加群「鏡の向こうの」
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16:名無しNIPPER[sage]
2019/04/03(水) 21:21:36.57 ID:pOwoTKMWo

『……そうか』

 だというのに、木原加群は、かつてと同じようにその成果に背を向ける。
 その枠組みを越えて子供たちを救ってきた彼が、自らの姓のみを理由にして、教師であった自分を過去にしてしまう。
 或いは子供たちに同じことを告げたところで、きっと理解は出来ないだろう。
 だが脳幹には、分かってしまう。かつて始祖たる七人の木原の苦悩を目の当たりにしてきた彼には、痛いほどに。

『そうか』

 脳幹には、加群がどこか鏡のように感じられた。
 彼は木原の中では極めて珍しく、自己をあまり表に出さない。
 その時自らが相対するものに依って、その表情を大きく変える。
 科学者としてただ純粋な命と向かい合えば、それを解き明かし。教師として純真な子供達と接すれば、それを救い。
 子供達の守護者として通り魔と遭遇すれば、それを殺し。そして哀れな一人の少年を見出せば、復讐者となる。
 脳幹であっても例外ではない。彼との関係を対等で心地良いと感じてしまっていたのは、彼がそういう人間だったからではないのか。
 だから今、脳幹は彼に何を言えばいいのかが分からない。何を言った所で、それは自身にのみ突き刺さっていくようにしか思えない。
 鏡の向こう側に見えるのは、こちら側の景色だけだ。



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