雀明華「スタンド・バイ・ミー」
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4:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 19:00:28.39 ID:kXRpQ9pe0
      ◇

よくポヤポヤしているとネリーに言われる私ですが、浴衣を着るとさらにポヤポヤした気分になります

お風呂から出た後、私たちは用意されていた浴衣に着替えました

ゆったりとした意匠に心を落ち着け、無防備な服を着る事の開放感と肩の力が抜ける脱力感があるのでしょうか

このヒラヒラした薄い布一枚に、どれほどの魔翌力が秘められているのでしょう

ハオはゆったりと着こなしています。流石は同じアジア人。でも香港は元イギリス領だったと思いますが

メグは袖をたくり、いかにもといった豪快さの様相です。ネリーはダボダボの袖と裾を引きずりながらてこてこ歩いています

「全員着替えたか?」

私たち全員が浴衣を着終わった頃、サトハがやってきました。彼女は墨色の着物に身を包み、旧家のお嬢様か極道の姐さんといった感じです

「食事の準備はしてある。ついてこい」

颯爽と着物を着こなし悠々と歩を進めるサトハに着いていくと、八畳ほどの部屋に通されました

部屋の中には五つのお膳が置かれており、その上には絢爛な日本料理が拵えていました

「わぁ!すごい!全部サトハが作ったの!?」と、諸手を挙げて喜びながらネリーが駆け寄っていきます。上座に

ネリーの脇を抱えてやんわりと上座からどけながら、サトハは私達に好きな席へと着くように促します

席に着き膳の上の料理を改めて眺めます。天ぷら、鮎の塩焼き、小うどん、茶碗蒸し、茄子の漬物……日本の粋を凝らした料理が見事に並んでいます

箸をチンチン鳴らすネリーに囃し立てられ、私たちは合唱をし、食べ始めました

天ぷらはサクッとした衣とぷりっぷりの海老や夏野菜の食感が味を引き立て、鮎の塩焼きはこざっぱりした魚の味が舌の上でほろほろと溶けていきます

茶碗蒸しはぷるっと食感と出汁の味に、銀杏や椎茸、蒲鉾が様々な味のハーモニーを奏で、茄子の漬物は口の中がサッパリすると同時に味わい深い野菜の旨味を舌に浸透させます

ネリーとハオとメグも、満足そうに舌鼓を打っています。サトハはお猪口に銚子で注いで何かを飲んでいますが、おそらくあれは白湯でしょう

しかし、どうしても私が美味しいと思えないものがありました

それはうどんです

麺をちゅるるんと吸っても、いまいち味がせず、小麦粉の塊を食べてる気しかしません

「どうしたの、ミョンファ。うどんが嫌いなの?」

顔をしかめながらうどんを食べている私に、ネリーが聞いてきます

「いえ、そういうわけでは……」



サトハの手前、お茶を濁したが、どうやら私がうどんを苦手としている事は一目瞭然だったようで

「ミョンファは麺類の味わい方がわかっていまセン」

メグにも見抜かれていたのです。それにしても、麺類の味わい方とは一体どのようなものなのでしょう

「うどんも蕎麦も、そしてラーメンも。麺と同時にスープの味と風味を味わいマス」

そう言って、メグはズルズルッ。と音を立てて麺をすすります

「こうして麺と同時に空気を通しながら食べる事で、出汁の風味を味わう事ができマス」

得意げな顔で講釈するメグ。多分わかってないのにわかったような顔で「その通り」と頷くネリー

なるほどと納得できるものがありました

私は誇り高きフランス淑女。気品正しく礼節を重んじ目上には敬意を示し年下には優しき態度で接しお年寄りには席を譲り信号は青になってから渡りトイレを出たら電気はしっかり消し水道の水は使ったらしっかり止めています

つまり。音を立てて食事をする。という事をした事がなかったのです

しかし、郷に入れば郷に従うのもまたマナー

フランス淑女としての誇りを一旦傍に置き、ここは日本流の食べ方をする事にします

箸で麺を掴み、一気にズルズルッ。と

「けほけほ!」

「ミョンファ!?」

ズルズルッ。と汁が気管に入ってむせてしまいました

日本料理は奥が深いようです



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