160: ◆hfr5rHILM6
2017/10/03(火) 16:32:46.01 ID:/oXUkmlp0
金曜の朝と言うのは、期待と疲労の入り混じった何とも言えない気分で目を覚ますのが通例である。
五日間の学校生活で蓄積した疲労と、次の日から二日間の休みが与えられるという希望。両者は均衡しながらもなんとか希望側が勝利を挙げ、重い体を引きずりながら学校へと向かうのだ。
なお前者が勝つ場合も無きにしも非ずである。
さて、この日に関しても俺は例に漏れず、夜更かしで疲れた重い瞼を擦りながら、自室のベッドから起き上がろうとした。
疲れ目によりいつもよりもさらに澱んだ眼はさながら棺桶から蘇るゾンビの如し、とは小町の弁である。
半分睡眠しているような状態のまま、大きなあくびを一つして、緩慢な動作で上に伸びをする。
すると意識が覚醒してくるごとに、お腹のあたりに引っ付いている何かしらの存在に気が付いた。
およそ5,6歳ほどの幼女である。
はて、我が家にこんな幼女は住んでいただろうか。こんな状況を小町に見られると非常に面倒くさいことになるのだが――
とそこまで考えて、寝ぼけていた脳が昨日の記憶を呼び覚ました。
――あぁそういえば。俺は今、同級生や後輩が幼女になって自宅に居候しているという、コ〇ン君もかくやという状況に陥っているのだった。
しかし前日夜の記憶を振り返る限り、うちで預かっている三人の幼女は全員、妹の小町の部屋に置いて行ったはずなのだが。
疑問符を浮かべながら、お腹に抱き着いている幼女をよく見る。
肩ほどまでのセミロングで、ピンクがかった茶髪で――とここまで観察した時点で、それが誰であるかは見当がついた。
とはいえ一瞬考える時間が生まれてしまったのは、彼女の最も特徴的な、……いや、二番目に特徴的な部分である、頭のお団子が存在しなかったからである。
まぁ、寝るときにあの髪型にしてたら髪痛みそうだしな。
と納得して、どうにかお腹の彼女を引きはがそうとするが、意外に強い力で引っ付いていて、中々離れない。
しびれを切らして、肩を揺らして起こそうとして。
「…………」
その目元に光る雫に気が付いた。
雫は頬を流れて、俺のパジャマを濡らしている。
いつ頃からその雫が流れていたのかは、わからない。だが頬に残る痕を見るに、そう短くない時間であることは想像がついた。
俺は無理やり引き剥がすのをやめて、そっと彼女を抱えて、ベッドに横たえる。
セミロングの彼女は新鮮で、目を引くものはあったが。それ以上に、哀しみに彩られたその表情が目を引いた。
お前にゃそんな顔は似合わねぇよ。
キザ男のようなセリフが頭に浮かんできて、思わず身震いしてしまいながら、俺は彼女の頭を二度三度撫でて、ベッドから立ち上がった。
音を立てずに歩き、部屋から出て行こうとしたとき。小さくか細い声が耳朶を打った。
「……かないで……ひっ…ぃ……ゆ…のん……」
……ものすごい罪悪感に苛まれながら、俺は一階へと降りて行った。俺悪くないのに。
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