555: ◆JZBU1pVAAI[saga]
2017/12/07(木) 18:07:57.39 ID:z4lMZ8g50
番外編「サドネの誕生日前編」
12月である。もう朝晩だけでなく、昼間もかなりの防寒対策をしないと外を歩けないような気候となってしまった。千葉はほとんど雪は降らないからまだいいが、ここが豪雪地帯だったとしたらぞっとする。特に俺は夏生まれだから、自然と身体も夏に特化したつくりとなっているのだ。(八幡調べ)
そもそもクマでさえ冬眠するのに、人間が冬にもせっせと働いているのは本来おかしいのだ。冬はじっと寒さに耐え、暖かい春が来たらまた動けばいいのだ。
けど、社畜にはそんな理屈は通用しない。うちの両親は相も変わらず朝早くにコートを着込んで出勤し、夜遅くにコートを着込んで帰宅する。かくいう学生の俺や小町も、毎朝寒さに震えながら学校を家を往復している。こうして子どもの時から社畜精神を鍛えさせるのがこの国の教育の目的なのかもしれない。だからブラック企業がなくならないんだ。全企業ホワイトプランに加入しろ。そしたら正義の名の下にどうにか変わるかもしれない。
サドネ「おにいちゃん、何ぶつぶつ言ってるの?」
ふと横を見るとサドネがいた。どうやら俺の考え事が口から出てしまっていたらしい。不覚。放課後の星守クラスで、他に誰もいないからって油断していた。
八幡「なんもねえよ。それより、なんか用か?」
サドネ「おにいちゃん、コイって何?」
八幡「コイ?コイっていうのは、魚だよ。あー、ちょっと待ってろ」
俺は持ってたスマホでコイを画像検索してサドネに見せる。だがサドネは画像を見ても納得した顔にはならない。
サドネ「違う。これじゃない」
八幡「違う?確かにこれはコイだと思うんだけど」
サドネ「そうじゃない。サドネが聞きたいのこのコイじゃない」
ん?魚のコイじゃないコイを聞きたい。……まさか、ね?
サドネ「えーと、確か漢字だとこう書く」
サドネはチョークを持って黒板に向かうとゆっくりと文字を書いていく。けっして上手いとは言えない、むしろかなり下手な文字だが、何を表しているかは読み取れた。
サドネ「このコイ。おにいちゃんわかる?」
サドネが書いたのは、まぎれもなくLOVEの「恋」だった。
八幡「あー、そうだな……。そもそもなんでサドネは恋のこと知りたいんだ?」
サドネ「お昼休みにノゾミが持ってきてた本にコイのことが載ってた。他にウララとかスバルとかもいたけど、みんな知ってた。でもサドネ知らなかった。だから質問したけど、誰も答えてくれなかった……」
サドネは寂しそうに目を潤ませながら答える。でも、そりゃ答えられないだろ。恋心なんて人それぞれだし、説明する相手がよりにもよって、何も知らないサドネだ。松本に相談できればいいのだが、それはできない。多分、コナンの劇場版主題歌の作曲中だろう。邪魔するわけにはいかない。
八幡「天野や若葉だけじゃなくて、八雲先生や御剣先生なんかにも聞いてみたか?」
サドネ「聞いた。でもイツキもフーランも知らないって」
あの2人、逃げたな……。でも、どっちともちゃんとした恋愛経験があるわけじゃなさそうだし、こういう対応をするのも頷ける。
サドネ「おにいちゃんは、コイ、知ってる?」
八幡「え、いや、ああ、どうだろうな……」
サドネ「ごまかさないで」
八幡「……知ってるか知らないかと言われれば、知ってます」
サドネの厳しい追及に、すぐ白旗を挙げてしまった。だって、ハイライトが消えた目で睨まれたら、誰だって怖いでしょ?そうでしょ?
サドネ「じゃあおにいちゃん教えて」
サドネは笑顔になって体を寄せてくる。まさか、中学1年生の情操教育に関わることになるなんて夢にも思わなかった。ここで変なことを言ってしまったら、サドネはそれを一生背負って生きていかなければならなくなる。どうにか、一般的な知識を身につけて欲しいところだ。
八幡「……わかった。ただ、1つ約束してほしい。今日、俺とこういうことを話したってことは誰にも言っちゃいけない。いいな?」
サドネ「どうして?」
八幡「どうしてもだ。これを守れないなら、恋は教えられない」
サドネ「ん。わかった。約束する」
ひとまずこれで俺の尊厳は守られるだろう。こっからが勝負だ。
八幡「恋っていうのはな、誰かを好きになる事を言うんだ」
サドネ「好き?サドネ、おにいちゃんとかカエデとかみんな好きだよ?」
八幡「そういう好きじゃないんだ。なんというか、その、『キュン』とくる感じがある好きが恋なんだ」
自分で言ってても恥ずかしい。少女漫画の描写の受け売りだからな。年的にも性別的にも、これでわかってくれればいいんだが……。
サドネ「キュン、ってどういうこと?」
ダメかー。そりゃ、キュンがわかれば恋もわかるしなあ。うーん、これ以上どうやって説明すればいいんだ……。
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