安部菜々「大宮サンセット」
1- 20
6: ◆Spitz/dbKQ[saga]
2017/12/27(水) 07:04:51.83 ID:p2Z72T7I0

 その日は、唐突にやってきた。

「スカウト、されちゃいました。……はは」

 いつもの場所で、いつもより真剣な表情をした彼女と待ち合わせた日のことだ。
 彼女は、いつもの喫茶店で大きく深呼吸をした後で、そう言って反応を窺うようにこちらを覗き見た。

「おめでとう」

 そう返した俺のことを、彼女はどう思ったのだろうか。
 甲斐性なしだと思ったかもしれない。そんなもんかと、拍子抜けしたかもしれない。

 それでも、その時はそう言うことしかできなかったのだ。

 好きになった人の、期待外れの日がようやく終わったのだから。

「アイドルになった菜々のこと、応援するよ」

 その言葉の意味するところは、お互いにわかっていた。

 ごめんなさいと、ありがとうを繰り返して泣きじゃくる彼女の頭を撫でながら。
 ああ、もうこいつを抱きしめることはできないんだな、なんてどこか他人事のように思った。

 冷血だって? とんでもない。その日は眠れなかったし、暫くは何も手につかなかったさ。

 駅のモニュメントの前で、いるはずのない彼女の姿を探すのをやめたころには、彼女の姿をテレビで見かけるようになっていた。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
10Res/6.72 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice