99: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:35:12.99 ID:9pdDfgPfo
   
 * 
  
 エミリー・スチュアート復帰公演の告知を行ってから、その日のチケットが通常の何倍もの早さで売り切れたことはただの偶然ではないだろう。 
 誰もが彼女の帰りを待っていたという確かな証だ。 
100: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:36:16.34 ID:9pdDfgPfo
   
 観客席のほとんどはエミリーのシンボルカラーであるバイオレットのサイリウム一色で埋め尽くされ、 
 そこにエメラルドグリーンの光がちらほら混ざっている。 
  
 圧巻の光景だった。 
101: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:37:40.76 ID:9pdDfgPfo
   
 その後も数曲ずつ空けてエミリーの出演するステージは大盛り上がりを見せた。 
  
 “Princess be Ambitious!!”ときて“Eternal Harmony”、最後にはソロの“はなしらべ”。 
 どれも割れんばかりの歓声に包まれ、曲が終わればメンバーはエミリーに駆け寄り彼女の復活を祝った。 
102: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:38:56.42 ID:9pdDfgPfo
   
 「エミリーはしっかりやってる?」 
  
 ずっと彼女の様子を眺めていると、後ろから声をかけられた。伊織だった。 
 前髪を全てたくし上げ、リボンつきのカチューシャで留めている。 
103: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:41:47.91 ID:9pdDfgPfo
   
 今のエミリーは、日本語が分からなくなっていたことも、昔の記憶を失っていたことも、何も知らない。 
 社長とも相談して、その事実は一切彼女に知らせないことにした。 
  
 何もなかったことにする──他のアイドルたちに徹底させたのはこのことだ。 
104: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:42:40.99 ID:9pdDfgPfo
   
 「──そうそう」 
  
 もう心配はなさそうね、と控え室に戻ろうとした伊織を引き止める。 
  
105: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:44:35.10 ID:9pdDfgPfo
   
 『休養中、私はたくさんの方々に支えて頂きました。 事務所で共に活動しているみなさん、仕掛け人さま、そしてごヒイキの皆さま、大勢です』 
  
 正座の姿勢を伊織に向けて、エミリーはじっと伊織を見つめた。 
  
106: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:45:25.26 ID:9pdDfgPfo
   
 ようやく衣装を元に戻し、エミリーは切り出した。 
  
 『──伊織さま。 よろしければ、私と二人組の曲を歌っていただきたいのですが……』 
 『デュエット……って……アレ? 劇場でやったことなんてないでしょ?』 
107: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:46:24.04 ID:9pdDfgPfo
   
 『ごヒイキ様方。 この曲は──大切なお友達となら日々の些細な風景も、わくわくと驚きの出来事に変えられる。 
  そういう幸せを、いつまでも大事に分け合いたい……そんな想いが詰まった歌です』 
  
 二人で目を見合わせ、 
108: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:47:35.34 ID:9pdDfgPfo
   
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