1: ◆.s5ziYqd8k[sage]
2018/04/16(月) 21:54:00.33 ID:xaEfnyHJ0
私の眼鏡がずり落ちました。鏡に映る、切れ長の目。
親友はかわいいと言ってくれるけど、私はこれが嫌いです。まるで睨んでいるように見えるから。
私の背はずうっと高くて、男子達より少し高いのです。
親友はかわいいと言ってくれるけれど、私はこれが大嫌い。みんなの目が刺さるから。
「ねえユミカ、空の街に行こうよ。お父さんからチケットを貰ったんだ」
「うん、いいよ。いつ行くの?」
「ふふん。来週」
親友の目はくりくり丸くて、私と違って優しく可愛く笑うことができる。
ほら、今だってそう。鞄を振り回して無邪気に笑う親友は、申し訳ないけど凄く可愛い。
……私の髪は真っ黒だ。眼鏡といっしょ。キツイ目を和らげる、そのためだけの前髪。
私は、私が大嫌い。もっと、可愛くなりたいのに。
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2: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 21:59:05.18 ID:xaEfnyHJ0
真っ白な空気。息を吐くと肺の底から冷たくなる。
睨みつけた的が小さく震えて、指から離れた矢がいつの間にか貫いていた。
……。
3: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:01:30.55 ID:xaEfnyHJ0
「ユミカは今日もかわいいねぇ。こりゃ空の人も惚れちゃうね」
「そんなことないよ……やよいの方が可愛い」
「あっはっは、ありがとありがと。旅立ちにはおしゃれしないとねぇ」
4: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:02:58.50 ID:xaEfnyHJ0
空の街。地上からは見えない街。
そこに行きたいなら決められた場所から、不思議な手続きでないとダメ。
「ようこそ高天原へ。空を支える神の地をお楽しみください」
5: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:04:12.97 ID:xaEfnyHJ0
和服の人がいる。洋服の人がいる。武家屋敷がある。ドラマで見るより華麗な街がここにある。
映画のセットのような街並みを抜けると、前髪が汗で貼り付いていた。鬱陶しい。
「あっははは、ユミカ、汗だくだぁ。えっちぃね」
6: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:05:19.94 ID:xaEfnyHJ0
…………。
そういえば。
私達は普通にここまで来てしまったけど、たぶん、知っていなければ驚くことは他にもあった。
7: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:06:11.28 ID:xaEfnyHJ0
街を跨いで『柱』の根元へと龍が降りる。
「ご苦労、大儀である。よしよし」
「ありがとうございました」
8: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:06:57.34 ID:xaEfnyHJ0
『柱』とは言うけれど、建物としては京都にあるような五重塔が延々と続いているようなもの。
中には階段があって意外と観光客で賑わっている。私も含めてみんな同じ入場記念のレンズをぶら下げているのがいかにも、な気がする。
……人がたくさんいる。私はこういうとき、大して使い物にならない。急いで前髪を下ろして視界を狭めた。
9: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:08:06.00 ID:xaEfnyHJ0
白いワンピースに青色が重なっているのに、それを着る私は雨雲のように暗い。
目の前でやよいとガイドさんは楽しそうに話している。私は、暗い。
「そりゃ振られるよぉ、女心ってのが分かってないね。唐変木、朴念仁、ゲスの極み。お? あれなに?」
10: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:10:10.41 ID:xaEfnyHJ0
一階上がるごとに観光客は少なくなって、厳かな静けさが増えていく。
「なぁーんだかなぁーんも無いんだね。パネル展示とかさ、もうちょい増やした方がいいと思うなぁ」
やよいは口ではそう言いながら、興味深そうに目を細めながら走り回っている。
11: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:11:03.88 ID:xaEfnyHJ0
不思議、不思議なことだらけだ。この空街は不思議に溢れている。
次の不思議に気付いたのは100階を越えた時だった。前髪が揺れて、景色がさながら櫛状に刻まれる。
「あれ……」
12: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:12:02.33 ID:xaEfnyHJ0
『世界は誰が作ったのだろう。
君はそんなことを考えた事はあるかい?
神が造ったのなら、その神とはいったいどんな存在なんだろうね。
13: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:12:40.16 ID:xaEfnyHJ0
勿体ぶった、というのがきっと正しい。
かっこいい顔は無駄に得意げで、イラっとしたらしいやよいがさっきからスネを蹴り続けている。
……止めなくていいや。
14: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:13:43.64 ID:xaEfnyHJ0
『僕が好みの女の子に見惚れて何が悪いんだい。あっ、くそ!
ちっ……ええと、そう。進化だね。原初の生命が海から生じて幾億年、人は進化の末に今を生きている。
でも、僕らはそれより前から人間の形を与えられて、今の今まで連綿と続いているんだよ。
15: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:14:30.52 ID:xaEfnyHJ0
ガイドさんはそれきり悩ましげに溜息を吐いて、背中を叩くやよいを気にもしていない。
……時々むせてるというか、痛そうにはしてるけど。
窓の外は茜色の空。雲は赤と黒のグラデーションなのに凄く綺麗。
16: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:15:27.93 ID:xaEfnyHJ0
はいはい。どうもね。
やよいって名前も良いけど弓香って方がかっこよさって意味じゃ段違いで良いと思う。
その名前で弓道の腕前は県大会に行けちゃうし全国も行けそうってんだから名前負けなんてなんのその。
17: ◆.s5ziYqd8k[sage]
2018/04/16(月) 22:16:40.11 ID:xaEfnyHJ0
今日はここまでで。ありがとうございました。
タイトル通り短い話だと思いますがゆっくり進めていきます。
よろしくお願いします。
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