327:名無しNIPPER[saga]
2016/07/31(日) 23:39:57.82 ID:rPhbjypgo
「おはよう」
私は麻人に声をかけた。麻人は夢から覚めたように私の方を見た。
「ああ・・・・・・。有希か」
それは生気のない声だった。隣には昔はいつでも麻人の腕にぶらさがっていた麻衣ちゃ
んの姿はない。
「何よ、そのあいさつ。おはようくらい言えよ」
私は無理にほがらかに麻人に文句を言った。そういうことくらいしか話しかける言葉や
態度が思いつかなかったから。
「悪い・・・・・・。おはよ」
麻人は素直にそう言ったけど、彼の目は私の方を向いていなかった。
「麻衣ちゃんは?」
その後に何を言っていいのかわからなかったので、私はとりあえずそう聞いた。部活の
話は彼女から聞いていたのだけど、麻人本人に麻衣ちゃんが何を言ったのかは気になると
ころでもあった。
「部活の朝練みたいだよ・・・・・・何だっけ? 確かパソ部だったかな」
どうでもいいという風に麻人が答えた。パソ部なんかに朝の活動があるわけがない。い
ったい麻衣ちゃんはあれほどまでに大好きだった兄貴を放置して何をしているのだろう。
でも麻人は麻衣ちゃんの不在のことは気にならないらしかった。麻人は、多分今でも登校
してこない、そして連絡も取れない二見さんのことだけを考えているのだろう。
麻衣ちゃんがこんな時期に突然パソ部に入部日したことを、実は私は知っていた。麻人
と夕也以外で、私が最近気にしていたのは、三年生の生徒会長のことだった。あの日、階
段のところで、私は生徒会長の告白を断ったのだった。あの時は私は麻人のこだけを考え
ていたのだから。それでも私は、会長を振ったことが気になっていた。先輩は最近、生徒
会活動にあまり熱心ではなかったけど、それは多分私が会長の告白を断ったからだろう。
でも、副会長が会長を責めた時、会長は新入部員の面倒を見なけりゃいけないからと言
い訳していた。そしてその新入部員は麻衣ちゃんだ。
最近身の回りに起きている知り合いの行動には何も法則はないのだろうけど、二見さん
のこととか麻衣ちゃんの入部と、そのために会長が生徒会に出てこなこととか、その全て
のことが結果として私と麻人とをふたりきりにする方向に作用しているようだった。私に
とっては嬉しいことといってもいいのだけれど、二見さんを失った麻人にとってはどうな
のだろう。
「今日はお昼ご飯はどうするの」
私は麻人に尋ねた。
「わかんねえ」
「今日も二見さんがいなかったら、私のお弁当一緒に食べる?」
私は彼に聞いた。
「それとも麻衣ちゃんは今日はあんたのお弁当作ってくれたの?」
「妹は昼休みも部活だってよ」
どうでもいいといいう感じで麻人が答えた。相変わらず私と視線を合わせようとはしな
かった。朝練も昼休みの部活も、パソ部なんかにはありえないのだ。
「じゃあ、二見さんが今日も登校しなかったら一緒に」
私の声は突然麻人に遮られた。
「登校できるわけねえだろうが。実名までネット上に晒されてるんだぞ。あいつは」
麻人はそこで一瞬言葉に詰まったようだった。
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