白菊ほたる『災いの子』
1- 20
27: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/07(月) 19:55:52.75 ID:eRaIODkj0
 この日はダンスを教えてもらった。
 ダンスは昔から好きではあったけど、これまで正式に習えるような機会はなく、私の技量はほとんど素人と変わりない。まずは基礎の基礎からということになった。

 スピーカーから流れる音楽とトレーナーさんの叱責の声を浴びながら、懸命に体を動かす。トレーナーさんの見せるお手本では簡単そうに見えるのに、いざ自分でやってみるととても難しい。
 何度も転んでは立ち上がりを繰り返し、およそ1時間半後、私は全身汗だくで床にへたりこみ、必死に息を整えていた。

 少し離れたところで、トレーナーさんとプロデューサーさんがなにか話をしている。声は聞き取れなかったけど、表情から察するに、あまりいい内容ではなさそうだ。

 それからトレーナーさんがこちらに振り返り、パンと手を鳴らした。

「よし、ここまで。しっかりストレッチをしてからシャワーを浴びて、今日はもう帰っていい」

「もう少し、お願いできませんか?」

 私はふらふらと立ち上がって言った。
 トレーナーさんとプロデューサーさんが顔を見合わせる。

「聖さんはこのあと別のところでレッスンが入ってる。俺も仕事があるから」

 とプロデューサーさんが言った。

「じゃあ、ひとりでこの部屋使わせてもらうのはダメですか? 復習していきたいので」

「今日はここはもう使わないみたいだから、かまわないけど……疲れただろ?」

「だいじょうぶです。楽しいですから」

「楽しい?」

 プロデューサーさんが怪訝そうに繰り返す。

「はい、前の事務所ではレッスンとかさせてもらえなかったので、とっても楽しいです」

 私が今までに所属してきた芸能事務所には自前のレッスン室というものはなく、必要なときはレンタルスペースを使っていた。
 ただし、お金がかかるからだろう、そこでレッスンを受けられるのはすでにある程度の人気を得ている人に限られていて、私は残念ながらそうではなかった。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice