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HTML化した人:lain.
ここだけヒーロー世界
1 :1 ◆KMGPOEqTf.[sage]:2016/09/13(火) 21:57:23.46 ID:fcn7DofQo
『はじめに』
ここは特殊な能力を持ったヒーローとヴィランの入り乱れる街。双方譲る事のない争いが今も続いています
あなたもこの街の一員となり、悪を裁き秩序を保つヒーローとしての道を歩んでみませんか?
束縛を嫌い悪の道を征くというのであれば、ヴィランとなって気の赴くままに生きるという事も可能です
ただし自由には責任が付きまといます。常にヒーローに命を狙われることになるという事を忘れずに

『注意事項』
・確定描写はご遠慮ください
・スレの意向に反する書き込みはご遠慮ください
・インフレを避けるよう節度を持ったキャラクター運用を
・荒らしはスルー

『避難所』
http://jbbs.shitaraba.net/internet/23834/
2 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage]:2016/09/13(火) 22:53:16.54 ID:24QLm6pjo
クレイドルの中心はヒーロー協会本部だ。多種多様な文化に溢れたこの街でも最も奇妙な建物でもある。
だが、今節での舞台はそこではない。中心からは外れたところにある、静かな場所が舞台だ。
ここは時間の流れがゆっくり進む場所。一人の本が好きな少女の巣。
ビッケンバーグ書店というところが、この物語の舞台だ。
それでは、始まり始まり。


小さな書店のカウンター。よく手入れはされているが古さを感じる木でできたカウンター。
そこで、一人の少女が本を読んでいた。
木でできた小さな椅子に腰を掛け、風景の一部となる。
流れる黒髪も、紙をめくる白い指先も、視力を補強する眼鏡も、文字を追い続ける瞳も。
全てがゆったりとしたこの空間に溶けていた。
周囲の喧騒から隔絶され、ある音は紙が捲れる音のみ。
昼間の煩い太陽も、不思議とここには優しい暖かなライトとなっていた。

そんな小さく完成された空間の時が、不意に動く。
入口辺りから伸びる人型の影に反応して。
本に栞を挟み、カウンターの上に載せる。
本にくぎ付けにされていた顔は上がり、一礼。

「……いらっしゃいませ」

細い声で一言。接客の定型句を述べる。
セーターにロングスカート。露出のないゆったりとした服に身を包んだ少女であった。

実はこの文学少女。ただの書店の店員ではない。
英雄を姉に持っていた。彼女もまた、ヒーローなのだ。
ヒーロー。超常の力を駆使し、この街の平和を守る者たち。

この物静かな少女、ジークリット・ビッケンバーグは『ブラウ・リッター』の名を持つヒーローであった。
3 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/13(火) 23:17:17.62 ID:HXadD2iXo
>>2

声をかけられた少女は、軽く会釈を返してから店内へ入っていく。
入店してきた客は某有名ブランドのスポーツウェア姿。、店員とは正反対に活発そうないでたち。
くりくりとした目つきも相まって、快活そう、といった第一印象を与えるかもしれない。

そんな彼女もまた、店員側と同じくヒーロー。
とはいえランクはディビジョン4、ヒーローとしては無名もいいところ。
彼女が唯一世間に知られているとしたら。裏切りのヒーロー、"シュードモナーク"、その娘という点。

さて。
書店に入ってきた少女は、はじめて入る店にありがちなことであるが、どこにどんな本が置いてあるかわからないようで。
女性誌コーナーへ行ってみたり、そこから少し離れて文庫本のコーナーを彷徨ったり。
あっちへふらふら、こっちへふらふらとどこか危なっかしい。
4 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage]:2016/09/13(火) 23:26:08.96 ID:24QLm6pjo
>>3
声掛けが終われば再び書を開く。これはビッケンバーグ書店の日常だった。
快活そうなスポーツウェアで、女の子。こんな客、ヒーロー以外では珍しいななんて思いながら再び本の世界へと落ち行く。

パラリ。少女が右へ。
パラリ。少女が左へ。
パラリ。少女が女性誌コーナーへ。
パラリ。少女が文庫本コーナーへ。

……迷っているのだろうか?
ちょっとだけ、心配になった。
本の世界を一度栞で閉じ、椅子から立ち上がる。
ゴトリ。木の椅子が床を滑る。

「……あの、何か書を探してるのでしょうか?」

大して音を立てることもなく少女の隣へ歩み寄ると、声をかける。
碧く澄んだ瞳で、じっと少女を見つめる。
5 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/13(火) 23:46:16.66 ID:HXadD2iXo
>>4

ううん、こっちでもない。こっちでも……
などとひとりで格闘しているところに音もなく近寄る店員に気づかず、

「はうっ!?あ、い、いえなんでも…!」

吃驚して大きな声を出してしまう。次いで取り繕いながらも頭を下げ下げ。
恥じるようにしながら頭をあげれば、そこにはどこまでも澄み切った、けれど不思議と冷たさは感じさせない瞳がのぞき込んでいて。
見透かされそうになるのを感じながら、冷静さを取り戻しつつある脳で最初に思うのは。

「ヒーローの本屋さんっていうのは、ここだったんだ……」

噂には聞いていたが。まさか知らずに入ることになるとは。
そんな思いを得つつ、一息ついて。落ち着いた頭で、彼女の問いについても思い出す。
そうだ、この人は店員なのだから。最初から場所がわからなければ尋ねればよかったのではないか。

「あの……えーっと、ヒーローについての本、みたいなのってありますかっ?」
6 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage]:2016/09/14(水) 00:07:15.61 ID:fk6uL8PYo
>>5
声をかけてみれば、驚かれてしまった。
ちょっと肩が強張ってしまったのは、きっと悟られてしまっただろう。

「えっと……はい。まだまだ研鑽を重ねている身ではありますが、ヒーローもやっております」

ヒーローの本屋さん。そういう扱いにももう慣れてしまった。
挑んでくる人が多いのは悩みではあるが、おかげで繁盛している。
むしろ彼女のように知らずに入店してくれる客の方が少なくなっているのが、悩ましくはある。
自分がヒーローであるかないか。そんなことは関係なく書の世界に興味を抱いてくれる人が少ない証でもあるからだ。

「はい。まとめておいてありますので案内をしますね」

ヒーローの本屋さん。という語からうすうす察してはいたが、やはりヒーロー絡みだ。
そういう客も多いので最近ヒーロー関係の書籍は一か所にまとめてコーナーにした。
ちょっとわかりにくいところに設置してしまったかもしれない。少し反省だ。

「あの……ひょっとして、あなたもヒーローなのでしょうか……?」

ヒーローコーナーへの道中、問を一つ。
純粋な興味だった。このような小さな書店であるため、こうして客と交流することも珍しくない。
これもまた、その小さな交流の、一つ。
7 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/14(水) 00:22:20.41 ID:0+X4clPXo
>>6

「やっぱりそうなんですね。あっ、はい。わたしもヒーローなんですっ。
 まだまだ新米なんですけど。ちょっと前にヒーロー・アプレンティスに昇格?したばっかりでっ。
 あのっ、店員さんは?」

ジークリットの複雑な心境を知らず、雨々子の口調は弾むようで。
同士を見つけられてうれしい、という感情が全身からにじみ出ている。
そうしてニコニコと人懐っこい笑みを浮かべながら、ジークリットにヒーローランクを尋ねてみる。
自分とは違って落ち着いた態度、大人な雰囲気から、きっと自分より上だろうと予測を立てつつ。

「あっ、お願いしますっ」
礼儀正しくぴょこんとお辞儀をしたのち、案内してもらうためジークリットの後ろについていく。
その道中も、陳列棚に並ぶ本のタイトル、表紙絵をきょろきょろと眺めながら。
8 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage]:2016/09/14(水) 13:55:30.17 ID:fk6uL8PYo
>>7
「私のランク……ですか?」

自分のランクを聞かれる。これは慣れてはいるが、慣れていない。
時折、時折このランクを自信を持って言えないからだ。
自分の力で勝ち取ったのは確か。けど、やはり身の丈に合っていないのではないのか。
そんな小さな不安は、声を小さくさせる。

「………エリート・ヒーロー、です」

普段はそんなに機敏に動かないジークリットの歩みはゆっくりだ。
それには小さな願いが込められている。こんな小さくて常に客で満たされているわけではないこの書店だからこそできる願いが。
ゆっくり歩くことで、ゆっくりと表紙を見てもらうことができる。
そしたら、ひょっとしたら興味を持ってもらえる本も見つけてもらえるのではないか。

だから、後ろの少女が本の表紙を眺めているのは嬉しいことだった。
9 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/14(水) 21:05:40.47 ID:rvX8s2QX0
【クレイドル外】

「三人掛かりたァいい度胸じゃねぇか。」

真昼間。普通の人であれば働いている時間であり、そうでくとも多少は何らかの行動を起こしている時間帯に、何するわけでもなく対峙している影が4つ。
路地裏を少し進んだ先にある広場のような場所。やや広く、太陽の光が僅かに沁みる。普段ならば昼寝をしているホームレスでも居そうなものだが、今は居ない。
それもそうだろう。現在対峙している四人の内、少なくとも一人は周りの被害を度外視する大馬鹿野郎である。巻き添えを食らわないように避難したと見るのが正解だ。

構図としては三対一。金髪や茶髪などの髪色をした三人組と、黒髪を手入れもせず放置したような髪型に、ヘラヘラとニヤついた笑みをする一人。
明らかに一触即発の雰囲気だった。しかし、此処には止めるような人間など当然居らず、喜々として飛び込んでくるようなヒーローも少ない。
派手な音を響かせれば流石に何人かは飛んで来るだろうが、彼等にはそんなことは些細な事でしか無かった。今は、ただ目の前の気に入らない野郎をブッツスことだけを考えていればそれでいい。

『「ウォォォォォォォォォォォォォォッォォッッ!!!」』


―――――

数分か、数十分か。先ほどの広場に見える壊れた地面。地面は抉れ、壁は破壊され、途中で現れたヒーローが一人病院送りになった。
戦いとは数であり、どれだけ強かろうと数で囲んでしまえば強者ですら意味を成さない――――それは、能力の存在が明るみに出る前の理屈である。
現在は何より能力としての強さが数をも容易く量ができる。例えば、三対一の状況下で尚且つ相手をボコボコにするなども、彼にとってはそう難しいことではない。

背中にある打ち身と、右頬にある腫れは先程のぶつかりで出来たもので、内心では余裕そうにしてはいるものの、その勝利は決して一方的ではなかったことが伺える。
革ジャンを羽織り、背中にあるのは一丁の拳銃のマーク。誰が何時から呼び始めたのか、気がつけば『マグナム』と呼ばれていたことだけは覚えている。

「歯応えがねェんだっての」

そう吐き捨てるように呟くと、その広場を後にしようと後ろを振り返る。
しかし、彼は先程にあまりのも大きな被害を出してしまっており、あまつさえ新米ヒーローを病院送りにした過失もある。
以前にも一度同じようなことがあり、そろそろ境界に目をつけられてしまっても可笑しくはない。最も、今まで教会の目を逃れていられた事自体が奇蹟だったのだ。
身寄りもなく、守るべき家族も居ない。全てを持っていない彼であるからこそ、その能力ゆえにあまり危険視されていなかったからこそ、辛うじて今までこうしてイラれただけなのだ。

「あぁ、いってぇなぁ……。」

だが、そんなことはまるで歯牙にもかけず。

ただただ自らの気の向くままに暴力と能力を振り翳す彼は、ある意味では『悪』と大差が無いようにも思える。
10 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/14(水) 21:32:44.89 ID:Vxey2/Eko
>>9

その時間、彼は学校にいた。といっても授業を受けていた訳ではなく、昼休みということで母謹製の弁当を平らげた後、立入禁止の屋上に侵入し昼寝に勤しんでいた所であった。
このまま面倒だし授業をフケてしまおうか、でも授業が、でも面倒という怠惰な思考ループに陥りかけていた頃、彼の携帯端末が唐突に震え始めた。
何事だ、なんて考えるまでもない。基本的に彼の携帯端末は学校にいる間は音も振動も起きないように設定している、それでもなお反応するということは――――。

「いーいタイミングだ……」

授業をサボる口実だなんて、そんな甘っちょろい考えは少ししかない。携帯端末の画面に視線を落としながら、彼は僅かに口角をつり上げた。
彼に連絡が来た時点で、恐らく学校の方には公欠として手が回されているだろう。何も心配することはない。弁当箱を少しばかり此処に放置しなければならないが、なに、また取りに来るだけだ。
彼は場所を確認すると携帯端末をスラックスのポケットに滑り込ませ、準備運動とばかりに屈伸と伸脚で僅かに硬くなりつつあった筋肉を解す。
距離は十数キロ。けれど彼にとってはほんの一瞬の距離だ。血液中に流れるナノマシンが活性化し、ただの学生服が瞬時に形を変える。
方向を確かめると同時、彼は屋上の床を蹴った。軽々と柵を飛び越え、常人であれば死ぬ危険性が高い高度へと躍り出る。
彼の名はレオ・ウィリアムズ。高校二年生にして自称″ナ速のヒーロー――――『ブルーアクセル』のコードネームを持つ、最下級ヒーローである。



協会からの命令は、実に端的だった。パトロールをしていたヒーローがヴィラン、或いはアンランクヒーローによって倒された。
いずれにせよヒーローと敵対したことは間違いなく、ヒーローを容易に打ち倒す戦力は見逃せない――――故に撃退、可能ならば捕縛せよ。
ヒーローはアイズ・エブリウエアと呼ばれるシステムによって常にバイタルや現在位置、視覚情報から音声に至るまでをヒーロー協会にモニターされている。
当然彼≠フ姿も既にヒーロー協会では捉えられており、容姿等の情報はレオ、もといブルーアクセルの元にも送られてきていた。
そのため発見はあまりに簡単だった。なにせ彼≠ヘ逃げも隠れもせず、堂々とその場を去ろうとしていたのだから。

「おーおー、随分派手にやってくれたなァ」

クレイドルの外とはいえ、広場があったであろう場所には幾つもの破壊の痕が残されていた。倒れているのもヒーロー一人ではなく、明らかに複数名の被害者がいる。
仮にこの人数を同時にやったのだとしたら、そしてこの破壊の爪痕の張本人が彼≠セったとしたら――――成る程、相手は随分と厄介な戦闘力の持ち主である可能性が高い。
明らかにディヴィジョンXのヒーローに任せる仕事じゃねえな、なんて事を考えながら、彼は街灯の上から彼≠ノ声をかけた。

「待てよ――――半端ヤロウ」

ヴィランにもなり切れず、かと言ってヒーローでもない者。所謂アンランクヒーロー、ビジランテ。
大した理想を掲げている奴もいるのだろうが、所詮は彼からしてみれば半端な奴というだけの話――――いくら強かろうが、群れから逸れた羊だ。
其処にいつの間にか≠「たレオは、寝惚け眼を男に送っていた。見た目こそギャング風ではあるが、彼もまたヒーローの一人である。
11 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/14(水) 21:49:18.41 ID:rvX8s2QX0
>>10

「――――あ?」

気がつけば、声をかけられていた。動けるものは誰もいないと思い込んでいた場所で、予想外にかけられた言葉に、彼は僅かながらの驚愕を見せる。
振り向けば其処にはイカしたスーツのチンピラ(断定)が立っていて、しかもその場所は街灯の上ときている。
――――即ち、彼は見下されているのだ。理解するのはそう遅いことでもなく、額に筋を一本立てて、それでもやや余裕を持った声色は崩さないままに反応した。

「そういうテメェはなんだってんだ? あ゛?」

恫喝。最も簡単に相手を屈服させることができる手段であり、不良たちが毎回のごとく使う技術の一つである。
腹から声を出し、相手の精神に対して圧力をかける。大抵の相手には聞くはずのそれを無意識であれ使ってしまうのは、煽り耐性の低さからくる苛立ちだろう。
彼は自身が最強だと理解している。能力こそ其処までといった程度でしか無いが、威力は其処に関係ない。ただ、相手をぶん殴ることさえできるのなら、誰にだって勝ててしまう。
実際にそうすることでしか生きるという事を知らないのだから、驕ってしまうのも無理は無いだろう。だからこそ、彼はヒーローに対しても強気な態度を崩さない。

絶対的な自身と、其処からくる他者への苛立ち。単純ではあるが、度し難い。彼を見てる青年には、彼のような精神構造は比較的理解のできる程度のものでしか無いだろう。
能力というものが世界に現れてから、彼のような人間は腐るほど存在する。自身が強いと思い、実際に能力という特別に酔う。彼等は得てして自分勝手で、他人の事を考えない。

「上から見下ろしてねぇで、やるんだったらさっさとかかってこいよ」

「それとも何か――――ビビってんのか?」
「『俺を見下さ』ねぇと、足が震えて立てませんってか? なァ、オイ?」

右手の甲を相手に向けて、そして挑発。クイクイと軽くひねられるそれはまさしくな挑発で、分かりやすく、そして陳腐なものであった。
しかしだからこそ意味は伝わりやすい。相手を馬鹿にしたような態度というよりも、戦いそのものに植えているような。それこそを望んでいるかのような振る舞いをする彼は、にやりと笑みを浮かべる。

本来ならば青年の容姿を見てヒーローだと推測するはずなのだが、彼はその思考すらも行っておらず、ただ此方に絡んできたチンピラ程度にし相手を理解しようとしていなかった。
12 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/14(水) 22:00:27.90 ID:Vxey2/Eko
>>11

相手を脅す際に用いるドスの利いた声、実に聞き慣れたそれである。ヒーローでありながらあまり人には言えない経歴の持ち主である彼にとっては、懐かしさすら感じられた。
そして彼からすれば、そういった手合の人間が一番やりやすい。屁理屈をゴネる奴や訳の分からん理想の持ち主なんかより、よっぽど単純で好感が持てるのだ。
だからこそレオはスカーフの下で、不敵な笑みを小さくだが浮かべた。勿論相手からそれは見えなかっただろうが。

「ピーピーっせェんだよ」

対照的に、彼の声には威圧感の欠片も感じられない。やる気が無い訳ではないが、これが彼にとっての平常運行なのだ。
同時に煽りを聞いて、理解する。この男は悪と言うよりかは、ただ暴れたいだけの輩だと――――力を持て余し、それを振るう相手を求めているに過ぎないと。
構わない。どうせ命令が来ているのだ。戦いは避けられない。少なくとも戦わずして目の前の男を制圧する術を、レオは持ち合わせていない。
軽やかな動作で跳躍すると、そのまま地面に着地する。重さを感じさせないそれは、明らかに素人の動きではなかった。

「かかってこいよ? ――――馬鹿言えよ、お前」

ヒーローになってから、何度目の戦いになるだろうか。数えてはいないけれど、戦闘前のこの感覚は嫌いじゃあなかった。
高翌揚感と緊張感。身を竦ませる恐怖と、期待から高鳴る鼓動――――結局のところ、男は戦い∞勝つ℃魔何よりも好む生き物なのである。
相手が極悪非道のクソヴィランならばまだしも、チンピラやヤンキーの類ならば心置きなく戦える。もっとも目の前の相手が前者ではないと決まった訳ではないが。
煽りに対し、レオは真っ向から視線を送り返し、言い放った。

「――――テメェが来いよ」
13 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/14(水) 22:18:25.97 ID:rvX8s2QX0
>>12

「ヘイヘイヘイビビッテるぅ……あ?」

此方の煽りが聞いたのか、余りにも軽やかな着地を見せる青年に一瞬だけ『魅せ』られた彼は、歯が抜けたような表情を一瞬だけ浮かべると、そして表情を元に戻す。
青年がいう言葉にはなるほど一利あった。よく喋る奴は弱い――――彼も腐るほど体験してきた。ならばと思う、こ
いつも所詮同類じゃないか。と。
なら話は簡単かつ単純だった。何も考えずに拳を振るう。能力を使い、ムカつくやつをぶん殴る。それだけで終わりだ。それだけが、彼にとって最高の瞬間になる。

――――

「オーケーオーケー」

「 お 望 み 通 り 言 っ て や る ぜ オ ラ  ァッ ! ! ! !」

彼の煽り耐性は最低。この世界に存在する人間の中でもトップクラスに引くと言ってしまってもいいほどに、他者に煽られることを許せない性質だった。
だからこそ、青年の言葉に純粋に反応する。相手が来ないなら此方から行くしか無いのは当たり前であるし、何より煽られたままでは収まりがつかない。
眠そうな瞳に対して全力の怒りと高揚を瞳に込めながら、彼はまずは始めの一歩を踏み出した。

――――加速。グン、と世界が後ろに回っているかのような感触。勿論錯覚だが、走る時のこの感覚は好きだった。
足裏を地面につけ、そのまま地面ごと削れてしまえという勢いで地面を蹴飛ばし、その反動を持ってもう片方の足を地面にぶつける。
その繰り返しを行うことで加速する。即ち何の変哲もないダッシュであり、其処には特筆すべき点も、ましてや青年が驚愕するような速度などは一切として出ていなかった。
何より、その加速には能力の片鱗すらも見られない、純粋な走りであった。だがしかし、彼の能力が何であるかまでは理解されていないだろう――と彼は思っている。

先ほど彼が彼が倒した新米ヒーローの映像を見ていた青年ならわかるだろう。彼の能力には、少なからず腕に纏う装甲のようなものが関係している。
先ほどの戦闘映像ではおそらく右腕全体を篭手のような装甲で覆い、その直後にヒーローを殴ったようなノイズが出ているところまでが写っているだろう。
此処から予想できることは、右腕に何らかの能力を付与する。若しくは鎧そのものが能力であるということ。

しかし、今の彼の右腕には装甲の『そ』の字すら見受けられることもなく。ただまっすぐに、愚直なまでに青年を殴ろうと言う意思のみが動いている状態である。
もし青年が違和感を感じようが、彼にとってはそんなことどうだって良い。理由だって、単純に能力を使う前にブチギレて飛び出しただけであることは言うまでもない。

近づけたと仮定して、狙うのは顔面。右腕を振りかぶって、さながらテレフォンパンチのような、技術の欠片もない乱雑な拳を振るう。

人間の中で一番大切なのは脳と心臓であり、其処が何方かでも壊れれば人間は死ぬ。ならば狙わない道理など無い。
もっと言えば、青年のその眠そうな目とスカしたような顔を全力でぶん殴りたかった。ということに尽きる。
14 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/14(水) 22:43:46.15 ID:Vxey2/Eko
>>13

煽り耐性が低い等というレベルではない。もはや無いといってもいいだろう――――あまりにも簡単に、彼はレオの挑発に乗ってきた。
いや、今回の場合は相手と自分が似た人種であるということを踏まえての行動なのだろうが、それを考えてもなお沸点が低いと言わざるをえないだろう。
だが、嫌いじゃない。来いよ等と扇動しておきながら、レオは相手が動き始めるのとほぼ同時に一歩前に踏み出し始めていた。

僅かに記録されていた相手と倒されたヒーローの交戦記録によれば、相手は確実に肉弾戦を主体ないし好んで使用する。そして能力もまた、其れに類するものとみて間違いはないだろう。
映像に映っていたのは本当に一瞬、直ぐ様ヒーローがのされてしまったため詳細は分からなかったが、何かを腕に装着≠キる様な能力だったとレオの記憶には残っていた。
先程彼が倒したヒーローはディヴィジョンX、ノービスヒーローである。レオと同じクラスだ。
だが仮にもヒーロー協会に認定された能力者であり、最低限の戦闘力は保有している。それを一撃で倒すということは、少なくともディヴィジョンV程度の実力は最低限でも有しているのは間違いない。
明らかにディヴィジョンXであるレオに回すべき任務ではないだろう。だがむしろ、だからこそ良いのだとレオの鼓動はより激しく刻まれる。

「悪かァねェ」

ブルードライブ、彼の父の名である。グランドマスターと呼ばれる最上級の称号を持っていたヒーローであり、有り体に言ってしまえば所謂英雄だ。
だがだからこそ、レオのことが気に入らないという人間も少なくはない。むしろ多いと言ってもいいだろう。だからランクに合っていない此のような任務が、彼に回されてきたのだ。
上等だ。やってやる。見たところ相手は、映像記録に残っていた能力を使ってきていない。ナメられているのか、それともレオが想定している能力とは全く別系統の能力の持ち主なのか。
まあ、何方でもいい。怪我が治り、ヒーローになってからまだ僅か。可能な限り交戦を続けてきたが、それでもまだ肩慣らしにすらなっていない。
上に登りつめるには、もっと力がいる。その為にまずは、目の前のこいつをぶっ倒す――――振るわれた拳は、喰らうまでもなく高威力であることが理解出来た。

レオの能力は簡単に言ってしまえば、己を加速させる能力である。そして其れは純粋な運動能力に限らず、思考能力や動体視力にも影響を及ぼす。
よって相手のパンチを、レオは完全に捉える事が出来た。そして同時に、直撃を受けたらその時点で自分は落ちるという確信を得た。
目が開く。鋭利な目付きで拳を見、次いで最低限の動作でその拳を躱そうと身体を右へズラす――――しかし捉えられるからと言って、躱し切れる訳ではない。
頬を、拳が掠った。摩擦熱、それから遅れてやってくる疼痛。確かな熱と痛みが、僅かに掠っただけにも関わらずレオに戦闘の、いいや喧嘩をしているという実感を与えた。

「オラァ――――ッ!!」

受け止めていたら、その時点で相手が優勢になっていただろう。回避を選択したことで、なんとか今のところは対等な状況を保てている……筈である。
そしてレオが勝つ唯一の手段は恐らく、攻撃の暇を与えず畳み掛け、速度と手数で押し潰す事。瞬間すら待たずにそう結論を出したレオは、回避から瞬きの空隙すらなく攻撃を仕掛けた。
右足でのローキック、そこからさらに頭上へ向けてのハイキックのコンボ――――ただし相手の行動によってはキャンセルすることは十分に可能であり。
尚且つ復帰したばかりのレオの脚力では、直撃を受けた所で致命傷には決して成り得ないだろう。回避、防御、迎撃、好きな選択肢が選べる筈だ。
15 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/14(水) 23:03:02.43 ID:rvX8s2QX0
>>14

一歩踏み出す。その選択は正しいと、彼ですら声を大にして言える。少なくとも、彼を相手にする時点で『後退』した瞬間に、対象の敗北は確定するからだ。
純粋なパワー型に対抗するには後ろに下がりつつ遠距離攻撃を入れていくこと。それは当たり前であるし、当然そうされる可能性も考慮に入れていた。
しかし、彼にとっては遠距離攻撃などただの石ころと同じである。相手が動くより速く動いて、殴られる前に殴り倒す。最も簡単な相手は、むしろ遠距離系統の能力者なのだから。
その点、青年の行動は彼にとって少々不利であるといえる。彼としては嬉しい限りなのだが、相手も同じパワー型だった場合、彼の能力は『スロースターター』であるため、能力によっては後手に回らる得なくなってしまう。
彼はそんなことなどどうでもいいと一蹴するだろうが、現時点での精神的アドバンテージはなくなったと言ってもいいだろう。元からそんなものなかったような気もするが。

「速ェ――――ッ!?」

年老いた猫だと思って近づいたが、どうやら眠れる獅子を覚ましてしまったらしい。飛んだ食わせ物だと僅かに思考しながら、脳内麻薬の侵食する視界で自らの拳が躱されるのが見えた。
だが、拳の橋に僅かな熱が灯る。僅かながらにでもかすったことが理解できると同時に、かすった程度にまでダメージを減らされたという事実が脳を打つ。
テレフォンパンチが完全に決まるとは思っていなかった――――いや、この一撃で終わらせられると思っていたのだろう。流石に慢心が過ぎたか、振り切った拳が僅かに空気を殴りつける。

――――そして、衝撃。青年の放つ蹴りをまともに、完全に、完膚なきまでに直撃を喰らい、そして吹き飛んだ。

手応えからしてまともにはいったことは理解できるだろう。だが、それにしては手応えが妙に硬いことに気づくだろうか。
頭部の手応えは割とハッキリしている筈だ。けれど、右足のローキックがあたった部位は恐らく通常よりも手応えに違和感があることは間違いない。
それが能力によるものではない。と理解することは難しいかもしれないが、彼は攻撃を食らう瞬間わざと『踏みとどまり』全身に力を込めて筋肉による防御を選択したのだ。
防御の構えを取ること無く、純粋な筋肉による防御。全時代なんてレベルじゃないほどの時代錯誤な戦い方は、さながら石器時代の原始人の如くに。

「――いってぇ……。マジで。」

くらり。何事もなかったかのように立ち上がろうとするが、流石に彼も人間である。まさか連続で蹴りを放ってくるとまでは思っておらず、二発目は頭部に少なくないダメージを入れていた。
血液が滴る。額が割れ、其処から僅かながら血が流れていることを理解し、目に入りそうなそれを乱暴に右拳で拭う。嗚呼面倒だ、と言葉にもせず呟いた。

「じゃあ、そろそろ『本番』といこうじゃないか―――――!!」
16 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(チベット自治区)[saga]:2016/09/14(水) 23:09:31.29 ID:NJU6Pv5a0

【クレイドル外縁/鉱山】

都市の中心地を離れた山間部には、100年前の超人大戦によって抉り取られた荒々しい地形が残っている。
壮絶な戦いの爪痕。忌避されるのも道理と言える地にはしかし、盛んな掘削音が響く。

クレイドル成立後の調査によって、この地には水晶に酷似した結晶構造を持つ特殊な鉱石が眠っていることが明らかになった。
今その蒼い石は、ヒーロー協会本部の要所を防護するエネルギーバリア生成の為に必要不可欠の母材に使われている。これは公にはされていない情報だ。
同様の鉱脈は各地で発見されつつあるが、埋蔵量・設備の充実ともに此処に並ぶ鉱山はまだ開かれていない。
牙なき者のための防衛線はクレイドルの中だけに非ず。此処もまたその一つである。

しかし――――否。だからこそ、この地はヴィランの危機に晒されていた!
石の秘密を探り当てるほどに高い知性を持つ、兇悪なヴィランの!!


「――――グワァーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハァァァァアアァーッッ!!!!」


深夜。暗闇の中に火の手が上がり、ぬばたまの夜を鮮やかに染め上げる。
響くは、爆音とも比べうる程に喧しい――悪意に満ち、電子ノイズを孕んだ老爺の『哄笑』。

何が起きたか? 鉱山防衛のために配備されたヒーローの詰め所に、大量の炸薬を満載したロケット弾が撃ち込まれたのだ。
眠りの中にあったは状況を呑み込む前に即死!
情報統制への信頼が祟り、ここに配属されているヒーローの中に手練と言える者は居なかった。

ずしん、ずしん――重低音を響かせながら、巨大な影が紅蓮で照らされた山地に浮かび上がる。
六脚のカニを思わせるシルエットのそれは『甲』の部分を地面から7フィートほど離しながら、戦車じみた巨体で荒地を踏破する。

「呪えヒーローども! この地の『重要性』を認識していながらッ!
十二分の戦力を置くに置けなかった、ヒーロー協会の怠慢をッ!! 支配者の甘言を信じた愚昧さをッ!!!」

「そして感謝するのじゃ。このワシの深き慈悲に!
 守っていたはずの作業員が辺境での果てない掘削に倦み、自らこの鉱山を事実を――お主らがッ! 知らぬままにィ! 逝かせてやったのだからなァァァーア!!
 ウゥワァァァーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハハハ、グハハハハーッハッハッハッハァァーーーーー!!!」

恐るべきマシーン兵器を創造し、隠匿された科学的秘密を暴く知性を持つヴィランはそう多くない。
しかもそれが、冥府の底から響くような老いた男の声で話すとなれば、候補はただひとつだ。
老齢でありながらヒーロー協会に対する熱狂的なテロを続け、クレイドルに知らぬ者は居ないと言われる悪の大博士。

――――――Dr.プロメテウスが、今まさに呪われた勝利へ向けての行軍を始めていた。
17 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/14(水) 23:14:45.29 ID:NJU6Pv5a0
/ 守っていたはずの作業員が辺境での果てない掘削に倦み、自らこの鉱山を事実を
/ここの「鉱山を」と「事実を」の間には「売り渡した」が入ります。脱字情けねえです!
18 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/14(水) 23:23:15.63 ID:Vxey2/Eko
>>15

当たった。直撃の感触、だが妙に硬い。相手が能力を発動した様子は見られない、つまり恐らくは相手の純粋な硬さ――――そして手応えから言って、筋肉だろうか。
笑ってしまいそうな分析であったが、その推察は正しかった。何時の時代の人間だよと、思わずスカーフの下で苦笑を零さずにはいられなかった。
そして純粋な腕力、そして防御力の面においては此方が劣っている事を理解する。そして相手はそれを自分の強みとして、正しく解っている。
蹴りを入れた瞬間、相手は回避など微塵も選択肢にないと言わんばかりに、その場に踏み止まっていた。端から耐えられると思っていたからこそ、そんな行動を迷わず取れたのだ。

「上等だ……」

様子見で能力を本調子で使用していなかったが、恐らくレオの身体能力では相手を倒すのに酷く時間がかかる。
しかもその間相手の攻撃を喰らわずに、という条件付きだ。馬鹿らしい。そんな芸当が出来るならば、もっと順調にランクを駆け上がっている。
出来ないから、余計な温存などせず能力を使わせてもらおう――――血液の流れから思考、肉体に至る総ての速度を加速≠ウせる。
目を見開き、額から血を流す相手をみる。本番、つまりは相手もまだ全力じゃあなかったということ。調度良い、呆気無く終わってしまっては互いに興醒めだろう。

「楽しませてやるから、楽しませろよ――――ッ!!」

より速度に比重を置くならば、一撃は自ずと軽くなる。より速ければその分軽くとも威力は引き出せるが、同時にレオの体力も削れていくため均衡はある程度考えなければならない。
が、そんな事はもはや思考の片隅へと追いやった。そんな事はもはやどうでもいい――――取り敢えず、やれるだけやる。そうしてみたくなった。
地を蹴る。距離はさほど離れていない。故に互いの距離が零になるのに掛かる時間はほんの一瞬、だがレオにとっては恐ろしいほどに永い。

距離を詰めることが出来れば、レオはそのまま相手に向かって飛び蹴りを放とうとするだろう――――だが、一発ではない。
腹部から胸部、そして顔面にかけての三連撃。レオの能力は加速のみであり、それを成せるのは純粋に彼の身体能力が極めて高いからに他ならない。
ただし速度重視のため一発一発は軽く、また空中という条件下である以上レオが回避行動を取るのは難しい。
三連撃の最中に相手が行動を起こせばその時点で攻撃は中断され、レオの行動もそれに合わせて変化することになるだろう。
19 :ウェイナス・ウラニア ◆JdUbMChjVk[sage saga]:2016/09/14(水) 23:43:36.90 ID:TOo+FdXD0
>>16
男は、クレイドルの郊外に居た。
山を見据える高見のテラス。涼しい夜風が吹き付け、摩天楼の光に阻まれず、高い星を視る事の出来る場所。

彼は其処から、満天の星を見上げていた。
宇宙に浮かぶ数多の炎は、彼等を照らす光となり、人々を正しく見守っている。
それはまさしく、神の栄光を写すもの。右手に持つ聖なる書を抱き寄せ、彼は自然の中に身をまかせていた。

それはかなり高い身長に、全身を黒づくめの正装で包んだ男であった。
黒のジャケットに黒のパンツ。頭に被った黒の帽子から覗く純白の髪が、風に美しく流れている。
その紅いふたつの瞳は今、彼の信ずる神の元────天へと、優しげに向けられていた。

「ああ……この空は、余りにも自由だと云うのに」
「人は何時も、互いを束縛する。時にその、羽ばたく翼を捥いででも……」

溜息の後に呟くのは、この世への憂いであろうか。
詩人、と言う訳でもない。この圧倒的な光景に、少々ばかりのノスタルジーを感じたのだろうか。
彼は今一度目を瞑り、この快い大気に身を委ねる。
永遠とも思える時間の中、しかしその静寂を切り裂いたのは─────山にて立ち上る、炎であった。

「……!」

それを視認するや否や、彼は目を見開く。……確かあの周辺には、炭鉱があった筈だ。
其処から火が立ち上っていると言うことは、即ち……異常の発生を、これ以上なく示している事になる。
彼は静かに、近くの机に聖書を置く。山の方角へ向き直り、炎を暫く見据えれば────

彼の心に火が灯る。今や失われて久しい、ヒーローとしての感覚が呼び覚まされる。
そうあるべきと生み出された彼の存在に、意味が発生して行く。
彼の背後で灯っていた明かりが、不意に消えた。……その光は気のせいか、彼の身体へと吸い込まれていった様にも見えた。
そして彼は、記憶を呼び覚ます。今や堕ちた翼は然し、それでもかつての輝きを失う事は無く──────

「『セラフィム・ウィング』」

彼の肉体は突如として、光の中に包まれた。
直後にその中から現れたのは、6対12枚の、天使を思わせる純白の"翼"。
彼の身を包んでいた衣装は今や影も形もなく、その原初の姿を露わにする。白い布、千切れた鎖。
美しい白髪を靡かせ、妖しく神秘的な雰囲気に身を包ませながら、彼はその翼で空へと飛翔する。……向かうは、山へ。

堕ちたヒーロー、『ファーレン』。かつての『セラフ』の騎行は、今ここに始まった。

────────

「……成程。おまえの所業と言う事か」

燃え盛る鉱山を足元に、機械の鎧を操り、高らかに笑う老人。
其処には、その場にいるはずのない人間の声が、上空から降りかかってくるだろう。

その声色はまさに、天よりの宣告にも聞こえる。老人が視界をその方向に上げれば、すぐに見えるだろう。

上空に滞空し、業火に燃え盛る地上を見据える、光り輝く存在を。
12枚の翼が描き出すシルエットは、その神秘性を露わにしている。
その姿は、まさしく熾天使。老人は地上を見下ろすその紅い瞳に、見覚えはあるだろうか。

嘗てヒーロー協会に座しながら、しかし其の場より堕ちた、生まれながらのヒーロー。
『セラフ』ウェイナス・ウラニア───────今は『ファーレン』と呼ばれる、その男の名を。
20 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/14(水) 23:49:01.77 ID:rvX8s2QX0
>>18

「ケッ。上等だぜこの野郎――――!!?」

彼が能力を発動する瞬間。いや、発動しようと右腕を動かそうとした瞬間に青年の姿が文字通り『掻き消える』。
先程から感じている妙な違和感の正体がこれか。右腕の拳を躱された時と言い、攻撃の際の妙な軽やかさと言い、何かが可笑しい。
これが相手の持っている能力なのか、はたまた純粋な身体能力なのかはわからない。だが、わかっていることがただ一つ。

――それは『ヤツは一撃じゃ俺を落とせない』ということ。
先程から彼は青年の攻撃をモロに受け、それでもなお立てる程度には頑丈である。だが、それは偏に彼の体が頑丈であるから、というわけでもない。
攻撃時の瞬発力は並外れているが、その攻撃自体に含まれる重さに違和感がある。よく考えれば、先ほどの二連続蹴りも、街灯から飛び降りた時も、何故か体重を感じさせないような動きをしていた。

(――――分かっちまったぜ天才的によぉ!)

恐らく、相手の能力は自身の重力下何かに対して作用するものである。多分。速度が早いのは恐らく軽くなって早くなっているに違いない。彼はそう確信付ける。
証拠はないが、推測はある。蹴りを多用しているのも、重力の低下した中で最大限に重さを利用できる攻撃が蹴りであるだけだろう。きっとそうだ。間違いない。

――――だからどうした。
そんなことはどうでもいい。相手の能力がどうかなど理解する必要もないし、理解する前にぶん殴ればすべてが終わって俺の勝ちだ。
相手のペースに乗るから思考が逸れる。イヤ、それすらも必要ない。思考を放棄、ゴミを燃やすように闘争本能の燃料へとくべながら、目を見開いて青年を見やる。

飛び蹴り。見えてはいても対処はできない。元々身体能力の並外れた彼であっても、その攻撃に対処することは不可能であった。
どれだけ反射神経が優れていようが、筋肉があろうが、速度にはかなわない。もっと言うならば、能力を発動しようとしている最中に突如として受ける攻撃を、彼が躱せるような頭を持っているわけがない。
ならばと、一撃目はそのまま腹部で受けた。筋肉の鎧が全身に振動を伝え、肺の中にあった空気が全て吐き出される。少しだけ、体制が前傾姿勢になった。

二撃目もそのまま受けた。胸部にある肋骨がミシリと嫌な音を立てて、ヒビが入ったかのような痛みが胸から広がる。吸い込もうとしていた息を再度吐き出させられ、軽度の酸欠状態のような意識の耄碌。
三撃目。これもまたそのまま受けるだろう。避けるという選択肢すら眼中にない様な、絶対的かつ完全な自身。すべてを受け、そして退けると言わんばかりの傲慢に、脳が随分と揺らされる。
先ほど自分でも行っていたように、人間を潰すには心臓と脳を潰せばいい。現在彼が受けた参加書の内二つは胸部と頭部であり、現在頭部に受けた蹴りで脳震盪に近いような症状を起こしつつある。
僅かに見える星。明滅する視界。これで終わりなのかという弱気な思考を殴り飛ばすように、彼の足は地面に根を張ったかのように動くことはないだろう。
そのせいで、衝撃を最大限にまで高めてしまっているのは言うまでもない。

だが、三連撃を受けるということは、その後に僅かな隙ができるということでもある。なにか特殊な能力を有していないかぎり、その場から即時に反射で動ける人間はそう多くない。
狙うのは此処である。待っていたかのように右腕に感じる違和感。気がつけば地面の一部分が削れ、その同程度の質量を持つ装甲が右腕に『同化』するようにして装着されている。

これこそが彼の能力であり、物質を分解して自身の能力武装へと変換すると言うひどく単純なもの。しかし、この状況下で一撃を加える程度のことは、十分に行うことができる。

「オォォ――――――ラァッ!」

明滅する意識の中で、闇雲に振り回される拳は幸いにも青年の顔面を狙っていて。先ほどの王だとは比べ物にならない圧と、威力を拳は内包している。
しかし、彼はその一撃を放った後、そのまま後ろに倒れこむようにして背中を地面へと付けるだろう。流石に、何度も能力によるブーストの掛かった蹴りを受け続けるのは応えたらしい。
21 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/15(木) 00:10:31.33 ID:R8XieX+RO
>>8
「エリート……!すっごいですね!」
エリートヒーロー。そこに上り詰めるまで前を歩く彼女はどれ程の研鑽、努力を重ねてきたのだろう。
自信のなさを感じさせる声であっても、協会にヒーローとしての実力と社会への貢献を認められたのは事実なのだ。
胸を張ればいいのに、と雨々子は思う。同時に、

「私も頑張って、店員さんに追いつきますから!」
自分もそのようになりたいと、なってみせると強く誓うように言うのだった。

そんな話をしていたところ、不意に彼女が足を止める。
目線の先は文庫コーナーの最端。平台に山積みにされている新刊の本達。

「あっ、この本……新しいの出てたんだ」
呟きながら手に取るのは、つい先週発売した某有名作者の連続小説。
コテコテの青春恋愛モノで、旧作が映画化して話題を呼んだのも記憶に新しい。
……要するに彼女はミーハーなのだ。

/遅くなりました、返しておきます!
22 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/15(木) 00:12:46.45 ID:x/bvLOpGo
>>20

如何にレオ・ウィリアムズの加速能力が優秀だったとしても、彼が人間であり物理法則に従う此の世界の住人である以上、逆らえない現象というものがどうしても存在する。
例えば攻撃直後に生じる隙や、宙空から着地した際に生まれる微かな停止――――そして蹴撃が直撃したということは即ち、その瞬間が発生するという意味でもある。
相手は攻撃を受け始めた時から、いやもしかしたら受け始めるその前からこの時を狙っていたのか。戦い慣れ、攻撃を受けることを前提とした戦い方に、思わずレオは慄く。
受け止め、尚捻じ伏せる。分かりやすい強者としての戦い方に、憧れや敬意が生まれなかったと言えば嘘になる。此のような場でなければ、賞賛を送っていただろう。多分。

「クッ――――ソォッ!!」

そして何より警戒すべきは、相手の右腕にいつの間にか装着されていた武装――――間違いなく、記録映像に残されていた彼の能力だろう。
よりによって、此のタイミングで。いいや、実に使うタイミングを弁えていると言える。だからこそ歯噛みし、仕留めきれなかった自分に苛立ちを覚えた。
速度特化であるレオに攻撃を確実に当てるのは難しい、だが無闇矢鱈に能力を使用すれば余計に情報を与えることになる。だから最低限、そして確実に当たる今≠。
成る程認めよう、こいつは強い。今更だが、認めざるを得なくなった。悔しいが、戦闘において必要なセンスを、しっかりを兼ね揃えている。

だが終わらない。隙が発生したならば、その隙を[ピーーー]程の速度を引き出せばいい――――少なくとも、レオのその思考は間違っていなかった。
だがその思考以上に、本能が相手を恐れてしまった。回避を行おうとする思考よりも速く、相手の拳を防ごうと両腕を交差させ顔の前に突き出してしまった。
受けの姿勢。そして気がついた時にはもう、間に合わない――――迫り来る拳が、恐ろしく緩慢に見えた。

「――――ッ!?」

意識がぶっ飛びそうな衝撃。相手の全力、なのかどうかは分からないが、少なくとも此の喧嘩において最も強い一撃が直撃したのだから、当然の結果と言えた。
その場で堪らえようにも耐え切れない物理衝撃がレオの肉体を襲い、身体が軽々と十メートル近く後ろへ弾き飛ばされる。
腕が折れた。いや、実際のところは分からないが、それぐらいの痛みはある。少なくとも今すぐ動かせと言われたら、迷いなく無理と答えるレベルには激痛が走っていた。
絶え間なく刺激される痛覚が、無意識の内に呼吸を乱す。それでもなお立ち上がろうとするのは、彼がヒーローの一人である所以である。
レオは膝立ちになりながら、強引に身体を起こそうとしつつ、相手を睨みつける。

「ざけんじゃねェ、立てよ……ッ」
「大口叩いてその程度かよ、テメェ……ッ!!」

腕は使えなくなった。だがそれでも立つための足は残されている。
執念という意味で言えば、彼は相手よりも優っているのかもしれない――――少なくとも今の段階では、だが。
弱いから何度も失った。だからこそ負けを許容しない。負ければ、きっとまた何かを失ってしまう。
だが相手が立ち上がらなければ、レオもまたその場で倒れるだろう。立ち上がるようであれば、迷いなく切り札≠抜こうとするはずだ。
ただしその切り札は制御が効かず、通用するどころか相手に届く可能性すら相当低いのだが。
23 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/15(木) 00:21:40.49 ID:uv9V4ZgI0
>>19

機体と神経接続したプロメテウスの仮想視界に、高速飛翔体の接近を知らせるアラートがポップする。
動体探知レーダーをきりきり舞いさせるほどのトップスピード。空から堕ちる一筋の流星。
オレンジ色の溶液で満たされたヘルメットの中で、プロメテウスは機械化された眼球を包む瞼を絞る。
見る者などないその笑みは、まるで『旧知の友』と思いがけず再会したかのような喜悦を含んでいた。現れたのは、想定していた中で最悪級の強敵だというのに。

「グワァーーーーッハッハッ! これはこれは珍客のお出ましだ。久方ぶりよの、セラフ」

機械の怪物は鋏状になった二本の『腕』を地面に突き刺し、それを軸に素早くウェイナスへと向き直った。
無視、ないしは片手間の攻撃で済ませられるような相手ではないことはずっと前から知っている。
それこそ――――8年前、彼がヒーロー協会を離反したばかりの頃から。

「天より下りし者からすれば、地上に灯る炎は気に食わぬのかもしれんがのう。
 ワシと手を組めば、ヒーロー協会潰しはずっと早く終わるじゃろうに。
 志を同じくする者と銃火で語らうなど、まっこと嘆かわしいことよ……!」

これは彼がウェイナスとの接触の度に、小言好きな老人のように嘯いていることだ。
当然ながら本気の誘いではなく、使い古した皮肉である。組織を捨て、個をも捨て、在野の英雄たらんとする男への。

「まぁ良いわ。オヌシも人の子、時には父たる協会に孝行することもあろう。
 邪魔をすると言うならかかってくるが良いわい。
 そして、御使いを気取る傲慢を人の知恵の火によって洗い流すのじゃ!」

「――――――グヒャーーーーーハッハッハッハァァァアァ!!」

悪辣な大笑を前触れとして、機械蟹――『プロメテウスエンジン:カンケル』の背部装甲に隠されたハッチが開く。
そこに隠されていたのは左右合計16門の対空ミサイル。通常のヒーローとの市街戦では、取り回しが悪すぎる代物。
プロメテウスもさるもの。この作戦を妨害し得るものは、『ファーレン』以外に居ないと予見していたのだ!

煙の尾を引いて、展開された全てのハッチから弾頭が放たれる。それらはウェイナスが放つ光熱を頼りに、凄まじい速度で接近する。
直撃すれば、例え超人と言えども重大な熱傷と破片による外傷は免れないであろう破壊的追跡弾が16発。
初手から一切の躊躇も容赦もないプロメテウスの攻撃を、堕ちたる英雄は如何に捌くのであろうか?
24 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/15(木) 00:30:11.31 ID:LXGcMknl0
>>22

立ち上がろうとした。当然だ、彼は負けるということが即ち自身の存在の終わりであるということを理解している。
いや、自身が負けるなんてことはどうでもいい。自慢の拳が、プライドが、折れてしまうのだけがどうしても嫌だった。
それだけで生きていた。それだけしかなかった。それだけで、それだけを自らの力として。だから、そんなちっぽけなプライドでしか彼は拳を振えない。
笑え、笑えよ。自分を追い詰めた奴には笑みをくれてやれ。負けたことなんて無いし、これから負ける予定だって一ミリたりともありゃしねぇ。

なら、なら―――――

「舐めんじゃねぇ…………オレを誰だと思ってやがる」

「天下無敵の最強だってのがァ――――――――分かんねぇのかオラァ!!”””1!」

彼の右腕に装着された装甲は、彼の精神世界にある根本を参照して形作られ、其処にある一つの法則を具現化する。即ち、やられたらやり返す。
能力としての効果は単純で、自身が受けた衝撃を蓄積し、そして放出するというもの。能力展開が遅すぎたため、現在蓄積された衝撃は大したものではないが、其処は無理矢理にでもエネルギーを引き出して補完する。
相手も満身創痍だろう。当然、オレの拳があたったんだから当たり前だ。今まで殆どの相手を『こいつ』でぶっ飛ばしてきた。今回だって例外じゃねぇ。絶対に、絶対にぶっ飛ばす。

まっすぐ進んで、そして殴る。簡単だ、歩く必要もない。右腕に蓄積された衝撃を広報へと放出することで、さながらジェット噴射にもにた加速を生み出す事ができる。
痛みは無視しろ。消えそうになる意識をプライドと維持で無理矢理に持ちこたえさせ、呼吸をするたびに痛む胸骨が鬱陶しい。呼吸を止める。残されている時間はそう多くない。

青年が立ち上がり、そして彼も立ち上がった。ならば、其処から始まることはただ一つ。
愚直なまでにまっすぐに、呆れるほど強烈に、前方の延長線上に存在する青年をぶん殴るために。
腰を弛め、地面を蹴り、そして放出による加速。直線上に加速しながら、そして振るうのは右腕に込めた衝撃全て。威力は到底計り知れない。

しかし、彼は青年の能力について何も考えていなかった。即ち、青年が持つ切り札についても理解しておらず、図らずともその切り札の条件である『直線上』の項目を無意識にクリアしてしまっている。

さらに言えば、加速と言っても青年の速度よりは遅く、初戦は急場で使っている無理矢理の加速にすぎない。普段から速度に慣れている青年であれば、目で追えても『可笑しくない』。
25 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/15(木) 00:45:21.53 ID:bjzPwwgwo
>>21
「ありがとう、ございます。
けれど、私は誰もが邪魔されずに一冊の本を読み終われるように戦ってただけですから」

エリートヒーローの称号も嬉しくはある。
挑戦を申し込んだヒーローの数は多かった。姉は更なる高みにいた。
だが、そうではないのだ。
ただ、純粋に平和に本を楽しめるように戦っていただけ。そしたら気づけばこんなランクになっていたというだけ。
だから、実感には乏しく声は小さくなる。
なにせ、世界はまだそれに近づけていないのだから。

憧れを受け、誓いを受ける様は昔を思い出す。
あれは、そう。姉さんがグランドマスターに至ったときだっただろうか?

―――――

「いつか。いつの日か、必ず」

まだ、あの頃はヒーロー・アプレンティスになったばかりだった。
グランドマスターになってこの店に帰ってきた姉さんに私は憧れていて、だからこそ誓ったのだった。

「姉さんに、追い付いてみせます」

思えば、こうして誓いと言えるまでに固い言葉を姉さんに言ったのはこれで初めてだった。
だからだろう。姉さんはちょっと驚いて、微笑んだんだ。
何と姉さんは答えたのだっけ?今なら思い出せる――――

―――――

「ええ。ですが、待ちませんよ」

記憶の中の姉さんそのままに、答える。
いいや、誓う。
追い付かれぬように、自分もまた進み続けるのだと。


突然不意に、少女の歩みが止まる。ジークリットの歩みも止まる。
文庫コーナー、新刊を置いた辺りだ。
彼女が手を取ったのは連続小説の最新刊だった。
たしか、映画化もしたはずだと思い返す。
所謂話題作。だからこそ、彼女の目に触れたのだろう。
だとしても、本の世界の住民にとってはたまらなく嬉しいことだった。
ちょっと、表情が綻ぶ。

思えばこうして続きが出せるというのは、このご時世では当たり前ではない。
ヴィランとの戦いで命を失うかもしれない。もう二度と書を書けなくなるかもしれない。
実際、ヴィランのせいで途切れた物語をいくつも知っている。
だが、こうして続きを書き続けられる作家もいる。
それは紛れもなく、ヒーローである自分たちの活躍によるものだ。

決して、無駄ではないのだ。この称号も、きっと誇っていいのだ。
26 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/15(木) 00:52:10.47 ID:x/bvLOpGo
>>24

相手は立ち上がった。立ち上がりやがった。いいぞ、最高だと叫びたかった。チンケな相手に勝った所で、そんな物に何の価値があるという。
お前は強い。強いからこそ、ぶっ飛ばす価値がある。だから全力で、この上ない程に全力且つ全開で打倒してやる――――ッ!!

「ゴタゴタ言ってねぇで、分からせてみろよ――――ッ!!!

身体を疾走る感覚は、世界総てを置き去りにする至高の速度。身体中から迸る電撃に似たそれは、彼の能力と思念が具現化されたイメージの結晶体。
加速能力の極地。レオ・ウィリアムズ――――いいや、ブルーアクセルの全力の速度は、瞬間移動≠ニ等しく並ぶ。
対価として消費される体力があまりに膨大であり、使用すれば彼自身の肉体さえ追いつかない為滅多に使用しない、正真正銘最後の切り札≠セ。
躊躇いなくそれを抜くということは、即ち名も知らぬ彼をそれほどの相手だと認め、使わざるを得ない程に追い詰められたという事の証明に他ならないだろう。
使えば自分さえ追い詰められる。それどころかあまりに速すぎる為に制御が出来ず、不発に終わる可能性さえある究極の速度――――今、それが発動されようとしていた。

「行くぞ――――――――」

直線上。残存体力は僅かだが、相手も強引な加速で近付いて来ているから恐らくは届く=B
ならば後は、何方がより強いか。相手がどのような手段を選ぼうとも、此の状況にきて彼は最悪の一手――――正面突破を、選択した。
地を蹴る。コンクリートが弾け飛び、世界が線へと変わっていく。音すらも追いつけず、レオの速度はその瞬間頂点へと到達した。

「ぶ っ 飛 び や が れ ェ ――――ッッッ!!!

相手の拳に合わせるように、同時に同箇所に蹴撃を放つ。彼の装備であるホバーシューズの効果であるホバーを利用して更に加速させた、レオが今繰り出せる最強の一撃。
激突した瞬間、衝撃の余波が周囲へ放たれるほどの衝突――――その結果、相手がどのような状態に陥ろうとも、レオは駆け抜けた先で崩れ落ちるだろう。
右足の骨は完全に砕け、ホバーシューズも破損し、残っていた体力も完全に底を突きた。此の時点で、彼の敗北は完全に無くなったという事である。
それでもレオは倒れる寸前に、僅かにだが踏み止まった。振り返る余力さえなかったが、口を開き震える声で相手に呼びかける。

「ディヴィジョンX、ブルーアクセル――――いつかテメェを追い越す最速≠フ名だ」
「覚え、とけ……………………」

名乗った後、レオは完全に倒れ意識を失うだろう。立ち上がる気配は、もう無い。
27 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/15(木) 01:06:09.08 ID:LXGcMknl0
>>26

「―――――――。」

勝ったか? いや、それは等しく正しくない。彼は気を失っては居なかった。しかし、気を失うことと同様の衝撃が、彼の脳内を暴れまわっていたことには変わりない。

彼の加速は不十分だった。見ればわかる。あくまで能力によって発生する現象程度のそれは、『最速』の持つスピードにはかなわない。勝てるはずがない。
その執念が、その正面突破が彼の装甲を撃ち砕くには――――十分すぎるほどに、強烈だった。右腕にあった装甲にヒビが入る。能力を維持できず、そのまま分解されて消え去った。
直後、心臓に痛みが走る。彼の能力は自身の精神世界を装甲という形に具現化して行使するというもの。であれば、装甲が壊れるということは即ち彼の精神法則に亀裂が入るということにほかならない。
なりより、今までどんな攻撃を受けようとも壊れることなどなかった装甲に罅が入った事自体に驚愕する。同時に、今まで存在していたちっぽけなプライドにも、小さな亀裂ははいってしまっていた。

「『ブルーアクセル』『ブルーアクセル』」
「……確かに。…・…・・お前の名前は此処に刻んだ。」

「なら……だ。俺の名前も……刻んで行け。」

「俺は――――『マグナム』」
「全てをブチ抜く最強の『銃弾』だ。」

息も絶え絶えに、そして名乗る。もしかすれば聞こえていないかもしれないが、ヒーローのE2システムによって後で聞くこともできるだろう。
心臓を鷲掴みにでもするように右手で抑えながら――――よく見れば右手にも少なくない出血と傷がある――――彼は壁により掛かるようにしてゆっくりと、そして一歩ずつこの場所から離れようと歩き始めるだろう。
ヒーローが来た。ということくらい理解していた。ブルーアクセル。名前も刻んだ。ならば、此処にとどまっていてもいいことなど一つもないだろう。

敗走。そう言ってしまっても良かった。確かに青年には勝ったんだろう。最後に立ち上がっていたのは自分だ。其処だけは間違いない。
しかし、それだけではすまないような気が――――――済ませたくないと、そう思っているのかもしれない。

//こんな感じで〆でしょうか……!
//お疲れ様でした! めっちゃ楽しかったです!!!
28 :ウェイナス・ウラニア ◆JdUbMChjVk[sage]:2016/09/15(木) 01:08:14.86 ID:sF1NcP660
>>23
「おまえこそ、プロメテウス。────幾度ならずとも、懲りないものだ」

彼もまた、眼下の重機を操る人物の声には何度となく聞いた覚えがある。
Dr.プロメテウス。彼がヒーローとして産み落とされて間もなくから活動を開始している有名ヴィラン。
持ち前の技術力でもって数々の機械・器具を製造し、他ヴィランにまでも提供するその厄介ぶりは、彼が17歳になるまで────即ち彼が、輝ける天に座していた頃であっても、その噂と姿は耳にしていたし、実際に何度も目にしている。

彼が協会を脱退してからも活動を続けているこの男とは、ちょっとやそっとの面識では済まされない。……最も彼は、重厚な機械装甲の表面ばかり見ているため、面識とは少々異なるが。

「又しても珍妙に進化(アップデート)したか。……真に救われるべき、縛られたままの生命を奪うとは─────」

彼は炎の灯ったヒーロー達の嘗ての宿舎に眼を落とす。……彼らは何も知らぬまま、協会の束縛さえ自認しないままに天に召されてしまった。
救われるべき解放さえ受けずに、この妙ちきりんな男の手によって。彼の中で、次第に怒りが高まってゆく。

「わたしは、あの協会は棄てた。……だがおまえのような、神の意向へ背く愚か者は……わたしは、未だ赦さぬ」
「……故にこそ。今日こそは!おまえも、然るべき裁きを受けるがいい────!!」

確かに彼は協会を、本来仕えるべき拠り所を裏切った。彼を産み落とし、生命を冒涜し、神をきどった協会に失望しながら。
闇の中で細やかに暮らす彼の姿は、なるほど彼等から見れば、"堕ちた者"とうしろ指差されたとしても、何ら可笑しい事ではない。

然し、それでも。ヒーローとして生み出された彼という存在は、どうしても目の前の悪を赦すことが出来ないらしい。
燃え盛る地上を見る。……彼等の命は、奪われて良いものでは無かった筈だ。決して!
だからこそ彼は、堕ちた身になろうとも、男の前に立ちふさがり続ける。それこそが、彼の業であるからだ。

彼に対して、四方八方から迫り来る16発のミサイル。それらは正確に彼の居場所を捉えるように、回り込むような挙動で、彼に対して襲いかかる。
だが、彼は動かない。その代わりとして、彼が起こした行動は──────

「────光よ。わたしに集い、わが力を為さんとせよ」

地上にて燃え盛る炎へ向けて、彼は手をかざす。……瞬間。
辺りにちらつく鮮烈な光が、災害の波が、地獄のごとき業火の光≠ェ、一瞬にして、その場から剥がされたように、一斉に浮かび上がった。
直後。その地上にあった筈の膨大な光の束は、一つの方向を目指して直進する────そう、彼の元へ。

これこそ、彼のミュータントとしての能力。最高を目指して作られた、人類にとっての明けの明星。
光≠司る熾天使の大いなる輝きが、彼の元へ集う。月をすら思わせる膨大な輝きに包まれた彼は、直後に激突するだろう16のミサイルに向けて、その力を解放する─────!!

セラフィム・トーチ
「『熾天の聖火』!!」

太陽の如き輝きが、闇夜の中に浮かび上がった。全方向、短射程への光エネルギーの解放。その爆発的衝撃により、彼はすべてのミサイルを同時に破壊してみせたのだ!!
爆煙の内より浮かび上がるのは、尚の事、白き翼を羽ばたかせる天使の姿。……だが今の攻撃で、この場の炎───即ち光源は失われてしまった。
ここからの彼は、日中に貯めたソーラー・パワーでの行動を余儀なくされるという事。

彼は地上の男を見据えて言う。

「よかろう。おまえが知恵の炎を駆るというならば───天上の炎に灼かれるが良い!」

そう言うやいなや、彼の肉体に光が収束してゆく。
彼との戦闘を経験しているのならば、幾度ならずとも見た事があるだろう。
それは光を束ね、線として放つ。収束する熱き光の裁き。彼の必殺────

セラフィムデシジョン
「『熾天の裁定』ッ!!!」

鮮烈な、眼を突き刺すような濃度の高い光と共に。強力な熱を伴うレーザー光が、彼の肉体より、地上の機械へ向けて放たれた。
29 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/15(木) 01:21:10.56 ID:x/bvLOpGo
>>27

意識を失う寸前、確かに彼は倒すべき敵≠フ名を、脳裏に刻み付けた――――だが彼の記憶が続いていたのもまた、その時までだった。
切り札≠使った弊害、それが全体量が一瞬で消え去る事。むしろ名を聞くまで意識を保っていたことが、奇跡とすら言えるだろう。
次に彼が目を覚ました時、目の前に広がるのは荒れたクレイドル外の光景等ではなく、清潔感溢れる白に満ちた空間だった。

「…………」

そこが病院だということに気が付くのに数秒、そして敗北したことを思い出し、唇を噛む。
負けた。負けた。負けた。ひたすらにその事実だけが頭のなかで往復し、絶え間なく無残な結果だけを伝え続ける。
言い訳も出来ない。全力を出し、そして滅多に使うことのない最後の手段まで用いて、その上で相手を倒すことが出来なかったのだ。

「くそっ……」

悪態をつくも虚しく虚空に消え、唇を噛んで強引に押さえつけていた物が目頭から溢れ始める。
拭おうにもそこで両腕を骨折していることを思い出し、レオはただ俯くことしか出来なかった。

「マグナム…………」

容姿、戦い方、そして名前。全て脳に刻み付けた。忘れることはないだろう、ヒーローになってから初めて味わった屈辱と敗北の味だから。
悔しい。苦しい。今までにも負けたことはあったのに、それを遥かに凌ぐ感情――――あと一歩だったからこそ、届かなかったことに苛立ちが募る。

「絶対、ぶっ倒す……っ」

ヴィランだろうがアンランクヒーローだろうが関係ない。いつか必ず、絶対、此の手であの男を打ち倒す。
右手を握り締め、膝を叩いた。新たな誓いと目的を得て、自称最速≠ヘ迷わず前を向く――――だが腕を怪我していることを忘れていたため。
叩いた瞬間激痛が走り、思わず叫び声をあげたのはまた別の話である。

//乙でした!楽しかったです!
30 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/15(木) 01:55:07.09 ID:uv9V4ZgI0
>>28

寸分違わず同時に、曙光の如き輝きの中に散るミサイル群。
これが小手調べにしかならないことは承知していたが、ここまでとは。さしものプロメテウスも――顔を綻ばす。

彼のヴィランとしての活動は長期に渡るが、こと単身での戦闘力に関して言えば、ウェイナスは最高位に位置する。
同列に属する者の大半は協会の名だたるグランドマスター・ヒーローであり、そう見つけられる『実験台』ではない。
故に、打ち破る意味があるというものだ。一切のスーパーパワーを持たずに生まれ、枯死しようとしている身で。

「ググ、ググググフッ……老いぼれ一匹の蛮行すら、10年余りに渡って見過ごす天意が『神』だとはのう。
 相変わらず、オヌシはワシの短い老い先に笑いの花を添えてくれよるわ」

電子の喉が疲弊することはない。呵々大笑に次いで合成音声が紡ぎだすのは、堪えきれぬ含笑。

「ヒーローが人を守るなら、誰がヒーローを守るのか? オヌシと同じ疑問にたどり着く者は、少なからず居った。
 じゃがのう。最期にはその誰もが、己の身すら保てず消えていくものよ」


「――――それこそが、ワシの至上の歓びでのオォォ〜〜〜ッ!!
 与えられた力で高邁ぶった輩が死に際に覗かせる、ただの機械によって滅ぼされる瞬間が!
 原理原則を有する力学が、スゥゥゥッパァァパワァアァーーーーを蹴り飛ばす瞬間がァァ!!」


それが先ほどまでと同じ調子の狂笑に変わるのと、どちらがが先か。カンケルはミサイルサイロを閉じ、代わりに背甲後部に突出した構造体が不気味な駆動音を立てた。
真っ直ぐに射られた神罰の閃光がカンケルの装甲を舐める寸前、それはあらぬ角度へと歪められていく。
突起の正体――――それは、投射されたプラズマを分散させる電磁バリア発生装置だ!!

徹底的な対策を取られてもなお、セラフィムデシジョンの威力は凄まじい。チタン合金甲殻の表面が赤熱し、一部が融解する。
だが、決定だとは言い難かった。カンケルの六脚双腕は全て健在であり、格闘能力と運動性を奪うことは出来ない。

「グックククククック……!!
 超人はしょせん超人じゃ。それ以上のものにはなれん!
 それに比べて機械は進化を続け、個体の成長では乗り越えられん壁をいずれ打ち壊すッ!!」

機体正面に設けられた複眼型のカメラアイが、天使を恨めしげに睨み上げる――。
31 :ウェイナス・ウラニア ◆JdUbMChjVk[sage saga]:2016/09/15(木) 02:29:15.92 ID:sF1NcP660
>>30
「……わたしのセラフィムデシジョンを、防ぎ切るか……」

彼は、男の機械が彼の必殺を防御してみせた事をまず驚愕した。
今まで戦闘を繰り広げる中でも、その度にしぶとく生き延びられ、何度も対策を組まれていたが……その性能は、日に日に向上しているように思える。
セラフィムデシジョンは、ソーラー・パワーのみに頼る攻撃手段の中では最大火力の必殺技。
少々は通ったといえ、それを防がれるとなると……成る程、目の前の男は老齢の身でありながら、未だに成長を続けているのだ。
この男……これ以上野放しにしておいては危険だ。スーパー・パワーを人の身で破る事への理想を聴き、彼も思う所があったのだろうか。
彼はその言葉に対して、半ば無意識のうちに応えていた。

「確かに。わたしの力は与えられた物に他ならぬ。……だが!」
「誰が、それを望み産まれたというのだ。人を、神の創りたもうた生命と騙り、人ならざる力と共に生み落とす……」

「わたしは虚構より生まれ出でし者。生まれながら、生き方を規定された者。……おまえには判るまい、生さえも束縛される事の意味は!!」

彼の語気が強くなる度に、彼の発する光は明るくなって行く。
その力を人類の明星と望まれながら、しかしその人生を縛り付け、良いように使おうとした者達──────
彼は、それが赦せなかったのだろう。……だからこそ、協会を瓦解し、その黒い思惑より解き放つ事こそが彼の役目。
最近は"E2"システムなどという、如何にもきな臭い物も導入されたという……だからこそ。

「嗚呼、故にこそ、わたしは戦うとも。天を騙る者達とも、人を脅かす愚者とも!」

彼の肉体には、再び太陽の如き光が帯びられる。
セラフィムデシジョンは、相当なソーラー・パワーを用いる。一戦闘中に撃てる回数は限られる上、先ほどの『聖火』でかなり食われてしまった。
だが、戦える力が残る限り、彼は戦う。天より堕ちようとも、その信念は変わらない────!

「御子に遵わぬ者は、神の御使いと子羊との間で、火と硫黄とに苦しめられん>氛氛氛氛氈v
「─────『セラフィム・デシジョン』!!!」

彼はもう一発の熱線を放つ。……だが、先ほどの言葉によって興奮したか、その発射タイミングは少し急いていた。
だからこそ、回避は不可能ではないだろう。……それでも、彼の太い信念は束となり光となり、敵を滅さんと放たれた。

//申し訳ありません、眠気が……。続きは明日に返信させて頂きます……!





32 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/15(木) 08:57:10.38 ID:9uElmRTpo
>>25

「本を読む人を守るため、ですか」

途方もないことを言う、という思いが第一に来る。
何せこの能力社会。ヒーローとヴィランとの戦いが激化しつつある今。
正義が悪に屈したら最後、世界は混沌の渦の中へ呑まれてしまうのだ。
そこへ、確固たる未来への意思を持って立ち向かっていくのだから、この人は。

「それってやっぱりすごいことですよ。本当にヒーローって感じでっ。」

何をいまさら、と言われそうなことを口にしながら、手に取った一冊の小説に視線を落とす。
自分がこうしてこの本を手に取る事ができるということも、店員さんが守ったものだとしたら。
そして今後刊行されるであろう続編をも、この人は守っていくのだとしたら。
きっとその頃にはこの人は、ヒーローとして今よりもっともっと先へ進んでいるのだろう。自分でもそう言うように。
そんな人に追いついて並び立つなんてことが自分にできるのだろうか……などと、ちょっと不安にもなる。
それでも、自分で決めた道だから。女の子にだって意地があるのだ。

「……よし。これ、この本くださいっ!
 なんだか店員さんに守られてる本ってだけで特別な気がしてきちゃいますねっ」

先ほど手に取った小説をずい、と勢いよく店員さんに差し出す。えへへ、と照れたようにはにかんで。
大好きだったシリーズがこれまで以上に特別なものになっていく予感がして、胸が高鳴るのを感じていた。
33 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/15(木) 13:10:09.00 ID:bjzPwwgwo
>>32
「そうでしょうか?……ありがとうございます」

すごいこと、ヒーローらしいこと。
やっぱり実感は湧かない。それがどんなことかも分からない。
だけど、これはかつては叶えたい願いであった。今では叶える目標だ。
それを称えられるのは嬉しい。そして、もっとそれに近づきたく思う。

難しくても、くじけそうでも、途方がなくとも。
為し得たときには、こんな笑顔を見れたときには信じられるだろう。
自分の為したこと、自分の称号を。

「ありがとうございます。
ですが、本を守るのに本当に必要なものは力ではありませんよ」

たしかに、自分は本を守っている。
炎に焼かれ、喪われることは防いでいる。だが、それは記憶を守っているに過ぎない。
記憶を守っても、新しい本が生まれることはない。
古き本を守るのは本屋の仕事だ。では、新しき本を守るのは?
それはきっと、ヒーローと呼ばれ語り継がれる者たちだけではない。

「本当に必要なのは、“読者”です。
前作が誰にも読まれなければきっとその本は存在していません。
そして、その“読者”を守るのは」

自分はヒーローだ。意地も少しはあるヒーローだ。
誰にも負けたくない。憧れた背中に追いつきたい。強くなりたい。
でも、そうではないのだ。それだけではヴィランとも変わりはない。
大事なのは、誰を守るか。何のために戦うのか。
“ヒーロー”の軸となるもの。これを持った力ある者は、例えば姉さんは、強い。

「きっと、“ヒーロー”の仕事です。」

私は、“ヒーロー”だろうか?
称号は、力は、憧れはある。職業欄にもきっちりと書店の店員とヒーローが並べてある。
それでは、足らないのだ。

だから私は、“ヒーロー”になりたい
本が、大好きだから
34 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/15(木) 18:30:10.86 ID:uv9V4ZgI0
>>31

「誰もが超人を羨み、己もかくありたいと――その力が欲しいと望んでおる。
 オヌシの個を超えた行いも、例外なく妬みと恐れを呼び起こすだけじゃ。
 ヒトと『天使』の間に対等な関係など成立するはずも無かろう?」

わざとらしい哀れみを含んだ憫笑に、Dr.プロメテウスは飽く事がない。
彼は悪行の成果以上に、個としてのヒーローを炙り出し叩きのめすことを好む、真正のヴィランだ。

「そうじゃ。オヌシは――出自を嘆いておきながら、生まれ持った力に絶大な自信を持っておるッ!!」

再度降り注ぐセラフィムデシジョンに、カンケルの一見鈍重そうな躯体はしかし、迅速な反応を見せた。
ついさっきも使用した爪によるクイック・ターンからの、大振りな後方跳躍。
六脚に人工筋肉を発条とし、充溢した反発力で巨体はあたかもノミのように高く飛び跳ねた。
衝撃に岩だらけの山肌が砕ける。ワンテンポ遅れて、押し寄せてきた閃光で融かされる。

「ウァーーーーーハッハッハッハッハ!!! 二度同じ技が通じると思うてか? まさに天使を気取った天狗じゃわい!」

カンケルは尾部に搭載したスラスターを吹かして姿勢制御を行い、照準にウェイナスの姿を捉えた。
放物線の頂点、跳躍の最高高度で、鋼の巨蟹は標的に突き付けた両腕のハサミを開く。
顔を見せたのは黒光りする円形に並んだ銃身――――六砲身のガトリングキャノン!!

「故にその鼻柱、折らせてもらおうぞォォ〜〜〜ッ!!」

轟音と共にマズルフラッシュが弾ける。左右から挟み込むように、無数の弾丸が熾天使の翼を、命を抉り取らんと迫り来る。
流石に軍用のものより小型化されており、ヒーローであれば掠めた程度は問題ない威力だ。
それでも弾幕に囚われてしまえば、どうなるかは想像に難くない。

しかし、この苛烈な攻撃はウェイナスにとってはチャンスでもある。
砲撃の反動と推進力を均衡させつつ、地形に沿って六脚での着陸姿勢を取る、という複雑な操作の際には、プロメテウスも隙を晒さないはずがない。
接地際への攻撃を加えることが出来れば、それは手痛いものとなるだろう。
35 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/15(木) 20:53:26.18 ID:0jugNcmk0
6年前――ジュニアハイスクールへの進学を来年に控えていたカミュー・インセンのクラスは
とある化学施設へ社会見学に来ていた。施設の名前がなんだったのかは思い出せない。
カミュは化学とかよりも昼休みのバスケでどうやって点を取ろうか、気に入ってるアニメやマンガの
続きがどうなるかの方が興味がある、ごく普通のただの学生だった。

普段見ない様な施設や試験管の中で色を変えていく変な液体に目が移る事はあっても社会見学は
勉強をしなくていい時間という程度のもので、帰った後には「建物は思ったより大きかったです」という
心のこもらない感想文を提出するだけのイベント。その筈だった。

数人の気に合う学友達と施設を見回りながら、引率のお姉さんがあれはどういう機械でと
説明しているのを聞き流していた――その時だった。
轟音と共に施設が揺れ、床が、壁が、天井が割れて、火を噴き、さっきまで引率をしていたお姉さんを焼いた。

何が起こったのかもわからずに、炎が襲い掛かり纏わりつき、肉が焼ける匂いと音がして――

※※※

「―――っ!?」

久しぶりに最悪の目覚めだった。ランドセルを背負ってた頃からもう大分経ってアニメだって卒業したっていうのに、
未だにこの夢は覚めてくれない。この夢を見た朝はいつだって喉がカラカラに乾く。
かといって、今すぐ起きて台所まで行く気にはなれなかった。

「確か、冷蔵庫の中にオレンジジュースが残ってたっけな?」

そう呟きながらオレは髪の毛に意識をやる感じで軽く念じる。
すると髪の毛の一房がこよりの様に集まり、伸びて五股に分かれるとまるで手の様になる。
そのまま髪の毛はオレの寝室のドアノブを丁寧に開けて隣の台所にある冷蔵庫まで伸びる。
勝手知ったる我が家なのだから当然どこに何があるのかは大体わかる――髪の毛から伝わる感覚で
ジュースのパックを『毛』に取ると、そのまま自分のベッドまで縮んで戻る様に念じる。
ジュースを味わおうとした所で、枕元にある携帯が鳴り響いた。
…嫌な予感がしながらも髪の毛で電話を拾って耳元にやる。

「ハイもしもしこちらドッキリピザです。」

あの爆発事故で、オレの人生は大きく変わった。
全身火傷した上に、さらにその化学施設にあった変な薬品だかなんだかを頭にモロ被りして
数か月間オレは生死の境を彷徨っていたらしい。で、気がついたら髪の毛が動かせる様になっていた。
さらに大けがしてたからリハビリの為にロクに学校にも行けず通信教育でやってたから実質オレは中卒みたいなもん。

そして、そんなオレが今や…

「え?ヴィラン? 捕まえてこい?………オレがっすか?」

世の為、人の為に働くヒーローになっていたのだ。
36 :レオ・ウィリアムズ  ◆kYK1vsmBEk[sage]:2016/09/15(木) 21:14:14.39 ID:x/bvLOpGo
>>35

突如として世界に異能を持つ人間が現れてから一世紀、悪が氾濫する時代を越え、人類はクレイドルというシェルターを作り出すことによって安寧を手に入れた。
だが異能を持つ者達が消えた訳ではない。無論中にはそれを世のため人のため、此の現実をより良い物に変えるべく使う者達もいる。
だが同時に、そうじゃない者達もいる。己の欲望のために力を振るい、力を持たぬ者達を害する悪=\―――所謂『ヴィラン』と呼ばれる者達だ。

「うふっ?」

とある化学私設=\―――それが果たして、とあるヒーローの誕生劇に纏わる舞台なのかどうかは不明ではあるが。
クレイドルの中でも先進的な技術力を有したその施設は、今日も何時もの如く最先端の技術を研究し、クレイドルに住む人達により良い生活を提供すべく頭脳を働かせていた。
清潔感が溢れる白を基調とした建物、化学者であるため職員たちは白衣を纏い、自分達の仕事に誇りを持って労働に勤しむ――――そして施設内には、数十名の子供達がいた。
なんてことはない、ただの社会科見学である。その施設は比較的学校に近い位置にあったため、授業の一環として生徒たちを時折招待していたのだ。
見たこともない不思議な光景、現象の数々に瞳を輝かせる子供達――――数分前までは、そんな景色が広がっていた。

突如として響いた轟音。建物全体に鳴り渡る警報と共に、スプリンクラーが作動し消化のために水がバラ撒かれる。
爆発事故であった。いいや、それは事故等ではなく――――研究所のロビーにて、愉悦に顔を歪める一人の少女が其処にはいた。
ヒーローであれば、データで見たことがあるかもしれない。『ボマー』と呼称される、爆弾魔のヴィランを。
黒のゴシックドレスを身にまとった、金髪の少女である。一見すれば人形のような雰囲気だが、こと攻撃性能に関しては驚異的≠ニ評価されるヴィランだった。

「悲鳴、絶叫、顔色真っ青――――たぁのしいわぁ?」

ヒーロー協会のデータには、彼女はこう記されている。『理由はなく、その時の気分で暴れる不安定なヴィランである』と。
正しくその通りであった。彼女に理由はない。今日もただ、偶々通りかかった際、子供達の幸せそうな顔に少しだけ苛立ったというそれだけの理由で彼女は襲撃を行った。
既に近くにいたヒーローが施設に乗り込んでいたが、あっさりと倒されてしまい既に伸びてしまっている。
今のところ一般人に対する人的被害は出ていないものの、救助を行わなければ被害が出るのは時間の問題だろう。
化学私設=Aそして爆弾魔=B偶然重なったキーワードが、どのような刺激を与えるのか、彼女はまだ知らない。
37 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/15(木) 21:14:44.84 ID:x/bvLOpGo
>>36
//名前!
38 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/15(木) 21:53:38.78 ID:0jugNcmk0
伸ばした髪の毛をビルの窓枠に引っかけ、縮めて、その勢いと反動を保ったまま再び髪の毛を別のとっかかりへと伸ばし――
さながらアメージングな蜘蛛男みたいにオレはビルの間を飛び交っていく。

”化学私設”の襲撃――それも社会科見学の真っ最中に起きたという。
あまりにも先程見ていた悪夢とそっくりな、そっくりすぎるシチュエーション。
電話口でそれを聞いたオレは寝間着もそのままで窓から飛び出していた。

ぶっちゃけオレはそれほどケンカは強くない。つーかついこの間まで寝たきりだったしそれはしゃあない。
見た目がごつい近距離パワー型とかなんでもない時に出会えば謝って立ち去りたいと思った事だって
一度や二度でもない。
オレが未だにランク4なのはそういう弱腰が「ヒーローらしくない」というからだそうで。
そもそも自分の能力はどちらかというと真正面から倒すよりも搦め手で生け捕り…とかに向く能力なのだ。
悪を倒すのが真なるヒーローならオレは多分それにはなれないかもしれない。それはそれでいい。

それでも、オレがヒーローになったのは助けたいと思ったからだ。

ほんの数年前まで、なんの力も無かったけど平和に暮らしていた子供だった。
でもそれが身勝手なヴィランのせいで何もかもが失われた。

子供の頃に思い描いていたジュニアハイスクールライフをオレは病院で過ごした。
オレの友人は、あの時に死んでもう学校で会う事も叶わない。
施設の職員にだって家族がいたのかもしれない。自分の様な子供がいたかもしれない。
でも、なんもかもがぶち壊しになった。ぶち壊しにされた!!

あの時………六年前のあの時は誰もいなかった。
誰も助けてはくれなかった。

だが、今はオレがいる。

ビルからスリングショットの要領で加速し、施設の壊れた窓から飛びいる。
何人かの、逃げ遅れた職員やガキンちょ共が一体なんだ、と言うようにこちらを見た。

「みんな、もう大丈夫だ!!」

六年前に言って欲しかったセリフを、今オレが叫ぶ

「オレはヒーロー『インフィニティ・ヘッド』!君達を助けに来た!」
39 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/15(木) 22:09:38.11 ID:x/bvLOpGo
>>38

彼女に目的は無い。故に此の襲撃にもまた理由はない。例えば研究所の開発品が欲しいだとか、あの研究者が邪魔だから排除したいだとか、標的が存在しないのだ。
そしてそれが彼女が危険視されている理由である。最悪建物があった場所が更地に変えるまで、暴れ続ける可能性があるからだ。
それは同時に飽きたら次の瞬間にも消える可能性もあるという意味だが――――事今回に至っては、そうはいかなかったらしい。

「…………あらぁ」

窓を割り、侵入してきた者。ボマーはゆっくりと、視線を侵入者へと送った。いや、正確に言えば彼女こそが侵入者なのだが。
ともかく彼女は、彼を見て実に愉しそうに笑った。ヒーローの出現、それは本来ヴィランである彼女からすれば脅威でしか無いはずなのに。
右手に持っていた傘で床を無意味に突きながら、じっくりと現れたヒーローを観察する。

「うふっ――――だったらぁ」

まあ、なんでも良い。どんなヒーローでも、アンランクヒーローであっても、要は彼女を愉しませてくれる≠フであれば、なんでも良いのだ。
退屈は心を殺す毒だ。ほんの暇潰しでしかなかったこの行為だが、それで面白い物が釣れたのだとしたら餌としては安いものだろう。
だが相手が彼女にとって面白い相手足るかどうかは、試してみなければ分からない――――彼女はヒーロー、『インフィニティ・ヘッド』と子供達や職員の間に割って入り。
そして実に愉しそうに、心清らかな乙女の如く、美しい華が咲いたかのような笑顔を以って、彼に告げるだろう。

「あたしを倒せなかったらぁ、みぃんな殺しちゃおっかな?」

簡単に言えば人質だった。だがその要求は実に奇妙なもので、自分を倒してみせろという。それもこの上なく愉しそうにだ。
ヴィランの精神は得てして常人とは異なるそれだが、彼女に関してもその類から外れてはいないらしい。
ともかく彼女が犯人であることは、もはや疑う余地も無いだろう。問題は彼女が如何に本気なのかどうか――――。
ボマーはインフィニティ・ヘッドに言葉を投げかけると同時、背中に蝶の羽のようなものを出現させた。
そして其処から鱗粉が発生し、背後にいた子供達の方へと向かっていき――――彼女が一瞬視線を送った瞬間、それが爆発する。
幸いにして子供達に直接被害が出る前に爆発したものの、その音と衝撃は恐怖を煽るには十分な材料だった。
泣き叫ぶ子供達。職員たちもまた為す術なく、動くことも出来ずに、ただただヒーローに視線を送るばかりで。
40 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/15(木) 22:51:24.88 ID:0jugNcmk0
>>39
「………いやいや、倒してみろって…」

目の前のゴスロリが「自分を倒してみろ」だなんて言ってきやがる。サイヤ人かお前は
こういう奴って絶対バトルに自信があるタイプの奴なんだよな。

「キミ見た所オレとタメかその辺りだろ?しかも女の子ブチのめすとかオレ苦手なんだよなぁ」

見た所、こいつの背中にある蝶々の羽から起爆性のリンプンを出せるのがコイツのスキルらしい。
自分の能力をわざわざ説明してくれてホントにありがたいこった。
逆にいえば、説明されたところでどうってことないかもしれない。

「そもそもどっちかっていうとね?オレって平和主義なの。暴力とかマジ大嫌いだし」

たった一人で施設をここまで破壊出来る上に、先についてたヒーロー達まで倒してる。
…うん、やばい。コイツ絶対強いよ。うん。倒せるかどーかなんてわかんねぇ。

第一爆発なんてハデな能力、ここで使ったら絶対に周りの奴らがやられるし
オレも人質が周りにいる状態じゃハデに動けない。

結論!!倒すの無理!!!なので……

「だからオレはもうちょっとこう、倒そうだなんて物騒な話はナシでさ……」

グダグダと話ている最中に、オレは後ろ髪の一部に念じてゴスロリから見えない様に背中から
髪の毛を伸ばし、周囲に張り巡らせておいた。
そして髪の毛に命令し、膨張させてオレとゴスロリが残る様に壁を作った!!

「お前ら全員逃げろぉぉ!!!!!」

力の限り、叫んだ。
41 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/15(木) 23:11:24.01 ID:x/bvLOpGo
>>40

何やらペラペラと言っているが、酷く興味がなかった――――と言うよりかはむしろ、聞くに耐えなかったという方が正しいだろう。
戦うだけが能じゃない。戦闘力がなくとも人を助ける方法はある。たとえ強くなくとも、正義の味方にはなれるんだ――――なんて、こんな言葉は腐るほど彼女も聞いてきた。
総じて本人の談の通り、虫けらのような弱さだったが、彼女からすればそんな言葉は全てヴィランにも劣る言い訳にしか聞こえなかった。
平和主義? 暴力は苦手? 成る程結構、だったらノコノコ出てくるなよと――――彼女はみるみる冷めたのように、笑顔を消していき。

「あっそぉ」

鱗粉が、絶え間なく製造されていく。広域の範囲攻撃を可能とするヴィランである、その速度は目に見えても速い。
ヴィランの殆どは強力な異能を有し、尚且つ束縛されることを嫌った者達である。そして彼女もまた例外ではなく、前者後者共に満たした典型的なヴィランだ。
そう時間は掛からない。相手からすれば酷く長い時間かも知れないが、彼女からすればたった一瞬――――それだけで、目的は達成出来る。

「戦えないなら、引っ込んでればいいのにね?」
「弱いのを言い訳にして盾にするやつって、ほぉんと目障りで見苦しくて仕方ないの」
「それに、ほら――――――――見てなかった? あたしの能力ぅ」
「それでヴィランであるこのあたしが、黙って逃がすと……」
「お も う ?」

視線を後ろに向けた瞬間、無数の蝶形の爆弾が髪の壁――――ではなく、天井へと向けて絶え間なく放たれていく。
通常の建物程度ならば容易に破壊出来る威力である、天井はみるみる崩れ、その破壊が壁の向こう側にいるものたちにまで影響を及ぼすのも時間の問題だろう。
『目視圏内』であれば、幾らでも彼女の爆弾は活動出来る。面倒だし建物ごと潰してしまおうか、なんて考えを簡単に現実に出来てしまうのだ。
わざわざ楽しもうと思って条件を出したのに、裏をかいたと言わんばかりの行動――――誰かの思い通りになることほど、苛つくことはない。

「戦えないならぁ、ヒーローなんてやめちゃえばいいのにねぇ?」

視線は壁へと向けられている。背中に攻撃するのは容易いだろうが――――どう行動するかは、彼次第だ。
もしかしたら爆発に、そして建物の崩落に巻き込まれずに助かるかもしれない。そして何事もなく、全員が死なずにヴィランも立ち去ってハッピーエンド、なんて可能性もゼロじゃあ無いだろう。
その少ない可能性に賭けるのも、悪くはない選択だ。とはいえ既に建物の幾らかは崩壊しており、行き止まりの道も幾つもある。
運良くその道を辿らず、外に逃げ出せる可能性がどれほどなのか。そして倒れているヒーローなどをどうするのか、それを考えればその可能性が低いのは言うまでもないだろう。
42 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/15(木) 23:20:08.70 ID:x/bvLOpGo
>>41
//コピペミスで
彼女は相手の言葉に煽られ、人質を逃し彼女をこの場所に縫い止めるという相手の意図にはまだ気付いていない。
//という最後の文を入れ忘れたので、補完しておいてください……!
43 :ホワイトアッシュ ◆f5LDyTexDk[saga]:2016/09/15(木) 23:42:54.91 ID:3MQLfm3G0

クレイドル市街の川べりの橋のたもと。仕事や学業を終えて帰宅する人々の脇を、排ガスを吹いて軽自動車やトラックが走り回る。
中秋の名月。疲れて重い足取りでの帰路の途中、ふと空を見つめて浸る人々も多く。
僅かに欠けた月がふと叢雲に翳りを見せる。


瞬間、世界から音が消えた。

――――――――

一面の銀世界。深々と降り注ぐ粉雪は、既に踝辺りまで迫っているだろうか。
月光に照らされて、歩く者は一人もいない。


「嗚呼――――――――――――――――静かだわ」

その中に一人、ドレス姿の女。大きく開いた背中とヴェネチアンマスク。
艶やかさよりも先立つ異様な軽装。その周りに乱立するのは樹氷――かつて行き交う人たち“だった”もの。

一瞬のブリザードで、寒さを感じる間もなく魂ごと凍てついた、無音の世界。その中心で、女は誰構うことなく、大の字で横たわる。
首を起こし、見渡してまた雪にうずもれる。あまり笑わない女が唯一笑顔になれるのは、この絶対空間だけであった。
ふふ、ふふふ。ホワイトアッシュと呼ばれる、白い悪党の含み笑い。チャイムを失った通りの代わりに時折流れるそれは、鈴の音を転がすように涼しげであった。
44 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/15(木) 23:43:31.52 ID:0jugNcmk0
>>41

「ああ、その言葉には同感だよ。戦えない奴はヒーローになっちゃいけねぇ」
「なんの力もない奴が戦場にいたって足手纏いになるだけだし引っ込んでろってのもよーくわかるよ。」
「だからこそさぁ………」


「弱い奴を戦場に引っ張り出すなって話だろぉーが!!」


思った通りだった。こいつは闘いを…破壊を楽しんでいる。
そんな奴が目の前の人質をおとなしく返してくれる時間を与えてくれるだろうか?
いや、こいつだったら間違いなく人質なんてお構いなしに攻撃してくる。

オレが壁を作ったのはとにかく、ゴスロリの視線を逃げ遅れた奴からそらす事だった。
さっきゴスロリが戯れにガキンちょの目の前で鱗粉を爆破させた時に、こいつはわざわざ「見ていた」。
爆弾を意のままに操れるというのならイチイチ見る必要はない。
恐らく、彼女が爆破出来るのは「可視範囲」まで。

近くの壁を爆破させれば自分まで巻き込みかねない。上まで完全に包んでしまえば、自爆覚悟で
近くに爆弾を放ちかねない。
だから天井を見える様に包んでおいた。
      ・・・・・・・・・・・
そう、既に『髪の毛が化けていた天井』に!

「お前、オレのスキルがただ髪の毛を伸ばすだけだと思ってただろ?
残念、オレの髪の毛は『何でもなれる』のさ!!」

七色の髪の毛はオレが念じた質感や硬さを自在に変更できる。
それは勿論、壊れかけた瓦礫に擬装する事も出来る。

「オレじゃあんたを倒すのはムリかもしれねえ。

でもな…他のヒーローが捕まえやすい様にボコボコには出来るかもな!!」

天井の擬態を解き、壁や天井から、髪の毛で作った拳をゴスロリに向けて放った!
45 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/15(木) 23:56:05.00 ID:LXGcMknl0
>>43

「寒ィんだよ、クソッタレが。」

横たわる彼女に、聞こえるだろう声が一つ。そして、次の瞬間に頬を撫でるのは――――風。そよ風のような、僅かな熱量。
風の吹いてきた方向に目をやれば、其処には僅かに霜の降りたジャンバーを羽織り、乱雑に手入れされた頭髪。見ようによっては不機嫌にも見える目が其処にあるはずだ。
年齢は恐らく高校生程度。生意気盛りの年頃という見方がわかりやすく、それでいて常人とは異なる点が一つ。右腕にある『装甲』。
右腕全体を覆うそれには装飾などが一切として付けられておらず、しかし外観は機械的に過ぎる。機能美を追求したような、ただ殴るためだけの手甲。
先ほど吹いてきた風がこの手甲によるものであるというのはすぐに分かるだろう。何より、この寒さで装甲が凍りついて居らず、僅かに熱量を感じさせることからも明白である。

「『俺の通る道』でなァ―――――」

                「―――――『俺より先に歩いてんじゃねぇ』。」

不機嫌そうにそう呟くと、拳を握り込む。右腕にある装甲が僅かに軋む音を響かせながら、そして僅かな間静止する。
殴りかかる。というところまでいかないのが不思議なほどであった。先日の戦闘ように、彼という存在はひどく短気であり、現在の状況でならば即座に彼女に対して殴打を繰り出していても可笑しくはない。
しかし、彼は其処までの行為を行わなかった。それは何故、と問われれば『なんとなく』と答えよう。純粋な気分であり、たまたま文句が言いたかった。それだけである。

不良といううのは相手を恫喝する事を無意識のうちに行ってしまっているもので、現在のそれも例外ではなく。相手が誰であろうと、『何をしていようと』どうだって良いが、自分の道を塞いでいるのだけは腹が立つ。
たったそれだけのことで、彼――――コードネーム『マグナム』は、拳に力を入れることができる大馬鹿野郎なのであった。

相手の返答一つで爆発も不発にもなる。そういった雰囲気こそ感じるが、後は彼女がどう言葉を返すかに尽きる。
勿論、無視することも十分ありえる。けれどもその場合――――即座に拳ご飛んでくるであろうことは言うまでもない。
46 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 00:02:16.15 ID:msESD/6bo
>>44

『ボマー』の能力は驚異的な攻撃性能を誇るが、その使い手である彼女自身が戦闘に特化した人格及び性質かと言われれば、答えはノーである。
つまるところ彼女は能力を適当に放ち、暴れるだけが能のヴィランである。場数こそ踏んでいるが、修行や鍛錬といった言葉とは無縁の存在である。
それすら必要ないほどの凶悪な能力、強者のみが許される蹂躙を行うが故の欠点――――暴れるだけで敵が倒れるが、もし相手がそうでなければ。

「はぁ? 一体何言ってぇ――――」

彼女は見ない。分析をしない。適当に戦っても勝てるから。だから天井が髪の毛に変化しているだなんて気付く余地もなかったし、そもそもの問題として相手の能力など端から気にしてすらいなかった。
ただ人質を害し、目の前の此の男の表情を憎しみに歪ませることが出来れば良いと、それしか考えていなかったのだ。
そして彼女は戦うのが下手だ。得意なのは暴れることだけで、肉弾戦なんて以ての外――――『ボマー』の攻略法は、彼女を自分の土俵に引き摺り込むこと。
相手はその条件を満たし、彼女に接近することに成功し、そしてその手段として拳を選んだ。彼女の能力は鱗粉の生成、そして視認という過程を得なければ爆発は起こせず。
その過程を行うには、拳の存在に気が付くのが少し遅すぎた。簡単に言ってしまえば――――拳はクリーンヒットし、彼女の身体は軽々と吹っ飛んでいく。

「いたぁ……なんなのもぉ…………」

口の中が切れたのか、口内が鉄の味で満たされる。戦いが苦手な彼女は当然痛みにも弱く、目を潤ませながら殴られた頬を擦りつつ立ち上がる。
暴れてやろう、苦しませてやろうという感情は既に一転し、早く帰りたいという思いに変わっていた。勿論状況はそれを許さないのだが。
何よりやられっぱなしは癪である。一発ぐらいぶん殴らなければ気が済まないし、それを済ませてさっさと逃げようと彼女は思考を切り替えた。

「もう最悪ぅ……なぁんて、ね?」

彼女の能力は目視圏内全て≠ェ範囲、そして相手の能力は風に影響されるものではない――――そして鱗粉の生成自体は、大した時間を要さない。
相手の背後で、突如爆発が起きるだろう。それも一度や二度ではなく、先程よりも遥かに強力な爆撃が相手に迫るように行われる。
背後に逃げ道はなく、逃れるとしたら正面のみ――――だが正面には『ボマー』がいる。そして彼女は相手と距離を詰めるべく、歩き始めていた。
もし近づければ、思い切り持っていた日傘で相手の顔面をぶん殴ろうとするだろう。近づければ、の話だが。
47 :ホワイトアッシュ ◆f5LDyTexDk[saga]:2016/09/16(金) 00:12:08.26 ID:/G348gkL0
>>45

ホワイトアッシュの笑いが止んだ。むくりと頭に雪を付けて起き上がる姿は、姫らしい姿にはあまり似つかわしくない。
寧ろ寝付きを邪魔された子供のように不服が漲っている。不機嫌の度合いでいえば向こう側の男と並び立つくらい。
お互いの唇は血色良く赤で、しかし彼の吐く息だけが白い。ヒールを履いた素足でしなを作り、顎に指を当てる。


「――――暑いわ、貴方」


クソッタレと呼ばれた女(ヴィラン)は、ただそれだけ返した。
顔を顰める女の顔を全身を、男が発する体温、それ以上に右腕の手甲の排熱が叩く。彼女にとってそれは耐え難い暴力。
つぅ――と、ひとすじ汗が流れる。それは顎を伝うまでに、氷の結晶として、かさりと雪の上に散った。
呟いて、ぱたぱたと胸元に手扇を送る。素肌が大部分の肢体は、極寒の雪上にてなお夏の瑞々しさを帯びていた。
48 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/16(金) 00:24:17.10 ID:oSJixkU70
>>47

「―――――はァん。」

汗が流れ落ち、そしてこぼれ落ちる前にそれは『凍り付く』。白い肌。吐く息は透明で、この寒さであるというのに素足に浸る。
理解した、現状を見てそれだけで理解出来るだけの材料はあった。ならば、能力というものを振るう機会を待ち望んでいる彼が、それを見逃すはずもない。
先程はどうでもいいと一周した景色が――――次々と入り込んでくる。白、白、白。全てが白い。気がつけば、自らの服すら薄っすらと凍り始めている。

凍っているのが普通で、常温の彼が『暑い』。
彼は推理ができるほど頭が良いわけではないし、それを好んでするような根暗でもない。だが、彼女の生態が『人とは異なっている』ということは十分に理解できた。
気合とか筋肉でどうにかなる問題ではない――――それで解決できるのなら、自分は今寒くないはずである。肉体的、体質的。若しくはもっと単純に『そういう能力』。
聞く必要もない。答え合わせなんてどうでもいい。目の前に道を塞ぐ女が居て、自身を暑いと煽りやがった。なら、それなら彼が取る行動はたった一つに決まっている。

「随分と余裕ぶった態度してくれるじゃねぇか、あ゛?」

「――――雪遊びは冬にでもしてろやァ!!!」

一撃。先ほど空を切った――――そよ風を届けた拳によって僅かに蓄積された衝撃を、純粋な衝撃波として自らの拳に伝え、そのままそれを振り切ることで一個の衝撃として相手へと飛ばす。
原理としては意味不明で、理解不能。衝撃の蓄積というそもそもの原理法則から外れた事を起こすのが彼の能力であり、右腕に装甲として具現化した彼としての精神世界。
衝撃は熱量を持ち、そして確かな物理的干渉能力を携えて彼女の方へとまっすぐ向かっていくだろう。何も反応を起こさなければ、成人男性に殴られるような衝撃が彼女の体の何処かに入るかもしれない。

しかし、彼の衝撃は熱量を持ってしまっている。彼の衝撃とは現代に存在する物理法則とは異なり、彼が衝撃として解釈した衝撃によく似たものである。
即ち、純粋なエネルギーを打ち出しているということに過ぎない。そして、彼女の持つ能力はその熱量――――即ちエネルギーを食らうことができるのだろう。
ならば、その衝撃波が何の抵抗もなく、何の意味もなく少女の『代謝』になったとしても―――――なんら不思議ではない。
49 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/16(金) 00:28:12.10 ID:/mhcQBcZ0
>>46

「げっ?!」

ゴスロリにしこたまパンチをかましてやったものの、痛いと涙目になる程度でちっとも効いた風じゃなかった。
いくら相手がヴィランだからって自分と同じ年頃の女子を殴りつけるというのは、やっぱりムリだったのかもしれない。

でもそんなオレの優しさなんてのは、きっとコイツにはわかってくれないんだろうな。
なんてったって今ニヤリと笑ってこっちに近づいてきてる。
あの日傘でぶったたこうってか。ちくしょう。

そう、ゴスロリの能力は「見える範囲に起爆性の鱗粉」をまき散らす事だ。
それはつまり、髪の毛で作った檻の中の自分の「背後」も含まれるわけで…
チリリ、と背中というか髪の毛全体に怖気が走った。

左右に道は無い!上に行くには遠すぎる!背後は論外!となれば…真正面しかない!!

考えて走り出すと同時に、背後で爆発の風と、熱を感じて自分が吹き飛ばされるのを感じた。

「ぎゃあああああ!?」

スーツ自体は対火性があるとはいえ、爆破による衝撃はどうしようもならない。
そのまま吹き飛ばされて、オレはゴスロリと正面衝突に…ならなかった。
檻の中で、オレは空中に浮かぶ様に…自分の髪の毛に絡め取られていた。

元々パンチでゴスロリを倒せるとは考えていない。
オレの任務は飽くまで市民の救出と…ヴィランの『捕獲』。

パンチをしたのは倒す為ではなく、『くっつける』為だった。
オレの髪の毛は『何にでもなれる』
アスファルトの様に硬くすることも出来れば、逆にシルクの様に柔らかくも出来…
そして、蜘蛛の糸の様に粘着性を持った性質に変える事も出来る。

ゴスロリにくっつけておいた蜘蛛の檻を膨張させ、オレはそれをクッションにして
なんとか正面衝突だけは避けられたというわけだ。

「…訂正。やっぱ、ボコボコにすんのも無理だ。こうやって時間稼ぎが手一杯って感じ」


50 :ウェイナス・ウラニア ◆JdUbMChjVk[sage saga]:2016/09/16(金) 00:36:08.11 ID:Vn/S8wLP0
>>34
「─────それが、力を持つ者の定めゆえに。……自信などではない、この戦いはわたしの運命だ」
「くだらぬ御託は無しだプロメテウス。お互いにな。……それでも、おまえの口を塞ぐ方が難しいか─────」

男の如何にももったいぶった皮肉は、今に始まった事ではない。それをまともに取り合って、意味がない事も知っている。
尤も、言いたい事だけを言って終わりにしようという彼の言い分も、捉え方によっては自己満足の"御託"と看做せるだろうか。
元より、彼らに言葉は要らぬ。善と悪とのぶつかり合いに於いて、互いの立場がはっきりと別れているのならば、それが"戦う理由"に他ならぬ。

「っ─────」

彼にとって、実弾兵器は最も有効な武装だ。
光を操るという性質上、それを伴わない原始的攻撃方法は、彼に対して十分に通用する攻撃手段の一つである。
原初の天使を語る者が、その手の攻撃に弱いと言うのも、些か妙な話ではあるだろうか。
彼は両側から迫り来る死の嵐の前に、己の肉体を強烈に発光させた。

その灯りは地上からは、一際輝く星のように見えるだろう。わざわざそのような真似をして、良い標的だ─────と考えるだろうか。
しかし彼の思惑は、別の所に在ったのである。

不意にその光は、弾丸の雨から逃れるように移動を始める。普通ならばそれを追うように照準で光を追いかけることであろう。
だが、"何かがおかしい"。……その動き始めた光は、幾つもの光筋となって空に現れている。

それは彼なりの、光を用いた撹乱だ。
まず強烈な光を発し、彼自身の肉体を隠す。
そして同程度の規模・大きさの光を、宙空に幾つか発生させ、彼がガトリング・マシンガンからの魔の手から逃れると同時に、それらの"ダミーライト"を四方八方へ散らす。
それにより、地上の男からはそれがどう見えるか……少なくとも光に紛れたオリジナルが何処に逃げたのか、容易に判別は付かないだろう。
ガトリングという鉛の雨は、彼にとってもその命を削り得る十分以上の脅威だ。
されど、それを操るのが機械でなく、人間であるならば─────撹乱できぬ事はあるまい!

「文明に身を任せ、人ならざる力に抗う。……おまえの在り方は、さてはわたしよりずっと、人間らしいのやも知れん」
「だが、その力で以って人を脅かすのなら話は別だ。─────おまえとて、とっくに人など超えている!」

天上のどこからか、声が聞こえる。
星に紛れて輝く幾つかの光の中、どれかが彼の姿なのだろう。男を撹乱できている今が好機。……回避行動に移られる前に、彼は攻撃行動を行う。

そのうちの一つが、他に比べて明らかに大きく輝き始めた。それは先程までの攻撃と全く同じ手法だが、それでも多少の隙は突けるだろうか。
狙うは、如何にも不安定そうな6本脚の側面─────光を束ねて放つは、再び以って行われる、天使の裁定である。

「喰らえ!収束─────『セラフィム・デシジョン』!!」

先の攻撃よりも細い軌道。より密度を増した光の束が、脚を狙って襲い掛かる。
……先のダミーの生成と、何発ものセラフィムデシジョン。何日にも渡って貯めたソーラー・パワーをここまで消耗させられる相手とは。

恐らく、"裁定"はあと一発しか放てまい。
すなわちこの攻撃が────決着を決める決定打となる!









51 :『ボマー』  ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 00:46:16.87 ID:msESD/6bo
>>49

目の前にいきなり何かが現れた。まあ多分髪なのだろう。気づかなかった自分も大概だが、殴ることすらできなかった。
思っていたより自分が弱いことに情けなさを感じながら、纏わりつくそれを爆発による燃焼によって切り離す。
粘着性の髪を付けられたにも関わらず気付かないのは、流石に間抜け過ぎる。次からは戦いになったら、もう少し考えながらやろう。そう珍しく反省しつつ。
もういいや。思い通りに行かないならば破壊する、それすら出来ないならばどうでもいい――――彼女は、執着心が薄い人間であり。
もう此の場に興味は欠片も残っておらず、となればやることは一つ。捕まるなんて御免だ。

「そぉ。時間稼ぎなら出来るんだぁ……?」

自分の真上、天井に改めて視線を向けると、彼女は次々に爆破を起こしていった。
次いで、口の中に溜まっていた血液を地面に吐き出す――――同時、今までとは比較にならない様な大爆発が発生する。
彼女の爆弾は鱗粉だけではない。彼女の肉体そのもの、髪の毛から血液に至るまで全てが爆弾であり、しかも肉体の爆弾のほうが遥かに威力が高いのである。
足元に吐いた血液が爆発する。そのままでは当然彼女も巻き込まれ、自爆ということになるが――――死ぬつもりなど、さらさらなく。

「じゃ、ばいばぁい」

爆発以外に、彼女が有するスキルがもう一つある。正確に言えば彼女の傘≠ェ持つスキルだが。
浮遊、及び上昇と滞空。この日傘の所有者は、簡単に言ってしまえば浮く事が出来るのである。
爆発の爆風によって文字通り爆発的な速度で上昇し、屋上まで爆発でぶち抜く事によって外に逃げ出す――――屋内での彼女の逃走手段である。
行動を開始してから僅か数秒で、彼女は此の場を離脱した。幸いにも死者は今のところおらず、急いで救助活動を行えば死者が出ることは無いだろう。
逃げ延び活動を続けられるヴィランであれば、それ相応の逃走手段を持っている。今回はそれを最後まで温存していた彼女が、逃げ切る形で終劇だ。
それを負けとするか、被害者が出ておらず一切彼女を寄せ付けなかったことを勝利とするかは、自分次第だろう。

//ここらへんで〆でお願いします。絡みおつでした。
52 :ホワイトアッシュ ◆f5LDyTexDk[saga]:2016/09/16(金) 00:53:20.13 ID:/G348gkL0
>>48

豪雪、吹雪という不条理を吹き飛ばす、それを上回る不条理。
他ならぬ男の手によって齎される、暴力という名の熱風は、強かに女の髪を揺らした。

「…………」

冷気と一括りにされる女の能力。しかし唯がむしゃらに熱を奪うではなく、肉体由来であるために仕度が整わぬ。
熱という『食材』をどう料理するか――――その準備も間に合わぬまま、届いた一撃は威力を奪われるに至らなかった。
ただ男と女の間に一枚の壁が立ちはだかっている。真ん中を五指の型に凹ませた透明の鏡。互いの姿を歪んで映すそれに、見る間に罅が放射状に広がる。
防衛反応によって現れた氷の壁は、数秒の後カシャンと音を立て、大小幾千の破片と散った。

「貴方、私を識らないのね。」

此処で初めて女は男という存在を認識したようである。
煩わしい餌(カロリー)――から、邪魔な敵(ヒーロー)として。
二度目に口を開いた時には重みを感じさせない足で、既に立ち上がっていた。

「私はホワイトアッシュ。」
「貴方の名前(コード)も、聞いておこうかしら」

凍らせる前にね、と。ダンスに誘うような足取りで歩き出す。
女の名前は数年前からヒーロー教会のブラックリストに掲載されている。月に数度訪れる災害として、日々更新される被害。
その厄は正しく災害。男のような直接的な暴力を持たないながら、その細腕は触れただけで致命的な一つを奪っていく。
故に、彼の行動は何一つとして間違ってはいない。やり方によっては、距離を保って一方的に押し潰す事も容易いのだ。
53 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/16(金) 01:12:18.42 ID:oSJixkU70
>>52

「……『氷の壁』ねェ。」
「ブチ抜くには――――――装填が足りなかったな。」

ガシャリ。右腕の装甲が少しばかりの湯気を上げる。段々と体の芯すら冷えてしまいそうな冷気に、僅かに体に震えが走った。
しかし、そこで寒さに屈するほど彼は甘くない。気合と筋肉をフル活用すれば、それなりの時間であれば熱量をある程度保持することだって不可能ではないのだ。
自らの拳が届かなかったことに小さな瞠目と、先日もあったその既視感。剣聖の一だとはいえ、自身の拳が通用しなかったというのはどうにも『心がざわつく』。

「『ホワイトアッシュ』。」

「どっかで聞いたことがある気もするが、『知らねぇ』なぁ、そんな名前はよォ。」

正確には、知っている。ヒーローとしての脂質も正確も持たない彼であったが、異分子には異分子が持つ独自のネットワークというものがある。
彼にとっては用心棒の仕事で聞いた話だったり、情報屋から聞いた話だったり。そういった情報の中に紛れ込んでいる名前に一つ、『ホワイトアッシュ』は存在した。

曰く、その白さは自然の白と同義である。
曰く、その白に触れた存在は遍く凍り付く。
曰く、その白が震る日には必ず『少女』の姿を見る。

数えだせばきりがない。犯罪者であり、ヴィラン。他者を殺害することで存在意義を示す――――違うとしてもヴィランなどそういうものだ。
民衆の間ではヒーローの噂と同時に、自らの危険を脅かす存在の噂も加速度的に広がる。彼がそれを知っているのは、粗当然のことだといえるだろう。
彼女に対して知らないと豪語するのは――――単純に腹立たしいからだ。現に彼女の創りだした氷の壁を見ても、これといって表情を動かした様子もない。

「良いぜ、良いだろう。教えてやるよ。」

まるで演舞のような軽やかな足取り。それに対して舌打ちを一つ。自らの能力と相手の能力との差は即ち射程にあると即座に理解。そして、それでもなお殴り飛ばせるという絶対的な自信。
彼が足を前に出すのはそう難しい話ではなく、遅いということもない。単調ながら、しっかりと。彼女が此方の射程圏内に入る前に此方から『相手の射程に入り込む』。

「俺は『マグナム』。」
「―――――全てをブチ抜く最強の『銃弾』だァ!」

彼女が僅かに前進したと同時に、此方も地面をぐっと踏み込んで、加速。
視界がグンと後ろの方に流れる感覚と、皮膚に張り付くようにして体温を奪っていく氷の残滓。荒い息を吐く。体温が奪われていることは十分に理解している。
それがどうした。だからどうだと言うんだ。そんなことを理解している暇があるなら足を出し、そして拳を顔面にたたきつけるほうが先決だ。それ以外はどうだって良い。

単純明快。言ってしまえば直線馬鹿である彼が取る行動はたったひとつ。地面を蹴って加速し、彼女へと真正面に近づき、そして装甲を纏った右腕で殴打を繰り出す。ただそれだけ。
装甲を纏っている分、咲きほどの衝撃の威力とは文字通り桁が違う。しかし、それは彼女にも言えること。
冷気というのは連続した空間では徐々にその温度は上がっていってしまう。であれば、近づけば近づくだけその温度は――――下がる。ということにほかならない。
54 :朽網雨々子 ◆x5eyU9PmJI[sage]:2016/09/16(金) 01:16:01.89 ID:JLadK6BUO
>>33
告げられた言葉に、ハッとした表情を見せる。
今ジークリットが言ったのは、つまりヒーローとしての軸。
何に重きを置き、誰がために剣を振るうのか。
それがはっきりしているから彼女はすごいのだろう。では自分は。
協会のため、ではない。協会はヒーローとしての活動を支える場でしかない。
大切なのは、もっと具体的な……

「っ……」
言葉に詰まる。
自分がヒーローを志したきっかけ。
ヒーローとして何を成したいか。
その両方に、父の存在がある。そのことはわかっている。

3年前、なんの前触れもなく協会に反旗を翻した父。
たった1日で父はヒーローでなくなり、家から姿を消した。

あの日の真実を求めている。
でも、それは軸になり得るのだろうか。
過去は所詮過去なのだと。そう考えてしまう自分も確かにいて。

「あっ、えっと……そ、それでっ。ヒーローの本のコーナーはっ?」
追求されているわけでもないのに、それから逃げるように。
答えの出ない問いには蓋をして、彼女は話題を切り替える。
店員さんの背中をぐいぐいと押すようにしながら、先を促すのだった。
55 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/16(金) 01:21:13.43 ID:rhyk/aQ70
>>50

「ヌウゥゥーーッ!! 小癪なアァッ!!」

木を隠すなら森の中。光の中に潜り込む妙策によって、カンケルの感覚器官が翻弄される。
サーモセンサーの画面は一色へと染め上げられ、メインカメラも敵の動きを追うことが出来ない。
レーダーと気流計測装置は辛うじてウェイナスの質量を捉えていたが、照準を合わせるために十分な情報源ではなかった。
あるいは、十分な猶予が無い、と言うべきか。

すかさず電磁バリアを再展開。だが連続攻撃による加熱が激しく、十分な出力を担保できない。
果たしてセラフィムデシジョンは歪曲の壁を押しのけ、カンケルの右半身側の脚部を薙いだ!

3本中2本の関節部が溶断され、機体が大きくバランスを崩す。
もはや跳んで跳ねての大立ち回りは叶わず、爪まで使った旋回と不格好な直立が精一杯と言ったところか。

「フン――まだ完成には至らんか。冷却系統を見直す必要があるようじゃからのう。
 しかし、オヌシの電球も焼け切れる寸前なのではないかなァァァーーッ!?」

右爪で機体を強引に安定させながら、対の爪を掲げる。攻撃を中断された故、弾数にはまだ余裕があった。
更にマシンが完全に破壊されたとしても、プロメテウスには奥の手がある。
――いみじくもウェイナスが指摘した通り、人の域を逸脱した改造によってヒーローに匹敵する力を持つ異形が。
傲慢な彼とて“生身”かつ万全の状態で対決して『ファーレン』に勝てるとは微塵も思わないが、ハンデがあるなら別だ。

今日こそ殺れる。確信を宿した砲身が不穏な回転音を響かせ始めたその時――――。
天空からの視界を持つウェイナスは、クレイドルの方角から黒い人だかりが押し寄せてくるのを発見するだろう。
更に一拍遅れて、Dr.プロメテウスもまた彼らを『索敵』する。
56 :ホワイトアッシュ ◆f5LDyTexDk[saga]:2016/09/16(金) 01:49:12.47 ID:/G348gkL0
>>53


ホワイトアッシュも昨日今日現れた悪党ではない、ヒーローの対処法には少なからず覚えはある。
何も無策で歩み寄った訳ではないと、自信に満ちた脚より先に、無骨な男物の靴が踏み込んできた。
彼我の隙間僅か50pその二人の間に氷の結晶が咲く。

――――がぎッッ――――火花散る接触

び、び、び――――亀裂、3枚の防壁がガラスのように砕け、鉄拳が頬に迫る。女はそれをスローモーションのように感じていた。
びしぃっ! 衝撃が命中し、ヒールが2、3たたらを踏む。仮面に辛うじて阻まれたものの、大きく脳を揺らす結果となった。
かしゃりと、女の唇から地面の雪に赤い結晶が一つ花開く。

「――……マグナム。 なんて熱いのかしら」
「熱くて、あつくて、本当に煩わしい」

火傷のように赤みを帯びた頬を撫でる。常時、周囲の熱を無作為に吸い付ける肌。
彼の拳がホワイトアッシュの顔に“触れた”ら。
それは触れるか触れないか、皮一枚の差で大きく変わる。それこそ氷と液体窒素以上の差。

ふーっ、と一つ長い息を吐く。
漏れ出たのは白くはない、ドレスと同じ水色に近い靄の滞留。靄が晴れると、細身のレイピアのような氷柱が手元に残る。
分かり易いよう具現化された、女の意志。切っ先に刺されたものを内部から凍てつかせる、冷死の先兵。
威嚇のように振ると、切先が触れた地面の雪が棘のように凍りささくれ立つ。だがそれは囮(フェイク)。息を吸いこんで伸ばす無手の左手こそが真の危険だ。
細い指一本一本に身を切る程の寒気を帯びて緩やかに男の視界の中、腹部辺りに接近するだろう。
57 :古城 夢次 ◆m52qjStXwg[sage]:2016/09/16(金) 01:58:44.82 ID:17ugDaSQO
揺籃の地で夢を見る者がいるのならば、彼はその夢を奪う貘か
栄光を約束された者達が存在するとすれば、その者達の落とした彼は影か
クレイドルの裏路地、表通りの雑多猥雑とした喧騒からまるでトリミングされた様な静謐の薄闇
英雄の神話に憧れたかつての少年の隆々たる右腕の先には最早虫の吐息を漏らすだけの顔面が握られていた

「……どうした」

名の知れたテーラーの仕上げたビスポークの埃を、左手で払う
かつての少年……古城夢次は一重の三白眼を更に細めた

「ヒーローってのは諦めないンじゃあねぇのか」

ゴミ袋をそうするみたく右手を振るう
珈琲豆の詰まった麻袋を落とした様な音が響いた

「叫ンで、気合入れて、それだけで解決すりゃあ苦労はしねぇなぁ?」

おい、と問い掛けながら地べたに横たわる青年の腹を蹴り付ける
青年は不幸にも、夢次の眼の前でヒーローであってしまったのだ
血溜まりの中で痙攣するその体が、もう長く無いことを告げていた

「……丁度良い、手間が省ける」

口角を微かに吊り上げ、左右非対称の表を作る
その鋭い目線の先には、青年から流れる血が一先ずの終着点としているマンホール……
58 :道島 鉄一 『マグナム』[sage saga]:2016/09/16(金) 02:08:36.77 ID:oSJixkU70
>>56

その頬に触れると『不味い』と言うのは、本能的に感じていた。人間的なものではなくもっと動物的な、理性ではない部分での根源的な恐怖。
人間は寒さを恐れて火を頼った。偶然に存在した日で暖を取り、肉を焼き、そして灯とした。それは最大に、『寒さ』とは市の危険性があると理解していたからである。

だが、彼はその本能すら無視して、自らの感情の赴くままに拳を叩きつけるだろう。右腕の装甲に浮かぶ蒸気と、そして熱。何か冷たいものに触れた感触と、イヤに軽い手応え。答えは単純。
右腕は頬に触れた。であるならば其処から熱量はストローでジュースを吸い上げるように容易く、人が眠りにつくよりも速く、そして淡々と。右腕が芯に冷えきるにはそう時間がかからない。
彼の装甲は精神によって具現化された言わば概念武装にも似た存在である。物質をよりしろに自らの法則を体現する、存在そのものが彼として確立した武装。

しかし、だからこそ物理的な干渉はもとより、能力的な干渉も容易く受けてしまう。罅こそはいらなかったものの、即座に装甲は氷付き、そして中にある右腕にもその熱を奪わんと蝕み始める。
理解していたものの、だからといってその冷たさに耐えられるかといえば否である。彼が普段受けている痛みは言わば熱。殴られた時の血が溢れるものにほかならない。
今回のような熱を奪う。凍らせてしまうというような能力にはついぞであったこともなく、だからこそ対抗できる手段も持ちえていない。無理矢理にでも殴ったのは、其処で決まると考えていたためだ。

けれども現実はそう甘いものでもない。こちとらただのチンピラであり、相手は数年間その存在を示唆され、それでもなお生きながらえてきた生粋のヴィランなのだ。
そもそもの土台が違う。存在としての、ただムカつくやつをブン殴る思考に支配されている彼とはまた別の意味でイカれている。ヴィランに、中途半端なビジランテが勝てるか? 否である。

「―――――ッ!!?」

右腕が氷に包まれ、そして能力の軌道すらできなくなったことを確認した瞬間。迫ってくるのは氷の棘。切っ先鋭く、まるで細い針のようなそれが此方を切り裂こうとしているのを見て、咄嗟に回避――

――そう、彼は本能的にそれを『回避』してしまっていた。先程は本能を押さえつけ、感情で殴るという荒業を行った彼であったが、とっさの判断は本能がモノを言う。
だからこそ、彼は彼女のフェイクに簡単に乗ってしまう。眼前の危機を優先するあまり、後方にある白い手に気づかない。右腕は動かず、能力を発動させる暇もない。完全な死に体。

「クソッ――タ―――レがァ!!」

無理矢理に体を捻る。上半身をひねるようにして無理矢理空間を作り出し、そして本来触れるはずであった指を最小限。皮膚がほんの一瞬、刹那触れるだけに留め、そして倒れる寸前に氷漬けとなって感覚も滲んできた右腕を棍棒のように振るうだろう。
僅かな接触でも、先ほどの比ではない速度で腹部に凍結が進行する。熱量を奪い、そして皮膚や血液ですら凍ってしまえという能力(めいれい)に、気合だけで対処する。
だが、右腕は既に凍った鉄の塊程度の使い方しかできず。腹部に至っては既に吐き出すいきが冷たくなり、酸素の供給量が低下している。
このままでは不味い。理解している。だがそれを拒むのは単純なプライド。二度も負けてなるかという、無意味に洗練された負けず嫌いの意思のみ。
59 :ウェイナス・ウラニア ◆JdUbMChjVk[sage]:2016/09/16(金) 02:51:00.36 ID:Vn/S8wLP0
>>55
「やはり、しぶとさは一流か。何日分の太陽を使わせるつもりだ……?」

こうも彼が、少なくとも頼みとするレーザー光を前にしてなお立ち上がれる人物は、そう多くはあるまい。
それを長年の因縁の敵にされたとあっては、彼も思わず嘆息を漏らさずにはいられない。
ヒーローとしての誇りなど今やないこの身であっても、少々の自信というものが削られていく気がした。

「……されどおまえも最早、すばしこく動き回ることはできまい。……鉛ごと灼いてくれる───!」

彼もまた、12枚の翼を大きく広げて、臨戦態勢を取る。彼の肉体に、光が充填される。
残ったソーラー・パワーをありったけかき集めて、狙うは完全なる決着────今日こそ、その陰謀に終止符を打ってやる。

決意と共に、互いに攻撃準備を完了させた────その時であった。

『見ろ、あれは──────!』
『ファ───ファーレンだ!ファーレンが居るぞッ!!』
『馬鹿な、報告ではDr.プロメテウスだけだった筈だ!』

遠方より聞こえる幾つかの声。上空は音が少なく、故に迫り来る彼らの声はよく聞こえる。
無論、12枚の翼を持ち、天空に光り輝く姿が目立たぬはずはない。それが最初に視認されるのは当然だ。

その声が協会から派遣されたヒーローたちのそれという事は、彼はすぐに理解した。
炭鉱という重要施設が襲撃されたとあっては、あの中には相当な実力者も紛れている事だろう。
プロメテウスの指摘した通り、この切れかかった電球で、彼らをも相手取るのは────いくら彼とて難しいだろう。

「……協会の者達か。───どうやら、互いに"まずい"状況という事らしい」

彼には、プロメテウスを撃破しなくてはならない理由がある。……だがそれでも、彼は協会を離反した身である。
協会のヒーローからも敵視されているという点が、彼のやっかいな所だ。
ヴィランと、ヒーロー。そのどちらからも外れた者であるからこそ、ままならぬ事という物はある。
彼は地上へと視線を落とす。

「わたしは、彼らに任せて撤退するとしよう。……元よりおまえが捕まりさえすれば良いのだからな。尤も……」
「おまえがそう簡単に、大人しく捕まる者とも思ってはいない。……いずれ会うならば、その時が決着だ」

彼は滞空していた場所より、さらに上空へ飛び上がっていく。
それは互いの射程外。すなわち、"交戦する意思がない"という事を示している。

「だがプロメテウス!おまえが悪を為す限り、わたしは何度でもおまえの前に立ちはだかろう!」
「われらその枷を壊し 天に座す者は笑い 黒鉄の杖をもて打ち砕かん>氛氛氛氈v

「おまえも───いずれ、その報いを受けるがいい!」

そう言い放てば、彼は光を放ちて大空へと飛び立つ。
飛んで逃げる標的をわざわざ追い回す者はいなかろう。……おそらく押し寄せた人々は、当惑しつつも、その場に残るだろうDr.プロメテウスに向けて攻撃を開始するだろう。
無論、男を捕らえることは、一筋縄ではいかない事を理解しながらも。

//こんな感じで〆でしょうかね?2日間、お疲れ様でした!
60 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/16(金) 03:24:57.91 ID:rhyk/aQ70
>>59

双方にとっての敵たるヒーロー協会の尖兵が押し寄せ、漁夫の利を狙わんとしている――過酷な状況。
その最中にあって、プロメテウスの人を喰ったような態度は微塵もブレない。
歴戦のヴィランにとってこの程度は慣れたものだと言わんばかりに。

「ほォォォォ〜〜〜〜ゥ。随分な余裕じゃのう?
 矜持を捨てて協会と共闘し、その自由を犠牲としてワシを討つ。
 それこそが善に殉じる者の為すべき行いだと思うが、どうだ?」

「――――いずれオヌシは血の涙を流して悔やむぞ。必ず、な」

歌うような韻律の中にとびきりの暗鬱さを忍ばせて、機巧の怪人は飛び去るファーレンに意趣を返した。


「さて。妙ちきりんな時間に叩き起こしてしまって申し訳ないのう、ヒーロー協会の諸君。
 詫びと言ってはナンじゃが、オヌシらの労をねぎらって、ゆっくりと眠る時間をくれてやろう。
 眠りを――――永い、永い眠りをのォォォ〜〜〜〜ッ!! グワッハハハハハハハハハハハァァアーーーーーーーーーッッッ!!!!」

それからのこと。
悪意に満ちた諧謔と共に、カンケルは迫り来る軍勢へと挨拶代わりの弾幕を撃ちこんでいた。
対空攻撃に使う機会が無かったロケット砲の残弾も盛大にぶちまけ、対人装備の口吻部火炎放射器を展開。
黒煙と爆炎が周囲を覆い尽くし、正義の徒党はしばし、進軍を止めざるを得なくなる。

実際、これこそがプロメテウスの狙いである。焦熱のカーテンの中で、蟹の『甲』――機体の中枢部が、脚部から脱落した。
肢を失ったそれはもはや円盤であり、腹部に設けられた推進装置が青白い火を吐いて空へ浮上していく。

――――『プロメテウスエンジン:アルファ』。
大型のプロメテウスエンジンに内蔵された、自衛能力を有する脱出装置が、暗い雲間へと消える。
戦列を整えなおした頃には、既に悪鬼の方舟はヒーロー達の捕捉を逃れているのだった。

後に残るのは――何の変哲もない鉱山をDr.プロメテウスが襲撃した、という不可解な事実のみ……。

/はーい。二日間に渡ってありがとうございました!
61 :カミュ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/16(金) 20:48:50.59 ID:/mhcQBcZ0
>>51
オレが懐かしい病院のベッドで目を覚ましたのは、化学私設襲撃から二日経った後だった。

ゴスロリを絡め取ったまでは良かったが、背後からの予想外の爆発で反応が遅れて
自分の髪の毛に絡まるという情けない自爆っぷり。
しかも捕まえた筈のゴスロリはあっさりとオレの拘束を解かれて逃げられた。
オレはといえば、大規模な髪の毛の展開と変形を繰り返したせいで体力を消耗して
あのゴスロリの置き土産のクソ爆弾を避ける体力もなくモロに喰らってそのままKO。

病室に来た先輩ヒーローの話じゃ、ゴスロリは私設を脱出。
遅れてやってきた他のヒーローや救助隊が逃げ遅れた人達を救助し、施設の火事は無事鎮火。
ヒーロー含めて怪我人は多いものの、死者が一人も出なかったのは駆けつけたヒーロー
『インフィニティヘッド』による活躍が大きい…と、被害者達が証言したらしい。

ヴィランは逃したものの、誰一人死なせる事もなく事件を解決。
結果だけをみれば大手柄というものだ。

「………」

あのゴスロリは、オレが丹精込めて作ったはずの拘束をあっさりと解いて脱出した。
最後の爆発は、鱗粉の物と比べて遥かに爆発の規模が大きく、オレが作った髪の壁が無かったら
周りの逃げ遅れた人達まで巻き込まれていただろう。
あいつは自分の奥の手を最後まで取っておいて殆ど無傷で脱出し、オレはといえば捕まえる事すら
出来ずにボロボロでおねんね。

ゴスロリがもし、自分に執着して本気で[ピーーー]気でいたのなら…自分はどうなっていただろう?
自分を倒した後で逃げ遅れた人たちをそのまま殺そうとしていたら自分は防げたか?
あいつは、たぶん…捕えられた時点で自分やその場の人間に対しての興味を失くしていた。
散々やり込んだゲームでパーフェクトゲームを達成できないと確信した時の様に、
「やれやれ仕方ない。クリアだけして終わろう」という、作業感覚になっていたんだ。

勝てやしない、どうせ無理だ。だから捕えるだけにしよう

いつもそう思っていて、そこそこの成果も出せたけど、今回は何一つ出来てはいなかった。
・・・・・・・・・           ・・・・・
助ける筈だったのに、相手の執着の無さに助けられた。

「………『ボマー』」

先輩から聞いた、あのゴスロリヴィランのコードネーム。
大した思想も信念も無く、ただ己の欲望のままに暴れ回るヴィラン。
子供の頃の襲撃事件。今回の襲撃事件。あまりにも似通り過ぎたシチュエーション。

子供の頃は何も出来なかった。今回は、人達は助けられた。

「強く、ならねぇと、な………三度目は…やらせねぇように……

次は……お望み通りにぶちのめしてやる」

ヒーロー『インフィニティヘッド』としての決意。

どこかに浮いてるかもしれないあのゴスロリヴィランに聞かせる様に、
窓の傍で呟いた。

/遅くなりましたが〆です。絡みどうもありがとうございました。

62 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/16(金) 21:07:13.39 ID:inxOHekIo
>>54
彼女の物語を読んだことはない。
だから、そこに何が記されていたのか。どのページに自分が触れたのかは分からない。
だが、これだけはわかる。彼女はまだ何かを見つけていない。
ジークリットにできることは、祈ることのみ。
彼女が探し物を見つけられますように。

「急がなくとも、本は逃げませんよ。
こちらです」

急かされても、やはりゆったりと。
店員として、客へと案内をする。
彼女の意図を汲み取り、今度は無言で。


書店での一つの出会いについての物語は、ここで一度筆を置こうと思う。
だが、彼女らの物語は誰かに綴られ続けられるであろう。
そう、彼女らの物語は続いていくのだ。
63 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/16(金) 21:46:05.76 ID:inxOHekIo
クレイドルの中心部からやや離れた植物プラントに、ヴィランが現れた。市民の生命線たる植物プラントが破壊される前に、このヴィランを撃退されたし。

協会から、一つの指令が発令された。
なんでもないただの討伐依頼。だが、肝心のヴィランに関する情報が少なすぎる。黒髪の女としか記されていない。
さらに、追記のところに不穏な一文が記されていた。

大きな危険が予測される。

―――――
【植物プラント 屋上 夜】

そこは、奇妙なまでに静かだった。
ヴィランがいるにも拘らず、火の手一つ上がることはない。
本当に、ヴィランなどいるのだろうか?

植物プラントの屋上。そこに腰かけて夜風を浴びる人がいた。
それは呑気に鼻歌などを歌いながら夜景を見ていた。
いいや、その中心に聳え立つ漆黒の協会本部を見ていた。

「ねえ。あの建物がこの街で唯一の安全地帯って話。あなたは信じる?」

誰に向けた言葉だろうか。その女は問を投げる。
誰宛か。それは、ここにいる他人に他なるまい。
風が黒髪を、コートを揺らした。

そう、黒髪の女だ。
この女こそ、『協会』が討伐を指示したヴィランなのだ。
ただ夜景を眺めているだけの女が、である。
64 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 22:13:05.38 ID:msESD/6bo
>>63

その任務が彼の元に届いたのは、ほんの偶然でしかなかった。本来ならば有り得ないであろうミスが、彼の携帯端末にその任務を与えたのである。
ディヴィジョンX、ノービスヒーロー。簡単に言ってしまえばヒーローになったばかりの新米ヒーローのランクであり、そして同時に彼が今留まっているディヴィジョンだ。
そんなヒーローのもとに、確実に危険が伴うであろう任務はそうそう回ってこない――――ましてやそれが、かつてのヒーロー協会の定める最高ランクに辿り着いた者が相手となれば。

当然すぐに取り消しの連絡が届いた。だがそれを大人しく聞き入れる様な性根であれば、疾うの昔に彼は良い子ちゃんとしてランクを上げていただろう。
自らの実力も顧みず、面倒事に首を突っ込みたがる。そんな人間だからこそ、彼は高い戦闘能力を有していながら最も低いランクに甘んじているのだ。
与えられた情報は位置と、雑と言ってもいい程少ないヴィランの容姿のみ。だが構わないと、彼は病院を抜け出して現場へと向かっていた。

(何が足りねぇ……勝つために、強くなるためには、一体何が…………ッ)

先日彼はアンランクヒーローと交戦し、そして敗北した。その戦闘により両腕と右足を骨折するという重傷を負い、病院にて治療を受けていたのである。
しかし彼は能力の特性上自らの治癒能力を増幅させることが出来る。骨折であろうが治そうと思えば一日で治せ、そして彼は身体が鈍らないようにと迷わずそうした。
そして念のためにともう一日入院生活を送っていたのだが、たった一日であれど退屈なことに代わりはない――――何より、彼は先の戦闘で敗北≠オたのだ。

(分からねェ……分からねぇけど)

男にとって、敗北は大きな意味を持つ。そして強さを求める彼にとって、たった一度の負けであってもそれは容易に許容することは出来なかった。
何かが足りなかったから、負けた。だが何が足りなかったのか、それが分からない――――技術、能力、分析、選択、挙げていけばキリがなかったが。
そんなものじゃあなく、より重要な何かが欠けている気がしたのだ。それが分からないから思考に靄が掛かり、退屈が苛立ちを加速させていく。
だから彼は、病院を抜け出した。其処にどれだけ凶悪なヴィランがいるのかは知らないが、動けば何かが掴めるのではないかと――――幸いにして、病院から植物プラントはさほど離れていなかった。
そして彼の能力を用いれば、此の程度の距離はもはや誤差と言ってもいいだろう。到着と同時にヴィランの姿を探そうとしたが、その必要はなかった。
すぐに見つかったからだ。黒髪の女、たしかに情報に間違いはなかったらしい。屋上へと駆け上がり、夜景を見つめる女性の背後に立つ。
65 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 22:13:37.39 ID:msESD/6bo
「…………あァ? あの建物って、ヒーロー協会の本部の事かよ」

まさか話しかけられるとは思っておらず、思わず間抜けな声が漏れた。同時に覚えた違和感、その正体を彼はまだ理解していなかった。
それから女性の視線の先にあるであろう建物、黒の超高層ビルへと視線を送る。彼も何度も足を運んだことがある、年の中央に聳えるクレイドルのシンボルだ。
かの建物が想像を絶するほどの強度を持っているのは、ヒーローの間では有名な話である。彼は其処にどのような技術が介在しているのかは、まったくもって知らなかったが。
汎ゆるヴィランの襲撃に対しても未だ無傷を貫き通す、決して折れぬ正義の象徴――――少なくとも若いヒーローや、ヒーローに憧れる者からはアレはそういった認識を受けている。

「まあ、実際そうだろうけどよ……唯一ってのは、言い過ぎだと俺は思う」
「弱ェ奴守る為に、俺達ヒーローはいるんだから、なぁ…………っ!?」

最初に声を聞いて感じた何か――――その後姿、揺れる黒髪は彼の記憶を刺激した。
見たことがある∞どこかで∞まちがいなく=Bそして記憶の照合に、大した時間は要さなかった。
グランドマスター――――最強の、そして最高のヒーローの称号。彼女がかつてその地位に居たことを、彼は知っていた。
何故なら彼、レオ・ウィリアムズこと『ブルーアクセル』の父親もまた、かつてグランドマスターとしてこの街の平和を守るために尽力していたからである。
ヒーローの父に憧れた。そしてその目は当然父だけではなく、別のヒーローにも向けられる。無類のヒーローマニアであれば、グランドマスターにいた事がある彼女の姿を知らない訳がない。
そして同じ地位に居たからこそ、その姿を数度生で見たことがあった。若くしてグランドマスターという称号を得た彼女に、何度羨望の視線と敬意の念を抱いたか分からない。
そしてだからこそ、姿を消したこともまた小耳に挟んでいた。そんな相手が何故此処に、そして何故ヒーロー協会に公式なヴィランとして認識されているのか。
はっきり言って、混乱していた。相手はレオのことを、そしてレオの父のことを知っているかどうかは分からないが――――少なくともレオ自身は、状況を飲み込めていなかった。

//よろしくお願いします!知っていることにしてしまったのですが、問題があるようでしたらなかったことにしますので!
66 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/16(金) 22:44:12.66 ID:inxOHekIo
>>64-65
やっぱり、来た。
屋上へとドタバタと駆け上がる音。どうやら、いつもの高ランクヒーローとは違うらしい。
どんなヒーローだろうか?若ければ、嬉しい。

投げてみた問いに答えた声は、若かった。
そして、聞き覚えもあった。
似た声を、よく聞いていた―――あれはたしか、そう。
ああ、思い出した。栄光に達したとき、祝ってくれたりもしたものだ。
となると、この子は―――

「ヒーロー、そうね。弱者の盾となるあなたたちがいればこの街は安泰よ。
けど、“そう”ではないの」

動揺している。間違いない。彼は私を知っている。
ならば、私は彼を知っている。

「ふふっ。ひさしぶりね。
お察しの通り、私は――――」

ならば、名乗るのが今は最適だろう。
事実を、突き付けよう。自分自身の存在を明らかにすることが、彼の場合は最適だろうから。
ひときわ強い風が吹く。髪が舞い上がる。
振り返る。その顔を、見せる。

「アポロニア・ビッケンバーグ。
あなたのお父さんと同じ、元グランドマスターよ。
そして、今は協会が定めるただの“ヴィラン”、かしらね」

微笑みながら、成長した彼を見据える。
彼の戸惑いを、確認する。
彼にどうしようもなく、憧れが敵となっていることを確定させる。
写真そのままの、彼の記憶そのままの姿のままで。
67 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 23:04:21.52 ID:msESD/6bo
>>66

勘違いである、それで終われば楽だったかもしれない。偶々後ろ姿と声が似ていただけ、それだけのヴィランであれば彼は躊躇うことなく一歩前に踏み出していただろう。
だが現実はいつだって非情で、思い通りになんていかない。あらゆる偶然が重なっただけ、そんな淡い願望を打ち砕いたのは他でもない目の前の彼女自身だった。
見間違える筈もないだろう。グランドマスターはヒーローを志す者の憧れで、だからこそ死んでいった父を誇りに彼はヒーローとなったのだ。
彼等は正しく此の街の、そして正義の、ヒーローの象徴なのだ。それなのに、なんで。

「おか、しいだろ……」

他人の空似等では断じて無い。同じ顔、同じ声、同じ空気を纏ってその名を告げたのだから、それはもはや疑いようのない真実なのである。
行方不明だと聞いて、どうしたのかと心配した事もある。彼もまた父が死んだ際に兄が行方不明になっていたため、余計に感情移入してしまったのだ。
あれから時間が経って、表立って何かを思うことはなかったけれど、かと言って忘れていた訳では決して無い。
だがまさか此のような形で――――敵≠ニして、討つべきヴィラン≠ニして、彼女が立ち塞がるだなんて誰が予想出来る?

「なんで、なんでそっち側≠ノいるんだよッ!?」
「ヒーロじゃねえのかよアンタ……正義の味方じゃあねえのかよォ!!」

事情が何一つ飲み込めない。それもそうだろう、彼女はまだ何一つとして説明をしていないのだから。
分かるのは彼女が協会に定められた敵で、レオはヒーローである以上彼女を拘束或いは撃退、抹殺する必要性があるということのみ。
だが躊躇いなくそのような手段を選べるほど彼は精神的に達観しておらず、好戦的な性格にも関わらず未だに拳すら握り締めることが出来なかった。
何より理解しているのだ――――彼我の実力差を。父がグランドマスターであったからこそ、かの者達の実力を嫌というほど知っている。
ディヴィジョンXの人間がどう抗った所で、とてもではないが勝てる相手じゃあない。けれどレオに逃走の選択肢はなく、かと言って前に進むという道を選ぶ勇気もまだ≠ネかった。

(クソッ、分かんねェよ……ッ)
(どうすりゃいい、俺は――――っ)

思考は廻る。加速を続ける。だが答えは出ない、そう簡単に出せる訳がない。
ヒーローと言えど、未だ十代半ば。普段は高校に通う何の変哲もない、といえば語弊はあるかもしれないが、感性は年相応の高校生なのだから。
真実を語る気があるのか、そして彼女が一体何を成すつもりなのか――――今のレオには、何一つ理解が及んでいなかったが。
一つ言えることがあるとすれば、僅かな発破≠ウえあれば、彼は次の瞬間にでも動き始めるだろう。
ガキと言えど、彼はグランドマスター≠フ血を引くヒーロー≠ナあり、彼自身がそう在ろうとしているのだから。
68 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/16(金) 23:26:40.64 ID:inxOHekIo
>>67
現実とは、非常である。
青年の淡い願望は、砕かれた。
そうだ。私はこの街の、正義の、ヒーローの象徴“だった”。
今は、紛れもなくヴィランと認定された異能使いだ。

「私は何も変わっていないわ。
変わったのは、観られ方かしらね」

ふふっ、と笑いながら屋上の淵に立ち上がる。
複雑に捉えられ、誤解されるかもしれない。だが、それも面白そうだ。
若い感性に、期待をする。そして、一歩踏み出した。

足元から断続的に伝わる衝撃は、工場が稼働していることを伝えていた。
暗い夜を照らすのは、月明かりと街明かりだけであった。
そして、目の前にはただのアポロニア・ビッケンバーグがいた。

「さあ、あなたにはどう見えてるかしら?
私は、一体何者かしら?」

微笑みを絶やさず、歩み寄りながらに問を投げ続ける。
迷っている青年にとって、発破となるならこれは発破だ。
更なる迷いを生み出す難題となるならこれは難題だ。

さあ、迷え。

己のみが、答えを知っている。
69 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 23:54:38.67 ID:msESD/6bo
>>68

答えは誰も教えてくれない。そして少なくとも今のレオは、答えを知る段階には無い――――但し其処に辿り着くまでの欠片は、ばら撒いてくれた。
何も変わっていない、変わったとすればそれは彼女ではなく彼女を取り巻く環境だと。それが何を意味するのか、正確な所ははっきり言って分からない。
全ては推測、予想の域を出ることはないだろう。けれど考え、迷い、答えが出ないとしても思考を続ける。それもまたヒーローの条件であると、レオは思っている。

「…………るせェ」

考えろ。考えろ。考えろ。思考停止したがる弱い自分を殺し、今どうすべきかを考えろ。
変わったのは、観られ方。ならばヒーローとヴィランの違いはなんだ。辿り着けそうで届かない、もどかしさに心臓が苦しくなる。
思考は更に加速する。彼女はヴィランとして協会に認識されているが、かと言って今まで大規模な事件を引き起こした訳じゃあない――――少なくとも、レオが知る限りでは。
ヴィランは悪。人々に害を成すもの。縛られることを疎ましく考えた者。ならば彼女は、その定義に当て嵌まるのだろうか。
彼女が本当に変わっていないのだとしたら、レオの知る彼女は本当にヴィラン足り得るのだろうか――――否、そんな訳がないことは、考えるまでもなく分かっている。

だとしたら何故彼女がヴィランとなったのか。簡単だ――――協会≠ェ、彼女をヴィラン≠ノしたかったから。
ヴィランである最も分かりやすい条件が協会≠ノ敵対することである事を、レオは失念していた。だがもしそうであれば、納得はできないが理解は出来る。
彼女は何かを知った。或いは今の協会とは相反した考えを持った。だから協会を離反し、『大反乱』の騒ぎに乗じて姿を消したのではないか。
彼女が悪に堕ちたならば、その被害は想像もできない。それが起きていないのであれば、彼女が変わっていないという言葉の信憑性もゼロではない。

肝心の彼女が協会と敵対するキッカケになった物、そればかりはレオにも見当がつかなかった。
けれど分かるのは、彼女が悪に染まった訳ではないということ。いや、どちらかと言うとそれは分かったことではなく、信じたい事なのかもしれないが。
何方にせよ、それが正しいかどうかはともかく、彼女がレオの倒すべき敵≠ネのかどうか、それに辿り着くためのヒントは得た気がする。
もう二度と失いたくなくて、同じ気持ちを誰にも知って欲しくないから、彼は力を求めヒーローに焦がれた――――彼が倒すべき悪≠ヘ。
70 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/16(金) 23:54:52.07 ID:msESD/6bo
「アンタはヴィラン≠ナ、俺はヒーローだ…………だから俺は、アンタを倒す」

父は、最後まで偉大なヒーローだった。真のヒーローは遅れてやってくる? そんな馬鹿な妄言を、彼を前にして誰が言えるだろう。
最速≠フヒーロー。誰よりも速く現場に辿り着き、迅速に任務をこなすその姿を、レオは父が死ぬその時まで見続けた。
ヒーロー≠ネらば、ヴィラン≠ヘ倒す。それが任務であり、宿命だ。そうでなければならない、その図式が崩れた時正義は崩壊する。だが――――。

「そして、話してもらうぜ――――全部、何から何まで全部をよォ」
「そうでなきゃァ、何にも分かんねぇからな……俺ァまだ、何にも納得してないんだぜ」

ヒーロー≠ニしてヴィラン≠ナある彼女を倒し、レオ・ウィリアムズ≠ニしてアポロニア・ビッケンバーグ≠フ話を聞く。
答えを出した。それが正しいかは分からないが、それが今の自分に出せる最善の回答であると――――ゆっくりと拳を握り締め、異能を身体に奔らせる。
レオ・ウィリアムズの能力は『加速』の能力である。自分の肉体であれば、あらゆる速度を上昇させることが出来るというシンプルな能力。
相手が女だから手出しはしない、だなんてフェミニズムを発揮するつもりは毛頭ない。むしろ戦力差で言えば象と蟻、いくら警戒してもし足りないぐらいだ。
けれど、倒す。そう決めた。ならば後は、一歩前に踏み出すだけ――――そしてレオは、その一歩を躊躇いなく踏み出した。

加速により距離を詰め、相手の腹部目掛けて右拳を放とうとする。加速能力の持ち主だけあって、一連の動作は常人であれば追うのが精一杯な程度には速い。
だが速いだけだ。レオとアポロニアでは、潜ってきた修羅場が違う。踏んできた場数が違いすぎる。地力に差が有りすぎる。
捉える事、そして反応すること。共に容易だろう。如何なる対処も可能な筈だ。ディヴィジョンXと旧ディヴィジョンTでは、それ程迄の差が存在する。
けれどレオの動作に、躊躇はなかった。恐れはあれど、それを上回る覚悟があった。
簡単な話である。彼の中で答えが出たから、悩むことはあっても迷うことはない――――彼が倒すべき悪≠ヘ、此の場に存在しないから。
71 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/17(土) 00:25:48.30 ID:e4ZJTfnUo
>>69-70
若者の思考を、思考する様を嬉しく思い見る。
そうだ。考えろ。ヒーローたるもの、結論は己の手で導き出せ。
“己の心”にのみ、従え。

“与えられた答え”に、満足するな。


「そう……――――合格よ」

ああ、嬉しい。
これだから、ヒーローというものは――――

たまらなく、愛おしい

“影”が、アポロニアの体を包む。
刹那の闇。それが晴れれば彼女は“ヴィラン”となっていた。
漆黒の軍服めいたコスチューム。黒き槍。
ヒーローの時は白かったそれらを纏い、真正面から目の前の“ヒーロー”に立ちはだかる。
背後には、月。黒き装束は月すら隠す闇となっていた。

「―――私がヴィランとして得た称号は、『常闇』
さあ、若いヒーローさん。私を――――――」


晴らしてみなさい


直線的な軌道。引かれる拳。それぐらいは、見えていた。
いくら速いと言えど、それは所詮は“人体の構造で出せる限りの速さ”でしかない。

「――――『串刺・真影槍』」

拳は、止められる。
二つの交差した槍に激突して、止められる。
それらは、黒かった。アポロニアの影から、生えていた。
月光によって僅かに作られた影。そこから黒き槍が二本、生えてきたのだ。

アポロニアの黒き槍を持った右腕が上がる。
その右手は、槍を長く持っていて――
風を切って、横凪に一閃。
肩のあたりを狙い、穂先を殴りつける。
切り裂き、血を流させるような持ち方ではなかった。
72 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/17(土) 00:46:55.16 ID:ZPO12vSwo
>>71

所詮彼の速度は直線的な物でしかなく、あくまで速度に目が適応出来るのであれば次の動作を予測することはそう難しいことではない。
故に、当然止められる。拳は硬い何かに激突し、彼女に届くことなく遮られた。影から生えるように出現した二本の槍、拳を受け止めた物の正体を認識した時には攻撃が迫っており。
横薙ぎに振るわれた黒槍は、レオの肩を強く殴打する。鈍い痛みが滞留し、弾かれそうになる身体を踏み止まることで強引に持ち直す。

「ってェ……ッ」

ただ速いだけでは届かない。そもそも今の自分が敵う相手じゃあない。それは理解している。してしまっている。
だから攻めあぐねているのだ。全力を出し切ってなお届かないというのに、勝てないと分かっているから全力を出し切れない悪循環。
そんな自分に怒りを覚える。勝てないから、端から諦めている。詰まるところ無意識のうちに、彼はそんな選択をしてしまっているのだ。

何が足りない? 変にクールぶって、冷静と諦観を混同させている時点で、足りないものしかないだろうが。
じゃあここからどうするよ。あんだけの啖呵切っといて、やっぱ敵いませんって泣き言垂れて逃げ帰るか?
馬鹿言えよ、そんなの絶対有り得ない。そんなもんプライドが許すはずがない。そんな事するぐらいなら、冗談抜きで死んだほうがマシってものだ。
だったらどうするよ。足りない頭で幾ら考えた所で、埋まるような差じゃあない。策や気合でひっくり返せるのなんて、結局のところ実力がある程度拮抗している状態じゃなけりゃ有り得ない。
あァ、もう――――どうするどうするうるせぇな。どうもしねぇ、言ったとおり倒すだけだろ。
其れに出来ることなんて、最初っから一つしかない。求めてるものだって、一つしかなかったはずだ――――どんな差があろうと、んなもん全部速度≠ナ埋め尽くしてやる。

「 手 加 減 し て ん じ ゃ ね ェ ッ !!」

目を見開く。レオの能力の速度上限は最大で瞬間移動≠ニ同速、後先考えなければ人間の限界等遥か彼方に置き去りにすることも十分に可能だ。
シンプルで出来ることがたったひとつだからこそ、その一つにかけては他の追随を許さない――――それが速度特化であり、自称最速≠フ彼の矜持である。
槍が振るわれた直後の刹那の時間、彼の思考は常人とは比較にならない様な速度で回転させ、次の行動を選び取った。
即ち、更なる加速≠。最初からそれしかないし、そもそもそれしか求めていない。ならば選ぶべき道はこれだけしかないと、確信すら抱く。
レオの攻撃は徒手空拳のみ、攻撃を当てるならば槍の間合いを乗り越えて近付く必要がある。ならば多少のダメージ、いや死ぬぐらいの覚悟は最低限必要だ。
覚悟を決める時間は必要か。いいや、いらない。ヒーロになったそのときに、多分それは済ませてきた。
そして彼は殴打直後、生えてきた槍を蹴りで強引に薙ぎ払い更に近づこうとするだろう。そして近付けたならば、人間の限界を超越≠オた速度で頭に向けてハイキックを繰り出そうとする。
常人が当たれば即死の威力、けれどヒーローにとっては致命的ですらないだろし、彼女であれば尚更だ。当たった所で、大したダメージにもならない――――そもそも、見えているだろうからどうにでも出来る。
73 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/17(土) 01:11:26.96 ID:e4ZJTfnUo
>>72
彼の行動は、確かに速い。
きっと、これこそが彼の持つ“力”なのであろう。
なるほど、応用性に富んだいい力だ。だけど――

「ただ速いだけじゃ、ダメ。
軌道が見切れてしまうようじゃせっかくの速さも無駄よ」

その意志力に拍手。そうだ、諦めるな。
敵は、こうして立ち続けている。
ヒーローならば、どうする?

彼の目が、見開かれた。
影から生えた槍が、薙ぎ払われて消滅した。
見えたのは、動き始めだけだった。
対応できたのは、きっと経験故であった。
レオが蹴ったのは、顔ではない。
それを阻むように差し込まれた、左手。

「――いいのね?
『略奪・真影槍』」

右手の槍が消え、現れる。
今度は短く持たれたそれは、腹部へと真っすぐに突き出される。
それも、へその辺り――正中線を、射抜くように。

その槍に刺されても、“何も感じない”だろう。
ただ、“見えなくなる”だけ。
刺されたら、暗黒の中で。避けれれば、笑顔を拝しながらにその言葉を聞けよう。

「さっきの一撃、なかなかね。私でも途中から見えなかったわよ?」
74 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/17(土) 01:32:07.26 ID:ZPO12vSwo
>>73

手応え。だが明らかに狙った部位から受ける感触じゃあ無い――――手。受け止められたと気が付くのに、僅かの隙。
そもそもがハイキック自体が必殺を狙う隙の多い技、それでも彼が此の技を使おうと思ったのは、速度に限って言えば自分は彼女を上回っていると信じたからだ。
移動速度ではなく、あらゆる速度の加速が可能。ならば攻撃速度も必然的に速く出来る。事実として、先程は届くことさえ叶わなかったが、今回は届いた。

「答えるまでもねぇ……ッ!!」

全力を出さずとも倒せる相手だと、そう認識されて然るべき実力差がある。それでも手を抜かれるぐらいなら、瞬殺されたほうがまだマシだ。
手加減なんてものは、プライドを逆撫でする行為の筆頭である。元が不良上がり、余計に矜持を意識して生きてきた彼からすればこれ以上の侮辱行為も無い。
そしてレオは彼女の全力の一端を前に、後悔こそしなかったものの思い知る事となる――――認識以上に、壁は巨大で厚い事を。

「な――――ッ!?」

攻撃直後に生じた隙を的確に貫く様に、いつの間にか彼女の右手に握られていた先程とは別の槍が、レオの腹部を穿つ。
だが痛みはない。刺されたという感覚が欠片も感じられない。ダメージというダメージが無い――――そして違和感に気付いたのは、その直後だった。
見えない。目の前に広がる暗闇、決して世界から明かりが消えたのではなく、レオの視力が機能しなくなったのだ。
人間が外部から得る情報、その大半を視覚に頼っている。レオも例外ではなく、際立って聴覚や嗅覚が優れている訳じゃない為、当然のように視覚情報に寄りかかっていた。
それが、完全に途絶えた。動揺、恐怖、混乱、一挙に押し寄せてくる負の感情を止める術はなく、光彩を失った瞳はただただ見開かれるばかりだった。
目が見えなければどうしようもない。此の時点で敗北は確定した。後は良いように嬲られて終わり――――なんて結末を、受け入れられるレオではない。

「 舐 め る な ァ ッ !!」

ハイキックを受け止めていた左手、視覚は奪われたが触覚は生きていた。むしろ喜ぶべきだろう、奪われたのが視覚で良かったと。
触覚を奪われていたら、立っていることさえ出来なかったかもしれない。だが目は見えなくても、まだ彼女の場所は把握出来ている。
それにレオは初めからハイキックから、連撃を繋げるつもりでいた――――負の感情が心を蝕む前に、レオは次なる攻撃を放つ。
軽い跳躍からの回転蹴り、本来ならば流れるような動作でハイキックから繋げる筈だった技であり、威力で言えばハイキックをも上回る。
文字通り闇雲に放たれた一撃、速さはむしろ増していたが、狙いは先程まで彼女が居た場所という強引さであり、アポロニアが少しでも動いていればレオの攻撃は掠ることすら無いだろう。
そしてこの廻し蹴りを繰り出した後には、これ以上無いほどの隙が生まれる。目が見えないのだから、幾ら警戒した所で彼女の攻撃は防げない。
視力を奪われた時点で、勝敗は決した――――後はトドメを刺されるだけ。これは彼の、ほんの小さな悪足掻きなのだ。
75 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/17(土) 09:53:55.17 ID:e4ZJTfnUo
>>74
光を奪われた瞳。そこに訪れる感情をアポロニアは見ていた。
怖かろう。分からなかろう。だが、
立ち上がれる。そうでしょう?

「そうよ。私はここにいる。ここにいるわよ」

なるほど、安心した。
彼はまだまだ未熟だ。戦闘経験も少ない。
だが、ヒーローとして必要なものは持っている。
きっと彼なら、なれるだろう。――――

一歩。たった一歩体を後ろにずらす。
たったそれだけ。それだけで彼の悪あがきをアポロニアは避けてみせる。
だが、一つだけ誤算があった。
それは―――

「今、私の前髪を蹴ったわよ」

そう、ダメージにこそなっていないが一打一打はしっかりと体の一部へと届いているのだ。
防御のための手、次は髪。どんどん有効打へと近づいているのだ。
彼女には、それがうれしくてたまらない。

「これで終わりにしてあげる。
―――『飛翔・虚光槍』」

右手には槍はない。ならば、攻撃は――
できる。彼女の周りには五本の槍が漂っていた。
光があるから影ができる。ならば、影があれば光もある。
そんな逆説で形作られた光。
くだらない由来に反し、その威力は確かなものであった。

威力こそ加減はしてあるが、威力以外は掛け値なしの全力の一撃。
ヒーローを挫くための一撃であった。

光の一撃の後、僅かな音を聴きとれたなら上出来であろう。
なぜなら、この音は
敵に聞かれてはならない、音なのだから。

「―――ゴホッ」
76 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/17(土) 20:21:38.23 ID:ZPO12vSwo
>>75

前髪を蹴った、彼女に言われて初めて気が付く。感覚が鋭い訳ではないため、流石に髪を蹴った感触までは感じることが出来なかった。
届いたのかもしれない。だが掛け値無しの足掻きすらダメージは通らず、レオの抵抗手段はここで尽きる事となった。
元が勝ち目のない戦い、予想通りといえば予想通りの結末――――だからこそ、歯痒く。

「クソォ――――ッ!!」

それでもまだ立っている。意識がある。目が見えずとも、前に進む足は残されている。目が駄目ならば耳と鼻だ、感覚を無理矢理にでも研ぎ澄ませ。
だが普段からそのような訓練をしても居ないのに、都合良く相手の位置を完全に特定出来る様な技術が扱えるわけもなく。
大雑把に振り被り放った拳は、明後日の方向に向けられ虚空を彷徨う事となった――――そして閃光の撃槍が、無慈悲にもレオへ飛来する。
躱せない。どのような物が飛んできているのか、大きさは如何程で速度はどれだけなのか。目がなければ、それすらも把握出来ないのだから。

「ガッ――――ハァ………ッ!?」

あえなく五つの槍はレオを貫く。致死量のダメージではなかったが、軽々と吹き飛ばされた身体にもはや立ち上がるだけの力は残されていなかった。
だが、よく見れば――――一発だけ、直撃を免れた様にも見えた。当たったことに代わりはない、だが他に比べて明らかに傷が浅い。
嗅覚と聴覚、それから流動する風を感じる触覚。何よりも大きかったのは勘≠セろうが、それでも見えずとも最後の最後まで彼は抵抗した。
それがほんの小さなものであったとしても、それが今の彼の全力であり――――そして、意識を失いかける寸前に、確かにその音を聞いた。

「…………っ」

普段であれば、聞き取れなかっただろう。視覚を奪われ、耳に意識を向けていたからこそ、衝撃音の中に混じるその音を彼は捉えた。
なんてことのない咳のような物、けれど医学に疎い彼でも分かる様な、間違いなく危険な類の病にかかっていることを連想させる音だった。
しかし何かを考えるほどの時間は彼に残されておらず、そこで意識がプツリと途切れてしまう――――だが最後に、ふと思い出した。
そう言えば彼女には、妹が居たはずだ。もし彼女がアポロニアを探していたとしたら、今日の事は伝えなければいけないのではないか、と。
だが検討する前に、レオの意識は掻き消えた。それとほぼ同時ぐらいに、屋上に新たな人影が現れるだろう。
本来彼女の対応をする筈だった、高ランクのヒーローである。それなりの時間が経過していたが、ようやくお出ましと言う訳だ。
彼をどうするかは、彼女次第だ。高ランクであり実力もそれなりにあるが、倒すのに手間はかからないだろう。
そのまま逃げるも良し、適当にあしらうも良し――――既に役者は落ちたのだから、後に残るのは有象無象でしかなく。
77 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/17(土) 21:13:07.80 ID:e4ZJTfnUo
>>76
風が、吹いた。

意識が続く限り、どのような状態でも攻撃を続けた彼ももう動いていない。
最後の咳は、聞かれていなければ嬉しい。
アポロニア・ビッケンバーグは、まだヒーローの頂点にいるのだから。自分は全ヒーローにとって越えねばならない壁であらねばならないのだから。
今はまだ、まだダメなのだ。

「――遅かったわね。けど、今はおやすみなさい」

『略奪・真影槍』

小さく呟きながら、現れた高ランクヒーローへと距離を詰める。
右手に槍が現れると同時、それを現れたヒーローへと突き出す。
ヒーローの光は奪われ、闇の中惑う。
アポロニアはそのまますれ違い、闇夜へ消える。
連戦は避けたい。咳が出てしまうから。

まだだ、まだ斃れるわけにはいかない。
まだ、若きヒーローたちに種を植え付けられていない。
まだ、答えが出せていない。
まだ、こんな自分にも役目がある。
78 :レオ・ウィリアムズ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/17(土) 21:23:51.37 ID:ZPO12vSwo
>>77

高ランクヒーローは抵抗する間もなく闇へと落ちた。そして視力が回復したときには彼女はおらず、倒れる若いヒーローだけがその場に居た。
はっきり言って、到着したばかりの彼には状況が掴めなかった。だがヴィランを追おうにも何方に逃げたのかすら分からず。
何より目の前にボロボロのヒーローがいるのだから、放っておく訳にもいかないだろう。どうやら息はあるようだし、今なら病院に担ぎ込めば命に別状はない。

そして若きヒーローことレオ・ウィリアムズが意識を取り戻した時、広がっていた光景はある意味見慣れた物だった。
病院である。つい先日の戦闘に続き、再び病院送りにされたというわけだ。情けないにも程がある。悔しさに頭痛すら覚えた。
唸っていると、意識を取り戻したと聞いた職員がすっ飛んできた。何事かと思えば、勝手に抜け出したことに対する説教らしい。
いよいよ持って頭痛が酷くなってきた頃、彼のもとに更に面倒な連絡が送られてきている事に気が付く。

携帯端末にあるメッセージには、勝手に高難易度の任務に乗り込んだことに対する文句と罰が綴られていた。
こうして彼が稼いでいた僅かなランクアップのためのポイントは、全てパーとなってしまった。まあ否はレオにあるのだから、何も言えないのだが。
負けたこと。怒られたこと。ランクアップが遠のいたこと。レオはため息を付きながら、窓の外を見る。
さっさと治して、鍛え直そう。悔しさに張り裂けそうになる胸を抑えつけ、レオはベッドに身体を沈めた。

//これで〆で……絡み乙でした!
79 :十代目・林原十右衛門[sage]:2016/09/18(日) 00:43:38.42 ID:zmDWwOAm0

雲のまばらな、月夜の晩。
十五夜は過ぎたものの、未だその美しさの名残を残す月が街を見下ろす頃。

「お〜ぅおう、やっぱこの季節に高いところから見る景色は絶景だねぇ〜」

その街の何処かの高層ビルの屋上に、からりころりと不釣り合いな下駄の音が鳴る。
月夜の明かりが照らし出すのは、赤や黄色といった鮮やかな色がふんだんに使われている、『和』の情緒を漂わせている衣装を纏った一つの人影。
その顔は街の方を見つめ、ビルの方からはその表情をうかがう事は出来ないだろう......

「......さぁて、悪い子はどこだぁ?」

然し、表情を見る事はなくとも、何処となくギラギラとした雰囲気を感じることは出来るだろう。

今宵、英雄と悪徳が蔓延る街を見つめるこの者が出くわすのは、果たして?



80 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/18(日) 00:58:30.43 ID:YaAYOlGa0
>>79

「さて―――――お前がどうやって『E2を外したのか』なんて野暮なことは聞かねぇよ。」
「お前程度の情報ではクソの役にも立たん上に、聞いているだけで不快になる。」

悲鳴。押し殺したような――いや、無理矢理に『押し殺させている』様な音が、月明かりに僅かに響く。
ビルの屋上に陣取る青年? がその声に気づくかどうかはわからない。恐らくは気付くだろうが、彼にはそんなことはどうだってよかった。
そもそも、近くにかの『十代目』が要るというのであれば、目の前の低ランクヒーローに――何故かE2が外されていたため手配となった――にかまっている時間などない。
ましてや、自身の不快感を発散させるようにしてじっくりと傷めつける等。無為で無駄で無意味な時間を使おうとするわけがない。

「罪状は一つ。『協会への反乱行為』。」
「楽に逝けると思うな? この俺が手ずから、無意味に、無慈悲に、無感動に時間をかけて殺してやる。」

右手に生成するのは紅い線が歪に引かれたような外見をする一本の杭であった。
彼の持つ能力『リベリオンダウン』によって生成された物理的干渉能力を持つ先端が尖ったそれを、ゆっくりと低ランクヒーローへと近づけていく。
じっくり、じわり。淡々と、されど遊び心を忘れること無く。寧ろ彼自身は退屈そうで、何故か『光の杭が刺さり、血も流さずに這い蹲っている』男は涙を流す。


「――――何泣いてんだ? 笑えよ。」

眼球付近に近づけられた杭。叫ぼうとするも、声帯がまるで押し潰されたかのようにくぐもった音だけが外に響く。
このまま誰も来なければ、反逆の意思を見せたとしてこのヒーローは処断されるだろう。無慈悲に、無価値であるとして。
だが、此処は正義が闊歩する町『クレイドル』である。正義感を持つ『ヒーロー』が、その正義感のままに『助けに入った』としても

――――なんら不思議はない。
81 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/18(日) 01:05:49.09 ID:YaAYOlGa0
>>80
//光ってない光ってない。
//黒色の杭です。非物理の方です申し訳ない。
82 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY[sage]:2016/09/18(日) 01:28:10.87 ID:zmDWwOAm0
>>80

「むぅ......?」

風に乗って微かに聞こえる悲鳴。
それは即ち、この者にとっての舞台がそこにあり、更に『英雄』として舞うことを望むものがいる証に他ならない。
微かな笑みを浮かべるが、それを見る者は誰もいないだろう。

「では......参ろうか!」

よく通る声とともに取り出したのは、1枚の長い鼻と、鮮やかな朱色_____所謂天狗_____の仮面。
それをゆっくりと顔へ持って行ったその瞬間、この者の纏う雰囲気はガラリと変わり、そして________________


「イヤァァァァァァァァァッッ!」


_______背中からの一対の漆黒の翼と共に、空中へ身を躍らせた。
ビルの合間を縫う風の如く、赤い仮面のこの者は『舞台』へと急ぐ。
そして、からりという下駄の音と共に、『観客』の元へとたどり着く。

「......おいおいおい、何があったかは知らねぇがよ、こんな綺麗な月夜の晩にやる事としちゃぁ、無作法と無粋が過ぎやせんかい?」

83 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/18(日) 01:45:03.73 ID:YaAYOlGa0
>>82

「―――――なんだ?」

即座に杭を動かす手を停止。E2による五感への誤作動ではない事を確認すると、即座に気配を感じた方へと振り向く。
ヒーローという役職上、不意打ちや闇討ちには慣れている。だが、それにしては振り向いた瞬間の気配の揺らぎがなく、寧ろ此方にかけられた声は案外緩いもの。
声色こそ不明だが、恐らくこの光景を歓迎しているのではないだろう――それはセリフを聞いても明らかだ。ならば、眼前のメンを被った人間は一体何者なのか?

「……『旧時代の異物』が、こんな所で何してやがる?」
「無意味に、無価値なコイツを助けに来たってか? そうだよな、理解してるぜ『七代目』。」


「――いや、『十代目』だったか? そんなことはどうでもいい。」

這い蹲ったままの男を蹴り飛ばし、退屈そうな顔に少しだけ笑みを浮かべると、彼は知り合いに出会ったかのような気軽さを持って話しかける。
教会の資料に存在する『違法ヒーロー』。即ち『ヴィラン』。彼にとっては何方も同じで、協会に照会を頼む必要もなく――それが『ヒーロー』だということは理解できた。
だからこそ、彼はすこしばかり饒舌になる。嫌いなものを見ればそれを嫌う理由をペラペラと喋り出すように、何かしら言葉を発していないと『爆発してしまう』。

ヴィランを殺せという自身の中の絶対の正義が、そのままに溢れだしてしまいそうになる――――という想像。無意味だ。そんなこと『あるわけがない』。
不快にはなる。だがただそれだけだ。相手がどんな存在であれ、協会に登録されていない存在であるという以上は殺すことが彼の正義に最も沿う形であり、正しいことである。

――此処で既に彼は相手をクロだと断定しているが、明確な証拠など何処にもない。
見ただけで相手を理解できるなど狂気の沙汰だ。観察眼に優れたヒーローならばそれができるかもしれないが、彼にそんなものはない。

本来ならば協会の照会を得なければE2を所持しているかの把握などは到底不可能である。もしそれができてしまうのならば、この町に潜む悪党どもはたちどころに殲滅されてしまうだろう。
これは一方的で偏見の溢れた完全なる決め付けであり、面を被った人物――『ヒーロー』にも理解が及ぶかどうかはわからない。少なくとも、彼が普通の『ヒーロー』ではないことは確かだ。


「……間違ってたか? 間違ってないか?」

「どうでもいいが、取り敢えず死んでおけ。」

手の持っていた紅杭を、仮面の人間の要る場所に投擲する。速度はそれほどといった所で、手の力によって投げられているため威力も低い。
剣聖にもならない、嫌いな奴がいたから取り敢えず手に握っていた砂を投げつけて見るような。他愛のない戯れである。

もし仮にあたったとしても、すこしばかり刺さっていたいだけ。当たれば、の話であるが……。
84 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY2016/09/18(日) 02:39:06.43 ID:zmDWwOAm0
>>83

「何、って......悲鳴が聞こえたから、悪党かと思って助けに来たってだけだ、いけねえか?」

その声色は、悪びれる様子など全くなく、ある種の悠然ささえ感じさせる代物だ。

「どうでもいい、ってそりゃないよ!役者として十代、英雄と呼ばれて七代だ!」
「そいつが無意味で無価値かは正直知ったこっちゃねえが、悲鳴が聞こえても知らんぷりってんじゃあ英雄の名が廃る、ってもんだろう?」

目の前の『グランドマスター』_____この街における最高の英雄とされる者______へ向け、蕩蕩と語る仮面の英雄。
その内容が皮肉めいているのを、狙ったのかはたまた天然であるかは、何一つ変わらぬ声色から読み取ることは難しいだろう。

「すまんが死ぬわけにはいかねぇなぁ、明日も芝居の稽古があるんだ。だがまあ、折角の観客もいるんだ、こちとらちょっとばかしなら付き合ってやってもいいが......」

喋っている間に迫る、1本の紅の杭。
それは、何処からともなく取り出された鉄扇、もとい「真打の小道具」に弾かれ、金属質な音を立てて地面に転がった。

「......答えてもらう必要は、ねえみたえだなぁ」

そう呟き、仮面越しにこの街の英雄の中の英雄、ユスティースを睨む。

「覚えてねえなら申上げて進ぜよう!
役者として十代、英雄として七代!林原一門十代目当主林原十右衛門、推して参る!」

慣れた様子の口上を述べ終えると、先ほど杭を防いだ鉄扇をユスティースへ向け扇ぐ。
そうすれば、忽ち強烈な風と、幾つかの風の刃、鎌鼬がユスティースへ向け飛んで行く。
無論グランドマスター級に、この程度の正面攻撃が通用するとは思っていない。
あくまで小手調と、牽制の意味を込めた一撃だ。
85 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/18(日) 03:01:36.15 ID:YaAYOlGa0
>>84

皮肉。それに反応するとすれば、少しばかり眉が動く程度だろう。英雄、の言葉に対して僅かばかりの反応を示したに過ぎない。
内容を聞くことすら不要。悪の言葉に耳を傾けるとあれば、それこそ悪に相違ない。ならば、すべての言葉は『無価値』と等価だ。

「『英雄』? 違うだろう。何を言ってる。」

英雄だなんてバカバカしい。それがどういうものかを『理解できてから口に出せ』と、続けるようにして彼は言う。
言葉は不要だ。意味が無い。行動も不要だ。そのまま死ね。考えることもなく、その言葉を口に出した以上、『死』以外に道はない。
正義を失った英雄など英雄として存在しない。この世界に存在する『法』に触れている時点で、英雄という概念は崩壊している。
ならば、正さなければならない。自身の正義を持って。

「お前は『E2』を付けていない。そして『英雄的行動』をとった。そういうことだろう?」
「ならばそれは違法行為だ――――我々『協会』の定義した『違法ヒーロー』に抵触する。」


「英雄として七代? 全くもって『無意味』な名乗りだ。」

「―――― お 前 は 只 の 犯 罪 者 だ ろ う が 。」

少しばかり屈んで何かを掴み、それを力に任せて無理矢理前方に突き出す。僅かに困惑したような気配を出す『低ランクヒーロー』を蹴り飛ばして、自身の前方へと蹴りだした。
つまるところ、彼が咲きほどまで殺害しようとしていた対象であり、ヒーローが助けに来た相手でもある男。それを攻撃に対する盾として利用し、あまつさえその攻撃でそのまま死んでしまえというように、思い切り前へ弾き飛ばす。
正面攻撃を盾を展開して防ぐのは定石である。他にも回避等の行動を起こすことも可能であったが、彼はあえて人間という名の盾を使うことを選択し、優先した。此処からも、彼の普段の思考がかいま見える。
せめて盾になって正義のために死ね。呟くのは心のなかでだが、男にもそれは聞こえているかもしれないし、聞こえていないかもしれない。とにかく、彼は肉の盾を使って鎌鼬を防ごうとするだろう。

即座に展開するのは黒の杭。月の明かりに照らされてぬるりと光る円錐状をしたそれは、盾によって前方に出された人間の合間を縫って二本が出現と同時に射出される。
狙いは乱雑で、恐らく当たるとしても手足、若しくは胴といった比較的致命傷にはならない部位。加えて、その杭は刺さってもまるで痛みを感じること無く、ただ『急激に自身の重量が増す』以外はこれといった負傷もない。
重量としては、体に違和感を感じ始める程度の其処まで大きなものではないが、だからといってあたってしまえば間違いなく障害となる。このまま盾を切り裂くようにして鎌鼬を繰り出せば、そのまま切り払うことも可能だろう。

――――ヒーローにそれができれば、の話であるが。
86 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/18(日) 22:39:38.56 ID:NV7d9/U6O
腹が立つから喧嘩を売ってムカつくからぶん殴る。金が無いから怒鳴りあげて、生きる為に盗みを働く。
真面に働くと言う選択肢なんざそもさ無い。真面に勉強もしてなければ、ストレスに耐える忍耐も無い。
それでも懐の大きい親父や、兄貴、母親の愛なんであれば多少とて真っ当に育ったと思うが、それも無い

こんな身体じゃ仕方ねぇよな。と彼は苦虫をすり潰すような笑みを浮かべる。

「アァ?笑ってんじゃねーよてメェ。ザケンじゃねーよてメェ。舐めてんのか?舐めてんだろ、アァ?」

ぐ、ぐ、ぐ。と首に巻き付けた指を締め上げる。
カフ、と潰れた蛙の様な悲鳴を零して茶髪のチンピラはその顔を真っ青にして口から泡を零し出した。

「誰のシマでショーバイしてんの?俺っちの場所よこの路地は舐めてんだろ。舐めてるヨナ?馬鹿野郎この野郎」

いや、そもそも能力を持っていようがいまいが、己の性質は変わらない。粗暴でヤクザ人生楽しけりゃそれまで良し。まぁ今はちょー腹たってるんだが

月明かりも差し込まぬ路地裏。点滅する街灯の下で浮かび上がるは異形な影だ。
紐の様に伸びた五本の指で、茶髪のチンピラの四肢を縛りて首を締め上げ、怒鳴り声で馬鹿にする。
それは同じくチンピラで汚い金髪で丸いグラサンを掛けた、いわゆる小悪党と云うものだ

「おらー、ちゃっちゃ売上のあり方吐けよ。俺もさー殺しってのはいやなんですよネ。ほれほれ、ほれ」

ぐ、ぐ、ぐ
87 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/18(日) 22:51:00.99 ID:NV7d9/U6O
>>86
腹が立つから喧嘩を売ってムカつくからぶん殴る。金が無いから怒鳴りあげて、生きる為に盗みを働く。
真面に働くと言う選択肢なんざそもさ無い。真面に勉強もしてなければ、ストレスに耐える忍耐も無い。
それでも懐の大きい親父や、兄貴、母親の愛なんであれば多少とて真っ当に育ったと思うが、それも無い

こんな身体じゃ仕方ねぇよな。と彼は苦虫をすり潰すような笑みを浮かべる。

「アァ?笑ってんじゃねーよてメェ。ザケンじゃねーよてメェ。舐めてんのか?舐めてんだろ、アァ?」

ぐ、ぐ、ぐ。と首に巻き付けた指を締め上げる。自分の笑い顔に釣られて笑った馬鹿にせーさい
カフ、と潰れた蛙の様な悲鳴を零して茶髪のチンピラはその顔を真っ青にして口から泡を零し出した。

「誰のシマでショーバイしてんの?俺っちの場所よこの路地は舐めてんだろ。舐めてるヨナ?馬鹿野郎この野郎」

いや、そもそも能力を持っていようがいまいが、己の性質は変わらない。粗暴でヤクザ人生楽しけりゃそれまで良し。まぁ今はちょー腹たってるんだが

月明かりも差し込まぬ路地裏。点滅する街灯の下で浮かび上がるは異形な影だ。
紐の様に伸びた五本の指で、茶髪のチンピラの四肢を縛りて首を締め上げ、怒鳴り声で馬鹿にする。
それは同じくチンピラで汚い金髪で丸いグラサンを掛けた、いわゆる小悪党と云うものだ

「おらー、ちゃっちゃ売上のあり方吐けよ。俺もさー殺しってのはいやなんですよネ。ほれほれ、ほれ」

ぐ、ぐ、ぐ

/読み直してみるとちょっと分かり辛かったのでちょっと訂正。とりあえず締め上げてるのがジョンです!
88 :Dr.プロメテウス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/18(日) 23:23:20.86 ID:xfBoEt6s0
【アーストン市内 / 考古学博物館】

その夜、テレック古代史博物館は、既に観覧客が居る時間ではないにも拘わらず騒然としていた。
秋季の開会を準備中だった「砂漠文明の驚異展」の目玉展示品が、よりによってヒーロー協会から派遣された警備員……に化けた何者かによって盗み出されたのだ。
しかも化けられた本人は館内用のIDカードを奪われた挙句、気絶して戦線を離脱してしまっている。

――おっと。先ほど「何者か」と言ったが、この表現は正直なところ適切ではない。
何故ならこの博物館は5日前からすでに、ある人物からの手紙によって厳戒態勢に突入していたからだ。
わざわざ挑戦状を送ってターゲットの神経を逆撫でし、ヒーロー協会の勇士を呼び寄せてからの窃盗を好き好んで行う酔狂人。
そんなヤツは、アーストン広しと言えども一人しか居ない。

【同 屋上】

そこには既に、路地裏の壁にいたずら書きされたグラフィティを思わせるパンクな書体で、犯人の名前がサインされていた。
七色の絵の具で記されるは、『Iris, the Iridescent Thief』――虹色怪盗、アイリス。

「あははっ。ヒーローが信頼されてるのは良いことだよねえ。お陰でとっても助かった」

夜風にマントをはためかせながら、そいつは居た。舞踏用の仮面で目元を格下、桜色の髪の少女。サイケデリックな七色の絵の具に染まった巨大な筆も見間違えようがない。
アイリスといえば壁抜け。そんな固定観念を逆用したある種の正攻法で、彼女はまんまと今回の目的を果たしている。

彼女の足下に横たわっているのは、豪奢な装飾が施された金色の――――棺。
確かに「砂漠文明の驚異展」を彩る予定の、古の王妃のミイラの揺り籠であった。
89 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/18(日) 23:24:07.90 ID:xfBoEt6s0
/名前ェ
90 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/19(月) 00:01:50.96 ID:PvrSzwNM0
>>88
病院から退院し、ようやくヒーロー稼業を開始出来る様になったオレに
舞い降りた初仕事は「博物館の警護」だった。

『虹色怪盗アイリス』
堂々と犯行予告状を送り付け汚職政治家やマフィアといった、世間から悪党と言われる連中からお宝を盗み出す…
所謂義賊というべきなのだろうか?
悪党から宝を盗み人を[ピーーー]事はしない、というスタンスからか一部には彼女のファンと呼ばれる物もあるそうで。
アイリスちゃんぺろぺろなんて書き込みがあるのをこの前便所で見つけた。きめぇ。

閑話休題、とにかく彼女を捕える事、或いはお宝を盗まれない様にする事が今回のオレの仕事。
先輩ヒーローや警察の皆さんは神経張りつめて見張っているけど、こういう類の怪盗って
大抵は下手に人数を割いてお宝を守るより『逃がさない』って事を主軸に置いた方がいいと思う訳よ。
ル●ン三世全巻持ってるからわかる。

オレも何度かアイリスの事は見た事あるけど、彼女はとにかくファンサービスっていうか
目立ちたがりな所がある。…この前見たゴスロリといい、この町の女って変なのが多いな。

これまで何度も警察やヒーローの手を掻い潜ってきた彼女の事だ。
大方オレがあくせくした所でとっくにお宝を盗む算段はついてて実行してる頃だ。

そして自己主張が強い彼女は何かしら自分の証というか、トレードマークの名前をどこかに刻む筈。
一番目立って且つ、逃走しやすい場所は……屋上!!

下の階層でバタバタとしている先輩方を無視して、髪の毛を窓枠に引っかけて、博物館の屋上へと
登ってみたら……

「げ」

………やばい。ドンピシャだった。やべぇ。目も合ってる。
足元に棺発見!はい本人ですちくしょう。
あっれー?ここだと思ったんだけどやっぱり違ったやー。てへっ☆
って感じで適当に働いたアピールするつもりだったのに。
落ち着け。オレはシリアスも出来る男。前回もなんだかんだでやれたんだし今回も出来る筈!

ここはビシッとヒーローらしく!

「そりゃ良かった。ヒーローってのは信頼が第一だからな。」

「だが、そのヒーローの信頼ってのは先輩方の血と汗と涙の賜物なんだ。
オレはヒーローとしてはまだまだ下っ端だけどそれ位はわかる。」

「返して貰うぜ。あんたの足元のミイラのベットと、信頼ってものをな!」

ビシッと決め台詞を言ってる最中にも、アイリスからは見えない角度で背中から足元へ、
そしてビルの壁へと髪の毛を伸ばし展開していく。
これで多少は地の利を得られるはずだ。

「名乗らせてもらおう!千の頭を持つヒーロー『インフィニティ・ヘッド』!
警察からは逃げられてもオレの髪は、お前を決して逃しはしない!!」ビシィッ

あ、やばい。言っててなんか変な方向にイッちゃった気がする。


91 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/19(月) 00:46:39.67 ID:eCTsVkqf0
>>90

ヒーローの姿を認めると、アイリスは棺を三段になった屋根の頂上に安置し、カミューの側へと降りてきた。
それはすなわち、彼女が即座の逃走を諦め迎撃戦闘を行う心づもりであることを意味する。

「おや。身分証は空を飛べる子から盗んだのだけれど。
 若手の中に登って来れるのが居たとは、ぬかっちゃったなあ」

白い手袋に包まれた指で額の汗を拭うような仕草をしながら、怪盗は戯けて言う。
カミューはヒーロー・アプレンティスであり、アイリスには存在を把握されていなかった。
戦術的観点では幸運と言って良いが、彼のプライドにとっては残念なことに。

「ご存知のことかと思いますが、礼儀を返させて頂きましょう。
 誰もが捜しているけれど、すぐにどこかへ去っていく。誰もが手を伸ばすけれど、決して尻尾はつかめない」

「涙雨を拭う虹の使者――――『 虹 色 怪 盗 ア イ リ ス 』 ここに見参!!」

そして準備不足の挨拶に対しては、びっしりと決まった定型句を、鮮やかな絵筆の演舞つきで返して見せる!

「姫君は冷たい寝床よりも、クレイドルを騒がす大泥棒の熱い夜をご所望とのことで。
 人の恋路を邪魔するならば、キミには痛い目を見てもらわないといけないよ」

名乗りの勢いそのままに絵筆を回転させ続け、その軌道上に虹色の飛沫が舞う。
敵の接近を警戒した防御の構え、のようにも見えるが。

「それに――私とキミは、虹色で被っているからね!」

アイリスが叫びながら絵筆の動きを止めると、空中には虹色の円軌道が縫いとめられたかのように残っていた。
手袋がそれに触れると、ぺり、という音を立てて七色の輪が空間から離れる。アイリスは振りかぶり、輪をカミュの頭に向けて、巨大な『チャクラム』のように投げた。

ウープス! アイリスは人を殺さないはずではなかったのか!? 流麗な投擲フォームから漂う殺気!
だが――見抜けるかは別として――輪の外周に刃などはなく、仮に命中してもヒーローであれば致命傷とはならないだろう。
当たれば御の字。だが目的は飽くまでも、インフィニティ・ヘッドの行動を引き出すことだ。
92 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY2016/09/19(月) 01:07:00.25 ID:jedpWyrJ0
>>85

「犯罪者、ねぇ?夜になると、協会さんとこの犬も吠えるんだねぇ〜」

目の前のこの街での最上級へ向け、犬と言い放つ天狗面の者。
仮面に隠され表情こそ分かりかねるが、こちらもまたユスティースの言葉へ気を止める事はなく、飄々と受け流す。

「とはいえ、こっちもまだまだ未熟の身の上。もしかしたら、おいらも英雄じゃねえのかもしれねえ、が......」

蹴り飛ばされる低ランクヒーロー、そしてその隙間から迫る漆黒の杭。
ユスティースという名こそ耳にした事はあるが、細かい能力などは知らない。
ならば、それは防ぐのが定石であろう。
しかし、それは即ち哀れな低ランクヒーローを見捨てることと同義。
扇を構える仮面の者の、選択は________

「ハァァァッ!んっ!?ぐっ......!?」

鉄扇の一閃は、鎌鼬の軌道を逸らし、刃達は何処となく飛び、消える。
そして数本の黒い杭は、仮面の者の腕や足へとめり込んで行く。痛みこそないが、その身に感じる重みの、確かな違和感。
それでも、グランドマスターにこう述べる_______

「......それでも、英雄って呼び名がお前さんのような卑劣漢に相応しくねぇってのは、赤ん坊でも多分分かるぜ」

そして、まるで攻撃がへっちゃらであると見栄を張るがごとく、かんかん、かんと数歩、舞台のような見事な足捌きを見せる。
しかし、技は確かに効いている。それでも見栄を張れるのは、増えた重量がまだ違和感を感じる程度のレベルである事と、今装着している『テング・メン』が元々軽やかな動きを得意とする代物であるといった点が関係する......が、これ以上受けたらどうなるかは知れたものではない。
後ろに大きく跳躍し、再び扇を扇げば、生まれるのは幾つかの小規模な竜巻。
それは低ランクヒーローを避ける様に動きつつ、最上級の英雄を空中へと舞上げんと迫るだろう。

93 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/19(月) 01:46:22.85 ID:OZPaevfS0
>>92

「犬? そうだな。言ってしまえば俺も教会の犬でしか無いだろう。」
「いくら正義と吠えようが、それは『法における正義』の定義でなければ意味がない。」

「――――だが、少なくとも『此処』の正義は『俺』だ。お前じゃない。」

苛立ちは単なる不快感であり、単純に自身が相手に対して感じている同しようもない気持ち悪さを不快感として捻出しているに過ぎない。
言葉は乱雑で、だがどこか淡々と。ヴィランに対してかける言葉など存在しないのだから、言葉遊びにのって感情を揺らす必要もない。
『俺』は絶対の『正義』である。だからこそ、大前提としての『感情』が揺らぐことはない。もし揺らぐとすれば、それはヒーロー協会の崩壊と同義である。

鎌鼬はあえなく抜けヒーローの脇を通り抜け、そしてそのまま倒れ込むと、彼はもう用済みであるかのようにそれから目を離した。
奇襲は奇襲。初戦は目くらまし程度の効果しか持たない、もし盾として機能すれば相手の精神に傷を負わせられたであろうそれは、一度失敗することで消費された策だ。
同じことをもう一度するという事は対応する隙を与えるのと同じ。ならば、二本の杭が刺さったことによる僅かな時間を食いの生成に捧げたほうが効率がいい。

見たところ仮面の能力は何かしら『風』を操る能力と見て相違無い。鎌鼬のようなそれもそうだが、動きに軽やかさがありすぎる。
人間にできる動きではない……とは言えないが、それでも僅かな重心の変化等による行動の阻害をうまく交わしているところを見ると、余り相性が良くないのは明白。
……最も、飛び回る鳥を撃ち落とすというのもまた、彼の得意分野ではあるのだが。

「協会に所属すること無く、自らの正義のみを振り翳すのが『英雄』ってんならそうなんだろうよ。」

「――――っ。」

大跳躍、そして小規模の竜巻。能力によるそれは彼の体を地面から引き剥がそうとし、彼はそれに抗えるかと聞かれれば、否である。
彼の体は特別鍛えられているわけでもなければ、能力による強化がなされるわけでもない。純粋に能力のみを所持しているだけ。一般人を殺すことはできるが、能力がなければそれも難しいだろう。
だが、竜巻によって上空へと飛ばされた彼は紛れもなく『英雄』である――協会の定めた、という注釈がつくが――グランドマスター。遍くヒーローの上に立つ存在。
そのようなヒーローが違法ヒーローの攻撃を受け無様に散るか? 否。それは不可避のことであり、彼にとっては確実に、ゼッタに起こり得ない『敗北』。
正義は勝つ。大昔に囁かれたそんな言葉を、頭のなかで繰り返す。意味もなく、意義もなく。彼にとっての正義は何なのか――そんなこと、必要がない。
彼自身が正義なのだから、自ら思考し行うことそれ即ち正義である。

「―――― 一つ気になってたんだがな。」

上空に弾き飛ばされ、コートが揺れる。髪は不快な音をかき鳴らし、耳元には風の唸り声がやけに響く。不快なそれらを意識から除外すれば、然りと跳躍した先に映る仮面。そして問うだろう。
なんとなしに、というようにして放たれたそれは、酷く現在の状況には不釣合いで、不似合いで、不気味な質問。彼の最大の疑問点にして、理解のできない『謎』。

「――『英雄』をやりたいなら、何故『クレイドル』から出ない?」
「ヴィランなんて何処にだって居るだろうが。英雄になりたいってんなら、『ヒーロー』だとお前らがほざくなら、何故『他のん場所を救わない?』」

「貧困、飢餓。外に出りゃあなんだってあるだろ。なんでそいつらを助けようとしない。」
「結局。「クレイドル」っつーぬるま湯に漬かりながら孤高のヒーローごっこが死体だけなんじゃねぇのか?」

入り込んだ杭が二本。小さな違和感しか与えない程度の重量を加算するだけのものであったが、それを放つということはその間に新たな杭を生成する時間が作れるということでもある。
上空に舞い上がる。たしかに舞い上がっている。ならば、次に取る行動はどうなるか。相手も跳躍している。此方は良い的。自身の表皮に浮かぶ一筋の『黒』。
94 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/19(月) 01:46:38.85 ID:OZPaevfS0



「――――教えてくれよ。『英雄(ヒーロー)』」

瞬間、彼が伸ばした右腕の手のひらから、一本の杭が体表を突き破るようにして発芽し、そして真っ直ぐに仮面の心臓を貫こうと『伸びる』。
手のひらと同程度のサイズであり、鉄パイプ程度の大きさをしたそれの先端はまたしても円錐状となっており、非常に指しやすい形を持って、仮面へと向かっていくだろう。
速度が早いかと言われれば決して目をみはるほどのスピードではない。動体視力に優れていれば、目視で終える程度の速度であり、仮面が回避できない道理など無いだろう。
しかし、彼の狙いは会話によって生まれた緩急に致死の一撃を捩じ込むことである。ペラペラと彼の容姿からは不釣り合いなほどによく喋るのも、只相手の集中力を不快感によって削ぐための行為にすぎない。
集中を乱し、感情を乱すことで生まれる隙を見つけ、そして殺す。違法ヒーローにはそういった手口が一番良く効く。先程の盾だってその一つである。
違和感は埋め込んだ、ならば次に当たえるのは『物理的な痛み』。所詮紅杭と呼ばれるそれが、同じ上空に存在する仮面を殺さんと迫るだろう。

しかし、これをなんとかしてかわせば彼は無防備である。杭の生成は自在であるが、決して制限がないわけはない。
大きなものを作るには時間が掛かるし、紅杭を出している間は重量を増加させる杭を出すことができない等。能力としての『リベリオンダウン』は、万能の能力とは言い難い。
交わす方法はそれこそ仮面を持ってすればいくらでもあるだろう。言葉に惑わされず、そして冷静に淡々と物事を処理できるのであれば、彼の手法は意味をなさなくなる。
95 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY[sage]:2016/09/19(月) 03:31:35.71 ID:jedpWyrJ0
>>93

「いいや、あるね。お前さんを見てりゃあ、はっきり分かる」

「『此処』の法における正義」の体現者。
それに「自らの信じる正義」を貫かんとする仮面の者は、空中で対峙する。
起こした風が、衣装の袖を揺らす。

「自らの正義のみを振りかざす?お前さんの持ってる、弱い奴をいたぶって盾にするような汚らしいまがいものよりゃよっぽど上等よ!」

不快感を催す言葉の数々を、仮面の者の舌は捌いていく。
目の前のグランドマスターにとって仮面の者が受け入れられないのと同じく、仮面の者にとっても男の正義______ヒーロー協会______は受け入れられるものではないのだから。

「なんでこの街にいるか、って?野暮な事を聞くもんだねぇ......」

空中で再び黒い翼を広げ、斜め後ろへと落ちかけていた身体を空中へ留め、そして羽ばたき、浮かび上がっている街の最上級へ再び距離を詰め、何処か恥じらいのある声で言う_________________


「おいらもこの街に惚れた、からさ」


初代が他でもないこの街に根を下ろし、林原一門を作ってから既に1世紀以上の年月が経つ。
何故この街であったのか、また、歴代の当主達が何を思いこの街で英雄であったのかは、十代目であっても分かりかねる。歴代の中には、ひょっとすると男の言う通り「ヒーローごっこ」がやりたいだけの者もいたかも知れない。

だが、少なくともこの者はそうではなかった。

昼間の、街の活気を。
ビルの上から眺める、夕日を。
この日の夜のような、月が照らし出す街並みを。
そして、明日の朝を___________

その全てに、一門の使命に関係なく、惚れたのだ。
そして、例えそれが間違いであったとしても、「英雄」を演じ、この街を護りたい。

それが、英雄・十代目林原十右衛門の偽らざる心であった。

「答えたぜ......
お前さんも、そうじゃ無かったのかい?」

接近するこの者に迫るのは、朱き杭。
それを避けんとするも、左の翼へと突き刺さる。
彼が冷静では無かったせいか、それとも重量による僅かな違和感のせいか定かではない......が杭は確かに翼を貫き、黒い羽が血液の光沢を帯びる。

「だぁっ!!?......ぐぅっ......いやぁぁぁっ!!」

然し、男との距離を詰めんと、更に羽撃く。
左翼の傷口は広がり激痛を齎すも、構わず距離を詰め、繰り出さんとするのは畳んだ鉄扇での、首筋への気絶を狙った一撃。
黒き杭によって増えた重量と、左翼に刺さった杭、それにグランドマスターと違法ヒーローという元々の実力の差が、男へそれを届けないかも知れない。
だが、それでもこの者はその一撃を入れんとするだろう________
96 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 17:24:34.03 ID:jEv+i/T1O
>>87
/これでもう一度募集かけてみます…
97 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 17:55:21.76 ID:UDqoYcgHo
>>87
光なき裏路地に、蒼い炎を灯そう
秩序なき世界に、蒼い炎を灯そう
誰もが平和に書を読むために、蒼い炎を灯そう

ヒュッ。金髪と茶髪の間を通り抜けるものがあった。
矢だ。蒼い矢だ。

「ヒーローです。彼から手を放しなさい」

女だ。矢を放ったのは女だ。
蒼い弓を構え、青を白や金で飾り立てたドレスを纏うヒーローだ。
碧い瞳は、確かに二人の諍いを捉えていた。

「もう一度警告します。彼から手を放しなさい。」

ヒーローは右手に蒼い炎を灯し、新たな矢を形作る。
声量はそうでもなく、だが芯のある声で警告をする。
瞳は言葉を発さない。だが、告げている。
次は、体に当てる。
98 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 18:23:01.47 ID:jEv+i/T1O
>>97
首に巻きついた指が後数センチ食い込む前に、その手が首をへし折る直前に、世界に疾ったのは蒼い矢である。
二人の間を貫いて、壁に突き立てられたそれを目にし忌々しさを隠さず舌打ちをこぼすのは小悪党、ギョロリとその方を見る。

「アァ?」

そこにはこの薄汚れて鬱蒼とした路地裏には似付かわしくない女がいた、小悪党にして無駄に豪華に飾り立てたドレス姿。
一般人がそんな酔狂な姿でこんなゴミ溜め様な場に現れない、その姿と手に持つ武器を見れば誰でも分かる。現れやがったか。
英雄、ヒーロー!この街の、物語の主人公!正義の味方な弱者の味方。そして我々悪党達の天敵で仇でトラウマで悪党だ!

小悪党はその姿を認めて理解すると唾を吐く。その姿に囚われのチンピラは希望を抱き助けてと悲鳴をあげる。

「うっせーデスよダボ。うゼッテーですよクソ!正義の味方さんがなんでこんな処にイヤがるのですカネ」

身勝手な要求にして命令に従う義理も人情も優しさも無く。小悪党はその手を離そうとはしない。そもそも彼奴は俺たちを下に見てるのだ。
こちとら自分のシマのコソ泥をお仕置きしているだけなのに、そんな理由も知る由も無く、自分達が正道と盲信してやがる、その格好がそうだ

すでに構えているその姿、今のままでは会話すら成り立たない。
故にまずは会話から、腹が立つが勝てない相手に突っ込むほど馬鹿ではない。

「こちとらショーバイの最中よ。邪魔しないでくださいますかネェ!」

相手が矢を打つならば、盾を用意すれば良いのだ。相手が打つ気を無くす盾ならば尚良い
なので小悪党は今捕らえている茶髪のチンピラを動かして、ヒーローと自分の間にいれて盾にする。

「と言うか、関係ないのでちゃちゃっと帰ってもらえまセン?このボケの中々の悪党なんですけド」
99 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 18:42:28.81 ID:UDqoYcgHo
>>98
ヒーロー。たしかに彼女はそう言われ、称えられる存在だ。
だからこそ、闇を知り闇を晴らそうとこうして見回る。
暗くて本も読めぬ無辜の民を、救うために。

「警告はしました。話は拘束を解いたら聞きますから」

要求に応じないなら、実力行使をする。
まず、この場の暴力を制圧する。
その後だ。そのあとに問題の解決をする。
銃を突き付けられたままでは、話すことはできない。
ならば、まずはその銃を折る。

矢を上に向け、放つ。
明後日の方角。チンピラの上を狙ったように見える射撃。
―――だが、地球には重力があった。
空を翔る一矢もまた、彼の手によって突き落とされたのだ。
空へ至ることを許されなかった蒼の一矢は、茶髪の男を乗り越えて金髪のチンピラへ。
100 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 19:01:03.18 ID:jEv+i/T1O
>>99

唯の威嚇射撃、此方には盾が有るならば!この動作は唯の脅しでありこの手を緩ませる唯の手段だ。

天に向けられるが空には届かず、闇の中に沈み(登り)消え逝く青の火を、小悪党は唯の脅しと侮った。
守る手段はこの手にあり、優位は此方にあるならば、その油断も仕方ない、まぁこの男が馬鹿なだけだが
相手に見せつける様に人質を揺らしながら、ヒーローの様子を見る。どう退散させようかと考える最中、

それは浮かび(落ちて)風向きもある為に、身体は貫く事は無いがその頬を縦に一筋の線と火傷を刻む。

「ッッッッ、アッチィ!!!」

その瞬間、チンピラを捉えてた指は解かれ彼は自由を得る、酸素を供給しようとする身体に鞭打ちヒーローの元へ転がっていくだろう。
解けたのは痛みによる脊髄反射による為だ。不意打ちに手を戻し頬を抑え堪えた小悪党、瞳を閉じたのは一瞬だが、その時間で失う。

人質がいるという優位性を。

「てメェ!クソ野郎!!」
101 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/19(月) 19:26:32.68 ID:OZPaevfS0
>>95

「法律に背く弱者を何故守らなければならない?」
「お前の中の正義が何なのかはどうでもいいが、少なくとも『此処』の正義は『協会』にある。」

「お前らが何故『違法ヒーロー』って呼ばれてんのかをよく考えてみろ。」

迫る翼。貫いた翼は穴を広げ、その痛みを食いしばりながらも耐えて此方へと羽ばたいてくる英雄。確かに、此処だけを見れば英雄の絵面に間違いはない。
いや、たしかに英雄なんだろう。数代に渡ってクレイドルに『寄生』し、そして『自らの正義』のみを振りかざす。確かに、はたから見れば英雄だ。
民衆から見れば小さな自分たちを助けるヒーローに映るのかもしれない。しかし、そんな夢想が可能なのは偏に協会という絶対の要塞が鎮座しているからだ。
協会がこの街の設立を支援し、そして本拠地として構えることで平和を維持する。ヒーローを排出し、治安を守る。この町を形作るすべての根源は、ヒーロー協会によって定められたものだ。
それを否定するということは即ち、クレイドルそのものを否定することにも繋がってくる。

もし、彼がグランドマスターなどではなく、只の違法ヒーローであったのならば、仮面の言うことは全て正しく、彼も所詮独善によって動いている只の犯罪者であっただろう。
しかし、彼には確かな後ろ盾と、そして正義がある。先程盾にしようとしたヒーローだって、教会の定めたE2システムを自ら廃し、協会に対しての裏切り行為を行った捌きを受けようとしていただけだ、
それが間違っているか――――間違っているのだろう。たとえ法律に反したとしても、裁くのは本来司法の役目である。ヒーローが独断で他者を裁くような正義が、あって良いはずがない。
だが、あるのだ。少なくとも、このクレイドル及びクレイドルの影響範囲にある全ての都市はヒーロー協会の庇護下にある。協会は全てにおいての治安維持を担っており、ならばこそ其処に正義が存在する。
『法に背いたヒーローを処断する』という、人の所業とは思えない残虐非道を『率先して公認』してしまうくらいには、この町は『歪んでいる』のだから。

首元に手刀が伸びる。彼の能力は杭の生成及び投射であり、遠距離に対応する細かい操作などは不可能。杭からさらに杭を生やす、という芸当も可能ではあったが、少しばかりの驚愕がソレを許さない。
翼を貫いたまま杭は止まっている。ということは即ち其処につながっている彼の右腕も使用不可になっているということであり。
加えて言えば、紅杭を出している間は重力を増加させる黒色の杭を生成することが不可能になる。現在彼が使用できるのは自身の血液を利用して生成する紅杭だけ。
迎撃の準備もなく、余地もなく間合いにはいられてしまった彼は、空中であったため回避行動を取ることすら難しい。ならば、避けることは不可能である。正義は、ソレを唱える正義によって敗北する。

「俺の杭が『右腕からしか出ない』って―――――誰か言ったか?」

――――筈がない。彼がグランドマスターと呼ばれる所以は、偏にその能力の残虐性にあるのだから。

一撃を加えようとするその瞬間。若しくはその一瞬前につぶやいた言葉は、恐らくこの吹き荒れる風のなかでも一際よく聞こえるだろう。即ち、ソレだけ生命の危機に関わる言葉であるということ。
彼の持つ能力の一つである紅杭は自身の血液を消費することで生成が可能になる。重力を増加させる能力こそ所持しないが、その殆どは通常能力で作り出した杭と変わらない。
ただ一点として、体表から発生するという点だけを除けば通常の杭と変わらない。――――ということは、血液の消費を度外視すれば、『無数の杭』を生成することも可能である。

首筋から、手首から、胸から、背中から。ありとあらゆる場所に存在する肌という肌から小指以下の細さを持つ紅杭が体表を突き破り、そして周囲にあるもの全てを突き刺し殺そうと『発芽』する。
強度は低く、それゆえに折れやすい。折れやすいということは刺さった後体内に残りやすいということでもあり、鉄扇による殴打でそれらを砕き、首に一撃を加えることも可能であるということ。
しかし、紅杭は決して弱くはない。扠されば其処から少しずつ血液を飲み、能力による補強によって更に『成長』するだろう。


――――紅杭は、自身の血液及び流出した血液によっても『成長する』故に。
102 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/19(月) 19:58:19.33 ID:PvrSzwNM0
>>91
あぁよかった。ちゃんとこっちに合わせてくれた感じだ。
うん、この子いい子かもしれない。なんて思った矢先に…

(ちょ、ええええええええ!?)

なんかでっかい輪っか投げてきたんですけどぉ!?
この子人は傷つけない主義じゃなかったっけ!?
ヤバイヤバイついこの前病院から出てきたばっかりだっつーのに!

逃げる  →尤も安全。ただしアイリス逃げる。論外
避ける  →今動いたら背中に回した髪の毛が気付かれる!今はとにかく動けない!
受け止める→出来るかッツーの!!オレは宮本武蔵か!自慢じゃないけどオレの『神の毛』は
      そんなに馬力でねんだよ!あんなデカイ輪っか止められねェ!!

ならばこの場に適した行動は!
ギリギリまで輪っかを引き付け…髪の毛で作った拳で!輪っかの真正面からではなく、『横』から弾く様にして!
軌道を、逸らす!!!!

バシィィン!! ガシャァアアアン……!

………

「随分とまぁ、手荒な歓迎だなぁ、先輩。下っ端にはもうちょいと優しくしてくれてもいいじゃねぇか」
(あっぶねぇぇぇ!!!!!出来たぁぁぁ!!!マジ死ぬかと思ったよちくしょう!!)

「今のはオレじゃなかったら危なかっただろ。虹色怪盗アイリス。
狙うのは悪党ばかりからの盗みで、殺しは決してしないとは聞いたんだが…やっぱネットの噂と実物は
違うって事なのかな?」 
(ホントだよ!!今回はケガしないで済む様な仕事でラッキーって思ったのにさぁぁ!!
ネットに書きこんだろかちくしょー!!!)

表面上はクールに、頭の中で愚痴まくってようやく頭が冷えてくる。
アイリスはついさっき、「飛べる力をもつヒーローに化けた」とか言ってたな?
それはつまり、ある程度のヒーローの力や素性は知っている事になる。
ヒーロー・アプレンティスという、ヒヨッコに毛が生えた程度のオレは全く知らないのは
当然というわけか。あれ、なんか泣けてきた。この前は結構頑張ったのに。

やっぱり、今の攻撃はオレの能力に探りを入れてきての事だったってわけか。
オレの能力を知っているならオレの苦手な炎なり爆弾なりで攻撃してくるだろうし。
やべぇ、さっき調子にのって髪の毛は逃がさないとか喋らなきゃよかった。
ブレイブリー・ヒーロー級以上とまで言われてるアイリスとじゃ、マトモに戦っても勝ち目は薄い。
現在オレが優位に立っているのは…「能力を知られていない」という事と…「倒す必要はない」って事だけだ。

「ホントにわからねぇ事だらけだ。今回の盗みもそうだ。なんでまた、博物館のミイラを盗む?」

「いや、言い方を変えるなら…何故、古代の姫君は泥棒の君に心を奪われたのか?」

「あんたは悪党しか狙わない義賊だった筈だぜ。貧乏人や弱い人間から決して物を盗まず、
宝を盗んでも命までは奪わない。オマケにニュースの視聴者へのサービスも良し。
正直ヒーローって立場じゃなけりゃサイン貰って帰りたい位だ。」

「オレは歴史とか全然興味ないんだけどさ、今度の展覧会ひょっとして
歴史好きのティーンネイジャーが楽しみにしてるかもしれないだろ。
なんで博物館のオジサンを困らせたいんだ?」

「せっかくこうやって会ったんだ。一応ヒーローの端くれとして後学の為に有名人の考えって奴を是非聞かせてくれねえかい?」

無論、応えてくれる事なんて期待してはいない。
目的は飽くまで時間稼ぎだ。後ろに回した髪の毛を、ビルの壁を伝い、周りを取り囲む。

多分相手はまだ、オレのスキルを「髪の毛を操る」程度にしか思ってないんだろうな。
でも、オレの髪の毛は「何にだってなれる」んだ。
そう、屋上の床に同化するように化けて、徐々に徐々に周りを取り囲んでいくようにすることだって…

(もし向かってきたのなら……覚悟を決めるしかねぇかな……)
103 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 20:11:31.99 ID:UDqoYcgHo
>>100
当たった。曲射は書で読んだ程度のものだったが、うまくいったらしい。
金髪のチンピラにも大した傷を与えず、人質の解放にも成功した。

弓から手を放し、解放された人質を左手で抱き寄せる。
一方、右手には蒼い炎。そして、長槍が形作られてチンピラに向けられる。

「動かないでください。話を聞きます。
あなたもです」

なにもされなければ、攻撃はしない。
まずは、読むのだ。

「だから、教えてください。あなたたちは、どんな物語を経てあのページに至ったのですか?」

槍を突き付けながらでは話せないというならば、槍を捨てよう。
左手で抱かれたままでは話せないというならば、手を放そう。
だから、教えてほしい。
2人の間にあった、物語を。
104 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/19(月) 20:35:09.02 ID:eCTsVkqf0
>>102

アイリスは目を眇めて、髪の毛が巨大なげんこつの形になって輪を弾き飛ばす一部始終を視る。
あの奇妙な色の頭髪は伊達や酔狂でも何でもなく、彼にとって重要な武器らしかった。

「言ったじゃないか。ヒーローは信頼が第一って。
 私はキミが円盤をどうにか弾き返すか、最悪でも賢明に撤退してくれると確信していたのさ。
 いわゆるひとつの自己責任というや・つ」

徒手になった左手でミニシルクハットのつばを弄び、右目が悪戯っぽくウィンクする。
この余裕綽々の態度と周囲の視線を意識した露骨な身振りが、アイリスを「非合法ヒーロー」足らしめている要素の一つだ。
尤もヒーロー協会からしてみれば、犯罪行為に手を染める超人は十把一絡げにヴィランなのだが。
この気障な少女が今のところ誰一人として直接殺めることなく逃げ果せていることもまた、ヒーロー協会の報告書が証明している。

「それで……ふむ。キミが呈した疑問は当然のものと言えるね。
 虹色怪盗アイリスは、悪党しか狙わない義賊。ではなぜ世の考古学ファンを泣かせるような所業に走ったのか?」

続けて投げかけられたカミューの疑問に対しても、彼女は予め用意した台本を読み上げるように滔々と答えていく。

「答えは簡単。――この窃盗で考古学ファンが泣くことはないし、足下の博物館には悪党がいるんだよ。

 しかし権威というのは、なかなかメスを入れる機会がない病巣でね。
 真実を暴くために事件を起こす必要に迫られてしまったというわけだ」

興味を惹くようなキーワードを散りばめ、長広舌を振るいながら――――アイリスは、少しずつ前進してきていた。

「わかるかな?
 私はキミに猶予を与えている。もし帰ってもらえないなら」

素早く虹色の絵筆が中空をなぞり、棒状の何かを描き出す。それは先端だけが揺らめくように膨れあがり、色彩は赤い。

「その髪も、燃やすとチリチリになるのか確かめさせてもらうことになるね」

アイリスの絵は存外に写実的で、棒の正体を見抜くことは容易いだろう――それは、火のついた松明だ!
105 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 20:50:41.09 ID:jEv+i/T1O
>>103

頬をから感じる焦げ付く痛みを抑える様に、手で押さえながら小悪党は、槍を向けるヒーローをじぃと見つめる。
あぁ、やっぱり、気にくわねぇ。何だこいつは分かってねぇ。話を聞いてやる?馬鹿を言うな。ならば最初から

”最初から話を聞きやがれ”

やはりこいつ(ヒーロー)は俺達を下に見てやがる。マトモに会話が出来る物とは思っていねぇ
制圧してから?動きを止めてから?どうせそう思ってやがる。なんだ?あぁ?それだと動物かなんかの原理だ。

やっぱり”舐めて”やがる。

「おいおい………オイオイオイ!!クソあまぁ……自分からブチかましといてよぉ…」

小悪党は頬をから手を離し、ゆらりと揺れて一歩を踏み出した。静止の言葉など意味は無く、彼のサングラスの奥には怒りの火が燃えている。
右手は細胞が異常増殖し膨れ上がりヤイバの形を作れば硬質化して剣と成る。これが彼のスキル、凡ゆる形を成る変身能力。先程の指もまた同じ。

「テメぇと、話す事なんざねぇ。何も語ることも無イです。一言俺が、言えるのハ」

踏み出し一歩は次には駆け足と成り、相手の反応なぞ知らぬと男は路地裏を突き進む。つまり完全にキレている。頭にあるのはヒーローを打ちかますのみ。
身体能力的には一般人がであり、技量もない為、ガムシャラに立ち向かう小悪党、数秒後には彼女に向けて剣に変えた腕で敵をただ突き刺さんとするだろう

「舐めっとブチ[ピーーー]ぞ、テメぇ」

あのまま冷静であれば、利を得る事が出来たかも知れないが怒りのまま振る舞う故に彼はチンピラ、小悪党なのである
106 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 21:03:30.23 ID:UDqoYcgHo
>>105
やれやれ、やっぱりこういう立ち回りは苦手だ。
もう少し勉強せねば……次への反省だ。

「そうですか。では、あなたに聞きます」

金髪チンピラの腕が変化する様を注視しながら、問いかける。
相手は先ほどまでの人質。左手に抱かれる茶髪のチンピラだ。

「あなたたちは、どうしてあのようなことに至ったのですか?」

がむしゃらに向かってくるチンピラを槍で軽く受け流そうと、右手を振るう。
その様は、かえってチンピラを激昂させるかもしれないということをジークリットは完全に失念していた。

そう。彼女は良くも悪くも人の心にまで考えが及んでいなかったのだ。
107 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 21:22:11.72 ID:jEv+i/T1O
>>106
ヒーローの腕の中にいるチンピラは迫る小悪党の怒りに唇を青くしながら語るだろう、と言っても簡単な事

元々ここら一体は小悪党のシノギであったが自分が密かに商売を始めた。なので彼は怒ったのだろう。
だが元々小悪党が勝手に言っているだけで俺は悪くない。売り上げを寄越せと殺されかけた。彼奴は悪魔だ助けてくれ!

言葉の所々にゴメンなさいと単語を混ぜながら、涙を零しながら説明する。そして最後に、助けてと加える。

同時、突き立てんと振るわれたヤイバと化した腕と槍がぶつかり合い甲高い音がなる。いなされた腕と引き摺られる小悪党の体。ッチ!と舌打ちと共に
小悪党は後ろに跳躍し、体勢を立て直し構え直す。腕には青い火が燃えうつり、それを振るい消せば再び小悪党は構えを取る。野良犬の様にしつこく貪欲に

唇を噛み締め、一筋の血を流す様子からヒーローの余裕に対し更に怒りを露わにしている様子である。
108 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 21:23:46.08 ID:UDqoYcgHo
>>107
//大変申し訳ない……蒼い炎は武器を作るだけで、武器には蒼い炎はまとわれていません……
109 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/19(月) 21:25:10.02 ID:PvrSzwNM0
>>104
「―――!!!」

そりゃあ、髪の毛を武器にしているわけだから弱点は火だ、と考えるのは当然だ。
誰だって、火で攻撃をするのは至極当然なわけでそれは間違っていない。
お察しの通りだよ。オレの『神の毛』はなんにでもなれる。
伸縮自在、鋼鉄の様に硬くなったりゴムの様にも粘着質にもなれる。
だがしかし、『神の毛』は所詮『髪の毛』だ。燃やしてしまえばチリチリに、灰は灰に。

でも、オレにとっての火は、別の意味でも弱点だった。

「………っぁ……っ!!」

呼吸が自然と荒くなる。さっきまでの、余裕のある芝居がかったヒーローの姿はもうない。
たかが絵。しかし傍にいる実感として感じられるあれは紛れもなく本物の『炎』。
それが、子供の頃の記憶を蘇らせる。
化学施設での襲撃。揺れる地面。爆発、悲鳴。吹き出す炎。目の前で焼かれて灰になった案内員のお姉さん。
仲良しだったビッツが火だるまになって泣き叫ぶ。蹲って炭になったみんな。

炎に呑み込まれた熱さと痛さと息苦しさ。
リハビリで日常生活を送れるようには体は回復はしても、心と記憶に深く刻まれた傷はいまだに治っちゃいなかった。
ガスコンロでさえいまだに怖くて使えず、電気式の家具で生活している。

あぁ、さっきはでかい輪を出したかと思ったら今度は松明か。本当にナンデモありなんだ。まるで魔法。
あんな力があるんなら、そりゃ先輩ヒーローを出し抜いて怪盗を続けてられるんだろうな。
オレなんかはやろうと思えばやれるっていうのもハッタリじゃあないんだろう。

だからこそ、時間を稼ぐんだ。もっと、髪の毛が周りを覆い尽くせるように。

「………そう、かい…博物館に悪党がね。そりゃあ、初耳だ、先輩に…っ…相談しなきゃあなぁ…ハァッ…」

体が震える。息が詰まる様に苦しい。でも話さないと

「悪事を…っ暴く為には……悪い事を、するのも仕方ない……かな。わからん気もしない…かも……」

汗が止まらない。背中がぐっしょり濡れているのがわかる。話すんだ。時間を稼ぐんだ。

「でもよ……もっと…他の方法があったんじゃねぇかな?誰かに迷惑かける形じゃなくて、もっとこう……よぉ」

なんでもいい。時間を稼げ時間を稼げ。時間を稼げ、時間を 時間を

「あんたほどの力があるなら……助けられる人もいっぱいいたんだろうな」

じかん。じかんじか

「………楽しいのかよ。そうやって、おどけて、人をぶちのめせる力を見せつけるのが…そんなに楽しいのかよ…!!」

じか

「毛が焼けるとどんな匂いがするか知ってるか?肉が焼けるのと同じ匂いがするのさ。
よく知ってるんだよ。オレも、昔焼かれたからな。まぁオレの場合は髪の毛どころか全身だけど。」

「昔もよぉ…ヴィランはそうやって襲ってきたんだ。何で襲ってきたのか、何が目的なのかもしらねぇ。」
「ひょっとしたら、あんたと同じ様にあくどい研究を暴く為に事件を起こしたのかもな。」
「ああいや、何もあんたがあの事件の犯人だなんて思ってねぇよ。んな事はオレだってわかる」
「ただ、さ。あんた程の力があるヒーローが、もしあの場にいたら。
 少なくとも、オレの友達は死なないで済んだんじゃねェかなって思うんだ」

「だからこそさ」

「そんな力があるあんたがヴィランなのが許せねぇんだよ!!」

全身を貫く、爆発の様な感情。頭から、髪の毛を伝い、ビルの壁から徐々に床に這っていくはずの
髪の毛が、床に化けるのをやめて鋭く変質し、髪のトゲがミサイルの様にアイリスめがけて飛んでいく。

それはオレが初めて見た、明確な『攻撃』の形をしていた…
110 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/19(月) 21:26:15.89 ID:PvrSzwNM0
>>109 (続き)

――『虹色怪盗アイリスは、ひょっとしたら戯れの一つとして火を見せてみたのかもしれない。
   殺しをしない彼女は、火を見せて相手が逃げる事を期待していたのかもしれない。
   火が、カミューにとっての弱点であるという彼女の考えは全く当たっている。
   だが、彼女の認識は半分間違っていた。

   火は、カミューにとって弱点であると同時に、迂闊に触れてはいけない『トラウマ』でもあり
   
   『逆鱗』でもあった。』

111 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 21:34:15.75 ID:jEv+i/T1O
>>108
/うお!…それは失礼しました。燃え移り云々は無しでお願いします…
112 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 21:47:58.55 ID:UDqoYcgHo
>>107
なるほど、こういう裏路地ではよくある勢力争いか。

あくまでも部外者であるジークリットは詳しい事情は把握し切れていない。
だが、たしかなことがある。
腕の中のこのチンピラは、怯えていると。助けを求めている、と。
ならば、何をすべきか?ジークリット・ビッケンバーグというヒーローは何をすべきか?
決まっている

「―――下がっていてください」

左手のチンピラを、自分の後ろに下がらせる。
ジークリットは、怒りを向ける金髪のチンピラと向き合う。
槍は手から落とし、しかし――

「私は、ヒーローです。
助けを求められたら応える。それが私の義務だと了解しています。
そのうえで、一つだけ」

「矛を収めてください。
あなたの話も、聞きたいのです」

何も持たずに、武器を持たずに問いかける。
怒りを、殺意を向けられても不思議とひるまない。
怖くても、それを表すわけにはいかない。

―――私は、ヒーローだから
113 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 22:04:53.75 ID:jEv+i/T1O
>>112

「……………」

ならば、とヒーローが武器を落とす姿を見た小悪党は、構えを解かず言うだろう。

「ならばよォ…詫びの一つでも寄越せや。オタクが先に手を出して来たんだゼ?」

頬に刻まれ、未だに僅かな出血を見せる頬を指で撫でながら小悪党は唇を動かす。
出来ないだろう?出来るはずない。なぜならばせーぎだ俺は悪だ。正義の味方が悪に、小悪党に
頭なぞ下げる道理など無く。なおかつ此れまでそんな奴見た事がない故に無茶振り

だが、万が一謝罪の一つでもあれば、小悪党は構えを解くだろう。ここで容赦無い攻撃となれば
まあ胸を張って悪党と名乗れるがここで構えを解く選択肢がある故に小悪党。小心者なのだ
114 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/19(月) 22:08:46.25 ID:eCTsVkqf0
>>109

形作られた松明が目に見えないカンバスから剥がれ落ちるように実体化し、アイリスはそれを掴む。
右手によく知られた虹の絵筆ビヴロスト、左手に松明。二刀流ならぬ二槍流の形。
得物を十字に交差させた体勢を取る怪盗に、動揺の色はない。

「おや、仕事を楽しんではいけないのかい。だとしたらヒーロー協会は大変な職場だよ」

側面から飛来するミサイル髪針を体捌きで躱す。そのまま身体を捻り、ビヴロストの堅固な柄で右方からのものを打ち払う。
そうこうしている内に肉薄してきていた左からの針には、松明の火を押し当てて焼き尽くす。
カミューの言う亜硫酸ガスの悪臭が仄かに香って、アイリスは一瞬顔をしかめた。

「事情はよくわかった。だけれど、『魅せる』のでなくて『見られる』のは性に合わないものでね。
 キミ達の血管を流れるE2システム……見えざる首輪の持ち主を、信用してやる道理もない!」

宙に引かれた線は針を受け止めるように実体化して、砕け散りながらも同じ七色を宿した矢を弾き返す。
火の粉が散り、小さな虹が幾重にも描かれる。華麗を極めた立ち回りは、あたかもファイヤーダンスを舞うよう。

だが一本だけ、二本の長物による暴風圏を逃れた髪針があった。
それはアイリスに当たる軌道からは外れていたものの――彼女が盗み出した、金細工の棺へと向かっていて

ぐっちゃりと、肉が抉り出され血が吹き出るような生々しい音が聴覚を刺した。

「……そして、これが私の信念だ。ハンドレッド・ヘッドくん」

低く抑えた、厳粛な声色で怪盗は怒りに猛る少年へと告げる。
流れ弾が棺へと向かうと見るや否や、彼女は己の左手を差し出し、髪の矢を止めていたのだった。

「やれやれ。元より手で持ち帰るつもりは無かったとはいえ、面倒だ。
 もう一度聞くけれど、帰ってもらえないかな?」

血の滲む手袋で赫々と燃える松明を握りしめたまま、カミューへと小首を傾げて問い直す。
115 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 22:11:40.59 ID:UDqoYcgHo
>>113
「―――ですね」

私は、ヒーローだ。
ヒーローだからといって、無制限に力を振るうことは許されていない。それは、ヴィランの特権だ。

「ごめんなさい」

スッ、と頭を下げる。

正義、悪、そんなものに絶対性などはない。
揺らぎ、変わっていくものだ。時間を、場所を、目線を変えれば誰だって正義の味方にも悪党にもなれる。
だから、ジークリット・ビッケンバーグは努力する。
ヒーローで、無辜の民たちを守る者であり続けるために。
116 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 22:29:33.10 ID:jEv+i/T1O
>>115

「────ッチ」

音も無く小悪党は構えを解いた、腕を元に戻しポケットに両手を突っ込む。
拍子抜け、と言った様子だ。実質拍子抜けであり、初めて見た光景に人知れず驚いているのだが。

アリえねぇ…が、あるもんは仕方がねェ。会っちまった光景なんだ。いつまでもキレても仕方がねぇ

「………………」

「………………」

「その馬鹿が売ってやがったのはいほー薬物って奴でヨォ。まぁ俺も違法かどうかと言われたらびみょだ」

「けどよ、その薬はいけねェ。いけねェよ。人を荒らす。シマを荒らす儲かるが、俺の邪魔だ」

その言葉の直後に後ろに隠され”逃げようとしていた”茶髪のチンピラがカランコロンと物音を立てた。
どうやらゴミを蹴ったらしい。もし振り向けば背中と、ズボンの後ろポケットに入れた袋(白い粉入)が見れるだろう。

「んで、心あたりがあるからそのボケも、逃げてるんじゃねーんですか?」
117 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 22:36:48.67 ID:UDqoYcgHo
>>116
どうやら、話が通じる相手だったらしい。
下げた頭をそのまま叩き割るなんて行為には及んでいない。

静寂。そして、

「薬物、ですか。
なるほど」

後ろを振り向く。本当にそうなのか、確認するために。
なるほど、彼が言ったことも間違ってはいなさそうだ。
だが―――

「来てもらいますよ」

隠し事があったのは、確からしい。
手を伸ばし、逃げようとしていた茶髪のチンピラを捕らえようとする。
が、足らない。長さが足らない。
ギリギリのところで、届かない。
118 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 22:51:21.97 ID:jEv+i/T1O
>>117
一瞬、躊躇する。

逃げて行く背中と捉えられないヒーローの手、確かに自分なら捕らえる事が可能である。
だがしかし、捕らえると言うことはヒーローに協力すると言う事だ。それはどうだろうか。

悪としてどうだろうか────ふと、先程の光景が目に浮かんだ。

「………チィ」

ビュン

最初に放たれた矢の様に、一筋の何かがヒーローの脇を通り抜けて行き、逃げて行くチンピラの足首を捉えた。
それは縄の様に伸びた小悪党の手であった。掴み上げもがくチンピラを逃さず引き倒す。ずずずと運ばれるチンピラである。

「正義のヒーローさまに協力したんじゃネーゾ。こいつが邪魔だから持って行きヤガレと思っただけですぅ」

悪としては決して協力出来ないが、小悪党として正義の味方を利用する。そちらの方が色々楽である。無論
正義の味方様が捕まえるのを邪魔してくれたならば、と考えたが、まぁこの甘ちゃんなら大丈夫だと、何故か思えた。
119 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 23:09:25.11 ID:UDqoYcgHo
>>118
ダメだ、届かない。
今から駆け出しても、間に合わない。
歯噛みをした。自分はこんな小さな悪も捕らえられないのか、と。

そのときだった。目の前を何かが通り抜けるのを見たのは。
どこから?決まっている。
後ろの、小悪党からしかあるまい。

もがきながら引きずられるチンピラを立たせ、しっかりと拘束。
もう、逃がさない。逃がさない。

「その、ありがとうございます」

小悪党に、感謝の言葉を贈る。
彼がどう思おうと、手伝ってくれたことには変わりない。
彼の立場がなんであろうと、そのことには変わりない。

「あと、よければビッケンバーグ書店へ、本を読みに来てくださいね」

小悪党の言い分に、笑顔になる。
ちょっと、おかしかった。それと、嬉しかった。

さあ、行きましょう。チンピラを連れて光へと歩き出す。
その足取りは、ゆっくりしている。言葉は、まだ届くだろう。
120 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/19(月) 23:14:38.85 ID:PvrSzwNM0
>>114

生まれて初めて覚えた、怒りの衝動に任せたままの攻撃。
それが意図せずアイリスの手を、肉を貫いた感触が髪の毛を伝わり、
反射的に彼女の手に刺さった髪を引き抜いた。
そして、髪の先についた血が自分が彼女を[ピーーー]気で攻撃していた事を告げていた。

今の動き、その気になれば無傷で終われた筈だったのに彼女は棺を庇う為に傷ついた。
さっきまで沸騰していた心が、急激に熱が引いていくのがわかる。
茨の様にトゲついた髪の毛のトゲは徐々に引っ込んでいき、元のさらさらとしたあるべき姿へと戻っていく。

今、理解した。彼女にはスキルの強さだけでも無く、信念の強さですらオレより勝っている。
ワザと間違えたであろう『ハンドレッド・ヘッド』というコードネーム。
無限の意味を持つ『インフィニテイ・ヘッド』も彼女にとってはその程度なのかもしれない。

「……羨ましいぜ、先輩。そんな命掛けれる様な信念があるってのは。
少年漫画みてぇだ。グッと来たよ」

能力もある程度見破られた。弱点も知られた。今の動きで実戦経験もそれなりにあるのだろう。

「あんたの言う通りさ。なるもんじゃねぇなヒーローって。
始めはオレもさ、こんな髪になっちゃったんだし折角だからかっこいいかなーって感じでなってみたんだよ。
…えらくなりゃ子供の頃の事件も調べられるかもなって思惑もあるんだけどな。

でもなってみたら、怪我すりゃいてぇしヴィランは怖いしこっちの都合にお構いなしに呼び出されるし、
E2だかなんだかでプライベートもありゃしない。ほんとブラックだぜ、ヒーロー協会って」

屋上を囲んで捕まえる、の作戦はもう使えない。折角稼いだ時間もさっきので全て台無しになった。

「今だってさ、その炎。すげー怖いもん。お察しの通りオレは炎が怖い。大当たりだ」

勝算も、無い。仲間が来て助けてくれるという算段も、無い。
唯一あった情報アドバンテージも大して意味をなさないだろう。それでも…

「だからって、怖いからって逃げてちゃさ………ヒーローが逃げたら誰がヴィランに立ち向かうんだよ」

「めんどくさいし難儀なもんだけどさ…決めちまったもんはしょうがねぇんだ。
こんな頭になっちまった以上、オレはもう逃げられねェ。
わけのわからねぇ力に振り回される理不尽さってのは一番よく知ってるからな」

「それにさ…自分で思った以上にオレ、ヒーローの前に男の子なんだよ」

髪の毛を伸ばし、自分の体に巻きつけるようにし、硬化させる。
拳の部分は大きく関節部分を柔らかく、それでいて硬度を保たせた
――七色の派手な髪とは離れた漆黒の鎧を身に纏う。
呼吸が再び、乱れ、心拍も、荒くなる。

陸上競技のスタンディングスタートの様な姿勢で体を傾かせる。
ポンプの様に、足に巻き付いた髪の毛が膨らむ。

「やっぱさぁ…女の子の前じゃカッコつけてぇんだよなぁ!!」

髪の毛の力と、自分の脚力を合わせたダッシュで一気にアイリスに近づく。
圧縮された硬度による髪の装甲は生半可な攻撃では傷つかない。しかし炎が弱点なのには変わらない。
だがこうやって密着している状況なら、絶えず髪を伸し鎧を生産していけば表面が燃えても
身体だけは無事である…と一応は考えているが、それはつまり髪の生産が炎の燃焼速度を下回れば
自分は終わりだという事だ。彼女は恐らく全力を出してはいない。
まだ、自分の知らない能力を隠し持っているのだろう。

勝利の可能性は、限りなく薄い。

それでも、青年は炎に、戦いを挑んだ――
121 :【ジョン・ドゥ】 ◆gHyRb0WDMU2016/09/19(月) 23:25:16.31 ID:jEv+i/T1O
>>119
苦虫を噛み締めた様な顔で少女の笑顔に答えると小悪党は光とは逆、路地裏の更に奥へと帰ろうとする。
今日は散々な日だ。クソッタレた日だ。正気に帰り先程やった事を思い出すと頭を抱えたくなってくる。

故にその言葉は荒っぽく、乱雑で乱暴であろう。

「気がついたら本が数冊無くなってていいなら、幾らでも読みに言ってやるのクソッタレ!」

たったったったとリズムカルな足音がする、小悪党は走り出し、その姿を闇の中に消して行くだろう……

悪党にもなり切れず、それとて正義の味方と言うには薄汚い。
つまりは小悪党は今日も悪さをしつつ、稀に親切をしながら今日も必死に行きて行くのだった…

/っとこんな感じですかね?絡みありがとうございました!
122 :ジークリット・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/19(月) 23:28:38.66 ID:UDqoYcgHo
>>121
//ですねーこちらこそ、ありがとうございました!
123 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/19(月) 23:59:57.94 ID:eCTsVkqf0
>>120

カミューが髪を引き抜く時、アイリスの口から堪えるようなか細い息が零れる。
手を貫通されたまま戦う想定をしていたので、読みを外して少しばかり『素』が出たのだろうか。
でもそれは一瞬のことで、彼女は文字通り瞬く間に大胆不敵な平常心を取り戻していた。

「いい啖呵だが、最後のは少し減点だね。キミは私が女だから本気を見せてくれるのかい?」

アイリスはニヤリとして、迫り来るカミューを尚も煽り立てる。
怪盗とはトリックスター。雰囲気に流されることはなく、むしろ自ら場を掌握する者。
この程度の決意表明は慣れたものとばかりに、ビヴロストを握る右の手指がくいくいと蠢く。

「そういうわけじゃないだろう?」

鎧を纏っての疾駆で一気に彼我の距離を縮めんとするカミューに向けて、アイリスは松明を突きつける。
一時的に魔法の絵筆ビヴロストを消し去り、負傷した左腕を右腕で世話する格好だ。
そして接敵する。
髪が燃え、光が弾ける。不快な音と燃え広がる火が彼の感覚を専有し、敵との距離感が曖昧になるその一瞬。

アイリスは松明を後ろへ投げ捨てた。そして髪を正面への盾へと回し、留守になったカミューの頭上を跳び越えていく。

彼女の立場からしてみれば、カミューをブチのめす必要など何一つ無いのだ。
ただ逃走経路を邪魔する髪だけを処理できればいい。ただ隙の大きな動きを晒してくれればそれでいい。

空中で膝を折りたたみ、樽のように回転しながら、魔法の絵筆ビヴロストを虚空から取り出す。
それを引っ掴むと、彼女はカミューの頭に筆先を叩きつけて、毛を“青色”で塗り固めることを試みるだろう。
もし命中してしまえば、頭は急激に冷却される――どころか、髪が一時的に凍りついてしまう。
124 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/20(火) 00:35:19.59 ID:atGp37eS0
>>123
自分に対しての弱点である炎をあっさり捨てた事にカミューは一瞬面食らった。
最後の手段でもある根競べでとにかく彼女に近づき、いざとなったら死なば諸共で
彼女にダメージを与えられたら…という捨て身の作戦はあっさりと破られたわけである。

頭上を飛び越えたのを確認した所で、このまま逃げるのか?と考えたが一瞬でその考えを打ち消す。
彼女は飽くまでトリックスターを演じきっている。
それがそのまま逃げるという無様な幕引きを彼女は望まないだろう。
自分は怪盗。観客の予想を上回る手法で獲物を華麗に盗み鮮やかに立ち去る。
イチイチ立ち向かってくる者を倒す必要は、ない。

だがそれは、カミューにも同じ事だった。

「うぉぉぉおおらあああああああ!!!!!」

『鎧であれ』という命令を解除し、すべての髪の毛の力を前方に伸ばす。

標的は…盗まれた棺!!

頭に何かを塗られた感触がする。青く光るそれから、髪の毛全体に冷気の様な物を感じた。
感触はやがて”冷却”という実感を伴い伝わっていく。髪の毛全体一瞬で凍りついていく。
紙にしみこんでいく水の様に、冷気は伸ばした髪の毛にも伝わっていく。

意識してか無意識か、伸ばされた毛は手の様な形を作り棺に触ろうとしていた。
頭から伝わっていく冷気はカミュにも伝わっていき、思考と意識も凍りつかせようとする。
それでも、伸ばされた手は止まらない。

冷気は追いすがっていき、髪の手はそれを振り切るかの様に棺に迫ろうとしている。
徐々にその差は縮まっていき…やがて冷気は髪の毛全体を覆い髪の手は進撃を止めた。

氷の彫刻と化したカミュと棺にまで伸びた手。
その手が棺を触る事が出来たのか、カミュには知る術は無かった…
125 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/20(火) 01:00:52.62 ID:cwSL6xIt0
>>124

「あはははっ! 流石に織り込み済みだったかな!」

旋転する視界が、電光石火の反応速度で変形していく髪の姿を捉える。間に合わない!
出し抜くつもりが読まれていたか。面白い新人も居るものだと、アイリスは快哉を叫ぶ。
もちろん着地するや否や棺の方へ向き直りはするが、そこにあるのは氷の巨腕。
目標を丸ごと包み込んだそれは、溶かさねば退かないが、溶ければ邪魔。怪盗にも解答を提示できない難題と化していた。

「どうせならこれも盗み出して、次の館長さんにでも買い取ってもらう算段だったけれどね。
 怪盗はエンターテインメントであって、慈善事業ではないからさ」

これ以上の時間をかけると、恐らくヒーロー協会からの援軍が来る。やり手の経験則だ。
何よりも大事なのは、完璧な成果を得ることよりも捕まらないこと。
あらゆる泥棒にとってのルールは、アイリスを例外とはしない。

「キミの矜持に免じて、ひとつ教えてあげよう。キミの労苦はちゃんと報われているよ。
 ――――“その棺は”、間違いなく歴史にその名を刻む考古学的遺物だ」

捨て台詞を続けつつ、アイリスは最初に記しておいた自分のサインの元へと歩いていく。
同時にパンクな書体の文字が虹色から単色に変わり、紫色の煙が濛々と立ち上る。彼女が操る7つの色、『紫の煙霧』が発動しているのだ。
この中に身を隠しながら、煙の晴れている中心部分にて高速で描画した巨大な怪鳥の絵に乗って逃げるのが彼女の常套手段だった。

「英雄インフィニティ・ヘッドよ。アイリスの企みを『半ば』挫いたことを誇りに思うが良い。
 だが次は負けないぞ。尤も、怪盗としては見つからないのが一番のリターンマッチだけれどね。

 では――――さらばだっ!」

カミュの凍結が解除されるのとほぼ時を同じくして、彼女は空路を用いて屋上を去っていくことだろう。
増援のヒーロー達が到着した頃には姿は見えなくなっており、棺だけが建造物の頂点に放置される。

……さて、アイリスは何故、一部の言葉をことさらに強調していたのだろうか?
126 :カミュ- ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/20(火) 01:41:28.67 ID:atGp37eS0
>>125

――後日談。

オレが屋上で氷漬けにされてから数日間は、とにかくいろいろと大変だった。
魔法チックな力とはいえ全身を氷漬けにされたわけだから凍傷の恐れもあるとして
懐かしの病院へと戻るハメになった上に、あの怪盗も嫌ってたE2のせいで
独断専行がすっかりバレて目が覚めてからも先輩からしこたま叱られた。
そこらへんは別にいいんだけど。

『知られざる夜の攻防!ヒーロー『インフィニティヘッド』の大手柄!虹色怪盗アイリスを撃退!!』

なんかオレが寝ていた間にメディアがこぞってオレの活躍(笑)を報道していたらしく、
退院したオレを病院の出入り口付近で待ち構えていたのはゴシップ好き様な記者たちの質問雨あられだった。
目の敵にしてるっつー怪盗を曲がりなりにも撃退したという事にしてヒーロー協会の名を上げようって
魂胆も多少は入っているんだろうけどな。
見られるのがイヤだって言ってたアイリスの気持ちを心で理解した瞬間だった。

ところがこの騒動は思わぬ形であっさりと収束に向かう事になる。

虹色怪盗アイリス、彼女の狙いは棺ではなくその”中身”だったのだ。
詳しい事はさっぱりわからんが、要はその中身がトンデモない物だったらしい。
事件が世間を騒がせる怪盗絡みだったため世間の注目度はかなり高まり、
博物館の館長が問い詰められたとかなんとかで、なんとその館長が陰でやっていた
悪事までもが暴かれることになり、連日連夜そのニュースだらけになったお陰で
新鋭ヒーローインフィニティヘッドの活躍はすっかり隅に追いやられてしまったのだった。

盗みこそは出来なかったものの、悪事を暴くという彼女の目的は
皮肉な事にオレの手伝いもあって成し遂げられてしまったのである。

「してやられたってわけかよ、くそったれめ」

自宅のパソコンでも虹色怪盗アイリスの活躍を持ち上げるスレッドを見ながら一人呟く。
この事件以来、アイリスのファンもますます増えていったようだ。

一方のオレはといえば…

「『アイリスの邪魔してコイツすげぇうぜぇ』『アイリスちゃんに手出すんじゃねェヌッコロスぞ』
『調子のんなワカメ頭』……なんでオレばっかり叩かれてんだよ!?一応オレヒーローなんですけどぉ!?」

虹色怪盗アイリスの活躍を邪魔したのと一時期メディア露出が増えたのがきっかけで、アンチが出来てしまっていた…

「ちきしょぉぉぉぉ!!!!あんにゃろぉ今度会ったら絶対捕まえたる!!!!」

とりあえず虹色怪盗アイリスのアンチスレでも建てようかと思ったが、
ヒーローとしての矜持により思いとどまった。

//とりあえず、これで〆にさせて頂きます。
…秘密の部分がよくわからなかったのでかなりボカした感じで書いたのですが・・どうでしょう?
二日にわたってありがとうございました!
127 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY[sage]:2016/09/20(火) 02:18:56.67 ID:dGtaJvj80
>>101

「どうして守る必要があるかって、そりゃあそういうものだからって答えるしかねえわなあ。弱い奴を守ってやるっていうのは、劇でも現実でも英雄の王道だろうよ」
「よく考えてみろ?生憎、咎められなきゃならねえ事をした覚えはねえんだがなあ?」

片翼を貫かれ尚、そうのたまう仮面の者。
対峙する2人の、英雄としてのあり方はあまりに対照的であった。
歪みを受け入れる者と、正そうとする者。
マクロと、ミクロ。
街の正義のために戦う者と、自身の正義のために戦う者。
凡そ正義に関する何もかもが、正反対で真逆であった。
故に、会話は平行線をたどって行く。

「ぬぅっ......!?」

首筋への一撃を入れんとしたその一瞬、不穏な言葉。
間髪入れずに男の体表から伸びる、針鼠を思わせる無数の杭。
鉄扇の一撃が届く間合いであり、男が回避の動きを取れないという事は即ち、この仮面の者にとっても回避は困難であることに他ならない。
咄嗟に鉄扇を広げ防御しようにも、その大きさはあまりにも頼りない____________


「がっ!ああああああっ!!」


その結果。
腕や足、腹といった身体のあちこちを、容赦なく杭は貫いた。
鉄扇と面により、頭や心臓といった即死し兼ねない場所へのダメージはかろうじて避けたが、それでも傷はあまりにも深い。
全身を駆け巡る痛みに痙攣し、力を失ったが如く首をがくりと垂れると、翼は黒い羽となって散らばる。
林原一門は、十代目でその歴史に幕を閉じてしまうのだろうか_________

「.........ぬぅぅぅぅぅぅ..........[ピーーー]ぬ.........まだ[ピーーー]ぬ.........!」

否。
目の前の男にグランドマスターであるに相応しい理由と強さがあるのならば、この十代目だってそれ相応の強さと理由はある。
執念に近い呻きをあげ、ふるふると頭を震わせ、顔を上げれば、その面は鬼の形相_______般若と化しているではないか。
これこそが、強さと理由の一つである、『真打の百面相』だ。
そのまま全身に力を込めれば、刺さった杭が剛力を得た全身の筋肉により粉砕されていく。
傷は豪華絢爛な衣装を赤く染め上げ、正に赤鬼といった様相だ。

「ぁあああああああああ......ハァァァァァァッ!!!」

そうして、全ての杭を砕いたならば、右拳に渾身の気迫と力を込め、顔面へ叩き込まんとするのは、そのまま地面に叩きつけんばかりの強烈な一発。
それが空振りに終わろうと、見事決まろうとも、拳の一撃に全ての勢力を注ぎ、翼の揚力を失ったその身は落下して行くだろう。
即ち、これが勝負を決めるであろう一撃となる。
果たして、その結末や如何に。
128 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/20(火) 02:23:19.53 ID:cwSL6xIt0
>>126

より詳細な事の顛末はこうだ。
アイリスは屋上に姿を現すより先に、共に館長の悪行を暴こうとした若手の職員に屍衣でくるまれたミイラを渡していた。
つまり、この戦いは最初から「アイリスが犯人」という固定観念を利用した囮作戦だったのだ。

盗まれた亡骸は拍子抜けする程すぐに博物館へと返還されたが、この時“真贋を確かめるべく”詳細な調査が行われた。
すると驚くべきことに、ミイラの正体がそもそも古代の遺物ではなく、近年の死体だと判明。
意図的な調査記録の捏造と軟組織の腐敗促進によって「年代物」のラベルを張られていたそれは、はじめから全くの贋物であった。

この騒動を機に館長の身辺へも公安のメスが入れられ、超人大戦時代やそれ以前の遺跡を漁るならず者集団とのつながりが露見する。
ミイラについても殺人事件の線が浮かび上がって、今も捜査が続いている状態だ。

結果としては――――ヒーロー協会もまた、虹色怪盗アイリスの「非合法ヒーロー活動」に利用されたことになる。

【後日 / クレイドル市内 / 聖エリシア女子中学校 2年A組教室】

ここは聖エリシア女子中学校。
超人大戦期に多くの人を救い、聖女として称えられた伝説的な女性ヒーローの名を冠する乙女の学び舎。
今朝も少女たちの朗らかで品の良い挨拶がこだまし、教室では幾つかのグループがHRを待っていた。
その一つの中に、黒髪を二つのお団子のように結んだ少女が混じっている。

「お料理してる時にね、わたしボケーっと次は何をするか考える時があるんだけど……その時、ザクってやっちゃった」

《えぇーっ!?普通そんなことないよぉ。あやめちゃんってば本当にドジなんだから》

「嘘っ。ホントはみんなだってレシピの手順がごちゃごちゃになるもん」

『ど忘れはするけど、あやめはちょっと行き過ぎてるよ!
 アタシが居ないと学校に行けるかすら怪しいんじゃないかなあ…………?』

――あやめ。そう呼ばれた少女の左手には、掌部から血の滲むバンテージが巻きつけられていた。

//絡みありがとうございました!それで大丈夫です!以後は説明と誘導の不足に気をつけますね!
129 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/20(火) 20:23:34.17 ID:mpgnAmT40
>>127

真逆、と言うのは確かに正しいようで、その実は明らかに異なっている。
彼は――引いては歪んでいることを受け入れているのではなく、その歪んでいることこそがクレイドルにとっては『正しい』のだ。
環境が変われば法律も、人も、全てが変わる。生まれてくる植物も違えば、其処から派生する食物連鎖の銃所だって当然異なってくるだろう。
ヒーロー協会は言わばその環境を保全する役割を担う機関である。現状を最高とし、環境を乱すあらゆるを駆除、除去し、クレイドルにおける最適を維持し続ける。
違法ヒーローの行いは確かに違法ヒーロー自身の観点から見ればたしかに協会より遥かに人道的で、自分たちはさも英雄であるように映るのかもしれない。
確かに、この世界が『夢物語の話』であるのなら、彼等の理屈は正しいことに『なる』だろう。物語としては、そうしなければ『面白くない』のだから。

しかし、この世界は決して夢や理想などと言った言葉で片付けられるほど単純な世界ではない。人は人の都合で悩み、堕落し、そして手に入れた力を他者へと振るう。
それは紛うことなき悪の所業であり、異能の力というものはそれだけで他者に拳銃を突きつけているのと同義である。いや、もっと酷いものと言ってしまっても良いかもしれない。
例を挙げると、彼の能力である『リベリオンダウン』はどのような状況においても杭を生成できる能力である。即ち、握手をした瞬間に手のひらから杭を生やし、相手の手のひらを貫く。さらに言えば、そのまま心臓を貫いて殺すことすら容易なことでしかない。
能力というものは人間にとって酷く暴力的なもので、それ自体が規制対象となりうる。理由なき行使は無意味な争いと死傷を生み、争いが過ぎれば死体だけが残る。

だからこそ、以前の英雄たちが勝ち取った平和を維持し、能力を持った者達を制御するためには『E2』という抑止力が必要になった。
常に監視されているわけではない。あくまで『ヒーロー活動を行う勤務時間』にのみ行われているそれは、市民に対する『安全保証』と言った面も含まれている。
能力というものは存在するだけで恐ろしい。ヴィランが栄えていた昔のように、能力者がいつ市民へと牙を剥くか。そんな市民たちの恐怖を形にしたものが『E2』である。と彼は考えている。

過ぎたる力には制御するための鎖が必要だ。放し飼いにされた番犬が非常に凶暴で非常識なものに映るのと同じように、能力者には自身をヒーローからヴィランへ堕落させないための枷が必要なのだ。
『アイズ・エブリウェア』。監視する瞳。ヒーローという合法的に能力を振るうことができる『力』を手にする代わりの『枷』。

それを自らの意志で拒み、あまつさえその凶暴で凶悪な能力を振りかざしながら自身を『ヒーロー』とのたまう存在を、誰が一体『英雄』として捉えられようか。

彼は、そんな絶対の『正義』を振りかざす。
故に、だからこそ。彼は『ヴィランを駆除する事でグランドマスターの称号を得る』までに至ったのだ。
130 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/20(火) 20:24:03.70 ID:mpgnAmT40


変化する仮面。そして突如として増強される肉体。明らかに人間としてのそれではなく、能力による強化だというのは誰の目にもわかりきっていること。
流石の彼も完全に空いての能力を把握していたわけではなく、ならば当然その初動に回避の選択肢はない。全身から生み出されていた紅杭の全てが、まるで小枝でも折るかのように砕かれてしまう。
血液を吸収して成長した紅杭を破壊する。いくら彼が接近される際の一瞬で生み出した最低限の杭であるとしても、その能力の有用性は目で見張るほど。ましてや『二種類』全く異なる能力を持つのは、かなりのレアと言える。
見たところ筋肉増強型。若しくはそれに近い何か。振りかぶられる右拳に、自慢の針が砕けた針鼠は、初めて笑みを見せるだろう。

――――全身柄生えていた針が突如として『はずれ』、そして彼の体をよく見れば、一本の黒色をした杭が然りと刺さっているのがわかるだろう。
此処で思い出す。彼が最初にはなった二本の杭が持っていた能力は、刺さった対象の重量を増加すると言うもの。それが自分自身に刺さっているということは、『自分自身の重量を増加する』ということにほかならない。

ただの竜巻で人が上空へと吹き飛ばされるか? そんなことはありえない。いくら彼の体躯が重量にやや乏しいとはいっても、それでも平均的な成人男性の重量と同等、若しくはそれより重い。
そんな体を上方向に浮かそうと思えば、かなりの浮力を生み出すことが大条件で、且つ彼がこれまでの攻防の間浮き続けていられなければならない。という条件がついてくる。
唯でさえ難しいであろう上記のそれに加え、現在感じていた翼の圧力が消えている。となれば、彼を吹き上げていた風の圧力も無に帰すということ。
自身に少しばかり『下に向かう重力』を増してやれば、たったそれだけで空中での一振りは意味を失う。体制を変えきれずに僅かに掠った拳の端が、彼の頬を小さく裂いた。

だが、それだけ。彼は現在クレイドルに存在しているはずの幾多のヒーロの更に上位に位置する能力者であり、協会から齎されるサポートはそれこそ絶大である。
幾ら数代続く以前からの能力者だと言えど、この町においては只の違法ヒーローでしかない。当然根本的なコンディションや情報量が圧倒的に『異なっている』。
絶対的、と言うには少し弱いような気もするが、それは英雄の系譜を受け継ぐ仮面であるから手を伸ばせたに過ぎない。本来ならば、此処まで彼のもとに手を伸ばせる者は先ず『存在しない』からだ。
……でなければヴィラン駆除などという仕事でグランドヒーローになれるはずもない。

「――――態々壊してくれてありがとう 。」

落下していく彼と、そして仮面。渾身の一撃を逸した彼はさも嬉しそうに、そして表情自体は何一つ変化すること無く、仮面に向かって吐き捨てた。
131 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/20(火) 20:24:19.63 ID:mpgnAmT40


――――

落下する。事前に落ちるとわかっていれば多少の準備は行えるもので、足に響くような鈍痛に顔をしかめるものの、これと言って大きな負傷を起こすこと無く地面へと降り立つ。
久しぶりのような感覚の地面を幾度か蹴ると、空中に居たときのふわふわとした感覚のようなものがまだ残っているのがわかる、。純粋に、不快だった。

恐らく、彼の視線を向ける方向には同じく落下してきた仮面が倒れている。若しくは着地を取っていることだろう。だが、先程からのダメージを見るに満身創痍なのは間違いない。
「このまま止めを刺し、殺す。」彼は普段通りにそう思い、そして仮面に近寄っていこうとその足を向けるのだが―――――― 一つの着信音が、踏み出そうとしていた一歩を止める。
それは彼の懐から流れているようで、無造作に突っ込んであった情報端末から漏れている音らしい。本来なら無視してでも悪を駆除しようとする彼の足を止めた理由は一つ。それが協会によるコールだったからだ。

「――――『ウェザー』が掛かったか。」

「……了解した。後で此処に回収班を回せ。俺はすぐ向かう。」

言葉も少なくコールを終えると、意識を保っているのか、そうではないかは分からないが、仮面に一言こう告げてこの場から離れることだろう。

「――もう遊びは終わりだ。お前にかまっている時間すら『煩わしい』。」

全ては無駄で、無為で、無価値である。無意味にそんな言葉を並べながら、彼はその姿を暗闇の中へと消して行ってしまうだろう。
少し時間が経てば、彼が去った場所には仮面を『回収』するために幾人かで構成された回収班が辿り着く。もしそれに捕まってしまえば。仮面の異能は酷く『有効的』に使われると想像することは難くない。
だが、幸いにして時間はある。彼は迂闊にも仮面に止めを刺すこと無く、剰えこれと言った拘束さえせずにこの場を後にしている故に。仮面の能力を持ってすれば、逃げることはそれこそ『容易』だ。
132 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/20(火) 23:17:59.78 ID:/QZo+99Oo
公園。平日の昼間という事もあって、子供連れの母親などで公園は小さな賑やかさを生み出していた。
そんな中に、彼女もまた混じっていた――――金色の髪と瞳に、白い肌。トレードマークの黒いゴシックドレス。
『ボマー』と名付けられたヴィランである。理由もなく暴れ、かと思ったら執着がないからいつの間にかどこかへ言ってしまう。
気まぐれ故に危険。けれど好んで人を害することはなく、殺人件数で言えば非常に少ない無いため、刺激をするなという意見もある妙なヴィラン。
そんな彼女は今、ベンチに座り、機嫌よくソフトクリームを舐めていた。

「うふっ♪」

ヴィランであれば強奪してきたものではないのか、そう思うかもしれないがこの数時間で此処ら周辺で騒ぎが起きたという通報はない。
つまりは彼女が金銭を用いて、真っ当な取引の結果手に入れた物ということ。俄には信じがたいが、その気紛れこそが彼女の性質である。
あまりに平然と何事もなく日常に混じり込んでいるせいか、ヴィランに詳しくない民間人は彼女の存在に気付かず素通りしていた。
そもそも暴れていないのだから、刺激しないのが確実――――にも関わらず、彼女に声をかける者が一人。
ヒーロー協会所属のヒーローだった。ヒーローであればヴィランの情報を頭に叩き込む等常識中の常識、だからこそ彼女の存在にも当然気が付く。
パトロールの最中だったのだろう。ヒーローは周囲の人間に逃げるよう警告をし、彼女に攻撃を仕掛けた。
正しい行動、正義に則り行われた裁き。しかし其処に正しい結果が伴うとは限らない。

「…………♪」

彼女の周辺に転がる幾つかのヒーロー。生きてはいたものの、瀕死の重傷であることに違いはない。
賑わいを見せていた公園には既に誰も残っておらず、爆撃による破壊の痕が虚しくも残されているばかりであった。
初めに仕掛けたヒーロー、そしてあとから駆けつけたヒーロー。共に彼女には届かず、立ち向かうことさえ叶わない。
ヒーローを歯牙にもかけずアイスのコーンを齧る様子は、正しく凶悪なヴィランであると言っていいだろう。
ヒーロー協会には既に通報が飛んでおり、救援が来るのも時間の問題――――どうやら彼女は、気にしていないようだったが。
133 :虹色怪盗アイリス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/20(火) 23:41:04.94 ID:cwSL6xIt0
>>132

白昼堂々の無軌道な犯行。その凄惨な現場を少し離れた所から伺う者がいた。

「10-14(犯罪者発見)…… 先行部隊は戦闘不能、重篤な外傷を確認。
 ……10-4(了解)…………でございます」

そいつは耳から顎の輪郭にかけてを覆う『アンテナ』のような器具に指で触れながら、手早く無線通信を行う。
通話の相手は他でもないヒーロー協会のオペレーター。行動指針を受け取れば、あとは実行するだけだ。
――救急搬送を可能とするための、迅速な下処理を。

ソフトクリームの味に没頭していると思しきヴィランは気付けるだろうか。視界に、銀色のノイズが走るのを。
その反応速度と果たしてどちらが先か。突然、『ボマー』に返り討ちにされたヒーロー達の身体が、凄まじい速度で後方へと引っ張られていく。
人通りのない物陰まで到達すると“すっ飛んで”いたはずの重傷者たちは縫い止められたかのように静止し、ゆっくりと地面へと倒れ伏すだろう。

一呼吸おいて、ヒーロー達が消えていった物陰から颯爽と躍り出る者あり。それは――――

「……データベース照会。コードネーム『ボマー』と断定」

────屋外の公園とも、爆煙の燻る戦場とも不釣り合いに映る姿。金髪を三つ編みに結んだ、『メイド』装束の少女だった。
134 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/20(火) 23:45:31.82 ID:cwSL6xIt0
//何度名前間違えれば気が済むんですかねホント!
135 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/20(火) 23:54:17.93 ID:/QZo+99Oo
>>133

気がついたら、近くに転がっていた筈のヒーロー達が消えていた。ともあれ驚きはしなかったし、かといいって怒るわけでもなかった。
降り掛かった火の粉を払っただけであり、彼等の生死をどうこうしようだとか、そこら辺は彼女的には結構どうでもいいことだったからだ。
ただし問題はヒーロー達が消えたことではなく、それを実行した者がいるということ――――ざく、コーンを噛み砕いて。

「あらぁ……懲りずにまたぁ?」

今までのとは、少し違うのがやってきたな。何となくそう直感しながら、それでも彼女は立ち上がることさえなく視線だけをそれへと向ける。
立っていたのは、メイド装束に身を包んだ少女であった。アレが実行犯かだなんて思いながら、彼女は先日の事を思い出す。
気紛れにとある施設を襲撃した際現れたヒーローに、良いようにしてやられたこと。殴られた痛みを思い出し、彼女は口角をつり上げた。

「何その格好、変なのぉ」

自分も大概であるということには触れず、それでも彼女は視線を相手に向けたまま、背中に蝶のような羽を発現させる。
ヒーロー協会のデータベースにアクセス出来るならば、彼女の能力の情報も細かく記載されているだろう――――知っているからどうにかなる、というわけでもないかもしれないが。
とにかく降りかかる火の粉は払う。正直あまり負けを気にしたりするタイプじゃあないけれど、思い出してムカついたからこのヒーローはぶっ倒す。
鱗粉で形成された蝶の爆弾、無数の無垢なる悪意がメイド装束のヒーローへと向けて放たれる。
直撃を受ければ骨程度は折れるだろう、だが移動速度は大したものではなく、能力を知っているならば回避は難しくないはずだ。
ボマーは傍らに置いてあった日傘を手に取って、相手を見る。どういう動きで、どんな事をするかな――――それを、見極めるために。
136 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 00:19:41.94 ID:8bSmnMiB0
>>135

「おっとっと……でございます」

蝶型爆弾を視認するや否や少女の右手が燐光と微熱を発し、銀色の“砂塵”のような物質が形成される。
それを棒手裏剣のような投げやすい形状に整形して、蝶爆弾に狙いをつけ投げつけた。
お互いの弾を相殺しようという魂胆は叶い、公園に轟音一声。

「10-31(犯罪発生中)ターゲットより自発的攻撃あり。説得は不可能と判断でございます。
 逮捕、ないしは『無力化』を提案。10-4、でございます」

変な格好と言われたわけだが、この少女は口調も奇矯だ。言語機能にバグを起こしたかのように語尾が不自然なのだ。
ふざけた言葉遣いという一点を除けば仕事ぶりはシリアスそのものだが――。
あまりにも真顔なので、調子を狂わされるようなことがあるかもしれない。

「当機はヒーロー協会所属、ディビジョン5:ノービス・ヒーロー、コードネーム≪アイアンメイド≫
 個体識別名『テルス』でございます。
 最寄りの署までご同行願いますので、以後よろしくおねがいしますでございます」

感情表現に乏しい名乗りもそこそこに、テルスは再び手から“砂塵”を生成し、ばら撒いていく。
それは瞬く間に体積を増大させ、地面から人一人を掌握することも可能なほどの巨大な手を現出させた。

“砂塵”の手は『ボマー』へと伸びていき、横に薙ぐような巨大手刀を御見舞いしようと試みる。
大きく跳躍したり、爆発を連続で浴びせて解体すれば回避は難しくない。
見た目は派手だが――テルスにとっては、隙を見つけるためのほんの小手調べだ。
137 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 00:38:58.74 ID:j/7XI6ygo
>>136

相殺された。何に? 分からない。銀色の何かだった。それ以上の事は、見ただけでは察せられない。
ともあれあのメイドは元は不定形であった銀色の何かを形成し、爆弾を相殺した。恐らくはあの銀色のモノを生み出し、操る能力なのだろう。
ボマーは適当なヴィランである。暴れる事は得意だが、戦うことはとても苦手――――能力を使うことしか、能がないから。
だが今の彼女は無意識の内に相手の能力を探ろうと、観察し分析していた。先日の負けは、それだけ彼女からすれば気に入らなかったらしい。

「変な喋り方ぁ……」

とはいえ判断は間違っていない。説得に応じる気なんて欠片もない。今までの罪の量を考えれば、一生牢獄から出れないなんてことも十分にありえる。
そんな人生は御免だ。これからも好きなように生きて、好きなように暴れる。適当に倒して逃げよう、羽は絶え間なく鱗粉を生成し続ける。

「えー、やぁよ。捕まえたいなら、力づくでやってみればぁ?」

相手が手から銀色の物質を生み出し、そしてそれをばら撒いた。加速的に量を増やしたそれは、気がつくと手のような形へと変わっていく。
成る程。生成するという点では彼女と自分は似たような能力だが、その性質は全くの正反対――――相手は創造に特化した能力であり、自分の能力は破壊に特化している。
ならば其処で重要になってくるのは、結局のところ生成速度だ。先程爆弾を相殺した辺り強度は中々のようだし、生成できる速度によっては此方が不利かもしれない。

だったら――――と、彼女は何かを思いついたらしく、再び幾つもの蝶を形成していく。
無理に相手に付き合い、能力を全て対処する必要なんて何処にもない。造られた蝶は手を破壊すべく、次々に激突していく。
だが手は壊れず、精々が動きを止める程度。威力が全く足りていないようにしか見えなかったが――――違う。そうであるように、彼女が調整したのだ。
派手に散っていく蝶、その中に紛れるように、真っ直ぐと本体へと飛んでいく一匹。彼女の狙いは手ではなく、初めからテルス本人だった。
速度は同等、対応に困る程の速さじゃあない。だがよく観察すれば、先ほどの蝶とは鱗粉の密度≠ェ違うと分かる筈だ。
彼女の爆弾の威力は鱗粉の量によって決まる。密度が上がれば、それだけ威力は増す――――先程と同じ距離、同じ対応で相殺しようとしたならば、その爆撃はテルスに届いてしまうだろう。
だが気付くことが出来れば、幾らでもやりようはあるはずだ。ただその間にも彼女は鱗粉を生成し続けている為、意識を蝶一匹に向けるのは非常に危険だが。
138 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 01:02:09.50 ID:8bSmnMiB0
>>137

砂の豪腕は爆風によって押し留められ、思うように『ボマー』の側面を捉えられない。
その状況を見据えるテルスの思考回路を、刺すような違和感が走る。敵には甚大な攻撃力があるはずだ。
では、なぜこの単調な攻撃への対処方法に一見非効率的な手段を用いているのか?
まるで何かをごまかすような――。

安全のため距離を取りながら思案を巡らせるテルスの視野に、一羽の蝶が飛び込んでくる。
常人のそれを上回る機械眼球の分解能は、確かにそれが他より多くの鱗粉を含み持っていることを見抜いた。

「喋り方は、当機も気にしているところなのでございます。
 言語機能の回復に目処が立つことを祈るばかり……でございます」

トラッシュトークに応じつつ、テルスは再三“砂塵”を生成し、降り積もらさせていく。
嵩が増す間も銀砂の塊は蠢き――飛翔する蝶の四方を囲むと隆起し、それを閉じ込める「箱」を形作った。

テルスは『ボマー』の爆破が、彼女の視界の及ぶ範囲にしか起きないことを知らない。
この封鎖は飽くまでも、隔壁と閉鎖空間の酸欠状態によって爆発の威力を殺すことが目的だ。
(実際どのような判定になるかはメタ的な部分に委ねられるだろう)

「して、力づくですか、でございます。ご注文、承りましたでございます」

それと同時に、爆風に押しやられ続けている『腕』が、力を振り絞ってその拳骨を斜め上から『ボマー』に叩きつけようとした。
だが蝶のカーテンを強引に貫通しながらの攻撃は二度も出来るものではなく、成否に拘わらず腕は崩れ落ちる。
一度「死んだ」砂は、再びテルスに触れられるまでは再稼働することがない。
139 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 01:14:26.90 ID:j/7XI6ygo
>>138

彼女の鱗粉は一見すれば強大な射程を持ち、彼女自身それを強みの一つとしていたが、一方で視界内でなければ爆発出来ないという欠点を持つ。
それを知ってか知らずか、相手は彼女の蝶を閉じ込めた。彼女からすればそれほど手痛い反撃はないだろう、攻撃手段が能力しか無いにも関わらずそれを完全に封じられたのだ。
ボマーは僅かに目を見開き、それから相手を睨みつける。能力で暴れることを好む彼女にとって、能力を封じられるということがどれだけ窮屈か――――。

「やめて――――ねぇ」

あらゆる縛られて生きてきた。だからもう誰の支配も受けず、何にも囚われずに自由に生きていく。
それが彼女の信条である。自分自身の感情にすら囚われたくない、にも関わらず彼女は珍しくその心に怒りの色を宿していた。
閉じ込められ、役目を果たせず藻掻く蝶。ああ、見ているだけで昔の自分と被る。酷く狭く息苦しい世界で生きてきた、あの頃を。

「やめないなら――――こうするしかない、わよねっ!!」

鱗粉で出来た蝶。当然其処に生命は存在せず、操作しているのも彼女自身だ。ならば既に爆発する機能を失った蝶等見捨て、次の攻撃に移るのが当たり前だろう。
通常の思考回路ならば、間違いなくそうするはずだ。だが彼女はそうしなかった。蝶を閉じ込めた箱、その周辺に一気に鱗粉を集中させたのである。
次の瞬間、妨害がなければそこで大きな爆発が発生するはずだ。目的は相手へのダメージではなく、あくまで箱の破壊。
爆発の大きさから防御姿勢を取るなりしなければ余波が届くだろうが、それも致命傷には到底及ばないはずであり。
その攻撃さえ凌げば、生成していた鱗粉を一気に消費してしまったボマーには大きな隙が生まれる――――筈である。
140 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 01:45:50.86 ID:8bSmnMiB0
>>139

箱に閉じ込められた蝶は、そこから出ることも自爆することも無かった。視線が爆破のキーか?
ならば重畳。箱を使った防御が出来るのは今回だけだろうが、以降も壁を使えば能力起動を妨害できる。
あとは相手が自分から動かざるを得ない状況を作り、罠を張って捕縛するだけ――

――――そんなテルスの論理的思考は、不条理な連鎖爆発によって破断された。

機能を失った銀の砂が弾け飛び、衝撃で塵埃が吹き荒れる。大爆発の余波がテルスを襲う。
腕には咄嗟に“砂塵”の装甲を纏ってカバーしたが、身体まるごとを覆う余裕は無い。
オーバーテクノロジーの塊であるボディが爆風によって宙を舞い、地面へ叩きつけられた。

「……まったく…………困ったお嬢様でございます……」

公園から転がり出るすんでのところでテルスは立ち上がり、再び『ボマー』を前面に捉える。
メイド服の肩が裂け、露出した傷肌から血と言うには色の薄い液体がにじみ――見るも明らかなカラクリ機構が顔を出した。
高度で堅実な生体模倣工学(バイオミメティクス)と、得体の知れない謎めいた技術の蜜月が生み出した鋼の人造人間。
その出自こそが、テルスが『アイアンメイド』の名を背負う由縁だ。

「時には、一見順当ではない判断が敵の裏をかくため役立つのでございますね。
 後学のために覚えておくでございます――当機、起動してより日が浅いものでございますので」

『ボマー』の無謀とも言える行動は然し、テルスから即座の反撃の機会を奪った。砂腕も沈黙している。
その上で再び戦闘の間合いに入るべく、ヒーロー協会の<自動人形>はボマーへと先ほどの棒手裏剣を二つ連続で投げながら、再接近をはじめた。

威力は尋常の投擲暗器の域を出ないものの、狙いは両の眼。根本的に視界を消し去ってしまおうという意図が読み取れる。
141 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 17:27:22.65 ID:j/7XI6ygo
>>140

はっきり言って、ボマーは頭がいいヴィランとは言えない。生まれはクレイドル外の貧民街、物心ついた頃には既に親に金と引き換えに売られていて。
気付いた頃にはとあるヴィランのもとで奴隷として生活していたのだ。それから能力に気が付くまで、ずっとそんな生活を送っていた。
教育を受けたことがない。ならば彼女の思考が一手送れるのも必然だろう、なにせ頭を使うという事自体が頭には無いのだから。
当機。起動。変な喋り方。そしてボマーが取った行動が偶然生み出した傷口、其処から露出した銀色の複雑怪奇な中身は決して人間のものではなく。
そこでようやく彼女は、相手が人間ではないということに気が付いた。

「あぁ、そういうことねぇ……」

まともに戦えば、まともに対処される。逆に論理的ではない行動を取れば、読み取ることが出来ずに行動が遅れてしまう。
相手の土俵に立ってやろう。戦ってやろう。勝ってやろう。前回の敗北から、そんな思考ばかりを優先させすぎた結果、彼女は本来の自分を忘れていたらしい。
彼女は気ままで気紛れな適当ヴィラン。正攻法で攻めるなんていうのは、ボマーのやり方ではなかったはずだ。
そして彼女は勝ちたかったのではなく、殴り返したかった。誰でも良いから、とにかくヒーローに。
棒手裏剣。ボマーの身体能力は常人と同レベル、よって投げられた其れに対し咄嗟に反応し回避するなんて芸当はとてもではないが出来ない。
しかし目は彼女の最大の武器である。一つを空中に散布していた鱗粉によって弾き返し、一つを首をかしげる事によって当たる位置をずらした。
左瞼が切り裂かれる。皮膚が柔らかい部分だったからか、血が絶え間なく溢れ始める。結果的に視界は潰されたが、眼球自体が潰されるということはなかった。
ただし残された視界は半分、爆撃範囲は相当縮まった――――が、彼女からすればもはやそんなことすらどうでもよく。

「ほんとぉなら、あの髪の毛伸ばす奴を殴り倒したいんだけどぉ」
「もう出来れば会いたくないから、あなたを代わりに殴り倒させてもらうわねぇ?」

もし仮にテルスが協会に残されたボマーとヒーローの交戦記録を参考に戦術を組み立てているとしたら、今からボマーが取る行動は完全に未知のモノとなるだろう。
ボマーの戦闘方法は基本能力に頼り切るばかりで、その攻撃に特化した性能で暴れまわるだけのヴィランだった。戦闘方法とすら言えない雑な行動しか取ってこなかった。
自分から近付いてくる事など殆ど無いし、ある程度以上の負傷を受けるとさっさと退散してしまう。普段の彼女であれば、もうこの時点で撤退していただろう。
しかし彼女は逃げようとはせず、むしろ真っ直ぐにテルスを見つめ――――そして、笑った。

日傘が開かれる。僅かにボマーの身体が宙に浮く。そして同時に、彼女の背後で爆発が発生する。
この日傘はただの日傘ではなく、所有者に浮遊と上昇の能力を与える特殊なモノ――――ただし上にはいけるが、横への移動は出来ない。
だが浮遊という特性上、風を起こせば上以外の方向への移動も可能となる。そしてボマーは自分の背後で爆発を発生させ、その爆風で急激な加速を引き起こした。
そっちのほうが自分で走るより余程速い。小回りは効かないが、今の彼女は前に進むことしか考えていなかったのだからその必要もない。
急激な加速、そして距離を詰めることが叶えば、ボマーはそのまま飛び蹴りをテルスに仕掛けるだろう。
加速はあれど重さはなく、身体能力が高い訳でもなければ技術があるわけでもない。体重の乗っていない素人の蹴撃にそこまでの威力があるかと言われれば、はっきり言って無いに等しい。
但し意表を突くという意味では、今までの彼女を知る者から見たら有り得ない行動である。彼女が肉弾戦を行おうとすること自体稀であり、其れを自発的にやったのなど恐らく初めてだったのだから。
142 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 18:08:24.96 ID:8bSmnMiB0
>>141

『ボマー』が浮かべた意味ありげな笑み。見返すテルスは真意を伺うように目を凝らす。
人間と同等の感情を持つとは言え、彼女にはヒトを人たらしめる経験が決定的に不足している。
例えるならば、頭でっかちな幼子のようなものだ。
過去との断絶を埋めるためのデータベース。だが、それは死に狂いの情念を読み取る助けにはならない。

「……? 当機には、あなたの主張を判断しかねるでございます」

 機械的知性で敵の左手側へと回り込もうする間も、人間的理性が違和感を訴える。
 どんな感情が『ボマー』を突き動かしているのか。彼女の背景に描かれているモノは何か。
 データベース検索……怨恨。……逆恨み。……憎悪。……k……いや、そうじゃない!
 語彙として把握していても意味はないこと。あれは一体なに?

やり場のない逡巡をよそに、『ボマー』はふわりと宙に舞い上がった。
空中からの爆撃に備えて視界を広く取ろうと後方に下がったテルス。その額を、靴裏が強かに打ち据える。
視界が揺れる。また思惑をずらされた。
人間のように脳震盪を起こすことはないし、痛みもさほどではないが――ただ理解が追いつかないことが苦痛になっていく。

「くっ、あなたは本当に、何を考えているでございますか……!」

思考からの逃げ場を求めるように、テルスは『ボマー』の後隙を咎めようとした。
すなわち、両腕に隠された彼女の専用武装――――4×2本の特殊ワイヤーリール『グノーメ・バート』の展開。
“砂塵”と同じ素材で形成された強靭な銀線は、使い方に応じて鞭にも縄にも刃にもなるのだ。

この時は、刃。蹴りの反動での移動を加味し、双腕を交差させるように振るって眼前を薙ぐ。
正確な狙いはつけられていないが、着地していれば腕や胸、浮いていれば脚が攻撃の標的となるだろうか。
143 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 18:32:03.67 ID:j/7XI6ygo
>>142

たかが蹴りと言えど、そこには技術を要する。そして其れが彼女、ボマーには一切無い――――技術のない物が、格闘術を扱えばどうなるか。
自分自身も負傷するのだ。蹴りは当たった。だが同時に足首を痛める。着地と同時に顔を顰め、痛みにはを食い縛る。
痛いのは嫌いだ。だが今はそれ以上に、思い通りに攻撃が当たったことへの喜びの方が大きかった。やった、ようやくやり返したと。
相手からすれば理不尽極まりない復讐であろうが、彼女からすれば正当な理由だった。
人間の思考とは複雑怪奇、機械的には図り難い――――彼女はまさに、その典型のような人間と言ってもいいだろう。

「何をって、色々考えてるわぁ。ご飯なに食べようかなとかぁ、明日はなにしようかなぁとかぁ」

しかし蹴りを当てたまでは良かったが、その先の事を何も考えていなかった。無論このまま肉弾戦を続けるなんて、絶対に有り得ない。
殴り合いになって勝てる未来が見えないし、そんなことをすれば次々に拳と足を痛めることになる。それぐらいは彼女も分かっているのだ。
しかし相手と自分の距離は僅か数メートル、詰めようと思えばほんの一瞬で詰められてしまう距離だ。そして爆撃は安易に連発すると、自分にまでダメージが来てしまう。
あーどうしよう。考えるけど思いつかない。というか思考の片隅では冗談抜きでご飯のことをさえ考え始めている。
そしてそんな自分のことを相手が待っていてくれる訳もなく、ワイヤーリールが伸びてきた。
躱せるか? 無理だ。だって気付いたときにはもう腕が斬られていたし。爆発で移動しちゃったせいで、ばら撒いてある鱗粉もその場に置いてきてしまったし。

「いたぁ!? …………ああもう、痕になっちゃったらどうするのよぉ」
「まあでも、丁度いいかしらぁ。痛いの、そろそろ我慢できなくなりそうだしぃ」

血が滴り、地面へと零れ落ちていく。ボマーはそれを嬉しそうに見つめた。
痛いのは嫌いだけど、今日は機嫌がいいからまだ我慢出来る。けどこれ以上戦闘を続けてしまうと、恐らく自分は捕まってしまうだろう。
なにせボマーは体力がない。血が流れ出してしまったら、ただでさえ少ない体力が余計に早くなくなっていってしまう。
事実彼女は既に若干呼吸を乱し始めており、テルスの観察眼を持ってすれば既に彼女が疲労状態にあることが読み取れる筈だ。
だが捕まるつもりは無い。牢獄に縛り付けられるなんて、絶対に嫌だ。ならばどうする――――脱出するに、決まっている。

「人間なんてのはねぇ、理論だけじゃあ計れないモノなのよぉ。たぶんね?」
「頭だけで考えてたら、あたしみたいなのとはやりあえないわぁ――――ってぇわけでぇ」

ボマーが基本的に用いる鱗粉の爆弾。彼女はそれとは別に奥の手として、もう一つの爆弾を隠し持っている。
それは己℃ゥ身である。髪の毛一本あら血液の一滴まで、全身を爆弾と出来るのが彼女のもう一つの爆弾。
そして肉体の爆弾は鱗粉のように操作は出来ないが、見えない状態でも爆破でき、尚且つ鱗粉よりも遥かに高い威力を持つ。
直接それを相手に当てる、なんてことをボマーは考えていなかった。彼女は他人を傷付けるが、かと言って殺したがっている訳ではないからだ。
地面に染み込んだ血液、そして開いた日傘。脱出準備は、もう整っている。

「また遊んでねぇ、テルスちゃぁん――――ばいばぁい♪」

何も妨害が入らなければ、ボマーはその場で血液を爆発させ、その爆風を利用して上空へ急上昇しようとするだろう。
爆発は威力こそ今までで一番大きいものの、その場に留まれば余波が微かに届く程度で大きなダメージは受けないはずだ。
144 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 19:29:11.21 ID:8bSmnMiB0
>>143

「そんな、でございます! それではまるで……」

……ただの、少女のようではありませんか。口にしかけた言葉は、ぐっと喉奥に仕舞い込まれた。
実際『ボマー』の精神に“ヴィランの特殊性”などという要素は無いのだろう。
単に束縛を嫌い、自由を追い求めているだけ。その方法が他者を害するものであったとしても。

テルスは<自動人形>の中でも、際立って強く、人に尽くすことを行動原理としている。
仮初の生命を守護のために燃やす献身を、生まれながらに身につけた存在。特徴的な衣装も、その在り方を端的に示すものなのだろう。

だからこそ、深い水底から浮き上がる泡のように幾つもの疑問が生じた。
何故、超人として生を享けたが故に自由を管理されなければならないのか?
ヒトが別のヒトに、善か悪のどちらかにしか立つことが出来ない宿命を背負わせる権利はあるのか?
かつて同じ時代を生きた英雄たちは、あのときの当機は、本当に今の世界を望んでいたのか?

「……GUAAAUUUU…………――ですが、ございますですが……それでも、あなたは余りに多くのヒトを傷つけて……!」

繰り返す自問自答の質量に、未成熟な精神が悲鳴を上げる。
せめて『ボマー』を拘束しようと乱雑にワイヤーを振るうが、八頭の蛇は弱々しく、天高く飛び上がった少女を掠めもしない。
結局のところ、テルスはヴィランに中途半端な傷を負わせただけで、撤退を許してしまうのだった。

再会を予感させる捨て台詞が、歯車仕掛けの心に残響する。痛みを恐れると言うのに、何故再会を願うのだろうか。
理解――――――できない。自分と同じように作られているはずの、ヒトの想いが。

答えを出すことが出来ず俯いたまま、状況報告のためにテルスは通信の回線を開いた。
145 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 19:45:59.99 ID:j/7XI6ygo
>>143

「傷つけちゃいけない理由が、何処にあるのぉ?」
「傷付けられたくないって、それ弱いやつの良いわけでしょ?」

弱者でいることに甘んじているから、そんな脆弱な思考回路が形成される。そんな微温い思考では、クレイドルの外で生きていくことなど出来やしないだろう。
それが悪いことだとは思わないけれど、動物ですら生き残るために命を賭けているのに、人間は少々野生と言うものを失い過ぎたのではないか。
少なくとも戦うことを放棄した者に、明日を生きる資格はない――――なんて、難しいことは考えていないけれど。
彼女が去り際に告げた一言は、紛れもなく彼女の本音だった。傷付けて何が悪い、と。傷つけられるぐらい弱いやつがいけないんだろう、と。

「んふふ、今日はちょっといい感じだったかも……♪」

空中を浮遊し、鱗粉で移動速度と方向を調整しながら、ボマーは楽しそうに笑う。
暴れることしか出来なかったけれど、今日は少しだけ戦うことが出来た。そして存外戦うのは面白い。
まあ痛いのは嫌だけれど、上手く戦えるようになれば受けるダメージも減っていくだろう。立ち回り方を理解していないだけだ。

「…………機械仕掛けのお人形さん、どこまで精巧に作られてるのかしらねぇ」

去る寸前に聞こえた言葉は、少なくとも其処らの人間より余程人間らしさが滲み出ていた。
見た目も、そして思考も、途中まで人間だと疑わなかった程度にはよく出来ていた。今思えば大した技術である。
だがその思考まで人間を上手に再現してしまっていたら、目覚めたばかりだという彼女をヒーローとして運用していくのはとても残酷な事のように思えてならない。
この世界には沢山の知識と経験が転がっていて、人はそれを手に入れ成長する。ヒーローになるとしても、ヴィランになるとしても、多くの人間はそれを自分で決めるものだ。
彼女はそんな当たり前の期間すら経ず、ヒーローになってしまったのだろう。かわいそうだな、と思う。何か出来るわけでもないけれど。

「…………あ、痛い」

そして脳内麻薬が切れた頃、自分の体が傷だらけなことを思い出した。
特に腕。袖が切り裂かれて滅茶苦茶だ。お気に入りの服だったのに、これに関しては少しばかり怒りを覚えた。
傷よりも服。ふわついた思考をそのままに、彼女は気ままに適当な方向へ浮いていく。
その能天気さは、機械人形の靄が掛かった思考回路とは全く正反対のもので――――けれど同時に両方共、人間じみたモノ。

//こちらはこんな感じで〆で……絡み乙でした!
146 :『ボマー』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/21(水) 19:46:33.86 ID:j/7XI6ygo
>>145
//安価ミスで>>144です、すいません……
147 :『アイアンメイド』テルス ◆wEOHUHJ6Js[saga]:2016/09/21(水) 20:13:17.51 ID:8bSmnMiB0
>>145

「……10-24(任務終了)。『ボマー』を撤退に追い込み、現場の安全を確保したでございます。
 ……10-4。救護班の到着を確認次第、帰投するでございます。……オーバー」

淡々とした応答に極力渦巻く感情を滲ませないようにしながら、テルスは通話を手短に切り上げる。
撤退に追い込んだ、というよりは、勝手に逃げ出した――がより正鵠を射た表現だが。
少なくとも、ヴィラン活動を中断させ先行したヒーローを救助する目的を果たしたのには変わりない。
守るべき命を守れたことは、テルスにとっても救いだった。

「傷つけられるものは、弱いもの……で、ございますか」

太陽を半目で仰ぎながら、ふと呟く。

『ボマー』の言葉に賛同するつもりは、全くない。競争が獣の生存戦略だとすれば、協働は人間のものだ。
だけれど、群れには異分子がいる。良くも悪くも、周囲と完全に同じにはなれない突出した存在が。
何かと持て囃される個性や自我は、時として余りにも重たい贈り物だ。
その持ち主や、傍らの者たちを押し潰してしまうほどに。

「ヒトと違う身体、ヒトと違う力……だのになぜ、私たちは……ヒトと同じ心を…………不可思議でございます」

テルスが陽光を見つめ続けて眼を痛めつけても、人間と同じような涙が流れ落ちることはなかった。

/乙っしたー!楽しかったです!
148 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/22(木) 21:21:36.02 ID:fY4e9XK+0
兵士の犠牲で束の間の平和が成り立つのと同じように、どの様な栄華を極めた都市にも暗部というものは存在する。

このクレイドルにもそれは例外ではなく、かつて発展の象徴として存在していた工業地区は
技術の進歩によって時代遅れの産物となり朽ち果てた建物だけが残っていた。
やがてそこは親に捨てられた者、社会に溶け込めなかった者、自らの異能により人としての道を踏み外した
はぐれ者達がねぐらを構えている場所となっており、一般人は誰も近づこうとはしない。

いるとするなら、そこに居を構えている者か、愚か者か、或いは…
そこに渦巻く負を踏み越えるだけの強さを持った者だけだ。

月明かりさえも無い夜、街灯さえないこの地区では真の暗闇となる。
人間が本能的に恐れる闇の中、パウロは少し遅めの夕食を食べている所だった。

なんてことはない。この地区から出てうろついていたら旨そうなホットドックを被りついていたから
ぶん殴って奪った。ついでに奪った身包みと財布で、今夜の食事は少しだけ豪華だ。
服も手に入ったししばらくは暖にも困らないだろう。
また腹がへればそこらのデクの棒でもぶん殴って奪ってこればいい。
将来?そんなものを考えた事はない。パウロは親に捨てられた幼少期からそうやって過ごしてきた。
どいつもこいつもこぞってオレの姿をバカにしやがった。
よわっちい癖に周りと違うだけで奴らはオレを見下す、バカにする。
ぶん殴ればそれが恐怖に変わる。いい気味だ。だがちょいとぶん殴ってやったら泣き喚きやがる。
それに腹が立ったからまたぶん殴った。それを繰り返していたら、いつの間にかこうなっていた。

今日の様な静かな夜は気分がいい。
周りのクソ共の視線に煩わされる事もなく自分は一人なのだ、と実感が出来る。
寂しいと思った事は無い。むしろこれこそが自分にとっては最高なのだ。

「………!」

彼の鼻腔が、この近くでは嗅ぎ慣れていない匂いを感知した。
狼男化のスキルを持つパウロは、人間の姿に於いても軍用犬ほどではないにせよ嗅覚が発達している。
そしてその匂いは、間違いなく自分の寝床まで近づいてきている。

「クソが………晩飯の邪魔しやがって」

折角のいい気分を害されたパウロはイラつきを隠す事無く外へ出る。
ここは、オレの王国だ。王たるこのオレの断りなしにオレの領域に入ってくるんじゃねェ……!!

無粋な侵入者に鉄槌を下すべく、パウロは侵入者に向きあった。


149 :ユスティーツ[sage saga]:2016/09/22(木) 21:51:05.56 ID:z2pfCHLP0
>>148

切っ掛けは、彼女が閲覧した資料に存在するやや『不透明』な記述からだった。幾人かのヒーローや目撃者を名乗る一般市民の報告を纏めた書類にある『狼男』という文字列。
現実にそんなものが存在するとは……という思考はない。それを言ってしまえば、自分自身の存在すら否定してしまう。だから、彼女が少しばかりその報告書を手に取り、そして眺めてしまうのは仕方のないことだったといえるだろう。

名称は不明。コードネームは『ウォー・ナイト』。日が沈んでから朝方にかけての行動が活発化すると報告されているヴィランであり、昼間にも小さな事件などにその目撃報告がなされることがある。
身体を変化させるタイプの能力者であることが示唆されており、自らの肉体が別のものへと一時的に入れ替わる。変化や置換と言った現象を内包していると彼女は推測していた。
ある程度傷をつけたと言うヒーローの調書を探してみれば、即座にその傷が回復する。そして、その身体能力は恐るべきものである。と言った記述が見つかる。
全体的に危険なヴィランでこそあるものの、これと言って『危険認定』を受けること無く放置されているということは、恐らくそれ程『堕ちている』わけではないのだろう。
ヴィランという存在はそれそのものが悪の象徴としての呼び名ではあるのだが、彼女にはどうもその『前提』に疑問を抱かざるをえない。

けれども、駆除せよと『主人』に命令をされれば、何であろうと『排除』する。
彼女の存在意義は全て、その一点にしか存在していないのだから。


――――

 グーテンアーベント        グーテンモルゲン
「こんばんは……それとも、お早う御座いますのほうが正しかったでしょうか?」

小さく微笑を浮かべながら、少しだけ「これでいいのかしら」とでも言うかのように小首をかしげ、挨拶。
相手が怒っていようが怒っていなかろうがお構いなしとでも言うような表情に、男を視認した少女はまっすぐとその瞳を見つめるだろう。

男が備考に感じた匂いは、僅かに香水の香りを伴っているだろう。ミントに近い、ハーブ系統の香りをうなじと両手首に少しだけ付けているのだ。
よく見ればほんの少しだけ化粧のようなものも施されており、男の鼻が良ければそのことも理解できる。
服装が軍服の上着と、そして膝丈のスカートという出で立ちでさえなければ、年頃の少女といった雰囲気であることは間違いない。

特徴は腰の当たりまで流れる白銀の髪で、全体的に柔らかな印象を与える双眸。そして、片手に下げられたやや大型のアタッシュケースが、彼女が只の迷い子ではないということを如実に表している。
何より、彼女から感じられる匂いはそれだけではないのだ。洗っても落ちることのない、血の匂い。『目の前で血液を浴びたことがある』人間の臭がしている。
言葉こそ柔らかく、そして動作こそ少女のそれと余り変わらない。いや、少女よりも少女らしさを感じる彼女の『存在』の違和感に気づけば、別段危険視をすることに躊躇いも何もない。

「一応確認なのですが……。」
「名称不明。コードネーム『ウォーナイト』さんで、宜しいですか?」


『ウォーナイト』。それはまさしく、『男をヒーローが呼称する際に使用される呼び名』に違いない。
150 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/22(木) 22:10:33.66 ID:fY4e9XK+0
>>149

『ウォーナイト』。それはまさしく、『男をヒーローが呼称する際に使用される呼び名』に違いない。

荒んだ地区に似つかわしくない風貌の少女にパウロは一瞬面喰らう。
そしてまるでおちょくってるかの様な挨拶の仕方に顔を一瞬しかめるが、
彼女が呼んだ固有名詞には反応した。

「『ウォーナイト』………あぁ、そういや前にオレにケンカ売って来た奴がそんな風に呼んでたな」

前にこの地区の近くで、特にやる事もなく歩いていた時に『ヒーロー』と名乗る連中にケンカを
売られた事をパウロはパウロは思い出した。当然、身の程知らずの無礼者達は全員ぶちのめしたが、
彼らの内の一人が、自分の事を『ウォーナイト』と呼んでいた。

『ウォーナイト≪戦場の夜≫』

悪くない。夜の帝王たる自分にはピッタリだ。
以前どこかで聞いた事はあるが、ヴィランと呼ばれる町のロクデナシ者の中でも、ある程度名を馳せた…
危険度が認知された者にはコードネームという二つ名が与えられるという。
町が、とうとうこのオレに恐れを抱いたというわけか。
誰かに与えられる、というのは気に入らないが畏怖と敬虔の対象である、というのは中々気分がいいものだ。
いいだろう。折角貰った二つ名だ。
『パウロ・ビストージ』 オレを勝手に産んで、そして捨てたクソ共がつけた名前だが、
もうそんな名前は必要ない。

今日からオレは――

「あぁ、そうだ。…オレが『ウォーナイト』だよ。」

目の前の少女に誇る様に、『ウォーナイト』は自らの名を告げた。

「……で、オレに何の用だ?お嬢ちゃん」
151 :ナタリア 『クリューエル』[sage saga]:2016/09/22(木) 22:36:56.75 ID:z2pfCHLP0
>>150

「……そうですか。」

さっきの表情とは打って変わって、悲しげな表情。いや、そう見えるような表情を彼女は無意識に浮かべると、アタッシュケースを持つ手に少しばかり力が入る
此処へ来る前に資料で見た、危険認定こそまだ小さいものの。それでいて「ある程度」は通っている名前。『ウォーナイト』。彼女はその本人にたどり着いて『しまった』。
僅かな衣擦れの音。彼女のコスプレの様な衣装は決して飾りではない。れっきとしたヒーロー着であり、という事は『今からヒーロー活動を始める』ということにほかならないのだ。

「では、『ウォーナイト』に願います。」「私は『クリューエル』。ヒーロー協会の保有する『ヒーロー』の一人です。」
「我々『ヒーロー協会』はクレイドル内における市民の安全と能力者の保護、及び捕縛を目的とした治安維持を任されています。」

「貴方は少なくとも数件、『能力乱用による暴力行為』を起こしていますね?」
「速やかにその身柄を拘束し、そして『異能』の扱いを今一度学んで貰うよう更生して頂かなければなりません。」


「――できれば何も言わず、『ヒーロー協会』までご同行願えませんか?」

懇願するような、どちらかと言えば彼女自身がそうしてほしいと願っている。そんな風に、見えるだろうか。少なくとも彼女としては、そういうふうに見えるよう精一杯感情を制限しているつもりである。
何か用なのか、という問いに対して答えられるそれは酷く機械的で、マニュアルに則ったような作法を持ち、男にとっては耐え難い『挑発』とすら受け取られてしまうかもしれない程に、善に満ちている。
相手の身柄を拘束し、それが不可能であれば駆除をせよ。異能者というのも決して無限ではないため、回収できるのなら回収しておきたい。が、それで暴れられては元も子もない。
そんなヒーロー協会の身勝手さを代弁するかのように、彼女の言葉は『自分勝手』にすぎている。ヒーローであるから、仕事であるからと言う前に、ヒーローとして『正しい』行動を取りすぎている。

――彼女の主人であれば絶対に有り得ない、他者を更生させようという『傲慢』。
悪の道に堕ちてしまった存在に対して救いの手を差し伸べる。そうであることを義務付けられ、そしてそれを『肯定』している。
一見見ればそれは只の聖人とも言えるべき行いであり、男を見る目も濁っていない。即ち、ヴィランとして相手を完全に認識していないということでもある。
ヒーローに無くてはならない『良心』を最大限に振りかざしている様に見え。その実は他のヒーローと本質に違いはない。悪を挫き、正義を『勝たせる』。その行為。

当然、断ることも、怒りに負けせて先制攻撃を仕掛けるのもいいだろう。彼女はその怒りに釣り合うだけの事を言っている。
何も言わず、何の理由も『言わせること無く』。自ら捕縛されヒーロー協会という檻に連行されろ。つまり、彼女はそう言っているのだから。
152 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/22(木) 23:22:33.64 ID:fY4e9XK+0
>>151
「………あぁ?」

ヴィラン『ウォーナイト』の顔から表情が消える。
いまこの少女はなんと言った?「黙って自分についてこい」と?

「あぁ……なるほどな。てめぇ『ヒーロー』か」

先程までのいい気分は消えて心の中から怒りが渦巻いて表に出てくる。
夜中に自分の領域に土足で上がり込んできた挙句に大人しく出頭しろ、彼女はこう言ったのだ。
自分を救って『やろう』。この女は何様のつもりなのだ?
自分の城で、我がもの顔で王足る自分に指図をするとは!!
そしてこの物言い、まるで「いう事を聞かなければ力づくで連れて行く」とでも言わんばかり。
力づく?誰を?自分を?

「…舐めてんのか?てめぇみてぇなガキが、オレを、どうにか出来る、と?

見下してるのか? バカにしてるのか? このオレを……」

『ウォーナイト』がもう少し思慮深ければ、彼女の体臭から
普通の人間には無い匂いを察し、只者ではないという事を察知できたかもしれない。
だが今の彼には怒りしかない。相手がだれか?そんなものはどうでもいい。
子供の頃に感じた侮蔑、憎悪、恐怖の視線。そしてそこから少し遠い位置から送られる…憐み。
どいつもこいつも胸糞悪くなる物ばかりだ。だから消してきた。
これからも、そして今からも!!

こいつの面に浮かべた『憐み』を、『恐怖』に変えてやる!!

胸の中からマグマの様な熱がこみ上げ、やがてそれらが全身に広がる。
胸が、腕が、腹が、脚が、その熱で膨張し、服が裂け、人間の皮膚が裂け
その内側から毛むくじゃらの、獣の皮が裂き出る。
全身の骨格が軋み、歪み、変形し、『闘う』事に適した形へと成っていく。
貌の体毛がより濃くなり、口が裂け、歯が一本一本研磨された剣に変化していく。

『ウォーナイト』の真の姿。古くから各地に伝わる伝説の怪物…狼男だ。

「見下してるんじゃあねぇぞぉぉぉ!!このクソ豚がああ!!!!」

指の一本が女性の腕程もあるかの様な巨腕から繰り出される、振りかぶりの一撃。
まともな人間が受ければアスファルトごとその肉を削られ、二度とまともに立てない
体になるであろう威力。
そう、まともな人間であれば。
                       ・・・・・・・・・・・
ウォーナイトは失念している。目の前にいる少女がたった一人でいる意味を。
153 :ナタリア 『クリューエル』[sage saga]:2016/09/22(木) 23:55:47.81 ID:z2pfCHLP0
>>152

「――――っ!。」

舐めていたわけではない。決して、それは誓っても良いこと。しかし、いくら彼女が弁明しようが、そうみなされてしまえば『そういう事』として受け取られるのは世の常である。
事実、彼女は哀れんでいた。いや、悲しんでいた。この人を『駆除』しなければならないという事実から、なんとか自らの思考を逃がそうとしていたのだ。

ヴィランは殺す。それが彼女に課せられた使命であり、彼女が絶対に、たとえ何を犠牲にしようとも達成しなければならない願いでもある。
いくら願おうとも、彼女は決して『殺さない』という選択肢を取ることができない。命令に従わされているのではなく、命令に絶対に従いたい。という、一種の崇拝にも近い依存。
彼女が抱いているそれの矛先にあるのは純粋なる正義の体現者であり、彼女が為すべきはたったの一つ。男は彼女がしなければならない仕事のステップを二つ飛ばしで進めてくれた。
コレでもう戦うしかない。交戦しなければ自分がやられてしまうから。死ねばそれで全てが終わる。そう、自身の手で『相手を終わらせる』という意思。震えが止まらない。
今から殺す。それだけを理解する。そうしなければ、そうする。そうしたい。思考を止める。止めて、頭のなかにひとつだけを、たったそれだけを思い浮かべて、大きく息を吐いた。胸に左手を当て、呼吸。

自身の体を変化させていく男に対して、事前にその情報を手に入れていた彼女は僅かばかりの驚愕だけで反応とし、右手に携えていたアタッシュケースを『開く』。
ガチャリと、たしかにその音は聞こえるだろう。しかし、その次に聞こえる音は金属が奏でる澄んだ音。まるで今から行われる暴力など知らないような、虚空を震わせる金属音。
スーツケースのように偽装していたモノはスーツケース自体を解錠することによってその構造を変化させ、彼女がこう知る錬金術の『再錬成』によって元あった形を取り戻す。

それは銃のようでもあり、持ち方を見ればやりのようにも見え、騎士の持つ剣のようにも錯覚させる金属の塊。聖なる銀で構築された、紛れもなく『殺害』を持つく敵として作られた対人武装。
『シルヴァランス』。彼女の扱う小銃に剣を一体化させたような形状のそれは、形式としてはマスケット銃に酷似しており、しかし装弾機構は半自動。
随所に追加装甲のようなものが追加されており、術式によって重量を操作、彼女が扱う事のできるように改造された『銃槍』。それをやりを構えるかのようにして腰だめに構えると、彼女は呟く。

154 :ナタリア 『クリューエル』[sage saga]:2016/09/22(木) 23:56:03.03 ID:z2pfCHLP0
「E2 正常に動作を確認。捕縛対象の抵抗を確認、執行対象として認定。」
「ヴィランを――――排除します。」

響く声は悲嘆に暮れて。これから罪を為すのだと自分自身が理解しているのに、その罪を負うことを喜んですら居る。『主人』に近づくことが、近づけることが嬉しいのだと、自分自身の醜い感情に吐き気がした。
けれど、相手ハマってくれない。此方に瞬時接近するその脅威の身体能力を見て、彼女は思考と背筋に冷たいものが流れ落ちた。身体強化の系譜を踏む、文字通り伝承の狼男として『変化する』能力。
資料越しで確認するのと実際に戦闘する側として見るのとでは迫力そのものが違う。爪は鋭く、口は裂け、そして歯には彼女の銃剣に近いような『切れ味』。全てが戦うことを前提として構築されているのがわかる。

彼女が戦闘用の武装を構築する『術師』であるとするならば、男は自らの肉体自体を兵器として運用する『異能者』。根本を同じ異形の力であるとしても、その方向性は二分される。

――――閑話休題。即時に迫る大ぶりの一撃を対処するために、彼女の思考は前方に存在する腕のみに注がれた。

大振りな一撃、見れば容易く避けられるような児戯のような一撃。しかし、それを振るう身体能力は人間のそれではない。即ち、狼男にとっての他我であるということは、喰らえば即座にひき肉になるということでもある。
絶対に受けてはならない。受けてしまっては死んでしまうだろう。ならば、どうやってそれを躱すのか、思考しなければならない。彼であれば、一体どうやって躱すであろうか?

(回避によって空振りした所を一撃を狙い撃つ……!!)

彼女は後ろに下がるようにバックステップ。ふわりとスカートが揺れるのと同時に、僅かながらも彼女は狼男となった存在から僅かに距離を取ろうとするだろう。
武器の形状からしてもわかるように、彼女の得意距離は中距離から近距離を対応する銃槍である。加えて、銃槍自体の扱いは達人と言ってしまえるほど優れているものでもない。
故に、唯一彼女が得意としている『射撃』の姿勢を取り、射撃を行うことが第一の目標となる。ならば、バックステップによる回避を取ることで攻撃を躱し、そして即座に片膝を地面につけて銃槍を構えいわゆる『射撃体勢』を取ることは想像に難くないだろう。

もし仮に彼女が距離を取ることができ、更に射撃体勢を取ることができたのであれば「“その魂に救いあれ――――Amen”」との言葉とともに銃槍に付けられている引き金を爪弾き、銀の弾丸を銃弾として『補修』した弾丸が狼男の胸部めがけて撃ち出されるだろう。
威力は貫通力を重視しており、どちらかと言えば相手の防御を想定してそれを弾き、そして間髪入れずに本体を撃ち抜くように加工された弾丸である。体内に残ることはなく、仮に残ったとしても、対象に命中したという効果を終了させることで弾丸自体は消失する。

だが、身体能力では明らかに狼男に分があることも確かである。もしステップこそ成功したものの、更に間髪入れず狼男が一撃を奮ってきてたのであれば――――彼女としても射撃体勢を取るどころではなくなってしまうだろう。
155 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY2016/09/23(金) 01:53:31.94 ID:nHAbWZJg0
>>129

「っ......!!」

渾身の拳は、僅かに頬をかすめるのみ。
グランドマスターのその身に刺さる黒い杭を視界にとらえ、仮面は理解した。
自らの、敗北を。

(......すまねぇ......先代......!)

微かに流した涙は、仮面の隙間から流れ、衣装へと染みる。
そして、男の数拍後に地面へよろりと着地する。

「ハァ......ハァ.......まだ......まだよ......」

口調とは裏腹に、その身は「小道具」が変化
した金棒へ縋るようにして、何とか立っている。
歪みの象徴を前にした、歪みを正し自由を守らんとする者のその姿は、余りにも弱々しい。
それでも、男の前で倒れはしまいと、渾身の力を込め、英雄を『演じる』。

「おととい.........来やがれ.........ぁっ」

男がこの場を去り、仮面にとっての観客がいなくなった瞬間、仮面は崩れ落ちるようにアスファルトへ倒れこむ。
それは安堵の為か、疲労の為か。恐らく両方だろう。

「............精進............しなきゃなあ.........」

次は、もっと芸を磨き、あの男と対峙する。
ぽつりと漏れる、決意の呟き。
微かな、『素顔』の一端であった。

回収部隊が到着する頃には、仮面の者も、盾にされた後放置されていた低ランクヒーローもそこにはいないだろう。
守ろうとした者を、きちんと守れた。
それだけでも、英雄にとっては大金星、僥倖であるだろう____________

//遅れて申し訳ありませんでした。ロールありがとうございました。

156 :ナタリア 『エーレント』[sage saga]:2016/09/23(金) 02:21:54.84 ID:mx49WMYe0
>>153-154 >>151
//このキャラのコードネームは全部『エーレント』です!!
//思いっきりコピペミスしてましたほんとに恥ずかしい……
157 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/23(金) 21:09:56.75 ID:Ex9dXEO50
>>154
『ウォーナイト』の、他人に対する認識は二通りしかない。『獲物』と『邪魔者』だ。
腹が減ったり金が無くなったりした時にそこらを歩いて『獲物』から金品や食べ物を奪い取る。
突っかかってくる身の程知らずの『邪魔者』はぶちのめす。それが『ウォーナイト』の日常だ。
今回も自分の居場所を踏み荒らしてきた無礼『邪魔者』を一撃で粉砕。それで全てが終わりだった。今日、この時までは。

「!? ちぃっ!!」

大振りな一撃は容易く避けられた。目標を失いそのまま振るわれた拳はあっさりと地面のアスファルトを砕き、そのままの勢いで手首までめり込んだ。
自分の思惑を外させた無礼な小娘に目をやると、ちょうど自分に向けてマスケット銃を構え射撃体勢を取っている所だった。

(どこまでも、オレを舐めるつもりか!)

過去にもウォーナイトを捕える、或いは[ピーーー]為に銃で狙われた事はある。
人間の姿の時ならいざ知らず、狼男の時は拳銃程度なら避けれる自身があるし、仮に撃たれても
この分厚い筋肉は表皮を僅かに削り取るだけで六腑を傷つけるまでには至らない。
仮に当たったとしても、狼男には人間の範疇を遥かに超えた自己治癒能力があり撃たれた程度も
数分も経たない内に弾丸が体外にせり出され傷口も跡形となくふさがる。

その経験則から、銃を使った所で負ける要素など何一つない。
撃たれた所でそのまま駆けより、新聞をちぎるかの様にあの小娘の首を撥ねてやればいい。
だから、ウォーナイトは発射された弾丸も意に介さず追撃の姿勢をとった。だが――

「があああああああああああ!?」

左胸から突如襲ってくる、硫酸をかけられたかの様な焼け付く痛み。
初めて経験するその苦痛にウォーナイトは我慢出来ずにのたうち回る。
いつもならばすぐに引く筈の痛みがいつまでも続く。ウォーナイトの体は
すぐにその苦痛の元を断とうと自己治癒を発動するが、まるで何かに阻害されているかの様に治りが襲い。
まるで何か力が抜けていくような感覚。異変はそれだけではなかった。

「!? な、なんだこりゃあ!?お、オレの、体、が……!!」

先程まで隆々とした筋肉に包まれていたかのような巨腕がまるで風船のようにしぼんでいき獣の体毛が抜け落ちる。
変化が収まると、それはなんの変哲もない人間の腕、狼男に変身する前の自分の腕だった。
銀の弾丸に装填され補強された「異能を相[ピーーー]る力」が、異形の姿を人間に戻したのだ。
伝承にも多く語られる『狼男』。その中に、『狼男は銀で出来た武器に弱い』という記述もいくらかある。
まるで誂えたかのように怪物退治の物語の展開が繰り広げられたという事だ。


「どういう事だぁ!なんで、変身が、勝手に…!!」

異変は腕だけではなく、左胸を中心とした肩、胸、そして足が人間のそれへと戻っていく。
だが右半身だけは狼男の姿を保ったままで人間と狼男を半分ずつつぎ足した様な醜悪な姿になっていた。

「がぁ、っ!うぐう、くぅぅう……て、てめぇ…何しやがった…オレに何をしやがったぁ!!!」

生まれて初めて味わう事態に混乱し毒づくも、目の前の少女から目を逸らしはしない。
なんだかよくわからない。だが、今のこの事態が少女によって引き起こされた事は間違いない。
どうやってやったのか、そんなものはどうでもいい!!
領域を、尊厳を、すべてを踏み荒らされた!!
この屈辱を晴らすにはもう、目の前の少女を八つ裂きにしても収まらない。
四肢を砕き切り落とし、目を潰しその腸を引きずり出したまますり潰して殺してやるッ!!!!
ウォーナイトの内部には怒りを越えた”殺意”が芽生える。
ウォーナイトはこの時初めて、目の前の少女を憎むべき『敵』と認識した。
158 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/23(金) 21:10:12.57 ID:Ex9dXEO50

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!!!!!」

大地を震わせるかの様な、雄叫び。
暫く続いたそれが収まると、少女の後方の暗闇から野良犬が4匹ほど現れる。
犬の王たる狼の『ウォーナイト』によって呼び出された尖兵たちはそのまま
主の命令通りに少女の四肢にその牙を突き立てる為に襲いかかってくる!!
野良犬とはいえ、犬派人間一人ならば容易く噛み[ピーーー]だけの力は充分に持っている。
訓練されたヒーローならば、その犬たちを蹴散らせるだけの力はあるだろう。
だが、ウォーナイトの狙いはそれではない。
犬に気を取られて一瞬だけでも動きにスキが出来れば、そこを狙って今度こそ渾身の一撃を食らわしてやる!!
今はまだ右腕しか使えないが、それでも少女一人を屠るには十分な力がある。

犬の動きに少し遅れる形で、ウォーナイトが少女に今度こそ鉄槌を下すべく
前方から襲い掛かってきた。
159 :ナタリア 『エーレント』[sage saga]:2016/09/23(金) 21:59:11.11 ID:mx49WMYe0
>>157-158

本来、彼女の持つ『銀の弾丸』に異能そのものを阻害するという働きはない。言ってしまえば『魔術的要素』を内包させることによって他の異能や魔術などに“当てることができる”のが銀の弾丸の保つ効果である。
即ち、今回のようなケースは極稀と言っても過言ではなく。それ故に彼女自身も僅かながらに困惑したような表情を浮かべているのがわかるだろう。
しかし、狼男の伝承などにも存在しているように、銀の弾丸というのは狼男を殺すことのできる聖なる道具であると同時に、銀という“聖なるもの”としての側面として浄化能力を所持している。
今回は彼女が弾丸に魔術的要素を合わせたことで銀の弾丸としての性質自体が強化され、狼男に対して有効な武装。“変身自体を解除させる”に至ったのだと推測される。

「――――っ!?」

遠吠え。それよりもより野生に近い声の震えを全身と鼓膜で感じ取り、そして怯んでいるのか彼女は僅かに硬直する。
狼男の外見が半分半分という姿になっていたこともその怯える一つの理由である。だが、何より彼女の思考を“占有”したのは、その歪さを自分に重ねてしまったため。
自分は人間としてすら中途半端な存在である。そんな彼女が現に目の前の一個の生命を終わらせようと自らの意志で動いている。ヒーローという正義を翳し、殺意という矛盾を振るう。
相手の方がよほど人間として、人間らしい行動を取っているように見えてならない。勝手にヴィランに認定され、そして彼女らの都合で排除される。それに怒り、殺意を抱くのは当然と言ってもいい。
第一としての感情の発露が異なっていることから、彼女らの思考は混ざりあうことはない。けれども、そうであるからこそ、此方に向けられた明確な殺意に見を震えさせざるを得なかったのだ。

相手を殺すのと、自分が殺されるのとでは“前提”としての条件が異なる。
死にたくない。死ねない。死にたい。思考は取り留めもなく繰り返されて、眼前に迫るのは野犬が四匹。

「…………っ!!」

一匹一匹であれば、所詮は犬であり大した損害を被るなんてことは先ず有り得ない。彼女は曲がりなりにも高ランクのヒーローなのだから、そういった存在の処理ができないと言えば嘘になる。
しかし、現状は四匹が同時に、それも指し示したかのように――事実、あの狼男が命令を送ったのだろう。此方にまっすぐ向かってくる四匹の野犬は、彼女を殺して引き千切らんと牙を濡らしている。
恐怖。感じないと言えば否。しかし、同時に人間でないのであればという人間が持つ特有の“すり替え”が彼女の中に発生したのは間違いなく。人間ではない動物ならば、殺しても心を痛むことはないだろうと少しだけ安堵する。
通常であれば犬猫等の動物を殺すことと人間を殺すことに何の違いもないと言うのは彼女にも理解できたであろう。同じ一個の生命であり、其処に“貴賎”などあってはならない。本来なら、そう思うのが普通であったはずだ。
けれどもこの状態では寧ろその思考自体に歪みが生じ、人間は嫌だが動物ならば殺しても良い。という一種の代替行為にも似た感情が沸き起こる。すっと、心の中が冷たくなったような気がして、両眼を野犬に向けた。

深海の如き青の瞳は野犬たちを見据え、そして一匹ずつ確実に、先に“向かってきた”順に銃槍と一体化している剣を槍のように扱い心臓を潰していくだろう。一つ一つ、それも的確に。容赦なく。

「ごめんなさい……ごめんなさい――っ!」

言葉には謝罪を浮かべて、目には小さく涙をたたえているように“映る”。もし、彼女が野犬たちを無事に処理したというのであれば、その後にくる狼男にも当然対処は可能だろう――――

――――前方から襲い掛かってくる狼男の姿を視認して、そして表情を小さく歪める。先程銃槍を振り回していたせいで重心が射撃に移行できるほど安定しておらず、そして狼男はその体勢を取る時間を与えてはくれないだろう。
彼女は自らの持つ意志力を総動員して思考を回し、肉体を回し、どうにかして射撃体勢を作り、そして装填された銀の弾丸を撃ち出そうとする筈だ。

けれども、姿勢は完全に取れていない。一体した剣部分を振り回していたために照準が定まっていない。そもそも彼女自体が人間を撃つことに抵抗を持っている。
以上の数点のことから、恐らく彼女の弾丸は狼男に当たることはないだろう。即ち、狼男が漸く手に入れた“絶好”の機会であることは間違いない。
160 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/23(金) 22:55:02.94 ID:Ex9dXEO50
>>159
犬の兵隊たちはあっさりとヒーローによって蹴散らされる。
大して期待はしていなかったとはいえかすり傷一つも与えられないとは。
しかしそれより、ウォーナイトには目の前の光景がおかしくてならなかった。

「ギャハハハハハハ!!!!何を泣いてやがるんだぁ?てめぇがやった事だろうがよぉ!!」

泣いている。あろうことか、自分が殺した動物達に対して謝っている。
敵を[ピーーー]事にどうして泣く必要がある?そしてどうして泣いている?
まるで彼には理解出来なかった。

「お前さっきオレの魂に救済をどうのとか言ってたな?てめぇの言う救いってのは他人の胸に風穴空けることなのかよ!!」

ウォーナイトは子供の頃にも似た様な事を言っていた大人を思い出していた。
君の為だの、君を助けたいだのきれいな事を言っておきながら、怪しい薬や実験台にしてきたり、
殺そうとしてきたり、挙句の果てには首輪をつけて自分を見世物にしようとした。
無論そういう奴らは二度と綺麗事をしゃべれない様に口を引き裂いてやったが。
まるで同じ。正義の為だのなんだの言っても、結局は[ピーーー]だけじゃないか。
自分は今まで好き勝手に生きて来たし気に入らない奴を殺しもしたが、一度だって正義のお題目を掲げた事はない。
全て自分の為だ。自分を偽りなく生きてきたという事だけは胸を張って言える。
全く腹立たしい。自分が助かりたいだけのクセに綺麗な言葉で誤魔化そうとする。
子供の頃にあった、クソ共と同じ奴らだ。

「誤魔化すなよ。てめぇはてめぇの為に殺してぇだけだろ。オレはオレの思うが儘に生きる!そして[ピーーー]!それだけだ!!
お前みたいな善い人ぶってる奴をなんていうか知ってるか?

『偽善者』っていうんだよぉ!!!!」

獣の右足を用いた爆発的な跳躍によって、犬に対処していた事で体勢が不安定になった少女の元へ飛びかかる。
今度こそ、王足るこの自分に屈辱を与えた罰を与えるために!

「てめぇは『極刑』だぁぁ!!!打っ潰れろぉぉぉ!!!!!」

渾身の一撃を込めた、右手の薙ぎ払い。
向こうの壁へ叩きつけ、カエルの様にひしゃげて潰れる様に放った攻撃。
爪も伴うその攻撃はたとえ直撃を免れても爪がかすりでもすれば、ただでは済まない威力だ。
161 :ナタリア 『エーレント』[sage saga]:2016/09/23(金) 23:26:27.51 ID:mx49WMYe0
>>160

自分がやったこと。そうだ。彼女が、彼女自身の意志で、彼女自身の手によって行ったこと。殺害。存在を殺し害する。生物としての“快楽殺人”。
自らの思想のために他の存在を殺す。生存競争のためでもなく、食物連鎖による必然でもなく。ただただ自身にとっての存在を確立させるためだけに行われる惨劇。
理解できないだろう。わからないだろう。当然だ、彼女にだってわからないのだから。理解できないのだから。そういうふうに“思い込んでいるのだから”。
故に、狼男の叫ぶ言葉は彼女の心を打ち据える“ように感じた”。自らの矛盾点を疲れているような、何か重要な欠点を指摘されているような。そんな気がする。

しかし、彼女にその声が届くのかと言われれば否である。自分だけのために、自分だけの行動を取る様な自己中心的な正義が、他人の意見を理解するだろうか? そんなことあるはずがない。
狼男にも過去がある。自身の思考を纏め、行動原理を確立するために必要不可欠な過去。他者の介在を許すこと無く、自らの生きる道を示す“導”。
それを踏み躙る。彼女にはその過去が存在しないから、容易く綺麗事を口にする。やっていることが矛盾する。思考と行動に一貫性がない。
“自動人形”に心が宿ることが在るのなら、逆に人を素体とした人形に魂が宿ることも在るだろう。幾つもの素体の心を歪めて固めて、そして継ぎ接ぎしたどうしようもない“心”が。

――彼女は、その最たる例である。

「私は―――――――っ。」

姿勢がブレる。銃弾が撃ち出される。それは狼男を掠め、あらぬ方向へと飛んで行くだろう。次弾装填を行おうとするも時間がなく、そして眼前に肉薄する狼男の体。振り上げられる右腕。来るのは恐らくなぎ払い。
反応はできない。そんな身体能力を保持しているわけでもないし、彼女には大した動体視力もない。術師であるという特性上、近接攻撃というのは非常に分が悪く。純粋な身体能力というのはそれだけで、並の能力者を一株できるほどには“理不尽”な性能を誇っている。
ならばどうするか、答えはその右腕が振るわれる瞬間に訪れる。彼女の姿が“後方へと伸びる”だろう。伸びるというのは表現が悪く、正確には『地面を錬金術によって再構成することで無理矢理に移動した』というのが正しい。
彼女の最も得とするのは錬金術の持つ錬成の部分であり、それは戦闘時以外にも様々な用途を持つ。本来戦闘用として使われるはずのない『地面を治す』という目的で使用される術式を適用し、地面を後方へと再構成することで地面自体を『入れ替え』。そしてソレに引き摺られるようにして彼女は無理矢理にその射程範囲内から『逃れようと』した。

「!!!!!!!?」

しかし、そう簡単に躱せたのなら苦労はしない。直撃して潰れた蛙になることだけは避けられたものの、その腕が振るわれる際に発生した切り裂くような風と、薄皮一枚を裂くような爪の軌道が、『彼女の右目及びその周辺』を削り取っていった。
痛み、ソレを理解するには容易く。そして簡単だ。右目の瞳を削り取り、斜めに小さく傷を入れる。避けた瞳からドロリとした汁が溢れ出し、避けた血管から血が流れ、さながら血涙を出しているかのようにも見えた。

「私は……! 私は……!!」

呟く、叫ぶ。交互に発言されるそれは狼男に向けているようで、それでいて自身に言い聞かせているような様子を見せる。そうであるふうに“見え”ている。
右腕は力なく垂れ下がり、其処に携えた『シルヴァランス』は切っ先が地面へと擦れ、不快な音を立てている。血が溢れ、右目に在るのはジクジクとした痛み。傷、傷、傷。

『死に体』であるということだけが、変わっていない。
162 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/23(金) 23:46:49.36 ID:ewbLD7cGo
ヒーロー協会による監視カメラが張り巡らされたこの街、クレイドルにも死角は存在している。
最もわかり易い例は路地裏であり、そこはある種の肥溜め。必然的に悪が集う。
その路地裏に響く、鈍い打音。ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ、と一定周期で繰り返されるそれは、人の不安を煽るには十分か。
音の主は一人の男と、男に真っ赤な頭部を掴まれている金髪の少年。
ポロシャツにデニム、適当な髪型とまさに一般人と言った男が、少年の頭をひたすら壁に打ち付けていた。
更に男の足元には倒れている少年が3人、一応男はヒーローに属する側ではあるが、これではどちらが悪なのかわかりやしない。

「おーやーだーまーのー、いーばーしょーは、どーこですかっ!と。
 ・・・・・・駄目だ気絶してるわ。どいつもこいつも役にたたねぇなぁ。」

大きなため息をついた男は少年を放り投げて、苛立ちのまま頭をかきむしる。
少年は地面に打ち付けられビクンと体を痙攣させた。まだ、息は残っているようだが。

「これじゃ昇進は無理か……」

足元に倒れる少年達は、クレイドルにて麻薬を売買していた。
まずはこの少年に麻薬を与えた者がいるのは確か、場合によっては麻薬の売りをさせる親玉も存在しているだろう。
麻薬と言うのは非常に取り締まりづらく、市民にとっての有害性は非常に高い。
だが、このクレイドルにおいて態々麻薬で資金を稼ぐという集団が、強力なヴィランの集団であるという可能性は低い。
麻薬の取り締まり、しかも親玉の首までとったとなれば協会からの評価はかなり高く、しかも死ぬリスクは少ないという非常に美味しい案件―――
―――だったのだが、結果はこの様。餓鬼は、特にチンピラは嫌いだ。

さて、やる事がなくなった彼は少年達の髪を掴みひきずり、ヒーロー協会へ引き渡そうと振り返る。
だが、殴打音も独り言もかなりの音量のもの。彼自身はこれを隠すべき事と認識していないのだ。
彼が振り返ったその先に、誰かがいても不思議ではない――――――
163 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 00:05:32.96 ID:a0cVBlFOo
>>162

「や、どうも」

なんて気軽に声をかけてきたのは、黒髪のストレートに琥珀色の瞳を持つ、中学生程度の見た目の少女であった。
ブラウスに赤のリボン、そして黄色のカーディガンにプリーツスカートと学生服風の私服を着ており、一見すれば偶々通り掛かっただけの一般人にしか見えない。
だが少年の頭を打ち付ける様子を見て、平然としている様はどう考えても素人ではなく――――そして恐らくは彼女の事を、目の前のヒーローもまた見たことがあるはずだ。

「精が出るね、少しやり過ぎみたいだけど」

彼女は変身前と後で大きく姿が変わるヒーローであり、基本的に変身前の姿を大衆の面前で晒すことは滅多にない。
即ち一般民衆がイメージする彼女は変身後のため、今の彼女の姿を見てそれが誰かを判別出来る者はそうそういないだろう。
だがヒーロー協会内での仕事をしている時は基本的に変身を解いているため、ヒーロー協会所属の人間であれば変身前であっても彼女が誰だか分かる――――事が多い。
ディヴィジョンT、ヒーロー協会が定めるランクの中でも最高峰。グランドマスターと呼ばれる全ヒーローの頂点に立つ者――――彼女もまた、その一人であった。

「麻薬シンジケートの摘発は確かに得点は高いけれど、彼等は下っ端を使い捨てるから足がつかない事が多いんだよね」
「末端じゃあ情報を知らない事が殆どだし、その上弱いのを過剰に痛めつけちゃうとそこで少し減点されちゃうし」
「『それなり』が本分な君からすれば、それぐらいでも十分なんだろうけどね?」

グランドマスター、その中でも中立的な立ち位置である彼女は、あくまで誰に対しても均等な距離感で接してくる。
そして中立的な立ち位置だからこそ、あらゆる派閥や思想を持つヒーローを知っておかねばならない――――当然、『ヴォイドブラッド』についてもだ。
データから知ることが出来る物等大したものではないかもしれないが、それでも無いよりはマシだろうと彼女は多くのヒーローのデータに目を通している。
とはいえこの状況で何より意味が分からないのは、彼女が彼のことを知っていることではなく、何故グランドマスターがこんな場所にいるのかどうかだろう。
友好的に、なんてことのない風に話しかけてくるからこそ、何を意図してこの場を訪れたのかが分かり辛い――――処罰といった雰囲気ではないようだが。
164 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/24(土) 00:12:21.73 ID:wG8ZIbhQ0
>>161
確実に当ったと思った一撃が、なぜか少女が不自然な動作で後ろに下がる事で躱された。
だが、右腕からかすかに感じる感触。そして水を含んだ何かが裂ける音。
いつも聞く、あの音だ。自分の一撃が、相手の肉を切り裂くあの音だ!!

「くっ、ふふふふ、ひひっひぃひひひひひひっ、ギャーーーッハハハハハハハハ!!!!!!!」

心の底から、嬉しくてたまらないという笑いがこみ上げてくる。
やっと相手にまともにくらわせてやった。しかもあの音は恐らく目が潰れたのだろう。
先程まで感じていた異能を打ち消す力は今にも消えそうで、傷口もすでに半分以上塞がっている。
もう相手はまともに戦う事が出来ない。自分の不調ももうすぐ全快する。
もはや自分の勝利は揺るがない。少なくとも彼はそう思っている。

「どんな気分だ?救われたか?てめぇと同じ様に胸には当ってねぇけどよぉ」

過去に自分に対して分不相応な矜持で『救おう』としてきた奴らは
眼を裂き、耳を削ぎ、腕を切り落とされた時にはもう綺麗事は言えなかった。
顔に張り付いていた『憐み』も『侮蔑』も『憎悪』も全て『恐怖』に変わり
皆が皆、助けを求め命を乞う。まるで乞食がお恵みを集る様に。
この瞬間がたまらなく好きだった。自分が王で相手は全て下郎。
生殺与奪も思いのままの状況で、自分はこの世の頂点に立っているかの様な感覚。
そしてその懇願も全て無駄だと悟った時の『絶望』。
自分を下だと思っていた奴に突き落とされる逆転劇。ただそれだけが王の自分を満たしてくれる。

さぁ、お前の貌を見せてみろ。恐怖に彩られて極上の『絶望(デザート)』になってくれ
オレを満足させてみろ。

「………なんだ、てめぇ。そのツラは」

だが、ウォーナイトが期待した表情を少女はしていない。
深手を負い、戦意を失い、見た限りその顔に希望は無い。『無い様に見える』
何も無かった。

ウォーナイトが見てきた人間には多少なりとも表情の乏しい奴もいたがそれでも奥底にある感情は隠せていなかった。
だがこの少女にはそれすらない。まるで『この状況がこうだからこう演じておこう』という作為の見える演技。
上手な似顔絵。プログラムに指示されたかの様な、無機質な色彩。

「なるほどなぁ。てめぇ人形だったのか。人間のフリしてたってのか。

道理でうすら寒いと思ったぜ。てめぇのやる事なす事なにもかもが」

ウォーナイトの中で新しい種類の熱が湧きあがってくる。
表面上はドライアイスの様に冷たく、内面はマグマの様に触れる物をすべてを焼き尽くすドス黒い熱、。
自分が見たかったのは迫真の感情だった。
児童のお遊戯会の様な決まりきった反応しかしない人形遊びに興味はない。

「くだらねぇ。人形が人間様になれるとでも思ったのか?」

それまで不揃いだった左半身が急激に熱を帯び、右と同じ獣の肌へと変質していく。
狼男として完璧な造形と力を取り戻したウォーナイト。
その目には僅かに残っていた人間の良心も何もない。
もうウォーナイトにとっては、彼女は敵でも獲物でもなく、壊れかけたオモチャでしかなかった。

「最後に教えてやるぜ。てめぇが殺した犬共と殺そうとしたオレ。犬共は救わちゃいねえよ。死んだだけだ。

そしてオレは死ぬことすらない。救われる事もねぇ。何も出来ちゃいねぇよ。

『お前は誰も、救えない』」


 「  死  ね   」


王が下した処刑命令。それを執行すべく下されたのは首元を狙った一撃。
明確な殺意をもったそれは、当たれば確実な死を与えるであろう。

それが、救いをもたらすかどうかなどはウォーナイトの知った事ではない。
165 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/24(土) 00:28:50.00 ID:+RQYoVpro
>>163
まずはあぁ?と怪訝な顔を少女に向ける。そして少女の顔をしっかりと確認したのなら、げぇっ、と。表情の意味がまた変わる。
中学生ほどの少女、ここに居るはずもないのだが――――――『ヴォイドブラッド』は彼女を知っていた。ずっと前から脳に刻まれていた。
テレビの向こう側、憧れていたヒーローの姿として。目の前の少女は――――――

「――――――『クリムゾンヒート』」

ディビジョンT―グランドマスター―、ユーカ・ルイーゼその人だ。
もっともテレビの向こう側に居た姿とは少し違うが。テレビに映されるのは変身後の姿であり、今の彼女は変身を解いている。
後者の状態がヒーロー教会内では多いため、ヴォイドブラッドはそれを知っていた。
過去に映されていたテレビの姿より今の姿のほうが明らかに若いのはどういうことだ、と突っ込みを入れたくなったがぐっとこらえる。
下らない理由で面倒は増やしたくない。

「もしもってのがあるでしょ。多少の減点を喰らうよりはもしものリターンのがでかいと思ったんでね。
 ま、それなりに生きる分にはこれでいいんですわこれで。」

処罰を下しに来た、そんな理由でここに来たわけではないようだが、ヒーローの頂点が理由もわからず自分の前に立っているというのは余りにも不気味。
あくまで自分は何も悪い事はしていないと、そう言う様に自然と返すが冷や汗は止まらない。
額の汗は闇が隠してくれるだろうか。首筋には止まらない汗がシャツに染みを作っている。

「で、グランドマスター様がこの救い様のないそれなり志向に何のようで?
 出来れば手短に済ませて欲しいんですがね。」

冷や汗の理由はもう一つ。単純に彼はユーカ・ルイーゼが嫌いである。
実際彼はヒーロー協会のルールを侵した訳ではない。堂々としていればいい。
なのに、冷や汗が止まらないのはそんな単純な理由が大きい。
例えばこの自分を見透かしたかのような物言い、そもそも何もかもが気に入らないのだが。
彼だって本来なら、グランドマスターと言う遠い立場の存在なら嫉妬もせずに、一歩引いてみることが出来る。
しかし彼女がとる距離はあくまで均一。そして何より彼女の発言がヴォイドブラッドの地雷を踏みつけている。
もしも相手がグランドマスターでないのなら、「場外のヒーローズグレイヴだ」なんて言い訳をして既にぶん殴っていたであろう。
しかし出来ない。そんな事をやってしまえば確実に自分はヒーロー協会から追い出されることになるのだ。
166 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 00:52:16.17 ID:a0cVBlFOo
>>165

「うん、『クリムゾンヒート』。まあ今はどっちかっていうとユーカ・ルイーゼだけど」

他人が聞けば同じだろうと思うかもしれないが、彼女からすれば全く違う。ヒーローであるか否か、彼女にとって変身の前後にはそれだけの意味がある。
ヒーローになった以上、常にその心構えはしておくべきではないかと言われればそれまでだが、結局のところ彼女からすればスイッチが入っているかいないかでしか無い。
変身するということは、戦うということ。戦うということは、他人を害するということ。戦わなくていいならばそれが一番、それが彼女のモットーだ。
逆に言えば変身するということは、戦うしか無いと判断した場合なのだが――――。

「ん、まあ大して深い意味は無いかな。君と同じ、ポイント稼ぎって奴だよ」
「それにまあ、こういう場所には集まってくれるからね。わざとそういう風に作られているし――――ああ、これは秘密ね?」

要塞都市クレイドル。世界で最も強固なこの揺り籠には、ありとあらゆる『ヴィランに対抗する手段』が詰め込まれている。
ならば何故路地裏のような無法地帯が存在しているのか。百年という時があれば、そういった場所も含めて全てに監視カメラ程度を仕掛けるのは難しい話ではない筈なのに。
理由は簡単だ。あえて溜まりやすい場所を形成することで、ヴィランの動きを予測しやすくしているのである。
全てを監視下に置けば、自然とヴィラン達の動きも不規則かつ予測し辛い物になってしまう。ならば予め穴を作っておき、其処に集めてしまえという考えだ。

「…………そんなにさ。ビビらなくていいよ、別に取って食おうって訳じゃあ無いんだし」
「アレだよ。君が思ってるほど、グランドマスターなんて大したことは無いんだよ?」
「如何に上手くポイントを集められるかってだけだし、時間かければ誰でもなれるし――――極論から言っちゃえば、戦わなくたってグランドマスターにはなれるんだから」

ヒーロー協会が定めるランク制度、しかしこのランク上昇に必要なポイントは、決してヴィランの撃退や確保、討伐でしか得られない物ではない。
救助活動や慈善活動によっても得点は手に入る。言ってしまえば戦闘能力が欠片もなく、一度も喧嘩すらしたこと無い様な人間ですらグランドマスターになることは可能なのだ。
あくまで理論上での話でしか無いが、ユーカの言うことに間違いはない。だからといって、ビビるなというのも無理のある話かも知れないが。

「それにヒーロー協会の設立理由はあくまで『英雄の後継者』の育成――――後進を育てるのが、私達の仕事」
「後輩の仕事ぶりを見るのって、そんなに変なことかな?」

あくまでグランドマスターという立場自体に大きな価値はなく、彼女自身その権力を振り翳して何かをするつもりは毛頭ない。
とは言え、彼女の言葉には若干の嘘が含まれていた。『ポイント稼ぎ』、そんな小さな目的のために彼女はこの場を訪れた訳じゃあない。
無論路地裏に溜まる悪を時折駆逐はしているが、グランドマスターである彼女が今更ポイントを稼ぐ必要なんて無いに等しい。
ならば何故わざわざこんな場所に現れたのか――――『ヴォイドブラッド』、エグゼス・バーレスクが目的だった。
基本的に平等に、というのが彼女のスタンスだが、彼と彼女にはとある共通点があった。だからこそ彼女は、彼を気にかけていたのである。
能力の特性、より正しく述べるのであれば能力の入手方法――――先天的な能力者が殆どであるこの世界において、数少ない後天的な能力の覚醒者。
気にも掛かるだろう、彼女だってそうなのだから。それを知る者は、生憎と殆どいないのだが――――。
167 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/24(土) 01:25:33.15 ID:+RQYoVpro
>>166

「……なるほど、ゴキブリホイホイって訳ですか。えげつねぇ」

これほどまでに強大な力を持つヒーロー教会があってなお、無法地帯が生まれるというのは不思議な話。
それは確かに彼も感じた事があったのだが成る程、こういうわけがあったとは。
人から悪が生まれてくる事をなくすことは絶対に出来ない。ならば一箇所に集めて潰してしまおうというわけだ。

「ポイント稼ぎ、ですか。クリム・・・・・・ユーリカさんには必要ないと思うんですが。」

グランドマスターには業務がいくらでもあるだろうし、ポイントを稼ぐ必要性など何処にもない。
集まったゴキブリを潰すにしても、それだけなら自分のような奴にでも任せてやればいいのだ。ポイントを稼ぎたい奴などいくらでもいるだろう。
そこに態々グランドマスターが出張るというのはむしろ残酷とすら感じる。

「……そりゃあ極論ですね。何年かかるんやら。」

慈善活動でもらえるポイントなど極わずか。確かに、時間をかければ戦わずしてグランドマスター、というのも理論上は可能であろうが。
しかし結局はグランドマスターなど才能の世界。"生まれついたときにどれだけ強い能力を得たのか、どれだけ財力のある家に生まれたか"だ。
少なくとも彼はそう思い込んでいる。そう思い込む事で自分の不甲斐なさを考えないようにする。

「いやぁ、光栄ですね。俺が"輝かしい英雄"の卵なら素直に喜べるんですが。
 俺32ですよ。もうどうしようもない年の男に、何を期待してるんですかい?」

やはり自分は彼女が嫌いだと、改めて認識する。
彼女の能力が後天的に覚醒しているなど、当然男は知らない。彼女の気遣いなど感じられるはずもない。
ならば、彼女が優しさはただただ男を惨めな気分にする。

昔話。経緯はどうあれ彼は自分がヒーローになる事を素直に喜んでいた。
そして初出撃の日―――――――ヴィランとの死闘にて、自分の命が惜しくなった彼はある家族を見殺しにし、逃げた。
だがこれは彼の思い込みであり、ヒーロー協会の報告書には撤退命令に従っただけだとあるだろう。
彼の初戦の相手は明らかに彼とは不釣合いな高クラスヴィランであり、援軍として送られたヒーローに死者も出ているほど。
言い訳の材料はいくらでもある。卑屈で、言い訳が得意な彼がここに限って言い訳をしないのは、本当のヒーローはこうじゃないと知っているから。

彼は自分は決して本当のヒーローの器ではないと確信している。
ヒーローにしがみついているのは所詮生きるためだと、理性の部分ではそう思っている。

「……もうやめてくださいよ。
 あなたみたいな"エリートヒーロー"を見てると自分が惨めになるんで。」

だから、彼女の優しさは、期待はただただ重い。
故に漏れ出た言葉は彼女に投げるナイフのような―――――
168 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 01:48:10.74 ID:a0cVBlFOo
>>167

彼女の言うことが極論であることに間違いはなく、そして一番上にまで上り詰める事が出来るヒーローが才能に溢れている事を、彼女は決して否定はしない。
より強い能力を持って生まれればそれだけ有利であり、苦労せずともランクを上げることが可能なのは紛れもない事実だ。そういうシステムを、協会は作り上げたのだから。
強い者が上に立つ、それは当然の摂理だ。より貢献した者が上に立つ、これもまた摂理だろう。
そして上に立つことが彼の目的だというのであれば、彼女から彼にかける言葉は正直言って余り無い――――結局のところ、頑張る≠オか無いし。

「まあ私が言いたいのは、そういうことじゃないからね」

グランドマスターという立場に憧れるヒーローの気持ちは、彼女とて理解出来る。そして憧れや上昇志向は成長するにあたって大切なものだから、それを否定する理由はない。
だがそれを目的とするには本末転倒でしか無い――――というのが、彼女の持論である。簡単にいえば、目的と手段が入れ替わってしまっている状態だと言わざるをえないだろう。
グランドマスターになりたいからヒーローになるのではなく、多くの人を救うためにヒーローになり、結果としてグランドマスターとなるのだ。
立場が上がれば、やれることも増える。だが当然拘束も増えていく。これに関しては、強い能力を持った場合も同じことが言えるだろう。
強ければ強いほど、拘束と重責は増えていくのだ。何故なら彼女達は一般市民から見れば化物≠ナしかなく、E2がなければヒーローシステムなんてものは機能しないのだから。

「協会が定める『ヒーロー』なんてものは、あくまで役職の名前に過ぎないんだ」
「勿論肩書は大切だけれど、そこに全ての意味を求めるなんて間違ってる――――と、私は思う」

彼女は携帯端末を取り出すと、画面を何度かタッチした。すると数十秒後にヒーロー協会の者が現れ、彼の捕らえた犯罪者たちをそのまま連行していってしまう。
心配しないでいいよ、得点はちゃんと入ってるから。もし彼が抗議、或いは得点に対する心配を懸念する素振りを見せたならば、彼女は笑いながらこう告げるだろう。

「ヒーローに正解なんてなくて、もし憧れたんならヒーロー像が自分の中にあるはずで」
「それを目指すのが大切――――だなんて、ちょっとありきたりだったね。ごめん」

とにかく、彼女は暗い話題を続ける為にわざわざこの場所に来た訳じゃない。
だが彼は彼女が想像しているよりもずっと、鬱屈とした性格をしていた。ヒーローとなった経緯を考えれば、それも仕方がないかも知れないが。
性格がそもそもネガティブ、それで終わり。なんて、それで投げ出すようであれば、彼女はグランドマスターである資格等無いだろう。

「立ち話もなんだしさ、ちょっと付き合ってよ」
「大丈夫、そんなに時間は掛からないからさ」

彼女の言葉に強制力はなかったが、もし彼女の言葉に従い路地裏を出て、彼女に付いて行ったのであれば。
彼は彼女と共に辿り着くことになるだろう――――ヒーロー同士が戦うことを許された数少ない空間、『ヒーローズグレイヴ』に。
コロッセオの様な見た目をしているが、観客は誰一人いない。閑散とした様子は、自分がまるで異物のような印象さえ受けてしまう。
ともあれこの空間であれば、たとえどれだけ階級が違ったとして、ぶん殴っても追放だなんてことは有り得ない。
公式的に、嫌いな相手をぶん殴れる空間。それがここ、ヒーローズグレイヴなのだ。
169 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/24(土) 02:19:34.25 ID:+RQYoVpro
>>168
正論は決して人の心を打つとは限らない。ましてやそれが、嫌いな相手の口から漏れたのであれば。
肩書きの意味が全てじゃ無い、頑張るしかない、きっとそれは正しくて。どうしようもなく正しくて。
だけど彼は認めなかった。認めなくなかった。駄々。言い訳の理屈を考えることすらやめていた。
そんな状態でも一つだけ揺れた、響いた、刺さった言葉。ありきたりな言葉。

『もし憧れたのならヒーロー像あるはず。それを目指すのが大切』

それは彼が出来なかった事。やりたかった事。聞かずには居られなかった。
無駄に回っていた口が閉じて動かなくなる。図星を突かれたというか、何もいえなくなったというか。

「……えぇ?」

そしてそれは唐突に。自分に背を向けて進んでいくユーリカ。
付き合え――――――何にだ、他のチンピラなら態々自分が付き合う必要はない。
疑惑のままたどり着いたのはコロッセオ。観客の居ない、静謐の包む『ヒーローズグレイヴ』
望みどおりの展開だったが、困惑を隠せずには居られない。腐った根性をたたきなおしてやる、そういうつもりか

――――――好都合。勝てる気はしない。それでも一撃ぐらいは、すこしの傷は入れられるはずだ。
胸のポケットから取り出した注射器、その内部の薬品を体内に打ち込む。
紅潮する体に熱が、エネルギーが彼の体内に滾っていく。
相手の能力も自分と同じような身体強化、あれだけ宣伝されているのだ当然知っている。
この時点で彼が設定した勝利条件は"相手に一撃でも入れること"―――――最初から勝てない前提の、既に卑屈なものだが。
ここにきて彼はやっと"前向きな顔"を見せていた。
170 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 17:24:51.41 ID:a0cVBlFOo
>>169

やる気になってくれたらしい。まあ態度や言葉の節々から自分が嫌いであることは何となく察していたため、都合よく殴れると言うのは気分が良いのだろう。
それもまあ良いだろう、嫌われる事が好きなわけではないが、多少前を向くための推進剤にでもなれればグランドマスターなんてのはそれで十分なのだ。

「準備運動は、まあいっか」

ヒーローたるのも、常に戦えるように心掛けておくべし。何時如何なる時も臨戦態勢であること、それが戦闘要員の役目だ。
其れに相手はやる気満々なようだし、其れをわざわざ邪魔する必要もない。僅かに手首を解すようにスナップを利かせると、ユーカは相手と向き合った。
取り出される注射器。体外から薬物を取り込み、体に熱を内包する。そしてそれを余すことなく運動エネルギーへと変換する能力。
手段が面倒な身体能力強化系、だが先天的であれば強い。天然の方が強いかと言われれば――――そんな事は、決して無い。
むしろ自然に持っていた能力よりも、戦うべくして研究され生み出された後天的な能力は、破壊力や戦闘力で言えば先天的に持って生まれた能力を上回る。

例えグランドマスターであるユーカであっても、能力を発動せず生身で直撃を喰らえば、想像を絶するダメージを受けるのは間違いない。
だが彼女の能力、自称『乙女魔法』は肉体の硬度、詰まるところ単純な防御力を引き上げる事が可能である。
身体能力強化、そして熱と火。両者の能力は、そういった観点から見れば似通っていると言えるだろう――――そして拳が、ユーカの顔面をブチ抜いた。

「――――――――あぁ、うん、初心に帰った気分だよ」
「…………痛いな」

結果から言えば、彼女は彼の攻撃を耐えた。直撃し、防御すら取らず、更に言えば能力すら発動することなく、彼の拳を耐え抜いた。
勿論ノーダメージというわけでは無い。顔には既に痣が出来ていたし、衝撃で口の中はずたずたになったし、歯が一本折れかけてグラついている始末である。
ユーカは口の中に溜まった鉄の味のする液体を、そのまま地面に吐き捨てた。魔法少女系ヒーローとは思えない光景だが、そんな中で彼女は未だに笑顔を絶やさない。

「そうだなぁ。正直私、話すの苦手だからさ――――上手く伝えられるか分からないんだけど」
「昔ね、ある所に女の子がいたんだ。無能力者の、何処にでもいるようなふつーの女の子」
「彼女はある日突然よく分からない事故に巻き込まれて、後天的に能力を手に入れちゃったんだ。本人はそんな事望んでなかったのにね」

それが誰の話なのか、察しが良ければ気付けるかも知れない。他人事のように語っているが、其れは彼女自身の過去の話だった。
彼女の過去に関するデータは殆ど閲覧が不可能であり、グランドマスターレベルの権力を得てやっとアクセスが可能なブラックボックスである。
簡単に話すべきではない機密事項、しかし同時に彼女の過去である。彼女の過去を話す権利は、他でもない彼女にあるべきだろう。
171 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 17:25:19.02 ID:a0cVBlFOo

「でもその子は本当に普通の女の子だったから、当然体が耐えられなかった。痛くて苦しくてどうしようもなくて、気が付いたときには能力が暴走しちゃってて」
「苦痛が消えた頃には、色んな人に迷惑をかけてた。しかもそれも一時的、ちょっと治まっただけ」
「分かるかな。能力がちょっとずつ体を蝕んでいくんだ。理性が消えてって、いつの間にか全部が壊れてる。制御できるようになるまで、馬鹿みたいに時間をかけて」
「そして彼女はヒーローになった。当然憧れのヒーロー像なんて無いし、復讐すべき相手もいない。ただ罪を償う為には、そうせざるを得なかったってだけ」
「そんなやつが語るヒーロー論なんて、戯言でしか無いかもしれないけれど――――それでも私は、私にできることをやるって決めたから」

彼女の身に巣食う其れは、彼女に凶悪な身体能力や全てを焼き尽くす力と引き換えに、激痛と苦悶を細胞の一つに至るまでに与えていった。
彼女の能力は、そうして手に入れた物。生まれた頃からあった才能なんかでは決してなくて、彼女からすれば忌まわしい過去の産物でしかない。

「私は君が言うエリート≠ネんかじゃあ無いよ。むしろ逆、君よりも劣ったところから私はスタートさせられた=v
「自由意志もなく、ここでしか私は生きられなかった。こうすることでしか償えなかった」
「君は、どうかな。確かにスタート地点は他人より劣っていたかもしれないけれど、その能力は戦うには十分過ぎる筈だよ」
「能力もある。経験もある。ディヴィジョンVにまで辿り着ける頭も積み重ねもある」

ならば何が足りないのか。そんな事は、彼女が教えるまでもないはずだ。其れが分かっていないのであれば、ヒーローなんて続けていない筈だ。
ようやく、ユーカは構えた。緩く拳を握り締め、真っ直ぐに相手を見据える。能力は未だに発動すらしておらず、今から振るう拳は純粋に彼女の身体能力及び技術のみで繰り出される一撃である。
握りは緩く、当たる瞬間にのみ力を加える。速度を引き出し、威力を上げる拳撃の技術。但しあくまで其れは人間レベル、其れも見た目相応の身体能力から放たれた。
見切る事は余裕だろう。躱すことも当然のように出来るだろう。そして当たった所で、痛みすら感じることは無いだろう。

「能力なしの、私の限界。君は今、こんな糞ガキにナメられてるんだ」

「嫌いなんだよね、気に入らないんだよね、ぶん殴りたかったんだよね――――だったら来なよ、殺すつもりで」
「それとも反撃されるのが怖いのかな? 甘ったれてるのは自由だけどね。そうしてるのが好きなら、私も止めない」

ヒーローに必要なもの、其れは一歩前に出る勇気――――そしてたとえどのような相手であろうと退かぬ決意。
ディヴィジョンVとディヴィジョンT、ランクで言えばその戦力差は遥かに離れている。そこで端から諦めて受け流すか、それとも全力の彼女と対峙するか。
選ぶのは自由だ。何方を選んでも査定に響く訳でもなければ、得点が手に入るわけでもない。問われているのはただ一つ――――彼があの日忘れてしまった、忘れ物を取り戻せるか。
其れがヒーローとしての資質であり、本当に必要なもの。

「エグゼス・バーレスク 。『ヴォイドブラッド』――――さて。今の君は、どっちかな」

立ち塞がる其れ≠ヘ、きっと彼があの日逃げ出した敵等よりも遥かに強力≠ゥつ凶悪=A能力等なくとも相手を竦ませるには十分過ぎる圧力を秘めている。
顔面に張り付いて離れない薄ら笑い、しかし既に目は笑っていなかった。其処に込められた感情が一体何なのかは、彼女自身分からない。
彼の前に今立っているのは、ディヴィジョンT――――グランドマスター=A協会が定める最高峰のヒーローにのみ贈られる、最強≠フ称号の持ち主。
安っぽい煽りだと、自分でも思う。自分でも言ったけれど、話すのは苦手だ。だからこう言うしか無い、来いよ≠ニ。
滾る血の熱が彼女に火をつけられるか、それとも馬鹿らしいと受け流すか。全ての選択権は彼自身にあり、どうするかは彼次第である――――。
172 :ナタリア 『エーレント』[sage saga]:2016/09/24(土) 18:41:36.89 ID:MwJli1Ni0
>>164

――――この時、何かの物語であれば『助け』が来るものだと相場が決まっている。
友人、ライバル。師匠。なんでも良い。誰であっても良い。彼女は此処で死ぬ『定めではない』と、世界そのものが彼女を活かそうとして起こる『補正』。
だが現実にそんなものは存在しない。死ぬときは酷くあっけなく、無感動に。それこそ彼女の存在など端役であるかのように消えてしまう。
彼女の精神は危うい所で均衡を保っていた。そして、彼女の能力は決して強くない。胸に当たった弾丸を僅か数分にも満たずに再生させられるような能力を持った相手に、対処できるすべなどない。
できるのは弾丸を放つだけ。異常なほどに発達した身体能力もなければ、無駄に回る頭もない。声に出す言葉すら曖昧で、明確な攻撃の意思は得られない。

ならば、其処に待つのは無感動な死だけだ。肉を引き裂き、骨を断つ。それだけの終わり。誰も見えず、誰を感じること無く、死という快楽を享受する。
救いであろうか? 確かに救いであろう。彼女という個人はこの世界から文字通り消える。ならば、その意志や思想も同じく、どうでもいいものであったということにほかならない。
死とは全ての終焉であり、それが行われることによって人は無意味となる。動いていた四肢は只の燃えるゴミ。心など既に無く、死体は醜く無様に其処に在るだけ。

死。死。死。唯それだけを持って、彼女の生涯は『幕を閉じた』。


――――


「――――死んだ、か。」

報告書を受け取ると、ヒーロー協会の本部に構えられた彼のオフィス。其処に在る椅子に腰掛け、机に足を投げ出しながら一言呟いた。
彼女が補佐を務めていた人物であり、男はヒーロー協会の中でも一握りと言われるトップの一人。グランドマスター「シグバレッジ・コナー」その人であった。
どうでも良さそうな、それでいて無意味な表情を崩さないままに、その報告書を机に放り投げる。そうしても誰も文句は言わないし、困ったような瞳で見つめられるようなこともない。
意味がない、必要ない。昔からそう思っていた。煩わしい存在がただ一人消えただけである。彼にとってはこれと言って関連性が在るわけでもないし、依存していたわけでもない。
ただ、ヒーローがヴィランにやられるという不甲斐なさだけが彼の思考を掻き乱す。情けない、彼が繰り返すのはその言葉だけ。
『正義が悪に負けるはずがない』。この世界に存在する唯一無二の絶対なる法則。それを乱したことは、彼にとっての反逆と言ってしまっても良い。


「無能は死んで当然だ。」

「――――あとの処理は任せる。」

新たに補佐についた『ヒーロー』に吐き捨てるような言葉を投げかけると、男はそのまま椅子に深く座り。そして眠り込む。


//自分からのレスは以上です。お疲れ様でした!
173 :パウロ ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/24(土) 19:09:15.16 ID:wG8ZIbhQ0
>>172
ウォーナイトの放った首への一撃を受け少女の首は達磨落しの様に呆気なく、落ちた。
物語ならば少女の内なる力が解き放たれての逆転劇、仲間が来て危機一髪の救出劇、そして反撃へ――となるかもしれない。
しかし現実は、驚く程に呆気ない幕切れ。たった今目の前で一人のヒーローの生涯は『終わった』。

「………フン」

ぶちのせめしてスッキリしてそれで終わり。その筈なのにウォーナイトの胸中には未だにイラツキが残っている。
こと切れた骸を見ると、それが見慣れた人間のソレではなく良くできた人形のソレだ。
このお人形さんはどこかの誰かにヒーローとしての『役目』を与えられたのだろう。
だがこの人形はそれを全うできなかった。さぞかし、この人形のご主人様はお怒りだろうよ。
いや、もしかしたら怒りすらも沸かないのかもしれない。
壊れたオモチャには誰も見向きもしないのだから。

「訂正しといてやるぜ、『お嬢ちゃん』。お前が例え誰だとうとどうしようと、オレは救えねえ。

『誰も、俺を救えない』。それだけだ」

それはただの同情なのか、一方的なシンパシーなのか。
その一言だけを言うとウォーナイトは討ち捨てらえた骸を見返す事なくその場を去った。
この少女が何の連絡も無しに単独で来たとは思えない。
明日になれば恐らくヒーロー協会の誰かがこの死体を発見してこのあたりを捜索するだろう。
オマケに今日はデカイ声をあげたりとでハデに暴れ過ぎた。
…しばらくの間、ここには来ない方がいい。

宛ても無く、とりあえず今日の寝床はどうしようかと考えながらウォーナイトは夜の闇に消える。

打ち捨てられた、壊れた人形に帰る場所はない。

人と言う群からはぐれた狼にも、帰る場所はない。

//返信代えさせて頂きます。お疲れ様でした!
174 :ジョン・ドゥ ◆gHyRb0WDMU2016/09/24(土) 21:17:29.62 ID:fNxQGnv7O
ウィンウィンウィン、今宵も警邏が鳴らすサイレンがこの街を眠らさない。
一昨日は殺人で昨日は強盗だ、悪が蔓延るこの街では新聞記事の話題に事欠かない。

とまぁ……今日は微妙だが

「ちぃ!一人に寄って集って弱いものイジメですカ?クソ野郎ッッ」

彼は大通りから路地裏に駆け込み、複雑な通路を通り抜けながら逃げて行く。
背中を追うのは大勢の警察官。その目は熱い正義感に燃え上がり、逃げる犯人を追い掛ける。

「ただ、金持ってそうなオッさんから財布スっただけだロォ?!」

一方逃げるチンピラは悲鳴を上げながらただ走る。細い路地を器用に抜けて、フェンスがあれば飛び越えて
しかしついには行き止まり。警察官達が壁に追い込み、拳銃を向け────そのまま、”発砲する”

”ただのコソ泥に銃弾をシャワーの様に浴びせたのだ”

何故か

「……………プハッ!」

「死ぬダロ。[ピーーー]気だロォ!俺はただのチンピラなんだぜえッッ」

”それ程度では死なないからだ”

浴びせた銃弾を”撃たれた箇所を液状化し吸収した”チンピラはまるで何も無かった様に文句を叫んだ。
警官達は皆々悪態をついた。こんなこの街は化け物ばかりだから毎日騒がしいんだよ馬鹿野郎!
実際、この程度では”時間稼ぎ”にしかならず実際に時間稼ぎだ。既にヒーロー協会に連絡が行われている。
警官達は必死にチンピラを逃さぬ様に、追い込みその手を緩めない。全てはヒーローが到着するまで動かさない為に
175 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/24(土) 23:17:05.60 ID:+RQYoVpro
>>170>>171
叩き込んだ拳。顔面。感触は良好。さぁ、その苦痛にゆがんだ顔を見せてくれ―――――
拳をどかす。防御もしない等愚劣の極み、嘗めているからこうなるのだ、と放つ言葉は決めていた。が。
痣は出来ていた。口から地は漏れた。それでも彼女は笑っている。痛いと口では言うが、それが真実かどうかもわからない。
"一撃でも叩き込み、ダメージを与える。"当初の目的は達成されたし、これでいい筈だった。
現実はあんまりで。彼は唖然として棒立ちする。今攻撃すれば抵抗なく吹き飛ぶことは確実。

(…………………何を言ってるんだ、こいつ。)

それをせずに、ユーカ・ルイーゼは語りだす。その中身は、彼が最も聞きたくなかった物。

(…………………やめてくれ、おい。)

人が人を嫌うとき、嫌う対象の悪い、気に入らない点をかき集めて都合のいい像を作り出す、というのはよくある話。
当然彼もそれをやっていて、彼の中のユーカ・ルイーゼは"生まれつき才能の溢れる、恵まれた苦難知らず"だった。
自分とは違う存在だからこそグランドマスターに成れたと思っていた。

(…………………頼む、その先は―――――――)

そしてついに、聞いてしまう。彼女が自分と同じ、"後天的な能力者であること"。
いや、能力に関する苦難に関しては彼女の方がはるかに上だろうか。自分は作られた能力を受け入れて、ヒーローになることも喜ばしく感じていたのだから。
広告塔としての世間に顔を出す彼女だが、過去は全くの謎に包まれていた。成る程、話したくなくなるわけだ。

さて、エグゼス・バーレスクはユーカ・ルイーゼを知ってしまった。
彼女が同じ人間で、自分よりもはるか先のマイナスから始まって、そして尚今の位置に。"グランドマスター"に居る事を知ってしまった。
ならばどうなるか。拠り所、彼が彼女を嫌う材料は全て無くなっていた。残るとすれば唯の嫉妬、醜い感情だけ。
彼は呆けた。思考の全てが停止した。これ以上の自己嫌悪に至らぬための防衛本能ともいえるか。
そこに拳がやってくる。当然避けられず鼻っ柱に衝突するが、痛みは軽い。だが、意識を引き戻すには十分で。
放った言葉を彼に叩き込むには十分な効果を持っていた。

意識を戻したとき、彼の目の前に居るのは『クリムゾンヒート』であった。協会が有する最強の内の一人が目の前に立っていた。
いつかの後悔よりもはるかに巨大な威圧感がやってくる。もとより死を恐れる、臆病な彼を竦ませるには過剰な程だ。
良くある威圧感の表現として、相手が大きく見えるというものがあるが、彼が見ているのはまさにそれ。
足が震える。能力により血を滾らせて尚、体の体温が下がっていくと錯覚すらする。―――――殺される。
今自分が経っているのがヒーローズグレイヴだという事も忘れて、頭の中が恐怖で支配されていく。
フラッシュバック、もしくは走馬灯。記憶が頭の中に流れ込んできた。幼い日の純粋な記憶、折れて賭博にのめり込んだ記憶が、――――――そしてあの日の、一生消えぬ後悔が鮮明に再上映された。
体温が少しずつ上がっていく。恐怖が消えたわけではない。代わりに新しい感情がわきあがってきていた。後悔が、過去の自分への怒りとなり。
――――――もう、逃げられない。これ以上何も取りこぼしたくない。
彼は臆病だ。だからこそ、"死よりも遥かに強い痛み"を自覚したとき、なんとしてでもそれを避けようとする。
胸ポケットから更に注射器を取り出す。両手に一本ずつで二本。彼が引き出せる能力の限界。
首筋にそれを刺し、液体を流し込めば。全身から蒸気が溢れ出す。血液の温度は最早彼ですら痛みを感じる領域に達していた。
けれど弱音は上げない。逃げられないのだから。
そして右手に空になった注射器の針を突き刺し、抉る。掌に一本の"傷"が出来上がり―――――――

「――――――――――っっっぁぁぁあああああああああ!!!」

彼が込められる全力を叩き込もうと、一歩、"踏み込んだ"。
彼の右手から漏れ出す血は高圧で放たれる"血の刃"と化し、彼女に振り下ろされる。
今、彼がどちらといえばきっとどちらもと言う答えになる。
『ヴォイドブラッド』の後悔を、エグゼス・バーレスクが乗り越えようとしているのだから。
176 :ユーカ・ルイーゼ ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 23:47:08.95 ID:a0cVBlFOo
>>175

離れていても感じることが出来る超高温、噴き出す血液は熱と圧力により鋼よりも鋭い鮮血の剣と化してユーカ・ルイーゼに放たれた。
笑う。張り付いた愛想笑いでもなんでもない、待ち侘びたと言わんばかりの嬉しそうな¥ホ顔だった――――ああ。このまま喰らえば、間違いなく死ぬだろうな。
これが彼の全力だというのであれば、自分も其れに応えねばならないだろう。彼女の真の意味での全力は制御が効かないため使えないが、それでも許されるところまで。
ナノマシンが活性化し、瞬間的にユーカの服が桃色を基調としたドレスへと変わる。髪色もピンクに、ふんだんにあしらわれたフリルとリボンは戦場には似つかわしくない。
だがこれが彼女の戦闘衣装――――『クリムゾンヒート』の、勝負服なのだ。

同時、彼女の肌に罅≠ェ入った。文字通り亀裂が入ったのではなく、赤色に発光する罅割れの様な紋様が肌に浮き出たのである。
琥珀色だった瞳も赤色に、纏う威圧は膨れ上がる――――彼が『クリムゾンヒート』を知っていたというのであれば、この形態も当然知っている筈だ。
身体能力と肉体強度の向上に加え、発火が可能になるという単純で凶悪な彼女の能力。
これを発動したということは即ち、これを使わなければやられていたと言う事に他ならない。そして彼女は嗤う――――獰猛な、獣のように。

「やるねぇ――――待ってたよ、ヒーロー=v

例え刃が如何に強力であろうと、その根本――――手さえ抑えつけてしまえば、彼の血液が彼女に届くことは無い。
当然彼女はそう対処した。踏み出し、手を掴める間合いにまで近づき、そして手首を左手で強引に掴み取る――――これで、もう刃は届かない筈だった=B
彼女の反応速度を、彼の動作がほんの少しだけ上回った。そしてその僅かな時間が、彼女の強固な肌に刃を届かせるに至った。
血の刃に混じり溢れる彼女の血液。『クリムゾンヒート』を負傷させるということは、其れだけでも強力な攻撃性能を保有していると言う事になる。
傷口を襲う高熱、思わず顔を顰めてしまいそうだ。熱い。痛い。感覚が麻痺する寸前、けれど今はそれすら喜ばしい――――だがやられっぱなしで終わるのも、彼女の沽券に関わる。
故に魅せよう、彼が求め、目指し、そして何時かは辿り着けるであろう領域――――ディヴィジョンT≠フ実力を。

「ちょっと本気で行くけど――――耐えれるよね、今の君なら」

拳を握り締める。無意識の内に周囲に灯り始めた焔は、能力が活性化しているからか、それとも彼女が昂ぶっているからか。
そして強く左足を踏み込み、エグゼス・バーレスクの腹部に向けて拳を撃ち出す――――『クリムゾンヒート』、彼女の戦い方はそのほぼ全てが徒手空拳によって成されている。
一挙手一投足総てを必殺とし、己が肉体を最強の武器とする。驚異的な身体能力と肉体の硬さから生み出された一撃は、例えその拳が小さくとも銃等より余程強い=B
衝撃を纏った一撃は其れそのものが兵器と言っても差し支えないだろう。分かりやすい超人≠フ形、とはいえ彼女は言うまでもなくヒーロー協会でも異質の存在ではあるが。
直撃は、はっきり言って危険である。たかが拳、そう高を括って行動を怠れば最悪死ぬ危険すらあるだろう――――だが回避、反撃、或いは防御。
いずれの行動によって拳を対処することは十分に可能なはずだ。どれだけ高威力でも、やっていることはただの拳撃≠ノ過ぎないのだから。
177 :『クリムゾンヒート』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/24(土) 23:47:43.79 ID:a0cVBlFOo
>>176
//一応名前を変えておきます
178 :ジョン・ドゥ ◆gHyRb0WDMU2016/09/25(日) 00:14:32.25 ID:URZetUvQO
>>174
/一度だけあげておきます
179 :エグゼス・バーレスク ◆dxFQCSq5lo[sage]:2016/09/25(日) 00:27:29.56 ID:JzC6QAAno
>>176
>>176
今まで一度も使ったことはなかった、正真正銘の切り札。
体を作り変えられたときに言われた自分の、もしくは人体の限界がこの領域だと言う。
故に、相手がグランドマスターだとしても腕ぐらいは切り落とせる自身があった、のだが。
結果は傷をつけたのみ。グランドマスターに傷をつけたというだけでも誇れるのかもしれないが、絶望するには十分すぎる。
――――――諦めない。やっと踏み出せたんだ、やっと前を向けたんだ。もう逃げられないんだ。

炎を纏った、至高の一撃。あくまで拳戟、致命傷を避けようとすれば可能だろうが、その選択肢を投げ捨てる。
一度避けてしまったら、この間合いを捨ててしまったらもう機会はないと確信していた。
ならば捨て身の、諸刃の攻撃を叩き込もう。そう決断したとき、自分も随分"ヒーローらしく"なったと気づく。
ついさっきまで、自分が何をやっていたのか忘れてしまいそうになるほど。
彼女が過去を語りだしたときから、彼女の意図はなんとなく感じていた。認めたくなかっただけ。

拳が彼の腹部を捉える。防御も回避も一切は無く、衝撃が臓物を叩き潰し、炎が皮を黒く染める。
当然、彼の口からは血液が溢れ出し――――――これが、最後の一撃。
臓物が潰れて溢れる血液は手から漏れる量とは比べ物にならず、自分の命を懸けるに値する威力は出せるはずだ。
血液がこみ上げる。さぁ、今こそ――――――――

口から漏れ出た血液は、赤黒い砲弾として放たれた。
この結果がどうなろうと、彼の意識はこれで途切れるだろう。口から血液を噴射した時点で、彼の意識は薄れていた。
最後の全力の一撃は、彼女への礼の意味もあった。けれどアレだけ散々愚痴愚痴言った後だ、きっと伝わらないだろうから。

「…………ありがとう、ございました。」

"グランドヒーロー"に一つ、礼を差し出して。彼の意識はそこで途切れる。
限界量のクスリにグランドヒーローの一撃、ダメージは寛大なものであったが、限界まで高まった体は死を迎える心配はなく。
彼女がここに放置でもしない限り、彼が死ぬことはないだろう。
180 :『クリムゾンヒート』 ◆kYK1vsmBEk[sage saga]:2016/09/25(日) 00:47:34.89 ID:bjsGHg+eo
>>179

躱されるかと思った。防がれるかと思った。そうしなければ危ないと、彼も理解していると思っていた――――そして彼は理解した上で、彼女の想像を上回ってきた。
拳に伝わる手応えは、その一撃が綺麗に相手を撃ち抜いた事を伝えてくれた。自分で放ったにも関わらず、彼女の表情には微かに動揺が見られた。
思えば其れがこの一連の会話の中で、彼女が初めて見せた笑顔以外の表情だったかもしれない。何れにせよ、其れが僅かな隙を生み出したのは言うまでもなく。
そして戦闘に於いてはその僅かな隙こそが命取りとなることは、ヒーローであれば誰しもが知っていること――――視線を拳から上へ向けたときには、既に遅かった。

「――――っ」

咄嗟に腕を交差させ防御姿勢を取るも、その防御には一切の意味がなかった。
血液の砲弾、恐ろしいのは純粋な威力ではなく、それ自体が秘めた熱量――――そして其れは彼女にとっても、致命的な弱点と成り得る。
彼女自身は発火能力を持っているため非常に高い熱耐性を持っているが、それを上回る熱は肉体の強度等関係なく直接ダメージを受けてしまう。
本来彼女の火を上回る熱の使い手など早々現れないため、普段は警戒する必要もなかったが、今回ばかりはそうもいかなかったらしい。
躱せばよかった。いや、躱すべきだった。煙を吹き上げる両腕、横に振るって纏わりつく血液を引き剥がすも、焼け爛れた肌は見るに堪えない。

「…………ん」

戦いには、勝った。『ヴォイドブラッド』が倒れ、『クリムゾンヒート』は立っている。だがランクが離れているにも関わらず、彼女に与えられたダメージは決して軽くなどなく。
激痛は今も延々と彼女を苛み続けていた。戦いが終わったにも関わらず、能力を解けないのがいい証拠だ――――最後の一撃には、してやられた。
とはいえ、其れを表に出すことはない。携帯端末を取り出し、救護班を呼び出すとクリムゾンヒートは倒れる彼を見て。
意識はもはや残っていないのかもしれないが、声をかけるだろう。

「最後に一つ、グランドマスターからアドバイス」
「グランドマスターってのはね、一番強がるのが上手い奴の称号なんだよ――――覚えておくと、良いかもね」

追い詰められ、窮地に陥り、命の危機に瀕した時、無意識の内に誰かを頼りたくなる。そんな時にも兵器な顔をして、大丈夫だと言える存在。
ディヴィジョンTより上が存在しないということは、彼女達は誰にも頼れないということだ。もっとも彼女の言葉が、彼に届いている可能性は低かったが。
そして彼女は如何にも平気そうな顔をして、彼を救護班に引き渡す。そして誰もいなくなったヒーローズグレイヴで、一人ひっそりとのたうち回った。
後日ヒーローズグレイヴが半壊しかけたというニュースがエグゼスに届くだろうが、その犯人が誰なのかは一切伏せられていたという。
そしてヒーローズグレイヴで他のヒーローに勝利すれば、ランクアップのためのポイントが手に入る――――もしポイントを確認したならば、気付くだろう。
麻薬の売人の確保等の得点の中に紛れる、『おまけ☆』という謎のポイントに。
181 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/25(日) 21:47:45.18 ID:vUPl7/Vjo
「昔、人間たちは神の力を手に入れました」

かつてヴィランとヒーローとの戦争で廃れた教会。
割れたステンドグラスから月光が差し込む。ひび割れた床が靴音を響かせる。

「それを用いて人間たちは争いました。地球が滅茶苦茶になっても戦いは止めませんでした」

外れかかった扉。所々破れた天井。
そして、罅入った壁はその語りを反響させる。

「それを治めたのは、“英雄”でした。
やがてヒーロー協会が設立され、神の力を持った人々は管理されるようになったとさ」

壇上には一人の女が立っていた。
聴衆がいるかはわからない。そんなことはあまり関係はない様だ。

コートを羽織った女。語り部を表すには、これには足らない。
『極光』。否、『極光』だった女。
語り終えたかつての頂点の一角は、妖しく微笑んだ。
182 :クリューエル ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/25(日) 22:52:04.34 ID:BukHypJH0
>>181

「管理…か。私には、支配の様にしか思えないんだがね」

ひび割れた柱の影、まるで初めからそこにいたかの様に男は現れた。

「君もそう思ったからこそ、あの出来そこないのバベルから英雄の座を降りた。違うかね?『極光』。

……いや、失礼。今は『常闇』と呼ぶべきだったかな?」

壇上の彼女に向き合う様に男は立つ。頭の先からつま先まで、すべてが黒ずくめ。
頭はすっぽりと覆われたフルフェイスのマスクに覆われており、その表情は伺えない。

「お初にお目にかかる。私は…『ヴィラン』。ヴィラン『クリューエル』と名乗らせて貰っている」

このクレイドルに於いて、男は忌むべき称号であるヴィランを自ら名乗り出た。
まるでそれこそが、自分の役目なのだと誇る様に。

「ヴィランといっても、私はまだここに来たかりで君に比べると新参者さ。

ここに来たのは、偉大なるヴィランの先輩として挨拶に来たのと…」

「何故、君は英雄でありながらヴィランになろうというのか。

もっとその力を奮いたいと思ったからか?それとも、自らの力でこの世を覇権しようとしたのかね?」


「教えてくれ、『アポロニア』。かつて誰よりも、

人類を導く”神の使徒”に誰よりも近かった者としての、君の考えを……」
183 :クリューエル ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/25(日) 22:53:48.30 ID:BukHypJH0
//きゃあ誤字!
×「教えてくれ、『アポロニア』。かつて誰よりも、
 人類を導く”神の使徒”に誰よりも近かった者としての、君の考えを……」

○「教えてくれ、『アポロニア』。かつて誰よりも、
 人類を導く”神の使徒”に近かった者としての、君の考えを……」
 
184 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/25(日) 23:19:55.63 ID:vUPl7/Vjo
>>182
「あら、私はまだあの頃から変わってはいないわよ?」

どうやら、一人語りではなかったらしい。
目の前に、黒の男が立った。

「私は、そうね。ただの夢想家よ」

クリューエル、ヴィラン。だが、“違う”らしい。
普通の暴力のヴィランとは違うようだ。
彼は自分のことを知っている。だから、名乗りはしない。

「ふふっ、全部外れよ」

だが、彼はアポロニアという人間を理解はできていないらしい。
全部、全部違う。
そもそも、アポロニア・ビッケンバーグは、

「私は、まだ“ヒーロー”よ。
見られ方は確かに変わったみたいだけど」
185 :ジョン・ドゥ ◆gHyRb0WDMU2016/09/25(日) 23:22:43.33 ID:1ETBVdZrO
>>174
/人がいそうなのでこれで絡み街を…
186 :クリューエル ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/26(月) 00:17:47.73 ID:90E0g6/P0
>>184
「………なるほど」

彼女の問いに、得心がいったという様に男は頷く。

「私とした事が、立場や称号に囚われ過ぎていた様だ。いや、無礼な事を言ったよアポロニア」

くっくっくっ、と自嘲するかの様に肩を震わせ男は続ける。

「そうだな。ヒーローとは、本来そういうものであるべきだ。称号も、栄誉も必要ない。
本来、ヒーローは奉仕者でなければならないのだ。
ヴィランを捕まえる事で栄誉を得る為に、ましてや己の力を振るいたいが為に被り物をしたがる連中などではない。
ましてや、首輪をつけて支配しようというものでもない」

彼女の演説に応えるかの様に、今度は男が演説をする。
アポロニアに背を向け両手を拡げ、まるで見えない群衆に語りかけるかのように男は話す。

「考えた事はないか、アポロニア。我々は何故、この超常の力を授かり生まれたのか…
人類がまだ立って歩くだけの猿だった頃、ある日一匹の猿が道具を使い、やがて火を使う事を覚えた。
その猿から全てが始まり、猿は人となり文明を築いた。だが、ただ飯を食らい子を為すだけなら猿は人になる必要はない筈だ。
なのに何故、猿は知恵を得たのか。

人類は、新しいステージに移る時期にきたのだよ。
叡智は頂点を極めたがそうなればあとは落ちるだけだ。だからこそ神は今、自らの力を与えて試しているのだ。
プロメテウスが神の火を盗み人類に火を授けたようにね。」

「しかし力を与えただけでは、人はそれを人類の繁栄の為には使おうとはしない。

今の人類には英雄が必要なのだ。数多の権力に屈せず栄誉などにも縛られない。
ただ自らを滅し正義の元に悪を挫き、人類を導く”柱”が必要なのだ。」

「だが主役が輝く為には悪党が必要だ。強大なる悪に立ち向かえてこそヒーローはヒーローなのだ。
その役目を担うのが、ヴィラン。

――それこそが私の生まれた役目だ」

男がヘルメットの後頭部に手をやる、するとヘルメット頭頂部分が割れ下へ折りたたまれていく。
所々に破れた天井から漏れる光にあたる男の顔は、青い肌に鱗。
そして二つの眼はまるで闇を表すかの様な、どこまでも深い漆黒――異形と呼ぶに相応しい容貌だった。

「おあつらえ向きの顔だろう?だが私はこの顔は結構気に入ってるのさ。
この顔が醜ければ醜いだけ、私が神の下部…悪魔である、という実感が沸いてくるのだからね。

人類の為に立ち上がる英雄達が、民衆の期待に応えて私を含む巨悪を打倒す。
そして人類は新たな英雄に導かれ、神の領域に近づけるようになるのだ。
感動的だとは、思わないか?」

男が再びヘルメットの後頭部に手をやると、ヘルメットは先程とは逆に異形の顔を隠す。
全てが隠された時、芝居じみた仕草でアポロニアに向き直る。

「さて、私の話は以上で終わりだ。」

「君とはいい友人になりたかったのだが、残念だよアポロニア。
君はヒーロー、そして私は人類の怨敵たるヴィラン。我々は、決して相容れてはならない存在だ。」

「私としては、このまま帰ってもいい所なんだが…」

「君は、どうする?アポロニア・ビッケンバーグ 」

187 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/26(月) 00:33:00.31 ID:2/xeXJBwo
>>186
「ええ、ヒーローはなるものではないわ。されるものよ」

それだけ呟けばヴィランの演説に耳を傾ける。
なるほど、似ている。
人々を導くリーダー。それこそが超常の力を授かった英雄たち。
ならば、英雄を育てるのがヴィラン。私たち。
醜き裏切りを働いた英雄、醜い容貌を持つ悪魔。


「私はね、ヒーローたちが堪らなく好きだわ」

ならば、語るほかあるまい。
己の願いを、目指す先を。

「でも、あの黒く点に聳え立つ柱は違う。あれは“英雄”を育てるものではない。
掃除機を作る工場に過ぎないわ」

だから、“英雄”を目指した女とは相いれなかった。

「私はね、唯気付いてほしいだけ。
あの柱に縛られてはならないということに。
私はそのためにヒーローたちに種を撒くのよ」

言葉を置く、英雄たちの敵であろうとする男を見据えて。
英雄たちを覚醒させようとする女として。

「あなたと私、立場が違ったら仲良くなれたかしらね?」
188 :クリューエル ◆3eLx6hmVeE[sage]:2016/09/26(月) 17:19:42.89 ID:90E0g6/P0
>>187
「………」

教会の中で、ヴィランとヒーローが対峙。
長い沈黙が流れた。

「どうだろうな。私は生まれついてのヴィランだ。ヴィランでない私は、もはや私ではない別の何かだろう。
運命と言うものは、なかなかままならないものだ。
私がヴィランでなかったら、恐らくこうやって君と会う事もなかっただろうからね。
だが、それが私の役目だというのなら私はそれを受け入れると決めたのだ。」

「今更、後戻りも立ち止まりもしない。君もそうだろう?」

スゥ、と男の体がゆっくりと宙に浮く。

「始めにも言った様に、今日はただの挨拶さ。
君が蒔いたという種がどの様に育つのか、私にも興味がある。だが、のんびりはしない事だ。
大樹ごと腐らせる腐った枝は切り落とすし、無駄花と見なせば摘み取る事にも躊躇はしない。
私もその間にそれを鍛える宿敵を探すつもりだ。
大輪の花を咲かせるか、偉大なる大樹を芽吹かせるのか、君の暗躍を楽しみにさせてもらうよ。」

男が告げたのはヴィランとしての宣戦布告。そして――

「――あぁ、そうだ。最後に教えておくよ。『アンドリュー・グレンスキー』
私が『人間』だった頃の名前さ。
君だけ名前を知られているというのはフェアじゃない気がしてね。
人間の名前を名乗るのは、これが最後だ」

人類の敵であるヴィランとしての、決意表明であり、

「さようなら。アポロニア・ビッケンバーグ。
次に会う時、私はヴィラン『クリューエル』。君はヒーロー『常闇』として…
お互い、『役目』を全うしようじゃないか…」

初めて出会えた、『同志』との決別の言葉だった。
189 :『マグナム』[sage saga]:2016/09/26(月) 18:58:36.49 ID:sriaWSV50
>>174

「…………るせぇ。」

路地裏を通るということは、極自然的に社会から爪弾きにされている存在の闊歩する場所へと足を踏み入れることと同義である。
カラスの鳴き声、潰れたトマト。そして猫の死骸。これと言って何の変哲もない悲劇が転がる地域に、彼はその身をより書けて眠っている。

――――眠っていた。過去形である。先程からの騒々しいサイレンの音で無理矢理に起こされてしまっていた。
二度寝をしようにも騒々しい。だが眠気を飛ばすには少々足りない。唯でさえ先日の傷がたたって引きつるような痛みが腹部を襲っているため寝不足だと言うのに。
寝かせてくれ。それだけを願うものの、彼の日頃の行いはすこぶる悪い。最悪と言ってもいいくらいの人間性であるので、点がそれを聞き届けるかと言えば否だった。

寧ろ、彼が望んだことの真逆を起こす。ぞわりと背筋に怖気が走り、そして顔のすぐ横を通っていったのは壁の破片。どうやら壁の向こうで銃撃戦が起きているらしく
たまたま壁の薄い所を貫通した弾丸が一発、彼の真横を通り抜けたというのが現実だった。当たれば死ぬ、彼は少なくとも人間としての範疇には属しているため、当たれば死ぬ。
寝ることを邪魔されて苛立っている所に、命の危険。通常なら逃げ出したくなるような、銃弾の放たれた先を見たくないと思うのが心理だが、彼は其処まで賢くない。

鉄砲玉を打ち込まれたのなら、自慢の拳をぶち込んでやるのが彼の流儀である。
ゆっくりと立ち上がり、全身に血液の流れが行き交っていることを確認する。寝る前に飯は食ったし、苛立ちは十分。全身に怒りという格別のエネルギーが満ちている事を理解して、叫ぶだろう。

「うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」


――轟音。チンピラにとっては行き止まりであったはずの扉が唐突に『破壊』され、そして其処から吹き荒れる衝撃波のようなものが破砕された壁の破片をまとめて警察の方へとぶっ飛ばされる。
右腕にだけ装甲のようなものを纏うという不可思議な出で立ちに、怒りによって歪んだ表情。明らかに見てわかるとおりの『激怒』に包まれた彼は、紛れもない『八つ当たり』を行っていた。
190 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/26(月) 19:05:35.20 ID:2/xeXJBwo
>>188
「ええ、そうね。
私も立場が違ったらあなたを串刺しにしていたに違いないわ」

「止まっている時間は、お互いないわね」

未だ白い衣をまとっていたら。在り得ない話だ。
そうだ、時間はない。この身がまだヒーローであり続けられるのは、あとどれくらいだろう?
このヴィランの陰謀にヒーローの種が焼かれるまで、どれくらいか?

「さようなら、アンドリュー・グレンスキー。楽しい時間を過ごせたわ。
お互い頑張りましょう。そして、」


「次会った時は、赦さないわ」


『同志』として激励。だが、それもここまでだ。
『宿敵』として宣言。ヒーローとして、ヴィランを斃す。


アポロニア・ビッケンバーグとアンドリュー・グレンスキーとの交流は、ここで幕を閉じた。

次はきっと、ヒーローとヴィランが織りなす

闘争の、物語
191 :ジョン・ドゥ ◆gHyRb0WDMU2016/09/26(月) 20:36:52.16 ID:bc/ehICMO
>>189
────パラパラと、砕かれた瓦礫の欠けらが地面に落ちた。
夜の生温い風が路地裏にそゆき、砂埃が徐々に流され今の光景を露わにする。

人が倒れ、折り重なっている。

青を基本とした制服(既にボロボロで服としての機能は成してないが)を着た者が殆どだ。
彼らは皆、頭部や各所から血を流しており辛うじて生きている。と言うのが正しい表現か。
かひぅ、かひぅとか細い途切れ息が虫の鳴き声の様に耳に届く。虫の息とはこれの事。

「………….…………」

突如壁が爆発して、破片が雪崩の様に降り注ぎ、何もかもぐちゃぐちゃにしてしまったこの裏路地。
その奥の方、警察官達が横たわる場所から僅かに奥の方、奥の方の壁際にそれはある。
手足があらぬ方向に捻じ曲げられて、腹部からは白い物が見える。額は花咲く様に割れて、唇から真っ赤な血

埃に塗れて、血で汚れて、更に汚れた金髪、捻れ切った首に繋がるその玉は、
胡乱に静かに夜を見上げる。チンピラだった者が、唯一過去形(死体)になって転がっていた。

マグナムが彼の事をちらりとでも見れば、その手元に有名ブランドで、丸々太った長財布が眼に映るだろう
192 :『マグナム』[sage saga]:2016/09/26(月) 20:53:24.26 ID:sriaWSV50
>>191

人が死ぬ姿を見るのは、決して初めてではない。無論、自分の手で命を消したことも、初めてではなかった。
ビジランテ。所詮ヒーローとしての束縛を嫌うとして認定された時点で追ってが来ることは少なくない。ヴィランを名栗湖としたことがないかと言われれば、たしかにあったように思う。
本来ならば此処で後悔したり、懺悔したりするのだろうが彼にとってそんなことは些事だ。人が死ぬ。弱いやつから野垂れ死ね。強いやつだけは俺と『戦え』。
どうでもいい、生と死。そレッが何方に傾いているのかという天秤を鼻で笑うかのごとく、死体となったチンピラを見据え、そしてその手元にある『長財布』が目に入った。

「……そう言えば、腹減ったな。」

つい先程食事を取ったことを確認していたはずなのだが、拳を振るうとはエネルギーの消費も莫大らしい。まるで痴呆の老人のような速度で自らの食事事情をかき消すと、これ幸いと長財布に手を伸ばそうとするだろう。
一歩、一歩。別段急ぐ必要もないのでゆっくりと。虫の息の警官たちにはいずれ応援が来るだろうし、チンピラは既に死んでいる。今此処に彼を急かすものなど存在しない。
此処でヒーローなどでも出てきたら話は別なのだが、これといってそのような気配もなし。『青色』すら見えないとなると、それこそ彼にとっての『安全地帯』は変わらず。


――――最もこれは『通常の人間相手』であれば。の話であるが。
193 :ジョン・ドゥ ◆gHyRb0WDMU2016/09/26(月) 21:07:33.23 ID:bc/ehICMO
>>192

その手が財布に触れるか触れないかのタイミングでそれは言う。

「おい、俺の稼ぎに手を出すヨ」

コポリ、と口に溜まった地を地面に吐き出しながら、まるで寝起きの様な気怠げな声で、それは言う。
パチリ、と虚空を写していた目が瞬きをすると生気の明かりが再び灯り、その身体は緩慢に動き始める。

それは生きていた。間違いなく生きていた。その身体が半分程壊れていようが構うもんかと生きていた。
ギョロリと目が動く。その目がマグナムを写す。傷が入った頬が釣り上がれば、皮肉をたっぷり込めて言う

「ムシロ、財布の中に金を入れてけ爆破ヤロウ。いしゃりょーと治療だ。」
194 :アポロニア・ビッケンバーグ ◆FopTtc8NT.[sage saga]:2016/09/26(月) 21:16:12.57 ID:2/xeXJBwo
http://jbbs.shitaraba.net/internet/23862/
新したらばが立ちました。以降はこちらをご利用ください。
それと、キャラに関しては各自で登録スレに移動をお願いします。
195 :『マグナム』[sage saga]:2016/09/26(月) 21:26:44.88 ID:sriaWSV50
>>193

「――――あ?」

手を伸ばし、財布に触れるか触れ得ないかのタイミングでかけられた声に、彼は少なからず驚愕と同様を表情に浮かべる。
いくらすべてのことをどうでもいいと言いきれる彼であっても、流石に人外の相手となれば話は別である。人間は、あそこまで壊れてなお喋ることなど普通はできない。
身体強化系の能力者であればまた別なのだろうが、目の前のそれはまさしく死体であり、いくらなんでも『でたらめ』に過ぎる。ミイラが動いたと言われる方がまだ信じられるだろう。

「まだ生きてたのか」なんて声をかけつつ、そして此方を見据える瞳に心の臓がぞわりと震える。心臓に生えた毛が逆立っているような、純粋な違和感。
朝起きたら知らない人間が目の前に絶っていたときのように、体に虫がまとわりついていたときのように。気がつけば『居る』というたぐいの恐怖。能力者だと確信付けるものの、その思考すら怪しい。
彼にとってはどうでもいいことでは在る。けれど、どうでもいいのと無視できるかは別だ。嫌いなやつは嫌いだし、気色の悪いやつは気色が悪い。

誰だって壊れかけた肉体をした死体が話しかけてきたら気持ちが悪いだろう。つまり、それだけのことだ。

「お前はこの俺の睡眠を邪魔したんだ。死んでワビるのが筋ってもんじゃないのか?」

皮肉に対して込めるのは暴論。相手を瀕死の状態にまで追いやっておいて、そして自業自得だと吐き捨てる。気にするな、お前が悪いんだと無理矢理に肯定する。
装甲を纏った右腕が小さく軋みを上げながら威嚇とするが、それでもやはり通常通りの『威圧』とは行かず。


――――純粋に、殴って死なないのならばどうすれば良いのか。と、焦りを込めて考えていた。
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋)2016/09/26(月) 21:53:42.44 ID:bc/ehICMO
>>195

「おいおい、殺してくれたヤツがいう事ジャねーなァ」

ズゾ、リ。とそれは”曲がった手足をそのままに”起き上がる。壊れたマリオネットが立ち上がる様な
ギコチナイ、動きで、立つが、何故か、マグナムに対して背中を向けている。だがお互い睨み合っている。

人体的構造を完全に無視をしたソレ、は…….ニタリ、と嗤うのだ。

「イテえじゃ無いか、ヒデェじゃねぇか…」

その声は身体が捻じ曲がってる故か高い様で低い不協和音。所々、こぼれる血がそのグロテスクを演出する。
ズサリ。ずさりと、脚を引きづりソレはマグナムへ揺れ迫る。その動きは錆びたオモチャの様に愚鈍であり。歩くたびに”音がする”
それは肉が千切れる音だ。それは骨が飛び出る音だ。それは骨が地面と削れる音だ。”人間が壊れていく音だ”

「おっそろしィな、なぁ、ナァ、なんで俺死んでるンダろうな….なぁ、なあ、なぁ、なぁ!」
197 :『マグナム』[sage saga]:2016/09/26(月) 22:03:34.82 ID:sriaWSV50
>>196

「――――しるか、ボケ。」

薄気味が悪い。気色が悪い。人間に対しそんな感情を抱くのは異常だろう。ならばやはり、やつは人間としては在りえない。
血が出るのはどうだって良い、何度だって見てきている。骨が出ているのも、曲がっているのも、オレているのも想定内だ。
ただ、其処までして「動いている」ことだけが理解できない。能力であることを確信しても、人間の体がそうは動かないと常識は『否定』する。
本能の部分が比較的強い影響力を持ち得ている彼であるからこそ、その違和感を如実に感じる。音、血を踏み分ける、壊れていく音。


――――それらを全て言葉一つで『吐き捨てる』。
思考停止、思考放棄。その両方とも取れる思考法。考えることをやめることで停滞する。停滞して停止する。そうすれば、何に惑わされることもない。
停滞とは対価を意味する。愚直なまでにまっすぐに、鉛のように重く激しく火花を散らす。その弾丸。転がり落ちる一発の薬莢。そのイメージ。
拳を握り、弛め、そして駆け出して殴りつける。単純な殴打であり、引き摺った体ごとそれを吹き飛ばすようにしてブン殴る。そのまま倒れてしまえと、装甲を持つ右腕を振るうだろう。

狙いは顔面。無慈悲に振るわれるそれに躊躇いはなく、しかし相手の身体構造は人間としては『理解不能』。故に取り敢えず顔面を殴っとけばいいと謎の理屈が顔を出す。
本能に従った危機感によって振るわれた拳は寸分違わずに飛んで行く。叫ぶチンピラに、だが、あまりに近いせいで初速が乗らない。威力としては、低迷している。


198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2016/10/01(土) 20:23:46.69 ID:FBA+bxEUo
 









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                           |\ _\     はいぇ…
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199 :単車番長 ◆p8znYVkX4A[sage]:2016/10/03(月) 00:22:30.41 ID:oXg+pver0
深夜。聞こえる音といえば虫の鳴き声しかない静まり返った住宅街。日々の疲れを癒すべく、人々は各々の家で休息を取っていた。

夜の静寂は誰にでも訪れるべき癒しの時間。しかし、それを破壊する者が現れたのだ。

「バーロロロロロロッ!!」

響き渡るエンジンの爆音、ヤンキーフォンの騒音、煙る排ガスに強く照らされた違法改造ライト。

ああなんといつことだろう。たった一人の悪意ある人間のせいで、人々の安らぎは容易く打ち砕かれてしまうのだ。しかし、誰一人としてそのことに対し意を唱えることはできない。

「最ッ高の気分だぜ! バーロロロロロ!」

騒音のような笑い声を上げて走り回る1人の、いや一台のと言ったほうが正しいだろうか。人影があった。

それはまるでバイクが無理やり人の形をとったかのような姿。

そう、人に害をなす存在、ヴィランである。
ただの人間である限り、ヴィランに歯向かうことなどできはしないのだ。

ただの、人間であるのなら。
200 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY[sage]:2016/10/03(月) 00:51:16.03 ID:xm8bC7de0
>>199

「お〜うおうおう、派手だねぇ」

響く、中性的な声。
歪なバイクの進路に、一つの人影がゆっくりと歩む。
ヘッドライトに照らされるのは、緑や赤や黄色といった、伝統芸能を思わせる派手な和装。
そして白塗りに紅の隈取りが映える、面。

「派手なのは嫌いじゃねえが、悪人とあっちゃあほっとくわけにはいかねえなぁ」

表情こそ見えないが、仮面の下からでもバイクへと鋭い眼光を向けている事は伺えるだろう。
そして、腰の日本刀へと手を掛け、悪へと立ち向かう英雄として、名乗る───────


「役者として十代目、英雄と呼ばれて七代目!十代目・林原十右衛門、いざ尋常に、参る!!はああっ!」

名乗り終われば、此方に向け迫るバイクとのすれ違いざまに日本刀を鋭く振るわんとする。
狙いは前輪。まともに決まれば、パンクによりその走りは思うようにいかなくなるだろう。
201 :単車番長 ◆p8znYVkX4A[sage saga]:2016/10/03(月) 01:21:59.83 ID:oXg+pver0
>>201
突如現れた歌舞伎役者のような面をつけた人物を前に、彼がとったのは意外なことに避けるという選択であった。

別に人命がどうこうと考えたわけではない。ただ単純に、自慢のボディをつまらない理由で汚したくなかったというだけのこと。

しかし、それは結果的に功を奏した。

走り行くはずだった軌道上に、芸術のごとく美しい軌道で描かれた剣筋。何も考えずに轢き殺そうとしていれば、おそらくはそのままタイヤを切り裂かれていたことだろう。

少し距離が離れたところでドリブルをかまし、彼は自分を襲った敵対者を見やった。

「てめぇ、ヒーローかよメェン?」

声や体格は男とも女ともとれる中性的なもの。しかし、彼にとってはそんなことどうでもいい。男ならば焼きを入れてやるし、女なら少しお楽しみができるだけだ。

「この単車番長様に喧嘩挑もうたぁなめてやがるな? ざけんじゃねぇぞメェン?」

バロロン、バロロンと、エンジンを空だきする。さっきまでご機嫌に走り回っていたのを妨害した罪は償ってもらわなければならない。

「焼き入れてやるぜシャバゾウがよぉッ! 時速100km・U恋怒雷武(ジソク100キロ・ドスコイドライブ)!!」

ゴッドファーザーのテーマソングをヤンキーフォンでかき鳴らし、面をかぶったヒーローに真っ直ぐ突っ走る。

だが、先ほどの先制攻撃のせいもあり彼に油断はない。同じようにタイヤを斬りつけようとしても、来るとわかっている障害を避けるだけのドライビングテクニックはある。

もしも打つ手なく攻撃を許してしまうなら、時速100キロの勢いで、その鉄塊のようなな手のひらが、ヒーローに張り手を喰らわせることだろう。
202 :十代目・林原十右衛門 ◆eXqljlzyZY2016/10/04(火) 02:32:50.83 ID:inmWjkGN0
>>201

「まあ、英雄って呼ばれちゃあいるな。単車番長......へぇ〜、今時珍しいねぇ?」

爆音を鳴らし威嚇するバイク男に対しても、歌舞伎の仮面の者はその飄々とした態度を崩さない。
それどころか、ステレオタイプなヤンキーを目にして、若干の感慨すら覚える始末だ......

「すまんが、もうちょっとばかしおいらにも分かりやすい言葉で喋ってもらえると助かるんだが......聞いちゃあいねえか。『焼き』ならこっちも、負けちゃあいねえぜ?」

「ご覧に入れてしんぜよう、『紅蓮のシシガミ!』いよぉ〜っ......はぁぁぁぁぁっ!」

100km/hで走り来る男の攻撃に仮面のとった選択肢は、別の攻撃手段での迎撃。
掛け声と共に頭を振るえば、烈火の如く赤々と燃えた髪が10m程度迄伸び、鞭のごとくしなり迫るバイク男を燃やさんと振るわれる。
この攻防一体の一撃が命中すれば火傷、悪くてガソリンに引火し炎上しかねないだろう。
しかし、炎は仮面の男を中心に、ぐるぐると円を描くように振るわれている。
それは即ち、一度かわせば次の一撃には一周するまでのタイムラグが存在すると言うことを示す。
スピードを落とさずにかわすことが出来たならば、懐に入り一撃を叩き込むチャンスはあるだろう。
203 :単車番長 ◆p8znYVkX4A[sage]:2016/10/04(火) 03:36:10.85 ID:1jbweoXB0
>>202
「なめた口聞いてんじゃねえぞシャバゾウがよぉ! わからねえっつうなら直接体に教えてやるぜメーン!?」

エンジンが温まってきた彼にとって、どんなに些細な言葉でも焼きを入れる口実になり得る。

しかし今回の相手、非常に相性が悪いようだ。

「なんだぁこの炎はよぉバーロー!?」

猛進する牡牛が急には止まれないように、彼の走行もまたそうやすやすと止まれるものではない。

それは、先ほどの走りで見せた少し距離をあけてからのドリフトでわかることだろう。

ましてや回転による半径10メートルの広範囲攻撃だ。人一人を避けるならともかく、ここまでくれば避けるのは至難の技だ。

「Aieeeeee!!」

往生際悪く避けようとはしたものの、やはりもろに攻撃を受けてしまった単車番長は無様にも悲鳴をあげて、激しく転倒。火だるまとなった自分のボディを転げまわることにより消火しなければならない。

幸いにも、彼はバイクと身も心も一体になった存在だ。金属の体を持つがゆえに、その一撃で即戦闘不能になるというわけではないし、タンクが傷ついてオイル漏れでもしない限り、引火して爆発なんてこともない。
それでも、その荒ぶる炎は無視をするにはあまりにも強力。放置するなら命に関わるだろう。

ゆえにこのように消化するしかないのだが、見ての通り完全に無防備な状態だ。
炎が消えるまで、彼は無様を晒し続けるしかない。



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