41:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 18:12:10.07 ID:4sMggCAno
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「……あら、もう出かけるの? ……お手紙にはちゃんと住所書いた? 切手も貼った? ……行ってらっしゃい、お昼には帰ってくるのよ……――」
ある朝、一人の少女が封筒を持って駆け出して行った。
一匹の黒猫がその後ろについて行く。
畑の通りを抜け、川沿いを行き、橋を渡っていく間、真夏の太陽にさらされながら、それでも少女は駆けた。
やがて村役場の近くにある郵便ポストに辿り着くと、少女は息を弾ませながら封筒に書いてある住所を確認した。
昨晩何度も書き直した返事の手紙と、お手製のアサガオの押し花がきちんと封筒の中に入っているかどうか、手で触ったり太陽に透かしたりして何度も確かめた。
ようやく決心がついた少女は、どうか相手にちゃんと届きますように、と祈るような気持ちで封筒をポストに押し込んだ。
黒猫が足元に擦り寄ってきて飼い主を勇気付けるように鳴きだした。
少女はしゃがみこんでやさしく撫でながら呟いた。
「……来年も……来るって……だから……また遊べるね……ペロ」
黒猫は一言「にゃあ」と曖昧に答えて、それから少女に抱きかかえられた。
山あいを吹く風にのって、どこか遠くから微かに水の流れる音が聞こえる。
柔らかな緑の木々が真夏の白い光を浴びて燃えるようにさざめいている。
その中の、薄明るい杉林に目を凝らすと、一人の少女と一匹の黒猫が歩いている。
彼女は手に持った木の枝を揺らしながら歌を口ずさんでいる。
「♪……だーかーらー おーまーい だーりん だーりん……」
少女が通りすがった後、林の奥にひっそりと建っている小屋を覗いてみると、ぼろぼろの壁には一枚の新しいプレートが貼ってある。
気取ったサインのような文字が、少女の名前の横に寄りそうように並んでいた。
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