北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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22: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 22:34:24.18 ID:vyCd+JK40
 月末になったらCGプロの給料が入る。
 その日アタシは事務所に行く前に、ちょっと使い道でも考えておこうと思ってデパートに立ち寄った。
 14万円というのは、高校生からするとなかなかの大金だ。本当にこんなのでお金をもらっちゃっていいのかな、と思う気持ちもなくはないが、CGプロほどになれば、きっとこの程度の金額は誤差みたいなものだろう。
 化粧品コーナーをながめ終えて、服や小物のショップを物色して歩いていたとき、ある一角にステージのようなものが作られているのが見えた。お世辞にも立派とは言えないような簡素なステージで、その前には客席ということらしいパイプ椅子が並べられていた。椅子は20脚ほどあったけど、座っている人はいない。

 ――ああ、たまにこういうのやってるよね。

 と、さして興味もなく通り過ぎようとした。だけど、ステージにその人が上がった瞬間、アタシは思わず息を止めた。
 黒いパフスリーブのドレスに身を包んで恥ずかしそうにたたずんでいるのは、アタシが初めてCGプロをおとずれた日に、事務所の前で出会った女子高生だった。

 なんであの子が、と思った。
 それからすぐに、アタシは馬鹿かと思った。あの子はスカウトされてCGプロに行ったんだから、アイドルになったんだ。アイドルとして、ここに来ているんだ。
 椅子に腰かける人はいなかった。だけど何人かの通行人が足を止めて、壇上の彼女を興味深げに眺めていた。
 アタシは物陰に隠れた。なんとなく、今はあの子に気付かれたくないと思った。
 やがて設置されたスピーカーから音楽が流れ始める。音質はあまりよくはない、少し音が割れていた。

 彼女は音楽に合わせて簡単なステップを踏んだ。顔は緊張でこわばり、首元まで真っ赤になっていたけど、その動きは堂々としたものだった。
 歌が始まる。彼女は開き直ったようにマイクを握りしめ、声を響かせた。道行く人がひとりふたりとパイプ椅子に腰かけ始める。さらに多くの人が足を止め、ステージを注視していた。
 曲が終わり、周囲の人がパチパチと拍手をする。あまり多くはないけど歓声を上げている人もいる。
 彼女は集まった観客たちに一礼し、照れたような表情で、少しどもりながら、「ありがとうございました」と言って――



 アタシはその場から逃げ出した。



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