1:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:48:03.28 ID:iojGYRpa0
朝潮ちゃんは己の選択を後悔したが、もはや全てが動きだした今では、どうすることもできなかった。 
  
 因果の安全ベルトに体は締め付けられ、宿命に軋むチェーンリフトの駆動音が嫌に響いてきていた。 
  
 朝潮ちゃんは「遊園地=ジェットコースター」という単細胞的大衆の公式を呪った。 
  
 破滅への一本道がどうして娯楽になるのか。狂気。それしかない。 
  
 そして、その狂気の一本道を選んだ朝潮ちゃんもまた、少なくとも選択時には狂気的であったと認めざるを得ないのだから、その選択の責任をとってまた現在も狂気的にあるべきと筋を通すのが正気の沙汰というものだろう。 
  
 朝潮ちゃんは真面目なので、破滅までの道のりを楽しむことにした。 
 
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:49:56.61 ID:iojGYRpa0
 カタカタと朝潮ちゃんは揺られる。所詮、安全が保障されている娯楽の中にある恐怖だ。本当に破滅に至るわけではない。 
  
 ホラー映画と一緒。何か恐ろしいものが朝潮ちゃんを脅かそうと、それに対し逃避などの恐怖行動をとらないのと同じ。 
  
 原始的動物ならば、なにか恐怖を抱くとそれに対応する行動を、オシツオサレツして、因果必然的に同時に行うだろうが、発達した存在である朝潮ちゃんは恐怖自体を、行動から切り離して、観念的に保留できる。 
3:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:51:22.39 ID:iojGYRpa0
 本来隣にいるべき人がいない。それがどうしようもなく朝潮ちゃんの享楽を冷ますのだ。 
  
 朝潮ちゃんはチケットを二枚用意していたが、一枚はいまだ切り取られていなかった。 
  
 それがあるべき人のもとで正しく使用されていれば、どれほど朝潮ちゃんにとって喜ばしかったか。 
4:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:53:01.09 ID:iojGYRpa0
 どこで失敗したのか。朝潮ちゃんが告白出来なかったからか。 
  
 朝潮ちゃんに圧倒的な自信があれば良かったのかもしれない。好ましくない返事を受ける恐怖を娯楽化するぐらいの。 
  
 告白への勇気は、成功する可能性が高くなった安全圏で生まれてくる。朝潮ちゃんにとって、今回のチケットはその天秤を有利にするためだった。 
5:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:54:47.34 ID:iojGYRpa0
 ふと朝潮ちゃんは下を見ると園内はすっかり夜の様相を呈していた。それに対して空は未だ奇妙なぐらい明るかった。 
  
 今更朝潮ちゃんが告白し、また色よい返事を貰えたとしても、それはもはや朝潮ちゃんの望むべき成功ではないだろう。 
  
 安全に基づき恐怖を娯楽化する合理的な狂気。その力学の応用に関して妹は朝潮ちゃんより優れていた。 
6:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:56:49.81 ID:iojGYRpa0
 愛が狂気の手助けによって成就するというならば、より進歩した狂気を用いればよい。 
  
 合理的狂気を超えて狂気的狂気を目指せばよい。理屈ではそうなる。 
  
 安全を前提に恐怖を肯定する合理性から狂気性に至る方策は、単純に安全を前提に置かず端的に恐怖そのものを肯定してしまう精神構造を持てばいい。 
7:名無しNIPPER[saga]
2017/10/05(木) 03:58:28.13 ID:iojGYRpa0
 原始を捨て、安全概念も介さず、ただ恐怖であるから肯定する。それは可能なはずだった。でなければ、安全を前提にしたところで、恐怖を楽しむことなんてそもそもできないことになる。 
  
 狂気的狂気は恐怖をそれ自体で志向する。しかも、その結果は持続可能な破滅であり、常に恐怖が再生産されるような体制を望む。 
  
 狂気的狂気にとって最も恐怖すべき事態は恐怖そのものが円滑に生じなくなること。死亡などに準ずる完全なる破滅は望まない、なぜなら死ねば恐怖がなくなるから。 
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