19:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:54:34.74 ID:2O49l66V0
  積み込みが終わり、俺が運転席に乗り込む。 
  
 「後ろに乗りなよ」 
  
  と肇に言ったが、肇は澄まし顔で助手席に乗り込んだ。 
20:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:55:31.67 ID:2O49l66V0
  ガソリンスタンドは割とすぐそこにあり、セルフのスタンドだったことに安心する。 
  
 「目的地はどこ?」 
  
 「神奈川の、東扇島西公園……というところです。海釣りの場所は詳しくないのですが、調べたところそこで釣りができるらしくて」 
21:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:57:04.42 ID:2O49l66V0
  コンビニに寄りコーヒー、エナジードリンクと、サンドイッチなどを買い込む。 
  
  煙草を一本吸ってから車内に戻ると、肇が顔を顰める。 
  
 「臭いですよ」 
22:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:59:19.07 ID:2O49l66V0
  釣り場に着くまで一時間くらい、俺はスマートフォンをスピーカーに繋いで、ごく小さな音でフィッシュマンズなどを聴いた。 
  
  肇の静かな寝息を邪魔することのないように、ごく静かな音量で。 
  
  肇のレコーディングにほとんど携われなかったのが少しだけ心残りだった。 
23:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:00:54.07 ID:2O49l66V0
  運転をしながらだと、肇の寝顔を見られないのが残念でならない。 
  
  一度だけ見たことがあるけれど、この子はそれほど可愛らしい顔で眠る。 
  
  海が見え、橋をいくつか渡り、目的地に着いた頃には日付けが変わりそうになっていた。 
24:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:01:57.11 ID:2O49l66V0
  
 ☆ 
  
  午前三時、ピピピ、とスマートフォンが鳴ったのでビクリと身体を震わせた。 
  
25:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:02:52.41 ID:2O49l66V0
  肇がまだ蕩けた目で俺を眺めていたので、飲むか、と聞いた。 
  
  はい、と言って俺の飲みさしを取り、こくりこくりと白いのどを揺らす。 
  
 「間接キッスじゃんね」 
26:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:04:18.62 ID:2O49l66V0
  夜の黒いインキが溶け出したように、海と空の境界はおぼろげだった。 
  
  午前三時だというのに遠くのビルと、工業地帯がやたらと明るく、作業灯と月が海に揺れていた。 
  
  よっこいしょ、と足元にクーラーボックスを置く。 
27:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:06:01.77 ID:2O49l66V0
  しかし、難しいのか。プラプラと眼前でルアーを揺らしたが、今日もボウズ、太公望を気取ることになりそうだな、と思った。 
  
 「ハゼ釣り用の仕掛けも借りるべきでしたね」 
  
 「いやあ、どちらにせよ変わらないよ」 
28:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:08:44.62 ID:2O49l66V0
 「良いですよね。仕掛けを投げて、波紋が広がって……落ち着きます」 
  
  彼女は独り言のようにそう言う。 
  
  俺が見惚れていたのに気づいたんだろうか、とびくりとした。ふと、不審者だったときと同じ格好をしていることを思い出した。 
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