578: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:27:53.33 ID:7BzTB0Y9O
九月初めの夕暮れ時。濃いオレンジ色の夕陽に照らされて、走るふたりの影がのびる。全力疾走は十回を越える。ついに永井が音をあげた。半分怒ってもいる。美波は水筒から麦茶をごくごく飲んでいた。勝利を味わうように。起き上がった永井はぷいと背かを向け家へと歩いていく。ドアを開けたところで、美波から声がかける──「ねえ待って、まだあと三十回は……」──永井はドアを閉めた、ばたんと大きな音がした。
その後、姉弟のあいだでゲームが行われたことは一度もない。
永井「修学旅行じゃねえんだぞ。さっさと寝ろよ」
永井は眠気をおさえながら言った。
アナスタシア「アーニャ、夜はちゃんと寝てました」
中野「おれ、行ったことないや」
アナスタシア「ダティチョー……! ほんとう、ですか?」
中野「金なくてさ。クリスマスや正月もなんもなかったな」
アナスタシア「コウのパパとママは、どうしてたんですか?」
中野「んー……」
永井「貧困エピソードとかいいから」
永井があくびを噛み殺しながら、じれったそうに言った。眼をしばたたかせると、不機嫌そうな顔つきになった。
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