モバP「中野有香と怪しい武術プロデューサー」
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50:名無しNIPPER[saga]
2017/11/13(月) 20:09:52.87 ID:AW4FyFFm0

レッスン場のど真ん中、有香の姿はすぐに見つかった。

彼女は正座をしたまま、眼を閉じて微動だにしない。
いつものように黙想をしているようだ。話しかけるのは厳禁である。

俺は彼女の正面に座り込んだ。正座もあぐらも苦手なので、片膝をたてて座る。
じっと彼女を見つめてみる。今日はなぜかステージ衣装を着ている。でもこれが一番似合っているのかもしれない。

結局、有香は"流転十勁"を会得する気はないようだった。
また空手一筋、カワイイと強さの両立を目指す彼女に戻ったようだ。

少々名残惜しいが、これもまあ当然の結果だ。
だって彼女はほかならぬアイドルなのだから。
そして俺は彼女のプロデューサーなのだから。

こんな怪しい武術、継承させたところでロクなことにならないし。

……だったんだが、困ったことに。

有香と一緒にいると、有無をいわさず発現してしまうみたいで。
そいつをどう制御すべきか悩んでいる。"万天共鳴"のその技を。

今座っているだけでも、彼女の勁が否応なく流れ込んでくるものだからたまらない。
当たり前だがめっちゃいい。穏やかで心地よく、ずっとこの暖かな勁を感じていたくなる。

でも、彼女の方はどうだろう。
俺の存在に、無理やりに注がれる俺の勁に迷惑しちゃいないだろうか。

「いいえ」

いつのまに眼を開いていたのか、有香は俺に向かってにっこりと微笑んでいた。

「私、好きです。プロデューサーさんの思いが伝わってくるようで」

「……私、好きです」

それだけ言うと、彼女は顔を赤らめてうつむいてしまった。
こほこほと不自然な咳をして再び眼を閉じ黙想に戻っていく。
ちらちらをこちらの反応を伺っているのが傍から見ても丸わかりだった。

そっか、そうか。

ならいい。

レッスン場にまた静寂が訪れる。
この短い間に、俺は有香のいろんな顔を見てきた。喜怒哀楽の、そのすべてを。

"生涯をとして追い求めるもの、常に流動し変化を繰り返しながら、いつ何時もそばにあるもの"
今この時もいつまでも、とどまることなく鳴り響く。


空は快晴、曇り無し。


二人の"流天"は、ここにある。










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