6: ◆Spitz/dbKQ[saga]
2017/12/27(水) 07:04:51.83 ID:p2Z72T7I0
その日は、唐突にやってきた。
「スカウト、されちゃいました。……はは」
いつもの場所で、いつもより真剣な表情をした彼女と待ち合わせた日のことだ。
彼女は、いつもの喫茶店で大きく深呼吸をした後で、そう言って反応を窺うようにこちらを覗き見た。
「おめでとう」
そう返した俺のことを、彼女はどう思ったのだろうか。
甲斐性なしだと思ったかもしれない。そんなもんかと、拍子抜けしたかもしれない。
それでも、その時はそう言うことしかできなかったのだ。
好きになった人の、期待外れの日がようやく終わったのだから。
「アイドルになった菜々のこと、応援するよ」
その言葉の意味するところは、お互いにわかっていた。
ごめんなさいと、ありがとうを繰り返して泣きじゃくる彼女の頭を撫でながら。
ああ、もうこいつを抱きしめることはできないんだな、なんてどこか他人事のように思った。
冷血だって? とんでもない。その日は眠れなかったし、暫くは何も手につかなかったさ。
駅のモニュメントの前で、いるはずのない彼女の姿を探すのをやめたころには、彼女の姿をテレビで見かけるようになっていた。
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