48: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2019/05/01(水) 00:16:27.22 ID:3V1PGSXQ0
スタッフが出番だというような合図をし、わたしはステージに向けて足を進める。
辺りはまだ、あかりちゃんの残していった喧噪に包まれている。遮断しようと思えばできた。だけど、あえてそのままにしておいた。
ステージ中央、マイクスタンドに差さっていたマイクを手に取る。
さっきまであかりちゃんが握っていたそれをくるんと回し、特に意味もなく軽く跳躍してみせる。
ようやくわたしの姿に気付いたように、客席の声がすっと静まる。
頭の中で声が響いた。
――蹴散らしてきなさいよ。
声を出す。ステップを踏む。盗んだばかりの、新たに得たばかりの力を乗せて。
当然、曲が違えば振り付けも違う。あかりちゃんのステージを、そっくりそのまま真似はできないし、すべてを理解できたわけでもない。
ただ、あの技術の根底が理詰めであることはわかっていた。いっそ遠回りに思えてしまうほどの、異常に緻密な計算ずく。それはあらゆるものに応用が利くはずだった。
直感のようにやりかたが閃く。解明したとはとてもいえない、本当に正しいかなんてわからない、それを即座に自分のダンスに取り入れた。
もはや自分が今、どんなふうに踊っているのかもわからない。もしかしたら、見るにたえないひどいものになっているのかもしれない。
それでも、自分を突き動かすこの衝動に従うべきだと信じた。
次から次へと、際限なく湧き上がってくる閃きに身をゆだねた。
ふと、かすかな違和感を覚えた。なにかが変だと思った。
だけどその正体はつかめずに、心の中で首をかしげながらステージを続けた。
やがて、気付いた。腕や脚、歌い踊りながら、ときおり視界に入る自分の体が、まるで金属の粉でもまぶしたみたいに、きらきらと煌めいて見えた。
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