【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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2017/05/25(木) 07:14:09.29 ID:rV4XIh0/o
 続き期待 
75: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:05:27.96 ID:Q3fcpmY20
 「完璧にやろうとすると固くなる。失敗の数は場数の証だ。恐れずベストを尽くしてこい」 
  
  リハーサルを終えた楽屋の中。俺は言いながら、前に並んだ日野茜、荒木比奈、上条春菜、関裕美、白菊ほたるの五人の顔を順に見て行く。 
  この言葉は先輩の受け売りだった。事務方の俺にも、ライブに立つアイドルたちにも、先輩はそう言って、現場へと送り出していた。 
  俺は意識的に、少し表情を崩す。 
76: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:07:10.49 ID:Q3fcpmY20
  楽屋の扉を開ける。 
  五人はそれぞれに、自分の衣装やメイクの確認をしていた。 
  おかしなところのない風景に見えるが、俺はなにか違和感を覚えた。 
  順に五人を見る。違和感の正体が判った。茜が大人しくしている。 
  茜は楽屋内に置かれた、舞台の様子を確認できるモニターを真剣な眼でじっと見つめて、小さくひらいた口からゆっくりと息をしていた。 
77: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:09:04.03 ID:Q3fcpmY20
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  客席に流れているBGMが小さく聞こえてくる以外はほとんど音のしない、静かな舞台袖に到着する。 
  集合予定時刻まではまだかなりの時間があった。俺たちが一番の到着かと予想していたが、広い舞台袖の中央に、一人の少女がぽつんと立っていた。 
  茜たちと同じ衣装を着ている。ということは、スタッフではなくて同じアイドルだ。 
  
78: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:11:23.33 ID:Q3fcpmY20
 「ぐっもーにーん! えぶりばーでぃー!」 
  
  スタッフやアイドルたちの緊張感とは対照的に、能天気な高い声が響く。 
  鼻歌混じりに楽屋口から舞台袖へと入ってきたその声の主は、ショートの金髪碧眼、日本人とフランス人の両親を持つハーフのアイドル、宮本フレデリカだった。 
  フレデリカは今回の目玉アイドルの一人だ。飛びぬけて明るく、いつも緊張感とは無縁なフレデリカのキャラクターは、男女を問わず広い世代に親しまれている。 
79: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:13:21.68 ID:Q3fcpmY20
 「プロデューサー……掛け声、ほんとに伝統なんスか?」 
  
  比奈に尋ねられて、俺は首を横に振った。 
  
 「やっぱり、そうっスよね……」 
80: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:15:05.78 ID:Q3fcpmY20
  俺は俺自身に対して困惑した。なにが起こっているのかわからなかった。 
  比奈たちユニットのメンバーに囲まれ、待機しているほかのアイドルたちにも囲まれ、俺は茜を目の前にして動くこともできず、喉の奥から細い息だけを漏らしていた。 
  どうなっているのかわからないまま、とにかく茜の背に手を添えようと、右手を伸ばしたところで、先に比奈たちが茜に駆け寄る。 
  それぞれが茜の手を取り、肩に手を添えた。 
  
81: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:17:21.00 ID:Q3fcpmY20
  茜たちとともにバルコニーへ上がるステップをのぼる。 
  バルコニーのゲートの向こうからは開演を待つファンたちの熱気が伝わってくる。 
  暗幕で区切られたゲートの前に、それぞれのアイドルが立った。 
  比奈と春菜は川島瑞樹の両翼に。裕美とほたるは佐久間まゆの両翼だ。 
  俺は直前の茜の件を受けて、念のために茜の入場位置付近に待機することにした。茜と美穂は、美嘉の両翼となる。 
82: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:18:53.01 ID:Q3fcpmY20
 「大丈夫っ!」美嘉が二人の頭に手を置く。「今日はうまくいってもいかなくても、アタシたちが主役なんだから、ぜんぶ成功なの! ね!」 
  
  そう言って、美嘉は強い瞳で二人を見る。二人の顔に赤みが戻る。 
  城ヶ崎美香。この一瞬で、ファンだけでなく同じアイドルの心までひとつにする。恐るべきカリスマ。 
  
83: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:20:15.66 ID:Q3fcpmY20
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  アイドルに憧れ続けていた地元の幼なじみは、高校を卒業すると、すぐに上京して、いくつもの事務所のオーディションに応募していた。 
  一方の俺は、地方の大学に通いながら、イベントスタッフのアルバイトなど、芸能関係の仕事を積み重ねていた。 
  幼なじみのアイツはアイドルに。俺はそのプロデューサーに。 
  高校を卒業するとき、交わしなおした約束に大した拘束力があると思っていたわけではない。 
84: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:21:51.56 ID:Q3fcpmY20
  俺はモニターを見つめる。 
  茜たちは歌い、踊り続けている。 
  俺は茜とアイツを同一視していた。だから、これまでもずっと、そして呼ぶべき大切な場面で、その名前が呼べなかった。 
  茜とアイツは違う。 
  茜がステージに立ち、アイツがたどり着けないところへ茜がたどり着くまで、こんな簡単な事実にすら気づけないなんて。 
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