとめるだけじゃないわ。部活に関しての協議は応援団を通して行われるの、だから各部活は生徒会に要望が在れば応援団を通さなきゃいけないし応援団も部活要望を生徒会に通したり、生徒会が部活勝手にを廃部にしようとした場合はその議案を拒否する事も出来る」
友「と言うことは・・各部活は生徒会に関しては応援団を間に通さなきゃいけないんですね。つまり応援団は各部活を抑止と同時に生徒会の不都合から各部活を守る義務があると」
奈「平たく言えばそういうことね。他にも学校の治安に関しても応援団を通さないとダメなの。それで代々応援団の団長が生徒会の会議に出席しなきゃいけないんだけど・・」
友「そういえば藤堂さんが出席したの最初の挨拶以来、見てないです。代わりに宗像君を見かけますけど・・」
奈「彼女、ああいったの苦手みたいね。代わりに宗像君が出ているけど・・」
友「何か問題でもあるんですか? 私から見れば彼のお陰で円滑に回っているように見えるんですけど」
奈「傍からわね・・彼隙が無いからこっちからの部活の予算圧縮をかわされてしまうのよ。おかげで採算が取れないって会計から文句が出てるのよ」
友「はぁ・・」
奈「ま、今回の会議では何とかするわ。長話してごめんなさいね」
友「いえ、振ったの私ですし・・それじゃこれで」
奈「・・女体化して生徒会に身を置いているけど男女平等ねこの仕事」

溜息を突きながら奈美は目当ての資料を探し出す。

175 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 19:00:50.18 ID:iFXS+pOjo
〜同時刻・校庭〜

さてこちらは桃井リーダー、彼は至福の時を過ごそうとしているが話の展開からしそうは問屋は降ろさない。

桃「ふぅ〜、やっと昼だ。今日の弁当は・・って、あれは相良 聖!!」
?「ここが親父の通っている学校ね。私の時代だと超名門校になってるけど、ここに進学するのもの・・ね」
桃「相良さんッ!! 今、何時だと思ってるんですか!!」
?「え? 相良って・・私のこと!?」
桃「あなた以外誰がいるって言うんです!! それに・・私服で登校するなんてもってのほか!!!」
?(ヤバイ! 光学迷彩を発動させるの忘れてたのね。まずいわ、この状況・・どうしよう)
桃「とりあえず、生徒会で制服を取りに・・グハッ――!」

桃井の腹部に?の重い一撃が放たれる。桃井の意識は暗黒へと消え去る・・

桃「またこの役目か・よ・・」
?「ご、ごめんなさい! 早く親父を・・」
団員1「も、桃井!!」
団員2「あ、あれは・・相良!!! 先輩、桃井リーダーをやったのは相良ですッ!!!!」
団員1「なんてこった・・早く団長に知らせねば!!!」
団員3「どうしたどうした!!! って、相良ッ!!!」
?(ま、まずいわ・・こうなったら全員叩きのめすしかないわ。いつも道場で団体戦しているから大丈夫だけど・・手加減できるかな)


〜特進クラス〜

団員「大変です、団長!! さ、相良がまた暴れてます!!」
沙「何だと!!!」
翔「おいおい・・マジかよ!!」
巌「状況は?」
団員「はい、我々で抑えようとしてるんですけど・・全滅は時間の問題かと」
巌「わかった。お前は負傷人を手当てしろ」
団員「押忍!!!!!!」
巌「さて、俺達も・・って、もう遅いか」

〜校庭〜

すでにそれ相応の団員の屍が?によって形成されており、?は騒動の大きさに内心困惑してしまう。

?(まずい・・早く親父と会わないと!! この時代の応援団団長は・・)
沙「相良ァァ――!!!!!」
団員「おおお!! 団長が来てくれた、ここは団長に任せるんだ!!!!」
?(遅かった・・沙樹さん相手で逃げるのはかなりキツイけど、やるしかない!!!)
沙「貴様、これだけの騒ぎを起こして置きながら私服で登校するとはいい度胸だ!!!」
?「え、えっと・・」
沙「問答無用!!!!」

沙樹が?に飛びかかろうとした時、単車に乗った翔が颯爽と現れる。

?「親父!!」
沙「お、親・・?」
翔「何してる! さっさと乗れ!!!」
?「助かるわ!!!」
翔「悪いな、藤堂。逃げさせて貰うぜ!!!!」

翔は?を乗せてそのまま単車を爆走させ、単車は明後日の方向へと爆走させる。唖然とする藤堂に宗像が肩に手を置く。

巌「見事に逃げられたな。・・どうする?」
沙「決まってる!! 残っている奴等で追うぞ!!!!」
巌「やれやれ・・」

176 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 19:35:20.72 ID:iFXS+pOjo
〜道中〜

翔「お前、何やってるんだ。未来に帰ったんじゃないのか!!」
?「いや、まだやる事があって・・」
翔「それにお前は俺以外の奴等に見られたら行けないんだぞ。不用意に外出するな!!!」
?「ごめんなさい・・」
翔「・・ま、起こしてしまったものは仕方ない。これからどうするんだ?」
?「とりあえず、私が用があるのは親父だから誰もいないところで。幸い彼等は私をマ・・じゃない、彼女と勘違いしているみたいだし」
翔「・・な、お前の母親ってもしかして?」
団員A「いたぞ!!! 中野と相良だ!!!!!」
翔「ゲッ、こんな所まで・・ここまで来たら答えて貰うぞ!!」
?「禁則事項だから無理!! そんなことよりも彼等振りきってよ!!!」
翔「簡単に言ってくれるぜ。・・ってあいつ等も原付で対抗してるのかよ!!!」
団員達「待てェェェェェェェ!!!!!!」
沙「待てッ!! 宗像、構わん飛ばせェェェェェ!!!!!!」
巌「買って貰った単車がこういう形で役に立つとは・・」
?「ちょっと!! 向こうも単車よ!!!!」
翔「クッ! 少々荒っぽい運転になるけどしっかり掴まれよ!!!!」
?「う、うん・・親父を信じるッ!!!」

本日、相良 聖は体調不良で遅れてしまった。最初は周囲に信じて貰えなかったのだが、病院から礼子に繋いでもらい何とか正式に遅刻として扱われた。

聖「あ〜あ・・狼少年の気持ちが良くわかるぜ。・・ん?」

そんな聖の隣を1台の単車が通り過ぎる、聖の驚異の動体視力は単車乗り主である翔と・・その後ろに乗っている?の姿を捉えていた。

聖「あれは中野と・・女? あいつが俺以外の女と単車に乗っている・・あの野郎ォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」
団員「待てェェェェェェ!! ・・って、貴様は相良ッ!! な、何故ここに・・ふべらッ!」

偶然通りかかったのは一番やりをもくろむ1人の応援団団員。聖の姿を見つけるや否や原付を止めたのだが・・聖の蹴りによって瞬時に意識を失う。翔が浮気をしたと勘違いした聖は怒りに燃え、体調を一瞬で壮快させると原付を奪い追跡する。

聖「あの野郎・・俺がいながら浮気するとはいい度胸だ!!!!! 待ちやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!」
巌「お、おい・・あの原付に乗ってるの相良じゃないのか?」
沙「何ッ・・」

宗像は距離を縮めると確かに原付に乗っているのは他ならぬ相良 聖であった、しかし目は血走っており般若のごとき表情で翔の単車を追う。

沙「さ、相良・・丁度いい、さっさと降りろ! 俺と勝負の続きだ!!!!!!」
聖「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!!!!! こっちは今取り込み中なんだ!!!!! 邪魔すんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

怒りに燃える聖に原付は本来持っているリミッターを解除して驚異的なスピードを出して宗像達を突き離すと、遂には翔が乗っている単車が視界に入る。

?「ちょ、ちょっと親父!!」
翔「どうした! そろそろ振りきれたか? ってさっきから向かってくる原付は何だ、単車に並ぶなんて相当だぞ」
?「その原付・・親父の彼女!!!」
翔「何だとぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
聖「待ちやがれェェェェェェ!!!!!!!! 浮気した報いを思い知らせてやる!!!!!!!!!!!!!!!」
沙「宗像、こっちもあいつ等を追うためにフルスピードだ!!!」
巌「・・その事なんだが、非常に言い難い事実がある」
沙「どうしたッ! 応援団員たるもの根性を・・」
巌「もう少しでこの単車はガス欠だ。このまま奴等を追うのは不可能だ」
沙「なんだと・・」

奇妙なバイクレースが繰り広げられている中で先頭に立っている翔は何とか振りきろうとするが、相手が相手なので振りぬけずにいた。

翔「おい!! こっちもそろそろガス欠が近いぞ!!!!」
?「ええええ!!!!! 根性で持たせてよ、親父!!!」
聖「大人しく止まりやがれェェェェェェ!!!!!!!」
沙「待ちやがれッ! さっさと止まれェェェェェェ!!!!!!!!!」
翔「あの連中じゃ根性で乗り切れねぇよ。このまま振りきるのだって・・」
?「・・仕方ないわ。出来れば使いたくなかったけど、この状況を打破するにはあれを使うしかないみたい。親父、いい?」
翔「この状況が何とか出来るならやってくれぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
?「わかった。エネルギーオーバードライブ!! 座標セット! ・・行くわよ、空間転移!!」
翔「え?」

翔と?を乗せた単車は綺麗さっぱり消え去った。
177 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 20:16:40.84 ID:iFXS+pOjo
〜浜辺〜

翔を乗せた単車は?の手によってこの浜辺へと転位した、翔は慌ててキーを抜いて単車は止めるものの2人は衝撃によって振り落とされてしまう。

翔「痛てて・・大丈夫か?」
?「受身取ったから何とかね・・」
翔「流石は俺の娘だ」
?「海が綺麗・・私の時代と何ら変わりない」
翔「あんなことがあったのに現金なもんだな。・・そこが、母親であるあいつに似ているぜ」
?「えっ!! ちょ、ちょっと・・私は!!」
翔「お前の母親はあいつなんだろ。・・全く、俺達はロクでもねぇ娘を生んだものだ」
?「・・あ〜あ、ばれちゃったか。過去の人間に情報与えちゃまずいんだけど」
翔「別にバラして無いんだから大丈夫だろ。・・それにそのタイムマシンはすげぇな、空間転移なんてゲームの世界だけかと思ったぜ」
?「タイムワープの応用よ。本来なら莫大なエネルギーが必要なんだけど永久機関であるこのタイムマシンだからこそ可能なの。それにこの時代にこのタイムマシン理論の骨子となる理論が提案されてその科学者達が資金援助のために平塚グループを頼るの、私がいた時代ではそれが承認されて平塚グループの援助のお陰で長い時代を経てこのタイムマシンは完成されたってわけ」
翔「お前の時代は相当すげぇ科学力なんだな」
?「まぁね。この時代で解明されていない難解な数学の定理もある程度証明されているし、医学だってこの時代では治療不可能だった病気もそれなりに解析されているし、中には治療法だって確立されているのもあるわ」
翔「未来ってすげぇな」
?「違うわ、人が試みて失敗してそれを学習して・・その繰り返しが未来を刻んでるの。過去の人のお陰で現実が在るんだって・・この時代に来る前に親父は言ってくれた」
翔「さすが、俺。未来でも娘にはガツンと言ってるんだな」
?「親バカだけどね。・・実は私悩んでたんだ、ママが女体化した人間だって聞かされてたけど・・この時代の親父とママを見て吹っ切れそう」
翔「・・そうか。な、もう一つお願いがあるんだけど?」
?「何?」
翔「お前の名前・・教えてくれよ。きっと俺達は色んな想いでお前の名前つけたんだろ?」
?「・・・“希”、中野 希。それ私の本来の名前」
翔「希か・・いい名前だな」
希「ありがとう。親父・・じゃ、最後の仕事するね」
翔「お、おい・・何リモコンを俺に向けてるんだ。ま、まさか超電磁で俺を――――!!!!!」
希「さようなら・・親父」
翔「お、おい・・・」

希はタイムマシンのボタンを押すと、翔は気絶する、そして少し躊躇してしまうがボタンを上空に向けて押す。

希「未来から来た私は決して過去に痕跡を残してはいけない・・それは接触した人間に対しても例外じゃない。
過去の人間に接触していい規格が1人なのは削除し易くするため・・今押したボタンは私と密接に接触した人間の記憶を操作して削除するボタン。目が覚めたら、親父はもう私の事を覚えていないし、決して思い出すことはない。消された記憶を思い出すのはこの時代のあらゆる技術を持ってもそれは不可能・・私のことは永久に思い出せない。
そしてさっきのボタンを上空に向けて押せばこの時代の人間達は私の事を忘れ去ってしまう。


でもね、さっき親父には嘘ついてたの・・私の父親は確かに親父だけど母親に関しては嘘。だって私がいる未来なんて・・結局は過去の人間のちょっとした行動ですぐに変わってしまうのだからね」

そして希は翔に視線を少し移した後、タイムマシンのボタンを押してこの時代から消え去った・・
178 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 21:23:14.24 ID:iFXS+pOjo
翔「うっ、うう・・」
聖「ようやく気がついたか」
沙「全く、何でこんな浜辺にいるんだ?」
巌「ま、若さゆえの衝動と言う奴じゃないのか?」
翔「お、お前等・・俺はどうしてここにいるんだ」
聖「知るかッ!!! 俺達も気がついたらお前を追っていたのは覚えてるんだが・・」
沙「そうだッ! 相良!! 貴様は・・」
聖「やるか!! 何故だか知らねぇが俺は今、無性に気が立ってるんだ!!!」
翔「お、おい!! やめろ!! というか宗像もこいつ等止めろ!!!」
巌「全く・・」

2人が聖と沙樹を止めようとした時・・単車が爆発する。

沙樹・聖「な、なんだ!!!」
巌「どうやら、中野が乗ってた単車が爆発したようだな」
聖「お前・・単車乗れたのか?」
翔「い、いや・・俺も余り良く思い出せないんだけど教職員の駐車スペースにあった単車をかっぱらってお前等とデットヒートしたのは覚えてるんだけどな」
沙「教員の単車をパクるとは・・いい根性してるな。見た限りもう使い物にはならないな」
聖「持ち主の先公は不幸だよな」
巌「恐らく、無理な運転がたたって爆発したんだろう。・・中野、お前が持ってるのは単車のキーじゃないのか? 見たところ名札もついているようだし、持ち主は特定できそうだぞ」
翔「本当だ。えっとreiko kasugaだと・・? もしかしてこの単車・・礼子先生の・・か・よ・・・・」

持ち主が判明したところで、全員は翔に背を向ける。

聖「ま・・謝れば何とかなるんじゃないのか・・?」
沙「人は誠心誠意謝れば心は動く」
巌「春日先生のことだ、あんな古い型の単車を所有してるのだから相当愛用があったのだろう」
翔「お、おい!!!!!! お前等、俺を見捨てる気か!!!!!! 責任の一端はお前等にもあるぞ!!!!!!!!!!!!」
沙「記憶が無いが、恐らくお前は俺達に追いかけられるような事をやらかして逃亡のために単車を使ったんだ。残念だ、お前は相良と違って賢明な人物だと思っていたのだが」
巌「まぁ、運ぶのは手伝ってやる」
聖「諦めろ。誰が見たって礼子先生の単車を壊したのはお前だ。観念しろ」
翔「は、薄情者ォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

黒煙を上げている単車がある浜辺には翔の悲痛な叫びが木霊する・・


179 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/06(日) 21:23:45.18 ID:iFXS+pOjo
〜???〜

無事に自分の時代へと戻った希は待っていた両親と再会する。

希「親父、ママ!!」
?「おかえり、希。今回の時間旅行はどうだった?」
希「うん。色んな事が合ったけど楽しかったよ」
?「若い頃のこいつはどうだった? 随分だらしなかったろ」
?「お、おい!! 娘に変な事言うな!!!」
?「何だよ! てめぇがだらしねぇのは事実だろ!!!!」
?「お前だってな・・!!!」
希「親父は・・今と一緒だったよ。私に優しくしてくれて色々連れてってくれたよ」
?「おおっ! さすが昔の俺だ!!!」
?「そりゃ、自分の娘を蔑ろにする奴は親じゃねぇ!! 希は俺の立派な娘だからな」
?「まぁな」
希「後、それにね・・今と同じようにママとラブラブだったよ!!」
?「な、何言ってるんだ希!!! 俺とこいつはな・・」
?「全く、過去まで行って俺達の何を見ていたのやら・・」
希(これが私の両親だよ。・・昔の親父も早く私に会いに来てね)

〜時代は戻って平塚コーポレーション社長室〜

明「何だこの書類は?」
兼「とある科学者からの資金援助の嘆願書だ。何もタイムマシンの研究らしいが・・」
明「タイムマシンか・・開発に成功して実用されたら人類にとって劇的な発明になるな」
兼「ああ、まだ解明されていない歴史の真実が明らかになるし、もしかしたら戦争の根絶にも期待は出来るな。・・・それでどうするんだ?」
明「当然・・却下だ!!! タイムマシンなどという夢現抜かしている科学者集団など当てにならん!! それに人間は過去を振り返って未来を見据えて進んできた・・それに無闇に歴史を変えられたら俺達の築き上げたものが台無しにされる!!!!!!!」
兼「わかったわかった。理由つけて突っぱねておく」
明「それにこのような理論を抜かしてる目ぼしいパラノイア集団に徹底的に圧力を掛けろ。場合によっては実力行使も許可する」
兼「おいおい、実力行使とは物騒だな。やりすぎはよくないぞ・・」
明「このような理論が実現されるよりマシだ。関係機関を通じて俺から手配する」

こうしてタイムマシンを定義する科学者達の名実と発言は表裏の世界から完全に失い、タイムマシンに関する理論や論文は闇に葬り去られて二度と出る事は無かったそうだ。

〜保健室〜

あれから4人は単車の所有者である礼子に恐る恐る事情を説明する、心なしか無表情の礼子が4人に恐怖感を与えさせる。

巌「というわけです」
礼子「つまり、私が長年苦楽を共にして来た相棒は見事に鉄屑と化したと・・」
沙「我々も何とか修復しようと試みたのですが・・」
聖「気をしっかり持ってくれ。おい、おめぇが原因なんだから何とか言え!!!」
翔「礼子先生。そ、その・・」
礼子「・・事情はわかったわ。相良さんに藤堂さんに宗像君は帰っていいわよ」
聖「し、しかし礼子先生。こいつも悪気が合ったわけじゃ・・」
礼子「いいから、さっさと帰りなさい――」
聖・沙樹・巌「「「は、はい。・・失礼します」」」

礼子の有無を言わせぬ発言により、3人は保健室を立ち去る。それに3人は礼子の只ならぬ雰囲気に身体を震わせる・・それは武者震いでも無く、純粋な逆鱗によるものだったのは言うまでもない。

翔「す、すまねぇ!! あれはその・・俺もよく覚えてないんだけど、あれは多分・・」
礼子「皆まで言わなくていいわ。事情考えても事故だしね」
翔「弁償は当然する!! 今回は許し――」
礼子「許すわけねぇだろ!!!!!!!!!!!! 記憶が無いィ〜? 人を舐めるのも大概にしろッ!!!!!!!!!!!!」
翔「だけど・・礼子先生だって鍵つけたまま放り出してじゃねぇか」
礼子「ハァ!! 教職員専用のスペースから俺の相棒をガメてきたてめぇが言うなァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!! あれは俺が男の時から共に乗ったかけがいの無い相棒だぞ!!!!!!!!!!!!!」
翔「気持ちはわk」
礼子「単車は買えるが思い出は買えるわきゃねぇだろ!!!!!!!!!! さぁ、覚悟はいいな・・中野ォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」
翔「や、やめ・・・うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

尋常ではない叫び声が校内に響き渡る、翔はタイムマシンに飛び込みたい気分であった。


fin
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/06(日) 21:29:54.61 ID:iFXS+pOjo
はい終了。見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwwwww
そして多分執筆中の狼子の人には無断借用したのと展開しづらい話を書いてしまったお詫びを申し上げます

Q:今までの話はあの未来に繋がるの?
A:NO。本来の時代であるこの話でタイムマシンの理論は消滅したので希がいる未来は消滅します。残念♪

Q:時系列教えれ
A:てめぇで考えな。・・というのは無責任だと思うのでタイムマシン騒動は上に投下した騒動より以前に起きたお話です


最後に・・貴様はこのスレを独占したのだぞ(-500)
パッパパ(ry
181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/07(月) 00:38:02.75 ID:DFvevFA1o
久々に読み応えのある文章だった
まるでチャーシューましましのとんこつラーメンのようで俺的にはすごくよかった

っていうか2chのSS系スレで読むのにこんな時間かけられる作品来るとか感無量だろwwwwwwwwwwwwww
182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(愛知県)2011/11/07(月) 01:04:14.43 ID:5vfEzqfE0
GJ
良いもの読ませてもらいました
183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)2011/11/07(月) 11:25:45.59 ID:0ClNyp1AO
そしてまた誰もいなくなった
184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/07(月) 12:07:37.11 ID:DFvevFA1o
Now 女体化ing...
185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/07(月) 19:16:25.05 ID:igYgrgm7o
現在進行形…だと…
186 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/07(月) 21:57:26.70 ID:PxbfXov7o
>>185
そこに気付くとは・・貴様天才かッ!
187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/07(月) 22:27:31.21 ID:0ClNyp1AO
でも投下が少ないのは寂しいな
188 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:49:47.83 ID:BGxXBRBSo
教師というのは難しい職業なのは時代が経ってもそれは変わらない。




たくさんの先生がいるけど一番の先生は深く関わった先生




                           ◆Zsc8I5zA3U





さて、季節は6月半ば・・先月に起きた柔道部の騒動やつい最近まで起きていた決闘騒動もようやく鎮静化が見え始め、一学期真っ盛りのこの時期に盛り上がるのは生徒だけではない。職員室内でも今後に向けたカリキュラムやらテストの作成やはたまた進路に関する調査など、職員室内ではクラスに関わっている教師から放たれる少しばかりのピリピリとした空気に包まれていた。
ここでも少し初老に指しかかっている教頭先生とその隣にいる小学生としか思えないちびっ子が中心となっていて簡単な挨拶を行っていた。

「え〜・・今後の予定については以下の通りです。それでは校長先生・・どうぞ」

「う〜んっと・・皆さんがしくじれば私が理事長に怒られてしまうから頑張ってね☆」

全員新喜劇のように少しずっこけたくなってしまうが、この小学生としか思えない女の子・・もとい、彼女がこの学校の校長なのだ。彼女の名前は藤野 霞(ふじの かすみ)、どこからどうみてもランドセルを背負っていれば違和感の無い幼女ではあるが驚くことに年齢は40代後半・・ちゃんと大学に出て教員免許もちゃんと所有している。ちなみにこの世界の例にも漏れず彼女も女体化者である、この手の設定にありがちな悩みとしてロリっ娘としか思えぬ容姿に悩みがあるように思えるが・・彼女の悩みは意外にも1人息子の結婚相手である。
そんなロリっ娘・・もとい、霞を筆頭に教師陣は各自の仕事をしながら動いている、そして若かりし学年主任であり数学担当の鈴木 由美から生徒会の会議結果を伝える。

「えっと、今期の生徒会のモットーは質実剛健だそうです。生徒達の気を引き締めながら私達教師陣にも質のある授業をしていきましょう」

「相変わらず変なスローガンだね。むしろ制約のある若い子には欲望解放の方がいいと思うけど」

「こ、校長・・一応生徒会が決めたスローガンですので、ある程度は合わせてあげてください」

「は〜い」

その後は簡単な報告が終わり、各教師はそれぞれの受け持っているクラスのホームルームをするために職員室を去っていく、その他教師も受け持っている授業の準備をするためにそれぞれの専用の教室へと散らばり残ったのは教頭と霞、そして礼子であった。

(あ〜・・未だにあれが校長だなんて信じられねぇよ。鈴木先生も忙しそうだし、早く保健室でのんびりするか・・)

「春日先生、春日先生〜」

保健室へ向かおうとした礼子を呼びとめたのは霞、両者の表情は対照的で子供のような天真爛漫な霞に対して礼子は少しげんなりした表情なのだが礼子にしてみれば見てくれはともかくとして上司兼大学の大先輩であることには変わり無いので無視する事など出来ない。

「どうしました・・不足している薬品リストや女体化生徒を考える会等の必要な書類は提出したはずですけど?」

「うん、知ってるよ。特に女体化生徒の書類は理事長にも好評で褒められちゃったよ、春日先生は養護教諭にしておくのは勿体無いぐらい優秀だしね。いつもギリギリの骨皮先生にも見習ってほしいよ、こないだの中間テストの問題作成だって期間ギリギリだから参っちゃうね」

「は、はぁ・・」

この学校へ赴任して以来、礼子はどうも霞のこの雰囲気が苦手だ。その理由はかなりあるのだが・・それらを要約するとやり辛いのだ、ただえさえ自分の旦那の病院にいる変人スタッフ達に加えて職場でもこのような人物と渡りあうのは少しばかり疲れる。

「私もそろそろ保健室へ行かないと・・」

「すまぬすまぬ。・・実はね、私の一人息子の潤君が婚活してくれなくてもう心配で心配で常にダーリンと枕濡らしているのよ。大学在学中に苦労して出産した親としても早く孫の顔が見たいんだけど・・春日先生の周りにいい女性いない?」

この霞は見た目は兎も角として中身はそろそろいい年代なので一人息子の婚活が心配なようだ、だからこうして既婚している教師1人1人には息子のお見合い相手を見繕ってもらったり、独身の女性教師にはお見合いを頼んで貰っているのだ。その話は教師の間でもかなり有名となっており鈴木教諭も苦笑混じりで礼子に語っていたのがいい思い出だ。
しかし、生憎礼子の周りにはそういった人間がいない、病院スタッフに話を回して見れば何とかなりそうだが、自分の上司の息子に変な人物を紹介するわけにもいかない。
189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:50:20.81 ID:BGxXBRBSo
「申し訳在りませんが、私の周りには・・失礼を承知で言いますけど、出会いは本人に任せたほうがいいかと」

「えっ〜!! 折角、まだ見ぬ孫とゲーセンでエンジョイしたり駄菓子屋でお菓子買ったりしたかったのに!!! それに潤君が子供の時は姉弟と間違えられた時が堪らなくよかったなぁ・・」

霞の独壇場に礼子に溜息がかなり出る、自分にも仕事があるので早いところこの場から立ち去りたいのだが・・ここで教頭が霞を呼び止める。

「校長。・・理事長がお呼びです、それに提出した書類に関して話がしたいとのことですが・・」

「ゲッ! またグチグチ言われるのはもう嫌だぁ・・何とかならない?」

「なりません。それに春日先生も早く保健室に向かってください」

「(た、助かった!)すみません。これで失礼します」

「あっ! 春日先生〜!!!!」

霞に見かねた教頭の助け舟も合って礼子はそそくさと職員室を飛び出して保健室へと向かう、残された霞は教頭に抗議と言う名の罵詈騒音を教頭に連射する。

「理事長の用事って何よ!! どうせ適当に理由をつけて呼び出しても中身は校長としての示しや骨皮先生の書類の遅さを罵るのでしょ!!! 教頭先生も私が無能だと思っているんでしょ!!!!」

「少なくとも私が今まで見ていた校長より貴女は優秀で素晴らしい結果を残してますよ。現に現場の教師からも聞きますよ」

「へいへい、これからも善処しますよ。・・それにしても春日先生はどうして養護教員に留まっているのかしらね」

コーヒーを啜りながら霞は誰も居ないのを確認すると先程の天真爛漫な表情は為りを潜め、“校長”としての表情を取る。教頭が傍にいさせているのは立場上もあるが彼を信頼している証、霞は見た目はこんな成りではあるが彼女が校長に赴任してからこの学園は変わった、ある時は学力対策を重点に置いて多数の生徒を名門大学へ輩出したし、生徒会にある程度の自治を与えるなど様々な政策を打ちたてたお陰で当初は名前すら乏しかったこの学園は進学校として瞬く間に名前が知られ部活動に関しても名門校の地位を確立する事となった。
彼女がこの学園にもたらした実益はかなり大きい、最初は彼女を客寄せとして起用していた理事長も舌を巻いていたぐらいだ。

「確かに春日先生を起用したのは校長だと伺ってますが・・そもそも彼女自体が養護教諭志望で大学で取得した単位もそればかりでは?」

「甘い! 彼女が持っている資格の一部には普通の教師でも持っている人間は数えるほどしか無いの、それに私は単に大学の後輩だからって理由で採用はしていないわ」

「と仰いますと?」

「一応書類審査でね、彼女の経歴やら論文には目を通してたんだけど・・ハッキリ言って優秀よ。私の大学が歴代首相を輩出している超エリート名門校なのは知っているでしょ? その大学の主席候補になる事自体も凄いんだけど、中でも目が光ったのは教員研修よ」

教師志望の人間は必ず学校へ研修に出されるのだが、そこで霞が礼子に惹かれたのはその実績である。

「一度だけね、彼女は小学校で普通のクラスで研修したんだけど・・それが凄かったのよ。教頭先生は規定で書類は見れないでしょ?」

「ええ、私も理事長から聞いたのは校長である貴女の推薦としか・・」

「驚くべきことにね・・彼女が研修したクラスの児童全ての成績が急上昇したの。しかも一人も余すことなくよ!! でもそれから彼女は養護教諭を志望し続けたのよね」

礼子が叩き出した驚異的な実績に教頭も思わず驚いてしまう、教師として生徒の成績を上昇させるのは当たり前の話なのだが1クラス丸々の人間の成績を全て上昇させるのは熟練の教師でもほぼ不可能に近い。それを彼女は大学生の身分でありながらそれを易々とやってのけてしまったのである、その驚異的なデータを目の当たりにした霞はすぐさま礼子をこの学園へと呼び寄せたのだ。

「私の力に掛かれば彼女の免許を書き換えて正当に教壇に立たせることなんて可能よ、それ関係に強いコネあるしね。んで前に私が一度提案してあげたんだけど・・」

「で、結果は・・?」

「見事に断られたわ。どうもそんな気がない見たい・・勿体無い話だけど本人がああ言っているんだから仕方ないし」

霞は礼子の才能を高く買っているのは今でも代わり無いのだが本人にその気が無いので渋々断念している。

「・・ところで校長」

「わかってるわよ。理事長に会えばいいんでしょ? 丁度話したい事もあったし・・暇潰しに行ってやるわよ!!」

ロリっ娘校長、藤野 霞は今日も行く・・

190 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:52:44.47 ID:BGxXBRBSo
霞から解放された礼子はいつものように換気をしっかりチェックすると即座に一服しようとするのだが、ここでいつものように颯爽と聖が現れる。

「よぉ、礼子先生!!」

「・・どうしたの? 今は授業中のはずよ」

「暇だからサボってきた」

当然の如く言ってくる聖に礼子は更に頭が痛くなる、何故か聖については各担当教師を通して礼子に苦情が回ってくると言う理不尽なシステムが成り立っており当然のように授業をサボる聖に呆れてものが言えない。今のところ聖に関しては何とか大学へ進学させて卒業させようと教師の間でプロジェクトが発足しており、ある意味学園内でも中心人物であろう。

「で、今回はどうしたの?」

「いつものあれくれ・・」

「もうなくなったの。・・全く、少しは自重しなさい」

礼子はそのまま薬箱から錠剤一式を取り出すとそのまま聖に手渡す、ちなみに避妊薬は学校に常備されている薬とは違って旦那である泰助を通じてもらっているものである。勿論、薬の効果も市販の物や学校に常備して在る薬とは大違いであり正真正銘の医療品なので値段もそこそこ高い。

「この薬はね、本来学校の保健室にあるような代物じゃないの。旦那からはそこそこの量支給して貰っているけど、普段の薬と比べてあまり流通してないのよ」

「わかってるよ。俺だってまだ母親にはなりたくはないし・・」

「ま、私がホイホイ渡すのも問題ありそうね。でもこの薬は本当に今のあなたには本当に貴重な代物なんだから・・私だって校長とかに渡してるのばれたら困るし」

保健室の常備薬の管理は基本的に礼子が行っており、それらは日誌によって日々事細やかに記載されている。何とか聖に渡している薬の存在はばれてはいないものの学校の規定による薬じゃないので存在しているのがばれてしまえば礼子もちょっとばかりまずいのだ。

「でも校長って・・あの子供だろ? 飴でも渡しときゃ大丈夫じゃねぇのか?」

「あのねぇ・・あの人は見た目はあんな感じだけど実年齢は私よりも年上でしかも子持ちよ」

「ま、マジかよ!! しかしあれはどうみたって小学生だぜ・・」

一応聖もこの学園の生徒なので校長である霞の存在は知っていたのだが、未だに校長をしているのが信じられないぐらいだ。それに彼女を飴で手なずけられるのなら礼子は真っ先にやっている、あの年齢にてあの容姿はそれなりに女体化している人間を見てきた礼子にとっても奇妙と言うほかあるまい、一応アメリカにいる徹子にも話してはみたが当人は全く驚きもしなかったことは今でも覚えている。

「なぁ、礼子先生・・あの校長を小学校に入れたら普通に混じると思わねぇか?」

「・・違和感は無いわね。というか、もう少しで2時間目でしょ。今度はちゃんと参加しなさい」

「わかったよ」

いつものように聖を大人しくさせると礼子は書類を書きながらのんびりとした日常を過ごす、しかし聖が去った後も彼女の元へやってくる来訪者はまだまだ後が絶たない。

191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:53:07.75 ID:BGxXBRBSo
3時間目・数学

「え〜・・ここの問題はこの数式を利用します。センターでもこの問題の出題率は多いほうです、それではこの問題を中野君」

「はい」

翔はそのまま提示された問題の回答を綺麗に書き込み、数列を完成させる。

「正解です。先ほどの回答はこの問題をだけでなく応用すればこのような式にも対応できるので覚えておいてください」

「先生」

「はい、藤堂さん。どうしましたか?」

「今提示された数式は教科書56ページの問題に対する回答とはどう違うのでしょうか?」

「では、順を追って解説して行きましょう・・」

特進クラスの授業は普段のクラスの授業と違ってかなり高度で練度の高い活発な講義が行われて一線を画している。それ故に特進クラスに所属している生徒の数はそんなに多くないが順位に関しては全国に食い込むぐらいだ。

「というわけです。・・宗像君、今度はどうしましたか?」

「さっきの藤堂さんに提示した回答ですが教科書の58ページの図3に対する問題には応用出来ますか?」

「いい質問です。先ほどの数式による回答で対応できますが、他の問題にはこのような傾向も在ります」

そのまま由美は黒板に問題を書きこむとそのまま数列を書き込み、今度はそれに対する回答を1つ1つ丁寧に説明しながら書きこむ。そして時間を見ながら今回の授業のまとめに入っていく。

「今回、授業で出た数式の亜種には大学で提示されるものも含まれます。・・ではこれで授業を終了します、今回の問題の一部は全国の模擬でも出題されるので覚えておくように」

同時に授業終了のチャイムが鳴り、緊迫していた空気は一気に解放される。

「ふぅ〜・・やっぱり数学は理解するまでが辛いんだよな」

「何だ、お前は数学が苦手なのか?」

翔に話しかけてきたのはもはや説明は不要である藤堂 沙樹。文武両道をモットーにしている応援団の団長である彼女もまたこの特進クラスに籍を置いている、翔も藤堂の話を聞き流しながらも次の授業の準備を進める。

「まぁな、それに担当の鈴木先生も的確すぎて時々ついて行けれん」

「鈴木先生は学年主任でもある、生徒会でも助言はしてくれるからな」

「・・その生徒会に団長の代わりで出席してるのは俺なんだけどな」

ここぞとばかり現れたのは宗像 巌、彼もまた特進クラスに籍を置いており成績の方もこのクラスの中ではトップクラスである。

「ま、生徒会は教師の監視の元での権力だがな。それでも鈴木先生は余り口出しせずに淡々と見守ってくれて尊重してくれる」

「そういえば中野はもう進路を決めているようだな」

「ああ、レモナ大学の文学部へ進学予定だよ。俺どちらかと言えば文系だし・・藤堂は決まってないとして宗像はどこにする予定なんだ?」

「そうだな・・まだ具現化していないが春日先生が卒業した大学も視野に入れている、現にここでも何人か進学しているしな」

「ほぉ・・頭が良いのは羨ましいね」

翔はぼやきつつも宗像の高らかな目標には感心する、現に今の自分の成績でも礼子が卒業した大学を狙うのは困難だからだ。

「おい、進路もいいが中野は相良を抑えろ。俺達も相良ばかりに気を取られるわけにはいかないからな」

「そうだな。俺達応援団は全体をまとめなければならない、相良を抑えるのは彼氏であるお前の義務でもある」

「簡単に言いやがって・・それが出来たら俺だって苦労はしねぇよ」

翔の嘆きと同時に4時間目である古文の授業が始まるのであった。

192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:54:31.00 ID:BGxXBRBSo
同時刻・2年クラス

ここは狼子達のクラスで4時間目の授業は歴史、そして授業開始の時間から少々遅れてめんどくさそう表情で頭を掻いている少々筋肉質の男性が登場する。この人物こそ彼等の担任でもある骨皮 靖男(ほねかわ やすお)、担当教科は歴史で卓球部の顧問であるのだが・・性格は至ってめんどくさがりで教師の中でも書類の提出の遅さはピカ一である。しかし名前とは裏腹の堂々とした体格とずぼらさが成せる砕けた口調からか生徒からも人気が高い教師の一人でもある。

「うぃ〜っす・・お前等、全員揃ってるな。それじゃ授業を始める・・どうした木村?」

「先生、他のクラスではもう近代の授業しているそうなんですが・・なんで俺達のクラスだけ戦国時代で止まっているんですか?」

「それは俺が戦国時代が一番好きだからだ、以上。それじゃ前回は川中島の戦いをやったから今度は三方ヶ原の戦いと姉川の戦いををやって行くぞ」

「あの・・好きなのはわかりますけど戦を1つ1つ解説してたら1年以上になりますよ」

「仕方ないな、そんじゃ次の授業で考えてやる」

靖男の授業速度はその日の気分でいつも決められており、クラスによってその進行速度はバラバラである。なので彼が授業を受け持っている2年生達は彼の授業が終わるとそれぞれのクラスが集まり合って歴史の授業のムラを遅れがないように情報交換をして補完しあっている、だからそれ故に彼から出されるテストの傾向は予測不可能なのだ。人としては慕われている靖男であるが教師としては信頼されていないという変な人物だ、ちなみに彼はこのクラスの狼子とは血縁上、遠からず近からずの親戚同士でもある。

「それじゃ、始めていくぞ。まずは三方ヶ原の戦いだ、元亀3年・・甲斐の武田信玄は上洛のために軍を進めるが徳川家康の領地だったんで両雄は激突する。それじゃ・・円城寺、大体の経緯を答えろ」

「・・武田信玄は奇襲部隊で徳川領に進行、家康は篭城して武田軍を迎え撃つも兵力の差で惨敗して影武者のお陰で命からがら浜松城に逃げ延びる」

「よろしい。この時に逃げ延びた家康は脱糞してしまって惨敗した屈辱を忘れぬためにもその表情を絵師に書かせたんだ、この戦いと伊賀越えは徳川家康最大の危機と言われている。・・ま、ぶっちゃければ体のいい狸狩りだな」

そのまま黒板に要所要所の項目を書きながら授業はゆっくりかつもマイペースに進むが、時折笑い話も交えながら面白おかしく授業は進んでいく・・

「それじゃ、次は姉川の戦いだ。それじゃここを・・月島、答えてみろ」

「え、えっと・・直江状に怒った家康は上杉を牽制するために伊達に牽制をする武器マラソンを・・」

「違う、それは長谷堂の戦いだ。それに先生も優秀な属性がついた武器や防具を揃えるために何回プレイしたかは覚えてないが、ゲームでは本当の歴史は学べない。これ鉄則な」

「す、すみません・・」

周りからの大爆笑で空気は一気に和みながら靖男は解説を続ける。

193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:57:33.06 ID:BGxXBRBSo
「さて、姉川の戦いとは浅井と朝倉に攻められた織田信長が盟友である徳川家康と共に姉川の地で行った戦いのことだ。徳川家康ら家臣らの奮戦によって見事に朝倉家を打ち倒し、士気が高まった織田軍と共に浅井軍の敵将を軒並み討ち取って大勝した戦いのことである。ただし、無双ケージはモブ武将で使ってしまったら大将戦で貯めなおさなきゃいけないから注意だぞ・・さて、ここで前に出した宿題を提出してもらう」

(ゲッ!! わ、忘れてた・・)

クラスの過半数の人間が宿題を出し終えている中で狼子は申し訳なさそうに靖男に立ち寄る。

「どうした月島? さっさと今回の宿題と前の宿題を提出しろ」

「わ、忘れました・・」

「・・放課後、補習するから残っておけ」

「ええええ!!!! 明日には提出しますから・・」

「歴史上、一時凌ぎで立て直したのは一握りの天才でバカは容赦なく滅んだ。俺は親戚にも容赦はしないからな」

げんなりする狼子をよそに全員が席に戻ったことを確認した靖男は再び授業に戻って解説を始める、すでに時間はギリギリで予定してた時間よりも授業内容はかなり滞っているので要点だけを掻い摘んで説明する。

「さて、浅井と朝倉を滅ぼした信長はやがて各方面に勢力を伸ばして本能寺で金柑頭にぶっ殺される。それで本能寺の変には色々と諸説が在るが・・ぶっちゃけ[たぬき]に頼んでタイムマシンで見たほうがわかると先生は思う」

(お、おいおい・・それじゃ歴史の意味無いだろ)

「先生だって[たぬき]に来てほしいと思ったのは数知れない。てかぶっちゃけ、今すぐにでも来てほしい・・ってな訳で予鈴が鳴ったので今日はここまで、宿題は立身出世した豊臣秀吉についてのレポートの提出だ」

最期のわけの分からない言葉を残して予鈴が鳴ったので靖男の授業は終わりを迎える、そしてこのクラスの学級委員は別のクラスの学級委員に授業の内容のメールを送ると即座に情報交換を始めてクラスに知らせるためにリストを作成する。そして辰哉と刹那は沈んでいる狼子を何とか励ます。

「まぁまぁ、落ち込むなよ。補習なんてすぐに終わるだろ」

「うるさい!! ムカツクから噛んでやる!!!!!!」

「痛てててて!!!!!」

いつもの光景が繰り広げられている中で刹那はふとある事を狼子に聞いて見る。

「・・先生と親戚なのは本当?」

「ああ・・あんまり会った覚えは無いけど本当だよ。でも親戚が教師と生徒の関係ってまずい気がするんだよな」

「それはよく聞くな、でもそんなに縁があるわけじゃないんだろ?」

「まぁ、遠からず近からずの血縁だって聞いたな。そんな事よりも補習だなんて酷いぜ!!!!」

「お前が宿題出さなかったのが悪い、今日の宿題は付き合ってやるから元気出せよ」

「・・私も手伝う。3人でやったら効率もいい」

「恩に切るぜ」

彼等の日常もいつもと何ら変わりはない・・
194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:59:24.38 ID:BGxXBRBSo
同時刻・理事長室前

「失礼しました!!!!」

ようやく理事長から解放された霞は鬱憤たっぷりの表情で理事長室を後にする、どうやら理事長にこってり絞られたようで気分も余りよろしくない。一応現場では校長である霞がトップに当たるのだが学園内では名目上理事長が全ての権限を有しているので流石の霞でも逆らうことは出来ない。

「全く! 春日先生や鈴木先生のお陰で褒められたと思ったら、骨皮先生のお陰でたっぷり絞られたじゃないの!!! ・・お腹減った」

時刻は既にお昼休み、この時間は全ての人間に取って至福と安堵の時間でもある。霞はそのまま職員室へ戻って自前で作ってきたお弁当を取り出す、なおこの学園は他の学校とは違って校長室などというものは存在せず現場の教師はお昼休みになると学食や職員室などで持って来た自前の弁当や学食を購入して昼食を取るのだ。

(さって・・気を取り直してお昼お昼っと、学食もいいけどやっぱり職員室でお弁当食べるのもいいわよね。あれは・・骨皮先生じゃないの!!!)

霞が周囲を見渡すと丁度昼食を取ろうとしている靖男の姿が目に映り、弁当の中身をよく見てみると自分よりも豪勢な弁当が光る。霞は理事長にこってり絞られた事を思い出すと八つ当たりを思いつき、気配を消しながら靖男の元へと向かう。

「ようやく待ち望んでいたお昼だ。職員室一番乗りは得だな、お茶も準備OK・・少々値が張ったがルナのハンバーグ弁当、いただきま〜す!」

「ほ〜ね〜か〜わ先生!! 随分とご機嫌ね」

「ブッ――!! こ、校長先生・・」

思わぬ霞の出現に靖男は驚きのあまり飲みかけていたお茶を吹き出してしまう、持ち前のちびっ子容姿を活かして気配を消して近づいてきた霞の存在に気がつけなかったようだ。

「ど、どうしたんですか・・」

「別にお昼にここに来たらご機嫌そうな骨皮先生が目に付いただけよ。優雅に食事なんて随分余裕ね」

流石の靖男も直属の上司である霞には頭が上がらない、彼女に小言含め説教された回数はもはや計測は不能だ。

「あ、あの・・食べづらいんですけど?」

「私だってお昼なの。せっかく2人だけなんだし今後の指導方針についてじっくり語り合いましょ♪ それに部下の悩みを聞いて上げるのも上司の仕事だしね」

「は、はぁ・・」

ここで霞のターン、即座に靖男の隣に陣取ると自前の弁当を広げる。上司と昼飯を共にするなどあまりいい気分ではない、これでは折角奮発して購入したルナのハンバーグ弁当の味も無味無臭と変わり果ててしまう。

「それで授業もだけど卓球部についてはどうかな〜」

195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 11:59:50.56 ID:BGxXBRBSo
更に時間は一気に飛んで放課後・・靖男は宣言通り狼子への補習を執り行う、ちなみに辰哉も付き添いとして狼子の帰りを待つために同行していた翔とゲームをしながら時間を潰していた。

(ううっ〜・・やっぱり丸々手をつけてないのはまずかったな。刹那は友と塾らしいけど辰哉が付き添ってくれてるし、いざとなれば先輩がいるからな)

「ちゃちゃっと宿題やっとけよ。今度宿題忘れたら追加で補習させるからな。・・それから中野、先生の目の前でゲームするな。無性に腹が立つ」

「ちょっとぐらい大目に見てくれ・・って卓球部はどうしてるんだよ、大会近いんだろ? 何なら狼子は俺が面倒見るし・・」

「そうですよ、先生より先輩の方がしっかりしてますし・・」

「木村、担任をもっと信頼しろ・・と言うか中野ゲーム貸せ、そして俺のcivをやらせろ」

辰哉からしても体よく靖男を追い出して後は自分と翔で狼子の宿題さえ手伝えば早く帰れる、むしろ翔はその役目として辰哉の願いを聞きつけてここにやってきたのだが・・狼子のペースに加えて靖男のマイペース振りを見ていると時間は当分掛かりそうだ。

「お、おい!! 教師が生徒にカツアゲして良いのかよ!!」

「世の中、権力がものをいう。それにあいつ等は俺がいなくてもやっていける連中だ」

「卓球部の連中がしっかりしてるのが判る気がするぜ・・」

靖男は強引に翔からゲームを取り上げると自分のソフトを取り出してプレイする。

「辰哉、ここどうしたほうがいい?」

「これは征夷大将軍についてだな、俺は室町時代について調べたのまとめたけど・・骨皮先生、ここ等はどすれば?」

「よしっ、黄金期発動だ! これで偉人ラッシュを掛ければ・・」

「ダメだぜ辰哉、完全に一人の世界に入っている。・・よし、この隙に俺が原文かいてやるからそいつを写せ」

「すみません。俺も手伝います」

翔と辰哉主導で課題であるレポートの原文を作成してそれを狼子に写させて作業速度を速める。内容は翔が書いているのでまず問題はないだろう、ちなみに靖男はゲームに夢中で周りの事など全く見えていないので小一時間してから翔は全ての論文を完成させると狼子の差し出す。
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 12:01:59.77 ID:BGxXBRBSo
おっと痛恨のミス。
>>194の続き

「大会も勝ち進んでますからよくやってますよ・・」

「こないだ職員会議で決まった創立記念日での来賓やPTAの方々に行う説明会の文章、骨皮先生だけ提出されてないわよ」

「(ま、まずい・・civのマルチしててまとめてなかった!!)もう少しで、終わりそうなんですけど・・」

「あのね!! あれ本当は明日の朝までに理事長に提出しなきゃいけないのよ!! おかげで理事長にどれだけ怒られたか・・」

ちなみに他の教師は当然のようにすぐに提出しているので靖男1人のお陰で少し滞っているのだ、更に霞の勢いは更に止まらない。

「それに副担任である葛西先生に任せた進路調査表の提出も抜けがあるわよ、あの人は全国大会控えてる吹奏楽部や音楽の授業に手一杯だから無理言えないけど・・」

(あの野郎!! 俺が頼んだ仕事やらずにまた音楽に現抜かしていやがるのか!!!!)

「副担任の書類のチェックはしなさいってあれほど言ったでしょ。まだ期間はあるから提出していない生徒の分は出しなさい」

まるでどこかのお母さんのようである、この2人見た目ではあれだがその中身は全く逆なのだ。

「同期の春日先生は優秀なのにあなたはもう・・頼むからこれ以上私の胃に風穴を開かせないでちょうだい」

「校長先生、同僚の名前出されると心が痛みます・・」

(ま、実務能力や生活態度を差っ引いたら骨皮先生もいい教師なのは間違いないんだけどね)

結局は2人とも憂鬱な表情のまま限りない時間を無駄にしないためにも昼食を進める、しかし靖男もこんなんではあるが生徒への指導に関しては緩めるところは緩めてもしっかりしているので霞もその点だけは評価はしている。現に靖男の指導で更生した生徒はそれなりにいるし、更には保護者からも評判が高いのでそれらを踏まえても教師としての本質は高いと霞は判断している。

「まぁ、これ以上にして上げるから仕事頑張ってよ。いい奥さんでも見つけたら変わるんじゃないの」

「俺の理想の嫁さんは無双の甲斐姫と昔から決まってます。それに校長先生もいい加減、子供料金をフル活用するのは反則だと思いますけど?」

「懐事情が優しくなるからいいの!! 骨皮先生みたいに歴史ゲームを買い過ぎて金欠になるよりかはマシよ」

(見た目ちびっ子なのをよく利用するいい大人に言われたくないぜ・・)

こうしてお昼の時間は刻々と過ぎていく・・

>>195へ続く・・すんません
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 12:02:56.01 ID:BGxXBRBSo
「よし、これなら大丈夫だろう。んじゃ、俺は帰るわ」

「助かりました」

「ありがとうございます!」

「ま、可愛い後輩のためだからな一肌脱いでやるさ」

そのまま翔は教室を立ち去り、残るレポートも時間は掛かったものの翔のレポートを丸写ししながらようやく終わらせる。

「ふぅ〜、これで終わりだ」

「ありがとう、辰哉! 先生、レポート終わりました!!」

「よし!! これで天帝で文化勝利だ、だけど後1ターンだけ・・」

まるで何かに取り付かれたようにゲームに固執する靖男に腹が立った狼子と辰哉は抵抗する靖男を押さえつけてゲームの電源を無理矢理切ると完成したレポートを突き出す。

「あっ! 何しやがる!! まだお礼参りとして全ての文明を核で焼ききってないんだぞ!!!」

「いい加減にしてください!!! 狼子の課題終わらせましたよ!!」

「そうですよ!! しかもそのゲーム本体は先輩のじゃないですか!!!」

「先生の楽しみを奪うなんてお前等それでも俺の生徒か―――・・って、終わらせたのか」

靖男はゲーム機片手にレポートを確認するとゲーム機からソフトを抜いて辰哉に差し出す。

「OKだ。これは中野に返してやれ・・それに腹減ったろ? 行き付けの店のラーメン奢ってやる」

「や、やったぁぁぁ!!! ラーメンだ、ラーメン!!」

「い、いいんですか?」

「大人を舐めるなバカ野郎。・・だけど秘密にしておけよ、一応俺教師だから。それじゃ車出すから行くぞ!」

「「はい!!」」

喜んで学校から出て行く3人の姿を職員室の窓辺から霞がそっと見守る。

(夜に生徒を連れ出すなんてどうしようもない教師だけど・・今回だけは見逃して上げましょ)


そして今日も学園は彼等教師の手によって運営されていく・・


198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 12:03:21.08 ID:BGxXBRBSo
おまけ

靖男行きつけのラーメン屋に入った3人であるが狼子はとてもつも無い食欲で丼を増やしていく。

「おやっさん! ラーメンおかわり!!」

「あいよ!」

「お、おい・・月島、そろそろやめたほうがいいんじゃないのか?」

「まだまだ!!!!」

このラーメン屋は安さと美味さが最大の売りなのだがそれでも限度と言うものがある。

「ここのラーメン屋は本当に安いし美味しいな。狼子がお替りしたくなる気持ちもわかるぜ」

「(まずい・・明後日はHOlシリーズの最新作が発売だ。このままだと金が・・)な、なぁ・・お前等そろそろ時間も遅いから親が心配してr」

「「ラーメンおかわり!!!」」

「俺の・・俺の給料がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

残念なことに靖男は目当てのゲームが買えないばかりか、次の給料日まで食い繋ぐのにかなり苦労したそうな。



fin
199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/08(火) 12:22:13.71 ID:BGxXBRBSo
終了、見てくれてありがとさんでした・・って言いたいところだけど>>194=196での深刻な痛恨のミス。これは切腹しなければならない
今回出したキャラは今まで書いていた本編では存在しません。ぶっちゃけこのシリーズだけのキャラです

Q:新キャラの設定教えれ
A:おk。順を追って説明するよ

  藤野 霞・・ロリババァと合法ロリを備えた学校校長。礼子とは大学時代の先輩後輩、見た目は
         子供だけど中身は立派な大人で子持ちです。最近の悩みは更年期障害、合法ロリに
         ババァとか・・旦那は勝ち組みだろjk。ちなみに女体化者でちびっ子をフルに利用しています


  骨皮 靖男・・歴史担当で狼子達クラスの担任。趣味の歴ゲーで散財してるから金欠状態。
          一通りの歴史ゲームは機種問わずにプレイしていてその手のスレの常連者。
          特にcivシリーズがお気に入り・・中毒者レベルで酷い時は副担任に仕事を投げて
          プレイするほど。後1ターンだけ・・が口癖
          
          普段はどうしようもないずぼらだけど、いざとなれば締める、昼行灯タイプ。よくある設定です

  葛西先生・・音楽担当、詳細及び性別は不明。いずれ明らかになるでしょ・・誰かさんの手によってwwwwww


Q:というかミスしたよね?
A:すみません・・

では以上、狼子の人には重ねてお詫びと進行を妨げて・・えっ、そんなお詫び聞き飽きた? 
度々暴走してしまってすみません・・今後は自重します・


改めて・・見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwwwwwww
・・暇があればまとめなきゃな

貴様はこのスレにいるべき人間ではないのだぞ!!(-10000)
貴公は(ry
パパパry
200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/08(火) 19:00:42.63 ID:cG3IFguAO

…誰かいないかな
201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(中国・四国)[sage]:2011/11/08(火) 21:10:31.64 ID:+AgolGwAO
>>200
不甲斐ないのでスレを眺めるだけの
簡単なお仕事に専念しています

ちんくしゃさんスゲーグッジョブです


……がんばります(´^ω^`)
202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(中国・四国)[sage]:2011/11/08(火) 21:11:06.01 ID:+AgolGwAO
>>200
不甲斐ないのでスレを眺めるだけの
簡単なお仕事に専念しています

ちんくしゃさんスゲーグッジョブです


……がんばります(´^ω^`)
203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)2011/11/09(水) 10:26:19.64 ID:TvgimLVAO
誰もいない…
204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(愛知県)2011/11/09(水) 12:09:02.48 ID:LFr11jBn0
読む専な私ならここに・・・
ホントに職人の方々はGJです
205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/09(水) 12:12:07.12 ID:TvgimLVAO
人がイタ━━(゚∀゚)━━!!!

職人様が待ち遠しい
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/09(水) 13:16:23.89 ID:c65qxU51o
15,16歳間際で童貞捨てようか捨てまいか悩みつつ女体化するかしないかの瀬戸際で焦燥しながら
SSの投下を待っている。まで読んだ
207 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/09(水) 14:43:46.74 ID:HgDTpK6ao
自分の分だけ編集完了。他の人のもまとめたほうがいい??
もしくは投下するお!って人はまとめるよ
208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/09(水) 15:16:47.60 ID:c65qxU51o
話が見えない。イチから順番に話してくれ
209 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/09(水) 15:27:48.37 ID:HgDTpK6ao
>>208
いや、作品を投下するんならこっちでまとめようかと・・
210 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:13:39.47 ID:4Wih1pYHo
邪魔するよっ


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(4)『相良という人』

 放課後、安芸野揚羽の奇妙な追跡をなんとなく撒き、
何の収穫も得られぬまま生徒会室を出て家路に就いた藤堂は、
夕闇の迫るいつもの神社の石段を全速力で上り下りしていた。
この世界の沙樹にとってはわからないが、
少なくとも応援団長藤堂魁にとっての日常的なストレス解消法である。

(未熟・・・未熟・・・!)

 藤堂は、自分が応援団長であることを誇りに今まで生きてきたし、
その名に恥じない人間となることを思い努力してきたつもりだった。
しかし、応援団という自らの足場となる存在をなくしたことで、
これほどまで不安に苛まれる自分が許せなかった。
自らが応援団という組織を支えているつもりで、
実は自分の方こそそれに支えられていたのだと見せ付けられた気がした。

 このままでは、例え元の世界に戻る方法がわかったとしても、
どうやって仲間たちに顔向けすればいいのかわからなかった。

(・・・まだ、帰れない)

 いつしか藤堂は、そんな風に考えるようになっていた。

 何十往復目か、または何百往復目か、流石の藤堂も力尽き、
石段を上りきったところで境内の石畳に仰向けに倒れこんで荒い息を吐いた。
ふと確認してみると、両手足がいつの間にやら泥だらけの土だらけになっていて、
その汚れの下には無数の擦り傷やあざ、切り傷。

「・・・こんなんじゃ家に帰れないな」

 自嘲するようにそう口にして、
境内を覆う木々の葉がささやかな風に揺れるのを見上げながら藤堂は目を閉じた。
211 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:14:23.40 ID:4Wih1pYHo


 このままそよ風の中で、霧みたいに散っていければ楽なのに。

 ・・・なんて、ちょっと女々しかったかな。

 いくつもの朝と夜を経て、深い森の中、自分の体がゆっくりと風化し、
春には緑のツタに覆われ、夏には綺麗な花が咲き、秋には舞い落ちる紅葉に覆われ、
冬には雪化粧で包まれるだろう。そしてまた新たな春が訪れたとき、
柔らかな日差しの中、きらきらと輝く澄んだ雪解け水に乗って、
ゆるやかに土に還っていくイメージ。

 このまま、ここで眠ってしまおうか。それもいいかもしれない。

 しかし、ある気配が近くで蠢くのを感じたとき、
藤堂の意識は元の神社の境内に戻される。

 気配は石段の方角からでなく、その反対側、
神社の本殿裏の茂みの方向から近づいてくるようだった。
茂みが荒々しく踏みしだかれる音を耳にしたとき、
藤堂はとっさに自らも近くの茂みに身を隠した。
そのまま息を殺して、現れる人物を窺う。

「・・・相良聖?」
212 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:16:04.43 ID:4Wih1pYHo
「誰だ!」

 思わずつぶやいた言葉に耳ざとく気づいて誰何してきた人物、
茂みから現れたのは、まさしく相良聖だった。
特に隠れ続ける理由も無いので藤堂は素直に姿を見せると、
相良は安堵するようながっかりするような、もしくはさらに緊張を強めるような、
複雑な顔をした。しかしながら藤堂にとって、そんな表情よりも目を引くものがあった。

 相良は珍しく"ズタボロ"だった。手足はあざや擦り傷だらけ、
制服もところどころ破れたりほつれたりしていた。
顔だけは、恐らく額の汗をぬぐうときにでも手から移ったのであろう泥が
くっついている以外綺麗なものであったが。

「・・・その格好、どうした?」
「お前が言うか?鏡でも見てみろよ」

 ・・・そういえば、自分も似たようなものだった。

「ただ走りこんでいたらこうなっていただけだ」
「そうか。じゃあ俺もそうだ」

 どうやら適当にはぐらかしたと思われたらしく、相良はそんな風に答えた。

「喧嘩か?あなたがやられるなんて珍しいこともあるんだな」
「やっ!やられてねぇよ!やってやったんだよ!もちろんコテンパンにな!」

 相良から何かを聞きだしたいときは、
どうやらこうしてプライドを刺激するようなことを言えばいいようだ。

「ま、まあ、不意を突かれたせいでちょっと手間取っちまったけどよ・・・」
「なるほどな」

 ばつが悪そうに相良がそう言い終わった、ちょうどそのタイミングだった。

 相良が出てきた茂みの方角から、複数の足音が慌しく響いてきたのは。

「へへ、やっと追いついたぜ、相良さんよォ」

 足音の主たちは、5・6人の男たちだった。制服からみて皆高校生であろうが、
着崩し方やその面構えから見て、どうやらチンピラ気取りの不良高校生であることがわかった。
それぞれの手には木刀や鉄パイプ、木製の角材など思い思いの武器が握られていた。
213 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:18:09.39 ID:4Wih1pYHo
「散々逃げ回ってもらったがそれもここでおしめぇだなぁ。
そろそろ本格的に1年前の借りを今日こそ返させてもらうぜ、血に飢えた狂犬さんよォ」
「へっ、しつっけぇ連中だな。俺が女になった途端に狙ってきやがったって事は、
男の頃の俺には怖くて手が出なかったかよ!」

 なるほど読めた。

 恐らく相良はこの連中に不意打ちでもされ、
追ってくる連中を蹴散らしながらここまで来たというところだろう。
しかし、女相手に武器持ちで複数、しかも不意を突くとは、気に入らない。

「へへへ、どっちにしろテメーが追い詰められてるってことには変わりねぇんだぜ?
それともそこに居るオネーチャンにでも助けてもらうか?」
「・・・こいつは関係ない!」

 そう言って相良は、藤堂をかばうような位置に立つ。
とはいえ、普段の相良ならこんな連中、ものの五秒で倒してしまうかもしれないが、
今のこの格好からして恐らくここに来るまでにこれ以上の人数を相手にしながら
走ってきたのだろう、それが無茶な行為であろうことは予想が出来た。

「関係ない?おんなじ学校の制服を仲良く着ちゃって、それでも関係ないって?こいつは傑作だぁ」

 先頭の口数の多い男がゲラゲラ笑う。
後ろに控えた男たちはニヤニヤ笑いながら持っている武器の素振りを始める。
その動作や体格、目に宿った危険な光から、
恐らく街にザラにいる不良より少しは腕に覚えがありそうに見えた。
第一、不意を突いたとはいえ、あの相良相手に二本足で立てる状態でここまで
追ってきたわけだ。ただのチンピラと見るのは少々甘いといえるだろう。

「さぁーて、どう料理してやろうかねぇ」
「私一人を料理して終わりにするのはどうだ?」
「おま・・・何言って!!」

 進み出てそう提案した藤堂を、相良は慌てて制そうとする。
口数の多い男はきょとんとしている。

「あのなぁ・・・そんなん通用すると思うか?」
「・・・そんな甘い奴らじゃない!ここは俺がなんとかするから、お前はさっさと帰れ!」
「それこそ通用しねぇんだよぉ相良聖ちゃん!
このネーチャンも一緒に一晩中かわいがってやるからよォ、へへh」

 目の前に寄せられた口数の多い男の顔に向かって、藤堂は頭突きを繰り出した。
214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/09(水) 16:19:42.90 ID:HgDTpK6ao
ハイパーwwktk
215 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:20:09.93 ID:FDKinQu1o
「あっがッ・・・!!」

 顔を押さえながら後ろによろめく男の襟首をつかんで、更に頭突きをぶつける。

 二回。三回。四回。五回。六回。七回。八回。九回。

 呻き声が聞こえなくなるまで入れてやってから、
失神した男を後ろで控えていた連中の前に投げてやった。
一瞬呆気にとられていた男たちだったが、
すぐに我に還ったようで口々に罵声を放ち始める。

「ダ、ダラッてンのかオラァァァァァァ!!」
「しャあッそォオラアアアアア!!」
「ぶるぁあああああああ!!!」

 そのうちのせっかちな一人が奇声を上げながら向かってくる。
藤堂に向かって振り下ろされる鉄パイプ。それを一歩後ろに下がってかわし、
石畳を打ち据えたパイプを左足で思い切り踏みつける。
パイプはあっさり男の手からすり抜け、石畳とぶつかり甲高い音を立てる。
しかし、男がその音を聴くことは無かった。
そのとき既に藤堂の膝に顔面を潰されていたからである。

「てめぇら黙りやがれ!!!」

 顔面の潰れた(実際は鼻から血を出しながら失神していただけだが)男の襟首を
左手で掴み上げながら藤堂が吠えると、先ほどまで声を上げていた男たちが
嘘のように静まり返る。一瞬で叩きのめされた仲間の様子と、
間髪入れず放たれた怒号に戦意をそがれてしまったからである。

「・・・お前ら、八頭身工業高校だな?」
「そ、それが、どうしたってんだオラァ!」

 藤堂の言葉に、青い顔をしていた男たちの一人が、精一杯の虚勢で声を上げる。

「三年生の矢良に、同級生の藤堂がよろしく言っていたと伝えておいてくれ」
「なッ、お、おめぇ、・・・や、矢良さんとどういう関係なんだよ!?」
「・・・お前に言っているんだよ、大将?」
「!」

 男たちの後ろで黙って控えていたリーゼントの体格のいい男の眉がピクリと動く。
藤堂の思った通り、この男がこの集団のリーダー格のようだった。
216 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:23:13.20 ID:4Wih1pYHo
「それとも、・・・後輩に恥をかかせてもらった礼を俺が直接言いに行った方がいいかな?」

 藤堂の発する威圧感が、場を支配する。その場を一瞬、
木々を鳴らす風の音だけが包んだ。

「・・・お前ら、行くぞ!」
「へ、へいっ!」

 リーゼントがさっさと背を向けて歩き出すと、手下たちは慌ててそれに続き、
気絶した者を伴ってそそくさと石段を降りていった。

 しばらくぼんやりとそれを見送っていた相良だったが、
はっと我に還って追いかけようとする。気がすまないのはわかるが、
藤堂は彼女の肩を軽く掴んで制する。

「な、なっんだよっ!このまま逃がしちまっていいのかよっ!」
「気持ちはわかるが、今はあれでいいんだ」
「だ、だってよ・・・もっとコテンパンに痛めつけてやらないと、きっと後で仕返しに来るぜ?」
「それは大丈夫。ああいう群れて行動する手合いが頼みにしているのは
自分たちの組織力だ。だから、いくら一人ひとりを痛めつけたところで今日みたいに
手を変え品を変え何度でも仕返しにやってくる。
だったら、ああいう風にその"自信"の基を揺るがす感じで脅しをかけてやれば少なくとも
しばらくの間はちょっかいかけられないはずだ。結局ああいう連中は、
一人じゃ何も出来ないから群れているものだ」

 相良にそう説明していると、胸がちくりと痛む。
まるで、今の自分のことを言っている気がして。

「・・・じゃあ矢良ってのは誰だよ」
「ああ、やつらが八工の連中だというのがすぐわかったから、
矢良というそこにいる顔見知りの中で一番腕っ節の良さそうな奴の名前を
出してみただけだ。単なるカマかけだったが、意外にも上手く行った様だな」
「ハァ!?じゃあ全部ハッタリだったのかよ!?」
「ああ。あの人数なら例え失敗してもとりあえずふたりで乗り切れたし、
手間が減った分良かっただろう?」
「ばっ・・・」

 相良は大口開けて笑い出した。
217 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:24:58.06 ID:4Wih1pYHo
「お前・・・変な奴だな!」
「そうか?私からすると、あなたも十分面白いけどな」

 ひとしきり笑い終わると、相良は軽く手を挙げてこちらに背を向けた。

「ま、まあ、俺一人で何とかなったが、一応礼は行っておくぜ。機会があったら、またな」
「・・・ああ、少し待て」
「あ?なんだよ?」

 呼びかけると相良は、面倒くさそうにそれでも一応藤堂を振り返る。

「そのまま帰って大丈夫なのか」
「そのまま?」

 藤堂が相良の傷だらけの手足を指差すと、
彼女はそれで理解したようで肩をすくめて笑った。

「お気遣いありがとよ。だけどこんなの、ツバつけときゃすぐ直るさ」
「あなたがそういうならそうなのかもしれないが、今の状態のそれを見たら多分、
あなたの家族が心配するだろう」
「んあ?・・・ああ、確かに・・・親父はいいとしてお袋がなんて言うか・・・」

 相良は右手で頭をかきむしりながらため息をついた。

「家に来い。してしまった怪我は仕方が無いから、せめて治療はしておこう」
「ああ?いいよ面倒臭せぇ。いつもの調子で窓からでも帰宅して適当に」
「先輩に逆らうということの意味をわかっているか」
「お、おお。じゃあ行くよ・・・」

 何故か反射的に藤堂に従う旨を発言してしまってから、
相良は自分の行動に首をひねってひねってひねってしまうのであった。
218 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:27:54.95 ID:4Wih1pYHo






「で・け・え・家だなぁおい・・・」

 見渡す限り遠くまで続いているように見える和風建築の塀と、
目の前にでかでかと構えた丸で時代劇にでも出てきそうな木造の門を前に、
相良は思わず感嘆の声を漏らす。

「先祖がたまたま土地持ちだっただけだ。門を入ったら庭を抜けて道場に回るぞ。ついて来い」
「お、おお」

 立派な構えの木造の門を潜り、母屋の明りを避けて庭の隅を離れの道場へ向かう。
玉砂利の敷き詰められた部分を歩くと足音が建ってしまうので、
なるべく植え込みの近く、土の露出した部分を選んで歩いた。
母にばれてしまうと厄介なのは藤堂も一緒であった。

 道場は、母屋から続く長い渡り廊下の先にある。
道場に付属した宿泊所にかつて門下生たちが起臥していたそうだが、
現在は無人になっており、時たま訪れる遠方からの客のために使われる以外は
閉ざされたままである。隠れて傷を治療するには絶好の場所であった。

「足跡を消すのを忘れるな。それから靴は持って入れ。
ここにいることが悟られると厄介だ」
「いったいどんな人なんだよ・・・お前の母さん」

 文句を言いながらも相良は靴を持ってあがってきてくれる。

 縁側から直接道場へ上がりこみ、明かりのない床を慎重に足で探りながら二人は奥へ進む。
目的の引き戸に到達すると、藤堂は電光石火の勢いでその戸を開き、
相良を招き入れると背後を確認しながら慎重に両手でそれを閉めた。

「・・・これでもう大丈夫だ。問題ない」
「お、おう・・・しっかし、なんだかわかんねーけど100人から待ち構えてる廃工場に
一人で乗り込んだときの次くらいに緊張したぜ」
「・・・その感覚は概ね正しい。流石だな」
「お、おお、そうか。よくわかんねーけどよ」
219 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:30:00.02 ID:4Wih1pYHo
 藤堂は、いつもこっそり傷を治療するために隠している救急箱を棚の隅から取り出す。
包帯に消毒薬、脱脂綿にテープを取り出すと、手際よく治療の準備を始める。

「やってくれんのか?悪りーな」
「え?あ、ああ・・・そうだな」

 当たり前のように準備を進めていたが、考えてみればどうして自分が相良のために
こんなことまでしているのか・・・よくわからないが考えても仕方がない。
母に感づかれる前に相良と自分の治療を終えてしまわなければ。
藤堂は少しあせっていた。道場の給湯室まで忍んで走り、
汚れた手足を拭うための湯を小さな洗面器に張り、
傍らにかけられた手ぬぐいを取ると大急ぎで相良の待つ部屋へ戻る。

「痛てっ!お前、もっと優しくできねーのかよ!」
「仕方ないだろう。自分ですることはあっても人にする事なんて滅多にないんだ」
「それにしたってやりすぎだろうってイテテ!
お前、よく見たらそれビッシャビシャじゃねーか! 出しすぎだろ!」
「頼むから静かにしてくれ。落ち着いてゆっくりやろう・・・」
「ぉおまっ! 変なトコ触んなよ! そこは関係ねぇだろ!」
「うるさい奴だな・・・ほら、あとは脱脂綿とテープで・・・何してる」
「・・・へ?」

 引き戸の隙間から覗いていた琥凛は急に声を掛けられ一瞬きょとんとしたが、
藤堂と相良の視線を受けて慌てて作り笑いをしながら取り繕った。

「あ、あははは、その、なんか艶っぽい声が聞こえたから、
お姉ちゃんが誰か連れ込んでヘンな事してるのかと思って・・・」
「・・・」
220 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:31:28.63 ID:4Wih1pYHo
 気まずそうに頭をかきながら琥凛はそれでもちゃっかり部屋の中に入ってきた。

「・・・母さんにはバレてないだろうな」
「あ、うん、お母さん今日急に会合に行かなきゃならなくなっていないし」
「そうか・・・」

 藤堂はほっと胸をなでおろした。そして脱力する姉を前に、
妹の瞳にいたずらっぽい光が宿る。

「お母さんにばれたらまずいって事は・・・この人もしかしてやっぱりお姉ちゃんの恋人?」
「おい琥凛・・・お姉ちゃんは久々にお前をお仕置きしたくてウズウズしているぞ」
「・・・ごめんなさい」
「・・・迷い猫を拾ってきたみたいなものだ。家に帰すまでは大目に見てくれ」
「ぅおぉい迷い猫って何だよ!?」

 今度は迷い猫に例えられた相良が黙っていなかった。

「すまん、他意はない」
「そうか他意はないか・・ってそれこそダメじゃねぇかよ!?捨て猫かよ俺は!?」
「それは言葉のあやだ」

 相変わらず居座っている琥凛を尻目に、治療はとりあえず完了する。
しかし、その仕上がりに相良は少々不満げだ。

「おい・・・手足がこんな包帯ぐるぐる巻きじゃ余計面倒なことにならねぇか?」

 手足だけで言えば確かに、相良の姿は実際以上に重い怪我に見える有様だった。
消毒した脱脂綿とテープの絆創膏の上から、包帯が二重三重に巻かれ、
なんとも動きづらそうだった。まるで子供向けの絵本に出てくるミイラ男だ。

「してしまった怪我は仕方ないんだ。せめて最善は尽くさないとならんだろう」
「だからってこれはねぇだろ!?せめて包帯はなんとかしてくれよ」
「わかったよ・・・これでいいか!?」

 皮膚を覆う包帯を巻き取ってやると、相良はため息をついた。
221 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:33:35.67 ID:4Wih1pYHo
「ふいー、やぁっと自由に曲げ伸ばしが出来るぜ。手足がうっ血して死ぬかと思った」
「文句の多い奴だ・・・親御さんに心配かけることになっても知らんぞ」
「さっきのマッシロケッケの方が何倍もヤベーだろ?
それにまぁこんな時間になったしどの道面倒臭せぇことにはなると思うんだけどな」
「それは心配いらん。こんな時間に女一人で帰しはせん。私が責任をもって家まで送り届ける」
「・・・おい。立派な心がけだが送った後でお前はどうするんだよ。お前だって女だろ」
「・・・」
「じゃあ猫さんにはここに泊まっていってもらえばいいんだよー! お母さんもいないし」
「ハァッ!? 誰が猫さんだコラ!? 俺は血に飢えた狂犬こと相良聖様だぞコラ!?」
「地に植えたひょうたん・・・?」
「だぁって!?」

 じゃれあう二人を尻目に、藤堂は引き戸を開いて夜風を部屋に取り入れながらため息をついた。

「・・・琥凛。夕飯はもう出来てるのか」
「あ、まだ。ピザでも取ろうかと思って。ピザ屋なら遅くまで出前してくれるし」
「ダメだ。それじゃあ栄養が偏るだろう。それに面倒くさい時は出前で済ませようだなんて
言っているといつまで経っても良い習慣をつけられない」
「だってあたしはお姉ちゃんみたいに料理上手じゃないもーん」
「あのな、琥凛。私だって初めから出来たわけじゃない。
面倒くさがらないできちんとやって来たからここまで出来るようになったんだ。
手伝うだけでいいからお前も台所にきなさい」
「はーい・・・」
「・・・そういうことだから相良さん、あなたも」
「お、おう。手伝うぜ」

 突然声をかけられて相良は半分腰を浮かせる。彼女はどうやら、
藤堂が思っていたより律儀な性分も持ち合わせていたようだった。

「いや、あなたは客人だからそういった心配は無用だ。
それより今日は母もいないしあなたも母屋で寛いでいてくれ。
こんな所に押し込めるような真似をして悪かった」
「そ、そうか? いや、黙って座ってるのも性に合わねーっつーかよ。
風呂でも洗ってやろうか? 一っ風呂浴びたいしよ」
「・・・そうか。じゃあ、お願いするよ」
「おう、任せろや。新品同然に磨き上げてやるよ」

 そう言って相良も立ち上がった。
222 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:35:49.05 ID:4Wih1pYHo






「しっかしいい風呂だった!ありゃ檜風呂か?腹も一杯だしもう死んでもいいぜ〜」
「・・・別に月は綺麗じゃないぞ」
「え?」
「・・・いや、こちらの話だ」

 風呂でさっぱりして、夕食も終えた後、相良は寝転がって伸びをした。
相良の家には藤堂から先程電話を入れた。自分が女性で身分もはっきりしていたことで、
意外にもすんなり相良の母親の承諾を得られたことに、藤堂は内心ほっとしていた。
今は琥凛が風呂に行っている。

 しかしながら気持ちに余裕が出てくると、別のところが気になり始める。

「相良・・・あなたも女性なんだから、もう少し行儀よくするべきだ」
「え?」

 藤堂がトレーニング用に持っていたハーフパンツとTシャツ姿の相良は、
だらしなく横向きに寝転がって頬杖ついてテレビを見ている。
常識的に考えても始めて訪れた家でそこまで寛げる事は驚嘆に値することであるが、
まして普段から女の何たるかを鬼のように母親から叩き込まれている藤堂の感性からすると、
より一層今の相良の姿は信じられないものに映ったのだ。

「それを言うなら今のお前だってかなり不自然だぜ?」

 しかしながらそこは相良の目からも逆に藤堂姉妹の食事風景はかなり異様なもので、
食事中は一応テレビがついてはいるものの背筋を伸ばして二人とも正座、
こちらから話題を振れば琥凛は喜んで返答してくるものの藤堂はほとんどそれに応じず、
黙々と食事をする。琥凛の意向と相良に気を遣ってかつけられていたテレビも、
彼女自身は切っておきたかった様だった。藤堂がアレほどまでに恐れる母親が
いないなりの砕けた状況がこれだとしたら、もし自分がこの家の子供だったら、
絶対に耐えられないであろうと相良は思っていた。
223 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:37:46.54 ID:4Wih1pYHo
「どこがだ。貞淑な振る舞いは女性として当然の嗜みだろう」
「ていしゅ・・・いや、だからよ、そんないつも肩肘張ってて疲れねーのかってことだよ」

 しれっと返す藤堂に、相良も段々意地になって語気が強くなってくる。
彼女は元々激情家である。しかしながらそんな様子に気付いてか気付かずか、
藤堂は眉ひとつ動かさない。

「日ごろから鍛えているから疲れることなどない。こうしていなければ逆にストレスが溜まって来るくらいだ」

 またまた知らん顔でそう言いつつ、立ち上がってきゅうすに湯を注ぎ始める。
茶でも淹れて飲むつもりらしい。

「じゃなくておめーはもう少し今時の女っぽくした方がいいってんだよ!」

 ほとんど腰を浮かせたような格好でそう怒鳴った相良に、
今度は藤堂が手にした湯飲みをちゃぶ台にドンと叩きつける。

「それは私に阿婆擦れにでもなれということか!そんなことは断固として認めん!」
「アバズレって・・・お前俺をそんな風に見てたのかよ!?」

 思い余って言いながら立ち上がってしまう相良。そしてそれに負けじと立ち上がって威嚇する藤堂。
相良は自然と、男子生徒の間に立っても頭ひとつほど抜ける事のある長身の藤堂を見上げる形になる。
そんなことを気にする彼女でもなかったが。

「なんだ?それで品行方正な大人の女性のつもりだったとでも?笑わせるな。
俺からすればお前など山からまかり間違えて転がり落ちてきた野猿も同じだ」
「・・・あんだとコラ!!理屈ばっかこねてジジイみたいなものの言い方しやがって!!」
224 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:39:56.55 ID:4Wih1pYHo
 相良はガッと藤堂の胸倉を掴む。藤堂は怯まずそのまま前のめりに圧力をかけながら相良を目で威嚇する。
傍から見ればもはやチンピラ同士の意地の張り合いだった。いつ殴りあいになってもおかしくない雰囲気だった。
事実二人とも空いた方の拳はいつでもお互いを殴りつけられる様手のひらに爪が食い込むほど握り締められていた。

「大体俺はお前の言う今時の女というのが嫌いだ。夏になれば裸のような格好で表を出歩き、
夏でなくても娼婦のように人前で化粧直しなどしている。往来では平気で連れ合いの男に媚びる甘える接吻する。
羞恥心のかけらもない猿も同然の振る舞いだ。猿回しの猿の方が反省を知っている分上かも知れんぞ。
こんな子供を表に出した親の顔も見てみたいものだな」
「それは!俺も気に入らないけどよ・・・俺が言ってるのはそういうことじゃねえってんだろ!!
俺が言ってんのは、もっと女なら、女として楽しめることとか、夢見たりとか、
そういうこと自由に楽しんだ方がいいんじゃねーかって言ってんだよ!!」
「なるほどな。お前のことは噂で聞いているぞ。毎日のように男の家に入り浸っているそうだな。
それもお前の言う女として楽しめることか?感心するよ。まるで盛りのついた猿だな」
「お前・・・言わせておけば!!!お前だって結局やってることは男に媚び売ってんのと一緒だろ!?
男にとってただただ都合のいい女になるのがお前の理想かよ!!」

「やめて!!!」

 二人の動きが拳を振り上げた姿勢のまま止まる。

 二人の視線の先には、開け放たれた襖の向こうに立つ琥凛の姿があった。風呂上り、
この部屋の雰囲気を察して乾かす間もなく駆けつけたのか、濡れた髪からはしずくが滴り落ちていた。
両手をきつく握り締め、口は真一文字に結び二人を睨み付けていた。

「私達の家で暴力なんて振るわせない!!二人ともこの家から出て行って!!!」

 そう言い放つ琥凛には、有無を言わせぬ迫力があった。しばしそのまま、二人は立ち尽くしていたが、
どちらからともなくお互いを解放し、部屋を出て行った。二人が玄関を出るまで、
琥凛は両手をきつく握ったまま、その背中を睨み続けていた。
225 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:43:24.10 ID:4Wih1pYHo






 月明かりに照らされた庭の片隅に、二人は所在なげに佇んでいた。どこかの草むらから虫の声が響き、池の鯉が小さくはねた。

「・・・で、どーするよ」

 定番のうんこ座りで足元の小石を弄びながら、相良は誰に問いかけるでもない調子でそう言った。黙って夜空を見上げる藤堂は答えない。
そのまま二人の間にまたしばらく沈黙が流れた。藤堂は黙って星座を見つめ、
小石に飽きた相良は池の縁に腰掛けて仄暗い水中を泳ぐ鯉を眺めていた。

 10分も経った頃だろうか。先に口を開いたのは藤堂だった。

「あなたには、本当に悪いことを言った。・・・すまない」
「あぁ?なんだって?」

 聞き返した相良は笑っていたが、嘲るような調子はない。先程までの激情はとっくの昔に過ぎ去り、
怒りはすっかり白けきっていた。笑うような調子になったのは、藤堂がそんなことを言うのが純粋に
予想外だからだった。

「今時の女が嫌いだと言ったのは私の本心だが・・・それとあなたが同じだと言ったのは、間違いだった。
あなたが、あなたの理想に従って生きていることは、私にもわかるつもりだ。だから、すまなかった」

 藤堂は振り返って頭を下げた。

「そんなこといったか?」
「そう伝わらなかったとしても、私の気持ちの上では言ったも同然だ。
だが、それが間違いだということは、冷静になった今ならわかる。だから・・・」
「だぁー!もういいよ!」

 空気に耐え切れなくなって相良は立ち上がり、藤堂の言葉をさえぎった。驚いた鯉がまた、水面を跳ねた。
226 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:46:34.41 ID:4Wih1pYHo
「・・・つーか俺も・・・すまなかった・・・俺の方もなんつーか、お前の言う通りだったというか、
まあ、もう少し慎みを持つべきだとは思うしよ!
まあ、その、図星を突かれて引っ込みがつかなくなったっつーか・・・とにかくお前が一方的に
悪いわけじゃねーよ!!だからこれ以上謝んな」

 そう言って相良は、また元のように池の縁に腰掛けた。
照れた様に向けられた背中をしばらくの間びっくりしたように見つめていた藤堂だったが、
ふっと微笑むと、おもむろに口を開いた。

「こんなことを言うのは恥ずかしいが・・・私は、多分怖いんだ。あなたが」

 相良は何も答えなかったが、構わず藤堂はぽつりぽつりと語り続けた。

「私は自分がこうなったとき、喜びも、悲しみも、怒りもしなかった。ただただ、怖かった。
鏡の中の自分を見ることは、耐え難い恐怖だった。
 その頃私は応援団員になったばかりだったし、それまでも、自分は立派に男になって、
自分なりにこの国に、社会に尽くしていくものだと思っていた。それ以外の人生は考えられなかった。
だから、鏡の中から見つめ返してくる女を目にしたとき、目の前が真っ暗になった。自分の人生は、
これで終わったのだと思った。応援団も退部させられてしまった。何かを始めようとする気力も何もかも
失っていた。
 しかしそれを救ってくれたのは、私を追い出したはずの応援団だった。応援団の仲間達だった。
彼らと、彼らの誇りが支えてくれていたからこそ、私は努力して応援団に帰る事が出来たし、
団長を継ぐという栄誉に預かることも出来たのだと思う。私は、彼らが私の手をとり助け起こしてくれた
ときに、この身体はどうあれ、この三年間を男として、彼らと彼らの応援団を守るために捧げようと決めたのだ。それから今まで、その仲間達にふさわしい団長であるために努力してきたし、そうなれたと自負してる。
 でも・・・今は、それも失ってしまった。応援団という存在が、どれだけ私のアイデンティティを支えて
いたのか、初めて気が付いた。自分が支えていたつもりで、本当は私が彼らに依存していたんだ。
 ・・・私は、女になんかなれない。多分、これから先も、心の底から女になることも、本当の意味で男を
愛することも出来ないと思う。でも、応援団が目の前から消えてしまった今は男でいることも出来ない。
私はもう、自分が誰なのかわからない・・・」

 途中から藤堂は、自分がこの世界の沙樹の話をしているのか、元の世界の自分の話をしているのか
わからなくなっていた。それでも相良が聞いてくれているのは空気でわかっていた。
彼女の背中に垂れた長い髪が、夜風に微かになびいていた。

「・・・いや、失って初めて気が付いたんじゃない。多分、初めから気付いていたんだ。
だから、あなたのことがずっと気になっていた。多分、あなたが私のことを知るより昔から。
あなたは、私が悩んでいた様な全てのことにとらわれず、自由に見えた。だから、羨ましかった。
それ以上に、あなたを見ていることは怖かった。自分の不甲斐なさを目の前に見せ付けられている
ような気がしたから。だからこそ、あなたに突っかからずにはいられなかったのだと思う。これでは、
どちらが問題児なのかわからんな」
227 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:48:44.64 ID:4Wih1pYHo
 こんな話をしてすまなかった。

 そう言って藤堂は、今晩の寝床に案内しようと振り返ろうとしたが、そのとき相良が口を開いた。

「・・・応援団ってのはよくわかんねーけどよ。あんたの仲間は、あんたが男だからとか、
女だからとか、そんな理由でついてきてくれてたのかな?」

 相良は、藤堂の答えを待つように少しの間黙った。

「あんたは、あんただと思うんだけどな。俺は」

 相良は、小石をひとつ拾って池に投げた。小石は水面で一度だけバウンドし、
そのまま池を飛び出し塀に当たって甲高い音を立てた後、土の上に落ちた。

「ありがとう・・・相良さん」

 藤堂は背中を向けたまま、振り返ることは出来なかった。
同じように相良も彼女を振り返ることはしなかった。その理由を知ることもまた、藤堂には出来なかった。

 それから二人はしばらく口を開くこともなく、藤堂も池の縁に腰掛け、
ぼんやりと二人並んで水面を眺めていた。映った月を鯉が池の中から時折揺らした。
228 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:51:05.51 ID:4Wih1pYHo
 静寂を破ったのは、相良のくしゃみだった。

「あー、くそ、湯冷めしちまった」
「・・・少し夜風に当たりすぎたな。そろそろ戻ろうか」

 立ち上がって膝についた土を払いながら藤堂は言った。
相良は立ち上がって状態をそらせて思い切り伸びをした。

「っあー、眠いぜ・・・でも、戻って大丈夫か?妹さん、怒らせちまったみたいだけど」
「・・・あいつは暴力が嫌いだからな」

 藤堂が応援団に戻ろうとしたとき、最も反対していたのは母でなく琥凛だった。
もちろん、最初に入部を決意したときも反対していた。応援団という組織が団員にどういう仕打ちを
するかわかっていたからだった。事実、先輩団員に張り飛ばされて怪我をしたことも一度や二度では
なかった。

「私が行くからあいつのことは心配要らない。それより、風邪を引かないようにゆっくり休んでくれ。
さっきの離れの部屋に寝床を用意しておいた」
「おう、悪りーな。あ、それからよ、その・・・まあ直接も言うつもりだけどよ、
俺からも悪かったって妹さんに、伝えてくれな」
「・・・わかった。ありがとう、相良さん」

 相良の言葉に藤堂は微笑んだ。

「んー、その相良、さんっていうの、なんとかならねーかな」
「そうか?じゃあ、なんて呼べばいいかな?」
「そうだな・・・ま、聖でいいよ。男からそう呼ばれることはあんまねーけど、
女友達にはそれで通ってるからよ」
「わかった。ありがとう。聖。じゃあ私のことは・・・」

 一瞬だけ、藤堂は考えた。だが、答えは既に出ていた。

「沙樹でいい。それが私の名前だ」
229 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/09(水) 16:52:18.48 ID:4Wih1pYHo
「そっか。じゃあ沙樹、おやすみ」
「待て」
「あん?」

 藤堂が用意した寝床のある離れに向かいかけた聖を藤堂が呼び止めた。

「私のほうが先輩なのだから『先輩』をつけろ。最低でも『沙樹さん』だ」
「・・・ハァッ!?この期に及んで先輩風吹かそうってのかよ!?」
「当たり前だ。部活動において、学年の上下関係は絶対だ」
「部活ってお前・・・これまでの流れで考えてそれでいいのか!?オイ!?」
「フフ・・・冗談だ。おやすみ、聖」
「おいおい・・・」

 藤堂は琥凛のいるであろう母屋に向かって歩き始めた。





 庭の玉砂利を踏みしめながら母屋に向かうと、思った通り琥凛は縁側の片隅で膝を抱えて座っていた。
藤堂が姿に気付いて近づくと、膝を抱えた姿勢のまま背中を向けた。

 藤堂は傍らに腰掛けると、黙ってその細い肩を抱き寄せた。

「ごめんね、琥凛。お姉ちゃんが悪かった。怖い思いをさせてごめんね」

 語りかけながら、抱き寄せた背中を暖めるように撫でていた。しばらくさすっていると、
妹の肩が震えていることに気付いた。すすり泣く声が低く聞こえていた。

「・・・お姉ちゃん・・・あの人のこと・・・ほんとに殴ろうとして・・・」
「ごめんね。あの人とはちゃんと仲直りしたよ。もう琥凛の前であんなことはしないから」
「・・・ひぃ・・・・ぃん・・・」
「ごめんね、琥凛。どうしたらお姉ちゃんのこと許してくれる?」
「・・・」
「ごめんね」

 抱き寄せた妹が泣き疲れて寝息を立て始めるまで、姉は背中をさすり続けていた。
夜空からは半月がしんしんと照らしていた。



【つづく。】
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/09(水) 16:55:12.64 ID:4Wih1pYHo
コピペしながら思ったけど、俺が書いた聖まるで別人ー
お邪魔しますた。

前回から半年近くたってるとか我ながら酷いわwwwwww
231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/09(水) 16:56:45.76 ID:HgDTpK6ao
乙。続きを全裸で期待してる
232 :>>74「生徒会」 1/4[sage]:2011/11/09(水) 22:00:59.37 ID:pDWCVzsHo
>>73です。お待たせしていてすみません。
かなりの遅筆なので、書きあげるまでにまだまだお時間をいただくことになりそうです……。
とは言え、あまりお待たせするのもどうかと思うので、きりのいいところまで書けたら、順次投下していくことにします。
と言うわけで、>>74さんのお題「生徒会」、第1話です。

***

僕の高校3年間は、入学初日に決まったと言っても過言ではない。
それほど、彼女との出会いは鮮烈だった。

彼女の名前は上川天。稲葉市立稲葉西高校生徒会長。
会長に声を掛けられたその時から、僕の高校生活は動き始めた。

***

古今東西、およそ肩書きに長と付く人の話は長く、聴いているだけで眠くなってくるものだと言う。
それは恐らく、校長についても当てはまることだろうと思う。
何故なら、舟を漕いでいる新入生が、ちらほらと見受けられるからだ。
かく言う僕も、少しでも気を抜くと、瞼が落ちてきてしまいそうだった。

しかし、これは決して、校長先生のお話がつまらない、と言うことではない。
目を開けているのに必死でほとんど聴いていないけれど、とても深いお話をされているということは分かる。
だから、そういった有意義な話を前に睡魔に負けそうになっている、僕が悪いのだと思う。
悪いと思ったところで、この眠気が消え去ることはないのだけれど……とりあえず、居眠りしないで済むように、全力を尽くそうと決意したのだった。

しばらくして、校長先生の長い長い式辞が終わった。
あれだけ眠ってしまいそうになっていたのに、「それでは、以上を持ちまして」という一言を聞いた瞬間に眠気が飛んでいくのだから、全く不思議なものである。

校長先生が壇上から退場すると、入れ替わりに、セーラー服の女性が壇上に立った。
どうやら、在校生代表らしい。
肩で切り揃えた黒髪ときりっとした眉に、柔和な印象の眼が対照的な美人だ。
すらりとした四肢に、控えめなデザインのセーラー服が良く似合っている。

セーラー服の女性は、マイクの前に立って新入生を見渡すと、静かに口を開いた。

「こんにちは。前年度に稲葉西高校生徒会長を努めていました、上川です。新入生のみなさん、この度はご入学おめでとうございます」

凛とした声が体育館に響いた。
同時に、周囲の空気が一変するのが分かった。
その声の主――上川先輩は、背筋を伸ばしたまま一礼すると、朗々と歓迎の挨拶を読みあげていく。
その間、まるで清涼な小川のせせらぎに聴き入るように、誰もが黙って先輩の言葉に耳を傾けていた。

「みなさん、高校生活を精いっぱい楽しんで下さい。私はそのお手伝いが出来ればと思っています」

これを持ちまして歓迎の挨拶に代えさせていただきます、と先輩が締め括ると、どこからともなく拍手が沸いた。
拍手は次第に大きくなり、体育館を包み込んだ。
先輩は、とても同じ高校生とは思えない、粛々とした様子で頭を下げると、ゆっくりと壇上を後にする。

クラスメイトが熱心に手を叩いている中、僕は熱に浮かされたような感じで、先輩を見つめていた。
すると、着席する先輩と眼が合った。
時が止まるとはこういうことを言うのだろう。
たっぷり10秒間は見つめ合っていたと思う。
それから、先輩はふっと柔らかく微笑むと、視線を壇上へ向けてしまった。
それきり先輩がこちらを見ることはなかったが、僕の胸の高鳴りはしばらく収まらなかった。
233 :>>74「生徒会」 2/4[sage]:2011/11/09(水) 22:03:33.13 ID:pDWCVzsHo

***

式はその後もつつがなく進行し、昼前には閉式になった。
閉式後は教室へ戻り、クラス毎にオリエンテーションが開かれる予定だ。
担任の先生に誘導されて体育館を出たところで、僕の後ろの席に座っていた幼馴染みが声をかけてきた。

「なあ、あの女の先輩、すごかったよな!」

少年のように目を輝かせているこの幼馴染みの名前は、鷲見夏彦という。
「なつひこ」だから、僕は「なっちゃん」と呼んでいる。
なっちゃんと僕は家がご近所で、互いにまだ1人では歩けないような歳から一緒に遊んでいた。
もちろん、学校はずっと同じで、クラスも別々になったことがない。
僕の数少ない友人の1人であり、無二の親友……だと、僕は思っている。

「なっちゃん声大きい……先生がこっち見てるよ」
「悪い悪い」

なっちゃんは声のトーンを落とすと、あまり悪びれた風も無く謝罪する。
それを嫌味に感じさせないのが、なっちゃんのすごいところの1つだ。

なっちゃんは少し考える素振りを見せると、ぽつりと呟く感じで続けた。

「俺、生徒会に入ろうかなあ」

この言葉は意外だった。
なっちゃんは中学時代の3年間、陸上部に所属していたので、高校でも陸上を続けると思っていたからだ。
だけど、どう身を振るかは人それぞれだろう。
僕は、中学時代に生徒会に所属していた者として、なっちゃんの後押しをすることにした。

「いいんじゃない? やりがいがあるよ、生徒会の仕事は」
「それは分かるんだけどなー。実際、生徒会ってどんなことやってんの?」
「お祭りの実行委員みたいな感じかな。雑務と交渉がほとんどだよ」
「ふぅん、何だか地味だなあ。お前は生徒会の仕事やってて楽しかったの?」

考えてみたこともなかった。
生徒会の仕事は必要なことで、楽しいとか、楽しくないとかは、関係ないと思っていた。
しかし、言われてみれば、どんなことでも、楽しい、楽しくない、と感じることはあるだろう。
僕は生徒会の活動が楽しかったのか?
しばしの間自問して、僕はこう答えた。

「楽しかったよ、とても」
234 :>>74「生徒会」 3/4[sage]:2011/11/09(水) 22:06:28.10 ID:pDWCVzsHo

***

HRが終わり、なっちゃんと一緒に帰る途中のことだった。
玄関を出て正門へと向かっていると、正門の脇に上川先輩らしき女性が立っているのが見えた。

「ねぇ、あれって上川先輩だよね」

おしゃべりを中断して、なっちゃんに訊く。

「え、ああ、ホントだ。何やってるんだろうな」
「下校する生徒に挨拶してるとか?」
「生徒会ってそんなことまでするの?」
「多分しないと思う……」

確かに、往来の生徒を見ているようだけれど、挨拶をしている風ではない。
と言うことは、誰か人でも待っているのだろうか。
何にせよ、詮索するのも趣味が悪いので、会釈して通り過ぎようということになった。

正門まであと5メートルというところだった。
上川先輩が何気ない様子でこちらを向いたかと思うと、表情が急に明るくなった。
何だろうと思いつつ、会釈をして通り過ぎようとすると、そこで「ちょっといいかな」と呼び止められた。
先輩は、驚いて足を止めた僕たちの許に小走りでやってくると、形の良い眉をハの字に曲げ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「びっくりさせてごめんね! 突然だけど、話を聴いてほしいの」

眉根を寄せたまま、先輩が言った。
それがあまりにも申し訳なさそうな表情だったので、僕は居た堪れない気持ちになって、自ずと「いいですよ」と答えていた。
その答えに、先輩は表情を柔らかくすると、先程よりも幾分明るい声音で続けた。

「それじゃ、まずは自己紹介しないとね。私は2年の上川です。今日の入学式で在校生代表の挨拶をした人、って言えば分かる?」
「はい。前年度の生徒会長さんですよね」

僕が答えると、先輩は嬉しそうに笑った。

「そうそう! 早速覚えてくれたなんて嬉しいなぁ。君たちの方は新入生だよね? 名前は?」
「俺は1組の鷲見って言います。こっちは同じクラスの琴浦です」

なっちゃんが代表して答える。

言い忘れていたが、僕の名前は琴浦伊織と言う。
僕の祖父が宮本武蔵の大ファンで、その入れ込み方たるや、息子、つまり僕の父に、「武蔵」と名付けるほどだ。
僕もその煽りを受けて、宮本武蔵の甥と同じ名前「伊織」を頂戴することになった。
個人的には、名前負けしているようで、少しむず痒い。

それはさておき、僕たちの自己紹介を聴くと、先輩は眼を細めた。

「鷲見くんと琴浦くんかぁ。うん、よろしくね!」
「いえ、こちらこそ」

と頭を下げると、いよいよなっちゃんが本題に切り込んだ。

「それで、俺たちに話っていうのは、何なんですか?」
235 :>>74「生徒会」 4/4[sage]:2011/11/09(水) 22:10:30.84 ID:pDWCVzsHo
些か緊張した面持ちでなっちゃんが問うと、先輩は小悪魔的な表情を浮かべた。
そして、可愛らしく咳払いをすると、びしっと言い放った。

「君たち、生徒会に入らない?」
「……は?」

僕もなっちゃんも、呆気にとられて二の句を継ぐことができなかった。
どこの世界に入学初日の新入生を生徒会に勧誘する先輩がいるだろうか。
「生徒会に入ろうかな」と言っていたなっちゃんでさえ、あまりの急展開に面食らっているようだ。
フリーズしてしまった僕たちを見て、今度は先輩の方が狼狽し始めた。

「あ、あれ? もしかして地雷踏んじゃった? 私、不味いこと言っちゃったかな……?」

焦った調子で言いながら、その眼にはうっすらと涙が溜まっている。
僕は慌てて、

「いえいえいえいえ! そんなことないです! ちょっと驚いただけで」

と、語気を強めて否定した。
それに合わせて、なっちゃんも首を縦にぶんぶんと振っている。
先輩はほっとした様子で「よかったぁ……」と呟くと、くすくすと笑い始めた。

「ふふふ、何だかみんなで焦っちゃって、おかしいねぇ」
「そうですね」

僕たちもつられて笑い出す。
しばしの間、柔らかい空気がその場を包んだ。

一息つくと、上川先輩は柔らかい雰囲気で、「それで、改めて訊くけど、生徒会に入ってくれないかな?」と言った。
そこに気張った感じは全くなく、先程は先輩も緊張していたんだな、と思わせた。
すると、先輩が急に身近な人に思えてきて、いつの間にか入っていた肩の力が、ふっと抜けたような気がした。
その瞬間に僕の答えは決まった。

「もちろんです。未熟者ですが、よろしくお願いします」
「お、俺も入りたいです。よろしくお願いします」

なっちゃんも僕に続いて頭を下げた。
先輩は満足そうに頷くと、嬉しそうに応じた。

「こちらこそ、よろしくね!」

こうして、僕となっちゃんは、生徒会に入るため、役員選挙に立候補することになったのだった。
236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/09(水) 22:23:26.99 ID:pDWCVzsHo
今回投下分は以上です。お目汚し失礼しました。
物語を書くのってこんなに難しいものなんですね……すらすら書ける方はすごいと思います。
それでは、次回がいつになるか分かりませんが、投下の際にはお邪魔いたします。
237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/09(水) 22:36:00.04 ID:4Wih1pYHo
おつつつ
正座して待ってる!
238 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/09(水) 23:17:04.25 ID:HgDTpK6ao
乙です
良い傾向だwwww
239 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/11/10(木) 00:51:21.54 ID:pvhAlBC30
CV小清水って感じか(ドヤァ
久しぶりに王道的「女体化するっぽい」設定の主人公を見た
次の投下を楽しみにしてますね
240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(愛知県)2011/11/11(金) 00:00:11.20 ID:gRXgTNS00
乙です
女体化に怯えながら続き待ってますwwww
241 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:54:13.58 ID:mnvXYMyfo
空気読まずにこの時間に投下するよ
ちなみに今回はきわどい歴史ネタがあるのですが作者個人の偏見ですのでお手柔らかにお願いします
後、結構ネタも集中するのでわからない方にはお詫び申し上げます
242 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:54:35.08 ID:mnvXYMyfo
某日、放課後・・いつものように定例である職員会議が開かれた。





人生いろいろ・・
        先生いろいろ・・

                 生徒もいろいろ


                              ◆Zsc8I5zA3U

                                  


「はい、各学年の担任の先生方も揃ったところで恒例の職員会議を開きます」

「・・校長、2年担任の骨皮先生の姿が見当たりませんけど」

「誰か、見つけ出してすぐに連れてきて・・」

霞の溜息と共にピリピリしていた周囲の空気は少し柔らかくなる、この学園でも教職員による会議は月に何度か行われており人数によっては会議の規模も違うのだ。今回はいつものように各学年の担任を集めての生徒指導を中心とした会議である、ちなみにまだ来ていない靖男は3年担任に卓球部の顧問と言うかなり重要なポジションにいるので彼に来てもらわないと会議がどうしても始まらない。

「はぁ、皆さん〜・・骨皮先生が来るまで会議の議案を考えてください」

少しばかり疲れ気味の霞に周囲は同情しつつも会議の議案をまとめる貴重な時間が出来たので少しばかり安堵する、教頭は霞の様子を察してか小声で霞を労う。

(心中、お察し致しますよ・・)

(彼が早く来てくれたらさっさと始められるのに・・)

そんな中で無理矢理引き連れられた靖男はぶつくされながらようやく登場する、どうやら今回は格闘技系の教師が引き連れてきたようだ。

「ようやく来たわね、骨皮先生」

「校長先生、後1ターンだけ待ってくれれば宇宙勝利が出来て終われるんですけど・・」

「いい大人なんですから言い訳しない!! 後で骨皮先生は終わったらこの会議をまとめた書類を私に提出するように、理事長にも提出するんだから抜かりは許しませんよ」

「ええっ〜・・」

「わかったなら、早く席について!! ・・それでは骨皮先生が来たので改めて会議を始めさせてもいます」

霞が先頭に立って議題を提示し、それに基づいて教師の間では議論が繰り広げられながら会議は進められる。
243 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:55:21.88 ID:mnvXYMyfo
「それじゃ各部活の全体的な予算はこのぐらいでいいですか?」

「校長! それでは少な過ぎるのでは?」

早速、噛みついてきたのは野球部の顧問をしている教師。部活の予算は配分の方は生徒会に任せるようにしているので大元の金額は職員会議を通じて生徒会へと伝えられる、一般的に予算に関して生徒会が口出しできるのは具体的な配分だけである、流石に学校を運営するに当たっての金額はかなり莫大であるので生徒だけに動かせてしまうと却って危ないのだ。

「それに各部活の活躍も目覚しいものです、そのお陰で生徒も増えているではありませんか」

「確かに野球部は男女共に今年も甲子園に出場してくれたし、サッカー部も今年は全国に行かなかったものの決勝までこぎつけてボクシング部や格闘技系の部活も名が知られているわ。吹奏楽部を筆頭とする文科系の部活も全国大会を決めているわね」

「ですから、もう少しぐらいは予算を上げても・・」

「う〜ん・・でも最近理事長から部活関係の予算にクレームが入ってるの。主に強化合宿行いすぎてそれに対する費用が多すぎるのが原因ね、前の柔道部の騒動で理事長も最近は部活に関してはいい眉を顰めているの・・」

各部活の指導方針は担当する教員に委ねられてそれを考慮して予算が検討されるのだが、ここ最近は各部活が力を入れて合宿を行い過ぎたためか理事長も霞に苦言を呈していた。それに霞も各部活の熱心な活動には評価はしているもののそれに対して行き過ぎた強化合宿の数々には疑問を感じている部分はある、特に柔道部の騒動についてはかなり大きく取沙汰されており責任者である理事長と一緒に多数の保護者の説明にPTAや警察を筆頭とした関係場所の謝罪巡りをしたのも頭が痛い、それに教師も関わっていたので沈静化するにはかなり骨を折ったこともあってか各部活の動きに関しては慎重な立場である。下手に予算上げてしまえばまた厄介な騒動になる可能性も捨てきれないし・・野球部の顧問はこれで引き下がったのだが今度はバレー部の顧問が更に噛みつく。

「・・ならば卓球部の活動を少し減らせば良いと私は思いますけどね」

「先生、奴等は全国大会に出ています。それに体育館のスペースをもう少し分けてくれたら嬉しいんですけど」

「この間体育館の増設工事の時に配分は決めたじゃないですか。第一、骨皮先生こそ卓球部に顔を出さない比率が多いようにも思えますが?」

「あいつ等は俺の指導なしでもやっていける屈強な連中です、バレー部の方こそ国体に出ているからといって調子に乗らんでください」

「な、なんですとッ!! 卓球部こそ最近は活躍しているようですが、以前は弱小もいい所・・調子に乗っているのはそちらではありませんか!!」

「てめぇ!! 色んな怪我や圧力を受けていたあいつ等の苦労わかってんのかッ!!」

今度は議論そっちのけで靖男とバレー部顧問の壮絶ないい争いが勃発する、この2人は以前にも体育館の増設
工事に発生した領土問題で争っていたのでそれが怨恨となっている。ちなみに顧問同士は仲が悪いが両部活は
お互いに協力し合っている良好な関係なので体育館の問題は顧問同士の言い争いを除けばスムーズに事を
運んでいたのが現状である。

あまりにも加熱する2人の言い争いにこれ以上会議を妨げられては困った霞は仲裁させる。

「いい加減にしなさい!!」

「校長、これは彼がけしかけたのであって・・」

「校長先生、このモンテズマ野郎が圧迫している文化圏を何とかしてやってもいいですか?」

「とりあえず、部活の予算はこれ以上上げるのは無理です!! これ以上争うのならクビ覚悟で理事長と話し合いなさい、以上!!!」

理事長と言う単語を流石の出されたら2人も引き下がるしかない、これにて卓球バレー戦争は講和される事となった。
他に反対意見がないのを確認した霞は次の議案に入る。
244 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:56:53.11 ID:mnvXYMyfo
「次は県外の生徒への受け入れ人数についてです。我が学園に在籍している生徒の人数はぶっちゃけ他の高校と比べると圧倒的に多いです、嬉しいことに来年度の受験人数も例年通りですが・・県外からの志望率が増えております、何か意見は在りませんか?」

「そうですね・・いっそのこと寮を増やして見たらどうでしょうか? 現在の寮の規模ですと受験で人数調整しても卒業する生徒と在学している生徒の人数を考えても採算が難しいですから・・」

意見を切り出したのは2年の学年主任、彼も生徒数の増加は嬉しいのだが人数が増えすぎてしまうと学校の規模では大幅にきついものがある。現に今の生徒の人数で多いのが2年生、3年生が卒業して現在の2年生と1年生の人数を合わせても全体の6割を占めることになる、そこから現在収容できる人数と志望している人数を差し引いたら大幅な人数を落とすことになってしまう。領内を拡張して校舎を増設してもコストはかなり掛かるし限度もある、増設できる余裕はあるにはあるのだが・・もし増設してしまえば予算的に考えても僅な余力しか残されない、そして生徒数が増えたら対応する教師の増員も考えなければならないのでそれらを絡ませても赤字は回避で来ても黒字には程遠い計算になってしまうのだ。

「寮を増やすのも簡単じゃないのよ、理事長も志望する生徒数が増えすぎて困ってるみたいだしね。それに必要な施設を増設して生徒数を賄えたとしても今度はそれに対する教員の増員を市や行政に要請しないといけなないのよね・・何割かは新入教師が入ってくるだろうから今度は育成期間も考えたら割に合わないのよ」

「やはり現状維持ですか、ですけど学園の評判を上げるためは多少は無理してでも」

「私は反対です。いたずらに人数を増やしてしまえば学校内の収支を考えても支えきれませんし設備やコストから考えてもやはり通学可能な範囲でいける生徒を擁して県外生徒に関しては成績や品位に関して優秀な者を入学させたほうが現状維持でも持たせることは出来ます」

「そうね、学校の名前が上がって嬉しい反面こういった人数調整は止む得ないわ。とりあえず来年も現状維持で行こうと思います、では評決に進めますので賛成か反対か挙手で答えてください☆」

そのまま評決に入り現状維持派の賛成が多かったので来年の方針はこれで決まる、このまま各学年の女体化生徒の様子や各学年のこれからの授業方針に特進クラスの進路状況といった数々の議題を消化していくのだが・・ここに来てとある人物について話題が上る、3年のクラスを担当しているある人物の発言が発端になる。

「校長先生、3年の相良についてですが・・彼女が起こしている問題は目に余ります。生徒会が何とか抑えているようですが、これ以上問題を起こせば退学も検討に入れたほうが良いかと・・」

「確かに最近の相良の行動については目に余るものがありますな、校内外問わない暴力行為の数々・・このままだと折角築いてきた学校の名誉は地に落ちますな。校長はどうお考えで?」

3年教師に呼応するように生活指導の教師も間髪入れずに挟み込む、更には彼女に完膚無きに叩きのめされた
格闘技系の部活の顧問達も彼等の擁護に回る。霞も聖の問題の数々を対処はしてきたものの無下にすることは
できない、個人的に気に入っているのもあるが霞からみても最近の聖については徐々に改善されているのも
また事実である。

霞が返答に悩んでいる中、ここで沈黙を守り続けていた礼子が意見を述べる。

245 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:58:25.33 ID:mnvXYMyfo
「先生方、相良は確かに数々の問題を引き起こしていますが・・最近は改善の方向に向かっています」

「仰いますが春日先生、彼女によって壊滅された格闘技の部活の現状を把握しておりますか? 中には士気を削がれ重要な大会を落としてしまった者も出ている有様・・他校との問題に関しても深刻です。失礼ですが、あなたの指導不足ではないのでしょうか?」

「・・今の彼女は成績もある程度は改善されていますし、授業にも出席しています。以前と比べても改善の兆しは高いと言えましょう」

礼子とてここまで言われたら徹底的に反論する、確かに聖は問題をよく引き起こしているものの人間的には決して心根の腐った人間ではない、それに聖自身も相変わらず授業をサボり気味ではあるものの以前とは違って学校ボイコット率はちゃんと下がっている。

確かに全てを改善させるのは根気は掛かるものの長い目で面倒を見てやれば徐々に良い方向に進むと礼子は確信しているし、彼女を自分のようにしないためにも可能な限りではあるが意思は尊重してやりたい。

「ですから、ここは我々教師陣が尽力していけば相良も決して・・」

「春日先生・・それは理想論ですな、百歩譲って相良が改善しているとしましょう。ですが、彼女がこれから先に学園の信用に関わる重大な問題を引き起こさないとは限りません、むしろ起こすほうのが目に見えています。それに対する責任はどうお考えですか!!」

「それを起こさないためにも・・それに起こした私が責任を取ります」

「詭弁ですな、もし警察沙汰になって世間に多大なる迷惑を掛けたら正直あなたのクビ一つでは到底収められませんよ。第一、相良のような人種は学園・・いや、社会においてもメリットはありません」

この発言に礼子の怒りは爆発寸前にまで陥るが、何とか必死に堪える。これを優位と見た相良排除派は更に畳みかけようとするが、ここで聖のクラスの担任である鈴木が礼子に変わって対応する。

「先生、彼女は私のクラスの生徒です。確かに私の指導不足は歪みませんが春日先生のお陰でここまで持ってこられたのも事実です」

「ですが鈴木先生、これまでに彼女の起こした問題は警察沙汰寸前になったものもあります。今後このような事態に陥る可能性が大きいように思えますよ」

「確かに私も彼女の問題には生徒会を通しても目に余る物は在ります。ですが、それを阻止するのに私達はいるんじゃないんですか?」

鈴木の意見にさほどの教師の勢いは止まり、霞もひとまず安堵しながらこのまま無事に沈静化できると思っていたのだが・・それでも最初に意見を発した教師はまだ抗う。

「春日先生と鈴木先生の意見もわかりますがねぇ・・校長はどうお考えですか?」

「へっ? え、えっと・・」

ここで話を振られた霞は宿題を迫られた子供のように再び返答を窮してしまう、しかしここで答えないと問題は先送りとなって更なる遺恨を残してしまうだろう。それを避けたい霞であるが中々良い答えが思いつかない、様々な思案が霞の脳裏で繰り広げられている中で意外な人物が意見を述べる。

246 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:58:52.25 ID:mnvXYMyfo
「え〜、先生方。・・相良はあんた等みたいにドス黒くないし芯は腐っちゃいませんよ」

「骨皮先生。私はあなたではなく校長に――・・」

「うるせぇ!!! 俺が2年の時に相良の担任になったが友達を思いやることができる立派な人間だ、それにどっかのポル・ポトお前等みたいに簡単に人を切り捨てたりはしない」

「し、しかし・・骨皮先生も彼女の担任をしたならば」

「それに俺達は教師だ、それならば面倒を見た生徒は最後まできちんと育て上げる義務がある!! ・・そうですよね、校長先生」

(ここぞとばかりやってくれるわね・・)

そのままにんまりとした表情で靖男は霞を見つめる、まさか靖男が出てくるなどこの教師はともかくとして鈴木や礼子にとっても予想外だったので少し唖然としてしまうが、霞は靖男の意向を汲み取ると結論を述べる。

「先生方。骨皮先生の言っていることには私も同意見です、鈴木先生や春日先生にはご苦労をお掛けしますが、ここは見守って見ようと思います」

「で、ですが・・」

「私達教師は生徒が持っている多大な可能性を伸ばし、将来を導き出すのが仕事です。この学校の校長として・・そして一教師として私は相良さんを見守っていこうと思います。・・他に意見はありますか?」

この霞の発言が決めてとなり、周囲の意見は完全に沈黙した。そして全ての議案を終了したのを確認した霞は本日の職員会議の幕を閉じる。

「では、本日の職員会議はこれで終了いたします。次は来月を予定していますが変更する場合は朝礼でお知らせします。本日はお忙しい中お疲れ様でした」

こうして職員会議は終わりを次げ、各教師が帰って行く中で職員室では先ほどの会議の資料を作成している靖男とそれらを監視兼手直しする霞に加えて帰宅準備をしている礼子と鈴木の姿があった。
247 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 00:59:41.65 ID:mnvXYMyfo
「ごめんさないね礼子先生、わざわざ生徒会への書類を手伝って貰って・・」

「いえ、私も保健室の書類書かなきゃいけなかったんで」

既に仕事を終えた2人は帰宅準備に入っているのだが、こちらの2人と言うと・・

「骨皮先生・・理事長に出すんだからこれじゃダメでしょ、やり直し!!!」

「ええっ〜!! ちょっとは大目に見てくださいよ。それにさっきは活躍したんで明日じゃダメですか?」

「生憎、仕事に関しては私情は挟まない主義なの♪」

「バトレポなら余裕なのに・・」

「ウダウダ言わない!! 完成するまでは絶対に帰さないわよ!! こっちだって潤君とダーリンの晩御飯を押してまでやってるんだから!!!!」

2人の様子に礼子と鈴木も思わず苦笑してしまう、しかし目を合わせてしまえば手伝わされてしまうことは必死なので出来るだけそそくさと帰るように心掛けるがこれを靖男が見逃すはずがない。

「鈴木先生、春日先生・・」

「さっきは見事な熱演でしたよ骨皮先生。ですけど、会議に遅刻したのは骨皮先生ですしね・・」

さり気なく鈴木は靖男の希望を断ち切る、どうやら長年の経験もあるのかこういった手合いには慣れているようだ。それに靖男も先輩である鈴木には頼みづらいので初めから当てにしていない、ちなみに霞は飲み物を買うために少し席を外しており、この隙に靖男は同僚である始めから狙いを振り絞っていた礼子に頼み込む。

「か・す・が・先・生! 俺達は同僚なんだから親睦も兼ねて助け合いを・・」

「あのね骨皮先生、私も旦那が待っているのよ」

「職員会議で俺が窮地救ったじゃん。それにちょっとだけ見てくれればいいから・・」

「それに前に歴史のテストの作成を手伝ってあげたでしょ」

某ゲームのマルチプレイで鍛え上げた靖男の外交テクはこれでは収まらないが、礼子は以前にも靖男の歴史のテスト作成を手伝ったので今回のことは何とかチャラにする。しかし靖男もそう簡単には諦めない、作成作業を短縮させるためにも礼子に帰られたら非常に困るのである。それに礼子を釣上げる策だって既に用意している、以前は見返りに知り合いを通じて本格的な女体化に関する資料を手渡したので今回もその手で行く。

248 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:00:41.07 ID:mnvXYMyfo
「いやいや、俺は別に見てほしいだけ・・時間は絶対に取らない、前に知りたがってた車用品の安い店教えるから・・」

「車用品ね・・」

(よしっ! 食いついた・・こうした外交取引は歴史上でも常套手段だからな)

礼子が食いついたのを確証した靖男はそのまま押しに入るのだが、ここで運悪く霞が戻ってくることになる。

「骨皮先生〜、何してるのかしら!!」

「ゲッ、校長先生・・帰ったのかと思いましたよ」

「あなたの書類待ってるのに帰るわけないでしょ!!! 春日先生と鈴木先生は残らなくても2人の書類は明日やってくれれば良いのよ?」

苦戦する靖男とは対照的に霞は礼子と鈴木に労いを掛ける、そもそも2人が書いていた書類は提出期間にも余裕があるしすぐにでも提出しなければ行けない代物ではなかったのだが、余計な仕事を残さないためにも処理していた。それに2人はこれから共に食事に行く予定があったので店の予約時間に余裕があったのも一因している。

「いえ、期間から考えても急を要しますし早めに校長の承認を貰わないと生徒会でも困りますから」

「私も早く提出して支給して貰わないと薬の納入期間も嵩みますので・・」

「それじゃ、私の机に置いてね。ちゃんと拝見させてもらうわ。それじゃ2人ともお疲れさま」

「お・・おいおい!! 2人ともちょっと待っ」

「「お疲れさまでした」」

2人は書類を霞の机の上に置くと靖男を尻目に職員室を立ち去っていく、残された靖男は2人の帰りを阻止したいのだが霞の目があるのでどうしようもできない。

「さて、骨皮先生。守衛さんにはある程度話したから・・続き、始めるわよ」

「校長先生。後でラーメン奢りますから・・」

希望を失った靖男は諦めずに今度は霞の懐柔を試みるが、霞は思い出したように更に靖男に書類の提示をさせる。

「それに前に葛西先生と一緒に頼んだクラスの文化祭準備の試算書類の修正も先生のクラスだけまだ出てないわよ、あれ期限今日までよ?」

「あ、あれは・・葛西先生から出したはずなんですけど、それに修正なんて聞いてませんけど?」

「・・ちゃんと葛西先生に伝えてあなたに報告したってちゃんと本人から聞いたけど」

(あの時に言ってた修正ってそれだったのか!! あの音楽馬鹿ッ! 俺がHolしてた片手間にそんな大事な事言いやがって!!! それに修正喰らうような予算編成しやがって・・)

そのような重大な報告を聞き流してた靖男がもちろん悪いのだが、更に付け加えるとそもそも霞の言っている試算の書類は本来ならば靖男が主導して行うべきなのだが、自身のゲーム時間を確保するためだけに仕事そのものを副担任の葛西にほぼ丸投げしてたので余計に性質が悪い。本来生徒会は文化祭に限らず学校行事の予算の配分やある程度の追加は出来るものの、そういった大元の予算は教師達の試算から元となっているので彼等ではどうしようも出来ないのだ。

「あなたが提出しないと文化祭の予算が決められないでしょ!! 予算が決まらないとそれを基にして運営する生徒会が動けないのよ!!!!」

「え、ええっと・・理事長に頼んでもう少し期間を置いてもらえないでしょうか?」

「何度も頼んで今日までに引き伸ばして貰ってるのよ!!! 私も手伝うからさっさと仕事しなさいッ!!!!!」

霞の怒声によって靖男の書類地獄は当分として終わりそうにないようだ。

249 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:01:46.15 ID:mnvXYMyfo
翌日、何とか霞の手伝いもあってか必要書類は無事に終了。霞は自宅が近いので終わるとそそくさと帰ってしまい、通勤時間に難があった靖男は学校内に宛がわれている職員専用の宿直室でひと晩過ごす羽目となる。本来この宿直室は文化祭等の大規模な学校行事の準備で泊まりこみとなる生徒を監視する教師のために設置された部屋なのだが本来の目的で活用されることは少なく、もっぱら靖男専用の部屋と成り果てていた。

「ふぁぁ〜・・またロリっ娘校長のお陰で宿直室で過ごしてしまった。遅刻にならないから良いけど・・」

個人的な理由・・というよりもこういった私情で利用しているのが霞にばれてしまえば説教の一つや2つでは済まないだろう、周囲の様子を伺いながら慎重に行動していつものように何食わぬ顔で靖男は職員室へ出勤する。既に職員室には部活の朝錬を行っていた教員が出勤しており、靖男は挨拶をしながら自分のデスクの席につきながらコーヒーを淹れて一息入れる。

(どうやら、ばれずに済んだようだ。ちゃんと宿直室には痕跡も消したしな)

ここらへんの証拠隠滅能力に抜かりがないのが悲しいところではあるが、今日もこうして学園の1日は始まっていく・・そして更に時間が経って礼子と鈴木が同時に出勤する。

「「おはようございます〜・・」」

「おやようさん」

「あら、骨皮先生。あれだけの事があったのに随分早い出勤ね、コーヒー片手に余裕ですこと」

最初に声を掛けてきたのは鈴木、ちなみに彼女は霞と同様に仕事に対しては結構厳しいタイプなので容赦なく靖男の心を抉り出す。事実彼女の元にいる副担任は度々書類の不備を言われているし、その厳しさは生徒会に対しても容赦はないのだがフォローは忘れないのでそういった飴鞭を使い分ける姿が彼等の人望を集めている。

「ま、何とか終わらせましたよ・・そういえば春日先生、この近所に中古専門だけど安いカー用品の店があるから、行って見るといいぞ。新古品が結構多いから型落ち狙って買うのがお勧めだ」

「あら? どういう風の吹き回しなの」

「別に〜」

わざと惚けたように語ってくる靖男に礼子は少しばかり眉を顰めながらも有難く情報を受け取ることにする、現に前に貰った女体化に関する資料は礼子も感心してしまったぐらいだ。
そんな光景が繰り広げられている中で霞と教頭が出勤して恒例の朝の朝礼が始まる。

「は〜い、皆さーん!! 昨日の職員会議はお疲れさまでした。
今日は朝礼ですので時間を短縮します、文化祭の予算が決まったので各担任の先生方はよく目を通して下さい、これの資金を元に生徒会が中心となって動くのでフォローのほうはお願いします。

え〜、生徒の泊り込みが予想されるので恒例のように先生方で宿直のローテーションを決めて私に報告してください・・そうそう、3年生の歴史担当の桜井先生が身内にご不幸があったのでお休みされると言うことです。幸い受け持っている部活もなく、クラスの方も副担任なので支障はないと思われますが・・桜井先生が復帰されるまで3年生の歴史の授業に関しては骨皮先生に兼任してもらいます」

「ちょ、ちょっと!! いきなりそんな事言われても・・大体期間どれぐらいなんですか?」

「理事長も承認済みなので糞忙しい朝っぱらから文句は言わない、昨夜が通夜だったので本日が告別式だから明日もお休みなので復帰は明後日になりそうね。どうも近しい身内だったみたいだから・・朝礼が終わったら骨皮先生は教頭先生と授業内容を打ち合わせしてください、それでは以上! これから朝礼ですので先生方は体育館へ移動してください」

(ま、マジかよ!! 3年の授業なんて久々やるからな・・)

靖男の嘆きと共に教師は朝礼のために全員体育館へと移動する。
250 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:02:22.51 ID:mnvXYMyfo
同時刻・体育館

ぎっしりとつめられた生徒達の大半は気だるさと憂鬱さを交えた表情だが中には眠っているものも存在している中で朝礼に望む、それは珍しく出席している聖も同じであった。

「あぁ〜・・朝礼なんて必要ねぇだろうに」

「あのなぁ、一応恒例行事なんだから必要なんだろ? それに文化祭も近いんだからそれに対する話だって・・」

「うるせぇ!!! 朝っぱらから集められてイライラしてるのに・・」

「・・お前、元気だろ」

翔のツッコミと同時に霞を始めとする教師陣や生徒会を代表して奈美と部活を代表して応援団の団長である藤堂が姿を現し、この学園の事実上のトップである理事長の挨拶から始まる。

「え〜、おはようございます。本日も天気に恵まれながら・・」

ちなみに理事長の挨拶はそこそこ長い、この間にも眠っているものは更に睡眠が助長され、大半の生徒もそれにつられて欠伸をしてしまうものが多数・・もはや睡眠耐久レースと化している朝礼であるが同時に一般の生徒達が理事長と謁見できる唯一の機会でもある、この学園の理事長は他にも様々な顔を持っているので学園にいる時間のほうが余り少ないのだ。
そして理事長の挨拶が終了すると今度は校長である霞が予め用意されているミカン箱の上に立ちステージから生徒を見渡しながらちびっ子のように元気よく挨拶をかます。

「みなさ〜ん!! おはようございまぁ〜す!!!!」

マイクがはちきれんばかりの大音量で霞による挨拶でほぼ全ての生徒の黄泉の誘いとなってた眠気が一気に絶たる、実際の所これが本当の朝礼の挨拶であり眠気が完全に覚めた生徒達は全員霞の姿に注目する。

「辰哉、俺達の学校の校長って変だよな。服装も子供服ばかりだし、どっからどう見ても小学生だぞ・・」

「それでも不思議なことに今までの眠気も一気に吹き飛ぶんだよな」

「はい、皆さん! 眠気も覚めたところで恒例の朝礼を行います。本日嬉しいニュースは1年生である森野 楓さんと成宮 隆二君の2人が調理師免許の試験に合格したことです!! しかもこの学園では史上初の合格者であるので大変名誉で素晴らしい快挙であります!!!」

調理師免許に関しては若年者のキャリアアップを考慮されてか数年前に法改正で調理学校に通わずとも実家が調理に関する事業をして厳正なる審査をくぐり抜けた末で13歳から試験資格が与えられる事となっている。実家が旅館や老舗料理店を営んでいる楓と隆二には当然のように受験資格が与えられて厳しい修行の合間や血の滲む努力の末・・見事合格を果たしたのだ。

「え〜、それでは規定により理事長から授与式を行いたいと思います。2人はステージまでどうぞ〜」

「女将! 堂々としなさい!!」

「明美さん!! そ、それに授与なんて!! き、緊張してしまいますね・・隆二さん」

「・・そうだな」

拍手喝采が広がる中で緊張のまま楓と隆二はステージへ上がり、理事長から調理師免許の授与式が執り行われる。

「え〜・・森野 楓、成宮 隆二! あなた方の料理人としての情熱と幾多の修練を称え、ここに調理師免許を授与いたします。これから料理人としての誇りを胸に刻みながら、初心を忘れず一層の精進に励んでください・・日本調理師連盟 会長

合格おめでとう!!」

「「ありがとうございます」」

再び拍手喝采が体育館中に広がる、授与式が終わると再び霞にマイクが回されて改めて2人の偉業を称える。
251 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:03:43.05 ID:mnvXYMyfo
「2人ともおめでとう! 校長として嬉しい限りです・・さてせっかく時間もあるので2人に一言お願いします!!」

「え〜・・自分の実家は創業200年以上の歴史を誇る店です。縁あって森野さんの自宅である旅館で修行させて貰っておりますが、この場を借りて自分を鍛えてくださった親方始めとして支えて下さった周囲の人たちに感謝しながら料理人として驕らず、授与された資格を汚さぬよう名に恥じない料理人になる事を誓います!!」

「えっと・・これからも当、森野旅館をよろしくお願い致します」

周囲の爆笑と喝采を浴びながら2人は一礼するとそのまま自分のクラスへと戻っていく、その様子を霞は見守りながら止まぬ興奮を抑えて再び朝礼に戻る。

「さっ、次はこれから行われる文化祭と各部活の様子についてです。それでは生徒会長の和久井 奈美お姉さんに
説明をお願いしましょう。コホン、それでは早速お呼びしましょう、奈美お姉ちゃ・・」

「校長先生、リアルに小学生の妹いるんで止めてください!! ・・失礼しました、生徒会からのお知らせです。文化祭の正式な予算が出ましたので各クラスの実行委員に選ばれた人は放課後に生徒会室への出席を必ずお願いします、サボった人間に関しては例外なくそれ相応の処置を下しますので予めご了承をお願いします」

奈美はそのまま説明を終えると強引にマイクを霞に返して自分の持ち場へと戻る。

「それじゃ、次に各部活の活動内容の報告を団長の藤堂さんにお願いします」

「押忍!!! ・・え、各部活の活動内容についてですがボクシング部が個人大会で惜しくも準優勝となりバレー部も県代表として出場をされました」

こうした各部活の大会の様子や結果などは応援団の団長が朝礼の場を借りて全生徒へ向けて報告を行う事となっており、こればかりは例外なく現団長である藤堂によって報告されるのだが、藤堂自身はこういった場が少々苦手ではあるもののこればかりは規定が規定なのでしょうがない。

「応援団としても各部活を支えながら本来の活動を行っていく所存であります。それではこれで報告を終わります・・押忍!!!!」

「・・以上で本日の朝礼を終了いたします。これから一時間目の授業が始まりますので程ほどに頑張ってね〜☆!!」

霞の言葉によって朝礼は終了する。

252 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:06:19.48 ID:mnvXYMyfo
1時間目・歴史

あれから靖男は教頭に大体の授業内容を聞かされると3年生の教室へと向かう、ちなみに特進クラスと普通のクラスの授業内容は大幅に異なるので理事長や霞のよって厳密に区別されている。

「ったく、人の迷惑考えずに勝手に休みやがって・・どうせ誰か適当な奴を殺してでっちあげたんだ!!!」

実に見も蓋もない言い方であるが、休んでしまったものはしょうがない、それにどこか経験者のような口ぶりなのは気のせいであると作者は思いたいものだ。

教頭から聞いた学習内容をそれなりに頭に叩き込みながら実に2年振りである3年の授業をするために教室に靖男は入り込む、本来の担当の休みを知らない3年の生徒達は靖男の姿を見るや否や絶望にもとれる表情で一斉に固まってしまうが靖男はいつもの調子で出欠を取る。

「うぃ〜っす・・担当の桜井先生が葬式で欠席したんでてめぇ等が2年の時以来、俺が久しぶりに3年の授業をすることになった」

(((((ま、マジかよ!! 骨皮先生ってことはあのマイペース授業の地獄が甦るのかよ・・)))))

かつての靖男の授業の連絡役となっていた生徒は即座に周りの生徒にメールで連絡を取ると情報網の再構築を図る、そんな彼等のやり取りを尻目に靖男はいつものように出欠に入る。

「久々に俺の授業が受けられて嬉しいのはわかるが出欠を取るぞ。・・おっ、懐かしい名前があるからこいつから行こう。相良! 来てるか〜・・どうせ1時間目だから来てないだろうから欠席と」

「ちょっと待てポンコツ教師ィィィィ!!!!!」

「お、珍しく1時間目に来てたのかよ。いつもの癖で欠席にするところだったぞ」

このやり取りも去年振りである、ちなみにポンコツ教師とは他ならぬ靖男の事でありいつも聖と靖男のやり取りが2年の時の彼等がよく見ていた通例となっていた。

「おい!!! なんでてめぇが俺達3年の授業してるんだ!!!! お前は去年と一緒で2年の担当だろ!!!!!」

「人の話をよく聞けと去年に言ったはずだぞ。桜井先生が身内の不幸によって欠席なんで復帰するまで俺が代理だ。それに相良ァァァ!!! てめぇと藤堂の決闘で担任してやった好でお前に賭けたのに金とSAORIのプロマイドがパァになったじゃねぇか!!!!」

「あのなぁ・・てか、ポンコツ教師!! てめぇも賭けに参加してたのか!!!!」

「お前のお陰で始末書だ始末書!!! 責任取れバカヤロー」

「このポンコツ教師が・・」

勝手に個人的な論争を繰り広げている2人であるが、周りの生徒にすれば迷惑以外何者でもない。ただえさえマイペースで授業速度が遅い靖男が今回の担当なのだ、ここは速やかに済ませるためにも去年と同じようにツンが2人のストッパーとなる。

「はいはい!! 骨皮先生も相良さん刺激しないでさっさと授業始めてください・・」

「ううっ・・」

「よし、馬鹿が収まったところで授業を始める。確かお前等は第一次から第二次世界大戦をやってたんだな、それじゃちょっと時代を遡って阿片戦争を始めたいのだが・・仕方ないので流儀に合わせる、教科書を開け〜」

(早く桜井先生が戻ってきてほしいお・・)

靖男はそのままいつものように要所要所の解説を入れて生徒達の笑いを取りながら授業を進めていく、しかし靖男としては個人的に好きな時代ではないので少し不機嫌である。

253 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:06:47.94 ID:mnvXYMyfo
「こうして核ゲーになって日本は終了したわけだ。それじゃ・・こないだcivのマルチプレイで先生を戦争に嗾けた隙に先生の軍が消耗したところを狙って偉人ファームと遺産都市を焼き払ったドクオ! ・・日本が敗因した理由を答えろ」

「お、おい・・ゲームの話はなしだろ!! それに先生だって前に似たようなことしてくれたおかげで他のプレイヤーと結託して俺の文明滅ぼしたくせに・・」

「俺の生徒なら黙って餌都市を育てて大人しく先生の勝利に貢献しろ」

靖男とドクオは同じcivシリーズのプレイヤーであり暇な時はお互いにマルチプレイで遊んでいる仲でもある。
ちなみにドクオの実力はシングルよりもマルチに強いようだ、それに聖との付き合いもあるのでちゃんと自制しながら
ゲームを楽しんでいる良識的なプレイヤーである。

そのまま靖男に指摘されたドクオは教科書を目安にしながら回答して行く。

「えっと日本は国際連合を脱退して、徐々に物量差で押されながらあげくにはポツダム宣言を無視したせいかと・・」

「たしかにそれも原因の一つではあるが、今までは艦隊による大砲主義が主流だったんだが時代は艦隊戦よりも飛行機主流となっていたんだ。日本はそれに乗り遅れて大和を始めとする主力艦隊がことごとく壊滅されたんだ、これが大きい痛手となる・・その後も戦闘機に注目したんだが日本固有の物資不足でまともな量を用意できなかったんだ」

「へっ、要は喧嘩に負けたようなもんだろ。弱っちぃ癖に情けねぇぜ」

「確かに結果論からしてそうだが、艦隊戦が主力だった頃は当時ではかなり凄かったんだぞ。ま、現実の戦争はHolとは違ってプレイヤーなんてのはいないからな、更にcivで例えるなら日本をプレイしていた奴は貴族レベルを余裕でクリアして調子に乗った挙句に天帝をプレイして滅びたようなもんだ」

(骨皮先生・・一部の人間しかわからないような単語を使うのはやめてほしいお)

かなり自分中心の授業が進む中で靖男の授業は進む。

「それに日本敗戦で外せないのは北方領土問題だ。ツン、ここらへんを答えて見ろ」

「はい、日本が敗走している隙を逃さなかったソ連軍は北方領土の2島を奪い取った、これには裏条約など様々な陰謀説がある。この問題は今後の両国の外交問題に大きな遺恨を残して泥沼になって行く・・」

「よろしい。相手が弱っている隙に漁夫の利戦法で掠め取るのは戦争においても常套手段だ、そのままいいようにされてしまった日本は講和して以後はGHQのポパイおじさんの元で立て直しを図って高度成長気へと突入することとなる、植民地になって変換された沖縄は基地問題などで悩まされていくことになる」

「先生・・マッカーサーじゃないのかお?」

「内藤、こうした話に笑いを入れていくのが楽しい授業をやるコツだ。俺と授業してもう忘れたのか?」

そのまま笑いを交えながら靖男の授業はいつものようにマイペースに進んで行った・・

254 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:07:44.21 ID:mnvXYMyfo
保健室

「てなわけだぜ、礼子先生!! あのポンコツ教師何とかなんねぇのかよ」

「無理ね。校長からも散々言われてる見たいだけど改善する気はゼロよ」

いつものように保健室では聖の愚痴が炸裂する、今回は狼子の代わりに翔と辰哉がこの場におり聖の愚痴を聞かされる羽目となっている。ちなみに狼子は文化祭の実行委員となった友とクラスの出店について話し合い中、それにしてもあまりにもの靖男の授業風景に流石の翔も苦言を呈したくなる。

「特進クラスの方でも噂にはなっているが・・そんなに酷いのか?」

「酷いってもんじゃないですよ。おかげで骨皮先生については各クラスで授業内容を補完しあってますよ・・」

「あのポンコツ教師を世に送り出したのが間違いだ」

一応礼子は同僚ながらも靖男に対する評価は霞と変わりない、それは昨日の職員会議からしても目の当たりにしてきたしあの性格や授業内容などを差っ引いても過去にも靖男は受け持っている生徒をしっかりと導いているのは同僚の目から見てもよくわかる。ただテスト作成に期間ギリギリになってまで自分を駆り出すのはやめてほしいのだが、ちゃんと取引通りにはしているので礼子も怒るに怒れない。

「まぁ、骨皮先生も悪い人じゃないわよ」

「礼子先生、俺はゲーム取られたんだぞ。挙句に狼子の補習そっちのけで夢中になってたんだからな・・」

「問題はあるものの・・だけど悪い先生ではないとは俺も思います」

「確かにあのポンコツ教師は生意気にもこの学校の野郎達には人気はあるからな」

「そうね、信じられないでしょうけど・・あなた達が入学する前には不良生徒をしっかり更生させたしね」

しかし誰もが靖男の功績を認めてはいるものの普段の態度があれなので疑問符がつくばかりである。

「そういえば先輩達は文化祭に何するんですか?」

「俺達のクラスは喫茶店だけど・・どうもこいつが売り子を拒否してるんだよ」

「あんな格好できるかッ!!! 死んだほうがマシだ・・それに野郎達の目線が気にいらねぇ!!!!」

辰哉はふと聖のウエイトレス姿を想像してみる、もし聖がウエイトレスになれば集客率はかなりのものになるのは間違いはないだろう。もしオバケ屋敷にしてしまったら実際に訪問する人間の何人かが本当のオバケとなってしまってよからぬ伝説を打ちたててしまうだろう。自分達のクラスの出店はまだ決まっていないものでこれからの友と狼子が変な店を考えない事を祈るのみである。

255 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:08:21.23 ID:mnvXYMyfo
「それにしても月島さんも出店について考えているなんて意外ね」

「ま、興味本意だと思いますけど・・本人なりに結構考えてるみたいですよ。俺には決して教えてくれませんけど」

「狼子のことだから聞いたらすぐに噛まれるんだろ!! お前もどっかのバカみたいに程ほどにしておけよ」

「誰の事言ってるんだ!!! てめぇだって文化祭は何かしないといけないんだぞ!!!!」

「うるせぇ!!! 俺は働くのがこの世で一番大ッ嫌いなんだよ!!!!!」

(社会に逆らい続ける相良さんはある意味凄いかも・・)

いつものように大音量で繰り広げられる聖と翔の言い争いに辰哉と礼子も思わず耳を塞いでしまう、勤労思考が全くない聖に文化祭で働かせるのは難しいことだ。未だに2人の担任である鈴木には苦情が出ていないものの愚痴として出るのも時間の問題だろう、流石に文化祭や生徒会の指導で多忙な彼女に苦労を掛けるのも忍びないのでここで礼子なりの助け舟を出す。

「・・あのね、働くっていってもそんな大した時間じゃないのよ? 木村君はバイトでどれぐらい働いてるの」

「そうですね・平日は4時間ですけど休日は8時間は働いてますよ。人手が足りない場合は接客もしますけど・・そんな辛い事ばかりじゃないですよ」

「うるせぇ!!! 俺を説得させようたって無駄だぞ!!!」

頑なに逆らう聖であるが予想してた通りの答えに礼子は次の一手で翔に話を振る。

「じゃ、次に彼氏であるあなたに同じ質問するわ。実際どんな感じなの?」

「そうだな、俺も辰哉と変わりないけど最近はサブリーダーになったから管理ちょっとしてるから忙しいかな。楽しいのには変わりないけどよ」

「とまあ人によって様々だけど労働ってそんな感じよ。私だって今こうして仕事してるんだし・・それに天下の相良 聖がおめおめと働けないダメ人間になるつもり?」

ここで礼子は周囲を引き合いに出して聖のプライドを刺激する、さすがの聖も礼子だろうがここまで言われるほど生易しい根性を持っていない。

「舐めんな! この俺が本気出せばやることはやってやるよ!!! ・・ただ、文化祭のウエイトレスなんて俺には糞喰らえだからな」

「あら? あなたの彼氏はともかくとして・・後輩である木村君だって出来る事なのよ、もしかして後輩すら出来る仕事があなたには出来ないの?」

(礼子先生・・サラッと怖いこしないで下さいよ)

引き合いに出された辰哉は底知れぬ恐怖を覚えつつも、それとは裏腹に礼子の駄目押しで聖のプライドは更に燻られて己の闘争本能に火を点ける。

「わかったよ!!! やってやるよ・・ここまで来たら俺の名にかけて売り上げ1位を目指してやる!!!!!」

「そう、安心したわ。鈴木先生には私から伝えてあげる」

「確か売り上げ1位を記録したクラスには生徒会から豪華な賞品が授与されるんだよな・・矢ってるぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

聖のやる気を確認させたところで礼子はそっと翔に耳打ちをする。

(てめぇも相良の彼氏ならもう少しやり方を考えろ。相手の性格を利用して操作するのも彼氏の役目だ)

(あ、ああ・・了解だ)

辰哉と翔は礼子の手腕に改めて感心しながらも時間は更に進む。

256 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:08:52.30 ID:mnvXYMyfo
放課後

卓球部の指導を終えていつもより倍の授業をこなした靖男も流石に疲労の色を隠せない、早い所3年の担当である桜井の復帰を願いたいばかりである。

「ハァ〜・・明日もこの調子でいかなきゃ行けないのか」

「お疲れさま、骨皮先生。流石に今日はもう上がって良いわよ」

「ま、マジっすか!! 校長先生・・感謝します」

「過労で倒れたら私が理事長に怒られるの。書類も桜井先生が復帰してからでいいわ」

「ありがとうございます!! お疲れさまでした!!」

そのまま靖男はルンルン気分で職員室を飛び出す、流石の霞も今回の靖男の激務についてはそれなりの考慮をしたわけ・・伊達に平日の徹夜のゲームプレイで鍛え抜かれたタフさは感心してもいいのかも知れない。

(あっ、骨皮先生のクラス・・まだ出店決まってないじゃないの!!!! 早く決めさせないとまた去年と同じように理事長に怒られるぅぅぅぅ・・)

珍しく自分で失態を犯してしまった霞はキリキリと痛む胃を抑えながら今後の文化祭について不安を覚える。
ちなみにこの場面では全く関係ない補足説明だが、この学園では教師と副担任は教員同士のコミュニケーションと業務を円滑に進めるために固定されており担任と副担任のコンビは一度決まってしまうと3年間は変更できない仕組みとなっている、学年ごとの担当は経験をつけさせるためにも厳正なるくじ引きによって年毎に変わっていく仕組みだ。

そんな作者の意図に反するかのようにルンルン気分で帰宅する靖男は駅まで向かって行く、普段は車出勤の彼だが給料がきついので最近は電車出勤に切り替えている。

(まだ時間はあるし商店街でも寄っていくかね・・ってあれは今朝の)

一応一人暮らしの独身生活と言うのは侘しいものですれ違うカップルに殺意の波動を送りながら靖男は商店街の中を歩いていくと厳しい目利きをしている2人組みを発見する。

「・・主人、この旬の野菜の産地は?」

「へぇ! 無農薬栽培で育てた国産のものです!! ・・それ故に多少値は張りますが味は保障できますぜ」

「確かに色艶共に申し分はない・・君はどう思う?」

「そうですね・・確かに根野菜の土を見ても丹精込めて立派な肥料で育てられたのは明らかです。味の方は購入しないとわかりませんが・・保障はできると私は思いますよ隆二さん」

厳しい2人の目利きに歴戦の競りを制したこの八百屋の店主も緊張は隠せない、短い思考の末に隆二と楓は野菜を購入する事を決めた。

「店主、その野菜を貰おうか。いい旬の鮮魚も入ったから今日のお客様にお出しする料理は大丈夫だろう」

「ええ父や玄さんも納得してくれると思いますよ」

「しかし親方から目利きを任された身・・中途半端な仕事はできない」

「自信を持ってください隆二さん。私も父から目利きについては幼い頃から仕込まれてますので・・」

楓は幼い頃から家業である旅館を手伝っているので旅館に必要な振る舞いや料理の基礎などは両親からしっかりと叩きこまれている、隆二も中学を卒業してから楓の店で修行して日はまだ浅いもののその腕を着実と上げており楓の父親も職人気質なので決して口には出さないものの成長振りには日々感心しているのだ。

「そうだな。これも修行だ・・」

「私もついております。それでは旅館に戻りましょう、仕込が遅れてしまえば父や母にどやされますので・・」

(若いながら侮れない2人だ・・)

そのまま今回表彰された2人は八百屋を後にする、店長は気が抜けたのか暫し放心状態となる。その様子を靖男は遠めで見守っていた。
257 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:10:07.92 ID:mnvXYMyfo
(そういえば前に2人の担任が家庭訪問したとき職員室で自慢げに語っていたな。・・きっと担任の権限で豪華な旅館料理を食べたに違いない!! 俺もああいった生徒の担任だったらな、来年は校長に頼んで見るかな・・)

明らかに家庭訪問の主旨を吐き違えている靖男だが、そんな彼の目の前に和服姿に身を包んだとある女性が現れる。

「あら? あなたは・・骨皮先生ではございませんか?」

「えっ・・なんで俺の名前を?」

「申し遅れました。私、藤堂と申します・・校長先生を始めとしていつも娘がご迷惑をお掛けしております」

「い、いえいえ!!!!!」

突然靖男の目の前に現れたのは応援団団長、藤堂が唯一怖れ畏怖している母親本人の登場である。藤堂の自宅に関しては亡くなった父親が学園の理事長と親交が厚かった縁もあってか藤堂の家庭訪問だけは担任と校長が行っており、その事を思い出した靖男は雰囲気に押されたのも手伝ってか慌てて直立不動で藤堂の母親と対峙する。

「最初に校長先生のお姿を拝見させて貰った時は失礼ながらお子様かと思ってしまいましたが、外見にそぐわぬ完璧な礼儀作法と年長者の佇まいには一瞬でも外見で判断してしまった自分を恥じてしまったのは良い思いでですわ」

(そういえば藤堂の家だけ、あのロリっ娘校長が歴代の担任引き連れていたの思い出したぜ。そういえば担任になった連中はみんな顔が青ざめてたな・・担任にならなくて良かった)

残念ながら藤堂姉妹の担任だけは例外として霞直々に決められているので学園内のズボラ代表の靖男は問答無用で速攻で除外されているので要らぬ心配という奴である。

「骨皮先生については校長先生から直々に伺っております、ご立派に学生の皆様を立派に導いているとか・・」

「そんな大した事して無いっすよ・・普通に悪いことはダメって言っているだけです。誰だって出来ますよ・・」

あまりの緊張に靖男は金魚のように口をパクパクさせて機械的に言葉を発する事しか出来なかった、自分がここで何かしら粗相してしまえばクビに直結してしまう。

「いえ、人の道を説くのは簡単そうで難しいことでしょう。それを易々とこなしている先生の実力には頭が下がる思いで・・」

(た、頼むから俺を持ち上げるのはやめてください・・)

ここまで持ち上げられると流石の靖男も心が痛む、しかし停止しかけている思考を復活させると何とかこの場を切り抜けようと考え悩む。

「藤堂さん・・教師ってのは生徒を見捨てたりとかそんもんじゃないんですよ、あいつ等が良いと思ったら褒めて悪いと思ったら叱るだけですから」

「・・感嘆致しました! とても素晴らしいお考えですわ、今後とも子供達をよろしくお願いいたします。それでは私はこれから会合がありますのでこれで失礼させていただきます」

藤堂母は深々と礼をしながらその場から走り去って行く、藤堂母の姿が視界から完全に見えなくなったのを確認した靖男はその場から深い溜息を吐く。
258 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:11:28.90 ID:mnvXYMyfo
(ハァ〜・・死ぬかと思ったぜ、これでひとまずは安心だろう)

「あっ、ポンコツ教師じゃねぇか!!!」

「おい!! 先生なんだからそんな言い方はやめろ!!!」

今度は聞き覚えのある声、翔と聖のカップルが靖男に声をかける。しかし独身の靖男にしてみれば自分の受け持っていた生徒に関係なく男女のカップルはあまりにも眩しすぎる。

「お前等・・今すぐ俺の前で爆発しろ。そして先生の前で甘いオーラを撒き散らすな」

「それが教師の台詞かよ! ・・で、先生はここでなにしてるんだ」

「次の電車まで時間がるから今のうちにここで買い物しておくんだよ。あっ、その野菜くれ」

そもそも靖男がこの商店街に来た目的は他ならぬ夕食の買い物が目当てなのである、そのまま聖達を尻目に靖男は片っ端から店で買い物を済ませるとその手荷物を増やしていく。

「それにしてもポンコツ教師のてめぇが買い物とはな・・ちゃんと料理できんのか?」

「一人暮らし舐めんな、どっかのバカと違って経験はある。調理実習で器具破壊したお前に言われたくない」

「てめぇ!!! 卒業式になったら絶対にぶっ飛ばす!!」

「おいおい! 物騒な考えは今すぐ捨てろ!!! てか先生も前にこいつの担任したんなら刺激しないでくれよ」

必死で聖と抑える翔だがこれが2人の今までの関係なので仕方がないと言えば仕方がない、しかしお互いの性格だけはそれなりに熟知しているのでご愛嬌と言ったところだろうか?

「ああっ!? 文化祭になったらてめぇのクラスの売り上げを吸収してやるから覚悟しろよ!!」

「去年の時に俺に押し付けて悠々自適にしていたお前には無理だぁ〜! 音楽馬k・・もとい葛西先生のパワーでまた1位は頂くもんね」

去年の文化祭は担任であった靖男は担任としての仕事をほとんど葛西に丸投げしてゲーム片手に悠々自適に過ごしていたところ、強制的に聖に回収されて無理矢理仕事を押し付けられて嫌々ながら聖の仕事をしていた思い出があり、そのお陰もあってかクラスの生徒は奮起してくれて無事に靖男のクラスは売り上げ1位を叩き出して有終の美を飾ったのである。

「その様子だとまた葛西先生に押し付けてるな・・どうしようもないポンコツ教師だな」

「勝てば官軍、負ければ賊軍。これが人間の歴史に於いての常だ」

「歴史の教師だから説得力はあるけど、それは教師としては拙いんじゃないのか?」

「中野、かの偉大な大将軍であるロンメルはその指揮力で一等兵から元帥までなりあがったんだ。優秀な指揮官と言うのは現場の兵士を鼓舞して的確に指揮することによって力を引き出させる」

「いや流石のロンメルも戦略的撤退はしてたと思うぞ?」

ま、でも靖男も口ではああ言いながらも去年は担任としてちゃんと聖には目を掛けてやったし聖自身もそれはわかっており話を聞いていた翔も靖男にはそれなりの評価はしている。

「首を洗って待ってろよ! てめぇの吼え面をかかせてやるぜポンコツ教師!!!!」

「獅子が全力で兎を狩るのと同様に勝てる勝負は全力で拾っておくのが俺のセオリーだ。前にお前に賭けた金の分まで取り戻す!!」

(案外、似たもの同士なのかもしれないな・・)

こうして2人の教師と生徒の意地は文化祭までに持ち越されていくのだが・・その勝負はいずれ語られることになるだろう。
259 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/11(金) 01:12:03.58 ID:mnvXYMyfo
翌朝・職員室


(何、この周囲の視線・・? 俺なんかやらかした??)

いつものように出勤した靖男であったがどこか周囲の様子がおかしいことに気付く、あの靖男を敵視していたバレー部教師も今日はどこか自分に対して同情的な視線だ、何故だかよく分からない靖男は既に出勤していた礼子に話を振る。

「な、礼子先生・・なんで俺に視線が集中するんだ?」

「骨皮先生、今回だけは同情してあげるわ」

「えっ? もしかして3年の授業で何かミスった??」

礼子はそのまま呆れ半分、感心半分で靖男から視線を逸らすと今度は霞が鬼気迫った表情で靖男に詰め寄る。しかし靖男はそれを一切気にせずにいつものように惚けた挨拶をするのだが・・それと同時に周囲はこれからの展開を予想してるので一気に靖男から視線を外す。

「あっ、校長先生・・おはようごz」

「骨皮先生!!! あんた藤堂さんに何したの!!!!」

「えっ? 話がよく見えないんですけど・・」

「今朝、藤堂さんのお母様から理事長宛に連絡があったのよ!! 本人はやたら骨皮先生を褒めちぎってたみたいだけど・・もう一度聞くわ、藤堂さんになにやらかしたの!!!!」

(まさか・・昨日のあれかよ!!!!!!!)

靖男の思考は即座に停止する、実のところ藤堂母は昨日の靖男の態度を大変気に入り、来年は是非とも琥凛の担任にしてほしいと理事長を通じてお願いしたのだが・・事は本人の意向とはまるで違う方向に進んでしまい、理事長に呼び出された霞は即座に靖男と共に緊急に藤堂の元へと家庭訪問を命じられたのである。理事長と藤堂の両親の交友知っていた霞は自分達の首がかかっている事を判断すると靖男の出勤を聞き出して即座に回収するために職員室へと向かったわけ。

「いい!! 既に理事長から菓子折りは手配して貰ったから骨皮先生は用意が出来次第、私と一緒にすぐに藤堂さんのお宅へ向かうわよ!!!」

「し、しかし・・授業はどうするんです? それに文化祭やらいろいろ・・」

「授業は全部自習にしなさい!!! この際止む得ないわ・・葛西先生には私がお願いしておくから。はぁ・・骨皮先生、下手したら2人揃って理事長室は覚悟してね」

「い・・・嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「それは私の台詞よ!!! 藤堂さんのお母様は礼儀に大変厳しいお方だから私も何とかフォローして上げるけど今から付け焼刃でも良いから作法を予習するのよ、いいわね!!!」

そのまま霞は強引に職員室を出ると理事長室へ再び戻る、そして1人呆然とする靖男に流石の礼子も今回ばかりは見過ごすのは惨いと判断したのか靖男に礼儀作法を教授する。

「お・・俺、転職考えたほうがいいのか?」

「だ、大丈夫よ、骨皮先生。いい、礼儀作法と言うのはね形式も大事だけど心が一番大事なのよ。まずは挨拶の仕方は・・」

(ハハハ・・・)

既に礼子の言葉など聞こえない靖男。そして霞に強引に連れ出され藤堂家へと向かうのだが・・肝心の藤堂母はそんな学園内の騒動など露知らず、理事長の即決が決まって来年の琥凛の担任が靖男に決まった挨拶かと勘違いして己の首を覚悟して固くなっていた2人を出迎えたのであった。



fin
260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/11(金) 01:18:59.84 ID:mnvXYMyfo
終了です。見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwww
久々にあるキャラをゲスト出演してさせました。気がついて無い・・よね

Q:ちょっとネタに走りすぎじゃね?
A:それがデフォなの!! ・・私自身がハマっているのは否定しない

Q:てか内容が危なくね? 大丈夫なの?
A:当初の設定に被らないかと思うと常にヒヤヒヤもんですよ。ぶっちゃけ完成するよりも投下する時が怖い

Q:というか歴史ネタも大概にry
A:すみません、自重します。今度はまともなの書きますから許して><


さてキャラを貸してくれて設定まで共有してくださってる狼子の人には多大なるお詫びと感謝を申し上げます
体調に気をつけて書き進んでください

ではでは・・
261 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/11(金) 10:52:42.00 ID:/YqGTp/AO
乙した
今日は投下の流れが続くか
262 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/11(金) 17:21:42.57 ID:/YqGTp/AO
誰もいない…
263 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(兵庫県)[sage]:2011/11/12(土) 00:05:23.36 ID:tbZU0PKz0
よしきた!
描いて欲しいってキャラいる?
264 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/12(土) 00:14:49.76 ID:idCb0eay0
どの作者さんのキャラも素敵だから選びきれない…
>>263のお気に入りキャラで!
265 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 01:18:54.97 ID:7RdR+1H1o
wwkwwk
266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(兵庫県)[sage]:2011/11/12(土) 01:28:54.63 ID:tbZU0PKz0
予想外の安価……!
わかった! なら>>264のキャラを描く!!
267 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 01:53:52.98 ID:7RdR+1H1o
ざわ・・ざわ・・
268 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(静岡県)[sage]:2011/11/12(土) 02:32:46.04 ID:fKtDv+sF0
ほとんどROM専でしたが、ぼちぼち書いてた物を投下します。
過去作品を全て読んだわけではないので、展開被り・ネタ被り等あったら申し訳ないです。
次のレスから。
269 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:34:46.38 ID:fKtDv+sF0
月曜の朝。
目覚まし時計代わりの携帯のアラームが鳴り響く。
以前はお気に入りの曲にしていたのだが、毎朝起きたくもないのに大音量で鳴り響かれていては、
1週間と経たずにその曲が嫌いになってしまう。
だから今は無機質なデフォルトの音だ。これならば、いくら嫌いになろうと関係ない。

「はぁ。月曜日かよ…鬱だ。鬱すぎる。365連休くらいにならねーものかね…」

ぼやいても現実は変わらない。ならばせめて…もう少し、だけ…惰眠…貪って…ぐぅ。

「おい忍ーッ!朝飯出来てんだからさっさと来いよ!冷めちまうだろうが!」

階下で母親が叫んでいる声によって、意識が少し覚醒する。うん、間違ってない。「母親」である。

母さんはあまり言葉遣いが宜しくない。
この男女差別にうるさい時代、男口調・女口調などと言ってしまうのはアレであるが、
どちらかと言えば完全に前者だ。

「わぁってるよ!今行く!」

そう投げやりに答え、階下へ降りた。



トーストと味噌汁という和洋折衷な取り合わせは、我が家では珍しくないし、別に嫌いでもない。
ぼんやりとトーストを齧りながらテレビのニュースを眺めていると、煙草の値上げの話題になった。
2012年度の税制改正に向けて、一箱700円がどうのこうのって話である。
我が家は母さんが喫煙者だ。
俺も厨二病をこじらせた時分には拝借した事があったが、美味さを理解する前に止めた。

「おいおい、また値上げだぁ?このババァ正気か?…はぁ、そろそろ止め時か?」
「とか言いつつ火ィつけてんじゃねーよ!人が飯食ってる時に!」
「あぁ、悪ぃ。換気扇トコ行くわ」

そう言って母さんはちょこちょこと歩いて行き、背伸びして換気扇のコードを引く。
見た目は身長140cm台半ば、顔も童顔。客観的に見たら小学生…は流石に無いが、
「小学生の頃から身長が変わらなかった中高校生」にしか見えないとは親友の談。
馴染みのスーパー以外では煙草を買う際に身分証の提示を求められると言ってキレていた。
言わばロリババァである。
270 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:38:38.19 ID:fKtDv+sF0
「おい忍。お前、今何か失礼な事考えてただろ?」
「何で分かるんだよ!思春期のデリケートな心を見透かしてんじゃねーよ!」
「ふん。何年お前の母親やってると思ってんだ?」
「16年だろ…」

腕を組み、くわえ煙草で鼻から煙を出しつつドヤ顔をするロリババァ。しかしその仕草はオッサンそのものだな。

「そう、16年と…1ヶ月か。そういやお前、アレは大丈夫みたいだな?こっちは腹括ってたんだけど」
「勝手に覚悟決めてんじゃねーよ。俺は大丈夫、だな」
「へぇ、ヤる事ヤってんだ?あ、でも誕生日とは限らねぇんだよな。確率として高いってだけで」
「朝っぱらから何つー話題だよ!いい歳こいてサカってんのか!?」
「ふーん。どうやら根性焼き入れられてぇようだな。腕出せコラ」
「やめろォーッ!虐待反対ッ!」

15〜16歳位までに童貞を捨てなければ女体化。それはこの世の掟で、小学校の性教育で習う一般常識。
この現象は童貞男子全員に起こるわけではない。全体の10%か20%か、まぁそのくらいだったはずだ。
ただしその10%か20%かを見事に引き当ててしまった場合、女体化は16歳の誕生日に起こる確率が非常に高いらしい。
故に16歳の誕生日と言えば一つの山場である。

かく言う俺、西田忍は…未だ童貞である。母さんからの問いに答える際、歯切れが悪かったのはそういう事だ。
実際、16歳になった夜はビビッて一睡も出来なかった。しかしそれは杞憂に終わったらしい。
誕生日を過ぎても厳密に言えば油断は出来ないのだが、もう1ヶ月も経っているのだ。
どうやら俺は運が良かったらしい。

「母さんの時、大変だったからねぇ。16歳の誕生日の朝、『お、女になってるー!?』って大絶叫してさ。
 向かいの僕の実家まで聞こえてきたくらいだし」
「克己てめえええッ!その話は止めろって何度言えば…!!」

今までニコニコしながら俺と母さんのやり取りを眺めていた親父がそう口にすると、母さんは顔を真っ赤にして親父に掴み掛かっていた。
そう、この口の悪いロリババァは元男なのだ。
素行や口が悪いのと喫煙癖は男の時の名残だそうだ。所謂DQNだったらしい。
それに対して、親父はとても大人しい人だ。
母さんとは幼馴染だったそうだが、180度キャラの違うこの二人が、何故結婚に至ったのかはよく知らない。
親のそんな話なんて聞いても、むず痒いだけだしな。

食後のコーヒーを飲み終え、ふと気付くと母さんは親父に頭を「いい子いい子」されて大人しくなっていた。
顔は相変わらず真っ赤だったが。いい歳こいてバカップル…いや、最早クソップルと言って差し支えないだろう。

「…さて、そろそろ支度しねぇと」

もう少ししたら涼二が迎えに来る。クソップルを尻目に俺は、洗面台に向かうのだった。
271 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:43:50.65 ID:fKtDv+sF0
「忍が女体化してたらさぁ、秋代さんみたいになったのかね?」

登校中、たわけた事をほざきやがるのは幼馴染で親友の中曽根涼二である。

ちなみに秋代さん、と言うのはうちの母さんの事だ。確か男の時の名前は秋雄だと言っていた。
昔、一度コイツが俺の母さんに「おばさん」と言った事がある。
その時母さんは、顔はニコニコしながらも額に青筋を浮かべ、くわえていた煙草を噛み千切り、
持っていたビールの缶をグシャリと握り潰した。
幼かった彼にとって、それはそれは大変なトラウマになったらしく、それ以来秋代さんと呼んでいる。

「確かに俺は母さん似だけど、もう今更な話じゃねーか。俺は大丈夫だったんだから」
「まだ油断は出来ないだろ?俺、昨日あまりに暇だからネットの姓名判断で遊んでたんだけど」
「お前が一人寂しくパソコンに向かって姓名判断してる光景を思い浮かべたら、
 俺の方が悲しくて死にそうなんだが。どうしてくれんの?」
「まぁ聞けって。お前の名前でもやってみたわけ。
 そしたらさ、『西田忍』さんの人運は『意志薄弱 失敗 挫折 病弱 転換』だって!」
「…おいコラ。なんかネガティブな単語ばっかりじゃねーか!」
「俺が思うに、意思が弱い故に脱童貞に失敗し、挫折し、女体化病を患って性転換!って事だと思うんだが?」
「ざけんなああ!俺は生まれて名前を付けられた時点で女体化が決定してるって事かよ!」

朝の母さんとの会話と言いコイツと言い、何なんだ今日は。
ここらで流れを変えないと変なフラグが立ちそうだ。今更女体化なんて冗談じゃない。
話の矛先を涼二に向ける事にする。
コイツはイケメンのくせに童貞という矛盾した存在なのだ。せめてどちらかになればいいのに。

「ともあれ現に俺はセーフだ。それより次はお前だろ。まだ誕生日は暫く先だけど、アテはあんのか?」
「俺は…行くぜ!国営にッ!」

国営風俗。
女体化による男性の減少に歯止めをかけるために、政府が管理しているソープランドである。
どうやら在籍しているソープ嬢は、全員がかなりの美女だという話だ。
学校にも何人か行った事のある奴がいるが、そいつらの話を統計しても眉唾ではないと思われる。
望まない女体化を遂げた人が、これからの若い世代に同じ気持ちを味わわせまいとソープ嬢として勤めているという噂もある。
女体化した男が漏れなく優れた容姿になるのは周知の事実だ。となると、あながち嘘ではないのかもしれない。
ただし童貞専用施設なので、いくら気に入った嬢が出来ても2度と行く事が出来ないのがネックだそうな。

「なんなら、忍も一緒に行こうぜ。一人で行くのは心細いんだよ」
「俺はもう慌てる必要無いからなぁ。わざわざ高い金出して女とヤるってのも…」
「安心するにはまだ早いだろうが。相手のいない男が確実に『男』でいたいなら、そのくらいは必要経費なんだよ。
 それともアレか?初めての相手は藤本が〜!ってか?男がそれは引くわー」
「おい、やめろ馬鹿。この話題は早くも終了ですね」

ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべる涼二を一発殴ってこの話は終わらせる。
272 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:47:33.67 ID:fKtDv+sF0
…別に、藤本典子とは付き合っているわけではない。
あまり積極的に女子に絡めない俺に、中学時代から変わらずちょくちょく話しかけてくれる、貴重な存在の同級生。
彼女の向日葵が咲いたような笑顔が好きだ。と言うポエムじみた話を以前うっかりコイツにしてしまって以来、
そのネタで弄られるハメになってしまった。

初体験の相手が藤本であれば良いが、そんなのはあくまで理想だ。
健全な童貞系男子としては、突然家のベッドで美少女が全裸待機していたら、
それが好きな子でなくとも即ル○ンダイブは止むを得ないだろう。
それこそ有り得ないシチュエーションだが。
その後も涼二は、「国営は指名は出来るんだろうか?」とか、
「マットプレイはあるのか?」とか、そんな話を延々としていた。知るか。

適当に相槌を打っていたら、もう校門だ。
憂鬱な月曜日が始まった。



「西田君はまたカレーパンなんだねぇ。飽きない?」
「う、美味いモンはいくら食っても飽きねぇだろ」

昼休み。購買の争奪戦に勝ち抜いた俺と涼二が戦利品を貪っていると、藤本が通りがけに話しかけてくる。
もっと気の利いた返事が出来ないのか、俺は。言ってから後悔するのはいつものパターンだ。

「えへへ、私も好きだけどね、カレーパン。あと、椅子に片膝立てるのはお行儀悪いんだからねー?」
「へいへい」

そう言って藤本は、いつもの女子グループの方へ行ってしまった。一緒に弁当を食べるのだろう。
…椅子に片膝立てるのは、DQNな母親の影響だったりするのだが。

「顔、ニヤけてんぞ」
「…第40代アメリカ合衆国大統領はだーれだ?」
「全然関係ない話で話題をすり替えるんじゃねえええ!ちなみにロナルド・レーガンだ。
 しっかし、そんなに良いかね?藤本。まぁ悪くは無いと思うけど、もっと上がいくらでもいるだろ?」
「んーまぁ、な…」

藤本の顔の作り自体は中の上と言ったところだろうか。
確かに、中学の頃に初めてクラスが同じになった当初は、然程興味は無かった。
いつからだったか、藤本と話をするようになった頃。
あの笑顔が自分に向けられた時、初めて藤本を可愛いと思った。
あれから数年、悶々と片思いを続ける自分は本当にヘタレだと思う。

結局俺は女体化しなかったから良かったとは言え、誕生日の前は本当に悩んだものだ。
確実に男でいるには童貞を捨てるしかない、かと言って国営に行くのは嫌だった。
なのに藤本に告白する勇気があるかと言えば無かったし、誕生日から1ヶ月も経って気の緩んだ今は、もっと無い。
そんなヘタレな俺は、天に運を任せるしかなかったのだ。
273 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:50:10.18 ID:fKtDv+sF0
午後の授業、教師が唱えるラリ○ーマは教室全体に甚大な被害を与えている。
いつもなら俺もすぐに寝てしまうのだが…今日は眠いと言うより、なんだか頭がボーっとする。視点が定まらない。
熱っぽい感じだ。風邪でもひいたのだろうか?

「おい忍、寝るのはいいけど頭揺らしすぎると目立つ…ってお前、顔赤いぞ?どうしたんだ?」

後ろの席の涼二が俺の肩を揺すりながら、小声で囁く。
自分では気付かなかったが、頭がフラフラ揺れているらしい。

「…なんか調子悪ぃ。熱っぽくて、ボーっとする…」
「なんだよ、しょうがないな。せんせー!コイツ、持病の仮病が悪化したみたいなんで、保健室連れてきます!」

涼二が張り上げた声のせいで、眠っていた連中の視線までこちらに向いてしまう。
つーか持病の仮病って何だよ。笑われてるだろうが。
このアホにツッコミを入れてやりたいが、今はそんな気力すら沸かない。

「そうか、持病の仮病か。…ふざけるなよ中曽根ェェッ!
 …ん?西田、本当に調子悪そうじゃないか。仕方ないな、中曽根頼む」

保健室に行かせてくれるのは有難いが、この状況は正直恥ずかしい。
ほら、藤本までこっちを見てるじゃねーか。心配そうな視線はちょっと、嬉しいけど。

「立てるか?」
「あぁ、何とか…うぉっ」

立ってはみたものの、足腰に力が入らずよろけてしまう。

「危なっかしいなオイ、マジで大丈夫か?…よっと!」

涼二が肩を貸してくれたので体重を預ける。
何とか歩けたが、教室を出たあたりから、全身の関節が痛み出す。
身体中が燃えるように熱い、息も苦しい。

「は、はぁ、はッ…!なんか、くるし、はぁっ、熱、痛ッ…!」
「お、おい?どうしたんだ?そんなにヤバいのか?救急車呼ぶか?」
「くそッ、なんだ、これ…!、っうッ…」
「…!?お前、なんか小さくなってねぇか…!?」

激痛を伴って、ゴキンゴキンと関節が悲鳴を上げている。
涼二の肩に担がれていた腕がずり落ちていく。
膝から崩れ落ちているのかと思ったが、そうではない。俺はまだ一応「立って」いる。
その意味がようやく分かる。背が、縮んでいる。

「おい、これって…」
「うるせぇッ!はぁっ、1ヶ月っ…経ってんだ、ぞっ…!はぁッ、今頃…!これは、風邪、だろッ!」

強がる声すら、既に俺の声ではない。

「馬鹿言って……ゃねーよ!……!誰…救…車呼ん…くれ!」

いつの間にか廊下に飛び出していたクラスの連中に向かって涼二が何事か叫んでいるようだが、
俺の脳は仕事を放棄したらしい。何を言っているのかを処理出来ず、殆ど分からない。
そのうち熱いのも、痛いのも、苦しいのも、感じなくなってきた。
それと引き換えに俺は、意識を失っていった。
274 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:55:00.08 ID:fKtDv+sF0
ふと気が付いたら、頭を、髪を撫でられている感触があった。
柔らかい、小さな手。誰だろう。
誰だっていいか。気持ち良いし、今朝の惰眠の続きといこうじゃないか。

「おーっ涼二君じゃん、学校帰りか?わざわざ悪ぃね!」
「こんちわっす秋代さん。忍、どうです?」
「まだ寝てるよ。どうよ?アタシにクリソツだろ?」

まどろみから、急に現実に引き戻された。
母さんと…涼二の声がする。クリソツ?…なんだ?状況がいまいち分からない。
もぞもぞと上体を起こす。
全体的に白っぽい印象の、見慣れない部屋に俺は寝かされていた。
…病院の個室、か?

「ん、起きたか?気分はどうだ?我が息子、改め娘!『こっちの世界』へようこそ、ってか?」
「おーっ、マジで秋代さんにそっくりだなー!」
「はぁ?何言って…、…あーっ?ゲフンゲフン、ア゛ー?…何だこの声?つーか髪うざっ!なんでこんなに伸びて…、…あ、」

そうか。俺、学校でぶっ倒れたんだった。
慌てて自分の身体をチェックする。細く小さくなった手足、伸びた髪、張り出した胸、逆に何も無くなった股間。
…まさか。まさかまさかまさか…!

「落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…あれ?素数って何だっけ!?」
「てめー頭脳がマヌケか?」
「素数使えねええ!…あー。これはアレか。風邪の症状の一種か?」
「現実逃避してんじゃねぇよ!どっからどう見ても女体化だろうが!」
「ほれ鏡見ろ。これからずっと付き合ってくツラとのご対面だぞ」

母さんが化粧用の手鏡を取り出し、こちらに向ける。
確かに俺は母さん似だったが、そこまで女顔だったわけでもない。
それがどうだ。
鏡の向こうから、マジで母さんにクリソツな…猫みたいな大きな目をした少女が、こちらを見つめているではないか。

「やっぱり俺の予想は当たったな。忍が女体化したら秋代さんみたいになるって」
「はあああ…。マジか?マジなのか?俺はセーフじゃなかったのか…?」
「アタシん時は誕生日に朝起きたら、ってよくあるパターンだったんだけどな。
 お前みたいに誕生日を過ぎるケースだと、急な発熱、動悸、関節痛なんかを伴うものなんだとさ。さっき先生が言ってたよ」
「くそ、ぬか喜びさせやがって…!おいッ!この怒りは誰にぶつければいいんだよッ!」
「お前の普段の行いが招いた結果だろ。いや、この場合は『行わなかった』が正解か?」
「涼二ぃぃい!てめーも人の事言えねーだろうが!」
「病院で騒ぐんじゃねーよ。あと今のところ身体に異常は無いって。一応今日は検査入院で、明日には健康診断だけして退院だとさ」
「良かったね、忍ちゃん!って、あれ?名前はどうするんだ?改名するのか?」
「一応アタシらがコイツに名前を付ける時、男でも女でもいける名前にしようって事で『忍』にしたんだけどね。
 ほら、アタシは名前変えるハメになっただろ?…まぁ、忍がもっと女の子っぽい名前にしたけりゃ改名しても良いんだけどさ」
「…考えとく」
275 :268[sage]:2011/11/12(土) 02:59:37.31 ID:fKtDv+sF0
その後、仕事が終わってから直行してきた親父も病室にやってきた。
俺がぶっ倒れて病院に運ばれた、と職場に連絡が行った時にはどうやら早退しようとしたらしいが、
命に別状は無いから仕事が終わってからで良い、と母さんに言われたそうだ。
まじまじと俺を眺めてから、一言。

「…母さんにそっくりだねぇ」
「またそのリアクションかよ!」

母さんが女体化経験者なだけに、両親ともショックは少ないようだった。
涼二も俺の容姿には興味津々な感じではあるが、
「女になったって言っても、やっぱり中身は忍だなぁ」とか言って笑っている。
てっきりお通夜のような空気になるかと思っていたが、親と親友の変わらぬ態度に、
俺は肩透かしを食らった気分になった。



3人が帰り、夕食に病院食を食べた。
不味くはないが、美味くもない。
いつもだったら物足りなく感じる量だろうが、残さず食ったら腹一杯だ。

「…胃も小さくなったんだろうなぁ」

胃だけじゃない。身体全てが小さくなった。
15〜16歳位までに童貞を捨てなければ女体化。それはこの世の掟で、小学校の性教育で習う一般常識。
遥か昔から現代に至るまで、女体化を遂げた男はごまんといるし、何より俺の母さんもその一人だ。
女体化した当人の周りは多少の騒ぎになるものだが、世間からしてみれば今更騒ぎ立てる程の価値もない、
ちょっと珍しいだけの「普通」の現象。

先程まで病室にいてくれた3人だって特に驚いた素振りは無かった。
その空気に流されて、半ば他人事のように考えている自分もいた。
だがこうして一人になると、そう簡単に割り切れるものではない事に気付いてしまう。


もう藤本と「男女の関係」になる事は、永久に叶わない。
俺がいくら俺であろうと、身体の違いは決定的だ。
藤本や、周りから見たら同性愛…になるのだろうか?なるんだろうな、きっと。
恋愛対象の土俵に立つ事すら出来なくなってしまった訳だ。

無いとは思うが、仮に藤本に同性愛の気があったとしたら、
百合百合しい関係にはなれる可能性はあるが…俺はそれで良いのだろうか?
俺は身も心も男として、藤本の事が好きだったのだから。

…うじうじと考えていても仕方がない。
どうせ男のままでいても、ずっと片思いを続けていたんだ。
暫くは引き摺るだろうが、そのうち諦めが着くだろう。
せめてこれからは、「同性の友達」になれるよう努力しようじゃないか。
元男とも、仲良くしてくれるかな。そこは心配だが、少しずつでも前向きに生きようと思う。

眠りに落ちる前、少し涙が出た。
276 :268[sage]:2011/11/12(土) 03:05:15.28 ID:fKtDv+sF0
ここで一区切りです。
ベタな展開ばかりですが、今後はよりベタベタ展開になると思われますorz

ではまた!
277 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 04:54:51.72 ID:7RdR+1H1o
乙でした。楽しみに待っています
278 :でぃゆ(ry[sage]:2011/11/12(土) 07:55:04.79 ID:kbj8nhEAO
>>276
ニヤニヤしました!これは大好物です!
続き期待しています!
279 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 13:31:54.28 ID:7RdR+1H1o
人が集まるせっかくの土曜日・・投下するしかないッ!
280 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 13:32:37.01 ID:7RdR+1H1o
とある世界のとある日本でのお話。



一寸先は闇



                         

                       ◆Zsc8I5zA3U





期末テストが終わったこの時期になるとテストを終えた全ての生徒にはある楽しみが待っている。選択授業・・別名お楽しみ授業とも呼ばれるこの制度は2日間の間を利用されて行われるのである、事前に生徒からアンケートで無数にある授業内容から3つの選択させて希望者に偏りが無いように生徒会で決められるのだ、もちろん教師の監視付きではあるのは言うまでもない。
そんな事情などがあるものの全校生徒にとって選択授業が楽しみなのは変わりないので期末テストを終えたこの2人にも例外ではない。

「さて、面倒なテストも終わったし・・明日と明後日はお楽しみ授業だぜ」

「そうだな。お前は何にしたんだ?」

「1日目は自然散策で2日目はプールだな」

「それじゃお前とは2日目には一緒になるな」

翔の日程は1日目は映画鑑賞に2日目は聖と同じプールなので1日目だけは別行動であるのだが、聖にしてみれば何故かそれが気に入らないようで即座に翔に顔面パンチを放つ。

「痛ッ・・何すんだよ!!」

「てめぇが俺と違うなんて気にいらねぇ!! 今すぐ変更しろ!!」

「別に俺が何選ぼうがいいじゃねぇかよ。それよりもお前は肝心のテストは大丈夫なのかよ、また赤点になっても知らねぇぞ」

前回行われた中間テストで聖の結果は言うまでもなく赤点、狼子よりも酷い全教科補習という不名誉な記録を打ちたてたのも記憶に新しい。翔は今回の選択授業よりも聖の成績の方が心配なので今後の事を考えても本格的な対策を打ち立てなければ今後の進路についても結構厳しいものがあるだろう。

「俺も協力するからよ、進路のためにもある程度は勉強しようぜ。せめて補習は減らすとかの努力しようぜ・・」

「面倒だけど・・仕方ねぇな」

流石の聖も自分の成績が悪いのを気にしているようで前回の成績には流石に心が痛んだようである。しかしくよくよするより前を見るのが性分である聖は過去の結果を受け止めながらこれからの未来を見据える・・要は体の良い現実逃避である。

「だけど遊ぶ時は遊ばなきゃな。人間メリハリが大事だろ!! 刹那に狼子と一緒だから楽しみだぜ」

「お前は強いよ・・」

翔の溜息を風は包みこむように降り注ぐ。
281 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:33:24.64 ID:7RdR+1H1o
その頃、職員室では今回の選択授業についての最終調整が行われていた。選択授業と言っても当然のように教師の監視はついているので施設のアポやバスなどの手配などの基本的な準備はもっぱら彼等教師の仕事だ。

「さて明日と明後日に行われる選択授業の施設や交通機関の調整は教頭先生に一任しているけど・・大丈夫かしら?」

「はい、必要な施設の担当者には事前に話しておりますし、既にバス会社にはこちらから手配しております。貸し切りで難航していたプールの授業で使う施設も先ほど目処が着いたところです。後で試算しておいた書類を校長に提出しましょう」

「わかったわ。請求書はまとまったらでいいから理事長に提出してください」

選択授業で使う施設も全て抑えているらしいので、後はそれぞれに授業での教師の振り分けである・・すでに大まかには決まっているものの当人の都合や仕事量にも左右されるのでここら辺は人一倍配慮して置かないとまずい部分でもあるのだ。

「授業の配置についてはおとといに決めたばかりだけど・・格先生方もクラブや授業によっては準備も大変だと思いますが、難しい場合は遠慮しなくてもいいので言ってください」

「校長先生、1日目は出来るだけ近くて生徒の少ない所が良いんですけど」

「そういった私情が入った意見は却下。いざと言う時に骨皮先生は車持っているでしょ、それに1日目は現地集合だから自宅出勤で良いのよ。だけど骨皮先生は1日目は学校でしょ?」

「そうでした・・」

授業の内容によっては施設への現地集合もあるので場合によっては自宅出勤も許されている、これも選択授業ならではの特権であろう。教師にとっても場所によっては自分の都合をある程度は優先できることもあってか選択授業は生徒だけはなく意外にも教師にも喜ばれているシステムなのだ。

「それで春日先生は申し訳無いけど、校内で行う授業も多いから保健室で待機してね。もしもの時に使えるようにしないとまずいから」

「わかりました」

ま、礼子もせっかくの機会なのでたまには郊外で行う選択授業にも興味がなかったと言えば嘘になるのだが事情が事情なので致し方ない。

「あのー・・校長先生。急遽として女子野球連盟の打ち合わせが入ってしまったので申し訳無いんですけど1日目の自然散策は参加出来そうにないです」

「困ったわね、人数対策のために授業によっては外部からの人達にも参加して貰えるけど全部校内の授業だし・・でも連盟の打ち合わせなら学校として参加しないとまずいわね」

悩む霞に教師もどこか申し訳なさそうだ、選択授業の一部には教師の人数兼交友の一環として理事長の伝で外部から特別講師として参加して貰っているのだが教師の人数は出来るだけ割きたくもないのが現状であるが体育館系の連盟の出欠は学校の名誉にも関わるので出席しておかないとかなり拙い。

「教師の人数にも限りがあるから割きたくなかったんだけど・・連盟の打ち合わせなら仕方ないわね。春日先生、保健室の状況はどうなの、人が抜けても何とか使えそう?」

「えっ? 薬の不備は今のところありませんし、いつでも私が抜けて良いようにはしてありますけど・・」

「・・それじゃ、1日目の自然散策は先生の代わりに春日先生にお願いするわ、1日ぐらいなら何とかなるでしょう」

「申し訳無いんですけどお願いします、春日先生」

「わ、わかりました・・」

「それじゃ、最終調整も終わりね。選択授業が終わったらささやかな飲み会を企画してます」

飲み会・・学校の経費で好きなだけタダ酒やタダ飯を喰らえる唯一の好機に教師達の目も光る。最近は学校内での飲み会も少なかったので教師達のやる気も上がるのは想像するのに難くない、特に金欠で嘆いている靖男にとったら絶好の機会である。

(ラッキー!! 無双シリーズの最新作で金がなくて困ってたんだよな!!)

「先生方にはテストでお疲れのところ申し訳無いんですが明日と明後日もよろしくお願いします。・・特に骨皮先生は絶対に遅刻しないように」

「は、はい・・」

こうして選択授業の最終調整は無事に閉幕する。後は教師がしっかりと生徒達を監視して何も問題を起こさなければ無事に完了である。

282 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:54:17.38 ID:7RdR+1H1o
保健室

礼子は明日の選択授業に備えて保健室の備品を念入りにチェックするがその量は膨大なので翔を駆り出して保健室の整理を手伝わしている。

「礼子先生、こっちは大体終わったぜ」

「ちゃんと数えただろうな? 抜けがあると大変なんだぞ」

自分の牙城である保健室の手入れには抜け目はない、それに翔を呼び寄せたのは他にも理由がある。

「中野! 灰皿や予備のカートンやお前等の避妊薬はしっかり隠しただろうな?」

「大丈夫だって! しっかり2人で確認しただろ・・」

「てめぇがしくじれば全てがパァなんだからな!! 死ぬ気でやれよ!!」

「わかった、わかったって・・」

「2回連呼する奴は信用ならねぇんだよ。もう1度全てチェックするぞ!!!」

学校内で唯一礼子の本性を把握している翔は礼子の次に保健室事情に一番詳しい人間でもあるので見つかってはまずい代物を徹底的に隠すために手伝わされている。そのチェックは礼子主導で入念に行われており、これまでにも何度も度重なるチェックをしているのだがその甲斐もあって何度もボロが出ているのを確認しており今回のチェックも礼子の指摘が入る。

「中野!! ここだと見つけてくださいって言ってるもんだろ!!!」

「誰もここまでは見ないだろ。普段は誰も空けてないとこなんだし・・」

「バカヤロウ!! 俺がいないからこそ、こういったところは危ねぇんだよ。もう少し頭使え!!!」

こういった細かいチェック甲斐あってか隠し場所を度々変更しているのだが付き合わされている翔にしてみれば溜まったものではない。しかし礼子には何度も相談に乗ってもらっている手前なので逆らおうにも逆らえないのが恨めしいところである。

「ここなら場所的に考えても大丈夫だと思うぜ?」

「場所は良いがスペースが厳しいな。こっちは・・逆か?」

「なんかでカモフラージュしたら散らばってしまうからな。固めておくほうがやりやすい」

2人で様々な思案を繰り広げ合いながらあらゆる想定をシュミレーションして隠すのにベストな場所を模索し合う、傍から見れば笑える光景であるが当人達は至って真剣なので一切の手抜きはない。

283 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:54:53.21 ID:7RdR+1H1o
「というか礼子先生、こんな事しなくても自分で持って帰ればいいんじゃないのか?」

「一からやるのも面倒なんだよ。・・おっ、ここなら大丈夫そうだな」

「そうだな、スペースも問題ないし場所的にも死角が多いから見つかる事はないな」

場所の確保が出来たので礼子と翔は隠蔽作業を開始する。そしてあらかたの作業が終わって換気を入念にチェックした礼子は持参している携帯灰皿を取り出して一服する、翔にしてみれば何度も見慣れた光景に今更首を突っ込むわけではないが学校内の喫煙は生徒は勿論の事教師でまずいのである。

「しかしよ、礼子先生はいつからタバコ吸ってるんだ? 辞めようと思えば辞めれるだろうに・・」

「何度も話したろ、始めて吸ったのは中坊の時だよ。お前も吸ったらわかるよ」

「吸わねぇよ」

タバコを吸いながら礼子は自分の一部だと改めて認識させられる、以前にも泰助が最新の禁煙医療でタバコをやめさせようとしたのだがそれでも1時間も持たずに断念している。

「そういや他の先公は礼子先生がタバコ吸ってるのは知ってんのかよ」

「まぁな、始めて知られた時は結構驚かれたんだぜ。俺ってどうもタバコ吸わないイメージがあるみたいだからな」

「先公にはバラしてるのに生徒には秘密なんて・・矛盾してるな」

「あのなぁ、教師がタバコ吸うのは教育上あまりよろしくねぇんだよ。お前は見られちまったから仕方ねぇんだけど」

礼子もそれなりに人は選ぶ性格であるが翔に関しては個人的に気に入っているのもあるのでそれなりに曝け出している、例えるなら可愛い息子みたいなものだろうか?

「まさか礼子先生があいつの授業に出るなんてな」

「絶対喋るなよ、基本的に選択授業の配置は秘密だから生徒に話しちゃまずいからな」

「わかってる」

こうして秘密を共有しあっている同士、2人の間にはそれなりの親密感がある。礼子としてみれば翔と聖のこれからの将来が見てみたいものだが、その考えも普段の忙しさで悩殺されてしまうだろう。

「そういやさっきの話に戻るけど礼子先生って黙っていれば美人なほうだぜ?」

「おい、それはどう言う意味だ――」

「い、いやいや!! 別に俺は・・」

「てめぇな! 俺は列記とした既婚者なんだよ!! 今まで俺を何だと思ってるんだ!!!!」

余計な一言と言うのは身を滅ぼす、どうやら中野 翔と言う人間は余計な一言が癖のようである。

284 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:55:50.28 ID:7RdR+1H1o
選択授業・1日目

授業の中には現地集合があるのでいつもは生徒がぎっしり詰まっている校内は比較的に静かなほうだ、様々な授業が繰り広げられている中でまずはこちらの調理実習から見ていこう。調理室には男女の比率から女性生徒の方が圧倒的に多い、その中には狼子と友とツンに・・藤堂の姿があった。

「今日はよろしくね。そういえば月島さんはともかく長谷川さんはどうしたの?」

「料理できないんで練習です・・ういっす」

「友もちゃんと練習しないと良いお嫁さんにはなれないんだぞー」

ツンと狼子と友が談笑し会う中で少々場違いな藤堂は女所帯の空気には少し馴染むのが辛そうだ、応援団は男所帯なのでそっちの耐性が余り無い。

(宗像の奴、何が男もいるだ!! ほとんど女ばかりじゃないか・・)

どういった経緯で藤堂が料理を選択したかは察しがつくので割合させてもらう、しかし藤堂自身は料理に関しては母親と手伝っているので割と得意なほうだ。

そんなざわつく調理室に本日の講師が登場する。

「はぁ〜い! 本日の調理実習の講師をさせてもらう藤野 霞で〜す☆」

「講師って・・校長先生?」

「狼子! 小学生の頃にあんな娘いたよ!!」

「本当に子供みたいだ・・」

思わぬ霞の登場に周囲がざわつく中、この人物の驚きも例外ではない。

(こ、校長が・・料理できるのか?)

「はいはい、お静かに。現役の教師してた頃は家庭科担当してたので無問題、ちゃんと授業するの久々だけど錆ついてないわよ」

そのまま霞は持参しているミカン箱を組み立てて踏み台を作るとその上に立って黒板に“料理は経験と愛情!!”と書き上げる。

「料理と言うのは積み重ねた経験と何よりも大好きな人への愛情が必要です。これでも愛するダーリンや潤君のために女体化してもめげずに頑張ったのよね〜! 女体化した人もしてない人も愛する彼氏がいると思いますが、今回はその愛情を競い合ってもらいます!!」

「校長、男なんて所詮はどうしようもない野郎です」

「まぁまぁ藤堂さん、愛情なんて何も彼氏だけじゃないのよ。・・ってなわけで今日は料理決戦を行います!! 材料はいつものように巨大な冷蔵庫に保存してありますのでご自由に使ってください、足りなかったら近くのスーパーの買出しも特別に認めます買出しする方は私に申し出てください。
腕に自信ない人は班組んで良いし経験者は1人で作っても良いわよ、私も参加するけど苦手な人はちゃんと指導してあげるから安心してね☆」

周囲は固まってしまうが、気を取り直して料理が苦手な人物は上手い人を見つけると即座に班を組んで調理を開始する。そして料理が苦手な友も狼子とツンにお願いしながら班に組み込んでもらう、各班の面々は冷蔵庫に材料を取り出すものや買出し班に分かれて各々で行動する中で藤堂は誰とも組まずに冷蔵庫の中身を物色していった。
285 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:56:27.27 ID:7RdR+1H1o
「ふむ・・材料はこれぐらいでいいだろう」

「あら、藤堂さんは誰とも組まないの?」

「校長先生、私は一人でやるほうが気軽なんで」

「ま、今回は折角の選択授業だからね。好きに行動しても構わないけど・・私は手加減しないわよ〜」

「は、はぁ・・」

霞から妙な気迫を感じる藤堂であったが、一人でやる分買出しに出る時間などないと判断すると慣れた手つきで冷蔵庫から必要な材料を取り出すとそのまま自分の調理スペースへと戻って慣れた手つきで料理を開始する。そしてこちらの班も経験者2人が主導となって未経験な友を動かしていく、主に立案を立てているのはツンであった。

「さっ、冷蔵庫からの材料はこれでいいけど・・でもこれじゃ足らないから買出しが必要ね」

「そうですね、私は友と買出しへ向かいます」

「オッケー!!」

「私は必要な分は仕込みするわ。長谷川さんは月島さんと一緒に買い出しお願い」

「合点です! それじゃ狼子、校長の元へ行こう!」

「絶対に校長には負けないぜ!!!」

それなりに女の火花が散らされる中で調理実習は始まる。

286 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:56:59.23 ID:7RdR+1H1o
茶道室部室

現在この場所では霞が外部から招集した特別講師、藤堂母による礼儀作法の特別授業が行われていた。ここにいる面子は茶道部の部員数名に加えて楓と何故か琥凛の姿があった。

「さすが皆さん、茶道部とあってマナーは申し分ありませんね。ですが、お花の方は難がありますね・・」

(ううっ・・これじゃ家と全く変わり無いじゃん!!)

琥凛にしてみればこれでは家で母親から強制的に行わされている稽古の延長に過ぎない、それでも姉にしているほうが遥かにきついのがかわりないのだが・・そもそも琥凛にしてみれば友人と興味本意で参加したに過ぎないのにまさかここで自分の母親に当たってしまうとは予想外にも程があるが、藤堂母は実の娘にも決して容赦しない。

「琥凛! そこは前に教えたところでしょ!!」

「そんな、お母さん〜・・」

「今は先生です。親も子も関係ありません!!」

どうやらすっかりと教師が板についているようだ、そんな琥凛とは対照的に楓は非常に手馴れた手つきで鋏で余分な茎を切りながら華を1本1本ずつ剣山に刺していき微妙な角度を調整しながら華を活けて行く、そして瞬く間に1つの作品を完成させる。

「藤堂先生、できました・・」

「あなたは森野さんでしたね、どれどれ・・皆さん、手を休めて森野さんの作品をご覧下さい。これが生け花というものです、見たところ流儀が良くわかりませんが?」

「お恥ずかしながら我流でございます。茶道とお花は昔から母に仕込まれておりましたので・・」

謙遜しながら楓はいつものように自身を謙虚しながら身を一歩引いて作法に則りながら軽く会釈する、昔からいつも実家の旅館を手伝っている楓にとって作法の一つである茶道と生け花などは普段の業務でしているので何ら苦に感じない、彼女にしてみればこんなことなど朝飯前と言ったところ。

「その年齢でその佇まい・・大変素晴らしいものです、お母様はさぞ教養のあるお方だと見受けます」

「いえいえ、藤堂先生こそ洗礼された動作の一つに和を感じます。それに比べれば私などまだまだです・・」

(彼女なら沙樹さんの講師として招くのも有りかもね)

「あ、あの・・実の娘を置いてかないでよ〜」

こうして優雅で厳しくエレガントな礼儀作法の授業は進められていく・・



287 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:58:31.32 ID:7RdR+1H1o
教室

映画鑑賞は靖男が担当しており、先ほどの作法や調理実習とは違って選択したのは見事に男だらけで女性は1人も見当たらない。この教室では翔と辰哉を始めとして宗像と桃井の姿が見受けられた、それに教室の中には簡易的な板数枚がまとめて立てかけられていた。

「先輩もこの授業を選択してたんですか?」

「ああ、映画好きだからな。辰哉はどうして選択したんだ?」

「俺も似たような感じですよ、それにたまには1人でのんびりと映画見たいんで」

ささやかに談笑する翔達とは対照的に桃井はいつもの癖で直立不動で宗像と接する。

「押忍!! ま、まさか宗像参謀が映画を選択してたとは・・」

「おいおい、団長がいないんだからある程度はリラックスして良いぞ。それに俺の予想が正しければここに参加している奴は運が良いと思う」

「は、はぁ・・」

希望者全員が揃ったところで靖男は簡単な出欠を取って周囲の存在を目配せする。

「うっす・・野郎全員揃ったな。これから映画鑑賞を始めるわけだが、まずは下準備を始める。桃井! ドアの列のカーテンを閉めて更に立てかけている壁を隙間が無いようにドアから向こうのドアまで並べろ、終わったら教室の反対側のカーテンを隙間無く閉めておけ」

「は、はい」

桃井は靖男の指示どおりに教室のカーテンを閉めるとドアの列に立てかけてあった壁を隙間なく敷き詰める、全ての作業が完了したところで靖男はしっかりと確認をするとこれからの主旨を説明する。

「桃井、ご苦労だった。さて男子生徒諸君、先生はお前達の一生に一度の思い出を残そうと様々な事を考えていた。・・木村、答えてみろ」

「骨皮先生・・話が全くわかりません」

「彼女持ちの奴に質問した先生が間違いだった。先ほど桃井が敷き詰めた壁には防音処置が施されている・・これが意味することはわかるか?」

全員が話の見えない靖男に?マークを散らせる中で唯一宗像だけは全てを悟ったかのような表情でこの展開を見守る。そして靖男はあるDVDを周囲に提示するのだが・・そのDVDに殆どの希望者が歓喜することになる。

「今日の映画鑑賞はせっかく野郎ばかりなのでAV鑑賞を行いたいと思う!!」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

靖男の宣言に殆どの男子生徒は靖男を称える歓喜の声援に包まれ、この瞬間に彼等と靖男の中で暗黙の条件が成立されることとなる。ちなみに外からは防音壁のお陰でその声援は掻き消されているので至って静かなままだ。歓喜している希望者の中には靖男に感心するものや涙を流すものさえ見受けられる。
288 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 13:59:13.06 ID:7RdR+1H1o
「骨皮先生・・最高っす!!」

「もう一生、先生について行きます!!」

「卓球部以外での先生の活躍・・胸に刻みます!!」

「「「「「「「HONEKAWA!! HONEKAWA!!」」」」」」」

「そうか、先生はおまえ等と心が通じ合えたこの日を忘れないぞ」

もはや教祖状態になっている靖男であるがここで翔が当然のように待ったを掛ける、学校内でAV鑑賞などもってのほかであるのは間違いないのだがそれをあろうことか授業中に行うのは常識を逸脱している。

「ちょっと待ったァァァァ!! ・・色々と突っ込みたい所はあるが、何で映画鑑賞なのにAV見なきゃいけないんだよ!!!!」

「うるせぇ!!! 彼女持ちのお前に独り者の辛さがわかんのか!!! それにAVは全国の男にとって立派な映画だ、偏見は許さんぞ!!!!!」

今回ばかりは常識的かつ正論を放つ翔であるが周囲は完全に靖男の味方であり、今の自分の味方と言えば辰哉ぐらいなものである。

「先生、何考えてるんですか・・バレたら懲戒免職は間違いないですよ」

「ハァ〜・・木村、俺の生徒なら空気で察しろ。先生悲しくて仕方ないぞ」

「悲しいのは俺の方ですよ・・」

「それに野郎達とAV鑑賞なんて悲しすぎるだろ!!!」

未だに辰哉と翔が反論が広がる中で今まで沈黙を守ってきた宗像が口を開く。

「先生、このままでは埒があかないので公平に多数決はどうでしょうか?」

「お、おい・・宗像!! てめぇ、応援団の癖にこの暴挙を見逃すのか!!!!」

「中野、周囲の状況を良く見てみるんだな。今のお前の味方は2年の木村君だけだ、それにこういった場では何よりも数と周囲の結束力が物を言う・・周囲の人望もそれなりに厚い君が愚策中の愚策をするのか?」

「うるせぇ!! 俺は見たい映画を見たいだけだ!!!」

更に宗像に噛みつく翔だが、靖男は実力差をわからせるために更に持ち前の外交術で周囲を煽る。

「よし、宗像の言っていることは最もだ。今から民主的に解決するために多数決取るぞ! みんな、空気を読まないこのバカ2名と俺がお前達のために様々な趣向を取り揃えている多数のAVがあるが、賢いお前等はどちらを取る?」

そのまま靖男は採決に入る、この人数では当然と言うか・・翔と辰哉を除くAV派の過半数を優に超える圧倒的賛成意見の前にAV鑑賞が決定した、そのまま靖男は用意していた縄2つを宗像に手渡すと今度は実力行使に入る。

「さて多数決の結果によってAV鑑賞は決定だ。無様な敗残兵の処置は誇り高い応援団の面々に任せる」

「わかりました。・・さ、応援団の面々よ、この2人を縄目に晒すぞ」

「「「「うおおおおお!!!!」」」」

「ちょっ・・うわあああああ!!!!」

「せ、先輩!!!!」

宗像の指導の元、桃井を含むこの場にいた応援団員が一瞬の隙をついて翔と辰哉を押さえ込み、抵抗できないようにと縄で身体を縛って口を布で封じる。完全に身動きを封じられた2人に対して靖男は脅しを含んだ締めの一言を放つ。

「「ふがががが・・・」」

「先生、終了しました」

「ご苦労、かのアドルフ・ヒットラーはこうした粛清を繰り返してナチ党を掌握したんだ。それにお前達がこの事を話しても無駄だぞ、校長や理事長には俺が既に手は回しているので大人しくするように・・さて、俺と鉄の結束で結ばれた野郎共! お楽しみのAVタイムだぞ!!!!」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

「え〜、巻き戻しに関して希望する奴は挙手をするように・・一時停止して多数決を取る。なおビデオの選択肢は俺にある事を忘れるな」

こうしてAV鑑賞は決行され、翔達は真相を周りに広めようとするのだが靖男の手で周囲は誰も2人の意見を聞きいれてもらえなかったそうだ。
289 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:00:07.29 ID:7RdR+1H1o
選択授業・自然散策

靖男主導によるごく一部の男子生徒の欲望が満たされていく中でこちらの自然散策はある施設への現地集合で礼子主導・・っといってもただの散策なので基本的に施設中を自由にさせればいいので授業は何ら刺激もなくまったりと行われていた、ちなみのこの授業に参加しているのは聖と刹那でありいつものように刹那は聖にベッタリとくっついていた。

「♪♪」

「おいおい、くっつきすぎだぞ刹那」

とはいっているものの聖も満更ではないようだ、しかしそんな微笑ましい光景が広がっている中で礼子はある苦しみに必死に耐えていた。

(た・・タバコ吸いてぇ)

「れ、礼子先生?」

「ああ、何でもないわ。私はちょっとお手洗いに言ってくるから充分散策してちょうだい」

「ああ・・よし刹那、あそこで虫取りに行くぞ!!」

「・・把握」

重度のニコチン中毒である礼子は仕事と割り切りながらも暫くはタバコを我慢していたようだがそれも限界が来たようだ。礼子は周囲に目を配りながら施設の中で目立たない場所を発見するとそのまま周囲に人がいないことを確認してニコチン補充を開始する。

「ふぅ〜・・やっぱり課外授業は辛いぜ」

そのまま一服しながら自然の伊吹が礼子の身体を優しく包みこむ、このままそっと身体を癒してくれるその風は心なしか今までの自分自身に根付いている傷の痛みを和らげてくれる気がする。

(・・俺はちゃんと先生してんのかな。今まで女体化してからあんな事があって必死に抗って傷ついて、昔の俺が今の自分見たらどんな感じなのだろうな)

礼子とて女体化して自分の過ちによって子供を産めない身体となった今の自分を責め続ける日々は続いている、だからこそ聖や狼子を筆頭にあの時の自分と同じ轍を踏まないでほしいと願い続けるばかりだ。

290 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:01:09.14 ID:7RdR+1H1o
(ま、過去に後悔しても仕方ねぇな。俺はあいつ等をしっかり支えてやんねぇと・・)

「・・礼子さん?」

ふと礼子に声を掛ける人物が1人・・その主は某読書好きの宇宙人のような佇まいの姿で旦那である泰助の病院に勤務するスタッフでもある菊川 奈保であった。いつもならば白衣姿の目立つ彼女であるが今回は非常にカジュアルな姿であるのでどうやらプライベートで訪れていたようだ、礼子は慌ててタバコを消すとそのまま奈保に軽く挨拶をする。

「あら、奈保さん。こんな所で会うなんて珍しいわね、病院はどうしたの?」

「今日は予約が無いから午後からの予定。ここに来たのは子供の遠足の下見」

彼女自身も女体化した人間であり、礼子と同様に結婚して女体化を向かえた長男と小学生の次男と暮らしている。それに変人ばかりがいる泰助のスタッフの中で奈保は比較的まともな人種なので礼子も気兼ねせずに話せる仲である。

「貴女はどうしてここに? ちらほらとあなたの学校の学生達を見受けらるけど・・」

「今日は課外授業の引率。担当の先生がどうしても外せない用事で私が代役に宛がわれたわけ」

「そう・・教師も大変ね」

奈保が僅かに微笑しつつ礼子はそのままタバコを吸い始める、お互いに気心の知れている仲なのでそのまま談笑しながらゆっくり時は流れていく。

「そういえば以前にあなたが話していた生徒さん・・随分個性的ね」

「まぁね。お陰で色々苦労はしているけど案外可愛いものよ?」

「次男もいずれは貴女の勤務している学校に入れさせたい」

「あまり将来を強制してはダメよ。自由にやらせて上げるのも良いと思うわ」

親に自分の将来の決定権など与えられなかった礼子にとっては自分で将来を決められる聖達が羨ましく思う、何せ自分には将来を強制させられて女体化によって両親から見捨てられた身なのだから・・そんな中で突如として奈保の携帯が鳴り響く。

「ごめんなさい、病院から・・もしもし」

“ああ、菊川さん。礼子さんと楽しんでいるところすまないけど事故で急患が入ったから今から病院に向かってくれ! 院長も金喰らいの医師連盟の連中と会議だけど向かってくれるそうだから・・”

「多田さん、私の心を読まないで・・わかりました、今から病院に向かいます」

“悪いね、礼子さんにはよろしく伝えといて”

そのまま奈保は携帯を切ると申し訳なさそうに礼子に事情を話す、それにしても緊急事態に奈保の心を読む多田はある意味凄いと言うのか余裕と言うのか2人は思わず感心してしまう。

「ごめんなさい、礼子さん。病院に行かなきゃいけないみたい・・」

「いいわよ。私の旦那も来てくれるんでしょ? 早く行った方が良いわよ」

「それじゃ・・」

そのまま奈保は急いで病院へと向かう、そして今度は礼子の携帯が鳴り響く・・着信相手は聖みたいだ。

「・・どうしたの?」

“大変だ礼子先生!! 刹那が蜂に刺された!!!”

「わかったわ。すぐに行くから円城寺さんを日陰にに連れて行きなさい」

奈保に続いて今度は自分の急患が出たことに礼子は苦笑しながらタバコを消して現場へと走る。

291 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:02:11.93 ID:7RdR+1H1o
調理室

あれから、霞は手際よく自分の料理を作っている傍ら苦手な人への指導をしながら実習を進めていく。

「いい、長谷川さん。みじん切りはこうすれば均等に切れるの」

「すご〜い・・」

(流石に家庭科の先生やってただけあるわね・・)

ツンも霞に感心してしまってつい手が止まってしまうぐらいだ、それから霞は煮立っている鍋を見ながら狼子に指摘を入れる。

「ツンさんも感心しないで手を動かしてね。それから月島さん、見たところ味のベースは和風みたいだけど隠し味でコンソメを少し入れると結構コクが出るのよ」

「鍋を見ただけで味見もせずに調味料を把握してるなんて・・」

そのロリっ子の容姿とは思えない程の熟練された腕と的確な指摘によって班を掛け持ちしながら更には自分の料理を同時進行で作って行くという離れ業を披露する。

「それじゃ、この班は大丈夫ね。そこの班! 余裕ぶっこいている暇があれば味見はしっかりしなさい、それからそこの班はボサッとしてたら肉が焦げてしまうわよ」

まるで聖徳太子の如く、千手観音を髣髴とさせるような手さばきで霞は全ての班に指摘をいれたり指導していく、勿論自分の手がける料理にも抜かりは無い・・その姿に1人で料理を作っていた藤堂も感心してしまう。

(自分の料理を作りながら全ての班に的確な指導をする・・完璧だ、あのお母さんが評価するのも頷ける)

「さて、藤堂さん。順調みたいね?」

「え、ええ・・」

そのまま霞は藤堂の作っている料理を見ながらおおよその完成系を把握する。

「なるほどね、和食で行くと持ったら中華でいくのね。春巻きにもベトナム風のアレンジが見受けられるわ・・あのお母様の元で随分な手ほどきを受けてたのね」

「ええ、厳しい人なので・・」

「だけどこのスープはさっきの春巻きを考慮したらちょっと味のバランスに難ありね。やっぱり僅かな味付けはまだ難しいみたいね」

霞は少し味見をしながら的確な指摘をいれていく、しかし他の班とは違って目立った指摘はしてこないので認めているという事だろう。
292 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:02:44.69 ID:7RdR+1H1o
「ま、美味しいからいいんだけどね。・・だけど愛情が足りないわよ」

「愛情なんてそれは・・」

「気持ちは察してあげるけど、愛情が少ないとせっかくの腕が泣いてしまうわよ。んじゃ、辛気臭い話はおいて頑張ってねぇ〜☆」

(愛情か・・)

そのまま立ち去る霞であったが、藤堂は少しばかり霞の言葉が響くのであった。
各班様々な料理が出来上がりつつある中で時間は経っていき調理の時間は終了する、それと同時に霞の料理も終了するのだが霞はある事を失念してしまう。

「さて一応料理大会の名目なんだけど・・肝心の審査員決めてなかったのよね。ちょっと見繕うから待ててね〜」

そのまま霞は携帯を取り出すと審査員を見繕うためにとある人物へ連絡を取る、もちろん既に霞の中でこの料理会の審査員は決まっており当然のように連絡する先は決まっている。

「あっ、潤君! 悪いんだけど料理大会の審査員してほしいから今すぐママの学校へ来てくれない? 勿論料理は可愛い潤君の大好物よ〜!!!」

(((((息子がいたんだ・・しかもママって一体?)))))

「えっ? 仕事が忙しくて来れない!! ・・う〜んダーリンも同じだろうし、愛する息子が社会に出ているのを無碍にするのはダメだしね。早くお嫁さん見つけてね・・バイバイ」

名残惜しそうに電話を切る霞・・どうやら自分の息子に連絡したらしいのだが断られてしまったようである、それにしても霞の溺愛振りには周囲の表情は凍り付いてしまう。そのまま霞は鬱々しい表情で再び携帯を使ってある人物に連絡を取る。

「あ〜、骨皮先生。ちょっと調理室に来てくれる? 料理大会してて審査員がいるのよ、お腹減ってるでしょ・・」

・・・・
・・・
・・


「すんません。こっちも授業で盛り上がってるんで」

3本目のAVに差しかかってる靖男は一時停止しながら霞と携帯で会話する、それに苦しんでいる2名や無表情を貫いている宗像を除いて殆どの男子生徒は湧き上がるムラムラ感と戦っていた。
293 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:03:30.41 ID:7RdR+1H1o
“なんで映画鑑賞で盛り上がってるのよ”

「いや〜、ある映画で男子達との結束を固めてるんですよ。代わりの人選なら任せてください・・そんじゃ」

そのまま靖男は電話を切ると瞬時にある人物へと連絡を取る、もちろん靖男がいつものように仕事を投げる人物と言えば1人しかいない。

「おい音楽馬鹿、仕事だ。今すぐ5分以内に調理室に行け!! え? そっちも抜け出せない・・馬鹿言うな!! こっちだって忙しいのは一緒なんだ、これは校長命令でもある。わかったらさっさと行けバカ!!
・・っと貴重な時間を奪ってすまないな諸君、お詫びに巻き戻しの許可を与える。んじゃ巻き戻すシーンを多数決で取るから挙手しろ」

(せ、先輩・・大丈夫ですか?)

(何とかな、それにしてもきつく縛りやがって・・あいつがポンコツ教師と言うのも頷けるぜ)

「よし、多数決の結果ドラマシーンから巻き戻す。この授業が終わったら然るべき場所で処理はしとけよ、そんじゃスタート」

靖男はいつものように理不尽な方法で葛西に仕事を押し付けるとリモコンでシーンを巻き戻してAV鑑賞は続けられ時間は更に進められて行くことになる。

294 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:04:17.06 ID:7RdR+1H1o
選択授業・2日目

「で、料理対決は結局葛西先生がやってきて校長先生の圧勝ですよ」

「ハハハ!! そりゃそうだろ・・しかしあいつが変なこと言うんだよな、何でも映画鑑賞じゃなくてAV鑑賞したってよ、ついにおかしくなったのか?」

「そういえば辰哉も同じ事言ってましたよ。何でも先輩と2人揃って骨皮先生に縛られたって・・ムカツクから噛んでやりましたよ」

学校が借り上げた施設は市内でも有数の遊泳施設なので生徒達の表情は実に晴れやかだ。プールサイドで生徒と狼子は水着姿のまま談笑する、ちなみに解放された翔と辰哉はそれぞれの彼女に靖男の暴挙を話したのだが全く聞く耳を持ってもらえず挙句にはそれぞれの彼女に返り討ちにあうと言った悲惨な目にあってしまう。

「そういえば刹那はどうしたんですか? 着替える時は一緒にいたのに・・」

「あれ? って、あんな木陰に隠れてやがる。お〜い刹那!!」

聖達は木陰に隠れている刹那を見つけるとすぐに呼び寄せる、あれから幸いにも礼子の処置が早かったお陰で刹那は何とか大事に至らずに済んだ。しかし彼女が中々出てこないのは傷を他人に見せたくないといった理由もあるのだが、他にも理由はあるようだ。

「どうしたんだ、刹那? 折角俺と水着買ったんだから出て来いよ」

「そうだぜ、狼子と買ったんなら勿体無いぞ?」

何とか2人の説得によって買ったばかりの水着を纏って出てくる刹那であるが、その表情にいつもの元気が無い。

「なんかあったのか刹那、もしかして野郎達に襲われそうになったのか!! 許せねぇ! 刹那の代わりに俺がぶっ飛ばして・・」

「・・違う。私の胸囲では2人の姿が眩しい」

「何だ、そりゃ?」

刹那のか弱い声に聖はきょとんとしてしまうも過去に同じ悩みを抱えていた狼子は刹那の心境を把握する。

「何だ、刹那。出て来ないと思ったらそんな事気にしてたのか、俺も前に聖さんと自分を比較して悩んだけど女は胸だけでは決まらないぜ」

「そうだぞ、俺なんてそれなりに重くて苦労してるんだぞ。それに刹那には刹那の魅力がある、狼子と一緒に自分を磨け!!」

2人の説得によって刹那も自分を取り戻したのか、いつもの表情を取り戻す。

「・・頑張る」

「大丈夫だよ刹那。お前にはちゃんと魅力がある!! 聖さんと俺が保障する!!」

「そうだぜ。さっ、てめぇ等! 泳ぐぞ!!!」

そのままプールを吟味しながら青春を謳歌していた3人の麗しき美女の目の前に・・水着姿に上着を羽織った靖男が現れる。
295 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:05:32.34 ID:7RdR+1H1o
「うぃ〜っす。ちゃんと楽しんでるか」

「おいポンコツ教師!! 折角の楽しみに水を注すんじゃねぇ!!!」

「それにプールって骨皮先生が担当だったんですか」

「まぁな」

なんと2日目のプールの担当は靖男だが、いつものようにめんどくさそうな表情をしながらも監視としての仕事を全うする。それに靖男がプールの担当に選ばれたのはちゃんとした理由がある、まず第一にこのプールの施設から自宅が比較的近いので遅刻を阻止する目的と驚くべきことに靖男はライフセイバーの資格を持っているのでいざという時の対処も心得ていると言った至極真っ当な理由で任命されている。
しかし当の本人はと言うと監視員の仕事など全くしておらず生徒一緒に楽しんでいるのは言うまでもない。

「しかし最近の女子よりも女体化した人間は無駄に発育が良いから困る。月島の体型がそれを証明しているだろう、水着がやや控えめなのも合格だ」

「な・・何言ってるんですか///」

「が、一番けしからんのは相良だ!! 惜しげも無いそのスタイルと絶妙なバランスに加えてその大胆な水着は何だ!!! 
・・まぁ、円城寺に至っては水着は良いものの残念なのはその胸の小さ――・・フベラッ!!!!!」

聖はそのままかつての自分と共にあった靖男の急所を思いっきり蹴り上げる、何とも言えない痛みと苦渋を通り超えた表情で必死に蹴られた股間を抑える。

「さ、相良・・てめぇ、せっかく童貞捨てた俺を男として再起不能にするつもりか・・」

「再起不能なのはてめぇのロクでもねぇ頭だッ!!! これ以上抜かしやがったらこのプールをてめぇの血の海に変えてやるぞ!!!!!!」

「せ、聖さん・・そこまでしなくても」

「・・暴力あまり良くない」

「黙れ!! 俺はこのポンコツ教師を葬らないと気が済まねぇ!! こんな奴が去年の担任だったと思うとムカつくんだよ!!!!!!!!!!」

流石の靖男も聖の実力は知っているのでこれ以上のちょっかいは自分の命に関わると判断すると必死で痛む股間を何とか抑えながら何とかその場からの退却を試みる。

「わ、わかったから落ち着け相良。ちゃんと楽しめよ・・じゃあな」

「全く・・お前達も大変だな」

「ま、悪い人じゃないんですけどね」

「・・個性的な人」

何とか命からがら退却した靖男は監視員の椅子に座り、先ほど聖に蹴られた股間の痛みが引いたのを確認すると監視業務を続けながら先ほどの聖について肝を冷やす。

296 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:05:51.63 ID:7RdR+1H1o
「全く、よく担任勤められたものだぜ・・」

「・・よぉ、探したぜ。骨皮先生」

「うわっ!! ・・って中野と木村か、何のようだ?」

今度は翔と辰哉が靖男に立ちはだかる、2人とも先ほど自分達の彼女に報復されたのかその肉体には痛々しいほどの傷が目立つ、翔は全身に青アザが辰哉に至ってはあらゆる所に噛み痕が広がっている。それに2人が靖男に向けている表情はとても穏やかなものではなく滅多な事で怒らない辰哉も同様であった。

「何の用だじゃありませんよ!!! あなたのお陰で俺達がどれだけ酷い目に合ったか!!!」

「双眼鏡片手に女子生徒監視とは・・いい身分だな」

「あのなぁ、先生はガキンチョには興味ない。先生が興味あるのはあくまで女子大生からであってだ・・」

靖男が全て言おうとした瞬間、翔の拳によって置かれていた双眼鏡は一瞬で鉄屑へと成り果てる。突然の翔の行動に靖男も思わずたじろいでしまう・・

「な、何するんだ! その双眼鏡はかなり高いんだぞ!!」

「ああんっ? まだわかんねぇのか・・この鉄屑が今日のてめぇの姿だよ」

「おっ、おいおい・・!!! なんかの冗談だろっ!? それに木村も黙ってないで今すぐ先輩を止めろ、後で焼き肉奢ってやるから・・な?」

「・・残念ながら今回はその手には乗りません。俺も今日だけはあんたとの教師と生徒の関係は捨てます」

思いがけない2人の行動と血走っているその姿に靖男は完全に血の気が引いてしまう、どうやら靖男は完全に2人を怒らせてしまったと後悔してしまうが後の祭り。次に翔は靖男が掛けていたサングラスをひったくると右手を思いっきり握り締めて細かい黒い粒子へと変える。

「さて骨皮先生ィ〜!! 最後にあんたが大好きな歴史講釈の時間だ・・かの西軍総大将、石田光成は関が原で圧倒的な数を保ったまま東軍を圧倒していたが何で負けたと思う――?」

「そ、それは次の授業で解説してやるから、2人ともその拳をすぐに収めろ。な、なっ!!!」

「それはですね・・家臣の裏切りにあったからだァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

「覚悟しやがれェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「や、やめ・・うぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

こうしてプールサイドには楽しげに遊ぶ女性の歓喜麗しきその艶やかな声の裏にはえぐい拳の音と男の悲鳴が木霊したという・・

297 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:07:16.27 ID:7RdR+1H1o
更に翌日・・祝日

全ての選択授業を消化した教師に待っているのは慰労会を兼ねた飲み会でありこの日ばかりは彼等も皆、今回だけは教師という立場を忘れて飲み会に参加する。
そんな中で珍しく出遅れてしまった霞は急いで会場である居酒屋へと急ぐ、といっても幹事は教頭に一任してあるし時間的にもそんなに遅れてはいない。

「ううっ、校長たる私が遅刻してしまうなんて・・って、あれって骨皮先生?」

急ぐ中で霞は靖男の姿を見つけるが、その姿はかなり痛々しいもので何とか歩いているものの顔に関してはかなり酷いものである。それに飲み会では人一倍テンションが高い靖男がここまで落ちている姿など始めて見る。

「ほ、骨皮先生・・なの?」

「あっ、校長先生。こんばんわです・・」

遠目から見ても靖男の姿は痛々しそうに見えるのに近くで良く見てるとかなり酷い、霞もあまり聞きたくはないのだが恐る恐る靖男に口を開く。

「どうしたの・・その怪我は? 今日の飲み会は大丈夫?」

「・・出かける前に自宅の前で転んでしまっただけです、痛みも完全に引いているので心配ないです」

「そ、そう・・何なら薬局寄ってもいいのよ?」

「心配はご無用です」

まさか自分の生徒に報復にあったなど恥ずかしくて口が裂けても言えない事実である、見た目に反して痛みは完全に引いているものの自分をこんな目に遭わせた2人を許す寛大なる心を靖男は持っていない。

(あいつ等・・覚えてろよ!!!!)

「あの、骨皮先生・・会場の居酒屋についたんだけど?」

「あ、ああ・・お先に入ってください、後で向かいますから」

「そうしたいのは山々なんだけど・・骨皮先生には一緒に来てもらわないと困るのよ、私こんな成りだから未成年によく間違えられるの。ここに来る前も3回ほど警察の職質に付き合わされたわ・・」

霞も自分の容姿には不満はないものの夜な夜な出歩いていると小学生と間違えられて職質に遭うのはしょっちゅうである。そのおかげで大好きなお酒も旦那や息子に買ってもらうという立派な大人としては少し情けない事情がある。

(こうなったらとりあえずは酒である程度の恨みを晴らしてやる!!!!)

「ごめんなさいね。さっ、向かいましょ!! 骨皮先生もいつものようにテンション上げて・・ね?」

「わかりました!!! それじゃ、校長先生・・しっかりついてきてくださいよ!!!!」
298 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:10:10.91 ID:7RdR+1H1o
居酒屋・マルミミ

「いらっしゃいませ!! 親子連れで・・」

「違います!! 予約していた学園の者です!!! 決して怪しいものではございません!!!」

(お願いだから恥ずかしい事言わないでちょうだい・・)

「あ、ご予約の・・それでは席にご案内します」

店員は2人を席に案内すると座席には既に靖男と霞を除く全ての教員達が揃っていた、当然乾杯などは礼儀として一切しておらず2人は用意されたそれぞれの席につく。

「遅くなりました〜・・とりあえず最初は皆さんビールで良いですね!!」

「校長先生! 男は黙って麦でいきたいんですけど!!」

「嬉しいのはわかりますが、飲み放題なので最初のビール飲み終わったら後で頼んでください・・」

いつもの靖男の恒例のボケを捌きながら霞は先ほど案内した店員と入れ替わりに入ってきた女性の店員に注文をする。

「それじゃ、とりあえず全員にビール下さい!!!」

「あの大変申し訳無いんですが、当店では未成年には・・って藤野先生じゃないですか!! 俺の事覚えてますか?」

「へっ? 何で私の事を・・」

「校長先生、こちらの女性とお知り合いですか?」

思わず霞はきょとんとしてしまうが、すぐに記憶から歴代に受け持った生徒を記憶を引っ張り出すと即座に符合をさせる。

299 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:10:33.10 ID:7RdR+1H1o
「あああっ!! 大石君じゃないの!! 私が自分の受け持った生徒の顔を忘れるわけ無いでしょ、途中で女体化して色々あったけど今じゃこんなに立派になって・・」

「今はここの店の店長をしてます。あの時は本当にお世話になりました・・まさか校長先生にまでなってたなんて驚きですよ。とりあえず全員にビールですね!!」

「ありがと! ここまで立派になってくれて本当に嬉しいわよ・・」

今回は教頭も霞のフォローをしなくても良いと判断すると安堵する、飲み会ではまず霞の身分を証明するのが教頭である彼の役割であるのだから。

「やっぱり校長先生は凄いですね。よく自分の生徒を忘れてませんね!!」

「やぁね、今まで受け持った生徒を覚えるのは教師として当たり前の事よ。彼・・いや、彼女は女体化してから結構荒れてたんだけど無事に卒業してくれて立派になってるんだから教師としては嬉しい限りよ」

その場にいる殆どの人間が霞に尊敬を込めた視線を送る中で礼子はタバコを吸いながら別の意味で荒れている靖男に改めて話を振る。

「骨皮先生・・どうしたのその顔は?」

「ああ、転んだんで気にしないでくれ。それよりも春日先生もそろそろタバコ控えたほうが良いんじゃないのか」

「大きなお世話。転んだだけでそんな風になるわけないでしょ・・飲み会が終わったら旦那の病院に連れてってあげるわ」

「春日先生とは恒例の酒バトルがあるんだ。二次会も当然付き合ってもらうぞ」

「2人とも・・程々にしてよ」

鈴木が突っ込みを入れる中で教師もそれぞれのグループに分かれて料理と飲み物が来るまで様々な話が繰り広げられる。礼子自身は靖男の怪我が気になるものの当の本人が強引にはぐらかすのでいつものように飲み比べがメインとなりそうだ。そんな中で数人の店員が全員分のビールと料理を運びこむ、広かった机は瞬く間に多数の料理とビールが所狭しと並べられる。

「お待たせしました、先にビールでこちらがお料理になります」

「ビールお待たせしました!!」

「そして店長からのサービスで後から最高級の豚の丸焼きをお持ちしますのでごゆっくり寛ぎください!!!」

「大石君もそこまでしなくてもいいのに・・」

と言いながらも折角の教え子の好意に応える霞は全員分のビールが運び込まれたのを確認すると片手でジョッキを掲げると乾杯の音頭を取る。

「え〜、先生方・・今回の期末テストと選択授業については本当にご苦労様でした。日頃の感謝を込めてささやかながらこの場を設けさせてもらいました、勿論学校の経費ですので気にせずにじゃんじゃん食べて飲んでください!!

前置きが長くなりましたが・・えっと、とりあえず乾杯!!!!!!!」

「「「「「「「「「「乾杯ィ〜!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

「校長先生、二次会も当然経費で・・」

「落ちません。二次会以降は実費でお願いします」

宴は始まったばかりである。


300 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:12:25.28 ID:7RdR+1H1o
数時間後・・あれから1次会はお開きとなりあれから礼子と靖男は2次会で更なる飲み比べをして結果は両者自滅によってドロー、そのまま両者とも鈴木の介抱の世話になりながら千鳥足でフラフラとおぼつかない足取りでフラフラと歩いていく。

「わ、我ながら・・少し飲み過ぎたわ。ほねくぁあせんへ〜が降参しないからいけなのよー」

「何をいう・・かすぎゃせんへ〜が無駄な抵抗をしたからであって〜・・」

「2人が飲みすぎなのよ。魔王ロックから始まってあらゆるお酒をチャンポンしたらそりゃ嫌でも悪酔いするに決まってるでしょ・・」

鈴木はいつもの光景に溜息を突きながら肩に礼子を抱えて靖男を引き摺る、この2人は負けず嫌いと言うべきか飲み会になるとどちらかが潰れるか今回のようにお互いが潰れる事が常だ。プライベートで礼子と飲んでいる鈴木は彼女の酒の強さを良く知っているのだが、靖男が絡むと競争精神が働いて無茶な飲み方をしてしまうのだ。

「とりあえずこの時間だと電車も無いし・・タクシー拾って上げるから、それまでは2人ともしっかりしなさい」

「「しゅんましぇん〜・・」」

(ハァ・・これが無ければ飲み会も楽しいんだけどね)

そのまま鈴木はタクシーを見つけて拾うと靖男を無理矢理押しのけて乗せると礼子をゆっくりと乗せて飲み会最後の仕事をキッチリと果たす。

「(ここだと礼子先生の家が近いわね・・)運転手さん、まずはここを真っ直ぐ行ってください」

「毎度〜、では安全運転でお送りします」

(こ、これで酒である程度の鬱憤は果たしたが・・まだまだだぞ!!)

靖男の中に残っている僅かな理性が復讐心を乗せたまま夜は更けて行く・・


301 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:13:04.41 ID:7RdR+1H1o
おまけ



選択授業から数日後、翔は人生最大の危機に直面していた。般若のごとき表情の聖が持っているのはAVの数々・・どれも靖男の手によって鑑賞した代物ばかりである。

「ま、待て! 落ち着いて俺の話を・・」

「言い訳無用だ!!!! てめぇ、選択授業でのAV鑑賞会はてめぇと辰哉が裏で糸引いてたらしいじゃねぇか!!!!!!」

あれから靖男は聖と狼子を呼び寄せると今回のAV事情を話し、あろうことか黒幕を翔と辰哉に摩り替えたのである。・・最初は信じられなかった2人も靖男の外交術と巧みな交渉術が加わったことによって、根が単純な2人はあっさりと宗像の言う事を見事に信じてしまったわけ。

「おいおい!! あれは骨皮先生が嗾けて俺達は縛れたんだぜ!!!」

「嘘つくんじゃねぇ!!!!! 宗像とポンコツ教師縛り上げてのんきにAV鑑賞だとォ!? 彼女である俺がいながら許さねぇぞ!!!!!!」

いくら翔が真実を話したところで怒れる聖が聞く耳など持ってくれるほど甘くはないのは他ならぬ翔が一番理解している。即座に翔は身の危険を感じて何とか逃げるとそのまま携帯を取り出して辰哉に連絡するのだが・・

「もしもし辰哉!! 大丈夫かッ!!!」

“先輩・・ダメですよ!! 狼子は俺の言う事信じてくれませんよ・・”

“見つけたぞッ―― 辰哉・・今日と言う今日は徹底的に噛んでやる!!!!!!!!!”

どうやら電話口の辰哉も自分と同じ状況らしいが、運悪く狼子に見つかってしまったようだ。

「あの先公ォォォ!!! 今度は徹底的に・・」

“せ、先輩!! ここで耐えれたとしてまた骨皮先生に復讐しても無駄ですよ。またこれよりも酷い復讐されますって!!!!!!”

“俺も骨皮先生の話を完全には信じてないが、黙ってAV見たお前は極刑に値する!!!!!!!!!”

“ろ、狼子!! 話せ・・うぎゃあああああああああああああ!!!!!”

ここで辰哉からの電話は切られ虚しい通話音が静かに響く、そして翔も先ほどの辰哉と同じように指の関節を鳴らす聖と対峙する。

「さぁって・・言い訳タイムは終了だな。安心しろ、俺もポンコツ教師の言うことは信じちゃいねぇ・・」

「そ、そうか!! ならば・・」

「でも俺という女がいながらAV見たのは別だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

(や、やっぱり・・こうなる運命だったのか)

薄れ逝く意識の中・・見事に靖男に復讐された2人はこれ以降は靖男に復讐することはなかったというが、意外にもこの先の信頼関係は崩壊しなかったという・・それは更に翌日の事、宗像の思わぬ裏切りによって霞にAV鑑賞の実体がばれてしまった靖男はかなりこっぴどく説教をされたものの処分に関しては始末書だけという大変お粗末なもの。
実の所、霞に真相を洩らしたのも他ならなぬ宗像ではあるが勿論これだけでは終わらない、持ち前の交渉術で生徒会長である奈美を扇動してあくまでも靖男の手違いであった事を強調して処分の減刑を霞に嘆願したおかげで始末書だけという比較的軽い処分に収まったのである。

全て宗像の掌で動かされていた靖男は誰もいないことを確認すると当然のように宗像に詰め寄るのだが、彼からの答えはあっさりとしたものであった。

302 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/12(土) 14:14:49.87 ID:7RdR+1H1o
「宗像!! あの不可解な行動を全て説明しろ!!!」

「来ると思いましたよ。・・実のところ、あの時に中野達を取り押さえた応援団員を使ってあなたのAV鑑賞会を未然に潰すことも出来のですが・・そんな事すれば今後における自分の信頼を潰しかねませんからね。
だから俺はあの2人を捕らえてあなたに復讐する様に差し向けて、そして俺の計算通りに2人はあなたに復讐してくれた。

そこからは簡単ですよAV事件の真相を校長に話し、今度はあなたに恩を売るために生徒会長と一緒に処分の減刑を校長に嘆願すると・・業務上の手違いならば処分も軽いし言い訳なんて作るのは容易いですからね」

「俺に恩を売ったところでお前のメリットは無いだろう」

「いえ、俺に取っての一番のメリットはあの場にいた団員や先生達の絶対なる信頼とささやかなAV鑑賞を何ら手を汚さずに手に入れられましたから・・それにあなたに恩を売ったのも大きいんですよ、今後は骨皮先生には応援団の後ろ盾として活躍してもらいます、あなたの名前があれば学園内の不良生徒は大人しくなりますからね」

(ううっ、こいつに逆らったら俺のクビは間違いなく飛ぶ!!)

この騒動で一番得をしたのは他ならぬ宗像なのは間違いはない。彼にしてみればAV鑑賞などほんのオマケに過ぎず、桃井を含むあの場にいた応援団員の絶対な信頼と何よりも靖男という教師を手に入れたのはかなり大きい。前者は応援団内における自分への名誉のため・・そして後者は学園内の不良達の牽制と必要な教師枠の確保のため、結果的に宗像は自ら手を汚さずに全てを手に入れたのだ、それに靖男は今回の騒動で宗像に完全に生命線を握られたので逆らうことなどまず不可能だろう。

「それに骨皮先生、俺は始めから協力なんてした覚えはありませんよ。3人の尊い犠牲で得たものは適切に使わせていただきます・・それでは今後ともよろしくお願いします」

(す、全ては・・こいつの一人勝ちじゃないかよ!!!!)

後悔しても手遅れである、こうしてこの騒動は宗像の1人勝ちで幕を閉じ、見事に踊らされた3人は争いの虚しさと宗像に対する少しばかりの怒りを覚えながら無事に講和するのであった。






fin
303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/12(土) 14:23:25.12 ID:7RdR+1H1o
はい、終了です。見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwwwww
これで投下の流れが来てくれたら言う事なしですね

Q:あいつ等結局どうなったの?
A:中野or辰哉・・骨皮に理不尽な目に遭う→復讐→報復される
  骨皮先生・・AV鑑賞→ボコられる→復讐→宗像によって裏切られ霞にばれるも宗像に救われる
  宗像・・3人の騒動を利用しての1人勝ち

Q:登場人物の年齢教えて
A:それではわかっている限り

3年:相良と愉快な仲間達。中野、団長、宗像
2年:狼子グループに桃井。ぶっちゃけかなり多い
1年:女将グループ

Q:というか自分の本編書かないの?
A:申し訳無いけどこの設定にハマってるんで当分はなし・・ごめんね><


それでは狼子の人に感謝とお詫びを申し上げながら、次の作品制作します。
スレに人が増えて良かったね!!

304 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/12(土) 17:24:31.42 ID:1oAbshym0
>>303
いつもながらGJです。
次回作も頑張ってください。
305 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/11/12(土) 21:02:59.89 ID:yh/lRIX7o
「・・・さて宗像、全部聞かせてもらったわけだが」
「なっ!!・・・なんだ藤堂。今日は遅かったじゃないか」
「・・・色々用事があったからな。ところで宗像。やはり結局全てお前が裏で糸を引いていたようなものだったわけだな」
「い、いや、しかしだな藤堂」
「黙れ宗像!!私はたった今母と一緒に校長と理事長に謝罪に伺って来たところだ!!この騒ぎを扇動したのは結局は応援団だったわけだからな!!」
「し、しかしだな藤堂。俺は応援団の為を思って」
「何が応援団のためだ!!貴様!!この校内で、あ、あんな・・・あんな破廉恥なものを流しおって!!」
「・・・藤堂、もしかしてアレを見たのか?」
「当たり前だ!!中身の確認もせずに責任を追求することなどできるか!!」
「いやはや・・・ということはあのおっぴろげも何もかも全部見たんだな・・・」
「と、とにかく!!理事長から校長を通して正式に発表された貴様らへの処分を教えてやる!!主催者の骨皮先生と先生に暴力行為を働いた中野と木村は謹慎に加え一週間の奉仕活動!!喧嘩両成敗だ!!そしてあの場にいた生徒全員、反省文の提出!!即日だ!!これは明日朝教頭先生と各生徒の担任からご両親に伝えられる!!問題は貴様と応援団員全員の処分だ!!これはあの場にいなかった団員も全員が負う事になる!!連帯責任だ!!」
「し、しかしだな藤堂。俺はお前の言った通りの基準で考えると、反省文レベルの違反しか犯していないことになるぞ」
「その通りだ。学校としては、即日提出の反省文程度の処分に留まるだろう。そういうわけで、今回の理事長への嘆願が行われたわけだ」
「な、何を言いたいのかな?」
「そうか、それを俺の口から聞きたいか。良かろう。ところで宗像、お前、最近疲れているだろう。一週間程息抜きをしてはどうだ。もちろん俺と他の団員も一緒だ」
「そ、それはどういう・・・」
「とても疲れている様子だから是非とも道場で預かって鍛えて欲しいと頼んだら、家の母が酷く乗り気になってな。それに泊り込みの特別メニューでお預かりしたいということをお願い申し上げたところ、理事長も快諾してくださった。校長も反省文の提出期限を一週間伸ばしてくれるそうだ」
「・・・ま、待ってくれ藤堂。去年たった三日間それをやっただけで先輩達含め団員がどうなったか・・・」
「やかましい!!貴様はまかり間違えば何人かの人間の人生を棒に振ることになりかねないことをやったんだ!!人以下の存在になったつもりで反省しろ!!」
「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・」

 こうして後に空白の七日間と呼ばれることになる過酷な一週間が始まることになる。七日後藤堂家の門から出て来た団員達の目は虚ろで、中三日ほどの記憶が抜け落ちていたそうである。





 宗像があまりに嫌なやつ過ぎたので成敗させてもらいました。
306 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/13(日) 01:20:50.55 ID:SJyVextAO
両人とも乙
人が増えてること祈る
307 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:28:56.60 ID:Kmr64UlX0
>>268です。
トリップつけるの初体験なんですが…これで合ってるのかちょい不安ですwwwwww
ではまた投下していきます。
308 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:33:50.46 ID:Kmr64UlX0
この感情は一体何だと言うのだ。
怒り?悲しみ?憔悴?失望?絶望?
何でもいい。この世に存在する、ありとあらゆるネガティブな感情を、全てお得(?)なセットにしたような。
そんな気分だ。…と言うのも。
高校に入って最初の健康診断で計った俺の身長は、176cmだった。
平均身長を数cm上回る身長は、俺のちっぽけな自尊心を満たす数少ない要素の一つだった。
そのまま順調に伸びれば180cmの大台も夢ではなかっただろう。

それが、たったの、たったの…!145cm、だと…ッ!?

今朝初めてベッドから起き上がってみたら、見る物全てが大きく見えた。
朝から付き添ってくれている両親のうち、母さんと目線が同じだった時点で、嫌な予感はしていた。
その予感が明確な数字となって俺を襲っている。

何故俺がこんな目に合わなきゃいけないのか。思わずorzとなってしまう。
思い返してみると、昨日の涼二のクソ野郎が言っていた、姓名判断の話がフラグだった気がしてならない。
あの野郎ォォッ!明日会ったらぶん殴ってやる…ッ!!

どんよりとした俺を気の毒に思ったのか、すかさず親父がフォローを入れてくれる。

「…まぁ、小学生からやり直すと思えば良いんじゃないかな?」
「フォローになってねええ!そこのロリババァを棚に上げてんじゃねーよ!これ以上伸びる見込みがあるのかよ!」

次の瞬間、ロリババァのアイアンクローが俺の顔面に食い込んだ。

「随分失礼な娘になっちまったもんだな。女体化の後遺症か?それとも躾が足りてねぇのか?おォ!?」
「ははは、姉妹喧嘩みたいだね」
「ぎェッ、痛、痛ぇええ!わ、笑ってないで止めろォーッ!」
「っと、僕はそろそろ仕事に行かなきゃ。秋代、後は頼むよ」
「あぁ、そういやアンタは午前半休だったか」

ようやく開放され、再びorzになる俺。今度は肉体的な意味で。

「さて、もう一通り終わったからな。あとは退院して買い物行くぞ」

これから母さんと、今後の生活に必要となる物を買いに回る事になっている。
取り合えず着替え、と言う事で母さんの服を拝借しているが、これまた丈がジャストフィットでイラッとする。

「いってて…車はどうすんだよ?」
「今日は2台で来てるから問題ないさ」
「2台って…げぇ、アレかよ」
「なんだぁ?アタシのマジェに不満があるってのか?」
「普通の人間がアレに乗ったら不満しか出ねぇだろ!」
309 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:38:13.36 ID:Kmr64UlX0
母さんの車はクラウンマジェスタだ。車の事は良くわからんが、15系とかいう型?らしい。
高級車だが、数世代前の型の中古車は値落ちが激しいらしく、ごく一般家庭の西田家でも買える金額だそうな。
型落ちの中古とは言え、クラウンは良い車だ。
…それが、あんなDQN仕様でなければ。
鬼キャンとか言うらしいが、タイヤが「ハ」の字になっていて、地面は友達!と言わんばかりの、地を這うような車高の低さ。
普通に走っているだけでも路面のちょっとした凹凸で跳ねまくるわ、エアロや下回りを擦るわで最悪の乗り心地に、全面フルスモーク。
高級車の良いところをことごとくスポイルした下品な仕様だ。
一応ご近所に気を遣っているらしく、爆音マフラーは付けていないが…言うまでもなく違法改造車両である。
そこらのDQNが乗っている車にしか見えない。

「まぁ確かに、すぐサツに止められるからうぜぇんだけどよー」
「大人しくノーマルで乗れよ!」
「お前なぁ、『車高の低さはプライドの高さ』と言う格言があってだな…」
「…。」

「車高の低さは知能の低さ」の間違いだろ。と、心の中で突っ込んでおく。

「…またアイアンクローの刑に処されてぇか?」
「俺の心を読むなぁーッ!」
「お前が中坊になってタッパ伸びてからは手ぇ伸ばしても届かなくなったけど、今なら届くからな。愛のムチがし易くなるってもんだ」
「ムチって言うか万力なんですけど!?…確かに久々だったもんな…勘弁してくれ」
「ふん、精々努力するんだな。あぁそうだ、昼飯は家で良いか?ついでにシャワーくらい浴びたいだろ?」
「あぁ、家で良い。夕べ風呂入れなかったもんな」
「自分の身体に欲情する王道パターンだな」
「しねぇよ!」

退院手続きをし、駐車場で異様なオーラを放っていた噂の15マジェで帰路に着く。
相変わらず最悪の乗り心地だ。
気を紛らわせるために外の景色を眺める事にする。スモーク越しにだが。
俺の身体は変わったが、当然ながら窓から眺める風景は普段と何ら変わらない。
午後一は医者の診断書を持って役所に行くそうだ。小一時間で終わる手続きを経て、正式に俺は「女」になる。
この広い世界、毎日どこかで誰かが女になっていて。それでも世の中、平然と回り続けるのだ。
全て世は事もなし、か。

「名前、どうするか決めたか?」

俺がぼーっと厨二的な考え事をしていると、母さんが口を開いた。
女体化した人間は、通常より簡単な手続きで改名する事が出来る。

「母さんは、改名したんだよな」
「そりゃ女になって秋雄だなんて冗談じゃねぇさ。…ただまぁ、せっかく親がくれた名前を変えちまうのも気が引けてな。
 『秋』の字は残したんだよ」
「なんか自分の名前が変わると、自分が自分じゃなくなる気がするんだよなぁ」
「んな事言ったらアタシは結婚して苗字も変わってんだから、殆ど跡形もねぇぞ」
「気の持ちようだとは思うけどさ…」
「どうするかは、お前に任せる。克己もそれで納得してるしな」
「…俺は、そのままでいい。忍って名前、嫌いじゃねぇから」

顔は外に向けたまま。
照れているのを気取られないように呟く。少し恥ずかしくて、尻すぼみに声が小さくなってしまった。

そっかそっか、と、母さんは少し嬉しそうだった。
310 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:41:49.38 ID:Kmr64UlX0
幸い警察の世話になる事なく、無事家に辿り着けた。
自分の家のはずなのに、そこら中が違和感だらけだ。
自分が身長140cm台だった頃の視点なんて、当時はそれが当たり前だったはずなのに。
一度176cmを経験してから逆戻りしてみると、
かつては自分もこんな「見え方」だった頃があったのか…と、妙に感慨深くなる。

「昼飯、焼きそばで良いか?異論は認めねぇ」

くわえ煙草でエプロンを着けながら、母さんは理不尽な問い掛けをしてきやがる。
じゃあ聞くなよ。あと料理に灰は入れるなよ。

「作ってる間にシャワー浴びとけ。午後は忙しいから、時間は有効に使おうぜ」
「あいよ」

脱衣所で母さんに借りている服を脱ぎ、風呂場でシャワーを身体に浴びせる。
一応病院で、女になって初めてトイレに行っている。
無自覚に男子便所へ入ろうとしている所を看護士さんに止められるハプニングはあったが、
ともかく自分の、息子不在の下半身はその際にも見た。
多少薄くなったものの、毛は健在だったが。

改めて自分の身体を見下ろす。
小学生並の身長に、無駄に大きな乳。
はっきり言ってアンバランスな体型だ。こんなところまで母さんに似なくて良かったのに。
一定の需要は見込める体型だろうが、正直恥ずかしい。
…いやいや、需要って何だよ。嫌だぞ俺は。
しかしながら、この胸に備えたICBMが気になって仕方が無いのもまた、避けようのない事実である。

「ちょっと触ってみる、か…?」

これは決して欲情などではなく、自らの新しいボディに配備された新兵器のチェックに他ならない。
自分の身体の事は知っておかねばならないだろう。そう、必要な事なのだ。
いざ童貞男子の鋼の意思をもって、このけしからん乳に対する知的好奇心を駆逐せんと手を伸ばす。

「…やべぇ。普通すぎる」

気持ち良くも何とも無かった。普通だ。普通としか言いようが無い。
ぼよんぼよんとして面白いには面白いが、だから何だと言う話だ。

となると、日常生活においては邪魔なだけと言う結論に至る。
うむ、知的好奇心は満たされた。順調順調。
…涙は、シャワーに紛れて消えていった。



さて、問題は下だ。
昨日の今日で変な事をしようと思っているわけではないが、普通に洗おうにも扱いが分からない。
とりあえずボディソープを泡立たせたナイロンタオルで、普通にゴシゴシしてみる。

「〜〜ッ!?」

超痛ええぇッ!
どうやらこの洗い方はマズいらしい。
勢い良く、その…突起の皮を捲ってしまい、ナイロンタオルで引っ掻いた格好になってしまった。
それに、ボディソープが「中」に沁みて痛い。
どうすりゃいいんだ。
こんなこと恥ずかしくて母さんには聞けない。後でGo○gle先生に聞くとするか…。先が思いやられる。
311 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:45:35.17 ID:Kmr64UlX0
風呂から上がると、既に昼食は出来上がっていた。

「案外なんともねぇもんだろ?これ」

そう言いながら母さんは、組んだ腕を持ち上げて胸を強調してみせる。

「…し、知るかっ」
「照れんなよ。女体化した野郎の誰もが通る道なんだよ!ただまぁ、ガキに乳やる以外に役に立ないかと言えばそうでもねぇ」
「何だよ?男を誘惑でもするのか?俺はやりたくもねぇけど」
「それもある。他はお前もそのうち分かるさ」

いつものニヤニヤとした表情から、どうせろくでもない事だろうと予想はついた。

「さて、さっさと食うか。ちなみにマヨネーズ盛りまくるのは禁止な」
「なんでだよ。今朝まで味気ない病院食だったから、こってりした味で食いたいのに」
「マヨ盛りで食って美味ぇとか、そりゃマヨネーズが美味いだけだろうが。作った側は面白くねぇんだよ」
「そーっすか。…んぐ、まぁそのままでも十分美味いな」
「ったりめーだコラ。お袋の味ナメんじゃねーぞ?お??」

よくわからんが、これは美味いと言われて喜んでいるのだろうか。

「午後はどこを回るんだ?」
「んー、まずは市役所行って、その後に衣類だな。服と下着、靴とか。間に合わせだから全部イ〇ンでいいだろ?
 もっと洒落たのが着たけりゃ後々自分で店ぇ探せや」
「そんな気持ちが芽生えるかは怪しいところだわ…」
「んでその後は女モンの制服取りに行って、最後にアタシがいつも行ってる美容院、予約してあるから。そこで髪を切る、と」
「髪?そっか、伸びまくってボサボサだもんな…さっきも洗うの大変だったし」

今の俺の髪は母さんと同じくらいの、セミロングと言ったところだろうか。
女からすれば珍しくもない長さだろうが、男でここまで伸ばすヤツはあまりいない。
当然俺もこんなに長いのは初めてだ。邪魔で仕方ない。
母さんもそうだが、何故か少し色が抜けてしまったらしく、地毛なのに若干茶色い。
女体化時にはよくある事らしいので、学校でとやかく言われる心配は無いと思うが…。

ちなみに母さんはゆるめのパーマをかけた髪をハーフアップにして、トップで団子状にまとめている。
オトナっぽいだろう?とはしゃぎながら自慢してきた事が以前あったが、
(胸以外の)全身から滲み出る幼いオーラを打ち消すには至っていない。
そもそも髪型変えてはしゃいでいる時点でガk…おっと、これ以上は心を読まれそうだから止めておこう。

「事情は話してあるからテキトーにやってくれるだろ」
「はぁぁ!?なんで勝手に話してくれてるんですかァ!?恥ずかしいわ!娘がいた事にすりゃあいいじゃねーか!」
「あぁ?女のイロハも知らねぇ野郎が天然女性のフリしたってすぐにバレるんだよ。だったら先に言っといた方が不都合がねぇだろうが」
「うっ…それはそう、か…」
「さて、飯も食ったし行くとするかね」

そう言いながら、食べ終わった皿を下げ手早く洗っている。
素行や言動はともかく、こういった家事全般のスキルに関しては、完全に主婦のそれだ。
料理も何気に上手いのは違和感ありすぎだろ。
俺もいつかはあんなふうになるんだろうか?
312 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:57:58.85 ID:Kmr64UlX0
DQN車、再び。
役所で小一時間程度の手続きを終わらせ、今はイ○ンへ向かっているところだ。
俺達の前後の車が必死で車間距離を空けようとしているのがよくわかる。
中にどんな人間が乗っているかも分からないのだから、その気持ちは理解出来る。気の毒に。

その中の人はと言うと、煙草をくわえながら片膝を立て、爪に緑のペディキュアを塗った小さな左足をシートに載せて運転している。
AT車なら右足だけで事足りるからだそうだ。そりゃそうかも知れんが…。
情けないことにペダルへ足が届かないので、シートは一番前がベストポジションのようだ。

「誰が短足だオイ」
「またか!また俺の心を見透かすのか!」
「母親には隠し事が通用しねぇのがこの世の常だろ?」

そういう次元じゃねーよ。

「さぁ到着っと。チッ!この入口の段差がうぜえ!バリアフリーがなってねぇぞクソッ!」
「車高上げろよ…」
「このくらい気合いで何とかなるんだよ!」

イ〇ンに着いたのだが、入口の段差でエアロや下回りをガリガリ擦っている。
こんな車のためにバリアフリーが云々などと、理不尽極まりない。

「平日は駐車場が空いてて助かるぜ。立駐なんざいくら気合い入れても無理だしな」
「車高を上げろォーッ!」
「絶対にッ!い・や・だッ!」

車を停めて店内に入るが、やはり平日だからか人は少ない。
母さんは手際よく商品を選んでいく。女物の服はよく分からないので正直助かる。
間に合わせと言いつつ、「あんまりダセぇ格好されるとアタシが恥ずかしい」とか言う良く分からない理由で、
何気に真剣に選んでくれているのは有難いやら迷惑やら。試着を何度もさせられるのは疲れるんだよ…。

「よっし、あとは下着だな。ブラは店員にサイズ測ってもらえ」
「え、母さんと同じくらいだろ?わざわざ測らなくてもいいんじゃね?」
「こればっかりは大体で済まさない方がいいんだよ。店員さーん、この子のサイズ測ってもらえます?初めてブラ買うんですけど…」

出ました「よそ行き」モード。家族+昔からよく知ってる涼二以外と話す際には、この状態が基本形だ。
お上品と言うわけではないが、随分と柔らかい口調に変わる。
あんな車に乗っているくせに近所付き合いが良好なのは、これに起因するようだ。
313 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 01:58:57.45 ID:Kmr64UlX0
応対してくれる店員さんに連れられ試着室へ。薄着にはさせられたが、一応脱がずに測ってくれた。

「G65くらいで良さそうですね!」
「じ、GってGカップ!?そんなにあるんすか!?」
「えぇ、トップが88cmで、アンダーが63…」
「あー、えっとその、昨日女になったばかりで全然意味が…」

昼のシャワーの時に、無駄に大きい…と思ったのは事実だが、Gだって?何かの間違いじゃないのか?
母さんの話を思い出し、正直に元男の旨を伝える。

「そうだったんですか〜!ではサイズについて簡単にご説明しますね!」

慣れているのだろう、深く突っ込まれる事無く説明に入ってくれた。

全ては理解出来なかったが、ブラのサイズはアンダーバストとトップバストの差で決まるそうだ。
アンダーが65前後だと、身長がそこそこある場合はGカップでもそこまで大きく見えないものらしい。
Gカップと言うと爆乳なイメージしかないが、アンダー次第って事か。
ただし俺の低身長な体型に置き換えると、結局は相対的に大きく見えてしまうんだそうな。奥が深い。

「ウエストも細いですし、薄着になるとかなり目立つかと」
「…いざ女になってみるとあんまり嬉しくないっすね…」
「贅沢な悩みじゃないですか!さて、G65ですと…この辺りになりますが、どう致しましょう?」
「うーん、可愛らしい柄が入ってるのとか、飾りがついてるのは…まだちょっと恥ずかしいですね」

最低限の要望だけ伝え、店員さんにブラとショーツを3セット適当に見繕ってもらう。

女の子っ!と主張し過ぎない、無地で比較的大人し目の物を選んでくれた。
色はまぁ…ふんわりとしたパステルカラーのピンクやら水色やら、だが。
確かにこの辺りが一番無難だろう。これでいいか。
あの迷彩柄のやつなんかカッコイイんだけどなぁ。
俺の体型では似合わないのは自分でも分かるので、仕方あるまい。

持ってきてもらったブラを試着する。…と言うか、着け方を教えてもらう。
結局脱ぐんじゃねーか。恥だ。
314 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 02:00:50.93 ID:Kmr64UlX0
店員さんに礼を言い、待っていた母さんに精算してもらう。

「サイズ、どーだった?」
「えーとG65?とか言われたけど」
「なんだ、結局アタシと同じかよ。測らなくても良かったかもな」
「色々勉強になったから結果オーライだよ」

そのまま店を出て、今度は制服を取りに行く。
また試着かよ。もううんざりだ。
一日でこんなに試着なんて、そう滅多にある事ではない。

試着室で母さんに手伝ってもらいながら制服を着て、鏡の前で自分と向き合う。
明日からこれを着て…学校に通う。そう考えるだけで、気分が滅入る。
僕は童貞でしたーっ!今は処女でーっす!と大々的に宣言するのと大差ないという事もあるし、
いくら女体化が一般的な現象だと言っても、変貌した姿に多少なりともリアクションがあるのは避けられないからだ。
クラスの先人達も、最初は好奇の目で見られたものだ。
まぁその頃は俺も、見ていた側なんだけどな…。

…ダメだ。ネガティブになったらダメだ。
騒がれるのは数日だけ。世間の関心はその程度。
人の噂も75日と言うが、そんなに待つ必要はないのだ。
落ち着きさえすれば平穏に暮らせる。
まぁ事あるごとに女体化ネタで弄られるのは御愛嬌だが。ソースはうちの母さん。



その後は美容院に移動した。
母さんは美容師さんに挨拶だけして、「切ってる間に夕飯の買い物してくらぁ」と言い残して去っていった。

「こんな感じが良いとか、希望はあります?」
「全然分かんないのでお任せでいいっす。丸刈りにされても文句は言いませんから」
「う〜ん、学校があるから派手なパーマはまずいかな。
 折角癖のない髪なんだし、内巻きに短めでカットして重めのボブにしてみます?結構ガッツリ切るけど平気かな?」
「は、はぁ…じゃあそれで」

よく分からんが結構切るようだ。
さらばロン毛。丁度丸1日くらいか、短い命だったな。
形がおおかた出来上がってみれば、所謂おかっぱ頭に毛の生えた…いや、毛は生えてるか。
もとい、おかっぱを今風にした感じと言えば良いだろう。

「女体化しちゃったコはこんな感じにする事が多いんだよね〜」と教えてくれた。
確かにこのくらいならそこまで邪魔ではない。
女体化野郎の定番というのも納得だ。

最後の微調整をしているところで母さんが迎えに来た。

「あ、西田さんお帰りなさい!もうちょっとで終わるんで、座ってお待ちくださいね」
「ただいまー。随分バッサリ切ったんだねぇ」
「西田さんに似て素材が良いから、とっても可愛くなりましたよ〜」
「またまたそんな事言って!」

母さんと美容師さんのやり取り、世辞とは分かっていても…容姿を褒められるのに免疫が無いのでテンパってしまう。
免疫があるくらいだったら女体化なんてしなかっただろうし。

さて微調整も終わったようだ。これでやっと、長い一日から開放される。
315 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 02:02:45.53 ID:Kmr64UlX0
「…今はアタシも専業主婦だからこれがフツーなんだけどさぁ。こうして学校サボってぷらぷらしてんのって、
 悪い事してるみたいでワクワクするだろ?」

帰りの車中、母さんが薮から棒に喋り出す。つーか…

「いや、これはサボりじゃないだろ…」
「そりゃそうか。まぁ折角だ、一本いっとけよ」

そう言いながら、セブンスターの箱から煙草を一本取り出して自分の口にくわえ、残りをこちらに向けてくる。

「これこそ悪い事じゃねーか!」
「んー?去年くらいだったか?妙に煙草の減りが早い時期があったんだけどなぁ??」

…バレてたのか。

「…ほんと、隠し事は出来ないもんだな」

どうせこの車はフルスモだ。外からは見えない。
まぁ、折角だしな、頂くとしよう。
煙草とライターを受け取り、火をつける。

「…あー。なんか美味いかも。前はそんな事思わなかったのに」

むせるかと思ったが、新しい身体は意外とすんなり煙を受け入れた。
ニコチンが五臓六腑に染み渡り、疲れた身体をリラックスさせてくれる。…気がする。
これで身体に害が無ければ最高なのにな。

「勧めといて言うのもアレだけど、今後も吸うなら家の中だけにしとけよ?
 学校で吸うのはナシだ。面倒事起こされたらたまんねぇからな」

分かってるって。DQNになりたいわけじゃない。
ただこの、学校をサボって悪いことをしているワクワク感ってのは分からなくもない、かな。
こちとら女体化で色々大変なのだ。このくらいなら罰は当たらないだろ。
316 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 02:06:50.62 ID:Kmr64UlX0
…なんだかベッドが大きく感じる。

今は夕食と風呂を済ませ、自室でごろごろしている。
自分の部屋なのに妙に落ち着かない。
本棚の上の方に置いてあるマンガとか、どう考えても取れないよな…。
あそこに置いた過去の自分をぶちのめしたいんだが、何か良い方法は無いだろうか。

そんな事を考えていると、すっかり携帯の存在を忘れていた事に気付く。
見ると涼二からメールが来ていた。

『体調はどうだ?明日は学校行けるのか?行けるんならいつもの時間に迎えに行くから待っててくれwwwwww全裸で。』

うぜええ!最後超うぜええぇ!

「えー『明日は学校行ける。お前には特別にJKの登校に随伴する許可をやろう。
 妙な事しやがったら、助けて犯されるーッ!って泣き叫んで性犯罪者のレッテルを張ってやるからな!』、送信っと」

他にも何人か、クラスの連中から「心配してるよ」的なメールが来ていた。
女体化は誕生日の朝に自然と女になっているのが普通なのに、
俺は皆の前で突然のたうちまわりながら女体化したのだから、身体に異常があると思われても仕方ないだろう。
あんな不気味な光景、見た側はトラウマになってもおかしくないのに。皆良い奴だなぁ。
返信返信っと。

藤本からは…メール、来てないな。
…むしろメアド交換すらしてないんだけども。
む、涼二から返信だ。

『なにそれこわい。まぁ元気そうでなによりだwwwwんじゃまた明日な!あ、ツレなんだから乳くらい揉ませてくれるよな?(チラッチラッ)』

だから最後がうっぜーんだよ!無視だ無視!

その後もクラスの連中からの返信に対応しているうちに、なんだか眠くなってしまった。
まだ22時前だけど…寝るか。今日はホントに疲れた。
317 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 02:22:50.58 ID:Kmr64UlX0
今回は帰宅+生活準備編でした。
ブラジャーのくだりについては、自分で調べた勝手な解釈なので間違ってるかもしれませんorz

前回投下分を読んで下さった方、マジでありがとうございます。
しかしDU-02氏からレス頂けるとは思いませんでした!
最近見掛けなかったので心配しとりましたwwwwww
当方、安価『ファミレスとコーヒー』の井上先輩が大好きなのです。
にょたロリビッチは至高と考える自分は少数派なのでしょうかね。


書き溜めが若干心許なくなってきたので、暫く書き溜めに入りたいと思います。
通勤時間や昼休みにもしもしでぽつぽつ打ち込んだ物をPCに送って編集してるので遅筆でして…。
ではでは、もっと人が増える事を期待しつつ。
318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/13(日) 02:27:46.68 ID:tVnmUvHZo
乙でした
自分も次回作書きながらwwktkしながら待ってます
エアロはリアルすぎて吹いたwwwwwwVIP車は段差が最大の天敵です><

合法ロリにロリババァ・・最強じゃねぇか
319 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/13(日) 02:27:55.35 ID:Kmr64UlX0
あ、>>308でやっちまってる…。
開放→解放でした。
320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/13(日) 05:41:57.95 ID:+8L+YpMBo
なんだかんだ言って女の子してる上にやきもちやきの聖ちゃんがステイ、もとい素敵
321 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/13(日) 05:43:01.57 ID:+8L+YpMBo
なんか書き込んだらもう一個来てた、スモイ!
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(東京都)[sage]:2011/11/13(日) 13:53:40.58 ID:vKsW2IBAo
大量投下ktkr
まとめがいのある量が来たぜ・・・
323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(東京都)[sage]:2011/11/13(日) 13:56:01.25 ID:vKsW2IBAo
と思ったらほとんどまとめられていたorz
最近忙しいから確認できなくて申し訳ない・・・

今日帰ってきたらちゃんと残っている作品まとめます
324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/13(日) 17:49:27.83 ID:Q2qXDLBho
うーむ恋愛展開に進んでいくとしたらどっちのルートに入るんだろう
325 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(兵庫県)[sage]:2011/11/13(日) 18:26:56.26 ID:I1oiNCPD0
合法ロリと聞いて思い浮かんだ。


「おうだんほどうは手をあげながらわたらないといけないんだよー」
「園児じゃないんだから子供っぽく振る舞うの止めろ」

http://u6.getuploader.com/1516vip/download/76/youjo.jpg

女体化の中でも極めて稀なケース――幼女化。
女性化と同時に身体が若返ることで声帯などの成熟した器官が退化する反面、知識や記憶、
経験などの蓄積された情報が脳に残る現象である。
多くは体不相応な思考力に口が回らず、
難しい漢字は全てひらがなに、さ行が正しく言えなくなってしまうなど、
通常の日常生活のあらゆる面で、様々な齟齬が生じるハンデを背負うことになる。
学力は発症の前後において多少の誤差こそあるものの変化はなく、
身体年齢相当の学年に編入されるなどという例は特別な事情でもない限り存在しない。
そのため発症前の学校生活を支障なく送るためには、同学年男子のサポートが必要不可欠である
326 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:43:12.69 ID:tVnmUvHZo
贅沢な暮らし、充分な教養・・そして何よりも天性の素質。僕は今まで無敵だった・・ある日を除くまでは






見合ってなんぼ


                           ◆Zsc8I5zA3U






黒崎家、その祖は明治初期に開業した商人の出であり時代が織り成す幾多の困難をくぐり抜けながら一流とは
言わないもののそこそこの資産家としてこの国に名乗りを上げていた。少し前に没落して存続の危機に遭った
ものの当時の当主によって何とか再建して今までの地位を取り戻した苦労の多い一族でもある。

そんな由緒正しき当主は家督を譲りかつての栄光を見守ると間もなくとして病没、そして先代から家督を継いだ
現当主もその何恥じないそこそこの活躍ぶりで栄光と繁栄を保って過去の歴史を反省しながら現在も国や
社会に貢献している。

彼、黒崎 栄太は若干高校1年生ながらも黒崎家の家督を継ぐ嫡男として生まれもってから絶対の将来を約束されていた。

「坊ちゃま、失礼します」

「芹沢か・・何のようだい、イギリスの留学なら前に断ったはずだよ」

芹沢と呼ばれる初老の執事は凛々しい姿勢を保ちながら時期当主である栄太を見据える。

「いえ、ご主人様もその件に関しては弟の忠雄坊ちゃまに一任したと・・」

「へぇ・・ま、忠雄も黒崎の家を継ぐ大事な男だからね。お父様もそれを見越しての事だろう・・残念ながら僕よりも2つ下の忠雄の方が跡取りには適任だ」

少しばかり自嘲気味に弟を評価する栄太であるが、見苦しい嫉妬など彼にっては恥じそのものである。
芹沢はそんな彼の心境を少し汲み取りつつも本来の用件を栄太に伝える、家の存続に関わる重大事項として・・

327 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:43:53.21 ID:tVnmUvHZo
「栄太様、そろそろ童貞をお捨て下され・・家督を継がれるためにも坊ちゃまに女体化されては困るのです」

「またそれかい。何度も言っているようだけど僕は愛する人に操を捧げたいんだ、叔母様だってお父様の弟だったんだろ? 女体化したもある程度自由は確保されるしね」

黒崎家の家督は代々として男が継ぐことを習わしとしている、過去に女体化した人間が家督を継いだ事も
あったがその人物もとある家で婿を取るとそのまま嫡男を産んで事無き得ている。それに女体化したといっても
決して見捨てられるわけでもなくある程度は自由に過ごすことはできるのだが、栄太も今の所は男である身なので
童貞は出来るだけ捨ててはおきたいものの、どうせなら人間的に結ばれた人間じゃないと嫌なのだが、それが
芹沢や栄太の父親にとっての悩みの種である。

「女ならそれ相応の物をよこします、それにご主人様も長男である栄太様に家督を・・」

「芹沢、言葉を返すようだけどあの平塚グループのトップだって次男坊だって言うじゃないか? お父様も家のしきたりで長男が家督を継ぐと言うのに従うのは時代遅れだと思うけどね」

「平塚と黒崎家では天と地・・いや、宇宙と小石の差があります。お願いですからこれ以上は我がままを・・」

「我がままで結構さ。それに僕が女体化したって忠雄が家督を継ぐんだからいいじゃないか」

今回も頑なに童貞を捨てる事を断る栄太に芹沢は小さい溜息を吐く、代々として黒崎家に仕えている彼にしてみれば栄太の童貞問題に早くカタを付けてほしいものだ。

「話はもう終わり? 悪いけど学校の宿題が・・」

「後、突然で申し訳ないのですが・・ご主人様の御命令で坊ちゃまには学校を転校してもらいます」

「えっ? 転校・・・」

突然の芹沢の発言に栄太は意識が飛んでしまうが、その意図を確かめる。
現在彼の通っている高校はお金持ちの男子が通っている御坊ちゃま高校だ、成績に関しても特に問題はないし
品位も普通と行った所なのに急遽学校を転校しなければならないなど予想外にも甚だしい。

「よしわかった。聞きたいことは山ほどあるが・・直接的な理由を話してくれないか?」

「確かに学校内での坊ちゃまの成績や品位は申し分ございません」

「芹沢、話をはぐらかさないでくれ」

「失礼致しました。理由は様々ですが・・一番の理由はご主人様の“気まぐれ”でございます」

「・・・」

流暢な口調で答える芹沢に栄太はこみ上げて来る頭痛を何とか抑えながら、渋々転校を承諾する。
これ以上我がままを続けて家を放り出されでもしたら自活力の乏しい自分は路頭に迷うことが目に
見えている、父親の真意はわからないもののここは素直に従った方が身の為であろう。

「もう少しでお世話になる学校の理事長と校長が挨拶にこられますので仕度の方をお願い致します」

「わかったよ、来たら呼んでくれ。あと紅茶のお替りも頼む」

「畏まりました。紅茶はすぐにメイドに運ばせておきましょう・・それでは失礼します」

芹沢が立ち去った後、広い部屋の中で栄太は世の中の仕組みついて改めて考え直すのであった。

328 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:47:50.14 ID:tVnmUvHZo
それから数分後、栄太が転校する予定の理事長と校長が挨拶に来たとの報告があったので栄太は
そそくさと準備をして客間へと向かう。そして栄太は理事長の姿を見た瞬間に今回の転校の真意をある程度把握する。

「やぁ、栄太君。小学生の時以来だったかな?」

「理事長とは・・あなただったんですか。お父様からの転校の真意がわかった気がしますよ」

そのまま靖男は席に着くと芹沢を脇に下がらせて理事長と対峙する、この理事長は様々な顔を持っており
栄太の父親ともある伝で旧くから交友があるので栄太も彼については小さい頃に何度か会っているので
おおよその関係は知っている。

「おじさ・・いえ、この場では理事長とお呼びしましょう。早速失礼を承知で伺いますが、今回の転校は僕の“女体化”と関わっているのでしょうか?」

「ハハハッ! しばらく見ないうちにお父上に似て手厳しくなられたな。・・君の思っている疑問だけど残念ながら全く違うんだ、実は私の友人である君のお父上は以前から君を私の学園へ入れさせたいと考えてたようなんでね、それで君の転校が実現したんだよ」

と理事長の説明は続くものの栄太とて彼の言っている事を全て信用しているわけではないのだが下手に質問すれば
家の名誉に関わるかもしれないので質問は自重している、この男は理事長の他にも様々な顔を持っているので
彼との交友は黒崎家にとって非常に有益なのだ。

「・・なるほど、理由はわかりました。それにしても校長先生もお伺いすると聞いていたのですが、さっきから見当たらないですね・・それにさっきから隣にいる女の子は理事長のお孫さんですか?」

「あ、ああ・・実は彼女が」

「私が白羽根学園 校長の藤野 霞です! 年齢もれっきとした大人です!!!」

子供のようにプンプンしながら自己紹介する霞だが、当の栄太はというと思わぬ展開に唖然としてしまうが脇にいた
芹沢に目配せすると彼は小さく首を縦に振る、どうやら本当に校長みたいだ。理事長と隣にいる彼女は傍から見れば
おじいさんと孫にしか見えないのだから・・理事長は用意された紅茶を1口啜りながら改めて霞を紹介する。

329 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:48:16.17 ID:tVnmUvHZo
「栄太君が驚くのも無理はないな。改めて紹介しよう、彼女が学園の校長である藤野 霞さんだ。年齢もさることながら教師としての経歴もかなり長いので学園の簡単な説明は彼女から行ってもらおう」

「そうですか、先ほどは御無礼を失礼したしました。それに僕はもう学園で教えを請う身なのでリラックスして下さい」

「それじゃ、理事長に代わりまして学園について簡単な説明を行います」

年長者の威厳を取り戻した霞によって簡単な学園の説明が行われる、栄太は話を聞きながらもこの不可解な転校の真意を1人考えていた。

「・・以上で説明は終わりよ。それで黒崎君のクラスについてだけど今の成績だと特進クラスも検討できるわよ?」

「特進クラスと言ってもクラスのホームルームが終わってもまた別のクラスに行かなきゃいけないんでしょ?」

「ええ・・さっきも話した通り、特進クラスは学年関係なく様々な人間が所属してるわ。
その分授業内容も一般のクラスと違ってかなり先に進んでいるから一流大学を目指すんならお勧めするわ」

「いや〜、面倒だと思うんで普通のクラスでお願いします。どうせ転校するんだから自由にやりたいですし・・」

「勿体無いけど、本人の希望だもね。わかりました、準備は明後日で終わると伺ってるので学校に来てください、クラスの担任を紹介するんで」

その後は事務的なやり取りが続いて転校の手続きはスムーズに進んで終了する。

「書類についてはこれでいいだろう、栄太君の制服の手続きやらの処理は藤野君に一任するよ。前の学校については私のほうで既に話してあるから」

「わかりました。・・それでは黒崎 栄太君!! これからよろしくね〜☆」

「は、はぁ・・よろしくお願いします。・・芹沢、申し訳無いんだけどお客様を送って差し上げて、僕はちょっとやらないとけないことがあるから」

「畏まりました」

芹沢の手引きによって理事長と霞はその場から姿を消す、そのまま栄太は再び痛む頭を抱えながらこの状況に
適応していくのであった。


そんな悩み上げている栄太とは別に理事長と霞は今回の転校について語り始める、どうやらこの転校には様々な思惑が張り巡らされているようだが、真相を知らない霞は恐る恐るも勇気を振り絞ってその真意を問うてみる。

「理事長・・彼はなんで転校したんですか。色々考えても転校する理由は思いつきませんけど・・?」

「何、ちょうど女体化によって跡取り問題で悩んでいた黒崎家の当主を少し嗾けただけだよ。それに黒崎家の長男が転校してくれた事で学校内に富豪層の生徒達が入ってくる良い傾向になる・・」

彼にしてみれば今回の栄太の転校は決して黒崎家のためではなく自分が経営する学園のため、栄太の転校を機に更なる学費補充のために富豪層の生徒を獲得するのが今回の目的であるので現場を纏め上げている霞に関してはより一層の釘を刺す。

「藤野君、あの金の卵である坊ちゃまを周りにつつかれない程度で何事も問題なく無事に卒業させてくれ・・君の実力は私も把握はしている、先生方を纏め上げてる手腕に期待しているよ」

「は、はい・・善処いたします!!」

こうして理事長の目論見通り来年の志望希望の生徒は富豪層の人間が増えたという。

330 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:49:56.69 ID:tVnmUvHZo
転校初日

芹沢の運転で学園に送迎された栄太の支給された制服に身をまといながらもその表情は少し優れない
ものだ、登校している周囲の生徒達の注目を浴びながら栄太は校門の前に停車したリムジンから降りると
この目立った状況を好ましく思えなかった栄太は芹沢に苦言を呈する。

「芹沢、送ってもらって申し訳無いんだが・・僕にも学生としての領分やこれからの生活がある。
明日から送迎は控えてくれ、必要な時は僕から連絡する」

「畏まりました。それでは行ってらっしゃいませ」

リムジンが走り去ったのを確認すると周囲の注目を一身に浴びながら校門の中へと入っていき、霞から貰った
地図を元に職員室へと足を運ぶ。

「失礼します」

「ようこそ黒崎君!! 改めて歓迎するわね、こちらが担任の先生よ」

「よろしくね、黒崎君。それじゃホームルームが始まるから教室に行きましょう」

「はい」

これからの担任である女教師に案内されながらこれから当分は付き合うであろう教室の前に対峙する。

「それじゃ、これから教室に入るけど・・大丈夫?」

「ええ、お気遣いありがとうございます。前の学校でも何とかやってたんで」

(ううっ! お金持ちらしいし・・き、危険な恋もいいかな?)

名も無い女教師よ・・頼むからそれはやめてくれ。


そのまま2人は教室に入り、栄太は先ほどの光景もあってか周囲の注目を一身に浴び続けながら女教師によって紹介される。

「はい、それじゃ黒崎君の席だけど・・森野さんの隣が空いているからそこについてね」

「わかりました」

栄太は空いている席に座ると少しばかり一息つく、そして隣にいた楓に軽く挨拶を交わそうとするのだが・・その可憐で散ってしまう花の如し――自分の意識に反して楓に見惚れてしまう。

「よろしくお願い致します。私、森野 楓と申しますので・・以後、お見知りおきを」

「ど、どうも――」

洗礼され佇まいに加えてそのおしとやかな性格はまさに和と言った性格であろう、しかしこのまま楓に見惚れている
訳にもいかないので栄太はそのまま支給された真っ白な教科書を開くと授業に入る。

「それじゃ、授業に移ります。教科書の34ページから・・」

(森野 楓さんね。・・帰って芹沢に調べさせておこう)

栄太に宿った新たな気持ち・・これが恋心だとわかるのはしばらく時間を要しそうだ。
331 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:53:03.06 ID:tVnmUvHZo
あれから数週間後、最初のインパクトも薄れつつある中で新たなクラスメートとも持ち前の八方美人振りで
良好な交友関係を築き上げていた。そして持ち前のネットワークで楓の事を調べ上げた彼はあらゆる手段で
話の接点を持ってはいるものの本人が適当にはぐらかしてしまうので未だにクラスメート止まりで成果は
上がっていない、それに楓に対する気持ちも日に日に増して強くなってしまう。

「・・というわけなんだ。忠雄はどう思う?」

「それって・・」

とある自宅での何気ない夕食の光景、豪華な部屋でフランス料理を優雅に食す兄弟2人と常に無表情で
黙々と食している女性が1名・・元来母親は他人には一切興味を持たない性格なので兄弟2人の話しに
一切口を挟むことはない、それに父親は仕事が終わった後は家に帰ってくることは不定期だ。

「兄貴、そりゃあれだぞ。変という字をいじった奴じゃないのか?」

「つまり・・僕は森野さんに恋をしていると?」

「今までの兄貴の行動を裏付けるには充分だぜ。なぁ、母さん?」

「・・・身分による礼儀作法は教えたはず」

「わかったよ、お母様!!」

時期当主候補である次男の忠雄は栄太を始めとした周囲も認めるほどの優秀振りなのであるが、性格だけは
あまりよろしくない。というより忠雄本人は兄である栄太以外の家族が余り好きではない、一応家督は継ぐことに
文句はないのだがやはり気に入らないものは気に入らない。

「お母様、今回の留学の件は申し訳ありませんでした」

「私に言われても困ります。あの人が決めて栄太さんが判断したのだから私は何も言いません」

「おい! 親父が愛人作って機嫌悪いのはわかるけど・・そんな言い方はないだろ!!!」

「やめろ、忠雄。・・失礼しました、お母様」

「いえ・・」

気まずい空気のまま食事は終了する、あれから忠雄は栄太の寝室にやってきて無理矢理抑えられていた怒りを容赦なく爆発させる。

「全く!! あれが自分なのが未だに信じられん!! 兄貴もそう思うだろ?」

「きっとお母様だって何か思うところはあるんだろ。自分の親は悪く言いたくはないんでね」

栄太とて母親について悩んだ時期はある、しかし本人が余り話さないのもあるが自分の子供にもあれだけ
無関心だと子供心に寂しく思ってたりした。しかし歳を重ねて様々な人間と交友を持ってると自分の母親は
きっと表現をしたくても出来ない人間なのだと考えるようになる、事実自分も楓に対する気持ちがあやふやなのも
母に似たのだと思うようになった。

だからこそ忠雄みたいに母をそう邪険には出来ないが、いつかは話してもらうのを待っているのが現状だ。

「それにしても兄貴、まだ青臭い感情で童貞捨てて無かったのか?」

「青臭くて結構だ。僕は僕の考えの元で童貞を捨てる」

「よくそれまで女体化せずにいられたな。感心するぜ」

忠雄はからかい半分であるもののやはり自分の兄の恋路が実るようにある程度の協力はするつもり、この家で唯一自分が本音を曝け出せるのは兄には違いなのだから。

「ま、頑張れよ。兄貴・・俺はいつでも応援はするし相談にも乗るぜ」

(今度楓さんを映画にでも誘ってみるかな)

弟の応援を胸に栄太は勇気を奮立たせるのだが、これから先に起こる出来事を誰が予想しただろうか・・?
332 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:55:50.88 ID:tVnmUvHZo
そして翌日、偶然にも楓と2人で話す機会が出来ると勇気を振り絞って楓に会話を振る。

「も、森野さん・・ここ、今度の日曜日だけど、ぼぼぼ・・僕と映画に行きませんか?」

「映画ですか・・わかりました、折角のお誘いを無下にはできませんね。母に話してみます、時間の都合はある程度つけれるでしょう」

「ほ・・本当ですか――!!!」

ついに楓の承諾を貰えた栄太は歓喜に湧く表情を堪えつつも詳しい待ち合わせ場所を楓と一緒に決める。

「それじゃ、待ってるよ。実家の仕事が入った場合はそっちを優先してね」

「はい、私も楽しみにしてます。それでは私はこれで・・」

そのまま楓は立ち去ると栄太もルンルン気分で学校内の探索をしながら歩いていく、転校してそれなりの月日が
流れたと言ってもまだこの学校に在籍して日は浅いのでこうして暇な時間になると校内を散策しているのだ。
散策を続けていた栄太に1人の女性が視界に入る、同じクラスでチア部所属の藤堂 琥凛である、彼女の姉は
かの有名な応援団団長なので校内ではそれなりに有名な人物だ。琥凛は栄太の姿を見つけるとそのまま
挨拶を投げかける。

「あっ、黒崎君」

「やぁ・・藤堂さん。何してたんだい?」

「今度のチア部がやるダンスの種目考えてたのよ。黒崎君は前の学校で何か部活してたの?」

「一応乗馬してたよ。ほら、前の学校はボンボン学校だったからね・・」

転校初日に栄太は同級生達から様々な部活の誘いがあったのだが、どれも適当な言い訳をつけて全て断っている。
といっても彼は初日に楓に関心を寄せていたので興味がなかったのもあるのだが・・それに楓に関しては少しばかり
気がかりもある。

「そういえば同じクラスの成宮君って森野さんの旅館の従業員なんだよね・・」

「そうみたいね、住み込みで働いてるみたいなのよ。それに彼は結構クールだから女子にも人気あるの」

「へー・・」

今の所、栄太にとって最大の仮想敵は他ならぬ隆二である。敵を知るためにも周囲は勿論のこと隆二本人とも
何とかコンタクトを取っているのだが、彼は基本的に口数が少ないキャラなのであるので会話をするのに苦労する。

333 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 22:56:15.35 ID:tVnmUvHZo
「それに森野さんと成宮君は調理師免許持ってるの。この前の選択授業だってお母さんが感心してたぐらいだし」

「そりゃ凄い、僕なんて恥ずかしながら資格なんて英検だけだしね。そうえばチア部の種目に悩んでたんだっけ? ダンスなら前の学校でしてたから相談に乗るよ」

「本当! 助かるわ〜・・先輩に負けないぐらいの案を作らなきゃいけないからね」

栄太は少しばかり頭を書きながら琥凛の手伝いをして信頼を稼いでいく、基本的に要領よく八方美人を貫く
栄太はこうして周囲の信頼を獲得しているのだ。事実クラスメートは栄太の事をただのボンボンの金持ちでは
なく頼りがいがある人間としての見方を強めている。

「藤堂さんがやりたい全体的なダンスはわかった。それなら曲はアップテンポのある洋楽が良いと思うよ」

「そうね・・でもここの部分は合うかしら?」

「ここはこのままで良いと思うよ。ただ全体のバランスを考慮したら洋楽主体で行くならもう少し激しいアクションが欲しいところかな」

「なるほど、黒崎君って何でも詳しいのね。クラスの皆が言ってるわよ」

「たまたまだよ。僕だってわかんないことはあるしね」

決して他人の嫉妬を買わないように配慮しながら常に自分を謙遜してこれまでにも栄太は信頼を買ってきた。
ただえさえ実家が金持ちなので自分が気がつかないうちに他人に嫉みを買われるのだ。

そのまま栄太は琥凛のアドバイスを続けていく・・

334 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:02:18.12 ID:tVnmUvHZo
職員室

霞の前には今回のAV騒動のお陰で1週間の奉仕活動を終えた靖男と翔と辰哉の姿があった、3人の表情は
どれもくたくたで疲れきっていたのは表情から見ても察しがつく、霞はそのまま静かに奉仕活動の終了を伝える。

「・・それじゃ、これで終わりにしてあげるから今後は気をつけるように」

「「「はい・・」」」

「ま、事情を考慮しても木村君と中野君は元々被害者みたいなものだし、反省文は撤回してあげる。
だけど暴力行為はいただけないから今後は自重してね、それじゃ2人は戻っていいわよ」

「「失礼しました」」

翔と辰哉を下がらせると霞は盛大な溜息を吐くと靖男を見据える。

「あなたはどれだけ私の胃を痛ませれば気が済むの・・おかげで更年期障害が余計に近くなるわよ」

「校長先生、精密検査はしっかり受けたほうが良いと思いますけど・・」

「何言ってんのよぉぉぉぉ!!!! 今回はたまたま理事長の機嫌が良かったから処分は軽くなったようなものだけど、本来ならクビにされても文句は言えないのよ!!!!!!!!!」

霞の怒声が靖男に響き渡る、見た目に反して実年齢は中年真っ只中の霞にとってストレスはかなり大敵である。
胃腸薬の量も心なしか増えているように思えてしまう。

335 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:02:49.73 ID:tVnmUvHZo
「全く、頼むからこれ以上要らぬストレス増やさないでよ・・潤君の婚活だけ見守らせて、後は奉仕活動の書類と始末書出してね」

「過度な愛情はダメですよ。姉ちゃんも親からの見合いの催促に頭痛めてるんで」

思わず、霞は靖男の家族構成を思い出す。ここ最近は息子の婚活も仕事に手一杯で上手く言っていない
ようだし、親としては早く孫の顔が見たい・・しかし過度に期待してしまえば余計に妨げになってしまう、親として
そこらへんが難しいところである。

「・・骨皮先生、お姉様のご職業は?」

「えっ? 俺の姉ちゃんならアストラ製紙のOLしてますよ、何でも取引先で気になる人が出来たとか言ってるんで息子さんとお見合いさせても即座に蹴ると思いますよ」

(そういえば前に潤君がアストラ製紙に営業に出た時にやたら綺麗なOLさんの話してたっけね・・ってそういえば見せてもらった名刺の苗字って確か骨皮だったわね、でも同性だけって可能性も捨てきれないわ・・)

実のところ息子の潤もこれまでに彼女と言う存在がいたのだが、どれも霞が原因で泣く泣く別れてしまっている
といった結構悲惨な人生を送っている。それに霞も息子がやたら話していたOLの名前が靖男と同性なのは
よく覚えている、あくまでも仮説なのだが、もしかしたら息子は靖男の姉に一目惚れしているという事になる。

「校長先生、用事が無ければ俺も失礼したいんですけど・・」

「ねぇ、骨皮先生。・・お姉様の下の名前って何て言うの?」

あくまでも偶然と霞も信じたいのだが、靖男はめんどくさそうな表情で自分の姉の名前を答える。

「舞ですよ。骨皮 舞・・2文字じゃなくて1文字の方の舞です。それが姉ちゃんの本名ですけど、それがどうしたんです?」

(嘘・・潤君が話してたOLさんってやっぱり骨皮先生のお姉さん!!!!)

記憶が符合して偶然が一致してしまった事で霞は思わず天井を見つめる・・しかし霞の仮説はあくまでも息子を
溺愛している上で成り立っているものであって息子本人の意思とは全く関係ない。

「どうしたんですか?」

「この際はやむを得ないわね。・・骨皮先生、もし上手い事行けば今回の始末書は撤回してあげて良いわよ」

「なっ・・何ですと――!!!」

ただえさえ提出期限ギリギリの書類で埋まっている靖男にとって始末書が撤回されるのは非常に嬉しい提案である。

「もし先生のお姉様と家の潤君のお見合いが上手くいったらの話だけど・・」

「やります!! 校長先生、任せてください。姉ちゃんには俺から話をさせておきますんで場所はお願いします!!!」

躊躇無く姉を捧げ出す靖男に霞も思わず引いてしまう、よっぽど彼にとって始末書は嫌なものなのだろう。

「わ、わかったわ・・とりあえず骨皮先生の進行次第でこっちも動くわ」

「そんじゃ俺は失礼します」

霞の元を去った靖男はそのまま携帯を取り出すと実の姉に今回の真相を隠しながら電話をする。

「あっ、姉ちゃん! 前に姉ちゃんが言っていた気になる人がさ、実は俺の校長の息子だったんだよ。
んで向こうがお見合いしてほしいって・・おおっ、行くか!! んじゃ俺が話しておくから場所は改めて連絡する。んじゃな!!」

こうして真実をかなり捏造して姉からのお見合いを取り付けた靖男は安堵しながら書類を片付けて行くのであった。

336 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:03:55.65 ID:tVnmUvHZo
一方、こちらの2人はやりきれない表情で今回の自体を振りかえる。
そもそも今回起きたAV騒動に関しては翔と辰哉は完全なる被害者であり、一番割を食った悲惨な人物といえよう。

「はぁ・・当分は人間不信になりそうだ。辰哉以外は誰も信じたくない」

「俺も同意見ですよ、復讐心に身を任せた自分が憎いです・・」

前回の藤堂と聖とは違ってこちらはある程度の感情を押し殺しながら黙々と科せられた奉仕活動を続けていた
ので何ら問題は発生せず平和的に終える事が出来た、それに霞の取り成しによって本来ならば提出が必要な
反省文が撤回されたのはありがたいことだろう。

ちなみに今回の事態を流石に惨いと思ったのか礼子の手回しによって聖と狼子の誤解はちゃんととけており、信頼が保てたのも幸運といったところだろうか?

「ま、救いなのはあいつが真実知ってくれた事かな」

「礼子先生には感謝ですよ」

「そうだな。・・辰哉、この後暇か? 帰りに飯でも食おうぜ」

「はい、お供します」

それぞれの教室に戻っていく2人の足取りは心なしか重い、当分は傷が癒えるまで男同士での飯が主流となるのは間違いはないだろう。

「そういや前に1年で転校生が入ったみたいだな。しかもかなりの金持ちらしいな」

「ええ、リムジンで登校なんてビックリしましたよ。あんなの想像上の産物だとしか思ってなかったんで・・」

どうやら初日の栄太の登校は学園内の生徒の心を掴むには充分だったようだ、しかも有名な金持ち男子校から
転校したとなればいやでも注目されるのは間違いない。

「先輩の所だってお金持ちだと思いますけど・・誕生日プレゼントにマンション借り上げるぐらいですし」

「おいおい。あれは俺が無理言って借りてくれたもんだ、光熱費は自分で賄ってるし、成績が一瞬でも落ちたら解約させられるからな・・」

「ま、俺も利用させて貰っている身なんでありがたいんですけどね」

「現金な奴め。今日は憂さ晴らしするぞ!!!」

「はい!!!」

どうやら転校生の存在など彼等にとったら興味外のようである。
337 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:05:44.95 ID:tVnmUvHZo
放課後

栄太はそのまま芹沢を呼び出して車に乗り込むと車はそのまま忠雄の学校へと向かう、それに芹沢も
運転しながらバックミラー越しでご機嫌な栄太の姿に心なしか頬を緩ませる。

「随分とご機嫌ですね、栄太様」

「あ、ああ・・ちょっと学校でいい事があったんでね」

既に栄太は楓とのデートで頭が一杯だ、すでに脳内ではあらゆる想定に対するシュミレートが行われているぐらい。

(今度の日曜か・・楓さん、どんな姿で来てくれるのだろう)

仮想敵である隆二の存在は楓とのデートを取り付けた今の栄太にとってもはや敵ではない、あれから周囲の
情報によると隆二と楓の今の関係はただの同僚だというらしいのでこれを機に思いっきり隆二とは差をつけたい。

(僕の服はどうするか・・一応余所行きの服はあるにはあるけど、だけど楓さんと親しくなるためにもいっそのこと着物で)

「・・よっ、ご機嫌だな兄貴」

「忠雄!! ・・そうか、お前の学校に着いたんだな」

「そいうこと。それじゃ芹沢さん、家まで頼むわ」

「畏まりました」

そのまま忠雄が乗り込んだのを確認した芹沢は長年手馴れた運転で2人を自宅まで送っていく、そのまま忠雄は
懐からタバコを取り出すとそのまま一服する。

「ふぅ〜、授業が終わった後はタバコに限る」

「・・自宅ではいいが外では自重しておけ、それにこの車は要人も出迎えるのに使うしな」

「全く、常識的だな兄貴は」

そのままタバコを吸いながら忠雄はニヤニヤしながら栄太を見つめ続ける、いつもなら気持ち悪くて顔をしかめて
しまうのだが周囲が見えないほどのご機嫌な彼にしてみれば関係ないようだ、それに忠雄もこんなに機嫌の良い
兄を見るのはかなり久しぶりだ。

「今日の兄貴は気持ち悪いぐらいに機嫌が良いな。何かあったのか?」

「忠雄・・上手く行けば俺は童貞を捨てられるかも知れん」

栄太の発言に芹沢は僅かに眉を動かす、彼にしてみればこれで家の跡取り問題が払拭するのでまさに願ったり
叶ったりと言ったところ、忠雄も栄太の言葉とこれまでの行動に加えてその態度を見れば大体の想像は察しがつく。

「その様子だと例の娘を誘うことに成功したようだな。よかったな、上手く行けば兄貴の青臭い理論が叶うぜ」

「まだ上手く行くとは決まってない。・・僕は生まれてこの方、まともなデートなんてしたことないしな」

「我が兄貴ながら情けないな。男は出たとこ勝負!! 本来なら俺が教授しても良いんだが、兄貴のように未経験者だと却って逆効果だ。実戦で経験積むほうが効果的だよ」

タバコを吸いながら忠雄は未熟な兄をフォローする、唯一信頼できる身内であり家の後継者である栄太には頑張ってほしいと願うのが弟としての義務だと思う。

「兄貴、敵は自分に在りだ。自信をつけてくれよ・・俺の兄貴なんだからな」

「ありがとう・・」

この2人の願いが叶うことは永久になかった・・

338 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:09:43.88 ID:tVnmUvHZo
翌日

先々代のから数えて芹沢がこの黒崎家に仕えて40年以上・・その日課は崩れる事がなく、まずは家の
誰よりも早く起きて自分の準備を簡潔に済ませてるとこの家にいるメイド達使用人を一気に纏め上げる。
彼に対する信頼はかなり厚いものでそう簡単には決して揺るぐことはない、そのまま使用人達の働きを
監視しながら最初の日課である主達に朝を迎えさせる。

「忠雄様、朝でございます。お煙草は用意させてあるので何なりと申し付けてください」

「へ〜い・・」

忠雄の起床を確認すると次は母親の部屋に入ってやんわりとした口調で母親を起こしに掛かる。

「奥様、朝でございます。朝食は用意させておりますが・・」

「・・もう少し休むわ、朝食は持ってこさせて。芹沢、お昼に外出するので仕度の方を頼むわ」

「畏まりました。仕度の方はさせて起きますのでお好きな時にお申し付けください、後で朝食をお持ちいたします」

長年の経験と言うべきか、無愛想な母親の僅かな感度で判断するとそのまま部屋を後にする。
そして最後に栄太の部屋に入るとそのまま起床させるのだが、ここで彼の使用人人生に大きな転機が訪れる事となる。

「栄太様、朝でございます。朝食を用意しておりますので起きてください」

「ううっ〜・・芹沢か?」

「!? ぼ、坊ちゃま・・その声はまさか!!」

普段の栄太の声とは似ても似つかないメゾソプラノの音色、芹沢は動揺して入る自分を押し[ピーーー]と慌てて鏡を用意して栄太を強引に起床させる。

339 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:10:16.06 ID:tVnmUvHZo
「栄太様!! 申し訳ございませんがすぐに起きてください!!!!」

「何だよ、芹沢・・優しく起こ―――な、何だこの姿はァァァ!!!!!!!!!!!」

芹沢が用意した鏡に映った自分の姿を見て栄太は屋敷中に響き渡る声を発する。その声によって使用人の
仕事は止まり、忠雄は一瞬で目を覚まして咥えタバコで栄太の部屋に向かって自分の子供には干渉しない
母親も静かに声の発生した部屋へと向かう。

「せ、折角・・楓さんと約束したのに・・」

「坊ちゃま・・この芹沢、一生の不覚でございます」

忠雄と母親が栄太の部屋に集まった中で芹沢は首を少し落として薄らと流れた涙を拭くと心を鬼にして栄太に現実を突きつける。

「栄太坊ちゃま・・いや、お嬢様。これが今あなたの姿でございます」

「長い髪、ふくよかな胸、そして下半身の感覚・・」

「すぐに学校に連絡を取って休ませますゆえ、改名手続きの書類や制服もすぐに手配いたします。
忠雄様も今日は学校の方は・・」

「ああ、休むよ。後継者問題もあるしな」

「すぐに連絡しましょう」

そのまま芹沢は手配をするために部屋を出る、女の感覚に何ら抵抗なく馴染む自分の身体を栄太は恨めしく
思えてくる。忠雄もタバコを消すと思わずこう呟いてしまう・・

「あ、兄貴・・だよな?」

「・・ああ、これが今日からの僕だ」

「・・・」

母親はそのまま女体化を果たした栄太を静かに見つめ続ける、これではもう楓とのデートどころではない・・
折角自分の中に宿した恋心が小さくなるのを確認する栄太であった。

340 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:20:22.07 ID:tVnmUvHZo
数時間後、芹沢の手配によって女体化に必要な手続きは栄太の意思に反してスムーズに進む。
芹沢が陰に隠れながら親子3人が珍しく部屋に集う中、これからの栄太についての話し合いが行われたいた。

「クソッ!! こんな自体なのに親父は何してるんだよ!!!!」

「落ち着け忠雄。・・芹沢、お父様には?」

「すぐに連絡いたしました。そして旦那様は栄太様が女体化されたので家訓により忠雄様を後継者に
任命する会議でございます、今晩にはお帰りになるようですのでご安心を・・」

「そうか・・すまないが、芹沢は少し席を外してくれ」

「・・畏まりました」

いつもより一オクターブリズムを狂わせた挨拶で芹沢は席を外す。そしてタバコを吸っている忠雄に
相変わらず氷のように無表情の母親・・そして女体化を果たしたばかりの栄太の3人が一同に介していた。

「忠雄、今日からお前が黒崎家の列記とした後継者だ。・・いいな」

「チッ、それはいいが・・なんでお前は無表情なんだ!! 自分の息子が女体化したんだぞッ!!!!」

「・・」

「止めないか、忠雄!! ・・お母様、この度は本当に申し訳ありませんでした」

忠雄を強引に静止させると栄太は母親に深々と礼をする、思えば自分の意地が原因で女体化をしてしまった
のだから自業自得なのは変わりないだろう。それに悔しいが楓への想いは断ち切らねばならないだろう、未だに
存在する同性愛に対する偏見もあるが何よりも彼女をそんな好機の視線に晒したくはない。

「改名・・名前はどうするのですか?」

「そうでした。女になった以上はそれ相応の名前を考えないと・・」

「まさか兄貴から姉貴になってしまうとはな・・よしッ、後継者としての最初の仕事だ!! 今日からお前は“栄美”だ!!!」

思わぬ忠雄の行動に栄太は少しばかり苦笑してしまうが、折角自分の弟が考えてくれた名前を無下にはできない。

「おいおい、後継者になるのはまだ早いんじゃないのか・・」

「それなら弟としての仕事だ。これなら文句はないだろ!」

「全く・・でもありがとう。女体化してもお前は俺の弟だ」

ささやかな兄弟愛に栄太・・もとい栄美と忠雄はお互いに笑いあっていたのだが、母親はそんな2人などに
関心すら示さずそそくさと書類に名前を書いていく、そんな母親の姿についに忠雄は堪忍袋の緒が切れて
母親の胸座を掴む。

「おいッ!! さっきからてめぇの態度は何だ!!!!!」

「お母様に何してる忠雄!! 早く手を・・」

「姉貴は黙ってろ!! いいか!!・・親父が隠居して俺が後継者になったら真っ先にてめぇをこの家から追放してやる!!! お前はもう俺達の母親じゃねぇ、赤の他人だ!!!!」

「・・その手を離しなさい」

何とか母親は忠雄の手を離そうとするのだが男女の力の差は激しい、栄美も何とかして忠雄を止めようと
するのだが彼の勢いは留まる事を知らない。

341 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:22:16.23 ID:tVnmUvHZo
「やめろ、忠雄!!」

「姉貴はこんな事されて悔しくないのかよ!!! 他人は愚か自分の子供にすら関心を示さないこいつによォ!!」

「そ、それは・・」

栄美も悔しいけど靖男の言葉には反論できない、自分の母親が無関心なのは知っていたのだがここまで酷いとは
思って見なかったのだ。子供が女体化したのに何ら感心すら示さぬ母親・・いくら感情の表現が苦手なのにしても
限度と言うものがある、しかし母親は無表情を貫きながらも忠雄に胸座を掴まれながらゆっくりと言葉を発する。

「その手を離しなさい。・・忠雄さん」

「・・忠雄、離してやれ」

「チッ、命拾いしたな。糞女」

そのまま忠雄は母親を解放するとそのままタバコを吸い始める。今まで忠雄と母親の間では衝突が耐えなかったのだが、ここまで酷くなったのは始めてだ。

「いい機会ですのであなた達にはまだ話すことがあります。栄美さん、芹沢を呼びなさい」

「はい・・」

栄美に呼び出された芹沢に母親はある指示を出す。

「芹沢、いつもの薬とあの資料を持ってきなさい・・」

「――ッ! お二人がいらっしゃるのですぞ・・」

「構いません、すぐに持ってきなさい・・」

「・・畏まりました。すぐに持ってこさせましょう」

不可解な2人に栄美と忠雄はただただ見守るばかり、そして数分後、芹沢は錠剤とある医療カルテを2人の前に
差し出す・・カルテを見て困惑する2人に母親はそのまま薬を飲むと無表情ながら淡々とした口調で話し始める。

「さて、医療カルテだと判らないと思いますのであなた方には今の私が患っているある“病気”についてお話します」

「お、お母様が患っている・・」

「病気・・だと・・」

2人はそれぞれの記憶を引っ張り出して母親について思い出す、実のところ母親は忠雄が中学になるまでは
病院生活であったのだが芹沢からは一種の栄養失調だと伺っている、度々病室に顔を出していた2人は
病室の独特な雰囲気が手伝ってか無表情で感情を表さない母親を不気味に思ったのはよく覚えている。

342 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:22:56.61 ID:tVnmUvHZo
「そういえばあんたは俺が中学の頃までは病院生活だったな」

「確かに忠雄が産まれてから中学に上がるまでお母様は病院生活だったのは覚えております。
ですが、それと何か関係が?」

「・・実は私は不器用な性格なのですが、今ほど感情をコントロールすることは出来てたんですよ。
ですが、忠雄さんが産まれてから数週間後・・私にある病気が襲いかかりました」

「「・・・」」

そのまま母親は用意されてた紅茶を啜ると再び話を続ける。

「病名はカルテを見てください。多少割合はしますが・・今の私の脳にはある巨大な腫瘍あってそれが特に感情を司る器官を大きく圧迫してるんですよ。

最初は腫瘍だけだったんで当時では最新薬だった薬のお陰で何とか腫瘍は進行を遅く出来たんですけど・・副作用で多少の精神障害を負いましてね」

「何言ってるんだ!! 訳がわかんねぇよ!!!」

「もっと簡単に言うと今の私は泣きたい時に泣けないし、怒る時も怒れない、喜びたい時に喜べない・・人が必ず持っている“感情”を失ったんですよ」

「なッ――・・」

「感情を失った・・」

母親の衝撃の告白に2人は思わず言葉を失い、カルテに視線を写す。更に母親は話を進める・・

「さっき私が飲んだのは脳の腫瘍を抑える薬です、手術での摘出は不可能なので今の医療ではこれが限界なのです。
それに副作用の精神障害で感情は更に抑制されて・・今では喜怒哀楽の表現は愚か周囲とのコミュニケーションすらままなりません、それに最近は腫瘍も大きくなってか視力も落ち気味です」

「それじゃ、お母様は・・」

「・・今でも圧迫し続けてる腫瘍による脳死を待つだけか」

「正解です、今までの病院生活は入院というより実験としての意味合いが合ったともいます。
・・そして私はあの人のお陰で病院を退院できた後はあなた達との接触を一切絶った、感情がない私では母親になるなど到底無理ですからね。

そしてあなた達を含む周囲の接触を完全に絶った私は時が経つにつれて不器用な性格が更に不器用になり、精神障害が進行して声色も一切変えられずに無機質になって今に至ります。


唯一心に残った感情といえばいつ死ぬかもしれないという恐怖心だけですよ・・顔には一切出ませんけどね」

自分達が持っている感情すら周囲に出せずに残っているのは恐怖だけ、その苦しみは母親でなければ
わからないものだろう。そう考えると今回の栄美の女体化など論外にも程がある、2人はこれまで無表情の
母に何とも言えない複雑な感情を抱くほかなかった。

343 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:23:31.33 ID:tVnmUvHZo
「さて今度はこれからの私の余命についてですが・・こればかりはわかりません。
極端な話、明日死ぬかもしれない身ですから・・唯一私が周囲とコミュニケーションできる手段といえば行動ぐらいなものでしょう。

でも感情がないから余計に勘違いされるんですけどね・・今の私は言うならば人の形をしたプログラミングされたロボットです」

「お母様は感情を表せないんじゃなくて・・もはや自分の意思で表すことが出来ない――」

「だから今までの不可解な態度は・・クソッ!! 何でそんな大事なことを今まで黙ってたんだ―――!!!!!」

忠雄は思いっきり机を叩きながら今まで母と接してきた自分に後悔する、しかし母親はそんな忠雄を決して責めたりはしない。

「自分を責めないで下さい。こんな話、一般的に考えても病気として捉えるほうに無理があるでしょう。
・・さて栄美さん、今回の女体化は残念ですが貴女は私と違って人としては生きることはできます」

「お母様・・」

「今、私が母親として唯一言えることは後悔せずに人らしく生きて天寿を全うしてください。
・・では、ちょっと体調が優れないのでこれで失礼します。芹沢はこれから栄美さんと役所に向かいなさい」

「畏まりました」

そのまま母親はその場から立ち去り、芹沢も準備のために部屋を後にする。
残された2人は呆然とその場に立ちすくんでしまうが、忠雄はタバコを吸いながら栄美にポツリと語り出す。

「なぁ、あいつは・・俺達に関心がなかったんじゃなかったんだな。
俺は今までの自分の幼稚さに笑ってしまうよ、実の母親に対してあんなことして・・」

「忠雄、さっきお母様も言ってたろ自分を責めるな。それに僕にはまだやる事がある、女体化した僕は後継者の資格は失われるが後継者になるお前をサポートすることだ」

「姉貴・・」

「これぐらいの事しか出来ないけど僕が嫁に行くまでにちゃんと後継者になってくれ。・・わかったな」

「はいはい・・それはいいけど姉貴も自分の気持ちにケジメはつけておけよ」

「・・わかってるさ」

少しばかりの決意を固めた栄美は自分の気持ちに蹴りをつける。

344 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:25:30.73 ID:tVnmUvHZo
役所で手続きを済ませた栄美は芹沢の運転の元で帰宅の途につくのだが、ここで芹沢にある指示をする。

「芹沢・・ちょっとある旅館へ向かってくれ」

「畏まりました」

そのまま芹沢の運転する車はとある場所へと向かう、車が着いた場所は森野旅館・・栄美はそのまま車を止めるとドアを開けて車から降りる。

「ここで待っていてくれ・・時間は取らせない」

「仰せのままに・・」

栄美は旅館の中に入って行くと早速目当ての人物を見つけて声をかける、この自分の気持ちに踏ん切りをつけるために・・

「森野さん。ちょっといいかな?」

「あら? どうして私の名を・・それに貴女は一体――?」

戸惑ってしまう楓に栄美はそのまま一呼吸置くといつもの口調で改めて自己紹介をしながら改めて対峙する。

「この姿では初めましてだね。・・僕だよ、黒崎 栄太。女体化して今日は学校を休んだんだ」

「まぁ・・どういったご用件でしょうか?」

「ごめん、今度の映画・・行けれなくなっちゃった。そして君に抱いた想いもこれでパァだ」

女体化してからも今まで楓に抱き続けてた想いがないと言えば嘘となる、しかしもう自分は列記とした女性だ・・
自分の気持ちに整理をつけて男としての未練をここで断ち切らなければならない、そしてそのためにはこの気持ちを直接楓にぶつけて後腐れのないように清算していく・・

突然の栄美の告白で2人の間には静寂が流れる、栄美にとって長い長い沈黙の時間が続くのだが・・当の楓はというと少しだけ戸惑いの表情を見せながらも微笑しながらこの沈黙を断ち切る。

「私も小学校の頃に女体化して女性になって早数年・・黒崎君が私にどのような想いを抱かれたのかは残念ながらよく解りませんけど、私は今までの黒崎君のことは良い異性のお友達として見ておりました」

「・・えっ? 森野さん、僕は一応あなたへの想いを」

「ですから、黒崎君が女体化した今も私の立派なお友達です。日曜日の映画楽しみにしていますね、では私はお仕事があるのでこれで・・」

そのまま仕事に戻る楓を尻目に栄美は思わず石化してしまう、栄美にしてみればここまで勇気を振り絞って
楓に自分の想いを告白したものの・・返ってきた返答はありきたりの返事で天真爛漫の笑顔のオマケ付きだ。

といっても楓にしてみれば栄太へ抱いていた感情は気の良い異性の友達に過ぎず、女体化してからも持ち前の
天然な性格が手伝ってか楓はその手のことに非常に鈍感なので当然と言えば当然の結果だろう、それに栄美も
楓を映画に誘うまでは大したアクションすら起こしておらず八方美人から出る日常会話の数々だったので楓が
そう思うのも無理はない。

(楓さんにとって僕は普通のどこにでもいる男子と同じだったってことか・・君はある意味強いよ)

恋に破れた失念の中で栄美は重い足取りでその場を去る、それ以降の栄美は楓との恋は実らなかったものの女同士の友情が実るのだがそれが語られるのは別の機会となるだろう。


345 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:26:21.88 ID:tVnmUvHZo
おまけ

今回出番が少なかった聖と狼子であるが彼女達は学校が終わると彼女達も学校が終わると気分転換にゲーセンにやって来ており、聖が総なめで全てのゲームの最高記録を叩き出しながら楽しんでいた。

「へっ! 楽勝楽勝!!」

「凄いです、聖さん。相変わらずゲーム上手いですね」

「まぁな、たまに負けてイチャモンつけてくる野郎達がいるがそんときは全部まとめて叩きのめせばいいしな!!!」

そんなリアルファイト前提でゲームを楽しむ聖と狼子、こんな2人の美少女が殆どのゲームの記録を総なめにしているのだから嫌でも目立つ。

「よしっ! 今度はUFOキャッチャーだ、狼子好きなもの取ってやるぜ」

「それじゃ・・あの人形お願いします!!」

「任せな!」

そのまま聖はコインを入れるとあらゆるボタンを駆使しながらものの見事で狼子が欲しがっていた人形をゲットする。これが男女のカップルならば見せ場の一つではあるが残念ながら女同士であるのでそういった展開はない、そのまま次々と狼子のリクエストに応えながら次々と商品をゲットしていく聖であったが流石に量が多くなりすぎて荷物が嵩張ってしまって残念ながらここで終了。

「ちょっと取り過ぎたな」

「アハハ・・ま、余ったら辰哉に回しますよ。それよりも聖さん、前に転校生が来たんですけど知ってますか?」

「ああ、知ってるよ。馬鹿でかいリムジンで登校したらしいな」

ここでも彼女達の話題は栄太が転校した話となり話が連鎖して花が咲く。

「それですごいお金持ちだって言いますね、確かあの御曹司が揃っている男子校から転校してきたとか・・」

「ああ、あの学校な。気をつけろよ、あの学校の野郎はしつこいからな。前に俺に絡んだ奴がいたが、返り討ちにしたんだぜ」

「聖さんらしいですね。・・で、辰哉達の事なんですけど」

ここで狼子は話題を切り替えて辰哉達の話を始める、あれから2人は礼子から靖男のAV騒動の真相を聞いたもののあまりにも惨すぎる内容に同情したぐらいだ。

「ま、あいつらもこれに懲りたら反省するだろ。狼子もポンコツ教師には甘い顔しちゃダメだぞ、女は隙みせたら野郎ってのはつけあがるからな」

「はい。あっ、次はどこにいきます・・?」

こんな感じで彼女達は彼女達で楽しんでいた。

346 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/13(日) 23:28:03.14 ID:tVnmUvHZo
おまけ2

栄美の衝撃告白と同時刻、こちらも藤堂邸にてお見合いが開かれており両者は緊張しながらも藤堂母による
手馴れた仕切りによって今は当人同士での話の真っ最中だ。用意された控え室では両者の動きは対照的で
霞はやきもきとしながら2人の様子が気になって仕方がないのに対して靖男は手持ちのゲームでのんびりと
civをしながら過ごしていた。

「はぁ〜・・何度もお見合いしてるけどこの瞬間が一番緊張するわ。潤君大丈夫かな〜・・」

「校長先生、なんでここがお見合い会場になったんですか?」

「藤堂さんのお母様にお見合いの話したら乗る気満々だったのよ。それにこういった場にも手馴れている様子だったしね・・」

「へー・・よし、外交勝利達成!!」

「・・私はこういった場で堂々とゲームしてるあなたが羨ましいわ」

しばらくして当人の部屋から笑い声が響いてくる、どうやら順調に上手くいっているようだ。霞は一喜一憂しながら
お見合いを行方を見守る中で靖男は肝心の条件を改めて霞に確認する。

「それより校長先生、約束通りお見合いさせたんですから始末書は撤回ですよね?」

「上手くいったらの話よ。お姉様はしっかりしてそうなのに弟のあなたはね・・」

「校長先生、それは反則って奴です。それに姉ちゃんはああ見えても料理は壊滅的にダメですよ、親も匙を投げてます」

「嘘・・もし嫁いだら私が花嫁修業しなきゃいけないの! 潤君ああ見えても私の料理しか食べれないから困るわ〜・・でも過度な干渉は嫁姑問題に繋がるから考えないと!!」

「あの〜、校長先生・・」

既に嫁いでくる前提で考えている霞にさすがの靖男も少しばかり唖然としてしまう、肝心の姉も最初は弟である
自分にグチグチ言っていたものの校長の息子を見た時から何か思うことがあったのか自分そっちのけで話を
盛り上げようとしていたので今後の展開は靖男にも想像はつかない。

そんな控え室に藤堂母がお茶と食事を持ってやってくる、霞はそのまま慌てて自分の姿勢と靖男を強制的に
姿勢正しくさせると長年培ってきた礼儀作法を発揮する。

「先生方のお食事でございます。3丁目の“気風寿司”のお寿司です、お待ちの間にご賞味ください」

(気風寿司といえばべらぼうに高くて有名な老舗寿司屋・・お見合い万歳!!! 姉ちゃんに感謝する日が来るなんて・・痛ッ! 校長先生、抓らないで下さい!!)

「(あなたは少し大人しくしてなさい!!!)申し訳ございません、藤堂さん。身内同士とはいえ、愚息のお見合いにご協力してもらった上にこんなお寿司まで・・白羽根高校を代表として改めてお礼申し上げます」

「いえいえ、お見合いなんて久々ですからね。私も年甲斐もなくはしゃいでしまいました、それに当人同士が盛り上がってもらえて何よりです。それでは理事長にもよろしくお伝えください」

「オホホホ、改めてお礼申し上げますわ。理事長にも私からお伝えいたします」

そのまま藤堂母は控え室から立ち去ると霞は一息つきてお寿司を食べながらこのお見合いの様子を靖男と一緒に予想してた。

「はぁ〜、大丈夫かしらね。・・しかし骨皮先生はこんな状況なのによく堂々とお寿司なんて食べられるわね、お姉様が心配じゃないの?」

「姉ちゃんなら大丈夫じゃないんですか? そんなことより上手く言ったら本当にお願いしますよ」

「わかったわから、黙ってお寿司でも食べてなさい・・」

霞は盛大な溜息を吐くとお見合いの様子をただ見守る。そしてこのお見合いから数ヵ月後、上手く言ったのかはわからないが息子の潤は無事に結婚を果たすのだが、披露宴の場に靖男がいたのは定かではない・・



fin
347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/13(日) 23:34:36.40 ID:tVnmUvHZo
終了です。NGの部分はころすです、見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwwwwwwwwwww
いや、既存キャラをリメイクすのも面倒だぜ。そういえば今更学校名出したけど気にしないんだZE

Q:母親って結局どんな症状なの?
A:ぶっちゃけて言うなら。自分の意思表示が全くできず、いつ死ぬかおかしくないとうご都合で作った病ですwwwwwwwwwwww

Q:メインキャラの出番少なくね?
A:いや・・ちゃんとあるよ!! ちょっとだけだけど、見苦しい表現だけど・・

Q:次はどんなのかな
A:き、きっと楽しいに仕上がるでしょう。(ネタ切れが近いなんて言えない・・)


では、狼子の人に感謝とお詫びを申し上げながら次の作品書くか・・
348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/14(月) 02:01:17.18 ID:yyTkryABo
乙等wwwwwwwwwwwwwwwwww
349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/14(月) 07:22:58.13 ID:q+rPfXYAO
みんなにwwktk
350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/14(月) 14:10:46.23 ID:eR12prfl0
乙です!

>>325
すばらしいとおもいます。
351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/14(月) 21:27:21.03 ID:q+rPfXYAO
投下きたれ
352 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/14(月) 21:51:02.01 ID:dqnnfs8P0
>>325
続きはどこだ
353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/15(火) 00:06:11.80 ID:ukszeLa8o
>>325
幼女・・勿論、成長するスキルはあるんですよね!!
354 :以下、名無しにかわりまして ジョン がお送りします[sage]:2011/11/15(火) 17:26:30.71 ID:8UwtkL9v0
>>353
成長して普通の人と同じように死んでいくけどケースがほとんどだけど
永遠に幼女化して人の世から外れちゃった魔法幼女もいるよ^^
355 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/15(火) 18:28:16.43 ID:PePdG3SAO
投下ないかな
356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/15(火) 23:06:01.64 ID:ukszeLa8o
執筆中・・現在の制作率10%
ボスケテ
357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/16(水) 01:41:31.05 ID:LBRQ7+jMo
決して走らず 急いで歩いてきて そして早く僕らを 助けて
OK!忍!
358 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(西日本)2011/11/16(水) 02:53:45.47 ID:DFTwgmtRo
>>357
断空砲フォーメーションだ!
(´・ω・`)安価貰ったのに全然書けてません…すみません
359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/16(水) 03:07:21.78 ID:ADNBf/d7o
>>358
モチベーション上がらなくて書けないんだ
人が少ないから他の作者さんの作品も見たいんだ
360 :以下、名無しにかわりまして いとう のぶえ がお送りします[sage]:2011/11/16(水) 14:32:56.37 ID:xToOQD1T0
安価を忠実に作品化出来ないあたちはどうすればいいのか
能力のNASAにSHITッッ!

↓安価
361 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/16(水) 14:39:15.22 ID:gcZ0WJ4h0
ブラックコーヒー
362 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:26:52.95 ID:LMUEhXln0
こんばんわ。
今回はほんのちょこっとだけエロありです。
363 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:30:04.03 ID:LMUEhXln0
朝起きて、顔を洗って歯を磨き、飯を喰らう。
いつもと同じなのはここまで。

すっかり変わった髪型は、寝癖を直すのに一苦労だ。
四苦八苦しながら初めて一人で女子用の制服を着てみたが、おかしいところは…無いよな?
履き慣れないスカートがどうにも心地悪い。
そんなに短くしていないが、一応ハーフパンツは履いておこう。
さて、そろそろ涼二が来る頃だ。

家から出る準備をしていると、母さんと親父が見送りにやってきた。

「おう、初日が肝心だからな。ナメられねぇようにビッと決めてこい」

謎の激励を受けた。

「そう言う母さんは女体化して初登校の時、ずーっと僕の後ろに隠れてたけどね」
「てめえええーッ!」
「また朝から痴話喧嘩かよ…まぁ良いや、行ってくる」

…最近思うんだが、親父って案外Sなのか?

家の前では、既に涼二が待っていた。

「よう。現役JKのお出ましだ、頭が高ぇーぞコラ」
「頭が高ぇって、お前が縮み過ぎてんだろうがああッ!マジで秋代さんと同じくらいじゃんか!!」
「…145cmになってた。今だに認めたくねぇ」
「ほー145cmか。だとすると、ブラのサイズはいくつになるんだ?」
「G65…っておい!何さりげなく言わせてんだよ!!『だとすると…』って全然繋がってねえええしッ!」
「我ながら見事な誘導尋問だったな。しかしGカップねぇ?そんなにあるか?
 確かに巨乳だと思うけど、Gって言ったらもーっとバインバインだろ。女になったばかりでサバ読むとか大したもんだな」
「Gカップでもアンダーが無いと爆乳にはならないんですぅー。これだから童貞は手に負えねぇ」
「お前も一昨日まで童貞だったから今現在このザマなんですけどね!?」

ドヤ顔で昨日の店員さんに教えてもらった事を話す。
364 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:34:16.08 ID:LMUEhXln0
「へぇー、不思議なもんだ。となると、女の言う何カップとかってのはアテにならねぇんだな。ふむふむ」
「まぁ俺もまだよく分かってねぇけど。これで身長さえあれば、俺もバランスの良い隠れ巨乳になれるっぽいんだが」
「確かに身長からすると目立つよなぁ。身長は…まぁ秋代さんがアレだし。諦めろよ。な?」
「哀れみに満ち溢れた目で俺を見るんじゃねーよ!!このっ!」

頭をひっぱたいてやりたいが、絶望的にリーチが足りない。
逆に頭をポンポンされる始末だ。
涼二は男の頃の俺と同じくらいの身長のはずだが…こんなにデカいもんなのか。

「こやつめハハハ」
「やめろォーッ!」

そんな事をしているうちに、もう校門に着いてしまった。
覚悟はしていたものの、脚がすくむ。
…行きたくねぇ。

「そんなに身構えんなよ。最初は大変だろうけど、武井も小澤も、今はすっかり馴染んでるだろ」
「チッ、分かってるよ…」

涼二に背中を押され、渋々並んで歩き出す。
こちらの微妙な心境を察知する辺りは、流石に幼馴染みだ。

武井と小澤というのは、俺より先に女体化したクラスメイトである。

第一号は武井奈緒。旧名は直哉で、直哉=なおや→なお→奈緒と、女体化した人間にはありがちな改名パターンだ。
運動も勉強もトップクラス、派手なボケやツッコミは無いが決してノリが悪い訳でもない、出○杉君のようなチート野郎だった。
ネックだったのは恐らく、所謂ガリ勉君のようなビジュアルだろう。
本人はあえてそれをネタにしていた感があるが、そこだけは女子受けが悪かった。
勿体無いヤツめ。顔自体はそんなに悪くなかったと思うのだが…。
今ではすっかり、文武両道で黒ぶち眼鏡の似合う美少女が板についたと言ったところか。

第二号は小澤梓。旧名は誠。そのままか、せいぜい漢字を変える程度で通用しそうな名前だが、本人が希望したようで改名している。
元々はオタクグループに属しており、その中でも大人しい部類だった。
ただそれ故に、「梓」という名前に改名した際には、某ギター少女の名前を使ったのでは?との疑惑も浮上している。
…コイツはむしろ、女になりたがっていたフシがある。女体化して以来、可愛い小物集めや化粧を覚えるのが異常に早かったのだ。
クラスの女子とも積極的に絡むようになり、かなり性格が変わったように思う。
高校デビューみたいな感じと言えば分かりやすいが、別に嫌な奴ではないので、頼りになるだろう。
ちなみに先述のオタクグループとの交流も現在は保っており、紅一点として崇められている。
365 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:39:17.89 ID:LMUEhXln0
「武井と小澤には、世話になるかもな」
「そうしろそうしろ。一人で悩んでも、ろくな事にならねぇぞ」
「へいへい。あー俺、職員室寄ってくから。先に行っててくれ」
「了解ーっと」

昇降口で涼二と別れ、職員室へ向かう。
一人は心細い。平常心、平常心…明鏡止水だ。
取り敢えず目立ってはいない。大丈夫、これなら何とか…。
げっ、あれ藤本じゃないか。ヤバい、こっち見てるぞ!?

想い人との突然のエンカウントに、明鏡止水の心はあっさりと打ち砕かれた。
狼狽する俺を、藤本は大きく見開いた目でガン見しながら競歩で近寄ってくる。
速ッ!怖ッ!

「西田君!?だよねっ!?」

がっしりと両肩を掴まれてしまった。
…あーあ、完全に詰みだ。

「…あー。その、なんだ。おはよう藤本、よく分かったな?」
「分かるよぉーっ!面影あるもん!ていうか、ちょ、可愛くない!?にゃんこみたい!にゃんにゃんお!にゃんにゃんお!」

妙に興奮した藤本にぎゅーっと抱き締められる。
おい、身長差で、乳が、乳が顔面に…ッ!

今の自分にも付いてる物体だが、他人の、それも藤本の物となると格別だ。
何故男の時にこれをやってくれなかったんだ…ッ!

「お、おい落ち着けッ、苦しっ…!やめ…るかどうかは、お前に任せる…」

おい、何を言っているんだ俺は。

「あ、ごめんごめん。取り乱しちゃったよ。いやー、しっかしホント可愛くなっちゃって!髪型もよく似合ってるよ?」
「母親そっくりになっちまった。まぁ、これからは女同士だからな。色々と宜しく頼むわ」
「こちらこそ!同性だしね、西田君ともっと仲良くなれそう!嬉しいなぁ!」
「さて、俺は職員室寄るからさ。また後でな」
「はいはーい!それじゃっ!」

相変わらず藤本は元気ハツラツだな。眩しいくらいだ。
抱き付かれた時に鼻についた匂い、香水の類では無いと思うが。
もっと清潔な…洗剤の匂いか?それが、妙に名残惜しい。

しかし、同性だからもっと仲良くなれる、か…。
覚悟はしていたが、やっぱり引き摺ってるんだな。複雑な気分になってしまう。

いや、前向きに考えよう。今後の関係を考えれば、喜ばしい事じゃないか。
幸先が良い、と言っても良いだろう。
366 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:42:04.52 ID:LMUEhXln0
「武井、小澤に続き3人目か。西田、君はもっと遊んでる方だと思ったのだけど」

職員室から担任(28歳天然♀・既婚)に連れられて教室へ移動している最中に、そんな事を言われる。

「…なんでそう思うんです?」
「だってほら、藤本とは仲が良いじゃないか。てっきり変な棒を出したり入れたりする遊びをしてるのかと思ってね」
「こらァァッ!教育者にあるまじき発言だなオイ!逆セクハラで訴えるぞ!」
「はっはっは。『威勢』は良いが、『異性』はダメってね。こりゃ傑作だ。そうやって保守的でいるから女体化してしまったんだろう。
 それに逆セクハラって、今は同性じゃないか。んー?」
「寒ぃーんだよクソ教師がッ!悔しいのう!悔しいのう!」

この担任は本当に掴み所が無い。
悪い人じゃないし、教師としても有能なのだが、いかんせん会話のペースを握られてしまう。

「まぁこれでも教師であり、女でもあり、一児の母でもあるんだ。何かあれば頼ってくれて構わないよ?」
「はぁ…せいぜい期待しておきますよ」

調子狂うんだよな…。

「さぁ、いよいよ懐かしの教室だぞ。覚悟は良いかい?」
「…はい」

担任の後ろへ続いて一歩、教室へ。
その瞬間、半端じゃないどよめきが巻き起こる。

『うおおおッ!西田がロリ巨乳になって帰ってきたぞぉー!』
『スカートが中途半端な長さなのが初々しくて良い!』
『小っこい!けど乳はでけぇ!』
『なでなでしたい!むしろペロペロしたいッ!』
『ちょっと男子うーるーさーいーっ!でも可愛いーっ!』
『ほんと、私も男に生まれて女体化したかったなー!』

…エトセトラ、エトセトラ。

「あー静かに静かに。まぁ分かってると思うけど、この小っこいのが西田だね。それじゃ、本人から一言どうぞ」
「…えー、西田忍です。名前は変わってないっす。取り敢えず、小っこいって言うなああッ!…っつー訳で、どうぞ宜しく…」

興奮冷めやらぬクラスメイトの間を縫って、自分の席へ座る。

「よぉ、大人気だな。武井と小澤の時より凄い気がするぞ」
「…もう疲れた。帰りてぇ」
「まだ一時限目も始まってないだろ。まぁ今から休み時間の度に質問攻めは免れねぇだろうけど」
「西田忍は静かに暮らしたいッ!」

後ろの席の涼二と一言二言、言葉を交わす。
確かに、まだ一日は始まったばかりだ。
367 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:44:08.22 ID:LMUEhXln0
休み時間の度に揉みくちゃにされ、授業中の方が心身ともに休まるとはこれ如何に。

今は昼休みの最中だ。
この身体で購買の争奪戦へ果敢に挑んでみたものの、勝ち抜くのは到底無理だった。
圧倒的にパワー負けしてしまうのだ。
一緒に行った涼二が、人の波に飲み込まれてしまう俺を見るに見兼ねて、俺の分も買ってきてくれる事になった。

「ほれ。カレーパンと、あとは適当で良いんだったな?コロッケパンにしといたけど」
「済まねぇ涼二、明日からも頼む…」
「1人分も2人分も買う手間は大して変わらんからな。別に構わねぇよ」

何だよコイツ、優しいじゃないか。
とは言え、タダで毎日パシリにするのも申し訳無いな。親しき仲にも礼儀あり、だ。
今の俺に何かしてやれる事はあるだろうか?
そこでふと、夕べのメールを思い出す。

『なにそれこわい。まぁ元気そうでなによりだwwwwんじゃまた明日な!あ、ツレなんだから乳くらい揉ませてくれるよな?(チラッチラッ)』

…乳か。
自分で触ってもどうと言う事は無かったのだ。
俺が男であろうと女であろうと、乳に限らず自分の身体を野郎にベタベタ触られるのは嫌だが…。
1回くらいなら、我慢してやっても良い。

「今後の事もあるからな、礼はさせてもらうわ」
「ん?まぁそう言うなら、期待しとくぜ」

どうせなら早く済ませたい。
今日コイツが暇なら…帰りに家に寄らせるとするか。

そんな事を思案しながら、教室へ戻った。
368 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:48:58.04 ID:LMUEhXln0
「西田も僕らの仲間入りか、何だか意外だね」
「そーそー、まさか西田君が女体化するとは思わなかったよ。分からない事とかあれば私達に聞いてくれれば良いからね?」
「もう、また椅子に片膝立てて!…でも小さなお口でカレーパンをちびちび齧ってる西田君が可愛すぎて、生きるのが辛いっ!」
「どーも先輩方、お手柔らかに。あと藤本はキャラおかしくね?」

カレーパンを食っていると、武井と小澤、藤本、他数名がやってきた。
こいつらは弁当組だ。俺と涼二が購買で苦戦している間に、飯を食い終わったのだろう。
一人称が「僕」なのが武井、「私」なのが小澤だ。
女体化的に言えば、この二人が俺の先輩にあたる。

「アンタ童貞だったんだ?男の時は妙に話し掛け辛かったからね、これからは覚悟しときなさい?存分に可愛がってあげるから!」
「うぐッ…天然女性に『童貞』と言われるのはキツいッ…!死にたい!いっそ死んでしまいたいッ!」
「ちょ、ちょっと西田!そんな頭を机に激しく打ちつける程の事なの!?やめなさいよ!」

これは植村玲美。天然女性だが、高校生とは思えないプロポーションで、めちゃくちゃスタイルが良い。
顔もモデルのような雰囲気で、かなりモテると聞いた事があるが…まぁ当然だろう。
植村は女子グループの中心的存在で、サバサバとした性格で人望がある。藤本とも仲が良い。

「…何かさぁ、涼二よ。世の中不公平だと思わないか?」
「あん?なんで?」
「藤本や植村はまだ良い、天然モノだしな。納得いかねぇのは武井と小澤だ」

名前を呼ばれた4人は、揃ってきょとんとしている。

「何で俺だけがちんちくりんなんだよ!武井も小澤も160cm以上あるのにッ!俺なんて145cmだぞ!?」
「あー、僕も小澤も、元の身長から10cmも縮まなかったからね。西田は…うん、お悔やみ申し上げようか」
「私はいっそ、そのくらいの身長になりたかったよー。羨ましいくらいだもん。それにおっぱい大きいよね?」
「お悔やみも乳もいらねぇから身長が欲しいんだよォォッ!」
「ちょっと西田、二人の間に立ってみなさいよ」
「あぁ?まぁ良いけど…」

植村に言われた通り、二人の間に立ってみる。
武井と小澤は何やら悟ったのか、俺の腕を片方ずつ持ち上げた。
おい、これはアレか。チビをいじる時の定番ネタか。そうなんだろ?

「ぷっ…くくっ…忍、連れ去られる宇宙人みてーだ…」
「あっはは!西田かーわいー!男の時はこの中で西田が一番身長高かったのに、今じゃ逆になってる!」
「ファックッ!このクソどもがあァァッ!!」
「もーっ、女の子になったんだから、汚い言葉使っちゃダメだよー?」
「男女平等だろ藤本さんよォッ!それにこの仕打ちはあんまりですよねぇ!?」
「まぁまぁ、幼く見えるのは良い事じゃない?私なんか老けて見えるってよく言われるもの」
「玲美の場合は大人っぽいって言うんだよ!隣の芝は青いってやつだよね、きっと」

…隣の芝、真っ青すぎ。
369 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:52:53.13 ID:LMUEhXln0
ようやく一日の授業が終わった。
涼二に声を掛けてさっさと帰ろう。

「帰ろうぜ涼二。んで、お前今日暇なら俺ん家寄らね?」」
「おう。暇だしな、行く行く」
「うっわー西田、もう部屋に男を連れ込むの?気を付けなさいよ?男はね、狼なんだから!」
「…と、植村が申しておりますが」
「男は狼って昭和かよ!大体、こんなちんちくりんに欲情しろだなんて、随分酷な事言ってくれたもんだな」
「うおおおッ!ちんちくりんに対してブチ切れたいところだが、そうすると俺が欲情して欲しいかのように思われてしまうッッ!」
「ちょ、ちょっと西田!そんな頭抱えて転げ回る程の事なの!?やめなさいよ!」

…とまぁ一悶着あったものの、現在は二人で下校中である。
今日一日で散々募らせた鬱憤を、涼二に向かって吐き出しているところだ。

「ったく、クラスの連中はしゃぎすぎじゃねぇ?武井と小澤の時はもっとマトモだった気がするぞ?」
「そりゃ多分アレだろ。ギャップってヤツ?」
「ギャップ?何のだよ?」
「武井とか小澤の場合は、『あー、コイツなら女体化してもおかしくないな』ってキャラだろ。だけど、お前は違うんだよ」
「そうか?そんなん、勝手に思われてもなぁ。…うぉ、風強っ」
「…自分がそこそこのイケメンだったって自覚がねぇのかよコイツ…」

丁度家の前に差し掛かったところで、強めの風が吹いた。
その瞬間に、涼二がボソッと何か呟いたような気がする。

「何か言ったか?風で聞こえなかったわ」
「いーや、何も言ってませーん。あれ、秋代さんのマジェが無いな。出掛けてんのか?」
「夕飯の買い物だったら徒歩で行くしなぁ、段差がキツくて駐車場に入れないとかで。また1パチにでも行ってんじゃね?」
「あのビジュアルでパチ屋になんて行ったら、店員に止められるんだろうな…」
「前の俺なら笑って同意するところだが、今は笑えねぇんだよ…やめろよ…」

玄関の鍵は閉まっていたが、合鍵は普段から持ち歩いているので問題無い。
そのまま涼二を家に上げ、俺の部屋へ通す。
お互いブレザーをその辺へ放り、そのまま二人でベッドへダイブ。
まぁいつもの事だ。

「ふあーっ、疲れた!転校生ってこんな気分なのか?」
「知らんよ。ま、明日からは多少落ち着くだろ」
「だと良いけどな…」

あ、そうだ。
昨日、疲れた身体に煙草が美味かったのを思い出す。
母さんからは一箱貰ってある。一服するか。
370 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/16(水) 23:55:04.97 ID:LMUEhXln0
「あれ、何だよお前。また煙草吸うようになったのか?女体化のショックでグレちまったか?」
「グレてはいねぇ。昨日母さんから貰ったんだよ。女体化して以来、俺の寿命がストレスでマッハだからな」
「ふーん。ちょっと興味ある、一本くれよ」
「あいよ。セッタだから、初めて吸うにはちょっとキツいかも知れんぞ」
「…??火、上手くつかねぇぞ?」
「火ィつけながら吸え。んでそのまま深呼吸するような感じで…」
「げはッ!うぇほッ、げほッ!何だこれ!?」
「最初はむせるもんだ。慣れればどうってことねぇ」

二人で、煙草をふかす。
数口吸っているうちに涼二も慣れたようだ。
まだ少しぎこちないが、むせずに吸えるようになっている。

「やっぱりちょっとドキドキするな!…っつーかこれ、美味いか?よく分かんねぇぞ」
「疲れてると美味く感じるんだろ。今のお前にはこの『疲れ』は分からんだろうがな!」
「元は童貞、今は処女。価値が上がって良かったなぁ!忍っ!」
「うざッ!お前も女体化しやがれこのクソ童貞ッ!」
「あれあれ〜?お前の代わりに今後も購買に行ってやるこの俺に、そんな口を利いて良いのかな〜?」
「くッ!カレーパンを人質に取るとは鬼畜の所業ッ…!」
「カレーパン限定かよ!他のパンも気にしてあげて!?焼きそばパンとかコロッケパンとか色々あるよ!」

まぁ確かにコイツの言う通りだ。世話になる分、多少は我慢せねばなるまい。
取り敢えず礼だ。乳を揉ませてやるか。

おもむろにブラウスを脱ぐ。下にはキャミソールを着ている。
乳そのものを見せるのは流石に恥ずかしいので、キャミの下のブラだけ外すとしよう。
手を後ろに回し、ブラのホックを…

「え、お前、何いきなりストリップしてんの?皆さーん!ここに変態がいますよーッ!」
「うるせぇ!黙って俺の乳を揉め!」
「はあああ!?ついに気が狂ったか…可哀相な忍…」
「勝手に哀れんでんじゃねぇよ!購買の件で世話になるから、1回くらい揉ませてやるってんだよ!礼はするって言っただろうが!
 そもそも夕べのメールでお前がだなぁ…っ!」
「おま、あのメール本気にしてたのか!?」
「えっ」
「えっ」
「…。」
「…。」
「…前言撤回、していい?」
「だが断る」

言うが早いか、涼二は一瞬で俺の視界から消え去った。
371 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/17(木) 00:00:27.89 ID:fauWfbxA0
言うが早いか、涼二は一瞬で俺の視界から消え去った。

「うぉ速ッ!」
「残像だ」

いつの間にか背後へ回っていた涼二が、俺の両肩へ手を乗せる。
その感触に、ぴくりと反応してしまう。
…ツレ同士だ、別にセックスする訳じゃない。流石にそれは御免だ。
なのに、妙に緊張する。

「本気で嫌なら、やめとくぞ」
「…別に、良い」
「おい、急にしおらしくなるんじゃねぇよ。お前がそんなテンションじゃ、こっちが悪い事してるみたいだろ」
「だあああッ!良いからさっさとしやがれッ!!」
「おう、その調子その調子!まぁ嫌になったら言ってくれりゃ、やめてやるから。さぁ、ブラを外したまえ」
「ちくしょう!完全に自爆したよ俺!何やってんだよ俺!」

心の中で血の涙を流しながら、キャミの下のブラを外す。
乳を揉まれるのは大した事では無いが、自分の勘違いでこの状況を作ってしまった事が死ぬ程恥ずかしいのだ。



一応涼二なりに遠慮しているのか、それとも単に興味が無いのか。
分からないが、乳を見せろとは言ってこない。
暗黙の了解で、「見ずに触る」空気が出来上がっていた。

…涼二の手がキャミの中へ入ってくる。いよいよ年貢の納め時だ。

「さーて、忍ちゃんのお乳はどんなもんかなー?」
「キモいんだよ!その言い方やめろッ!」
「…うおーっ、めっちゃ柔らけぇなオイ!柔らかいだけじゃなくて、弾力もなかなか…」
「今日だけだからな!もう次は無いからな!さぁもう気は済んだか!?」
「分かってるって。つーか、まだ10秒も経ってないだろ。まぁ俺の息子は恥ずかしながら既にギンギンなんですけどね!」
「背中に粗末なブツが当たってんだよ!こんなちんちくりんには欲情しないんじゃなかったのか!?」
「お前に欲情してるんじゃなくて、乳そのものに欲情してるんだよ。次に触れるのは国営行った時になるだろうからな、
 今のうちに堪能させてもらうぜ」
「くそッ!俺も男の頃に揉んでみたかっ、た、…んぅッ!?」
372 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/17(木) 00:02:01.07 ID:fauWfbxA0
!?
なんだ?なんかおかしいぞ?
自分で触るのと全然違う。
暫く揉まれているうちに、じんわりと熱が帯びてきたような気がして、
それがこう、段々と気持ち良く…っておい、ちょっと、これは、ヤバいんじゃないか…!?

「おい、涼二っ…!ちょ、すと、んッ、ぁ、あ…ッ!!」
「どうしたのお前?俺の息子に負けず劣らず乳首、勃ってるけど。あ、もしかして感じちゃってる系女子か?」
「やめ、くぅッ、すと、んぁッ、ストップ、すとおおおーーーっぷッ!!!ストップだコラァァッッ!!」
「ん、ご馳走様でしたっと」
「はッ、はぁッ、はぁッ…!きょ、今日はこのくらいで勘弁してやるッ…!」
「何だそりゃ。次もあるみたいな言い方だな」
「ねえよ!調子に乗るんじゃねえええよッ!」
「分かってるよ。ま、なかなか良かったわ。病み付きになりそうだけど、1回だけって約束だし。
 それにツレ同士でこんな事何度もしてたら、おかしいもんな」

それはそうだ。
俺は俺で、俺と涼二は親友で。でも俺は身体が女になって。
こんな事がずっと続くのはマトモじゃない。
今後世話になるための、最初で最後の礼なのだ。

「…まぁ、今の感触を今夜のオカズに使う事くらいは許可してやっても良い」
「お前をオカズにするのは気持ち悪いわ!ただ感触だけは確かに捨て難い。好きなAV女優にでも脳内変換して楽しませてもらうとするか」
「ムカつくッ!なんかムカつくッ!けどそれが正論だと思うッ!」
「訳分かんねーぞお前」

そう言って笑いながら、涼二が俺の頭を撫でる。
親父が母さんによくやっているヤツだ。
油断するとふにゃふにゃと気分が安らぎそうになるのが逆に腹立たしい。

しかし変な空気にならないように涼二が気を遣ってくれた部分もあるとは言え、案外気まずくならなかったのは助かった。
礼のつもりでやった行為で、気まずくなったら本末転倒だからな。
とは言え、このままお見合い状態が続くのもキツい。
苦し紛れだが、ゲームでも提案してみるか。

「…くそっ、もう懲り懲りだ。気を取り直して、久々にバ〇オ5でもやろうぜ」

過去に二人で散々やり倒したゲームだが、久々にやるのも面白いかも知れない。

「お、久々にやるか。俺シェバ使うわ」
「今なら普通逆じゃね?まぁ良いけど。難易度プロで、ハイドラ禁止な」
「当然、無限弾も無しだろ?んじゃ俺はAKとPSG1使うわ。カラシニコフは俺の嫁!」
「嫁って、カラシニコフは爺さんだぞ…。俺はどうしよ。ベレッタと…」

涼二は提案に乗ってきた。
ゲーム機のディスクを入れ替えて起動し、コントローラーを涼二に渡す。
自分の分も持ってみるが…デカく感じる。
上手く操作出来るだろうか。
373 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/17(木) 00:05:28.99 ID:fauWfbxA0
「うっぜえええ!救急スプレー吹いてんのに死ぬっておかしいだろ!何回目だよこのパターン!」
「久々だからってのもあるけど、やっぱりプロはマゾいな…。さて、そろそろ帰るとするか」
「おう、また続きやろうぜ」

…何気に盛り上がってしまった。
窓から外を見ると、もう真っ暗だ。

涼二を見送るために玄関先へ行く。
母さんはいつの間にか帰って来ていたらしく、夕飯の用意をしているようだ。
良い匂いがする。

「うおー、めっちゃ良い匂いするわ。秋代さんのメシ、泊まりに来た時に何度か食わせてもらったけど、超美味いよな。
 ウチのオカンにも見習って欲しいよ」
「事前に言っとけば、気合い入れてお前の分も作ってくれると思うぞ?」
「そんな図々しい事できるかよ!あ、お前が作ってくれりゃ良いんじゃね?折角女体化したんだから、秋代さん直伝のメシをだな…」
「俺はお前の飯炊き女じゃねぇんだよ!それに女がメシ作るべきってのは前時代的な考え方だろうが!」
「飯炊き女は飛躍しすぎだろ!?しかし残念、名案だと思ったんだが」
「しょうもねぇ事ばっかり言いやがって…。んじゃ、またな」
「おう、また明日」

涼二を見送り、さぁ飯が出来るまで部屋でごろごろするか…と、振り向こうとしたところで。
唐突に背後から声を掛けられる。

「…ほうほう。愛する旦那と娘に美味いメシを食わせてやりてぇと思って、日々料理に勤しむアタシは前時代的で?
 そんで?お前はそんな健気なアタシを飯炊き女と思ってる、と。そう言う事で良いんだな??」
「んなッ…!」

ギギギ…と自分の首から擬音が聞こえてくるような錯覚を覚えつつ、恐る恐る振り向く。
くわえ煙草にエプロン、と言ういつもの格好の母さんが、腕組みしながら柱に寄り掛かっている。ニヤニヤしながら。
…ヤバい。聞こえてたのか。

「んー?どうした、何とか言ったらどうなんだ?この飯炊き女によぉ?」

状況は圧倒的に不利…ッ!
これは素直に謝らなければ、飯抜きにされてしまうパターンじゃないか…ッ!

「…口が過ぎました。どうもすいませんでした…」
「分かれば宜しい。心を入れ替えてアタシに土下座して教えを乞うなら、料理を教えてやらん事もねぇ」
「はああ!?何調子こいちゃってんだこのロリババァ!?……ぬがああッ!アイアンクローは、痛ッ、やめろぉーッ!痛てててッ!」
「口の悪ィ娘だなぁおいッ!そんなふうに育てた覚えはねえッ!イワすぞコラァッ!!」
「覚えはなくてもッ!ぐッ、この口が悪いのはどう考えてもアンタの影響…ッ!ぎいぃやああッ!はーなーせーッ!」

…親父が帰宅するまで、この攻防は続いた。



その後、何とか飯を食わせてもらう事が出来た。
風呂を済ませ、ベッドにごろごろ転がりながら、ふと考える。

「料理、ねぇ…」

涼二に吼えてはみたものの、正直、俺も男の頃は「藤本の手料理食いてぇ」とか思っていた訳で。
結局、俺も前時代的な人間と言う事になるのだろうか?
男の頃は女の手料理が食いたくて、女になった今は手料理を作る気にならないと言うのも…自己中過ぎるのかもな。
別に涼二に作ってやる義理はないが、前時代的な人間なら前時代的な人間らしく、料理の一つも覚えた方が良いのかもしれない。
覚えて困るものではないし、むしろ役に立つだろう。

…かと言って、土下座はしませんけどね。
374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/17(木) 00:22:07.86 ID:RXy+YGbN0
続き楽しみにしてました!!!
375 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/17(木) 00:26:09.03 ID:fauWfbxA0
今回は以上です。
コピペをミスって>>370->>371の文末と文頭で大事なこと(ryになってしまいました…

妄想を文章にするのはホント難しいですね。
昼休みのシーンはキャラ出しすぎて誰が喋ってるのか分かり辛いと思います、すいませんorz

ではまた!
376 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/17(木) 00:38:37.25 ID:Rebq96uuo
乙でした
これで執筆速度も上がるぞ
377 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/17(木) 00:52:17.16 ID:OVNC3MTVo
みんな背小さい子好きだねーしかもおっぱい大きい子好きだねー

わたしもです
378 :でぃゆ(ry[sage]:2011/11/17(木) 08:48:22.06 ID:zXgG+DHAO
>>375
 好 き だ よ !

ヤバい、この方の作品は俺得過ぎてヤバい…wwwwww

俺も頑張ろう…

しかし、にょたロリビッチ同志とは嬉しい限りです!!
そっち方面も期待しております!!
379 :以下、名無しにかわりまして いとう ちか がお送りします[sage]:2011/11/17(木) 10:10:23.64 ID:/s/AoZ520
>>378
まだビッチと決まったわけではない
だが同志すぎてワロタ
にょたビッチもある意味王道だよね
380 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/17(木) 21:57:50.45 ID:fauWfbxA0
皆様のレスが励みになります!

>>378
今後も気に入って頂けると嬉しいのですが…
てかにょたロリビッチって書くの難しいですよねwwwwwwwwww

所謂ビッチの定義とは違うかもですが、多少反映出来たら良いなと思ってます!
381 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/17(木) 23:39:19.91 ID:Rebq96uuo
>>380
これからからも超期待ですよ
自分の執筆投げ出しても・・価値はありますwwww
382 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/18(金) 05:55:37.53 ID:tpFQamtAO
乙でした!!
次回も楽しみに待ってます
383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(東京都)[sage]:2011/11/19(土) 23:12:55.35 ID:GTqbAPuKo
まとめ終わり!
新しい人がどんどん増えておじちゃん嬉しい><

タイトルが無かったようだったので無題でまとめちゃいました
何かありましたらどんどん言っちゃってください
384 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/20(日) 00:14:09.97 ID:Rj9sMEQP0
乙です
385 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/20(日) 17:44:36.41 ID:v03xVFc+o
よーし、お父さん誰もいないけど日曜だから張り切って投下しちゃうぞ
386 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:46:02.99 ID:v03xVFc+o
物語は2人の男女の会話から始まる。

「・・なぁ、すげぇ言いづらいんだけどよ」

「どうした?」

「・・生理こないんだ」

ある別荘での会話、ここに中野 翔がおりなす壮絶な絶望から物語が始まる。




         嗚呼・・



                   ◆Zsc8I5zA3U







時期は穏やかな気候が目立つこの頃、まさに日曜日日和でもあるこの日に場所はいつもの別荘で中野 翔は愛する彼女の言葉に絶句した。聖の生理がこない・・実際には医療的に考えてもあらゆる事態が想定されるのだが、この男だけは既に結論を急ぎすぎてしまってあたふたして呆然と立ちすくんでしまう。

「おい、何つたってるんだよ? さっさと服着て、俺の勉強手伝ってくれるんじゃねぇのか」

「なぁ・・礼子先生には言ってるのか?」

「一応、明日学校で相談しようかと思ってるけど」

「なら絶対に言うな!! 不安になるな、俺がついているからな!!」

慌てながら礼子への相談を阻止する翔、もしこの状況が礼子にばれてしまえば翔の命など消えてしまうのは目に見えている。必死にうろたえる翔に聖は少し情けなく思いながらもここまで慌てている翔の姿を見るのも悲しくなってくる、それに自分の生理が来なかったのは女体化してからも何度かあったことなので慌てる事などあまりないのだが、あえて翔に突っ込むのを辞めている。

「お前が何で慌ててるのかは知らないけどよ、早く俺の宿題手伝え!!」

「あ、ああ・・わかったから下着姿でウロウロするな!!!」

強引に聖の宿題を取り上げると翔は現実を忘れるために宿題に没頭する、聖に関しては普段の宿題に比べて補習も上乗せされているので量もかなり多いのだが翔にしてみれば楽勝である。上半身裸姿で宿題をこなすのもいささかシュールな光景であるが聖も下着姿で宿題しているので大して変わりはしない。

「全く、宿題なんてめんどくせぇ・・」

(やべぇよ・・生理がこないって言うことは妊娠しかあり得ねぇじゃねぇか!!!)

翔は宿題をこなしつつもこれから考えるあらゆる事態を考えてしまったら現実に押し潰されてしまう、もし聖が妊娠したとなれば本人の意思も重要なのだが周囲の理解が何よりも必要不可欠である。それに親との話し合いやこれからの学校生活や養うための費用など考えていたらキリがないのが自分の不始末なので全てを投げ出して逃げるわけには行かない。

それでもこんな状況を引き起こしてしまったことを後悔しても仕方がない、大事なのは今後の後始末なのだから・・

「お前さ、これからどうしたいよ?」

「何言ってんだ? 俺はお前との大学を目指すだけでそっから先はまだ考えちゃいねぇよ」

「そ、そっか・・なら良いんだ」

とりあえず断片的ながらも本人の意思が明確したのでとりあえずは良しとする翔であった。
387 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:47:00.34 ID:v03xVFc+o
翌日・職員室

「というわけで、最近は生徒の妊娠率も増加の傾向が見られますので先生方は充分に気をつけてください」

そのまま霞はいつものように全ての教師を集めての朝の報告会を行う、今回の報告は生徒の妊娠についての問題のようだ。

「ま、私も長い間で教師してた時は女体化した生徒で何度か問題に直面したけど・・重要なのは本人の意思なので可能な限りは尊重してください」

(妊娠ね・・気をつけないと)

「春日先生がいらっしゃるので安心だと思いますけど、先生方も春日先生ばかりを頼りきりにせずにしてください」

礼子にしてみれば妊娠という言葉は余り好きにはなれない、自身の経験もそうだがそういった問題は非常にデリケートだし女体化した人間の場合は特に対処が非常に難しいので頭が痛いものだ。

「校長先生、なっちゃった場合は仕方ないんじゃないんですか?」

「あのね骨皮先生・・そうならないための対策をしなさい!! それじゃ時間ですのでこれで終わります」

霞の溜息が広がる中で報告会は終了する、各教師達が自分のクラスのホームルームや授業の準備をするために職員室を抜け出す、そんな中でいつものように保健室へ向かおうとする礼子を霞が呼び止める。

「あっ、春日先生。ちょっといい?」

「はい? 何か・・」

「実はね、さっきの話なんだけど・・一応春日先生だから大丈夫だとは思うんだけどね」

「ま、まぁ・・」

少し歯切れを悪くしながら礼子は霞に報告するが、彼女も今回の妊娠問題については明確には報告が出来ないので困ったところだ。それに約1名だが妊娠してもおかしくない人間がいるので礼子としてみればかなり頭が痛い問題である、一応旦那から貰っている強力な避妊薬は支給しているものの若さゆえの精力を押さえ込むのには厳しい話である。

「ん〜、春日先生は生徒間の妊娠問題には立ち会ったことある?」

「今の所はないですね、その手の講習は何度か参加してはいますけど」

「ちょっと不安ね。講習だけじゃ実際に立ち会った時の対処が難しいわ、ちょっと私が講習してあげるから付き合ってくれる?」

礼子としては仕事に入りたいのだが、未だに学校内での妊娠問題には直面していないのでベテラン教師でもある霞に学ぶのも良い機会である。その手の実戦的な対処法を心得ておけばいざと言う時には対処もできるし今まで受けた生半可な講義よりかはずっとマシなのも確かだろう、霞があんな成りでも教師という職歴は自分よりもずっと上なのだから色々と実りはありそうだ。

「わかりました」

「ゴメンね、やっぱりこの手のことになると養護教諭が中心になりがちだから・・それじゃ空いている教室に移動しましょう」

そのまま霞は礼子を引き連れて空いている教室へと移動する、教室へ着いた2人は席に着くと霞による講習が始まろうとしていた。

388 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:51:47.93 ID:v03xVFc+o
特進クラス

中野 翔は人生最大の危機に1人頭を抱えて悩んでいた、これまでの自分の性生活を振りかえるのだが避妊はしていたものの妊娠してもおかしくない状況なのが頭が痛い。

(やべぇよ・・高校はなんとしてでも卒業はしたいけど、就職は絶対に決めないとまずいしな)

最近は就職率も落ち着いているので高卒でもそれなりの職業に就職することは可能ではあるが、それでも資格の面とか考えても大卒の方が良いことには越したことには変わりない。
今の自分の実力ならばバイト先の伝を頼って正社員にしてもらう事も可能ではある、事実卒業してからそういった話が店長からチラホラと出ていることだし・・それでも大学に通って様々な資格を習得しておきいたいのもある。

(にしても・・大学にも進学したいな、資格やら色々考えてもメリットはありそうだし)

「中野!!」

「っておい!! ・・何だ、藤堂か」

突如として現れたのは藤堂、いつもなら宗像と一緒に入るのが常であるのだが今回は珍しくも藤堂1人だけ・・奇妙な展開に頭を傾げつつも翔は少しばかりの現実逃避のため藤堂に会話を振る。

「それよりも宗像はどうしたんだ?」

「奴ならば家の事情で今日は休みだ。全く、応援団員たるもの弛んでいては・・」

「・・家庭の事情ぐらいは考慮してやれよ」

少しばかり宗像に同情しつつも翔は奇妙なやり取りを少しだけ楽しむ、思えば藤堂とは何度かは会話をしたことがあるものの常に宗像が一緒だったためこうして面と向かって話すのはあまりなかったのだ。

「んで、奴が休んだから俺にノートの手伝いか? 悪いけど断る」

「違う、お前に頼みたいことは別の用件だ。・・その、実はな」

これまた珍しく歯切れが悪い口調で語り始める藤堂、始めて見る姿に翔は少々困惑するものの何か深刻な悩みと見てゆっくりと話を伺う。

「要点がわからねぇよ、いつものお前らしく話してみな」

「実は・・放課後に生徒会の会議があるんだが、応援団の資料をまとめて貰うのに手伝って欲しい」

「はぁ? そんなもん他の応援団の団員にやらせておけよ、それに俺は部外者だろうが・・」

翔の言うことは尤もである、そういった会議での資料などは基本的に他の部活にやらせるべきであって部外者である自分が口出ししていい物ではないし、ましてやしようとも思わないのだが・・藤堂はここぞとばかりとんでもない発言をする。

「他の人間はダメだ!! 宗像みたいに的確な資料は作成など出来はしない!! 幸いお前はそういったのは得意そうだしな」

「お前なぁ・・応援団ならそういったことは応援団内でやるのが筋ってもんだろ? 別に応援団の奴等だって脳筋野郎ばかりじゃないだろうし、宗像がいなくたって・・」

「あいつは俺よりもそういった方面が得意分野だ。恥ずかしい話、応援団はそういった部分に秀でた人間が少ないのが現状だ。だから宗像に近いお前が適任だ」

「無茶苦茶も良いところだけどよ、少しは他の団員を信頼しt」

「それに今日の応援団の指導だってある! 出来るだけ資料作成のためだけに応援団の人間を割きたくはない・・頼む!! お前の協力が必要なんだッ!!!」

正直言って滅茶苦茶な理屈ではあるが・・あの藤堂がここまで頼んでいるのだから断りづらい、それにせっかく自分を頼ってくれるのだから協力しても損はないだろう。

「わかったわかった、やってやるよ!!」

「そうか!! 感謝するぞ。それでは放課後に応援団室で作業してくれ」

翔はキリキリと悲鳴を上げる胃を何とか抑えながら了承するのであった。

389 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:55:37.78 ID:v03xVFc+o
同時刻・教室

霞による実戦的な講習を受けていた礼子は経験に裏づけされた理論に納得されながらも必要な部分はメモを取って講義に臨んでいる。

「というわけなの。話は長くなったけど・・生徒が妊娠した場合は本人の意思を尊重しながらも周囲の軋轢や本人の経済状況を把握しないとね」

「なるほど・・だから校長先生は的確に対処してたんですね」

「まぁね、生徒の親御さんや当時の教頭先生や校長先生には結構叱られたけど・・今となったらいい思い出ね」

懐かしそうな表情で霞はかつての話を礼子に語り出す、教師時代は様々な生徒の面倒を見てきた霞も様々な実績を重ねて今では立派な校長である。今でも彼女を慕っているOBはかなり多いと教頭から話を伺っている、年齢的にはまだ若干ながらもこうした実績が周囲に認められて今の霞があるものだと礼子は改めて実感させられる。

「私自身も高校の時に妊娠して大学の入学が決まってからの出産だったから色々と苦労したわよ、奨学金で入学は出来たけど親の反対押し切ってダーリンは働きながら子育てに協力してくれたんだから苦労を考えたら今でも頭が下がるわ。

・・だけどそういった経験があるから今までやってこれたのかもしれない」

「まさか校長先生もそういったご苦労をなされたとは・・」

「我流だけどね。だけど一般の女の子もそうだけどさっきも話した通り、女体化した娘には細心の注意を払わないとダメよ」

礼子も自身の経験があるので霞の言っていることはよくわかる、今の時代は女体化がわりと常識的になったものの未だに女体化に対する偏見の目というものは多少ながらも存在する。礼子の時代も成りを潜めかけてたとはいっても女体化の偏見は酷かったのはよく覚えている、だからこそこうした妊娠問題は無いほうに超したことはない。

390 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:56:12.67 ID:v03xVFc+o
「私も大学時代の講習や他の先生方の話では何度か伺ってましたけど余り現実味がなくて・・」

「まぁ、そこら辺は仕方ないといえば仕方ない部分ね。もしこの学校で妊娠騒動になったとすればこの手の問題に一番真価を発揮するのは骨皮先生だと思うわ、逆に鈴木先生も生徒本人の意思はしっかりと尊重はするけど最終的には周囲の意見に飲み込まれそうね」

「ど、どうしてですか・・鈴木先生はそんな人間ではないと思うんですけど?」

あえて霞は礼子の周りを引き合いに出して妊娠騒動が起きた場合の仮定を話す、靖男は何となくわかるものの鈴木に関しては少しばかり意外な回答だ。彼女は教師としてもかなり優秀だし生徒達からの人気も高い。
それに礼子個人が接して来た人の中でも人間的に悪い人間ではないと言いきれるのだが・・それに彼女は普段は私情に流されずしっかりと仕事はする人間ではあるが決して人を見捨てたりはしない人間だと思う。霞はそんな礼子の心情を察しているのか少し申し訳なさそうに続きを話す。

「ああ、礼子先生の思っていることは大体分かるわよ。こんな話は校長としてじゃなく私個人の話だから・・聞き流してくれて構わないわ。
鈴木先生は確かに優秀よ、教師としての実力や様々な問題を解決した手腕は認める。理事長も彼女を学年主任に押すぐらいだからね・・でも彼女は生徒個人の問題は解決させることは得意かもしれないけど、学校以外の周囲が絡んだこういった問題を解決させるのは難しいわ。生徒個人ならあくまでも保護者との話し合いで決着はつくんだけど妊娠となると将来が非常に大きく関わってくるからね・・そのプレッシャーを正面から受け止める覚悟は決して生半可なものじゃダメなのよ。

彼女はああ見えて繊細そうだから周囲の支えがないと自分を追い詰めて押し潰されてしまいそうね・・


逆に骨皮先生はああいった想定外のことは強いわよ、前に卒業した楠本君覚えてる?」

「ええ」

楠本とはかつて聖が入学する前にいた生徒の名前で3年の時に靖男が受け持った生徒だ、礼子も良く覚えている。彼も聖ほどではなかったもののかなりの問題児で卒業前には警察沙汰寸前となった退学騒動まで発展した事件があったのだがこれを靖男は本人を説得させると、その勢いで単身で警察を筆頭とした周囲に向かい・・遂には見事に自身の処分を引き換えにして楠本の退学処置を取り消した事がある。これ以降は本人も心を入れ替えて無事に卒業を果たせたわけであるが、礼子は改めて靖男の行動力に感心させられたのはよく覚えている。

「ま、バカな子ほど可愛いっていうけど・・骨皮先生はやる時はしっかりやるタイプよ。もし生徒が妊娠した場合は反対している周囲を黙らせてでも本人の意思を尊重させていくでしょうね、生徒の更生やそういった問題の解決に関しては鈴木先生より上よ。

彼は絶対に人を見捨てたりはしない・・生徒と一緒に問題に正面から向き合って解決させる熱血先生タイプね」

「私も骨皮先生のそういったところは理解しています。ま、肝心の授業の指導や実務能力はもう少し頑張って欲しいところですけど・・」

礼子とて靖男の能力は高く評価はしているからこそ、そういった部分をもう少しだけ実務能力と指導能力に回してほしいところだ。毎度毎度、同僚の好とはいっても書類作成を手伝っているのは変だと思うし本末転倒も良いところである。

「そうなのよね・・やる時はやるのに普段はもう壊滅的よ。昼行灯の方がまだマシだわ・・って話が逸れちゃったわね、とにかく妊娠問題は事前に起こさないように気をつけてね」

「はい、私のために時間を割いてくださってありがとうございました」

「いいのよ、仕事終わったら暇だしね。これからも頑張ってね、春日先生☆」

そのまま講義は終了を迎えて礼子も霞もそれぞれの教室へと向かっていく、それよりも礼子にとって今回の話は大変実になったようだ。

391 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:58:06.85 ID:v03xVFc+o
お昼休み・学食

この日のメンバーは狼子と辰哉と刹那に聖とツンといったメンバーでささやかな学食の時間を楽しんでいた、話題は自分達の将来についてのようだ。

「でだ、お前達は将来は何したいんだ?」

「と言ってもなぁ・・ベターに仕事して一軒家持ちたいですね」

辰哉は今のところ考えている将来設計を話すが、聖は親子丼を食べながら更に詰め寄る。

「お前、狼子は無視か!!」

「そ、そうだぞ!! 噛んでやる!!!」

「痛ててて・・狼子はどうするんだよ」

「俺は辰哉についてく!!」

「あ、ありがとう・・」

堂々と宣言する狼子にツンも自作の弁当を食べながら自分の未来予想図をついつい思い浮かんでしまうが、慌てて掻き消すと改めて自分の将来を見据える。

(って、何考えてるのかしら・・ブーンとは別にいつまでも一緒に居られるわけじゃないしね!!!)

「お〜い、ツン・・お前は大学卒業したら内藤の嫁さんになるのは確実だぞ」

「なっ・・何言ってるのよ!!! わ、私は別にブーンのお嫁さんになんか・・」

((ツンさん、あなたの将来は予想しやすいですよ・・))

辰哉と狼子はユニゾンで心の突っ込みを入れると話しの矛先は聖にベッタリしていた刹那に移る。

「せ、刹那ちゃんは将来はどうするの?」

「・・考えていない」

「刹那ちゃんなら俺達よりも頭が良いんだから一流大学も夢じゃないと思うんだけど・・」

「黙れ! 串刺しにするぞ!!」

「・・」

いつもの強烈な刹那の毒舌に辰哉もたじろいでしまう、聖を筆頭とした女性陣には普通なのに男性には容赦のない毒舌を浴びせる刹那に将来を心配してしまう。

392 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:58:57.24 ID:v03xVFc+o
「でも・・貴女の将来は一番予想できる」

「お、俺? 何言ってんだよ、俺は普通に世界のその名を轟かして・・」

「あんたは結婚でもして所帯持ってるわね、きっと」

「先輩との結婚生活も順調だと思いますよ」

「そうそう、相良さんはきっと先輩を尻に敷いて・・うげッ!!」

聖はそれなりに手加減しながらもそのまま辰哉に脳天チョップをお見舞いすると断固としてさっきの将来を否定する、辰哉も翔の影響からか余計な一言が癖付いてしまったようだ。

「さっきのは余計な一言だ!!! 俺はあいつの世話にならなくても一人で立派に・・」

「中野とラブラブな新婚生活だな」

「あっ!! てめぇはポンコツ教師!!!」

「よぉ、さっきから面白い話してるな。俺も混ぜろ」

突然現れたのは靖男、どうやら聖達の話しに興味を示したようだ。ちなみにここにいる全員は靖男が受け持っている生徒といった共通点があるのだが、そんな事お構いなしに靖男は自分のスペースを確保するとそのまま座って学食を食べながら話の輪に混じる。

「痛てて・・骨皮先生、何でここにいるんですか?」

「連れないな、先生は悲しいぞ木村。でだ、さっきのお前達の話の続きだが・・」

痛む頭を抑えている辰哉を無視して靖男は更に話を進める。

「まずは月島と木村は高校卒業して手堅く大学に入って卒業したら普通に結婚・・まぁ、平凡だが幸せな家庭を築くだろうな」

「「・・/////」」

「ツンと内藤も一緒だ。ただ内藤は傷は耐えないだろうがな」

「せ、先生・・」

思わずツンも顔を赤くして下を向いてしまう、そして更に靖男の話は止まらない。

393 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 17:59:42.62 ID:v03xVFc+o
「円城寺はキャリアウーマンとして活躍して世間をあっと言わせることをするだろうな。先生ちゃんと見てるんだぞ?」

「・・・」

「んで、問題は相良だ・・お前は中野と大学に入学はするだろうが、妊娠して出来ちゃった結婚しそうだな。ぶっちゃけこの面子だと相良が最初に子供作りそうだ、んで中野が欲情して主な製作場s・・ウゲッ!!!」

聖は問答無用で靖男に脳天チョップを放つ、先ほどの辰哉とは違って今度は手加減無用なので靖男の頭の中にはギャグ漫画よろしく大きなこぶが目立つ。

「何すんだ!! 借りにも俺はお前の担任だった男だぞ、ちっとは敬え!!!!」

「うるせぇ!!! 勝手に人の将来を語りやがって・・俺が出来ちゃった結婚なんていう恥ずかしい真似すると思うかッ!!!!」

((い、いや・・真っ先に妊娠しそうな気がする))

再びユニゾンで心のツッコミを入れる狼子と辰哉、それに刹那やツンも聖が妊娠したところで驚かないと思うし、むしろ妊娠してもおかしくない状況だと思っている。だけどもそういった事態には絶対になってほしくはないので聖と靖男を除く全員は翔には頑張って欲しいと願わざる得ない、製作率が半端ではないことは知っているので、どうせ妊娠するならばせめて将来が安定して余裕が出てからの妊娠の方が遥かにマシだからである。

「せ、聖さんの子供なら可愛いと思いますよ」

「それは俺も思うな」

「・・抱っこして見たい」

「あのなぁ!! お、俺は別に・・」

といいつつも肝心の聖も実生活を予想してみれば否定しようにも中々否定はできない、それに彼女は数日後には一瞬ではあるが自分の娘に会うことにはなるのであるが・・

「周囲の意見も大事にしたほうが良いぞ〜、大人しく認めたら楽になるぞ」

「うるせぇ!!! ・・てか、てめぇは俺等ぐらいの歳には何してたんだ?」

「そういえば・・骨皮先生ってどうして教師になったんですか?」

「いいぞ、ツン!!」

これまた尤もと言えば尤もな疑問、これまでにも靖男の実績は誰もが認めるのだが肝心の過去についてはわかっていない。

394 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:00:06.99 ID:v03xVFc+o
「そうですよ!! 先生はなんで教師になりたかったんですか?」

「俺達ばかり不公平ですよ!!!」

「・・気になる」

今度は2年生グループの追撃が始まる中で靖男は少し珍しくもどこか顔色がよろしくない、そのまま五目チャーハンを食べながら凌ごうとするのだが周囲のヒートアップは更に止まらない。

「てめぇ!! いい加減に白状しろ!!!!」

「そうよ! 私達ばかりいいように弄って!!!」

「教えてくださいよ!!」

「誰にも話しませんから!!」

「・・教えて欲しい」

(・・過去か)

あまりにもの周囲が収まってくれないので靖男はどうしようか迷っていたその矢先に・・都合よくも昼休み終了のチャイムが鳴り響く。

「っと、先生にも色々あった・・以上だ。んじゃ、俺忙しいからまたな〜」

「あっ!! 待ちやがれポンコツ教師!!!!!」

「ちょ、ちょっと!! 私達も早くしないと授業に遅れちゃうわよ!!!」

「そ、そうだ!! 辰哉、次の数学って・・」

「小テストだ!!」

「・・ここは急いだほうが無難」

そのまま5人は急いで食事を終えると次の授業に急ぐのであった・・

395 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:00:54.16 ID:v03xVFc+o
放課後・応援団室

時間は一気に飛んで放課後、約束どおり翔は藤堂と共にこれから行われる会議の資料作りに没頭しているのだが、やはり翔はこれからの事を考えると頭が痛い。

(ハァ・・どうやって責任取るか。礼子先生にばれたら確実に殺されるな)

「中野!! 資料は出来ているのか?」

「あと少しで完成だ、お前もさっさと会議の考えをまとめてろ!!」

こうして翔の手によって会議に開かれる資料は着々と出来ている・・といっても殆どの目立つ資料は出来ていて最終的なまとめなのだが、こういったことは普段は団長である藤堂の仕事であるのだが・・宗像が好きでやっているのか、はたまた強制的にやらされているのかと聞かれたら間違いなく前者なのは違いない。といっても普段から宗像頼りにしているのもどうかと思う、もし彼が休むことがあったとしたら自分が駆り出されるのは正直勘弁して欲しいところだ。

「お前な、宗像を頼ってばかりじゃ意味ないぞ?」

「うるさい!! 宗像は好きでやってるんだ、俺が口出すほどではない!!!」

「生徒会での会議は本来なら・・わかったらそう睨むな!!!」

藤堂の無言の圧力に屈した翔は黙々と資料の作成を続ける、それにしてもこの膨大な資料の中から会議の場で有利に会議を進めて行く宗像の手腕には正直言って感心してしまう。

そして数分後、ようやく資料を纏め上げた翔はそのまま藤堂に手渡すと資料をチェックさせる。

「よし、出来たぞ。目は通してくれ」

「助かったぞ。これで会議に間に合う」

「・・なぁ、藤堂。変なこと聞いてすまないが、もしあいつが妊娠してしまっ・・フベラッ!!!!」

突如として藤堂の拳が翔に見舞われる、慌てて翔は体勢を立て直すが思わぬ挨拶に怒鳴り上げる。

396 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:01:31.20 ID:v03xVFc+o
「おい!! いきなりグーパンはないだろ!!!」

「いきなり変な話題を振る貴様が悪い!! 相良が妊娠だとッ! そんなものはお前の責任で決まってるだろッ!!!! ・・相良が妊娠だと?」

思わぬ翔の言葉に藤堂は持っていた資料を握り締めてしまう、ふと冷静になって翔の顔を見るのだが表情から察するに冗談ではなさそうだ。

「・・失望させられた、お前はどうするんだ?」

「逃げるわけにはいかねぇだろ。責任は取れるだけ取るつも・・」

「馬鹿者ォォォ!!!! 言葉では言うのは簡単だ、軽々しくそんな言葉を吐くんじゃない!!!!!!」

藤堂の言葉に翔は言い返す術を持てなかった・・いや、反論すらできなかったのだ。自分への言い訳になってしまう、これ以上は惨めな思いをしたくはなかったのだが・・藤堂の勢いは留まらない。

「何も言い返せないとは・・見損なったぞ!! 相良はなんと言ってるんだ?」

「いや、まだ聞いちゃいねぇが・・」

「お前にはつくづくガッカリさせられたよ、見てて不愉快だ。お前は俺にここまで言われて悔しくないのかッ!!!」

「・・悔しいけど俺はあいつを――」

空気を読まずにここで翔の携帯が鳴り響く、翔はそのまま電話に出ると受話器からはちきれんばかりの怒鳴り声が響き渡る。

“てめぇ、何やってるんだ!!! さっさと俺の宿題手伝え!!!!”

「お、おい・・今、お前に関する大事な話をだな」

“俺に取ったら宿題が大事なんだよ!!!! 今どこにいるんだ!!!!!”

聖の怒鳴り声にたじろいでしまう翔だがここで藤堂は翔の携帯を無理矢理取り上げると聖に負けないぐらいの怒鳴り声を響かせる。

「相良ァァ――!! 身重の貴様こそ何やってるんだ!!!」

“てめぇは・・何でこいつの携帯に出てるんだ!!!”

「うるさい!! 今のお前は大事な身体のはずだッ!! なのにこうしてフラフラと・・これから母親になるんだぞ――!!!!」

“てめぇこそ、なに訳わかねぇこと抜かしてやがるッ!!!!! さては―――!!!!”

「や、やめろ―――!!!」

慌てて両者を止める翔だが、ここまで来れば双方完全に引き下がるはずがない。更にヒートアップした藤堂は聖に怒鳴り上げる・・

「いいか!! さっさと産婦人科にでも・・って、何をする中野!!」

「うるせぇ、これ以上騒ぎを大きくするな!!! ・・お、おい聞こえているか?」

“てめぇ・・俺がいながらいい度胸してるな”

「ま、待て!! 勘違いするな、俺は何も――」

“うるせぇ!!! てめぇの言い分なんざ聞きたくはねぇんだよ―――・・今からそっちに行くから首を洗って待ってろ!!!”

そのまま強引に電話を切られた翔はこれから起こりうる状況を想像すると脂汗が額から流れ落ちる。

「ふ、藤堂!! ここは俺が何とかするからてめぇはさっさと会議に出ろ!!!」

「クッ、納得がいかん展開だが・・仕方ない。中野、キッチリと男の責任は取れよ!!!」

「・・ここは押忍って言ってやる。だからさっさと生徒会室に行け!!!」

そのまま翔は強引に応援団室を後にするとそのままある場所へと駆け込んで行く・・この状況で駆け込む場所など1つしかない。
397 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:02:31.87 ID:v03xVFc+o
保健室

「てなわけなんだよ、礼子先生ぇ〜・・」

「ハァ・・中野、俺はお前が情けないぞ」

あれから迷うことなく保健室へ向かった翔は運良くも帰る準備をしていた礼子に出くわしてさっきの経緯を話す、今回の顛末については流石の礼子もタバコを吸いながら怒鳴るどころか呆れてしまって物が言えない。

「それにしてもてめぇ本当に相良を・・妊娠させちまったのかッ――!!!!!!!!!!」

「い、いやだから・・まだあいつには」

「バカ野郎ォォォォ!!!!!!!!! 相良が妊娠しないように俺が薬渡してんの忘れたわけじゃねぇだろうな!!!!!」

「わ、わかってるの決まってるだろッ!! だから俺はこうs・・」

「うるせぇ!!!! それ以上は聞きたかねぇ、言葉では簡単だけどな・・てめぇは取り返しのつかないことしてしまったんだぞ――――」

半端ない礼子の言葉の重みに翔は萎縮してしまうと同時に自分の浅はかさを認識してしまう、そのまま礼子はタバコをもみ消すと行動を決意する。

「今から相良と一緒に病院行くぞ、あいつの伝だが腕は確かだ」

「すまねぇ・・」

「全く、お前等は・・」

そんな中で突如として保健室の扉が強引に開かれる、現れたは勿論聖・・瞳は既に血走っており放たれるオーラは凄まじい、例えるなら相当の実力者でも裸足で逃げ出してしまう勢いだ。それは翔でも例外ではなく本能が勝って思わず後ずさりしてしまうのだが聖はゆっくりと詰め寄る、普段と違って無言なのが余計に怖い。

398 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:03:19.96 ID:v03xVFc+o
「・・覚悟は出来てるだろうな」

「ま、待て!! お、落ち着いて話を――」

「覚悟しろォォォォ!!! 浮気者には塵一つ残さずにぶっ潰してやる――――!!!!!!!!!!!!」

聖はそのまま翔に制裁を加えようとしたがここで礼子が制止させる。

「てめぇ等、暴れんじゃねぇぇぇぇ!!!!!」

「「・・」」

聖をも上回る礼子の怒鳴り声によって2人の動きはそのまま止まるのだが、しかし聖は一瞬で再起動する。

「いくら礼子先生でもこればかりは――・・」

「・・俺に逆らうのか――」

「は、はい・・」

(す、すげぇ・・さすが初代金武愚の総長だぜ)

格の違いを思い知ったのか礼子の雰囲気に圧倒された聖は即座に勢いを即座に止めていつものように大人したのを確認した礼子は一瞬で喫煙の痕跡を消すと普段の通りのまま聖に話を振る。

「ふぅ・・落ち着いた?」

「あ、ああ・・」

「・・それじゃ、改めて聞くわ。生理はきたの?」

翔は神に祈るような気分で聖の回答を静かに待つ、もしここで生理が来なくて妊娠検査機で陰性が出れば聖は見事におめでたという事になる。

そんな翔を他所に聖はあっけらかんと答える。

「生理? 来たけどそれがどうかしたのか」

「えっ、お前・・昨日は来てないって」

「お前バカだろ!! 今朝ようやく来たんだよ、月ものは思い通りには来ないんだ・・ってそれがどうかしたのか?」

「よ、よかったぁ・・」

自分の推測が外れて心の底から安堵する翔だったが、今度は礼子から先ほどの聖とは比べ物にならないほどのオーラを徐々に放つ。
全ては翔の勘違いから始まったこの騒動・・余計な事で動かされて道化にされたこの怒りは考えるだけで腹が立つ、聖もそれを感じたのか恐る恐る自分の安全を確保する。

「れ、礼子先生・・帰って宿題していいか・・な・・?」

「・・いいわよ」

「お、俺もこいつの指導を・・ヒイッ!!」

翔の身体は動こうにも動けない、ヘビに睨まれた蛙の如く・・そのまま聖は底知れぬ恐怖を感じながら保健室を後にする、残されたのは翔と礼子・・これから怒る展開など1つしか考えられない。

「中ァ〜野ォォォォォ!!!!!!!」

「ま、待て!! 俺の言い分を・・」

「聞くかあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

こうして保健室に翔の声が木霊する、制裁の内容は文章で現せないほど過激なものなのでご想像にお任せしたい・・

399 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:04:42.27 ID:v03xVFc+o
職員室

そのまま翔への制裁を終えた礼子は疲れきった表情で日誌を霞に提出する、それによく見ると靖男の姿も見受けられた、霞は思わず礼子の表情を見ると心配の余り声を掛ける。

「春日先生、どうしたの・・?」

「・・いえ、ちょっとトラブルがありまして」

礼子の疲れきった表情に霞も思わず口に出すのをやめておく、一体何が彼女をここまで疲れ果てさせるのかが気になるところだ。礼子はそのまま自分のデスクで一息つきながら疲れを癒す、隣では靖男が一生懸命に書類を作成する。

「相変わらず精が出るわね、骨皮先生・・」

「わぁ〜!! 誰かの手が欲しい・・早くcivの続きしたい!!」

「骨皮先生、無駄口叩いている暇が合ったらさっさと書きなさい! 出てないの先生のクラスだけよ〜」

「わかってますよ!! ・・はい、出来上がり!!」

そのまま書類を作成し終えた靖男は書類を霞に提出する、そのまま霞は書類を見ながらいつものように溜息吐いて判子を押す。

「全く早く書類提出してくれればこんなことにならなくて済むのよ・・今日はもういいわよ」

「疲れたぜ。全く、相良の奴は変な事聞いてくるから余計にしんどかった」

不意に靖男が呟いた言葉に礼子は先ほどの件を思い出すとついつい苦笑してしまう、その姿に靖男は少しばかりムッとしながら礼子に話を振る。

「なんか俺おかしいこと言った?」

「別に・・ただちょっと思い出し笑いしただけよ。ところで何を聞かれたの?」

「俺の過去だってさ・・んなもんに興味あるのかね〜」

靖男はコーヒーを啜りながら天井を見上げるが、今度は霞が靖男の話に興味を示す。

400 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:06:13.60 ID:v03xVFc+o
「私も興味あるな。この際だから教えて〜、上司命令♪」

「校長先生、それが通じるのは本当の子供だけです。あんた実年齢幾つですか・・」

「・・骨皮先生、来週に行われる女体化生徒を考える会のPTAへの提出書類まだだったわね」

「で、でも・・期限はまだじゃ」

「この際だからさっさと提出しなさい!!」

地雷を踏んだ靖男と霞のやり取りを見ながら礼子はコーヒーを啜り、改めて靖男の過去が気になってしまう。

「ねぇ、骨皮先生ってどんな過去を送ったの?」

「春日先生までそれかよ。全く相良と似たもの同・・」

「何か言った?」

「い、いや・・」

礼子はそのまま右手に持っていたボールペンを握りつぶす、その光景に恐れおののいた靖男は観念したのかポツリポツリと語り出す。

「やれやれ・・あるところに卓球漬けの日々を送ってた男子高校生が2人いました、1人は卓球の腕は上手かったけど勉強がからっきしな靖男君。
そしてもう1人は卓球の腕はそこそこだったけど勉強が出来て女にモテモテの進也君がいました、2人は大変仲が良く順調な高校生活を送っていましたとさ・・めでたしめでたし」

「・・骨皮先生、洗いざらい全て聞かせてくれたら書類は撤回してあげてもいいわよ」

「これが仕様なんですよ、校長先生。・・そして2人に大きな転機が訪れます、女体化です。なんとモテモテだった進也君は童貞だったのでそのまま進也君から真帆ちゃんへと変わりました」

「随分と大きな改名ね」

礼子はそのままコーヒーを啜りながらワクワクしている子供のような霞と共に靖男の話の続きを静かに聞くが、靖男は僅かに声を落としながら話を続ける。

401 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 18:09:14.01 ID:v03xVFc+o
「友情が恋愛になるのも時間の問題でした。2人はしどろもどろになりながらも恋愛して幸せな青春生活を送っていました、ここで神様は運命に悪戯させて2人に大きな試練送ります。

なんと言うことでしょう・・真帆ちゃんが妊娠してしまったのです、避妊は怠っていなかったものの時既に遅く妊娠は丁度2ヶ月。ここでお馬鹿な靖男君は世間体や周囲を顧みずに真帆ちゃんに子供を産んで2人で育てようと軽々しく提案します、真帆ちゃんは小さく頷きながらもその瞳はどこか悲しそうでした・・
そして翌日、靖男君は現実を直視することになります。なんと真帆ちゃんは誰にも言わずに突如として県外へ転校してしまいました、靖男君は必死で真帆ちゃんを探したもののその所在は遂に明らかになる事はありませんでした」

「「・・・」」

「靖男君は絶望しました、そして数え切れないほど自分を責めました・・大好きな卓球を辞めてしまい、前など見えず歩いているのがやっとでした。そのまま高校を卒業した靖男君はなりくずし的に教育学部へと進み、上辺だけの付き合いで中身は死んだように淡々と講義を受けていく毎日・・そして教育実習である学校に赴任した靖男君は教師にこんな事を言われます。


“ダメだよ、そんな顔してちゃ・・私もね昔、金髪で無表情だけど儚そうな顔した女の子もいたし、生徒と一緒に暮らしたこともあるけど凄い励まされて貰ったの!!! ・・靖男君も辛いだろうけど、精一杯笑って暮らそ!”


西もt・・ある女教師の言葉に靖男君は感銘を受けました、聞くところによると彼女は幼い頃に両親を殺されて一時は話せなかったそうです。そんな辛い境遇にあった彼女だからこそ靖男君の心境をわかっていたのかもしれません、それから彼女に多数の励ましの言葉をもらった靖男君は世界に羽ばたきましたとさ・・めでたしめでたし」

話が終わると2人は思わず言葉を失う・・そんな空気を察したのか靖男はそのままコーヒ−を啜るといつものように惚けた顔に戻りながらケラケラと話す。

「え〜、さっき話したのは演劇部に送ろうとしていた話です。フィクションです、嘘っぱちです」

「良い話ありがとう骨皮先生・・さっさと書類全部出しなさい」

「校長先生、そりゃないでしょ!!」

「あのね!! わざわざ期待したとおもったら・・安い小説でももっと良い話を書くわよ」

こんな中で霞と靖男の応酬が再び繰り広げられるのだが礼子は再び靖男の話しにある疑問が生じる、もし仮に話が本当だとすれば靖男の赴任した学校の教師について心当たりがある、もし自分が会ったことあるのなら思い浮かぶのはあの人物しかない。

「・・ねぇ、骨皮先生?」

「あんだよ? 春日先生も安っぽいってバカにすんのか!! フィクションだから仕方ねぇだろ!!」

「靖男君が励まされた先生・・なんて言う名前? フィクションなら教えてくれていいでしょ」

「・・西本 心、それがその先生の名前だ。そのはちゃめちゃだけど人一倍生徒想いの先生は靖男君の支えとなってなったのでした。ま、フィクションだし気にするな」

(懐かしいな・・あいつまだ先公してたのか、昔はしつこくて無視してたのよ)

その名前に礼子は心の中で強い反応を覚える、かつて高校時代の担任の名前・・昔は取るに足らない存在だったが今となっては少しばかり懐かしく想えるその言動は眩しく感じてしまう。

「登場人物教えたんだ。書類手伝って貰うぜ、せっかく演劇部に売るネタだからな」

「ねぇ、書類手伝って上げるから最後にもう一つ教えて・・靖男君は真帆ちゃんと会う事が出来たの?」

「・・さぁな、本人に聞かないと知らないね。所詮はフィクションの話に突っ込むのは野暮ってもんだ」

「そう・・じゃ、そういうことにして上げる」

(全く、素直じゃない2人ね・・)

礼子はそのまま靖男から書類を受け取ると複雑な心境を抱えながら完璧な書類を書き上げる、霞はそんな2人をどこか含みのある笑いで見守るのであった。








fin
402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/20(日) 18:10:15.86 ID:v03xVFc+o
まだまだ終わりじゃないよ
次の人の投下を待ちながら飯でも食います
403 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/20(日) 19:57:57.50 ID:9mq2vVsAO
乙です
日曜なのに人がいないな
404 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:19:05.13 ID:Oe1zIP740
>>402
乙です!

俺も続き投下しますね。
405 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:24:00.34 ID:Oe1zIP740
さて、女になって2日目の学校である。
昨日程の騒ぎになる事も無く、比較的平穏な一日を過ごせていた。
今から行われるのは午前中最後の、体育の授業。
これさえ終われば至福のカレーパンタイムが待っているのだ。

しかし今、俺は人生最大と言っても過言ではない窮地に陥っている。
実際にこの状況に陥るまで、考えもしなかった事。
体育の授業。着替え。…女子更衣室。
俺は着替えを胸に抱えながら、扉の前で立ち尽くしていた。
ただの扉のはずなのに。
かの有名な、ロダンの「地獄の門」のようにも見えてしまうのだから不思議なものだ。

…バカな。女になって僅か数日の俺に、このエリア51並の立入禁止区域へ踏み込めと言うのか?
ゲーム開始直後にラスボスに挑むようなものだ。クロ○トリガーかよ。しかも強くてニューゲームじゃないし。

「んー?西田君、どうしたの?ほら、行こ!」

そんな俺の心境を知ってか知らずか、隣の藤本が煽ってくる。
足を踏み入れた瞬間に射殺されたりしないだろうな…。

若干疑心暗鬼になってしまうが、確かにさっさと着替えないと授業に遅れてしまう。
ええい、ままよ。この難関をクリアしない限り、女としての俺に未来は無いのだ。
意を決して扉を開け放ち、一歩を踏み出す。

…思っていたのとは違った。違ったけれども。
女子更衣室の着替えと言うと、そりゃあもう誰もが上も下も下着姿でウロウロしているものだとばかり思っていた。
目の当たりにしてみると、案外そうでもない。
下はスカートを脱ぐ前にハーフパンツを穿けば良いし、そもそも俺のように最初から穿いているヤツが大半だ。
上もまぁ、完全に隠す訳ではないが、決して見せびらかす訳でもない。
皆、適度な距離感を保って着替えをしているらしい。

要は皆、同性と言えどもそれなりの羞恥心を持っているのだ。
それが、良くない。
恥じらいを持って着替えている半裸の乙女達の中に、元男の自分が乱入しているという状況だけで充分、発狂出来てしまう。

ヤバい。ここにいたら、ただでさえ可哀相な俺の頭が、目も当てられない事になってしまう。
取り敢えず、着替えはトイレですれば良いじゃないか。そうすれば皆、幸せでいられるのだ。
そう思い、踵を返した瞬間だった。
406 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:25:55.21 ID:Oe1zIP740
「あっはっはっは!どこへ行こうというのかね?」

首根っこを掴まれ、捕獲された。どこぞの大佐…いや、植村に。

「逃げちゃダメだよー?子猫ちゃん!」

藤本ォォーッ!お前もかああああッ!!!

「え、いや、その…ちょっとトイレに…」
「アンタさっき行ってなかった?」
「頻尿なんだよ!言わせんな恥ずかしい!」

自らを貶める最低な嘘だが、この際もう何でも良い、とにかく戦略的撤退を…ッ!

「西田君、私の目を見て言ってみて?」
「すいませんでした」

いつものハイパー藤本スマイル。
だが、裏を返せば嘘吐きを駆逐する凶悪な兵器となり得る。
それは反則ですよ、藤本さん…。

「それじゃ、恒例のボディチェックといきますか。典子、逃げないように抑えてくれる?」
「りょーかい、玲美大佐!西田君、ちょっとだけごめん!」
「はぁ?恒例?……え、ちょ、藤本さん!?植村さんッ!?」

藤本が俺の脇の下に腕を通し、羽交い締めのような格好にされる。
…植村が手をワキワキさせてるんだが。

「さーて、御開帳ーっ!」

植村は俺のブレザーのボタンを素早く外し、そのままブラウスのボタンにも手を掛ける。

「おい、何やってんだよ!?女同士はこういうのが普通なのか!?」
「そんな訳ないでしょ。でもちょっと前まで男だった娘が、どんな身体で、どんな下着なのか…気になるじゃない?ふ、ふふ…」

植村の顔がヤバい。うわぁ…。
頼りになるはずの先輩、武井と小澤は哀れみの目でこちらを見ていた。助けてくれよ。

「と言う訳で西田君、ちょっとだけ我慢してね?大丈夫、怖くないからね〜?」

それに比べてやっぱり藤本は良い子だなぁ。
…あれ?何か騙されてるような気がする。

「あ、脱がすなよおい!武井!小澤ッ!何とかしてくれ!」
「悪いね、僕らもやられたんだ。西田だけ助かるのは不公平だろう?まぁ同情はするけどね」
「うんうん、洗礼みたいなものだからね。受け入れた方が楽じゃない?」
「アッー」
407 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:32:34.90 ID:Oe1zIP740
「恒例の」って、そう言う事かよ…!
抵抗虚しくブラウスを脱がされ、キャミソールを捲り上げられてしまう。

「やっぱり大きいなぁ。ブラは薄緑ね、なかなか可愛らしい色じゃない」
「無地ってところに恥じらいを感じるよね!」
「心はまだ男なのにブラを着ける屈辱とか羞恥心とか、そう言うのがあるんじゃない?それを突くのが最高にイイんだけど」

植村は、俺や武井たちのような元男の羞恥心を弄ぶのが好きな変態だったらしい。
抵抗しても逆にそれは、植村の嗜虐心をくすぐる結果にしかならないようだ。
このサディストが…ッ!

「この変態淑女がああ!見世物じゃねぇんだよ!金取るぞ!」

強がってはみるものの、藤本の前で(と言うか藤本も加担しているのだが)醜態を晒してしまい、
真っ赤になっているのが自分でも分かる。
更にあろうことか、植村が胸を触り始めたではないか。

「んー。G65くらい?」
「何で分かるんだよ!ぁ、…!……ッ!!」

ヤバい、まただ。またあの感覚。

俺が藤本にやりたかった事を、藤本の前で、俺が植村にされている。
何なんだ、この状況…!
変な声が出そうになり、慌てて目を堅く閉じ、両手で口を押さえる。
膝なんて、ガクガクと大爆笑中だ。

「玲美、ちょっとやりすぎだよ!西田君が可哀相でしょ!?」
「はっ!私より大きかったから、ついどんなものかと…。ごめんね西田、大丈夫?」
「はぁ、はぁッ…!ついじゃねーよッ!この性犯罪者ッッ!」
「性犯罪者ぁ!?アンタだって思いっきり感じてたくせに!」
「〜〜〜〜ッッッ!!!」
「西田君落ち着いて!ほら、よしよーし。ごろごろー」

藤本に頭を撫でられる。
あったかい。ふわふわする。きもちがいい。

「…くそっ、早く着替えねぇと授業に遅れるぞ」

植村を止めてくれた藤本に免じて、ここは許してやろう。
植村も悪ノリが過ぎただけだろうしな、うん。
頭を撫でられたのは関係ない。…多分。

「典子、アンタ完全に西田を手なずけてるみたいね…」
「西田君は猫科だからじゃないかな?ほら、うち猫飼ってるし」
「猫科じゃねぇよ!せめて人間扱いしろよ!」
「可愛いから良いの!」
「…そっすか」

よく分からん押し切られ方をするハメになった。
…惚れた弱み、だな。
こんな感情は早いとこ消えて欲しい。
余計な事を考えずに友達でいられるようになれば、それは素晴らしい事だ。
女になってしまった以上、それが最良の関係なのだから。
408 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:37:41.35 ID:Oe1zIP740
「にしても西田のあのヨガり方、やっぱり噂はホントみたいね」

着替えをしていると、近くで同じく着替え中の植村が呟く。
視線を向ける勇気は無いので、頑なに正面を見つめながら返事をする。

「話を蒸し返すなよ…。あん?噂?」
「女体化した子は感度が良いんだって」
「はあああ!?」

全然嬉しくねぇ…が、否定は出来ない。
自分で触るのは平気だが、他人に少し触られたらあのザマだ。確かに異常としか思えん。
武井と小澤に聞いてみるか。

「…先輩方はどうなんだ?」
「僕は他人に触られた事が無いからね、彼氏もいないし。何なら西田、触ってみる?」
「勘弁してくれ」
「あ、えーっと…私も無いなぁ、あはは…」

武井はいつもこんな調子だから何とも言えないが、
小澤のうろたえ方は明らかに怪しい。
俺ばかり恥をかくのは御免だ。道連れは多い方が良い。
そうだろう?小澤よぉ…ッ!

「藤本先生『あれ』、やってやれ」
「よしきた!梓ちゃん、私の目を見てもう一度言ってくれるかな?」
「ちょ、ちょっと藤本ちゃんやめてよ!それは反則だって!」

藤本、恐ろしい子…!
あれ?そう言えば藤本って、女子の名前を呼ぶ時は下の名前で呼ぶんだよな。
何で俺だけ「西田君」なんだろう。少し寂しい気もする。

「…うぅ。実は今、彼氏がいて…」

多少粘ったようだが、あえなく小澤も撃墜されたようだ。
よく頑張ったよ、お前は。俺なんて即死だったからな。
俺が藤本をけしかけたとは言え、少し気の毒だったか?

「へぇー小澤、彼氏いるんだ?相手は誰なのかなー?」

植村はこの手の話が大好物のようだ。この機を逃す気配は無い。
弱り切った小澤に対しても追撃の手を緩めない。

「…浩一君、なんだけど…」
「浩一って、アンタが仲良いグループの田坂浩一?幼馴染って言ってたっけ?」
「ぅ、うん…」

恥ずかしいのだろう、顔を真っ赤にしてモジモジしている。完全に恋する乙女だな。
植村が根掘り葉掘り聞いたところによると、どうやら小澤はもう非処女らしい。
処女だの非処女だのと言われても、この間まで男だった俺にはピンと来ないが。

それにしても、女体化して付き合った相手が幼馴染かよ。
俺で言うところの涼二じゃないか。

涼二と付き合う?
手を繋いで、キスして、セックスして。
順調にいけば、結婚。
…無理無理無理ッ!考えたくもない。
昨日のアレも単なる礼であって、涼二もあれ以上を求める素振りは無いじゃないか。

でも、うちの母さんも女体化して、幼馴染みの親父と結婚したんだよな…。
いや、考えるのはよそう。アイツとはこれからもずっと幼馴染みで、親友だ。
409 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:41:19.92 ID:Oe1zIP740
体育の授業が終わった。

やっとカレーパンにありつける。
涼二が人混みから脱出して来たのを見つけて駆け寄る。
さぁ早く!早くこちらにカレーパンを渡すのだ!

「ほれ忍、今日の餌はカレーパンと焼きそばパンだぞー」
「餌って!俺は動物じゃねーぞ!つーか持ち上げんなよ!取れねぇだろ!」
「いやぁお前のさ、カレーパンを見て駆け寄ってくる感じとか、こうやって届かないカレーパンに必死で手を伸ばす感じが…
 餌を欲しがる猫みたいで…ぶふっ」
「…ッ!」

うぜえええ!!
笑いを堪えるクソ野郎に悪態をつこうと思ったものの、こちとら世話になっている身だ。
喉まで出かかった罵詈雑言をギリギリ飲み込む。

「そう怒るなって。そもそもお前、猫顔だしさ。ほら、今度こそ自分で大事に持っとけ。さっさと教室戻ろうぜ」
「…ふんっ。猫顔は母さん似だからだろ」
「秋代さんが親猫で、お前が子猫か。違和感ねぇな」

下らん事をほざく涼二はスルーだ。
愛しのカレーパンと、おまけの焼きそばパンを受け取り、教室に戻るために並んで歩く。
ふと隣の涼二を見上げると、額や首回りにしっとりと汗をかいているようだった。
そうか。さっきは体育だったし、続けざまにあの購買争奪戦だったからな。
ツーンとするようなキツい悪臭ではないが、少し汗の匂いがする。

涼二の、汗の匂い。…雄の匂い。
男の頃には気にも留めなかった匂いなのに、何故か妙に気になってしまう。
ただ臭いだけの汗は嫌だが、この感じは…何と言うのだろう。
ドキドキするような、惹きつけられるような、頼りたくなるような。
独り占めしたい。もっと近くで感じたい。

そんな事を考えている自分に、驚きと戸惑いを覚えた。
女子更衣室で考えた事を思い出してしまい、慌てて頭をブンブンと振る。

「どうしたんだお前?何してんの?」
「何でもねぇよ!つーか、お前ちょっと汗くせーぞ」

とっさに口走ってしまうが、「だがそれがいい」とまでは言えなかった。
言ってたまるか。自分でも理解不能なんだから。

「マジか!?キモいって言われるより臭いって言われる方がキツいッ!この精神的ショックは計り知れねええッ!
 …はぁ、スプレーでも買うかな…」
「あ…いや、そこまでしなくて良いんじゃないか?そんなに気になる訳じゃないからさ。大丈夫だろ」

何となく、この匂いを消されたくなかった。

「そうかぁ?でも匂いはするんだろ?女になるとそういうトコも敏感になるのかねぇ」
「知らねぇよ…」

ホント、女の身体ってのはよく分からん。
410 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:44:31.41 ID:Oe1zIP740
「そうだ、お前にこれ買って来てやったんだ。やるよ」

カレーパンに舌鼓を打っていると、涼二が可愛らしくラッピングされた謎の物体を机に置いた。

「…何だよコレ。この世の物とは思えないほど怪しいぞ」
「でも可愛らしい包みじゃないか。プレゼントかな?」
「騙されんなよ、こいつが俺にマトモな物を渡すとは思えん」

横から口を出してきた武井に忠告する。
…マジで怪しい。
涼二と、可愛らしいラッピングのプレゼント(?)。更に渡す相手は俺だ。
こんなに不気味な組み合わせはそうそうあるものではない。

「まぁ開けてみろよ」

このままでは埒が明かないと判断したのだろう、涼二が促してきた。
仕方ないので嫌々開封する。

…これ。国民的人気キャラクターのキ〇ィちゃん、か?

「…ストラップ…?」
「何だ、普通に可愛いストラップじゃないか。女の子はこう言うの好きだからね。中曽根は案外、手が早いのかな?」

女になったとは言え、俺はこの手の物は別に趣味ではない。
だが武井の言う通り、世間一般の女の子なら好む代物だ。

え、何?
俺、涼二に女の子扱いされてる…のか?

かぁっと顔が赤くなったのも束の間、パッケージに書かれた文字が目に入る。

「…防犯ベル?」
「そ、物騒な世の中だからな。小学生くらいの子供は誘拐とかされてもおかしくねぇし」
「俺、高校生だけど」
「そりゃ俺らは分かってるけどさ。誘拐犯が見たらどうだろうな?」

涼二が言わんとしている事を理解した瞬間。
俺の顔の赤色は「恥じらい」から「怒り」へと、その意味を変えた。
411 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 20:48:55.33 ID:Oe1zIP740
こ、この野郎…!
どうせマトモな物は寄越さねぇと思ってたけど…!
俺を馬鹿にするために無駄金使って買ってきたとか手ぇ込みすぎだろッ!!

俺が怒りのあまり言葉を失っていると、これを素敵なプレゼントだと勘違いしていた武井が口を開いた。

「そういう事か。西田、どうやら中曽根は君の事をちんちくりんと言いたいらしいよ?」

うん、知ってるんだけどね、武井。
いちいち声に出して言わなくても良いんだよ?
イラっとしちゃうから。ね?

「おいおい、折角俺がオブラートに包んだ言い方をしてやったのに。武井は酷いヤツだなぁ」
「おっと、これは失礼」
「あはは」
「ふふふ」

あ、ダメだこれキレるわ。

「てめぇらああーッ!!人の身体的特徴を馬鹿にすんなって小学校で習わなかったんですかあァァァッッ!?」
「はいストップだよー西田君。怒っちゃダメ!」

机を叩きながら怒りの咆哮を放っていると、突然割って入ってきた藤本にまたもや頭を撫でられる。
西田忍、完全に沈黙。

「ん?何これ、キ○ィちゃんのストラップ?……じゃなくて防犯ベル…っぷぷ…」

そして続いて現れた植村が、またもや話を蒸し返す。何なのコイツ。

「せっかく俺が買ってやったのにさぁー、怒るんだよコイツ」
「あっはっは!そりゃ怒るでしょー!」

俺の怒りは正常なんですね。良かったです。

「まぁ何にせよ、せっかく中曽根がアンタに買ってくれたんだから。西田、携帯貸しなさい」
「あ、おいこら!」

許可していないにも関わらず、植村は机に置いてあった俺の携帯を勝手に奪う。
そして実に手早く、この忌々しいストラップ型防犯ベルを付けてしまった。

「何かスマホにストラップって似合わないかも」
「えー?キ○ィちゃん可愛いから良いんじゃないかなぁ」
「おいィ?持つのは俺なんだが?」
「ピンチになったら作動ピンを抜くんだぞ、忍!」
「使わねーよハゲ!!」

見た目は、少し大きめのキ〇ィちゃんのストラップだ。その辺のJKが付けていてもおかしくはない。
はぁ…。ま、良いか。
412 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/20(日) 21:01:36.82 ID:Oe1zIP740
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。
キレてばかりなウチの主人公ですが、生暖かく見守ってやって頂けると嬉しいです。

>>383
まとめ人様、超感謝です!
タイトルは未だに思い浮かばないので、無題で宜しいかと…
それにしても自分が書いたのが載るのは感無量ですねー。もっと頑張ります!
413 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/20(日) 21:30:45.92 ID:v03xVFc+o
>>412
乙でございます。ロリ巨乳・・最強じゃねぇかおい
新たな恋の予感も期待しております

さて、もう1話投下するよー
414 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:33:50.78 ID:v03xVFc+o
中野 椿・・華の中学3年生、傍から見れば普通の女子中学生であるが彼女の場合はちょっと違う。
生まれた頃から実兄である翔によって起こされる様々な厄介ごとの火消しを常に背負わされると言う悲しき宿命を持った少女、皮肉にも彼女のその非凡な才能は趣味である音楽よりもそういった方面で発揮されるという悲しい現実が起きている。

それはそんな彼女のお話・・




          因果断絶

                      ◆Zsc8I5zA3U









朝、椿はいつも通りに起床をして顔を洗い自室で髪のセットをするのだが・・ここでいつものように翔が無断で部屋に入っていってスプレーやワックスを無断拝借する。

「おっ、ちょっとワックスとスプレー借りるぞ」

「お兄ちゃん! ・・こないだ貸したブラシそろそろ返してよ」

「えっ・・わかったよ」

翔は渋々ブラシを椿に返すのだがこれはまだ良い方で下手をすれば自分の所有物にしてしまうのも結構あるのだ、油断をしてしまえば自分の所有物がなくなってしまう。

「あれこれ言わないけど、チャンと返してよね」

「わかったわかった」

信用ならない返事を残したまま翔は部屋を後にする、世間体はかなり良いのに実体はこうなのだから呆れてしまう。
そのまま椿は髪のセットを終えると台所へ行きテレビを見ながら用意されてた朝食を食べる、ちなみに中野家のチャンネル権はフリーダムなのでいつものようにお気に入りの番組を見ながら流行を欠かさずチェックするのは歳相応と言うべきであろう、ちなみに父親は仕事での出張で県外にいるのでこの場にはいない。

「そういえば明日は翔の学校の授業参観ね。お父さんに話すの忘れちゃったし・・」

(ゲッ・・)

授業参観・・何気に母が呟いたその言葉に椿は思わずゾッとしてしまう、去年の授業参観は翔があの手この手で両親の参加を食い止めて無理矢理椿を参加させていたのでかなり気が折れたのはよく覚えている。

「去年は町内の旅行とかち合ったから今年は流石に行かなきゃまずいわよね」

「そ、そうね。お母さんもたまには・・」

「・・母さん、その日はパートだろ? 親父だって戻ってこないし仕事は優先した方が良いと思うぜ」

即座に翔は母親の参加を阻止しようとする、それに今回は運が良いことに父親は出張なので思うように事を運ぶ事が出来るのだ。

「そうだったわね、母さん忘れっぽくって・・でも先生方に挨拶しなくて大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。家庭の事情だから仕方ないさ」

「わかったわ、あまりいけなくてゴメンね」

こうして母親の参観日参加を阻止した翔は一安心すると味噌汁を啜るが椿の方はこれからの事を考えると余り食欲もよろしくない、そのまま2人は食事を終えると準備を済ませると母親がいつものように見送りにやってくる。

「それじゃ気をつけてね」

「「行ってきます」」

そのままカバンを持った2人は道中が一緒なのでしばらくは2人で登校する、傍から見れば仲睦まじい兄妹に見えるのだが実際のところはそこそこと言ったところ。一時は壊滅的なぐらい冷え切っていたのだが何とかここまで持ってこれたのは奇跡といったとこである。

415 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:34:36.13 ID:v03xVFc+o
「それじゃ、いつも通りに・・」

「絶対に嫌。どんな手にも屈しないわ」

「・・以前にお前の補習をやってやったよな? それに課題のレポートの作成も俺がやったな」

(うっ・・)

事実が事実なので椿は言い返せない、特に提出期限がヤバイものは殆ど翔にしてもらっていたので不自由なく学園生活を送っている。しかしここで屈してしまえば今までと同じように翔の言いなりになってしまうので椿は出来る限りの抵抗を試みるがこの兄に勝てる程のスペックを残念ながら椿は有してはいない。

「後は去年の夏休みや冬休みの宿題もやってやったし・・勉強だって教えてやってるしな」

「あ、あれは・・!!」

「それに夏期講習だって避けられている成績を保ててたのは誰のお陰だ?」

「わ・・わかった」

遂に降伏してしまった椿は自分の情けなさに溜息が出る、そのまま翔は明日の授業参観のための手はずを整えさせる。

「とりあえず中学には高熱で休みって言っておけ、高校には正直に言っておいた方が通るからな」

「・・」

「そう睨むなよ、参観日が終わったらなんか奢ってやるから」

「じゃ、お小遣いと服買って」

「へいへい」

こうして買収までした翔は意気揚々としながら更に練密な計画を脳内で組み立ててる、椿は気乗りはしないものの折れてしまった身なので何ら反論は出来ない。バス停にさしかかると椿はバス通学なのでここで翔とはお別れ、このまま暫くは翔とは別れておきたいのは言うまでもないだろう。

「そんじゃ、俺は行くから明日は頼んだぞ。それとなんかあったら言えよ」

「うっさい!! さっさと行ってよ!!!」

そのまま強引に翔を追い払った椿は丁度良く目当てのバスがつくとそのまま乗り込んでゆっくりと休養する、時間的に朝の通勤ラッシュなのだが電車と比べれば遥かにマシなので結構ゆったりと出来る。バスの中にはぞろぞろと同じ中学の人間が集まると知り合いにはいつものように挨拶をしながら他愛のない話題で普通に楽しみながら学校へと向かって行く、誰にも干渉されないこの時間こそが椿にとっての唯一の楽しみでもあるのだ。

「ねぇ、椿のお兄さんってこの学校の卒業生よね」

「そうそう、頭が良くて結構カッコイイって先輩から聞いたことあるわ」

(中身は全然違うわよ・・)

どうやら翔は学校の中でもかなり世間体が良かったのが窺える、それが椿にとってはどうも悲しくなってしまうのだが彼女達の夢を壊すのは少し忍びない・・ここは黙っておいたほうがいいだろう。

「そういえば合唱コンクールで椿はピアノだけど練習しなくて大丈夫なの?」

「うん、大体は楽譜見ればわかるし音程の微調整程度なら2回ぐらい弾けばいいからね」

こうみえても椿は音楽に関してはそれなりの英才教育を受けておりコンクールに何度か入賞した実績がある、その才能を見込んだ周囲はその将来に期待したのだが本人は周囲との決定的な実力差に愕然としてしまって情熱を失い音楽をやめてしまった。腕は衰えてはいないものの今は趣味程度で楽しんでいる、それに好きな事で自分を追い詰めていきたくない。

「勿体無い話と言えば勿体無いわね」

「でも本人が楽しめばいいんじゃないの。それよりも中野先輩についてだけどさ」

(何も知らないって本当に幸せね)

そのまま椿はバスに揺られながらささやかな談笑を楽しんでいた。


416 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:35:32.44 ID:v03xVFc+o
教室

「おっす、祈美・・また徹夜?」

「お、おお・・積みゲーを消化したら朝がきたでござる」

彼女は同級生の木村 祈美、辰哉の妹で椿の友人でもある。どうやら顔色が優れないとこを見るとまた徹夜でゲームをして睡眠をとっていないようだ、見た目は普通の女の子なのに趣味はいささか個性的ではあるものの何だかんだ言っても一番気の置ける友人には違いないのでいつものように話を振る。

「寝るな〜、学校は始まってるぞ」

「ううっ・・椿、宿題見せて」

「はいはい、わかったわよ」

いつものように祈美は椿に宿題を写させて貰いながら眠りかけの身体を何とか目覚めさせる。ちなみに昨日は殆どがプリントだったので余り時間が取られないのは幸いといったところだろうか?

「そういえば私ちょっと明日は学校休むから周りに話し合わせて」

「ちょwwwwwwwwいきなり学校休む宣言とかwwwwwwwwwwwwwwww」

「声が大きい!! ・・ちょっと不本意で授業参観に行く破目になったの」

そのまま椿は宿題を写している祈美にこれまでの経緯を説明する、流石の祈美も思わす同情はしてしまう。

「ま、その宿題も全部お兄ちゃんが片手間にやってたからね。全て正解なのは保障する」

「同情はするよ。・・でも高校に行けるなんてテラウラママシスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「宿題見せてあげないわよ」

「ちょwwwwwwwwゴメンゴメン。でもうちの兄貴も通ってるから感想はよろしくね」

「ま、一応名門だからね。期待しないで待ってて・・」

そのまま椿の溜息と共に時間は過ぎて行く・・
417 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:36:32.99 ID:v03xVFc+o
お昼休み・音楽室

いつものように2人は購買部でパンを購入すると決まって音楽室で昼食を取るのが恒例となっている。

「さて、今日は・・組曲で頼むよ、動画見せて上げたんだから出来るでしょ?」

「組曲って前に見せてもらったあのメドレー? 大体は覚えているから出来ない事はないけど・・ちょっとリズムがまとまらないかもよ」

「出来るならおkwwwwwwwwww」

「はいはい」

そのまま昼食を食べ終えた椿は音楽室のグランドピアノの鍵盤を撫でるように音を出してくと本日の調律を確かめてそのまま祈美のリクエストに応えて曲を弾き始める。
趣味レベルにまで落ち着かせても腕が鈍るのを良しとしない椿にしてみればこうやってピアノを弾き続けるのは良いストレス解消にもなるし、腕を維持することもできる・・ただ、少々曲目が偏っているのはご愛嬌というやつだろう。

「・・どうだった? 個人的には今ひとつだったけど」

「いや〜、さすが椿だよ。絶対音感の持ち主はやっぱり違うね」

どうも今回の曲は椿にしてみれば常人では判らない微妙な音感のズレが気に入らなかったようだ、個人的にもこういったメドレーはどうも苦手なほうだ。

「そんじゃ次は・・」

「待った、ちょっと調整するために別の曲弾くわ」

そのまま椿は自分の感覚を調整するために得意の曲を弾きなおす、音楽室からは何とも言えないピアノ独自の美しい音が響き渡る。

「・・よし、そんじゃ次は何?」

「FFにちなんで・・片翼の天使。やっぱり空耳は外せないwwwwwwww」

「はいはい」

そのまま椿は祈美のリクエストに応えながら時間の許す限り曲を弾きつづける、音楽だけは翔以上の知識と経験を持つ椿は音楽の授業でも一際目立っており音楽の教師からも吹奏楽部への誘いを度々受けているのだが未だに固辞し続けている。
すでに音楽への情熱が冷めている椿にしてみれば将来は副業で慎ましやかにピアノの講師をしていたほうが自分に合っているような気がしてならない、真剣に取り組んでいても周囲に埋もれてしまって表立って才能を発揮する機会などないだろう。

(・・ま、私にとって音楽は自分を癒すためのものであってプロなんて似合わないしね)

「いや〜、身近にアニソン弾いてくれる人がいると幸せだwwwwwwww」

「おっと・・時間的にも次で最後だけど何になさいますかお客様?」

「んじゃね、アンインストールで!!」

「祈美の趣味に馴染んでいる自分が恐ろしいわ・・」

今日も音楽室ではピアノの音が響く・・

418 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:39:07.49 ID:v03xVFc+o
翌日、母親はそそくさと朝食の準備を終えるとパートのために家を空ける。

「それじゃ、お母さんは出かけるけど・・帰りは夜の7時ぐらいになると思うから」

「ああ、ちゃんと頑張ってこいよ」

「2人とも夕食には戻るからね・・って椿はどこか元気ないわね?」

「へっ? だ、大丈夫よ、行ってらっしゃい」

そのまま母親を見送ると椿は携帯を取り出して風邪を装いながら学校に連絡をする、携帯で連絡を取るのは万が一に連絡をされても即座に対応をしやすいからだ。
念のために翔にも傍にいてもらいながら椿は迫真のこもった手馴れた演技で高熱を装う。

「ゴホッ、せ・・先生。急に熱が出て・・」

“おいおい、大丈夫か? 熱は何度だ”

「さ・・さんじゅうく・・ゴホッ、ゴホ!!」

恐らく電話口からは風邪を患っているかのような感じで聞こえているだろう、更に駄目押しに椿は静かに翔に電話を譲る。

「あっ、先生。お久しぶりです!!」

“な、中野か!! 妹は大丈夫なのか?”

「ええ・・1日薬飲んで寝ていれば治りますけど傍から見れば結構しんどそうですし、俺も無理するなって止めたんですけど・・本人がどうしてもって言うから電話させたんですけどね」

(はぁ・・これがあの兄の実態だと知ればどう思うでしょうね)

いつものように饒舌でややオーバーに平然と嘘を語り出す翔に椿は決して口には出さないが思わず呆れてしまう、それに卒業しても翔は椿の学校においては優秀なOBには変わりないので未だに教師からの信頼も厚い。
特に今の椿の担任の教師はかつて翔の担任でもあったので椿が築き上げてきた彼の表向きな実績や人柄を熟知している。

今回も椿の演技と翔の信頼で今回はどうにか乗り切れそうである。

“そうか、お前が言うんだから本当なんだろう。妹にはしっかり休んで置けと伝えてやれ”

「すみません。自分からよく伝えておきますので・・はい、それでは失礼します」

そのまま電話を切ると翔は椿に携帯を返すと今度は授業参観のプリントを手渡す。

「これが今日の日程だ、保護者の話し合いについては親が仕事で外せないからっていえば参加しなくても終わったらまとまったプリントをくれる」

「・・だったら、私が行く必要がないじゃないの」

「お前バカか。こういった事をやっておけば親の信頼も上がるし、母さんだってそういった話題を振られた時にちゃんと話すことはできるだろ」

もっともらしい言い分に椿は感心するどころか理解を通り越して呆然としてしまう、もはや翔の行動は椿の理解の外にあるようだ。

「先生と母さんの間は俺が話しておく、お前は普通に俺の授業を見ていればいいんだ。今日はバイトが休みだから帰りになんか買ってやるよ」

「ねぇ、偏頭痛がしてくるんだけど・・」

「根性で治せ。学校の場所はわかるな、時間通りにちゃんと来いよ・・んじゃ、行ってくる」

(子供が産まれたら絶対に今までのこと暴露してやるわ!!!)

まさに自分勝手そのままの理屈を椿に残しながら翔は学校へと向かって行く、残された椿は偏頭痛と戦いながら時間を潰していくのであった。


419 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:40:00.71 ID:v03xVFc+o
数時間後・・周囲を気にしながら椿は翔が通っている白羽根学園に到着する、本来なら自分は高熱で休んでいるので知り合いや学校関係者の目を気にしながら慎重にここまでたどり着いた。

「あの、特進クラスの中野ですけど・・両親がどうしても仕事の都合で来られないようなので代わりに来たんですけど」

「ああ、話は聞いています。それでは教室に向かってください、今回の保護者の話し合いが終わったらこの受付にプリントを置いておきますのでご自由にお持ち帰りください」

「・・どうも」

受付を済ませて教室に向かう椿は周囲の保護者を見回して見ると明らかに浮いている自分に恥ずかしさを覚えてしまう、去年に来たとはいえこの恥ずかしさにはどうしても慣れないし慣れたくもない。そそくさと教室に向かう中で椿はとある人物と出会う。

「つ、椿じゃねぇか!! 何でこんなとこにいるんだよ・・」

「聖さん・・」

最初に出会ったのは聖なのだが椿は今にも泣き出しそうな思いで聖に駆け寄る。

「うわああああ・・聖さぁぁぁん―――」

「ど、どうしたんだよ・・いつもの椿らしくねぇぞ。よしよし・・またあいつがなんかしでかしたんだな」

聖にしてみれば何でここに椿がいるのかが疑問に思うのだが、すぐに事態を察知して椿を慰める。

「全く、あの野郎!! いい歳こいて妹を泣かせやがって!!!!」

「だ、だっで・・」

「安心しろ、終わったらきっちり俺がぶちのめすから・・だから泣きやめよ。なっ?」

「うん・・ありがとう」

どうにかして落ち着きを取り戻した椿はここで聖に会えた事に感謝する、去年はたまたま聖とは出会えなかったのでこうして聖といられるとつい安心してしまったのか感情が抑えきれなかったようだ。

「そういえば聖さんは授業参観だけど親は来てるの?」

「んなもん来るわけねぇだろ。あんなもの知らせるほうがおかしい」

これまた常識破りな理論ではあるが身内を巻き添えにする翔よりかは充分マシといえよう。それに改めて学園をみて見るとその広大さや生徒の多さには納得させられる、椿が入学する時は既に聖も卒業しているのが残念なところだ。

「ま、いい機会だし充分に見学するのもいいと思うぜ」

「そうね・・白羽根学園は有名だからいい機会かも。ありがとう、聖さん」

「さて、そろそろ授業が始まるから俺は教室に戻るわ。んじゃな」

そのまま聖は教室に戻ると椿は記憶を頼りに翔のいる教室へテクテクと歩いていくのだが、ここでまた椿はとある人物と出会う。

「おや・・見かけない顔だな」

「あなたは?」

「ああ、これは失礼した。俺はこの白羽根学園3年の宗像 巌だ」

「私は中野 椿です、兄のいる特進クラスへ行くところなんですよ」

この椿の物言いにとてつもない疑問を覚える宗像であったが、授業が近いので疑問はとりあえず後回しにしておくと時間が押しているので少し申し訳なさそうな表情で進み始める。

「よくわからんが、俺も特進クラスの所属でな。・・っと、無駄話している暇はないな。急いでいるのでこれで失礼させてもらうよ」

「あ、はい。呼び止めてすみませんでした」

そのまま宗像は少し小走りで彼方へと消えて行った、そして椿も教室へと急ぐ・・

420 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:42:23.02 ID:v03xVFc+o
特進クラス

椿はそのまま目立たぬように保護者の中を掻き分けて位置を確保すると授業参観を開始する、妹が兄の参観をすると行った奇妙な光景がひっそりと行われていた。

(英語の授業って先生も生徒も日本語喋らないの・・?)

今回行われているのは英語の授業、先生はおろか回答している生徒も全て英語で受け答えしているので椿にしてみれば何を言っているのか訳がわからない。

これが特進クラスと一般のクラスの授業の違いなのだがこれを椿が理解するのは多分一生ないだろう、それによく見ると兄である翔や先ほどであった宗像の姿が見受けられる。

(あ、あの人・・お兄ちゃんと一緒のクラスだったんだ。去年はよく見ていなかったから気がつかなかったけど)

「OK。・・さて保護者の皆様、今回はお忙しい中をご足労頂き有難うございました。英語の授業は教師と生徒は基本的に英語で受け答えしますのでごゆっくりとご参観下さい」

(・・ここの人間は私と頭の出来が違うわ。ちょっと外に出よう)

そのまま椿は再び目立たぬようにゆっくりと特進クラスを後にする、この授業を聞いていたら自分の頭は混乱すること間違いないし精神衛生上よろしくないので深呼吸しながら学校内を散策する。

「高校ってこんな感じなのね・・ってあのクラスは聖さん?」

たまたま椿が目に付いたのは聖のクラスの教室、しかも机にかじりつきながら教科書をじっと見つめている。先ほどはああ言っていたもののやはり授業参観となると流石の聖もやる気が違うようだ、そんな姿に感心していたその矢先・・聖の頭がこっくりこっくりと傾いている、よく目を凝らして見るとどうやら授業参観中に堂々と居眠りをしていたようだ。

「授業参観中に居眠りするなんて凄い根性・・」

(え・・あの娘って何者?? 中学生の学校見学なんて聞いてなかったし・・)

そんな聖の姿に夢中になっている椿に視線を送るちびっ子が1人いた、この授業参観を見守る者として授業の様子と教師の監視を並行して行っていた霞である。ちょうど霞は監視ルートに沿って歩いていたら教室を食い入るように見つめる椿に目についてしまったわけ、中学生の学校見学にしては時期が早すぎるし残念ながらそういった話は聞いてはいない。

421 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:42:47.35 ID:v03xVFc+o
(授業参観に居眠りなんて大それた真似は聖さんじゃないと出来ないわね)

「え〜・・えっと、どこの生徒さん?」

「あっ、すみませ――・・しょ、小学生っ??」

椿は振りかえるとそこには小学生低学年としか思えない少女の姿・・もとい、白羽根学園校長である霞の姿に唖然とするしかなかった。
思わぬ出会いに2人は暫く唖然とするしかなかったのだが、ここでは椿の方が冷静さを取り戻すのが早く、霞を学校に迷い込んだ小学生と勘違いした椿は年長者としてこの奇妙な事態を収拾する。

「君はどこの小学校かな? お姉さんと一緒に――」

「・・この学校の校長です」

「えっ、校長? お姉さんをからからうんじゃ・・って、この学校の校長先生!?」

驚愕の発言に椿は目の前が真っ暗となって抑えられてた偏頭痛が再び悪化する。この現実が夢ではないのは皮肉にも痛みでよくわかるのだが、椿の今までの短い人生でこれほどまでに驚愕したのはこれが最初で最後だろう。しかし霞に限ってはこのような椿の反応などほぼ毎日のように見慣れた光景であり、むしろ初見で自分に驚かなかった人間の方が少ない・・ある人物に限っては初対面にも拘らず、自分を問答無用で近くの小学校に連れて行ったほどだ。

霞は椿を落ち着かせるために顔写真入りの名刺を差し出すと改めて自分の自己紹介を行う。

「当、白羽根学園 校長の藤野 霞です。・・ま、こんな成りだから驚かないほうが無理ないわね」

「本物の・・校長先生?」

名刺と本物の霞の姿を見比べると椿はようやく自分の失態を恥じる。

「も・・申し訳ありませんでした!! まさか校長先生だとは思わなくて・・」

「気にしなくていいのよ、こんなことは慣れっこだから・・ところであなたは?」

「あっ、私は中野 椿です。今回は特進クラスの中野の代理で来させていただきました、両親が仕事で来れないので・・」

椿は事態がややこしくならないように慎重に言葉を選びながらこれまでの経緯を説明する、冷静になって考えればこのような事が両親にばれたら翔はもとより片棒を担いだ椿まで説教の一つでは済まされない。幸いにも去年はあそこまで大事にはならなかったのだが今回も同じように切り抜けられる保証などは一切ない、現に今回は接触してしまった人物が多すぎる。

「あ〜、リストに書いてあった。中野君のご両親もまめなのかよく分からないわね」

「は、はぁ・・」

正直言って椿は早くこの場から離れたかったのだが、下手な行動をしてしまえば自分の名誉に関わる事なのでなるべくは出来るだけ自然にかつ穏便に済ませておきたい。

「椿ちゃんだっけ、中学生なの?」

「え、ええ・・中三です」

「それじゃ良い機会だから一緒に校内を見学しましょうか。仕事もしなきゃいけないし」

椿とすれば非常に有難い申し出ではあるのだが、あまり自分の姿を大っぴらにするのは遠慮しておきたいところ。何せ自分の存在は本来ここにいてはいけないのだから・・

「(ま、まずい・・けど断る術が思いつかない)仕事って・・なんですか?」

「授業参観だからね、校長として全てのクラスの様子をチェックしないといけないの」

これも立派な校長の仕事、授業参観をきっちりと様子を見ておけばPTAとの話し合いにも役に立つ場合が多いし各教師それぞれが普段どのような授業をしているのかもよくわかるのだ。

「でもお仕事の邪魔になったらまずいんじゃ・・」

「大丈夫よ。それじゃ行きましょうか〜」

(ど、どうなるの・・私?)

思いもよらない展開の連続にすでに頭の中が混乱している椿であった。

422 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:43:57.56 ID:v03xVFc+o
数分後

「あっ、悪いんだけど私これからPTAとの話し合いがあるからこれで失礼するわ。椿ちゃんも入学する時はよろしくね」

「は、はい・・お忙しい中ありがとうございました」

授業が終わって霞はPTAとの話し合いがあるので申し訳なさそうにしながら椿の元を去る、残された椿はようやく安堵しながら自分を落ち着かせると改めて翔の通っている学校が偉大だと思い知らされた。

「校長先生があんなのだったら・・慣れるのには相当時間が掛かりそうね」

そのまま椿は近くの自販機で飲み物を購入して飲みながらこの無駄に広い校内を散策する、こんだけ広いのなら校内にコンビニぐらいは欲しいものだ。霞と一緒にある程度は見学は出来たもののまだ見学をしきれていなかったところが多かったので、こうして校内を適度に散策してる。

あくまでも椿の目当ては参観日終了時に配布されるプリントなので参観終了までには結構時間があるのだ。

「はぁ・・早く終わらないかな」

「・・おや? 君は先ほどの」

「あ、あなたは・・宗像さんでしたっけ?」

突然、椿の前に現れたのは宗像・・どうやら授業が終わって応援団室に向かっていた途中のようだ。再び再会を果たした両者であるが、ようやく宗像は後回しにしていた疑問をぶつけようとするのだが憂いげな椿の表情に宗像は何となく察すると仏の如く柔らかい口調で語りかける。

「覚えてもらって光栄だ。特進クラスはどうだったかな?」

「え、えっと・・」

「おっと、君の緊張を解そうとしたんだが逆効果だったようだ。すまない」

「い、いえ・・」

宗像は少し頭を捻らせるながら今の椿の心情を察そうとする、彼が見る限りこの少女はどうも何かしらの事態で不本意にこの場にいるのは明白だ。
ならばと今度は少し他愛のない話題で椿の心を開かせることにする。

423 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:44:47.13 ID:v03xVFc+o
「(ふむ・・少し時間が掛かりそうだな)椿君だったな、何かあったのか?」

「だ、大丈夫です。ちょっと訳有りの事情がありまして・・」

「そうか」

あえて宗像は言葉を区切らせるとそのまま椿の様子をじっと窺いながら今度は話題を別の方向に持って行く。

「そういえば椿君の苗字は中野だったな。もしや・・」

「はい、中野 翔の妹です。・・兄がいつもお世話になっております」

「なるほど道理で特進クラスに向かっていたわけだ。いや、あの兄と・・」

ここで流石に宗像は椿の表情を見ると会話を中断させる、どうやら椿の前では翔の話題はまずいようだ。宗像は更に別の話題を考えようと模索していたのだが今度は逆に宗像に気を遣った椿が止まっていた会話の流れを再会させる。

「いいんですよ、この学校でもちゃんとやっているようですしね・・」

「・・ふむ、どうやら何かありそうだな。話してみてくれないか、俺で良かったら力になるぞ」

宗像の申し出に椿は少し困惑してしまうが、見たところ彼は兄と比べたら人格が出来ているようだし・・それに宗像の人柄は信頼しても大丈夫だと椿は思う。
そのまま椿はゆっくりと宗像に全ての経緯を語り出す、話を聞きながら宗像は椿の話に耳を傾けながら今回の事態を把握するが話している椿としてみれば顔色一つ変えずに冷静さを保っている宗像に椿は思わず動揺を隠せない。

「あの? ・・驚かないんですか」

「まぁ、中野だからな。知恵が回る奴だと思えば・・呆れてものが言えん」

「あんなのでも兄なんで・・」

「椿君の事情はわかった。その様子だと今までにも苦労をしているようだな」

始めて今までの苦労を労われた椿は思わず感激してしまうが、何とかその感情をぐっと堪える。さすがの宗像も身内の問題に口挟みたくはないがこればかりは少々翔に灸をすえてやらないとこのままでは椿があまりにも悲惨すぎる。

「後のことは安心してくれていい、君の気持ちに免じてこの件は俺の胸の中に留めておくよ。・・さて、時間はまだあるんだしよかったら一緒に各部活を見学でもしていかないか?」

「えっ? でも宗像さんも忙しいんじゃ・・」

「何、俺も暇を持て余していたところだ」

実のところ宗像にしてみればサボるのに都合の良い理由がでもある、それにちょうど椿の年代だと高校の進路にも関わってくるので多少の参考にもなるだろう。

「じゃ、お言葉に甘えてお願いします」

「流石に全部の部活は無理だから文化系と体育系の部活があるんだが、どちらがご希望かな?」

「それじゃ・・文化系の部活でお願いします」

「よし、それでは行こうか」

宗像の案内の元、椿は学校内にある様々なクラブの活動振りを目の当たりにする。どの部活も自分の中学とは比べ物にならないほどの情熱とレベルの高さには椿もしばしば圧倒されてしまう、宗像もそんな椿の様子を見ながら様々な解説を挟みながら教室中を歩き回る。
424 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:45:52.61 ID:v03xVFc+o
「どうかな?」

「どの部活もレベルが高いです。さすが白羽根高校・・」

「ハハハ、喜んでもらって何よりだ。・・そしてここがコンピュータ室、普段の授業でも使っているが今の時間はPC研の連中がここで様々なソフトを作っている。中には企業や大学に売り出して収支を上げているソフトも製作されて社会に貢献している」

椿の中学では祈美が度々コンピュータ室に忍びこんではエロゲーをする日常だったのだが、この高校では本格的な活動がされている。自分の生半可な知識では到底理解することなど不可能であろう、そのままコンピューター室を見渡すと椿は真剣にパソコンと向き会っている制服姿の他の部員に混じっている中でジャージ姿が特徴的なある人物に目がついてしまう。

「あ、あの・・PC研の先生ってジャージ着ているんですか?」

「ん? そんな筈はないんだが・・」

改めて宗像はコンピュータ室をよく目を凝らして見てみると本来この場にはいないある人物を見つけ出す。その人物は片時もマウスを離さずに他の部員よりも必死で画面に食いついており、そして勝利の雄叫びを上げる。

「よし!! 群島マップの天帝で文化勝利達成だ!!!! いや〜、群島マップだと世界一周ボーナスはでかいな。さすがに天帝ばっかりやってたら温く感じるし、次は少し遺産を縛ってやってみるか」

「・・骨皮先生、何してるんですか?」

(えっ・・先生なの?)

「うわっ!! ・・って、宗像か」

他の部員が必死にプログラムを組み立てている中でゲームをしていたのは他ならぬ靖男であった、しかもコンピューター室に数限りがあるPCを占領してゲームをプレイしており、机には他にもゲームが積んでいるのだからその根性はある意味素晴らしいとも言える。

「卓球部はどうしたんですか? それに今はPC研が使っている筈ですが・・」

「うるせぇ!!! あの校長に取り上げられたゲームを奪回してやることは一つだ、卓球部の連中なら自主練してるから問題ない!!!」

靖男のあまりにもの言い分にさすがの宗像も思わず溜息が出てしまう、なるべくなら椿にも見せたくはない光景ではあるが靖男は他ならぬ教師であるので余計に始末が悪いといえよう。

「それよりも宗像、その女の子は誰だ? それに心なしか中野とよく似ている気が・・」

「えっ? わ、私は・・」

「彼女は学校見学の子です。それに校長先生がこの光景を見ればなんと言うか・・ま、これ以上ここにいるわけにもいかないんでここで失礼します」

宗像の囁きに思わずたじろいでしまう靖男であるが、折角霞から奪回したゲームをそう簡単には譲らない・・が、宗像は気配を察知するとそのまま椿を手引きして強引にコンピュータ室を後にする。

(え? 宗像さん・・いいの?)

(この場は然るべき人物に任せて置けば安心だ。もう既にいる)

2人の代わりに靖男の前にはある人物が既に接近しているのだが、哀れ靖男はその人物に全く気がついていない。

「まぁいい・・邪魔者もいなくなった事だし、折角あのロリっ娘校長から回収した・・」

「・・私がどうしたって、骨皮先生♪」

「だからこの楽しみを!!! ・・て、あれ?」

靖男の目の前に立っていたのは霞、どうやらPTAとの話し合いも終わって戻っていた矢先にこの光景が目に付いたようだ。

「こ、校長先生。何でこんな所にいるんですか・・」

「骨皮先生。・・今から始末書書いてきなさい!!!!」

「ノオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ・・・」

こうしてゲームまで取り上げられた上、始末書を追加された靖男の目は死んでいたという。

425 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:47:55.05 ID:v03xVFc+o
そんな光景がコンピュータ室で繰り広げられた時、宗像と椿は他の部活が活動している教室へと向かっていた。

「あの・・宗像さん?」

「・・先ほどの光景は忘れてくれ、恥を上乗せしたくはない」

宗像もさっきの靖男については溜息しか出ない、椿もそんな宗像の心情を察してかさっきの光景を忘れる事にする。それに全ての部活の活動を見終えて時間も丁度よく頃合を迎えているので時間つぶしにはよかったといえよう。

「さて、多少のハプニングもさて置いて・・椿君には文化系の部活の活動を見ていただいたのだが、どうだったかな?」

「どれも凄かったです。これで学校の皆にも自慢できますよ」

「喜んでもらえてなによりだ。・・ん? あれは」

次に宗像が目に付いたのは聖の制裁から逃げ続けている翔、更によく見ると騒ぎを聞きつけたと思われる応援団の団員の屍が築き上げられている。

「待ちやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「なっ・・何でお前が追いかけてくるんだ!!!」

「うるせぇぇぇ!!! 椿の分までてめぇをぶちのめす!!!!」

宣言通りに聖は翔を執着に追い掛け回して周りの応援団員を蹴散らすのだが、ここで聖を鎮圧するために藤堂までもが出陣する。

「相良ァァァァァァ!!!!」

「チッ、てめぇは出てくんな!!!!! そしてお前は椿のためにここでくたばれぇぇぇぇぇ!!!!!」

「や、やめろおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

とんでもない騒動を宗像は少し遠目で見つめるのだが、椿にしてみれば自分が原因であるので即座に止めに入ろうとする。

「せ、聖さん!!! どうしよう・・早く止めないと!!!」

「うむ、少し大騒動になったな」

そんな2人を他所に騒動は激化を重ねて更に熾烈を極める、逃げ惑う翔にその後を追う聖に狙いを定める藤堂といった光景が学園中で繰り広げられる中で宗像は椿と共に現場に急行する。2人は逃げ惑う翔の進路を阻むように立ちはだかると追いかけていた聖と藤堂に挟み撃ちにされる格好となり、翔は遠吠えとも取れる悲痛な悲鳴を上げる。

426 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:48:30.69 ID:v03xVFc+o
「ちょっちょ!!! 椿、なんで宗像と一緒に!!!」

「お兄ちゃん、情けなくて涙も出ないわ」

「中野、俺達は今のところお前の敵ではない。・・返答次第ではこの状況を諌めてやろう」

「何言ってやがる!! 宗像、今はお前の話を聞いている暇は・・」

迷っている翔の背後を今度は聖と藤堂が追い詰める。

「さぁって・・覚悟して貰うぜ」

「相良!! 覚悟して貰うのはお前だ!!!」

「うるせぇ!! 俺達の間に入ってくるんじゃねぇッ!!!」

このままでは三つ巴になってしまう事を怖れた宗像は優先順位をそくざに導き出すとまずはいきり立っている藤堂を諌める。

「待て、藤堂」

「止めるな宗像!! 俺は応援団として・・」

「落ち着いて俺の話を聞け。今から事情を話してやる」

宗像はそのまま藤堂に事情を話すのだが、その間にも翔は聖に追い詰められてしまう格好となる。本来なら椿は状況を見守っても良いのだが、さすがにここまでの騒動をなってしまった今は不本意ながらも聖を止めるしかない。

「聖さん! ちょっと待って・・」

「止めるな椿!! 俺はお前に代わってこの野郎に鉄槌を食らわす!!!」

「や、やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ・・」

「待ちたまえ!!!」

聖の拳が振り上げられようとした時、宗像は静かにではあるが威厳のある声で聖を静止させる。思わぬ宗像の横槍に聖は思わずたじろいでしまって振り上げていた拳をそのまま収める。

「てめぇまで俺に口出しするつもりか!!!」

「落ち着きたまえ相良君。俺は君の気持ちを踏み躙ろうとしているわけではない、むしろ椿君を想うその気持ちに敬意を表しているぐらいだ」

「何が言いてぇんだ!!!」

「宗像さん・・?」

宗像はそのまま静かに一呼吸置くと聖と椿にとある提案をする。

「相良君、椿君。この阿呆の始末は俺につけさせてくれないか? ここで拳で解決させても時期に中野が同じ事を起こすのは目に見えている、それよりももっと効率的な手段があるのだが・・」

「・・別に俺は構わねぇけどよ。椿はどうだ?」

「私も聖さんとは同意見だけど・・宗像さん、このバカをどうするつもりなの?」

(何だか知らねぇけど・・この隙に逃げさせて貰うぜ!!)

聖と藤堂の動きが止まった事を良いことに翔は無謀にもその場から逃げ出そうとするのだが、それを見逃すほど宗像は甘くはない。

427 : ◆Zsc8I5zA3U[sage]:2011/11/20(日) 21:49:32.54 ID:v03xVFc+o
「逃げるな中野。別に俺はお前を痛めつけようとしているのではない、むしろささやかな休養を送らせてやる」

「な、何を・・」

「っとその前に・・相良君に椿君、最後の確認なんだが中野の始末は一任させてもらってよろしいかな?」

「俺じゃなくて椿に聞きな・・俺は椿の判断に任せる」

ここですかさず宗像は聖と椿にこの件を譲らせるために2人に最後の確認をとっておく、聖は椿が承認してくれればそれで良いので自ずと選択は椿に迫られることになるが・・椿の回答は既に決まっている。

「わかったわ。・・宗像さん、お任せいたします」

「おい椿!! お前は俺をこんな得体の知れん奴等に売り渡すきか!!!」

「・・お兄ちゃんよりも宗像さんの方が信頼できるわ。それとお小遣い頂戴」

「お、おいおい・・そりゃねぇだろ」

椿は翔から6枚の諭吉を受け取り、そのまま失意の果てにがっくりと身体を落とす翔を尻目に宗像は藤堂に先ほど話しておいたことを実行させる。

「了解した。さて藤堂、今回の騒動の顛末のおおよその経緯はさっき話した通りなんだが・・手はず通りこの外道をお前の道場に送り込んでも構わんな?」

「ああ、母には俺が話を通しておく。・・中野、お前にはこれから一週間は応援団名物の特別メニューを受けてもらう」

「待て待て待て!!! 話が見えないぞ・・応援団の特別メニューって」

「安心しろ、中野。快適なのは俺が保障する」

「貴様が妹に対して行った非道が招いた結果だ。大人しく来てもらおうか・・」

今度は迫り来る藤堂と宗像から逃げ出そうとする翔だがここで宗像が止めの一言を放つ。

「もしお前が受け入れないのならば学校中にお前が椿君に対して行った非道の数々を生徒会を通して全てぶちまける。今までの信頼を保ちたければ大人しくすることを推奨するぞ」

「うっ・・わかったよ。それよりも藤堂、一体何をしようってんだ?」

「何、宗像でも逃げ出すほどの快適な生活を送ってもらうだけさ・・」

そのまま翔の身柄は藤堂と宗像に移され、椿と聖は配布されたプリントを受け取ると受け取ったお金を元手に何処へと消え去っていった。
宗像の手によって藤堂家へと身柄を移された翔は1日が長く感じてしまうほどの過酷な生活を1週間過ごす羽目となった、そして1週間経って藤堂家から解放された翔は目が虚ろになり中4日ほどの記憶が抜け落ちて顔が窶れきり、数日間は生気すら失っていたという・・


人間、因果応報と自業自得という言葉があるのだが・・翔はそれを同時に身体に刻み込まれる事となり以後椿への非道はぱったりと消えたという。









fin
428 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/20(日) 21:56:13.19 ID:v03xVFc+o
終了。今日も見てくれてありがとさんでしたwwwwwwwwww
この日のために2本立てて投下させて貰いました。
◆suJs/LnFxc氏も投下お疲れさまです、一読者として続きを期待させていただきます

Q:靖男の過去って本当なの?

A:本人はフィクションって言ってますが・・解釈は読者の皆様にお任せしますwwwwww

Q:改行はしないの?

A:どうなんでしょ・・自分は専ブラでなので判りませんが・・大丈夫だと思うよ。・・多分



さて狼子の人に感謝とお礼と多大なご迷惑を申し上げます。
団長や狼子はあくまでも借りていますので私程度の力量ではこんなものです・・自分の力量のなさが恨めしや
矛盾がないように上手く再現できたら幸いだと思います

ではwwww
429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(東京都)[sage]:2011/11/20(日) 23:00:48.88 ID:0qv8ms7j0
すっかり飼い猫化な忍たんカワユス
猫でネコな流れに期待せざるをえない……にゃんにゃんお!にゃんにゃんお!

そして一カオスな世界観……
クロス世界でスレに活力注入してくだしあ

そして自分にも活力をば↓
430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/20(日) 23:48:05.03 ID:Rj9sMEQP0
パンダ
431 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/21(月) 10:39:56.71 ID:/ruq/1Who
wwktk
432 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/22(火) 19:37:58.83 ID:q+K4+LLuo
ネタが思い浮かばない・・
433 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/22(火) 21:49:40.95 ID:87t1cASE0
「ふぅ、これで全部書き終えたな。」
2ヶ月ほど要して『15、16歳で童貞だったら女体化する世界』のスレに投稿するssを書き終えたわけだ。
皆が嫌う携帯でな。

携帯なら他人に覗かれることも無く。かつどこでもメールで書け変換機能があるからそこそこペース良くかける。
人生で一番メール打っていた気がする。いや、間違いなく打っていただろう。

「あとはこれら215通の下書きをパソコンに送信か・・・パケット代今月上限確定だな。」
合計712kb
結構書いたな・・・

「さて、送信っと。」ピッ!!
一通ずつ送る。

−5分後
「これでラスト。いやぁ、読んでばかりいた自分が書くことになるとはねぇ。しかも自分の高校時代をモデルにしてるからなおさら、

」ゴゴゴゴゴゴッ!!!
「おっ!?地震か?まぁいいや送っちまおう。送信っと。」

送信したメールが送られていく。
バリバリバリバリ!!
「へ?なんだなんだ?」
パソコンから放電、ディスプレイが点滅、聞いていた音楽がノイズがかかり歪んだ音に。
そして、視界が歪み、窓から見たアパートの外の様子もおかしかった。
「俺のせいですか?この世紀末状態。」
次の瞬間

グォオオオオオオオオオオオオオン!!!

巨大な揺れと太陽が地上にあるのではないかというほど強烈が光とともに俺は気を失った。


「うっ、うん?」
目が覚めた。先ほどの衝撃で気を失ったようだ。
だがココはどこだ?少なくとも先ほどまでいた俺の部屋じゃない。

一面白い壁紙の・・・あれ?実家の俺の部屋?なんで?え?ちょ・・・まて!?

一つの県跨ぐほど俺はぶっ飛ばされたと?いやいや、ありえないって。

「うそだろ?」

!?あれ?こんなに声のキー高かったか?少なくとも地声で福山歌えるぞ俺。これだと・・・
くりかえーすこのパリリズそうそう、こんなパフームくらいのってえ!?携帯がピンクって俺のじゃない。しかも、良く見るとスマホだ

し。
誰のだ?中身を確認する。準に貴之にって・・・さっきまで書いてたSSの友人モデルのキャラじゃねーか!!どうなってんだ?
まさかとは思うが・・・家の構造は同じだった。
隣の洗面所に行き、鏡を見る。

SSで俺を元にし反転させた設定の俺がそこにいた。
鏡を殴る動き、伸びする動き、そのどの動きもが鏡の中の美少女とリンクする。
434 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/22(火) 21:50:27.58 ID:87t1cASE0

「あーあー。うん。俺だ。書いていた小説の中の俺だ。…設定まんまってことなら俺の進学先の大学が違っていることになるよな。」

どうする?設定が世界レベルで反映されてるってことだとしたらここにいる俺はいったい何歳で町の名前、県の名前、県庁の名前まで

全部ぜーんぶ変わったってことになる。だが、少なくとも高校時携帯のカラーは黒にしていたはず、ならば答えは簡単、年齢は20
のままだろう。

なら、県内の国立の大学に進学しているということになる。
名前は恭奈に・・・財布を捜す。たぶん、あるはずだ大学の学生書が・・・あった。やっぱりか。

なら、この世界は15、16で童貞なら女体化する世界になったということだな。

どうする?ココも開発済みってことだしヤりますか?幸い。時計見るとまだ朝の5時。なぜかな。

いや、それより世界が再構築されたということが・・・

1.メール送る
2.地震発生
3.世紀末
4.世界再構成
5.俺にょた彼氏もち設定・・・

SSの設定残ってるかなぁ・・・削除すれば元に戻るんじゃね?


というわけで(どうゆうわけだ?)>>67 レス目でございます。


先に言っておきます。架空の市に架空の県架空の高校ですが。モデルとして作者の高校、住んでいた市(県名は上にでてるからな)。

友人らを無断で使っています。
万が一「アレ?これ俺じゃね?」って思ったら作者を基にした
柴崎の柴の字のついた友人にメールしてください。お詫びと、一緒ににょたについて語りましょう。酒代くらいは出してやる。

これから忙しくなるのでいつ投稿できるかもまだ分かりませんが、最後にココまで言っていてキャラ設定(自身モデル含め数人名前出

しちゃったけど)って先にいりますか?

ちなみにSSは初めてです。処女作です。
435 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/22(火) 22:10:44.65 ID:87t1cASE0
久しぶりに見に来たわけですが、皆さんやっぱり上手いですよね。◆suJs/LnFxcさん続き期待します。
436 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/11/22(火) 23:08:03.83 ID:DUnNulAS0
>>434
投下楽しみにしてます
437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(長屋)[sage]:2011/11/23(水) 12:18:55.72 ID:rGfrAo3H0
自分の書いたSSの世界の主人公になれたら幸せなのに・・・
無駄に万能にして無意識は神設定を追加してめちゃめちゃ可愛くしてやるんだ!
438 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:06:58.32 ID:a48+Ys900
こんにちわ。
続き投下しますー
439 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:08:43.71 ID:a48+Ys900
女体化して早くも1ヶ月が経った。

自分がどんどん「女」になっていくのが分かる。
風呂が気持ち良くてついつい長風呂になる。部屋が汚いと我慢出来なくなった。
赤ん坊を見ると、可愛い過ぎて生きるのが辛くなってしまう。
男の筋肉や、程よい汗、低い声などが気になってドキドキしたりする。
特に、涼二の。
まぁこれはいつも近くにいるからであって、深い意味は無いだろう。

かと思えば、この辺は個人差があるそうだが…俺の場合は男の頃の名残も、かなり残っている。
クラスの女子は小洒落た店でパスタやらオムライスを食いたいと言うが、
俺は寂れた食堂で定食でも食う方が良い。それよりもカレーパンの方が良い。
涼二に押し付けられたキ○ィちゃんのストラップ(型防犯ベル)だって、相変わらず俺の趣味じゃない。
ゲームや漫画などの趣味も変わっておらず、一人称や口調は矯正する気にならない。
それに藤本の事も…まだ諦めきれずにいる。

女体化の先輩である武井や小澤もこんな葛藤を味わったのだろうか。
いつも飄々としている武井と、彼氏持ちでキャピっている小澤。
あいつらが俺と同じような悩みを抱えているとは思えないが…小澤なんか特に、女になりきるのが早かったし。
まぁそう見えるだけで…案外皆、同じような悩みを抱えていたりするのかも知れないけれど。

俺は、兎に角。
自分が男でも女でもない中途半端な存在に思えて、苦しい。

そんな事を考えながら登校中だ。

「なぁ、涼二」
「あー?」
「俺って何なんだろうな」
「ちんちくりんなんじゃね?」
「てめェェェッ!!人がシリアスに悩んでる時にそれはおかしくねぇ!?爆発しろよマジで!今すぐにッ!!」
「おいおい。俺が爆発したら、他に誰がお前にカレーパン買ってやるって言うんですかぁ?あぁん?」
「あっ、す、すまん!爆発しなくて良いから!ど、土下座するから!ほら!!」
「安ッ!俺の命安ッ!つーかこんな往来でジャンピング土下座してんじゃねーよ!やめろよ!」

結局、俺達は何だかんだでいつも通りだった。
440 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:18:40.43 ID:a48+Ys900
昼休みに、いつも通り涼二にカレーパンを買ってもらった。
もう一個は何だったか…まぁどうでも良い。
ホントこいつが爆発しなくて良かった。ジャンピング土下座した甲斐があったな。

しかし今日は微妙にテンションが上がらない。
何だか腹が痛いのだ。

「何か今日のお前、大人しくね?」
「んー。ちょっと腹が痛ぇんだよな…」
「何だ?便秘か?下痢か?」
「クソはそんなに溜めてねーよ。下痢でもないし。何かクソとは違う感じがする」
「年頃の娘なのに、中身がクソに見えるパン持ちながらクソクソ連呼すんなよ…引くわ…」
「俺がクソクソ連呼したのは認めるけどカレーパンは何も悪い事してねぇんだぞ!お前それでも人間か!?
 謝れよ!カレーパンの神様に謝れよ!!」
「コイツ、何でカレーパンの事になるとこんなにムキになるんだ…」
「ぜぇ、ぜぇっ…!んー…取り敢えず便所行ってみるかな」
「おう。んじゃ、先に教室戻ってるぞ?」

涼二を先に教室へ帰し、最寄の女子トイレへ向かう。
歩いていると、下着が妙に濡れていてベトベトする事に気付く。

…何だ?大も小も漏らした感覚は無いぞ。
腹痛を我慢してケツ汗でもかいたかな?それにしてはぐっしょりだけど。
まぁ良いか。もうトイレに着いたのだ。
クソならクソで出してしまえば治るだろう。

そう結論付け、トイレの個室に入る。
小学生じゃないが、学校でクソをするのは未だに恥ずかしい。誰も来ないうちに手短に終わらせよう。
今俺のいる、購買に近いトイレは教室からは遠いので恐らく誰も来ないとは思う。昼休みのこの時間なら尚更。

この学校の便器は和式だ。
和式でクソはし辛いから嫌なんだよな…、とか思いつつ。
しゃがむ前に、ハーフパンツと下着を一気に下ろす。

ん?今日のパンツ、こんな色だったか?
いや、こんな色のは持ってない…って、ん?これ、
441 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:28:06.99 ID:a48+Ys900
「血ぃいい!?血じゃねーか!何だよコレおい!?」

大量の血と、レバーのような塊が下着に付着している。

「うっ…お゛ぅぇッ!」

血の生臭さとグロテスクな光景に、思わず吐き気を催す。
その間にも、下着という蓋を無くした血は俺の太股を伝い始めている。

え、ちょ、マジで何これ!?
くそ、やっべええッ!ちょっとコレやべぇぞ…!
俺の知らん間に処女膜ぶち抜かれたのか!?どこのどいつだよ!
どうしよう、これはどうしたら良いんだ?死ぬんじゃねーかこれ!?
と、取り敢えず電話で助けをっ…!

「お、おい涼二!助けてくれ!」
『どうした?ケツが便器に嵌まったか?』
「どうすれば和式にケツが嵌るんだよ!血だよ!血が止まんねぇんだよ!!」
『血ぃ!?怪我でもしたのか!?』
「怪我じゃないと思うけど…処女喪失したかも…!ヤバい死ぬこのままじゃ出血多量で死んでしまうマジで死ぬ」
『落ち着け!素数を…いや、素数は役に立たねぇからな…。今どこだ?』
「こ、購買の近くの女子便所…ここはこの時間なら誰も来ない思うからっ!」
『女子便所かよ!…でも、そんな事言ってる場合じゃないよな。すぐ行くから待ってろ!気を確かに持てよ!』
「た、頼む…!なるべく早く…!」

良かった、涼二が来てくれる。少しだけ安心だ。
…それにしても生臭い血だな。こんなにブヨブヨした血の塊が出るなんて、もしかしたらヤバい病気か?
俺の血、腐ってるのかな…。
いきなり女にさせられて、やっと慣れたかと思ったら今度は謎の病気かよ。
俺が何をしたって言うんだ?俺、このまま死んじゃうのか…?

「忍ー!どこだー!?」
「あっ、涼二!ここだ!」

涼二が来てくれた。個室の鍵を開けて中へ入れる。
狭い密室で、涼二と二人きり。
スカートの下はノーパン状態だが、そんな事を言っている場合ではない。緊急事態なのだ。
442 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:31:53.23 ID:a48+Ys900
「げぇっ、マジですげー血だなオイ!どこから出てんだ!?」
「た、多分…その、マ〇コから…だ、だからさっき処女喪失したかもって言ったんだよ!」
「えっ」
「えっ」
「…忍さぁ」
「な、何だよ…」
「これ、生理だろ」
「!?…あー。うん、分かってた。分かってたかも」
「バレバレの嘘ついてんじゃねえええ!この世の終わりみたいなテンションで電話してきやがって!!」
「うるせー!いきなりこんなに血が出てたら焦るだろ!どうすりゃ良いんだよ!?」
「男の俺が知るかよ!」
「俺だって知らんわ!」

やっちまった。クソ恥ずかしい。
思えば、女体化して1ヶ月経ったからだろう。
知識としては知っていても、いざ自分の身に起きるとテンパってしまう。

「くそ、血ぃ見たら気分が…臭いもキツいし…」
「うぅ、お前が前に言ってた『キモいって言われるより臭いって言われる方がキツい』って、今なら理解出来るよ…」
「…はぁ。武井か小澤、呼んで来てやるから。ちょっと待っとけ…」
「すまねぇ、頼む…」

病気でないのは良かったが、だからと言ってどうすれば良いのか分からない。
ナプキンとか言うヤツを使うんだったか?
武井か小澤とは、涼二にしてはナイスな人選だ。あいつらになら色々と聞きやすい。

それにしても生理、か。
やっぱりどんどん女になっていく。それでも男の部分も沢山残ってる。
マジで何なんだろうな、俺って…。



暫く待つと、入口から足音が聞こえた。一人分だ。
武井か?小澤か?

「西田君、大丈夫ー?」
「げっ」

おい、何で藤本なんだよ!?涼二…っ!
443 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:33:58.95 ID:a48+Ys900
「んー?そこかな。開けてくれる?」
「あ、いや、便器にケツが嵌まっただけだから!もう大丈夫だから!」
「どうすれば和式にお尻が嵌まるのかなーっ」
「しまったあああッ!」
「さぁ無駄な抵抗は止めて出ておいで!子猫ちゃん!」
「うっ…」

そりゃないだろ、涼二。藤本はダメだ。
俺はまだ、藤本には自分を「男」として見て欲しいと…多分、心のどこかで思ってる。
この邪魔くさい余計な感情は、いつかは消えると思う。でも、それは今じゃない。
このドアを開けてしまったら、そこには血で汚れてしまった下着と床と、俺がいるんだ。
また一つ中途半端に「女」になった自分を、藤本にだけは見られたくないんだよ。

「あ、あのな。涼二が何を騒いだか知らねぇけど、大した事無いんだ。俺はマジで大丈夫だから、お前は先に教室に戻って…」
「…西田君。なら、一緒に戻ろうか?」

何とか藤本を戻らせようと虚勢を張るが、途中で言葉を遮られる。
バレバレだ。少し怒っている気配すらある。
これは、逃げられそうにないな…。

藤本を呼んだ涼二を恨みながら、弱々しく鍵を外し、ドアを開く。
まともに顔を見れず、スカートの裾を掴みながら俯いてしまう。

「えっと…ごめん。嘘、ついた。これは、……、その…」
「あちゃー、最初にしては結構出ちゃったね。びっくりしたかな?でも大丈夫、すぐ慣れるよ!よしよし!」
「あ…」

頭を撫でられ、思わず藤本を見上げる。

相変わらずの向日葵のような笑顔。「ポエムかよ!」と涼二は笑った。
だが、これ以上に相応しい言葉を俺は知らない。
男の頃の俺は、この笑顔に惚れた。
その気持ちは女になった今でも変わらないと、改めて気付かされる。

…泣きたい。
俺はもう男じゃない。こうして初潮だって来た。それでも、完全に女になった訳じゃない。
そんな中途半端な俺はまだ、やっぱり。
藤本の事が…。
444 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:36:47.43 ID:a48+Ys900
「取り敢えず…はい、これ。ウェットティッシュね」
「どうしたんだ?それ…」
「西田君が初めての『女の子の日』で困ってるって中曽根君に聞いてね。保健室に寄って借りて来たんだ!」
「そ、そうなのか。いやぁ、助かるわ。はは…」

ダメだ。
有難い、と思う気持ちはある。
でもそれは余計な感情に殆ど喰われてしまい、いつも通りに会話が出来ない。

見られてしまった。
「男」として見て欲しいのに、「女」になった部分を。
女体化した事は隠しようも無い事実で、藤本だってとっくに俺を女として見ているだろう。
生理が来る事だって、わざわざ考えるまでも無い事だ。
隠したって意味の無い事。…それでも、見られたくなかった。

挙動不審な俺を見て、藤本は悲しげな表情を浮かべた。

「…私じゃダメだった?」
「ッ!」
「中曽根君ね、最初は奈緒ちゃんと梓ちゃんに相談してたんだ。けど、その話が聞こえて、どうしても私が行きたくて…」
「そうだったのか…」
「西田君にとっては奈緒ちゃん達の方が気が楽なのは分かってるつもり。でも私だってね、西田君が困ってたら助けたいんだよ?」
「…気持ちは嬉しいよ。でも、やっぱり藤本に見られるのは恥ずかしくて…」

本当は「恥ずかしい」とは違う。
でも、言わない。言えない。

「だーかーらー。もう女同士でしょ?気にしない気にしない!さぁ、まずは身体拭こっか!何なら私が拭き拭きしてあげるよっ」
「い、いいっ!自分で拭くから!」

藤本が保健室で借りたと言う手提げ袋には、こういった状況でおよそ必要となるであろう物が一式揃っていた。
血が垂れた自分の身体と床をウェットティッシュで拭き、血のついた下着とハーフパンツは冷水で洗ってビニール袋へ。
ナプキンは…恥ずかしいので藤本には後ろを向いてもらい、声での誘導を頼んで何とか着ける事が出来た。
最後に使い捨てのショーツを穿く。
445 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:42:51.84 ID:a48+Ys900
「どう?」
「何か違和感あるな…」
「あはは、それはしょうがないかも」

ぶっちゃけ、藤本でなくとも武井や小澤、植村だって同じような処置はしてくれただろう。
それでも、わざわざ俺のためにと名乗りを上げてくれた藤本の気持ちは、無駄にしたくない。
助けてくれた事に礼を言って、藤本には気分良くいてもらいたい。

そもそも、これは俺の勝手な片想いが悪いんだ。
女になって、いつまでもうだうだと諦めいれずにいる、俺が悪い。
だから今は、余計な感情は抑えるんだ…!

「でも、助かったよ。ホントにありがとな」
「…うん、どう致しましてっ!これに懲りたら、もう無駄な立て篭もりはしないように!」
「へいへい、すいませんでしたー」

何とか自然に礼を言えたと思う。
でも気のせいだろうか。
一瞬だけ、藤本の笑顔が曇ったような、そんな気がする。

「あ、そうだ。西田君、携番とメアド教えてくれないかな?」
「うぇっ!?」

俺の不安を全力でぶっちぎっての突然の申し出に、驚いて声が裏返ってしまう。
携番、メアド。

「だって、さっきは中曽根君に電話して来てもらったんだよね?
 まぁ生理だって分からなかったみたいだけど。でもね、そもそもここは女子トイレなんだよっ」
「うっ…面目ない…」
「いくら仲が良くても、女の子特有の話は中曽根君が困っちゃうよ?だから私の連絡先、知っておいた方が良いと思う。ね?」

そんな諭すように言わなくても、断るものか。
知り合ってから何年も経ったけど、むしろ今となっては手遅れだけど。
このただの数字や文字の羅列を、男の頃は喉から手が出るほど欲しかったんだから。
446 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 15:48:10.66 ID:a48+Ys900
学校の帰り道、トイレ立て篭もり事件について涼二と話す。

「俺が武井と小澤に話してたらな、藤本が『私が行きたい!私に行かせて!』って。まぁ良いかと思って行かせたんだけど」
「こっちは色々複雑なんだよ。大変だったんだぞ?あの後さ。まぁお陰で収穫もあったんだけど」
「収穫?何だそりゃ」
「ついにねんがんの携番とメアドをてにいれたぞ!」
「ほぉ。お前が女になってから…ってのも皮肉なもんだけどな」
「そりゃ今更感はあるよ。でもまぁ、これからは女友達として…って気持ちに切り替えねぇと」
「まだ好きなんだろ?」
「言うなよ…。もう今更どうこう出来る話じゃないんだから」

こんな話が出来るのは涼二だけだ。
親友の存在と言うのは大きい。話を打ち明けるだけで気が楽になるのだから。
下らない事ばかり言い合って、それはそれで楽しい。でもたまにこうして、真面目な話だって出来る。
俺が女になっても、この関係は変わらない。

そう簡単に変わってたまるか。親友で、幼馴染なんだから。
どっちがデカい鼻クソをほじり出せるかを競ったり、
どっちが先にチン毛が生えるか競ったり、それが終わったら今度はワキ毛を競ったり。
そんな美しい思い出…いや、ろくな事してねぇなおい。良いのかこれで。

「健気だねぇ。ところで話変わるんだけどな、俺バイト始めたんだよ」
「は?いつから?どこで?」
「先週から。駅前のマ○クでな」

何かとネタにされがちな、不気味な某ピエロがマスコットを勤めるハンバーガーチェーンだ。
コイツは国営に行くとか言っていたし、金を貯めるのだろう。ご苦労な事だ。
一緒に行こうと誘われていたような気もするが、女になった俺にはもう関係の無い話だな。

「国営に行くためにか?」
「そうだよ。結構金掛かるみたいだからな」
「国営のソープ嬢って、女体化した女だって噂だけど。お前、それでも良いのかよ?」
「だから良いんだろ。最初の一回くらい、最高に良い女とヤりてぇし」
「洋画みたいなセリフ言わないでもらえませんかねぇ!?気持ち悪いんですけど!?」
「そうか?でも適当な女で妥協して童貞捨てるのも嫌だろ?」
「そりゃそうだろうけどさ…」

女体化した女は、漏れなく優れた容姿となる。
「最高に良い女」とは、それを言いたいのだろう。
気にするヤツは気にすると言うが、コイツは女体化した女とセックスする事に抵抗は無いらしい。

…目の前にいるだろ、女体化した女が。
その理屈でいくと俺でも良いって事にならないか?
優れた容姿かどうかはさておき、顔だけ見れば可愛いと思うし、俺。
自分で言うのもなんだが。

って、あれ?
何考えてんだ俺!?おかしいなおかしいぞ!?
これじゃ俺がソープ嬢に嫉妬してるみたいじゃないか。
そんなバカな話があるかよ。
コイツが国営行こうがどうしようが俺には関係無い話なのに!
とにかく話を軌道修正しないと…!

「ふ、ふーん。まぁ、駅前のマ○クだな?今度冷やかしにでも行ってやるよ」
「来い来い。そしたら、お前の分のハンバーガーにだけ鼻クソ入れとくわ」
「てめえええッ!訴える!やりやがったらマジで訴えてやるからなッ!」
「そんな事しやがったら、もうカレーパン買ってやらねーぞ!それで良いならやってみろや!」
「てめぇには人の心ってもんがねーのかああッ!!」

結局、俺達は何だかんだでいつも通りだった。
447 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 16:10:41.77 ID:a48+Ys900
家に帰って、昼間からビールをあおっていた母さんに生理の話をしたら、晩飯は赤飯になってしまった。
お陰で親父に生理がバレた。
今どき生理で赤飯炊く家なんてあるのかよ!と母さんにキレてみたら、逆ギレされた。
曰く、「アタシも自分の時にオカンにやられてクソ恥ずかしかったから、娘が出来たら絶対やってやろうと思ってたんだ」そうな。

…とまぁそんな事は置いておくとして。
今はベッドでごろごろ転がって携帯を眺めながら、メールが来るのを待っているところだ。
実は今、藤本とメールをしている。
メールが来るたびに煙草に火を点けてしまう。吸いすぎだな…。
俺、変なこと書いてないよな?そわそわしてしまう。

先ほど風呂から上がった時に、メールが来ている事に気付いたのだ。

着信ランプが光っているのを見た時には、どうせまた涼二が下らんメールを寄越したのだろうと思っていたのだが…。
内容としては、今度の日曜日に買い物に行きましょうや、的なものだ。
デコメと言うのか?可愛らしい絵文字をふんだんに使った、女の子らしいメールだった。

俺は今、ついに藤本とメールをしてしまっている訳だ。しかもデート(?)のお誘い付きで。
こちらも精一杯、携帯に最初から入っている絵文字を程よく駆使して、
素っ気無いメールにならないよう気を付けながら文章を作っていく。

デートの内容を纏めれば、女の子の嗜みとしてアクセサリーや化粧品くらい買えよ、と言う事らしい。
どうやら適当に見繕ってくれるそうだし、ここは一つお願いするか。
まだアクセや化粧に興味は無いが、せっかくの藤本の好意だ。無駄にしちゃいけない。



何度か遣り取りをして、スケジュールは決まった。
日曜日の11時に駅前集合。
適当に服なんか見ながらアクセサリー、化粧品を買って回って、途中どこかで昼飯を食う。

藤本からすれば、当然デートなどではなく「友達と遊ぶ」感覚なのは分かっている。
女体化して最初に学校に行った日に言われた事を思い出す。

『こちらこそ!同性だしね、西田君ともっと仲良くなれそう!嬉しいなぁ!』

確かに俺が女になってから、藤本との距離は前より縮まっている気がする。
今でも嬉しいような、悲しいような、微妙なところだけど。

今回の話は、内容は女の子同士の買い物とは言え、俺からすれば十分デートだ。
男の頃にやりたかった事を、女になった今、出来る範囲でやっていく。
そうしていくうちにいつか、藤本の事を諦めれば良い。
それで良いんだ。

涼二にも報告のメールを送ってしまった。

『俺、その日バイトで店にいるぜwwwwww』

…だそうだ。どうでも良いんだよそんな事は。
でも、昼飯はマ○クでも良いかな。高校生があんまり気取った所に行くのもどうかと思うし。
鼻クソ入れやがったら許さんけど。

早く日曜日にならないかな。
448 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/23(水) 16:28:17.56 ID:a48+Ys900
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

乳の話に続いて生理のシーンも自分で調べた勝手な解釈ですので、
おかしいところがあるかも分かりません…。
あと出血描写が苦手な方、いらっしゃいましたら申し訳ないです。

主人公は一応ロリ巨乳のつもりで書いてますが、
身長145cmってどうなんでしょうね。ロリにしては身長高かったかな。
カワユスと言って頂けるのは非常に嬉しいですね!

>>435
自分も何か書くのはこの話が初めてなもので、
初書きのくせに話を広げすぎたかなと後悔しているところですorz
何とか上手く纏められたら良いのですが。



さて、MW3のせいでペースが落ちてますが…
今後もぼちぼち投下していきますので、よろしくお願いします!
449 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/23(水) 16:44:00.53 ID:jjq66IxMo
乙でした。こっちも早く話を書き上げて投下したいです
どんな感じで進んでいくのか期待してます
450 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/11/23(水) 18:34:02.82 ID:GxMQP0h00
GJ!
アレな日は人それぞれだから何もおかしいところはない
1ヶ月目とかいいタイミングだな!

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 ロリ巨乳!ロリ巨乳!
 ⊂彡
451 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/24(木) 01:25:13.94 ID:Xnegr2zlo
>>434
この設定は俺の大好物の予感
期待wwwwww
キャラ紹介はネタバレの心配がないなら是非とも

>>448
期待に股間を膨らませながら待ってます!
452 :でぃゆ(ry[sage]:2011/11/24(木) 07:03:07.81 ID:GFk8VdUAO
>>448
キャラや話の進行が悉く大好物でニヤニヤが止まりませんwwwwww

この調子で思う存分やっちまってください!!!
453 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/24(木) 18:28:59.71 ID:Sa88ZDsvo
なんか不思議の国のアリス見たいな金髪美にょたっこ書きたくなった
454 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/11/24(木) 22:37:17.75 ID:axrwgbhZo
>>453
wwkwwk
455 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/24(木) 23:10:04.88 ID:sNFGL/tl0
>>451 
書きなれる前の文が日本語でおkな状態な上に読み返すと余計だなぁと思うものが多く読んでいて萎えてきて大幅に書き換えてます。たぶんですが「がっかりだよ。」だと思います。過度な期待しないでください。内容も私の過去を基にしてるので[田島「チ○コ破裂するっ!」]以外の何物でもないです。ヤメロならやめます。
456 :でぃゆ(ry[sage]:2011/11/25(金) 01:49:24.65 ID:Oog79zVAO
>>453
ヤっちまえです!!wwwwww

期待です!!(´^ω^`)
457 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(長屋)2011/11/25(金) 13:28:22.54 ID:xYaIhSO00
田島って誰だって思った
[田島「チ○コ破裂するっ!」]のことね
458 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(西日本)[sage saga]:2011/11/25(金) 18:16:07.34 ID:lIlJNtP5o
>>457
メール欄にsagaって入れるとそういう特殊変換は出なくなるっすよ
459 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/25(金) 20:23:33.29 ID:meGqjFWyo
[田島「チ○コ破裂するっ!」]?
460 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(西日本)[sage saga]:2011/11/25(金) 21:19:29.49 ID:lIlJNtP5o
(´・ω・`)さげ じゃなくて さが っす
461 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/11/25(金) 21:52:37.71 ID:meGqjFWyo
>>460
いや間違えたんじゃなくてwwwwww
どの単語で変換されてたのか試したかっただけですから。
余計なことして申し訳なかった
462 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/11/26(土) 19:35:14.53 ID:/kl80dnz0
うおーーーーーーー社会の荒波からカイホーーーされたいーーーーーーーー
463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/11/26(土) 21:01:23.96 ID:VkjH2QNAO
投下ないかな
464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/11/27(日) 19:33:50.21 ID:hAUwYPAbo
日曜なのに投下がないのは何事か
ここは投下するでござるよ、ドラえもん
465 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:41:08.16 ID:hAUwYPAbo
家計簿というのは非常に重要なものであり、嫁に出る前に母親からは厳しく教えられたものだ。常に電卓片手にレシートを見ながら限りある収入の中から支出を出来るだけ押さえるといった地道だが大変緻密な作業の繰り返しである。

「はぁ〜・・次の給料日まで後十日ね。赤字は何とか抑えられたけど黒字にするには切り詰めるところ切り詰めなきゃ」

何とか赤字は防げたのはよかったけど今回は黒字には程遠い、定期預金や卓の預金は何とか貯まってはいるものの余剰金がないのは少しばかり悔しいものである。主に必要な支出となるのは携帯料金やら家のローンや卓の学習保険や旦那や私の生命保険など・・どれも回収する時期がバラバラなので私としてみればそういった日取りは一括にして欲しい。

“え〜、人気作家であるでぃゆ氏が一般女性と結婚をしたようです”

「へー・・でも結婚なんて楽しいのは最初と子供が小さいうちよ」

“速報です、◆nMPO.NEQr6氏と◆Zsc8I5zA3U氏で版権を巡る裁判が起きた模様です。両氏は弁護士を立て徹底的に争う構えです”

かつては仲が良かった人気作家同士も金が絡めば変わってくる・・こうして考えてみると平凡が一番である。それにしてもあの2人がコラボしたドラマは卓と一緒に見ていたがキャストに大物女優や俳優を多数起用していたし内容も非常に面白かったので続きが見たいところであるが・・こんな騒動が勃発してしまったらとてもそんな話ではないだろう。
それにワイドショーが唯一の暇潰しなのもなんだか少し寂しいばかりだ、といっても芸能情報は結構楽しいのでついついと見てしまうのが本能という奴だろうが、現実逃避には変わりない。

「はぁ・・どうしましょ」

「ただいまー!! 母さん、おやつは?」

「・・とりあえず手を洗ってからね」

いつものように帰ってきたわが息子のおやつを準備しながら、今度はつけたばかりの家計簿と今までつけた家計簿を見比べながら今後のお金の流れを頭の中に入れておくのだが・・どうも最近歳のせいか文字が見づらい、まだこれでも30代なので視力の衰えなどないはずだが・・どうも最近は文字に限らず周囲が徐々にぼやけて見える。

「母さん、どうしたの?」

「なんだか物が見づらいのよ。おかしいな・・」

「もしかしてさ・・視力が落ちたんじゃないの? 視力は歳関係ないって先生が言ってた」

「そうね・・診てもらうか」

といっても余計な出費が痛いがこのまま放置しておけば主婦業に支障が出てしまうのは間違いはないが、気分転換にもなるので眼鏡屋に足を運んでみるのもいいのかも知れない。

「卓もゲームばかりしてちゃだめよ。ママみたいに視力が落ちないようにね」

「ま、俺はいつも勇輝達と遊ぶのがデフォだし・・それよりも今日のご飯何?」

「今日は質素に鮭のムニエルと昨日余らせたカレーでピラフを作ります」

「手抜き反対! 肉食わせろ〜」

手抜きとは失礼な、これでも常に頭を捻らせて家計に響かないように冷蔵庫にある残り物で人数分の料理を作る苦労をこの生意気な小僧にあじあわせてやりたいものだ。

「・・人参と玉ねぎもサービスで増やして欲しい?」

「すみません・・」

現金な子供を黙らせた私はそのまま晩御飯の準備をしていくのであった。

466 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:42:59.91 ID:hAUwYPAbo
旦那も帰ってきて楽しい夕食が終わりのんびりとお風呂の時間、卓はいつも旦那が入れてくれるのでこっちとしてみれば非常にありがたい。最後のお風呂の残り湯を出来るだけ使わないようにしながら次の洗濯物の分まで繰り越す・・非常に地道に見えるのだがこれも家計を助けるための節約術と言うやつだ。

「はぁ・・視力も落ちたのはショックね。女体化して唯一の誇りだったのに」

この世界には15、16歳で童貞を捨てなければ女体化してしまうと言う奇妙な病がある、その例に漏れずに私も女体化をしてしまった身ではあるがこうして幸せを謳歌しているのであまり負には思ってもいない、近所の奥様からも何かと羨ましがられるのも悪くはない。どうも女体化した人間は普通の女性と比べてもかなり若々しくいられるようなのでこっちとしてみれば女体化様々という奴である、しかし卓の学習保険には女体化にしたら補正金がもらえるのだがそれに加入してしまうと保険料が割高となってしまうのがネックなところである。

「しかし子供産んでからおっぱいが大きくなってしまうのはね・・女体化してから付き合ってきた身体だけど人間の身体ってわからないものね」

女体化問わず子供を産んでからの変化といえばよく体質や体重が増えてしまうといった変化が上げられるのだが、私の場合は胸が若干大きくなってしまったことだ。女性とすれば嬉しいものだと思うのだが、私にしてみれば「それがどうした?」というレベルなのであまり関心はない・・ただスタイルなどがあんまり崩れなかったのは嬉しいところだ。
もう少し若ければ磨きに磨きをかけて夜の世界でNO1を目指すのも悪くはないのだが、ドロドロとしてそうなので遠慮しておこう。

「しかし卓や優治君は2人目が欲しいって言っているけど・・子供が増えた時の負担を考えているのかしらね」

2人目に関しては卓は熱が冷めたものの事あることい私にしつこく言ってくるし、旦那もやる気のようなのだが・・家計を預かる身とすれば子供なんて一人で充分だ。今の旦那の稼ぎのまま子供が出来てしまえば現状維持の家計はたちまち急降下してしまうだろう、ある程度は保障してくれるとはいっても出産費用や入院費用などバカにはならないので当分は熱が止むのを待ってもらうしかない。

「子供子供って気軽に言ってくれるけど・・産むのは私なのわかってるのかしらね?」

あの陣痛の痛さといったら尋常ではない、卓の時で経験済みなのだが妊娠中と言うのは自分の体質が変わったりしてしまうし、産む時の痛さといったら言葉では到底表せない程の痛さなのだ。ヤル時にやって後は見守るだけの男は結構良い立場にいるものだと私は思う。

「はぁ・・頭が痛くなってきた。さっさと身体洗って上がろう」

これ以上考える事をやめた私はそのまま瞬時に身体と頭を洗うとお風呂から上がると、今日の疲れを癒すために冷蔵庫からビールを取り出して味わって飲みながら改めて家計簿を見つめ続ける。

「う〜ん・・やっぱり少しビールを減らさないとね」

「反対!! サラリーマンの楽しみを奪う気か!!」

「家計には変えられません!! ・・って、やっぱり文字が見づらい」

旦那をぴしゃりと抑えながらも、家計簿の文字が見づらい・それによく見ると数字を見間違えたようだ。危ない危ない・・ささやかな楽しみまで自分で奪うところであった。

「美由紀ちゃん・・どうしたの?」

「なんだか、最近文字が見づらくてね・・視力が落ちたみたい」

「へ〜、それじゃ・・あのカレンダーに書いてある文字は見える?」

「えっと・・」

何とか目を凝らして何とかカレンダーに書いてある文字を見続けるのだが、ぼやけていてよく分からない・・今までは良く見えていたのにここまで視力が落ちていたことに愕然としてしまう。

「裸眼でここまで視力が落ちていたなんて・・ショック!!」

「眼鏡が必要になってきたのかもね、それに最近の眼鏡は結構カッコいいし」

「でも眼鏡って高いのよ!! 今の家計では2つ買うだけでも結構高価な代物よ・・」

「大丈夫! 今まで貯めていた小遣いで買ってやるさ!!」

まさか旦那がここまで私のことを考えてくれるとは・・付き合っていた頃はそこそこプレゼントをくれていたのに結婚してからはそれがかなり減ってしまったので嬉しい限りだ。

「明日休みだから一緒に行こうか」

「そうね、卓はどうせ遊びに行くだろうし久々にデート気分ね」

「デート? 別にそんなに考えなくても良いんじゃないの?」

女心がわからない旦那には困っ
467 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:44:07.10 ID:hAUwYPAbo
修正

旦那も帰ってきて楽しい夕食が終わりのんびりとお風呂の時間、卓はいつも旦那が入れてくれるのでこっちとしてみれば非常にありがたい。最後のお風呂の残り湯を出来るだけ使わないようにしながら次の洗濯物の分まで繰り越す・・非常に地道に見えるのだがこれも家計を助けるための節約術と言うやつだ。

「はぁ・・視力も落ちたのはショックね。女体化して唯一の誇りだったのに」

この世界には15、16歳で童貞を捨てなければ女体化してしまうと言う奇妙な病がある、その例に漏れずに私も女体化をしてしまった身ではあるがこうして幸せを謳歌しているのであまり負には思ってもいない、近所の奥様からも何かと羨ましがられるのも悪くはない。どうも女体化した人間は普通の女性と比べてもかなり若々しくいられるようなのでこっちとしてみれば女体化様々という奴である、しかし卓の学習保険には女体化にしたら補正金がもらえるのだがそれに加入してしまうと保険料が割高となってしまうのがネックなところである。

「しかし子供産んでからおっぱいが大きくなってしまうのはね・・女体化してから付き合ってきた身体だけど人間の身体ってわからないものね」

女体化問わず子供を産んでからの変化といえばよく体質や体重が増えてしまうといった変化が上げられるのだが、私の場合は胸が若干大きくなってしまったことだ。女性とすれば嬉しいものだと思うのだが、私にしてみれば「それがどうした?」というレベルなのであまり関心はない・・ただスタイルなどがあんまり崩れなかったのは嬉しいところだ。
もう少し若ければ磨きに磨きをかけて夜の世界でNO1を目指すのも悪くはないのだが、ドロドロとしてそうなので遠慮しておこう。

「しかし卓や優治君は2人目が欲しいって言っているけど・・子供が増えた時の負担を考えているのかしらね」

2人目に関しては卓は熱が冷めたものの事あることい私にしつこく言ってくるし、旦那もやる気のようなのだが・・家計を預かる身とすれば子供なんて一人で充分だ。今の旦那の稼ぎのまま子供が出来てしまえば現状維持の家計はたちまち急降下してしまうだろう、ある程度は保障してくれるとはいっても出産費用や入院費用などバカにはならないので当分は熱が止むのを待ってもらうしかない。

「子供子供って気軽に言ってくれるけど・・産むのは私なのわかってるのかしらね?」

あの陣痛の痛さといったら尋常ではない、卓の時で経験済みなのだが妊娠中と言うのは自分の体質が変わったりしてしまうし、産む時の痛さといったら言葉では到底表せない程の痛さなのだ。ヤル時にやって後は見守るだけの男は結構良い立場にいるものだと私は思う。

「はぁ・・頭が痛くなってきた。さっさと身体洗って上がろう」

これ以上考える事をやめた私はそのまま瞬時に身体と頭を洗うとお風呂から上がると、今日の疲れを癒すために冷蔵庫からビールを取り出して味わって飲みながら改めて家計簿を見つめ続ける。

「う〜ん・・やっぱり少しビールを減らさないとね」

「反対!! サラリーマンの楽しみを奪う気か!!」

「家計には変えられません!! ・・って、やっぱり文字が見づらい」

旦那をぴしゃりと抑えながらも、家計簿の文字が見づらい・それによく見ると数字を見間違えたようだ。危ない危ない・・ささやかな楽しみまで自分で奪うところであった。

「美由紀ちゃん・・どうしたの?」

「なんだか、最近文字が見づらくてね・・視力が落ちたみたい」

「へ〜、それじゃ・・あのカレンダーに書いてある文字は見える?」

「えっと・・」

何とか目を凝らして何とかカレンダーに書いてある文字を見続けるのだが、ぼやけていてよく分からない・・今までは良く見えていたのにここまで視力が落ちていたことに愕然としてしまう。

「裸眼でここまで視力が落ちていたなんて・・ショック!!」

「眼鏡が必要になってきたのかもね、それに最近の眼鏡は結構カッコいいし」

「でも眼鏡って高いのよ!! 今の家計では2つ買うだけでも結構高価な代物よ・・」

「大丈夫! 今まで貯めていた小遣いで買ってやるさ!!」

まさか旦那がここまで私のことを考えてくれるとは・・付き合っていた頃はそこそこプレゼントをくれていたのに結婚してからはそれがかなり減ってしまったので嬉しい限りだ。

「明日休みだから一緒に行こうか」

「そうね、卓はどうせ遊びに行くだろうし久々にデート気分ね」

「デート? 別にそんなに考えなくても良いんじゃないの?」

女心がわからない旦那には困ったものである。

468 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:49:03.95 ID:hAUwYPAbo
翌日、卓を適当に外に出るように嗾けて遊ばせておくと私も少しばかり昔の自分を取り戻すかのように少しばかりのお化粧と昔の服を着こなす、やはり変わらない体型というのは嬉しい限りだ。
しかし旦那は少しばかり退屈そうなのがちょっと悲しい、昔の学生時代はよくお互いにお金がないなりにささやかなデートを繰り返してきた日々が懐かしく思えてしまう、結婚してからもそこら辺は変わらないと思っていただけに変な意味で現実を感じてしまう。

「美由紀ちゃん〜、まだ?」

「今から行くわよ」

男と言うのは何でこうもデリカシーがないのだろうか、私も元男だったとはいっても女体化しなかったら旦那と同じような感じになっていたのかもしれないと思うと恐ろしく感じてしまう。そのまま車に乗り込むと近所でも安いと噂の眼鏡屋へと向かう、それに運が良いことに割引クーポンがセットになっているチラシがあったので忘れずに持参する、結婚してからこういった割引サービスを欠かさずチェックする癖が自然とついてしまうのだ。

「ねぇ、何でそんなにご機嫌なの?」

「別に・・昔のようにデートしていたときの新鮮さがないなって」

「デートに新鮮さもな・・昔は普通に映画見たりちょっと気軽に買い物してたぐらいじゃん」

「会社に勤めてた頃は色々奮発してくれたのに・・結婚してから極端に減ってるし」

「え? そ、そうだっけ・・」

わざと惚ける旦那に私は溜息しか出ない、結婚してからのこの極端な差が男女の違いと言うものだろう。男にしてみれば結婚と言うのは一種のゴールかもしれないが私にしてみればただの通過点に過ぎない。

「現実味たって仕方ないわ。そろそろ眼鏡屋についたんじゃないの?」

「あ、ああ・・機嫌直してよ」

旦那に促されながら眼鏡屋へとついた私たちは早速店内に入っていくと店員の人に頼んで視力検査を受けるのだが・・ここで私は驚愕の結果に耳を疑うことになる。

「えっ・・0.1? 嘘ッ! 前は裸眼でも1はキープしてたのに!!!」

「視力が下がる要因は色々とあるんですよ。それではレンズを調整しますので・・」

あれだけよかった視力がここまで落ち込んでいるとはショック以外何者でもない、あの姉でも裸眼でちゃんとした視力をキープしているのでそれを考えるとなんだか悔しい。そのまま店員さんに簡易の眼鏡をつけてもらうが今までぼやけていた視界がはっきりと写る。

469 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:50:31.93 ID:hAUwYPAbo
「おおっ・・はっきりとよく見える」

「このレンズで両目とも1.0にはなっています。いかがですか?」

「なるほど・・今まではこうやって見えていたのよね」

「ではレンズが決まったところで次はフレームを選びましょう」

フレーム選び・・これから自分の顔の一部となるのだからどうせなら一生物になる良いものを選んでおきたい、持ってきている割引チケットは全ての商品に対応しているので結構お得なのだ。

「どれにしようかな・・」

「あっ、美由紀ちゃん。これなんて良いと思うけどな? 鏡もあるんだし試しに掛けてみたら」

「う〜ん・・」

試しに旦那から勧められた眼鏡を掛けてみるのだが、どうもパッとしない・・まるでどっかの読書好きの宇宙人みたいだ、デザインも悪くはないのだがあまり地味すぎるのもパッとしない。

「いや〜、この姿の美由紀ちゃんもかわいいね〜。俺の好m・・じゃなかった、結構グッと来るよ」

「ま、予備と合わせて2つ買わないといけないから1つはこれにするわ。せっかく選んでくれたんだしね」

とりあえず旦那が選んでくれた眼鏡の購入を決めると再びたくさん展示されている眼鏡の中から次のフレームを選ぶのだが、どれもオシャレなデザインなので下着と同じぐらい選ぶのに迷ってしまう。

「どれにしようか迷うな〜」

「そうだな・・店員さん、この中ではどれがオススメなの?」

「そうですね。現在人気があるのはこのフレームですよ」

数あるフレームの中から店員さんはその1つを私に勧めてくる、そういえばこの眼鏡の形はテレビでも見たことがあるし現在放送されているドラマの女優さんがつけていることで話題になっていたのを思い出す。

470 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:51:14.80 ID:hAUwYPAbo
「このフレームは現在放送しているドラマの女優さんがつけてますから人気が高いんですよ」

「そうそう、確か◆suJs/LnFxc氏原作のドラマだったかな?」

「当店でも一押しの人気モデルでドラマとのタイアップで半額セールしているんです」

半額・・この心ときめくお言葉に私の中にある主婦としての本能が呼び起こされる。この機を逃してしまえばこのフレームは定価58000円のまま、半額だと3万で買えるのだからお買い得と言う奴だろう。それに今回は家計日ではなく全て旦那のお小遣いからの出費なので後腐れなく買える。

「(た、高い!!・・これ以上の出費だと欲しかったゴルフセットが買えなくなる!!)み、美由紀ちゃん・・これよりももっと安くて良いフレームが」

「買います――!! はい、割引クーポン!!!」

「お買い上げありがとうございます。それではフレーム代とレンズ代込みで57600円になりますがクーポンサービスで28800円です、最初に選んだフレームはすぐに出来上がりますので少々お待ちください」

(お、俺の・・ゴルフセットが)

なにやら顔が青くなっている旦那を尻目に私は空いている待ち時間を使って少し崩れてしまったお化粧を整える。思えば旦那にこうやって買ってもらえるなんて新婚の頃以来だ、あの時はまだ卓が産まれていなかったので経済的にも比較的余裕があったし何よりも新婚なので気が緩みまくっていた時期でもある。
そんなこんなで眼鏡が出来上がって掛けてみると視界がよりくっきりと写って段違いである、残りの眼鏡はフレームの在庫切れだそうなので店員さん曰く出来上がるのは一週間近く掛かるらしい。そのまま眼鏡屋を後にして車に乗るのだが、旦那を尻目に年甲斐もなくはしゃいでいる自分に驚きだ。

「なんだか新婚の頃みたいでいいわね。次は昔よく行った映画館でも行ってみようか」

「俺、高校の時を思い出すかのようなお金のなさなんだけど・・」

「・・仕方ないわね、特別に私のへそくりである程度は出してあげるわ」

「悪いね。なんだか学生の頃思い出すよ〜、あの時はお互いにお金なかったから苦労したよな。・・でもよく思いだしてみると美由紀ちゃん結構お金持ってたよね?」

「うっ――・・き、気のせいよ」

高校時代の旦那は典型的な金欠学生だったのに対して当の私は既に勤めていた姉からお金を借りていたので経済的には比較的余裕があったほうだ。当時は旦那がないお金を必死に叩いて私によく奢ってくれたものだけども、それでも足りない場合はちょくちょく私が出していたのを思い出す。

「でも眼鏡姿の美由紀ちゃんは綺麗だよ。やっぱり俺はセンスがあるな」

「もう・・ま、今回だけは大目に見てあげる」

相変わらず調子の良い旦那に苦笑しつつも久々のデートを楽しむのであった。
471 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/11/27(日) 19:51:43.72 ID:hAUwYPAbo
おまけ

「おおっ、これが今後の母さんの姿か・・」

「やっぱりよく見えるわ。今まで自分の息子がぼやけてたなんて変だもんね」

改めて眼鏡を掛けて卓をよく見てみる裸眼よりもはっきりと見える、最初は眼鏡姿の私に驚いていた卓もそこら辺はまだ子供・・すぐに慣れたみたいで環境に順応している。

「でもさ、やっぱり地味じゃない?」

「せっかくお父さんが選んでくれたのよ。無碍にするわけにはいかないわ」

「そんなもんなの?」

「そうだぞ! これで俺の長年のゆm・・じゃなくて大人の事情って奴だ」

健気な子供心に意味深な説明をする旦那の姿はどこか変だ、それにさっきから興奮しているようにも思えるのだが・・その答えは卓が寝静まった夜に判明する。

「昔から眼鏡っ娘と一度してみたかったんだよね」

「ま、まさかこの眼鏡選んだ理由って・・」

「俺の好み♪ やっぱりこういったのは地味なのが相場と決まっているからね・・」

「あ、あの・・今日はあまり良い日じゃないからまた後日はダメ?」

「ダメ〜」

そのままルパンダイブよろしく無常にも旦那に襲われる私・・これ以降数日は旦那が飽きるまで眼鏡着用を強要させられたのは言うまでもない、何とか懐妊しなかったのは奇跡とも言うべきであろう・・主婦ってやっぱり難しい。


fin
472 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/11/27(日) 20:00:52.74 ID:hAUwYPAbo
終了です。見てくれてありがとさんでしたwwwww
実在の人物には関係ありませんのであしからず、勝手に使ってしまって申し訳ありませんでした

では、次の投下を待ちます
473 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:29:58.28 ID:PdPX0Vuc0
おはようございます。
昨晩投下するつもりで寝落ちしてました…

通勤前にカカッと投下します。
474 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:30:56.45 ID:PdPX0Vuc0
あっという間に日曜日はやってきた。
約束の5分前に駅前に到着したのだが、まだ藤本は来ていないようだ。
集合場所や集合時間が間違っているのでは、と集合時間前なのに少し不安になってしまう。
一応メールを見直そうと思ったところで、藤本が小走りでこちらに向かって来た。

「ごめんね、待った?」
「俺も今来たとこだよ。まだ11時前だから、慌てなくて良かったんだぞ?」

古今東西、散々行われたであろう遣り取りを交わす。
今日の藤本は、ほんのりと化粧をしているようだ。
見慣れない私服も相俟って、とても可愛い。

俺の身長だと、藤本の顔を見るにはどうしても見上げる必要がある。
男の頃は見下ろしていたのに、改めて並んでみると変な気分だ。

「んー?どうかした?」
「あ、いや…藤本も化粧するんだなって思ってさ。普段とちょっと違うって言うか」
「むっ、失礼な。私だって化粧くらいするもん!学校の時も、薄ーくはしてるんだよ?」
「ならしなくても良いんじゃね?…その、十分…可愛いと思うし」
「そう?お世辞でも照れちゃうではないか!このこのーっ!」
「べ、別に世辞じゃねぇよ!」

言ってやった。
ずっと胸に秘めていた「可愛い」の一言を、ついに言ってやったぞ。
俺が藤本を褒めて、藤本は照れ隠しにじゃれてきて。
こんなデートを、ずっとしてみたかった。
今更だけど、もう手遅れだけど。
こうやって少しずつ自分の中で「したかった事」をこっそり消化していって、
いつか藤本の事を諦めた時に、悔いの無いようにするんだ。

「でも、女の子になっちゃった子こそ、皆可愛いからなぁー。西田君だってそうだよ?」
「女体化した人間は全員美少女になるって言うしな。…あれ?それを認めたら俺はナルシストになっちまうのか?嫌だあああッ!」
「実際可愛いんだからナルシストでも良いんじゃないかな?でもそれこそ、西田君は薄化粧にしないとね。
 元が良いから、がっつりやるとケバくなっちゃうよー」
「だったら、それこそ化粧なんてしなくても良いんじゃ…」
「だーめ。女の子の嗜みだもんっ」

化粧をすることで、また一つ俺は「女」に近付く。
まだ諦めがついていない今の心境では、やはり藤本に見せたいものではないと思ってしまう。
だけど…この間の生理の一件は文字通り生理現象だが、今回は藤本が望んでいることだ。
もっと女になれ、と言いたいのだろうか?
藤本の女友達を目指すのなら、化粧も覚えた方が良いのかも知れない。
まぁ、受け入れるしかないか…。

せっかくのデートなのに余計なことを考えてしまう自分に嫌気を覚えつつ、二人で歩き出した。
475 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:33:05.56 ID:PdPX0Vuc0
手始めに、近くのデパートに入る。
日曜日のこの時間なので、それなりに人は多い。
はぐれないように…という口実の下、ほんの少し藤本に身体を寄せる。
本当は手でも繋ぎたいところだが、今は女同士だ。
流石に周りの目が気になるし、そもそも俺が男だったとしてもそんな勇気は無かっただろう。

まずは化粧品ということで、化粧品売り場に連れて来られた。
化粧品売場など、ガキの頃に母さんの買い物に付き合わされて来た時以来だ。
改めて見渡してみるが、今見ても何に使うのやら分からない物だらけである。
幸い、化粧品を買う旨を母さんに話したら幾らか小遣いをもらえたので、懐具合は問題ない。
「ま、そのくらいはあっても良いだろうな。パチで少し出たから、これ持ってけ。無駄使いすんなよ」との事だ。

「取り敢えずー、ビューラーは私とおそろで良いかな?これ、綺麗に扇状に広がるからオススメだよ!」

楽しそうに藤本が選んでいる横で、俺がげんなりしているわけにもいくまい。
いつも通りに振る舞う努力くらいはしておこう。

「んじゃ、それで良いよ。つーかそれ、どうやって使うんだ?」
「ん?睫を挟むだけだよ?」
「…何か、瞼を挟みそうなんだけど」
「あーそれたまにやっちゃう!痛いんだよね、あれ。さて、それとマスカラは…」

マスカラってアレか、睫に塗って目を大きく見せるヤツか。
母さんも使ってたな、確か。

「西田君は睫長いしね、ボリューム系で良さそう。下地はこれで…、…、お湯で落とせる方が良いから…、…」

ボリューム?下地?
藤本は謎の言葉をブツブツと呟きながら、大量に並んだ品物の中から幾つか目星を付けている。
それぞれ役割と言うか…カテゴリーがあるようだが、何が何やらさっぱりだ。
藤本先生には分かっていらっしゃるらしい。

「これで良しっ。次、グロスも見よう!」
「へいへい」

これ、いずれは俺も全部覚えなきゃいけないのか?気が滅入るな…。
兎に角、今は藤本に任せておくしかない。

「あ、それと爪もやろうよ!シールなら簡単だし、可愛いよ?」
「シール?…って、それか?」

藤本が、自分の指先をこちらに差し出してくる。
ピンクのマニキュアを塗ってあるらしい爪に、リボンの形のシールがちらほら貼られている。
藤本らしくて確かに可愛いが、学校ではしていなかったと思う。
わざわざ気合を入れて今日のためにやったのかな…と思うのは自意識過剰だろうか。

「うん!自分で描くのは難しいんだけどね、これならマニキュアの上に貼るだけだし」
「やべぇ。自分がそれをやってるところを想像したら、キモすぎて鳥肌立ってきたわ…」
「そんな事ないよー!西田君はほら、性格が今も男の子だから…爪が可愛いと、ギャップでキュンとくる男の子がいると思うよ?」
「誰!?」

俺は自分を着飾って可愛く見られたいだなんて、多分思っていない。
今後思うようになるかすら分からないし、なるにしても今ではない。
そもそも、もし俺が藤本に惚れていなかったとしたら…今の俺の恋愛対象は男なのか?女なのか?
それすらイマイチ分からなかったりする。何せ、中途半端な存在なのだから。
女になってから何度も考えていることだが、未だに結論は出ない。

…藤本が楽しそうなので、まぁ良しとするか。
476 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:36:05.72 ID:PdPX0Vuc0
「13時半かぁ、そろそろお昼にする?」
「もうそんな時間か。そうだな、飯にするか。どこが良いとか…あるか?」

一通り化粧品関係を買って、気が付いたら時刻は13時半近くになっていた。
随分あれやこれやと買ったように思えるが、藤本に言わせれば「最初はこのくらいで良い」らしい。
逆に言えば、普通はまだまだ増えるってことか。
女って大変なんだな…。

涼二がバイトをしているマ〇クはここから近い。
アイツをからかいがてら、そこで飯も食うつもりだ。
当然、藤本の希望があればそちらを優先するが。

「んーっ、どこでも良いかも?」
「じゃあさ、そこのマ〇クにしねぇ?涼二がバイトしてるらしいから、ちょっと覗いてみたいんだ」
「中曽根君が?そうなんだ、じゃー彼が真面目に仕事してるかどうか、チェックしないとね!」

案外藤本もノリノリだった。
アイツ、俺の分ならまだしも藤本の分に鼻クソ入れやがったら承知しねぇ。
そしたら、そうだな…あぁ。
ホモの出会い系サイトにアイツの携番とメアドで登録してやる。セフレ募集って。



昼飯時を少し過ぎているにも関わらず、店内はかなり混んでいた。
店内で食べる人、持ち帰る人は半々くらいで、場所取りはしなくてもギリギリ座れるくらいではあったが。
藤本と二人でレジ前の列に並ぶ。涼二はレジにはいないようだ。
鼻クソ云々と言っていたくらいだし、恐らく奥で注文を作るポジションなのだろう。

「ねぇ、あれ中曽根君じゃない?すっごく忙しそうだよ」
「お、あれ涼二だな。何だ、ちゃんとやってるみたい…だな」
「これだけ混んでるしねぇ。邪魔しちゃ悪いし、こっそり注文して席に行こっか」
「…ぁ、う、うん。そうだな、そうしよう」

この手の店は、レジの奥で作業をしている様子がよく見える。
殺到する客は店側の忙しさなど考える事無くオーダーし、店員はそれらをこなすべく忙しそうに動き回る。
涼二も今は、店員の一人だ。
普段はヘラヘラと下らない事ばかり言っている涼二が必死になっている。
なかなかお目にかかれない貴重な光景だ。
477 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:36:58.46 ID:PdPX0Vuc0
着慣れてない制服、全然似合ってねぇよアイツ。
始めたばかりだからか…何か手際も悪いし。
あ、容器ひっくり返してやんの。だっせぇな。
でも、大変そうだな。忙しそうだな。真剣にやってるんだな。

…何だろう。目が、離せない。

「おおっとぉ〜?もしかして西田君、見とれちゃってる?中曽根君に」

藤本の声で我に返る。何してんだ俺!?

「ばっ、お前…!何言ってんだ!?あれは涼二だぞ!?」
「だからこそじゃないのかなーっ?働く男の姿ってのは格好良いからね!うんうん!」
「そんなんじゃねぇよ!誰がアイツなんかに!」
「でもさっきの西田君、完全に恋する乙女だったよ?」
「〜〜〜ッ!?」

真っ赤になって反論する俺の頭を撫でながら、クスクスと微笑ましそうに藤本は笑う。
違うんだ、涼二は腐れ縁の親友で、俺が恋をしているのは藤本で、でも今はそれを忘れようと思って…!

自分でも考えがまとまらない。
自分の事が良く分からない。

「りょ、涼二とは…お馴染みのツレなだけだ」
「あんまり苛めちゃうと可哀相だからね。もうこのくらいで勘弁してあげますよー」
「だからホントにそんなんじゃ…!」

あーだこーだと騒いでいたら、涼二がこちらに気付いたらしい。
ニカっと笑って、俺たちに向かって一瞬片手を挙げた。
あまりこちらに構っている暇は無いのだろう、すぐにまた自分の作業に戻っている。

「いやぁ、中曽根君って、黙ってればイケメンだからね。真剣に仕事してると普段の3割増くらい格好良く見えるよ」
「喋ると馬鹿だからな、アイツ…」

同意してから気が付いた。
胸が、ちくりと痛い。
俺、嫉妬してるのか?誰に?
俺の好きな藤本に格好良いと言わせた涼二に?俺のいつも近くにいる涼二を格好良いと言った藤本に?

分からん。考えたら頭が爆発しそうだ。
478 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:39:11.56 ID:PdPX0Vuc0
辛うじて残っていた空席を見つけ、二人席に座る。
俺たちのように向かい合って座っているのは、同じ歳くらいの女の子たちか、カップルが多い。
当然周りから見たら、俺たちも友達同士に見えるだろう。

それにしても俺が料理を覚えるより早く、涼二が作った物を食う羽目になるとは思わなかった。
マニュアル化されているこのハンバーガーが、料理と言えるかは分からないが。

「ちくしょう、畜生ッ…!何故ジューシーチキン赤とうがらしはメニューから消えちまったんだ…ッ!」
「あれ美味しかったのにねー。復活して欲しいなぁ」
「フィレオフィッシュなんていらない子だから、ジューシーチキン赤とうがらしを復活させてくれーッ!」
「あはは、それはフィレオフィッシュ好きな人に失礼だよ」

いつも思うが、メニューを廃止するのは止めて頂きたい。
遺された人々の気持ちを考えてくれ。
相当売れなかったのなら仕方ないが、ジューシーチキン赤とうがらしはそこそこ人気があったんじゃないか?
実際はどうなのか知らないけど。

そういう訳で、今日はえびフィレオのセットを食っている。
ちなみに涼二を見張っていたが、鼻クソは入れていない様子だった。

「西田君、そんなにガツガツ食べたら男の子みたいだよ?」
「そりゃ元男ですからね。食う量は減ったけどな…。男の頃はセットのポテトをLにするか、単品でバーガー1つ追加してたし」
「でも口が小さくなってるから、ちびちびガツガツ齧る感じがやっぱりにゃんこっぽいかも」
「また猫!?くそおおッ!早く人間になりたいッ!!」
「私とか、中曽根君とか、玲美とか奈緒ちゃんたち皆が飼い主、みたいな?」
「…でも猫って、もっと気まぐれで、たまにじゃれたと思ったら気が済めばどっか行っちゃって、みたいな感じだろ?俺違くね?」

そうだ。
一般的に「猫っぽい」と言えば、猫みたいな性格の人間を指す事が多いはずだ。
俺はそんな性格ではない。

「西田君の場合は見た目的な要素が多いんだよ。小さくて、顔がどことなく…目とかが猫っぽくて、可愛いから!」
「それはウチのロリババァにそっくりなだけであって…」
「じゃあ西田君のお母さんは親猫なんだね!見てみたいなぁ」
「それ、前に涼二にも言われたな…」

そう言えば、母方のばあちゃんは母さんに似ている。
ばあちゃんは確か女体化した女ではなかったはずだ。あの家系がルーツなんだろう。

「あはは、そうなんだ?やっぱり皆そう思うんじゃないかなー」
「まぁもう諦めた方が良いのかも…ん?」

あれ?携帯がバイブってるな。メールだ、誰だろ。…母さんか。何だ?

『何か悪口言われた気がする。女の勘ナメんなよ?家帰ったら覚えとけ』

「はああああ!?おかしいだろこれは!?ニュータイプかよ!」
「ちょっと、西田君どうしたの?」
「いや、何でもないんだ…はは…」
「変なのー。あ、そうだ!さっき買ったやつ、使ってみようよ」
「へ?ここでか?」
「本当はお行儀悪いんだけど…。今回だけ、西田君がどんな感じになるか見てみたいの!使い方も説明出来るし…」
「そこまで言うなら…じゃ、頼むわ」

確かに飲食店で化粧をするのはマナー違反のような気もするが、
周りの若い女の子たちは気にもせず化粧を直していたりする。
今回だけなら…まぁ良いか。
479 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:40:49.73 ID:PdPX0Vuc0
ものの15分そこそこで出来上がったらしい。
ビューラーで睫を上げて、マスカラを付けて、グロスを塗るだけ。
ファンデーションだのフェイスパウダーだのと聞いた事があるが、俺はそこまでしなくて良いらしい。
藤本は、完成した俺の顔を眺めて何故か溜息をついている。

「…はぁ」
「何だよ!?人のツラ弄っといて溜息つくんじゃねーよ!」
「いや、こんな簡単な化粧で、こんなに可愛くなられたら…ねぇ。生粋の女として立つ瀬が無いよ…。はい、鏡」
「…確かに、これだけでもかなり印象が変わるもんだな」
「もうね、めっちゃ可愛いよ?もう一度言うね、めっちゃ可愛いよ?」
「そんなに大事なことなの!?」

しかしまぁ、確かに随分と変わるもんだ。
元々大きな目が更にデカくなったように見える。
女体化したせいで童顔になっていた顔が、少しだけ大人っぽく見えるようになった。
化粧って怖いんだな…。

「爪もすっごく可愛いし!下手にマニキュアは使わなくて正解かも。もうすっかり女の子だねっ」
「何か女装してる気がして恥ずかしいんだけど…」

睫を弄る前に爪に塗っておいたベースコートとやらの上に、花柄のシールを貼られた。
更にその上にトップコートとかいうのを塗っただけだ。色の付いたマニキュアそのものは塗っていない。
確かに可愛らしい爪にはなったが、これは俺の爪だしな…。恥ずかしい事この上ない。
つーかこれ、どのくらいで乾くんだ?

「…女装じゃなくて、もう女の子なんだから」

ぼそっと呟いた藤本の表情は、何だか悲しげだった。
あれ?俺、まずいこと言ったかな…。

「ま、今度時間あったら自分でもやってみると良いよ!あ、そうだ。西田君、ピアス開けてる?」
「いや、開けてないよ。藤本は…開けてるみたいだな」

すぐにいつもの笑顔に戻った藤本は、唐突にピアスの話題を振ってくる。
よく見れば藤本の艶のある髪の隙間から、銀色のピアスが見え隠れしている。
普段は元気いっぱいな藤本の、意外に大人っぽい一面に見惚れてしまう。

「学校にいる時は透ピ…は透明ピアスの事ね、入れてるんだよ」
「痛そうだよな、穴開ける時に」
「そりゃ痛いよぉ!例えて言うなら、ホッチキスを誤爆して自分に刺しちゃうような感じ?」
「例え怖ッ!?何でそんなエグいとこ持ってきちゃうかなこの人!?」
「でもそれを我慢しちゃえば…ほら、こんな感じ。どうかな?」

髪をかき上げて、よく見えるようにしてくれた。
先程見えたシルバーのピアスは、ハートをあしらったシンプルなデザインだった。
化粧や爪もそうだが、こういったものは俺のような中途半端な女ではなく、普通の女の子らしい藤本にこそよく似合う。
ただ…藤本が開けているのなら、俺もやってみたいような気もする。
女友達を目指す立場として、同じようにピアスを着けてみるのも良いだろう。
ハートは似合わないだろうけど。

「似合ってるんじゃないか?俺も開けてみようかな?…ホッチキスは嫌だけど」
「おっ、ノッてきたねぇー。じゃあ、今からアクセ屋さん行ってみようか!」

今からの行動も決まった。
確かアクセサリー屋はこの店の近くにあったはずだ。
値段はピンキリらしいが、まだ財布の中身は大丈夫だろう。

食い終わった後のゴミを捨て、トレイを置いて店を出る。
出る際に涼二をチラ見したが、相変わらず忙しそうだった。
480 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:41:56.55 ID:PdPX0Vuc0
近くのアクセサリー屋に入った。
アクセサリー屋というからには、当然ピアスのコーナーもある。
照明の光を反射しながら輝く大量のピアスの横に、ピアスの穴を開けるためのツールが置かれていた。
どうやらピアッサーやニードルとかいう物を使うらしい。
藤本が言うには、取り敢えず最初はピアッサーで良いんではないかとの事だ。

「よく安全ピンで開けるとか聞くけどなぁ。安全ピンの安全な使い方じゃねぇよな、あれ」
「やる人もいるけど、衛生的に良くないよ!玲美は病院で開けてたけどねー」
「病院はちょっと大袈裟な気が…。俺はピアッサーってヤツで良いか。つーかこれ、ホントにホッチキスみたいだな…怖ぇぞ…」
「あはは、似たような物かも?」

どうやら、このピアッサーとやらを使って穴を開けると、
あらかじめセットされているピアスが自動で耳に嵌まるようになっているらしい。
暫く消毒だけして、数週間後に初めてそのピアスを外すのが望ましいようだ。

「結構待たなきゃいけないんだなぁ」
「でも学校で目立つと良くないからね、金曜日の夜に開けて日曜日の夜には透ピに替えちゃうのが良いかも。
 後は消毒しながら数週間、我慢の日々だよー」
「ふむふむ。だとしたら、両耳に開けるとして…ピアッサー2個と透ピか。我慢の日々から解放された時のピアスはどれが良いかね」
「ピンと来るのは無いのかな?」
「んー。これとか?このプラのリング」
「それは拡張しなきゃ入らないし、女の子でそれは不良っぽいからダメ!もっと可愛いのにしようよ!」
「そうか?ど、どうしようかな…」
「ね、決まらないなら私に選ばせてくれないかな?そしたら私が買って、西田君に渡すから!」
「いや、それは悪ぃよ。選んでくれるのは良いけど、金は自分で…あ、」

そうだ。
俺も藤本に選んで買ってあげれば良いじゃないか。
そんなに高価な物じゃなくて良いんだ。これなら自然にプレゼント交換が出来る。

「だったら…俺にも藤本のピアス、選ばせてくれねーかな?あんまりセンスは期待しないでほしいけど」
「良いねぇ!そうしよそうしよっ。あんまり高いとアレだから…そうだね、2000円以内にしとこっか」

何かイイな、こう言うの。
藤本的には「友達とのプレゼント交換」だろうけど、それでも良いさ。
これでまた一つ消化、っと。

さて、どれが良いだろうか。
481 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:43:48.42 ID:PdPX0Vuc0
20分程、吟味に吟味を重ねた結果だ。やはりこれしかないだろう。
よくもまぁ都合良くあったものだ。向日葵の形をしたピアスが。

「西田君、決めてくれた?」
「おう、決まったぜー。そっちは?」
「私も決まった!西田君に似合いそうなのはたくさんあったけど、一つに絞るなら、もう絶対これしかないのっ!」
「一応こっちは買う前に見せとくわ。もし似たようなヤツ、持ってたら悪いからな。これなんだけど…」

あまりリアルなデザインだとアクセサリーにするには少し不気味かなと思ったのだが、
上手い具合にデフォルメされているので可愛らしいと思う。
藤本のイメージにピッタリだ。絶対に似合う自信がある。

「どれどれー?ん、向日葵かな?可愛いねぇー!ありがとね、西田君っ」

俺の選んだ向日葵は、どうやら気に入られたらしい。安心した。

「んじゃ、私も見せておこうかなぁ。西田君が気に入らなかったら嫌だしね」

藤本が選んでくれた物なら何でも良い。
ただ俺が藤本のイメージで向日葵を選んだのだから、藤本も俺のイメージで選ぶとしたら…多分、アレだろう。
藤本が、後ろ手に隠していたパッケージをこちらに差し出す。
…やっぱり。

「俺は藤本が選んでくれたコレで全然良いって事だけは先に言っておくよ。でもこれだけは言わせてくれ」
「ん?」
「猫か!やっぱり俺のイメージは猫で定着したのかああッ!!」
「だってー。西田君はにゃんにゃんおだもん」
「ちくしょうッ!これも全てあのロリバ…母さんに似ちまったせいだああッ!」

またニュータイプに捕捉されたら嫌なので、一応言い直しておく。

「まぁまぁそう言わずに。ほらこれ、可愛いでしょ?」
「ああ可愛いよ、そりゃ可愛いさ。猫だもんな。だけど俺に似合うかねぇ…」

藤本が選んでくれたのだ。
似合うかどうかは別として、何だかんだで正直嬉しい。
猫っぽいと言われようが、ついつい顔がニヤけてしまう。
このピアスを着けるためになら、あのホッチキスのような器具で穴を開けるのも我慢出来る。

「絶対似合うから!穴がちゃんと出来てからのお楽しみだね。じゃ、レジ行こっか!」

向日葵も猫も、値段は同じくらいだ。
俺たちの身の丈に合ったプレゼント。高校生らしくて良いじゃないか。
482 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:45:28.44 ID:PdPX0Vuc0
本日の、化粧品とアクセサリーを買うという目標は達成された。
その後は、適当に店に入って適当に服なんかを見て、気に入った物があれば適当に買ったりとか。
まぁそんな感じだった。

「…私も、色々買っちゃったな。見てると欲しくなっちゃって、あはは」
「服、選んでくれてありがとな。俺、女物の服はよく分かんねぇからさ」
「いーよいーよ。言ってくれれば、また買い物一緒に行けるから、ね?」

…何か藤本のテンションが、段々下がってきている気がする。
どうしたんだろう。つまらなかったのかな?疲れたのかな?

「…藤本さ、どうかしたか?疲れたなら休むか?それとも…俺と一緒じゃつまんねぇ…かな?」
「あ、いや、すごく楽しいよ!でもちょっと疲れちゃったかな?えへへ」
「なら良いんだ。ちょっとそこ、入って座ろうか」

俺たちが歩いていた場所の近くに丁度大きな公園があるので、そこへ入る。
春には桜が満開になって、花見客で溢れ返る場所だ。
そういやここ、もし藤本と付き合えていたら、二人で花見をしに来たかったんだよな…。

秋になった今は、花見客の代わりに木陰のベンチで休んでいる人々が、ちらほらといるだけだ。
空いているベンチに、二人で荷物と腰を下ろす。
少し離れた所に自販機がある。取り敢えず飲み物でも飲ませた方が良いか。

「そこの自販機で何か飲み物買ってくるわ。何が良い?」
「ごめんね、お願いします。ミルクティーが良いかな。あ、お金を…」
「いらんいらん。今日付き合ってくれたから、その礼で。にしては、安すぎだけどな」
「ん、じゃあ…お言葉に甘えて」

やっぱり様子が変だ。本当に疲れただけなのか?
さっきまでは普通に楽しそうだったんだけどな…。
あまり、良い予感がしない。

数十メートル離れた自販機で、自分の分のコーヒーと藤本のミルクティーを買った。
ホットとアイスがあって迷ったが、この時間になると少し涼しい。ホットを買ったが、問題ないだろう。
男の頃は片手で2本くらい持てたのだが、手が小さくなった今では無理だ。
両手に1本ずつ持って、ベンチへ戻った。

「お待たせ。ミルクティー、ホットで良かったか?」
「ありがとう、ホットで平気だよ」
「まぁ、それ飲んで少し休もうぜ」
「ん…」

そのまま、藤本は黙ってしまった。
どう考えてもメンタル的に何かあったとしか思えない。
原因は…俺か?俺、何かしたのか?
483 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:47:08.87 ID:PdPX0Vuc0
「…西田君のせいじゃないよ」
「うわ!?俺、口に出してたか!?」
「ううん、西田君は…口は悪いけど、本当は優しいから。心配してくれてるのが分かるし…自分が悪いんじゃって考えてるでしょ?」
「む…。まぁ、確かに心配はしてるけどな。んで?どうしたんだ?俺、何かやっちまったか?」
「んーん、西田君がやっちまったんじゃなくて、私がやっちまってるんだよ。でもね、やっぱりダメみたい」
「…?何が言いたいんだ?」

藤本がやっちまってる?
別に、何もしていないと思うけどな。

「…やっぱり、無理だね。言わないと。言って、終わりにしないと…。大事な話、しても良いかな?」
「ん?」
「私、西田君に嘘ついてた事があるんだ」
「…嘘?」
「覚えてるかな、西田君が女の子になって最初に学校に来た日。同性だから、もっと仲良くなれそう。嬉しい、って」
「言ってたな、そんな事も」
「あれのね、『仲良くなれそう』ってところは本当。『嬉しい』ってところは、…嘘」
「…よく分かんねぇ」
「もっと言うと、女の子になった西田君が凄く可愛いって思うのは本当。助けてあげたいのも本当。でもやっぱり…『嬉しい』のは、嘘」

何だ?
藤本は何が言いたいんだ?

「私がね、西田君を今でも『西田君』って呼ぶのは…」

藤本は、基本的に仲良くなった女の子は、元男だろうと下の名前で呼ぶ。
些細な事ではあるが、ずっと疑問に思っていた事だ。

「まだ、男の子の西田君に未練があるから。西田君にだけは、女の子になって欲しくなかったから。西田君、私は…!」
「なっ…!」

ちょっと待ってくれ。
藤本が言わんとしている事に、だいたい見当がついてしまう。
俺の勘違いであってほしい。自惚れであってほしい。
もしそうでなかったら、俺は…!

「西田君が…好きでした。…ううん、きっと今も、好き」

無慈悲にも藤本の口から飛び出した言葉は、俺の勘違いでも自惚れでもなく、
俺の…かつて一番聞きたくて、今は一番聞きたくない言葉だった。
484 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:49:06.14 ID:PdPX0Vuc0
「中学の頃から西田君の事が好きで…彼女になりたいなって、ずっと思ってた」

俺の反応を待たずに、ぽつぽつと藤本は語り出した。
どう切り替えしたら良いのか、考えがまとまらない。
口の中が、干上がったように乾いている事に気付き、コーヒーを一口飲む。
味なんて、全然分からなかった。

「おかしいよね、こんなの。私は女の子と付き合う趣味なんてないのに、西田君が女の子になった今でも好きだなんて。
 自分でもよく分からなくて、苦しいんだ…。こんな私、気持ち悪いよね、ごめんね…」
「そんなこと…!」

いつもは元気一杯な藤本が、肩を震わせて泣いている。
俺だって同じなのに。
俺はこの気持ちを隠し続けて、いずれ忘れようとすら思っていたのに。
藤本は苦しんで、勇気を出して打ち明けて、泣いた。
最低だ、俺は…。

「私、卑怯なの。西田君に生理が来た時に私が行ったのは、西田君は女の子になったんだって実感が欲しかったから。
 今日、西田君にお化粧したのだってそう。女の子になったんだって実感すれば、この気持ちを忘れられると思って…でも、無理だよ…」

あぁ、そうか。
トイレ立て篭もり事件の時と、先程化粧をした時の事を思い出す。
あの時、藤本の笑顔が曇ったのは、そういうことだったんだ。

「…もし、良かったら。男の子の頃に西田君が、私をどう思ってたか…教えてもらえませんか…」

大粒の涙を落としながら、消え入りそうな声で問われる。
…言わないと。せめて、正直に。

「…好きだったよ。今でも、好きだ」
「そう、なんだ…。えへへ、嬉しいけど、悲しいね…」
「ああ…」
「好きだって言ってもらえて嬉しいけど、やっぱり私は、女の子とは…」
「良いんだよ、分かってる。もし俺が男のままでいて、逆に藤本が男になっちまったら、…俺は付き合えない。同じだよ」
「…うん、ありがとう。でも、やっぱりごめんなさい。私がもっと早く言えていれば、…、西田君が女の子になる事は、無かったのに…」

もし男の頃に藤本が想いを打ち明けてくれていたら、付き合って、きっとセックスだってした。
藤本も、それを言いたいのだろう。
485 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:50:45.14 ID:PdPX0Vuc0
「謝るなよ、俺だってそうだ。俺だって、女になって、この気持ちを早く忘れてぇと思ってた。…俺の方こそ卑怯だよな。
 結局藤本に言わせて、泣かせて…」
「…もう、二人とも悪いって事にしよっか。あはは、馬鹿みたいだもんね、私たち。言えずにいるうちに、手遅れになって…」
「あぁ、ホントに…大馬鹿だな」

結局、俺たちは似た者同士だったんだ。
ほんの少しの勇気が無かったばかりに、全て手遅れになった。
救えねぇな、マジで…。

「でも西田君は…、中曽根君のことが気になるんじゃないのかな?」
「…自分でもよく分かんねぇよ。藤本の事が好きなのは確かだけど、涼二のことも…もしかしたら、ほんの少しだけ、
 気になってる…のかも知れない。これが好きって感情なのかは分からねぇけど、ちょっとした事でドキドキしたりとかさ…」
「私から見たら、さっきも言ったけど…恋する乙女に見えたよ?」

本当にこの感情の正体が分からない。
ずっと親友だと思っていたヤツを、女になった途端に好きになるのも…普通じゃない気がする。
藤本の言うように、第三者の視点では、俺が涼二を好いているように見えるらしいが。

「軽蔑、しても良いと思う。お前の事が好きなのに、他の男も気になるとか言ってるんだからな…。
 自分でもおかしい事言ってる自覚はあるんだ」
「男の子から女の子になると、やっぱり色々複雑なんじゃないかな。軽蔑なんてしないよ。でも辛いよね、きっと」

慈しむように言いながら、頭を撫でてくれる。
少しだけ…本音を言って、甘えても良いだろうか。

「辛いよ…!女になって、男にドキドキするようになって、でもまだ藤本が好きで!俺って何なんだろう、俺は男なのか、女なのか?
 って、いつも考えてる…!」
「うん、うん…」
「女になりさえしなければ…っ!藤本の事が好きなだけでいられたのに!もう、わけが分かんねぇ…!何なんだよ、俺は…!」
「悲しいけど…私たち、お互いのことは忘れた方が良いよね、きっと。私も、西田君も、早く新しい恋が出来ると良いね…」

泣き笑いのような顔で藤本は言って、俺を胸元に抱き締める。
今日は、胸の感触が…なんて下世話な事は考えられない。
ただ暖かくて、今までの葛藤を全て押し流すように、とめどなく涙が溢れてくる。

お互いが好きでいるのに、俺たちは結ばれなかったんだな…。
486 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:52:24.67 ID:PdPX0Vuc0
どのくらい、そうしていただろうか。
女になってから、どうも涙腺が緩くて困る。

「…悪ぃ。情けないとこ、見せちまったな。もう大丈夫だから」
「泣いてる西田君なんてなかなかお目にかかれないからね、可愛かったよ?ご馳走さまっ」
「自分だけいつものテンションに戻らないでくれよ…」
「んー、言ったら何だかスッキリしちゃってね。ふっ切れた、とはいかないけど、もう前向きにいられる気がするよ」
「確かにな、言ってくれて助かったよ。俺もこれからは、前向きにいられると思う」

残念な結果になってしまったとは言え。
長い年月をかけて藤本への想いを忘れてようとしていた壮大な計画は、かなり前倒し出来そうだ。
藤本には頭が上がらんな。

「もう、告白は男の子からしてくれなくちゃ!」
「今は女だからな」
「あはは、そうだったね。こりゃ一本取られたよ!あ、西田君、マスカラが涙で落ちちゃってるね。拭かなきゃ…」
「ん、よく見りゃお前もだ。マスカラ付けてたら泣けねぇんだな…」
「私、ティッシュ持ってるから。ちょっと待ってね」

藤本がティッシュを取り出して、近くの水道で濡らしている。
戻って来てそのまま、ティッシュを俺の顔に当ててマスカラを落とし始めた。
ひんやりとした感触が心地良い。

「んー?まだちょっと残ってるかなー?」
「おい、何か顔が、近…んむっ!?」

唇に、柔らかい感触。
おい、これって…!?

「不意打ちでごめんね、最初で最後のキスってことで。…私の、ファーストキス」
「俺も、ファーストキスなんだけど…」
「嫌だった?」
「最高でした」
「えへへ、なら良かった」

女になった俺に藤本が出来る、精一杯。
俺が女にならなければ、何度だって出来た事だし、それ以上の事だって出来た。
今ほど女になった事を後悔した時は無いな…。

「おい、俺も拭いてやるから。ティッシュ貸してくれ」
「はいはーい。お願いします!」

受け取ったティッシュで、藤本の顔を拭く。
マスカラを落とし終わったところで、藤本が目を閉じた。

…これって、そういうことだよな。
487 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 06:54:40.10 ID:PdPX0Vuc0
唇を押し当て…ようと思って背を伸ばすが、身長差で藤本に届かない。
それに気付いた藤本が、少し笑って頭を下げてくれた。恥ずかしい。
また、唇を重ねる。

「…セカンドキスも、お前だ」
「私も、だよ?」
「…。」
「…。」
「も、もう一回だけ、して…良いか?」
「う、うんっ!ホントに、これで最後にしようね。でないと、癖になっちゃうから…」

どちらからでもなく、背中に手を回して、キスをする。
やっぱり藤本は頭を下げてくれている。
何か悔しいな…。

せめてもの、元男の意地。
俺から舌を入れた。

「ぁ…」

どうやら受け入れてくれるらしい。良かった。
お互いを探るように少しずつ、舌を触れ合わせる。

もしかしたら誰かに見られているかも知れないけど。
どうでも良い。俺たちには、今しかないんだから。

藤本の、舌の味。
今は、少しミルクティーの味がした。



「…、このくらいにしとくか」
「そうだね。…名残惜しいけど」
「明日からは、改めて友達だからな、最後に良い記念になったよ」
「うん、だからもう…『西田君』って呼ぶの止めるね。忍ちゃんって、呼んで良いかな?」
「あー…だったら、『ちゃん』もいらねぇ。忍って呼んで欲しい」
「良いの?じゃあ私の事も典子って呼んでよ!ねっ?忍!」
「おう。宜しくな、典子」

俺たちは今日、二人で失恋した。
そもそも俺が女になった時点で、俺たちの恋は終わっていた。
藤本が今日打ち明けてくれていなかったら、お互い時間をかけて、徐々に忘れていっただろう。
それはそれで良かったのかも知れない。

でも、藤本は勇気を出して言ってくれた。
そのお陰で、男と女でも、女と女としてでもなく、西田忍と藤本典子として。
キスをしている間の数分だけ、俺たちの恋は、きっと実っていた。

明日からは、友達だ。
488 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/11/28(月) 07:00:59.57 ID:PdPX0Vuc0
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

化粧の描写についてはいつものごとく、自分で調べた勝手な(ry

主人公を藤本と2人きりにさせると、キャラが安定しなくて困りました。
そして猫でネコな流れを期待して下さっていた方々、どうもすいません。
ギリギリまで考えたんですが、今後の展開を考えるとこれが限界でしたorz
またの機会に書けたら良いなと思っております。

>>472
自分の名前が出てて吹きましたwwwwwwでぃゆ氏が一般女性と結婚とかwwwwww
なんかこういうのも良いですね。個人的には全然アリだと思います!
489 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/11/28(月) 20:18:01.98 ID:Nd6/AI89o
>>488
乙でした。結構良い展開で楽しかったです
次も期待しながら待ています

喜んでもらって何よりですwwww
490 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/12/01(木) 16:37:32.46 ID:kt/mIaEAO
期待
491 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/01(木) 20:22:52.46 ID:ZvdK/x8wo
◆suJs/LnFxc氏にお願いがあるんですが・・キャラを借りてもよろしいでしょうか?
492 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/01(木) 20:42:28.27 ID:GFruPXsAO
携帯から。
トリこれで合ってたかな?

>>491
むしろキャラ使ってくださるんですかwwwwww
キャラ崩壊でも何でも、好きなようにして頂いて構いませんので!楽しみにしてます!
493 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/01(木) 21:25:48.13 ID:ZvdK/x8wo
>>492
ありがとうございます。出来るだけ崩壊しないように頑張ります
494 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 01:11:10.20 ID:Q2GBQP+B0
こんばんわ。
また投下していきます。

今回、モブキャラが結構多くなっております。
モブキャラの台詞は「 」ではなく『 』で囲ってありますので、留意して頂けると幸いです。
495 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 01:13:16.97 ID:Q2GBQP+B0
藤本のことを典子と呼ぶのにもすっかり慣れた今日このごろ。
2度目の生理も終わり、俺が女になってから2ヶ月と少しが経っていた。
典子とはもう、良い感じに友達関係を築けている。
両耳に開けたピアスの穴は、最初こそ痛かったものの…今は綺麗に出来上がった。
試しに猫のピアスを着けてみたりもした。似合ってるかどうかは、分からないが。

涼二とは、昼休みにカレーパンを買ってもらったり、アイツのバイトが無い日にうちでゲームをやったりとかで、まぁ相変わらずだ。
やっぱりたまに、ドキっとすることがある。
好きかと言われてもよく分からん。親友だとしか言いようがない。

季節はすっかり秋で、薄着だともう寒い。
うちの学校では、この時期に文化祭が催される。

今は、ホームルームでクラスの出し物を決めているところだ。

「えー、では我々6組の出し物については、クレープ屋に決定しました!…同志諸君ッ!俺の力不足で、我々の悲願である
 メイド喫茶の野望を果たせずに申し訳ない…ッ!」
『委員長ぉー!俺たちは、俺たちは何のためにここまで…!』
『畜生ッ!我がクラスの乙女たちのメイド姿を見るまで、俺は[ピーーー]ないというのに…ッ!』

委員長が決定事項を簡潔(?)に述べる。
男子(涼二含む)はド定番であるメイド喫茶を熱望していたようだが、定番なだけあって既に他のクラスに出店権を奪われていた。
見苦しくも泣き叫ぶ男子ども(涼二含む)を、女子(俺含む)は冷ややかな目線で眺めている。

うちの学校では出し物を決める際に、学年ごとにクラス対抗でくじ引きが行われる。
くじで決まった順番通りに出し物を決めていくわけだ。
今回の場合、うちのクラスよりも先にメイド喫茶の出店を決めているクラスがある。
この場合、内容が被るのでコスプレ喫茶系はもう無理らしい。
ちなみに学年が違えば出し物は被っても良いらしく、当然の如く2年、3年にもメイド喫茶が出店される。

…そんなに良いかね、メイド喫茶。

そんな事を考えるようになったのも、自分が女になったからだろう。
男の頃なら典子のメイド姿を見たくて、メイド喫茶が却下された瞬間に、
今まさに死体のようになっているクラスの男子連中(涼二含む)の仲間入りをしていたはずだ。
今の状況で下手にうちのクラスがメイド喫茶で決定されてしまったら、
もしかしたら自分がメイドの格好をさせられる側になっていたかも知れないのだ。冗談じゃねぇ。
密かに、胸を撫で下ろす。
496 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 01:15:32.23 ID:Q2GBQP+B0
「だが同志諸君!メイド喫茶の野望は潰えたが、我々にはまだ希望があるのだ!むしろ、こちらが本命と言って良いだろうッ!」

希望?
コイツ、何を言ってるんだ?
…嫌な予感がする。これが女の勘ってヤツか?

周りを見れば、死体のようになっていた男子ども(涼二含む)が、一筋の光りを見出だしたかのように蘇生し始めている。

「クラス別の出し物は先程述べたように、クレープ屋で決定した…。だがッ!学年全体としての出し物は…」

…ごくり。
クラス中から、そんな音が聞こえた気がした。

「『にょたい☆かふぇ』に決定したあああッッ!」

…は?何だそれ。
にょたい☆かふぇ、にょたいカフェ、女体カフェ、女体化フェ…
あれ?ちょっと待て、まさか…!?

『委員長ーッ!そのとても素敵な響きの『にょたい☆かふぇ』について、詳しい説明を要求するッ!』
「宜しい、疑問は尤もだ。だが詳しく話すまでもない。要は、各クラスのにょたっ娘を集め、ウェイトレスをやってもらう!至極簡単ッ!」

嫌な予感は的中した。女の勘もあながち馬鹿に出来ないものだ。
つーかそれ、女体化者を晒し者にしたいだけじゃねーかよ!
絶対嫌だぞ俺は!

『ってことは、うちのクラスだと…』
『武井と…』
『小澤と…』
『西田…?』
『『『………』』』


よ、良かった…。
ざまぁみろ、皆引いてるじゃねぇか。
そんな訳のわからん企画、破綻するに決まって…
497 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:19:30.97 ID:Q2GBQP+B0
『『『うおおおおおーーッッッ!!』』』
『きた!カフェきた!メインカフェきた!これで勝つる!』
『武井ーッ!俺だーッ!結婚してくれー!』
『小澤の絶対領域に期待せざるを得ないッ!』
『にーしーだ!にーしーだ!』

リビングデッドども(涼二含む)が歓喜の涙を流して狂喜乱舞している。
メイド喫茶に猛反対していた女子たちも、自分たちに被害がないと分かった途端に、
「それ良いんじゃない?見てみたいよねー」などとほざいている。

この流れはまずい、何とかして止めないと…!

「ちょっと待てえええッッ!おかしくねえ!?メイド喫茶と被ってるじゃねーか!あと俺を某サタンみたいに呼ぶんじゃねえええッ!!」
「西田、残念ながらこれは決定事項だ。安心しろ、メイドではなく普通のウェイトレスだからな。衣装は手芸部が用意してくれる。
 今日の放課後にサイズを測るらしいから、部室へ行ってくれッ!」
「へっ?あ、うん。…じゃなくてえええッ!喫茶店ならメイド喫茶で事足りるだろうがああッッ!」

メイド喫茶とにょたい☆かふぇ、どっちが先か知らないが、こんな暴挙が許されてたまるものかよ!

「趣旨はにょたっ娘による軽食提供サービスだからな。確かにグレーゾーンだが、メイド喫茶とは提供する品物を変え、
 メイド喫茶側にはにょたっ娘を起用しないという差別化を計ることで許可が下りた。この辺はかなりゴリ推ししたからな、俺が」
「犯人はてめーかよ!?フ〇テレビみたいな真似しやがって!そ、そうだ、武井、小澤!何とか言ってやれ!」

くそ、俺一人じゃ分が悪い。
『こちら側』の武井と小澤に加勢してもらわないと…!

「学年で協力してやるというのも…あまり無い機会だし、なかなか面白そうじゃないか?」
「うんうん。他のクラスのにょたっ娘と仲良くなるチャンスだしね!」
「おいいい!何かノリノリなんですけど!?」
「西田。この企画の利益は全額、慈善団体を通じて寄付されることになっているんだ。お前一人が加わらないだけで、
 寄付金の額に影響が出るかも知れないんだぞ?」
「くっ…!チャ、チャリティー活動は大いに結構だけどなぁ!俺が抜けたところで変わるはずが…」

『いやー、やっぱりうちのクラスは武井に小澤、西田のNTK3が揃わないとなぁ』
『そうそう、一人でも欠けたら金落とす気にならねーよなー』
『誰が一番なんて決められねぇけど、3人ともいないとダメだろ?』

NTKはNyoTaKkoから来ているらしい。
安直すぎる…っていうか勝手に変なユニット組んでんじゃねぇよ…。

でも典型的な日本人として、「皆がやってるのに自分だけやらない」というのはいたたまれないぞ…。
しかもこれって、俺だけがチャリティー活動を嫌だと言って駄々こねてる状況じゃないか?
あれ?俺が悪いの?これ。

「さぁ西田ッ!お前がいなければ寄付額が下がるのは事実なんだ!それに武井と小澤はやってくれるそうだぞ?
 お前はそれでも拒絶するのか!?どうなんだ!日本人としてどうなんだッ!!」
『そーだそーだ!意地張ってんのは西田だけだぞ!』
『早いとこ降伏した方が身の為じゃねーの?』
「う、ぐ…ッ!こいつら…!」

俺のプライドという最後の砦は、もはや陥落寸前だ。
気力だけで立ち上がっているボクサーと大差ない。

そんな俺に、トドメの一言。
いつの間に俺の背後に回っていたのか。

「…忍。あんまり聞き分けのないことばかり言ってちゃダメだよ?文化祭を成功させるには、協調性が大事なんだから。ね?」

俺の頭を撫でながら、聖母のような微笑みで。
鬼のようなことを言う典子がそこにいた。
498 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:21:06.77 ID:Q2GBQP+B0
「見事な手並みだ、藤本女史。西田が一番手強かったからな、ヤツを飼い馴らしている君の協力を得られて、非常に助かった。
 同志諸君、藤本女史に万歳三唱ッッッ!」
『ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!』
「いやぁ、照れるなぁ。あはは!」

真っ白になって机に突っ伏す俺の頭上で、割れんばかりの万歳三唱が行われている。
さながら戦勝祝賀会だ。
勝利の余韻に浸っている委員長が、意気揚々と俺の元へとやって来た。

「そう恨んでくれるな、西田よ。元々は、使用済の衣装をオークションにかける案もあったんだ。確かに利益は見込めるが、
 流石にどうかと思ってな。それを止めたのはこの俺だぞ?」
「…誰が買うんだよ、そんなの…」
「にょたっ娘にはちょっとしたアイドルグループの追っかけみたいな集団がいるんだよ。密かに校内でも、
 盗撮写真の売買が行われているしな」
「はあ!?盗撮!?」
「盗撮と言っても、更衣室やトイレなどのヤバい写真ではないぞ。健全な隠し撮りで、陰ながら愛でるのが彼らのポリシーなんだと」
「陰ながら愛でることの何処が健全なんだよ!?まさか、俺のも…」
「当然ある、俺も何枚か持っているしな。お前のファンも結構多いんだぞ?嬉しいだろう、ははは」
「てめえええ!嬉しくねぇし気持ち悪ぃーんだよ!全部出しやがれコラァァッッ!!」
「嫌だッ!俺のにょたっ娘コレクションを渡すわけにはいかんッ!」

俺が委員長に掴みかかっていると、後ろの席の涼二が何かを言おうと口を開いた。
コイツも先程、クソ忌々しい「にょたい☆かふぇ」に狂喜乱舞していた人間の一人だ。

もしかして、俺のコスプレ姿を見たいとか…思ってんのか?
そんなこと言われても俺、別に何とも思わない…よな?

「忍みたいなちんちくりんはどーでも良いけど、武井たちや他のクラスのにょたっ娘たちは楽しみだよな。
 2組の菅原とか特に、すげースタイル良くて…」
「ぬあああッ!!ムカつくッ!こいつムカつくッ!別に楽しみにしろとは言わないけどすっげームカつくッッッ!!」
「何だよ忍、何が言いてぇんだ?」

言われてみれば確かにそうだ。
俺は何が言いたい?
えーっと、多分…あ、そうか。

「…そのスタイルの良い、菅原ってヤツと比べられたのがムカつく」
「何だよ、そんなの仕方ないだろ。お前の体型だって違うトコでそこそこ需要があるんだろ、ファンが多いって話だし」
「需要とかそういう話じゃねーんだよ!スタイル抜群の連中の中に放り込まれる俺の身にもなれよ!?」
「まぁまぁ。逆に目立って良いじゃねぇか。もっと自分の体型を武器にしていけよな!」
「うるせーよ…」

涼二にまで「いい子いい子」される始末だ。
これをやられると、何だか怒る気が失せてしまう。
何かホントに飼い馴らされてる気がしてきたな、俺…。
499 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:22:52.76 ID:Q2GBQP+B0
げんなりしていると、武井と小澤もやってきた。
こいつら、裏切りやがって…!

「にーしーだ君。頑張ろうね!私、楽しみだよー」
「お前ら…元日本男児のプライドは無いのかよ!?俺たちは晒し者にされるんだぞ!?」
「そんなこと言って…西田、君だって男のままだったらメイド喫茶を希望していただろう?それは我侭というものだよ」
「うぐっ…、それを言われると…」
「それに小澤も言っていたけど、他のクラスの女体化者とも交流を持てるチャンスじゃないか。こういった機会は大事にした方が良い」
「私はメイド喫茶でも良かったんだけどねー。可愛い服着るの好きだし!」
「何か小澤だけ最初からノリが違うぞおい…」
「アンタたち、少しは手加減しなさいよ?私、3組のメイド喫茶を手伝うことになっちゃったから。
 客が全部そっちに取られたらたまらないもの」
「手伝うって…何でまた?そんなにメイド服が着たいのか?」

女体化の先輩たちと話をしていると、典子と植村も現れた。
植村はわざわざ別のクラスでメイドをやるらしい。
確かにクラス別の出し物と言っても、お互いのクラスの出し物に支障がでない範囲でなら人員の貸し借りは許可されているが…。

「馬鹿言わないでよ。3組の連中、メイド喫茶側のレベルを上げないと、にょたい☆かふぇに全部喰われるんじゃないかってビビってるの。
 で、私にオファーが来たってわけ」

女体化者が1クラスに平均3人として、学年で8クラスだから…24人くらいか。
自分のことを持ち上げるつもりは無いが、ただでさえ単品のスペックが高すぎる女体化者がそれだけ集まれば、
とんでもない光景になるのは目に見えている。
メイド喫茶には女体化者を使ってはいけない縛りになっているそうだし、
となると確かに植村級の美少女を一人でも多く投入しなければ苦戦は免れないだろう。

そう考えると、女体化者と張り合える植村ってやっぱり凄いんだよな。
女になってしまったからには、植村のような顔やスタイルが羨ましく思える。
俺なんて、童顔で猫顔でチビで乳ばっかり出てる、意味不明な体型なのに…。

「ふむ。それで心優しい植村は快諾した、と?」
「もちろん。売上の1割をバイト代として頂くけどね。だから、アンタたちに邪魔されて売上を落とすわけにはいかないの!」

悪魔かコイツは。

「僕らみたいな女体化者よりも天然女性を好む連中だって、少なくないだろう?その辺は、上手く棲み分けが出来るんじゃないかな」
「残念ながらその通りだよねー。植村ちゃんはすっごく可愛いから、メイド喫茶も大盛況になるんじゃないかな?
 私も時間があったら行くね!」
「だと良いんだけどね…。アンタたちが束になった時のことを考えると恐ろしくて。雇われとは言え、
 やるからには女歴16年としての意地もあるし?」
「お前に勝とうなんて思ってねーよ。女体化者の俺たちがやらされるのなんて精々、見世物小屋の珍獣みたいなもんだろ…」

自分で言って虚しくなる。
見世物小屋という表現は我ながらピッタリじゃないか。
24人が揃いも揃って元童貞だとアピールするようなものだし。

「そんなこと言ったらダメだよ!私は忍のウェイトレス、楽しみにしてるんだからっ。当日は私が化粧手伝って、
 目一杯可愛くしてあげるからね。それで皆にたーくさん可愛がってもらうんだよ?」
「し、しなくて良いだろ化粧なんて!?適当にやりゃあ良いじゃねーか!それに可愛がられたくもねえええッ!」
「えー。忍が化粧するんなら、ちょっと楽しみだったんだけどな。俺、見たこと無いしさ。
 中身はともかく顔は可愛いんだから勿体ねーぞ、お前」
「!?」

涼二お前っ…さらっと何言ってんだ!?
お、おい!赤くなるなよ俺の顔ッ!?照れてると思われるじゃねーか!
くっそ、涼二なんかに言われただけで…!
そもそも、中身はともかくって言われてる時点で、褒められてるとも限らないのに…!

「あはは、西田照れてるー!何この可愛い生き物!」
「にゃんこじゃないかな?」
「ち、違っ…!これは思い出し赤面だ!ガキの頃にクソを漏らした時のことを唐突に思い出してだなぁ…!」
「忍ってもしやツンデレなのか?こんな身近にリアルツンデレがいると思わなかったぜ」
「うるっせえええッ!!」

…はぁ。
やだな、文化祭…。
500 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:25:39.00 ID:Q2GBQP+B0
放課後。
武井、小澤とともに手芸部の部室の前までやって来た。
ちなみにメイド喫茶で使うメイド服も手芸部が用意するらしいが、サイズ測定は後日行うようだ。
ついでに涼二と典子も、「どんな衣装か気になる」とかで一緒にいる。
サイズ測定の際に、衣装のサンプルも見せてもらえるらしい。

メイド服じゃないし、普通のウェイトレスの格好なんだろ?見る程の物でもないのに。
まぁ俺はそれでも十分嫌なんだけど…。

「つーか何この人だかり?ヤバくねぇ?うわっ、こっち見てるぞ!?」
『6組の3人が来たぞー!』
『武井、小澤、西田か!?』
『『『うおおおーッ!!!』』』
「ひいいい!?何だよこいつら!?」

どうやら、女体化者が一堂に会するこの機会を一目見ようと集まってきた野次馬らしい。
カメラを構えている連中は恐らく、俺たちのような女体化者を陰ながら愛でているという噂の追っかけ集団だろう。
普段はコソコソ隠し撮りをしているくせに、今回は文化祭前のちょっとしたイベントというのが免罪符になっているのか、
臆す様子もなく写真撮影に勤しんでいる。

俺たちに気付いた連中が、こちらにもカメラを向けてきた。
武井は全く気にしていないし、小澤に至っては満面の笑みでカメラに手を振っている。
俺は思いっ切りムスッとした顔をしてやった。
つーかそのバズーカみたいなカメラレンズ、幾らするんだよ。

「いやはや、にょたっ娘の人気は流石だな。さて、俺も目の保養をさせてもらうぜ!頑張れよ3人とも!」
「私たちは部外者だからね、外から見守ってるよっ」
「うぅ、心細いぞ…」
「ここまで来たら腹を括るしかないぞ、西田」
「さあさあ、行こっ!西田君!」

武井と小澤にがっちりと腕を取られ、引き摺られるように部室へ入る。



…部室内は、尋常ではないオーラに満ちていた。

「うっ、何だよこの空間…!予想はしていたけど、まさかここまでとは…!」
「ふむ、流石に壮観だね。これじゃあメイド喫茶をやる連中がビビるのも無理はないか」
「凄い!みんな超可愛いー!友達になれるかな!?」

右も左も、前も後ろも。
全員が超がつく程の美少女で、さながら美少女のバーゲンセールだ。
ショートヘアもいればロングヘアもいる。
巨乳もいれば貧乳もいる。
高身長もいれば低身長もいる…まぁ一番小さいの俺ですけどね…はは…。

それぞれの表情を見てみると、武井や小澤のように平然としているのはほんの数人で、大半は俺のようにげんなりとしている。
どいつもこいつも、突然にょたい☆かふぇとやらでウェイトレスをやれと言い渡されて、無理矢理連れて来られたようなツラだ。
あぁ、こんなにも仲間がいたんだ。その気持ち、俺にもよく分かるよ。
501 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:27:39.24 ID:Q2GBQP+B0
どうやら人数的に、俺たちで最後らしい。
数えてみると、全部で26人。1クラス平均3人くらいだろうが、少し誤差があるようだ。
一方野次馬はと言えば、女体化者全員が揃ったことでテンションが最高潮となり、
追っかけの連中は部室内に向けてしきりにカメラのフラッシュを焚いている。うぜぇ。

取り敢えず空いている席に腰を下ろすと、隣でげんなりとしていたヤツが話し掛けてきた。

「よっ、お疲れさん。オレ、2組の菅原響。アンタは?」
「…6組の西田。西田忍だよ」

透き通るような白い肌。
肩甲骨あたりまで伸ばされた、めちゃくちゃ綺麗な黒髪。
長い手足に、程よい大きさの胸。
それでいて、悪戯っ子のような目付き。
隣にいるのが恥ずかしくなるくらいの美少女だ。
あぁ、コイツが噂の菅原か。

「しっかし、たまんねーよなぁこの扱い。チャリティーだなんだと丸め込まれたけど…これじゃオレら、ただの見世物だろ」
「全くだな。でもまぁ、同じ気持ちの仲間がいるだけでも救われた気がする…」
「はは、やっぱそう思う?クソみてぇな企画だけど、こうやって仲間が出来たことだけは評価してやっても良いかもな!」

何だ、気さくで良いヤツじゃないか。コイツとなら友達になれそうな気がする。
噂だけ聞いて妬んでいた自分が恥ずかしい。
このスタイルが羨ましいことに変わりはないが。

菅原と愚痴を言い合っていると、半透明のケースを抱えた女子生徒が大勢部室に入ってきた。
女体化者ではなさそうだが…どこか、独特の雰囲気が漂っている。
他にもギターケースくらいの、黒塗りで長方形のケースがあるが…あれにも衣装が入っているのか?
まぁ、コイツらが手芸部員だろう。

「…聞いたところによるとな、手芸部員って腐女子ばかりなんだとさ。んで部活と称して、いつも自分たちで使う用のコスプレ衣装とか、
 小道具を作ってるらしいぜ?その分、腕は確からしいけど」

菅原が教えてくれる。
この独特の雰囲気は…そういうことか。
女子生徒の中の、部長らしき人物が前に出る。
部長、ってことは上級生だよな。

部長らしき人物が何かを話そうとする雰囲気を察して、部室の内外が静まり返る。
彼女は部室をざっと見渡し、口を開いた。
502 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:29:52.69 ID:Q2GBQP+B0
「きょ、今日はわざわざ集まってくれて…!本当にありがとう!あぁ…ここは楽園なの?わ、私の、私のにょたっ娘たちが、
 こんなにいっぱい…!皆、みんな私の…!私のッ!!!はぁ、はぁッ…!」
『ぶ、部長!鼻血とか涎とか色々出てます!』
『気持ちは分かりますけど、落ち着いて下さい部長!』

いきなりやべえええッッ!
何だあいつ!?恍惚の表情で鼻血噴いてるぞ!?

「西田、オレ、身の危険を感じるんだけど…」
「き、奇遇だな菅原、俺もだ…」

そう思っているのは俺たちだけではないらしい。
先程げんなりしていた連中たちは全員、顔が引きつっている。
そりゃそうだろう。手芸部の連中がこんなに強烈だとは思わなかった。
何をされるか分かったもんじゃないぞ…。

にも関わらず、こんな状況でも平然としている武井と小澤はやはり異常だ。
二人で何か話しているようで、声が聞こえる。

「ははは、君のところの部長はなかなかユニークな人だね?」
「でしょ?すっごく面白い人なの!ぶちょー!私もいますよー!」
「小澤ちゃああああん!よく来てくれたね!私、頑張って皆に着てもらう可愛い衣装考えてきたから!えへ、えへへへ!!」
「うわぁ、楽しみですよー!部長の作る服、いつも超可愛いですからねぇ!」

小澤、アイツ手芸部だったのか…。
しかし本当に雲行きが怪しくなってきた。大丈夫なのか?コイツら。
普通のウェイトレスだって、言ってたよな…委員長…。

「っと、皆さんがあまりに可愛くて、少し取り乱してしまいました…。私、手芸部の部長です。どうぞ宜しく!」
『『『………』』』

今更取り繕ってももう遅いぞ、部長。
皆、完全に不信感を抱いている。無論、俺も菅原も。
例外なのは小澤と武井と、他ほんの数名くらいなものだろう。
これからどんなにヤバい衣装が飛び出すのかと、想像するだけで寒気と吐き気がする。
あんな変態部長、いや…部員たちも相当怪しいが、とにかくアイツらの好きにされてたまるものか。

「えーと、ではですね、まずは文化祭当日に着てもらう衣装のサンプルを見てもらおうかな!そこの衣装ケース、取ってくれる?」

部長が部員に指示を出し、衣装ケースが部長の前へ運ばれた。
中身は…よく見えない。
皆、固唾を呑んで見守っている。
どうか、どうか。
まともな衣装でありますように…!
503 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:33:08.18 ID:Q2GBQP+B0
「ではでは…じゃーん!これでーっす!ど、どうかな?か、可愛いでしょ?ふひっ、ふひひひっ!!」
『『『うッ…!』』』
「あれっ、あれっ?もしかして気に入らなかったかな?ほ、他にもあるから!ねっ、ねっ?ほら、これとか、これとか!」

部長が次々と掲げていく衣装。
どれも同じ方向性だ。
メイド服とは確かに違うが、テイスト的にどこかメイド服っぽくもある。
ウェイトレス…にはウェイトレスかも知れない。
ただし、あんなウェイトレスは2次元でしか見たことがない。
…要するに、

「ざっけんなあああッ!!!そんなもん着れるかああああッ!!!!」
『そーだそーだ!もっとまともなヤツを出して下さいよ!』
『それじゃメイド喫茶と大差無いじゃないですか!!』

教室中の女体化者たちから、非難の嵐。
それを一身に受ける部長は、どこか気持ち良さそうですらある。

「た、たまらんっ!にょたっ娘たちが恥らう姿ッ!!着させるッ!な、何としてでも、私のにょたっ娘たちに着させてみせるッ!
 着させて、もっともっと恥らう姿を見るのッ!!うふ、うふふふふふッ!!」

ぎゃ、逆効果だと…!?
ダメだ、アイツは言葉が通じる相手じゃなさそうだ!
先程までげんなりしていた、名も知らぬ同志たちと素早くアイコンタクトを取る。
言葉に出すまでも無い、「逃 げ る」ッ!

『『『『うおおおおおッ!!!そこをどけええええッ!!!!』』』

俺も、菅原も、小澤たち一部を除いたその他の女体化者たちも。
女になって馬力の落ちた身体に持たされた、全ての力を振り絞って部室のドアへ殺到する。

「甘いよ、にょたっ娘たち!脱走は想定済み!隔壁閉鎖、及び銃の使用を許可するよ!私のにょたっ娘たちを残さず捕まえてッ!」

部長の叫び声を背中に受けながら、全力で走る。
捕まってたまるか、あんなもん着てたまるか!
皆が皆、そんな言葉を叫びながら、一目散に逃げていく。
部室の外に集まっていた野次馬どもを突き飛ばしながら、何度も転びそうになりながら。

ふと、部長の言っていた「銃の使用を…」が気になった。
そんな馬鹿なはずが、と思いながら振り返る。
見えた。
手芸部員たちがギターケースくらいの、黒塗りのケースの中から取り出している物。
504 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:35:00.91 ID:Q2GBQP+B0
「…ショットガン!?嘘だろ!?」

どう見てもポンプアクション式のショットガンだ。
流石に実弾は出ないだろうが…何に使うんだよ、あんな物騒な物…!

『やばい、防火シャッターが閉まるぞーッ!』

誰かが叫んだ。
素早く回り込んだ手芸部員が防火シャッターを降ろしている。
この学校の防火シャッターは電動式だ。
事故防止装置が付いているので、挟まれて死ぬようなことはないだろう。
だが、あそこをくぐり抜けられなければ、俺たちはあの変態どもの慰み者になってしまう。
絶対にさせねぇ、そんなことは…!

ぎりっと奥歯を噛み締めたその時、背後から銃声が聞こえた。
アイツら、撃ちやがったのか!?

『うわあああッ!何だこれ!?抜けられねぇ!』
『嫌だ!だっ、誰か!誰か助けて!僕はあんなの着たくないんだ!』
『部長!脱走者を2名確保しました!』
「ふ、ふふふ!あはっ!こ、怖いことなんてしないからね、良い子にしようねぇー!皆、早く、早く他のにょたっ娘たちも捕まえて!」
『こちらも3名確保ー!機械工作部が作ったネットガン、かなり使えますねコレ。借りてきて正解かも』
『実戦データ取りたがってたし、丁度良い機会だよねー!あはは、必死にもがくにょたっ娘が超可愛い!癖になりそう!』

背後から、逃げ遅れて捕獲されてしまった同志たちの断末魔と、変態手芸部たちの声が聞こえてきた。
走りながら振り返ると、馬乗りで床に取り押さえられ、手錠をかけられている女体化者たちが見える。
その大捕物の様子を見て野次馬どもは歓声を上げ、追っかけどもはひたすらシャッターを切っている。
逃げ惑う美少女たちが眼前で次々と捕獲されていくのだ。奴らにとっては最高の餌となるのだろう。
捕獲された連中の全身にはネットが絡み付いている。あのショットガンはネットを射出する銃らしい。

機械工作部の間抜けどもが!暴漢から弱者を守るための武器を作るのは良いが、それを暴漢に提供してどうする…ッ!
じ、地獄だ…!ここは…!

「西田ぁ!振り返るんじゃねぇぞ!あの防火シャッターを突破出来なければ、オレたちも…!」
「分かってるよおお!!アイツらの犠牲は無駄にしねぇッ!うおおおおッ!!」

ふと視界の端に、涼二と典子の姿が見えた。
…アイツら、助けてくれないかな?
505 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:40:13.62 ID:Q2GBQP+B0
「だっはっは!見ろよ藤本!忍のヤツ、逃げ惑う子猫みたいじゃね!?」
「ホントだー!逃げ惑う忍が可愛いすぎて、生きるのが辛い!」

涼二は腹を抱えて笑っているし、典子も変に興奮していた。
ちくしょおおお!絶対逃げ切ってやる!!

閉まる寸前の防火シャッターの向こう側へ、ヘッドスライディングで滑り込む。
後ろから、間に合わなかった女体化者たちの悲鳴と、シャッターを叩く音、続けて銃声が聞こえて…思わず耳を塞ぐ。
今は生き残った女体化者たちと共に、自由に向かって全力で突き進むしかない。

『お、おい!向こうから変なヤツらが走ってくるぞ!?』
『ちょ、何あれ!?盾じゃない!?』

先頭を走っているヤツらが、悲鳴混じりの声を上げる。
廊下の奥を見ると、透明な盾を構えた女子生徒の集団が突進してきているではないか。

『我ら美術部の盟友、手芸部の頼みだからね!さぁ、にょたっ娘たち!ここから先は通さないよ!』
『わざわざシールドを借りてきたんだから!大人しくお縄につきなさい!』
『にょたっ娘とキャッキャウフフ出来るチャンスは絶対に逃さない!はぁ、はぁ…っ!』

くそ、手芸部め!増援を呼びやがったか!?
あれ、暴徒鎮圧用のライオットシールドとかいうヤツじゃねぇか!?何であんなの持ってんだよ!?
…あぁ、侵入者対策のために職員室に置いてあるんだったな、確か…。
何でその「鎮圧すべき暴徒」に貸しちゃうかな…。

今まさに迫ってきている美術部については、俺も聞いたことがある。
部活と称して、いつも創作漫画ばかり描いている連中らしい。
しかも天然女性が女体化者を性奴隷にするような、おぞましい内容だそうな…。
前も後ろも変態しかいねぇのかよ!

「ひるむな皆あああッ!元男の底力を見せてやるんだーッッ!」
『『『うおおおおッッッ!!!』』』

菅原が激を飛ばし、皆を鼓舞する。
ついに先頭のグループが、廊下に隙間なくシールドを展開している美術部員に体当たりを仕掛けた。
よろめいた美術部員の間を抜けようと試みているが、2重、3重と張られたシールドの壁はなかなか崩せない。

「やべぇぞ!早くしねぇと、後ろから手芸部が来る!あの銃の射程に入ったら終わりだ!」
「押せ押せえええッ!ここを抜けないと捕まっちまうぞおおッ!!」
『貧弱!貧弱ゥ!』
『早く投降しなさい!にょたっ娘たちッ!』
『嫌だあああッ!押せーッ!!』
506 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:41:43.81 ID:Q2GBQP+B0
シールドを押している誰かの背中を、俺もまた渾身の力を込めて押す。
この中には女体化して、「女らしさ」を身につけたヤツも幾らかいるだろう。
しかし今この場に限っては、誰もが「男」に戻っていた。

「なぁ西田、あの隙間…お前なら抜けられるんじゃないか?」

横で同じように誰かを押している菅原が、俺にだけ聞こえる声で囁く。
菅原の目線を辿ると、張り巡らされたシールドの壁に、ほんの少しだけ隙間が見える。

「…確かにいけそうだけど、でもお前は、皆は…!」
「今は自分のことだけを考えろ!なに、オレたちもすぐに追い付くから!」

おい、それは死亡フラグじゃないか?
しかし、このまま小競り合いを続けていたら、あの僅かな隙間すら無くなってしまうだろう。
チャンスは…今しかない。

「行けえええ!西田あああッ!」
「くっ、皆すまねぇッ!」

この時ばかりは低身長に感謝した。
姿勢をより低くし、僅かな隙間に身体をねじ込む。

もうちょっと、もうちょっとだ、こなくそ…くうっ………、抜けたーッ!
脇目も振らず、そのまま全速力…ッ!

『あっ!一人抜かれた!』
『くっ、追ってる余裕は無いね!これ以上は逃がさない!』

走りながら思い出す。
しまった、鞄を自分の教室に置きっぱだった。
幸い、追っ手は俺の方には来ていない。急げば鞄を回収する余裕はありそうだ。

教室へ戻るために廊下の突き当たりの階段を下りる際、残してきた同志を振り返る。
菅原を含む哀れな女体化者たちは、美術部のシールドによる猛攻と、追い付いた手芸部の銃の威力の前に、為す術も無く捕獲されていた。
あの時菅原があの隙間を教えてくれなかったら、自分もあそこにいただろう。
そう思うと…ゾッとする。

取り敢えず、今日から暫くはサイズを測らせないように逃げ続ければ良い。
捕獲されてしまった彼女たちには申し訳ないが、俺はパスさせてもらうとしよう。
そう思いながら、教室へ急いだ。
507 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:45:04.67 ID:Q2GBQP+B0
教室に入ると、残っているのは植村たちの女子グループだけだった。
プリクラ帳を広げてガールズトークを楽しんでいるらしい。
地獄から生還した俺の前だというのに、呑気なものだ。

息を切らして自分の席に向かう俺に気付いた植村が、立ち上がって俺に近付きながら話し掛けてきた。

「あれ?どうしたの西田、そんなに焦って。もう終わったの?」
「始まる前から終わってんだよ!あんな変態どもに付き合ってられるか!」
「ちょっと、何があったの?」
「説明してる暇はねぇんだよ!散っていった仲間のためにも、俺だけは生き延びて…」

一刻も早く教室を飛び出すべく荷物をまとめていた俺はふと、あることに気が付いた。
なぜ植村は「立ち上がって俺に近付きながら話し掛けてきた」んだ?

…植村に背を向けるべきではなかった。
考えるべきだった。植村が工作員である可能性を。
俺は今、いつぞやのように首根っこを掴まれている。

「あ、あの。植村、さん…?」
「んー?どうしたの?脱走者ちゃん?」
「ぐっ、お前まさか…!」
「典子から連絡があったの。西田が来たら絶対逃がすなって。恨まないでね?」
「典子おおおッ!!お前というヤツはあああッ!お、おい!見逃してくれよ!!」
「それが人にお願いする態度かなー?」
「…お、お願いします、見逃してください植村様…」
「くうううっ!快感っ!!」

相変わらずサドっ気たっぷりだなおい!

「でもだーめ。見逃してあげない!典子の頼みだもの」
「ちくしょおおお!鬼!悪魔!ヤリ〇ン!」
「何とでも言いなさい。ほら、お迎えが来たみたいよ?」

植村に言われて教室の入口を見ると、変態手芸部長とその不愉快な仲間たちが、飢えた獣のような目でこちらを見ていた。

「に、西田ちゃん、だったかな?もう君で最後だよ?ふ、ふふっ、この子もすっごく可愛い…!その絶望に満ちた顔、たまらない…っ!
 ほ、ほら…部室に戻ろう?皆待ってるよ?」
「うあああッ!く、来るなああッ!」

奴らが構えている銃の照準は俺にピタリと合わされているが、後ろに植村がいる状態では下手に撃てないらしい。
変態たちは教室前方のドアから攻めてきている。後方は…ノーマーク。

何とかして逃げないと…!
植村を振り解いて、奴らが撃つよりも早く逃げさえすれば…!

「この!くそ!離せっつーの!」
「こら、暴れないの。もう諦めなさいよ」

両手でがっしりと俺の襟首を掴んだ植村は、到底振りほどけそうにない。
だが…両手で掴んだのがお前のミスだぜ、植村…!

「喰らえ!オラオラオラオラオラオラオラオラーッ!」
「あはは、ちょっと、やめてよ西田!あは、くすぐったいって!」

両手で襟首を掴んだことによりガラ空きになった脇腹を、後ろ手で思い切りくすぐる。
突然の俺の反撃に、たまらず植村は、手を…離した!今だッ!

「あっ!逃げた!くっ、飼い猫に手を噛まれるとはまさにこのこと…!」

後方のドアを目掛けて、弾丸のように突っ走る。
鞄も忘れていない。完璧だ。

銃声が聞こえた。
反射的に、転ぶ寸前まで頭を下げる。頭上をネットが掠めた。
…いける、逃げ切れる!
508 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 01:47:47.81 ID:Q2GBQP+B0
そう思った瞬間、誰かが後方のドアを開けた。1人だ。
誰だか知らないが、このまま体当たりしてブチ抜けば関係ねぇ!

「そろそろ楽しい鬼ごっこは終わりにしよっか、子猫ちゃん?」

典子…!?
思わず脚を止めてしまう。
今が好機とばかりに、銃のスライドを前後させて装弾する変態たち。

くそ、まだ俺は終わってねぇ!典子一人くらいなら、押し退ければ!
悪いな典子、後でちゃんと謝るから…!

「あ、手芸部と美術部の皆さん、ちょっと待ってもらえますか?」

唐突に、典子が言う。

「今から私が忍を説得するので、大人しく従った場合は手荒にせず、優しく捕まえてあげて欲しいんです!」

変態たちは顔を見合わせ、渋々な様子ではあるが…銃を下げた。

な、何を言ってるんだ?
説得なんてされてたまるか、俺はあんな衣装を着て、晒し者にされるのは御免だぞ…!

「忍、あのね…」

典子がゆっくりと近付いてくる。
動けない。

「部長さんが作ってくれた衣装、確かに着るのは恥ずかしいかも知れないけど…」

もう典子は目の前だ。
典子は微笑みながら、そっと手を俺の頭に乗せて、撫でる。

この土壇場で、この反則技かよ…。
ツイてねぇな…。

「忍が着たら絶対に可愛いよ?こんな機会滅多に無いんだし、私も凄く期待してるのっ」
「…可愛いく見られる必要なんて、ねぇもん…」
「可愛いく見られたって良いだろ、別に」
「涼二ッ…!?」
「皆やるんだしさ。それに…少なくとも俺は忍のウェイトレス姿、見てみたいけどな?」
「〜〜〜〜ッ!!?」

後方のドアから突然現れた涼二が、とぼけたようないつものツラで言う。

な、なななな、コイツ、何を…っ!?
見てみたい?涼二が?俺のコスプレを!?

「てめぇ、さ、さっきは…その、俺なんてどーでも良いとか、菅原がどうのこうのとか、言ってただろっ…!」
「そう思ってたんだけどな。衣装見たら気が変わった。是非着て欲しい」

ど、どうするんだ、俺?
コイツがここまで言ってるんだ、ちょっと着てみせてやるくらいなら…良いか?
日頃世話になってる礼で…前に一度、乳を揉ませたことがあったけど…あ、あの一回だけじゃちょっと、可哀相、だし…。

鏡なんて見るまでもない。
今の俺はきっと、顔どころか全身真っ赤だ。それはもう、湯気が出ていても違和感無いくらいに。

「ほら、中曽根君もこう言ってるし。忍、投降…しよっか?」
「…ゎ……っ…ょ」
「あ?何だ?聞こえねーぞ」
「分かったっつってんだよハゲッッッ!耳クソ詰まってんじゃねーのか!?今回だけだからなッ!もう次は無いからなッッ!
 永久に忘れねぇように、そのチャチな目ン玉に焼き付けとけよコラぁぁッッッ!!」
「コイツ口悪すぎじゃねぇ!?俺が何したってんだよ!?」

こうして、俺の逃走劇は幕を閉じた。
509 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 02:03:12.33 ID:Q2GBQP+B0
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

定番?の文化祭編ですが、にょたいかふぇを書きたくてやっちまいました。
このネタって既出ですかね?だとしたら申し訳ないです…。
今回の新キャラは菅原と手芸部の部長です。増え杉ですいません。

当初は捕まったにょたっ娘たちを救出するために、生き残った主人公とにょたっ娘たちが
手芸部員と(ネット銃で)銃撃戦を繰り広げる予定だったんですが、
収拾が付かなくなるので諦めましたorz
コスプレしたくないにょたっ娘たちが大脱走→次々と捕獲されていくシーンは、
書いてて超楽しかったんですが…少しでも伝わっていれば幸いです!

次回は変態手芸部員による地獄のサイズ測定編です。
ではでは。
510 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 07:37:16.37 ID:Pp3JxjmAO
>>495がピーってた。
[ピーーー]ない、でした。
511 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 07:39:53.15 ID:Pp3JxjmAO
ぬおー、携帯からだとダメなんすかね。
しねない、です。
512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/12/02(金) 12:40:29.04 ID:3176jwdoo
sageじゃなくてsag「a」だお
513 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/02(金) 13:07:49.06 ID:Pp3JxjmAO
なんか携帯だとメアド欄にsaga入れても消えちゃう?感じです
sageにレ点入れてるからかな?
もっかいテスト

[ピーーー]
514 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/02(金) 13:12:28.01 ID:Pp3JxjmAO
sageもメアド欄に直打ちしてもう一回!
あんまり連投するのもアレなんで、これで最後にしときます

死ね
515 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(西日本)[sage saga]:2011/12/02(金) 22:10:19.75 ID:N5Af4zEJo
クセになると、他板とかスレに書き込む時もsaga入ったままになっちゃうんだよなー
516 :>>74「生徒会」 1/9[sage]:2011/12/03(土) 20:16:26.22 ID:VOLqq58jo
こんばんは。>>73です。
前回の投下から3週間以上も経ってしまいました。相変わらず書き進めるのが遅くてすみません。
ようやく1話分の書き溜めが出来たので、投下していきます。
(前回投下分は>>232-235にあります)
それでは、>>74さんのお題「生徒会」、第2話です。

***

翌朝、何の考えもなしに登校した僕は、クラスメイトによって、教室の隅に追いやられていた。
誰かがぽつりと「あ、琴浦くんだ」と言ったかと思うと、待ってましたと言わんばかりに取り囲まれたので、何が何やら、全くわけが分からない。
しかも、みんなが遊び道具を見つけた子どものような顔でこちらを見ているので、ますます不安になってくる。
ひとまず場を和ませようと思って浮かべた笑みも、少し引きつってしまったように感じた。

そうして、状況を飲み込めず混乱していると、目の前の人だかりの中から、鵠石さんが身を乗り出してきた。
鵠石さんは、思わず仰け反った僕に覆いかぶさるかのように上半身を寄せると、興奮した様子で口を開いた。

「琴浦くん! 昨日、上川先輩と話してたって本当?」

鵠石さんの言葉に、他の女の子たちも色めき立つ。
ただ、鵠石さんにのしかかられている恰好の高木さんだけは、「だから、さっきからそう言ってるじゃん」と不平そうにしていた。

これを聞いて、なるほどそういうことね、と合点がいった。
放課後の正門前という衆人環視の中で上級生と談笑していれば、いくら地味だと言われている僕でも、それはそれはよく目立ったはずだ。
しかも、相手はあの上川先輩だ。
昨日のスピーチに対する反応を見る限りでは、ファンになった新入生は相当数に上るだろう。
僕は、今日一日のことを想像し、心の内で深くため息をつきながら、質問に対して首肯を返した。

「うん。上川先輩に声を掛けられて」
「えっ、嘘っ、本当に?」
「あ、うん、本当だけど」

鵠石さんの勢いにたじろいでしまう。
彼女がここまで大きなリアクションを示すとは、思いもしなかったからだ。

鵠石さんとは中学3年の時に生徒会で一緒に活動したけれど、その頃の彼女はおさげの髪に眼鏡で化粧っ気が無く、言動も控えめな、いかにもと言えるような大人しいタイプだった。
違うクラスだったので、教室での彼女がどんな風だったのかまでは分からないけれど、少なくとも生徒会室では、彼女の方から話しかけるということは滅多になかった。
生徒会で唯一の男子だった僕に対しては特に顕著で、彼女から話しかけられたことと言えば、事務的な会話を除くと1つだけだ。
それも「高校はどこに行くの?」という社交辞令的なもので、特別に盛り上がった記憶はない。
その話をした後、同じ高校に出願して同じように受かったということは生徒会室での雑談から漏れ聞いていたけれど、
そんな調子で、中学校の卒業式の日を最後に、彼女とは2週間ほど会っていなかった。

その鵠石さんが、高校の入学式で会った時には、メガネをコンタクトにし、髪型もおさげを解いてストレートに変えていた。
中学時代の控えめな印象しかなかったので、彼女の方から声を掛けてくれるまで、全く分からなかった。
母の持っている漫画――確か、『いちご100%』というタイトルだったと思う――に出てくる、ヒロインのような変貌ぶりだ。
これが噂に聞く、高校デビューというものだろうか。
517 :>>74「生徒会」 2/9[sage]:2011/12/03(土) 20:16:59.88 ID:VOLqq58jo
そんなことを思っていると、窓枠にもたれかかって話を聴いていた滝さんが、みんなの疑問を代弁する形で続けた。

「じゃあさ、どんなこと話してたの? 楽しそうだったって聞いたけど」
「どんなことって言われても……生徒会に入らないかって誘われただけだよ」
「琴浦くん、生徒会に入るの?」

驚きの声を上げたのは、やはり鵠石さんだ。

「うん、入るつもり」
「でも、高校では天文部に入るって言ってたのに……」
「そうなんだけど、誘ってもらえて嬉しかったし。それに、なっちゃん……鷲見くんと話してて気付いたんだけど、僕は生徒会室で過ごす時間が大好きだったんだなって。ほら、鵠石さんとはよく一緒に書類を片付けながら話したけど、それも僕にはかけがえのないひと時だったんだなって思ってさ」
「えぇっ、あ、えと、うん。私も、楽しかった」

我ながら臭いセリフを吐いてしまった、と思った。
鵠石さんのうろたえた様子からも、自分がいかに恥ずかしいことを言ったのかが分かる。
のしかかりから解放された高木さんは、僕と鵠石さんの顔を交互に見て、にやにやと笑っていた。
しばらくはこれをネタに弄られるんだろうな、と思いながら、僕は再び胸中でため息をついた。

そこで朝のHRの予鈴が鳴り、僕を取り囲んでいた包囲網が解かれた。
圧迫感から解放され、ほっと一息つくと、自分の席で悠々と読書をしているなっちゃんが目に入った。
いつの間に登校したのだろう。
僕が肩を叩くと、なっちゃんは、今気付いたという感じで、ネックバンド型の音楽プレイヤーを耳から取り外した。

「おう、おはよう」
「おはよ。予鈴もう鳴ったよ」
「そうか、サンキュ。ところでお前、いつ来たの?」
「それはこっちのセリフだよ……。こっちは囲まれてて大変だったのに」
「ああ、女子が後ろに溜まってたのはそれだったのか。音楽聴いてたし、お前ちっこいから見えなかったわ」

なっちゃんが、ぽん、と手を打つ。
さらっと気にしていることを言われたが、そこにツッコミを入れる前に、担任の先生が教壇に立った。
慌てて前を向きながら、ツッコミを入れる代わりに、なっちゃんを軽く睨んでおく。
それに対して、なっちゃんは僕の背中に指で、ご、め、ん、となぞると、「帰ったらケーキおごるから」と小声で言った。
僕は、別に怒っているわけではなかったので、ケーキという単語に釣られて、すぐに上機嫌になった。
ガトーフレーズか、それともガトーショコラにしようか、などと妄想が膨らんでいく。

しかし、そんな妄想も、点呼が終わった先生の「今日一日は中学時代の復習も兼ねて、実力テストをやります」という一言で掻き消された。
クラス中の嘆声を聞きながら、ますます難易度の上がった今日一日を思い描いて、僕は途方に暮れるのだった。

***

4限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
本来はランチタイムの到来を告げるありがたい鐘の音なのだけれど、今の新入生一同には、死の宣告のように聞こえているに違いない。
事実、クラスメイトの様子を窺うと、誰もがお通夜ムードを漂わせていた。
かく言う僕も、テストがきちんと解けたという手応えはなく、傍から見ればみんなと同じような顔をしているのではないかと思う。
僕は、午前中のテストが終わったという解放感に浸る気にもなれず、先生が回収した答案をまとめて教室から出て行くまで、ぼーっと教室の様子を眺めていた。
教卓の目の前の席で堂々と机に突っ伏している住吉くんの姿が印象的だった。
518 :>>74「生徒会」 3/9[sage]:2011/12/03(土) 20:17:36.83 ID:VOLqq58jo
その住吉くんが体を起こし、大きく伸びをしたのを合図に、教室には次第に活気が戻っていった。
「この問題分かった?」「お昼一緒に食べよ!」「学食行ってみようぜ」等々、明るい声が方々から聞こえる。
早速机を寄せ合って、お弁当の包みを広げているグループもある。
僕も自分の鞄から弁当箱を取り出し、後ろの席の机に置くと、机の主に声を掛けた。

「なっちゃん、お昼食べよ」
「んー」

完全に寝る体勢で、なっちゃんが眠そうに答える。
先程のテストの最中も寝息を立てていたけれど、まだ寝足りないのだろうか。
しかし、このままここでのんびりしていると、朝のような質問攻めに遭いかねない。
早くなっちゃんを起こして、どこか人目につきにくいところへ避難しなければならないだろう。

そう思って、少し焦りながらなっちゃんの肩を揺すっていると、横から女の子に声を掛けられた。

「こ、琴浦くん、ご飯一緒に食べない?」

鵠石さんだった。
高木さんも一緒だ。
2人とも、可愛らしい柄の弁当袋を手に下げていた。
その口紐が、僕の首へ繋がる手綱のように見えてしょうがない。
僕は観念すると、努めて明るく答えた。

「あ、うん。ちょっと待ってね、なっちゃんを起こさないと」
「鷲見は相変わらずだねぇ」

高木さんが呆れたように笑う。

「あたしが起こしてみようか?」
「起きるかな」
「へへへっ、まっかせなさい!」

高木さんはそう言ってなっちゃんの背後に回り、いたずらっ子のような笑みを浮かべると、無防備に晒されている脇腹を小突いた。
同時に、なっちゃんの体が大きく跳ねる。

「おまっ、何すんだよ!!」
「おはよー鷲見。相変わらず良く寝るねぇ」

流石、元陸上部マネージャーだけあって、元陸上部員の扱いには慣れたものだ。
高木さんは、なっちゃんを一発で起こすと、何事も無かったかのような顔で「で、どこで食べる?」とみんなに問う。
僕と鵠石さんが主体性を欠いた回答を返したのを見て、なっちゃんが屋上に行こうと提案した。
僕たちも特に異論はなかったので、ひとまずなっちゃんの言う通りにしようということで、意見の一致を見たのだった。

***

屋上には意外にもすんなりと出ることができた。
足を踏み入れると、4月のまだ冷涼な風が襟足を抜けた。

屋上の幅は、端から端まで8メートルと言ったところだろうか。
その周りには、僕の背丈の2倍ほどもありそうな、真新しい金網のフェンスがそびえていた。
近年は中高生の飛び降りや転落事故が増加していて、屋上を閉鎖する学校も多いと聞いていたけれど、この学校はフェンスを高くすることで対応したようだ。
519 :>>74「生徒会」 4/9[sage]:2011/12/03(土) 20:19:14.77 ID:VOLqq58jo
教室よりもかなり奥行きのある広々としたスペースには、青いベンチが向かい合わせに4脚ずつ並んでいた。
右列の奥のベンチには既に先客が座っていて、女の子同士で楽しそうに話している。
僕たちは相談して、左列の奥のベンチに座ることにした。

4人で並んでベンチに座ると、お弁当の包みを解く。
今日は蜂蜜で甘みを付けた卵焼き、切り身の焼き鯖、昨晩の残りのふきの煮物、それにブロッコリー・レタス・ミニトマトでサラダを作って詰めてきた。
なっちゃん曰く「今日のおかずは何だろうと思いながらふたを開ける瞬間が弁当の醍醐味」とのことだけれど、僕は自分のお弁当は自分で作るので、その醍醐味はあまり実感できない。
今日も今日とて、楽しそうな様子のクラスメイトたちの隣で、僕だけは大した感動もなくお弁当のふたを開ける。
中学の時、コンビニ弁当を詰め直しただけのお弁当を持ってくる子がいたけれど、もしかしたらあの子も、こういう気分だったのかもしれない。

僕は何となく手持ち無沙汰になって、手元から目を上げた。
すると、対面のベンチに座っている女の子のグループの中に、上川先輩の姿を見つけた。
丁度、上川先輩の方もこちらに気付いたので、軽く会釈する。
それに対して、上川先輩は他の人たちに声を掛けると、何とグループでこちらへやってきた。

「丁度良かった。2人ともこんにちは。そちらはお友達?」
「はい。同じクラスの鵠石と高木です。髪の長い方が鵠石、ブスな方が高木だと覚えて下さい」
「誰がブスか!」

なっちゃんに素早くツッコミを入れる高木さんの横で、鵠石さんが苦笑しながら頭を下げる。
なっちゃんと高木さんの漫才のような掛け合いは、高校に上がっても健在のようだ。
その光景を見ながら、先輩方も笑顔を浮かべていた。

なっちゃんと高木さんの掛け合いが一段落したところで、上川先輩が口を開いた。

「さてと。こっちも紹介しないとね。まず、こっちの眼鏡の子が望月さん。前年度の生徒会の書記さん。今年は副会長をやってもらおうと思ってるんだ」

上川先輩の右隣に佇んでいる小柄な女性が、ふわり、という形容が相応しい微笑みを浮かべた。
何と言うか、癒し系だ。
温もりを感じさせる雰囲気は、鵠石さんと似ているかもしれない。

「それで、こっちのポニーテールの子が春日さん。新体操部の次期部長……だったよね?」
「そうだよ。よろしく!」

今度は上川先輩の左に立っている女性が、望月先輩と対になるような、爽やかな笑顔を見せた。
すらっとした細身で手足が長く、腰に手を当てて立っている姿も、本物のモデルのように様になっている。
写真が雑誌に載っていても違和感がなさそうだ。

「で、私が前年度生徒会長の上川です。よろしくね!」

最後に、上川先輩が後輩の女の子2人組に対して笑顔を向けた。
それを見て、そう言えば自分も望月先輩と春日先輩とは初対面だと気付いたので、改めて挨拶をし、名前を名乗る。
なっちゃんも僕に続いて自己紹介をした。
そうして一連の自己紹介を終え、一息ついたので、僕は上川先輩に、今回の用事を訊いてみることにした。

「それで、丁度良かったってどういうことですか?」
「ああ、それなんだけど、琴浦くんと鷲見くんは役員選挙に出るでしょ? それには推薦人を探す必要があるの。」
「あ、やっぱりですか」
520 :>>74「生徒会」 5/9[sage]:2011/12/03(土) 20:20:03.85 ID:VOLqq58jo
中学の時もそうだったので、何となく予想はしていた。
推薦人は立候補者の人柄や能力・適性を請け負うだけでなく、生徒総会で立候補者の応援演説も行う。
つまり、立候補者の魅力やうまく紹介できる人物でなければならない。
中学時代は同じクラスだった霧島くんが推薦人になってくれたけれど、彼は県外の高校に進学したので、あてにするのは不可能だ。

「立候補者同士で相互推薦するのは禁止ですよね?」
「残念だけどそうだね」
「ですよね。そうなると、新しく探さないと……」

誰か受けてくれそうな人はいないだろうかと思案してみたものの、なっちゃんはダメとなると、いよいよ選択肢は限られてくる。
先輩や女の子には迷惑をかけたくないので、2組の射場くんに頼むのがベターだろうか。
あまり気が進まないけれど、彼ならば頼み込んだら引き受けてくれそうだ。

そんなことを考えていると、今まで黙っていた鵠石さんが、出し抜けに先輩方に問いかけた。

「あの、その推薦人って、1年生でもなれますか?」
「なれますよ。私も昨年は、同じクラスの子に推薦してもらいました」

優しいお姉さんのような声で、望月先輩が答えた。
それを受けて、鵠石さんは「そうですか……」と考え込む素振りを見せたかと思うと、すぐに顔を上げ、僕の方に向き直って言った。

「ねぇ、琴浦くん。私が推薦人になっちゃダメかな?」

これは思ってもみない申し出だった。
彼女はどちらかと言えば、他人にぐいぐい引っ張られて巻き込まれるタイプだ。
こう言っては失礼かもしれないけれど、中学時代の鵠石さんなら、今のように自分から助力を申し出ることは、決してしないと思う。
その証拠に、彼女と付き合いの長い高木さんですら、目を見開いて驚いている。

僕がつい言葉を失っていると、鵠石さんは親指を強く握り込んで、意を決したような顔で続けた。

「うまく演説できないかもしれないけど……でも、琴浦くんが困ってるなら、私、力になりたい」

ここまで一生懸命に言われては、他の人に頼むのは選択肢としてあり得ないだろう。
元より、彼女の実力ならば、こちらからお願いしたいくらいだ。
僕は素直に感謝の意を表し、「よろしく」と頭を下げた。
それに対して、鵠石さんは恥ずかしそうに顔を赤らめると、目を伏せて、

「そんな、私、琴浦くんの力になれたらって思っただけだから」

と、微かに震える声で答えた。
その様子を見ていると、何だか告白されたかのような変な気分になって、こちらまで恥ずかしくなってきた。
耳が熱を帯びてきているのを悟られないように、無理矢理、話の流れを変えてみる。

「そ、そう言えば、なっちゃんはどうするの?」
「俺? どうすっかなぁ。あ、そうだ、先輩に頼むってのは出来ないんですか?」

なっちゃんが上川先輩に問う。
先輩は「そうねぇ」と人差し指をあごに当てて、少し首を傾げた。
521 :>>74「生徒会」 6/9[sage]:2011/12/03(土) 20:21:42.90 ID:VOLqq58jo
「規定上は可能だけど、実例はほとんどないかな。2年生の推薦人を3年生がやるのは結構あるみたいだけどね。やっぱり立候補者と推薦人は同じ学年であるケースが多いよ。……ほら、1年生はまだ入学したばかりで、上級生とは接点が少ないでしょ? 同じ中学校出身の先輩後輩でも、互いをよく知ってる者同士となると限られてくるから、なかなか推薦人が見つからないんじゃない?」

なるほど、確かにそうだろう。
なっちゃんの場合、陸上部の先輩に打診することも出来るけれど、引き受けてもらえるかは別問題だ。

推薦人は全校生徒の前で演説をしなければならないので、引き受けるのを嫌がる人は多い。
快く引き受ける人と言えば、立候補者と仲の良い人か、或いは演説することにあまり抵抗を感じない人か、そうでもなければ何か目的を持っている人だろう。

その点、鵠石さんが自分から推薦人を買って出てくれたのは、全くの予想外だった。
確かに彼女とは接する機会が多いけれど、僕から仲がいいと言ってしまっていいものか分からないし、彼女は人前には出たがらないタイプだ。
と言うことは、何か目的があるのだろうか、などと当て推量してしまう。

それはともかくとして、推薦人の人選はなかなか難しいのだ。
能力がなければならないし、引き受けてもらえなければ意味がない。
しかし、僕の心配をよそに、なっちゃんは余裕綽々といった様子で言った。

「あー。じゃあ、高木、お前が推薦人やってくれよ」
「『じゃあ』って何よ。嫌だ。人前で喋んなきゃなんないんでしょ?」

唐突な注文に、高木さんがテンプレート通りの反応を返す。
その反応を見て、なっちゃんはこれ見よがしに肩をすくめると、「鵠石と違ってつれないねぇ」と呆れたように言ってみせた。
流石にこれには、高木さんもむすっとした表情を浮かべて、なっちゃんの方を睨んだ。
そして、不平そうに「それは夕子が――」と言いかけて、そこで急に口ごもってしまった。
夕子と言うのは鵠石さんの名前だ。
一瞬、はっとした顔になったので、鵠石さんとの秘密を喋ってしまいそうになったのかもしれない。
一方の鵠石さんはと言うと、まだ微かに頬を染めて、俯き加減で目を泳がせている。
なっちゃんが2人の様子を訝しんで、「鵠石が、何だよ?」と問うと、高木さんは「何でもない」と言って顔を背けてしまった。
そこで会話が途切れ、つかの間、重い静寂が2人の間を覆った。

それを打ち消すように言葉を発したのは、高木さんだった。

「ケーキ」
「は?」

虚を突かれた様子で、なっちゃんが聞き返す。
この顔は、突然こいつは何を言い出すんだ、と思っているに違いないだろう。

「ケーキ奢ってくれるなら、やってあげる」
「いやー流石に今月厳しくてさー」
「あ、じゃあいいよ。推薦人探し頑張って」
「奢ります、奢らせていただきます」
「よろしい」

掛け合い漫才のようなやり取りで、あっという間に空気が緩んだ。
やっぱりこの2人はいいコンビだ。
522 :>>74「生徒会」 7/9[sage]:2011/12/03(土) 20:22:40.36 ID:VOLqq58jo

***

その後は、先輩方と一緒にご飯を食べ、互いのことについて尋ね合った。
その中で、上川先輩が中学2年の秋に稲葉市に引っ越してきた転校生だということ、転入先のクラスで春日先輩と友達になったこと、演劇部に入ったこと、そこで部長をやっていた望月先輩と仲良くなったこと等々、様々なことが分かった。
先輩方は中学校の頃からの友達同士だったようだ。

また、昨日からずっと疑問に思っていたことも、いくつかは解消された。
その1つが、入学式のスピーチが何故「生徒会長になることが確約されているかのような」内容だったのか、ということだ。
これは先輩の話を聴いて本当に驚いたのだけれど、何と、実際に今年度の生徒会長になることがほぼ確定しているらしいのだ。
昨年度の最後の生徒総会で、今年度も生徒会長をすることを宣言し、信任投票まで行ったそうだ。
信任率は99%を超えていたらしく、一般的な生徒会役員の信任率が90〜95%程度であることを考えると、その圧倒的な人気ぶりが窺える。
加えて、歴代の生徒会長の中で1年生だったのは上川先輩が初めてで、今年も1年生から立候補者が出る可能性は低いと考えられるため、当選しているも同然、ということらしい。
仮に1年生から立候補者が出ても、これだけ人気があるなら、まず地盤が揺らぐことはないだろう。

しかし、わざわざ次年度に向けて信任投票まで行うほど生徒会長という役職に入れ込んでいるのに、立候補したそもそもの動機は「初恋の相手である先代の生徒会長に任されたから」だというのだから、拍子抜けしてしまう。
それを暴露した春日先輩が詳細について話そうとすると、上川先輩は染めた頬をさらに赤くして「ちょっ、まこちゃんってば、恥ずかしいからやめてよぉ」と慌てていた。
入学式での印象が強いけれど、正門でのうろたえぶりや、こうして慌てている姿は、どこにでもいる至って普通の女の子だ。
……そんな上川先輩の横で、笑顔のまま「まあまあ皆さん、若気の至りという言葉もあるじゃないですか」などと言い出す望月先輩は、ド天然かドSのどちらかに違いないと思う。

そんなこんなで話がひとまず落ち着いたので、もう1つ疑問に思っていたことを訊いてみることにした。

「先輩、昨日からずっと気になっていたんですけど、何で僕たちなんですか?」
「ん? どういうこと?」
「えっと、僕たちの他にも、人はたくさんいるじゃないですか。上級生の方々の方が経験豊富なのに、何で僕たちが誘われたのかなと」
「ああ、そういうことね」

上川先輩は得心した様子で小さく数回頷くと、少し考えるような素振りを見せながら続けた。

「それじゃあまず、鷲見くんだけど、理由は……2つかな。まず、私の見立てでは、鷲見くんって友達が多いと思んだけど……」

当たっている。
なっちゃんは誰にでも分け隔てなく明るく接するので、交遊範囲がとても広く、自分のクラスだけでなく違うクラスにも友達が多かった。
面倒見がいいので後輩からも慕われていて、中学校の卒業式では学ランのボタンが全部なくなった程だ。

「私の経験上、友達の多い子には、相手の話を楽しんで聴こうとする、姿勢みたいなものがあるの。で、入学式で壇上に立った時に、何人かそういう子がいてね。鷲見くんもその1人。それで印象に残ってたっていうのが、1つ目の理由かな。印象に残ってたことより、友達が多そうってことの方が重要だけどね」
「何でですか?」
「友達が多いってことからは、色んなことが推測できるの。例えば、相手との距離感を掴むのが上手いだろうとか、場合によってはその距離を詰める勇気も持ってるだろうとかね。多分相手の感情の変化には敏感だろうし、フォローや気配りが上手だろうし、話を盛り上げる話術や臨機応変さもあるだろう、みたいなことも予想できるよね」

右手の指を屈しつつ、上川先輩は滔々と語る。
はきはきと弁じる様は、まさにステレオタイプなキャリアウーマンといった感じだ。
先輩はそこで一息つくと、なっちゃんの目を見て、にっこりと笑って続けた。

「それってつまり、友達になりたくなるような、人間的な魅力があるってことでしょ? やっぱり、自分の学校のことは、自分が付いていきたいと思える人に任せたいじゃない? だから、鷲見くんは生徒会の役員にぴったりだと思ったんだ」
523 :>>74「生徒会」 8/9[sage]:2011/12/03(土) 20:24:22.33 ID:VOLqq58jo
澄んだ声が耳に響く。
最後に、「……まぁ、打算的なことを言うと、そう言う人の方が選挙で当選する確率が上がるし、生徒会で交渉をする時に力を発揮しやすいのもあるんだけどね」と付け加えると、上川先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
それから、空を見上げて、

「それで、もう1つの理由だけど、正門でお話した時に、この子は何て綺麗な目をしてるんだろう、と思って。ほら、『目の綺麗な人に悪人はいない』って言わない? ……これが決定打だったなぁ。この子と一緒に活動したいなって思ったもん」

と、目を細めながらしみじみとした感じで続けた。
なっちゃんは上川先輩が話している間、忙しなく指を組み直していたけれど、ついに照れくささに耐えきれなくなった様子で、もじもじしながら口を開いた。

「あはは、べた褒めされると何だかむず痒いッス。あー、えっと……伊織の方はどうなんですか?」
「琴浦くんを誘った理由はね……そうだなぁ、私にそっくりだからかな」
「そっくり? 僕がですか?」

意外な回答についつい聞き返してしまう。
それに対して、上川先輩は

「うん。まぁ追々分かるんじゃないかな」

と言うと、立ち上がって話を区切った。
腕時計に目を遣ると、昼休み終了の10分前だった。
楽しい時間はあっという間に過ぎるとは、よく言ったものだ。
先輩はくるりと振り向いて、まだベンチに座っている僕たちに告げた。

「さて、それじゃそろそろ解散しよっか。ああ、それと、2人の役職だけど、琴浦くんは書記、鷲見くんは会計が向いてるんじゃないかな。どの役職で立候補するかは2人に任せるけど、2人とも1年生だから、多分この組み合わせが一番確実だと思う」
「僕もそう思ってたところです。それでは、僕が書記、鷲見くんが会計ということで。なっちゃんはそれでいい?」
「ああ、元々会計で立候補しようと思ってたし」
「OK、話は決まったね。えーっと、確か選挙の公示は来週の月曜日だったかな。校内放送で選挙管理委員会の人から発表があるはずだから、その指示に従って立候補の届け出をしてね」

こうして、立候補する役職も決まった。
雑談をしながら階段を降りたところで、先輩方に挨拶をして別れ、教室へと戻った。

***

教室に戻ると、席に着いた僕は、年季の入った壁掛け時計が時を刻むのを眺めながら、先程の先輩の言葉を思い出していた。
僕が上川先輩に似ているというのは一体どういうことなのだろうか。
あれこれ考えてみたけれど、それらしい答えは思いつかなかった。
僕自身はあまり共通点がないように感じるのだけれど、先輩にしか分からないことがあるのかもしれない。

僕にも分かることと言えば、先輩が僕を誘ってくれたきっかけだ。
それは恐らく、入学式でのあの出来事に間違いないだろう。

目と目が合った、あの10秒間。
あの時間は、僕の心の中で、「何か」を浮き彫りにさせた。
しかし、その「何か」がなければ、僕は正門での誘いを断っていたと思う。
もしかしたら、先輩が似ていると感じたのは、「何か」のことかもしれない。
もしそうならば、「何か」の正体を掴むことができれば、先輩の言葉の真意も自ずと分かるだろう。
524 :>>74「生徒会」 9/9[sage]:2011/12/03(土) 20:25:56.64 ID:VOLqq58jo
僕はそういう結論を得ると、そこで考えるのを切り上げて、なっちゃんの方に向き直った。
今日の放課後に、鵠石さんと高木さんを交えて、演説の内容について話し合おうと思ったからだ。

「なっちゃん、今日の放課後なんだけどさ。なっちゃんのお店に鵠石さんと高木さんも呼んでいい?」
「おう。混み始める時間だけど、2人くらいなら問題ないぜ。それに女子高生ならエロ親父も喜ぶだろ」

なっちゃんの実家は、なっちゃんのお爺さんの代から続く、コーヒーの専門店だ。
大通りから少し外れたところに佇む、所謂「隠れた名店」的なお店で、グルメポータルサイトや雑誌には載っていないけれど、地元の人なら誰でも知っている。
そのため、昼過ぎや夕方には満席になっていて、注文しても店内では飲食できないことが多い。
しかし、準店員のお墨付きがあれば、多分大丈夫だろう。

「ありがとう。それじゃあ2人とも誘っとくね」
「任せた。ついでだから鵠石の分もケーキ奢るって言っといてくれ」
「え、いいの?」

僕が驚いて質すと、なっちゃんは眉根を寄せて、訝しそうに質し返してきた。

「……お前、自分は奢ってもらっといて、女の子には自腹切らせんの?」
「いや、鵠石さんの分は僕が払おうと思ってたんだけど……」
「あー、いいよいいよ。1人増えたところで大して変わんねえよ。それに、今の時期ってあんまりケーキ売れないんだよ。売れ残って廃棄になるよか、誰かに食べてもらった方がお袋も喜ぶだろ」

なっちゃんは何でもないように言っているけれど、僕にはすぐにそれが嘘だと分かった。
最近、新しいランニングシューズを買ったと言っていたので、そんなに余裕はないはずだ。
それに、なっちゃんのお母さんが作るケーキはおいしいと評判で、遅くとも夕方の帰宅ラッシュの頃には売り切れてしまう。
だから、これはなっちゃんの優しい嘘なのだ。

しかし、そうは言っても、安直に甘えてしまっていいものだろうか。
どうやらそんな思いが顔に出ていたらしく、なっちゃんが「大丈夫だから早く2人を誘ってこいよ」とでも言いたげに、にやりと笑った。
それを見て安心したので、僕はなっちゃんの顔を立てることにした。

「ありがとう。もう、なっちゃんになら掘られてもいいかも」
「やめろ気持ち悪い」
「ははは、冗談だよ。でも、本当にありがとね。それじゃ2人に伝えてくる」
「ああ、頼んだ」

そこで、鵠石さんと高木さんに話を持ちかけると、2人とも二つ返事で了承してくれた。
鵠石さんが「でも、本当に私までケーキをいただいちゃっていいの?」と申し訳なさそうしている一方で、高木さんは「早速奢ろうって言うのはいい心掛けじゃん」と笑っていた。
こういう凸凹具合が、2人を繋いでいるのかもしれない、と思った。

自分の席に戻ったところで、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。
テストの残りはあと1教科。
「まだあるのか」と気分が少し沈んだのは、言うまでもなかった。
525 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/12/03(土) 20:31:31.11 ID:VOLqq58jo
今回投下分は以上です。お目汚し失礼しました。

琴浦はこの物語の語り手なので、彼の物の見方/感じ方を考えながら書いているのですが、いまいち情景の瑞々しさを描写できていない気がします……。
分かりにくいところなどありましたら、質問していただければお答えします。

あと、前回投下分に誤字がありました。下記の通り訂正いたします。

>>232
柔和な印象の ×眼が 対照的な美人だ。
柔和な印象の ○目が 対照的な美人だ。

すると、着席する先輩と ×眼が合った。
すると、着席する先輩と ○目が合った。

前年度に稲葉西高校生徒会長を ×努めていました、
前年度に稲葉西高校生徒会長を ○務めていました、

>>234
僕たちの自己紹介を聴くと、先輩は ×眼を細めた。
僕たちの自己紹介を聴くと、先輩は ○目を細めた。

>>235
焦った調子で言いながら、その ×眼には うっすらと涙が溜まっている。
焦った調子で言いながら、その ○目には うっすらと涙が溜まっている。

推敲不足ですみません。
それでは、次回の投下の際には、またお邪魔いたします。
526 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/03(土) 22:36:02.66 ID:x9B7CjFKo
女体化しないで欲しいと願ってる俺は異端だろうかwwww
だが女体化するにしても変わらぬ期待を
次回の投下待ってます
527 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(東海)[sage]:2011/12/03(土) 23:21:25.15 ID:jUC4r1QAO
俺もなっちゃんになら掘られてもいいです
528 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(西日本)[sage]:2011/12/04(日) 00:13:41.01 ID:U3SG7N+Bo
むしろ誰が女体化するかは解らないし
誰も変わらないという結末もあり得る

というわけで続きwwktk +(0゚・∀・)

529 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/05(月) 02:01:10.93 ID:ufTg2Qz8o
女体化したらやりたいこと(やられたいこと

1.女子トイレで[田島「チ○コ破裂するっ!」]

2.盗撮スポットの女子トイレで糞尿を垂れる

3.それを盗み撮りされて、脅される

4.その流れでハメされる

5.同一趣味の相方を得てめでたしめでたし

という超変態は俺だけだろうな!
530 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/05(月) 03:06:42.30 ID:ufTg2Qz8o
というわけで糞野郎が投下

15歳の誕生日を迎えた日、僕は女体化した。
トイレというアブノーマルなシチュエーションでしか勃たない僕には、彼女が居たところで女体化するのが関の山なので、後悔はしていない。
覚悟。いいや、期待していたに違いない。それもそう、興奮材料である被写体が他者から自分へ移行し、容易くネタを手に入れられるのだから。
こうして僕の非日常的な毎朝が始った。
僕は人気のない学校の女子トイレで糞尿を垂れるのが日課になっていた。
女体化を迎えて精神が安定しない中、唯一僕を支えている行為がそれだ。

排出しにくい位置にある尿道口から排出された水分は、肉のヒダへ当たりシャーという振動音を掻き立てる。
それが早朝の女子トイレにこだまするのだ。自分が男として聞き手に回ったらどうか。
それはさぞかし興奮するだろう。
しかし、小便はタダの前座。前戯に過ぎない。本番はそこから先である。
そんな動画を自我撮りし、自分で楽しむ。
最初はそれでよかった。
そんな日々も半年も経てばマンネリにもなるだろう。
あくまでそれは自我撮りであり、自然体ではないのだ。
だからといって、同級生を盗み撮りする度胸もない。
毎日毎日毎日。悶々とすごしていた。

とある日、僕はいつものように早出をし、学校の女子トイレへ駆け込む。
週間とは恐ろしいもので、すでに[田島「チ○コ破裂するっ!」]にすらならない行為もやらなければ気持ちが悪いとすら思えてくる。
いつものように誰も居ない女子トイレで女である僕が糞尿を排泄する。
毎回の事なのだが、悲しきかな元糞野郎の僕は盗撮するならどの位置が好ましいのか、どのアングルならなどと思いながら排泄の準備にかかる。
両足の位置を決める為、トントントンと足音を立てる。次にスカートをたくし上げ、パンツに手をかけてずり下ろす衣擦れの音が周囲に響き、そのままいつもの様に腰を下ろす。
「?」
それぞれの何かがいつもと違う。静寂の中で研ぎ澄まされてきた聴覚が、それぞれの音の響き渡りに違和感を覚えた。音が何かに吸収される感じがしたのだ。
心当たりがあるとすれば、それは隣の個室に誰か一人だけ、人が入った時のそれだ。
音はしないが、誰か居る。先客が居たか?いや、当初からここは無人だったはず、一つでも扉が閉まっていればその場所は避けたはず。
女子であれば誰も躊躇無くトイレへ入ってくるはずなので、足音もするはず。
ならば考えられることは・・・
「!」
幽霊!?かなにか?!
いやいや、こんな朝っぱらからトイレの花子さんなんて冗談がキツイ。断言はできないが、男子生徒、もしくは男性教員の覗き目的による侵入である。
今度は自分が被写体(ネタ)になろうとしているのだ。そう考えた瞬間。僕の体中がぶるぶると震えだした。洒落にならないほど全身が震える。
なのに・・・・なのに、自分の下腹部が今までに無いほどに疼いているのだ。
半年たってやっと分かった事。自分が本当に求めていたのはこういうシチュエーションだったのだ。
今、相手には自分の陰毛や女性器や肛門が露になっている。相手は、僕のそれを見て股間を膨らませているのだろう。
そう考えると更に下腹部が疼く。両足がぶるぶると震えて快感が体の芯へ流れ込んでくる。
その勢いで右手の中指が股間の突起に伸びそうになるが、思いとどまってパンツへ手をかけなおす。
おそらく、相手はそれを望んではいないだろう。そして、この僕も。
逸る期待を抑えながら排泄を試みる。


531 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/05(月) 03:42:18.66 ID:ufTg2Qz8o
俺のスニーキングスキルも大したものだ、女子トイレの個室に忍び込むなんて朝飯前だ。
ただ、女子トイレへ忍び込むのは始めての経験だったが。
事のあらましはこうだ。
俺の日課は早朝の校内散歩だ。最初は楽しかったが、それもすぐマンネリ化してしまった。
そこで、いかに足音を立てずに歩く事ができるか・・・という内容に移り変わっていた。
そして、その日課の散歩中、一人の女子生徒を見つけた。
歩く姿がとても愛らしい。特に尻が。長く伸びた髪の毛をなびかせて颯爽とどこかへ消えてしまう。
その消える瞬間に見える愛らしい横顔と豊満な尻が堪らなく好きだった。多分一目ぼれというのだろうか。
そして、いつしかその彼女をつけまと・・・いや、足音を消して追いかけるのが日課へなっていた。
その彼女が毎日消える場所。それを突き止めるまでそう時間はかからなかった。
女子トイレである。
彼女は毎日毎日その女子トイレへ通うのだ。毎日毎日あきもせず。
俺の目的は次なる段階へと進んだのだ。あの豊満な尻を見てみたい。あの彼女の全てが知りたい。と。

俺はトイレの床にほお擦りするような形でへばりつく。
ついに目の前に憧れの女性のものである性器が飛び込んできた。俺にとってこれが初の生○ンコである。
その先に見える白くて綺麗な二つの逆さ山も見事なものだった。
俺の股間が張り裂けそうになり、つい股間に手をやりそうになるが、ここはじっと耐えしのいでおいた。
彼女はぶるぶるっと大きく震えると、少し間を置いて割れ目の中から黄色い尿を排泄する。
シィーーーーという独特の音を立てながら、勢い良く出るそれは俺にとって聖女様から授けられる聖水と言っても過言ではない。
一晩ためたものなのだろうか、長い放尿が続く。するとそれは突然あらぬ方向へと向きを変えて、俺に目掛けて飛んでくるではないか!
うわっと声を出しそうになったが、ぐっと堪える。あらぬ放物線を描いた聖水は俺の10センチほど先へ着地し、水しぶきを上げて俺の顔に飛び散る。
俺の股間が一瞬ドクンと脈打つ。顔に飛び散った尿をそのまま手でなで取って、口に運ぶ。にが辛い刺激が広がって彼女の愛らしい横顔が脳裏に浮かぶ。
更にもう一度ドクンと股間が脈打つ。

体中が震えている。体中が訴えている。

あの女を・・・・・
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/05(月) 04:27:51.49 ID:ufTg2Qz8o
たまたま、昨夜から溜め込んだ尿は膀胱が張り裂けんばかりの量だったのだろう。
今までに無いくらいのしぶきと音を立てて放出されている。
見られているかもしれない。という快感が更に自分をかきたて体の芯を揺らしてくる。
はぁぁぁ!という喘ぎ声を左手で抑えつつ、体をもんどり打たせることでしか耐えられないほどの快感に襲われ、尿の着地場所をはずしてしまう。
めったに外さない的を外してしまい、慌てて腰の位置を戻す。
隣の個室に届こうかというほどの位置に水溜りをつくってしまった。
もしも、あそこから誰かが覗いているのなら・・・・僕のおしっこは覗きにかかってしまったかもしれない。
しかし、そんな事はどうでもよかった。最後の尿を搾り出す際に息んだ時、過ぎの排便を催していたからだ。
ついにメインディッシュである。
こちらも、朝からしっかり出すため昨夜から溜め込んでいる。
ぷっぷすっ!という空気が抜ける音を立てて、それは今か今かと顔を覗かせている。
僕は・・・いや、私は小さく「んっ!」と息み、括約筋を緩めていく。
普段より便通は良いほうなので、今回もすんなりと出てくれている。
ぷっぷすぅぅぅ〜ミチミチミチという音と、凄まじい臭いを立てながらそれは勢い良く排泄されていく。
そして、排泄と同時に自分でも信じられないくらい下半身がジンジンと響き、直腸側から膣内部へ間接的に刺激を与えていく。
自分の指一本すら通した事のない膣中へ、初めての快感があふれていく。
「んっん〜〜〜〜!!あっはぁっ・・・・!」
息みとも、喘ぎともどちらへも取れそうな声が私ののどからこみ上げてきた。
とっさに口を押さえるが、もう遅い。
みっともない声を聞かれてしまったと、羞恥心から一瞬で我に返る。
自分の排泄音が消えてしまった事で、室内が静寂に返ると思っていた。
しかし、一つ前の個室から、何かをこする音が聞こえてくる。
それはとても懐かしい音に聞こえた。

そう、やはり隣の個室には男の人が居たのであった。

我に返ったのはつかの間であった。
自分がオカズにされている。排尿から排便まで、アソコまで全て覗かれた上、相手はそんな女の私をみて興奮しているのである。
下半身が・・・子宮が振るえ私は知らず知らずのうちに元我が息子に指を当てていた。
「あうっ・・・んんんんん〜〜〜〜〜!!」
ひと触り、かるく撫でただけで絶頂を迎えてしまい、そのまま前のめりに倒れそうになる。
ドン!とかろうじて両手を個室の仕切りに当てて体をささえる。
「うあっ・・・」
そして、仕切りの向こうからも低い声が漏れてくる。
「「はぁ・・・はぁ・・・・」」

お互いの息が落ち着いてきた頃、私は我に帰って汚れたアソコと肛門を拭きあげる。
あちらからも、申し訳無さそうな小さな音でトイレットペーパーを巻き上げる音がする。おそらく、飛び散らかした精液の処理をしているのだろう。
不思議な気持ちだった。このまま黙って立ち去ればよかったかもしれない。しかし、新たな快感に気づかせてくれた『彼』に対し、それでは悪いと思ってしまった。
だから私はこう言った。
「ぼっ・・・わ、私が先に出るから・・・合図したら・・・出てきていいよ」
「え!?」
前の個室から素っ頓狂な声が上がる。
お願いだから、早くでる準備をして。と心の中で叫びながら個室を後にする。手洗い後、トイレから外に出ると誰もいないようだったので、彼を呼んだ。
「いいよ・・・大丈夫だから!」
ガチャ・・・ぎぃ・・・・
「あ、ああぁぁ・・・えぇっと・・・ありが・・・」
ありがとう。そういいたかったのだろうか。しかし、顔をあわせるのもばつが悪かった。というか、面と向かってどう接して良いかわからない。彼に斜め後ろ背を見せたまま、とりあえず急げと促した。
「はやくして・・・それから、私。この時間いつもいるから・・・・」
また見て欲しい。覗いて欲しい。今はそんな気持ちで一杯だった。
533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/05(月) 04:28:25.11 ID:ufTg2Qz8o
文章のまとまりがわるうござんす

糞文の続きはまた・・・・
534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/05(月) 08:32:53.00 ID:LmUAyL+Yo
>>533
お疲れ様でした。それじゃこっちも投下します
535 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:33:26.30 ID:LmUAyL+Yo
家計簿というのは非常に重要なものであり、嫁に出る前に母親からは厳しく教えられたものだ。常に電卓片手にレシートを見ながら限りある収入の中から支出を出来るだけ押さえるといった地道だが大変緻密な作業の繰り返しである。

「はぁ〜・・次の給料日まで後十日ね。赤字は何とか抑えられたけど黒字にするには切り詰めるところ切り詰めなきゃ」

何とか赤字は防げたのはよかったけど今回は黒字には程遠い、定期預金や卓の預金は何とか貯まってはいるものの余剰金がないのは少しばかり悔しいものである。主に必要な支出となるのは携帯料金やら家のローンや卓の学習保険や旦那や私の生命保険など・・どれも回収する時期がバラバラなので私としてみればそういった日取りは一括にして欲しい。

“え〜、人気作家であるでぃゆ氏が一般女性と結婚をしたようです”

「へー・・でも結婚なんて楽しいのは最初と子供が小さいうちよ」

“速報です、◆nMPO.NEQr6氏と◆Zsc8I5zA3U氏で版権を巡る裁判が起きた模様です。両氏は弁護士を立て徹底的に争う構えです”

かつては仲が良かった人気作家同士も金が絡めば変わってくる・・こうして考えてみると平凡が一番である。それにしてもあの2人がコラボしたドラマは卓と一緒に見ていたがキャストに大物女優や俳優を多数起用していたし内容も非常に面白かったので続きが見たいところであるが・・こんな騒動が勃発してしまったらとてもそんな話ではないだろう。
それにワイドショーが唯一の暇潰しなのもなんだか少し寂しいばかりだ、といっても芸能情報は結構楽しいのでついついと見てしまうのが本能という奴だろうが、現実逃避には変わりない。

「はぁ・・どうしましょ」

「ただいまー!! 母ちゃん、おやつは?」

「・・とりあえず手を洗ってからね」

いつものように帰ってきたわが息子のおやつを準備しながら、今度はつけたばかりの家計簿と今までつけた家計簿を見比べながら今後のお金の流れを頭の中に入れておくのだが・・どうも最近歳のせいか文字が見づらい、まだこれでも30代なので視力の衰えなどないはずだが・・どうも最近は文字に限らず周囲が徐々にぼやけて見える。

「母さん、どうしたの?」

「なんだか物が見づらいのよ。おかしいな・・」

「もしかしてさ・・視力が落ちたんじゃないの? 視力は歳関係ないって先生が言ってた」

「そうね・・診てもらうか」

といっても余計な出費が痛いがこのまま放置しておけば主婦業に支障が出てしまうのは間違いはないが、気分転換にもなるので眼鏡屋に足を運んでみるのもいいのかも知れない。

「卓もゲームばかりしてちゃだめよ。ママみたいに視力が落ちないようにね」

「ま、俺はいつも勇輝達と遊ぶのがデフォだし・・それよりも今日のご飯何?」

「今日は質素に鮭のムニエルと昨日余らせたカレーでピラフを作ります」

「手抜き反対! 肉食わせろ〜」

手抜きとは失礼な、これでも常に頭を捻らせて家計に響かないように冷蔵庫にある残り物で人数分の料理を作る苦労をこの生意気な小僧にあじあわせてやりたいものだ。

「・・人参と玉ねぎもサービスで増やして欲しい?」

「すみません・・」

現金な子供を黙らせた私はそのまま晩御飯の準備をしていくのであった。

536 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:33:57.04 ID:LmUAyL+Yo
旦那も帰ってきて楽しい夕食が終わりのんびりとお風呂の時間、卓はいつも旦那が入れてくれるのでこっちとしてみれば非常にありがたい。最後のお風呂の残り湯を出来るだけ使わないようにしながら次の洗濯物の分まで繰り越す・・非常に地道に見えるのだがこれも家計を助けるための節約術と言うやつだ。

「はぁ・・視力も落ちたのはショックね。女体化して唯一の誇りだったのに」

この世界には15、16歳で童貞を捨てなければ女体化してしまうと言う奇妙な病がある、その例に漏れずに私も女体化をしてしまった身ではあるがこうして幸せを謳歌しているのであまり負には思ってもいない、近所の奥様からも何かと羨ましがられるのも悪くはない。どうも女体化した人間は普通の女性と比べてもかなり若々しくいられるようなのでこっちとしてみれば女体化様々という奴である、しかし卓の学習保険には女体化にしたら補正金がもらえるのだがそれに加入してしまうと保険料が割高となってしまうのがネックなところである。

「しかし子供産んでからおっぱいが大きくなってしまうのはね・・女体化してから付き合ってきた身体だけど人間の身体ってわからないものね」

女体化問わず子供を産んでからの変化といえばよく体質や体重が増えてしまうといった変化が上げられるのだが、私の場合は胸が若干大きくなってしまったことだ。女性とすれば嬉しいものだと思うのだが、私にしてみれば「それがどうした?」というレベルなのであまり関心はない・・ただスタイルなどがあんまり崩れなかったのは嬉しいところだ。
もう少し若ければ磨きに磨きをかけて夜の世界でNO1を目指すのも悪くはないのだが、ドロドロとしてそうなので遠慮しておこう。

「しかし卓や優治君は2人目が欲しいって言っているけど・・子供が増えた時の負担を考えているのかしらね」

2人目に関しては卓は熱が冷めたものの事あることい私にしつこく言ってくるし、旦那もやる気のようなのだが・・家計を預かる身とすれば子供なんて一人で充分だ。今の旦那の稼ぎのまま子供が出来てしまえば現状維持の家計はたちまち急降下してしまうだろう、ある程度は保障してくれるとはいっても出産費用や入院費用などバカにはならないので当分は熱が止むのを待ってもらうしかない。

「子供子供って気軽に言ってくれるけど・・産むのは私なのわかってるのかしらね?」

あの陣痛の痛さといったら尋常ではない、卓の時で経験済みなのだが妊娠中と言うのは自分の体質が変わったりしてしまうし、産む時の痛さといったら言葉では到底表せない程の痛さなのだ。ヤル時にやって後は見守るだけの男は結構良い立場にいるものだと私は思う。

「はぁ・・頭が痛くなってきた。さっさと身体洗って上がろう」

これ以上考える事をやめた私はそのまま瞬時に身体と頭を洗うとお風呂から上がると、今日の疲れを癒すために冷蔵庫からビールを取り出して味わって飲みながら改めて家計簿を見つめ続ける。

「う〜ん・・やっぱり少しビールを減らさないとね」

「反対!! サラリーマンの楽しみを奪う気か!!」

「家計には変えられません!! ・・って、やっぱり文字が見づらい」

旦那をぴしゃりと抑えながらも、家計簿の文字が見づらい・それによく見ると数字を見間違えたようだ。危ない危ない・・ささやかな楽しみまで自分で奪うところであった。

「美由紀ちゃん・・どうしたの?」

「なんだか、最近文字が見づらくてね・・視力が落ちたみたい」

「へ〜、それじゃ・・あのカレンダーに書いてある文字は見える?」

「えっと・・」

何とか目を凝らして何とかカレンダーに書いてある文字を見続けるのだが、ぼやけていてよく分からない・・今までは良く見えていたのにここまで視力が落ちていたことに愕然としてしまう。

「裸眼でここまで視力が落ちていたなんて・・ショック!!」

「眼鏡が必要になってきたのかもね、それに最近の眼鏡は結構カッコいいし」

「でも眼鏡って高いのよ!! 今の家計では2つ買うだけでも結構高価な代物よ・・」

「大丈夫! 今まで貯めていた小遣いで買ってやるさ!!」

まさか旦那がここまで私のことを考えてくれるとは・・付き合っていた頃はそこそこプレゼントをくれていたのに結婚してからはそれがかなり減ってしまったので嬉しい限りだ。

「明日休みだから一緒に行こうか」

「そうね、卓はどうせ遊びに行くだろうし久々にデート気分ね」

「デート? 別にそんなに考えなくても良いんじゃないの?」

女心がわからない旦那には困ったものである。

537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/05(月) 08:35:57.82 ID:LmUAyL+Yo
ま、間違えた!!
投下するのはこっちです・・
538 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:37:02.37 ID:LmUAyL+Yo
結婚して早数年・・新鮮だったその生活は月日が流れると味気ないものだ。気がつけば子供も成長を重ね続けて今では小学生、時の流れと言うのは実感しても案外わからないものである。

“なんとP90氏が人間国宝に登録された模様です”

「へー、私が生まれる前から活躍してるもんね。というか最近は雨ばかりで憂鬱だわ、早く晴れてくれないかな・・」

いつものようにワイドショーを見ながら卓と旦那がいないこの時間を有意義に寛ぐ、既にやることはとうに済ませているのでこうやってのんびりと出来るのは主婦の特権というもの、それに眼鏡のお陰でテレビもよく見える。

“誠におめでたいニュースばかりですね。次のニュースです、 今日の昼過ぎ地検特捜部は人気小説家◆Zsc8I5zA3U氏の版権会社の家宅捜索に入った模様です。現場の伊藤さん〜”

“はい、こちら現場の伊藤です。地検特捜部はかねてより脱税の疑いがあった◆Zsc8I5zA3U氏の版権会社に家宅捜索に入りました、先日行われた◆nMPO.NEQr6氏との裁判にも影響が出そうです。推定される脱税金額はおよそ4億5千万円にも及び発覚すれば作家の中でも例を見ない巨額の脱税事件になりそうです”

「ドラマ化や印税で儲けてたのよね〜」

“地検は版権会社社長と◆Zsc8I5zA3U氏を重要参考人として事情聴取を行っており、野党の資金源に流れている疑いもあって近く国会への参考人招致も・・”

たかだか作家の騒動がここまで大きくなってくると考えものだろう、そんな世間の騒動など露知らず私は適当にテレビのチャンネルを変えて再放送されているドラマを見ながらいつものように過ごす。

「そうそう、この2人が以前に抱いていた恋愛が友情へと変わっていくのよね。卓が小さい頃よく見てたから覚えてるわ」

今放送されているのは◆suJs/LnFxc氏が原作のドラマで卓が赤ん坊の頃にやっておりよく当時は育児の傍らでよく見ていたものだ。思えばあの時は始めての育児わからない事だらけだったのだが周囲や旦那の協力もあってか無事に乗り切れている。

「あの時が懐かしいな」

「ただいま母さん。何見てるの?」

「再放送のドラマよ。あんたが赤ん坊の頃に放送されていたから懐かしくってね・・って、帰ったならとっとと宿題しなさいよ」

「わかってるって」

本当にやってくれるのかどうか・・母親としてはかなり心配である。幸いにも我が息子は私たちと同じようにお受験とかにも関係はなくごく平凡を全うしているようだが、これから成長して女体化する年代に差し掛かったら果たしてどうなることやら・・ドラマのように女体化したら様々なドラマが繰り広げられるのだと思う、女体化したものの全く苦労していなかった私のように過ごすのは無理があるのかもしれない。

「ねぇ、卓・・あんた将来は女体化してしまったらどうする?」

「するわけないじゃん。あんなのはドラマの世界だけだよ、母さんだって苦労してないんだろ?」

「まぁ・・時期が時期だったし、おばさんが色々やってくれたからね。溶け込むのは割りと早かったほうかな・・」

思えば自分が女体化したときは苦労なんて微塵もなかったのはよく覚えている、私にとってこの子の育児のほうがよっぽど苦労したぐらいだ。

「そういえばさ、コゲ丸さんって母さんが出た大学の先輩なんでしょ?」

「みたいね。でも作家として有名になったのは大学卒業してからよ、それに全然違う学部だったし接点なんて一つもないわ」

「学部って何?」

「それは将来大学に通うんだったらわかるわよ」

考えてみればもし卓が大学へ通う場合、男を維持するのならば学費は自分で払わせよう。女になった場合は・・姉に何とかしてもらおうかな?

539 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:37:51.18 ID:LmUAyL+Yo
そんな下らないことを話しているとそろそろ晩御飯の時間なので予め準備しておいた食材でおかずを作りにかかる、そろそろ旦那の給料日が近いのでこういうときこそ主婦としての腕が試される。

「冷蔵庫の残りを考えても今月も余裕で乗り切れそうね・・ってソースがないじゃないの!! そういえば前に切らしてたんだっけ」

困ったことにこの料理にはあのソースが絶対に欠かせないので買って来ないと非常に拙い、他のソースでは絶対に代用が利かないのだ。

「う〜ん・・卓をお使いに行かせたら絶対に余計なもの買ってくるわね。仕方ない、買ってくるか」

幸いにもガスはまだ使わなくても大丈夫なので卓に留守番を任せておくと、そのまま近くのスーパーへと急いで向かう。世の中には無愛想だがスーパースキルを持っている家政婦がいるようだが、そんな人物と四六時中顔を突き合わせてたら気が重そうだ。そんなことを考えているうちにスーパーに入っていくと目当てのソースを見つけ出す、しかも運が良いことに普段と比べて安くなっているのでかなりお得だ。

「安くて助かったわ。さてお会計に・・ってあれは?」

そのままお会計に向かおうとした私の目に付いたのはイライラオーラを発しているあのロリっ娘、確かご近所さんの・・

「に、西田さん・・?」

「あんっ? ・・って、葉山さん!」

「アハハハ・・お元気そうで何より」

この方はご近所さんの西田さん、見た目は完璧なロリっ娘であるがこう見えても年頃の子供を育てている超ベテラン先輩主婦だ。人を外見では判断はしてはいけないと言う言葉を見事に体現している、傍から見れば失礼にもどこかの親子としか見られないものの中身は立派な大人なので後輩の私はいつものように教えを請う。

「どうしたんですか? そんなに買い込んで・・」

「いや、安くなっているうちに買っておかないと・・そっちもお買い物?」

「まぁ、そんな感じです」

と言いつつも西田さんの奥さんもキッチリと特売品をキープしているのはさすがと言うべきであろう、私よりも主婦歴の長いのでこういったことはちょっとばかり参考になってしまう。

「そういえば・・西田さんの息子さんって高校生でしたっけ?」

「良い具合に女体化で悩んでいるよ。こっちとしては見てて面白いぐらいだけど・・白根さんも将来はどうなるかしらね〜」

「アハハ・・ま、私は子供に任せますよ。女体化なんておちおち気にしても仕方ないですし」

どうやら西田さんの息子は順調に年相応の悩みを抱えながら育ってきているようだ、そういえば以前に西田さん親子とは買い物がてらに会ったことはあるが息子さんのほうはとても立派な高校生らしい体格をした人物だったのをよく覚えている。
そんな他愛のない話をしていたのだがどうも西田さんの様子がおかしい、さっきから発せられているイライラオーラがかなり強まってくるのを感じてしまう。

540 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:38:22.79 ID:LmUAyL+Yo
「あ、あの・・西田さん?」

「えっ!! そ、その・・ごめん、白根さんちょっとの間だけこれ持ってて!!!」

「ちょ・・ちょっと!!」

そのまま西田さんはスーパー外へと向かっていった、そういえば前に息子さんと一緒に出会ったときにも息子さんに荷物を持たせたら自分はさっさと外に出てしまっていた、息子さんに詳細を聞こうとしても頑なに口を閉ざしたままだし・・一体なにをしているのだろうか?

「ご、ごめんね。持ってくれてありがとう」

「い、いえ・・どうぞ」

気のせいか西田さんからはタバコのにおいがプンプンしているのだが、ここは今後のご近所付き合いも考えたら余計な詮索はあまりしないほうが良いだろう。

「はぁ〜、子供って手が掛かるから大変ですよ」

「まぁまぁ、小学生だからそのうちに落ち着くでしょ」

「さすが経験者・・」

それから大先輩の西田さんから経験に基づいた実戦的な育児方式を伝授してもらう、さすがに私は武道派ではないので西田さんのように上手いことはできないので参考程度に留めておこう。

「ま、頑張ってみます・・」

「そうそう、何事も経験が大事だから・・ゲッ! もうすぐに帰ってくる時間だ・・それじゃまた!!」

そのまま西田さんは立ち去ってしまう、相変わらず不思議な人である。


541 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:38:56.44 ID:LmUAyL+Yo
無事にソースを買い終えた私はそのまま帰宅して滞っていた晩御飯の準備を再開させる、やはりこのソースがなければこの料理は完成したとはいえないだろう。

「ふぅ、これで完成っと・・卓、ご飯できたよ」

「へ〜い」

そういえば私は母親としてこの息子に何か教えておかなければいけないのだろうか、将来は卓も西田さんの息子のように女体化で思い悩む年頃になったとき果たして同させれば良いのだろう。旦那みたいにあっさりと捨て去っていくのかはわからないが、もし女体化してしまったのならば母親として何かしらなの教えを授けておかなければならないのかな?

「ねぇ、将来女体化したらどうする?」

「するわけないじゃん! ・・そうだな、してしまったらアイドルにでもなる」

子供らしい意見ではあるがアイドルになるのならレッスン費用などを考えても先行投資はかなり覚悟しておかなければならない、卓には悪いけどうちの家計ではどうするとこも出来ないので他の選択肢を提示することにしよう。

「お母さんはアイドルよりもナースのほうが良いと思うよ? ドジっ子ナースだって一人前になるんだし・・」

「・・なんか地味そう。母さんだって女体化したときは将来は考えてたの?」

「う〜ん、あまり考えてなかったな」

正直、私は将来についてはあまり考えたことはない・・高校に入学して旦那と付き合うようになってからは大学を進学した後は普通にOLをしてその後はごく普通に結婚する程度としか考えていなかったので思い返してみたら自分の危機感がなさに苦笑してしまう、もし旦那と結婚で着ていなかったことを考えると末恐ろしい。2人でいつものようにご飯を食べながら色々な話題に興じる、息子もそんな私と一緒にいるせいかアニメよりもドラマが好きという小学生らしからぬ趣向を持ち合わせてしまっている。

「母さんは夢がないね。もしかして子供の頃からなかったんじゃないの〜」

「失礼な、昔は漫画家になりたいとは思ってたわよ」

「ふーん・・それよりも今日は何で女体化の話題なんだよ」

「えっとね、ご近所さんの息子さんが女体化になりそうな年頃なんだって・・だから卓が女体化したらどうなんだろうって思ったの」

「俺が女体化するわけないじゃん! 将来は野球選手になるの、女になったらプロになれないじゃん」

たしか前はサッカー選手になりたいと言っていたはずだが・・ま、子供なので将来の夢はコロコロ変わってしまうのは致し方ないだろう。にしてもこの息子の将来の恋人は果たして男か女か・・親としては楽しみな反面、寂しさがないといえば嘘になる。どこぞのドラマみたいに姑いびりを趣味としたりはしないけど旦那がある日リストラされて奥さんが広告会社へと働きに出る光景があった場合は少しだけ考えてしまう。

「将来の恋人は果たして誰になるのかな?」

「そりゃ、母さんよりも可愛くて性格が良くて俺が大好きな料理を毎日作ってくれる人に決まってるだろ!!」

よし明日からの晩御飯は卓の大嫌いな人参とタマネギのフルコースで決まりだ。

542 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:39:24.58 ID:LmUAyL+Yo
晩御飯を片付けると卓を風呂に入れ終えてビールを飲みながらドラマを見ながらささやかな晩酌を楽しむ、いつもなら旦那も一緒なのだが今日は生憎出張らしいので今回はお休み。

「あ〜、展開が気になる! 葉月はどうなったの〜!!」

「また来週ね、明日は学校でしょ。お子様はそろそろ寝ないとダメよ」

すでに時間は夜の10時過ぎなのでそろそろ寝かせておかないと学校に間に合わなくなる、まだまだ小学校低学年は夜更かしをするのは早すぎる時期でもあるので教育的に考えてもここはさっさと寝かしつけたほうが得策だ。

「御託は良いからさっさと寝なさい」

「ええ〜! だったら前に借りた目指せ甲子園の映画見ようぜ!!」

「それはまた明日、ちゃんと付き合ってあげるからね」

旦那と息子の仲も良好ではあるのだが、映画鑑賞に関しては何故か私とじゃないと嫌なようで旦那が誘ってもからっきしなので旦那が本気で落ち込んでいたのが不憫に思ってしまったぐらいだ。

「いいじゃん! 母さんだって今日は父ちゃんのビール飲んでいるくせに」

「そ、そんなわけないでしょ!!」

自分の息子に図星を突かれるとは・・母親としてなんとも情けない限りである、一体どこで旦那のビールを飲んでいるとわかったのだろうか?

「と、兎に角!! 今日はもうお終い、続きは明日ね」

「ひでぇ・・美由紀ちゃんが俺のささやかな楽しみを」

「お父さんの真似しても無駄なものは無駄。さっさと寝ましょうね」

「い〜や〜だ〜・・」

「よいこは早く寝る!!」

そのまま強制的に卓を部屋に戻して寝かしつけるとようやく一息つける、思えば母もこうして駄々をこねていた私と姉を嗜めていたのだろう。当時は鬱々しく思っていたのだが、今の立場になると母親というのもは本当に偉大なものだとつくづく思う。
しかし、今日は旦那が家にいないのでこれ以上起きていても何ら面白みはないし、明日の朝も通常通りなのでここで眠っておくことにする。時間を無駄にせず要領よくやりくりするの主婦と言うもの・・ここは明日に備えて一眠りしよう、旦那もいないことなので今夜はぐっすりと眠れそうだ。

543 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:40:21.87 ID:LmUAyL+Yo
翌朝、すっかり身体に染み付いた習慣のお陰でいつもどおりの時間に起きて朝食の準備を済ませると片手間に息子をたたき起こしてゴミを捨てる。そんな変哲も何もない普段のサイクルに飽き飽きしながらも楽しげにしている自分に内心苦笑してしまう、

「さて、今日の晩御飯何にしようかな・・給料日だからたまには奮発するか」

今日は旦那の給料日なのでちょっとだけ贅沢をするのも悪くはない、思えばここ暫くは家族旅行も行っていないのでいつものように慎ましやかに生活を送れば旅行費用は容易に捻出できるだろう。

「旅行も悪くはないけどね・・って、あれは孔明さん? 孔明さん〜!」

「ああ、白根さん」

この人はご近所に住む孔明さん、どこかの4人の美少女と同棲などしてはいないのでご安心して欲しい。この人の職業は漫画家であるのだがどうも売り上げは著しいようだ、主に執筆しているのはリリカルシリーズとなるものだが・・どこかで見たことあるような設定に作品そのものが日の目に出るのは怪しいところである。

「チクショウ! ◆Zsc8I5zA3Uが先にリリカルシリーズを出しやがって!! あれは俺のアイディアなのに・・」

「ま、まぁまぁ・・頑張れば良いじゃないですか」

「はい・・取り乱してすんません」

そのまま落ち着きを取り戻した孔明さん、本業ではない私が言うのもおかしい話だが女体化が一般的になっているのだからいっそのこと女体化から離れても良いと思う。

544 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/05(月) 08:40:50.11 ID:LmUAyL+Yo
「私が言うのもなんですけど無理に女体化にしなくても普通通りの話も受けると思いますよ。最近はあんまりそういったのは少ないし・・」

「なるほど・・そうか!! ありがとう、白根さん!! 良いアイディアが思いつきそうだ、御礼にこれを」

「こ、これって・・某テーマパークのクーポン!!」

「ええ、前に雑誌の編集者の伝で貰ったんですけど・・興味ないし3人分だから白根さんにお譲りします」

手渡されたのは知らぬものはいない某有名なテーマパークのクーポン・・よく見てみると今年から4年間は入場料やアトラクションがタダで利用できるお得なクーポンだ。個人的にはとても嬉しいのだが一応礼儀もあるのでとりあえずは遠慮しておく、それでも譲ってくれるとは思うのだが・・

「わ、悪いですよ。こんな高価なもの頂くなんて・・」

「いえいえ、受け取ってください。それでは・・さぁって作品が俺を待っている!!!」

そのまま孔明さんはルンルン気分で去っていく、こうして私は無事にもらい物であるがクーポンをゲットできたわけである。

「さってと、貰うもの貰ったし次の旅行はこのテーマパークで決まりね・・ってこれ、子供用じゃないのよ!!!」

このクーポン、虫眼鏡でしか見えないような細かさの字で年齢制限が書いてあるのに目がつく。年齢制限にはこのクーポンの無料特典が適応されるのは中学生のみ・・卓は問題なく適応されるのだが大人である私と旦那は当然ながら対象外である。こんな対象年齢が設けられているのだから孔明さんが譲ってくれるのも素直に窺えてしまう・・やはりもらい物には期待をするのは間違っていると私は確信する。


がっくりと項垂れながら私はいつものようにこう呟く、主婦ってやっぱり難しい・・



fin
545 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/05(月) 08:44:34.95 ID:LmUAyL+Yo
終了。みてくれてありがとさんでしたwwww
前の話を誤って投下してしまうとは・・切腹物ですな。ちょっと強引で終わらせてしまった・・反省

今回は◆suJs/LnFxc氏のキャラを借りました、ありがとうございます。
主人公じゃなくてすんませんwww


つ、次は・・リアルにネタ切れだからもう少し待ってください><
546 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/05(月) 09:41:34.55 ID:htAX7PbAO
>>533
乙です!
糞ネタもイケる変態な俺に死角は無かった。

>>545
きたああああ!!
自分のキャラが他の方の作品で動いてるのって不思議ですね…
この度はうちの秋代さんがお世話になりまして、どうもありがとうございます。時系列的には忍が女体化する前ですかwwww
上手く秋代さんのイメージを再現して頂けてると思います!!
ニヤニヤしちまいましたwwwwww
547 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage saga]:2011/12/05(月) 10:01:34.05 ID:LmUAyL+Yo
>>546
時期は考えてませんwww
良い具合に脳内補完してくださいww
548 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/05(月) 14:02:26.46 ID:QH+gZkdCo
>>533
この変態!アンタみたいな人のこと待ってたんだからね!
549 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/05(月) 14:11:53.27 ID:QH+gZkdCo
>>545
ちょwwwwとんでもないことになってるwwww
550 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/12/06(火) 19:00:03.95 ID:p8/FaIjAO
投下よこい
551 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/06(火) 21:21:49.91 ID:6Xu69plKo
投下お疲れ様です
糞的な意味でこのすれの英雄になりたい
552 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 21:51:20.89 ID:yOgI93Fho
おじゃマイケル

--------------------

 藤堂がこの世界に飛ばされてから数日が経った。

 その間何か変わったことがあったかといえば、実はそんなことはない。
相変わらず元の世界に返る手がかりは見つかっていないし、
かといってこの世界の沙樹の日課がないがしろにされていたわけでもない。
日中は学校に行き、放課後は生徒会の仕事が無ければ家に帰り、いつものお稽古に励む。
宗像は揚羽にそれとなく話を聞いてくれたらしいのだが、目立った成果は上がらず、
ただただ彼女が藤堂のスケジュールを事細かに把握していたことがわかったくらいの
ものだった。

 これでいいのだろうかと思うことばかりであったが、
出来ることが何もないのだから仕方がない。何も出来ないならただ、
日々必要とされることをこなしていくばかりだ。しかしその必要とされるものの中に、
決定的な欠損があることだけは相変わらず頭を離れることはなかった。

 しかし、それまでと全く変化が無かったかといえば、そういうわけでもない。

「ひとりか?飯食いに行こうぜ」

 あからさまに視線が集まることはないが、それでも昼休みのチャイムが鳴って
緩んでいたはずのクラス中の注意が、その声の主に集まるのが気配でわかる。

 あの夜以来、聖は昼休みになるとこうして藤堂の元へ訪ねて来ることが多くなった。
しかしながら、彼女が元々実に注目されやすい人物であることもあるが、
その聖と恐らく最も関係の悪いであろう生徒会の長が仲良く歩こうものなら尚のこと
周囲の関心を惹くことになるだろう。現にこうして聖が訪ねてくると教室の外にアイドルの
出待ちよろしく人だかりが出来ていたりすることさえあった。
もっとも、それも聖の一睨みで追い散らされて二度と彼らが集まってくることはなかったのだが。

「お姉さま!今日はお弁当を・・・あら?」

 おさげを揺らしながら走ってきた揚羽は、藤堂の傍らに立つ聖の姿を見て
身を硬くするのだった。
553 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga サブタイトルつけるの忘れてた]:2011/12/06(火) 21:53:06.26 ID:yOgI93Fho






 ニヤニヤしながらついてこようとした宗像を教室に押し返し、聖に伴われて校庭に出る。
空は晴れており、心地の良い陽気に誘われて出て来た生徒達が植え込みの縁に
腰掛け談笑していた。そして植え込みの先、芝生の上に座ってこちらに手を振る者達がいた。

「おーい、こっちこっち!」

 こちらに向かって声を上げている気の強そうな女生徒に応えてそちらへ向かう聖に
ついて行くと、そこには女生徒を含めて三人の生徒が車座に腰掛けて思い思いに
昼食の弁当を広げていた。

「すっごい、ほんとに連れて来ちゃった・・・」
「マジかお・・・」
「おいおい・・・」

 驚きと落胆の入り混じった何ともいえない表情で口々に呟く三人を、
聖は得意げに見下ろしてこう言う。

「な?俺の言った通りだろ?じゃあ約束通り賭け金よこせや」
「仕方ないわね・・・」
「わ、わかったお」
「ちくしょう来週デートなのに・・・」

 聖は三人から一枚ずつ千円札をむしりとって懐に収めると、藤堂を手招きした。

「・・・これはどういうことなんだ?」
「ん? おお、俺がこの場にお前を連れて来てやるって言ったらこいつらが疑いやがるからよ。
だったら賭けてみるかっつったらこの通りよ。ありがとな! 沙樹」
「・・・」

 図々しさに嘆息しながら、聖の勧めにしたがって芝生の上に腰を下ろす。
両隣にはそれぞれ聖と、聖の友人の女生徒がいる。

「あ、私、こいつの友達でツンと言います。このバカがお世話になったみたいで」
「ぅおおい!? それじゃあ俺が一方的に世話になってるみてぇじゃねぇか!?」
「あら、大して違わないでしょ。むしろ生徒会になんか迷惑以外かけてないじゃないの」
「ざっけんな、そんなことねぇよ!!なぁ沙樹、お前からもなんとか言ってやってくれよ!」
「まあ確かにあなたは頭痛の種でもある」
「おおおいっ!?」
「だが、彼女に助けられた事も多々ある。改めて、藤堂沙樹だ。あなたたちとお近付きになれて嬉しい」
「あ、いや、そんな・・・」

 藤堂が頭を下げると、何故か場が萎縮したようなムードになる。
何か悪いことを言ってしまったのだろうか。
554 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 21:55:25.34 ID:yOgI93Fho
 その後もとりあえずの自己紹介が続く。最初に自己紹介してくれた、
綺麗だがキツそうな印象の女性とがツン、優しそうだがどこか頼りなさげな男が内藤、
それから沙樹とは一番遠い位置に座っている不気味な、
しかしどこか迫力に欠ける空気を纏った男がドクオと言うらしい。
そして一回りすると、今度はさっきから沙樹の右腕にしがみついてその隣に座る聖に
険悪な視線を送っている人物にお鉢が回る。

「な、なあ沙樹・・・なんで俺がこんなに睨まれるのか全く見当がつかないんだが」
「当たり前です! あなたは生徒会の最重要注意人物ですから!
私がこの場にいるのはあなたの魔の手から会長をお守りするためです!
・・・改めて自己紹介させていただきます。
わたくし、生徒会書記一年の安芸野揚羽と申します。
本日はこのような昼食会にお招き頂いて光栄に思っております」

 お下げ髪を揺らしながら、メガネをクイッと上げて鼻を鳴らさんばかりにツンケンした態度で
そう言い放つのは、今彼女が言った通りの名目でついてきた揚羽である。
宗像なら気楽に追い返せるが、なんとなく彼女のことはむげに扱えないので藤堂も
この場への同行を許していた。

「それと相良さん。ひとつ申し上げてよろしいですか?」
「な、なんだよ」

 突然名指しされて流石の聖も面食らう。

「先ほどからあなたが会長をお呼びする様子を見ておりましたが、
あまり気安くファーストネームでお呼びするのは感心できませんよ!」
「それは、だって・・・沙樹がいいって言ったから・・・」
「揚羽。聖の言っていることは本当だ。だから、大目に見てやってくれ」
「はいっ!!お姉さまがそうおっしゃるなら!!」

 明らかに変わる揚羽の態度に、その場には妙な空気が流れるが、
当の揚羽はそんなものどこ吹く風といった様子で藤堂の腕にしがみつき、
期待に満ちた目で藤堂の次の言葉を待っているように見えた。
聖はと言うと、その様子を何とも不服そうな顔で見ていた。しかし強く言えない所を見ると、
多分揚羽は聖の苦手なタイプなのだろう。・・・実を言うと藤堂にとってもこの揚羽は、
少々理解の範疇を越える部分のある人物ではあるのだが。
555 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga ブーンかわいい]:2011/12/06(火) 21:57:20.04 ID:yOgI93Fho
「沙樹先輩はいつも手作り弁当なのかお?」

 とりあえず場の空気が元に戻って、皆が弁当を広げ始めると、
沙樹の弁当を見て内藤がそう声をかけてきた。

「ああ。購買部を使うことも考えたんだが、栄養が偏りそうでな」
「なんか、すっごい豪華ですね。親御さんが作ってくれるんですか?」

 横から覗き込みながらツンが感嘆の声を漏らした。

「いや、そういうこともあるが今日は自分で作ってきたものだよ。
それに、豪華に見えるのはもらい物の弁当箱を使っているからで、
実際凝ったものは入っていないよ」
「それでも凄いですよ!自分で作れて、栄養管理も出来るなんて。
・・・それに比べてあんたは」
「な、なんだよ」

 話を振られた聖の手には調理パン。
それでも、ラインナップが焼きそばパンやカレーパンなど購買部では売れ筋の商品であるあたり、
人ごみを掻き分けて(というよりなぎ倒して)目的のものを手に入れる彼女の実力が窺えるのだが。

「フン!栄養管理なんてのはなあ、俺レベルになると意識しなくたって
適当に走りこんでりゃあ後は身体ん中だけでナントカできるものなんだよ!
その証拠に見ろやこのプロポーション!」

 そう言いながら腰を上げて仁王立ちでポーズをとる聖。

「・・・あんたなんか前より太ってない?」
「え?そ、そんなわけ・・・」
「ほらここ。腰の辺りの肉付きが良くなってるっていうか(むにっ」
「うぁほっ!?おま、変なトコ触んなよ!?」

 いきなり腰の肉をつままれて聖が妙な声で悶える。
その様子にツンはなんとも意地の悪い笑みを浮かべている。
556 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(岡山県)[sage]:2011/12/06(火) 22:00:33.10 ID:6Xu69plKo
あの日以来、僕と彼は奇妙な早朝を繰り返し楽しんでいる。だからと言って直接顔を合わす事はない。
僕自身、この行為に背徳感を感じているからかもしれない。
あわせる顔が無い。っていうのはこの場合を言うのだろうか。
変態的な趣味。相手も十分変態だと思う。しかし、分かっていても分かち合うのが怖いのだ。
最悪、突き放されるのが怖いのだ。

「「はぁ・・・はぁ・・・・」」

最後にもう一度「はぁ・・・」と息をつく。壁越しに「ふぅ・・・」と息遣いが聞こえてくる。
一つ隔てた壁に男子生徒がいる。僕の体と排泄行為を視姦している存在。
僕に快感と安らぎを与えてくれる存在。
壁越にいる男子生徒・・・男性に対し、壁に右の手のひらを当てて摩ってみる。
手には冷たくてつるつるとした感触しか伝わらず、相手に触れる事は出来ない。
僕は彼に触れたいのだろうか、顔を合わせて何をしたいのだろうか。
元男のこの変態な女を受け入れてもらえるのだろうか。
そんな気持ちが心の中を行き交う。
このままマンネリになって飽きられてしまう前に・・・と気持ちも焦る。
僕は、顔も見えないあの彼に恋にも似たような気持ちでも抱いているのだろうか?
しかし、あの・・・のあの字も口から出てこない。
一体、どうしたら良いのだろうか。
お互いに事を終え、女子トイレには静寂に包まれている。
彼は僕からの指示が無ければ出ることも、声を発することすらできない。

どうしたらいいの?
557 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga ブーンかわいい]:2011/12/06(火) 22:01:07.47 ID:yOgI93Fho
「いいじゃない脂肪は揉むと消費されやすくなるって言うし」
「わひゃっ!?ちょっ・・・やめっ・・・やめろ! お、お前が、そういうつもりならこっちも
・・・うひ!?ってお前・・・沙樹!?なんでお前まで触ってんだよ!?」

 ツンに気をとられていた聖は、別の方向から突然触ってきた藤堂にまたしても不意を
突かれて奇妙な悲鳴を上げてしまう。

「このくらい柔らかい脂肪なら、あなたの場合少し頑張ればすぐ落とせると思うぞ。
まず食生活は野菜中心にして」
「なんだよ!?お前まで俺を・・・くそ・・・!!・・・ってやめろ!まず触るのやめろ!揉むな!うひ!」
「その点俺はツンがきちんと考えて作ってきてくれるから栄養管理にぬかりは無いお」

 内藤がホクホクした顔でそう言うと、ツンの顔が一瞬にして火を噴いたように真っ赤になる。
内藤が手にした大きな弁当はどうやらこのツンが用意しているものらしい。
自分だけならまだしも、他人でしかも異性の栄養バランスまで考えて弁当を自作できる
ツンの腕前に藤堂は素直に感銘を受けたが、相良はどうやら違うものを受け取ったらしい
ことはその鬼の首取ったりとでも言わんばかりの笑顔が証明していた。

「ちょ、ちょっとバカ・・・何言ってるのよ!」
「いつもおいしい弁当ありがとうお、ツン」
「や、やめなさいよ・・・」
「お、なんだよ惚気かよ憎いねえ」
「もう知らないっ!」

 すっかり形勢逆転されてしまったツンは、真っ赤な顔を両手で覆いながら背中を向けてしまった。
それをしつこくつつく聖はともかく、藤堂はふと、背後から自分の腹部を熱心に撫でる両手に気付いた。

「・・・あ、揚羽・・・何をしているんだ?」
「流石です!お姉さま!無駄なお肉が全くついておりません!」

 悪びれる様子も無く、むしろ感動に満ちた目で見つめながらそう言い放つ揚羽であった。

 ちなみに、経口避妊薬の副作用のひとつとして体重の微増が挙げられている事もここに付け加えておく。
558 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 22:01:52.20 ID:6Xu69plKo
とりつけてみるかな
559 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:02:27.88 ID:yOgI93Fho
休憩
560 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 22:04:06.96 ID:6Xu69plKo
こちらは書きながら投下でして、申し訳ない

ややこしいのでトリとけてみました
561 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:07:54.97 ID:yOgI93Fho
じゃあさっさと終わらせたほうがいいかw
つづき。

---------------------





「お前、男とかはいねーのか?」

 焼きそばパンをもしゃもしゃ咀嚼しながら聖が聞く。その言葉に藤堂がむせる。

「げほっ!げほっ!なにを・・・急に・・・」
「お前からそういうの聞いたことないからよ。どうなんだ? つーか大丈夫か?」
「だ・・・大丈夫だが・・・」

 気管に入りかけた米粒を必死に咳き込んで追い出しながら、
藤堂は非常に困惑していた。

 自分の記憶に基づいて言うなら、聖の言う「男」は自分にはいないということになる。
しかし、それはこの世界の沙樹に当てはまることではない。
なぜなら、この世界の沙樹の「男」が、本人の言を信じるなら宗像であるからだ。
だから聖の質問に対して答えるなら「いる」というのが本当のところなのだろうが、
その回答を自分の記憶とプライドが邪魔している。自分に「男」がいるなどということが、
まず受け入れがたいことだった。しかし・・・。

「・・・いる・・・」

 嘘をつくことをこそプライドが許さなかった。
しかし、そう口にした瞬間先ほどまでとは比べ物にならない羞恥が自分の頬を染めるのを感じて、
顔を上げていられなくなった。

「ん? なんだ赤くなってんのか? へへへ」
「そんな・・・お姉さま・・・!!」
「本当に? 誰なんですか?」

 藤堂の反応を見て明らかに楽しげになる聖と、それとは対照的にその目に涙さえ浮かべ、
驚愕の表情で両手で口元を覆う揚羽。そして身を乗り出して聞きに来るツン。
ホクホク弁当を頬張っている内藤。微妙な顔のドクオ。

「そうだよ、どこの誰なんだ? その幸運なヤツ。紹介しろよ。へへへへ」
「そ・・・それは・・・」
「嘘です!お姉さまは私と姉妹の誓約をしたんです!
それを裏切ることなんてありません!」

 ニヤニヤしながら迫って来ていた聖を押しのけて、
揚羽が体当たりせんばかりに藤堂の胸に抱きついてくる。
姉妹の誓約・・・なんてしただろうか・・・藤堂には思い出せないが、
恐らく揚羽に対して「お姉さま」と呼ぶことを許したことが彼女の中でそのように
解釈されているのだろう。そしてその後ろから、気にした様子もなくにじり寄ってくる聖。
562 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:09:15.77 ID:yOgI93Fho
「へっへっへ、いつからなんだ? もうやることやってるんだろ?」
「しゅ、週何回くらいするんですか・・・?」
「いやぁー!! 聞きたくない!!」

 にじり寄る聖に、何故か便乗してきたツン。耳を塞ぎながら藤堂の膝の上から
どこうとはしない揚羽。揚羽がどかないせいで藤堂は逃げたくても逃げられなかった。

「あ、あの・・・し・・・してない・・・」
「あぁん? なんだって?」
「ま・・・まだ・・・してない・・・」

 いや、実を言うとそんな確証は無い。この身体の持ち主たる沙樹の記憶から、
宗像と恋人として過ごしたという記憶だけが欠落しているためである。しかし、
その記憶が無い以上、せめてその経験は無いのだと解釈したい。
いや、もしかしたら宗像と恋人同士だということ自体が宗像得意の出まかせかもしれない。だとしたら、先ほど認めてしまって損をした。

「え、じゃあお前、処女か?」

 はっきり言われて顔から火が出たような気がした。あまりの羞恥に今度は意識が朦朧としてくる。

「あ、ある意味すごいですね。このご時勢、恋人がいてそれだなんて」
「当たり前です! お姉さまはあなた達と違っていかがわしいことはしないんです!」

 引きつった気まずげな笑みを浮かべながら述べたツンと、
何故か胸を張って大見得を切った揚羽。

「じゃあ、キ、キスくらいは行ってんだろ? なぁ」
「いやあああああああああああやめてえええええええええええええええ!!!!!」

 聖の言葉に、またしても悲鳴を上げながら藤堂の胸にぶつかってくる揚羽。
ほとんど気絶しかけていた藤堂は、その勢いに押され、
抱きついている揚羽と共に後ろに向かって倒れてしまう。青空がやけにまぶしかった。

「なあ、キスはどうなんだよキスはなあ」
「ちょ、ちょっと聖、それくらいにしときなさいよ」
「いやあああああああああああああああああああああああ」

 仰向けに倒れて赤い顔に虚ろな目で天を仰ぐ藤堂に、尚も追い討ちをかける聖。
流石に止めに入ろうとするツンと、藤堂に覆いかぶさったまま泣き叫ぶ揚羽。

「わ・・・わからない・・・」
「あー? なんだって?」
「やめてええええええええええええええええええええええええええええ」
「・・・わからないんだ!!」

 叫んでしまってからはっと気が付いたが、時既に遅し。三人どころか、
後ろの男子二人までがぽかんとして藤堂を見つめていた。
どうしていいのかわからなかったが、言ってしまったものは仕方がない。
もう腹をくくるしかないのだと思い、藤堂は起き上がって、
うつむいたままぽつりぽつりと話し始めた。
563 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:10:35.11 ID:yOgI93Fho





「・・・よくわかんねーんだが、つまり記憶がないって事か?」

 藤堂の話を一通り聞いた後、聖は首をひねりながらそう尋ねた。

「・・・少し違うかもしれない。でも・・・ここにいる私は、
それまでここにいた私とは違う人間だと思うんだ」

 宗像に対してした程正直に全ての事情を明かすことが出来たわけではない。
ただ、この学校やこの町での生活に関する記憶があいまいで欠落した部分も多いこと、
それから自分の中に別の自分の記憶があることを伝えた。それに加えて、
宗像があの日挙げてくれた意見も。

「パラレルワールド・・・」
「信じがたい話だお・・・」
「想像つかんな」

 ツンも内藤もドクオも藤堂の話を判断しかねているようだったが、
半信半疑という点では一致しているように見えた。それも当然だった。
勢いとは言え、藤堂はこんな話をしてしまったことを悔やんだ。
なにせ、最近では藤堂自身もこの話に若干半信半疑になっていた。
この記憶は、自分が無意識に夢見ていたことが何かの拍子に元々の記憶に
取って代わったのではないか。この記憶は全て妄想で、本当は自分は藤堂魁ではなく
この世界の藤堂沙樹だったのではないかと。

「・・・信じる」

 藤堂が顔を上げて聖を見ると、彼女はもう一度「信じる」と言った。

「聖、本気で言ってるの?」
「うん。信じる」

 ツンが問いかけても、聖は意見を曲げないようだった。
その目には迷いも無いように見えた。

「・・・いいんだ、聖。私の一時の気の迷いかも知れないし・・・」
「うるせぇな。信じるものは信じるっつってんだよ」

 たまらなくなって藤堂が言っても、聖はむしろ頑として聞き入れなかった。

「俺が本当だと思うことは本当なんだよ。証拠は俺の心だ! 文句があるなら言ってみろ!」

 立ち上がってそう言い放った聖に、もはや誰も言い返すものはなかった。
いや、次の瞬間に立ち上がる者がいた。

「だ、だったら私も信じます! お姉さまは嘘なんて言いませんから。
でも勘違いしないでください。相良さんのことは信じてませんから」
「な、なんだとてめー」
「揚羽・・・」

 ぷいっとそっぽを向いた揚羽に聖が掴みかかりそうになるが、
すかさず止めに入ったツンに宥められてなんとか思いとどまる。
564 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:11:28.06 ID:yOgI93Fho
「そこまで言われたらあたしも信用しないとね。でも何が出来るかしら」
「俺も信じるお」
「・・・;」

 ・・・なんだろう。すごく、うれしい。

 ふと、腕に揚羽がしがみついて来るのに気付いた。
彼女も、自分を信じると言ってくれた。藤堂はそのことが素直にうれしかった。
この気の良い連中に、何か返すことは出来ないだろうか。無意識に揚羽の頭を撫でると、
彼女は一瞬驚いた顔をして頬を赤らめたが、その後顔をこちらに真っ直ぐ向け、
何かを待つように目を閉じた。

 ・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

 ・・・・・・・この娘はやっぱり、何かがおかしい・・・・・・・。

「お前の意見に異論は無いが相良、藤堂先輩のために何かするあてはあるのか?」

 ドクオがそう切り出す。

「なもん、あるわけねーよ」

 しれっとそう返す聖に、一同は腰からずるっと転げた。

「じゃ、じゃあどうするんだお。信じただけじゃ助けにはならないお」
「無いモンは無いんだよ。これから考えればいいじゃねーか」
「うーむ・・・じゃあこういうのはどうだ?」

 提案するドクオに、一同の視線が集まる。
彼は満足げににやりと不遜な笑みを浮かべると、おもむろに口を開く。
565 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga 焦る焦る]:2011/12/06(火) 22:12:29.29 ID:yOgI93Fho
「ここに飛ばされてきた理由が藤堂先輩の悩みだとしたら、
その悩みをこの世界で解消してみればいい」
「私の悩んでいたこと・・・」

 これに近い案は宗像から既に出ていた。もうひとつ言うと、藤堂の迷いの多くはあの夜、
聖の言葉で吹っ切れてしまったと思う。つまり出来る事はもう無い。

「藤堂先輩は記憶がところどころ欠落していると言ったよな?
だったら鍵は、その欠落した部分にあるかも知れんぞ」
「そうか・・・!」

 そうだ。

 今の今まですっかり忘れていたが、ここに飛ばされた理由はこの世界の沙樹にある
可能性もあったのだ。ならば、どの記憶を呼び覚ますことから始めればいいだろうか。
いや、その前にどうすれば記憶を呼び覚ませるだろうか?

「もしかして、恋人に関する記憶かな」

 そう言ったのはツン。

「他の記憶はまだら状にだけど残っているのに、恋人に関する記憶だけ全く消えてるのは
おかしいわよね。だったらそこに、鍵が隠されてるんじゃないかしら」
「流石ツン。冴えてるんだお」
「ばっ、ばか!こんなの、当たり前じゃない!」

 内藤の言葉に顔を真っ赤にするツン。彼女も実はわかりやすい性格なのかもしれない。

「ふーんそっか」

 相槌を打ちながら特に要領をつかめている様子は無い相良。

「でしたら、その記憶の手がかりはやっぱりお姉さまの恋人がいやああああああああああああああああ!!!!!」
「い、いきなり大声出すんじゃねえよ!」

 揚羽は自分の言葉に悲鳴を上げた。

 恋人・・・本人の言に従うなら、鍵を握るのはあの宗像巌ということになる。
566 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:14:29.52 ID:yOgI93Fho
「宗像が・・・」

 藤堂は無意識にそう口にしていたが、五人の視線が自分に集中していることに
気付いてはっとする。

「宗像?誰だそれ?」
「宗像さんって、生徒会選挙とかでよく推薦人やってる、あの大きな人ですか?」
「そんな・・・宗像先輩だったなんて・・・!!」
「あ、えと、うん・・・」

 返事をしながら両手で顔を覆っていた。凄く熱くなっている。
こんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてかもしれない。
この中では一番自分が年上なのに、先輩の威厳も何もあったものじゃない。
そんな藤堂の様子に気付いてか気付かずか、聖は残っていたパンを口の中に放り込んで
豪快に飲み下すと、藤堂のほうへ身を乗り出した。それに気付いて警戒した揚羽が
藤堂の腕にきつくしがみつく。

「デートだな」
「・・・え?」

 そう聞き返した藤堂の顔はさぞ間抜けだったろう。しかし聖はそんなことは意に介さず、続ける。

「だから、その宗像とデートすんだよ。ホラ、家帰ったとき、どこに財布置いたか忘れたり
したらまず玄関開けるとこから自分が帰ってきてからの行動をやり直してみんだろ?
それと一緒だよ。お前ももう一回くらいデートしてみたら、なんかの拍子に思い出す
かもしれねーじゃねーか」
「や、やだ!!」

 真っ赤な顔を空いた左手で押さえながら拒否する藤堂の、
いつもの凛とした装いとあまりにかけ離れた狼狽ぶりに、一同はしばし呆気に取られる。
しかし混乱している藤堂にそんなことを気にする余裕など無かった。
むしろ、周囲のこの反応に気づく余裕すら無かった。藤堂の中の、
絶対に他人に見せてはならない部分が顔を出しつつあった。

「い、いや、一緒に出かけるだけなんだぜ? 思い出すための作業な分けだから、
キスだの何だの突っ込んだことは無理してする必要ないし」
「そ、そうよ。もちろん先輩が思い出せばその時点で終わりに出来るんですし」
「だめ!!!デートなんてどうしていいかわからない!!!」

 藤堂のあまりの恥じらいぶりに、からかい半分だった聖もついツンと一緒になって
宥め役に回ってしまう。相変わらず腕にしがみついたままだった揚羽は何故か目を
キラキラさせながら藤堂の頭を撫でていた。
567 :(うДT) ◆nMPO.NEQr6[sage saga]:2011/12/06(火) 22:16:09.45 ID:yOgI93Fho
「どうしていいもなにも、お前は男に任せとけばいいんだぜ? 女をエスコートできて初めて一人前の男って言うかよ」
「そ、そうですよ。宗像さんって頼りになりそうだし、よくわからなければリードしてもらえば」
「だめ!!出来ない!!絶対変なことする!!!」
(なんでそんなに聞き分けがねーんだよ・・・)

 これにはもはや流石の聖も手の施しようが無かった。
真っ赤な顔を上げる事もできない藤堂の長い髪は、
取り乱して首を振りたくったせいで乱れてしまっていた。
そしてその乱れた髪を揚羽が恍惚とした表情をしながら手櫛ですいて整え直していた。
しかし、そんなどん詰まりの状況に一石を投じる男がいた。

「だったら・・・もっと気安い相手で練習を積んでから本番のデートに臨めばいいんじゃないのかい?」

 傍らの大石に腰掛けながらキザな調子で言ったのはドクオだった。

「そ、それは一理あるけどでも・・・相手役はどうするの?」

 一応うなずきはしたものの、最大の疑問を呈するツン。そこで待っていましたと
言わんばかりに不気味な笑みを浮かべるドクオ。
その場の(藤堂以外の)誰もが固唾を呑んで答えを待つ。

「もちろんこの「俺だな!!」

 ドクオの言葉をさえぎって立ち上がり親指を立てて宣言した聖を、
全員が呆然と見つめていた。

「この中で男の中の男といえばもちろんこの俺様だし、そもそも男慣れ自体出来てない
沙樹が本当の男相手でまともな練習が出来るわけがない・・・そうだろ!?」
「「確かに・・・!!!」」

 ツンと内藤がユニゾンしながらうなずく。揚羽がしばらくの間呆気に取られていたが、
すぐに我に返って立ち上がる。

「な、納得いきません!! 女の子相手で練習するなら、
誰よりもお姉さまのことを熟知しているこの私のほうが適任だと思います!!!」

 息せき切って言い切る揚羽だったが、そんなものに負ける聖でもない。
より不遜なポーズをとりながらこう言い放つ。

「ダメだ!お前には男らしさが決定的に欠けている!よってこの役は俺以外に出来ない!!」
「お、お姉さまのためなら身も心も男になって見せます!!
そ、それに、練習の間に記憶を呼び覚ましちゃってもいいんですよね!?
そうして、あわよくば、お姉さまを、宗像先輩の魔の手から・・・」
「なんならこの俺様と勝負してみるか!? 勝った方がこの役を勝ち取るというのはどうだ!!」
「望むところです・・・!!」
「あぁっ、ちょっとあんたたち授業は!? そろそろチャイム鳴るわよ!!」

 止めるツンの言葉もどこ吹く風、二人は盛んに言い合いながらいずこかへ
走り去っていった。後には呆然とした三人が残された。

「・・・・・。あら? 藤堂先輩?」

 藤堂は座った姿勢のまま失神していた。





「オイオイ、俺のことを忘れてもらっちゃ困るぜ;;」

 キザなポーズで腰掛けたまま静かに涙するドクオなのであった。





【つづく。】
568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/06(火) 22:17:01.77 ID:yOgI93Fho
終了おおおおおおおおおおお

ということで正座して糞展開を待ちますwwwwww
569 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/06(火) 22:19:41.47 ID:yOgI93Fho
糞展開とか言ったら煽ってるみたいになっちゃうか

糞野郎氏の投下を待ちますwwwwwwwwww
570 :でぃゆ(ry[sage saga]:2011/12/06(火) 22:20:10.97 ID:9tDx3zPAO
>>560
糞野郎wwwww
あんたは岡山の誇りだよwwwww

全裸待機!!!!
571 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/06(火) 22:27:13.61 ID:yOgI93Fho
自分、ティッシュ追加いいっすか
572 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 22:31:17.49 ID:6Xu69plKo
しかし、こう毎朝だと段々体がきつくなってきた。
男性がイクととてつもなく体がだるくなる。正直受験勉強にまったく気が入らない。
友人には最近寝不足か?受験勉強も程ほどにナ!ぎゃはは!と言われる始末。
就職が決まった友人は勉強から解放されて頭が沸いてるからたちが悪い。
寝る前と早朝の学校の1日二回の自慰に体がへろへろになってきているのだ。賢者モードも役に立たないくらい体が疲れている。
なのに、俺は毎朝毎朝足早に彼女の元へと向かうのだ。
元々俺にはそういう趣味は無かったのだが、彼女に近づきたい一心でここまでやってしまうのだ。
俺自身にも段々と彼女に染まっていく部分もあり、最近ではもっぱら彼女の排泄をフラッシュバックさせながらするか、ネットで調達した盗撮ネタで毎晩ヌクのである。
今回は携帯電話のカメラでその一部始終を撮影してみた。
どうやら、彼女はその方が興奮するらしく、いつもは脱糞後の自慰も、排泄が待ちきれなかったのか脱糞しながら自慰行為に及んでいた。
達するときなど、校舎全体に響き渡ってしまうのでは無いかと思うほどの喘ぎ声を一瞬だけ上げてしまっていた。

(ん・・・・?そろそろ個室を出る頃だと思うんだけど・・・今日は遅いな)

腕時計を確認しつつ5分ほど待ってみたが、彼女からの指示はない。
見放されてしまったかと思って、慌てて仕切りの隙間から彼女の存在を確認してみたが、見慣れた靴がそこにある。
彼女は黙ったまま。立ち尽くしたまま。ただそこでじっとしているようだった。
このまま30分もこの場にいると、早起き組みや、朝練組みが校舎へと入ってくる可能性がある。
このままではまずい。同じ変態行為に及んでいる二人とはいえ、俺は女子トイレに進入した変態男だ。
見つかった場合の立ち位置が不利すぎる。
達したあとの疲れた体だったが、賢者モードの頭で必死に考えた結果、ノートの一部を破いてそこにメッセージを書き、相手の応答を得る作戦に出た。
どうしたの?だいじょうぶ?
と荒っぽく書きなぐって仕切りの下からペンとメモを渡す。
少し間があったが、彼女も察してくれたのかそれを拾い上げてくれた。
返答があるまで更に5分かかった。
彼女から渡されたメモを手に取った。

体が震えた。
573 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 22:47:35.27 ID:6Xu69plKo
彼から渡されたメモを手に取る。

どうしたの?だいじょうぶ?

大丈夫、ありがとう・・・。
僕はそのメモを手にとって心の中で彼の心遣いに感謝した。
お互いの意思に多少の相違はあったものの、今の僕にはそんな真意に気づく余裕はなかった。
いや、気づいていたかもしれない。でも間違いでもよかったとさえ思った。
だから、僕は自分の思いのたけを彼に知ってもらいたくて、こう書いた。

放課後の屋上で
会ってお話がしたいです

僕の気持ちを全て伝えるため、出来るだけ女らしく、優しく書き綴った

「はい・・・」

そういって、気づいてもらえるように声をかけてメモを彼に返す。
恥ずかしい。怖い。顔が真っ赤になっているのだろうか、顔が熱い。足もガクガクいっている。
それでも、ここを動かなければ彼は一生動けない。
メモだけ渡して僕はウエイトを付けたように思い足を動かして、個室を立ち去る。
女子トイレの入り口でかれに「いいよ」と伝えて彼が個室のドアを開けるのを待つ。
個室から出てきた彼がコツコツコツとこちらへ近づいてくる。
僕は彼に背を向けたまま動けないでいた。
彼から返事をもらっていないからだ。

「行くよ。絶対に」

「うん!」

その返事をもらって、ハネのように軽くなった足でその場を後にした。
今回も彼の顔を見ることもなく。
574 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/06(火) 22:59:10.00 ID:yOgI93Fho
待ちつつ風呂
575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国地方)2011/12/06(火) 23:01:08.01 ID:CWWaylFG0
wktkwktk
576 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 23:14:25.42 ID:6Xu69plKo
まだ暑さも残っているとはいえ、夕暮れの屋上は風が心地よい。
これといってお気に入りの場所ではないのだが、俺はここに良く来る。
校内徘徊が俺の趣味なので、ここも当然ルートに入っている。
夕暮れの屋上は人が居そうで居ない場所。俺はそう認識している。
なんたって、昼間に浴びせられた太陽の予熱がまだ残っているからだ。

「まだ、あちーなぁ〜」

誰もいないと思っていて、独り言で心の声をつぶやく。

「そう・・・ですね」

「うわぁぁぁぁ!!」

びっくり仰天。一人きりだと思っていたら、後ろから少女の声が聞こえてきて、独り言を聞かれてしまったという羞恥心より、驚きでみっともない悲鳴を上げてしまった。

「あっあのっ!・・・・せ、先輩だったんですね・・・」

「あぁぁぁぁぁって・・・ん?あ、ああ、俺は3年だけど・・・知らなかったんだね」

「あ、はい・・・。胸のバッチを見るのは初めてだったので・・・」

「そ、そっか・・・」

しばし空白の時が流れる。
彼女からしてみたら、俺の姿かたちを見たことが無いのはあたりまえか。でも、声で分かってもらえたのだろうか。
俺は彼女を見ているから、一瞬で一年である事が分かった。俺の視力は2.0だからな。
彼女の胸もお尻もバッチリ凝視済みだった。

「えっと、自己紹介だけしとこうか。俺は3年の酒井幸雄。君の名前は・・・まだ知らないな」

「すみません・・・ぼ・・・わわわ!私は1年の金辺です・・・」

「金辺さん」

「はっ、はい!」

俺は名前を名乗ったのに、名前が聞けなかったので悶々としてもう一度、名前をたずねてみる事にした。

「下の名前は?」

「・・・・引きませんか?」

「いや、聞いても無いのに引くも引かないも」

「ううっ・・・・ゆぅき・・・有紀といいます・・・男みたいな名前ですよね・・・」

「いいんじゃないかな?君のその容姿に・・・有紀・・・か。うん。似合ってるよ」

577 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 23:29:00.05 ID:6Xu69plKo
目の前に立つ彼は、あっけらかんとしてて、自然で、一般的に言われるイケメンの部類にはいる人だった。
一瞬、人違いかもと思ったが、声が仕切りの先の彼だった。
僕は彼に一体どんな想像をしていたのだろう。変態=ブサメンって結び付けられるわけなんて無いのに。
そして、僕は彼に名乗った。男から女になっても変わらなかった名前を。
親はどっちもいけるように名づけてくれたのだろうが、僕にとっては男の名前という先入観が強くて、女になってからずっとしっくりこなかった。
しかし、彼はそんな僕の名前を似合っていると言ってくれた。
嬉しかった。

「本当ですか!?」

嬉しさと同時に不安もつのって、相手に再度確認する。

「ん?変な事無いぜ?綺麗な女にはなんだって似合うんだよ」

キザ。こんな人だったんだ。
段々と彼の一部を知っていけて、張り詰めていた気持ちも段々と緩んできた。
でもやっぱ、褒められるのは悪くない。自然と顔も緩んだと思う。

「ありがとう」

「ははっ!やっぱかわいいなぁ。必死こいて追い回した甲斐があったぜ!」

「えぇ!?」

追い回すって・・・。
そうだったのか、彼は初めから僕を・・・。

「あは・・あははははは!せ、青春の間違いって事で・・・って、ごほん!で、会って話たかった事って?」

「あ、はい・・・・」

会話の流れで本題を忘れかけていたが、彼の問いかけでわれに返った。
僕は、ここに雑談をしに来たんじゃないのだった。

「いつも・・・朝早くから・・・あああ、ありがとうございます」

「えぇ!?い、いや!こ、こちらこそ・・・」

「あ、あの・・・実は私!!」
578 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/06(火) 23:48:34.20 ID:6Xu69plKo
きた!ついにきた!
俺にとって人生初の告白!
告白した事はあっても、告白されたことはない、俺の人生!
いやいや、顔は自分でも中の上はいくとおもうよ?
でも、俺が時々やってしまう奇行が、どうやら女性を遠ざけていたらしい。
16の時に出来た彼女が初彼女。しかし、焦ってうっかりハメてしまって、大目玉。
ろくに生○ンコを拝む前に金的くらってオジャン。
なんて過去を持っている。それが奇行と認定され、女子にはあまりもてた事はない。
そんな過去を捨て去って俺に、新しい春が来ようとしているのだ。

「あの・・・・私!元男なんです!」

はらら、女体化者だったのか。ふむ、ふむふむ。なるほど、それでああいう興奮の仕方をするのか。ま、俺も相当な変態だ。気持ちはわかるぞ。

「ひ、引きました・・・・?」

可愛らしい顔。美(美形)と優(優しそう)という点グラフで表現すると、二つの線の最高値を示す場所に点が打ってある感じだ。
しなやかな体に、豊満な尻。どれを取っても俺のジャストミートだ。
だから、一目ぼれしたんだろう。
ただし、彼女が元男という点を除いて。
彼女も彼女なりに苦悩もあっただろう。俺にはもう一生体験する事のできない経験なんだろうが、彼が彼女として芽生えるための一線を俺が越えさせてしまったのだとは、俺なりに自覚できる。
勘違い、思い過ごしかもしれないが。

「引いたりはしないよ。それで名前を言う時抵抗が」

「はい・・・・」

彼女は申し訳無さそうに頷く。そういう仕草も、どこと無く男っぽくない。元々男には向かない性格だったのだろうか。違和感がなくて、俺としてはグッドだ。

「俺もちょっとびっくりしてるよ。ある意味告白でびっくりした」

ちょっと期待してましたよっ的な感じで彼女に俺の心中を理解してもらう。

「ううっ・・・で、でも・・・その告白だけじゃないんです!」

彼女がそう言い放った瞬間。彼女の長くて綺麗な髪の毛がなびく。彼女が俺に向かって飛び込んできたからだ。

「ああ・・・やっと触れる事ができた・・・・」

俺はしばし、固まっていたが。こういう、突拍子もない行動が、彼女も俺と同じ奇行を共にする変態である事が理解できた。

「あぁぁぁ・・・・あったかい・・・」

「まだ残暑がきついしな」

少々恥ずかしくて、あえてふざけてみる。

「違います!トイレの壁は冷たかったんです!」

「ああ、そういうことね」
579 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/06(火) 23:55:24.87 ID:yOgI93Fho
wwktk
580 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 00:12:29.78 ID:WL04rEH9o
僕はもう女になっていた。
恋しかったの声と覗きの仕切りを越えてついに男の胸に飛び込んだのだ。
自分の心の隙間を満たしてくる。あの彼に。

「僕の・・・パートナーになってもらえませんか?」

とっさに一人称が僕になってしまった。でも、心中を告白したばかりで今更だ。

「パートナー・・・それって、あっちの付き合いってやつ?俗に言うセフレみたいな・・・」

パートナー。確かにそう取られかねない表現だ。でも、僕にとっては彼女にしてもらうのと、性的な付き合いというものでは同一になる。

「全部・・・彼女にしてもらうのと・・・一緒です。全部一緒がいいんです!先輩とじゃないとダメなんです!!」

先輩に抱かれたまま、沈黙が続く。そして、それを破ったのは先輩だった。

「いいよ。実は俺も一目ぼれだったし。まぁ、元男と付き合ってる奴もそれなりにいるし・・・大丈夫!いけるいける!」

ちょっとひっかかる部分もあったが、自分が元男というところを譲歩してもらっている点では言い返せない。
しかし、多分僕の一生で、この男性しか心を許せそうにない。あんな奇行・・・あの人しか許容してくれないだろうから。

「・・・・ありがとうございます」

「う〜ん。こちらこそ!」

と、いいつつ、先輩は僕のお尻を揉んでいる。我ながら大きいお尻だが、そんなにもみ心地がよいのだろうか?

「く、くすぐったいです」

「うーん。なぁ、有紀」

もう呼び捨てですか。いいですよ。好きにしてください。

「はい、先輩」

「いい場所しってんだ。人気がないトイレ」

「先輩・・・・!」

ぶるぶるっと大きく身震いをさせる。先輩の発した言葉で下腹部が刺激され、膣と言う名の壷にに大量の愛液が滲み出る。
先輩に抱かれているときから、アソコの濡れがひどかたが、この一言でダムが決壊したように膣口から愛液が漏れ出し、太ももにそれが伝うのが分かった。
これから、行われる行為を想像しただけで・・・・

「んんん〜〜〜!!」

先輩のシャツをぐっと掴んで崩れ落ちそうなるのを堪える。

「もしかして・・・・もうイったの?」

「・・・・・ふぁ・・・い・・・」
581 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 00:32:15.64 ID:WL04rEH9o
あれからというもの、徘徊癖のある俺は人気のないトイレを探しては、彼女との行為にふける。
いつものように覗きプレイなのだが、今回は俺の心にはある決意があった。

「はぁ・・・・はぁ・・・ゆきくんもイった?」

個室の向こう側から俺が果てたかどうかの確認がくる。

「いや、今日は無理だった」

「え・・・・ど、どうして!?僕に飽きちゃったの・・・・?」

有紀にはあえて僕と呼ばせている。綺麗な女の子が僕って言うのは結構萌えないか?
ボーイッシュな女が言うのとは訳が違う。このギャップが俺の股間に弾丸を込めるんだ。

「そうじゃないって、有紀。そっち行くから鍵あけな。あ、ものは流すなよ」

「??どうして?」

今までにない俺の行動に、戸惑いながらも了承し、個室の鍵を開けてくれたので、俺はすかさず有紀の個室に忍び込む。

「こうやって見る有紀の格好もなかなかいいな」

「も、もう!はずかしいって・・・」

「なにを今更」

「だって・・・・まって、今すぐお尻拭くから」

そういって、しゃがんだままトイレットペーパーに手をかける有紀に対して、俺はすかさず抱きつく。

「あっ。ゆきくん・・・」

俺は有紀の唇に軽く口付けをしたあと、それをディープキスの合図として舌と舌を絡み合わせる。

「んっ・・・・」

ぴちゃぴちゃくちゃくちゃじゅるじゅるとお互いの愛を確かめるように、互いに舌の絡みを確かめあう。
時折自分の唾液を有紀に移し、ご返杯カのyおうに有紀からも唾液のお返しが来る。

「あんっ・・・・ゆきくん・・・・はげしっ」

「もう、入れる」

堪らなくなった俺は、ここぞとばかりに有紀を見つめて目で訴える。

「ゆきくん・・・・ホテル代溜まるまでしないんじゃなかったの・・・?」

「いいんだ。俺たちには女子トイレがお似合いなんだよ。有紀のうんこ見ながらやりてぇ!」

有紀の体がぶるぶると大きく震えた。
582 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 00:48:37.96 ID:WL04rEH9o
「なんか、前戯なんていらなそうだな」

それはそうだ。さっきの言葉で僕のアソコは大洪水になっているから。

「うぅ・・・・すごいよ・・・・あそこのムズムズがすごい・・・」

「やっぱ最初はいてぇっかなぁ・・・・いいか?」

初挿入は、緊張した筋肉を無理やりこじ開けるようなもの、と聞き伝えられている。
鼻の穴に試験管をつっこむようなもの、と聞き伝えられている。
けれど・・・・アソコが熱いんです。ずっと、ずっと・・・・入れてくださいって思ってます。

「いいよ・・・・ゆきくんのいれて・・・」

ゆきくんが入れやすいように、個室の壁に両手をついて、腰を突き出す。
我ながら立派なお尻をわしづかみにされる。

「よし、まずは俺がケツの穴をふいてやるよ」

「え?い、いいの?」

「ずっと前からやろうとおもってたんだ」

「うれしい・・・・ゆきくん大好き!」

「はいはい」

ゆきくんはトイレットペーパーを巻き取るのに気を取られてか、大事な返事を生返事で返す。
それでも、やっぱり嬉しいので、ゆきくんにばれないように顔を膨らませてお尻を突き出す。

「ゆきくんくすぐったい」

「がまんしろっつの」

「でも、幸せだよ」

「・・・・俺もだよ。大好きだぜ」

「僕も!」

どうやら僕のお尻が綺麗になったらしく、ゆきくんが「ふぅ〜」と満足げに息をつく。
この瞬間が幸せすぎて、僕の子宮がさらにキュンとなる。

「また濡れたな。また尻ふいてやるからな」

「ぬ、濡れてない・・・・もん」

583 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/07(水) 01:04:20.60 ID:e9fns6Z6o
F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5
584 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(中国・四国)[sage]:2011/12/07(水) 01:24:45.62 ID:Q3uCj1WAO
清々しい程にエロい!
いいぞもっとヤれ!
585 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 01:42:27.02 ID:WL04rEH9o
このまま有紀パートでいきます

今度はお尻ではなく、アソコの方を開くようにゆきくんの指が移動する。
初めて他人にアソコの周辺を触られて、さらに子宮がキュンとくる。

「入れるぜ?ゆっくりいくからな」

「う、うん・・・・ちょっとずつ・・・お願い・・・・」

ゆきくんの亀頭が僕の割れ目の中へ這わされ、上下にうごめく。
そ、それはだめ・・・・く、くる!
中から・・・中からなにかくる!
とおもうと、僕の子宮口を見つけたのか、そこを目掛けてゆっくりと肉棒が押し込められていく。
中から何か来そうになったのが中断され、下腹部に緊張が走る。

「んん!!!いた!痛い・・・ま、待って・・・・」

「有紀、すこしリラックスしろって・・・・」

「リラックスって言っても・・・・無理だよ・・・・」

しばし沈黙があった後、ゆきくんの口が開いた。

「いつも思うんだけどさ、有紀のうんこって太くて、大きくて、長くて・・・・そんでもって、いい臭いだ。毎日毎日有紀の見てきたけど、今日のは最高のだな」

「ゆきくん・・・あっ!」

ゆきくんに自分の出したものを褒められて、顔がほころぶ。なんだか少しリラックスできたような気分になって、全身の力が抜けていく。
すかさずゆきくんの肉棒が少し奥くに押し入れられる。
何度か体と膣内をほぐされながらゆきくんの肉棒がスローモーションのように出し入れされていく。
肩の凝りがほぐされて行くように、僕のアソコが少しずつ熱さを帯びていく。
そして、ついに待ちに待ったものが来た。
体の底からこみ上げてくるような熱いものが。

「ふん・・・あっ・・・・き、気持ちいいよ・・・良くなってる・・・!」

「そ、そうか・・・・それじゃあ、ちょっとずついくぞ・・・!」

ほんの少しずつとはいえ、男の時の自慰や、クリオナと比べて性質が全然違う。
ゆきくんに動かされて中を往復されると考えただけで・・・・!

「あっああん!」

言いようのない気持ちよさが全身へ走って、戻されて突きなおされる度にそれが全身へ走る。
とめどない快感に足がガクガク震えて腰が落ちそうになる。


586 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/12/07(水) 01:58:52.57 ID:UPQvX4iAO
いつかの703氏っぽいなぁ
587 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 02:03:27.78 ID:WL04rEH9o
「た、立ってらんない・・・あうっ!ゆきくんっ!ゆきくん!」

「はぁ・・・はぁ・・・しかたねぇなぁ・・・・これでしっかり吊るしてやるよ」

僕の足に伝った愛液を指で絡め取ると、そのまま肛門に塗りたくっているのがわかる。

「はぁ・・・はぁ・・・・ゆきくん!お尻・・・お尻!」

ツプ

「あっあっああああああああ!お、おしりぃ〜〜〜!!」

ゆきくんの指が僕のお尻に入る。肛門に熱くて排便を伝える感覚が迸る。
そのままゆきくんの指が僕の膣側へグニグニと圧迫をかける。

「あっあっ!ああぁぁああぁぁ!すごい!すごいよぉぉぉ!うんちしながらえっちしてるみたい・・・!」

「はぁはぁはぁ!そ、そうか!」

ゆきくんは指を動かしながら腰を振るのに必死なのか、一言相槌をうってまま一心不乱にその行為を繰り返す。
僕のお尻と下腹部に何かこみ上げる。
入れられる前にやってきたあの感覚に再度襲われたのだ。
来る・・・何か来る!凄いのが来る!

「あっ!あああっ!ゆきくん!くるっ!何かくるっ!ああぁぁぁいくん〜〜〜!!ああっ!いい!いいっ!いいいいいいっ!!・・・・・・あふぅっ!!あぁぁ・・・・っ!」

全身がびくびくと震えながら、頭が真っ白になっていく感覚に襲われて、そこから落ち着くまで何が起こったのか正確に表現できない。

「はぁ・・・・あぁぁ・・・・ゆきくん〜〜〜」

「はぁはぁ・・・・やべっ!い、いくぞっ!」

「あはぁぁ・・・あうぅぅぅぅ!!ゆ、ゆききゅんも いっいっへぇぇ!」

「うあっ!!」

ブッ!ブブブブ!!ビチビチビチ!

中出しを避けて、指と肉棒を抜いて僕のお尻に温かいものが飛び掛るのと同時に、僕のお尻からゆるい便が飛び散る。

「はぁ・・・はぁ・・・ごめんね、臭うね・・・・」

「大丈夫だって。これも含めて有紀だろ?」

「んふぅ〜〜〜ゆきくん〜〜〜!」




588 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 02:25:35.35 ID:WL04rEH9o
「家の前まで送ってくよ」

「いいの?ゆきくん。勉強はいいの?」

「いいのいいの。やることはやったし、今日の明日じゃどうにもなんないって」

「・・・・ごめんね」

奇妙な関係からはや数ヶ月。初めはお互いに下心のある関係だった。
けれど気が付けば秘密を共有し、今では彼氏と彼女の関係にまで至った。
元男だとかどうとか今ではもう気に留めてはいない。
ゆきくんが男の体で、僕が女の体で。お互いに求める性が一致すれば成り立つ関係もある。
そこから芽生える気持ちもあるわけで───

「ゆきくん?」

「ん?」

「ありがとう」

「いいよ」

「うんっ!」

僕はゆきくんの気遣いが嬉しくて、ゆきくんの腕に絡みつく。

「ゆきくん、あったかい。もう、あの冷たい壁と違うんだよね」

「なにを今更」

「思い出にひたってるの」

「お前、最初から女で生まれてくればよかったのにな」

僕もそう思う。けれど、けれど、それだったら僕は普通の女の子だったはず。普通の恋愛をして、普通の人と付き合っていた。
ゆきくんとは会えなかったはず。こんな、こっちもアッチも幸せになれなかったかもしれない。

「うんん。僕は僕でいいの。ゆきくんもゆきくんでいいの。昔がある今がいいのっ」

「そっか、俺もだ」

「ほんとにそう思ってるのー?元男ですみませんでしたっ!」

「おいおい、そんな風にいったんじゃないってのっ!」

「ふーん」

「だーかーら──」


『くさいカンケイ』

──おわり──
589 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(山陽)[sage]:2011/12/07(水) 02:27:18.43 ID:UPQvX4iAO
乙でした
590 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/07(水) 02:30:47.69 ID:WL04rEH9o
おわりました

応援していただいた方、ありがとうございます
これで安心してうんこして寝れますwwww

(うДT) ◆nMPO.NEQr6さん
これから読ませてもらいます
実はずっと前から読んでたんだからねっ!

でぃゆ(ryさん
大都会岡山のトイレも洋式だらけになってしまいました
パートナーに糞させようにも、えらびづらくなってます


へヴィーな糞ねたは出来るだけ控えました
次はふつーのエロスでいきます
まぁ、絶対変態プレイになるんですけどね
591 :でぃゆ(ry[sage saga]:2011/12/07(水) 02:32:32.62 ID:Q3uCj1WAO
最高だ!!まったくもって最高だッ!!

乙ぐっじょぶでございましたッ!!
592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/12/07(水) 03:56:45.46 ID:IA9PHI9So
狐耳っていいよね・・・
593 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(広島県)[sage]:2011/12/07(水) 07:03:29.67 ID:prvkYMe6o
>>568
もう萌えすぎて死んじゃうwwwwwwwwww
続きが待ち遠しすぎて夜も眠れないwwwwwwww

>>590
遺憾なくエロネタを書き上げるあなたに尊敬してしまう。エロネタ書きたいけど技量不足でできません><
次も待ってます

594 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/07(水) 07:17:31.35 ID:A4czWG5AO
糞野郎氏の人気に嫉妬wwwwww
乙です!クソ最高でした!

「俺たちには女子トイレがお似合い」には不覚にも笑ってしまいましたが、笑ってしまって良いところだったのだろうか…
次回作にも超期待です!
595 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)(千葉県)[sage]:2011/12/07(水) 08:38:46.66 ID:e9fns6Z6o
>>590
アブノーマルだけどちゃんと恋愛してるとこがいいなwwwwww
だが一番気に入ってるのは変態なところ
シリーズ化期待!
596 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)2011/12/07(水) 15:09:52.13 ID:izxrhrha0
久々に見にきたら糞話wwwwwwwwwwwwww
でも・・・超GJでした。

次回作にwktk
597 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/08(木) 07:08:03.98 ID:GlVCdA1Xo
前回更新から今日までまとめてみました
一気にやったので抜けなどがあったら指摘plz
598 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/08(木) 07:08:36.78 ID:GlVCdA1Xo
なんだこの名前
599 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/08(木) 11:50:21.60 ID:UuFI3cr9o
どうみてもコミケですほんとうにありがとうございました
600 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/09(金) 23:14:45.09 ID:mjQPJpCPo
>>597
まとめ乙でした。◆suJs/LnFxc氏の作品が抜けがあるようですけど・・
601 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/10(土) 11:12:45.57 ID:2newO9foo
>>600
オウフ
どの作品でしょうか?
602 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/10(土) 13:30:23.54 ID:Tg3HN4Luo
>>601
すみません、ありました・・
603 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/10(土) 13:34:43.64 ID:2newO9foo
>>602
良かったwwww
604 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:00:24.93 ID:bwLvZcxq0
こんばんわ。
先週の続きを投下します。
605 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:07:02.16 ID:bwLvZcxq0
確かに、馬乗りで床に押し付けられたりするような手荒な真似はされなかった。…が。

「おいいい!何で手錠かけられなきゃいけねーんだよ!」
『また逃げ出したらたまらないからね。安心して、サイズ測るときには外してあげるから!』
「に、西田ちゃんは身体は小さいけど、気は人一倍強いみたいだねぇ!君みたいな娘が私の作った衣装を、き、着れば、着れば…!
 ギャップでヤバいことになるよ!主に私が!」
「アンタがかよ!部長ならもっとしっかりして下さいよ!」

後ろで手錠をかけられ、ギャーギャー騒ぎながら、再び部室の前へ。

『西田も捕獲されたぞ!』
『気の強いにょたっ娘が屈辱に耐える顔…!最高だ!生きてて良かった!」
『おい、写真撮っとけ!こんなチャンス2度と無いぞ!』

好き勝手言いやがって。
マジで見世物小屋にぶち込まれた珍獣の気分だ。

護送される凶悪犯のような扱いで、元の席に座らされる。
一瞬手錠を外されたと思ったら、今度は両腕に1個ずつ手錠をかけられ、椅子のパイプに連結されてしまった。
隣で同じように座らされている菅原と目が合い、思わず苦笑いする。

「何だよ、折角逃がしてやったのに戻ってきたのか?」
「…すまん、捕まっちまった。あ、アイツらがどうしても俺のウェイトレス姿を見たいって言うから…!」
「ふぅん…。あのイケメン、お前の彼氏か?何だよ、やるなぁオイ!」

部室のドア付近から、満面の笑みでこちらに手を振っている涼二と典子を見る。
それを一瞥した菅原が、ニヤニヤしながら肩で俺を小突いてくる。

「ちげーよ!誰があんなヤツの女になるかっつーの!あれはただの腐れ縁の幼馴染だよ!」
「何だ、そうだったのか。んじゃ、オレがあのイケメン狙おうかな。今、彼氏欲しくてさー!」
「はあ!?だ、ダメだダメ!ダメに決まってんだろそんなの!」
「おやおや?顔真っ赤にしちゃって。何で彼女でもないのに必死になってんのかなーっ?」
「…あ、別にダメじゃなかったわ。す、好きにしたら良いんじゃねぇの?うん…」
「そんな泣きそうな顔で言うなよ。冗談に決まってんだろ?」

まんまと誘導尋問にハメられた。
つーか俺は俺で、何を言ってんだ?何で反射的に否定したんだよ!
しかも泣きそうとか…!

「はーい!じゃあ全員揃ったから、サイズ測定始めるよー!」

変態部長がニコニコ顔で前に立ち、サイズ測定の説明を始めた。
危ねぇ、これ以上菅原に突っ込まれたら余計にボロが出るところだった。
今ならほんの少しだけ、あの変態に感謝してやっても良い。

「我が手芸部では普段から衣服を作ったりしているので、試着室が完備されてるの。全部で4室あるから呼ばれた人は順番に、
 中に入って下さいねっ。念のため部室の外の人たちは、お引取り願います!」

どうやら今の部長は賢者タイムらしい。
この状態ならば、割とまともに見えるんだが…。

「忍ーっ!教室で待ってるからな!」
「大人しくしてなきゃダメだよー?」

野次馬と追っかけが渋々引き上げていくのと同時に、涼二と典子も去っていった。
トラブルを避けるために人払いをしたらしいが、そもそも一番危険なのは当の手芸部たちだろ…。

「本当は私が一人一人サイズを測りたいんだけど…そ、そうすると時間が足りなくなっちゃうから…!私と部員ちゃんたちで手分けして、
 4人ずつやりたいと思います!ああ、ああああッ!全員ッ!全員私がこの手で測りたいのにッ!い、一日が48時間あれば…!」
『部長!それは自分だけずるいじゃないですか!』
『そうですよ!私たちだってにょたっ娘と戯れたいんです!』

…短かったな、賢者タイム。
606 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:14:10.52 ID:bwLvZcxq0
最初の4人が呼ばれた。
その中には武井も含まれている。
先程脱走しなかった武井を除く3人は、手錠を外された瞬間に両脇をがっちり固められ、試着室へ連行された。
3人とも、不安げな表情でこちらをチラチラと振り返っている。
変態と密室でマンツーになるんだから、当然だよな…。

皆が息を潜めて、カーテンで仕切られた試着室を見守っている。
暫くすると、衣擦れの音とともに、部長の声が聞こえてきた。
部長の試着室に入ったのは…武井だ。

「はぁ!はぁッ!!武井ちゃんも、い、良い乳しとるのう!!脱がすよ?脱がしちゃうよ!?ふひ、ふひひひッ!」
「ぶ、部長さん?友人の小澤が世話になっていて言うのも気が引けますが、この行為はサイズ測定とどんな関係が…きゃぁ!?あっ、…!」

…武井?
アイツがあんな声出すなんて、聞き間違い、だよな…?

『ふふ、やっぱりにょたっ娘は感度が良いねぇ。ここ、硬くなってるよ?んー?』
『やだ、やめて下さい…いやぁ!ぅッ…!』

部長以外の部員が受け持っている他の3室も、概ね似たような状況だ。
聞き間違いじゃない。悲鳴とも嬌声ともつかないような声が聞こえてくる。

ここにいたらヤバい。俺の本能が、爆音で警鐘を鳴らしている。
百歩…いや、一億歩くらい譲って、あの衣装を着るのは良いとしよう。
だが、この状況は何だ?あそこで何が行われている?

『おいおいおいおい!何やってんだよあの中!?』
『こ、怖いっ!何ここ怖い…っ!』
『手錠…!は、外れない…ッ!』

部室内は、一気に騒然となった。
皆、何とか手錠を外せないかと必死にもがいているが、ガチャガチャと無機質な音を奏でるだけだ。
607 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:17:42.32 ID:bwLvZcxq0
『こうなったら、椅子ごとでも良いから逃げなきゃ…!』
『そうだね!に、逃げよう!』
「西田、オレたちも…!」
「ああ、逃げるぞ!」

椅子を持ち上げて、フラフラと出口へ向かう。
手錠の鍵は手芸部員が持っているが、どうやって外すかなんて考える余裕は無い。
今は逃げるんだ、もう一度…!

『おーっと、逃がさないってば!』
「だあああああッ!またこいつらかよ!?」
『このっ、どけよ!どいてくれ!』
『はいはい封鎖封鎖!』
『お、お願いします!土下座しますから!今は通して下さい!」

またもやシールド女に出口を塞がれた。
手を後ろに回された状態で、更にケツに椅子をくっ付けていては、とてもシールドを突破など出来るはずもない。
あっさりと押し戻されてしまう。こりゃ詰んだな…。



皆が刑の執行を待つ死刑囚のような面持ちでうなだれて、少し経った頃。
最初の4人が解放された。

「サイズ測定が終わった人から解散してくれて構いませんからねーっ。じゃあ次の4人、名前呼ぶからね!」

部長たちの顔が妙にツヤツヤしているのが気になってしょうがない。
部長と部員たちは名簿を見ながら、自分が受け持ちたい女体化者を巡って言い争っている。
一方、解放された武井たち4人は…解放された喜びに浸ることなく、全員顔を赤らめて俯いている。
そのまま、一言も喋らずに退室してしまった。
ちなみにシールド女たちは器用に退室する4人が通るスペースのみを作り、どさくさに紛れて逃げようとした連中をブロックしていた。

『ねぇ…あの子たちの様子、普通じゃなかったよね?』
『やっと女の生活に慣れたのに、今度は変態女に身体を弄ばれるのかよ…何なんだよ俺の人生…』

嘆き悲しむ女体化者たち。
菅原も、憔悴しきった表情で黙ってしまった。
食われるのを待つだけの餌かよ、俺たちは…。
608 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:20:00.64 ID:bwLvZcxq0
4人、また4人と呼ばれていき、ついに俺たちの番が回ってきた。
ちなみに小澤は手芸部なだけあって、サイズを把握されているのだろう。今回、測る必要はないらしい。

「西田…短い付き合いだったけど、お前のことは忘れねぇぜ…」
「あの変態部長にさえ当たらなければ、何とかなると思うんだ…。他の部員ならまだ、気合で耐えられる気がする!」
「そ、それもそうか。確率は1/4だ、オレかお前のどちらかが引いちまっても…恨みっこなしでいこう」

あの部長だけは絶対に嫌だ。
試着室は4室あるんだ。部員も普通に嫌だが、最悪あの部長にさえ当たらなければ、まだ救われる…!
そうだな、あの地味な感じの子ならマトモそうだ。あの子が良い!

どうやら人選が決まったらしい。
部長が口を開く。

「はーい!じゃあ…次の人、名前呼ぶからねっ。菅原ちゃんは私!次は…」
「よっしゃああああッッッ!!」
「なん…だと…?」

助かった、良かった…ッ!
ガッツポーズをしたいところだが、手錠の存在がそれを許さなかった。残念だ。
菅原には悪いが、一番厄介な人物の相手は任せよう。

どうやら、俺を受け持つのは例の地味な子らしい。
部長じゃないと分かって、随分気が楽になった。その途端に、この地味な子が天使のようにすら見えてくる。
可愛い方だと思うのだが、化粧っ気が無く、何というか…覇気も無い。地味可愛いとでも言っておくか。
身長が俺と同じくらいなところには親近感すら沸く。
ほんのり頬を染めて俺をチラチラと見てくるが…その行為にどんな意味があるのかは、考えないようにしよう。

「…西田君。宜しくお願いします」
「へっ?あ、あぁ!」

声ちっさ!
身長だけじゃなくて声もちっさ!
しかし地味とは言え、変態手芸部の部員なのだから、多少のボディタッチくらいは覚悟する必要はあるが…。
あの部長よりは数千倍マシだ。

「手錠かけられるなんて、嫌でしたよね…。今、外しますから。逃げないで下さいね?」

手錠を外し、遠慮がちに腕を取ってくる。
何もかもが強引で滅茶苦茶な手芸部に所属しているのに、この子だけ随分マトモだ。
今日はとことんツイてないと思ったが、最後の最後で救われたか。

「あは、あははは!西田ちゃんも他の娘も捨て難かったけど、きょ、今日は菅原ちゃんで!楽しみだねぇーっ菅原ちゃん!」
「ぎゃああああ!全然楽しみじゃねえええッ!」

俺の横で菅原が絶叫しながら、椅子ごと試着室へ連行されていった…。
609 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:22:00.14 ID:bwLvZcxq0
「二人っきり、ですね」

試着室へ入ると、地味な子が恥ずかしそうにそう言った。めんどいから地味子で良いか。
この試着室に限って言えば確かに二人っきりではある。
一畳ほどしかない狭い空間。奥の壁には姿見が取り付けられている。

「まぁ、外に大勢いるけどな。ところで、アンタは手芸部にしては唯一マトモな…」
「…西田君。私、2年生です」

少し悲しそうな顔をされる。
直接言葉には出さないが、その表情から「お前年上だと思ってねぇだろ」という抗議の意思を感じ取れる。
地味で大人しそうだから、こっちのペースに巻き込めばスムーズにサイズだけ測って解放されるだろう。
そう目論んでいたのだが…失敗した。この地味子は先輩だったらしい。
何故か俺に敬語だし、その身長も相俟って勝手に同学年と思い込んでいた。
この学校の制服は全学年共通だ。リボンの色を変えるとか、分かりやすい目安が欲しい。
俺だって相手が先輩と分かれば、無理矢理タメ口でまかり通るほど、非常識な人間ではないのだ。

「こ、これはとんだ失礼を…てっきりタメかと思いまして」
「身長のせいで、よく1年生と思われるんです。西田君は…私と同じくらいの身長ですね。苛められませんか…?」
「苛められると言うか弄られると言うか…。俺の場合、元の身長がそこそこあったんで。ギャップが激しいんですよ」
「ちびっこ同士、仲良くしましょう」
「は、はぁ…」
「でも、お乳は西田君の方が大きいです。羨ましいですね」
「お乳って言い方は卑猥じゃないですか!?」

何だこのテンション…やり辛いぞ…。

「ちょ、サイズ測るのにブラ外す必要は…ッ!?ひゃう!?ぁ、ううッ…!」
「菅原ちゃん、あんまり声出すと外の人に聞こえちゃうよ。私はもっと可愛い声が聞きたいけどね?あはっ…」

隣から菅原と部長の声が漏れてくる。
ひそひそと声を殺して喋っているが、すぐ隣の俺には丸聞こえだ。
恐らく、外で待機している女体化者たちには届いていないとは思うが。

どうやら、先輩にも声が聞こえていたらしい。
と言うのも、明らかに雰囲気が変わったのだ。上気した頬と、とろんとした目付きで…少しずつ俺に近付いてくる。
地味とは言え腐っても手芸部だ。無傷で生還するのは厳しいか…!

「西田君…。隣、始まりました。私たちもそろそろ、ね?」
「うっ…!普通に測るだけ、ですよね…」
「はい。なのに、どうしてそんなに逃げるんですか?」
「せ、先輩の目が怖いんですよおおッ!」

自分でも知らないうちに後ずさっていたらしい。
狭い試着室。気が付くと、背中は姿見に付いてしまっていた。
610 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:25:38.05 ID:bwLvZcxq0
「…もう後が無いです、逃げられませんよ。困りましたね、どうしますか?」
「!?」

追い詰められた。先輩が身体を押し付けてくる。
この人の言う通り、俺の方が胸がデカいのは確かだ。
俺の胸が、先輩の残念な胸に押されて形を変える。そのくらい密着している状態だ。
先輩の、少し早い心臓の鼓動と吐息を感じ、こちらまでドキドキしてしまう。

「まずは、服を脱ぎましょう。脱がしますから、じっとしてて下さいね」
「そのくらい自分で…!」

俺の肩に顎を乗せ、耳元で妖しく囁いてくる。
服くらい自分で脱げるわ!とアピールしたかったが、早くもブレザーのボタンは外されてしまった。
先輩はそのままブレザーを優しく奪い取り、ハンガーに掛けて俺に向き直る。

今度はブラウスのボタンに手を掛けた。
熱に浮かされたような目で俺を見つめながら、一つ一つ外していく。

「にょたっ娘の服を脱がしていくのって、凄く興奮します…」
「興奮しなくて良いですから!あ、あの…キャミは脱がなくて良いですよね…?」
「ダメです。でも、ブラは外さなくて良いですよ?…取り敢えずは、ね」
「ふ、含みのある言い方は止めて下さい…」
「はい、これでブラウスも脱げました。西田君、バンザイして下さい」
「うう…」

とうとうキャミも脱がされ、つい胸をガードしてしまう自分がいる。
何だよ、この女みたいな仕草。あぁ俺、女だったな…。

「隠されると測れませんよ?」
「で、ですよねー。はは…」
「ピンクのブラ、可愛いです。似合ってますね」
「そりゃどうも…」
「では、後ろを向いてもらえますか?測りますから…」

先輩がメジャーを取り出しながら言う。
意外と普通に測るような雰囲気だ。背を向けるのは少し怖いが、仕方ない。
言われた通りに後ろを向く。すぐ目の前は姿見だ。
鏡に映った半裸の自分。その脇の下から、先輩の手が生えてくるのが見えた。

「うわっ!?」
「じっとしてて下さい。測れません」
「すいません…」
「88cmです。やっぱり大きい…」
611 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:27:46.64 ID:bwLvZcxq0
アンダー、ウェストと続けてメジャーを巻かれる。
雰囲気自体は非常に怪しい…いや、妖しいのだが、何気に手際良くサイズを測っている。
このまま、無事に終れるだろうか。

「次はヒップですね。ちょっと失礼します」
「え?なッ…!」

何が起きたのか理解するのに時間を要した。
一瞬でスカートと、その下のハーフパンツを脱がされていたのだ。
この手のテクを身に付けている辺りは、やはり手芸部と言ったところか。
今は、ブラとショーツの頼りない感触だけが残されている。

落ち着け、女同士なんだ。恥ずかしがる必要なんてないだろ…!
変に先輩を刺激すると、良からぬ事態になりそうだ…!

「そんなにもじもじされると…こっちまでドキドキしちゃいます」
「もじもじなんてしてませんから!は、早く測って下さい…!」

一刻も早くサイズ測定を終わらせるべく、先輩を急かす。
隣の菅原はどうなっただろうか。意識を隣の試着室へと向け、耳を済ませてみる。

…声は聞こえない。
その代わりに、二人分の荒い息遣いと、水音だけが聞こえる。完全に菅原は喰われてしまったようだ。
下手に声が聞こえるよりも、このような効果音が聞こえてくる方が…恥ずかしいかも知れない。
こちらまで身体が熱くなってしまう。

あれ?
声は聞こえないと思ったが、よく聞けば菅原の息遣いに時折、「ぁ…」とか「ゃっ…」とか、そんな声が混じっている。
その声はとても苦しそうな、でも何だか凄く、気持ち良さそうな…。

「…。」
「…西田君。もしかして、えっちな気分になってますか?」
「ぬわっ!?な、なってない!なってません!」
「そうですか。でもおかしいですね…これは、何でしょう?」
「あっ…!?ちょ、何を…!」
「濡れてますよ」

後ろからやんわりと抱きつきながら、ショーツの上から股間に指を這わせてくる。
くちゅり、と音がした。隣からじゃない。紛れもなく俺から発生した音だ。

嘘だろ、俺…濡れてんのか!?
しかも今、ちょっと気持ち良かった、ような…!?
612 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:30:12.59 ID:bwLvZcxq0
「はは…た、多分…汗とかじゃないですかね…」
「汗はこんなにぬるぬるしませんよね」
「お、おかしいなぁ。はは、じゃあ何だろう、えーと、えーっと…」
「もう言い訳はやめませんか?」

ついにこの時が来てしまった。
先輩はショーツから手を離し、今度は両手で俺の胸を掴む。
ブラの上から、その感触を楽しむかのように。少しずつ、少しずつ力を加えて揉み始めた。

「えっちな気分に、なってるんでしょう?」
「ちょ、せんぱ…あっ…!ぅ…」
「西田君のお乳、凄く気持ち良くて…癖になりそうです」
「癖に、ならないでっ…!下さいッ…!」
「ダメですか?それは残念です」

先輩は見逃さなかった。俺が、菅原のエロい息遣いと声で変な気分になったタイミングを。
すなわち、俺を一番落とし易いタイミングを。
もし菅原の声が聞こえてこなければ、こうはならなかっただろうか。
いや、恐らく…遅かれ早かれ、こうなっていたと思う。

気合で耐えるなんて言っていた自分は甘かった。
先輩は無造作に揉んでいるかと思いきや、ブラの上から的確に乳首を責めてくる。
気持ちいい。それはもう、どうしようもないくらいに。
涼二の時は、すぐ止めさせた。植村の時も、典子がすぐ止めてくれた。
しかし今、菅原の声を聞いて「臨戦態勢」だったらしい俺の身体は、この快感を手放すなと言っている。
今日出会ったばかりの同性の先輩に身体を触られて、悦んでいる…!

「嫌だったら言って下さい。やめますから…」
「ぁ、んッ…!はぁ、は…ッ!」

嫌、なのだろうか?…分からない。
外にも隣にも人がいて、相手は今日出会ったばかりの先輩で、女同士で。
こんな状況で、「嫌かどうか分からない」こと自体が異常だ。俺も変態と大差ないのかも知れない。
このまま身を委ねたらどうなるんだろう。どれ程の快感が味わえるだろう。
それはとても、魅力的な話じゃないか?
613 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:32:06.25 ID:bwLvZcxq0
…まずい。
どうやら、俺の理性は攻め落とされる寸前だったらしい。
僅かに残った兵力をフル動員して、自分の意志を取り戻していく。
ダメだ。こんなのは普通じゃない。
頑張れ、もっと頑張れ俺の理性。
今ならまだ、嫌だと言えるだろ!

「返事がありませんね…喘いでくれているようですし。嫌ではない、と?」
「ぃ、嫌、ですっ…!」
「…分かりました。嫌なことをして、ごめんなさい」
「わ、分かってくれれば…!はぁ、はぁっ…!」

解放された。
危なかった、あれ以上やられていたらどうなっていたことか。
気持ちよかったのは確かだが、だからと言って…!

先輩は名残惜しそうに胸から手を離す。
すると何故か、今度は俺の腰に手を回して、耳元で囁く。

「…本当に嫌でした?」
「ほ、本当ですよっ!俺にそんな趣味は…」
「でもほら、鏡で自分の姿を見て下さい。私には、悦んでるようにしか見えなくて。つい調子に乗ってしまいました」
「え…?」

目の前の姿見に映る自分。
顔はのぼせたように赤く、額にはうっすらと汗の玉が浮いていた。
普段は少し吊り目気味な猫目は垂れ下がり、口はだらしなく開かれている。
そして何より、もっと刺激が欲しいと言わんばかりに、自分でも気付かずに擦り合わせている股間。
…何だこれ、俺、か…?

「もう一度聞きますね。本当に嫌でした?」
「…!」
「…質問を変えます。どうしてほしいですか?」
「ぅ、ぁ…!」

俺の理性は攻め落とされた。
614 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:33:55.20 ID:bwLvZcxq0
「…っと、……す…」
「…聞こえません。私はこのままやめてしまっても構いませんよ?」
「も、もっと…してほしいです…っ!」
「よく言えました。いい子ですね」
「ふぁ…」
「ふふっ。猫ちゃんみたい、です」

頭を撫でられ、完全に抵抗の意志をなくす。
もうどうにでもなれ。今はこの先輩に、気持ち良くしてもらいたい。
…今日だけ、今日だけだ。

「ブラ、外しますか?その方が気持ちいいですよ?」
「はい…」
「私が外すのも捨て難いですが…やっぱり自分で外してもらいましょう」
「…この際どっちでも良いですけど、な、何でまた…」
「にょたっ娘が私のために自分で脱いでくれるのが、たまらなく興奮するので」
「せ、先輩もやっぱりSなんですね…」
「そう言う西田君はMですね」
「そうかも、知れない…です…」

俺ってMなのかな…と思いながら、ブラを外す。
やっぱり恥ずかしくて、胸を隠してしまう。

「隠さないで下さい。気持ち良くなりたいんですよね?」
「あ、あの、あんまり見ないで…」
「そのお願いは聞けません…」

先輩は俺の耳の後ろに顔を埋めながら、鏡越しに胸を見ている。
人差し指と中指の間に乳首を挟んで揉みながら、絶妙な力加減で乳首を摘んでくる。

「く、ぅっ…!あ…ッ!」
「お乳、直接触られた方が気持ちいいですよね?どうですか…?」
「んッ、ゃ、気持ち、いいっ…です…!」
「良かったです。いっぱい気持ちよくなって下さいね…」

鏡に映るのは、蕩けきった表情で身をくねらせる自分の姿。
冷静に見れば、さぞ気持ち悪い光景だろう。
だが冷静でない今は、自分の惨めなビッチっぷりすら興奮の材料となってしまう。
涼二や植村に揉まれた時、途中で止めていてもらって本当に良かった。
こんな姿は絶対に見せられない。
615 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:36:14.36 ID:bwLvZcxq0
「西田君、こちらを向いてもらえますか…?」
「ぁ…は、い…」

ひとしきり揉んだかと思うと、今度は手を止めて俺の身体をくるりと回す。
今度は姿見を背にして、先輩と向き合っている状態になる。
早く、続きをしてほしい…。

「今度は、お乳を舐めますね…」
「えっ!?あ、くぅッ…!やば、い…っ!」

先輩が胸に吸いついた。
未知の快感に、乳首はこれまで以上に硬くなる。
今まで見たこともないほどツンと立つそれを自分の身体の一部とは思えず、別の生き物のような気すらしてくる。
先輩は愛おしそうに、強弱をつけて舐めたり、吸ったり、噛んだり。
そのどれもが気持ちよくて、つい先輩の頭を抱え込んでしまう。

「西田君、少し苦しいです…」
「ご、ごめんなさい!気持ちよくて、つい…」
「死ぬかと思いました。お仕置き、です…」
「んッ…!!」

今度はキス。
先輩の舌はためらうことなく俺の中へと侵入し、口の中を手当たり次第に蹂躙していく。
かつての想い人、典子とのキスを思い出すが、これは方向性が全く違う。
ただひたすらに快感を貪るためのキス。
たまたまこの身体が先輩に気に入られただけで…そこに愛なんて無い。

捕まえた獲物に毒を流し込んで徐々に弱らせていくかのように、先輩は俺に唾液を流し込む。
ただでさえ覚束ない意識が、先輩の毒によって少しずつ蝕まれていく。

「西田君、凄くえっちでいやらしいです…。発情した猫ちゃんみたいですよ?」
「ぅ、ごめ、なさぃ…!気持ち、よくて…!」
「そうしたのは私なので、謝らなくて良いんです。発情期の西田君がすっきりするところまで、責任は持ちますから…あむっ」

先輩は再びキスをしながら、少し強引に俺の太股の間に手を突っ込み、ショーツの上から割れ目をなぞる。
それだけでも全身が痙攣するほど、気持ちいい。
先程とは比べものにならないほど濡れていて、もうショーツはぐしょぐしょだ。

どうでも良いや。家に帰ったら、こっそり洗おう…。
616 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:38:20.89 ID:bwLvZcxq0
「西田君は、処女ですか?」
「は、い…!ぁんッ…!」
「そうですか。…なら初めては、西田君の大切な人のために取っておいて下さい。私は、女の子の気持ちいいところを教えて、
 イかせてあげますから…」
「…もうっ、十分…気持ちいいです…ッ!」
「もう十分なんですか?今やめても苦しいだけですよ?」
「ぁ…、やめないで…下さい…っ!」
「イきたいですか?」
「イきたい、です…んぅ…っ!」
「では、パンツは脱ぎましょうか…」

ショーツを下ろす。
今更気付いたが…靴下を残して、もう裸だ。
何だかマニアックな状態だな。まだそんなことを考えられる自分に、少し驚く。

それにしても、もはや先輩に言われるがままだ。
逆らえない。もっともっと、もっと気持ちよくなりたいから…!

「これでほとんど裸ですね…どんな気分ですか?」
「恥ずかしい、です…」
「やめておきますか?」
「あ、あんまり虐めないで下さい…!は、早く…その、続きを…」
「西田君からおねだりしてくれて嬉しいです。では、一番美味しいところを頂きますね…」

優しく頬を撫でられながら、胸を揉まれながらのキス。
身体が熱を取り戻したところで、先輩の指がまた、割れ目に触れる。

「片足、少し上げて下さい。私の腰に回してくれて構いませんから…」
「ぁ、はい…」

左足を上げて、先輩の腰に回す。
男の頃にたまにAVで見た、立ちながら向かい合ってセックスをする時のような状態だ。
違うのは、女同士というところか。

「痛かったり、怖かったりしたら言って下さいね」

先輩の指が、少し割れ目の中に入ってくる。
多分、それ以上入れられたら痛い…気がする。先輩は、そのギリギリのラインをゆっくりなぞる。
口と、胸と、割れ目。3箇所を同時に責められると、快感が身体の芯から溢れ出てくるかのようだ。
気持ち良すぎる、ヤバい、これは…!
617 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:43:33.23 ID:bwLvZcxq0
「とろとろですね。こんなに濡れてくれるなら、襲った甲斐がありました」
「ぅあッ…!ああ…ッ!きもち、い…ッ!」
「声、大きいですよ。外に聞こえても良いんですか…?」

もっと大声で喘ぎたいのに、状況がそれを許さない。
こんなことなら…ホテルかどこかで思い切り、目茶苦茶に犯された方が良かったかも知れない。
そう思うのに、我慢を強いられるこの状況にもまた、妙な興奮を覚える。
やっぱり俺は、Mみたいだ。男の頃は、Sだったと思うんだけどな…。

俺も先輩も、息はとっくに荒くなっている。
俺が聞いたように、隣の菅原や部長にも聞こえているかも知れない。それでも今は、気を遣っていられない。
際限なく溢れてくる俺の愛液は、先輩の手をベトベトに汚している。
それをぺろりと舐め取る先輩が、地味な印象を掻き消すほど妖艶に見えた。

「ここも、気持ちいいんですよ?」
「ぁ、そこは…!」

今度は愛液を指ですくい、馴染ませるように突起に触れる。
女体化してすぐの頃、洗うときに痛い思いをしたのがトラウマで、あまり触れないようにしていた場所。

この人は扱い方をよく知っていた。痛くない。
むしろ、痺れるような感覚が死ぬほど気持ちいい。
先輩の指が割れ目と突起を行き来するたびに、気が遠くなるような快感が押し寄せてくる。

限界だ、もう…イきそう…!

「…っ、せんぱ、い…っ!」
「はい。何でしょう?」
「い、イきそう…です…ッ!」
「分かりました。良いですよ、イっちゃって下さい…」
「あの…っ、き、キス…しながら、イきたい…です…」
「ふふっ、意外に甘えん坊さんなんですね」

先ほど以上に口の中を掻き回され、下は下で親指と中指による突起と割れ目の同時責めだ。
更に空いている左手で、乳首もつねられている。

あぁ、気持ちいい、何もかも気持ちいい、頭がおかしくなりそうだ…!
618 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:46:30.30 ID:bwLvZcxq0
「ぁ、あぁッ!…っせんぱ、い…せんぱい…俺…ッ!」
「何でしょう?」
「イきます、もう…ッ!う、くぅ…ッ!!」
「どうぞ、イっちゃって下さい。最後まで、キスしてあげますから…んっ…」

先輩の指の動きが速くなる。
舌も、より奥まで突っ込まれた。ざらざらとした舌触り。
その感触に、捕食されているような気分にさせられる。だが、そんな気分さえ気持ちいい。
もはや足腰には力が入らず、先輩の肩に必死で掴まる。
かなり強く掴んでいるにも関わらず、先輩は嫌がらずにいてくれた。

いよいよ限界だ。
頭の中が、真っ白になった。

「〜〜〜〜ッッ!ぅ、んッ………ッ!………ッッ!」
「んっ…ちゅっ……」

一瞬ぶっ飛んだ意識を、何とか取り戻す。
少しずつ消えゆく甘い痺れ。
全身の震えが徐々に収まるのに合わせて、先輩の舌と指の動きがスローになっていく。
最後の最後まで快感を引きずり出してくれるような、余韻の残し方。

「…ぷはっ。はい、終わりです。可愛かったですよ、とても」
「…はぁ、はぁッ…うぁ…っ」

へなへなと座り込んでしまった。
先輩も一緒になって座り、脱力しきった俺の身体を支えてくれる。
自然と、先輩の胸に抱き留められるような格好になった。

「ご馳走さまでした。なでなでしてあげますね。私の方がお姉さんですから、甘えてくれて良いんですよ?」
「ぁ…せんぱい…」
「どうでした?」
「…気持ちよかった、です…」
「自分がイかせたにょたっ娘を胸に抱き留めるのって最高です。『終わった後』に女性に腕枕をする男性も、こんな気分なんでしょうね」

このまま眠ってしまいたい衝動に駆られるが、そうもいかない。
せめて、乱れた息が整うまで…こうさせてもらおう。
619 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:49:41.72 ID:bwLvZcxq0
暫くそうしていると、「あの時間」が訪れた。
…賢者タイムである。
俺、とんでもないことをしてたような…気が…。

「…西田君、凄い乱れっぷりでした。興味ないフリして、実はド淫乱なんですね」
「そ、それは…先輩がこんなことするからじゃないですか!?」
「…逃げ道は、たくさん作ったつもりです」

確かにそうだ。
先輩は何度も俺に「嫌ではないか?」と確認している。
卑怯な流れではあったが、俺が頑なに拒否すれば…無理にはしてこなかっただろう。
恐らく、一番ヤバそうに見える部長もそうだ。あくまで「合意の上」で行為に及んでいる。

「おっしゃる通りです…」
「それに西田君だって、あんなにおねだりを…」
「うわあああッ!やめて下さいよおおおッ!」
「もう賢者タイムですか、残念ですね。まぁ…このギャップがたまらないとも言えますが」
「お、俺は一体何を…何をやってんだ…マジで…!」
「…頭を抱えるのも良いですが、先に服を着た方が良くないですか?まだ襲われ足りないんですか?」
「げっ!?き、着ます!ちょっと、見ないで下さいッ!」
「ふふっ、今更ですね」

先ほどまで散々見られていたのに、冷静になるとあまりにも恥ずかしい。
いそいそと服を着る。ぐしょぐしょに濡れたショーツが非常に不快だ。
ニコニコ(ニヤニヤ?)しながら俺が服を着るのを見ていた先輩が、思い出したかのように俺のケツにメジャーを巻いてくる。
そのままサイズを測り、メモ帳に書き込んだ。

「これこそ、今更じゃないですかね…」
「西田君が発情期になってしまったからです。…お陰で私も美味しい思いができたわけですが」
「ぐぅ…!この節操のない身体が憎いッ!」
「さて、服を着たら出ましょう。…また身体が疼いたら、いつでも可愛がってあげますからね?」
「結構ですッ!」

顔を赤くし、俯き気味に。
俺よりも先に試着室へ入り、出ていった連中と同じような顔で試着室から出る。

なるほど、こんな気分だったんだな。
やれやれ…とんでもねぇ一日だった。そして、俺の身体はとんでもねぇ淫乱体質だった。
あの行為の最中の俺の行動、言動。今思い出しても、自分のものとは思えないな…。
ある意味二重人格だ。

同じタイミングで菅原も出てきた。
一瞬目があって、お互いすぐに俯いてしまう。菅原の顔は林檎のように真っ赤だ。
そのまま言葉を交わすことなく、部室を出た。
620 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:53:15.31 ID:bwLvZcxq0
「…あー。さっきオレの声、聞こえてたか…?」
無言のまま二人並んで歩いていると、やっと菅原が言葉を発した。
頭を掻きながら、恥ずかしそうに。

「聞こえてた。…ちなみに、俺のは?」
「もろ聞こえだっつーの…手芸部の連中、マジで頭イカレてんじゃね?あんな場所でさ…」
「部長じゃなきゃ多少はマシかと思ったんだけどな…酷い目に遭ったよ…」
「…。」
「…。」
「でも、さー…」
「ん?」

次の言葉を待っているのだが、なかなか口にしない。
ごにょごにょと何やら言っているのだが、聞き取れない。

「…でも、何だよ?」
「いやその、気持ち良かったよな、って…」
「うっ…」

否定できない。実際、名前も知らない地味子先輩(仮名)にイかされたわけで…。
そう何度もあってたまるかと叫びたいところだが、また先輩に迫られたら…拒否できるだろうか?

「まさか女になって女に襲われるとはな…。しまいにゃ自分も『その気』になっちまうんだから困ったもんだ」
「恥ずかしながら、俺も途中から完全に『その気』だったわ…」
「不便な身体だよな、オレらって。最初から女だったら、こんなんじゃねぇんだろ?」
「女体化者は感度が良いって言うしなぁ。くそ、パンツがぐしょぐしょで気持ちわりぃー!」
「はは、オレもだ…」
「さて…んじゃ俺、教室でツレ待たせてるから」
「ん、あのイケメンか?…そうだ!さっきの感触を、あのイケメンを相手に脳内変換してさ、家に帰って自家発電なんてどうよ?」
「ぶっ!?」

とんでもねぇこと言ってんじゃねーよ!?
コイツ、ニヤニヤしやがって…俺の反応見て楽しんでるだろっ…!
おい、想像するな俺…ッ!賢者タイムだ!大賢者になるんだ!

「…ば、馬鹿言ってんなよ。マジでそんなんじゃねーから」
「あ、想像してる。頭の上にイメージが見えてるぜ?」
「出てるわけねーだろッ!」

とか言いつつ、ついつい頭の上で腕をブンブン振って掻き消そうとしてしまうあたり、遊ばれてるよな、俺…。

「あはは!おもしれーヤツだな!さ、オレも教室寄って帰るかな。んじゃまた!」

二次元から抜け出してきたような美少女が、野郎のような仕草で手を振って去っていく。
酷いギャップだ。人のことは言えないが。
621 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 22:59:32.25 ID:bwLvZcxq0
教室には涼二と典子、植村たちが残っていた。
まずは…そうだ。

「お、やっと終わったのか。随分遅かった…ぐぼぁ!?てめぇ何を…!?」
「お前のお陰で酷い目に遭ったんだよ!これはその礼だッ!」
「こら!いきなり鳩尾にグーパンなんてしちゃダメでしょ!」
「聞いてくれよ典子!まさかあんな…いや、やっぱり聞かなくて良いや…」
「んー?気になるなぁ。言ってみよう!ほらほら!」

い、言えるかあああッ!
淫らな行為をされて悦んでましただなんて…ッ!

「え、えーと。揉みくちゃにされた感じかな…」
「そんなのいつものことじゃない?」
「まぁ相手は手芸部だし、ねぇ…。私が捕まえたとは言え、ちょっと可哀相だったかも」

植村には察しがついているらしく、哀れむような目線を投げ掛けてくる。
そういやメイド喫茶のサイズ測定は明日のはずだ。
コイツも危ないんじゃないか?

「お前も明日は同じ目に遭うんじゃね?さっきの仕打ちはそれでチャラにしてやろう」
「ざーんねん。手芸部の人たちって、女体化者にしか興味ないんだって」
「納得いかねええッ!何で俺たちばっかり…!」
「別に百合ってわけでもなくて、恋愛対象は普通に男だって話だし…要は、元男が悶える姿に興奮するみたい。変な性癖だと思うけど」
「理解できねぇ…」

世の中にはアブノーマルな性癖の人間が大勢いるのは知ってるが…。
元男の女とイケナイ行為をしている背徳感のようなものがあるのか?
普通の男から女になった身としては…「興奮される側」にされても、戸惑いしかないんだけど。

「いってて…女とは言え急所にグーパンは痛ぇよ!そんなに怒ることかぁ?しかも俺のせいって何だよ!?」
「それは…!おっ、お前が俺があの変な衣装を着るのが見たいって言うから…!」

コイツはあの時、何を思ってあんなことを言ったのか。
コイツが言うから、まぁ一回だけなら…と思ってしまったのだ。
俺じゃなくて菅原とかを見たいのなら、単にスケベ心で済まされるわけで。

「そりゃお前が…ぷっ…あんなの着てウェイトレスやらされてる姿なんて…ぷぷっ…なかなか見れねぇし…」
「…おい?なに笑ってんの?」
「写真撮って後で弄り倒すネタにするために決まってんだろー!?ひゃははは!」
「…。」
「西田…?何か、どす黒いオーラが…!?」

お前の可愛い姿が見たい、とか。
自分でもはっきりしないが、そんな言葉を期待していたのかも知れない。
…甘いな、俺は。コイツがそんなこと言う筈がないだろ。

そんなヤツに、俺からしてやることは一つだけだ。
かつて俺の身体にもあった物。今は、無い物。

「うがああああああああああッ!!!去勢してやるううううううううッ!!!!!!」
「おまっ!?金的はやめ…アッー!!」
「やめなさいよ!西田ー!」
「中曽根君、泡噴いてるって!ダメだよ忍!」

このクソ野郎の息子が使い物にならなくなろうと、俺には関係ないのだ。
典子と植村に止められるまで、俺の去勢手術は続いた。
622 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/10(土) 23:19:09.79 ID:bwLvZcxq0
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

最近投下が増えてきて嬉しいですね。そういう自分はペースが落ち気味ですorz
今回はエロ描写が難しくて…上手くまとめられなかったように思います。
警察沙汰になりそうな展開でしたが、一応ギャグっぽい軽めな感じのつもりですので、
あまり気にしないで頂けると嬉しいです。

では、皆様の暇潰しになればと祈りつつ、今回はこの辺で。
もっと投下増えれー!

>597
まとめ超ありがとうございます!
いつまでも無題じゃアレなので、タイトル考えてるんですが…思いつきません…。
文章書くより難しいですね。
623 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/10(土) 23:52:54.18 ID:Tg3HN4Luo
>>622
乙でした
自分も完成したら投下します
624 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/11(日) 00:24:08.06 ID:UPJCck4Do
>>622
どwwうwwしwwてwwこwwうwwなwwっwwたwwwwww乙!
涼二くん今回は二階から落とすくらいは許されるんじゃないですかね
625 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/11(日) 02:17:33.26 ID:09xe4pk60
>>622
投下おつです、最高でしたww文化祭当日が楽しみですのぅ
……ちょっくら西田君の衣装にだけ、猫耳尻尾を追加してきますお
626 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/13(火) 00:15:27.85 ID:LmHAjEYSO
百合的アブノーマルの世界か…

俺があの世界のにょたっこで、あの場所にいたら
とちゅうでどうでもよくなって
でっかい声で喘ぎまくってるな


まてよ、男で俺がMだから、女になったらSかな
627 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/13(火) 15:03:00.85 ID:bm27N89Q0
いや、間違いなくドがつくと思う。
偏見ではないが性的に虐められたい精神は女だからこそ開花されるものだと思うんだ。
628 : ◆wDzhckWXCA2011/12/13(火) 17:45:40.19 ID:Z1vHL39So
|д゚)
629 :でぃゆ(ry[sage]:2011/12/13(火) 18:23:03.23 ID:jRsR1z+AO
>>628
Σ(゚ω゚)いつかの703氏!?
630 : ◆wDzhckWXCA2011/12/13(火) 18:45:58.59 ID:3TeQ5O73o
すっかりご無沙汰してますたww
つーかこのスレ続いてたのね
631 :でぃゆ(ry[sage]:2011/12/13(火) 23:42:55.35 ID:jRsR1z+AO
>>630
スレは滅びぬ、何度でも甦るさ!

というワケで、投下いかがですか?ww
632 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:36:25.19 ID:ceApgz9zo
それでは誰もいないスレから投下しましょう
今回は少し異色で自分にとって始めての物語です
633 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 10:52:19.41 ID:ceApgz9zo
この世界は古来より4つの神々が作った世界・・それぞれの神は生命、大陸、海、気候といった必要な要素をそれぞれ創り上げてこの惑星を創った。そして神々は自らの特権であった知恵と心を人類と呼ばれる無数の生命体に宿していった、彼らは神から譲られた知恵と心で自らの潜在能力を活用した魔法を生み出し、それぞれの文明を築き上げて破壊と再生を繰り返していった。しかし魔法は発展したのと同時に天才大賢者はその膨大かつ強力な魔法で己が邪悪な心を具現化した9つの悪魔を産みだす、悪魔達は生みの親である大賢者を抹殺するとその強大な力と魔法で無数のモンスターを産みだし、人類達に戦いを挑んだ。
人類達は多大なる犠牲を払いながらも神々の力を借りて悪魔を各地に強固な封印を施して地下に沈めた。

しかし悪魔の脅威が去っても繰り返される破滅と再生で疲弊する惑星に危惧した神々は人類に女体化という試練を与え、度重なる争いを停滞させるのと同時に人類を試したのだ。やがて神々は4つの大陸で自らの存在を封印しながら自ら作り出した人類を見守り続けていた。



これはそんな世界に住む人々のお話・・






まじっく⊆仝⊇ろ〜ど









豊かな自然と巨大な大陸が広がるフェビラル王国、この国家は元来として魔法によって自然と共存して大きな繁栄を築いていった魔法国家である。4大大陸の一つであるこの広大なライン大陸一帯を統治しており、人々は王家を慕いながら平和に暮らしていた。
そんな広大な大陸の一角にあるどこにでもあるような田舎町、160センチぐらいの青年が巨大な鍬で畑を耕しながら腰に巻きつけてある袋から作物の種を取り出してばら撒いていく、彼の名はフェイ=ラインボルト・・今年で12歳の誕生日を迎えた青年である、フェイはいつものように魔法を駆使しながら家業である農業に勤しんでおり1ヘクタールはある農場の種まきを終えると20キロある巨大な鍬を片手に自分の畑一帯を見遣る。

「ふぅ〜、種まきは終わったから後は大地の魔法で成長を促進させよう。“大地よ・・その恵みを作物に注いだまえ! ガイア・パワー!!”」

フェイが魔法と唱え終えると、畑一帯は光り輝いて様々な作物が芽を出して成長していくと大小様々な実を付ける。そのままフェイは鍬を片付けると今度はこれまた自分の身の丈の倍はある巨大なカゴを楽々と背負いながら実った作物を収穫していく、こればかりは手作業でやらないと作物が傷んで売り物にならないのだ。
もっとも上質で味が良い作物を大量に魔法で作り出すのはかなり難しいことで並の人間ならば魔法に頼るよりも普通の農業をしていたほうが比較的簡単に作れる。

「これだけ魔法が発展すると便利なのは確かだけど・・頼りすぎはいけないよね」

作物の味を確かめながらフェイは商品になりそうなものだけを選び抜きながら作物の収穫を続けていく、彼の中で魔法はあくまでも日常生活においての補助に過ぎない・・魔法に頼りすぎてしまうと人としての生活を失ってしまうのだという両親の教えが彼の行動原理となっている、だからフェイは必要以上に魔法を使わずにこうして自分の身体を駆使しながら農業を行っている。カゴ一杯に作物を収穫し終えたフェイはそのまま畑の外に出ると今度は残った作物を外敵から守るために柵を準備する。

「さて、今日はこんなものかな。“母なる大地の源よ・・その大いなる生命を与えたまえ! ガイア・ソウル!!”」

今度は平原から土で出来たゴーレムが4体ほど現れる、彼(?)達はフェイから魔力を貰っているので1体ずつ各自に分かれて行動することが出来る。ちなみに魔力とはご存知のとおり魔法を使う際に絶対必要な力のことでその許容量(キャパシティ)は人によって様々・・訓練を積んだ人間であれば魔力の許容量も増やすことは出来るのだが稀に高い潜在能力の影響かとてつもないキャパシティの持ち主がいることもある。フェイもその例外に漏れず比較的魔力の消費の激しい大地の魔法を連発しているのだが、本人はいたって無自覚である。
ゴーレムたちは各自に散って畑の周りを見張るように動きながらフェイの命令通りに畑の守護を開始する。そのまま仕事を終えたフェイは大量の作物が入ったカゴを抱えながらそのまま家へと戻っていく、家の前には馬車が止まっており1人の女性がフェイを出迎える。

634 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:52:57.21 ID:ceApgz9zo
「あら、フェイ」

「兄さ・・じゃなかった、姉さん」

彼女はフランソア=ラインボルト・・通称フラン、彼女はこのとおり列記とした女性であるが彼女は元は男性でフェイの実の兄であったが童貞だったために15歳の時に女体化してしまったのだ。そんな彼女の職業は医者、治療の魔法を特化してあらゆる怪我や病気を治し続けている、彼女も例に漏れずに魔力のキャパシティは常人と比べるとかなり高いほうなので高レベルの魔法を連発しても何ら問題はない、持ち前の魔法の腕に女体化してからの美貌も手伝って彼女はちょっとした人気者なのだ。

「姉さん、仕事はいいの? 前の台風で患者さんが増えたんじゃ・・」

「まぁ、大概は王宮が各地に医者を派遣しているから問題ないわ。重傷者もあらかた治療したけど・・問題なのは薬に使う薬草を取りに行かないと」

大概の病気や怪我は魔法で治るとはいってもこの世界でも薬というのは大変重宝されているので医者としてフランも調合にはかなりの心得がある、事実フェイが病気になったときはフランの薬のお陰で何事もなく完治している。

「だったら、僕が街に行くついでに取ってくるよ。どこに行けば見つかるの?」

「・・ナンメル山脈よ」

「ええっ!! あそこはモンスターが大量に生息しているじゃん!!」

この世界にも例に漏れずモンスターが生存しているのはお約束なのだが、生み出している悪魔自体が滅んでいないのでモンスターは当然生存をしている。しかし力の源である悪魔が封印されていた影響もあってかモンスターの力はそこらへんに生息している野生動物よりも弱いので今ではたいした驚異ではない、魔法を覚えた子供でも容易に倒せるほどだ。フェイが行きたがらないのは単にめんどくさいだけ、それにナンメル山脈と言えば余りいい思い出がない。

「あそこは昔のトラウマが甦るよ・・まだ魔法を覚えたてだった僕と姉さんをナンメル山脈に放り込んだのは父さんと母さんだよ!!」

「それは幼かった時の話でしょ、確かにナンメル山脈を始め死の谷やバーン火山に群島の無人島にも放り込まれたけど2人で何とか耐えたお陰でこうして強くなったものだしね」

彼らの両親はフェビラル王国では知らぬものさえいないと言われる魔道戦士、産まれたときから並々ならぬ魔力と才覚を持った2人は幼い頃からこの両親に様々な修行をさせられてその力を開花させるに至っているのだが当事者である彼らにとってはトラウマ以外何者でもない。

「まぁ、そうだけどさ・・やっぱり嫌なものは嫌だよ」

「ウジウジ言わない! いい、2人が行方不明になってから半年・・兄弟2人で助け合って生きていこうって誓い合ったの忘れたの?」

「うん・・」

2人の両親は子供たちの成長を見届けたのを確認すると今度は別の大陸へと旅立っていったのだが、度々届いていた手紙もばったりと消えて今では行方知らず・・しかし並みの人物ならばいざ知らず、生きる伝説とまで言われている両親の実力はこの2人が一番よく知っているので息絶えているとは思えないのだが、行方が知らないのでそれを確かめる術は今のところない。

両親が行方不明になってからも2人はこうして力をあわせて助け合いながら懸命に生活をしている、それに両親から鍛えられた力と魔法に伝授された知識も相まって苦労は今のところない。

「というわけで私の馬車使って良いから売るもの売ってさっさと出かけなさい。これが必要な薬草のリストね」

「わかったよ・・行ってくる」

少しばかり気分が落ちながらもフェイは収穫したばかりの作物を売りに街へと向かうのであった。


635 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:53:53.06 ID:ceApgz9zo
首都・中央市場

フェイが収穫した大量の作物はこの中央市場に納品されて各市場に売りさばかれる、最初はフェイ個人で販売していたものの一回での収穫する量が多すぎたので今はこうして中央市場で販売を一任してもらっている、販売を統括している店主とも今では顔なじみの間柄だ。

「んじゃ、今日は16000TSだな」

「ええ!! 今日は出来が良かったんだからもう少し値上げしてよ〜」

「ダメだダメだ。先月の台風でどこの農家も軒並みやられて厳しいんだよ! いくらフェイでもここばかりは譲れねぇな」

頑なにフェイの交渉を跳ね除ける店主、どうやら先月の巨大台風でどの農家も凶作なので市場の台所事情も厳しいようだ。ちなみにTSとはフェビラル王国で流通している通貨の単価であり命名も女体化から来ている。

「今じゃ他所も一緒だよ。これだけの作物に16000TSを出すのはウチぐらいだ」

「う〜ん、16000TSがあれば今月はギリギリ生活できけど・・仕方ない、飲むよ」

「毎度あり!! そんじゃこれが代金な」

店主から代金を受け取るもののフェイはどこか不満顔・・それもそのはず今回の作物はどれも出来が良くて自信作だっただけに今回の収入は少しばかり悔しいところだが先月のフェビラル国家を襲った台風で畑を立て直すのにはかなり苦労したのを思い出す、あの時はあまりにもの膨大な惨状に絶望したフェイはフランにも協力してもらったお陰で短期間で畑の建て直しと自宅の修復に成功したのにこの現状はとてもじゃないがフランに伝えられない。

あの台風での損害の穴埋めは今回の収入である16000TSではとてもじゃないが足しにはならない、家の修復だけじゃなく逃げ出してしまった馬や家畜の費用はとてもバカにはならない、新しく家畜を飼いなおすのもお金と手間が掛かるし交配させて成長させるのにも時間が掛かる。いくら魔法でも動物の成長を促すことはできない、せいぜい上質な餌を生産することだけしか関の山だ。

「はぁ・・これじゃ、姉さんに叱られるよ」

「お〜い、フェイ!!」

「あっ、翼君」

当然フェイの目の前に声を掛けたのは1人の青年の名は大前 翼。このフェビラル国家は他国との貿易は盛んに行われており、お隣のデスバルト共和国の文学を祖に漢字と言う独自の言語にまで発展させており今では人の固有名詞までに使われているぐらいの普及率を誇る、このフェビラル国家は魔法国家としても名高いが独自の文化を形成している側面もあり世界でも注目されているぐらいだ。

そんな翼の職業はフェビラル国家お抱えの戦士、恋人である魔法使いのつつじ、相棒の明とパーティを組んでいる。彼らとフェイの関係は前に飛来してきた巨大ドラゴンとその集団を退治した時に共闘した間柄である、いつもなら一緒にいる明とつつじが見当たらないのを見るとどうやら翼1人のようだ。

636 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:54:18.85 ID:ceApgz9zo
「今日も農業? よくあの台風の後で畑を立て直せたね、滅茶苦茶だったんじゃない?」

「まぁ、姉さんに色々手伝ってもらってね。つつじちゃん達が見当たらないようだけど・・」

「2人は各地の復旧作業に当たっている。凄い台風だったからね、王宮は大慌てで魔法で色々直したりしているよ」

「そっちも大変だったんだね」

台風当日の日はフェイも畑と家には通常よりも上位な大地の魔法で守りを固めていたのだが畑は無残な姿に成り果てて家のほうも原形は留めているもののあちこちが壊れてしまって今でも修理しているのが現状だ、それに家畜小屋にも直撃して丹精込めて育て上げた家畜たちは散り散りバラバラ・・フランにも協力して魔法で何とか探したのだが大概は野生動物とモンスターの餌になっていて生き残っているのが今の馬一頭だけである。

フランの方は仕事に必要な薬品や薬草などは無事だったのだが、足である馬がいないので仕事にも支障をきたしている、一応魔法で空を飛んで移動することは可能ではあるがそれだと無駄に魔力を消費してしまうのでいざと言うときに魔力不足で治療が出来なくなってしまうのだ。今はフェイと共同で馬車を使っているのだが馬を早く揃えないとこっちも仕事にならない。

「それにしても何でフェイは農家してるの? 前にドラゴンの親玉を一瞬で退治した腕前なんだから王宮で働きなよ、その腕だったら隊長クラスは確実なのに」

「う〜ん・・前にも言ったけど両親が反対してるからダメなんだ」

フェイの両親は日に日に力をつけていく子供たちの強大な力を目の当たりにして2人にある言いつけを守らせている、“国に絶対に属するな! その力は常に困っている人たちのためだけに使え”2人の強大な力が国同士の戦争に利用されるのを危惧した両親は常日頃から2人にはこの言葉を修行をつけた時から常に言い聞かせておりフェイとフランはこの両親の言いつけをきちんと守り通している。それに彼ら2人からすればドラゴン退治など幼い頃から両親に何度もやらされていたし、修行の一環でお隣のデスバルト共和国の最北端にある凶暴なドラゴンの魔窟で名高いクラフト・キャニオンへ装備も何もなしに4ヶ月間放り込まれたのでドラゴン退治など何ら抵抗など感じない。

ふとフェイは昔のトラウマを思い出してしまって閉口してしまっているが、翼はそんなフェイの気持ちなどお構いなしに残念そうな顔つきである。

「勿体無い話だね。でも無理強いするのはよくないし・・」

「ハハハ・・ゴメンね。こっちも台風で家畜や馬がいなくなって困ってるんだよ」

「馬なら、兵舎に一頭ぐらいなら余ってるよ。何なら僕が話をつけようか?」

「いいの!? 牡馬がいれば何とか繁殖できるから助かるよ」

思わぬ収穫にフェイは思わず歓喜してしまう、今の馬は牝なので牡馬さえいれば何とか繁殖にこぎつけることが出来るので馬車もフランと共有しなくて済む。

「ああ、確か余っているのは牡だったからねそれにフェイにはドラゴン退治のときにも手伝ってもらったからお安い御用だよ」

「ありがとう、それじゃ早速王宮に行こう」

「そうだね、僕も報告がてら行かなきゃいけないから一緒に行こうか」

翼はフェイの馬車に乗り込むと2人は王宮に向けて馬車を進める、ホクホク顔のフェイはこれから起こる困難など知らず馬車を王宮に向けて進めていくのであった。
637 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:55:17.05 ID:ceApgz9zo
フェビラル王国・DT宮殿

翼と一緒に王宮に着いたフェイはそのまま離れにある兵舎で貰う予定の馬を観察する、体格や健康状態ともに問題はないのだが肝心の性格が臆病で戦闘用には向いていないようで軍馬としては使えないのだ。なのでこのままフェイに貰われても軍としては何ら問題はないし後ろめたさがないので大助かりである、後は馬を管理する軍団長と翼の話し合いが終わればこの馬は正式にフェイに委譲されるのだ。

「うちの馬と相性も良さそうだし・・あの時はドラゴン退治に参加して良かったよ。あっ、翼おかえり」

「フェイ・・」

再びフェイの元に翼が現れるのだがその表情は先ほどとは打って変わってどこか申し訳なさそうな感じだ。

「ど、どうしたの・・なんかあったの?」

「すまん、馬は上げるが・・条件がついた」

「え・・条件?」

なにやら嫌な予感が思い浮かんでしまうが既に翼に頼んだ手前として断るわけにはいかない、もし断って薬草を取りに帰ったとしてもフランの怒る顔が目に浮かぶのでそれだけは出来ることなら避けておきたい。そのまま覚悟を決めたフェイは翼から条件を問い質す。

「翼、条件ってなんだい?」

「それは・・盗賊退治だ。詳しいことは国王から話があるはずだ」

「こ、国王って・・そんな大きな話なのかい!!!」

どこかのRPGのように一庶民が国王との拝見など本来ならばありえない、自分の両親はどうなのかはわからないが・・とりあえずやることはやって馬を受け取って帰ろう、翼には悪いが両親の教えもあるのでこれからは国とは出来るだけ関係を絶っておいたほうが良さそうだ。

「とりあえず、宮殿の中に案内するよ。国王陛下がお待ちだからね、馬はこっちで預かっておくから安心して良いよ」

「わかった」

そのまま翼の案内の元フェイは宮殿の中を進んでいき国王の待つ客間へと通される、これはフェイが一般人のために翼が配慮したもの・・一応一国の主であるので周囲のしがらみとかが色々あるのだ。

638 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:56:23.19 ID:ceApgz9zo
「それじゃ、待ってて。もうすぐで来られると思うから」

「うん、ありがとう」

翼が退室した後、1人残されたフェイは異様のない緊張感に包まれる。これからこの国の指導者と会うのだからそれは無理もない話しだろう、それから数分後・・使用人に伴われて見た目とは裏腹に簡素な衣装を纏った2人の男女が現れる、というか女性のほうは簡素と言うか女性の戦士に支給される制服である、彼らがこのフェビラル王国を統べる国王とその女王で名をシンジュ=フェビラル、ルリ=フェビラルといった。

「待たせて悪かったな。俺が国王のシンジュだ」

「私はこの国を守る戦・・じゃなくて女王のルリです」

「どうも・・フェイ=ラインボルトです。この度は国王陛下及び女王陛下にお招き頂いて大変光栄であり・・」

「硬い硬い、ご両親みたいにタメ口で結構だぜ。何せ先の大戦では2人によって救われて・・」

「シンジュ、その話はまた今度の機会で・・フェイ君が困ってるよ」

ルリに止められてシンジュは一呼吸置くと改めて今回の依頼をフェイに説明する。

「実は台風の騒動に便乗して略奪をする盗賊を退治してほしいんだ。一味の名前はサガーラ盗賊団、自然の要塞とも言われるナンメル山脈に潜んでおりその被害はかなりのものだ」

「あの・・失礼ながら盗賊退治であれば何も僕じゃなくて軍がやればいいのではないのでしょうか?」

「こっちもそれなりの手馴れを要して鎮圧部隊を編成して退治に向かったけど結果はすべて返り討ち・・兵の被害は少なく見積もっても一個師団以上に相当するわ、中には熟練の魔法使いや剣士もいたから国とすればかなりの損害よ」

「というわけだ。相手はただの盗賊ではない、こんな時に君の両親がいればいいのだが残念ながら行方知らず・・その偉大なる魔道剣士の血を引いた君に依頼したと言うわけだ、聞くところによると以前に飛来したドラゴン集団を瞬殺したと聞いている」

どうやら翼たちによって以前のドラゴン退治の話しも耳に入っているようだ、下手に断ったら自分の身が危ない気がする。自分はバリバリの戦闘派である両親とは違って平穏に暮らしたいほうなのでなるべくなら穏便に済ませておきたい、それにナンメル山脈の薬草を取りに行かないとフランに叱られてしまう。

639 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:57:04.50 ID:ceApgz9zo
「わかりました、お引き受けします。丁度ナンメル山脈には用事もありますし・・」

「ありがとう! お礼はたっぷりと弾むわ」

「馬一頭だと不釣合いだしな。それにこれから戦いに行くのだから武器や防具も必要だ」

「いえ、馬一頭だけで充分です。それに武器や防具も必要ありません、魔力増幅装置の類は身につけてますから」

フェイの右手の親指に装備されている指輪には魔力増幅装置と制御装置を兼ねており、下手なアイテムよりもかなり効果がある。これは両親がフェイだけのために作ってくれた特注品で他人がつけてもただの指輪い過ぎない。
それにあまり無茶な要求をして国との関係を結ぶとまずいのでここは当初の予定通りに馬一頭だけにしておいたほうが利口である、もし両親が帰ってきて国と繋がっているのがバレてしまえばあの地獄以上の日々を当分過ごさなければならないだろう。

「では、ナンメル山脈へ向かいます。見送りは不要ですので馬車を預かってもらえますか?」

「わかった、責任を持って預からせて貰うよ」

「気を付けてね」

シンジュとルリの見送りを受けながらフェイはそそくさと外に出るとそのまま力を念じて詠唱を唱え始める。

“風よ・・我が身を包み委ねたまえ!! 飛翔せよ!!”

そのままフェイの身体は重力を無視して空に浮かび上がると鳥のように大空を駆け巡って天空を駆けてナンメル山脈へと向かう、この魔法は風の魔法の一つで文字通り飛翔。その単純かつシンプルな魔法であるが習得にはかなり難しく数ある魔法の中でも上位に相当する、魔法国家であるフェビラル王国でも飛翔の魔法が使えるのはほんの少数・・若いながらも楽々と扱うフェイの実力は計り知れないものがある。

久々の魔法にフェイも僅かなブランクを感じながらも身体のうちにあふれ出す魔力にかつてフランと行ったあの修行の日々を思い出す。

「久々に農業以外で魔法を使うけど・・威力を制御しないとね」

いざと言う時のために姉のフランと一緒に修行しているフェイであるが久々の実戦なので制御できるかどうかは心配なのところ、相手は同じ人間なのだから極力戦闘は避けておきたい。そんなことを考えているとあっという間にナンメル山脈へと到着するとそのまま魔法を解除して降り立つ、この美しい自然と山々の数々を見ていると幼い頃ここで両親に叩きのめされたことを思い出す。

「ここは相変わらずだなぁ・・2人とも容赦なかったし」

盗賊団のアジトを探すために幼き頃の記憶と照らし合わせながら険しいナンメル山脈を歩き続ける、ついでにフランの探していた薬草を収穫するのも忘れない。しかし盗賊もこんなところにアジトを構えるとは困ったものである、いくらフェイでもこんな天然の魔窟の中から盗賊を探し当てるのは骨が折れる。

(全く、戦闘を考えたら街中よりかはマシだけど探す身にもなって欲しいよ)

生い茂る草木を掻き分けながらフェイは盗賊探しを続ける。


640 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 10:58:05.47 ID:ceApgz9zo
盗賊団アジト

ナンメル山脈にあるとある洞窟、ここがサガーラ盗賊団のアジトである。構成員は意外にも2人だけ、見た目は世の女性ならば誰もが羨む超絶プロポーションを誇る盗賊団首領の相良 聖と女性と思わしき顔立ちのこの人物、その名は・・

「お芋たん言うなッ――!!」

「うるせぇんだよ!! ちょっとは黙ってろチビ助!!!!」

「す、すんません・・」

聖に怒鳴られてすぐに小さくなってしまった彼の名はお芋たん。よく周囲からは女性と間違えられるのだが・・信じがたいことに男性であり、ついてるものはきちんとついている、そんな彼の得意としているのは魔法であり常人では習得するのに時間が掛かる上位魔法をそれなりに扱える。

そんな彼らはこのアジトを基点にフェビラル王国を始めとして様々な諸国の貴族達を中心に荒しに荒しまわっているイケイケの盗賊団だ、現にフェビラル王国の軍隊を退けた実力は業界の中でもかなり評価されているほうだ。

「親分、貴族ばかり狙うのはやめませんか」

「あのなぁ、弱っちぃ奴等からぶん取ったって高が知れてるだろ。ボンボン貴族のほうが取った時の収入が大きいじゃねぇか」

「そりゃそうですけど・・親分が強いのは知っていますけど、折角綺麗な姿で女体化したんだから女として余生を生k――フベラッ!!」

魔力を帯びた拳がお芋たんの顔面に直撃して非常に硬い岩壁に叩きつけられてしまう、聖の得意技は自身の魔力を女体化してからも変わらないその強大な力と合わせて叩きつけるパワーファイト、しかも女体化してから俊敏さが増しておりタイマンであれば無類の強さを誇る。お芋たんの魔法と聖の格闘のコンビネーションによって2人は今日までにこの弱肉強食の盗賊家業を続けられたのである。

「うるせぇ!! 俺は昔から野郎たちを叩きのめしてここまでやってこれたんだよ!!」

「ずびばぜん・・」

聖の気性の激しさにお芋たんは手を焼くもののこれもコンビの宿命としてもはや諦めている。

641 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 10:58:27.75 ID:ceApgz9zo
「ったく、この前はあの男女如きに手こずりやがって・・」

「仕方ないでしょ、あまりにも強かったんだから・・ウチの魔法も万能じゃありません」

前に貴族の屋敷に忍び込んで金品を強奪した2人であったが、貴族お抱えの夫婦剣士であった光と明に思わぬ苦戦を強いられてた苦い記憶がある。あの時は2人とも完全に逃走スタイルであったので力をセーブして戦ったのは辛かったのだが決死の逃亡劇の末に何とか逃げ出すことには成功したのだが奪った金品の一部を失わざる得なかったのだ。

「本気でやれば楽勝ですけど盗む時は力を抑えないと後々考えたら面倒ですし・・」

「最近は派手に暴れまわったお陰で警備も堅くなってやがるしな」

「名前が売れれば売れるほど仕事がやりづらい・・盗賊家業の因果ですよね」

このアウトローの世界は非常に厳しく彼らを襲うのは何もフェビラル国家の軍だけではない、時には同業者である盗賊の縄張り争いにも巻き込まれることもあるのだ。某仲良し4人組の一角で盗賊狩りを趣味とする赤き眼の魔王の魔法を放ったりする物騒な人物がどこかの世界にいるとかいないとか・・

しかし彼らも一生盗賊を続けていくにも無理はあるのでどこか見切りをつけるのも大事である。

「ま、蓄えはあるし暫くは休業しても大丈夫だろうな」

「そうですね、後はアジトを変えるのとちょっかいかけてくる輩達を排除しましょう。いつまでもこうして洞窟に篭っているわけにも行きませんし・・」

「面倒くせぇがしかたねぇな。んじゃ明日に備えて今日は寝るか」

そのまま彼らは食事を終えるといつものように穴倉生活を脱するためにも行動を開始するまでだ。

642 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 10:59:18.24 ID:ceApgz9zo
洞窟外

(やっぱり、アジトはここだったか・・)

サガーラ盗賊団のアジトである洞窟外にはフェイの姿があった、実はこの洞窟は修行時代にフランと一緒に寝床をともにした場所であるのでもしやと思って来てみたら案の定、人の気配を感じる。

「さてアジトが割れたところで・・“旋風の源よ。我が力の前でその力を発せよ!! ウインドソード!!”」

詠唱を終えるとフェイの右腕からは纏うように自身の半身ぐらいの剣が形成される、これも上位魔法の一つで風で作った真空の刃・・フェイは試しに軽く一振りすると発せられた衝撃波によって周囲の木々がなぎ倒される。さらいフェイは洞窟の穴倉に向けてある魔法を放つ。

「よし! “紅蓮の炎よ、我が手に集いたまえ・・ドラゴン・バーン!!”」

フェイから放たれた直径1メートルの火球は洞窟内部へと向かっていき、大爆発を起こし周囲からは煙幕が広がる。先ほどは穏便に済ませたいと言う発言が覆された瞬間である、周囲の煙幕が晴れると洞窟は岩の塊と化しておりその威力が窺い知れる。

「久々にドラゴン・バーンなんて使ったからちょっとやりすぎちゃったな。生きてると良いんだけど・・――ッ!!」

本来ならば少し小突く程度と思っていたのだが、久々の魔法で威力が調整できなかったようだ。普段の農業で魔法と使うときはちょっとした魔法で充分なのでこういった戦闘用の魔法なんて使う機会などそうそうないのだ、しかもこんな岩の塊の中で埋もれてしまったら常人であれば確実に生存はしていないだろう。

フェイは少し後ろめたさを覚えつつ生存確認を行おうとしたその時――突如としてとてつもない力によって岩の塊が周囲に吹き飛ばされる。そこには怒り心頭で既に魔力を充電して臨戦体勢に望んでいる聖と疲れ気味のお芋たんが現れた、寝込みを襲われアジトを破壊されたともなると聖の怒りは尋常ではない。

「てめぇ・・何者だ!!!」

「いきなりドラゴン・バーンぶっ放すなんて野党よりも酷いじゃないか!!!」

「うっ、嘘・・あの状態から生きてたの!!」

フェイからすればあんな状態で生存しているこの2人に驚きを禁じえなかったが、とりあえず気を引き締めてウインドソードを掲げて構えを取る。

「ウチ達・・サガーラ盗賊団に正面から喧嘩を売るとは良い度胸じゃないの!!」

「てめぇも魔法を使うようだが・・生半可な力じゃ俺達に通じねぇぞ」

「そのようだね。だったら・・“母なる大地の源よ・・その大いなる生命を与えたまえ! ガイア・ソウル!!”」

詠唱を終えると突如として地響きが唸り、フェイの周りからは無数のゴーレムが召喚される。しかも畑で作ったゴーレムよりも数段も強そうである、フェイと無数のゴーレムと対峙する2人には自ずと緊張感が広がる。

「ゴーレム召喚か・・数で押し切る魂胆だな」

「まぁね、降参して盗賊をやめるって約束すれば見逃してあげるけど・・」

「これだけのゴーレムを召喚するなんてね・・親分、こいつは本気でいかないとまずいですよ!!」

「ああ。・・皆まとめて叩き潰してやる!!」

こうして激闘が始まる。

643 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:06:37.73 ID:ceApgz9zo
無数のゴーレムたちは一斉に聖とお芋たんに襲い掛かる、フェイもその集団を掻き分けながら聖とお芋たんにウインドソードを駆使したり下位魔法で攻撃していくのだがどうも寸での所でかわされてしまう。どうやら2人の戦闘力はフェイの予想以上に高いようだ、生半可な魔法では却ってやられてしまうだろうし、上位魔法を発動しようと思ってもその隙を与えてくれそうにない。

聖達も襲い掛かってくるゴーレムを撃破しながら攻撃してくるフェイをやり過ごしている、お互いに牽制のまま前哨戦は続いていった。

「流石にやるじゃねぇか。・・おいっ! チビ助、あれをお見舞いしてやれ!!」

「ええっ〜!! ウチばかりじゃなくて親分もちゃんと戦ってくださいよ」

「ゴーレムとあの小僧は俺が相手してやるから早いところ呪文を唱えろ!!」

(どうやらあの魔法使いに何かさせるつもりだな・・)

フェイはそのままゴーレムを率いながら自身の狙いをお芋たんに定めるのだが、聖にしつこく食い止められてしまって中々攻撃が届かない。

「よし! “虚空より司る漆黒の魔よ 我ここに力となってその身を捧げん。 その衣となりて姿を示せ!! ダーク・トランス!!”」

「あ、あれは・・暗黒魔法!!」

この世界に封印されている悪魔は独自の魔法を扱う、各地に散らばって封印されている悪魔の力を借りて扱う魔法はいつしか暗黒魔法と呼ばれ人も使うことができるのだが通常の魔法とは違って並々ならぬ魔力とキャパシティに才能があって始めて扱うことが出来る。フェイも両親によって何度も暗黒魔法で叩きのめされているので身体を持ってその威力は知っているし、何よりも暗黒魔法は姉であるフランがもっとも得意とする魔法なので今更驚いたりはしない。

お芋たんの身体は霧に包まてどこかの魔法少女のような姿へと変貌する。その名は・・

644 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:07:23.58 ID:ceApgz9zo
「リリカル言うな!!!」

「んなこと言ってる暇あったら早いところゴーレムを片付けやがれ!!!!」

「わかりました!! “全ての自然の力よ 我に集いたまえ そして混沌と破壊をもたらせ・・ マ ジ ッ ク  ク ラ ッ シ ュ ! ! ! ! !”」

お芋たんから放たれた無数の隕石が襲い掛かる、聖は持ち前の運動力で回避してフェイも慌てて防御魔法を施すが折角召喚したゴーレムたちは全滅してしまった。改心の一撃に感心するものの聖からの激しいツッコミを浴びる。

「痛ッ! 何するんですか!!」

「うるせぇ!! てめぇはもう少し考えてから魔法を放て! かわすこっちの身にもなってみろ!!!」

「それが仕様なんですよ!!!」

しかしゴーレムを全滅したことによって状況は聖達に有利に運ぶ、フェイは防御魔法で降り注ぐ無数の隕石を対処したのだが相手が暗黒魔法の使い手ならばこっちがいくらゴーレムを生成しても魔力の無駄遣いになってしまうだろう。

「まさか暗黒魔法を使ってくるなんて・・それにもう1人も戦い慣れてて格段に強いッ! 道理で軍じゃ勝てない筈だ」

「この姿になれば副作用で女になってしまうけど・・親分の力を借りずとも充分に倒せる!!」

「しかしてめぇの余裕面は気にいらねぇな。ハァッ!!!」

聖は魔力を拳に集中させるとフェイに飛び掛る、咄嗟の判断でフェイは避けるものの拳がヒットところは大爆発を起こして地形を容赦なく変える。

645 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:08:05.66 ID:ceApgz9zo
「チッ、外したか・・」

「一発でこの威力! ・・!!」

「お返しだよ! “紅蓮の炎よ、我が手に集いたまえ・・ドラゴン・バーン!!”」

隙を突かれてお芋たんから放たれるドラゴン・バーンを避けるがこのままではフェイがやられてしまうのも時間の問題である。2人の見事なコンビネーションにフェイは更に不利な状況に追い込まれる、こっちもウインドソードで切りかかって攻撃するものの聖の拳によって相殺されてしまい手痛い一撃を貰ってしまう。

「ウッ・・」

「俺達に喧嘩売ったのが間違いだったな」

「ウチ達のアジトを壊してくれて・・許さないよ!!」

(こうなったら・・あれを使う!!)

覚悟を決めたフェイは目を瞑るとある呪文を詠唱し始める、両親のトラウマ物の修行の末に習得をした魔法の数々の中でフェイが本来得意としている魔法。それは暗黒魔法と対を成す魔法・・遥か昔にこの世界を創設して今なお君臨すると言われる4つの神の力を借りて放たれる神聖魔法である、フェイの周りでこの魔法を扱うことが出来るのは彼の両親のみで常人が使えば魔力は勿論のこと寿命を削ってしまう。

「“闘神を司る覇王よ その象徴の力をまとい現世に姿を現せ 降臨せよ! 魔法龍 エンペラードラゴン!!”」

「そ、それって・・伝説の神聖魔法!!」

「おいおい、マジかよ!!」

空からは雷鳴が轟き、咆哮が木魂する。そして呪文者に呼応するかのように遥か昔に起きた人間と悪魔の戦争によって古より覇王と呼ばれた4つの神のうち闘争を司る1つの神が使徒されたと言われる白を基調とした巨大な伝説の龍が降臨する。其の龍の名はエンペラー・ドラゴン・・数々の敵を焼き払い、絶対の勝利をもたらした伝説の龍が今ここに降臨した!

「ガオオオオオォォォォォォ……」

龍は其の姿を現すとけたましい咆哮を上げながら聖とお芋たんを睨み上げる、先の大戦ではある魔道剣士によって召喚された龍はその力を誇示するかのうように溢れん力を解放する。その力は先ほどフェイが召喚した無数のゴーレム達など比較すらならないもので2人に戦慄を与えるが、一方で聖にある変化が見られる。

「まさか伝説の龍がお出ましとは・・燃えるじゃねぇか!!!!!!」

(魔力が増大した!!)

燃え上がる聖は自身の魔力を更に増大させるとフェイに電光石火の一撃をお見舞いする、フェイは咄嗟にウインド・ソードで抑えようとするが圧倒的な聖の拳によって遂に砕けてしまう。

646 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:09:19.07 ID:ceApgz9zo
「そんな!! 上位魔法を力ずくで破るなんてッ―――」

「フッ、俺は追い詰められると燃える性質でね。さぁ・・ぶちのめしてやるぜ!!!」

聖は自身がピンチになればなるほどその魔力を増幅させて更に力を高めて持ち前の身体能力を上げる、これこそ彼女の特殊能力・・彼女を追い詰めてしまえばしまうほどその力はかなり高まって最終的には手がつけられなくなってしまう。フェイが見る限り今の聖の身体能力と魔力は姉に匹敵するぐらいにまで高まってきている、持久戦は不利と判断すると降臨した伝説の龍を動かす。

「クッ・・ドラゴンよ! 光となって我が身を包みたまえ!!!」

「チビ助ぇ!! てめぇもボサッとしてないで戦いやがれ!!!」

「は、はい!!!」

聖に促されてお芋たんは自身の最終奥義である呪文を唱え始める、そして龍は巨大な光の珠と化してフェイを包み込み、主を守る鎧となる。

「伝説の龍が・・鎧に変わった!!」

「憑依装着! もっと力があれば龍を意のままに操ることはできるんだけどね・・」

「面白ぇ・・てめぇごとぶっ潰してやるよ!! チビ助、ぼさっとするなッ!!!!」

最高潮にまで魔力を高める聖にお芋たんは更に自分の力を増大させると途中でやめていた詠唱を再開する。

「いくよ!! これがウチの最終奥義!! “すべての光と聖なる力よ! 我の力となりてそれを示せ!! ・・・マ ジ ッ ク バ ー ス ト ! ! ! !”」

「あの呪文は・・姉さんや父さん母さんに散々喰らわされた!!」

お芋たんからは自身やフェイが放った火球よりも遥かに巨大な魔弾がとんでもない速さでフェイに向かって放たれ大爆発を起こしてフェイに直撃する。その威力を物語るかのように周囲の地形は完全に文字通り藻屑と化しており巨大なクレーターが形成される、普通の人間ならば炭すら残さずに消えてしまっている、相変わらずのお芋たんが放った魔法の威力に流石の聖も感心してしまう。

「流石にあの魔法を喰らったら生き残っちゃいねぇな」

「逆に親分には吸収されて叩きのめされましたけどね。これを喰らって生きているはずが・・」

徐々に煙幕が晴れていく中で2人は驚愕の光景を目撃する、クレーターの中心には無傷のフェイが立っていた。とてもではないが信じられない光景に2人は暫く絶句してしまうが、フェイはそんな2人を他所に埃を払いながらすっかり変わってしまった景色に少しばかり心を痛める。
647 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:10:19.74 ID:ceApgz9zo

「「・・・」」

「うわぁ・・すっかり景色が変わったな。僕等が修行が終わった後は父さんと母さんが元通りに戻してたけど、今の僕じゃともかく姉さんと力と合わせても無理だしなぁ」

フランとの修行が終わった時は荒れた地形などは両親の魔法によってすっかり元通りの姿に戻してくれたものだ、今のフェイではフランと力を合わせても自然を元に戻すどころか草木を生やすことぐらいしか出来ない。荒れた地形を改善したり自然を元に戻す魔法は確かに存在はするのだが、その魔法も両親のように強大な魔力とそれを制御する力が必要なのである意味伝説の神聖魔法や暗黒魔法よりも遥かに難しい高度な魔法なのだ。

「ウチの奥義を喰らって無傷なんて・・」

「流石に父さんと母さんの魔法だったら死んでたけどね、でも姉さんよりも大したことないや」

「だったらこいつを喰らってから言いなッ!!!」

聖は更に拳に魔力を高めると電光石火の一撃でフェイの鳩尾目掛けて一突き放つ、フェイは避けもせずその身で聖の一突きを受けて止めていたのだが徐々にではあるが伝説の龍をまとった鎧にヒビが入る。

「こ、この人・・何者!?」

「うらッ・・!!! チビ助、時間稼いでやるからさっさと魔法を放て!!」

「親分!!」

流石にこのままでは拙いと思ったフェイは一旦距離を置くと今度はある呪文を詠唱する、お芋たんも聖の努力を無駄にしないためにも詠唱を始めるのだが・・今度はフェイの方が早かった。

「だ、ダメです!! 大魔法を使える魔力がありません!!!」

「な、なんだとおおおおおぉぉぉぉぉ……」

「“我が身に纏いし龍よ 覇を司りし神の力をその身で示せ 常夜の闇を光に包み・・再生の破滅を与えたまえ ダイナスト・バーストォォォォ!!!”」

フェイから放たれる龍のブレス、かつてフェビラル王国に侵攻してきた大軍を一瞬のうちに滅ぼしたといわれる破滅の閃光・・その桁違いの威力に周囲を巻き込んだ大爆発が広がり爆風は容赦なく木々を吹き飛ばし煙幕が広範囲に広がる中でフェイに纏っていた鎧は消え去り、魔力を使い果たしたのか屈強だった肉体は見事に女性の姿に変わる。これはフェイがまだ童貞なために起こりうる現象であって童貞の魔法使いであれば魔力が尽きた時に誰でも発症してしまう現象である、フェイが童貞を捨てるか女体化すれば無事に解決はする。

「はぁ・・やりすぎちゃったな。薬草は無事に確保したけど無事に残ってるかな? それにしても魔力使い切ったお陰で飛べないし・・久々に女の体で行動するのは堪えるなぁ」

魔力が完全に回復したら自然と男には戻れるが回復するスピードは人によって異なるし、尋常ならぬキャパシティを誇るフェイの場合だと完全に回復するまでには最低でも1週間は掛かってしまう。それにここからDT宮殿までは200キロ以上はあるし男の身体ならいざ知らず女の体でこの険しいナンメル山脈を下るのは一苦労だ。とりあえずは近くの村まで降りて迎えを待つしかあるまい、そのままフェイはトボトボとナンメル山脈を下っていくのであった。

648 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:13:04.82 ID:ceApgz9zo
フェイが完全に立ち去った後、地中からはボロボロになった聖とお芋たんが姿を現す。どうやらあの魔法を喰らって奇跡的に生き延びたようであるが、聖は身体の生傷があちこちに広がりお芋たんは魔力を使い果たして女の体になってしまったようだ。

「イテテテ・・チビ助、生きてるな?」

「な、何とか・・自分の治療してて魔力使い果たしちゃいましたけど」

「てめぇ、自分ばかり治療しやがって・・ッッ! 怒鳴ってたらまた痛んできやがった」

聖は治療魔法のやり方を知らないので当然のように傷は回復は出来ない、なのにあれだけの魔法を喰らいながらこの程度で済んでいるのだから身体の頑丈さはかなりのものである。

しかし2人ともアジトも破壊された上に魔力も空っぽなのだから盗賊家業は暫くは休業せざる得ないだろう、魔力を回復するまでの間に自分たちが敗れたのは伝わるだろうし今後の生活にも当然のように影響が出るのだが・・お芋たんは聖にある提案をする。

「親分、幸い今までの蓄えは全て銀行に預けてあります。ここは一旦盗賊家業はお休みして何か商売でもしませんか?」

「ハァ? てめぇ、何言ってんだよ。俺たちは盗賊だぜ、今更商売なんて出来っこねぇだろ」

「だから、副業ですよ。それに商売すれば盗賊たちの追っても止みますし良い隠れ家にもなります」

盗賊団にもいろいろ種類があるのだが、副業で商売をする盗賊など前代未聞である。大手の盗賊団などは人も多いし下手な軍隊よりも組織力はあるので大手を振って堂々と盗賊しているのだ、仮にも自分たちはただの盗賊・・商売なんてのは出来るはずもない。

「あのなぁ、俺は働くことがこの世で一番大っ嫌いなんだよ!! 誰が商売なんてやるか!!!」

「お、親分・・商売なんてあくまでも振りで構わないんですよ。店を閉めたら盗賊家業をすれば良いんです、店のほうは適当にやってくれればウチが何とかしますから」

商売はあくまでも世間の目をごまかすためのカモフラージュ、本業の盗賊は店を閉めたらきっちりとやればいいのだ。それにこの洞窟生活を続けていても埒があかないし住居で暮らしていくのも悪くはない、どうせ商売なんて自分は適当にすれば良いし、面倒なことは全部お芋たんに投げれば良いのだからその間に悠々自適に過ごすのもいいものだ。

「・・わかった、その代わり商売に関しては全部てめぇにやらせるからな。覚悟しとけよ」

「了解です。いやぁ〜、これで洞くつ生活とおさらばできるよ」

こうして世間を騒がせていたサガーラ盗賊団はしばらくの間は鳴りを潜めるのだが、代わりに美人の女店主とサービス精神旺盛な店員がいる奇妙な店が繁盛するのだが・・それはまた別のお話。


649 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:14:56.36 ID:ceApgz9zo
翌日、DT宮殿

あれからフェイは何とか近くの村で一晩過ごすと村の近くにあった王家の前線基地があったので事情を話して何とか王宮まで送ってもらえたわけ、フェイの帰還を聞きつけたシンジュ王子とルリ女王の労いと歓迎を受けるとフェイは約束どおりそのまま馬を受け取る手はずを整える。

「フェイ=ラインボルト・・ただ今戻りました」

「おお、よく戻ってきたな。無事で何よりだ」

「ご苦労様です。盗賊団はどうなりましたか?」

「ご覧のとおり、魔力を使い果たしてしまいましたが無事に倒せました。アジトも潰しましたから当分は大人しくしてるでしょう」

フェイは昨日の戦況を報告すると2人の表情は実に晴れやかだ、しかし予定よりも大幅に遅れてしまったので姉の怒る顔が目に浮かんでしまうが馬と売り上げを渡せばすぐに機嫌は良くなるだろう。

「国王陛下、預かってもらった馬と所持金・・そして約束どおり馬の手配をお願いします」

「いいでしょう。本当にご苦労様でした・・しかし、馬だけでいいのでしょうか?」

「ええ、それだけで結構です。僕は農業をやっているほうが楽しいですから」

「ふむ・・本人がそういうなら仕方ないな。馬は手配しているから受け取ってくれ」

「はい、では失礼します」

そのままフェイは足早と宮殿を後にして待っていた翼から報酬の馬と預けておいた所持金と馬車を受け取るのだが・・どうも馬車のサイズが一回り大きい、というよりもう1台馬車が連結されている。

「翼、これはどういうこと!! 僕は馬だけって言ったのに・・」

「国王様からのお礼だよ、あのサガーラ盗賊団を退治したんだからこれぐらいは当然の報酬だと思うよ」

「うう〜ん・・僕的には助かるけど姉さんに怒られそうだな」

ただえさえ国からの盗賊退治を引き受けた上にここまで豪勢な報酬を受け取ってしまえば姉からは大目玉を食らってしまうのは必然だ。それに国との関係を必然的に持ってしまえば両親からの言いつけにも背くことになってしまう・・もし両親が無事に帰ってこのことが知られてしまえばあのトラウマ物の修行以上のことをさせられてしまうだろう。
しかし折角の好意を無碍にするのも忍びないしとりあえずは受け取っておいたほうが無難だろう。

「ま、ありがとう。翼も元気でね」

「ああ、また近いうちに何か買ってくよ」

そのまま馬2頭+馬車を受け取ったフェイはとりあえず自宅へと向かうのであった。


650 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/14(水) 11:15:40.71 ID:ceApgz9zo
自宅

自宅に戻ったフェイを待ち受けていたのはフランの大目玉と食い荒らされた作物に崩れ落ちたゴーレムの残骸というショッキングな光景がから始まる。

「全く! 魔力を使い果たした挙句にはナンメル山脈破壊しての盗賊退治ですって!!!」

「だ、だって・・とりあえず馬と新しい馬車はもらえたんだし」

「あんたが魔力使い果たしたお陰でゴーレムはただの土に成り果てて作物は荒らされるわ、馬車がなかったから今日の仕事は全部パァよ!!!」

フランのお怒りはかなりのもので説教はかなり続く、それに魔力を回復させないと農業すらも出来ないので暫くは休業しなければならないだろう。

「とりあえず、農業できるまであんたは馬の管理して私の仕事手伝いなさい。小屋は私が魔法で作ってあげるわ」

「はい・・」

「感謝しなさいよ、2人に知れたら今頃あんたはこの世にいることが怪しいんだから」

今でも行方不明の両親が帰ってこないことを祈るフランであった。




fin
651 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/14(水) 11:38:29.78 ID:ceApgz9zo
はい、終了です。見てくれてありがとさんでしたwwwwww
今回は自分にとっての初の作品です、大まかに分けると

・初の本格ファンタジー作品

・初、相良聖が敗れる

・初、多方面クロス

まぁ、2つ目の項目はただのオマケですが・・ファンタジー作品を書いたのは実は初めてであります
そしてこの多方面クロス・・このスレに存在する作者様方の作品のキャラを無断で借りさせていただきました。
お詫びと感謝を申し上げます、次はあなたのキャラが出るかもしれないm9

例のとおり一話完結方針ですけどwww



恒例の質問コーナー

Q:魔法について教えろ

A:おkボーイ。一応魔法は各様々あって一般の魔法使いの方々は普通の魔法・・いわゆる下位魔法は扱えますが
上位魔法を扱えたら一人前の魔法使いDAZE☆

判り易く不等号で威力と習得難易度別に分けると

自然魔法>>>(越えられない壁)>>>>神聖魔法>暗黒魔法>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>上位魔法>各種下位魔法

神聖魔法と暗黒魔法はこの世界にいる悪魔と神様の力を借りて放つ魔法です、いなくなったら放てません。あれ? これってどこかできいたことある様な設定・・?

Q:キャラの強さ教えて

A:うむ・・スレイヤーズ基準だと、フェイとフランは力を合わせたらリナと互角、単独ではガウリィにさえやられてしまいます
2人の両親は故郷のねーちゃんレベル、聖は身体能力と格闘に関してはトップクラス。お芋たんはフェイとフランには及ばないものの戦闘経験は豊富

Q:というかぶっちゃけスレイヤーズの世界と・・

A:繋がってません。似てたとしても他人の空似です、フィクションです。某L様や部下S達はいません
そんな妄想はゴミ箱へ捨ててください

やっぱりファンタジーは難しいですね、独自で考えても気がつけば設定が酷似してたり・・
そして最後に・・リ リ カ ル が 味 方 だ と 誰 が 言 っ た ! ! !

では、マターリと投下を待ちますかww
652 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/15(木) 01:55:54.47 ID:THu0tFsAO
>>651
すごく…富士見ファンタジア文庫です…

乙ぐっじょぶでございましたっ!!
653 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/15(木) 02:26:42.57 ID:z1fbIooqo
まさかのファンジター吹いたwwwwwwwwww
素敵な脳みそを持っててうらやましいwwwwwwwwwwwwwwwwww
654 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:29:18.11 ID:Z/8U9e9Vo
じゃあじゃあじゃあ
ぼぼぼぼぼっぼくもふぁんたじーいいかな

なるべく被らんようにしたつもりどす!
655 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:36:30.66 ID:Z/8U9e9Vo
半分はシリアス、半分はおバカで出来たファンタジー長編!!!!!!!!!?

ドゥ・アース

これは、この広大な宇宙に存在するある惑星での物語。
その惑星には古代より地球人と酷似した生命体が繁殖し、生命の営みを続けていた。
地球人と酷似した生命体。分かりやすく人類と呼ぼう。その人類は、地球に繁殖する人類とは一つだけ事なる体質と性質を持っていた。
感情の力を増幅させ、それをさまざまな力に変えるものを持っているのだ。文明をもった古代人はその体質や性質を解明し、
古来より伝えられた架空の生命体になぞらえて精霊術と名付けた。
その精霊術は、先に述べたように感情の力を利用するのだが、それを意図的に増大させた上でコントロールするというもの。
感情を操作する行為事態、並大抵の精神力で出来るものではないし、最悪感情にまかせてそれを暴走させてしまいかねないものでもある。
古代人はこういう。神は不完全な我らに試練を課したのだ。と。
そんな古来より伝来する言い伝えを元に人類は精霊術の鍛錬(研究)を続けてきた。完全なる人類を目指さんが為に。
一つは、精霊術研究所といい、古来より栄える光の神(精霊)を崇めるルミナス教団が管理している。
一つは、エルミークの里。レイブリック王国とルミナス教団の国境に位置するエルミークの森にある小さな集落の事である。
その集落はそれぞれの領土から独立しており、現在はその昔マスターエレメンタルと呼ばれた年配の女性が族長を務めている。
ルミナス教団とは違い、古代人の術者から代々教えを請い、それを学ぶ世界から自立した場所である。
一つは、ゾア教団。一般的にゾア教団は邪教と呼ばれ、悪とされている。人の心の闇の部分であるダークサイドを崇める教団である。
彼らは禁とされる邪の力を研究し、崇め自らの欲望を満たすためにある集団である。
合成生命体を始め、人口生命体を作り出す古の技術を所有しており、私利私欲でそモンスターと呼ばれる化け物を野に放つ等、実践的な実験を行っている。
世に巣くうモンスターは自らの欲望のまま行動する為、膨大な精霊力を放出する。
今現在ではその活動は沈静化したものの、彼らの傍若無人なる行動を抑制する手立ては未だ見つかっていない。
そして最後、精ルミナス学園。ルミナス教団が管理する精霊術のエキスパートを生み出すために作られた施設だ。
今回は、この精ルミナス学園での物語。その学園がどういったものなのか。それは彼の生きざまを通して追々説明していこう。

彼の名前はレイ。コレといった特徴のない普通の少年でそれなりにスケベ、年齢は16歳。
もともと人里離れた山奥で鍛冶屋見習いとして、自らの師である養父と共に暮らしていた。
彼には特定の親はおらず、スラム街の片隅で生を受け、すさんだ世の中で12年間生活していた。
そのためか、時折野性的な鋭い眼光を見せるときがあり、彼の素性を知らない人間を驚かせる事もある。
親代わりはスラムの娼婦だった事もあった。親代わりはスラムで出合った兄貴分だったこともあった。
そんな時、彼は山奥から街に出てきていた鍛冶師の養父と出会った。
養父はそんな彼をただ引き取った。彼は未だにその真意をしらない。
しかし彼はそんな事はどうでも良かった、ただ飯が食う事ができ、フカフカのベッド寝られれば良いと短絡的な考えしかなかった。
それも仕方がない事なのかもしれない。毎日毎日をただ生き延びることだけを考えて12年もの間生きてきたのだから。
彼は養父と生活した4年間で世間を知った。自分が何もできない弱い人間である事も知った。
その時彼は初めて養父に恩を感じたのだ。必死に恩を返す努力をした。鍛冶屋の仕事も覚えようと努力した。
しかし、そんな彼の元に白羽の矢が立つことになった。
神の声と呼ばれる精ルミナス学園への強制入学制度である。
光の神を崇める者たちなど、一部では強制入学制度(推薦)で入学する事は自分の命よりも尊いものとされている。
レイは無信者だ。己の生きてきた道しか信じなかった。もちろん、その場で断った。
しかし、それを断れば家族と共に異端者扱いされてしまい、処罰されてしまうと言うのだ。
彼は迷った。尊敬する養父を見捨てて我が道を貫くのか、養父を守るため信者になるのか。
彼は決断した。愛する養父の為、生まれて初めての師弟愛を貫くため、精ルミナス学園に入学する決意を固めた。
656 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:42:14.67 ID:Z/8U9e9Vo
学園には沢山の生徒が存在する。その数は5000人を超える。
レイと同じくして決断を迫られて入信し入学したもの。
貴族のコネを使い、ステータスの為に入学したもの。
サラブレットになるために生まれてきたようなもの。
邪教に恨みを持つもの。
用はこの中から、邪教と一戦交える為の兵隊を選び生み出す為の施設なのだ。
これは公にも知らされている事で、みな道筋は違うものの目指す場所は一つなのだ。
そして、そのサラブレッドや実力者から選び出された真の精鋭だけが到達できる場所がある。
それが、ルミナス異端審問騎士団である。各地の査察を始め、
邪教がからむイザコザや小競り合いを諌める為に存在する教団が管理する自治区のお目付け役なのである。
トップにはカイザーと呼ばれる管理者が一名、その下には大地、水、火炎、大気をの主元素を代表する騎士団がおり、主たる構成員は団長と副団長の下に100人以上の精鋭が居る。
100人と聞くと少ないようにも思われるが、あくまでも少数精鋭なのである。
各元素の騎士団員の一人でレイブリック王国の一般兵士を100人以上相手に出来るとされている。
一般兵士と比べると10000人相当になる。副団長ともなれば一騎当千、団長ともなれば一騎当万。
数に換算すればとんでもない戦力にたとえられるのだ。
そして、そんな彼らは異端者とならぬ限り、彼らの血縁者、功労者に対し永遠の富と安らぎがもたらされると言われている。
つまり、レイはそこに目を付けたのだ。養父は決して血縁者ではないが功労者である。
ならば、稼ぎの少ない山奥の鍛冶屋を早々に引退させ、楽な暮らしをさせてやれる。恩返しができると考えたのだ。
そんな思いを裏腹に、彼の波乱万丈な学園生活が開始されるのでした・・・。

半年後──

半年にわたり、基礎知識と訓練を施されていく。その間に脱落し姿を消す生徒も少なくはなかった。
しかし、レイは持ち前のスラム根性でしがみつくようにして生き残っていた。

「えー、諸君らには今まで精霊論の基礎を学んできたと思う。基礎、それは勉学だ。心の育成だ。苦しんだものもいただろう
 しかし!そんな諸君らにもついに心の解放が待っているのだ!しかしながら──」

(ながったりぃ話だぜ・・・毎度毎度あのハゲは飽きねーのかよ)

「ごほん!レイ・名字!君はもう一度精霊論の基本からやり直すかね!?心が筒抜けなのですよ!」

(そんくれーしってっよ!特にあんたが俺と同じ怒りの力を主にしてるくらいな!)

頬杖をつきながら、はげ頭の中心を眺めていた視線を一度そらしてスラム時代に磨いた鋭い眼光で講師を睨みつける。

「ふんっ。まぁいい。明日、諸君らは【開心の間】に向かってもらう。そこですべてが露わになるであろう!レイ・名字」

(けっ!)

口論と腕力では勝負以前の問題だ。彼はまだまだ半人前以下である。
こういった言葉のやり取りでは相手が大人、いや、熟練者である事が窺える。感情の抑制制御こそが精霊術者の資質なのであるから。
講師である彼の本文は火炎の精霊術を扱う術者である。して、彼は怒りの感情を操作する事に長けている。
怒りの力を内に秘め、少しずつ蓄えていく。そして、いざ術を完成させる際にそれを調節しながら放出するのだ。
しかし、人間の本質はやはり感情である。術者本人が喜怒哀楽の感情で我を忘れてしまう可能性は誰にでも秘めている。
そこを巧みに抑え込む・・・というのが精霊術者の強みであり、【新人類】という名のステータスなのである。
657 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:43:51.83 ID:Z/8U9e9Vo
精ルミナス学園
─男子寮─

「なぁ、レイ。明日【開心の間】だっていうのにさ、エロ本なんか見てていいのか?」

「いいの、いいの!エロスは炎の一部だって言うじゃねーか」

「そういう問題じゃないと思うけどな。・・・まぁ、その下着姿の女の乳がデカイ事だけは認めるがな」

「だろー?揉むならこれくらいじゃねぇとな!」

男2人の共同部屋では、下衆な会話が繰り広げられていた。
一方の男子生徒は一見クールに見えても、根幹に潜むエロスは多大なものだ。しかも、すこし曲がっている。

「なぁ、この乳の中には何が詰まっていると思う」

「なんだ、いきなり・・・・脂肪と乳腺だろ」

「お前は所詮ストレート馬鹿さ。知っているか、レイ。女の乳にはは、慈愛の心が込められているのだ」

「いやいや、あえてボケないっていうボケをやったのに、サム・エドワーズ!お前のソレは何なんだよ!」

ツッコめよ!そこは、夢と希望だろ!とでも言わんばかりの不満そうな顔を同室の男子生徒につきだす。

「まずは、メスの乳房について・・・から説明が必要なようだな」

同室の男子生徒は、まじめな顔をして哺乳類の乳房にまで時をさかのぼって思いのたけをレイへとぶつける。
レイは、はぁ・・・と大きいため息を付きながら、またかと呆れた顔をやってから、エロ本に意識を戻す。
横でうんちくと理解不能な性癖をのたまわれる同室の男子生徒、サム・エドワーズが邪魔をしてか、本の中の女の乳房をもう正常なエロスで見る事ができなくなってしまった。
平たく言えば、萎えたわけである。

「一般的に動物とされる雌の乳房と、人類とされる女性の乳房には決定的な違いがある──」

この話題はすでに2788回目である。要は人類の女性の乳房はなぜ膨らむのかと言いたいのだろう。

「はいはい、じゃあ牛の乳について教えてくれ・・・・あれも大きいぞ、人類より遥かに。あれも人類の腹を満たす慈愛の心なんじゃねーの?」

「なん・・・だと・・・?」

聞き飽きた。言い飽きたやりとりである。女性の体はエロいですね。そういえば良いものを、回りくどく哺乳類の誕生から説明されているのだからレイもたまったもんじゃない。

「はいはい、やめやめ!お前の所為で俺のたぎるエロスの炎が鎮火しちまうっての!」

サムはこれでも慈愛をつかさどる水の精霊適正があるのだからいささかまいってしまう。一体、どんな力が開心されるのか明日が楽しみでならないレイであった。
レイは、サムの自論を適当に聞き流して、いつも通りにエロ本を枕の下に挟み込んで寝についた。
その日、レイはおかしな夢を見た。
658 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:44:16.41 ID:Z/8U9e9Vo
(あっあっあぁぁぁぁぁ!)

目の前にはぼんやりと、鍛えられた腹筋と胸板が見える。自分の視界はその筋肉の動きに合わせて揺れ動いていた。
えらくはっきりとした感覚に一瞬驚きを隠せなかったが、それ以上に身体の芯を貫くような刺激が脳天にまで打ちつけられる。

(はぁぁぁぁ!!)

女の喘ぐ声が聞こえてくる。その声は自分の頭蓋骨を通して聞こえるような不思議な感覚で、自分ではないのに自分のモノのように響く。
状況を理解しようにも、理性を下半身から突き上げてくる刺激に邪魔をされて平常を保てない。
すると、自分の視界にあった筋肉の塊からぐぅっと声が漏れてくる。そして、その塊が更に速さを増し、こちらの頭も白くしびれてくる。
言いようのない刺激が体中を駆け回り、脳がホワイトアウトしていく。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──!」

筋肉の塊の動きが止まり、下半身に熱い何かが放出されている感覚に気付いた。
そして、俺の耳元でこう囁かれた。

「愛しているよ・・・レイ・・・」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

レイは世界が滅びるのかと思うほどの衝撃を受けて目を覚ます。
どうやら、夢の世界で性行為に及んでいたのだろうか。それが自分が筋肉の塊、いや男だったらよかったであろう。
夢の世界のレイはなぜか女性であったのだ。しかも、狂ったように喘ぎ、男の精子を受け入れた上、見知らぬ男に愛を告白されている。
こんな夢が悪夢でなくてなんというのだ。とてつもない脂汗で体中がびっしょりに濡れている。

「はぁ・・・はぁ・・・なん・・・なんだ・・・?」

いつも、エロい夢を見ようと枕の下にエロ本を敷いてねていたのに、そんな夢は一切みることはなかった。
そして、ついに見れたと思えば自分が女になっている?ちゃんちゃらおかしい。俺は男として女とセックスがしたいだけだ。

「わが偉大なる乳房よ!我に力をあたえたまえぇぇぇ!〜〜〜むにゃむにゃ」

びっくぅ!とレイは大きく身体を震わせる。
サムの寝言だった。明日の開心の間を前に心が高ぶっているのだろうか、彼はすでに精霊術に開心している夢でも見ているのだろう。

「まったく!お前の所為で夢見も寝覚めも最悪だ!」

そう言って、枕の下に敷いてあったエロ本を取り出して、サムの顔をめがけて本を放り投げる。

「いってぇぇ!!〜〜〜むにゃむにゃ」

レム睡眠であるはずのサムに本を当てても目覚める気配すらない。別に直接彼が悪いというわけではないのに、余計腹立たしくなってくる。

「俺・・・変な性癖に目覚めしまったのか・・・?このままエロスの炎に目覚めてプレイボーイってのもありだが・・・あれはありえねぇ・・・」

レイの脳裏に女の姿の自分自身を想像してみる。

「げぇっ!きめぇぇぇぇ!!」

想像できたのは今の自分自身が、女物のドレスを着飾っている姿である。早々に気持ちを切り替えようとしたが、時すでに遅し。
女装した自分の姿が頭の上をくるくると踊っている想像に脳の大半を取られ、朝まで眠れない夜が続いたのであった・・・。
659 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:45:01.09 ID:Z/8U9e9Vo
翌日──開心の間にて

レイたちは、各々の適正に分けられ、大地、水、火炎、大気のそれぞれの間の前に並ばされていた。
レイの適正は火炎である。特に、スラムで培った怒りの力、鍛冶屋見習いだった所為か炎との付き合いも長かったのも理由である。
彼の目の前に並んでいた生徒たちは、次々と部屋の中に入っては出ていく。
中には満面の笑みや自信に満ちた顔で出ていく者も居れば、自らへの失望の念や、あきらめの顔を見せて出ていくものもいた。
以前より聞かされていた事だったが、これは、いわば適性検査なのである。これに通過しなかった生徒は、尻尾をまいて故郷に帰らなければならない。
あいつは良い所のボンボンや令嬢だ。という者。明らかに田舎の芋男芋娘と、貧富を問わない適性検査であった。
つまり、実力あるものが残れるシステムなのだ。それもそのはず、これは異端審問騎士団へ入団するための試験であるからだ。
そんな彼らを見送って行くうちに、レイの順番が回ってきた。


火炎の間にて

火炎の間に入ると、その部屋は赤と黄色を基調に整えられた内装になっており、心の中の燃える炎を増長させているように感じられた。
その、部屋の中にその内装に溶け込むかのように、椅子に腰かけ、艶めかしい足を組んで座る女性が一人いた。
水着のような露出の高い服装で、派手な装飾を肩や腕、腰、そして足の先まで施された、スイムドレスとでも言えるようなデザインの服を当然の様に着こなしていた。
そんな妖艶な服装をした大人の女性を目にして、レイのような血気盛んな少年が興奮しない理由などない。
レイは、自分の股間に血液が下りていくのを感じて、とっさに前かがみの体制になってしまった。

「あら、可愛い子。今まで色んな子を見てきたけど、ここまで俊敏な反応をしたのは何十年振りかしら」

何十年?あなたは何歳ですか?おばあさんですか?と考えそうになったが、心の中でそれを呟くのは禁句と判断した。
体中の穴と言う穴から、体中の体液が噴き出しそうになったからだ。

「良い子ね。さぁ、始めようかしら。私はあなたの力を開心させてあげるのが役目。今まで何十万、いえ、何千万という人の心を開いてきたわ」

妖艶な大人の女性は、話口調も妖艶で、すぐに吸い込まれてしまいそうになる。これが、噂に聞くエロスの炎なのだろうか。

「ふふ・・・それも炎ね。けれど、妖炎の魔女。って名前聞いた事ないかしら?」

妖炎の魔女。造語のような名前だ。そう、それはまさに彼女の為に造られた名前だった。
妖炎の魔女とは、まさに妖艶を絵にかいたような美貌を何十年と維持しており、さらにその色香に惑わされて命を散らした邪教徒共は計り知れない。
さらに、その妖艶が通じない相手には、妖炎で相手を瞬間的に灰にされ、大地へと還元させられるらしい。
そんな彼女は以前、異端審問騎士団、火炎の団の副団長だったとされている。

「良くできました。オツムの方はそれほど悪くなさそうね。でも、これはどうかしらっ!?」

妖炎の魔女はレイの適性を一瞬で見抜き、その適正を逆手にとって彼に試練を課そうというのか。
彼の目の前に、妖炎の魔女の裸体が浮かぶ。気がつかないうちに彼の周囲に張り巡らされた炎のバリケードに揺らめいて、その乳房もその陰毛もはっきり見えないでいる。
昨夜寝付けなかった事もあってか、熱気と煩悩で朦朧とした意識の中、夢にまで見た女性の乳房が陽炎のように揺らいでいる。
正確には夢には見えなかったのだが、現実は目の前にまで迫っていた。
660 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:45:51.98 ID:Z/8U9e9Vo
(熱い・・・身体が熱い・・・けれど・・・見たい・・・あの身体が見たい!!!)

『見たい?見たいの?良いのよ?見ていいのよ?』

(熱い・・・身体が溶けてしまいそうだ・・・!あの炎を超えれば・・・あの身体にたどり着ける・・・!)

妖艶の力に魅せられ、レイの体は炎のバリケードに吸い込まれるように近づいていく。

『でも、良いのかしら?その炎、私の体にとかされる前に、あなた灰になるわよ・・・?』

(灰になる?灰になったらその豊満な乳に触れないじゃないか・・・!いや、そんな事どうでもいい!今すぐその乳に・・・触れたい!)

『あなたはどうしたいの?灰になる事をいとわず、私に触れに来るのかしら?あなたのお父さん。悲しむわね・・・ああ、私にもわかるわ、あぁ、悲しみの涙で私の炎が更に燃え上ってしまう!』

(ああああああああ!俺はどうしたらいい!どうしたらあの乳に触れるんだ!どうしたら!!)

俺の訴えに、妖炎の魔女は一言だけ優しげな声で俺に語りかけた。

『あなたの自身の心に問いかけなさい』

その瞬間、昨日見た夢がフラッシュバックする。

(そうか・・・俺が女になれば自分の乳を好きなだけ揉めるじゃないか!俺は何を考えていたんだ、妖炎の魔女の絶対灼熱に触れたら、魔女の乳を揉むとかそれ以前の問題じゃないか!)

一般的な解釈からしたら、明らかに可笑しな発想である。常軌を異している。しかし、彼の中にはそういったアブノーマルな感情が潜んでいたのだ。
妖炎の魔女はそれを彼から引き出そうとしていたのだ。まさに、自らが腹を痛めて産み落とした赤子が、初めてのハイハイを両手で迎える母のような気持ちで。

『さぁ、目覚めなさい!妖炎の力に!!』
661 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:47:04.03 ID:Z/8U9e9Vo
(うぅっあああああ)

「ああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・!!」

レイの叫びが火炎の間にこだまする。そして、レイの肺からすべての空気が吐き出された頃、炎のバリケードが一瞬で消え去った。
レイの目の前に立っていたはずの全裸の妖炎の魔女は、落ち着いた様子で椅子に足を組んだまま腰かけたままだった。

「おめでとう、気分はどう?」

「えっ!?おめで・・・とう・・・?」

「そうよ、おめでとう。よ。それから、はじめまして。とも言っておこうかしら」

妖炎の魔女の表情は、母が赤子を見つめるかのようなそれで、レイはその顔に良い表す事の出来ないほどの安堵感を抱いた。

「はじ・・・めまして・・・あれ?」

ここで初めて自分の体の異変に気がついた。
自分の頭蓋骨を通して聞こえてくる声は、聞きなれた男の声ではなく、キンキン響くような女の声だった。
レイは、そこでもう一度昨日見た夢の内容がフラッシュバックする。
これで、やっと自分の体が『女体化』した事に気がついたのだった。

「なんでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「生まれてきてくれてありがとう。私の赤ちゃん(はぁと」

「俺はあかちゃんじゃねーーーーーーーーーーーーー!」

「あらあら、女の子がそんな言葉づかいをするなんてはしたないわっ」

「だからそうじゃなくてーーー!うわっぁぁぁぁぁぁん・・・・」

夢にまでみた妖炎の魔女の胸にすがりつくように彼は泣いた。
妖炎の魔女は彼の頭をヨシヨシと撫でているだけだ。

「よしよし、良い娘ね。合格よ。けれど、今までどおりの生活じゃダメになったみたいね」

「うえっ・・うえっ・・・」

「あらあら」

妖炎の魔女は思った。抑えきれなかった煩悩の炎をこのような形で術に返還させる力。どんな上級術師でも不可能な力だ。
彼が・・・彼女がここに呼び寄せられた理由。スラム育ちだった彼女を、拾って育てた養父である鍛冶屋の父。
自分の知らないどこかで、知らない何かが動きだそうとしているように思えた。
そして、自分に課せられた使命。それは、彼女の力を覚醒させ、教団の理想とする世界へ変革させる力へ加える事。
そうなってもらうため、彼女育てろと告げられているようだった。

「よしよし、でも、これからが大変なのよ」

妖炎の魔女の言葉のそれは、レイにとってこれからの生活に多大な苦労が待っている。
女として生きていくのだという事実を突きつけられているだけにも思えたが──

「妖炎の魔女さん・・・あんたは俺をどうしたいんだ・・・」

鈍感そうで鋭い感性。そういったレイの本質は消えることはなかった。
妖炎の魔女はそんなレイの答えに胸が躍った。この子ならやれると。

「決まってるじゃない、素敵なレディーにしてあげるわ」

こうして、レイの波乱万丈な学園生活が性的な意味でスタートした。

序章 
妖艶の炎
─完─
662 :糞野郎 ◆KsPfRw61z.[sage]:2011/12/16(金) 00:50:54.81 ID:Z/8U9e9Vo
色んな意味で糞文ですみません

今回はファンタジーってことで、うんこは自重しました


なんか 便乗するみたいで申し訳ない感じが・・・


>◆suJs/LnFxc氏

スレイヤーズとか、おもくそ同世代臭がするんですが・・・・
リナが恐怖するほどのねーちゃんの存在
あれは良い例えです
基本自分が長い文を投下しておきながら、いつも他人のは流し読みだったりするんですが
腰をすえて読んでみると、つぎつぎいってまいました
おもしろかったっす!
663 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/16(金) 10:15:52.40 ID:30gDWWrSO
今さらながら勢いで書いたものを読み返してたら
主人公のファミリーネームが 名字のままだった…
適当に脳内補完しといてください



はぢかちい(T_T)
664 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2011/12/16(金) 12:32:09.39 ID:CYgVIASAO
>>662
あれ?俺じゃなくて◆Zsc8I5zA3U氏ですよね?
何にせよ両人とも乙です!
665 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/16(金) 15:40:52.09 ID:30gDWWrSO
そうです そうです!
申し訳ないです!



まだ導入部分で、にょたっこ萌えすらなくてごめんなちい
666 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/12/17(土) 09:19:55.51 ID:Gc2b952M0
ブームに便乗してエセファンタジーを書いてみようかすら・・・
よっしゃ一億万年ほど待ってろ!
667 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/17(土) 17:51:57.60 ID:NWYZRJc5o
この盛り上がりっぷり…
流れに乗れないのが悔しいorz
668 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/17(土) 20:12:45.11 ID:SncA0sgno
久しぶりにショートショートでも書いてみようかな。
てことで、お題プリーズ ↓
669 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/17(土) 20:22:06.69 ID:ydkwdUebo
ナース
670 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/17(土) 20:38:06.89 ID:SncA0sgno
早っww
ナース把握
671 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/17(土) 21:44:25.62 ID:SncA0sgno
やばいww
ショートショートじゃ収まらない勢いだぜww
しかも微エロな展開にorz
672 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:09:23.06 ID:SncA0sgno
というわけで投下っ!
エロ注意ww

--------------------------------------------------------
「あーあ、ついてないなあ…、ホントなら明日からみんなとスキー旅行の予定だったのに…」
俺は病室のベッドの上で独りごちる。
「ほんとだよな、まさかおまえが急性盲腸炎で入院するとは思わなかったぜ。俺がおまえの分まで楽しんできてやるから、ベッドの上で枕をぬらしてるといいさww」
俺の声が聞こえたのだろう、ベッドサイドでマンガを読みふけっていた晴樹が顔を上げると、これ以上ないくらいの意地悪な顔をして言った。
「ちぇっ、人ごとだと思って」
「まあそう言うな。帰ってきたら土産話をた〜〜〜っぷりしてやるからww それに今回のスキー旅行はあかりも来るしな。正念場だぜ…」
あかりというのは同級生の中でも1〜2を争う美少女で、晴樹はもちろん、俺も彼氏の座を射止めんと幾度となくアタックを続けている人だ。
今回やっと、冬休みと言うことで俺や晴樹、あかりを含めて男女5人ずつのグループでスキー旅行の約束を取り付けたところだったのだ。
「おっと、そろそろ帰って支度しなくちゃ。じゃあ、お大事にな」
晴樹はそう言うと、傍目にわかるくらいウキウキした様子で病室を出て行った。
673 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:09:50.75 ID:SncA0sgno
─ちぇっ…ちくしょう…俺も今回の旅行で決めるつもりだったのに…。そして、そして…
考えているうちに、思春期の性欲がまじり、だんだんと妄想が膨らんでくる。手術をしたばかりだというのに股間は正直だ。
「は〜い、検温とガーゼの取り替えのお時間ですよぉ」
不意に病室のドアが開き、一人の看護師が入ってきた。
「!! ちょ! ちょっとまって…」
俺は慌てて存在を主張する股間を鎮めようとするが、かまわずベッドのそばまで看護師がやってくる。
この看護師はまだ1年目であまり難しい病気やけがの人にはついたことがないらしい。新人研修代わりには盲腸のケアくらいがちょうどいいのだろう。
ついでに言えば、かなり可愛い。
「あらあら、どうしました?」
看護師が屈託のない笑顔でのぞき込む。看護師の顔が近づいてくるほどに自分の顔が赤くなり、股間もますます主張を激しくしてしまう。
「い、いえ…、なんでもないんです…」
「あらそう? じゃ、パジャマの前をはだけてくださいね。そしてこの体温計を脇に挟んでくださいね。その間に傷口のガーゼを交換しちゃいますから」
そう言って看護師が体温計を差し出す。俺はそれを受け取ってパジャマの前ボタンを外し、横になりながら体温計を脇に挟む。
─ええい、…鎮まれってのに…このままじゃバレちゃう…
「はい、じゃあベッド倒しますよ」
看護師がベッドを倒す。俺の体はベッドとともに仰向けになった。
674 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:10:26.73 ID:SncA0sgno
─ちぇっ…ちくしょう…俺も今回の旅行で決めるつもりだったのに…。そして、そして…
考えているうちに、思春期の性欲がまじり、だんだんと妄想が膨らんでくる。手術をしたばかりだというのに股間は正直だ。
「は〜い、検温とガーゼの取り替えのお時間ですよぉ」
不意に病室のドアが開き、一人の看護師が入ってきた。
「!! ちょ! ちょっとまって…」
俺は慌てて存在を主張する股間を鎮めようとするが、かまわずベッドのそばまで看護師がやってくる。
この看護師はまだ1年目であまり難しい病気やけがの人にはついたことがないらしい。新人研修代わりには盲腸のケアくらいがちょうどいいのだろう。
ついでに言えば、かなり可愛い。
「あらあら、どうしました?」
看護師が屈託のない笑顔でのぞき込む。看護師の顔が近づいてくるほどに自分の顔が赤くなり、股間もますます主張を激しくしてしまう。
「い、いえ…、なんでもないんです…」
「あらそう? じゃ、パジャマの前をはだけてくださいね。そしてこの体温計を脇に挟んでくださいね。その間に傷口のガーゼを交換しちゃいますから」
そう言って看護師が体温計を差し出す。俺はそれを受け取ってパジャマの前ボタンを外し、横になりながら体温計を脇に挟む。
─ええい、…鎮まれってのに…このままじゃバレちゃう…
「はい、じゃあベッド倒しますよ」
看護師がベッドを倒す。俺の体はベッドとともに仰向けになった。
675 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:12:29.29 ID:SncA0sgno
上、二重書き込みになってしまった スマヌorz

------------------------------------------------------
「まぁww」
横になった俺の体をみた看護師が声を上げた。
─バレた…おわりだ…
「い、いや、これは、その…」
「うふふ、若いうちはよくあることよ」
看護師はかまわず傷口の処置を終えると、検温の終わった体温計を受け取り、記録簿に記入する。
「これ…、このままじゃ治まらないでしょ?」
看護師が俺の股間を指でつつきながら聞いてくる。これは…噂に聞く…しかしそんなのは噂に過ぎないのでは。
「お姉さんが鎮めてあげよっか?」
一瞬何のことかわからなかった。
「あら、いや?」
「い、いえ、あの、お願いしますっ」
そう言われていやだと言えるはずもない。
「うふふ、じゃあ…」
看護師がパジャマのズボンとパンツを一緒に下ろすが、一気に勢いを増した股間に引っかかってうまく下がらなかったくらいだ。
「あらあら、元気のいいことww」
看護師の手が優しく股間をさするその刺激が、一回ごとに体中をかけめくる。ものの数分で耐えられなくなりそうだった。
「う、も、もう……」
思わず漏らしたうめき声を聞いた看護師の手が止まる。
676 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:13:28.93 ID:SncA0sgno
「ふふっ、じゃあ…最後はお口でしてあげる。出していいからね」
看護師は微笑むと、俺の股間に顔を近づけ…そして、ぺろっと先端を舐めた。
「ガマン汁いっぱいねww」
その次の瞬間、俺の股間は温かく濡れた感触に包まれた。
「!!!!!」
─これが…なんて気持ちいいんだ…
看護師が咥えたまま頭を上下するたびに股間から全身に快感が高まり、脳天まで突き抜けたかと思うと、看護師の口の中にドクドクと熱いものを放出してしまっていた。
「んんっ!」
看護師はちょっと顔をしかめたが、口を離すことなく、そのまま吸うように口の中で受け止めている。
永遠の続くかと思われるほどの放出もいつの間にか終わると、看護師がやっと吸うように口を離すと、そのままごくりと飲み込んでしまった。
「えっ? 飲んじゃったの?」
「だって、出すわけにいかないでしょww」
驚いて聞くと、看護師は笑顔で答えた。その笑顔にちくりとした罪悪感を感じてしまった。
「でも…なんでここまでしてくれたの?」
「それはね、わたしには思春期の男の子の気持ち、よ〜〜〜〜っく分かるから。元、男として、ねww」
677 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2011/12/17(土) 22:15:14.79 ID:SncA0sgno
勢いで書き上げた。後悔はしている。
最初は主人公が最後に「俺、看護師になる!」的な展開を狙っていたんだけどなぁ…
どうしてこうなったww
678 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/17(土) 22:21:27.17 ID:ydkwdUebo
はえええwwwwww
乙でした
679 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/18(日) 01:06:55.56 ID:jPG1AHjAO
ファンタジーブームや職人復帰ともりあがってますな〜wwww
680 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/18(日) 15:31:41.42 ID:nDUquokSO
ここ最近になって、携帯コミックとか探してると
女体化ものの作品が増えた気がするんだ

やっぱ、男女平等の世の中になって、更には女性の立場が日増しに強くなってってるからかな?

まぁ、俺としてはそんなん関係無しに女体化希望だが
なんなら、虐げられて、蔑まれて、詰られて、ごーかんされてもいいぞ
681 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/18(日) 16:59:40.62 ID:k0e8iwyGo
そのコミックの広告俺も見たわ
変態の輪が広がるのはいいことだ
682 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/18(日) 19:36:09.69 ID:nM9wMbci0
>>680
でも、もし犯されるなら誰が良い?
俺なら友人だなぁ。

すいませんが質問で書いてるのは良いんだけど実際の地名(名古屋)とか店の名前は使用しないほうがいいのかな?
683 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/18(日) 19:55:55.02 ID:nDUquokSO
友人だと、逆に心が痛むなぁ
あ、でもそれの方が犯されてる感があるなぁ


ふぅーむ
ドM的な性癖のせいで、不覚にも感じてしまうと…
ほいで、性的な意味で勘違いされてしまって、ダラダラと肉体関係だけ続けてそう

そして、体に覚えこまされてしまった性的なスイッチのせいで、次から次へと元々友人だった男どもにハメてもらえるよーにもっていきそう



破滅するなwwww
684 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/18(日) 20:40:05.13 ID:wt0St3r60
685 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2011/12/18(日) 21:07:10.84 ID:0hRAzDa00
犯されるなら自分にじゃね?
あ、ダメか
どうせ犯されるならイケメンが良いな
686 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/18(日) 22:07:26.77 ID:k0e8iwyGo
>>682
あ○ま寿司みたいに小規模な個人経営の店じゃなければ大丈夫じゃね?

おっと誰かk
687 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/19(月) 02:32:01.03 ID:n/B6OoT/0
何か会話がイロイロ酷いwwww
これじゃ新規さんが引いちゃうぞwwww
688 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/19(月) 03:44:12.81 ID:sCjpDURGo
あえて言おう

ここに来る前から変態であると!!
689 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/19(月) 06:21:48.93 ID:n/B6OoT/0
ダメだこりゃwwww
690 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/19(月) 10:07:06.94 ID:b4LeT3rE0
>>686

ユニク●とかおkなら最初のほうだけ投稿します。
691 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/19(月) 11:06:53.38 ID:Yj+6Zm4AO
この手の雑談は最近見かけなかったから、たまにはあっても良いのでは…
ちなみに俺は友人に優しく犯されたい派ですがwwwwwwwwww
692 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage]:2011/12/19(月) 16:57:44.15 ID:cT4PFJUSO
>>690

適度にぼかすってのでもいいのでは?
ユニクロ→ウニクロ
みたいな

マクドナルド→ワクドナルド
みたいな
693 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:32:35.52 ID:9M7frI1zo
広大な畑に豊かに実る作物の数々、いつものように味を確かめながら手際よく収穫をしていくのがフェイ=ラインボルトの日常が今日も始まる。





まじっく⊆仝⊇ろ〜ど







あれからフランが作ってくれた魔力回復薬のお陰で普段なら魔力が全快するのに最低一週間は掛かるのだが物の3日で回復を果たし無事に男の姿に戻っている。しかしあれから姉には日頃の雑用も強制的に押し付けられているので両親と同じように中々逆らうことが出来ない、それでもフランの活躍のお陰でサガーラ盗賊団は鳴りを潜めているし自分の馬と貰った馬の間で上手い具合に交配が行われて昨日新たに子馬が誕生したのだ。この調子なら後数週間もあれば休養している母馬を含めていつものように馬車を走らせることも出来るだろう、後は台風で失った家畜を何とかしたいのだが・・知り合いの農家も自分と同じ状況らしく逆に余っている家畜を譲ってくれと言われたぐらいだ、この分だと家畜のほうは今まで通りにそろえるのは時間が掛かるだろう、業者に顔を出しても軒並みに価格は高騰しているし野生動物を飼いならすのも調教とかにかなり手間が掛かるしフェイにそんな技術はない。

「魔法だけでは農業はやっていけないよな・・」

全国に流れる傭兵ならば収入も安定しているだろうし実力もあるフェイにはピッタリだろうが、本人は戦闘よりも平穏を性格なので却下している。そんなフェイはいつものように売りさばく作物の数々をまとめていると珍しく家にいたフランが声を掛けてきた。

「フェイ、ちょっと話があるわ」

「なんだい姉さん。これから街で売りさばかなきゃいけないんだけど・・」

これから街に出て作物を売りさばなければいけないフェイにしてみればたいした用事がなければ後にしてほしいのだが、前途のようなことがあるので断るのも断れない状況である。

「あのさ・・今さっき来ちゃったのよ」

「何? 生理なら適当に・・ウゲッ!!」

「失礼なこと言うな!!! 今度言ったら暗黒魔法を食らわすからな!!!」

「す、すんません・・」

もしフランの暗黒魔法を立て続けに喰らえばこの世への生はもはや絶望的に陥ってしまうだろう、それだけの威力は当然あることをフェイは身を持って知っている。

「・・じゃなくてさっき魔法を使おうと思ったら“魔法制限”になっちゃったの」

「ああ、なるほど・・」

魔法制限とは魔法使いならば誰でも起こりうる現象の一つで最大で約2日間は魔力が冬眠状態に陥る現象のことを指す、魔力が使えない期間はそれぞれのキャパシティにもよるのだが、キャパシティが大きければ大きいほど魔力が回復するのは時間が掛かる。回復するまでのその期間は文字通り魔法が使えないので魔法使いならば誰もが一度恐れる日である。

女体化と同じように原因は全く不明で対処の仕様は全くないのだが、女体化と違って魔法制限の場合は前兆として激しい頭痛が伴ってくるのでまだマシなほうだろう。常人よりも遥かに大きいキャパシティを誇るフランは当然のように回復する期間も常人よりは長い、今日からフランは約2日の間は魔法が使えないただの女の子だ、しかも彼女は魔法を使って医者をしているので例え2日といえども魔法が使用できなるのはかなり痛い問題である。

「で、これからどうするのさ?」

「とりあえずは魔法が使えないからあんたを頼ることになりそうね。今日は農業を休みなさい」

「ええええ!!! 医療魔法はあんまり自信がないんだけど・・」

「何言ってるの!! 私以外に高度な医療魔法できると言えば弟のあんた位しかいないでしょ、一応修行した時に私と一緒に習得したでしょ!!」

修行時代、2人はお互いの怪我を治すために様々な医療魔法を体得しているのでフランの代わりは勤まるのだが、久しく医療魔法を使っていないフェイは少し不安だ。

「お願い、あんたしか頼める相手がいないの」

「・・わかったよ。でもサポートは頼むよ、僕も暫く医療魔法は使っていないからね」

「当たり前じゃないの。それじゃ、早速薬草を作りましょう、まずは・・」

こうして代行医者フェイが誕生した。


694 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:37:59.38 ID:9M7frI1zo
酒屋・リリー

フェイたちの自宅からそう遠くはないところに新しく酒屋がオープンして数日・・美人女店主とサービスの良い店員によって小さいながらもそこそこの繁盛を見せていた。

「ふぅ、これで一安心・・」

「だあああああ!!!!!! 野郎共をぶちのめしてぇ!!!!!!」

「おや・・じゃなかった、店長。夜までの辛抱ですから我慢してください」

店員・・もといお芋たんは聖を何とか抑えながら1人でせこせこ動きながら対処していった、あれからフェイに破れたサガーラ盗賊団は今までの蓄えから比較的に安かったこの一帯の土地と小屋を購入して酒場を開いていた。その結果は大当たりで本来の盗賊家業がままならぬほど忙しい毎日を送っており、大半の客は聖目当てでやってきてその酒の数々に舌鼓を打ちながら満足そうに帰っていた。

それにこの店の酒の大半は材料を集めた後でお芋たんの魔法によって生成されているんでコストもあんまり掛からず材料費だけを仕入れれば大半は問題ないのだが・・聖にしてみれば酒屋よりも本来の盗賊家業がメインなので機嫌はあまりよろしくはない。

「てめぇな、俺たちはあくまでも盗賊だぞ!!! なのに下らねぇ、酒をバカみたいに売りやがって・・」

「声が大きいですって!! それにあのままだとウチたちは下手したら一生洞窟生活ですよ、こうやって寝床が手に入っただけでも良しとしましょうよ」

確かに寝床も手に入ったので生活のほうは以前と比べ物にならないほどの快適さを手に入れるための口実、あの時はああでも言わなければ聖は納得しなしなかっただろう。
それに店のある程度はお芋たんに任せてあるとはいってもある程度のことはやらなければならないので、それが更なる聖の不満を助長させる。

本人は至って楽しそうではあるが・・

「それに案外楽しいもんですよ」

「チッ、こっちが落ち着いたらさっさと乗り込むぞ。ほとぼりが冷めかけているからリハビリがてら狙いに行くぞ」

「わかりました」

そのまま聖は店の奥で退散したのと同時に店に新たな男女の客が現れる。身にまとう装備からして王家の紋章がないところを見ると、どうやらこの2人は各地を流れる傭兵のようだ。

「いらっしゃいませ」

「先輩、ここが噂の酒屋ですよ。美人で有名な女店主がいないのは残念ですが」

「浅見・・俺に喧嘩売ってるのか?」

「ち、違いますよ!!」

(いいなぁ・・)

彼女がいないお芋たんからしてみればこの2人の光景はどうも気が重くなってしまう、盗賊団などやっていたら出会いなど皆無であるので酒屋を立てたのもある意味出会い目的のためでもある。

695 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:40:05.56 ID:9M7frI1zo
「全く・・ここはお酒以外にも販売していると聞いたんだが」

「ありますよ。この魔力増幅ジュースや、回復ドリンクも販売しております」

「いつも前線で突っ込んで切りかかっては怪我してる先輩にはピッタリなアイテムですね」

遅れながらこの2人の名は片岡と浅見といい、職業は大陸の各地を風のように流れる傭兵夫婦。彼らは主義や主張に決して左右されずに報酬を寄り多く出してくれた雇い主の元で力を奮うのであるが決して従属したりはせずに気ままに大陸の紛争に参加をしている。

「酒屋なのにそこらへんの道具屋よりもアイテムが充実しているな」

「当店は多種多様なアイテムを販売することをモットーとしてるので他にも解毒薬や子供にオススメのジュースも販売しております」

この酒屋の商品は全てお芋たんの魔法で作られているので効果はどれも本物でちゃんと効き目はある。そもそも盗賊家業では任務を効率的にやるためにお芋たんは回復ドリンクを始めとするアイテムを自前で作っていたので効果はどれも本物で聖も愛用しているほどである。

「それじゃ、先輩。この回復ドリンクとお酒でも買っていきましょうよ」

「ま、物は試しというから・・回復ドリンクと酒を4ずつくれ」

「毎度! 合計で46000TSになります!!」

ぶっちゃけ2人が購入したドリンクの材料はほんの800TSなのだが、お芋たんは得意の口八丁であれよあれよという間に商談を成立させる。一応隠れ蓑といっても商売には変わりないのでかなり多めの値段を吹っかけておいて利益を上げる、それにどれも効能は紛れもなく本物なので文句を言われたりはしないだろう。
この企業努力によって今日も酒屋・リリーは莫大な黒字を上げており盗賊家業を休んでも余りある蓄えがある。

(本当は飲むときには組み合わせを間違えるとまずいんだけど・・この2人は丈夫そうだからいいか)

「何か言った?」

「い、いえ!! お買い上げ有難うございます!!」

「先輩、アイテムも揃えたし次の町へ向かいましょう!!」

「確か国境付近で紛争があったな。行ってみるか」

満足そうに店を出る浅井と片岡であったが、この後2人は伝説の魔道剣士と対峙して惨敗することになるのだが、それは別のお話。


696 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:47:39.07 ID:9M7frI1zo
民家

あれからフェイはフランの代理医師兼馬車の運転手を勤め上げてフランの指導の下で各家々を回りながら魔法を使って手当たり次第に治療をしていた。

「はい、もう魔法はいいわよ。それじゃこれが今回のお薬です」

「すみません。ほら2人ともお礼を言わなきゃ」

「ゲホッ、ゲホッ!! 克己・・アタシはもう大丈夫だから仕事にいきな!」

「そうだぜ、親父は王宮で仕事が・ゴホッ!!」

今回治療した西田一家の妻と女体化したばかりの娘は流行病を患ってしまったようでさっきまでその容態は重かったのだがフェイの魔法のお陰で大分楽になったようだ。ちなみにフェイとフランは感染しないように予め魔法を施しているので心配はない、後は薬を手渡した後でフランはフェイにある指示を出す。

「それじゃ仕上げに大地の魔法でこの家一帯の病原菌を死滅させて」

「わかったよ。“神聖なる母なる大地の恵みよ 病の元を打ち祓え! ガイア・ミスト!!”」

光り輝くフェイからは清清しい霧が発せられて家全体を覆うと目に見えぬ病原体を死滅させて二次感染を防ぐ。主に治療魔法は大地の魔法と意外にも暗黒魔法が大多数を占めるのだが簡単な怪我の治療ならば並の魔術師であれば誰でも出来るし、毒などの状態異常も道具屋で出回っている解毒剤や薬草などで治療できるのだが病気となると話は別になる。目に見えぬ病原体の治療ともなるとかなり高度な魔法に当たるのでそれらを使える人間も限られてくる、フランのように並々ならぬ魔力と才覚に病気の知識が必要なのだ。フェイの場合は魔法が使えたとしても肝心の知識が全くないのでフェイのような医者にはなれないのだ。

「姉さん、終わったよ。これで大丈夫」

「ご苦労様。お渡ししたお薬は1週間分で食後の後に服用してください、なくなったらお手数ですけど診療所まで着てもらったらお渡しします」

「態々すみません。しかし今日は1人じゃないんですね」

「え、ええ・・彼は助手です、今日は患者さんが多かったので」

さすがに周りの評判もあるので魔力制限とは言えずにフェイについては多田の助手とはぐらかしてく、こうみえてもフランは受け持っている患者の数は多いので若干ながらもフェイよりも収益を上げているが同時に経費などの支出も多いのであんまり贅沢は出来ない、それに業務も激務なので年頃の女の子のように遊ぶことすらままならぬのである。

「それではお大事にしていてください。では代金は2300TSになります」

「ありがとうございます、しかもこんなに安いなんて」

「いえいえ、悪徳医師には気をつけてくださいね」

この世界にも詐欺というものは存在し、特に医療関係の詐欺はかなり多いので本業であるフランからすれば許せない限りで今までにもそういった人間を多数懲らしめてたお陰もあってかこのフェビラル王国では医療詐欺は見えなくなっていた。

697 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:48:20.73 ID:9M7frI1zo
そのままフランはフェイを連れて行くと馬車に揺られながら自身の診療所の元へ戻る、西田一家で訪問患者はこれでお終いなので後は自宅の近くにあるフランの診療所で患者の対処と備品の管理をすれば良いので訪問するよりかは楽である。

「それにしても姉さんも大変だね。病気なら魔法で治せるもんだと思ってたし」

「あのね、そんな魔法があるわけないでしょ。あくまでも薬と魔法は病気を治す手助けであって大事なのは病気を治そうとする意思よ。
あんただって修行時代はそれを身を持て実感しているでしょ」

「まぁ・・あの時はよくお互いに薬草取ってきたり治療しあったりしてたもんね。僕、姉さんを見直したよ」

普段はいつも自分に手厳しいフランにもこんな一面があったのかと思うと見直してしまう。思えば両親が出て行ってしまってからは両親の代わりに自分の面倒を見てくれたり、忙しい合間にも農業面でも面倒を見てくれている。いずれ姉も誰かと結婚してしまえば自分1人となってしまうので姉を心配させないためにも早いところ自分もそれに見合う相手を見つけなければならないだろう、幸いにもフェビラル王国は男女ともに15歳からは婚姻を許されるのでフランにもそういった話は来ているのだろうか?

「というより、フェイ。あんた童貞はどうするの?」

「えっ!! い、いきなり何言って・・」

「あのね、女体化した私が言うもんじゃないけど早いところ決断しておきなさい。女体化したら魔力のキャパシティは上がるけど体力はなくなるんだから農業は出来なくなるわよ」

フランしてみればこれからの将来において出来ることならばフェイには女体化などはしてほしくはない、これまでの農業が出来なくなってしまうのも理由の一つではあるが国柄によって女体化の扱いは非常に大きく異なる。このフェビラル王国は女体化に関しては非常に寛容的な王国なのだが海に面しているボルビックは宗教柄か女体化に関しての差別はかなり激しいことで有名だ。それに女体化した人間の末路はあまり良いものではない話もちらほらと聞くので出来ることならばフェイには望まぬ女体化などはしてほしくない。

「それに女体化したら結構大変よ。この国では大丈夫だけど・・」

「大丈夫だよ。今まで鍛え抜いたこの身体をそう易々と捨てたりはしないさ」

それにフェビラル王国では女体化防止のための施設が首都を中心として宛がわれている珍しい国家である、他の国では女体化は自身で解決するかはたまた奴隷制度で出来たりもするし酷いところには女体化した人間を無理矢理誘拐してやってしまうということも起きている。

「・・施設に行くなら費用は出してあげるからとっとと決めなさいよ。魔力失って女体化するのは大変だからね、一応私の魔法で女体化は遅らせてはあげれるけどそれにも限度があるしね」

「うん、僕も今のままが良いから」

「そう思ってるなら早く童貞は捨てなさいよ」

フェイの言葉と同時に馬車は姉の診療所へとたどり着くと鍵をかけていた診療所を解放させるとフェイはフランの指導の下で薬の元なる薬品を管理していく。

「う〜ん、この分だと明日は大丈夫ね」

「でも明日のためにもっと薬草揃えても良いんじゃ・・」

「あのね! 今アンタがいなくなると困るのは他ならぬ私なの!! 今日と明日は一切の外出は許しません」

「わかったよ」

逃げる口実を失ったフェイは大人しくフランに従うのであった。
698 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:51:59.06 ID:9M7frI1zo
夜、とある貴族の屋敷で暗躍する2つの陰・・サガーラ盗賊団再始動である。疲れきっているお芋たんとは対照的に聖の表情は実に活き活きとしており既に2人の手には金品の山がたくさん抱えられている。

「親分、今日はもう終いにしませんか?」

「おいおい、夜はまだ長いんだ。久々の門出だからガンガン荒らしまわるぜ」

お芋たんからしてみれば店の実益はかなり上がっているのでそろそろ盗賊家業を押さえたいのは山々なのだが聖本人がやる気なので当分はないと見て良いだろう、それに聖に逆らったら自分の身が危ないのは確実であるので下っ端根性に従って聖と共に暗躍する。

「フッ、俺達がいない間にどれも随分とお間抜けな警備だ。お陰で仕事がしやすくてたまらねぇぜ」

「そうですね。どうやら大手の盗賊団は他の大陸にいるようですし、こっちは殆どウチ達の入れ食い状態ですね」

世間はサガーラ盗賊団が壊滅したと聞いて安心しきっているのか警備はどれもお粗末なものばかり、本来ならここでガンガンと荒らしていくのがサガーラ盗賊団のセオリーであるのだがここははやる気持ちをぐっと堪えて控えめに行動する。

「ま、こんなところで充分だろ。あんまりやりすぎたら面倒だしな」

「親分にしては珍しい・・こりゃ、明日は台風か――ウゲッ!!」

「チビ助! てめぇは一言余計なんだよ!! あのなぁ、前は名前が売れすぎたからこうなっちまったんだ。俺は前の反省はちゃんと活かすんだよ」

とまあ、本人は控えめと言うものの奪っている量はかなりのものなのでバレるのも時間の問題だとお芋たんは思ってしまうのだが後々が恐ろしいので決して口には出さない。
そんな意気揚々としている聖にぶつかる人物が一人・・そのまま聖はその人物を瞬時にひっとらえるのだが、どこか様子がおかしい。

「てめぇ!! 人にぶつかっておいて良い度胸だな!!!!」

「すすす、すみません!!! でも急いでいるんですッッッ!!!!」

「ますます気にいらねぇな、何で急いでるか話してみろ」

「お、親分!! あまり接触は・・」

「てめぇは黙ってろチビ助!! んで、なにがあったんだ」

お芋たんを黙らせると聖はぶつかってきた男に事情を話させる。

699 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 16:54:48.41 ID:9M7frI1zo
「じ、実は・・妻が産気づいてしまって医者を探してるんですが、こんな夜更だと医者も中々見つかりませんし」

「確かにこんな時間だったら医者は見つかりませんね。僕達ではどうも・・フゲッ!!」

「てめぇは何言ってるんだ!! それにお前も男なら堂々としろッ!!!!」

「だ、だって・・こうしている間にも妻は苦しんでいるんです!!」

「だったら尚更だ!! チビ助、てめぇは医者を探して来い!!」

「え、ええ!!!」

こんな夜更けに医者はまずいない、それにいたとしても連れ出すのにもかなり苦労するだろう。それに自分たちには盗賊であって医療の知識などは勿論ないのだが困っている人間を見逃すほどの外道ではない。

「お、親分!! 医者よりもウチたちは・・」

「うるせぇ!! 非常事態だ、ガタガタ抜かすなッ!!! とりあえずチビ助、こいつの家まで俺たちを運び出せ」

「わ、わかりました!! “暗黒の力の源よ 闇から闇へと導け! ダーク・チェンジ!!”」

お芋たんの暗黒魔法によって3人はとりあえず男の家へと向かう、このダーク・チェンジは本来は転移の魔法であって戦闘や撤退にも使えるお手軽の魔法であるのだがこんな方法で使ったのは始めてである。とりあえず男の家へと戻った2人であるが苦しんでいる妻をみて今度は3人まとめてパニックになってしまう。

「うっうう・・」

「ろ、狼子!! しっかりするんだ!!!」

「ととと・・とりあえずは落ち着け!!!!」

「親分も落ち着いて下さい!! しかしどうするべきか・・」

冷静さを取り戻したのは我等がお芋たん、しかし冷静に考えれば考えるほど良い案が思い浮かばず思い悩んでしまうがある名案が閃くのだが、それはかなり危険な賭けとなってしまう。

「し、しっかりするんだ狼子!!」

「辰哉ぁ・・」

「だあああああああああ!!!!! 何も思い浮かばねぇ!!!! チビ助! てめぇも・・」

「親分、こうなったら召喚魔法を使います。これ使ったらウチは魔力失って当分は何も出来ませんけど・・使って良いですか?」

珍しくお芋たんの真面目な瞳に聖は思わず黙り込んでしまうが、即座にいつもの調子で盗賊団の団長として命令を下す。

「やっちまえ!! 店なら俺が当分面倒見てやる!!」

「わかりました!! “魔を見極めし力よ 我の僕たりし存在を呼び寄せ ここに降臨せよ!! ダーク・メイド!!”」

詠唱を完了したお芋たんは魔力がなくなって女の子の姿になると放出された魔力の塊は巨大な紋章へと変化をして暗黒の霧を発しながら轟音とともにある人物をこの場に召喚する。
霧が晴れて人物のシルエット徐々に浮かび上がると聖とお芋たんは召喚された人物に驚愕することとなる。
700 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:03:07.24 ID:9M7frI1zo
「おい、召喚は成功したのか?」

「ハァハァ・・ええ、何と――!! あ、あんたは!!」

己の魔力を全て使い果たして召喚した2人の人物、それは・・

「あれ? 僕はさっきまで家に・・あああああ!!!!!!! お前たちは前に僕が倒した盗賊団!!!」

「てめぇは・・あの時の小僧――!!」

なんと召喚したのはフェイとフラン、どうやらお芋たんの魔力が2人が持つ強大な魔力を呼び寄せてしまったようだ。

「チビ助ッ!!! てめぇはよりにもよってとんでもないものを召喚しやがって!!!!!!!」

「ま、まさかウチだって思っても見なかったことですし!!!」

「折角、僕が苦労して倒したのに!!!」

お芋たんを容赦なく魔力の拳で殴っていく聖に愕然とするフェイであるが、そんな3人とは対照的にフランは冷静に状況を判断していく。

「どうやら私たちはダーク・メイドで召喚されたみたいね。まさか私以外にも暗黒魔法使いがいるなんて驚きだけど・・術の練度が足りないみたいね」

本来ダーク・メイドはその気になれば悪魔達が操ったといわれる高度な魔獣や伝説の悪魔龍すらも召喚することはできるのだが、お芋たんはそれが未だに出来ないみたいで召喚するのもちょっと強いデーモンぐらいが精一杯である。その点フランはちゃんと術の制御も出来るので無駄に魔力を使うことはなく修行時代にはとうとう伝説の悪魔龍の1つであるブラッド・ドラゴンを召喚したほどである、とりあえずもめている3人はこの際視界から外すと辰哉と狼子に目が行く。

「ど、どうしたの!!」

「うっう〜・・産まれる!!!」

「狼子!!!」

「大変!! ・・そこの3人!! とりあえず揉めるのは後にしなさい!!!」

フランの一喝によって揉めあっていた3人動きはぴたりと止まると、そのままフランは3人に適切な指示を送る。

「とりあず、フェイはあたしのバックアップ!! そこの2人はすぐに容器を消毒してお湯を沸かしなさい!!!」

「俺たちは医者じゃねぇぞ!!!」

「そうそう! ウチたちはただのしがない2人組みで・・」

「ね、姉さんこいつ等は盗賊で悪党なんだよ!!」

「黙りなさい!! 今はそんなこと言っている暇はありません!! 今は一刻を争うわ」

そのままフランは3人を黙らせるとフェイを引き連れて苦しんでいる狼子に優しく手を当てる。

「奥さん、頑張ってくださいね」

「うっ・・はい」

「あ、あの・・俺はどうすれば?」

「旦那さんは奥さんをしっかり支えてあげてください。フェイ! 私の手に治療魔法をかけて」

「わかった。“大地の伊吹よ その守護を与えたまえ! ガイア・フォース!”」

フェイの魔法によってフランの両腕は癒しの光に包まれると処置を開始する、そして聖とお芋たんも消毒した容器にお湯を沸かし終えるとフランに差し出す。
701 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:04:54.11 ID:9M7frI1zo
「・・ほらよ」

「親分が珍しく素直だなんて・・痛ッ!!」

「生意気な口叩くな!! 今は非常事態だっていってんだろ!!!」

「ありがとう。後は2人とも好きにしていいわよ・・フェイ! 魔力を展開して止血の魔法を準備しておきなさい」

「わかった!!」

フェイは魔力を展開させるといつでも呪文を詠唱できるように準備を整えておく、そしてフランは様子を見守りながら狼子にゆっくりと呼吸を促す。

「はい、思いっきり息を吸って・・」

「フゥー、フゥー・・」

「狼子、頑張れ!!」

「はい、ゆっくり落ち着いて・・ほら、頭が見えてきましたよ」

何とか赤ん坊の頭が見えてきたところで狼子の痛みは更なる激しさを増す、その光景に辰哉やフェイはもちろん聖やお芋たんも固唾を呑んで見守っていた。

「親分。赤ん坊ってこうやって産まれるんですね」

「みたいだな。俺はごめんだけど・・」

「うっ――」

「産まれるわ! フェイ、魔法の準備を頼むわ!!」

「わかった!!」

フェイの魔法によって狼子が光に包まれるのと同時に赤ん坊の産声が上がる、それと同時にブランは持っていた消毒済みのハサミでへその緒を切ると赤ん坊をお湯に潜らせてフェイには狼子を魔法で治療させるのと同時に赤ん坊を魔法で保護しながらタオルに包ませる。

702 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:05:51.88 ID:9M7frI1zo
「狼子! 大丈夫か!!」

「辰哉・・それよりも赤ん坊は?」

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ」

そのままフランは産まれてきた赤ん坊を狼子と辰哉に手渡すと2人は初めての自分の子供に歓喜しながらも同時に親となる喜びに身体が打ち震えてしまう。

「やったな・・俺たちの子供だ!」

「ああ、辰哉。大事に育てような」

夫婦の喜びにように聖とお芋たんも安心したのか、強奪した金品を抱えてその場を後にしようとする。何となく自分たちはこの場では場違いだろうし早い退散したほうがいいだろう、フェイにも顔が割れてしまったし何よりもお芋たんが魔力を使い果たしてしまって当分は活動するにも難しいものだ、何だかんだいってもお芋たんの魔力に依存している部分がかなりある。

「さて、俺たちは行くぞ」

「はい。魔力もなくなっちゃいましたからね」

さり気なく逃亡するサガーラ盗賊団であったが、それを見逃すフェイではない。今なら魔力も充分にあるし聖をどうにかすればまとめて捕獲して王宮に突き出してやればいい、フェイは即座に身構えると聖も負けじと応戦する。

「ま、待て!! 逃がさないぞ・・」

「小僧、相手を考えろよ。てめぇがこの俺様に勝てるのか」

聖も魔力を拳に溜め込むと距離をじりじりと詰めるのだが、ここでフランが実力行使でフェイを押さえつける。

「姉さん! 何すんだよ、だって相手は・・」

「フェイ、ここは逃がしなさい」

「だって姉さん!!」

「いいから、元は彼らが私たちを召喚したから出産できたの。水を差しちゃダメよ」

そのままフェイは構えを解くと聖も構えを解く、彼らにしてみれば無駄に争うより退散するのが優先なのだ。

「親分、ここは逃げましょう」

「当たり前だ!! 礼は言わねぇぞ」

「・・わかってるわ。弟は抑えておくから早く去りなさい、今日はあなた達の活躍でこの子は産まれてきたんだからね」

「チッ、行くぞ」

「ま、待ってくださいよ親分!!」

そのまま盗んだ品物を持って風のように去っていく2人、その光景をフェイは黙って見送るが普段はそんなのお構いなしに出産を終えたばかりの狼子と辰哉を祝福する。
703 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:12:17.51 ID:9M7frI1zo
「さてこの度はおめでとうございます。一応近いうちに予防接種も兼ねないといけないので私の診療所に着てください」

「ありがとうございます。狼子共々感謝します」

「何だと、産んだのは俺だ!! 生意気にも噛んでやる」

「痛い痛い!! でもお前が元気でよかったよ」

「さて、これで終了ね。・・おや」

そのままフランはフェイとともに帰宅をしようと思った矢先、フランの身体からは溢れんばかりの魔力が再び溢れ出す。本来なら魔力制限中のフランの魔力が戻るには少なくともあと1日は掛かるのだが、少しにんまりとしながらためしに魔力を展開すると今までと同じ感覚に満足するがフェイは何がなんだかわからずに驚愕してしまうばかり。

「え? 姉さん・・なんで魔力が!!」

「さっき飲んだ薬のお陰よ」

時はちょっと遡って数分前のこと・・全ての業務が終了した後でフランは目の前にある大量の物質でフェイに魔法を使わせてある薬を作らせていた。

704 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:12:42.57 ID:9M7frI1zo
「“物質を司る王よ 我の力の前で示したまえ! ダーク・フュージョン!!”」

フェイの魔法の手によって大量にあった様々な物質は一つの錠剤へと凝縮される、このダーク・フュージョンは文字通り様々な物質を融合する魔法であり割と習得率の高い暗黒魔法の中では結構ポピュラーな魔法であるが使用するにはかなりの技術を要する魔法である。

「ふぅ・・姉さん。これでいいの?」

「ええ、これで完成よ。この薬で私の魔力制限を解除して見せるわ!!」

「それはちょっと無理なんじゃないの」

作らせた薬の効果はなんと魔力制限の無力化という実現したのならば驚くべき代物でこの世界の医療に革命をもたらす。実のところフランは本職である医業の傍らで女体化や魔力についても独学ながら様々な文献を読み漁ったり、たまにフェイで実験したりしながらデータを取りながら様々な薬草などを調合してようやく完成したのがこの薬である。

しかし流石のフェイも当然ながら懐疑的である、何せ魔力制限とは魔法を宿している人間であれば誰にだって訪れるものであってそれを防ぐのはかなり無理がある話だ。昔にフランと同じように魔法制限を試みたある賢者は失敗してしまって魔力を制限するどころか逆に持っていた魔力を全て吸い取られて消失してしまったという記憶があるのもまた事実・・それだけ魔力制限についてはそれだけ非常にピーキーな問題なのだ。

「やめときなよ、もし失敗したら姉さんの魔力は全てなくなるんだよ?」

「実は調べてわかったことことなんだけど、そもそも魔力制限時に冬眠している魔力は質を高めるために活性化しているらしいの。キャパシティは潜在的な要素に加えてある程度の修行で増やすことはできるのは身を持って体験しているわよね?」

「まぁ・・魔力の質って魔法の威力や効果に関わる要素だよね。あれは修行で上がるんじゃないの?」

「ところがどっこい、実は違うのよね。私も知ったときは驚いたけど修行で上がる魔力の質ってほんのちょこっとしか上がらないの、しかし魔法制限が終わると質が大幅に上がっていくのが判明したのよ!!」

とフランは力説するもののフェイにしてみればあまりいまいちピンと来ないので困惑してしまう。それに魔力制限を終えたら魔力の質が大幅に上がるなんて聞いたことないしそもそも初耳である。

「でもさ、例えそうだったとしたら余計に手を加えるのは・・」

「何も魔力制限そのものを取り除くんじゃなくて薬で冬眠状態の魔力を促進させて活性化を促すの、そうしたら魔力制限を縮めることは可能よ」

「でも余計にリスクがあるんじゃ・・」

「大丈夫よ、一応女体化と同じで自然現象を利用してるんだし・・それにね、この薬の製造方法はあの2人の文献から見つけたものだし」

実のところ、この薬の原材料や製造法などは両親が残した文献に記されておりフランはこれを基にしながら独自の分量で調整しながら試行錯誤の末にこの薬を完成させたのであるが・・フェイでもいくら豊富な医療の知識を持つフランが作った薬といっても飲みたくはないし製造元を考えれば尚更遠慮しておきたい代物である。

「さて、さっそく飲みましょう」

「止めといた方が良いと思うけどな・・」

そしてこの数分後、2人はお芋たんの魔法によって転送されたのである。
705 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:15:39.58 ID:9M7frI1zo
時は戻って魔力を回復させたフランは従来どおりの感覚に喜びながら出産祝いを考える、実はフランは出産が無事に成功すると個人的サービスで出産祝いを提供している。

「えー、この度は出産おめでとうございます。それではこの日を記念いたしまして・・“母なる大地の源よ・・その大いなる生命を与えたまえ! ガイア・ソウル!!”」

フランの魔法によってくみ上げられた木々は瞬く間にこの世界では珍しいベビーカーへと姿を変える、このようにガイア・ソウルはフェイのように自分の魔力を込めてゴーレムを生成したりすることもできるがこのようにイメージを固めることができたらこのようにベビーカーを作ることすら可能である。始めて目にするベビーカーに辰哉と狼子は興味津々である、ちなみにフランの魔力が切れても崩れることはないしそんじょそこらの馬車よりも遥かに丈夫になので子供を連れて買い物する時などはかなり重宝するだろう。

「さて、これは私からのささやかな出産祝いですので受け取ってください」

「何から何まで・・本当にありがとうございました!!」

「でも辰哉、この人たちを連れてきてくれたあの2人にも感謝しないと」

「そうだった。元はあの2人に助けを求めたのが発端だしな」

思えば辰哉が聖達に助けを求めたのが始まりで一時期はどうなるかとは思ったがフランの適切な処置によってこうして無事に子供が産まれたのだから恩人であるのは違いないだろう。

「さて、私たちも帰るわよ」

「そうだね」

「待ってください!! 今日はもう遅いですし、家に泊まれば・・」

「嬉しいお誘いですけど、診療所に戻らないといけないので・・それにここからだったらそう遠くはありませんし」

魔力が回復した今、ここから自宅までは大した距離ではないので馬車がなくても飛んでいけばすぐに着く距離なので問題はない、それにせっかく子供が産まれたのだからここは下手に長居せずに新しい家族の門出を邪魔してをするものではない。

「じゃ、僕達はこれで」

「本当にありがとう・・」

「これからは絶対にこの子と一緒にそっちの診療所に足を運ぶ!!」

「ええ、いつでもお待ちしております。それでは・・」

そのままフェイとフランは家を後にすると飛翔の魔法を使い自宅へと向かっていく、その道中で2人は先ほどの出来事を思い浮かべる。フランはともかくとしてフェイは子供が生まれてくる現場を間近で立ち会ったのは初めてだったのでとても新鮮だったようだ。

「やっぱり子供が生まれるのって凄いんだね!!」

「そうよ、私たちもあんな風に生まれたの。何度か出産には立ち会ったけど無事に生まれるってのは本当に凄くて神秘なの、全ての生き物に与えられた特権ね」

「魔法が霞んで見えてきたよ」

生命の神秘を目の当たりにすると魔法の存在などちっぽけに思えてしまう。

「・・ねぇ、姉さん。僕が生まれた時ってどうだったの?」

「そりゃ、嬉しかったに決まってるじゃん。なんせ初めての弟だったし・・」

実のところ当時は妹が欲しかったフランであるが女体化した今となってはフェイがどことなくではあるが頼りがいがあるように見えてしまう、今回も慣れないながらもよくサポートしてくれたので何かしら御礼をしてあげようと思う。

「ま、まぁ・・それだけ出産はすごいの。貴重な経験できてよかったんじゃない?」

「うん。僕この日を一生忘れないよ!!」

そのまま2人は自宅まで飛びながら今日という日を記憶に焼き付けるのであった。
706 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:20:25.17 ID:9M7frI1zo
一週間後・酒屋リリー

あれからお芋たんの魔力が回復するまでサガーラ盗賊団は副業であるこの酒屋を仕方なく切り盛りしてきた、材料の仕入れやお酒の製造方法はお芋たんが事細かにやり方を記してあったので聖が魔法を駆使して商品を作りながらお芋たんはいつものように切り盛りしながら店はいつもの繁盛を保ちながら忙しい日々である。

「はぁ・・魔力が失ってもこの立場は変わらないのか」

「うるせぇ!! てめぇが魔力使い果たしたお陰での代わりにこっちが商品作っているんだぞ!!!」

「すんません・・」

そのまま聖は怒鳴りながらも一応店主らしく商品のチェックはしている、本来ならば店番兼ただの客寄せパンダの聖であるが盗賊家業をごまかすためにも店を運営しないといけないしそれにここ最近は客足がかなり増えているためにお芋たん1人でも無理がある。

「全く、親分である俺をこき使うとは良い度胸だ。てめぇの魔力が戻ったらキッチリ働いてもらうからな」

「親・・店長、そろそろ人を雇いませんか? こう客が増えるとウチ1人だと辛いんですけど」

「あのなぁ、んなことしたら意味ないだろ。俺達は本来は盗賊なんだ、これはあくまでも副業なんだよ」

聖にしてみればあくまでも本業は盗賊・・店などは適当にすれば良いと思っているのであるが、現実は副業である酒屋が思わぬ大当たりだったので退こうにも退けない状況だ。本人達は気がついていないが周囲の酒屋の客をも吸収しているので彼らにしてみれば生活が掛かっているので居酒屋が潰れたら非常に困るのだ。

「全く、何で天下のサガーラ盗賊団の団長である俺様が働かないといけねぇんだよ」

「でも似合ってま・・痛ッ!!」

「余計なこと言っている暇あったら手を動かせ!!」

魔力を使い切ってか弱い女の子になっても相変わらずお芋たんには容赦がない、日数からしても明日になれば魔力は回復できるのでそれまでの辛抱だろう、そんな酒屋リリーにある女性が客として尋ねてくる。

707 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:21:06.34 ID:9M7frI1zo
「あっ、いらっしゃ―――」

「へへへ、お久しぶりです。まさか酒屋さんしてたなんて」

突然やってきたのはなんと狼子、ベビーカーを片手に魔力を帯びた犬と猫を連れていた。

“おおっ、なんとも良い匂いの店だ。そう思わないかい、東方不敗?”

“こっちは食いもんがあればそれでいい。ズゴック的には♀犬が欲しいところじゃないのか?”

“そうそう、脂が乗って・・って変なこと言わせるな!!”

「コラッ! 失礼なこと言うな!!!」

なんとこの犬と猫は独自の自我を持っておりこうして狼子とトリオ漫才を繰り広げている、これは大地の魔法の一種で動物に自我を与えるという非常に高度な魔法である。これは辰哉が狼子の身を案じて掛けた魔法であって自分の魔力の一部をペットの動物達に与えており、いざと言うときには彼らが魔力を発揮させることもできるという非常に凄い魔法なのだ。

「へ〜、あの人こんな魔法が出来るんだ。ウチも出来るけど習得するのにかなり掛かったなぁ」

「一応辰哉は王国のお抱え魔術師ですので・・」

“でも脇が甘いんだよね”

“それに結構モテるから今頃は・・”

「そんなわけあるか!!!!」

どうやら性格にも個体差がはっきりと出ているようで狼子も生まれてきた子供と合わせたら随分と賑やかになったものだろう、そんな賑やかな声が響く中で当然のように聖もつられてやってくる。

708 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:22:46.89 ID:9M7frI1zo
「おい、客か・・って、お前は!!」

「あっ、やっぱりいた!」

うっかり顔を出してしまった聖はそのまま引っ込めることも出来ずに呆然と立ち尽くしている、なにせ狼子夫妻には顔が割れてしまっているため2人とすればこれからの盗賊家業に大きな影響が出るのは必然だろう。といっても2人にとったら恩人以外何者でもないので彼らの本職に関してはあまり気にはしていないのだが・・しかしお芋たんと聖にとっては非常にやりづらい人物であるのは間違いないだろう。

「な、何の用だ!! 俺達は見てのとおり相手をしている暇は・・」

「あの・・俺をここで働かせてくれませんか!!」

突然の狼子の申し出に聖は少し驚きながらも暫くして冷静さを取り戻すとバッサリ切り捨てる。

「ハァ? あのなぁ、確かにここ最近はアホな野郎たちがわんさか押し寄せてくるが別に人手に困ってはいねぇし・・」

「その割には忙しそうですよ。なぁ?」

“店内は汚いところも目立つし”

“せっかく美人店長と優秀な店員がいるのに雑用が溜まりっぱなしだね”

狼子と2匹にここまで言われたら聖としては溜まったものではない、それに狼子は自分たちの正体も当然知っているので丁重に引き払っておかないと後々が厄介だ。

「うるせぇぇ!!!! とにかく、ダメと言ったら・・ダメだ!! 商品適当にサービスしてやるからそれでいいだろ?」

「で、でも親分・・人が増えてくれたらウチとしては助かるんですけど」

「ほら! ・・それに2人のお陰でこの子を無事に産めたんで恩返ししなきゃ俺の気がすまないんです!!」

ここまで言い寄られたら狼子は簡単には退かないだろう、それにお芋たんの嘆願もあるが・・それでも聖の主張は翻らない。

「ダメなものはダメだ!!」

“だったら、おいら達にも考えがある。なぁ、ズゴッグ”

“ああ。この酒屋の店員が実は盗賊団だと言いふらしまくったら・・全ての思惑は水泡に帰すね!!”

「ウッ――」

主人のピンチに使い魔となったズゴックと東方不敗は実力行使で打って出る、そもそもここで自分対の正体が露呈し待ったら商売どころではなくなる。それにまた追っ手をやりきりながらの洞窟生活へと転落してしまう可能性が大だ、それに辰哉は王宮のお抱え魔術師なのでもし露呈してしまえば瞬く間に軍を動かして討伐するだろう。
なによりもそれを一番怖れているのは他ならぬお芋たん、ここで念願であった商売を潰されてしまえばたまったものではないので即座に折中案を提示する。

「お、親分・・ここはこの人を店が開いているお昼の間だけ働いてもらったらどうでしょうか? このまま下手に逃がしてしまえばたちどころに洞窟生活まっしぐらですよ」

「お願いします!! 俺・・何でもやりますから」

2人の意見に聖は再びじっくりと考える、ここで狼子を働かせるのは簡単だが自分たちの正体が既に露呈している。ならば下手に逃がすよりも手元に置いておいたほうがやり易いだろう、よくよく考えてみれば辰哉に話される前に何とかすれば良いだけの話なのだから。

「・・ウチは給料安いぞ、それに俺たちの行動には一切口を出さないことと旦那には俺たちがいることは内緒の条件だ。そいつが守れるならいいぜ」

「は、はい!! 月島 狼子! 精一杯働かせて頂きます――!!」

こうして居酒屋リリーに新たなる従業員が増えることとなる。美人で強い女店主、サービスの良い店員・・そして子持ちの従業員という変な組み合わせのもと更に繁盛したと言う。

709 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/23(金) 17:38:15.86 ID:9M7frI1zo
おまけ

あれから無事に戻った2人であるが今度はフェイに魔力制限が訪れる。そういえば前日に予兆である嘔吐がきていたのをすっかり忘れてしまったようだ、このままでは農業をすることが出来ない。

「ど、どうしよう・・」

「あら、今度はそっちが魔力制限になったの?」

あれからフランは順調に魔力を回復しきっているので魔力もなくなってきてはいないので問題はない、しかしフェイは出来るだけあの薬は頼りたくはない。

「う〜ん・・姉さん、今日は頼むよ」

「何甘ったれたこと言ってるのよ。以前にも魔力使い果たして今度は魔力制限ですって!! ・・ま、良い機会だから施設にでも行ってきたら?」

いまだ童貞であるフェイは女体化に怯えきっている、定例ならば15,16歳の頃に訪れるのだが実際童貞であれば歳など関係はない。事実、知り合いの何人かは自分と同じ歳で女体化している事例もある。
しかし折角の初体験を迎えるのならば出来ることなら特別な相手がいいのも男の心情である。

「でもなぁ・・」

「恋人で初体験は今のご時世だと珍しい話よ。お金上げるからさっさと行ってきなさい」

フェイ=ラインボルト、年頃相応を迎えた彼は無事に女体化を脱することが出来るのか・・まぁ、個人的には手ごろな相手はいると思うが。

「姉さんとそんなことするわけないじゃん!! 僕が殺されてしまうよ!!! ・・ハッ!!」

「あんたの気持ちはよ〜くわかったわ。魔力制限の薬はまだ試作段階だしここは完成に近づけないと・・幸い、手ごろな被験体がいることだし」

「い、嫌だ・・」

よからぬ予感を感じたフェイは後ずさりするのだがフランは即座に魔法でフェイを拘束する、必死に抵抗をするフェイであるが以前よりも強力になっているフランの魔法に太刀打ちできない。

「さて・・最初はこの薬を」

「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

フェイ=ラインボルト・・余計な一言が多い少年である、余談であるがこの数ヵ月後にフェイは無事に女体化から脱せられるのだがそれはまた別のお話。






fin
710 :以下、三日土曜東R24bがお送りします[sage saga]:2011/12/23(金) 17:42:45.66 ID:9M7frI1zo
はい終了です。見てくれてありがとさんでしたwwwwwww
なにやらブームが起きているようなんですが・・職人様が増えてくれるのならば大歓迎です

今回も様々な作者様のキャラを借りさせていただきました。お詫びとお礼を(ry
自分の作品で需要があるのかは微妙ですけど・・


さて今日から3連休・・投下が増える時間だ。
711 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:22:29.05 ID:9hSc5ZFb0
>>710
乙です!さり気なく西田家がお邪魔してて笑いましたwwww

さて前回から少し空いてしまいましたが、投下します。
今回は文化祭前の幕間のお話です。
712 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:25:29.63 ID:9hSc5ZFb0
憂鬱な文化祭を間近に控えた、とある日曜日の昼下がり。
今日は涼二がバイトなので暇を持て余している。

仕方ないので、今はリビングでコーヒーを飲みながら煙草を吸っているところだ。
すっかり癖になってしまった喫煙習慣をどうにかせねばと思うのだが、ニコチンの誘惑に勝てないでいる。
止めるべき立場にある親が何も言わないどころか、吸い始めたきっかけを作り、その後も俺に煙草を提供してくるのだから手に負えない。
そんな煙草の提供元も今まさに、隣でぷかぷかと煙草をふかしている。

さて、最近気になることがあるのだけど。煙草の提供元こと、母さんの腹。
出ているのだ。腹が。
太ったというか…腹だけが、ぽっこりと出ている気がする。メタボというヤツだろうか?
母親の腹なんぞ観察するものではないが、ここ一ヶ月くらいで急に出てきた気がしてならない。

「なぁ、母さん」
「あー?」
「最近太った?」
「…!?…あ、はは!そーなんだよ!最近、は、腹が出てきちまってさぁ!いやー、ビールばっかり飲んでるからかねぇ!?」

俺がしたのは、何気ない質問の筈だ。
そしていつもなら、「唐突に何を失礼なことほざいてんだコラ」とメンチを切ってくる筈だ。
しかし母さんは汗をだらだらとかき、その目の泳ぎっぷりと言ったら魚のようで。
煙草を持った手はアル中のように震え、貧乏揺すりは16ビートを刻んでいるのだ。

あ、怪しい…!怪しすぎる…ッ!

「…おい、何か俺に隠してねぇ?」
「か、隠してねぇって!そ、そうだ忍…今日の晩飯、何か食いてぇモンあるか!?よーしママ頑張っちゃうぞー!」
「おいいい!怪しすぎるわ!言えよおおッ!ちなみに今日はカレーが食いてぇけどッ!」
「怪しくねーから!何一つ!よしきたカレーだな!アタシ頑張る!マジ頑張るからッ!」

この慌てっぷりは何だ?
腹が出てる、それを太ったと言って明らかにごまかしている、俺には知られたくない…?
ま、まさか…いや、まさかな…?

「妊娠…?」
「…………ッ!!」
「…え、マジで?」
「うっ…」
「はああああああッ!?」

え?えええええええええ!?!?
妊娠って、え、妊娠って何だっけ?
えーっと、アレだろ?俺に弟か妹ができるっていうアレだろ?
西田家に家族が増えるってこと、だろ…?
713 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:28:12.17 ID:9hSc5ZFb0
妊娠って…俺が知らない間にヤってたってことだよな…?
うわぁ…親のそういうシーンは想像したくねえええ!子供ができる仕組みを知る前ならともかく!!

と、取り敢えず!まだ頭の中は混沌としているが、とにかく詰問タイムだ!

「…で?何でそんな大事なこと、今まで隠してたんだよ?」
「そ、それは…」
「腹が出てきてるってことは、最近の話じゃねぇんだろ…」
「5ヶ月くらいだな…」
「俺が女体化するより全然前かよ!?」
「悪ぃ…」

何故隠していたのかを知りたいのに、なかなか口を割らない。ついキツい口調になってしまう。
母さんが言い返さずにしゅんとしているなんて初めてだ。
これじゃ何だか俺が虐めてるみたいじゃねーか…。

「ん?何だか深刻そうだね。どうしたのかな?」

気まずい空気が漂う中、ひょっこりと親父が顔を出した。

「か、克己ぃー!忍がアタシを虐めるんだ!ついに反抗期になっちまったかも…!」
「おいこらああああッ!大事な話を黙ってたのはそっち…、はぁ…とにかく、説明してもらうからな…」

何故か俺のせいにして親父の胸に飛び込むロリババァに、いつもの癖でキレかける。
大声を出してしまってから、慌ててボリュームを下げた。
こういうのが胎児に悪影響を及ぼすかも知れないし…くそ、やり辛いな…。

「秋代、大事な話って…もしかして『あのこと』かな?」
「うー…そう、だけど…」
「何だ、まだ言ってなかったんだ。てっきりもう言ってあると思ったんだけど…ダメじゃないか。忍に謝らないと」
「…ごめんな、忍」

傍若無人な母さんも、苦笑いしながら諭す親父には敵わないらしい。
親父の背中に隠れたかと思うと、顔を半分覗かせて、すまなそうな顔で謝罪を述べた。ガキか。

「まぁ良いけどさ…。でも、何で黙ってたんだ?それだけは教えろよな。大事なことなんだし、2回言っても良いくらいだぞ」

今さら親が妊娠だなんて、正直勘弁して欲しいと思う俺は酷いヤツなのかも知れない。
しかし…実際してしまったものは仕方ない。
まだ気持ちの整理はできていないが、せめて何故ずっと隠していたのか、そこだけは知る権利があるだろう。

母さんは言い辛そうにもじもじしていたが、親父に促されて漸く口を開いた。

「お前に今更、妊娠したなんて言ったら…お前に嫌われるかもって…思って…」

誰これ。
こんなにしおらしくなるなんて、ホントにうちの母さんか?

「妊娠が分かってから、話すタイミングを見計らってるうちに忍が女の子になっちゃってね。
 そしたら母さんが『こういう話は同性の親からした方が良い』って言い出して…」
「お、女同士で腹を割って話すこともあるんだよ…!」
「はは、その割にはなかなか言わなかったね」
「怖かったんだよ!ざけんじゃねーぞクソが!忍のくせにアタシをビビらせやがってよぉッ!」
「どんな逆ギレだよ!?」

早くもいつも通り戻ってしまった。
まだ少し照れ臭そうだが、少し大きくなった腹を撫でながら、「ったく、お前はお姉ちゃんみたいになったらダメだかんなー」
と声を掛けている。

そっか。
俺…お姉ちゃんになる、のか。
714 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:36:03.50 ID:9hSc5ZFb0
おもむろに母さんの腹に触れてみる。確かに贅肉とは違う感触だ。

「…すっげぇ。ホントにこの中に人間が一人、入ってんだ…」
「何言ってんだ?お前も元々ここにいたじゃねーか。それに今のお前だって、相手さえいりゃ同じことができるんだぜ?」
「気まずいからそういう話はやめろ!」

兄弟というのは普通、物心ついた頃から一緒にいるものだと思う。
これだけ歳が離れているのに、俺はちゃんと「お姉ちゃん」ができるのだろうか。
女になってから赤ん坊が死ぬほど可愛く見えるようにはなったが、これだけ歳の離れた兄弟の面倒を、俺が上手く見れるだろうか。
不安だな…。

「ふん。お前もビビってんだろ?」
「うるせーな…いきなり言われても、どうすりゃ良いか分かんねぇよ…」
「ちなみに今んところ、女の子だろうって。今度は女体化の心配もねぇ」
「厭味か?」
「アタシだって人のことは言えねぇさ」

西田家に漸く天然女性が誕生するってわけか。
女体化者な俺と母さん…反抗期になったら馬鹿にされなきゃ良いけど。

俺には不思議と今までに反抗期というものが無く、これからも無いと思う。
母さんとは普段からケンカばかりだが、それはあくまでツッコミの延長線上だ。
親子仲は良好だと言えるだろう。決してマザコンでもないが。
もしこれが母さんの教育?躾?の賜物だとしたら、これから産まれる妹に馬鹿にされるなんて心配は、いらないのかも知れないな。

「それにしてもまぁ、年甲斐もなくハッスルしやがって…」
「毎度毎度失礼なヤツだな。アタシはまだ34だぞ?あのナントカってグラビアアイドルとタメだ。アイツも最近妊娠したじゃねぇか」
「…あれ?そんなに若かったのか?」
「てめぇは親の歳も知らねぇのか!?高3でお前を妊娠して、卒業してから産んだんだよ!」
「それは初耳なんですけど!?」

むしろそういう話って普通聞きたくないよな…。何つーか「親同士がセックスして俺が生まれた」という、
当然だけどあまり考えないようにしている事実を、改めて認識させられるような気がして。
それにしても高校在学中に妊娠とか、どんだけDQNなんだよ。親父は真面目な筈なのに。

「大変だったよねぇあの時。危うく二人とも退学させられそうになって」
「そーそー。担任が良い人でさ。アタシと克己を連れて、一緒に校長に土下座しに行ってくれたんだ。どうか退学だけは勘弁して下さいってな。
 あの人と、それを許してくれた校長には頭が上がんねぇぜ」
「ふーん…」
「克己はクソ真面目野郎だったからな。学業が優秀な模範的な生徒だったから、すぐ就職も決まって。
 アタシも出産すんのは高校卒業してからだし…ってことで、何とか見逃してもらったんだよ」

安っぽいドラマみたいな話にしか聞こえないが…そんな時に、俺は既に母さんの腹の中にいたんだよな。
何だか変な気分だ。

「つーかそれ、ほとんど親父のお陰じゃん。そんなに優秀なら、高卒で就職するより進学したかったんじゃねぇのか?」
「元々はそのつもりだったんだけど…責任は取らないといけないからね」
「ごめんな…あの時、アタシが中に出してって言ったから…」
「え、やめてもらえません?そういう話、俺の前ではやめて?ねぇ!?」
「でも僕は後悔してないよ?何回人生をやり直せたとしても、秋代を嫁に貰って、男の子でも女の子でも『忍』がいる、
 この人生が一番良いって断言できるからね」

俺が聞きたくもない話をされて狼狽している間に、この男はクサい台詞を実にさらりと言ってのけた。聞いているこっちが恥ずかしい。
しかし母さんは感極まったように目に涙を溜めて、親父に抱きついた。
残念ながら身長差のせいで、しがみついているようにしか見えないが。

「克己ぃ!アタシ…アンタんとこに嫁いでホントに良かったよ!頑張って二人目も産んで、そんでこれからも一生、
 良き妻としてアンタを支えるからな!」
「はは、宜しく頼むよ。よしよし」
「…チッ、二人してノロケやがって…」

…悪態をついたものの、不覚にも親父にときめいてしまった。
もしいつか俺が結婚する時が来たら…こういう男が良い、かも知れない。
715 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:43:10.29 ID:9hSc5ZFb0
「あ、そうだ。今からお義母さん来るって、さっき電話があったよ」
「げえええッ!あのクソババァが来るのかよ!?克己てめぇ何で先に言わねぇんだ!」
「言おうと思ったら妊娠の話になったんじゃないか」
「くっ…!毎回アタシじゃなくて克己に直電しやがって!こっちにも心の準備ってモンがあるってのに!」

母さんの方のばあちゃん。
最後に会ったのは正月だから、結構久しぶりだ。女体化してから会うのは初めてだが、流石にそれは伝達済みだろう。
毎回ばあちゃんが来るときに親父の携帯に直電してくるのは、親父がばあちゃんに相当気に入られているからだ。
母さんが男の頃から向かいの家に住んでいた幼馴染みで、中高時代に荒れていた母さんを見捨てず嫁にまで貰ってくれた親父を、
恩人だと言って全幅の信頼を寄せている。
ちなみに母方のじいちゃん…母さんの親父は母さんが小さい頃に亡くなっており、ばあちゃんは女手一つで母さんを育てた女傑なのだ。

そんなばあちゃんが今から来る。久々に面白いものが見れそうだ。



母さんがそわそわしている間に、インターホンが鳴った。
もう来やがったのかよ…とぶつぶつ言いながら、母さんが迎えに出る。
程なくして、二人が話しながらリビングへ近付いて来た。

「5ヶ月だっけ?なら腹の出方はそのくらいか。あんた、恐れ多くも克己君の二人目を身篭ってんだからね!
 死んでも赤ん坊だけは無事に産まなきゃ承知しないよッ!」
「アタシは死んでも良いっつーのか!?母ちゃんだって連れ合い亡くしてんのに、よく言えんなぁそんなこと!」
「うるさいよ!大体ねぇ、いつまで経ってもその口の利き方。私ゃあんたの親として克己君に申し訳ないよ…」

来た来た。
久し振りに聞くなぁ、こんなやり取り。
いつもケンカばかりしているが、基本的には仲が良いのだ。この二人を見ると、俺と母さんの関係も似たようなものだと思う。

「お義母さん、ご無沙汰してます。お元気そうで」
「克己君、久し振り!相変わらずウチの馬鹿娘が迷惑掛けてるだろ?」
「いえいえ、いつも元気を分けてもらってますよ。お義母さん直伝のご飯も美味しいですし」
「克己君は相変わらず本当に出来た人だねぇ…ほんと、克己君とだったら私が再婚したかったくらいだわー」
「おいクソババァ!ハゲたことぬかしてんじゃねぇぞッ!克己もニコニコしてんじゃねぇよッ!」

面白いものが見れそう…とはこのことで、母さんがいつもの俺のポジションにいるような感じが愉快でたまらないのだ。
さて、俺も挨拶しなきゃな。

「ばあちゃん、久し振り」
「えっ」
「えっ」
「あ、やっべ…!」
「…秋代、お義母さんに妊娠したことは言ったのに…忍が女体化したことは言ってなかったのかい?」
「…アタシに続いて忍も女体化なんて、言い辛くてさ…はは…そのまますっかり忘れてた…」

おい。おい?

「あんた、本当に忍なの…?」
「…うちの馬鹿母がごめんな、ばあちゃん…俺、忍だよ」
「…。」
「…。」
「こンの馬鹿娘がああああッ!!」
「しまッ…!」

ばあちゃんは、そろりそろりと逃げ出そうとしていた母さんの襟首をむんずと掴み、そのままチョークスリーパーに持ち込んだ。
ばあちゃんの必殺技だ。…母さんはアイアンクローだし、俺も何か必殺技があった方が良いのかな。
716 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:46:12.75 ID:9hSc5ZFb0
「あんたはッ!子供の頃からいつもいつもッッ!自分に都合の悪い話は後回しにしてッッッ!」
「ばあちゃんいいぞー!もっとやれええ!」
「ぐぎぎぎぎ、ぎ、ギブ!ギブだって母ちゃん!アタシが悪かったよ!忍てめぇ後で覚えとけよコラぁッ!」
「はぁ、はぁ…ッ!大事な克己君の子供に影響が出たらまずいからね、このくらいで勘弁してやるよ!」

ばあちゃんはいつだって最高だ。克己君の子供でもあるから、という理由で俺のことも大事にしてくれるし。
「半分は秋代の血が流れてるんだから、その血に染まらないように!」といつも言われるが。

ぐったりとした母さんをその場に放り捨てたばあちゃんは、そのまま俺に駆け寄り、抱きしめて頬擦りしてきた。
ばあちゃんの匂いだ。懐かしい。どことなく母さんの匂いにも似ていて、やっぱり親子なんだなと思う。

「忍ぅー!私の若い頃にそっくりじゃないの!まぁ可愛らしくなっちまってこの娘は!」
「ばあちゃん、ちょっと苦しいよ…」
「あっ、ごめんよ忍。しっかし、克己君の子供で見た目は私そっくり。まさに完璧じゃないの」
「調子こいてんじゃねぇぞクソババァ!てめぇ似ってことはアタシ似でもあるんだよ!現時点で言ったらアタシの方が忍に似てんだろうがッ!」
「黙りな馬鹿娘ッ!」
「まぁまぁ二人とも…」

今にも取っ組み合いを始めそうな雰囲気だったが、親父が仲裁に入り何とかこの場は収まった。
胎児に気を使って大声を出さないようにしていた俺が馬鹿みたいじゃねぇか。
しかも二人で煙草吸い始めてるし…。

今になって思うが、俺が母さんの腹の中にいた頃もこんな調子だったのだろう。
女体化したとはいえ、俺もこうして普通に生まれ育っているわけだから…案外どうにでもなるのかも知れない。

「やれやれ。妊娠したって言うから様子を見に来てやったのに、まさか忍が女になっちまってるとはね。あんまり年寄りを驚かせるんじゃないよ」
「言おう言おうと思って忘れてたんだよ。悪かったって言ってんだろ?つーか年寄りって…母ちゃん、今年で幾つになったんだっけ?」
「あんたは親の歳も覚えてないのかい!?53だよ!」
「ふーん。別にそんなに歳でもねぇだろ」

ハイライトをくわえて文句を言うばあちゃんに、セブンスターをくわえて言い返す母さん。やっぱり親子なんだな。
しかも会話の内容にデジャブを感じたぞ。

「つーかばあちゃん、まだ53歳なのか?俺が産まれた頃は…まだ30代だったのかよ!?」
「そうだよ。19で秋代を産んでるからね。わ・た・しは、高校卒業してから妊娠したけどね?」
「ぐっ…!厭味なババァめ…!」
「お義母さん、その節はご迷惑を…」
「あぁ、良いの良いの!どうせこの馬鹿娘が克己君をたぶらかしたんだろ?それに30代でおばあちゃんなんて早すぎると思ったけど、
 お陰で忍がいるわけだしねぇ」
「僕もそう思っていたところですよ」

53歳となると、やっと初孫ができて普通くらいだ。
ガキの頃から無邪気にも「ばあちゃん」なんて呼んでしまって、気の毒だったかな。
本人は全然嫌がらなかったが。

「まぁ、来たついでだからね。今日の夕飯の支度は私が手伝ってやるよ」
「何だ、たまには気が利くじゃねーか」
「あんたのためじゃないよ。克己君と忍のためだからね!」
「それでもアタシは楽できるから良いや。ちなみに忍はカレー食いてぇって言ってたぞ?」
「そうかい。なら忍、ばあちゃんと一緒に買い物行こうか」
「へ?あぁ、別に良いけど…」

材料の買い出し付き合えとの御達示だ。
ばあちゃんと二人で出掛けるなんて、いつぶりだろうか?
どうせ、暇を潰すのが忙しくて困っていたところだしな。
女になって筋力は落ちたが、荷物持ちくらいはしても良いだろう。
717 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:49:25.57 ID:9hSc5ZFb0
母さんがいつも買い物に来ている近所のスーパーに着いた。
自宅から徒歩5分程だ。最寄りのコンビニより近いので、俺もよく利用する。
もう夕方が近いからか客が多い。日曜だけあって、仲睦まじく夫婦で来ている買い物客が目立つ。

「こうして二人でいると、親子に見えてるかも知れないねぇ」
「普通に見たらそうじゃね?ばあちゃんだって、若く見えるんだからさ」

ばあちゃんの見た目は40代そこそこくらいだろうか。
天然女性としては割と「若く見えるタイプ」の人と言えるが、あくまで常識の範囲内だ。
女体化者であればもっと若く見えてもおかしくないのだから、やはり俺たちは普通じゃない。

「私もどうせなら男から女になりたかったよ。秋代なんて、ちっとも老ける気配がないからねぇ」
「俺も母さんも、なりたくてなったわけじゃないよ…」
「そりゃそうだろうけどさ。女としては羨ましいんだよ」

…という具合に、妬まれる原因になったりもする。

「秋代もそうだけど、女体化した連中は悪阻が殆どないって言うしねぇ」
「悪阻って…そんなにキツいのか?」
「人それぞれだけど、私はキツかったよ。飯を食っても吐いちまうしさ」
「ふーん…」

実は女体化という現象について、最近少し調べてみたのだが…初めて知ったことが幾つかある。
そもそも女体化とは、「一番サカっている時期に童貞=男として欠陥品→子孫を残すために産む側になる」という説が有力らしい。
女体化者が漏れなく美少女になったり、感度が異常に良かったり、なかなか老けなかったりするのは、男に末永く欲情してもらうため。
天然女性と比べて、避妊をしっかりしないと妊娠する確率が非常に高かったり、生理痛が軽かったり、悪阻が殆どなかったりするのは、
「産むための身体」に特化して、余計な苦痛を排除するため…だそうな。

確かに俺も生理の時は出血こそ多いが、痛みはそこまで酷くない。
それは確かに有り難いのだが、女体化させられたのがこんな動物的な理由だったのなら、実に屈辱だ。
しかも若い期間が長いって…どこの戦闘民族だよ。

「さて、カレーと言えばニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、肉だね。肉はいつも何が入ってるんだい?」
「うちは豚かな」
「私がいつも作るのと同じか。ま、秋代にカレー教えたのも私だし…そうだ、忍」
「ん?」
「今日のカレー、あんたが作りなよ。教えてあげるから!」
「はあ!?」
「覚えておいて損はないじゃないか。それに秋代の悪阻が軽いにしても、まぁ…これからどんどんデカくなる腹を抱えて、
 もたもたと家事されるのもアレだろうし…」
「俺が母さんを手伝えってことか。何だかんだ言っても、実の娘が心配なんだろ?」
「…あはは。まぁ、そう受け取ってくれても良いさね」

ばつが悪そうに、はにかんだ笑いを浮かべている。
やれやれ、素直じゃないよな。
まぁ、前から料理くらいは覚えようと思ってたんだから、丁度良い機会かも知れない。

「じゃあ俺がやるよ。今後も母さんが落ち着くまでは、手伝いくらいはしようかな」
「さっすが克己君の息子…いや、娘だね!良い子に育ったよ!」
「そんなんじゃねーよ…」

俺も、素直じゃないな。
718 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:51:45.14 ID:9hSc5ZFb0
「何だかこうしてると、秋代の時を思い出すよ」
「母さんの時って?」
「あの子の妊娠が分かって、克己君のとこに嫁に行くって話になった頃さ」
「あぁ、まだ高校生だったんだろ?」
「そうそう。あんな気が強いだけで何の取り柄もない馬鹿娘、せめて家事くらいはできるようにしてやらなきゃ、
 恥ずかしくて嫁に出せないからね。花嫁修業にって、無理矢理叩き込んだんだよ。秋代を連れてよく買い物に行ったっけ」
「母さんが妙に家事全般が得意なのは、そういう経緯があったんだな…」
「そうさ。それで初めて作らせたのもカレーだったねぇ」

デビュー作も俺と同じか。まぁカレーなんて、日本人的には鉄板だしなぁ。

どうもばあちゃんは、俺と母さんを重ねているような感じがする。
当時の母さんとは状況も年齢も違うが、見た目的には似たようなものだろうし。
今となっては、ばあちゃんにとって大事な想い出だ。孫として、それを再現してあげるのも…やぶさかではないかな。
ちょっと話を振ってみるか。

「ふーん…じゃあさ、例えば野菜の選び方のコツなんかもあったりすんの?」
「あるある!まずじゃがいもは…」

ビンゴだ。
ばあちゃんは、懐かしそうに、嬉しそうに説明してくれた。



ばあちゃんのうんちくを聞きながら材料を一通りカゴに放り込み、後は会計を済ませるだけだ。
ばあちゃんは満足げだが、まだこれから作る作業が待っている。まだ暫くはハイパーばあちゃんタイムだろう。

レジへ向かうために弁当コーナーを横切る。
すると、非常に見覚えのある人物を発見した。

「涼二じゃん。何してんの?」
「おう、忍!…と、その横の人は秋代さん…じゃないですよね。そっくりだけど…」

まさかの涼二だ。いや、まさかという程でもないか。
このスーパーは俺の家と涼二の家の、丁度中間くらいにある。
別に打ち合わせたわけじゃなくとも、こうして出くわすことがたまにあるのだ。
そういや、ばあちゃんとは面識がなかったな。

719 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:53:45.25 ID:9hSc5ZFb0
「うちのばあちゃんだよ。見ての通り、母方のな」
「忍の祖母で、秋代の母です。忍のツレかい?」
「道理でそっくりな…俺、忍の幼馴染で中曽根涼二って言います。いつも忍をお世話してます!」
「うっぜーなコイツ!そんな自己紹介聞いたことねぇぞ!」
「だって事実だろ?おぉん??」
「あはは!面白い子だねぇ!」

ばあちゃんは、どうやら涼二を気に入ったらしい。
コイツ、人当たりが良くて初対面の人間とも打ち解けやすいんだよな…。

「今日は親がいないから飯が無くてさ。兄貴はツレと飯食いに行くって言うから、俺は弁当でも買おうかと思って」
「何だ、そうだったのか」
「中曽根君、もし良かったらうちで食ってくかい?今日は忍がカレー作るんだ」
「!?ばあちゃん…ッ!」
「マジっすか!?忍が!?行きます!」
「おいいいッ!何で勝手に決めてんだよ!?」
「審査員は多い方が良いだろう?」
「そういうことだぜ忍。諦めて、飢えたこの俺にカレーを食わせるんだな」
「ぐぬぬ…!」

くそ、コイツに話し掛けるんじゃなかった…!
まともに料理するのも初めてなのに、いきなり身内以外に食わせるのか?
せめて、もっと練習してから…!
どうせ食わせるなら、美味しいって言ってほしいっつーか…。
…あ、いや、不味くたって良いじゃねーか。そうだよ、毒味をさせると思えば…!

「…ゲロマズでも知らねーからな」
「ないない。私と秋代でしっかり教えるからね」
「そりゃ楽しみですね!いやぁ、弁当買う前で良かったー!」
「つーか、何でそんな嬉しそうなんだよ?」
「そ、そりゃ単に…美味いもんが食えそうで、それが楽しみなだけだぜ?」
「…ふぅん」

これは女の勘だが…コイツ、何か誤魔化してる感があるな。妙にウキウキしやがって、何だってんだ?
うーん…あ、そういや前に、飯作ってくれって言われたことがあったっけ。

もし、もしもだ。俺が作ってやるのが楽しみでテンションが上がっているのなら。
俺が作る物に何を期待しているのか知らんが、ちょっとくらいなら…頑張ってやっても良いかな?

「さぁ、話は決まったんだ。飯食わせてもらうんだから、荷物くらいは持つぜ?何なら材料費も出すか?」
「良いんだよ、カレーなんざ普通に作ったら余るモンなんだ。食い盛りの若いのがいて丁度良いくらいじゃないかね」

西田家は食い盛りの若いのが女体化しちまったからな。
今となっては唯一の男である親父も、そんなに食う方じゃないし。

「ばあちゃんがこう言ってるから金はいらねぇ。荷物は持ってもらうけどな!」
「へいへい。それ貸せよ、重そうに持ちやがって」

カレーの材料と、ついでのペットボトル飲料やら何やらが入ったカゴは結構重い。片手じゃ持っていられないくらいだ。
涼二はカゴを俺から軽々と取り上げると、そのままレジへと歩き出した。
その背中を見て、やっぱり男は力があるんだな…などと、今更なことを実感させられたのだった。
720 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 21:57:10.60 ID:9hSc5ZFb0
「中曽根君は、男の頃の忍と背格好が似てるねぇ?見てくれよ忍を。こんなにこぢんまりとしちまって」
「これは母さんに似たからで、そんな母さんはばあちゃんに似たからだろ…」
「男の頃の忍は俺と身長同じくらいでしたねー。今じゃ頭一個分違うどころじゃないっすよ」

スーパーを出て、同じ道を戻る。涼二にとっては真逆の方向だ。

幼馴染の定義が何なのか知らないが、少なくとも俺と涼二の家はそこまで近所ではない。歩いて10分程だろうか?
たまたま幼稚園が一緒で仲良くなり、そのまま小中高と同じ進路を生きてきた。
小中は学区制だったが、高校は相談した上で一緒の学校にした。
そっちの気があるわけじゃなかったが、涼二がいない学校生活はつまらないと思ったし…恐らく涼二もそう思ったのだろう。
二人とも成績は中の中。無理しなくても受かりそうなレベルの高校を選んだ。

今は同じクラスだが、これだけ付き合いが長ければ違うクラスになることもあった。
そんな時でも、待ち合わせて登下校をしたものだ。
小学校の頃は集団登校だったが、同じ集団で登校し、帰りも一緒だった。
中学は涼二の家の方が学校に近かったから、毎朝涼二の家に寄っていた。
今は俺の家の方が近いから、涼二が毎朝、俺の家に寄る。

身長は二人とも常に同じくらいで、いつも同じ目線で景色を見ていた筈なんだけど。
今となっては確かに身長差は頭一個分どころじゃない。
すっかり慣れたこの身体だが、久々に170cm台の世界を見たくなった。

…そこの縁石に乗ったら届くかな?

「よっ、と。これでどうだ!?」
「そんなところに乗ったら危ねぇぞ、ガキかお前。しかも全然届いてないし」

歩道と車道を隔てる縁石に乗る。
縁石は20cmくらいだ。145cm+20cm…言うまでもなく届かないな。

「くそっ、背伸びを…してもダメか…はぁ。もっと身長ほしいな…」
「私も秋代もこの身長だからね。諦めるしかないよ!」
「そうだぞ忍。お前は一生その身長で生きていくんだ」
「うるせ…あ」

突然、強い風が吹いた。
平均台ほどしかない縁石の上で背伸びをしていたせいで、バランスを崩してしまう。
運悪く、車道側に。
振り向かなくても分かる、背後から迫る大型トラックの轟音。

ダメだ、死…!

「…ッ!」
721 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:02:34.88 ID:9hSc5ZFb0
気が付いたら、歩道でへたりこんでいた。
何が起きたのか理解できない。目を丸くして固まっているばあちゃんと、散乱したカレーの材料、引き攣った表情の涼二。
それと、腕が…千切れそうに痛い。
でも…。

「…あれ、俺、生きて…?」
「…。」
「ぁ…涼二…?」
「こ、の………馬鹿女がぁぁッ!目の前でツレが踏み潰されるなんて冗談じゃねぇぞッ!!」
「痛ぇッ!?」

涼二のゲンコツが頭に振り下ろされた。この腕の痛みと、涼二の興奮っぷり。
…コイツが引き戻してくれたらしい。どんだけ力を入れたらこんなに痛くなるんだ?火事場の馬鹿力ってヤツか?

「…な、殴ることねぇだろ…」
「うるせぇッ!女を殴る趣味はねぇが、馬鹿女には鉄拳制裁ッ!それが俺のジャスティスッ!」
「中曽根君の言う通りだよ!あんた、死ぬところだったんだからね!?頭叩かれただけで済んで良かったと思いな!」
「わ、悪かったよ…ありがとな、涼二」

…確かに、すぐ横をびゅんびゅん車が走っている縁石に乗るなんて、どうかしてた。涼二がいなかったら、確実に死んでいただろう。
そもそも涼二がいなかったら縁石に乗りたいテンションにはならなかったんだけど…まぁ、結果が全てだし。
何だか俺、いつもコイツに助けてもらってる気がする。

「あー、カレーの材料、ばら撒いちゃいましたね。これ、使えます?」
「大丈夫大丈夫!卵とかじゃダメだったろうけど、野菜だしね。元々土ん中にあったんだから、洗えば食えるさ」

二人が地面に散乱した野菜を拾い始めた。いつまでもへたりこんでないで、俺も手伝わないと…。

「よいしょ…痛っ!」
「…?どうしたんだ?」
「足、挫いたっぽい…」

無理に引っ張られて負荷がかかったのか、足首が痛い。歩けない程ではないし、死んでいたかも知れないことを考えれば全然マシだ。
酷い捻挫ではなさそうだし、このくらいなら放っておけば治るだろう。

「…しょうがねぇな。ほら、乗れよ」
「…は?」

拾い終えた物をビニールに詰め込んだ涼二が、俺に背を向けてしゃがむ。
この姿勢で、乗れよって…おんぶってことか!?

「え、いや、大丈夫だって!歩けるし!」
「軽い捻挫でも、応急処置もせずに動き回ると悪化するって、兄貴が言ってたぞ。兄貴、運動部だったからさ」
「でも…!」
「こういう時は甘えときな、忍。ここまでしてくれる殿方に、恥をかかせるもんじゃないよ!」
「殿方って…はぁ、分かったよ。落とすんじゃねぇぞ」

ばあちゃんに煽られ、渋々涼二の背中に乗る。涼二は既にビニールを持っているのに、軽々と俺を持ち上げた。
コイツの背中、こんなに広いんだな…。恥ずかしいけど、温かくて、涼二の匂いがして…何だか安心できるような気がする。

「お前、めちゃ軽いなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」
「ちゃんと朝昼晩食ってるわ!…まぁ、重いって言われるよりは良いけどな」
「軽いとは言えおぶってもらってんだ、もっとサービスしてやんなよ!」
「うわ!?何だよばあちゃん!?」

何故かばあちゃんが俺のケツをくすぐり、反射的に涼二にしがみつく。
つまり、胸を押し当てている状態になったわけで。

「ぬぅ!?この背中の感触は…『ち』で始まり『ち』で終わる物体かッ!?」
「その二文字だけだっつーの!おいてめぇ前屈みになってんじゃねぇよッ!何考えてんだコラッ!」
「あえて言おう、役得であるとッ!」
「うわっ!フラフラしてんじゃねーか!落ちる落ちる!」
「うおおおッ!」

背中から落ちそうになり、より強くしがみつく。それがまた逆効果なのだが。
ばあちゃんが「若いって良いねぇ…」と、呟いた気がした。
722 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:04:51.88 ID:9hSc5ZFb0
「んぁ?涼二君じゃん。どうしたんだ?何だか大荷物を背負ってるけど」
「賑やかいと思ったら、何かあったのかな?」
「ちわっす、秋代さん。おじさんも」
「大荷物で悪かったなちくしょう!」

家に帰ると、母さんと親父が玄関先まで顔を出した。
取り急ぎ親父に救急箱を持ってきてもらう。
兄貴に教わったという涼二の応急処置を受けながら、このカオスな状況を説明する。

ばあちゃんに言われた部分は伏せたが…今後は時間があれば、家事の手伝いをすること。
そんな話をしていたら飢えた涼二を拾ったこと。帰りに馬鹿やって怪我をしたこと。
悪化すると不味いので、おんぶしてもらったこと。
話の流れで、涼二も母さんが妊娠したことを知った。当然、半端ない驚きっぷりだった。

「はぁーっ、秋代さんがご懐妊とはねぇ!つまり忍が姉貴になるってことか。大丈夫か?縁石乗ってはしゃいでる場合じゃねぇぞマジで」
「ビッグなお世話だッ!…そういう訳だから、今日のカレーは俺が作るし、今後も家にいる時は手伝うから。ちゃんと教えてくれよ」
「アタシだって不味い飯は食いたくねぇからな。ちゃんと教えてやるよ、スパルタで」
「先行き不安だな…いてて!おい涼二!女の身体はもっと丁寧に扱えよ!」
「命拾いしたくせに文句言うんじゃありません!それにしても小せぇ足だなぁ……ほら、これで良し、っと。歩けるか?
 つーか、怪我してんのに料理できんのか?」

涼二が手を離してすぐ、逃げるように立ち上がる。
そのまま、湿布とテーピングを施された足で床を踏む。少し痛いが、庇いながら歩けば何とかなるレベルだ。
元々ごく軽いであろう捻挫だし、涼二のくせにしっかりと固定してくれてあるので、この分ならすぐに治るだろう。

実は捻挫よりも、裸足を涼二に触られることが非常に気になっていた。
リアルな話でアレだが、臭ったりしてたら嫌だし。
これも女体化者の特徴なのか、不思議と無駄毛は一切生えないので、そこに関しては問題ないけども。
こういうことを気にするようになったあたりは「女」だな、俺…。

「…ん、大丈夫だろ。飯くらいなら作れそうだ。サンキュな」
「おう。こりゃ相当美味いモン食わせてくれねぇと、割に合わんぞ?」
「調子に乗りやがって…!い、今から作るからちょっと待ってろ!俺の部屋でゲームしてて良いから…!」
「いや、忍が作ってるとこ見てみてぇ。見学してるわ」
「うぜーよ!気が散るんだよッ!」

学校の調理実習とかではなく、初めてマトモに挑戦する料理。
コイツはそれの、ただの毒味係だ。美味いモンを作ってやる必要はない。
…が、何故か妙に気負ってしまう。
俺も食うんだから…美味い方が良いに決まってるさ。二人も師匠がいるんだ、大丈夫。失敗することはねぇ。

密かに拳をぐっと握り締めて、台所へ向かった。
723 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:10:20.34 ID:9hSc5ZFb0
二人の師匠に手取り足取り教えてもらいながら、ついにカレーが完成した。
米もつやつやに炊け、付け合わせのサラダも完璧だ。

…ぶっちゃけ、かなり自信がある。
というのも、ほぼ師匠の命令を忠実にこなすロボットと化していたからだ。この二人の言うことに従っていれば間違いはない。
不慣れな包丁で切った野菜なんかの形は…不格好だが、肝心なのは味だからな。
味見はしていない。皆で一斉に食ってみて、初めてジャッジが下る。

「カレーの匂いで俺の腹がやべぇぞ忍!早く食わねぇと死んじまう!」
「うるせーぞ!もう出来てんだから大人しく待てよッ!」
「ま、味は問題無いと思うよ。アタシとクソババァが、ちゃんと見てたからな」
「偉そうに言ってるけど、主婦歴16年そこそこの小娘がカレーを語るなんざ片腹痛いよ」
「こうやって家庭の味は引き継がれていくんだね。いやぁ、楽しみだ」

食卓に座ってガヤガヤと騒いでいる皆の分を皿に盛り、各自の前へ置く。
色合いとか、匂いとかは…いつも母さんが作るカレーと同じだと思う。ちょっとした隠し味とやらも伝授してもらった。

これで不味いわけがねぇ、不味いわけが…!大丈夫だ…!

「よし、全員分揃ったね。じゃあ…忍が初挑戦したカレー、頂きますか!」

親父が音頭を取り、皆で一斉にスプーンでカレーを口に運ぶ。
俺は…皆の反応が気になって、微動だにできない。手に汗を握り、とりわけ涼二をガン見してしまう。

「…どうなんだよ…?」
「…ッ!うんめええッ!超うめええええッ!!」

突然目を見開いて叫んだ涼二が、二口目、三口目と次々に口に運び出した。ガツガツというか、動物のような食いっぷりだ。
…あ、何か…嬉しい、かも…。

「大体こんなもんだろ。悪くねぇんじゃねぇの?」
「うん、秋代の味と似てるよね。少し違う気がするのは何だろう?凄く美味しいけど」
「それが『忍』の味じゃないかね。私と秋代でも、少し違うだろうし」

他の面々からの評価も上々だ。同じ材料、同じ手順で作っても、分かる人には分かる味の違いがあるらしい。

安心して、自分でも一口食べてみる。
…まぁまぁ、美味いんじゃないか?
馬鹿みたいに興奮する程じゃないと思うけど、涼二は何であんなにがっついてんだ?うわ、もう食い終わってる!?

「いやぁ美味ぇわマジで!やるなぁ忍!秋代さんすんません、お代わりしても良いっすか?」
「若ぇのは食いっぷりが違うねぇ、どんどん食ってよ!よそってやるから、皿貸しな」
「お、俺がやるからっ!皿よこせ!」

涼二が母さんに渡そうとした皿を、横から掠め取る。
皿にカレーを盛るという口実で皆に背を向ければ、顔を見られずに済む。つい綻んでしまっている顔なんて、恥ずかしくて見せられない。
それに、自分が作った物のことは自分がやりたいし…。

「何だぁ?早くも主婦気取りか?」
「違ぇよ!つ、作ったのは俺だから、このくらいは…!」
「良い心掛けだな。まぁ、お前が主婦なんて100万年早ぇけど」
「馬鹿だね、100万年も待ったら行き遅れどころじゃないよ。それに私から見りゃ、あんたもまだまだひよっこだけどねぇ?」
「んだとクソババァッ!」

騒がしい背後のことなど気にならなかった。
自分が作った料理を美味しいと言ってもらえるのが、すげぇ嬉しい。
前に母さんの作った焼きそばをマヨ盛りにしようとして拒否られたが、今ならその気持ちもよく分かる。
どうしよう、ニヤけ顔が戻らねぇぞ…。
724 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:13:48.14 ID:9hSc5ZFb0
結局、涼二は計3杯を平らげた。
流石に苦しいらしく、帰る前に少し食休みだとか言って勝手に俺のベッドに横になっている。
コイツは俺が男の頃から散々俺のベッドでごろごろしていたし、今更気にする間柄でもない。…筈なのに、少しそわそわする。
多分、カレーを美味いと言ってもらえてテンションが上がっているからだと思うけど。

「あ゛ーっ、食いすぎた!でも美味かったわー。見直したぜ?」
「…ふんっ!カ、カレーなんて、誰が作ったって美味くできるもんだろ?」
「謙遜すんなって。師匠が良いってのもあるだろうけど、その辺の店で食うよりよっぽど美味かったぞ?」

上体を起こした涼二が、枕元に腰をかけていた俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
まぁ、悪くない気分だ。

「ま、また気が向いたら、何か作ってやるよ」
「お前は神か?超期待しとくわ」
「ハードル上げんなボケッ!」

…もうちょい練習してから、な。
そう決意を固め、煙草に火をつける。
煙を吐き出して高揚した気分を落ち着かせるが、それでもやっぱり今日は気分が良い。
涼二も催促してきたので、ライターと一緒に投げ渡してやった。

コイツのお陰で命拾いしたし、もうちょい何かサービスしてやっても良いかな…。
何をしてやろうか。乳揉みとかそういう系は無しだ。
元男ならではの、男の感覚で考えよう。
エロ無しで、女にしてもらって嬉しいこと。うーん、えーっと…?

「…耳かき、とか?」
「は?唐突に何言ってんだ?しかもそんな魅惑のワードを…」
「し、してやろうか?俺で良ければ、耳かき…」
「ぶはっ!?げほっ、げっほッ!お前が変なこと言うから変なとこに煙が入っちまっただろうが!」
「んなこたぁどーでも良いんだよ!してほしいのかッ!?してほしくねぇのかッ!?」
「そりゃしてくれるっつーなら喜んでしてもらうけどよ…何でまた?」
「…お前のお陰で命拾いしたし…それに今日は何となく、気分が良いだけだ」
「んじゃ、折角だしお願いするか。相手が忍とはいえ、女の子に耳かきしてもらえる機会なんてそうそうないしな」
「一言多いんだよ!素直に喜べ!」

わざわざ言うほどのことではないが、俺は耳かきが超好きだ。
毎日やるのは良くないとも聞くが、ついつい毎日やってしまうくらい好きだ。
好きというのは勿論、自分で自分にするソロプレイなので、他人にやったことはないが…何とかなると思う。
ベッドのサイドテーブルに置いた、愛用の耳かき棒に手を伸ばす。

「耳かき棒、俺がいつも使ってるヤツだけど平気か?」
「俺は気にしねぇよ。こういうのは何て言うんだろうな、間接キスじゃなくて…間接耳?」
「お前は何でそうやって、いつもいつも意味分かんねぇことばっかり思い付くわけ?」

呆れながら、自分の太股をぽんぽんと叩く。頭を載せろの合図だ。
725 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:15:50.21 ID:9hSc5ZFb0
「んじゃ、お邪魔しますよっと」

ごろりと横になった涼二の頭が太股に載る。膝枕というヤツだ。
何やってるんだろう俺。
これじゃ…第三者から見たとしたら、まるで恋人同士みたいじゃないか?

…いや、違うだろ。今日はコイツに助けてもらって、飯を美味いと言ってもらえて、それで気分が良いだけなんだ。
別に恋人とか、そういうんじゃないからな…!

耳が隠れる程度に伸ばされた涼二の髪をかき分けるため、指先で触れる。それだけなのにドキドキしてしまう。
それを悟られないように、少し手荒に髪をどかす。

そうだ、他人に耳かきをするのなら…照明が欲しい。
生憎近くに懐中電灯は無いが、こんなときのためのスマートフォンだ。フラッシュライトアプリがある。
携帯を手に取り、耳元へ持っていく。今となってはすっかり見慣れたストラップ型防犯ベルが、涼二の頬に落ちた。
その感触に違和感を持ったようだが、涼二からは死角の位置だ。見えていないらしい。

「んぁ?何だこれ?」
「前にお前がよこした防犯ベルだよ」
「あぁアレか。へぇ、ちゃんと着けてたんだな」
「…外すのが面倒くせぇだけだっつーの」

アプリを起動し、耳の穴を照らす。
…あるわあるわ、大物がごろごろと。これは掃除のし甲斐があるというものだ。腕が鳴るぜ。

「お前、耳ん中すげーことになってんぞ。ちゃんと普段から耳かきしてんのか?」
「そういや最近してなかったな」
「安心しろ、俺が全て駆逐してやるからな!動いたら命の保証はしねぇぞ!」
「くしゃみとかはどうしたら良いんだよ!?」
「知るか!気合いで我慢しろ!お前のちっぽけな命は俺が握っていると思えッ!」

腕まくりをして気合いを入れ、耳かき棒を少しずつ差し込んでいく。
取り敢えず、まずは大物からだ。痛がらせたいわけではないので、探り探り慎重に。
目に付いた耳垢を片っ端から取って、次々とティッシュに置いていく。

「うあー…めっちゃ気持ち良いわ…」
「そ、そうか?」
「あぁ、自分でするより全然良い…お前、耳かきの才能あるんじゃね?」
「大袈裟なんだよ…」

少し照れる。
脱力しきった声だが、それだけ気持ち良くてリラックスできているということなのだろう。
イケメンの間抜けなツラというのも、なかなか可愛いものじゃないか。何だか楽しくなってきた。

他人の耳垢なんて気持ち悪いかな、と若干思っていたのだが…不思議とそうでもない。
今日は気分が良いからだろ。と、勝手に納得することにした。
726 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:21:47.66 ID:9hSc5ZFb0
「よし、これで終わりっと。かなり綺麗になったぞ!」

仕上げに綿で細かいカスを取って、完了だ。
ごっそり取れた耳垢は、ティッシュごと丸めてゴミ箱へポイする。
達成感が半端じゃない。やられる方も気持ち良さげだったが、俺にとってもある意味快感だった。

「サンキューな、気持ち良かったぜ!何か、耳の聞こえも良くなった気がするぞ」
「これも、気が向いたらまたやってやるよ。精々それまで耳クソを溜めとくんだな」
「そうするわ。さて、腹も落ち着いたし帰るかな…あ、その前に。今日ずっと気になってたんだけど…」

急に涼二が顔を近付け、俺の耳元の髪をかき上げた。
心臓が止まるかと思った。かぁっ、と一気に顔が熱くなる。

何だ!?いきなり何だよ!?か、顔が、顔が近いって…!
くそ、身体が動きやしねぇ…!

「お前、ピアスしてんだ?しかもよりによって、猫のピアスかよ!はは、似合ってんぞ!」
「の、典子に貰ったんだよ…!お、お前っ、絶対面白がってるだろっ!」
「いやいや、面白がってねぇよ。似合うってマジで。可愛いと思うぜ?」

そういえば、涼二にはピアスを開けたことを言っていなかった。
学校に行くときは透ピだし、休日だって毎回着けているわけではなく気が向いたときだけだ。
今日はたまたま着けていた、典子に貰ったピアス。
別にコイツに見せようと思っていたわけではないが、しっかり見られていた。

コイツ、案外気が利くというか…目ざといんだな。
こういうところに気付いてもらえるのって、女だったらやっぱり嬉しいもんだろうし。
俺はどうなんだ?嬉しい…のかな?一つ、確認してからにしよう。

「どっちが、だよ?」
「ん?何が?」
「『可愛い』って、どっちがだよ」
「あぁ、どっちもだ。ピアスも可愛いし、可愛いピアスを着けたお前も可愛い」
「ピアスをしてない俺は可愛くないとでも?」
「見た目で言えばピアスしてなくても可愛いぞ。何つーか中身は『忍』なのに、可愛いものを身に纏うところが、より可愛いっつーのかね?
 上手く言えねぇけどさ」

意味不明だ。
何が言いたいんだ?未だに男っぽい俺が、可愛らしいものを着用するのが微笑ましいってことか?
でもまぁ、涼二なりに褒めようとしているんだろう。そこは評価してやっても良い。

「…ふん。よく分かんねぇけど、女の扱い方としてはまぁまぁだろ」
「あぁ?お前何様なわけ?ちょっと褒めただけで調子に乗らないでくださーい」
「うるせーな!さぁ、とっとと帰れ!オラオラァ!」
「うわっと!?そんなに押さなくても帰るって!何なんだよオイ!」

…嬉しくて赤くなった顔を見せたくねぇだけだよ。
727 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2011/12/23(金) 22:30:19.62 ID:9hSc5ZFb0
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

最近流行りのファンタジーブームに乗れず、苦し紛れに秋代さんにはボテ腹妊婦になって頂こうと思い付きました。反省はしていない。

さて、最近仕事が忙しくて投下ができませんでした…年内には完結するつもりだったんですが、どうかなぁ。
一応、もう少しで終わる予定です。
終わったら終わったで、読み切り的な物も書いていきたいですね!
728 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/23(金) 23:23:59.63 ID:s2c0ezMD0
GJGJGJ!
729 :以下、三日土曜東R24bがお送りします2011/12/24(土) 01:55:04.61 ID:eyKId4G7o
おふたりともGJ!
730 :林原めぐみ - A Happy Life[sage]:2011/12/25(日) 02:44:42.23 ID:V9w/6zZAO
そろそろ、前々スレの>42の如く
「サンタさん、クリスマスプレゼントが巨乳って何の冗談ですか…」って
パニクってる女体化者が報告に来ても
おかしくない時間帯だと思うんだけど…
731 :メーウ - お別れ囃子[sage]:2011/12/25(日) 03:36:30.69 ID:vMZOVfpDo
サンタさんがクリスマスプレゼントとして
友達の♂を♀にしてくれた!とかでもいいなジャンル違っちゃうけど
732 :やよゐ(野中藍) - 黒ネコのタンゴ[sage saga]:2011/12/25(日) 04:58:46.25 ID:IrpHjlp8o
>>727
乙でございました
ボテ腹・・たまらないじゃないか。そろそろ決定的な出来事がありそうですね。楽しみに待っています
他の誰か出てきそうな予感
733 :T.M.Revolution - HEART OF SWORD 〜夜明け前〜 <るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- ED>2011/12/25(日) 11:56:36.63 ID:IY57QeNp0
>>731 胸とお腹が痛い。ちなみにそういうジャンルは強制女体化のここ(http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1316006111/)だな
734 :アストラルのみなさん - 歩いていこう。(アストラルVersion)[sage]:2011/12/25(日) 17:45:15.88 ID:ASyNDsKSO
おつです

GJGJGJGJ!
735 :アンティック-珈琲店- - 覚醒ヒロイズム 〜THE HERO WITHOUT A NAME〜[sage saga]:2011/12/26(月) 11:15:25.67 ID:VRtx8JJHo
投下するが・・ちょこっと今回はかなり重いネタ
736 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:17:17.38 ID:VRtx8JJHo
かの国、デスバルト共和国が誇るマルコス山脈・・かつてここは遥か昔に神々に力を借りた人間によって封印された5つの悪魔の1つであるハツナレドが眠っているとされる地である、事実ここに生息をする封印されている悪魔の影響もあってかモンスターはとてつもない戦闘力を持っており並の人間では到底太刀打ちなど出来ない。そんなマルコス山脈にいる1人の青年・・フェイ=ラインボルトは並み居るモンスターをなぎ倒しながらある人物を探していく。






まじっく⊆仝⊇ろ〜ど










フェイがこのマルコス山脈に着てから今日で3日目、普段ならば農業に勤しんでいるところなのだが今日は少し事情が違う。このマルコス山脈で両親を見たという目撃情報が翼から伝わりこうして確認しているのだが、本音といえば姉のフランにも同行をしてほしかったのだが彼女は医者として忙しい日々を送っているので仕方なくフェイにお鉢が回ってきたわけ、例に漏れずマルコス山脈も幼い頃からの修行場所であったので地理や生息しているモンスターなどは全て把握しているものの1人で倒すのは辛いものがある。

「姉さんが着てくれたらな・・」

幸いにもかつて塒にしていた場所はそのまんまだったのでそこを基点として両親を探してはいるのだが成果は著しくない、代わりに姉からは自作していた回復アイテムを多めに貰っていたので何とか魔力の心配はないものの出来ることならば早いところ帰りたい。

「はぁ・・本当にここにいるのかな? ――!!」

「グギャァァァァァ!!!!」

「またモンスターか!! “地獄の煉獄の炎よ わが手に集いし 焼き尽くせ!! グランド・カノン!!!”」

フェイから放たれた巨大な炎は瞬く間にモンスターを容赦なく焼き尽くす、これで倒したモンスターは23体目・・このように襲い掛かったモンスターを倒しながらその血肉を簡単に調理してフェイは捕食する。ナンメル山脈と比べて食料が乏しいマルコス山脈は倒したモンスターといえども立派な食材なのでしっかり無駄にせずに食べていく。基本的にはモンスターも動物性タンパク質には変わりないのでこのように炎の魔法で迎撃すれば倒した時には丁度良い焼き加減で食べることはできる、これは修行時代にフランとともに授かった知恵である。

「ふぅ、これで魔力も回復するだろうけどね。しかしここは相変わらずモンスターの数が日に日に増して多いいよなぁ」

モンスターの生態は未だに謎が多いのだが判っているのは彼らもまた生物と同じであると言うこと、互いに捕食したりしあったり・・食物連鎖というものが彼らの中にもあるということだ。事実フェイはモンスター同士が何度も捕食しあっている光景を修行中に何度も見ている、それにモンスターの強さは封印されている悪魔の場所が近ければ近いほど戦闘力が格段に増すということで悪魔が封印されていると言われる地に生息するモンスターはかなりの戦闘力を誇り各国もモンスター討伐には手を焼いているようだ。逆に悪魔が封印されている地が遠ければ遠いほどその戦闘力は野生動物以下なので何ら問題はないのもまた事実、それだけモンスターと言うのは謎が多い生物なのだ。

「さて今日はこれぐらいに・・って人の気配――?」

微かにだがフェイは人の気配を感じる、マルコス山脈を訪れる物好きな人間などありえないが・・そのままフェイは気配を辿っていくとモンスターに襲われてい少女を発見する。


737 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:17:53.46 ID:VRtx8JJHo
「「ギャオオオン!!!!!!」」

「わ、我輩もここまでか・・折角人間として生まれ変わったと言うのに――!!」

(こんなところに人間だって!! とりあえず助けないと)

少女に襲っているモンスターは2体・・即座にフェイは魔力を展開させると少女を助けるために詠唱を開始する、こんなところにいるのだから両親について何かしらの手掛かりを掴めるのかもしれないと思ったフェイは雷の魔法をモンスターに向けて放つ。

「“暗黒に轟く雷鳴よ その閃光を愚かなる者へと放て! クラッシュ・サンダー!!”」

「「グオオオオオオォォォォォ……」」

放たれた雷は少女を襲っていたモンスターに直撃して塵と化す、本来なら雷の魔法は洞窟とかでの探索用に使われるぐらいのポピュラーな魔法であるがこのように応用すれば攻撃もするこが出来る。そのままフェイは少女に駆け寄ると無事を確認する、今までも遭難者を目にしたこともあったがこんな少女など初めてだ。

「だ、大丈夫ですか!!」

「う、うむ・・危ないところをありがとう」

少女は自分の無事に安堵しながらフェイにお礼を言う、もしフェイが現れなかったらこの少女は今頃はモンスターの餌食となっていただろう。

「我輩の名は蘭丸、このマルコス山脈にある薬草を取って帰ろうと思っていたところを襲われてな。礼をえっと・・」

「僕はフェイです」

「フェイか、危ないところを助けてもらってありがとう。お礼といってはなんだが我輩の家で歓迎したい」

「ええっと・・」

正直なところフェイは両親の手掛かりを聞きたいのだが、この蘭丸という名の少女の瞳に吸い込まれて何もいえずについつい何も考えずに返事をしてしまう。

「わかりました」

「では我輩の家へと向かおうか」

こうして出会ってしまった2人の男女・・これから果たしてどうなってしまうのだろうか?


738 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:18:56.97 ID:VRtx8JJHo
〜〜〜〜〜〜




 我輩は猫であった。名前は蘭丸。
 かつて我輩は主人や奥方と暮らしてきたこの日々を決して忘れぬことはないだろう。
 記憶とはなんとも儚くも思い出となって昇華してしまう。


 人間になって思い出という存在を与えてくれたのはあの2人、だからこそ我輩は・・


    〜〜〜〜〜〜



蘭丸の案内の元、フェイはマルコス山脈を下って森のほとりにあるのは自然の風景とは不釣合いな豪勢なお屋敷へと招待される。マルコス山脈を知り尽くしたフェイでもこの屋敷の存在は驚いた、しかしこんな広大な屋敷だとうのに中に入ってみれば人の気配は感じられないのが不思議だ。

「あの蘭丸さん・・?」

「すまぬな、今からお茶を用意するから少々待ってもらえぬか?」

「は、はぁ・・」

またもや蘭丸に会話を遮られるとフェイは改めてこの広大な屋敷を見回してみる、家具の使用加減や周囲の風景などから察するにこの屋敷には蘭丸以外の人が住んでいたのは間違いはなさそうだが、それでも1人で暮らすならばこの屋敷はあまりにも広すぎる。
そんなこんなで屋敷を見回しているうちにふと自分のテーブルに差し出されたお茶が淹れられたカップが目に付く、どうやら蘭丸がお茶を淹れ終えて戻ってきたようで慌ててフェイは蘭丸に視線を戻す。

「あ、すみません」

「大丈夫だ。気にしなくて良い・・この家に来た客人は誰でもそうなって当たり前だ」

それからお茶を交えて2人はお互いについて話し始める、実のところフェイには自分より近い女性が身近にいないのでこうして2人きりで面と向かって話すのは少し緊張してしまう。そんな蘭丸はお茶を啜りながらフェイの話しに静かに耳を傾ける、傍からみればお見合いのように見えてしまうのは仕方ないだろう。

「ほぅ、フェイはフェビラル王国の人間なのか。やはり世界は広い」

「今はしがない農家してますけどね。蘭丸さんはこの屋敷で1人暮らしなんですか?」

「ああ、今はな・・昔はご主人と奥方と3人で暮らしていたよ。ご主人は魔道師で財を成した人だからな」

どうやらこの屋敷の主人は武力一辺倒であったデスバルト共和国では珍しく純粋な魔術師だったらしく国にかなり貢献した人物だったようでこの屋敷もその褒美として与えられたものらしい、といってもフェイはそういった国の事情にはあまり詳しくはないそういった話はどちらかと言うとフランのほうが詳しいのでフェイに出来るのは話を聞きながら相槌を打つぐらいである。

「だけど去年にご主人と奥方が旅に出てしまってそれっきりだ、我輩はこうして2人の帰りを待ち続けている」

「僕と・・同じですね。僕の両親も修行を終えたら旅に出てしまったんですよ、このマルコス山脈に来たのも2人の目撃情報があってきたんですけど・・結果はからっきしです」

一応フェイは正式な手続きを経てデスバルト共和国へ入国をしているのでとやかく言われることはない、それにマルコス山脈で両親を目撃したという情報も今考えてみると人伝なので信憑性もどこか薄い。それにあの2人ならそう簡単にはやられはしないだろうし今もどこかで遊びながらドラゴンを絶滅させてそうだし下手をしたら小国を滅ぼしてそうな気がする、それだけあの2人の実力は本物で今でもフランと力を合わせても軽くあしらわれた挙句に神聖魔法の1つや2つ姉弟仲良く喰らいそうだ。

そんなフェイの境遇に蘭丸はつい自分を重ね合わせてしまったようだ。

739 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:19:18.10 ID:VRtx8JJHo
「そうか、君も我輩と同じ帰りを待つものなのか」

(――ん? 微かにだけど魔力、でもなんか違う)

蘭丸から微かにだが発せられた魔力にフェイは即座に違和感を覚える、魔力と言うのは人によって千差万別なのだが唯一共通しているのは人間独自が持つ生気である。蘭丸から発せられた魔力はその生気を感じなかったが、フェイはとりあえず疑問を胸の中にしまう。

「きっと、ご主人は帰ってきてくれますよ。僕も姉と一緒に両親の帰りを待ち続けていますし」

「そうか・・長い間我輩は少し弱気になっていたのかもしれないな。フェイよ、今日はもう遅い泊ってはいかないか? 夕食もちゃんと用意するぞ」

突然の蘭丸の発言にフェイは飲みかけていたお茶を噴出してしまう、確かに時刻も夕方であるが別に野宿などは慣れっこだし姉以外の年頃の女性と一晩過ごすなど考えたくはないが・・またもや蘭丸の瞳に引き込まれてしまって何も言えない。

「あ、あの・・」

「ダメか?」

「いえ・・お言葉に甘えさせて頂きます」

結局フェイはこの屋敷で一晩過ごすこととなった。

740 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:20:00.76 ID:VRtx8JJHo
お昼頃・酒屋リリー

新たな従業員の狼子を迎えて早数ヶ月・・子育てと並行しながらも最初はぎこちなかった狼子であったがお芋たんの教育の成果と持ち前の笑顔で今では酒屋リリーの看板娘として欠かせない存在となってきている。

「それじゃ、店長さんにもよろしく」

「ありがとうございましたー!!」

(彼女が入ってきてからウチの負担も減ったし売り上げも好調だよ)

お芋たんも狼子の働き振りには感心してしまうぐらい、日頃の雑用からは解放されて言うことなしであるが・・店主である聖は相変わらずすまし顔である。

“狼子は順調に働いているのにこの店長ときたら・・”

“全くどうしようもないぐうたら店主だ”

「うるせぇぇぇぇぇ!!!! 餌だけ貰っているだけでも感謝しろ!!!!」

最初は狼子を雇うことに反対していた聖もその仕事振りに感心したのか彼女が連れてくるペットの面倒を一応見てやっている。といってもこのペット達は辰哉の魔法のお陰である程度は自我を保てているのだがどうもお喋り好きなようで度々聖に怒鳴られているのはご愛嬌というやつだろう。

「全く、狼子と違ってお前達は余計な一言が多すぎる」

「店長! お掃除終わりました!!」

「あ、ああ・・今は客もいないし適当に休憩しても良いぜ」

あれから狼子は聖との約束通りに本業である盗賊業にも口出しはしてこないし旦那である辰哉にも内緒にしているようだ。それに本人も酒屋家業が性に合っているようで子供の面倒を見ながら毎日楽しく業務をしている、聖もそんな彼女を無碍にすることなど出来ないのである程度は自由にやらせているしちょくちょくではあるが彼女の子供の面倒を見ている。
741 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:20:33.54 ID:VRtx8JJHo
「親・・店長! ウチもそろそろ休憩したいんですけど・・」

「てめぇはさっさと切れている商品作れ!!」

「は、はい・・」

“狼子とは雲泥の差だね”

“やっぱり魔法使いはこき使われる存在なんだよ”

ペット2匹に同情されながらとぼとぼと歩くお芋たんは完売した商品の材料を取り出すと魔法を使って商品を作っていく、昼は酒屋・・そして夜には盗賊といった生活を繰り返しているので魔力の消費はかなり激しい、そのため魔力回復アイテムはお芋たんにとって欠かせないものとなっている。

「手伝いますよ?」

「いやいや、大丈夫だよ。店の商品はウチの魔法を使わないと生成できないからね」

魔法の心得がない狼子は商品を作ることが出来ない、そのままお芋たんによって商品が作られていく中で狼子は2人にトンデモ発言をする。

「そういえば2人はどうやって出会ったんですか?」

「「ブッ――!!」」

思わぬ発言に聖とお芋たんは吹きだしてしまうがペット達も興味を示したようで更に問詰タイムに入る。

“それは興味あるね”

“天下のサガーラ盗賊団のルーツは知りたい”

「き、聞いてても面白くない話だよ」

「んな下らねぇこと聞いて何になるんだよ・・」

2人はあまり話そうとしないのだが周囲の期待に押されてしまう、特に発端となった狼子のほうは無垢な瞳を輝かせながらかなり興味津々で今か今かと待ち望んでおりこれには2人も自然と勢いがなくなる。

「わかったわかった。今は客もいねぇし・・昼休憩だしな。チビ助店を一旦閉めろ」

「わかりました。今日のお昼は何かな?」

「折角のお話ですから今日は奮発して辰哉が俺に黙って隠していた最高級の豚肉を使ったハムです。後はさっきピザを焼きましたから」

“うわっ・・今頃本人焦っているだろうな。それに食事も差がある・・”

“ご主人様は女房に小遣い制限されて侘しい昼飯の上、家に帰ったら噛まれるわ・・同情するよ”

どうやらこの世界の木村家の扱いもさほど変わりないようである、狼子の持ち出したハムに店のお酒・・またともない豪勢な昼食に2人のテンションも当然ながら上がる。

「親分! 今日のお昼は豪勢ですね!!」

「ま、まぁ・・たまにはいいだろ」

「それでは語ってもらいますよ」

豪勢な昼ごはんを囲いながら、聖の口から語られる・・
742 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:22:15.54 ID:VRtx8JJHo
数年前・デスバルト共和国

デスバルト共和国、彼らは漢字という独自の文化を持っており他の国とは違って武術と戦術に秀でた国家である。隣国である魔法王国フェビラル王国とは遥か昔にあった悪魔との戦争で同盟国として共に果敢に立ち向かって悪魔達が封印された後でも同盟国として良好な関係を結んでいた。それ故に両国は貿易などの交友が盛んに行われており、お互いに手を取り合いながら助け合って繁栄を築いていたのだが腐敗した政治制度の上に豪遊する貴族のお陰で国内の経済状況は貧困に喘いでおり市民のあちこちで深刻な貧富格差が広がっており、それを嗅ぎつけて盗賊が暗躍したりしていたりと国内は大変困難している。
そんなデスバルト共和国の小さな村での暴れん坊・・相良 聖が女体化したことで話は始まる、彼女の両親はデスバルト共和国きっての古強者といわれ国王から直々の労いを頂戴されたとも言われる兵であったのだが、ボルビックとの戦争でその命を散らしてしまった。それが彼女が男のときで2歳の頃の出来事、それ以降は孤児院などの施設にも入らず周囲の大人たちに反抗していきながら力を蓄えて徐々に成長していくにつれて魔力を直接拳に込めて叩きつけると言う世にも珍しい肉体重視の戦法で孤独にものし上がってきた。そして誰も逆らうものなどいなかった時の矢先に女体化してからはそれが一変することとなってしまう。

聖はアジトである森林で一休みしながら今までの人生を振りかえる。

「チッ、魔力や力は変わらなかったから良いものの・・野郎に舐められっぱなしだぜ」

女体化したときの容姿は自分でも感心してしまうぐらいの美貌であったが本人としてみれば男のままでいたかったようだ、しかし彼のポリシーは自分よりも強いものにしか歯向かわないという極めて単純なものである。しかし女体化してからは今までのような生活を送るのは困難なのは間違いはないので行き着いた考えが盗賊・・しかも狙うのは弱い相手ではなく悪評高い貴族の面々、最初は苦戦することが多かったものの持ち前の戦闘力に積み重なる経験のおかげで少しずつでは在るが成功を収めている。

「さて次はどこに狙いを定めて・・ん?」

そんな聖の前に立ちはだかるのは中性的な顔立ちが目立つ少女ではなく一応少年こそが若かりし頃のお芋たん、彼はこの武力一辺倒が特色のデスバルト共和国では珍しく魔法使い。それにこんな森林の奥でいるのが却って不気味であるが初めてみる魔法使いに聖は少しきょとんとしながら、そのまま無視していき立ち去ろうとしたのだが・・これがそもそもの間違いであった。

(何だこのチビ助・・)

「“紅蓮の炎よ、我が手に集いたまえ・・ドラゴン・バーン!!”」

「なっ――」

聖は反応するも時既に遅し、お芋たんから放たれたドラゴン・バーンをモロに直撃して気絶してしまう。薄れ行く聖の意識の中でそのままお芋たんは聖から金品を奪い取ると彼方へと立ち去っていくのと同時に聖の意識も完全になくなってしまう。


743 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:22:37.70 ID:VRtx8JJHo
教会

聖から奪った金を奪ったお芋たんがたどり着いたのはとある古ぼけた教会、そのままお芋たんは教会に入っていくと3人の男女がお芋たんを迎える。

「ただいま〜」

「おおっ! 戻ってきた」

「お帰り」

「稼ぎはどうだった?」

彼らの名は順に篤史、拓海、静花といった。ちなみに拓海は童貞だったためにこの世界の慣わしに沿って先日めでたく(?)女体化を経て今では立派な女性である。

ちなみにこの3人はこの教会で戦争で両親を失った孤児の面倒を見ておりこの教会も3人の両親が出資をして古ぼけた教会を買い取って孤児院として経営をしているが、それでもこの国の経済状況はよろしくはないので3人の両親は生活費を稼ぐためにせっせと仕事に励みながら子供達は忙しい両親の代わりに引き取った孤児の面倒を見ている。お芋たんも元は孤児だったので少しでも孤児院の稼ぎのためにこうやって盗賊まがいのことをしている。

「今日はこんな感じだったよ」

「さっすがお芋ちゃん! これだけあれば当分は生活できそうね」

3人は今回のお芋たんの稼ぎを見ながら満足そうにしながらこれらの金は会計担当である静花の手によって適正に分配される、彼らの両親の稼ぎがるとはいっても孤児院を賄うのは非常に金が掛かるのである。

「それじゃ篤史くんとタクちゃんは食糧を買い込んでね」

「ああ、わかった」

「買い物買い物〜、さて今日の拓海ちゃんの・・」

そのまま即座に拓海は篤史に蹴りを一発お見舞いする、これも彼らにとってはいつもの出来事であるので2人は特に言及はしない。そのまま気を取り直した篤史はお芋たんを買い物に誘う、といっても孤児院の買い物なので買い込む食料も大量なので人手が欲しい状況なのだ。

「お芋もついてくれると助かるんだけど・・」

「いいよ。量が量だから・・それじゃ静花ちゃん、ウチ達は行ってくるよ」

「留守は守ってくれよな」

「わかってるって、3人とも行ってらっしゃい」

静花の見送りの元、3人は以前にお芋たんが魔法で作ったリヤカーを引いて街へと向かう、それに道中はお隣のフェビラル王国と違ってデスバルト共和国は盗賊やら野党が潜んでいるのでこうしてお芋たんがボディーガード代わりについて着ているのだ。

「しかしよ、あんな大金どこからくすねてきたんだ?」

「え? そ、それは・・」

突然の拓海の問いかけにしどろもどろになってしまうお芋たん、一応彼らには余計な心配を掛けないために盗賊まがいのことをしているのには内緒にしているので本当のことを話すはずがなく適当にはぐらかす。

「ひ、拾ったんだよ。丁度落ちていたしね」

「まぁ、そういうことにしておくけどよ。間違っても盗賊とかを襲ったりはするな、俺達は守るものが大勢いるんだからさ」

「そうそう、静花や子供たちには心配掛けないようにしないとな」

拓海と篤史もお芋たんのしていることは薄々勘付いてはいるのだがあえて口には出さない、だから代わりにこうやって無茶な行動をしているお芋たんにはちょくちょく警戒をしているのだ。

744 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:23:14.90 ID:VRtx8JJHo
同時刻・お屋敷

久々の感覚のふかふかのベッドと毛布の温もり・・それを身体が反応して目覚める聖、どうやらあの後この屋敷の主が自分をここまで運んでくれたようだ。それに魔法を直撃したというのに不思議と痛みもないし身体も今までどおり不自由なく動く、どうやらご丁寧に手当てまでしてくれたようだ。

「俺は・・」

「あっ、気がついたみたいね。ちょっと待ってて」

ちょうど部屋に尋ねてきた女性は聖が目覚めたのを確認するとすぐに奥へと引っ込んでしまう、考えてみたら女性一人で自分を連れてくるのは不可能だ。

そんなことを考えていると先ほどの女性がこの家の主らしき人物と猫を引き連れて再び戻ってきた。

「おっ、気がついたようだな。ある程度は魔法で治療したと言うのに大した回復力だ」

「そうよね。あっ、私はうずめ!! こっちは一応この家の主人よ」

「おい! 一応じゃない、列記とした主人だ!!」

そんな2人に呼応するかのように猫が欠伸をする、そんな光景が聖にはどことなく眩しかった。

「全く・・ところで君の名前は?」

「・・相良 聖」

「聖ちゃんね!! それにしてもよくあの怪我で生きてたわね」

どうやら自分は相当な怪我を負っていたようだ、それに見たところかなりの屋敷なようだし金持ちには違いないのだがそれにしては金持ち特有の嫌みったらしさが全くない。盗賊をしている聖にとって金持ちとは常にそういった人種ばかりかと思っていたのだ、そんな中で主人は思い出したかのように呟く。

「思い出した! 相良って言えば王家直属の親衛隊夫婦だったな、何度か話したことがある。確かボルビックとの戦線に参加したとか・・」

「・・多分、死んださ。同情は止めてくれ、俺が物心つく前の話だからよ」

「これから1人で生きていくつもりなの?」

「人間一人でも何とかなるもんだ。さて怪我を治してもらってなんだが俺は行くぜ。あのチビ助をコテンパンに痛めつけないと気がすまねぇぇぇ!!!!!!」

「き、君がそういうなら俺達は止めはしないが・・今日は泊っていっても良いんだぞ?」

聖の只ならぬ気圧と感情と直結して溢れ出す魔力に主人も思わずたじろいでしまう、しかし当の聖にしてみればいきなり容赦なく自分に魔法をぶっ放した挙句に所持金を奪ったのでその恨みは格段に激しい。

「待ってろぉぉぉぉ!!!」

「ちょ、ちょっと!! せめて食事だけでも・・」

「行ったか・・あの親衛隊夫婦の倅がここまで大きくなるとは以外だな」

聖が立ち去った後、呆気に取られる2人に猫のひと鳴きが無性に響き渡った。

745 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:24:08.56 ID:VRtx8JJHo
教会

あれから拓海や篤史と共に大量の食事を買い込むとそのまま教会へと戻る、道中に盗賊や野党の類に遭わなかったのは幸いともいえるだろう。

「おかえり。3人とも無事で何よりだわ、子供たちも待っているしご飯にしましょう。篤史くんとタクちゃんも手伝ってね」

「「飯飯!!」」

静花に連れ添われて2人は台所へと移動する、その間にお芋たんは子供たちをあやしながら暫しの休養を取る。あまり魔力を消費していないといってもしんどいものはしんどいのでいざと言う時のために疲れはとっておきたい、この国はただえさえ治安が悪いのだから。

「あの人・・死んじゃったのかな?」

お芋たんが気がかりなのは襲ってしまった聖のこと、あれだけ高威力の魔法をモロに食らわせてしまったのだからタダではすまないだろう。何せドラゴン・バーストは炎の魔法の中でも高位魔法なので並の人間ならば重症は間逃れないのでそれだけがお芋たんにとって気がかりなのだ。

「できたわよ!!」

「皆、飯だぞ!!」

「たくさん食べて元気に成長しろよ!!」

3人の掛け声によって子供達はきちんと食卓に着くと篤史と拓海がそれぞれ食事を人数分によそうと4人は子供達と一緒にちゃんとご挨拶してから食事にありつく、この施設では子供たちにも自活の場は与えられており食事が終われば施設の修理や外で働きながら日銭を稼いでいたりしている。

お芋たんも子供たちと一緒にパンとカレーを食べながら無理矢理先ほどの光景を記憶の彼方へと置き去る、それに食事が終わればいつものように用心棒をしながら施設を守りぬかなければならない。


盗賊や野党はこういった施設を真っ先に狙いを定めるのだ、例えばこういった連中のように・・

「へへへっ、こういった施設は案外たんまり溜めているんだよな」

「さって仕事に掛かるとしますか。女は取る! ガキと男は皆殺しだ!!」

「ほぉ〜、さすが同業者だな」

男達は即座に振りかえると背後には聖が仁王立ちで3流盗賊たちを睨み上げる、彼らは急に現れた聖の存在に驚きながらも即座に始末しようと飛び掛る。

「話を聞かれちまったら仕方ない!」

「うらぁぁぁぁ!!!!」

「準備運動には丁度良いぜ! はぁぁぁぁ!!!!!」

聖はそのまま魔力を拳に込めると盗賊たちにお見舞いするとど盗賊たちはこかのギャグ漫画の如く空の彼方へと飛んでしまう。久々の会心の一撃に聖は感心しつつも今度はお芋たんを逃がさないために今後の立案を考える。あくまでも聖の狙いはお芋たんなのでこの施設は関係ないのだが誰かに見られても厄介だしさっきのような連中にお芋たんを狙われるのも癪に遭わない、総合的に考えるとここは夜になるまで施設の周辺にいたほう効率的であると判断した聖は隠れながらひっそりと夜を待つ。


746 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:25:12.70 ID:VRtx8JJHo
夜中

皆がすっかりと寝静まった夜中、聖は潜伏活動を再開する。隠れている間にも教会の間取りはおおよそであるが把握している、それに聖は盗賊なので気配を殺して活動するなど朝飯前だ。

(しかし無防備な奴等だ・・)

寝静まっている教会の人々に溜息をつきながら聖は素早くかつ気配を消しながら目当ての部屋に潜入するとベッドですやすやと眠っているお芋たんを見つけ出す。即座に聖は効率的にたたき起こすために掌に尋常ならぬ力を込めると即座にお芋たんの顔を押さえ込む。

「――ッ!!」

「・・黙れ、静かにしないとここにいる奴等全員を皆殺しにするぞ」

突然の光景にお芋たんは目が覚めたとたんに金縛りに遭ったかのように身体が硬直してしまう、囁きながら威圧のある脅し文句を放つ。

「俺はてめぇが目的なんだ。大人しく従えばこいつ等は見逃す・・いいな?」

「・・・」

お芋たんは素直に首を縦に振ると聖に従いながらみんなが起きないようにゆっくりと教会を後にする、暫くして2人は聖が最初に襲われた森林へ着くと2人は距離を取ってようやく構えを取る。

「さぁ、ここなら邪魔は入らないぜ。・・覚悟しな、チビ助ッ!!!」

「あ、あの時は・・」

「ウダウダ言ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」

先に仕掛けたのは聖、魔力を込めた拳をお芋たん目掛けて叩きつけようとするがすんでの所でかわされてしまう。しかし聖はかわされても追撃の手を緩めずに果敢にお芋たんに襲い掛かる。

「つ、強い――」

「流石にチビ助だけあってすばしっこいな」

「こうなればウチも!! “降りしきる風よ その無を無数の刃と変えて切り裂け!! ウインド・カッター!!”」

お芋たんが放ったのは風の刃・・鎌居達。しかも一つだけでなく無数の刃となって聖を襲う、なんとか巧みなフットワークでかわしていく聖であるが全てはかわし切れれなかったようで身体には無数の切り傷が広がる。

「チッ、やるな。・・だけどよ!!」

聖はそのままお芋たんに狙いを定めると魔力を高めて拳から衝撃波を放つ、その威力は無数の風の刃を瞬時に掻き消すとものすごいスピードでお芋たんを吹っ飛ばす。お芋たんは受身すらままならず地面に激突してしまう、その隙を聖が逃すはずもなく追撃の一撃をお芋たんに叩き込む。

747 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:25:44.17 ID:VRtx8JJHo
「ガハッ――!!」

「本気で来ないと・・死ぬぜチビ助」

「こ、こうなれば・・使いたくはなかったけど使わないと死ぬ――!!」

覚悟を決めたお芋たんはそのままある魔法を詠唱する、それは並みの魔法使いならば絶対に習得できない魔法。

封印されていると言われている悪魔の力を借りて発動できる魔法、暗黒魔法を―――

「“・・虚空より司る漆黒の魔よ 我ここに力となってその身を捧げん。 その衣となりて姿を示せ!! ダーク・トランス!!”」

「な、何だ・・」

詠唱を終えるとお芋たんの身体に変化が現れる、性別が変わり衣装は某魔法少女のように姿を変えて魔力も更に跳ね上がる。暗黒魔法、ダークトランス・・数ある暗黒魔法の中でも習得するのは比較的に難しくキャパシティも巨大でなければ話しにならない。

お芋たんは聖を睨むとそのまま静かに詠唱を始めると夜空の闇は更に深まると雷の如く轟音をとどろかせる。並の魔法使いであれば裸足で逃げ出してしまうと炉であるが聖は違った、闘争心を更に高めて魔力を蓄積させる。

「それがてめぇの本気か・・面白ェ、来いよッ!!!」

「いくよ・・“全ての自然の力よ 我に集いたまえ そして混沌と破壊をもたらせ・・ マ ジ ッ ク  ク ラ ッ シ ュ ! ! ! ! !”」

詠唱が終わると同時に空からは無数の隕石が降り注ぐ、聖は巧みなフットワークで無数の隕石をかわすものの次から次へとやってくる隕石の数に手を焼くが本人はピンチをむしろ楽しんでいるようで、一計を案じた聖は魔力を高めた拳で自分に降りかかる分だけの隕石を見極めると驚くべきことに純粋に拳で殴りながらピンポイントで隕石を破壊していく。

「そ、そんな!! 暗黒魔法を力で押し返すなんて・・なんていう人なんだ!!!」

「俺に立ちはだかる奴は全てぶっ潰す!!!」

降りかかる分だけの隕石を破壊する、これだけでも驚きの光景なのに更に聖はさっきの衝撃波の応用で隕石をお芋たんに向けてはじき返してきた。

「ウラッ!!!」

「わ、わわわ!!!」

寸での所でかわすお芋たんであったがマジック・クラッシュは通用しないと判断すると呪文を止めて今度は自身の最終奥義の詠唱を始める。

748 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:26:09.01 ID:VRtx8JJHo
「まさかかウチの最終奥義を使わなければならないとは・・」

「ヘッ、俺は負けはしねぇ!!! さっさと掛かって来いチビ助ェェェェェェ!!!!!!!!」

(この人・・感情で魔力を上げている――!!)

ここでお芋たんは聖の魔力にようやく着目する、普段の人間ならば魔力を跳ね上げるのにはアイテムを使うか特別な呪文を使うかなのだが聖の場合は自身の感情が魔力に直結しているので窮地に陥れば陥るほどその魔力は数段に跳ね上がる、今までにも色んな魔法使いを見たが聖のような人物は初めてだ。

「“すべての光と聖なる力よ! 我の力となりてそれを示せ!! ・・・マ ジ ッ ク バ ー ス ト ! ! ! !”」

「それがてめぇの最後の力か・・だったら受けてとめてやるまでだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

お芋たんの最終奥義マジックバースト・・先ほどの隕石とは比べ物にならない強大な魔弾が聖に向かって放たれるのだが、ここでお芋たんは驚くべき光景を目にする。聖は魔力を跳ね上げるとなんと魔弾を受け止めてしまったのだ、しかし流石の聖もそう簡単には受け止めきれずに徐々に後ずさりしていくのだがそれでも必死に喰らい着いて全ての魔力を拳に集中させる。

「グググググッ・・・」

「そ、そんな!! マジックバーストまで受け止めるなんて!!!!」

「俺は・・絶対に負けねぇぇぇぇぇ――――――――――――!!!!!!!!!!!」

聖は渾身の力を振り絞るとマジックバーストをなんと上空へ放り投げてしまった、そのとんでもない光景にお芋たんのダーク・トランスは解けてしまい、腰が抜けてしまってへなへなと座り込んでしまう。全ての魔力を使い切ってしまったお芋たんは女の子の姿のまま唖然としてしまうが聖はそんな暇など与えずに無抵抗のお芋たんに拳を突きつける。

「これでてめぇの負けだな。言っておくが俺は喧嘩が大の得意なんだ」

「うううっ・・もうウチに魔力は残ってないよ」

「この俺様に喧嘩売ったんだ。生きては帰さねぇ・・」

このままお芋たんに待っているのは制裁・・盗賊に喧嘩を売ってしまったのだから仕方ない末路だ。覚悟を決めてお芋たんは目を瞑るが・・聖はとんでもないことを言い放つ。

749 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:26:58.39 ID:VRtx8JJHo
「だが、条件次第では助けてやる。・・俺様の家来になれ。見たところてめぇは魔法使いだ、俺1人では高が知れている」

「え? で、でもウチは盗賊は・・」

「この俺様から物を盗んだんだ。その時点でてめぇも立派な盗賊だよ、もし受けなかったら・・」

「わわわわ、わかりましたッ!!!!! 盗賊でも何でもしますから命だけはお助けくださいッッッ!!!!!」

「よし、今日からてめぇは俺の部下だ!!! 今から行くぞチビ助・・っと言いたいところだが魔力を使い果たしたんじゃ話しにならねぇ、回復するまでは俺のアジトにいてもらうぜ」

「ちょ、ちょっと・・・うわああああああ!!!!!!!」

・・・・・
・・・・
・・・
・・



「・・っというわけだ。話が長くなっちまったな」

「そのままウチは無理矢理親分に拉致られて魔力が回復したら盗賊家業に借り出されたんだよ・・」

堂々と語り始める聖とは対照的にお芋たんの表情はどこか暗い、この2人の表情から察するに話は本当なのだろう。聞いていた狼子は勿論のことペット達も思わぬ事実にぐぅの根も出ない。

「す、すごいですね・・」

“ある意味で悲惨な話だ”

“やっぱりこの人に逆らったら命はない”

改めて聖の恐ろしさを実感する狼子とペット達であったが聖は店長らしくすぐに業務命令を言い放つ。

「さて、昼飯も平らげたところで店開けるぞ!!」

「はい!!」

(でも店をやってから親分活き活きしてるような気がするなぁ・・)

事実、店を始めて狼子を雇ったあたりから聖の表情は活き活きとしている、あれから色々遭ったもののこうして聖の子分として行動を共にしてきたが何だかんだ言っても自分は彼女を慕っているのかもしれない。

「チビ助ェ! てめぇはきりきり働けよ・・じゃなきゃ今月はパンで生活しろ!!」

「は、はい・・」

っと思いたいお芋たんであった。
750 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:28:25.63 ID:VRtx8JJHo
〜〜〜〜〜〜




 我輩は猫であった。名前は蘭丸。
 世の中には同じ顔を持つ人間が3人はいると言う、しかし長年親しんだ主人によく似た
 温もりや匂いを持っている人間はそれよりも少ないだろう。長年待ち続けてた主人と
 奥方は未だに現れることがない、途方にも思えぬこの気持ちこそが寂しさと言うもの
 なのだろう。


 我輩の時間が尽きるのが早いのか、それとも主人と奥方が戻ってくるのが早いのか・・ 

    〜〜〜〜〜〜


結局フェイは蘭丸の特性の手料理までご馳走になってしまって久しぶりの風呂にありつく事となる。しかし先ほどから感じていた蘭丸に対する違和感はますます深まるばかり、あれから蘭丸から無意識に発せられる魔力は明らかに人が持つものとは違う。本人は多分無意識なのだろうがそれが余計にフェイの疑惑を深めていく、それに謎と言えばこの屋敷の主そのものにもある。いくら行方不明といっても完全に国家との関係を絶っている両親とは違って王家に仕えるぐらいの魔術師ならばそれなりの情報は出回っているものだし、何よりもモンスターの討伐すらままならぬ娘1人残して夫婦揃って旅立っていくのもおかしい話だ。

“フェイ・・湯加減はどうだ?”

「ああ、気持ち良いよ。お気遣いありがとう」

“・・我輩も一緒に入って良いか?”

「へ・・ええええええ!!!!!!!!!!」

突然の蘭丸の発言にフェイは思わずしどろもどろになってしまう、まだ年齢的に幼いといっても自分は列記とした男だ。ここでいきなりそんなこと言われても心の準備がいるもの、フェイはそのまま落ち着きを取り戻すためにあらゆる手段を講じるのだが・・そんなことをやっている間に素っ裸の蘭丸が姿を現す。

「らららら・・蘭丸さん!!!!!!」

「何、変な顔をしているのだ? 我輩の裸がそんなに変か。それに古来より浴槽では裸の付き合いと言うものあって・・」

「ぼぼ、僕っ!!! のぼせるといけないから先に上がらせていただきますッッ!!!」

この場に耐え切れなくなったフェイは顔を真っ赤にしながら不思議そうな顔をしている蘭丸を背後に逃げるようにして浴槽を後にする、ただえさえ同世代の女性とは免疫がないうえにここまでされたらフェイとしては困ってしまうところ。慌てて身体を拭きながら寝巻きに着替えたフェイは一目散に宛がわれた部屋へと入ると悶々とした気持ちと必死に戦っていた。

(姉さんでもあんなことしないのに・・)

彼も年頃の男の子、しかも蘭丸とは会ってたった数時間の人間だ。いくら自分がモンスターから助けたとは言ってもお礼にしてはかなりやり過ぎだ。蘭丸には悪いが明日の朝一番に起きてこの屋敷を後にしたほうが良いだろう、いつまでもここにいると自分の身が持たないし理性と本能の戦いをいつまでも繰り広げてしまえば精神衛生上すごく悪い・・そんな小さな決意をフェイは固めていると今度はパジャマ姿の蘭丸がフェイの部屋に訪れる。

「フェイ、ちょっといいか?」

「ら、蘭丸さん・・」

突然入ってきた蘭丸にフェイはさっきの光景を思い出してしまってしどろもどろになってしまう。先ほどの小さな決意はどこへやら、それにパジャマ姿の蘭丸はかなり無防備な姿なのでそれが余計にきついところだ。

「先ほどはすまなかった」

「い、いや・・僕もごめん」

少々ぎこちない感じであるが会話をしないと始まらないしフェイも蘭丸がいたら易々とは眠ろうにも眠ってはいられないので持てる理性と戦いながら会話を続ける。
751 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:29:44.10 ID:VRtx8JJHo
「それにしてもずっと昔にご主人と奥方が怪我人を拾ってきたな、軽い火傷がチラホラと目立ったがご主人が魔法で治して奇しくもこの部屋に寝かせたのだよ」

「へー、どんな人だったんだい?」

「大変に綺麗な娘でな、ご主人がその娘の両親を知っていたようなんだ。確か名前は・・相良 聖とかいったな」

「え?」

その名前にフェイは驚きを隠せずにいた、あのサガーラ盗賊団の団長である相良 聖がまさか過去にこの部屋に泊っていたとは驚きだ。あの名前を聞くだけでなんだかとてつもなく縁起が悪く思えてしまう、以前も狼子との出産騒動で出くわしたのだがフランが逃がしてしまったので非常に後味が悪い。

まぁ、空気を読んで蘭丸にはそういった聖との経緯は話さないほうが無難だろう、それにフェイも蘭丸にはこの際だから聞きたいことはあるし。

「でもさっきはちょっと意外だったな。僕たち出会ってそんなに時間たってないでしょ?」

「・・フェイは似てるのだ、我輩の主人と」

「え?」

衝撃の告白にフェイは固まってしまうが蘭丸の独白に火をつけてしまったようだ、フェイは後悔する中で蘭丸の独白が始まる。

「最初、フェイと出会った時は驚いたさ。顔は確かに似てはいないが匂いや気配と・・それに温もりがご主人と非常に似ているのだ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!! 僕は蘭丸の主人については知らないし面識はないよ!!」

「・・だから余計に感じてしまうのだ。それに信じがたいだろうが元々我輩はこの家で飼われていた猫だ、寿命を迎えたと同時にご主人は我輩にある魔法を掛けた」

またまた蘭丸の衝撃発言にフェイの頭はこんがらがってしまう、いくら魔法が発達したと言っても動物を人間に変える魔法など存在しない。伝説の魔法である神聖魔法でもそういった類の魔法など聞いたことないし、今のところ両親しか扱えない自然魔法でもそういった魔法の存在など聞いたことすらない。
752 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:30:26.92 ID:VRtx8JJHo
「疑問に思うのは当たり前だと思う。ご主人が我輩掛けた魔法は自然魔法をアレンジしたご主人しか使えない独自の魔法だ、猫としての生命を終えた我輩は人間として生まれ変わった」

「自然魔法をアレンジしたオリジナルの魔法・・」

魔法と言うのは使うのは簡単であるが熟練者になると独自にアレンジを施してオリジナルの魔法を編み出すことがある、言葉では簡単だが魔法を独自にアレンジすると言うのはかなり難しくフェイやフランでもそこまでの域に達するのは到底無理だろう。といっても両親からは散々オリジナルのアレンジ魔法を修行時代に実験を兼ねてその身に叩きつけられたのは今でもトラウマの一部として残っている。
それだけ蘭丸の主人は自分よりも遥かに格上の魔道師なのは違いないだろう、もしかしたら行方不明になっている両親とも何らかの交友を残している可能性が高くなってくる。

「ねぇ、蘭丸・・ご主人からラインボルト夫妻について何か聞いていないかい?」

「知っている、ラインボルトという名は度々ご主人や奥方が言っていた名前だ。2人とは何らかの交友はあったのは確かだと思う」

(まさか蘭丸のご主人とあの2人に交友があったんだ!!)

両親について思わぬ手がかりを掴んだフェイであるが蘭丸は憂いげな表情で自嘲気味に言葉を淡々と続ける。

「人間に生まれ変わった我輩はご主人と奥方から様々なことを教えてもらったし我が子の様に我輩を可愛がってくれた。2人が旅に出て1年・・今か今かと帰りを待ち続けた我輩だが、感じてしまうようになったのだ」

「え? それってどういうこと・・」

「猫は死期を悟って隠れて死ぬ生き物だ。猫の時に感じていたあの感覚を我輩は今感じている」

「そんな・・悲しいこといわないでよ!!」

「・・悲しい、だけどこれが我輩の宿命なのだ。人として生まれ変わった時のな」

衝撃の出来事であった、蘭丸の話を聞けば聞くほどフェイは先ほどの自分が恥ずかしい限りだ、そして何も出来ない怒りがこみ上げる。蘭丸は自分の死期を悟りながらも必死で愛するご主人と奥方を待ち続けていたのだろう、そんな彼女の気持ちを考えれば考えるほどその重さがずっしりと残酷にフェイの心を抉るが・・蘭丸はそんなフェイの気持ちを察したのか優しく語り出す。

753 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:30:55.63 ID:VRtx8JJHo
「すまないな、我輩のわがままに付き合せてしまって・・」

「我儘なんかじゃないよ!!!! ・・蘭丸、ただいま」

「―――!!」

フェイはそっと蘭丸を抱きしめる、今の自分にはこれぐらいのことしか出来ない。


慰めでもない本当の温もりを蘭丸は待ち望んでいたのだ・・



      フェイを通して伝わる人としての純粋な温もりが蘭丸として生きたご主人との記憶が甦る、本来ならば自然の摂理に従い消えるはずだった命の篝火がご主人によって灯った――


嗚呼・・なんと言う幸せだろうか? ご主人に生を与えられ、奥方から知を学び・・2人に与えられた何者にも変えがたい温もり―――



      気の遠くなるような日々の中で待ち望んだ温もりがこうも穏やかで暖かいのだろうと・・



吾輩は猫であった、自然に従い死ぬはずの猫であった。人として生まれ咲き乱れる花のように美しく散っていく花のように――



      凍てつくような寂しさを溶かす魔法でもない純粋な肌のふれあいを与えられたことを感謝したい―――



                  名前は・・・蘭丸




754 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:31:57.61 ID:VRtx8JJHo
「・・ありがとう、フェイ。これで我輩は逝ける」

「そんなぁ・・嫌だよぉぉぉぉ!!!」

「そして礼を言う、我が命は散らせど自然に還り・・そして思いは人々に刻まれる。なんとも幸せだろうか――」

蘭丸の身体からは光り輝く魔力が花びらのように散っていく、即座にフェイは魔力を展開して蘭丸の魔力の拡散を防ごうとするが肝心の魔力が解放できない、まるで何者かに干渉されているかのように・・

「そんな―――!! 魔力制限はなくなったのに・・・」

「フェイ、もう無理なのだ。我輩の魂である魔力はこうして徐々に散っていく、いかなる手段でも止めることはできない絶対の掟」

「そんなの知るか、そんな掟糞喰らえだ!!!!! 頼むから邪魔をしないでくれぇぇぇぇ!!!!!」

必死で魔力を展開させようとするフェイだが展開することが出来ない、しかし蘭丸はそのままフェイに優しく微笑むとフェイに最期の言葉を託す。

「泣くなフェイ、あの女性も言っていた。“人間1人でもなんとかなるもんだ”とな、ご主人や奥方のように逞しく生きてくれ。
我輩は最後の最後だけご主人・・おとうさんを与えてくれて本当にありがとう


では、さらば」

「蘭丸・・蘭丸ぅぅぅぅぅぅぅぅ――――!!!!」

蘭丸はとびっきりの笑顔を遺して魔力は完全に消失して魂の欠片は天に昇って消えていった、その光はとても美しかったがフェイには残酷な光に思った。



755 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:32:29.81 ID:VRtx8JJHo
フェイは呆然となりながら屋敷を後にした、初めての人の死・・後悔ばかりが残る中で呆然と森の中を歩き続けていると何者かに首根っこを抑えられて地面に叩きつけられれる。

「痛ッ――・・何するんだよ!!」

「久しぶりに再会した母親に向かってなんて言い草よ、バカ息子ォォォォ!!!」

「か、母さ――」

直後に母親から何年ぶりかのマジック・バーストを喰らってしまう、詠唱をしていないので威力は大したことはないのだがそれでも周囲の木々をなぎ倒すぐらいの威力だ。

「全く、久々に再会したと思ったらなんて情けない面してるの」

「・・・」

何も言いたくない・・それが今のフェイの心境だった。散らばったフラン特製の回復アイテムを見ながら母親は感心しながらも溜息をつく。

「フランソアも独学でここまで作ったのは褒めてあげたいけど・・まだ未熟ね。そういえばフランソアはどうしてるの?」

「・・兄さんは女体化し――」

ここで本日2発目のマジック・バーストをお見舞いされる、久々とはいえあまりの扱いにフェイは思わず怒鳴ってしまう。

「何するんだよ!!!! それにいきなり早々に詠唱なしとはいえマジック・バーストなんて喰らったら死んじゃうよ!!!!」

「男ならウダウダ言わない!! この程度のマジック・バーストは散々叩き込んだでしょ!!! フランソアが女体化したと言うことはどうせあんたも童貞なんでしょ!!!
フェイまで女体化したって聞いたらお父さんが聞いたら嘆き悲しむわ・・」

「嘆き悲しむのはこっちだよ!! 僕達の修行終えたとたんに旅に出て音信不通になって・・こっちが嘆き悲しみたいぐらい―――」

本日3発目のマジック・バーストを咄嗟に発動した防御魔法で防いだフェイであるが、今度は背後を取られてウインド・ブレード峰打ち乱れ切りを喰らってしまう。

「全く・・練度はまだ未熟だわ、反応が遅いわ。あれだけ散々叩き込んだのにまだ足りないようね!!」

「ううっ・・」

蘭丸の死が拭いきれない上にこの母親からの容赦ない攻撃・・これでも詠唱なしで魔力も抑えてあるというのだから末恐ろしい親である。恐らくこの場にフランがいても結果は目に見えている、2人仲良く泣きながら様々な魔法を叩き込まれるのだろう、実の子供だからこそ決して容赦はしないのがこの母親だということをフェイは身を持ってい知っている。
756 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:33:21.12 ID:VRtx8JJHo
「母さんは・・」

「人の死を経験していないと言いたいわけ? 親に説教たれるなんて10億光年早いわバカ息子ォォォ!!!」

まるで全てを見透かしたかのような母親の視線、何も言えずにただ立ち尽くすだけのフェイに母親は更に傷を抉るかのように残酷な一言を言い放つ。

「・・人に限らず全ての命あるものには“死”は絶対よ。あんたもそうだし私たちも例外じゃない。
いくら自然魔法をアレンジして形を変えて生き長らえさせても結果は一緒よ、それに命をいじるなんて自然の摂理に反するおごましき行為・・人はどのような魔法を使えても決して神ではない、生命をいじることは不可能よ」

「まさか・・僕の魔力を制限したのも――!!」

「・・だからあんたはバカ息子なのよ。命の重みも知らない半端者、もっと世界を見なさいそして耳を傾けるの。
悪魔が封印されたといっても世界はとても理不尽に出来ていて、それに抗う人は良い意味でも悪い意味でも学習して繰り返して反省をするの。

人は生と死を繰り返す・・死者は後の人に想いを残して逝っていく、残された人は託された死者の想いを糧に生き続けるのが人が生きていく上での宿命よ。そうやって歴史は紡がれるの」

「そんな説教・・聞きたくないよ――」

目を背けたくなる母親の言葉にフェイは断腸の思いで叫ぶが、母親はフェイを大地の魔法で叩きつけると更に怒声を強める。

「甘ったれたこと言うんじゃないの――!!! 確かに親しい人であればあるほど人の死は儚く残酷で哀しいものなのよ!! 
だけどね、残された私達はその人の生を心に刻みながら生きるの。どんなに悲しくても乗り越えて生きていくの」

「言うだけなら簡単じゃないか!!」

「・・そうね。でもこれだけはよく覚えておきなさい、命をいじるのはどんな理由があろうとも絶対にやってはいけない禁忌なの。家に帰ったらフランソアとよく話しなさい、あの子は命の尊さや重さを直に知っているわ。

そして後はその理由は自分で見つけなさい、バカ息子」

そのまま母親は一輪の花を投げると同時にダーク・チェンジで転移して姿を消す、フェイに残されたのは母親の言葉の重さと悲しみだけだった。



757 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2011/12/26(月) 11:34:26.73 ID:VRtx8JJHo
自宅

あれからフェイはどうやって自宅に帰ったかはよく覚えていない、ただはっきりと覚えているのは心配そうなフランの前で泣きじゃくってしまったことだけだ。それからポツリポツリとだがフランに事情を説明して話を聞いてもらっている、いつもなら口やかましく言う姉もこのときは黙って耳を傾けてくれた。

「そう、母さんにそんなこと言われたの。それでまた消えちゃったわけね」

「うん・・僕、どうして良いのか判らなくなったよ」

顔に生気すらないフェイにフランは少しの間だけ目を瞑るとこんなことを語り出してきた。

「・・私が医者をやり始めたのは丁度フェイの頃よ。あの時は父さんや母さんに付き添われて医療魔法を教わりながら人が助けられたり死んだりする現場を何度も見たわ」

「2人になんか言われたの?」

「ううん、2人は何も言ってこなかったわ。だけどね、1人で医者をやっててつくづく思うのは命って人によって重さが変わるんだなって事。人ってそれぞれの価値観で命を軽んじたり重く捕らえたりしてるじゃない? 魔法が発展してもそれは変わらないと私は思うわ。

それに死んじゃったときって周りは悲しんでいるけど当の本人の顔つきはやりきった感じで非常に穏やかなものよ」

フランの言葉にフェイは蘭丸の死に際の顔を思い出してしまう、あの時の蘭丸は笑顔で自分の前から逝った。彼女は今までの人生を後悔などしてはいなかったのだろう飼い猫として人間として・・

「その娘・・あんたにどんな顔して逝ったの?」

「綺麗な笑顔だったよ」

「そう。・・その館のご主人は何故飼い猫を人間に変えたのかはよく分からないけど、多分特別な存在だったからじゃないのかな? 
そしてその娘も一度は飼い猫として尽きた寿命を理解しつつも人間として生まれ変わってご主人に尽くしたと思うわ、真相は本人じゃないとわからないけどね」

そのままフランはスープを啜ると最後にこう述べる。

「命ってのは姿かたちは一つだと思うわ。使い古された台詞だけど・・あんたがその娘を忘れない限り、その娘はあんたと共に一生心に生き続けるわ。

存在はしないけど生きつづけているのには変わりないわ、後はあんた次第よ」

「心に生き続けるか・・そうだね!!」

フェイも自分に言い聞かせながら蘭丸を刻んでいく、自分がそれに納得するのに何年掛かるかはわからないが生き残った自分に課せられた一生の課題だと思う。

「それにしても母さんは何であのお屋敷にいたのかしら?」

「そういえば・・なんでだろうね。真相は藪の中って所かな」

様々な謎を残しながらも夜空には流れ星が降り注いで・・消えていった。





fin
758 :AZUMA HITOMI - ハリネズミ[sage saga]:2011/12/26(月) 11:44:57.42 ID:VRtx8JJHo
え・・とりあえず、でぃゅ氏ごめんなさい。

そして◆i7rqxtl05.氏・・借りパクした上にキャラを殺して本当にすみません
何かありましたら私のほうまでご連絡ください


ちょっとやりすぎてしまったよ。oh・・



とりあえず見てくれてありがとさんでした。一応今回は過去編とフェイ君の成長編です。
恋愛フラグは良いところまで立てておいて作者権限でバリバリに折っていくのが私の正義

では、ちょっと遅いクリスマスプレゼントでした
投下にきたいです


◆i7rqxtl05.氏、本当にすみません、ごめんなさい・・
759 :ASIAN KUNG-FU GENERATION - リライト[sage]:2011/12/26(月) 22:35:41.70 ID:RIypLmrVo
自分の書いた文章を吟味してると、なかなか投下できないぜーーーーー

長いのは仕様ですの人じゃないけれども、話がダラダラ長くなるぜーーーーー

はやーくえっちーはなしにしたーい
760 :>>67[[sage saga]]:2011/12/28(水) 03:03:15.46 ID:craWmfZ90
遅れながらクリスマスのものです。
先に本編の番外編です。
本編で出てくる設定にSNSで「にょたっ娘コミュニティ」というものがちょっとだけ出てきます。
本編で少しだけなので番外編で結構書きました。

設定「にょたっ娘コミュニティ」=ミクシィなどのSNSに2chのような総合掲示板がついた様な会員制のサイト。
登録には女体化登録したときのロットと住所を照らし合わせるので成りすましはたぶんいない。
以上設定でした。

761 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:05:07.51 ID:craWmfZ90
1.[今日1人の子たち慰めあおうよ]

1.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:00:2502
ID:ag5jm7qad

わーん!!彼が女体化しちゃったぁ
こんなことならヤっとくべきだった。

2.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:01:0106
ID:p2ja1tfnz

以下好きなスイーツスレ

私、ショートケーキ

3.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:0102
ID:Gj92apdtG

>>1 これでより一緒に出かける機会増えたし良かったんじゃない?
私なんてにょたになっても1人きりのクリスマスイブだもん。寂しいなぁ。

4.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:1606
ID:jiaYI89FI

>>1 にょた百合ップルという手がある。連れ込んで貝合わせGo!!

私はチョコムース

5.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:3209
ID:ija1tp8dt

私は彼のおちんちんって言うのは冗談で、アンディのフルーツタルトかな。

6.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:3309
ID:E4bk1ntga

私アンディのフルーツタルト
762 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:05:51.90 ID:craWmfZ90
7.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:4002
ID:Qjgbdmt00

>>1 Kwsk

私はリサのレアチーズケーキ

8.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:02:5306
ID:ag5jm7qad

>>2 ちょ、ふざけんな!!

ミルツのカスタードプリン
>>3 確かに私が色々女の子のこと教えてあげないとね。
私も初潮でめちゃくちゃ焦ったし

9.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:03:0502
ID:ja1epf6cy

俺、今日、女体化して彼女との関係どうしたらいいのか悩んでいます。よろしくお願いします。

10.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:03:2502
ID:Qjgbdmt00

>>5>>6 にょたップル成立おめでとうございました。

11.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:03:5502
ID:ija1tp8dt

>>9 彼氏キター!!

12.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)18:04:0501
ID:Oea4pg2ja

>>1 だから、いつも言っているじゃない。男できたら食べなさいって。

>>2 シェリエル・ビスチェのフォンダンショコラ

>>9 いらっしゃい。でも、ココで『俺』って言うのは関心しないぞ。
コミュのルールに書いてあるように私と女の子っぽい話し方にしてね。H姉さんとの約束よ。
763 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:07:43.89 ID:craWmfZ90

13.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:0500
ID:p2ja1tfnz

>>9 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!?

14.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:01304
ID:ag5jm7qad

>>9みつお!?

15.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:1608
ID:E4bk1ntga

>>9彼氏キター(゚∀゚)?


16.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:2005
ID:Qjgbdmt00

管理人もキタ━━!!!


17.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:2507
ID:p2ja1tfnz

>>12H姉も一人?シェリエルとはまた高級な。


18.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:3200
ID:jiaYI89FI

キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!

>>12 ねえさぁああああん!!

19.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:4103
ID:ja1epf6cy

>>12 分かりました。注意読んでなくてすいませんでした。

>>14 あきほ?だったら私です。ちょっと電話してみる。

20.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)18:04:5805
ID:Oea4pg2ja

あらあら…大変面白いことになってきたわねぇ。

>>17 だって、おいしいじゃない。

>>18 なぁに?
764 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:09:00.04 ID:craWmfZ90

21.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:05:0504
ID:ag5jm7qad


えーっと、皆様、彼氏でした…ちょっと二人で話してきます。

22.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:05:1202
ID:ija1tp8dt

>>21 彼氏キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

23.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:04:1305
ID:p2ja1tfnz

さて、面白くなってましりました。

34.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:07:2802
ID:ag5jm7qad

ただいまです。
えっと、私、彼が好きでどうしても諦めきれないんです。彼?は別れようって言ってくるんですけどどうしたら良いんでしょう。

35.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:07:3806
ID:ija1tp8dt

>>26 徹底的にみつおじゃ無かった。ひかりちゃんを女の子扱いに賛成

36.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:07:4208
ID:p2ja1tfnz

>>34 おかえりー。恋人から親友でもいいんじゃない?スキなら。

37.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:07:4206
ID:jiaYI89FI

>>34 おかえりー。彼女彼女とか?・・・にょた百合ップルきたあああああああああああああああああああああああああああああ

38.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)18:07:5205
ID:Oea4pg2ja

あら、おかえり。そうねぇ…別れようと思う彼の気持ちも分からなくは無いわね。
でも、あなたが本当に好きなら説得し続けて最悪、親友になるしかないんじゃないかしら?

39.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:08:0200
ID:ja1epf6cy

>>34 だから、あきほ。もう男女の関係じゃないし、一緒にいても後悔し続けるだけにしかならないと。
765 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:10:16.70 ID:craWmfZ90
45.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:08:5209
ID:ija1tp8dt

>>39 あんた馬鹿? >>41 あっきーに同情。ところでひかりちゃんの服ってどうしたんだろ・・・。

46.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:08:5703
ID:jiaYI89FI

>>39 ひかりちゃんってバカだねー。そんなだからにょたになっちゃたのよ。

>>41 あきほちゃん。その子、徹底的に女の子に目覚めさせちゃいなさい。

47.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)18:09:0302
ID:Oea4pg2ja

>>39 本当に好きなら後悔なんてしないわよ。

48.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:09:0802
ID:ag5jm7qad

いま、ひかりのお母さん(にょた)と話してひかりを連行して明日ブティックとランジェリーショップ行くことにしました。
徹底的に女の子にしてきます。
おやすみなさい。

49.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:09:2200
ID:ja1epf6cy

>>48 何かお袋がうれしそうだと思ったらそういうことだったのね。

55.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:09:3106
ID:p2ja1tfnz

二人がいなくなったし、どうします?
女子会ならぬ、にょた会とか?

56.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)18:09:4302
ID:Oea4pg2ja

いいわねぇ。にょた会はじめましょう。といってもいつもの雑談でしょ?

57.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)18:09:5201
ID:jiaYI89FI

そうですねーwじゃあ、まず、今話題になってるにょたップルから。

―――――――――それでも会話は止まらず3スレ消費それがにょたと言えど女性の性なのです。
766 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:12:33.83 ID:craWmfZ90

―――次の日
[今日も1人の子たち慰めあおpartH]

1.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:32:2109
ID:Ygtia21ki

昨日は盛り上がったねー。猫二匹が来ると思ってなかったし。


2.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:34:2306
ID:kuea2G8Ua

>>1 スレたて 乙 
確かにあの猫ちゃんたちは来るとは思わなかった。

時間的に過疎ってるな。みんな彼氏か?

3.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:34:3457
ID:pjai91gh

ところでクリスマスだって言うのに彼氏がにょたになっちゃたあの1はどうしてるかな。

4.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)11:34:4602
ID:hast43dfH

管理人のえ・っ・ち・な・お姉さんです。それじゃ今日も盛り上がってイきましょう。

5.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:34:5819
ID:aaYU06How

昨日パート1立てた1のあきほです。報告に参りました。
あの後お互いに話し合い。彼女彼女の関係になりました。
年末に互いに処女を捧げあうことで過去に縛られないように生きていこうと約束しました。
767 :>>67[sage saga]:2011/12/28(水) 03:18:09.31 ID:craWmfZ90

6.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:35:1372
ID:kuea2G8Ua

>>5 おめでとー!!

7.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:35:2211
ID:pjai91gh

>>5 にょたップル成立、きたああああああああああああああああああああああああ!!!!

8.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:35:3240
ID:Ygtia21ki

>>5 おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

9.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)11:35:4532
ID:hast43dfH

>>5 あらぁ、よかったわねぇ、これでまた同じように一緒にすごせるわね。おめでと。

10.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:36:0132
ID:Ygtia21ki

>>5

1も問題解決したし、今日も盛り上がっていきましょう!!

でも、私抜けます。彼を抜きます。いってきます。

11.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)11:36:1037
ID:hast43dfH

>>10 こっちもあの猫ズに負けず劣らず盛ってるわね。うらやましいわぁ。

12.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:36:1332
ID:kuea2G8Ua

私も用事があるので抜けます。二人きりですが楽しんでねー。

13.名無しが変わりましてにょたがおおくりします。
12/24(土)11:36:2415
ID:pjai91gh
二人きりって・・・お姉さんと?…もう解散で良いよね?私も抜けます。

11.名無しが変わりましてHなお姉さんがおおくりします。
12/24(土)11:36:1037
ID:hast43dfH
あらあら、お開きかしら…他のスレにいきましょうか。寂しいわ…

以上駄文?でした。

にゃんこは西田忍ちゃんじゃありません。忍ちゃんぺろぺろ、たまたま偶然かぶりました。実際、猫飼っているので、その影響です。
本編清書が今82KBで下書きあわせて1年目がようやく半分くらいです。まだまだ投稿できそうに無いので先に出しました。
768 :《京都府、滋賀県・「映画けいおん!」OP》放課後ティータイム (豊崎愛生, 日笠陽子, 佐藤聡美, 寿美菜子, 竹達彩奈) - いちばんいっぱい2011/12/28(水) 22:58:40.92 ID:j/crdLWt0
こういうのもいいなGJ!
769 :真田アサミ・沢城みゆき・氷上恭子 - ミラクル☆ワンダーランド[sage]:2011/12/29(木) 17:43:10.35 ID:2vlMTqGWo
なにこの名欄wwwwwwwwwwwwww
770 :School Food Punishment - RPG[sage]:2011/12/29(木) 21:45:22.48 ID:8jlupPKKo
うん?勝手に変わってんの?
771 :ネギ・スプリングフィールド(佐藤利奈),神楽坂明日菜(神田朱美),近衛木乃香(中野藍),桜咲刹那(小林ゆう) - 1000%SPARKING![sage]:2011/12/29(木) 22:53:50.21 ID:lhbSzMvSO
俺、林原めぐみしか解らんwwww
772 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)[sage]:2011/12/31(土) 21:52:01.51 ID:fjQMa9cFo
学べるニュースを見ながらお題リクエスト受付↓ww
773 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 21:58:18.78 ID:sAVv6sZN0
妹のお下がり
774 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)[sage]:2011/12/31(土) 22:05:52.75 ID:khVid6XAO
今年最後のお題オクレ
775 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 22:37:42.23 ID:+2yydJnDO
初夢で見た理想の美少女が、目覚めた時の自分の姿だったっていう正夢
776 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)[sage]:2012/01/01(日) 00:43:00.69 ID:n3fwPo+bo
男の娘な幼馴染が主人公が女になった途端アプローチがマジになってくるとかそういうの
・・・こまかすぎて自分で書いたほうがいいかな
777 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)[sage]:2012/01/01(日) 00:44:14.05 ID:4HmVBRZYo
そこまで妄想できてるなら自分で書いた方がいいんだぜ…ww
778 : ◆wDzhckWXCA2012/01/01(日) 00:58:31.30 ID:4HmVBRZYo
妹のおさがり、投下っ

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「やっぱりか…」
17才の誕生日の朝、誰よりも早く目を覚ました僕は、家人が起きないように忍び足で洗面所に向かい、その鏡に映った自分の姿を見て独りごちた。
鏡の中には、昨日までの自分の姿とは似ても似つかないほどの美少女がいた。
「さて…どうしたものかな…母さんには言わなきゃだし…でもなぁ…」
16才が終わるまでに女性経験を済ますことが出来なかった男子は、ある一定の確率で女体化してしまう現象が自分の身に降りかかってしまったのだ。
とりあえず、自分の部屋に戻って本当に女体化してしまったのかを確かめるべく、着ていたパジャマとパンツを脱いで、一糸纏わぬ姿になってみた。
「おぉ…」
見下ろすと胸は手のひらに余る程度の大きさに膨らんで、その先端は今までよりも二回りは大きく、しかし控え目なピンクでしっかりと存在を主張している。
「おっぱいだ…」
おそるおそる先端に指先を触れると、ぞっとするような感覚のような、でも不快感とは正反対の感覚が走る。
「ひゃっぅ…女のおっぱいってこんなに敏感なんだ…んぅっ…きもちいい…」
しばらく夢中で胸を揉みしだいていたら、股間にだいぶぬるっとする湿り気が起きていることに気がついた。
「こっちも…もしかして…」
おそるおそる右手で股間を探ってみると、そこには昨日まであった男性のシンボルはなく、割れ目になった股間の奥がしとどに濡れているばかりだった。
──くちゅっ
指が股間に到達したとき、小さく、しかしはっきりと水音が聞こえた。
「!!!!っっっ」
濡れた股間を指が動くたびにくちゅくちゅと小さな音を響く。その音も相まっていっそう快感が高まってくる…。
「はぁっ…んんっ…あぁぁ…!」
初めての感覚に、いつしか我を忘れて快感をむさぼっていると、ついに絶頂に達してしまっていた。
「はぁっ…はぁ…んん…」
──これが…女の子の、逝くっていう感覚なんだ…
しばらくは力が抜けたようにベッドに横になっていたが、窓から朝日が差し込んでくるにつれて意識がはっきりしてきた。
耳を澄まして家族がまだ目を覚ましていないであろうことを確認してのろのろと体を起こすと、バスルームに向かった。
「翔?起きたの?珍しいわね翔が朝からシャワーだなんて」
熱いシャワーを浴びていると、脱衣所から母親の声がした。
「う、うんっ。ゆうべ寝付けなくて寝汗かいちゃって…」
「着替えここに置いておくからね…、ってその声…まさか!」
「うん…僕、女の子になっちゃった…みたい…」
あきらめて告白すると、母親がドアを開けて入ってきた。
「あらまぁ…ほんとに翔? 彩矢とそっくりね。まあ兄妹だし似てておかしくないけど。それよか着るものをどうにかしないといけないわね」
そういうと母親はバスルームを出て行くと、2階の妹の部屋に行き、しばらくして戻って来た。
「はいこれ。今日は彩矢のおさがりで我慢なさい。見た感じ身長はほとんど同じっぽいし大丈夫でしょ。あとでちゃんと服買ってあげるから」
そう言って渡された妹の彩矢の服は、ウェストがややあまり気味で、胸はかなりきつかった。
779 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)[sage]:2012/01/01(日) 14:14:09.31 ID:wgd+wshzo
新年早々乙やないの!
あけましておめでとうゴザシャス!
780 :VIPServiceでコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 20:31:26.04 ID:aOsYswMI0
>>778
続きはまだか!
781 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2012/01/01(日) 21:34:55.22 ID:4HmVBRZYo
>>780
ないですよ。読み切りですww
782 :水樹奈々 - SCARLET KNIGHT2012/01/03(火) 00:56:47.89 ID:T6l6bUxs0
>>778
つ・・続きが読めないと女体化してしまう!!!!
俺はまだ男で居たいんだ・・頼む!続きを!!!!
783 :右代宮真里亞 (堀江由衣) - ハッピー・ハロウィン MARIA[sage]:2012/01/03(火) 11:51:32.00 ID:4XwCWefAO
女・体・化! 女・体・化!
784 :高槻やよい - 帰り道[sage saga]:2012/01/04(水) 19:25:49.75 ID:AH7rvOPCo
よし、投下する
785 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:27:11.07 ID:AH7rvOPCo
人のスキャンダルと言うのは聞けば聞くほど沸き立つ探究心と好奇心が働いてしまう、これはそんなお話・・





スキャンダル・ティーチャー




                          ◆Zsc8I5zA3U








朝、いつものように白羽根学園職員室では学校名物ロリっ娘校長である霞による定例の報告会で幕を開ける。部活の朝連を終えた教師は疲れた顔を切り替えて、朝出勤した教師は眠たい身体を切り替えて社会人としての出勤モードに入るが約一名の例外はいる。

「以上で報告を終了します、今日も1日張り切ってきましょう〜☆」

子供のようにはしゃぐ霞であるが実年齢は熟練した大人なのでそのギャップに慣れるのが白羽根学園に在籍する教師の初めての仕事でもある、そのまま各教師は受け持つクラスのホームルームを行うために教室へと移動したり1時間目の授業を控えている教師も準備をするために移動する。

そしてこの学園の保健室を司り一部では陰の支配者とも噂される礼子も必要なものを整えて職員室を後にしようとしたのだが、ここでいつものように霞に呼び止められる。

「あっ、春日先生。ちょっといい?」

「はい、何でしょうか?」

「悪いんだけど前に申請していた薬の納入が遅れるみたいなのよ」

霞によると以前礼子が申請していた薬の一部の納入が遅れるということで礼子にしては少し困る話である。何せ申請した薬はそろそろ少なくなってきているので必要な時になくなってしまうのは本末転倒だ。

「ごめんなさいね、業者から連絡させて早めに納入させるようにはするわ」

「・・校長先生、それは私の授業で使う薬も含まれているのですか?」

「橘先生」

突然霞と礼子の間に割って入ってきたのは標準的な体型に少しばかりきつそうな視線に金髪のセミロングが特徴である橘 瑞樹(たちばな みずき)、担当は化学で部活の顧問は意外にも陸上部。そんな彼女も例に漏れずに女体化者であり性格は冷静沈着であまり感情は滅多に表さないが言うときは言うしっかりとした性格である、そんな彼女も授業で使う化学の教材である薬品も礼子の薬と同時に納入が遅れているらしいようだ。

「校長先生、納入はどれぐらいになりますか? せめて授業の遅れにないようにしたいのですが・・」

「そこは善処するわ。業者にも再三言っているから、連絡するわ」

「・・わかりました」

そのまま瑞樹は素直に引き下がると準備を済ませて職員室へと消えていく、学園内でもそれなりに人気がある瑞樹であるが教員の中では仕事第一がモットーな人間なので言うこともかなり現実的で少々キツイ面がある。

「ふぅ・・とりあえず、橘先生にも言っておくけど礼子先生も申し訳ないけどお願いするわ」

「まぁ、何とか今の在庫でやっておきます」

「頼むわ、ちゃんと業者には言っておくから」

そのまま霞は少し疲れ気味にその場を後にする、礼子は少し同情気味に見送るとそのまま保健室へと向かう。幸いにも鍵は壊されておらず室内にも目立った変化はないのでとりあえずは一安心と言ったところだろう、そのまま礼子はいつものように薬をチェックするがやはり少なくなっているのには変わりないので業者が来るまで我慢しなければならないだろう。

「やっぱりこれだけじゃ心細いな。あんまり校長には無理言えねぇし」

礼子も霞の苦労が知らないほどバカではない、校長というのはそれだけ苦労もするし周囲との軋轢や問題の処理なども考えたら並の人間では出来ない大変な役職なのだ。案外自分はそういったところに向いてはいないと礼子はつくづく思う、もし普通の教師をしていたのかと思うと末恐ろしく思う礼子だった。
786 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:27:38.56 ID:AH7rvOPCo
化学準備室

一時間目が終わって散らばる生徒がチラホラといながら瑞樹は授業で使う教材をチェックしながら無表情で在庫をしっかりと確かめる。

(・・やはりこの薬品を使った実験は少し見直して正解ね、在庫面から考えたら万が一を考えて申請しなければ)

一応、学年ごとでは在るが化学の担当の教師はいることはいるのだが化学室の管理などは本人の志願もあってか基本的に瑞樹が執り行っており几帳面な性格も手伝ってか管理は勿論のこと用具のメンテナンスもしっかりと行われている。幸いにも1時間目の授業は先ほど終わったのでやることといえば用具のチェックと使用した器具のチェックぐらいだ。

「橘先生、ちょっとここの化学式がわからないんですけど・・」

「・・そこは物質の変換についてですから、この式はこういった風にも応用できます」

「は、はい・」

話しかけてきたのは1年生の綾辻 志菜、友人である樋口 真琴、小松と3人で行動している、最近は女体化した妹尾 勇輝とも交友を育んでいるようでるのが目に浮かぶ・・といっても瑞樹は彼女達の生徒ではないので一介の教師として淡々と志菜の疑問に丁寧に答えるのだがきつい顔立ちが災いしてか志菜はどことなく気まずそうだ。

「といった感じです。センター試験でもよく出る問題ですので把握しておいたほうが良いでしょう」

「あ、ありがうございます」

少しぎこちなさそうに志菜に構わず瑞樹は淡々と作業をしていくが、ここで小松と勇輝も瑞樹に問題の疑問点をぶつける。

「先生、さっきの化学式の応用で気になる点が・・」

「それにもう少し高度な実験してくださいよ」

「・・高度な実験はもう少し授業が進んでからです。それに先ほどの化学式は他にも様々な形で応用できます」

淡々と話す瑞樹は容器を片付け終えるのを把握すると時計を目にする、そろそろ2限目に差し掛かる頃合であるが瑞樹の授業は3限目からなので暇潰しにやりたかった実験もやっておきたいし何よりも次の授業を控えているこの4人をさっさと帰しておかないといけないだろう。

「あなた方も次の授業があるのではありませんか?」

「・・橘先生、過去に2年の骨皮先生と付き合っていたのは本当ですか?」

「――」

突然の真琴の言葉に瑞樹は一瞬だけ動作が止まる、生徒の間では無表情のリアリストとして通っている瑞樹には実は今のところある噂が広まっている。それが真琴の言っていた靖男との関係、どこでどう広まったのは知らないが教師の噂は生徒にとって絶好のスキャンダルだ。事実、真琴以外にも瑞樹に直接尋ねてきた生徒もいるし教師にも聞かれたこともある、正直言って瑞樹にとっては良い迷惑以外何者でもない。

「おい、真琴・・何変なこと聞いてるんだよ」

「だって気になるじゃないの?」

「それは確かに・・」

「この際だから教えて欲しいわね。どうなんですか橘先生?」

「・・何でもありません。後20秒後で次の授業のチャイムが鳴りますよ」

瑞樹の宣告どおり、チャイムが鳴り響き4人はそのまま蜘蛛の子を散らすようにダッシュで教室へと向かっていく。そのまま取り残された瑞樹は少し溜息をつきながら先ほどの噂を思い返す。

(何故? ・・でも本当に今更ね)

生徒達の間で持ちきりとなっている瑞樹の噂・・それは他ならぬ事実で瑞樹にとって忘れがたい思い出でもあり、今でも踏ん切りのつかないものであった。

もう昔の出来事であるが未だに漂うこの感覚を振り切りながらも瑞樹にしてみれば噂の出所が気になるところである。


787 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:28:08.72 ID:AH7rvOPCo
屋上

かつては校内の中でも有数な危険地帯であったこの屋上も聖の出現によって今や別の意味での危険地帯と化している。そのまま聖はのんびりと仰向けになりながら空を見上げる、既に授業は2時間目に突入しているのだが彼女にしてみればあまり関心がない・・これでも以前と比べたら比較的に真面目に参加している部類なのだからまだ良いところである。

「やっぱりこうしてると落ち着くぜ」

「サボってばっかで授業に出ないと留年するぞ」

「やっぱそうだよな・・ってポンコツ教師!!」

突然聖の前に現れたのは意外にも靖男、どうやら彼も授業がなかったようでたまたま屋上に足を運んだ用である。

「やっぱり屋上でサボってたか。大人しく授業に出たらどうだ? 春日先生も困っていたぞ」

「うるせぇな!! 気分じゃねぇんだよ」

スパッと靖男の主張を切り捨てる聖であるが靖男となるとやはりしきりに話題になるあの噂の真相を問う。

「そういえばよ、てめぇ橘先生と昔付き合ってたんだって?」

「お前までその話題か・・」

やはり聖も気になるようでツンや狼子と放していると自然とその話題になってしまうのだ、それに靖男は前の自分の担任だったので気になるし以前にも過去を聞いたら丁度良くはぐらかされてしまったので聞けれる絶好のチャンスである。

「あのなぁ、大人にもいろいろ事情って物があるんだ。飴でもやるからさっさと授業に戻れ」

「ガキ扱いすんな!!!! それに別に減るもんじゃねぇしよ、ちょっとぐらいは良いじゃねぇか。ちゃんと黙っててやるからよ」

「歴史上そういった奴が一番信用ならないんだぞ。それに今度焼肉でも奢ってやるからそれで勘弁しろ、お前が留年でもした日には俺の評価もガタ落ちで給料にも影響が出る。ちょっとは元担任でもある俺を労れバカ」

「誰が留年するか!!! てめぇみたいなポンコツ教師よりマシだ!!!! ・・ま、確かにてめぇにはあいつと一緒に奢ってもらったこともあったけどよ」

実のところまだ靖男が聖の担任だったころは辰哉と狼子同様に夜通しの補習のついでにいろいろなものを奢ってやったので今回もそれで収めてもらおうという靖男の魂胆なのだ。

「何なら月島たちも連れていいぞ、ちょっとした副業で儲かったからな」

「ほんとか!! てめぇ、嘘だったらタダじゃおかねぇぞ!!!!」

「ま、お前がしっかり授業に出てテストも全教科高得点だったら奢ってやる」

「ポンコツ教師、嘘つくんじゃねぇぞ!! やってやるせぇぇぇぇ!!!」

そのまま聖は怒涛の勢いで教室へと戻っていく、これで上手くごまかせたと安堵する靖男であったが今度は思いがけない人物が靖男の背後を取る。

「・・あの噂、どういうこと?」

「ゲッ!! 相良の次はよりにもよってお前かよ・・」

一難去ってまた一難、靖男の前に現れたのは他ならぬ瑞樹であった。瑞樹自身も何故今更靖男の目の前に現れたのかはよく分からないがあの噂で実際困っているのは靖男よりも瑞樹なのでこのまま放っておけば業務に支障が出るのは仕事優先の彼女にしてみれば早いところ断ち切っておきたいのだ。

「あなた・・私たちのこと誰かに話したの?」

「んなことするかよ。誰がガキ相手に自分の過去語るかっての、これでも列記とした社会人です」

「・・・」

静かに睨む瑞樹に靖男もたじたじである、そんな中で2時間目終了のチャイムが響くとお互いに授業のために静かに屋上を後にするがそこで瑞樹は静かに呟く。

「後で・・話があるわ」

「へいへい、どうせロリっ娘校長に残されるだろうから適当に待ってくれ」

「・・バカ」

そのまま黙って姿を消す瑞樹の姿を尻目に靖男は久々に彼女のやりにくさに内心苦笑してしまう、彼女とはそう短い付き合いではないのは他ならぬ靖男が一番熟知している、何せ“元彼女”なのだから・・
788 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:28:47.71 ID:AH7rvOPCo
数年前

2人の関係は大学時代まで遡り、元は靖男の友人が先輩や自身の後輩まで話を広げて打ち立てたサークルから始まる。このサークルは元々単なるお遊びサークルだったのだが、いつしか人が増えるに増えて今ではこのしぃ大学でも有数の巨大サークルに君臨している。

そんなお遊びサークルなのだから合コンなどは当然あるのだが、当時大学2年生の靖男はある事情からかそういったことにはあまり興味がなく控えめな青年であった。

「おいおい、靖男しっかりしてくれよ。お前卓球やめてから随分変わったぞ?」

「・・まぁな。さっさと単位のためにcivとHolしなければならんのだ」

「どうせ大学のパソコンだろ? 例のあの教授に付き合うのも良いけど、今のお前は大事なイケメン枠なんだから頼むぜ」

そういって友人は靖男の肩を叩くが、当の靖男はあまり乗る気ではないようだ。そもそもこのサークルだって友人の頼みで数合わせ程度にしか入っていないのであまり関心がない。というより靖男にとって大学は将来のための学歴が欲しいので通っているだけ、人付き合いも高校時代の友人や大学で出来た知り合いなどと広く浅い付き合いで接している。

「昔からの趣味だからな。歴史ゲーは俺の主成分だ」

「頼むからネタは程々にしてくれよ。今日は美人揃いで有名な手芸サークルとの合コンだからな」

しぃ大学の手芸サークルは規模は小さいながらも美人揃いで有名なサークルで今回の合コンもそれが肝であるが靖男にしてみればどれも対象外だ。しかし友人の手前もあるのでここはさっさと友人をアシストしながら適当に切り上げたほうが妥当だろう、自分はそういった恋愛感情などもう必要はないのだから。

「わかったわかった。とりあえず俺がアシストしてやるから」

「本当か! さすが高校時代の友人だ」

意気揚々とする友人に靖男は小さな溜息をつくと会場である居酒屋へと入って予約していた席へと着く、どうやら男性陣は自分と友人で最後のようだ。他にも面子はチラホラといるがどれも初対面ばかりお互いに簡単な自己紹介を済ませると同時に目当てである手芸サークルが誇る美女達が続々とやってくる。歓喜している周囲に合わせて靖男も適当に盛り上がってみせる、彼にしてみればこの合コンなど周りをある程度ヨイショするだけでいいのだから・・
789 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:29:48.01 ID:AH7rvOPCo
数時間後


お互いにお酒が入って合コンもある程度の盛り上がりを見せており、それぞれ男女共に気になる相手を見定めながらアプローチの応酬を繰り広げている。靖男も周りへのアシストをしつつ自分へのアプローチは適当にやり過ごしながら酒を進めると1人の女性が話しかける。

「・・ねぇ、楽しい?」

「何言ってるんだ、見てわからないのか?」

これが2人の出会いで最初の会話、靖男は無表情に疑問を話しかけた女性に只ならぬ不気味さを感じつつもいつものように適当にはぐらかす。

「おいおい、折角の合コンだからもう少し楽しもうぜ?」

「私は数合わせだから・・」

「あっそ」

ここまでストレートに言われると靖男もたじたじだ、しかし場の雰囲気を乱すわけにもいかないのでやんわりと話の相手をしながら時間を潰していく。

「へー、大学4年か・・だったら俺の先輩だな。あんた名前は?」

「橘・・橘 瑞樹」

そのまま瑞樹は表情一つ変えずに酒を飲み干す、しかし成りは確かに美人ではあるのだが表情を一つ変えないもの勿体無い気もしてしまうので瑞樹との話を進める所詮は場を取り持つための行為なので大した意味はない、それに話す相手も瑞樹しかいないので時間を潰すには丁度良いだろう。

「橘先輩は学部は何を専攻してるんだ?」

「教育学部。将来的にも教師が安定しそうだし女体化しているから採用も高い」

「へー、あんた女体化してるのか?」

靖男にとって女体化は良くも悪くも思い出がかなりある、しかし負の面が強いのであまり思い出したくはないのですぐに話を切り替える。

「男と付き合ったことは?」

「ない」

「友人は?」

「いる。・・でもあなたと一緒」

この瑞樹の言葉に靖男はどこか引っ掛かりを覚えるのと同時にヒヤリとした不気味さを感じてしまう、まるで自分の心境を見透かされているような感覚だ。

790 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:30:44.19 ID:AH7rvOPCo
「・・私は現実を見据えるだけ、それはこれからも変わりはしないと思うわ」

「えらく自分を過小評価してるんだな、周りみたいに歳相応に遊べば良いと思うぜ」

「あなたには言われたくないわ。周りは気がつかないと思うけど雰囲気でまるわかりよ」

思わず靖男は押し黙ってしまう、自分が言えば言うほど彼女に抉られているような気がして堪らないのだ・・そんなこんなで周りが盛り上がっている中で主催者である友人が二次会の提案をしてくる。

「んじゃ、二次会はカラオケで!! 靖男はどうするべ?」

「あ、ああ・・俺は明日バイトがあるから抜けるよ。悪いな」

「・・私も抜けます。早くにテストと講義がありますから」

靖男に同調して瑞樹もこの場から抜け出すようだ、それに主催者の友人は狙っている娘がいるし酒も入っているので2人の間には詮索はしない。

「んじゃ、俺達はタクシーで移動するから。ここまでの支払いはしているから後はご自由に・・んじゃ、みんなタクシー止めてるから行くぞ!!!」

「「「「「「「「オオオッ―――!!!!!!」」」」」」」」

靖男と瑞樹を残して集団は足しげく店から立ち去っていく、残された靖男は少し落ち着くと改めて自身の空腹に気付く合コンでは周囲をプッシュすることに夢中だったので満足にご飯を食べる暇すらなかったのだ。

「すんませーん、一般の席空いてますか?」

「ええ、空いてますよ。こちらへどうぞ」

「んじゃ、俺は改めて飯食うから・・」

「私も一緒じゃダメかしら? おなか減ったし」

「あ・・そう。好きにすりゃいいんじゃね?」

そのまま2人は店員の案内でこじんまりした一般用の席に着くと改めて酒と食事を頼むと改めて寛ぐ、靖男はそのまま瑞樹の顔色を窺うと少し顔を崩しているのに目がつく。

791 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:30:54.07 ID:AH7rvOPCo
「・・何?」

「いや、橘先輩も疲れてたんだなっと・・」

「まぁ、嘘じゃないわ。女体化して大学へ入ったけど毎日こういったことの連続・・周りの顔色ばかり窺ってたら嫌でも疲れる」

「社会に出てからそれは続くぜ。っと来た来た」

店員が酒を持ってくると靖男はいつもの十八番である芋焼酎のロックを一口啜る、さっきまでは周囲の雰囲気に合わせてビールで通していたのできつい酒で気を間際らしたかったのだ、瑞樹には白ワインが置かれておりお互いに乾杯しながらお酒を飲みまくる。

「先輩はワインか。てっきりさっきのようにチューハイか梅酒かと思ったぜ」

「あなたこそ芋のロックなんて頼んでなかったでしょ? それと同じ理由よ」

「へいへい、俺が悪るーございました!!」

そのまま焼酎を一気に飲み干した靖男は構わずに次の焼酎を頼み料理を口に運んでいく、瑞樹も同じように靖男と同じペースで酒を飲み続けて食事に手をつける。ただ食べて飲みまくる2人だったがチラリチラリとだが会話も見え始めており、話はお互いの高校の話題のようだ。

「へー、先輩は白羽根学園なんだ。あそこ頭良いはずだろ?」

「大学が近かったから・・それに私にしてみれば教育学部さえあればそれでいいし」

白羽根学園は最近名を馳せている高校で大手の大学の合格者を有数出していることでも知られている名門校であり、それに最近はとても個性的な校長が赴任したと言う噂もある。

「白羽根学園って個性的な校長が入ってきたみたいだな」

「それは私が卒業してからの話。今はどうなのかは知らないわ」

どうやら彼女にとって高校はあまり愛着が少ないようである、そのまま器用に話の主導権を靖男は握っていくのだが瑞樹もワイン片手にタダでは転ばない。

「そういえばあなたの高校時代はどうだったの?」

「何って・・先輩と同じさ。普通で何の変哲もない高校生活だったよ」

少しばかり視線を外して靖男は再び焼酎を一気に飲み干す、そのまま適当に虚実を織り交ぜながら怪しまれない程度に自分の過去を語っていくが、瑞樹の視線はそんな自分の心境を射抜いているようでやりづらいのだ。

「ま、俺の高校時代なんてそんなもんだ。さて飲んで腹も一杯になったろ」

「・・まぁね。それじゃ支払いは」

「俺が持つよ。一応姉ちゃんに“女にケツを持たすな”って言われてるんでね、また学校であったらよろしくな橘先輩」

「ちょ、ちょっと・・」

そのまま靖男は瑞樹の制止を振り払ってそそくさと会計を済ませて店を出て行く、まともに人に奢られたことのない瑞樹はとりあえずお礼を言おうと慌てて靖男の後を追いかけて必死に引き止めようとするが靖男の姿はどこにもなかった。
792 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:32:54.28 ID:AH7rvOPCo
合コンから翌日、靖男は持ち前の若さのお陰かいつものように大学へ向かうと友人達と講義を受けてノートの交換を繰り返していた。大学においては高校時代と違って人とのコミュニケーションが何よりも重要となるので伝は出来るだけ広げておくのが得策だ、幸いにも靖男は人付き合いの心得方をそれなりに熟知しているし苦手なほうではないのでギリギリながらも単位を修得し続けていた。

そして友人達の談笑が終わると同じ廃人ゲーマーであった教授の研究室へと向かっていつものように大好きな歴史ゲームをするといった自堕落な毎日を送る、何となく取ったライフセーバーの資格もあってか夏の日にはバイトでかなり稼いでいるので金銭的には不自由はしないそれに実家暮らしなので比較的に悠々自適な生活ぶりである。

「よしっ! 偉人ファームを焼き払った!!」

「ぐぬぬぬ・・まだまだ、スパイを潜伏させて」

「うわっ!! 何しやがる!!!」

どうやらマルチプレイで一進一退の攻防を繰り広げているようだ。

「相互結んで何でスパイ使いやがる!! 大商人じゃないのかよ!!!」

「ヌフフフ。これでインドに嗾けさせれば・・」

「あっ! コラ・・ゲッ、降伏だ」

どうやら今の攻防で決定的な決着がついたようだ、ちなみに靖男は未だにマルチプレイではこの教授には勝てたことは一度もなく無事に生き残ったとしても大差で負けてしまうのだ。

「クソッ!! シングル競争ではようやく勝ったのに」

「マルチとシングルではテクニックが違うのだよ。それじゃ課題として宇宙勝利についてのレポートを上げろよ、環境は群島で難易度はもちろん天帝でな。無事に提出できたら他の教授たちに単位を確保するようにしてやる」

「おいおい、天帝でしかも群島マップの宇宙勝利かよ!! 全く大学ではお偉い教授が重度の廃人プレイヤーと知ったらみんな驚くぜ」

「まぁ、それでお前の単位確保しているようなもんだろ。次はオブリでもやらんか? 勿論プレイのレポートは提出させるが単位は保障してやるよ」

「へいへい、オブリでも何でも付き合ってやるよ。Holでもやるかな・・」

そのまま靖男はcivを閉じると今度はHolを起動させる、本来なら大学のパソコンでゲーム三昧などは言語道断であるがこの教授はしぃ大学の中でも学長に可愛がられているかなり有名な教授なのでもし指摘してもすぐに握りつぶされるのがオチだ。そのまま靖男はゲームを続けるが昨日の瑞樹のことを何となく思い出してしまう、あれから酔いはある程度冷めたものの未だにあの彼女の視線が強烈過ぎて忘れようにも忘れられない。

(全く、あの視線はもう二度と浴びたくないな)

「よし! 今日も圧倒的勝利!! カノン砲が吼える!! ・・ん、何かようかい?」

「何言ってるんだ・・――ってお前は!!」

教授の実験室の前にはなんと瑞樹が突っ立っていた、教授は電光石火の勢いでパソコンの電源を落とすといつものような口調で来客者を歓迎する。

793 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:33:07.70 ID:AH7rvOPCo
「お嬢さんがこんなみみすぼらしい研究室に何のようだい? 実験ならば他の所でやっているよ」

「・・いえ、私は骨皮君に用事がありますので」

そのまま瑞樹は軽く会釈をしながらゲーム真っ只中の靖男にある封筒を差し出す。

「これ・・昨日の代金」

「別にいらねぇよ。昨日は俺の奢りっていったろ?」

律儀が良いと言うかなんと言うか・・態々自分を訪ねてまで何かと思えば昨日のお礼とは瑞樹の行動力には少しばかり頭が下がってしまう思いだ。

「でも・・」

「あのなぁ、そんなことに使うんだったらもう少し服と買ったらどうだ? 折角綺麗な顔で女体化したんだから目一杯オシャレしろよ」

「・・・」

靖男の言葉に思わず瑞樹は顔をしからめてしまう、ちなみに教授は空気を読んでかいつの間にかどこかへと消え去ってしまっている。といっても瑞樹は女体化してからも最低限はオシャレしているもののまだまだ歳相応ではないようだ。

「わかったならさっさと行け、俺は忙しいんだから・・」

「・・ねぇ、私がオシャレしたらどうなると思う?」

「何を訳のわからないことを・・そりゃ綺麗になるに決まってるだろ。俺が保障する!!」

「だったら・・証明して見せて」

「はぁ――?」

呆れながら上の空の靖男とは対照的に瑞樹は珍しく真剣そのもの、出会って1日足らずの人間にそこまで言うものは摩訶不思議レベルだ。

「お前な、聞きたいことは山ほどあるが・・俺じゃなくても良いだろ、それにオシャレものは自分で努力をすれば自然と男は寄って来る」

「・・だったら教えて、そういったのは誰かに教えてもらったほうが早いでしょ?」

「わかったわかった、付き合ってやるよ。ただ日本を攻略してからな」

瑞樹の視線に屈してしまった靖男はオシャレ計画に付き合うこととなる。
794 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:34:01.05 ID:AH7rvOPCo
数時間後・居酒屋

そのまま靖男はゲームを適当に切り上げると瑞樹の服選びに付き合いつつ適当に何着か服を見繕ってやる。昨日の居酒屋で夕食を食べる。

「こんなもんでいいんじゃないか? 後は自分で選べよ、先輩。人任せな国王はいずれ滅びるからな」

「今日はありがとう」

そのままお互いに料理をつつきながら酒を進める、傍から見れば完璧にデートの閉めである。

「ねぇ、なんでそんなに冷めてるの?」

「何言ってるんだよ。楽しかったのは先輩だけで俺は別に普通だ」

靖男にしてみればただ瑞樹の買い物に付き合ってやっただけで何ら考えることすらない、しかし美人揃いで名高いあの手芸サークルの一員と実質なデートが出来たのだから一つの勲章といっても良いのだろうが・・それにしても瑞樹の言葉は自分の奥底に突き刺さるような感覚を覚えるが不思議と嫌な感じはしない。

「あのな、人には色々あるんだ。先輩だって結構楽しんでいたように見えたぞ」

「ええ、有意義だったわ。・・明日も良いかしら?」

「おいおい、それは俺じゃなくて他の奴に言ってやったらどうだ? きっと喜ぶと思うぞ」

「・・あなたがいい」

「へ?」

そのまま瑞樹は残った赤ワインを一気に飲み干すとたじろぐ靖男を尻目にそのまま追加の注文をとるとそのまま再び料理に箸をつける。

「私は・・あなたのような人が喜ぶなら姿を見たい」

「先輩、酔ってるのか?」

「酔っていない、いたって真面目・・」

といっても顔を赤らめていたら説得力も欠片もない、靖男は少し溜息をつきながらいつものように適当に聞き流すとそのまま黙ってワインを頼んで瑞樹に差し出す。

「聞かなかったことにしてやるからもっと飲め、それぐらいならいくでも付き合ってやる」

「・・・」

差し出された白ワインを瑞樹は黙って視線を見据える、その光景がたまらなく不気味に思える靖男であったが適当に飲ませておけば時期に止むだろう。それに自分は異性と恋愛するつもりなど毛頭ない、瑞樹に適当に合わせてやって頃合を見計らったらタクシーなり何なり呼んでそのまま黙って引き返せば良いのだ。

「どうした? 明智光秀みたいに刀は飲まなくて良いんだぞ、そんなに後輩の酒が飲めないのか?」

「・・刀は無理だけど酒は飲むわ。ついでにあなたの焼酎も貸して」

そのまま瑞樹はなんと靖男の焼酎を奪うとワインと混ぜ合わせて一気に飲み干す、とんでもない瑞樹の行動には流石の靖男も驚きの色を隠せない・・何せワインと自分の焼酎はかなり強いお酒なので混ぜて一気飲みしてしまえば下手をしたら急性アルコール中毒であの世行きだ。

「おい!! おまえ何考えてるんだ!!!」

「これで・・貸し借りない・わ・・」

そのままくてんと倒れてしまう瑞樹に靖男は焦るに焦ってしまう、まさかここで置き去りにしてしまえば自分は社会的に抹殺されるだろう。

「おい、聞こえるか!!」

「・・」

「チッ、仕方ない。戦術的撤退だ」

そのまま靖男は速攻で会計を済ませると重たい荷物と瑞樹を抱えるとタクシーで住んでいる実家へと向かう、幸いにも時間は夜遅く・・親は葬式でいないし姉も自分と同じようにどこかへ行方をくらませているので今日のところは大丈夫だろう、そのまま自宅に着いた靖男は瑞樹を自室に抱え込んでベッドに寝かしつける。

「・・・」

「全く、とんだ先輩だぜ。まぁ・・色々考えても仕方ない、俺も寝るか」

そのまま靖男も静かに寝静まる、と言ってもベッドは瑞樹に占領されているので仕方なくソファーで眠るのであった。
795 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:35:36.48 ID:AH7rvOPCo
翌日

見知らぬ匂い――・・そして同時にくる2日酔い特有の痛みと身体のほてりが動く感覚をなくしてしまう、ふと視線を別のほうに移すとソファで眠っている靖男の姿が目に付く・・どうやら倒れた自分を靖男が運んでくれたらしい、昨日買った服もご丁寧に置いてくれている。

(・・・)

靖男の寝息が静かに響く中で瑞樹も何とか立ち上がろうとするのだが身体が中々言うことを聞かない、どうやら昨日は相当飲んだのだろう相当酷い2日酔いだ。

「んぁぁ・・」

(寝言ね。・・でもこんなに綺麗な寝顔も初めてね)

女体化してから初めて意識する異性に瑞樹は心なしかちょっとした興奮を覚えてしまう、残る力を全て振り絞って眠っている靖男に近づいてそっと顔を撫でる。

(・・)

「んあ・・――って!! 何やってるんだ、先輩!!」

思わぬ肌の感触によって目が覚めた靖男は目の前に瑞樹がいるという変な状況に完全に目が覚めてしまう、こんな起こされ方をされたのは初めてというのもあるが突拍子もなさ過ぎる。

「起こした?」

「そんな心臓の悪いすまし顔で見つめるな。・・んで大丈夫なのか?」

「・・頭が痛い」

「白ワインに芋のロック混ぜて一気飲みするほうがおかしいだろ、2日酔いで済んだのが奇跡だぞ。あれじゃ呂布でも死ぬ」

再び頭を抱える瑞樹に靖男は少し呆れながらも自分がいつも使っている2日酔いの薬を差し出す、あれだけの酒を飲んでいながらこの程度で済むとは瑞樹の底知れぬ強さに感心もしてしまう。

「それやるからさっさと家に帰れ、4年なんだから余裕なんだろ?」

「・・あなたは?」

「俺か? 悪かったな、どうせ履修ギリギリですよ。廃人教授のお陰で無駄な外交知識がついてるんだよ!!」

なにやら意味不明なことを言いはじめる靖男に瑞樹は少し口を閉ざすものの微笑しながらクスクスと笑う。

「面白い人ね。・・また付き合ってもらえるかしら?」

「へいへい、もう満足するまで好きにしろ」

これが2人の関係を関係を結びつける出来事、この出来事を経緯に瑞樹は度々靖男を連れ出してすようになる。
796 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:36:52.55 ID:AH7rvOPCo
あれから2人は先輩後輩の関係からいつしか恋人の関係にへとランクアップしていく、無表情であった瑞樹は徐々に靖男の前だけでは少しずつではあるが表情を開いていくのだが靖男に関してはいつも通り・・というよりも出会った頃と全く変わらない、瑞樹にしてみれば靖男の態度には諦め半分もどかしさ半分と言ったところである。

「ねぇ、そろそろ進路はどうするつもりなの?」

「んぁ? まだ俺2年だし・・先輩は実習済ませて教員の免許取れそうなんだろ? っと、これで文化勝利。単位が掛かってるんだ、これでマルチであの教授を倒してやる!!」

「呆れた」

いつものように1人暮らしである瑞樹の部屋に転がり込んで靖男は自前のノートパソコンでゲームをする、どうやらあの教授とは単位を掛けて必死に腕を磨いているようである。

「2年でも就活に向けてやっている人はやっているわ。あなたも早めに手を打ったほうが良いんじゃないの?」

「野望シリーズや無双を控えている俺にそんな暇ありません!! ま、今は将来よりも留年しないためにも単位だ単位!!」

靖男にしてみれば自分の将来よりも目先の単位が優先されるので将来についてはまだ具体的には考えてはいない、下手をすれば瑞樹に養われるヒモのような将来へ真っ只中と言っても過言ではないが一応本人は勤労の意志はあるようで一通りのバイトで何とか遊ぶ金を稼いでいるようでる。

「ま、先輩と違って俺はゴールドラッシュに夢を持つのさ」

「・・あなた、絶対に結婚には不向きね。色んな意味で」

靖男と付き合ってそれなりの月日が経つが未だにセックスはしていない、瑞樹が勇気を振り絞って誘っても靖男自身があらゆる手段を講じて拒否してしまうのだ。だから良くても泊って添い寝程度・・一度は自分の女体化が原因かと思いつめたことも会ったが靖男の態度を見ているとそれはどうも違っているような気がする。

「俺は多分結婚なんてしないんじゃないのかな? ゲームしたりパソコン自作するほうが楽しいし」

「一応あなたの彼女よ私」

自分を拒否はしてはいないもののどこか遠ざけているようなこの感じ、最初は少なからず抵抗はしていたのだがいつしか折れてしまったのは何故だろう? 自分はこの自堕落だがどこか純粋な部分を見つめているのは間違いないのだが彼は一帯何を見ているのかは未だに良くわからない。靖男が時折に見せる死んだような顔つきを見るたびに瑞樹はどこか靖男に対する感情を強くさせてしまう、近づくたびに離れられなくなる自分が変に思う。

797 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:37:07.89 ID:AH7rvOPCo
「・・ねぇ、教師ってどう思う?」

「教師? あまり印象なかったな、卓球部のときは口やかましかった記憶しかない」

「そう・・私が教師になったらあなたはどう思う?」

瑞樹の一問一答に靖男は少し言葉を詰まらせるも即座にこう答える。

「地味じゃないのか? 前に比べればオシャレもして綺麗になったが、先輩って明るいキャラじゃないしな。例え部活の顧問したって変わりはないだろ、俺が生徒なら遠い目で見ている」

「酷い言い草ね。もう少しお世辞はないの?」

「質問したのはそっちだろ。教師なら1人で暮らしていれば食いっぱぐれもないし、ガキ相手にマジになる必要もないだろ。教育実習でなんかやらかしたのか?」

「バカ・・もういいわ」

そのまま瑞樹は書きかけの論文を作成する、パソコンの音か静かに流れる。

「パソコンの調子がおかしい、見てほしいんだけど?」

「ちょっとマルチで立て込んでるんだ。あの廃人教授め、今度こそ今までの鉄槌を食らわしてやる!!!!」

どうやら完全にゲームに熱が入っている靖男は瑞樹の言葉は既に聞こえていない、どうやら例の教授と対戦をしているようで状況は白熱しているようだ。

「よし、奴は軍を消耗させている。マスケで消耗させて・・取った!! ここでこいつを嗾けてターン終了・・って、文化ボムか、相互が切れてるし次で産業主義が開発される予定だから戦車を開発して教授を嗾けてカウンターでいくか」

「・・・」

こうなれば靖男は止まらないのを瑞樹はよく知っているので余計な口を挟まずに適当に部屋の周りを掃除したり雑誌を読みながら時間を潰していく、そして数時間後・・がっくりとうなだれた靖男が恨み言のように負け惜しみを呟く。

「クソッ! 海上戦に気を取られている隙に核をぶっ放してくるとか・・日に日に進化しているなあの廃人教授」

「・・終わった?」

「ああ、終わったよ・・単位逃した。んで何の用?」

「パソコン・・見てほしいんだけど」

そのまま瑞樹のノートパソコンをいじりながら靖男はちょくちょく動作を確認する、常にパソコンと触れ合っている靖男にしてみればこれまで培った経験があるので然程のことがない限りは驚きはしないので物の数分で瑞樹のパソコンを復元させる。

「ほれ」

「・・ありがとう」

「ちょっとハードも見たが、そろそろ寿命だな。フィンや部品周りの反応も遅いし、機種も古いからメーカーも部品も作ってはないだろうよ」

「どうすればいいの? パソコンはあまり使わないからよくわからない」

「寿命は寿命だからな。俺の前に作ったパソコンでよかったらやるよ、基本的なOSは揃っているからそのパソコンよりは長持ちするのは保障する」

よりよく効率的にゲームをするためにも靖男にとってパソコンは重要なアイテムでゲーム目的で始めたパソコンいじりも今や趣味の領域を超えて様々な試行錯誤の末に自作でPCを作るまでの腕前に到達している。しかし処分に困るので適当な知り合いに売りつけて収入源になっているので趣味と実益を兼ねたちょっとした副業だ。

「タダで貰っていいの?」

「別に良いよ、俺も使ってないし余ものだしな。先輩のために力を貸すさ、天帝で技術を無償提供するようにな」

(・・彼女とは言わないのね)

「ん、どうした? パソコンなら明日持って接続してやるから我慢しろ」

「別に・・何でもないわ」

少しばかりの寂しさを感じながらも瑞樹は変わらぬ微笑で論文の作成を続ける、幸せとはいえないがそれなりのカップルをしていた2人にもある転機が訪れる。


798 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:38:16.18 ID:AH7rvOPCo
2週間後、約束どおり靖男は自作パソコンを瑞樹の部屋に持ってくると手馴れた手つきで線を繋げるとインターネットを接続する。あまりの手腕に瑞樹はただただ感心してしまうばかり、自分では満足にパソコンを起動させるぐらいしかできないので未知の世界である。

「よし、必要なソフトはインストールしたからこんなもので良いだろう」

「・・ありがとう、ご飯作ってるから待ってて」

「おおっ、丁度腹減ったから食うか」

そのまま瑞樹は作っておいたご飯をテーブルに並べる、靖男も瑞樹で驚かされたと言えばこの料理の腕。何せ靖男は美人は相対して料理がダメと言うワンパターンなイメージしかなかったので最初見たときは驚いたものである。ま、そのときの瑞樹は別に声も荒げることもなく無表情で淡々と食べていたぐらいであるがどこか箸のスピードが遅かったような気もする。

「おいしい?」

「ああ、美味いよ」

そのまま瑞樹の料理を食べながら2人はそれなりに会話をしながら食事を進めていくのだが、靖男はあまり自分の話をしたがらないので瑞樹にしてみればもう少し話して欲しいものだ、絶対に口にすることはないが・・

「しかし先輩は誰に料理習ったんだ?」

「・・弟」

「マジかよ」

瑞樹の身内には歳の離れた弟がいるらしく勉強や家事も何でも出来るという若年ながらも結構凄い人であり、瑞樹が女体化した際も色々と便乗を図ってくれてサポートをしてくれており将来のためにと家事などを教えてくれたのだ。靖男も瑞樹からは度々弟のことを聞かされているので自分との境遇を考えてしまう、自分は姉がそういったところはからっきしであるので必然的に家事を身につけてしまったのだ。

「俺にも姉ちゃんがいるが、料理なんて教えたことすらないぞ」

「そうなの? ・・でも彼はもうこの世にはいないわ、あなたと会う前に病気でぽっくりと逝ってしまったわ」

「お、おいおい・・」

流石に二の句も告げないとはまさにこのこと、今まで瑞樹からの口ぶりから判断するに実際どんな人物だったのかと勝手に予想していた靖男であるがまさか故人だったとは予想外にも甚だしいものである。

「何さっきから黙っているの?」

「そりゃいきなりあんなこと言われたら誰だって押し黙るっての。アレだよ、“前を向いて生きてきなさいっ!!”的なことを言いたくなる」

しかし靖男を自然と弟とダブらせてしまう自分に瑞樹は内心苦笑してしまう、それだけ性格が似ているのもあるが弟の死にしっかりと向き合っていると言い張りながら自然と逃げている自分に苦笑する。

799 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:39:17.10 ID:AH7rvOPCo
「心配ないわ。多分ね・・」

(本当に訳の分からん人を彼女にしたもんだ)

思わぬ衝撃告白に靖男であるが成り行きとはいっても瑞樹と付き合っている自分をどこか嫌悪してしまう、それにしても瑞樹に関しては自分のわがままとはいえカップルらしいことを何ら一つもしていない自分によくここまで付き合っていられるもんだと思う、自分が瑞樹と同じ立場なら愛想を尽かして浮気して別れている。

「なぁ、先輩。どうして俺の彼女になったんだ?」

「・・あなたが好きだから、少なくとも私は今に満足はしている」

「あ、そう・・」

といっても靖男と付き合うようになってから瑞樹は本当に変わった。最初は慣れない手つきであったが徐々にオシャレというものに目覚めて今では人並み以上のファッションセンスを磨いているし化粧もバリエーション豊かになって出会った頃以上に女として魅力的になっているのだが対する靖男の対応はいつもと一緒・・不満や文句を言うことはないが必要以上に褒めてもくれない、瑞樹にしてみれば嬉しくもあるが同時に寂しいものだ。

それに靖男も態度は相変わらずなものの特長的であった死に掛けの顔つきはすっかり鳴りを潜めているものの、心なしか視線をどこか遠くを見据えている・・まるで自分以外の誰かを常に見届けているようだし、どこか自分を必要以上に遠ざけているようにも取れる。相変わらずデートには応じてはくれるもののそれ以外の自分への接触は完全に絶っているし、どこか自分を縛り付けて前すら見ているかも怪しいところ。確かに自分も弟が死んでから今までのように前には進みづらくなったものの靖男と付き合うようになってからはゆっくりではあるが将来を見据えることも出来るようになってきたし前に進んで着ていると思う。

しかし靖男は完全に自分の歩みを止めているように瑞樹は思う、靖男がいなければまた以前のように淡々とした色褪せた視線でしか物事を見れなくなってしまうのは嫌だ。

「ねぇ、あなたはどうして私と付き合ってるの?」

「どうしてって言われてもな・・普通に成り行きで付き合ってたら自然とこうなったっとぐらいしか言えないな。変な意味でじゃないぞ?」

「・・ねぇ、セックスはこの際多めに見るわ。キス程度もあなたの中ではダメなぐらい潔癖なの?」

「女の子がそんなふしだらな単語を口にするんじゃありません!!」

靖男の突っ込みはともかくとして・・瑞樹も今の現状としてはこの関係に何かしらの進展は欲しいところ、あれから靖男は友人のサークルにはある程度は顔を出しているものの遊び歩いてはいないので浮気の心配はないが、今までに自分に一切手を出してこなかった経緯を思い出すとそれが却って不気味なところで時々自分には女性としての魅力がないものだと考え込んだこともある。今までは何となく我慢できたもののこれから割き靖男と付き合うことを考えてみればこの関係に耐え切れる自信はない。

800 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:39:30.85 ID:AH7rvOPCo
「ねぇ、どうなの? ・・今までは聞くのを控えたわ、けどこの状態をこれから続けるのは辛い」

「あのなぁ先輩、今は恋愛もグローバルなんだ。俺は武士タイプなの、元服したからといっても操は守り続けるの」

普段ならばここで諦めて折れるのだが今回の瑞樹は決して退かない、やっと勇気を振り絞って言葉にしたのだからそれ相応の事を聞かないと自分が納得しない。

「私はそんなに相応しい相手じゃないの? ・・いつも傍にいるのにあなたが遠く感じる、それだけが聞きたい」

「・・悪いが俺はそういった関係は好きじゃないんだ、これ以上言い続けるなら」

「抱いて、これ以上は我慢できないわ」

「おいおい、何もキスやセックスだけが形じゃないんだぞ。それに軽々しく・・」

「軽々しくないし、真剣よ。・・お願い、これ以上私を遠ざけないで」

「・・・」

思わぬ瑞樹の行動に流石の靖男は押し黙ってしまう、今までとは一味違う瑞樹には唖然としてしまうばかりである。

「あのなぁ、先輩は確かに俺の彼女なのは認める。だけど俺は」

「言葉はもう嫌よ、ちゃんとした証を見せて」

(女って奴はなんでこうも難しいのかね・・特に女体化した奴に限ってよ)

靖男は少しばかり目を瞑ると少しばかり心を整理するが、あの時の自分をタブらせると決死の末に自分に課した“覚悟”が踏み躙られることになる。あの悲しくも悲惨で愚かな自分をいつまでも痛めつけるためにもあの覚悟は無駄にはしないし、裏切りたくはない・・何せ自分は人1人の人生を完全に台無しにしてしまった人間だ、殺されたところで文句は言えないのでそれを甘んじて受けれるための覚悟なのだ。いくら時代が流れて歳を重ね続けていてもこの想いは決して変わることはないし、復讐の末に殺されるまでは惨めに生きるだけでいいので前に進む必要もないし誰かの背中を見据えるだけで良いのだ。

(俺は・・生きているだけでもおかしい人間だしな)

「・・私はね、あなたと出会えて本当に良かったと思うわ。彼が死んでから今まで霧の様にぼやけていた未来があなたと付き合うようになってから少しずつだったけどハッキリしてきてるの。結果的には私は誰かに依存しなきゃ生きていけないような人間だけどそれでも前に進めてるのよ」

「俺は人を良い方向に導けられる大層な人間じゃない、それは先輩が現実を見て前を見据えて向き合った結果だ。俺の力ではない」

「いいえ、あなたは自分では気がついてないでしょうけど・・誰よりも優しい人よ。だから私みたいに寄り添いたくなるの、もっと甘えさせて・・」

徐々にではあるが瑞樹は積極的に靖男との距離を縮める。たった一つの我が儘のためだけであるが、それだけ身体は正直に反応しているのだ。

「ほんの僅かな時間だけでいいわ・・私だけに意識して欲しい。お願い・・」

「お、おいッ!! 馬鹿な真似はよs―――・・」

想わぬキス、そこから2人がどうなったのかは言うまでもないが・・2人の関係に引き金を引いたのは瑞樹であった。
801 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:40:08.28 ID:AH7rvOPCo
翌日、珍しく昼過ぎに目が覚めた瑞樹であるが隣には靖男は既にいなくなっていた。しかし昨日の甘美な感触はまだ残っている・・このまま2人の関係に弾みがついたと想っていた瑞樹であるが1本の電話によって無残にもほんの小さな想いは砕かれる。

「もしもし・・」

"あ〜、先輩か? 話したいことがあったんだが、大学にいなかったんでな”

「あなたのお陰でよく眠れたわ。・・それで何の用事?」

心なしか言葉が踊っている瑞樹であるが、靖男からは瑞樹の想いとは正反対の言葉を伝えられる。

“あのさ先輩。・・突然で悪いんだけどさ、俺たち別れよう”

「え――・・」

靖男からは予想外にも甚だしい衝撃の言葉・・意図が全く見えず、呆然と突っ立ってしまう瑞樹にいつもの声が響く。

“あれから色々と考えたんだけどさ。・・やっぱり俺は人と付き合う才能ないわ、このままだとお互いに関係に溺れていいことなさそうだし”

「なん・・で・・」

“そりゃ、先輩は魅力的だから俺には勿体無いさ”

はっきりいって理由にすらならない、もう少し明確な理由が欲しい・・というか瑞樹にしてみれば別れる理由などこれっぽっちも思い当たる節すらない。昨日だって自分が無理に事を運んだものの、お互いの合意があってのセックスだったとしか考えられない。

“俺達は恋人じゃなくて普通が一番なんだよ、悪いな”

「私は今でもあなたが好きよ。・・お願い、考え直す気はないの?」

“・・ああ、俺はある人間の人生をぶち壊して台無しにしてしまった幸せになっちゃいけない人間だからな。先輩も俺よりもいい人見つけろよ、んじゃな!!”

「ちょっと――・・切れちゃった」

強引に切られた電話、無常にも鳴り響く中で瑞樹は声を殺して泣き続けた。こうして2人の関係はあっけなく終わり、以後は瑞樹の心のしこりとなっていくのだった。


802 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:40:50.25 ID:AH7rvOPCo
保健室

「んで、俺はどうすればいいの。春日先生?」

「知らないわよ。授業がないなら職員室へ行ったらどうなの、骨皮先生」

そして時は現代に戻って白羽根学園保健室、思わぬ珍客に礼子は頭を抱える。同僚の好と思って訪ねてきた靖男にコーヒーを差し出したのがそもそも間違っていたと今更後悔しても遅い、聖や翔はともかくとして靖男まで自分に愚痴をこぼされても困る。

「いいじゃねぇか! 中野や相良や月島に木村が相談してくるように担任である俺にも平等にしてくれ!!!」

「あのね、そういったことはちゃんと橘先生と話してちょうだい。もういい大人でしょ?」

2人の噂については礼子も人伝ではあるが一応把握はしている。ようやく薬の調整をし終えた矢先に思わぬ靖男の来訪だ、いくら授業がないからといって保健室よりも溜まっている書類を片付けに職員室へと向かったほうがいいと思う。

「コーヒー飲んだら職員室へ行ったらどうなの? 早く書類片付けないとまた校長先生にどやされるわよ」

「いいの、いいの! どうせいつものように上手いことやってくれるさ」

「・・校長先生には同情するわ」

靖男を見ていると霞の過労ぶりに同情してしまう、たかが書類1枚といえども期日に遅れてしまえば周囲には多大なる迷惑が掛かるのはわかりきっているのだが、靖男のようにギリギリに提出されるとただえさえ多忙である霞の仕事が余計に増える。あの瑞樹と同じ大学に出ているのが信じられないぐらいだ、彼女はそういった仕事もきちんとこなしているし過去に担任をしていた時も穴がなかったのを礼子は良く覚えている。

「それにあのロリっ娘校長はもう少し多めに見てくれたらいいんだよ。それに最近はあの音楽野郎がヘマするから・・って、どうした春日先生?」

「骨皮先生。少し言いづらいんだけど・・後ろ」

「えっ――」

「何、油売ってるのかしら骨皮先生。授業がないなら職員室で待機しなくて良いのかしら?」

靖男が後ろを振りかえると、仁王立ちしている霞の姿が嫌でも目に付く・・表情や雰囲気から察するにどうやら理事長にこってり絞られたようだ、だから声付きも自然と低くなる。

「骨皮先生、卓球部の合宿申請書! あれ書き直し、それと今月の副担任経過観察のレポートも骨皮先生だけが出てないわ、あれ今日までよ。もちろんやっているわよね・・」

「い、いや・・ちょっと休憩を」

「なに余裕ぶっこいてるのよ!!! さっさと書き上げないとまた理事長にどやされるのよ、一緒に理事長室に行きたくなかったらさっさと書き上げなさい、さっさと職員室に戻るわよ!!!」

「お、俺にもペースが・・うわああああぁぁぁ」

無理矢理霞に引き摺られて連行されながら靖男は保健室へと姿を消す、礼子は暫く呆然としながらも再び落ち着きを取り戻すといつものように周囲と換気を入念にチェックするとタバコを吸い始める。

「・・やっぱり、骨皮先生を入れるのはやめよう。毎度毎度校長が来られたら俺の身が持たねぇや」

「礼子先生、ちょいと腹の調子が悪いんだが・・」

「てめぇは・・んなもん、我慢すりゃ治るんだよ!! 薬やるからさっさと授業に戻れ!!!!」

(俺・・なんかしたのか?)

中野 翔・・まともな理由で保健室に来たのにとんだとばっちりである。
803 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:41:47.69 ID:AH7rvOPCo
放課後

部活動をしている人間もちらほらと帰り始めている中で職員室では礼子がいつものように日誌をまとめて靖男は霞の監視下の元で溜まりに溜まった書類作成を恨み言を吐きながら必死に片付けていってた。

「まずいな・・今度はこの薬を申請しないといけないわね」

(チクショウ、あの音楽馬鹿!! 自分のレポートぐらい書きやがれ!!!)

靖男が手がけている副担任経過観察レポートとは本来担任が副担任の適正をまとめなければいけない重要な書類なので指導する靖男が書かなければ話しにならないのだが、それを副担任本人に書かせようとしたのだから呆れるより感心させられてしまう。

「校長先生、なんで合宿申請がやり直しなんですか? ちゃんと提出したのに不公平だと思います」

「あのね・・場所はいいけど宿が高級ホテルだったら1泊でも予算オーバーするに決まってるでしょ。それで散々理事長に怒られたんだから」

部活動の合宿については基本的に霞から提出されて理事長の承認を貰うことで初めて手配などが出来る、あくまでも生徒会では職員会議を経て決まった予算を元に動かして運営していくのでそういった手配などは主に教師が中心となって動かさなければならないのだ。

「すみません校長先生、日誌は出来ましたが今度はこの薬を申請したいんですけど」

「あらら・・もう少ないの?」

「ええ、体育祭が終わったのである程度はマシになったんですけど・・部活動が活発なんで薬の減りが激しいんですよ」

やはり部活動が活発なのがこの白羽根学園の特色の一つであるのだがそれ故に薬品の使用量も激しいので管理をしている礼子にしてみれば少しばかりの悩みである。

「弱ったわね、遅れている分とまとめて業者に持ってこさせるからもう少し我慢してね」

「わかりました。今ある分でカバーして見せます」

礼子にしてみればいざとなったら泰助の伝を借りれば当面は解決するだろう、病院の院長である彼は当然としてそういった製薬会社との伝もあるので少し口聞きはしてもらえるだろう。

804 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:41:56.35 ID:AH7rvOPCo
「それじゃ、春日先生は上がっていいわよ。薬に関しては何とかして見せるわ、今日もお疲れさま」

「校長先生! 同僚なのにこの差はあんまりです」

「骨皮先生はさっさと出すもの出しなさい!!! ハァ・・この分だと遅くなりそうだから守衛さんに話をつけて置くわ。逃げるんじゃないわよ」

そのまま霞は溜息を吐きながらうな垂れて守衛に話をつけるために職員室を後にする、見た目は完全に小学生な彼女も中身は立派な大人なので度重なる過労で倒れてもおかしくはないだろう。

「・・さて私も帰るわ、後は頑張ってね骨皮先生」

「えっ・・ちょっとそれはひどくね? タバコでも買ってやるからさ」

今回も靖男の魂胆は礼子に何とか溜まっていた書類を手伝ってもらうことなので帰られると非常に困る、何よりも礼子は車出勤なので帰りを考えても非常に便が良いのだ。

「悪いけど校長先生に手伝ったの見つかったら私もどやされるから遠慮するわ。それじゃ、お疲れさま」

「NOOOOOOOOOOO・・・」

靖男の悲痛な叫びをバックに礼子は帰る仕度を整えるとそのまま職員室を後にする、毎度毎度いいように靖男の書類を手伝ってしまえば癖になるといけないので丁重に断っておく。そのまま職員室を後にした職員用の駐車場に止めてある自分の車へ向かう道中で礼子はジャージ姿の瑞樹と出くわす、どうやら顧問をしている陸上部の練習が終わったようでスプレー独特の匂いが礼子の鼻を刺激する。

「あっ、橘先生。お疲れ様です」

「お疲れ様です、そういえば今朝の薬の件ですけど・・進展はありましたか?」

「変わってないですね。橘先生はこれから帰りですか?」

「いえ、今日の分の陸上部のデータをまとめて練習の見直しをします。・・県大会が近いので」

瑞樹の指導法は主にデータを主にした科学的手法を主にしており、データを充分に取ってから選手のコンディションや本人の適正に合った練習を元にメンタルや体調などを第一に管理をしていくといった現実的かつ効率的な方法である。現にこの方法が功を奏したのか陸上部は上位の大会に入賞を果たしており県代表も充分に狙えるレベルにまで向上をしているのだが、瑞樹にしてみればそういったことよりもデータ収集をして次の練習や不足している薬のほうが影響が出やすいのでそちらのほうが優先される。

「春日先生はお帰りですか?」

「ええ、これから主人の病院に向かおうかと思います」

「そうですか・・」

礼子にしてみれば瑞樹は先輩の1人であるのだが、同じ先輩である由美と同様に仕事はきちんとこなしていく印象だ。ただ表情豊かな彼女と違うのは普段は寡黙で発言するにも少々現実的な発言が多いところだろうか、ただ悪い人間ではないと思うのは間違いないのだがこのような人物が過去に靖男と付き合っていたとは失礼ながらも到底思えない、あの噂も所詮はタダの出任せと思ったほうが自然だろう。

「薬に関しては校長と話し合って春日先生の分も含めてこちらから問い合わせてみます。薬が遅れると私も授業の実験を控えて困りますから」

「すみません、お願いします」

「・・夫婦水入らずを楽しんでください。ではお疲れ様でした」

「ええ、では・・」

そのまま瑞樹はスタスタと立ち去っていくのだが礼子はその背中姿にどこか哀愁を感じざる得なかった。

805 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:50:44.46 ID:AH7rvOPCo
一方、職員室では相変わらず靖男が真面目に書類整理を続けていた。さっきの保健室での一件があるのでおめおめと油断は出来ない、といっても普段から仕事をしていればこんな目に合わなくても済む話なのでここまで毎日のように取り残される靖男のほうがおかしいのだ。

「チッ、音楽馬鹿に廻しとくべきだったか・・」

「・・本当に取り残されてたのね」

「これはこれは、優秀な橘先生じゃないか。まだ仕事残してたのか?」

「陸上部のデータをまとめるだけです、後は各学校の傾向もまとめないといけませんから」

そのままいつものように靖男を軽くいなしながら瑞樹はパソコンで陸上部のデータをまとめていく、2人が別れて数年後に運命の悪戯か・・新人教員として靖男がこの白羽根学園に配属された時は本当に驚いたのを瑞樹は未だに覚えている。かつて付き合っていた頃の雰囲気は残しつつもよく見せていた死人のような顔つきや冷めた視線は今や見る影もなく、表情もどこか活き活きとしている。それに1人で様々な問題をやり方は無茶苦茶ながらもしっかりと適切な方向へと解決させていく靖男に自分との教師としての差を度々思い知らされたものだ。

「骨皮先生〜、守衛さんに話しつけてきたわよ。夜食は何が・・って、橘先生もどうしたの?」

「ちょっと明日のために部活のデータをまとめないといけないので」

「まぁ、それは構わないけど・・あまり遅くならないようにね、労働云々で最近は結構五月蝿いから」

霞は瑞樹の力量はしっかりと認めているものの真面目過ぎるのが少々悩みのタネである、最近は教員に関しても労働に関して結構厳しいので本音とすればあまり居残って欲しくないのだ。

「んで骨皮先生は書類できた?」

「何とか・・」

一応靖男はできている書類を霞に提出する、書き直し部分も含めての提出なので当然としてメスが入る。

「合宿に関してはいいわ。・・だけどね、こんなレポートじゃ理事長が納得するわけないでしょ!! もう少し内容を詰めて具体的に書きなさい」

「はぁ・・」

そのまま霞はペンで文章を添削したり見本を出して再び靖男に突き返す、今回の副担任経過観察レポートと言うのは理事長以外にも教員の組合のお偉方が見るものなのでこれまでの書類と違って手抜きは許されないのだ。

「一応大まかな部分は添削してあげたわ。後はこの見本貸してあげるから参考程度に書きなさい。決して丸写しはしないようにね!!」

「わかりました・・」

「頼むわよ、これしくじったらいくら私でも庇いきれないからね。クビ覚悟で必死に書きなさい・・私はちょっと資料室にいるから出来たら声を掛けて頂戴。橘先生は切りのいいところで上がっていいわよ・・って言いたいところだけど申し訳ないけど骨皮先生が逃げないように監視してね」

「はい、監視しておきます」

「申し訳ないわ、それじゃ何かあったら資料室に立ち寄ってね」

そのまま霞は再び職員室へと去っていく、そのまま瑞樹はコーヒーを淹れるとデータをまとめる作業に移る。靖男も随分減ったとはいってもレポートの量はそれなりにあるので添削された部分と霞から渡された見本を見ながらレポートを書き直していく、職員室ではパソコンの音が静かに響き渡る。

「ハァ〜、あのロリっ娘は鬼か!! オマケに監視までつけるとは」

「・・放っておいたら逃げ出すでしょ」

「ガキじゃないんだからするか!!」

かつての恋人と2人きりで過ごすのはかなり気まずい、暫くはギクシャクしながら書類を作成する靖男であったが多少は顔つきは変わったものの相変わらずの瑞樹の姿がどこか懐かしく思える。久々に再会した時もかつてのファッションで大学時代から変わらない髪型に化粧を施していた瑞樹の姿には驚かされたものだ、思えば理不尽とも思える振り方をした自分に恨み言の1つや2つは覚悟していたのだが、付き合っていた頃と変わらぬ態度に靖男は少し面食らってしまったぐらいだ。
806 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:51:20.06 ID:AH7rvOPCo
「陸上やってたんだな。いつからなんだ?」

「本格的にはやってないわよ。前任の先生が転勤して頼まれたからやってただけ・・指導も有名なコーチ達の手法を組み合わせて私なりにしているだけよ」

「それで全国狙えるぐらいのレベルかよ。毎年、大会そこそこの俺とは出来が違うね」

と言いつつもがちがちの体育会系な靖男も瑞樹の指導方法には思わず舌を巻いてしまうぐらいだ、付き合っていた頃にはそういった素振りは見せなかったものの、瑞樹にこういった一面があるということには素直に感心してしまう。

「・・あっ、パソコンがおかしい。悪いけど診てくれない?」

「またかよ。相変わらず機械には弱いんだな」

そのまま靖男は瑞樹のパソコンをチェックすると瞬く間に不自然な箇所を的確に直していく、懐かしの光景に瑞樹は思わず微笑してしまう。思えばこうやって靖男にパソコンを直してもらったのは何も1度や2度ではない、あれ以降も靖男から貰った自作のパソコンは今でも現役で一つ変わった点といえば靖男が過去にインストールしてあったゲームをやっているということだ。

「ねぇ、エリザベスってなんであんなに使いやすい指導者なの?」

「おいおい、話がそれかよ。そりゃ勤労思考だからだろ・・って、お前civやってるのかよ」

「ええ、あなたから貰ったパソコンに入っていたから暇潰しにやっているわ。今ならあなたがハマった理由もわかるわね」

「まだあのパソコン使ってるのか。よく持ってるな・・っと、直ったぞ。学校のパソコンまで壊すなよ」

靖男の手によってパソコンは今まで通りに稼動しているのだが、靖男にしてみればかつて上げた自作パソコンが今でも現役なのに驚きだ。瑞樹と別れてからは完全に接点を絶っていたのでメンテ不足でてっきり壊れていたものかと思っていたのだが未だに現役なのは驚きであるがまさかゲームまで手を出しているとは思いも寄らなかった。
807 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:52:13.35 ID:AH7rvOPCo
「なぁ、先輩。今でも俺を恨んでるのか? 当たり前だよな、処女を奪った上にあんな振り方したんだからヤリ逃げもいいところだ」

「・・最初は恨んだわ、そして教員としてあなたと再会した時はもっと驚かされたわ。昔と違って表情が活き活きとして生徒と一緒に問題に真髄に向き合っていく姿には感心させられっぱなしよ」

「んなの、俺は大したことしてない。あいつ等が納得して解決してただけだろ」

「だから。私はそうやって変わっていったあなたを見続けると悔しかったわ。あの時の私にもっと力があればってね・・結局私はあなたの役に立ってあげることは出来なかった、私はこうして変われたのにね」

「あの時は明らかに俺が悪い。先輩に責められても文句は言えない、自分を責めるなら俺を責めろ」

淡々とパソコンを打ちながら瑞樹はどこか悔しそうだった、あの時の自分の無力さからくる後悔に何度も押しつぶされそうになったのだろう、そう考えたら靖男はあの時の自分の浅はかさを今更ながら思い知らされるばかりで今更瑞樹に責められても文句は言えない、どんなに瑞樹が言い繕っても自分が想いを踏み躙ったのは確かなのだから。

「ねぇ、前に春日先生と校長先生に話していた・・真帆って誰?」

「ブッ――!! 何をいきなり言い出すかと思えば・・あれは演劇部に売りつけるためのネタだ。もれなく却下されたけどな」

瑞樹からのとんでもない質問に靖男は思わず飲みかけのコーヒーを噴出してしまう。以前に礼子と霞に話していた自称演劇部のネタをどうやら瑞樹は聞いていたようである。

「まさかマジになったんじゃないだろうな?」

「詳しくは聞かないわ、だけどあの話でようやく昔のあなたが別れた時に言った言葉について納得がいっただけよ。
あなたと別れてから私に言い寄ってくれる人はいたけど全部断ったわ、どれもしっくり来ないの・・それで気がつかされたの、私は今でもあなたを想い続けてるってね」

「・・・」

「ねぇ、私を慰めて・・あなたと結べるならどんな関係でもいい、あなたが望むならセックスフレンドでも構わないわ。
思えばあなたと付き合っていた頃から全く変えていなかったのもこの為だと思うの、生徒達がしている噂も最初はあれだったけど今では昔を思い出して心地よく思えてくるのよ。

噂を聞くたびに純粋に恋をして充実していたあの時の思い出が今でも甦るのよ」

時を越えて、かつての恋人からのとんでもない告白に靖男は呆然としてしまう。あの時の自分は一種の死亡状態だったし瑞樹と付き合っていたころもただの成り行きというか何ら変哲のない味気ないものだったのだが徐々に変わっていく瑞樹を見ながら好奇心旺盛の子供のように楽しんでいた節しか思い出せない。
しかし瑞樹にしてみれば靖男と付き合いがきっかけとなって最愛の弟の死という事実と向かい合うことも出来たのは事実だし、ここまで教員をやって1人で生きてこれたのも靖男のお陰である。

本人が頑なに否定しても瑞樹の中でそれは変わらない・・
808 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:52:41.17 ID:AH7rvOPCo
「弟の死を自然と背けていた私に向き合う力を与えてくれたのは他ならぬあなたよ。・・それに私を泣かせてくれたしね」

「月島や相良みたいに痛いことをストレートに言いやがって・・俺の自慢の生徒に感化されたのか」

「あの2人はスペックは兎も角として真っ直ぐね、眩しすぎて羨ましく感じるわ。彼女達のような明るくて純粋な関係を私はあなたと送りたい・・答えを聞かせて、どんな回答でも私の中でようやく諦めもつくわ」

「・・言葉と表情が一致しないぞ」

よく見ると自然と涙を流し続けている瑞樹は手鏡で改めて自分の表情を見てみる、既に涙で化粧は崩れかけていて見るに耐えないボロボロの顔つきであったが自然とそれがたまらなく美しく感じてしまう。

「また・・あなたに泣かされてしまったわね」

「みたいだな。涙は女の武器・・女体化が浸透してもそれは変わらんらしい」

「え――」

「・・どんなに時が流れようとも俺は“ある人間”の人生を台無しにしてしまった男だ。復讐されて殺されても納得して見送ってくれるなら勝手にすればいい、俺も若くないしこれ以上誰かを泣かしたら身体に悪いんでな」

そういって靖男は再びレポートを作成するが、瑞樹は気がつかないうちに涙でぐちゃぐちゃになった表情のまま嬉しそうにしながら仕事に取り掛かるのであった。



809 : ◆Zsc8I5zA3U[sage saga]:2012/01/04(水) 19:52:55.27 ID:AH7rvOPCo
おまけ

あれから数日後、大量の荷物を抱えた靖男が瑞樹の家へと訪ねてきた、思わぬ靖男の来訪に少しウキウキしていた瑞樹であるが靖男はどこか申し訳なさ下であった。

「何・・その荷物?」

「頼む、金がないから少し住まわせてくれ」

「・・詳細は?」

「相良と月島たちに焼肉奢ったら副業の収入分キッチリ食べられた」

思わぬ理由に瑞樹は唖然としてしまう、靖男は度々に自分の生徒達に奢っているのは知っているがまさかここまでとは思いも寄らなかった、どうやら自分が知らないうちに気前が良すぎる性格になったようだ。

「だから次の給料日までは住まわせてくれないか? ほら、先輩も俺との関係を結びたいといってたしよ」

「・・バカ、暫くそこで頭冷やしなさい」

「お、おいおい!!! そりゃ、あんまr・・」

そのまま瑞樹はドアを閉めてご丁寧にチェーンもするが、暫くほくそえみながら楽しげだったという。




fin
810 :竜宮小町(水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜美) - SMOKY THRILL(M@STER VERSION)[sage saga]:2012/01/04(水) 20:02:47.51 ID:AH7rvOPCo
はい終了です、見てくれてありがとさんでしたwwwwwww
今回は新年初投下でリハビリがてらの久々のクロスです・・自分の中では白羽根シリーズと勝手に呼称。いつもながら狼子の人には感謝と多大なご迷惑をお詫び申し上げます
このまま自分だけが量産しても仕方ないので暫くは休止してファンタジーに移行しようと思います

それでもう一つ大事なご報告、申し訳ありませんが中の人の私情で執筆がかなり落ちます。というより投下できくなる可能性大です
というわけで執筆活動は暫く休止です、ファンタジーもいつになるか分かりません^q^
期待0だとは思いますけど・・

なるべく降臨するときは作品を引き下げます。


スレの投下は君たちに掛かっているッm9
ではww


そして新年明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします
811 :菊地真、三浦あずさ - shiny smile(REM@STER-A)[sage]:2012/01/04(水) 20:07:46.21 ID:IYM01fR2o
投下乙〜
812 :ウサミミ仮面(CV:置鮎龍太郎) - おれはウサミミ仮面[sage]:2012/01/04(水) 23:21:56.41 ID:mLb6cnCPo
そういえばガチエロってどこまで許されるの
813 :田村ゆかり - Little Wish 〜lyrical step〜[sage]:2012/01/05(木) 00:43:09.27 ID:wFiz1yeGo
>>812
まとめサイトにある☆付きをみればいいんじゃね?
814 :池田彩 - ワンダフル↑パワフル↑ミュージック!!2012/01/05(木) 00:51:21.72 ID:6gCaAsij0
なんでも書いてみればいいじゃない!
ってなわけでSS安価↓
815 :小清水亜美 - けせら・せら[sage]:2012/01/05(木) 00:54:14.77 ID:rdSd8cTQo
初の女体化大統領当選
816 :【飛べ!イサミ OP(前台詞ありver)】 TOKIO - ハートを磨くっきゃない2012/01/05(木) 03:19:59.78 ID:6gCaAsij0
書けたけどこれでいいのかわからんっ ><

七時になりました、この時間は世界各地のニュースをお届けいたします。
本日日本時間の正午、A国大統領選挙の票開票が行われ、△△党のミカエラ・ロビンソン氏が当選し、世界初の女体化者の大統領が誕生しました。
ロビンソン氏は37歳、厳格なプロテスタント系の法学者一家に生まれ15歳で急性女体化症候群を発症。以後、実家を離れて多くの差別や偏見に立ち向かいながらも女体化者の社会的地位の向上、自由な恋愛をする権利を巡って戦い続けてきました。
今回の選挙でも全国的に女体化経験者と両性との結婚を認める法律の制定や、全女性の雇用機会拡大と育児環境の向上などを公約に臨んでいます。
投票結果を見ても女性の支持率が高く、中でも女体化経験女性のほとんどから票を獲得しました。全人口の6%とも言われる女体化経験女性の投じた票が選挙の行方を左右する形となり、氏は出身地で行われた勝利宣言の中でも「もはや私たちの声はマイノリティとは見做されることはないだろう」と喜びの声を上げています。

「(カチャカチャ)へ〜、あっちもようやく堂々結婚できるようになるのかねぇ……」
「(むぐむぐ)やっぱり宗教絡むとややこしくなるのかぁ、その点日本はすんなり法案通ったよね。
 自由が絡むと口煩いヒトが出てくるからなのかもだけどさ……あたしは、あの子のちゃんとしたお母さんになれたから、良かった……かな♪」
「(すやすや……すぴー……)」
「(もぐもぐ)そだな……ま、俺は認められなくてもお前と結婚する気満々だっただろうけどさ」
「(はむはむ……んむっ)んなっ!?なに恰好つけてるんだかっ!」
「いやいや、本気だって!あの大統領みたいにさぁ、補助金なんか突っぱねて立派に育て上げて……」

祝賀セレモニーのステージには人気No.1の女体化歌手グループが現れ、さらにロビンソン氏もセクシーなコスチュームに着替えてパフォーマンスを……

「うおっ、やっぱ向こうのにょたっ娘はスゲェのな!いろいろでっけぇ……
 それにあの人アレで子持ちの37かよっ、流石は『美しすぎる政治家』!なんか中学んときにお前が集めてた洋モノに出てきそうな……っ(ドボォ!」
「ちんちくりんで悪かったなど畜生がっ、メリケンがなんぼのもんじゃいっ!
 今さらあんなムキムキマッチョに興奮なんかしねぇしっ!?ほらっ、腹筋ボコボコじゃんっ!」
「そもそも興奮して勃つモノがな(ガスッ)あでてててっ、
妬くなよ、萌えるから……それに俺にとってはお前のがよっぽど魅力的だよ」
「妬いてねーし…………でも、それ本当?」
「おう!金髪ゴージャスも捨てがたいけどさ、やっぱり綺麗な黒髪と華奢な身体、可憐な大和撫子だよなぁ」
「(ぱぁ……っ)」
「それにお前、抱くとぷにぷにしてて気持ちいいし、ちっこくて軽いから色々試せるし」
「(っ!?……ワナワナ)」
「胸なんか揉むほどもねぇけど、サワサワしてやると甘ったるい声出してコレが可愛いのなんのって……」
「な……なにが大和撫子じゃっ、このロリコンがあああああああっ!!!」
「ちょっ、美咲が目ぇ覚ましちまうだろっ!?いででででっ、フォークで刺すなっ!」

うーん、不完全燃焼
実家から帰るまでにもう一つ安価をおくれ↓
817 :【おばけのホーリー OP】 相原勇 - 約束するよ[sage]:2012/01/05(木) 03:41:13.33 ID:5/7L3VGAO
>>816
乙ぐっじょぶデスww
やはりにょたツンデレは良いものですね。

安価は「芋羊かん」で
818 :MELL - Virgins high![sage]:2012/01/06(金) 11:13:42.42 ID:2soe1dWAO
まとめの☆つきのなかでもエロいのってどれだ

青年誌レベルこえてるよなのがだめなんかな
819 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2012/01/06(金) 18:47:08.98 ID:ic/VoXfs0
皆様あけおめです。
年内完結どころか文化祭編すら投下できませんでしたorz

書き溜めに使っていた携帯を紛失しまして、今書き直しているところです…
もし誰か拾ったなら、返してくれなくて良いから中身は見ないでほしいwww


>>816
乙でした!ツンデレにょた可愛いよ可愛いwww
外人もアリですよね。自分も書いてみたいと思ってたんですが、
なかなか難しくて…。
820 :MELL - Virgins high![sage]:2012/01/06(金) 22:52:38.97 ID:insI81ad0
おっ、パー速復活してたのか……
では安価消化したので投下をば

安価「芋羊かん」

「ただいま〜っ、……晶ちゃん、いるかな?」
「あら真琴、思ったより早かったじゃない。歩いてきたの、寒かったでしょう?
電話してくれればすぐに迎えを遣したのに……」

16歳の誕生日に女体化した僕を一目見て大興奮した母さんによって、無理やり全寮制のお嬢様学校に転入させられてもう1年半。
今年も年末は家族と一緒に過ごしてきたのだけれど……もう、会う人会う人『女の子らしくなった』だとか、『前よりもっと綺麗になったね』とか言うもんだから困っちゃったよ。
確かに生粋のお嬢様に囲まれて過ごしてはいるけど、そんなに変わるもんなのかな?
おかげで母さんは調子にのって着物なんか着せてくるわ、弟が赤くなっこっちを見てくるわ……鼻の下伸ばした叔父さん達にお年玉いっぱい貰っちゃったのは内緒♪

「ほら、今温かいお茶を淹れるから、荷物を置いてきてしまいなさい。手洗いも忘れないでね?」

そう言ってキッチンに向かうのは同室の晶ちゃん。突然の転入生だった僕を快く部屋に受け入れてくれた優しい子だ。
文武両道でお茶にお花になんでもござれの彼女と一緒にいると、とても自分が女の子らしくなっただなんて思えない。
今だってテキパキと準備をしているその仕草一つ一つをとっても凄く洗練されてて……うーん、とても敵わないなぁ。
それに、凛とした目つきと黒髪でこの学校の清楚な制服が似合う彼女だけど、その制服の下に豊かな膨らみがあることを僕は知っている。
こちとら初めて買ったブラがまだ現役だってのに、なんか最近また大きくなったみたいだしっ……ううっ、こっちでも敵わないよぅ

「何を下向いて黙り込んでるのよ?」
……なんでもないです、うぅっ

「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね?」
「(ふーっ、ふーっ)あっ、いい香り……いつものと違うね」
「実家で飲んでいるものなの、購買で売っているお茶もいいものだけれど、やっぱり慣れ親しんだ味が一番ね。
 こちらに来る前にたくさん持たせて貰ってきたわ。」
「へ〜っ、……あっそうだ、僕もお土産持ってきたよ!
 お茶うけになりそうだし、今出しちゃうね?じゃじゃーん」
「っ!?……これは」

地元名物の芋羊かん、厳選された素材と伝統の手作業でつくられた僕もお気に入りの一品……って、うわあああああ!
そういえば町興しの一環とかでパッケージに所謂萌えキャラが採用されてたんだっけ……たしか『魔法少女リリカルお芋』、とか言う
あちゃ〜っ、家で包装し直しとくんだったよ!晶ちゃん、こういうの嫌いかも……っ

「ご、ゴメンねっ!中身は普通に美味しいものだからっ!(バリバリッ)」
「やめてっ!……コホンッ、なにもそんなにビリビリ破いてしまうことないじゃない、散らかす必要はないわ。
 それとその箱も、何かに使えるかもしれないからとっておきましょう……」

……?なんで晶ちゃん、こんなに慌ててるんだろう。珍しいもの見ちゃった

821 :MELL - Virgins high![sage]:2012/01/06(金) 22:54:07.60 ID:insI81ad0
「へぇ……なかなか丁寧に作ってあるのね。上品な味わいで、いいと思うわ」
「でしょっ、余計に甘くないのもいいよねっ!お芋の味がそのまま感じられて」
「(お芋ちゃんの味……ゲフン)そうね、とってもお芋が濃厚で……美味しいっ」
「……?甘いもの嫌いなおじいちゃんもこれだけは別でね、お正月はこれとお煎餅とミカンがこたつの上に置いてあって、皆でゴロゴロしながら食べるんだ」
「ふふっ、楽しそう……」
「だけど今年は弟が独り占めしようとしちゃってさっ、怒ったら『姉貴は太るからやめとけよ、もう成長期終わってんだろ?』だって!失礼しちゃうよね、もうっ
 僕だってこれから……きっと、さぁ……(ショボーン)」
「気にしなくたっていいのに……真琴はそのままで充分に魅力的よ?」
「絶賛成長中の人に言われてもなぁ(ジトー)、弟も久々に会ったら大きくなっちゃっててさぁ、『縮んだ?』なんて言われた時には……
あーんっ、思い出したらまた腹がたってきちゃったよ!」
「クスッ、でもなんだかんだ言いつつ仲は良さそうね?」
「うん……っ、そりゃあまあそうだけどさ。」
「話に聞くとお母さんも愉快な方だし……羨ましいな、私の家は年末なんて堅苦しい挨拶ばかりで」
「それじゃあ、さ……来年は、その……」
「そうね、真琴さえ良ければお邪魔しちゃおうかしら……♪」
「あっ、でも僕んち古いし狭いし、なんにもないよ?」
「構わないわよ、真琴と一緒に年が越せて、ご家族……特にご両親に挨拶ができれば、それで」
「え……?晶ちゃん、それって……」
「つまり、そういうことよ……っ!」

(チュッ……)
ソファー¬の隣に座った晶ちゃんの、端正な顔に浮かべられた笑みがみるみる近づいて、そして唇が触れ合った……

「私たちのこと、ちゃんと認めて頂かないといけないものね。
 これからは年越しもずっと一緒よ……」
「あ、晶ちゃぁん……」
「こらっ、こういう時には何て呼ぶのだったかしら?」
「お、お姉さま……嬉しいっ!」
「ふふっ、いい子ね……」


そう……実は僕たち、付き合っているんだ。
晶ちゃん曰く『スールの間柄』らしいけど、その、キス以上のこともしてるわけだし……恋人同士と思っていいんだよね?
純正女の子の晶ちゃんにリードされっぱなしなのは何か情けないけれど、男としても、最近芽生えてきた女の子の視点から見ても憧れの彼女とこういう関係になれたのは凄く素敵なことだと思っている。


(チュッ……クチュクチュ……ッ)
「お姉さまのキス、とっても甘い味がします……っ」
「おやつの後に言われても、当たり前で何かグッとこないわね……
くすっ……でも安心して?もっともっと甘く、蕩けさせてあげるからっ!」
「あんっ!?お、お姉さまっまだお昼なのに……
 ひとっ、人が来ちゃうかも……ゃうっ、だめぇぇぇえええ」

普段はお淑やかな晶ちゃんだけど、一度こうしてスイッチが入っちゃうと、まるで別人みたいになっちゃうんだ。
『女の子の身体の洗い方を教えてあげる』って、一緒にお風呂に入ったのが最初だったかな……あの時は、すごかったなぁ///
……って思い出してる場合じゃないやっ!わわっ、脱がさないでぇぇええ〜っ!!

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「それにしても……女らしくなるために女子高に入ったのに、彼女が出来たなんて言ったら皆驚くでしょうね」
「うん……でもきっと分かってくれると思うよ!」
「そうだと良いのだけれど……」
「だいじょぶだって!おじいちゃんは頑固だけど優しいし、母さん……は寧ろ喜んじゃうかもなぁ、晶ちゃん綺麗だから。」
「ふふっ、ありがとう。でも私が心配してるのはそっちじゃなくて、うちの方なの……」
「えっ?でも彼女が出来たのは僕……」
「言ってなかったかしら?私も男だったって……
 もっとも女体化したのは貴女より1年早い15歳の誕生日だったから、中学を卒業してそのままこちらに入学したのだけれど。」
「えっ……えええぇぇぇ〜〜〜っ!?」
822 :MELL - Virgins high![sage]:2012/01/06(金) 23:03:12.43 ID:insI81ad0
このあと「(保存した精子で)私の赤ちゃん産んでくれる?」みたいなプロポーズも考えてたけど、SSじゃなくなっちゃうので割愛

>>819
感想ありがとうございますっ
しかし携帯紛失とはお気の毒に……いろんな意味で無事に戻ってくれれば良いのですが。

これ以上の連投は自重するとして、ちょっと長めの次回分を↓


823 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/06(金) 23:17:44.11 ID:G1Sah4Zk0
もし俺が女体化したら
やりたい盛りで色々と焦っているところビッチな女に出会い童貞を捧げてしまった
→友達との会話でエッチについて盛り上がる。
処女であることを馬鹿にされ、つい見栄を張って非処女だと言ってしまった。
街を出歩いている時、軽い男にナンパされるがその事情が正常な判断を鈍らせる。
のうのうと付いて行き、行きずりの男に処女を奪われる。

経験人数は人並みに多いが、一度きりの付き合いが多いため経験回数はかなり少ない
→今まで数人の男と関係を持ち男の程度を知った気でいるが、性行為自体には不慣れで初々しい
人に影響されやすい→何色にも染められやすい
人から頼まれると断れない→一度信用した相手には簡単に身体を許す

特徴
よく謝る
根暗→大人しい
平均身長を下回るホビット族→小柄
短小→貧乳
不健康な肌→色白な美白肌
染めてもいない癖すらないダサい黒髪→さらさら黒髪ショート

ビッチ過ぎだろ・・・自分を好きになれないわけだぜ・・・

>>822
乙!! そのプロポーズはありだわwwwwwwwwww
824 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/06(金) 23:21:12.00 ID:G1Sah4Zk0
ごめん>>822の安価↓
俺のレスは気にするな!
825 :MELL - Virgins high![sage]:2012/01/07(土) 00:11:39.38 ID:iNU8m2YAO
>>822
なんとまあ俺得なwwww
乙グッジョブですwwwwww

安価は『はじめまして』でお願いします!

>>823
それ、SSにすればいいんだぜww
826 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 08:37:08.45 ID:cGxFA7yuo
>>818
ガチエロ安価を受けた事のある身から言うと、多分どこまでもok
具体的に言うと成年コミック並

いやほんと、そういう安価貰うとマジで焦るけども。
827 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 20:09:40.01 ID:sl5Oz+uw0
このページのことを知り、どん
な長さや内容が喜ばれるのかは分かり
ませんが、初カキコミをさせてもらい
ます!・・・訂正した方がいい点など
は教えていただけると嬉しいです。お
手柔らかに・・・とりあえずタイトル
無しの短いものを、一つ。
828 :eufonius - ホログラフ[sage ]:2012/01/07(土) 20:13:51.24 ID:sl5Oz+uw0
※隣の家の女の子『夏乃(ちゃん』、主観の男の子『○○(君』、そして『忠志(君』で物語を構成。
〜〜

「おはよっ!○○、今日も元気そうだね?」
「あ、あぁ........おはよう!」
・・・僕は隣の家から出てくる夏乃ちゃんのことが好きだ。・・・自覚したのは小学校の宿泊学習の時だけど、実際はもう少し前からかもしれない。

〜〜

「あ...教科書・・・忘れたーー!」
「忘れた?............ほら、机を繋げよう?僕の教科書見せるよ。」
「気が利くね○○ー!見せてもらうよ!」
「・・・どういたしまして!」
・・・頼りにもされてるとは思うし、嫌われてることはないとは思う。でも・・・

〜〜

・・・でも
「またお弁当忘れたーー!?」
「(また忘れたんだ・・・)」


「夏乃ちゃん、お弁当多く作ってきたから、大丈夫だよ?」
「本当っ!?ありがとー忠志君!」
僕は夏乃ちゃんが好きで、夏乃ちゃんも僕のことが好きだと思ってた。

「さっすが忠志君だね!!」

・・・夏乃ちゃんに彼氏が出来たと察するまでは。
そしてその頃から・・・

〜「やっべ・・・もう俺誕生日まで一週間もねぇよ!!」「お前、彼女一人くらいはブスでもいいから作れよ・・・」「それは俺の漢としてのプライドが許さねぇ!」「・・・あと五日で女になるお前が言えることか?」〜



・・・15歳の僕は女の子になることを恐れ始めた。
〜〜
829 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 20:14:37.77 ID:sl5Oz+uw0
※隣の家の女の子『夏乃』、主観の男の子『○○(君』、そして『忠志(君』で物語を構成。
〜〜

「おはよっ!○○、今日も元気そうだね?」
「あ、あぁ........おはよう!」
・・・僕は隣の家から出てくる夏乃ちゃんのことが好きだ。・・・自覚したのは小学校の宿泊学習の時だけど、実際はもう少し前からかもしれない。

〜〜

「あ...教科書・・・忘れたーー!」
「忘れた?............ほら、机を繋げよう?僕の教科書見せるよ。」
「気が利くね○○ー!見せてもらうよ!」
「どういたしまして!」
・・・頼りにもされてるとは思うし、嫌われてることはないとは思う。でも・・・

〜〜

・・・でも
「またお弁当忘れたーー!?」
「(また忘れたんだ・・・)」


「夏乃ちゃん、お弁当多く作ってきたから、大丈夫だよ?」
「本当っ!?ありがとー忠志君!」
僕は夏乃ちゃんが好きで、夏乃ちゃんも僕のことが好きだと思ってた。

「さっすが忠志君だね!!」

・・・夏乃ちゃんに彼氏が出来たと察するまでは。
そしてその頃から・・・

〜「やっべ・・・もう俺誕生日まで一週間もねぇよ!!」「お前、彼女一人くらいはブスでもいいから作れよ・・・」「それは俺の漢としてのプライドが許さねぇ!」「・・・あと五日で女になるお前が言えることか?」〜



・・・15歳の僕は女の子になることを恐れ始めた。
〜〜
830 :eufonius - ホログラフ[sage saga ]:2012/01/07(土) 20:14:51.01 ID:sl5Oz+uw0
※隣の家の女の子『夏乃』、主観の男の子『○○(君』、そして『忠志(君』で物語を構成。
〜〜

「おはよっ!○○、今日も元気そうだね?」
「あ、あぁ........おはよう!」
・・・僕は隣の家から出てくる夏乃ちゃんのことが好きだ。・・・自覚したのは小学校の宿泊学習の時だけど、実際はもう少し前からかもしれない。

〜〜

「あ...教科書・・・忘れたーー!」
「忘れた?............ほら、机を繋げよう?僕の教科書見せるよ。」
「気が利くね○○ー!見せてもらうよ!」
「どういたしまして!」
・・・頼りにもされてるとは思うし、嫌われてることはないとは思う。でも・・・

〜〜

・・・でも
「またお弁当忘れたーー!?」
「(また忘れたんだ・・・)」


「夏乃ちゃん、お弁当多く作ってきたから、大丈夫だよ?」
「本当っ!?ありがとー忠志君!」
僕は夏乃ちゃんが好きで、夏乃ちゃんも僕のことが好きだと思ってた。

「さっすが忠志君だね!!」

・・・夏乃ちゃんに彼氏が出来たと察するまでは。
そしてその頃から・・・

〜「やっべ・・・もう俺誕生日まで一週間もねぇよ!!」「お前、彼女一人くらいはブスでもいいから作れよ・・・」「それは俺の漢としてのプライドが許さねぇ!」「・・・あと五日で女になるお前が言えることか?」〜



・・・15歳の僕は女の子になることを恐れ始めた。
〜〜
831 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 20:15:01.88 ID:sl5Oz+uw0
※隣の家の女の子『夏乃』、主観の男の子『○○(君』、そして『忠志(君』で物語を構成。
〜〜

「おはよっ!○○、今日も元気そうだね?」
「あ、あぁ........おはよう!」
・・・僕は隣の家から出てくる夏乃ちゃんのことが好きだ。・・・自覚したのは小学校の宿泊学習の時だけど、実際はもう少し前からかもしれない。

〜〜

「あ...教科書・・・忘れたーー!」
「忘れた?............ほら、机を繋げよう?僕の教科書見せるよ。」
「気が利くね○○ー!見せてもらうよ!」
「どういたしまして!」
・・・頼りにもされてるとは思うし、嫌われてることはないとは思う。でも・・・

〜〜

・・・でも
「またお弁当忘れたーー!?」
「(また忘れたんだ・・・)」


「夏乃ちゃん、お弁当多く作ってきたから、大丈夫だよ?」
「本当っ!?ありがとー忠志君!」
僕は夏乃ちゃんが好きで、夏乃ちゃんも僕のことが好きだと思ってた。

「さっすが忠志君だね!!」

・・・夏乃ちゃんに彼氏が出来たと察するまでは。
そしてその頃から・・・

〜「やっべ・・・もう俺誕生日まで一週間もねぇよ!!」「お前、彼女一人くらいはブスでもいいから作れよ・・・」「それは俺の漢としてのプライドが許さねぇ!」「・・・あと五日で女になるお前が言えることか?」〜



・・・15歳の僕は女の子になることを恐れ始めた。
〜〜
832 :eufonius - ホログラフ[sage ]:2012/01/07(土) 20:15:44.31 ID:ndBjm6Xk0
※隣の家の女の子『夏乃』、主観の男の子『○○(君』、そして『忠志(君』で物語を構成。
〜〜

「おはよっ!○○、今日も元気そうだね?」
「あ、あぁ........おはよう!」
・・・僕は隣の家から出てくる夏乃ちゃんのことが好きだ。・・・自覚したのは小学校の宿泊学習の時だけど、実際はもう少し前からかもしれない。

〜〜

「あ...教科書・・・忘れたーー!」
「忘れた?............ほら、机を繋げよう?僕の教科書見せるよ。」
「気が利くね○○ー!見せてもらうよ!」
「どういたしまして!」
・・・頼りにもされてるとは思うし、嫌われてることはないとは思う。でも・・・

〜〜

・・・でも
「またお弁当忘れたーー!?」
「(また忘れたんだ・・・)」


「夏乃ちゃん、お弁当多く作ってきたから、大丈夫だよ?」
「本当っ!?ありがとー忠志君!」
僕は夏乃ちゃんが好きで、夏乃ちゃんも僕のことが好きだと思ってた。

「さっすが忠志君だね!!」

・・・夏乃ちゃんに彼氏が出来たと察するまでは。
そしてその頃から・・・

〜「やっべ・・・もう俺誕生日まで一週間もねぇよ!!」「お前、彼女一人くらいはブスでもいいから作れよ・・・」「それは俺の漢としてのプライドが許さねぇ!」「・・・あと五日で女になるお前が言えることか?」〜



・・・15歳の僕は女の子になることを恐れ始めた。
〜〜
833 :eufonius - ホログラフ2012/01/07(土) 20:17:45.73 ID:ndBjm6Xk0
あ・・・何か押し間違えてしまったようで、連投してますね・・・すみません。(汗
834 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 20:20:22.38 ID:ndBjm6Xk0
『30歳まで童貞だったら魔法使いになれる』と昔に提唱した人がいたらしいけど、それならばもう誰も今の時代に魔法使いはいないということになるのだろう。

この世界では, いつの頃からかは分からないが、『高校に入るまでが童貞だったら性別が男から女になる』というルールがある。そのためか学校でも追加の性教育の授業が男子にあるくらいだ。
そしてさまざまな考えが同級生たちにもあるらしく、女の子になりたいイケメンな男の子や男の子のままがいい男の子がいて・・・
・・・毎年襲われるイケメンの男の子や、女の子を襲う男の子がいるため、毎年15,16歳の補導件数が高いのも頷ける。

〜〜

「お前らー土日のクリスマスは羽目を外しすぎるなよー!・・・ハメすぎるなよー!!」
教頭につれていかれる先生はもはや僕の目に長くは入らなかった。何故なら僕の誕生日はクリスマス,12月25日でありーー

「夏乃さん、クリスマス空いてる?」
「うん、一応空いてるけど?」
「ちょっと付き合って欲しいんだ。」
「いいよー!あ、でも忠志君の家に行ったことないよ?」
「夏乃の家に行くよ、待ってて!」

ーー彼女が出来ていない僕はどうしようもなくてーー

〜〜

「あれ?○○君、どうしたの?こんなに朝早くに。久し振りだけ ッ!?....ッハ..ンーッ......」

ーー僕はーー

〜〜

「・・・ここは?」
「・・・ゴメンね、夏乃ちゃん。今僕、無理矢理夏乃ちゃんを襲おうとしてる・・・・でも、しょうがないんだ・・・・・・しょうがないんだっ・・・・・・今日シないと僕は女の子になっちゃうんだから!まだ女の子になりたくないよ!どうせ夏乃ちゃんはもう彼氏とかに体を許してるんでしょ!?僕はっ・・・!」




「・・・○○君、一つ聞かせて?」
「・・・うん。」
「誰でもよかったの?」
「っそんなはずないよ!!僕、こんな強姦みたいなことしないで、普通に好きな人としたかったよ!夏乃ちゃんとしたかったよ!夏乃ちゃんが見つからなかったら、CLSAに行くつもりだったし・・・」
「うん・・・・・・分かった、○○君、いいよ。二人で、しよ? 私も好きだから、○○君が好きだよ!」
「夏乃ちゃん・・・!」

[えっちい所、割愛。]

〜〜

835 :eufonius - ホログラフ[sage ]:2012/01/07(土) 20:21:44.42 ID:ndBjm6Xk0
〜〜

「ねぇ、夏乃ちゃん、本当に僕のこと好きなの?忠志君が好きなんじゃなかったの?」
「忠志君はとても格好いいけど、○○君への好きさと比べちゃいけないよー!」
「夏乃ちゃん、服を着ないで抱きついて来ちゃ駄目だよーー!?」
「一緒に寝よー!」
〜〜

「夏乃ー?俺ー忠志ー!来たよー!・・・いないのー? ・・・俺、12月26日が誕生日なんだけど・・・ 夏乃ーー!」

〜〜

「ねぇ○○君、此処って何処なのー?」
「あぁ・・・ここは家から少し離れた温泉宿なんだけど・・・おに・・・お姉ちゃんにも協力してもらったんだ。」
「へぇー・・・ねぇ、温泉一緒に入ろうよー!」
「うん!」

〜〜

「夏乃ーー!・・・クソッ中にいないのか!?折角狙ってたのに!!今からCLSAに走って向かっても間に合わねぇ!!

・・・・・・ん?あれは小学生の・・・六年生か?........ よし。」


「母さんにクリスマスプレゼント、なに頼もうかなー!
「動くな!!動いたらここで制服を破って無理矢理ヤるぞ!?」
「キャ................。」
「よしよし、・・・・・・ついて来い!悲鳴を上げるなんて考えるなよ!?」
「 」
「よし、このまま公園のトイレにでも連れ

「そこまでにしましょうねー。」
「んぎゃっ!・・・・・・。」
「おじいちゃーん!怖かったよーー!」
「おーよしよし、怖かったねー。今□□母さんに電話しておいたから、すぐ来てくれるよ?」
「ありがとうおじいちゃん!私、おじいちゃんが格好いいところ初めて見た!スーパーマンみたいだったよ!!」
「おじいちゃんはスーパーマンじゃなくて、魔法使いさんなんだよー?さぁ、先に家に帰っておいてねー。」
「うん!おじいちゃん、また家でねー!」


「はぁ・・・・・・とりあえずCLSAに転送しておきましょう・・・・・・。」

〜〜

「○○君、おはよっ!夏乃だよー!学校行こうよー!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、まだ六時で、一時間は余裕があるよー!?」
「ほらほらっ!時間は待ってくれないんだよ?今までお互い気持ちを我慢していた分、一緒に楽しもうよー!」
「うん!あ、テレビ消さなきゃ!」

『やはり毎年、強姦事件が絶えません。皆さん、強姦をせずに各所にあるCLSA , CHERRY LOST SUPPORT ASSASSINATION の支部に行きましょ


「よし、テレビも消したし、戸締まりオッケー。行ってきまーす!」



836 :eufonius - ホログラフ[sage]:2012/01/07(土) 20:27:05.56 ID:ndBjm6Xk0
2chタイプに投稿したことが無く、少し文章の分け方がおかしかったり、『あれっ、投稿確認メッセージが出てこないよ!?』とあたふたして連投したりして、少しゴチャゴチャしてしまい、本当にすみません。次投稿させていただけたら、改善していこうと思っている私でした。(^-^;
837 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2012/01/08(日) 07:48:05.82 ID:ovIKxKRdo
おつでした!
838 :A BONE featuring Y - プラスチックスマイル(^^[sage]:2012/01/08(日) 11:10:26.10 ID:yEUtzrJAO
>>836
乙ですー(*^∀^*)
新人さんが増えるのはイイことだ!
どんどん書けばいいんだぜ!
839 :■リク遅れましたすまん・・・すまん■閃光のナイトレイド - 約束[sage]:2012/01/08(日) 21:22:52.57 ID:F2nlZA0ho
久しぶりに安価plz↓
840 :■リク■とある科学の超電磁砲 - Only my railgun[sage]:2012/01/08(日) 21:32:17.35 ID:HGiZuMCt0
格差社会
841 :シスター・プリンプリン[sage]:2012/01/08(日) 23:58:18.92 ID:rtp1Ziqno
引越してから落ち着いてきたからそろそろ何か投下したい><
842 :牧野由依 - アムリタ[sage]:2012/01/09(月) 00:10:05.45 ID:lmHGT4Aq0
俺、女になったんだよね? あれ?

って感じの作品希望
843 :【トップをねらえ2!】-ROUND TABLE Feat. Nino - Groovin Magic[sage saga]:2012/01/09(月) 16:59:58.92 ID:5czUW6qEo
投下来ないかな
844 :【ポケットモンスター】-カスミ(飯塚雅弓)/ラプラス(愛河里花子) - ラプラスにのって[sage]:2012/01/09(月) 17:20:03.82 ID:V7DCsRcDo
>>842
それ+何か安価的付け加える要素があれば書けるかもしれないけど、何かないかね
845 :【名探偵コナン 迷宮の十字路】-倉木麻衣 - Time after time 〜花舞う街で〜[sage saga]:2012/01/09(月) 17:54:19.08 ID:5czUW6qEo
>>844
お客さん、ファンタジーなんてものがオススメですぜい
846 :○あげよう[sage]:2012/01/09(月) 18:09:41.50 ID:6RRnY1z30
昔投げっぱなしにしたファンタジー風小説の続きでも書くか
847 :Kirari - [GTO] Last Piece[sage]:2012/01/09(月) 18:57:22.62 ID:V7DCsRcDo
>>845
もうちょっと具体的に。
848 :オリオンをなぞる[sage saga]:2012/01/09(月) 19:24:11.05 ID:5czUW6qEo
>>847
ファンタジーの世界観で安価のジャンルをやるのが一押しですぜ
849 :blue drops(吉田仁美,イカロス(早見沙織)) - ハートの確率 (Main Vocal Saori)[sage]:2012/01/09(月) 20:22:13.80 ID:V7DCsRcDo
>>848
えっと……ファンタジー系の安価を出してくれって言えば良いって事?

よく解らんので>>842に付け加える安価plz↓
但し、>>842氏が許可すればだけど。
850 :倉木麻衣 - Time after time 〜花舞う街で〜2012/01/09(月) 21:19:19.13 ID:WVLxzLlQ0
魔法使い
851 :美郷あき - さよなら君の声[sage]:2012/01/09(月) 22:42:26.48 ID:1GqQ4u6To
あれ、書き込めてなかったかな?

俺も久しぶりに書きたいので安価下で
852 :シュノーケル - 奇跡[sage]:2012/01/09(月) 23:12:24.82 ID:z79aGYzT0
就活
853 :覇やらwtjmd2012/01/09(月) 23:23:52.48 ID:SZ5b0Yfg0
上に同意
854 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/12(木) 01:28:53.25 ID:TtA5w5XM0
>>67です。貯めた清書分が100KB超えたので空気(ファンタジーの流れ)読んだ上で無視して上げます。

[プロローグ3/17日]


3月、卒業の季節、今日俺は卒業する。

ただ、最後やり残したことをする。中学3年間ずっと想い続けたあいつに告白する。
俺にとって式より遥かに大事なことだ。




「これで第64回卒業式を終わります。」
「卒業生起立!卒業生退場。」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

よくある卒業ソングのピアノ伴奏をBGMに退場する。さっきまで雛壇で寝ていて正直つらい。
自分の卒業式で寝るのは二度目だ。

告白の言葉をほぼ徹夜で暗記したからなぁ。あぁ、ねみぃ
やっぱ、女子ども泣いてるな…。おいおい、野球部もかよ。お前らまだ、ホームルームあるだろ…


そのあと、ホームルームで担任の浦部先生が泣きながら一人一人に何か餞の言葉を言って、女子はもらい泣きし俺ら男はツッコミ入れて話は終わった。

「これで私の話は終わりです。みんな高校でも元気で頑張ってくださいね。」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

そして、女子を中心に「センセ〜」と寄り集まっていく…アホかと思う。

隣の席の親友も『やってらんねぇ。』って顔だ。俺らのような数名は自分の席に座ってことの在り様を眺めていた。
そして、その親友から尋ねられる。

「恭也、このあと(帰り)どうする?」
「わりぃ、博樹。ちょっと、用あるから後でいいか?」
「何するのか、すっっっごく気になるが、後で聞くわ。校門で待ってるぜー。」
「わかった。」

盛り上がる教室を尻目に俺は静かに教室を抜けた。博樹は退屈そうに外を眺めてた。
855 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/12(木) 01:33:51.71 ID:TtA5w5XM0

保健室。目的はココだ。

別に怪我してるわけでも体調が悪いんじゃない。ただ、想い人に会いに来た。

ドアを開ければいつもの面子がそろっていた。その中でも取り分け綺麗で、俺より背の高い同級生に声をかける。

「沙耶香、話がある。ついて来てくれるか?」
「ごめん。今からお別れ会だから、その後でいい?」

見るとテーブルの上にはケーキが一つが保健室にあった。

「じゃあ、いつもの部屋で待ってる。必ず来てくれ。」

そう言っていつもの特別教室で待つ。

「特別教室」と聞こえはいいが簡単に言えば中学校に不適合なやつらの集まりの居場所。ただ警察に補導される問題児とは別だ。
どちらかというとその手の問題児によるイジメで心を閉ざしたり、閉ざした子たちがいる教室だ。
カウンセラーがいて同じような境遇の仲間と一緒に復帰を目指すシステムだ。だが、3年間は意外と短く復帰に何度も失敗することのほう

が多いため実質保護のための隔離である。

そして、クラスの保険委員が授業前に呼びにいくというシステム。

4月に図書委員に立候補したが負け余りだった保険委員になったためその存在を知り久しぶりに沙耶香にあった。
3年ぶりにその沙耶香に会って憶えていてもらったことが、このシステムに感謝した唯一のことだ。
まぁ、思い出話はこれくらいでいいだろう。


それから30分くらいたっただろうか。

それにしても遅い・・・帰ったか?いや、沙耶香は約束破るようなやつじゃないし。

「ごめん、待った?」

噂をすれば何とやらだ。

「あ、いや、別に来てくれれば。」

適当な受け答えで済ます。
『いや今来たところ』なんて応えたら、今までどこで何してたんだ?状態だ。

「で、話って?」

普段となんら変わらないしぐさで俺に尋ねる。
それがまた可愛いのだ。
856 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/12(木) 01:42:45.09 ID:TtA5w5XM0
ついに来た。告白するときが。
思えば1年の時に助けてもらったことがきっかけだったんだよな。
言うか?言うぞ?いいのか?関係崩れるぞ?と、自分のなかでせめぎ合う。
でも、やはり言おう。
本当にいいのか?と聞かれた気がした。本当にいいよ。と答えてやる。

自問自答。我ながら優柔不断だ。さあ、言うか。
息を吸って吐く。

「3年前からずっとずっと好きです。歩から話は聞いた。4月から沙耶香が遠くへ行くのも知ってる。だから、春休みの間だけでもいい、

俺と付き合ってください!!。」

言った。ついに言った。

少しの沈黙、開けてあった窓から春の風が吹き込んできて彼女の髪がなびいて

綺麗だ。ただ、それだけ思った。

こんな3流小説にありきたりな情景が目の前でおきた。

でも、人生は物語のようにはいかない。

「ごめん、気持ちはとても嬉しいけど、私彼氏いるから。恭也の気持ちには応えられない。ほんと、ほんとごめんね。」

振られた。根拠は無いけど自信はあった。だが、振られた。振られた…

「じゃあ、ごめん帰るね。」

「あぁ、うん。ごめん時間とらせて。じゃあな元気で。」

コレ以降二度と沙耶香の顔を見ることはなかった。
857 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/12(木) 01:55:31.73 ID:TtA5w5XM0
そのあと校門で博樹とおち合って、普段通り一緒に帰ることになった。
片田舎の帰り道には特に何も無い。
ただの住宅地。一軒だけ八百屋があるくらいだ。

「お前どうした?」
「聞くか?」

本当は聞かれたくないけど。

「聞く。」

言う羽目になった。聞くか?なんて言うんじゃなかった。
静かにさっきあったこと。それまで準備してきたこと。自分がどれだけ彼女を好きだったか。など
全て話した。そのせいか、いつもより長く歩いてる気がした。

晴れて卒業だと言うのに俺の顔がいつにも増して暗くて心配だったらしい。
興味を持ったのか、博樹にした説明以上に根掘り葉掘り聞かれて。
もう、これ以上無いくらいに彼女について話した。内容によっては軽くヒかれた。
お前それストーカーだとも言われた。そして、また振られたことまでを話し

「アッハハハハハハハハハハ!!こりゃ傑作だ!!いや、3流どころか没だわ。ッハ。本とお前変なところに度胸あるな。」

また、笑われた。
正直殴りたい。殴らないけど。

「つーことは、お前、国営だな。」
「へっ?」

「その話だと、どうせお前童貞だろ?お前の誕生日早かったよな?来月の6日だっけ?女性化遺伝子症どうするんだ?もう国しかないだろ

。まぁさか、他に女いますってことは無いだろ?」

博樹の言う通りである。
だが、答える前にいつもの交差点。俺は左へ博樹は右へ

「あぁ…そだな。じゃな。」

適当な相槌だけし、別れた。

「んじゃなぁ。」

手も振らず見送る。変わらず陽気に帰りやがる。

「国か…振られたし…性別とかどっちでもいいよな…どっちにせよ二度と沙耶香と会えないんだし…。」

晴れてようやく卒業出来たというのに、もしかしたら性別が変わってしまうかもしれないのに
それでも、ずっと頭も心の中も沙耶香のことでいっぱいだった。
858 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/12(木) 02:16:11.16 ID:TtA5w5XM0
名古屋県平尾市

それが俺の住む町だ。
市の東西を一級河川の古川と早川により囲まれていて、同時に市の中心を人工の二級河川の北川が流れている。
そして、北川の中腹までが市街地、下流の東側を農地、西側が住宅地という極めて露骨なつくりだが土地の歴史調べると納得がいく。

昔、古川の西側が沼でそこを農地として整地する際に、農業用水として、市のほぼ中央に位置する小高い八又山を水源に北川はできた。

しかも、北川の上流と中流から下流の西側が連なって小高い丘という三日月のような形の高低さのあるこの土地で、人々は丘の上に住み、沼を開発し田に変え、先ほど言ったように丘の先にある八又山を水源にして用水としたという計画的に土地を開発したためこのように露骨なつくりとなったらしい。

また、市街地の東側に駅やショッピングモール、塾、市役所など市の中心となっており、西側に飲食店や小売店がある。

俺行きつけのカードショップや喫茶店ももちろん西側だ。

ただ、女子高生に人気のある喫茶店は東側だが俺はどうしてもあの女性ばかりの店には行きにくい。
一度だけ行ったときに名物のパフェを食べたが美味かった憶えがあるくらいだ。

そして、駅や市役所付近から隣の市まで続く道の広いメインストリートで毎年そこを歩行者天国にして夏祭りが開催される。

まぁ、盛り上がるらしいが、俺は行ったことがない。一緒に行く相手がまずいない。
大体、男同士で夏祭りは行かないしな。行くとしたら彼女ができたらだろう。その彼女も先ほど振られたばかりだが。
この夏祭りも古いものらしく国の無形文化財だそうだ。
まぁ、全国的にまったくの無名だけどな。同じ無形文化財の阿波踊りと比較にもならない。
先述の土地の開発での手掘りのときの人々の動きが起源とも、この地を治めた平尾氏の舞が期限とも言われてるらしいが詳しくは知らないし、調べる気も無い。

俺の家は街の南側、中学も南側、北川の下流の西側の丘に当たる部分。その通りに面した飲食店が自宅だ。




まぁ、街の設定紹介はこんな感じです。今日はプロローグだけ上げました。
859 :ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:20:17.18 ID:2CNPkVjvo
>>858
GJ 期待してるぜ。
そして順番待ちするぐらいのタイミングぴったりで賑わってきてるんだぁとひしひし感じる自分
では、投下します
860 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:22:02.75 ID:2CNPkVjvo
安価「格差社会」

「あ、あの、麻宮(あさみや)さん……」
「気安く話しかけないで、媚男と仲良くしてるなんて思われたくないの」
「ご、ごめんなさい……」

 ある高校の教室で、そんな辛辣なやりとりがなされていた。
 やり取りをしていたのは二人の少女である。片方は黒髪長髪が目を引き、さらにその容姿は軍を抜いている麻宮真奈美(あさみや まなみ)。佇まいもおしとやか、スタイルはいいが下品でなく清楚といった印象だ。しかし綺麗なバラには、というわけか若干の棘も感じさせる。
 もう片方の少女も黒髪だが、こちらはすっきりとしたショートボブでまとまっている。こちらも負けず劣らずの美少女だが、少し気弱なのかおどおどとしている、その割に吉澤と呼んだ少女から離れる時歩く姿にはどことなく大胆さが見られる、ちぐはぐな少女だった。二人とも指定のブレザー、スカートを着ているが、麻宮は蝶ネクタイ、媚男と呼ばれた少女……吉澤 晴(よしざわ はる)は普通のネクタイを締めているという点が唯一違っていた。

 吉澤はそのまますごすごと自分の席に戻り、しゅんと落ち込んだようにうつむいたまま席に座った。
 それを見て、麻宮は一瞬苦い顔をして、すぐに普通どおりの僅かな微笑をたたえた表情へと自分を取り戻して、しかし視線はなかなか戻ってはくれなかった。

「イヤよね、吉澤のヤツ。童貞も捨てれない媚男の癖に真奈美にちょっかいかけて」

 と、麻宮の左斜め後ろの席、窓際の最後列に座る蝶ネクタイの女子生徒が、煩わしそうに前髪をいじりつつそう言った。
 麻宮も、表情に不快とわかるように眉をひそめてそれに言葉を返していく。

「ホント、迷惑だわ、こっちまであんなのと一緒に見られちゃたまらない」
「気をつけなよ? まあ、真奈美なら大丈夫だと思うけど、ああいうのに彼氏盗られちゃった娘いっぱいいるもの」
「サイアクよねー」
「それに、今時無くない? 避けようと思えば避けれるでしょ。変なプライド持っちゃって、キモーイ」
「あ、もしかして、女の子になりたかったとか?」
「それはキモい通り越して変態でしょ、元ホモってことじゃん」

 そんな女子生徒同士の下世話な会話の輪が教室で広がった。ボリュームも徐々に大きくなってくる。
 教室内にいるのが気まずいのか席を立つ数人の少女達は、皆普通のネクタイを締めた女子生徒で、会話に参加しているのは皆蝶ネクタイを締めている女子生徒ばかりだった。
 ちなみに教室に数人しか居ない男子生徒は男子生徒で談笑しているし、女子の会話をあまり気にしていないようだった。



 暗黙の了解だった。
 女子生徒の大半を占める蝶ネクタイを締めている女子生徒。彼女らは“生粋の”女性である。逆に、普通のネクタイを締めている女子生徒、彼女らは“後天的な”女性であった。
 そんな風習ができたのはいつ頃からだろうか、最近ではないが、そんなに昔のことでもなかったはずである。あの大異変以降、いつのまにかできあがっていたものだろう。

「媚男の癖に……ね」

 誰もいない帰り道の路地で、自分のネクタイを指でいじりつつ、麻宮はひとりごちた。



 吉澤晴が男でなくなってしまったその日から、彼にとっての世界は一変した。数日前までの自分なら一目惚れしそうな容姿に、控えめながらもメリハリのあるスタイルを手に入れ、縮んだ身長と合うブレザーに、これだけは馴染みのある前からのネクタイを締めて登校したその日からだ。

 初めは吉澤は、周囲の反応を戸惑いからのものだと思っていた。
 以前の友人は言葉少なに容姿などを褒めて、すぐに離れていく。
 女子のグループには最初から話しかけても不快感を露わにした拒絶にあい、同じく女体化した女子生徒たちにも厄介者扱いされていた。
861 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:23:52.89 ID:2CNPkVjvo
「親が親なら子も子ね」

 やがて一週間、二週間と時間が過ぎていくうちに、関係改善すらできないまま、気づいたらこうなっていた。
 “媚男”と蔑まれるまでになっていた。
 そのせいでもともと爽やかだった吉澤はすっかり内向的になってしまい、声も弱気、態度も小さく、まるで過去の自分を忘れてしまったかのように“女”という小さな箱に自分を閉じ込めるようになっていた。

 今では、ただただ無気力に登校という作業を消化していく存在だった。ショックから立ち直れず、友達もなく、恋人もなく。
 しかし、ある種吉澤はこうなることを予想していた。
 部屋のベッドに埋もれて、何も考えないようにしていても、その光景は未だに彼女の脳裏にこびりついて離れない。

「誰が好きで女なんかに……っ」

 わずか18年前のことだ。女体化現象の要因として、それまでまことしやかに囁かれていた“童貞であることが条件”という噂が、政府発表によって事実となった。そのことによって、男性を失わないために強行策に出る場合が多々発生した。特に古くから家柄が続く名家や古い家柄を持つ田舎ではその傾向は顕著であった。
 その被害者となった少年たちの一人、それが吉澤晴であった。ただ、女体化していることから分かる通り、吉澤に対するそれは未遂で終わっている。
 ただ、それは彼に致命的なトラウマを植えつけることとなった。
 吉澤は男であったとき、女になりたいなどと思っては居なかった。それどころか、忌避していたといってもいい。

 女体化現象の発生以後、いつしか女体化した男性のことを“媚男”と呼び、蔑むような風潮が、特に生粋の女性達を中心としてこの国に広がっていった。
 もともと、男女平等が叫ばれていた時代だった。しかし平等というには程遠く、見当違いな区別や過剰な厚遇により男女の差より一層浮き彫りにされていたが、それをごまかすように見ないふりをしてきたそんな社会は、現象によって崩壊といっても過言ではない状態に陥った。
 男性でも女性でもない、女体化男性。それは少数といって切り捨てられるような数ではなかったし、しかし今までの社会で受け止めるにはあまりにも受け皿が歪だった。
 そして、社会は狂ったまま、未だ制度の見直しすら中途半端で、現状、最低限の人権が残っているだけマシのような、そんな状況であったからだ。

 そんな状態の“女”なんかに吉澤はなりたくもなかったが、過去のトラウマが邪魔をした。彼は性行為を完遂するだけの能力が欠落していた。

「女……なんかに……」

 グシャグシャの毛布にしがみつくようにして、吉澤はうめくようにそう呟いた。


 数日後の事だった、珍しく遅くまで教室に残ってしまった吉澤は、帰り支度をまとめて今まさに教室を出ようとしていた所だった。

「ま、待ちなさいよ」
「麻宮……さん?」


 吉澤が、つとめて意識しないようにしていた彼女から、予想外にも声がかかった。吉澤は少し顔をこわばらせて、しかしそれでも立ち止まって麻宮の方を向いて返事を紡ぐ。
 夕暮れ、オレンジ色の教室に、居るのは二人だけだった。
 二人きりであってもきっと普段の麻宮は吉澤に話しかけたりしなかっただろう。だが、吉澤を呼び止めた麻宮は普段通りにはとても見えなかった。
 目を泳がせ、必死に言葉を探すように手をカバンにやったり机にやったり、とにかく落ち着かない様子が窺い知れる。

「どうして……」
「え……?」
「どうしてあなたは女になってしまったの?」

 吉澤は、殴られたような衝撃を心に感じた。麻宮が紡いだ言葉は、吉澤が延々と苛まれている言葉に他ならない。

「好きでなったわけじゃない……」
862 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:25:00.17 ID:2CNPkVjvo
 そう、なんとか言葉を絞り出したが、とてもじゃないが目線を合わせていることが出来なかった。すっと表情を隠すように外に意識を向ける。

「じゃあ、なんで? くだらないプライド? 政府の発表があってからは、男は性別を選ぶ権利が……」
「そんな権利がどこにある!?」

 吉澤は近くにあった机に思い切り手持ちのカバンを叩きつけた。ダンッとカバンが壊れそうな音が教室に響き、麻宮は思わず圧倒されて、黙りこんでしまう。
 数秒、間があった。二人とも沈黙し教室が静寂で満たされる。しかしお互いはお互いの様子を伺うことを止めなかった。
 再び口を開いたのは吉澤だった。

「男が、女になるのは、少なくとも今の社会じゃ間違いなく損失なんだ。わかるだろ……?」
「わかるわ、極端な男女の人口差、増える未婚女性、少子化。毎日毎日ニュースでイヤってほどやってる。でも、それならなおさら!!」
「俺は、第二次性徴を迎えて、すぐに“犯されかけた”」
「っ!!」

 今度こそ、麻宮は息を呑んだ。
 見ると、吉澤は苦しそうに、今にも泣きそうな顔で、しかししっかりと麻宮を見据えている。
 そして見られている麻宮は、ショックを受けているのか、目を逸らしてしまう。しかし追い打ちのように吉澤は続けた。

「わかるか? 10才やそこらの少年が、よくわからないままに、拒否しても、強引に。されるんだ。幸い最後の一線は超えなかったが、心に傷を負ったって不思議じゃない」
「それ……じゃ……吉澤、あなた……」

 何かに気づいたかのように、麻宮ははっと顔を上げ、吉澤のことを見る。そして吉澤は、覚悟を決めたかのようにキッと麻宮を睨んで、言い放った。

「俺は、EDだった」

 その言葉を聞いた瞬間、麻宮の思考は停止した。
 吉澤も、その言葉を最後に逃げるように教室を出ていって、教室には麻宮だけが一人残された。

「そんな、それじゃ……結局……」

 その言葉の続きは紡がれることはなく、麻宮はしばらくそうして佇んでいた。




 放課後の件から二月が経った。夏休みに突入するのにあと半月は必要だが、それでも後半月、そんな頃のことだった。

「なーなー、麻宮、俺と付き合えよ」

 2年生の男子生徒、宮下明夫(みやした あきお)は、麻宮真奈美にそう告白した。
 場所は麻宮真奈美のクラス、1年3組と廊下との境目。
 宮下明夫は二年生男子の中でも断トツの美男子である。バスケ部の副部長、健康的な肉体とさわやかな笑顔を持つ、人気の男子だった。

「……お断りします」

 麻宮は、そう言ってあとは一瞥もくれずに振り向き、また教室に戻ろうとした、さすがに諦め切れないのか宮下は麻宮の肩を掴んで呼び止める。

「待てよ、とりあえず一回デートして、それで決めてくれないか?」
「ごめんなさい、あなたが悪いんじゃないけど、お断りするわ」

 強引に歩き出し、掴まれた肩を振り払い麻宮は教室の奥へと戻っていく。
 さすがに下級生の教室まで追いすがるのは格好悪いと思ったのか、苦虫を噛み潰したような顔をして宮下は踵を返し、自分のクラスに帰ろうと歩き出す。

「あ、す、すみません」
863 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:25:50.38 ID:2CNPkVjvo
 と、踵を返した彼の正面には吉澤がいた、しかしすぐに上級生に道を譲るように壁際に移動した。
 彼の視線は吉澤の顔、髪の毛、肩、腰、と一瞬で動いて最後に胸元のネクタイにわずかに止まって、すぐにまた廊下の先に目をやって歩き出した。

「いや、こっちこそごめん」
 そう一言を残して、宮下は自分の教室へと帰っていくのだった。



それから数日後、試験も終わりあとは夏休みへ向けて消化試合となった学校で、放課後の校門でのことだ。
 下校する女子生徒達に目をやり、時々手を振られてそれに手を振り返したりしつつ彼は待っていた。
 吉澤は、その日も目立たないように女子生徒と男子生徒との境目のあたり、いつも女体化した男性達が帰る群れに紛れるように校門を抜けようとしていた。

「あ、ちょっとまった。そこのキミ」
「……はい?」

 そんな声で呼び止められ、仕方なく返事を返す。するとそこには吉澤には見覚えのない男子生徒が立っていた。宮下である。

「これからもし予定が空いていたら、ちょっと付き合ってほしいんだが……ダメか?」

 そんな宮下の言葉。それを耳ざとく聞きつけた付近の蝶ネクタイの女子生徒達から、あからさまに視線が降り注いだ。下校中の女子生徒集団が不自然にゆっくりな速度になる。

「その……用事が……」

 吉澤は、女体化してから男と以前のように話すこともできなくなっていた。男から見れば種の保存に負けた負け犬だ。無理もないのかもしれない。自然と声も態度も小さくなる。

「そうか、じゃあいつなら空いてる?」

 ざわ、と周囲がざわめく。吉澤に視線が突き刺さる。

「っ……ごめんなさい」
 
 言っても無駄と悟ったのか、吉澤はそう断ってまた校門の外へ歩き出そうとして……できなかった。

「悪かった、急すぎたな。俺、二年の宮下。宮下明夫。キミは?」
「一年の、吉澤晴……です」
「じゃあ、さよなら、また暇な時にでも声をかけるから」

 吉澤は、そんな声を背中に受けながら、逃げるように足早に学校を去ったのだった。


 翌日だった。吉澤が教室で昼食をとっている時だった。ビニール袋に包まれたコンビニおにぎりを頬張りながら、無感情に昼休みを消費している、その時だった。

「よっ、ハルちゃん」

 宮下だった。下級生の教室に、昼休みに何食わぬ顔で訪れたのだった。
 さすがに吉澤は戸惑った。しかもハルちゃんなどと呼ばれれば無視を決め込むこともできない。

「なんですか……先輩」

 努めて男の時のような低めの声をだそうとするが。それは叶わず。不機嫌なことはありありと伝わっただろうが、それだけだ。

「いや、昼飯いっしょにどうかなと思って……って、コンビニおにぎりかよ、もう少しなんかないの?」
「これで足りますから」

 教室中の大半の女子の視線が、今この場に注がれていた。宮下が吉澤に話しかけるたびに視線が強まり、吉澤が宮下を鬱陶しそうに返事するとさらに視線が強まる。
864 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:27:18.73 ID:2CNPkVjvo
「にしても……なぁ、ほら、これでも食えよ」

 と、宮下は自分の食事の菓子パンからチョコロールを吉澤の机に置いた。

「ダイエットしてるんです」
「嘘ばっかり、そんなにかわいいのにダイエットなんかいらないって」
「もうお腹いっぱいです」
「じゃあ、おやつにでも食べてよ」

 二人の間をチョコロールが行ったり来たり、最終的には断り文句が思いつかなくなった吉澤の机に落ち着くことになった。

「で、いつなら予定空いてる? 夏休みならいいかな?」
「それは……お断――」
「あ、俺はバスケの練習があるからあんま空いてないけど、来週の日曜なんてどう?」
「いや、だから断――」
「行き先は、そうだな、とりあえず水族館とか」
「……」

 吉澤の発言を潰すように、いや、実際狙って潰しつつ、宮下は強引にスケジュールを話していく。
 そのうちに吉澤は黙ってしまった。

 と、ちょうど予鈴が鳴って、宮下が引き上げていく。

「もうこんな時間だ、またねーハルちゃん」

 そう言われる吉澤は、しかしすでに疲れきっていた。
 そしてそんな吉澤を、麻宮は黙って見ているのだった。


 翌日の放課後だった、吉澤はまた、宮下に捕まっていた。場所は渡り廊下。他の生徒もまばらにいるが、昇降口ほどではなかった。
 そして、また問答を繰り返しているうちに、すっかり生徒の数も減っていく。

「ね、いいじゃん、デートくらい……」

 吉澤は、そんな宮下の言葉に辟易していた。しかし、逃げるにも逃げれず。困り果てたまま相手が諦めるのを願っていた。
 しかし、そこで麻宮が横合いから二人の間に割って入った。まっすぐに宮下を見て、きっぱりと言い放つ。

「嫌がっているでしょ、いいかげんつきまとうのはやめたら?」
「なんだ、キミは関係無いだろ」
「関係なくても、不快だわ。嫌がっている女の子に無理やり言い寄るだなんて」
「女の子? ああ、そうだな、女の子ね。……媚男じゃなかったのか? 麻宮」
「媚男だろうが性別は女よ、わかったなら放っておいて!」

 吉澤の手をとって、麻宮は歩き出す。それまでの迷いはどこへ消えたのか、胸を張って堂々と歩いてその場を去った。

「ありがとう、麻宮、助けてくれて」
「これくらい……私も彼は嫌いなのよ」

 校門を出た二人は、そこで手を話して、一言ずつ交わし、そして帰宅していった。



 そして、夏が過ぎ。
 夏休みが明けてみれば、教室は一変していた。
 それまで、蝶ネクタイの女子生徒の中心にいた麻宮は、教室の席で一人、ぽつんと座っていた。
 吉澤も変わらず一人だが特に変化はない。しかし麻宮は違った。
 原因は明白だった。
 “媚男”である吉澤をかばったことが、原因だった。
 宮下は、あの日の一件をそれとなく女子生徒達に漏らしていたのだ。今まで散々“媚男”をこき下ろしておいて、突然庇い、女子人気の強い宮下を敵に回してしまった。
 それだけで、孤立するには十分な理由だった。

 吉澤は、すぐに孤立している麻宮に気づいた。しかし、ここで吉澤が励まそうものならば、より孤立が強まるだろうと、あえて何もしないまま、時は過ぎた。
865 :安価「格差社会」 ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:28:20.88 ID:2CNPkVjvo
 麻宮は考えていた。孤立した時間を使って、今までの自分について考えていた。
 クラスメイトの女体化男性を“媚男”と蔑み、見下し、生粋の女生徒とだけ友だちになって、天然女性の美少女という自分に驕り、いったい自分は何をしてきたのだろうかと。
 吉澤と話したあの放課後、彼女の言葉で自分は何を思ったのかを。
 
「私は……間違っていたの?」

 自問する。どうしてあんなにも執拗に“媚男”を、吉澤を下に見て、差別したのかを。

「私は……そうだ私は……」

 と、麻宮はそこで、気づいた。

「私は、まだ、吉澤のことが諦めきれていなかったんだ」

 そう呟くと共に、諦めないといけない、と麻宮は強く思う。もはや女同士だ、いつまでも未練に引きずられている場合ではなかった。
 ケジメを、つけなければならなかった。

 放課後の教室、今度は意図的に話しかけて、示し合わせて吉澤と二人きりになった。吉澤はいかにもバツが悪そうな表情で所在無げにしていた。

「吉澤……」
「なに、麻宮さん」
「私、今まで吉澤にひどい事ばかりしていた、本当に、ごめんなさい」
「今更……謝られても。それに、媚男差別は麻宮さんが始めたことじゃないし」
「それでも、吉澤をよりひどく扱っていたのには、理由があるの」
「理由……?」
「私は……吉澤、あなたのことが好きだったの。男のあなたが」

 麻宮の言葉に、さすがにショックを受けたのか吉澤は言葉を失った。唖然として麻宮を見続ける。
 そんな吉澤に、麻宮はさらに声をかけた。

「きっと、あなたが女性化して、裏切られた気持ちになったのね。私は。だからあんなに辛くあたってしまった。周りまで巻き込んで」
「……」
「本当に、ごめんなさい」

 しっかりと、麻宮は頭を下げた。そのまま、頭を上げずに静止し続ける。
 沈黙は、しかしすぐ、吉澤の声で破られた。

「俺は、これは許すも許さないもない話だと思う」
「……そうね。やっぱり許されることじゃ……」
「違う。俺はもう男じゃない、でも、でもな、女になったつもりもない……」
「それって……」
「どうして、性別は2つでないといけない? 男か女か、それだけでないといけないのか?」
「いや、違うはずだ、俺は女性化男性だが、両方の性を経験した俺は、もはや単なる女でもないんだ」
「じゃぁ……」
「人間は、人間でいいじゃないか。男か女かなんて、染色体一本の違い、誤差の範囲だと、そう思って過ごしていけばいい」
「そんな簡単な問題じゃ……」
「そんな簡単な問題にしないといけないんだ。要は、俺とお前が別に友達になろうが恋人になろうが、それは性別にとらわれる必要のないことなんだよ」
「……吉澤、それで、いいの?」
「ああ、いいよ。あと、宮下先輩から助けてくれたのは、素直に感謝してる。ありがとう」

 お互いにもう一度礼をして、麻宮と吉澤は、そのまま微笑み合った。そして隣に並んで。夕焼けに染まる教室を後にするのだった。
866 :ぴぬ ◆zK/vd3Tkac[sage saga]:2012/01/12(木) 02:33:58.31 ID:2CNPkVjvo
はい、という訳で以上です。
溢れ出るコレジャナイ感……ぁーやっちまったな!
格差社会といえばおっぱい格差社会とかあるだろうという諸兄の想像をガン無視してのこのありさま。

そういうおっぱいおっぱいな話は得意な人に期待しつつ……
あ、作中の創作の差別用語「媚男」は「びだん」と読みます。明記してないことにあたふたしつつここで付記を。

それでは失礼します!


(あーファンタジーで思い出したけど自分勇者モノ放置しすぎだろjk)
867 :以上パー速にかわりましてアニソンスレがお送りしました[sage]:2012/01/12(木) 21:57:36.62 ID:4uVQcAQEo
>>866
乙なのです!
こんな格差社会…恐ろしや…
生々しすぎてちょっと恐いです(泣

ようし、そしたらおじちゃんも投下しちゃいますか
868 :安価『就活』1/2 ◆yhNqGdIG7M[sage]:2012/01/12(木) 22:00:01.99 ID:4uVQcAQEo
「なあ宇喜多(うきた)、高校出たら何やりたい?」
 何の前触れもなく、隣の席に座っていた入鹿(いるか)が質問を投げてきた。あまりにも突然すぎたので、意味も分からなく入鹿の右の頬を殴る。
 ゴムボールみたいにぐにゃりと潰れ、何かが壊れる感覚が右手にあり、どこからかごきりと嫌な音が聞こえた。
 いや、聞こえていない、聞いていないよ、気のせいだよ聞こえたフリをしよう。
「おいおい……急に殴ってくること無いじゃないかよ……」
 床に倒れた体を起こし、涙声になりながら右の頬をさすっている。おお、痛そうだ。
「そんなの急に質問投げてくるお前が悪いんだろう」
「それは俺が悪かったけど、殴ってくるお前もどうかと思うぜ」
「気が動転しちゃってね、ってことにしておいて」
「それなら仕方ないな……」
 うーんと唸りながら彼は席に戻る。よかった、入鹿が馬鹿でよかった。
 頬が折れているとか難癖付けられたら面倒なので、さっさと話をすり替える。
「それで、何かがやりたいってのは将来の仕事ってことだよな?」
「ああ、そうだよ」
「うーん、女体化してなければ自衛隊にでも入ろうかと思ってたんだけどなあ」
 残念ながら俺は女性とご縁が無かったので、女体化してしまった。
 ちなみに入鹿は非童貞。こんちくしょう。
「女性でも自衛隊入れるでしょ? 結構多いじゃん、女性自衛官」
「いやね、こう銃持って戦車乗って突撃! みたいなことやりたかったんだよね」
「なんだよそれ」
「女だとそんなこと出来ないでしょ、多分。力仕事ってイメージがあるし」
「そんなことないと思うけどな」
 口を尖らせながら何か不満そうな口調。今度は左から殴ってやろうかと思ったが、さすがに両方破壊するのは悪いので止めた。
869 :安価『就活』2/2 ◆yhNqGdIG7M[sage]:2012/01/12(木) 22:00:34.99 ID:4uVQcAQEo
「そういう入鹿、お前は何がしたいんだ?」
「そうだなあ、これといってやりたいことが決まってないから……進学かな?」
「おいおい、自分から振っておいてそれかよ」
「別にいいじゃねえかよ」
「まあ悪いとは言わないけどさ」
「でも自衛隊できないんじゃ別のやりたいこと見つけないとな」
 女体化した頃は自衛隊に入れないと三日三晩枕を濡らしたが、最近落ち着いてきた。
 自分の中では進学する気は全く無く、卒業と同時に仕事をしたいと思っている。
 その進学したくない理由というのも、勉強が面倒だからという不純な動機であると付け加えておく。
「例えば……花屋とか?」
「水、毎日あげるの面倒だから無理」
「ケーキ屋とか?」
「細かい作業嫌いだから無理」
「パン職人とか?」
「出来立てのパン熱そうだから無理」
「保育園の先生とか?」
「子供連れ去りそうだから無理」
 すべて間髪入れずに即答。こう考えてみると俺が出来そうな職種って無いんじゃないかって思ってくる。
「なんだよ、無理無理って。そんなこと言ってたら全部無理じゃんかよ」
「そうなるね」
「そうなるか……」
 しばしの沈黙、そして二人の答えが出る。
「結局は……」
「結局は?」

「就活面倒だよな」

870 :以上パー速にかわりましてアニソンスレがお送りしました[sage]:2012/01/12(木) 22:01:57.23 ID:4uVQcAQEo
という訳で安価>>852の『就活』でした

久しぶりの投下なのでgdgdな感じですが…ご勘弁を…

これを機にもっと投下できるよう頑張ります
871 :でぃゆ(ry[sage]:2012/01/12(木) 22:26:19.96 ID:OoUELv9AO
>>870
永久就職オチではない…だと…?
続くんですね、わかりますww

しかし良い距離感ですなぁ…ニヤニヤ
にょたに殴られる非童貞とか、リア充滅せよ。

乙ぐっじょぶでした!!
872 :以上パー速にかわりましてアニソンスレがお送りしました[sage]:2012/01/12(木) 23:36:33.11 ID:4uVQcAQEo
>>871
感想ありがとうございます!
永久就職…そういうオチもありですねwwwwww
ちょっと考えてみますw

まとめも終わりました!
抜けている箇所などなどありましたらご一報ください
873 :以上パー速にかわりましてアニソンスレがお送りしました[sage]:2012/01/15(日) 04:23:00.50 ID:FlHoXF5m0
よ〜しおいたん安価してみちゃうよ〜↓
874 :以上パー速にかわりましてアニソンスレがお送りしました[sage]:2012/01/15(日) 10:11:59.07 ID:+RRg7FAAO
>>873
女体化あるある話
875 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage saga]:2012/01/15(日) 21:12:57.97 ID:w02x2TAko
投下したくても出来ない・・
876 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(千葉県)[sage]:2012/01/15(日) 22:15:28.24 ID:tChPQko8o
どうしたよ
877 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/16(月) 00:40:35.63 ID:uwd3jQiTo
どうか(投下)したんだよ、ってことさHAHAHA
878 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 00:52:21.38 ID:TExO36r30
こんばんわ。
また投下していきます。今回は文化祭前編となります。
879 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 00:54:54.10 ID:TExO36r30
ついにこの日がやってきた。
ある者にとっては待ちに待った、ある者にとっては忌ま忌ましい文化祭。
俺は言うまでもなく後者だ。
生憎と涼二の適切な処置を受けた足の具合は絶好調で、体調も無駄に万全だったりする。
強いて言うとすれば、気が重くて胃が痛むことくらいか。

学年の女体化者全員を集める「にょたい☆かふぇ」。
着替えなどの準備するにはまだ少し時間が早い。ということで、涼二と典子を伴って会場の下見に来ている。
シフト制とは言えそこそこの人数が動き回るのだから、会場も大きめの教室が使われていた。
学年全体での出し物なので、会場の用意は実行委員+有志で行ったそうだが、かなりの人数が集まったそうだ。
それだけ楽しみにしている人間が多いということだろう。おぞましい話である。

「うぉ、すっげー気合いの入れ方だなこりゃ。忍、しっかり働くんだぞ!」
「きれーい!可愛い!これだけお膳立てしてもらったんだから、頑張らないと!ね、忍っ」
「帰りてぇ…」

カラフルに彩られた看板に、きらきらと輝く電飾。どこから集めたのか、可愛らしい小物も無駄にセンス良くあちこちに置かれている。
使われているテーブルや椅子は元々この教室にあったのであろう地味な物だが、そこは上手くテーブルクロスやクッション、
レースなどでごまかしたようだ。ぱっと見では分からない。
入口付近にはちょっとしたステージが設置されているが、あれはもしや写真撮影用だろうか。
…撮るとしたら客とウェイトレスの写真だろう、常識的に考えて。

とにかく、文化祭の出し物としては力の入れっぷりが異常だ。全て業者が用意したと言われても納得してしまうレベルですらある。
そして中でも一際目を引くのは、会場の外の壁に掛けられた巨大なパネルだ。

「…なぁ。俺たちにはプライバシーというものが無いのか?」
「いかがわしい店ってこんな感じなのかね?まだ行ったことねぇから知らんけどさ」
「ちょっと中曽根、それセクハラだよ…まぁ、体重が載ってないだけ良いんじゃないかな?」
「絶対手芸部が流した情報だろこれ!?コンプライアンスがなってねぇぞ!」

その巨大なパネルには、各クラスの女体化者の写真が貼り付けられていた。
シフトの時間と、身長と、スリーサイズと、誰のものか分からない一言コメントつきで。
涼二の言うことは間違っていない。男の頃に興味本位で覗いた風俗のサイトが、こんな感じだったと思う。
きっと店に出向いても、このようなパネルが迎えてくれるのだろう。

「えーっと…忍はどこだ?」
「おい!俺の機密情報を見るんじゃねぇよ!」
「あった、ほらこれ!あははっ!写真、可愛く撮れてるよ?」
「この満面の笑みはカレーパンを手にした時の顔だろ。あ、ほら。カレーパン持ってるし」
「…いつの昼休みだろうな。涼二っぽいのが微妙に写ってるし」

全く身に覚えがないが、この上なく幸せそうなツラをした俺が写っている。
以前委員長が言っていた、おっかけによる盗撮写真がこれのようだ。
他の女体化者の写真もよく見れば、カメラ目線のものがほとんど無い。盗撮写真ばっかりじゃねーか。

「このコメントって誰が書いたんだろうな?なになに、『学年1のちびっこ、西田忍ちゃん。身長に見合わない大きなおっぱいに注目!
 残念ながらお触り厳禁ですが、たっぷり癒されてくださいね♪ただし猫のような愛らしい見た目とは裏腹に、かなり凶暴との噂も。
 取り扱いはくれぐれも慎重に!餌は与えないでください☆』…だとさ。ぷっ…」
「誰が何で誰を癒すって!?おいこれ書いたヤツ出てきやがれよマジでえええッ!!!」
「こらこら。そうやって怒るから凶暴なんて書かれちゃうんだよ?」
「違うんだよ!本当の俺はこんなんじゃないんだよ!でも何故かいつも俺の逆鱗に触れる出来事ばかり起こるんだよおおッ!!」

こんな紹介文では、それこそ風俗と変わらない。「お触り厳禁」と謳われてはいるが、学校行事としてこれで良いのか?
ちなみに他の連中の紹介文を見ると、「すらりと伸びた手足が〜」とか、「8等身のモデル体型が〜」とか、
概ねそんな感じのことが書かれている。…悔しい。
880 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 00:57:42.03 ID:TExO36r30
パネルを一通り眺め終わり、入口付近に書かれた説明事項を読んでいた涼二と典子が何かに気付いたらしい。

「指名料は+1000円なんだな」
「はぁ!?指名ってなんだよ!?」
「指名した娘がオーダーと配膳をしてくれて、最後に記念撮影もできるみたいだよ?」
「あのステージはやっぱりそのためにあるんだな…」

指名はどうか知らないが、店によってはメイド喫茶でも記念撮影ができると聞いたことがある。
そんなサービスをこの店で提供したところで、少なくとも俺を指名するような頭の可哀相な人間がいるとは思えない。
でも、周りがどんどん指名されていったとして、俺だけぽつんとしているのも…それはそれで嫌なような気がする。
結局、指名があろうがなかろうが、恥ずかしい思いをすることに変わりないということか。
…いよいよやりたくなくなってきた。ここは必殺・持病の仮病で遁走を謀ってみようか…?

「…西田君。良からぬことを考えてますね?」
「どわ!?せ、先輩っ!?」
「おっと、何だ何だ?」

唐突に背後から両肩に手を置かれ、耳元で囁かれた。慌てて飛びのき、涼二を盾に距離を取る。
あの日以来、何度か校内でこの人に会うことがあった。
大体向こうから気付いて挨拶をしてくれるのだが、妙にボディタッチが多いのが恐ろしい。「あの行為」を思い出してしまう。
苦手というか…相手にすると調子を狂わされるタイプの人だ。

「はい、おはようございます。それで西田君、良からぬことを…」
「考えてません!いやぁ、あはは!た、楽しみだなぁーっにょたいかふぇッ!」
「そうですか。なら良いんですが…てっきり仮病を使って逃げようとしてるのかと思いまして」
「そ、そんなわけないじゃないですか…いやだなぁ先輩…」
「気のせいなら良いんです。私が心を込めて衣装を作ったのに、逃げ出すなんて言い出したら………今度こそ目茶苦茶にしちゃおうかと」

ぞわり、と。
全身の毛穴が開く。あれでもまだ軽い方ですよ、とでも言いたげな雰囲気だ。
冗談じゃない。あれ以上やられたらどうなるか分からないし、そして俺はまた、拒絶どころか懇願してまで快感を得ようとするだろう。

ニコニコとしている地味子先輩と、たじろぐ俺。
事情を知らない典子と涼二は、頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。

「目茶苦茶って?何の話?」
「な、何でもねぇって!プロレスごっこみたいな!?そんな感じ!?」
「女同士のプロレスもエロくて良いよなぁ。是非やってくれ」
「西田君は逃げないと言ってくれましたが、お友達がこう言ってることですし…」
「涼二ぃぃぃ!てめぇはちっと黙ってろぉぉぉッ!!」

意味を理解しているのかしていないのか、涼二がとんでもないことをのたまう。

ちょ、お前が変なこと言うから先輩の手がわきわきし始めたじゃねぇかよおお!
え?おい、こんな場所で!?二人とも見てるのに!?
せめて、もっと人のいない場所で…って違うだろ俺!?

「おっと、本題を忘れてました。そろそろお着替えの時間なので、呼ばなければと思って探してたんです」

ぴたりと動きを止めた先輩が、思い出したように言う。
店内の時計を見ると、確かにそろそろ支度をしなければいけない時間になっていた。

「あ…そ、そうっすよね!行かないとですよねぇ!」
「なので、また今度にしましょう」
「…。」

さらりと不穏なことを言われた。
881 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 00:59:05.34 ID:TExO36r30
着替えは手芸部の部室で行うことになっている。
シフト制なので俺の出番はまだ先なのだが、全員参加で「開店式」なるものを行うらしいので、
どちらにしても着替えはしておかなければならない。

涼二はうちのクラスの本業である、クレープ屋の準備へ向かった。
こちらの開店式に間に合うように中抜けしてくると言っていたが、そこまでして俺を笑い者にしたいのか?
典子は俺のメイク係として同行している。
昨日までに何度も断ったのに、頑なに化粧をすると言って聞かなかった。
仕方ないので、今日は前に一緒に買いに行った化粧品を自前で持ってきた。

さて、まずは着替えか。先輩さえいなければまた脱走したいところだが、
あの逃走劇のあった日に涼二に向かって「目に焼き付けとけ!」と啖呵を切ってしまった事実があるのが痛い。

…元男に二言はねぇ。やってやるよ。

「おっす西田、ちゃんと逃げずに来たな。ま、オレもだけどさ」

部室に入ると、サイズ測定の日と同じ席に菅原が座っており、こちらに気付いて声を掛けてきた。
横に腰を降ろす。典子は俺の横に座った。丁度俺が挟まれた状態だ。

「まぁな。今更逃げたって後が怖いだけだし。あ、えーっと…こっちはツレの藤本な」
「忍のメイク係の藤本です!菅原君だよね?」
「ん?あんたオレのこと知ってんの?」
「あはは、にょたっ娘はどうしても有名になっちゃうから。それにしてもやっぱり…近くで見てもホントに美人さんだねっ!羨ましいなぁ」

俺だって羨ましいわ!

「気ぃ悪くしたらスマンけど、客観的に見りゃそうだろうな。別にオレに限った話じゃなくてさ。西田だって超可愛いだろ?」
「うん、忍は超可愛いよぉーっ。つい頭を撫でたくなっちゃうよね!」
「何かマスコット的な扱いを受けてる気がするんだけど…」
「さぁ!にょたっ娘たち、ついにこの時がやってきましたよ!えへ、あはッ!た、楽しみだねぇ!」

そんな話をしていると、早くも鼻血にまみれた変態部長の掛け声と共に各自の衣装が配布され始めた。
配布される側は、諦めの境地に達したような表情で受け取っている。もう抵抗しても無駄だと分かっているようだ。
俺と菅原の物らしい衣装が入った手提げ袋を手に持った地味子先輩が、こちらに近付いてくる。
882 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:00:05.69 ID:TExO36r30
「菅原君はこれ、西田君はこれですね」

受け取った袋の中身を確認。覚悟を決めたはずなのに、きちんと折り畳まれたそれは、やはりあの時に見た物と同じで目眩を覚える。
間近で見て思い知らされた。彼女たちの趣味兼部活動による作品なのに、素人が作ったとは思えない完成度だ。
もっとまともな服飾品を作れば良いのに、と思わざるを得ない。

あれ?何か他にも入ってるぞ?…これって。

「…先輩、何すか?これ」
「猫耳と尻尾のようですね」
「それは見れば分かりますって!何でこんなのが入ってるんです!?まさか着けろとか言いませんよねぇッ!?」
「…私は入れてませんよ?いや本当に。私の処女を賭けても良いです」

何故か俺の袋には、萌え重視の安っぽいメイド喫茶で使われるような猫耳と尻尾が入っていた。
物自体は、気持ち悪くない程度にリアルな作りではあるけど。
こんなのは契約?のうちに入っていない筈だ。別に先輩の処女はいらないが、先輩が入れたとしか思えない。

「オレのには入ってねーぞ?良かったな西田、特別仕様じゃん」
「誰かがこっそり追加したのでは?あ、付箋が貼ってありますね。『>>625』…?人名でしょうか?」
「やっべええ!!誰だか知らねぇけどぶん殴りてえええッ!!!」

叫んでから気付く。
これが>>625とかいう素性の明らかでない第三者の仕業なら、俺にはこれを着用する義務などないじゃないか。
手芸部が用意した衣装を着るという話で決まっているんだから。
単に俺を弄りたいのか、それとも何かを期待したのか。意図など知る由もないが、こんなものは廃棄処分させてもらうとしよう。

「まぁ良いや。こんなもん、ゴミ箱にぶち込んで…」
「これ、きっと忍のファンが入れたんじゃない?ファンサービスだと思って着けてみたらどう?」
「え?何言ってるの??典子さん???」
「そうですね。むしろ『その手があったか』的な気分です。…私としたことが、遅れをとりましたね。この>>625なる人物、かなりのやり手かと」
「ちょっと先輩まで!?俺はこんなの着けたく…」
「…西田君が着けてくれないなら私、全裸になりますよ?今ここで。良いんですか?」
「どんな脅迫の仕方ですかそれ!?」

先輩がここまでキてるキャラだったとは思わなかった。やはり手芸部、侮れない。
しかし…今までの傾向から察するに、ここで抵抗するのは無駄な足掻きだ。
何故なら俺の人生はまるで、ストーリーとして書き上げられたかのようにことごとく悪い方向へと転びやがるから。

「…はぁ。分かりました。分かりましたよ。着けりゃ良いんでしょ…」
「まぁこの衣装だからな。今更オプションがついたって、たかが知れてるだろ」
「流石、忍は分かってるぅ!いい子いい子!」
「私は実に良い後輩を持ちました。では西田君、試着室へどうぞ」

もし男の頃の俺が今の俺の状況を見たら、きっと発狂して頭を地面に打ち付けていただろう。
883 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:03:13.68 ID:TExO36r30
「西田君、ちゃんと着れましたか?何なら私が手取り足取り…」
「だ、大丈夫ですよ!サイズも『胸以外』はピッタリですから!」

カーテンの向こうから、先輩の声が聞こえてくる。
女物の服の着方は、それが今まで着たことのないタイプの服だとしても何となく分かるようになった俺。
今回用意された衣装も難なく着れてしまった。
超ミニ丈のワンピースの上からエプロンを着けて、パニエを仕込み、カフスと首リボンを巻く。メイド風ウェイトレスな感じだろうか?
ヘッドドレスも用意されていたが、例の猫耳のせいで今回は必要なくなってしまった。どうせ着けるなら、ヘッドドレスの方が良いんだけど。
エプロンは全員白で共通だが、ワンピース部分の色は各自のイメージに合わせて変えたらしい。
菅原は黒。白黒カラーなので、メイド服のようにも見える。というか、逆にメイド服の定義って何だろう。
今となっては、かなりの変形コスチュームもメイド服として謳われている気がするし、
これもメイド服だと言ってしまえばそう見えるかも知れない。…あ、話が逸れた。

凛とした美少女の菅原には、シャープな黒がよく似合う。先程チラ見した限りだと、武井はモスグリーン、小澤はオレンジだった。
マイペースな武井に、快活な小澤。それぞれのイメージに確かに合っていると思う。
そして俺はチェック柄の…ピンク。正直、ゲロを吐きそうなくらい甘々なカラーリングである。一体俺の何処がピンクなのかと問い詰めたい。
そんなピンクいワンピースは胸元が大きく開いており、アンダーバスト辺りをやや絞ったような形になっている。
そのせいで、否応なく谷間が強調されてしまう。あぁ、ピンクって…煩悩カラーということなのか?
他のサイズはぴったりなのに、ここだけがタイトなのは何か作為的なものを感じる。

「…胸のサイズ、間違えてません?」
「緩かったですか?」
「いや、むしろ少し苦しいくらいですけど…」
「それが正解です。そういう風に作りましたから」

やっぱりわざとかよ!いやいや、かなり目立つぞこれ…大丈夫なのか?風紀的な意味で。
俺、どうなっても知らねーからな…。

「もう着終わったのかな?早く見せて欲しい!」
「オレももう着終わってるぜー。自分で言うのもアレだけど、ぶっちゃけ超可愛いぞ?」
「今出るよ…」

典子と菅原に急かされ、カーテンを開けて外に出る。
おかしいところは無い筈だ。この服そのものがおかしいということはさて置き。
884 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:03:57.52 ID:TExO36r30
「…まぁ、こんな感じだけど」
「…かーわーいーっ!可愛いよ超可愛いー!!」
「むがっ…!」

目を輝かせて待機していた典子の乳が襲い掛かってくる。
久々に抱きつかれたが、女になって暫く経った今でも、この感触と洗剤の匂いがやっぱり気持ち良い。
今はもう恋愛感情が無くなったので、余裕を持って楽しめる自分がいる。

「おいおいその乳、目立ちすぎじゃねぇ?全体的にロリっぽいのに、そりゃ反則だろ」
「そうなんだよ、これ大丈夫なのか?やりすぎだって言われて、謹慎でもさせられたらたまんねーぞ」
「いきなり謹慎はないでしょ?どうしてもダメなら、先に忠告があると思うよ」
「…我ながら最高の出来ですね。もはや理解不能なレベルの可愛さです」
「むぅ…そうだ、尻尾はどうするんですか?ぬ、縫わなきゃいけないなら、無理にやらなくても…」
「ナメないで下さい。そのくらい、呼吸をする手間と変わりません」

先輩は裁縫セットを取り出すと、俺の後ろに回ってワンピースのスカート部分に尻尾を縫い付け始めた。
尻尾には既に付け根を縁取るように布が付けられており、そこをワンピースに縫い止めるらしい。
ちくちくとやっているかと思えば、一瞬で終わってしまったようだ。
手芸部員の肩書は伊達じゃないということか。俺が元男で裁縫とかには疎いからと思いきや、隣の典子も驚いている。

「流石というか、何と言うか…」
「凄い…」
「元男のオレたちにゃ、こんな芸当できっこねぇよなぁ」
「料理なんかも良いですが…女の子としてはこんなことも出来ると、なお良いのでは?その気があれば今度教えてあげますよ」

最近よく耳にする女子力(笑)というヤツか。
ぶっちゃけ小馬鹿にしていたが…この手際を見せつけられては、裁縫が全く出来ないのが恥ずかしい気すらしてくる。
料理は少しずつ覚えているし、ついでに裁縫なんかもアリかも知れない。

涼二のヤツ、ちょくちょく靴下に穴が空いてたりするし。縫ってやったら喜ぶかな?
…って、また何考えてんだ俺。何で涼二ありきなんだよ!アイツは別にどうだって良いだろうが!
くそ、最近こんなんばっかりだ…。

「…考えときます」

関係ない。別に涼二は関係ないからな。
885 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:05:42.25 ID:TExO36r30
「あ、奈緒ちゃんと梓ちゃんだ。やっぱり二人もすっごく可愛い!」
「やぁ西田に藤本。その猫耳と尻尾は特注かな?よく似合ってるじゃないか」
「おはよー!うわぁ、ピンクのにゃんこだ!かーわいい!えいっ」
「ふがっ、ぬ、これもなかなかどうして…」

菅原が自分のクラスの連中と話しに行ったのと入れ替わりに、着替え終わった武井と小澤がやってきた。
テンションが上がった小澤に抱き締められる。大きくも小さくもない小澤の乳も悪くない…じゃなくて。
やっぱマスコット扱いだよな、俺…。

解放されてから、改めて二人を眺めてみた。
モスグリーンとオレンジはそれぞれによく似合っているし、程よく強調された胸元の、程よいエロさが非常に良い。俺のは強調されすぎだ。
しかしこいつらときたら…よく恥じらいもせず、しれっとしてられるな。

「猫耳と尻尾は>>625とかいう変態紳士に仕込まれたんだよ。それを典子と先輩がノリノリで着けたがるから…」
「あはは、そうだったの?でも似合ってるから良いんじゃない?」
「でも不思議だよね。忍の気分と連動してるみたい」
「…へ?」
「僕もさっきから気になってたんだ。それ、どういう仕組みになってるのかな」

二人に言われ、尻尾を見てみる。………勝手に動いてるんだが?
いやいや、おかしいだろ。マジで何だこれ?「勝手に動いてる」のを見て驚いたせいか、今度はピンと立って毛が逆立ったぞ?
確か猫の尻尾って、感情を表してるんだよな…。
これじゃ本当に猫みたい…っつーか、どうなってんだよこれ?何か怖いんだけど。

「ふむ。こうしてみたらどうでしょう?」
「あ…」

先輩に頭を撫でられる。ゆっくり、じっくり、優しく。
何で俺っていつもいつもコレをやられるんだ?女になってからしょっちゅうだぞ。でもこれ、気持ち良いんだよなぁ。そう思うの俺だけ?
こう、あったかくて、ふわふわして、周りから見たら多分、目がとろーんと…。

「また動きが変わりましたね。…気持ちが良いと、こうなるんでしょうか?」
「…はッ!?あ、遊ばないで下さいよ!マジで不気味な尻尾だなくそ!」

どうやら本当に俺の感情に合わせて動いているらしい。
センサーらしきものは無かった筈だが…あったとしても、感情で制御するなんてのは今でも研究中の分野じゃないのか?
サイ〇ミュ兵器かよ。そんなものをこんなものに使うなんて、科学力の無駄遣いだろ。

気持ち悪いことこの上ないが、先輩や典子たちはすっかり気に入ってしまったらしく尻尾でじゃれている。
今日一日は我慢するしかない、か…。



「西田ちゃああああああん!自前でオプションを用意してくるなんて、そんなに楽しみにしてくれてたんだね!?」
「げっ、厄介なのが来た…」

変態部長のお出ましだ。またも抱き締められて乳が以下略。
決して自前で用意したのではないと、再度説明する羽目になってしまった。

「という訳なので、この怪しい尻尾は俺の私物ではなくて…」
「んー。どうでも良いや!たべ、食べて良いよね?頂いちゃって良いよね??」
「いやいや何でそうなるんですか!?ヤバい、目がヤバいこの人ッ!ちょ、せっかく着てやったのに脱がすんじゃねえええッ!」
「だ、大丈夫!堪能したら私がまた着せてあげるから!さぁ、脱ぎ脱ぎしよーね!はぁ、はぁ…!」
「…落ち着いて下さい部長。今からじゃ開店式に間に合いません」
「そういう問題でもないですからッ!!」

先輩が止めてくれたが、根本的な解決になっていない。
彼女の望みである、自分の考えた衣装を着た女体化者がこれだけ集まっているのだ。
もう血走った目やら鼻血やらでエラいことになっている。
先輩もそうだが、この部長も手芸の能力自体はかなりあるのだろうに…方向性が勿体なさすぎる。
俺を諦めた部長は、他の女体化者を襲いに行った。各所で悲鳴が上がっている。
…合掌。
886 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:07:08.95 ID:TExO36r30
さて、開店式とやらの前に…。

「忍、そろそろお化粧しよっか?忍をもっと可愛くするために、私頑張っちゃうよー」
「…だよな、丁度そう思ってたところだよ。そういや武井も今日は化粧してるんだな?」
「小澤にやってもらったんだ。自分でやるのはまだ自信が無くてね」
「いつも可愛いけど、今日はもっと可愛いでしょ?眼鏡で暗い印象にならないように、ちょっとだけチーク乗せてるんだ」

武井の顔にも、うっすらとではあるが化粧が施されていた。
黒ぶち眼鏡の奥の目は普段よりも大きく見え、チラリズム的な効果が期待出来そうだ。
普段は俺と同じく化粧っ気のない、武井の新たな表情。惚れ直す輩が大量発生してもおかしくない。

「にょたっ娘は皆そうだけど、薄化粧で良いからね。すぐ終わるよっ」
「私ももっとがっつりやってみたいんだけどなぁー。やり過ぎると水商売の人みたいになっちゃうし!」
「小澤は本当に順応してんなぁ…」

鞄から、以前典子と買いに行った化粧品を取り出す。
あれから実はほんの少しだけ…気が向いた時に練習をしたので、マスカラやらグロスやらには幾らか使用感がある。
それを見た典子は何やら満足気だった。
今でも化粧には然程興味はないのに、俺は何を思って練習をしたのだろう?
自分でも動機の分からない、その妙な努力がバレてしまったのがやけに恥ずかしい。

「ちょっとは自分でも使ったんだ?やっぱり、恋する乙女は自分を可愛く見せたいからね!どうする?今日は自分でやってみる?」
「なっ…!」
「西田が恋する乙女だって?相手は…妥当な線でいけば中曽根か」
「うっそ!?ほんとに!?でもでも、中曽根君とは幼馴染みだもんねぇ。私もそうだから、何か親近感あるかも!」
「色々ちっげーよ!!恋なんてしてねぇし、してたとしても何で…りょ、涼二なんぞに…!そんなことどうでも良いからさっさとやってくれよ!」
「恥ずかしがらなくても良いのにー。ま、それじゃ始めますか!」

顔が熱い。動悸が治まらない。本当に俺、どうしたんだろう。
涼二といるといつも楽しくて、ドキドキして、もっと匂いを嗅ぎたくて、また飯を作ってやりたくて、耳掃除だって。
アイツは親友だろ?親友にそんなことを考えるのは普通なのか?

…逆に、親友だからかも知れない。一番距離が近いから、変な気分になるんじゃないか?
別にアイツがどうこうじゃなくて、きっといつも一緒にいるからそう思うだけだ。
いつも一緒にいる異性だから、「親友」と「想い人」の区別が曖昧になっているだけ。
まだ女になって半年も経ってないから、精神が安定してないんだろう。
風邪みたいなもんだ、そのうち落ち着くさ。
887 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:08:15.00 ID:TExO36r30
「せーの、出来たっ!」
「え…あ、もう終わったのか?」

ぐるぐると考え事をしている間に、施術は終わった。
手鏡で自分の見慣れた筈の面を拝むと、やはりいつもとはどこか違う。自分でやった時は、もう少しケバくなってしまったと思う。
ふむふむ、このくらいの方が自然で良いかも…ってまた、何を参考にしてんだっての。
爪も前と同じくデコられている。トップコートが乾くまで、触らない方が良さそうだ。

「西田君のレアなお化粧姿!早く中曽根君に見せてあげなよ!」
「やっぱり変わるものだね。これなら並の男は落ちるだろう。つくづく化粧というのは恐ろしいよ」
「言ってろ!」

さぁ、そろそろ開店式だ。



『…やっぱり嫌だ。こんな格好で外に出たくないよ…』
『大丈夫だって、ムカつくくらい可愛いから。ほら、元男ならシャキッとする!』

いよいよ会場へ移動するにあたって、女体化者たちが怖じ気づき始めた。
俺で言う典子のように、メイク係として着いてきたのであろう女子たちの元から離れられずにいる。
この場において、頼れる存在は彼女らしかいないからだ。
嫌がって幼稚園の送迎バスに乗ろうとしない子供と、それを何とかあやして送り出そうとする母親の図のようにも見える。
部室は完全に閉め切られた上に目貼りまで施されており、外からは見えないようになっている。
その外では、移動前に一発目の写真を撮るべくカメラを構えた連中が群がっているのだ。正直俺も出たくない。

こちとら女になって、色んな苦難を乗り越えて何とか普通に生活出来るようになってきたんだぞ。
そこにきてこんな格好を人目に晒すなんて、また暫く話の種にされるのは明らかじゃねーか。頼むから静かに暮らさせてくれ。

『では皆さん、会場へ移動してくださーい!』
「ぅ、ううう!わ、私のにょたっ娘たちが、私の元から巣立ってしまう!ずっとずっとここに閉じ込めて愛でまくりたいのにいいいッ!」

移動せよとの号令が掛かったが、部長は俺たちをここから出したくないようだ。
ある意味、利害が一致している気がしなくもないが…。

「変態どもに飼い慣らされるくらいなら、さっさとここから出た方が良いっての」
「経験者は語るってヤツか?」
「そんなとこだ。あんなのはもう御免だぜ…ほら、さっさと行こう。オレはもう開き直ったぞ!」
「あ、待てって!…ええい、ままよ!」

部長に愛でられた経験のある菅原が、気まずそうに言う。そのまま先陣を切って、扉に向かって歩き出した。
逡巡している暇はない。菅原の後を慌てて追いかける。
尻尾が、ぴょこぴょこと揺れた。
888 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:10:17.01 ID:TExO36r30
うんざりした俺たちの気持ちはお構いなしに、開店式はどんどん進行している。
部室を出た瞬間から今に至るまでに普通の人の一生分くらいのフラッシュを浴び、本番のカフェが始まる前から疲労困憊といったところだ。
ファンサービス精神豊富な小澤は相変わらずにこやかに手を振っていたが、俺はとてもそんな気分になれないし、キャラでもない。

開店式は文化祭の実行委員が司会を勤め、ウェイトレス一人一人の紹介を行った。
俺は店の前に貼られた紹介文と概ね同じような紹介をされ、危うく暴れるところだった。
むしろ暴れかけたところを菅原や武井たちに取り押さえられた。
それを見た観客から歓声が上がったのは、「狂暴」という設定を強調してしまう結果になったからだろうか。
その後は店の注意事項…連絡先を聞いたりボディタッチするのは禁止だとか、まぁそんな話があって、
最後となった今は全体と個別での写真撮影タイム中だ。
全体はすんなり終わったが、個別は非常に困る。

一人ずつ前に出て撮る形式なため、時間の都合で一人あたり30秒程度で回されている。
本格的な物から携帯まで。これ程大量のカメラを一度に向けられる経験などしたことのない俺は、当然ガチガチに緊張しているわけで。
盗撮は言うまでもないが、例えば移動中に写真を撮られるのは一方通行で済む。
撮られている自覚はあれどシカトしていれば良いし、撮る側もそれで良いと思っているだろうから。
でも、これはそうもいかない。何らかのリアクションを求められている状況なのだ。
俺だけじゃなく先に撮られていた他の面々も、困ったような半笑いの顔で撮られてみたりと、どこかぎこちない。
そんな中でも堂々としていたのは、やはり我がクラスの武井と小澤。そして意外にも、今まさに撮影を終えて戻ってくる菅原だった。

「ふぃー、早速一仕事終えた気分だな」
「お前、よくあんなに堂々としていられたな…自然な笑顔なんて見せちゃってさ」
「緊張してたっての。でも考えてみれば、オレの写真を撮りたがるってことは基本的にオレのことを気に入ってくれてるわけだろ?
 だったら、少しくらいノッてやっても良いかと思って」
「ポジティブなヤツ…」

男の頃の菅原のことは全く知らない。ただ、少なくとも今はとてもあっさりしている。
サイズ測定の日こそ共に脱走した仲だが、今日は然程嫌がっている様子もない。
「やらされることが決定したからには仕方ない、やってやるか」程度に考えているようだ。

さて、そこまで割り切れない俺はどうしよう。どうしたら良い?
今撮られている奴の次は、もう俺だ。

『さぁ、お次は西田忍ちゃんです!先程の行動の通り、やはり狂暴ですからね。取り扱いはくれぐれも慎重に!では忍ちゃん、前へどうぞ!』
「うっ…」

呼ばれた。
いつもの俺ならこの司会者のナメた口に、脊髄反射で食って掛かっていたと思う。
完全に腰が引けた今は、とても言葉など出てこない。力の入らない脚で、よろよろと前に出る。
恥ずかしい気持ちとか、そもそもこんな状況に立たされる謂われがあるのかという疑問などで、脳の容量を使い果たしている気がする。
どんな顔をすれば良いのか、どう振舞えば良いのか。そこまで考える余力が殆ど残されていない。
取り敢えず無愛想に突っ立って、カメラは見ない。そのまま30秒経つのを我慢すれば良いだろう。
カメラを持った連中が何を期待しているのか知らないが、俺はそんな趣味に付き合う義務は無いんだ。
889 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:12:47.68 ID:TExO36r30
そんな中、涼二と目が合った。
アイツは呆けたような顔で俺を見ていると思ったら、喧騒を打ち消すように突然大声を出した。

「あっはは!さっきまでモデル系にょたっ娘ばかりだったのに、今度はちんちくりんな猫が出てきてやんの!」

内容は失礼そのものなのに、間違っていないのが皆の笑いを誘っている。どっと会場が沸いた。
しかし、だがしかし。言うに事欠いてコレである。突然何だと言うのだ。
涼二の発した言葉で覚醒したかのように、俺の全身に熱い血が巡り出す。
力を取り戻した2本の脚で、床を踏み締める。握った拳の震えの理由は今、怒りへと変わった。

「こ、の…ッ!」
「おっとぉー?そういやこの猫は凶暴な野良猫だったかな?だったら、保健所に連絡しないとなぁ?」
「てめえええ涼二コラああアアッ!毎度毎度俺を馬鹿にしてくれやがってッ!!耳かき棒で脳天ぶち抜いてやるかんなマジでッ!!!」
『西田が荒ぶってる!本当に凶暴だなぁ!』
『でも、あの小っこい身体で怒り狂ってるのも愛らしいー!』
「何で俺を激昂させるイベントばかりが目白押しなわけ!?何事も無ければ俺は静かな人間なのに!!」
『ちょっと、気性の荒い娘を刺激するのは止めて下さい!か、飼い主さんは…え、何?あの刺激してる人が飼い主だって?』
「そこの司会てめぇもだあああッ!人を動物みたいに扱ってんじゃねええええよッ!!んがあああッ!!」
『あ、さ、30秒経ちました!次の方どうぞ!ほら早く!今すぐに!」
「…あれ?」

気が付くと、俺の「持ち時間」は終わっていた。よく分からないまま、元の場所に戻される。

『いやぁ、良い画が取れたよ!』
『ブチ切れシーンはこれで良し、後で別の表情も撮れたら良いなぁ』

どうやら今のは観客たちが望んでいた展開らしく、それぞれが嬉しそうな表情を見せている。
下手にぎこちないポーズをとるよりも、ある意味自然な姿。それを求めていたようだ。
俺がキレキャラとして認定されていることは腑に落ちないが、結果的にキレたのは正解に近いようだった。
混乱した頭のまま涼二を見遣ると、「やれやれだぜ」とでも言いたげな表情で笑って、
肩をすくめて外国人がやるように両手のひらを上に向けるポーズをして見せた。

…そっか。
アイツ、俺が緊張してるのが分かってたのか。それで、あの挑発は助け舟だったんだ。
また、助けられたな…。
890 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:16:28.11 ID:TExO36r30
開店式を終えた後の空き時間。シフトの時間までは暇なので、自分のクラスの出し物を手伝うことにした。
俺を含むクラス全員で飾り付けをしたクレープ屋は、それなりの見栄えだと思っている。扱っている品物の関係で、可愛い系の方向性だ。
業者が用意したと言われても違和感のないにょたいカフェと違い、こちらは手作り感満載の仕上がりとなっている。
これはこれで高校生らしくて好ましいと思う。
皆で協力して作り上げたものだし、にょたいカフェとどちらが上だなんて優劣をつけるものではない。

にょたいカフェの開店式と時刻を同じくして開店していたクレープ屋は、それなりの盛況を呈していた。勿論こちらには式などない。
客層は主に女子生徒のグループ。ちらほらと、カップルらしきリア充たちも見受けられる。爆発しろ。
男子生徒のみという客は殆どいないようだ。
盛況なだけあって、販売と製造のスタッフは皆忙しそうにしている。そのうちの、俺に気付いたクラスメイトの女子が話し掛けてきた。

『あれ?西田君だよね?やだー超可愛いんだけどっ!ね、手伝ってくれるかな?まさに猫の手も借りたいってやつ!』
「猫は余計だっての!悪ぃ、ちょっと用があってさ。すぐ片付くから、終わってからで良いか?」
『うん!…でも西田君に手伝ってもらったら、余計忙しくなっちゃうかな?でもその方が良いよねぇ』
「…?よく分かんねぇけど、また後でな」

俺も手伝おうと思ってやってきたのは確かだが、まずは別件を片付けてからだ。皆には悪いが、もう少し待ってもらうことにした。
でも俺が手伝ったら忙しくなるって?何故だ?



裏方で「別件」を発見した。どうやらクレープの材料の整理をしているようだ。

「…おい」
「お、保健所行きは免れたのか?」
「うっせぇ!……さっきは、えっと…まぁ、助かったよ」
「お前、ガッチガチだったからな。他の連中は気付いてないみたいだったけど」
「長い付き合いだからだろ。腐れ縁も、たまにこうして役に立つから侮れねぇ」
「可愛いげのねぇヤツだな!もっと素直に感謝しろよ!」
「…ふんっ!」

実はあの場でコイツに助けられてから、化粧中に典子たちとした話…恋する乙女が云々、が頭をよぎっていた。
面と向かって話したらどうなってしまうだろうかと危惧していたが、割といつも通りの調子で会話が出来た。

大丈夫、平常運転してるじゃないか俺。
やっぱり涼二はただの親友だ。

「…じゃ、俺は女子の手伝いしてくるからな」
「うぃー。…あ、そうだ」
「あ?」
「後でにょたいカフェ行くわ。そしたら指名してやるからな」
「指名しなくて良いし、そもそも来なくて良いんだぞ」
「助けてやったんだから、笑い者にするのは当然の権利だろ?んでお前のシフトが終わったらさ、他のクラスの出し物色々見て回ろうぜ。
 食いもんの店も結構出てるし。こういう時に二人でいると、端から見たらカップルに見えるかも知れねぇけど」
「おう。………へ?」
「ちゃんと聞いてんのか?後で二人で見て回ろうって言ってんだよ」
「は!?え、あ、あぁ!い、行く!行くって!!」
「…?まぁ、また後で連絡するからな」

端から見たらカップルに見えるかも。その一言を聞いた途端、数秒前までの平常運転が嘘のように心臓が暴走する。
確かにこの手のイベントで男女の2人組を見たら、普通はカップルだと思うだろう。事実、俺も先程の客を見てそう思ったし。
今度は俺がそんな目線で見られる可能性があるのだ。
あの二人カップルだよ、リア充マジ爆発しろ。とか、思われるかも知れない。

…何故か、嫌じゃない。ドキドキして、変な汗が出てきたけど。全然嫌じゃないのは何でだろう。
それどころか、この文化祭というイベントに二人で過ごす時間があっても良い。そんなことすら考えている。
本当に、タチの悪い風邪をひいたらしい。
891 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:18:09.36 ID:TExO36r30
「ま、待たせたな。俺も手伝うぞ」
『お帰り!あれ、顔が赤いよ?どうしたの?』
「な、何でもねぇ!それより、俺は何をしたら良いんだ!?」
『西田君…って言うか、にょたっ娘にぴったりのお仕事があるんだよねー。はい、これ』
「…プラカード?」

渡されたのは、棒付きのプラカード。そういえば準備期間中に女子たちがこさえていた記憶がある。
いかにも女子高生な文字や絵で、クレープの宣伝が描かれている物だ。要は、これを持って客を連れて来いということらしい。

「こんなの、誰がやっても変わらねぇだろ?」
『西田くーん?それは厭味かな?良いから行っておいで!男子のみのグループを釣るには美少女を起用するしかないんだから』
「お、おう。これを持って教室の周りをウロウロしてりゃ良いんだよな…?」

言われて納得した。俺だってそこまで馬鹿じゃない。女体化した人間として、美少女になった自覚はある。
ナルシストになりたくはないので、普段はあまり意識しないようにしているが。

意識しないようにしている理由はもう一つある。
非常に腹立たしい話だが、この世の中には女体化者差別というものがあるのだ。
「いくら可愛くても、元男と付き合うのはちょっとなぁ」程度であれば差別とは言わない、と俺は思う。それは仕方のないことだから。
問題は、過激派に分類される連中だ。
差別する理由はまちまちだが…例えば元童貞野郎がいっちょ前に美少女ヅラしているのを面白く思わない輩や、
元男が女子トイレや、公衆浴場の女湯に入るのを嫌がる輩がいる。どちらも心の中で思う分には仕方ないが、
後者に関しては実際に追い出されてしまうケースもあるらしい。

幸い、この学校で表立った差別行為があるという話は聞かない。
どちらかと言えば好意的に受け止めてくれる人が多いように思う。
にょたいカフェなんぞが支持されていることからも、むしろ人気ぶりがうかがえる。
それでも、出る杭は打たれるという言葉がある。あまり自意識過剰でいると、顰蹙を買って新たなレイシストを生み出す結果になりかねない。
やはり人間、慎ましく生きていくに限る。

というわけで、小澤のようにキャピるのはちょっと俺には無理だ。
ビジュアル的に目立ってしまうのは避けられないが…あまりやる気満々に見られないように、プラカードを持って大人しくウロウロしていよう。
…と、思ったのだが。
892 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:19:37.22 ID:TExO36r30
『君、どこのクラスの娘?すっげぇ可愛くね?』
「いや、そこのクレープ屋なんですけど…」
『クレープかぁ、甘い物は好きじゃねぇけど、君みたいな娘は好きだよ?なんてね!』

囲まれていた。
教室を出て、廊下を少し歩いただけで大量の男子が連れてしまった。雰囲気からして、俺が女体化者であることは知らないようだ。
サイズ測定の日や先程の開店式など、俺の名前を知っている奴は確かに多い。
だが、こういう女体化者に興味がない連中も当然、少なからずいる。
その彼らの視線はプラカードよりも、もっと下…俺の谷間に注がれている気がする。クレープなどどうでも良いのだろう。

俺も元男だから気持ちは分かるが、ちょっと露骨すぎやしないか?悪気はないんだろうけどさ。
元男だって知ったら、どう転ぶかな…。

「そこそこ美味いと思うんで。気が向いたら買ってもらえると助かります」
『つーか、その衣装ってアレだろ?にょたいカフェってヤツ』
『なんだ、てことは元男か。可愛すぎると思ったぜ』

早速バレた。
罵声を浴びせられるんじゃないかと、つい身構えてしまう。さぁ、コイツらはどう出る?

『でも、良いんじゃね?実際可愛いんだしさ』
『だなー。んじゃ君、俺らと写真撮ってくれたら買ってあげるよ!』
「え?あ、はぁ…」

言うが早いか、通行人を捕まえてデジカメを渡している。
開店式と違って、普通に写真を撮るノリに近い。だから緊張せずに済むが、拍子抜けだ。

『じゃあ撮りますよー』
『ほら、笑って笑って!』
「あはは…」

ぱしゃりと一枚。戻ってきたカメラを手にした持ち主が、早速ボタンを操作して撮った画像を呼び出す。

『これこれ。んーっ、良い感じに撮れてるじゃん!』
『くっそー、元男でなけりゃ今すぐ告ってたのに!』
『それ、俺にも焼き増ししてくれよ』
『俺も俺もー』

数名の男の中心に立たされた液晶の中の俺は、やはり少し困ったような笑いをしていた。
だが客観的に見れば、綺麗に撮れていると言っても良いだろう。
でも、良かった。気持ち悪がられたり、罵倒されたりするようなことはなかった。
元男に興味はないと断言されたようなものだが、むしろ清々しいくらいだ。

『さて、約束通り買いに行くよ。あそこの教室だろ?』
「あ、はい。どうもありがとうございます」
『どう致しまして!んじゃ!』

意外と…と言っては失礼だが、良い奴らだったな。
彼らがクレープ屋に向かっていくのを見送り、さぁ引き続きウロウロするか…と振り返って、ぎょっとする。
カメラを持った連中が、俺の周りに群がっているではないか。

「げっ、何がどうした…!?」
『あそこでクレープを買うなら一緒に写真撮ってくれるってマジっすか!?』
『買う!買うから僕とツーショットを!』

大半は男子だが、女子もちらほら混じっている。
男子は良いとして、女子にとってはテーマパークの着ぐるみと写真を撮りたい心理に近い感じだろうか。

まさかこんなに客が増えるとは思わなかった。クラスの女子が言っていた「忙しくなる」というのは、こういうことか。
クレープを買うこと前提で写真を撮れるというのは彼らの勘違いだが、今更とても訂正できない。
とにかく、どうにかこの群集を捌かねば…!

ふとクレープ屋を見ると、販売をしている女子たちが俺に向かって、握った拳の親指を立てていた。
893 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:25:57.17 ID:TExO36r30
一体何人と写真を撮っただろうか。
一息ついたタイミングで時計を見ると、かなりの時間が経っていた。
あまりに慌ただしかったからか、そこまで時間が経っている実感はなかったのだが。

時計から視線を戻すと、俺たちの教室からメイド服を着た植村がやってくるのが見えた。
白と黒のオーソドックスなカラーリングなのに、俺の物と大差ないマイクロミニのワンピースから伸びた長い脚が非常にエロい。
やはりこのルックスは女体化者と良い勝負だ。天然モノのくせに戦闘力が高すぎる。

「お疲れ様。後は私がやるから休んどきなさい。てかあんた、可愛すぎでしょ。何なの?この猫娘」
「お前に言われたくねぇよエロメイド!もうシフトは終わったのか?」
「うん、お蔭様で大盛況。さっきにょたいカフェを覗いたらかなり賑わってるみたいだったけど、負けてないくらいにはね」
「天然女性ブランドは強力だな…」
「でもあんただって珍しく化粧してて、今日はいつもより可愛いじゃない。マスコット的な意味合いも含んでるけど」
「ん゛むっ…!」

そう言って俺を抱き寄せた。
ふわりとした香水の匂いも零距離では甘ったるく、柔らかい胸の感触とあわせて頭がクラクラする。

…今日はこれをよくやられる日だな。植村に抱き着かれるなんて初めてか?珍しい。
にしても、コイツの乳もまたけしからん。男の頃にこれをやられていたら、そのまま便所に直行だっただろうな、きっと。

「…あんた、無駄に抱き心地が良いね。たまに典子が抱き着いてるけど、その理由が分かったような…」
「何なんだよ皆してマスコット扱いしやがって!身長か!身長が足りねぇのか!?」
「怒らないの。ほら、いい子いい子」
「…チッ」

なでなで。
やっぱり、これをやられると弱い。自分のワンパターンさに嫌気がさすが、本能には抗えないのだ。

「さ、プラカード貸しなさい。買ってくれるなら写真撮らせてあげるって売り方で良いんでしょ?」
「本当は違うんだけどな…まぁ良いんじゃねぇの」

植村にバトンタッチ。こうしている間にも、植村は周りの視線を集め始めている。集客にはもってこいの人材だな。
さて、そろそろ俺もにょたいカフェに行かなければならない時間だ。確か菅原も同じシフトだったと思うし、ダベりながら適当にやろう。
その後は、涼二と二人で出し物を見て回るんだ。
死ぬほど嫌だったウェイトレスをやらなければいけないのに。向かう足取りは、何だか軽い気がした。

シフトの時間、早く終わらないかな。…なんて思ったのは、きっと気のせいだろ。
894 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/01/16(月) 01:31:10.85 ID:TExO36r30
いつも見て下さっている方々、ありがとうございます。今回は以上です。

後編はまた後日ということで…。涼二視点のパートも少し挟もうと思っています。
>>625は実は自分も考えていたんですが、同じことを考えてるなと思ってネタにさせて頂きましたwww

ではまた!
895 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/01/16(月) 06:42:24.88 ID:0IjaqD2C0
乙でした。次回も楽しみです、波乱になるかわかりませんな。

きっと一般主婦もきてますよね
896 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/01/16(月) 06:42:38.63 ID:0IjaqD2C0
乙でした。次回も楽しみです、波乱になるかわかりませんな。

きっと一般主婦もきてますよね
897 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:05.18 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
898 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:14.63 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
899 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:23.50 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
900 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:32.21 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
901 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:41.41 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
902 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/16(月) 14:21:50.67 ID:vP6W7fIho
乙!引き込まれる文章でござるな!
触発されるぜ
903 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/01/16(月) 17:07:55.79 ID:8mtXgWzJ0
なんだよこれwwwww
904 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2012/01/16(月) 21:11:18.10 ID:5tURHsSh0
続き待ってました!
905 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/17(火) 01:23:08.10 ID:gb9j+bMMo
とても大事なことなので・・・
906 :でぃゆ(ry[sage saga]:2012/01/17(火) 20:41:17.40 ID:d9L3J5tAO
>>894
相変わらずの乙GJでした!最高です!!
そして>>625さんもグッジョブwwwww

次回は忍タソのシフトですかそうですか。
さて、タキシードを着て出かけねば…にーしーだ!にーしーだ!
907 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/18(水) 02:22:36.35 ID:GXKRUqXE0
◆suJs/LnFxc
すばらしかったです。後半wktk
ってなわけで俺も(爆弾)投下していきます。ようやく本編です。

4/6(月)
高校の入学式で俺の誕生日

どんなに眠くても朝はやって来る

高校に入るからと部屋が貰え一人で寝るようになって10日、本日もうるさく目覚まし代わりの携帯電話のアラームが鳴り響く。
俺は目が覚め、まずアラームを止めた。
普段となんら変わらない行動だ。
だが、今日から高校。普段とは違う。

思えばこの春は忙しかった。って言っても博樹と1日中遊んだ日もあったけど。
だいたい、春休みの間まだ入学もしてないのに合格者に「春休みの課題です。」ってテキスト渡すか?
課題多いとは聞いていたけど、想定以上だった。時間の使い方の下手な俺は今日の深夜1時にようやく課題を終えた。

まぁ。ベットの中で愚痴を言ってもしょうがない

「よいしょっと…。」

アレ?俺ってこんな声だっけ?少なくとも親父より声低くて余裕で福山の曲歌えるぞ?
高さもせいぜいBA●Pの藤くらいが出るかどうかだ。

「あー…あっー。」

試しに声を出す。

誰だ?声が違う。誰の声だ?俺か?俺のか?アレ?
中学のとき合唱コンクールでバスパートだったよな?
少なくともアルトは女子だ。うん、女子だ。
嫌な予感しかしない。

慌てて隣の洗面所にいく。鏡を見る。

「誰だ?」

うん。物理学上、まぁ……俺?だよな?映るもの他にないし。

笑顔で鏡に手を振る。鏡の中の少女も手を振ってくる。
鏡かどうか確認する。触る。殴る。歯ブラシの柄で叩く。鏡だ。

じゃあ、なぜそこにいつもの荒んだ目の髪の短い眼鏡ボーイではなく。
希望に満ちたような目をした俺より10Cmほど背の低い前髪のうっとおしそうな可愛らしい少女がいるのだ?
しかも、よく考えると眼鏡してないのによく見える。視力落ちて片目0.3ずつじゃなかったか?

「ハァ…。」

「ぎゃああああ」とか普通叫ぶんだろうが、叫ぶ気すら失せたよ。
高校デビューで女性デビューってか?笑えねぇよ。制服どうすんだよ!?
昨日ならまだしも今日もう入学式だよ?どうすんの?休むの?寝ていいの?
と心の中でツッコミをいれるも、誰も笑うわけが無い。眠いし、学校に行くにしても服が無い。
あぁ、ベットが俺を呼んでいる。

そう二度寝しようとしたとき
908 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/18(水) 02:47:23.04 ID:GXKRUqXE0

「うっ!!」

ヤバイ尿意が…

洗面所の向かいのトイレに行く。
息子がいない。かわりに娘がはじめましてだ。
ついでにジャングルも草の無い平野になっていて、トランクスの中に抜けた黒い毛がたくさんあった。

「座るしかないよな・・・。まぁ、いつもだけどさ。」

いくら俺でも放尿モノのAVは見たことが無い。
だから、どうやってすればいいのか分からない
トイレの中で漫画読んだりするから座るのはいつものことだけどさ。

何とか出ないかと股開いたり閉じたりと試行錯誤するが、息子と違い恥かしがりやなのか全く出てきてくれない。

そのとき

「いつまで寝てるの?」

母さんが来た。タイミングがいい。

迷わず、トイレのドアを開けて母親とご対面する。

「誰?」

まぁ、そうなりますよねぇ…

見ず知らずの娘がいきなりトイレのドアを開けたのだ、当然のように普通に驚いた顔をしている。

安心させるため、自分の身を守るため名乗りでる。名乗り出るも何もずっと家族やってきてるわけだが

「恭也だ。あんたの息子。今日から娘だけどな。で、ちょっと困ってるんだ。」
「何?」
「…あのさ。便座跨いだはいいんだけど小便が出てこないんだ。出し仕方教えてくれる?」
「はぁ…股閉じて、おなかの下の方に力入れる。ドア閉めるよ。」

言われたとおり股閉じて力を入れる。

ジョロジョロ…

おおっ!!出た。母さんサンクス。

チョロチョロと漏らすように流れ落ちる。
まったく感覚が違って、やり方も違って、あの出しきったという感覚もない。
違和感が半端無い。しかも、いままで無意識に力入れて出してたのも合間って余計に違和感を増徴させられる。
自己主張の激しい息子は性格の暗い娘になりました。
まだ、滴るように割れ目から出てくる。

うっ、飛び散るんだな。股の間が自分の尿で濡れている。
正直気持ち悪い。
909 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2012/01/18(水) 02:53:03.39 ID:o62fQ4Guo
でぃゆ(ry「イッたらほんっと気持ちいいよねっ!」

◆suJs/LnFxc「えーまじでー?俺イッたことないよ」

でぃゆ(ry「でも、男の時のイクよりクリ触ってるだけの方が気持ちよくない?」

◆suJs/LnFxc「う〜ん。そうだったような気がするけども・・・」

でぃゆ(ry「あ〜、確かに男の時のイク時の感覚ってもう薄れてるっていうか、わかんなくなったよな」

◆suJs/LnFxc「はぁ・・・・彼氏いたらもっと気持ちいいのかね」

でぃゆ(ry「うん。気持ちいいいと思う」

◆suJs/LnFxc「え!?」

でぃゆ(ry「え!?って・・・あっ!」

◆suJs/LnFxc「お前、まさか・・・!?」

でぃゆ(ry「い、いや、そうだろうなぁっていう、希望的観測だよっ!」

◆suJs/LnFxc「ジーーーーうそくせーーーー!!」

でぃゆ(ry「嘘とかそんなんじゃなくてっ!えっとあのっ!」

◆suJs/LnFxc「裏切りものぉ!!お前彼氏つくんない同盟結んだじゃん!」

でぃゆ(ry「彼氏っていうか、バイブだよ!そうそう!バイブ!」

◆wDzhckWXC「でぃゆ(ry〜一緒に帰ろうぜ〜」

でぃゆ(ry「◆wDzhckWXC君!?」

◆suJs/LnFxc「はっ!?◆wDzhckWXCj君!?そ、そんな!お、お前!や、やっちまったんだな!俺の◆wDzhckWXCj君と!!」

でぃゆ(ry「え、いや、その、えっと・・・・ふぇぇぇぇん!◆wDzhckWXCj君どうしよう〜〜〜!ばれちゃったぁぁ」


なーんて、酔っ払いが勝手に人の名前つかってみたり〜
ういっぷ!
910 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(岡山県)[sage]:2012/01/18(水) 02:56:41.52 ID:o62fQ4Guo
いやぁぁぁ、よっぱらいが書き込んでる間に投下があったなんてぇぇぇぇ!


ふぅ、よった勢いにどうだい


や ら な い かv2eaPto/0氏
911 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/18(水) 03:27:45.43 ID:GXKRUqXE0
やっと出し終えて水音がやんだから、気づいたのか扉越しに母さんから

「出し終えたら股を拭きなさいよ。トイレットペーパーで前から後ろにね。」

言われた通りに股の前から後ろへトイレットペーパーで拭いた。ついでに太ももの内側も。

「んっ…。」

ちょっと、触るだけでも感じるんだな。
ペーパー越しじゃなかったらどんな感じなんだろ?

そう思っていると

「早くしなよ。初日から遅刻とかまずいでしょ。」

母親に急かされ、慌ててトイレを出て洗面所で手を洗う。顔を洗って思い出す。

「あっ!だけどさ、今日どうすればいいよ?来ていく制服も下着も無くなったんだぞ?」

俺は聞いた。

「制服はもしかしたらと思って知り合いで卒業生の子がいる方から小さいやつ借りてある。えっと、下着は…私のでいい?紗弥のじゃ入らないでしょ?そのお尻だと。」

流石、用意がいい。こんな状況だから下の方の下着は仕方ないとするが…胸はあんたのまな板用ブラじゃ収まらないだろ。
確かに尻はでかい。あんたに似て安産型だ。

ちなみに紗弥って言うのは俺の妹だ。今年から中学生。通うのはこんまえまで俺が通ってたところだ。

母さんから下着を渡されるが

「俺の胸もたぶん小さい部類だろうが、母さんのじゃ収まらないだろ。」

あ、機嫌悪くなった。

「どうせ小さいですよ。でも、こ(長いのでカット)」

ついでにうっとおしいので前髪も適当に短くカット。

さんざん文句と惚気を言われて、胸に関しては包帯とニプレスで今日はしのぐことになった。パンツは一応はけた。
いろんな意味でキツいけど。あと、何でニプレスあったんだろ…


下着を着ている間に母さんが制服を出してきた。
穿いたタイミングと同時過ぎて、俺の生活盗撮してんじゃねーか?とすら思う。

「着てみなさい。」

渡されたブレザーとスカートを受け取る。

受け取ったブレザーだけ着てみる。
男子と同じでブレザーも着る方法は同じだ。特に問題はない。
腕を通してボタンしてネクタイはこれでいいだろ。着るとき内側のところに「岩瀬真希」と書いてあったがまさかな。

ちなみに、後で聞いて確認したらやっぱり隣の家の真希さん(22)のだった。これ卒業したの何年前だ?6年前か。



まだまだ続きますが、眠いので寝ておきて朝の間にあげられるだけ上げます。

912 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(西日本)[sage]:2012/01/18(水) 03:40:29.11 ID:famrJ5YHo
>>910
落ち着け(´・ω・`)
913 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2012/01/18(水) 07:18:09.76 ID:q+iEk/5Zo
呼ばれた気がする
914 : ◆wDzhckWXCA[sage]:2012/01/18(水) 07:22:17.59 ID:q+iEk/5Zo
あ、トリップ違った
915 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/18(水) 09:47:21.90 ID:Nfd2KDdOo
けど>>909には重大な間違いがひとつ
916 : ◆suJs/LnFxc[sage]:2012/01/18(水) 11:15:40.11 ID:qT7SGfTAO
前回の投降について、皆様コメントありがとうございます。
続きも頑張りますが、ちょいと現実が忙しいので暫くかかるかもです…。
あ、ちなみに紛失した携帯は戻ってまいりましたwwwwww

>>910
この酔っ払い!女体化させてくれてありがとうなんて思ってないんだからね!

>>911
乙です!
まずは順調にスタートしましたね。続きに期待です。
917 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/19(木) 02:44:14.22 ID:Gl5f1d0jo
男でも女でも両立可能な名前を考えたりする日々
918 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/19(木) 05:04:55.74 ID:4+M2iGKWo
両立可能な名前ってそこそこあるけど、他の人のとかぶるのが難しい所
919 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/19(木) 05:05:04.64 ID:4+M2iGKWo
両立可能な名前ってそこそこあるけど、他の人のとかぶるのが難しい所
920 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage]:2012/01/19(木) 05:24:51.13 ID:jMPQ6q+Lo
かめやまかおるちゃん!
921 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 03:04:57.15 ID:FS7xqYJ30
寝坊しなけりゃ2日前に上げていたものです。
というわけで意識もつまで続き。

というわけで、指定のブラウスにブレザーを着て母さんに見せる。

「着たよ?」
「あんた、スカートは?」
「いや…え、ちょっと…ちょ!?うぎゃああああああああああああああああ!!」

無理やり押し倒され、また穿いていた下の方のパジャマを脱がされて立ちあがらさせられ、そしてスカートを渡された。

「はい、さっさと足通す。」

言われるがままに自ら足を通した。
そして、母さんの手により腰より少し上でホックとベルトされた。
体が小さいから腹でベルトしていたので、特に腹周りの感覚は大差ない。けれど

「股の間がスースーする。何もはいてないみたいなんだけど…。」
「これからはそれが普通になるから諦めな。うーん、やっぱりちょっと大きかったか。まぁ、明日までだから我慢しなさい。」
「はい…。」

しぶしぶ承諾する。太もも周りにヒラヒラしモノが当り、また、股の間を空気がすり抜けて4月のまだ、ほのかに冷たい空気が刺激する。
そして、鏡に俺は好みじゃないけど一応、“たぶん”美少女といわれる部類の制服を着たロリっ子が不機嫌そうな顔をしていた。

これ下手すると妹より低いんじゃねぇか?

「はいはい、見惚れてないで、さっさとお店のほうに行ってご飯食べて、車に乗る。」

922 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 03:06:16.73 ID:FS7xqYJ30
移動して台所に朝食が既に置いてある。さっきからそうだが、妙に母さんはイライラしていた。さっきから制服見ては何か呟いてるし。
まぁ、とりあえずは朝飯が先だ。

「いただきます。」

で、食べ始めたは良いのだが、いつも通りにどんぶりに盛ったご飯が多い。
いつもより味噌汁が辛い。というより、全体的に量が多い気がする。
結局半分ちょっとしか入らなかった。身体にあわせて胃も小さくなってるようだ。
これを普通に平らげてた妹が太るのも納得がいった。

「ご馳走様・・・」

母には悪いが残した。本当に小食言われてたのがさらに小食になったな。

「残す…まぁ、仕方ないか。はい、カバンもって車乗って。あ、ちょっと待って、靴。そこで待ってて」
「へ?」

母さんがまた、何かとりに行った。9時までに間に合えば良いので、まだ時間はある。道が混んでなければだが
二階の母さんの部屋から自分のバックとなにやら箱を持ってきた。

「靴はコレ履いて。」

中には黒色のローファ。もう、ブラウスにスカートだ。抵抗する気も無い。素直に従う。
サイズが合わないのか、かかとが浮く。ローファのサイズは24.5、男のときの俺と同じ、足も小さくなったようだ。

「まぁ、しゃあないか。これで良い?」
「靴も買わなきゃいけないのかぁ…」

また、イライラしてる。どうやら金銭的な話のようだ。

「はぁ、じゃあ行くわよ。車乗って。」
「はーい。」

荷物を持って?背負って車に乗り込む。
それにしても疲れた。着替えとかドタバタしてたし、ちょっと歩いただけなのに、靴のサイズ違って歩きにくいし。
初日だけど休んでいいですか?と目線を向けるが

「もたもたしない。早くシートベルとする。」

と言われた。
あ、ダメですか。そうですか。鬼だろ…
923 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/20(金) 14:24:10.04 ID:LutQbzx4o
つ、続きはまだかっ
924 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方)[sage]:2012/01/20(金) 17:18:24.23 ID:EN7R0AH+o
ねおちやろ?
925 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 20:11:38.20 ID:FS7xqYJ30
直しながら書いたので所々日本語不自由になってるのに気づいたので
訂正
>>921

無理やり押し倒され、また穿いていた下の方のパジャマを脱がされて立ちあがらさせられ、そしてスカートを渡された。×
無理やり押し倒され、また穿いていた下の方のパジャマを脱がされて立ちあがらさせられスカートを渡された。○

体が小さいから腹でベルトしていたので、特に腹周りの感覚は大差ない。けれど ×
体が小さいから腹でベルトしていたので、腹周りの感覚はそれほどに大差ない。けれど

しぶしぶ承諾する。太もも周りにヒラヒラしモノが当り、また、股の間を空気がすり抜けて4月のまだ、ほのかに冷たい空気が刺激する。×
しぶしぶ承諾する。太もも周りにヒラヒラしモノが当り、股の間を空気がすり抜けて4月のまだ、ほのかに冷たい空気が刺激する。○
移動して台所に朝食が既に置いてある。さっきからそうだが、妙に母さんはイライラしていた。さっきから制服見ては何か呟いてるし。×

移動して台所には朝食が既に置いてあった。お店のほうに朝食を運ぶ。それにしても、妙に母さんはイライラしていた。さっきから制服見ては何か呟いてるし。○

以上訂正です。

926 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 23:10:39.72 ID:FS7xqYJ30
>>924 寝落ちです。すいません。下書きは200KBくらいなので生暖かい目でお願いします。じゃ、そのまま行きます。

正直言って下手な運転だが間に合った。着いたのは8時31分だった。
入試のときと同じように駐車場からグラウンド、そして校門から上がったところの広場へと歩いて移動した。

駐車場も高校も、その隣にある市の総合体育館も、同じ山を切り開いて作ったために移動時は少しばかり上り下りしなくちゃいけなかっ
た。
その上、いつもより持ち物が重く感じて非常に動きにくい。一晩で著しく体力も筋肉も落ちたようで、

帰りたい…

広場に掲示板があり、同じ制服着た人が集まり自分のクラスを見ていた。
どうやら、クラスの発表らしい。

頼むから知り合いいないでくれ。

そう願い自分のクラスを探す。あった。

「1組の13番か…。」

人混みを抜けて見たその番号に「柴崎恭也」と男性の名前が書いてあった。

13とはまた不吉な…

そして、「1年1組18番 浜口将吾」

本来ならありえない名が同じクラスにあった。

「ちょっと待て!嘘だろ。アイツ受かったのかよ。」

いろいろな意味で驚いた。主に学力だが。中学入る前に転校した幼なじみの名前があった。
同時に噂好きなヤツが同じクラスということはすぐクラスに俺のことが広まるということを指し示す。
それが何を意味するかは明白だった。

「マジで帰りテェ…てか、もう入学したねぇ…。」

愚痴っても仕方ないので、広場を抜け昇降口をくぐり下駄箱を見つけ、廊下を歩いて、教室に入ると目の前にヤツがいた。
いきなり鉢合わせた。

「あれ?恭也か?」

会ってすぐに顔バレした。ごまかしようが無かった。

「そっか、今日誕生日だったな。」
「あぁ、うん。」
「さらに小さくなったなぁ。」
「うるせぇ!」

声が声なので叫んだ声がただのツンデレのようで恥ずかしくって。その場から逃げて席に着いた。
今までのように普通に座ったため、背もたれにスカートが引っかかりめくれた。

「へぇ、ピンクか。」「見んな!!」

慌てて隠す。
そういえば、中学でも皆女子は座るときスカートを撫でるようにして座ってたな。そう思い慌てて直すが

「お前らすぐ体育館に移動だ。」

担任になるのだろうおじさんに呼ばれた。

せっかく直したのに。仕方ないか。まぁ、どこも同じような式だろ。
927 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 23:22:11.61 ID:FS7xqYJ30

やはり、いつものような式だった。ホントただの通過儀礼、面白みも何にも無い。
寝ていてもばれないんじゃないかとすら思うほど退屈極まりない式だった。
白髪の校長から入学を許可するといわれたり、先輩らからの挨拶、そして、新入生の挨拶。ただ、それだけ。
そんな退屈な式が終わりクラスで自己紹介となった。


教室に戻ると余計にザワザワしていた。式のときもそうだった

「あれ?男子の席だよね?」「何で女子が隣?」

式中にもかかわらず、クラスの中の同じ中学出身や隣の席で既に友人になった者でヒソヒソ話をしていた。

あぁ、もうやだ。帰りたい…帰っていい?車で着たから帰る方法無いけど…バスあってもお金ないし。

そのとき、先ほどのおっさん?が教室に入ってきた。

「お前ら静かにせい!あー、私が担任の板垣武司だ。宜しく。担当は数学だ。以上。」

チョークを取り出して
[名前、出身校、高校での抱負、入る予定の部活、何か質問あれば皆が質問。]
と黒板に書いた。

「じゃあ、名簿一番岡部から順に黒板に書いてあることで自己紹介。」

岡部といわれた男子が席を立ったが

「あー、皆に顔が見えるように前でな。」

「はい。えっと岡部一郎です。…」


順番が回って、ついに皆の前で紹介する時間になった。
まだ、名前も知らない。及び忘れてる同じ中学出身(一人除いて)その人たちの前に立ち自己紹介。

正直、中学のときみたいに前じゃなくて、その場に立って紹介するほうがいいんだが…

名前順で既に女体化者だとバレているから余計恥ずかしい。中には横目でちらちら見てくるのもいた。
まだ、昼の12時も回っていないのに精神はボロボロだ。
『これ以上の辱しめは勘弁してください…』と切実に思う。

担任のおじさん?爺さん?おっさん?…名前は何だっけ?に名前を呼ばれ皆の前に立つ。
ほぼ全員がこっちを見ていた。場慣れなんてしてるわけが無い。今にもパニクりそうなのを何とか押さえ込んで覚悟を決めた。

「えーっと、柴崎恭也です。照中学出身。入りたい部は科学部です。抱負は特にありません。質問ありますか?」
928 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 23:30:13.33 ID:FS7xqYJ30

ザッ!!と音がするほどに思った以上に手が上がる。
過半数は挙げてる。しかも、先ほどより好機の目で俺を見てくる。めんどくさい事にその中にヤツもいた。


もうヤダ、もうヤダ。帰せ、俺を家に帰せ。俺が何をしたぁあああああ
嫌だけど、ホンットウに嫌なんだけど。
と半狂乱になりそうなのを無理やり押さえ込み。
とりあえず女子から当てる。あとで、胃薬飲んでおこう。

無理やり抑えたからレディファーストするくらいの余裕ができた。出来たというより無理やり作ったが正しいか。

「えっと、目の前の…あなた。」

「篠原って言います。名前が男性ですが女体化者なんですか?」

ど真ん中ストレート剛速球。あー●にたい。いっそ、消えてしまいたい。

「はい。本日が誕生日で今朝、起きたら女性になってました。だから、名前もそのままです。他にありますか。」

そう答えた。

周りの『ギャップ見れねェじゃねぇか。つまらん。』と言わんがごとくのトーンダウン
特に最前列目の前の男の顔にそう書いてるのが良く分かる。今度卒アルもって来るか…

そんな中ヤツだけまだ手を挙げていた。

もう、嫌な予感しかしないんだけど?ねぇ、当てなくてもいいよね?
変態で将来フリーター志望の変態の中の変態だよ?俺の大体のアダルトな知識の源泉こいつだよ?
…こいつの聞くことなんて

「はい、なんだ?浜口。」

とりあえず、嫌な予感しかないけど当てた。名指しで

「男と女でどっちが気持ちいいですか?」

もう、予感的中、こいつ何聞いてんだ?まだ時計は朝の10時13分。夜のじゃない。朝のだ。太陽はさんさんと輝いて春の陽気だ。
その中、しかも、この公衆の面前で爆弾投げてきやがった。

「知るかぁ!!」

俺は顔から火が出るほど恥ずかしかった。それが何に対しての恥ずかしさかは分からないが。

「あー、浜口と柴崎。後で職員室来なさい。」

ヤツのせいで入学初日から呼び出しかよ。ふざけんな!!

あと、お前らこっち見んな!!しかも、女子のほうから

「もしかしてー。」「きゃー、そのために〜」「夏コミのネタはできたね。」男からは「なんだホモか。」

とか聞こえてきて。

「だぁあああああああああああああ!!もう最悪。帰せー俺を家に帰せー!」

高校デビューは最悪だった。

席に戻った後はずっと下向いていた。誰とも目線を合わせたくないから。
でも、周りから視線があるようにしか感じなかった。

――――――
質問ある?
929 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 23:36:47.48 ID:FS7xqYJ30
そうしてる間に自己紹介の時間は終わり、教科書配られ。帰りになり職員室。
その教科書配る間も周りから目線。男女問わずこっちを見てニヤニヤしているようだった。
実際そんな感じには見えないのだが、どうもそんな目線があるようにしか思えなかった。
たぶん、チラチラとこっち見るくらいはしてたんだろう。

あと、担任の板垣先生からは職員室で叱られた。
そして、俺だけ職員室に残され。浜口は釈放された。

「あー、体については今日の朝に保護者から聞いた。席と名簿、君が望むなら女子番号に入れ直すがどうするかね?」

本当なら今すぐに変更したいのだが…

まず名前も性別変更の手続きを役所でしてない。と言うより名前すら決まってない。

「明日でもいいですか?」
「言ってくれれば、いつでも構わないよ。」
「わかりました。じゃあ、名前が決まってからにします。」
「そうかね。あー、今日はこれで終わりだから帰っていいよ。」

はぁ…ようやく、帰れる。どうやら、「あー、」ってつけてから話すのが口癖らしい。


職員室を出て、そのまま昇降口へ向かう。
昇降口に母がいた。だいぶ待っていたのか軽くいらいらしてるように見えた。

荷物、主に教科書がかなり重い。とは言っても腕の筋力がほとんど無い状態になっているだけなのだろうけど。
足も動かしづらいから余計に疲れる。
そんな俺を尻目に

「ファイトォ!」

と言ってきやがった。

…もう。何も言わねぇ。

そして、帰りの車内で

「じゃ、今から下着買いに行くから。」

マジで?
下着かそうだな。必要だわな。
まぁ、よく母さんについてショッピングモールに行っていたから、幼いながら本能的に、ここに入る用はない。
むしろ、毒とすら思っていたが、まさか自分に用があるようになるとは…

930 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/20(金) 23:52:59.24 ID:FS7xqYJ30
市の中心にあるショピングモールの2階
女性の形のマネキンで中に入っているライトが光り下着を艶やかに照らし出す。
いつ見ても昨日までなら用はない。

「すみませーん。この子の採寸お願いします。」
「かしこまりました。」
「ほら、あんたは店員さんに着いてく。」
「あ、ああ、わかった。」

母さんにせかされ綺麗なお姉さんについて試着室にいく

「じゃあ、ちょっと脱いでもらえるかな?」

言われたようにブレザーとシャツいやブラウスを脱ぐ

「ちょっと失礼するね。」

胸に巻いていた包帯を外されニプレスもとられた。

「ヒャンッ!」

刺激で思わず声が出てしまった。

「腕を上げてくださーい。」
「ハイ…」

慣れた手つきで胸の大きさを測られる。ひんやりした手が気持ちいい。

結果は
B82でBカップ。ついでにウエストとヒップも測ってもらったらW65H89

昨日までなら理想だった。そんな子がいるなら、ぜひとも付き合いたい。
だが、今ならこの胸の小さいことを悲しく思う。それに対してケツでかいな俺。母さんがそうだからか。
腰まわりはまぁ、あまり変わらなかったな。ただ、盲腸の手術跡は消えたか…

そんな事を考えているうちに

「これなど、どうですか?」

目の前にピンクのフリフリしたブラジャーと薄緑のレースの着いたモノの上下セットを優しそうなお姉さんが手に持っていた。

「もう少し装飾の少ないものはありませ…」

小さな声で言いながら周りを見渡すがそんなもの一つもなかった…
だからといって母さんに『店変えよう』なんて言ったら

『じゃあ、何も着なくていい。』

と言われてノーブラノーパンで生活を強いられることは明白だ。

「ふぅ…。」

腹をくくって薄い緑のほうをとる。ピンクよりマシだ。だが、とったは良いが付け方がわからん。

「すみません。私、初めてなので付け方のご指導お願いできますか?」

慣れない一人称を使い聞く。

「初めて…あぁ、わかりました。こうして、手を通して肩の位置に。」

どうやら察知したらしい。胸にあてがえられたと思ったら、あっという間に付けられてた。
魔法ですか?これ?

ショーツは朝から母さんの借りてるし。
穿いていた母さんのを脱ぎ、薄緑のショーツ穿いて鏡をおそるおそる見た。
931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2012/01/21(土) 00:13:00.91 ID:FTSNyRIN0
wktkwktk
932 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/21(土) 00:34:13.17 ID:NmKVncTi0
「か、可愛い、そしてエロい。」

自惚れじゃない。
それが鏡に映った自分だとしても見慣れてない女性の下着姿が映っていて、自分だとしても(大事なことなので(ry)
鏡の中にいる薄い緑色のブラジャーをした女の子が下着姿で少し恥ずかしそうにしてる様は襲いたくなる。
なにせまだ、中身は男なのだから。

だが、無情なものでそれは俺なのだ。
そうやって襲いたいと思ったと同時に顔がニヤけて若干キモくなった。

(分かりやすく言うと、腐女子の皆様が妄想でニヤけている状態と同じだった。しかも下着だけで…)

まあ、おかげで我に返れた。そして、観察していつものように呟く。

「我ながら不釣合いな笑顔だ。要練習だな。ん、下着が楽だ。体がしっかり変わったからだな、なんか胸に支えがあって、いい感じに締めてるからか胸が軽い。なるほど…レースが引き立てになってるのか。裸のときよりかわいく見える。でも、自分なんだよなぁ…。」

カーテンを開けて母さんに見せる。

「あんたに似合わないし地味だねぇ…。」
「そうなのか?俺は落ち着いているし鏡に映っているのが自分であってるなら、なかなか似合うと思ったけどさ。」

なぜか下着の評価なのに自分のことを悪く言われたような気がした。

「こっちのピンクのも試してごらん。」
「わかった。」

似合わないだろうなぁ。

しぶしぶとはいえ了解するんじゃなかった…。やっぱり、似合わない。
しかも、このあと、さらに6着も着替えさせらるとは思わなかった。

結局、最初の薄い緑のヤツと水色のちょっと高いのと恥ずかしいけど

「まだ、着るの?」

「あと一つだけね」

と6着目

やはり、センスが古かった。
しかも一つその水色除いて、バカみたいにピンク、サーモンピンク、ショッキングピンクというピンク系統なので

「あのさ。自分で選んでいいかな?」

そう言ってBカップのところで

「この黄色い花柄の刺繍のを試着いいですか?」

どうせ俺が着るわけで、もう女になったならこの体を飾るようなものを選んだ。
店員のお姉さんと母さんが驚いていた。
初めの薄い緑のレースの付いたもの、ちょっと高いけど水色のやつ、そして、自分で選んだ黄色のブラ、その3つを購入した。

そして、今は自分で選んだ黄色のを付けている。なんとなく気分がいい。母さんのはバックに入れておいた。
933 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/21(土) 01:29:44.18 ID:NmKVncTi0
直すところが多い・・・


「あんた、思いきったね。」
「だいたい6着も着て目も着けるのも慣れたし、自分の体はもう女なんだしイメージと合わせて選んだ。悪くないだろ?」
「あんたにゃ似合わん。」
「あっそ、別に俺が着るんだし自分でかわいいと思ったからいいじゃん。」
「金出すの、こっちなんだけど?」
「ありがとうございます。」
「はぁ、あと、名前どうする?お父さんと話す?」
「もちろん。」

車を再び走らせる。へたくそな運転で。

「「ただいま〜」」

「おかえりー。お兄ちゃんがお姉ちゃんになった。」

妹の紗弥だ。相変わらず声だけは可愛い。

「否定はしないけど。まだ、認めたくない。あと、お父さんは?」
「まだ仕事中。もうすぐお客さんも帰る。」

アリガトウゴザイマシター

どうやら、お帰りになられたらしい。朝もお店とか行ってたが、うちは飲食店を経営している。

「おかえり。」
「お父さんただいま。」
「昨日まで息子だったのにな…。」

その一言が重い。

「ごめん、変わっちゃた。」
「そうだとしても、俺の子にかわりはない。それに顔からも面影あるみたいだからな。」

ちょっとだけ嬉しかった。

「でさ、俺、女の子になったわけだ。名前変えるべきだと思うんだ。だから、生まれ変わった私に名前付けてよ。」

あえて俺ではなく私と言った。自分になのか、親父になのかはわからないが女になったことを言い聞かせるために。

「なぁ、今までの名前なんで婆さんと1文字同じだと思う?」

なんか予想外の質問が来た。

「へっ!?…名前の案がしっくりしなかったから?」
「外れ。名前をな生まれた子供に付けるときに様々な名前が出たから専門の姓名判断師に見てもらったんだが、どれも合わなかった。
だから血筋の中から名前をもらえと言われてな。それでたまたま当った婆さんの名前から貰った『恭』の文字それだけは残せ。
あとは自分で考えろ。自分の名前だ。お前がお前である証があれば問題ない。だって、残りの也の字だって元々の案からとっただけだしな。」

案外適当なんだな。ってか、元々の案ってなんだ?

「恭の字が俺である証か…。也を何か別のにするくらいだな。元々の案って?」
「純也。コレは考慮しなくて良いからな。」
「わかった、部屋で考えてくる。」
934 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/21(土) 01:58:17.25 ID:NmKVncTi0
すいません。今日はここまで次回は明日、日曜になります。
935 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(広島県)[sage saga]:2012/01/21(土) 18:59:37.20 ID:A958D7wjo
乙でした、投下が増えることを信じて
936 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/22(日) 22:04:40.83 ID:Kln+VidO0
考えてくるとは言ったものの、子にしたら婆さんとモロかぶりだし、か?いや、発音上叔母さんとかぶる。
カだめコだめ…さ?無いな…

「読みかけのマンガでも読むか…キャラ名からなんかアイデア出るだろ。」

−10分経過。

「フリアグネソス。」

−40分経過

「ティリエルたんマジカワユス。」

−1時間経過

「シ●ナみたいにUGのような相手できるといいな。」

ハッ!!恭ナ?食いもんみたいだけど被ってない。
「恭ナ」ナの字は遮那の那でいいか?
とりあえず、書いて持っていってみるか。

「父さん。母さんとりあえず決めた。」

紙に書いた名前を見せる。

「いいんじゃない?恭の字も残して女らしい名前じゃない。」

母が珍しく賛同してくれた。センスなかったようだ。

「じゃあ、姓名判断するか。」
「どうやって?今から見てもらいに行くのか?」
「うーん。パソコンでいいだろ。たぶん、そうゆうサイトもあるはずだ。」

そりゃまた適当な…

「俺の部屋でやって来い。それとも自分のパソコンでやるか?」
「自分のでやってくる。」

言われたように検索し

「あったあった。恭那っと。え?えー…最悪じゃねーか。」

那の字が相性悪いのか。流石、母だ。センスが無い。なら那を奈ならどうだ?

こっちのほうがいいのか。陰陽のバランス総画数。

「へぇ…研究職や芸術にむいてるのか。母性が高い…か。」

研究職や芸術で思い出すがそういやそうだったな。自分の名前だ。
中学の成績で考えると、案外外れてなかったみたいだった。

ちなみに、まだ変えてない今の自分の名前を打ってみたがそこまで大きな差はなかった。

調べたものを父さんたちに見せないとな。

「父さん。那よりも奈の字の方がいいみたい。陰陽のバランスとか。」
「そうか。じゃあ決定だな。」
「決まったなら役所で手続きするからまた出るよ。あと、今日から着る服買わないとね。体型から無理でしょ?」

あ、そういや、まだブレザー着たままだった。
まだ昼の12時だというのに着ているのに違和感が無かったことに驚いた。
937 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)2012/01/22(日) 22:26:53.06 ID:34fytj5r0
5,6年程前このスレよくみてたなー
938 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/22(日) 23:06:18.71 ID:Kln+VidO0

再び車に乗って市役所そして服を買いにいくが、気分が悪い。

いい加減、この制服を着替えたい。それ以上にズボンを穿きたい。
そう思うのになぜか身体は思っていたよりもこの服に慣れてしまっていた。

余談だが、自分にはトランクスより案外ショーツのほうが着心地がよかったので下着対しては全く文句はない。

慣れてしまったけど、意識するとわかる、この下着だけのような感じが嫌なのだ。

「なぁ、服買うのってしもむら?ユニシロ?」
「どっちも行くよ。でも、その前に市役所で戸籍変更が先。」
「市役所かぁ。あまり行きたくねぇな。」

お役所仕事は時間かかるわ、妙にプライド高いわで嫌いだった。


「じゃあ戸籍は男のままにするの?」
「それもあとあと困るだろ。」
「なら文句言わない。」
「へぇい。」

市役所に着き手続きをする。

何か書類3枚くらい書かされた。まだ、書きなれない新しい名前とか。

また字の練習必要だな。

最終的に母さんが印鑑しておわった。
まぁ、お役所仕事のようにたらい回しされなかったからいいか。

「次は服ね。」

母がそういうと役所から近いショッピングモール内のユニシロから先に見ることになった。
939 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/22(日) 23:13:25.79 ID:Kln+VidO0

「いつ来ても人いっぱいだな。」

いつもとは反対のレディースの服を見てるわけだが、制服で母親といることで周りから浮いてることが良く分かる。
しかも、認めたかないが一応、美人な母とその娘というわけで周りからチラチラ見られてた。
昨日までなら自分も見るほうの部類だろう。ただ、レディース側に用は無いからまず見ないけど

そうやって周りの目を気にする俺に対し、この母親、俺の了解や同意もなしに次々に服を入れてやがる。
妹が嫌がるのも納得だわ。

「着るの俺なんだけど…」
「買うの私なんですけど?」

だからってあんたの趣味でボーダーばかりはやめてくれ。しかも、妙に楽しそうだし。

『ボーダー柄って囚人服みたいで嫌なんだ。』

と言いたいが言えない。
理由はまぁ…下着のときと同じ理由だ。ずっとブレザーで過ごすのは問題しかない。

あれ?ちょっと待て。その赤い水玉のフリフリ何処から出してきた?

「これどう?着てみる?ってか試着して。」
「ねーよ。」

頭おかしいんじゃねぇか?ありえないだろ。
これ以上勝手に選ばせたらヤバイ、かなりマズイ何がまずいってセンスが“今の”10代じゃない。
百歩譲って、どう見ても20年前(当時この女二十歳)の流行です。本当にありがとうございました。

「ごめん母さん。自分でも選ぶわ。」

“も”とつけて怒らせないようにした。

とはいっても、実際、どんな服が今の俺に合うのか正直分からないし、おしゃれに興味のない生活だった。
服よりカードゲームや鉱石につぎ込んだお金のほうが多いだろう。

それ故、男のときも155cmという低身長なので小学生のときからの服をまだ着せられていた。
しかも、母親が選んだ服をな。
そんなわけだからセンス無いのは同じだろうけど。でも、また全部、母のあのセンスで選ばれるよりはいい。

「だったら適当に選びな。何も言わない。」

ちょっとイラついていた。
あんたの服買うんじゃねぇんだよ。

無難にジーンスやTシャツ、このモールや街で見かける同世代くらいの子が着ているようなものを適当に選ぶ。
おそらく流行してるものだろう。
自分で変に感じない程度に選んでいたが、横から口出し

「あんた、スカートは?」
「ショートパンツ選んだから勘弁してください。」
「じゃあ、家では下着だけで過ごすのね。」

この鬼婆め。だが、口ではいえない。

時期からロングスカートなど余りしか売っていない。つまり、必然にミニスカートになる。さっきのフリフリの水玉のような

気にするとスースーしていて嫌なんだけどなぁ…
まぁ、この赤を基調としたチェックのプリーツスカートならさほど今着ている制服と変わらないからいいか。

結局、スカートも2枚購入した。カゴの中は意外なことに母さんの選んだもの(白と赤のボーダー)は1着しかなかった。
940 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/22(日) 23:26:49.55 ID:Kln+VidO0
そうして選び終え、会計
かごが重い。

「お会計31800円になります。」
「ユニシロで万までいったか…あれ?俺が着るのかこれ?これもサイズが違う。つか、金あんの?」
「ちょっと、私のも買ったからね。それに支援金貰ってきたしね。」

ああ、なるほど。
確か、女性化者には生活保護じゃないが童貞で1月前に来る青紙を一緒に役所に出せば3万かそこらの支援金が渡されるんだっけか。
あぁ、だから、ちょっとだけど、さっき楽しんでいたわけね。納得。


両手に購入したたくさんの服が入った袋を持ちながらショッピングモールを歩く。
同じように学校帰りの野郎どもがすれ違うたびにこっちを見るのが分かった。
ため息つきたくなるが、文句言えないどころか。こっちは男のときはもっと酷かったからな。
非難も出来ないから、“見られる”という苦痛を味わいながら車まで戻った。

「はぁ〜つかれたぁー。」
「何言ってんの。」
「いやさ、男なら見られるっていう体験があっても、図書委員長で全校生徒の前に立ったときくらいだったからさぁ。ずっと視線があるってのも辛いってか、息苦しい。」
「これまで見てきた分見られると思えば良いんじゃないの?」
「理不尽…でもないか。」
「さて、車出す前に着替えなさい。ブラインドつけるから。」
「へいへい。」

車の中で制服から着替える。
そのために、何か窓にブラインドみたいなものをしてある。黒い薄い板のようなものを。
じゃなきゃ丸見えだ。つか、今気づいたけど家帰ってから着替えれば良いよね?
何その視線。早く着替えろってか?分かったよ。分かりましたよ。

腰のファスナーを下ろしスカートを脱ぐ。
今買ったばかりのシャツとジーンズ…

母親の目が光り、仕方なくジーンズではなくスカートのほうをとる。さっきの赤のチェックのプリーツスカートだ。
ならシャツよりはブラウスで、色は白かな。あと、寒いし何か買ったジャケットでも羽織るか。

うぅ、足が肌寒い。次でニーソでも選ぶか。ま、あったらだけど。

とりあえず、一度、着替えて次の店に向かった。



PS.青色1号さんの赤紙じゃなかった。青色通知の設定を勝手ながらちょっとだけいただきました。
不快な思いさせましたらすみませんと先に謝っておきます。
941 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/23(月) 00:06:48.90 ID:b1e92r+n0
―しもむら

何年ぶりだ?ここ来るの?建物がすごくババ臭い。看板の臙脂色の使い方が間違ってるといつも思う。

「行くよ。」
「あ、ちょっと待って。」

ユニシロと似たり寄ったりなものを選びながら、寒いからとごねて黒のニーソも2セット購入。
さっきもハイソックス買ったばかりだけど
だって、寒いんだもん。

「スカートもう一つ買いなさい。」

「学校のもあるし二着あればじゅうぶ…はい。」

抗議しようとしたら睨まれた。

何も睨むことは無いだろ…

「スカートねェ…。」

いろいろと種類がある。また、プリーツでも良かったが。

「ワンピースか…。」

柄物は好きじゃないんだが、スカートが花柄、トップは普通に見る分にはブラウスのようだった。
おなかあたりでベルトするみたいで、あまり見かけないし古いタイプなのかもな。

見ると周りにも似たようなものがある。
ベルトのないタイプでちょっと大人っぽいモノ、白地に花柄のもの、ノースリーブのもの。これは夏物かな?

その中の一つが目に付いた。
昔はまったRPGのキャラに着せてたヤツに似ていた。たしか、カクテルドレスだっけか?
たぶん、それとは違うんだろうけど…薄い桃色(ピンクはバカっぽいのであえて)でほぼ無地の膝丈くらいのワンピース。
似合わないか?と思ったが

「何かこれいいな。母さんスカートの代わりにこれでもいいか?」
「ワンピース?似合わないでしょ、やめときな。」

よし決定。買う。

「わかった、じゃあこれ買うわ。」

とりあえず、鏡であわせてみるが悪くはない。思わずニコリと笑ってしまった。
おおむね満足だ。

ただ、自分にドキドキするとはな。笑顔作るときの参考にしておこう。

会計は先のユニほどではなかった。

さっきので支援金使ってしまったのか、イライラしていたが特に何事もなく帰れた。
車の中はだんまりしてたけど。

「ただいまー。」

帰るや否や家で俺の部屋のタンスの中の総入れ換えが始まった。
前からある男女兼用の冬モノなどは残し、男のモノのシャツやら子供服は処分した。おそらくまだ着れるだろうが。

俺にとって邪魔だったタンスにようやく価値ができた気がする。
そんなこんなでもう6時を過ぎていた。

942 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage]:2012/01/24(火) 21:39:40.64 ID:JgUlrtC70
GJ!
943 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします2012/01/25(水) 11:18:42.66 ID:IMlw5LPH0
>>941
続き期待してます。
wwktk
944 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします2012/01/26(木) 09:35:51.38 ID:ZMTzPZdho
1レスに収まるSSって難しいよね。だがそれがいい(謎
というわけでお題ぷりーず↓
945 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/01/26(木) 10:28:44.96 ID:a3iquwG70
体重
946 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/26(木) 11:31:42.25 ID:OY06AASn0
お題「近所の双子」
947 : ◆wDzhckWXCA2012/01/26(木) 21:29:58.65 ID:bF16dp4uo
お題「体重」

「げぇ〜〜〜っ、まだ2キロも落とさなきゃだめなのか・・・・地区大会まであと2週間しかないのに」
大紀が武道場の更衣室で体重計をのぞき込んで悲痛の声を上げていた。
「よう大紀、減量うまくいってないのか?」
俺が大紀に声をかけると、げんなりした顔で大紀がこっちに振り向いた。
「芳照か・・・・今日からさらに打ち込み100本とランニング3km追加だな・・・・」
「ご愁傷様、まあ小1から柔道やってんだもんな。その体、ほんとあとどこ絞れっていうくらいなのになww じゃ俺は先に道場に行ってるぜ」
道場でウォーミングアップをしていると、突然まわりから黄色い声が飛ぶ。大紀が道場に入ってきたのだ。去年1年生ながら学校でただ一人インターハイに出場した大紀目当ての女子生徒たちだった。
「おう大紀、今日もギャラリーが大勢だな、おまえ目当ての。・・・・いいよな選りどりみどりで」
俺はかるく嫉妬を含んだ口調で大紀に声をかける。
「何言ってるんだよ、地区大会間近なんだぜ。そんなことにうつつを抜かしてる暇なんてねぇよ」
大紀は軽く受け流すと、ウォーミングアップをはじめた。
「そんなことより芳照。おまえも今年は黒帯をとったんだし、今年は一緒に県大会に進めるようにがんばってくれよ?」
「おう、今年は俺も調子いいしな。地区大会は突破したいぜ。」
しばらくして部活での練習も終わり、みんなそれぞれに学生服に着替えると帰宅していく。今日は金曜日だ、俺もこのあとは塾の時間が迫っている。
大紀もトレーニングウェアに着替えて道場から出てくると、待ち構えていた女子の何人かが声をかけていた。
「大紀く〜〜ん、一緒に帰ろう?」「何言ってるのよ、大紀くんはわたしと帰るの!」「いやいや、わたしとよ!」
そこかしこで言い合いが始まるのを、大紀はまたかと思いつつも笑顔で手を振る。
「ごめんね、僕はこれからランニングしながら帰るから。またいつかね」
女子生徒たちを尻目に、そのまま大紀は走っていった。

月曜日の朝、大紀は部活の朝練に顔を出さなかった。
いつもは一番に来ているはずなのに、どうしたのだろうと思いながら道着に着替えていると携帯がメールの着信音をならした。

From:大紀
件名:減量
本文:できた。いや・・・・した?

メールには写メも添付されていた。そこに写っていたのは、どう見てもだぶだぶの大紀の制服を着た、小柄な美少女の姿だった。
948 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2012/01/26(木) 22:32:43.92 ID:qfqWD1OP0
GJ!
949 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/27(金) 03:37:20.65 ID:WME7EV0t0
すまぬ・・「女体化あるある話」という安価を受けたものだがもう少し待って頂けないだろうか・・・
決して忘れていたのではなく単に
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ
何よりも速さが足りてないだけなのでもう少ししたらうp出来ると思うのでもうチョット待って
950 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/27(金) 05:38:10.22 ID:zaIepu8No
こいつは嘘をついてる味だぜぇ
951 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/27(金) 05:38:26.22 ID:zaIepu8No
こいつは嘘をついてる味だぜぇ
952 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/27(金) 05:38:32.17 ID:zaIepu8No
こいつは嘘をついてる味だぜぇ
953 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sagesage]:2012/01/27(金) 21:06:15.52 ID:OC7r7ksb0
お前さんは少し落ち着けw
954 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/28(土) 00:41:44.31 ID:E7slPydF0
あとで女性の胸を測った後に決まるサイズの値や日本人女性で美しいとされる黄金比の計算方法を知ったので。
恭奈のバスト77ウエスト54ヒップ84(黄金比から+5cm外れてる)に変更。同時にまだ出てないにょたッ子の設定体重も変更のため一部書き直し。
では、初日の最後上げてきます。

「ふぅー食った食った。」

1日が長かった。一応、誕生日ということもあって祝わってもらえはしたが、家族の決め事で本格的に祝うのはお店が休みの日だ。

メシは食ったけどいつものどんぶりじゃあ多すぎた。これからは茶碗にしよう。

本日三度目のトイレもさすがに慣れた。前から漫画とかラノベ読むため座ってしてたから座ることに関しては違和感は無い。

ただ、股の間から垂れ出てくるのとそれが調整できないことに不快感とイライラ感を覚えた。

二度目のトイレはペーパーで拭き取れてなくてショーツに染みついた。

女性にも向きを定められる器官があればいいのにと思う。

まぁ、失った相棒は戻ってこない。ましてや高い金出してまで新しくバベルの塔を建築する意味も無いだろう。

それより、今のこの股が濡れるこの状態に慣れるか対策を考慮するほうがいい。

まぁ、今は濡れてるのをしっかりと拭き残さないようにして拭くのが先か。

「ンッ…。」

やべ、力入れすぎた。なんかヌュチュってした。

『男と女でどっちが気持ちいいですか?』

不意にアイツの言葉が思い出されて

「そいや、ココ、どう変わったんだろ…。」

触ってみても誰にも怒られない。調べても試しても自分のものだ。すごく気になる。

おそるおそる手を、指を触れようとしたが

「入ってる?」
コンコン!!

「あぁ、ごめん。いま出るから」

妹にノックされた。

別にあとでもできる。夜中なら万が一声出しても問題ない。たぶん。
それにしても、今のちょっと気持ちよかったかも。

「はいどうぞ。」
「早くしてよね。」
「はいはい。」

全く可愛げのない妹だ。
にしても、さっきの力入れすぎたせいなのか。ちょっと収まりつかないな。収めるもの無いけど。

「はぁ…AVみてもしゃーないし。女体化についてググリますか。」

女体化については中学の保険体育でやるにはやるんだけど正直、内容は対策と女性の体についてだけで詳しくやるとは言えない。

「だから、こんなに女体化についてのサイトがあるんだけどな。まぁウィキペさんでいいか。」
955 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/28(土) 00:55:36.55 ID:E7slPydF0
10分くらい見て、長ったらしい正式名称(後天性女性化症候群)に歴史とか今のところ解明しているメカニズムとか宗教的にどう扱われているとか書いてあったが。

「科学的だけど実用的じゃねぇな。他見るか。ん?にょたっ子コミュ?…同類や先人の集まりか。いろいろ教えてくれそうだな。何々?名前とメアドあと、なんだ?ロット?あぁ、青紙に合った番号か。えっと確か、そのままこっちの再登録のカードに……あった!!AO−0288001っと。」
名前ってもHN、メアドあと、女体化者に新しく渡されるカードに記載された番号を打ち込む。
ちなみにこれはメシん時に母さんから渡された。なんでも明日学校に持ってけとか。
HNは…あれ?今日名前考えてばっかだな。

「みゃお。」
「うおっ!?びっくりした。何だムーンか。ムーどうした?」

名前を呼ぶと足に絡んでじゃれてくる。

「なんだよ。餌か?」
「みゃお。」

どうやら腹減ったらしい。そっか、誰も夜の分やってないんだな。

「ハンドルネーム何がいいと思う?」

まぁ、猫に聞いても応えるわけがないか。

「にゃん。」

いや、答えてくれたが分からん。先に餌やるか。

餌を入れてたら、がっついてんの。まさか昼も抜きか?まぁ、いいや。
「にゃん」か…
しばにゃんはなんかなぁ。じゃあ、さきにゃんとか?あざといか?まっ、いっか。
「さきにゃんっと。メアドはヤホーのでいいな。登録完了。えっと?初めての方へかな。」
「まぁ、偏見持ちに対しての注意文か。myルームはまぁ、普通だな。あとは掲示板か。あぁ…2chの女体化板に個室がついた感じか。あっちより荒れてないから、むしろヤホーの知恵に近いな。とりあえず、いろいろ聞いてみっか。」

流石に管理がしっかりしていてR18板は開けねぇかw

―20分後

分かったのは、ウィキペも含め

・変化が始まって24時間で完全に女性になる。まず臓器から始まって3時間位してようやく骨の形が変化し始め起きている間でも徐々に変化はしている。
また、脳内麻薬が分泌され痛みはまったく無く変化が最後に終わるのは小脳のDNAである。
ちなみに一番最初の変化は生殖器と脳で役割を終える精巣が最後に多量の射精をする。

だから、朝トランクスがカピカピだったんだな…

・変化し始めの初日に膣触るのは完成してない体のため性病にかかる可能性が高く形成途中なので下手にいじると形が悪くなるため危険。ただし、クリトリスは変化で最初のほうで変化が終了するので、どうしても初日にオナニーしたいならクリトリスだけでするといい。男性器の神経が集中しているため刺激が強く痛い場合が多い。

…あのビリッって感覚クリだったのか。

・3日以内に体内の男性だった名残が老廃物として出てくるので臭うため風呂は毎日しっかり入り大陰唇の内側も手入れしないとすごく臭い。
もしかしてココからも出てくると言うことか…しかも出てくるのはXY染色体か。
しかも大体の処理は初日に終わるとはいえ骨格が完全に丸みを帯びるまで1週間かかりそのため顔は毎日少しずつ変わるとかどうなるんだ?

・種の本能から男性のときに綺麗だと思ったりかわいいと判断した女性の顔と遺伝子を元に可能な限りで美人になる。
また、恋の対象が男性時の自分に似た感じになる。
…これ結構きついな。美女と野獣って言うより俺の場合、小さな魔獣だったしな。いろいろ問題児で

・他にも身体は女性でも元々男性だったために性欲が生まれながらの女性より強いらしい。
また、個人体験の話から1年くらい性行為を行ってない場合。体が火照り男のものが欲しくてたまらなくなって自然とフェロモン出しまくりになって思わず幼馴染を襲ってしまい。しかもそのまま妊娠でゴールインしたらしい。
他の人からの話からしてもHしないとそのうち発情してしまうらしい。
…これは性欲というより本能で子孫残そうとしてるだけじゃねーのか?

あとは宗教や歴史だとキリスト教系は神の意思による再構築。拝火教系は悪魔と天使がなんたらかんたら。日本神話でも一応いたしな。用は古代からあったと、大奥の女性の中には次男だったものもいたのね。藤原氏かw
仏教はまぁ特に関係ないのか。尼さんいるくらいだし。インディアンとかいろいろあるし。まぁ複雑だわな。

あと生理は大体2週過ぎたあたりから遅くても1ヶ月くらいだそうだ。気の重くなるが大事な話だ。
軽いと良いが。まぁ皆さんそこまで生活に支障出るほどじゃないようなので重くはならないらしいけど。
956 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/28(土) 01:16:37.92 ID:E7slPydF0
「はぁ…とりあえず、触るならまた明日か。あと、沙耶香とか雪に似るのか…これなんて罰ゲーム?。」

そのあと、コミュに「女の子の生活Q&A」っていうページがあったから、女性の生活の仕方もちょっと調べた。
風呂とか肌のケアとかそうやって調べてたら風呂の順が回ってきた。

プリーツスカート、上着。ブラウス、白いキャミソールを脱ぐ。
鏡に映るのはブラとショーツとニーソだけの自分だった。

歪んだシーツの上でポーズとれば抱かれ枕まんまだなこれ。

そう思った後に、ニーソもブラもショーツも脱ぐ。太ももに食い込みの後が出来てた。触るとちょっとだけ痛い。
AVサイトでしか見たことのない全裸の女の子を初めて生で見た。その初めてが自分と言うのがなんとも虚しい。
起つ物も今は小さな豆粒だ。

洗面所兼脱衣所から風呂に入り、いつものように湯を一度、体にかける。

そして、そのままスポーツカットからセミロングになった髪を洗う。
ついでだったけど体含めて洗い方とか調べて良かったと思う。

爪を立てないように指先で丁寧にこする。
髪質が細く柔らかくなったのがよくわかる。上物の布を触っているかのような滑らかさだ。
指と指の間を抜ける感覚が心地よい。髪を洗うだけでもまったく違う。
男のときならワシャワシャと髪も体も適当に洗えばよかっただけに女の風呂が長い理由に納得がいった。

洗った髪にトリートメントをする、勝手にだが母さんのをまた拝借した。
長い分手間がかかるが不思議と苦はない。むしろ楽しくすらあった。満遍なくトリートメントしまた流す。
そして、書いてあったようにトリートメントが残らないようにしっかり洗いながす。

ようやく髪を洗い終え次はこの身体だ。曇っている鏡にはさっきのように身体は映らない。
母さんや妹の使うスポンジを手に取る。

『女の子の肌、特に女体化したすぐは本当に一撫でするくらいで洗わないと肌をいためるわよ。』
『使うならタオルよりスポンジね。』
と掲示板にも書いてあったので顔も知らないが先輩たちの言うとおりに優しく擦る。

「ふぁ…え?何、今の?」

ボディーソープをつけたスポンジで胸を撫でただけだ。感覚が違う。男のときじゃあ、ありえない感覚に驚き

「…先に腕から洗うか。」

胸を洗うのを躊躇した。
濃い腕毛が無いこと以外は大きな変化のない腕だ。いや、多少だけど筋肉が減って脂肪が増えたかな。
どちらにせよ細く白くしなやかな腕だ。ほんと、俺のものじゃないみたいだ。
腕もただ撫でるように洗う。面積が小さいため、すぐに終わってしまった。そうするとまた胸だ。

ドキドキする。未知の感覚。いや、快感のほうが正しいか。
これからずっと付き合っていくその快感に意を持ってスポンジで撫でる。

「ん、ふっ…ぁ。何だコレ。」

例えようのないが、あえて言うなら胸にチンコ並の神経が集まったような感じ。
あの、ただ扱くだけの淡い心地よさが胸を撫でるたびに広がって体が火照るような、なんとも言いがたい心地よさに包まれる。そして、ついもっと気持ちよくなりたいと思ってしまう。

「あぁ…もの足りない…」

胸からお腹、お腹から足、そして股間へ。今までは袋だったものを撫でるように洗う。
上のほうを擦るたび、ちょっと懐かしいような、新鮮な刺激が伝わる。なんというか亀頭を柔らかい布で擦る感じがした。
直接触れているわけじゃないのだが。
まだ綺麗な肌色の大陰唇を開き中をクリを出して洗う。
ここなら刺激しても問題ないらしいし洗うだけだ。オナニーじゃない。

スポンジで一擦りすると、何か身体全体にに電気走ったと思ったら何かに頭ぶつけて気を失った。
957 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/01/28(土) 02:23:22.60 ID:E7slPydF0
「…うん?」

なんで裸?泡まみれ?あ、風呂か。
なんで女の子に…なったんだった。
記憶が戻る。気絶していたらしい。

「まて、触っただけで気絶するのか?痛いとは聞いたが。」

おいおい、刺激強すぎやしませんか?気を失うほどだなんて聞いてないぞ?

「ヘクシュン!あーさむ…。」

一体どれだけ気失ってたんだ?クリで気を失うとかあるのか?周りは泡だらけ。
もしかして…ただ、さわってビックリしただけで泡に滑って頭打っただけなんじゃ…冷静に考えて気を失うほどの刺激とかありえないだろ。うん、きっとそうだ。
頭があったところの下にお湯をかき混ぜる棒が倒れてた。やはり、頭を打ったらしい。
シャワーで泡を流し湯船へ入る。

「湯が柔らかい。なんだか違うなぁ…はぁー、いい湯だ。」

まさか鼻炎から過敏症だったり中耳炎だったりしたが。

「過敏症だけ治ってないとか?しかも、女性になった分感じやすく。まさっかな。全身性感帯とかありえないよな?」

左足だけ湯の外に出してみる。

チャポッ!

「それにしても、白くなったなぁ…脛毛もないし綺麗だ。」

足をもう一度湯に沈める。湯と空気の境界線が肌で分かる。男のときには無かった感覚だ。それだけ敏感なんだろうけど。

ザパァ!

湯船からあがる。

「萎えるなコレ、萎えるモノは無いけどさ。」

ほんの少しだけど陰裂から水が滴る。
もしかしなくても、男のとき妹、婆さん、母親らの中の液も混じっていた湯で顔洗っていたってことだよな。

「汚ねぇ…見た目綺麗だけど女って汚ねぇ…。シャワー浴びてついでに洗顔してから出よ。」

良く考えると男もそんなこといえない場合もあるんだけどな。

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・

シャワーの感じも違う。あたる水滴1つ1つが良く分かる。
洗顔クリームを勝手に借りて塗り、もう一度顔ごとシャワーを浴びる。
おそらく顔についた皮脂は流れただろう。

「さて、出るか。」

バスタオルもやわらかいな。男のころのように適当に拭くと髪や皮膚を傷めるんだっけか?

「えっと、たしか、こうやって当てるように拭き取るんだっけ?」

ほんと風呂が長いわけだ。まぁ、風呂の中で抜いたり髭剃ってたりする俺が言えることじゃないが。

「さて、父さんにメールして…どうしよ?」

大きくないけど下見ても胸なんだよな。
まだ24時間たってないから明日にするか…

「うん。いいや、やっぱり寝よ。」

こうして長い女体化初日はおわった。
958 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(千葉県)[sage]:2012/01/28(土) 02:43:00.09 ID:W7h49IT/o
いつの間にか950越えかー
次スレは>>980でいい…よね?
959 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/01/28(土) 21:52:36.70 ID:qJ91rpgOo
乙おつ^^

>>958
それでいいんじゃね?
960 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage]:2012/02/02(木) 21:46:26.72 ID:dlM8Xt1c0
昔書いた糞ファンタジー小説をベースにTSモノ書いてたらちゃんと風呂敷閉じれるか不安になった・・・
無駄に長編だし厨二だし女になるまでが長いけどスレ梅に投下する
961 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage]:2012/02/02(木) 21:56:16.23 ID:dlM8Xt1c0
 死んでも良い人間とは何だろう。
 物心ついた頃から、自分がその類の人間であることを“父”に教わったが、その理由は未だ
知らない。何故そうなのか、自分なりに納得の行く答えを見つけることこそが、自分に許され
た唯一の自由だとも教わった。以来、時間さえあればそのようなことを考えている。
 自分が人殺しだからだろうか? 違う。生きながらに死んでいるから? わからない。
 同じように答えを探していた“兄”が言うには死んでも良い人間とは単に、その者の価値だ
そうだ。世の中には代替の効く人間とそうでない人間がいて、自分たちは前者にあたるのだと。
 実際、自分を含めた教団の人間は、その程度の命の軽さでしかなかった。
 断罪者という王家に忠誠を誓い、悪に正義を執行するためだけの道具。だからこそ、そこに
自分の意志はなく、ただ正義を為すだけである以上、人としての価値はいかほどもない。
 つまりそれは、使い捨ての人材であるということで、任務の傍ら常々そう思わされてきたか
ら、命令さえあれば命なんて覚悟さえなく捨てることが出来る――はずだった。
 確固とした意志すら持てず、人間から人形に成り下がり、ただ王家から下される死刑宣告を
執行するだけの道具。それだけが自分を語る全てだったはずなのに。

「はぁ……はぁ、はぁ……」
 なのに、もうどれぐらい走ったのかもわからない。酷い雨で頭が霞み、酷使した足はジンジ
ンと痛む。呼吸は乱れて息苦しく、泥濘んだ地面に踏みしめる力がなくなり平衡感覚を失う。
――上下左右がわからなくなるほど何度も転がりながら、激しく地面に叩きつけられた。
 全身を泥で汚しながら、頭より上に投げ出された手を元の位置戻そうと肩に力を入れるが、
自分の意図した通りにはいったりしなかった。

 そもそもの原因は、激しい疲労やケガの程度によるものではない。急速に筋力を失ったこと
によるバランス感覚の欠如、そして身体と魂の不一致から来る一時的な混乱状態――
 人形師の舞台で、不慣れな素人が人形を動かすようなものだろう。このような状況になれば
誰だって為すべき意志を奪われるだろうし、まず満足に戦えるわけもない。
 恐らくこれは『感染』だ。歴史上、最も多くの人を、効率的に殺し尽くした黒魔術――それ
が『感染』。つまり、禁呪指定さえ受けて世界から抹消されたはずの大量殺戮魔術である。
 今回使用されたのはその亜種で、『感染』という属性のみを引き出しているだけの、直接的
な殺傷能力はゼロに等しい陳腐なモノでしかない。肝心の効果は一見滑稽に映るが、しかし王
国の現在を考慮するなら、現存する中で最も恐ろしく災厄に近い魔法と言えるかもしれない。
 何しろ、その効果を自分が身を持って体験している最中なのだから。
 なるほど、確かにこれなら禁呪法にも違反しない。大量殺傷能力もなく世界から制裁を受け
ることもないだろう。しかし、今の王国の戦力ならば[ピーーー]ことなく易々と削ぐことが出来る
――こんな状況にあっても頭は至って冷静に分析を続けており、何度繰り返しても結論は一つ
しか出なかった。
962 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2012/02/02(木) 21:57:10.93 ID:dlM8Xt1c0

「……っはぁ、まだ死ねないのか……自分は……」

 その時ほど、王家を恨んだことはなかった。
 身体と心は既に朽ちている。生存本能すら失って、いかに安楽に死ねるかを求めているとい
うのに、二つを支える芯に打ち込まれた使命と言うやつは、例え命の危機に瀕していようと、
何としてでもこの情報は王国に持ち帰らなければならないと考えている。
 任務が全てであるならば、腐りきった王国の行く末など知ったことではないと思っていた。
だが心身より先に使命があって、自分はそのことに強く辟易したのだ。
 それが王家に忠誠を誓った――自分に課せられた楔であり、呪い。
 この身体に背負わされた呪いが王国の崩壊――つまりこの国の人間の未来などという厄介な
代物であるならば、意志や身体は関係なく、自分はここで動かないことを良しとせず――思わ
ず呪詛を呟きながら、小さな手と腕は壊れてしまいそうな強さで地面を掴んだ。
 病人並の軽い身体に以前とは比べ物にならないほどの重圧がかかっているような、相反する
二つの感覚が混在する矛盾した状況にあって、泥水に顎を付けて辛うじて息を吸いながら、死
ぬ思いをして何とか仰向けになる。その時、自分の顔には直接雨が降り注いだ。
 それは冷たくて、されど身に染みるほどの生を実感するもので――
「――男を女にするだなんて、馬鹿げている……っ」

 敗色の空の下で、ポツリとそう呟いた。


 ――蒼と朱のアリスロッド――
963 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2012/02/02(木) 22:00:57.46 ID:dlM8Xt1c0
 1

 それは好意や敵意とは違う、どこかに感情を置いてきたような無機質な『視線』だった。
 ひたすら視線が粘りつく状況をさほどの脅威にも感じず、取り敢えず無視しておこうと思っ
た自分はその視線の主の正体を暴くこともなく、優先順位の低い不確定要素として頭の片隅に
でも置くことにした。
 何故なら『確定』でこそないものの、その正体にはおおよその検討が付いていたからだ。
 ――エレメンタル<精霊>。非生物種ながら上位たる彼らにとって知性を持つ人間は特に珍
しい生き物らしく、街里から離れた山や森の中を歩いていると極稀に関心を寄せられることが
ある。
 それが精霊にとっての『視線』だ。彼らの『視る』行為とは、文字通り姿形を視るものでは
なく他者が持つ心の有り様に直接干渉する、生物の常識とは別次元にあるものだ。
 それ故、彼らに視られることとはつまり心を視られることであり、普段は曖昧な視線を感じ
取る感覚も、彼らによると確かな実感に変わってしまうのである。要するに、隠し事が通じず、
すごく落ち着かなくなる状態が彼らの『視線』と言ってもいい。
 普通の人間がそれを体験すれば、精神的な負担は計り知れず、恐慌状態に陥ることだってあ
るだろう。しかしながら、世界を渡り歩く冒険者や行商人は、精霊のソレがあくまで観察行為
でしかなく、害意がないことも常識として知っている。自分もそのうちの一人だから、ある日、
突然強烈な視線を感じたとしても、とりたて不穏を誘うほどのことでもなかったのだ。

 ――そういう投げやりな結論に達してから、三時間ほど経過しようとした今でもその不可解
な視線は纏わりついており、その考えが誤りであったことを自分は認めざるを得なかった。
 というのは、精霊は本来生まれた場所から離れることが出来ないのだ――地の精霊なら木や
岩などを依代にしてこの世に顕現しているため、土地から土地へとひたすら移動し続ける自分
を追い続けるなんて精霊の性質から考えてありえない。
 精霊でないとするなら、魔物にでも憑かれたか……それとも誰かの呪いか。否、だとすれば
その視線には悪意の性質があるはずだ。魔物にしても、また呪いなどという負の感情ありきの
黒魔術体系にしても、普通はそうした側面を感じ取れるのだ。まぁ、黒魔術全てが負の感情に
よって司るものだとは限らないけれど。例えば、初歩級呪紋に悪魔と契約し、呪った対象に視
線を送り続ける術があるのだが、その悪魔と呼ばれる存在は、ただ相手に視線を送るしか能が
なく感情すら持たない非生物種でしかない。その術なら“逆探知”に引っかからなくてもおか
しくはないのだが――しかし、そんな益体のない思惟に耽っている余裕は今の自分にはなくて、
遠くから伝わる蛮声にハッとしたように意識を戻しながら、地を踏みしめる足に力を入れた。

「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 逃がすな! 逃がすな! 逃がすな!」」

 怒声、足音、敵意。それは数十数百にも重っており、全てはこの自分へと向けられているも
のだった。要するに今、自分は追われており、少し後方には軍団から先行している斥候と思し
き二人組が、血相を変えて逃げる自分に食らいついていた。
 想定通りとは言え、さすがに長時間補足を許しているのにも鬱陶しくなった自分は、頃合い
を見てこの辺りで姿を消そうと思い、一枚の札を取り出すと人差し指と中指で挟み、

<<Drittens, Verlust, Brand>>

 呪紋の召喚単語を言葉にすると札は白く輝いて破裂。直後、“自分に対するあらゆる認識”
を敵から奪い取る。続けて強化魔術を詠唱する。
964 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:05:21.81 ID:dlM8Xt1c0
「高貴なる虹が求める代償は時、あらゆる戒め解き放たれん――"奔れ万象"」

 その瞬間、重さを感じなくなった自分は地を踏みしめて跳躍した。音もなく宙に舞ってすぐ
近くに立つ大木の節に足を架けると、走って更に上へと到達し――この森で一番の大木であろ
うトリネコの若木、その枝間に身を寄せる。
 奴らはと言うと一様に常套句を叫び立て、慌てて消えた自分の姿を探していた。
 ――『強制散逸符』。幾つもの呪紋が織り込まれた『魔封札』で、効果は相手に“自分の存
在を一時的に認識外に追いやらせる”こと。我々アサシンが教団から配給されている常備魔封
符のうちの一つだが、事戦闘に関しては戦術すら覆しかねない魔封符であるため門外不出。王
国が誇る主力兵装の一つで、自分とて逃走以外に使用は許可されていない。
 彼らにしてみれば敵の姿が見えているにも関わらず、『敵を追う』という目的そのものを見
失ったのだ。自分はその隙をついて身を隠したため、気づいた時には既に手遅れだ。

「……呪いとかより精霊の方が怖いけど、さすがに負担を感じるな……これは」

 我知らずぼやく。精霊でないとしても長時間、視られているという状況は自分のような人間
からすれば相当なストレスにもなるものだ。そのせいで暗殺にも失敗してしまったし……。
 わりと日陰者には効果があるのかもしれない、ひたすら視線を送る魔術って。
 未だ実体が見えてこない『第三者』の存在に身震いしながら息を潜めて、最小限の警戒をし
ながら、束の間の休息に安堵すると、人心地がついた。
 ――『シュトゥルム』の決起。その難から逃れて息一つつくことなくやってきたのは深山幽
谷の地だった。かつては精霊の都とも呼ばれた世界樹の森だ。願わくばこの場所が、奴を仕留
める好機ともなれば良いものだが、あいにく生まれてからこれまで天から見放されている自分
が運やら成り行きといった事象の流れに身を任せるわけもなくて。

「さて、どうする?」

 今後の作戦を考える。まず、自分の任務は奴らの討伐である。
 群れから離れた獲物を一匹ずつ狩っていくか、それとも一騎当千の騎士のように奴らの前に
姿を表して律儀に豪快に薙ぎ払うとするか――もちろん答えは前者しかなかった。
 自分の能力とこの軽装では一騎当千など不可能に近く、対集団相手などもはやアサシンの本
分を超えている。だからこそ、地の利があるこのような森に奴らを誘ったのだし。
 長期戦や個人戦ならば活躍も出来るだろうが、彼らのような集団を一度に相手にするには自
分では荷が重い。ここは騎士団か、パラディンを引っ張ってくる方が理にかなっているだろう
に、王家にフォローを求めようと無駄だ。それが出来ぬからこそこうやって回りくどい手段を
取っている最中なのだ。
 軽い現実逃避ならぬ現状分析を終えて下界を観察すると、盗賊二人が怒鳴り散らし、いがみ
合いを始めており、どうやら自分を見失った非がどちらにあるかないかで喧嘩に発展している
ようだった。
 ――情報通り、奴らの繋がりはあまりに細い。
 それゆえにこの状況が誰にとって好機であるかも理解出来ていない。賊なんて下賎な地位に
落ちぶれている時点で頭脳になど期待してなかったが、所詮こんなものだろうと思う。
 災厄と恐れられたシュトゥルムの、その内部を垣間見てある意味絶望した。
 彼らのような低俗な連中が悪意の顕現者たるあの“シュトゥルム”なのかと。
 最大の敵の正体があの程度のもので、そんな連中にこれまで王国が辛酸をなめさせられてい
たのかと考えると、言い知れぬ屈辱を感じたのだ。
 最大の敵とは最大の悪意と最強の力を持っているべきだ。
 でなければ、犠牲者全てへの侮辱に他ならない。しかし、彼らの不和を煽ったのは自分だ。
 自分の行動があのような醜い結果を生み出しているのは事実だ。
 そのことに関しては申し訳なく思うが、結局のところ壊すまでが自分の役割ならば、彼らに
対し持ち続ける情も期待も必要はないということか。
「その調子でいがみ合うと良い。組織としても、単なる殺し合いでも、隙を内包する未来は破
滅だけだと知らない貴様らはいずれにせよここで終わりだ。憤怒の内に死ね、賊ども」
 そのような呪詛をこぼした後、しばらく地上を俯瞰して事態の経過を静観する。やがて中隊
規模にもなる後続が二人に追いつくと辺り一面、蛮声に包まれる。
 これが無数の敵意と足音の正体。犯罪者集団、悪意の群体――シュトゥルム略奪兵団。
965 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:09:06.18 ID:dlM8Xt1c0
「――テメェら、そこをどけ」
 蛮声の中、唐突にその無粋な声が上がると、辺りは再び森閑さを取り戻した。
 しかし、何百もの人間がこの場在りながらその異様な静けさは明らかな異常であり、ひょっ
としたら自分の息遣いさえ際立って敵に気づかれてしまうのではないかと思うほどの緊迫を一
瞬で形作っていた。その声に従うように群衆の中央が割れ、それによって出来た一本道を遠く
からこちらに向かい、のそのそ歩き始めた男がいて、自分はその男に目を光らせた。
 遠目に見てもわかるその傍若無人な威容はまさに奴であることの証。死地を何度も潜り抜け
てきたような荒れた面と筋肉で盛り上がった巨体。無骨なガントレットに覆われた右手には鉾
槍を携えているが、奴の巨体から見れば稚拙な玩具にさえ見てしまう。

「……! 身分照会……アンノウン、確認――」
 奴こそこの兵団の首領――無名の王アンノウン。
 名は不明で、彼を指してシュトゥルムとも呼ばれている。奴によって地図から消えた村や街
は数知れず、これまでも数多の国民があれの犠牲になっている。
 目下最大の敵にして、今回の最重要ターゲット――つまり自分が最優先で消去すべき対象だ。

「あのクソッタレはどうした……?」
 アンノウンは周囲を威圧しながら、斥候の二人に歩み寄ると信じられないほど低い声で口を
開いた。同時に、彼らを酷く冷酷な瞳で睨みつけており、遠目に見据えていても無秩序に放出
される殺気はおそらく、それに反応したもの全てを感知する術式さえ付加させている。
 殺気にはそれぞれ個性を感じるものだが、奴のそれは特色も何もない粗野な振る舞いに過ぎ
ない。ただ気に入らない者を殺す、というだけのものでしかなくて、気味が悪く思う。
 ――そして、その場にいた誰もが二人の斥候の運命を理解するだろう。
 あの二人は間違いなく殺される、と。

「ああ、いえ、それは、コイツが――」
 男が言い訳を始めた瞬間、アンノウンは盗賊の一人を鉾槍の刃の部分で切り捨てた。
 右胸からケサ切りされた男は、悲鳴を上げる間もなく地面に伏して、大地を血で染めながら
もがき苦しむ。そんな男を見咎めることもなく、もう一人の斥候に視線を移したアンノウンは、
その容姿には不似合いなほどの笑みを薄く浮かべると更なる判決を下す。

「俺はよォ、あいつはどうしたかと聞いているんだ」
「み、見失っ……ひぃぃぃぃ、おたすけを……っ」

 恐怖に負け背を向けて遁走を計る男の首を、後ろから尖端で一突き。ワザと苦しむ余地を残
して楽しんでいるのだろうか。地に倒れた二人は、即死することなくのたうち回っていた。
 首を貫かれた男はあの出血量から見てもう助からないだろうが、先に切り捨てられた男の傷
はそう深くない。
 然るべき処置を受ければ助かる可能性もあるが、あの無骨な男がそれを見過ごすかとなれば
別の話だ――アンノウンは傷の浅い男の前に立つと腰を下ろし、侮蔑するように顔を近づけた。

「……助けて欲しいか?」
「お、お助けください……何でもしますから……」
「何でも……だと? 良いだろう、助けてやるよ――苦しみからなァ……!」
「――!?」

 その瞬間、アンノウンから強い殺意が放出され――たと思うと鉾槍を両手持ちしたアンノウ
ンはそれを地面に叩きつけた。破裂音と共に大地は振動し、この大木も大きく揺れた。一瞬の
轟音と振動に耐えながらアンノウンを見ると、奴の周囲は砂埃に薄く覆われおり、それが晴れ
て鮮明になった後の震源地には当然の結果が待っていた。
 助けを乞うた男の頭蓋が縦に“両断”されていたのだ。
「(……衝撃刃? いや、腕力だけであれか……! なんて破壊力……!)」
 鉾槍の刃は男の頭を寸断してなお、地面にめり込んで更に4メートルほどの断裂を縦一直線
に走らせていた。つまり、頭蓋より下にあった男の身体もその衝撃により“縦”に割かれてい
たのだ。脳髄と臓腑は垂れ流され、黒々とした大地はマグマのように湧いて出る赤の侵攻を許
している。その様子に、アンノウンはまるで愉快なものを見るかのようにして、男の頭から
――否、地面から鉾槍を引き抜くと首を一突きされた方も同じように叩き斬る。
 屍二つを見下しながらその次に、狼狽する団員達をも睥睨すると、
「この俺に何でもするなんて命乞いはよォ……ふざけてやがると思わねェか?」
「全ては団長の心のままに……ッッ!」

 恐怖に満ちた団員の呼号が森閑とした静けさの中を木霊していた。
966 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:13:01.58 ID:dlM8Xt1c0
「誰が生かしてやってると思ってる? このシュトゥルムをよォ。こんな惨めな終末を送りた
くなりたくなけりゃあテメエらもキリキリ働けや、俺のためにな」

 悪人には悪人の美徳があるのだと思っていたが――

「(……まったく、絵に描いたような悪人だな)」

 仲間を二人殺したというのに特別な感情すらも帯びていないどころか、彼らを仲間とも思っ
ていないようだ。その態度からよく分かる。奴は兵団を道具としてしか見ていない。
 あの問答は奴にとって余興、最初からあの二人を殺すつもりで――どう答えようと結末は同
じだったはず――しかし、まずいことになった……。
 場が平静さを取り戻した今でも、つい思考が錯綜してしまう。
 あまりに唐突な殺意だったから無視する余裕がなかったのだ。たぶん、今、自分の位置は奴
にとって筒抜けだろう。奴の行動次第で、自分の任務は失敗してしまう可能性が高い。
 つまり、今逃げ出さずに留まれば自分が生存出来る余地はほぼないと見て良いだろう。
 ――だというのに自分は、全く不思議な心境だった。
「(正直、余裕はないが焦りは感じない……何故だ……?)」

 目の前に差し迫った絶対的な死を実感し、ある意味冷静に開き直れているのかもしれない。
 それともその冷静さには何か根拠があるのか――だとするとそれは、自分自身の実力ではな
く奴が次に取るであろう行動を無意識に先読みしているからか……?
 それを安易な言葉で表現するなら野生の勘というやつだ。しかし獣のような非論理的なイ
メージ思考ではやはり言葉にしない限り曖昧でしかなく、意識的な行動を取るのが難しい。
 自分はこの状況を打破すべく奴という人間の心理を徹底的に分析し始めていた。

 つまり――男が何でもすると答えた瞬間、かつてない殺意を感じたのは“条件”を提示され
ることが奴にとって侮辱であり、生殺与奪すらも握る“俺”に仲間として振舞って欲しいと言
ったも同然の男に対して、憤りを感じたからだろう。何故なら道具はやはり道具でしかなくて、
自らの行動が道具に変えられるなどということはあってはならないからだ。
 厳罰主義者にして、他者が睥睨の対象でしかない、我の強い快楽殺人者。ここに来るまで相
当数の人間を殺している、この世の許されざる所業。
 そんな男が子鼠一匹殺すのに、数の暴力に頼るのだろうか。奴自身の実力のほどは定かでは
ないがアレは典型的な弱者に力を誇示して陶酔するタイプの人間――
 ――ならば……逃げないで正解か?

「(しかし、恐怖による統治とはな)」

 盗賊共の怯えからもそれは理解する。失敗した者は容赦なく切り捨てるのがあの悪党のやり
方で、奴らのあの覚悟は恐らくその恐れから来ているものだろう。
 恐怖に殺される意思なんてろくなものではないが、後に引けば殺される人間は何かと厄介だ。
生にしがみ付いている連中ともなれば、そんな奴らを前にして数でたたみかけられたら一巻の
終わり。正攻法ではやはり間違いなく殺されるだけだろう。
 弓でも射られたら終わりだが、どうやらそれよりも先に好機がやって来たらしい。

「テメェらは散開しろ。シュトゥルムの威信を賭けて、必ず見つけ出せ。
 ――だが殺すなよォ、半殺しでも良いからよォ、俺の下に連れて来い。必ずな……!」

 号令と共に、盗賊達が各々グループに分かれて広範囲に散って行った。
 それを指揮したのは当然ながらアンノウンだった。アサシンを相手に集団を捨てるとは愚か
にも極まりない行為でしかなくて、自分はその状況をただ呆然と見ていた。
 なぜなら、それはあまりにも予想通りの展開だったからだ。
967 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:17:47.28 ID:dlM8Xt1c0
 3

 略奪兵団の討伐を王家から仰せつかい、王都から北方にある『シュタインベルグ公国』にや
って来たのは今から四ヶ月も前のことだ。
 シュトゥルムという強大な敵をたった一人で討伐せよという任務。
 職業柄、組織の瓦解活動にこそ慣れてはいるが、今任務の本質は瓦解ではなく壊滅。
 つまりどんな手を使ってでもシュトゥルムに属する人間を全て叩けという内容である。あい
にく自分には組織全てを一人で殺せるほどの化物じみた強さはないし、ましてや破城レベルの
大魔法なんて使えやしない。
 そう――百歩譲って幻想の中の英雄ならばいざ知らず、現実は違うのだ。勢いのまま敵拠点
に乗り込み力任せで敵を全て全滅させるなんてこと自分たちの誰にも出来やしない。
 我々が集団を相手にするためには、まず敵内部に侵入し人員の削りを行いながら分断工作、
やがては内部闘争を生み組織瓦解を目指すのが常道であり、そういうこそこそした作戦の性質
上、一つの任務に参加出来る人間は意外と少ない。
 酷ければ個人に全負担を強いられるケースも多く、今回の任務もそうだった。このような事
が多々あるためか、自分が属するシュヴァイニッツ教団の殉死者は王立情報局所属断罪部隊の
中でも群を抜いている。
 たかが反社会組織を潰すのに何故このような回りくどい手段を取り、同胞を徒らに死なせる
のかと以前疑問に思ったことがあった。自軍を動かす余裕がないのなら、せめて歴戦の傭兵部
隊であるドゥーク騎士団でも雇えば確実でいて迅速に殲滅が出来るのではないかと。
 そのことを上官に具申すると、返ってくる答えはいつも一緒だ――清貧を謳う王家様は彼ら
の莫大なレンタル料の前にあっけなく撃沈するのだ。だからこそ、王家の犬にして安上がりで、
それでいてかつリスクの少ない個人レベルでの解決を望まれているのだと。
 有り体に言えば出す金が惜しいが故に、彼らは王国に仕える人間を平然と酷使する。
 そんな現状に不満を抱いている者も当然ながら多く、王家はそんな彼らの造反を危惧して、
忠誠を誓った者には“死の刻印”を与えて締め付けている。そんな情勢からか、この国がもは
やそう長くないことは子供の耳にも入っていることだろう。

「アデルロッド・フォン・シュヴァイニッツよ。そなたの働きを見込んでの任務だ。近年、巷
を騒がしておるシュトゥルム……彼の賊共の討伐をそなたに頼みたい――」
968 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:28:20.04 ID:dlM8Xt1c0
 3

 略奪兵団の討伐を王家から仰せつかい、王都から北方にある『シュタインベルグ公国』にや
って来たのは今から四ヶ月も前のことだ。
 シュトゥルムという強大な敵をたった一人で討伐せよという任務。
 職業柄、組織の瓦解活動にこそ慣れてはいるが、今任務の本質は瓦解ではなく壊滅。
 つまりどんな手を使ってでもシュトゥルムに属する人間を全て叩けという内容である。あい
にく自分には組織全てを一人で殺せるほどの化物じみた強さはないし、ましてや破城レベルの
大魔法なんて使えやしない。
 そう――百歩譲って幻想の中の英雄ならばいざ知らず、現実は違うのだ。勢いのまま敵拠点
に乗り込み力任せで敵を全て全滅させるなんてこと自分たちの誰にも出来やしない。
 我々が集団を相手にするためには、まず敵内部に侵入し人員の削りを行いながら分断工作、
やがては内部闘争を生み組織瓦解を目指すのが常道であり、そういうこそこそした作戦の性質
上、一つの任務に参加出来る人間は意外と少ない。
 酷ければ個人に全負担を強いられるケースも多く、今回の任務もそうだった。このような事
が多々あるためか、自分が属するシュヴァイニッツ教団の殉死者は王立情報局所属断罪部隊の
中でも群を抜いている。
 たかが反社会組織を潰すのに何故このような回りくどい手段を取り、同胞を徒らに死なせる
のかと以前疑問に思ったことがあった。自軍を動かす余裕がないのなら、せめて歴戦の傭兵部
隊であるドゥーク騎士団でも雇えば確実でいて迅速に殲滅が出来るのではないかと。
 そのことを上官に具申すると、返ってくる答えはいつも一緒だ――清貧を謳う王家様は彼ら
の莫大なレンタル料の前にあっけなく撃沈するのだ。だからこそ、王家の犬にして安上がりで、
それでいてかつリスクの少ない個人レベルでの解決を望まれているのだと。
 有り体に言えば出す金が惜しいが故に、彼らは王国に仕える人間を平然と酷使する。
 そんな現状に不満を抱いている者も当然ながら多く、王家はそんな彼らの造反を危惧して、
忠誠を誓った者には“死の刻印”を与えて締め付けている。そんな情勢からか、この国がもは
やそう長くないことは子供の耳にも入っていることだろう。
969 :蒼と朱のアリスロッド[sage saga]:2012/02/02(木) 22:29:48.91 ID:dlM8Xt1c0
ちくしょう!ミス! >>967から続き



 謁見の間にて。王座の隣に立つ宰相から発せられたその言葉は自分への死刑宣告にも等しい
ものだったが、それでも特別感情が揺らぐこともなく、自分はその任を謹んでお受けした。
 ――ただ、出立前に上官から言われた、
「光栄ではないか。王家が貴様を信頼しているのだと真摯に受け止めよ。彼の国の未来は全て
お前の肩に掛かっている……が、残念だったな、成功率はほぼ0%だ。お前が死んで作戦が失敗
すれば、さすがに彼らも気づくだろうよ。シュタインベルグが落ちれば次はこの王都だとな。
 そうなれば金を惜しむわけにもいかなくなる。ここは我が同胞のため、我が王国の安寧のた
め安心して彼の国と共に死んでくるがよい」
 ――という激励には苛立ちを禁じ得なかった。
「お、どうした。珍しく感情を出しているではないか?」

 これから最短でも半年は掛かるであろう命を賭した大仕事をさせられるというのに、出立前
にそれが全く無意味なものだとわかり、しかもそのような気休めにもならぬ激励などかけられ
れてはさすがに感情も出したくなるだろう。

「――自分の成否によらずとも結果は変わらないのでしょう。シュタインベルグが墜ちたから
と言って、王家が本格的に諸国防衛に乗り出すことなどあるわけがない。例え自分がシュタイ
ンベルグを救えたとしても、体の良い外交道具にされるだけです。そうなると肝心のシュタイ
ンベルグは衰退を免れ得ず、結局のところ彼らだけが私腹を肥やして終わりです」
「何が言いたいのだ?」
「自分が死んでも死ななくても王家は何も変わらない。それをよく知っているあなたは……つ
まり、任務の成否なんてどうでも良いのでしょう。そのような戯言は今後のやる気にも関わり
ますので止めて下さい」
「……また人の思考を。いい加減その癖を直したらどうだ、アリスよ」
「自分はアデルです。人のことをどこぞの小娘みたいに……嫌がらせですか、殺しますよ?」
「いや? その方が可愛いだろう?」
「…………」

 どう返しても想定していない切り返しが来そうだったので、ここは潔く負けを見て沈黙を貫
くことにした。自分のそんな姿を見て上官はくつくつと笑ったあと反転、冷酷な表情を取り戻
して否応ない現実を自分に突きつけた。
「まぁ、悪意が潰えるのであればそれに越したことはない。我々は元々、そのための道具なの
だからな。だが、一つ言っておこう。アリスよ、お前は特別じゃあない。どれだけ類まれなる
才能を持っていようが所詮は人形に過ぎんお前の代わりなどいくらでもいるのだよ。それを
常々、忘れないでおくことだ」
「――承知」

 ただ任務漬けの日々を送る、その連続性のついでのように受けたシュトゥルム討伐。
 それ自体はこれまでの任務と比べても特別な違いはなかった。だがそれが、あらゆる意味で
苦難の始まりになろうとはこの時はまだ思いもしなかった。
970 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2012/02/02(木) 22:31:12.74 ID:dlM8Xt1c0
投下終わり
いい時間なので続きはいつか
971 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(神奈川県)[sage]:2012/02/03(金) 19:18:30.32 ID:7uxZkJRbo
おつおつっ!
972 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東海・関東)[sage]:2012/02/06(月) 23:34:03.58 ID:BMhtHF6AO
次スレから本気出す
973 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/02/07(火) 06:55:12.73 ID:TTJEr2OQ0
仕事終わったら本気出す
974 :v2eaPto/0[sage saga]:2012/02/07(火) 10:07:12.70 ID:pAPBpcgG0
いつでも本気出せるが女性のいじめなどの生態データ欲しいので停滞中
975 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東海・関東)[sage]:2012/02/11(土) 08:25:14.47 ID:xmVdXcDAO
次スレ立てのチキンレース絶賛開催中?
976 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/02/11(土) 20:55:21.04 ID:Eeie/DtO0
次スレの流れか
977 :青色1号 ◆YVw4z7Sf2Y[sage]:2012/02/13(月) 01:06:49.71 ID:oUM+Xb/AO
次スレにて持ちキャラの前日談的なものを投下予定……。ガラケーじゃスレ立て出来ないジレンマ
978 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方)[sage]:2012/02/13(月) 12:51:12.65 ID:6vD4hXRYo
15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する世界だったら
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1329105016/

初スレ立てしてきた
979 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方)2012/02/13(月) 21:02:48.10 ID:/CEP1VEC0
乙です
980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東海・関東)[sage]:2012/02/15(水) 20:31:05.82 ID:TYrN7k4AO
>>978
乙でありんす。
さて、有言実行せな……
981 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[saga]:2012/02/16(木) 18:07:09.45 ID:qWDvVNxv0
あと20か…まだ使えそうだが埋めるか?
982 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方)[sage]:2012/02/16(木) 18:13:24.69 ID:kIdYP+Alo
埋める?
983 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(東海・関東)[sage]:2012/02/16(木) 19:30:46.03 ID:ODLDlvpAO
そだね。短い投下ならともかく、下手にスレを跨いじゃうとまとめる側の人もちょっち面倒だと思うけども。

あ、バックアップとってセルフでまとめるなら話は別ね。
984 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)2012/02/16(木) 20:06:35.83 ID:GnvkXB3Jo
985 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2012/02/16(木) 20:37:30.44 ID:H61gHpAmo
『じゃあにょたっこも長所でも挙げてこうぜ』


「…どしたの急に?」

「いいだろ暇なんだよ、俺からな、可愛くなる!はいお前」

「ええ〜…えーっとじゃあ…周りが優しくなる…かな」

「ん〜、重いもの運んでもらえる!」

「う〜ん…ダメだ、わかんないよ、僕先週女体化したばかりだし…」

「おいおい、そんなんじゃ先が思いやられるぞ」

「別にいいでしょ…そっちこそまだ挙げられるの?」

あ、やっと戻ってきた、あれ相当重かったからなぁ
それにしても…

目の前の女の子に目を戻す

なんで男言葉も直ってないのに彼氏がいるのやら
「んーそうだな…あ!涙は武器になる、だな」
気づいてないし…

「武器って…まだ使ったことないでしょ?」

「ふふふ、それがあるんだよww昨日試してみたんだけどな、もう効果覿面ww」

「ふ〜ん?ねえ、にょたっこの長所ってどこだと思う?」
なんとなく察しがついたからここで彼氏に振ってみよう

「…裏がないところ、だったんだがな」

「うわっ!い、いたの!?」

「いたの?じゃない!まったく、昨日の話は無しだからな」

「あ、あのその、だって…ふぇ…グスッ…」

「っ!?お、おい…こんなことで泣くなって」
…ホント効果覿面だなぁ


みたいな埋め
986 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/02/16(木) 22:05:00.38 ID:IwHt8V6E0
>>985
女の子とにょたっこの涙は、男の弱点ね
かわいいから許しちゃうんだろうなー
987 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(静岡県)[saga]:2012/02/17(金) 00:17:15.99 ID:ESR3q9Ib0
↓埋めSS用安価
988 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/02/17(金) 00:31:04.15 ID:qOJDZAvU0
帰ってきた従兄が…

前に合ったらすいません
989 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/02/17(金) 00:44:35.49 ID:U3gI6kQY0
気分転換と埋め用を兼ねて単発を書いてみました。
即席なんで非常にアレな出来ですが…。
990 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/02/17(金) 00:49:35.24 ID:U3gI6kQY0
女になって初めてのバレンタインがやってきた。
男の頃は忌ま忌ましくて仕方なかったリア充専用のイベントである。
俺もバレンタインを楽しく過ごせていれば、今頃こうして女になどなっていなかっただろう。憎い。糞リア充どもが憎い。

そもそも俺は女にはなりたくなかったのだ。
野球部で甲子園を目指していたというのに、女体化のせいで転部せざるを得なくなった。
女子野球部があればまだ良かったが、この学校にはない。
結局、俺が振るのはバットからテニスラケットへと変わったのだった。
そんな野球一筋で…良く言えば硬派に、悪く言えばむさ苦しく生きてきた俺の鞄には、女々しくもバレンタインチョコなんぞが入っている。
貰った物ではない。渡す物だ。

昨日のこと。
放課後、最近やっと馴染めてきた女子グループに声をかけられた。

『今から家庭科室借りて皆でチョコ作るけど、一緒にどう?』

誰に渡せってんだよ、と一瞬思った後、アイツの顔が思い浮かんだ。
幼い頃からの付き合いのアイツ。地味で鈍臭くて、冴えないアイツ。
当然毎年バレンタインのリザルトは言うまでもなく、いつもお互い慰め合ったものだ。
3月生まれのアイツはそろそろ女体化の阻止限界点だが、どうせ今年も寂しいバレンタインを過ごすはず。
チョコの一つも作ってやれば、もしアイツが女体化してしまったとしても、男の頃に女からチョコを貰ったことがあるという記念になる。
相手は俺だし、しかも義理なわけだが、少しは格好がつくだろう。
女体化へのカウントダウンが始まった友人に俺がしてやれる、最後の手向けだ。
そう思った俺はチョコ作りに参加することにした。

部活があったが、初めてサボった。



そして当日である今日の、放課後。
目を疑う光景だった。
俺がいつアイツに渡してやろうかとタイミングを計っているうちに、一つ、また一つとアイツの元へチョコを持った女子が訪れている。

嘘だろ?何が起きてんだ?天変地異の前触れか?

「どうしちゃったんだろうね、今年の僕。義理なんだろうけど、やっぱり嬉しいよ」
「…はは、良かったじゃんか。モテ期ってやつか?こりゃそのうち、本命がきてもおかしくねぇな」

何だ、別に俺が一肌脱いでやる必要はなかったのか。喜ばしいことだよな、まぁ。
鞄に入れたままのトリュフチョコ。どうやら出番はなさそうだ。
元むさ苦しい男の俺が渡すチョコなんかより、よっぽど上等なチョコを幾つも貰ってやがるんだから。
991 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/02/17(金) 00:53:41.79 ID:U3gI6kQY0
…捨てちまうか、これ。

「今日は部活もねぇし、一緒に帰ろうぜ。ちょっとその前に便所行ってくるから、待っててくれ」
「うん、行ってらっしゃい」

鞄を持って教室を出る。少し歩いて、便所近くのゴミ箱の前に立った。
可愛らしくラッピングされたチョコを取り出して…少し眺める。

おかしいな、俺のチョコだって義理なんだけど。捨てたって構わないはずなんだけど。何でこんなに悔しいのかな。

「…よくわかんね」

食べ物を粗末にしてはいけない。かと言って何故か自分で食う気になれないし、他の奴に渡す気にもなれない。
さて、考えるだけ時間の無駄だ。アイツを待たせてるし、さっさと…

「食べ物を粗末にしちゃいけないんだよ?」
「うわ!?何だお前!?」

今まさにゴミ箱へ叩き付けんと振りかぶった腕を掴まれた。
教室にいたはずのコイツが、何でここに…!?

「鞄持ってトイレに行くなんて変だなって思ってさ」
「…生理ん時は鞄持って行くぞ」
「知らないよそんなこと。それに様子もおかしかったし、ね」

妙に食い下がってくる。いつもの大人しいコイツらしくもない。
正直に言わなければ解放されそうにない雰囲気だ。

「はぁ…お前にくれてやろうと思って作ったんだけど。十分貰ってるみたいだからいらねぇだろ?」
「僕のために作ってくれたんなら、尚更捨てさせないよ」
「お、お前の…っ!?」

た、確かにお前のために作ったけど!
その言い方だと、何か…心を込めた本命チョコみたいじゃねぇかよ!

「か、勘違いすんな!どうせ今年も収穫無しだろうから救済してやろう、って意味で『お前のために作った』んだよ!」
「何だぁ、てっきり本命がきたと思ったのに。いや、それはそれで嬉しいけどさ」

おいおいおいおい。何だよその反応。
それって、どういう…!?

「ほ、本命が…良かったのか…?」
「うん、貰えるものなら」
「…好きにすりゃいいだろ。帰るぞ」
「あ、待ってよ!」

捨てかけたチョコを押し付け大股で歩き出す。
1ヵ月後に俺が処女を失い、コイツが見事女体化を回避するのはまた別のお話。
992 : ◆suJs/LnFxc[sage saga]:2012/02/17(金) 01:00:22.82 ID:U3gI6kQY0
以上です!短い!
いつもの話の中で使おうと思ってたバレンタインネタですが、間に合わなかったので単発にしました。
まぁそれでも間に合ってないですけどorz
登場人物は適当です。西田と愉快な仲間たちとの繋がりはありません。

今度は次スレでいつもの続きを投下したいです。最近なかなか手をつける暇が無いので、今月中にいけるといいんですが…。

ではまた。
993 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方)[sage]:2012/02/17(金) 09:41:05.88 ID:VBD9RjPbo
乙!
994 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/02/17(金) 18:44:27.16 ID:qOJDZAvU0
乙です!
995 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2012/02/17(金) 18:51:53.54 ID:5kiSCMb40
梅! ↓絵安価さあこい!
996 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[sage]:2012/02/17(金) 20:09:58.27 ID:tq8GTdIk0
◆Zsc8I5zA3U氏
997 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)[saga]:2012/02/17(金) 21:39:48.16 ID:HDNzs71w0
998 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします2012/02/17(金) 21:49:16.23 ID:9RoHXfGSO
1000
999 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(静岡県)[saga]:2012/02/17(金) 22:45:32.88 ID:ESR3q9Ib0
埋め安価の消化お待たせしました、超SSですが【帰ってきた従兄が…】

三月下旬のある日
「や〜、しっかし久しぶりだよなぁ。二年ぶりだっけ?」
ソファーに腰掛けた俺の隣に、クラスの女子連中じゃあ束になっても敵わないような美少女が寄ってくる。
「ちょっと見ない間にデカくなりやがって!前会った時なんて、まだこんな小っさかったのによぉ」
や、アンタが縮んだんだっての!中一で175とかいってただろ?
それが今じゃあ、こんなちみっこく細っこくなっちゃってまぁ……胸はそれなりみたいだけど。
いやいやいやっ、そうじゃなく……ってか近ぇんだよっ、何だこの状況は!

「……で?俺は裕史にぃがこっちの高校通いに越してくるって聞いただけなんだけど?」
それがどうしてこうなった……学校から帰ってきた俺を出迎えた見知らぬ美少女が、まさか婆ちゃんちに行くといつも遊び相手になってくれてた1コ上の従兄だなんて、本人の口から言われなきゃ絶対信じなかっただろう。
「そりゃアンタの驚く顔が見たかったからに決まってるじゃない。
 最近めっきり可愛げがなくなっちゃって、お母さん寂しかったのよ?」
しゅ、趣味悪ぃ……っ!いきなり初対面の娘に飛びつかれた俺の身にもなってみろよ!
「なんだよ正樹ぃ、リアル厨二病ってやつか?かっこつけちゃって、オトコノコだねぇ……」
「裕史にぃも順応してんなよっ、どうすんのさ!?仮にも女の子が家に住むことになるんだぞ!」
「あら?別にいいじゃない、従兄弟同士だし何の問題もないわよ。
 憧れだったのよねぇ、女の子の家族って……それとも正樹ったら、何か問題になるようなことでも起こす気?」
んなっ!?
「やだもう、真っ赤になっちゃって!ふふっ、確かに裕美ちゃんは可愛いもんねぇ……ま、家族が一人増えたと思って仲良くしなさいね」
「女にはなっちまったけど、改めてよろしくな!
 そうだっ、久々にプロレスごっこでもやってみるかっ?体は縮んだけど、お前相手になら丁度良いハンデになるだろ?」
「ばっ、ばかっ……女相手にんなこと出来っかよ!俺、上で着替えるからっ!(バタタタ……ッ)」
「あっ……正樹ぃ……」

ったく母さんも裕史にいも何考えてんだよっ!あんな身体で関節技なんてかけられた日にゃあ……うっ!
思わず逃げ出しちまったけど、裕史にぃが寂しそうに呼ぶ声が俺の背中に突き刺さった。

それからというもの……
「おはよう正樹っ、春だからって寝坊してんじゃねぇぞっ!」
「おばさ……マ、ママに習って卵焼きだけ作ってみたんだっ!……美味いか?」
「あっ、洗濯物戻しといたぞ……お前って、やっぱ大きいほうが好きなんだな?俺のもそこそこなんだけどなぁ……」
「正樹ぃ、石鹸切れてるだろ?入るぞ〜っ」
なんかやたらと裕史にぃがくっついてくる……わけを聞いたら母さんに『仲良くなりたいなら積極的にアピールしなきゃっ』と吹き込まれたんだとか。
ったく、唯でさえ隙だらけだってのに……このままじゃあ、いつ襲っちまって“夜のプロレスごっこ”に発展するか分かったもんじゃないぞ!
1000 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(兵庫県)[sage saga]:2012/02/17(金) 23:57:31.07 ID:5kiSCMb40
>>999
超乙!
>>996
まったく、作者擬少女化とか畏れ多くてやってられんってばよ



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名前:チンク・シャーロット・ズスク
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趣味は旅。旅先でいろんなお土産<アイデア>を拾ってきては皆に配っていく幸せ配達人。
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