552:名無しNIPPER[saga]
2019/01/05(土) 06:42:06.30 ID:zhk6enN+0
 オーンスタイン「散華せよ!」 
  
 バヂイィィーーン!!! 
  
  
 激しい電撃に内臓から頭髪までを焼かれ、軽装の騎士は火にくべられた油の如く弾け飛び、沸騰した血肉と共に装備を辺りにばら撒いた。 
 撒かれた血肉は焼け焦げた臭いを放ちつつも、霞のように空気に溶け込み、装備も形を崩していく。 
  
  
 オーンスタイン「お怪我は!?」 
  
 グウィンドリン「大事ない。ただ、錫杖が折られてしまった」 
  
  
 竜狩りに応えたグウィンドリンの視線はしかし、折れた長杖に注がれていた。 
 純白の長杖の断面はひび割れ、所々に雨錆のような黒い染みを浮かび上がらせている。 
  
  
  
 デーモン槍の騎士「………」 
  
  
  
 一人残された敵対者は動けずにいた。 
 槍を失い、短刀を構えてからわずか数秒で、仮面の騎士を含めた全ての同業者達を失ったという事実に心を折られたのだ。 
 今や騎士の頭の中を巡るのは、コブラの装備の質ではなく、死地からの数多ある脱出法だった。 
  
  
 ジークマイヤー「ふん!ここに来てまさか降参とはなるまい」グビッ 
  
 スモウ「………」ズボッ… 
  
  
 その数多の脱出法も、急速に成功の確率を落としていく。 
 槍を腹から引き抜いたジークマイヤーの負傷は、その手に持ったエストに癒され、スモウの脚からは大矢が抜かれた。 
 だが、彼らを率いる暗月の君主は、彼らに攻撃命令を下さなかった。 
  
  
 グウィンドリン「やめよ」 
  
 スモウ「………」 
  
 ジークマイヤー「?…何故でございますか?」 
  
 グウィンドリン「短剣のみでは動けぬ者は、殺してはならぬ。殺せば槍もこの者の手に戻り、再び我らに挑むだろう」 
  
 ジークマイヤー「では、この槍は…」 
  
 グウィンドリン「貴公の物だ。さて敵対者よ」 
  
 デーモン槍の騎士「!」 
  
  
 グウィンドリン「この槍を砕かれたく無くば、我らにどう処するべきかも分かっていような」 
  
  
 デーモン槍の騎士「……俺を脅すのか…神が…」 
  
 グウィンドリン「ならば試練と取るがいい。神々を見送るだけの、容易い栄誉に浴せよ」 
  
  
  
 グウィンドリンの言葉に神なりの慈悲があるなどとは、デーモン槍の騎士はもちろん考えていない。 
 敵対者に残された選択肢は三つ。 
 帰還の骨片という不死の小骨片の神秘を使い、武器を失い城内の篝火の元へ戻るか。 
 対多数などには全く使えぬ短刀を頼みに、三柱の神や二人の不死と斬り結ぶか。 
 槍を諦めて神々を逃し、その場に留まり同業者達の復活と再集結を待つか。 
 どれを選ぶにせよ槍は諦めなければならない。神の原盤を注いだ槍を失う事に耐えられない敵対者にとって、二つ目ではないのならどちらでもいい。 
 そして敵対者は、所持品をより消耗しない方を選んだ。 
  
  
 デーモン槍の騎士「………」 
  
 グウィンドリン「賢明だ。オーンスタイン、先導を」 
  
 オーンスタイン「御意」 
  
  
 槍を立て、オーンスタインは再び一団を率いて歩を進め始める。 
 スモウは大鎚を拾い上げ、ジークマイヤーとビアトリスは敵対者に警戒の目を向けつつも、敵対者の前を通り過ぎる。 
 その敵対者の目線はというと、歩き去り行くレディとコブラに向けられていた。 
  
 二人を見ながらも、デーモン槍の騎士は考えていた。 
 敵を殺さずして無力化するというのなら、何故自分は今、武具を剥がれず所持品も奪われないまま、捨て置かれているのだと。 
 騎士は見抜いていたのだ。暗月の君主には略奪の時間さえも惜しく、それ程までに戦力の疲弊が著しいことを。 
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