雀明華「スタンド・バイ・ミー」
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2:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 18:58:10.10 ID:kXRpQ9pe0

      ◇

などという事があり、私たちも動きやすい服に着替えて辻垣内家の蔵の整理をしているのです

埃だらけの蔵の中で、要るもの要らないもの寺に持ってくものなどを仕分け、運び出す作業

明治時代以前から続く火消しの家系という辻垣内家の蔵の中は、様々な物が乱雑に詰め込まれています

巻物や壺、ダルマや鏡台や琴などわかりやすいものから、ガスマスクや大量の注射器など何故ここにあるのかわからないもの

オリハルコン製の爪切りや織田信長が愛用した耳掻きなどの怪しげなもの、果ては鞘に札が貼られた刀や口紅で真っ赤に塗られた手鏡などの意味不明なもの等様々です

何故文句も言わず私たちが蔵の整理を手伝っているかというと、理由は二つ

一つは、手伝ってくれたら盆の間は辻垣内邸で寝泊まりしてもいいと言われたからです

臨海女子の寮の六畳間でぼんやりと過ごすくらいなら、ニッポンヤシキで寝泊まりしてみたいものです。雀卓もあることですし

二つ目は、蔵の中から好きなものを一つ持っていっていいと言われたからです

よくわからないものばかりですが、中には掘り出し物の一品があるかもしれません

それを探すためにも、私たちはせっせせっと蔵の中を整理していました。もしかしたらそれがサトハの狙いだったのかもしれません

かくして夕方、夕焼けが辺りを真っ赤に照らすころ。私たちの作業は終わりました

「ありがとうみんな。よくやってくれた」

再び大儀そうにサトハがいいます

「それでサトハ、約束のものデスガ……」

「もちろんわかっている。この蔵の中から何か好きなものを持っていくといい」

わつ。と歓声をあげ、私たちは蔵の中へと入っていきます

蔵の中で整理しているときに、予め目星をつけておいたのでしょう。三人ともすぐに目的のものを手に取ります

ハオは卑弥呼が使っていたという鉄扇を。メグは縄文時代のカップラーメンを。ネリーは和同開珎の詰まった甕(真鍮製の偽物なのでおそらく値打ちはありません)を選びました

私はというと、平賀源内の作った電子レンジか、葛飾北斎の描いた漫画版三国志にしようか悩んでいました

すると、ふわっ。と一陣の風が吹きました

「わっぷ……」

私の長い髪が風に煽られ天使の翼のようにはためき、目や口の中に入ってきます

私のこの長い髪はわりと邪魔なので、短くしようかと思わない事もありません

けれど風になびく長い髪というのは風神としての演出に必要不可欠なので、この長さを保っているのです。例え一回の入浴でシャンプーを一本消費するほど燃費が悪くても

などと関係ない説明を誰にともなくしていると、蔵の中でゴトン。と何かが落ちる音がしました

風で何か落ちたのかしらん。と思って蔵に入り、音のした場所を見ると、一冊の和綴じ本が落ちていました

表紙はボロボロで、土色の表紙をした本に橙色の紐が巻き付けられています

そして表紙には紙が貼られ、〔絡繰覚書〕と達筆な字で書かれています

和紙でできたザラザラの表紙を撫でると、不思議と心が落ち着きます

紐を解き中を見てみると、日本語でよくわからない事が書かれています

けれど、内容はわからなくともこの本の装丁には何かしら刺激されるものを感じました

例えていうなら、古き良きフランス屋敷を目にした時のような。もしくは木箱に詰められたツヤツヤと輝く高級イクラを見た時のような

ようするに、クラシック的な感傷と高級感への憧憬です

「ミョンファは何にするの?」

小さな身体で甕を抱えたネリーが、よたよたと歩きながら近寄ってきます。その辺に置いておけばいいのでしょうが、どうやら片時も離したくないようです

「私は……この本にします」

葛飾北斎の三国志演義と平賀源内の電子レンジに後ろ髪とそこに付着する一本分のシャンプーを引かれながらも、私はこの本に決めました

「うわー。なんかすごいカビ臭い本!」

鼻をつまみながら眉をしかめるネリー。子供にはこの風流さがわからんのです


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