女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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69:名無しNIPPER[saga]
2017/08/23(水) 16:46:17.20 ID:gDsglEzi0
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 羅門の後ろをぴったりと歩く。周りには無気力な人、人、人。小汚いぼろを纏い、物乞いをする彼らを横目に、僕たちは進んでいる。

「なんか、可哀想だな」と卓也が言う。

 羅門との同行にはついで、ということで卓也も付いて来ていた。つまり、おつかいは羅門、卓也、僕、の三人だ。あまり危険はない、ということなのであまり外に出ない卓也と僕はたまには外の空気を吸え、と言われ、今回のおつかいに参加している。

 一方、羅門はほとんどの時間、外で活動している。基本的にはボスの身辺警護を承っているとのことだが、訓練係であり実力者である彼は、レジスタンスの中でも活動時間が長い。
 いかつい表情に、明らかに堅気ではない雰囲気。それが物乞いたちを近寄らせず、僕らの進行を楽にさせていた。
 大男は卓也の言葉に反応する

「可哀想? なぜだ?」

 不機嫌そうな声。

「いや、あんまり……裕福には見えないから」
「それは奴らが何もしていないからだ。自分の状況を仕方がない、と受け入れ、自分で腐っていくことを選んだからだ」
「そりゃそうですけど」

 羅門の言うことは、実際、正しい。法によって支配されたこの世の中は犯罪を許さず、限りなく限界まで秩序を守っている。だが世の中のすべての人を裕福にすることはできない。いくら切り詰めようが、こういった人たちは出てきてしまうのだ。減らすことはできる。だがなくすことはできない。そのはけ口がここだ。ここは、一般的な人が存在を知りながら無視され、見捨てられた場所。僕だって、ここについては考えたことがある。例えば、ここにいる人たちを救うために救済資金を作ったとしよう。だが結局、今いるここの人たちを救っても、また似たような人たちが現れる。

 イタチごっこ、徒労、無意味。

 やがてスラム救済資金は尽き、民衆は税の無駄遣いを糾弾し……。
 つまりはそういうことだ、必要悪。

 そもそも自分のことさえ手一杯の子供に何ができる? そうやってかつての僕は諦めた。

「物乞いは無視しろ。構ってる時間が勿体ない。それに一度施せばうようよとわいてくるぞ。ゴキブリみたいにな」

 羅門の言葉は辛辣だった。必要以上に貶めている気もする。確かに言っていることは正しい。だが言い方が……。
 だからといって、僕はその言い方を改めるように言うのはお角違いだ。別に正義感ぶりたいわけじゃない。そもそも、人の価値観というのは個人の物で、批判できるものじゃない。思想の押しつけは独善的な偽善行為となり果てる。そう、彼女と一緒に、話し合ったことがある。

『羅門はスラム出身だ』

 ボスの言葉。いやに引っかかる。なぜボスはこんなことを言ったんだろう。
 試されているのかもしれない、と思う。だが思うだけだ。
 ぼんやりと辺りを見渡す。それになぜか目をつけられた。



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