女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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178:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:55:58.33 ID:jX7ap57O0
 ◇



 ぼんやりと天井を眺める。
 そして首を振った。やるべきことが山ほどある。賢者は人々を見つめなければならない。
 世界が広がっている。人がどこで生きているのか、どれだけいるのかがわかる。
 耳を澄ませば――人々の苦痛の声が聞こえる。恵まれなかったこと。失敗したこと。理不尽に妨げられたこと。
 不幸の意思が、世の中には絶えない。
 だが、相反するものもある。

 些細な気遣いに感謝する思い。それらは大きくは目に見えない。例えば、近くにあるものをとってくれたり、誕生日を覚えていてくれたり、ぶつかりそうになったところを笑顔ですみませんね、と謝ったり、なにかを買ったあとに財布を忘れて、それを届けられたり。
 通行人がものを落とした。それを何人かが見て、どうしようかと躊躇する。一人が素早く持ち主に声をかけて届けた。ありがとう、という声。
 それで通行人は感謝した。名も知らぬ他人に。
 そいつは勇気をだしてよかった、と思った。感謝されてうれしいと、そう思った。
 それを見ていた周囲の人々は称賛と、ほんの少しの罪悪感を覚えた。勇気をだして落とし物を拾わなかったことを恥じたのだ。だがそれだって、もとは綺麗な感情だ。だから、そういうものを感じた人も、納得している。

 誰かが誰かをほんの少し助ける。それを受けて、自分も機会があったら真似しよう、と思う人がいる。実際には、勇気がでなくてできないかもしれない。でも、思うだけで、感謝をするだけで、十分綺麗だと、僕は思った。

「頑張るねー、はいコーヒー」

 彼女は元気よくそう言った。僕はありがとう、と微笑み、コーヒーをすする。
 苦すぎるのに甘すぎるコーヒー。これを好んでいた人物のことを思い出して、すこし懐かしい気持ちになる。
 世界は不幸で溢れている。救いようがないくらいに苦しいことだらけだ。
 卓也が死んでしまった。彼女が生きていたとしても、その事実は消えず、忘れることもできない。
 苦しいのだ。世界は、不条理すぎる。
 綺麗なだけではいられない。それが現実という世界だ。


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