335:名無しNIPPER[saga]
2016/08/11(木) 23:46:02.41 ID:VfUpLYzMo
この二人が何のことを話しているかということも、聞き耳をたてているうちに、おぼろ
げながら私には理解できていた。この二人は二見さんを陥れたことを語り合っていたのだ
った。
さっき教室で別れた麻人は二見さんを落とし入れた犯人を突き止めるという意思を口に
していた。私は無理もないと思った。麻人にとっては生まれて初めて真剣に考えた相手と
の交際を無残に断たれたのだから。
そして今、それを仕掛けたらしい相手が目の前で無防備にそのことを話し合っている。
私は期せずして偶然にも麻人が追求しようとしてい犯人を突き止めたのだった。
私は身動きできなかった。聞き覚えのある声が会話を続けている。私はその会話を必死
で記憶しようとした。いずれ麻人に説明する時のために。でも今は麻人には言えない。勘
違いしているのでなければ、この二人は麻人と二見さんに対して情け容赦のない非情な攻
撃を仕掛けているのだった。
そして私にはその二人の声には聞き覚えがあった。
それは夕也と生徒会副会長の浅井先輩の声だった。私はこの二人は知り合いですらない
と思っていた。学年も部活すら異なる二人。でも、夕也と浅井先輩は、私に聞かれている
ことに気づかず二見さんを陥れ社会的に抹殺しかねないことをしていたという話をしてい
たのだった。
やがて話し合いは終ったみたいで、会談の踊り場から二人が降りてくる足音が聞こえた。
私はとっさに階段から離れて生徒会室の反対の方へ、校舎の外に向った。今の話を立ち聞
きした直後に浅井先輩と一緒に作業できる自信はなかった。
私は今起きた出来事を全く整理できずに混乱していたのだけれど、とりあえず乱れまく
っている思考を停止して安全な場所に避難しようとしたのだった。無事に校舎から脱出し
た私は足を早めて校門から出て駅に向った。生徒会室に顔を出さなければ今日は浅井先輩
とは会わなくてすむだろうけど、夕也は帰宅部だった。校内でうろうろしていると夕也と
出くわしかねない。何で私が逃げないといけないのかよくわからない。やがて駅に着いた
私はちょうどホームに入ってきた下りの電車に飛び込んだ。ここまで走ってさえいないけ
れど相当早足で歩いていたので息があがっている上に汗までかいていた。
電車がドアを閉じホームを離れるとようやく私は少しだけ落ち着くことができたのだっ
た。これで夕也とも浅井先輩とも今日は会わずにすむ。あんな話を聞いたあとでこの二人
と会って何気ない素振りをするなんて私には無理だった。
帰宅ラッシュの時間にはまだ早かったので車内には空席が目立っていた。私は目立たな
い隅の席に座って震える身体を抱きしめるようにした。さっき聞いた夕也と浅井副会長と
の会話が再び頭の中で再生されていった。
私は何とか冷静さを取り戻そうとした。考えなければいけない。情報を整理しなければ
いけない。このまま混乱して泣いていても何も救われないのだ。私自分の目を両手でこす
った。湿った感触が手に伝わった。自分でも気がつかずいつの間にか涙を浮かべていたみ
たいだった。思考は混乱しまだ身体は震えていたけど、しばらくして何とか思考を落ち着かせ
ることに成功した。
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20