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力話 第七話 「砕刀・焔断」
1 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:00:56.98 ID:9srPcdfAO
「おー、陸が見えてきたぞー」
「ですから先程水軍の者が者が言っておったではありませんか」
「おや、何やらつんけんしておるな、さては……」
「違いますっ!何度目ですかっ」
「誤解するな。俺が言いたかったのはあの化け物のせいで2人きり心の休まる時が無かったために恒例のイチャ揉みイチャ噛みができなかったのでことに拗ねて……」
「更に違いますっ!何ですかイチャ揉みイチャ噛みって!」
とまあ2人が相も変わらぬやり取りをしている間にも、長崎の町並みが近づいてきた。日本唯一の対外貿易港にして怪しげな人々が行き交い、文物が飛び交う魔都である。
「あの部分が出島か。成程扇に似ておる」
「相変わらず人間離れした視力ですこと」
無論沈藻にも見えている。が、敢えて言わない。
「それよりも刀刃殿、くれぐれも目立たぬよう」
「わかっておる。いくら彼奴のお墨付きがあるとは言え、怪しいことには違いなかろうからな……」
2 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:02:49.44 ID:9srPcdfAO
日本唯一のオランダ人居留地出島に無事上陸を果たした2人はオランダ商館長と面会し、天草行の積荷に潜り込ませてもらうことに成功した。刀刃大きな樽の中。沈藻は長持の中である。
「刀刃どの。着く前に天草について予習しておきましょう」
「百姓どもが一揆を起こしたところだろう。大分ひどかったらしいが」
「一揆どころではありませぬ。あれは立派な反乱でした。徳川の世を是としない者達が天草に集まり、キリシタンどもと結託して独立国を作ろうとしたのです」
「大層な話よなあ」
「最初幕府はたかが一揆と侮り近隣の諸大名に討伐させようとしました。しかし結果は惨敗に終わり、慌てた幕府は全国に動員令を発布し10万の討伐軍を向かわせました」
「10万とはすごいな。川中島の半分ではないか」
「それでも勝てなかったのですよ。反乱軍には優秀な軍師と南蛮渡来の最新鋭兵器がずらりと……しかし、一番の強みは神がかった総大将の存在でした」
3 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:04:00.89 ID:9srPcdfAO
「天草四郎だろ」
「そう。当時いたいけな少年でありながら数々の奇跡を成し遂げたという妖人、天草四郎。反乱軍は彼の力を信じ戦を続けたのです」
「俺はその頃江戸にいたが市中はその話で持ち切りだったな。幕軍よりもむしろ四郎に萌えていたようだったぞ」
「民草とはそのようなものです。それはさておき追い詰められた幕府はかつて戦乱の世を生き抜いた外様大名衆に助力を求めることにしました。立花宗茂、丹羽長重、細川忠興の三人です」
「皆、天下に名を轟かす英雄たちだ」
「ええ。彼らの活躍によって遂に反乱は鎮圧されました。しかし幕府軍は甚大な被害を受けその傷は未だ癒えていません」
4 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:06:01.14 ID:9srPcdfAO
「言い切るか。摂政関白太政大臣の懐刀の面目躍如と言ったところか?」
「どうとでも」
「それで反乱軍はどうなったんだっけか」
「皆殺しです。完全なるジェノサイド。女子供はもちろん牛馬に至るまで殺し尽くされました。そしと天草地方は無人となったのです」
「凄まじいな。しかし四郎は捕まらなかったと聞いたが」
「四郎は忽然と姿を消し、幕府の必死の捜索にも行方は杳として知れませんでした」
5 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:07:07.21 ID:9srPcdfAO
「それでは完全に鎮圧したとは言えまい」
「それ故のジェノサイドなのです。幕府は天草を根本から作り変えようと決意しました。無人の地に全国から植民させ、異なる歴史・文化・価値観を混ぜ合わせて全く新しい地域を創造したのです。それが今の天草です」
「名のみ一緒の別物って訳だな。しかしそれだけの国の奴らが集まってるんだったら争いが絶えないのではないか?」
「それで良いのです。一致団結して反乱を起こさせないための措置ですから。内輪揉めはむしろ望むところだったりするのでしょう」
「ふん。えらく特殊な土地柄だが、それくらい混沌としていた方が俺たちは動きやすいわな」
「そうですね」
6 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:07:54.97 ID:9srPcdfAO
「他に何か知っておくことはあるか?」
「……りんごカステラ」
「は?」
「天草の新名物です。津軽から来た者たちが持ち込んだりんごを使って長崎から来た菓子職人が作ったという」
「下手物っぽいぞ」
「いいえ!きっと美味いのです!」
7 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:09:31.84 ID:9srPcdfAO
「ご褒美しゅるねえ。ご褒美しゅると言えしゅれば、俺もいい加減ご褒美しゅるをいただきたいところしゅるんだが……」
「は?何言って……」
「もう焦らしゃれるのは嫌だしゅるって言ってしゅるんだしゅるよッ!」
「えっ!あ、ああ〜っ」
刀刃の手には白い布の塊が……最早言うまでもないが沈藻がその身体に固く巻きつけていたはずのサラシであった。
8 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:11:02.07 ID:9srPcdfAO
きつい抑えを失った身体は本来の丸みを取り戻し、胸はボボンと尻もボボンと。
「おーおー久々の豊満女体見参なり!」
刀刃はわざとらしく手を打ち鳴らして拝んでみせた。
「お、おのれ……性懲りもなく……」
しゃがみ込んで胸元と尻を手で押さえながら沈藻は呻いた。
「喋る言葉の端々にサラシを解く音を紛れ込ませるとは姑息な真似を……」
「舟の中で散々イメトレした甲斐があったというもの。しかしここからが肝心よ!」
刀刃は両手をわざとらしく結んで開いてしつつ沈藻に近づいた。
「長い道のりであった。何度失敗し悔しい思いをしたことか。一度は死にかけたこともあった……」
しばし遠い目をする。
「だがしかぁし!それもここで成就させるための試練だったのだ!」
9 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:12:07.66 ID:9srPcdfAO
「さあ沈藻、覚悟せい!」
刀刃はしゃがむ沈藻の背中に飛びついた。
「止めぬかっ!」
「止めぬわっ!」
刀刃の左手が胸元に伸び強引に袂へ潜り込もうとする。
「ああ、この柔らかさ……」
「う、うけつ者っ!」
必死に押さえる沈藻の腕の下で刀刃の手はぐいぐいと袂の中へ入り込んでいく。同時に右手は尻を掴んだ。沈藻の小さな手では到底庇い切れぬ尻であった。「やわい、やわいぞ」
「よせっ、よさぬか……ああ」
左手が遂に片方の乳房をとらえた。可愛い耳たぶに唇をくっつける。
「思った通りの感触だわい。いや、それ以上だ。こうして……」
乳房をゆっくりと揉む。沈藻の腕の力は徐々に弱まっていく。尻を守る手の力も弱まり刀刃の右手が撫で回すに任せている。
「や、やめ……ろぉ」
10 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:13:04.44 ID:9srPcdfAO
刀刃は沈藻の首筋からくつろげた袂を覗き込んだ。
「白く、大きく、柔らかい……幼い頃に吸った母の乳房を思い出すぞ」
手に力を込めないよう気をつけながら二度三度と揉む。沈藻はうわごとのように拒絶の言葉を繰り返すが最早力強さはない。心なしか肌が薄く桜色に染まってきたようだ。
(焦りは禁物だ)
刀刃は自身を戒めた。ここまでは上手くいった。だがやっと入口に立ったに過ぎない。全てはここからだ。じんわりじっくり、この女が心に纏っている鎧を引き剥がしていかねばならない。
急いではダメだ。乳房を揉む掌に少しずつ力を込めていく。吸い付くような柔肌は揉めば揉むほどに新たな欲情を喚起させる。
(もうすぐ湿り気を帯びてくるのではないか)
刀刃は沈藻の汗ばむ肢体に思う様手を這わせる期待に胸を踊らせた。
11 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:14:59.32 ID:9srPcdfAO
身を乗り出して目と鼻の先にある沈藻の横顔を覗き込んだ。目が潤み、ほんのりと頬が染まっている。微かに開いて震える朱唇が悩ましい。拒絶の声は止んでいた。
「母の乳房の先っぽにはぷっくりとしたそれは見事な乳首があってのう。色合いと言い、形と言いそれは美しゅうて……沈藻どのはどうかの」
ゆっくりと揉みながら先端へ向けて優しく搾るように指を動かした。もう一方の手は尻の割れ目に沿って揉み込むように上下されている。
漸くにして湿り気を帯びてきた柔乳を包む指が少しずつ先端へ近づいていく。辿り着くことをわざと遅らして楽しんでいるかの如くであった。
最後の抵抗の灯火が消えようとしている。沈藻の肢体からうっすらと甘い汁の臭いが立ち上り始めた。
(くくく、来たぞ、来たぞ……)
刀刃は確実に次に進んでいく喜びを噛み締めながら沈藻の髪の生え際に鼻をうずめて芳しい体臭をいっぱいに吸い込んだ。
「たまらぬ」
思わずくぐもった声を漏らした。
「たまらぬぞ沈藻」
12 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:15:57.27 ID:9srPcdfAO
それに答えるのは呻きとも喘ぎともつかぬ微かなしかし熱っぽい息づかいのみ。そうこうする間に尺進していた親指と人差し指はとうとう乳首に辿り着こうとしている。
そして親指の腹が今までとは違うしこりのある柔らかさに触れ、曲がった人差し指との間にそっと挟み込まれたとき、刀刃は震える声で呟いた。
「母の乳首だ……。ぷっくりと薄桃色の、夢にまで見た沈藻の乳首だ」
凝視するうち、微かに窪んだ頂きから白い乳液が今にも染み出してくるのではないかとさえ思えて刀刃は指で乳首をこすり立てた。
「はああっ」
沈藻がビクンと顔を上げて喘いだ。甘い吐息が鼻をくすぐる。開いた唇が唾の糸で結ばれていた。ゾクゾクするほど色っぽい表情だ。無防備に晒された白い喉が眩しい。
(もらった……)
13 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:16:23.04 ID:9srPcdfAO
乳首をいじくりながら右手で沈藻の顔をこちらに向けた。抗う素振りはなかった。
わななく朱唇を奪って奥に縮こまっている桃色の舌を絡め取り、滲み出る唾液を思う存分吸って吸って吸いまくろうとしたとき……
14 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:17:33.59 ID:9srPcdfAO
「おや、奇遇じゃのう」
のほほんとしたしわがれ声が飛んできた。
今にも唇を合わせようとしていた刀刃はピタリと止まり、そのまま視線のみを動かした。
「あんたは男鹿であった越後の……」
そこにいたのは、越後の縮緬問屋の隠居と自称する老人光右衛門であった。杖をついてはいるものの、全く必要なさそうな矍鑠たる佇まいである。やや下がって2人の手代助三郎と格乃進の姿もある。
「まさかお主らが天草にいるとはな」
(とんだ邪魔者だ)
内心舌打ちしつつ立ち上がった。
「気楽な隠居の身ゆえ、足の向くまま気の向くままどこへでも赴くのよ」
何とも福々しい笑みを浮かべつつ言う。声をかけた時、刀刃が何をしていたか全く頓着していないらしい。
(食えないじいさんだ)
刀刃は光右衛門の言うことを鵜呑みにはしていない。ただの隠居ではないことは男鹿での一件から確信している。
二人の手代に目をやった。主人とは打って変わって厳しい目でこちらを凝視している。どう見てもただの手代の眼光ではない。
15 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:18:22.18 ID:9srPcdfAO
スッと沈藻が立ち上がった。ようやく我に返ったようで刀刃から顔を背けたまま傍らに落ちていたサラシを拾うと近くの茂みへと消えた。それを見て刀刃はため息をついた。
(やれやれまた遠のいたな)
刀刃はすっぱりと気を変えた。こうなったらさっさと仕事にかかった方が良い。
「お主らは何用あってここへ来たのじゃな?」
「む、いや何。廻国修行の途中でたまたまな……時に光右衛門どの」
「ん」
「ここらで達人の噂を聞いたことはないか?」
「天草でか。さてのう」
光右衛門は白い顎髭を撫でながらしばし黙っていたが、やがて
「達人の噂は知らぬが、ちと奇妙な噂を小耳に挟んだぞ」
16 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:19:28.93 ID:9srPcdfAO
「へえ、そりゃ何だ?」
「うむ。幽霊船が出るという噂じゃ」
「幽霊船!?」
「何でもかつて島原を治めていた有馬晴信が幕府の命令でポルトガル船を騙して沈めたことがあったらしくての。その船が霧の出る晩にさまよい出るというのじゃ」
「南蛮の幽霊船か。そいつは珍しいな。やはり柄杓を欲しがるのかね」
「さてのう」
ここでずっと刀刃を睨んでいた助三郎がたまりかねたように主人に声をかけた。
「ご隠居。そろそろ船が出ますぞ」
「お、こりゃいかん。それじゃわしらはこれで」
わざとらしく驚いて見せると別れの言葉もそこそこに光右衛門はスタスタと刀刃に背を向けて歩き出した。
「次はどこへ行かれる?」
「まだ決めとらんよ。何事も気の向くまま」
船に乗り込む三人を見やって、刀刃は独りごちた。
「何を考えているのか解らん」
「それはこちらのセリフです」
17 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:19:56.04 ID:9srPcdfAO
振り返るといつの間にか沈藻が戻っていた。先ほどまでの霰もない姿はどこへやら、サラシをしっかりと巻きつけて一分の隙もなく、刀刃にとてつもなく冷たい視線を向けている。
刀刃は再びため息を吐いた。
18 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:21:03.87 ID:9srPcdfAO
「それでさっき光右衛門どのが言ったことをどう思う?」
「言ったこととは?」
「幽霊船の話は聞いていただろ?」
「幽霊船は知りませぬ。ただ南蛮船が沈められたのは本当です。有馬は酒宴を口実に船に毒入りの酒樽を持ち込んで船員たちを動けなくして船に火をつけたのです」
「汚いな」
「幕府の命令を確実に遂行するために名を捨てた有馬は天晴れです」
「んん?」
「武士道の上では」慌てたように言うと沈藻は刀刃を睨んだ。
「そんなことより刃です。もたもたしているとまた邪魔が入るやも知れませぬ」
「あのおかしな術を使う奴らか。有り得る」
刀刃は思わず腕を掴んだ。大分浅くなっているとは言え、傷は残っている。
19 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:21:58.12 ID:9srPcdfAO
「よし、とにかく町で聞き込みだな……とおや、あつらえたように人集りがあるぞ」
刀刃は走り出した。沈藻も後を追う。はるか向こうに何やら人集りらしきものが見えてはいるが。
「おい、一体何の人集りだ?」
刀刃は一番後ろにいた若い町人風の男に尋ねた。かなりの距離を走ってきたはずなのに息一つ乱していない。その後ろの沈藻はやや顔を上気させているものの、やはり呼吸は規則正しい。
「絶花堂で惨赦流の門弟が殺されたんだよ」
男はこちらを見ずに答えた。刀刃は肩を掴んで振り向かせた。
「もっと詳しく教えてくれぬか」
「何?あ、これはお侍さま……天草のお方じゃないんで?」
「左様。先ほど着いたばかりだ」
「それはそれは……」
男は気まずそうに目を逸らした。余所者には話したくないらしい。
20 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:22:52.28 ID:9srPcdfAO
「ここではなんですから」
沈藻が口を挟む。
「そうだな。ちと顔を貸してもらおう」
刀刃は半ば強引に男を連れ出し近くの木陰へ入った。抗議しようとした男へ沈藻がすかさず小判を見せる。
「事情を話して下さったら差し上げます」
男は目を丸くして二人を交互に見ていたが、やがて決心したのか声を潜めて話し始めた。
「あれは一月前のことです。惨赦流の当主久里山松竹梅斎が絶花堂でお亡くなりになり……」
「待て待て。そこが判らんのだ。まず惨赦流とはどんな流派なのだ?剣術か?」
「惨赦流は戦国の世から天草へ伝わる剣術で、普通の刀よりも刀身が長く厚い刀を用いる流派です。斬るというよりも叩くように振るうのだとか」
「ほう」
「天草の乱の後断絶の危機にありましたが松竹梅斎様の指導の下持ち直したのです」
21 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:23:57.44 ID:9srPcdfAO
「達人か?」
「それはまあ……天草では随一の使い手かと」
「そうか、惨赦流については判った。で、絶花堂とは?」
「かつてキリシタンたちがミサに使っていたお堂であの山の中腹に建っています。乱の後に久里山家がもらい受けたのです」
男が指差したのは山というよりも丘という方が近いような小山であった。ここからでは木が茂っていて堂は確認できない。
「それで松竹梅斎どのは何故死んだ?」
「詳しくは判りません。久里山家が明らかにしないので……ただかねてより胸を患っていたとかで、或いはそれが高じたのかも知れません」
「そもそも何故久里山家は絶花堂を?道場か?」
「道場は屋敷の隣にあるんですが、それとは別に山籠もりの修行をさせるためだとかで」
「しかし当主が今更山籠もりでもあるまい」
「いえ、松竹梅斎様は鬼退治へ行かれたのです」
22 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:26:18.55 ID:9srPcdfAO
「鬼退治とな」
「へえ、しばらく前から絶花堂には鬼が棲みついたとの噂が立ちましてこのままでは入門者が減るからと当主自ら退治へ出向かれたのです」
「そして死んでしまったという訳か?それなら鬼に殺されたということになってしまうぞ。さっきは病死と言うたではないか」
「しかし、何も出なかったと……」
「何やら要領を得ぬな」
刀刃は不満げに息を吐いたが「まあよい。それで今回の門弟の死とはどうつながる?」
「松竹梅斎さまの遺言に関わりがあります」
「遺言とな」
「はい、遺体のそばに遺書があったと」
「でその内容は?」
「絶花堂で一晩過ごして無事戻ってきた者を惨赦流の後継者とする、と」
「成る程な。漸く呑み込めてきたわ。しかし今度は殺されたと言ったな?」
23 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:27:15.98 ID:9srPcdfAO
「へえ、甘木格乃進さまは右肩から身体を断ち割られていたそうで、それは無惨な姿だっとか」
「鬼の仕業か」
「皆はそう申しております。あっしもそう……」
「甘木どのは腕が立つのか?」
「門弟の中では一二を争う使い手で四高弟などと呼ばれておりました。元は津軽から渡ってきなすったそうで」
「ふむ。で、遺言に挑んだのは甘木どのが最初なのだな?」
「そうです」
「そうか……他は、そうだ。惨赦流には何やら曰くのある刀などは伝わっておるまいな?」
「おります」
「で、どんな刀だ」
24 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:28:26.37 ID:9srPcdfAO
「焔断という銘の刀です。その一振りで燃え盛る炎をも両断するという業物で砕刀とも呼ばれています」
刀刃は素早く沈藻を見た。うなずく沈藻。間違いない。
「それは久里山家にあるのだな?」
「いえ、絶花堂です」
「何、何故絶花堂なのだ」
「松竹梅斎さまが携えて行かれてそのまま絶花堂にあるので。当主しか持つことを許されぬ刀なのだとか」
言い終えた途端、二人の顔に浮かんだ凄まじい衝撃を果たして男はどう思ったか。
25 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:29:28.23 ID:9srPcdfAO
ややあって刀刃が尋ねた。
「それも遺言か。お主実物を見たことはあるのか?」
「運ばれていくのは見ましたが。大きな長持に収められていて門弟が四人がかりで持っておりました」
「そんなに大きくて重いのか。松竹梅斎はそれを振るって闘っていたのだな?」
「多分そうじゃないかと……見たことはありませんが……」
「ふむ。いや、手間を取らせた」
刀刃が言うと沈藻がさっと男の手に小判を握らせた。
「これはどうも。あ、お侍さま。久里山家へ行かれるおつもりですか?」
「ん、うむ。まあな。折角だ、訪ねてみたいが」
「ならば案内しますよ。どうせ帰り道だ」
26 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:30:48.01 ID:9srPcdfAO
江戸城。大奥。中の中庭。
「番号」
「一番」
「三番」
「六番」
「八番」
「九番」
「欠番理由」
「二番、死亡」
「四番、死亡」
「五番、死亡」
「七番、役目」
「十番、役目」
「七番の便り」
「紅毛人の国へ潜入し、民の仕事の移り変わりを探査中」
「十番の便り」
「梨の礫」
27 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:33:41.08 ID:9srPcdfAO
「なかなか立派な屋敷だな」
「田舎の道場主にしては豪奢な造りですわ。しかしどことなく珍奇な……」
「天草風てことだろうぜ。それより沈藻、お主惨赦流のことは知らなかったのか?」
「大まかなことならば」
「ほう、例えば?」
「惨赦流は天草五人衆の筆頭志岐家の庇護のを受けて天草一円に広がった流派と聞いています。天草五人衆豊臣家に対して反乱を起こした際、
開祖である[
ネ申
]花鳥風月斎が志岐家に味方して戦い手柄を立てたことがきっかけとなって。具体的に言うと討伐軍の大将小西行長と加藤清正を一騎打ちで連破したそうです。
あまりに鮮やかな勝ちっぷりだったので志岐勢のみならず清正も感服して自ら秀吉に志岐家の特赦を乞うたほどでした。
もっともそのせいで行長との仲は悪化し、川中島での死闘へ至る訳ですが。ともあれ、そこから惨赦流の歴史が始まったのです」
28 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:34:35.87 ID:9srPcdfAO
「こらこら、あんたら人の屋敷の前で何を長々とくっちゃべっとるねんなしかし」
二人が振り向くとそこには胴着姿の男が立っていた。背は高いが痩せぎすで手足が長く、細く並んだ目に尖った鷲鼻、薄い唇は侮蔑的な笑みに歪んでいる。だが最も目立つのは天に突き立つ真っ青な髪だろう。
「何やお前ら。道場破りか?」
男はじろじろと2人を眺めた。心なしか沈藻を見る目付きが怪しい。
「まあ、結果的にはそうなるかも知れない」
「何やて?けったいなこと言い腐るやないかいな」
沈藻が一歩前に出た。
「私たちは旅の武芸者とその追っかけです」
「追っかけ?この男を好きでついてきたいう訳か」
「まあ、そんなようなものです」
29 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:35:18.96 ID:9srPcdfAO
「あんたみたいな美形の女の子がなあ……」
男はニヤニヤ笑いながら続けた。
「とにかく、やっぱり道場破りなんやな?」
「いえ、先ほど町で絶花堂で甘木どのが鬼に殺されたという噂を聞きつけて」
「下らぬことを申すな!」
いきなり屋敷の門が開き見上げるような大男が現れた。 こちらも胴着に身を包んでいる。
「何や黒豹。盗み聞きしとったんかいな」
「おまんが遅いから表の様子を見に来たんじゃ」
黒豹と呼ばれた男がそう言って睨んだ。浅黒い肌に筋肉が盛り上がっている。
30 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:36:37.02 ID:9srPcdfAO
大男が二人を見た。
「下らぬ噂を聞きつけて愚弄しにきたか」
「いいえ滅相もない。私たちは惨赦流に興味があって稽古を見学させていただきたいと思って参ったのです」
「ふんっ、信じられんきに、去ね!」
「まあまあ、そう邪険にすることもないやないか。折角の入門希望者に」
「吉野!このような時に何を言うちょる!」
「別に入門したいとまでは……」
呟く沈藻。
「このような時だからこそ大事にせなあかんもんもあるんと違うか。小那岐どのかて」
吉野と呼ばれた男がその名を口にした途端、黒豹の表情が変わった。まるでひるんだように。
31 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:37:21.88 ID:9srPcdfAO
「知らんぞ」
言い捨てて門の中に消えた。
「愛想がのうてすまんねえ。勘弁したってくれや」
「それは全く構いませぬが、お二人はかの四高弟では?」
「ほう、よう知っとるな。それも聞いたんか」
またもニヤリと笑って
「わいは吉野波波。さっきのでかいのは勝尾黒豹。いかにも四高弟なんぞとはやし立てられとる。もっとも今では三高弟になってしもたがの」
「もうお一方は……」
「苣草覇武いう奴や。こいつは黒豹以上に無愛想でな。何せ普段からよう喋らん。けったいさも振り切れとるでホンマ」
32 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:38:38.37 ID:9srPcdfAO
「あの、上方のお生まれですか?」
「そやそや。わいは明石から来たんや。ちなみに黒豹は土佐の安芸言うとったな。覇武は琉球から渡ってきたらしい」
「天草の縮図のようですわね」
「そう言われればそうやなあ。カカカ」
吉野はわざとらしく大笑すると沈藻の肩に手を置いた。
「さ、いつまでもこんなところにおらんと、入りいな。歓迎するで。そっちの兄さんもな」
付け足しのように言う。刀刃は内心腹が立ったが素知らぬ態で二人の後から門をくぐった。沈藻といると慣れてくるものだ。
33 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:39:25.03 ID:9srPcdfAO
「丁度出て行った連中の部屋があるさかい」
二人は玄関脇の続き部屋に通された。
「夕飯は後で運んだる。道場見学したいなら勝手に行き。廊下の突き当たりを右や」
吉野が消えると刀刃は早速部屋を出た。沈藻は残った。
突き当たりを当然の如く左へ曲がる。庭にかかかる渡り廊下へ出た。離れに通じているらしい。何やら声が聞こえる。どうやら女のようだ。刀刃は渡り廊下を滑るように走り離れの壁へぴたりと身体をつけた。
「どうしてもですか」
「私が頼んでもですか」
「何故です。何故そこまで」
「ああ憎い。貴方が憎い。私をここまで変えてしまった貴方が憎い」
(独り言か……?)
34 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:40:16.10 ID:9srPcdfAO
「ずっとおったのか」
「道場に。おられませんでしたが」
「何、ちとのぞきをな」
「何ですっ!まさか風呂場を」
みるみる柳眉を逆立てる沈藻に慌てて
「いや女子の独り言を少々な」
「独り言……?」
「それはそうと、どうだった惨赦流は」
「見た限りでは大したことはありませぬ。ただ棒を振り回しておるだけのようでしたわ」
「ふん、まあ下っ端の技など知れておろうからな。やはり上を見ねば真のところは判らぬ。上と言えば刃のことだが」
刀刃はいつになく真剣な面持ちで沈藻を見据えた。
35 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:41:35.80 ID:9srPcdfAO
「この場合どうなるのだ?最早手遅れなのではないか?」
「それはまだ何とも判りませぬ。今はとにかく刃を目指すのです」
その時廊下を走る音がして障子がサッと開いた。吉野だ。
「邪魔してすまんがここに顔中包帯でぐるぐる巻きにしたチビが来んかったか?」
「いいえ、誰も」
「誰を探しておるのだ?」
「覇武の奴や。稽古に姿を見せんよってな。呼びにやっている部屋はもぬけのから。さっきから屋敷中捜しとるのやが……どこにもおらん」
吉野はニヤリと笑った。
「まさかとは思うが、絶花堂へ向こうたのかも知れんな……。いやすまんかった。あ、夕飯ならもうすぐやさかいな」
「……どうしましょう」
「飯を食って寝るまで」
「……」
「心配するな。当分襲ったりはせぬ」
36 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:42:36.79 ID:9srPcdfAO
しばしして風呂に入ると部屋を出た沈藻は突き当たりを左へ曲がった。離れが見えてくる。何やら話し声がした。沈藻は素早く壁に張り付く。風に乗ってヒソヒソと流れてきた。
「これほど頼んでもか」
「最初にお話した通りです」
「ばらされてもか」
「……それは、それだけは」
「ならば言うことを聞くのだ」
男と女。男の話し方はどうも不自然だ。意識して片言のように話している。女の方はまだ若い。
「どうしても」
「どうしても」
「……ならば仕方ありませぬ」
「その答えを待っていた」
サッと障子が開いた。誰かが出てくる。沈藻は暗がりに隠れてやり過ごす。視線に気づかれぬよう下を向いた。
37 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
[sage]:2013/06/02(日) 21:42:52.04 ID:zbxgzQhUo
板違いだ他でやれ
38 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:43:10.81 ID:9srPcdfAO
翌朝。
朝食を取っている二人のところへ吉野がやってきた。
「この後黒豹と絶花堂へ行くんやが、ついてくるか?」
「よろしければ、是非」
絶花堂は山の中腹の杉林の間にひっそりと建っていた。昼でも陽が射し込まず薄暗い。
黒豹が先に入っていったが
「うおっ」
叫んだ。続いて入った三人の目に飛び込んだのは
39 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:44:02.87 ID:9srPcdfAO
暗い堂の中央で血塗れになっている人らしきものの姿だった。
顔を包帯で完全に覆っている。しかしそんことよりも両手足が完全に潰されている。肉が裂け骨が砕けていた。
「惨い……」
沈藻が漏らす。これ程の惨状は戦の終わった世でまず見ることはない。
「まだ息があるで!」
駆け寄った吉野が言うと、黒豹が軽々と担架に乗せた。確かに胸が微かに上下している。
「早よう医者に連れて行かんと」
担架を担いだ吉野と黒豹は足早に下山し始めた。
だが二人は後を追わない。二人の目は堂の奥へ引きつけられている。
40 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:44:49.98 ID:9srPcdfAO
「あれば焔断か……」
堂の奥に巨大な刃が横たわっていた。刀身だけで沈藻の背丈ほどもある。そして沈藻より厚い。
「まるで鉄の塊だな。どうだ、やはり間違いないか?」
沈藻はそっと刀身に触れ、頷いた。
「ではどうする?というてもこれだけのものとても……」
刀刃は柄に手をかけて力を込めてみた。びくとはした。
「とりあえず戻りましょう。これだけでは……」
絶花堂を出て刀刃はしばし周りを見回した。
「鬼か……」
41 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:46:25.69 ID:9srPcdfAO
「覇武は何とか一命を取り止めたようや」
夕飯を運んできた吉野が言った。
「ただし手足はのうなったけどな」
「それはひどい……」
「剣士としては死んだも同じやな。いや、人としても同じか」
酷薄に笑うと出て行った。
「嫌な人」
「奴とて明日は我が身かも知れぬだろうにな」
夕食が済んだころ、トタトタと足音がして外から下女の声がした。
「小那岐さまがお二人にご挨拶がしたいと言っておられます」
「小那岐さまとは?」
「先代のご息女です」
「すぐに伺おう」
42 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:47:11.18 ID:9srPcdfAO
「お連れしました」
「ご苦労様です」
声がして下女が障子を開けると行灯の明かりがぼんやりと光る中に大きな布団が敷かれそこから小さな娘が体を起こしていた。地味な小袖を通している。顔は透けるほど白い。手は布団の下に隠れていた。
「このような格好で申し訳ありません。一度ご挨拶をと思ったものですから」
「いえいえ、このような時に押し掛けてしまって申し訳ないのはこちらですわ」
「吉野さんは入門希望者と言っておられましたが本当は違うのでしょう?」
「……」
「このような時に惨赦流そのものに興味を示す方などいらっしゃるはずありませんもの」
刀刃は沈藻に目配せした。
「ご明察ですな。宜しい、正直に言いましょう。我々が興味があるのは刀です」
43 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:47:58.43 ID:9srPcdfAO
「刀?」
「焔断。あの刀です」
「あら」
小那岐が身じろぎした。その拍子に袂から何か光るものが覗いた。
「あの刀は我が流派で代々受け継がれてきた宝刀です。それが何か……」
「我々は珍しい刀が好きなのです。もし譲っていただけるものならと思いまして」
「まあ、でもそれは」
「ご心配なく。それは諦めましたから」
刀刃はあっさりそう言って引き下がった。
「あの、お薬を」
下女が声をかける。それを潮に二人は離れを辞去した。
44 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:48:51.50 ID:9srPcdfAO
翌朝。
絶花堂で吉野の死体が見つかった。頭が潰されていたが体つきから吉野と特定された。
「どんどん減っていくな」
「もう後は黒豹しかいませんわね。しかし……」
「もし黒豹が殺られれば次の晩は俺が行こう」
「それしかありませんわね」
刀刃は立ち上がった。
「小那岐どのに会いに行こう」
45 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:49:43.19 ID:9srPcdfAO
「小那岐どの。それがしどうしても聞きたいことがあります」
「何でしょう?」
「先代の、貴方のお父上の真の死因です」
「何をおっしゃいます!」
いきり立つ下女を制止して小那岐は静かに言った。
「それはお家の秘事です。お答えできませぬ」
「巷では病死ということになっておるらしいですが、それがしは信じませぬ。それに比べれば鬼に殺されたというのがまだ真実らしゅう聞こえる」
「何という!無礼な!」
構わず続ける。
「いや、もしかするとお父上は……」
46 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:50:23.78 ID:9srPcdfAO
その時小那岐が激しく咳き込んだ。下女が慌てて背中を支える。
「下がりなされッ!」
下女が鋭く言った。二人は黙って辞去した。
深更。
刀刃はふと目を覚ました。凄まじい殺気に全身を打たれたのである。
障子に目をやると廊下の暗闇から何かが蠢いている。
刀に手を伸ばした。次の瞬間布団を跳ね上げて障子を睨み付けた。何かの気配がスッと消えた。
「いかがしました」
「夢だ。悪夢をな」
47 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:51:28.84 ID:9srPcdfAO
翌朝。
黒豹は下半身を潰されていた。
「四高弟は全滅か」
「予測していたのでしょう」
「結局鬼退治はこちらに回ってくると思っていた。悪魔退治の後だし、な」
刀刃は大きく伸びをして立ち上がった。
「堂へ向かうのは夜で良かろうが、その前に行きたいところがある」
「どこです?」
「確かめたいこともな」
「何です?」
48 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:52:23.71 ID:9srPcdfAO
夜。
杉林は静かで、ただ微かな虫の音が聞こえるのみである。
「来ますか?」
「来る。必ずな」
「勝てますか?」
「さてな」
虫の音が止んだ。強烈な殺気が近づいてくる。沈藻は表を見つめた。
――不意に奥からパタン、と音がした。振り返るとそこには――。
「隠し扉か。こいつは迂闊だったな。しかし」
刀刃は抜刀した。
「鬼の正体は思った通りだったな」
49 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:53:08.60 ID:9srPcdfAO
目が吊り上がり口が耳まで裂けた正に般若の如き凶相の持ち主であった。
両手で焔断の柄を握ると、一気に持ち上げた。
「大したもんだ」
焔断を水平に構え、吠えた。
「惨赦流四代目当主久里山小那岐、参るッ!」
50 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:54:14.36 ID:9srPcdfAO
唸りを上げて巨大な刃が一閃された。名乗る隙もなく、刀刃は斜め後方へ転がって避ける。袖口がちぎりとられた。焔断はそのまま床へ激突し深く抉る。
(今だ――いや!)
木片を四方八方へ跳ね飛ばしながら焔断が斬り上がる。
「惨赦流“打起”」
間一髪飛びすさった刀刃の全身を無数の尖った木片が突き刺さる。
沈藻は堂の外へ逃げ出している。
(化け物じみた膂力だ。屋内ですぐに追い詰められてしまう)
小那岐が焔断を大上段に振りかざした。腕には無数の切り傷が浮き、筋肉はごつごつと硬く歪に発達している。
51 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:55:18.27 ID:9srPcdfAO
「おいッ」
声をかけたが反応はない。
「覇武の容態を聞きたくはないか?」
ぴくりと眉が動いた。
(食いついた)
「やむを得ずあんなに目に遭わせたのだな。奴と結ばれるために」
全身が微かに震えているようだ。
「巨大な刃に魅せられ我が物にせんと欲した。――父までも手にかけて」
震えが止まらない。
「お主、ふたなりだな?」
「違うッ!」
野太い声が飛んだ。
「男の部分は焔断を欲し、女の部分は覇武を欲した。その結果ああなった」
「違う違う違うッ!」
52 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:56:01.15 ID:9srPcdfAO
「将来があると思ったか?」
刀刃は嘲笑った。
「侍として生きる道を奪われ、一人で厠へも行けぬあの肉ダルマと醜き化け物のお主が!」
「言うなあああああああああああああああっ」
わめきながら焔断を振り下ろす。速いが単調だ。床に巨大な亀裂が生じ真っ二つになったが刀刃は余裕を持って避けた。
(まだだ。もう一つ、止めを刺してやる)
小那岐の息が粗い。刀刃は息を整えた。小那岐は焔断を肩に担ぎ、床を蹴った。
「惨赦流奥義“小野分”!」
「覇武は死んだぞッ」
よろめく。柄を握る手から力が抜けた。
(今だ!)
「一加二分一流奥義“両刀刃”!!」
53 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:56:46.46 ID:9srPcdfAO
巨大な腕が堂の壁をぶち破って刀刃と小那岐の間に割って入った。繰り出された刀刃の技は腕を斬り落としたが
斬られた腕はそのまま焔断を掴んで反対側の壁をぶち破って杉にぶつかりながら空へ昇っていった。
全て一瞬の出来事である。そして辺り一帯に大音声が響き渡った。
「この刃が欲しくば有明の海に浮かぶ社へ来るがよい!」
54 :
カタリオ
2013/06/02(日) 21:57:45.98 ID:9srPcdfAO
「全く気付きませんでした」
「仕方あるまい。力量が違う」
沈藻はますます俯いた。刀刃は戦意喪失した小那岐に当て身をくれ肩に担いでいる。
山を下り町へ入った。
「む」
家々の陰から松明を持った人影がバラバラと飛び出してきて二人を囲んだ。そして一人が前へ進み出る。
「貴方は」
「またお会いしましたな」
天草へ着いた日、話を聞いた男である。
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