30:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:12:35.44 ID:2O49l66V0
 「黒鯛?」 
  
 「いえ、たぶん根魚ですね」 
  
  彼女はギュルギュルとリールを巻く。「美味しいやつだ」 
31:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:13:35.94 ID:2O49l66V0
  わあわあと二人で盛り上がり、バケツにカサゴを入れる。 
  
  カパカパとエラ蓋を開き呼吸をしているが、君は明日の味噌汁になる運命であるよ。 
  
  彼女は再びルアーを投げた。 
32:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:14:22.37 ID:2O49l66V0
  しかし、彼女は表情を少し暗くする。 
  
  俺は竿を動かすのをやめて、「どうかした」と聞いた。 
  
  彼女は顔を横に振った。 
33:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:15:38.38 ID:2O49l66V0
  思うに、俺は彼女のそんな目に「夢」を見たのだ。 
  
  一度夢破れ、ぼんやりとした目的でプロデューサーになり、なったといえど音楽の知識が活きたことも多くなく。 
  
  丁度、色々と忘れそうになった頃に、彼女に出会えた。去年、あの日着ていた服を着ているから、これほど彼女との出会いを思い出しているのかもしれない。 
34:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:17:15.78 ID:2O49l66V0
  そう、俺はあの時の夢をまだ半分も叶えちゃいなくて、彼女は夢の先で待っているのだ。 
  
  俺はまたルアーを投げた。何も当たりがなかったけれど、負けじともう一度投げる。二度、三度。 
  
  朝が随分と近くなっていた。 
35:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:18:25.51 ID:2O49l66V0
  直後の、ゴン! という重さと、急激にしなる竿。ギリギリとハリスを吐き出そうとするリールに、俺は悲鳴を上げた。 
  
 「は、肇っ! なんか、うお、すげぇ引くんだけど!」 
36:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:19:42.95 ID:2O49l66V0
 「チヌですかっ⁉︎ ドラグ……ドラグを緩めてください!」 
  
  わかんねえよ、俺釣り初心者だもの! ドラグってどこだ、肇助けてえ、と、さんざ情け無いことを言った。 
  
 「大丈夫ですよ、大丈夫です……。私がいますから」 
37:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:21:18.51 ID:2O49l66V0
  俺と肇は、魚をゆっくりと手繰り寄せる。 
  
 「いつも、これまでも二人でなら出来たんです。なんだって」 
  
  それはだいぶ近づいたと思いきや、すぐさま逃げようと走る。 
38:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:22:50.97 ID:2O49l66V0
  彼女は歓喜の声を上げた。 
  
  俺も上げていたと思う。 
  
  俺たちは確かに、伸ばせば届くところまで手繰り寄せてきた。 
39:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:23:32.14 ID:2O49l66V0
 「あの時のキャリーバッグとどちらが重いですか?」 
  
  そう肇は言う。俺は笑って、今それを言うかよ、と言った。 
40:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:25:06.15 ID:2O49l66V0
  
  
  
  
  
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