女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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102:名無しNIPPER[saga]
2017/08/31(木) 21:50:09.72 ID:iVDTxJdE0
「ここが小さいか、そう見えるか。確かにそういう見方もある。おまえの言う通り、照も俺も、世界の変革者でありたかった。だがそんな場所は、な? 現実に存在しないんだ。政府にたてついて、人を殺して……それでなんになる? 個が巨大な組織に敵うことはない。俺一人がなにをやったって、所詮無意味だ。消去法的選択。だから一番重要な位置に、俺はいるんだ」
「重要? ここが?」
「ああ、お前も見ただろう。ここはそんなにうまく回っているわけじゃない。完璧とは程遠い。だが反逆者役を誰かがやらなくてはならない。そんなことができる奴なんて、世界中探しても、俺ぐらいだ。俺にしか、できないんだよ」

 そういうボスの言葉は。
 自信にあふれていて、疑いを知らず、黒を黒だと、当たり前のことを言っている口調で。
 だから、なのだ。自分にしかできない。俺は世界にとって、必要な重要人物だ。だから。

「照も同じだ」
「そんな……こんな……」

 こんな話がある。
 奴隷の実情。
 遠い昔、旅人がいた。旅人はその旅路の途中で女の奴隷を見つけた。そしてかわいそうだと思い、救ってやろうとしたのだ。しかし、奴隷は拒否した。旅人は、強引に奴隷を助けた。その奴隷の主人は死んだ。血だまりの中、女の奴隷の一言で物語は終わる。「愛していました」と。
 誰にとって、彼にとって、正義の定義が違う。歪んでいるように見えても、価値観が違うだけだということもあり得る。
 僕は社会の反逆者であるこの組織が、もし政府の見方だとしたら、犠牲を許容しているのなら、と考えたとき、それを正義ということはできない。なぜなら人が死んでいるのだ。殺しているのだ。だがこれも所詮、僕の価値観でしかない。

 もし反論した時のボスの言い分も予想できる。数でいえばこれだけの期間で百も死んでない。何十万も生活しているこの都市で、反乱が起きればきっとこれ以上の死人は出る。反乱で起きる死人だけじゃない。政治の不安定化で死ぬ人数は、見過ごせないものになる。
 きっとこんなことをいうのだろう。
 組織の大半が本物のごろつきというのもカモフラージュのために仕方がない。そもそも現実問題、こんなことをやりたがる人の数も知れている。組織を保つための最低人数。それが被害を及ぼしたとしてもやはり……それでもこの組織はなくてはならない。

 僕は完璧を目指すが故に認められなかった。しかし、そういう正義もあるのだと、理解することはできた。決めつけと独善はしないように、そういうことも僕の完璧、なことに入っていた。
 ボスに何かを言おうとした。乾いた喉は、音を発さない。
 何も、言えなかった。


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