21: ◆LXjZXGUZxjdx[sage saga]
2019/03/02(土) 01:21:23.21 ID:nSoKXtCU0
花丸「ダイヤさんは職場に向かいます。その前に神社に立ち寄りました。ダイヤさんはいつもここで参拝をしてから職場に向かうのだと言いましたが、その割には少し落ち着かない様子でした。聞くと、いつもはもっと人が少ないそうです。あたりを見回すと、参拝者の方はまあまあ居ました。いつも平日の早朝にしか参拝に来ないダイヤさんにとっても、休日のこの遅い時間では、見慣れたはずの場所も新鮮に感じているようでした」
花丸「神社に入って気になったのが、ある場所にできた人だかりです。参拝を済ませた後に、その人だかりに二人で紛れ込んで何があるのか見てみました。人だかりの視線の先には本殿の横に建てられている神楽殿がありました。神楽殿の中の舞台上では雅楽が奏でられ、その中で巫女が神楽を舞っていました。舞台の前には、ご老人から子供まで、色々の人が参列していて、その全員が正装に身を包んでいます。そして参列者の先頭には、この場にいる誰よりもひときわ美しい姿の白無垢の女性がいました。あまり見られる光景ではないので、つい足を止めて眺めてしまいます」
花丸「親族と多くのやじ馬の中心にいる白無垢さん。顔は隠れているので、今どのような表情なのか、ましてやどのような気持ちなのか、私には分かりません。そこで、色々と想像をしてみます。結婚とは一般的には幸福なものだとは言われていますが、逆に、結婚とは人生の墓場だと表現する人もいます。あの白無垢さんは隣にいる方にどのような感情を抱いているのでしょうか。世界で一番愛する人とこれから一生苦楽を共にしていけることに幸せを感じているでしょうか。あるいは、実はこれは望まない結婚で本当は泣きたくなるほど嫌がっているかもしれません。もしかしたら、今すぐ白無垢を脱ぎ捨ててトイレに駆け込んでおしっこをすることで頭がいっぱいかもしれません。ですが、そんなことをいくら想像しようと、人の本当の気持ちなどそう簡単に知ることなどできませんが」
花丸「それは、今現在私のすぐ隣にいる人に対しても同じです。こうして私と隣同士で結婚式を見て、この人は何を思っているでしょうか。普段からあまりしゃべらないし表情もない人だから、余計に分かりません。だったらせめて、私の気持ちだけでも知ってほしいと思いました。ですが、いざ私の気持ちを言葉にしようとすると、それができませんでした。たくさんの本を読んで、数えきれない程多くの言葉を知っているはずなのに、どういうわけか今はそのどれ一つとして思い浮かびません。それでもやっと思い浮かんだ簡単な言葉でさえも、今の私の胸の中では、熱く大きい何かができていて、それが喉ふさいでいて、やっぱり言葉が口から出ていきません。だからと言って、この気持ちをこのままうやむやにしたくはありません。言葉が使えないならと、代わりに精いっぱいの勇気を振り絞り、近くにあるダイヤさんの手を握りました。握った手は、握り返すことも、振り払うこともせず、ただ握られたままでした。やっぱり、こんなことをしても人の気持ちなんてそう簡単には分かりませんでした。分からないから、これ以上踏み込んでいいのかも分かりません。分からないというのは、怖く不安なものです。私はこれからも、そんな怖さと不安を抱えて日々を過ごしていくのでしょう。だけれども、今は手を握っていることを許されていることに、ただただ幸せを感じさせてほしいと思いました」
ダイヤ「・・・・・・・・」ハラハラ
花丸「・・・・・・・・」
花丸「神社を後にしたら、予定通りにダイヤさんの職場に行きました。家を出るときはあれだけ楽しみにしていたのに、さっきの出来事があまりにも深く印象に残ってしまい、いざ職場に着くと、私の得意の想像力が働かず、そこはただの仕事場にしか見えませんでした。ダイヤさんは、ほら、やっぱり面白いものなんてなにもない、というようなことを言います。今朝までの私だったら言い返せたのに、今の私にはできませんでした」
花丸「その後は二人でお店に入って食事したり、どこかを歩いたりしましたが、よく覚えていません。日も暮れてきたころ、気が付いたら海辺にいました。なんとはなしに、石垣の合間にある階段を二人で降りて、砂浜に出ます。夏は海水浴をする人たちで賑わうこの場所も、冬の寒いこの時期では誰もいません。寒気を含んだ海風は厚手の上着越しでも体を冷やします。少し寒い」
花丸「海を見ていると嫌なことを忘れる。そんなことをよく聞きます。その通りだと思います。さざ波の音に耳を澄ませながら大海原を見ていると、怖い気持ちも不安な気持ちも不思議と和らいでいきます。絶え間なく吹き付ける海風は、やっぱり、少し寒い」
花丸「綺麗なオレンジ色のお日様の光を、正面から全身に浴びています。が、それだけでは暖が足りません。少し寒い」
花丸「お日様からだけでは十分な暖を補いきれません。だから、仕方ないのです。彼女の手を取り、握ります。でもまだ、少し寒い。彼女の懐に身を近づけ、頭を預けます。少し、暖かくなりました。これは踏み込みすぎでしょうか。でも、仕方ありません。私は寒くて暖が必要なのだから」
ダイヤ「はぁっ///」きゅん
花丸「・・・・・・」
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