【モバマス?】一ノ瀬志希?「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」
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9: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/01/08(月) 21:26:19.49 ID:MruIbyxGO
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「ぼんじゅ〜る、今日もよろしくおねがいしまーっす! フレデリカ、入りで〜っす!」

 底抜けに明るい声が響く。宮本フレデリカさんが楽屋に入ってきたのだ。
 胸が高鳴る。今日は、あたしの一ノ瀬志希の影武者としての初めての仕事だった。

「あ、フレデリカ、ちょっとちょっと」プロデューサーがフレデリカさんを呼ぶ。「ほら、こちら、この前話した志希の代役」

「よ、よろしくお願いします……」

 あたしは頭を下げる。フレデリカさんは目を丸くしてちょっと首を傾げたあと「ああ!」と言って手を叩いた。

「志希ちゃんのね〜、そっかそっかぁ! いやー志希ちゃんの失踪癖にはまいっちゃうよねー、じゃあ、今日からよろしくねー、らびゅー☆」

 フレデリカさんはあたしに投げキッスした。テレビで観たのといっしょで、あたしの胸が高鳴った。



 それから、心臓が張り裂けそうなほど緊張した初仕事は、思った以上になにも起こらずに終わった。
 最初だから、あまりしゃべったりせず、置物みたいでいいと言われてはいたけれど。それは、芸能というお仕事が、多大なる『お膳立て』によって成り立ったことを実感したものでもあった。

 最初の仕事が終わったとき、プロデューサーさんもフレデリカさんもあたしのことをねぎらってくれ、疲労困憊のあたしは「できれば、こういうヒヤヒヤする機会は少ないほうが嬉しい」と言った。

 けれど、その想いとは裏腹に、あたしが志希さんの影武者を務める機会は、徐々に増えていった。
 そして、あたしの預金口座にはどんどん、見たこともないような金額が積みあがっていった。



 あたしが志希さんとして振る舞う頻度が増えるということは。
 あたしが志希さんとして振る舞う濃度が増すということだった。
 でも、それは仕方なかった。
 あたしがいつか、志希ちゃんではないあたしとしてアイドルになるために、必要なことだと思っていたから。



 数カ所の整形手術をして、顔をより志希ちゃんに近づけ、声もトレーニングでさらに近くなった。
 本物の志希ちゃんとあたしの仕事の頻度はいつしか逆になり。
 あたしは「いい匂い」と発言するタイミングを外さなくなった。
 ダンスだって本物と寸分たがわないタイミングをマスターした。
 トークができるくらいには、化学の知識が身に着いた。
 プロデューサーさんもフレデリカさんも、ほかの美城の社員さんもテレビのスタッフさんもラジオのディレクターさんも雑誌の編集さんも、みんなみんな、あたしのことを志希と呼ぶようになった。それが気にならなくなった。



 半年が過ぎたころには、本物の志希ちゃんがやっていた仕事は、すべてあたしのものになった。
 私は前のプロダクションとの契約を期間満了で解消した。
 あたしの中にあった、志希ちゃんのファンを騙しているという罪悪感は、いつしか薄れ、消えていった。



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