73: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:03:19.03 ID:9pdDfgPfo
   
 * 
  
 すっかりイギリスでの日常に溶け込もうとしているエミリーに、私は何もできなかった。 
 折を見て幼い頃の、つまり“よりちゃん”の話を持ちかけてみるも、やはりどこか心ここにあらずで手ごたえがない。 
 お母様と話をしてみても、エミリーの考えていることはいまいち分からない。 
 エミリーはもう、思い出なんてどうでもいいと思っているのかも知れない。 
 帰りの飛行機は明日──。 
  
 自室で一人過ごしている彼女を訪ねると、エミリーは「《どうぞ》」といって招き入れてくれた。 
 少しの間他愛のない会話で間を持たせてから、ようやく私は最後に言葉を繋ぎ始める。 
  
 「《エミリー。 知ってると思うけど、私、明日で帰っちゃうの》」 
 「《……はい》」 
  
 途端にエミリーはこちらから目を逸らした。 
  
 「《これからあんたはこのままこっちで暮らすつもりなの?》」 
 「《…………》」 
 「《このまま私が帰っちゃったら……もう二度と会えないのよ。 私だけじゃなく、765プロのみんなとよ。 分かってるの?》」 
 「《……分かってます……》」 
  
 消え入るような声に、これ以上このことは考えたくないというような苦い表情。 
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