【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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11: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 21:40:48.23 ID:z+wGLY660
「……」

 空になった名刺入れを見る。

「とりあえず、これで今日のノルマは達成ってことで。戻るか」

 俺は少女の走り去ったほうと逆に歩き出す。
 スカウト用の携帯電話をチェックするが、着信はない。
 ないほうがいい、そのほうがここから先の仕事が楽だから。
 そう思うのに、心の端で、あの少女から電話が来たらどうだろうかと考えている自分に気づく。

「ま、そのくらい、強烈なキャラだったからな」

 先輩だったら、あの少女を勧誘していただろうか。
 そんなことを考えながら、俺は美城プロダクションへと戻る道を歩く。

 一人で歩きながら、これからのことを考える。
 荒木比奈にも一度はアプローチしてみなくちゃならない。
 あっちは素人だろうし、やる気もなさそうだった。向こうから断ってくれるかもしれない。

 楽にやるだけさ。俺は両手をポケットに突っ込んで、背中を丸めて歩いた。

 空しかった。自分に言い訳していることは、自分が一番よく判っていた。

-----------

 その日の夜。

 プロデューサールームで、帰り道に買ったコンビニ弁当をつつきながら、今日の報告書と、所属アイドルや関連部署の資料を作成していたときだった。

 スカウト用の携帯電話が振動する。
 俺は口の中の弁当のおかずを急いで咀嚼し、ペットボトルのお茶を一口飲んで、はぁ、と息を吐いて、電話を取る。

「はい、美城プロダクションの……」

「あのっ!」

 名乗りが終わる前に、大きすぎて完全に割れてしまっている少女の声が響いた。

 それだけで、話しているのが誰だかわかった。

「私っ! さっき河川敷で、ぶつかっちゃって、あのときはすいませんでした! それで!」

 電話が来れば面倒だって思っていたはずだった。

 それなのに。

「私、アイドル! やってみたいです!」

 少女がそう言ったとき、俺はたぶん、すこし笑っていたんだと思う。

「右も左もわかりません、でも! 私、ラグビー部のマネージャーをやってます! マネージャーも、選手に頑張ってもらう仕事です! それと同じで、私がアイドルになって、誰かに頑張ってもらえるなら、すばらしいと思うんです!」

「ああ」

 思わず、ほんの少しだけ、携帯電話を耳から離した。

 自分が現実を忘れないでいられるように。

 脳裏に、もう帰ってこない日々と、アイツの顔をフラッシュバックさせながら、俺はもう一度、電話に耳をつける。

「ええと、いいかな。さっき名刺を受け取ってくれた人だよね?」

「はいっ!」

「お電話ありがとう。……まず、お名前を教えてもらえますか」

「はっ、名乗りもしないで、すいません! 私!」

 少女の名前を書きとめるため、俺は机の端のメモパッドとボールペンを手元に引き寄せる。

「日野、茜と言います!」



第一話『お熱いのがお好き?』
・・・END



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