67: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:56:18.41 ID:9pdDfgPfo
   
 「伊織……」 
  
 じっと動かない彼女に、やめてくれとだけ伝えた。今度は俺の目を見つめて返事を待っているようだった。 
 ここまでされてしまえば、流石にこちらが折れるしかないようだ。 
  
 「……そこまで言うなら分かった。 都合はつける」 
 「ありがとう、プロデューサー……このこと、みんなには黙っといて」 
 「すぐバレるだろ……」 
  
 それもそうね、と伊織はこちらから目線を逸らす。 
  
 「今日の仕事が終わったらそのまま発つわ。 できるだけ早く戻るから……それと」 
  
 そして少しの間言葉を止め、一呼吸置いてから付け加えた。 
  
 「エミリーを無事に連れて帰ってこられたら、全部話すわ」 
 「…………」 
 「……わがまま言ってごめんなさい。 ……じゃ、行ってくる」 
  
 伊織はそのまま踵を返し、部屋を出て行こうとした。 
  
  
 どうしてやるのが正解か何にも分からない。伊織だけに任せて大丈夫なのかどうか分かるはずもない。まして社長にも相談せずに。 
 ただ俺自身には他に何の手の打ちようもみつからない以上、藁をも縋る思いで待つしかなかった。 
  
 伊織が事務所のドアノブに手をかけた瞬間、そっと引き止める。 
  
 「伊織。 ……頼んだ」 
 「ええ」 
  
  
  
 心配を隠しきれないプロデューサーを背に、私は事務所を出た。 
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