【モバマス?】一ノ瀬志希?「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」
1- 20
11: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/01/08(月) 21:29:45.39 ID:MruIbyxGO
<10>

 あたしは一ノ瀬志希の影武者だと思っていたけれど、違った。
 プロデューサーの言うとおりに受け取って影武者だと思っていること自体が誤り、オリジナルに対するコピーという概念がそもそもずれていた。

 あたしが何代目の一ノ瀬志希なのかは不明。少なくとも三より多い。
 本物の一ノ瀬志希がいるのかも不明。
 ただし『本物の』一ノ瀬志希という存在が不要なことは明確。

 プロデューサーは、先代の一ノ瀬志希の行方を気にしていなかった。
 フレちゃんは、ただ楽観的なだけではなかった。そもそも、先代が戻ってこようがこまいが関係なかったのだ。
どっちにしろ、仕事は成立するのだから。

「は、あはは……」

 あたしは床にへたりこんだ。

 ずっと憧れていた、アイドル。
 自分という人間を、その人生の物語を輝かせたいと、ずっと願っていた。
 一ノ瀬志希や宮本フレデリカみたいに、キラキラした存在になりたいと思っていた。

 だけど、そのキラキラのトップにいた一ノ瀬志希という存在はそもそも、幻だった。
 テレビに表示している、一時停止したままの一ノ瀬志希のライブ映像には、多くのファンが熱っぽい声援を送る姿が映りこんでいる。

 この人達の多くが、いまはあたしに、声援を送っている。
 同じ一ノ瀬志希だと誤認して。

 そう。誤認させれば成功だし、連続した物語として誤認「していたい」のだ。
 あたし「たち」は一ノ瀬志希という人格を乗せるための交換可能な器であり、器とは別に「一ノ瀬志希」というアイドルは、概念として作られ続ける。
 それを望む人たちのために。



 あたしは自分の顔に指で触れた。
「一ノ瀬志希」という概念を宿すために、ほんのすこし形を変えたことのある顔。

「あたし、あたし……」私は言って、首を振る。「ううん……『私』」

 そう口にしたとき、ちょうど、部屋の時計は十二時になった。
 心のなかの大切な何かが、霧散していくのがわかった。
 かけられた魔法が解けるというのは、こういうことなのかもしれない。



 一ノ瀬志希として富と名声を得た。
 皆が私を通して、私ではない概念を見ている。
 それが、私が願ったものだったんだろうか?

 アイドル。語源は偶像。それを通して神を見て、感じるための器。
 もし――もし、私がこの後、一ノ瀬志希を辞め、「私」としてアイドルになったとき、人々が見ているのは本当に「私」なのか?

 体中から力が抜けた。
 テーブルの上で携帯電話が震えた。
 手を伸ばして携帯電話を取る。
 仕事のメールだった。「一ノ瀬志希」としての。

「あはっ」

 乾いた笑いが漏れた。
 それから、私は天井を見て、すごく納得した気持ちで、口に出していた。
 きっと、このときのためにこの言葉は用意されていたんだ。

「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」






<<前のレス[*]次のレス[#]>>
17Res/20.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice