62: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:28:56.70 ID:X17K8DuQ0
   
  
  電車の発車音。 
  
  改札口を出て、賑わいだした街へと歩みを向ける。 
  雪の上を踏み出す度に、心が叫びそうになるのを止められない。 
  
  
  きっとこれから忍は、オーディションを受けるんだろう。 
  僕が諦めてしまったように現実はそんなに甘くないのかもしれない。 
  それとも彼女の努力が実を結んで、案外上手くいってしまうのかもしれない。 
  
  そのどちらだとしても、僕は待っていたかった。 
  アイドルとしてでも、工藤忍としてでも、またこの場所に帰ってくることを。 
  夢が叶ったと笑っていてもいい、やっぱりダメだったと泣いていてもいい。 
  
  
  港を出ていく船が、帰る場所だけは見失わないように。 
  
  
  女の子の夢を素直に祈ってやれないなんて、僕はとんだ薄情者だ。 
  でも、それくらいこのエゴは自分の中で大きくなっていた。 
  
  好きな人に一緒にいてほしい。好きな人に笑っていてほしい。 
  どちらも確かに僕の心で、そしてどちらもあの日の音楽室から始まっていた。 
   
  ごめん、忍。僕がもっと強かったら、カッコつけられるような人だったら違ったのかな。 
  最後まで言葉という確かな形で、君の背中を押してあげられなくてごめん。 
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