35:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:15:38.20 ID:+eTeNEs7O
  
 「これ……どーしたらいいと思う?」 
  
 相談は、漠然としていた。そんな丸投げの問い。 
 どうしたいのか、と聞き返そうとして、やっぱり飲み込んだ。聞かずともわかる。 
  
 ハナから断るつもりなら、言いづらそうにはしないだろう。その場で蹴って、あとで笑い話にすればいい。そうすることなく返事を保留し、今こうして相談を持ちかけているということは。 
  
 スカウトを、受けたいんだろう。 
  
 嫌だ、と思った。 
 ドロッとしたものが胸の奥でうねった気がした。 
 ともすれば喉から這い出てきそうなそれをコーヒーで流し込む。 
  
 出てくることのないうちに、受けてみればいい、とつとめて軽い口調で言った。 
  
 「へっ」 
  
 意外そうな声。 
  
 「……いいの?」 
  
 よくはない。それなりに経験を積んだ彼女がやめるのは確実な痛手だ。そして、なにより寂しがる人も多い。自分を含めて。 
  
 でも。 
  
 そうしたいならすればいい。それを止める権利はこちらにはないし、当人がやりたいようにするのが一番だ。一人辞めたぐらいで立ち行かなくなることなどない。そう言った。 
  
 間の抜けたあどけない顔がこちらを向いている。 
 引き止めて欲しかったか、と意地悪く尋ねた。 
  
 「そっ! ……そうじゃないけど。……それも、あるかもだけど。あの、急にやーめちょー、とか言ったら、メーワクだと思ったから」 
  
 いち労働者が気にすることじゃあない。そんなのは自分のような管理職の仕事だ。 
  
 スカウトを受けたいんだろう。やってみたいんだろう、アイドルを。違うか、と質すと、彼女は遠慮がちに頷いた。 
  
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