195: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/05/10(木) 21:32:17.97 ID:IVh+ZABj0
 声が降ってきた。 
 屋根の上に魔女が座っている。 
 荷物は何も持たず、どこか散歩へ出かけるような姿だ。 
 険しい鉄門街道を通るに相応しい恰好ではない。 
  
 勇者「遅れてすまない、準備に時間がかかって。……魔女、手ぶらに見えるけど大丈夫か?」 
  
 魔女が目の前に降り立った。短いスカートがふわりと舞い上がる。 
 ちらと見えた純白の下着に、思わず勇者は目をつむった。 
  
 魔女「心配いらないよ、野宿には慣れてる」 
  
 魔女「先代勇者君の冒険も、終盤になると財布が大分カツカツになってきてね……泥沼でも崖っぷちでも、気合いで寝たものさ」 
  
 勇者「そういうことを聞きたいわけじゃないんだ」 
  
 首を傾げる魔女。 
  
 勇者「これからエルフ族を仲間に引き込むんだぞ。どんな道具を使って説き伏せるだとか、どこから攻めてみるかとか……」 
  
 魔女「綿密な計画を練るのは軍師の仕事。ボクらの仕事は何か、もう一度よく考えてごらん」 
  
 いくら計画を練ったとしても、標的の心を衝き動かせなければ意味がない。卓上で考えられることには限りがあるのだ。 
  
 勇者「もっと気楽に構えろ、か」 
  
 魔女「そういうこと。じゃあ、出発しようか」 
  
 魔女が白い歯を見せ、手を伸ばした。 
 薄紫色の瞳に、悪戯っぽい光が宿る。 
  
 魔女「紺碧の都市・サマルカンドへ!」 
  
 勇者「楽しい旅になりそうだ」 
  
 ふっと優しく笑みを浮かべ、勇者は魔女の手を取った。 
  
256Res/223.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 
書[5]
板[3] 1-[1] l20