6: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:41:00.02 ID:1Ml/enjOo
  
  いつの間にか目の前には、すぐにでも届いてしまいそうなぐらい、近く、大きな月が私たちを煌々と照らしていた。 
  
  
7: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:43:13.04 ID:1Ml/enjOo
  
 「素敵な皓月ですね……」 
  
  いつの間にか秋の色に移り変わっていたそれを、プロデューサーさんと二人で眺める。うるさい胸を抑えるために吸い込んだ空気が体の中を駆け抜けていったおかげで、さっきよりもずっと頭が冴えていくのがよく分かってしまった。 
  
8: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:45:14.45 ID:1Ml/enjOo
  
  天を仰げば、闇に溶けきらない強い光がまばゆく輝く。夜空は故郷の海の様にただただ広がっていって果てが見えなくなってしまった。 
  
 「確か、天の海って表現がどっかの詩にあったよな」 
  
9: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:47:19.43 ID:1Ml/enjOo
  
 「それならこの月は何に例えましょうか?」 
  
 「月か、月でポピュラーなのはやっぱりかぐや姫だな」 
  
10: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:50:13.71 ID:1Ml/enjOo
  
  そう言うプロデューサーさんの視線は、どこか遠くを見つめるようで、その瞳の色は、私がアイドルになるということを伝えた時のおじいちゃんと同じ色をしていた。 
  
  少し自嘲気味に笑うプロデューサーさんの、そういうところが嫌で、気づけば私は両手を差し出して彼の右手を包み込んでいた。 
  
11: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:51:54.09 ID:1Ml/enjOo
  
 「プロデューサーさん、私の姿はちゃんと見えていますか?」 
  
  見上げた視線がぶつかる。いつもなら何言ってるんだって、茶化してくるはずなのに、こんな夜だからなのかな。真っすぐ私のことを見つめたまま「見えているよ」って。 
  
12: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:53:20.73 ID:1Ml/enjOo
  
 「それなら私の声は……」 
  
  プロデューサーさんが目を閉じて静かに頷く。 
  
13: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:55:42.62 ID:1Ml/enjOo
  
 「私はちゃんとここに居ます」 
  
  どんなに幻想的な衣装をまとっていても私は日々の中で生きる器でありたいから。 
  
14: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:58:02.88 ID:1Ml/enjOo
  
 「肇」 
  
 「どうしました?」 
  
15: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 02:01:09.22 ID:1Ml/enjOo
  
 「さすがに帰りは空いているな」 
  
  これなら予定よりも早く帰れそうだとプロデューサーさんは嬉しそうに呟く。 
  
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