63: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:51:55.02 ID:9pdDfgPfo
   
 結局のところ、エミリーは頭を打って記憶喪失になってしまったのだ。 
  
 ただし彼女が失ったのはほんの一部の特定の記憶──つまり日本語の言語知識だった。 
 これについて、俺たちはエミリーが幼い頃に使っていた昔の教材を用意した。 
 勉強を続けていた頃の記憶とリンクさせて、言葉を思い出させようとしたのだ。 
 一部分においてそれは功を奏した。ただその後で、エミリーには言語知識の他にも失った記憶があることが分かった。 
  
 それはエミリーが常に抱いていたはずの日本への憧れ、そして“大和撫子”への想い。 
 そして先生の話を参考にして考えたのが、これらを引き起こした原因として── 
 エミリーが今忘れてしまっている、彼女を日本好きにした最初の思い出があるはず、ということだ。 
  
 765プロの誰もが知らない、失われたエミリーの過去。 
 手探りでは見当すらつかなかったはずのそのヒントになったのが、エミリーが大事に保管していた一枚の絵だった。 
  
 そこにいたのが“よりちゃん”だ。 
  
 その絵はおそらく、エミリーに初めて日本人の友達ができた日に描かれたもの。 
 父親の話によれば、その友達と出会ってから豹変したエミリーの血の滲むような努力のおかげで、今のおしとやかで慎ましい彼女がいるということだ。 
 すなわち“よりちゃん”こそがエミリーの失った記憶。 
 “よりちゃん”と出会ったその日のことを……エミリーが忘れてしまったその日のことを思い出させることができれば、彼女は今度こそ元に戻るかも── 
  
 ただ、情報の断片を繋ぎ合わせて出来た結論に確信は持てやしない。 
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