二宮飛鳥「ヒジュラ」-SS速報VIP

二宮飛鳥「ヒジュラ」

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1: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:33:37.95 ID:6R6maFYv0

　父に手を引かれて、記憶の中の少女は都会の夜を歩いている。それがいつだったのか、それが何処だったのかすらわからない。
　ひとつだけ確かなのは、その手を離すだけで生きていけなくなるほどボクは幼いということ。

　排ガスの匂い、ネオンサイン、壁の落書き、すれ違う人々──そのどれもが恐ろしく、そこに留まればいつかこの存在は融け出してそれらと混ざり合うだろう。
　それはどうしようもなく残酷で、醜悪で、キュッと父の手を握りなおした。

　街は融け合っている。そいつらは誰も認め合わないのに、いつもひとつになってボクを脅かしていた。

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2: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:36:07.49 ID:6R6maFYv0

「志希ちゃんは飽きたので失踪しまーす」

　アイドルとはなんだろう。ボクは、二宮飛鳥は、そんなことを考えている。
　どうしてアイドルなんて呼ばれるものになったのか。偶像？　まったく、理解し難いな。こんな誤作動の寄せ集めみたいなのがアイドルというんだからね。

以下略 AAS

3: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:38:20.16 ID:6R6maFYv0

　いつの間にか、ボクにとって知らない場所などなくなった。もちろん地球の隅々まで何もかも知り尽くしているわけではないが、言うならばボクたちはその術を身につけてしまった。

　なにも科学の進歩だとか、そういう小難しい話をしたいんじゃない。それは自我意識のゆえに、それを知ることができるという話だ。
「知ろう」と意志することができる。もはやこの身体は偶然の産物ではなく、ある日に靄を抜けた瞬間からボクはボクになった。ボクはボクを意志するようになった。

以下略 AAS

4: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:39:37.30 ID:6R6maFYv0

「ヘイ、タクシー！」

　キミはそう言って陽気に乗り込んだ。行き先を尋ねられると「オススメで～」と言った。勘弁してくれ、ここは寿司屋か何かか？

以下略 AAS

5: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:40:38.42 ID:6R6maFYv0

　山田さんは初老の男性で、優しい笑顔を浮かべながらボクたちを連れ出してくれた。
　料金の限度を決めた方がいいんじゃないかと志希に提案すると、二万円くらいでとだけ言ってそれきりひと言も口を利かなくなった。
　まったく、何を考えているのか。

以下略 AAS

6: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:41:15.95 ID:6R6maFYv0

　どれくらい走ったのだろう。メーターはぐんぐん上がって一万円を通り過ぎていた。
　山田さんは優しそうな人だが、金銭面では容赦がないらしい。まあそれが客の要望なんだ、彼にはどうしようもないか。

　正直に言うと少し不安だった。だから志希に何度か確認した。本当に払えるんだろうな？　小声で尋ねると、「大丈夫大丈夫」だと。まったく信用できないね。まあいざとなればプロデューサーに頼るしかない。

以下略 AAS

7: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:42:02.59 ID:6R6maFYv0

　運転席の真後ろで、右側の景色を感じるために窓を開けたかった。
　手探りで開けた窓からはまだ排ガスの匂いがして嫌気がさす。

　ああ、いつ着くんだ？　何処に着くんだ？

以下略 AAS

8: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:42:52.39 ID:6R6maFYv0
　随分遠くまで来た。まさか山登りする羽目になるとはね。
　すっかり日も落ちて、空には普段見れないほどの星が広がっていた。足下では木の根が地を割って、その真下にはたっぷりと水を飲んだ土があって、それらが清涼な空気を生み出している。
　それくらい、ボクにだってわかるさ。

　名も知らぬ山の中腹へ、導いたのは誰だろう。一ノ瀬志希か、或いはボクの知らない《二宮飛鳥》か──まあ、たまにはこういうのも悪くない。

以下略 AAS

9: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:43:36.30 ID:6R6maFYv0

「人間は何千年経っても進歩も調和もないというわけかい？」

「むしろ退化してるかもねー。なんでも知った気になって、何処にでも行ける。本当はずっとパパのところにいた方がよかったのかも。ママの言う通り、ママの希望になればよかったのかな」

以下略 AAS

10: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:44:21.21 ID:6R6maFYv0

「『あたし』──つまりキミ、志希は、一ノ瀬志希という現象を合理的に制御できる感情体というわけかい？」

「制御できてるかはわかんないしー、その必要もないね。ただ愛してあげるの。それは即ち身体性のポエジー。あたしがあたしを愛してあげる。時よ止まれ、お前は美しい……そう言ってあげる」

以下略 AAS

11: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:45:00.60 ID:6R6maFYv0

　ボクたちは登ったところから反対方面へ下山し、そこで海を見出した。志希は気づいていたという。
　森林の柔らかい香りに紛れて、雄大な潮の薫りが彼女の嗅覚を刺激していた。ボクは目の前に来るまでそれに気づかなかった。

　海辺には旅館があり、ボクたちはそこに泊まることにした。

以下略 AAS

12: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:45:56.14 ID:6R6maFYv0

　夜深い露天風呂は貸し切り状態で、志希はタオルも纏わず駆け出しボクもそれに従った。
　浴場の岩に腰掛け脚だけ浸からせると、やはりと言うべきか……キミの脚は大人しくない。

「パラケルススのメルジーネよ！　ばしゃばしゃー！」

以下略 AAS

13: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:46:40.53 ID:6R6maFYv0

「日本語で頼むよ、天才娘。何を言ってるかさっぱりわからない」

「んー、正直あたしも何言ってるかわかんないんだよね。多分、錬金術師たちは黄金を作ろうとしてたんじゃないってゆー。それはあたしも同じ」

以下略 AAS

14: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:47:15.82 ID:6R6maFYv0

　早朝に目を覚ますと、隣で寝ていたはずの志希の姿がなかった。
　一瞬狼狽えて、昨日露天風呂で愛を歌った姿を思い出しそんなはずはないと思い直したが、彼女のつかみどころのなさにまた少し不安になった。

　やれやれ、何処へ行ってしまったのか。とりあえず旅館の人に尋ねよう。そうして起き上がると、ボクの服が畳んである横に彼女の服がまだ散らかっていた。

以下略 AAS

15: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:50:27.66 ID:6R6maFYv0

　幼い頃の名も知らぬ場所の記憶が、ふっと薫るように立ち込める。
　キミのお陰で、何処か知らないところへ、ボクの意志なく辿り着いた。
　少なくとも今この瞬間だけは、ボクたちは彼らの規律から脱落している。

以下略 AAS

16: ◆VvysKS2FVo[saga]
2018/08/17(金) 20:51:21.54 ID:6R6maFYv0

終わりです。

ありがとうございました。

17:名無しNIPPER[sage]
2018/08/17(金) 21:03:15.99 ID:imW83I6lO
エンディ……

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