【モバマス?】一ノ瀬志希?「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」
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◆Z5wk4/jklI
[saga]
2018/01/08(月) 21:29:45.39 ID:MruIbyxGO
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あたしは一ノ瀬志希の影武者だと思っていたけれど、違った。
プロデューサーの言うとおりに受け取って影武者だと思っていること自体が誤り、オリジナルに対するコピーという概念がそもそもずれていた。
あたしが何代目の一ノ瀬志希なのかは不明。少なくとも三より多い。
本物の一ノ瀬志希がいるのかも不明。
ただし『本物の』一ノ瀬志希という存在が不要なことは明確。
プロデューサーは、先代の一ノ瀬志希の行方を気にしていなかった。
フレちゃんは、ただ楽観的なだけではなかった。そもそも、先代が戻ってこようがこまいが関係なかったのだ。
どっちにしろ、仕事は成立するのだから。
「は、あはは……」
あたしは床にへたりこんだ。
ずっと憧れていた、アイドル。
自分という人間を、その人生の物語を輝かせたいと、ずっと願っていた。
一ノ瀬志希や宮本フレデリカみたいに、キラキラした存在になりたいと思っていた。
だけど、そのキラキラのトップにいた一ノ瀬志希という存在はそもそも、幻だった。
テレビに表示している、一時停止したままの一ノ瀬志希のライブ映像には、多くのファンが熱っぽい声援を送る姿が映りこんでいる。
この人達の多くが、いまはあたしに、声援を送っている。
同じ一ノ瀬志希だと誤認して。
そう。誤認させれば成功だし、連続した物語として誤認「していたい」のだ。
あたし「たち」は一ノ瀬志希という人格を乗せるための交換可能な器であり、器とは別に「一ノ瀬志希」というアイドルは、概念として作られ続ける。
それを望む人たちのために。
あたしは自分の顔に指で触れた。
「一ノ瀬志希」という概念を宿すために、ほんのすこし形を変えたことのある顔。
「あたし、あたし……」私は言って、首を振る。「ううん……『私』」
そう口にしたとき、ちょうど、部屋の時計は十二時になった。
心のなかの大切な何かが、霧散していくのがわかった。
かけられた魔法が解けるというのは、こういうことなのかもしれない。
一ノ瀬志希として富と名声を得た。
皆が私を通して、私ではない概念を見ている。
それが、私が願ったものだったんだろうか?
アイドル。語源は偶像。それを通して神を見て、感じるための器。
もし――もし、私がこの後、一ノ瀬志希を辞め、「私」としてアイドルになったとき、人々が見ているのは本当に「私」なのか?
体中から力が抜けた。
テーブルの上で携帯電話が震えた。
手を伸ばして携帯電話を取る。
仕事のメールだった。「一ノ瀬志希」としての。
「あはっ」
乾いた笑いが漏れた。
それから、私は天井を見て、すごく納得した気持ちで、口に出していた。
きっと、このときのためにこの言葉は用意されていたんだ。
「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」
終
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